【参加作品/キャラクター】
5/6【涼宮ハルヒの憂鬱】
○キョン/○涼宮ハルヒ/○朝倉涼子/○朝比奈みくる/○古泉一樹/●長門有希
6/6【とある魔術の禁書目録】
○上条当麻/○インデックス/○白井黒子/○御坂美琴/○ステイル=マグヌス/○土御門元春
6/6【フルメタル・パニック!】
○千鳥かなめ/○相良宗介/○ガウルン/○クルツ・ウェーバー/○テレサ・テスタロッサ/○メリッサ・マオ
5/5【イリヤの空、UFOの夏】
○浅羽直之/○伊里野加奈/○榎本/○水前寺邦博/○須藤晶穂
5/5【空の境界】
○両儀式/○黒桐幹也/○浅上藤乃/○黒桐鮮花/○白純里緒
3/5【甲賀忍法帖】
●甲賀弦之介/○朧/○薬師寺天膳/●筑摩小四郎/○如月左衛門
4/5【灼眼のシャナ】
○坂井悠二/○シャナ/●吉田一美/○ヴィルヘルミナ・カルメル/○フリアグネ
3/5【とらドラ!】
●高須竜児/○逢坂大河/○櫛枝実乃梨/○川嶋亜美/●北村祐作
5/5【バカとテストと召喚獣】
○吉井明久/○姫路瑞希/○島田美波/○木下秀吉/○土屋康太
4/4【キノの旅 -the Beautiful World-】
○キノ/○シズ/○師匠/○ティー
4/4【戯言シリーズ】
○いーちゃん/○玖渚友/○零崎人識/○紫木一姫
4/4【リリアとトレイズ】
○リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ/○トレイズ/○トラヴァス/○アリソン・ウィッティングトン・シュルツ
[54/60人]
※地図
http://www24.atwiki.jp/ln_alter2/?plugin=ref&serial=2
【バトルロワイアルのルール】
1.とある場所に参加者60名を放り込み、世界の終わりまでに生き残る一人を決める。
2.状況は午前0時より始まり、72時間(3日)後に終了。
開始より2時間経つ度に、6x6に区切られたエリアの左上から時計回り順にエリアが消失してゆく。
全エリアが消失するまでに最後の一人が決まっていなければゲームオーバーとして参加者は全滅する。
3.生き残りの最中。6時間毎に放送が流され、そこで直前で脱落した人物の名前が読み上げられる。
4.参加者にはそれぞれ支給品が与えられる。内容は以下の通り。
【デイパック】
容量無限の黒い鞄。
【基本支給品一式】
地図、名簿(※)、筆記用具、メモ帳、方位磁石、腕時計、懐中電灯、お風呂歯磨きセット、タオル数枚
応急手当キット、成人男子1日分の食料、500mlのペットボトルの水4本。
(※名簿には60人中、50名の名前しか記されていません)
【武器】(内容が明らかになるまでは「不明支給品」)
一つの鞄につき、1つから3つまでの中で何か武器になるもの(?)が入っている。
※以下の10人の名前は名簿に記されていません。
【北村祐作@とらドラ!】【如月左衛門@甲賀忍法帖】【白純里緒@空の境界】【フリアグネ@灼眼のシャナ】
【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】【零崎人識@戯言シリーズ】【紫木一姫@戯言シリーズ】
【木下秀吉@バカとテストと召喚獣】【島田美波@バカとテストと召喚獣】【土屋康太@バカとテストと召喚獣】
※バトルロワイアルのルールは本編中の描写により追加、変更されたりする場合もある。
また上に記されてない細かい事柄やルールの解釈は書く方の裁量に委ねられる。
【状態表テンプレ】
状態が正しく伝達されるために、作品の最後に登場したキャラクターの状態表を付け加えてください。
【(エリア名)/(具体的な場所名)/(日数)-(時間帯名)】
【(キャラクター名)@(登場元となる作品名)】
[状態]:(肉体的、精神的なキャラクターの状態)
[装備]:(キャラクターが携帯している物の名前)
[道具]:(キャラクターがデイパックの中に仕舞っている物の名前)
[思考・状況]
基本:(基本的な方針、または最終的な目的)
1:(現在、優先したいと思っている方針/目的)
2:(1よりも優先順位の低い方針/目的)
3:(2よりも優先順位の低い方針/目的)
[備考]
※(上記のテンプレには当てはまらない事柄)
方針/行動の数は不定です。1つでも10まであっても構いません。
備考欄は書くことがなければ省略してください。
時間帯名は、以下のものを参照してそこに当てはめてください。
[00:00-01:59 >深夜] [02:00-03:59 >黎明] [04:00-05:59 >早朝]
[06:00-07:59 >朝] [08:00-09:59 >午前] [10:00-11:59 >昼]
[12:00-13:59 >日中] [14:00-15:59 >午後] [16:00-17:59 >夕方]
[18:00-19:59 >夜] [20:00-21:59 >夜中] [22:00-23:59 >真夜中]
以上テンプレ張り終了。
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}/ .:...:./| 从 ` ー 、_, xx ムノ/ !
_人_ ノ:.:, ≦ミ| :{:.:〉、 ノ|:.: | ___ 人 ___
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ヽ、 / \ `〜ー'′ |rー',、_ |V }.:./}:.:./丁: Vイ
1乙なんだよ
では、予約していた みくる、ムッツリーニ、榎本、伊里野 投下します。
……手掛かりが、ねぇ。
このおれ、名簿の上ではご丁寧にも浅羽たちの知ってる『榎本』という苗字だけ・下の名前なしで載っている
このおれは、普段は正誤も不確かなデータの洪水に溺れる寸前、アップアップともがきながら日々奮闘してる
わけだ。だから時には、ガラじゃあないこと承知の上で、いるかどうかも分からん神様に祈っちまうこともある。
つまり「どうかおれのとこまで下らない情報を回さないようにして下さい」、ってな。こりゃどう考えても嘘だろ、と
思うようなネタでも、耳に入っちまったら裏を取るくらいの事はせにゃならん。んで、そんなクソつまらん仕事で
もいくつか重なったりすると、3日くらい家にも帰れず風呂にも入れず、ってことにもなる。
同僚っつーか仕事仲間の女に言わせりゃ、おれは「今アジアで一番ヤバい男」、なんだそうだ。まあ流石に
その評価は冗談半分だとしてもだ、今おれのとこに集まってくる情報ってのは確かにヤバい。知ってるだけで
十分殺される理由になっちまうような話、ってモンが、もう数える気すら失せるほどゴロゴロとあったりする。
ってか、よく生きてるなぁ、おれ。
いや、生き残るための努力は散々していたんだけどな。それでもだよ。
知らねーほうが幸せなことってのは、実際多いんだ。
世界の真実とか。
この世の「ほんとうのこと」とか。
知ったところで得はない、知ったからには無視できない、そんなモンが世の中にはいっぱいある。
一度知っちまったら戻れない。無垢な頃には戻れない。
そして、分かっちゃいるけど、戻りたい。
いや、ふと戻りたい、と思っちまうような夜もある、ってくらいか。おれだって、UFO特番見て無邪気に笑える
立場を羨んじまう時はある。普段はバカにしてる連中が、羨ましく思える時もある。
……にしてもだ。
いくらなんでも、こりゃあんまりだ。
いくらなんでも、情報が少なすぎる。
人よりは理不尽に慣れてるつもりだった。困難は越えてきたつもりだった。
だけどまあ、ここまで打つ手がないってのも、久しぶりだ。
下らん情報よこさんで下さい、って祈ったのは俺だけどな。大事な情報はちゃんと回せってんだ。ったく。そん
なんだから「神は死んだ」とか適当なオッサンに言い切られちまうんだよ、神様。
伊里野と浅羽のバカを、早々に保護する。
そしてこのイベントをひっくり返して、3人揃って脱出する。
そんな目論見が簡単に進むはずはないとは分かってはいた。分かっちゃあいたんだ。
だけどどうやら、おれの当初の見通しよりも状況は苦しいらしい。まさか2人の手掛かりすらロクに集まらない
とは思わなかった。夜が明ける前に、せめて取っ掛かりくらいは掴めると思ってたんだけどなあ。
ここ数時間の間に出会えた人間が、たった2人。
うち1人は眠り姫。
「人間ってこんなにも起きねーもんなんだな」、という驚き以上の情報のなかった金髪女。
もう1人は、着物の上に真っ赤なジャケットを羽織るという、驚きのファッションセンスの小娘。
こいつとは言葉を交わせたが、やっぱり大した情報は持っちゃあいなかった。
しかし――考えてみれば、さっきの会話は傑作だったな。
いや、馬鹿にしている訳じゃない。この場にはいかにも相応しく、でも、こういう場でもなきゃあり得ない会話
だな、と思ったら途端におかしくなってきやがった。
何て言ったんだっけな。
そう、「殺し合いには乗ってない」、だ。
深く考えることなく、自然と口をついて出ていた。深く考えることなく、着物の女もそれに応じていた。
普通「殺し合い」ってモンは、「乗る」も「乗らない」もない。殺るか殺られるか、それとも和解するかだ。逃亡や
痛み分けを選択肢に加えてもいい。
少なくとも、「貴方は殺し合いに乗ってますか」「乗ってますよ」「私もです、では正々堂々恨みっこなしで」なん
て言葉を交わした後にドンパチ始めるようなモンじゃあない。そんなものは、普通は「殺し合い」とは言わない。
そりゃ決闘か、あるいはゲームの類だ。
でも、なんでだろうな。この場においては、妙にしっくり来ちまう。
悪趣味極まりない椅子取りゲーム。
あのお面の男が言外に匂わせた通り、他の連中を殺してでも生き残りを目指すのか。
それとも、ふざけんじゃねぇ、とばかりにゲーム自体の否定に走るのか。
「殺し合いに乗ってますか」、という質問で問うているのは、つまりはこの二択だ。
お前はどっちなんだ、ってな。
そして後者の容易ならざる道を選ぶ連中は、思いの他多いようだ。さっきの着物娘もそうだし、その知り合い
――あの言い方だと、少なくとも2人以上はいるだろう――もそうだ。これならなんとかなるかもしれん。
ただ……ウチの連中はなあ。
あの娘の知り合いと違って、「殺し合いに乗るほどバカ」、かもしれねぇんだよなあ。
まずは浅羽だ。
こいつはバカでヘタレだ。水前寺のようにキレるわけでもなければ、根性があるわけでもねぇ。
ほんと、フツーの中学生だ。
悲しいくらいに、無力で平凡な中学生だ。
……だからこそ、ホンキの覚悟決めてハリキリやがった時の行動が読めない、ってのはある。
伊里野以外はいらない、伊里野さえ生き残ればそれでいい……そう思い詰めて暴走する可能性は、十分あ
るって訳だ。なにせそうなるように、おれたちが陰に陽にイロイロ仕掛けてったんだからな。
自業自得? まあそうかもしれん。
無謀さという面から言っても、伊里野を掻っ攫ってあてもなく逃げ続けるのも、58人を敵に回して殺していくの
も、そう大差ない。少なくとも、浅羽の視点では大差ないはずだ。あいつ、おれが追いかける気無くして手ェ抜
いてるってこと、知らないしな。
だがしかし、自業自得って言うなら、伊里野の方こそまさにソレだろう。
『子犬作戦』。そう呼ばれていた極秘任務。
空っぽのアリスに学校に通わせて、いろんなコトを経験させて、「浅羽がいるから死にたくない」と思わせる。
そして、最終的には、「浅羽のためなら死んでもいい」、というレベルにまで持っていく。
暗号名(コードネーム)、「パピー=浅羽直之」。
無知な「アリス=伊里野」が拾い、可愛がり、情の移った『子犬』。
その子犬が取り上げられそうになれば、そりゃ無気力なアリスも必死で戦うってもんだ。いや、わざわざ取り
上げる必要すらない。そこはエイリアンがやってくれる。世界に危機が迫っている、このままでは子犬も一緒に
殺されるぞ、と、優しく真実を教えてやるだけでいい。そして、唯一残されたブラックマンタのパイロット・伊里野
には、そこまでしてでも戦ってもらう必要があった。
まったく、本当にロクでもない計画だ。立案者や実行者の顔が見てみたいとも思うが、テキトーにそこらの鏡
を覗けば簡単に見れちまう、ってのがさらにロクでもねぇ。
こっちの目算通りに伊里野の気持ちが動いてくれていた場合、「浅羽1人を生き残らせるために」伊里野が
殺し合いに乗る公算は決して低くない。
低くないというか、ぶっちゃけ、かなり高い。
あの狐男の言ってることは必ずしも信用できるとは限らない、ってとこまで考えてくれりゃあいいんだがなあ。
伊里野は決してバカって訳じゃないんだが、そこまで融通の効く頭か? って言うと、正直疑問だ。妙に生真
面目な所もあるし、ルールをブチ壊す、って発想自体が難しいかもしれん。なにせ楽しい休日のデートにさえ、
誰も守ってない校則の細則に律儀に従い、堅苦しい制服姿で出かけていくような奴だ。
……あー、今更ながらに面倒くさくなってきた。
あの頑固者をいったいどーやって説得すりゃいいんだ、まったく。
……どうしたもんだかな。
海にほど近い道に沿って、ブラブラと南下しながら、おれはぼんやりと考える。
ってか、ミスと言うならこっちに進んだことがおれのミスか。城がある中心の方に向かっていたら、もっと多く
の人間と接触できたかもしれない。そうすりゃもう少し情報も集まってたかもしれない。
もちろんそれは、生き残り狙いでかつ実力に自信ある危険人物との遭遇率をも上げる行為だし、先のことを
考えたらそんなリスクは易々とは取れねぇし、伊里野のバカも理性が残ってりゃそんな馬鹿はやらんだろうし、
となれば、あえて辺縁の方を回った方がなんぼか遭遇率は上がるだろう……っていう計算だったんだがな。
ちなみに浅羽のアホについては知らん。アホ過ぎて最初っから計算が立たねぇ。死なない程度に痛い目にで
もあって、大人しくなってくれりゃあいいんだが。
とりあえず前提として、あいつらが「殺し合いに乗っている」ものとしよう。嫌な予測だがな。
その上で、説得するとしたらどうやりゃあいいのか。
……やっぱ、「2人揃って帰れるなら帰りたいだろ?」、って方向から攻めるしかねえか。
例えば、こんな感じか。
『おい、実はな。狐面の男たちを出し抜いて、みんなで帰る方法はあるんだ。
1人は『最後の1人』として正々堂々と脱出。残りは『死んだフリ』して誤魔化して脱出だ。
おっと焦るな。具体的な方法は、まだここじゃ言えない。虫はついてないと思うが、集音マイクか何かでこっち
の声を拾われてる可能性はゼロじゃない。だからギリギリまで伏せておく必要がある。
それにな、おれの知ってる方法は、ちと成功率に不安があるんだ。人数にも制限がある。だからこの方法は
予備プランとしておいて、他の方法も模索したい。もっと確実な策があれば、そっちに乗り換えたい。
あー、だから他の連中にはおれのプランのことは言うなよ。なんで? って、おれたちの知り合いだけで人数
制限を突破しちまうからだよ。よその連中に割り振る余裕はねえし、万が一にも横から掻っ攫われたりしたら
たまらんからな。いいか、絶対だぞ』
……ん?
いや実際には、そんなものは無いんだけどな。
てか、もしあったら苦労しねぇよ。そんな、魔法みたいに「死んだフリ」で誤魔化す技術、なんてな。
浅羽はともかく伊里野の奴は、「方法はこれから探す」なんて言っても信用しねぇだろ。だからこその嘘だ。
そして実際問題、最後の最後まで脱出方法が見つからなければ、伊里野1人だけでも帰す必要がある。何
が何でも帰す必要がある。
帰してどうなるかなんて分かったもんじゃないが、例えばおれと伊里野と浅羽、3人だけが最後に残っちまっ
て、うち1人しか生きて帰れないとなったら、おれの立場上、ここは伊里野を選ぶしかない。
そんな選択を迫られた時点でこっちの負けではあるが、それでも、選ぶしかない。
『伊里野、これからおれと浅羽は『死んだフリ』をして狐面の男たちを騙そうと思う。
おまえは『優勝』扱いで一足先に帰ってくれ。こっちの『死んだフリ』作戦は、たとえ上手く行っても、戻るのに
時間がかかるんでな。
もし万が一、おれらが帰り着くより先に世界に何かあったら、伊里野、おまえに任せる。悔しいがおれや浅羽
じゃ、何かがあってもどうにもならん。おれや浅羽にマンタは動かせねえ。おれの代わりはいるが、おまえの代
わりは居ないんだ。
あー、心配しないでも、すぐに追いつくさ。そして追いついたら、おまえと浅羽は上手く逃がしてやる。南の島
にでもどこにでも行って、2人で静かに暮らせるよう、手配してやるさ。約束だ。
頼むぜ。おれたちの帰るところを、よろしく頼む』
……と、伊里野を言いくるめておいて、浅羽を引っ張ってその場を離れる。
少なくとも伊里野から見えなくなるくらい、伊里野がおれらのやることに介入できないくらいまで離れる。
でもって、たぶん事情が呑み込めてないであろう浅羽のバカに向けて、ズガン! と一発。
続けて自分の頭に銃口を押し当てて、ズガン! と一発。
これで晴れて伊里野は『最後の1人』になって、椅子取りゲームの優勝者になって、元のところに返されて、
自分でタイコンデロガのマンタのとこまで行って、決して帰ってくるはずのないおれたち、いや、浅羽のために、
ちゃんと最後の戦いに出撃してくれる……はずだ。
ってか、これでダメなら、おれはもう知らん。あとは木村のアホどもの責任だ。
ここまでお膳立て整えてやれば、アッチに残された連中だけでもなんとかやれるだろ。あとはもう知らん。
これが、おれの想定する『最悪の事態』だ。
最悪でも最低でもここまでは引っ張ってきたい、と願う展開だ。
おれだってできれば死にたくはない。やり残したことは山ほどあるし、薄給とはいえ給料まだ貰ってねえし、
そもそも、世界のために自分を犠牲にするなんておれのガラじゃあない。
神様に祈る以上に、ガラじゃない。
だけどなあ。
おれのやってきたことを考えると、おれ1人「死にたくない」ってのは筋が通らないんだよなあ。
ああ、残念ながら、通らない。
それくらいのことを、既にやってきた。
散々やってきた。
全部が全部、おれの望んだことでもなかったが――おれに責任がないと言ったら、嘘になっちまう。
だから、『最悪でも』この程度は守らなきゃならんわけだ。因果な稼業だよな、ほんと。
改めて手持ちの支給品を確認する。
1つ目は拳銃。あの眠り姫の荷物から抜き出してきた奴だ。分かりやすく扱いやすい代物だが、それだけに
決め手に欠ける節がある。弾数に限界があるのも痛い。
2つ目は刃物。『無銘』とか言うらしい。軍用のコンバットナイフとは対極に位置するような、薄手で軽くて鋭い
刀子。おれも接近戦は専門じゃないけどな、かなり軽いし扱いやすいし、持っていても損はねえ。
3つ目は手榴弾。いわゆるポテトマッシャー型が3本で1セット。ちと古い型のモノではあるが、威力だけなら
かなり強烈。いや、強烈な分かえって使いどころが難しい。こりゃあ手加減できねえもんな。
4つ目は、これはちょっと変わっている。『武器』ではなく『情報』だ。その名を『10人名簿』という。あの眠り姫
の荷物にもあった共通支給品の名簿、そこから漏れた10人の名前が載っている名簿だ。10人分の名前だけ
が載っている名簿だ。『情報戦』、って意味では多少なりとも優位を得られたことになるんだろうが、今のところ
何の役にも立っていない。気になる名前もなければ、伏せられていた名前にも法則性がないんだ。まあ、今後
どういう風に生きてくるか分からない以上、あえて捨てるほどのモンでもないわけだが。
……うーむ。
拳銃を頂戴したことで相当バランスはよくなったが、それでも状況を楽観視できるほどの戦力じゃない。
やっぱあっちのリボルバーも貰ってくるんだったかなあ。
でも、液体火薬とかいう正体不明の代物に命預けたくねえしなあ。うーむ。
ともかく、今あるもんでやれるだけやるしかない、ってことだな。
この戦力で、浅羽と伊里野を探す。見つけて、必要なら説得する。そして守り抜く。最後、どうしようもなくなっ
たらペテンにかけて伊里野だけ残して自殺する。
……こんなとこか。 無駄にあれこれ考えた割には、結論は実につまらんもんだ。
ああ、いい加減そろそろ、次の『誰か』と出会いたいもんだぜ。
◇ ◇ ◇
「…………忘れ物」
いざ出発せん、と意気込んだ所に水を差すようで心苦しかったが、土屋康太は道を引き返した。
同行者である朝比奈みくるは、しかし嫌な顔ひとつせず、とてとて、と可愛い歩幅でついてきてくれる。
その気遣いが嬉しくもあり、また、この場に限ってはちょっとした問題でもあった。
「何か必要なものでもあったんですか?」
「…………生理現象。トイレ」
「あ、ご、ごめんなさい」
やむなく使った言い訳は、トイレ、の一言。
みくるは反射的に赤面して、しかし次の瞬間には「あれ? でもさっきは確か……」と首を捻っていたが。
その真意を問う間もなく、先ほどのコンビニ前まで戻ってきていた。元々そう離れていたわけでもない。
「じゃあ私、ここで待ってますね。あ、荷物持ってましょうか」
「…………頼む」
こんな所に1人放置しておくことの危険性だとか、大事な荷物を預けていってしまうリスクだとか。
そういったことに一切考えが及ぶことなく、土屋康太はデイパックを手渡し、たった1人でコンビニの中へ。
いやまあ、本当に用を足すだけなら店の中で待っていて貰っても構わないのだが……しかし。
小恥ずかしさゆえに外で待っていてくれる、というのなら、今はかえって都合がいい。
「…………標的確保」
雑誌コーナーの前をごく自然な足取りで通過しつつ、その腕が神速で動く。
チラリと視線が窓の外――朝比奈みくるの方へ。大丈夫、彼女はこちらを見ていない。
そのまま何食わぬ顔でコンビニのトイレに直行。
便意も尿意も一切ないが、それでもこの個室には用がある。
手の中にあったのは、雑誌コーナーの片隅にあった2冊の雑誌。
「子供は見ちゃいけません」、という意味の表示の結界に守られていた、保健体育的な意味での一級資料。
ありていにいえば、どこにでもあるようなエロ本である。
もちろん、みくるは可愛い。
みくるはエロい。
みくると一緒にいると嬉しい鼻血が絶えない。
彼女と最初に出会えたことは、彼にとってこの上ない幸運と言っていい。
が、だからといって、それさえあれば後は何もいらない……とはならないのが土屋康太という男。
人呼んで、『寡黙なる性識者(ムッツリーニ)』。
先ほどコンビニで荷物整理をする傍ら、視界の片隅でちゃんと並べられたエロ雑誌を物色しロックオンしてい
たというのに、不可解な気絶とそれに伴うドタバタで忘れかけていたのは痛恨の極みである。
しかし、それも過去のこと。土屋康太改めムッツリーニは、ぐっ、と拳を握る。
こうして「さりげなく」コンビニに戻ることができ、「みくるに違和感を悟られることなく」かの本を確保できた。
その場に並んだ十数冊の中から、表紙を一瞥しただけで選別した極上の2冊。
ムッツリーニほどの熟練者ともなると、逆にエロ本から「呼ばれる」感覚すら覚えることがある。もちろんその
感覚に全てというわけでもないが、しかし、この2冊が間違いなく「大当たり」であることは分かる。
確信を持って、断言できてしまう。
目の前には至高の2冊。
このトイレという密室の中、今すぐじっくりと検分したくなる衝動に駆られるが、しかしムッツリーニは超人的な
意志力でもってその誘惑を振り切った。
ダメだ。
今はダメだ。
外にみくるを待たせている。
みくるはみくるで、大事な「探求」の対象だ。今ここで本に溺れて彼女との絆を損ねるわけにはいかない。
本はいつでも読める。後でじっくり読み返すことが出来る。対するみくるは、いつまでも待たせておくわけには
いかない。『トイレ』、という口実で稼げる時間もたかが知れている。早く戻らねば。
……そこまで考えて、ムッツリーニははたと気付く。
デイパックがない。
そうだ、店に入る時に、みくるに預けてきてしまった。
あまりのさりげない親切に、深く考えることなく手渡してしまったのだ。
これではこの『お宝本』を持ち出せない。
このままでは、朝比奈みくるにエロ本を持っている姿を見られてしまう。それだけは、まずい!
再び棚に戻して、後ほど改めて引き返し回収するか?
……いや無理だ。そんな機会は期待できない。
他の真面目な雑誌も確保し、レジに出す時のようなサンドイッチ状態を作り上げ、堂々と手に持っていくか?
……いや無理だ。無邪気に「どんな本を持ってきたんですか?」と尋ねられたらそこで轟沈間違いなしだ。
価値の高いページだけ切り取って、折りたたんでポケットに収めて出て行くか?
……いや無理だ。そもそも、それだけの取捨選択の時間がないから問題なのだ。瞬時には選べない。
ここはこの『お宝本』をさっぱり諦める?
……いや、それこそ無理だ! そんな妥協に走ったら、自分が自分でなくなってしまう!
果てしなき性の知識の追求者として、諦める、という選択肢だけはありえない!
ではどうする。
どうする。
どうする。
考える時間すら、もうロクに残ってはいない。そろそろみくるも焦れはじめてもおかしくない。
どうする、さあどうする、ムッツリーニ――?!
◇ ◇ ◇
「あ、土屋くん、大丈夫でしたか? その、時間かかってたんで、心配しちゃいました」
「…………(コクコク)」
「お腹、痛いんですか? ずっと押さえてますけど……。もしそうなら、無理しなくていいですよ?」
「…………(ブンブン!)」
「本当に? 汗も凄い出てますけど……」
「…………大丈夫。腹痛とか、そういうことじゃ、ない」
「なら、いいんですけど……??」
大丈夫。まだバレてない。大丈夫。大丈夫、大丈夫――!
◇ ◇ ◇
まあ、要するに。
朝比奈みくると土屋康太の2人には、未だここが殺し合いの場である、という実感が無いのだった。
◇ ◇ ◇
しえん
わたしは港を離れて、北に進んで、橋を渡った。
拳銃と刃物、いちおうそれなりに対応できる武器は揃っていたけれど、でもこれじゃまだ足りない。
あさばを守るには、あさば以外をぜんぶころすには、まだ足りない。
とくに拳銃は、命中精度に不安のあるトカレフ。
どっちかって言ったら、北の方の銃。
構造は知識としてなら知ってたけど、まだわたしはこれを撃ったことはなかった。そもそもの精度も、そんなに
高くないって聞いてる。当たれば威力は十分だけど、遠くから狙撃できるようなものじゃない。
なんとか近づいて、たくさん撃たなきゃころせない。
どっちみち接近しなきゃつかえないなら、音がしないぶん、包丁の方が便利かもしれない。
もうちょっといい武器があったら違ったけど、だからわたしは、あえて端っこの方から回ろうと思った。
まんなかの方に行くひとは、きっと装備や技術に自信があるか、他の目的がある。
自信がないひとは、端っこの方をうろちょろしてるはず。
そういう人を襲って、武器になるものをどんどん集めていけば、そのうちなんとかなる。
マンタだって最初っから今の装備が揃ってたわけじゃない。スカンクワークスとかほかにもたくさん、みんなが
武装を開発して装備してって、少しずつ増えて取り替えていって、ああなった。
だったら、わたしもそうすればいい。
ころしてでも、うばいとる。
……と、太い道路が三叉路になっているあたりに、動く人影がみえた。
わたしはサッと電柱の陰にかくれて様子を見る。
2人組だ。
男の子と、女の子。
のんきに喋りながら、道のまんなかをあるいている。
一瞬トカレフを構えそうになったけど、やめた。この距離じゃあたるかどうか分からない。
相手は2人いるし、うまく1人をころしても、そこでもう1人の反撃をうけたらたまらない。
せめて片方、動きを止めてから――なら、いっそのこと――
「こ、こんにちわ……いえ、こんばんわ、かな?」
「…………話がしたい」
わたしが隠れるのをやめてちかづくと、2人はおそるおそる声をかけてきた。
ひらひらした、ウェイトレスみたいな服を着た女の子と、それを守るように立つ、眼鏡の男の子。
思ったとおりだ。このまま、待っていれば、
「あの、私、朝比奈みくるっていいます。それで、こっちは……」
「…………土屋康太」
「あのそれで、その、あなたは……って、あれ? その制服……?」
女の子の方がわたしの服を見て首を傾げていたけど、こたえる必要はなかった。
2人が近づいてくるのを待って、素早くわたしは、背中に隠していた包丁を抜いて、
まずは近い位置にいた男の子の方に、身体ごと体当たりするように飛び掛って、
◇ ◇ ◇
支援
ザクッ、と、どこか小気味良い印象すらする大きな音が、夜の闇に響いた。
続けて、2回、3回。
白い髪の少女が身を引くと同時に、土屋康太は腹を押さえて崩れ落ちる。
「え……? つ、土屋くん!? これって……え?」
一部始終を至近距離から見ていた朝比奈みくるは、しかし、咄嗟に何が起こったのか理解できなかった。
じりっ。思わず1歩引いたみくるに、その少女は、
「まず、ひとり」
「っ……!? ふ、ふえっ!?」
よく切れそうな細身の刺身包丁を手に、まったくの無表情のまま、向き直った。
まだこれが殺意を露にされてでもいれば、違ったかもしれない。
けれどもその少女は、全く感情を欠落させた顔のまま、ロボットのように歩を詰めて、
その包丁を、振り上げて、
街灯にぎらり、と光った刃の輝きに、ようやく朝比奈みくるの頭脳は我が身に迫る危険を察知した。
「ふ、ふわぁ?! や、やめてくださいぃぃ!」
全く緊張感のない声で、それでも彼女にできる精一杯の反応でその場を飛びのく。
凶刃が容赦なく振り下ろされ、一瞬前までみくるがいた空間が切り裂かれる。
いや、避け切れていない。
紙一重――薄皮一枚、いや、スク水一枚残し、既に着慣れてしまったメイド服が大きく切り裂かれる。
さらに、二閃、三閃。
闇雲に振り回すだけの刃を、闇雲に逃げるだけのみくるが奇跡的に避け続ける。
背中が裂かれ、スカートが裂かれ、数本の髪の毛と共にカチューシャが宙を舞う。
中途半端にはだけたエプロンが垂れて、足にからまる。無様に転倒する。
白い髪の少女の、無感情な目と視線が合う。
ようやくそこに至って、包丁では埒が明かないと見たのか、少女はベルトに挟んであった拳銃を抜く。
そして、突きつける。
外しようのない至近距離。死そのものを体現する虚無的な銃口。
泣くことすらできず、虚ろに引きつった表情のまま、みくるは己の死を覚悟して、
「…………そこまで、だ」
ジャキッ。
くぐもった声。
拳銃を構えたまま、少女の首だけが、ゆっくりと動く。
みくるも、尻餅をついた格好のまま、つられて振り返る。
腹部を三度も刺されたはずの土屋康太が、
吐血でもしたのか、口元から胸元あたりまでを鮮血で染め上げた土屋康太が、
見るからに血の気の失せた顔の眼鏡の奥に、それでも確固たる意思の光を湛えて、
膝立ちの格好で、ロケット弾を少女に向けて構えていた。
◇ ◇ ◇
膠着状態だった。
白い髪の少女は、拳銃をみくるに、視線を康太に向けたまま動かない。
土屋康太もまた、ロケット弾を肩に担いだまま、動かない。
そして、みくるも少女の足元で腰を抜かしたまま、動けない。
この状況で康太が先に引き金を引けば、少女は死ぬ。バラバラになって、間違いなく死ぬ。
けれどみくるもきっとタダでは済まない。RPG−7という武器の威力を考えれば、この距離は近すぎる。
しかし、少女の方も迂闊には引き金を引くことが出来ない。
少女の立場に立ってみれば、みくるが殺された途端、康太のためらう理由も消えうせることになる。
かといって、銃口を康太の方に向けるのも考え物だ。
何しろ腹部を三度も刺されてなお起き上がってきたタフネスだ。果たしてこの中途半端な距離で、中途半端
な威力の拳銃で、瞬時に仕留められるものだろうか。
さらに、銃口を逸らした途端に、今は大人しくしているみくるが動き出す危険がある。もし取っ組み合いにで
もなったら、2対1という人数の差がそのまま生きてくる。
とはいえ、銃口が向けられているうちは、みくるの側から動き出すことはできないわけで――
不気味なほどの沈黙が、夜の街を包み込む。
誰も、迂闊に動けない。
しかし――こんな危うい膠着が、そうそう続くはずもない。
暗がりで分かりにくいが、土屋康太は激しく出血しているようだ。遠目に見ても顔色が良くない。
いつまでも、持つという保障はない。
いや、そう大して持つはずがない。
あの血が吐血だというなら、腹部の傷は消化器まで達しているということで、それはつまり命に関わるような
怪我であり、素人の手に負えるかどうかはともかく、早く手当てをしないと危険な傷なわけで――
朝比奈みくるは焦る。
なんとかしなきゃ。
なんとかしなきゃ。
なんとかしな――
――ザッ。
「……あー。なんというかだな、おまえら」
唐突に、足音がした。
振り返れば、そこに男がいた。
いつから居たのか、まるでやる気のなさそうな態度で、佇んでいた。
パッと見、年齢がよく分からない。大人であることは確かだが、中高生から見て「おじさん」と呼ぶべきなのか
「お兄さん」と呼ぶべきなのか迷ってしまう、それくらいの年に見える。
そしてその手には、一丁の拳銃。
銃口は天に向けられてはいるが、素人目にも男が銃を持ち慣れているのは分かる。
人生に疲れきったように見える猫背気味の姿勢が、その実、全く隙がない。
3人の視線を一身に集めながら、男はバリバリと頭を掻く。
フケが盛大に飛び散る中、男はどこかうんざりした口調で、軽く言い放った。
「とりあえずここはどちらも痛み分けということで、一旦引いてはくれないかな」
◇ ◇ ◇
しえん
そっちの坊やも、大した怪我じゃねーだろ。
お嬢ちゃん、ひとまずそいつに肩でも貸して、どっか見えないとこまで行っちまってくれ。
おれはそっちの子に用がある。
……あー、おまえもここは諦めとけ。そーゆー構図になっちまった時点で、お前の負けだ。
乱入してきた男は、大体そういう意味合いのことを言ってみくると康太を追い払った。
最後の一行だけは、白い髪の少女に向けた言葉。
男の制止に、少女は少しだけ悔しそうな表情を滲ませつつも、しかし素直に従って銃口を下げる。
どこをどう歩いたのかは覚えていない。
きがつけばみくるは、康太を片手で支えるような体勢で、建物の間を抜ける細い小道を歩いていた。
振り返っても、さっきの少女と男の姿は見えない。
逃げ切った。ひとまず危機を脱した。
そう思って、一息ついて安心したら、今度は途端に同行者のことが心配になってくる。早く手当てを――
「あ、あの、土屋くん、本当に怪我は……って、あれ?」
「…………大丈夫。軽傷。備えがあって、助かった」
「お腹のところ、何か、はいってる、んですか?」
「…………こんなこともあろうかと。コンビニで。この血は、ほとんど鼻血」
みくるは目を丸くする。
そう、よく近づいて見れば、康太の腹部、刺されて裂けた制服の下に覗くのは、血に濡れた傷ではない。
鼻血にまみれてはいるが、紙の束――おそらくは雑誌の類である。
何十枚も重ねた紙というのは、実は意外と硬い。ちょっとした刃物や拳銃弾が相手なら、服の下に仕込んで
おくだけでそれなりの防御力が期待できる。某参加者の父親(見るからにヤクザっぽい、というか、どう見ても
ヤクザそのものです本当にありがとうございました)も、「いつ刺されても大丈夫なように」腹に雑誌を挟んでい
たというのだから、その効果は推して知るべし。
もちろん、みくるに見つからないように、という一心で服の下に隠した『お宝本』は、何度も刺されてズタズタ
になり、挙句に血まみれでグシャグシャになった。崇高なる性の探求者・ムッツリーニとしては、思わずその場
で膝をついてしまうほどの精神的ダメージだった。思わず逆ギレしてロケット弾を構えてしまうほどの怒りだっ
た。だが、それもこれも結果オーライである。何故なら……
「…………損害は、小さくなかった。けど、無事にこうして生き延びた。2人とも」
「土屋くん……」
普段は寡黙なだけに、珍しい饒舌は重みをもって響いて聞こえる。
みくるは思わず、潤んだ瞳で、康太を見上げ――しかし康太は、何故か目を合わせようとはせず。
「…………それより、服を確保しないと」
「!!」
視線を逸らしたままのその指摘に、みくるは一気に赤面する。
そう、包丁で何度も切りつけられたメイド服はビリビリに裂けて、実に扇情的な格好になっている。
下に着ていたスクール水着や、頭につけていた猫耳が無傷なのが信じられないくらいの惨状だ。
チラチラと覗く紺色の水着が、下手な裸よりよっぽど刺激的な格好になってしまっている。
これでは鼻血も噴くはずだ。ムッツリーニでなくとも、参ってしまうはずだ。
「い、いやあああん! み、見ないで下さぁい!」
「…………病院。流石にそろそろ輸血しないと……命に関わる」
ぼたぼたぼた。
みくるの上げた桃色の悲鳴に、ムッツリーニは再度鼻血を噴出する。
流石に色々と厳しいのだろう。貧血にフラつきながらも、進路を北西方向に――つまり病院がある方向へと
向ける。そう、このムッツリーニという男、道具と血液パックさえあれば、自分で輸血が可能なのだ。日常的に
生死の境を(主に鼻血による出血多量によって)彷徨っているうちに身につけた、ちょっとした特技である。
「…………ついでに病院で朝比奈さんの服も確保し……(ぶはっ)」
「ああっ!? また出血が酷く?! やっぱりどこか怪我を……!?」
「…………大丈夫。大丈夫だから、道を急ごう」
言葉の途中で鼻血の勢いを増し、それでも土屋康太は歩みを速める。前にも増して、早足になる。
朝比奈みくるは、小走りになりながらも追いかける。
純真なみくるには想像もできなかったに違いない――彼の脳内に描かれた、楽園(パラダイス)の姿など。
猫耳ナース姿で身を屈める、朝比奈みくる。
胸のサイズがどうしても強調されてしまう、薄手の病人用パジャマ姿でこちらを見上げる、朝比奈みくる。
そして、女医らしく白衣を羽織り聴診器を首にかけ、しかし大胆にボタンを外しアンバランスにも下に着込ん
だスクール水着を堂々と晒して誘惑の笑みを浮かべる、朝比奈みくる――。
ムッツリーニでなくともKOされるような構図であることは、間違いなかった。
◇ ◇ ◇
支援
まあ、結局のところ、この2人には。
包丁を手にした少女に襲われてもなお、未だここが殺し合いの場である、という実感が薄いのだった。
【C-6/一日目・早朝】
【朝比奈みくる@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:メイド服@涼宮ハルヒの憂鬱(あちこち大きく裂かれて服の体裁をなしていない)、
スクール水着、猫耳セット@キノの旅
[道具]:デイパック、支給品一式、ブラジャー、リシャッフル@灼眼のシャナ
[思考・状況]
基本:互いの仲間を捜索する。
1:土屋康太と同行。
2:びょ、病院! 病院に行って手当てと、服を……って、なんで病院で服なんでしょう?
3:これ(リシャッフル)どうしよう……。
[備考]
土屋康太が腹部に忍ばせていた雑誌がエロ本であることに気付いていません。
むしろ、咄嗟の機転で防具となるものを用意し装備していた準備の良さに感心しています。
【土屋康太@バカとテストと召喚獣】
[状態]:腹部に刺し傷(軽傷)、身体の前面が血まみれ(鼻血によるもの)、貧血
[装備]:「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、ロケット弾(1/1)@キノの旅
エロ雑誌×2@現地調達(刺されて血まみれ)(服の下、腹の上)
[道具]:デイパック、支給品一式、カメラの充電器、非常手段(ゴルディアン・ノット)@灼眼のシャナ
[思考・状況]
基本:女の子のイケナイ姿をビデオカメラに記録しながら生き残る。
1:朝比奈みくると同行し、彼女の仲間を探す。
2:だ、ダメージが大きい……!(心理的に)(お宝本に穴開いた&血にまみれたことで)
3:病院に行って輸血を……! ついでに、みくるにコスプレを……!!
[備考]:
貧血の症状は主に鼻血の出血によるものです。
腹部の傷はごく浅いもので、内臓に届くほどではありません。
むしろ『お宝本』を台無しにしたことによる精神的ショックの方が大きいかもしれません。
【エロ雑誌@現地調達】
土屋康太がコンビニで確保したもの。2冊まとめて手に入れた。
条例などで18歳未満には売ってはいけないことになっている、ごくありふれた大人向け雑誌。
とはいえ、ムッツリーニの目利きによれば、内容に高い期待が持てる極上の『お宝本』であるらしい。
(ジャンルや内容の詳細については、後続の書き手さんにお任せします……もし必要ならば、ですが)
なお本来の用途ではないが、服の下に仕込んでおいた場合、意外と防具としての性能も高い。
◇ ◇ ◇
しえん
要するに、おれたちがやってることってのは、悪足掻きにも等しい『時間稼ぎ』、なわけだ。
馬鹿なガキがエロ本片手に自家発電に勤しんだり、胸のでけぇ同級生の女の子に鼻の下伸ばしたり、告白
して振ったり振られたり、友達とバカやって怒られてぶーたれて、家帰ってTVのUFO特番見て大笑いして、
そんな、つまらない日常を送るための、時間稼ぎのための戦争だ。
でも、そのために、伊里野が鼻血噴いたり血ィ吐いたり副作用にのたうちまわったり目ェ見えなくなったり髪
の色抜けたりきゅるきゅるきゅると幽霊と会話してるのを見たりすると、な。
こんな世界、いっそ滅びちまえ。
……なんてことを考えちまうことも、たまにはある。
◇ ◇ ◇
「久しぶり、とでも言えばいいのかね。
……その髪、浅羽に切ってもらったのか。随分と思い切ったもんだな、おい」
「…………」
あのガキどもの声が遠ざかるのを待って、おれは伊里野に声をかけた。
断片的な目撃情報から半ば予想はしていたが、逃亡前には腰あたりまであった伊里野の髪は、肩にかから
ない程度の長さに切り揃えられていた。一律一回百円、園原中学運動部御用達の、浅羽直之理髪店の仕業
だろう。
ったく、まだ免許も持ってねぇくせに、いい仕事しやがる。おれもチャンスがあったら、一度頼んでみるかね。
手に職があるってのは、素直に羨ましいもんだ。
あー、しかし面倒なのはこっからだ。
ぼやいた直後に伊里野の奴と出くわせたってのは、幸運だがな。
こっちの読みどおり辺縁部をウロチョロしててくれたのは有難いが、しかし「殺し合いに乗っている」っていう
読みまで当たってくれなくてもいいだろうに。
やっぱ浅羽のためか? 浅羽だな。他に理由はねえわな。
さて、どう話を進めるかね。頭ごなしに叱り付けて伊里野とドンパチ、ってのも御免こうむりたいし、少なくとも
おれの話に耳を傾けてくれる程度には冷静なようだ。なら、こうか。
「ま、間に合ってよかった。おまえ、そんな装備で2人まとめて相手にしようだなんて、無茶にも程があるぜ。
負けられないんだろ? ならもっと知恵使え。なんだったら、おれがもっと勝算のある方法をだな、」
「――ころすつもりでさしたのに」
「……そりゃどうも」
……こりゃダメだ。
虚ろな表情で物騒な呟きを漏らす伊里野を前に、おれは小さく溜息をついた。
目があさっての方向を向いたまま帰ってこない。どう見ても目の焦点が合っていない。
一過性の視力障害発作でも起こしたか? 伊里野の奴、見える時には人並みの視力を保っているんだが、
ダメな時には周囲の明暗くらいしか分からなくなっちまう。複数の強烈な薬剤の副作用、らしい。おれもそっち
は専門じゃないから理屈や原理までは分からん。こりゃどっちかっつーと椎名か先坂の担当分野だ。
まあ、今の伊里野の身体が、この3日間持つかどうかも怪しいようだ、ってことくらいは分かるけどな。
無理なんだよ、おまえには。
マンタもない、医療班のバックアップもない、おまえには。
この会場にいる58人、綺麗さっぱり皆殺しにする、なんて、できっこないに決まってるだろうが。
「とりあえず、場所変えるぞ。こんな道の真ん中にいつまでも突っ立ってるわけにもいかないしな。
その辺の家にでも腰落ち着けて、これからのこと考えよう。
ほれ、見えないってなら手ぇ貸すから……」
支援
そう言って、手を伸ばして、おれは。
◇ ◇ ◇
馬鹿げた椅子取りゲームをなんとか蹴り倒して帰ってみたら、厄介ごとは全部終わっていた。
まあ世の中の混乱はそう簡単に納まるもんでもないし、人間同士・国同士のいがみ合いは相も変わらず飽
きもせず延々と続いてはいたが、一番肝心のUFO絡みのあれやこれやは、おれのいない間に綺麗さっぱり
片がついてしまっていた。
地球人類にとっての存亡の危機は、それが始まった時と同様、唐突に去っていった。そういうことらしい。
いやはや、普段はバカだアホだと罵倒し続けてきた木村の奴がこんなに役に立つとは思わなかった。なん
でも、頼みの綱のブラックマンタが出撃させたくても出しようがなくなって、みんな必死になって、工夫して努力
して、いろいろやってみたら上手いことハマってくれた、ということらしかった。こうなっちまうと今までのおれた
ちの苦労が馬鹿らしくもなってくるが、しかしあの頃ああやって稼ぎ続けた時間が実を結んだという見方もでき
るわけで。
一部始終を先坂やら永江やらから聞かされたおれは、ただ苦笑することしかできなかった。
むしろ、大変だったのはそっからだ。
世界の危機は去った。けれどブラックマンタは無傷で残っている。パイロットの伊里野も帰ってきた。
地球上で唯一現存するディーン機関と、その唯一の適性者。
こりゃ新たなトラブルの種になることは必至だった。それがそこにある、ただそれだけの理由で世界規模の
大戦争が起こっても不思議じゃない状態だった。
なので、おれは伊里野と浅羽が生きて帰ってきたという事実そのものを、揉み消した。
伊里野さえいなければ、マンタもただの扱いにくい航空機だ。火種になるような代物じゃねえ。
既に一線からリタイアしていた椎名の奴をこっそり抱きこんで、伊里野の体調を一通りチェックさせて簡単な
処置させて、2人が外国行きの船に潜り込めるよう手配した。ビザなしパスポートなし旅券なし、の一方通行の
海外旅行。平たく言えば、ただの密航。
同時に偽装工作も必要だ。かつて敵だった相手より、身内向けの情報操作が面倒だった。何度も嫌な冷や
汗をかかされた。UFOの脅威は去ったとはいえ、細かい後始末は山のように残っていたし、その合間に仲間
さえも偽ってみせなきゃならないし、水前寺の奴は記憶を消したはずだってのに妙なカンの良さでいらない首
を突っ込んできては余計な仕事を増やしてくれた。
何日も風呂に入れないような激務の日々が相変わらず続いて、伊里野と浅羽のバカはどうやら上手いこと
やったらしく断片的な情報すら耳に入ってこなくなって、気がつけば数年の月日が流れている。
そんなゴタゴタが一段落したある日、ふと思いついて軽く調べてみる。
観光地にすらなっていないような、世界の辺境。英語圏。でもって、地元で最近評判になっている床屋。
妙な確信に導かれ、あてずっぽうで条件を絞り込んでいったら、見事にビンゴ。
どうやらそれっぽいものを見つけたおれは、休暇を取って尾行を撒いて、単身その地に辿り着く。
地球を半周ほどした先にある、世界の果て。CIAの衛星写真にも載っていないような小さな南の島。
店は、繁盛していた。
妻を早くに亡くして独り者だという、現地人のオーナー。
そして、聞いたこともないような遠くの国からやってきた、少年と少女。
遠目に見ても青年は日焼けして背も伸びて見違えるほど逞しくなっていて、女の方もここの清浄な空気と風
と日差しが肌に合ったのか、少しばかり髪の色が戻ってきている。
おれはド派手なアロハシャツの裾を翻し、何もない店内に入り、椅子に座ってサングラスを押し上げる。
よお浅羽、久しぶりだな。
あいつは気弱そうな笑みを浮かべただけで、何も答えない。
代わりに黙っておれの髪に櫛を通し、ハサミを入れる。
もう戦争は終わった。人間同士のトラブルもあらかた片付いて、もう心配することは残っていない。揃って国
に帰りたいなら、いますぐにでも手配してやるぞ。
おれがそう言うと、浅羽は静かに首を振る。この島での暮らしは穏やかで、幸せで、自分も言葉を覚えたし
伊里野も床屋仕事が板についてきた。この店のオヤジは最初から親切だったし、自分の持ち込んだ最新の
髪形は島で評判だし、伊里野は島の男たちのアイドルでみんな3日とおかずに店に来てくれる。
だから、このままでいい。
そうか。おれは散髪代を支払って店を出る。物価の違いのせいか酷く安い。一回あたり、日本円にしてほぼ
百円。均一料金で明朗会計の浅羽直之理髪店だ。なんだおめえ、まだ値上げしてねえのかよ。腕はいいんだ
からよ、もうちっと欲出せよ。
伊里野のことをよろしくな。
おれは背を向けたまま手を振って、その島から立ち去って、以後、二度と奴らの顔を見ることはない。
風の噂に、ただ、2人が正式に結婚したらしい、という話を聞いたきりだ。
――そんな、夢のような、夢。
◇ ◇ ◇
肉を刃が抉る時ってのは、漫画みたいに派手な音はなかなか出ないもんだ。
致命傷を喰らった時ってのは、悲鳴すらも上げられないもんだ。
一瞬、意識が飛んでいたような気がする。白昼夢でも見ていたような気がする。
「……しくじった」
血の塊と一緒に、おれは小さく吐き捨てる。
油断してたつもりは、なかったんだがな。いや、やっぱりこいつは油断か。
おれはゆっくり視線を下げていく。
目が見えずよろけた、ふりをした、伊里野が持ってた刺身包丁が、おれの腹に深々と突き刺さっていた。
位置的に見て、こりゃ肝臓か。
吐血があったってことは、胃も一緒に破けてるかもしれん。
衛生兵もいないこんな場所じゃ、間違いなく致命傷だ。
痺れる頭で、他人事のように考える。
伊里野は何度でも刺すつもりだったようだが、しかし無理な力を受けた細身の包丁は、抜いてみたら途中か
らぽっきりと折れてしまっていた。刃の半ば以上はなおもおれの腹の中にあって、グチャグチャに内臓をかき
回し続けている。
と、伊里野が顔を上げた。
おれの吐いた血を真正面から浴びて、鮮血まみれでてらてらと光る顔で、でも、おれが未だかつて見たこと
もないような、無垢で純粋でまっすぐな、どこか照れたような笑みを浮かべて、こう言った。
「こんどは、うまくいった」
……ああ。畜生。
可愛いなあ、こいつ。
こんな笑顔、できるようになったんだなあ。
こいつになら、殺されてもいいや。
最後にこいつに殺されるなら、それでもいいや。
どうせ浅羽のヘタレじゃ、おれ1人殺すこともできねえだろうしな。
地獄には、おれが行くべきだ。
おれは、地獄に行くべきだ。
これで世界が滅びるなら、そんな世界、滅びちまえ。
いくらでも、滅びちまえ。
もうおれは知らん。
後は木村のアホやその他大勢で、なんとかしてくれ。
おれはもう、知らん。
おれは無様に崩れ落ちる。
乾いた音を立てて転がったベレッタを、伊里野が拾う。
少し迷った様子を見せた後に、安全装置を外して銃口をおれの方に。
慈悲をもって楽にしてくれるつもり――ってわけでもねえか。
単に、確実を期すつもりだな、こりゃ。
ゴロリとその場で大の字になったおれは、
最期の最期、
引き金が引かれ、
撃鉄が落ちる瞬間、
声にならない声で呟いた。
――浅羽のアホに、よろしくな。
全て言い切る前に、容赦なく銃口から飛び出した9mm×19mmパラベラム弾が、おれの脳天を撃ち砕いた。
◇ ◇ ◇
sien
しえん
……榎本にとどめを刺したわたしは、まだ硝煙の上がる銃口を下ろすと、彼の持っていた荷物を調べた。
出てきたのは、手榴弾と、刃物と、知らない名前の書かれた10人分の名簿。
包丁は折れちゃったし、武装も強化したかったからちょうどいい。
この名簿も、いつどこでどう役に立つか分からない。捨てちゃうにはちょっと早い。
全部貰っていくことにする。
拳銃も、こっちのイタリア製の銃の方が使い勝手がいい。
トカレフは予備のバックアップ用として、荷物の中にしまっておくことにした。
わたしは考える。
目が見えなくなることはあっても、そう長く見えないまま、ってことはないらしい。なら、まだ戦える。
まだ、浅羽のために、浅羽以外を殺せる。
全ての荷物をまとめて、わたしは立ち上がる。返り血を浴びたまま、立ち上がる。
そのまま、次のターゲットを探して歩き出したわたしは、
ふわり、と吹き抜けた風に、一瞬だけ振り返った。
なぜか、どこか遠い、どこか懐かしい、南の島の匂いがした。
【榎本@イリヤの空、UFOの夏 死亡】
【D−6/一日目・早朝】
【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康。返り血で血まみれ。たまに視力障害。
[装備]:ベレッタ M92(15/15)、『無銘』@戯言シリーズ、北高のセーラー服@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフTT-33(8/8)、トカレフの予備弾倉×4、
べレッタの予備マガジン×4、ポテトマッシャー@現実×3
[思考・状況]
基本:浅羽以外皆殺し。浅羽を最後の一人にした後自害する。
1:他の人間を探す。
2:晶穂も水前寺も躊躇いも無く殺す
3:さっき逃がした2人組を追いかける? それとも後回し?
[備考]
ごくたまに視力障害をおこすようです。今のところ一過性のもので、すぐに視力は回復します。
[備考]
初期支給品の1つ「刺身包丁@現実」は、榎本を刺した際に折れたため、その場に捨てていきました。
【『無銘』@戯言シリーズ】
榎本に支給された。
シリーズ後半において、いーちゃんの手元にあった刀子。
外科用メスにも例えられる鋭さと、向こうが透けて見えそうなくらいの薄さを併せ持つ、小ぶりの刃物。
刃物の扱いは専門ではなかったいーちゃんにとっても、かなり「扱いやすい」ものだった。
【ポテトマッシャー(M24型柄付手榴弾)@現実】
榎本に支給された。
『ポテトマッシャー』(じゃがいも潰し)の愛称で知られる、第二次世界大戦時代のドイツ軍の手榴弾。
特徴的な長い木の柄は、投擲の際の飛距離を伸ばすためのもの。
安全用キャップを外し、着火用のヒモを手首などに巻いた上で投げることで、ヒモが引かれて空中で発火、
3〜4秒後に爆発する。これらの使い方は同封の説明書に詳しく書かれている。
3本で1セット。
【10人名簿@オリジナル】
榎本に支給された。
共通支給品の名簿では伏せられている、10人の名前が記されていた名簿。
10人分の名前しか載っておらず、また、名前以外の情報は一切載っていない。
支援
以上、投下終了。支援感謝です。
途中、うっかり前編後編の表記が乱れましたが、収録の際は
>>23以降を「後編」としてください。
しえん
投下乙です!
おおぅ…榎本…
また一人逝っちまったか
つーか伊里野怖いよ伊里野
そしてムッツリーニは自重しろw
投下乙ですー
え、榎本おおおお……おおぅ
……まさかココで死ぬとは……ショックだ。
原作の雰囲気まんまに……死ぬとは。
伊里野の笑顔が辛いなぁ。もう戻れないぞ……伊里野。
ムッツリーニたちはもうチョイ現実を見ろ!w
GJでした!
投下GJ! 榎本が……榎本がー!
ムッツリーニの奇行がギャグで笑ってたところを……こんなにもまッさかさまに……。
あー、もう、やってくれるなぁ◆76I1qTEuZwさんはw
くそう、油断してた。榎本じゃないけど油断してたぜオイorz
伊里野め、良いぞ……もっとやれ……! ここまで来たら戦いだ!
では投下開始します
――気がつけばいつのまにか空は明るくなり始めていた。
いかに遠目にあろうとも、見えてはいたはずの赤い十字が目印となる建物にたどり着くまでにそれだけの長い時間が過ぎたことになる。
あの程度の距離を移動するのに忍びとしては完全に、大人であっても健康な者であるなら情けないぐらいに無駄に時間を費やした。
「まったく、この天膳としたことが情けないにも程があるわ」
だが、呟くその言葉とは裏腹に薬師寺天膳のその顔に浮かぶのは心底楽しそうな笑みだった。
不死の忍者薬師寺天膳。齢にして百を有に超えし彼の人生の中でこれほどまでに心が踊るのは一体いつ以来のことであったか。
目に映るもの全てが物珍しい。
木々のごとく立ち並ぶ木でも石でもない建物も。大地を覆う漆黒も。立ち並ぶ灯りは行灯や提灯のそれと比べれば煌々と白く明るく、それでいて間近に寄っても何ら熱を感じはしない。窓という窓にはめ込まれているのはよくよく見ればぎやまんだ。
「く、かか」
彼の口から笑いがこぼれる。
「くははははははは!」
夢ではない、幻でもない。
こんな気持ちは忘れていた。
あまりに昔のこと過ぎて、このような思いが己の内にあることさえわすれておった。
――世界はこんなにも面白い!
