THE IDOLM@STER アイドルマスター part2
“June bride”という言葉がある。
由来は、6月はローマ神話の女神の月で、
この月に結婚した女性は幸せになれると伝えられているから。
梅雨も明け、本格的な夏の始まりを予感させるセミの声が耳につくこの頃。
なのにいまさら、そんな事が頭をもたげるのは――。
「お。ちょうど発走か。これはいいタイミングだな」
「あ、社長。お疲れ様です。珍しいですね……休みの日に」
自分以外事務所に居ないと思っていたプロデューサーは、
不意を突いて現れた社長――高木の声に少しばかり驚き、焦った。
というのも、机の上にだらしなく足を乗せて、くつろいでテレビの競馬中継など観てたりしたものだから。
おまけに、鼻の下にペンを乗っけるという、ワンポイントまでキメて。
慌てて姿勢を正し、高木に振り返り挨拶をするプロデューサー。
「うむ。目を通しておかないといけない書類を事務所に忘れてしまってね。
取りに来たんだが、此処で読んでいってしまおうと思って、奥の部屋にいたのだよ。
君こそ、休日だというのに精が出るねぇ」
「いや、たまたまですよ。休む時は休んでますし」
どうやら自分の不真面目な醜態は間一髪見られていなかったのか、
普段通りの高木の反応に内心ほっと息をつくプロデューサー。
「そうかね? その割には少し疲れた顔をしているようだが……?」
「はぁ。そう……見えますか。実は……」
仮にもこの人は芸能プロの社長――。
今の自分が抱える悩みに対して、百戦錬磨の経験から的確な助言をもらえるかもしれない。
自慢話を延々とウン時間出来るだけ人生の容量があるのだ。
相談すれば、何かしらヒントくらい見つかるだろう――。
プロデューサーは、昨晩の事を顛末を、言える範囲だけの内容に絞って話し始めた。