コードギアス反逆のルルーシュLOST COLORS SSスレ41
■全般
・支援はあくまで規制を回避するシステムなので必要以上の支援は控えましょう。
(連投などに伴う規制について参考>>3-あたり)
・次スレ建設について。
950レスもしくは460kBオーバーしたら、「スレを立てる?」か訊くこと。立てる人は宣言してから。
重複などを防ぐために、次スレ建設宣言から建設完了まで投稿(SS・レス共に)は控えてください。
※SS投稿中に差し掛かった場合は別です。例)940から投稿を始めて950になっても終わらない場合など。
・誤字修正依頼など。
保管庫への要望、誤字脱字等の修正依頼は次のアドレス(
[email protected])に。
※修正依頼の際には、作品のマスターコード
(マスターコード:その作品の投稿が始まる、スレ番号-レス番号。保管庫の最優先識別コード)
を必ず記述して下さい。
例)0003-0342 のタイトルを○○に カップリングを○○に
(↑この部分が必須!)
マスターコードを記述されず○スレ目の○番目の……などという指定だと処理ができなくなる場合があります。
■SSを投下される方へ
1.投下前後に開始・終了の旨を書いたレスを入れて下さい。(または「何レス目/総レス」を名前欄に)
2.前書き・後書き含めて10レス以上の連投になると同一IDからの投稿が規制されます。(←「さる」状態)
間に他IDからの「支援」が入ることで規制は回避できますので、規制にかかりそうな長文投稿の際は
投下前に支援を要請して下さい。逆に、必要ない場合は支援の要らない旨を書いてください。
前レス投稿から30秒ほどで次レスを投稿することができます。(投稿に関する規制については >>3- あたり参考)
3.投下前は、他作品への割り込みを防ぐ為に必ずリロード。尚、直前の投下完了宣言から15分程度の時間を置いてください。
4.投下許可を求めないこと。みんな読みたいに決まってます!
5.なるべくタイトル・カップリング・分類の表記をして下さい。(特にタイトルはある意味、後述の作者名よりも重要です)
・読む人を選ぶような内容(オリキャラ・残酷描写など)の場合、始めに注意を入れて下さい。
6.作者名(固定ハンドルとトリップ)について。
・投下時(予告・完了宣言含む)にだけ付けること。その際、第三者の成りすましを防ぐためトリップもあるとベスト。
(トリップのつけ方:名前欄に「#(好きな文字列)」#は半角で)
・トリップがあってもコテハンがないと領地が作れず、??????自治区に格納されます。
7.規制により投下できない場合は
>>1の 代理投下依頼専用スレッドに投下し、代理で投下してもらう方法もあります。
前書きの中に、以下のテンプレを含むことが推奨されます。(強制ではありません)
【メインタイトル】
【サブタイトル】
【CP・または主な人物】
【ジャンル】
【警告】
【背景色】
【基本フォント色】
■創作発表板での投稿規制について。 参考(暫定)
1レスで投稿可能な容量
・X:1行の最大 / 255byte
・Y:最大行数 / 60(改行×59)
・Byte :最大容量 / 4095Byte
但し、改行に6Byte使うので注意。例えば60行の文なら59回改行するので
6Byte×59=354Byte これだけの容量を改行のみで消費する。
さるさん( 過剰数の投稿に対する規制 )
・1時間に投稿できる数は10レスまで。それを超えると規制対象に。
・毎時00分ごとにリセット。00分をはさめば最長20レスの連投が可能。
・規制されるのは2人まで。身代わりさるさん2人で、00分を待たずにリセット。
連投規制( 連続の投稿に対する規制。短い間隔で連続の投稿ができない )
・30秒以上の間隔をあければ投稿可。
おしりくさい虫など( 携帯のみ?同一内容の投稿に対するマルチポスト規制 )
・「支援」などの同じ言葉を繰り返し投稿することでも受ける規制。
違う内容を投稿すれば解除される。スペースを挟むだけでも効果あり。
■画像投稿報告ガイドライン
ロスカラSSスレ派生画像掲示板
PC用
http://bbs1.aimix-z.com/gbbs.cgi?room=lcsspic 携帯用(閲覧・コメントのみ)
http://bbs1.aimix-z.com/mobile.cgi?room=lcsspic 1.タイトルとコテハン&トリップをつけて絵を投稿する。
尚、コテハン&トリップについては、推奨であり強制ではありません。
・挿絵の場合は、誰の何のSSの挿絵と書く。
・アニメ他公式媒体などにインスパイアされた場合は、それを書く。(例:R2の何話をみてテンさんvsライを描きました)
2.こちらのスレに以下のことを記入し1レスだけ投稿報告。
(SSの投下宣言がでている状態・投下中・投下後15分の感想タイムでの投稿報告は避けてください)
例)「挿絵(イメージ画像)を描いてみました。 画像板の(タイトル)です。
〜(内容・注意点などを明記)〜 よかったら見てください」
・内容:挿絵の場合は、SSの作者、作品名等。それ以外のときは、何によってイメージして描いたのかなど。
・注意点:女装/ソフトSM(首輪、ボンテージファッションなど)/微エロ(キス、半裸など)
/ゲテモノ(爬虫類・昆虫など) など(絵はSSに比べて直接的に地雷になるので充分な配慮をお願いします)
画像掲示板には記事No.がありますので、似たタイトルがある場合は記事No.の併記をおすすめします。
*ただし、SSの投下宣言がでている状態・投下中・投下後15分の感想タイムでの投稿報告は避けてください。
3.気になった方は画像掲示板を見に行く。
画像の感想は、原則として画像掲示板に書き、SSスレの投稿報告レスには感想レスをつけないこと。
画像に興味ない人は、そのレスをスルーしてください。
4.SSスレに投稿報告をした絵師は以下の項目に同意したものとします。
・SSスレに投稿報告した時点で、美術館への保管に同意したものと見なされます。
・何らかの理由で保管を希望しない場合は、投稿報告時のレスにその旨を明言してください。
・美術館への保管が適当でないと判断された場合、保管されない場合もあります。
(ロスカラ関連の絵とは言えない、公序良俗に反するなど)
----以上、テンプレ終了----
見事なスレ建てだと感心はするもののどこもおかしくはないな
受けよ!忠義の
>>1乙!
お、テンプレ変わってる
乙ですー
前回の続きを投下したいと思います。
ターン11『シャーリー』Bパート
「死んだ? シャーリーが?」
強化ガラスに包まれた檻の中。スザクに友の死を告げられたカレンは、思わず腰を浮かせた。
「自殺だったよ」
スザクが淡々と告げる。そんな彼の落ち着きようが、カレンにとっては腹立たしかった。
カレンは強化ガラスに近寄って、さらにそのガラスを割らんばかりの勢いで手をついた。もちろん、強化ガラスが人の手で割れるわけはなく、軽くしなりもしなかった。
「何言ってるのよ! そんな事をするような子じゃないって言うのはあなただって知ってるでしょ!?」
「……」
スザクは、そんなカレンの行動をどこか冷めた様子でみつめていた。その温度差に、カレンは益々腹を立てた。
「もっとよく調べなさいよ!」
「調べるさ」
スザクは強化ガラスに歩み寄る。
「いや、調べるまでもない。この事件に犯人がいるとすれば……」
カレンは小さく息を呑んだ。
不可能を可能にする“力”の存在。それを、カレンはよく知っていた。
スザクは頷いた。
「そう、ギアスだ。そして、ギアスを使えるのは現段階ではルルーシュ一人だけ」
一歩、二歩と二人の距離が縮まっていく。スザクの足取りはどこまでも落ち着いていた。
その様子は、とても不気味だった。なぜ、そんなに落ち着いていられるのかカレンには理解できない。死んだのはあのシャーリーだというのに。まるで何かをふっ切ったような。それでいて何かを諦めたような。
カレンは寒気がした。空調が完全に管理されたこの部屋で、室温が急激に下がることは無い。それでも、勝手に体が震えた。思わず、カレンは自分の体を庇うように抱きしめた。
スザクがさらに近寄ってくる。彼が強化ガラスの前に辿りつくと、ガラスはなぜかすんなりと両側に開き、彼を受け入れた。
「ちょ、ちょっと……」
カレンは後ずさった。今まで感じた事のない圧迫感があった。カレンは肉体的にもスザクに匹敵する力を手に入れたはずだった。その自負はあった。しかし、怖い。今のスザクはとても怖い。どこに向けられるか分からない、読めない感情。それがカレンには怖い。
例えば銃が二丁あったとする。一つは正常な銃。もう一つは撃った後、どこに飛んでいくか分からない壊れた銃。
どちらが怖いかと言えば、一般人からしてみれば両方怖いが、カレンレベルの達人になると怖いのは断然後者だ。
正しく撃ちだされる銃をカレンは恐れない、所詮銃は銃身が向けられた先にしか飛ばないからだ。だが、どこに飛ばされるか分からない銃は、回避のし様が無い。ゆえに怖い。
今のスザクは、言うならば壊れた銃だった。弾丸は強力。しかし、いつ撃ちだされるのか、どこに撃ちだされるのか。その弾は、カレンを傷つけるのか、それともスザク自身を傷つけるものなのか。
ありえない。
そんな壊れた銃のような感情を、すました顔で持ち続けているなんてイカれている!
「カレン。今のゼロは誰だ」
「ゼロの正体は知らない。捕まった時にも言ったでしょ」
スザクの瞳の奥が、鋭い光を発した。
「もう、たくさんだ。これ以上悲劇を生みださないためにも」
スザクが足を止めた。二人の距離は、手を伸ばせば届く程に近くなっていた。
「できれば自分から話してほしかった。友逹のシャーリーのためにも」
「!」
カレンは自分の体温が上昇していくのを感じた。
右手が感情で動く。
パンという乾いた音。ぶたれたスザクの左ほほは、赤くなった。
「親友を売ったあんたに言える事!?」
「先に裏切ったのはどっちだ!」
カレンは怒鳴った。スザクも。しかし、彼の方はすぐに口調を静かなものに戻した。
「話してもらうよ」
「ルルーシュの事は知らない! 何度言えば分かるのよ!」
スザクは一拍置いて、
「シャーリーの亡きがらに誓って、そう言えるのか?」
不意に、心臓にナイフが突き立てられたかのような感覚がして、カレンは言葉を詰まらせた。
そこに隙が生じた。スザクは一気にカレンとの距離を詰めた。
「話してもらう。すべて」
スザクの懐から銃型の注射器が現れる。それを見て、カレンはギョッとした。
リフレイン。
間違いなかった。あの薬をカレンはよく知っている。
カレンの反応は遅れた。それが命取りとなった。カレンはあっという間に腕を取られ、身動きできなくなってしまった。
「やめて、やめてよ。嫌だって!」
もがいてみるが、スザクの腕は鋼のように固く、動かない。
「恐がらなくてもいい」
スザクはびっくりするほど安らかな口調で告げる。
「君はすぐに自分の意思を失い。僕の質問に答える」
スザクが注射器を構える。
「……い、いや」
「従ってもらう。命令に」
スザクの腕が動く。注射器がカレンのうなじに近寄っていく。
あれは悪魔の薬だった。
今まで生きてきた全てが、文字通り無となる薬。
痛みは一瞬。その一瞬で、カレンはすべてを失ってしまうのだ。
兄、母、ルルーシュ、生徒会、黒の騎士団、そして、
「ライ……」
カレンは目を閉じた。
しかし、痛みはいつまで経ってもやってこなかった。
○
「スザクッ!」
ロイが走りざまに放った拳は、鋭い角度で同僚の左頬に突き刺さった。手加減は一切しなかった。頭蓋骨に固いものがぶつけられたような鈍い音が響き、スザクの頭は大きく揺れた。
「!」
スザクは吹っ飛んで、背中を強化ガラスにぶつけて止まった。
「……ロイか」
俯いていたスザクの顔が上がり、その視界に、肩で息をするロイをとらえる。同時に、スザクの口元から一筋の血が流れる。
向けられた視線にロイはゾッとした。そこには優しい親友の皮を被った化物がいる。そんな錯覚を起こさせる程、スザクの瞳は極寒の如く冷たいものだった。
しかし、ロイは心は怯んでも、体では怯まなかった。スザクのした事――しようとした事は、絶対に許容できるものではない。
ロイは早足で――といっても周りから見たら一瞬で――スザクとの距離を詰めると、いつか自分がされたようにスザクの襟を思いっきり掴み、そのままガラスに押しつける。スザクは無抵抗だった。
「……僕の言いたい事が分かるか?」
ロイは、感情を抑えるので必死だった。
スザクは、唇を噛んだ後、叫ぶように言った。
「これ以上、犠牲を出すのは嫌なんだ! だから、俺は」
「……」
ロイは腕の力をさらに強めた。それに従って腕が震える。とても悔しかった。親友がこんな下らない事を言いだすのが、本当に悔しかった。
「だからって、こんな手段が許されるのか」
「許されない。そんな事は百も承知だ」
「それが分かっていて、なぜだ。なぜ、こんな事をする」
「シャーリーが死んだんだ!」
ギュッと、心臓が締め付けられたような息苦しさをロイは感じた。あの光景。冷たくなった彼女を発見した時の光景と、その時の感情がロイの中で蘇る。
いつの間にか、スザクの瞳は滲んでいた。
「これ以上犠牲を出さないために、俺は」
「だからって」
ロイは歯を食いしばった。そうしなければ、自分も泣いてしまいそうだった。
「僕たちが、テロリストみたいな手段を使っていい理由になるか!」
「テロリスト?」
スザクは何かに気づいたかのように体を震わせた。
ロイはさらに言った。
「人の意志を奪って、否定して、服従させて、それでシャーリーが喜ぶものかっ!」
スザクの瞳は大きく見開かれた。
「人の意志を奪う? 否定する? そ、そうだ。俺は……」
スザクの手からリフレインが滑り落ちた。注射器は落ちた衝撃で壊れ、床に砕け散った。これでは、もう使い物にならないだろう。当然、中身のリフレインも。
ロイは腕の力を抜いてスザクを開放した。スザクは力なく床に膝をついた。
「……俺は、そうだ。アイツの、“奴等”のようには……」
スザクは立ち上がろうともせず、何やら力なく呟いていた。
ロイは悲しげな瞳でそんなスザクを見つめ、そして逸らした。
見ていられなかった。
人の死は――大切な人の死は、時に人を狂気に走らせる。
だからこそ失ってはいけなかった。守らなければいけなかった。
しかし、できなかった。
ロイは、改めてシャーリーを救えなかった事に対する後悔を、抱かざるを得なかった。
無くしてしまったものは、あまりに大きかった。
「ねぇ」
声をかけられた。女性の声だが、アーニャではない。彼女はまだ、ここには来ていない。
そういえば、紅月カレンがいたんだった。ロイは振り返って、紅月カレンのいる方に体を向ける。
「同僚が失礼した。彼に代って僕がお詫びを――」
言葉は最後まで言えなかった。
「!!」
軽い衝撃があった。下を向けば、細やかな赤い髪が目の前にあった。
「充分よ……」
呟いたのは紅月カレンだった。その声の響きが、なぜかとても心地よかった。
カレンの腕は、ロイの背中まで回されていた。そして、彼女の顔はロイの胸にしっかりと預けられていた。
二人の距離は――ゼロだった。
ロイの鼻孔を、甘い紅月カレンの匂いがくすぐった。
「あなたが生きていると分かっただけで、私は充分」
「……へっ?」
ロイはまぬけな声を出した。
「ありがとう。生きていてくれてありがとう……」
抱きしめる力が強くなる。ロイはされるがままになっていた。なぜか、抵抗する気はおきなかった。テロリストに不意に近寄られたというのに危機感はまるで起きない。母親に無条件で抱かれる赤子のように、彼女に包まれるその事実が、ロイには自然の事のように思えた。
紅月カレンは腕の力を緩めた。力強そうだが、細く少女らしい小さな手が、ロイの頬を挟んだ。
この間も、ロイは無抵抗だった。
力が入らないのだ。体の骨という骨が抜かれてしまったかのようで、ロイは紅月カレンのされるがままになっていた。
紅月カレンは、ロイの目前でほほ笑んだ。少女の綺麗で大きな瞳には、涙がにじんでいた。
その涙の訳を、ロイは無性に知りたくなった。なぜか、紅月カレンが涙を流しているところを見るのを、ロイは嫌だなと感じたのだ。できるならば、その涙を止めてあげたいとも思った。ただ、その泣き顔は、とても綺麗だな、とも思った。
ロイは、いつの間にか紅月カレンの瞳に釘付けになっていた。
すると、その瞳が突如接近した。
「!」
フワッと小さな風が吹いた後、ロイの唇に、紅月カレンの唇が重なっていた。
それはぎこちないキスだった。顔は強く寄せるのだが、舌を入れるわけでもなく、ただの見よう見まねの不慣れなキス。しかし、そんなキスでもロイは満たされた。そして数秒後には、ロイは夢中になって、紅月カレンの体が軋むほど強く抱き返していた。
もっと感じたいと思った。紅月カレンを、ロイはもっと実感したいと、そう強く願った。それは自分から自分への脅迫に近かった。
「んっ」
密着している紅月カレンの唇から、つややかな声が漏れる。腰にまわされたロイの、腕の締め付けが強すぎるのだろう。しかし、ロイは腕の力を弱めなかった。
放したくない。
離したくない。
そんな欲望がロイを支配していた。
もはや、ロイは何も考えられなかった。ただ、思うだけ。
もっと、もっと、と。
ロイは、それこそ自分と一体化でもさせるような勢いで紅月カレンを引き付ける。紅月カレンは苦しそうだったが、それでもそれを嫌がったりはしなかった。むしろ、彼女も強く抱き返してきた。
「何をしているの」
冷たい声がした。ロイは冷水をぶっかけられたかのようにハッと我に返り、紅月カレンから体を離した。
僕は、今一体何を……?。
自分が一体何をしていたのか。それを気付くのに、ロイは数秒を要した。
「何をしているの、と聞いてる」
再度の声。ロイが目を向けると、そこにはアーニャがいつも通りの顔で立っていた。
「アーニャ」
「……」
ロイには答えず、アーニャはその瞳を紅月カレンに向けた。
「!」
アーニャが懐から取り出したもの見て、ロイは紅月カレンを庇うようにして体を移動させた。紅月カレンはロイの後ろにありながらも、挑発的な態度でアーニャを見返し、その足幅を広げ、自身を完全な戦闘態勢へと移行させていた。
「まてアーニャ。どうするつもりだ」
「ロイどいて。そいつ殺せない」
アーニャは淡々と恐ろしい事を言った。銃口を突き付けるアーニャの目は本気だった。
「だめだ。勝手に殺すのは」
「でも、そいつ――」
ロイはアーニャの射線に立ったまま、紅月カレンに向き直った。先ほどの影響で、いまだ高鳴っている心臓を落ち着けるために、一つ咳払いをする。ただ、紅月カレンの顔はまっすぐ見れなかった。
「紅月カレン。何が目的かは知らないが、今回の行動は見逃す。ただ、今後はこのような行動は慎んでもらいたい。さもなければ、次は無警告で射殺することもありうる」
「ねぇ、私が分からない?」
訳の分からない質問だった。なんか最近そんなのばっかだな、と思いロイは片眉を寄せた。
「分かるよ、紅月カレンだろ」
「違うの。そうじゃなくて!」
紅月カレンは、先ほどのようにロイに寄り添おうとした。ロイは怯えるようにパッと後ろに下がって、それをかわした。
「……き、君には聞きたい事があったけど。日を改める事にするよ」
赤くなった顔を隠すように、ロイは紅月カレンに背を向け、そばのスザクの手を取ると、檻の出口に足を向けた。
早くこの場を離れたかった。そうでなければ、また自分は我を忘れて何をしでかすか分かったものではない。なぜか、この場はロイにそんな不安を強く抱かせる。
「待って!」
紅月カレンは手を伸ばした。しかし、それを阻む人影があった。
アーニャだった。
「ちょっと、どきなさいよ!」
「どくわけないでしょ、馬鹿」
アーニャの手には銃が握られたままだった。しかし、紅月カレンは引かない。むしろ、やるならやってやるぞ、とでも言わんばかりに相手を睨みつける。
「そうやって、ロイまで籠絡する気?」
「……は?」
籠絡、という聞きなれない言葉に、カレンは緊張をそがれた。
「あなたが、かつての恋人を、でかいだけの体で仲間に引き入れたのは知ってる。ロイにも同じことをするつもり?」
アーニャは銃を懐にしまった。そしてロイの後を追うように踵を返す。ただ、アーニャは視線だけをカレンに向け続けて、
「下卑な女」
と、吐き捨てるように言った。最初、カレンは呆然とその言葉を聞いていたが、すぐに自分がどのように思われていたのか理解したのだろう。顔を真っ赤にして、
「なっ、なんですってぇ! そんな格好してるあんたに言われたく無いわよ!」
と、アーニャの後を追った。しかし、ラウンズ全員が檻を出た後、すぐにガラスの扉はしまってしまった。
「ちょっと待ちなさいよ! ああ、もう!」
カレンは、立ちふさがるガラスの扉に蹴りを入れると、そのままガラスに寄り掛かった。
「もう、本当に……」
ガラスにコツンと額を当てて、そのままうなだれる。
「本当に良かった」
カレンは誰もいなくなった部屋のなかで、ポロポロと涙をこぼした。
○
ロイが地下でひと騒ぎしているころ、
「ああ、ではまたね」
ロイ・キャンベルの副官。アルフレッド・G・ダールトンは携帯の通話を切ると、疲労を感じさせる息を吐いた。
「探しましたよアルフレッド卿。それにしてもお疲れのようですねぇ」
休憩室に細い体格の男が入ってきた。アルフレッドがよく知る男で、名をロイドといった。ロイドはアルフレッドの上官であるロイの専用KMF開発リーダーであり、アルフレッド自身もロイの副官になってからはいろいろお世話になっていた。
「これはロイド伯爵」
アルフレッドは思わず席を立とうと腰を浮かす。ロイドはアルフレッドのような身分の低い貴族ではなく、伯爵階級の人間だった。
「やめて下さいよぉ。そういうのは無しにしましょ」
と、いつもと同じ白衣の、その袖を振りながらロイドは言った。
「はぁ」
アルフレッドは再び腰を下ろした。それを確認すると、ロイドは満足そうに笑い、近くの自販機でジュースを二つ買うとアルフレッドの隣に腰かけた。
「今の電話。もしかして彼女さんとかですかぁ?」
唐突な質問に、アルフレッドは呆気にとられた。
そんなアルフレッドの手に、ロイドは缶コーヒーを手渡す。
「ビンゴなのかな?」
「いえいえ、とんでもない。彼女なんていませんし、さっきの電話はアッシュフォード学園の学生からですよ」
「ああ、そう言えばアルフレッド卿は学園で教師役をしておられるんでしたね」
「ええ、キャンベル卿達の護衛のために仕方なくですが」
そう言って、ほほ笑んだアルフレッドの顔には、強制されている人間特有の陰湿さはない。
実際のところ、アルフレッド自身、教師というのをけっこう楽しんでいた。
軍隊に入隊しなければ、こういう生き方もありだったかもしれないなとも思ったりしたほどである。もっとも、アルフレッドは軍人であることに誇りを持っているので、転職、という考えは一切浮かばなかったが。
「さっきの電話も女性のようでしたし、アルフレッド卿はさぞ女子生徒に人気があるんでしょうね。噂ではすでに何人からか告白をうけたとか」
「そ、そんな話をどこから」
「ギルフォード卿と、あとは僕の未来の奥さんですよ〜」
「……なるほど。どちらにも困ったものだ」
アルフレッドは苦笑し、その口元におごってもらった缶コーヒーをもっていく。一口飲んで、
「彼女達はただ単に年上の男性に憧れているだけでしょう。本気ではないだろうし、私もあまり興味はないですね」
「おや、年下の女性には興味がおありでない?」
「無いです」
アルフレッドは断言した。そして懐かしむようにどこか遠くを見つめた。
「私の好みは、年上です」
「ほう」
ロイドが興味深そうに、顎を指でなぞった。
「強く、猛々しく、それでいて思慮深い。勇気と知恵を兼ね備え、時折かけていただけるお言葉には厳しさと、思いやりがあふれる。圧倒的なカリスマと力をお持ちで、それを手に入れるために努力を惜しまない。そんな女性が、私は……」
そう喋るアルフレッドには、どこか陶酔の色があった。
「私は好きです」
「えっと、それってコーネリア殿下の事じゃ……」
「!」
アルフレッドの顔が赤く染まった。
「な、なにをおっしゃるのですかロイド伯爵! 私はそんな、姫様に対してそんな、そんな……。そんな滅相もない!
確かに姫様のお姿はみ目麗しく、先ほど私が上げた女性像に酷似しているかもしれませんが。そのような目で姫様を見た事は、私は一度もありません! ええありませんとも! 変な言いがかりをするとロイド伯爵でも怒りますよ」
アルフレッドは椅子から腰を浮かせて抗議した。
「分かりました、分かりましたよ」
あまりに一生懸命に否定する姿を哀れに思ったのか、ロイドはとりあえず納得して見せた。
「分かっていただければいいのです。分かっていただければ」
アルフレッドは鼻息荒く、改めて席に腰かけた。
「とにかく、そういう事ですので、私がアッシュフォード嬢に手を出すことはありません。どうぞご安心を」
「へ? そんな事分かってますよ」
アルフレッドは、眉をピクリと動かした。
「? それを心配していたのではないのですか?」
ロイドはまさか〜、と肩をすくめた。
「そんな事、僕は心配しませんよ〜」
「では、ロイド伯爵は私に何の用事があるのですか?」
「おや、なぜ私がアルフレッド卿に用事があると思うのですか? ただ単に休憩室で見かけて声をかけただけかもしれませんよ」
「からかわないで下さい。私を探していた、とさっきおっしゃったではありませんか」
「ハハッ、そう言えばそうでしたね。ええ、実はそうなんですよ。この前頼まれた新型ランスの件ですけど」
そして、二人は別名“男のロマンがつまった新型ランス”の開発について話し始めた。
○
「じゃあ、僕は先に行く」
地下からのエレベーターで地上にたどり着くと、スザクは早足で先に降りた。
「スザク」
ロイが声をかけると、スザクは足を止めた。しかし、体も顔も、視線すらもこちらに向けず、背を向けたまま、
「分かってる。今回の事は僕が間違っていた。もうあんな事はしない」
「……分かってるならいいよ」
「……」
そのままスザクは歩いて行ってしまった。ロイはすこし寂しげな気分で、一度も振り返らなかった友人を見送った。
その時、ロイの背中をつつく指があった。アーニャだった。
「以前、私が壊したメガネ。明日には直ってくるから絶対につけて」
アーニャの第一声がそれだった。ちなみに、メガネとは以前ロイが身につけていた牛乳瓶底眼鏡の事である。
現在、あのメガネはとある事情で破損し、アーニャ経由で修理に出していた。なんでも、あの眼鏡には希少価値の高いレアメタル製のフレームが使用されているらしく、修理には時間がかかる、とロイは聞いていた。
「ああ、そうなの? そんなに急がなくてもよかったのに」
正直、ロイはあの眼鏡を気に入っていない。だから無いなら無いで構わない。
しかし、アーニャは、
「やっぱりロイはメガネをかけてないとだめ。変な女ばっかり引き寄せる」
「変な女って……」
「大体、ロイもロイ。よける事もさける事も、拳で殴り落とすこともできなかったの?」
言われて、ロイは先ほどの出来事を思い出した。紅月カレンに奪われた唇は今でも熱い。あの事を考えるだけで、欲望に突き動かされた自分が恥ずかしくなる。
「いや、あまりに急だし、不意打ちだったから」
ロイの頬が再び赤く染まる。それを見て、アーニャは不満そうに眉をひそめ、少し乱暴に腰に手を置いた。
「ノネットの槍捌きはかわせるくせに、紅月カレンのキスはかわせなかったの?」
「それは……」
ロイはバツが悪そうに頭をかいた。アーニャはずっとムッとした顔をしていたが、その顔が不意に緩む。
「気をつけて。お願い」
アーニャは切実な様子で言った。
「キスだったからよかったけど。もし紅月カレンがナイフでも持ってたら、ロイは死んでた」
ロイは驚いてアーニャを見た。そこには何かに脅え、何かを恐れた少女が立っていた。
「だから気をつけて。お願い」
「……アーニャ」
ロイは不意に笑うと、そっとアーニャの頭に手を置いた。
「分かった。分かったよ。ごめん。心配させたね」
「……うん」
アーニャは小さくうなずいた。
ロイは同僚の心遣いをとても嬉しく思い、先ほどとは違った意味で体が熱くなっていくのを感じた。
ターン11Bパート。終わり。Cパートに続く
投下終了です。
感想・修正等ありましたらよろしくお願いします。
KOUSEI卿乙でした! 面白かったー
お疲れ様です!
前回からあまり経っていないのに、早速の投下速い速い。
物語が佳境を迎えてきてますね。続きが楽しみでなりません。
>>15 女の闘いににやにや。さてどっちを応援したものやら。
待ちに待ったカレンとの「再会」、なんだかじんとしました。
スザクの疑念は晴れたのでしょうか。壊れかけた彼が心配でもあります。
ロイの明日はどっちだ。ルルーシュたちは彼を奪還できるのか。
楽しみに、続きをお待ちしています。
>>15 KOUSEI卿、GJでした!
カレンがロイを目の当たりにして感じた安堵。 自分のことが分からないことよりもそのことを実感しているのがなんともまたいいかんじに思えました。
「どいて。そいつ殺せない」……なんだこのヤンデレな妹。 しかしアーニャ視点から見ると大事な人を奪おうとする奴な訳で……
最終的にどういう方向に向かうのか……
>“男のロマンがつまった新型ランス” オラ、すっげぇワクワクしてきたぞ!
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!
KOUSEI卿乙でした!
カレンとついに再会!
最初から卿のSSを読んでる者としては感慨深いです。
ライとカレンが本当の再会をする日が楽しみです
>>15 乙です!
カレンとの再会来たー!!!感慨深いです。待ったかいがありました。
しかしアーニャが…ううむ、カレンを殺そうとするアーニャは原作にもありましたが
ロイが絡んで一層憎しみは強く…これからどうなっていくかがとても楽しみです。
また、再び友人を失って深い悲しみに堕ちたままのスザク。はたしてロイは壊れかけた彼を救うことが出来るのか、
これもまた楽しみですね。さらに、新型ランスにも多大な期待を抱いてしまうwロイドさんならやってくれる…はず!
では、次の投下を楽しみにお待ちしております。
>>15 待っておりました!
Bパートはどうなるのかハラハラしていましたが、いやぁ素晴らしい!
カレンにもアーニャにも不幸にはなって欲しくありませんが、この先
どうなることやら・・・
次回の投下も楽しみにお待ちしております!
乙でした!!
GJとしか言いようがないです!!
待ちに待ったカレンとの再会……今後の展開が気になりまくりです!
これからも無理せず頑張って下さい。
次回の投下お待ちしております!
>>15 KOUSEI卿GJ!遂に果たしたカレンとの再会。キスシーンは突然かつ自然で素晴らしいの一言。個人的にはキスでロイの記憶が戻りそこからハッピーエンドに一直線だと思っていたのですが・・・、まだまだ予断を許しませんね。
次の投下も心からお待ちしております。
乙!
ついにカレンと再開してしまいましたね。
ロイは今後アーニャとカレンのどっちを選んでいくのか楽しみにしています。
あと、ロイによってくる女にはアーニャは容赦がないですね。
眼鏡をはずしたことで寄ってくる女は「売女」といい、今回のカレンに対しては「下卑な女といった。
恋する少女はすごいですね。
>「ロイどいて。そいつ殺せない」
あの緊迫した場面でこの名台詞を持って来るKOUSEI卿のセンスに脱帽。
にしても、KOUSEI卿の描くカレンとアーニャは原作を超えた魅力を感じる。いやこれはライ(ロイ)の力かw
悪気はないんだろうが、二次同人作品への感想での「原作を超えた!」は
すまないが、少し控えてもらえないか?もしくは表現を少しはよく考えてくれ。原作の彼女達よりも自分は好きだ、とか
ロスカラや二次同人好きなのはもちろんなんだが、それ以上に原作ファンや原作の彼女達ファンもいるんだ
だから褒めるにしても言葉くらい選んで欲しい。口を挟んですまなかったが
>>28すまないけど僕には気持ちが理解出来ない
原作が好きな気持ちは分かるけど、今の言い方だと邪推かもしれないが、原作の方がファンが多いから黙れって言ってるように聞こえる。
自分が大人になってスルーすれば良い問題だと思うけど
このところKOUSEIさんが投下するたびに殺伐とした雰囲気になるな。毎回これが続いたら、投下したくなくなるかもよ。
そうしたいなら、もっとやりあえばいいさ。
自分は正直
>>27は気分の良いものでは無かった
一応スルーしたけれども、
>>28の言いたくなる気持ちは分かる
でも、
>>27はわざわざ注意するレベルでもないかなと思う、個人的な感想なんだなと思えば
色んな人が居るから気を遣えってのも難しいからね、感想が書き辛くなるのは嫌だろう
>>29の言うとおり、大人になって自分を落ち着かせてみるのが先じゃないかな
>>30 煽るのはイクナイ、自分から殺伐とさせてるよ
え?釣られた?
>>31 スマン、我慢出来なかった俺が悪いな
これからはあんたのようになるべくスルー出来るよう努力するわ
でもここは匿名掲示板で、いろんな人間が見る場所だという認識は忘れてはいけないと思うことに変わりはない
間口が広くなることは嬉しいが、基本的なマナーは(ネットについても同人についても)
やっぱり基礎に置いておかないといけないと思うんだよな
>>30 煽りなんだろうが、そういうやり方での言論統制は良くないと思うぞ
釣りだったら釣られてすまない
感想を書く人もそれに反応する人もなるべく慎重にね、というわけで
この話題はここまでにしておこう
それにしてもさ、このスレの作品を読ませてもらって思ったけど、主人公
であるライ以外の人物の心理描写というか、どんなことを考えてるのかって
のを楽しめるのは、ゲーム本編がほとんどライ視点で進むだけに凄く新鮮だった
仮にロスカラ2が出たとしても、ライ以外のキャラの内面とか多くは描かれない
だろうし
KOUSEI卿の作品を例に挙げるなら、アーニャのロイに対する思いとかね。もう
ニヤニヤが止まらなかった
職人さん達には本当に感謝です
KMF乗り達のタッグマッチ編みたいのを考えているんだが、ライと相性の良いキャラクターは誰だと思う?
ライならば誰がパートナーでも合わせると思うが、無双と唄われた皆さんの意見が聞きたい
ジノです
こればっかりは人によって違うし、意見も結構分かれるんじゃない?
藤堂さんとの生真面目な和風コンビも見てみたい
>>37 神楽耶様と咲世子さんがKMFシミュレータで、騎乗練習を始めました。
ライカレ好きとしてはカレンだけど星刻と組ませたら強そう
オールマイティーだからどのキャラと組んでも相手の能力を引き立てそう。
キャラ的には嫌いだけど、装備が似通ってるオールマイティーのスザクあたりは?
普通すぎるか。
コーネリアとのタッグも良さそうだなぁ
というか大好きです
狂王のライとルキアーノというのをいいかも。
ひたすら命を奪うものと、大切な人のために命を奪うもの。
ちょっとずれているかな・・・
嫌いとかいちいち要らんよ…そういうのはもううんざりだ
俺はCCを推す
原作じゃ軽く一蹴されたvsカレンだったが、ライと組めばリベンジ出来そうだw
やっぱ、オレンジでしょう。
黒の騎士団だったら、藤堂さん。
ラウンズだったら、ビスマルク。
美青年の隣には渋いおじ様。
藤堂さんは普通にライの足引っ張りそうなイメージあるなぁ
スペックがやっぱ似てるから星刻かな
ライと星刻が組んだら最強だな
自分の質問にいつの間にかこんなに沢山の意見が…みんな、答えてくれてありがとう!
遅筆だが、今月中には投下できるように頑張ります!
相棒候補にノネットさんの名前が挙がらないのが不思議でならない。
ノネットさんはネリ様と相棒同士ってイメージが強いからなあ
そしてどっちかといえば迎え撃つ方な感じ
軍人編、スザクと共闘して初めてノネットさんに勝てた時は嬉しかったなあ。
あそこはつるっと負けても一矢報いても各種エンディング迎えるのに難はないから
ずっと勝てるって知らなかった。
トーマスさん見てますかあ?
ほんとにもっともっともっと頑張って下さいねえ!!
熱心な住人からでした!!!
トーマスさん
応援しています。
56 :
創る名無しに見る名無し:2009/06/09(火) 02:04:09 ID:+f/WKtdv
トーマス死ね。お前に生きる価値は無い。
…
運営やめようかな…結構本気で…
2ch運営乙
ナオトって髪の色って何色だったけ?
どうでもいいが気になったのでな…
まあスルーしてもかまんけど
エンディングの絵見たら濃い目の茶色だね。>ナオト
お母さん茶色だったっけ?
>>59 お母さんは茶色
ナオトは白みがかった茶色
ロスカラのCG GALLERY 1/6 参照
娘は父親に似るっていうし父親が赤毛だったんだろうなあ
どうも有難うございます
気になってたんでね
これで今日はゆっくり眠れますわ!(笑)
64 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 02:48:28 ID:B3XMIxon
羽付き羊です。携帯が見つかりました!まさかベッドの下の奥の方に入っていたとは…
感想どうもありがとうございました。
無頼の武器はナックルガードですか、知りませんでしたよ…
訂正ありがとうございます。
トンファンではなくトンファーですか、これからそう書きます。
さて今回のストーリーはぶっちゃけ一番好きなロスカラのシーンを入れました。いつ見てもニヤケテてしまうあの場面を…
まぁ読んでくれたら分かります。
・コードギアス LC 〜反逆者達の願い〜
・Action03 帝国 最強の 騎士
・ジャンル<シリアスとギャグ>
・カップリング<ライカレ>
※注意点
・ライツというオリキャラがいます
・スザクの物分かりが非常に良いです。(何故かそうなりました…)
・オリジナル要素がたくさんあります。
02:55分頃投下します
支援はたぶんいりません
65 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 02:55:00 ID:B3XMIxon
誰かが死ぬ 戦争で 餓えで 病気で
しかし地球はただ廻る 何がおきても
それが日常なのだから
Action03 帝国 最強の 騎士
「模擬戦ですか?」
ライツが研究所にやって来たのはスザクがロイドに尋ねているところだった。
「あれ?スザク今日は早いな?」
「ライツが遅いんだよ…君ここに住んでいるのにどうして僕より遅いのさ。」
ライツはここの大学の寮に住んでいる。ここの大学の寮は個室なので、自由に気ままにのんびり過ごしている。
「ははは…朝は苦手なんだよ。今日も6:30に起きたんだけどさ、また寝てしまってな…」
「二度寝したの?ったくもう今9:07だよ?」
「ははは…で何だロイド?今日は12:00からシュミレートじゃなかったのか?」
ライツが話をすり替えるとロイドは答えるのが面倒臭いらしく
「セシル君あとはよろしく、僕は許可もらいに行くからねー。」
と言いさっさとどこかへ行ってしまった。
セシルは軽く溜息をつくと二人の方を見て説明を始めた。
「昨日の夜に総督から連絡が入ったの。『特派の枢木と最近ウワサになっているもう一人を連れてK−12地区の模擬戦場に明日の15:00に来い』って」
「『最近ウワサの』って誰なんだ?」
セシルが答える前にスザクが答えた。
「ライツの事だよ。この前の模擬戦で軍の少佐とKMFの模擬戦で瞬殺してただろう?それが軍じゃウワサになってるんだ。」
「あぁー、弱すぎて手加減が効かなかった奴か!ありゃ、肩書きだけの馬鹿野郎だから仕方ないさ、俺の知る限りじゃ、ギルフォード卿、コーネリア総督、ダールトン将軍ぐらいしか地位と実力が伴っていないからな。」
先日の模擬戦はライツが特派に所属して初めてのKMFでの実戦練習であったので軍内で新人いびりで有名な少佐が
『新人には戦場の怖さを勉強させてやれねばな、ははは。』
と言ってライツの相手を買って出たのだが、ライツの一撃で見事に負けた。
その時間は約9秒、ボクシングの試合で実力の違いすぎる相手でもそれだけ短い時間でやられる人間はあまりいない。
彼は哀れであった。
『お、覚えておけよ!今日は睡眠時間が9時間だったから調子が悪かっただけだ!』
という捨てゼリフを吐いたのはその場にいた全員が覚えている。
「…まぁ向こうの出会い頭の一撃をカウンターで入れただけだからな…手加減とかそんなのできないわ。」
「確かに分かりやすかったけど、でも凄いよ。」
スザクはライツを褒めながら、微妙に少佐を貶していた
「いやいや、スザクの方が強いから…俺の見立てじゃラウンズクラスだぜ?」
「お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいよ。」
「………もう続けていいかしら?」
セシルの顔が笑顔なのにとてつもなく怖い。
「「はい、すみません…」」
声を揃えて謝った。
「まぁ、総督からはそれだけだけど、たぶんKMFの模擬戦になると思うわ。あの人達がエリア11に着いたのが昨日の昼だしね…」
「『あの人達』って?」
「それは僕も知らないよ」
セシルが複雑な表情でこちらを見ながらこう述べた。
66 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 02:56:04 ID:B3XMIxon
「帝国最強の12騎士、ナイト・オブ・ナイン、ノネット=エニアグラム卿とナイト・オブ・トゥウェルブ、モニカ=クルシェフスキー卿よ…」
「!!ラウンズの二人が?でも何故僕達を?」
戸惑うスザクにライツは平然と答えた。
「まぁ、暇潰しだろうな…俺達はラウンズ様のオモチャってわけさ。」
「ライツ君!その言い方は…」
「何か違うとでも?セシルだって気づいてるんだろ?」
ライツのその言葉にセシルは黙ってしまったが、スザクの反応は怒りではなくむしろ喜びの表情であった。
「願ってもないチャンスだよ…」
そのスザクの言葉を聞いたライツは包帯の奥から悲しげな表情でスザクに話しかける。
「………スザクお前はまだ組織の中から変えるつもりなのか?」
「あぁ、だってそれが正しいやり方だからね。」
スザクの目はどこか不安にさせるものがあった。
「お前のそれは偽善に近いよ。お前だけで英雄になるにはどれだけの血を流すのか分かってるのか?」
「………」
ライツの問いにスザクは答えることができない。
「お前の言ってる事も分からなくはない。ただ、その矛盾はお前自身を壊してしまうんだ…」
「なら!黒の騎士団の様なやり方が良いと言うのか君は!?」
スザクはライツにくってかかった。
「はぁー、誰がそんな事言ったんだ?俺は『お前だけで』って言ったんだ。」
「え?」
キョトンとした顔になるスザクにライツはこう続けた。
「人は支えがないと強くなんねぇんだよ。お前は自分で背負いすぎ、ロイドもセシルも皆心配してんだぜ?」
「ならどうしたら…」
戸惑うスザクにライツは答えた。
「俺らを頼れ、まずそこから始めよう。それに俺はお前の夢叶えてやりたいと思ってんだ。」
「ライツ…」
「まぁ、包帯で顔を隠している奴を信じろっていうのも無理な話か…」
「………」
「まぁ、お前ならできるって俺は信じてるからな…」
ライツはそう言い残し部屋から出た。
67 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 02:56:58 ID:B3XMIxon
「セシルさん…」
「何?」
「僕はどうしたら良いんでしょうか?僕は皆に迷惑を掛けたくないんです。自分のせいでこうなったんだから、自分の手で解決しなきゃいけないんです…」
スザクは悲しみと苦悩が入り混じった表情でセシルを見た。
「スザク君、ライツ君がなんであんな事言ったか分かる?」
穏やかな声でセシル問う。
「いえ、分かりません…」
スザクには理解できなかった。何故ライツがあんな言葉を自分に投げかけたのかを。
「アナタが『自分に似ているから』そうよ」
「僕がライツに?」
スザクはセシルの言葉に驚きを隠せない。どこをどうしたら自分と彼が似ているのかスザクは分からなかったからだ。
「スザク君とライツ君が似ている所はね、『他人を必要としない』ところよ。」
「えっ?」
「『自分が犠牲になって解決できるなら、命すら捨てる。アイツの目はそういう男の目だ。だから人を頼りにしないんだ、俺と同じで………けど本当は誰かに救ってほしいんだよ。自分の犯した罪を』だって。」
その言葉にスザクは気付かされた。
自分の奥底に潜んでいた気持ちを。
自己犠牲の精神なんかじゃない自分が戦場の最前線に立つのは自分を罰してほしいから、殺してほしいからなのだと。
自分は人の為と言いつつ本当は自分の為に戦っているという事を。
これらを気づいた時には、目から薄っすら液体が零れ落ちそうになった。
「スザク君泣きたかったら泣いてい…」
「泣くなスザク!」
セシルの言葉を遮ったのは、ライツだった。
「ライツ君?」
「今泣いてどうするんだ?お前は一体何をし終わったんだ?お前の願いは叶っちゃいない。」
「ライツ…」
「お前にはデッカイ夢があるんだろ?これから辛い事、苦しい事、悲しい事、山ほどあるんだ。それ全部泣いてたらきりがないぜ?それに…」
「「それに?」」
「男が涙を流す時は、全てを終わらせた時だけだ。」
付き合いは短いながらも、セシルもスザクも彼の言いたい事は理解できた。彼の言葉のその一言に彼なりの励ましがあったということを。
「そうだね、泣くのは全てを終わらせて笑った時に流すことにするよ。」
スザクは零れ落ちそうな滴を裾で拭って、真っ赤な目でほほ笑んだ。
「……じゃあ行きましょうか。K-12地区に。」
3人は研究所を出てラウンズの待つK-12地区へと向かった。
68 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 02:58:29 ID:B3XMIxon
〇
「カレンとライができている?何だその噂は?」
ルルーシュはバイク好きで噂好きの親友に訪ねた。
「それがさ、この前ゲットーでブリタニア軍によるテロリストの粛清があっただろ?」
「ああ、それがどうした?」
新聞に目を通しながら聞き流すように話を聞く。
「その時あの2人を見た奴らがこの学園にいるんだって。」
「あの2人ゲットーに行ったのか?」
新聞から目を離して噂好きの親友を見つめる。
(一部の生徒に見られていたか…軍にこの情報が届く前に情報操作しておくようにするか…)
言葉と全く違う事を考えながらその事について詳しく聞くことにした。
「ゲットーに行く2人を見た奴とゲットーから帰ってくるのを見た奴らがいてさ。その時間帯的にアイツ等、軍の粛清の時間があった時間と場所が一致しちゃってる訳よ!」
「アイツ等が無事で何よりだな…それで、何故それが“できている”理由になる?」
ルルーシュの問いに呆れたようで手で額を触りながら親友は答えた。
「あ〜、やっぱりお前は鈍いな…シャーリーが可哀想だぜ……いいか?2人は元々噂になっていたのは知っているよな?」
「そうなのか?」
「……もういいや、と・に・か・く、そうなの。」
(うむ、そんな情報があったとは…俺もまだまだな)
誰もそんなウワサ話はしていなかったが、見ていればわかるはずである。お世話係だからといってあんなに頻繁に一緒にいる理由にはならない。明かにそれは、彼らの関係が普通ではない特別な関係だという事を教えている。それを分からないルルーシュはかなり鈍い。
生徒会のメンバーからは“The鈍感王”というあだ名が付けられている程に。
「で、今回の事件。たぶんライがカレンを助け出したんだぜ?カレンみたいなか弱い女の子が無事に戻って来てるのが証拠だ。2人の仲をぐっと縮めるには間違いないし、あれから2人余計に仲が良くなったし、だから“できている”って学園中持ち切りなの。」
「そういう訳か…納得はいったが、一つ引っかかる情報があるな。」
(実際は2つだがな…カレンより俺の方がはるかに、か弱い!)
心の中で思っていることを悟られずにルルーシュは新聞を畳んで置いて、親友に問う。
「俺は鈍くないし、仮に俺が鈍いとしたら何でシャーリーが可哀想なんだ?」
「………はぁ〜、もういいよ。答えるのが面倒だ…」
青髪の親友は黒髪の親友を可哀想な人を見る目で見る。まるで“残念な人”を見るような眼で。
「あら?アンタ達珍しく早いわね。感心、感心。」
「あっ、本当だ…」
「授業サボったからでしょう?ルルは出席日数危ないんだからちゃんと授業出なさいよ。」
生徒会の女性メンバーが扉を開けてルルーシュ達に対するそれぞれの思いを話したところでリヴァルは待ってましたとばかりに話し出した。
「会長〜、聞いて下さいよ。ルルーシュってばカレンとライの噂さっきまで知らなかったんですよ〜?信じられます?」
リヴァルの言葉に3人が3人共にルルーシュを“残念な人”を見る目で見た。
「「「やっぱり?」」」
3人が声を揃えて言った。
(何でやっぱりなんだ?)
ルルーシュはそれに対して265通りの答えを導きだし、頭の中で処理している。そんなところで頭を使うべきではないのだが………
「でも、気になるわね〜あの2人。」
「ですよね〜」
「私も…」
「俺も!」
ルルーシュ以外のメンバーはこの噂が本当だと信じているが、カレンに聞いても否定するし、ライについてはカレンが何も喋らそうとさせないのだ。
「こうなったら、二人に直接聞くしかないわね。」
「「「おぉ〜」」」
ミレイの言葉に3人は拍手をするとドアがまた開いた。
69 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 02:59:29 ID:B3XMIxon
「何の拍手?」
「あれ?今日はリヴァルとルルーシュが来てる、槍でも降るのかな?」
噂をすればなんとやら。カレンとライが二人一緒に生徒会室に来た。
「何?みんな変な目で見ないでよ…」
一斉にカレンの方を見た。
(…俺が鈍いと仮定すると124通りか…ん?ライとカレンが来たか…今はどうでもいい事だな、さて次に減らせる項目は…)
もちろん“The 鈍感王”は自分の事で頭が一杯だったので、彼らを見ているのは4人だけである。
「カレ〜ン、ライとはどこまでいったの?」
ミレイのその言葉にカレンは今日生徒会にライと一緒に来たのはミスだったと悟った。
「何の事ですか?」
カレンは平静を保とうとするが、手には汗をしっかり掻いている。
「またまた〜、そんなに2人仲良くずっと一緒にいるんだから。ねぇ〜皆?」
「「「ですよね〜」」」
明らかに今日は逃げられない。カレンは本能でそう察知していた。
(こうなれば、怒ったふりでもして誤魔化す!)
「そもそもお世話係を私にしたのは会長じゃないですか!」
カレンはミレイ達に向かって睨んだが、それはあまり効果がなかった。
「怒らない、怒らない。」
「そうそう、まんざらでもない、まんざらでもない。」
会長とリヴァルのコンビプレイ、悪だくみをしたこの2人には敵わない。
(ならば、話を逸らす!)
「そういえば、スザク君は?」
「スザクは今週ずっと軍だって、そ・れ・よ・り、どうなの?」
(くっ、こうなった限り誤魔化しは効かないわ……ライに任せるしかないわね……)
「ライも言ってやってよ、正直にはっきりと。」
カレンはライに助け舟を出そうとしてもらおうとした。しかし、それは泥船だった事をカレンはまだ知らない……
「正直に言えばいいのか?」
今までずっと黙っていたライが口を開けた。
「そうよ、言ってやって。」
カレン・シュタットフェルトは知らなかった。ライという青年が先日のKMFの操縦のできもそうだったが、彼は正直にと言われたら本当に正直にいうナチュラル(天然)だという事を…
「まんざらでもない。」
一瞬の沈黙。
「ええ!?」
「ライ君やる〜」
「こっちが照れます…」
「お前のそういうとこ本気で尊敬するよ……」
ミレイは驚き開いた口が塞がらず、シャーリーは手で顔を隠しながらチラチラ指を開いてこっちを見て、ニーナは顔を赤くし下を向き、リヴァルは尊敬の眼差しを向ける。
「えっ…ちょっ…な、な、何を言ってるのよ!?」
カレンは顔を真っ赤にしながら、病弱設定すら忘れて本気でテンパッていた。もっと言いたいことがあるのだが、テンパリすぎて言葉で表現できずに慌てふためく。
「?だって『正直に』って…」
ナチュラル、あまりにナチュラル、ナチュラルすぎるが故に彼はこの数週間後「フラグ1級建築士」と呼ばれる事になるのだが、ライはその事を一生知ることはないのだろう。
なぜなら彼がナチュラルだから…
(残りは26通りだ。ふふふ、俺が鈍いだと?リヴァルよ、それは間違いだ!フハハハ!!)
この日を境にルルーシュは生徒会内で仲間が増えた。そう、鈍感な仲間が…
70 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 03:01:36 ID:B3XMIxon
〇
k−12地区 第3訓練場
広大な森が広がっている。ここは昔、日本軍が森の中でサバイバルの訓練と実戦さながらの訓練をしていた場所として有名だ。
最近ではブリタニアの軍のKMFの訓練によく使用されている。狭い木々の間を通り抜ける技術や、敵兵が隠れている場所を見つけたり、地形を味方につける訓練などもできるからである。
ただ、中堅からベテランの操縦者じゃなければ、満足にKMFを動かせない。それ程この地形はKMFの操縦者の腕を試される場所なのだ。
「ふわぁ〜。やっと着いたなぁ。」
大きな欠伸と伸びをしながらライツは言った。
「危なかった…ギリギリだよ…」
ヨタヨタのスザクの言葉の通り約束の時間の5分前に到着した。普通、総督との約束は30分前にはその場に着いておくべきであり、予定では1時間前に着くはずだった。
何故こんなに到着が遅くなってしまったのかというと…
「セシルが道に迷ったからな…だからあの道は左って言ったのに。」
「ううぅ…ごめんなさい。だってナビゲーターが故障して使えなかったし…看板は右って書いてあったし…」
セシルはくちゃくちゃの髪を触りながら言った。
そう、不幸にも車のナビゲーターが途中で故障したのだ。しかも二手に道が分かれていて、右の方の看板に「第3訓練場」書いてあったのだ。
「僕も右だと思ってたからセシルさんだけ責めるのは…」
「左の方にはランドスピナーの跡もあったからな、看板が何かの拍子で逆になったんじゃねぇの?」
ライツは左だと言い続けていたのに、セシルとスザクは右だと言い張り結果、多数決によりライツは負けた。
あそこにロイドがいたらまた変わっていたのだが、ロイドは許可と調整の為に先に現場に行った為にこうなってしまい、到着したのは…
「まさかの崖だったな…」
「うん…まさかの崖だったね…」
「そうね…崖だったわね…」
エリア11でも有名な崖の名所だった。
「そこからがもう大変だったわ…」
71 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 03:02:32 ID:B3XMIxon
セシルは場所を間違えたと大慌て、約束の時間までは残り56分39秒。さっきの分かれ道からここまでかかった時間は約35分、第3訓練場までは分かれ道から車で30分かかると言われていた。
「スザク君!ライツ君!速度だすから噛まないでね!」
「セシリ…痛っ」
「セシルしゃ…舌が…」
スザクとライツの応答の言葉を待たず、セシルは速度を上げた。スザクかライツが代わって運転した方が良いのだが、セシルはテンパリすぎていたのでその判断ができなかった。
…いや、代わらない方が良かったのだろう。人間はピンチになると火事場の馬鹿力がでる。あの時のセシルはまさにそれだった。その顔を2人とも見なかった。いや見れなかった。オーラが凄まじかったし、いつものロイドを叱る時の10倍の負のオーラ、
さらに、スザク以上に上手い車の運転をしたのだ。
あれだけ速度を出していたら普通あの5連続コーナーで車は大破する。しかしセシルは溝にタイヤを引っ掛けて曲がってみせたのだ。
あれを見た時、この人は怒らせてはいけないと2人共思ったのであった。
ライツはそれを見て、それを楽しみながらライツにしてみたら心地良い振動の元に眠り始め、スザクはセシルのオーラに当てられてずっと緊張しっぱなしだった。
そんなやり取りをしているとロイドと総督が現れた。
「ランスロットの許可もらえなかったよ…」
と残念がるロイドの声の後で総督が言った。
「今回の模擬戦は同じKMFでと言ったはずだ。あの白いのを4機作れるのか?」
「予算くれないじゃないですか…」
小さな声でとてつもない事を言い放った。
「うん?何か戯言が聞こえた気がするが?」
総督が回りをキョロキョロしながら言った。
「いえ、何も聞こえなかったですよ〜」
ロイドは笑顔で誤魔化した、流石に総督に面と向かって文句は言えないようだ。
「……兄上の直轄でなければ、すぐに首を切るところだがな。さぁさっさと用意しろ、30分後この場所で開始する」
首を切るという言葉は2つの意味に聞こえたのは、気のせいではないだろう。
「あれが、コーネリア総督か…智将にして武将でもあると聞くが…」
「あはぁ〜、普通のKMF使いじゃ相手になんないよ。だけどその総督もラウンズの前じゃぁ、子供のお遊戯と思えるくらいにレベルが違う。」
ロイドは淡々と続けた。
「ラウンズの身体能力はスザク君クラスだし、KMFに乗る機会は君たちの数十倍以上あるだろうから圧倒的に場数が違うんだしね。とりあえず今はデータだけ充分だから頑張ってね。」
その言葉に悪意はない、事実だから。しかし彼らは勝ちたいのだ今後の為にも…
「スザク」「ライツ」
「「勝とう」」
彼らはグロースターのある方向へ歩きだした。
彼らの願いを叶える為に。
72 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 03:04:53 ID:B3XMIxon
お・ま・け
「そういえば、あの時はピッタリのタイミングで出てきたね。」
「あぁ〜〜〜〜〜〜、それは…………」
「え?何か理由があるの?」
「あははは……実はさ、研究室出たのは良かったんだけどさ、K-12地区の場所知らなかったから聞こうとしたら…」
「盗み聞きしてたって事?」
「怒んなよ…だってセシルがあんな、こっぱずかしいセリフ言うもんだから、タイミングがずれたんだよ…」
「へぇ〜?そうなんだ?」
「うぅ……すまん」
「別にいいよ、たださ……」
「ただ?」
「その後のセリフの方が恥ずかしいと思うよ。」
「うぐっ…ぐぐぐ………」
「じゃあグロースターに乗り込もうか。」
「根に持ってる……確実に………」
お・ま・け SIDE B
「やっと、3通りまで絞れたぞ…ん誰もいない?なぜだ?」
73 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 03:06:45 ID:B3XMIxon
「では………模擬戦開始!!」
戦いは何の為にあるのか? どうして男は戦うのか?
それは己のプライドにかけて譲れぬものがあるからだ
次回 コードギアス LC 〜反逆者達の願い〜
Action04 円卓 学生 詐欺師
「これで終いだ!」
「タイミングはベストだよ。」
男は男の意地のために戦場へ赴く
74 :
羽付き羊:2009/06/12(金) 03:08:05 ID:B3XMIxon
Action03 帝国 最強の 騎士 終わりました。早くあの緑髪の人を出したいですね。
あの人をだすタイミングが一番難しいです。
今回は、スザクとライツの信頼が徐々に深まっていく事をテーマにしているんですが、無理でした…
一気に深まっちまった………
シリアス組とコメディ組で別れてしまった形になりました。おそらく次々回で緑髪はでます。
次回は戦闘重視です。駄文に付き合ってもらいありがとうございました。
今回は一番の駄作だと思われます…
批判でも感想でも聞けたら嬉しいです(それでも批判はお手柔らかにw)
復旧確認中
>>74 乙でした
「まんざらでもない」はやっぱり良いw
ニヤニヤしちまったw
>>74 羽付き羊郷、乙でした。
>睡眠時間が9時間 長く寝すぎて体が動かなかったのか、短すぎたのか……後者なら色んな人に謝れと言わざるを得ない。
きっとドチラかというと文官タイプだったんだよ、この小佐は! とよくわからないフォローをしてみる。
ラウンズ増えとる!? 戦闘に参加されたらヤバいね……「やめてーゼロのライフがストレスでマッハよー」みたいな
今回のサーバー故障でログが欲しいとか保管庫で言っていたが
普段からこまめにやっとくべきだよな?
最近のトーマスの怠慢ぶりと保管庫のちょう落は目を追おうものがある
住人として本当に悲しい
すげえ久しぶりにここに来たけど未だに管理人氏に粘着してる奴いんのな。
その根気をもっと別の方向に活かしゃいいのに
粘着とは聞こえが悪いな
指導を兼ねた叱咤激励といってくれ
最近はスレに来ないから主にメールだけどな
>>74 投下乙
原作とは違い同じ機体で模擬戦は燃えますね!
モニカと戦うにしても同じ機体ならなんとかなるのかな?
貴公の次の投下をお待ちしてます
>>78 ここで言うべきではない
文字にするな
自分がしないくせに人に頼ってるだけなら
赤ん坊にもできる簡単な事だろ?
やってもらってる事に感謝はしても
批判はするべきじゃない
そして何よりこんな話が続くからいなくなった住民もいるんだ
文字にするならそれなりの責任が必要だよく考えろ
他人が嫌な思いをしないようにするのがマナー
それだけ守れ
じゃあどこで言えと
住人がいなくなったのは19か20個目のスレが原因だろうが
知らんのか
そんなに管理人さんを追い出したいのなら、その後の事を考えてるんだろうね?
例えば変わりに保管庫の管理人をやるとか、新たに保管庫を作って現管理人以上のこと
をするとかさあ。
具体的にスレや保管庫を良くする万人が認めるプランも提示せずただ文句のみなら。
81さんの言うとおり赤ん坊でも出来る事だ。まぁ今までの書き込み見てるかぎり
そんなことが出来るとは到底思えないけどね。
>そんなに管理人さんを追い出したいのなら
まずこれが間違っている。トーマスにはこれからも働いてもらうつもりだ。自分で志願したんだから当たり前だけどな。
ずっと前に要望は遠慮なく言ってくれってことだし
不具合はどんどん指摘してやるつもりだ
重ねて言うが追い出すつもりなんてないむしろ逆だ
一言で言うなら愛のムチってやつさ
>>82 俺の言いたい事は
投下しにくい雰囲気つくるな
ってことだけ
大体こんな話し合いしてたら投下しにくいだろう?
ss読みたいからここにいるなら投下しにくい雰囲気にするな
それがマナーだ
ってこと
そんな人の文句言っても批判されてまた雰囲気悪くなるんだから
そんな事は他でやってくれ
じゃあその不具合とやらを書いてみてください。それが納得できる内容なら協力します。
もし、ただの悪口や独りよがりなケチ付けなら。止めてください。判定はここの住人にしてもらい
ましょうね。普段から住人の総意とか言ってるんですから。
ここはSSスレです。
文句を言い合うところではありません。
皆さん、ネチケットを守っていきましょう。
それに職人が投下しやすい環境を作り、他の住人に迷惑をかけないのが、ここの住人の最低限のマナーでありルールだと思います。
守れない方は、ss投下か感想以外書き込まないようにしてください。
文句がある方は、別のところなり、自分のプログやHPで好きなだけ愚痴や文句を書いてすっきりしてください。
ここで文句を書き込んだり、メールで非常識なことをしてみたりするのは迷惑なだけです。
以上。
「……どうした、ライ? 何か難しい顔をしているが」
ルルーシュが生徒会室でパソコンの前で右肘をつき顎に手を当てていたライにたずねる。
ライの視線の方向、モニタに目をやり原因を究明しようとしながら。
「ああ、実はこれなんだけど……」
ライの指し示す先にはネット上の大型掲示板「ブリタニアちゃんねる」通常「ブちゃん」のとあるスレッドが開かれていた。
「ふむ……少し荒れているな」
ルルーシュの言葉通り荒らしとは言えない、ごく他愛もない書き込みが続いていた。
「気に入らないならスルー、落ち着いた対処を心掛ける、そういうのが出来ていない人が多いと思わないか?」
その言葉に軽く頷き――むしろお前のスルースキルが異常だ、とも思わなくも無かったが――ルルーシュはどう言うべきか思考を走らせた。
「そうだな……人は自分とは違う考えを排斥したい、自分の考えを知って欲しい、と思う生き物だからじゃないか?
まぁ、たまによく分からない書き込みもあるが」
埋め荒らしとか埋め荒らしとか埋め荒らしとか、と呟きながらルルーシュは話終える。
「……結局の所、見てるだけっていうのが一番だな」
そう言いライはスレの続きを見る、【全力で】オレンジ追求スレその59【見逃した】の続きを。
「……やっぱり最近勢いがおさまりつつあるな」
仲間の評判がマシになりつつあることに安堵しながら。
90 :
79:2009/06/14(日) 01:39:12 ID:r32akHXa
当初は78じゃなくて、56のこと指してたつもりだったけど何やら大事に…
いや、まったくもって申し訳ない、皆さん。火注いだの俺なんで、消えうせます。
91 :
感想@代理投下:2009/06/14(日) 20:59:14 ID:tWmusc4A
>>89 俺の言いたいことをライに代弁してもらえた。
ナイスだ。GJ!
