THE IDOLM@STER アイドルマスター part2

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231お元気で!(1/3) ◆DqcSfilCKg

「あ、雪歩ー。こっちなのこっち」
人でごった返す駅前で、目の前を過ぎていく人の波の中から見覚えのある少女がこちらに手を上げる。
あんまりに無遠慮な声で雪歩はギクリと周囲を見渡すが、こちらを向く人はいなかった。
いくら変装をしているとはいえ、お互いに名の売れた芸能人であることは変わりない。
雪歩は美希の前まで行きその手を取ると、その場を離れようとさっさと歩き出した。

「けっこーゴーインなんだね雪歩って」
もうちょっと自分が強く言えるタイプならなあ、と運ばれてきたカプチーノを口にしながら、雪歩は苦笑する。
今は社長が紹介してくれた、人通りから少し外れた喫茶店でこうして二人でいる。
店内では棚の上のテレビに夢中なおじさんがカウンターに一人立ってるだけで、テレビから聞こえる音とコーヒーの香りが自然と心を落ち着かせてくれた。
そもそもなんでこんなことになったかといえば、と雪歩は何度も繰り返した、数日前のことを思い出す。
ビデオテープなら擦り切れてしまう記憶も、逆に鮮明になっていく記録にまたちょっとだけため息が出た。
「どうしたの雪歩? お腹痛いの?」
当人は暢気なもんだ。雪歩は思い切ってパフェでも頼みたい気分だった。

アイドルだからこそ世事には敏感でなくてはならん、という社長の言に従い、雪歩の朝は新聞を眺めることが日課となっていた。
父のお弟子さんが毎朝、食卓まで持ってくる新聞を受け取り、父が起きてくる前にサッと目を通す。始めこそ眠気で文面を理解するのも億劫であったが、プロデューサーや他のアイドルに褒められたことでなんとか続けられている。
しかし、その日は朝のニュースを流しているテレビに、お弟子さんと一緒に釘付けになっていた。
星井美希、電撃移籍の報。
父がさっさと朝食をとれと怒鳴りに来るまで、雪歩はブラウン管の中で笑う彼女を眺めていた。