訓練生「え? お、俺が護衛の仕事を?」

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1実験君
 辺境都市レンクリーの全てに、雨は降り注いでいた。
 訓練学校と呼ばれる、兵士を育成する為の施設にもだ。
 トタン板屋根は古く、所々で雨漏りを起こしている。
 特に、一年生が使用するこの部屋は酷い。
 学年が高い順から、改築は行われていた。

訓練生「何で俺が・・」

 呆然と呟いた彼の頭上にも一滴の雫が落ちた。

指導者「嫌かね? いずれは実戦に出るのだから、早くとも変わらないだろう」

訓練生「それはそうですけど、・・そもそも、個人の護衛は用兵の仕事では?」

 レンクリーに置いて、兵士は兵団と呼ばれる集団に属する
 兵団は主に都市の守護を、政治の舵を握る貴族達の命で行う。
 別の都市へ移動する人物の護衛などに関しては、傭兵の領分となっている。
 
指導者「金で動くような連中は信用出来ないそうだ」

 傭兵を包括するような集団は無い。
 個人で仕事を請け負う彼らにとって、金は最も優先すべき物である。
 とは言え、兵団も慈善的に活動している訳ではない。
 兵団と異なり、失敗を叱責する者はいない。責任は各々が負っている。
 それが傭兵の性質である。

訓練生「はあ・・」

 気の無い返事の裏側で、偏屈な老人を思い描いた。

指導者「嫌なら断るがね。我々にこの仕事を受ける義務はないのだ」

 一年生である彼にまで仕事が回って来たのだ、上級生達は皆断ったのだろう。
 そう考えると、やはり自分も流れに従った方が無難に思えた。
 柔らかな物言いを努めて、口を開くが、続かなかった。
2創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 22:33:08 ID:ceh/exVh
指導者「訓練学校始まって以来の秀才のお前にならと思ったんだが。仕方ない、二年生で誰か・・」

訓練生「あの」

 例え剣を振りかざし、魔物と死闘を繰り広げようとも、彼はまだ14の少年である。
 誉められれば手の平を返したっておかしくはない。
  
訓練生「その話し、もう少し精しく聞かせてもらえませんか?」

 優等生の鑑らしい答えだ。
 自らの力量を多少なりともわきまえ、見合った内容であるかを判断する。
 即決して、後から断るよりもお互いに気分の良い方法だ。
 指導者が嬉々と喋りはじめる。

 目的地は王都。
 護衛対象は、人間一人と、荷物が幾つか。
 訓練生である彼にも十分こなせるであろう仕事だ。
 歩きで二日かかる王都への道は、比較的安全な物が確保されている。
 付け加えて、強力な助っ人も存在していた。
 人、では無いが。
 ランドドラゴンと呼ばれる、翼を持たぬ竜である。
 依頼人の所有物で、輸送する荷物を竜に乗せて移動するとの事だ。
 乗用種と呼ばれる小型の竜だが、その戦闘力は下級の魔物を簡単に蹴散らす。
 
訓練生「ランドドラゴンを飼っているなんて、貴族か何かですか?」

指導者「いや。この街の商人だ、大通りの装備屋だよ」

訓練生「あの店の・・。結構大事なのでは?」

 幾つか点在する装備屋でも一際規模が大きい。
 王都に荷物を輸送する物の価値も、相応に高い筈だ。 

指導者「それなら安心してくれ。娘が個人的に親類を尋ねるだけとのことだ」

訓練生「なるほど」

指導者「どうかね?」

 断る理由は特に無い。
 
訓練生「その仕事、俺にやらせてください」
3創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 22:34:33 ID:ceh/exVh
 翌々日、早朝の空気は晴天も手伝い、いつもより清々しく感じる。
 少年は天を仰ぎ、目を細めた。
 その手には、長い棒が握られている。
 約170cmのそれは、少年の背丈よりも僅かに大きい。
 頭上に持ち上げ、旋回させる。
 回転する円が乱れのない水平を保っている辺り、調子は良いのだろう。
 流れるように突きの放つ。二発は空を切った。振り向きざまに放たれた最後は、小石を破壊した。

兄「調子は良いみたいだな」

訓練生「まあね・・。大丈夫だよ、兄さん」

 上下共に黒い衣装を身に纏う兄は、日の光の似合わない。
 常々思っている事を、この時も訓練生は繰り返した。

兄「・・王都までならそう危険でも無いだろうしな。俺からも一つ仕事を頼まれてくれ」

訓練生「仕事?」

 来い、兄が命じると家の角を曲がって何かがやってきた。
 子供の大きさと形を持っているそれは、良く見ると全く別物であった。
 皮膚の代わりに布が顔を覆い、瞳の変わりにボタンが縫い付けられている。口は刺繍だ。

訓練生「何・・これ・・」

 ボロボロの服は彼が昔着ていた物だ。
 兄は一風変わった術者である。
 汎用されている術には、酷く疎い。
 初歩中の初歩と呼ばれる発火現象でさえも手間取る。
 かと言って、落第魔術師と言う訳でもない。
 一つの事に夢中であるために、他はおざなりなのだ。
 無機物を媒体に、魔力を原動力に動く擬似生命体を作っている。
 書き記すと簡単であるが、人に使役出来る使い魔とでも言うべきそれは、並みの術者には真似れない。
 工作技術と魔術、両方に長けている兄ならではである。
 
