THE IDOLM@STER アイドルマスター part2

このエントリーをはてなブックマークに追加
331【虹色の鳥】 1/2
あるところに、トップアイドルを夢見る女の子がいました。
歌が好きで、ちょっぴりドジな、ごくごく普通の女の子。

女の子の歌を聴きとめたのは、プロデューサーの青年です。
自分の歌を褒められて、嬉しくなった女の子は、毎日毎日レッスンに励みました。

レッスンのコーチが、審査員の先生が、
その頑張りと歌を、だんだん認めるようになりました。
数えきれないほど大勢のファンが、女の子に夢中になっていったのです。

拍手と共に女の子が戻るたび、「すごいなあ」と青年は言いました。
その嬉しそうな一言で、疲れは吹き飛び、また次のステージに登れるのです。

女の子はステージに立ちつづけました。周りの期待以上に眩しく輝いていました。
その歌声を聴いて笑顔にならなかった人なんていません。
間違いなく、たくさんのファンを幸せにする、夢のトップアイドルになったのです。

七色の歌声で皆を夢中にさせるアイドルは、いつしか虹色の鳥と称えられていました。

*****

ある日、女の子は青年の元気がないことに気づきました。
ステージを降りたあとも、心配なあまり、疲れが吹き飛びませんでした。

(どうしたんだろう。私の歌が下手になっちゃったのかな……?)

不安になった女の子は、事務所の人たちに尋ねてまわりました。
事務所の皆はつとめて明るく応えます。

『大丈夫。君の歌は最高さ』 『心が安らぐ素敵な歌声だ』 『皆が幸せになるからね』

気を取り直した女の子はステージに向かい、仕事に励みつづけました。
七色の歌声は今なお色褪せることなく、海外にまで届きそうな勢いなのです。
そうなればきっと、プロデューサーの青年は、もっともっと喜んでくれるはず。

全力を出し切ってステージを降りた女の子は、青年の元へ向かいます。
「すごいなあ」と喜んでもらいたくて。そうしたらまた笑ってくれると思って。

――けれど。

「すごいなあ」と言った青年は、どこか申し訳なさそうな表情になりました。
そんな顔を見るのは、初めてのことです。女の子はすっかり戸惑ってしまいました。

青年は言いました。

「こんなに頑張って長いこと無茶をさせて。君はすっかりくたびれてしまったというのに。
 他の皆は、今よりもっともっと君を働かせるべきだと言うんだ。
 アイドルを売り出して有名にすることが、プロデューサーの仕事だと皆は言うけれど、
 この先もずっと君に無理強いさせるのを、黙って見ているしかできないことが辛いんだ……」

女の子は何も言えません。青年はずっと前から悩んでいたのです。

明らかに女の子が無理をしていることも。
周りの期待に応えつづけて、それがいつしか重い枷になっていることも。

そして、

飛ぶのに疲れた虹色の鳥が、普通の女の子に戻りたがっていることも。

*****