どうも、続編の投下行きます。
少しのあいだお付き合いお願いします。
「鉄の道」 過去編
完全オリジナルです注意を
カップル ライ×アーニャ(基本)
10レス位です。
その夢はちょうど3年前の事だっただろうか・・・・
「鉄の道 三章 過去の涙」
ライが機関士になる前の年までライは本社幹部としてその剛腕をフルに発揮していた
そんな中で行われた世代交代でブリタニアは新任の社長シュナイゼル、新体制誕生と同時に新しい列車の建造計画を打ち出した。
新造列車の条件としては
1高速(もしくわ中速)列車
2乗客の大量輸送
3安全なシステム
と言うもので、設計部の技術者は張り切っていたがなかなか上手くはいかず
そのせいか発表から3ヵ月もの間一つも最良案が出てこなかった。
「付けた条件が厳しすぎたかな?」
「そうですね、今旅客数が多いのは一番の難所と言われるイタリア方面のアルプス越え
ですから」
シュナイゼルの問いかけに秘書であるカノンが答える、アルプス山脈を越える路線は
イレギュラーが非常に多く事故が他の路線よりも断然多いし越えるだけでも列車は
かなりのパワーを持つ事が絶対とされる。
「オリエントなどが限界か・・・・あれの後継機がそろそろ欲しいところではありますが」
「しかし看板列車を易々と引退させるわけにもいくまい」
「そうです、創業から今まであの困難な路線を支えてきた“英雄”ですもの、人気も高く
何より伝統が有る!」
「さよう、あれに変わる列車などほぼ無きに等しいでしょう」
会議室にいるブリタニアの重役達はそれぞれの意見を言い出してみるもの中々まとまらず
先行きは暗いように思われていた、策士として名高いシュナイゼルも困り果てているくらいなのだから。
「お困りのようですな、シュナイゼル兄上」
「・・・・ルルーシュ、何かいい策でもあるのかい?」
本社総合統括室室長ルルーシュ、つまりは副社長の立場にある彼はシュナイゼルに負けじ劣らずの策士でかなりの切れ者でもある、会社の経営も彼の功績により大きくなった部分もある。
「無論です、この時をどれだけ待ち望んだ事か!今その設計図をご覧にいれましょう」
得意げに話すルルーシュが宣言すると後ろに率いていた部下が資料の配布と
モニターの準備を進める。
配布と準備が終わるとルルーシュ以下部下達はモニター横にあるマイクの所に集まると
シュナイゼル達に説明を始めた、まずルルーシュが切りだす。
「これをご覧ください、重役の皆様がた」
そこに映し出された列車の外見はあの夢の超特急と言われた新幹線“0系ひかり“に似ていたがどちらかと言えばアメリカのペンシルバニア鉄道(PRR)で最も有名な電気機関車「GG-1」と、寝台客車列車「ブロードウェイ リミテッド」に近い形だろう。
「最高時速250km、最大牽引可能車数じつに30両、万席時では200人もの乗客
を運ぶことが出来その際の最高速度も150は軽く行くほどの馬力を兼ね揃えた機関車」
ルルーシュがそう説明すると重役達もさすがにざわつきだす。
「アルプスをそんな重量で引っ張れるのかね?」
在席している重役の一人が質問すると
「御心配には及びません、その為のテストも行った結果出た数字です」
そう説明するのはルルーシュの右腕と称される男、枢木スザクは自信を持ってそう答える。
「客車の豪華さもかつてないレベルにまで跳ね上がらせる事も出来ています!二階建て式の客車を採用したため乗車率も向上する事ができました」
左腕と称される紅月カレンが説明、スザクと合わせて“紅白の騎士”なんて呼ばれたりもしている。
「実際にこちらもテスト済みであり、すでに試作の車両を開発済みです。今現在
中央車両基地に保管されています」
ルルーシュの秘書を務めているシャーリー・フェネットは付け足しと言う形で発言するとその親玉であるルルーシュが
「この事による経済効果も絶大な数字を吐き出すと確信します、わが社の収益も今の
状態よりも20%増加する事が可能でしょう」
もしこれが実現すれば会社にとっても大きなプラスになる、しかし重役がここで
待ったをかける。
「しかしルルーシュ副社長、生産コストはどうなのですか?かなりかかるのでは?」
「その点については心配ご無用、機関車を含め総ての車両にアルミを大量に使用いたしますのでコストは削減できましょう」
と答えるとそれを裏ずける資料を見せる、さらにこのプロジェクトに参加した
ルルーシュの部下である妹のユーフェミアが
「さらに最高速度の状態でも安全に走行出来るよう、線路に電磁波を流し続けそれを
センサー変わりとします。もし線路上に何か障害物が有ればそれを10km手前で
機関車に備えてありますコンピュータが認識し自動ブレーキをかける仕組みとなっております」
「つまり、急ブレーキの必要はもういらないと言う事です!」
ユフィの説明の後にスザクが付け足す、その後も色々な質問やら説明やらでたっぷり2時間近くはすぎた。
ここで新型の列車の利点をまとめると次のとうり
1つ、時速200kmを超える高速
2つ、乗車可能客数は従来の約2倍
3つ、基準値の倍以上のアルミを使用
4つ、ドアの開閉や運転等全てコンピューター任せ、運転士不必要
5つ、10km先の危険を感知できるセンサー搭載によるブレーキシステム
6つ、徹底的な人員削減による人件費減
7つ、急ブレーキの不要による快適な運転
が主にあげられる
「以上の点を踏まえましても、この列車が極めて安全である事が解るかと思います。
そしてこの列車最大の特徴は運行管理も制御もすべてコンピュータが全自動で行う
と言うすぐれものである事です」
スザクが最後の締めを言うと重役からは質問が飛び交う
「コンピュータによる全自動ですか、何か不安なところが有りそうな感じを受けるのですが」
「御心配には及びませんミスターゴードン、すでにあらゆる状況下でのテストも想定して実証済みです、このデータのとうりに」
「・・・・・・・・・・」
このルルーシュの最後の言葉を含めた一連の説明をうけたシュナイゼルは一人沈黙を
貫いていた。
「兄上、いかがでしょう?直にでも採用の価値が有るかと思いますが」
「ルルーシュ、一つ聞かせてくれないかい・・・・君は列車とは何だと思う?何が一番
必要だと感じる?」
シュナイゼルの問いかけにルルーシュはこう答える
「速さ、快適さが必要でありそれ以外など不要でしょう、ただたんに人や物を運び
利益を生む道具こそが鉄道です。余分なものも極力は省くのも大切でしょう?そうでなければ利益など得られない、要らない機関士などいても変わりはありませんから」
「・・・・そうか、説明御苦労。後の査定を待て」
シュナイゼルの指示にルルーシュ達は礼し会議室を後にする。
「・・・・社長、先の計画案が一番いいと思われますが」
「私もそう思います・・・・しかし」
「危険ですね・・・・何か嫌な感じを覚えます」
「前線の兵士の命を考えない指揮官も様に思えますな・・・・」
口々に発言する重役達の顔はどれもこれも険しい顔しかしていなかった、重役の全員は
機関士や車掌、駅員を経て就任した者ばかり。
「皆も解ってくれ、ルルーシュはそう言うのを経験しないで今の任に付いている
現場の気持ちなど理解できないでいる・・・・」
シュナイゼルはルルーシュをかばうがやはり解せない部分が有るのか、晴れやかでは無い気持ちだ。
「ではどうするのです?」
「エレン、仕方あるまい。あれ以上の発案は無さそうだからな・・・・カノン
すぐにでも通達を頼む」
「心中お察しいたしますシュナイゼル社長、かしこまりました」
決定したは良いものの、会議室の空気は重いままであった・・・・
翌日、全社に通達が出されすぐに車両の製作がスタートしようとした、が・・・・
その計画に反対する者が出ていた。
「断固認められない!!コンピュータの全自動なんて信頼のかけらも無い!!」
ルルーシュのデスクをバン!!と叩きアーニャが猛抗議する、それに続き
「貴様気でも狂ったか!?利益を優先させ過ぎるとロクな事がないんだぞ!!
そもそもテスト環境が晴天下のみとは手抜きにもほどが有る!!」
とC.Cが怒鳴り
「車両の耐性も低すぎるぞ!!脱線でもしたら通常の車両よりもメチャメチャで生存率なんて微々たるものだ!!」
ノネットも鬼の形相に近い表情をして詰め寄り
「あなたは現場の気持ちを考えた事は有るの!?これじゃあ経営理念も何も完全に
無視じゃない!!」
ミレイもかなりの大声で詰め寄り
「ルルーシュ殿の策には賛同しかねます!!安全を考慮に入れないでどうします!?」
アーニャ達より勢いは抑えているが明らかに不満の表情のジェレミアではあるが実はここにいる4人だけでなく今回の計画に反対の者は多くこの4人は全員を代表して詰め寄っている。
「何を言うの?この計画はすでにシュナイゼル社長の了承を得た正式な計画なのよ?
計画の中止なんて認められないし変更、改良の必要も無いわ」
落ち着き払った態度で答えるカレンにアーニャが
「改良なんてあり過ぎる!!こんなの欠陥だらけで目も当てられない位!!」
噛みつくとスザクが
「アーニャ、それならどんな所が改良すべきだと言うんだ!?」
聞き返すとすかさずノネットとミレイが言い返す。
「そんな事も解ってないのかお前たちは!?ドアの開閉も運転操作も何もかも
コンピュータ任せでは緊急時の時にはどうするつもりだ!?」
「これが高速列車TGV用の線路ならまだ良かったでしょうけど一般の路線なら何が起こるかもわからない、そんな中でこの安全性は低すぎる!!非常ブレーキも無い手動操作も出来ないじゃあイレギュラーに対応できない!!」
「黙らないか!!」
と一閃、ルルーシュが言うと部屋はしんと静まり返った。
「お前達のほうが解っていないな、すべての条件はクリアされていると言うのに
何を喚く必要が有ると言うのだ?」
何を言う!!と言わんばかりの呆れた表情の4人に嘲笑うかのごとくルルーシュは
言葉を続ける。
「ふ、甘いな。現場の意見よりもデータの方が信頼が有るのが解っていない様だ。
計画の変更は無い、以上だ!!」
悔しさをにじませてルルーシュの部屋を後にするアーニャ達の後姿をいいきみと言わんばかりの視線でルルーシュ、スザク、カレン、シャーリーは見る。
「ねえルル、今後もこんな事になるなら見せしめが必要なんじゃない?」
とんでもない事を言うシャーリーにルルーシュはニンマリと
「ふむ、いい考えだ。しかしまだ早い」
「全てを奪うまではって事?」
カレンもニヤリと薄ら笑いを浮かべ問いかける
「ああ、あいつにはこの本社から消えてもらわなければならないからな」
と不敵に笑うルルーシュにカレン、スザク、シャーリーが不気味な空気をかもしだしている。
翌日、本社内に出された通知は誰もが目を疑う内容の通知だった。
以下の者を解雇処分とす
技術・運転部門所属 重役 アーニャ・アールストレイム
同部門 重役 C.C
同部門 重役 ノネット・エニアグラム
同部門 重役 ミレイ・アッシュフォード
同部門 重役 ジェレミア・ゴットバルト
以下同部門社員10000名
技術・運転部門とはこのブリタニア経営の核となる運転士、車掌及び車両開発など最前線で働く部門である。
この通知の意味するものは社員の大量解雇、見方を変えればリストラともとれるがここにあげられる人物には今回の計画に反対していると言う共通点があった。
「君は会社を潰すつもりか!?」
「経営方針にのっとった正当な判断だ」
さも当たり前と言わんばかりの態度のルルーシュ
「ふざけるな!!だたの見せしめの為じゃないか、こんな事が許されるはずがない!!」
「見せしめ?何の根拠が有る?証拠でも有るのかライ」
技術・運転部門統括部長であるライは自分の部下の大量解雇を許すわけにはいかない。
「ルルーシュ・・・・貴様」
奥歯を噛みしめ必死に冷静さを保とうとするライ
「それもこれもライ、貴方の監督不届きが原因なのよ。貴方がしっかりと部下の管理を
していればこんな事にはならなかったんだから」
人を上から見下ろす様なカレンの発言
「何を言う!?技術部の意見も何も聞かず、あまつさえ勝手に推し進めた計画に対して
反対を言うのは当たり前だろう!!」
反論するライの声には凄まじい怒りが込められているも彼等には届かない。
「ライ、この計画はシュナイゼル社長がOKを出したんだ。その中での反論だなんて
許されるわけがないだろ?」
キッとスザクを睨むも動じないスザクはライに冷たい目を向ける。
「それでライ、君に取引が有るの。まぁ呑むしかないでしょうけどね」
しれっと言うシャーリーにルルーシュが続く
「もし部下の解雇を取り消したくばお前の持つ権限と現在の地位、その他会社に関する
全てをよこしてもらおうか?」
その驚愕な要求にさらに怒りがこみ上げてくるライの心は破裂しそうなほどだった。
(最初からこれが狙いか!?僕をとうざける事でさらに自分の力を確かにするために)
副社長の立場はこの会社内では意外と弱い、現場重視の経営方針を貫き通し此処まで来ている、そのためライが付いている統括部長が実質的なNo2なのだ。
ルルーシュはずっとこの地位を狙っていたが中々お呼びがかからずそれをライに取られたと言うから後が悪い、その座を奪わんと色々画策や探りを入れていたが隙のない
ライにお手上げだった。
(けど・・・・いったい何がルルーシュ達をこうさせたんだろう?大学時代はこんなのじゃなかったのに)
権力の魔力か・・・・高みの味を知り抜けられなくなったのか・・・・ライには知る由が無い。
大学時代、同じサークルだったライ、ルルーシュ、スザク、カレン、シャーリー
アーニャ、C.C達の中の良さは有名であったほどだったと言うのに今はこのとうり
大きな溝が出来てしまっている。
「黙っているようだが、答えはどうなんだ?」
ルルーシュが急かす様に問いかける、ライはその重い口を開け答える・・・・
「・・・・・解った、その提案を受け入れよう。ただし!!あと一回だけ権限を使わせてもらう、それを受け入れてくれるのなら」
「まぁいいだろう、承認しよう。ライ、お前は機関士として働いてもらう。
要は降格処分だ、いいな?」
「ああ、だがこれだけは覚えておいてくれルルーシュ。何時か必ず君は後悔する事になるだろうこの計画の中での最大の見落としの為に起こる事に」
そう言い放ったライは契約書にサインすると部屋を後にした、その背中は悲しみを奏でているかのように暗く沈み、それを表現するかの様にライの頬には一筋の涙が伝うのだった。
「・・・・・またあの時の夢か」
目を覚ましたライは揺れる天井をみて呟いた。
あの次の日、社内に解雇の取り消しと人事移動の通達がなされ事態は収束したが
アーニャ達は心に深い憎しみを内に抱える事となった、でもこれ以上何か事を起こしてはライに迷惑がかかると黙っているしかなかった・・・・。
支援
ライ本人はその後、変りはて、もはや友人とさえ見られなくなったルルーシュや
スザク達との決別に深く傷ついていたがC.Cやノネット、ライを慕う大勢の部下達
の励ましとアーニャの優しさで立ち直る事は出来たもののこの時の事を夢に見るようになってしまったのだ、その度にライは涙を流している・・・・
(・・・・・今は夜中の0時か、バーにでも行ってみるかな)
暗くなった気持ちを吹き飛ばす為にライは8号車に向かった。
カランとウイスキーと氷の入ったグラスを回しながら考え込んでいるミレイと
ワイングラスを切なげな顔で見つめるノネット、カクテル独特の細いグラスを
ちょんと溜息をつきながら悲しみの表情でこつくC.Cの3人は並んでシンミリと
していた、その空気に耐えかねたルキアーノはグラスを拭きながら尋ねる。
「3人らしくも無いな、そんなにシンミリと」
「それはそうなるわよ、せっかくいい気分でいた所にあいつの事を聞かされちゃそうなるわよ」
片腕をひじ掛けに膨れっ面になったミレイが不満を漏らすに従い
「あれから2年間、仕事としては充実しているがあの時の憎しみは消えずにいる」
ワインを口に含み自らの心の内を曝け出すノネットに賛同するように
「それがもうお披露目の時期にきてしまった、あの時を思い出させおってからに」
自らの中にある憎しみを押し殺すように唇を噛むC.C。
「お前ら・・・・」
「お揃いでしたか皆さん」
何と言っていいやら解らずにいたルキアーノの所に現れたライをみて3人の表情にも
ほんの少しだけではあるが笑顔がこぼれた。
「ようライ、十分に休まったのか?」
「おかげさまで。ルキアーノさん、バーボンをロックで」
「よしきた」
ライはC.Cとノネットの間の席に腰掛ける
「よく眠ってたな、中々可愛い寝顔だったぞ?なぁ2人とも」
頷く2人はとても満足そう、それに溜息を漏らすのは誰であろうルキアーノさん
「そ、そうですか?それよりもここに来た時空気が重かった気がするんですけど何かあったんですか?」
「そ、それは・・・・」
ミレイが口ごもるとライはその意味を瞬時に悟った。
「ゼロですか・・・・確か今日がお披露目でしたよね・・・・」
「知っていたのか?」
「当たり前だよC.C、嫌でも覚えてるさ・・・・あの時は忘れようとも忘れられないから」
友情を何よりも大切にするライにとって最大の悪夢に等しかった出来事を簡単に忘れるなどできはしない・・・・。
「ごめんなさいライ、あの時あたし達があんな事しなければ今頃は出世街道ばく進
だったのに・・・・」
沈黙を破ったのはミレイの心からの謝罪だった。
「そんなミレイさん、謝る必要なんて――――」
「そんな事はない、私達がいらぬ事をしたばっかりにこんな事になってしまったんだ
責任は私達にある」
ノネットは悔しさを押し殺すように言うも手に持っているグラスは小刻みに震えている。
「例え抗議に行かなくても僕は行ってましたよ、だから謝る事なんてないんです」
「しかしよくオリエントや他の急行廃止を止める事が出来たな?」
「シュナイゼル社長にイタリア方面の路線に関する総ての権限を渡したんです」
C.Cの問いに答えるライは顔をしかめる、あのサインをしてから何日かした時に聞いた
噂でルルーシュ達はイタリアに向かう全ての急行の即時廃止を打ち出したのだ。
「それぞれの急行や特急が上げた巨額な収益の何パーセントかわ発案者が頂けるからな
ルルーシュのやつはそれが狙いだったのかもしれねぇ」
ルキアーノは冷静な態度で自分の考えを述べる、いついかなる時でもクールにがモットー
の彼だからこその姿勢だった。
「それにもしこれが通っていたら何百という職員が消えていた事になったからな」
「ノネット、それ本当の話?」
「ああ、話によると運行のみならずそれに関わった技術者にいたる全てだったそうだ」
ミレイの質問に答えるノネットは情報網が多くこういった情報はすぐ入って来る。
「ルルーシュめ、何を考えているのか・・・・」
「C.C、それに皆さんももういいじゃないですか。例えどんな事になろうとも
更なる地獄は避けられませんでしたよ僕の犠牲なしにはね、それに――――」
そこで一旦言葉を切り、淡く波打つバーボンを眺め
「僕は機関士になった事を後悔はしていません、皆とこうして一緒に仕事が出来るし
同じ時間をすごす事が出来るんですから」
静かに、そして優しく言うライの言葉は3人の心を優しく照らす。
「ふっ、まさかお前に励まされるとは思わなかったぞ」
「いいじゃないか、ライは優しすぎるんだから」
「だがそれがキズ物であるんだぞ?今までどれだけのフラグをこいつが建てて来た事か」
いつもの調子に戻ったC.Cとノネットの会話に?となるのは朴念仁のライであった。
「いよっしゃ!皆元気になったところで、このミレイさんが一曲歌いますか!!」
「あ、僕が歌いますよ。ちょうど一曲歌いたいのが有りましたし」
ライはカラオケボックスの前まで行き曲を入力し歌い始める。
その歌声に反応してか、さっきまで吹雪だった外が嘘のように穏やかになっていったのだ
「あ、吹雪が止んだ」
「本当だな、まるで誰かの心を表しているかのようだな」
この現象に機関車でコーヒーを飲むアーニャとジェレミアは自然と笑顔になる。
「・・・・・・ライ」
目を細めて呟くアーニャは愛しい人を想いながら夜空を見上げる。
「心の底から愛しているのだなアーニャ」
「もちろん、私の全部をあげたいと思える人だから」
首にかかっている銀色をした猫の形をしたロケットを取り出しライの写真を愛おし様に
見つめるアーニャをジェレミアは娘を見守る父親の様に見るのであった。
TO BE CONTENYU
以上で3話過去編終了!あえて王道?と言われるライカレを嫌なムードにしてみました。
名前テリーからパラレルに変えようかな?この後書きたいと思ってるのも
全部パラレル物なんですよね・・・・ギアス関係ないのってやっぱり
マズイでしょうか?皆さんはどう思われます?
ライが歌う曲は皆様がライにぴったりだと思う曲を聴きながらをお勧めします。
ちなみに自分はEXILの「someday」や主にラブソング系ですけど、皆さんはどんな曲でしょうか?
うーーーん、過去はどうも上手く書けませんね・・・・解りずらかったかと思います。
ご指摘、感想待ってます。
では失礼いたします。
代理投下ありがとうございます、これからも迷惑かけますがお願いします。
このスレでライカレは多数派だ
だがそれを否定するような作品だってあってもいいと思うのよ
まあ一言で言うならGJってやつです
正直多数派とかそういう言い方は好きでない
だからこういう作品を読むとスカッとするというか、新鮮で楽しい
まあつまりはやっぱりGJってことです
>>104 大変面白かったです。
テリーさんらしさがすごく出ています。
それに挑戦的だwww
すごいと思う。
後、パラレルでも問題ないんじゃないでしょうか。
これはこれで、すごく味があると思います。
歌の部分は、うまいですね。
こういうやり方は、誰も文句出ないと思います。
私だったら、洋楽のロックになりそうな気がします。
ジャーニーのバラードとかいいかもとか思いました。
GJです。
次回も規制がかかって大変だとは思いますが、全力でお待ちしております。
なお、気が付いた点を
・段落が中途半端に切れているので読みにくい。
・点や丸が抜けている箇所が多い。
誤字、脱字と思われる部分
96 >>シュナイゼルの指示にルルーシュ達は礼し会議室を後にする。→敬礼し会議室を後にする。
気が付いたのは、以上です。
もっとチェックすれば、もっともっと読みやすく、いいものになると思います。
がんばってください。
>>104代理投下乙です。
とりあえずまず一言
>TO BE CONTENYU CONTINUEですよ。
そして >剛腕をフルに発揮 会社で剛腕発揮する機会はなかなかないかと。 発揮するのは手腕です。
あと、随所に見られる「とうり」というのは多分「とおり」ですよ。
個人的にワードとかに文章つっこむことをオススメします。 誤用とかある程度分かります。
世界がパラレルなのは正直、何でもありなのか? と思ったりもしますが、まぁ、これは好みの問題ですね。
というか公式である意味パラレルとかやってるし。
・設定がしっかりしている
・読みやすい文章
この二つがあれば基本大丈夫かと。
「重役」なんて役職は存在しない
パラレルを書くならしっかり調べてから書いたほうがいい
以下、代理投下行きます
・・・・・・・・・
お久しぶりです。
POPPOです。一か月ぶりでしょうか?
代理投下をお願いします。
人が少なくなってきたこのスレに再び活気が蘇ることを切に願ってこのSSを投下したいと思います。
コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」
TURN03 「ナイト オブ ラウンズ」
それではいきます。
日が沈み、中華連邦総領事館の広場は暗闇に包まれていた。そして、黒の騎士団の団員達も混乱の境地に陥っていた。困惑が支配する中、ゼロは姿を現した。
団員達の話声は止み、彼らの視線はゼロへと集まっていった。壇上にはゼロを中心に、左右には扇と藤堂が肩を並べていた。団員達の最前列にいた四聖剣の一人、千葉は言葉を紡いだ。
「ゼロ、とりあえず今回のことは感謝する…一年前のことも含めてな」
「…ああ。あの離脱はEU亡命の脱出ルートを確保するためじゃったと聞いた。二〇一七事件は仕組まれた戦争だった…最初から負け戦だと知っておったのじゃな?」
『君たちが何を思おうが構わない。私はただ、ブリタニアに勝つためにやっただけだ』
ゼロは何の謝罪もなく言い放った。その言葉に千葉がゼロに迫ろうとしたが、彼女の肩を朝比奈が掴んだ。
「朝比奈!何故止める!?」
千葉は彼の方に振り返って叫んだが、彼女は息をのんだ。朝比奈はゼロに対する明確な敵意を向けていた。そして、彼も口を開いた。
「……ライ君は、どうして君を裏切ったんだい?」
朝比奈は、団員達を困惑に陥れた驚愕の事実を、ゼロに重い口調で問いただした。他の幹部たちもせきを切ったように声を上げはじめた。その中で、一際大きな叫び声が団員達に響いた。
壱番隊の副隊長だった杉山は叫んだ。
「答えろ!ゼロ!ライはっ、なんでブリタニアなんかに味方してるんだっ!あいつが…あいつが俺たちを裏切るなんてあり得無い!」
「おいっ!なんとか言えよ!ゼロ!」
「そうだ!俺たちが納得のいく説明をしろぉ!!」」
彼らの声は益々大きくなっていく。ゼロの隣にいた藤堂も、ゼロに鋭い視線を向けながらゼロに声をかけた。
「……ゼロ。私も聞きたい。彼は…ライ君は、なぜ、ブリタニアの騎士に、それも帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズになったのだ?」
「…まさか、ライがブリタニアのスパイだった、なんてことは…ない、よな?…ははは、カレンを裏切るなんてこと、彼がするはず……っ!」
扇は下に俯き、身を震わせていた。カレンの心情を考え、身が引き裂かれるような思いを味わっているのだろう。彼は唇を強くかみしめた。
『詳しい事情は話せない。だが、これだけは言っておく』
『ライは、敵だ』
ゼロの言葉に、団員達は息を呑んだ。動揺する団員達を見ながら、ゼロは拳を握り締めた。
その姿を見た団員たちもゼロの心情を察し、ゼロにそれ以上追及しなかった。
仮面の下にいる男、ルルーシュ・ランペルージは激しい激怒に身を焦がしていた。
(シャルル…お前は、ナナリーだけではなく、ライまで俺から奪ったのか!!くそっ!何が敵だ!ライは俺の仲間であり、親友だ!)
ルルーシュは全身が凍えるような罪の意識を感じていた。
それもそのはず、ギアスのことを説明できず、黒の騎士団の困惑を鎮めるためとは言え、親友であるライを『敵』と口にするのは身を引き裂かれる思いをしていた。
彼の心に宿った復讐の炎は、より激しさを増す。
(…いずれ、取り戻してみせる。待っていろ。シャルル…)
中華連邦領事館の一室で、大きなベッドに横になっているカレンにC.C.が付き添っていた。
カレンの瞳に力はなく上半身を起したまま、頭を項垂れていた。重い空気が漂うなか、C.C.はカレンに声をかけた。
「薬は飲んだか?」
「…ええ」
活発な彼女からは想像できないほど弱々しい返事だった。
カレンはC.C.と目を合わせない。C.C.はカレンから目を離し、窓に映る夜景に視線を向けていた。月が見えない夜を、ただ見つめていた。幾ばくか時間が経ち、今度はカレンから話を切り出した。
「…ねえ、C.C.」
「…ん?どうした」
C.C.は微笑みながらカレンを見た。だが、カレンはうつむいたまま、視線を合わせない。
「C.C.…私、これからどうすればいいの?」
C.C.は答えなかった。ただ、無言でC.C.は椅子に座ったままカレンを見つめ続けた。
「私は…ライを探すために、黒の騎士団にいる……そして、EUで戦った、あの青いランスロットが…」
「…リリーシャが想定していた、最悪のケースだったな」
その言葉にカレンは両腕を握り締め、体を震わせ始めた。唇も震えだし、C.C.は彼女の異変を察知し、テーブルにあるバッグの中身を見た。そして、ゴミ箱の中身が目に入り、C.C.は驚いた。
「…お前、一日に一体何錠飲んでっ…!」
その時、自動扉が開き、制服姿のリリーシャが部屋に入ってきた。足音が響き、マントを靡かせながらC.C.たちに近づいた。
「カレンさん。具合はどう?」
リリーシャはバッグを担いだまま、カレンに歩み寄った。そして、両手でカレンの手を取った。彼女はカレンに微笑んだが、反対にカレンの表情は険しくなった。突然、カレンの手に力が篭った。
「返してよ…」
カレンの声は震えていた。そして、冷たく、殺気が込められた口調で。
「貴女が、特区日本を…壊さなければ、私はライと…ずっと一緒に、いられたのに…」
彼女はナイトメアのエースパイロットであり、身体能力は平均男性より遙かに上回っている。握力も他の女性とは比較にならないほど強い。その握力で握られたリリーシャは表情を歪めた。
だが、リリーシャはカレンから手を離す事もなく、カレンから目を離さなかった。カレンは一方の手でリリーシャの制服をつかみ、零れおちる涙も拭わずに叫んだ。
「返してよ…ライを返してよぉ!」
リリーシャの隣にいたC.C.は、カレンがリリーシャに暴行を加える気配を感じ取り、カレンの肩を強引に掴んだが、リリーシャはそれを視線で制した。
「カレン!」
リリーシャはカレンの背中に手をまわした。腕に力を入れて、彼女を安心させるために強く抱きしめた。
「返してよぉ…」
体の震えを止めたカレンは、ゆっくりと瞼を閉じていく。リリーシャはカレンの赤い髪を撫でながらも、眠りについた彼女を抱きしめたままだった。
「カレンさん…ごめんね。ごめんなさい…」
C.C.はカレンの赤色のバックから緑色のケースを取り出し、テーブルの上に置いた。その中には数錠の白いカプセルが入っていた。
「カレンは薬なしでは眠られない体になっている。だが、この睡眠薬も限界だ…」
リリーシャはカレンの体をベッドに横たえさせた。彼女の目元にある涙の跡をそっと拭った。ようやく睡眠薬の効果が効いてきたらしい。
緊張で張り詰めていた表情が徐々に消えていく。リリーシャは毛布をかけた。
「リリーシャ…お前はこれからどうする?私との契約は果たした。だからといってギアスが無くなるわけではないが…お前が黒の騎士団にいる理由は…」
「あるわ」
C.C.の声を、リリーシャは強い口調で遮った。
バッグを肩に掛け直し、意思が宿った琥珀色の瞳が、魔女を射抜いた。
「ライ先輩を取り戻す…これは、私とカレンさんとの、契約だから」
C.C.はリリーシャにそれ以上、何も言わなかった。
コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」
TURN03 「ナイト オブ ラウンズ」
2機のナイトメアフレームの剣が交差する。
一機はナイトオブワンのナイトメア、『ギャラハット』のエクスカリバーであり、もう一機はナイトオブツー、ライ・アッシュフォードが駆る専用機、ランスロット・クラブ・イスカンダルが持つ「黄金の剣」だった。
出力が拮抗し、白い粉塵が一瞬遅れて舞い上がった。
その時、大きな笛の音ともに御前試合終了の合図が鳴った。スピーカーから低い大声が聞こえた。
『そこまでっ!』
『双方、剣を収めよ!只今の勝負、2対2の引き分けとなる!』
周囲から歓声が上がった。
コクピットから降り立ち、ビルマスクと握手を交わすライを、名のある貴族たちは強化ガラスの向こうから見ていた。背もたれの高い椅子に深く腰掛け、使用人からワインの入ったグラスを受け取っていた。
「おおっ、ナイトオブワンと互角とは…」
「武術だけではなく、政治の腕も長けているようで…あのシュナイゼル殿下と並ぶ腕前と聞きますぞ?」
「いやはや…陛下のお目にかなうだけのことはありますな」
「ふん!平民風情が出しゃばりおって…」
また、一方の貴族の令嬢たちはライを見ながら、心を躍らせていた。いくら身分が高いと言えど、所詮は話が好きな少女たちだ。純粋に強く、聡明で美しい人間に心惹かれるのは当然である。
「きゃーっ!あれがライ様よ。女の子のような綺麗な顔立ち。9つの国家を征服した軍人とは、とても思えないわぁ」
「ラウンズ最強、とも名高いって噂よ。あの若さでヴァルトシュタイン卿と肩を並べる実力だなんて…」
「はぁ…ライ様、なんて素敵な殿方なのかしら」
皇帝陛下が御前試合を見物する中央のフロアの真下に、強化ガラスを使用したマジックミラーで覆われている席があった。
飾り立てられた12の椅子があり、ガラス張りの観覧鏡の上下には先ほどの戦いがあらゆる角度でリピートされていた。
その中には帝国最強の騎士、ナイトオブラウンズの面々が異なる色のマントを羽織い、先ほどの決闘を観察していた。
12人の席と一人一人に仕える使用人がいるのだが、誰一人として席に座っていない。ラウンズたちは皆、席を立ち、食い入るように見入っていた。
それもそのはず、両者とも帝国の頂点に立つナイトオブラウンズの中でも最強と言われる騎士の頂上決戦なのだ。
戦いを好み、直の殺し合いに身を投じてきた者にとってはこれほど胸を高鳴らせる試合は他には無いだろう。模擬戦と言えど、ナイトメアの戦いは真剣そのものだ。
電子音が鳴る。小型のデジタルカメラにライの笑顔が写っていた。
ピンク色のマントを羽織う帝国最強の騎士の一人、ナイトオブシックス、アーニャ・アールストレイムはデジタルカメラを操る手を止めた。
他のラウンズと比べて露出度の高い服を着ている桃色の髪の少女は不満げな顔で、黄色い声を上げている女性たちを見ながら呟いた。
「……あいつら、うるさい」
緑色のマントに身を包む長身の青年、ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグは彼女の言葉に苦笑を漏らす。
「おいおい…貴族の令嬢に向かってそれは無いだろ。アーニャ」
反対側と真上から映し出されているモニターを交互に見ながら、ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムは、両腕を組んで思案する褐色肌の女傑、ナイトオブフォー、ドロテア・エルスントに声をかけた。
「…ライに可変ハドロンブラスターを持たせてたらどうだったかな?なぁ、ドロテア」
「ビスマルクの勝ちだ……とは、断言できないな」
彼女たちの年齢は比較的に近いが、性格は正反対である。ノネットは融通が利くお調子者に入るが、ドロテアは融通が利かない真面目な軍人だ。
水色のマントを羽織る彼女は冗談など口にしない性格である。ゆえに、彼女がノネットの話に答えた意見は彼女の本心そのものだった。
ラウンズのメンバーがライの実力を目の当たりにし、競争心を燃やす視線、または好奇の視線を送る中、ナイトオブセブンの枢木スザクは、彼らとはまた違った感情を込めた眼差しで見据えていた。
嫉妬でも、競争心から来る感情でもない。相手を冷静に分析し、彼の一挙一動から何かを探るような視線、そう、敵と対峙したときに見せる敵意に近かった。
スザクの纏う雰囲気を敏感に感じ取った金髪の青年は、彼に陽気な声で話しかけた。頭一つ高い体をのしかけて、甘えるような態度で肩をスザクの頭に乗せた。
「スザクー。どうしたんだよ?そんな怖い顔して」
スザクは瞬時に表情を変え、まだ強張っている部分があるものの、年齢相応の柔和な表情をつくった。
「ん…いや、ライはまた腕を上げたな、と思って…」
桃色の髪の少女は携帯を操作する手を止めて、スザクを細い視線で見つめた。アーニャはスザクが時折ライに向ける表情が嫌いだった。
アーニャの横で手すりに寄りかかりながら、足元の近くにあるモニターを見つめる女性が呟いた。そこには真上から映された御前試合が流されていた。彼女が羽織る黄緑色のマントが揺れる。
「…そうねぇ。フロートユニットの導入でナイトメアも大きく様変わりしてるし、もっと訓練に身を入れなきゃね」
「あははっ。モニカさん。模擬戦なら私がお相手しますよ?もちろん、今夜のパーティーのエスコートも」
「うふふっ。あと3年たったらお相手してあげるわ♪」
「ありゃ…それは残念」
誘いを失敗したジノを見て、スザクは苦笑の表情をつくった。ジノは少しも気にしていないのか、辺りを見回してナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキーに違う話題を振った。
「うん?そういや、ブラッドリー卿はどうした?」
「血が騒ぐって…」
モニカはそう言うと、黒のグローブを付けた手の親指で、ガラス越しに見えているコロッセウムを指した。
それに皆は彼女の意図することに気づいた。その建物はラウンズとその直属部隊、そしてロイヤルガードだけが使用できるトレーニングルームが設備されている場所だった。
白い自動扉が開き、一人の兵士が赤い絨毯で覆われているこの部屋で、膝を折った。
「ナイトオブラウンズ様。食事の席が用意されております。先ほど、ナイトオブファイブ様とナイトオブイレブン様は前線に戻るとのことで、欠席されました」
「…さっきの戦い当てられたのが、3人ってとこか」
ジノが指す人々は、ナイトオブファイブとナイトオブイレブン、そしてナイトオブテンの3人の騎士である。
「4人だよ。ジノ」
ノネット・エニアグラムは唐突につぶやいた。ジノ・ヴァインベルグは呆けた声を出してしまった。
「へ?」
「私の『ヴァンガード』と、ライの『イスカンダル』…どちらが強いか試してみたくなった」
顎に手を当て、口を歪にしながら、ノネットはモニターに映されている先ほどのランスロット・クラブ・イスカンダルの動きをじっくりと観察していた。
彼女の表情を見たモニカ・クルシェフスキーは小さくため息をついた。
「…あらあら」
「物好きな奴らだ。私は先に行ってるぞ」
ふん、と鼻を鳴らせた後、ドロテアは不敵な笑みを浮かべた。そのまま水色のマントを靡かせて、ドロテア・エルスントは膝を返し、純白の観覧席から出て行った。
ドロテアが通り過ぎる時、モニカは彼女の横顔から隠しきれない闘争心を見抜いた。
モニカは皆の予想通りの反応に、今度は大きなため息をついた。彼女とて、ナイトオブワンとの接戦を見せつけられ、戦士としての闘争本能が駆り立てられなかったわけではない。むしろ逆だ。
彼女のノネットや他のラウンズ達と同様に、心にともった火は今だに燻っている。
だが、彼女にはそれよりも気になることがあった。モニカは膝を折ったまま仕えている兵士に声をかけた。
「ねえ、控室は空いてるかしら?」
彼女の声に、アーニャが携帯の画面から目を離して反応した。彼女にしては珍しく、瞳には多少の驚きが浮かんでいた。
「…え?モニカ」
「は。空いておりますが…」
「ほら、アーニャ。ライが戻ってくる前に、早く行ってきなさい。持ってきてるんでしょ?『あ・れ』」
「…う、うん」
モニカはアーニャの背中を押すと、兵士と一緒に観覧室を退出する彼女を見送った。ジノとノネットはアーニャの後ろ姿を見ながら、意地悪い笑顔を浮かべていた。スザクも彼らの笑顔の意味を察し、苦笑いをつくる。
モニカは今日何度目か分からない溜息をつくと、彼女の後ろで事態を把握してニヤニヤしている二人に話しかけた。
「見てられないのよね。アーニャの不器用さは」
「そうか?私は好きだぞ。それに、マリーカも加われば賑やかになるじゃないか」
「ははっ、会食の席が楽しみになってきた。なぁ、スザク」
「……重いんだけど」
中華連邦領事館の会議室で、中華連邦の国旗を背に高亥は席に座っていた。星刻は彼の側に立ち、ソファーに座っているC.C.を見ていた。
高亥は痺れを切らしたのか、緑色の髪を持つ少女に声をかけた。
「ゼロは?ゼロは何所にいるのですぅ?」
「もう少し待て。直に来る」
「そういえば、紅月カレンさんはどちらに?」
「今は休ませているが…何だ。あの女に興味があるのか?」
C.C.の冗談混じりの言葉を受け、微笑みながら星刻は返事をした。彼の長い髪が揺れる。
「ええ。貴方達、黒の騎士団にね。特に、二〇一七事変でナイトオブラウンズを、それもあのセルゲイ・サザーランドを倒したという「ゼロの双璧」とは、ぜひお会いしたい」
その言葉に、C.C.は声を潜めた。だが、沈黙が訪れることなく、一人の男が扉から彼らの目の前に現れた。3人の視線がその男に注がれた。
その男の背丈は190cmを超え、金髪の長髪を後ろで結わえていた。黒の騎士団の制服を身にまとい、精悍な容姿に鋭い緑色の瞳が宿っている。
高亥に一礼すると、手元にある資料に目を向けながら、容姿に似合わない低い声でC.C.に声をかけた。
「C.C.様。紅蓮可翔式『改』の整備も無事に終わりました。それと…」
星刻は、まだ20代に見える30後半の西洋風の男を見ながら、C.C.に話しかけた。
「レナード・バートランド…もしや貴方が、もう一翼の『ゼロの双璧』で?」
C.C.は星刻の言葉に、敏感に反応した。
「それはっ!…」
「いえ、私は…」
『違うな。彼は『ゼロの双璧』ではない』
星刻の言葉は、レナードの後から入室した『ゼロ』が返事をした。
「おおぅ!ゼロぉ!」
ゼロの姿に高亥は歓喜した。黒いマントを靡かせ、ゼロはソファーに座らず、正面から高亥を見据えた。星刻は目を細め、ゼロの姿を見ていた。
『最も、私の右腕であることには変わりは無いがな』
「おほほほ!EU屈指の軍事産業のバートランド社…その御曹司というわけですかぁ。流石はゼロ…」
星刻は高亥に続いて、ゼロに話しかけた。
「なにやら、先ほどのブリタニアの中継の後で、黒の騎士団に妙なざわつきがありますが…」
『ナイトオブツーとは一度、EUで刃を交えたことがある。しかし、あの『蒼の亡霊(ファントム)』が線の細い青年だったとは…団員達も驚きが隠せないようだ』
「今まで非公開にされていたナイトオブラウンズ…か」
星刻は小さな声で呟き、思慮を巡らせた。ゼロは彼の姿を横目に、高亥に要求を突きつけた。
『高亥殿、貴方に一時的にこの領事館の使用と、中華連邦の支援をお願いしたい』
高亥は席から立ち上がり、深く礼をした。仮面の下で、ルルーシュは黒い笑みを浮かべた。ギアスをかけた高亥はすでに彼の傀儡。
裏切ることは万が一にもない。例えどんなに理不尽な要求だろうと。快く引き受けてくれる。予想通り、高亥はゼロの要求を承諾した。
「ははぁ!ゼロ様の仰せのままに」
「高亥様。黒の騎士団に味方をして、我が中華連邦に何の得が…」
「言葉が過ぎるぞ。星刻」
「……は」
(どうしてるかな。姉さん…)
王都ペンドラゴンで華やかな人波が行き交うパーティーの中、僕が最初に考えたのはミレイ姉さんのことだった。
孤児だった僕を拾ってくれたアッシュフォード家のためを思って、この一年必死に頑張ってきたが、それでは姉さんの見合いが増える一方ではないかと今更気付いたのだ。
試合を終えて途端、有力貴族の方々が押し寄せてきた。今回のパーティーの主役は僕だが、それにしても、ラウンズの就任式くらいで騒ぎすぎだろう。
『ぜひ我が娘と…』とか食事の誘いの声があまりにも多くて困ってしまった。ミレイ姉さんは美人だから、僕より大変なことになりそうだ。
心の中で僕は姉さんに謝ることにした。
無名の騎士がラウンズに就任する。
僕の出世はブリタニア史の中でも例を見ない事例だった。皇帝陛下は僕が持っている『ギアス』を知ってラウンズを拝命したと思っているが、これはチャンスだと考え、とにかく自分の出来ることをした。
この一年、休む間も無いくらい多忙な日々だったが、ナイトメアの操縦はラウンズの人々に揉まれ、飛躍的に上達した。今ではヴァルトシュタイン卿に並ぶ実力だと評価されているし、
政治や交渉手腕はシュナイゼル殿下からお墨付きを戴いたくらいだ。
ナイジェリア国、首都陥落し、征服。
エジプト共和国、戦争により敗北し、征服。
サウジアラビア連合国、戦争により敗北し、征服。
東インド国、交渉によって領土を支配下に置き、征服。
中アフリカ王国、王族の粛清によって征服。
オーストラリア、戦争により敗北を喫し、征服。
インドネシア連邦、全員一致の議会決定によりブリタニアの支配を認め、征服。
EU連合国の一つ、トルコ共和国、征服。
北アフリカ共和国、征服。
この一年で9カ国を支配下に置き、アッシュフォード家に僕が出来る限りの貢献をした。
周囲の人々は僕を称えていたが、そんなに大それたことだとは思わない。
僕は自分を過小評価しすぎだと言われるが、僕より自分自身を過小評価している男を知っている。
ルルーシュ・ランペルージ。
アッシュフォード学園で仲が良かったクラスメイトで、僕とスザク、そしてルルーシュはいつも3人でつるんでいた。
運動神経は僕とスザクに比べると大分劣るが、彼の思考力や的確な判断力に僕はいつも驚かされていた。チェスで僕と対等にやりあえたのは彼くらいものだった。
ルルーシュはすごい奴だ。学園を卒業したら本国に呼び出して、重要なポストに就かせてやりたい。そして、功績を立てて爵位を授かれば、ロロと自由な暮らしができる。
ルルーシュは人当たりが良くて、頭も切れる。唯一の肉親である弟を大事にする良いやつだ。
弟想いで、そこが彼の長所でもあるんだけど、ロロも年頃だ。彼女の一人や二人出来てもおかしくないが、厳しい兄の眼を考えるとロロに彼女が出来るのはまだ先かな、と思えてならなった。
考えにふけっていた僕は携帯のバイブレーションが鳴っているのに気づいた。携帯を取り出して、相手を確認した一通のメールが届いている。
(カノンさんから?)
メールを開こうとして、僕の周りにいた女性たちの声が突然止んでいたことに気づいた。ふと、僕は顔をあげた。
僕の思考はそこで止まった。
人が道を開けており、その先には一人の少女がいた。
彼女は、真紅のドレスを着ていた。
桃色の髪をした少女は唇にピンク色の口紅を塗り、煌びやかな髪留めで、いつもとは違う髪形になっていた。整った容姿は、化粧で大人びた印象を受けるが、幼さを残した面影が覗いている。
大人でも子供でもない、いや、大人でもあり子供である、魅力的な姿はまさに、
『天使』
そう呼ぶのが相応しいだろう。
「……ライとおんなじ」
「……」
いつの間にかジノが僕の横にいた。無言でジノが僕をつついてきた。周りにいた女性陣もアーニャの可憐さに気圧されていた。それも仕方がない、と僕は思う。
「とっても可愛いよ。アーニャ」
「……ありがとう」
頬を赤く染めたアーニャはとても可愛かった。
「で、マリーカ。ライ様と寝たの?」
「ぶっ!?」
マリーカがシャンパンを噴き出した音によって、周囲の人々から奇異な視線を向けられた。彼女を取り囲んでいるドレス姿の女性たちの一人からハンカチをもらい、マリーカは口を拭った。
王都ペンドラゴンのパーティー会場で、美しい音色を奏でるオーケストラが近くにいるテーブルに、ドレスを着た10人ほどの女性たちがいた。
その中心には一人だけ、赤と白で基調された軍服を纏った少女がいた。名をマリーカ・ソレイシィという。貴族や皇族が行き交う中、軍服のままで出席している彼女は、周囲に溶け込めず、多少の違和感が残る。
「ご、ごほっ…ちょ、ちょっと何てこと言うんですか!リーライナ先輩!」
「そうそう!私も気になってたんだよね〜。整備室で堂々と抱き合ってたって聞いたけど」
「なっ!どこからそんな情報が!?…あ、あれはライ様がコクピットを降りたときに、気を失って、倒れこんできただけで…それ以上は…」
「それ『だけ』?…つまんなーい!マリーカ。そのまま、弱ってるライ様を美味しく食べちゃえばよかったのに、千万一隅のチャンスを逃したの!?」
「た、食べっ!?そっ、そんな破廉恥な、(羨ましいこと…)ライ様に出来ません!わ、私は2日間つきっきりで熱にうなされたライ様に…」
「2日!?」
「2日目の夜に目を覚まされて、ぎゅっと私の手を握って、優しく頭を撫でてくれて…」
「「「「「それで!?」」」」」
「『ありがとう』って笑顔で…」
頬を染めながら言うマリーカを見ながら、彼女の元同僚、ヴァルキリエ隊のメンバーが深いため息をついた。ここまで話を引っ張って置きながら、いつも通りのパターンに彼女たちは気落ちしてしまった。
「「「「「…はぁー」」」」」
マリーカは元同僚たちのリアクションの真意が見抜けず、あたふたしていた。そして、いつの間にかマリーカは、いつも通りのネガティブな発言をし始め、
「でも、ライ様はラウンズ様でありますし…私みたいな一士官が…」
青色のドレスを着たリーライナ・ヴェルモンはいきなりマリーカの肩を掴んだ。ビクッとマリーカは体を震わせた。
「ん〜、あーっ!そんなこと言ったら駄目よマリーカ!ウチの後輩でも狙ってる子も多いし、カリーヌ皇女殿下を筆頭とする皇族も狙ってるっていう噂じゃない!」
「!?う、うそっ!カリーヌ様が…!」
「え?知らなかったの?アルメル」
「そ…それは、知ってますけど…でもっ」
「でも…じゃないのよ。マリーカ。結婚は別だけど、恋に貴族も平民も無いわ。好きな人は好きなんだもん。仕様が無いじゃない。恋心だけは本人の自由よ。だから、あきらめちゃだめ!わかった?マリーカ」
リーライナの激励に勇気づけられたマリーカは握り拳を作り、軍人らしい彼女の大きな声で返事をした。
「はっ、はい。私、頑張ります!」
「そうよ!それでこそ私の自慢の後輩!」
そう言ってリーライナがマリーカの肩をたたくと、他のヴァルキリエ隊のメンバーも彼女に微笑みかけた。
「ありがとうございます!リーライナ先輩!…それに皆、ありが…」
「アンタがくっつくって、わたし月給掛けてるんだから!」
「……え?」
リーライナはハッと口に手を当て、他のヴァルキリエ隊も何故だかマリーカから目を逸らしていた。不審に思ったマリーカはリーライナ先輩に問い詰めようとして、
「マリーカ?」
唐突に後ろから声がかかった。
「ひゃっ、ひゃい!な、なんでしょうか!ライ様」
話題の中心にいた男、ライ・アッシュフォードの声にマリーカは過剰反応をしてしまった。袖で口元を拭いながらライに向いた。ヴァルキリエ隊の面々は一歩足を引き、頭を下げようとしたが、
「今はパーティーだから、楽にしていいよ。それにヴァルキリエ隊の皆さんも」
『は、はい!』
緊張した大声に、周囲からまたもや視線を集めてしまった。ライはヴァルキリエ隊の人々に微笑みかけると、マリーカの目の前で、片目を瞑って手を合わせた。
「マリーカ。ごめん」
「え?」
「休暇が無くなっちゃった」
マリーカは驚いた。彼女はナイトオブツー、ライ・アッシュフォードの副官であり、この就任式の前は、ライと共に北アフリカ遠征から帰国してきたばかりだったのだ。
休暇の時間を使って、彼女は長く空けていた部屋をどうしようかと模索していたのだが、その計画は、今の一言で無に消えた。
「シュナイゼル殿下と共に、EUに行くことになったんだ」
「…ということは」
「うん、今回はヴァルキリエ隊の皆さんと一緒に、参戦することになったから」
『え?本当ですか!?』
ヴァルキリエ隊のメンバーから声が上がった。彼女たちの表情に嬉しさが浮き上がっている。
「うん。後でブラッドリー卿から正式な報告があると思うけど、よろしくね。皆」
『は、はい!』
ヴァルキリエ隊の女性陣は即座に敬礼した。ドレス姿の彼女たちの敬礼する姿は、何とも奇妙だ。その姿を見たライは苦笑した。
「あと、マリーカ。報告書の件、マリーカには本当に感謝してる。だから、今日くらいはゆっくりしてくれ。これは命令だぞ?」
「い、イエス。マイロー…」
ライはマリーカの柔らかい唇にひと指し手を当てた。吸い込まれそうな蒼い瞳と、柔和な笑顔にマリーカは胸を高鳴らせた。
「はい、でいいんだよ?マリーカ」
ライも唇に人差し指を当てる。首を少し傾げ、銀色の髪を揺らしながらウインクをした。見たもの全てを虜にするような微笑みで、マリーカを気遣った。マリーカの顔に一気に血が上る。
「は、はいぃ…」
俯いてしまったマリーカに、ライはそっと彼女の栗色の髪を撫でた。少しずれていたマリーカの花飾りのヘアピンを整え、ライはヴァルキリエ隊に「マリーカをよろしく」と一礼すると、貴族たちの応対に戻っていった。
マリーカは顔を赤くしたまま、一言も先輩たちに話せない。
「平気であんなことをいつもしてくるんです…」と言いたかったが、舌が上手く回らない。というか、先ほどのやり取りがあまりにも恥ずかしくて、嬉しくて、ライの手の感触から夢心地に浸っていたのだ。
真紅のマントをなびかせる彼の後姿を、ヴァルキリエ隊のメンバーは羨望の眼差しで見つめていた。
「ライ様って素敵ね…近くで見ると本当に綺麗…」
「私、結構タイプかも…」
彼に魅了された者がまた一人…
「…アルメル?」
「いだっ!なんで足を踏んづけるんだい!?アーニャ!」
「……ライのばか」
午後の昼下がり、アッシュフォード学園の一室でルルーシュはパソコンを開いて、書き換えられた記憶との誤差を確かめるために、あらゆる情報を集めていた。
キーボードをたたき、ロロが写っている写真を閲覧していたが、ふと手が止まる。先日放送されたライの就任式が頭を過ぎり、思考が停止してしまった。
「ライ…」
単に気が合う友達だからではない。互いの過去を知り、苦しみを知り、偽りのない本当の自分をさらけ出せた唯一の友。彼と真の意味で親友であった記憶を思い出した。
ライが敵になった。
この事実が、彼の心に重くのしかかっていた。
就任式をもって公開されたライの功績は輝かしいものばかりだった。
わずか一年で9つの国家を支配下に置いただけではなく、没落貴族だったアッシュフォード家を公爵に押し上げ、今、この学園も大騒ぎだ。
ルルーシュは目元に手を当てた。昨日のバベルタワーの一件から緊張感が体から抜け切っていない。全身をリラックスさせ、椅子に深く腰掛けた。
「ライさんが、どうかしたの?」
そのとき、扉が開き、少年の声がルルーシュの耳に届いた。ルルーシュの体に再び緊張感が走った。
彼が心休まるはずの学園は、静寂たる戦場に成り果てていた。
素敵な『真実』をプレゼントする。
彼女はそう言った。
これが、嘘の平和から目を覚ましたルルーシュが見た現実だった。
「どうしたの?兄さん」
「…ロロか。いや、なんでもないんだ」
「なんでもないって顔じゃないよ」
「はは。やっぱりロロには分かってしまうか……いや、本当に大したことじゃないんだけどな」
ルルーシュはロロに優しく微笑みかけた。髪と額に手を当て、疲労しているというポーズをとりながら、指の間から弟の顔を見る。彼はロロの表情が一瞬変わったのを見逃さなかった。
昨夜、
リリーシャとルルーシュは中華連邦総領事館の地下ルートから抜け出て、リムジンに乗り込み、トウキョウ租界の都市高速を走っていた。
大きな車の中で、制服姿のリリーシャとルルーシュは向き合って座っていた。ルルーシュは、ヴァルハラの司令官が持っていた分厚い手帳を閉じた。
カバンを隣に置いて、長い髪をヘアブラシで整えているリリーシャに話しかけた。
「俺に妹はいるが弟はいない。あいつは誰なんだ?」
リリーシャはルルーシュと目を合わせず、ヘアブラシを動かす手を止めなかった。だが、ルルーシュの問いにはすぐ答えた。
「貴方の弟、ロロ・ランペルージはギアスを持った暗殺者です」
「ギアスを?」
リリーシャはヘアブラシを鞄の上に置くと、髪を手にとって枝毛を確認していた。二人は視線を合わせることなく、話は続けられる。
「私のほうから数人調査員を送ったんですが、全員殺されました。それも貴方の身辺調査を担当した調査員ばかり…」
ヘアブラシを逆の手に持ち返ると、今度は反対側の髪を手入れし始めた。ルルーシュは彼女の態度に表情を変えることなく、リリーシャの言葉を待った。
「殺害時刻や状況から判断して、暗殺に特化したギアスだということは想像が付きました。そして、バベルタワーの件で、能力の性質、範囲も特定できましたよ」
ルルーシュはギアス、という言葉に思考を巡らせた。今までのことで、一つ思い当たることがあった。言葉を放とうとした時、微笑んでいたリリーシャの声にルルーシュは遮られた。
「気がつきませんでした?先輩の最後の一手…実は私のギアスで操っていたんですよ?」
予想外の事実に、ルルーシュは思わず声が出た。
「なに?では、あれは俺のミスではなく…」
その表情を見ていたリリーシャは目を細めたが、一瞬で笑顔を消した。
「…私のギアスは、対象者から一秒以上目を離していないと効果は失われません。あの時、私は先輩に気づかれることなく身体を支配していました。私はあの場所で先輩を捕まえるはずだった。
……にも拘らず、私のギアスはいつの間にか解かれていたんです」
ルルーシュは思考を一旦停止し、リリーシャの顔を見た。その時、はじめて彼らは視線を交わった。
「あのナイトメアの瞬間移動…そして、お前が下した不可解な戦略…その情報から分析するに、ギアスの能力は24パターン予想される。その中で一番に考えられるのは…」
「ロロのギアスは、『人間の体感時間を止める』ギアス。最大範囲は直径約25,4メートル。停止時間は最大5秒。能力の強弱はコントロールできるようです」
「…ふん。ゼロを演じていただけのことはあるな」
「褒め言葉として、受け取っておきますね……それと、ルルーシュ先輩」
リリーシャはバッグに化粧箱を仕舞った。ルルーシュは彼女の顔が暗闇で見えなかったが、リリーシャが笑っていることだけは分かった。
闇夜に照られるリリーシャの微笑みに、何か邪悪めいたものをルルーシュは感じた。
「気を付けてください。学園は今や、敵の巣窟ですから」
携帯自援
昨日のリリーシャとのやり取りがルルーシュの脳裏に浮かんだ。穏やかな瞳に奥に、溢れんばかりの敵意が秘められていた。
(こいつは、ナナリーの居場所を蹂躙した男…)
そして、ロロもルルーシュに穏やかな表情を向けていたが、冷たい視線から暗殺者の顔が覗いていた。
(ルルーシュ。お前は記憶が戻ったのか?)
ロロの脳裏には、昨夜のヴィレッタとの地下室での会話が浮かんだ。
「ギアスがばれた?」
「ええ。ルルーシュが、いえ、ゼロは僕のギアス能力に気付いている可能性があります」
「だが、お前がルルーシュに使ったのは紅蓮が現れたときの一度きりなんだろ?」
「でも、それならあの時のナイトメアの戦闘は説明が付きません。あれは明らかに僕のギアス能力を知った上での戦術でした。ヴィンセントの機動性がなければ、今頃僕は…」
「…分かった。ゼロがルルーシュではないのは確かだ。だが、バベルタワーの一件でゼロと接触し、何らかの手段で記憶を取り戻した可能性がある。それが確認でき次第、殺せ」
「Yes, my lord…」
ロロは兄を心配している表情を取り繕いながらも、殺意を秘めた視線で血の繋がらない兄を見据えた。ルルーシュはロロに微笑みながら、言葉をつづった。
「スザクもライも、世界で活躍して、賭けチェスなんかやってる俺は一体何をしていたんだって思ってね。
…バベルタワーの件で思い知ったよ。俺は弟すら守れない兄で、すまない。ロロ」
「そんなことない!頭を下げて兄さん!
に、兄さんはすごい人だよ。兄さんは、いつか絶対にライさんやスザクさんを超えるんだから」
「…ありがとう。ロロ。嬉しいよ」
そういってルルーシュとロロは微笑い、兄は弟を抱きしめた。
不意に受けた抱擁に、ロロはぎこちなく受け入れた。妙な安心感が、彼の冷たい心の奥を、ゆっくりと溶かしていく。そんな感覚がロロの心を余計に揺らせた。
いつの間にか、ルルーシュに対する警戒を解いてしまった。
そして、弟の視界の外で、ルルーシュは冷酷な瞳を宿らせていた。身も心も不快感と殺意に染められていたとしても、ルルーシュは「ロロの兄」を完璧に演じていた。
一見、仲の良い兄弟の会話に見えるが、裏では冷徹な命の駆け引きが行われていることを、誰も知らない。
「ただい………ま?」
リリーシャは部屋に入った途端、肩からかけていたカバンを落としてしまった。生き生きとしたヘンリエットを目にした。
「あら!リリーシャ!お帰りなさい!」
妙にハイテンションなヘンリエットに若干引きつつ、リリーシャは冷静に状況を聞いた。
「いや…あの、これは何?」
「何って、ライ様の写真に決まっているじゃありませんか!」
リリーシャは部屋を見回した。
ヘンリエットのベッドがある壁側から天井にかけて、ライの写真がところ狭しと張っていた。
アシュフォード学園にいた頃の写真が大半であり、制服姿のライが多く、明らかに盗撮まがいの写真がちらほら見受けられる。ヘンリエットの机には、週刊誌や雑誌類が並んでいた。
(黒の騎士団の情報網より凄いかも…)
「聞きまして!?ライ様って今度の功績で公爵の爵位を授けられたとか。ライ様はわずか1年足らずでラウンズとなり、一族は公爵を授けられるなんて…これで正々堂々、父上に私の心を進言できますわ!」
「公爵!?…それはすごいわね」
リリーシャは既に情報をつかんでいたが、私は海外から帰国してきたばかりで、ブリタニアの情勢に疎いことになっている。彼女は、ヘンリエットの聞き手にまわり、驚くそぶりを見せた。
「ええ!今、我々の部活動はすさまじい勢いで活性化しておりますわ!次期ファンクラブ会長のこの私こそが!」
リリーシャはヘンリエットの優秀さは認めているのだが、これが無ければ、といつも思うのであった。
それもそのはず、彼女がなぜそこまで異性に熱を上げるのか理解できなかったからだ。
軍人の家系で育った彼女は、理数的な思考が人一倍強く、幼いころから損得勘定と論理的な基準で物事を冷静に分析していた。そして、裏で『ゼロ』を演じる彼女は、組織の長として、その傾向が益々強くなっていた。
彼女が恋愛関係に疎い理由はそれだけではない。昔から頭が良く、何でも器用にこなせた彼女にとって、心を震わせる男性はいなかった。
彼女はまだ、本気の恋を知らない。
「これ、土産よ」
リリーシャは黒い包みに入った長方形の箱をヘンリエットに手渡した。彼女はそれを机の上で開けると、一本のワインが出てきた。
「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ?イタリアに行ってたの?」
「ええ」
リリーシャはバッグから数枚の紙が入ったファイルを取り出し、右手にはボールペンを持ってチェックを入れていく。ヘンリエットとは目を合わさずにB5の用紙に目を通していた。その姿を見たヘンリエットは小さくため息をついた。
「自分探しの旅もいいけど、ほどほどにしなさいよ……それに貴方、次は何所にいくつもり?」
ふと、リリーシャはペンを止めた。何事かとヘンリエットはリリーシャを見て、彼女はヘンリエットに柔らかく微笑んだ。
「中華連邦…かしら?」
彼女が持っているB5の用紙には、ノエルの汚い文字で『ここ重要!テストに出る!』と大きく書かれていたノートのコピーが写っていた。
翌日。
生徒会室は新たなる展開があった。
「彼女を生徒会の新メンバーに推薦したいんですが…」
「あ!その娘、もしかして!」
アッシュフォード学園の生徒会室には生徒会のメンバーの他に、一人の少女がいた。ルルーシュ・ランペルージは、驚いている他のメンバーに彼女を自己紹介させた。
黒に近いダークブルーの長髪に琥珀色の瞳、整った容姿に180cm弱の長身を持つ美少女だった。隣にいたルルーシュと並んでも背丈はほとんど変わらない。
新品に近いアッシュフォード学園高等部の制服を着た少女は、上級生である生徒会のメンバーに挨拶した。
「初めまして。皆さん。高等部1年Aクラス、出席番号16番。リリーシャ・ゴットバルトです」
「ゴットバルト…?」
ミレイは首をかしげていると、ルルーシュはミレイに声をかけた。
「会長。俺たちは後数ヶ月で卒業ですよ。ルックスはもちろん、頭も切れるし、次期生徒会長候補がいるでしょう?」
(…ええ?そんな話は聞いてませんよ。先輩)
(いいから俺に合わせろ…)
リヴァル・カルデモンドとミレイ・アッシュフォードはルルーシュと一人の美少女を交互に見あわせて、ニヤニヤと笑っていた。
「…へえ、ルルーシュが女の子を連れてくるなんて、ねぇ?」
「ふーん…なんか仲良さげじゃない?二人とも」
「「な…っ!」」
会長の言葉に、ルルーシュとリリーシャは敏感に反応した。その二人の姿を、不審な表情でロロが見つめていた。だが、いきなりリリーシャと目が合い、彼女は微笑んだ。
「教室以外の場所で会うのは初めてね。よろしく。ロロ」
リリーシャは遠慮がちのロロの手を掴み、握手をした。リリーシャの笑顔を近くで見たロロは頬を染める。
「えっ…あっ、こ、こちらこそ」
「クラスメイトだろう?ロロ。なんで初対面みたいに畏まってるんだ?」
「あらー?まさか、兄弟そろってリリーシャちゃんが気になる?」
「「なっ!!」」
今度はルルーシュとロロが会長の言葉に反応した。
「リリーシャちゃんみたいな可愛い娘だったら、いつでも大歓迎だぜ!」
「嬉しいです。リヴァル先輩。ルルーシュ先輩と違って、とっても優しいですね」
「…お前、どこまで俺が嫌いなんだ?」
「あら?別にルルーシュ先輩のことは嫌ってはいませんよ。まあ、好きでもないですけど」
「…言いたいことはわかった」
ルルーシュとリリーシャが軽口を言い合う姿を見て、シャーリーはとてつもない危機感を抱いた。
まさに「女の勘」というやつである。
「オッケー!いいわよ。ルルーシュ直々の推薦なら異論なし!いいわね?皆」
「俺はいいよん」
「…僕は、兄さんがいいって言うなら…それにリリーシャさん、頭良いし」
「……ルルが言うなら」
生徒会の了承を得て、リリーシャはめでたく生徒会のメンバーとなった。リリーシャは皆に挨拶と握手をした。洗練された彼女の振る舞いに、ルルーシュを除くメンバーは彼女に好印象を持った。
「またもや、ビッグニュースがあるのよ!」
そして、ミレイは親指を立てたまま、生徒会のメンバーに声高らかに発表した。リヴァルやシャーリーはその報告に心から喜んだ。ルルーシュやロロ、リリーシャもその知らせに笑顔を浮かべる。
皆、様々な思惑を持ったまま…
「本日を持って、アッシュフォード学園に復学することになりました。枢木スザクです」
いきなり16スレにわたる長編を…
申し訳ありません。書き込んだのは一カ月以上前なのに、なぜだかアクセス規制をくらってしまいました。
理由は分りませんが、受験に専念しろとの神様のお告げだと思って、SSは時間の合間に書いていこうと思います。
本当は設定資料集も投下したかったのですが、今日はここまでにします。
テストの結果が良かったので、この一週間くらいはPCは使えます。それまでに
TURN04 「偽りの弟」
TURN05 「ルルーシュ 入団」
を書き進めていこうと思います。
実はTURN05がほぼ完成していて、TURN04が1割未満という不思議な状態になっています。
次に投下するときは2話連続になると思うので、覚悟してください。(笑)
設定資料集は皆さんの要望があれば、明日にでも投下しようと思います。
それでは。
・・・・・・・・
代理投下以上。
PCさるになったので再度携帯で。
0分はさんでも12連投で規制入るみたいですね。
携帯から1レスはさんだら行けました。
ところどころ行が長すぎたので中途で改行入れました。
オリジナルは避難所代理投下依頼スレをご覧ください。
>>128 代理投下乙です。 そしてPOPPO卿、GJでした!
