【魔王】ハルトシュラーで創作発表するスレ 2作目

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358創る名無しに見る名無し:2010/04/23(金) 21:59:45 ID:PSh3IwC5
     ___
    '´,,==ヽ
   |´iノウラト〉
    j l| ゚ -゚ノ| 

               ___
              '´,,==ヽ .。o
             |´iノウラト〉
              i_l| ゚ -゚ノ| <んー、まあそんなに慌てなくてもいいよ
            .ノl__}}つ¶つ¶    一休み一休み
             / ̄ ̄ ̄ ̄\
              |) ○ ○ ○ (|
          /″   ν.    \  
        /________\ 
         ̄ \_\__/_/  ̄



   ____
  〔_ 倉刀
  / レハノ レ〉    <しッしょーーーーーーッッッ!?
  j ゝ゚ ヮ゚ノ        
359創る名無しに見る名無し:2010/04/23(金) 22:08:52 ID:PSh3IwC5
 : : :::::::: ::| ___
::: :: ::::::: '´,,==ヽ
: : :: ::::: |´iノハルト〉
 : : ::::: ! !リ⊃⊂j <コピペミスった……死にたい
 : : ::::/´.::〈::::ヽl────────────
    く爻_入⌒)`)    __
  ./           〔倉刀
              (    ) やめて!
              と、   i
               しーJ
360創る名無しに見る名無し:2010/04/23(金) 22:16:14 ID:xaxRfPU6
おいウラトちゃっかり混ざんなwwwww
361創る名無しに見る名無し:2010/04/24(土) 17:52:59 ID:9/z1VNTH
発想を変換するんだ、アンパンマンみたいに新しい顔が飛んできた場面だと思えば…
362創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 20:32:51 ID:xu563KHG

.             ヽ‐ '´ ̄ ̄`ヽ、
            /         \
.         .//, 'ハ   ノiレへ、   ヽ
.         l ! { ノ ヽノ `ヽ l/l.  |      倉刀 倉刀
..          Vi 小●    ● 从 、|     マックスコーヒーはまだかね?
           j||l⊃ 、_,、_, ⊂⊃ |ノ│
        /⌒ヽ__|ヘ   ヽ._)   j /⌒i !
      \ /:::::| l>,、 __, イァ/  / │
.        /:::::/| |:: :: ::{春 }:{ヘ、__ ∧  |
         \< \|:: :: :: ∨:::/ヾ::: :: >  |
363創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 21:12:25 ID:YuPea4qV
  ____
  〔_ 倉刀
  / レハノ レ〉    
  j ゝ゚ ヮ゚ノ    <マッ缶は在庫切れです   
 と)》jメ《づ       
  ノ=||=i         
  じ'  ヾ.)
364創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 21:21:11 ID:xu563KHG
  | | | l   ト    ヽ   ||  |l         '
 | ゙、| ',    | \   ゛   | |  ハ   l       |
ト l、 \ \   l  ヽ |l   l | /| /|       |
 ,,>≧ミx.、ヽ |   } ||   / レ' _」斗 1      ,
'" /::::::(_j卞ミ\|  V | /,,斗=<|/ |  //   /
 ':::::{iiiiiii}::::|         |//::riゝヘヾ, |// /
|:::::゙艸'::::;         |:::{iii}:::::! 》 イ //| | 
ーヾニ二シ,.           弋辷_ソ _″/   .'|  
     ̄´          `     i/   / !     ぐぬぬ……
             ′       /   イ | 
\                  /ィ /|  l
 ̄                  ´ /    |   | 
                    イ     |    l
\      (二ニ==ニ)     . イ |    |    |
365創る名無しに見る名無し:2010/05/03(月) 21:31:04 ID:9kyUoQ7E
マッ缶は甘くておいしいぞ。
366創る名無しに見る名無し:2010/05/13(木) 01:57:10 ID:X+agxlu7
>>365
こいつ閣下じゃね?
367 ◆69qW4CN98k :2010/05/26(水) 23:51:05 ID:fghohZ19
「これが開催地の美術会館の中です。いやーすごいですねー」