兄「新作だ。戦闘に関してはそこそこだが、幾つかの機能が付随している」

訓練生「ふーん・・」

 人の形を持つ、新作とやらは頼り無いカカシに見えた。
 
兄「とは言え、前作の犬型戦闘機より僅かに劣る程度だ」

訓練生「・・俺一人でも大丈夫だよ、ドラゴンも居るし」

兄「そうじゃなくてな、実戦でどれだけの動きをするのか試して欲しいんだ。良いか?」

訓練生「ああ。そう言うことなら別に良いよ」

兄「そうか、助かるよ。行け」
4創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 22:35:28 ID:ceh/exVh
 一本だけの足は益々カカシらしい。
 関節が一つ設けられており、器用に飛び跳ねながら弟の下へ近寄る。
 手が付いていないが、どう戦うのだろうか。
 些細な疑問を浮かべる訓練生の前で止まったカカシは、その場でくるりと回転する。
 正面に向き直ると、次は足を折って身を低くした。
 一瞬訝しんだが、すぐに理解し、こう告げる。

訓練生「うん、よろしくな」

 
 体を起こしたカカシは、次に訓練生の背後に回った。
 何事かと振り返ろうとした彼を、兄は良いから、と制した。
 ここで一つ気が付く。
 音も無くカカシが動いていたのだ。
 過去に作られた擬似生命体達は、全てギシギシと音を立てていた。
 此処に至り初めて僅かに木の軋む音を聞いた。
 ふわりと纏わり付かれる感覚が背中から伝わる。
 
兄「重くないだろう? 魔力を使って浮いているんだ。・・そいつだけじゃ飛べないけど」

 手で探り当てるに、八本の細い腕でかっちりと引っ付いているようだ。

訓練生「うん、重たくない。どうせなら飛ぶようにすれば良かったじゃん」

兄「そこまで強力な魔力を発生させるのは難しいんだよ、一瞬ならともかくそれじゃ実用性に欠く」

訓練生「そうなんだ。コイツを魔物と戦わせれば良いのか?」

兄「ああ。お前が覚えておくのは、何と戦わせたかだけで良い」

訓練生「了解。・・それじゃあ俺、そろそろ行くよ」

 微笑とも憮然とも取れる顔を貼り付けたカカシを背負う弟を、兄は見送った。
5創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 22:36:22 ID:ceh/exVh
指導者「おはよう」

訓練生「おはようございます」

指導者「それは、なんだね?」

 持ち物は、武器に使う杖一つ。
 二日間の食料は依頼人から支給されるとの事だ。
 レザーアーマーは硬度よりも軽さを選んだ。
 何か間違いがあっただろうか。
 戸惑いの気を隠せない訓練生に、指導者が続ける。

指導者「背中の・・人形・・か?」

訓練生「ああ」

 重さも殆ど感じない故に、自宅から訓練校までの10分程の道のりで意識の外にあった。

訓練生「兄から頼まれた物です」

指導者「相変わらずだな」

 ええ、と訓練生は苦笑した。
 
指導者「何かは分からんが、少し退屈なくらいだろうし、丁度良かろう」

 言葉尻の辺りで、キュイ、と鳴き声が二人の耳に入った。
 両者、音の鳴った方を向く。
 深紅の鱗に覆われたドラゴンが、再度鳴いた。
 クリクリとした大きな紫の瞳と目が合ったのは、訓練生だ。

少女「おはようございます」

 手綱を握り、右脇を歩く少女の声は、明朗であった。
 護衛すべきは彼女なのだろう。
6創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 22:37:55 ID:ceh/exVh
指導者「ああ、おはよう」

 少女の瞳も淡く、紫色をしていた。

訓練生「おはようございます」

指導者「お互い初対面かな?」

 訓練生が頷き、少女が続けた。

指導者「そうか。まあ、仲良くな」

 言うなり踵を返した。
 幼さの残る二人を魔物の蔓延る外界へ出さんとするに相応しくないかと思われる。
 間と取り繕うでも無く、あっさりと校舎へ戻る指導者は、気まぐれで二人を出迎えただけらしい。
 訓練生に関しては、少数での遠出はこれで初だが、少女は違うのを知っていた。

訓練生「はじめまして、二日間護衛を任された者です」

 緊張がにじみ出ているのが、少女にも本人も分かった。
 律儀な挨拶に返ってきたのは、くすりとした笑いであった。

少女「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

訓練生「はあ・・」

少女「何度か護衛の人と私だけで王都へ行った事あるから。・・君は初めて?」

訓練生「そうですね」

 まだ少年の言葉はぎこちない。
 柔らかな物言いをする少女とは、対照的だ。

少女「・・大丈夫ぅ?」

 眉毛が釣りあがるのを見逃さなかった。

訓練生「だっ、大丈夫だって!!」

少女「そう? ああ、敬語じゃなくて良いからね」

訓練生「う、うん。・・君、いくつ?」

少女「14だよ」

訓練生「お、同い年だったのか・・」

 キュイ、と鳴き声が上がり、じたたらが続いた。

少女「続きは歩きながらだね」

 ドラゴンを先導する少女に、聴従した。
7創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 22:39:10 ID:ceh/exVh
 二人は乗れるであろう、竜の背には荷物が括られている。
 半分はそれらに占拠されているが、乗用空間は残っていた。
 彼女はそれに乗らずに歩いている。街を出てからもだ。