ライが変わったのかと思えばそうでもない、しかし「ルルーシュの弟のロロ」という考えがあるということはやはりシャルルのギアスなのかな。
仮に記憶を取り戻したとして、公の場での発表や築いた人間関係があり騎士団に戻ることは難しそう……
停止時間5秒……馴染むと9秒か? とか思ってしまう私はジョジョファン。
貴公の次の投下を全力で待たせていただきます。
130 :
創る名無しに見る名無し:2009/06/15(月) 17:36:27 ID:tkCwVCMk
>>128 代理投下乙でした!
そしてPOPPO卿乙でした
ライが何だか綺麗になってますね
以前の王様の性格が消えてるあたり、皇帝がやっぱりギアス掛けたのかな?
俄然、間に何があったのか経緯を詳しく知りたい!
何れ語られるのでしょうか?
だとしたらすいません
次回もお待ちしてます
POPPO卿&代理投下の方乙でした!
どんどん面白くなって行きますね。文章も上達されているのでは?
R2本編では自分的に煮え切らない部分も多々あったので
POPPO卿のロスカラR2がどうなっていくのか興味津々です。
カプ萌えのツボが結構似ているのか、部分部分で美味しい思いも
させて頂いてます。是非、そのままでw
続きも楽しみにおまちしております!
とは言え受験生のようなので、無理せず勉強優先でがんばってくださいね
>>128 投下乙&GJ
細かい点ですが一つ気になった点を挙げると
シャルルに掛けられているギアスにはルルには本国に母親も父親もいる事になってますよ
呼び方は母親はお袋
父親はオヤジです
とっても細かな点ですが肉親はロロ一人ではなくあくまでも大切なたった一人の弟です
気になった点は以上です
ゼロが二人存在する事
カレンの精神がヤバい事
ライのラウンズ内での評価が高い事
色々な要素があって面白いです
これからも無理のないように頑張って下さい
POPPOさん代理投下行きます。
以下、ご本人の文章。
・・・・・・・・・・・・・・
すいません。いまだにアク禁(原因がいまだに不明です)ですが、自分がPCを使える時間が限られているので
自分勝手で申し訳ありませんが、誰か気づいてくれた人は代理投下お願いします。
コードギアス LOSTCOLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」
TURN04 「偽りの弟」
をすべて投下するつもりでしたが、あまりにも長くなってしまったので前半と後半に分けます。
おそらく、一気に投下すると20スレ以上になる可能性が出てきました。
とりあえず、前半部分と設定資料を投下しますので感想お願いします。
最初に設定資料。
投下します。
これは
TURN01からの新設定なので、
設定資料2と名付けます。
リリーシャ・ゴットバルト
Age; 16
Sex; female
Height; 177cm
二〇一七事変後に、ルルーシュの代行として『ゼロ』となった少女。
その手腕はルルーシュに匹敵し、一時の感情に流されない冷静さと、目的のためには手段を選ばない残酷さはルルーシュを上回る。
だが、元々がブリタニアの軍人の家系で生まれ育っているために、戦略以外での交渉、取引に関してはルルーシュに劣っているところがあるが、一般的に見れば優秀の域。
二〇一七事変で壊滅寸前だった黒の騎士団を再建し、EUと正式な協力関係を結んだのは彼女の功績であり、当初は反発していたカレンとも次第に打ち解けていった。
C.C.と再契約を果たし、再び『絶対操作』のギアスを手に入れたが、ややこしい交渉を省くために『絶対遵守』の力がリリーシャは欲しかった。
(そのおかげで交渉や駆け引きが上手くなったのも事実である)
それでも、彼女の知能とギアスを巧みに使いこなすことによって、かつてのゼロと遜色無い活躍を見せた。
X.X.によって、人生だけではなく嗜好まで大きく狂わされた彼女。X.X.の出会いによってショタコンであることが判明し、カレンとC.C.にさんざんからかわれ、最近は開き直り気味。
胸のことを指摘されるとマジギレする可能性大。
好物はケーキ全般。
趣味はカレンをからかうこと。
ライ・アッシュフォード
Age; 18
Sex; male
Height; 180cm
本編の主人公。
ナイトオブラウンズの一角、ナイトオブツーであり、アッシュフォード家の嫡男。
当初、無名の騎士が皇帝の推薦のみでラウンズの地位を拝命し、その上、大半の皇族にも彼の名前が伏されていた為に周囲の視線は冷たいものだった。
しかし、人目を引く彼の端正な容姿と柔和な性格、シュナイゼルに匹敵する頭脳や交渉術、常人を逸した身体能力など、彼の存在は多くの人間を魅了した。
就任から一年足らずで9つの国家を戦略や交渉によって属国とするなど、数々の偉大な功績を挙げ、彼に不信感を抱く人々は少数派となり、後には大多数の賛成を持ってナイトオブツーの就任式を迎えた。
その功績で、没落貴族であったアッシュフォード家を、瞬く間に公爵の地位まで押し上げた。
身体能力はスザクと互角であり、特に剣の腕が立つ。
ナイトメアの操縦技術は、多くの戦場を潜り抜け、帝国最強の騎士であるラウンズに鍛えあげられたことで彼の潜在能力は極限まで研ぎ澄まされた。
現在ではKMFの操作技術はビルマルクと並ぶ実力を持ち、就任からわずか3ヶ月で『ラウンズ最強』と噂されていた。
敵側からは「蒼の亡霊(ファントム)」。
味方からは「征服王(イスカンダル)」と言われ、畏怖されている。
完璧超人と言われる彼でもやはり人間であり、異性からの好意に鈍いとう欠点を持つ。あのスザクにさえ「ライ、一度病院に行ったほうがいいよ…」と忠告されるほど。
彼の功績の裏には、天才的頭脳と卓越した戦闘力だけではなく、『ギアス』と呼ばれる異能の力が秘められている。
彼の『ギアス』は聴覚に訴える『絶対遵守』の力。
マリーカ・ソレイシィ
Age; 16
Sex; female
Height; 164cm
ナイトオブツーとなったライ・アッシュフォードの初陣となる、ナイトオブテン共同戦のロシア戦線で作戦を失敗し、ヴァルキリエ隊を除隊されたところをライに拾われた。
実は作戦中にライに助けられ、その時に一目惚れしていた。
負傷から復帰した後にはライの副官となり、ライへの心酔とも言える忠誠心と、胸一杯に膨れ上がった恋心のおかげで訓練や勉学に心血を注いでいる。
今や彼女の実力はヴァルキリエ隊を追い抜き、ノネットに『ラウンズ入りも夢ではない』と言わせるほど。
幼いころから優秀な成績を残してきた彼女でも、意中の男性に想いをなかなか告げられない辺りは、まだまだ年齢相応の女の子。
いつも涙目で告白の失敗報告をして、ヴァルキリエ隊の先輩たちにオトコノコの教えを請うマリーカは、先輩たちの話のネタにされている。
マリーカ、アーニャのライを巡る恋の三角関係はラウンズの名物となっており、ラウンズの一部や『キャメロット』の整備士の間では、「アッシュフォード卿はどっちとくっつくか?」という賭けが密かに行われている。
しかし、ライを狙っている女性陣は遥かに多く、その範囲は皇族から平民の使用人まで多種多様。
ライがとてもモテることはマリーカも十分すぎるほど知っているため、女としても軍人としても精進に余念が無い。
それでは
コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」
TURN04 「偽りの弟」
前編
いきます。
それには獅子と蛇が対峙する刻印に銀メッキが施されており、盾の形をしている。それは貴族だけが身につけることを許された代物であった。
バッジの色は階級ごとに分かれており、皇族とナイトオブラウンズを除けば、世界に四家しかいない大公爵に次ぐ爵位、『公爵』を表すバッジである。
裏にはアッシュフォード家の家紋が刻まれている。
よほどの成果を上げなければ、このようなものを陛下から承るわけがない。
これは先週、正式にナイトオブラウンズを拝命した義理の弟、ライ・アッシュフォードが成した功績だ。
ミレイはライのことを考えると、胸がいっぱいになった。彼が無事でいたことを知った喜びもあるが、まさかこのような形で恩返しをしてくるとは思いもしなかったからだ。
困った人を助ける。それが当たり前の彼女にとって、ライから対価を要求するという発想自体が皆無であり、ミレイは嬉しさから込み上げる笑いが抑えられなかった。
8年前、マリアンヌの後ろ盾を失ったアッシュフォード家は没落貴族と成り果てた。
その衰退を目の当たりにしてきた彼女だったが、肩身が狭くても、今置かれている立場や環境に、彼女は彼女なりに満足していた。
生徒会のメンバーがいて、スザクくんがいて、ライがいて…鬱陶しい見合いが無ければもっと良いと思っていたが、不満があるとすればそれくらいだった。
そして、その不満は一夜にして消滅することになる。もはや、彼女が頭を痛めていた悩みは無い。彼女を縛っていた鎖は、ライによって打ち砕かれた。彼には感謝しても感謝しきれない。
ライのことを想うだけで、ミレイは熱くなった。心なしか、頬まで赤らめていた。
高揚した気分した彼女は、軽やかにステップし、勢いよく生徒会室のドアを開けた。彼女は通常よりも5割増しの大きな挨拶をする。
「やっほー、皆さん!元気に…」
ミレイ・アッシュフォードの声は、そこで止まった。生徒会室に入ると、そこには額をハチマキで縛って、分厚い本と睨めっこしているシャーリー・フェネットの姿があった。彼女の机の両脇には学校の教材が並んでいる。
生徒会長たるミレイが生徒会室に入ってきたというのにシャーリーは挨拶すらしない。それほどシャーリーは集中しているということだろう。
ミレイは紅茶を運んできたリヴァル・カルデモンドに声をかけた。私の問いを待っていたかのように口を開く。
「シャーリー、どうしちゃったの?」
「ルルーシュの好みは『知的な女の子だ!』って思ったらしく、いきなり勉強しだして…」
ミレイは「ははぁーん…」と声をあげて、シャーリーの様子を眺めた。カップが置かれた席に座り、一口すする。
シャーリーがルルーシュに思いを寄せているのは周知の事実である。彼女も男子から人気がある女の子だが、容姿端麗、頭脳明晰のルルーシュの人気には比較にならない。
クラスメイト、生徒会と、ルルーシュと多くの接点がある彼女であり、ルルーシュの彼女になる可能性ナンバーワンの女子生徒だったが、突如として強力なライバルが現れたのだ。
「こんにちは、皆さん」
「おっと、噂をすれば♪」
その声に、びくっとシャーリーは肩を震わせて彼女を見た。その時、やっとミレイの存在に気がついたようだ。
「…あ、会長。こんにちは」と言って、眼鏡をかけたシャーリーはミレイと初めて目を合わせた。彼女の姿に、ミレイは思わず笑ってしまう。
「ふふふっ…あら、いらっしゃい。今日は早いわね。補習授業はいいの?」
「私には必要ありませんから」
そう言うと、リリーシャは鞄を置きながらシャーリーの向かい側の席に座った。
「おー。さすがトップは違うな〜」
リリーシャはテーブルに置いてある書類を見つめていたが、シャーリーはリリーシャを強い眼差しで見つめていた。
傍目から見ても、シャーリーが生徒会新メンバーに対抗心を剥き出しにしていることが丸分かりだ。
全く、どちらが上級生なのか分からない。
リリーシャは頭が良く機転が利く娘だと、ミレイは彼女との数日のやりとりを通して実感していた。
上級生である私たちに臆病に接することも無ければ、必要以上に親しく接したりはしない。
時には率直な意見を述べることもあるが、下級生としての一線を必ず守っている。
特に事務処理に関しては感嘆せざるを得ないほど優秀だった。放浪癖が問題だが、成績や人格、協調性においては文句のつけようが無い。
そして、彼女の実力はこんなものではないと感じさせるようなミステリアスな彼女の雰囲気から、ミレイはルルーシュの印象と似た印象を受けた。
ルルーシュが言う通り、次期生徒会長の器としても申し分ない人材だと、ミレイは素直に思った。
そして、ルルーシュが強く推す理由は彼女の能力に加えて、業をよく休むサボり常習犯の優等生同士、通じ合う部分があるのだろうとミレイは推測する。
ゼロが姿を現した時はどうなることかと不安で身を震わせたが、今は正反対の感情で身を震わせていた。
ゼロの中継があった後にライのラウンズ就任があり、それに伴い爵位の拝命。そして、同じくナイトオブラウンズへと出世したスザクの復学。彼
女にとっては吉報のオンパレードだった。
(笑いが止まらないわ。ライ…)
ミレイ・アッシュフォードは、胸一杯に膨らんだ幸せを噛み締めていた。
ふと視線を戻すと、リリーシャは持っているペンの動きを止め、向かい側で黙々と勉強をするシャーリーをじっと見ていた。
彼女がシャーリーに話しかけるようだ。リリーシャの心情は分らないが、彼女に一方的な対抗心を燃やしているシャーリーをどんな会話を展開していくのか。
ミレイの好奇心は刺激された。整った容姿に宿る知的な雰囲気と、深遠な琥珀色の瞳は見たミレイは、素直にリリーシャを美しいと思った。
「あの、シャーリーさん」
「……なに?」
「本…逆さまですよ」
一瞬、呆けた声を出したとたん、シャーリーの顔は羞恥心で真っ赤になった。
「えっ…〜〜っ!」
本で顔を隠すように身を縮めたシャーリーを見て、リヴァルは呟いた。
「…こりゃ、だめだな」
ミレイは、今度こそ笑いが堪え切れずに大きな声で笑い出した。
会長の唐突な爆笑に、シャーリーは「そこまで笑うこと無いじゃないですか…」とさらに顔を紅潮させ、リヴァルとリリーシャはミレイを見て首をかしげていた。
アッシュフォード学園の地下にある機密情報局の一室に、ロロは訪れていた。
多くのモニターにはアッシュフォード学園のいたるところに設置されている監視カメラから、24時間体制であらゆる場所の状況が映し出されていた。
そして、ターゲットであるルルーシュの映像は逐一映し出されている。
情報局員と潜入捜査員であるヴィレッタが論議を交わしている中、制服姿のロロだけが蚊帳の外だった。
何の感情も無い瞳で、携帯電話に付けられているハート形のストラップを触っていた。
「C.C.はどこにいるんです?」
局員は議論はロロのその声で沈黙を漂わせた。あれだけ、ゼロと黒の騎士団が激しく行動を展開するなか、何の進展も無かったということである。
彼らの無能さにロロは内心で溜息をついた。
だが、一人の局員がロロに対抗するように、彼に話題の矛先を向けた。
「…この数日で、局員3人が殺されました。その、48人目の潜入調査員の手によって!」
ロロは怒りに震わす声を聞き流していた。ヴィレッタも意味深な視線を投げかけるが相手にしなかった。
「私は、これ以上、彼との行動はできません!」
他の局員たちも『沈黙の肯定』を作り出していた。この機密情報局のリーダーであるヴィレッタ・ヌゥも頭をかかえた。
突然、ロロの携帯が鳴った。彼は携帯の相手を確認する。
「ルルーシュから電話です」
そのことだけを伝えると素早く席を離れて、機密情報局に漂う空気を抹消するべく、ロロは部屋を退出した。
眼前に隠しエレベーターの門が見えた。暗闇の中で、ロロは携帯の電源を押した。
彼はこの時だけ、ルルーシュの存在に感謝した。
「どうしたの?兄さん」
『ロロ…話がある』
そして、彼の『悪夢』は始まりを告げた。
コードギアス LOST COLORS
「反逆のルルーシュ。覇道のライ」
TURN04 「偽りの弟」
エリア11にあるトウキョウ租界の政庁で、事件が起きていた。エリア11最大の軍事施設に未確認MRFが突如として奇襲をしかけてきたのである。
政庁はけたたましいサイレンの音が鳴り響き、爆弾らしき轟音で地面が震えるたびに、役員たちには緊張の色が浮かんでいた。
素早い動きと的確な射撃により、一機のMRFになす術もなく、次々にKMFは戦闘不能に陥っていた。そのMRF のパイロットは、
「ははぁ!何だこのあっけなさはぁ…ゆるゆるだな。呆れるほどに」
と楽しげな口調で的確にこの政庁の実態を述べた。
「エリア11の防衛線は…この程度か!」
金髪の男は、意志の強い青き瞳を鋭くすると、操縦桿を勢いよく前に倒した。
一気にMRFが急降下をかけると、下で待ち構えていたバズーカを装備したサザーランドの一個小隊が一斉に火を吹き始めた。
それをモニターで確認したMRFのパイロットは声を上げて、操縦桿を巧みに操作する。
「へえ…その判断はまあまあだ!」
MRFは縦横無尽な軌道を描き、発射された全弾を回避した。サザーランドに乗っているパイロットたちは驚く暇もなく、MRFから発射された大型スラッシュハーケンの打撃を浴びて、全機が瞬く間に戦闘不能に陥った。
MRFの猛進はとどまるところを知らず、一気に政庁の一本道を突き進んでいた。そして、MRFのパイロットはモニターで2機のグロースターを発見し、小さく声を上げた。
今は亡き気高き将軍アンドレアス・ダールトンの息子たち、グラストンナイツが駆るグロースターだった。
2機のグロースターからオープンチャンネルから怒号の声が響いた。
『何者かは知らぬが、ここで終わりだ!』
鈍い音共に、ナイトメアの全長を超えるランスを床に突き刺した。その武装を見たMRFのパイロットは不敵に笑う。
『失格。その武装は建物を守ることを優先している。…仕方ない!』
MRFのパイロットが操縦桿を大きく振り上げたとき、その未確認物体は大いなる変貌を遂げた。戦闘機から腕や頭部が現れ始める。
やがて、それは一機のナイトメアフレームと姿をかえ、細いシルエットを持ち、機動性の高い機体と思わせるような体型であった。
金色の2本の角に、白い仮面のような頭部。それを見たグロースターのパイロットたちは驚きの声を上げた。
『なに!』
『まさか、この機体はっ!』
彼らが持つランスに匹敵する長い武器とともに、地面に足をつけた。ランドスピナーが展開し、その機体の全貌を現した。
一人のグロースターのパイロットは低い声で告げる。これは敵の強襲ではなく…
『そういうことですか。可変ナイトメアフレーム。『トリスタン』…ということは』
彼は、目の前に迫る騎士の名を告げた。
『ナイトオブスリー、ジノ・ヴァインベルグ卿ですね』
第8世代型相当のナイトメアフレーム「トリスタン」のパイロット、ジノ・ヴァインベルグは返答する。
『ああ。君たちを試しにきた。さあ、私を止めて見せろぉ!』
掛け声とともに、トリスタンはMVSのランサーを稼働させ、完全に戦闘状態に入った。彼らの間に戦慄が走る。その意思を真っ向から彼らは受け止めた。
『いいでしょう…私たちも恥をかかされたままでは済みません』
『ああ、本気で頼むよ』
その言葉に堪忍の緒が切れたグラストンナイツは、
『言われずともぉ!』
と誘いに乗った。だが、勢いに任せた動きは単調なリズムしか奏でない。2
機のグロースターは彼らの連係プレイでトリスタンに襲いかかったが、彼らをはるかに上回る技術と戦術で、攻撃が当たることも無く、トリスタンの武器の餌食となった。
その悔しさから、殺気を込めた反撃を食らわせようと2機は動いたが、
「やめろ!」
一人の学生によって制された。
「そこまでだ。決着はついた」
『…それはナイトオブセブンとしてのご判断ですか?』
「そうだ」
『…ぐっ!』
彼はただの学生ではない。栗色でくせ毛のある一人の名誉ブリタニア人は、グラストンナイツよりもさらに格上の存在、ジノと同じくナイトオブラウンズの一角である枢木スザクだった。
「スザクー!」と少年の声をしたジノはコクピットを降りるとそのままスザクによりかかった。
「ジノ。ランスロットを持ってきてほしいと頼んだのに」
「ああ。来週、ロイド伯爵に一緒にくるよ。それより何だい?この服」
「学校帰りだからね。制服。…ジノ、重いんだけど」
ジノとのやりとりに気をとられていると、唐突にもう一機の異形のナイトメアフレームが姿を現した。鈍い音と共に巨大なナイトメアは降り立った。
スザクはそれを視認すると、声を上げた。
「モルドレット…アーニャも来てくれたのか」
同じくナイトオブランズの一人、アーニャ・アールストレイムの声がモルドレットのオープンチャンネルによって響き渡る。
『もう終わり?』
「もう、終わりだってさ。スザクが」
『ふーん…つまんない』
スザクはモルドレットを見据え、一言付け加えた。
「ライは、EUの件が片付いたら来るよ」
だが、アーニャから帰ってきた答えはスザクの期待とは大きく外れたものだった。誰が聞いても分かるほど不機嫌な声で、
『だから…来た』
ジノはスザクに小さく呟いた。
(スザク。アーニャはライがEUに行くって言ったとき、シュナイゼル殿下に自ら頼みにいったくらいなんだぞ!?
少しは察してやれよ。ただでさえ、マリーカにアドバンテージがあるっていうのに…)
(え?ああ、ごめん。ジノ。僕、そういうことには少し疎くて…)
そして、彼女はさらに不機嫌な声で言った。
『ジノ。声、全部拾ってるから』
その瞬間、ジノ・ヴァインベルグと枢木スザクの背筋に悪寒が走ったのは言うまでもないだろう。
三日後、天気に恵まれた日のことだった。
『にゃー☆』
「萌え」なのか?何を狙っているのか?
『枢木スザク復学就任記念パーティー』は気が抜けた掛け声とともに始まった。
ミレイ会長の話によれば、ライ先輩が戻ってきた際にもパーティーを催すらしい。
アッシュフォード家が公爵になったことで、ライ先輩が所有している植民地エリアの収入が入ってきたらしく、予算が潤沢になった今回は、前回と比べて規模がさらに増している。
ライ先輩のパーティーはもっと凄いことになるらしいので、期待1割、不安9割といった心境だ。
テロ活動の活発化で中止を予定されていた修学旅行も、爵位のおかげで軍が護衛をしてくれるらしく、予定されていた当初よりも豪華なツアーになるらしい。
ゼロが日本に帰ってきて、再びエリア11は慌ただしくなっているというのに…
ああ、まったく、余計なことをしてくれましたね。ライ先輩。
私、貴方に会ってからというもの、人生が狂わされっぱなしです。
本物のゼロになるわ、EUに亡命するわ、マフィアと取引するわ、生徒会に入って次期生徒会長に抜擢されるわ、
そして…
お化けの格好をしている自分自身が鏡越しに捉えた。
(……なにこれ?)
浴衣?というのかしら。よく分からない白い服を着ている。胸辺りには包帯を巻いて、肌が見えるところには白いクリームが塗られていて肌まで真っ白だ。
三角の布がついた帯を額に巻いていた。唇から顎にかけて、血のりが付着している。
(…血のりって、変な味)
一組のカップルが近づいてくるのが見えた。薄暗い空間にある作り物のお墓に私は身を隠していた。
姿を現す。
私は客を見たらこう言えばいいらしい。
「うーらーめーしーやー!」
悲鳴を上げた女性は本当に怖がっているのか甚だしく疑問で、笑顔で彼氏の胸に飛び込んでいた。
男のほうも満更ではなく、そんな彼女に笑顔で対応して私から駆け足で走り去っていった。
その後ろ姿を見ながら、私は腕を組んで首をかしげた。
…うーむ。
いまいちインパクトが足りない。
「『私がゼロだ!』……って言ったほうが驚くかしら」
などということを本気で考えていた。
前のカップルは、男のほうが私の顔をまじまじと見て「…かわいい」とか言って、隣にいた女性と喧嘩をする始末だ。
私のお化けとしてのメイクと演技が二流であることは既に確信していた。
ヘンリエットがこの姿を見て随分と怖がっていたので良しとしていたが、準備室に行って、もう一度化粧をしてもらう必要がある。
草鞋を履いていた私は、かぎ分けて暗闇の道を歩き出した。暗幕やクーラーを使って本格的な雰囲気を演出している。薄着の私は少し肌寒いくらいだ。
そして、道角で人とぶつかってしまった。強い衝撃で体がよろめいたが、どうにか持ちこたえた。
だが、私より一回り小さい相手の体は、大きな音を立てて尻もちをついた。彼女が持っていた懐中電灯が床に転がり、私の視界を照らした。
暗闇に慣れた眼球は瞳孔が大きくなっているので、眩しい光に目がくらんだ。
「き、きゃー!」
女の悲鳴が耳に響いた。本当に怖がっているようで、声に真剣味を感じた。当然の反応だろう。
お化けのようなメイクをした私の顔を間近で見てしまったのだから。それにここは来客が通る道であり、そこでお化けとぶつかるなど考えもしないだろう。
眩んでいた視界が、尻餅をついた女性の輪郭を捉えはじめた。そして、その人こそが私が探していた目的の人物だとわかった。
青い髪のミディアムヘアーに黄色の瞳、黒いバッグを提げて、白のロングにブラウンのジャケット。ミニスカートにブーツを履いている女性に、私は声をかけた。
「あら?綾芽(あやめ)?」
私の声に彼女は敏感に反応した。
黒の騎士団のオペレーターである双葉綾芽は、はっとして私を見上げた。
目が開ききっている。
(ちょっと、幾らなんでも驚き過ぎよ)
「は、ははは…ほ、本当にいた。発信場所がこんなところだから、私、半信半疑で……な、なんて格好してるんですか?『ゼロ様』…」
「てやっ!」
私は彼女の頭にチョップする。
「…いたたた、何するんですか〜ゼ、うぷっ!」
リリーシャは双葉の口を押さえ、人差し指を唇に当てた。
「しーっ。そんな大声で言っちゃダメ。ここでは『リリーシャ』よ。分かった?」
ウインクをして、私は彼女に笑顔を浮かべる。そして、一瞬呆けていた綾芽は、笑顔になって返事をした。
「…うん!」
彼女の首元にあるシルバークロスのネックレスが、懐中電灯の光を浴びて輝いていた。
中華連邦総領事館の広場にある3機の飛空挺、『パルテノン』のKMF整備室が設けられていた。一度に10機のナイトメアの整備ができる空間がある。
暁の改良型であり、迷彩色のカラーリングが施されている四聖剣のナイトメア『月影(げつえい)』4機に、
ブリタニアのフロートユニットより一回り小さいナイトメアパーツ『フロートユニット・ソニック』の取り付けが、今まさに終了した。
それを強化ガラス越しに見ていたナイトメア開発者の錚々たるメンバーが見つめていた。
「システムチェック。オールグリーン。フロートユニット・ソニック、エナジフィラーとのリンク、完了しました」
一人の研究員がモニターでユニットの装着された確認を報告した。
それを見つめていたインド系の女性開発者、ラクシャータ・チャウラーは隣にいる大柄な男、長い金髪を結わえた髪形に凛々しい顔立ち、
30代後半の年齢とは思えないほどの若々しさをもったレナード・バートランドに束になった資料を手渡した。
「…これは?」
「ゼロから頼まれた専用機の開発。その子の名前は『蜃気楼』」
ラクシャータは自分が開発するナイトメアを子供扱いする癖があり、ナイトメアを「子」呼ばわりするのは周知の事実である。
レナードはパラパラと資料をめくっていく。そこには新型ナイトメアフレームの構造が描かれていた。ふと、彼の手が止まる。
「拡散粒子砲…ですか。しかし、なぜこのようなものを?ゼロ様はすでに…」
レナードは緑色の瞳で、整備室の奥にある『とある』ナイトメアフレームを見据えた。ラクシャータも、彼女より一回り大きいレナードと同じ方向を見ながら、キセルを吹かす。
「んー?やっぱ、スペックが高すぎたかしらねぇ。セレスティアルドライブの出力を上げ過ぎたかしら?」
「おそらく『隠し玉』の方だと思いますよ。『あれ』は確かに強力ですが、絶大な威力を発揮できるのは一度きりですから」
「やっぱり?でも八面体強化型ブレイズルミナスとか輻射波動の武器だけでも十分だと思うんだけどぉ」
「ゼロ様は移動型と攻撃型のナイトメアを使い分けたいのではないかと?」
レナードは資料を読み終えると、ラクシャータに返した。ものの数十秒で理解できるだけでも、彼の技術者としての能力を伺える。だが、彼の専門はナイトメアフレームではない。
ラクシャータはレナードを見ながら笑った。
「あははは、レナード。アンタ、あの男が考えてることが分かるのぉ?」
「…今は分かりませんが、いつかは分かるようになりたいと思っています」
「うふふっ、確かにアンタは、優秀なエンジニアだけじゃ勿体ないわね」
「…ありがとうございます」
レナードは笑顔で、ラクシャータに返事をした。
(アッシュフォードの制服を着たC.C.がいた気がするけど…気のせいよね)
多くの人が賑わっている学園の大広間で、魔女らしき緑色の髪をした少女を見かけたが、リリーシャはそれを無視した。
人が多く集まる場所に来るわけがない。常識のないC.C.でもそれはないと、リリーシャは判断した。最近、テスト勉強も兼ねて睡眠不足がたたったのだろうと考えたていた。
クレープを二つ買い、私の両手はクレープとLLサイズのジンジャエールで塞がっていた。
私と綾芽は話しながら歩いていて、途中で男の人とぶつかったりもしたが、転びはしなかった。
人気の無い野原の上で、私はクレープとバッグに入っていたオレンジジュースを手渡した。無論、ジンジャエールは一人で飲む、
つもりだ。
私たちはテレビや他愛もない話をして楽しんでいた。一年前まではイレブンと蔑んでいた私からすると驚異的な変わりようだ。
いや、価値観がひっくりかえるようなことは何度も起こったし、私は今もその延長線上にいる。綾芽はオレンジジュースを飲み終えて一段落すると、遠い目でお決まりの話をし始めた。
…ああ、またいつもの話か。
「最初は悪い冗談かと思ったわ…まさか、男たちに襲われそうになっている女の子がゼロだなんて」
「もう、ゼロって言わないでって、何度も言ってるのに…」
リリーシャの脳裏には一年前の記憶が蘇った。
双葉綾芽を連れて、自分が絶望で打ちひしがれていた時に籠っていた部屋を訪れた。鍵が
ついた引出しから、ライ先輩たちを殺しかけた時に奪ったゼロの仮面を取り出した。それを見た綾芽の顔は未だに忘れられない。
先ほどのお化け屋敷の時よりも驚いた顔をしていた。まさに「腰を抜かしたほど」というやつであろう。
「失望した?」
「ううん。むしろ逆よ。ゼロがこんなに可愛い、年下の女の子だったなんて。私、ゼロがますます好きになっちゃった」
顔を朱色に染めながら生き生きとしゃべる綾芽を見て、私は嬉しくなった。私は彼女の華奢な体を抱きしめた。
「もう、綾芽ったら、高校生みたいに可愛いんだから!」
「私は…リリーシャが羨ましいな。背が高くて、頭もいいし、性格も大人っぽくて…」
綾芽の言葉はそこで止まった。彼女の視線は私のある部分に注がれていた。
(…ブチッ)
そう、私が最も気にしている部分で、一度ノエルが指摘して、散々『お仕置き』して泣いて謝ってきたほどだ。
頭の中で、何かが切れた音がした。
「私は綾芽がすごく羨ましいわ外見も性格も可愛くってまるで小学生みたい♪」
「へ?」
「なんならそこにあるコスプレイベントでアッシュフォードの制服着てみましょうそうしましょう綾芽ハ幼ク見エルカラ誰モ気ヅカナイカモヨ?」
「ちょっと!私、今年で23よ!?」
コンピューターのように、発音の起伏無く棒読みに喋るリリーシャを見て、綾芽は異変を感じ取ったがすでに遅かった。
リリーシャが綾芽の腕を信じられないくらい強い力で掴み、コスプレ服が用意されている『コスプレバス』と大きく書かれたバスが近くに来たので、
それ一直線に向かっていた。背丈が20センチ近く差があるので歩幅が合わず、綾芽はつっかかりながらリリーシャと引っ張られていった。
「え、ええー!ちょ、ちょっと待ってリリーシャ!目が笑ってないんだけど!」
「はいはーい!二名様ご来店でーす!」
「やめてー!制服も駄目だけど、バニーガールだけは!あ、あっー!」
144 :
創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 03:52:13 ID:pge9fXvl
しえん
双葉綾芽は抵抗する力もなく、リリーシャの剛腕にずるずると引き摺られていった。
「記録」
ピンク色を基調とした服を着こなしたアーニャは、ブリタニアロールを持ったジノと売店の女の子とのツーショットを映した。
「ありがとな。可愛い子ちゃん。お礼にあーん、してあげる」
「あーん♪」
ジノは千切ったロールケーキを売店の女の子の口に入れた。彼女は頬を染めて、そのケーキを食べていた。となりにいた女の子も、
「私も私も!」と言って、ジノにねだった。ジノは快くその頼みごとを引き受けた。
「なあ、アーニャ。この娘たちとの写真もいいか?」
「…(こくり)」
桃色の少女は無機質な表情で首を縦に振った。
「ライに見せつけてやろうぜ。アーニャ。アーニャとこんな楽しい行事に参加できなかったことを後悔するように、なっ♪」
アーニャは無言で、首から下げている小さな赤色のポケットから掌いっぱいに乗ったメモリーカードを見せた。
若干引いたジノだが、彼女のノンバーバルメッセージは十分伝わった。
激しく同意!という意思表示である。
そろそろメモリーが限界なので、アーニャがデジタルカメラのメモリーカードを入れ替えていた時、ジノの左腕に絡まっていた女の子が声を上げた。
「ねえ、ジノさん。ライって、もしかして…ライ・アッシュフォード様?」
「ん?そうだけど……へえ、ライも有名人になったもんだなぁ」
このとき、ジノ・ヴァインベルグはこの一言を口に出したことを激しく後悔した。
となりにいた女の子は大きな声を上げた。
「きゃああああ!え?うそっ!?ライ様とお知り合いなの!?」
「お…おおう?」
「まさかジノさんって、ライ様の部下なの!?凄く筋肉があるし、ジノさんって軍人なんなんでしょ?そうしたら、ラウンズ直属?たしか本国から来たって言ってたわよね!?」
(お、俺が…ナイトオブスリーの俺が、ライの…部下?)
軍でナイトオブラウンズのメンバーのフルネームと顔を知らないものはいない。戦争や軍人に興味の薄い一般人がナイトオブラウンズのメンバー全員の名を知らないことは知っていた。
もちろん、この学園祭も半分、お忍び気分で訪れているつもりだ。しかし、頭ではわかっていても心で納得できないものがある。
ジノはすごくショックだった。
それはもう、ナンパした可愛い子がニューハーフだったことくらい、ショックだった。
「ねえねえ!ジノさん!ライ様の連絡先教えて!私、ライ様のファンクラブに入ってるの!ね…お願い」
「そういえば、ライ様の本国の写真とか持ってる!?お願い、一枚いくら売ってくれる!?」
彼女たちの喜々にとんだ声はジノには聞こえなかった。そう、ジノだけには。
「ねえ、アーニャ、ちゃんって言ったけ!?ライ様の写真持ってる?ねえ、持ってるなら一枚くらい…」
バキッ!
アッシュフォード学園のその女子生徒は、いたいけな少女が片手の握力でデジタルカメラを握りつぶす光景を見た。
少女の背中に迫り来る『何か』を感じ取った女子生徒は言葉を飲み込んだ。桃色の髪をした可愛らしい少女は、周囲の人々が寒気を覚えるくらいドスの聞いた声を発した。
「……行くわよ。三枚目」
半分放心状態であったジノは、アーニャの後ろをとぼとぼと歩きはじめた。ジノは長身であるため、余計に落ち込んだ雰囲気を漂わせていた。
アッシュフォード学園の屋上で、学園中で行われているフェスティバルを観察していた女がいた。
一見、パトロールに出回っている体育教師の身なりをしているが、彼女は軍用の無線機を使って、ルルーシュの動向を監視しているヴィレッタだ。
彼女の胸ポケットで携帯が鳴り、即座に応答した。
「はい。ヴィレッタです」
『久しぶりだな。ヴィレッタ。いや、今はヴィレッタ卿というべきかな?』
思わぬ相手にヴィレッタは驚愕した。一年前の事件で戦死したとされる嘗ての上司の声だった。
ジェレミア・ゴットバルト。
ルルーシュのギアスの最初の犠牲者であり、悲運な運命を辿った男だ。
「ジェレミア卿!生きて…」
『ああ、近々、エリア11に向かうかもしれないのでな』
「えっ!」
(ジェレミア卿が!?エリア11に!?)
だが、目的は分かった。
間違い無く、日本に戻ってきた『ゼロ』の始末である。
しかし、彼は知っているのだろうか。ルルーシュが、ブリタニアの皇子がゼロであったということを。そして、ギアスの存在を…
『…リリーシャはどうしている?』
次々に溢れてくる疑問を余所に、ジェレミアの声と質問の内容はごく普通のものだった。ヴィレッタは双眼鏡を覗く。
高等部の3階の窓際で、お化けの格好をしたリリーシャが、アッシュフォード中等部の制服を着ている少女が涙を溜めている姿を見ながら、腹を抱えて笑っている姿を見た。
「ええ。元気でやってますよ。学校を時々抜け出しているみたいですが…」
『…相変わらずだな。我が妹は』
ジェレミアの声色から安堵の感情を感じ取った。その一言だけでヴィレッタの張りつめた緊張感は、溶けていった。
妹を想う気持ちが電話越しにありありと伝わってくる。ヴィレッタは口元を緩め、話を切り出した。妹の安否のためだけにこの秘匿回線を使用するはずがない。
「用件はそれだけですか?」
『ああ。妹を心配するのは悪いか?』
ヴィレッタはまた呆気にとられた。
(…昔と変わっていない)
思わず、彼女は表情を綻ばせた。
「いえ…ジェレミア卿がお変わりないようなので、少し安心しました」
『違うな。間違っているぞ。ヴィレッタ』
そして、彼女の体に緊張が走った。重く響くジェレミアの声は、彼女の胸を突き刺した。
「…え?」
『私は変わったよ。ヴィレッタ。私はもう戻れないのだ。無論、引き返す気も無い。貴殿と同じようにな。では健闘を。オールハイル・ブリタニア』
唐突に電話を切られた。一定の電子音が鳴り響き、ヴィレッタは携帯電話を耳に近付けたまま、手が固まったまま動かない。
ゆっくりと手を動かし、『No Number』と表示された携帯の画面を見ながら、ヴィレッタは小さく呟いた。
「…ジェレミア卿」
学園祭に訪れていたC.C.を捕まえたルルーシュは学園の裏側に来ていた。制服姿のC.C.は
愛らしいが、ルルーシュはそんなことには気にも留めず、話を進めていた。
「カレンはどうしている?」
「訓練に身を投じているが、心のほうはまだケアが必要だな」
「…そうか。藤堂たちの完全復帰はまだ難しいな。カレンが使えないとなると黒の騎士団の戦力は大幅に落ちる」
「ラクシャータとレナードが突貫作業で月下や暁を整備している。フロートユニットを装備できるナイトメアは30機程度はあるはずだ」
レナードと言う名前を聞き、ルルーシュは中華連邦領事館での彼とのやりとりを思い出していた。
背が高く、長い金髪を結わえた髪形に凛々しい顔立ちは、30代後半の年齢とは思えない
ほどであった。黒の騎士団の幹部奪還の際には、彼が指揮を取っていたらしく、事務能力も優秀であり、リリーシャが右腕として傍に置いていた人物である。
「レナード・バートランド…EU屈指の軍事企業、バートランド社の総帥、マテュー・バートランドの御曹司…あいつは使えるのか?リリーシャは大層気に入っていたが…」
「EUの航空技術は世界一だからな。今、黒の騎士団のナイトメアに装備しているフロー
トユニットはレナードが開発した最新鋭の機材だ。
それに、あいつは航空戦術の指揮能力もある。かなり優秀な男だよ。かつてのカレンのように、ゼロに心酔しているところを除けばな」
『かつての』カレンと言われたことがルルーシュの胸に響いた。今のカレンが信じているのはルルーシュではない。二代目ゼロであるリリーシャでもない。
ライ。
心から愛し、尊敬する彼一人だけなのだ。現在の情緒不安定なカレンは、いつか黒の騎士団を裏切ってライの下についてしまう恐れすらあった。
「レナードはEUの堕落した政治と軍部に嫌気がさしていた。ブリタニアに飲み込まれることを予見していたあいつにとって、ゼロは救世主だったらしい…」
「…リリーシャに魅了されたのか。あいつも大した女だ」
ルルーシュは彼女に対して複雑な思いを感じた。彼女こそ、ルルーシュが抜けた黒の騎士団を再建した張本人だ。
彼女がいなければ、黒の騎士団は壊滅し、ルルーシュは永遠に虚無の平和に捉われたままであっただろう。
しかし、黒の騎士団を壊滅に追いやったのも、他ならぬリリーシャだった。
反特区日本の組織である『新日本党』を裏で操り、特区日本の主軸であったユーフェミアもろともルルーシュを殺そうとした。
ユーフェミアは部下の凶弾に倒れ、スザクと対峙した。
そして、ライまで…
だが、ルルーシュにはリリーシャを憎む資格はない。なぜなら、リリーシャもまた、自らが生み出した犠牲者の一人だったからだ。
もし、自分が彼女の立場であればと思うと、胸が締め付けられるような思いがした。
『悲劇は連鎖する』
誰が言った言葉なのか、ルルーシュは強固な意思が揺らぐほど、自らが起こした行動の責任を改めて感じていた。
だが、彼はもう立ち止まれない。引き返せもしない。
(…ならば進むしかない。どんな犠牲と罪が待っていようとも)
ルルーシュは思考を切り替え、C.C.に話を切り出した。
「C.C.…皇帝にギアスを与えた奴を教えろ」
「…もう、引き返せなくなるぞ」
上目がちに言葉を発したC.C.を見て、ルルーシュは鼻で笑った。
「ふん、何をいまさら…それに、リリーシャはもう知っているんだろう?ならば同じ契約者として、俺にも聞く『義務』があるはずだが?」
彼は『権利』と言わずに『義務』と言った。
ルルーシュの意志の固さを知ったC.C.は、一瞬躊躇って、口を開いた。
「V.V.…」
「V.V.?そいつが皇帝にギアスを与えた奴か」
「…そうだ」
「リリーシャにもギアスを?」
「……いや、違う」
「お前みたいなやつはそのV.V.という奴以外にもまだいるのか。まったく、世界はひろい…」
「有り得ないんだ…」
ルルーシュの声を遮るように魔女は独白した。
彼女は白い指に力をこめ、心を抑えつけるように拳をつくった。
「一体どういうことだ?」
「リリーシャにギアスを与えたやつは…X.X.は…死んだはずなんだ。私たちの目の前で…」
ここまでです。ちょっと修正する箇所が投下寸前に気付きました。
更新止まってすみません。
後半は時間の許す限りがんばって、3日以内に書き終えるつもりです。
それでは
・・・・・・・・・・・・・・
投下以上です。
>>144支援ありがとうございました!
12連投で引っかからなかったのはきっと支援のおかげ
149 :
代理投下:2009/06/18(木) 04:09:05 ID:CnyLSSw1
追記
長くてさるが恐かったので
一投稿の区切りの変更と改行を入れさせていただきました。
オリジナルは代理投下スレをご覧ください。
新人さん達は
>>3にある↓をチェックするツールが、トーマス卿の保管庫からDLできる事をご存知でしょうか?
>>1レスで投稿可能な容量
>> ・X:1行の最大 / 255byte
>> ・Y:最大行数 / 60(改行×59)
>> ・Byte :最大容量 / 4095Byte
TOP→通常→保管嚮団→保管嚮団本部入室→SSチェッカー でDLできます。
以下、使い方(紹介された当時のものをコピペ)
1.ダウンロードしたものを解凍する
2.SS.xls を開く
3.SSをテキストエディタで開く → Ctrl A で全文コピー
4.貼り付けシートのH11セルを選択
5.右クリック → 形式を選択して貼り付け → 値
6.レスを区切るところに
<<<<<レス区切り>>>>>
をコピペ(H6セルのものをコピペする)
限界値は自由に変えられます。いろいろお試しください。
以上、勝手ながら紹介させてもらいました。
勿論、自分も愛用してますよ。
>>149 代理投下乙でした!
POPPO卿、乙でした。
薄暗いところの美人の幽霊って結構不気味だと思うんだけどなぁ……
ジノがあまりにもあわれ……真面目に三枚目な雰囲気が滲み出そうになっている。
事前に連絡をとるジェレミア、「もう戻れない」それが意味するところは自らの体のことか、それとも……
最後に、代理投下乙でした!
>>148 POPPOさんへ
下記は自分が代理投下スレに書きこんだ意見なんですが、これまでの傾向からみても
パソコンの使用時間が限られてるというPOPPOさんがご自身の投下依頼後の流れを追う可能性は
かなり低い気がするので、あえて本スレに転載します。
自分の書いたやつしか転載しませんが、できればこれの前の流れも読んで考えてほしいと思っています。
106:名無しさん[sage] 2009/06/18(木) 23:10:32 ID:TFa3ZXIs
本スレにってこと?<お礼
別にこっちでいいんじゃない?
お願いしたんだから、ちゃんと本スレに投下されているのを確認し次第、お礼は言った方がいいと思う。
POPPOさんはパソ使用時間が限られてると何回かいってるけど、
それでも次に頼むときに前回のお礼をアンカー引っ張って言うことはできるし、そうすればいいのに、と思ってる。
職人さんがSS書いたから読んでほしい、感想がほしいと思うのが当たり前なくらいには、
代理投下してくれた人にお礼を言うのは当たり前だと思うよ。
てか代理投下に限らず世間一般の話として、お願いとお礼はワンセット。
まして、次もお世話になるかもしれないんだし、その辺はキチンとしとくべきかと。
それに実際に代理投下した人以外だってここを見ている。
読んでる人、感想書いてる人だってSSだけ読んでるわけじゃない。
職人さんのそういうところを見て失望すれば、SSを読んでも感想書く気になれなくなったり、
SSそのものを読む気になれなくなることだってある。
次も気持ちよく代理投下してもらうため、気持ちよく読んでもらうため、
気持ちよく感想を書いてもらうためにも、最低限の礼節は弁えるべきだと思うよ。
夜分遅くにすみません
コードダブルXです前回の続きを投下させてもらいます。
あとがきと設定をあわせておそらく9スレぐらいだと思います。
第2話 4大騎士
注意 オリキャラが出ます
レイナスはEUの基地制圧を歩兵部隊に任せて旗艦であるデメテルへ帰還しながら今までの自分の過去を思い出していた。
自分の両親のこと、父親は軍人で自分が15才のときに戦死した、また母親は物心つく前に病気で死んだと聞いている。
自分は16才のときに士官学校に入りそこを首席で卒業した、その後EUや中華連邦との戦いで武功をあげ1年前にエリア11で反乱をおこした
仮面の男ゼロを捕まえた少年、枢木スザクと同じ日にラウンズに昇格した。
その後もあちこちの戦場に行き、そして自分に忠誠をつくしてくれる猛者たちと出会った。
彼等は命がけで自分を守ると言った。ならば自分も命がけで彼らを守ると心に決めている。それは仲間を失いたくないという彼の純粋な気持ちから来ている。
目の前の青空に漆黒の戦艦が現れた、レイナス達の旗艦デメテルである。この艦は見た目こそ大きいが機動力は並の戦艦を遥かに超えており、その機動力は世界一と言われるほどである。
この艦はキャメロットのロイドに自分の部隊の戦闘データ提供のかわりに開発してもらったのである。
最初にこの条件を出した時レイナスはあまり期待してはいなかったのだが、ロイドからの返事は。
「いいよ〜♪、いろんな面白いデ〜タがあつまりそうだからOK〜」と簡単にOKしてくれたのである。
ちなみにその莫大な開発資金はレイナス達が払っている。
余談であるが彼らの給料は普通の人が見れば狂乱してしまうほどの額なので安心してもらいたい。
旗艦から通信がきた、通信用モニターに現れたのは軍帽をかぶった短い茶髪の男性アデス・バルクである。彼はこの旗艦デメテルの艦長である。
「隊長お疲れ様です。おみごとな戦いでした」
アデスは低く落ちつた声でいった、それ対してレイナスは静かに返事をした。
「ありがとうアデス。あとほかの皆は帰還しているかい?」
「は!、リーラ卿、レナ卿、ガルド卿、カリウ卿、各卿すでに帰還されております 」
「そうか……わかった、ありがとう。格納庫のみんなに伝えてくれ、今から入る機体の整備を頼むと」
「Yes My Lord」
アデスはレイナスの言葉に強く答えた。
クラブが格納庫に入りレイナスがコックピットから出てくると1人の少女が走ってきた。
「レイナス様〜、お疲れ様です〜!」
「レナか……」
亜麻色の髪で小柄な体に黒い騎士服を着た、幼い顔の少女レナ・アリアンが手に持っていた濡れたタオルとドリンクの入ったペットボトルを差し出してきた。
「はい、どうぞ〜」
レイナスはそれを受け取ると彼女のショートヘアの髪をお礼を言いながらやさしくなで仮面を外してタオルで顔を拭いた。
「ありがとうレナ、ちょうど喉が渇いていたんだ」
髪をなでられたレナは頬を染めて満面の笑顔で
「へへ!、ナデナデされちゃいました♪」
と、とても嬉しそうに笑った。
その後ろから、小柄な彼女とは対照的にレイナスより頭1個分大きく、また彼女とは少しデザインの違う黒い騎士服を着た、
精強な顔と黒髪の長髪を後ろで束ねている男性、ガルド・ベリトが歩きながら口を開いた。
「レイナス様、お疲れ様です。作戦成功おめでとうございます」
レイナスはドリンク飲み終え、それを近くにあったゴミ箱に捨て返事をした。
「ガルド、君もお疲れ様。後方の基地攻略の指揮ありがとう、おかげでこっちもうまく言ったよ」
「いえ、あれはレイナス様の作戦あってのものです。自分はほとんど何もしていません」
レイナスの返事ガルドはかしこまって返事をした。
「そんなこと言うなよ、君がいたから安心して出来たんだ、素直に受け取ってくれ」
この言葉を聞きガルドは表情を和らげて。
「もったいなきお言葉です、ありがとうございます」
と頭を下げながらいった。
それを横で見ていたレナは両手を胸の前で握り
「レイナス様、私は?、私はどうでした?」
と弱々しく聞いてきた。
「うん、君もよくやってくたよ。レナありがとう」
とレイナスはまた彼女の亜麻色の髪をやさしく撫でる。
「また、ナデナデされちゃいました♪」
レナはさっきよりも嬉しそうにそういって笑った。
ガルドはニコニコ笑っているレナを見てもう大丈夫だなと思った。
この少女、半年前に両親を不慮の事故で亡くしている。その時の彼女はレイナスの指揮下にいたが両親が死んだと聞いた彼女は自分の部屋に引きこもり出てこようとはとしなかった。
それに対してレイナスは。
「僕にも父と母がいない、僕にもその悲しさは分かる。僕が傍にいる、僕が君を悲しませはしない」
といった。この一言でレナは元気を取り戻した。
ちなみに、この言葉を聞いたガルドは(これは聞き方によってはプロポーズではないのか?)と思った。しかし彼はこんな事でも平然と言ってしまう天然だった。
そんなことを思い出していると近くにあった端末から通信が入った、その通信はブリッチにいたリーラからだった。
「主、シュナイぜル殿下から通信が来ています、ブリッチに来てください。あとレナとガルドにも来るようにいってください」
「分かった、ところでカリスは?」
「すでにブリッチに来ています、あとは主達だけです」
「わかった、着替えたらすぐに行くよ。」
レイナスは端末を切り仮面をつけ2人の部下とともに早足で格納庫をでていった。
レイナスが騎士服に着替え漆黒のマントをつけてブリッチに来るとそこにいた隊員は皆一同にレイナスに対して敬礼をした。
「レイナス様、お疲れ様です」
緑色の髪をオールバックにし目つきが鋭い男、カリス・サレイオスが話しかけてきた。
「あれ、カリスその顎どうしたの?」
よくみると彼の顎には絆創膏がはられている。
すると横からリーラが少し小馬鹿にしたように。
「この男、先ほどの戦いで自分が一番撃墜数が多かったためか…コックピットから出るときに足を滑られてしまい、
操縦桿に顎をぶつけたのです」
「このアマ!、それは言うなと言っただろが!」
突然口調が悪くなるカリス。この男見た目は怖く、戦闘好きで言葉は乱暴な所はあるが仲間思いの人間である。
「はいはい、喧嘩しない2人とも」
それをいつもの事だというように治めるレイナス。
「イクス卿、シュナイゼル殿下から通信が来ています」
オペレーターの言葉とともに通信用のモニターにシュナイゼルの顔が写った。
「やあ、イクス卿、任務ご苦労だったね。この作戦の成功は君の隊のおかげだ、ありがとう」
シュナイゼルが微笑みながら静かにいった。
「はい、ありがとございます。ところで殿下、僕た……我々はこのあとブリタニア本国に帰還して良いのですか?」
「ああ、あとは私に任せてくれればよい、君たちは本国に帰還して英気を養ってくれたまえ」
「ありがとうございます。部下たちも喜びます」
すると、シュナイゼルはレイナスの仮面を見ながら。
「皇帝陛下の命令とはいえ、いつもその仮面をしているのは辛くないかい」
「もう慣れました……、それにいつもと言ってもテレビや写真にうつる時や仕事中にかけていろと言われています」
「プライベートの時は?」
「一応持ってはいますが……かけません」
「そうだろうね……ところで私が本国に帰ったら、またチェスをしないかい?」
「また……勝たせてもらいますよ?」
「フフフ、この前は負けたけど……2回目は無いと思ってくれ」
「覚えておきます………」
「良い返事だ……ではまた本国で」
そういうとシュナイゼルからの通信は切れた。
レイナスは通信が終わると後ろを向き、自分の部下の4大騎士を見て喋り始めた。
「みんな御苦労さん、聞いてのとうり本国に帰るよ。次の任務はまだ未定だから今のうちにゆっくり休んで欲しい。」
その言葉が終わると同時にリーラがレイナスの腕を掴み、自分の豊満な胸に押しつけながらしゃべった。
「では主、約束どうり私と"デート"ですね」
いきなりの爆弾発言。
「え?、あ!」
そうだ、思い出した。確か前にあまりにもしつこく言ってきたのでしぶしぶOKしたことをレイナスはスッカリ忘れていた。
「う……わかったよ、リーラ」
「フフフ、どこに行くかはあとで"二人きり"で決めましょうぞ♪」
二人きりをやたら強調するリーラであった。
それを聞いたレナは頬を膨らませて。
「む〜、私もレイナス様と"デート"するー!」
こちらも爆弾発言。この2人ここがブリッチであることや他人ことなどお構いなしである。
「まてまてレナ、私の方が先に約束していたのだ。早い者勝ちだ」
「でも、私だってレイナス様と"デート"したい!」
「私の後にすればよかろう?」
「う〜、でも〜」
この2人、本人の同意無しに勝手に話を進めている。
ブリッチのあちら、こちらでひそひそ話が聞こえる。
「リーラ卿はああ言っておられるが、イクス卿はどちらを選ぶと思う?、賭けないか?」
「俺はリーラ卿かな」
「じゃあ俺はレナ卿だ」
「レイナス様とデート……うらやましい」
「よし、私も今度約束してみよ!」
と、各自それぞれ色々なことを言っている。
さらに艦長であるアデスとその親友で4大騎士の1人であるガルドまで。
「確かに……、あの仮面のままで街に出れば変質者と呼ばれるのでは……なあガルド?」
「言うな……、本人が一番気にしているのだから……」
レイナスは心の中で(二人ともそういうのは僕の聞こえないところでいってよ……)と思っていた。
カリスはというと……すでにいなくなっていた。
余談であるが彼は以前に2人の恋する乙女(リーラ&レナ)の斗いに口を挟み、ボロ雑巾のようにされた過去がある。
そんなことを思っているうちに2人の少女(リーラ&レナ)が話しかけてきた。
「こうなったら、主に決めてもらいましょう!」
「わかりました、レイナス様が決めるなら文句は言いません!」
「主!、どっちにしますか」
「レイナス様!正直にいってください!」
「え、いや、その……」
「「ファイナルアンサー!」」
レイナスは内心びくびくしながら、静かに。
「じゃあ、2人一緒にというのは……」
と彼も爆弾発言。
それに対して2人の恋する乙女(リーラ&レナ)は。
「主がそう言うなら私は構いません……」
「私もレイナス様がそう言うなら……」
と、二人とも頬を染めて答えた。
それに対して周りは。
「くそー、はずれたー!」
「ちょっとまて、これは無効じゃないのか?」
「まさかの両方だと!、両手に花とはこの事かー!」
「ああ、お二人とも羨ましい…」
「私だって、私だってー!」
親友組(ガルド&アデス)
「やはり、あの方は天然女殺しだな……」
「私が知る上での女性撃墜数は100を超えておられる……」
など、ある意味?ものすごい会話をしていた。
「レイナス様、どこに行くかこれから決めましょう〜」
レナがニコニコと嬉しそうに言ってくる。
「主、私の部屋にデートスポットの資料がありますよ。行きましょうぞ」
リーラはそう言って、レイナスの手をつかみブリッチから出て行った。
それを見てレナも
「あ!、二人きりにはしません!」
と言って、彼女も後を追って出て行った。
彼らが出ていった扉をみながらブリッチの皆は苦笑いをした。
「レイナス様も災難なことだ」
溜息をつきながら自分の上官の事をいうアデス。
それに対してガルドは、手を組み答えた。
「まったくだな」
「あの人はこれからも女難に悩まされるだろうな」
アデスは上官の不幸に少し同情した。
第2話 END
次回予告
ついにレイナスと恋する乙女(リーラ&レナ)とのデートが始まる。
しかしレイナスはどこに行けばいいのか分からない、そこで"彼ら"に相談することに。
そしてデート当日、何故か行く先々でトラブルにあうレイナス達。
そして彼らを追う謎の影達の正体は?
「こちらエヌオー3、目標を発見…」
「こちらエヌオー9、よっくやったエヌオー3我々もそちらへ向かう!。よし行くぞエヌオー6」
「……わかった」
「主、どうしました?」
「レイナス様、何キョロキョロしているんですか?」
「誰かに見られている気がする……」
次回 第3話 ダブルデート? レイナスの災難
では下記より設定資料を投下します。
登場人物 紹介
レイナス・アルヴィン・イクス <19> 男
このSSの主人公で銀髪で蒼眼の少年。
高い指揮能力と高度な状況判断能力に加えて常人を超えたKMF操縦技術をもち、EUや中華連邦などの戦いで活躍
ナイトオブセブンである枢木スザクと同じ日に若くしてナイトオブツーになった。
マントの色は漆黒。
常に戦況を先読みしてそれに対して最も良い判断を味方にだす超一流の指揮官でもある。また単騎で敵の前線基地を落としたほどの猛者でもある。
基本的に自分よりも部下や味方を大切するタイプであり味方の危機ならば単騎駆けをしてでも助けに行く。
皇帝から受け取った、額から鼻のあたりまでを隠す銀色の仮面を付けており素顔を知る者は部下やラウンズのメンバーや1部の皇族以外はいない。
このため「仮面の騎士」とも呼ばれている。またなぜか軍の公式なデータに彼の事はほとんどのっていない。
父と母はすでに他界しており、現在はラウンズ昇格時に与えられた屋敷で部下2人と暮らしている。
中華連邦やEUでの彼はクラブをとうしてその機体の色から
ブリタニアの蒼い戦神として恐れられている。
ランスロット・クラブ 愛称はクラブ
クラブはレイナスの高い指揮能力に合わせてキャメロットに戦闘データ提供のかわりとして、ランスロット量産型の試作機として
各種センサーやレーダなどを重点に強化し試作パーツなどを使って作られた専用機である。ヴィンセントのプロトタイプともいわれている。
ランスロットと同じくサクラダイトを贅沢に使っており出力はほぼ同じである。
武器は日本刀タイプの強化MVS<夜照光>、強化可変ライフルヴァリスなどである。このライフルは通常モードと狙撃モードがあり、狙撃時はエナジーの消費が高いと
いう欠点があったが戦艦の艦上で戦艦からエナジーをもらうことで解決した。これは狙撃とは「相手の気づいていない時にしてこそ効果的」という、レイナスの考えである。
またリミッターがついており、これをパスワード入力で解除することでスペックの数倍以上の性能を引き出せるが搭乗者や機体への負担が大きい。
ロイドによる魔改造で日々改良されており、その結果レイナス以外では動かすことすら出来なくなってしまった。
機体の色は白と青。
ライ <推定18〜20> 男
黒の騎士団でゼロの左腕と呼ばれた少年。
戦闘隊長兼作戦補佐の地位で総帥であるゼロや他の団員から絶対的な信頼を受けていた。また右腕と呼ばれる紅月カレンとは騎士団の双璧とよばれており、
戦場では青い月下に乗り戦略ではゼロ、戦闘ではカレンと同等の力をみせる。
しかしブラックリベリオンで撤退する味方のため脱出路の橋を死守し単騎であったが奮闘し守りぬいた、最後は追撃部隊を巻き込こんで自機の輻射波動で橋を
破壊、自身も追撃部隊もろとも海に消えた。
それをみたコーネリア親衛隊の隊員に"蒼き守護神"といわせたほど。
ブリタニアの公式発表では「死亡」とされている。
投下終了です。
描写がまだまだ下手ですいません。
感想を待っていますお願いします。
>>161 投下お疲れ様です。
ちょっと読みにくい感じがしました。
例えば
>>それを見てレナも
「あ!、二人きりにはしません!」
と言って、彼女も後を追って出て行った。
こういう感じよりも
>それを見てレナも、「あ!、二人きりにはしません!」と言って、彼女も後を追って出て行った。
とやった方が読みやすいんじゃないかなと思います。
特に、こういう感じで段落に分けてやってしまった場合、似たような感じの文章が固まっていると読みにくいと思います。
(155の真ん中当たりとか)
それと台詞だけが集中している場合、どれが誰の台詞か判りにくい感じがしました。
ゲームとかの場合は、これでいいのかもしれませんが、SSではわかりやすくしたほうがいいと思いますよ。
(ゲームの場合は、キャラ絵や誰の台詞かわかるようになってますけど、SSや小説ではないですからね)
基本、読みやすさ、判りやすさを考えて文章を作るようになると、もっといいんじゃないかと思います。
後、設定資料ですが、メカはともかく、キャラはいらないんじゃないかな。
どうらなら、文章の中で、それをわかりやすく見せる方にした方が良いですよ。
基本、設定資料見ないとわかんない話では面白さも半減だし、なにより読んでいる人がキャラに愛着湧かないと思います。
だから、設定資料がなくてもわかりやすく面白いというのを目指してください。
後、もし文章の中のキャラと設定資料が違ってきたらどうします?
こういうのは、公開しないで、書くときに自分で参考にする程度で押さえておくといいと思います。
厳しいことばかり書きましたが、まだまだ伸びると思いますので、がんばってください。
あと、本スレッドの最初の方にある注意書き等をしっかり読んで、実行してください。
特に2の「■SSを投下される方へ 」はしっかり読んで実行すると良いですよ。
このスレッドは、職人だけでも、読者だけでもうまくいきません。
お互いに気配りあって、楽しいものにしていきましょう。
要するに、ネチケットは守りましょうという事です。
今度の投下の時は、トリップをきちんとつけてやってくださいね。
>>161 コードダブルX卿、乙でした。
オリキャラが出ます、というかオリキャラメイン……序盤だから仕方ないね。
ブリッチ→ブリッジ、どうり→どおり、ですね。
あと >一番撃墜数が多かったため >足を滑られてしまい 滑らせて、の間違い? というかなんの因果関係が……テンション上がってミスったのか?