本来忍びにはあるまじき振る舞い、周囲にたっぷりと己の気配を撒き散らして、薬師寺天膳は最初の目的地である建物、病院へとたどり着いたのであった。
「ふむ……ここは他の屋敷とは少々違っておるな」
病院の前、その建物を見上げた天膳は呟いた。
高さこそ周囲にある建物と大差ないものの、その大きさは一回り、二回りは大きい。
「この地の当主はおそらくあれに見える天守に住んでいたのであろうが……さては名のある武将か何かがこの屋敷を与えられておったのか」
天膳はあの人類最悪とやらの言葉を思い出す。
しえん
今現在この地にいるのは、彼自身や朧を含めた六十名。
本来ここに住んでいたような身分のものはいないのであろうが、これほどまでに目立つ立派な屋敷だ。
彼はここへと来るまでにあの短筒使いに一度殺され、そしてつい先ほどまでは浮かれすぎて、ついついあたりをうろつきまわりむやみに時を浪費した。
ならばきっと、彼がここに来るまでにたどり着いたものもいるだろう。
それに仮に誰もいなくとも、今の天膳は何一つ武器や道具を持ってはいない。屋敷の主人がいなくとも、これほどの屋敷を与えられた者の住まいならば名刀の一本や二本見つかるであろう。
天膳はその屋敷――病院へと近付いた。
「ふむ……門扉までギヤマン張りとは。よほどこの屋敷の主人は金を持っておるのか? だが、これでは守りには適さぬであろうに」
こんこん、と出入り口一面に張られたガラスを叩きながら天膳は感想を漏らす。彼が知るギヤマンに比べれば門扉に使われている固さの点でははるかに上回って頑丈とはいえ、しょせんはガラスだ。
触ってみた感じ、多少の衝撃には耐えられるであろうが天膳が全力で拳を振るえば耐えられるかどうか、おそらく9割以上の確率で3発も叩けば割れてしまうという所だろう。
もちろん武器を用いればより容易く割れることは言うまでもない。
「それに透けておるから容易く中も窺い知れるし、ふむ……篭城するにはむかんな」
そんな感想を抱きながら天膳は進む。
見慣れぬ形式の門扉とはいえ、ちょうど中心の辺りのみ、やや形式が違っている。ということはおそらくはあそこが出入り口なのであろう。
そう当たりをつけた天膳が出入り口と思われる場所まで近付いたそのときであった。
「むおっ!」
思わず声を上げた天膳は大きく後方へと跳んだ。
「はあっ!」
――いやそれで終わりではない。そのまま二度、三度と跳びさがると、意識は前方へと集中したまま壁を蹴りつけそのまま「ビル」の屋上へと駆け上がる。
着地した姿勢のそのままで、細く、早く、荒く息をしながら天膳は周囲の気配を探る。
傍から見るものがいれば奇行としか思えぬ彼の行動、しかしそれには理由があった。
殺気を感じたわけではない。
何者かの気配を感じたわけでもない。
人影らしき物すら見当たらなかった。
――だというのに、彼が入り口付近に近付いた途端、ギヤマンの扉が音もなくすうっと開いたのだ。
そのような怪異、天膳には一つだけ心当たりがあった。
それは甲賀十人衆の一人、霞刑部が使う忍術である。その忍術はただ姿を隠す隠形にとどまらず。壁などに溶け込むまさに魔性の術である。
天膳とて一度はこの術の前に破れ、彼の手によって首の骨を折られ死亡した。
だが彼は少し前、船の上での戦いで伊賀十人衆の一人、雨夜陣五郎と天膳の一度の死を犠牲にして討ち果たされたはずである。
いや、筈という憶測ではない。確かにあの時天膳自身が刑部の体に刃を突き立てたのだから。
ゆえに今、天膳が危惧するのは彼が弦之介に、甲賀の者に図られたのではないかということだった。
確かに刑部は死んだ。討ち果たした。
だが、甲賀の里に隠形使いは一人ではなかろう。現に一度甲賀の里に攻め込んだ折には、討ち果たした十人衆、風待将監と同じ術を用いる者もいた。
それらから考えるとつまり奴等は十人衆のみでの決着と持ちかけておきながら、実際には他の下忍をも引きつれ移動していたのであろう。
そもそもよく考えて見れば最初からおかしかったのだ。
甲賀と伊賀とのあの戦い。残りの人数は双方共に5対5。最終的に勝つのは伊賀に決まっておるとはいえど、戦況的には両者互角。
だというのにこの箱庭へと呼ばれたのは両軍の大将、甲賀弦之介と朧以外には天膳と小四郎の二人。
だがその不均衡も姿を隠し、いるかどうかも知れぬ忍びが甲賀方にいたと考えれば、道理が通る。
何たる卑怯なことであろう。
「おのれぃ……」
そう悪態をつきながら天膳は周囲の気配を探る。
……だが、どれほど待っても気配はない。己に近付く物もない。そしていつかのごとく彼の首に手がかかることもない。
「……?」
さすがに天膳が不審に思い始めたその時。
「む……」
足音さえ響かせて、気配丸出しの何者かが目の前の屋敷へと近付いていくのを天膳は見つけたのであった。
◇ ◇ ◇
めちゃくちゃ気持ちいいぞと誰かが言っていた。
――そんなでまかせを言ったばかに文句を言ってやりたかった。
とぼとぼと歩きながら浅羽直之はそんなことを考えていた。
確かに川の中、流されている最中はあのつめたさは心地よかった。だが、それも水からあがるまでの感想だ。
水に流されるがままになっていた浅羽が岸へと打ちあがられたのは少し前。まずはまた何かの役に立つかもしれないと思い、のろのろと彼の周囲を同じように流されていた浮き輪をできるだけ回収した。
とはいえ、集められたのは当初あった数の三分の一程度。彼が回収する間に下流に流されていった物や、少し前の分岐路で浅羽とは別方向に流されていった物なんかは回収できなかった。
ぽたぽたと水滴が落ちる服はぴったりと肌に張り付いて気持ちが悪かった。
冷やされていたせいか流されている間はましだった全身の傷が再び熱を持ち出した。
あたまの中で何かが暴れているかのような痛みがガンガンと響いていた。
「……うわっ」
それでもふらふらと浅羽は歩き出したが、数歩歩いた時点で足がよろけて、そのままあっさりと地面に倒れこんだ。
「ううううううう」
地面に倒れこんだ姿勢のまま浅羽の口から声が漏れる。
あたまがいたいうでがいたいあしがいたいからだがいたいこころがいたいいたいたいたいたいたいいたい
ただただ全てが痛かった。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
浅羽の口から嗚咽が漏れる。
支援
――どうしてこんなことになったのだろう。
ただ伊里野に幸せになって欲しかっただけなのに。
どうしてこんなに今の自分は惨めになっているのだろう。
本当に伊里野を助けられたらどうなっても良かったはずなのに。
もしもここに伊里野がいたら今の自分をどう思うのだろう。
もしもここに部長がいたらどうするのが正しいのか教えてくれたのだろうか。
もしもここに榎本や椎名真由美がいたら一体なんというのだろうか。
もしもここに晶穂がいたら……。
もう一度彼女が自分の前に現れたとき、彼女を殺せるのか?
いや、彼女じゃなくてもいい。部長や榎本であっても殺せるのか?
彼らからあんな目で見られて、耐えられるのか?
彼らからの非難の言葉を受け止められるのか?
ぐるぐると答えの出せない問題が頭の中を飛び交ったまま、ゆっくりと身を起こすと浅羽は川に沿って歩き出した。
こんな場所にいたのではいつ人に見つかってもおかしくはない。
今はただ、誰も人の来ない、誰にも見つからない静かな場所でゆっくりと体を休めたかった。
一体どれほど歩いたのだろうか。
浮き輪を取り出したときに水も一緒に入ったせいで地図はぐちゃぐちゃ、おまけに流されつづけていた結果、自分の現在地が分からなかった浅羽であったが、やがて遠目にもわかりやすい目印となる施設、病院が見えてきた。
「えーっと……」
最後に地図を見たのは今から二時間近く前、うっかり消滅エリアに近付いていた時のこと。慌てていた時のうろ覚えの知識から何とか自分の現在地を把握しようと試みる。
「確か……病院はB-4か5ぐらいだったっけ……? ってうわわ!?」
今更ながらぞっとした。
あのまま岸に打ち上げられずに流されたままになっていたら、最悪エリアAのラインまで流されていたかもしれない。
そうなっていたら残りの時間から考えてみても間違いなく死んで、いや消えてしまっていただろう。
気付かなかった幸運にそっと胸をなでおろした。
「ここらへんで……痛っ!」
だが、その安心で多少気が抜けた瞬間、全身と傷がずきりと痛んだ。
病院まで行かなくとも、その周囲にあるビルのどこかでで体力の回復をしようと考えていた浅羽だったが、考え直した。
確かに支給品の中にも医療セットはある。
でもそれらだってさっきの一件で水をかぶっていたのだ。もちろん、消毒液なんかは密封されていたおかげで無事だったのだが、包帯やタオルといった傷口を覆うものが水浸しで使えない。
だから病院に取りに行こうと思った。
「……それに病院なら」
そう呟くと浅羽はデイパックから最後の「武器」を取り出した。
片手に収まるサイズの小さな「武器」、これが流されていかなかったのは本当に幸運だった。
そして浅羽は武器の入ったケースを開ける。中に入っているのは小さな3つのカプセルだ。
浅羽の最後の支給品――それは毒薬入りのカプセルだった。小さなカプセルの中に入っているのはシアン化カリウム、別名青酸カリ。
推理小説などにもよく出てくるこの武器をどう使用すればいいのか、最初浅羽はわからなかった。
何せカプセル。毒ガスとは違うのだ。さっきの戦い、あの女の子との戦いでもどうやって飲ませればいいのかという迷いもあり取り出しきれなかったこの武器。
しかし病院に行こうという考えが浮かんだその途端、ほぼ同時に使い方を思いついたのだ。
病院に来る参加者はそのほとんどが、今の浅羽やさっきの右手のなかった女の子のように怪我をしていて、その治療のために来るのだろう。
だが、そのための道具、麻酔や消毒液、包帯なんかに毒を仕込んでおけば――きっと警戒されることなく……殺せるはずだ。
この殺し合いの舞台、例えば他の参加者から渡された食料を平気で食べる人なんかいやしないだろう。
だけど、元々舞台に配置してある道具、それも食べ物以外のものに毒が仕込んであるなんて、よほどのことがない限り考えることはないはずだ。
だから――きっとこのやり方は上手くいく。
それにこの方法にはもう一つ、それ以上の利点がある。
薬に毒を仕込んだ後は浅羽は隠れているだけでいいのだ。
そう、部長や榎本、そして晶穂にもう会わないで済む!
「は、はははは……これで」
傷の痛みに強張りながらも浅羽はようやく笑みを浮かべ、よろよろと病院へと近付いた。
「薬がおいてあるのは……あっちのほうかな?」
病院に入って数分、浅羽は広いロビーの只中、きょろきょろと薬を保管していそうな場所を探していた。
そうして浅羽が数歩歩いた次の瞬間。
――背後から吹く風を感じた。
「……え? う」
『うわあ』などと声をあげる暇さえなく、足を払われ廊下へと叩きつけられて、強かに顔を打ちつけた。
だがそれだけでは終わらない。その痛みにうめく暇さえなく、浅羽を更なる衝撃が襲う。
「……!?」
痛みの言葉さえ声にはならず、ただ圧迫された肺から空気が逃げていく。
なぞの襲撃者は浅羽の足を払った後、そのままうつぶせに倒れた浅羽の背中を踏みつけ、そのまま力を込めてきたのだ。
――1秒。
――2秒。
そんなわずかな時間さえ信じられないほど長く感じさせるほどの苦しさ、ぱくぱくと浅羽の口が空気を求めて虚しく動く。
「――ぷはっ!」
肺にかかる力が緩まった次の瞬間、浅羽は大きく息を吸い込んだ。
そのまま荒く呼吸を繰り返す浅羽を先ほどまでよりは弱く、だが浅羽が動けない程度の強さを込めて踏みつけながら顔も見せない襲撃者は言った。
「――ふむ、小僧何から聞かせてもらおうか?」
◇ ◇ ◇
「――バカな!」
思わず声を荒げて叫んだ後、薬師寺天膳は慌てて自らの口を押さえた。
彼が声を荒げた理由はほかでもない。つい先ほど姿を見せた凡庸そうな小僧が、屋敷へと入っていったその光景を見たがためである。
それもただ入っていったわけではない。
見えざる何かが開いたギヤマンの門扉を、あの小僧はさも当然のように通り抜けたのだ。
小僧にはどう見ても動いた門扉に驚いた様子はなかった。
(……どういうことだ?)
天膳はわずかの間逡巡し――
「ふっ、この俺としたことが何を女子のようにうじうじと。あの小僧の口を割らせればよいだけではないか」
そう笑みを浮かべると彼は猫のごとく軽やかにビルよりその身を躍らせた。
――そして。
「ふむ、なんとも面妖な」
先に中に入った小僧が何かを探しているうちに天膳もまた二重の門扉、その一つ目をくぐっていた。
万が一に備え、警戒だけはしてみたものの先ほどの小僧のようにあっさりと、不可視の忍者に襲われることもなく彼もそこを通り抜けた。
「さて」
表からは気がつかなかった二重の門扉、その第二の扉の前に天膳は立つ。
そうして一つ目同様に扉が開くや否や、未だきょろきょろとしている小僧に襲いかかると、あっさりと地面に組み伏せたのであった。
「――ふむ、小僧何から聞かせてもらおうか?」
「だ……誰」
答えてやる義理もなかったが、眼下の小僧はその体つきも物腰も忍びや武士のそれではない。
ならば手早く話を聞き出すには多少落ち着かせてやった方がいいかもしれない、天膳はそう判断した。
支援
57 :
(代理投下):2009/06/18(木) 00:02:07 ID:J4AC9mxB
「俺の名は薬師寺天膳よ。小僧貴様の名は」
「あ……浅羽、な……お……之」
「ふむ、浅羽とな……なんじゃこれは?」
それほど興味がなかったこともあり、伊賀者、甲賀者以外の名は天膳は覚えていなかった。
だが、でいぱっくとやらはあの少女に奪われた。そこで念のために適当に思いついた偽名を使ってはいないか確認しておこうと少年の荷の中身を見た天膳ではあったが、その中の荷はほとんどが水浸しであったのだ。
それを見て呆れたように天膳は呟いた。
それはあくまでも独り言であったのだが、律儀にも下の少年はそれにさえ答えを返してきた。
「それは……女の子に……けほっ、襲われて川に流されたから……中に水が入って……」
「おなごにか……と、そうじゃ、ついでに聞いておこう。おぬしここまでに他の者に出逢うたか?」
いかに凡庸そうな小僧とはいえ、あの朧にはそのような真似はできまい、そう判断した天膳は念のためにこの小僧が朧らしき者を見ていないか確認を取る。
「…………し、知らない……最初に出会ったのがその子だったから……」
「なるほどのう」
きちんと答えが返ってきたことに天膳は満足する。何せこの小僧に聞くべきことはいくらでもある。
まずは――と、ここで天膳はある違和感に気がついた。
天膳に転がされた時も、踏みつけられたときも、逃げ出そうともがいている今このときでさえも固く握り締められた少年の右手。
あまりに不自然なその挙動に天膳の興味はそちらへと移る。
「小僧……何を隠しておる?」
◇ ◇ ◇
58 :
(代理投下):2009/06/18(木) 00:02:47 ID:J4AC9mxB
「小僧……何を隠しておる?」
そういわれた瞬間、心臓が止まるかと思った。
薬師寺天膳と名乗ったこの男に対して、今のところ浅羽がついた嘘はただ一つ。
須藤晶穂に出会った事を隠しただけだ。
どうしてそんな嘘をついたのか自分でもわからない。
それでもこんな奴に彼女のことは教えちゃいけないと思ったのだ。
――だけど、怖い。嘘なんかつかなきゃ良かったのかな。
さまざまな思いに混乱する浅羽に、天膳はさらに重ねて問い掛ける。
「聞こえなんだか? その手に何を隠しておると聞いたのだ」
「……手に?」
そう言われてようやく、浅羽は自分がカプセルをずっと握り締めていたことに気がついた。
そして、続けてこれを奪われたらどうしようという恐怖が浮かぶ。
この男やさっきの女の子みたいに素手で戦うなんて、とても自分にはできない。これがないと伊里野を守れない。伊里野のために殺せない。
嫌だ! いやだ!
「し……知らない!」
自分でも驚くぐらいの大声で、浅羽は男の問いかけを拒絶した。
その浅羽の返答に対して、男は
「ならば仕方あるまいな」
ごき
……最初、その音が自分の体から聞こえてきたなんてわからなかった。
「……え」
だから最初に口から出てきたのはそんな暢気な言葉だった。
だが、一拍遅れて襲い来た焼け付くような痛みに意識が沸騰する。
「うわわわああああぁぁぁああああぁああ!!!」
「うるさいのう……どれどれ」
浅羽の叫びを無視して、天膳は折られたせいで力の緩んだ浅羽の手から奪った物を確認する。
「い、いた……ひぃ、痛いぃぃ」
「なんじゃこれは……む?」
浅羽の手から奪った道具、カプセルを弄くっていた天膳であったが、つい、うっかりとそのうち一つを落としてしまった。色々と弄くられていた事もあって、落ちた衝撃でカプセルの中から薬がこぼれる。
「薬か? ふむ、ほか二つもそうなのか?」
そう言いながら念のために天膳は残り二つのうち、もう一つのカプセルをこじ開けてみた。
地に落ちたものと同様、さらさらと薬が天膳の手にこぼれ落ちる。
「秘薬の類か……どれ、薬効はいかがな物……」
そう呟きながら己の手の粉末をぺろりと天膳はなめた。
支援
60 :
(代理投下):2009/06/18(木) 00:04:04 ID:3EslhdoC
「こ、これはまたなんとも凶悪な……がはぁ!?」
青酸カリは無味ではない。むしろ逆、その高いアルカリ性は口内に激痛さえ走らせる。
その痛みにむしろ強力な薬効を期待して、粉末を飲み下した天膳は数秒後に血を吐き出した。
致死量0.2〜3グラムの強力な毒性にはいかな忍びとて耐え切れない。
――かくて天膳は倒れ伏し、そのままぴくりとも動かなくなった。
「……え?」
手の痛みすら一瞬忘れ、目の前の光景を呆然と浅羽は見た。
あまりにあっさりと去った苦難に、頭の処理能力が追いつかない。
彼からカプセルを奪った男は何を思ったのか、青酸カリを舐めてそのまま死んでしまったのだ。
そう、死んだ。
目の前の男は死んでいる。
半分以上あの男の自殺みたいな物だったとはいえ、残りの半分は彼があの男を殺したような物だった。
伊里野を生き残らせるための第一歩を今、浅羽は踏み出したのだ。
――伊里野のために殺すと決めた。
あの女の子だって殺してもいいと思った。
だというのに。
「……うぇっ」
きもちがわるい。
目の前の死体には恨みしかない。だけどその死体にさえ、部長や晶穂の倒れ伏すイメージが重なって、見ていることさえ辛くなる。
……自分は何をしようとしていたんだろう?
……わからない、いやだ、かんがえたくない、これはゆめだ、きっともうすぐ目がさめてそこには伊里野が伊里野イリヤイリヤいりやいりやいりや……
痛みや恐怖、それら以外にもさまざまな感情がごちゃ混ぜになって何も考えられなくなる。
いや、なにも考えたくなかった。
それでもほんのわずか残っていた理性が命じるままに、何とか最後の頼みの綱、残りたった一つのカプセルを拾い上げると、無我夢中で彼は駆け出した。
今の彼にわかっていることは一つだけ。
――――もう、あの夏には戻れない。
61 :
(代理投下):2009/06/18(木) 00:06:16 ID:J4AC9mxB
【B-4/病院前/一日目・早朝】
【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:自信喪失。茫然自失。全身に打撲・裂傷・歯形。全身生乾き。右手単純骨折。 微熱と頭痛。
[装備]:毒入りカプセル×1@現実
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
0:伊里野を生き残らせる。
1:……!(何も考えたくない)
2:本当に部長や晶穂を殺せるのか?
[備考]
※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
※浅羽が駆け出した方向は後の書き手にお任せします。
【B-4/病院内ロビー/一日目・早朝】
【薬師寺天膳@甲賀忍法帖】
[状態]:死亡、蘇生中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:朧を護り、脱出。道中このセカイに触れる。
0:……
1:あの小僧め……よくも俺をたばかりおったな。
2:朧を探しつつ、情報収集。
[備考]
※室賀豹馬に『殺害』される前後よりの参戦。
※蘇生には最低でも残り数十分は必要。
※名前のない十人の中に甲賀十人衆、もしくはそれに準じる使い手がいると思っています。
※自動ドアの存在について学習しました。
※病院のロビーに天膳の死体(蘇生中)がころがっています。
※ロビー内に残っているシアン化カリウムはいずれ空気と反応して、有毒の青酸ガス(無色、刺激臭)を発生させます。
62 :
(代理投下):2009/06/18(木) 00:07:31 ID:J4AC9mxB
◆ug.D6sVz5w:2009/06/17(水) 23:50:27 ID:opXsUeQE0
投下完了です
後はお願いします
以上、代理投下終了。
そして投下乙です。
おお、天膳さまがまた死んでおられる。
浅羽……バカの生知恵ほど痛々しいものはないなぁ。
最後の1つの支給品が毒入りカプセルって、実に合わないものを……。
しかしこれ、天膳さま、蘇生→毒ガスで死亡の無限ループ?w
いや、そう狭い空間でもないし、毒ガスの濃度とか解釈の余地ありそうだけど……w
投下乙ですー
おお、天膳さまがまた死んでおられる。
浅羽は無残だなぁ……どんどん情けなくなっていく。
それが浅羽なんだろうけど……それでもちょっとかわいそう。
そして毒ガスw
まぁ……空気にまぎれて消える可能性もあるのかな?
GJでした
投下と代理投下乙です
天膳さままた死んじゃった…
浅羽はなぁ…なんつーか
頑張って欲しいよ
毒ガスは果たしてどう作用するのか…
楽しみだw
投下GJ!
天膳さまがwwww死んでwwwおられるwwwwwwwww
浅羽はなんと言うか、どこまで転がって行けば気が済むのやら。
正に転落人生。半端ない、半端無いよお前。
伊里野に笑われない様に努力したまえ。先は長いぞ少年。
っていうか毒ガスwwwwwこれは大丈夫なのかwwwwwwwww
暗澹たる空には闇の帳がかかり、直下で蠢く者を密とする。
のっぺりした容貌の男が一人、沈痛な面持ちで死者のむくろを運んでいた。
名を如月左衛門。甲賀卍谷衆が一人にして、変顔の忍者である。
左衛門が慎重に運ぶは、彼の忠臣にして甲賀卍谷衆が頭目、甲賀弦之介の遺体であった。
四肢をもがれ、首を失い、それはそれは見るも無残な亡骸であったが、左衛門に泣き言はない。
左衛門の後ろでは、髭面の男がいやらしい笑みを浮かべながら歩き付いていた。
彼奴の名はがうるん――仏を辱めることに一切の躊躇もなき卑劣漢である。
甲賀と伊賀あいまみえる忍法殺戮合戦の折、左衛門が巻き込まれたのは別の争乱であった。
うぬら、座椅子を奪い合わん――服部家無縁の輩に生殺与奪の権利を剥奪され、左衛門は酷く憤慨した。
だが、好都合でもある。ここには朧ら伊賀者も多く集っているがゆえ、争乱に紛れれば絶好の好機也!
否、好機云々にほくそ笑む己が愚鈍であったのだと、弦之介のむくろに詫びを入れつつこれを葬った。
舞台の端、飲み込まれれば一巻の終わりであろう黒き壁を前にし、左衛門は弦之介をこれに投げ入れたのだ。
絶対に露見してはならぬむくろ、埋没する一寸先は闇……だからこそ好都合。
長年のあいだ仕えてきた君主に、追悼の意を告げ、また別れも告げる。
ああ、それにしても……。
忌々しい……実に忌々しい……後ろのがうるんなる男がこれ忌々しい……。
如月左衛門が忠臣、甲賀弦之介の首を抱えるは――甲賀者ではなくこのどことも知れぬ馬の骨なのだ!
忌々しい……なんと忌々しい……呪詛の念で人が殺せたならば、なんと良きことか。
忍法怨念縛り――死なれよがうるん。うぬの辿ろう黄泉路は闇なれど。――
◇ ◇ ◇
甲賀弦之介の《境界葬》が終了した後、ガウルンと如月左衛門の原野での会話である。
「おなごに化ける……ともなれば、いささか面倒であろうよ」
と、如月左衛門が言った。
おなごに化ける。つまりは、女性に変装する。性別を偽るともなれば、それはたしかに容易ならないだろう。
さすがのジャパニーズ・ニンジャも女には化けれないってか、とガウルンは嘲笑気味に言い返した。
「面相が問題なのではない。厄介なのは髪よな。少々の長さならば伸ばすこと容易じゃが……おぬしの言う千鳥なるおなご。
これはいかほどか……ほう。腰ほどとな。ますますもって面倒な……完璧に化けるとなれば、皮を剥ぎ被る必要とてあろうな」
と、如月左衛門が言った。
ガウルンが左衛門に化けて欲しいターゲットは現状二人。カシムとウィスパードの女――相良宗介と、千鳥かなめである。
女性である千鳥かなめの外見的特長を言葉で説明すると、左衛門はやはり難しいとこれを返した。
長髪のおなごは厄介極まりない。毛皮を被るとまではいかずとも、かつらをこしらえる必要があろうよ、と。
「逆に、男ともなれば容易なものよ。その相良なる男、体格のほどはどうか。ほう、おれとさして変わらんとな。
ならば結構。我が同胞に鵜殿丈助なる太っちょの男がいたが、あれほどになるとおれでも難しくなってくるのでな」
と、如月左衛門が言った。
左衛門の忍法はあくまでも顔だけを変えるものである。となれば、体格のほうはどうにもならないのだろう。
標的と比較すれば左衛門の体格に無理はないが、意外と融通が利かないんだな、とガウルンはこれをなじる。
「ああ、丈助は太っちょのなかの太っちょだったゆえ。それはそれは、並大抵の太っちょではなくての。
少々の背丈くらいならほれ、間接を外し骨を伸ばすことでどうとでもなる。心配せずとも上手くやってみせよう」
と、如月左衛門は自信ありげに言った。
仕事柄、間接外しの技など見るに珍しいものでもない。しかしそれで体格を変えるともなれば、目を見張る。
髪は最悪短くしたとしても問題はないだろうし、胸には詰め物をすればいい。女に化けることとて、不可能ではないのだ。
「だが、気にかかるのは声……そしてしゃべりかたよの。男であろうが女であろうが、一度覚えた声を真似ることなんぞ容易い。
まあ、女の声色は男と比べつかれるが、些細なことよ。声を真似きれたとて、話し方で見破られることこそ心配と言えよう」
と、如月左衛門はガウルンの声で言った。
違和感もない、完璧な自分の声が返ってくる。いや、違和感ならあった。その時代錯誤な口調だ。
ジャパニーズ・ニンジャの掟かなにかだろうか。用いる言語こそ日本語だが、この左衛門の喋りは妙に芝居がかっている。
「がうるんよ。おぬし、なにゆえそのような珍妙な言葉遣いを用いる? いったいどこの者じゃ?
……聞かぬ名よの。しかし不思議と、おぬしの言葉を理解できておるのは……まこと奇怪な」
と、如月左衛門は訝りながら言った。
すべての言葉をそっくりそのまま返したい、とガウルンは顰め面を見せながら思った。
カシムに化けるにしても千鳥かなめに化けるにしても、たしかにこの喋り方ではすぐにバレてしまうだろう。
どうにかして矯正させる必要があるか、とガウルンは面倒くさそうにぼやいた。
「ところでがうるん。おぬしにはおれの化けの皮が剥がれる瞬間を見られたが……どうじゃ?
今度は実際に、おれの顔が変わる瞬間を拝みたくはないか? 変ずる顔は、そう――うぬの顔じゃ」
と、如月左衛門が言った。
不意の提案に、ガウルンはなるほどと唸る。妙案かもしれない。
カシムにとっても千鳥かなめにとっても、ガウルンは顔を合わせたくはない存在として認識されているだろう。
そんな顔が、いざ対面となった折に二つ聳えていれば……相手方の驚く様を想像しただけで、楽しくなってくる。
しかしガウルンは、その手には乗らねぇよ、と如月左衛門の案を一蹴した。
左衛門がどのようにして顔を変えるのかは知っている。変わるべき顔をまず泥につけ、型を取るのだ。
この提案をのむということはつまり、ガウルンが自らの意思で泥土に顔を埋める必要がある。
それは左衛門にとって好機以外のなにものでもないだろう。なにしろこの男、ガウルンに対し純然たる殺意を秘めているのだから。
泥土に顔を埋めた瞬間、そのまま頭を押さえつけ窒息死させようという左衛門の魂胆がみえみえだった。
「……まあよいわ。機会はその、相良や千鳥の顔を手に入れてからで遅くはあるまい。
是が非にでも、おぬしに見事なものと言わせてみせようぞ。おお、そのときが楽しみじゃ。――」
と、如月左衛門は本心を語るでもなく言った。
白々しい。ガウルンは我慢し切れず、声に出して左衛門の白々しさを嘲笑った。
いつ噛み付いてくるとも限らない下僕。しかし首輪を繋ぐのは頑強な鉄のリードだ。
主君たる甲賀弦之介の首を抱えるガウルンに、左衛門はどこまで逆らえるものか……それがおもしろくもある。
「してがうるん。どこへ向かう? ……しがいち、とはまた、奇異なことを申す。
ふん。不知ではあるがそれも仕方なかろうよ。ここは、卍谷とは空気が違いすぎるでな」
と、如月左衛門は尋ねつつ言った。
とりあえずは町に出よう。このような人気も薄い原野では、獲物も見つかりにくいというもの。
市街地に向かうと言っただけで首を傾げる左衛門の馬鹿さ加減に、わずかながらの不安を覚えつつも。
おいおい大丈夫かぁ、と零してガウルンは移動を開始する。
◇ ◇ ◇
原野を越え、景色が移り変わると同時に驚愕が生まれた。
立ち並ぶ民家の様は、如月左衛門にとってまさに都……を越える、魔都と称すに値すべきものであった。
彼の知らない言葉で説明するならば、カルチャーギャップ。ここは、左衛門にとっては未来の街並みなのだ。
「なんと。不気味じゃ……まるで土塀の上を歩いておるような……なんと不気味なことか……。
しかしこれはことぞ、がうるん。おれの忍法は粘度の良い泥がかなめゆえ、このような地面では。――」
と、如月左衛門は地面の感触を確かめつつ言った。
彼が土塀のようと言い表す足元の石畳は、現代においてはアスファルトという名を持つ。
雨天時の泥寧化や乾燥時の砂塵、車両の走行等に耐え得るための一般的な舗装であり、日本では珍しいものでもない。
この男、ジャパニーズ・ニンジャと思いきや辺境の原住民かなにかなのか……、とガウルンは頭を抱えた。
たしかにこのような硬い地面では、左衛門の言うとおり変顔の忍法も役立たずとなるだろう。
だからといって騒ぎ立てるほどのことでもない。泥土が必要になったらば、そのつど町から出ればいいだけのこと。
ゆえに市街地の中心までは足を伸ばさず、山のふもと辺りでの活動を徹底する、とガウルンは説いた。
「ほほう……いや、それならば文句もない。多少は窮屈でもあるがの、そこは我慢しようかい。
物見遊山としゃれこむわけではないが、いやはやこれほどの奇観、めったに拝めはしないだろうよ」
と、如月左衛門は周囲を物珍しそうに眺めながら言った。
なんという田舎者だろうか。世界各地を渡り歩いてきたガウルンとて、これほど妙な男は見たことがない。
いや、この反応はもはや異常ですらある。まるで、生まれてきた時代を間違えたかのような……。
……と考えたところで、所詮は些事。
いずれは殺す、その程度の男なのだから、彼の生まれに疑問を抱いたところで甲斐もない。
大切なのは殺すまでの間、この男をどう御するか。左衛門の忍法は、ガウルンの趣向にとてもよく合う。
彼の顔を利用し、カシムや千鳥かなめを欺き、そして生まれる反応が、ガウルンは見たくて見たくて仕様がないのだ。
その一瞬のためならば、多少は面倒であっても狂犬を飼い馴らすこと躊躇わない。
それほどのサディストなのである、このガウルンという男は。
まず手にかけるは、カシムか千鳥かなめか、それとも御坂美琴や例のガキと面識を持つ者か。
想像するだけで下卑た笑いが滲み、気分が高揚してくる。
「殺すのはかまわんが、顔を潰しはせんでくれよ。深い傷などあればまこと厄介なものでな。
いや、元来のものであるならかまわん。しかし化けるのが目的とあらば、気をつけるべきぞ」
と、如月左衛門は忠告として言った。
変顔の術理は聞いた。万が一額に穴でもあけてしまえば、それすらもかたどってしまうのが左衛門の忍法。
多少の傷ならば泥土で型を作る際に修正できるだろうが、大きなものとなると厄介なのは容易に想像がつく。
カシムなどは元々生傷の耐えない男であり、顔にも傷があったが、逆にそれすらもかたどれることを称賛するべきだろう。
「すぐに殺すのもまずい。声はもとより、しゃべりかたの癖なども覚えておかねばならぬからな。
顔を変える。――これのみならば容易なものじゃが。縁者を欺くともなれば、さらに心得る必要があろうな」
と、如月左衛門はしつこくも忠告として言った。
この時代錯誤の男に、カシムや千鳥かなめの喋り方を一からレクチャーするというのも骨が折れる。
理想としては、標的を捕らえ、左衛門の目の前でいくらか喋らせてから息の根を止める。といったところだろうか。
「別に死人でなくともよいぞ。寝込みをさらい、泥土に顔を埋め型を取るでも良し。そこは任せる。
ふっ、目覚めたところで瓜二つの顔があるともなれば、何者も奇声を上げずにはいられなんだろうよ」
と、如月左衛門は付け加えて言った。
名も知らぬ輩ならともかく、カシムや千鳥かなめをすぐに殺してしまうというのも惜しい。
どうせならばたっぷりと怨嗟の声を上げさせ、その身を堪能しつくした上で殺したいものである。
「してがうるん。このままあたりを練り歩き獲物を探すか? それともなにかあてがあるか?
はしっこ……とな。ふうむ、弦之介様を葬ったあの壁か。たしかに気にかかるしろものではあるが」
と、如月左衛門は西の方角を見やりつつ言った。
ガウルンたちがいるこの場所は、地図で確認すれば南西の端――すぐ隣に黒い壁が聳える地区である。
一見して人の立ち寄ることも少なそうな地域ではあるが、ガウルンはここで待ち伏せするのも良しと考えた。
なにしろこの会場は絶海の孤島というわけではなく、黒い壁とやらも遠目では夜空にしか映らないのだ。
ならば誰かしらがこう考えるはずである――西へ抜ければ、この場から脱出できるのではないか。
火事場から逃げ延びようとする野うさぎをしとめる。簡単なダック・ハント。
夜が開け、日が昇れば黒い壁も存在感を表し始めるだろうから、狩るなら夜間のほうが都合がいい。
待ちの戦法は正直退屈ではあるものの、それも朝までと考えれば苦ではない。
それまでは――
「いや、まことあっぱれな男よな。少々、おぬしにも興味が湧いてきた。どうじゃろうがうるん。
弦之介様の首を返さんか? なに、即座に斬りかかろうことなんぞあるまいて。おれはおぬしを買うておる」
――傍らの復讐心に滾る男を、せいぜい手懐けておくとしよう。
【E-1/草原/一日目・早朝】
【如月左衛門@甲賀忍法帖】
[状態]:胸部に打撲 ガウルンに対して警戒、怒り、殺意
[装備]:マキビシ(20/20)@甲賀忍法帖、白金の腕輪@バカとテストと召喚獣
[道具]:デイパック
[思考・状況]
基本:自らを甲賀弦之介と偽り、甲賀弦之介の顔のまま生還する。同時に、弦之介の仇を討つ。
1:当面はガウルンに従いつつも反撃の機会をうかがう。
2:弦之介の生首は何が何でもこれ以上傷つけずに取り戻す。
3:弦之介の仇に警戒&復讐心。甲賀・伊賀の忍び以外で「弦之介の顔」を見知っている者がいたら要注意。
[備考]
※ガウルンの言った「自分は優勝狙いではない」との言葉に半信半疑。
※少なくとも、ガウルンが弦之介の仇ではないと確信しています。
※遺体をデイパックで運べることに気がつきました
【ガウルン@フルメタル・パニック!】
[状態]:膵臓癌 首から浅い出血(すでに塞がっている)、全身に多数の切り傷、体力消耗(中)
[装備]:銛撃ち銃(残り銛数2/5)、IMI デザートイーグル44Magnumモデル(残弾7/8+1)
[道具]:デイパック、支給品一式 ×4、フランベルジェ@とある魔術の禁書目録、甲賀弦之介の生首
[思考・状況]
基本:どいつもこいつも皆殺し。
1:夜が明けるまでは待ち伏せしに徹し、会場の端から逃げようとする者を襲撃する。
2:千鳥かなめと、ガキの知り合いを探し、半殺しにして如月左衛門に顔を奪わせる。
3:それが片付いたら如月左衛門を切り捨てる。
4:カシム(宗介)とガキ(人識)は絶対に自分が殺す。
5:左衛門と行動を共にする内は、泥土を確保しにくい市街地中心には向かわないにようにする。
[備考]
※如月左衛門の忍法について知りました。
※両者の世界観にわずかに違和感を感じています。
※弦之介の首なし死体は黒い壁の向こう側に葬られました。
代理投下終了しました。
投下・代理投下乙。
そうだよなぁw 如月左衛門、ガウルンから見たら凄い世間知らずだよなぁw
ガウルン側にもニンジャを利用する際のハードルが見えてきたし、どうなることか。
しかし、今西側の端を目指してる奴らって……!
投下GJ! ガウルン頑張ってんな! イキイキしてんな!
うーむ、だが忍者の現代知識の無さがここに来て痛いw
ジャパニーズニンジャを手懐けるには少々骨が折れそうだ。
待ちの体勢、果たして吉と出るか凶と出るか……。
さて、では延長しておりましたが……こちらも投下させていただきます。
複数名の人物に大きな傷跡を残すこととなった学校での騒動から、一夜明けて。
島田美波と水前寺邦博が撤退後に何をしていたかというと、途中で目に付いたガソリンスタンドに停車していた。
理由は単純。バギーの燃料補給ついでに休憩をとるためである。
セルフサービスであるそれを水前寺が器用に扱って燃料を補給する間、島田は空が白んでいく様子をじっと眺めていた。
あの騒動からはかなりの時間が経っているようだ。身が感じるこの独特の空気は、完全に徹夜明けのときのそれだ。
本当に、嫌に爽やか。"あんなこと"があったのに、夜はこうもごく普通に明けてしまうものなのか。
嗚呼。
騒動の果てに天上へと旅立ったあの一匹の龍は、今はこの空の天辺で何をしているだろうか。
多分きっと、とてもとても寂しい思いをしているのだろう。悔しい思いをしているのだろう。
だが。
涼宮ハルヒが鍵であるということ。自分の友達を、仲間を守りたかったということ。
それは島田美波が全て受け取った。脳にも、そしてその身にもしっかりと刻み込んだ。
だから。
だから、心配しなくても良い。と島田は亡き龍へと心中で語る。
願いは受け取ったと、想いは自分の手で繋げていくと、そう決めたのだから。
まるで、漫画の主人公気取りだ。
だが、決心の揺らがぬ今なら、それでも良いとそう思える。
今ならば、龍の想いを届けるポストマンになってみせると、そう決心出来る。
◇ ◇ ◇
「終わったぞ。これでもう余程のことが無い限りは、燃料に困ることも無いだろう」
「うん。じゃあ……」
「少し話し合うターン……だな。では"第一回SOS団会議"を始めよう」
「また変な名称を……」
給油が終わると、運転席へと水前寺が再び座しながら提案を持ちかけた。
その意味は馬鹿でも予想出来る。つまりは"これからどこに行くか、を話したい"ということに他ならない。
実際のところ今の美波達は、学校からの逃亡を敢行した末に成功、そして現在休息を取っているだけに過ぎない。
何せ、ひょっとしたらいるかもしれない追っ手を気にしながら、時には脇道に反りつつとにかく離れる為だけに走っていたのだ。
これからの指針を決めるだけの余裕は無かった、というのも仕方の無いことである。
というわけでこうして余裕が出てきた今、やっと話し合いの場が始まったわけである。
「さて……まず島田特派員には探し人がいる。おれはそれに付き合いたいと表明したばかりだ」
「うん」
「そうなると、今回の議題はただ一つ……"どちらに進むか"というわけだが。まず聞こう、当ては?」
「…………無い」
しかし、今後の"これから"というものは少し難儀なものと化してしまっていた。
美波が人を捜索するといっても、レーダーという有利な武器を失った以上は道が険しくなることは必至。
そこに更に"情報の一切が無い"という、ジャーナリストやポストマンにとっての"痛み"が訪れている。
何せ捜索対象の情報と言えばその名前だけ。見た目も声も何もかもがさっぱりわからないのである。
探したい人がいる。名前も知っている。だがどこにいるかを突き止められない。当てが、ない。
広い海の真ん中で遭難した船が如く、今の島田には"向かうべき方向"がわからないのだ。
「正直、どこに行けば会えるかなんて解らない。どこに行けば良いか、ウチにはちょっと決められない……無責任だけどね」
「ふむ。そうか……では島田特派員に当てが無いのならば、少しこちらに付き合ってはもらえないか?
おれも当てがあるわけではない……が、どうせ当てが無いのなら、捜索ついでに調査したいものがあるのでな」
と、ここで水前寺が迷い船の船頭役をかってでた。
この提案に、美波はなるほどと呟いた。どうせ行く当てが無いのだ、水前寺の言うことは尤もである。
"彼が目的地とする場所"というだけで少し不安に思えてしまうのが難だが、今更何も言うまい。
「うん、いいわ。ウチがこのまま迷ってても仕方が無いしね……今は任せる。で、どこ?」
美波の答えを受け取ると、水前寺はすぐに地図とコンパスを取り出した。
開かれたその中から現在地を割り出そうと座席から身を乗り上げる。
そして地図と睨めっこしながらぶつぶつと何か呟き始めた。えっ、なにそれこわい。
"どこに行きたいのか"を尋ねたのに、この男は何をしているのだろうか。
何かを探しているのか? 目的地か? まさか視認出来る距離なのだろうか?
わからない。正直わからない。全くわからない。
この水前寺が起こす相変わらずの"突然の奇行"のそれぞれが何を意味するのかがわからない。
それら一つ一つを解明していくには、自分にはまだまだ些かの時間が必要であるらしい、と美波は痛感した。
「むぅっ!」
と、ここで何か発見したようだ。なんだなんだ何なんだ、と美波も水前寺と同じ体勢をとる。
そうやって彼と同じ方向を見れば、遠くにガラス張りの立派なビルが見えていた。
随分と綺麗、かつ本当に立派な建物だ。自分達の住んでいる場所にもそうそう無いだろう。
で、あれは一体何なのだろうか。
「いいか島田特派員。さっきは追っ手の可能性も考えて、裏道への迂回等を駆使しつつ走行していた。
だがそれでも出来る限り北上を意識して進んでいたわけだ。つまり、我々は今あの学校の北に位置しているはず」
それはこのガソリンスタンドに停車する前、走行中に水前寺から聞いていた。
自分達がどういう場所にいるのかを把握しやすくする為、向かう方角は単純にしたとのことだ。
そうか、ではあれか。さっきの奇行は"現在地チェック"か。さては目印になる建物を探していたな。
ようやく理解出来た。だがそれに満足してため息をつくフェイズではない。話はまだ続いている。
「故におおよその現在地を特定し、それを元に推理したところ……西南のあの建物は図書館だな。
そして東南を見てみれば……また別の立派な建物がある。見ろ島田特派員、あれもなかなかのものだぞ」
水前寺の話に追いつこうと、美波は指示通りに首を動かす。
確かに彼の言うとおりだ。図書館と警察署という水前寺の推理が当たっていそうな、立派な建物が見えた。
「コンパスと地図を参照して考えた結果、あれは恐らく警察署だ。立派なものだな全く。
つまり我々の現在地はこの、図書館と警察署の真ん中を通り過ぎたこの場所だ。巧い具合に学校北部だな」
「……へえ」
それはわかった。
で、結局どこに行きたいのか。
「ということで、この勢いのままで北上する事を進言する。まずは北へ、北へ進もう。
そうすればこの栄えた地域から多少離れ、山の始まりを経て、山の中の神社に到着出来る。
そう、つまり今から目指すべき目的地は神社だ。神社に向かうぞ島田特派員。メリットあるぞこれは」
水前寺の言う目的地。それはまさかの神社だった。
美波としてはてっきりあの初対面のときのように「よし、少々危険だが真ん中に行こう!」と言うと思っていた。
世界の端から消えていく、という人類最悪とやらの言葉を信用するならば、人が中央に集まるのは当然の運びだ。
だからこそそれを狙い、一直線でそこに向かい始めると思っていたのだが。
流石に学校の一件で懲りたのだろうか? それはない、とは思うけれど。
「そもそもそのメリットって何?」
「安心しろ、きちんと解説する。まずはそうだな、おれの目的は覚えているか?」
「調査、でしょ?」
「正解だ」
水前寺の目的。これは流石の美波もきちんと覚えている。
初めて出会ったときの彼は、バギーを走らせながら「付近の調査を行っていた」と言った。
調査の方法はわからなかったが、ジャーナリストを自称する以上は"それなり以上"には行っているのだろう。
この街を調査し、園崎という街に帰る為の情報を手にいれる。そこに美波自身が混ざった形だ。正確には"混ぜられた"だが。
「で、だ。結局のところはこんな街を細々と探索するよりも、ああいったランドマークを攻めるほうが効率が良い」
「"らんどまーく"?」
「"Orientierungspunkt"」
「……なるほど」
水前寺はつまり"地図でせっかく目立った場所があるのだから、そこから調査しよう"と言いたいのだ。
例えば神社というものは、観光地としての側面も持っている。あの"四国八十八箇所霊場"がその典型的なものだ。
だからもしもその神社が有名なものであれば、それだけで場所の特定を完遂出来るというわけだ。
そうでなくともそれが本当に"神社"であれば、ここが日本国内であるという絶対の証明にもなる。
「そもそも神社というものは日本産であり、海外にははっきり言って皆無だ。
……いや、無いことはないが、それでも日本統治時代の満州に建築されたものなどに限定される。
ここの神社が特に名も知れぬマイナーものである可能性も非常に高いが、地盤を固めるためにも確かめる必要はある」
だが、ここでふと美波は疑問を浮かべた。
考えてみれば、神社よりも明らかに"日本産のもの"があるではないか。地図の中央に。
「天守閣じゃ駄目なの? これだって名前からしてどう考えても日本の城じゃない。
それに観光地かもしれない、っていうなら明らかにこっちの方が可能性高いし。ここを調べたほうが……」
だが。
「それも考えたが、今から行くのならば堀をぐるりと迂回する必要がある。
しかしその通り道の近くには神社があり……これをただ行き過ぎるのは正直時間の無駄だ。ナンセンスに過ぎる。
つまり城に行くにしろ行かぬにしろ、どうせなら寄られる内に少しでも多くの施設に寄っておいた方が効率的だという事さ。
それにこの先を行けば天文台がある。山を登ってそこも調査し、ついでに世界の端も見ることが出来れば万々歳。
そして最後に山を下って中央部に向かえば、島田特派員の言った天守閣と、用途がまだわからんがホールもある。
と……ただ城に向かうだけでもこういったルートがあるわけだ。中央部だから時間もたっぷりあるしな。まずは問題はあるまい?」
水前寺は既に考えを固めていたらしい。ご丁寧にも長々と解説を捲し立ててくれた。
言われたルートを参考にして地図に指を走らせれば、確かに形にはなっている。
巧く行くかどうかは解らないが、巧く行けば立派に観光ツアーだ。調査するなら丁度良い。
「あれ? でもちょっと待って? じゃあ警察署と図書館は? どうせなら今からこっちも回った方が」
しかし疑問は尽きない。色々と訊いておかなければ、水前寺のことだから何かまた変な事を考えているかもしれない。
故に"それに巻き込まれるこちらのことも考えて欲しい"、とばかりに美波は意見を述べる。
それにより、美波が「変な名称だ」と罵った"SOS団会議"の形を成している事に、本人は気付いていないのだが。
「確かにそうだが、その施設は三日目まで消えることは無い。焦らずとも後々に安心して向かう事が出来るはずだ。
それに今から素直に回れ右をして戻ってしまうと、方角的にはあの危険な学校に近づくことになってしまう。
大体、我々が全ての施設を回るのは到底無理なのだ……例えば、水族館などは今日の24時にはもう入れなくなるからな。
こちらに対し敵意を放ってくる人間もいるだろうし、調査の時間も含めれば全ての訪問は絶対に不可能だ。
我々はマニュアル人間の堅苦しい行動とは無縁であるべきだ。行けない場所などがあれば、臨機応変に変化しなければならない」
なるほど。よく考えている。少しばかり見直した。
今までの破天荒な行動も、こうして筋道立ててくれれば納得も出来るのだ。
過去でも現在でも未来でもちゃんと説明してくれれば良いのに。と、少しばかり彼を呪ってしまう美波。
それがいけなかったのだろうか。
「じゃあ、三日目まで残るはずの城にすぐに向かうのは?」
「おいおい。"ここを調べたほうが良い"とは、キミ本人がの弁である事を忘れたか。キミは鳥か、鳥頭か。クックドゥルードゥーか」
突然、ごく普通の質問に対してどえらい悪口が飛んできた。
ええい、こいつは。突発的な奴め。何が気に入らないのか理解に苦しむ。
かっちーん! と、美波の脳内で何かの効果音が鳴り響いた。
「失礼な……っ!」
「む? なんだ島田特派員、おれの腕に何か……ぐおおおおおお! 曲がる! すっごい曲がっているぞ島田特派員!
落ち着け島田特派員! そっちには曲がらん! さ、さてはキミも浅羽妹みたいに何かかじってるな!? そうだろう!
あばばばばばばば! 変になっている! おれの腕がかつて無いほどに変に! 戻れおれの腕! マッガーレおれの腕!」
◇ ◇ ◇
バギーが勢い良く走っている。そこに乗っているのは当然、水前寺と美波の両名だ。
危うく"アレ"な事になりそうだった腕を擦りながら運転するのは水前寺。
助手席からその様子を眺めて「ざまみろ」と呟くのは美波。
二人は結局、水前寺の案の通りに神社へと向かっているのだった。
「そういえば、涼宮ハルヒとか言ったか? 随分と胡散臭い話だが……ふむ」
話題は既に涼宮ハルヒのことへと移っていた。
水前寺曰く"胡散臭い"との事だが、正直なところ水前寺には言われたくは無いと思う。
本人だってそう言うと思う。そうでなければ高須竜児が報われない。
「だが"能力"の真実は……気になるな。どうとでも取れる話である以上、直に話を聞くしかあるまい。
道中に本人、または近しい人物がいれば良いのだが……運、だな。運に身を任せ、会えるのを期待するしかない。
高須竜児の言う三人と同じく、その涼宮ハルヒもしかりだ……大体後者に至っては性別を読み辛い名前を持っているしな」
ああ、やはりキツイか。だが無理も無い。当然の話であり、その理由も全て水前寺に言われてしまった。
あの状況下で、高須からもっと情報を聞けなかったのは痛い、と美波本人も思う。
自分には何も出来なかった。事実、高須を助けようと動くことも出来なかった。
これも痛い。自分は目的に至るまでに必要な情報と言うものを何一つ収集出来ていないではないか。
実は今の美波はそんな、"高須竜児に何も出来なかった"事以外の点でも自らを責めてしまっていた。
水前寺と行動を共にしているにも関わらず、自分は早くも情報弱者と化してしまっている。
この自称"SOS団団長"ならばもっと上手く出来たはずだ。そうに、違いない。
そう考えてしまうと、心が地の底に落ちそうになってしまうのだ。悔しくて、仕方が無い。
「まぁ、だが島田特派員とおれの立場が逆であっても……好転したとは言い難い話ではあるがな」
なのに水前寺はこんな事を話してくる。慰め、か何かなのだろうか。
ジャーナリストの癖にとんだ嘘吐きだ。捏造は罪だというのに。
「…………そんなこと無い。多分、アンタならもっと上手く……」
だから自分も反論してしまう。
自分の弱さが浮き彫りになる、そんな言葉で相手を跳ね除けようとしている。
だが。
「そんなことはある。あの一件でおれも随分と間の抜けた失敗をやらかした。やらかしたんだ。
ああ、どこでどう失敗したかは訊いてくれるなよ? 自分で上げ連ねると、後悔せざるを得なくなってくる」
何故だろう。この水前寺節には相変わらずの真実味があった。
本気で歯噛みしているかのような、そんな雰囲気が言葉からにじみ出ているのだ。
否、違う。
水前寺は、本当に歯噛みしていた。文字通り、本当に。
「アンタでも……そんなこと、あるんだ?」
「あるな。結局おれは"生き延びただけ"で、大した情報は得られなかった。
ここに本職の戦場カメラマンがいたら、おれはどつきまわされるだろうな」
「……そう、なんだ。うん、ごめん。ありがとう。じゃあこの話は終わり」
「うむ」
だから、だろう。美波はこの話を打ち切ることにした。
互いに失敗を言い合うのは、精神衛生上よろしくもなんとも無い。
失敗したなら、次に頑張れば良い。失敗を繰り返さないように、対策を練れば良い。
何もかもが上手くやれない不条理な世界の中でも、決して折れず決して負けない心を持とう。
決意しよう。もう一度、ガソリンスタンドでそうしたように。
「ああ、そうだ島田特派員。おれのデイパックを漁ってくれないか?」
と、ここで突然水前寺が――もう"突然"という言葉がゲシュタルト崩壊を起こしそうだ――指示を放ってきた。
何かを発見したのだろうか。もしや誰か別の人間の気配を感じ、対策の為にあの武器を、とか。
そんな事を勝手に考えていると「中にデジカメがあるだろう」という言葉が続いた。
ああ、デジカメか。なんだ。そんなものまで持っていたのかこいつ。
「ジャーナリストとしては一眼レフ辺りが嬉しかったのだがな。流石にここでそれは贅沢が過ぎるというもの。
と、そんなことはどうでも良い。起動したか? 中に変なフォルダがあるだろう……元気が出るから開いてみろ」
変なフォルダ、という言葉をヒントに操作を続けると、あっさりと発見出来た。
"SOSファイル"などと言うふざけた名称を関したフォルダ。どうもこれに違いない。
元気が出るとかなんとか言っていたが、どうも信頼出来ないのは気のせいか。否、気のせいではない。
「…………え?」
そしてついでにいうと、元気になるようなものでもなかった。
何故ならそのフォルダの中には、市街地を写した十数枚の写真しかなかったからである。
「この街写しただけのものがどうしたの? "SOSファイル"って名前だけで既に元気奪われるんだけど」
「待て待てちょっと待て島田特派員。そっちはおれが調査の最中に撮影した資料だ。違う、開くべきフォルダが違う」
「えー? 変なフォルダっていうから絶対これだと思ったのに……」
「失礼な」
だが、幸か不幸か開くフォルダを間違えただけだったらしい。
なるほど。間違えたのはアルファベット順で一番最初に選択されていたフォルダをつい開いてしまった所為か。
これがウィルスなどだったらえらい騒ぎになるところだった。だが、ふざけた名前をつけた方も悪いのではないか。
愚痴りつつも改めてもう一つのフォルダ――何故かSOSファイルを含む二つのフォルダしか作成されていなかった――を選択する。
さて、気になるそのフォルダの名前は。
「"某モデルがやっちゃった☆ナゾの物まね百五十連発"……? 何これ。アンタ、人が知らないところで何を撮ってたの?」
「知らん、誤解だ。これは最初から入っていたフォルダでな……良いから観たまえ。正直ここまで面白いとは思わなかった。
既に中身は確認しているが、これを話している今でも、おれは激しい思い出し笑いをしないようにとどうにか堪えているのだ」
「うわ、"アンタのツボ"っていうのが逆に不安だわ……宇宙人がゲッダンでもやってたりするんじゃないでしょうね?」
水前寺に気を使われるのは非常に癪だが、"元気が出る"という触れ込みには正直惹かれるものがあった。
それに"あの水前寺が笑う"というのも、それ自体が不安要素ではあると同時に興味を沸かせる一つの要因となっている。
学校での出来事からどうも自分らしくない。それを自覚している美波は、
「ま、これで少し回復が出来れば儲けものか……期待しすぎるのもあれだけど」
と呟きながら、元気になれる素とやらを開くことにした。
おや、これは動画ファイルか。某モデルとは、この今写っている美人さんのことなのだろう。
彼女が物真似をするというのか。しかも百五十連発。なんだか激しく地雷を引いたような気がする。
ムッツリーニが好きそうなスケベな動画だったら、迷わず叩き壊してやる。
◇ ◇ ◇
で、結果。
助手席で動画を鑑賞しながら大爆笑する島田美波と、つられて思い出し笑いを大暴発させた水前寺。
この場にそぐわぬ奇妙な光景が、バギーの座席にて生まれ出でたのであった。
【C-2/市街地/早朝】
【水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康、シズのバギーを運転中、大爆笑
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、シズのバギー@キノの旅
[思考・状況]
基本:島田特派員と共に精一杯情報を集め、平和的に園原へと帰還する。
1:まずは神社に向かい、調査後に天文台と"世界の端"も見に行く。
2:当面は島田美波に付き合って、人探し。
3:間接的な情報ながら、『涼宮ハルヒ』に興味。
【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、服が消火剤で汚れている、シズのバギーの助手席に搭乗中、大爆笑
[装備]:大河のデジタルカメラ@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:水前寺邦博と行動。吉井明久、姫路瑞希、逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨と合流したい。
1:逢坂大河、川嶋亜美、櫛枝実乃梨の三人を探して高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
2:竜児の言葉を信じ、「全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒ」を探す。
投下完了です。
投下乙。
おおー、神社を目指すかー。
敗北を知ったジャーナリストチームが、今後何を見いだすのか期待だ。
そしてそのデジカメはwwww 宇宙人のゲッダンよりひでぇwww
投下乙
水前寺は行動力あるな
エネルギーの向ける方向さえまともだったらやっぱ相当優秀だな
脳天気に見えていろいろごちゃごちゃ考えてしまっているのが水前寺らしい気がしたぜ
美波頑張れ
今のところは沈んでるがそれでももやっぱり美波は美波
そしてそれはWWWWW
お二方投下乙です!
>化語(バケガタリ)
ガウルンが凄いイキイキしてるw
ただやっぱりと言うかなんつーか…
ニンジャを使うのは難しいよなぁww
>SIDE BY SIDE
このチームには頑張って欲しいなぁ
美波には一刻も早く元気になって欲しいところ
つーかそのデジカメはwww
あーみんドンマイw
竜児の死亡で落ち込んでいる美波を元気付けているのが
竜児の関係者の映像というのはなんか皮肉な話。
そうか?