少女「今日はね、叔母さんの所へお見舞いに行くんだ」

 簡単な自己紹介を終え、少女が短い旅の目的を告げた。

訓練生「お見舞い? 病気なのか?」

 すっかり緊張の糸は解けているようだ。
 歳が近い事も理由の一つだ。
 しかし、大きいのは少女の商人の娘らしいと言える、人当たりの良い性格だ。
 物怖じも人見知りも無い上に、会話の続け方が絶妙だ。
 歩き始めてから、ここまで途切れなかったのが、その証明だろう。
 
少女「重くは無いんだけどね、長引いてるらしいから」

訓練生「そうか・・」

少女「本当に大した事ないんだよ。だから顔見せに行くだけって感じかな」

 並んで歩く少女を伺い見ても、悲壮の念は僅かにも感じられない。
 訓練生が僅かに疑った真意などは無いらしい。
 曇天の日を挟んで、上がった雨は未だに地面を湿らせている。
 長く続いている、二人と一匹の足跡は、やがて太陽が固めるだろう。
 街の外は荒野が続いている。
 
少女「ねえ?」

訓練生「うん?」

少女「会った時から思ってたんだけど、それ何?」

 二回目ともなれば、察しが付く。カカシの事だろう。
 どう話すべきか、訓練生は悩んだ。
 兄を知る指導者へは簡単に話しが進んだが、彼女相手にはそうも行くまい。
 では、順を追って兄の志向から話せば良いのろうが、これも難しい。
 擬似生命体云々と言う話しは一般的ではない。
 魔術師でもあれば、知識の一端くらいはかじっているかも知れないが、相手は武器商人の娘だ。

訓練生「何て言ったら良いんだろう・・」

 素直をに白旗を振った。
 すぐに助け舟が出された事に感謝する。

少女「何に使うの?」

 そこから辿った方が容易か。

訓練生「一応武器かな? 自動で動くんだけど」

少女「自動で?」

 重なった竜の鳴き声も、どこか疑問系だ。
8創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 22:41:29 ID:ceh/exVh
訓練生「勝手に動いて戦うんだけど・・口で言っても分からないよなあ・・」

 竜が小首を傾げる。
 深紫の瞳が捉えるのは、背中のカカシだ。
 青く柔らかい物がその顔を這った。何を思ったのか、竜が舐めたのだ。

少女「あ、こら!」

 鼻の頭を叩くと言うよりは押す動作で、少女が竜を叱る。
 舌に伝わった感触か、怒られた理由か、キュ、と鳴いた声は疑問符が増えているように感じる。

訓練生「いや、大丈夫だよ。それより舌を切ったりしてない?」

少女「え? うん。そう言う事があったら痛がるから・・」

訓練生「随分懐いてる見たいだな」

 ランドドラゴンと言えば、馬を獰猛かつ、強力にした様な印象を勝手に持っていた。
 思い描かれていた竜は、目の前で鳴いたり目をパチクリさせている奴とは、大分違う。

少女「まあね。子供の頃からの付き合いだしさ。ね?」

 鼻息が返事である。指が四本分程の鼻の穴から発せられた。
 人語を解するか否かは良く分からない。
 訓練生は笑った。若干苦笑いに属しているような笑いだ。
 静かな笑いと、疑問系の鳴き声が続いた。

 太陽が真上に到達する頃、一行は、草地の上にいた。
 街周辺に続く荒野は、意図的に作られた物である。
 
少女「暑いねぇ・・」

 うんざりした調子で言う彼女は差し傘を握っている。
 反対の手から伸びる手綱の先は、平気らしい。
 訓練生の顔も何事かを捉えた風では無い。
 意識は別を向いている。
 草原は、魔物が徘徊する要所の一つだ。
 身体構造が全く異なるが、生態系は動物と続いている。
 草食動物を捕食するのだ。
 気を張るのは、それらの魔物が原因ではなく、油断が死を招いた話しを何度も聞いているからだ。
 魔力を持たぬ動物を食するのは、下級の魔物である。
 凶悪な上級達は、血肉よりも魔力を好む傾向が強く、魔物同士で喰らい合う。
9創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 22:42:45 ID:ceh/exVh
少女「魔術でも使えたら良いのにね」

訓練生「風でも起こすつもりか?」

少女「雨の方が良いかなあ。・・この子も喜ぶし」

 意外だった。
 有鱗目に分類される爬虫類を思わせる姿から、雨や寒さには弱いと想像していた。
 それを告げんとする口は、半開きに止まり、やがて別の言葉を呟いた。

訓練生「来たか・・」

 行く手を阻むように歪んだ空間へ、全員の視線が注がれる。
 少女が、何かに気づき、声を上げた。
 
訓練生「どうかした?」
 
 声だけで、顔は正面を見据えている。
 
少女「背中から降りたよ?」

 少女が言い終わる前に、カカシは訓練生の前へ躍り出ていた。
 生えていたであろう八本の腕はなく、頼りない一本足に支えられた体からは、腕が生えている。
 着せられた襤褸切れのような服の袖から伸びている。
 先端には三日月形の刃が取り付けられている。

