THE IDOLM@STER アイドルマスター part2
「ハァ……ハァ……」
私こと天海春香は今、事務所に向かって走っている。
久しぶりに休日一日使ってのレッスンが待っているのに、せっかくプロデューサーさん一緒にいられるのに初っ端から寝坊。
ああなんてバカでダメダメな私なんだろう。
そもそも、そもそもあの夢が悪いんだと、振り返る人も気にせずに横断歩道を駆け抜ける。
どんな夢だったかも分からないけど、とにかくなんだかよく分からないけどあの夢のせいにして私は走った。
見えてきた事務所に一層、足に力を込める。
意外と走れるもんだなあって自分でも感心しながら、私は事務所に繋がる居酒屋横の階段を駆け上った。
「お、遅れましたぁ!」
ドタドタと階段を駆け上り、事務所のドアを開ける。
膝に手をついて乱れている息を整えていると「どうぞ」と、頭上からタオルが差し出される。
風邪でも引いたのかな、なんて思いながらそれを受け取り、たぶん渡してくれたであろう小鳥さんにお礼を言おうと顔を上げた。
「ありがとうございま……あ、の?」
顔を上げた先には確かに小鳥さんっぽい男の人がいた。
なんで小鳥さんぽい人って思ったのかは分からないけど、いつも付けてる頭のアレとズボンになっている制服を身につけて、私を頭一つ高いところからこちらを見下ろしている。
思考停止になっている私に小鳥さん(♂)は小首をかしげてる。
「どうしました? 来る途中に何かありました?」
あったも何もアナタに何かがありすぎて困ってるんですけど。
いや、ちょっとこれは下品過ぎるか。
そんな風に意識まで遠くなってきた私に追い討ちをかけるようにまた誰か、社長とプロデューサーさん以外の男の人の声がした。
「どうした春香? 変な奴にでも追っかけまわされたのか?」
更衣室から出てきたのは少し青味がかったサラサラの髪に端正な顔立ち。
確かに昨日までは女の子であったはずの、私の親友がそこにいた。
「は? 俺たちが女の子ぉっ? いっつも転んでアブねーなコイツって思ってたけどそこまでとは」
「だからぁっ! そういうわけじゃなくてっ」
私が叫ぶと、じゃあどういうわけだよ、と伊織っぽい男の子が突っかかってくる。
男の人だけどちっちゃいし目はクリクリしてるし声も女の子みたいだしで、この伊吹(伊織っぽい子の名前らしい)は結構普段と変わらず接することが出来る。
その代わり、「まあ春香だしな」と、ポンと頭に手を置く人に体がビクリと反応する。
どうやら置いた人も驚いたようで、すぐに離れてしまった手が少しだけ寂しい。
「驚きすぎ」
伊吹がジロリと怪しいですと言わんばかりに顔を近づける。