皮肉ってことは無いだろ
それでは遅れましたが投下始めます
「さて……そろそろかな」
宣戦布告を告げる放送を終え暫しの時間がたった頃。
だだっ広いホールに一筋の煙が昇っていた。
それは赤髪、右目の下にバーコードのタトゥーをしたステイル=マグヌスが吸うタバコの煙だった。
おおよそ神父に見えないがれっきとした神父である。
14歳という本来タバコの吸える歳ではないがタバコを好み、このタバコもホールの事務室から拝借したものである。
腕を組みながらホールの壁にもたれ、挑戦者達をただ待っている。
中々広い多目的型ホールなのだがステイルが陣取っているのは玄関前ホール。
そこはガラス張りになっており東西に出入り口が存在していてステイルはその中央に陣取っていた。
(できるのなら沢山着て欲しいんだけど)
望むは愚者共があの放送に沢山乗ってもらう事だ。
出来るのならばここで沢山の肯定者を排除しておきたいとステイルは思う。
それが結果的に護るべき存在であるインデックスを護る事になるのだから。
そして不意に思い苦笑してしまう。
(愚直にすぎるかな……僕も)
余りにも愚直な考えだと。
インデックスを護る為に排除すべき人間は排除する。
シンプル且つ単純なもの。
だけど
「それでも……いいさ」
ふーっと煙を吐き散らしてそういった。
ステイルにとって御託はいらない。
インデックスの為にただ戦い殺すだけ。
ステイルが自身を持つ炎の魔術によって。
彼女の障害になる者を。
『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』として。
殺しを行い最強である事を証明し続けるのが今、インデックスを救う事になるのだ。
「覚悟などとっくの昔にしたしね」
例えこの手が血に汚れようと。
全てを懸けてインデックスを護る覚悟なんてとっくの昔にしたのだから。
例え彼女の隣に居るのが別の人間だとしても。
その誓いは未来永劫変わることはない。
ステイル=マグナスはインデックスの為にあると。
そう言いきれるのだから。
それがステイルが望む道なのだから。
だからこそ
「早速……一人かかったな」
今、西口から現れた愚か者を。
ステイルの全力を持って排除しなければならない。
「さて……準備体操ぐらいにはなるんといいだけど」
そう、ステイルは嗤った。
獰猛な笑顔をこれから処刑すべき女に向けて。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「弦之介さま……」
その女――朧――はただ歩いていた。
しかしながらその速さは現代をいきるものからすると恐るべき速さで。
彼女は甘い誘惑である甲賀弦之介からの殺害だけを望んで歩いていた。
彼の愛刀を強く握って。
それしか考えずただ、ひたすらに。
見慣れぬ街並みも気にせずに。
そして立派な城への感慨をも全くに見せずに。
ただ、愛したものだけを考え。
放送があったホールをただ向かっていた。
朧には何故かそのホールの位置が正確にわかっていたのである。
無論ホールがどんなものか朧には想像は付かない。
だがただ面妖な空気の流れを感じていたのだ。
それに従い、ただ向かっていただけ。
(弦之介さま……)
胸に秘めた歪んだ願いを持ったまま。
されどその願いは永久に叶う事がなく。
また、それに朧が気付くわけもなく。
ただ、歩み続けていたのだ。
そしてホールに辿り着く。
ホールの外見に気にする事はなくそのままはいっていく。
そして朧がみたのは赤毛の長身の異様な男。
だが朧は身内にも妖怪な忍者が居たので特に気にする事も無く歩き続けた。
あれが獲物であるのだと理解しながら刀を抜く。
「やあ待ってたよ……早速だけど……死んでもらうよ」
男、ステイルが嗤い手を掲げる。
特に会話もいらない。
ただ、シンプルに殺しあうだけ。
それを理解して朧ものったのだから。
これから互いの目的の為だけに殺す。
それ以上に語る事など有ろうか。
いや、無いのだ。
「世界を構築する五大元素の一つ、偉大なる始まりの炎よ(MTWOTFFTOIIGOIIOF)
それは生命を育む恵みの光にして、邪悪を罰する裁きの光なり(IIBOLAIIAOE) 」
ステイルはそのまま術を唱え始めた。
だが朧は気にせずステイルに向かって歩く。
ただ、ステイルを見たまま。
「それは穏やかな幸福を満たすと同時、冷たき闇を滅する凍える不幸なり(IIMHAIIBOD)
その名は炎、その役は剣(IINFIIMS)」
そう、ただ『見た』まま。
ステイルを『見続けている』
そして
「顕現せよ、我が身を喰らいて力と為せ(ICRMMBGP)」
宣言が終わった。
ステイルは嗤う。
勝利を確信して。
だが
「……ばかなっ!? イノケンティウスが顕現しないだと!?」
彼が絶対の自信を持つ魔女狩りの王が顕現しなかったのだ。
そして朧は嗤う。
勝利を確信して。
狂ったように嗤って。
これでまず一人。
ああ、弦之介様に殺してもらえる罪が増えると。
嗤っていた。
「……な、何故だ……!?」
対してステイルは混乱の極みに達していた。
ルーン文字も配置も正しいはず。
なのに何故何もおきない。
今まで通りにやっただけなのに。
その当たり前が通用しない。
その間にも朧はこちらに向かってくる。
ステイルは考え考える。
魔術が聞かない。
その理由を、自身が生き残る為に。
そして思い当たる。
最悪の可能性を。
「まさかっ……幻想殺し……だと!?」
「……わたしに忍術など聞きませぬよ」
そのステイルの声に朧は答えた。
ステイルが想像した通りの答えを。
そう、朧には聞かないのだ。
上条当麻が持つ幻想殺しに類する能力を持つのだから。
「冥土の土産に教えましょう、破幻の瞳……わたしに見つめられたものは忍術は使用できませぬ」
「……なっ……っ」
破幻の瞳。
それこそが朧の持ちゆる力。
彼女に見つめられたら魔術、忍術に類する力は顕現が出来ない。
ステイルの世界にあるような幻想殺しと同じ能力であった。
ステイルは信じるしかない。
何せ今魔術が顕現できないのだ。
信じるしかあるまい、信じるしかなかった。
「では……さようなら」
朧はその言葉をつげ疾駆する。
ステイルを殺害する為に。
殺気を全身に纏いながら。
(ば、馬鹿な……こんなけつま……)
ステイルは信じたくはない。
こんな結末である事を。
インデックスも護れずこんな所で潰えてしまう事を。
何も出来ず魔術も使えずここで朽ちてしまう事を。
信じたくはなかった。
後悔や怒りが混じって。
しかし朧の刃は向かって来て。
ステイルに終わりを告げようと……
「……へぇ。何だもうやっているのか」
その獰猛な声に朧の動きがピッタリ止まる。
東口から現れたものは正しく猛獣というに等しい風格だったのだから。
金の髪、赤いジャンパー、黒のスカート。
一見女性に見える風貌。
だが、その貌はまるで獲物を前にするかの獣の如く。
楽しそうに楽しそうに、白純里緒は嗤っていた。
「さぁ……俺も混ぜてくれよ」
里緒は右手に一振りのナイフを持ちそして朧に向けて疾駆する。
それは朧が視認するのが難しい程の速さで。
壁から壁へ飛び少しずつ距離を詰めていく。
その様はまるで獲物を確実に狩る猛獣の様だった。
(……ど、どこにおる……?)
対して朧はそれに全く対応できずにいたのだ。
元来朧は忍の里にいても忍術ができる訳ではない。
体のこなし方も忍者の動きではないのだ。
持ちゆるのは破幻の瞳のみ。
それ故にまるで獣の如き速さの里緒に対応できなかったのである。
里緒はそのまま天井の方に上がっていった。
朧はその速さに見失ってしまう。
ステイルを見つめ続けながら里緒を捕捉するのは無理だったのだから。
「ど……」
「ははっ……甘いんだよ!」
「つっ!?」
何処にと呟こうとした瞬間真上から降ってくるもの。
朧は反射的に刀を掲げる。
その刹那上から急降下してきた里緒のナイフが刀に当たった。
里緒はそのまま身軽に体を翻して
「そらっ!」
「がっ!?」
左手の爪で朧の左肩を浅く切り裂いた。
肉が引き裂かれるいやな音、舞飛ぶ血飛沫。
朧は即座に後退しながら思う。
(叶わない……)
里緒に叶わないと。
元々忍術使うものだからこそ圧倒できたのだ。
体術主体のこの獣相手には朧が叶うわけがない。
ならば朧は思う。
このまま死ねるのかと。
(それだけはなりませぬ……弦之介さまに殺してもらわねばなりません……)
ならないと。
愛する者に断罪されなければならない。
それこそ朧の至純なのだから。
ならば今どうするべきかと。
簡単だった。
「………………」
「はっ、逃げるつもりかい?」
そのまま背を向けて朧は逃走を始めた。
命をここで散らすべきではないと。
そのまま朧が走れる速さで逃げ出したのだ。
その速度は速いものであったが里緒が追いつけない訳が無い。
里緒はそのまま朧に向かって駆け出そうとする。
何もなければ殺せるだろう。
そう、何も、里緒と朧『以外』に居ないのならば
「炎よ(Kenaz)―――――」
里緒の背後から突如聞こえる詠唱の声。
里緒がそのまま振り向くとそこには
「――――――――巨人に苦痛の贈り物を(purlsazNaupizGebo)」
火の粉を散らしたオレンジのライン。
そして轟と爆発し一直線に生まれた摂氏3000度の炎の剣。
それを構えるのは『我が名が最強である理由をここに証明する(Fortis931)』の名を持つ魔術師、ステイル=マグナス。
ステイルは不敵に嗤い炎を従いそこに鎮座していた。
「なっ……」
「見られていないなら……後は僕の狩場だよ……猛獣っ!」
ステイルは里緒と朧の刹那の切り結びあいの後密かに準備していたのだ。
確かに朧に見られているのなら魔術は顕現しないだろう。
だが、見られていないのなら顕現できる。
その隙をずっと狙っていたのだ。
そしてそのステイルの天敵といえる朧は里緒によって逃げ出した。
ステイルはそれをあえて見送る。
天敵なのは解っているのだから、無理に相手をする事は無い。
ならば今同じく殺し合いに乗っているこの猛獣、里緒を相手するべきなのだ。
里緒はステイルの発した炎に驚き朧の事を忘れていた。
その朧は無事逃げ出したようだ。
ならば……ここは後は処刑者と猛獣のみ。
そして猛獣を狩る為に獰猛に嗤う処刑者。
ルーンを展開し炎も顕現できる絶好の狩場だった。
「じゃあ……さっさと終わらせようかっ! 猛獣!」
右手に展開した炎の剣。
それを横殴りに里緒に向かって叩き付ける。
それは里緒に向かって行き熱波と黒煙を纏い全てを喰らい尽くそうとする。
「ちっ」
里緒はそのまま天井に向かい尋常でない跳躍をしそれを避ける。
その直後、里緒が居た一帯に小規模の爆発が起こり、激しい爆音が響いた。
里緒はその跳躍したスピードを生かしカウンター気味に煙の向こうに見えたステイルに向かって引き裂こうと急降下した。
そしてステイルを引き裂いたと思い里緒は嗤う。
「ははっ……なんだ見掛け倒し……っ!?」
だけどそのステイルは蜃気楼の様に消えうせた。
まるで最初からその場に居なかったように。
そして背後から聞こえる声。
「お見通しだよ……一度見ていたんだから……まさか効くと思った?」
そう、ステイルは嗤い里緒の直ぐ背後に立っていた。
すました顔をして、ステイルは嗤い、赤い炎剣をつきつけている。
朧との戦闘で里緒の動きは見ていたのだ。
奇襲を狙うぐらいステイルには容易に理解できたのだから。
そしてあらかじめ蜃気楼を発し目暗ましを用意していたのだ。
「さて、終わりだよ猛獣……死んでもらおうか」
そして無慈悲に。
ステイルはその炎剣を掲げ。
猛獣を狩ろうとした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「口惜しや……口惜しや……」
朧はまだ暗い街中を一人遁走していた。
その心の中や悔しさで溢れていた。
二人もいて、一人には惨敗したのだ。
まるで歯が立たなかった。
これでは、愛するものの為に罪を重なれない。
どうすればと朧は呟く。
走りつつ悔しいと考えながら。
このままでは思うように殺せない。
ならばどうすればいいと自問する。
そして、その答えが思いつく。
簡単だ。
他人を利用してやればいいのだ。
もっと強者……例えば天膳のようなものを利用として味方につければいい。
そうすればもっと殺せるのだ。
愛する人の為に。
もっと。
もっともっと。
朧は嗤った。
大いに心の底から。
嗤ったのだ。
【D-4/ホール前/一日目・黎明】
【朧@甲賀忍法帖】
[状態]:健康、精神錯乱? 左肩浅い裂き傷
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]: デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:弦之介以外は殺す。そして弦之介に殺してもらう。
1:この場から逃げる
2:他者を利用する?
[備考]
※死亡後からの参戦
※逃げる方向は後継にお任せします。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……と言いたい所なんだけど」
と、不意にステイルは掲げた断頭の鎌を下げる。
警戒はしたまま、空いた左手で煙草を吸い始めていた。
そして里緒に向かって語りだす。
「少し事情が変わった……取りあえず君を殺さない事にするよ」
「……何故だ?」
「……んー、まぁいいか。単刀直入言っちゃおうか」
少し考え、だが直ぐにステイルは意図を語りだす。
里緒を残した理由。
それは
「猛獣、手を組め」
「……はっ!?」
里緒との結託だった。
里緒が驚く中、ステイルは飄々としたまま煙草を吸っている。
唖然としつつもやがて里緒は軽蔑するかのように口を開いた。
「はんっ……それに乗れと……?」
「元々選択の余地なんてないと思うけど? 死にたくなければね」
ステイルは飄々としながらも炎剣だけを突きつけて。
里緒がNOと答えるのならばそのまま灰と塵にするだけ。
元々は殺すつもりだったのだ。
拒否されるのならば最初の目的に戻るだけ。
むしろ殺した方がいいのだ。
それなのにステイルは協力を要請した、メリットが上回っていると思って。
里緒は突きつけられた炎剣を見つつ、それでも死を恐れないように言葉を紡ぐ。
「ふん……俺にメリットはあるのか?」
「んー殺されず、今、君をメタメタに打ちのめした相手と組めるんだけど?」
「ちっ……魔術師って奴は皆……こんな奴なのか」
「お褒めの言葉、どうも。それでどうするかい?」
そのステイルの言葉に不遜な表情を向ける里緒。
否定も肯定もせず睨むだけ。
ステイルは涼しい顔をしたまま顎に手を置いて考えている。
そして何かを思い出したようにデイバックから一つのものを取り出す。
「んー……そうだね。これとかどうかい? 君みたいな狂人見たいのはピッタリだけど……?……僕は興味ないけどね」
「っ!?」
取り出したの変哲な紙みたいなもの。
ステイルは交渉の道具にもならないかとごちるも里緒はそれを見た瞬間、目を見開き興奮し始めている。
今にも飛び出そうとするように。
そのものとは……
「ブラッドチップ!」
「何だ、知ってるのかい?……というか常用者なのかな」
「よこせっ! 今すぐにっ!」
ブラッドチップ。
里緒が捜し求めているもの。
使用者起源に至らしめの里緒自身の血液で作り出したものだった。
とはいえステイルはただの麻薬にしか感じていない。
里緒が目的を達するには必要なものだとしらずに。
「んー……駄目だね」
「貴様っ!」
「そうだね……君が協力して……ノルマを達成するのならば……少しずつ渡すけど?」
「……っ」
「どうする……猛獣?」
ステイルはあくまで麻薬としてしか思っていない。
だから里緒が単なる常用者としか考えて居なかった。
それ故に里緒の必死さの意味を中毒者故としか思っていない。
里緒の目的もその麻薬の意味も知らずに。
里緒はそこで改めて思案する。
手を組むべきかと。
殺して奪うというより今むしろ自身の命が危機に迫っている。
それに加えブラッドチップをノルマ達成によってやろうと言っているのだ。
里緒の腹の内は直ぐに決まった。
「いいさ……乗ってやる」
承諾すると。
しかしそれだけではない。
ステイルは簡単に里緒を制すると思っているようだがそれは違う。
「ただし……条件がある」
そう。
里緒は誰にも制御できるはずの無い……猛獣なのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(やれやれ……手駒ついたけど……ちょっと面倒かな)
あれから暫く時間がたち壁に張り付いているルーンをステイルは一枚づつ丁寧に剥いでいた。
その後ろではせわしなくコピー機がルーンを生産している。
結果的には交渉は成立した。
いくつか里緒が提示した条件を飲んで。
(篭城を解く……ね。本来は拠点戦が得意なのだけど……まぁいいか)
まずはステイルの篭城を解く事。
里緒曰く探し人が居るらしい。
それを探す為に篭城は出来ないと。
余りいい選択とは見えないがこれはならばまだ飲める。
移動しての戦闘は得意では無いがまだできるのだ。
それにあれから挑戦者も来ずここで待っていても仕方ないだろう。
だからそれを飲んだ。
(次は……ふん……上条当麻。所詮……僕は……こんなものだ)
次の要求は……人を殺すかもしれないと。
それは殺し合いに乗ったものでは無く脱出を志してるものも含めて。
それが自身の欲求心だと。それが抑えられないだと。
……正直ステイルは流石に難色を示した。
脱出派を削るのはステイルにとっても痛手だ。
元々里緒は殺し合いに乗っているのだから当然の選択ではあるのだが。
(……それでも……それを許してしまうのは……仕方ないのかな?……いいさ……今更だ。僕は彼女の為になら手を汚すさ)
しかし……それを飲んだ。
脱出に全く手がかりが無くただ何となく殺し合いに乗らない。
そうながらされ気味の奴なら殺していいと。
つまり役には立たないものを排除すると。
ステイル自身もそれをすると想って。
そう限定的に里緒の条件を飲んだのだ。
(上条当麻……君は激怒するだろうか?……でも仕方ない……仕方ないのさ。君のように僕は生きれないのだから)
頭に浮かぶのはあの少年。
彼は怒るだろう。
それでもいいと思った。
今更彼のようには生きれない。
だから……覚悟を再び決めたのだ。
彼女の為に殺せるのだから。
しかしそこまでして里緒を手駒に加えたかった理由。
(まさか……魔術を打ち消す人間が上条当麻以外にも居るなんてね)
それは朧の事。
魔術を消せる人間が居る事だった。
それは朧だけかも知れない。
しかしながら「上条当麻」以外にも居たのだ。
それを見せ付けられた以上……魔術一辺では叶わないと思ってしまった。
とはいえ生身での接近戦はステイルにとって苦手中の苦手
それ故に接近戦も出来、肉弾戦ができる手駒が必要だった。
つまりはちょうど現れた白純里緒。
余りにも都合が良かったのだ。
殺し合いに乗ったものをコントロールできるし一石二鳥だった。
油断するわけにもいかないのだ、インデックスを守る為にも。
少しの危険をも排除しないといけない。
なぜならば
(彼女の為に全てを賭ける……)
インデックスを護るとずっと昔に決めていたから。
その為にも何だってする。
例えそれが殺しだって。
そう、ステイルは決めてあるのだから。
「おい、魔術師。そろそろいいか」
「ああ、これで準備はいいよ……じゃあ行こうか。猛獣」
「ふん」
だからこそ猛獣を見て思う。
(その為なら猛獣だって何でも操って見せるさ)
それこそ……ステイル=マグナスの生き方なのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(ふん……余裕振っているけど……そう簡単に使われると思うなよ)
飄々と嗤っているステイルを見て里緒はそう思った。
とりあえず条件は飲んだがいつでも裏切る事はできるのだから。
ステイルの技の種も知ったのだ。
ブラッドチップを殺して奪っても可能なのだから。
しかし里緒にとってもステイルは都合がいい。
これだけ強いのだから多少は組んでいる価値はある。
勝ち残る為にも。
それにもしかしたら……と考えるのだ。
(こいつも……もしかしたら同類になりゆるかもしれないしな)
ステイルが里緒の『同類』になるかもしれない可能性。
あのステイルの感じ、雰囲気。
そして望み……それを考えた上で考えた可能性。
そうなる可能性があるのならば一時は組んでいていいだろうと。
そう思い、里緒は嗤う。
(さて……素直に従ってやる気はないけどね)
猛獣のように。
そう、里緒は
猛獣使いをも圧倒する……飛び切りの『獅子』なのだから。
【D-4/一日目・早朝】
【チーム:猛獣使いと猛獣】
【ステイル=マグヌス @とある魔術の禁書目録】
[状態] 健康
[装備] ルーンを刻んだ紙を多数(以前より増えている)、筆記具少々、煙草
[道具] デイパック、支給品一式、ブラッドチップ@空の境界 、拡声器
[思考・状況]
1:里緒を利用。
2:里緒と共にインデックス探索
3:足手まといは殺す……?
4:上条当麻へ鬱屈した想い……?
5:万が一インデックスの名前が呼ばれたら優勝狙いに切り替える。
【白純里緒@空の境界】
[状態]:健康
[装備]:アンチロックドブレード@戯言シリーズ
[道具]:デイパック、基本支給品(未確認支給品0〜1所持。名簿は破棄)
[思考・状況]
1:両儀式を探す
2:黒桐を特別な存在にする
3:ステイルに協力。何れの方法にしろステイルからブラッドチップを手に入れる
4:ステイルに同属への可能性……?
5:それ以外は殺したくなったら殺し、多少残して食べる
[備考]
※殺人考察(後)時点、左腕を失う前からの参戦
※名簿の内容は両儀式と黒桐幹也の名前以外見ていません
※全身に返り血が付着しています
アンチロックドブレード@戯言シリーズ
150万円するらしい鋸状のナイフ。
零崎人識が使用し後にいーちゃんに渡った
投下終了しました。
此度は送れて申し訳ありません。
支援感謝します。
投下乙。
おお、見事に三竦みのジャンケンの関係。
ステイルは朧に勝てず、朧は理緒に勝てず、理緒はステイルに勝てない、と。激しく納得感。
そしてまた危険なコンビがw 猛獣に火の輪潜りでもさせる気か、ステイルw
朧も仲間探し、ってなんか本末転倒に拍車がかかってるしw さあどうなる?
投下GJ! 遂にここが動いたか……!
結果として三者三様に考えを改め、次へと一歩踏み出すか。
舞台の中心部が動いたことで、これから激しさを増す可能性もあるのが楽しみ!
一つ気になったのは、朧の最終的な時間帯について。
彼女だけ「黎明」になっているけれど……仕様?
はい、意図的ですね。
戦闘自体は黎明。それで逃げ出した朧はそのまま黎明。
ステイル達は交渉、それでステイルのルーン回収などなどで早朝という感じです
>>132 そういうカラクリなら納得ですな。素早い回答感謝。
ところどころに誤字があったのだけが気になった
投下乙!
また一つ怖いチームが出来たなぁ…
ただステイルは籠城戦ならチートだが移動しながらとなると力が落ちるんだよな
そこはかとなく死の臭いがして不安
しかしマーダーコンビ多いな
どれか一組でも完成してしまったら止められる奴いなさそうだ
確かに
全体的に危険な雰囲気だw
逆にこれは、マーダー同士の戦いもそれなりに見れるかもしれない
中途半端な消耗戦ではなく
実際マーダ―ペアと真正面からやりあえそうな対主催って
ヴィルヘルミナ・インデックス組
零崎・御坂組
シャナチーム
あと単独で両儀式ぐらいか?
……うん、少ないなぁw
ん〜、マーダー側も果たして真正面からやるの? って首捻る組が多いから、なんか予測しづらい気がする。
もちろん対主催側も。
特に対主催側は、むしろこいつ単独の方が(戦闘だけ考えたら)いいんじゃね? って組もかなりあるし。
なんか戦力の強弱と被害とが直接結びつくイメージにならないんだよな
刀式なら刀式ならなんとかしてくれる……!
単純な戦力差じゃ決まらなそうなイメージ
私の名前はシャミセン。猫だ。
世にも珍しい、オスの三毛猫をやっている。
ティーが、私の今のご主人様だ。白い髪に緑色の瞳が印象的な少女で、歳は前のご主人様と大差ないだろうか。
そのティーだが、私を抱えたまま小さな台の上に立ち、両目にレンズ付きの筒などをあてがっている。
筒が伸びる先は窓ガラス、そしてその先に広がる光景は、夜景だった。
ここは摩天楼の上階、展望室。ティーの保護者である彼女、白井黒子が周囲を見渡すために訪れた部屋だ。
その白井黒子だが、ティーとは別の場所で望遠鏡を覗き、同じように街や、海の方角を眺めている。
表情はどこか険しく、覗き込む望遠鏡をしきりに変えてはなにか唸っていた。
「――これは夜だから、それだけのことなのでしょうか……いいえ、あれはおそらく夜が明けたとしても――」
見ていて忙しない。
私は、人語を介する猫として助言の一つでもくれてやろうかと思ったが、この身はあいにくティーに捕縛されてしまっている。
猫は犬と違って愛玩動物ではないのだが、幼い少女にそれを説いても無為というものだろう。
白井黒子はひとしきり悩んだところで、ティーにここを発つと告げた。
摩天楼を離れ、別の土地に移動するつもりらしい。
私はどうすればいい、と尋ねると白井黒子は、
「あら、いつの間に出てこられましたの?」
と言って私を再び、ティーの持つ黒い鞄にしまいこんだ。
強引ではあるが、私の抱き方が乱暴でなかっただけ大目に見るとしよう。
さて。
この少女たちはこれからどこに向かい、誰と出会うのだろうか。
それは、鞄の中で丸くなっている私には知る由もないことだった。
◇ ◇ ◇
摩天楼の展望室で、この『世界』の景色を堪能した。
闇に包まれた市街地は灯りに乏しく、まるで全域が停電に見舞われたのような有り様だった。
海の向こうには灯台の灯りも窺えない、見渡す限り漆黒の水平線が伸びていた。
北西の山々は闇夜の中でもその深さが窺え、学園都市出身の彼女の目には新鮮な光景として映った。
リボンで二本に結った髪を、馬の尻尾のように翻しながら進む、小柄な姿。
女物の学生服を着ており、右の袖には盾のようなマークを刺繍した腕章がある。
デザイン性に乏しい黒一色のデイパックを肩に提げ、纏う空気はどこか重々しい。
少女、白井黒子は高く聳える双頭の楼閣――摩天楼を背に、考え事をしていた。
考え事の種は、謎……にはなりきれない、小さな違和感。
街の造りを確かめるために上った展望室で、海のほうを眺めやったときに得たものである。
白井黒子はそこで、『黒』を見た。
(……夜空が黒いのはあたりまえ。月や星が出ていようとも、黒という色彩が変わることはありませんわ)
あれはなんだったのだろうか、と考えたところで答えは出ない。
答えは出ないと既に悟っているのに、考え続けている。
そう簡単に忘却できる違和感ではなかったから。
白井黒子が見た『黒』は、常識的に考えて『夜』の『黒』だったに違いない。
海も街も、空も山も、『夜』が訪れればそれらは等しく『黒』に染まる。
月や星、街灯といった光源があったとしても、排除しきれない強烈な『黒』だ。
『夜』の『黒』は視界を不明瞭なものにし、映る光景に虚偽の情報を齎す。
きっと、海の向こうに見えたあの『黒』も、そういった錯覚の類だったのだろう。
そう、白井黒子は納得せざるを得ない。
今は、まだ。
(跳んで確かめに行く、というわけにもいきませんし。どのみち、朝になれば解ける謎でもありますの)
白井黒子が海の向こうに聳える『黒』を見て、抱いた違和感は三つある。
一つは圧迫感。レンズ越しに覗いているだけで、向こう側からこちらに押し寄せてくるような畏怖を感じた。
一つは奥行き。水平線などという珍しいものが見られたのはいいとして、どうにも近すぎるような気がした。
一つは空模様。雲はなく星々もくっきりと浮かび上がる空は、しかし海の方角を見ると黒一色になっていた。
空模様など、そこだけ雲がかかっていたのかもしれないし、望遠鏡で遠視しきれなかっただけなかもしれない。
奥行きなど、そもそも夜の闇と漆黒の海面で元から曖昧な境界線だ。悩むだけ馬鹿馬鹿しい。
圧迫感など、単なる気のせいだ。とバッサリ切って捨てられる程度のものである。
が、それらの違和感をすべて肯定したとすれば、脳裏に一つの仮定が浮かぶ。
その仮定すらも肯定してしまったとするならば、白井黒子は今度は違和感ではなく、本当に『謎』を抱える始末となるだろう。
(明かりの途切れる空、近くに感じてならない水平線、そして聳え立つような圧迫感……これでは、まるで)
――海の向こうに、『黒い壁』でも立っているようではないか。
(ありえませんわね。ありえたところで、なにをどうすると言うのでしょう。そりゃ、驚きはするでしょうけれど)
天から地まで、配られた会場案内図の四辺を覆う役割を、『黒い壁』が担っているとしたら――という、仮定。
我ながら突拍子もない考えだとは思うが、人類最悪の称する『主催者』なる者たちが、
なんらかの手段を使って『参加者』たちを隔離幽閉している、またはそれを望んでいることは明白。
だというのに、この会場図は一見して抜け穴が多い。
西の山々を越えた先、南東の海を越えた先、そこがどうなっているのか、まるで明記されていない。
閉じ込める、逃さない、この企画がそういった趣旨であるのならば、本来舞台となるのは絶海の孤島などが望ましいはずだ。
山や海を越えればどこに辿り着くのか、灯台や飛行場といった施設もあるのだし、ひょっとしたら――と考える輩を排除するために。
いや、もしくはそういった考えの輩を排除するための手段こそが、『黒い壁』なのかもしれない。
見渡す限り海一面、などというよりは、四方を壁で囲まれていたほうが絶望感もひとしおだろう。
本当にそんなことが可能なのか、という疑問を棚に置いた馬鹿馬鹿しい仮説ではある。
その馬鹿馬鹿しさも、夜が明け、景色に光が宿れば、薄れて危機感に変わるかもしれないが。
どちらにせよ、朝になってもう一度空を眺めてみればわかることである。
(一つの謎にばかりこだわってはいられませんし、思考を切り替えるといたしましょうか)
白井黒子が次に考えるのは、摩天楼の正面入り口で聞いた、例の放送についてだ。
内容は挑発。放送の主はおそらく男性。位置は、声が反響していたために特定できない。
そう遠くはない位置、市街地のどこかからだろうとは思うが、探そうにも手がかりがない。
なので、考えないことにした。
予定どおり展望室で周囲の状況を確認し、暗くてよくわからないと結論を下し、摩天楼を発った。
そして辿り着いたのは、摩天楼からわずかに北、幹線道路が二つに分かれた、三角州上の道である。
白井黒子は道路上、前後に首を振り、どちらの道を行こうか思案する。
ルール説明を親身に聞いていた人間ならば、消滅するのが早い端っこのほうになどまず向かわないだろう。
とくれば、人が集まるのは必然的に中心部。ここは左に折れ、天守閣のほうを目指すべきだろうか。
(人との接触の可能性が高い。つまり、それだけ危険度も高いということですけれど……あら?)
それまで、考察のすべてを頭の中で済ませてきた白井黒子は、ふと気づく。
自分の服のすそを、誰かが掴み引っ張っていた。
気づけ、という意思表示のようにも見られるその仕草の主は、小柄な白井黒子よりもさらに小柄な少女、ティーによるものだった。
特徴的なのは、白い髪と緑色の瞳。口は閉ざされており、彼女はなにを語ろうともしない。
けれど人見知りというわけではなく、白井黒子についてくるこのティーは、言うなれば超無口。
意思疎通を図るのに難儀しながらも、白井黒子はティーが見捨てられず、保護者などを引き受けていた。
「どうしましたの? ひょっとして、どこか行きたい場所でも――」
言いかけて、白井黒子は舌打ちした。
考察に耽っていたせいだ。その異臭に気づくのが、遅れた。
ティーは白井黒子よりも早くそれに気づき、こうやって知らせたのだ。
足下を見る。
見たところで判然としない。
暗がりのアスファルトはしかし、たしかに湿っている。
この湿り気の正体が水ではなく、灯油であるということには臭いで気づけた。
(なんて古典的なっ、ブービートラップ――!)
気づいたときには、もう遅い。
白井黒子とティーが立つ道路に、火線が走る。
種火はすぐに燃え盛り、一瞬で業火へと成長した。
◇ ◇ ◇
薄暗い夜道で、こうこうと炎が燃えている。
燃えているのは、近くの雑居ビルから拝借した灯油だ。
誰の所有物であったのかなどは知らない。
重要なのは、それが燃焼を手助けする物質であるか否かだけだ。
赤いポリタンクに入っている液体が、まさか墨汁などであるはずがない。
臭いだけを確かめ、それを幅の広い道路上にぶちまけた。灯油タンクの個数は一個や二個ではない。
周囲一帯は暗闇のため、近づく者もすぐには気づけないだろう。気づかれない内に、焼る――それが、彼女の算段。
三角州近辺の幹線道路上で、ただ燃やすことだけに長けた魔術師見習い、黒桐鮮花は待ち伏せをしていた。
凛とした顔立ちには喜怒哀楽の色もなく、黙して炎を見つめる。
長く艶やかな黒髪が熱気によってぱさつくも、本人はそれを気にも留めない。
件の放送――いや挑戦状を聞いた黒桐鮮花は、あえてそれには乗らず、放送を耳にしたこの場に留まることを選択した。
彼女の目的は、最愛の兄である黒桐幹也を生かすこと。自信満々の大馬鹿者と正面切って喧嘩することではないのだ。
挑戦に乗るよりも、その挑戦を利用してやろう――鮮花が考え至った末に掴んだ『作戦』が、この待ち伏せなのである。
おそらくは拡声器によるものだろう放送の発信源は、ここより西。
となれば、進路の都合上この道路を通らざるを得ない者も出てくるだろう。
挑戦に挑もうとする者、あるいは挑戦から逃げ帰ってきた者を闇討ちするには、もってこいの狩場。
三角州を望むオフィス街の一角こそが、黒桐鮮花の持ち場だと考えたのだ。
そして、獲物はのこのことここにやってきた。
彼女らが放送の主に会いに行こうとしていたのかどうかは定かではないが、そんなものは既に些事だ。
問題なのは、罠にかかった獲物を狩るか狩らざるか――鮮花はすぐに、狩るべきだと判断した。
だって、やって来た獲物は二人揃って『小さな女の子』だったのだ。
幹也が見れば、すかさず保護に回るだろう最悪の足手まとい。
可愛そうではあるが、幹也と出会う前に消えてもらわなければ。
黒桐鮮花の行動理念は、すべて兄である黒桐幹也を中心にして形成される。
兄の生存に必要な存在であるか否か、己の手の内に余る存在か否か、判断は一瞬かつ容易だった。
焼る。焼き消す。焼いて殺す。
バイオレンス極まりない思考は全部、幹也への愛情が肥大化した結果なのだと自己完結して、実際に焼った。
路上に満ちる灯油の端に、己が発火の魔術で軽く火をつけ、生まれた炎で少女二人を包み込んだ。
相手が逃げ切れるとは思えない。たとえ逃れたとしても、すぐに追って今度は至近距離から発火させるだけだった。
結果として、少女たちは逃げなかった。逃げる間もなく、炎に焼かれ、燃えて、死に絶えたのだ。
「……本当はもっと、楽に済ませてあげたかったんだけど」
慈悲深いことを言う鮮花。これは本心からの言葉だった。
鮮花の師である蒼崎橙子曰く、魔術とは常識で可能なことを非常識で可能にしているだけにすぎない。
鮮花は灯油を燃やすために、発火の魔術を火蜥蜴の皮手袋で暴発させ発動させたが、これは魔術でなくてもできることだ。
たとえばこの場合、鮮花がやったことは火をつけるというただ一点だけなのだから、百円ライターでも同じ芸当ができる。
もちろん火力に違いはあるだろうが、鮮花がやったのはあくまでも着火であって、目の前の業火を作り出せたのは灯油の恩恵あってこそ。
魔術師は、魔法使いとは違う。
同様に、魔術は魔法とは違う。
どこからともなく炎のドラゴンを呼び出すことも、
手の平に火の弾を作り出しそれを敵に向かって放つことも、
地割れを起こし地中からマグマによる火柱を上げるようなことも、
手袋を嵌めた指先を擦って遠い距離にいる標的を燃やしたりすることも、
魔術師であり、今はしがない魔術遣いでしかない鮮花には、到底無理な芸当なのだった。
そんな鮮花が、魔術を使ってどうやって人を殺せるというのか。
正直、得意の肉弾戦で捻じ伏せていったほうが早いような気もする。
が、知恵を絞ればこうやって、発火の魔術も脅威へと昇華させられる。
鮮花の武器は、百円ライターの皮を被った火炎放射器といったところか。
とはいえ、やはり鮮花の力では相手を苦しめずに焼き殺すというのも難しい。
そう捉え始めていた頃、
「……?」
鮮花はようやく、その異変に気づいた。
目の前の炎の中に、あって当然と言えるものがない。
焼くことはできても、焼失は無理だろうと自覚する鮮花は、愕然とした。
炎の中をくまなく探しても、焼け焦げているはずの二つの焼死体が、見つからない。
(まさか)
と鮮花が口に出すよりも先に、
「――『発火能力者(パイロキネシスト)』の方ですの?」
上品な声は背中から、突起物の感触とともに訪れた。
おそるおそる、鮮花が顔だけで後ろを向く。
槍のようなものを構えた少女が一人、立っていた。
「可燃性物質などに頼るところから見て、せいぜいが『異能力(レベル2)』あたりのようですわね。
能力者の方ならば、わたくしが『風紀委員(ジャッジメント)』であるということもおわかりになられますでしょう?」
子供っぽいリボンで髪を二つに結った少女は、右袖の腕章を見せつけながら意味のわからない単語を並べた。
場慣れしているのか、刃物を突きつける表情に淀みがない。そして体は、煤の一つもついていなかった。
なぜ――と思案する鮮花に、少女は告げる。
「とりあえず、大人しくしていただけますかしら。わたくし、あなたとも少しお話がしたいので。もし断るというのであれば……」
「……その槍で、わたしの背中を刺しますか?」
鮮花の緊迫した問いに、少女はあっけらかんと答える。
「いいえ。そんなことはいたしませんわ。ただ……」
ちらり、と少女が横目をやるその先に、もう一人、白髪の少女が立っていた。
その少女は肩に喇叭状の筒を掲げ、中腰でこちらを向いていた。
あれがなんなのかは、鮮花とて本能で悟らざるを得ない。
あれは重火器――RPG-7だ。
「わたくしの連れが、火力に訴えないとも限りませんの」
後ろの少女は明るく、鮮花にとっては不快極まりない声で警告した。
◇ ◇ ◇
火災現場から少し離れた場所に建つカフェで、白井黒子は放火魔少女の尋問を始めた。
テラスの席に少女を座らせ、丸テーブルを挟んだ向かいの席に自分も座る。隣にはティーもいた。
能力者が相手となっては拘束具などあっても意味を成さないので、少女自身にはなんの枷も嵌めていない。
先ほどは牽制に使った槍も、今は閉まっている。あのようなもの、そもそも白井黒子には不要であるとも言えるのだが。
「それでは黒桐鮮花さん。あなたがなんの目的でわたくしたちを襲ったのかは、絶対に言えない……いえ、言わないと」
白井黒子の質問に対し、放火魔少女――黒桐鮮花は仏頂面で首肯する。
鮮花が語ったのは己の名前だけで、それ以外の質問については一切黙秘。
襲撃の動機、最終的な目的、他者との面識など、どれだけ尋ねても無視を一貫する。
誰が教えてやるもんか、と言わんばかりの豪気さには、敬服すらしてしまう。
「ま、大方ご自身の能力を過信して、趣旨どおりトップに君臨してやろうなどと思った……わけではありませんわね。
あなたは見たところ冷静なようですし、やり口も巧妙。ゲーム感覚、などとは微塵も思っていないのでしょう。
そういった方の目的が、保身などという安易なものであるとは考えられない。
……そういえば、黒桐さんという方はもう一人いらしゃいましたわね。こちらはミキヤ、と読むのかしら?」
名簿を確認しながら、白井黒子は一人熱弁を垂れていく。
そして黒桐幹也の名を告げた瞬間、黒桐鮮花の眉根が釣り上がるのを見逃さなかった。
(……ま、そんなことだろうと思いましたけれど)
初めて名簿を見て、御坂美琴の名前を発見したとき。
初対面のティーに対して質問を呈したとき。
双方を思い返して、ため息をつく。
「わたくしの能力についてお話しておきましょうか」
白井黒子は唐突に話題を切り替え、手元にプラスチック製のフォークを用意した。
カフェから適当に拝借した、使い捨て上等の品物である。
人肌に突き刺したところで、武器にもなりはしない――白井黒子以外の人間にとっては。
「わたくし、『大能力(レベル4)』の『空間移動能力者(テレポーター)』ですの」
言った瞬間、白井黒子が右手に持っていたフォークが消え、左手に移動していた。
一瞬の出来事に、鮮花の反応は薄い。この手の能力を見るのは初めてなのだろうか。
期待していた反応が得られなかったので、白井黒子はさらに能力を行使する。
左手に持っていたフォークをパッと消し、今度は鮮花の目の前に置く。
それをまた右手で掴むと、瞬時に左手の中に消して移した。
「おわかりいただけましたかしら。炎から逃れたトリックもこれですわ」
ふっと消え、現れる。
線での移動を、点での移動に切り替える。
これこそ、白井黒子が得意とする『空間移動(テレポート)』だ。
信じられない、といった様子で固まる鮮花を尻目に、白井黒子は続ける。
「あなたに武器も向けていない理由もこれですのよ? たとえば、なんの変哲もないこのフォーク。
これを瞬時に、あなたの体の中に移すことができると言ったら――それだけで警告は済みますもの。
そしてわたくしは今、改めてあなたに命令しますの。――あなたの目的をお吐きなさい」
キッと鮮花を睨み据える白井黒子。
両者は干渉し合っていないはずなのに、彼女だけは相手を容易に害することができる。
それは愕然とした表情の鮮花にも伝わっているのだろう。ごくり、と生唾を飲み込む音とて聞こえた。
……おそらくこの少女は、自分ではない誰かのために戦いを選択したのだ。
可能性としては、同じ姓を持つ黒桐幹也のためか、それとも別の人間のためか。
白井黒子が御坂美琴に抱いた、『生かしたい』という想いを、鮮花は行動に移したのだろう。
他者を殺してでも、自分の命を投げ出してでも、生きてほしい人が――彼女には、確かにいる。
「……逆に尋ねますが」
しばらくして、鮮花は口を開いた。
毅然とした声が、白井黒子に質問を寄越す。
「生き残りは一人と決められたこのゲームで……白井さんはいったいなにをお望みなんですか?」
質問は質問で返ってきた。
白井黒子は鮮花の物怖じしない様に多少イラッとしつつも、すぐに答える。
「少なくとも、誰かを犠牲になどとは考えておりません。期限ギリギリまで、別の可能性を模索し――」
「あ、そっか。やっぱり、そうなんだ」
言い終わるよりも先に、鮮花が口を挟んだ。
吐き出す言葉に、不適な笑みを添えて。
「別の可能性だなんて、ちゃんちゃらおかしいです。そんなのは、問題の先送りでしかない。
だって、わたしたちはもう既に『負け』ているんですもの。
勝敗が決しているのに駄々をこねるなんて、子供か馬鹿のすることよ。
ううん。あなたはたぶん、ただ単純に『覚悟』がなってないだけ。ねぇ?」
言って、鮮花はその場から立ち上がった。
白井黒子はこの瞬間、宣言どおり鮮花の体内にフォークを転移させることが可能だった。
なのに、それをしなかった。初めから、できるはずもなかった。
「先輩として教えてあげる。覚悟のない脅しに屈するほど、わたしは弱くない――っ!」
言い放ち、鮮花はテーブルに向かって拳を突き落とした。
火蜥蜴の皮手袋が嵌められた、右の拳を。
「AzoLto――――!」
拳がテーブルに着弾すると同時、鮮花は呪文を詠唱した。
大気が燃え上がる。木製のテーブルを巻き込み、周りにいた少女たちの驚きを孕みながら。
眼前の火の手から逃れるため、白井黒子は隣のティーを抱きかかえると、その場から消えた。
カフェテラスから少しばかり離れたところに現れ、着地する。
この瞬間、白井黒子は鮮花への攻撃ではなく、危機からの退避を優先したのだ。
相対すべき『敵』の選択を確認してから、鮮花は彼女たちとは逆方向に走った。
「逃しませんわ!」
白井黒子は叫び、鮮花の行く手を遮るため彼女の目の前に転移する。
鮮花は怯まなかった。むしろ予想していたのか。動作は驚くほど流麗だった。
「なっ――」
鮮花は、逃走の邪魔者を排除せんと、軽やかに身を翻した。
白井黒子が相手を拘束するために腕を取るよりも速く、しなやかな脚は頭上まで上がる。
――頭の上から、黒桐鮮花必殺のネリチャギ(かかと落とし)が降ってきた。
思わぬ攻撃に、白井黒子は両腕を交差させこれを防ぐ。
鈍い音が響き、ガードは一撃で解かれた。
それどころか衝撃も殺しきれず、白井黒子はその場で尻餅をついてしまう。
絶好の好機が生まれ、しかし鮮花は逃走を再開した。
「くっ……!」
すぐさま身を起こし、鮮花の後ろ姿を目で捉える白井黒子。
脱兎のごとき全力疾走は、見る見るうちに遠ざかる。
それでも、まだテレポートの効果範囲内だった。
「……っ」
跳べば、一瞬で追いつける。
なのに、白井黒子はそれ以上鮮花を追わなかった。
追ったところでまたネリチャギが飛んでくると思ったわけではない。
――覚悟のない脅しに屈するほど、わたしは弱くない。
白井黒子を止めていたのは、鮮花が言い放ったあの言葉だった。
覚悟のない脅し――そんな馬鹿な、と白井黒子は首を振る。
これまでも、『風紀委員(ジャッジメント)』として多くの能力者たちを拘束してきた彼女だ。
それが今さら、他者を害することに覚悟がないなど、
「……屈辱、ですわね」
いや、嘘だ。
この場において、拘束などという生ぬるい判断をしてしまったのがそもそものミス。
黒桐鮮花はつまり、こう言いたかったのだろう。
――殺す覚悟もない偽善者に、わたしの想いは止められない。
黒桐鮮花は、ありとあらゆる意味で本気だったのだ。
学園都市の不良などとは、比べるのも失礼なほどに『覚悟』が違う。
そしてその覚悟のほどは、問題の先延ばしをしている白井黒子と比したとしても、上をいくのだろう。
「……ッ!」
追えない。
追えるはずがなかった。
少なくとも、今は。
白井黒子に、黒桐鮮花の暴走は止められない。
◇ ◇ ◇
白井黒子が地面に向かって拳を叩きつけるのを、ティーは確かに見た。
「…………」
燃え盛るカフェテーブルと、鮮花が逃げていった方向、そして白井黒子を順に見回していく。
言葉はない。感慨はある。ただ、表には出さない。
内に秘めた感慨は、白井黒子には決して伝わらないだろう。
伝えるべきでも、ないのかもしれない。
寡黙かそうでないかを考えるまでもなく、今の彼女にかけるべき言葉など存在しないのだ。
少なくとも、ティーはそのように考える。考えているように、見える。
とてとてと、悔しそうな白井黒子の背中に歩み寄りながら。
ティーは、やはりあの場で発射しておくべきだったと後悔した。
【D-5/三角州近辺・カフェ前/一日目・黎明】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
0:屈辱と敗北感。己を見つめなおす……?
1:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
2:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
3:夜が明けてから、もう一度『黒い壁』が本当に存在するのかどうかを見てみる。
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。
※黒桐鮮花を『異能力(レベル2)』の『発火能力者(パイロキネシスト)』だと誤解しています。
【ティー@キノの旅】
[状態]:健康。
[装備]:RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×2、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:???
1.RPG−7を使ってみたい。
2.手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
3.シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。
◇ ◇ ◇
三角州上の分岐路を左に折れ、黒桐鮮花は川を渡った。
息を切らすほどの全力疾走で逃げ回り、追ってくる気配がないと判断したところで止まる。
十字路の辺りまで来ていた。両膝に手をつき、懸命に息を整えようとしながら、鮮花は思う。
「……覚悟がなってないのは、わたしも同じ」
逆襲ではなく、敗走を選び取ってしまった自分を鑑みて、悔しそうに呟く。
あの瞬間、白井黒子の不意は確かにつけたはずなのに。鮮花は、逃げに回ってしまった。
勝ち目が薄そうだったから、相手が二人だったから、そういった負け惜しみを言うつもりもない。
(ここには、式や藤乃もいる……なのにわたしは、幹也を生かそうとしているんだ。
いざ会ってから考える、なんていうのは完璧なまでに『逃げ』だもの。
なってない。わたしは、彼女のことを言えないくらい……なってない)
こちらの命令に背いたら殺す。
そういった脅迫のシーンはドラマなどでもよく見かけられるが、意外と実行に移せないものだ。
白井は見るからにその典型だった。
脅しはすれど、本気ではない。人を殺す覚悟など、そう簡単にできるものではないのだから。
では自分は、と鮮花は考える。
黒桐幹也を生かすためならば、それ以外の人間が死のうが構わないし、自らが殺して回ることも苦ではない。
それは白井の警告と同様、決意の話であって、実際にやり遂げられるかは――
(いいえ)
――出かかっていた答えを、鮮花は寸前で飲み込んだ。
やれるかやれないか、ではない。
やるんだ。
だが。
(式も、藤乃も……わたしが……っ)
黒桐鮮花は、自身が禁忌に惹かれる質であることを自覚している。
だからこそ、戸籍上は兄に分類される黒桐幹也を、心の底から愛せるのだ。
ただ、だからといって友人や他人を殺せるかと自問すれば、答えは出ない。
近親への恋情と殺人を同列に扱うこと自体が間違っているのか、鮮花は懊悩を繰り返す。
(……あったまくるなぁ)
魔術を始めたのも、そもそもが幹也に並び立とうとしたのがきっかけだった。
両儀式などという反則紛いの女に、対抗心を燃やしていたのもある。
決して殺しの道具にしたかったわけでは、ない。
(火蜥蜴の皮手袋が私に配られてたのは、籤運が良かったわけじゃない……これはたぶん、皮肉。
この程度の力じゃわたしは式にも勝てないし、藤乃を見捨てるような覚悟もない。
あるのはただ、幹也に死んでほしくない、っていうちっぽけな想いだけなんだ)
そこで、黒桐鮮花は一度認めてしまう。
このやり方では、ダメ。
いずれは最悪の形で破綻する。
その未来が見えたから、鮮花は思い切り悔しがるのだ。
固く握られた右拳は、手袋をしていなかったら血が出ていたと思う。
「……っ」
気分は最悪だった。今は誰の顔も見たくない。
そんなときに限って、出会いはやって来る。
「――あー、ラブコメしたいぜい」
見晴らしもいい交差点で、その男は平日に街をぶらつくチンピラの装いで歩いていた。
派手な金髪にサングラスとアロハシャツの姿は、鮮花に最悪の第一印象を与える。
「どこかに素敵な出会いでも転がっていないかにゃー。突然『あたしお兄ちゃんの妹なんですー』とか告白されても大歓迎ぜよ」
男性の友人などろくにいない鮮花である。こういう手合いが得意であるはずもない。
金髪アロハは戯言を吐きながら、なおも鮮花に近づいてい来る。どういうわけか、こちらに気づかぬ振りをしながら。
「妹のみならず、先輩後輩先生クラスメイトに委員長幼馴染寮の管理人その他諸々手広く大歓迎だぜい。
空から女の子が振ってきて家のベランダに引っかかってるっていうのも――おっと、噂をすれば可愛い子発見ぜよ」
「……おちょくってるんですか?」
鮮花も鮮花で、身を隠したり即座に撃退しようとしたりはしなかった。
金髪アロハの目的が不明瞭だったこともあるし、なにより今は気疲れ中だ。
適当にやりすごそう。しつこいようなら金的の一つでもくれてやろう。腹癒せくらいにはなる。
そう思って、
「つれないにゃー。さりげなーく声をかけるのは、ガールズ・ハントの基本ぜよ」
「――そそ。相手がお嬢様っぽい子だったらなおのこと、出会い方にゃ気を配らないとな」
眉根を吊り上げる鮮花は、ハッとした。
男の声が二人分、重なる。
一つは、眼前の金髪アロハから。
そしてもう一つ、後ろからも声が。
「カワイコちゃん相手に、本当の意味でのハンティング……なんて真似はしたくねーんだわ」
鮮花の後ろで銃を構えるその男も、軽薄な印象満点の金髪姿だった。
いや、この際髪の色などどうでもいい。
問題なのは、彼の構える銃口が、鮮花のほうに向いているという点だ。
(――やられた)
少しばかり目立つ場所で気落ちしていたとはいえ、鮮花はものの見事に挟まれてしまったのである。
この、常に気を張り続けなければいけない状況下で。
それも、幹也以外の男性二人に。
「んー? なんか空気がぴりぴりしてるぜい。クルツ、やっぱそりゃ女の子に向けるもんじゃねーぜよ」
「おっと、下手に威嚇しちまったか。まあそうびくびくしなさんな。お兄さんたちはいたって親切な――」
どうして、気が立っているときに限って。
こうも、神経を逆なでするような出来事が。
「――――っ」
刹那、鮮花の中でなにかが弾けた。
体温計が高熱によってパリンと割れる、そんなイメージだ。
沸点を越えた怒りは熱を膨張させ、煮え湯を炎へと昇華させる。
皮手袋に覆われた右手が、大気に触れている。
口はぶつぶつと呪文を唱え続け、前後の二人は止めもしない。
それだけで、燃焼を起こすには十分だった。
鮮花の魔術は、発動だけならば容易なのだから。
燃やす対象は、空気中の酸素だ。
「おわっ!?」
どちらからでもなく、驚いた男の声が上がった。
鮮花の右手から、唐突に炎が迸ったからである。
それはどちらを焼くこともなくすぐに消えたが、二人としても見逃せるようなものではない。
これは、テレポートなどという『魔法』のような力を振り翳していた白井黒子のものとは違う。
あなたたちのようないけ好かない男を丸焼きにするくらいの覚悟なら、とうにできている――という、鮮花なりの警告だ。
「なんのつもりか知らないけれど、わたし今ムシャクシャしてるの。
これ以上話しかけてくるって言うんなら、馴れ馴れしいほうから黒こげにするから――!」
憂さを晴らすかのごとく叫ぶ。
前の金髪アロハ、クルツと呼ばれた後ろの金髪も、揃って唖然としていた。
種も仕掛けもある鮮花の魔術は、一般人から見れば手品としか映らないだろうか。
そうやって嘲笑うなら好都合だ。相手が軟派な男共なら、容赦なく焼れるような気がするから。
「能力者……いや、どちらかというと魔術師のほうが近い、か?」
早速、金髪アロハがなにか呟いた。反射的に、鮮花が右手を伸ばす。
しかし金髪アロハから軽薄な雰囲気は消えていて、さらに発した言葉の中の『魔術師』という単語が、鮮花を抑制した。
この男は、魔術を知っているのだろうか――?
「つーとなんだ。土御門のご同輩かなんかか? ま、俺としちゃそれでも全然構わねーけど」
「むしろ好都合だにゃー。あー、お嬢さん? 俺の名前は土御門元春。たぶん、おたくと同じそっち側の人間ぜよ」
「あ、俺はクルツね」
あたりまえだが、聞かない名前だった。
ただ、この土御門なる男が言う『そっち側』とは、間違いなく『魔術師の側』を指している。
だからといって警戒の対象から外れるはずもないが――鮮花の興味は今、確かにそそられてしまっていた。
「立ち話もなんだ。どこか入ってゆっくりと、ってのが俺としては望ましいんだけどな。どうだい?」
鮮花の魔術に一旦は驚いた素振りを見せたクルツも、すぐに飄々とした態度を取り戻す。
「あ、ちなみにこれ、本物じゃなくエアガンだから」
最初から殺意はなかった、と今さら説明して、クルツはエアガンをしまい込む。
この二人に害意があったとするならば、まず二人で組んでいること自体が不自然だ。
生き残るのは一人。それを重く受け止めている鮮花だからこそ、二人の目的は単純なものではないと踏んでいた。
「……まあ、いいですけど」
――方針を見直すべきかもしれない。
自分にあるのは愛情だけで、実力も覚悟はまだ足りていない。
それを実感した鮮花には、今一度未来を思案する時間が必要だった。
一人で延々と考え込むよりは、魔術を知る者と交流したほうがなにか見えてくるものがあるかもしれない。
……片方は、余計だが。
「オーケイ。では早速、君のお名前なんかを聞かせ――ぐぼぁ!?」
気安く肩に触れようとしたクルツに対し、鮮花は冷徹な表情で裏券を見舞った。
顔面直撃。仰向けに倒れる軟派男。相方らしい土御門も、ドッと笑う。
(なんて、不潔――――ッ!)
黒桐鮮花は、頭を抱えて慨嘆した。
【D-5/十字路/一日目・黎明】
【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:疲労(小)
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:黒桐幹也をなんとしても生かしたい。
1:具体的な方針を練り直す。判断材料として、土御門とクルツの誘いに乗る。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。
【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ
[装備]:エアガン(12/12)
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×20(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサ、当麻、インデックス、との合流を目指す。
1:鮮花とお話し、彼女を仲間に引き入れる。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:南回りでE-3へ。その後、E-4ホールに向かいステイルと合流する。
5:ガウルンに対して警戒。
【備考】
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。
【土御門元春 @とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品1〜3
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサ、当麻、インデックス、との合流を目指す。
1:鮮花の発火能力に興味。話を聞き、その素性を調べる。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。ただし御坂美琴に関しては単独行動していたら接触しない。
3:南回りでE-3へ。その後、E-4ホールに向かいステイルと合流する。
4:最悪最後の一人を目指すことも考慮しておく。
【備考】
※クルツから“フルメタル・パニック!”の世界観、相良宗介、千鳥かなめ、テレサ・テスタロッサに関する情報を得ました。
※主催陣は死者の復活、並行世界の移動、時間移動のいずれかの能力を持っていると予想しましたが、誰かに伝えるつもりはありません。
代理投下の代理投下、終了です
代理の代理&投下御疲れ様です。
鮮花がいいなぁ、すごくらしい。
鮮花が問うた覚悟は黒子にどう響くのだろうか……楽しみw
ティーは相変わらずだけどw
鮮花自身も再び揺れて……そこで軟派野郎共と遭遇かぁw
割とドライな考え方するキャラでもあるし……どう影響するかな。
両者とも続きが気になる引きでした。
GJです
投下、代理投下乙です。
異なる異能同士のバトルは、双方の戦力でなく覚悟を問う形になったかー。
確かにココで一番の容赦のなさを秘めていたのは、撃つべきだった、と思っているティーかもしれない。
そしてナンパ2人組と鮮花、これは組むことになる……のかな?
スタンス変更の可能性も込みで、先が楽しみです。GJ
投下&代理投下乙です
鮮花の言葉が黒子にどんな答えを出させるのか…
先がかなり気になる
ただ、それはおいといてティーが危険すぎるw
どんだけ撃ちたいんだよww
金髪コンビと鮮花は果たして組むのか組まないのか
こっちも楽しみだw
改めてGJでした!
投下、代理投下
どちらも乙でした!
うーん…改めて考えるとテレポートは強いなぁ
一番弱点なメンタルを揺るがされたけど、どうなるか
鮮花はナンパコンビと遭遇したがこちらもどうなるやら…
先が気になる展開だ
投下&代理GJ!
うーむ、荒れ模様と思いきや意外と静かに。
今回のこの対話によって二人は何を思うか、後々が楽しみですな。
ティーは対話もへったくれも無かったけどもw
土御門組との邂逅にしても、先がどうなるのやら……読めん、全く……!
いまさらだけど何やってるんですかヴィルヘルミナさんw
ところで型月作品は笛とらっきょしか知らないんだがテレポートって型月世界だと魔法?魔術?
魔法の真似事な魔術
確かFateでキャスターの空間転移がそう評されてなかったっけ
そもそもあの世界、個人レベルの視点から見える世界の把握範囲が狭いからなぁ。
「正式な設定」が仮にどっかにあったとしても、それを「知っている」「断言できる」奴はそうそういない気が。
呪文の詠唱すら不要、ロクに準備もしてない、という条件まで加わると、「魔術っぽくないな」って印象にはなりそうだが。
藤乃みたいに、魔術学んだわけでもないのに異能使う奴も存在するわけだし。
荒耶みたいに、徹底的に準備を整えれば、魔術の範囲でも相当な無茶は可能になってくる。
魔法持ち出せば「なんでもあり」になるけど、「魔術っぽくない=魔法」、とはならないんだよな。
橙子さんあたりならともかく、鮮花の知識の程度だと、なんとも断言はできないだろうなーと思う
あ、でも設定があるなら、「たまたま橙子さんから聞いていた」ことにも出来るわけか。
その辺は書き手さんの知識の幅と書き方次第だな
そういえばらっきょでも荒耶がテレポートっぽいことやってたね
おぉ、予約来てるー
まあ、型月も禁書も、空間転移は対象の次元を引き上げて移動するって理論は一緒なんだよな
アラヤンのは結界内限定で理論が違うけど
新人さんキター!
ほんとだ
wktkwktk!!
そしてまた予約ktkr
良い感じに進んでるなぁ
どの予約も楽しみで仕方ない!