少女「本当に勝手に動いた・・」

 訓練生やその兄、本人或いは知人にとっては見慣れた光景である。
 無機物が意思を持っているかの如く動く。それに驚く第三者の様子。
 唸りが耳に伝わる。
 魔物の移動法に付いて、詳しく解析出来た者はいない。
 しかし、原理は分からずとも、結果は周知されている。
 明らかに物理の法則を外れて現れる魔物達が、一部は例外らしい。
 音が先に伝わるのだ。
 足元が先ず現れた。全部で六つ。
 鋭利な爪を剥き出しにしたそれは、魔物の象徴とも言えよう。
 粗暴で理性の欠片も持ち合わせぬ、獣にも人間にも忌避される怪物。
 胴体は足の半分の数。
 二足歩行型の化け物が訓練生らに仇なさんと、立ちふさがる。
 どこぞの戦跡で回収したのか、所々壊れた鎧を纏っている。

訓練生「下がって」

 と、少女に首を向けた。
 カカシの動きに驚愕していた表情は、すっかり元に戻っている。
 魔物に対してはこれと言って感じるところもないようだ。
 会話を交わしていた時と同じく、にこやかな顔だ。
 カカシと背の変わらぬ三匹の魔物達は、確かに弱い。
 故に、兄の言う前作に僅かに劣る、と言うのがどの程度か確認しようと言うのだ。
 風変わりな思考の持ち主とは、言葉一つ取っても食い違う事がある。
10創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 23:22:16 ID:ceh/exVh
こっちでもやっぱりだめか・・

どうやったら面白い話し書けるんだろうなーあーあー
11創る名無しに見る名無し:2009/06/08(月) 23:43:04 ID:ceh/exVh
 いざと言う場合が無いとは言い切れない。
 どれだけの戦力になるのか、把握しておくに越した事は無い。
 それに、この程度の魔物相手であれば、仮にカカシが圧されても容易に救出可能だ。
 壊してしまうのは、流石に兄に申し訳ない。
 幾つかの思考が絡まる訓練生を他所に、機械と魔物の死闘が始まった。
 先手を打ったのは、魔物の一匹だ。
 駆け引きを行う知能は一切兼ね備えていない。
 鎧を身に纏っているのも、本能からである。
 唾液を垂らし、腕を振り上げる様はそのものである。
 頼り無いカカシは如何迎え撃つのか。
 日の光に照らされた鎧が、鎌で切れる程に侵食が進んでいるようには見えない。
 それでも宙へカカシの右手から光明が走る。
 血飛沫は三箇所から噴出した。
 カカシの頭を引き裂くべく、振り下ろされた腕は地面に転がり、肘が鮮血で辺りを紫に染める。
 続けざまに首も落としたらしい。程なく腕の隣に首が転がる。
 では、もう一撃はと言うと、左手の刃が残った魔物の内、左側の眉間に突き刺さり、血に汚れているではないか。
 訓練生が目視出来たのは、右手の一撃のみだ。
 するとこの新作は、旧作を上回っている気もしなくない。
 関心する訓練生へ異を唱えたのが、残った一匹である。
 同胞を殺した木造の腕を圧し折る。
 あまりにも呆気なく感じられた。一瞬で二つの死体を作った相手にこうも簡単にやられるとは。
 呆気に取られていたのは、表情だけであった。
 飛び散った木の欠片の一つを、少女の眼前で杖が叩き落した。
 同じく、生き残りもその荒々しい命を絶たれた。
 右手が斬首の一文字を描いたのだ。
12創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 00:55:56 ID:uGSjxw0H
言わんとすることはなんとなく分かる

表現とかはちょっと分かりにくいところがあるかもね、すぐ直せそうな気がするけど
あと訓練生が話の中心みたいだから、最初は訓練生のことでもっと触れてほしかったかも
13創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 03:10:27 ID:cTfzzJrk
なにこれ気持ち悪い
14創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 06:58:35 ID:BhHPrFZt
>>10
せめて一区切りつくとこまでは書かないと
評価のしようがない
15創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 08:17:50 ID:cTfzzJrk
>>14
此処まで読んで続きを読む気が
全く起きない時点で評価は決まってるだろ
16創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 18:35:30 ID:uYXEUu1J
文自体にはほぼ違和感ないけど
今のところ盛り上がりどころがないなー

続きに期待しておくぜい
17創る名無しに見る名無し:2009/06/10(水) 01:16:08 ID:QZ++pyT/
例えば都市レンクリーの街の外見とか特徴とかさ、訓練学校の人達の事とかシステムとかさ
訓練生の容姿とか仲間家族関係とかさ、依頼を受ける経緯とか兄に話をした時の様子とかさ

ストーリー上の事情が無いならもっと詳しく説明を重ねて話を進めてもいいんじゃないかな
土台の設定をしっかり伝えとかないと話に着いていきにくいと思うんだ
18創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 20:02:43 ID:qI+m+GMD
訓練生「なるほどね・・」