次の投下を待っています。
18禁&801板のあしっど作品が削除されてませんのでトーマス様、削除をお願いします。
メニューの方がそのままです修正をお願いします。
SS更新一覧の方がそのままです。
記憶改変ギアスのように痕跡を残さず消し去ってください。
正直、オリキャラ【しか】出ていないの上に作品通して主人公位置なのは一寸不快
序盤だから仕方ないにしてもだ
あと設定自体も、もう少し抑えた方が後々動かしやすいキャラになると思います
最初にキャラ設定を多く付けると、中盤からそれが枷となってしまいます
小・中学生が描いたキャラで、やたら厨な設定が一杯付けられた物と思い浮かべて見てください
それらは大概最後まで行きません、途中で飽きてしまうからです
色々苦言を言いましたが、他キャラから見たロスカラというのは余り無いのでこれからを楽しみにしています
さすがに、枷になる云々は大きなお世話のような気がするけどな。
設定資料的なものを出してた人はこれまでにも結構いたわけで、
今回特に厳しくあたる理由もないと思うのだけど
>>161 乙でした!オリキャラが出てくる話はバランスの取り方が難しいと思いますが、頑張って下さい。
個人的には話の中でキャラの設定をムリ無くだせるようになればいいなぁと思います。
>>168厳しくあたるというよりは、こうした方が面白くなるじゃない?的な事だと思った。期待の裏返しだと思うよ。
9時くらいから投下したいと思いますー
どうぞよろしくー
時間になったようですねー
・タイトル
【■ アイサツ ■】
・主要人物
【スザク】
・ジャンル
【後日談系】
・注意点と警告
【自己満足注意】
全10レスです。一応支援などいただけたら
続きでなくてすんません。データ消失のせいで続きの方は投下できねーです
以前書いたもののお蔵入り直行した代物です。色々微妙かもしれませんが、だったら投下すんなという優しいツッコミはなしの方向で
支援
しえん
支援させてもらうだろ、JK
■ アイサツ ■
「今日はここまでにしておこうか」
藤堂先生の声はたいして大きくもないのに道場の奥の奥までよく通る。
「ありがとうございましたッ!」
最後の力を振り絞ってっていうのは大げさすぎだろうか? 俺は少なくとも形だけはピシっとした直立不動の姿勢をとって先生に締めの一礼をしてみせた。
「んっ」
頷く先生。その厳しい顔はすぐに柔らかな笑顔に変わる。
「ぷっ…、はあぁぁぁぁぁぁっ!」
それがいつもの合図だ。俺は張り巡らせた力を体中から抜いて、道場の床に転がり込んだ。
「だらしないぞ、スザク君」
先生は笑っている。そうは言うけど今日の練習はいつもにもましてハードだったじゃないですか。
喉元まで出掛かった言葉を飲み込んで、俺は「面目ないです」とだけ返事した。
「今日の修練はいつもにもまして厳しかったんだからしょうがないとでも言いたげだな」
やれやれ、お見通しか。
「先生にはかなわないなぁ」
袴の裾を踏まないように立ち上がり、俺はもう一度先生に礼をした。
「藤堂先生、次はいつくらいに稽古をつけてもらえるんですか」
そうさなぁ……と先生は顎を手で撫でながら考え込む。
「来週はムリだな。早くて再来週…、月が明けた土日くらいになるか」
「また遠くまで出稽古ですか?」
俺の言葉に藤堂先生は苦笑する。
「あぁ、片瀬さんからのお声がかりでな。あっちこっちの部隊から指導だなんだと呼ばれて困る」
これじゃ軍を辞めた意味があんまりないなぁと、また先生は笑った。
「でも、タダで旅行が出来るわけなんだから結構楽しみなんでしょう?」
「………」
急に神妙な顔つきになる。
「先生?」
「実はな、スザク君」
先生がズズイっと寄ってくる。
「それがあるから断らんのだよ」
思わず噴き出した。藤堂先生はたまにこんなことを言って俺を笑わせる。冗談など欠片も言わなさそうなその顔で突然やられれば、そりゃあ盛大に噴くってもんだ。
「でも先生。出稽古だなんだで外にばっか出ていると、また千葉さんがヘソを曲げちゃいますよ」
うっと先生は言葉につまったようだ。どうやら多少は気にしているらしい。
「早いところ安心させてあげないとダメですって」
「子供には関係ないことだぞスザク君!」
おっと痛いところを突かれたせいか反撃モードのようだ。ヤバ目の雰囲気になる前に撤退した方がよさそうだな。
「じゃあ今日はこれで失礼しまっす」
俺は一目散に逃げ出した。
・
・
・
藤堂道場を出て、俺はすぐに街の方へ向かった。
時間は4時半。みんなとの待ち合わせには少し遅れてしまうか。
『まぁ、いいや』
「そういうわけにもいかない」
頭に浮かんだ言葉を口に出して打ち消す。そうだとも、そんなわけにはいかない。
時間は守る。最善を尽くす。それが俺のルールだ。
第一……、
「時間に遅れたりしたらうるさいんだよな、あいつ」
そう思うといっそう駆け足に力が入る。
よし、100m10秒台を誇り、壁すら走れると豪語できるこの健脚の威力を見せてやろうじゃないか。
俺は全力スプリントで待ち合わせ時間に間に合うべくがんばったのだが、
「遅かったな。5分40秒の遅刻だ」
それが俺の頑張りに対するルルーシュの労いの言葉だった。
支援!
しえん
「ルルーシュ、お前には人間的な優しさってもんが足りないんだよ!」
「うるさい。遅れてきておいて第一声がそれか? スザクの脳内辞書には謝罪や反省って項目はないと見えるな」
「なにを!!」
「なんだよ!!」
角を突き合わせる俺たちの間にユフィとシャーリーが割って入った。
「喧嘩腰はダメ! スザク!」
「ルルも顔を合わせたそばからケンカしないの!」
フンっと俺たちはお互いに顔を背ける。
「ほんっとに顔を合わせればすぐケンカなんだから。ルルもスザクくんも!」
ねーっとシャーリーはユフィと顔を合わせる。
「しょうがないだろ。スザクがバカなんだから」
「ルルーシュが陰険なのが悪いんだよ」
カチンときた。
「なんだと!?」
「なんだって?!」
俺たちはまた角を突き合わせる。
その時だ。
『───────────────────ッ!!!』
背筋にゾクっとするものが走った。
「スザクッ! ルルーシュッ!!」
あぁ、なるほど。
人間、本気で怒ると、本当に髪の毛が逆立つもんなんだなぁ。
あぁ、それにしても。
「いいかげんにしなさぁーいっ!!!」
ユフィは本気で怒ると、怖い。
うっかりしてるとこれはヤバイ。ぜったい忘れないようにしておこう。
「で、どうするんだ。すぐに行くのか?」
「いや、まだ時間はある。どこかで時間を潰してから行こうか」
そんなルルーシュに「だったら少しくらい遅れたってよかったんじゃないか」と思わずこぼす。
フンっと息を吐いてルルーシュも「余裕のあるなしの問題じゃない。要は約束はキチンと守るという人間としての基本的な…」
お互いに言葉を止める。
「ま、まぁそんなことはいいか」
「そ、そうだね。水に流そうじゃないかルルーシュ」
ぎこちなく聞こえるのは気のせいだ。なんせ俺たちは仲の良い親友同士だもんな。
だから背後でユフィとシャーリーが深くため息をついたのも気のせいのはずだ。
「とりあえずいつものとこに行くか」
・
・
・
こうやって四人で歩くのはなんだか初めてのような気がする。
そんなことを言ったらまたルルーシュが「お前は何を言ってい……」何かを言いかけて、シャーリーに腹パンチを喰らって呻いていた。
「大体はいつも一緒じゃない。生徒会室とか…クラブハウスとかで」
そうだっけとユフィに返事をして、俺はそういえばそうだったなと一人で納得する。
「どうして初めてだなんて思ったんだろう?」
「脳みその中まで筋肉が侵食し……」何かを言いかけたルルーシュがユフィにみぞおちを突かれて呻いていた。
うわぁ、容赦ないな。
「ルルーシュ、学習しろよ」
「こういう性格なんだよ、俺は」
あ、へこたれてない。意外と強いな、貧弱なのに。
そう思ったけれど、俺は口には出さなかった。矛先がこっちに来たらヤだもんな。すまんルルーシュ。
そうこうじゃれている間に目当ての場所に辿り着いた。
【TAMAKI's BAR】
バーと言っても昼間は喫茶店をやっている。だべるにはちょうどいい店だ。
「なんだ、またお前らかよ」
皿を拭きながら振り返ったマスターがこちらを一瞥して言う。言葉とは裏腹に嬉しそうなのは店があまりはやっていないからなんだろう。
「こんにちは玉城さん」
「お邪魔しますね」
「とりあえずピザだな、ピザを頼む」
支援
いえん
座る前から注文するルルーシュに噴く。
「ルルーシュ、またピザ?」
「しょうがないだろ。この店はピザくらいしか美味いものがない」
「聞こえてんぞ〜、ガキども!」
カウンターの向こうから玉城の声が飛ぶ。
「聞かせているんだよ」
どっかで聞いたことがあるような切り替えしだ。ルルーシュのやつ最近ネットばっかりやってるってシャーリーがこぼしてたもんな。
「うっせーぞ、ルルーシュ!」
「悔しかったら美味い紅茶の一杯でもいれてみるんだな。それまで俺はピザ以外を注文するつもりはない!」
「わたしアメリカン」
「わたくしはオレンジジュースをお願いしようかしら」
ルルーシュが俺を振り返る。
「スザクはどうするんだ?」
俺も答えはすでに決まっていた。
「ミックスピザをサラミ大盛りで。あと水」
夏の日差しは夕方が近付いていても強い。色のついた窓ガラスごしでも目に痛い。
冷房のよく効いた店内には相変わらずいつもの懐メロが流れていた。
『もっと流行りの音楽を流せばいいのに』
せめて有線にするとかさ。そんなことを言うと「俺は俺が聞きたい音楽を聴くんだよ。文句あっか?」と逆ギレする玉城だ。
いつかのこと、だから客が入らないんだよなんてと言い返したら、当たり前の様に濡れた台拭きが飛んできた覚えがある。
「なんか失恋ソングばっかりなのもマイナスですよね」との感想はユフィから。
夏の強い日差しのせいだ。冷房が効いていても窓際の席はやっぱり暑い。
「だからね、それはないんじゃないってルルに言ったの」
「もう、ルルーシュったら。本当ににしょうがないんだから」
困った顔で「あぁ、うん」と曖昧に頷くルルーシュに、俺はそろそろ助けを入れてやらないとなと思った。
「ルルーシュ、そのピザ美味かった?」
どっかから「美味いにきまってんだろ」と聞こえた気がしたけど、それはおそらく幻覚だろう。いや、この場合は幻聴と言うべきか。
「まぁまぁだな。いつものマルゲリータの方がずっといい」
そう言ってルルーシュはそのスパイスたっぷりのピザを一切れ俺の皿に乗せた。
「新メニュー“カレーうどんピザ”と言うから期待したのだが……そうだな、69点止まりといったところだろう」
「なにその中途半端な点数」
シャーリーが呆れたように言う。
「カレーうどんという至高の料理をピザにするというチャレンジャースピリットは買うが、そこまでのメニューということだ。一層の努力を要求する」
だけど、その憎まれ口はルルーシュなりの賞賛の言葉なのだ。ルルーシュは素直じゃないのだから。
「うっせーな、絶対美味いと言わせてやるからな」
「望むところだ。早いところ俺の人物評価点を上げさせてくれ」
憎まれ口の応酬をユフィとシャーリーは呆れながらも笑いながら見ていた。
『俺たちの時もそんな風に見守ってくれるだけならいいのに』そう思わずにはいられない。
カランカラーン。
ベルを鳴らして店の扉が開く。
「あっれー? 先輩たちじゃん。なぁなぁカレン、先輩たち来てるよ」
「カレンじゃない! 紅月先輩。せ・ん・ぱ・い、でしょ!」
やれやれ、うるさいのが来たなと俺はカレンにド突かれるジノを一瞥した。
そんな照れることないのにとか言うジノをカレンがやかましいとゲシゲシとド突いてる。
「相変わらずジノには厳しいな、カレンは」
「これが愛情表現なんすよ、カレンは。……あ、垂直踵落としはやめて。洒落にならないから」
隣のテーブルに座ってカレンは顔をしかめる。
「うえ…。あんたたちまたピザなの?」
「それしか食うもんないからな」ルルーシュに「ま、それもそうよね」とあっさり意見を翻し、カレンも結局はピザを頼むのだ。
それもLサイズ。
「………太るよ?」
ドスッ。
さすがカレン。隣に座る相手に座った姿勢からボディブローを繰り出し、尚且つ言葉も発せない程の悶絶に至らしめるだなんて。
「吐くなよジノ。ここは出す所じゃなくて入れる所だからな」
ルルーシュの温かい一言にジノはうめき声で答えた。
支援!
「それにしても客、入ってないっすね」
「うるせぇ、黙れ」
凄んでみせても玉城は玉城。ヘイヘイと舌を出してジノは気にもしない。
「向かいの通りにロイドさんの店が出来てからお客さんをとられちゃった感じなのかしら」
「ま、元々少なかったけどね」
ユフィの分析にカレンがダメ押しをする。
「シャーリーちゃんとユフィちゃんがうちのバイトに入ってくれりゃあ、あんなプリン野郎の店になんか負けねーんだけどなぁ」
カレンとジノにお冷を出して玉城がぼやく。
「……ちょっと玉城、あたしの名前が出ないのはなんでよ」
「おめーはねーわ。客とケンカおっぱじめかねないからな」
「第一シャーリーはそのロイドさんのお店のバイトじゃない」
「そーなんだよなぁ。なぁシャーリーちゃん、うちでバイトしない? ロイドんとこのメイド喫茶なんて辞めちゃってさぁ」
「玉城ッ、無視すんなぁ!」
相変わらずだなぁ。
どこに言っても騒がしくて、ちょっとだけイライラしたり、でもそれがこんなにも楽しい。
シャーリーやルルーシュたちと一緒に大笑いする。
チョイチョイと袖を引っ張られたのはちょうどその爆笑に一段落がついた時だ。
「ユフィ?」
「スザク、もうそろそろ……」
ハっとして時計を確かめる。けっこう時間がたっている。
「ルルーシュ、時間時間。まだいいのか?」
ルルーシュもハッとして時計を見る。ゲッと言うその様子に俺もユフィもやれやれと肩をすくめる。
「なんです? もう行っちゃうんすか?」
「あぁ、これから用事があるんだ」
もしジノが犬だったら耳と尻尾をピンと立てていることだろう。
「じゃあ俺たちも連れてい…うぐう」
カレンのボディブローがまたも炸裂した模様だ。ジノ、ピザが来る前で良かったね。
「いってらっしゃい。またね」
ふむ。
二人きりになるのにカレンも意外とまんざらでもない?
「なんにせよジノは苦労するだろうけどな」
小声でルルーシュがささやく。そうだよなぁと俺も笑う。
「なんすか、なんすか! 二人だけでナイショ話はやめようぜ〜!」
知らねーよっと俺たちは店を出ることにした。
・
・
・
再び街中を歩き出す。
駅前の商店街は週末とあって、夕方にしてすでにそこそこの人出のようだ。
「ねぇねぇ、あれ!」
シャーリーが指差すのは電器店の街頭テレビ。
───次のニュースです。扇内閣の支持率低下が止まりません。NNNの世論調査によると……───
「会長! 相変わらずキレイよね〜。社会の一線で働く女って感じだし、憧れちゃうなぁ」
テレビに映るミレイさんは静かにニュースを伝えている。まさに出来る女って感じだ。
「中身はアレなんだけどな」
またルルーシュはそういうことを言う。
「もう、ルルったらすぐそういうこと言って」
「俺は事実を言ったまで、だ」
やれやれと言わざるをえない。ホントにルルーシュは素直じゃないんだからと。
一言くらい言ってやってもいいかなと声をかけようとした時。
「なんだ君たち。こんなところでどうしたのかね」
振り返るまでもない。ジェレミア先生の声はもう脳細胞レベルで覚えている。
支援
のりこめー^^
「よっ」
だけど、そのジェレミア先生に襟首をつかまれたまま、片手をあげて挨拶するアーニャの姿にはさすがにびっくりした。
「どうしたのアーニャ……」
「みんな、おはよう」
もうお昼も過ぎて、夕方と言っていい時間なんだけど。
「……こんにちは」
あ、訂正した。
「なんのことはない。学生の分際でまたパチンコ屋になど出入りしていたのだ。なので教育的指導のために急行したわけなのだよ」
それはそれは。
アーニャは不本意そうに身じろぎをしている。
「確変、きてた、のに」
それは、それは!
「学生が遊技場に出入りするなど言語道断! 反省したまえアールストレイム君!!」
あーあ、ジェレミア先生って話長いからなぁ。アーニャに同情しかける。その時だ。
突然アーニャが来た道の方へ顔を向けた。
「マリアンヌ先生が、ビスマルク教頭と腕組んで歩いてる…」
「ナニィッッ!!?」
驚くと同時に襟首をつかむ手の力が弛んだんだろう。スルっと逃れてアーニャが反対の方へと走り出す。
「脱出…」
こっちにVサインを出してアーニャはその小柄な体からは想像もつかない速さで脱兎の如くに逃げ出すのだ!
「お、おのれーっ! 姑息、孤立、小癪ッ!!」
すぐに追いかけるジェレミア先生。
「君たちはけっして遊技場などに足を踏み入れるのではないぞおぉぉぉぉぉ………」
行ってしまった。
「相変わらず暑苦しい男だ。しかし…」
ルルーシュがボソっと言う。
「うちのお袋が同僚の教頭と一緒に歩いているからといってなんだっていうんだ? 彼は」
さぁ、とスルーする以外何も言えなかった。多分鈍チンのルルーシュには一生わからないんじゃないかな。
再び歩き出す。
永田陶芸教室の角を曲がって駅の方へと向かう。道路を挟んだ向かいのコンビニにはリヴァルの姿が見えた。
「お、あいつちゃんと真面目にバイトしてるな」
「ルルもバイトくらいしたらいいのに」
シャーリーが言う。
「まぁ、そのうちな」
俺は笑いを表に出さないようにするのに全力を尽くした。
教えてあげたい。実はルルーシュは夏にシャーリーと旅行に行くためにと隠れて必死にバイトをしているんだと。
リヴァルに紹介してもらってあちこち掛け持ちでバイトをしているんだと。
「絶対に言うなよ。絶対! 絶対だからな!!」
ニヤニヤする俺をルルーシュが後ろから小突く。わかってるよと返事する俺にシャーリーもユフィも不審気な表情を見せる。
「ほらほら、早く行こう。行こう!」
二人で駆け出す。駅はもうすぐそこだ。
「もう、二人とも誤魔化すんだからっ!」
シャーリーが続き、ユフィも続く。
「スザクっ! ルルーシュ! 待ちなさぁーい!」
俺はちょっと意地悪な気分になっていた。
「ユフィ、早く来ないと置いていっちゃうぞ!」
笑いながら駅舎に取り付く。階段を一気に駆け上がる。いつの間にかルルーシュは二人に追い抜かれて最後尾だ。
「ちょ、ちょっと…っと、待て…待ってくれ……」
見なかったことにしよう。俺は手早く四人分の切符を買って二人に渡す。
「ルルーシュ、置いてくぞー」
まだ階段を登ってるようだ。
「く、くそっ! この筋肉バカがっ!」
電車に揺られること30分。降りてすぐに乗ったバスで大体5,6分といったところか。
「うわ〜、でっかい劇場ねぇ。ホントにここなの?」
シャーリーの疑問ももっともだ。これは…かなりでかい。
しえん
支援!
誤爆
「こんなでかい劇場なのか…」
「当然だな」
ルルーシュが胸を張る。なんでお前が偉そうなんだ。
でもそれは黙っていた。ユフィもシャーリーも笑っていたし、俺も笑っていたからだ。
中に入って案内所を探す。別に歩き回る必要はなかった。すぐに見つかった。
「いらっしゃいませ。どうかしたかな?」
長い黒髪の女性が案内所の受付をしてるようだった。何の気なしに見た名札には【井上】。
「今日の公演なんですけど……」
ユフィが口を開く。
「ごめんなさいね〜。開演は7時で、開場は6時半なのよね」
あ、いや。そうではなくて…俺が言うまでもなく「主演の身内なんだ。楽屋までの道を案内して欲しいんだが」ルルーシュが少し苛立ち気に要件を告げていた。
「あら、そうなの? やっだ、それ早く言ってよ」
随分フレンドリーな人だ。
「エレベーターを通り過ぎて最初の角を曲がって真っ直ぐ行けばスタッフオンリーの看板あって、ガードマンいるからそっち行ってくれるかな〜」
私の方から連絡つけておくからね、井上さんはそう言うと近付いてきた別の客に振り向いた。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」
「HiTV芸能部のディートハルト・リートです。残りの機材の搬入はこちらからでよろしいんでしょうかね」
どうやらもうこちらの相手をしている訳にはいかないようだ。
「とりあえず行ってみましょうよ」
ユフィに頷いて俺たちは劇場の中を歩き出した。
「なんかドキドキするねぇ」
「お、俺は全然緊張なか…なんかしてないからな」
手と足を一緒に出しながら歩いても説得力はないよ、ルルーシュ。
でも確かにドキドキするな。自分が何かをするわけでもないのに。
なんか一種独特な空気とでも言うのだろうか。段々と僕もふわふわとした緊張感に包まれてくる!
「君たち、この先は関係者以外立ち入り禁止だぞ…。ふむ、受付から連絡があった子って君たちか?」
角を曲がると同時に声がかかる。
声の主はオレンジ色の派手々々しい頭。その見た目はとても堅気とは思えないけど、格好は確かにガードマンだった。
「あぁ、主演の身内で上演前に楽屋を訪問する約束をしている。そこの先が楽屋なんだな?」
ほう、とオレンジ頭は少し考えるような仕草をした。
「その話なら事前に聞いている。つまり君たちはルルーシュ君とその友人たちと言うわけだ」
聞いているなら尚のこと話は早い。オレンジ頭のガードマンは脇にどいて、僕たちを通してくれる。
「大事なものとは何だ? そう、それは、身内だ! 大事な人を大切にしたまえよ!」
見た目に反して意外といい人だったみたいだ。軽く礼をして僕たちは楽屋へと向かった。
そして辿り着いた楽屋の名札を確認してノック……「ま、待てスザク。ここは俺が」ルルーシュがまったをかけた。
「そんなの誰がノックしたって一緒じゃないか。今、俺が…」
「違うな、間違っているぞスザクッ!! ここはこの俺こそがノックをするのにふさわしい…!」
コンコン
「ナナリー、わたくしよ。入るわね」
「ナナちゃん、お邪魔するね」
…………。
こういう時、ユフィは強い。俺とルルーシュは一瞬、目を瞑って天を仰ぎ、そして二人に続いて部屋に入っていった。
「ユフィ姉さまにシャーリーさんっ! ………とスザクさんに……お兄様?」
ナナリーはいい子だ。たまにこういう茶目っ気を見せてルルーシュをいじめてくれる。
おかげで俺たちはルルーシュの百面相を楽しむことができるのだから。
実に情けない顔で無言の抗議をするルルーシュに俺たちは盛大に笑わせてもらった。
「ごめんなさいお兄様。みなさんの緊張をほぐそうと思って!」
「それって普通は私たちが気を使うほうなんじゃないの」
笑いながらシャーリーが突っ込む。「それもそうですね」とまたナナリーが笑った。
「みなさん、よく来てくださいましたね。お茶でもどうぞ」
そっと咲世子さんがお盆にお茶を乗せて持ってきてくれる。
「なんか全然心配するような感じじゃなくて安心したよ」
そう言いながらも、俺はナナリーの微かな震えを見て取っていた。そうだろう、いくらなんでも彼女はまだ十五歳の少女なんだ。
支援
「親父とお袋はもう来たのか?」
ルルーシュは気がついていないのだろうか?
「えぇ、もう30分も前に! お父様ったらとても待ちきれないみたいで何度もお母様に窘められていました」
「伯父様ったらナナリーには甘々ですものね」
「ルルーシュには怖いお父さんなのにね」
「それはもちろんですわ」
ぎこちなさなど欠片も見せずにナナリーはユフィとシャーリーに答える。
「わたし、お兄様と違って愛されてる自信がありますもの!」
一瞬の沈黙の後、いっせいにその場にいる全員が噴き出す。もちろんルルーシュを除いて、だけど。
「それは酷いよナナリー」
言葉に力が入らない。笑いすぎておなかが痛い。
「ナナリーたら、今日はいつにもましてルルーシュをいじめるのね」
ナナリーも笑うばかりだ。
コンコン。
笑い声が落ち着いた頃を見計らったように扉がノックされた。
「ナナリーさん、準備をお願いします」
扉が開き、メガネをかけたちょっと固そうな感じの女性が顔を出した。
「そろそろお時間ですわ」
「はい、ローマイヤさん」
立ち上がり、ナナリーはその大きな瞳を輝かせて俺たちにぴょこんと一礼をしてみせた。
「では、行ってきます!」
「うん。がんばってねナナリー」
「客席から応援してるからね、ナナちゃん」
「ナナリー、見てるからね」
「えぇ!!」
ナナリーは元気に即答した。
そしてルルーシュは静かにナナリーを抱きしめる。
「…これからしばらくの間の時間、俺はナナリーに何にもしてあげられない。でも、くじけるんじゃないぞ、みんながついてる」
その時、俺は微かに続いていたナナリーの手の震えが止まったのを見た。
「やっぱり兄妹なのね」
ちゃんとわかってる。ユフィがそう、こっそりとささやいた。
ルルーシュ、ちゃんとお見通しだったんだな。ナナリーの緊張のこと。
ルルーシュが腕を解いてナナリーを解放する。彼女は元気に扉まで駆けていった。
「今日は、きっとみなさんに最高の舞台をご披露しますね、絶対に!!」
ナナリーが主演する舞台は【孤独な王】という有名な演目を新解釈で再構成したものならしい。
もちろん俺がその話を知ってるわけもない。ルルーシュにどんなお話なんだと聞いてみたが「黙って見ていろ」としか教えてくれなかった。
・
・
・
結局のところ、ルルーシュが教えてくれなくて良かったというのが俺の結論だった。
ナナリーの舞台はとても………素晴らしい、最高なものだったからだ。
・
・
・
舞台の後、俺たちはルルーシュの両親に晩御飯をご馳走になった。
とどのところ学校の校長と先生なんだけど、いざとなれば気にならないもんだ。そうして楽しい時間はあっという間に過ぎて、俺たちは帰宅の途にある。
「とっっってもステキな舞台だったわね、スザクッ!」
もうだいぶ時間が経っているというのに、ユフィはまだ興奮冷めやらぬようだ。
「うん。そうだね、ユフィ」
ふと聞いてみたくなった。
「ユフィはあの舞台の元になったお話を知ってるのかい?」
彼女の返事はYES。
支援!
しえん
「それはとても悲しいお話。とてもとても辛くて、切ないお話……」
俺はちょっと驚いていた。
「あの舞台を見た後じゃ信じられないな。切ないお話ではあったけど、とても悲しいお話だなんて思えなかったよ」
フフ……と小さく微笑んでユフィはそうねとだけ返事した。
夜の公園。
寄り道をする俺たちの頭上に月の輝きが降りそそぐ。
「えい、やあっ!」
スカートの裾を押さえてユフィがくるくるとまわる。舞台で演じられたダンスを真似してるんだ。
俺は腰掛けていたベンチから立ち上がってユフィの手をとった。
月がキレイだな。蒼い月、その光。なんてキレイなんだ。それに照らし出されるユフィがたまらなく愛しい。
あぁ、なんて幸せなんだろう。
いつもと何も変わらない、それでいてとてもとても大切に思えるそんなあたりまえの時間。
夜の暗闇が嫌いだった。
吸い込まれそうで怖かった。
堪らなく憎かった。
夜の暗闇は犯した罪と同じ色をしていて、僕はそれに耐えきれなくて、いつしか僕は思い至った。
許されようと思ってはいけない。
だから決めた。
僕は正しくなければいけないんだと。
でも、それはきっと許されたいと願う僕の願望が生み出したアンビバレント。
正しければ許される。
父を殺したことも、
ブリタニア軍に身を投じたことも、
それに、それに……
正しくなければならなかったのだ。
正しければ、きっと正しければ────!
ルルーシュ、君は強かった
僕はずっと過去を見てきた
君はずっと未来を見ていた
だから、僕は君のギアスを受け取ったんだ
「スザク、今でも、貴方は、怖いのかしら」
あぁ……あぁ! 怖くなんてないさ! 怖くなんてあるものか!
僕は身体を預けていた。これはなんだろう? この温もりはなんだろう?
どこからともなく聞こえてくる波の音に僕は安らかな気持ちで目を瞑る。
不思議だな。目を瞑ったのに広がるのは暗闇じゃあなくて、光……これは、ヒ、カ、リ、だ、と、て、も、あ、た、た、か、い────
「スザク、貴方は、幸せを、感じられたかしら」
───なんでそんなことを聞くんだ!
僕は怒りにも似た感情でその問いに答える。
───決まってる、決まってる! 幸せだ。とても、とても幸せだったよ!
きっとこれこそが僕が一番に欲しかったもの。
きっとこれこそがルルーシュが一番に欲しかったもの。
きっとこれこそが────が一番に欲しかったはずのものなんだ。
それはありきたりで、
それはきっとどこにもある、
それはいつもそばにあって、なのに通り過ぎてしまう、
「ありきたりで、どこにでもあって、すぐそばにあるはずの───」
人並みの、幸せ。
しえん
支援
キキキキキキ………カナカナカナカナカナ………
ひぐらしの甲高い鳴き声がいっそう強まった。
日が落ちてあたりは薄闇に暮れようとしている。
その広い畳敷きの一室には床につき、まどろむ老人。
その布団の脇に青年が静かに座っていた。
──いまはお休み
声にならない声で青年は、いまや深く皺の刻まれた友人の顔に声をかける。
その表情はどこまでも安らかで、とてもとても幸せそうな───
──生まれ変わっても、また会えるかな
声にならない声に、青年は微かに頷いて微笑んだ。
──会えるさ。きっとまた会える
老人は幸せだった。
美しい夢を見れたことだけではない。
こうしてまたかけがえのない友達に会えたことが嬉しかったのだ。
──ありがとう
握っていた老人の手を静かに布団の中へと直し、青年は静かに立ち上がった。
黒地に金の縁取りの学生服。
障子を開け、縁側に出る。薄闇の空には月。
あと幾らもしないうちに空には夜の帳がひかれることだろう。そうすればきっと蒼い月が輝くにちがいない。
──おやすみ
そして
──いつか、また
カナカナカナカナカナカナカナカナカナカナ………………
知っているのはひぐらしだけ。それは、きっと、絶対に。
<おわり>
支援!
最後に支援
結局、英雄ゼロの素顔に迫るところまで私は辿り着くことはできなかったのだ。
いわゆるCE2010年代(皇歴2010年代)後半より世界をリードし続けた人物の一人であるゼロ。彼の素顔に関わる話題は現代においても異説、珍説を問わず非常に多い。
ブリタニア皇族における最初のゼロによる犠牲者、クロヴィス・ラ・ブリタニアこそゼロだというもの。
魔王と称された皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの廃嫡された双子の弟、ロロ・ヴィ・ブリタニアだという説。
(訳者注:この説は中世期の小説「鉄仮面」のオマージュであると言われており、信憑性は皆無である。そしてロロという人物がブリタニア皇族に存在したという事実はない)
また、実はルルーシュ帝とゼロは共に98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアのクローンであり、どちらが勝ってもシャルルが世界を手に入れるというゲームであったという珍説も存在する。
(訳者注:これも現在では原典となるものが明らかである。1990年代に日本でヒットした冥王計画というSF小説のオマージュであると言われている)
むろんこれら異説・珍説が消えてはまた現れる下地というものは存在する。
かのダモクレス決戦の際、ルルーシュ帝自らが騎乗したナイトメアフレームがゼロの専用機である蜃気楼と同型機と思わせる機体であったこと。
また、純血派として知られるジェレミア・ゴットバルト(CE1989〜?)が一時期黒の騎士団に所属しており、その後ルルーシュ帝の忠臣として武名をはせたことなどからである。
CE2059年のルルーシュ帝時代の機密文書保持期限失効による文書開示が火災による焼失で果たされなかったことも、そのミステリアスさを助長させているのは確かだ。
いずれにせよ稀代の英雄ゼロの素性や人となりに関しては同時代人の証言の他に確たるものを見出せない。
CE2090年、ゼロはその姿を我々の前から消した。
もし仮面の中の人物がよく噂にあがる世代交代を重ねていない──同一人物だというのならばかなりの高齢であったはずである。
(訳者注:仮面はそのままに中の人物は入れ替わっているという説は現在においても非常に強く主張されている説だが、同時代人の証言よりこれは否定されている)
CE2018年頃、ゼロはすでに30代であったという説が有力だということを鑑みれば、この時彼はすでに100歳をゆうに越えている計算になるのだから。
で、あればゼロはすでに故人となっている可能性が強い。
その素性と共に我々は彼の殆どを知らないままである。
多くの謎とともに世界を駆け抜けた英雄。
もちろんそれは彼の功績をなんら傷つけるものではない。
彼は常にくすぶり続ける災いの火中にあって、調停者としてあらゆる事件の解決に奔走していた。
文字通り、彼は世界の為にその身の総てをささげていたのだから。
くりかえすようだが、現在彼のゼロとなる以前の半生や素性についての事実、それらは歴史に残されておらず、もはや調べるべくもない。
数多の諸説はあるが、それらはとうてい記録に残すような代物でもない。
では記録するにたる事実とは一体なんであろうか?
CE2089年の末、職務から離れることを宣言し、身を隠す直前に彼と側近が交わした会話のデータが残っている。
「かの時代は破壊と謀略と裏切りに満ちた時代であった」
「その一方で確かに輝いていた時代でもあったのだ」
(当時を懐かしく感じておられるのですかという側近の言葉に対して)
「繰り返される憎しみと悲しみの連鎖。暗黒の時代。………それでも懐かしく思うことはあるのだよ。どんな時代であれ、やはり青春時代とはそういうものなのだ」
「この頃はそういう思い出ばかりが脳裏を駆け巡る」
「そうではない。私だっていつかは召される日が来るのだから」
(ここで彼は笑ったようである)
「寂しくはないよ、それは間違いない。確かに私は人並みな幸せというものとは無縁であったかもしれないが……」
(データの破損により聞き取り不能。前後の会話の流れにより、自分が不幸だとは思っていないといった類の言葉ではないだろうか)
「……私が召される時、その場には古い友人が……少なくとも一人は、挨拶に来てくれているだろうから」
その確信に満ちた強い言葉。
波乱万丈の人生を輝かしいものだと断言したその言葉。
彼の語る友人とは誰か、その人物は本当に彼の最期の瞬間に訪れたのか? それはわからない。
しかし、少なくともそれは記録するに足る事実であると、私は思う。
C,E,2124,Jun,合衆国日本(United People of Japan)東京市にて、Rupert Cardemonde. 翻訳:南有希
支援
しえん
いじょーです
新年度からこっち、職場がかわったことでろくに休みもなくお仕事に明け暮れていました
ようやくお休みがもらえるようになったと思ったらUSBメモリが壊れてデータ消失
色々と大変ですが、わたしは多分元気です
次回は・・・なにになるんだろ? わかりませんが、またお会いしましょ
ではでは。蒼い人でした
乙でした。パラレル?なのか何なのか、不思議な作品という印象でした。
でもスザクの手にあったのは、確かに温かいものだったんでしょうね。
またの投下をお待ちしてます。
乙でした!
「ヒカリ」のスザク版といった印象でとても楽しめました。
等身大の学生のみんなが大好きだ…!
次回作を楽しみにしております。
お忙しいでしょうが無理はなさらず!
>>204 BLUEDESTINY卿、GJでした!
なんというか、最後の方は不思議な終わり方ですね。
スザクの過去……と言うわけではない、本当にただの夢の出来事なのか……
最後の老人、そして青年。 それぞれ誰であるのかうっすらと分かる程度、そのかんじに深いものを感じさせられたような気がしました。
貴女の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!
>>204 純粋に読み物としても読ませる。
本当に、おいしい水を飲むようにするりと胸に入ってくる。
久方ぶりに拝読できたこと、幸せに思います。
幸せなシーンが続けば続くほどに、募ってくる危うさ、切なさ。
無性に泣けてきて幸せなんだか悲しいんだかよくわからない気持ちに。
おつかれさまでした。またの作品を拝読できる日を楽しみに。
ありがとうございました!
>>204 パクリはいけないと思います
保管庫には保管しないよう管理人氏にきちんと要請してください
パクリをする職人さんだったとは正直幻滅です
※このSSはNT誌に掲載されたヒカリというショートストーリーのパクリです
210 :
創る名無しに見る名無し:2009/06/20(土) 19:12:21 ID:sjkJZlXR
パクリ職人晒しage
>>209 パクリが真実かどうかはともかく、
荒れるの判っててageるお前の正気を疑うよキチガイ。
ヒカリって公式ガイドに載っていた話のことか。
似ていると思わなかったから何のことを言っているのかわからなかった。
現物を読んだことない人が多いのかな。
これを云々するのは、あらゆるシチュエーションで展開するライカレSSやなんかを全部剽窃だ、
と言う程度には乱暴な意見だと思うけど。
R2アフターSSのひとつの形として、十分書き手の切り口が活かされた話だと思います。
以前投下されていたリヴァル視点のアフターとも相まって、寂しさが募る、でも愛情が沸いてくる。良い話だなと、思います。
この機会にとリヴァルの話を読み返して、ちょっとくすっとしました。
ライ、まるっと妖精さん的な生き物になってますね。
パクりというよりはアレンジと言った方が正しいね
だから蒼さんにこの言葉を贈りたい
GJ!
というか読んだことない人なんだろうが、実際大して似てるとも思わんよ
職人もおかしな人のことは気にしない方がいい
正直、感動で言葉が出ない程です。
最期の時をナナリーとスザクと共に迎えられたルルーシュを見ていたときと同じくらい、胸を打つものを感じました。
何もかもを捨てて生き抜いた最後の時をライと一緒にいられて、幸せな束の間の夢に身を委ねられた『ゼロ』、
彼が眠りについたその先でルルーシュやユフィ、先立った大切な人達との再会を信じられるような、そんな思いを抱きました。
ライの見せた幸せな時間のシーンは、ぶっちゃけこんな設定で映画版とかやって欲しくなりましたw
誰が何と言おうと、俺にとっては何度も読み返したくなる傑作です。とにかくGJです!
代理投下行きます
/////////
今晩は、続編を投下いたします!
しばし、お付き合いください。
「鉄の道 四章 」
11スレ位です支援をお願いします
完全100%オリジナルのパラレルです、ギアス全く関係なし
ライカレ派の方は読まれるのは注意した方が良いかと
カップル ライ×アーニャを基本としてます
スイスの首都「ベルン」、国際機関がありベルン旧市街がユネスコの世界遺産に登録されているここはアインシュタインが特殊相対性理論他の論文を執筆したアインシュタイン・ハウス、時計塔、大聖堂などが有名で
またヨーロッパ最長(約6キロ)といわれるアーケードもある,そのベルン中央駅にライ達は定時どうり到着した
(5番線到着の列車は、16:15発ローマ行き寝台特急オリエントエクスプレスです。なお機関車点検のため切り離し作業を行います)
このベルンに到着したオリエントエクスプレスは機関車「クラブ」と客車をいったん切り離す作業が行われていた。
「ここを外して・・・・ここはこうして・・・・よし、アーニャ!前進良いよ」
「解った!」
ライの合図でアーニャはクラブを10kmもの低速で客車と切り離し操車場へと向かわせた。
それと同時に太い汽笛の音がライのみみに届き、目をやると6重連結の貨物列車が発車したところだった。
「玉城の貨物列車だ、1500mの大編成だって聞いてるけど大変だなぁ」
脱線なんてした時にはそれはもう大変なものだ、その被害総額の何割かを給料から引かれるし始末書なんてそれはもう天にも昇る位の枚数を書かされるなんて言うおまけ付きだ!
あ、でも運転士に原因が有る場合のみの事だけど。
「玉城のやつ大丈夫か?始末書の数ダントツトップなんだぞ」
ニヤニヤとノネットは玉城を冷やかす、当の本人は汽笛を鳴らし出発した貨物の機関車だから聞こえてないけど。
「でも玉城だって一生懸命に働いてるんですから、そこは解ってあげないと」
「いやいやライ、もしかしたらと言う事もあり得るぞ?あのミスター始末書男」
「あは・・あははははははは」
苦笑いを浮かべるライの脳裏にはまだ部長の座に就いていた時の事を思い出す、玉城は軽くではあるが3回の脱線を起こしている(車輪がレールからずれたとか)。
他の機関士達は殆ど無いから玉城の運転が雑だと言う何よりの証拠だ・・・いたたまれる。
「「ライ、ノネット」」
「ああ、ジェレミアさんにアーニャ、激務お疲れ様」
「おつかれ2人とも!!」
クラブを操車場に置き戻ってきたアーニャとジェレミアに労いの言葉をライとノネットはかける。
「ここからが正念場なのだな」
「はい、ここからが本当の戦場ですから」
ジェレミアの呟きにライが賛同し、アーニャとノネットは力強く頷く。
アルプス山脈越え
ヨーロッパの広大な鉄道網を取り締まるブリタニアにおいて最大最凶の難所であり難関だと言われる路線だ。
アップダウンが激しく急勾配が多い坂、連日連夜の雪と低い気温で線路は凍り滑りやすくそのせいで並みのブレーキの力では止まる事などまず不可能だし
きつい勾配が長く険しく続くため牽引する機関車はかなりのパワーが必要。
その路線を創業当初から今に至るまで支え続け、今日のイタリア方面の利用客が多い要因を創りだした会社としては英雄とされるのがライ達が運転するオリエントエクスプレス。
この運行に関係する総ての人員は、胸に会社の紋章ともいえるライオンの形をした黄金のバッチを胸につける事を許され
それだけで他の社員とは違う特別な待遇がなされるいわばエリート中のエリートと呼ばれるのだ。
7号車のキッチン専用車にある食材搬入の為のドアではC.Cとルキアーノが運び込まれてきた食材やお酒等の確認作業を行っていた。
「食材はこれで全部か?」
「いえ、まだ肉類と調味料の類が届いていませんね」
「しっかり数量を確認しろ、足りなかったなんてシャレにならないからな!!」
2日をかけてアルプスを越えるオリエントだが今まで何百と言うイレギュラーで遅れたりと困難が絶えなかった事から食材の数量を徹底するのが決まりだ。
「料理長、緑の野菜が少ないです!」
「なに・・・・業者に確認を取れ、大至急だ!他の食材も同じ様に確認をしっかりとしろ!!」
「「「「はい!!」」」」
C.Cは的確に指示を出していく、全力で働いているからか額には汗が伝う。
「ワインが少ねぇな、補充の分はちゃんと有るんだろうな?」
「はい、ですけどウオッカがまだ届いてなくて」
「んったく業者は何やってんだ!?だれか確認に行ってくれ!!いいか、一つ残さず完璧にしとけよ!?」
「「「「はい!!」」」」
額の汗を拭いながら細かく品物の納入表を事細かにチェックしては大声で指示を出したりと大忙しだった。
ライ達が停車したこのベルン中央駅にも先のストラスブール同様数多くのカフェがある。
「いつも当店の紅茶の葉をご注文ありがとうございますマリアンヌ様」
「いえいえ、ここの紅茶は主人もお気に入りですから」
マリアンヌは今楽しんでいるティータイムでここ「マドリード」と呼ばれるカフェを利用している。
「旦那様はどうされているんです?」
「シャルルはベルンにある孤児院に行ってます、沢山のお土産をもって」
ニッコリというマリアンヌの顔は幸せいっぱいと言う顔だ。
「子供好きですねぇシャルル様は」
「ふふふ、昔からですよ。シャルルの夢は“子供に夢を与えてやる事”ですから」
で、その頃シャルルはと言うと
「いつもありがとうございますシャルル会長、多額の寄付金に加えこんなに沢山のお土産やお菓子を」
「いやいや、礼には及びませんぞ!!私は将来を担う子供達に少しでも夢と希望を持ってほしいだけですから」
孤児院の院長と対面しているシャルルはそう笑顔で語る、そもそもシャルルが鉄道王と呼ばれる所以はここにある。
常に乗客の目線で物事を考えいかにして金を落とすのかを考えるのではなく
いかにして乗客に何度も列車に乗ってもらうかを考える、そして子供には心の底から
列車の旅を楽しんでもらいまた来たいと思わせるような素晴らしい旅を提供する
これらがシャルルが今日に鉄道王と呼ばれる訳なのだ。
「シャルルおじさん!!一緒にあそぼ!!」
「おおお、勿論だとも!!」
と大勢の子供達に引っ張られシャルルは院長のもとを後にする。
「シャルル会長は本当に子供好きでいらっしゃる、そのおかげでここの子供達も元気いっぱい!!ありがたい事だ」
ベルンに着いてから数時間後所変わってベルン中央駅近くにあるデパートの洋服屋さんで
「うーーーーん、これ本当に似合ってるのか?」
「似合ってるじゃない!!このミレイさんの目に狂いはナッシングよ!!」
「それより、こっちの方なんかどう?」
「もう一味何か欲しいところだな・・・・何かいい物は―――」
などとノネットの洋服選びにミレイ、アーニャ、C.C、別の服を探しているナナリーのオリエント5人娘がわいわい楽しくショッピングの真っ最中。
「お客様、こちらなんていかがでしょう?」
「これですか?デザインは良いんですけど・・・・違った色は有りますか?」
「もちろんございます、少々お待ち下さい」
ナナリーの要望に店員は他の服を探しに行った、その間も洋服選びは続き選んで試着した洋服の数のべ60以上にもおよびお店の洋服全てと言ってもいいくらいだ。
「それにしても良くこんな穴場を知ってたわねーーー?」
「ふ、世界のファッション、料理の事ならこのC.C様の右に出る者はいない」
得意げなポーズで自慢するC.Cだが実際そうなのだ、なにしろ世界でも5本の指に数えられるほどの料理の腕に美的センスも中々だし世界中に情報網をもつだけにこういった穴場を見つけるのは容易い。
おかげでネット内では情報網の女帝などと呼ばれている。
「ですけど最近頭角を現した人がいるんじゃないですか?」
「ああその通りだナナリー、しかも目の前にな」
ニヤッと笑って見せるのはアーニャだ。
「いつか世界一の座から引きずり下ろす、そして私がなってみせる」
「なれるものなら、な」
「おーーーーい、この服どうか見てくれーーーー?」
待ちぼうけのノネットは唸るように声をかける、女と言うのは戦わずにはいられない者なのだろうか
けれども仲が良いのは変わらないんだけどね。
その後もわいわい楽しくお買い物に勤しむノネット達でありました。
一方、ベルン中央駅の5番線ではオリエントを一目見ようとカメラを持ったマニアなど様々な人がここに集まる。
「出発2時間前なのにこの人の数、写真を撮るだけだけど笑顔だって言うのはいいなぁ」
子供の写真をオリエントのマークを背に撮る家族や記念撮影を撮る団体客など、その光景を見るだけでニッコリとなるライは先頭1号車の車体に背を預けながら眺めていた。
「あーーーーら誰かと思えばライ、貴方だったの?」
この場に全く合わない冷たく相手を見下すような声をかけてくる奴が現れた・・・・
「・・・・カレン」
誰であろう3年前の悪夢の中にいた人物の一人紅月カレン“スペイン支店支店長”
他の会社から見れば支店長でも大企業の社長に匹敵するレベルの存在だ。
「何しに此処に来た?」
「今だに古臭い物を運転している物好きな人間を見物に来たのよ」
古臭いと言われライは黙ってはいられなかったが此処には沢山の笑顔な人がいる
その笑顔を壊したくないとカレンを鷹の目のように睨む。
「君こそいいのかこんな所にいて、ゼロの処女運転だろ?」
「もちろん、これから到着するゼロに乗る為にここにきてるのよ」
得意げに話すカレンにライは心中穏やかではない。
「無様なものね、かつては本社の中でもエリート中のエリートであり出世街道を進んでいたお方が石炭の煤まみれで働いているなんて!!お笑いものだわ」
「君はその空間に有る特別な物を掴む事が出来ない悲しい人だ、それを解っていないだなんて可哀そうな」
お互いに睨みあったままのこの状態、ここに更に拍車をかける人物が現れた。
「よしなよカレン、下っ端の人間には僕達の事なんて理解出来ないさ」
「スザク・・・・」
カレンを後ろから現れたスザク“副社長補佐”も同じ様な事を言う。
「相変わらずあんなところで働くなんて、ライも物好きだね」
「ふ、汚れ仕事を知らないお坊ちゃんみたいな男に何を言われても利かないな」
スザクに対してもライは態度を緩めたりはしない。
「何時までも過去の遺物にこだわっているような人が言う事じゃないね、古い人間は
去っていくものだよ?」
「・・・・・・・・」
あまりの言いように言葉も無いライはその場を去るように操車場の方に向かった。
「覚悟しておくことね、ゼロの価値が認められればあなた達はお払い箱なのよ」
「残り少ない時間を大切に使わなきゃね、時間は大切だよ?」
2人の横を通り過ぎる時に言われた捨てゼリフに反応する事なくライはその場を後にした。
出発の1時間前、1号車の自分達の部屋に買ってきた荷物を運んでいる5人は後悔していた。
「これならジェレミアさん辺りをつれて荷物運びさせるんだったかしら」
「そうだな、そうすればもっとたくさん買えたのにな」
「私とした事が家畜を置いて来るとは情けない」
ミレイ、ノネット、C.Cは口々に後悔の念を言いながら大量の袋を抱えて客車に乗り込んでいく。
「アーニャさん、どうしたんですか?」
「機関車が来てない、出発の1時間前にはもう連結されてるはずなのに」
言われてナナリーは気がつく、ここベルンで最終点検を終えていつもなら1時間前にはもう出発準備が整っているはずなのに肝心要の機関車が来ていなかった。
と
「・・・・・・・」
「お、どうしたジェレミア。そんな難しい顔をして」
操車場から戻ってきたジェレミアを見たノネットが不思議そうに聞くと
「いやな・・・・その、ちょっとした問題がな」
「問題?何かあったの」
「うむ、それがなアーニャよ・・・・・・・・クラブが動けんそうなんだ」
「「「「「えーーーーーーーーー!!?」」」」」
その驚き様と言ったらもうそれはすごいものが有った、普段はクールなC.Cやアーニャでさえも仰天なのだから。
クラブが動かなくなった、それすなわち――――
「ど、どうするんだ!?クラブ以外にこの大編成を引っ張れる機関車なんて数機しかいないんだぞ!?」
「それに代わりの機関車なんて待ってられないし、と言うか一体どうして?」
機関士であるノネット、アーニャが問い詰めると
「と、とりあえず落ち着いてくれ、実は――――」
さかのぼる事数時間前、ジェレミアは操車場にいた仲間と談笑していた時の事
クラブの点検を終えた整備員が深刻な事を伝えて来た。
「なにぃぃぃぃぃぃ!!?クラブが動けないだとぉ!!?」
「お、落ち着いて下さいジェレミアさん」
「これが落ち着いていられるものか!?オリエントの牽引機関車がここに来て動かないじゃ話にならんのだぞ、なぜ動かんのだ!?」
ジェレミアはもう掴みかかり首を思いっきり閉めんとする勢いだ。
それはそうだろう,オリエントのあの大編成大重量の客車をこれから山脈越えと言う大仕事を行える機関車なんてわずかに数機しかない。
「ブレーキパイプの老朽化が酷過ぎるんです、それに肝心要のブレーキ自体も擦り減りが酷くて本来の性能の60%も出せませんよ。
そんな状態の機関車をアルプス山脈越えになんてとてもじゃありませんが出せません!!今すぐにでも総点検しないと」
つまり今までの疲労がたたり入院させなきゃいけないと言うことなのだ。
「むぅ・・・・だが代わりの機関車はどうするのだ?」
「それについては技術部のロイド氏からこの機関車を使うようにと言われています」
と整備員についていったジェレミアの目の前の機関車を見て唖然となる
「・・・・・・・・・これを使えと?」
「はい・・・・使えと」
「・・・・真面目にか?」
「はい、真面目に」
「と言うわけなんだ、そろそろライがそれを連れてくるはずだぞ」
と言った時に
ポーーーーーーーッ!!
蒸気機関車特有の汽笛が聞こえてくる、その音に反応して大勢の人がカメラを機関車に向け一斉にシャッターを切るも―――
「「「「「・・・・・・はい?」」」」」
ガシャンと客車と連結した機関車をみたノネット達5人娘は一斉に
「本気ですかジェレミアさん」
ナナリーが
「冗談?それともこれは夢?」
ミレイが
「いくらなんでも・・・・なぁ」
ノネットが
「誰かのお遊びか?」
C.Cが
「・・・・記録」
アーニャがそれぞれこう反応するその視線の先にあるのは黒い鋼鉄に身を包む生き物
C62 50
ナンバープレートにはそう書かれていたし炭水車にはしっかりとオリエントの紋章が書かれていた。
これをお読みになった方は少なからずC62と言う蒸気機関車を聞いた事が有るだろう。
日本最大最強を誇る旅客用蒸気機関車、漫画やアニメにもこの機関車が出てきた作品は多い。
かつては栄光の超特急「つばめ」を牽引し、今は無きブルートレインの元祖「あさかぜ」など60年代を代表する急行を引っ張ってきた機関車だ。
「とわ言っても50号機って・・・・パクリになるんじゃあ」
ミレイのこの反応にジェレミアは
「それはそうだが、そう言った文句は作者もしくはシャルル会長に頼む」
「それでちゃんと引っ張れるのか?こいつは」
ノネットが問うとジェレミアは答える。
それによればこのC62 50号機はクラブの後継機としてロイドと同じ部署のラクシャータが共同で開発した物で最大25両の客車を牽引する事が可能で
その際の最高速度は180kmだそうだ、また超小型ではあるが核融合炉を搭載し緊急時に限りだが最大230kmを出せると言う。
「ただし融合炉を使用すると機関車の寿命は大幅に減ってしまうし事故を起こした場合
その全責任は機関士に有り有無を言わさず独房行きだそうだ」
「うわっ、それきつ」
「それほど我々が信頼されてるって言う事の表れなんでしょう」
ノネットがげっとなるもミレイが機知をきかせて言うと皆納得する・・・・が
「なんだか空を飛べそうですね」
「こらナナリー、喜ぶんじゃない。どこかの会長のやる事は子供みたいだな」
「そういった心が有ったからここまで巨大な企業になったんでしょ?」
C.Cとアーニャのシャルルに対しての評価はけっこう高い。
「さて、出発45分前!!皆持ち場に戻りましょう?頑張るわよーーーーー!!!」
「「「「「おーーーーーー!!」」」」」
「・・・・・仲間に入り損ねた」
唯一人ライだけがあの輪の中に入り損ねてしまったとさ。
その頃とある高速道路で
「・・・・・・・・・・・」
マズイ・・・・本気で今そう思ってタクシーの中にいるシャルルは冷や汗をかいている。
「お客さん、急ぎかい?」
「ああ、あと45分以内に着かなければ乗り遅れてしまう」
「まいったねぇ、全然前に進まないんだよなぁ」
交通渋滞にどっぷりとはまってしまったシャルルの乗るタクシーはさっきから全然前に進まないでいる。
「むぅぅぅ、どうしたものか」
ベルン中央駅5番線16:58発ローマ行きオリエントエクスプレス
次々と列車に乗り込む乗客達の中にシャルルの姿は無いかと懸命に探すマリアンヌ
「・・・・・・・」
「お母様、どうしたのです?」
心配そうに顔を覗き込むナナリー、全員元の制服に着替え戦闘準備は万端だ。
「ええ、シャルルが来なくて・・・・」
「お父様が!?どうしましょう、何か事故にでもあったのかも」
「そんな事を言うものじゃありませんよナナリー、シャルルは必ず来ます」
とは言ってみるものの、心配の色は隠せていないマリアンヌにナナリーである、すると―
ポーーーーーーーー!!
「え、もう出発の時間?」
「いえ、あれは出発20分前の合図です」
「・・・・・・あなた」
ここまで来ると本気で何かあったのではと思ってしまう、そんな所にミレイが来た。
「どうしたのナナちゃん、元気ないわよ?」
「ミレイさん、お父様がまだ来てなくて」
時間が過ぎれば過ぎるほど心配の色は大きくなっていくナナリー。
「会長が?困ったわねぇ、列車の出発を遅らせるわけにもいかないし」
「ごめんなさいミレイ、私の主人がとんだ心配事を」
「大丈夫ですよ、会長は絶対に間に合いますから。ナナちゃんもお父さんの事信じるのよ良い?」
「はい・・・・」
ミレイの励ましに顔色を少し良くするもマリアンヌと同じようにまだ濃いままだ。
駅前広場 16:55
キーーーーーーッ!!とさながら漫画のように前のめりで突っ込む様に止まったタクシーが1台あった。
支援
「まいど、お金はあとで会社に請求するから早く行きな!!」
「すまぬ!!この礼は必ずするぞ!!」
シャルルは両手に抱えきれないほどのお土産を持ち全速力で5番線に向かった。
さてその5番線では絶望を告げるアナウンスが流れる
「(5番線からローマ行き寝台特急オリエントエクスプレスが発車します、まもなく
ドアが閉まりますご注意ください)」
そのアナウンスを聞きマリアンヌとナナリーはここまでかと俯いてしまう、とその時
「マリアンヌーーーーーー!!ナナリーーーーーーー!!」
「「!!」」
大急ぎで駆けてくるシャルルの姿を見た2人はイッキにぱっと表情を明るくする。
「お父様、急いで!!」
「シャルル、早く!!」
シャルルはマリアンヌとナナリーのいる10号車のドアから駆け込みやっとオリエントに到着した。
「すまぬ2人共、子供と遊んでいるのに夢中で遅れてしまった」
「良いのですよ、こうして無事に帰って来てくれるそれだけで良いのです」
息を切らせながら謝るシャルルと優しく出迎えるマリアンヌを見てナナリーは笑顔でドアを閉め、無線でミレイに元気よく報告する。
「準備完了、出発OK!!」
「アイアイサーーーーー!!しゅっぱーーーーーーつ!!」
ポーーーーーーーーーー!!!!
けたたましい汽笛の音と共にライはレバーを手前に引き列車を出発させる、始発駅の発車時と同じようにガタンとC62は客車を引っ張りベルンを後にする。
ここからは険しいアルプス山脈が待ち構えている、ここから一体どんな出来事が待っているのか誰も想像できないがこれだけは言えよう。
楽しく、スリルのある旅になる事だろうと
続く・・・・
以上です!
読んでいた方は気付いた方がいらっしゃると思いますが・・・・やっぱりこういうのはナシなんでしょうか?
うーーーんなんか荒らしを誘発しそうかなと心配です、なら投下するなと言うのは
すいませんが無しでお願いします、自分はまだ投下したいと思っていますので。
では、失礼いたします。
/////////
本文以上です。
私は面白くて好きですよ。
次の投下を待っています。
シャルルの親馬鹿ぶりにちょっとほのぼの。
こんな世界もいいのかも。面白かったです
>>226 代理投下乙です。
そしてテリー卿、乙でした!
>ギアス全く関係無し まえがきのあまりの潔さに吹いたww
>C62 50 アワレにも全く分からないおれは隙だらけだったorz 列車とか知らんよ……
そしてシャルルの言葉にぁぁぁぁぁとかぅぅぅぅぅとか付いていない事に謎の違和感をおぼえてしまい更なる隙をみせてしまった……
次の投下を待っています!
>>226 大変読みやすくなっていると思いました。
すごく良くなってますよ。
それにこのほのぼのというかテリーさんらしい話の展開は、独特で気持ちいいですね。
この調子でがんばってください。
次回以降も全力でお待ちしております。
231 :
カズト:2009/06/21(日) 19:15:05 ID:n9FlUwbz
ふう・・・・・
久しぶりの投下であります!
「追憶の旅路 第十八章(最終回)心と世界を繋ぐもの」
4〜6レスを予定しています
あらすじ
ある日、運命はわき道に逸れた
カレンはマオに拉致された
マオに一度は心を壊されたカレンだったが、ライへの愛によって自力で復活
マオを倒し、心身ともに叩き伏せたが
助けに来たライはすでに心を壊されていた
C・Cの力でライの精神世界に飛び込んだカレン
そこで、カレンはライの過去を知る
ライの苦しみ、罪業を受け止めたカレン
そして、カレンはようやくライの心の中でライと出会う
カレンの愛を受け取り、己の弱さに克ったライ
二人の心は一つに結ばれ、ライは現実世界へと帰還した
病院に入院していたライはお見舞いに来た生徒会の皆とともに過ごしていた
夕方の屋上でユーフェミアはライに耳打ちをする
彼女ははライの正体を知っていたのだった
232 :
カズト:2009/06/21(日) 19:16:14 ID:n9FlUwbz
ライ退院から三日後……
夕刻 ブリタニア政庁
ライとカレンは応接室ソファに座っていた……
受付でアポを取り、今ここにいるのであった
ガチャリ……
ドアが開いて、ユーフェミアが入ってくる
彼女を見ていると、今、存在している事が不思議に思えてならなかった
もし、自分があの場に居ず、あのまま彼女が……
ライは想像するだけで寒気がした
それにしても皮肉なものである
己の国を滅ぼした王が、一人の少女の未来と、数万人の日本人の命を救ったというのは
「お待たせいたしました、あ……スザクはここで……」スザクを外に置いて、人払いをしようとしたが
「待ってください!ユーフェミア副総督、スザクも一緒に聞いてもらいましょう……
彼は自分の親友でもあります!」
僕とカレンが黒の騎士団のメンバーである事を黙っていてくれた事に対する信頼でもあった
「そうですか……ではスザクも一緒に……」
紅茶を出されたものの、話が話だけに何から話せばよいのかがわからない……
ライも気になっていた、なぜ彼女が半信半疑とはいえ、自分の正体を知っていたのか
余りにも常識から外れた事であるはずだが……
事情を知らないスザクも、何から話せばいいのか、呆然としていた
ユーフェミアが意を決し口を開く
「スザク……あの絵をどう思いますか?」
スザクはユーフェミアの指が指された方向の肖像画を見る
「えっ!?な……なんで!?あれって、まるで……ライ?」
スザクは戸惑いながら、絵とライを交互に見比べていた……
正面で呆然とするスザクにただならぬ様子を感じたライとカレンは後ろの絵を見た
「えっ!?あれって……あなたの……」カレンが驚くのも無理はなかった
そこに描かれていたのは、「狂王」と呼ばれていた、かつてのライ自身の肖像画であった……
「その絵に描かれている方は、ライエル王……叔母上様が愛した人……」
バルコニーに立っていたライエル王……
銀の髪を風になびかせ、皇族の衣装を身に纏って大刀を杖にして堂々と立っていた
全てを射抜くような鋭い目をしてはいたが、どこか寂しさを奥に秘めていた……
その瞳はカレンやスザクが出会った頃の、ライそのものの目であった
ライを愛した女性は彼自身の本質を捉えていたという事だろう……
呆然としていたスザクにライは口を開いた
「気付いたかい?スザク、信じられないと思う、話しても妄想の類って笑われるだろうね……その絵に描かれているのは、僕自身なんだよ……僕は、この時代の人間じゃないんだ……」
「まさか……ライエル王って、あの小説の相手役の……ライ、君なのか!?」
ライはコクリと頷いた
「まあ……コールドスリープとか思ってくれればいいよ……
あの本に書かれていた様な綺麗なものじゃないけどね……」
233 :
カズト:2009/06/21(日) 19:17:32 ID:n9FlUwbz
ライは二人に自分の事を話した(無論、ギアスの事はうまく誤魔化して)
日本人とのハーフであるが故に、周囲の者達に軽んじられていた事
己と母と妹の立場の確立の為に、異母兄を抹殺し王座に付いた事
逆らう者たちへの粛清
隣国との戦、その最中の初恋
そして、全てを失い、眠りに付いた事……
ライが話し終えた時
スザクもユーフェミアもただ呆然としていた……
スザクにいたっては、頭が混乱していた
なにしろ、ライの言葉を信じるならば、ユーフェミアとルルーシュにとって、先祖であり、自分にとっても、神楽耶を経てさらに遠い遠い親戚なのだから……
しばらくして、ユーフェミアが本らしきものをテーブルに置いた
ライはユーフェミアを見た
彼女が頷いたのを確認して本を開いた
日記のようだ
○月×日
信じられない!!
まさか、あの「狂王ライ」が私の目の前にいるなんて!!
死んだルルーシュと同い年といったところだろうか……
それにしても……このような事誰かに言ったところで、私が狂人扱いされそうだ……
×月△日
肉体強化は順調だ……
私の選任騎士にすれば、このエリアの治安も安定するだろう……
さらに、日記からはエリア総督としての苦悩がありありと伝わってきたのだった
「これはクロヴィス兄様の日記です、兄の死後見つかったものです
私も最初は妄想の類かと思いましたが、幼い頃見たあの絵を思い出したのです
それと、スザクが学校での写真を時々見せてくれたのですが、
そこにあなたが映っていたのです……ライエル王、とお呼びすればいいのでしょうか?」
「いえ、僕はもう王でも何でもありませんから、ライでお願いします
あと、僕の正体はできれば……内密にお願いします」
「そうですね、まあ、このような事を言っても誰も信じないでしょうから……」
「ライ……僕も話さなければいけない事があるんだ……」
ライが自分の事を話したのだろう
スザクが意を決し、自分のことを話してくれた
ブリタニアの日本侵攻の際、父親を殺して事を……
三人は神妙な面持ちでスザクの告白を聴いていた……
自分の行動が、国家の命運を左右し、それによって、ブリタニアの占領を決定付け、同胞が虐げられた現状を作り出したのはスザクにとって重い十字架であっただろう……
父親の無謀な徹底抗戦による国民総玉砕を回避した事など、気休めになるはずもない
「スザク、君も重いものを背負っていたのか……」
スザクは澱んでいたものを吐き出したのか、どこか安堵した表情だった……
234 :
カズト:2009/06/21(日) 19:20:17 ID:n9FlUwbz
四人はお茶を飲みながら、色んな事を話した
これまでの事、これからの事、自分がこの世界でできる事、
わからない事だらけだけど、思い思いの考えを話したりした……
しばらく話し込んだ頃、
「スザク、あなたに取って来てもらいたい物があります……」
ユーフェミアはそう言って、スザクに鍵を渡したのだった
しばらくして、スザクが両手に抱えて持ってきたのは、長さの違う、二つの木の箱だった……
「これは?」ライは尋ねる
「開けてみてください」ユーフェミアはそう言うだけだった……
二つの箱を開けたライは驚きを隠せなかった!
「な……こ、これって……!」
そこにあったのは、かつて自分が王だった頃、使っていた二振りの日本刀だった……
師匠の形見分けであり、
戦場で振るっていた大刀、
それと、初恋の彼女に贈り物としてあげた小刀だった
「ライ、それを見せてくれるかな」ライはスザクに刀を渡す
「失礼いたします」ユーフェミアにそう言って、スザクは軽く鯉口を斬った……
「すごい……藤堂さんに刀を見せてもらった事があったけど、かなりの業物だよこれ……」
ライも驚いていた、かなりの年月が経っていたが、刃の輝きは両方ともあの時のままだった
これだけ保存状態がいいのは手入れを怠っていなかった証明なのだから……
「小刀は叔母上様の宝物でした、尊敬されていたのでしょう
私の一族が大切に保管していました
大刀の方は、焼け跡から刃しか残っていなかったので鞘も柄も新しいものに設えたそうです
ライ、これらをあなたにお返しします……」
「えっ?これらは僕が彼女に」
「そう、叔母上様に差し上げたものなのでしょう……「私の一族に」ではありません
これらはあなたが持っていて欲しいのです……叔母上様もそう望んでいるでしょう……」
ライは刀を手に取った
思い出す……王だった頃の記憶が
師匠を失い、形見として受け取ったあの日……
戦場で大刀を振るい、王の重圧、孤独から逃げていた事
小刀を自分に光を与えてくれた女性に贈った日のことを……
思い出がライの体中を駆け巡る……
立っている事さえできずに、ソファにもたれ掛かり、両手で顔を覆い……
「うっ……うあああぁっあああああああ……ああああああああ……」
声を押し殺しきれずに……泣いた……
235 :
カズト:2009/06/21(日) 19:26:22 ID:n9FlUwbz
エピローグ
ある晴れた日曜の早朝
「破っ!!」
ブンッ!!