御坂美琴、零崎人識を投下します。
私を助けてくれた少年は、零崎人識と名乗った。
いや、助けてくれたという表現はこの場合に当てはめるには少しばかり正確さを欠いた言い方かも知れない。
もちろん、結果だけ見れば私、御坂美琴があのガウルンなる中年男によって命を奪われるという最悪の事態は回
避された。こういうふうな言い方をするといかにも一つの問題に区切りが付いたように聞こえるけど、ガウルン
本人は無傷のまま逃げおおせているし、私は私で胸が(殴られたときの衝撃とは別の痛みで)息を吸うだけでやた
らと痛むしで、つまり事態は一段落どころか一文節のレベルでもちっとも区切れてなんかいない。
それどころか、現状を冷静かつ客観的に見ると文字通りの意味で私の骨折り損であり、開始された状況は進行す
るよりも先に沈降してしまっている。東京西部の3分の1を占める面積と、他地域よりも20年は先を行くと評
される科学技術をもって君臨する学園都市をしてなお、今もって七人しかいない『超能力者(レベル5)』》の一
人、「超電磁砲」であるところのこの私がそんな情けない事態に陥ってしまったのは、さらに情けないことに油
断と慢心が理由であると言わざるを得ない。
負けた。
完膚ないくらい。
たかが一回の勝負の勝ち負け、なんて小さい視点からうだうだ語るような真似はできればしたくないのだけど、
俯瞰してみたところでそこから見えるのは私の命が風前の灯火であったと言う、もっと見たくない光景だけだ。
初っぱなから死にかけた、と独白で語る分にはもう一つ緊迫感が伝わり難いが、正直に言って私の心臓はまだ平
静を取り戻せてはいない。
それはそうだろう。
私たちの戦いはまだ始まったばかりだ、とは、その意味合いとは裏腹に物語の終わりによく用いられることで有
名な言葉だけど、私の物語は本当に始まった途端に終わる危険さえあった訳なんだから。
助かったのは偶然である。
それも私個人の行動とは全く関係のない、完全に外部から訪れた、運も不運も影響を及ぼさないくらいの、純然
たる通りすがりの偶然。
九の死が確定していた私に与えられた、一つだけの生。
通りすがった、少年。
零崎人職。
さて、冒頭でいきなり「正確さを欠いた言い方かも知れない」なんて思わせ振りな事を言っておいてその後ちっ
とも触れずにいたけど、そのことが私の国語能力の低さを意味するかというと、そんなことはない。 文章的な
「溜め」の回収をわざと遅らせたのは、何のことはない、あれこれ言葉を並べたてるよりも原因そのものを直接
見てもらった方が、意味するところがより伝わり易くなると思ったからだ。
右の耳に三連ピアス、左耳には携帯電話のものと思われるストラップを二つ付けている。
黒いドライバーグローブに、腕に巻かれたスカーフのようなもの。格好だけ見ても中々にエキセントリックだが
この程度なら若者の多い学園都市のこと、チンピラやら勘違いした低能力者を狩っていれば、おかしなファッシ
ョンに出くわすこともある。
特徴的なのは、目だ。
暗い。暗い暗い、瞳。
夜の闇が凝ったような、などと言う表現では全く、圧倒的に、倒錯的なまでに足りない程に塗り潰されている。
気の弱い者なら見ただけ泣き出しかねない、罪深い色。
吸い込まれそうと言うより、吸いとられそうになる闇深い瞳。
「御坂美琴を助けてた」という純然たる事実が真水のであるとするなら、この少年の底知れない禍々しさはさし
ずめ墨汁のようなものだ。
たった一滴足らすだけで、たやすく水全体を濁らせる。
仮にも命の恩人であると、結果的にだろうと助けてくれた相手であると、注釈の上に注釈を重ねたところでてん
で意味をなさない。
たとえ、電撃を自在に操ろうとも。
たとえ、銃の狙いから外れていても。
たとえ、相手がいかめしい中年でなく線の細い少年であっても。
私は。
ちっとも助かった気なんかしていない。
「かはは、まぁこんなもんでいーだろ。まぁそれ程酷くないとは言えいっちまったのが肋骨だけに応急処置って
も大したことはできねーが、折れた骨が肺に刺さりでもしねー限り死にはしねーよ」
なまえ欄ミスorz気にしないでくださいorz
申し訳ない
私への簡単な治療を終えた零崎は乾いた声で笑った。前述の通り彼に対して若干恐怖に近い感情を捨てられない
でいる私は、ショックが抜けきらないこともあって多少しどろもどろになりながら、それでもなんとか感謝の言
葉を述べる。
なんてことはねーよ、と本当に何でもなさそうに言う零崎は、そこだけ取ると単なる気の良い少年のようにも見
えた。
ちなみに零崎の言う応急処置とは、折れた胸部に負担がいかないようタオルと板で固定すると言うもので、謙遜
を抜きにしても本当に簡単な処置だが、部位が部位だけにこれでも十全な対応だと言えよう。
腕とかならガチガチに固定することもできるけど、呼吸が関わってくる肺じゃそうもいかないし。
にしても……妙に手馴れてたわね。
何者なんだろう。
助けられといて、疑ってばっかりだけど。
まぁ、状況が状況だしね……。
そう言えばもう一つ追加すべきエピソードがあった。治療に使われた道具は零崎がどこぞから持ってきたものだ。
痛みに呻く私をざっと診察した零崎は(恐るべきことに触診だった)ちょっと待ってろとだけ言い残して天文台
の中に消えて行ったのだ。
零崎が調達に行ってる間、当然私はほったらかしの状態だった訳だが、すぐ帰ってくると思われた零崎は中々姿
を見せず、これはもう置いてかれたんじゃないだろうかと私が思い始めたあたりになってやっと戻ってきた。
余りに遅いので多少けんの強い調子で何してたのと聞くと、零崎はこともなげに、
「世界の終わりを見てきた」
とやたらかっこつけた表現で言った。
分かり易く言うとつまり、あの狐面の男が言っていた「升の消失」する瞬間を正にその目で見てきたのだという
(痛みやら何やらで少し余裕をなくしてた私は用いられたレトリックの意味をとっさに理解できず、何回か聞き
返した結果気まずい空気が流れた)
世界の消失。
36ある升目の……その一つ目。
終わる世界の、始まり。
そのときはそれで終わってしまったけど、こうして人心地付いてみると確かに興味が湧いてくる。
地盤沈下みたいにエリアが落っこちるのか、はたまた霧のようなものにでも包まれるのか、一口に世界の消失と
言っても思い浮かべるイメージは様々だ。
零崎がその瞬間を見てきたと言うのなら、多少の苦手意識を脇にどけても聞いてみなくてはいけないだろう。
とりあえず重要なのは情報だ。「世界の果て」とやらを確認するために放った電撃がさっきの失敗を招いたのだ
としても、その好奇心自体は避難されるべき筋合いのものではないだろう。
私は決意も新たに、そう零崎への苦手意識なんてどこかに捨て去ってしまうくらい強く、はっきりした口調で
言った。
「ところで、さ。お礼もそこそこで悪いんだけど聞かせてくれないかしら。さっき言ってた『世界の消失』って
のがどんなものだったのか」
「んあ?俺もはっきりしたことは良くわからなかったが……何かこう、零次元みてーだった」
…………まさかいきなり21エモンに1話だけ出てきた、コンピュータが不要と判断した人間を廃棄するための
特殊空間で例えられるとは思わなかった。
何だっけ、おじいさん達がベルトコンベアで運ばれてくの。
ていうか止めて。トラウマが刺激される人が出ちゃう。
「って、何で私こんなこと覚えてるのかしら……」
「かははっ、気にすんじゃねー。『日本で普通に育ってりゃ21エモンを知っていても別にキャラ設定に悪影響
はねー』よ」
「いや、そんな誰当てかも解らないような解説を無理やり入れられても……」
ていうか、その発言そのものがクロでしょ。
わざわざ『』でくくったりして。
あるって。悪影響。
イメージとかさぁ。
私の剣呑な空気が伝わったのか零崎はふむ、と顎に手を当てて考えるような仕種をした。男前と称するには背の
低さも相まって少し難があるが、それでも、なるほど、真剣な表情をした零崎は結構さまになっていた。
私は同年代の子に比べると色恋にはそんなきゃーきゃー言う方ではない自覚があるけど、こうしてみると確かに
見た目がいいというのは男にとっても確かにプラスになるのだろう。
それでも、単なる見た目どうこうですぐ好きだの何だの言う子の気持ちは、よくわかんないけど。
付き合うとか……。
ないない。
ないって。
私がそんなどうでもいい(本当にどうでもいい。今の状況を考えて見れば事態解決に向けて努力しているだろう
黒子に申し訳ないくらいだ)ことを考えている間に零崎は考えをまとめたのだろう、顎から手を放して真っ直ぐ
に私を見てくる。
何についてかは一体分からないもの、恐らく次に語られる言葉は彼なりに真剣に考えた結果なのだろう。
性別はもちろん、歩んできた人生さえも見るからに違うと知れる人からの意見だ。私とはまた違った視点からの
考えが聞けるに違いない。
心するように、手を握る。
唾液を飲む音さえ聞こえてきそうだ。
零崎は、ひどく真面目な表情で、言った。
「まぁアニメ化もされたんだし広い心でいようや」
「直前でやっと戻ってきた私のちょっとシリアスなパート返せ!」
さすがにそれはフォローできない!
アニメ化て!
アニメ化って言うな!
スピンオフも禁止!
「さて、ブラックゾーンに気持ちよく直球を放り込んだところで、だ……」
自覚あったのか。
グレーゾーンですらないって。
零崎が私を見る。
「俺からも色々聞かせてもらおうじゃねーの。電撃使いの女の子ちゃん、よ」
向けられた目からは、
相変わらず、
目を背けたくなるようないやな感じがした。
相変わらずの、凝った闇のような瞳。
罪のような、瞳。
「……いいわ、望むところよ」
それは、束の間のメタパート終了の知らせる合図だった。
と言うわけで、私が一方的な警戒を示しながらの情報交換。
時間がもったいないので歩きながらである。
天文台から続く舗装された道は、他の人間に出会う可能性は高まるものの、だからと言って森林地帯をこそこそ
歩くと言うのはいくら何でも現実的じゃない。
それに出会うのは危険人物ばかりでなく、知り合いの可能性もある訳だし。
まぁ、希望的にすぎるけれど。
絶望的なまでに、希望的観測。
次に会うのがまたガウルンのような奴だったとしても、同じ失敗だけはしないように。
零崎が聞きたいと言ったのは、は私の操る電撃についてだった。ガウルンに向けて放ったものを見たのだと言う。
超電磁砲。
エレクトロマスター。
学園都市で第三位の、超能力者。
学園都市内ではそこそこ名前が知れてる方だとは思うけど、外部とは偏執的なまでに隔絶されている学園都市の
こと、外の人間からすれば実際に目にする能力者が物珍しく写るのは仕方ないだろう。
いや、零崎が学園都市の住人じゃないかどうかは分からないけど。
230万人という人口を考えれば、顔面に刺青なんて派手な格好をしていても目立たないのは仕方無いかもしれ
ないが、能力者でもなんでもないのに身のこなしと勘みたいなもので銃弾をよける(曰く、銃は殺気が直線的な
のでかわしやすい。冗談だと思いたい)なんて規格外もいいとこの奴がいれば、噂くらいは聞く……と思う。
ところが、詳しく話してみると、驚いたことに零崎は学園都市の存在そのものを知らなかった。
「知らないもんは知らねーな。学園都市っつったら筑波だろ?わけわかんねー能力の開発ってんなら『殺し名』
の連中が嫌って程、それこそ頭がおかしくなるくらいやってるが、それだってそんな大々的なもんじゃねーよ」
「日本に居れば知らないなんてないと思うけど……私はその『殺し名』ってのの方が初めて聞くわ」
名前からして物騒な集団みたいなので、正直あまり聞きたくはないけど。
果たして、零崎ははぐらかすように笑った。
幸か不幸か。
「かははっ。教えないでおいてやるよ。何だかんだであんたは『こっち側』の人間じゃあり得ねーしな」
うーん…………。
もしほんとに学園都市に隠れて能力を開発してるような組織があるなら、黒子辺りにでも教えといた方が
いいのかも知れないけど。
学園都市から隠れて、ってのがそもそも現実的じゃなのよね。
まぁ、それについては今は保留。
「まぁ俺が活動してたのは大体関西だったしな。アメリカに渡ってた時期もあるし、そのせいじゃねーか?」
「世界規模で有名なはずなんだけど……」
「自分が思ってる程周りは自分を見てないって言うぜ」
「何かいいこと言ったみたいに言ってるけど、そこまで内容のある発言じゃないわよね、それ」
私の発言を乾いた笑いで打ち消して、零崎は頭の後ろで手を組んだ。
零崎人識。
能力云々抜きにしても腕は立つようだけど、それはもうずば抜けて立つようだけど、それ以外のことはやっぱり
分からない。
学園都市を知らない、ねぇ。
21エモンは知ってるのに。
「だが、イカれた連中には結構縁のある俺だが、それでもあんたみたいに直球な奴は初めてみるぜ。分かりやす
くヤバいって奴に会ったことはそう多くない。いやー、ロギア系こえー」
終始偉そうな態度を崩さなかったくせに天敵に会った途端トンでもない変顔かました自称神様みたいな言われ方
をされた。しかもマックスでも二億ボルトの奴。
私になぞらえるにはちょっと低すぎる。
御坂美琴の最大出力は十億ボルトです。
いや、自慢じゃないけど。
誇りではあるかな。
翻って零崎の方はと言うと、これは学園都市の存在さえ知らなかったことからも分かる通り、まったくの『無能
力者(レベル0)』。まれに学園都市でのカリキュラムを経ることなしに能力に目覚めるものもいるらしいが、
そんな些末な可能性まで一々取り上げる価値が今あるとは思えない。
つまり、生き残るために有利な条件という視点で見た場合、零崎の持つアドバンテージは卓越した身体能力のみ、
と言うことになる。
とはいえ零崎の場合はそれ自体が生半可なレベルで収まるものではないので、大抵の能力者なら苦もなく圧倒で
きるだろう。
私が、されたように。
ガウルンが、私に、したように。
心臓が高鳴る。
フラッシュバックを振り払うように、頭を振る。
口の中が乾いていた。
話題を、変えよう。
真っ先に思い付いたのは知り合いについてだった。
「零崎、あんたは探してる人とかいないの?知り合いとか、会いたい人とか」
「特にこれって奴はいねーな。大将に怒られるのもいやなんで《蒼》は見つけといてやろーかとも思ったが、
段々面倒になってきた。ましてや《あいつ》に関しちゃ、ま──」
探すまでもねーだろ。
会いたくもねーし。
零崎は、出会って間もない私では何とも心情の図りがたい、起伏のない声でそう言った。
含みのある言い方からして何かしらの事情があるのだろうが、だからと言って根掘り葉堀り聞くのは憚られる。
浅からぬ因縁、と言う奴だろうか。
「歯痛くもねーし」
「そいつはあんたのかかりつけの歯科医か何かか」
「会田君もいねーし」
「誰だよ」
意外と薄い関係かも知れなかった。
ていうかほんと誰だ、会田君。
「けど、どうしてもって言うなら、まぁ探してやらなくもないぞ……?」
「うぜぇ……」
わざわざ上目遣いで半疑問形にしてくるあたり、うざさの二乗だった。
零崎がそれ以上の返しをしてこなかったので、この話題はこれにて終了。
零崎の指す人物が名簿上で誰に当たるかも、私の知り合いについても一切伝えずじまいになってしまったが、本
人がそれ程乗り気でない以上これは仕方がない。
ん。
名簿と言えば……零崎って『名簿に載っていない十人』の一人なのよね。
別に忘れていた訳ではなくそのこと自体は治療の一番最初、名前を交換したときに確認済みではあったのだが、
さっきはそれだけで流れてしまった。
だがこれに関してはそれ程広がりのある話だとは思えない。名簿に載っているかどうかで扱いが変わっている訳
でもないようだし、個別の、共通ではない支給品にもそれ程顕著な違いがあるようにも思えなかった(零崎の支
給品は得意武器のナイフやら鋼糸やらで、私は『航空機燃料』と説明のついたポリタンクだった。肝心の航空機
がどこにあるか知らないが、燃料の入ったポリタンクは相当な数にのぼり、これはこれで使いようによっては武
器だと言える)。
まぁ、さしあたって考えても仕方のない問題、という奴だろう。零崎がこれに関して何か特別な智慧を持ってい
るとも思えない。
私は、気まぐれとも呼べない些細な感情の揺れに従い、この話題を蒸し返すことを先延ばしにした。
さて、なし崩し的に、それでもそれなりに平坦に、同行二人を決め込んでいる私たちだが、これは天文台から移
動しようと思えばまともなルートが実質一本しかなかったことが大きい。逆に言えば、そうでもなければ、汝の
隣人を疑えと言わんばかりの状況でどこの誰とも知れぬ、それでいてまともじゃないことだけは知れる、輩と一
緒にいることはどれだけ表現を柔らかくしたところで願い下げと言うしかない。
これに関して言えば、さっきから再三に渡って申し立てている零崎に対する本能的な警戒も、私の単独行動をし
たいという欲求に拍車をかけており、助けられたという事実を差し引いてもそれは相殺しきれるものではなかっ
た。
そもそも、何で零崎は私にくっついてきてるんだろう……。
ふらっと姿を消してもおかしくないのに。
軽薄そうだし。
まぁそれも目的意識のなさと危機感のなさ(零崎の場合は自信かも知れない)からくるものと言われればそれま
でだ。
互いの手札を確認しあえば、次は、さもそうすることが当然であると何者かによって決められているかのように、
今後の方針に話題は移る。ここでどちらか片方にでも何か確固とした強い目的でもあればそれを口実に別れるこ
ともできそうなものだが、生憎と、私たちは、二人そろって「とりあえず知り合いと合流する」と言う曖昧極ま
りない目的しか持っていなかった。
右も左もどころか上も下も、一寸先だって分からない暗中模索である以上、仕方のない部分ではあるのだが。
いやもう。
ほんと、どうすりゃいいんだか。
手を封じられた、手探り状態。
投了さえも、ままならない。
する気はないけど。
畢竟、とりあえず施設に描かれた施設でも回ってみるかと言う、問題の先送りとほぼ同義の結論に落ち着く訳だ。
「道なりに行けばまずは神社、ね。何があるとも思えないけど……」
座ってるよりはまし、という程度でしかない。
私のこの呟きも確認というより間を持たせるくらいの意味しかなく、当然だが広がりもない。
零崎もそんなことは分かっているのか特に反応を示さなかった。
いやな沈黙が、降りる。
足音だけが、聞こえる。
…………………………。
ううん。
困った。
私は、終始喋っていないと落ち着かないというタイプでこそないが、それでも、頼りなく光る街灯をのぞけば真っ
暗闇に近いところに、この沈黙はいささか苦痛だ。
これで、同行者が黒子のような分かりやすい人間だったなら、たとえ初対面であってもまた違ったのだろうが、現
在のところ道連れは未だ得体の知れない部分の残る零崎人識だ。
特に何をしたってこともないし、見た目程危ない奴ってことはないんだろうけど……。
しかし、やはり延々と続く沈黙には耐え難いものがあり、私は何か喋ろうと口を開く。
テーマは、まぁそんなに考えなくていいか。
難しい議論をしようって言うんじゃないんだし。所詮場繋ぎだ。
言葉は、口をついて出た。
「──あんたは、この殺し合い……どう思う?」
出て、しまった。
「──傑作だぜ」
刹那、空気が凍った。
決定的に。圧倒的に。
むせかえる程に濃密で、吐き出したいくらい陰湿な、明確な――。
――殺気?
「まさか、よりにもよって、殺人鬼に向かって、殺し合いについて聞くなんてな──」
椅子取りゲーム。
世界の消失。
生存競争。
殺し合い。
「何て言ってみせたところで、心の底から頭の先まで傑作なのは俺だって変わらない。何故なら俺は今の今まで、
この瞬間になるそのときまで、そんなこと考えてもみなかったからだ。
兄貴や大将ならこういうときは嬉々として、鬼気として、いくらだって語り明かしてくれるんだろーが、残念
ながら俺はそんなことをしようとは思わないし、できもしない。
何故なら俺に言わせればそんなものは『たかが人殺し』に過ぎないからだ」
私は、このときはっきりと理解した。
いやな感じなんてものじゃない。
やばいなんてもんじゃ――なかった。
「むしろ人を殺すのに意味を求めることの方が俺には理解できない。
俺は息を吸うように解すし、俺は息を吐くように人を並べる。
俺はあんたが息を吸った回数だけあんたを揃えるチャンスがあったし、
あんたが息を吐いた回数だけあんたを晒すことができた。
それをしなかったのは、まぁ、あの赤色との約束があったからだが逆に言えば、
そうでもなければ俺には『殺さない理由』がない」
零崎人識は、人を人と思いながら、殺す。
怪我をしたくらいで運不運を考えていたなんて馬鹿らしい。私は既にとんでもない幸運を掴んで、端から消費し
ていたのだ。
私が今まで死なずに済んできたのは。
今の今まで殺されずにいられたのは。
単に、零崎がそういう時期だったからという、ただそれだけのことなのだ。
「お前は今まで食ったパンの数を覚えているのか、なんてレベルじゃねー。お前は今まで呼った空気の量を覚
えているのか、だ。かはは。いきなり、息を吸うことについて聞かれても、こりゃ答えようがねーわな。まぁ
そういうのも丸ごとひっくるめて一切合財──」
傑作だぜ。
言って、
「んなとこでいいか?電撃使いの女の子ちゃん、よ」
零崎は笑い。
私は、笑えなかった。
【C-1 道路 一日目 黎明】
【御坂美琴@とある魔術の禁書目録】
【状態】肋骨数本骨折(応急処置済み)
【装備】なし
【所持品】支給品一式 、航空機燃料のポリタンク(100%)
【思考】
基本:この世界からの脱出、弱者の保護
1:知り合い(白井黒子、インデックス、上条当麻)との合流
2:当面は基本方針優先。B-1消滅の半日前ぐらいには黒子、当麻との合流を優先する。
3:人識への恐怖
【備考】
マップ端の境界線は単純な物理攻撃では破れないと考えています。
この殺し合いが勝者の能力を上げる為の絶対能力進化計画と似たような物であるかも知れないと考えていますが、当面のところ誰かに言う気はありません。
【零崎人識@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、礼園のナイフ9本@空の境界、七閃用鋼糸6/7@とある魔術の禁書目録、少女趣味@戯言シリーズ
[思考・状況]
1:ぶらつきながら《死線の蒼》といーちゃんを探すが、段々飽きてきている。
2:両儀式に興味。
[備考]
原作でクビシシメロマンチスト終了以降に哀川潤と交わした約束のために自分から誰かを殺そうというつもりはありません。
ただし相手から襲ってきた場合にまで約束を守るつもりはないようです。
【航空機燃料】
格納庫に置かれている航空機のための燃料。かなりの量が相当数のポリタンクに分けて支給されている。
当然可燃性であり、使い方によっては武器にもなる。
えーと投下終了……かな?
ロワ史上初の航空機による攻撃とかあったらいいなぁと考えつつGJ!
雑談スレに書き込みきてるよー。
終了宣言でさるさんくらったらしい。
では投下乙です。
人識の怖さが存分に出てるなぁw
美琴はやっぱりおびえを感じるか。殺人鬼に。
美琴の心理もらしく、深く素晴らしいものでした。
両者の温度差……これからどうなるかな?
続きが楽しみです
GJでした
重箱の隅をつつくようですが少し改行が可笑しいところがあるような。
テキストエディッタの仕様かな?
投下乙です。
戯言チックな文体で描かれる美琴ってのが新鮮だなぁw これもまた立派なクロスオーバー。
零崎のヤバさを伝えるには、確かに妙手だ。
そして支給品が燃料か……そういえば飛行場の航空機はいずれも燃料カラだったっけ……?
果たして辿りつくまでに残っているだろうかw GJ!
ちなみに横レスだけど、改行は正直、この手の長い文章を扱う際には頭の痛い部分。一行辺りの長さに制限あるし。
で、ある程度の長さでそろえたつもりでも、テキストエディタやブラウザによっても見え方違ったりする。
ただwikiの方なら大丈夫だから、収録後、ヒマな時にでも直すといいかも。
代理投下、開始します。
投下にお気づきの方、支援よろです。
先刻の人形襲撃事件からしばらく、あんなことがあったこともあり、余計に留まっていることが危険だと判断した俺達は、「宣言」の聞こえた範囲であろう城のあるエリアから離れるためにただただ歩きつづけていた。
正直、さっきのあれ、動く人形のことが気にならんと言えば嘘になる。俺でさえそうなのだから、もしもここにハルヒがいたら大喜びであの謎をときたがるのだろうな。
……が、ここで名探偵がいきなり現れてくれるのを期待するわけにはいかんし、そもそもこんな状況で現れる謎を解いてくれそうな人物と言えば、見るからに悪党面した奴が冥土の土産だ、とか何とか言いながら俺達を襲ってくる前フリにしかならんだろう。
いや、まあそこでいきなり現れるのが長門や古泉だったりしたら、後はあいつらに任せて、俺は事態が解決されるを朝比奈さんを守ったりしながら見守ってしまえばいいから楽なんだが。
と幾分話は逸れてしまったが、現在俺達は先頭、陸。二番目にマオさん。そのもうすこし後方に俺。という三列形態で歩いている。
このような形で歩くことを提案してきたのは、実は陸だ。
人形襲撃事件の少し後、再び俺達が歩き出そうとした矢先に提案してきたのだ。
曰く、自分が先頭を歩くのは鼻が利く自分が先頭に立っているほうが俺達にとっても安全でしょう、だとか。
曰く、自分の鼻で警戒している限り不意打ちをされる心配はほとんどないから、キョンさん、つまり俺が一番後ろにいたほうがいいでしょう、だとか。
……うん、まあ正直長門や古泉といった元々日常というカテゴリーから離れているような奴等や、なぜか銃器の扱いに慣れ親しんでいるようなマオさんといった相手からならまだしも、
いくら喋れるとはいえ犬にさえ心配される自分というものが少々情けなくなってくる気もしないでもないが、実際役に立たないもんは立たないんだからしょうがない。
遠慮なく、お言葉に甘えさせてもらって俺は二人、いや違った。一人と一匹の後ろをてくてくと歩いている。
とはいえ、いきなり誰か――いや何かに襲われるということもなく、今俺達が歩いている場所なら聞こえていたとしてもおかしくはないあの「宣言」にやる気になった物騒な方や、
逆に今の俺達のようにあの宣言を聞いて早々に逃げの一手をきめこむ参加者にも出会うことなく、俺たちは広い意味での城エリアからの脱出、ようするに天守閣の回りをぐるりと囲っている堀を無事に渡りきることに成功したのであった。
「マオさん、キョンさん、少々お待ちを」
と、世の中そんなに上手くはいかないのか、堀を渡りきったその直後に、いきなり陸が俺たちに待った、といってきたのだった。
「どうした? 陸」
「はい、比較的新しい人の匂いがします。おそらくはあちらの建物……」
と陸は視線を俺たちのほうからやや斜め前方へと動かした。
つられてそっちのほうに視線をやると、さっきまでいた城とは比べ物にならん近代的な施設、見た目からして俺たちみたいな一般庶民とは縁もなさそうな高級感ただようホテルがあった。
「あのホテルへ入っていったのでしょう。裏口から出て行ったということでもない限り、今もあの中にいると思われますが……」
目は口ほどにものを言う。どうしますか? と陸の視線は問い掛けている。
どうする――つまりはホテルの中にいるであろう人物に会いに行くかどうか、ということだろう。
……ってだからどうしてそんな話題を俺に振るんだ。
今までの経験から言わせて貰うと、どこぞの異次元ででかいカマドウマに襲われたときがそうであったように、正直こういう状況は専門家に任せるのが一番いいと俺は思うわけだ。
というわけで陸からの視線に華麗にスルーを決めた俺は、そのままマオさんに期待を込めた視線を向ける―ーと。
「ちょっ、ちょっと何をやってんですか! マオさん!」
俺は思わず大声を上げてしまっていた。何を思ったのかマオさんは平然と陸が言うところの他の参加者が潜んでいると思しきホテルへと歩いていっていたのだ。
ホテルのロビーというものは基本的に見渡しがいいが、ちょっと奥の方に行けばフロントやらなんやらがあり、身を隠すのには実に都合がいい場所でもある。
つまり俺が何を言いたいのかというと、だ。もしもあそこにいるのがヤる(もちろん殺すと書くほうの殺るだ)気になった参加者だったら身を隠さずに近付いているマオさんはいい的にしかならないだろう。
と俺がそんなことを考えてマオさんを止めにいくべきか、下手な動きは見せないほうがいいのか躊躇している間に、一体何がやりたかったのか入り口付近まで近付いたマオさんは、あっさりとホテルへと入ることなく引き返してきたのであった。
「あ、キョンくん。ただいま」
「マオさん何をやってるんですか危ないでしょう! あのホテルにいるのが危険人物だったらどうするんですか!」
と俺はついつい声を荒げてしまったのだが、そんな自分にしては激しい剣幕のつもりだったそれもマオさんにはまるで応えないものだったらしく「大丈夫、大丈夫」と軽い笑顔で返されるのであった。
「それで?」
「うん? それでって?」
「いやマオさん、何しにいったんですか?」
「ああ、そのことね」
マオさんは納得したように頷いた。
「いやあ、あのホテルに立てこもってるのがひょっとしたらあたしの知り合いかなー、と思って調べにいってみたんだけどね。残念だけど、ソースケ達やテッサはあそこにはいないみたいね」
まあソースケなんかは早々にかなめやテッサとと合流したりしない限りは篭城なんかせずに動き回ってるんだろうけど、とマオさんは一人呟いた。
いや、いないみたいってあんた中に入ったり声をかけたりなんか一切していないだろう。
「いないみたいって……え? 何で中にも入っていないのにそんなことがわかるんですか?」
「ああ簡単よ。あたしの知り合いに限らず、ちゃんとした知識をもってこんな始まったばかりの状況で篭城っていう戦略をとる奴なら建物の中まで入ってこなくても、相手をきちんと確認しておく、そのための手段ぐらいは用意しているのが当然なわけよ」
「はあ……」
つまりその入り口付近にまで近付いてみたけど、マオさんに反応した様子がないから知り合いはいない、とこういう事を言いたいのだろうか。
「……でも、そんなやり方危険じゃないですか?」
「ああ、平気平気。あそこにいるのがたった一人の生き残りを目指すプロだったとしても、ホテルの中に入るまでは襲ってきたりはしないわよ」
「なるほど、私たちの場合は匂いでホテルに立て篭もっている者がいるということがわかりましたが、そうでないほかの参加者達にとってはホテルに誰かがいるかどうかはわからない。
しかし、ホテルの外にいる者にまで無差別の襲撃を仕掛けてしまえば、ホテルに誰かが潜んでいるのはわかる。そしてその場合ホテルの中にいるものは逆に袋の鼠になる、ということですね」
マオさんの言葉を受けて陸が解説をいれてくれる。
……まあ、何だ。犬に解説を受ける自分というものに疑問を感じたりはしてないぞ。
「で、どうする? キョンくんも見に行ってみる?」
言われて俺は考えてみる。
仮にあのホテルに俺の知り合いがいるとして、だ。
長門の場合……あいつだったら俺がここまで近付いた時点で何らかの行動をとっているとみていいだろう。
古泉の場合……まああいつならマオさんが言ったような備えをしてここに立てこもる場合もある、のだろうか。
朝比奈さんの場合……彼女があそこにいるとしても絶対にどこかの一室で小さく震えているのだろう。
ハルヒの場合……はないな。この状況がアイツが望んだ物とはさすがに思えんが、それでもアイツのことだ。
こんなわけのわからん事態に巻き込まれて、じっと閉じこもるなんていう選択肢をとるようなことはない。それだけは断言できる。
とこう考えてみるとあのホテルに俺の仲間(朝倉を除いてあえてこういう)がいた場合、かなりの確率でリアクションがあると考えられるわけだが、やっぱりと言おうかなんと言うか、
俺がロビー前までいってみても長門の無表情も古泉のにやけた顔も、はたまた万に一つの朝比奈さんの愛らしい顔も一切現れることはなかったのであった。
「おかえりー」
「はあ、ただいまです。……陸、このホテルに誰かが入っていったのは間違いないんだよな?」
「はい、キョンさん。それだけは間違いありません」
つまり、だ。
こうなってくると可能性は三つしかない。
一つはホテルに入っていった誰かがすでに従業員出口などから出て行ったケース。
ただ、この場合は何でそいつはそんな面倒なことをしたのかという疑問が残っちまう。ホテルに誰かが入っていったということがわかる俺たちのほうが特殊なケースだ。だったらどうしてその誰かさんはそんなわけがわからんことをしたのであろうか。
「んー? ロビーの中にトラップでも仕掛けたんじゃない?」
とはマオさんのセリフ。専門家の言うことだけあって、言われた途端、あの出入り口が禍々しく見えてくるから不思議ではある。
と、二つ目のケースは危険人物が潜んでいるケース。
この場合も下手にホテルに侵入しさえしなければまあ安全だろう。
で三つ目。中にいるのが安全な人の場合。
この場合は中にいるのは俺たちの知り合いではないか、話を聞く分には唯一そういうことに気が回りそうにない俺の知り合い朝比奈さんということになるわけだ。
まあこのように状況を整理してみても、結局このホテルに入ってみるべきか、それとも無視するべきかという結論は一切出ていないのだが。
「む?」
どうしようか俺たちが態度を決めかねていると、不意に陸が顔をあげて、北のほうを向いた。
「陸、どうした?」
「この匂いは……いや、間違いない!」
言うなり陸はいきなり北のほうに向かって駆け出した。
「おい、陸! っといきなりなんだって言うんだ」
とはいえ一匹で行かせる訳にもいかないだろう。ひとまずホテルの件は後回しにして、俺とマオさんも陸の跡を追いかけることにした。
当たり前の話ではあるが、犬と人間ではその走る速さはまったく比べ物にはならない。
それでも俺たちが陸を見失うことがなかったのは、陸の移動した距離がそれほどの遠くはなかったからだ。
北にわずか数百メートル。とはいえついさっきまで俺たちがいたホテル前は見えなく距離。
前のほうに見えてきたそれほど大きくはない橋を渡り終えようとしている二つの人影。その片方にむかって陸は近付いていく。
「シズさま! ご無事で何よりです!」
「……陸?」
陸に遅れることわずか。まだまだ余裕の表情のマオさんと多少息切れした俺が見たのは緑色のハイネックのセーターを着た長身の優しそうな男の人と、その人の前で畏まっている陸。そしてその様子を面白そうに見ている金髪の外人さんだった。
「……君達は?」
「ああいえ、シズさまご安心を。彼らは危険な人物ではありません」
陸より遅れて到着した、彼らにしてみればいきなり現れた俺たちに警戒の目を向けてくるシズさんと、慌ててそれにフォローを入れる陸。
まあここはちゃんと自己紹介をするところだろうな。
「ええと……」
「こちらの男性がキョンさん。私を支給品として引き当てた方です。そしてあちらの女性がマオさん。開始直後からキョンさんと同行しておられます」
「……キョンといいます。その、なぜか参加者名簿のほうではこういう名前で登録されていますから、そう名のらさせてもらいます」
「メリッサ・マオよ。ま、よろしく」
「そうか、陸が世話になったようだな。礼を言わせて貰おう。陸から聞いているかもしれないが、私はシズという」
「どうも、こちらこそよろしく」
とまあこのように自己紹介を行っていた俺たちではあったのだが、次のシズさんと同行していた女性――アリソンさんの自己紹介で大いに驚くこととなる。
「私はアリソン。アリソン・ウィッティングトン・シュルツ。まあアリソンって呼んでね。こう見えてもロクシェの軍人よ」
……ロクシェ?
一応俺は普通の学生だ。この普通というのは学校の成績も普通ということであり、別に世界の国々すべての名前を暗記しているほどじゃない。
だから知らない国があってもまるでおかしくはないのだが……それでもそのロクシェという国名は知っているとかではなく、聞いたことさえない。
「……えーと、どこの軍人って?」
そのロクシェとやらに聞き覚えのないのはどうやらマオさんもおなじだったようで、頬を掻きながらアリソン・ウィッテ……アリソンさんに尋ねている。
「だからロクシェよ、ロ・ク・シェ。そんなに信じられないかなぁ」
まあ、確かに言われてみればアリソンさんからは世間一般で言うところの軍人という単語でイメージされるようなお堅いイメージはないのだが。
ただ、この場合聞き返した理由はその繰り返した国名にまるで聞き覚えがないことなんだが。
かくして軽い自己紹介で済むはずだった俺たちの出会いは、お互いの常識をつき合わせる本格的な会談へと変更されることとなった。
そうして結局、この場にいる四人の常識がまるで異なることに気がつくのは、もう少し時間が過ぎてからのことになるのであった。
「……嘘、とか冗談じゃないのよね?」
元々シズさんといっしょに旅をしていたらしい、陸以外の四人、ちなみに陸は誰か近付いてくる奴がいないか警戒をしてくれている、の話を合わせてみた結果。
最初に全員が別の世界から集められたということに気がついたのは俺だった。
一応ハルヒが作り出した閉鎖空間やらなんやらに閉じ込められたことがある経験が役に立ったといえるのだろう。……まるで嬉しくはなかったが。
それはさておき、信じられないといったような顔と声でアリソンさんが呟く。まあその気持ちはわからんでもないが。それはお互い様という奴だろう。
なにせそのアリソンさんの世界では、国が二つ――さっき言ったロクシアーヌク連邦とやらとベゼル・イルトア王国連合というところしかないだとか。
他にも大陸が一つだけしかないとか、世界暦とかいう聞いたこともない暦を使用しているだとか。
仮に彼女が嘘を言っているんだとしたら、軍人じゃなくて小説家になるべきだと俺は思うね。
「……」
「……」
驚いているらしいのはシズさんやマオさんも同じだ。口に出してはいないものの、その顔はありありと驚きの表情を浮かべている。
シズさんの世界ではさまざまな国があって、技術的にも文明的にも俺たちの世界以上にバラバラに進んだり、そうでなかったりしていて、またそういった国から国へと旅する旅人さんというのが結構メジャーらしい。
マオさんの世界はかなり俺の世界に似ていて、日本やアメリカと同じ名前の国もあったりして、一旦は俺とマオさんは同じ世界からきたのかなー、とか思ったりもしたのだが、
AS――アーム・スレイブだとかいうガンダムみたいなでかいロボットがある、俺たちのところよりもう少し科学技術が進んでいる世界らしい。
四人と一匹が集まって、四種類の異なる世界。いや、俺たちが知らない名前も名簿に載っていたりする以上、もっと異世界はあるのだろう。そう考えてみると、この消滅していく世界とやらもやっぱりそうした異世界の一種なのだろうか。
とまぁ、この世界における俺の浅知恵な考察はこの辺にしておこう。
この殺し合いゲームで俺みたいな一般ピープルが一人が悩んだところで答えが見えるはずもない。
何度も言うが、俺は至って普通の男子高校生だ。宇宙人でも未来人でも超能力者でもないし、そうなりたいとも思わない。
ただちょっとばかり、周りが特殊すぎるだけだ。ライオンの檻の中に一人迷い込んだネコみたいな存在なんだよ、俺は。
ああ、ちなみに。
その情報交換の際にわかったことなのだが、実は軍人だったアリソンさんの他にも、シズさんは旅人さんで一人と一匹で無法地帯を旅することができるぐらい腕が立つらしいし、只者じゃないと思っていたマオさんも実は傭兵で腕はいいらしい。
だから、この人たちといっしょに行動して、後は長門やハルヒを見つければミッション・コンプリート。
あいつらの不思議パワーで俺たちはめでたく帰還することに成功……というわけにはいかなかった。
「我々も後はティーを見つけるだけですね」
二度あることは三度ある、とか言うが……やっぱりそのきっかけを作ったのは陸だった。
「……ティー?」
とりあえずマオさんは宗介、クルツ、テッサ、かなめという人を。
アリソンさんはリリアーヌ・アイカシア・コラ何とか……リリア、トラヴァス、トレイズという人を。
かくいう俺もハルヒに長門に朝比奈さん、それにおまけの古泉とそれぞれに探し人がいる。
で、この場にいるもう一人、シズさんには探している相手はいないのか聞くと、本人が返答するよりも先にその足元で控える陸が答えを返し、その答えにほかでもないシズさんが不思議そうな表情を浮かべたのであった。
「陸、どうして私たちがそのティーという参加者を捜す必要があるんだ?」
「え? 何をおっしゃるのですかシズさま?」
シズさんは不思議そうな表情を浮かべ、陸も表情こそ笑っているようなままではあったが、その声と雰囲気からはありありと困惑の気配が感じられる。
「あ、あのちょっと!」
「なんですかキョンさん?」
微妙な空気が流れる二人に慌てて俺は待ったをかけた。
「あのー、何か話が食い違ってるみたいですから、さっきまでの俺たちのように、その、情報交換などをしてみては……」
「そうだな、いい考えだ」
いやマジで驚いたね。
ぱっと見、線の細い好青年風の見た目のシズさんだが、正面からじっと見られたときの圧力はものすごい。まあ、すぐに表情を緩めてくれて、それと同時にその得体の知れない圧力は霧散したわけだが、シズさんが凄腕ということは雰囲気だけで、素人の俺にもわかるほどだった。
まあ、そんな俺の感想はさておき、シズさんと陸は情報交換をはじめていた。
一番最初に驚いたのが、シズさんが実は王子様だということ。
人は見掛けによらんとよく言うが、まあさっきまで普通に話していた相手が元王子様だー、などいきなりいわれてもそれは凄い、ぐらいの感想しか出てこない。
ちなみに驚いている俺の近くでアリソンさんが「ここにも王子様ねー」などと気楽に言っていたのはやたらと印象に残った。
また話が逸れちまったな。
いつもバギーで旅をしている。そのバギーは戦場跡でシズさんが拾った物。拾った時期はシズさんが陸と出会う前のこと。
ここらへんまでは二人の情報はまったく一緒だった。
――が。
「そのバギーは一度整備に出したことがありまして」
「いや、陸。あれは整備に出したことなんかないぞ」
そこから先の陸の知識はシズさんが一切知らないことだった。
シズさんの旅の目的地である国の少し前でバギーの調子が悪くなり、整備に出したことがあること。
その国で一人の少女と出会って、すぐに死に別れてしまったこと。
その後、旅の目的だった国には着いたが、その旅の目的――その国で行われている命懸けのトーナメントで生き残ったたった一人に与えられる王との面会の機会を利用した王の、
つまりシズさんの父親の暗殺、はこの会場にもよばれているキノというパースエイダー(俺たちの世界でいうところの銃のことらしい)使いに敗北して、果たせなかったこと。
そのキノさんが代わりに王様を殺してしまったこと。
それで色々吹っ切れたシズさんは自分の居場所を求めて旅を続けることにしたこと。
その旅の途中で別の大陸に渡るために大きな船に乗り――色々あって新しくティーという少女もいっしょに旅をすることになったということ。
携帯から。
さるさん発生したので、代理の代理よろ。
改行エラーに気をつけてください。
221 :
代理の代理:2009/07/02(木) 01:28:06 ID:3Oz4F623
「……以上が私がシズさまのお側で見聞きしてきたことです」
「そんな……そんな……」
陸の話が終わる少し前から、シズさんは呆然と同じ言葉を繰り返している。
まあその気持ちはわからんこともない。
命をかけても果たそうとしていた目的が、自分の手で果たせないことがわかってしまったんだからな。
「シズさま……」
「……いや陸、大丈夫だ」
そんな全然大丈夫じゃなさそうな顔と死にそうな声でシズさんはぼそりと言う。
それがあまりにも辛そうに見えたので、ついつい俺は言ってしまったのだ。
――言ってはいけなかったことを。
「しかしどうして私は覚えていないのだ……」
「あ、あのシズさん……」
「……なんだい? えーと……」
「あ、キョンです。あのおそらくの話なんですが、シズさんはさっきまで陸の話していたことを覚えていないんじゃなくって知らないだけなんだと思います」
「……? どういうことだいキョンくん」
「俺たちは別の世界から集められたみたいですけど、例えばシズさんとそのティーっていう子、アリソンさんならえっと……ああ、リリアさんとかいうように同じ世界から呼ばれた人もいますよね?」
「ああ、そのようだが……」
「ひょっとしたら、の話になるんですが、その人たちも微妙にずれた時間から呼ばれた可能性もあります」
「「「は?」」」
俺の言葉にシズさんのみならず、アリソンさんやマオさんも俺の言葉に不思議そうな表情を浮かべた。
「ちょっとキョンくん、それってどういうこと?」
「さっき俺が探しているのはハルヒって奴と長門に朝比奈さん、古泉の四人だけと話しましたよね?」
「ええ、そうね」
一番最初に疑問の言葉をぶつけてきたマオさんに俺は答えを返す。
「まあ、名前の載ってない9人がどういうやつかはわからないのでそれは別としますが、実際に合流したいのはその4人だけって言うのには間違いはないんです。けど、実はもう一人この名簿には俺の知り合いが載っているんですよ」
「何で合、……ってひょっとして」
「はい、多分それで正解です。昔俺はそいつ、朝倉涼子に命を狙われたことがあるんですよ。ってまあそれは今は関係ないですね。問題なのはそいつは俺に襲い掛かってきた時に、別の奴に返り討ちにあって、間違いなく死んだはずなんですよ」
「……でも確かに名簿に朝倉涼子の名前はある」
はい、とシズさんの言葉に俺は頷いた。
「異世界の移動とタイムスリップ、どっちのほうが高い技術が必要なのかは俺にはわかりませんけどね。それでも間違いなく、どちらも可能にする技術って言うのは存在しているんです。
だから多分朝倉もその返り討ちにあって消滅するより前の時間からよばれているんじゃないかな、と」
「同姓同名の赤の他人、その可能性は?」
「その可能性もあるとは思います。でも……」
「いや、すまない。今のはただの揚げ足取りだな」
そう俺に謝るとシズさんは苦笑した。
「だからシズさんも無事に脱出しましょう。まあ確かに自分の手で目標を果たせないっていうのは辛いことかもしれませんけど、逆に考えたら目的が必ず果たされることがわかってるんだからラッキーじゃないですか!」
「そうだな、無事に帰れば……」
うんうんとシズさんは自分を納得させるように何度も頷いた。
「はい、じゃあ話はここまで!」
ぽん、と軽くマオさんが手を合わせ、立ち上がった。
「お互い探す相手もいることだし、とっとと知り合い見つけて元の世界に帰りましょう」
「ええ、頑張りましょう」
「そうね」
俺とアリソンさんもよっこいしょと続けて立つ。
「ほらほら、シズもいつまで座ってんの」
やっぱりまだ立ち直りきってはいないのか、座り込んだままのシズさんにアリソンさんが近付いていき、その手を引っ張って半ば無理矢理に身を起こさせた。
「ああ、そうだな……陸、こっちへ」
「はい、なんでしょう」
立ち上がったシズさんは陸を呼ぶ。
さすがというか、なんというかシズさんに呼ばれるや否や、再び俺たちの先頭を行こうとしていた陸は最後尾のシズさんの下へと素早く駆け寄った。
「あっと、そういえばマオさん」
「何、キョンくん」
「さっきのホテルの方はどうしましょう
「あーっとそうね……あの二人にも聞いて――」
「――どわっ!」
不意のことだった。
何を思ったのかマオさんが俺の背中を引っ叩いたのだ。
当然何の心構えもできていなかった俺はバランスを崩してつんのめり、地面に熱烈なキスをする羽目になった。
「マオさ――」
マオさん、何をするんですか! そういうつもりだった俺の言葉は……その半ばで遮られた。
「……は?」
え? 何がどうなったって言うんだよ。
いや、何がどうなったか、なんてことは目の前の光景を見りゃあわかる。
「――何を」
だから俺は単に判りたくはなかったのだろう。
――今となっては目の前、実際には俺の少し後ろで何が起きていたかなんてことを。
「何をやっているんですか! シズさん!」
ああ、そうさ。
わかりたくなんてなかったさ。
――シズさんがアリソンさんの胸に「刀をつきたてている」理由なんてものはな!
陸の姿はいつのまにか消えている。
シズさんが持っていたデイパックがいつのまにか地面に置かれているところを見ると、ひょっとしたらあの中だろうか。
アリソンさんの表情は背中を向いていて見えない。ただ、ぴくぴくと体が震えているからまだ死んではいないのだろう。
――そして、シズさ、シズの表情は静かだった。無表情のままでアリソンさんを突き刺していて、そして無表情のままでその体から刀を引き抜いた。
その次の瞬間。
聞き覚えのある轟音が俺のすぐそばで聞こえた。
マオさんが銃をシズ目掛けて発射したのだ。
だが、その一撃は当たらない。アリソンさんから刀を引き抜くや否や、シズは軽く横に跳び下がっており、代わりにシズが直前までいた地点の後方の道路がバシッと爆ぜた。
「――ほう、早いね」
「どういうつもりよ?」
感心したような声のシズに冷たい声を返すマオさん。
「どういうつもり、か。別に言うまでもないと思うが」
「殺し合いに乗っていないんじゃなかったの?」
「さっきまでは乗っていなかった、だな」
平然というシズに俺は思わず怒声を浴びせていた。
「なんで! 何でアンタはそんな馬鹿な心変わりをしたんだよ!」
「なんで、か。理由は君が言ったんじゃないか」
「……は?」
「我々は別の世界、別の時間から呼ばれているんだろう?」
「……ああ、多分な」
「そして、あの人類最悪とやらは最後の一人は元の世界に返すと言っていた。
さて、じゃあ聞こう。仮にあの人類最悪が予想もしない方法でこの場から逃げ出すことができたとしても、私たちは元の世界、元の時間に帰ることができるのか?」
「できる!」
「君ができる、じゃないんだろう。なら一番良い方法は優勝して確実に元に戻してもらうことだ」
「そんなわけ――」
「キョン君」
なおも言い募ろうとした俺をマオさんが止めた。
「こういうバカには何を言っても無駄よ。この馬鹿の相手は私がするから君は逃げておきなさい」
シズから視線を逸らさぬままでマオさんは俺に逃げろといった。
「何で……」
「とりあえず、君はお姉さんが守るって約束したからね〜。人質とかにされたら困ったちゃうわけよ」
――言葉こそは優しいが、それは足手まといは引っ込んでいろ、というマオさんの宣言だった。
もう一度言わせて貰おう。俺は至って普通の男子高校生だ。宇宙人でも未来人でも超能力者でもないし、そうなりたいとも思わない。
ただちょっとばかり、周りが特殊すぎるだけだ。ライオンの檻の中に一人迷い込んだネコみたいな存在なんだよ、俺は。
だからこんな場面で役立たずになるのは当然だし、逃げたほうが良いってことぐらいはそんなに良くない俺のあたまでもわかるさ。
――けどな、だからってここでおとなしく尻尾を丸めて逃げ出せるほど、俺は人間ができちゃいねえんだよ!
「うおおおおおぉぉっ!」
「「な?」」
シズとマオさん、二人の驚きの声が重なった。
おそらくはマオさんは俺が指示を無視して、前方へと駆け出したことと、もう一つのある事実に。
そのもう一つの理由にはおそらくシズも驚いたことだろう。
マオさんにせよ、シズにせよ、最初に陸を追いかけて二人に合流した時に俺の走るところは見られている。別にあの時全速力で走っていたわけじゃあなかったが、それでも合流した時の息切れ具合なんかから、オレの全速力はおおよその検討はついていたことだろう。
だが、今の俺のスピードはそれよりはるかに速い。
別にタイムを計ったわけじゃないから正確にはいえないが……オリンピックの短距離走選手ぐらいのスピードは出ているという自覚はある。
もちろん普通の学生に過ぎない俺がそんな運動能力を持ち合わせているわけじゃない。
そこまでの速度を出せるのは偏に俺の支給品のおかげだ。
――発条包帯(ハードテーピング) 。
超音波伸縮性の軍用特殊テーピングとかいうぱっと見、雑誌の裏とかに載っているお手軽健康グッズみたいな代物だが、その効果は本物だった。
シズと倒れているアリソンさん、この両者のいる場所までの十数メートルの距離が、あっという間に短くなっていく。
そしてその注意書きにも嘘はなかった。
(キツイな……)
一歩を踏み出すそのたびに足元からものすごい衝撃が突き上げてきて、気が遠くなりそうだ。
これは発条包帯(ハードテーピング) の注意書きに書かれていたことだった。
要するにこれを使えば筋力は増大するが、道具によって筋力を引き上げるだけで、俺の筋肉まで強くなったわけじゃない。つまり自分の力に耐え切れなくなるのだ。
シズの場所まで後数歩。
ああ、わかっているさ。いくらこんなもんで強くなったところでアイツみたいな元々非常識的な相手に勝てるわけないってことぐらいはな。
――だから俺の狙いは最初からただ一つ。
アイツの間合いに入ったのか、シズの奴がマオさんからも視線は外さずに、それでもこちらにも注意を向けて刀を構える。
「うおおおぉぉぉ!」
「……しまっ!」
そのまま俺は奴の側へと近付くと、その側に倒れているアリソンさんの側へと駆け寄った。近付かないとわからないぐらいだが、アリソンさんの胸は確かに上下に動いている。
よし、生きている!
俺はそのままアリソンさんを抱えあげる。
発条包帯(ハードテーピング) は足の他に腕にも巻いている。
本来の俺の力なら絶対に無理なそんな芸当も今の俺なら簡単にできる。
「マオさん! 後は頼みます!」
俺の狙い、それは最初からアリソンさんを助けることだ。
何だかんだいって、マオさんもいい人だ。
あのまま俺一人が逃げ出したところで、シズが倒れたアリソンさんを盾にするように戦えば苦戦は免れないだろう。
だが、アリソンさんさえ助けてしまえば後は銃対刀、マオさんの優位は揺るがない。
後はここから距離をとって、アリソンさんの傷を何とかすれば――
「キョン君、危ない!」
「え? うわ!」
油断してしまったのだろう。
マオさんの声とほぼ同時に俺の足に何かがぶつかった。普段ならたいしたことはないその衝撃も、今の俺のバランスを崩すには十分すぎる威力があった。
走っている最中にバランスを崩せばそいつは倒れてしまうに決まっている。
だが、俺の両腕はアリソンさんを抱えることに使われている。
――その結果。
「う、うううう」
「……悪いが逃がすつもりはない」
俺は手をつくこともできずに地面へと倒れこみ、体の前方を強かに打ちつけた。
アリソンさんを離さなかった自分の根性は正直、自分自身を誉めてやりたいぐらいのもんだが、今はそんな場合じゃない。
ふと見ると、俺の側にそれほど大きくはない石が転がっていた。
シズは咄嗟にそれを蹴飛ばすか何かして俺にぶつけたのだろう。
「あなたも下手な動きは見せないで貰おうか」
「……この」
シズの言葉にマオさんは悔しそうに唇をかむ。
あくまでもマオさんを警戒しつつ、時折ちらちらとこちらを見ながらシズはゆっくりとこちらに近付いてくる。
こっちを人質にしようというつもり、なのだろう。
それがわかっているなら逃げりゃあいいんだろうが、足が痛い。
……別にガキみたいな泣き言を言っているんじゃないぞ。元々発条包帯(ハードテーピング) をつけていなけりゃ俺が全速力で走ったところでシズからは逃げられない。
だが、この足だと逆に自分の力に耐え切れないのだ。
せいぜい走れて数メートル……って何で気がつかなかったんだよ、俺。
数メートルも走れるんなら何とかなるじゃないか。
「……マオさん、勝ってください」
「……まだ!」
後もう少しだけ持ってくれよ、自分に祈りながら俺はもう一度駆け出した。
シズの舌打ちに少し遅れて、銃声が響いた。
マオさんの援護射撃だろう。明らかにシズの注意が逸れたのがわかる。
「……っ、はぁ」
「くっ、しまっ!」
精一杯走ってもこの程度しか進めない数メートルの距離。
だが、その距離を走り終える前に俺がどうするつもりなのか理解したらしいシズが悔しそうな声を出す。
――俺のいる場所、そこはつい先ほどアリソンさんとシズが渡ってきた橋の上だ。
当然ながらその橋の下には川が流れている。
(痛くないぞ、痛くない)
覚悟はしていたがやはり十メートル近いその距離は恐怖だ。
だけどそんな事いっている場合じゃねえだろうが!
俺は一気に橋から身を投げた。
さっきの俺と同じかそれ以上の速度で水面が近付いてくる。
「――っ!」
そして俺の意識は暗転した。
◇ ◇ ◇
「――勇敢だな」
「そうね、あの子はアンタやクルツみたいなのよりいい男になるんじゃない?」
キョンが橋から身を投げた直後から、二人はすでにお互いしか見ていなかった。
橋から身を投げた二人が気にならないといえば嘘になるが、お互いに理解していた。
――他のことに気を配ってしまえば、死体になるのは自分のほうだと。
「さてと、じゃああの子を助けるためにも、ここでのんびりとアンタみたいなバカと一緒にいるつもりはないの」
「奇遇だな。私も少しでも早く、自分の為すべき事を為さねばならない」
言葉と共にマオは銃を構えて狙いを定める。
シズは刀を構えて、じりじりとマオとの間合いをつめていく。
――死闘がここに始まった。
【C-4/橋の近く/一日目・早朝】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:気絶、両足に擦過傷、中程度の疲労
[装備]:発条包帯@とある魔術の禁書目録
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜1個所持)
[思考・状況]
0:……(気絶中)
1:この場から離れ、アリソンを治療する。
2:SOS団と合流し、脱出する。
3:マオやアリソンの知り合いも探す。
[備考]
※気絶は落ちたショックで少し気が遠くなった程度、それほど時間はかからずに目が覚めるでしょう。
【発条包帯@とある魔術の禁書目録】
学園都市製の超音波伸縮性の軍用特殊テーピング。
筋肉を補強することができる。
名前からすると関節を外側から引っ張る人口筋肉のようなものだと思われるが、
「高機動では肉離れを引き起こす」と言う記述からすると、筋力そのものも強化しているらしい。
駆動鎧に使われている身体強化を行う部分のみを取り出したようなものであるとのこと。
結果として、増大した力に使用者自身が耐えられず、長時間の使用は使用者自身にダメージを与える。
【アリソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:気絶中、右胸に背中まで突き抜けている傷。右肺損傷。
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カノン(6/6)@キノの旅、かなめのハリセン@フルメタル・パニック! 、カノン予備弾×24
[思考・状況]
1:……(気絶中)
2:リリア達と合流。
[備考]
※胸の傷は早急に手当てしないと命に関わります。
【シズ@キノの旅】
[状態]健康
[装備]贄殿遮那@灼眼のシャナ
[道具]デイパック、支給品一式、陸、不明支給品(0〜2個)
[思考]
0:生き残る。
1:優勝して、元の世界元の時間に戻って使命を果たす。
2:メリッサ・マオを殺す。
3:未来の自分が負けたらしいキノという参加者を警戒。
4:陸はできれば何も知らせずに元の世界に返してやりたい。
[備考]
※ 参戦時期は6巻『祝福のつもり』より前です。
【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:モスバーグM590(6/9)
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)
[思考・状況]
1:シズを倒す。
2:キョンを守る。
3:仲間達と合流。
4:自身の名前が無い事に疑問。
[備考]
※四人とも参加者は異なる世界、異なる時間から呼ばれていると全員判断しています。
※四人はフルメタル・パニック、リリアとトレイズ、キノの旅、涼宮ハルヒの憂鬱の世界についてある程度知りました。
※それぞれの知り合いの情報を交換しました。
245 :
244:2009/07/02(木) 01:49:47 ID:qyMz7NxD
>編集の際は以下を使用してください。
× 編集 ⇒ ○ wiki転載
投下乙です。
おお、見事な世界観のズレ……w
しかもそれがシズをマイナス方向に生かせてマーダーにさせるとは……なんて無情
キョンも男らしく頑張ったw
シズとマオはどうなるかな?
楽しみな引きでした
ですが少し気になったのはアリソンの傷かな。
肺まで傷をおってると流石に治療は厳しいような……
しかも橋から落ちてますし治療できそうもない傷な気が……
もう少しダメージを軽くすればいいのではないでしょうか?