 耐久力は著しく低いらしい。

少女「ねえ? 腕が壊れたけど大丈夫なの?」

 転がる首や胴体は酷く気味が悪いものであるが、その辺は見慣れてるのだろう。
 問いかけには曖昧な返事しか用意出来ない。
 新作とやらに詰め込まれた機能の一端をようやく垣間見たのだから、仕方がない。
 
訓練生「どうだろ・・。兄さんが作った物だから俺は良く分からないんだ」

少女「お兄さんが?」

 頭上のやり取りに関わらず、カカシは動いている。
 不思議そうに竜が眺めている前で、壊れた腕の欠片を集めて回っているようだ。
 
訓練生「こういうのを作ってばっかりいる変わり者なんだ」

少女「へー・・」

 感嘆の息と同時に、視線が足元のカカシを追った。
 左腕を破壊された筈だが、手は二本生えている。
 先端には鎌の代わりに上に二つ、下に一つの指を持つ手が付いている。
 回収した欠片をどうするのかと見守られる中、カカシは満足の行く回収が出来たようだ。
 くるりとその場で回った。手が袖に収納される。
 
少女「持ち帰ってお兄さんに直して貰うのかな・・」
19創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 20:06:08 ID:qI+m+GMD
 他にどうするのか、訓練生にも思い浮かばない。
 だが、カカシは二人の考えをあっさりと否定した。
 金属が擦れる音に続いて、三日月の刃が出現する。
 壊滅した左腕も健在だ。何股かに別れる黒い筋が走ってこそいるが。
 目を見張る二人の前で、更に変化は起こった。
 袖の隙間から、黒くしなる三本の縄らしき物が伸びる。
 ペタペタと数度罅割れに触れ、引っ込んだ。
 戻る頃には、一度壊された事を否定するかの如く、腕は直っていた。
 驚きは、訓練生の方が強かった。
 少女からすると、独りでに動き、敵を切り殺した得体の知れない武器が、自己修復を行っても不思議ではないのだ。
 ところが、過去に同じ人物の手で作られた機械を知る者はそういかない。
 損壊した箇所は兄が一々修理していた。
 文句も決まっていた。
 ・・これさえ無ければ完璧なんだが。
 護衛や魔物退治に使うにせよ、負傷一つ無しに完遂するのは、機械でさえ難しい。
 その度に兄を訪ねる手間よりも、青銅の剣でも振った方が良い。
 一部の物好きだけが、兄の商売相手だ。
 しかしこの、憮然とも驚愕とも取れる奇妙な顔の主は自ら回復したではないか。
 凄いな、と意図せず呟いていた。
 凄いね、と少女が返した。にこやかだ。
 誉められても破顔する事無く、カカシはトントンと歩み、訓練生の背に回った。そして引っ付く。
 移動は苦手らしい。
20創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 20:08:22 ID:qI+m+GMD
 一行は魔物が出現した地点から、随分離れた所で腰を降ろした。
 魔物達は大体同じ個所から姿をあらわす。
 詳しく解明はされていないが、彼らの移動は瞬間移動や空間転移によるものではなく、独自の道を通ってなされるらしい。
 十分に距離は取った。仮に此処も出現箇所だとしたら、再び移動しなくてはならないが。
 木陰に陣取り植物の茎で編まれた籠の一つを竜の背から下ろす。
 休息の意味が分かるのか、竜は停滞と共に寝そべっていた。
 大きな瞳は忙しなく動き、二人の様子を交互に眺めている。
 
少女「ご飯なら、沢山あるよ」

 籠の大きさは、荷物の三分の一を占める。
 重量もそれに相応しく、訓練生の手も要った。
 蓋を固定していた縄を丁寧に解く。
 強固な結び目が軽々崩されて行く様は、商人の娘ならではだ。
 籠の中を覗く訓練生の表情には、期待の色が濃い。
 休憩と食事を切り出したのは、彼だ。
 その目の輝きが強まる。
 保存食らしい明度に欠ける、大小様々な物が隙間無く詰まっている。

訓練生「すごいな・・」
 
 歳相応に食欲旺盛だ。唾を飲む音が続いた。
 楽しげに少女が笑った。

少女「好きな物をどうぞっ」

 伸ばした腕が、宙で止まる。
 見たことの無い物ばかりだ、どれを選んだら良いのか。
 
少女「甘いのが良い? お肉とかの方が良いかな?」

 少女はさっさと自分の分を選んでいる。
 拳よりもやや大きい茶色の物体が、合わせた両手に乗っている。
 パンにしてはやけに細かな凹凸、皺とも形容出来る表面に切り込みが入り、白い中身を覗かせている。
 やはり初見の食べ物である。
 故に少年は尋ねた。
 直前に取った行動は、やはり優等生らしい。
 同じ形状の物がまだ残っていると認めて

訓練生「それは?」
 
 と言った。
 残り二つはあるので、取り合いにはなるまい。
 彼女なら快く訓練生へ譲るだろう。しかし、食欲が向いたから手にしてるのだ。
21創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 20:11:35 ID:qI+m+GMD
少女「異大陸の商人さんのお土産。シュークリームって言うんだよ」

