THE IDOLM@STER アイドルマスター part2
今日は俺の担当アイドルの握手会だった。
町外れの小さな遊園地で子供たちを集めて風船を配る、と言う小ぢんまりとしたイベント
だが、客も相応に集まったし、彼女も大いに楽しんだようだ。
「疲れたか?けっこうテンション高かったな」
「へっちゃらさー!3ヶ月前までは5万人相手に何日もコンサートやってたトップアイドルを
なめるんじゃないやい」
「へえへえ。むしろこんなちっぽけなイベント、やってらんないか」
「おっとプロデューサー、それも間違いだよ。自分、これはこれですっごい楽しかったんだぞ」
そう、俺の担当アイドルは我那覇響。先日IUで我が765プロに負け、961プロを自由契約
となった元トップランカーだ。
最近のファンはユニットプロデュースというものをよく理解していて、前シーズンまで
トップアイドルだろうか低ランクだろうがぜんぜん気にしないようだ。もちろんずっとついて
くるファンも多いが、各クールのアイドルの評価は、世間的にはそのたびに一旦ゼロに
戻るというのが最近のムーヴメントと言える。響は、そういう意味では今シーズンまったくの
新人アイドルであり、現在はトップを目指して下積み営業を繰り返している時期なのである。
「まあ、そう言ってもらえると俺も助かるけどな。でも頑張ろうぜ、早くトップに返り咲いて
『ああ、やはり響はすごい』ってみんなに思い知らせてやろう」
「もちろんさー!」
夕焼けに染まるアトラクションのあいだを、話しながら通用門へ向かう。……と、そこに
聞こえてきたのは、子供の泣き声だった。
「わああーん、ボクの、ボクの風船っ!」
「ああもう、仕方ないわね、諦めなさい」
「やだあー!やだよー、ヒビキの風船なんだよ!あれがなきゃやだよ!」
俺と響で、顔を見合わせる。
「さっきのイベントにいた子かな」
「そうみたいだな。んーと……ほら響、あれ」
上を見上げると、オレンジ色の空高く、薄青色の風船が上ってゆくところだった。
「紐を離しちゃったんだな。かわいそうに、あんなに泣いて」
「……自分、ちょっと行ってくる」
「おっおい、響?」
止めるまもなく母子連れに駆けて行く。
「ねえキミ、さっきの握手会に来てくれたのか。ありがとうっ!」
「きゃっ?あ、響ちゃん」
子供の目の前に立ち、膝を曲げて笑顔で話しかけた。母親も驚いたろうが、子供に
いたっては硬直している。
「だけど、泣くことなんかないんだぞ!今から自分が、あの風船とって来てあげるから!」
「はぁ?」
ようやく追いついたと思ったら、こんなことを言う。何十メートル離れたと思ってるんだ。
「おい響、なにを――」
「ふっふっふ、プロデューサー、自分にどんな友達がいるか、忘れたのか?」
「え?友達って?」
不敵な笑みを浮かべる響に、思わず聞き返す。すると彼女は、指を口にくわえて鋭い
口笛を吹いた。
ピーィィィッ!!
「オウ助、カムヒヤーっ!」
「ピーオー」
なんということだろう、はるか空高くから応じるような声が聞こえたかと思うと、大きな影が
響の肩に舞い降りたのだ。
「うわっ……って……ええっ?お前ん家のオウ助か!」
「ふっふっふ、そのとーり」
仁王立ちので腕を組み、含み笑いで応じる。
「人呼んで平成のドリトル先生!これなるは我那覇響、百獣を統べる者さー!ね、キミ」
「ふぇっ」
「ちょっと待っててね。いまこの子があれ、取って来てくれるぞ!」
この態度の大きさはドリトルというよりキャプテンフックだが、あっけに取られる子供に言いたい
だけ言い放つと、肩口の鳥になにやら話しかけた。オウ助も了解したのか、短く鳴くと天を見据え、
力強く羽ばたいて真上へ飛びあがった。