投下乙。
シズは危険人物に逆戻りかー。
マオ姐さんもスイッチ入って、さてどうなるか。
アリソンは遺言残せるかどうか、ってとこかなー? 南無。
お待たせしました。予約分、投下します。
調査中。調査中。調査中。
僕、黒桐幹也が温泉施設の調査を開始したのは、姫路さんと出会ってからすぐだった。
今は独り。どうしても入りたくないということらしかったので、彼女は入り口に残している。
無理もない。魔窟としか思えぬ"ここ"で彼女に何かがあったのだということは確実なのだ。
きっと入り口で立っているだけで精一杯なんだろう。
だから孤独に調査する。混乱の極みにいた彼女を置いて、独りで。
さながら探偵気取りだ。以前に橙子さんが言ったからかい混じりの言葉を思い出す。
確か……。
『……黒桐、本気で探偵でもやってみないか? すごく受けるぞ、きっと』
こんな感じだった気がする。ああ、そうだ、間違いない。こうだ。
けれど今は周りに何と言われようとも"調べる"しかない。
それが今の自分の精一杯なのだから。
「で、これか……」
見つけたのは、死体二つと鷹の骸。そして不気味に切り裂かれたマネキンが一つ。
派手に争った形勢が無いのは"被害者が抵抗しなかった"のか、それとも"抵抗出来なかった"のか。
真実は定かではない。定かではないからこそ、少しばかり恐怖が表れる。
「橙子さんがいればよかったんだけれど……」とつい呟く僕の胸には、一抹の不安と不満が。
これが警察や本物の名探偵ならば、全てが簡単に解決するのかもしれないけれど、如何せん自分は一般人。
"普通"であるから、現状のこの奇妙な状況を見る"だけ"では――――謎は謎のままだ。
「……まったく」
腹立たしい、と心底そう思う。
いつこもうだ。自分が暢気にしている間に、全てが恐ろしい方向へと進んでいく。
勿論それを防ぐ為にも自分は様々な調査を独自に行ってはいるが、それでも速さが足りないのが常だ。
気付いたときには何もかもが遅すぎる。様々なものが及び知らぬところで進んでいる。
それは"生き残りを命じられ、こんな場所にいる今この時"こそがその証明になっていた。
「……駄目だ。今は諦めよう」
遅すぎたからこそ、何が起きたかは現場を見ただけで理解することは出来なかった。
屍や大量の血などといった、視覚的にも辛い現状を眺めるだけ眺めても、何も起こることは無い。
やはり、ここは姫路さん本人に全てを教えてもらうしかないのだろう。
――――けれど、今の彼女には何を訊いても無駄だろう。
というよりも、今の彼女に対して何が起きたのかを訊くのは良心が痛む。
何せ、酷かった。
彼女は精神的な傷を負ったようで、まともに喋れる状態じゃあない。
それどころか目の焦点が合わさっておらず、表情も虚ろだった。
何かを尋ねても震えるだけ。この施設に入ろうとしたときは、首を横に激しく振って嫌がるばかり。
時間をかけてようやく搾り出したのは、彼女の名前が"姫路瑞希"である事だけ。
つまり、そんな境地に追い込まれる程に、ここで起きた出来事は酷いものだったということだ。
だとすれば、安易に尋ねるのは正道に反すると確信出来る。間違いなく、拙い。
今すぐに犯人が特定出来ない事や、真相に辿り付けない事には悔しさを覚えるけれど、仕方が無い。
今は彼女の精神状態の安定が優先だ。
「……」
無意識にだったのだろう、気付かぬ内に僕は無言で拳を握り締めていた。
目の前の現実に反撃の拳を繰り出すかのように、硬く、強く。
そうだ。この世界で自身の求めるものを手に入れるためには、拳も想いも硬くなければならないのだろう。
必要なのだ。護る為の、力が。
「結局、またこんな道だ」
そう。僕は結局、またも同じ道を歩き出そうとしていた。
及び知らぬ場所で"何かをされた"姫路さんを保護したとき、"必ずや吉田さんの二の舞にはさせぬよう勤めよう"と考えたのだ。
自分独りの力では護りきれなかった彼女の、その最期の言葉が封じ込められたレコーダーは、未だ再生する事は出来ない。
事実を確認出来る程、己の力と心は急激な成長を迎えたわけじゃあない。今でも、弱いままだ。
生き残りをかけた"ゲーム"開始から数時間。僕は、"黒桐幹也は未だ何も成し遂げてはいない"。
それでも。実績は無くとも、自身のその望みだけは叶えたい――――せめて、今度こそは。
だけど、このような凄惨な状況を生み出す人間がいるとなると、不安要素は更に増える。
増えたのは何に対しての不安か。答えは簡単、身内に対してだ。
あの"白純里緒"以外にこの様なことが出来る人間がいるとすれば、事態は悪化の一途を辿っていると言わざるを得ない。
式達がただで死ぬことは決して無いとは思うけれど、それでも面倒なことになっているのは確かだ。
状況が状況、場所が場所だ。どこで何が起こっても、決しておかしくは無い。
どうしても今は、"もしも"を考えてしまう。
例えば"もしも式が強力な力を持った危険人物と出会ったら"といった具合にだ。
自分の周りの人間はそんなものに簡単に屈しないとは思うし、そう信じたい。
だが不安を隠しきれない自分がいる。それは間違いない。
更に、自分は再び茨の道を選ぼうとしている最中だ。
僕は馬鹿な男だけれど、この状況下で二束の草鞋を履くことでどのような危険が付き纏うのかだけは既に理解している。
下手を打てば全てを失い尽くすことになるだろう。全てを取りこぼした挙句、自身の命さえも落とす、そんな未来が見える。
別に自分は"未来を視ることが出来る魔眼"を持っている"わけではない"けれど、それ位の事ならばありありと想像できるのだ。
しかし、そんな未来へとただただひた走ることだけは許されない。
姫路さんを、そして未だ再会出来ぬ式達を第二の吉田さんにはしたくはない。
それだけは、それだけは絶対に、回避しなくてはならないんだ。
その為の力を求めた僕は――――袋から武器を取り出した。力を形として見ておきたかった、それだけだ。
相変わらず今の自分では抜けそうに無い刀に、相変わらず今の自分では聴けそうに無いボイスレコーダー。
僕の袋の中に入っていた武器はこの程度。まるで"それらを扱う事が出来ない"事を"それら自身に笑われている"様だ。
――――でもそんなものはとんだ被害妄想だ。ありもしない嘲笑を一蹴して、僕は元の袋に戻す。
そしてその手はそのまま、血塗られた真紅の袋へと伸びた。そう、それは吉田さんの遺品――――彼女のデイパックだ。
その中から僕は一つ、この凄惨な場に似合い過ぎる物体を取り出した。
右手には、斧の様な形をした武器が在る。その名はブッチャーナイフ。精肉業者が用いる仕事用具だ。
肉を叩き斬る為の野蛮な形のソレは、この場には似合えども――――本来の持ち主の持つ穏やかな雰囲気には似合わなかった。
吉田さんが生きていたならば、こんなものを持って自分と共に走り回ることになっていたのだろうか。まるで想像出来ない。
それに結局あの現場では、彼女がこの武器を使って争った形跡は全く見られなかった。
このナイフは彼女の手に渡りながらも、結局は未だ他人の血を啜ってはいない、というわけだ。
彼女は最期まで無抵抗を貫いたと言うことだろうか。それとも、抵抗する間もなく殺されてしまったか。
これは温泉施設の謎に通じるものがあるけれど、優しかった彼女のことだ――――前者だろうと、なんとなく思う。
そう。そう思うからこそ、彼女をそんな状況に追い込んでしまった自分が許せない。
武器は一応、ある。あの長すぎる刀の様な、自分の手に余るようなものじゃあない。
武器を持っていない彼女の代わりに戦う、その為の武器はこの手の中に存在している。
後は、これから実際にどう動くか。ただそれだけだ。
「……よし」
そろそろ戻ろう。姫路さんを独りで待たせているのだからもたもたしてはいられない。武器をしまって出口へと歩みを進める。
結局今回の謎は解けなかったけれど、いつか姫路さんが自分から話してくれることを祈ろう。そう願って調査を打ち切った。
――――今度こそ、今を共に歩む少女を護りたい。
◇ ◇ ◇
黒桐幹也と名乗った彼が温泉施設の調査を開始してから、十数分は経過しただろうか。
それでも姫路瑞希は、未だ自分を捕らえる枷から開放されずにいた。
枷とは即ち、恐怖である。
騒動の中で放り出された後に出会ったあの青年は、優しい人間だった。
裸で物言わぬままに放り出されていた自分を保護し、言葉を交わそうとしてくれた。
泣き喚く自分を、何も言わずに受け止めてくれた。そんな人。
それは理解している。黒桐幹也が自分に危害を加えなかったことを、姫路は理解している。
けれど、それが逆に怖い。その優しさは、今の瑞希にとっては恐怖にしかならない。
どうして自分なんかに優しくするのか。朝倉涼子のように裏があるのではないのか。
今隣に立っているこの男の人が、隙在らば酷い事をするのではないかと、そう考えてしまう。
朝倉涼子も最初は優しかった。温泉で風呂に入る直前までは、優しかったのだ。
だがそんな優しかった彼女は、他人が及び知らぬ場所で本性を剥き出しにし、襲い掛かってきた。
頭を、最後には首を掴まれ、挙句湯の中に沈められて殺されかかったのだ。
死に対する恐怖と朝倉涼子と言う人間に対する恐怖が、姫路を同時に責め立てる。
その恐怖はパニックとなり、更なる恐怖へと進化し、彼女の心を深く深く抉ることになった。
そうした様々な要因によって顕現された怖れが姫路瑞希の心を蝕んでいくのに、そう時間は掛からなかった。
彼女の瞳に写る世界は、畏怖を抱かざるを得ないものへと変化している。
体は震え、まともに身を動かすことも出来ない。体が動くならもう逃げてしまいたい。
逃げて、独りになって、それからどうするかは考えてはいないけれど。
恐怖は消えない。周りの全てが自分に対する敵のように思える。
もはや病だ。彼女をゆっくりと死刑台へと運ぶ、そんな病。
彼女を止められる者は、いるのだろうか。
◇ ◇ ◇
温泉施設から退出した僕が最初にしたことは、姫路さんに温泉の浴衣と誰かの衣服を渡すことだった。
前者は施設で客が着る為の品。そして後者は女湯の脱衣所で見つけたものだ。彼女の物かもしれないと思って持ってきたのだ。
目の前に差し出されたそれを見た彼女は、最初は躊躇していたのだが、一寸の時間を置いてゆっくりと受け取ってくれた。
本人曰く「……こっちは、私の、です」とのこと。つまり後者の衣服は彼女の所有物だったわけだ。
ナイス僕……と思っていたけれど、それよりも今は、まともに喋ることが出来なかった彼女がそれを教えてくれたことに注目したい。
これは彼女が僅かにでも回復したという証なんだろうか。雀の涙ほどでも近づいてくれたのだろうか。そう考えて、いいんだろうか。
しかし相変わらず彼女は恐怖に身を蝕まれているようで、その立ち姿は未だ心許ない。正直危なっかしい。
下手に触れば粉々に砕け散ってしまいそうだ。虚無が浮かぶ瞳から察するに、彼女の心の壁を無くすにはまだ時間がかかりそうだ。
(余程、酷い目に合わされたんだな……)
犯人だけは解らなかったものの、それでも彼女が疲弊の一途を辿っていることは明白だ。
しつこいようだけれど、そんな状態の彼女に対して何があったのかを単刀直入に尋ねるのは愚の骨頂だ。
心に傷を負っている者を追い立てる行為だけは避けたい。だが、そうなるとどうすればいいのか。
このまま自分と行動を共にする"だけ"では、きっと彼女は何も変わらないだろう。
僕としても、可愛らしい女の子のそんな姿を見るのは辛い。だから。
「少し……お話をしようか。僕のこと、僕の身の回りのこと、色んな事を、さ」
「…………おはな、し?」
「そう、お話。無理なら相槌を打たなくても良いから、少しだけ。ああ、その前に服を着るのが先か」
「…………良い、です」
着替えが先とは思ったものの、彼女が乗り気になっている内に話を進めようと、僕は壁に背を凭れて話を始めた。
彼女が未だ恐怖に囚われているというならば、自分が助ければ良い。そう判断したから。
まずこの凄惨な状況で放り出された彼女はきっと、否、確実に他の人間を現在進行形で怖がっている。
彼女にとって危険な存在であると繰り返し言ったところで、彼女が完全に心を開いてくれることはないだろう。
だから事態を解消する為に――――このような手を打つ。一方的にでも話をすることにする。
(これで、少し落ち着いてくれれば良いけれど……)
僕が話題にしたのは、やっぱり周りに住む奇妙な人間達のことだった。というかそれくらいしかなかった。
どこか世間ずれしているような恋人、物知り中の物知りで話の長い上司、最近態度が妙におかしい気がする妹など。
物事から恐怖を感じ取っている少女に対する話題としては、少々パンチが効きすぎただろうかと少し危惧しつつ。
けれど現状、しつこいようだけれど話題はこれくらいしかないんだ。許して欲しい。
――――少なくとも、ここに来てから起こった事件については、今は喋る気にはなれなかった。
それに彼女もそれを望んではいないだろう。余計に不安を倍増させるだけだ。
だから、今はただ平和な話をするだけだ。
「で、僕の上司で橙子さんって人がいるんだけど……もう本当に話が長いんだよあの人。
どこぞの校長先生かってくらい饒舌でね。もうちょっと色々と整理してから話してくれれば良いのにさ。
でも橙子さんはただ話が長い人って訳じゃなくて、凄いんだよ。色々と物知りで、そこは凄い。
それに実は魔…………あ、これは言っては駄目なんだったな。ごめん、忘れて欲しい。
まあとにかく、色々と多趣味なんだよ……見ていて飽きない人さ。君に実際に見せてあげたいくらいに」
橙子さんの話を長いとは言ったが、今の僕も相当だ。しかし反応は少ない。
話題そのものに対して好感触ではないのか、それとも信頼されていないのか。
勝手に話題にされた橙子さんには申し訳ないが、前者の要因もあるとは思う。
いや、けれどそれでもやはり、信頼されていない線が濃厚なのだろう。
こうして話している間、彼女は渡された服を着用しようとするどころか地面に放置して触ろうとしなかった。
自分の服だというのに、普通ならばこれは不可解だ。普通の状況、ならば。
嗚呼、やはり心の壁が分厚いことを実感できる。
だが今すぐにと焦らなくとも良い、とも思う。言ってみればこれは長期的なリハビリだ。
心を抉らぬように少しずつ少しずつ距離を縮めていく。そうして、信頼関係を築く。
一気に距離を詰めて、その所為で台無しになっては元も子もない。
いつか自分にも微笑み返して欲しい。そう思うから――――僕は長期戦を選んだんだ。
(僕は、吉田さんの影を追っているのか……?)
そんな時、こんな考えが押し寄せてきた。
ひょっとして自分は、姫路さんを助けることによって吉田さんの件に満足しようとしているんじゃないか。
失敗した自分を無かったことにする為、何も知らぬ被害者にすりよってリセットしようとしているんじゃないか。
一度失敗した計画にもう一度チャレンジしたいが為に姫路瑞希を利用しようとしているんじゃないか。
吉田さんの幻を、姫路さんに重ね合わせて。
まさか、僕は――――。
(……なんて、ね。そんな馬鹿な。温泉での誓いを忘れたのか、僕は)
いや、違う。本当は気付いている。こんなものは違うと、確信している。
自分は周りの近しい人間を失うのが怖いから、こうしているだけなのだ。
我ながら自分は人並みに臆病であると思う。思っているから、何もかもを失いたくない。
誰かが死んでしまうのが怖いから、こうして姫路さんを護ろうとしている。
ただ、それだけ。
(どちらにしろ独善的かもしれない……けれど、"普通"はそうだ。それで、良いんだ)
どんなちっぽけな理由でもかまわない。
自分が悲劇に酔わなければ、他人を使ってどうこうしようなどと考えない限りはそれで良いんだ。
この少女を自分の慰めに使うつもりは無いのだから、それでいいじゃないか。
普通の人間だったら、誰かが死ぬのは嫌なものなんだ。
ただ、それだけ。
(だから、ただの"それだけ"の為に、僕はいくらでも時間を費やそう)
自分の隣に立つこんな可愛らしい少女が、苦悶の表情を浮かべて死に至るのは見たくない。
式達はきっと大丈夫だ。自分で自分のやるべきことを見つけ、成し遂げて見せるはず。
あの先輩については心配だけれど――――今の自分ではどうにもならない。
故に今はただ、自分自身が出来る事をするだけだ。自分が、出来る、事を。
「……こく、とうさん」
そんな事を考えていた時。隣から聞き覚えのある声が聞こえた。
非常にか細い。元気を失った小鳥の様な、そんな危うさを秘めている。
声の主はやはり、姫路さんだ。
「何?」
「ごめん、なさい……」
「……何がだい?」
今にも消えてしまいそうな声で、彼女は突然謝罪を始めた。
僕はどう反応するべきか少し迷ったけれど、このまま会話を続ける事にした。
一体何を謝ることがあるのだろうか、という思いもあったから。
そうすると、姫路さんはゆっくりと口を開き、続きを紡いだ。
「私……貴方がっ、優しいって、わかってる、のに……」
「……のに?」
「……なの、に、怖くて……黒桐さん、優しいのに、怖いんです…………!」
「……え?」
「ごめんっ、なさい……っ! 嬉しいのにっ、私……」
ぼろぼろと、真珠の様な涙を流しながら、彼女は謝っていた。
涙と共に吐露されたのは、複雑な彼女の想い。そうか、君ももどかしい思いをしていたのか。
信じたい。そう考えていたけれど、信じられない。
やはり怖がられていたのだ、僕は。
美しい無償の愛、とまでではなくとも――――何を求めるとでもなく近づいた相手に対して恐怖を感じたのだろう。
僕が彼女と出会うまでのあの短い時間で、何か恐ろしいトラウマでも生まれてしまっていたんだろうな。
それなら。
「……大丈夫だ。もう一度言うよ、君に危害は加えない。それは、絶対だ」
僕は、全てを否定してみせる。
彼女が抱いた恐怖を、彼女が抱いた想像を、その全てを砕こうと、その為に否定する。
「大丈夫だから。君の考える様な、怖い人間じゃあないよ」と、更に言葉を続けて。
「君の事を出来る限り護りたい。そして帰ろう。こんな街からは帰って、全部元通りにしよう。
君は君の大事な人達と再会して、僕も僕の大事な人達と再会して、全部終わり。それを、目指そう」
簡単に言葉が届くとは、そうは思っていない。
けれどこれが自分の精一杯だ。今の自分が出来る事を、するだけ。
良かれと思ったことを正しいと信じ、行動に移すまでだ。
「だから、本当にゆっくりで良い。ほんの少しずつで良いから……一歩一歩、僕に歩み寄ってくれれば良い。
君のペースで、歩いてきて欲しい。僕はいつでも手を広げて待っているから。だから、心配しないで、良いんだ」
それが、良い方向へと向いたのだろうか。
「……はい」
なんと、不安定で崩れそうだった彼女が、僕に返事をしてくれたのだ。
気のせいだろうか? 虚ろだった瞳には、少しずつ生気が戻ってきているようにも思えた。
恐怖に囚われていた表情はほんのりと薄れ、可愛らしいものへと戻ろうとしている。
それでも未だ彼女の本来の姿ではないのだろうとは容易く予測できるけれど――――これは大きな進歩だ。
(やっぱりそうだ。人と人は通じ合えないわけがない……歩み寄れるんだ)
人と人とは歩み寄れる。今なら彼女を護りきれる。事態はきっと良い方向へと向かっていける。
これは驕りではなく、自信。妄信ではなく、決意。僕は一歩ステップアップ。そう確信出来る。
いまならやれる。彼女を護りきってみせる。ここまで出来たんだ、絶対にやる。やってみせる。
人類最悪とやらの思い通りにはさせない、と明確な反逆を唱える資格を意外にも早く得られたのだ!
「だから、行こう。僕達のペースで、少しずつでも良いんだ」
もうすぐ、夜が明ける。白んだ空を見上げながら、僕は姫路に語りかける。
思い描く理想の"いつか"へと彼女を導く為に。彼女の笑顔を取り戻すために。
姫路さんが、友達と笑って過ごせる日々を手に入れるために。
「――――姫路さん」
名を呼ばれた少女が、こちらを向く。
式や鮮花、橙子さんとは違うタイプの可愛らしい顔立ちが、こちらを。
僕はその可憐な花の様な姿がまた闇に引きずり込まれぬようにと願い、
「やっぱり落ち込んだ表情は似合わないな。君は笑った方が可愛らしいよ……皆、そう言うと思う」
視線にこう答え、なんとなく、片手をぽんと彼女の頭に乗せた。
すると、
◇ ◇ ◇
「……こく、とう……さん……?」
姫路瑞希の声に、黒桐幹也は応えない。
何度呼んでも、彼は無言のまま応えない。
答えは単純。自分が、そうさせた。
「……え、あ……ああぁ、あ…………?」
信じたい。彼ならば信じられる、そう思っていた。
姫路瑞希は朝倉涼子の幻影を振り払い、確かにそんな想いを抱くことが出来た。
彼は本当に優しい。上辺だけ取り繕って現れたわけではないのだ。
そう理解出来ていた。
はずだった。
「なんっ、な、んで……どうし、て…………」
話によると彼の周りには、Fクラスの住人のように個性的な面々が集っていたようだ。
その人たちは皆乱暴者ではなく、人を無闇に傷つけるような人たちではないと言う。
それは真実なのだろう。類は友を呼ぶ。だから、良い人の黒桐の周りには良い人が集まるのだ。
彼は深淵の深くに取り残されていた自分を、嫌な顔一つせずに掬い上げてくれた。助けてくれたのだ。
「こんなの……こんなのおっ! こんなのいや……なっ……のに!」
信頼に値する存在だった。そして相手も自分をそう思ってくれていた。
嬉しかった。自分なんかを気にかけてくれる、その心遣いが嬉しかった。
吉井明久のように優しくて、明るくて、度胸があって。
そんな黒桐幹也とならば、一緒に歩めると、そう信じていた。
彼ならば信頼しても良いんだって、そう思えたのに。
それなのに、何故こんなことになってしまったのか。
姫路はそれを、自分でも、理解出来ない。
「……どう、して…………!」
途中までは良かった。途中までは、良かったのだ。
彼の言葉は、凍てついていた姫路の心を溶かすには十分な熱を持っていた。
心優しい彼の言葉は、熱意は、彼女にとっての暖かな光となっていたのだ。
「だって、だって……わたし……わかってた、のに……っ!」
けれど、姫路は、それなのに、拒絶してしまった。
黒桐の優しさを拒絶し、排撃し、喪失してしまった。
自分の手で、全てを消し去ってしまったのだ。
「嫌、あっ……嫌、嫌ぁ! 嫌ああぁあぁあぁあ!!」
彼女は、逃げた。自分の足が動く限り、走って、走って。
現実を否定するように、自分の愚かしさをかき消したいが故に叫び、逃げる。
そうして遺されたのは、無言のままの黒桐幹也のみとなった。
◇ ◇ ◇
何故、こんな事になってしまったのだろうか。何を間違ってしまったのか。
薄れ行く意識の中で、僕はそんな事を必死に――――けれどどこか他人事のように考えていた。
何故なのだろう。彼女の頭にそっと触れただけ。それだけで運命は突如自分へと牙を向けた。
ただ自分は、姫路さんを信頼し、その思いが通じたようで嬉しかっただけなのに。
それなのに、何故こんなことになってしまったのだろう。
始まりは、僕の行動に対する姫路さんの反応からだった。
姫路さんに手を触れた瞬間、彼女は突如豹変した。載せられた手を拒絶するかのように僕を突き飛ばしたのだ。
壁に中途半端にもたれかかっていた所為で、僕はあのとき突然の衝撃に足がもつれてしまった。
彼女の頭の上に置いていた手は離れ、受身を取ろうと今度は地面に伸ばす。
だがその試みは失敗。物理法則に従い、僕は足を捻った挙句に頭を地面に打ち付けてしまった。
そしてその拍子に、持っていた吉田さんのデイパックまでもが地面に衝突。
衝撃によって、中からあの野蛮なブッチャーナイフが転がり落ちてきた。
そういえば姫路さんの事や自分の身内の事ばかり考えていて、きちんと鞄を閉めるのを忘れていた気がする。
そうか。今思えば、その時点で既に役者は揃ってしまったのか。
「姫路さん! ごめん、悪かった! 落ち着いてくれ!」
倒れた拍子に捻ってしまったんだろう。右足が激しく痛む。病院に行きたいくらいに。
けれど激しく取り乱す姫路さんを、僕は止めなければならない。だから我慢して、立った。
そうしてから改めて見た姫路さんの姿は酷いものだった。
何か見えない恐怖に追い立てられているかのように、両手で頭を抱えて叫んでいる。
「嫌、違う! 嫌あ……!」と言う辺りが、僕の聞き取れる精一杯。
今の彼女は、僕には見えぬ謎の"モノ"に追い立てられているといった具合だった。
その引き金は何だ。僕だ。多分、僕だ。
僕が行った行動が、恐らく彼女を豹変させるスイッチだったんだ。
そうでなければこの唐突な状況は何だというんだ。
両手で顔を覆ったり髪を掻き毟ったり、目を見開いて首をぶんぶんと振ったり。
こうさせたのは、僕以外でなくて誰だと言うんだ。
無神経だった。彼女が何かトラウマを抱いているのかもしれない、とは薄々思っていたのに。
それを乗り越える彼女を見たかった僕本人が、それを呼び覚ましてしまうなんて。
最低だ。最悪だ、僕は。どうすれば良い。どうやって責任を取れば良いんだ。
いや、今はそんな事はどうでも良い。今はまず、彼女を止めなくちゃ行けない。
「大丈夫だから!」
足の痛みを感じない振りをしながら、彼女に近づいて叫ぶ。
聞こえていないかもしれないから、届くようにと祈りながら叫ぶ。
彼女は相変わらず「だめえっ……たすけっ、助けてえっ!」と叫んでいる。
やっぱり、聞こえていない。僕はここにいるのに、僕がここにいるから安心して欲しいのに。
両手を振り回して何かに抵抗している彼女に、僕はやっと近づくことが出来た。
彼女が思い切り動かす両腕が僕の体を打つ。足の事もあって、バランスを崩して倒れてしまいそうだ。
というか既に拙い。このままだと倒れてしまう。何もしなくても足の痛みが酷くなってきたからだ。
バランスを崩しそうになりながら、僕は彼女が怪我をするのを恐れてその両肩をがっしりと掴んだ。
「ひっ……」と小さな悲鳴をあげ、目を見開いた彼女が動きを止める。止めてくれた。
だがそれも一瞬かもしれない。急いで彼女を安心させて、落ち着かせなければ。
それが僕に課せられた責任だ。僕が彼女を元に戻さないと。
「大丈夫だから! 本当に、大丈夫! 僕はここにいるから!」
そうやって意気込んで叫んだときだ。不運にも僕は遂にバランスを崩してしまった。
けれどこのまま倒れるわけには行かない。せめて彼女の体を離さないようにしなければ。
左手は彼女の左肩に置いたまま、転倒を防ごうと――――無意識に、右手が彼女の首を、押さえてしまった。
それがいけなかったのだろう。
遂に彼女の叫びは言語の体を成さなくなった。
あ行やら濁点やらのお世話になるばかりの、おおよそ彼女には無縁であっただろう絶叫。
どんなに怖い絶叫マシーンに乗ろうとも、どんなに怖いお化け屋敷に入ろうとも、絶対にこうはならない。
何かを間違った結果、言語化できない恐怖が津波となって彼女を襲ったのだ。
というより今ならその正体もわかる。きっと不用意に首を掴んだ所為だ。
温泉の中で首でも絞められたのだろうか。大体、そんなところだと思う。
映画でありがちな、体感速度が遅くなっていく現象が発生していく。
ゆっくりとした空間の中で、彼女は抵抗できない僕を再び突き飛ばす。そして両目を見開いて狂乱し、涙を流した。
地面に背と頭を打ち付けた僕は、目を閉じてその痛みに耐える。つい体を"くの字"に折り曲げたのがどこか情けない。
そして腹の辺りに謎の重量を感じて目を開いたとき、目の前に広がっていたのは信じがたい世界。
僕に馬乗りになった姫路さんが、両手で握ったブッチャーナイフを上段に振りかぶっていた。
その表情から見えるのは、喜びでも悲しみでもない。
狂気に飲まれた快楽殺人者のように楽しそうな笑みを浮かべているわけでもなかった。
相変わらずの、"恐怖"だ。着々と彼女の"触れて欲しくない部分"に突入した僕に対する、真の恐怖。
それを形にしたら、こうなる。
僕は動けない。体中には知る痛みと自分への情けなさ、それと少しの恐怖で動けなかった。
彼女は動く。全ての大本を絶とうと、ただただ握ったナイフを勢い良く振り下ろした。
不幸の幸いと言うか、ただ一つ安心できたのは――――彼女が"ちゃんと泣いていた"ことくらいだろうか。
何が間違っていたとか、今更復習する気にはなれない。
現実僕は間違えた。結局彼女を狂気の渦に飲み込んでしまったのだ。
何度も、何度も、僕は叩ききられた。
叩ききられる度、全身の痛みが逆に引いていくのを感じた。
もう麻痺してしまったのだろう。それとも、死の世界に逝く前の最期の情けか何かだろうか。
何度も、何度も、彼女は叩き斬った。
僕を叩ききる度、彼女が涙を溢れさせているのが解った。
けれどそれはきっと、死に行く僕に対して流しているわけではないのだろうとは、理解出来た。
僕は今どれ程までに酷い事になっているだろうか。
胸も肩も本当に痛い。上半身を一心不乱に斬られたのは覚えている。
恐らく彼女としては"どこの部位を狙う"とかいう発想は無かったのだろう。
目に付いた部分を叩く。ただ、それだけ。ただの、それだけの行動。
彼女に罪を犯させてしまったのは、愚かな、僕。
姫路さんが僕に心を開いてくれたのだと、勝手に思い込んで取った行動が全ての始まり。
それはつまり、僕が何も解っていなかったという証だ。
――――酷い男、だな。自惚れが……過ぎた。
◇ ◇ ◇
姫路瑞希の生み出した景色は、凄惨なものだった。
全ての始まりは突然過ぎた。この"終わりの始まり"のきっかけは、ちっぽけ過ぎた。
ただ、ただ自分の頭に彼の手が乗せられただけである。
黒桐幹也が微笑みながら、こんな自分の事を褒めてくれながら、その片手をこちらに伸ばす。
そして手は頭に伸び、乗る。ただ、それだけだった。
だがその瞬間に、姫路の脳内では"あの光景"がフラッシュバックしたのである。
そう。風呂場で恐怖に顔を歪ませ苦しんでいたときの光景が、彼女に雪崩込んで来たのだ。
更には姫路を水へと追いやった張本人、朝倉涼子の声までもが追従する。
『驚いた。意外と押し返されるものなのね。次はもう少し、力を強くしてみようかな』
『ねぇ姫路さん。あなた、さっきこう言ったわよね。助けて、って』
『私の言葉が信じられない? じゃあ、これならどう?』
『これが、私の本気。自分以外の存在のために……私とあなた、それぞれ頑張りましょう?』
姫路瑞希が抱いた恐怖が蘇り、心の奥底から姿を現した。
それは幻覚や幻聴という"形無き形"へと姿を変え、彼女に襲い掛かったのだ。
湯の中に押さえつけられる恐怖。冷酷に、ただただ自分を陥れる朝倉涼子の姿。
抵抗しようとも適わず、死へと進んでいく自分。間一髪で助かるも、襲い来る脅迫。
剥がされる爪。現れる痛み。朝倉の言葉。一方的な契約。
全ては温泉で次々と起こった出来事。全ては姫路瑞希の心を引き裂くには過ぎた出来事。
希望が絶望に変わるには、十分だった。だから姫路瑞希は、無意識に、目の前の彼を突き飛ばしていた。
「姫 ん! ごめ 、悪 っ ! 落ち着 れ!」
黒桐幹也が何かを叫んではいたが、その意味を理解できるはずは無かった。
脳内で繰り広げられる地獄絵図に、ちっぽけな叫びが聞こえるはずが無い。
姫路は逃げ惑うように暴れる。目に見えぬ、実際にそこにはいないモノに抵抗する様に。
辺りを見渡す暇も余裕も無かった。彼女は既に、ここがどこであるかすらも認識出来ていないようだ。
隣に誰かがいた事、近くに忌むべき温泉があるという事、自分が普段なら恥ずかしくていられないであろう姿である事。
全ての情報をシャットダウンし、彼女はただただ狂っていく。
「 丈 ら! 本 、 ! は こ ら!」
そんな最悪のタイミングで、次に彼女は肩と、そして首が掴まれる感触を覚えて。
そして、
目の前が、真っ白になった。
(あ…………れ?)
気付けば、自分は呆ける様に立っていた。
辺りを見渡せば、すぐ傍には温泉施設がある。こんな場所で自分は一体何をしているのだろう。
姫路瑞希は記憶力が悪いわけではない。故に冷えた脳の中では少しずつ記憶が戻っていくのを、自分でも感じていた。
支援
そうだ。確か、黒桐幹也と話をしていたのだ。
自分は温泉で起こった出来事が怖くて、それを引きずってしまっていて。
だから彼を避けていたのだけれど、ふと彼が一言が心に響いたのだ。
それだけじゃない。こんな自分に対してずっと話を聞かせてくれる彼の行為が嬉しかった。
自分は勝手に彼を怖がっていたのに、彼はそれに文句の一つも言わなかった。それに、やっと気付けた。
だから自分も、彼なら信じられるとそう思った。もう怖い思いはしなくて済むんだって、そう思った。
こんな地獄の様な場所で、吉井明久達以外にもそう思えるような人がいることが幸せだった。
それなのに。
「……こく、とう……さん……?」
見下ろした足元には、何故彼の死体が転がっているのだろう。
ずたずただけれど、耕された畑のようだけれど、服で判別できる。
"これ"は、黒桐幹也だ。自分が信頼した、あの素敵な青年だ。
間違いなく彼だ。あの優しかった黒桐幹也だ。
何が、あったのか。
「……え、あ……ああぁ、あ…………?」
何故、彼はこのような傷ついた肉の塊と成り果てていたのか。
息をしているかしていないかもわからない。生きているのか、死んでいるのか。
何故、何をどうすればこうなるのか。一体何がこうさせたのか。
そこまで考えると、突如不快感が湧き上がった。死体があまりにも凄惨過ぎたのがいけなかったのだろう。
姫路は抗えぬ程の衝動が望むままに体を折り曲げ、そのまま思い切り胃の中のものをぶちまけた。
びちゃびちゃという音と共に流れ出た吐瀉物が、地面の上で地図を描くように広がる。
口の中が酸っぱくて気持ちが悪い。
(何が、あっ、たの……? 何が、何が何が何が……何が…………)
疑問は尽きぬままに、周りをもう一度見渡しても誰もいなかった。
ここには自分と黒桐幹也しかいなかったはず。まさか朝倉涼子が業を煮やして戻ってきたか。
無意識下で現実逃避を謀ろうとしていたのか、姫路はそんな傍から見れば見当違いな事を考えていた。
そうやって混乱しながらもう一度、彼を見下ろそうとしたときだ。
何故だか自分の手が、斧の様な物体を握っていた。
これは、一体なんだ。刃が真っ赤に染まりあがったこれは一体何なのだろうか。
今拾ったわけではない。それより以前から持っていたものだと、記憶が訴えかけてくる。
「なんっ、な、んで……どうし、て…………」
そして脳もそれを期だと判断したのだろう。遂に記憶は真実を示す為に、その全てを晒した。
その記憶の中の自分は信じられない行動の為に時間を費やしていたのだと、記憶が告げる。
あの酷い光景が、蘇った。
あの時、首を掴まれた自分は、バランスを崩していた黒桐幹也を容赦なく突き飛ばしていた。
全身を打ちつけたらしい彼は、痛みによって体をくの字に曲げる。
されど恐怖に縛り付けられたままの自分は、それを見て更に恐怖していた。
顔を乱暴にお湯へと沈める朝倉涼子の影が、黒桐幹也越しに重なって見えたのだ。
動きは全く対照的だというのに、首を掴まれたことで彼女の抱く恐怖は限界を超えた。
言語としての体を成さぬ絶叫の中で、無意識の内に体が動いた。
目的はただ一つ。足元で恐怖を振りまくモノの、削除。
刃物か鈍器かよく解らないものが落ちていたのを発見し、急いで拾う。
人間の姿をした"これ"は未だ自分に反撃を仕掛けてこない。
今が好機。命を護る為には、敵である"これ"を絶つには今しかない。
ぐしゃり。
ぐしゃり。
ぐしゃり。
ぐしゃり。
だから何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
彼に馬乗りになって、拾ったものを何度も何度も勢い良く振り下ろして、何度も何度も打ちつけた。
記憶はここまで。そして、現在に至る。
姫路瑞希は、心優しい少女だ。
決して、この生き残りをかけたゲームの中で殺戮の限りを尽くしたいわけではなかった。
決して、黒桐幹也を殺害してしまいたいと思ったわけでもなかった。
決して、アニメやゲームを現実と混同させる性格だというわけでもなかった。
悪意があったわけでもない。殺人衝動を秘めていたわけでもない。
狂気にまで昇華されたトラウマが、彼女をこのような行動に駆り立てたのである。
「こんなの……こんなのっ! こんなのいや……なっ……のに!」
封じ込めていた真実を全て把握した姫路は、恐怖に身を振るわせた。
人を殺したくない、と誓っていた。朝倉涼子の一方的な契約も破棄するつもりでいた。
それなのに自分は、一時の激情に身を任せて、何の罪も無い人間をぐちゃぐちゃにして殺したのだ。
狂気にまみれ、勝手に動く体。気付けば広がっていた血の海。自分が自分でなくなっていくようだ。
「……どう、して…………!」
襲い来る怖れによって全身の力という力が失われ、彼女はその場に倒れそうになった。
震え止まらぬ手からは、握り締めていたはずの血まみれの武器が勝手に地面へと落下。刃を下にして突き刺さる。
両目は再び焦点を失い、光を映していないかのような虚ろなものへ。
今にもくず折れそうな脚。その腿の辺りから感じるのは、水が流れているかのような感触。
朝が来て太陽が昇り始める頃だというのに、服装の所為ではないであろう寒気が襲い来る。
「だって、だって……わたし……わかってた、のに……っ!」
自分を助けてくれた青年が心優しいことはわかっていたのに。
それなのに自分は、その全てを否定した。
否定して、恐怖して、幻を重ねて。そして、殺した。
彼の全てを殺し尽くし、亡き者にしたのだ。
「嫌、あっ……嫌、嫌ぁ! 嫌ああぁあぁあぁあ!!」
再びの絶叫。更に手の痛みや脚の汚れ、体の震え等の一切を無視して彼女は駆けた。
逃げなくては。こんな場所からはすぐに逃げてしまわなくては。
そうでなくては壊れてしまう。心が砕け散ってしまいそうで、狂気に飲まれそうで怖かったから。
残された黒桐幹也が独り静かに逝ったのは、丁度その頃であった。
だが彼女はそれを知る由も無い。
◇ ◇ ◇
どれくらい走っただろうか。どの方角へと走っただろうか。
ただ必死にあの温泉から離れることだけを考えていた為に、全く解らない。
そうやって結局道に迷ったのだと言うことを理解し、姫路瑞希は地面に座り込んだ。
服は結局着替えられないまま。黒桐幹也から貰った上着一枚だけだ。
受け取る機会はもう二度と来ない。永劫に失われてしまった。
彼の優しさを、彼の好意をそのまま受け取っていれば、こんな事にはならなかったのだ。
もう、後戻りは出来ない。
解っていた。もう自分は殺人者だ。表を歩けるような、そんな人間じゃない。
そうでなくても、自分で自分を抑えきれない凶暴な性格であったのだ。
知らぬ内に誰かを傷つけてしまう。自分はそんな最低の人間なのだ。
けれど、それなのに、会いたい。
もう自分は"彼ら"の前に立つ資格なんてないというのに、それでも会いたかった。
姫路は、Fクラスに戻って何も無かったかのようにいつもの日々を送ることを夢見てしまう。
島田美波に、坂本雄二に、木下秀吉に、土屋康太に会いたい。
それだけじゃない。いつもお世話になっているクラスメイト全員に会いたい。今すぐにでも帰りたい。
そして何よりも、"あの時"から本当に好きになったあの吉井明久に、会いたい。
(明久君……! 会いたい、会いたい……! 会いたいのに……っ!)
会いたい、会いたい、会いたい。
会って、話をして、甘えてしまいたい。
助けて欲しい。心配ないよと一言告げてくれるだけで良い。
こんな自分でも怖がらずにいて欲しい。自分の全てを肯定して欲しい。
なんて傲慢なんだろう。自分勝手すぎるとわかっている。
けれど、彼の温もりが欲しい。欲しくて欲しくてたまらない。
せめて彼の温もりだけでも感じたい。名前を呼べば、その欠片だけは感じられるだろうか。
ただただ求めるままに吉井明久の名を呟こうと、小さく口を開く。
「………………っ」
だが、何故だろうか。
彼女自身の意に反して、彼女の口からは一切の声が生まれてこなかった。
言語として認識できるものは何も出ず、雀の涙ほどの微かな"音"が聞こえてくるだけだ。
叫び過ぎ、では無い。所謂絶叫や歌唱による声の掠れなどというレベルではない。
扁桃腺や甲状腺が悪くなったわけでも決して無い。彼女の今までの行動には、そこに至るまでのプロセスが存在しない。
自分の体は一体どうなってしまったのか。顔色の悪い彼女の顔が更に蒼白になる。
ほんの数分前には言葉を紡いでいた。それなのに突如としてその力が失われたのだ。
一体何故、どうして。混乱した姫路は、喉を押さえ、あるいは喉を掻き毟りながら、再度喋ろうとする。
「……! ……ぁ、ぅあ…………!」
けれど一向に変わらず、事態が好転を迎えることは無かった。
そういえば、聞いたことがある。いつか先生が授業の中で話をしていた。
名は"失声症"。多大なストレスやショックによって引き起こされる、文字通り声を失う病だ。
まさか、そんなものに陥ったというのだろうか。そんな馬鹿な。
何故自分がこんな目に遭わなければならないのか。
そうか、さっき自分の意に反して叫んでしまったからだ。そうに決まってる。そうだと言って欲しい。
「ぅ……うぁ…………っ、ぁ……!」
けれど彼女の願いも虚しく、変化は無い。
いくら叫ぼうとも、吃音の様な音が出るだけに終始する。ただ、それだけ。
彼女の心に迫った恐怖は、彼女が持っていた小鳥の様な繊細で可愛らしい声をも奪い去ったのだ。
(これは……罰……? 私への、罰……?)
苦しそうに、両手で喉を抑えながら俯く姫路は、そんな事を考えていた。
これは罰だと。自分の妄想によって罪無き者を殺害した罰なのだと。
一度狂気に溺れた今の自分はもう、誰かの名を呼ぶことは出来ないのだ。
(明久君の名前を呼べない……明久君に返事が出来ない……明久君と話が出来ない……!)
けれど、そんなのは嫌だ。これはもはや、自分の全てを奪われてしまったことと同義だ。
いや、黒桐幹也の人生を奪った自分が何を言っているのか。罰なのだから当たり前だろうに。
(嫌! そんなの駄目……二度ともう、自分で、好きって言えないなんて……嫌ぁっ!)
けれどそうやって納得しようとしても、今の彼女には到底無理だった。
彼女の心は締め付けられる。まるで黒桐と朝倉の腕が、無慈悲に心を絡め取っている様だ。
助けて欲しい。助けて欲しい。吉井明久に、"大好きな明久君"に助けて欲しいのに!
「ぁう……ぁ、ぁー…………」
巨大すぎる"現実"という壁を前に、姫路瑞希は独り絶望して泣いた。
これからは名も呼べず、謝罪すら出来ぬままに時間は経つ。
奪ったのは命。奪われたのは声。
奪い奪われ、このゲームは静かに進んでいく。
それは一人の少女の意に反して、確実に一歩一歩、終焉の淵へと近づかせる。
様々な形の絶望を生み出しながら、世界は時を刻むのだ。
空が白んでいく、そんな中。
彼女は両目からぼろぼろと涙を流して泣き叫ぶ。
けれどそれでもやはり声が響くことは、決して無いのだった。
【???/一日目・早朝】
【姫路瑞希@バカとテストと召喚獣】
[状態]:精神的ショック大、左中指と薬指の爪剥離、失声症
[装備]:黒桐の上着
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:死にたくない。死んでほしくない。殺したくないのに。
0:ごめんなさい。ごめんなさい。助けて。助けて。助けて。
1:朝倉涼子に恐怖。
※姫路瑞希がどこにいるのかは後続にお任せします。
※E-3の温泉付近に黒桐幹也の持ち物が放置されています。以下がそのリスト。
デイパック、血に染まったデイパック、基本支給品×2、ボイスレコーダー(記録媒体付属)@現実
七天七刀@とある魔術の禁書目録、ブッチャーナイフ@現実、ランダム支給品1〜2個
【ブッチャーナイフ@現実】
吉田一美に支給された。
精肉業者が用いる特殊なナイフであり、形状は斧や鉈に近い。今回は前者の形状を意識している。
食用の獣肉を切り分ける為に使用されており、一般ではあまり利用されることは無い。
性質は日本刀の様な「斬る」ものではなく、西洋剣の様な「叩き切る」ものである。
【黒桐幹也@空の境界 死亡】
投下完了です。いつも支援をありがとうございます。
投下乙。
うわぁ……。これはキツい。
優しさが裏目ったかぁ……。黒桐ならではの破滅で、姫路さんのトラウマあっての悲劇。
いい不幸話でした。GJ!
ちょっと本筋じゃないとこで気になったのは、現在地不明っての、どうなんでしょう。
自由度高める工夫でしょうけど、かえって周囲を決めづらいのではないかな、と。
あと、実質持ち物が何もないまま、ってのは、今後の選択肢を考えた上で微妙かな……?とも思いました。
下手すると同じ展開のなぞり直しになりかねないことも含めて。
細かいことでスイマセン。
素早い修正乙です。
いい感じになったと思います。
投下&修正乙であります。
おお……そうだよなぁ、こういう風な殺し方があってもいいよなぁ。
きっかけの悲しさや、姫路の取り返しのつかなさが良く出ていたと思います。GJです。
投下&修正乙。
これはひどい(誉め言葉)
幹也にも姫路さんにも悪意なんて何一つなかったのに残されたのは最悪の結末。
これは・・・姫路さんは立ち直れるのか?
そしてもうじき流れる放送で式に鮮花に白純の三人はどう動くのか?
さらには温泉へとやってくるシャナチームはどう判断するのか?
続きが楽しみです。GJ!
これで式がマーダー化したら対主催にまともな戦力がなくなるww
もうみんな地獄の淵に足がかかってるような感じだなWW
お、予約来てるねー
楽しみ楽しみ
キョン&アリソンかー
助かるのか遺言かどっちかなー
お待たせしました、アリソン、キョントウカします
空。
空が見えた。
蒼い、蒼い空。
いつも飛んだ蒼い空。
何故かわたしにはそれが霞んで見えて。
可笑しいなと思ってしまった。
夜が明けて着たのだ。
その蒼い空に手を伸ばそうとする。
あの、空に届くように。
なのにわたしの体が上手く動かせない。
ああ、空に飛びたいなぁ。
そんな事を危うげな意識の中でわたしは――アリソン・ウィグットン・シュルツ――そんな場違いな事を考えていた。
記憶が若干混乱しているのかもしれない。
体は何か湿っぽいし胸がズキズキと痛む。
あぁ……そういえばシズに刺されたんだっけ。
だから……痛いのか。
んー失敗しちゃったなぁ……
もっと話してやればあんな馬鹿なことにはならなかったかなぁ。
それも……もう仕方ないか。
刺されて……わたしは……
……ん? はて?
その刺された私はなんで濡れてしかも動いているんだろう?
そう想って視線を下に向けるとヴィルのような茶色の髪の毛が。
えーとこれは……
「キョン君……?」
キョン君……かな?
さっきであったばかりの気だるそうな子。
わたしはキョン君の背中におぶさっているのかな?
そしてキョン君はひたすらに走っている。
「……!?……意識が戻ったんですか」
「……………………おはよう、キョン君、どうして運ばれてるの?」
「おはようじゃないですよ……喋らないでください。重傷をおってんですから。先程色々あってアリソンさん助ける為に川から落ちたんです
俺も一瞬気を失いましたが……直ぐ目を醒まして岸に上がったんです。橋ではマオさんが頑張ってるんで治療できる場所まで移動しますから」
「……ああ」
「ああ、じゃないです。ちょっと待ってください……橋からもう少し離れたら治療始めますから」
治療……か。
でもね、キョン君。
解ってるのよ、自分の体くらいね。
わたしが
「……ああ、無駄よ。多分わたし助からないから」
助からないってことくらい……
解ってるんだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「何……言ってるんですか?」
キョン君の声が震えている。
そりゃそうよね……人が死ぬと言っているのだから。
でも、死はやってくる。
誰にだって平等に。
そしてそれはわたしにも。
「アリソンさん……まだ判らないじゃないですか……傷の治療もしないで」
でも、キョン君はまだ、私が助かると思っている。
いや、私を死なせたくないのかな?
……優しい子だなぁ。
……本当に優しいなぁ……
「ううん……もう無理だとわかってるから」
でも、体が無理だと言っているのよ。
どんどん体が震えて。
段々温かさを奪われていく。
認めたくないけど……これが死なんだろう。
「諦めないでくださいよ!……アリソンさん……言ったじゃないですか。娘が居るって……アリソンさんが諦めてどうするんですか」
リリアかぁ……
あの子頑張ってるかな?
元気でいるかな?
お願いだから生き続けて欲しいなぁ。
リリア。
わたしとヴィルの愛しい子。
あの平和になった世界で。
誰よりも幸せになって欲しい。
だから……だから生きて欲しいなぁ。
「……あははっ、まさか娘と同じような子に説教されるなんて」
「笑い事じゃないですよ……ここまで離れればいいか……治療始めますよ。俺は諦めませんから」
結構の間走った後、私は樹にもたれかけるようにゆっくりと置かれた。
日が昇り始めて蒼い青い空がより鮮明に見える。
キョン君は諦める気は絶対無いみたい。
どんなに無理だと解っていても。
きっと私を助けようとするんだろう。
「絶対に助けますから」
そういうキョン君の声は震えていた。
哀しみに耐えるように。
包帯を出して治療を始めようとする。
私は体も上手く動かないでそれに抵抗もする事無く従った。
ああ、いい子なんだなぁ。
この子は。
誰かが死ぬのが耐えられなくて。
それでも自分ができる限りの事をやろうとする。
例え自分に力が無くても。
それでも、諦めたくないんだ。
わたしの上着を脱がして包帯を巻いて止血をさせようとしている。
それでも血は止まる訳がない。
キョン君は焦って色々治療道具を出して必死に必死に思案するもそれ以上の打開策が思いつかないのだろう。
「……何でだ……このままじゃ……」
キョン君は頭を抱えている。
所詮……唯の一般学生でしかない。
そんな治療できるなんて知識……持っていないのだ。
だから、彼がどんなに頑張った所で私を治せるわけが無い。
そんなの解りきっていた事。
キョン君だって解りきってただろう、本当は。
それでも、彼は諦めたくないんだ。
力が無くても。
わたしが死ぬをなにもせず受け入れたくないんだ。
ああ。
優しい……いい子だなぁ。
こんなあったばっかりの知らない人の為にこんなにもこんなにも頑張って、頑張って。
立派に育ってるんだなぁ……キョン君は。
偉い……優しいいい子だ。
なら……わたしがこんなに頑張ってくれた子に出来る事はなんだろう?
キョン君の為に残せる事は何だろう?
アリソン・シュルツがキョン君に託せるのは何だろう?
ふと、空を見る。
蒼い、蒼い、空だった。
いつも、飛んだ蒼い、蒼い空。
手を伸ばす。
届くように。
もう一度飛べたらと。
あの、蒼い空に思いっきり飛べたらいいのにな。
ああ……わたしはこんな事を託していいのかな?
わたしはキョン君にこんなのでいいのかな?
でも、それしかなかった。
それが、アリソン・シュルツなのだから。
「キョン君……みて、蒼い空」
「……え?」
「ほら、高い、高い空」
「……そうですね」
「何処までも広く、何処までも果てしなく……蒼く高い空」
「……」
「キョン君……空に届くと思う? 人が」
「……え?」
「出来るんだよ……あの空に」
ああ、馬鹿だなぁ。
こんな事、普通の子に言ったって理解してもらえる訳が無いのに。
でも、わたしはそんな事をどうしても言いたかった。
いつか、理解してもらえたらと思って。
あの、偉大な、大きな翼を思い出して。
「飛行機でね。飛べるのよ……あの蒼い偉大な空に」
「……」
「楽しいわよー、本当何でも良くなって、すごく気持ちよくなっちゃう」
「そうなんですか……?」
「そうよ、すっごい楽しいんだから」
だから……
「キョン君も飛んでみない? あの空に」
「……え?」
「何時でもいいわ……何時かでいいから……空に自分の力で飛んでみない?」
わたしは彼に思いを託した。
わたしの思いは空と共に。
だから、わたしがずっとやり続けた行為をあったばかりなのにキョン君に託してみたかった。
ただの自己満足。
それでも、託したかった。
「それは……楽しそうですね」
「でしょ?」
「ええ……本当に」
「なら……」
キョン君。
あなたは
「生きなさい。生きて帰って、わたしの分まで空を飛びなさい……それがわたしが生きた証になるから」
生きなきゃ駄目よ。
最後まで、年をとってお爺さんになるまで。
生きなきゃ駄目よ。
そんなわたしにキョン君は驚いて顔を向ける。
哀しそうな表情をして。
今にも泣きそうな顔をしていた。
私はそんなキョン君を軋む体で必死に抱きしめてあげた。
そっと頭を撫でた。
震えていた。
本当に……御免ね。
「ずるいですよ……そんな言い方したら……受けるしかないじゃないですか」
「……そうね。御免なさい……でも、キョン君。あなたは生きなさい……いいかしら」
「……はい」
「いい子ね……本当いい子」
そっと震える体を撫で続ける。
ああ、辛い事をさせちゃったな。
出来る事ならこの子が幸せであるように。
わたしはそれを願い続けながら最後の言葉を紡ぎ続ける。
「シズを恨まないでやってね……できればあの子をとめて上げて」
「……」
「あの子はちょっと焦ってるだけだから。きっととめる事ができから……お願いね」
「……約束は出来ないですけど……」
「少しでも思ってくれればそれで充分よ」
シズはきっと焦っているだけ。
ただ、がむしゃらに一つの事しか信じられないだけだから。
だから、誰かが優しさを与えてあげれば……きっと戻れるはず。
そう思ったから。
「それと……リリアとヴィ……や、ここではトラヴァスにこう伝えて」
「はい」
「―――――」
「え? 何の言葉ですか?」
「この発音の通りに……解ると思うから」
「……解りました」
リリアとヴィルに残す言葉を。
ベゼルとロクシェの言葉の両方を使って。
キョン君に託した。
さあ……これで御終い。
本当に色々託しちゃったなぁ。
駄目だなぁ……キョン君に辛い思いさせるだけなのに。
「キョン君……」
「……はい?」
「ありがとうね……最期まで」
「最期じゃないですよ……」
うん……本当に。
「いい子だなぁ……ありがとう……」
「そんな事……ないですって」
だから、最期にキョン君に言葉を残そう。
「キョン君……空を見て……何処までも広がってる……君もあの空のように……果てしなく……永久に……いき……てね……本当に……優しくて……強い……いい子だから」
そして、わたしは静かに目を閉じる。
キョン君が私を呼ぶ声が聞こえた。
最期には私の目に見えたのは。
大好きな、大好きな。
あの、蒼い空だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
会ったばかりの人だ。
正直、どんな人か俺には未ださっぱり解らない。
でもそれでも、この人がどんなに優しくて強い……『母親』だった事ぐらい解る。
そしてその人が今死に逝こうとする。
俺はそれに結局何もする事ができない。
会ったばかりなのに。
こんなのに哀しむ必要なんてないのに。
俺は堪らなく……どうにも哀しかった。
そして憎たらしい放送が流れ始める。
俺は……この人の死が堪らなく……哀しかった。
まだ、空の飛び方も教わってないのだ。
死んでもらっては困る。
それなのに……もう、この人は死んでしまう。
ただ、哀しかった。
【C-3/北部/一日目・早朝(放送開始)】
【キョン@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:深い深い悲しみ、両足に擦過傷、中程度の疲労
[装備]:発条包帯@とある魔術の禁書目録
[道具]:デイパック×2、支給品一式×2(確認済みランダム支給品0〜1個所持)、カノン(6/6)@キノの旅、かなめのハリセン@フルメタル・パニック! 、カノン予備弾×24
[思考・状況]
0:????????????
[備考]
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ねぇ……ヴィル。
今度皆で空に飛びましょうよ。
リリアもつれて、家族全員で。
トレイズ君達家族も連れて行くのもいいわね。
折角平和になったんだから、皆で行きましょうよ。
きっと楽しいわ。
そして、何時か幸せに3人で暮らしましょうよ。
空を飛びながら、平和にね。
きっと。
きっと幸せよ。
……でも、それももう叶わないんだなぁ。
哀しいのかなぁ。
解らない。
でも、でもね、ヴィル。
わたし、貴方を愛してよかった。
そしてリリアを産めて良かったと思ってる。
一緒に暮らす事はできなかったけど。
……とっても、とっても幸せだったよ。
だから……ヴィル。
これからも、ずっと生きていてね。
あんな島から脱出して幸せになってね。
幸せに、幸せに生きてね。
私は……ヴィルを愛してます。
だから、ありがとう……さようなら。
リリア。
あなたはヴィル似て……そしてとても立派に育った。
なたの成長を最後まで見れないのは残念だけど……リリアなら大丈夫。
だって、私とヴィルの子よ。
きっと、きっと元気になって幸せになってくれるって思ってる。
だから……頑張って、最後まで立派に行きなさい。
母の最期の願いです。
……リリア……愛しています。
私は、ヴィルとリリアを愛しています。
今も、これからも、ずっと、ずっと。
だから、ヴィル、リリア。
あなたたちの気持ちが、わたしの気持ちと同じように、どこまでも永遠でありますように。
どこまでも永遠でありますように。
【アリソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ 死亡】
※アリソンは放送開始直後に息を引き取りましました。第一回放送に呼ばれるか後継にお任せします。
投下終了しました。
支援感謝します。
何か指摘があったらよろしくお願いします
投下乙です。
アリソン……。やっぱり助からないか……。でも最期に頑張った。
キョンはさて、これでどう転がるか。原作みたいに愚痴ってばかりもいられなくなったぞ。
橋から離れようと進んだ方向や、アリソン死亡の時間など、後のことを考えた仕込みもあり。
何よりこの掘り下げっぷりが……! GJです。
投下GJ! アリソン……あああ、アリソン……orz
そうですよね、助かりませんよね。ふふ、わかってたぜ……。
肝っ玉母さん墜つ、か……頑遺志を繋いで張れよキョン。気張れ!
しかしやっぱり真意描写が凄いな……本当、凄い。
凄い所為でへこむぜこんちくしょーいorz
そしてアリソン死亡の時間帯は実に面白い。どうなるのやら。
なんだかんだでゲームも進んできたなぁ。続きが気になる!
「アリソン」と「リリアとトレイズ」ってそういう位置関係だったのか。
投下乙
アリソン死亡かー
畜生シズめ
死ぬ間際の蒼い空がアリソンらしいな。
キョンはいろいろ託されてしまったな
頑張れ
投下乙
ああ、お母さんはやっぱり駄目だったか。
少しは期待してたけどそれはそれでご都合主義だが助かって欲しい気もしたよ
そして確かにキョンも何時のように愚痴るだけでは済まないな
色々と重い物を託されたな。頑張れキョン
それに放送の件はどう転ぶか気になるぞ
放送の途中ですが臨時ニュースです
しっかしもうそろそろ死亡者10人か・・・
死なない死なない言っていた頃が嘘のようだぜ
確かに、最近は結構死んでるね
火種も増えてるし…先が楽しみ過ぎるw
先が全く読めないもんなぁ
どうなるのか楽しみだ
マイペースな奴とやたらと余裕の無い奴らの差が激しいな
いつまで余裕こいていられるか楽しみではあるんだがW
約一名、未だに時間帯が深夜なんだがw<マイペース
どんだけマイペースなんだw
多分あいつのマイペースは死んでもなおらなさそう
予約無いな・・・・・
この時期はみんな忙しいからな・・・・・
まぁじっくり待とうぜー
と思ったら予約来た!
おぉ…予約キタ!