 聞いた事の無い食べ物だ。
 取りあえず手にとり、しげしげと眺める。
 
少女「その大陸の言葉で、シューって、キャベツの事なんだって」

訓練生「え? キャベツ?」

少女「作った人には、形がキャベツに見えたみたい。ふふ、見えないよね」

 確かにキャベツからは遠くかけ離れた形にしか見えない。

少女「凄く甘いんだよ」

 嬉しそうに語る表情から察するに、とても美味しくて甘いようだ。
 しかし、傷み易いのではないだろうか。
 複雑な面持ちでシュークリームを眺め続ける訓練生を置いて、少女はむしゃむしゃと頬張り始めた。
 美味しい、と言うなんとも幸せな響きが上がったあたり、痛んではいないのだろう。
 すると、最初から早めに食べてしまうつもりで持って来たのか。

訓練生「・・保存食なのか? これ」

少女「元々は違う見たいだけど、これはそうだよ」

 ここで漸く、一口かじる。
 広がる食感の滑らかさは、保存用に水気を飛ばした物には思えない。
 確かに甘くて美味しかったが、納得がいかないようだ。
 少女にもそれは伝わったらしく、咀嚼していた物を飲み込み、口を開く。

少女「永久花の蜜を使ってるんだって」

 永久花、名が差す通り、永久に枯れない花である。
 生成される蜜や花粉にも永久の一端が含まれており、様々な用途で用いられる。
 皮膚に塗れば老化を遅らせ、不治の病を患う者に投薬すれば、その進行を妨げる。
 確かに調理に用いれば、日持ちのしない食べ物を、その限りに留めない。
 ところが、永遠に花を咲かす奇妙な植物とて、良薬は口に苦しの意を外れない。
 非常に強い苦味と不快な臭いを持っている。故に、調理には用いられない。

訓練生「・・全然苦くないけど」

少女「本当にね。甘さで誤魔化してるわけじゃなくて、別の花の蜜と掛け合わせて、中和してるみたい」

 すごいなあ、と言う呟きの最後はシュークリームに噛み付く音で曖昧だった。
 その後も、その場で食すものに限らず、あれこれと問答しつつ、食事を終えた。
 膨れた腹をさすりながら立ち上がると、ふと疑問が浮かんだ。

訓練生「そうだ、ドラゴンには餌をあげないの?」

少女「外だと食べたがらないんだよね。栄養溜めてあるらしくて、平気みたいだけど」

 短く鳴き、素早く立ち上がった様は、如実にそれを表しているようだ。
22創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 20:13:48 ID:qI+m+GMD
 一行は、王都への歩みを再開する。
 疎らに生えている木が少しずつ、濃くなって行く。
 道はある。
 舗装等はされておらず、木々を切り倒し、通行を可能にしただけの簡素な物だ。
 草は多くの人間の靴や、馬車の轍に擦り消されている。
 剥き出しの地面は、鬱蒼と茂る森林へと続いている。
 彼らは日が暮れ、いよいよ何も見えなくなる前に、森を抜け、再び現れる平原にて野宿を行う算段だ。
 何故旅人は薄暗く、如何にも妖しい空気を包括するこの森を通るのか。
 理由は二つある。
 一つは単純に時間の短縮だ。
 南に位置する王都へ向う者を遮るように、東西に森は広がっている。
 迂回すれば二日はかかるだろう。
 しかし、幾ら時間を短縮する為とは言え、暗闇に潜む何者かに害をなされる危惧はしないのか。
 二つ目の理由は、道の安全がある程度保証されているからである。
 王都を守護する黒い騎士団の巡回路線に、レンクリーから続くこの道も含まれているのだ。
 一様に黒い全身鎧を纏った騎士達を知る者は、例えそれが知恵無き魔物で在ろうとも、逃げていく。
 二人の会話の的は、その騎士団に当てられていた。
 木々はまだ薄く、と言っても辛ろうじで向こうを望める程度だ。
 ふいに、声のトーンが落ちたのは、外的要因ではない。
 会話の流れに沿った、真っ当な理由だ。
 王都、並びにその周辺を守る騎士団に異分子が存在する事は、この国で暮らす者ならば誰でも知っている。
 その男は、唯一騎士団の規定を外れ、白銀の鎧を纏っている。
 良しとするのは、彼が騎士団の長であるからではない。
 誰であろうと彼に意見は出来ないのだ。人並み外れた武力を備える傍若無人故に。
 子供も年寄りも、果ては王であろうと、気に食わない者には白銀の槍を突き刺す。
 百や二百の人間が束になって止めても無駄に死が増えるだけである。
 親が子に一番に教えなくてはならないとされる程に、周知されている。

訓練生「白騎士・・か・・」

 通り名すらも畏怖の対象である。
 会話自体は、さして変わった物ではなかった。怖い、と、趣旨はただそれだけだった。
 
訓練生「一度だけ会った事があるよ」

少女「うそ。本当?」

訓練生「・・騎士団が訓練校に来た時にね。目が合っただけで心臓が飛び出そうだったよ」

少女「へー・・白騎士でもそんなのに参加するんだ・・」

 その時、二人の心臓は先の言葉通りに動いただろう。
 森へ近づくにつれて背が高くなり始めた草が揺れたのだ。
 会話が会話だけに、臆病になっていただけである。
 顔を見合わせ、笑みを零す。
 ただし、一瞬だった。
 風に吹かれた訳ではないようだ。
 何かと草が擦れる音が連続する。
 こちらへ移動しているらしい。

