THE IDOLM@STER アイドルマスター part2

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174創る名無しに見る名無し
【凱旋パレード】


「この遊園地も懐かしいですね、プロデューサーさん」
「そうですね。あずささんがここで歌ったのは、もう1年近く前でしたっけ?」
「うふふ。あの頃は右も左もわからなくて、ご迷惑をお掛けしました」
「すこし歩きましょうか。まだステージまでは時間があるようだし」
「そうですね。今日は私たち、ここには観客として来たんですもの。
 私が立ったステージに、風船を渡した女の子が立つなんて、不思議な気分です」
「今ごろはガチガチかもしれませんよ。以前のあずささんがそうだったみたいに」
「恥ずかしいわ。歌詞も飛んで、ダンスも忘れて、ファンの皆に助けてもらって」
「どうにかこうにか終わったと思ったら、今度は風船がたりなくなったんですよね」
「そうそう。ちいさな男の子が、泣きながら私のところに来たんです。
 困っていたところに、年のはなれたお姉ちゃんがとんできてくれて――」
「歌の好きな女の子でしたよね」
「その子が、自分の風船を渡してくれたんですよ。『お姉さんを困らせちゃダメ』って」
「年の割にずいぶんしっかりした女の子だなあって思いましたよ」
「あら、ぷ、プロデューサーさん? わ、私も少しはしっかりしてきましたよね?」
「おっと。あずささん、見えてきましたよ。本番前の彼女に、挨拶にいきましょうか」

***

「あっ、あずささん! 来てくれたんですか!」
「こんにちは、やよいちゃん。今日は緊張しているかしら?」
「えへへっ。あずささんの顔みたら、緊張もとんでっちゃいました!」
「そう、良かった。あのとき私の緊張をとばしてくれたのも、やよいちゃんだったのよ」
「そうなんですか?」
「ええ。初めての大きなステージで、お客さんを泣かせてしまったんだもの。
 頭は真っ白。風船も空っぽ。どうしたらいいか全然わからなくって」
「すみません、私もちゃんと見てればよかったんですけど……」
「そしたらやよいちゃんが、すーっと飛んできて、すーっと緊張をつれてってくれたの」
「でもでも。私、弟が歌のお姉さん困らせちゃって、ヤバイー!って思っただけで」
「そのときに思ったのよ。この子はふわふわした、やさしい風船みたいな子なんだなって。
 だから、社長がやよいちゃんを連れてきたときは、心の底からおどろいたわ。
 どこかへ飛んでいった風船を、もう一度つかまえてきてくれたんだもの」
「私もびっくりしました! うーんとすごいアイドルさんだったんだって!」
「その、うーんとすごいアイドルが、すごいって思った子が、やよいちゃんなのよ。
 私をトップアイドルにしてくれたプロデューサーさんの、保障つきでもあるんだから」
「うぅ…でも私、あずささんみたく堂々と歌えないし、ダンスもまだまだヘタっぴで……」
「うふふ。私もそうだったわ。だってやよいちゃんは、全部見てたでしょう?」
「あ! えっと、えっと、……あずささんと、おそろいですね!」
「そうね。私たちはお揃いだわ。だから今日のステージも、きっと楽しいものになるわね」

***

「じゃあ、俺達は観客席に向かいましょうか、あずささん」
「あのっ。あずささん、あずささんのプロデューサーさん。これ!」
「風船?」
「まあ。やよいちゃんから、いただけるのかしら」
「はい! 今日はファンの皆さんにくばります。もらってください!」
「ありがとう、やよい。でも良いのか? 握手会はステージの後だろう?」
「プロデューサーにお願いしました。最初と最後に渡したい人がいるんですって」
「なんで俺達に2つもくれるんだ?……って、ちょっと、あずささん!?」
「あ、あらあら、大変。どうしましょう、私ったら――」


ふわりふわりと浮かびあがった風船を前に、あずささんは心配そうに空をみあげていました
「おそろいです!」と嬉しそうにやよいが言って、理解したPはそっと掌をひろげました

二つの風船が見下ろす地上に――泣いてる人はひとりもいませんでした