狙って誤爆するスレ4

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101創る名無しに見る名無し
「死んでもらうぞ、魔王!」
 ヴァルキリーが空駆け、魔王――恭一に向かっていく。
 だが、恭一は何か構えるわけでもなく、ぼうっと突っ立っているだけだ。
逃げるつもりも無いらしく、向かってくるヴァルキリーの姿をだるそうな顔で
見つめている。両手はポケットの中に差し入れられたままで、このまま
じゃ、ヴァルキリーが手にしている槍の一撃を無防備のまま喰らう事に
なってしまう。
 一体何を考えてるのよ!?
 そんな叫びにも似た疑問が、恭一を動かした……というわけでは無いの
だろうけれど、ヴァルキリーと接触する直前になって、恭一はようやく
左手をポケットから抜き放ち、眼前にかざすように広げた。
「くらえぇぇぇぇ!」
 ヴァルキリーが気合の声と共に、得物である槍を、恭一の左手に、
そしてその向こうにある身体に向けて突き入れる。しかし……
「なっ……!?」
 ヴァルキリーの槍は、恭一の身体は無論、その左の掌すらも貫く
事ができず、空中で静止させられた。それを放ったヴァルキリーの身体ごと。
 それを為したのは、言うまでもなく恭一の左手。ヴァルキリーの
突撃を見切り、”槍の穂先”を掴みとった、左の掌だ。
「何!?」
 槍の先端を掴む恭一の左の手が振り下ろされる。ヴァルキリーの身体は、
その動きに従えられたかのように、大地へと叩きつけられた。
「ふん、大したことはないな」
 掌からは、穂先を掴んだにも関わらず、血の一つも出ていない。なのに
わざわざ掌を舐めながら、恭一は地に臥せったヴァルキリーを見下ろしている。
 ――まさにこいつうは魔王と呼ばれるに相応しい、化け物かもしれないわね。
一体どれだけの速度と眼力があれば、“掌を穂先に切らせる事なく、
それを掴み取る”などという芸当ができるのかしら……。
 一方、ヴァルキリーは、そんな私の戦慄を他所に、それでも何とか立ち上がろう
としていた。
「くっ……私を、小馬鹿にしているのか?」
 必殺の気合を込めた突きを、あらぬ方法でかわされ、それどころか
大地に叩きつけられ、挑発するかのごとき仕草と共に見下されている
という屈辱を受けたヴァルキリーは、悔しさと怒りを込め、魔王の視線を
正面から受け止め返した。
 そんなヴァルキリーの姿を、恭一は笑った。鼻で。フッ、と。
「小馬鹿? 違うな。大馬鹿にしているだけだ、貴様をな」
 ……うわぁ、性格わるぅ! 流石魔王!
「五月蝿い。外野は黙っていろ」
 ……そうだった、あいつは他人の心が読めるんだった。
 こちらを向きながらそんな事を言う恭一の姿に、ただでさえ馬鹿に
されていたのをさらに馬鹿にされたと思ったか、ヴァルキリーは顔を
真っ赤にして怒鳴った。
「貴様! 真面目に闘うつもりはあるのか!」
「残念だがない」
 だるそうな顔で、恭一は即答した。
「いいか、よく聞け。貴様と私とではとてつもない力の差がある。
 貴様がビー玉の輝きなら私は太陽の光。お前がガ○ダムの
 ニュータイプ能力なら、私はイデ○ンの無限力だ」
 なんか、例えが凄く危なっかしいわね。
「…………とにかく、それがわかったら大人しく帰れ」
 私のツッコミ聞こえているはずなのに……流したわね……。
 恭一は、ヴァルキリーにそう促す。だが、その言葉がヴァルキリーの
堪忍袋の緒を、とうとう引きちぎってしまったらしい。ヴァルキリーは
立ち上がると、胸の前で槍を構え、なにやら呪文のようなものを唱え始めた。
「むっ……これは……」
 恭一はヴァルキリーが何をしようとしてるのか気づいたみたいだけど、
私にはさっぱりわからない。一体何をやるつもりなのかしら?
102創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 20:59:22 ID:KacbA9Ec
「くらえっ!」
 のんきに構えてる場合じゃなかった事に気づいたのは、ヴァルキリーが
構えた槍を眼前に突き出した瞬間だった。凄まじいまでの力が、突き出された
槍の穂先に集中していく。
 これは……まずいでしょ!?
「グングニール・ブレイクっ!」
 ヴァルキリーは、技の名前らしき言葉を叫び、穂先に集中させていた
力を解放した。さっきの感じだと、収束された力は、、辺り一面をその
衝撃でなぎ払うに十分足りる程だ。
 ……そんな力が恭一に向けて放たれたという事は、その後ろに立って
いる、私の方にもその力はやってくるわけで……。
 うわわわっわわ!? 私はしゃがみこんで、頭を抱え、やってくるだろう
力に備えた。備えた所でどうにかなるかはわからなかったけど。
 程なくして、ヴァルキリーの放った力は、恭一ごと私を――――
 ………………。
 あれ?
 なんとも、ない?
「ふむ」
 衝撃もなければ、何かが炸裂する音も無いまま、何かに納得するように
うなずく恭一の声が聞こえ、そして私は気づいた。
「味は、まあまあだな」
「ば……馬鹿なっ! 私の奥義を……“食った”だとっ!?」
 そう。恭一は、ヴァルキリーの奥義らしき技、グングニール・ブレイク
とやらを、“食べて”しまったのだ、と。
 流石は世の中のありとあらゆるエネルギーを食い物にしちゃう男……
核分裂反応、つまりは核攻撃すらも食べちゃう奴だもんなぁ……。
 恭一がポケットに入れたままだった右手を抜くと、その手には楊枝が
握られていて、何か引っかかったのだか、歯と歯の隙間をしーはーしている。
「口直しに青汁が欲しい所だな」
 ……相変わらず、何を考えているのかわからない奴ね。
「………………」
 一方、渾身の力を込めた一撃を“食われて”しまったヴァルキリーは、
あまりの魔王――恭一の余裕しゃくしゃくっぷりに参ってしまったのか、
その場にへたり込んでしまった。
「あは……あはははは……は……はは」
 放心状態で乾いた笑いを漏らすヴァルキリーと、相変わらずだるそうな
顔で楊枝を操る恭一を交互に見て、私は呟いた。
「あーあ……可哀想に」