THE IDOLM@STER アイドルマスター part2
「今日の仕事はこれまで! 気をつけて帰るんだぞ」
「ありがとうございました」
担当プロデューサーと別れて、その女性歌手は、レコーディングスタジオを後にした。瑠璃色の長い髪を持つ美しいお嬢さんで、スリムで上背があって、プロポーションもすばらしい。
彼女の名は、三浦あずさ。765プロダクションのトップアイドルである。
さて、彼女は二十分ばかり、暗い夜道を歩いていた。
(おかしいわ……この辺のはずなんだけど……)
今日の仕事場から765タレント寮までは、距離にしておよそ一キロメートル。普通なら、里程は消化されている。
だのに、帰るべき建物がない。街灯を除けば、周りの明かりはすべて落ちていて、その手がかりもつかめない。おまけに、道の片側から、流水音が聞こえてくる。
(わたしは方向音痴だから、あちこち迷いやすいのよね……そういえば、先日、ちょうどこの辺で化け猫に遭ったような気が……)
先日は、寮の飼い犬の影法師に驚かされて、腰を抜かしたものだった。今宵も、真夜の川べりで、霊異を体験するのだろうか。
と、その時――直径三十センチメートルほどの光り物が一つ、あずさの前に現れた。
(まあ、きれい……UFOかしら?)
それは、空中をふわふわ飛んで、道を照らしてくれている。これなら、迷わず行けそうだ。
「宇宙人さん、わたしを案内してほしいわ」
彼女が言うと、光り物は、Y字路の左の道を指し示した。
「なるほど、そこを曲がるのね」
あずさは、明かりに従って、見慣れた建物の場所まで漸く行き着くことができた。
「あそこが、寮の裏口よ……宇宙人さん、あなたのおかげで助かったわ」
彼女は、空飛ぶ光り物に一礼し、765タレント寮の中へ静々と入っていった。