道着を着たライは汗を流し、クラブハウスの庭で木刀を振っていた
「…… カレン、そんな所でじっとしてないで、こっちに来なよ」
カレンの気配を感じ、ライは素振りを中断する
「ごめんなさい、稽古の邪魔しちゃったかしら……」
「あ、いいよ切りのいいところだったから、それよりカレン、随分早いじゃないか、面会までには、まだ時間があるはずだよ」
「それにしても、いいの?あなたの刀、藤堂さんに預けて……」
「うん、僕はまだあの刀を持つにふさわしくないんだ……だから、今はこうして自分を鍛えなおしているんだ」
そう言って、ライは自分の手を見つめる……
自分の手に豆ができ、ライはブランクが埋まっていくのを感じていた
「ライ、あたし部屋でご飯作ってくるからね」
「じゃあ、腹ごなしにもうひとっ走り行ってくるよ!!」
ライはカレンの手料理を心待ちにしながら、ランニングを開始したのだった
昼 トウキョウ租界内麻薬更生院にて
「面会時間は一時間です……あと禁断症状がでた場合、面会を中止させていただく場合がありますので御了承ください」
係の者がそう言って部屋の鍵を開けた
ガチャリ……
扉が開いて、カレンが収容されている女性の下に駆け寄り、手を握った
「カ……レン」女性は弱々しい声で、カレンに答える
「お母さん……」カレンは母との再会に涙を抑えられなかった
カレンの母親は娘の将来の為に、側に居たいが為にシュタットフェルト家に入り
そこで、他の使用人からいじめを受け、娘のカレンからも八つ当たりを受け
いつしか、リフレインに逃げていたのだった
カレンが母親の愛情を知った時には、すでに彼女は薬物の後遺症により心を病んでおり
その上、イレブンであるが故に懲役二十年という不当な判決を受けていた
それでも、最近では特区の成立により、日本人に対する不当な差別の現状が見直され、懲役についてはまだ審議中であるが、
この麻薬更生院に治療をかねて移送されたのだった
まだ会話は不十分ではあるが、少しずつ、ゆっくりと着実に回復している
この調子なら、遠い将来に自宅療養の目処が立ちそうだ
「あ、あの、自分はカレンさんとお付き合いさせていただいております……ライ=ランペルージです!!」
緊張しながら自己紹介するライに、カレンの母は嬉しそうに微笑んでいた……
ライとカレンは時間の続く限り、彼女に色んな事を話した
(当然、黒の騎士団については避ける形で)
学園での生活、デートした時の事や、カレンが料理を勉強し始めた事、自分達の将来の事等……
ぎゅっ……と彼女がライの手を握った……
「カ……レン……を……よろし……く……お願い……します……」
ライの資質に何かを感じたのだろう
彼女は紡ぎ出せる精一杯の言葉をライに投げかけた
母親が子を思う親心が痛いほど伝わってきた
(母上……)
ライは自分の母ミコトを思い、涙を浮かべるのだった……
236 :
カズト:2009/06/21(日) 19:28:02 ID:n9FlUwbz
しばらくして、ライとカレンは安堵した彼女から、花が枯れていく様な儚さを感じていた
事実、彼女は既に生きる意志を手放していた
愛する娘を任せられる者がいるのならば、もう自分がいる必要がないと……
ライは手を握りながら、どう言葉を返せばいいかわからなかった
「時間です」無機質な声が室内に響く
規則がある以上、この手を離さなくてはならない
コツ……コツ……
係りの者がライを引き離そうと近づいてくる
ライは咄嗟に手を強く握り返し……
「あ、あの……ま、孫の顔……見に来てください!!」
しばらくの沈黙の後
「えっ!ライ!?」カレンは顔を真っ赤にしながら、戸惑うのだった
「あ……ありが……とうございます……ありがとう……ございます……」
ライの手を細い指で精一杯握り返し、耐え切れずに、一筋の涙を流すのだった
二人は彼女の生きる意志にかすかに炎が灯ったのを感じていた
夕方の帰り道二人は公園を歩いていた
「もう……ライったら」カレンの顔が未だに赤かったりする
「ま、まあ……そういう事になるだろうね……」ライも恥ずかしさで頭を掻いていた
「ありがとう、お母さんを元気付けてくれて……」
「親が子を思う気持ち、伝わってきたよ」ライはしみじみ思った
「ライ、これからどうするの?」
「今はまだ、わからない……特区だって、誰もが賛成しているわけじゃない
全てのゲットーに対して対応しきれている訳じゃないし、
特区内でも日本人が希望を抱き始めている頃で、
それでも、世界の多くはまだ不安定で
まあ……考える事は一杯あって整理が付かなかったりするんだよな……でも」
それでも、今、ここに存在している自分がやれる事がある
血で穢れた自分がまだ生きている事にもきっと意味がある
こんな自分を受け入れてくれた大切な人がいる
歴史上死んでいるはずの自分がこの時代に存在している事も必然なのかもしれない
だから、何かを成し遂げるために……
僕は生きていく!!
ライは空を見上げ、そう誓った!! (完)
237 :
カズト:2009/06/21(日) 19:30:13 ID:n9FlUwbz
投下終了でした
ふう・・・・・初投下より緊張いたしました
何とかこのシリーズも書き終えました
ライの過去編なんとか走り抜けることができますた
まず最初には地球儀を見直してりして、
ペンタゴンの位置から、調べたりして(ペンドラゴンの由来を勘違いしていますた)
カレンの映像付きでライの過去を見せ、乗り越えさせる事を目的でした
色々かけて楽しかったです
アレクが未亡人の命に惚れていたとか(青ざめていたのはそのため)、細かいストーリーもありましたが、時間の都合でカット
このように投げたした物語もありますが、ライの物語として走り抜けたことはできました
母上や妹ももう少し掘り下げたかったのですが、文章が膨大になりそうなのでストップしました
また新しいシリーズもマターリ書いています
自分はまだギアスショックを保ったままですので
ギアス以上にSS書くほどはまれるアニメには最低数年は出会えることはないでしょう
支援ありがとうございました!!
ではまた!!
長編終了お疲れ様でした。最後はハッピーエンドで良かったです。
物を書くというのは「楽しい」と思う気持ちが大事ですしね、よくわかります。
新しいシリーズもお待ちしています、お疲れ様でした。
>>237 カズト卿、GJでした!
完結おめでとうございます、そしてお疲れ様です!
思えばかなりの鬱から始まり、ライの過去に飛んだり、色々ありましたが最後にはハッピーエンドと言える終わり方。
特にライの過去などはオリジナル色も強かったため大変だったと思います。
しかし完結、完走した貴方に敬意を……!
貴公の次の投下を全身全霊、全力で待たせていただきます!
03:30頃に投下したいと思います宜しければ支援を頂けると嬉しいです
承知
待機。
244 :
羽付き羊:2009/06/22(月) 03:35:47 ID:85pg/XhY
携帯で先に支援をもらおうと思ったんですが
アク禁になってました…
申し訳御座いません
代理の方で投下します
先に調べておかず皆さんに迷惑をおかけした事をここに謝罪します
本当にスイマセンでした
いえいえ。ドンマイです
代理投下行きます。
もし支援がいただける方がいれば1レスでも2レスでもいただけると多分助かります。
全部行けなかったら6時過ぎにでもまた投下に来ます
以下本文
・・・・・・・・・
お久しぶりです。羽付き羊です。
前回の感想どうもありがとうございます。返事するタイミングをいつも逃してしまっているのでここでお礼を言います。本当にありがとうございます。
感想が僕の執筆するエネルギー源です。
皆さんが面白いと思えるように頑張っていこうと思います。
コードギアス LC 〜反逆者達の願い〜
Action04 円卓 学生 詐欺師
・今回のカップリング<ライナナ>
戦場で最も不必要なのは 怒り? 恨み? 私情? 恐怖?
それともそれらすべての感情なのか… 否、それらは時として武器となる
一番不要なものそれは………
Action04 円卓 学生 詐欺師
「ラウンズ様のお出ましだぜ…」
向こう側から2機のグロースターが現れた。こちらと区別をつけるためかそれぞれのラウンズを彩る紫と黄緑のマントをグロースターに付けている。
「模擬戦とはいえラウンズと手合わせできるなんて…」
スザクが興奮気味に言った。
「スザク『例のアレ』忘れんなよ。」
「分かってるけど、それって必要なの?」
「バカ言え、こっちはサザーランドだぞ?これで普通に勝ったら俺らはラウンズなんか目じゃねぇってことだぜ?」
なぜかこちらのグロースターは故障していた。グロースターは軍から借りることになっていたのでこちらからの調整ができない為特派に非はない、
だがラウンズ達がこの後に公務など色々あるためこの日以外に模擬戦はできない。その為サザーランドの予備で、急遽グロースターVSサザーランドという無謀な模擬戦となったのだ。
「でも良かったよ、都合よくサザーランドがあって。」
「はあ?スザクお前それ真剣に言ってんのか?」
「?」
「まずグロースターが故障して、都合よくサザーランドがある事で気付けよな。」
「えっ?それってまさか………」
「そうだよ、軍の奴らの罠だよ。この前の模擬戦の野郎がKMFに細工しやがったんだよ…ったく、これだから軍人ってやつは…」
これはあくまでライツの仮説であるが、他に考えられない。
KMFは精密機器が多く搭載されている為にメンテナンスは念入りに行う。だからこそ運んでくる前から故障しているKMFを現場に持ってくることはありえない。
さらに、模擬戦開始30分前にそれが判明するという事など100%ありえないのだ。特派が使う機体を特派にメンテナンスもさせない事がすでにおかしかった。
実際問題、少佐の隊のグロースターをこちらが借りる事になっていたらしい。
「ったくよ〜、俺だって正々堂々やりてぇ〜よ?…けど機体差がありすぎるんだから、多少は小細工しないと割に合わん!」
ライツは鼻息が荒く述べた。
「まぁ、いいよ。それにそこまでいけるかどうかが一番問題だけどね。」
「いけるだろ?俺とお前が力を合わせればな…」
「両者準備はいいですか?」
セシルの声が開始時刻を告げる。
「こちらはいつでもいいぞ。」
「いいですよ。」
向こうは準備バッチリのようだ。
「こっちも準備完了です。」
「準備完了だ。」
両者の準備完了の返答を聞くとセシルは説明を始めた。
「今回の模擬戦は実戦とほぼ同じです。銃器類やスピア、スタントンファー、使用していただいて結構ですが、銃器類はペイント弾で被弾率や被弾場所でKMFの損傷率をコンピューターが見て、
続行不可と判断したら自動的にKMFの運動は停止します。なお、スラッシュハーケンは機体には当てないでください。
スピアやスタントンファーなども模擬戦用でコンピューターがダメージを判断します。しかし模擬戦用といっても武器には変わりはないのでそれを承知してください。以上です。」
「本格的だな〜、はぁ…同じグロースターでやりたかったよ…」
「ホントね、残念だわ…まぁせっかくだからお勉強させてあげましょう。」
向こうも残念がっているようだ。しかし、もう勝った気でいる事にライツは少し苛立ちを感じていた。
「なぁ、スザク……」
「何?ライツ?」
「戦場で何が一番不必要なものを知っているか?」
いきなりの問いにスザクは一瞬キョトンとしたが答えた。
「急に何を?えぇぇっと…戦場で一番不必要なものは、感情じゃないかな?」
「なぜそう思うんだ?」
「だって、感情が入ると冷静な判断ができなくなるし、いつでも一定のテンションを保つのは基本じゃないかな?」
「間違ってるな、それは基本であって基本ではない。」
「え?」
「人間ってのはな“感情”をコントロールできないから“感情”は不要っていうがな、“感情”は武器になり得る場合もある。一番不必要なものではない。」
ライツは少し間を開けて続けた。
「戦場において一番不必要なものそれは『先入観』だ。」
「『先入観』?」
「戦場において敵を自分の予測で計ってはいけない。敵は生き残る為に何でもやるんだ。例えるなら…そうだな…新型KFCを日本が作ったとしてそれが従来の無頼と全く同じ外観だとする。それを完全に無頼だと思いこちらがなめてかかるとこちらの被害は数倍にも数十倍にもなる。
『知っていたら避けられた被害なのに』じゃ遅い。死んだら何もできない。死ぬかもしれない戦場にそんなものは不必要ってわけだ。」
「なるほど…」
スザクはその言葉に納得した。
ただほとんどの場合、新型の兵器は敵を威嚇したり、敵に自分たちの研究成果を見せるためだったり、自国の権力を見せつけたり、機能を追求した為に武器の形は変化していくのでそういう事はほぼありえない。しかし、0%ではないのも事実だ。
ライツの言いたい事は、いつでも、どこでも、何が起こっても、戦場においては、“あり得ないこと”が起こって死ぬ場合があり、そのせいで死んでからでは遅いという事だ。
「まぁ、全力で行こうぜ…」
「ああ!」
スザクが返答した時セシルが合図をする瞬間だった。
「では………模擬戦開始!!」
号令の合図と共にランドスピナーの音が響いた。
〇
ライはカレンが今日は用事がある為に、一人だけで学園をブラブラしていた。
ライにとっては先程カレンが怒っているのを思案できるいい機会だったので、先ほどからクラブハウスを回りながら考えていた。
(正直に言って何が悪かったのかな?カレンが怒る要素なんて一つもなかったのに……)
腕を組みながら顎を手に置きながら歩いていると、ふと車椅子の少女とメイドが見えた。
(確かあれは………メイドの咲代子さんとルルーシュの妹のナナリーだったけ)
咲代子が何かをナナリーに教えていることに気づきライはそちらの方向に向かって歩き出した。
「あっお兄様、今日はお出かけではなかったんじゃないんですか?」
ナナリーはライの方向をみてそう言い、咲代子は珍しいものをみたように目を丸くした。
それもそのはず、ナナリーが自分の兄であるルルーシュを他人と間違えたことなんてただの一度もなかったからだ。
「ええぇっと…僕はルルーシュじゃないんだナナリー……」
ライは迷いながらも彼女の兄ではないことを否定した。
「え?あ………す、すみませんお兄様と足音が似ていたもので…」
ナナリーは顔を真っ赤にしながら俯いた。
「足音?」
「ナナリー様は目が不自由なので、他の器官でそれを補っているのです。それにナナリー様は足音で人を正確に判断するのですが……」
咲代子がライに向かってナナリーに聞こえないように小声で言った。ナナリーを気遣ってのことだろう。
「誰でも間違いはあるからね、間違える時だってあるさ。」
「はい…」
何気なく視線を下へと落としてみるとナナリーの手に持っていたものに気がついた。
「それって…鶴かな?」
色紙で作った鶴のように見えた。
「え?…は、はい。鶴のつもりですが…」
見て呉れはお世辞にも良いとは言い難い、翼に該当する部分はしわくちゃで、嘴の部分が長すぎて、鶴とは言い難い形状になっていた。
「一人で作ったの?」
「…はい」
ナナリーは顔を俯けた。
「凄いね…綺麗に織れてるじゃないか。どうやって作ったの?」
ライは感心しながらナナリーの方を見た。
「咲代子さんに作り方の手順を聞いたり、出来上がった折り紙を元に戻しながら覚えたり、色々ですけど………」
折り紙のあまりの出来の悪さに恥ずかしさを感じて、ライと真っ直ぐ顔を合わせられないらしい。
「へぇ〜」
「不出来なのですが…」
そんなナナリーの様子を見てライは頬笑む。
「何事も、最初からできる人間なんていないんだよ、ナナリー」
「え?」
予想外の言葉を発したライの方へと顔を向けるナナリーの様子を見ながらライは続ける。
「僕だって記憶を失ってから色々困ったよ?人との接し方とか未だに良く分かんないしね。」
ははは、と笑いながらライは自分の最近の出来事や思っている事を話す。
そんなライの話をナナリーは黙ってしっかり聞いていた。
「それにね、もし最初から上手くできる人間がいたとしたらその人間は可哀想だと思うよ。」
「?何でですか?最初からできた方が良いんじゃないんですか?」
ナナリーはライのその言葉の意味がよく分からなかった。最初から何でもできる方が良いとナナリーは思っていたからだ。
「何でだと思う?」
ライはナナリーの様子を温かな目で見る。
「…分かりません。」
じっくり考えたナナリーだが答えは出ない。
ライはナナリーの
「それはね、少しずつ上手くなっていく喜びがないから。達成感というものは心理的にも脳にとっても、いい事なんだ。それで心が豊かになっていくんだって。」
ライはナナリーとゆっくり話す為に横に座った。
「ナナリーは心の豊かさでは誰にも負けないね」。
ライはナナリーの折り鶴を見ながら、机にあった白い折り紙を織っていく。
「心が強くなれば、身体も強くなっていく。」
ライの織った白い紙は姿を変えて鶴となった。
「自分が出来ない事を出来るように努力するのは良い事だよ。」
ピンクの折り鶴の横に白い折り鶴を置きライはナナリーの頭を撫でていた。
「それに、それはとても大切なことなんだと僕は思うよ。」
「はい…」
ナナリーはまたライに顔を向ける事ができなかった。今度は負い目からではなく、幸せな気持ちになったのだが彼女はまだこの気持ちが何だか分からなかった。
「じゃあ、もう一回折り鶴でも織る?」
「はい。」
2羽の鶴は兄妹のように寄り添いながらライとナナリーを見護っていた。
〇
開始の合図から約10分がたったが、いまだに決着はついていなかった。
「ちっ、隠れたか…つまらんな。」
「まぁ機体差があるんだから仕方無いんじゃないの?でもこの土地の事を理解しているわね。」
K-12地区の第三訓練場はセンサーが効かない。ここは磁場がエリア11内でも屈指の高さの土地だからだ。ファクトスフィアが少し使える程度でその他のセンサー類はほとんど無意味。だからこそ、この戦略は有効ではあるが…
「隠れている場所はここから南南東へ60mってとこかしらね。」
「だろうな。まぁ、これ以上待つのも面倒だし、さっさと片付けて酒でも飲もう。」
ラウンズは精密機器が使えない状態でもありとあらゆるパターンで訓練をしているし、戦場では精密機器が壊れてしまう場面も多々存在するのだ。
帝国最強の彼女らにとっては今回の模擬戦は暇つぶし程度のもの、このエリア内の有望な騎士と遊ぶという娯楽なのだ。
しかし相手が仕掛けてくる気が見られない以上こっちから仕掛けるしかない。
「じゃあ行くか…」
「そうね…」
グロースターを前進させる。
「二人で組むのは4カ月ぶりか?最近書類の方の仕事の方が多くて息が詰まりそうだったよ…」
「今回も書類仕事だけよね?…今回は途上エリアであるエリア11の調査だけだと思っていたけど…」
「そんな堅い事言うなよ。お前も楽しめばいいじゃないか。何の為にお前を呼んだと思ってる?」
「面倒な書類仕事を私に押しつける為でしょ?…ったく」
モニカとノネットはお互い戦闘時に組まされることが多い。それはノネットの暴走気味の戦闘力がモニカの指示によってより効果的に発揮されるからである。
第2次白ロシア戦争において彼女らの力が世界に知られたのはもう3年前の話である。
ノネットがモニカの凄さを認め、モニカがノネットの強さを認めたのもその時だ。
そんな話をしていると目的地に到着し予想通りサザーランドがいた。
「じゃ、スザク打ち合わせ通りにな。」
「ああ、あっちの機体は何とかするよ。」
サザーランドを見つけたグロースターはランドスピナーを一気に加速させスピアを向けて突進してきた。
「さぁ、楽しませてもらおうか!」
ノネットはスザクの方の機体に突っ込んでいった。
「じゃあ、私はこっちをもらうわね。」
モニカはライツのサザーランドがスザクの方へ合流しないようにマシンガンで牽制する。
マシンガンを避けるが少し当たり、ライツのサザーランドは少しのけ反った。
「一対一のガチンコか?機体差が違うのに勝てるか!?」
「あら?さっきの衝撃でチャンネルがオープンになってるのかしら?」
どうやらライツは先程の衝撃でオープンチャンネルを開いてしまったようだ。
「くっ、これでも喰らっとけ!」
ライツのサザーランドはスラッシュハーケンを撃ってきた。しかし、モニカにとっては予想通りの攻撃であり、最小限の動作で軽くかわす。
「単調な攻撃ね…」
モニカが攻撃を仕掛けようとした時、背後から何かが倒れて来た。モニカはとっさにその場を離れ避けた。
「ちっ、はずしたか。」
ハーケンが狙っていたのはグロースターではなく後ろの木だった。
「よく考えてるわね……でもラウンズを倒すにはこれぐらいじゃ無理よ。」
グロースターはスピアで突っ込んでくる。ライツはペダルと操縦桿を細かく入力してそれを最小限の動きでかわそうとする。が、かわしたはずのスピアがわずかにあたり先程のマシンガンのダメージを含めると中破になっていた。
「ぐっ、やばい…切れも鋭さも別格だ…」
中破のサザーランドはランドスピナーを使い土煙を生み出してまた隠れた。
「スザク!p-12a地点で策を練るお前も何とか撒いて来い!」
いまだにオープンチャンネルになっている事に気付いていないらしい。作戦が筒抜けである。
「ノネット、一度そのサザーランドを逃がしましょう。」
「ん?何か良い作戦でも思いついたか?」
ノネットがスザクのサザーランドと距離を取った。
「というより、ここのエリアの騎士のレベルは低いわね…手ごたえがなさ過ぎるから泳がせて一気に畳み掛けましょう。」
「手ごたえないか?こっちの奴は手ごたえあるぞ。」
「あら?じゃあ私はハズレを引いたみたいね…残念だわ。」
ラウンズの二人はレベルの違いを教える為にどうやら敵の策に合わせるつもりらしい。
今回は2対2とは言っているが実際は1対1の勝負。
それに相手はサザーランドなので相手の策に少しは乗ってやらなければ哀れ過ぎると思ったからでもある。
(ラウンズの能力はやっぱり半端じゃないな……だが作戦の第2段階まではなんとかクリア…後はスザク次第。)
「スザク、ラウンズは一対一じゃ、勝機は薄い。なんとか二対一に持ってこよう。」
「確かにサザーランドとグロースターじゃ性能差がありすぎるね、分かったそうしよう。」
「俺がまずフェイントでスピアを空に向かって投げるから、その一瞬の不意をついてスザクが突進して一気に畳み掛けよう。」
「……分かった。」
ちなみにこの会話はライツの箇所だけ筒抜けである。
「なんて単純な作戦なのかしら…」
「なんか熱くならんな〜、もうケリをつけるか?」
2機のグロースターは彼らのいるポイントに向かっていく。
「来たか…スザク手はず通りにな。」
相手の作戦が手に取りように分かっているラウンズの二人に勝てる人間がはたして世界中探して数人いるかどうかである。
「行くぞ…」
ライツの掛声と共に上空にスピアが飛び上がった。
「行け!スザク!」
スザクのサザーランドはノネットの方へスピアで突進して行く。
が、ノネットは突進してきたサザーランドのスピアの横をグロースターのスピアでいなした。
「なっ…!?」
「鋭いし、切れも良い、けど素直すぎだね。丸分かりだっての!」
いなした勢いでノネットはサザーランドの懐に入り、スピアで一閃する。
「くっ、なら!」
ダメージは中破。スザクも負けじとスピアを捨て内蔵式のマシンガンで応戦しながら後退する。
「やるねぇ、でも遅い遅い!」
近距離であるのにマシンガンの弾はグロースターには当たらず周辺の木々のみにぺイント弾が付着するのみだった。スザクから見れば一直線にサザーランドに向かっているように見えるが実際は細かく左右に移動している。そしてサザーランドの懐に入った。
「これで終いだ!」
ノネットの勝利宣言と同時に大きな音が辺りを包み、一機のKMFは動かなくなった。
〇
ナナリーと一緒に折り紙を織っていたライは不思議な気持ちになっていた。
折り鶴の織り方など知っていた事もそうであるが、それ以上にナナリーと一緒に折り鶴を織る事が非常に心地良かったからだ。
「ライさんは他にどんなものを織る事が出来るんですか?」
ナナリーも楽しんでいるらしく自然な笑顔でライに話しかける。
「う〜ん…ちょっと待って。」
ライはそう言うとピンク色の折り紙を使って織っていく、その間にナナリーと咲代子さんが最近新しい香水を買ったとか、最新型のビデオカメラを買ったとか、そんな話をしていた。
咲代子さんは「ミレイ様の御厚意です。」と言いながらお茶や出来立てのクッキーなどを運びながら微笑んでいた。
「はい、ナナリー。」
「これは何なんですか?」
そんな事をしている間にライの作った折り紙は花の形をしたものとなった。
「サクラだよ。エリア……日本の国花さ。」
少し戸惑った。エリア11という言葉を口にする事を。
ただそれだけであるが、ライは何故その名で呼びたくないかは自分でも分からないが自分の中にある何かがそれを躊躇わせたのは間違いなかった。
「…難しいものも織れるんですね。もしよろしければお願いを聞いてくれませんか?」
「ん?僕ができる範囲の事ならいいよ。」
ライは優しい声でナナリーに答えた。
「お暇な時でいいので、またここに来て折り紙の織り方を教えて頂けませんか?」
ナナリーの表情は明らかに不安そのものだった。ナナリーにとっては大胆なお願いで、自分の為にわざわざ時間を削るという行為をしてもらえるかは正直不安だ。
自分は脚も目も不自由だし、面白い話もできない。だからナナリーは不安でいっぱいだったのだ。
「なら明日にでもする?」
ライは当たり前のようにその願いを聞き入れた。
「は、はい!よろしくお願いします。」
ナナリーは幸せそうな笑顔をライに向けた。
(何だろう…僕には妹がいたような気がするな…)
ナナリーの笑顔を見るとそんな感情にとらわれる。
(妹が“2人”いたような気がするな…)
そんな事を思いながらライはナナリーにサクラの織り方を教え始めた
〇
ノネットの勝利宣言から少し前、モニカとライツは交戦中であった。
空めがけてスピアを投げ入れた瞬間にモニカはその場所に向かってスピアを持って突進を仕掛けていた。
「くっ!」
サザーランドは隠れていた場所から飛び出し、その攻撃を避ける。隠れていた木はスピアの攻撃によりなぎ倒されてしまった。
「逃がさない!」
モニカはサザーランドがまた隠れ出す前にまたサザーランドに詰め寄った。
「ぐっ…」
サザーランドはグロースターに追いつかれてしまい苦し紛れにしか思えない内蔵式マシンガンで反撃をしてくる。
しかし、モニカにとっては避けやすい攻撃でしか無く、その銃弾の嵐を一つも浴びることなくサザーランドの懐に入った。
「もう逃げれないわよ…」
サザーランドの足をグロースターが踏み、サザーランドは回避ができないし、攻撃をしようにしてもモニカはそれを簡単に避けれる。
サザーランドの運命はこの時点では機能停止しかない。
「じゃあね、さようなら。」
止めを刺そうとした時、サザーランドの音声が流れた。
「アンタ、本当にチャンネルがオープンになったのは偶然だったとでも思ってんのか?」
「!?」
不意を突かれた言葉だったのでモニカは固まった。
「偶然な訳ないだろう?」
ライツは淡々と話を続ける。
「流石はラウンズだけあって小細工の一つや二つ入れなきゃ歯が立たなかったわ。」
そういうライツの声色は余裕に満ちていた。
「アナタ達はもう止めを刺されようとしているのよ?小細工を用意してもそれを発揮しなかったんだから無意味だったんじゃない?」
モニカは止めを刺す前にライツと会話をする。オープンチャンネルにワザとしたとしてもモニカ達は罠にかかっていないはずなのに、まんまとモニカ達を嵌めたように話す彼が気になったからだ。
「小細工にかかった時点でアンタ等は罠に嵌まってんだよ。」
完全な強気に出るライツ。
「何を言っているの?この状況で私達に勝てるなんて神様ぐらいなものよ。」
機体の性能も、経験も、実力もすべてが上回っている。さらにライツ達の機体のダメージは大きくもうそんなには動けないはず、その状況でラウンズに勝てる者など歴史上に存在しなかった。
「…神様か、そりゃぁ良いな……じゃあ神様らしく予言でもしよう。」
予想外の言葉にモニカは呆れはてた。
「面白いじゃない、やってみなさいよ。」
モニカはサザーランドの足を踏み、相手を動けないようにしている。ここからどうあがいてもライツは逃げる事は不可能であるし、
攻撃されてもすぐに避けることも、攻撃される前に相手をスピアで貫く事も可能だ。その絶対的な自信からモニカは相手に時間を与えたのだ。
「俺が3秒数えるまでにKMFが機能停止だ。」
その言葉を受けたモニカはサザーランドの全ての動きや、音を逃さないようにライツに集中した。
「3…」
まだライツは動く気配はない。
「2…」
(油断を誘っているのかしら?私がそんな事で揺らぐわけないっての。)
「1…」
サザーランドは動く気配はまるでない。モニカはあらゆる状況の判断をしたが、この位置からではライツがモニカを1対1で倒すことは不可能である。
「0」
ドカーン
その刹那、ノネット達の方から大きな音がした。
「あら?自分の仲間のKMFの終わりについて予言でもしたのかしら?」
モニカはライツを嘲笑った。
後ろからランドスピナーの音、当然ノネットが来たのだろうと思い確認しようと振り向こうとする。
「ノネットこれは私がやる…」
殺気を感じ取りライツのサザーランドを放した途端にグロースターに衝撃が走った。
「ライツ!大丈夫か!?」
そこに居たのはモニカと同じ帝国最強の騎士の1人であるノネットではなく、ノネットと1対1で勝負していた人間だった。
「ノネットが負けた!?嘘?」
モニカはあまりに予想外な事に一瞬、動揺してしまう。
「一気に叩くぞ!スザク!!!」
モニカの動揺の隙をついてスザクとライツは一気に攻勢に転じ、2機のサザーランドはスタントンファーを使ってグロースターを狙う。
「くっ……ラウンズなめんじゃないわよ!」
モニカは右から来たスザクのスタントンファーをスピアで叩き落とし、左から来たライツのスタントンファーを蹴りで弾き返した。
「ぐっ……機体のダメージがデカイせいで動きが鈍い…」
ここで一気に決着をつけておかないともう勝機はない。機体のダメージも大きいし、残りのエナジーも少ない、相手の気持ちが崩れかけている時に倒せないとなると、機体の性能差でやられるからだ。
「ライツ避けろ!」
スピアがサザーランドに迫る、ライツはスピアをかわすためにペダルを踏み込む。
しかしサザーランドは主の言う事を聞いてくれなかった。
モニカのグロースターはライツのサザーランドの足を踏んでいた。サザーランドは前後左右に移動する事ができない。
そしてスピアは勢いよくサザーランドを貫こうと襲いかかる。
「くっ!」
モニカのスピアの攻撃を喰らった。ダメージレベルは大破。もう一撃でも掠ればサザーランドは完全に機能を停止になる。
「ライツ!」
スザクのサザーランドがスタントンファーでグロースターを襲う。グロースターはライツのサザーランドを放し、ランドスピナーを急加速させて距離を置いた。
「貴方…さっきまでラウンズ相手に手を抜いていたの!?」
モニカは先程の戦闘でライツが実力を隠しきっていたことを悟った。
(あの体勢からサザーランドの胴体をねじる事によってダメージを減らすなんて…)
ライツはとっさにスピアの当たる瞬間にサザーランドの胴体をねじる事によって相手の攻撃をいなしダメージを軽減させていた。あれがなければサザーランドは完全に機能停止をしていただろう。
(サザーランドの反応速度じゃ“見て”からじゃ行動不可能、ということは踏まれたと認知した瞬間にこの動きを“予測”していたってこと!?)
恐怖のせいなのか、武者震いのせいなのか、鳥肌がたったまま収まらない。操縦桿を握る手は汗で湿っていることが感じられる。
(これ程なんて…ラウンズ以外の相手で感じたことないわ。)
久しく感じていなかった高揚感にモニカは嬉しさに浸っていた。
「スザク行くぞ!」
ランドスピナーをまた相手に向かって加速させる。一撃でもかすればライツのサザーランドは機能停止、にも関わらず自ら相手の懐に突っ込む。
ここで手を休めたら相手に一気に流れを持っていかれると判断したからである。
「ああ!」
スザクにサザーランドもライツと逆方向の位置からモニカのグロースターに突っ込んでくる。
自援
「ラウンズに二度同じ攻撃は通用しない!」
モニカのグロースターはスピアを手放した。
「(スピアを捨てた!?)スザク!グロースターのスピードが少し上がるぞ!」
モニカは破壊力より機動力を選んだ。スタントンファーの一撃でどちらのサザーランドも沈むぐらいのダメージである。
そうなるとモニカのダメージは軽微、スピアの射程の長さを捨てて、接近戦に持ち込んだ方が良いと一瞬のうちに考えたからである。
ライツのサザーランド目がけてランドスピナーを一気に加速させ、一瞬のうちにライツの懐に入られた。
「(予想より、2秒近く速い!)くっ…」
サザーランドは間を取ろうとするが、また足を踏まれ動けない。
「The endね。」
「ちぃ!なら!!!」
スタントンファンを振り上げる瞬間にライツはスラッシュハーケンをグロースターに向かって射出する。
が、モニカはそれを正確すぎるタイミングと角度でハーケンを射出しそれを撃ち落とした。
「スザク!」
「残念、はずれよ。」
モニカはトンファンを振り落としサザーランドの機能を停止させた。
「今だ行け!」
ライツの掛声と共にスザクのサザーランドはグロースターに向かいトンファンを振り上げる。
「ちょっとタイミングが遅かったわね。」
モニカは最後のサザーランドの攻撃をかわそうとグロースターを移動させようとする。
しかし、グロースターはモニカの操縦通りに動くことはなかった。
「えっ?……まさか!?」
先程倒したサザーランドがグロースターの片方の足を踏んだまま機能を停止させていた。
「タイミングはベストだよ。」
ライツのサザーランドを振り払おうにも、その間にスザクのサザーランドにやられてしまう。
「勝たせてもらいますよ!」
スザクがスタントンファーを振り下げる。既にハーケンは撃ちだしており、この状態からではマシンガンも射出できない。
このままでは負ける。しかし、モニカもラウンズとしての意地がある。
「ラウンズに負けは存在しない!」
グロースターは回避をせずに胴体をねじってサザーランドの方向へスタントンファーを突きだした。
ドカーン!
2つの音がぶつかり爆煙がその場を包んだ。
〇
ナナリーに今度他の折り紙の折り方を教える約束をしたライは学園を離れて租界の公園に1人で来ていた。
「僕は何者なんだろうな…」
今日の出来事を振り返り彼は独り呟いた。ナナリーといる時はなぜか気分が安らぐ、自分でも理由は分からない。
しかも、自分の記憶が戻った訳ではなくただ漠然と妹がいるという事を感覚的にしか分かっていない状態に、自分が何者かをもっと知りたくなったのだ。
「知りたいか?」
後ろからの声に気づき後ろを向くと緑髪の少女がピザを食べながらベンチに座っていた。
「自分の事を知りたくないのかと聞いているのだが?」
「君は誰だ?」
ライは最後の一口を食べている少女に疑問を投げかける。
「私はC.C、魔女だ。」
「魔女って…」
「そんな事よりお前は自分の事が知りたくないのか?自分の事を。」
手に持っていたピザを食べ終わり彼女は指に付いたチーズを舐める。
「僕の事を知っているのか?」
「知っていると言えば知っているし、知らないと言えば全く知らないな。」
何やらおかしな人に絡まれたなと思いライはその場を離れようとした時
「…お前のその力について詳しく知りたくないのか?」
「!」
「どうなんだ?」
C.Cは不気味な笑顔でライの方を見る。
「…本当に教えてくれるのか?」
「ああ。約束しよう…それより1つ聞くが…」
「何だ?」
C.Cは少し戸惑いながら聞いた。
「…アイツはいないのか?」
「アイツ?誰の事だ?」
ライは不思議に思い彼女にそれが誰なのかを聞く。
「……そうか、ならいい。明日同じ時間にまたここに来い。お前の力について詳しい事を教えよう。」
“アイツ”が誰なのかは気になったがそれ以上にライはこの力の事の方が気になっていたので彼女の言葉を素直に受け取った。
「…分かった。なら同じ時間にまたここで。」
ライはそう呟くと学園へと帰っていった。それを確認した彼女は彼の居なくなった公園で独り小声で呟いた。
「……アイツ等の運命はもう誰も止められないのかも知れないな………そう神すらも…お前もそうは思わないか?マリアンヌよ…」
その言葉は誰にも聞こえる事はなくただ彼女の胸の中だけに響いていた。
自援
〇
「結局のところ引き分けかよ……」
勝敗は引き分けというなんとも後味の悪い結果であった。あれだけ小細工や罠を仕掛けておいて勝つことができないのは悔しい。
「引き分けは引き分けだよ、それ以上でも以下でもない。これが今の僕達の状況だ。」
スザクの言葉通りである。機体差があるのに引き分ける時点で充分凄いと思われるが、実際のところは小細工と罠を仕掛けてやっと戦える程度なのだ。
小細工なしの真っ向勝負では歯が立たないのが現状、ラウンズとの差を改めて感じた。
「コーネリア総督、何か急用ができたみたいで途中で帰ったみたいだな。お礼の挨拶しておきたっかたのに…」
「何でも麻薬の事に関して新しい情報が手に入ったらしいね。」
スザクは先程セシルの話していた事を思い出した。何でも先程の模擬戦の途中に麻薬の件についての新しい情報が入ったらしくその事で政庁に戻らなくてはならなかったらしい。
「でも、俺らザコだと思われてないか?」
「…かもね。模擬戦の途中という事だし…」
2人は揃って溜め息を吐く、総督へのアピールも兼ねていたので途中で居なくなったのは計算外だったからだ。
2人は帰る為の支度を始めるが、2人の空気は重々しい。
「待て。」
静かであるが凛とした声に振り返ると、ラウンズの二人が立っていた。
「あれ?公務があるんじゃなかったんですか?」
スザクが驚きながら聞いた。
「そんなもの全部キャンセルだ。」
「“そんなもの”って…」
「公務も大切だが、お前らに聞きたいことが山ほどある。」
「で、聞きたいことって何?」
ライツは面倒臭そうに耳をポリポリ掻きながら聞いた。
「お前、アレを狙ってやったのか?ラウンズでもあんな芸当できる奴はいないぞ?」
ノネットはスピアの刺さったグロースターを見ながら言った。
「偶々……と言っても信じてもらえそうにないか……」
「当たり前だ。常に周囲は警戒しているし、何よりグロースターの足を踏んで回避を不可能にさせている。これが偶々な訳ないだろう。」
スザクに止めを刺そうとした瞬間、真上からの何かの気配を瞬時に感じたノネットは懐に入った瞬間に、回避するべく真後ろに飛ぼうとしたがスザクのサザーランドがグロースターの足を踏み、動きを止めた。まるでこちらの行動を読んでいるのかのように。
「説明するのはややこしいから嫌いなんだがな…」
今度は髪をポリポリ掻きながら説明を始める。
「今回の模擬戦では出力、反応速度、サクラダイトの量、機体のスペックの差は歴然としている。そのままやって勝てる確率は5%未満だ。」
(5%未満ねぇ、大きく出たもんだ…1対2なら互角で戦えるだろうがな…)
ノネットは心の中でそう呟きながらライツの話を聞く。
「そのスペックの差を埋める為にだ。」
ライツはスピアの刺さっているグロースターを指差した。
「それでオープンチャンネルを開いたふりか…」
ノネットは顎を指で触りながら話を聞いていた。どうやら素直に話を聞くつもりらしい。
「人間というのは、弱い者とやる時はどこか油断ができる。アンタ等もそれだ。そこを利用しない訳がないだろう?」
包帯で表情は見えないが、不敵な笑みを浮かべていそうな声色だった。
「作戦だとバレル可能性も十分にありましたから、バレないようにこっちは必死でしたよ。」
スザクは心底その行為に疲れたらしく安堵の為か溜息を吐く。
「で、こちらの作戦が筒抜けだという事を心に刷り込ませる。」
(成程ね…作戦通りにする為に弱い者のふりをしていたの…)
モニカもライツ達の作戦内容をしっかり聞いていた。あの機体差で自分達に引き分けた作戦がどうしても気になるらしい。
「まぁ、ダメージをある程度受けたのも作戦の内だが、予想の1,75倍のダメージだった。これが最後の最後に響いてしまったが…」
残念そうに溜息を吐く。
「スピアを上に投げる事でスピアに気を取らせ、一気に叩く作戦はフェイント。本当の狙いはその作戦通りの行動を起こし、
こちらの作戦が筒抜けと完全に思わすことを疑いのないものにすること。」
「そして1対1を意識させ周囲の警戒心をなくさせるのも狙いです。」
「1対1の勝負に持ち込み、少し距離を置く事で目の前の相手しか敵はいない。そう思わせた時点で罠にかかったわけだ。」
「スピアを計算して投げたのか!?私があの位置にいる事も含めて?」
そもそも本当に計算していたのかどうかも怪しいと思っていたがここまで計算し尽くされている事にノネットは驚きを隠せなかった。
「色々大変だったぜ…入射角、湿度、気温、風速とかを色々計算しなければなんないからな。」
淡々と説明するライツを見て2人は彼の底のしれない凄さをひしひしと感じている。
「一度手放したモノは使えない。その“先入観”を使ったまでの話だが…」
「でもさすがラウンズですね…あそこで回避しようとするなんて…ライツの言った通りに足を踏んでて助かったよ。」
「エニアグラム卿の凄さは危険察知の能力が並外れているところでもある…要は勘だけど…」
ライツは呆れたようにスザクの言葉に返答した。
先日ラウンズの資料を見たときにノネット・エニアグラムという人物は9回の死線を潜り抜けたせいか異様な危険察知能力を持っていることが判明し、
回避される危険を阻止する為の処置を既にスザクに指示していた。
「クルシェフスキー卿はエニアグラム卿の戦闘能力を誰よりも高く評価しているから、エニアグラム卿を先に倒す事で動揺を誘って一気に打ち取る作戦だった訳ですよ。」
「以上が俺達の作戦という訳だ。」
“凄い”まずこの言葉が彼女たちの頭の中を過った。
こんな作戦を試合開始前に打ち合わせし実行に移すことのできる実力、サザーランドでは避けられるはずのない攻撃をいなす技術、自らの作戦を相手に悟らせない為の数々の細工に罠、こちらの心理を詠んだ作戦、モニカとノネットは驚き以上に喜びを感じていた。
強い奴等とやれた事、そしてその奴等はまだ発展途上だということが彼女等にとっては嬉しかったのだ。
まだまだ強い奴らとやれる。ラウンズに入ってからあまり感じなくなった強い奴らと凌ぎを削る戦いは彼女等が求めていたものそのものだ。油断していたとはいえ、スペックで劣る機体で互角の勝負をした彼らに逢った事自体がこのエリアに来たかいがあったと感じていた。
「アンタ達面白いね。余裕がある奴が実力を隠すってのはよくあることだが、余裕がないのに実力を隠すなんてマネをするなんてな。」
ノネットはライツの方を見て言った。
「賭けだったし、結局は引き分けだったしな。」
そう言った青年の顔は包帯で見えなかったが、その言葉は勝てる自信があった事を物語っている。大胆でいて緻密な作戦、動きもダメージも全て計算し尽くしている。
「ははは!私たち相手に引き分けるなんてこの世に片手程しかいないぞ?贅沢な奴だな!」
ノネットは豪快に笑いライツの肩をパシパシ叩く。力がこもっているせいか一発叩かれる毎にライツの肩は悲鳴を上げていた。
モニカの方はライツを見て、
「まるで“戦場のペテン師”ね。」
彼の戦い様を見て自分の感じた事を言った。
「そうそう、私もそう思ってた。コイツは“詐欺師”だよ“戦場のペテン師”ってピッタリだな。」
ノネットは相槌をうつ、
「戦場でのその言葉は最高の褒め言葉だな。」
ライツはその言葉を素直に褒め言葉として受け取った。
「もう一人のお前もやるな、今日は機体との相性が悪いようだが?」
ノネットはスザクに向かって素直な疑問をぶつけた。
「コイツはランスロットに乗らないと本来の動きができないんだよ。」
スザクではなく何故かライツが答えると「やはりか」というノネットの言葉が出てきた。
「お前等なら、ラウンズとして私達として肩を並べる事ができるかもな。」
「そのつもりだからアンタ等に敬語を使っていないんだが?」
自信満々にそう言ったライツを見てノネットは笑った。
「ははは!本当に面白い奴だなお前は!?困った事があれば私の名を使ってかまわんぞ?」
高らかに笑いながらノネットはライツの頭とスザクの肩をパシパシ叩く。
「ふふふ…今度貴方達と戦う時は、絶対に勝つから楽しみにしてね。」
モニカはそれを見ながらクスクス口を手で押さえながら笑いながら述べた。
「じゃ、またな。」
「また逢いましょう。」
彼女達はそう言って来た道を戻っていった。
「これからだなスザク。」
「そうだね。」
今回の模擬戦で得たものは果てしなく大きい。自分の名を売るのにはこれ以上の事はないだろう。しかもラウンズに自分達の実力を認められたのだ。
しかし、これで終わりではない。始まりにしか過ぎないのだ。
「絶対に日本という名を取り戻してみせる!」
「ああ、これからもっと大変な事になると思うがよろしくな。」
2人は握手を交わし、自分達のこれから先の運命を称えた。
お・ま・け
「ねぇ、そういえばあのグロースターの修理費ってどうなるの?」
「ん?そりゃ、ラウンズ持ちじゃねぇ?俺らの安月給じゃ、あんなもん人生が3回あっても支払えるかどうかだぜ?」
「あははは、残念でした。修理費はライツ君持ちだよ〜」
「………え?マジ?…」
「エニアグラム卿から言われたよ〜。というわけで君はずっと僕のデヴァイサーとしてタダ働きだよ〜」
「………スザク、俺もラウンズを目指すぜ!一緒にエリア11を日本に戻そうぜ!」
「………ラウンズになって今回の模擬戦の修理費をちょろまかそうとしてない?」
「ナニヲイッテイルノカナ?ボクハ、ジュンスイニ、ニッポンノタメヲ、オモッテイルヨ?」
「棒読みだね……演技が上手いだか下手なんだか……」
「ハハハ、イッショニガンバロウ!」
「はぁ〜、これからが不安になっちゃったよ…」
「ロイドさん!あれは冗談だってエニアグラム卿が言ってたじゃないですか!」
「いや〜、だって反応が見たかっただもん。」
「まったく……あっ、そういえば今日オスシ作ってきたんですよ。」
「「!」」
「……イヤー、キョウハ、ナンダカ、ツカレタカラ、イエニカエッテ、ネルヨ。アシタネ〜。」
「ロイドさん?今日はベルギー産のチョコを使ってる自信作なのに…まぁいいわ。スザク君とライツ君に食べてもらいましょう。」
「セシルさん!自分は今日の模擬戦を家に帰ってシュミレートしたいので、お先に失礼します!」
「ちょっと、スザク君!?……走って帰るつもりなのかしら?ここからアッシュフォード学園まで100kmはあるのに…ライツ君食べる?」
「これって何?」
「エリア11の伝統料理のオスシというものよ。」
「?米にチョコを乗せるのか?変わってるな。パクっ………」
「どう、おいしい?」
(な、なんという絶望的な味。見事に一つ一つの食材がそれぞれの味を殺しあってるし、お口の中が喧嘩してるし……ここまで合わないものをトッピングする感性が分からん…)
「セシルサン、コレッテ、ジブンデタベタコトアリマス?」
「ん?泣く程おいしかったの?私は自分で食べるより相手に食べてもらう方が好きだから試食はしてないわよ?」
「イヤ〜、オイシイデスカラ、タベテミテクダサイヨ〜。」
「わかったわ。パクっ……」
「ドウデスカ?」
「美味しい!私って料理の才能があるのね♪」
(やばい、味覚が“残念な人”だったのか…)
「じゃあ、いっぱい作ったからたくさん食べてね♪」
「……ハハハ…ハァ〜……(とほほほほ…)」
「ピザだと?」
未来が絶望しかない人々 現在が苦痛でしかない人々
そんな人々は過去にすがるしかない 平静を保つ手段がそれしかないから
過去は実際にあった奪われる事のない幸せの記憶なのだから
次回 コードギアス LC 〜反逆者達の願い〜
Action05 麻薬 と 母親
「冗談でしょう?」
「実は、話しておく事がある。」
人は誰かの為にこそ強くなれる
Action04 円卓 学生 詐欺師 終了です。戦闘シーンを描写するのはとてつもなく難しいですね、しかも説明くさくなってしまうし…
偶然にオープンチャンネルになる事はないとは思うのですが、本編しか知らない者ですし割と簡単にオープンチャンネルになっているっぽいのでそういう風に執筆しました。
ご都合主義で申し訳ないです…
でも後悔はありません……少ししか……
まぁ、フラグも建てたし伏線も張ったし、今日はこれでいいとします。
1話のおまけのネタが今回の本編にも少しだけ絡みがあったりしますが、誰も覚えてないだろうな…
感想や批評をくれたら嬉しい限りです。
感想や批判は多ければ多い程嬉しいので。
では、またの機会に逢いましょう。
駄文に付き合ってもらいありがとうございました。
・・・・・・・・・・
本文以上です。
>>265 代理投下乙でした!
羽付き羊卿、乙でした。
……疑問なんだけど、ドカーンって擬音明らかに大破っぽいんだけど……中の人間無事か?
オープンチャンネルと言えば某ハムを思い出すな、完全に独り言で自己紹介……関係無いね、うん。
ライツパートは戦闘でライパートは今のところ日常。 妹が「二人」いた気がする。
それは本当のことなのか、或いは未だ不完全な記憶から他の事を誤認しているのか……
次の投下を待っています。
投下乙!
このままライとナナリーの仲が進展していけばいいな…
>>266 【ドッカーン!!】じゃなく【ドカーン】だから大丈夫(は〜とま〜く)
>>237 最終回、投下おつかれさまでした。
長い旅路を通り抜けてここまで。読み手としても感慨深い気持ちになりました。
月並みな表現になってしまうけれど、過去を乗り越えて、未来へ。さわやかだなあ。
やり通したカズトさんへ惜しみない賞賛を。
次回作、お待ちしています。
>>265 乙でした。
本編で日の目を見なかったモニカがこんなに。それだけでなんか嬉しい
やっぱりメインは模擬戦サイドでしょうか。
ライの日常サイド挿入ででリズムが途切れるような感じも。
ライツの方はどんどんスキル上げてるのに対してライの騎士団入りはまだ、
こっちの子は大丈夫かな、と老婆心な心配をしてしまったり。次か、次なのか!
続き、楽しみにお待ちしています
>>201 読み返してふと。
筆者のルパートというのは苗字からするに、リヴァルの。孫、あるいは曾孫でしょうか。
もしかしたら、幼い時に祖父(あるいは曾祖父)に何かゼロやルルーシュへの思いを聞いたことがあって、
そのときの気持ちが、今の彼の仕事やその題材に影響を与えたのかも。
そう思うとなんだか嬉しくなりました。「続いていく世界」ですね。
……訳者の「南」さんも実はあの人の系譜なのかなと。ちょっとした仕込みが嬉しいなと思いました。
改めて乙です。
今から投下します。
タイトルは「週刊少年○○論争」
注意点
・ギャグ
・伏字なし
・ブロント語
以上に引っ掛かる方は注意してくださいませ
ライは生徒会室の扉の前で立ち止まっていた。 一応、仮入学していて、仮の生徒会役員である彼は今から生徒会室に入り仕事をせねばならない。
だが、扉の向こうが若干騒がしい事が彼の手足を止めていた。
経験上――記憶を失ってからの短い経験であるが――この先にはかなりの高確率で何らかのイベントが待っている、とライは推測した。
現に「男子全員猫耳の日」とか「健康サンダル履いて仕事」とか、その発想がどこからくるのか分からない思い付きイベントを経験してきたのだから。
更に聴こえる声の主はルルーシュ、スザク、リヴァルの三名。 全員男性である事がより不安に拍車をかける。
「……入るか」
しかし、このまま扉の前で立ち止まっていても何も解決はしないし、何らかのイベントだとしても自分だけ逃げて彼らを見捨てる薄情さを持ち合わせてはいなかった。
ライはゆっくりと扉を開け、中を確認しつつ生徒会に入る。
まず真っ先に会長の机に視線を向けた――が、目にしたのは自らの予想とはかけ離れた姿だった。
イベントを提案して慌てる皆を少し笑いながら見ている、それが今ライが思い描いたミレイ会長。
だが、実際には真面目な顔で机の上の書類と向き合っていた。
少し安堵の息をもらし、同時に疑問を抱く。 何故男子三人が騒がしかったのか、と。
とりあえずやかましい方に目を向け、その会話を聞くことで疑問はすぐに氷解したが。
「ジャンプの面白さが一番だろう?」
「いや、サンデーが一番面白いさ!」
「お前らに存在が時々忘れられるチャンピオン派の悲しみの何が分かるっていうんだよ!」
ルルーシュ、スザク、リヴァルの熱い週間少年○○が一番面白い議論が繰り広げられていた。
「努力、友情、そして勝利! 三つの力が一つになったジャンプこそ至上!」
何故かポーズを極めながら叫ぶルルーシュ、特に「至上」の叫びでビシッっと極めたポーズは神々しさすら感じる。
「サンデーの面白さを否定させはしない!
それにその三つはまさに王道、ジャンプにもサンデーにもマガジンにも存在するそれらは決定的な決定力とはならない、なりにくい!」
スザクの反論もなかなか的を射たものであった。
「おいィ? なんで今チャンピオン飛ばしたんだよ!
チャンピオンにだって努力、友情、勝利くらいあるぜ?」
リヴァルがその言葉にすぐさまツッコミを入れる。
そして、しばらく三者に無言が続く。 時間にして数秒ほどたってからおもむろにルルーシュが口を開いた。
「……三つ巴では埒があかないな」
「そうだね、ルルーシュ。 君の言うとおりだ」
「あぁ、つまりこの戦いの結末は……」
リヴァルの言葉と同時に三人がライの方を向いた。
「ライ、お前は何が好みだ?」
左手を顔の前に出し、ルルーシュが言う。
「ジャンプか、サンデーか、それともチャンピオンか」
ズズッっとスザクもライに迫る。
「……俺達、親友だよな?」
微妙に悲壮感を漂わせながらリヴァルもライへと近付く。 どちらかと言えばチャンピオン読者は少ないので劣勢に立たされていたのだろう。
「ぼ、僕は……」
ライは言葉に詰まる。 誰の味方をするべきか、自分の好みを正直に言うべきか。
そして、少しの迷いののち、彼は言い放った。
「僕は、マガジン派だ!」
三つ巴の争いが四つ巴の争いになった瞬間であった。
「いや、だからジャンプは面白い、それは認める。
だけど僕はマガジンの方が好きだ」
「そうだよ、ジャンプの面白さは僕も認める。
でもサンデーの方が好きだよ」
ライの言葉にスザクが追従する。
「くっ、似たような事を……汚いなさすがコラボきたない。 雑誌二冊がかりとか卑怯すぎるだろ」
好きな雑誌の主張は違えど、ジャンプを面白い、と言った上での言葉にルルーシュは思わず悪態をついた。
「卑怯とかじゃないから、仲間に入れて貰えなかったのが寂しいの?」
「そうだよ、それにこっちは同じ日に発売されているんだから仲の良さは証明されているよ」
「違う! 断じて寂しくなどない!
俺がどうしてジャンプのあまりにも強大な面白さには太刀打ちできないとばかりにコラボした雑誌を恐れているって証拠だ」
なんだかんだで『三人』の議論は白熱していく。
「お前ら……チャンピオン無視すんなよ!」
三人の話題にすら上がらなかったチャンピオン派であるリヴァルが言う。
「「「チャンピオンとかバキしか読まない」」」
「何でだよ! なんでよりにもよってバキだけなんだよ!」
三人声を揃えての『バキしか読まない』発言にリヴァルは半ばキレ気味に怒った。
「ルルーシュ、君だって『うしおととら』や『からくりサーカス』を読んで泣いただろ?
他にもガッシュとか……」
「連載終了したものは今関係無い。 そう、全ては過去、終わったことだ」
スザクの言葉に言い切るルルーシュ、その言葉に迷いはなかった。
「過去!? これだからジャンプ派は……連載終了を何とも思わないのか!?」
スザクのその言葉にルルーシュは顔を歪める。
「お前……ッ! 俺だって、俺だって打ち切りされた漫画にお気に入りがあった!
みえるひとやP2が何故消えねばならなかった!」
拳を握り、奥歯を噛み締めながらルルーシュは言った。
「……マガジンやサンデーなら打ち切られなかった」
ポツリとライが呟いた言葉にルルーシュは敏感に反応する。
「所詮それは仮定、イフの話だ。
ジャンプ派だからといってジャンプのやり方を全肯定している訳ではないが、それでもジャンプに連載される漫画が好きなのだから……」
少し俯きながら言うルルーシュの声には悲哀の音があった。
打ち切られてしまったお気に入りの漫画を思い出しているのだろう。
「……僕が思うに無理に決着をつけなくていいんじゃないか?」
「……うん、僕もそう思った」
ライとスザクがルルーシュに向かって言う。
「……あぁ、結局は好みの問題、ジャンプもマガジンもサンデーも面白く、一番を決めるのは個人の主観だからな。
サンドイッチの具がハムかツナかカツかで言い争うようなものだ」
「僕はハム派」
「僕はツナかな」
「俺はカツが好きだが……そういう話ではない!」
笑いながらルルーシュはツッコミを入れた。
「まぁ、とりあえず今日の所はこれまでだな」
「うん、溜まってる書類やらなきゃいけないね」
「そうだな……ん? 何か忘れている気が……気のせいか」
その日、仕事を始める時間は遅かったが三人で協力した為か仕事ははかどった。
「……チャンピオン面白いのに」
独り呟くリヴァル、その哀しみ故にいつもより作業ははかどったようだ。
おまけ〜もしナナリーがいたら〜
「あの……」
四人が言葉を交わしているとおずおずとナナリーが声をかけてきた。
「漫画って面白いんですか?」
かいしんのいちげき!
リヴァルは(心に)580のダメージ
「ぬわー」
リヴァルは倒れた
スザク(の心)にクリティカルヒット!
9999
「ウボァ」
スザクは倒れた
きゅうしょにあたった
こうかはばつぐんだ
ライのめのまえがまっくらになった
ルルーシュに(あらゆる面で)9999万のダメージ
ルルーシュははいになった
あとがき
あ、忘れてたけど微妙なパロもあるます。
知ってる人しかわからん細かいことかもしれないけど。
じゃあ、またなんか思いついたら書いて投下しますね。
乙です。少年漫画誌を巡る論議ですか、熱いねえ。そしてリヴァル、ドンマイだ。
乙!
ジャンプは打ち切り多すぎるよね・・・
ウボァはルルじゃないかなって思った
あーあー
チャンピオン面白いのに
週刊少年誌の中じゃチャンピオンが一番面白いのになー
というわけでリヴァルは私の婿
乙でした
乙です
確かにルルーシュはジャンプ好きそうだなwウボァはルルーシュに言って欲しかった、皇帝的な意味で
そしてさりげにガッシュ推すスザクに吹いたwでもどちらかといえばスザクはアリーヴェデルチの人のイメージが強(ry
まあ俺はチャンピオン一強だと思うんで、ここはとりあえずリヴァルを応援させていただく
乙でした
俺もチャンピオンはバキしか読んでないやwww
貧弱な軍馬さんの代理投下行きます。
7〜8レスくらいのようなので支援はなくても大丈夫かもです。
以下本文
・・・・・・・・・
「姫と騎士にて愛しきかな」の最新作だす。
いい加減にR2本編に入りたかったので、頑張ってみた。
でも原作的なシーンがサッパリ無いのは私の病気。
見捨てないで読んであげて下さい(ぁ
「いよいよだね? ナナリー」
謁見室を後にする二人の男女を多くのザワメキが見送った。
室内と比べれば見劣りはするが、先の見えない長い廊下は細部まで作りこまれた芸術品。
世界の頂点 ブリタニア皇帝の居城として恥じない風格を漂わせている。
「これもシュナイゼル兄様やお父様、そしてライさんのお陰です」
答えるのは栗色の長い髪の少女 ナナリー。瞳は伏せられ、光を捉えることは無い。
口から漏れるのは僅かな謙遜と多大な感謝の言葉。その矛先は自分の隣に座る人物 ライに強く向けられていた。
「そんなことは無いさ。全ては君の意思によるもの……君の成した結果だよ」
ナナリー・ヴィ・ブリタニア。
神聖ブリタニア帝国の中枢たる皇族・貴族たちの間で、彼女はある渾名をもって呼ばれていた。
『出戻り皇女』
母親を失い、エリア11に人質として送られ、死亡したと思われていたが生きており、のこのこと帰ってきた盲目で足が不自由な役立たず。
帰ってきてからも目が見えず、足も動けないハンディキャップと本国を長い期間に離れた事により、後ろ盾も持たない。
そして世界の覇者を輩出するべきブリタニア皇族において、弱者を見下せない優しさは弱点以外の存在足りえない。
故にその存在を知る僅かな者たちも彼女を重要視していなかった。
皇族の後援となり、その皇族が帝位継承権を挙げる事で自分達の権威を拡大する貴族達にとって、ナナリーはその対象として余りにも不適切。
しかしその評価は一気に押し上げる存在が彼女の傍らに居た。
名をライ。経歴は余りにも完結且つ単純。エリア11にて出戻り皇女と友愛を育んだが故に『騎士』を名乗る無礼者。
無礼者……そのはずだったのだが……
『彼の出自が不明、経歴も不明であり、信用など置けない。しかし真の騎士である』
ライがその才能を始めて公にし、皇帝より騎士足る資格があると認められた『騎士の条件』と呼ばれる模擬戦。
幸運にもその観戦を許され、のちにナナリーの後援へと名を連ねる事になった貴族は語る。
ライと言う存在は『彼が側に居る』と言うだけで、ナナリーの存在感を大きく増す。
誇張した表現ではない。普通の学生として極東のエリアで暮らしていたはずの青年。
そんな青年が『皇帝の椅子にもっと近い天才』と讃えられる帝国宰相 第二皇子シュナイゼルとチェスで接戦を演じた。
そんな青年が戦慣れしている軍の小隊を、初めて乗ったナイトメア・フレームで手玉に取る。
ブリタニアとは貴族を代表する古き権威が力を持っているが、同時に新しくも能力があれば認められる矛盾を抱えた国。
そんな場所では彼は好意的に受け止められずとも、確実に評価される存在となる。
同時にそれはナナリーに対する評価すら変えてしまった。
『主を知りたくば従を見よ。王を理解したくば騎士を調べよ』
そんな諺からも理解できる通り、貴族達にとってライとはナナリーの価値を映す鏡。
『文武共に優れた謎の青年騎士が絶対の忠誠を尽くす相手』
そういった観点からナナリーを見た場合、彼女の評価は一気に好転する。
二人の余りにも親しげな様子からして、ライと言う優秀すぎるブリタニアドリームを強く体現する騎士は、ナナリーの側でのみ力を発揮できるという推測は正しい。
否定的ではない基礎知識を持って接すれば、ナナリーの意向とは優しいだけの夢ではないと気がつく。
国是にすら歯向かう事を厭わない弱者への労わり。誰もが挙げる事が無かった善意による叫び。
それを皇帝が黙認し、宰相が僅かながらに助力し、優秀な騎士が強力に支えている。
もうこの時点でナナリー・ヴィ・ブリタニアは『役立たずの出戻り皇女』ではなくなった。
決して心地よい誠意の対象とはなりえないが、決して無視するだけで済む存在でもない。
つまるところブリタニアの中枢に一人の新たな名前が刻まれたということ。
そして今しがた皇帝から直接告げられた案件が、その名前の位置をさらに高みへと押し上げる事に成る。
「ナナリー、お前にエリア11の総督を任せる」
簡単な言葉で表すと神聖ブリタニア帝国98代皇帝 シャルル・ジ・ブリタニアがナナリーに告げた内容。
それは同時にナナリーとライが数ヶ月前から切望していた内容とも一致する。
「謹んでお受けいたします、おと……皇帝陛下」
嬉しさと責任の重さに公的な場面であるにもかかわらず、皇帝を『お父様』と呼びそうになりながら、ナナリーは車椅子の上で僅かに頭を垂れた。
健常な人間ならば決して許されない座上で皇帝との謁見。その背後には正しい形で王の視線を受け止める彼女の騎士ライ。
もっとも姿勢こそ正しい者だったが、彼のとる行動は常に突拍子も無く勇敢で新鮮。
「では皇帝陛下、先にお渡しした事案についても了承を頂けた……そう受け取って宜しいでしょうか?」
一般的に常に前を見ることすら躊躇われる世界の覇者を眼前にし、ライは伏せていた目を上げる。
しっかりとした視線は壇上の王者を捉え、言葉を発する事さえ憚られる相手に質問をぶつけるという暴挙。
当然の如く周りの貴族達からはざわめきが溢れ出す。
「ライさんっ!」
思わずナナリーすらも叱責の声を上げる。だがそれは決して出過ぎたマネをした騎士を叱責したのではない。
本来ならば自分が行わなければ成らない厄介な役割を代行してくれた事、矢面に立ってくれた事。
その出過ぎた優しさと愛情が嬉しくて、恥ずかしい。照れ隠しにも似た自己主張。
そんな二人の内心を見透かしたかのように、玉座の上で皇帝は含んだ笑みで口元を歪めて、短く返す。
「任せる……そう言ったはずだ。お前たちのやり方で全力を尽くせ」
簡略的な肯定の言葉にライは再び頭を垂れ、ナナリーも慌てて不自由な体を動かして居住まいを正した。
「細かな事はシュナイゼルと調整せよ……以上だ」
話は終わりとばかりに皇帝はさっさと退室してしまった。
残されたのはライとナナリー、そして周囲に名のある貴族達。
彼らの多くは退室するなり、親しい者と雑談を交えている。しかし一部はナナリーたちへと近づいてきた。
そう、彼らこそが二人のファン……後援に名を連ねる数人の貴族。
「おめでとうございます、ナナリー様」
「そのお若さで総督とは……この老体も思いつきませんでしたわい」
「いえいえ! ナナリー殿下とライ卿ならばただの夢では無いと思っていましたわ」
「ご将来が恐ろしい……いや、頼もしい」
中年の男性、禿げ上がった頭の老人、三十を僅かに跨いだ女性、軍人上がりだろうガッシリとした体の青年。
それぞれが性別や年齢に違いがあれど、貴族らしく着飾って貼り付けたような笑みを浮かべている点が共通。
「これもすべて皆さんの助力のお陰です」
ナナリーは目が見えない分、人の心を理解する事に長けている。
故に自分を支援してくれているこの貴族達が、笑顔と歓待の言葉の裏でイロイロと黒い事を考えているのは、容易く理解できた。
そして彼女はこう言った感情が苦手だったが……今はそうも言っていられない。
何せ少しでも苦しそうな姿を見せれば、ライが自分を守ろうと頑張りすぎてしまう。
「これからもご支援をよろしくお願いしますね?」
故に本当の笑顔には届かないがそれらしい笑顔を浮かべながら、軟らかい手で貴族達の手を一人一人握っていく。
例え若輩とは言えど皇族に直接手を握ってもらえるなど、貴族だろうと簡単に賜れる栄誉ではない。
誰もが深く頭を垂れ強く、優しく小さな手を握り返す。その光景を見てライは関心してしまった。
『流石はあの皇帝陛下と閃光のマリアンヌの娘だよ、ナナリー』
古き王の記憶では人間というのは解り易い金銭や地位の報酬に加え、一見価値が無さそうなプレゼントを愛するものだ。
例えば花が解り易い例だろう。お礼のキスとかもそうだ。今回は『皇女自ら感謝の握手』という形。
そんな価値の無い報酬が徐々に地位や金銭では手に入れられない忠誠を買っていくのである。
おおっとしえん
『ライさんばっかり頑張りすぎです!』
何時だかそう怒られた事があった。あの時だけは随分と派手にケンカもした。
世界一甘やかして上げたいと考えている愛しい恋人だが、ナナリーはそれだけで終わるつもりは無いらしい。
発展欲や向上心は正しく自分の時代から続く闘争の血族の末席に相応しいもの。
「それではこれからナナリー様の総督任命を祝して晩餐会でも?」
「良いですな。それは是非とも我が邸宅にて……」
「あら? 荒々しい殿方に可憐なナナリー様のエスコートが出来るものですか」
既に貴族たちの話題は大事な点数稼ぎへと移行している。
しかしそれはナナリーが欲するところではない。今日は既にもっと大事な用事が入っているのだから。
「申し訳ありません」
決して大声を出しているわけではない。しかし良く響く声だった。
点数稼ぎで必至にナナリーを囲んでいた貴族たちの視線が彼女の騎士 ライへと向かう。
「今日はシュナイゼル殿下を初め、好意にして頂いている皇族様たちに就任の報告をしなければ成りませんので」
「ごめんなさい、皆さん。また違う日にお呼ばれしますから」
渋々の了承とお誘いの約束を背後に聞きつつ、ライはナナリーの車椅子を押しながら混沌の坩堝を後にした。
「大変です!!」
数日後にエリア11入りを控え、ベリアル宮のナナリーの執務室で彼女が手掛けてきた福祉事業の書類を纏めていた時だった。
メイドにしてボディーガード、不自由なナナリーの介護すらこなすブリタニア版サヨコさんのような女性が室内に駆け込んでくる。
「どうしたんですか? マリナさん」
エリア11行きにも同行が決まっている優秀な人材の取り乱しように、ライは作業の手を止めて聞き返す。
聴覚で周囲の状況、特に人の感情を読み取るナナリーは既に彼女の声だけで不安げな顔。
「落ち着いて下さい、ナナリーが怖がっている」
そのライの言葉に僅かながらに息を吐き、心を落ち着かせようとしたマリナと呼ばれたメイドだったが、容易くその行動は失敗に終わる。
「放送を! テレビをつけて下さい!!」
必至に吐き出したその言葉にライは本当に重要な意味を見出し、書類を置いてテレビのリモコンを叩いた。
「聞け! ブリタニアよ!! 克目せよ! 力を持つ者よ!!」
画面に映ったのは顔をスッポリと覆う黒い仮面の男。
細身の体をピッシリとしたスーツで覆い、その上から黒いマントを羽織っている。
「まさか!!」
「この声は……」
ライはその余りにも特異な風貌で、ナナリーは機械を通した声色で、その人物が誰なのかをすぐさま把握した。
そして優秀なメイドがあれだけ焦っていた理由も。
「私は悲しい……戦争と差別……振りかざされる強者の悪意」
劇的な語り口、演劇染みた身振り手振り。全てが計算された自称正義の味方。
クロヴィス第三皇子の暗殺からブラックリベリオンまで、エリア11を最悪の坩堝に叩き込んだカオスの権化。
一年前のブラックリベリオンの失敗で処刑され、既に過去の存在となったはずの希代のテロリスト。
『ゼロ』
その瞳が仮面の向こうから見えもしない自分達を見据え、辿り着こうとしている事など、ライとナナリーが知るのはまだ先のこと。
支援するよ!
