THE IDOLM@STER アイドルマスター part2
「あら、小鳥さんですか?」
「えっ……あれ、あずささん」
「お疲れ様です。お買い物ですか」
仕事帰りのOLでにぎわうデパートで、小鳥は背後から声をかけられた。聞き覚えのある
声に振り向くと、事務所でもお馴染みの癒し系の微笑みが待ち受けていた。
小鳥は手に持っていたマグカップを棚に戻し、あずさに笑顔を返す。
「ええ、ちょっとお友達が結婚しまして。それでお祝いを、って」
「そうなんですか、それはおめで……え、ええっと」
「あずささん、そこで口ごもられると却ってダメージおっきいです」
「……ごめんなさい」
準備していた通りに言い訳のやり取りをしているというのに、小鳥は内心で胸が痛む
のを感じた。
「あはは、でも彼女、幸せそうだったわ。私も早くそんな人、見つけたいな」
「あ、それは私も同感です。大の親友が結婚したっていうお話、しましたっけ」
「友美さんでしたよね、いつもいつもご馳走様です」
「あら、こ、これは重ね重ね」
「それより、あずささんはどうされたんですか?」
小鳥が問うと、あずさは鍋を見に調理器具のコーナーへ行く途中だったという。料理を
失敗し、使えなくしてしまったのだそうだ。
「シチューを作っていたらうっかり焦がしてしまって。ホーローのお鍋って焦げが取れない
んですね」
「重曹は試してみましたか?」
「……はい?」
「お鍋を焦がしたのでしたらお湯に重曹を入れて、10分くらい煮込んでみたらどうですか?
相当ひどい汚れでもきれいに剥がれますよ」
「え、そうなんですか?」
「ホーローはガラス皮膜で、焦げるとスポンジでは手に負えないんですよね。重曹を煮立てて
浮かせるのがいいですよ、力も要りませんし」
「そんな使い方が。春香ちゃんがお菓子に使うのを見たことはありましたけど」
「事務所にも取り置きがありますから、明日でもかまわなければお分けしますし」
「ありがとうございます。小鳥さんってなんでもご存知なんですね」
思わず自分で『小鳥さんの知恵袋です』云々と言ってしまいそうになり、こらえた。この
自虐傾向は自分にプラスに働いたためしがない。
高級食器店の店頭で掃除のテクニックについて立ち話をしてしばらく後、あずさは小鳥に
いとまを告げた。
「あら、ごめんなさいこんな長話。プレゼント、選んでいる途中でしたのにね」
「いえ、いいんですよ、時間はありますし。あずささんも引き止めてしまってすいません」
「こちらこそ。いっぱいお勉強できたから、今晩のお掃除が楽しみです。では」
何回か振り返りながら人ごみに消えてゆく彼女を見つめ、小鳥は小さくため息をついた。
古い友人が結婚したのは本当だが、祝いの品はもう贈ってある。今日は、自分のひそかな
買い物に来たのだ。
いつもの通り、勝ち目の薄い恋のための。