予約していた 両儀式 の分、投下します。
要するに私は、
いつだって、少しだけ遅かったのだ。
そう、ほんの少しだけ。
/弛緩思考
波の音が、暗い倉庫街に静かに響く。
地図の上でも綺麗な直線を描く東の海岸線は、護岸工事でガチガチに固められている証。
大量のテトラポットを洗った波飛沫はコンクリートの海岸にぶつかり、泡となって砕けて消える。
海に程近いからか、それとも、飛行場も近くにあるせいか。
どうやらこのあたり一帯は、倉庫やらちょっとした工場やらが、海岸線に沿って集まっているようだった。
港と空港。船と飛行機。
それらは人を運ぶが、荷物も運ぶ。
物資の集積。そして、その集積の活用。
ここで整理し、時期を待ち、あるいは手を加え、またどこかに運びだす。そのための街並み。
もとより人の気配のない街ではあるが、仮に住人がいたとしても、この時間帯のこの辺りは無人に違いない。
そんな、誰もいないのが当然、といった風の深夜の街並みを、ユラリと揺らめく影が1つ。
橙色の着物の上に、真っ赤な革のジャケットを羽織った女――
両儀式、だった。
無作為に選んで無造作に踏み込んだその倉庫は、どうやら家具の類を保管するものらしい。
奥の方には保護のためか、薄いビニール袋に包まれた箪笥などがぎっちりと隙間なく。
しかし入り口近くはショールーム的な機能もあるのか、商品らしきソファーとテーブルがいかにもそれっぽく。
それぞれ、配置されていた。
天窓から差す月明かりが、ちょっとした体育館ほどもある空間をぼんやりと照らしている。
女は特に警戒する様子もなく歩を進めると、どさっ、と、そのソファーの上に横になった。
疲労があったわけではない。
眠気がなかったわけでもないが、しかし、我慢できないほどでもない。
ただ――いまいち感情が昂ぶらない。いまいち気合が入らない。
火がつかないから、倦怠感が先に立ってしまう。
くすぶっている。
両儀式は、自らの状態を正確に自覚する。
いまの彼女には、坂井悠二にかかってきた電話のような、走り出すきっかけがない。
浅上藤乃の起こした事件の時のように、自分から探しに出る気分になれない。
巫条ビルの飛び降り事件の時のように、自分から動き出す気分になれない。
螺旋を描くマンションの時のように、自分から出向く気分になれない。
当面の目的ならば、ある。黒桐幹也や黒桐鮮花との合流、がそれだ。
両儀式には動機がない。両儀式には殺すことしかできない。
とりあえずは友好的な知り合い2人と合流し、その先を考えよう――という発想だった。
だが、どうも本腰を入れて人探しに専念する気になれない。
どうも、どこか本気でない。
当面の方針ならば、ある。この催しにおいて「殺し合いに乗っている」奴がいたら、撃破することだ。
そのままの勢いで殺してしまっても、いいとさえ思っている。
しかしそれにしたって、ここまでに出会った人間は僅かに2人。
その坂井悠二は、一度は同行を望むようなことを言いながら、結局は1人で駆けていってしまった。
もう1人の銃を持った男は、それなりに隙のない姿を見せてはいたが、どうやらやる気は無かったようで。
もっと人が集まるであろう場所に行けば、あるいは、とも思うのだが、いまいち必死になれない。
当面の標的ならば、いる。この催しの冒頭において演説をぶった、あの『人類最悪』を名乗る狐面の男だ。
一目見て、確信した。
あの男は式と同じく、そして、蒼崎橙子や荒耶宗蓮といった魔術師と同じく、境界の外側にいる存在だ。
群れの中に生きる、まっとうな人間ではない。
どこか外れている。
どこか追放されている。
《人類最悪》。
生物学的な意味での人類ではあっても、社会的な意味での人間ではない。
だから殺せる。あれは殺していい相手だ。殺さなければならない相手だ。
あれを殺害しても、それは「殺人」ではない――。
そう理解し、「狐面の男を殺す」、そんな目標を立てたのはいいが……手が届かない。
どうすればあの男を手の届く距離に収められるのか、見当もつかない。
両儀式はソファーに倒れこんだまま、自分の背中、赤いジャケットの下から1本のナイフを抜きだす。
彼女が普段から愛用しているものよりも、頑丈で凶悪な、おそらくは軍用の実用品。彼女の支給品の1つ。
彼女の好みではないが、しかし当面の武器としては十分過ぎるほどの一品だ。
手の届く距離にいる相手なら、それが神であっても殺すことができる。
視えるモノが相手なら、それがカタチのないモノであっても殺すことができる。
それが両儀式の、直死の魔眼。
それは例えば、そう、その気になれば、人ならざるトーチである、坂井悠二を殺すこともできたし――
その気になれば、さっき出会った、銃を持ったあの男を殺すこともできた。
まあ、あの男が本気で抵抗していた場合、いくらか被弾し、式もまた負傷していたかもしれないが……
下手をすれば、式もまた、致命傷を負って相討ちとなっていたかもしれないが。
それでも、あの男を殺すことはできただろう。
名前も知らぬあの男を、この、本来『伊里野加奈』という参加者が振るっていたらしいナイフでもって。
だがそれは、逆に言えば、手の届かない所にいる相手には「どうしようもない」、という意味でもある。
走って間合いを詰められるならいい。
跳んだり落ちたりして距離をゼロにできるなら問題はない。
間を隔てるものが魔術や異能の防壁であるならば、それすらも「殺し」て踏み込むこともできる。
だけども――
姿を見せない。
どこにいるかも分からない。
そもそも近づいてこない。
物理的に絶対的に距離が隔てられている。
――こういう相手には、途端に途方に暮れてしまうのだった。
暗闇の中、抜いたナイフの煌きをしばらく眺めていた式は、溜息と共にそれを元の場所に戻す。
代わってデイパックの中から取り出したのは……どこか見覚えのある、狐の面。
それは、そう、あの狐面の男が身につけていたものと、同型・同タイプのもの。
先ほどのナイフと同様、両儀式の支給品として用意されたものであり……
先のナイフが有用な「当たり」だとすれば、こちらは実用性皆無の「ハズレ」とでも言うべき代物だった。
少なくとも、現時点では式はそのように判断していた。
薄闇の中、式は手にした仮面をぼんやりと眺める。
あの狐面の男は、殺す。
本人の弁の通り、参加者に似たような立場の者だとしても、関係なく殺す。
あの狐面の男の裏側にいるのかもしれない、「本当の主催者」も、もし居て手が届くなら殺す。
それは既に式の中では決定事項に近いが……しかし。
ただ走りまわるだけで到達できるような相手と思えぬせいか、いまいち、火付きが悪い。
式はソファーの上で身じろぎをし、仰向けになると、何の気なしにお面を顔に乗せてみる。
あの男は何を考えてこんな仮面を被っていたのだろう。
何の意味があったのだろう。
ここに蒼崎橙子がいれば、「仮面」というモノが持つ魔術的な意味について滔々と解説してくれるのだろう。
仮面全般の持つ意味から、この狐の面独特の意味まで、詳細に語りつくしてくれるのだろう。
例によってその大半は意味の無い戯言に近いのだろうが、今なら少しだけそれに付き合ってもいい。
珍しく、そんな気分だった。
狐の面を顔に乗せたまま、ふと式は思う。
そういえば、あの男は6時間ごとに脱落者の名前を読みあげる、と言っていた。
放送をする、と言っていた。
デイパックに入っていた時計が狂っていなければ、始まった時点の時刻はほぼ深夜0時。
つまり、最初の放送があるのは、午前6時ごろ。
季節や緯度経度によって多少のズレはあろうが、大雑把に言って日の出の前後だ。
どうやって「放送」するのかは分からないが、その性質から考えて、普通にしていれば聞こえるものだろう。
そしてあの男のことだ、単に脱落者の名前を列記するだけでは終わるまい。
橙子なみに、いや、橙子とは異質な方向で、余計なおしゃべりを好む雰囲気があった。
きっと、事務的な連絡だけでは終わるまい。
きっと、何らかの重要な手掛かりを漏らす――もちろん、無数の無意味な雑音に紛れ込ませる形で。
あるいはその内容次第では、両儀式も走り出すことになる……のかも、しれない。
そうしてその放送で告げられるのは、脱落者。
そう、脱落者だ。
直接的な表現を避けつつも、あの男が示唆したのは参加者同士の血で血を洗う「殺し合い」に他ならない。
会場はどんどん狭くなるとは言うが、なにせ最初に消えるのは山のてっぺんからだ。
普通に考えて留まろうと思う場所ではないし、そこから退避するのだって容易い。山を降りればいいだけだ。
会場消滅に巻き込まれて脱落する者は、まず出ないだろう。
少なくとも、今回、この6時間の間には。
……そういえば、いまいるこの場所、B−2というエリアも、だいたい半日ほどで消滅するのだったか。
地図の一番上の横一列が消滅したら、こんどは東側の海岸一帯が消滅する番だ。そう長居はできない。
とはいえ、まだ焦るような時間ではない。次の昼頃までにここを出ていればいいのだ。猶予はたっぷりとある。
頭の中で地図を思い浮かべ、指折り数字を数えて、両儀式は溜息をつく。
なんとも思考にまとまりがない。焦点が合っていない。
今ここで両儀式が気にしなければならないのは、消滅によって狭くなっていく会場のことではないだろうに。
彼女自身、嘆息と共に自覚する。
脱落者が出るということは、十中八九、殺し合いに乗った奴が出たということだ。
そして、その犠牲者が出たということだ。
つまりこうしてる今にも、黒桐幹也が、黒桐鮮花が、誰かに襲われているかもしれない。
誰かに傷つけられているのかもしれない。
あまつさえ、殺されかけているのかもしれない。
あるいは考えたくもないことだが、既に無惨な骸を晒し、息絶えてしまっているのかもしれない――。
そこまで危険を認識していながら、いまいち、両儀式の心には火がつかない。
実感がない。切迫感がない。弛緩してしまっている。
今すぐ走り出して彼らを探し出そう、一刻も早く保護しよう、という動機が沸きあがってこない。
それはもちろん、彼らの能力の高さ、基本的な部分での用心深さを信頼している、という側面もあるのだが。
やはり、両儀式は、攻勢に出る方が性に合っている。
礼園女学院の一件で、改めて自覚した。
やはり、調査だとか、守るだとか、次の事件を防止するとか、そういうのは、両儀式のガラではない。
そんな曖昧なことでは、自発的に動きだす気が起きない。
もしもそこに誰かと殺し合える確信でもあれば、衝動を抑えられず飛びだすこともあるのだろうが……
あるいは、何か他の理由によって、考えるより先に走りだすこともあるだろうが。
いまのところ、そこまでの衝動が、湧きあがらない。
あるいはこれは、幹也や鮮花に迫る危機が曖昧模糊としたものでしかないせいであろうか。
あるいはこれは、いまだに両儀式が「殺し合いに乗った」相手と遭遇していないせいであろうか。
あまり、考えたくない……というより、式にとっては、望ましい展開ではないのだが。
仮に、である。
6時に予定されているその放送で、黒桐幹也の名が、あるいは黒桐鮮花の名が呼ばれてしまったら。
両儀式は、どうすべきなのか――いや、どうなってしまうのか。
たぶん、火はつく、だろう。
いまこうしてくすぶっているモノは、一気に吹き飛ぶだろう。
だが、そこから先が想像できない。両儀式自身にも、想像がつかない。
その殺害者を探し当てて、復讐する?
1人残ったなら、残った1人を守るために奔走する?
自棄になってこの場にいる全てを殺してまわる?
積極的に動かなかったこと・こんな所でくすぶっていたことを後悔し、自分を責め苛む?
……分からない。いまは、分からない。
それは両儀式が望む展開ではなく、むしろあって欲しくないと願っていて、だからいまは、想像しきれない。
一気に火がついて動きだすだろうな、という予感はあっても、それ以上先に思考が進まない。
むしろ両儀式にとって、そこでどう行動するべきか、ということ以上に気になったのは。
もしも万が一そんなことになったら、どういう表情を浮かべたらいいのか、ということだった。
泣けばいいのか。
怒ればいいのか。
それとも、いっそここは笑ってしまうべきなのか。
……やはり思考が支離滅裂だ。
考えるべきことを考えていない。考える必要のないことばかりに思考が逸れてしまう。
両儀式は軽く笑って、そしてふと、未だ顔の上に狐の面が乗ったままであることに気がついて、
ああ、そうか、と妙に納得してしまった。
あの狐面の男がお面を被っていた理由の、1つには。
自分がどんな表情をするべきなのか、分からなくなってしまった、ということもあるのではないだろうか、と。
どうやら境界の外に立つ雰囲気のあった、あの男。
因果の外に追放されたような気配のあった、あの男。
そんな立場に至るまでには、通常の喜怒哀楽では言い表しきれない様々な感情を体験したに違いない。
浮かべるに相応しい表情が思い当たらない、そんな気分に陥ったこともあったに違いない。
ならば、
「……もしもそうなった時には、オレも、この仮面を被ってみるか」
狐の面から伸びた紐を片手で弄びながら、
どこかの誰かに言い聞かせるかのように、
あえて『私』ではなく『オレ』という一人称を声に出し、
両儀式は、呟いた。
どうやら本格的に思考が迷走しているらしい。
どうやらとことん、グダグダなようだ。
独り言を声に出したのが切欠になったのか。
両儀式はようやくにして、ひとりで考えを巡らせ続けることの無意味さを、痛感した。
考察の材料すら十分にない今、何かを考えても無駄だ。
そして日が出る前の街をあてもなく彷徨っても、得られるものは少ない気もする。
逆に、この場所に誰か他の者がこっそりやってくる可能性も低いだろう。
似たような倉庫が立ち並ぶ中、この倉庫をピンポイントで選ぶ理由はない。
ピンポイントで、式の枕元に忍び寄る道理はない。
そして、どうせあと3時間ほども待てば、動きだす契機は放送という形でやってきてくれるかもしれないのだ。
ゆえに、両儀式は。
日が昇って、放送が始まるまでの間、軽く一眠りしておくことに決めた。
どうせ役に立たない時間なら、と、大胆にも気力・体力の充実のために充てることに決めた。
多少なりとも眠っておけば、まとまらない思考もすっきりするだろう。
これからどうするかなんて、放送を聴いたあとに考えればそれでいい。
そして彼女は、一旦心に決めてしまえばあとは早い。
ちょっとした体育館ほどもある、高い天井の広い倉庫の片隅で。
まるで家具屋のショールームのように配置された、ソファーの上で。
両儀式は、ゼンマイの切れた人形のように、生気を感じさせない眠りにストンと落ちた。
死者の如き、停止に入った。
――動きだすべき時がくれば、きっとまた、すぐに蘇るのだろう。いまの両儀式とは、そういう存在だ。
天窓の向こうに見える空が、やがてゆっくりと明るんでくる。
相も変らぬ単調な波の音が、微かに聞こえてくる…………。
【B-6/海沿いの倉庫街/一日目・早朝】
【両儀式@空の境界】
[状態]:健康。仮眠中
[装備]:狐の面@戯言シリーズ、伊里野のナイフ@伊里野の空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1個
[思考・状況]
基本:狐面の男を殺す。黒幕がいるなら、相手次第だがそいつも殺す。
1:放送まで休んでおく。
2:黒桐幹也、黒桐鮮花と合流する?
[備考]
参戦時期は「忘却録音」後、「殺人考察(後)」前です。
「伊里野のナイフ」は革ジャケットの背中の下に隠すように収められています。
【狐の面@戯言シリーズ】
『人類最悪』こと西東天が被っていたものと、同じデザインの狐のお面。
OPにおいて彼が狐の面を被っていたことから、こちらは橙なる種が被っていたものか? それとも予備?
なんであれ、外見からは西東天の仮面と寸分の違いも見出せない。
【伊里野加奈のナイフ@イリヤの空、UFOの夏】
伊里野が普段、背中に隠すようにして持っていたナイフ。
原チャリを盗む際に使用している。おそらくは4巻で使用したのも同じナイフ。
作中ではその凶悪な外見が強調されており、おそらくは軍用のコンバットナイフであると思われる。
柄の所にはパラシュートコードが巻きつけてあり、また、背中に隠すように収納できる鞘とホルダーが付属。
伊里野加奈は、これを制服の下、背中の所に隠すようにして持ち歩いていた。
以上、投下終了。支援感謝です。
投下直後にナンですが、状態票投下の際に本文中のミスを発見しました。
>>373の終わりで「B−2」とありますが、これは「B−6」の間違いです。
単純なチェックミスでお目汚し、申し訳ありません。
投下乙ですー
式グッダグッダだなぁw
とりとめも無く考えて結局寝るw
式らしいなぁと思いました。
とはいえ、コクトー死んでるんだよなぁ……どうなるのか。
GJでした
投下GJ!
式やる気ねぇwwwwww
だが他にも実感沸いてない奴はチラホラいるしなぁw
やる気の無いままに放送突入してどうなるのか、楽しみです。
投下乙
式ーWWW
寝てる場合じゃねえよWWWW
妹はピンチで兄貴は死んでるぞ
だるいのはわかるがもうちょっと危機感持てよWW
トリップ忘れってヤツです
投下乙ですー。
ゆったりとしてるねぇ……w 生き急がないのはいいことだ。寝る子は育つとも言う。
さて、細かい指摘をひとつ。
狐のお面の説明ですけど、
橙の被ってたのは狐さんと違ってデザインが子供用のなので”橙が”の部分は当てはまらないかと。
投下GJでした。
>>386 ラジオ乙ですー。
>>388 指摘感謝です。素で見落としてました……orz
では、橙の方ではなく、「人類最悪と同デザイン」「予備なのだろうか?」ということにしておきます。
修正は、状態表の支給品説明の差し替えだけで済むかと思われます。
後でしたらばの修正用スレに、状態表の換えを投下しておきます。
申し訳ありませんでした。
>>386 ラジオ期待してます。
予約来た!
しかも二つ
ラジオも予約も楽しみだ!
ヒャッハー!ラジオだー!
予約も増えたし楽しみだ。あとはクルツ組くらいかな?放送前にいるのは。
おまたせしましたリリア、宗介投下します
「あーなんで、燃料が無いのよーー!」
日が昇り始めた頃、空港の格納庫に響く少女の大きな声。
少女――リリア――が一つの飛行機のコクピットの中で苛々とした声を上げていた。
理由は至極簡単で飛行機の燃料が一つも入っていないから。
その単純な理由がリリアをここまで怒らせていたのだ。
ぶすっとした表情でコクピットに深く身を沈める。
動くマネキンを排除した後リリアと同行者である宗介はマネキンを精査したが特筆すべき事は無く。
超常現象という一言で宗介は片付ける事はしなかったのだがリリアが理解できないものは理解できないという一言でマネキン調査は締めくくられてしまった。
結局マネキン騒ぎで手に入ったのはナイフ一つ。
そのナイフはリリアが護身用が持つ事になりマネキン騒動は終いとあいなった。
その後本来の目的である空港の調査となり、リリアは飛行機の燃料を調べる事になった。
リリアは満面の笑顔で燃料あったら運転していいと目を輝かせていったのだが結果はこの通り一つも燃料が無い。
リリアは落胆しながら、段々不機嫌になっていき今に至る。
要するに他の調査を宗介に丸投げして自分はコクピットの中でサボタージュ。
実に自堕落気味だった。
「はぁ……なんだかなぁ」
コクピットの中の椅子に全身預けながらただ天井を見ていた。
何だか心がもやもやして。
何だかすっきりしない。
宗介は頼りになる……と思う。
だけど、今の所脱出に関して何もメドは立っていないに等しい。
でも、自分は役に立ってもいない。
同じ頃自分の母親やその彼氏さん、ついでにあのヘタレも頑張っているかもしれないのに。
任せてもいいかもしれない。
でもそれは……結局の所解決にはならなくて。
ではその為に何をすればいいのか……リリアは考えて考えて。
結局思いつかない。
つまり……自分は流されて……
「リリア……君はそこにいたか。探したぞ」
リリアのとりとめも無い思考が低い声で急にかき消される。
リリアが顔を上げた先にいたのはあのムッツリ顔。
共に行動している相良宗介であった。
リリアは起き上がりやや不機嫌そうな顔で宗介を見る。
「何? どうしたの?」
「ああ、少し発見があったのだが報告しようと……」
「何、燃料があったの!? ねぇねぇ飛ばさせて!」
「い、いやそれは見つからなかったのだが……」
「……えー」
「露骨に嫌な顔を向けられても困るのだが」
「えー」
「……リリア、頼むから泣きそうな顔を向けられても……その反応に困る」
「ちぇ」
無いとは思ったが何となく腹が立ったのでリリアは宗介をからかってみる。
宗介の困っている顔にちょっと悪戯心が満たせた所でリリアはコホンと息をついて続きを促した。
宗介は少し溜め息をしながらもその発見したものを取り出す。
「これを発見したのだが……俺では読めん。何の言葉だろうか?」
「何ー?……あー私読めるわよー。ベゼル語とロクシェ語の混合文……面倒くさい事するのね」
「……?……何だ? その言語?」
「……うん?……何って言われても……って?!」
宗介から受け取った手紙を難なくさらさらと読んでいくリリア。
宗介はリリアのいった言語に疑問を呈したが突如リリアが驚きの言葉を放つ。
「どうかしたのか」
「…………ママだ」
「ふむ?」
「ママの手紙。ママが残した手紙……ママ、ここに居たんだ」
驚きの内容とはその手紙を書いた主、アリソン・シュルツ。リリアの母親だった。
リリアがその言葉を紡いだ時、何処か哀しそうな表情を浮かべたがそれを宗介が気付くことはなかった。
リリアは驚きと、喜びと色々な感情が混じった不思議な顔を浮かべる。
そしてその手紙を強く胸に抱きしめ、目を閉じる。
その行為に宗介は驚きながらも黙って見守った。
きっとリリアにとって、大事な何かがあったんだと。
そう思って、静かに飛行機に背を預けリリアの回復を待つ。
どれくらいの時が立っただろうか。
短い様で長かったかもしれない。
リリアがゆっくりと目を開け、うーんと背伸びをしている。
寝ているわけでもないのに大きく伸びをして。
「………………さて、宗介。どうしよう?」
「はっ?」
「これから、どうしようって」
リリアはよっととコクピットから飛び降りながら宗介にそう聞いた。
手紙の事は何も言わずに、少し笑いながら。
宗介は迷いながらも聞く。
「……リリア、すまないがその手紙は……」
「……ママはママだったよ。それ以外には無いわ」
「いや…………………………そうか、了解した」
「うん」
答えになっていない答えを言いながらリリアは笑う。
宗介は問い返そうとして留まる、留まるしかなかった。
リリアの表情がそう、示していたから。
喜びとも、哀しみとも取れるなにものでもない不思議な表情を。
了解するしか、無かった。
「さてと、そうだ、宗介! いいのがあるの!」
そう悪戯そうに笑ったリリア。
何かをごまかすように話を変えて。
その目尻には微かな雫。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空が完全に蒼くなっていた頃。
空港の倉庫の中で飛行機の隣で地べたに座っている二人。
近いのか遠いのか酷く微妙な距離を保っている宗介とリリア。
二人は黙々と何かを食べていた。
「甘くて美味しいわねー」
「肯定だ。適度の糖分の補給は体に良い」
シャクシャクと食べているのはイチゴのアイス。
リリアが持っていたハーゲンダッツのストロベリー。
甘い、苺のアイスだった。
ゆっくりと当たり障りの無い言葉をかけながら静かにそれを消費させていく。
宗介はリリアのこのアイスを食べるという行為が余り理解できず、ただ食べていく。
リリアは時たま笑いながらも食べるだけ。
そのまま会話も無く食べ終わるかと思った頃に
「……宗介」
「何だ?」
「宗介は親ってどう思う?」
リリアが静かに宗介に聞いた。
ゆっくりとアイスを食べながら。
宗介はその問いに眉をピクッと動かしながらもムッツリした顔を浮かべ。
「俺には両親は居ない」
「……あ、御免なさい」
「別に気にしなくてもいい」
リリアはその宗介の答えに少し怯えるように謝る。
しかし、宗介は特に気にせず言った。
本当に気にしていないのだから。
「でも……」
「本当に気にしないでいいんだ、子供の頃から居ない」
「そう……じゃあどうしていたの?」
「戦っていた、ゲリラや軍人として」
「そうなんだ」
宗介の本当に気にしていない様子にリリアは少しだけほっとする。
そして、それから宗介の経歴に少し興味を示し始めて会話を続け始めた。
宗介は素っ気ながらも答え始める。
所々リリアの常識では解らない所があったがそのようなものなんだろうと思って聞き流していた。
素っ気ながらも静かなゆっくりとした会話にリリアには安心感が生まれる。
始めて宗介との何処か楽しい会話だったのだから。
何処か距離が縮まっていくような感じがして。
ゆっくり笑みがこぼれた。
宗介もリリアの表情にムッツリしながらも少しだけ安心した。
リリアが何処か張り詰めていたような気がしたから。
そうしてコロコロ変るリリアの表情を見ながら会話を続けていく。
「へぇー宗介って立派な軍人だったんだ」
「それ程でもないが」
「でも、強いんでしょ?」
「……まぁ、三流ではない」
「そっか」
アイスがもう残り少なくなって後一口二口程度になっていた。
宗介とリリアの会話それに比べて随分弾んでいて、微妙な距離は縮まっていた。
リリアは宗介が思いのほか強いことを知って。
「じゃあ……」
リリアがまた少し近づいて。
顔を近づけて。
「私を護ってくれる?」
そう、特に表情も変えずに聞いた。
宗介は鳩が豆鉄砲を喰らった様に宗介らしくない驚きを見せた。
余りに唐突な問い。
宗介が何か言葉を紡ぐ前にリリアが大きく笑って
「……なーーーーーーんて。一応まだわたしを護ってくれる人は沢山居るの。ママや、その彼氏さん。ついでに……んーまぁあのヘタレも」
「……」
「宗介にも護る人居るんだしね。二人居るんでしょ」
「……肯定だ」
「そういう事よ」
「ふむ……」
「……何でもないわよ?」
リリアは本当に表情を浮かべずに最後の解けかかったアイスの一口を食べる。
幸せそうな笑みを浮かべてご馳走様と静かに呟いて。
未だに驚いている宗介を尻目に立ち上がった。
「さて、アイスを食べたら冷えちゃった」
パンパンと服の汚れを取りながら一人そう呟く。
大きな伸びをしてそして。
「トイレ行って来る」
そう短く告げて。
足早に宗介に背を向け走って行く。
宗介はポカンとしながらも見送って。
やがて気付く。
「まて、リリア。其方にトイレは無い」
宗介も最後の一口のアイスを食べてリリアを追った。
空は完全に蒼くなり……朝を告げようとしている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
宗介が足早におってリリアを見つけた。
リリアは一つの飛行機のコクピットに身を埋めている。
宗介は未だに宗介の存在に気付いていないリリアに言葉をかけようとして……止まった。
「ママ……ママ……」
リリアのか細い声が聞こえたから。
泣いているのかは宗介には判断できない。
でも、とても不安そうな声で。
宗介が聞いた事ない声で。
そう、呼んでいた。
「大丈夫?…………大丈夫?…………」
母親の心配を。
唯一無二の親を。
ただ心配していた。
不安で、不安で仕方なくて。
「怖い………………」
その恐怖は殺し合いへの恐怖か。
母親が死んでしまう恐怖か。
それは宗介には解らないけど。
「ママ………………会いたい」
そして、宗介は理解する。
結局の所、リリアは。
人目を憚らず、泣いて叫んで母親を無事を祈って再会を望み言い続けない程には大人であって。
でも、それでも、恐怖に襲われて母親を心の底から求めてそれを抑えられない程には大人ではなかったのだ。
大人になろうとしている少女でしか……無かった。
また、宗介は解らざる終えなかった。
リリアにこの殺し合いを、恐怖を植えつけたのは何よりも『自分』である事を。
これが夢のようなものではなくて、余りにも近い現実である事を。
それを知らしめたのは宗介自身である事を。
そう、宗介が襲って後一歩まで殺そうとしたのだ。
命が奪われる恐怖を。
今、共に行動していた自分が与えてしまった。
それなのに、リリアは笑って宗介に行動と共にしている。
リリアは許して、宗介に恐れをもっていない。
宗介はその事に心で驚き……悔しくなった。
リリアという少女を今改めて知って。
そしてその少女は今、震えている。
でも、宗介には何も出来ない。
何をすればいいか、その術を知らないから。
宗介は何も言わず……そして窓から見える空を見上げる。
空は蒼くなっていて朝になろうとしている。
この微妙な距離のまま……宗介はリリアが落ち着くまでここにいようと思った。
リリアの震える声だけが静かに響いて。
そして、宗介の中にリフレインする言葉。
『私を護ってくれる?』
それだけが何故か頭に強く響いて。
宗介の思考を奪っていた。
宗介はリリアに何をすればいいか迷い。
リリアは宗介に対して何故この言葉を吐いたか解らず。
昇り始めた光が朝を告げようとした。
【B-5/飛行場/一日目・早朝(放送直前)】
【リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式(ランダム支給品0〜1個所持)、ハーゲンダッツ(ストロベリー味)@空の境界×6、アリソンの手紙
[思考・状況]
0:????????
1:ママ……
2:宗介と行動。
3:トレイズが心配。
4:アリソン、トレイズ、トラヴァスと合流。
【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:サバイバルナイフ、IMI ジェリコ941(16/16+1)
[道具]:デイパック、支給品一式(確認済みランダム支給品0〜2個所持)、予備マガジン×4
[思考・状況]
0:??????????
1:リリアにが落ち着くまでここにいる
2:リリアと行動。
3:かなめとテッサとの合流最優先。
【ハーゲンダッツ(ストロベリー味)@空の境界】
幹也が式に贈ったアイス、ストロベリー味。
現実世界にあるハーゲンダッツと特に変わりはない。
投下終了しました。
支援感謝します。
此度は延長してしまい申し訳ありませんでした
投下乙です。
おー。ベゼル語もロクシェ語も、書かれていると言語は達者な宗介にも読めないのか……。
リリアの脆さと、薄皮一枚の虚勢と、そう追い込んでしまった宗介の自責が凄いなぁ。
次の放送で呼ばれるかどうか分からないけど……呼ばれてしまったらどうなるんだろう、この2人の関係。
先が凄く気になる一話でした。GJ。
……失礼、これやっぱり危険かも。
宗介が手紙の内容が分からなかった、という部分。
ベゼル語とロクシェ語が現実地球準拠設定の宗介には読めない、どこの言語かも見当つかない、となると、
今度は逆に、リリアたちの側も日本語や英語その他の文字表記が読めない、ってことになっちゃうかもしれない。
書き言葉と喋り言葉を別扱いにするとしても……ちょっとこの先、大変なことになるかもしれません。
私が気にし過ぎなのかもしれませんが……出来ればそこは変えた方が良いのでは。
細かいところ、失礼しました。
確かにその通りですね了解しました。
そこの部分を訂正し、仮投下の場所に修正版を投下したいと思います
修正しました。
確認宜しくお願いします。
それと、状態表にマネキンのナイフを回収し忘れていました。
ウィキ収録後に修正したいと思います
素早い対応乙です。
確かに「ベゼル語」とか「ロクシェ語」とか言語名挙げられても分からないよなぁ。
これで先に挙げた心配は問題ないと思います。ご苦労様でした。
延長申し訳ありませんでした。
これより投下します。
胡散臭いほどにさわやかな笑みを浮かべ、彼は恭しく腰を曲げて、こう言い加えた。
「あ、申し遅れました。
僕の名前は古泉一樹。しがない『超能力者』、です」
曲げていた腰を伸ばしたそのときも彼の胡散臭い笑顔は、まるでその表情を貼り付けたように変わってはいなかった。
――あたりに散らばっているのは人間の死体。
つい先ほどまでは同盟関係にあったはずの少年、高須竜児の死体。
両手も、両足も、顔も、喉も、胸も、彼を構成していた要素全てをバラバラに切り落とされて、あたり一面に血臭を撒き散らしている死体。
そんなモノがすぐ側に転がっていても、そしてその凶行を行った殺人者を目の前に置いていても、彼の笑顔は胡散臭いほどにさわやかだった。
ただし、彼がまったく現状を理解していない愚か者なのかというとそうでもない。
表情こそ敵意一つない笑顔のままでも、ゆっくりと、だが確実に高須竜児の死体の側へと、より正確に言うとそのすぐ側に転がっている武器の側へと移動している。
また彼はこちらへと話し掛けてくる前に、窓に開いた穴――ガラスを破るというほんのわずかなロスなしに外へ移動できる場所を確認しているのも見た。
「――それで?」
それで少なくとも彼は、ついさっきここでバラバラにした高須竜児や、一、二時間ほど前に図書館でバラバラにした長門有希よりかは現状を認識して、受け入れることができる相手。
理想(ユメ)と現実(リアル)の違いを理解している人間だと相手を見計らった上で、紫木一姫は目の前の胡散臭い笑顔を浮かべる少年に続きを促す。
彼を殺すか、それとも「まだ」生かすかは決めていない。
だが少なくとも殺す前にこの相手の話は聞いておいても損にはならないだろうと判断して。
「それでその『超能力者』さんは姫ちゃんに何を求めているですか?」
「はい、とりあえずはさっき言ったとおりです。
まあ、今のところは僕を含めて二人しかいませんが……あなたには後二、三人は引き入れる予定の「協定関係(仮称)」のメンバー及び、その保護対象への不可侵関係を築いて頂きたいと考えています」
「不可侵関係ですか」
「ええ、可能ならこちらの協定に協力してくれるのが一番いいのですがね。ただ協力してくれることはあなたにとってもメリットはあると思いますよ?」
「メリットですか? あんな「眼」以外にはとりえのないような一般人レベルの人間を、それもあっさりと安っぽい希望に流される人間を組み入れるような人たちが姫ちゃんにどんなメリットをくれるっていうですか?」
そう言うと共に彼女は一歩彼の方と踏み出した。
曲弦師にとってたった一歩の距離などは詰めようが詰めまいが、たいした意味などは持ちえない。だからこれはただの脅しだ。
くだらない話は抜きにして彼女にこの集団に協力させるだけのメリットを示して見せろという脅し。
その動きを古泉は軽く手を上げて留めた。
◇ ◇ ◇
(やれやれ、思った以上に気が短いようですね)
彼は内心そう呟くとともに溜息をつく。
今回の交渉は前二回とはまるで難易度が違う。
銃を持っていて、多少は荒事になれた雰囲気を持っていた――言い換えればそれ以上の相手ではなかった一人目。
見た目こそ凶暴な人間のように見えても、実際はいいとこ町のチンピラレベルの二人目。
彼らの危険度が猫ぐらいだとすれば、この少女の危険度はトラ以上だ。
――だとすれば、そうそう簡単に涼宮ハルヒの存在を、こちらにとっての生命線を知らせるわけにはいかない。
最低でも、少女のたった一つの泣き所、こちらにとっての涼宮ハルヒと同じ存在、つまり彼女が守るべき誰かの情報の糸口ぐらいは交渉前に掴んでおきたかったが仕方がない。
交渉途中でなんとしてでも見つけ出し、彼女も仲間に引きずり込む。
そんな決意とともに、彼は少女に向けた手のひらを上方向へと翻し、これまでの交渉の際「彼ら」に見せたように、己の力の証明となる赤い光の弾を生み出した。
「さて、少々話は長くなってしまいますが、どうか我慢してお付き合いください。
まずは僕の、いえ、一人賛同してくれたから僕らのというべきですね。僕らの目的は皆が共に救われる『かもしれない』可能性、その可能性を現実にすることです。
……ああ、別に妄言を言っているわけではないですよ。それはこれからの話を聞いて判断してください」
(――さて、まずは)
少女に向けて喋りながら、古泉一樹は情報を整理していく。
確かに眼前の少女の情報、たとえば少女の知り合いがどのような人物なのか。そしてどのくらいの人数がいるのか。どのようにして、高須竜児を殺害したのか。
これらに関しては一切わからない。
――だが、先ほどのわずかな会話だけでも判別できることもある。
それは少女の目的が彼女の大事な知り合い一人を「優勝」させるのが目的らしいということ。
そして高須竜児や先ほどの水前寺邦博、島田といった男女とはまったくの他人であるということ。
つまり、今の彼にとっては目の前の少女の素性を探るのに使えるカードは一枚きりということだ。
(まあ、いいでしょう)
そして、彼は言葉を続ける。
「まずは少し大きな音を出しますよ?
ああいえ、その前に聞いておかなくてはならないことがありました」
「なんですか?」
「あなた――玖渚機関という物をご存知ですか?」
「……はあ?」
「……おや、聞こえなかったですか? 玖渚機関。これを知っているかどうか聞きたかったのですが」
(やはり、そんなに上手くいく筈はないですか)
――玖渚機関。現状唯一少女の気を引ける可能性のあるキーワードを出して見せても、少女は怪訝そうな顔をして見せるだけだった。
半分以上上手くいくはずはないとは思っていたが、それでも少々の諦観を古泉は感じた――が、
「そんな当たり前の常識を聞いて何を判断しようというですか?
それとも空洞尋問って奴ですか。姫ちゃんはそんな冷え冷えの中身のないすべりまくった質問に引っかかるほどバカじゃないです」
それは一瞬の内に驚きと歓喜にとってかわられる。
まさかこれほど簡単に行くとは思わなかった。
十中八九、彼女は最初に出会った「彼」の知り合いだ。
いや、ひょっとしたら「彼」こそが彼女の守るべき「師匠」なのかもしれない。
そうまで断言するにはやや早いとは言え、先ほど別れたばかりの「彼」と合流さえすれば彼女の弱みを握ることはそう難しいことではないだろう。
ならば無意味にごまかすこともない。
存分に目の前の少女に「彼女」の事を教えよう。
「いえ別に誘導するつもりはないし、そもそも僕ら自体玖渚機関とは関係ないんですけどね。
ここに攫われてくる前の僕は機関という組織の一員だったというだけです。
つまりこう言い換えることができますね、僕の仲間は機関と名乗れるくらいの人数がいて、全員――こういう力を持っているということです」
言うなり古泉は光球をすぐ近くの教室のドア目掛けて投げつけた。
爆音とともにドアが破壊される。
本来の力と比べると貧弱な、それでもドアや人を破壊するには十分な破壊力。
それを見せ付けてから、古泉は言葉を続ける。
「これでも大分威力は制限されているんですよ?」
ひうん。
どさっ。
彼がそういった途端、音が響いた。
彼が持っていたデイパックが廊下に落ちた。
「あなたはいちいち五月病ですよ。そんなだらだらと鬱陶しくうざくて苛々してむかつくのは、師匠一人で十分です。
そんな力があろうとなかろうと人間は殺せます。そんな力を持っていてもいなくても姫ちゃんは解体(バラ)せます」
「――糸ですか」
表情そのものは崩さずとも、さすがに冷や汗が流れるのまでは止められずに、古泉はポツリと呟いた。
何の変哲もないただの糸。ちょっとした雑貨屋に行けば一山いくらで売っていそうな裁縫用の糸。
見た感じ重しも何もついていない、吹けば飛ぶようなその糸は彼が気づかぬままに彼の所持していたデイパックに絡みつき、一瞬にして切断した。
少女の手元に回収されるその一瞬だけ見えたそれは、逆に攻撃されるまで彼には視認できなかったということ。
少女がその気になれば、自分を一瞬にして殺すことができるこの状況。
その状況にあってなお、古泉一樹は笑顔で語る。
「お気に障ったのならば謝らせてもらいます。
ですがちゃんと意味はあるのですよ。今見せたこの力は僕らの目的とする少女、涼宮ハルヒが無意識の内に僕らに与えてくれた力なのですから」
「無為式ですか……」
ぽつりと呟かれた言葉。
それに気づかなかったのか、それとも無視したのか気にせずに古泉は言葉を続ける。
「そう、彼女には「力」があります。
彼女が持っている力とは、世界を改変する力。彼女が望む通りに、世界を作り替える力。
世界を壊すのも、新たに作るのも、彼女の気分次第なのです。
そして気分次第であるが故に彼女の力は時に暴走します。
そして、力の暴走によって発生する世界の崩壊を止めるために日々奮闘している機関の超能力者、彼女の力の一部を抑えるために彼女の力の一部によって力を与えられた存在。それが僕たちなんですよ」
「そんな夜伽話を姫ちゃんに信じろっていうんですか?」
「信じてくれとまではいいませんよ。あなた方には実感も何もない話でしょうし。
ああ、それとあなたの外見で「夜伽話」は危ないですね。注意なさってください」
「関係ない話ですよ。大体さっきから姫ちゃんの質問に答えていないじゃないですか」
「ああ、メリットに関する話ですね。そのことならば簡単です」
自信満々に古泉は言葉を繋げる。
交渉はこれで三回目。
ここまでくれば相手がどう反論してくるかもわかってくる。
流れるようにスムースに古泉一樹は計画の主目的を話す。「涼宮ハルヒを絶望させる」という目的を。
「……とまあ、これが僕達の脱出計画の柱となります。
世界を創造することさえ可能な彼女の力、その力が働けばこのような舞台から脱出することは決して不可能な夢物語ではありません」
だが、その説明を聞いた紫木一姫はむしろ苛立つような表情を見せた。
「どこが夢物語じゃない、ですか。穴あきだらけのでこぼこな計画です」
「……おや、どうしてですか?」
「第一にそんな夢物語のような能力、姫ちゃんとてもではないですがまるで信用できません。
そして第二に百歩嬢ったところでそんな能力の持ち主がこの舞台に呼ばれるはずがありません。つまりそんなデタラメで姫ちゃんは騙されません」
だが、そう言い返されても古泉の笑顔は崩れない。
「ええ、ですからさっきも言ったでしょう? べつに信じてくれなくてもいいと。
これが狂人のたわごとであろうとなかろうと、いえ狂人のたわごとであればこそ、その意思は強靭です。
先ほどの彼のように希望にすがることもない。絶望しきっているわけではないから、全てを巻き添えに暴走することもない。
あなたも理解なさっているのでしょう? あなたの大事な誰かを守りきるにはこの舞台はあまりに広く、そして僕らの手は短い。
何も僕らの仲間になれ、と言っているわけではないのです。あなたも僕、また間違えてしまいましたね、僕らも大事な誰かをこんな場所で死なせるわけにはいかないという考えは一致しています。
そのためには最悪自分自身を含めた他人を殺してしまわなければなりません。
ならばそう――その順番を多少弄くっても、僕や「彼」の大事な存在を殺す順番を最後の方に回したところで、どこにデメリットがあるでしょう?」
実際には目星をつける算段がついているということを隠し、古泉一樹はあえて紫木一姫の大事な存在のことは一切聞かずに譲歩したように見せかけて、同盟を持ちかける。
ここまでくれば彼女が同盟に乗ってこようが乗るまいが、古泉一樹にとっては勝ちも同然だ。
もちろん紫木一姫が同盟に乗ってくれるのが一番いいのは言うまでもない。
ただ、彼女が同盟に乗ってこなくても、彼女がこの舞台で生きて殺人を続けていけば、いずれ涼宮ハルヒとも出会うはずだ。
だが彼女はいくらとてつもない力を持っているとは言え、その身体能力そのものは普通の女子高生の域を出ない。
ならば目の前の相手からすれば涼宮ハルヒはいつでも殺せる相手とも言える。
――いつでも殺せるということは、すぐに殺す必要もないということだ。
もちろん何も知らない時ならばハルヒを生かしておくだけの理由もなかったのであろうが、涼宮ハルヒを絶望させるだけで脱出の見込みがあるという可能性を聞かされた今ならば、彼女を殺す順番を最後の方に回すだけのメリットがある。
その結末は彼女が同盟に乗ったのと同じこと。
後はこちらの身の安全を確保するだけだ。
「いかがです? 結論を聞かせていただけませんか?」
「……一つ聞かせてもらえますか?」
「おや、なんですか? まあ、僕に答えられることならば何なりと」
「涼宮ハルヒを絶望させるといいましたが、どのような方法を考えているですか? 姫ちゃん、殺すことは不得手ではないですが、拷問はあまり特異ではないですよ」
「――それはこちらの同盟に乗ってもらえた、とこう考えてもよろしいのですか?」
「まだ決めていませんが、僧侶する価値はあるかなーとは思いました」
「……そうですね、とりあえず彼女の回りから責めていく方法が今のところベストだとは思いますね。……ああ」
そこまで言ったところで、古泉は納得したように小さく頷いた。
「そこまで回りくどい言い方をしなくても、こちらの知る情報は普通にお渡ししますよ」
「――何のことです?」
「さあ、何のことでしょうねえ?」
そう言うと古泉は先ほどの地面に落とされたデイパックを拾い、名簿を取り出した。
――が、その直後に首をひねると、高須竜児の死体の側へと近付いた。
「――動かないでください」
が、当然のようにその動きは静止される。
気にするな、というように一度軽くひらひらと手をふって見せてから、その静止の言葉を無視し、古泉一樹は遺体へと歩む足を止めない。
「ああ、お気になさらず。これが――」
と言いつつ、古泉は先ほど持ち手が切られたデイパックを掲げてみせた。
「これが少々持ちにくくなってしまいましたので、今後を考えますと代わりが欲しくなっただけです」
そう言いながら、銃や包丁を無視して、死体の側に転がるデイパックを拾い上げると、その中につい先ほど自分が持っていたデイパックを放り込む。
そうして改めて、紫木一姫に彼は向き直る。
「お待たせしました。
それで涼宮さんを絶望させる方法ですが、さっき言ったとおり、彼女に直接危害を加える方法は今のところベストな方法とは言えません」
「だから回り……ですか?」
「ええ、例えば涼宮さんの性格を考えればこのような場所であっても、あなたが言うところのヌルいやり方を模索して、仲間を探して見つけていることでしょう。
そのような方を殺すのも効果的ですし、もともとの彼女の知り合いを殺すのもいい方法かもしれません」
「成る程です、つまりあなたを殺すのが手っ取り早いやり方と言うわけですか?」
「それは勘弁してください」
と、古泉は小さく苦笑して言葉を続ける。
「それに彼女のもともとの仲間、すなわち我らSOS団の知り合いを殺すのは彼女が見ている前のほうがいいでしょう」
「見ている前でですか、ずいぶんと趣味が悪いですね」
「それは自覚しています。ですが彼女が見ていないところで殺したところで、彼女を絶望させるには少々インパクトが不足です。
もちろん、仲間思いの涼宮さんのことです。まったく絶望を感じないと言えば嘘になるでしょう。ですが「誰が殺した」と言う余分な方向に彼女の想いが行ってしまう可能性のほうが大きい」
そんなことはもったいないでしょう? と言わんばかりに古泉は大仰なしぐさで両手を広げて見せる。
「僕だって犠牲はなるべく少ないほうが良い。限りある人材は有効に使わなくてはいけません」
「なんと言いますか……姫ちゃんが言うのも激しく間違っているような気がしますが、あなたが仲間とか言うのは凄く謝りのような木がします」
彼女の言葉に古泉は苦笑を浮かべるだけだった。
「そういえばまだSOS団の『仲間』については話していませんでしたね」
ややあって、古泉は彼女に渡せる最後の情報について話し出す。
彼女にとって切り札になりうる以上、先ほど同盟を組んだ「彼」のことは適当にごまかすつもりだ。
それこそ「後で合流するときに彼自身の口から聞いてください」とでもなんでも言えばいい。
「彼」と彼女を上手く合流させるかは、彼の口からどのような情報が得られるか次第だろう。
◇ ◇ ◇
――それまでがあまりに上手く行き過ぎていたせいだろう。古泉一樹は忘れていた。
今、自分が相手をしている少女が圧倒的な戦闘能力を持つ存在であることを。
それにもかかわらず、この交渉が上手くいったものと早合点して、今のことよりも、おとずれてさえいない未来のことにその意識を集中させてしまっていた。
古泉一樹が紫木一姫に持ちかけたのは相互に不干渉な同盟関係。
……ならば互いの実力差がどれほどあろうとも、彼はもう少し強気に出てもよかったのだ。
今のところ古泉一樹は一方的に紫木一姫に対して、情報を与えるだけだった。
彼女から古泉一樹へと自主的に与えられた情報はほとんどないといっていい。
――いーちゃんこと師匠の情報を除けば、この地で得られた紫木一姫の持つ情報は図書館での一件ぐらいのものだ。
当然彼女にとっては理想と現実を混同し、非現実的な脱出論を口にした利用価値ゼロの少女のことなど隠すほどのことでもない。
だからきっと、古泉が話を振れば間違いなく彼女は口にしていたことだろう。
――長門有希という図書館で解体(バラ)した少女のことを。
◇ ◇ ◇
「そうですね、まずSOS団というものは涼宮さんが作った……同好会のようなものです。正式名称は『世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団』。
その目的は『宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶこと』です」
「…………正気で言っているですか?」
「ええ、もちろん正気ですよ? 何よりこの団の存在も涼宮さんの力を証明している一つなのですから」
SOS団の目的、あまりに突飛なそれを聞き呆れた表情を浮かべる一姫に、古泉は補足を入れる。
「証明……ですか?」
「ええ。SOS団の団員は僕、涼宮さんを含めると5名。
そしてそのうちの一人、僕は先ほどから何回も言ったとおり超能力者です。……ここまで言えば僕が何を言いたいのかおわかりになるのでは?」
「……ひょっとして、残りの三人とも、ですか?」
「残念。一人は間違いなく普通の方です。まあ、その普通の一般人に過ぎない彼がSOS団に入っているという状況自体特異といえるのかもしれませんがね」
「別にそちらの都合はどうでもいいですよ。それより宇宙人や未来人の情報のほうが姫ちゃんにとっては大事です」
当然といえば当然の一姫の言葉。
確かに普通に考えれば、ただの人間の情報など手に入れたところで、この舞台においては何のメリットにもならない。
だが、その考えを古泉は頭をふって否定する。
「こちらの都合……というだけではありませんよ。普通人のはずの彼がSOS団に組み込まれている。それは彼が涼宮さんにとっての特別な何かである可能性が高いということです。
――ですから彼を涼宮さんの前で無残に殺すことが、あるいは彼女を絶望させる一番手っ取り早い方法かもしれないのですよ」
「そうですか、まあ殺せばいいって言うのは姫ちゃんにとっては楽でいいですけど」
物騒な話です、と古泉は少女の言葉に苦笑を浮かべると、「彼」ことキョンの情報をまず彼女に伝える。
続いてSOS団の中ではもっとも無力な少女、朝比奈みくるの情報を。
彼女の情報、普段メイド服を着ているという情報を聞かされて一姫が、
「……なんだか絶対にその人を師匠に会わせてはいけないという気がしてきました……」
とこれまでになく真剣な表情で呟いたことを除けばスムーズに情報の伝達は完了した。
「さて、それでは最後に宇宙人についてのことですが……」
ここで始めて、古泉は思わせぶりに口を濁した。
彼にとって「彼女」はSOS団におけるジョーカーだ。
そうそう容易く切っていい札ではない、ないのだが。
この状況下においては、どこにいるのかわからない彼女よりは目の前の戦力のほうが価値は高い、そう古泉は判断を下した。
だから彼女の情報も彼は渡す――渡してしまう。
「宇宙人、まあ正確には情報統合思念体によって造られた、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェースですね。
ただこれは純粋にあなたのことを思っての警告なのですが……いくらあなたとは言え、彼女に対してはうかつに手を出さないほうがいいかと思いますよ? 何故ならば我らSOS団の中で涼宮さんに次ぐ力を持っているのは、彼女の力の一部を与えられた僕ではなく、彼女なのですから」
「ご忠告には感謝します。それでその宇宙人さんはどんな人ですか?」
「はい、彼女の名前は長門有希。そうですね、外見は……」
言うまでもなく古泉が語る「宇宙人」の容姿はさっき図書館で殺した少女の特徴と一致する物であった。
それらの情報を得て、紫木一姫は小さく笑う。
それを見た古泉も、やはり笑顔で彼女に問い掛けた。
「どうです? 僕たちと同盟を組んでいただけますか?」
「そうですね、当然といえば当然の確認なのですが、姫ちゃんに嘘はついていませんか?
姫ちゃん、うそつきは大嫌いです。そんな相手と手を結ぶなんて金平ゴボウです」
「ええ、ご心配なく、僕はこう見えても嘘は大嫌いですから」
抜け抜けと笑顔で言う古泉に、彼女は告げる。
「そうですか」
笑顔で告げる。
「でしたらここで同盟終了です」
「――――は?」
予想もしなかった言葉に、始めて古泉の表情から笑顔が消えた。
ぽかん、とした表情、彼が呆けた様子を見せたその一瞬。
ひゅん
ひゅん
ひゅん
「――!?」
不意に風切り音が響いた。
聞き覚えのあるその音に、古泉は慌ててその身を翻す。
……だが、遅い。
曲絃師を前にして、動き出すのが遅すぎる。
曲絃糸を前にして、その動きは遅すぎる。
動き出そうとしたその姿勢のままで、古泉の動きが静止する。
糸が腕に絡んでいる。
糸が足に絡んでいる。
糸が胴に絡んでいる。
糸が。
糸が。
糸が。
全身を糸に絡めとられて、気がついたときには古泉は身動き一つ取れなくなっていた。
「――どういうおつもりですか?」
さすがに笑顔を浮かべる余裕もなく、彼は硬い表情で目の前の相手を問いただす。
「Docomoもauもありません。
ついさっき姫ちゃんは言いましたよ? うそつきは大嫌いだって」
「嘘……ですか? これは心外です。僕としては今の交渉は真摯なたいどでのぞまさせていただいたつもりなのですが」
古泉の言葉をさもくだらないという様に、一姫は大仰に首を振る。
435 :
代理投下:2009/07/20(月) 16:38:26 ID:tRrZAHAV
「駄目駄目ですよ、姫ちゃんに嘘は通用しません。けど、どうして嘘がわかったのかぐらいは教えてあげます」
「――それはありがたいことです」
「何で嘘なのかといいますと、あなたが言ったSOS団の長門さんは姫ちゃんが図書館でバラバラに殺してしまいました」
「――何ですって?」
古泉にしてみればあまりに信じられない告白。
呆然とする彼をよそに紫木一姫の告白は続く。
「特別な力も何もあったもんじゃありません。さっきの人にも届きません。
そのくせつまらない希望なんかにすがろうとするのがあまりに見苦しくて、鬱陶しくて、姫ちゃんついつい殺してしまったですよ」
そして、ここまで言ったところで、彼女の視線は古泉へと向けられる。
「超能力者さんがどういうつもりで姫ちゃんにデタラメを吹き込んだのかは知りません。
ですが、関係もありません」
すう
ここで彼女は小さく息を吸い込んだ。
「――なぜなら」
宣言と同時に、紫木一姫は、曲絃師はその指をつい、と動かす。
「――あなたの意図はここで切れます」
彼女の意図に従って、糸は、古泉一樹を絡めとる糸が引かれる。
「――いえ、切れるのはあなたの糸です」
だが、それより先に宣告は行われた。
「!?」
「――おっと」
引かれた糸に手ごたえはなく、宣告以外には何の物音もなく、ただ古泉一樹は静かに廊下に着地していた。
何の変化もないというわけではない。
――先ほどまで古泉一樹に絡み付いていた糸はその全てが焼き切れていた。
――そして古泉一樹の全身は淡い光に包まれていた。
その光は明るさこそ大きく劣るものの、つい先ほど彼が見せた光、超能力者の証明として見せた光球の色によく似ている。
「驚かれましたか?」
再び余裕の態度を見せる古泉。
その表情は先ほどまでと同じ胡散臭いほどの笑顔が浮かんでいた。
436 :
代理投下:2009/07/20(月) 16:39:33 ID:tRrZAHAV
「僕たちの力は本来はあのような光球という形ではなく、このように全身を包むように発現するんですよ。
……まあ制限された今の状況下では、頑張ってみても火傷を負わせるのがせいぜいぐらいのエネルギーしか出ませんが……あなたの『糸』を焼き切るぐらいの力はありますよ」
そう言うと同時に彼の全身を包み込んでいた光は、彼の手の先に集まっていく。
小さく、集まっていくにつれその明るさはむしろ強くなっていく。
「そうそう、確か言っていましたね。同盟は決裂ですか、いや本当に残念ですよ。あなたの師匠とやらを殺さなくてはならないのが」
「あなたの嘘は通じないって姫ちゃん言いましたよ? 姫ちゃんさっきから一度も師匠のことは喋っていません。どうやって師匠を見つけるつもりですか?」
自分の武器が通じないこの状況下。一姫はじりじりと窓に近付きながらも古泉の言葉を鼻で笑う。だが
「一つだけ忠告して差し上げますよ。次に他の参加者に出会った時、玖渚機関とはなんなのか尋ねてみてご覧なさい。きっと誰もわからないと思いますよ?」
「……は? あなた何を言って――」
彼女が何かを言い終えるよりも先に古泉は光球を解き放っていた。
一瞬の後、廊下に爆音が轟く。
後には何も残っていない。
小さい足音がどんどんと、この校舎から離れていく。
「やれやれ……」
離れていく足音を確認すると、小さく息を吐き出し、古泉は廊下に腰を下ろした。
……さすがに疲労は大きかった。
あの少女は化け物だ。軽く相手をしていたように見えても、真正面から対峙しているというただそれだけで、精神力は磨り減っていく。
それに加えて、先ほどのような制限下では無茶といえる過剰な力の使用。
いくら本来ほどの力が出ていないとはいえ、全身を一瞬で糸を焼ききるほどの力でカバーするのは少々負担が大きかった。
さすがに休息が必要だった。
「……ですが」
まだ休むわけにはいかない。
紫木一姫は聞き逃せないことを言っていた。
あの長門有希を殺した、と。
もちろん普通に考えればありえない話だ。
だが、嘘と笑い飛ばすには内容が内容だ。
確認を取る必要があるだろう。
「あと……彼から彼女の情報を……」
最初に出会った「彼」は確か北のほうへと向かったはずだ。
彼から紫希一姫の大事な「誰か」の情報を手に入れておかなくてはならない。
優先すべきはまずこの二つ。
まずは――。
437 :
代理投下:2009/07/20(月) 16:40:43 ID:tRrZAHAV
【E-2/学校/早朝】
【古泉一樹@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:疲労(中)、
[装備]:
[道具]:デイパック×2、不明支給品1〜3
[思考]:
1.涼宮ハルヒを絶望させ、彼女の力を作動させる。手段は問わない。
2.仮に会場内でハルヒの能力が発動しないとしても、彼女だけでも優勝させて帰す。
3.万が一ハルヒが死亡した場合、全ての参加者に『報復』し、『組織』への報告のために優勝・帰還する。
4.図書館にいって長門有希の死体を確認する? それとも北に向かったはずの「彼」(いーちゃん)の後を追いかける?
[備考]
カマドウマ空間の時のように能力は使えますが、威力が大分抑えられているようです。
[備考]
高須竜児の死体の傍に、
支給品一式、グロック26(10+1/10)、包丁@現地調達、消火器(空っぽ)@現地調達
がそれぞれ転がっています。
438 :
代理投下:2009/07/20(月) 17:14:11 ID:tRrZAHAV
「どういうことですか? 玖渚機関を知らない人なんているですか?」
――玖渚機関。
数少ない財閥家系の一つでその最上モデル。壱外(いちがい)、弐栞(にしおり)、参榊(さんざか)、肆屍(しかばね)、伍砦(ごとりで)、陸枷(ろくかせ)、染(しち)をとばして、捌限(はちきり)を束ねて政治力の世界を形成するそれは、一般人にも「財閥家系」としては知られる。
それを誰も知らない?
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
――ただ。
(それにしてはあのうそつきの超能力者さんの態度は少し見過ごせないですよ)
嘘と笑い飛ばすには不安がある。
どのみち師匠の居場所を知っている人に、いつ出会うかはわからないのだ。
ついでに尋ねてみてもたいした手間ではないだろう。
先ほど入手したこの機械があれば、人に出会うのも難しくはないことだし。
そうして先ほど学校で逃がした女が持っていた機械、人の居場所がわかるレーダーを一姫は取り出した。
ひとまず、気配はないとはいえ、あの超能力者が追ってきていないかは確かめておいたほうが良い。
かち
「……あれ?」
かち
かち
かち
「ど、どうなっているですかー?」
レーダーには何も映らない。
元々島田美波が廊下へと落した時に緩んでいたカバーの金具。
古泉一樹が放った光球から慌てて逃げ出した時に、窓枠にぶつけたレーダーからその衝撃で零れ落ちた電池のことを紫木一姫は気づいていない。
【E-2/早朝】
【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、裁縫用の糸(大量)@現地調達、レーダー(電池なし)
[道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発)
[思考・状況]
0:この機械はどうなっているですか!?
1:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
2:他の参加者に出会った時はいーちゃんのことの他に玖渚機関についても聞いてみる。
3:SOS団のメンバーに対しては?
[備考]
登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。
現地調達の「裁縫用の糸」は、曲弦糸の技を使うにあたって多少の不備があるようです。
SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。
レーダーの電池の規格は必要ならば後続にお任せします。
439 :
代理投下:2009/07/20(月) 17:15:50 ID:tRrZAHAV
263 : ◆ug.D6sVz5w:2009/07/20(月) 16:37:05 ID:7bYTDrQY0
さるったのでこちらに
これで投下終了です。
ご迷惑をおかけしますが代理投下をお願いします。
途中こちらもさる入って途切れましたが、以上代理投下終了です
そして投下乙です。
そうか、長門の情報で仲が割れたかー。確かに古泉にも消失長門は想像つかないw
まさかの全身光球化に、レーダーの故障?、いーちゃんに再接触を考える古泉と、色々先が面白そうです。
……レーダーは充電式だったようだけど、ここで零れた電池は充電式の電池ってことなのかな?
充電の方法も不明ではあったけど。
投下乙ですー。
おおう、長門死亡の事で決別かあー。
古泉は頭がまわるなー流石。とはいえ長門死亡は流石にショックか。
一姫ちゃんも中々、ツワモノ。
古泉もまさか姫ちゃんの糸から逃げるとは。
この二人がどうなるか楽しみーw
GJでしたw
少し気になったのはレーダーのバッテリーは落としたバッテリーでしか使えないのかな?
電池っていうかバッテリーの規格は後続に任せるって書いてあるから、次の人次第では? >バッテリー
読み返してて気づいたんですが……
◆olM0sKt.GA氏の「みことマーダーラー」で「航空機燃料」というアイテムが支給されていますけど、
これがポリタンクの中に入っているというのは、かなり危険でちょっとありえないかもしれません。
セルフのガソリンスタンドでポリタンクにガソリン詰めて発火事故を起こすというのはよく聞く話しですし、
それが航空機の燃料……ましてやジェット燃料ともなると保存と扱いは超厳重でしょうから。
なので、「ポリタンク」から「金属製のタンク」に修正してはどうかな……と、進言させていただきます。
別に書き手が爆発させる気がなけりゃ一生爆発しないだろうからいいんじゃない?
事故がおこらない理由としても保存場所が不思議バックの中だからで十分だろ
>>443 指摘ありがとうございます。
調べてみましたが確かにガソリン系の燃料をポリタンクに、
というのは危険極まりないようですね。無知をさらしてしまいました。
仰るように容器を金属製のタンクに変更し、該当部分をwikiにて修正しようと思います。
予約きたー!
しかしこう贅沢な思いなのかも知れんが、投下数上位5名以外の作品も読みたいぜ…
確かに、もっと賑わいたいなー
って高望みしすぎだなww
月報上位に来るくらい賑わってるだろ
いやぁ十分にぎわってると思うぜ……w
賑わう、賑わっていないで言うと賑わっているとは思うが
実質エースの人たちが頑張ってくれている結果だからねーw
まだ序盤の他ロワと比べてみても、少数精鋭でやってるイメージはあるよねここ
まあしかし、新人さんは常時歓迎だ。書けるとこだけでも是非。
あるいはもう少し経てば、序盤を書いた書き手が他作品の把握を終えて戻ってきてくれると信じてる。
けっこう把握が大変なロワだからな。冊数とか。
あと60冊。あと60冊くらいなんだ……
454 :
創る名無しに見る名無し:2009/07/25(土) 05:14:00 ID:4OdaajHv
>>453がんば( ´ー`)b
にしても、いまだに深夜に一人いるんだが。
新人が入りにくいのは一から作品を把握するのが大変なのも原因かもね
ラノベは立ち読みじゃ把握は無理だしさ
あと、人気作が集まっただけあって、新刊で揃えようと思ったら結構ラクだけど、
逆にブックオフなど安価な中古市場では品薄なのがあるからな。
財布に対する負担もけっこう大きい。
少しずつ新品買い揃えるか、古本屋回って偶然の出会いを待つか、どっちにせよそういう意味でも時間がかかる。
書きたいとは思うがお金が無いや
俺はラノベの立ち読みたまにやるな。根性出せば何とかなるぜ
あのスペースに長時間在住する勇気が無い
毎回一時間はラノベコーナーにいるな
……もしかして、本屋で読み終えてから買うのは俺だけなのか?
外道め
シリーズの最初ならあり
>>462 結果的には買っているっぽいからいいんじゃね?
すいません、ネットの回線が接続ができず、連絡できませんでした。
期限から遅れてしましたが投下します
結論だけ言ってしまうと――――――最悪だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「へぇー鮮花ちゃん、愛用の武器支給されたんだー。羨ましいなぁ」
「本当に。運がいいというもんじゃないぜよ」
「…………」
緩やかな音楽が流れ、香ばしい匂いが漂う空間。
二人の男に連れられ入った喫茶店はそんな何処にでもある様な場所であった。
とはいえ、このような空間は嫌いではないと考えながらも余計なモノのせいで雰囲気がぶち壊しである。
その雰囲気をぶち壊しているのが向い側の席に座らずわざわざ自分の両隣に座っている金髪の男、二人。
馴れ馴れしい、鬱陶しい。
その二人についての連れられて来た女、黒桐鮮花が抱いた感想はそれであった。
苛々としながらゆっくりと紅茶を啜る。
中々おいしいものだが脇が鬱陶しいせいで味を味わう暇が無い。
自身の方針に惑い誰にも合いたくなかった時にあった二人。
まぁ、これで自分を見つめなおす事ができればと乗ったのだがそれは間違いだったのだろうかと頭を再び抱えそうになる。
金髪アロハサングラス、土御門元春。
金髪ロンゲ、クルツウェーバー。
その二人との話はなんてこと無い……ただのナンパ。
自身の名前を教えただけでやたら褒めちぎる。
火蜥蜴の革手袋を教えただけでまた、褒めちぎる。
黒桐幹也以外の男の無駄な褒めの言葉は正直どうでもいい。
さらに言うとうざったらしい。
流石に話が全く進まないのに痺れを切らした鮮花は大きくため息をついて先を促そうとする。
「どうでもいいです。さっさと話をしましょうよ」
「話はしてるにゃー。鮮花ちゃんの事を知る為の話をだぜい」
「そうそう。相手を知らなきゃ話も弾まない。ほら、鮮花ちゃん可愛い顔が歪んでるぜ、スマイルスマイル」
「…………貴方達は何がしたいんですか?」
が、全く相手にされない。
笑えというが鮮花は逆にもっと苛立たしい表情を露わにしてしまう。
青筋すら浮かぶぐらいに。
結局この人達は何が目的で自分に接触したのだろうかと思い尋ねてみることにした。
「「そりゃ勿論、可愛い女の子と楽しいコミニケーションをする為に決まってるだろ(だぜい)!」」
とても嫌らしいほど爽やかな笑み。
成程、外面はそれなりにいいからきっとそこら辺のそれなりの女の子ならコロリと落ちるだろう。
だが、そんな笑顔は心底どうでもいい鮮花にとっては本当に嫌らしい笑顔にしか感じない。
というより、本当に頭が痛い。鮮花は心のそこからこの金髪二人に思う事がただひとつ。
「馬鹿……」
あの理知的そうに見えたのは一瞬であったか、下半身と脳が直結してるのだろうかとあまりの頭の痛さにとんでもない事を考えている鮮花。
苛立たしさに紅茶を一気に呷ったが、両隣の嫌らしい笑みは消えない。
何でこんな事になったのだろうと鮮花は大きくため息をつく。
本当不潔で馬鹿な男達、ああ、燃やしたいと思っていた所。
「鮮花ちゃん? どうしたの? 寂しい顔をしちゃって。なんなら俺の胸に飛び込んでたって」
「クルツ、抜け駆けはずるいにゃー。こんな奴より、この土御門さんの胸に飛び込んだほうがいいんだぜい」
そんな、思いっきり軽い声。
近づく馬鹿二人。
鮮花は何かブチッと切れるような音がして。
「AzoLto――――!!!」
文字通り鮮花の怒りの火が燃え上がった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……まぁわたしの行動経緯はこんなもんです」
そう言って鮮花は御代わりの紅茶を一口啜る。
怒りの火が収まった鮮花はやっと本題に入りまず自分の行動経緯を話したのだ。
両隣に居た金髪二人は今度は大人しく向かい側の席に座って鮮花の話を聞いていた、仲良く頭にたんこぶを作りながら。
簡単にこの4時間近い間の事を淡々と。
金髪二人もたまに相槌を打ちながら先程とは打って変わってスムーズに事は進んでいた。
だが、鮮花は自身の行動経緯を真っ正直に話した訳ではない。
(まさか、人を殺そうとしてましたなんて言えないからね……)
正直、土御門達のせいで毒気が多少薄れたとはいえ、最初は人を殺そうとしていたのだ。
実際、白井黒子達を業火で焼いてしまおうとしていた。
今は方針に迷いが生じたものの、殺そうとしていたなんて言える訳がない。
軟派な二人とはいえ、あの出会いの時を鮮花は忘れていた訳ではないのだ。
素人目でしかないが、恐らくこの金髪2人は相当な実力者だろう。
もし、危険分子と判断されて殺されるなんて事は避けなければならない。
だから、鮮花は誤魔化した。
簡単に摩天楼近くでスタートして摩天楼付近の探索していたと。
殺し合いに乗らず、兄である黒桐幹也を探しているとだけ。
白井黒子達の事は言わなかった。
会ったというのは土御門達に解るわけが無いし、誰もあってないというのを疑われる事も無いと思ったのだ。
徐々に狭くなっているとはいえ広い島だ。会ってないといっても納得してもらえる。
そう、鮮花は踏んでいた。
それで何も問題なかったはずなのだ……
「それで、鮮花ちゃんは摩天楼付近を探索していたわけ……ね」
「ええ……何か可笑しい所でも……?」
クルツはそう頷いて額に手を乗せる。
そして、あの軟派で卑猥な笑顔を全く見せずに底冷えするような冷たいな声で。
「嘘だな……鮮花ちゃん。完全な嘘だ」
「なっ……!?」
極めて冷静に鮮花の嘘を見抜いた。
その鮮花に向ける目線は酷く鋭く。
まるで、鮮花を射止めようとする狙撃手のようなものだった。
「鮮花ちゃん……俺達なんで鮮花ちゃん見つけられたと思う?」
「……」
無意識のうちに口を歪めている鮮花に対してクルツはそう問う。
鮮花はそのまま押し黙っていたがクルツは無視して答えを言った。
「煙だよ、煙。恐らく鮮花ちゃんだろ、あれ」
煙。
クルツが言った答えに鮮花はハッとする。
白井達を殺す為に簡単な火災を起こしたのだ。
その時の煙を見られていた。
しかしその煙は普通の火災ほど多くないはず。
それなのにこの男達は見ていたのかと思い鮮花はただ驚く。
けど、だからといって
「何故わたしが起こしたと?」
それを鮮花がやった証拠にはなりえない。
極めて冷静に勤めて鮮花はそう答える。
たとえ煙が見えても、その煙が鮮花が起こしたとはなりえない。
それに被害者の可能性だってあるのだから。
「……何なら聞くけど煙の方から来て俺達は気付いて鮮花ちゃんは気付かなかったのかい?」
「……それは」
「それに何も言わず、冷静に隠したという事は被害者にはなり得ないって事さ……だろ? 鮮花ちゃん?」
クルツは冷たい視線を向けながら追求していく。
というより、クルツ達は既に鮮花がその加害者である事を確信している。
鮮花は強く奥歯を噛んで悔しがるもそして気付く。
(ああ、つまり気付いて接触したんですか……)
クルツと土御門。
二人は加害者である事に気付いて鮮花に接触したのだ。
その加害者である鮮花に接触し場合によっては排除を考えていた事もしれない。
いや、それよりその気があったら殺していたかもしれないと思い鮮花は戦慄してしまう。
だけど、彼らはそれをしなかった。
つまり彼は殺す気はまだ無い。
だから、鮮花は言葉を紡ぐ、生き残る為に。
「…………ええ。あれはわたしが起こしました……嘘ついてました。もっとも殺すどころか制圧されましたけど」
「やっぱりか」
「明確な殺意をもって……でも今はそんな殺して生き残る……そんな気は余りしませんから」
「つまり殺し合いに……」
「進んで参加しました……最も過去形ですけど」
先程とはうって変わって憮然とした態度をとる鮮花。
ばれているなら、せめて堂々と。
土御門の問いに鮮花は進んで答える。
言葉だけでは信用はされないかもしれないが事実、今は全てを殺しつくすという選択肢は殆ど考えていない。
それが救いになるとはいえないが少しでもアドバンテージになりえればと鮮花は考え憮然としていた。
その鮮花の態度にクルツと土御門は顔を見合わせ、代表して土御門が口を開く。
「それは黒桐幹也の為にか?」
「……っ!?」
「……鮮花ちゃん結構解り易いにゃー」
不意に出された兄の名前。
全くの予想外に思わず驚き、それが答えになってしまった事を鮮花は悔いる。
というより最後の土御門の呟きが屈辱だった。
そういえば、先程白井に同じような尋問に引っかかった気がする。
そんな鮮花は自分に苛立ちながらも冷静になろうとなろうとした。
ここで、焦ってしまうわけにはいかないのだ。
だから未だに憮然とした表情を浮かべ
「……それが? 別にいいじゃないですか。誰の為であろうと」
「そりゃそうだけれども」
「生きて貰いたかった。それだけですよ」
鮮花は冷静に言葉を紡ぐも心の中ではただ自嘲をしていた。
そう言ったって自分に覚悟も無く。
そしてそれを全うするだけの実力も無かったのだから。
なのに威勢のいい事をクルツ達に言っている。
なんて、馬鹿らしい……と。
クルツ達はそんな鮮花を笑わず……かといって褒める事は決して無く。
静かに黙っていた。
だが、やがて土御門が口を開く。
「………………考えなかったのか?」
「何が?」
「…………黒桐幹也が死ぬ可能性を」
「なっ!? 何を!?」
お茶らけた口調ではなく土御門本来の口調で極めて冷静に。
黒桐鮮花が避けたいた考えをズバリと言い当てた。
そう、それは愛する兄が死んでしまう事。
幹也は魔術師でもなんでもない。
つまりは、戦う能力などないのだ、
そんな幹也が襲われたとして助かるとは思えない。
いつ死んでも可笑しくは……ない。
「まさか……考えてなかったとかいわないよな?」
土御門のその追及の言葉が今の鮮花にとって煩いだけ。
考えてなかった訳ではない、考えたくないだけなのに。
もし幹也が死んだらどうなるのだろう。
何の為に殺そうとしていたのだろう。
そんな、最悪な事態を考えたくない。
「次の放送で、呼ばれるかもしれない…………それなのによく殺そうと……」
「五月蝿い!」
土御門の言葉を言い終わる前に鮮花はテーブルを蹴り上げる。
そして、土御門を殴ろうと迫るがそれを簡単にいなされ逆に制圧されてしまう。
ずけずけと心をえぐる土御門がいい加減五月蝿く感じたから。
それなのに簡単にこうも制圧されてしまうと鮮花は単純に悔しい。
これから死ぬかもしれないのに、そう感じてしまった。
鮮花は悔しいから言葉をぶつけてやる。
この男には決してわからないだろうと思う感情を。
「……貴方には解らないでしょうね、もしこの場に大切な人が居た時、どう思うか」
「………………解る」
「………………え?」
予想外の土御門の言葉に制圧されながら鮮花の顔は驚きに染まる。
土御門は表情も変えずに呟く。
「……………………もしそうだとするのなら、オレは絶対に護る。たとえこの手が地にぬれようと護ってみせる。例え汚れまくろうとしても…………それがオレだ」
土御門の決意に鮮花は言葉がつまり固まる。
なんて事ない、土御門はとっくの昔にそんな覚悟は出来ていたのだ。
大切な人が居たのなら。
手を染める覚悟を、血に汚れて外道になろうとも。
護りきってみせる、たとえ救われないとしても、それで護ってみせると。
そんな覚悟をとっくの昔に、終わらせていたのだから。
だからこそ、土御門は鮮花に言うのだ。
「だから……鮮花ちゃんはそんなの似合わないぜい? こんなに可愛いんだから、汚れる必要はないぜよ」
似合わないと。
もっと先に血に汚れ、救いようのない所まで汚れた土御門が。
こんな風になって欲しくないと。
そんな気持ちを隠す為におちゃらけて言った。
「んだな、鮮花ちゃん……取りあえず手段を変える事かんがえてるんだろ? 俺達がエスコートしてやるよ」
それに同調するようにクルツが言葉を紡ぐ。
殺すことが日常になりつつあるクルツが鮮花に向けて。
戻れないほど殺してしまった狙撃手がまだ戻れそうな女の子に向けて
鮮花がよりよい方向に向かうようにとへらへら笑いながら言葉を紡いでいた。
けれども、その意志は固く。
鮮花は思う。
(ああ……なんかもう……悔しいなぁ)
ただ、本当に悔しい。
よりによってこんな男達にこう言われてしまうなんて。
すごく悔しくて悔しくて、頭にくる。
「……そんな事いって、幹也が死んでわたしが躍起になってりしてさらに殺そうとしたら殺すでしょう?」
「ああ」
「……物騒な事、さらりといわないでください……というより制圧したまま言うのはずるいです」
「それもそうだにゃー」
「はぁ……でも……まぁ……そんな事もう無いですから」
鮮花はそうため息を付きながら思う。
この男の言葉によるものではないが。
今は、たとえ逃げだろうと覚悟が出来ていない人間の考えなんだろうけど。
ひとまず、全てを殺すという事は置いておきたい。
そして、幹也の為にもっとより答えを導き出す。
例え次に幹也の名前が呼ばれようとも。
しかし、今は取りあえず殺し以外の手段を選ぼうとそう決めた。
それこそが覚悟も何も無い黒桐鮮花が選びとれるものなのだから。
それが、黒桐鮮花が選んだ答えだった。
愛すべき黒桐幹也に逢うために。
選んだたった一つの答え。
でも、鮮花は思う。
こうも、色々言われて、制圧されて、心に踏み込まれたなんて。
考えば考えるほど頭にくる。
しかもこの軟派の二人である。
考えれば考えるほど……
(本当――――――最悪だ)
最悪だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「いやぁー俺達は幸せだなぁ! 土御門!」
「そうだにゃー! 鮮花ちゃんと行動できるなんて幸せだぜよ!」
「…………………………はぁ」
鮮花は早速自分が選んだ選択肢を選びなおしたくなっていた。
というより酷く頭が痛くなってくる。
何でこんな二人と居るんだろうと。
結局、鮮花は取りあえずこの二人と共に行動する事に決めた。
取りあえずは幹也の捜索を優先して。
土御門達は信頼する気は無いが信用してもいいかと思って。
自分が実力的に劣っている事はもう明白なのだ。
ならば、実力者と行動するのは悪くない。
そう、自分で理論付けて土御門達と行動をする事を決定した。
二人は快諾し可愛い女の子と行動できるとさっき見せたのが嘘のように騒いでいる。
「「可愛い女の子最高っー!!」」
馬鹿二人の咆哮。
……本当よかったのだろうかと改めて鮮花は頭を抱える。
自分がしっかりしないと心に誓った。
「それで……クルツさん達は戦えるんですよね」
「ああ……といいたい所なんだけど狙撃銃がないんだよなースナイパーなのに。鮮花ちゃん持ってる?」
「いえ……」
「そっか。銃がないスナイパーってのもなー……あ、鮮花ちゃんの心はスナイプでき……ぐぎゃ!?」
「黙れ」
「おー溝尾に綺麗に入ったにゃー」
このコメディのような光景に改めて鮮花は何度目か解らないため息を強くつく。
ため息をつく度に幸せって逃げていくんだっけとか思いながら。
「土御門さんは持ってないんですか」
「……持っていたらこいつにとっくに渡してるにゃー」
「そうですよね」
「……………………」
そう言った土御門をクルツは見つめていたが鮮花は気付く事はなかった。
土御門はそんなクルツの視線を知ってか知らずか
「さて、もう放送まで1時間切ったぜい、朝食でも取ろうにゃー」
そう呟いた。
鮮花はそれで、放送が近いことを知る。
そしてただ祈る。
―――黒桐幹也が呼ばれませんようにと。
【D-5/十字路・喫茶店前/一日目・早朝】
【黒桐鮮花@空の境界】
[状態]:疲労(小)
[装備]:火蜥蜴の革手袋@空の境界
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:黒桐幹也をなんとしても生かしたい。
1:黒桐幹也を探す。
2:土御門とクルツと行動。
[備考]
※「忘却録音」終了後からの参戦。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
んーー。
鮮花ちゃんが仲間に入ったのはいいけど…………土御門。
あいつ、なんか隠している気がする。
いやなんか何でも隠してそうな奴だが。
それでも、俺に関する事で何か。
ヒントとするなら狙撃に関することか。
……答えはなんとなくわかってるんだけどな。
まぁ当然の事だろう。
いいさ、信頼は兎も角信用はしてやる。
その時になったらその時だ。
そして……その時は俺の仕事をするだけさ。
【クルツ・ウェーバー@フルメタル・パニック!】
[状態]:左腕に若干のダメージ
[装備]:エアガン(12/12)
[道具]デイパック、支給品一式、缶ジュース×20(学園都市製)@とある魔術の禁書目録、BB弾3袋
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサ、当麻、インデックス、との合流を目指す。
1:放送を待つ
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。
3:知り合いが全滅すれば優勝を目指すという選択肢もあり。
4:南回りでE-3へ。その後、E-4ホールに向かいステイルと合流する。
5:ガウルンに対して警戒。
【備考】
※土御門から“とある魔術の禁書目録”の世界観、上条当麻、禁書目録、ステイル=マグヌスとその能力に関する情報を得ました。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
勘付かれてるか……?
まぁ仕方ない。
あいつもわかっているだろう。
狙撃手に狙撃銃を渡す危険性ぐらい。
事が起きたら渡すつもりだが今はしない。
あいつがいつ優勝を狙うか解らないからな。
だから、オレはこの持っている狙撃銃を隠し続けている。
信用はしているが信頼はまだだ。
しかし……だ。
気になる事といえば都合よくオレに狙撃銃が回ってきた理由。
そして、開始当初まっさきにクルツと遭遇した理由。
まさか。
鮮花ちゃんに専用の道具が渡されたように。
オレとクルツが組むように仕組まれていた……?
……まさかな。
兎も角は今はいい。
オレはオレは通り……『背中刺す刃』として。
嘘をつき続けるだけだ。
【土御門元春 @とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜2、H&K PSG1(5/5)@ 予備マガジン×5
[思考・状況]
基本:生き残りを優先する。宗介、かなめ、テッサ、当麻、インデックス、との合流を目指す。
1:鮮花の発火能力に興味。話を聞き、その素性を調べる。
2:可愛いい女の子か使える人間は仲間に引き入れ、その他の人間は殺して装備を奪う。ただし御坂美琴に関しては単独行動していたら接触しない。
3:南回りでE-3へ。その後、E-4ホールに向かいステイルと合流する。
4:最悪最後の一人を目指すことも考慮しておく。
5:狙撃銃が回ってきた事に疑問
【備考】
※クルツから“フルメタル・パニック!”の世界観、相良宗介、千鳥かなめ、テレサ・テスタロッサに関する情報を得ました。
※主催陣は死者の復活、並行世界の移動、時間移動のいずれかの能力を持っていると予想しましたが、誰かに伝えるつもりはありません。
投下終了しました。
此度は延長した挙句こちらの都合投下が遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした。
以後起こらないように気をつけます。
投下乙です。次からは気をつけて下さいw
クルツと土御門凄いなー。鮮花が完全に手玉に取られてるw
果たしてこの敗北を呑まされた状態で、幹也の死を聞いてしまった鮮花はどうなるのか。
男2人の反応も含めて気になります。
バレててなお隠してる、見抜いててなお問い詰めてない狙撃銃の運命も気になりますなー。
GJ。
……ただ、誤字には注意を。
>470の土御門のキメの台詞、「地にぬれようとも〜」は「血にぬれようとも」、ですよね?
正直そこだけ残念でしたw ガクッと来ちゃったw
orz
ウィキ登録後修正したいと思います。
指摘ありがとうございました。
投下乙
クルツと土御門やるな二人とも。
最後の腹の探り合いが黒くて素敵だ
やはり鮮花よりは一枚も二枚も上手か。
しかしけっこう妹の方もぶれてるな。
兄の死を知ったらどうなるか含めてこれからが楽しみだ。
投下乙です
鮮花受難編w
しつこい軟派は嫌われるってこの金髪コンビ状況考えないとうざいなw
しかし、互い互いに顔色窺い合ってるこのトリオは危険だぜ〜
幹也が死んだら〜、のくだりは正にその通りになるわけで、先がおお、こわいこわい
>そして、幹也の為にもっとより答えを導き出す。
ここも「もっとよい答え」ではなかろうかとー
予約来てますねー、白黒茶トリオ
すみません、ちょっとバイトが長引きました。
今から食事など私用があるために投下開始が11時30分ぐらいになりそうです。
了解です、楽しみに待ってますね
お待ちしておりますー
お待たせしました。
投下行きます
――他人を自覚的に意識的に踏み台にできる人間。
――無自覚で無意識で他人を踏みつけていく人間。
果たしてどちらの人間の方がより怖いものなのか、僕こと戯言遣いの主観においての結論はさておき、実際にどちらの人間の方が恐ろしいのかなんて質問の答えはおそらくは人それぞれ。
これまでの人生の中において、どちらのタイプの人間に踏み台されてきたかによって、答えが異なる問題であるのだろう。
常に他人を踏み台にしてきた人間。
そもそも踏み台なんて物を必要としない人間。
踏み台となる価値さえ与えられない人間。
この僕がどのような人間であるかはあえて詳細は省くとしても、そのような僕でさえこの質問に対しての答えは持つ。
確率二分の一の回答。
二分の一で異なる意見。
この質問を受けてその人間がどのような回答を下すか、なんてことは、この際関係さえ持ち得ないのだけれど、
どちらにせよ踏み台とされる人間にとってはたまったもんじゃない、ということに関しては確立二分の一の壁をはるかに超えて、ごくごく少数の例外を除けば大多数の同意を得られる答えとなるだろう。
つまりはこれはそういう戯言。
それは例えば一人の少女。
彼女は自らの望みを実現させてしまう力を持っている。
彼女の願いが叶う現実、その影には彼女と異なる願いを抱いてしまったが故に、望みが破れた物がいる。
続く八月。
終わらない夏。
彼女は無意識のうちに他人の願いを踏みにじる。
それはあるいは戯言使い。
なるようにならない最悪。
無為式。
その周りの人間はたった一つの例外、鏡の向こうの自分を除いて、皆が皆、当たり前のように破滅する。
彼らの願いは当然のように叶わない。
無意識故の最悪か。
自覚ゆえの災厄か。
そんな二人と出会う少女はどうなるかという話。
災悪と出会ってしまうが故に、あるいは最厄に出会うその前に、彼女の願いはすでに終わる――
◇ ◇ ◇
「天膳はいずこじゃ、小四郎はいずこじゃ」
時刻はそろそろ夜明けに近い。
闇一色だった空は少しずつ、だが確実に白み始め見慣れぬ町並み、墓標のようにそそり立つビル群の姿をあたりに示しだす。
ふらふらと、とぼとぼと辺りをさ迷い歩く着物姿の少女、朧にとっては摩訶不思議極まりない町並み。彼女と同じ伊賀鍔隠れの忍び薬師寺天膳が心底驚き、胸躍らせたその景色はしかし、この少女の心を何ら動かす物ではなかった。
――今の彼女の胸裏を占める感情は複雑に絡み合っている。しかしそれらの感情が行き着く先は、その思いはただ一つ。
愛しい男、彼女が愛する甲賀弦之介のために他の参加者を全て殺し尽くさねばならないという義務感のみ。
「いずこじゃ……」
幽鬼のようにさ迷いながら彼女は呪詛のように思いを呟く。
今の彼女に必要なのは忠実なる配下、あるいは利用できる強者。
あるいは薬師寺天膳のような、あるいは筑摩小四郎のような、あるいは先ほど彼女がまるで歯が立たなかった獣のような男を殺せる誰か。
そうした強者を見つけ、騙し、最後には切り捨てる。
罪悪感などあろう筈もない。全ては彼女が愛する弦之介様のためなのだから。
「いずこじゃ……いずこじゃ……」
「仲間」などとは決して言えない、ただ利用するだけの他者。それを捜し求めて朧は進む。
大通り、路地裏。
現代の町並みについての知識がないゆえに、そうした道の区別などなく、ふらふらと愚直に一つの方向へと歩きつづける朧。
そんな彼女がしばらく進んだその後に。
「――ちょっと、そこのあんた!」
不意に背後からかけられた言葉に彼女は歩みを止めて、ゆっくりと振り向いたのだった。
背後に視線をやる。
そこに立っていたのは見慣れぬ格好をした一組の男女。
声をかけてきたと思しき女性のほうは腰に片手を当てて、もう片方の手でこちらを指差し、胸を張った偉そうな態度。
「……ハルヒちゃん、いくらなんでも見知らぬ相手にそんな態度は失礼過ぎないかい?」
その少女の少し背後、ハルヒというらしき少女に負けず劣らず妙な格好をした男が、いかにもやる気なさげな様子で呟いた。
(……かぶき者?)
朧は胸中で、目の前の二人組みを見定める。
かぶき者、といえばそのもっとも有名な特徴はその派手な身なりだ。
目の前の二人はそれほど派手な身なりというほどではないが、それでも彼女の常識に照らせば奇妙な格好であることは間違いない。
詳しくは朧も知らぬとはいえ、いささか変わった形の衣服をまとう男女。これもまた新しいかぶき方の一種なのだろうと彼女は結論する。
そしてかぶき者の特筆すべきはその性格。
その人間の性格による差異もあるとはいえ、基本的には仲間同士の結束と信義を重んじ、命を惜しまない気概と生き方の彼らを仲間とすることができたなら、それは確かに魅力的だ。
……もちろんこれはただの一般論。
何の根拠もないただの暴論に過ぎず、仮に裏切られたとしても誰も責められる物ではない。
だがそれにもかかわらず、朧は彼女らと接触する道を選んだ。
その理由はいくつかある。
まず第一に朧は彼らのもつ情報を手に入れたかった。
朧が動き始めてからすでに二刻は過ぎている。
甲賀弦之介を始めとする、その理由は異なれど、朧がその姿を捜し求める者たちと出会いはせずとも、その風貌などを見かけたおそれはある。
特に薬師寺天膳などはこの舞台においても、己の不死性を信じ忍びという身分にそぐわぬ大胆な立ち振る舞いをしている可能性は高い。
ひょっとしたら目の前の男女はそんな彼の姿を見かけているのかもしれない。
また彼女らがそうした情報を持っていなくても、使い道がないわけでもない。
かぶき者といえばまず、武芸者崩れと見ていい筈。
朧本人は武芸の心得など何もない素人以下の愚鈍なただ小娘に過ぎないが、それでも幼少の頃より忍びのものたちを、それも超一流の者たちを間近で見てきた身。
目の前の男女が単なる商人、農民崩れ風情でないことなどは見ればわかる。
……もちろんあの獣のような男などに勝てるかどうか、といえば疑問ではあるが、彼女の盾となってくれる者としてその技量は十分に合格であろう。
「聞こえないの、返事をしなさい!」
「は、はい。何でございましょう」
かくして彼女は再度の呼びかけに、おどおどと返事をする。
「あたしの名前は涼宮ハルヒ。ちょっと前にあなたの姿を見かけて追いかけてきたんだけど、あなたちょっと前までホールにいたのよね?」
「え、あ、その……」
「命令よ、言いなさい。ホールの中にはどんな奴がいたの?
凄腕の殺し屋とか、超能力者とか、宇宙人とか、魔法使いとか、忍者とか。どんなのでもいいわ、なにかこう普通じゃないのはいなかった?」
「……え、あの……」
「少しは落ち着こうよ、ハルヒちゃん」
弦之介の為にならば鬼ともなる覚悟を決めた朧ではあるが、もともとの性格はどちらかといえば温和なほうである。
必然、ただの交渉においては強く出てくる相手には、どうしても強気には出にくい。
直前の決意もどこへやら、思わず数歩退いた彼女を見て、、ハルヒと名乗った少女を抑えようと男が声をかける。
「なによ、いー」
「いくらなんでも見知らぬ相手にそこまで強気に出るのはね、さすがにどうかと思う。『乗っていた』らどうするんだい?」
そう言うといーというらしき男はちらりと朧に視線を向ける。
思わずびくりと身を震わせる朧。
「はあ? いー、アンタどこに目をつけてんの? 見なさい!」
「いや、今見たけど」
びしり! とそんな擬音が聞こえてきそうな勢いで、少女は朧を指差した。
「いい? こんな和服がよく似合う可愛らしい女の子が殺し合いになんか乗るわけないでしょう! まったくこれほどの逸材そうそういる物じゃないわ。 有希やみくるちゃんとはまた違った魅力があるわね」
「いや、その見た目だけで判断するのは危ないと思うんだけどね」
もごもごと小さく呟く青年。
それを無視してハルヒはさらに言葉を続ける。
「何いってんのよ! いい? これは大宇宙の真理なの。可愛い子は正義なのよ!」
「はぁ…………」
降参というかのように、彼は両手を挙げる。
そして、そのまま朧のほうへと再び視線を向け、
「それで」
「……え?」
「話は元に戻るけど、ホールにはどんな奴がいたのかぐらいは教えてもらえるかな?
――まあ、間違いなく危険な人がいるってことぐらいは言われなくてもわかるけどね」
「え、あの……どうして……」
「それ、それ」
彼は朧の左肩を指差す。
傷自体はもう固まり始めているとはいえ、先ほど傷つけられたばかりの傷跡がそこにはある。
(――成る程、少し気狂いなのかと疑いもしたが、それなりには智恵も回るようじゃの)
最初こそ可愛い子がどうのと、突拍子もない言葉に調子を崩されはしたものの、落ち着いて考えればそういうことなのだろう。
この二人組みは女のほうが妙な言葉でこちらの調子を崩し、なおかつ油断をさせる役割を。
その後で男のほうが相手から情報を引き出す役割を、それぞれ分担しているのだろう。
それともあるいは女のほうはただの素で、それを男のほうが利用しているだけかもしれない。
どちらにせよなかなかどうして、上手いやり方である。
そして彼らは行動に移る前に情報を欲している。
――上手く売りつければ、彼らと行動をともにすることもそう難しくはない。
朧は小さく
決して悟られぬように
だが確実に
嗤った。
◇ ◇ ◇
「成る程、あなたも大変ねー」
同情したような感じでハルヒちゃんは呟いている。
少し前。
ホールまで近付いていた僕らが見たもの、それはホールから逃げ出していく和服姿の少女の姿だった。
「どうす――」
「なにしてんのよ、いー! とっとと来なさい!」
選択肢は二つあった。
一つはホールの情報を持っていると思しき、あの少女を追いかけること。
もう一つはこのままホールの周辺を見張って動きを観察すること。
どちらを選んでも情報は得ることができるために、ハルヒちゃんに選択を任せようとしたのだけれど、問い掛ける前に彼女は少女を追いかけていた。
「――まあ、いいけどね」
そう呟いて後を追う。
大通りに沿って進むでもなく、路地裏を隠れるように進み続けるでもない彼女を追跡するのは、まあ多少困難だった。
けど、ホールの近くでは下手に呼びかけて足を止めさせることができないために、結局彼女に追いついたのはホールから少し離れた場所での事となった。
その後はお約束な情報交換。
朧と名乗った(名簿にも苗字は書かれていなかった)彼女の話によると、彼女は甲賀弦之介というとても強くて正義感もある素敵な男性を探してホールに近付き、獣のように素早い男に襲われて、ほうほうの体で逃げ出したらしい。
あのような輩など弦之介様がいれば……と怖い顔で呟いていたから、まあホールに彼がいないだろうということがわかったぐらいが収穫か。
ある意味もっとも知りたかった挑発の主に関しては、
「…………よく、わかりませぬ。あの時は逃げるのに懸命ゆえに……」
とのこと。
彼女は当然のごとく、僕やハルヒちゃんにも彼と出会ってはいないか、あるいはちらとだけでも見かけてはいないかなんて尋ねてはきたが、ハルヒちゃんが最初に出会ったのが僕で、僕は古泉君とハルヒちゃん、朧ちゃんにしか出会っていない。
まあそもそも、ちらと見かけた程度の人物など僕が覚えているはずなんてない、なんていうのは戯言だけど。
それでは、と彼女が次に口にしたのは薬師寺天膳という人物のこと。
「あやつは知り合いの中でも命知らずの怖いもの知らず。このような場所においてもきっと、己が殺されず筈はないと言わんばかりに意気揚々とうろついておる事でしょう」
それはまた剛毅な話だ。
あるいは勇敢。
あるいは無謀。
あるいは無知。
あるいは愚鈍。
死なないはずの少女でさえ、殺されてしまえば終わってしまうこの世界の中、そこまでの自信を持てる人物などは逆にあって見たくもなる。
まあ、会ってみたくもなるということは、会っていないことの裏返し。
朧ちゃんの期待にはそえないという事なんだけど。
「なによ、いー。あんた使えないわね」
とはハルヒちゃんの言葉。
けれどそれは大間違いだよハルヒちゃん。
立てば嘘吐き座れば詐欺師、歩く姿は詭道主義――
戯言遣いが使える人間なんて判断した時点で、これ以上ないぐらいの勘違い。
役に立たない戯言使い。
厄にしかなりえない欠陥製品。
なんてのはまあ戯言だけどね。
「――そう、ですか」
「ねえ、あなたここから先にその弦之介さんとかを探すアテはあるの?」
探し人の情報を得られずに、やや落ち込んだ様子の朧ちゃんにハルヒちゃんが声をかける。
ああ、まあ彼女の性格を考えたらそうなるんだろうね。僕はこれから彼女がなんていうのか何となくわかってしまった。
『あなた私たちと一緒にこない? SOS団は困っている人を放っておくような冷たい集団じゃないわ!』
「あなた私たちと一緒にこない? SOS団は困っている人を放っておくような冷たい集団じゃないわ!」
なんて予定調和。
唐突な言葉に理解がついていかないのか、呆然と驚いている朧ちゃんにハルヒちゃんは言葉を続ける。
「それがいいわ! そうしなさい! 安心して、今はまだ運転係しかいないけど、メンバー全員が揃ったSOS団に不可能なんてないんだから! あなたの探している人たちだってすぐに見つかるわ!」
「……えす、おう……えす?」
「あー、まあそれは軽く聞き流したほうがいいと思うよ朧ちゃん。まあこの場合大事なのは君が僕たちと来る気があるのかどうかって事だと思うし」
いまいちハルヒちゃんのテンポについていけないのか理解が遅れる朧ちゃんに、運転係ことこの僕がフォローを入れる。
「宜しいのでしょうか……?」
「良いに決まっているじゃない! SOS団は困っている可愛い子を無視するようなことはしないのよ! 団長のあたしが言うんだから間違いないわ!」
「では、その……よろしくお願いします」
「大船に乗った気持ちで任せてちょうだい!」
そう言うとハルヒちゃんは笑った。
そして朧ちゃんは嗤った。
ただ、それだけの決定的な違い。
この場では僕だけがそれに気付いていた。
【D-4/ホールよりやや南/一日目・早朝】
【朧@甲賀忍法帖】
[状態]:健康、精神錯乱? 左肩浅い裂き傷(血は止まっている)
[装備]:弦之介の忍者刀@甲賀忍法帖
[道具]: デイパック、支給品一式
[思考・状況]
基本:弦之介以外は殺す。そして弦之介に殺してもらう。
1:この者たちを利用する。とりあえずは同行する。
2:より使えそうな者、者達がいたらそちらを利用する。
3:天膳、小四郎辺りを優先的に探す。
[備考]
※死亡後からの参戦
【涼宮ハルヒ@涼宮ハルヒの憂鬱】
[状態]:健康
[装備]:クロスボウ@現実、クロスボウの矢x20本
[道具]:デイパック、基本支給品
[思考・状況]
基本:この世界よりの生還。
1:朧の知り合いを探してあげる。
2:ホールで叫んでた奴、またはそれに惹かれてやってきた奴(獣のような男?)にも興味あり。
3:世界の端も確認しに行く。
4:SOS団のみんなを探す。
――そして僕も嗤った。
古泉君は言っていた。涼宮ハルヒを絶望させることが脱出の一番の近道だと。
彼は気付いていないのか、それとも気付いたが故に口にしなかったのか、その脱出方法の最大の欠点に。
仮にハルヒちゃんの力が彼の言ったとおりの代物で、本当にハルヒちゃんを心の底から絶望させれば僕らが元の場所に帰れるとしても、絶望させた当人はおそらくは戻れないということに。
絶望し、この現実から逃避した彼女が望む「元の現実」にそのような不安要素はあってはならない。
きっと、おそらく、疑い様もなく、間違いなく、他の全てが元通りになった世界。仮に死者さえ蘇ったところでかけるたった一つのピース。
この舞台に取り残されるただ一人きりのジョーカー。
僕がこの先彼女の力を信じるようなことがあったとしても、その役目を請け負うことはごめんだった。
そのために必要なスケープゴート。
知らずにガン付きのジョーカーを握らされる負け犬。
そんな厄目を背負う人間、僕に代わって涼宮ハルヒを絶望させる人間は、この後状況がどう転がるにしたって速めに用意しておいた方がいい。
だからこそ、僕はハルヒちゃんが朧ちゃんを仲間に引き入れることを一切止めはしなかった。
唯我独尊の人格のようでいて、ハルヒちゃんは仲間を思う気持ちはかなり強い少女だ。
仲間の裏切り。
彼女を絶望させるのに、この方法を試してみないのは嘘だろう。
だからさ、朧ちゃん。
君にはなるべく早く僕たちを裏切って欲しいんだ。
少し話を聞いてわかったよ。
君は間違いなく殺し合いの乗った側の人間だって。
確かに君の話それ自体には何の矛盾もなかった。
――けどね、朧ちゃん。
仲間や愛する人の姿を探して、危険な場所へさえ恐れずに進む健気な美少女、そんなモノが僕の身近にいるはずがないんだよ。
ならばそんな嘘をつく君は間違いなく、挑発に乗ってホールへと向かったはずだ。
そうして無様に負けた負け犬のはずだ。
だから他人を利用しようとした寄生虫のはずだ。
故に君の願いなんて叶わないはずだ。
――願わくば、次の放送で君の探している人の名前が呼ばれることを祈っているよ。
そして、惨めに暴走して、涼宮ハルヒに手始めの絶望を与えてくれないかな?
ほら、もうすぐ放送時間だ――
【いーちゃん@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:森の人(10/10発)@キノの旅、バタフライナイフ@現実、トレイズのサイドカー@リリアとトレイズ
[道具]:デイパック、基本支給品、22LR弾x20発
[思考・状況]
基本:玖渚友の生存を最優先。いざとなれば……?
1:当面はハルヒの行動指針に付き合う。。
2:一段落したら、世界の端を確認しに行く。
3:涼宮ハルヒを観察。ハルヒの意図がどのように叶い、どのように潰えるのかを見たい。
4:放送直後、朧を警戒。
[備考]
涼宮ハルヒは、(自分も気づかないうちに)いーちゃんの『本名』を言い当てていたようです。
朧が殺し合いに乗っていると、証拠はないが確信しています。
投下完了。
ご支援に感謝です。
投下乙です。
うわぁ……。
時代性の違いに未だに気付かない朧が、それでも「かぶきもの」との理解で人の輪に入ったのも驚きだけど……
なにより、いーちゃんの思考が恐ろしいなぁ。
絶望を招いた当人は排除されるかもしれない、か。確かにそうだ。
暴走の可能性を理解しつつ、だからこそあえて時限爆弾を招き入れた思考が凄い。GJでした。
投下乙ですー
朧……とりいったのはいいけど思いっきりばれてるw
ハルヒは情に厚いけど……これは裏切られたらどうなるんだろうなぁ。長門も死んじゃってるし。
いーちゃんは……怖いなぁ。冷静にそして観察かぁ
放送明け波乱がありそうだけど実に楽しみ。
GJでした。
これで放送まで行けてないのは誰々だっけ?
投下乙です
かぶきもの……朧様にとってはかぶきものかw
しかしこのug氏は本当に不穏な空気を作るのが上手いなぁ
ラストのいーちゃんの思考はなにより、もうすぐ訪れる放送を踏まえての引きがw
先日の鮮花もそうだったけど、放送直前にして火種抱え込みすぎな箇所が多数
wktkせざるをえない
>>516 予約スレにだいたいまとめられてる
居眠り中の玖渚や休息のために移動中のふじのんはいいとして、
トラヴァスへのリアクションが欲しい悠二、
夜が明けるまでには展望台つかなきゃなヴィル禁書組みは必要かな
御坂と零崎はどうだろう
>>516 放送までに「絶対に必須」なポイントはかなり少なくなってきたけど、
「予想されるイベントを放送前に済ませるか・それとも放送後にするか」で判断分かれそうなポイントは結構ある。
もう少し気長に構えようぜ。
てか、「必要」な所以外も、面白くなると思うならどんどん書いて欲しい
まぁ焦る必要は無いね
ただくなぎーはそろそろ見たいwww
お待たせしました。
白井黒子、ティー投下します
夜空に明るく輝きを放っていた星が昇り始めた陽によって輝きを失おうとしていた頃。
小さな小さな子がただ一人の少女を見つめている。
星と陽に囲まれながら。
碧の瞳を持った子――ティーがただ見つめていた。
覚悟を問われた少女を。
その少女の背を。
その少女の行く末を。
傍観者の様に。
ずっとずっと見つめている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
明け始めた空に鈍い音がひとつ響いていた。
その音は少女が拳を地面に打ち付けた音。
少女――白井黒子――は悔しかった。
それは黒桐鮮花の言葉。
それは覚悟の有無を問う言葉。
その言葉に白井黒子は心を揺らされている。
黒桐鮮花の想いはどれだけ強く真っ直ぐなものだったのだろう。
想いの為に人を全て焼き殺そうと。
それは愚直かもしれない。
でも、とても純粋で、そして強固のようで。
全て問題を先送りしていたのもかもしれない白井黒子よりよっぽど強い覚悟だった。
迷っているのだろうかと白井は思う。
鮮花の強い覚悟に。
鮮花は兄の為に全力で、それこそ命を懸けてがむしゃらに生きようとしていた。
彼女の目は決意と意志に満ちていて。
それこそ、強い者の心だった。
なら、自分はどうだろうと思う。
鮮花を拘束だけ終わらして、あまつさえ逃がして。
そんな自分は弱いのだろうか。
誰かを犠牲にせず、皆が助かる可能性を探す事は。
黒桐鮮花が言った自分達はもう負けているという事。
それなのに、皆を助けようとするのはただの甘えだけ。
弱い覚悟でしかないのだろうかと思う。
白井黒子はそんな脆弱な覚悟でこの島でたっているのだろうか?
ただの甘えで。
ただ選びたくないから?
ただ殺したくないから……?
バチンと強い音がその時響く。
それは白井黒子が自分の頬を叩く音。
そんなのものではないと白井黒子は強く言える。
甘えではない。
そうだ、自分にだって敬愛すべき相手は居る。
御坂美琴。
大切な敬愛すべきお姉様。
御坂美琴はこの島でどのような覚悟をするのだろうか?
……決まってる、解りきっている。
御坂美琴を知っている白井黒子だからこそ断言できる。
誰の犠牲も出さず、皆を護りきってみせる。
厳しく到底叶いそうに無いその選択肢を何の迷い無く選び取るだろう。
それは甘えから、流されて、殺したくないから?
そんな弱い考えで御坂美琴はそれを選び取らない。
本心から、自分の強い強い意志でそれを選び取るんだろう。
それが御坂美琴だ。
それが白井黒子が知っている、敬愛する御坂美琴だ。
ならば――――答えはもう出ている。
白井黒子が選び道もそれにあると。
それは弱い考え?
絶対に違うと言い切ってみせる。
白井黒子は強く思う。
お姉様の為に。
お姉様が選び取るこそ。
白井黒子はその道を進む。
それは決して流された選択肢ではない。
確固たる自分の意志で。
白井黒子は変わらず、誰の犠牲もださず、皆を護りきってみせるという道を歩こうと誓える。
それは弱い覚悟なのだろうか?と彼女はは思う。
それは解らないと彼女は思い。
だからこそ。
ならば改めて覚悟をしなおせばいい。
改めての白井黒このスタートラインとして。
白井黒子が歩む道。
お姉様と同じように……それを完遂させてみようと。
強く強く誓えるように。
そして、それがお姉様に近づく一歩になるように。
そして、それがお姉様に逢える時に胸を張っていられるように。
白井黒子はその道を、その選択肢を選び取る。
白井黒子は笑った。
まずはこの隣にいる小さな子を護って見せようと。
その子の白い髪を白井はクシャクシャと撫でて上げた。
その白井黒子の笑顔に迷いは無かった。
あるとするなら、憧れのお姉様への……強い想い。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ティーは撫でられながら少女を見つめる。
彼女は満面の笑みで笑っていた。
どうやら、彼女は答えを得たらしい。
それにティーは何故か満足し。
撫でられるのもたまにはいいと思って。
彼女も微かに……ほんの微かに。
笑ったのだった。
【D-5/三角州近辺・カフェ前/一日目・早朝】
【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ、地虫十兵衛の槍@甲賀忍法帖
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
0:お姉様が選ぶであろう道を、自分も選ぶ。確固たる自分の意志で。
1:当面、ティー(とシャミセン)を保護する。可能ならば、シズか(もし居るなら)陸と会わせてやりたい。
2:できれば御坂美琴か上条当麻と合流したい。美琴や当麻でなくとも、信頼できる味方を増やしたい。
3:夜が明けてから、もう一度『黒い壁』が本当に存在するのかどうかを見てみる。
[備考]:
※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。
※黒桐鮮花を『異能力(レベル2)』の『発火能力者(パイロキネシスト)』だと誤解しています。
【ティー@キノの旅】
[状態]:健康。
[装備]:RPG−7(1発装填済み)@現実、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG−7の弾頭×2、不明支給品0〜1
[思考・状況]
基本:???
1.RPG−7を使ってみたい。
2.手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
3.シズか(もし居るなら)陸と合流したい。そのためにも当面、白井黒子と行動を共にしてみる。
[備考]:
※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。
投下終了しました。
支援感謝します。
投下乙です。
黒子、動揺を抑えたけど……どうなるか。
投下乙です
この前の鮮花とは対になる話なのかな
黒子⇒美琴、鮮花⇒幹也みたいな感じで
内容は正しく静と動ですね
ただ話の内容読み取るにどこか移動したわけでもないし、
カフェ前でやり取りして決意してそれで時間が早朝にシフトしてるのは、ちょっと「?」かも
鮮花の話を対と考えると余計に。悪いわけじゃないけど。
心理凄いけど、黒子キャラ違わねぇ?
いやあってるだろこれは。
禁書の中でも結構根性あるからな。
ただちょっと決定力不足なだけで
test
瑣末かもしれない指摘になっちゃって、申し訳ないのだけど。
……うん、やっぱりちょっと時間経過に疑問があるかもしれない。
>>536の指摘通り。
「黎明」から「早朝」に入った後の時間経過についてなら、時間枠が2時間取ってあるその幅で処理できる。
でも、前の話「超難易度(レベルベリーハード)」で、前の「黎明」枠の中で、
黒桐鮮花は、黒子たちから逃げた後、隣のマスまで大移動して、土御門さんたちと接触して、交渉まで済ませてるんだよね。
具体的な時間経過は数えるのもナンセンスだけど、
鮮花がそれだけ動いてる中、残された黒子が少なくとも「早朝」の頭までただ立って悩んでる、ってのは違和感あるかも。
ちょっとでも動いてたり、あるいは内容はこのまま「黎明」に留めるなら問題ないだろうけど……。
>>537が指摘されたキャラの違いは、解釈の違いかなぁ。解釈の幅はそこそこ取れるキャラだし。
あるいは、「美琴がこう行動する「から」黒子も何も考えず同じ行動をする」、って読めちゃうのが違和感の元かもしれない。
別に黒子は美琴そのものになりたいわけじゃないから。憧れてはいるけど、物真似したいわけじゃない。
思考の補助線として「お姉さまならどう行動する?」ってのはいかにも考えそうだし、今回の話もそう読むこともできそうだけど
感想&指摘ありがとうございます。
時間とキャラの部分を修正し後に修正版を落としたいと思います
そういや最近知ったけど友の苗字ってくさなぎじゃなくてくなぎさだったんだな
騙されたぜちくしょう
俺なんてずっと狐さんの本名をせいとうてんだと思ってたわw
いや、確かに変な名前だなとは思ってたけどさw
狐は殺されても死なない気がする。
確かにあの人は殺しても死ななそうな気がするwww
狐さんって一回死んでるんだっけ?
戯言シリーズは、死体の描写が出ない限りは
「生きていたのか、●●!」で通るようなw
>>546 式に殺されても絶対に死なないと信じている。
一応こちらでも
業務連絡。
Wiki内にて再び独断で用語集を設立しました。
苦情、ご意見などがあればしたらばの方にどんどんおっしゃってください。
>>549 乙。だが、温泉は「温泉」でよくね?
用語集ってんなら、実際に使われた言葉をまとめるのがベストかと。
あと、ページのタイトルも「用語集だ」と一目でわかる方が良かったのでは。
修正版投下しました。
修正点につきましては
1:時間を早朝に進めた事による黒子の移動と方針決め。
2:黒子の心理の修正。
以上です。お待たせしてすいませんでした。
修正乙ですー
気になったんだが、両儀式とか零崎人識みたいに殺人鬼は全員「シキ」がつくのか?
そんなはずはないだろう?
殺人鬼かどうかは知らないが、
ラノベ書きにはゼロとかシキとかリクとかキリとか、
そういう音がかっこいいと思う感性があるんじゃないかな
殺人鬼の零崎の一族は、男なら「識」、女なら「織」が「零崎としての名前」の最後につく。
……ただまぁ、両儀式との一致は偶然だと思うぞw
この時期は予約来ないな・・・・・
結構…というか、かなり予約は行ってる方だと思うんだが…
は行ってる→入ってる
自己リレーで予約できる所が縛られる……w
後放送間際だし
書けるが自己リレー→自己リレー以外で書けるところを探す→だがそこは放送後に書くのもおいしい……
放送直前のロワによくあるジレンマですw
自己リレーでも停滞するよりはと考えてしまう
自己リレーってやっぱ禁止なの?
停滞というほど停滞して無いでしょw
週一で灯花あるのに
まあ、書きたい人が書きたいところを書いてくれるのが一番いいと思うよ
自己リレーはあまり褒められないが禁止する程では無いかな
周りが許すならOKぐらいでいいと思う
書き手もそこまで多くないんだしいっそ規定作って○週間過ぎたら自己リレーOKみたいにするのもありかもねー
1ヵ月以上ぐらいか?
正直「二ヶ月くらいだろう」と素で思う俺は多分古い人間だ。
失礼します。
したらばの仮投下スレに第一回の放送案を投下しました。
ですが、スレの方にも書きましたが、これですぐに放送後行こうぜ!と言うつもりはありません。
とは言え「放送後に行くこと」を選択肢として考えてもいいのではないか、とも思ったので……。
内容とともにこのあたりも、ご意見をお願いしたいです。
それでは。
>>569 乙。
でもちょっと早まってませんか? 仮投下で晒しちゃうってこと自体が。
まず、生死が左右されそうな局面が結構残されてます。
放送前に遭遇があれば死人が出てもおかしくないとことか、まさに戦闘中のとことか。
まあそこはもし死人出たらササッと修正するだけの、瑣末な話でしょうけれど……。
あと、最後の部分は相当なネタバレになってます。「どうなるのだろう」、と注視されていた部分の1つです。
いや、これは読み手としてネタバレ喰らってしまってつまらない、というだけではなく、
もし、その件の関係者の「放送前の話」を書くことになった場合、書き手的に、
どうしたってその結果は意識的・無意識的に「この結果」の影響を受けやしないでしょうか……? 考えすぎ……?
せめて、「案すでにあるんだけど、今出した方がいい?」とでも尋ねてからにして欲しかったです……今更ですが。
出されてしまったら、見ずにはいられないですからね。目を逸らしている間に大問題が通過してしまうかもしれない、と思うと。
で、おそらく一番不安を感じてらっしゃるであろう、
「名簿に載ってない10人」の生死を伝えない、残り人数を伝えない、というアイデアですが。
面白いかもしれませんが、終盤までそれで固定するつもりだ、とまで示してしまうのはどうでしょう。
『焦るだろう?』と言ってますが、終盤最後の1マスまでそれでは、
焦るどころか、ゲーム自体が成立しなくなってしまう恐れも強くなる気がします。
とりあえず第一回放送の時点では伏せておく、次回以降の放送で明かすかどうかは不明、
くらいなら何の問題もないとは思うのですが。
(まあ、次以降の放送であっさり前言撤回させてしまうのも手ではあるのですが……それでも。)
乙
なかなか面白かったが、死んだ人間は素直に放送しといた方がいいと思った。
投下おつです。
ですが私も
>>570氏同様ちょっと早すぎると思います。
放送前に必要な所は正直な話私はもっと多いと思っています。
キョン達がホテル訪れている時には居なかったヴィルヘルミナインデックス組。
警察からホテルに向かって北上した藤乃。同じく温泉から車で城に北上している師匠朝倉組。
トラヴァスの言葉をききまた戦闘が起きてる橋からホテルに向かおうとしている悠二。
城の内部や戦闘などありますしここら辺は必要だと思っています。
他にも神社に向かっている零崎組、早朝とはいえ車で神社に向かっている水前寺美波組などは必須と私は考えています。
また、必要ではなく……あった方がいい組も多いと思っています。早朝に達っしたとはいえ戦闘後組んだだけのステイル里緒組。
図書館について探索終わっただけトレイズ組などなど早朝には達したが「もう一話挟んだ方」がいい所が沢山あると思い、またあるかないかでは大きく変わる組もあると思っています。そこの一つであるシズとマオは予約が入りましたが。
総括すると私としてはまだ必要や欲しい所はかなり有り「放送前には相当早い」と私は思っています。
案があるとはいえ、やはり放送が実際でると放送明けにいってしまいがちですし……前のレス同様「まだ早い」という意見が多数であったので案があるけど投下したほうかはいいかは尋ねた後がよかったと思います。
放送の内容については同じく名簿に載ってない人数は今は兎も角後々までに言わないはきつい徒と思います。
理由は
>>570氏と一緒ですね。
後はOPに比べると人類最悪のキャラが違うかな?と。何処がどう違うというのは上手く説明できないのは申し訳ないですが。
厳しめの意見になってしまい申し訳ありません
それと76氏の予約が入っていますけどそれはそのままでいいとおもいます。今の所まだ放送案ですしガンガン予約してもいいと思いますw
うん、一晩経って改めて考えても、これは提案の仕方としてもタイミングとしても、非常に不適切な気がします。
放送に行くことの是非の議論、内容の是非の議論とは別に、この放送案自体は一旦、完全な白紙撤回が相応しいかと思います。
ひとつの動議として、「放送後に行くという選択肢をそろそろ考えてもいいのではないか」。
この提案自体はもちろんアリだと思います。
個人的には同意こそできませんが、しかし、一つの案としてそう考える気持ちも理解はできます。
雑談レベルの書き込みであれば、「まだ焦る必要はない」などの意見も出てましたが、ちゃんと検討されていた話でもないですし。
提案して他の書き手・読み手の意見を聞いてみよう、有力な一案として是非検討して欲しい、という所までは分かります。
ただ、その提案のための手段として、「今この時点で、仮投下にせよ放送案を書き上げた上で投下してしまう」、
というのは手段として間違ってると思いますし、アンフェアですらあるように感じます。
早いもの勝ち・手を挙げたもの勝ちというのはリレー企画の基本ではありますが、
放送までに必要そうな局面がこれだけある中でのこの暴挙は、流石に「フライング」と言ってしまってもいいかと思います。
また仮に、このまま即放送、ということはしないにしても、どうやら◆olM0sKt.GA 氏が選択肢として視野に入れているであろう、
「この放送プランを一旦棚上げしておいて」「この放送を前提or叩き台にしつつ」しばらく進める、ということもあまり望ましいとは思えません。
というのも、「既に放送は出来ている」という状態で進めた場合、有形・無形の焦りを産むことが避けられないだろうからです。
「もう放送あるんだからさっさと必要なところだけ書けよ」、というプレッシャーが生じるのは、誰にとっても望ましい状態ではありません。
先に「アンフェア」、という相当にキツい言葉をあえて使ったのも、この懸念がかなり強いと感じるためです。
さっさと進めるかゆっくり行くか議論をしよう、と一方で言いつつ、
使うことを前提とした放送案を提示しておくのは、(早く進めたいと思ってる人にとっても)良い方法とは思えません。
こういう手法は、議論するまでもなく「さっさと放送後に行く」ことが支配的な状況であれば議論の時間の短縮にもなりえますが、
少なくとも私の見たところ、今はそこまでの空気になってるとは思えません。
むしろ、まだ焦らなくていい、「必要」な所以外にも書ける所がある、といった声が無視されている格好な気がします。
もちろんこの提案は、議論の結果「やっぱりさっさと放送に行こう」、となった場合、
あるいは、「少しゆっくり行こう」となってしばらく話が積み重なって、「そろそろ放送でもいいか」となった時に、改めて、
◆olM0sKt.GA 氏がこの放送案を基盤とした放送案、あるいは、全く別個の放送案を再提示することを拒もうというものではありません。
>>570で少し内容にも疑問を呈しましたが、しかしその内容だけのためにここまで厳しいことを言っているわけでもありません。
ただ、「既に仮投下した放送案を前提or叩き台として」議論を進めようとするのは良くないのではないか。
一旦にしても、この放送案は撤回してもらった方が良いのではないか。
そう考える次第です。
かなり厳しい意見となってしまいましたが、是非ご検討を。
>>569 うーん…個人的には面白いと思ったのですが、それでもここでの放送案は時期尚早かなと
まだまだ書ける所書くべき所も残ってますし…
もう少し待ってみてもいいのでは?
