THE IDOLM@STER アイドルマスター part2

このエントリーをはてなブックマークに追加
313幸福Children (1/8)
 “June bride”という言葉がある。
 
 由来は、6月はローマ神話の女神の月で、
 この月に結婚した女性は幸せになれると伝えられているから。
 
 梅雨も明け、本格的な夏の始まりを予感させるセミの声が耳につくこの頃。
 
 なのにいまさら、そんな事が頭をもたげるのは――。
 
「お。ちょうど発走か。これはいいタイミングだな」
「あ、社長。お疲れ様です。珍しいですね……休みの日に」
 
 自分以外事務所に居ないと思っていたプロデューサーは、
 不意を突いて現れた社長――高木の声に少しばかり驚き、焦った。
 
 というのも、机の上にだらしなく足を乗せて、くつろいでテレビの競馬中継など観てたりしたものだから。
 おまけに、鼻の下にペンを乗っけるという、ワンポイントまでキメて。
 
 慌てて姿勢を正し、高木に振り返り挨拶をするプロデューサー。

「うむ。目を通しておかないといけない書類を事務所に忘れてしまってね。
 取りに来たんだが、此処で読んでいってしまおうと思って、奥の部屋にいたのだよ。
 君こそ、休日だというのに精が出るねぇ」
「いや、たまたまですよ。休む時は休んでますし」
 
 どうやら自分の不真面目な醜態は間一髪見られていなかったのか、
 普段通りの高木の反応に内心ほっと息をつくプロデューサー。

「そうかね? その割には少し疲れた顔をしているようだが……?」
「はぁ。そう……見えますか。実は……」
 
 仮にもこの人は芸能プロの社長――。
 今の自分が抱える悩みに対して、百戦錬磨の経験から的確な助言をもらえるかもしれない。
 
 自慢話を延々とウン時間出来るだけ人生の容量があるのだ。
 相談すれば、何かしらヒントくらい見つかるだろう――。

 プロデューサーは、昨晩の事を顛末を、言える範囲だけの内容に絞って話し始めた。