以上でした〜短いな、おい!!
本編では余り描かれていない?と感じた社交界とか人間間の駆け引きを狙ってみました。
次回にはゼロのちょっかいを出されます。二人は無事にエリア11にハネムーンに行けるのか!?(ぉ
・・・・・・・・・
本文以上でした。貧弱な軍馬さん乙です。
288 :
代理投下:2009/06/26(金) 22:04:31 ID:1bmNgcxi
ああっ。支援ありがとうございました!
ぬ、支援いらないって書いてあったね
ごめんよ、ごめん
ひさしぶりに続きが読めてよかった
R2編突入?
盛り上がってきたようで、次回にも期待
乙でした。そして、代理投下も乙です!
>>287 代理投下乙です!
そして貧弱な軍馬卿、GJでした!
騎士として高い評価を受けたライ、その騎士が仕える皇女としての価値が上昇。
ゼロが復活した日本に無事にたどり着けるか……ハネムーンっておいw
続きを楽しみに期待しつつ
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!
ジャンプ連載漫画の行き着く先は打ち切りかバトル漫画化しかない!
それは歴史が証明している!
おっと、いちご100%の悪口はそこまでだ
>>287 乙!
ゼロとの対面のときにナナリーの傍にいるライを見てルルーシュはそんな反応をしめすか楽しみです。
もしかしたら、「私のことはいいですから、艦の皆さんを守ってください」とか言ってライは前線に出ているのかも…
卿の作品を期待と妄想を持って、次の投下を全力で待っています。
>>291 あやまれ! 男塾とかのトーナメントの最中に打ち切り決定した漫画に謝れ!
>>287 互いの不足分を補うだけでなく、互いを高める組み合わせ。
下心だけでなく、真心から二人を応援してくれる人が現れてくれればいのですが。
傍らにライのいるナナリーを、ゼロはどんな思いで見るのか、
続き、楽しみにお待ちしています。
こんにちわ。前作の続きを投下します。
【メインタイトル】コードギアス 反逆のルルーシュ L2
【サブタイトル】〜 TURN03 ナイトオブラウンズ(後編)〜
【 CP 】無し
【 警告 】●根幹は黒騎士ルートを準拠してのR2本編介入ものですが、展開の所々にオリジナルな設定と話が混ぜ込んであります。
●王様ライの性格は自分の考えに依存してます。苦手な方はご注意下さい。
●ドロテアさんが出ますが、彼女の性格や位置付けは本編でも謎な存在だったのでオリジナルです。
それでは、投下行きます。
支援
支援
小気味良い足音を響かせながら、一体の着ぐるみが学園中を闊歩していた。
その中で、額に汗を垂らしながら紅月カレンは一人愚痴る。
「もうちょっとマシな変装するんだった……暑苦しいったらありゃしないわ」
そう言って額から流れる汗の感触にカレンは不愉快そうに顔をしかめた。
事の発端は、今朝の事。
「C.C.。あんた何時まで寝てるのよ」
領事館内にあるC.C.の部屋にノックせずに入ったカレン。が、部屋の中は蛻(もぬけ)の殻だった。
「……何処行ったのかしら?」
カレンは辺りを見渡すと、机の上に一枚の紙があるのが目に留まった。
どうやら書き置きらしいと判断したカレンは手に取ると読み始めると、直ぐにその顔から血の気が引いていった。
――アレを取りに少し学園に行って来る――
「……何よ…これ……」
カレンは何かの間違いだろうと目を擦るが、文字が形を変える事は無かった。
「何考えてんのよ!!」
思わず紙に向かって怒鳴りつけると部屋を飛び出したカレンは頼りになりそうな存在、藤堂達の元に一目散に駆け出した。
その藤堂はというと、部屋で四聖剣と慎ましやかな朝食をとっていた。因みに卜部は不在だ。
藤堂の部屋に駆け込んだカレンは手に持った紙を渡すと開口一番問う。
「どうしましょう?」
「どう、と言われてもな。連れ戻す以外に方法は無いだろう」
やや困惑した様子で言った藤堂は朝比奈が入れたコーヒーを一口含むと、口元を真一文字に結んで渋い顔をする。
それを思慮してくれている思うカレン。だが、藤堂の右隣に腰掛けた朝比奈は「どうです?」とでも言いたげな笑みを浮かべていた。
仄かに漂う醤油の香りに、彼の真向かいに座る千葉が抗議の視線を送ると、朝比奈の左隣に腰掛けていた仙波が独り言のように言う。
「ですが、大勢で押し掛ける訳にもいきませんな」
その言葉に反応した千葉と朝比奈は、無言でカレンに視線を移した。
「わ、私ですか?」
二人の視線に気付いたカレンが素っ頓狂な声を上げるが、千葉は燐とした声で諭すかのように言う。
「学園の地理に詳しいのはお前しか居ないだろう?」
それでもカレンの動揺は治まらなかった。
「どうやって潜入すれば……」
「変装するしか無いんじゃない?」
朝比奈が苦笑しながら言うと、カレンは思わず眉を顰めた。
「変装…ですか?」
「そう、変装」
「で、でも学園には知り合いが居るし、ちょっとやそっとの変装じゃ……」
「今日は学園祭なんでしょ?人が多いし潜り込むには丁度いいんじゃない?」
「な、何で知ってるんですか!?」
カレンは昨晩C.C.から聞いたばかりの話がもう知れ渡っている事に驚いた。すると、朝比奈は再び苦笑した。
「昨日の晩、ニイガタに向かう前に卜部さんが言ってたんだよ。ついでに、C.C.は何か良からぬ事を考えている。気を付けろ、ともね。
まさか昨日の今日で行動に起こすなんて思ってもいなかったから、気を付ける時間なんて無かったけどさ」
「はぁ……」
朝比奈の説明を聞いたカレンが短く呟いた時、唐突に藤堂が口を開いた。
「ところで、紅月君。彼女は一体何を取りに行ったんだ?」
「えっ!?」
思わぬ問いにカレンは瞳を見開いた。
ゼロの正体を知った彼女からしてみれば、C.C.が学園に縁があるのは当然と言える。
しかし、藤堂達からしてみれば理解出来ない事だった。
良い言い訳が思いつけなかったカレンが言葉に詰まっていると、不意に仙波が指口を挟む。
「いえ、中佐。この場合、彼女が学園と接点を持っていた事の方が重要ではないですかな?」
それを聞いた千葉と朝比奈。二人は思いついたように席を立った。
「そういえば……」
「ねぇ、ひょっとしてゼロの正体って………………学生?」
朝比奈の問い掛けにカレンは心臓が飛び跳ねるのを感じた。
一時期、C.C.はゼロの愛人では無いかと騎士団内で話題になった事がある。そして、今現在ゼロは領事館内には居ない。
朝比奈の問いはそれらを念頭に推理した結果、導き出されたものであったのだがそれは見事に当たっていた。
だが、事実とは言えカレンが肯定出来る筈も無い。
「そ、そそそんな訳無いじゃないですかっ!!!」
「紅月、声が上擦っているぞ?」
「う〜ん。違うとしたら、何故彼女は学園なんかに行ったのかなぁ?」
ジリジリと詰め寄る二人から逃れるように後退りながら、カレンはチラリと藤堂達に視線を移す。
しかし、こういった時窘めてくれる筈の二人は興味深げな視線を送るのみ。
オマケに、自分達以外で唯一ゼロの素顔を知る卜部は今は遠くニイガタの地。救いの手は望めそうも無かった。
「そ、それは……」
「「それは?」」
見事にハモって見せる千葉と朝比奈。
遂に壁際にまで追い詰められたカレンは、一人でどうにかするべきだったと悔やんだが後の祭り。
だが、今は後悔している場合では無かった。
何とかこの場を乗り切るべく冷や汗をかきながら模索した結果、カレンは心の底より詫びながら言葉を紡いだ。
「その……C.C.はライの部屋に……」
「「ライの部屋!?」」
驚愕に瞳を見開いて再びハモる二人。それを好機と捉えたカレンは捲し立てるかのように言う。
「そ、そうです!C.C.ったら騎士団のアジトだけじゃ飽きるからって、ライの部屋に何度か遊びに……」
当の本人であるカレンは苦し紛れの一言だとの認識でいたが、彼等には効果覿面のようだった。
「成る程、戦闘隊長殿は彼女とも仲がよろしかったですな」
「そういう事か。それならば彼女が学園に縁があるのも頷けるな」
藤堂と仙波は互いに顔を合わせて納得していた。
「済まなかったな、変に勘繰ってしまって……」
「ごめんね……」
千葉と朝比奈もライ絡みとあればカレンに対してこれ以上の追求等出来る筈もなく、バツの悪そうな顔で謝罪した。
「い、いえ!誤解が解けたみたいで良かったです」
そんな彼等に向けてカレンは笑みを浮かべるが……。
――C.C.。怨むわよ。
こんな事でライを引き合いに出したく無かった事もあり内心穏やかでは無かった。
その後、擦った揉んだあった結果、朝比奈が何処からか見つけて来た巨大なラッコ、タバタッチの中に入ると地下階層を抜けて学園に潜入を果たしたカレン。
彼女は今、クラブハウス内を彷徨っている最中だった。
何故クラブハウスなのかと言うと彼女には確信があったからだ。
――やはりあれでないと駄目だな。坊やの部屋に置きっぱなしにしたのは不味かった――
それは逃亡の最中、寝床で膝を抱えたC.C.が幾度となく言っていた言葉だった。
「全く、覚えときなさいよね。あの女……」
文句を言いながらもカレンはルルーシュの部屋に向かう。だがその途中、不意に彼女の足が止まった。
カレンの左手には見慣れた扉があった。彼女は知っていた。それが誰の部屋だったかという事を。
カレンは物を掴むようには出来ていないタバタッチの手を必死に操って、何とかドアノブを回すと部屋の中に足を進める。
途中、入口で着ぐるみが詰まったりしたが無理矢理押し入った。
支援!
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「すっかり…変わっちゃったわね……」
部屋の中を見たカレンの第一声がそれだった。
今日の学園祭に使う為に運び出したのだろう。倉庫となっていたその部屋の中は散乱していた。
カーテンは開いており、そこから差し込む日光が部屋の中を明るく照らしていた。
そこは嘗てライが居た部屋であり、彼女にとって思い出が詰まった部屋だった。
この部屋でカレンはライとたわいもない会話をし、時には愛を語ったのだから。
だが、今は当時の面影は微塵も無い。
戸棚も無ければそこに在った紅と蒼のお揃いのカップも、一緒に写っている写真立ても無い。
ライが居たという物証は全てが幻であったかのように消え失せていた。
だが、例えこの部屋に無くともライが居たという証拠は確かに有るのだ。カレンの心と左手に……。
しかし、分かっているとは言えそれでも一時カレンは目に映った現実に悲しんだ。
「生きてるなら……何で……」
自分の元に戻って来てくれないのか。
カレンは今すぐにでも着ぐるみを脱ぎ捨てて叫びたかった。
だが、それが出来ない事を知っていたカレンは覚束無い足取りでフラフラと歩む。
そして、窓際に至ると徐に窓の外へと視線を向けた。
そこから見える景色は多少変わってしまってはいたものの、彼女にとっては一年ぶりに見る景色だった。
不意に、カレンの脳裏に結納前日この部屋でライと交わした言葉が過ぎる。
◇
――カレン、外なんて眺めて…何を黄昏てるんだ?
――そんなんじゃないわ。
――じゃあ、どうしたんだ?
――えっとね……明日、ライと一緒になれるんだって考えるとね……。
――考えると?
――し、幸せだなって思ってただけ!
――なら、僕も窓の外を見ないといけないな。僕も……幸せだと思ってるから。
◇
「ライ…今の私は幸せじゃないわ……」
そう呟いて項垂れるかのようにカレンは視線を落とす。
すると、その瞳に飛び込んで来たのはクラブハウス裏に置いてあるコンテナと、その上で何やら会話をしている二人の姿。
「見付けた!!しかもルルーシュまで!」
言うや否や、カレンは着ぐるみを勢い良く反転させると扉に向かって一目散に駆け出した。
途中、再び詰まるが同じく何とか通り抜けると、最後に名残惜しそうに一瞬だけ部屋の中に視線を送る。
が、それを打ち消すかのように勢い良く首を左右に振ると、彼女はC.C.を捕まえるべく再び駆け出していった。
――――――――――――――――――――――
コードギアス 反逆のルルーシュ L2
〜 TURN03 ナイトオブラウンズ(後編)〜
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学園でスザクの復学祝いが始まっていた頃。
世界の三分の一を支配する超大国、新生ブリタニア帝国本国には夜の帳が落ちていた。
その帝都、ペンドラゴン。
そこは各地のエリアより吸い上げられた富が集まる場所でもあり、帝都では常日頃より至る所で貴族達の晩餐会が開かれている。
ブリタニアを憎む者が訪れれば、さながら貴族達の見本市だと皮肉めいた言葉の一つでも吐き捨てる事だろう。
だが、その帝都の中に在って訪れる来賓の品位が別格とも言える場所がある。
各地の領主や貴族達が皇帝に謁見を求める為に訪れる皇宮だ。
支援
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来賓もさることながらその警備も並々ならぬものがあり、皇宮は普段から人の往来が途絶える事はまず無い。
だが、一年程前のある日の事。
皇帝シャルルの命により月に一度だけ、皇宮はごく限られた者以外一切の人の往来を拒むようになった。
当初、その勅命に貴族達は大層訝しんだが、それを皇帝に問う事が出来るような勇気ある輩は一人として居なかった。
皇帝もまた明確にその理由を説明する事も無く、やがて貴族達はその日を「月の日」と揶揄するようになった。
今日が正にその日だった。
静まり返った皇宮の一室では、長大な机を挟んで二人の人物が食事をしていた。
一人は老いに片足を突っ込んだかのような白髪。だが、その容姿と相反して男の持つ薄紫色の瞳は一切の老齢を感じさせぬ程に若々しい。
男の名はシャルル・ジ・ブリタニア。この皇宮の主であり、世界の3分の1を支配する帝国の主でもある。
そんな男と相対するのは灰銀色の髪に蒼い瞳をして、端正な顔立ちをしたうら若き青年、ライの姿だった。
二人の間に会話は無い。
各々、全くの無言で食事を口元に運ぶ作業を繰り返している。
部屋の中には彼等以外にも数名の人影が映える。だが、人かどうかと問われれば怪しいものだ。
ライの直ぐ脇に控える銀色の仮面、カリグラは直立不動のまま一切の言葉を語る素振りを見せない。
また、壁伝いに控えている女中達は人形のように一切の言葉を発する事無く、各自の役割を果たす為、ただそれだけの為に控えていた。
これは実質シャルルとライ、二人だけの晩餐会と言えた。
だが、皇帝が催したにしては日頃帝都の各所で催されている貴族達のそれと比べると余りにも質素と言える。
しかし、この光景を目の当たりにすれば貴族達は大層驚くとともに羨望の眼差しをライに送る事だろう。
かの皇帝と晩餐を共にする事を許されているのだから。
やがて、食事も一通り終わったライは口元を軽く拭いた後、口を開く。
「ナナリーの出立は明後日だったか?」
問われたシャルルは杯の中身に口を付けた後、応じた。
「それが何か?」
「……いや、何でもない……」
この異様に静まりかえった状況を打開すべくライは口を開いたのだが、続く言葉を思い付けなかった。
普段は決まってV.V.が二人に話を振るのだが、生憎今日は参加していない。
ライはたわいもない世間話は苦手だった。特に目の前に居る男、シャルルに対しては。
黄昏の間で饒舌に話しているのは、話題があるからなのだ。
――これ程、彼奴に居て欲しいと思った事も無いな……。
ライが心中でV.V.の有用性を実感していると、今度はシャルルが口を開いた。
「時に、御主はナイトメアを所望したと聞いたが?」
シャルルの方から話を振って来た事にライは内心安堵しつつ、杯を手に取ると答えた。
「ああ、それがどうかしたか?」
「丁度、その頃には完成するとの報せを受けておる」
「何故お前がそれを言う?嚮団の技術者が造っているのでは?」
ライが眉を寄せると、シャルルは口元を僅かに綻ばせた。
「手に余るそうでな。今はキャメロットに作製させておる」
「キャメロット…枢木の機体を造ったところか……」
キャメロット。旧称を特別派遣嚮導技術部という。嘗て、そこが造り上げた一機のナイトメア。
現在、敵国よりブリタニアの白い死神と恐れられている機体、ランスロットのスペックを思い起こしたライは「楽しみだ」と続けた後、杯の中身を飲み干した。
すると、壁伝いに控えていた女中の一人が歩み出て注ぐ。
注ぎ終わった女中は、一礼するとまた元の位置に下がっていった。
ライは満たされたばかりの杯を遊ばせて、その中で揺れる紅い液体を眺めながら話題が出来た事に口元を緩める。
因みに、杯の中身は酒精ゼロの葡萄酒だ。
「確か、その者達もナナリーと共に日本に向かう予定だったな?」
シャルルはライの意図に気付いたのか、何も答えず眉を顰めると続きを待った。
支援!
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「受け取るついでに私も同行する事としよう」
「御主がエリア11に降り立つ事を認めた覚えは無い」
予想通りだったのか、シャルルは「委細認めぬ」といった口振りで断じたが、ライは愉快そうに返す。
「分かっている。途中で引き返せば問題は無いだろう?」
そう言ってライは再び杯を口元に運ぶ。そんなライの様子をシャルルが鋭い瞳で見つめていると、杯を置いたライは理由を告げた。
「ゼロがルルーシュなら、ナナリーを警備が厳重な政庁に入られる前に奪いに動くだろうからな」
「現れれば確定となる、か……」
どこか感慨深げな表情を浮かべるシャルル。だが、ライは同意しなかった。
「どうかな?ゼロの力を再び内外に誇示する為に先手を打ったとも考えられる。若しくは、再び活発化しつつある他のテロ組織に対する鼓舞か……」
そこまで語ると、ライは一息入れるかのように背もたれにその身を委ねた。
「何れにしても、今はあの仮面を剥ぐ以外にゼロがルルーシュであるかどうかを確認する手立ては無い。最も、私が確信出来うるだけの状況証拠でもあれば別だがな」
「今は疑惑を積み重ねておる最中という訳か……その為に、増員も控えたのだな?」
「ああ、中々尻尾を見せないからな。監視を緩める事で変化があるか探っている所だ。同時に、C.C.の出方もな。総領事館の地下階層は全くの無防備にしてやった。通りたければ通るだろう」
目元を緩ませながら、ライは更に語る。
「だが、そもそもルルーシュにはギアスが有る。既に目覚めていればの話だが、増員は相手の手駒を増やす事に成り兼ねない……いや、ロロのギアスの前では杞憂か」
愉快そうに口元を歪めるライを見て、シャルルは咎めるかのように問う。が、彼の口元も同じく歪んでいた。
「楽しんでおるな?」
「駄目か?」
「いや、良い」
愉悦を含んだ口調で告げたシャルルは一拍置くと再び口を開く。
「良かろう。乗艦許可の件、ナイトメアと併せて手配しておこう」
シャルルがライの望みを聞き届けた時、扉をノックする音の後に扉越しに渋い男の声が響いた。
「皇帝陛下。御迎えに上がりました」
「入れ」
声の主を認めたシャルルが許すと重厚な響きと共に扉が開く。扉の向こうには、騎士の装いをして白い外套を身に纏った一人の男が立っていた。
静かな足取りで入って来た男の姿を認めたライは、微笑を浮かべると彼なりの労いの言葉を掛ける。しかし、その瞳は笑ってはいなかった。
「毎度の事ながらご苦労な事だな、ビスマルク」
「ライゼル……」
ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン。
名実共に帝国最強の騎士として君臨する彼は、その挑発めいた響きを含んだ言葉に剣呑な表情を貼り付ける。すると――。
「そうだ、時と場所を辨えて使え」
ライは愉快そうに目元を緩ませた。
――ライゼル・S・ブリタニア――
その名は帝国にとって神聖なものであり、普段は皇族であっても口にする事は許されない。
では、何故ビスマルクは敢えてその名を呼んだのかと言えば答えは簡単だ。
ライという呼び名は嘗て彼が心許した者にのみ呼ぶ事を許した名。最も、嘗てその名を呼べたのはたった2人だけだったが……。
だが、普段その名で呼んでいる皇帝とV.V.に対しても、ライは完全に心を許した訳では無い。
なし崩し的に認めざる負えない状況になった結果、大層不満ではあったが許可したに過ぎない。
一方で、ビスマルクに関しては公の場で呼ぶ事を除けばライは二人のように許可してはいなかった。
ライとビスマルク。
あの日以来、二人の仲はお世辞にも芳しいとは言えなかった。
ライがルキアーノを危うく殺し掛け、ビスマルクがそれを間一髪といった所で止めたあの日だ。
あの後、ビスマルクは厳重に注意したがこの尊大な王が聞く筈もなかった。
支援
支援
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二人は暫しの間互いに無言で視線をぶつけ合う。
すると、不意にビスマルクの表情が曇った。
ライの座る椅子に立て掛けてある白鞘に収まった刀と、カリグラの仮面を被る者が腰に据えている深紅の剣を見たからだ。
ビスマルクの瞳が鋭さを増した。
自身が崇拝して止まないシャルルの前で帯刀する事が許せなかったからなのだ。
が、ここに持ち込んでいるという事はシャルルもそれを許可しているという証明でもある。
シャルルを差し置いて咎める事等出来る筈も無かったビスマルクは、瞳に批難の色を浮かべるに留めた。
しかし、ビスマルクはライを批難する為に入室した訳では無い。
何時までも睨み合っている訳にもいかなかった彼は、視線を逸らすとシャルルへ向けて頭を垂れる。
「直に定例報告が始まります」
「相分かった」
シャルルは短く答えて席を立つ。
すると、ライも椅子に立て掛けてあった批難の元を手に取り腰に据えると後に続いた。
「では、私も準備をするとしよう。行くぞ、カリグラ」
「Yes, Your Highness」
ライの命に機械的に返すカリグラ。
ライはカリグラを従えてビスマルクの脇を通り過ぎると扉を開いたところで足を止めた。
「宵のうちに空港へ向かう。件の件、忘れるな」
シャルルに念を押したライはカリグラと共に扉の奥に消えていった。
――――――――――――――――――――――
人気の無い皇宮の廊下を騎士の装いをした三人の人物が歩いていた。各々の色に染め上げられた外套を翻しながら。
不意に中央を歩む者が口を開く。
「全く、こうも静かだと不気味だな」
「聞き飽きたぞ、ノネット」
ナイトオブナイン、ノネット・エニアグラム。
ラウンズの女性メンバーの中では最年長に当たる彼女だが、普段は猫のように自由奔放な性格が目立つ。
が、その反面、面倒見の良い性格も持ち合わせており、軍内部や他のラウンズからも慕われている。
だが、今はその普段の性格が面に出ていた。彼女は同僚の苦言をあっけらかんとした口調で右から左に聞き流したのだ。
「そりゃ済まなかったなぁ、ドロテア」
ナイトオブフォー、ドロテア・エルンスト。
ノネットとは士官学校で2つ下の後輩に当たる。
その為、ラウンズを拝命した当初は敬語で接していた彼女だったが、ある日「同じラウンズとして肩を並べているんだ。堅苦しい敬語は止めよう!」とノネットに提案された。
規律を重んじる性格だった彼女は、その提案に大層困惑したが「止めないなら、あの事バラそうか?ん?」と満面の笑みで問われて以降、使う事は無い。話が逸れた。
ドロテアが相変わらず自身の忠告など意にも返していない様子のノネットを見て軽く溜息を吐いていると、最後の一人が憂鬱な表情のまま呆れたように呟いた。
「貴女は気楽でいいわよね」
「どうしたんだモニカ?随分とご機嫌斜めなようだが……あの日か?」
ナイトオブトゥエルブ、モニカ・クルシェフスキー。
3人の中では一番年下に当たる彼女だが、今就いている要職の影響か。精神年齢は案外一番上かもしれない。
彼女も拝命当初ノネットに同じ事を言われたのだが、ドロテアと違い二つ返事で承諾して今に至る。
「オヤジみたいな事言わないでくれない?」
モニカはノネットの軽口に大層気分を害したようで、ムッとした表情でピシャリと言い切ったが、直ぐに表情を戻すと手に持った分厚い書類に視線を落とした。
一方、ドロテアは自身の手にある数枚の書類と彼女のソレを見比べて苦笑した。
「モニカはロイヤルガードの責任者だからな。報告する事も一番多い。良くやっていると思う」
「毎回してるじゃないか」
支援!
支援
感服した様子でいるドロテアとは対照的に、砕けた口調で語るノネット。モニカは深い溜息を吐いた。
「何度やっても緊張はするのよ」
「そういうものか?」
「そういうものなのっ!!」
モニカが断言すると、ノネットは肩を竦めて戯けた仕草を見せながら相手を代えた。
「ドロテアは?」
「今回は衛生エリアの視察だったからな。特に問題も無かった事だし、30分もあれば報告は終われるさ」
短くて30分。モニカは一体何時間話す羽目になるのだろうか。
終わったとしても、その後はビスマルクと一対一の協議が待っているのだ。モニカの憂鬱さも納得出来るというものだろう。
厳つい上司の表情を思い起こしたモニカが軽く溜息を吐いていると、ドロテアは一瞬だけ何処か羨ましがるかのような視線を送った後、隣で悠々と歩んでいる先輩兼同僚に視線を向けた。
「ノネット、お前こそどうなんだ?」
「ん?あぁ、私か?そうだな……今回はEU戦線に少し顔を出したが、張り合いの無い連中ばかりだ。報告する事は何も無いなぁ。ルキアーノは楽しんでいた様だが……」
「そんな事を言って。またコーネリア殿下を探しに行ったのだろう?」
「ハハッ!バレたか。あぁ、そのついでだ。殿下は何処に行かれたのだろうな……」
ノネットは物思いに耽るかのような瞳で虚空を見やる。
そんな彼女をドロテアが「やれやれ」といった様子で見つめていると、モニカが疑問を口にした。
「ルキアーノはまだEUに?」
「あぁ、彼奴は報告書を作成するような柄じゃ無いしな。私もだが」
所在無さげに両手を軽く振って見せるノネットを見て、ドロテアは苦言を呈する。
「ノネット。そういった所を直しさえすれば、お前の実力ならもっと上の――」
「私はナインの称号が気に入ってるんだ」
苦言を遮るかのように言うノネットに向けて、ドロテアは心底呆れた様子で言った。
「名前と同じだからだろう?」
「当たりだ」
「全く……モニカも何か言って――」
破顔するノネットに対して、ドロテアはほとほと困り果てた様子で助けを求めたが返答は無かった。
「どうした?」
気になったドロテアが彼女を見ると、モニカは少し緊張した面持ちで正面を見据えていた。
続いてドロテアは、直ぐ傍を歩くノネットにも視線を向ける。すると、先程までとは打って変わって彼女は剣呑な表情を貼り付けていた。
そんな二人に釣られるかのようにドロテアが正面を向くと、遥か前方より向かって来る二つの人物の姿が見えた。
彼女達とその者達は、互いに歩みを止める事無く歩み寄る。
やがて、彼女達は相手の姿が視認出来る距離まで近づいた時、歩みを止めた。
向かって来る人物の正体は、豪奢な皇族の衣服に身を包み純白の外套を翻しながら歩むライと、銀色の外套を翻して彼の背後を付き従うかのように歩む仮面の男、カリグラの姿だった。
彼女達は誰からという訳でも無く、廊下の端に寄ると軽く頭を垂れる。
期せずして道を譲られた格好となったライ達ではあったが、見向きもせずに傍を通り過ぎると廊下の奥に消えて行った。
姿が見えなくなったのを確認した彼女達は再び歩き始める。すると、不意にノネットが言った。
「いつ見ても思うが、珍しい組み合わせだな」
「あぁ……」
「どうしたの?」
ドロテアの生返事が気になったモニカが問うと、問われた彼女は渋い顔をしながら言った。
「少し……やり過ぎだとは思わないか?」
「カリグラの事?」
ドロテアが首肯すると、ノネットはやれやれといった様子で彼女の頑固さを嘆きつつも口を挟んだ。
「随分と悪どい事をしてたんだから仕方ないさ。情状酌量の余地は無いだろ」
「そうよ。よりにもよって麻薬を密売するなんて、貴族の風上にも置けない連中よ」
「だが、裁判を受けさせる事もしないとは……」
支援
支援
彼女達が話しているのは、カリグラの所業についてだった。
機情の長として噂が流れ始めた当初、カリグラはモニカが言ったように裏でその取引を仕切っていた貴族を粛清したのだ。
粛清と言うだけあって、それはアッシュフォード家が今現在味わっているような没落では無く、家そのものの消滅だった。
尤も、これは内容が内容だけに今もなお箝口令が敷かれており、一部の者達を除いて一般市民には知らされていない。
当然、ラウンズとして帝国中枢に席を置く彼女達は知っていた。
序でに言うと、摘発から刑の執行、その後の情報操作までの一切を取り仕切ったのが機情だという事も。
しかも、ドロテアが言ったように裁判等の法的手続きを一切取らず、主犯格であった当主達は逮捕された3日後に処刑台へと送られた。
ドロテアも、儲ける為に麻薬を蔓延させようとした貴族の罪は赦されるものでは無いとの考えでいる。
だが、彼女はラウンズの中でも堅物な性格で有名だった。それは、ノネットから女ビスマルクとまで揶揄される程だ。
――尤も、当の本人は表向きは畏れ多い事だと言いつつも、裏では密かにそれを気に入っていたりするのだが――
彼女の心中には、せめて公正な裁きの場で然るべき処罰を下すべきでは無かったのか、との思いが未だに燻っていた。
それを察したのか。ノネットはドロテアの肩に軽く手を添えると宥めるかのように問う。
「しかしだ、裁判をすっ飛ばした結果、植民エリアで同じように手を染めていた連中は手を引いたぞ?証拠に各エリアの治安状態も向上してるだろ?」
「それはそうだが……」
一部、未だにその甘い汁が忘れられずに続けている連中も居るには居たが、以前と比べると出回る量は格段に落ちていた。
奇しくもノネットに指摘される形となってしまったドロテアは、不承不承といった様子ではあったが頷いた。
彼女も良く分かっていたのだ。
モニカにラウンズ以外にロイヤルガードの責任者という職務があるように、ドロテアにも職務があった。
彼女の職務は、各エリアの治安状況並びに軍事拠点を視察する査察官。
他にも各地のエリアを治める総督達に軍事的指導を行ったり、軍部の規律が乱れていないか。乱れていた場合は律するといった職責も背負っている。
当然、エリアを訪れる回数もラウンズの中では突出していたし、件の件以降、各エリアの規律が正されつつある事は彼女自身その目で見て十分に理解していた。
視線を落としたドロテアが心の内で葛藤していると再びノネットが口を開く。
「私はお前の行動は正しかったと思う」
「私もよ」
「えっ!?」
慌てて顔を上げたドロテアの目に飛び込んで来たのは、微笑を浮かべる二人の姿。
ドロテアは機情が動く前から幾度か現場を摘発しており、最初に尻尾を掴んだのは彼女だった。
ある時、摘発した者の中に軍関係者が数名含まれていた事を知ったドロテアは憤慨した。
だが、取り調べを行った結果もたらされた情報には、ドロテアは怒りを忘れてただただ唖然とするばかりだった。
関係者の一人がとある公爵家の関与を示唆する供述を始めたからだ。
当初、背後に居るのはマフィア辺りだろうと推察していた彼女にとって、これは予想の範囲外。
判断しかねた彼女がシャルルに報告すると、シャルルは機情に調査を命じた。
その後の事は、ドロテア達も詳しくは知らない。
知っている事と言えば、カリグラが名前の挙がった公爵に参考人と称して事情聴取を行った結果、相手が全面的に罪を認めた事と、異例のスピードで刑が執行されたといった事ぐらいだ。
それを思い出しのかノネットが呟く。
「しかし、あれだな。よくもまぁ簡単に罪を認めたよな」
「罪の意識に苛まれてたんじゃないの?」
モニカは自身の考えを告げたが、ノネットは「あの公爵に限ってそれは無い」と断言してみせた。
すると、ドロテアは不意に一時囁かれた噂話を思い出した。
「確か、機情は自白剤でも使ったのでは無いかと噂になっていたな」
「それは私も聞いたわ。でも、宰相府が薬物検査をしても反応は出なかったらしいじゃない」
「そうだったな」
支援!
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モニカに否定されたドロテアは、噂話を気に掛けるなど自分らしく無いと思ったのか、微苦笑を浮かべながら同意した。
当初、公爵側は当主に掛けられた嫌疑を全くの濡れ衣であるとして強く抗議した。
対する機情は取り調べの際のテープを証拠として送り付けたが、公爵側はそこに映っていた淡々と罪を語る当主の姿に今度は自白剤の使用を疑い出す始末。
帝国法においても、自国民に対して薬物等を用いた自白の強要は重罪であった事から、公爵側は宰相府に手を回すとシャルルに刑の執行を取り止めるよう嘆願させた。
これを受けてシャルルは立場上公正を期す為か、宰相府に薬物検査の実施を指示。だが、2日後に出た結果は全くの白。
――それは当然の帰結だ。ライが使った自白剤は薬物などでは無いのだから――
同日、報告を聞いたシャルルの「如何に力有る貴族、公爵であろうとも帝国に汚れた力は不要」との言葉の元、刑は執行された。
ここまでならドロテアも納得しろと言われれば出来ない事では無かった。
だが、その後の展開だけは例え上司であるビスマルクに言われても、そう簡単に譲るつもりは無かった。
「その後の機情の一連の行動。あれだけはどうしても腑に落ちない」
ドロテアが瞳を細めて断言すると、二人は同じように瞳を細めて同意した。
「まぁ、あれはな……」
「確かに、あなたの言うようにやり過ぎかもね」
ドロテアの言う機情の行動は、結果として公爵家の取り潰しと取り巻きであった数人の貴族の失踪という事件にまで発展した。
が、彼女達はその原因がカリグラたるライの私情によるものだったとは知らない。
最終的に公爵の刑の執行は執り行われたが、途中、検査結果が出るまでの間ストップしたのは事実でこれがライの怒りを買っていた。
元々、ライは興味が無い事や契約に関する事以外で動く気はなかったのだが、麻薬密売という台詞を聞いた瞬間、何故かやらなければとの半ば使命感めいた感情に突き動かされていた。
言うなれば、公爵家の行動はライの行動を阻害したに他ならなかった。
邪魔をした相手にライがどのような行為に出るかは、ルキアーノの一件で証明済みである。
怒り狂ったライは公爵家を焼き払おうとしたが、「理由無しには認めぬ」とのシャルルの言葉に止められた。
その為、ライは機情を使って20年以上前に起きたシャルルに対するクーデター。俗に言う血の紋章事件の関与をでっち上げたのだ。
無論、そんな事実は無い。
だが、シャルルはそれを認めた。V.V.の「認めないとライの怒りは静まりそうにも無いよね」との言葉も影響したのだろう。
しかし、抜け目は無かった。
シャルルは認めるにあたって、他の皇族に紹介する場に出席する事を条件とた。
紆余曲折あったが、最終的にライがこれに同意した事で公爵家は取り潰された。
と、本来ならここまでで済む話だったのだが、その後の公爵家の取り巻きたる貴族達の行動も拙かった。
全く躊躇する事無く公爵を死刑台に送っただけでは無く、皇帝に公爵家そのものを取り潰させた機情の長。その発言力に並々ならぬ興味を懐いた貴族達。
彼等の中の数家がその長を引き込むべく動いた。あろう事か機情の長、カリグラの素性を探ろうとしたのだ。
だが、それは直ぐに中止となった。
彼等が手配した密偵は2日と経たないうちに消息を絶ち、更にその3日後には当主達が相次いで失踪したからだ。
時を同じくして、静観者を気取っていた者達の手元には差出人不明の分厚いファイルが数冊届けらた。
その中身を見た貴族達は震え上がったという。
そこには、それまで彼等が失踪した当主達と共に荷担した犯罪行為が、数多の証拠と共に示されていたからだ。
誰が送って来たのか考えるまでも無かった。
そしてその意図が明白に伝わった事により、貴族達は機密情報局。その長たるカリグラに畏怖の念と怨嗟を向けた。
最も当の本人、ライは全く気にしていなかった。
貴族からの恨み辛みなどライは当の昔に経験済みであり、悠然と受けて立つ程の心構えで事に当たっていたのだから。
彼女達が押し黙ると、重苦しい雰囲気が周囲を覆った。彼女達は暫しの間、無言で歩みを進める。
だが次の瞬間、ノネットは一人、カリグラ以上に気になっている存在の名前を呟いた。
「ライ殿下、か……」
「殿下がどうかしたか?」
突然の呟きを不思議に思ったドロテアが問うと、ノネットは先程まで決して見せる事の無かった剣呑な表情を浮かべながら口を開いた。
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「いや、あの方は普段は一体何処に居られるのかと思ってな」
その台詞に首を傾げるドロテア。
一方で、ノネットの言わんとしている事に気付いたモニカは思い出したかのように語る。
「そういえば、お姿を拝見するのは決まってこの日よね」
「普段は御住まいの離宮に籠って居られるんだろ?」
相変わらず首を傾げたままのドロテアを見たノネット。その表情が僅かに緩む。
「引き籠もりの皇族に仕えたくは無いなぁ。それに忘れたか?ドロテア。殿下はルキアーノを組伏せる程の膂力をお持ちの方だぞ?」
「その事だが、未だに私達を騙してるんじゃないか?」
ドロテアは露骨に訝しんでみせた。
ナイトオブテン、ルキアーノ・ブラッドリー。
ブリタニアの吸血鬼とまで言われる程の異名を持つ彼は、性格はさておきラウンズの一角を担うだけあって確かな実力を持っていた。それはドロテアも十分知っていた。
しかし、そんな異名を持つ程の戦闘狂が突然現れた華奢な皇子に組み伏せられた等、ドロテアは普段ノネットに遊ばれている事も相まって俄に信じられないでいた。
モニカも同じく追従するかのように小さく頷くが、ノネットは特に気にした素振りは見せなかった。
「一体何者なのかな……」
「そんなに気になるの?」
普段とは打って変わって、慎重な態度を崩さないノネットを不思議に思ったモニカが問うが、ノネットは逆に問い返した。
「……私達が殿下の歳の頃は何をしていた?」
その問いに二人は少し思慮する為に間を置いた後、徐に口を開いた。
「丁度、士官学校を卒業した辺り…そういえば、教官連中にはこっぴどく扱かれたな。だが、今ではその教官達も部下だが」
「士官学校の話は止めてよ。あまり良い思い出は無いんだから」
ドロテアはここまで上り詰めた自分が誇らしいのか胸を張る。が、余程嫌な事を思い出してしまったのか、モニカは首を振って忘れようとする。
そんな二人の様子に、ノネットは自身の意図している事が伝わっていないと理解した。
「以前一度見せられたあの雰囲気を思い出せ。私達があれを纏えるようになったのはいつからだ?戦場に出るようになってからだ。だが、殿下はあの歳で既にそれをお持ちになっている。それも、一度も戦場に出る事無く、だ。不思議じゃないか?」
ノネットの指摘を聞いて、ハッとなった二人は重々しい口調で呟く。
「……確かに」
「それも…そうね」
そんな声を聞きながら、ノネットは徐に腕を組むと思いを語る。
「シュナイゼル殿下とは違ったタイプの御方だが、何れにしても初めてだよ。私が関わり合いになりたく無いと思うなんてな……」
「待て待て、何故ここで宰相閣下の名が出て来るんだ?」
ドロテアは突然シュナイゼルの名が出てきた事に驚いた。すると、彼女の表情を見たノネットは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「分からないのか?」
「あ、あぁ……」
「本当に?」
焦らすかのように問うノネットに、痺れを切らしたドロテアは抗議の声を上げた。
「勿体振るのはよせ。一体何なんだ?」
ノネットは口をへの字に曲げる同僚に満足げな視線を送った後、告げた。
「ライ殿下にシュナイゼル殿下。奇しくもお二人は共に同じ王の名をその身に刻んでおられる」
「それって……」
ノネットの指摘に、傍で二人のやり取りを無言で聞いてたモニカは瞳を見開いた。一方でドロテアは声も出ない。
そんな二人の驚きが余程愉快だったのか、ノネットは先程の笑みを更に深くした。
「あぁ、ライゼル王だ」
「お、おい、口には出すな。王の御名が汚れる」
普段、皇族であっても口にする事は許されないその名を簡単に言ってのけるノネットに、ドロテアは周囲を見回すと狼狽した様子で咎めるかのように言った。
が、ノネットはそんなドロテアの態度が愉快だったようだ。
支援!
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「失礼な奴だな。私は汚くは無いぞ?」
「そういう意味じゃない!!」
「分かってるさ。迷信だよ」
ドロテアの反応が予想通りだったのか、ノネットはそう言うと快活に笑った。
そんな漫才のようなやり取りをしている二人の横で、モニカは一人懐かしむかのように語る。
「子供の頃、枕元で幾度となく母から聞いたわ」
「独りぼっちの王子様、か……」
「偉大な御方だ」
彼女の呟きが聞こえたのかノネットはポツリと呟く。方やドロテアの口調は何処か憧れにも似た響きを持っていたが、それを聞いたノネットは釘を刺す。
「ブリタニアに住む者にとってはな」
その言葉を聞いた二人は、英雄以外に何と呼ぶのかとでも言いたげに再び首を傾げると、ノネットはゆっくりと語り始めた。
※
ライゼルに纏わる伝説。
僅か2年でそれまで数十年に及ぶ蛮族との戦いに勝利し北の地に追いやったライゼルは、次に当時のブリタニアと対立関係にあった周辺諸国へと進軍を開始した。
何故そんな国々があったかと言うと、時のローマ皇帝アウグストゥスが後にブリタニアの始祖となるアルウィンT世に領土として認めたその島は、当初、様々な民族が住まう島であり、領地と言うよりは
やっかみ払いの為に与えた封土のような位置付けだった。
そして、ライゼルが即位した当時ローマは既に力無く、島は多様な民族が各々建国し覇を競い合う時代だった。
当初、何年も掛かると思われた進軍であったが、驚くべき事にライゼルは半年もしないうちに島の大部分を平定し時の皇帝に領地として献上したという。
当時としてもそれは異常な速度だったとある。どのような策を駆使したのか。年代記の中にはこう示されていた。
ライゼルは先の蛮族との戦勝祝いにおいて、当時対立関係にあった諸国の王達を招いた。
その席でライゼルの高説に心打たれた諸国の王達は、次々と頭を垂れると忠誠を誓った、と。
何カ国かは出席を拒んだが、彼等が宴での出来事を知った時には既に島のパワーバランスは崩壊していた。
圧倒的な軍事力を支配下に置いたライゼルは、時の皇帝に対して島の平定に乗り出すべきと上奏したという。
やがて、あらかた島を平定し終えたライゼルは、次にその牙を大陸に向けた。
これについては、何故かと言う事までは伝わってはいない。
ある歴史学者が言うには、本国への更なる忠誠の証だったとか、当時の皇帝が味を占めて大陸を強く望んだからだとか憶測は様々だった。
一方で、ある軍事評論家はこう語る。
当時のブリタニアは島国であったとは言え、大陸との間にあるのは海と呼ぶには余りに狭い海峡であり、当時の帆船技術を用いても攻め入る事は十分に出来た。
引くも攻めるも容易であった事から、防衛面では島国特有のアドバンテージは無いに等しい。
更には、僅か半年足らずで島の大部分を手中に収めた当時のブリタニアの姿は、大陸の者達には異常な存在に映った事だろう。
当時、大陸側でも同じように国家が乱立し小競り合いをしていたが、そんな最中に海峡を挟んで直ぐの位置に突如として強大な軍事力を誇る国が現れたとしたらどうだろうか?
畏怖の念を抱くには十分。何よりも、恐怖とは伝染するものだ。
恐れを懐いた国々が対抗する為に仮に共同戦線を張った場合、先手必勝とばかりに攻め入って来る事は十分想像出来る。いや、指導者であれば想定しておかなければならない。
当然、この王がその可能性を考えていなかったとは思えない。
だからこそ、そう簡単に攻め入られないよう大陸沿岸を支配下に置く為に先手を打とうとしたのでは無いか、と。
――その評論家の仮定は限りなく事実に近かった。当時のライは、既に自身の領土内で不穏な動きをする者は粛清し終わっていたが、それでも母親と妹を護るという強い決意を背負った彼の不安は消えなかったのだ――
支援
結果、時の皇帝に文を送りながら水面下で沿岸部を統治していた貴族。
彼等を表向きは貿易と称して幾度か自領に招いていたライゼルは、皇帝の許可を得ると直ぐさま海峡を越えた。
その侵攻の矢面に立ったのが、当時、海峡を挟んで島の南側に位置していた国、後のフランスだった。
当初、ライゼルと共に海峡を渡った兵士達や本国で知らせを待つ皇帝でさえも、それなりの抵抗を受けるだろうと予想していた。
が、実際は何の抵抗も起きなかった事に驚いたばかりか、その場に居合わせた兵士達は目に映る光景に唖然とした。
沿岸を警備する敵国の貴族は、予め話が付いていたかの如く一切の抵抗を見せなかったからだ。
こうして、苦せずして大陸沿岸部を支配下に置いたライゼルは、次に内地への進軍を決めた。
最も、そこからは流石に相手も抵抗したが長くは続かなかった。何故か?
進軍を進めるライゼルに対して幾度と無く戦端を開いた貴族連合。
が、戦場でライゼルの声を聞いた兵士達は皆が皆、掌を返したかのように忠誠を誓ったのだ。
軍を送ればすべからく相手の力となり自らに跳ね返って来るのだ。
得体の知れない異様な力、悪魔が乗り移ったかのような力を見せつけたライゼルに、貴族達が恐怖した事も一因だった。結果、指揮系統は乱れに乱れた。
そうなってしまえば最早勝敗は決したも同然。
ライゼルに蹂躙され尽くした敵国は縋る思いで近隣諸国に援軍を求めたが、それも大した成果を上げられる事無く僅か二ヶ月足らずで陥落した。
その後は凄惨の一言に尽きる。
ライゼルは敵国に与したという理由で、近隣諸国にまで戦火を拡大した。
が、それは長くは続かなかった。
ある時、ライゼルの余りの苛烈さを咎めるべく時の皇帝が彼を呼び戻した。
呼び戻されたライゼルは本国に向かう前に一時自分の領地に帰還したのだが、その時、突然蛮族の再侵攻が始まったのだ。
これ程までに軍略に長けた王が何故蛮族を討ち滅ぼさなかったのか。これは歴史家達の間でも度々議論になっている事だった。
情けを掛けたと言う者もいれば、当時の皇帝に窘められたのだと言う者も居る。が、明確な答えは年代記の何処にも記述は無い。
だが、その後は明確に記されていた。
攻め入って来た蛮族に対して、兵士のみならず領民までも戦いに駆り出して迎え撃ったライゼルは、全てを焼き尽くすと自らも炎の中に消えた、と……。
その後、ライゼルという絶対の剣を失ったブリタニアの国力は次第に衰えていったともある。
また、それに比例するかのように大陸の植民地も息を吹き返し、遂にブリタニアは大陸からの撤退を余儀なくされた。
だが、それだけでは済まなかった。
当時から続く本国での皇位継承争いに乗じて各地で再び民族が蜂起した結果、島は再び数多の国々が覇を競い合う時代に逆戻りしてしまった。
この後、その戦いにも敗れ、ブリタニアという国は一度歴史から消える事になるのだが、年代記は語る。
ライゼルの残した爪痕は深かった、と。
後にブリタニアに代わって島を平定した国が国号をイングランドと変えた後でも、ライゼルの行った行為は後に大陸との間に100年戦争や薔薇戦争といった戦火をまみえる火種として燻り続ける事になるのだから。
しかし、それはまた別の話。
年代記は更に語る。
唯一残った嘗ての国の名を冠した小さな領地を護り続けた先祖達は、皇歴1807年。
エディンバラにおいて当時のブリタニア領主、リカルドがエリザベスV世の窮地を救う事で再び歴史の表舞台に舞い戻った、と。
※
ノネットはそこまで一気に語ると少々疲れたのか一呼吸置いた後、言った。
「当時の…侵略された側にとっては忌むべき名だ。行ってみて思ったが、EUでは未だにそれが根強い。フランス辺りじゃ、北の海から来た悪魔とまで言うそうだぞ?」
長々としたノネットの語りを無言で聞いていたドロテアは、ようやっと何かを思い出したのか納得した様子で言う。
「確かにエリア1では面だっては無かったが、裏では賛否両論といった所だったな」
支援!
エリア1。旧国名をイギリスと言う。
嘗てEUの盟主を自負していたその国も世界進出の際には意の一番に攻め落とされ、今ではブリタニアの植民エリアとなっていた。
「あそこには元々あの王が統治した領地があったんだ。それと、当時真っ先に侵略された国もな。そうなるだろうさ」
ノネットが即答してみせると、ドロテアは顎に手を当ててポツリと呟いた。
「英雄にして狂気の王、か……」
「明けの明星にして狂える暴狂星とも言うな。だが、さっき言った話はお伽噺みたいなもんだ。年代記自体には他にも色々と齟齬する箇所があるからな。何よりも、声だけで他人を従わせられる力なんて有る訳ない。まぁ、王が実在したって事だけは事実みたいだが……」
「王の力については同意するが、それは皇族の神秘性を表したかったのかもしれないだろう?」
「それにしては、歴代の皇帝に関してそういった記述が一切無いのは何故だ?まるで、かの王だけが別格のような扱いだ」
これにはドロテアも反論出来なかった。
その言葉を最後に、二人が互いに思慮するかのような表情を浮かべていると、不意にモニカがこれ以上聞いていられないといった様子で口を開いた。
「ねぇ二人とも……さっきから不敬とも取れる発言を連発してるって分かってるの?同じラウンズとしても見過ごせないんだけど?」
「冗談に決まってるじゃないか。なぁ?ドロテア?」
「えぇっ!?冗談だったのか!?」
ジト目で追求するモニカに対して、ノネットはしれっと言い放つ。だが、ドロテアが彼女のような態度を取れる筈もない。
相変わらずの反応に苦笑するノネットに対して、ドロテアが額に汗を浮かべていると……。
「残念ね、報告する事が増えちゃったわ。あぁ、可哀想なドロテア。でも、私は帝国の為にも敢えて心を鬼にするわ」
モニカは天を仰ぐと仰々しいまで台詞を浴びせたが、その口元には微笑が浮かんでいた。
ノネットは直ぐに悪ノリしていると気付いたのだが、真に受けてしまったドロテアは真っ青な表情を浮かべていた。
すると、これ以上は流石に可哀想だと思ったのかノネットが割って入った。
「まぁ、待て待て。なぁ、モニカ。最近帝都に出来た人気の店。知ってるか?」
「……奢りかしら?」
その会話を聞いたドロテアは買収する気か?とも思ったが、ノネットが救いの手を差し伸べてくれた事に内心で感謝した。
が、残念ながらノネットにその気は更々無かった。
「勿論!ドロテアの奢りで」
「んなっ!?ま、待て、ノネット!私だけ――」
「無理ならモニカはお前を告発するぞ?」
そう言ってノネットが再びモニカに視線を移すと、モニカもモニカで再び天を仰ぐ仕草を見せる。
すると、ドロテアは半泣きに近い表情で縋るかのように指摘した。
「うっ!……モニカ!大体お前も名家の出じゃないか!奢って貰う必要なんて無いだろう?」
「あら、知らないの?経験上、人に奢ってもらうのって美味しさ3割増しなのよねぇ」
開いた口が塞がらないとは正にこの事なのだろう。
モニカの経験談を聞いたドロテアが呆然としていると、ノネットが更に詰め寄った。
「で、どうするのかな?ド・ロ・テ・ア?」
ハッと我に返ったドロテアは困ったような、それでいて何処か気恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「いや……今月はちょっと色々と出費が嵩んで……厳しいというか何と言うか……」
「だから?」
「割り勘に……して……」
諸手を挙げて降伏したドロテア。すると、そんな彼女背中を楽しそうに叩きながらノネットは告げた。
「まぁまぁ。安心しろ。元からお前一人に奢らす気は無いさ。アーニャなら甘やかすのは駄目とでも言うだろうがな」
すると、ドロテアは若干咳き込んだ後、今この場には居ない同僚に思いを馳せる。
「あいつは、こういう事には容赦無いからな……そういえば、今はエリア11か」
「今一番厄介なエリアだな」
そう言ってノネットは急に真顔になると、モニカも後に続いた。
支援
「そうね、もしエリア11が墜ちるような事にでもなれば今後の展開如何では――」
「全エリアで蜂起が起きる可能性も有る、か……」
再び呟くノネット。すると、彼女の憂いを帯びた瞳が気になったドロテアが問う。
「その為に陛下もラウンズを三人も遣わしたのだろう?」
「それは分かるんだけどなぁ……あの3人だぞ?」
「ノネットが行くよりは遙かに真っ当な人選だ」
思わぬドロテアの反撃に、一転して瞳を丸くしたノネットがモニカを見やると――。
「異議無し」
「ハハハッ!酷い言われようだ」
モニカにあっさりと肯定されたノネットだったが、彼女は実に楽しそうに笑った。
その後、彼女達は雑談をしながら廊下の奥に消えていった。
――――――――――――――――――――――
皇宮の外に待たせてあった車に乗り込んだライは、カリグラと共に一路離宮を目指していた。
ライは窓の外で煌びやかに光る帝都の町並みを全くの無感動といった表情で眺めていた。
彼等の後を一定の距離を空けて一台の車が追う。
すると、直ぐさま尾行されている事に気付いたライだったが珍しく何もしなかった。
「シュナイゼルも余程人員不足と見える。優秀であれば貰ってやってもいいが……不要だな」
追跡者の力量を推し計ったライは冷笑を浮かべた。
一方、期せずして難を逃れた追跡者達。その車内では助手席に座っていた男が指揮所と連絡を取っていた。
「対象は想定ルートを通って北上中。目的地はやはり離宮かと」
『例の皇子も一緒か?』
「はい」
『分かった。尾行を継続せよ』
「Yes, My Lord」
追跡者達は気取られている事も知らずに、一定の距離を取りながら追跡し続けた。
やがて、ライとカリグラ。二人を乗せた車がある通りに差し掛かると彼等は追跡を止めた。
『対象はセントダーウィン通りに入りました。これ以上の追跡は不可能』
セントダーウィン通り。そこはつい100年程前までは皇族専用の私道だった。今でも許可を得た車両しか走る事は許されていない。
知らせを聞いた揮官は苛立ちを隠す事無く告げた。
「これまでと全く同じか……分かった。お前達はその場で待機しろ」
『Yes, My Lord』
肯定の言葉を聞いた指揮官は、背もたれに身を委ねると腕を組み瞳を閉じて報告を待った。
一方、離宮に到着したライはカリグラを従えたまま脇目も振らずに自室に向かった。
途中、宮仕えしている従者達とすれ違ったが、彼等はライ達の姿を見ても無言で道を譲ると恭しく頭を垂れるのみ。
やがて、自室に辿り着いたライは扉を開けると部屋の中へ歩みを進めた。
部屋は皇族が住まう離宮にしては少々殺風景と言えた。入って右手には巨大な黒塗りの机と座り心地の良さそうな黒皮の椅子。
その正面の壁には巨大なモニターが埋め込まれていた。
ライは扉をロックすると、ここまで全くの無言で付き従っていたカリグラに向き直る。
「お前は着替えて本来の仕事に戻れ」
「Yes, Your Highness」
支援!
ライの命に短く答えると仮面を外すカリグラ。その下から現れたのはライに近い歳をして背格好も同じ程の青年。
この離宮に従者見習いとして使えていた彼は、人形のような表情そのままに着替え始める。
やがて、普段の服装に戻った青年はライに一礼した後、部屋を後にした。
「全く、面倒な事だな」
青年が去った後、ライは溜息を一つ吐くと同じように着替え始めた。
最後に仮面を被り終えると、机に埋め込んであるコンソールパネルに視線を落とす。
そこでは、紅く光るボタンが規則的なリズムを刻んでいた。
気付いたライは、椅子に腰掛けると頬杖をつく。
続いて、もう片方の手でパネルを操作するとモニターは低い起動音を室内に響かせるながら光を宿らせる。
対照的に、部屋の照明はその光度をゆっくりと落としていった。
――――――――――――――――――――――
時は少しだけ前に戻る。
ライが離宮の門を潜った丁度その頃。
「ナイトオブスリーも無茶をなさる……」
学園内の機情の地下施設では一人ボヤきながら、コンソールパネルを操作するヴィレッタの姿があった。
彼女は、学園で何かあった場合は直ぐに一報を入れるようにとの上司の命令通りに行動していた。
今、彼女が報告している事項は、先程の消火装置の誤作動の件だった。
ボヤくぐらいならば他の者に任せれば良いのだろうが、これは彼女のみに許された…もとい、彼女に課せられた義務のようなもの。
やがて、入力し終わったヴィレッタは椅子に座り上司からのコールを待っていると、突然横に人の気配を感じた。
驚いて立ち上がったヴィレッタが視線を向けると、そこには一人の少年、ロロの姿があった。
扉を開いた音も聞こえなかった事から、彼女は咄嗟にロロはギアスを使ったのだろうと理解したが、何故使う必要があったのかまでは理解出来なかった。
「ど、どうした?」
不思議に思ったヴィレッタが問うが、ロロは何も答えない。
代わりに、彼の手に持った銃が全てを告げていた。
自身に照準を合わせているその銃口を見た時、ヴィレッタは全てを理解した。
「まさか……お前……」
だが、ロロは相変わらず何も答えない。薄暗い光を秘めた瞳で見つめるのみ。
「ロロが……裏切った……」
信じられないといった様子で呟くヴィレッタに対して、ロロが冷え切った表情を崩す事は無かった。
だが、続け様に呟いたヴィレッタの言葉には少々眉を曇らせる。
「予測が現実になるとは……」
「何ですって?」
ロロの口から疑問が零れた時、不意に扉が開き片手に手提げ袋を持ったルルーシュが入って来た。
入って来るや否や、ルルーシュは雄弁に語る。
「ヴィレッタ・ヌウ。ゼロの正体を突き止めた功績を認められ、男爵位を得た女。だが、裏では黒の騎士団と通じていた」
「そのような背信を――」
「扇要」
咄嗟に否定しようと口を開くが、ルルーシュが告げたその名前にヴィレッタの表情が強ばる。
「彼との関係を知られれば、折角得た爵位を失う事になる。新しいあなたに生まれ変わりませんか?これシャーリーから預かってたんですが丁度良かった」
そう言うとルルーシュは手提げ袋を机の上に置いた。
支援
が、ヴィレッタは尚も抵抗して見せる。
「私はあんな男の事など知らんっ!!」
「あんな男?」
白々しい様子でルルーシュが反芻する。その時になってヴィレッタは「しまった」といった表情を浮かべるが、もう後の祭り。口元に三日月を浮かべたルルーシュが問う。
「どうやら詳しくご存知のようですね。どんな男なのか教えて貰えますか?」
ヴィレッタは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべると、最後の抵抗か。黙りを決め込んだ。
だが、彼女が陥落寸前である事は目に見えていたルルーシュは、C.C.のアドバイスだという事に若干納得出来ない点はあったものの、笑みを浮かべた。
そんな時。それまで黙っていたロロが口を開く。
「ヴィレッタ。さっきの言葉はどういう意味です?」
薄々は感じ取ってはいたものの、ロロは尋ねずにはいられなかったのだ。そして、その勘は正解だった。
「あの方は、お前が裏切っている可能性も考慮しておられた」
「まさか……」
感じ取ってはいたものの、ロロの心に動揺が走る。
ロロは機情の情報は自分に名を与えてくれた王にも知らされている事は理解していた。バベルタワーの一件で、その日のうちに叱責されたのだから。
当然、今回の考えも王に伝えられている可能性は十分にある、と思った。よもや機情の長が当の本人だという事は夢にも思ってはいなかったが……。
ロロの額にうっすらと汗が滲むが、それを拭う事も忘れてただ呆然と立ち尽くすロロ。
一方で、一人置いてけぼりを食らっていたルルーシュが不愉快そうに問う。
「一体何の話だ?」
そんな彼の問い答えたのはヴィレッタだった。
「先程の学園での騒ぎは既に報告済みだ。直に連絡が――」
言うや否や、突如として部屋に短い着信音が鳴り響くと、ヴィレッタは瞳に絶望の色を浮かべながら呟いた。
「もう……終わりだよ……お前達も私も……」
ヴィレタがスイッチに手を伸ばした時、不意に銃声が響いた。
その事に、ルルーシュもヴィレッタも思わず動きを止めると音がした方向に視線を移す。
そんな二人が見たのは、銃口を天井に向けたロロの姿だった。驚いたルルーシュが問う。
「ロロッ!?お前いきなり――」
「兄さんは隠れてて!!」
「何を言って――」
「大丈夫だよ。上手くやるから!」
ルルーシュを説得するロロを尻目に、ヴィレッタは再びスイッチを押そうと手を動かすが、それを見咎めたロロは咄嗟にギアスを発動させた。
訪れる王の時間。
ロロは動きの止まったヴィレッタに歩み寄るとその背中に銃口を押し付けた。時は再び動き出す。
「ヴィレッタ……少しでも妙な真似をすれば……」
恫喝されたヴィレッタは背中に感じる冷たい感触も相まって、スイッチを押す一歩手前といった所で動きを止めた。
「騙し通せる事が…………出来ると思っているのか?」
「やらなければ、死ぬだけです。あなたは死にたいんですか?」
「………」
「助かりたかったら、僕の言う通りにシラを切るしか方法は無いんですよ」
ヴィレッタは躊躇したが依然として背中に感じる冷たい感触に押し黙らされてしまう。
対して、深く深呼吸して意を決したロロ。
彼は不承不承といった様子でいながらも、ルルーシュが願い通りにカメラの死角に身を潜めたのを確認すると……冥界へと続くスイッチを押した。
支援!