76氏の予約については
>>572氏に同意で
是非予約していただきたいです!
ご意見ありがとうございます。
レスを読みましたが、今回の仮投下に関しては私の勇み足だったようです。
頂いた指摘には、正直なところ私が考慮の外に置いてしまっていた点も多く、自分はいかに粗雑な思考をしていたのかと反省する思いです。
特に、リレー小説をする上で重視されるべき、他者への配慮が欠けてしまっていたことは大変に申し訳なく思います。
さて、仮投下作の扱いについてですが、個人的に教訓としたい点が多く出た作品であるため、
今回の作品は破棄とし、もし後に放送案を書くとしても、そのときは今作とは全く別のものになろうかと思います。
以上です。また新たな指摘があればお願いします。
明確な回答、乙です。
今回は残念なことになりましたが、次以降の作品に期待しています。
予約していた、シズ、メリッサ・マオの分、投下します。
【プロローグ】 「支給品の国」 ―― In the Safe House ? ――
私の名前は陸。犬だ。
白くて長い、ふさふさの毛を持っている。いつも楽しくて笑っているような顔をしているが、別にいつも楽しくて
笑っているわけではない。生まれつきだ。
シズ様が、私のご主人様だ。いつも緑のセーターを着た青年で、複雑な経緯で故郷を失い、バギーで旅をし
ている。
同行人はティー。いつも無口で手榴弾が好きな女の子で、複雑な敬意で故郷を失い、そして私たちの仲間に
なった。
……そのはずだったのだが、どうもこの国――正しい意味で国なのかどうかはわからないが、いまは便宜上、
国と呼ぶことにする――に来てから、いろいろなことがおかしくなっている。
気がつけばシズ様からもティーからも引き離されて、キョンさん、という人のデイバックに入れられていた。
どうやら私は“参加者”ではなく、“支給品”らしい。
そしてキョンさんとマオさんの話から、“参加者”は最後の1人になるまでこの国を出ることができない、という
ルールを知った。もしも最後の1人が選ばれないまま時が進んだ場合、時間切れによる全滅もあるようだ。
そして、各人に配られた、殺し合いに利用できる道具やパースエイダー(注・パースエイダーは銃器のこと)。
この状況に、私はどうしても“あの国”のことを思い出さずには居られなかったが、黙っていた。
違いもまた大きかったし、そのことについて語りだしたらきりがないと思ったのだ。
“あの国”のコロシアムが“トーナメント”なら――
“この国”のこの催しは、まるで“バトルロワイアル”だ。
それから色々あって、私はシズ様と、シズ様と同行していたアリソンという女性と出会った。
今はキョンさんに“支給”された時と同じように、再びデイパックに納まっている。今度はキョンさんのそれでは
なく、シズ様のものの中に、だ。
言葉はなかったが、私にはシズ様が“やるつもり”になってしまったのだとわかっていた。
私と入れ替えに取り出された、シズ様の“支給品”であろう“武器”を見ても、その意図は明らかだった。
だが、素直にシズ様の意志従い、大人しく仕舞われることにした。
もともと私は、シズ様に会えたら、シズ様に従うつもりだったのだ。
キョンさんたちには悪いとも思ったが、黙っていた。
このデイパックの中は、不思議な空間になっている。
暖かくも寒くもない。天井も床もなく、ただ暗い空間が広がっている。
“外”ではシズ様が激しく動き回っているはずだが、その振動も感じられない。“外”の音も聞こえない。
それどころか、ここでは時間の経過すら曖昧になっている気がする。
ここに入ってからまだ数分しか経ってないようにも思えるし、既に数日経ってしまったようにも思える。
中にいる限り、お腹も空かないし、走り回りたくもならないし、排泄する気もおきない。
ほとんど半分眠っているようなものだし、実際、寝ることはできそうだ。
技術的なことは私にはわからないが、ともかく色々な意味で、“支給品”は“保護”されているのだろう。
ここに入っている限り、餓死などの心配はせずに済むようだ。
ちなみに、デイパックの口が開かれたときに限り、隙間から“外”の様子を窺うことができる。その気になれば
自力で飛び出すこともできるかもしれない。
だが、一度しっかり閉じられてしまえば、内側からは開けることもできない。
もしも“参加者”がこのデイパックに入ろうとした場合、どうなるのか――今の私と同じ状態になるのか、それ
とも、最初から入ることはできないの。それも今は分からない。
私としては、きっと入れないのではないか、と思うのだが。
キョンさんたちから聞いた“バトルロワイアル”のルールと趣旨から考えて、“参加者を生きたまま捕らえて出
さない牢獄”、あるいは“コンパクトな隠れ家”が、そんなに簡単に手に入っていいわけがない。
腕ならば突っ込めるようが、たぶんそれくらいが限界だろう。
しかし、私は“参加者”ではない。
だから、この寝るくらいしかやることのない安全なデイパックの中で、色々と考えを巡らせることもできる。
キョンさんは言った。
私の語ったラファやティーの話を、シズ様は“覚えていない”のではなく、“まだ知らない”のではないか、と。
キョンさんは言った。
4人は別の世界から集められているようだ、と。
キョンさんは言った。
ならば、私と“ここにいるシズ様”は、“似て非なる世界”から来ていてもおかしくない、と。
そうなのかもしれない。
でも、違うのかもしれない。
本当に“このシズ様”が“違う世界”のシズ様なら、私の知らない行動が1つくらいあってもいいはずだ。
私たちの旅には無数の分岐点があって、少し歯車が喰い違っただけで随分と違う結果になっていたであろう
場面も多かった。だから、シズ様の語る過去の話の中に、“私の知らない話”が少しでもありやしないかと注意
して聞いていた。
でも、そんなものは1つもなかった。
“あの国”を目前に控え、バギーが不調を起こし修理を必要とし、ラファという少女と出会うことになる、その
直前までの記憶しかシズ様は持っていらっしゃらなかった。
私の知らない別の歴史を、シズ様は歩んでいらっしゃらなかった。
とはいえ、これだけならキョンさんの示したもう1つの可能性、タイムスリップを考えてもいいのかもしれない。
でも、それだけではないのかもしれない。
旅の途中、とある国の話を聞いたことがある。
詳しい話は覚えていないが、その国では、子供が成人を迎えるに当たり、頭を開けて手術をするのだという。
頭の中の“子供”を取り出し、“立派な大人”にするのだという。
つまり、脳外科手術。
それによる人格改造が、国の方針として成り立つほど発展している国もあるということだ。
そして、人格まで操作できる国があるのなら、記憶を操作できる国があってもおかしくはないと思う。
もっとも、新しい記憶を捏造して埋め込むのは難しいだろう。それはさほど詳しくもない私にも分かる。
出来るとしたら、既にある記憶の部分的な消去。
そして、今ここにいる自分が“いつの自分”だったのか、混乱させること。
なるほどこの“バトルロワイアル”を推し進める側としては、“あの頃”の容赦のないシズ様の方が都合がいい
だろう。自分のことを“私”ではなく“俺”と呼び、時に荒っぽい言葉も使い、険もあったシズ様なら。
殺し合いを強制したい者にとっては、さぞかしありがたいに違いない。
でもこれは全て私の妄想と言ってもいい話だ。
むしろ、こうであったらいいな、という話にも近い。
では、この仮説を確かめる方法はあるのか? きっぱり否定する方法はあるのか?
ある。
シズ様にそのセーターをまくって頂いて、お腹を少し見せて頂ければいい。
“私の知るシズ様”は、腹部を刺されて生死の境を彷徨ったことがある。
今ではすっかり回復し、その動きなどに影響は残っていらっしゃらないが、傷痕は残されている。
だから、
もし、“私の知るシズ様”が記憶を弄られているだけなら、そこに傷痕があるはずだ。
もし、時間なり世界なりを飛び越えて“過去のシズ様”が連れてこられたのなら、傷痕はないはずだ。
次にこのデイパックの口が開くことがあったら、そのときシズ様に頼んでみようか。
“あの頃”のシズ様でも、私の話は聞くだけなら聞いてくれた。
復讐などやめよう、という提案だけは、口にするたびに却下されていた。
復讐を延期しよう、という遠まわしな提案は、どれも敏感に察知されて拒絶されてしまっていた。
けれど、それ以外のことについてなら、“あの頃”のシズ様でも、
話の筋が通っていれば聞いて
ぜだろう? 何も見
か ない
お
シズ様。
ぬ?
【1】 よいこのじかん 〜〜マオおねえさんと武器(ぶき)についてべんきょうしてみよう〜〜 (1)
そのいち:ショットガン(しょっとがん)
え〜、じゃあ今日はガンマニアでもないフツーの人のために、主に近代の歩兵携帯用兵器について、マオお
ねーさんが簡単な講義をしたいと思います。
ちなみにこのコーナー自体、本筋とは無関係です。バカテストみたいなモンです。誰に向かって講義してるの
かとか、いつそんな講義するヒマあったんだとか、気にしちゃいけません。
……え? 楽屋ネタはやめろ? メタな話は危険だからやめとけ?
気にしない、気にしない。
ま、怖い人に怒られる前に、さっさと進めちゃいましょう。
まず最初に取り上げるのは、ショットガン。
日本語では散弾銃。
まー実は散弾以外の弾も撃てるんだけど、でも逆に、散弾を撃てる銃ってのは実質コレだけなのよねー。
手元にあるコレに入ってるのも散弾だし、なので、主に散弾を使った時の効果について説明するわね。
一言で言うと、ショットガンってのは『点』じゃなく『面』の攻撃が出来る、貴重な兵器なの。
短所も多いけど、この他の銃にはない長所は無視できないわ。
普通の銃は、1回の射撃で1発の弾しか飛ばないわよね?
当たれば威力は大きい代わりに、ただ一点を貫くような攻撃にしかならない。
その一点以外には、被害が及ばない。
言ってみれば、銃弾ってのは『当たらなければどうということはない』、のよ。
そして実際問題として、これがなかなか当たらないモンなのよねー。プロでもさ。残念なことに。
それに上手く当たったところで、急所を外せば敵の反撃を受ける危険があるの。実戦じゃ、一方的に攻撃で
きる機会なんて滅多にないからね。敵は殺しましたが自分も殺されました、じゃ話にならないわ。撃つからには
確実にすみやかに敵の戦闘力を奪う必要がある。でも、単発の弾丸ではその点で少し不安が残る。
で。自動小銃とか短機関銃とかじゃ、この欠点を機械的に『連射する』ことで補ってるの。
一発で不安なら何発も撃てばいい。一秒間に何発、何十発と撃てばいい。
そして『点』も束ねれば擬似的な『面』になる、『面』の攻撃になれば当たりやすい、ってわけよ。
実際には、たくさん撃てば弾の消費も多くなるし、消費を見越していっぱい弾を抱えると重たいし、連射すれ
ばそれだけ反動も大きくなるし、他にも耐久性やら整備性やら生産性やら取り回しやら、考えなきゃならない
問題は山ほどあるんだけど。
その辺の試行錯誤は、今までも重ねられてきたし、これからも重ねられるんでしょう。
さて、その『点の攻撃』という問題に、『連射』とは違う答えを出したのが今回の主役・ショットガンよ。
見てみれば分かるけど、ショットガンの実包は大きいの。大きいというか、太い。
ピストルやライフルの弾と比べれば、ケタ違いに太い。
そしてこの太い円柱の先端に、複数の球形の玉が入ってる。
これが散弾銃から発射されたら、どうなるか?
……そう、同時に一気に飛び出すのよ。複数の弾丸が。
そして、球形の弾丸は銃口を抜けた所から拡散を始める。銃口を頂点とした円錐状に、広がっていく。
細かい弾が『散らばる』から『散弾』。
そしてそれが標的に命中すれば、なにしろ吐き出される弾数が多いから、『擬似的』どころじゃない、まさに
『面』の破壊力を発揮するの。
コーン状に空間を抉り取る、破壊の嵐。
これは、当たらない方がおかしいわよね。
多少狙いが甘くっても大丈夫、その『面』に標的が引っかかってくれさえすればダメージを与えられる。
よく猟銃として散弾銃が使われているのも、まさにこの理由によるものよ。高速で空を飛ぶ鳥、木々の隙間
を駆け抜ける素早い獣、絶大なタフネスを誇る大型獣。どれも単発の弾で仕留めるのは難しい相手だけど、
散弾銃ならなんとかなる。
ってか、歴史的には、元々猟銃として発展したものが戦場にも持ち込まれた格好なんだけどね。
sienn
他にも長所としては、対物破壊力とか、単純な構造による信頼性とか、散弾以外にも多様な弾を使用できる
こととか、色々あるけど今回はパス。鍵のかかったドアを破ったりする時には重宝するんだけどね。
反面、欠点も少なくないのがショットガンの悩みどころ。
まず問題になるのは、有効射程の短さ。
何しろ打ち出される弾丸が球形なものだから、すぐに空気抵抗で失速しちゃうのね。ある程度の距離が開い
たら、それだけで殺傷力が失われちゃうの。この点、効率的に強く遠くへ弾を撃ちだすことに専念したライフル
には歯が立たないわ。……逆に言えば、元々狭い間合いでの撃ち合いが想定される局面、例えば、室内戦や
塹壕戦じゃ問題ない、ってことでもあるけど。
続いて問題となるのは、その速射性の低さ。
連射が効かないのね。なにせ実包が大きいくて重いもんだから、排莢・装填も簡単じゃないのよ。
ガス圧や反動を利用したセミオート式の(つまり撃つと自動的に排莢と次の弾の装填が行われる)ショットガ
ンもあるけど、1回ごとに遊底やスライドを操作して装填する、ボルトアクション式やポンプアクション式の方が
信頼性は高いとされているわ。この『モスバーグM590』もポンプアクションね。
あと、猟銃だと中折れ式の上下二連式や水平二連式もよく見るわね。これらは、2発撃ったら銃を下ろして
バレルを折って、少し時間のかかる装填作業をしてやる必要があるけど、逆に、その2発に限れば連続しての
素早い連射も可能ってわけ。狩猟目的ならそれで十分ってことね。
それから、『面』の攻撃は長所でもあるけど、時には短所にもなる。
ぶっちゃけ、味方も巻き添えにしかねないのよ。
だから例えば、突撃する味方の肩越しに支援射撃、とかいった使い方はできないわ。突撃の直前にブッ放し
て敵を沈黙させておく、ならいいんだけど。だから人質とかを盾にされたら、途端に困っちゃう。
他にも、装填しておける弾数が少ないとか、長い銃身が至近距離での取り回しに向いてないとか、貫通力に
は劣るとか、まだまだあるわ。
それでも、上に挙げた3つが大きいわね。
戦場の主役になっていないのには、理由があるのよ。
実際の運用を考えると……
野戦でなく市街戦なら、チームの誰かが持ってると便利な銃。
だけど「それだけ」しかない状況は、できれば勘弁して欲しい代物、と言ったところかしら。
可能なら、小銃か短機関銃を持った仲間が欲しいところね。ショットガンの使い勝手の悪さを補う意味で。
せめて、拳銃でもいい。拳銃持った仲間が1人居るだけで全然違う。相手への牽制にもなる。
あるいは、友軍までは確保できなくても、せめて手元に予備の銃が欲しいわね。
いや、バックアップ用としてはむしろ拳銃が望ましいかな。
そう、フツーの拳銃。
銃としては威力・弾数・命中精度ともに劣る拳銃だけど、その最大の特徴は「取り回しの良さ」だもの。軽くて
小さくて、コンパクトにホルスターに収まって、他の行動の邪魔にもならなくて、でも必要とした時には一瞬で手
に取れる。この利点は、時に他の何物にも換えがたいものになるわ。
いざとなったら散弾銃を足元に放り捨てて、拳銃を抜き撃つ。そのまま連射で相手を怯ませる。状況に余裕
ができたらまたショットガンを拾う……こんな展開が理想ね。
まー、そうは言っても、ショットガンってのは威力も高いし、攻撃範囲も広いし。
ズガン! と一発ブッ放せば、大抵バックアップを手にするまでもなく、状況は解決しちゃってるんだけど。
万が一にも解決してなかった時が、問題なのよねぇ……。
【2】 「夢の国」 ―― Pink Elephants Coming ! ――
あるときの話です。
1人の酔っ払いが、自分の荷物の中から奇妙なものを見つけました。
散弾式のパースエイダー(注・パースエイダーは銃)や、独創的ながらも使いづらい単発ハンド・パースエイダ
ー(注・この場合は拳銃のこと)に混じって出てきたのは、1つの鳥篭でした。
彼女は鳥篭を覆っていた布を取り払い、中を見てみました。
とてつもなくブサイクな鳥が、白目を剥き灰色の舌をダランと出し、見るもの全てに強烈なトラウマを与えかね
ない凄まじい面相で、すやすやと眠っていました。
同封されていた説明書によれば、インコちゃん、という名前らしいのですが、本当にそれがインコという種の
生き物なのかどうかすらも怪しいものでした。
彼女は素早く布を被せ直し、鳥篭ごときっちりしっかり荷物に仕舞いこんでから、小さくつぶやきました。
「ああ、あたし、悪い夢でも見てるのね」
あるときの話です。
1人の酔っ払いが、自分と同じ境遇の人間と出会いました。
日本の学生っぽい制服に身を包んだ、ちょっと印象の薄い青年で、1頭の白い犬が一緒にいました。
彼女は酔った勢いにまかせ、その青年と犬に声をかけてみました。
白いふさふさした毛を持つ、笑っているような顔をした大きな犬が、青年と共に流暢な人の言葉で当たりまえ
のように返事をしました。
自己紹介によれば、陸、という名前らしいのですが、本当にそれが犬なのかどうかすらも怪しいものでした。
彼女は鷹揚に笑って、言葉ほどには喋る犬に動揺してない様子の青年を横目に、小さくつぶやきました。
「ああ、やっぱりこれ、悪い夢でも見てるのね」
あるときの話です。
1人の酔っ払いが、敵意をもった相手に襲われました。
ドレスに身を包んだ、どこかぎこちない動きをした女性で、包丁を持っていました。
彼女は散弾式のパースエイダーを取り出すと、襲撃者の頭を吹き飛ばしてみました。
血も脳漿も飛び散ることはなく、ただ首から上を失った等身大の人形が、ゴロリとそこに倒れこみました。
よく見てみると、マネキン、だったようですが、本当にそれがマネキンなのかどうかすらも怪しいものでした。
彼女は首を傾げる青年と犬に声をかけ、ひとまずその場から退避させながら、小さくつぶやきました。
「ああ、あたし、とことん悪い夢を見てるのね。
……でも、なんかこれって今までのと趣向違わない? いきなりB級ホラー?」
あるときの話です。
1人のメリッサ・マオが、1人のシズと対峙していました。
二十代前半ほどの、緑色のセーターを着た青年で、とても長い刀を構えていました。
彼女は散弾式のパースエイダーを構えると、1人のアリソンを刺した直後のシズを撃ちました。
シズは全く動じることなく、軽く跳び下がっただけで、当たり前のようにその銃撃を避けました。
よくよく考えてみると、散弾、というものの特性まで考えれば、普通にただ撃ったらアリソンまで巻き込む可能
性が高く、ならばそもそも撃てないか、仮に撃ったとしてもマオの攻撃は本気で当てる気のない、あえて射撃の
中心をズラした威嚇射撃に近いものになるだろう、と予想もでき、そこまで読みきっていればこそ本来なら避け
ようのない散弾も余裕をもって回避することも可能だった、もっと言えば、だから一方的に不意打ちを仕掛けら
れたこの状況で、最大の火力を持っていたマオではなく、素人丸出しで確実に葬れそうなキョンでもなく、撃つ
者の技量次第では流れ弾も味方の巻き添えもさほど気にせず狙い撃てるリボルバー式ハンド・パースエイ
ダーを持っていたアリソンから先に襲ったのだ……ということだったようですが、本当にそんな判断と行動が人
間にできるものなのかも怪しいものでした。
彼女は、アリソンを抱えて川に飛び込んだキョンを威嚇射撃で援護して見送ると、油断なくシズと向き合いな
がら、小さくつぶやきました。
「ああ、これは悪い夢なのね。
そりゃ、不気味なインコやら喋る犬やら動くマネキンやら、悪い冗談としか思えないことばっかりだったけど、
それを『悪い夢だ』と1人愚痴っているだけで、予備の武器を探そうとも、ありあわせの武器を用意しようとも、
キョン君の荷物を見せてもらおうともせず、持て余してた『コンテンダー』を彼に渡しておくことすらせず、そして
今こうして、ショットガン1つで、1対1で、近接戦闘の専門家っぽいサムライと向き合うハメに陥ってる。
こんな失態、クルツやソースケに知られたらなんと言われることやら。
ほんと、これは悪い夢としか言いようがないわ」
その直後の話です。
1人のメリッサ・マオが、1人のシズを前に、仕掛けるタイミングに迷っていました。
万が一にも外したら、次弾の装填前に、きっと踏み込まれて斬られる。
彼女がそれでも意を決して動こうとした瞬間、シズは何を思ったのか、急に1歩下がりました。
そして、何か丸いものを投げてきました。
手榴弾でした。
マオは反射的にそれを蹴り飛ばしつつ、地面に伏せました。
遠くで爆発が起きて、何とかマオは怪我もしていなくて、そして、身を起こした時にはシズは居ませんでした。
橋の向こう側、川の北側の市街地に駆けて行く緑色のセーターの背中が見えました。
地面に置いてあったはずのデイパックも、しっかり拾っていったようでした。
シズは手榴弾攻撃の結果をのんびり見届けるような真似はせず、間違っても自分自身まで巻きこまれない
よう、投げると同時に全速力で身を翻していたのでした。
一瞬だけ迷った後、その後を追って駆け出しながら、マオはすっかり目が覚めた様子でつぶやきました。
「……まあ、今のはほんと、夢のような幸運よね。
爆発寸前の手榴弾を蹴飛ばすなんて無茶、もう一度やれと言われても真っ平ゴメンよ。
でもだからこそ、今は追うしかないわ。
ここで見逃して、隠れられて、こっちが気を抜いた頃合にまた投げこまれでもしたら、それこそ悪夢だもの」
【3】 よいこのじかん 〜〜マオおねえさんと武器(ぶき)についてべんきょうしてみよう〜〜 (2)
そのに:手榴弾(しゅりゅうだん)
はい、軍事に疎い人のための、マオおねーさんの講義・第2弾。
ショットガンに続いてのテーマは、手榴弾。ハンドグレネード。
これもまた、上手く行けば威力はデカい・でも扱い所の難しい、それ単独では使い勝手の悪い兵器ねぇ。
そもそも、爆薬を何かに詰めて敵に投げる、って行為は、火薬の発見とほぼ同時に行われてたらしいわ。
8世紀頃には既に記録にあるって言うから、相当に歴史ある代物よね。
初期は大きな音で相手を驚かせる、という側面が大きかったようだけど、その後も火薬の技術の進歩と共に
威力も増大。銃器の発展の陰で、地味に、でも着実に成長していったわ。
大昔からその原型が使われてたこともあって、その構造と原理はカンタンよ。
つまり、敵の近くで狭い容器に詰め込まれた炸薬に火がつき、炸裂する。
行き場のない圧力はその容器を破壊し、強烈な爆風となって周囲に衝撃を与える。
ついでに、容器の中に硬い金属片が混じってたり、容器自体が砕けて破片になれば、その破片が爆発と共
に飛び散って、周囲のものを切り刻む。敵は爆風と破片のダブルパンチで死に至る……というわけ。
技術的に進化したと言っても、こういった基本は、マンガに出てくるような爆弾を導火線に火をつけてから投
げてた時代と何も変わらないないわ。変わったのは炸薬の性能と着火方法、信管の信頼性くらい。
この信管とかの進化も語ると面白いところなんだけど、今回は深入りを避けておこうかしらね。
さて、そんな手榴弾は、やはり威力絶大。
しかも1発で複数の敵を沈黙させることも可能な、広範囲を対象とした兵器。
実は爆風だけなら、人間を殺傷できるほどの威力が発揮される範囲はそう広くないんだけど……何よりも一
緒に飛び散る破片がシャレにならないのよね。直接的な爆風が届く距離よりも遠くまで飛んでいって、しかも、
その小さな破片の1つ1つが致命傷を与えうる威力を持ってたりするの。
特に、発生した爆風の逃げ場のない、閉鎖空間では圧倒的な威力を持つわ。例えば狭い部屋や廊下に投
げ込まれたら、1発で1つのチームが全滅しかねない。敵には絶対に使われたくない兵器の1つね。
もっとも、その威力の高さは、ある意味で諸刃の刃よ。
あまりに無差別に破壊を撒き散らすので、下手すれば、味方にまで被害を及ぼしてしまう。
いや、味方どころか、自分自身も自滅しかねない。すぐ目の前にいる敵を倒そうってのに、自分が巻き込ま
れてたら意味がないわ。カミカゼ・アタックする自殺志願者ならともかくさ。
それに、少しのミスで、自爆しかねない。敵でなく、自陣営だけに損害を出しかねない。
点火してから投げるまでの時間稼ぎと、動作の確実性とのバランスから、今のほとんどの手榴弾は時限式に
なっているのだけど、この、ピンを抜いてから爆発するまでの時間ってのは昔っから試行錯誤されてきた所な
のね。
その時間があまりに短いと、投げる間もなく手元で爆発するかもしれない。あまりに長いと、敵が拾って投げ
返してくるかもしれない。いや、冗談でもコントでもなく、かつてはそういうこともあったらしいわ。
無数の犠牲者を出した末に、適切な時間は大体4〜6秒程度、ってことに行き着いたようだけど……それで
も例えば、うっかりピンを抜いて足元に落としちゃったりしたら、笑い事じゃ済まないしね。
あとは、飛び散る破片が致死的な割りに、その貫通力そのものは大したことない、って問題もあるわ。
まあ鉄砲の弾と違って、空気抵抗も何も考えられてないから。人間の身体は貫通できないし、ちょっとした遮
蔽物があれば十分身を守れる。なんでも、ベッドのマットレス程度のモノでも十分防げちゃうらしいわよ。
地面に伏せるのも有効ね。手榴弾が地面の上で炸裂した場合、破片も爆風も、どっちかと言うと『横』よりも
『上』に向かうから。地面近くなら、けっこう損害を抑えられるのよ。
sienn
そんなわけで、小銃と並ぶ歩兵の基本装備でありながら、実際には使える機会は多くないのよねぇ。
無駄に強い、って意味ではソースケも東京で苦労してたようよ。
任務の都合上、そうそう死人も出せない、でもイザという時の選択肢も減らしたくない、ってなわけで、破片も
出ない・炸薬も少ない特製の弱装手榴弾を用意していたみたい。てかあいつ、そーゆーとこは妙にマメよね。
手榴弾にも、形から機能から特性から、色々種類があるわ。
その歴史は試行錯誤の歴史。色んなアイデアを見ることができるわ。
有名な所では、『パイナップル』って呼ばれるタイプがあるわよね。
表面に四角形の凸凹の入った、レバーとピンのついたアレよ。マークU手榴弾、という奴。
文字通りパイナップルを思わせるあの模様は、別に飾りじゃなくて、どんな状況でもしっかり握って投げられる
ように、という滑り止めの効果を狙ったものよ。あとは爆発の際、板チョコが割れるようにそこで割れて、適度な
殺傷力のサイズの破片になるんじゃないか、という期待もあったようだけど……後から詳しく調べたら、別にそ
んなことはなかったみたい。そうそう上手くいくもんじゃないわね。
後から検討したら実際大したことなかった、ってことでは『ポテトマッシャー』の柄もそうね。
『パイナップル』と同様、第二次世界大戦の頃の、こっちはドイツ軍側が使っていた手榴弾。
缶詰型の先端部分に、木製の柄がまっすぐついてるの。ちょうど、マッシュポテトを作る時に使う調理用具に
似ていることから、その名を取って『じゃがいも潰し』の愛称がついたのね。
で、なんでこんな形か、って言うと、どうも投擲距離を伸ばすためだったようね。
そうね……突然だけど、新体操の競技で使う『棍棒(クラブ)』を思い出してみて。新体操の選手って、あれを
器用に回転させて投げ上げては、正確にキャッチするでしょう? 団体競技の場合、けっこう長い距離で投げ
渡すこともあるわ。
そう、意外かもしれないけど、重心が片方に偏った棒状のモノ、ってのは投げやすいのよ。しっかり握れる
し、軌道も安定する。確実に敵陣に投げ込むには、実は悪くない形状なのね。
……と、理屈ではそのはずだったんだけど、後から検証した結果、飛距離に大差はなかったみたい。むしろ
直接の威力とは無縁の木の柄がついてるせいで、無駄にかさばるわ、重たいわ、重量が増えた分飛距離も落
ちるわ、上手く足元に転がしてやることもできないわ、と欠点も少なくなかったし。
結論から言えば、ドイツが負けたことですっかり廃れちゃったわね。
逆に最近になって重視されるようになったのが、スタングレネードの類。
閃光音響手榴弾、フラッシュグレネードとも言うわね。
破片もほとんど出ず、爆風すら弱く、ただ派手な音と光を放つ「だけ」の代物よ。一応、直撃でもすれば火傷く
らいはするらしいけど、その程度。直接人を殺せるような道具じゃないわ。
でも、だからこそ便利な局面ってのはある。
不意打ちで強烈な光を音を浴びせられた人間ってのは、反射的に身を丸めて、上手く動けなくなっちゃうの。
そうなればその隙に、一方的に攻撃を浴びせることもできるってわけ。視力や聴力も、時間が経てば回復する
けれど、喰らった直後は使い物にならなくなるわね。そうなれば制圧も容易。
そしてこれが大事なことだけど、それ自体は非殺傷兵器だってこと。
つまり例えば、救出すべき人質がいる状況でも、ターゲットを生きたまま捕らえたい任務でも使えるのよ。軍
や警察の特殊部隊、あるいは『ミスリル』のSRTみたいな特殊な任務に就く傭兵にとっても、最近とみに存在
感が増してるわ。
もちろん、これはこれで自爆に注意なんだけどね。直接的な殺傷力はなくっても、重要な局面で自分の目と
耳を潰されてたらたまらないわ。一方的に攻撃するつもりが、一方的な反撃受けてちゃ本末転倒よ。
総括すると、種類はいろいろあるけれど、概して使い勝手は良くないのが手榴弾って兵器ね。
ブービートラップなんかにも応用できるんだけど、でもそういう機会も多いとは言えないわ。
味方にあると心強いけど、使える場面は案外少ない。
そして敵の側にあったりすると、心が休まるヒマもない。
まったく、困ったモンよねぇ。困ってばかりもいられないんだけどさ。
【4】 「英雄ならざるもの達の国」 ―― Anti-Heros ――
青年は、追っ手の足音を背後に聞きながら、道の入り組んだ市街地を迷いの無い足取りで駆けていた。
彼は緑色のセーターを着て、腰のベルトに剥き出しの大太刀を挟んでいた。
そしてベルトの反対側には、パイナップル型をした手榴弾が2つ、引っ掛けてあった。
青年がとある角に飛び込もうとした瞬間、背後で銃声が響いた。
追っ手のパースエイダー(注・パースエイダーは銃器のこと)から放たれた散弾は、すんでのところで青年をと
らえそこね、あたりの塀や建物の壁に細かい傷を刻みこんだ。青年は構わず角を曲がった。
チラリと青年が振りかえると、交通安全用に街角に設置されたミラーに、追っ手の姿が映っていた。
両手で長いパースエイダーを構えた、上はタンクトップ、下は迷彩柄のズボンの、若い女性だった。
やがて、少し遅れてその角を曲がってきた女が、再び発砲した。
青年はこれもまるで予想していたかのような動きで、近くにあった赤い郵便ポストの陰に飛びこんだ。
散弾がポストにも命中して、金属同士がぶつかる甲高い音を立てた。
青年はまたもや無傷だった。
女がポンプ式の給弾装置を動かしているその隙に、ポストの陰から走りだす。
「これで5発。排莢されたもののサイズから推察して、あの長さの弾倉に入るのは8発か9発ってところだろう」
青年は冷静にカウントし、
「あのマオという女、思ったより手強いな。射撃も正確だ。これは難敵を討ち残してしまったかな。
でも、地の利ならば俺にある。向こうもそれは気付いたはずだ。
弾も減ってきたし、そろそろ、焦れ始めてくるかな。仕掛けるには、いい頃合かもしれない」
「……そういえば、シズの野郎はこっちの方から来たのよね。すでに一度は通った道、ってことか」
青年がマオと呼んだ軍人風の女性は、シズと呼んだ青年の後を追いかけながら、小さく舌打ちをした。
シズは曲がり角があれば曲がり、街路樹があればそれが間になるように動き、しかし手近な建物の中に逃
げ込むようなこともせず、当たりそうで当たらない、絶妙な間合いと位置を取り続けているのだった。
マオは橋の近くで威嚇に使った2発のあと、この追いかけっこの中で既に3発の弾を浪費させられていた。
「自分が利用できる遮蔽物も、あたしが発砲しそうな地形も、把握済みってことか。こっちの弾切れが狙いね」
だいぶ軽くなってしまったパースエイダーを、恨めしそうにちらりと見た。
そしてすぐに顔をあげて、
「でも、あいつだって手榴弾の数は限られてるはずよ。まだまだ、あたしの方が……」
どこか自分に言い聞かせるような口調で、どこか単調にさえなりつつあったパターンで、シズの緑色のセー
ターの後姿が交差点を曲がるのを追いかけ、マオも少しばかり遅れて続いて、
「あ」
そこに、シズの姿はなかった。
傍にあった、喫茶店か何からしき店舗のドアが少しだけ揺れていて、そして、
「やば」
角を曲がったばかりのマオの目の前に、ピンが抜けレバーも脱落した手榴弾が1つ、転がっていた。
それを遠くに蹴りとばすだけの時間は、すでになかった。
マオはとっさにパースエイダーを身体の前にかざしながら、思いっきり後方に倒れるように飛びのいた。
大きな爆発が、起こった。
「……さて、今度こそ終わったかな……」
街角の小さな喫茶店、その店内で、シズはその爆発を確認した。
よく見れば、腰のベルトに引っ掛けられた手榴弾が、2個から1個に減っていた。
彼が背を預けていた木製のドアにも、手榴弾から飛び散った破片がいくつも命中したようだった。シズの身
体にも、それなりの振動が伝わってきた。しかし、彼があらかじめ予測していた通り、厚い木の板を貫いたもの
は1つもなかった。
道路に面した喫茶店の窓ガラスは、全て砕け散っていた。もちろん、ガラスの破片が降り注ぐような位置は、
シズは避けていた。
「悪いが、俺も英雄を気取るつもりはないんだ。策も練らせてもらうし、戦力を出し惜しみする気もない」
爆発の余波と土煙が収まるまで、シズはその場でたっぷりと待った。
割れた窓から、そっと外の様子を窺った。
見える範囲に動くものがなく、聞こえる範囲にうめき声も息遣いも足音もないことを確認すると、シズは静か
に隠れていた喫茶店から歩みでた。
手榴弾が炸裂した街角は、酷い有様になっていた。喫茶店だけでなく、周囲の建物の窓も、のきなみ割れて
いた。何か鮮やかな色のついたガラス片のようなものも落ちてるな、と思い、ふと頭上を見上げたら、そこに
あった信号機もズタズタになっていた。
そして、死体も肉片も見当たらなかったが、爆発の中心から少し離れた所に、小さな血溜まりがあった。
そこから、血痕が始まっていた。親指ほどの血が、点々と通りの先へと続いていく。
血溜まりのそばには、散弾式のパースエイダーも落ちていた。
さっきまで、マオが撃っていたものだった。
「まだ続くようだが、確実に負傷しているな。けっこうな出血だ」
ブービートラップの可能性に注意しながら、シズはパースエイダーを拾い上げた。
重要な機関部に、比較的大きな破片が食い込んで、使い物にならなくなっていた。これをまた撃てるようにし
ようと思ったら、専門家による本格的な修理が必要なようだった。
「少しでも身軽になるために、諦めて捨てていったか。思い切りがいいな」
ちなみに、銃身の下のチューブ型の弾倉には、シズの推測よりも1つだけ少ない数の弾が残されていた。
続いてシズは、その場に膝をついて血溜まりをじっくり観察した。
軽く指先で触れて、液体の感触や匂いも確認した。トラップや欺瞞に使われることもある、絵の具やケチャッ
プなどのまがい物ではなく、やはり新鮮な血液であるようだった。
ただ、それが誰の、何の血なのかまでは、判断する材料がなかった。
「目で見た限りでは、不自然なところはないか。陸、お前はどう思……」
言いかけて、シズは口をつぐんだ。頭を軽く振る。溜息とともにデイパックを眺め、
「まったく、おまえの鼻を頼りにできないというのは辛いな。だが、これも俺が決めたことだ」
シズは、血痕を追って歩きだした。
追う者と追われる者が、逆転していた。
血痕は、北東に伸びていた。
周囲の街並みから喫茶店のような商業施設が減り、より住宅地としての度合いが強くなっていった。
血痕は、小さな柵を乗り越え、比較的広い運動場を備えた、一階建ての建物の中に消えていた。
妙に可愛らしい、パステルカラーと動物の絵で飾られた建物だった。
「これは、幼稚園、かな……? 待ち伏せのつもりか、それとも……」
シズが言った。
既に片手に刀を握っていた。デイパックは、もう1方の手でぶら下げているだけの形になっていた。
「手榴弾の数に余裕があれば、手当たり次第に投げこむこともできるんだがな」
慎重に周囲の様子を探っていたシズは、小さくうなずくと柵を乗り越え、血痕を追った。
「ごめんね……。でも……」
マオが言った。その両手は、真っ赤に染まっていた。
乾きかけた血痕は、広い遊戯用の部屋へと続いていた。
屋内用の遊具がいくつもあるようだったが、その大半は部屋の片隅に寄せて片付けられていた。
シズは刀を片手で構えつつ、慎重にその中を覗き込んだ。視線を床の血糊から部屋の中へと移していく。
床から連なる赤い点線は、部屋の中央に延びて、そこにあった1つのテーブルで終わっていた。
テーブルの上には、鳥篭のようなものがあった。
「…………」
机の上は僅かに血で濡れていた。その上に、何故か布が被せられ、中身の見えない鳥篭があった。
羽音も、息遣いも感じられなかった。
「……あいつの血じゃ、なかった……?」
シズは、戦闘では邪魔なデイパックを足元に落とすと、それをそこに残したまま、遊戯室に踏みこんだ。
ゆっくり鳥篭に近づいて、少しの逡巡の後、長い大太刀の先端で、鳥篭を覆っていた布をはたきおとして、
「……なっ!?」
思わず悲鳴のような声を上げた。
覚悟していたものとは全く異質な、心から予想外のものを見てしまったような悲鳴だった。
鳥篭の中では、白目を剥き、ピクピクと痙攣し、半開きのくちばしからは異様に大きな舌を零れさせ、あまつ
さえ白い泡さえ吹いた、黄色い羽毛に包まれた鳥らしき生物が、
眠っていた。
すやすやと、眠っていた。
傷1つなかった。
血など、1滴だって流してはいなかった。
ただ、不可解なまでの寝つきの良さで、眠り続けていた。
そしてシズが悲鳴を上げた瞬間、部屋の隅にあった遊具の陰から、メリッサ・マオが飛びだした。
むき出しだったその左肩には、きっちりと包帯が巻かれていた。しかしそれでも十分には抑えきれず、早くも
赤い血が滲みだしていた。左手には流血が伝った跡が、半ば乾きかけながらも残されていた。
左肩の傷ほどは深くないようだが、身体のあちこちにも細かい傷を負っているようだった。
止血をするタイミングを少しだけ我慢し、流れる血の跡をこの一撃のためだけに利用したせいか、その顔は
貧血でかなり白くなっていた。
自分の血に濡れた手には単発式のハンド・パースエイダー(注・拳銃のこと)が握られ、まっすぐにシズに向
けられていた。
シズが飛びのいて回避しようにも、既に遅かった。
銃声が、響いた。
【5】 よいこのじかん 〜〜マオおねえさんと武器(ぶき)についてべんきょうしてみよう〜〜 (3)
そのさん:トンブソン・コンテンダー(とんぷそん・こんてんだー)
次は……って、誰よ、こんなマニアックな銃を持ってきた奴……。
はぁ。
あたしの支給品。
これが。
さいですか。
まったく、クジ運悪いわねぇ……。
いや、これは運というより、見えないどこかの誰かの悪意を感じるわ……。
コホン。
まあいいわ。今度はこれの説明ね。
気を取り直して、マオおねーさんの武器講座、再開しましょう。
トンプソン・センター・『コンテンダー』。
強引にでも分類するなら『拳銃』、ということになるのだけど、いろんな意味で『拳銃らしくない』変り種ね。
骨董品でもないのに『ある特性』のせいで現代に生き残った、他には類を見ない単発拳銃。
全長は約40センチほど。
拳銃にしては比較的長くて、でも、デザインは非常にシンプル。
それはまるで、競技用の単発ライフルを、そのまんま小型化したみたいな形。
複雑な機構も何もない。弾倉すらもない。
銃として最低限必要なものしかない。弾の装填も排莢も、中折れ式のバレルをいちいち操作して行わなきゃ
ならないわ。自動式のオートマチックはもとより、リボルバーよりも遥かに簡略化された構造をしているのね。
だからもちろん、連射なんて無理。
デリンジャーでさえ2発は撃てるってのに、まったく潔いというか、なんというか。
そもそもこいつは、狩猟用ピストルとして開発されたらしいの。
それも、大口径の弾でないと仕留められない大型獣までカバーすることを意識したタイプ。
散弾銃の説明の時にも少し触れたけど、動物を撃って仕留める、ってのは案外難しいモンなのよ。
だけど、難しいからこそスポーツやレジャーとしては意味がある。技量を磨き、競う余地もある。
で、散弾みたいに銃弾をばら撒くのでないのなら、1発当たりの命中精度と威力を高めるしかないのよね。
そして部品数が少なければ、それだけ銃の精度も保ちやすくなる。強度も高められるから、強力な銃弾の反
動にも耐えられる、ってわけ。
道理は通っているのよ。一応。
あと、構造を単純化したことで、最低限の部品交換で色んな口径の銃弾が撃てるようにもなってるのね。
狩猟用ピストルも獲物の種類によって最適とされる弾丸は違ってくるわけで、だから売り出した側の意図とし
ては、狙いの獲物に合わせて便利に使い分けられますよー、ってことだったみたい。
なにせその気になればライフル用の弾まで使えるってんだから、その幅はハンパないわよねぇ。
sienn
とはいえ、どこからどう見ても立派なゲテモノ銃。
最初のうちは、人気が出なかったようね。
そりゃあそうよ。いくら精度が良くたって、撃てるのが1発きりじゃ使える局面も限られる。バレル交換で複数
の弾丸が使えるという長所も、そこまでするくらいならいっそ複数の銃を使い分けた方が確実だわ。ライフル弾
も使えるって言っても、それなら狩猟用ライフルを使った方が早い。
でもそれよりも何よりも、独創的過ぎたのよね。
独創的過ぎて、理解されなかった。誰にも真価が分からなかった。
そんなコンテンダーが評判を受けたのは、現実の狩猟とは違う分野において。
動物の形をした金属板を撃って倒す、メタリックシルエットハンティング、っていう競技があるのよ。
その『重たい板を押し倒す』という競技の性質上、少しでも強力な弾が撃てる銃があれば有利なのね。だか
ら大口径のリボルバーとか、デザートイーグルとかいった、人間相手に使うにはちょっと強すぎる銃が人気に
なったのもこの分野。
で、そんな世界で、拳銃弾より強いライフル弾も撃てる、命中精度もいい、となれば人気にもなるわよね。
コンテンダーがこの競技に向いているようだ、と分かってからは、生産が追いつかなくなるほど売れたことも
あったようよ。
さて、そんな特定の競技では大人気の銃だけど、これを実戦で使えと言われても……ねぇ。
なにせ1発しか撃てないのよ? 1回ごとに中折れ式のバレルを折って前の薬莢を取り除いて、次の弾を込
め直して……敵の目の前でそんな作業をしようってのは、ま、現実的な話じゃないわね。
銃身の交換で複数の弾丸を使い分けられる、という点も……まあ、手持ちの弾が尽きた後、敵から奪った弾
丸を使いまわせるかもしれない、ってのは魅力ではあるけれど。でもそもそも、それだけコンテンダーを酷使す
る状況、ってのが思い浮かばないのよね。
あとは、実戦における拳銃の最大の強みである、携行性がいまいち悪いのよ。
デカい。長い。邪魔になる。目立つ。
大は小を兼ねないの。特に、拳銃の世界ではね。
とはいえ……その場にあるもので何とかしなきゃならないのが、私たち傭兵って存在。
武器を選べる状況ならまず選ばないコンテンダーだけど、手元にそれしかないなら仕方ないわ。
今までこなしてきた任務の最中にも、『残された弾はあと1発きり』、って状況は無かったわけじゃない。
その『最後の1発』のつもりで、それでも『当てられる状況』『勝つための状況』を作るしかないでしょうね。
ありあわせの材料を駆使して。
敵の予想もしなかったような状況を、作り上げて。
できうることなら、一瞬でも、相手の思考を真っ白にしてやって。
……そこまで出来たなら、その『たった1発』にすべてを賭けよう、って気にも……!
しえーん
【6】 「終わってしまった話」 ―― Ten seconds after ――
「なあ、マオ」
「なに、シズ」
「最後に教えてくれないか?」
「なにを」
「今の策、どこまで本気だった?」
「ん〜、手持ちのカードもなかったし、他にいい方法も思いつかなかったから。本気も本気だったわよ」
「そうか」
「どうせだから、聞いときたいんだけど……あの鳥篭、あんたはどう思った?」
「中に鳥の死体でも入っているのかと思っていた。それで負傷したかのように血痕を偽装したのでは、と」
「よっしゃ。計算通り」
「トラップが仕掛けられている可能性は、警戒していたが……まさか、『あんなもの』を見せられるとはね」
「爆弾か手榴弾でも用意できてれば、『あんなもの』に頼る必要なかったんだけどねー」
「ただ、心理的には本当に虚を突かれた。その点においては、俺の完敗だ」
「ああ、インコちゃんには悪いことしたわー。あの子を危険に晒すことには、少し良心も疼いたんだけど」
「インコちゃん?」
「あの鳥の名前よ」
「あれが、インコか。……あれでも、インコなのか」
「どうやら、そうみたい。あたしも未だに信じられないけどね」
「ねえ、シズ」
「なんだ、マオ」
「こっちも、最後に教えてくれない?」
「なにを」
「最後にあんたがやった『アレ』、狙ってなの? それとも、たまたま?」
「偶然、とでも言って欲しいのか?」
「……やっぱ狙って、だったのか。まったく、何をどうすればあんな芸ができんのよ」
「目と指と銃口を見ていれば、大体分かる。その点、散弾は分かっていても避けるしかないから、苦労した」
「はぁ……。でも、さっきのあの銃弾、本来は、ライフルに使う弾よ? 刀とか手首とか、折れないの?」
「真っ向からぶつけるんじゃない、斜めに当ててはじくんだ。この刀も相当な逸品で、そのお陰もあるがな」
「……あ〜あ、やっぱ悪い夢よねぇ。弾丸を斬るサムライなんて。ほんと、さっきまでの悪夢の続きだわ」
「悪夢?」
「こっちの話よ。気にしないで」
「あーーっ…………」
「どうした」
「…………ったく、ドジこいた」
「そうか」
「……ウルズ6、ウルズ7……テッサと、カナメも……あんたらは、もっと、上手くやりなさいよー……」
「…………」
「……にたく、ないなぁ……くそぉ……」
「…………」
「…………」
「…………マオ?」
「……死んだ、か」
【メリッサ・マオ@フルメタル・パニック! 死亡】
【エピローグ】 「支給品の国」 ―― Stand by Me ? ――
シズは、袈裟懸けに斬られ大の字に横たわったメリッサ・マオの目を、ゆっくりと閉じてやった。
大太刀の切っ先がつけたその傷は、即死するほどの深さではなかったが、十分に致命傷だった。
窓の外の空は、すでに夜空とは呼べない明るさだった。
もうすぐ朝だ。
「そういえば、そろそろ放送とやらがあるんだったな。名簿とペンが必要になるか」
シズはそう言って、この部屋に入る際、部屋の入り口に残してきた自分のデイパックを拾おうとして、
「……これは」
硬い表情で、凍りついた。
デイパックに、大きな穴が開いていた。
その穴から、まだ温かい血が、静かに流れ出していた。
「さっきはじいた弾丸が、ちょうどここに飛んできたのか。なんという、偶然だろうね」
シズは、荷物の中を改めた。
白いふさふさした毛を真っ赤な血で染めた、陸が引っ張りだされた。
大型獣の狩猟にも使われるライフル用の強力な弾は、大型犬の心臓のあたりを綺麗に破壊していた。
苦しむ間すらなかったであろう、即死だった。
水の入ったペットボトルも、その大半が壊れて中身を零れさせていた。
地図も名簿も、陸の血と水まみれてほとんど読めなくなっていた。
丁寧に探せばまだ使えるものは見つかったかもしれないが、シズはそれを諦めた。
代わりにシズは、マオの遺体が持っていた荷物を、デイパックごと奪うことにした。地図や名簿などは一通り
揃っているようだった。
彼女が最後に持っていたハンド・パースエイダー(注・拳銃のこと)も、少し迷った末に拾って入れた。
「せめて、陸だけでも葬ってやらないとな。探せばシャベルくらいあるだろう。花壇あたりなら楽にできるかな」
シズはつぶやいて、
「お前は、最後まで俺に従うつもりだったんだな。あの不意打ちの時、警告を発することもできたろうに」
いまさら気がついたかのように、溜息を漏らした。
そして陸の死体を眺めた。
その眠るような死に顔までもが、どこか笑っているようだった。
「なら、私も自分の決めたことをやり遂げよう。お前が自分の決めたことを貫き通したようにね」
そう言ったシズの顔には、いままでにない、静かで穏やかな笑顔が浮かんでいた。
「オッ、オハ、オッハッ……オハヨッ」
「おや、起きたのかい」
陸の遺体を注意深く抱き上げたシズは、そして急に上がった声に振り向いた。
銃声にも目を覚まさなかったで例の醜いインコが、意味不明な痙攣と共に首を傾け、言葉を発していた。
そんなインコちゃんに、シズはしかし、腕の中の陸と見比べ、小さく微笑んで、
「そうだね……お前も、私と一緒に来るかい? “支給品”なら、私も無理に殺す必要もないようだし」
「クッ、ククク、クルシューナイ!」
「苦しゅうない、と来たか。じゃあ、行こうか」
「アサーッ! オッハヨー! アーサー!」
「ああ、朝だね」
シズは答えた。
片方の脇に陸の遺体を抱え、もう一方の手でインコちゃんの鳥篭を提げ、そのまま遊戯室から出て行った。
袈裟懸けに斬られた女の遺体と、穴が開き血で汚れたデイパックだけが、その場に残された。
620 :
創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 17:52:50 ID:bbqIeF/0
外はすっかり明るくなっていた。
もうすぐ、日が昇る。
【C−4/市街地・C−4の北東の隅のあたり・小さな幼稚園内/一日目・早朝】
【シズ@キノの旅】
[状態]健康
[装備]贄殿遮那@灼眼のシャナ、パイナップル型手榴弾×1、インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)、
陸@キノの旅 の遺体
[道具]デイパック、支給品一式、トンプソン・コンテンダー(0/1)@現実、コンテンダーの交換パーツ、
コンテンダーの弾(5.56mm×45弾)×10
[思考]
1:まずは今いる幼稚園の花壇あたりにでも、陸を埋葬してやる。
2:優勝して、元の世界・元の時間に戻って使命を果たす。
3:未来の自分が負けたらしいキノという参加者を警戒。
4:インコちゃんを当面の旅の道連れとする。
[備考]
※参戦時期は、「少なくとも当人の認識の上では」キノの旅6巻『祝福のつもり』より前です。
腹部に傷跡が残っているかどうかは不明です。冒頭の陸の考察の真偽はまだ不明です。
※自分のことを、「俺」でなく「私」と呼ぶようになりました。
※今のデイパックおよび支給品一式は、シズに支給されたものではなく、元はマオの持っていたものです。
※C−4市街地の北東部(幼稚園の建物の中)、メリッサ・マオの死体の傍に、
穴が開いたデイパック、血に濡れたり穴が開いたりしている支給品一式、が残されています。
※C−4の、川の北東側の市街地のどこかに、壊れたモスバーグM590(3/9)@現実 が落ちています。
その地点から幼稚園まで、点々と血痕が残されています。
【パイナップル型手榴弾(マークU手榴弾)@現実】
シズに支給された。
あまりに有名な手榴弾のスタンダード。元は第二次世界大戦の米軍のもの。
3個セットで支給された。
【トンプソン・センター・コンテンダー(G2)@現実】
現代では珍しい、単発式で中折れ式の拳銃。
具体的には2000年代になってからグリップなどに手が加えられたG2モデル。
初期状態でセットされていたのは、米軍のM16ライフルと同じ5.56mm×45弾と、それを撃つための銃身。
また、同じ弾が予備用として10発同封されていた。
なお、口径違いの弾用の、交換パーツも何種類かセットで同封されている。
(具体的にどの弾のものがあるのかは不明です。詳細は後続にお任せします)
【インコちゃん@とらドラ!】
高須家のペットのインコ。
獣医でさえも「これ本当にインコですか?」と素で疑ってしまうほどブサイクな容貌を持つ。
特に寝ている時の寝顔は強烈。
元々声真似をするインコだが、妙に言葉が達者で、どこで覚えたのかよく分からない言葉を放つ。
知能自体はただの鳥、のはずなのだが、妙に周囲の人間と会話が噛み合う。
また、なぜか自分の名前だけはきちんと言うことはできない。
今回、彼の住処である鳥篭と、夜間その鳥篭にかけてある布のカバーがセットで支給されている。
以上、投下完了。支援感謝です。
冒頭、うっかりトリップキーを晒してしまいました orz
IDが残っているうちに、次以降で使う新たなトリップを報告しておきたいと思います。
>>625で言いましたが、次からはこのトリで行こうと思います。
なお、以前の◆76I1qTEuZw のトリキーは、「#shami2009」でした。
投下乙ですー。
ま、マオ姐さん……悪夢のような日々だったなぁ。
そして普通ではありえないシズの弾きで死ぬ……か。
末期のシズとの会話が無常観が出ていいなぁ。
そして死んでしまった陸も……
殺してしまったシズは少し穏やかになった……?
銃VS刀の互いの知識をと戦術で争ったバトル堪能しました。
GJですw。
投下乙です
濃いバトルとしか言葉が思い浮かばないほど圧倒されました
ああ、熱いバトルでした GJ!
投下乙です!
やべえw途中までインコちゃん死んでるんだろうなー、マオ姐さんマジ外道w
と思ってたからめっちゃ意表をつかれたw
それとマオ姐さんの講座は兵器に疎い自分には割とためになった。へーへー言いながら読んでましたよ
あと、マオ姐さんとシズの途中までどっちともとれる最後の会話も面白かった。GJ!
投下乙です!
マオ姐さん……
陸……
最後のシズとの会話が何故だか胸に残る…
濃いバトルに興奮したのは勿論ですがマオ姐さんの講座が勉強になりました
改めて、GJです!
投下乙! マオ姐さんが……姐さんが……!
濃いバトルで更に濃いドラマも繰り広げるこいつらがすげぇ。
っていうかそうさせた書き手さんがすげぇ。やっぱりすげぇ。
犠牲は大きかったが、これで正負はどうあれシズは一歩前進か?
素晴らしい話でした……GJ!
誰か次スレ頼む
WIKIにあるテンプレ(名簿)は修正済み
確認もよろです
規制されてたんで助かった
乙であります
投下乙です……すげぇw
斬新な切り口からの銃VS刀には引き込まれた。
途中あれだけ銃の講釈を挟んだのだから、マオ姐さんに軍配が上がるかと思えば……やられたw
最後まで結果が予測仕切れなかったこの構成はホント見事だわ。
>>613のシーンが好きすぎる。
インコちゃんもとんだ修羅場に初登場w 陸は災難だったなー……災難というほかない。
投下乙
いんこちゃん登場話でいきなり死亡かと思ったら本命は陸の方だったか
シズの容赦の無さとマオ姐さんの駆け引きが見事だった。
あの英雄ならざるもの達の国でまさかとは思ったが、まさか逆だったとは
投下乙!
マオ姐さん・・・見事な戦いでしたお疲れ様です。
陸・・・お前の忠誠心は見事だったよ。
シズ・・・ここから先は修羅の道だぜ。
ああ、為になる銃講座やら、絶対に死んだと思ったインコちゃんやら、見事な駆け引きバトルやら
素晴らしすぎて感想の言葉が出てこない自分が憎い。
GJ! せめてこの一言を。
後何気にこれで放送後のキョンの精神状態も心配になってきたな。
目の前でアリソン死亡+長門死亡+後を任せてきたマオ姐さんまで死亡・・・イキロ
ああ、確かにキョンの精神状態がどうなるか気になる
しかも同じSOS団の仲間はみくるはともかくハルヒは同行者が危険で古泉はマーダーなんだよな
下手に合流したら死亡フラグ立つな
死亡者AA
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黒桐幹也
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アリソン・ウィッティングトン・シュルツ
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i,ィ:./ ! ム,ヘ. ( 'ー',ニニ、¨ヽ.} ) , ‐-:.'i:.: : l
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メリッサ・マオ
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お幻の鷹
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リ 丶 _ `ー' _,ノノノ
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ノ ;' Ll l」 ! ヽ
`ト、,_」.、 |ノ!. __ _
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{ / ,' / r' ,! ノ
ノ-'-‐--'─'───‐---'─-- '
マリアンヌ(の器)
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陸(AA無いため、渋谷の忠犬ハチ公像で代用)
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てて、天膳殿が、また 死んでおるぞ!
ラノロワ・オルタレイション part5
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