THE IDOLM@STER アイドルマスター part2

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177Happy holiday with you!(1/5)@雨晴P
765プロ所属のアイドルが大きなイベントを行った次の日には、彼女たちはフリーになるのが通例である。
昨晩のイベントで疲れ果てた雪歩も多聞にもれず、日曜日で学校もない、完全な休日を嗜んでいる。
間違えてセットしたらしい目覚まし時計が優雅な休日の朝を騒々しく掻き乱して下さったおかげで、それはもう朝早くに目が覚めた。
身支度を整えてリビングへ向かえば朝食が用意されていて、なぜか父親が作ってくれたというフレンチトーストをもさもさと消化していく。美味。
一区切り付いたあと、どうしようかと考えた末にお茶を淹れようと思い立ったので、淹れる。飲む。美味。
「・・・」
さて、暇である。それはもう、そこはかとなく暇である。
そうだ、自主練習をしよう、と父親が建ててくれた防音室へ向かう。向かおうとして椅子から腰を上げたところで、昨晩の事を思い出した。

―――明日は、しっかりと休むんだぞ。

そんな、彼女のプロデューサー氏から発せられた一言。
はっと息を呑んだ。ごくりと喉を鳴らした。リビングに置かれた椅子へと導かれるように腰を降ろしたところで、彼女の戦いが始まった。
始まったは良いが、かといってすることがない。
詩集を綴ろうかと思ったけれど、あまり気が乗らない。というか、あれで一日を過ごすのは勿体ない。折角の休日なのだから。
お茶でも淹れようか。いや、それは今さっきしたところだ。
自身の少なすぎる趣味にぅぅと鳴き、テーブルに額を押し付けて悩む。ぐりぐりと。
悩みに悩み抜いた末に友達を誘って遊びにいこうかなぁという結論に達したので、3人にメールをする。
10分後には全て返信されたそれらは、ごめん今日はちょっとといった内容だった。
「・・・ぅ」
終わった。彼女はそう確信した。今日はきっと、そういう日なのだろう。
酷いですプロデューサー、なんて訳のわからない非難を彼に浴びせつつ、再び額をテーブルへと移す。
あ、と何かひらめいたように伏せた顔をあげ、でもそれはちょっと、とやっぱり伏せる。
テーブルに頬を載せながら、携帯電話の決して登録数の多くないアドレス帳からハ行を選択していく。メールの作成画面を開いて、ボタンをプッシュ。
『今どこにいますか?』
そこまで書いて、送信のボタンを押そうか押すまいかのところで迷いに迷った。あーだのこーだの迷いながら、右頬と額と左頬はテーブル上を行き来する。
うーうー唸りながら奇行を繰り広げる娘を見つけた父親は、一瞬だけ声をかけるか迷った後、その行為を生暖かく見守っていた。
親は子の有りのままを受け入れるべきであると、彼女の活動を通して学んだのである。その行動に割と涙が出そうではあったが、そこは男萩原、耐え忍ぶ。

そんなこんなで、雪歩がええい、送っちゃえ!なんて思えたのは10文字程度の文章を打ち込んでから15分が経ってからのこと。
彼からの返信を受け、彼の好きだと言っていたお茶を水筒に汲み入れて玄関から飛び出したのは、それから更に5分が経ってからのこと。
そして彼女の父親が娘の奇行と突発的な行動に驚愕し、呆然と突っ立っているだけの状態から解放されたのは、加えて10分後のことだった。