「ドウシタ?」
モニターには、スザクの時と同じように頬杖を付くと心底苛ついた様子でいる銀色の仮面が現れた。
その姿を部屋の隅より見たルルーシュは、驚愕に瞳を見開いた。
その瞳に映るのは、ゼロである時の自分に瓜二つの存在。同時に思い出す。
――こいつかっ!!
この男こそ以前ロロが言った男、カリグラ。機情のトップに君臨する男なのだという事を。
だが、不意に部屋の温度下がったような錯覚に陥ったルルーシュは僅かに身震いした。
それはヴィレッタ達も感じていた。だが、二人の場合はそれがカリグラからもたらされているものだという事を良く知っていた。
「さ、先程報告致しました通り、学園で騒ぎがありました」
「内容ハ?」
相変わらずな態度でカリグラが問う。
すると、モニターから漂って来る覇気に気圧されたヴィレッタ。その口から真実が零れ落ちそうになる。
「そ、それが……」
だが、それを察知したのか。ロロが即座に銃口を彼女の背中に強く押し当てた結果、ヴィレッタは言葉を呑み込んだ。
「っ!……消火装置の……誤作動だったようです」
「ソレニ至ッタ原因ハ?」
「目下調査中ですが、本来、枢木卿が乗る予定だったナイトメアに……ヴァインベルグ卿が乗った事も一因かと……」
ヴィレッタは、部下から知らされたばかりの報告を頭をフル回転させて繋ぎ合わせるともっともらしい言葉を紡いだ。
一見すると見事な芸当だが、彼女は元来優秀だ。
そうでなければ、一年近くカリグラに仕える事など不可能。
カリグラは使えぬ者は早々に切り捨てる。そんな性格の持ち主だったのだから。話を戻そう。
兎に角、それが甲を奏した。ヴィレッタ達の失態では無い事を知ったカリグラは、やや態度を軟化させた。
「"ヴァインベルグ"……"ナイトオブスリー"カ」
「はい」
先程までの覇気が消えた事にヴィレッタが内心胸を撫で下ろしつつ短くもハッキリとした口調で返すと、姿勢を正したカリグラは愚痴めいた言葉を発した。
「不快ナ連中ダナ。イッソ居ナイ方ガ清々スル。ソウ思ワナイカ?」
「私は、何も申し上げる事は……」
これにはヴィレッタは何と答えるべきか分からず、困惑した様子で返す事しか出来なかった。
だが、それは正解だった。カリグラは元から彼女に同意を求める為に問うたのでは無いのだから。
「下ラナイ事ヲ聞イタ。デ、"ルルーシュ"ニ変化ハアッタカ?」
「いえ」
「依然トシテ変化無シカ。……ソノ"ルルーシュ"ハ今何処ニ居ル?」
「そ、それは……」
予期していた質問とはいえ、問われた瞬間ヴィレッタは戦慄した。
この問いに困惑で返せば待っているのはカリグラからの叱責だからだ。
だが、この部屋に居るなど言える筈もなかった。
言うたが最後。暴君より報奨を賜る前に、背後に取りついた死神から死をもたらされるのだから。
この場合、ヴィレッタは先程のように何とか上手い理由を告げなければならないのだが、これについては部下からの報告も無く、ましてや暴君と死神に板挟みにされたような状況でまともな思考が出来る筈もない。
一方、死角で息を殺して事の成り行きを伺っているルルーシュも気が気では無かった。
だが、遂にヴィレッタは何も言えなくなってしまった。
その事を仮面の奥で目敏く認めたライが瞳を細めて追及するべく口を開く。
が、その前に流石に限界が来たと悟ったロロがフォローに入った。
支援
「今は生徒会室で先程の騒動の事後処理に追われてますよ」
「……事後処理ダト?」
「ええ、消化装置の誤作動だと言ったでしょう?そこらじゅう泡だらけだったんで」
「……成ル程ナ」
出鼻を挫かれた形となり、ライとしては面白く無い。だが、淡々として一切の感情を面に出さずに告げたロロ。
普段と全く変わらないその態度は、ライのヴィレッタに対して懐いた疑念を払拭させるには十分なものであった。
一方、納得している様子でいるカリグラを見たロロはこれ幸いとばかりに問う。
「貴方は未だに疑ってるんですか?」
「藪カラ棒ニドウシタ?」
突然のロロの問いに、カリグラは少々拍子抜けしたかのように首を傾げるが、ロロは、尋ねるには今しか無いとの思いを胸に再び口を開いた。
「枢木卿も疑ってました。でも、あの人は今までの僕達の活動を知らないから――」
「知ッテイル筈ノ私ガ何故疑ウノカ。ソレヲ聞キタイトイウ事カ?」
「えぇ」
これ程までに疑うからには何かしらの理由がある筈。それが分かればルルーシュに注意するように言う事が出来る。
即ちルルーシュの役に立つ事が出来る。
少々危険な行動ではあったものの、ロロはリスクを背負わなければカリグラからは何も聞き出せないとの結論に至っていた。
一方、仮面の下で瞳を細めたライはロロの意図を探ろうとする。が、珍しく予測出来なかった。
結果、これぐらい告げても問題は無いだろうとの結論に至ったライは、要望に応える事にした。
「良イダロウ……"ヴィレッタ"」
「は、はい!」
「"ルルーシュ"ノコレマデノ"スケジュール"ハ手元ニアルカ?」
「御座いますが……」
「デハ、"ナイトオブセブン"復学ノ日付デイイ。読ミ上ゲロ」
その言葉を死角で聞いていたルルーシュは、何か気取られる態度など見せただろうか?と自身の行動を振り返るが、彼の頭脳を以てしても皆目見当がつかなかった。
同じく、カリグラの意図不明の発言にロロは眉をしかめると抗議の声を上げる。
「どういう事です?」
が、こういった場合のカリグラは鰾膠(にべ)も無い。
「黙ッテ聞クガイイ」
ロロの抗議があっさりと切り捨てられると、それを合図とするかのようにヴィレッタが読み上げ始める。
起床時間から朝食に至り、やがて学園での授業態度に差し掛かった時、カリグラは再び口を開いた。
「ソコダ」
「は?」
ヴィレッタは思わず素っ頓狂な声を上げ、ロロも首を傾げる。だが、部屋の隅ではルルーシュが一人戦慄していた。
「随分ト真面目ニ授業ニ出ルヨウニナッタナ?」
「それが何か?」
理解出来ないといった様子でヴィレッタが問うと、カリグラは静かに語り始めた。
「ソノ日ダケデハ無イガ、普段授業ヲ"サボリ"ガチダッタ"ルルーシュ"ガ急ニ真面目ニナッタ。遡ッテ行クトソレハ"バベルタワー"ノ一件以来、顕著ニナッテイル。私ハソレガ少シ引ッ掛カル」
――こいつっ!!
想像通りの言葉にルルーシュが冷や汗をかきながら柳眉を逆立てていると、ロロが再びフォローに動く。
「それは、危険を感じたからでは?」
「何ダト?」
支援!
これには、カリグラはロロの言わんとしている事が理解出来ず疑問の声を上げた。それを受けてロロは尚も語る。
「つまり、バベルタワーでの一件はルルーシュにとって今までの生活を改めさせる、それ程の大事件だったのでは無いかという事です」
ロロの言葉を聞いた瞬間、カリグラは似たような事例を思い出した。
「死刑囚ノ心理ニ近イナ。ダガ、一理アル……」
カリグラが肯定するとロロはここぞとばかりに畳み掛ける。
「何よりも、あの日以来ルルーシュにはずっと僕が付いてます。領事館の時も一緒でした」
「オ前ハ目覚メテイナイト自信ヲ持ッテイル。ソウ言イタイノダナ?」
「何なら、命も賭けましょうか?」
冷えきった瞳で告げるロロを見て、ルルーシュに対する疑念が氷解していくのを感じたライ。しかし、彼の心中には新たな疑念が沸き始めていた。
だが、それはライにとっては有り得ない事であり、彼は心中でそれを一蹴しながらも口にした。ロロに対する皮肉を込めて。
「デハ、最後ニ一ツ」
「何ですか?」
「今日ハ随分ト饒舌ダナ、"ロロ"?」
「っ!?」
「何ガアッタ?学園祭トヤラガ余程新鮮ダッタカ?」
カリグラの問いに一瞬度肝を抜かれたロロ。
だが、続いて問われた言葉に遊ばれているのだと受け取った彼は、カリグラを睨み付けると吐き捨てるかのように言った。
「あなたには関係の無い事です」
その行為もまた、正解だった。
――フッ。やはり思い過ごしか。
普段と何ら変わらぬロロの態度を見て、心中で結論を出したライは再び告げる。
「良イダロウ。ダガ、忘レルナ。学園ハアクマデモC.C.ヲ招ク為ノ狩場ダ」
すると、不意にヴィレッタが尋ねた。
「その事ですが、C.C.が現れなければ学園はこのままなのでしょうか?その……私の任務も……」
「現レナケレバナ。シカシ、目覚メタ場合、ソノ前提ハ覆ル。ソノ場合、最早ソノ学園ニ用ハ無イ。"ルルーシュ"ヲ捕ラエタ後ニ消去スル」
「消す?この学園を?」
カリグラが平然と告げた言葉に、ここに来て初めてロロは瞳を見開いた。
一方で、ヴィレッタは剣呑な表情を張り付ける。
「生徒達は如何なさるおつもりですか?」
「サァ?」
問われたカリグラがおどけた様子で首を傾げると、ロロが食い付いた。
「殺す気ですね……」
「………」
「なっ!?幾ら何でもそれは!!」
ロロの言葉を聞いても否定しなかったカリグラの態度にヴィレッタは慌てた。
すると、カリグラは再び首を傾げると問うた。
「ドウシタ"ヴィレッタ"、情デモ移ッタノカ?」
「そ、そういう訳では……」
ヴィレッタが言葉を濁すと、カリグラは呆れたように溜息を一つ吐いた後、言った。
支援
「アレハコノ世デ一番無駄ナ感情ダ。覚エテオケ」
「それは……経験から来るものでしょうか?」
「……私ノ過去ガ知リタイノカ?」
値踏みするかのようなカリグラの問いに、ヴィレッタは一瞬聞いてみた衝動に駆られた。誰も知らない仮面の奥底に一体どんな過去があるのか、と。だが、直に思い直した。
触れてはいけない。聞いてはいけない。人には分相応な生き方がある。とてもでは無いがカリグラの過去に踏み込める程の器は自分には無い、と彼女は直感的に悟ったのだ。
「い、いえ。ですが、一般の生徒達には何卒寛大な処置をお願いします」
「クハハッ!ソウダナ。オ前ノソノ謙虚サニ免ジテ考エテオコウ」
ヴィレッタの申し出を聞いたカリグラはそう言って肩を揺らした後、話題を変えた。
「トコロデ、近々新総督ガ着任スル。当日ニ至ッテハ、"ルルーシュ"ノ監視ニ機情ノ戦力、ソノ全テヲ傾注シロ」
「どういう事です?」
スザクに対しては、増員はしないと宣言していたカリグラが急に方針転換した事を不思議に思ったロロが問うたが、カリグラは言葉を濁した。
「何レ分カル。目覚メテイレバ、コノ総督着任ヲ見過ゴス事ハ決シテ出来ナイ」
「まだそんな事を――」
「疑念ハ払拭サレテイル。コレガ最後ノ"テスト"ダ」
カリグラは普段と同じようにロロの言葉を遮ると通信を切った。
ロロが銃口を下ろすと緊張が一気に解けたのか。ヴィレッタは肩で息をしていた。
そんな彼女を尻目にロロは振り返ると部屋の角に居たルルーシュに声を掛ける。
「もう大丈夫だよ、兄さん」
すると、ロロに促されるかのように現れたルルーシュが現れた。だが、その額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
「何なんだ…彼奴は……」
「あれがカリグラ。枢木スザクよりも厄介な……僕達の敵」
手提げ袋の紐を力強く握り締めたルルーシュは、先程のカリグラの発言を思い起こして再び震えた。
極力目立つ行動は控えるようにしていたルルーシュは、授業にも真面目に出るようになっていた。まともに受けてはいなかったが。
実際、ヴィレッタはルルーシュが真面目に授業に出るようになった事について、特に疑問には思わなかった。
だが、カリグラはそんな些細な変化さえも逆に不自然だと思ったのだ。
「危険過ぎる……」
その異様な洞察力に危機感を抱いたルルーシュが呟くと、励ますかのようにロロが言う。
「でも、やるしか無いんだよ」
ロロの言葉を聞いたルルーシュは、一度大きく息を吸い込むと次には意を決したかのように言った。
「そう……だな。ロロ、お前の言う通りだ。やるしかない。それに、頼もしい仲間も増えた事だしな」
ルルーシュは手に持った袋を再び机の上に置くと、ヴィレッタに視線を向けた。
気付いたヴィレッタは思わず声を荒げた。
「ま、待て!私は――」
「ヴィレッタ、今更何を言うつもりです?あなたはあの男に嘘を吐いたんですよ?」
が、ロロの指摘にカリグラの性格を良く知っていた彼女はもう何も言えなかった。
仲間という言葉を嘲り笑い、部下を駒のように使い捨て、情さえも不要と吐き捨てる。冷徹非情な存在、カリグラ。
そんな男に向けて脅されていたとはいえヴィレッタは嘘を吐いた。一時的なものだったとしてもルルーシュ達の片棒を担いでしまったのだ。
ヴィレッタは「後で正直に告げて庇護を求めるべきか?」と悩んだが、直ぐに諦めた。
正直に話したところで、許しを得られるというイメージが一切浮かばなかったのだ。
「ヴィレッタ先生」
「な、何だ……?」
ルルーシュの言葉にヴィレッタは我に返る。
その時、彼女の瞳に映ったのは包装されたリボンを引きながら、薄紫の瞳に冷たい色を浮かべる魔人の姿。
「Happy birth day」
この日より、魔人と暴君に板挟みにされる事となるヴィレッタ。彼女の苦悩の日々が始まった。
支援!
以上で投下終了です。
支援本当にありがとうございました!!
>>359 ライカレ厨卿、GJでした!
この読み終えた後に充実感をもらたす文章量はやっぱりいいね!
カレンの回想がなんというか、哀しいなぁ……
自国の英雄、他国の悪魔。 歴史的にそういう人は数多くいるが、声だけで従えるというまさに「伝説」の王。
完全に事実だから冷静に考えると恐ろしい……
本格的に裏切りを始めたロロに裏切らざるを得なくなったヴィレッタ。
次回はナナリーがやってくるようで、しかもライがKMFに乗る……先がどうなることか非常に楽しみです!
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!
>>359 お疲れ様でした
いやあ素晴らしく濃厚な内容でした
ライゼルの設定も凄く詰めてあって、本当に歴史上の英雄なんだなって納得しましたよ
ロロ達との心理戦に
も汗握った!
緊張の連続でした
一方で
カレンの心情が恋する少女としてしっかり描写してあって
考えると切ないです
本当に面白いかったです次の投下も楽しみにしています
代理投下行きます。
テリーさん改めパラレルさんより
9レス程度なので多分大丈夫だと思います
・・・・・・・・・
どうもこんばんはテリーです。名前パラレルに改名する事にしました。
次回作できたので投下行きたいと思います。
「鉄の道第6章 山越えの道中」
カップル ライ×アーニャベース、今回はナシ
ギアス100%関係なしのパラレル物語
キャラどうしの人間関係もまったく無視
9レス位です
汽笛の音が山にこだまし、その音を聞き狼達が振り返る。
その狼達の横をオリエントエクスプレスは駆け抜けていく、イタリア首都ローマを目指して。
「6章 山越えの道中」
「まったく、シャルルの子供好きにも困ったものだわ」
「むぅ、だからすまんと言っておろうにマリアンヌ」
肩身が非常に狭い思いをしているシャルルはマリアンヌと食事の為に8号車の食堂車「グレートブリタニア」に来ている
そこで発車時刻ギリギリに来た事をお説教中なのだ。
「まぁ無事に戻ってきてくれただけでも良しとしましょう」
「むぅ、すまん」
「まぁまぁマリアンヌ婦人その位にしておいて、美味しいお料理をどうぞ」
ちょうどウエイトレスが注文した料理を運んで来た。
「シャルル会長にはステーキセット、マリアンヌ婦人には刺身の盛り合わせ「暁」ですね」
「うむ!!ありがとう、では早速いただこうぞ!!」
「では、いただきます」
「ごゆっくりどうぞ」
ニッコリとするウエイトレスがその場を後にすると同時に
「あ、おじさんだ!!」
「ん?おーーーー、フランスで会った少年ではないか!!」
第一章でシャルルとぶつかってしまった少年ジルだった。
母親も一緒の旅行はこのオリエントでの事で今食事をしにシャルルとマリアンヌの座っている窓側の反対の窓側の席に座る。
「まぁ、あの時の少年君!この列車に乗ってたのね。列車の旅行は楽しい?」
「うん!!」
「ご婦人、どうですかな?ご旅行の方は」
シャルルはジルの母親にも尋ねてみる。
「快的で何よりです、こんな素晴らしい旅ができるのが夢のようでして。
この切符だって主人がブリタニアで働いて手にしたものですのでジルが大喜びでしたよ」
「そうですか、父親がわが社で」
「はい、いつも主人がお世話に」
シャルルとマリアンヌはそれを聞きまた笑顔になるもである、旅と言うのはこんなひょんな事からでも思い出が作れる素晴らしいもの。
特に長い時間をかけて行く列車の旅はまた格別なのだと改めて思うのだ。
「お待たせいたしました、お子様ランチとフランス料理のコースセットです」
「わぁおいしそう!!いっただきまーーーす!!」
「ふふふふ、子供は元気が一番ですものね」
笑顔いっぱいで頬張るジルをみて笑みをこぼすマリアンヌとジルの母親ミリー、それにシャルルがここにいるのだ。
食堂車だけでなくバーの方も乗客でにぎわいを見せていた。
「ビール6つ頼む」
「私は赤ワイン」
「コーラとオレンジジュースください!!」
などなど沢山の注文が殺到するもんだからルキアーノもほかのマスターもウエイターも
大忙しでお酒を作ったり運んだり、行ったり来たりが続く。
「大忙しだな、ま、これが普通なんだけどよ」
「マスター、手止めないでくださいよーーー」
「おお、わりぃわりぃ」
バーの車内を見渡し呟くルキアーノに頼みこむ仲間は大変だ、いつもの事だが「カラーズ」はロビーも兼ねているため乗客のほとんど全ての人が訪れるから混雑はあたりまえ。
「ルキアーノよ、手伝いに来たぞ!!」
「何かする事無い?」
「おおおジェレミアにアーニャ!!毎度助かるぜ、いつもの通りに頼む!!」
交代制をしいてる機関士も混雑している時には他の部署を手伝うのが常識とされている
ジェレミアはバーでビール注ぎやウイスキー作りの担当しアーニャは接客業を担当してる。
「ジェレミアさん、ビール大ジョッキで5つ!!」
「うむ、まかせい!!」
「キールロワイヤル2つ甘口でお願い、ルキアーノ」
「あいよ、アーニャ!!」
一方機関車ではノネットとライが運転の真っ最中。
「速度80km、だけどクラブの30%の力で出せるとは驚きの性能だな」
「クラブはもう30年もオリエントを牽引してきましたから、さすがに年なんでしょう?」
そう言うライは少し切ない表情を浮かべる、わずかな間ではあったがクラブは列記とした相棒であった。
操車場で言われた事だがクラブはもう後数回の牽引しか出来ずそろそろ引退かと言われたのだ。
「寂しいか?」
「ええ、相棒でしたから」
前を見ながらではライはそう言う、ノネットも同じ様に切ない気持にかられてしまう。
1年と言うのは長いようで短い、その中で各々がどういった1年を過ごせるかが問題だ
ライとノネット、アーニャにジェレミアはこのオリエントエクスプレスの牽引機関車クラブと共にこの雪の降る森の中を駆け抜けてきたのだから・・・・・。
「この景色も何十回と見て来ているが、いつもと同じじゃないんだもんな。お!?狼の群れではないか!!
ははは、こいつと追いかけっこしてるぞ!!」
「はしゃぐのは良いですけど、仕事して下さいよ?」
「ふふふふ、すまんな。この旅はいつも楽しくて」
笑うノネットの顔を見てライも思う、この旅は何度経験しても良いものだと。
毎回違う人との出会い、毎回違う風景、毎回違う風・・・・
これを感じれるのはここしか場所は無い、ライの世界はそうした経験を経て様々な色が付き鮮やかになっていくのだから。
ライは後ろに流れていく風に帽子をかぶってはいるが周りの景色と同じ白銀の髪を流しながらノネットの淹れてくれたコーヒーを狼の遠吠えを聞きながら頂くのであった。
次の日の朝、9:30
空は晴天、朝日が昨夜に降り積もった雪をキラキラと照らしている。
その景色の中で頂く朝食と言うのは何にもまして格別と言えるだろう、和洋どちらの料理も絶景で味わうのは美味だから。
「おはようございます、6名様ですね。こちらのお席へどうぞ」
3人ずつ男女の乗客を席に案内したり、家族に洋食コースの料理を運んだり
モーニングコーヒーのおかわりを淹れたりと静かにではあるが昨夜同様忙しく厨房もウエイトレスも働いている。
と
それまで快調に過ぎて行っていた景色がとたんにゆっくりになっていった。
「・・・・・あれ、スピードが落ちて来た」
「本当、何かあったのかしら」
急に列車のスピードが落ち始めてきたのだ、乗客達は何事かとざわめき始める。
「(おはようございます、車掌のミレイ・アッシュフォードです!列車は只今アルプス山脈のちょうど1/3に到達しました
これよりこの先に有ります国立公園「スノーガーデン」に2時間ほど停車いたします。
あと4分ほどで到着いたしますので外においでのお客様は準備の程お待ちください)」
この先に有る国立公園「スノーガーデン」は広大な面積(東京ドーム5個分)の広さを誇る公園でここで飼育されている動物と触れ合う事が出来る所だ。
本来は機関士の交代の為の一時停車でしかなかったのだがミレイの
「勿体なさすぎる!!」
の一言でここに僅かではあるが停車し動物と触れ合おう!!と言う事になったのだ。
「へーーー、そんなイベントが有ったのか。楽しそうだな」
「降りてみるか」
「ねぇママ、降りてみようよ!」
「ちゃんと厚着してからよ?」
放送で一気に車内は盛り上がりを見せた、やはりずっと列車にかんずめと言うわけにもいくまい。
その4分後
オリエントは本線からポイントで退き、公園に隣接する駅にゆっくりと停車した。
停車と同時にナナリーとミレイを先頭に乗客達が降りて行く。
「皆さん、ここでの停車時間は2時間と限られています。ですので我々車掌2人がここを案内いたしますのでご了承ください」
「なを、国立公園ですので園内にいる動物は飼育されているものが大半ですが中には野生の動物もおりますので十分注意して下さい」
ミレイとナナリーの説明の後40人の乗客を連れて公園の敷地内へと繰り出していった。
一方
機関車ではアーニャ、ジェレミアのコンビとの引き継ぎ事項の確認が行われていた。
「線路は滑りやすくなってる、連日連夜の吹雪のせいかな。けどこの晴天のおかげで前方は見やすい方だよ」
「C62の性能はクラブの3倍以上だ、少しのパワーでもすぐに80kmに達するだろうブレーキの性能も悪天候に合わせて造ってるな」
ライとノネットの挙げる項目に
「あまりパワーは上げない方が良いみたい、これから続く坂を考えるとスピードの出し過ぎは暴走の引き金になりそう」
「だがそうなると調整が難しそうだな、線路が滑りやすいのであればパワーを上げねばならんが上げ過ぎると・・・・これは運転のしがいがあるな」
アーニャとジェレミアが答える、その後も意見の交換など引き継ぎを終えライとノネットの二人は休憩に入る。
「ノネット、渡すのを忘れるところだった」
「おおすまんな」
「ライも持って来たよ」
「ああ、ありがとうアーニャ」
2人が受け取ったのは拳銃だった、ナナリーの説明にもあったが時折野生の動物が襲ってくる事が有るここで常務員は銃を携帯せよと言う決まりが有る。
「相変わらず体格に似合わない銃だなぁアーニャは」
「そうかな?ノネットこそ、そんな小さい銃似合わないと思う」
などと談笑しているアーニャとノネットを眺めながら機関車の運転席にあるドアに腰掛け銃の手入れをライはし、ジェレミアは機関車の点検に勤しむのだ。
停車してから1時間45分でミレイ達が戻りティータイムと称した外での軽食会が催されサンドイッチにコーヒーや紅茶と定番のメニューからC.Cオリジナルの物まで様々。
「まったく困っちゃうわ、昨日までの猛吹雪で玉城がノロノロ運転だなんて」
「良いじゃないですかミレイさん、こうしてのんびり出来るんですから」
先行している玉城の貨物列車が昨日までの猛吹雪であまりスピードを出す事が出来ずライ達後続の列車が現地点での停止命令が下され停車時間が延びている。
「うむ、このサラミのサンドは格別だな」
「あまり食べ過ぎるなよ、乗客用なんだからな」
「う、うむ・・・・」
心底残念そうにするジェレミアをC.Cはやれやれと笑みをこぼす。
「C.C、僕にも何かちょうだいよ」
「ああ、そうだな・・・・これ―――」
おすすめをライに言おうとしたC.Cはコートを引っ張られ言葉を止める―――
「ん、子供の狼か?しかもこの公園の」
クゥーーーーと可愛らしく鳴く狼の他にもあちこちから国立公園で飼育されている動物達が現れ食べ物を食べに来たのだ。
「はい、狼さん!」
「お食べ」
子供からご老人まで全ての人が動物達と戯れる、その光景をシャルルとマリアンヌは共に喜ばしい気持になる。
「C.Cの料理の匂いに釣られてきたな」
「でも嬉しいイレギュラーだよね、記録しておこ」
「待てアーニャよ、ご乗車の皆さん!!どうでしょう旅の記念撮影でも」
シャルルの提案に全員賛同しオリエントの客車を背に動物と一緒に並ぶ。
「じゃあいきますよ」
アーニャがカメラのタイマーを作動させライの隣に並ぶ、機関車の方を向って左手とすると左からルキアーノ、ジェレミア、C.C、ミレイ、ノネットが並び
その一つ前に同じく左からナナリー、ライ、アーニャが並ぶ。
ちなみにシャルルとマリアンヌはジルと母親のミリーの近くに並んでいる。
パシャ!!
シャッターの音と共に皆列車に乗り込むちょうどその頃に公園の飼育員が到着し動物達を引き取るかっこうとなり子供の中には泣いてしまう子もいたほどだった。
それから10分後の13:05にようやく司令室からの出発命令が下り、ミレイは乗客が全員乗っているかを確認する。
「よし、全員乗車完了!!アーニャ、行きましょう!!」
「了解!」
無線で確認を取るとアーニャは汽笛をひときは長く鳴らし列車を出発させる。
その音につられ別れを惜しむ鳴き声が聞こえ、窓を開けて力一杯手を振る子供達を優しい笑顔でライや乗務員達は見守っていた。
オリエントは滑るように本線に滑り込み一路イタリアボローニャを目指し走り始める。
それからしばらくして辺りはすっかり暗くなった18:21ごろ、オリエントは70kmの速度で快調に走って行く。
「・・・・苦い」
「毎度毎度文句は言わないでくれアーニャよ、この苦味が良いんじゃないか」
「解ってるけど苦いものは苦い」
運転席でコーヒーを飲むアーニャとジェレミアの2人、この激務に眠気覚ましのコーヒーはもはや必需品ではあるがどうもアーニャはこの苦味にまだ慣れていないのだ。
それと時を同じくして
1号車、ライとノネットの部屋では部屋の主である2人が窓にもたれながらスヤスヤと寝息を立てていた。
「・・・・ん、寝てしまったか」
目の前にいるライをみてノネットは毎度の事だがこう思う。
(無防備すぎだぞ、ライ)
「ムニャムニャ・・・・」
と口を動かすその寝顔は幸せいっぱいな顔だ、それに引き寄せられるようにノネットも笑顔になっていくのだ。
7号車のキッチンでは料理人達が全力で料理の真っ最中。
「12番テーブルのメインディッシュ出来上がり!!」
「7番テーブル、オニオンスープ1つ!!」
「6番テーブルの魚料理遅れてるぞ!!」
「今出来た!!9番テーブル、ジェラートお待ち!!」
C.Cも認める料理人や新人まで幅広くここに集い腕を奮うからこそ美味しい食事が出来上がるのだ。
「2番テーブル、和食会席と16番テーブルのお子様ディナー出来たぞ!!」
C.Cも集まる料理人に負けじと全力で作っていくのだ。
9号車のバーでも同じ様ににぎわいを見せてはいるものの昨日の夜程の騒がしさは無い,なぜなら今はミレイ企画「スノーマウンテンコンサート」を実施中。
普段は騒がしい(楽しい意味で)このバー「カラーズ」もいざ美しく静かで優しい音色に包まれるとシンとした雰囲気に包まれるのだ。
恋人と酒を飲むのもよし
仲間と飲むもよし
家族と語らうもよし
と言ったところだろう、そんな宝箱の様な客車をC62は引っ張っていく、それはまるで無限の行路を進むかのように。
「ジェレミア、そろそろ石炭の補充お願い」
「よしきた、まかせろ!!」
アーニャの指示でジェレミアはシャベルを持ち炭水車から石炭を釜戸にくべ始める。
「それにしても、相変わらずこれは重労働だな」
石炭をくべながら言うジェレミアだがそこはアーニャがぴしゃりと
「でもそれが楽し――――」
“楽しい”と言うはずなのに途中で言葉が切れたことを不思議に思うジェレミアは手を一時とめアーニャを見る。
「どうしたアーニャ」
「・・・・・・・」
当のアーニャは前を見ながら固まっている、いや、目を細めながらもプラスされるが・・・・
「・・・・・・」
そしてアーニャは頭を運転席の横にある窓から顔を出し前を見る、だがそれでも駄目なのか今度は少しのりだしてしまう
その瞬間アーニャは目を見開き、顔を真っ青にさせ叫んだのだ!!!
「っ!!!いけない!!!」
アーニャはスロットルを一気に0まで戻しめいいっぱいブレーキを掛けた!!
「アー、うおおおおお!?」
列車は機関車から客車まで全てのブレーキが作動し激しい火花と耳を突き刺す様な金属音が響きわたる
立っていたジェレミアは手近の手すりに?まるしかない。
「くっ!!な、何だ!?」
「ッ!?うわああああ、あいて!!」
1号車にいるノネットは体を後ろにもの凄い勢いで引っ張られ、眠っていたライは前のめりで思いっきり突っ込み
「きゃあ!!」
「おわああ!?」
「くっ!?な、なんだいきなり!!」
料理中のC.C達は手にしていた包丁やらフライパンやら全てを放りだし体制を崩すまいと近くの取っ手やらなにやらに?まる、C.Cもいきなりの出来事に動揺する。
「おおおおお!?」
「きゃあああああ!!」
「ぬおっ、何事だ!?」
食堂車のテーブルに置かれていたグラスやコップが倒れ前のめりになる人や思いっきり倒れこむ人やら
「な、何だ!?何が起こりやがった!?」
「「皆さん何かに?まって!!」」
「カラーズ」で怖がる子供を抱きかかえる親、仲間を支えようとてを掴む人
その中でも車掌として助けようとするミレイにナナリー、驚きうろたえてしまうルキアーノ。
そしてブレーキレバーをもう折れるかと思わんばかりに握りしめるアーニャは祈るように
「お願い・・・・止まって!!」
確実に速度は落ちているがいかんせん今オリエントが通過している地点は傾斜25°の急勾配、並のブレーキ力では直には止まる事は出来ない。
C62のブレーキ性能を体で体験していないし線路は氷つき滑りやすくなっている、アーニャははっきりパニックに陥っているのと同じなのだ。
一体アーニャは何を見たのか、そしてオリエントに一体何が起ころうとしているのか
To Be Continued
以上で終わりです、あとだいたい5章か6章位で
完結かな?結構長くなってしまう予定です。
やっぱりまだおかしい部分があるなぁ、仕草を書くのは
なかなかほねがいりますね、感想等待ってます。
ちなみに乗務員が持つ銃は皆さんが各キャラに似合う銃をお願いします。
自分はちなみにライには最強と言われたリボルバーS&W M29を持たせます
ア―ニャには最強の自動拳銃デザートイーグルかな?
では失礼します。
・・・・・・・・・
本文以上です。
感想またまとめて書きに来ます
>>370 投下お疲れ様です。
相変わらず、面白い展開ですね。
でも、誤字や「、」「。」が抜けていたり、文章に区切りが付いていないため、読みづらいです。
スレへの書き込みでは、「、」や「。」がなくてもそれほど言われないと思いますが、SSとして文章としてみた場合、とても見劣りしてしまいます。
SSのよさを思いっきり台無しにしてしまっている感じがします。
以前に比べ、変な文章の切り方とかは減って読みやすくなったものの、すごくもったいないですよ。
そういう読み手の事を考えての文章つくりも読んでもらうには大切なことだと思います。
文句ばかり書き込んでいますが、元々素材がいいので、すごくもったいない気がするのです。
だから、そういう点に気をつけて、次回はがんばってください。
では、次回の投下も全力でお持ちしております。
代理投下の方もお疲れ様でした。
>>370 代理投下乙でした。
そしてテリー卿改めパラレル卿、乙でした。
>>370の方が言っておられるように誤字や句点、句読点が抜けているのが目立ちますね。
あと、個人的には長音(ー)を重ねすぎていると読みにくいと感じました。
一度書き終わったら読んでみて、更にしばらくしてから読むと誤字・脱字や書いている時には気付かなかった読みにくい箇所に気付くかもしれません。
アーニャがいきなりブレーキをかけた理由は何なのか気にしつつ、次の投下をお待ちしております。
KOUSEIです。前回の続きを投下します。
全部で5レスの予定です。
ターン11「シャーリー」Cパート
ブリタニア帝国宰相府。その一番奥にある執務室には一人の男が腰かけている。
シュナイゼル・エル・ブリタニア。平和外交での彼を知る者は紳士、戦争外交での彼を知る者は悪魔、とそれぞれこの男を形容する。
今、そのシュナイゼルは執務室の上にあるパソコンを眺めながら、何やら物思いにふけっていた。端正な顔立ちが、どこか面白くなさそうに歪んでいる。
「珍しいこともあるものですわね」
声に反応して、シュナイゼルは首の角度を調節した。
「ああ、なんだカノンか」
シュナイゼルは執務室に入ってきた人物――副官のカノンを見ると、軽く笑った。
「まるで、クイズの解けない子供のような顔をしていましたよ」
「そうかい? それは恥ずかしい所を見られてしまったね」
と言っても、別にシュナイゼルは恥ずかしさのあまり顔を赤くしたりなどしない。ただ、また笑うだけである。お互いの恥ずかしい所などとうに知り尽くしている二人なのだ。
「何をご覧になっていたのですか?」
「んっ? ああ、これかい」
シュナイゼルは、自身のパソコンを動かして、その画面をカノンにも見えるようにした。
カノンは顔を下げて画面を覗き込んだ。そこには、二色に色分けされた世界地図があった。
「超合衆国ですか……」
カノンが神妙面持になった。
無理もない。
超合衆国。黒の騎士団のリーダー、ゼロによって組織化が強力に推し進められてきた勢力である。最初は分裂した中華連邦の一部がゼロに賛同したにすぎなかった言わば“ゼロ勢力は”、今や超合衆国と名を変えて、その力を世界の四分の一ほどに膨れ上がらせていた。
しかも、この超合衆国は声高々に打倒ブリタニアを叫んでいるのだ。ブリタニアにとっては、敵らしい敵となる初めての存在ではないだろうか。
「私が行こうと思うんだ」
シュナイゼルの言葉に、カノンは形の整えられた眉を微細に動かした。
「殿下自ら、ですか」
「それぐらいしなければいけない状況だよ、これは」
「エリア11は、戦場になると?」
「……そうならない努力は、してきたつもりなんだけどね」
戦争が起きる。しかも、回避は不可能。となれば現在のエリア11の総督であるナナリーには少々荷が重い、とシュナイゼルは考えていた。
ナイトオブラウンズが三人補佐に付いているし、その中にはシュナイゼルがその能力を高く評価しているあの男もいるが、それでも、今回は一介のエリア内で処理をする範囲をゆうに超えている。
シュナイゼルは、椅子の背もたれに深く体を預けた。
「超合衆国。ここまで大きくなるのを止められなかった。流石はゼロ、奇跡の男というところかな」
「ですが」
カノンはすました顔で言葉を続ける。
「奇跡というのは、続けて起きるものではありませんわ」
シュナイゼルはカノンの言いようがいたく気に入ったようだった。
「そうだね。ここらで打ち止めになってもらいたいね」
二人は、声を立てずに同時に笑った。
この瞬間、シュナイゼル旗下を含め、一個師団以上の戦力がエリア11に出撃することが決定した。
「では、ご出立はいつになさいますか?」
「父上に許しをいただいてからだから、来週かな」
「それはまたずいぶん急ですね。言わずともお分かりになっていると思いますが、軍隊を動かすというのも結構手続きが面倒なのですよ」
「その割には、困った顔をしていないじゃないか」
「殿下の言われることにいちいち動転していたら。今頃私の心臓はつぶれていますから」
「ハ頼りにしているよカノン」
その時、外からドアをたたく音がした。シュナイゼルは、カノンとの穏やかな雰囲気を打ち切って、その表情を帝国宰相のものに戻した。見ると、カノンも笑顔を消して、その真剣な顔をドアへと向けている。
「どうぞ」
シュナイゼルが言うと、ドアがゆっくりと開いた。
「失礼します」
「ほう、これはこれは」
訪問者の顔を見て、シュナイゼルほどの男が軽い驚きを覚えた。訪ねてきたのは、それほどの人物だった。
「急にお伺いして申し訳ありません殿下」
入室してきた男は、シュナイゼル達の前まで歩き、そして跪いた。男の“白いマント”が赤い絨毯の上でフワリと舞い、床に広がった。
「わざわざナイトオブワン自らとはね。何かあったのかな?」
「お話があります」
ナイトオブワン――ビスマルクが顔をあげる。ほりの深い顔立ちの立派な体格をした騎士で、そしてブリタニア最強の男。それが彼、ビスマルク・ヴァルトシュタインだった。
彼の瞳には一つの光しか無かった。異様な事だが、彼の片目は、なにかリングのようなもので塞がれていた。巷では、過去の戦いで目を潰してしまったのだとも、鍛錬のためにあえて片目を塞いでいるのだとも言われているが、真実は誰も知らない。
「……聞こうか」
シュナイゼルは手元のノートパソコンを閉じて、ビスマルクに立ち上がるよう促した。カノンが心持ち、シュナイゼルの方に近寄った。
○
「皇帝陛下が行方不明!?」
エリア11政庁での会議室には、文官武官の中でも特に地位の高い者達が勢ぞろいしていた。皆、優秀と言われるにふさわしい人物達であり、文官武官にかかわらず少々の事では動じない心を持つ猛者達である。しかし、彼らの瞳は、この時ばかりは大きく見開かれた。
「それは本当なのですか?」
場を代表して、コーネリアの騎士ギルフォードがナナリーに確認する。ナナリーは頷いて、
「はい、本当です。先ほどシュナイゼル宰相閣下からご連絡をいただきました。当面はここにいる人たちだけの話とさせて下さい。帝国本土でもごく一部の人にしか知らされていないようですから」
「一体何があったというのですか?」
ギルフォードが驚きを隠せぬ表情のまま更に尋ねる。ナナリーは、今度は顔を横に振った。
「現在は調査中との事です。これ以上は何も言えません」
ナナリーのその時の表情を見て、この場の察しのいい何人かは、ナナリー自身も皇帝失踪について、詳しく知らされていないという事に気付いた。
「お待ちください」
そんな中、更にナナリーを問い詰めるような発言をしたのはグラストンナイツのエドガーだった。ロイ・キャンベルの隣に腰かけているアルフレッドが、一瞬だけそのエドガーを見る。
「それでは中華連邦への対応はどうなさるのですか。皇帝陛下に宣戦布告をしていただかなくては」
「そ、それは――」
「治安の問題もあります」
ナナリーの横に立つローマイヤが、決して大きくは無いが、よく通る声で言った。
「こんな事がナンバーズに知られたら事です。今後の方針を示していただかない事には、我々も職務に打ち込みようがございません」
その言葉には、どこか突き放すような冷たさがあった。
「……」
ナナリーとローマイヤから比較的近い席に座るジノ・ヴァインベルグは、怪訝そうに眉を寄せた。
「それは、そうなのですけれど……」
ナナリーとローマイヤの間から何か私怨的な感情を感じ取り、これはあまりよろしくないなと判断すると、ジノは発言を促すように隣に座る友人を見た。
基本的にローマイヤが苦手なジノは、ことこういうローマイヤに関しての対応は、友人であるロイに一任していた。
しかし、ジノが期待を込めて視線を向けた先にあったのは、
「……」
目の前で起きているいざこざに全く関心を示していないどころか、むしろ気づいてないんじゃないのか? と思えるように、ただ頬杖をついてあらぬ方向に顔を向け、ボケーっとどこかに視線を泳がしているロイ・キャンベルの姿だった。
ちなみに、その顔には修理されて戻ってきた分厚い眼鏡がかけられている。
「おい、ロイ。ロイってば」
ジノは口に手を添えて小声で話しかけてみる。しかし、ロイは全く反応を示さなかった。
「総督はあなたです。ナナリー様」
ローマイヤの口調の鋭さが増していく。ジノは、スザクにも期待するような視線を向けたが、スザクはスザクで女性二人のやりとりを困った表情で見守っているだけだった。
気は進まなかったが仕方がない。人知れずため息をついてから、ジノは目の前で両手を合わせ、少々重い口調になるように意識してから口を開く。
「ミス・ローマイヤ。それは責任の押し付けですか」
その声も、会議室にはよく響いた。
「いえ、そんな事は……」
ローマイヤは口をつぐんだ。それから、彼女は何も発言しなかった。
そのやり取りを最後に、ギルフォードの提案もあって会議は解散となった。
最後まで、ナナリーはどこか疲れた顔をしていた。
○
「おいロイ。どうかしたのか?」
ロイがアルフレッドを連れて会議室を出ると、ジノが話しかけてきた。
「どうかしたのかって、何が?」
ロイは足の動きを緩めて、友人が追い付いてくるのを待った。肩が並んだのを確認すると、ロイはまた早足で歩き始めた。
「何がじゃない。お前、さっきの会議は一体何が議題だったか覚えてるか?」
「馬鹿にしないでくれジノ。そんなの、分かるに決まって――」
ロイの歩みがピタリと止まり、分厚いレンズの奥の瞳が大きく開く。ロイは思い出せなかったのだ。約一時間続いた先ほどの会議。一体何が話し合われて、一体何が決定したのかが。
「重症だな」
「重症ですね」
ため息が二つ同時に漏れた。ジノとアルフレッドである。
「今まで言おうかどうか迷っていたのですが。キャンベル卿、一体どうされたのですか。ここ数日の卿はあきらかにおかしいですよ」
ロイは振り返って、背後にいる副官を見た。信じられない事だが、この時ロイは、背後にアルフレッドがいた事に初めて気づいた。
「えっ、そうかな……」
「そうです」
アルフレッドはキッパリと言って、頷いた。
「書類ミスは当たり前。会議はすっぽかそうとしますし、ナナリー様から頼まれていた計画書の期限は破るし、それに……」
アルフレッドは、ロイをチラリと見て、そして咳払いを一つ、
「今だって、なぜかアールストレイム卿のマントを羽織っておられますし」
「えっ!?」
ロイが首をひねって背中を見ると、そこには見覚えのあるピンクのマントがひらめいていた。会議に出席する前にはちゃんと自分のマントを付けていたはずなので、会議後、外していたマントを改めて付けるときに、間違ってアーニャのマントを手にとってしまったのだろう。
「何やってるんだよお前は……」
ジノの嘆息に、カメラのシャッター音が重なった。長身の男三人は同じ方向に顔を向け、そして同時に視線を下げた。。
「記録。しかもレア」
いつの間にか、ジノの隣には、カメラと紫色のマントを肩に担いだアーニャがいた。どうやら、ロイがマントを間違って持って行ったのに気がついて、後を追ってきたらしい。
「アーニャ、すまない。どうやら間違えたみたいだ」
ロイはピンクのマントを取り外し、それをアーニャに差し出した。
「構わない。むしろ交換する?」
「遠慮します……」
「そう、残念」
アーニャは、ロイから桃色のマントを受け取ると同時に、肩に担いでいた紫色のマントを差し出した。ロイはそのマントを受け取ると慣れた動作で背中に身に付けた。
その様子を、どこか呆れた表情で見ていたジノとアルフレッドは、顔を合わせて肩をすくめた。
「一体全体どうしたんだよロイ。どこか体の調子でも悪いのか?」
慣れたマントの付け心地を確認しつつ、ロイは顔を振った。
「そんな事はないよ。いたって健康さ」
「じゃあ、どうしたんだよ。なんか悩みでもあるのか?」
ジノの問いかけを受けて、ロイの体は、一瞬微細に震えた。
悩み。それとは少し違うが、ロイの中では今、数日前の一つの出来事が何度も反芻されてた。
あの地下での出来事。彼女の体の温かさ。どこか奥底をくすぐる甘いにおい。
紅月カレン。
ロイはあのキスが忘れられなかった。日常の一間一間に、あの出来事を思い出してしまう。あの快楽を、あの何か無くしたものを得たような充足感を。
「……悩みなんて、そんなものは無いさ」
ロイは事実を言った。確かに嘘は付いていないのだが、なぜかその言葉に、ロイは後ろめたさを感じた。
傍のアーニャが、返してもらったピンクのマントを身につけながら何かを言いたそうにロイを見つめていた。その視線に、ロイは程なく気づく。
「ん、何?」
アーニャはしばらく返事を迷ったようだった。しかし、彼女は、すぐにまっすぐロイを見つめて、
「ロイ。話がある」
そのアーニャの真剣な表情と口調に、ロイはただならない何かを感じとった。
「? どうしたのさ、改まって」
「大事な話。二人きりで話したい」
「二人きりで? ここじゃあ駄目なのかい?」
ロイは、傍に立つアルフレッドとジノを交互に見た。ジノの顔はなぜかニヤニヤとしており、アルフレッドの態度はどこか不愉快そうだった。その二人の対比がロイには印象的だった。
「そうだ、俺は仕事が残ってたんだった。もう行かなきゃ」
と、ジノはどこか棒読みで言って、それからロイに近寄った。細長い腕が、すぐにロイの肩にまとわりつく。
「あとで、どうなったか教えてくれよ」
ジノの声量は囁きに近かった。
「? 何が?」
意味が分からずロイが聞き返すと、ジノは軽い足取りでロイから離れた。
「今は意味が分からなくていいよ。とにかく、後で教えてくれ」
そして、そのままジノは軽い足取りで身をひるがえすと、スタスタと廊下の向こうに歩いて行ってしまった。
「私は反対です」
ロイが釈然としないものを感じつつジノの後ろ姿を見送っていると、背中からアルフレッドの声があがった。振り返ると、アルフレッドがアーニャに詰めよっていた。
「アールストレイム卿。よりによって今ですか? あなたは先ほどの会議を聞いていたのですか? こんな大変な時期にこれ以上私の上官を困らせるような事はやめて下さい」
「うるさい」
アーニャが、苛立たしげに金髪の青年に言い返した。
「もう言うって決めた。そもそも、あなたには関係ない」
「ありますとも!」
アルフレッドは引き下がらない。むしろ胸を張って一歩前に出た。
「いいですか。キャンベル卿はただでさえ多忙な職務を遂行しておられるのです。特にここ最近のキャンベル卿の夢うつつ状態のおかげでその仕事が未処理のまま溜まりに溜まっているのです。
それなのに、あなたの個人的で身勝手な感情でキャンベル卿の心境をさらにひっかきまわそうとするような行為は許容しかねます。別にあなたに思うところがあって言っているわけではないんですよ」
アルフレッドは最後に余計な事を言った。
アーニャは音の無い舌打ちをした後、アルフレッドから顔をそむけた。しかし視線だけはアルフレッドに向けてボソッと言い返す。
「泣き虫のくせに……」
アーニャの発言は痛烈だった。アルフレッドの背後に大きな雷が落ちたようだった。
「私に模擬戦で負けて大泣きしたくせに、偉そうに」
それは、言わばトラウマに近かった。
小さな声量の暴言がアルフレッドを直撃した。
アルフレッドは一瞬、反論する口を失ったかのように沈黙を守り、数歩後ろに後ずさっていたが、
「べ、別に泣いてなんていません!」
そう言い返したアルフレッドの頬は赤かった。
「泣いた。ワンワンと」
アーニャはこぶしを目元に持って行って、ワンワンと泣く子供のような仕草を無表情な顔でやってのける。
アルフレッドの顔が更に赤くなった。
「そんな子供みたいな泣き方をするわけないでしょう!」
「事実だから仕方がない」
「ねつ造は止めて下さい!」
「弱虫アルフレッド」
この時、アルフレッドの中の、大人の理性とか大人の余裕というものが粉々に崩れ去った。
「……いいでしょう。今度は私が泣かせて差し上げましょう」
「弱いものいじめは、趣味じゃないんだけど」
アーニャは懐に携帯をしまい、目をスッと細めた。
「売られたケンカは、買うのがラウンズ」
段差のある視線の交錯が始まる。その中間では火の元も無いのに火花が散っていた。
「分かった。分かったからもう止めてくれよ二人とも」
そんな二人の間に、存在感を誇示するように割り込んだのは、ロイ・キャンベルだった。ロイは、アルフレッドに分厚いレンズを向けた。
「アルフレッド。悪いけど、君は先に戻っていてくれ」
「い、いけませんキャンベル卿。あなたはいま、ドツボにはまろうとしているのですよ?」
「言っている意味がよくわからないが……アーニャは僕の友達だ。そのアーニャがこうしてお願いしているのだから、僕はそれに応じてあげたい」
ロイの背後で、アーニャがンべ、とアルフレッドに向けて舌を出す。
「それは錯覚ですキャンベル卿! このアールストレイム卿が、いつお願いなんて愁傷な事をしましたか!?」
アルフレッドは上官の肩を掴んで説得しようと食い下がった。しかし、ロイの気持ちは変わらなかった。
「アルフレッド。仕事は帰ったらしっかりとやるからさ。なに、すぐ戻るよ」
「ああ……」
アルフレッドは力ない足取りで、上官から距離を置いた。説得は不可能だと悟ったのだろう。
「し、仕方ありません。副官に許されるのは意見までであって、最終的に決断するのはあなたですキャンベル卿……。しかし、ご忠告はさせてください。くれぐれも、軽率な判断だけはなさらぬよう、お気を付けて」
「その辺が僕にはよく分からない。一体、君はなんの事を言ってるんだ」
「キャンベル卿」
「ん」
「私は、あなたの能力は認めていますが、たった一つだけ、劣っていると思っているものがあります」
不遜な上官なら怒り出すような言葉だが、あいにくロイは部下からの指摘を歓迎するタイプの士官だ。
「聞こうか」
「女運です」
「……」
ロイは返す言葉が見つからない。見つからないうちに、アルフレッドの口が再び開く。
「お早いお帰りを、マイロード」
アルフレッドは一礼して、二人に背を向けた。その後姿にはどこか力が感じられなかった。
「なんなんだ、一体……」
ロイは、小さくなっていく副官の背中を眺めながら心の中に疑問符を浮かべた。常に、報告や言葉遣いが明確な副官にしては、今回の言動はとことん曖昧だった。
そう言えば、ジノの態度もどこかおかしかった。
「別に構う必要はない。それよりロイ、付いてきて。場所を変えたい」
「んっ、ああ。分かった」
ロイは、知りあい達の態度に釈然としまいものを感じながらも、アーニャが歩きだしたのもあって、思考を止めて、小さい背中の後に付いて行った。
その見慣れた背中に、冷たい緊張の汗が流れている事に、ロイは気づかなかった。
シーン11「シャーリー」終わり。
シーン12「 初 恋 」に続く
380 :
KOUSEI:2009/06/28(日) 23:57:31 ID:ZXQ03QdZ
以上です。
感想、指摘あればよろしくお願いします。
では、また次回。
>>380 KOUSEI卿、GJでした!
シュナイゼルのもとに訪れたビスマルクの目的とは?
カレンとのキスが原因でどこか上の空なライ、少し記憶の栓が緩みつつあるのか?
そして、アーニャの話したい事とは……
……フラグは充分に立った今、今後の展開が気になって仕方がありません!
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!
>>380 GJです!
東京決戦を前にアーニャが話すことは何か気になりますね
後、ライの第九世代型KMFはいつロールアウトするのかも。東京決戦で投入したら
カオスになりそうで怖いですがw
とにかく次回の投下も首を長くしてお待ちしています!
>>380 乙です!
面白かったです!ロイはヤッパリあの事が忘れられなかったんですね。
ついにアーニャは告るのか?ロイの決断に期待しつつ次回を待ってますよ。
アーニャのマントをマントを羽織ったロイ…おもろすぎ!!
ロイのマントをマントを羽織ったアーニャでツーショットを撮ればよかったのに。
やはり、アーニャは告白するのでしょうか…
する乙女に幸あれ!!
次の投下を楽しみにしています。
フルメタみたいに
途中でダブルヒロインの片方を振る事になるのかな?
正直その展開は嫌だ
あっちはその所為で人気が落ちたし…
うん、余計な御世話だね
でも、一言言わせてくれ
良ーじゃない! 両手に花EDでも!!
個人的に二股は勘弁
ダブルヒロインは微妙
387 :
創る名無しに見る名無し:2009/07/01(水) 10:20:27 ID:b+rW5wJN
どうなるか楽しみですが個人的にはカレンとくっつくと言うかもとの鞘にもどってほしいですね。
388 :
創る名無しに見る名無し:2009/07/01(水) 10:28:05 ID:MbdEL6DK
つーか、どうせそうなるんだろって感じだよな。
>388
わざわざageてまでの荒らしまことにご苦労様です。
ですが知能の低さを露呈する書き込みは程ほどにされた方がよろしいかと。
>>389 ageてしまったのは謝るが、別に荒らしたつもりはない。単なる自由感想の延長だ。
自分の思うようにならない他者を認定し排除しようとして自身の心の安定をはかるのもいいが、
それこそ自分の心の中でやってくれ。あとageてるのは
>>387もだな、同じように注意してやったらどうだろう。
そしてもうひとつ、そうやってわざわざ突っかかる方が荒れる原因になるんじゃないか?
気に入らないならスルーすれば良いことだと思うぞ。世の中にはいろんな人間がいる、自分の思い通りにならない人間もいる。
それを知能が低いだのという根拠の無い願望からくる言いがかりでの相手の人格否定から入るというのは、
まず自分の下劣な人間性が表れてしまっているのではないかと少し省みてはどうだろう。
以後は気をつけて欲しい。ついでだが、このレスも気に入らないならスルーしてもらっても構わない。
無駄に引き延ばせば荒れるだけだと思うぞ。こっちは理解してもらえればそれでいい。
「諸君! 私は悲しい……!」
おもむろにマントをはためかせながらゼロは言う。
「人気ある職人に対しては多く感想が付き、それぞれが別の意見を有する。
十人十色とはよく言ったものだ」
軽く俯かせた仮面に左手を当て、右腕を下げながらゼロはその苦悩を表す。
「だが、感想も行き過ぎると展開予測となる。 職人のやる気の軽減へと繋がる可能性があるのだ。
そのようなこととなると職人の投下のペースが落ちるかもしれない」
ゼロは仮面をあげ、左手を胸の辺りに当てる。 同時に右腕をマントを巻き込みながら上げた。
「諸君らにとってそれは望ましい結果ではないだろう?
無論、私もそのような事は望まない」
ゼロは右腕を引き、マントを前に持ってきた。
「確かに、感想を書くのは自由、だが書き込む前に落ち着いて自らが書き込もうとする内容を確認するといいだろう……」
少し仮面を俯かせるゼロ、マントに隠れていてよくは見えないが左手を少しずつ動かしているのが分かる。
「そう、感想は各自の自由! だが、自由であるからこそ各人が責任をもって感想を書くべきなのだ!」
ゼロは両手を広げる、それと同時に思いっきりマントをはねあげる。
足をキッチリと揃えたそれはまさしく『ゼロポーズ』であった。
「ふむ……まだ細部が甘いな、70点だ」
そんなゼロの様子を見ていた“ゼロ”はそう評した。
「ふぅ……厳しいな」
そう言い、仮面に手をかけながらゼロはゼロの方に歩み寄る。
そして、外した仮面からは銀色の髪が見えた。
「ライ、確かに君の提案した『二人のゼロ』が同時に離れた場所へと出現する策は興味深い。
だが、ゼロを演じるならばもっとキビキビした動きが必要だ。 腕がマントの下で動くのを悟られるなどもってのほかだ!」
そうライを叱咤するゼロ、それを受けたライはより瞳を燃え上がらせる。
「だからこの特訓をしているんだろう?
安心してくれ! 何を隠そう、僕は特訓(を受ける方)の達人だ!」
それを受けてゼロも応える。
「あぁ、何を隠そう私は(ポージングの)特訓(をする方)の達人だ!」
しばらくの間激しい特訓が行われたが、自己主張の激しい顎の反対により「二人のゼロ」作戦は実行に移されることは無かった。
>>391 顎ww
そういえば騎士団にも居たなw
最近は顎と聞くと毎回ブリタニアの「あの人」を思い出していたがw
展開予想もアレだが、個人的にはこうやって茶化す方が不快だな
自分の意見くらいキャラクター使わず自分の言葉で言って欲しい
こういうことにキャラクター巻き込むのもアレだし、自分の個人的な思想をキャラクターに言わせてるのも気持ちが悪い
確かに方向性は間違ってるが上の奴らの方がキャラクターの被り物で逃げ道作ってないだけよっぽどマシに思うわ
まあ、とりあえず乙
また荒れちゃったのか。KOUSEIさんはもうここじゃなく、自分のサイト作って投下してはどうでしょう。ご自分や読み手の精神衛生、スレの平穏のために。
なにそのペンペン草も生えなさそうな平穏
これ以上過疎らせてどうする
>>394 荒れてるのはKOUSEIさん関係ないっしょ。あくまで読み手側の問題
388さんの感想がどうであれ、スルーすれば済むレベルだと思う
389さんが一言注意したくなった気持ちも個人的には分かるけど、
あからさまな挑発は火種にしかならないから、注意を促すにしても
冷静さは必要だね
そういうことだな
書き手にも自由があるようにそれに対する感想も自由、もちろん感想に一言言うのも自由だ
だが何をするにも一度冷静になって省みるべき、おかしな挑発は荒れる元になるだけだしな
399 :
389:2009/07/01(水) 18:38:28 ID:DJAuMTXF
うん。マジで反省してます。すまん。
>388悪かった。俺の方がよっぽど知性が低い。
どーもどーも
荒んだ空気にスッキリ空気清浄機
と見せかけて実は気体爆薬噴霧装置だったりする青い人です。こんばんはー
なんとなく最近めっきり影が薄いンで、予告編でも投下してみましょ
もちろん1レスだけなんですが
温かいお言葉でも冷たいのでもヌルイのでもなんでも結構。反応などどうぞよろしく
───2010,Sep,
「日本は負けました。負けるべくして負けたのです」
私は叫んだ。
「負けただなんて認めない。この心が折れない限りは負けただなんて思わないッ」
いつからだろう。私たちの間にこんなにも距離を感じるようになったのは。
──姉さん──
コードギアス LOST COLORS [手をとりあって]
───2018,Jul,行政特区日本
特区を脱出した扇様たちに付き従い、私は行政特区日本へとやってきた。
それが私の望み。
自分を、この世界さえも変えてくれるかもしれない存在に会うために。
あの日から私もずっと嘘をついてきた 。
生きているという嘘。
名前も嘘ならば、経歴も嘘。
嘘、嘘、嘘。嘘ばっかり。
何も変わらない世界にうんざりしているくせに、それなのに絶望に浸って諦める事もできない。
「だから」
首筋にナイフを突きつけ、その相手を──黒衣の人物を壁に押しつける。
「女性の深夜の訪問にしては随分と手荒なことだな」
「申し訳ございません。殿方を深夜に訪れる際の作法は存じ上げておりませんでした」
私はゼロに刃を向ける。
次回、コードギアス LOST COLORS [手をとりあって]
その4.25 【篠崎咲世子】編 7月4日夜投下予定
ご期待ください
いーじょーおーでーすー
ではまた明後日にお会いしませう
どうも、青い人でした
予告キター!!!
明後日が楽しみでしかたない……!
全力で待たせていただきます!
楽しみに待ってます!って四日!?
楽しみすぎて明日は一日モンモンとした日を送りそうだw
405 :
創る名無しに見る名無し:2009/07/02(木) 19:33:45 ID:XdPwhs9n
ずっと待ってました楽しみにしています。
お待ちしております!
