THE IDOLM@STER アイドルマスター part2

このエントリーをはてなブックマークに追加
741/3
風船

 俺は、765プロダクション所属の音楽プロデューサー。
 担当アイドルの高槻やよいを伴って、今、新曲の広告活動を重ねている。
 本日の営業場所は、とある郊外型テーマパーク。天候は、薄曇りして暑からずというところ。
 野外ステージの客席は、大量の家族連れでごった返していた。
 無線マイクを手にとって、やよいが会場全体にアピールする。
「じゃあ、みんな、お姉ちゃんと一緒に歌っちゃおう!」
 まず最新のシングル曲、次いでそのカップリング曲を歌う。そして、最後に歌うのは、
 もちろん「おはよう! 朝ごはん」。彼女を代表する一曲である。
 それが終わると、子供相手の風船配り。
 無数のゴム風船にあらかじめサインを入れておき、俺たち裏方がこれを膨らます。
 そして、紐をつけた状態で、やよいが次々に手渡していく。
 その際、空いた右手で、子供にポンとハイタッチ。
 無料イベントとはいえ、前後二回の公演で、お客さんたちと広く触れ合うことができた。

 さて、俺たちがテーマパークを出ようとすると、辺りをきょろきょろ見回している小僧がいた。
 年のころはおよそ五歳。下に妹一人、弟三人を抱えるやよいだが、
 その末の弟と同じくらいの子供である。
「グスン……グスン……」
 涙目になって、一体何を捜しているのか――やよいは、彼に訊いてみた。
「そこの君、どうして泣いてるの?」「風船が……風船が……」
 小僧の手には、風船がない。持って歩いているうちに、紐から指を滑らせたのであろう。