訓練生「魔物だな・・。今度は俺が戦うよ」
23創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 20:23:21 ID:qI+m+GMD
 腰を低め、棒を構える。
 意に反してカカシが背中から下りた。
 しかし制御が方が分からないので手の付け様が無い。構わないことにした。
 決して素早いとは言えない速度で動く何かが、何時飛び出して来ようと対応するべく、目を凝らす。
 隅っこの方で思うのは、兄の作品と共闘するのが初めての経験であることだ。
 誤認されて切られる、そんな間抜けな話しにはならないだろうが。
 速度は大した物ではないし、距離もある。一瞬振り返り、後ろを確認する。
 少女は竜の背後に身を隠す様な姿勢をとっている。
 蠢きは、すぐそこに来ている。
 万全を期して迎え撃つ。一撃で葬る自信があった。
 移動速度と変わらず、緩やかに影が飛び出した。赤い。
 全貌を確認する前に、必殺の突きを放つ。
 鉄製の棒は、誰にでも扱える重量ではない。
 そうでなければ武器にならないが、扱いきれなければこれもまた、武器にならない。
 幼少よりの鍛錬が功を奏している。筋力で制御するのではなく、どこに力を加えるかが重要である。
 同世代の少年達と変わらずの細腕から繰り出されたとは思えぬ速さの突きがそれを物語る。
 緩慢な飛来物に、当たらぬ道理は無い。
 肉を裂き骨を砕く一撃は、命中しなかった。
 これもまた、それが道理であるかのごとく、影、真っ赤な鎧の脇を通ったのみであった。
 人型だと認識する。同時に防御の構えを取る。
 五つの光条が降り注いだ。次いで弾ける金属音。
 襲撃者の全容を確認出来たのは、少女のみであった。
 訓練生の視線は、流れつづける敵襲の太刀にのみ注が無ければならなかった。

 鎧を纏った麗人の瞳は、何処までも深い赤であった。
 指の先端から伸びる剣と共に揺れる銀髪に時折隠される視線は、狂気と称するに相応しい。
 顔こそ訓練生へ向いているが、焦点はどう見ても定まっていない。
 美貌は狂気を彩る添え物でしか無かった。
 人に属するのか、魔に属するのか。
 とにかく不可解な存在である。目的がまるで見えない。
 訓練生もまた、戸惑いを隠せず、しかし一時でも気を緩める事は許されずいた。
 両手に付けられた爪刃は絶え間なく彼を襲う。
 持ち手を変えながら、器用にそれらを防ぐ。速さで言えば訓練生が優勢だ。
 ある箇所で攻撃を受け流したかと思えば、次の瞬間には、そこが持ち手に変わっている。
 棒は宙に浮いて見えた。訓練生の方が動き回っているのだ。文字通り、目にも止まらぬ速さで。
 美しき襲撃者は足元にも及ばぬゆったりとした動きで剣戟を振るう。
 それでいて訓練生は防戦一方から抜け出せずにいるのだから、不思議だ。
 少女の目にはどう映るのか。あまり良い印象は受けなかったに違いない。
24創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 20:26:28 ID:qI+m+GMD
 緩やかな動きでありながら、無駄が無い。全てが的確なのだ。
 隙を見つけたと打ち込もうとすれば、剣が防ぐ、あるいは首筋直前へ凶刃が迫っているのだ。
 カカシは間合いを取れず、手が出せない。
 
訓練生「逃げろっ!!」

 こちらの動きを予知、或いは熟知している。
 余程の手練か人を超えた者か。
 逃げざるを得ない事を悟るには十分な手合わせだった。
 
少女「で、でも・・」

訓練生「俺も逃げるから、君が先に!!」

 死を寸でのところで回避しつつ、叫ぶ。
 当然敵の耳にも入った。ふわりと、赤い影が舞った。
 少女と竜の行く手に立ちふさがったそれが、本体であると、すぐには認識できなかった。
 飛び道具でも放たれたとしか思えなかったのも仕方ない。訓練生の頭上を軽々と越えたのだから。
 
女戦士「困るんだよね・・」

 立ち尽くす少女と、今にも噛み付かんばかりに歯を剥き出す竜の前で、襲撃者の言葉だ。
 訓練生の構えは解かれないが、この分では止められるかは怪しい。
 両手毎に伸びる五本の刃を垂らし、構えも何も無い姿が、却って力量の差を感じさせた。
 
女戦士「ボク、君達のボスに用があるんだ・・」

 独り言とも思える口調と音量だ。
 固唾を飲んで押し黙っている二人には、良く聞こえたが。
 しかし、ボスとは一体何を指すのか検討も付かない。
25創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 20:40:19 ID:qNP94uwP
台詞だけにするか、台詞の前にキャラ名書かなくても読めるようにするか
どっちかにした方がいいと思う

今のままだと文が中途半端で逆に読み難い
26創る名無しに見る名無し:2009/06/11(木) 20:52:06 ID:qI+m+GMD
そうだね。
今のまま外しても問題無いと思うんだけどどうだろ。