いよいよ、明日ですね。
早く明日にならないかなー
楽しみなのはわかるが、そうやって他の職人が投下しにくい空気や状況を作るのは良くないだろうに
常人の知能持ってんなら少しは考えてレスしてくれ
やっぱり出たかw
やっぱり出たって俺はいつもの青姐さんアンチじゃないぞ、変な言いがかり認定は止めろ
無駄に草生やしたりして、お前こそ荒らしか?煽りたい荒らしたいだけならもう止めてくれ
素直に注意を受けて以後はスルーすれば良い話だろ…勘弁してくれ
>>410 一理あると思うが、まぁこのスレはそう頻繁に投下されるわけじゃないから
いいかなって気もする。勿論自重するにこしたことはないんだろうけど
とりあえず自分が泥を被ることを承知で注意してくれた410は乙
4、4日の夜って十数時間後で今じゃないですよね?w<楽しみにしてる人
初投稿です、よろしくお願いします。
直前の相談で申し訳ありませんが、本日1時頃よりSS投下したいと思っております。
10レスを超えるので、お手隙の方がいらっしゃいましたらご支援をお願いします。
出来るだけ1時直前に開始してリセット狙いでいくつもりではありますが……。
掲示板への投稿自体が初めてなので、不手際があるかもしれませんが、どうぞご容赦下さい。
それでは後ほど。
支援ー。
414 :
T.Y.:2009/07/04(土) 01:07:15 ID:0T9hBXu0
>>413 流石に時間がアレすぎたかと反省しつつ頭抱えておりました、ありがとうございます。
しまった恥かしい。
それでは、作品内容は以下の通りです。
【タイトル】wicked smile
【ジャンル】学園編、短編
【CP・または主な人物】ライ
一応学園編のバリエーション……ですが明確な区切りはあえてつけていません。
各ルートの良いとこ取り、と捉えて頂いても構いません。
掲示板への投稿は初めてのことなので不手際があるかもしれませんが、どうぞよしなに。
始めます。
415 :
T.Y.:2009/07/04(土) 01:14:38 ID:0T9hBXu0
鏡の向こうから冷え冷えとした視線で睨みつけられていた。
十代後半と見える青年である。
いくらか少年期の面影が残ってはいるものの、硬質の顔つきや抑制された表情が、彼を実年齢よりも大人びて見せている。ブリタニア風とも東洋風ともつかない形質の淡さが、かえって特徴的だ。
なるほど、端整な顔立ちだと言えるのかもしれない。だが、整っていれば良いのなら、石像でも置いておく方が気が利いている──
皮肉な思いで口元を歪めると、鏡の男も蔑むような笑みを浮かべることに気が付いて、ライは表情を消した。
ここ数ヶ月で住み慣れた自室、使い慣れた鏡の前で、じっと立ち尽くす。
沈みかけた夕日の残照が窓から差しこみ、部屋を物憂げに彩る。何も起きなければ、ライは視界が闇に閉ざされるまで、鏡を睨み続けていただろう。
そうはならなかった。
皮肉っぽい響きの、女の声が背を叩く。
「男が鏡の前で物思いに耽るな、ルルーシュでもあるまいし。花にでもなるつもりか?」
背後の物音には気づいていたが、それがなくとも漂う匂いに注意を引かれていただろう。食欲を誘う香りだが、ここのところ嗅ぐ機会が多すぎて、ライはいさかか食傷気味だった。
振り向かず、鏡の端に映る影へと指摘した。
「C.C.。人の部屋でピザを食べるのは止めろと言っているだろう」
「お前の都合と私の気分、どちらを優先すべきなのかは明白だ。ルルーシュの奴、グチグチと五月蝿くて話にならん。外出してやる代わりにピザを奢らせた」
訳すると、ルルーシュにピザをたかった挙句に逃げ出してきたということだ。ライは親友に深く同情した。
「僕もルルーシュと同意見だとは予想しなかったのか?」
「その発想はなかったな」
皮肉など通用するわけもなく、C.C.はしれっとした顔で部屋を横切る。そのまま、ピザの箱を片手に、指定席となりつつあるベッドに腰掛けた。
身勝手な魔女ではあるが、嬉しそうに脚を小さく揺らしている姿は、可愛らしいと言えなくもない。口に出したら、蔑みの眼差しを向けられるに違いないが。
「ふむ、良い香りだ……で、どうした。ずいぶんと深刻な顔をしているな。悩み事なら相談に乗ってやらんこともないぞ」
よほど機嫌が良いのだろう、いそいそと箱を開きながら、C.C.がらしくもない友愛に満ちた台詞を吐いた。
なんでもない、と答えようとして、ふと思いつく。
毒舌家で歯に衣着せぬC.C.ならば、率直な意見を聞かせてくれるに違いない。いや、彼女こそが相談相手に相応しいと言えるだろう。
「聞きたいことがある」
C.C.はピザの香りと盛り付け具合にうっとりと目を細めながら、
「なんだ? 今の私は機嫌が良い。スリーサイズ以外ならば、ルルーシュの恥かしい秘密からゼロの正体まで、何でも答えてやろう」
「C.C.、おそらくは君でないと答えられない質問なんだ」
「……?」
声に潜んだ深刻な響きに気が付いたのか、ピザを咥えたC.C.が、眉を顰めて視線を寄越した。
ライは振り向いた。万が一にでも嘘などつかれないように、彼女の瞳を覗き込む。
C.C.にしては稀有なことに、微かな動揺の色を浮かべて、ついと視線が逸らされる。
構わずに、口を開いた。
「C.C.」
「──なんだ」
なぜか少し怒ったような声。感情を誤魔化すように、C.C.はもしゃもしゃと食べかけのピザを口に押し込んだ。
構わずに、少しだけ頬が膨れた彼女と視線を合わせた。
問う。
「僕は、美形なのか?」
「…………は?」
C.C.の手元からピザが落ちた。
416 :
T.Y.:2009/07/04(土) 01:20:57 ID:0T9hBXu0
■
数時間前。
それは、いつものごとく会長の思いつきから始まった。
「というわけで! 今度のイベントは、『君が選ぶ! ミスター・アッシュフォード』に決まりました!」
『…………』
ドアを開けるなり放たれた第一声に、生暖かい沈黙が降りた。
珍しくメンバーが全員揃った生徒会室。気ままに時間を潰していた各員の顔には、諦観と達観、微笑と苦笑。
アッシュフォード学園生徒会、平凡な日常の1ページである。
しばし遠い目をしながら現実逃避をしていたライは、親友の一人が『まずはお前から行け』とサインを寄越してくるに至り、渋々ながら貴族的な義務感を発揮したのだった。
「ええと、突然ですね。ミスター・アッシュフォード……つまりは、学園を代表する男子生徒をひとり、主にルックスの観点から選出する、ということですか?」
「よくできました。その通り!」
我が意を得たり、と笑顔で答えるミレイの瞳は、沸き立つ心に光り輝き今日も絶好調だ。
恩人の溢れる笑顔はライの宝物のひとつなのだが、時折、宝箱の中に仕舞い込んでおきたい気分になるのは実に不思議なことだった。
「概念としては知ってますが……女性を使ってミス・アッシュフォード、とする方が一般的なのでは?」
素朴な疑問だったが、今こそ決起の時と立ち上がった男がひとり。ライの向かい側に腰掛けていたリヴァルであった。
「そうそう、そうですよ会長! 野郎をたくさん並べても暑苦しいだけですって。どうせやるなら可愛い女の子を集めてミスコン、これですよ! 幸い生徒会は美人ぞろい、これを機に生徒会の存在感を内外に知らしめましょう!」
かの黒の騎士団総帥ゼロもかくやという気合の入った演説だった。腰付きも良い。
しかし、あまりにも迂闊である。勇気と蛮勇を取り違えた者の末路は、常に哀れなものだ。
案の定、熱意の発露に何かを感じ取ったのか、柳眉をきりりと逆立てる少女がいた。
深窓の令嬢らしくもなく、不愉快そうな表情を露にしたカレンが、
「なに、それ。コンテストが悪いとは言わないけど、女性がやるものって決め付けは時代錯誤じゃないかしら」
「どうせ、水着審査でも期待してるんでしょ、リヴァルは」
その横では、シャーリーがからかい混じりに怒ってみせている。
ミレイは失笑し、加えてニーナから異星の生命体(粘液質な触手とか生えている類)を見るかのような視線を向けられるに至り、さしものリヴァルも顔を引きつらせた。
「い、いや、まさか! 俺は純粋にイベントとしての盛り上がりを考慮して言ったまでで! ほら、せっかくこう美人揃いなんだからさ……ね?」
『だ、駄目? 駄目かな?』、という無言の問いかけに、呆れた溜息が複数漏れる。
居心地悪げに縮こまっているニーナが、周囲を見回しながらおずおずと手を上げた。
「あの……ミレイちゃん。ミスコンって、まさか私たち全員参加とか、そんなこと言わないよね……?」
追い詰められ、今にも泣き出しそうな気配に、ミレイが慌てて両手を振った。
「言わない言わない! というか、ミスコンじゃなくてミスターアッシュフォードだから! ああもう、リヴァルが余計なこと言うから!」
「え、ええ!? いや、俺は別にそんなつもりじゃ……というか、言い出したのはライなんですけど」
「ライは一般論として確認しただけでしょ。リヴァルのはストレートな下心じゃない」
「ぐっ……な、なんか理不尽な……」
その意見にはライも同意するが、こちらを恨めしげに見ないで欲しい。巻き込まれると困る。
弁解を重ねるリヴァルと適当にあしらうミレイ、というマンネリ気味のイベントは30秒ほどで滞りなく消化された。
しおしおとテーブルに突っ伏してリヴァル終了。
支援
418 :
T.Y.:2009/07/04(土) 01:33:28 ID:0T9hBXu0
ミレイは席に着くと、改めて宣言した。
「というわけで、ミスター・アッシュフォードよ。ミスじゃないのは、今みたいな事情があるから。私は別に、女の子が美貌を競うのは悪いことだとは思わないけど、やっぱりデリケートな部分だからね。この点については、私はきっぱりと男女差別をしていくわよ」
「──ミスではなく、ミスターである理由は理解しましたが」
口を挟んだのは、黙って事態を観察していたルルーシュだった。
矢面には立たずに情報を集めた上での出陣。実に巧妙かつ保身的である。
「そもそも、なんで外見を競うコンテストなんです? 男の中にも、外見を順位付けられるのは不愉快だって奴はいるでしょう」
「そのあたりについては、ちゃんと配慮するわよ。ファッションセンスその他も勘案するつもり。
それに、勉学に励んでいる生徒にはテスト、体力に自信がある生徒には体育祭、クラブ活動で頑張っている生徒には文化祭と見せ場があるんだから、ルックスを磨いている生徒にも活躍の場があってしかるべきだとは思わない?」
「理解できないとまでは言いませんが……俺が聞きたいのは、単純になぜコンテストなのかということです。他にも色々とやれるイベントはあるでしょうに」
「や、だーって面白そうじゃない」
即答だった。
「──ええ、そうですね。そうでしょうとも」
ルルーシュは『我ながら愚問だった』と言いたげな表情で、こめかみに人差し指を当てた。
そう。ミレイ会長は狂信的な楽しいこと至上主義者なのだ。
それでもルルーシュは食い下がる。
「しかし、生徒の半分から選別を行う作業量や、人気投票的な側面が強くなることを考えると、やはりクリアすべき要件が……」
「あら。いくら男子が対象とはいっても、全員参加なんて言わないわよ。自信がない子に無理やり参加させて良い類のイベントじゃないでしょ」
思いのほか常識的な方針に、ルルーシュは安堵したようだった。プライドが高い彼のこと、見世物にされるのが気に入らなかっただけなのかもしれない。
「そうですか。それなら……」
「まあ、役員は全員参加だけどね」
「……そんなことだろうと思いました」
ルルーシュが、一瞬でも安堵したことを後悔するような表情で溜息をつく。
もちろんミレイは気にしない。止まらない。
「言い出しっぺは別よ。この件については男女差別していくとも言ったわよね? 生徒会が率先して動かないと、一般の生徒が参加し難いじゃない。もちろん、選考委員は外部から選出するから、身内でも贔屓はできないわよ」
言い出しっぺはミレイ個人なのだが、皆、礼儀正しく沈黙を保った。
ルルーシュが室内を睥睨して決起を促したが、リヴァルは何やら欝な表情、女性陣は興味津々な様子で、つまりは抗弁する気力があるのは彼のみなのだった。
もちろんライは、これ以上は消耗戦になると判断した時点で戦線を放棄し、紅茶の香りを楽しんでいる。
ルルーシュが脱走兵を見る目でこちらを睨み、諦め顔になったところで、
「へえ、なんだか面白そうだよね、ルルーシュ」
訂正、男性陣にも興味津々な人間がひとり。
ルルーシュの士気をへし折って、スザクが何の悪気も感じられない笑顔を浮かべていた。
支援
支援
421 :
T.Y.:2009/07/04(土) 01:41:21 ID:0T9hBXu0
「スザク! 状況を理解して言っているのか? お前も参加させられるんだぞ!」
「もちろん。自信はないけど、参加するからには全力を尽くさないと。でも、ファッションとかは良く分からないからなあ……どうやって勉強すればいいんだろう。体力勝負なら自信あるんだけどな。あと、反射神経と動体視力」
「──ナイトメアにでも乗っていろ!」
にこやかなスザクの横で、ぷるぷるとルルーシュが震える。いつもの二人の光景だ。微笑ましい。
名誉ブリタニア人という立場であっても物怖じせずに楽しみだと言える彼は、心から尊敬に値するとライは思う。もう少し空気を読んでくれればという願いは、スザクの前では儚く散る運命だ。頑張れルルーシュ。
親友のアレさ加減を再認識して打ちのめされているルルーシュに、横合いから上がった可憐な声が止めを刺した。
「コンテストですか。お兄様が参加されたら、優勝されるかもしれませんね。ご存知ですか、お兄様は中等部でも人気があるんですよ? 私も、よくお兄様のことについて聞かれます」
控えめに議論を静聴していたナナリーの第一声だった。
なお、ルルーシュ・ランペルージは、溺愛する妹の発言には無条件で注意を奪われる機能を備えている。
反射的に優しい声で「そうなのか。でもそれは、ナナリーと会話をするきっかけが欲しいだけなんじゃないかな」とか優しげに答えていて、ミレイの目がきらりと輝くのに気が付かない。
今回に限らず肝心なときには大抵気が付かないが。
ミレイは満面に笑みを浮かべ、宣言した。
「もちろん、優勝者には豪華景品を進呈するつもりよ。そうね、好きな生徒会役員との一日デート権とか?」
「なっ!?」
特大級のイレギュラーに、ルルーシュが凍りついた。
ライには、無駄に素早いスピードで繰り広げられているであろう、ルルーシュの脳内会議の模様が大体予想できた──こんな感じだ、多分。
──なんだと!? カレンや会長ならば適当にあしらうだろうし、シャーリーも無難に一日を過ごすだろう。ニーナが選ばれる可能性は天文学的な数値になるから無視して構わないとして、問題は無論ナナリーだ。
ナナリーが選ばれてしまったらどうする! 他の連中はこの際どうなっても構わんがナナリーを巻き込むわけには……
いや落ち着け、会長がナナリーに不快な思いをさせるとは思えない、何らかの手は打ってくれるだろう……が、万が一、京が一にでもナナリーに薄汚れた野獣どもの手が触れる可能性がある以上は、全力で阻止せねばならない!
いや、ナナリーに下劣な感情が向けられることそのものが問題だ。企画そのものを中止させるか。
方策は379通りは構築できる……が、相手は会長、どんな反応を返してくるか予想できない、本気で頼めば折れてくれるだろうが、どうやらナナリーもイベントを楽しみにしているようだ、落胆させてしまうようでは兄として失格──
ならば、俺の取るべき道は(シミュレーション終了)。
「いいでしょう……」
ルルーシュがゆらりと顔を上げる。
鬼気迫る眼光も禍々しく、彼は手の平を顔の前に掲げ、かっこいいポーズを取った。中途半端に格好良い。
「参加しますよ、会長。ええ、そして結果を出してみせる!」
そう、ナナリーと一日デートをするのはこの俺だ、フハハハハハ!──
と言わんばかりに盛り上がっているルルーシュが、ミレイの手の平で踊っている光景を幻視して、ライはそっと瞑目した。
早くもチェックメイトしかねない勢いでフハハハしているルルーシュの有様に、シャーリーなどは落ち着かなげに身を揺すっている。
「もう、ルル、まだ優勝するって決まったわけじゃないよ?」
「まあ、事実上の一騎打ちになるでしょうけどね」
シャーリーを微笑ましげに見守っていたミレイが、ふとライとルルーシュを見比べた。
支援
423 :
T.Y.:2009/07/04(土) 01:46:26 ID:0T9hBXu0
「あー! そんな気はしてたんですけど、さては会長。あの話題がきっかけでこのイベント思いつきましたね?」
一瞬で気を取り直したシャーリーも、意味ありげな視線をルルーシュとライに寄越す。いや、それどころか室内の大半の人間がライたちを眺めていた。
シャーリーとミレイは、含み笑いを交わすと、申し合わせたように声をそろえた。
「「副会長と謎の少年、真の美形はいずれか!」」
二人がそれぞれ指差したのは、当然ながら副会長であるルルーシュと……ライだった。
「…………え。僕?」
既に半ば他人事、参加することに意義があると高みの見物を決め込んでいたライは、ぽかんと口を開ける羽目になった。
ライは首をかしげながら、妙なテンションで盛り上がりつつある会長その他数名に向かって、おずおずと手を上げた。
「いや……細かいところは置いておくとして、美形? ルルーシュは分かるんだが」
注目を集めたのを確認して、疑問を吐き出す。
「どうして僕が対抗馬なんだ?」
『……………………』
──あれ?
耳が痛くなるような沈黙。
どこか白っとした空気が立ち上り、嘆息や咳払いが虚しく響く。
「あのねえ、ライ」
「ここまで来ると暴力かも」
「これで素だから怖いわよね」
「……不可解、です」
「えーっと……私はコメントを差し控えますね」
「はいはい天然天然……その性格、いっそ羨ましい……」
「ライらしいとは思うけど」
「自意識過剰よりは良いが、無頓着すぎるのも問題だな」
──なんだこの雰囲気。
「い、いや、ルルーシュが人気者なのは知ってるんだ。だけど僕はほら、新入りだし、そこまでは目立ってないんじゃないかと」
ライがひとり困惑して、エリア11の伝統・曖昧な微笑みを浮かべていると、周囲からの視線はいよいよ威圧感を増した。
「はあああ……薄々そうじゃないかなーと思ってはいたんだけど。まっっっったく自覚がなかったわけね」
「まあ、自覚してやってたのなら女の敵ですし……知らずに散らせた花の数といったら、ねえ」
「……悪気がないのは分かるんだけど、それだけにこう、納得できないものがあるというか……」
「……事情を知らなければ、良識を疑うところ、です」
「私も、お兄様だけじゃなくてライさんにも紹介してもらえないかって頼まれたことあります。──お断りしましたけど」
「………………」
申し合わせたように、女子全員の視線がライに集中する。ナナリーまでがミリ単位できっちりとこちらを向いているのが奇跡的だった。
支援
425 :
T.Y.:2009/07/04(土) 01:57:56 ID:0T9hBXu0
ライですが生徒会の空気が最悪です、と背筋に汗を垂らしつつ、
「え、あ、あー……か、顔に何かついてるか?」
ミレイが天を仰ぎ、シャーリーは達観したように頷く。カレンはもう何もかもが嫌になった顔、ニーナはちらちらと小動物の構えを取り、ナナリーですら苦笑い。
どう考えても理不尽な事になっているのだが、女性陣の反応を見ていると、背筋に謎の緊張が走り、反論する気になれないのだった。
ミレイたちはともかく、優しいナナリーにさえ後ろめたさのようなものを感じるのは何故なのだろう。何も悪いことはしていないのに。
ライが謎のプレッシャーに気圧されていると、この威圧感を感じているのかいないのか、ルルーシュが取り成すように手を振った。
「まあ待て。確かにライには度が過ぎたところはあるが、自分は美形だと公言するよりはマシだろう。立場や人望を鼻にかけているわけでもない。要は学園生活に対する慣れの問題に過ぎないさ」
「お前が言うと嫌味にしか聞こえない……」
今日は落ち込みっぱなしのリヴァルが一人でぶつぶつと文句を言っている。無論、誰も相手にしなかった。
「とにかく、ライ。お前の見た目は大したものだ。それがスペックなのだと認識して、納得しろ」
ルルーシュはしたり顔で説教を続ける。
「人望も能力もあるんだし、生徒会のメンバーだから嫌でも目立つ。人への接し方も、それを考慮する必要が出てくるのは当然のことだ。対人コミュニケーションの問題だと割り切るんだな」
君が言うな、という言葉を、ライは危うく飲み込んだのだが、スザクまで気遣わしげに声をかけてきた。
「そうだよ。特に女の子への接し方は、少し考えた方がいいかもしれない。ライにそのつもりがなくても誤解されることがあるかもしれないから。そのうち、誰かを傷つけちゃうよ」
「な、なるほど……」
スザクに言われるほど空気を読めてなかったのか、とライは軽くショックを受け、「あの空気読めなかった子が良くぞここまで……」と感動している様子のミレイが同意を示した。
「まさにそれ! ライは誰にでも優しいから、お姉さんちょっと心配よ。相手が一方的に勘違いしちゃうことってあるもの。優しくするなとは言わないけど、もう少し考えた方がいいわ」
ミレイの言葉に、女性陣がうんうんと味わい深い表情で頷いている。
「これも良い機会だから、ライも表立って女子からきゃーきゃー言われてみなさい。自分がどれだけ人の目を奪う人間なのか、色々と見えてくるわよ、きっと」
そしてミレイは、晴れやかな笑顔で言い放った。
「そのあたりを自覚させるために、私はこの企画を考えついたわけ!」
室内のほぼ全員(具体的には全員−1名)が、各々の程度で疑わしそうな表情をしたが、人の良い連中ばかりでもあるので、そうですよねさすがは会長、と賞賛の意を表明した。
優秀な指導者には最大限の敬意を払うのがブリタニア流なのだ。ちなみに、日本では「長いものには巻かれろ」とか「寄らば大樹の陰」と呼ばれている。
支持者を得たミレイは大仰に手を打つと、
「そしてやる以上は全力で! 一般参加者を楽しませつつ、生徒会メンバーを強力にプロデュースしていくわよ! 目指せ優勝!」
『おー』
「元気が足りない! ガーッツ!」
『おー!』
魔法なら仕方ない。
ライともども、生徒会メンバーは声を張り上げたのだった。
支援
427 :
T.Y.:2009/07/04(土) 02:03:39 ID:0T9hBXu0
■
張り上げはしたのだったが。
「……で、さっきの妄言か」
「そういうことだ」
「新手の嫌がらせかと思ったぞ」
一通り説明を受け、C.C.は気だるげにベッドの上で寝返りを打った。
もっとも、話をするにまで一騒動あった。
最初の問いを耳にした直後、唖然、呆然、蔑み、失笑、苦笑と移り変わったC.C.の感情表現は、愛すべきピザへ己が行った仕打ちから絶望へと変化。
ライは彼女の機嫌を直すために話術を尽くす羽目になった。
交渉はライがピザを奢るという不平等な契約を結ぶことで解決を見て、ようやくC.C.は落ち着いたのだった。
そして今は、ベッドの上でしどけなく寝そべりながら、ライに珍しい動物を眺める目を向けている。
「他の人間の言葉なら、正気かと聞き返すところだが。どうやら、本気で悩んでいるようだな」
「もちろんだ。深刻な問題だ。皆の言うことが真実なら、生徒会の主力は僕とルルーシュだということになる。
僕が下手を打つと女性陣に迷惑をかけるし、企画そのものが失敗しかねない。対応策を考えておく必要がある」
ライは答えを促すようにC.C.の言葉を待つ。
彼女はふんと鼻を鳴らすと、大儀そうに口を開いた。
「──それで? お前は何を聞きたい。お前は美形だと同意すれば満足するのか? それとも、ルルーシュたちが思っているほど魅力的な人物ではない、と言われたいのか?
参考までに模範解答を教えろ。望むとおりに答えてやる」
「それは……」
ライは口をつぐんだ。思考を巡らせる。
C.C.の言っていることは、『もっと質問を明確にしろ』ということだった。言わせたい言葉があるのなら、わざわざ他人の口を使わせるな、ということでもある。
この魔女は、露悪的なところがあるだけで、本質的には面倒見が良い。その言葉には何かしらの示唆があるはずだ。
ライは慎重に、正しい言葉を手探りするように声を押し出していく。
「……もちろん、ルルーシュたちが言うのだから、客観的な評価として、僕は美形なんだろう。だがどうにも……腑に落ちない。
そこまで魅力的だとはどうしても思えない。皆に評価されるほど……ああ、つまり」
連なる疑問の先にあるものを探し当て、ライは今度こそ、C.C.でしか答えを提示できないであろう問いを示した。
「僕は、皆に好かれる価値のある、皆と並んでも恥ずかしくない人間か?」
「…………なるほどな」
C.C.は正しい設問だと認めてくれたようだった。
のんびりと身を起こし、あくまでもそっけなく呟く。
「魔女に道を尋ねてもろくなことにはならないぞ」
「契約は守るのが魔女だろう?」
「裏をかくのも魔女だがな」
「騙される間抜けが悪い」
何かが琴線に触れたのか、C.C.は目を丸くした後、微苦笑を浮かべた。
「違いない。まさに、自業自得という奴だ」
支援
429 :
T.Y.:2009/07/04(土) 02:08:23 ID:0T9hBXu0
C.C.は立ち上がった。
いつもの気だるげな表情を取り戻し、ライの横を通り過ぎる。
つまらなそうに吐き出される言葉が、C.C.を追いかけるように離れていく。
「お前は美形だ。学園の小娘どもは、こぞって投票するだろうよ。ルルーシュも外面は良いからな、票は割れるかもしれんが」
C.C.がそう言うのならば、間違いない事実なのだろう。だが、それはもうライの求めている答えではなかった。
声を追いかけた先から、C.C.が全て分かっていると言いたげに流し目を送ってくる。
「そんなことを聞きたいわけではない、か? いや、私がどう言葉を尽くしたところで、お前は納得できんだろうよ」
ゆっくりと歩み寄った先には、姿見。
「鏡を見ていたな」
「ああ」
ライはC.C.の横に並んだ。
鏡の男を知らず避けた視線が、C.C.の鏡像へと流れる。目が合った。鏡越しの、微妙にすれ違った、迂遠な方法で見詰め合う。
まるで二人の──いや、ライと世界の関係のような、馬鹿馬鹿しいのに適切な距離。
隣に居るのに、何かで隔てられた、それは孤独なのだと不意に実感する。
C.C.の指が鏡面に触れ、撫でるように滑る。やがて自身の映し身を離れ、立ち尽くす男の像へ。
「お前が問題にしているのは、つまりはこれだ。ミレイといったか、良い女のようだがひとつだけ見誤ったな。
──王よ。万人から祝福されようと、民の賞賛を浴びようと、お前の疑念は解消されない」
たおやかな指が、首筋を、顎を、こめかみを掠め、やがては瞳を射抜いた。軽い音と、抉り込むような重い声。
「お前は自信がないわけではない。美しさを理解していないわけでも、鈍いわけでもない。ただ──」
彼女は口元を歪ませる。
悪びれた冷笑の隙間から、共感のような、憐憫のようなものが垣間見えて、それはまるで泣き笑いのようだった。
「お前はただ、嫌っているだけだ。自分自身を、殺したいほどな」
──────。
「……なるほど」
ライは深く納得した。
そう、その通りだ。もはや疑問は全て解消された。
ライは鏡面の向こうを睨みつける。力を込めて。
こいつは、死ぬべきだ。許してはならない。
理由など分からない。思い出せない。ただ理解した。
鏡の奥にいる男は、居てはならないはずの人間だった。
目前の男が、憎悪と嘲弄と絶望の篭った、傲慢な笑みを浮かべた。
消えろ、と命じる。消えてしまえ。今さら何のつもりだ。もう、行き止まりに居るというのに。
ずきりと瞳の奥が痛んだ。見たはずの、しかし知りもしない風景が頭を過ぎる。
音が響く。地を叩く音。猛る声。打ち鳴らす剣戟。
だが何よりも耳を圧して止まないのは、地を叩く音。
足音。足音だ。止まらない、止められない足音が──
支援
431 :
T.Y.:2009/07/04(土) 02:14:24 ID:0T9hBXu0
「見ろ。私を、見ろ」
焦燥を押し殺したような声と、間近に輝く瞳に引き戻された。
厳しい表情のC.C.が、両手をライの肩と頭に巻きつけるようにして、無理やりに視線を合わせている。
ライは思い出したように息を吐き出した。どっと疲労が押し寄せ、背筋が冷たい汗で濡れていることに気が付く。
軽い吐き気が耐えることなく襲ってきていたが、目の奥の痛みだけは消えていた。
「──不用意に扉を開けようとするな。強固な鍵がかけられるのは、それ相応の理由があってのことだ。今のお前には、まだ無理なのだろう」
「……すまない」
礼を言う余裕もなく、ライは呟いた。
この風景の奥、記憶の核心に辿り着ければ、全てが変わるのではと思っていた頃もあった。環境と理解者に恵まれ、過去は後回しの問題となった。
しかし、向き合うことなしには先に進めず、対峙すべき壁は予想していたよりも強固なのかもしれない。
首を振って懸念を心の端に寄せ、礼を言おうとしたところで、ふと気づいたことを言葉に出していた。
「──随分と情熱的だな」
両手を相手の首に回して顔を引き寄せているC.C.と、彼女にもたれかかるようにしているライは、抱き合っているように見えなくもなかった。
C.C.は失笑すると、嫌がらせをするようにぐっとライの頭を締め付ける。
「情熱的というのは、もっと熱意に溢れた状態に使う表現だろう。こういう場面はな、滑稽と言うのだ」
「見解の相違だな」
「甲斐性なしに情熱を燃やす女もいるが、私はそこまで悪趣味ではない。
──冗談を言えるようなら大丈夫だな。中身もルルーシュよりは気が利いている」
「おかげさまでね。……ありがとう」
ライは手早くC.C.の腕を解き、そっと押しのけた。
そのままでいると、気の迷いでうっかりと抱きしめてしまいそうだった。唇を合わせるようなことは、ないにせよ。
C.C.はわざとらしく身を払うと、ベッドの上に寝転がった。話は終わりだと言うように背を向けている。
魔女から暇人へと早がわりしたC.C.はすぐに部屋の一部に溶け込み、あらゆる意欲を失ったように黙り込む。
しばらく細い背中を眺めた後、ライは気乗りしない心と身体を無理やりに動かして、企画の整理に取り掛かった。
ノートPCを取り出してキーを叩く。無味乾燥とした時間が過ぎていく。
不意に、視界の端で背中が揺れた。
「おい」
「なんだ」
「乗りかかった船だ。ピザを貰う約束もしたし、ひとつ、この私が力になってやろう。貸し借りの収支は合わせる主義だからな」
ライは手を休めると、ベッドの上を見やった。細い背中が見返してくる。
「ルルーシュにも聞かせてやりたい台詞だな」
「あれは負債の山を抱えているからな。利子の分ぐらいは返済してもらわなくては困る」
「僕は計画的な利用が出来ているわけか」
「──お前相手には、借りの方が大きいのかもしれんな」」
胸をつかれた思いでライが言葉を失ううちに、C.C.はくるっと身体を反転させた。
「滅多に見れないものを見せてやろう」
彼女は笑っていた。
人の悪い、皮肉混じりの微笑。日の光など似つかわしくない、暗がりに咲いた花のような微笑。だがライは、なぜかミレイが浮かべる満面の笑みを連想した。
つまりそれは、今までに彼女が見せた中でも、とびきり魅力的な表情だった。
「魔女の、魔法を」
支援
433 :
T.Y.:2009/07/04(土) 02:22:07 ID:0T9hBXu0
■
ピザを愛する魔女曰く、魔法の仕込みには時間がかかる。
鍋に薬と材料並べ、決まった順序で放り込み、呪文を唱えてぐつぐつと──
一方、偉大なる同志にして指導者たるミレイの動きは迅速極まりなく、翌週の週末には「君が選ぶ(略)」は無事に開催される運びとなった。
日々の雑務とイベント運営に忙殺されていると、開催当日となっていた。
なってしまった。
待機室代わりの生徒会室に、ライはいた。
一般参加者は割り当てられた教室で待機し、着替え等もそこで行っているが、生徒会メンバーはこの場所を流用している。
運営作業との二足の草鞋で忙しないメンバーに与えられた、ささやかな特権だ。
なんとか担当業務に目処をつけ、ライはようやく自分用の衣装を取り出す時間を得た。室内には、ライの他にはルルーシュの姿しかない。残りの二人は、まだ外で作業に追われているはずだ。
衣装を着込みながら、小さく唸る。
生徒会女子が見立ててくれた衣装に不満はない。というか、自分には品質と値段ぐらいしか認識できないので、文句のつけようがないとも言う。
だが、肝心の魔法とやらは一体どうなったのだろう。C.C.はその後、ほとんど姿を見かけない。
顔を合わせた時に尋ねても「マグロの上に早漏か」と軽蔑の視線を送られるだけ。今日に至ってはルルーシュすら見かけていないらしい。
あの女、もう何もかも忘れてピザでも食っているのではないかとライは怪しむ。八つ当たり気味だとは思うが、説得力がありすぎて杞憂だとも割り切れない。
一方、絶好調の者もいる。
「フッ……フハハハハ。よし、完璧だ」
「……君は幸せ、いや自信がありそうだな、ルルーシュ」
なかなかに、なんだ、独創的? なセンスで身を固めたルルーシュが、鏡の前で満足げに頷いた。
もっと地に足のついたセンスの持ち主だと思っていたのだが、全く完全に誤認していた。これは酷い。
「まあな。十分なリサーチを行い、入念な対策を行った。条件は全てクリアされたと言って良いだろう。あとはチェックをかけるだけだ」
「なるほど。状況は把握した」
どうやら、ルルーシュの勝利はかなり危ういようだ。ライは陰鬱な気分になった。
自分がフォローできれば良いが、判官びいきというものもある。一般参加者にトップを持っていかれないとも限らない。
そうなると、生徒会内部での勢力バランスが大きく崩れそうで、要は女子の反応が怖い。
まあ、出来ることをやるしかないのだろう。ライもそれなりの対策は練ってある──
ノックも無しにドアが開かれたのは、ルルーシュと並んで姿見を覗き込もうとした時だった。
434 :
T.Y.:2009/07/04(土) 02:28:00 ID:0T9hBXu0
「──ほう。悪くないセンスだな。お前ではなく、選んだ小娘たちがだが」
無遠慮に入室してきたのは、C.C.だった。
いつもの拘束衣ではなく、アッシュフォードの制服姿だ。外見が外見だけに違和感はまったくない。
ずんずんと歩み寄ってくるC.C.に、ルルーシュが血相を変えて詰め寄った。
「C.C.! お前、勝手に出歩くなとあれほど!」
「それに比べてお前という奴は……」
C.C.は、ルルーシュの衣装(というか仮装)に、呆れ果てた顔で頭を振った。
「ん?」と怪訝そうな顔で自分の姿を見下ろすルルーシュを凍るような目で一瞥、それきり無視を決め込んで、C.C.はポケットから封筒を取り出した。
真っ白で何の変哲もない、新品の封筒だ。
「約束の魔法だ」
押し付けるように封筒を渡すと、すぐに踵を返す。
「ピザは成功報酬でいい。──今晩を楽しみにしているぞ」
言い置いて、C.C.は表情も見せず足早に去っていった。文句を言い損ねたルルーシュが、忌々しげに舌打ちをする。
ルルーシュの説教を嫌って逃げたのか、それとも。まさかとは思うが、照れていたのだろうか。
妄想を弄びながら、ライは手の平に残った封筒をまじまじと見つめた。
軽く、薄い。この中に魔法が込められているらしい。最後に残るのが希望だけ、ということにならなければ良いが。
何秒か持て余した後、ライは封筒を開いた。案の定、中には何か紙のようなものが一枚だけ入れられている。
「……写真か?」
呟いて、裏向きになっている写真をひっくり返した。
明らかに隠し撮りと分かる構図だった。手ブレも酷く、像がぼやけてしまっている。
一見して、生徒会の活動を映したものだとは分かった。友人たちが勢ぞろいしている。
C.C.の意図が読めずに困惑しながら、目を通す。
これのどこが、魔法なのだろう?
そこには、楽しげに騒いでいる皆の姿が焼きついているだけで──
「…………え?」
ライは驚いた。
驚きのあまり、動きが止まる。
奇跡としか思えないようなものが、そこにはあった。
「どうした、ライ。……なんだ、この写真は。酷い出来だな。というかあの女、また勝手にこんなものを。今度はどんな嫌がらせのつもりだ」
ルルーシュがぶつぶつと漏らしている文句は全くの的外れで、魔女は完璧に契約を果たしていた。
「……なるほど」
ライは、感動して何度も頷いた。C.C.の言葉は、全て正しかった。
「魔法だ」
自信が沸いてくるのを感じる。
確かに自分には、人の目を引くだけの、天賦の資質があるのだ。
いや、天が与えたのではない。この世界と、そこに住む人々が与えてくれた贈り物だ。
なら、お返しをせねばならない。与えられた以上のものを、皆に返そう。
これなら、自分はやれる。
頭痛は消えていた。足音も、もう聞こえない。ほんの一瞬、懐かしい誰かの面影がそっと胸を通り過ぎていった。
ライは、胸を張った。
「ルルーシュ。どうやら、戦力は十分らしい。負けないぞ」
「あ……ああ。そうだな、勝負だ」
訝しげに眉を顰めたルルーシュが、彼なりに何かを納得したのか、気を取り直して不敵に笑う。
「──ごめん! 遅くなった」
「あー……やる気起きない……」
慌てたスザクと不貞腐れたリヴァルが駆け込んできた。時計が、開始時刻まで後520秒だと告げている。
ライはもう一度、魔女からの贈り物に目を向けた。
そこには、ライの大切な友人たちの姿。人の良い魔女が必死になって映し出した、何でもない、つまらない日常の一幕。
その中央には、新参者の青年の姿が据えられており──
彼は、見ている者の心まで温かくなりそうなほど、満ち足りた顔で微笑んでいるのだった。
支援
436 :
T.Y.:2009/07/04(土) 02:31:59 ID:0T9hBXu0
以上です。
勝手が全く違ったので異常に時間がかかりました。
投下しながら涙目で修正していく始末、戦術が戦略を(略)で涙目でした。
次があったら見た目ともどもマシにします。
また、急なタイミングで長時間ご支援いただいた方に感謝を。
それでは、ありがとうございました。
初投下乙でした。
シリアスでありながら要所要所笑いどころもあり面白かったです。
特に終盤のルルーシュはかなりツボりました。
ぜひ次回作も期待しております。
>>436 乙でした
学園の温かな雰囲気が凄く良かったです
またの投下お待ちしてます
>>436 T.Y.卿、初投下お疲れ様でした、そして貴公にGJを……!
C.C.に対し、いきなりの「僕は、美形なのか?」発言。 理由知らなきゃぶん殴りたい気分に駆られるね。
何だろう、ライの言ってることもリヴァルの言ってることも変わらないのに……泣けんで。
ルルーシュのかっとび具合もまた良いですね。
C.C.の撮った写真、いかにして撮ったかは不明ですが、ライの力となる魔法であったことは確かですね。
貴公の次の投下を全力を挙げてお待ちしております!
>436
なんかもうひどくときめいた気持ちになりました。
大切な人たちの中にあって、心からの笑顔を得ている自分を教えてもらう。
これ以上の肯定の方法があるでしょうか。
ルルーシュさえ、それをもう当然のこととして彼を受け入れているから気付かない、
ライの思いの本質的な部分を理解しているCCだからこそ取れた方法。
魔女は本当に魔法を使えるんだなあ!
本気を出した彼がどんなんなるのかは気になるところですがw
ちょっと涙目になるほどなんだか嬉しいお話でした。文章も素敵。
次作を拝見できる日を、お待ちしています。
どれくらい容量があるかわかりませんが
青の人さんの投下も近そうなので次スレを立ててみます
裏番組っぽく、投下しますwww
1レスの短編です
気楽にお楽しみください。
井上さんが唸っている。
眉間にしわが寄っているのが、彼女の苦悩を感じさせた。
怒ったときでさえ、あんなに眉間にしわを寄せたりしないはずなのに……。
僕は心配になって声をかけた。
「あの〜、どうしたんですか?」
「あ、ライくん……」
すがりつくような目で見つめられる。
こんなに困っている井上さんは、初めてだった。
だから、僕は思わず言ってしまっていた。
「僕に出来ることなら、手伝いますよ」
その言葉に、井上さんの表情がぱーっと明るくなる。
あ、なんかうれしいな。
「ありがとう、ライくんっ。お願いできるかしら……」
僕は二つ返事で引き受けたのだった。
そして、3時間後……。
僕の前には、まだ20人近くの人が並んでいる。
ここに並び始めて1時間は経ったというのに……。
夏のギラギラと照りつける日差しがまぶしい。
意識が朦朧となりながらも、僕は並び続けていた。
右手には、井上さんから渡されたメモを持って。
そのメモには、こう書かれていた。
「1日限定800個 スペシャル・プリン 5個 お願いね By井上
追伸:愛してるわ、ライくん〜♪ 」
僕は、自分のうかつさを、今、痛感している。
女の人って……甘いものに命かけているのね。
《おわり》
以上でおわりです
これで少しは埋めになったかな
>>446 裏番組www
乙でした!
限定物に並ぶのは辛いよね、興味の無いアトラクションに並ぶのと同じくらいしんどい。
埋め第2弾!!
>>445の続きになります。
裏番組として、お楽しみください。
まぁ、笑って楽しんでいただければ幸いです。
蝉の鳴き声が響く。
日本の夏には欠かせないなのだそうだが、今の僕には耳障りなだけだった。
なんせ、日差しのあたる場所でじーっと待っていなければならなかったから。
じりじりと強い日差しが、僕の肌を焼いていく。
こんなことなら、引き受けるんじゃなかった。
そんな恨み節が漏れそうだった。
だが、これは気軽に引き受けた自分自身の落ち度だ。
腹をくくるしかあるまい。
そう自分に言い聞かせて、空を見上げる。
そして、目の前の光景を再度確認した。
ふう………。
あと一人だ。
あと少しで報われる。
そう思うと、2時間近く並んだ甲斐があるというものだ。
すごくうれしそうな井上さんの顔が目に浮かぶ。
ふふふふふ……。
自然と笑いが漏れた。
前後の人が少し距離をとる。
やばい、変な人に思われた?!
慌てて、表情を引き締める。
そして、にこやかに微笑む。
なんか、周りの人も疲れているのだろうか。
苦笑いで対応してくれる。
そして、ついに僕の前の人が店に入る。
次は、僕だっ。
さすがに表に出さないが、心の中で僕は高笑いをあげた。
ふはははははははははははっ。
勝ったっ。勝ったぞっ。
勝利の女神は、我に微笑んだっ。
やった。やったよ、井上さんっ。
僕は、勝利の美酒に酔っていた。
だが、その喜びもそこまでだった。
「すみませーん。本日は、ここまでで終了となりました。まことに申し訳ありません」
店員の非情な声が響く。
僕の前に入った人が、ニコニコ顔で袋を抱えて出て行く。
え?!
嘘だろっ……。
僕は、一瞬頭が真っ白になった。
ここまで………?
つまり、僕の2時間は無駄だということなのか?
なぜだっ。
なぜなんだーーっ。
僕の心の叫びが、虚しく響いていた。
そして、東京決戦の時、僕は一人別行動を取っていた。
目指すは、あの場所だ。
僕の苦労を嘲るかのような仕打ちにしたあの店。
許さんっ。絶対、許さんぞっ。
神が忘れても、井上さんが忘れても、僕は忘れない。
あの虚無感を……。
あの何も残らない疲労感を……。
僕は月下をあの店のあった通りに走らせた。
よし、ここの角を曲がれば、あの店だ。
そして、過度を曲がった先で目に入ったもの。
それは一枚の看板だった。
それは店の前に立てられていた。
エリア11支店閉店のお知らせ
拝啓 弊店にご愛顧を賜り厚くお礼申し上げます。
さて、弊店は、諸般の事情によりまして、閉店のやむなきに至りました。
開店以来、ひとかたならぬお引き立てにあずかりましたお客様には誠に申し訳なく存じます。
まずは上、略儀ながら書面にてご通知を申し上げます。
連絡先等は、ブリタニア本店或いはHPにご連絡ください。
敬具
僕は、鈍器に殴られたようなショックを受けていた。
くそっ……。
逃げやがったなっ。
心の中で、再び燃え上がる黒い炎。
ようしっ……。
やってやろうじゃないかっ。
ブリタニア本店まで行ってやろうじゃないかっ。
怒りは、より強い炎となって、燃え上がっていく。
ふふふふふふふ……。
ふはははははははははははははははははっ……。
いつしか、僕は笑い出していた。
そして、5年後……。
黒の騎士団はついにブリタニア本国に攻め入むことになる。
そして、その先鋒には、常に蒼いナイトメアフレームがいたと言う。
《おわり》
以上でおわりです。
すいません。
まぁ、埋めという事で、笑って許してください。
では……。
限定品が自分の直前で終了……。悲しすぎるぜ、ライには同情を禁じ得ない。
だが東京決戦当日に何してんだwしかも閉店wさらには本土上陸、意気込み過ぎだろw
面白かったです。
そのブリタニアがルルタニアで、ルルーシュスザクCC達が皆で限定プリンを買い占めてたりしたら面白いw
空前のプリンブームでギアス兵達も無表情で黙々とプリンを食っているブリタニア…怖っw
埋め乙でした!
なんと小物臭さ漂うライwwwそれでいいのかよwww
かなりおもしろかったです、埋め乙でした!
ふと思ったが、絶望一色に染まるライの横を、ニコニコ顔でプリン抱えて通過したのはロイドさんだったりしてw
埋めシリーズ第3弾
456さん。アイデアいただきましたwww
裏番組的しょうもなさに笑って許してくださいwwwww
「ふんふんふん〜♪」
「すごく機嫌がいいですね、ロイドさん」
スザクがそう声をかける。
その言葉にいつも以上の微笑を浮かべてロイドが答える。
「いや〜ぁ、今日ねぇ〜、限定販売プリンをねぇ、30個も買えちゃったんだよ〜っ」
その数に少し驚くスザク。
「そんなにいっぱいですか?」
そのスザクの問いに、ロイドが当たり前だろうという表情で言う。
「だって、なかなか手に入らない一品だったんだよぉ〜。買える時に買っておかないとねぇ〜。むふふふ〜」
多分、今、ロイドさんの頭の中では、プリンの事でいっぱいなのだろう。
顔がいつも以上にニヤけている。
まぁ、幸せそうとも見れるが……。
「でも、限定の奴をそんなにまとめ買いしちゃったら、次の人、買えなくなっちゃうんじゃないんですか?」
そう言われて、ロイドは少し考え込む。
「そういやぁ、僕までで終わりだったんだよね。次の人、呆然としてたねぇ〜」
そうさらっと言うとケタケタと笑うロイドさん。
スザクは、次に並んでいた人に心からお悔やみを言いたい心境に駆られていた。
そのころのライ……。
「す、すみません……井上さん…。駄目でした……」
私は、疲労困憊したライの姿に驚いてしまった。
買えなかったということよりも、今のライの哀れなほどにボロボロの姿が痛々しい。
「ううん、いいのよ、ライ。君はがんばったんだから……」
私は、優しくライを抱きしめて頭を撫でる。
「うっうっうううっ……井上さーーーーーんっ……」
そのまま、ライは泣き出した。
もう仕方ないなぁ。
「いいのよ、本当にいいんだからね。買えなかったことなんて、気にしてないんだからね。よしよしよし……」
私は、そんなライが可愛くて可愛くて仕方なかった。
「仕方ないんだからっ。ほら、おいで……。おねーさんが慰めてあげるから……」
そういって、私は彼を落ち着かせるかのように軽く何度も背中をたたく。
「買えなかったことは残念だけど、ライのせいじゃないからね」
だが、井上は気が付かなかったが、慰めるつもりで何度も何度も「買えなかったけど」を繰り返し言い続けていた。
そして、その言葉は、ライの心の中に深く深く刻まれていく。
彼の心を切り刻むかのように……。
こうして、誰も知らない間に、ブリタニア崩壊への種は蒔かれたのだった。
《おわり》
以上です
さすがに、これ以上は無理っぽいですね
まぁ、埋めるまでまだかなりありますけど、少しぐらいは減ったかな
では、気軽に楽しんでいただければ、幸いです。
>>459 裏番組乙です。
パラレル"卿の代理投下いきます。約15KBなんでこっちに投下します。
↓↓↓ ここから本文
すいません、またまた代理投下お願いします、前回してくださった方には感謝いたします。
大作のあとではありますがこの投下にどうかお付き合いください。
「鉄の道 第7章 」
ギアス全く関係なしのパラレル物語
カップ ライ×アーニャベース
本編の人間関係も無視
9レス位です
火花が散り、けたたましい金属と金属の擦れる音が山々に響きわたるがその音は人を不快にさせ、時には恐怖すら植えつける。
激しい火花が収まりガタン!!とひときは激しく揺れながら停車したオリエント、止まった瞬間何が起きたのかと乗客達は窓を開け前を見る。
「何が有ったんだ?と言うより大丈夫かライ、思いっきり顔面ぶつけたろ?」
「は、はい。大丈夫ですけど、どうしたんだろういきなり急ブレーキなんて」
ライとノネットは窓を開けて前を見ていると
「「・・・・・まいったな、これは」」
と途方に暮れてしまった。
「アーニャ、一体どうしたの!?」
「何があったんですかアーニャさん!?」
車掌2人が無線で呼びかける、するとアーニャから
「ミレイ、ナナリー・・・・列車が立ち往生しちゃった」
「「・・・・はい?」」
ライ、ノネットと同じ様に途方にくれた声とその内容に?が頭を飛び交うミレイとナナリー。
「・・・・トナカイの大移動に線路塞がれちゃったの」
無線から数分後・・・・
「むぅ、どうしたものかな。これでは進む事が出来んぞ」
「困りましたね、見たところ300はゆうに超えてるような感じが有りますよ」
「汽笛で驚かすわけにもいかないしな、どうしたものか」
「どうにかしないと後続の影響が大きくなる」
ジェレミア、ライ、ノネット、アーニャの機関士達はそれは困ったものだ。
体長はゆうに2mはあるトナカイの大移動に線路を遮断されてしまい動こうにも動けない状態なのだ。
アーニャは前方300m手前でこの光景をモヤモヤではあるが察知し急ブレーキをかけたのだ、通常人が前方の物を識別できるのは600mが限界とされている。
故に列車は急ブレーキを掛けて600m以内で止まれるように設計されている。
「それにしては凄いブレーキ性能だな、C62は」
「感心してる場合じゃないぞジェレミア、これをなんとかせにゃどうにもならん」
ノネットはミレイとナナリーに詳しい状況を無線を通じ説明する。
「弱ったわね・・・・とにかく報告しなきゃ。ナナリーは車内放送お願い、私は司令室に連絡するから」
「解りました!」
ナナリーは車内無線で今起きた出来事を、ミレイは無線で総合司令室へと報告していく、乗客のパニックは無かったのが幸いし怪我人は出なかったが乗務員は途方に暮れていた。
「とりあえず対向列車がもうすぐここに来るはずだから信号立てないと」
「そうだな、私が設置してくる」
1号車の車両全体のうち前の20%は貨物室となっている、その中でこういった立ち往生を対向列車に知らせるために赤い信号を持っているのだ。
ノネットはそれを取り出し対向車に良く見える場所に配置する。
それから10分、C.Cとルキアーノ、ミレイにナナリーと主要な乗務員総出で打開策を練ろうにも全く良い案が浮かばなかった。
それもそのはず、なにしろ乗客達はナナリーの説明放送のせいで “ミレイが発案したドッキリイベント!!”と思ったらしくトナカイとの触れ合いタイムと化してしまっている。
(運良くトナカイは全部、「スノーマウンテン」に飼育されている動物達)
「アイディアマンって言うのも案外考えものね」
「そんな事はないですよ、たまたまです」
「しかしだなナナリー、何度も言うがどうにかしないと本気でまずいぞ」
ルキアーノの言葉はいよいよ深刻な事態にまで追い込まれて来た事を意味している。
ポーーーーーーーー!!
反対方向から光と共に汽笛が鳴った。
「遅かったか」
C.Cが悔しそうに呟く
「仕方ないと言えば仕方ないのか?これは」
「対向列車が来る前に何とか出来れば良かったのに、迷惑をかける結果になるな」
ミレイとノネットの言葉には全員同じ思いだ。
イタリア方面に向かう急行は実はもう一本ある、走り始めてから今年で30年と老骨ではあるがオリエントと人気を二分するほどの列車が今反対方向から来た。
急行「ブリティッシュ プルマン」、イギリスを代表する豪華列車でその歴史は1882年までさかのぼるほど。
本来は寝台車は存在しないのだがこの長い道程を行くために全車寝台として改造されている。
車体はクリーム色に真紅、機関車は日本国内で一番多く作られ現在もJR東日本が所有する「D51」、スピードこそライ達が乗るC62に劣るも牽引力では負けない。
オリエントの25m手前で停車すると機関車から運転士が降りてきた。
「ものの見事にはまったな、ライよ」
「何年ぶりの珍事だ?これは」
「面目ありません、ダールトンさん、ビスマルクさん」
D51もと言いブリティッシュ・プルマンエクスプレス機関士のダールトンとビスマルクは勤続30年の大ベテランでライとアーニャの師匠に値する人、生涯機関士を貫き通している人でも有り、シュナイゼルが1番に信頼を置く人物なのだ。
「お久しぶりです、ダールトン先生、ビスマルク先生」
「久し振りだなアーニャよ、元気そうで何よりだ!」
「ライとも上手くいってるか?毎日大変だろうがな」
アーニャにガハハハと笑いながらダールトンが、ニヤリとビスマルクが返事を返し
「おいおい、あんまりアーニャをからかわないほうがいいんじゃないのか?茹でダコが出来上がるぜ?」
「いやいや違うぞルキアーノ、熟したリンゴができるんだよ。茹でダコじゃ品がない」
「ルキアーノ、C.C、2人とも風穴開けられたいの?」
わなわなと震え銃を本気で抜こうとするアーニャは地獄の底から聞こえてくる様な呻き声をあげる。
「ほらほら、そんな怖い事言わないのアーニャ!」
「止めないでモニカ、一発思い知らせないと気が済まない」
目がもうマジになりかけているアーニャを見てモニカはやれやれと苦笑い、ブリティッシュ・プルマンエクスプレス車掌でアーニャとナナリーの同期入社の元気ハツラツ娘。
「お久しぶりですモニカさん!」
「ナナ!元気にしてたーー?」
「もちろん、モニカさんも元気そうで何よりです!」
「それにしてもどうしたものかしら、ってさっきから同じ事しか言ってないわね私達」
先ほどまでワナワナ震えていたアーニャも一気に今自分達が置かれている状況に冷静さを取り戻す。
その解決策は意外な所にあった。
「ん?君、何をあげてるの?」
「クッキーだよ、ロビーで売られてるやつ!トナカイさん達お腹減ってるのかな?」
クッキーをあげている少女に何頭かのトナカイはついていっている、彼女があげているのはC.Cら女性スタッフ手作りのミルククッキーだ。
「「「「これだ!!」」」」
女性陣(モニカは除く)は8号車まで全力で駆けて行きありったけのクッキーを乗客に配りトナカイを誘導させてほしいと頼み込む。
すると面白いようにそれが的中し線路から綺麗サッパリ退避してくれた。
「これで出発できるな、行こうかライ!!」
「はい、それではダールトンさん、ビスマルクさん、また会いましょう!」
「「もちろんだとも!」」
5分たらずで出発の準備を整え其々の機関士は汽笛を鳴らし発車する、ブリティッシュ・プルマンエクスプレスはフランスへ、オリエントエクスプレスはイタリアへ向けて。
すれ違いざまに手を振る両急行の乗客、こういった交流が出来るのもこのブリタニアならではの出来事であった。
「ビスマルクやダールトンと話が出来なかったのは残念だが、元気で良かった」
「お二人とも充実した毎日を送っていて、ほっとしますわ」
「カラーズ」でお酒を楽しむシャルル、マリアンヌの2人は当然の事、周りも穏やかな空気が流れていく。
それは機関車でも同じ、アーニャは急ブレーキで怪我(とはいってもおでこが赤くなっただけ)をさせたライに
「ごめんねライ、痛くさせて」
「気にする事ないよアーニャ、仕方ないんだから」
いつもの癖でアーニャをナデナデすると
「はぅ・・・・」
うっとりとした表情で仕事そっちのけになってしまう。
すっかり目が覚めてしまったライとノネットは機関車でアーニャ、ジェレミアの手伝いをする事に。
「しかし懐かしい再会と言うのは突然やって来るものだな」
「そうだな、あのトナカイ達には感謝せねばならんよ」
ニシシシと笑うノネットとジェレミア、この良い空気を無線のアラームがぶち壊しにしてしまう。
「こちら機関車C62のアーニャです」
(総合司令室の千葉だ、久しぶりだなアーニャよ)
「千葉もお久しぶり、どうしたの?」
(あまり言いにくい事なんだが・・・・次の60番ポイントで引き込み線に入ってくれ、後続を先行させる)
その言葉にアーニャは固まってしまう。
「・・・・後続って、ゼロ?」
(・・・・・ああ)
そのたった一言に手にしている無線を握りしめるアーニャは悔しさで胸が張り裂けそうになる。
「・・・・了解」
無線をきったアーニャを見てライはそれが何を意味するかを悟った。
「引き込み線に入るのか?」
「うん・・・・ゼロが先行するって」
ノネットとジェレミアもそれを聞き固まる。
「他の列車に追い抜かれるなんて・・・・オリエントの恥じゃないか」
「悔しい、そして情けないな」
4人の機関士は口々に言う、さっきまでの空気は一気に氷点下まで下がってしまう。
「ミレイさん、ナナリー、皆さん聞いてましたか?」
「ええ、バッチリね・・・・」
「はい、朝比奈さんからも連絡が有りました」
ミレイとナナリーが乗務員全員の気持ちを代弁させたかのような沈んだ声で話す。
オリエントはその3分後、引き込み線にその重い脚を引きずりながら行くようにゆっくりと停車した。
創業から今に至るまでただの一度たりとも他の列車に追い抜かれた事はないオリエントの栄光に泥を塗ってしまったのだ、沈んでしまうのも当たり前だろう・・・・。
あろうことか毛嫌いしているゼロに・・・・。
停車した場所は小さな駅、そこは急行が絶対に止まらない様な本当に小さい駅。
その駅舎の所では一つの光と2人の人影が出迎えてくれた。
「めずらしいのぅ、オリエント急行が停車するとは」
「こんな夜遅くに申し訳ありません、エドワードご夫妻」
「いえいえ、賑やかが一番ですからね。コーヒーでも飲んで温まりなさい」
このエドワード夫婦はかつてオリエントの機関士と車掌をしていた先達、温厚で人望も厚くシャルルとマリアンヌの師にあたる方で今は隠居生活をかねてここで巨大なプラネタリュウムを開いている。
連日連夜の満員であると大変人気なのだ。
「エドワード先生・・・・」
「久しいなシャルル、マリアンヌ、良き部下をたくさん育てているようだ」
「申し訳ありません、オリエントの栄光に泥を塗ってしまう事に・・・・」
「良いんだ。時代は変わる、大切なのは人の心を運ぶ事と教えたはずだぞ?栄光は二の次だとな」
マリアンヌの謝罪にエドワード婦人は優しく説く。
「エドワードさん、せっかくなのでプラネタリュウムを見させて頂けませんか?あと30分位時間有りますから・・・・お願いできませんか?」
その場に遠慮がちにミレイが頼み込むと
「ええ、もちろんですとも!案内いたしましょう」
ニコッとエドワード婦人が言い乗客を案内する、シャルルとマリアンヌもその列に続いて行く。
機関車では先ほどもらったコーヒーをすする4人がいる。
「ところで玉城ってどうしてるんだろう?」
「たぶんこの先10kmの待避線にいるんじゃないかな?僕達が先行するはずだったから今でも待機してるんじゃない?」
「ねぇライ、この旅が終わったらデートしよ?ローマに美味しいお店見つけたんだ」
「良いね!僕もアーニャとデートしようと思ってたから、行こう!」
コーヒーカップを片手にするライと両手でもつアーニャ、その2人を1号車のドアで見守っているジェレミアとノネットは
「しばらくは冷やかせるぞ、ニシシシシ!」
「よさないかノネット、だがそれも面白そうだな」
と、何やらよからぬ事を企んでいるいるのであった。ローマでも2人だけで過ごす事は出来無さそうだ。
「ノネットさん、ジェレミアさん、司令室から連絡です!!」
ナナリーが電報を持って来た、その内容に目を通した2人は
「まぁ想定の範囲内だな、2日前まであんな天気だったし」
「ライとアーニャにも伝えてこ―――」
ジェレミアはライとアーニャの所に行こうとしてその足を止めた。
「どうしたんです?」
「いや、風がおかしくて」
辺りを見渡すジェレミア、一方「カラーズ」のある8号車の外でも
「何か近ずいてるな、しかももの凄いスピードだぞこれは」
「ああ、何だ?これは・・・・」
ルキアーノとC.Cも異変を感じたらしくキョロキョロとしている・・・・と
「ライ、光が」
アーニャは自分達が来た方角の本線に光を見た
「ほんと―――」
全ての言葉を言いきらないうちにゴーーーー!!!ともの凄い勢いでライ達の横を駆け抜けていった何かは、あっという間に過ぎ去ってしまった。
「なんだ!?今のは」
「ゼロか?にしては早すぎるぞ、200以上は出てたな」
ルキアーノとC.Cはあまりの速さに仰天し、ノネット達の所に何が通過したのかを聞きに行く、そのノネット達はと言うと
「・・・・どういう事だ?」
「なぜ、あんなスピードを?」
「報告は全車に届いているはずだぞ」
ノネット、ナナリー、ジェレミアは驚愕し唖然とする
「大丈夫ライ、吹き飛ばされなかった?」
「ああ、平気だよ・・・・あれ?あそこに湯気が立ってる」
3つ有る動輪の先頭から2つめの所、その近くに湯気が立ち込めていた。ライとアーニャが近ずいてみるとそれは三日月の形に似ていた金属の様な物。
「アーニャ・・・・これって」
「うん・・・・こんな事あり得ないよ」
「どうした2人共」
ノネットが尋ね、後にジェレミア、ナナリー、ルキアーノ、C.Cが続く
「これ、何に見えます?皆さん」
ライが落ちている物体を指さす。
「「「「・・・・まさか」」」」
4人共信じられないと言わんばかりの表情、だがこれはまぎれもない現実。
「ブレーキそのもの」
アーニャの答えはまさに信じられない事態だった、ライ達はその物体が通過した先を見る、深い闇をたたえた夜の先を・・・・。
科学の進歩は人の生活に豊かさをもたらしてきた、しかしそれと同時に忘れてはならない事がある。
過信してはいけない事だ
人が泣き叫び、助けを求める場面、それは地獄へと落ちて行く過程の1場面に過ぎない。
「助けて、お願い!!」
「だれか止められないの!?何とかしてよ!!」
「事故など起こる筈はないんじゃないのか!?」
「あたし達、どうなるの・・・・」
悲鳴と絶叫がその場を包みこむ、我先にと逃げようとする人の波、だが完全な密室の中では逃げる事は出来ない。
いくら窓を打ち破ろうとも、壁を壊そうとも、びくともしないこの密室・・・・
閉じ込められ、脱出する術も無くもがき苦しみ続けるしかない人は、生にしがみつこうともがくが、それすらも無意味、生界への乗車券を持たない人々に生きる事は出来ない。
「何故だ・・・・こんな事は・・・・想定しては!!」
「どうして・・・・俺は、俺は!!」
「お兄ちゃん・・・・助けて」
「お姉さま、誰か!!」
轟音を響かせ、その巨体を大きく揺らしながら行くそれは止まることない、否、止められないのだ。ただ走ることしか出来ない、止まる術を持たない物にはどうする事も出来はしない、何も有りはしない。
ただ有るのは、解っているのは・・・・彼等は“死ぬ”と言う事だけだ。
To Be Continued 「鉄の道 第7章 地獄行きの乗車券 」
はたして死ぬと定められた人々の運命を変えられる者は、現れるのだろうか?
以上です!
、と。の入れ方がいまいちピンとこないですね。
毎回課題が残るのが悔しい所ではありますが、今までの大作家の
皆様の仲間入りが出来るようにしたいです。
感想、ご指摘お待ちしてます!
では、失礼します。
本当にいつも感謝いたします、ありがとうございます。
↑↑↑ ここまで本文
代理投下終了
クライマックスの大事な部分に脱字がありましたので、修正しておきました。エドワード婦人が男しゃべりなのは、気にしない事にした。
>>469 投下お疲れ様です。
ぱっと読んで気が付いた誤字と思われる部分
>>461 ひときは → ひときわ(一際)
では、感想を。
>>、と。の入れ方がいまいちピンとこないですね。
そうですね。
おかしな感じになっています。
一度完成したものを声を出して読んでみるといいと思います。
「、」に関しては、その部分で息をつぐという感じでしょうか。
例として465の次の文章を僕なりに「、」を付けてみます。
>>そのたった一言に手にしている無線を握りしめるアーニャは悔しさで胸が張り裂けそうになる。
↓
そのたった一言に、手にしている無線を握りしめるアーニャは悔しさで胸が張り裂けそうになる。
原文のままだと、一気にこれだけの文章をしゃべろうとすると大変です。
この場合、僕は「、」をあの部分につけたのは、「そのたった一言に」という部分と「手にしている無線を〜」は繋がっていないと思ったからというのもあるんです。
ここに1箇所「、」をつけるだけで、読みやすく、意味がわかりやすくなったと思います。
もっとも、僕も素人ですから、僕なりにこうしたほうがいいと思った程度なんですけどねwww
「、」に関しては、声を出して読んでみる。
意味が違う部分に入れる区切りとして考える。
この二つを気をつけるようにすればいいんじゃないかと思います。
次に「。」ですが、これは文章の終わりにつけると考えればわかりやすいと思います。
ここで、「この文章は終わっていますよ」という合図だと思えばいいんじゃないかな。
つまり、「。」がないと、次に続きを探してしまうことになってしまうんですよ。
結構、読んでみると「。」の抜けている部分が、まだ目立ちます。
もったいないですよ。
最後はきちんと閉めないとwww
ただし「?」「!」の後には、いりませんのでご注意を。
結局、迷うときは、声を出して読んでみる。
それが、かなり有効ですから、実践してみてください。
オススメですよ。
話的には、相変わらず面白いですね。
機関車好きじゃないとこういったものは書けませんからね。
しかし、次回どうなるか楽しみです。
ブレーキの壊れた汽車……。
アクション映画っぽいですねwww
次回の投下も全力でお待ちしております。
後、代理投下の方も、お疲れ様でした。
>>459 限定プリン30個も買うとか……汚いなさすがプリン伯爵きたない
せめて、せめて一つぐらい残してやれよ・・というか、地味にライがああなったの井上さん原因w
乙でした!
>>469 代理投下乙、そしてパラレル卿、乙でした。
トナカイか……自然は怖いね。
ブレーキ吹っ飛んだ列車・・ちょっと洒落ならんでしょう?
次回の投下も待っています!
埋め
埋める?
穴埋め投下します。
七夕には間に合いませんでしたけど、まぁ、笑って許して…。
○ささやかな願い○
それは生徒会の七夕祭の時だった。
僕は短冊をもってナナリーに話しかける。
「これに願い事を書いてお願いすると、願いがかなうって言われているんだ。僕が換わりに書いてあげるよ。それで、ナナリーは何を願うのかな?」
僕がそういうと、少し考えるナナリー。
その仕草はとてもかわいい。
きっと「世界が平和でありますように」とか「やさしい世界でありますように」とかなんだろうな。
そんなことを考えていたら、どうやら願い事が決まったらしく、ナナリーが話しかけてきた。
「えーーっと……、では……すみません。書いてもらえますか?」
その言葉に僕は快く返事を返す。
「うん。いいよ。何にしたんだい?」
そう聞き返すと、ナナリーは少し頬を染めた。
ああ、かわいいなぁ、本当に……。
皆がいなかったら、抱きしめたいな。
そんな邪な思いがムラムラと湧き上がってくる。
いかん、いかんっ。
慌てて頭を振ってナナリーの言葉を待つ。
「えーっとですね……、私の願いは……」
「うんうん……」
真っ赤になって呟くようにナナリーは言葉を続けた。
「世界が私の足元にひれ伏してほしいって……。きゃっ、はずかしいです」
僕は、その場に固まって動けなくなっていた。
蛙の子は、蛙なのだと痛感しながら……。
ちゃんちゃん〜♪
以上です。
ナナリー好きな人、ごめんなさい。
でも、ナナリーだったら、かわいくこんな事いわれたら許せる気がするんですwww
そう思いませんか?
ナナリーwww
母親あんなんだしね、小説じゃなかなか黒いらしいしね、仕方ないね。
世界がひれ伏すてw世界征服www
小ネタ
もしライが女の子だったら
嫌いな人はスルーで
【黒の騎士団の場合】
「今日から黒の騎士団に入団する事になりましたライです。よろしくお願いします。」
そう言ったのは東洋系と西洋系の良いところ全てを持った文字で形容する事ができない程の美しい人物だった。
華奢な肉体に似合わない豊満な胸が黒い制服の上からでもはっきりと分かる。
「…」
その姿に誰もが見とれてしまった。
「カレンより美人じゃねぇ〜か!」
玉城の素直な感想を聞いて全員がうなづいた。
「ちょっと!本人いるんですけど!?」
カレンの叫び声が虚しく響く。
「確かにライの方が可愛いけどさ…」
カレンがいじけて地面に゛の゛の字を描く。それを見た井上がカレンの肩にそっと手を置いた。
その時、南が両腕に何かを抱えて持ってきた。
「ちょっとこの服を着てくれな…「黙れ変態ロリコン!」」
井上の空中かかと落としが絶妙な角度で決まり、南の持っていたゴスロリの服が床へと落ちたのと同時に南も眠りへと堕ちていった…
扇が何やらぶつくさ呟いていた。
「俺には千草が…」
「関係ないですよ扇さん…」
本気で何かを考えている扇にカレンはジト目で見る。
「お前達ふざけるんじゃない!」
そんな様子を見ていたゼロが叫んだのを見たライが尊敬の眼差しを向けていると
「ライは私の嫁だ!」
と叫んだ。
「違います!」
即座に否定するとゼロは地面に゛の゛の字を書きながらどうせ俺なんか…といじけていた。
そんなゼロ様子を無視して団員達は誰がライにふさわしいかを言い争っている。
「…今日で黒の騎士団止めていい?」
「…まあ頑張れ。」
彼女の言葉はC.Cにしか聞こえていなかったが魔女はピザを食べるのに一生懸命だったのでどうにもならなかった。
これから起きる彼女のフラグ争奪戦は黒の騎士団全体を巻き込んだという…
以上。
色々とスマン埋めネタだから勘弁して欲しい。
とりあえずゼロの叫びに吹いたwww
基本ギアスの名有りキャラって男>女だからよりフラグが乱立してしまうwww
盤上の女主人公のビジュアルで再生されたw
そういうのも面白いな
わ埋めネタいっぱい
面白いな!
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489 :
創る名無しに見る名無し:2009/07/08(水) 20:18:08 ID:kYCqvE3d
さg
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