とりあえず次回の投下から台詞前の名前は外そうと思います。

自分のサイトで公開する時に、名前の代わりに各登場人物を象徴するようなアイコンないし、小さいドット絵でも表示しようと思ってたんだけど、それも見づらいかな。
27創る名無しに見る名無し:2009/06/12(金) 03:29:25 ID:wz+5hBq0
続き書く前に、この板にある初心者スレに作品持っていった方がいいと思う
直すとこいっぱいあるので多少厳しいこと言われるだろうが、
少しでも向上心あるならそうした方がいい
28創る名無しに見る名無し:2009/11/09(月) 17:13:09 ID:m8DuZ9o6
保守
29創る名無しに見る名無し:2009/11/09(月) 20:30:36 ID:O9zOwq3K
台詞系じゃなくて良いよ。その方が逆に見易いし。

30創る名無しに見る名無し:2010/01/06(水) 10:36:06 ID:gvEgS0xd
男騎士「どうやら私は姫様に嫌われているらしい……だが」
男騎士「それでも、この命をかけてお守りしよう」
姫(うぜえええ……)

侍女「キャーッ!!」
城の中庭からの悲鳴を聞きつけ、重い甲冑を身に付けたまま騎士が馳せ参じる。
騎士「何事か!?」
侍女「ひっ、ひっ、姫さまが落ちっ、落ちてっ!」
そこには震える指先で井戸を指し示す侍女がいた。
騎士「なんとっ!」
慌てて覗き込む騎士の背後に、小さな影が忍び寄る。
姫「ば〜〜〜〜〜っかじゃないの?」
嘲るような声と共に騎士へ与えられたのは、背中への鈍い衝撃。
騎士「ぐっ、う、うわぁ〜〜〜っ!!」
縁に半身を乗り出していた騎士は、仄暗い井戸の中にあっさりと吸い込まれていった。
騎士「ぐふっ、ぶ、ぶはあっ……。な、何をする!?」
騎士が持ち前の素早さを以て甲冑を脱ぎ捨て、立ち泳ぎの姿勢で見上げると、そこには悪戯っぽい笑みを浮かべて中を覗き込む姫の姿があった。
騎士「姫さまっ!?」
姫「ふふっ、不様ね。こんな単純な手に騙されるようでは騎士として失格よ。暫らくそこで反省なさい」

騎士「ご無体な!」
姫「なによ。情けないあんたにはこれがお似合いよ」
衣擦れの音
騎士「姫? いったい何を……お、おやめください!」
姫「ほらほら」
井戸の端にしゃがみ込み、放尿する姫。
騎士「うぷっ、お、おやめくだ」
姫「ほらほら、顔にかかってるわよ」
31創る名無しに見る名無し:2010/01/06(水) 10:36:57 ID:gvEgS0xd
黄金飛沫を浴びながら、恨めしそうに見上げる騎士。
しかし、そこにいるのは高笑いを続ける姫一人だった。
騎士「侍女殿! そこにおられるのであろう! 姫の無体を止めてはくれぬか!」
姫「ふーん。騎士ともあろう者が、そんな簡単に助けを求めるんだ。しかも女子供に」
騎士「くっ……私個人の助けを求めているのではありませぬ。姫をお止めしたいと言っているのです」
姫「あっそ。そんな言われなくてもすぐに止まるわよ」
放尿が止まり、姫はすっくと立つ。
姫「そんなにいつまでも出続けるわけないでしょう? 人をなんだと思っているの? さっさと上がってきなさい」
騎士は脱ぎ捨てた甲冑をひもで縛り、沈まないように壁に引っかける。
こうしておけば後で回収することもできるだろう。
姫「早く昇ってきなさい」
騎士「は。ただいま!」
壁のあるかなしかの凹凸を探り、騎士は自らの身体を引き上げていく。
ほとんど光の差さない井戸内での登攀は困難を極めたが、そこは国内でも有数の騎士である。
なんとか、半分ほどを登ったところで……

姫「あ、また催してきたわ」
騎士「ひ、姫!?」
再び、衣擦れの音。
姫「ほらほら」
騎士「うっぷ。姫、おやめ、おやめくださいっ!」
姫「そう言いながらも顔はこっちに向けられているけど」
騎士「登って……うぷっ……いる途中だからです!」
姫「見てるでしょ?」
騎士「そのようなご無礼、考えたことも……うぷっ……ございません!」
姫「見てるよね?」
騎士「そもそも逆光です!」
姫「見ようとはしたのね?」
騎士「あ、いえ、そのような……」

あれから何とかして上がることのできた騎士。
すでに姫の姿はなく、侍女がタオルと温かいスープを用意して待っていた。
騎士「すまないな。貴方達にも迷惑をかけている」
侍女「いいえ。姫様が無茶をなさるのは貴女相手の時だけです」
騎士「なんですと?」
侍女「貴女がいない時は、慈悲深く聡明で、とっても愛らしい姫様なのですよ」
騎士「……人に尿をかけるのが?」
侍女「きっと、姫様なりの親愛のあらわれかと」
騎士「どこの獣ですか。そんな王族は困ります」
侍女「ですよね」
騎士「しかし……あのお戯れが私相手の時だけだとすれば……」
侍女「ええ。貴殿一人が我慢すれば済むことです」
騎士「な……」
侍女「これも国のため。忠誠を誓った王のため。騎士の務めではないですか」
騎士「…………」
32創る名無しに見る名無し
age