市内にあるこじんまりとした大衆食堂。
何人かが遅い昼食をとっていた。
黙々と飯をほおばるそのなかで、テレビのリポーターが一人喧騒を放っていた。

「ホント、うっとりしちゃいますね。私の部屋に飾りたい!」
「ハハ、買えばいいじゃないですか」
「買えませんよ、もー!」

司会者の言葉に、リポーターがつっこむ。
会場に展示してある物は誰がみても見事と言わざるをえないだろう。
絵画、彫刻、詩文、服飾、多種多様な品々。
それらが他の美観を損なわずに、各々の個性を主張している。
凄い。
こう伝えるしかない自分の語彙の無さに、リポーターは舌打ちした。
それらがただ一人の人物の手によって作られたものなら尚更だ。

「ではでは! 今日は特別にお時間を頂きまして、これらを作った偉大な創作家!
 柏木先生にインタビューしてみたいとおもいまーす!
 柏木先生、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

テレビの中で、男がリポーターに挨拶を返した。
年の頃は20代後半に見える。男は何も着飾ってはいない。
一言で言えば個性がない、平凡な男。
だが、彼が手がけた作品は強烈な個性を放っていた。
ある者は彼を画家といい、ある者は彼を小説家とよんだ。
またある者は作曲家といいまたある者は映画監督とよんだ。
しかし、肩書きの異論はあっても二言目には異口同音に付け加えるだろう。

天才創作家、と。

突如彗星のように現われた異端児。
彼はありとあらゆる物に対して創作活動を行い、そしてあらゆる賞を総嘗めにした。
だが彼は偉ぶる事も無く、賞金は全て孤児院などに寄付した。
当然世間は彼に注目する。柏木はその声に答えあらゆるメディアに顔を出した。
マスコミがこぞって彼の出自を探すも一切不明。
謎に包まれた、凡庸な印象を与える芸術家。
おそらく東洋人、わかっているのは柏木という名前だけ。
世間の注目を知ってかしらずか、柏木は作品を生み続け、世界へと発信していった。

「この人物像もすごいですね、今にも動きそうです」
「ああ、何回か警備員の人に夜な夜な散歩してるんです、と相談されましたね」
「あはは、ヤッダー! ところで質問なんですけど、どうやったらこうやって作品を
 生み出すことができるんですか?」
「作成方法だったら私のホームページでいくらでも見れますよ?」

リポーターの問いかけに、柏木は笑ってこたえた。
柏木が他の芸術家と一線を画したのは、彼が自分の技術を惜しげもなく公開したことであろう。
世が世なら秘伝とされるような天才的な技術。わかり易く、丁寧な解説つきで。
おかげで巷には「柏木乙」と揶揄される二流作家が生まれる事になるわけだが。

「そういう事ではなくて……。技法を世間に公開なさっていることは誰だって知っています。
 皆さんが聞きたいのは、どうやったら多岐にわたって名作を生み出せるのか?
 そういった事なんですよ」
368 ◆69qW4CN98k :2010/05/26(水) 23:52:20 ID:fghohZ19
名作ねぇ、と柏木は首を捻りまた笑った。

「自分は名作を生み出したなんて思ってませんよ。ただ自分の頭に浮かんだモノ、それらは
 一つの情景だったり音だったり感情だったりする。それらをこの手で試行錯誤し、苦悩して
 なんとか形にしているだけに過ぎません」
「はあ」
「この、形にするのが難しい。目的地はわかっているのにそこに行く方法がわからない。
 例えるなら、指で太陽を指し示せるのに太陽に行く方法がわからない、そんな気持ちでしょうか。
 私が技能を公開するのも、皆さんには迷わずたどり着いて欲しいからです。
 先達の技術『指の指し示す方向』にむかって、太陽という『芸術』の目的地へとね」
「そうなんですか」

熱っぽく語る柏木にリポーターは適当に相槌を打つ。

「しかし、いくら先達はあらまほしき事なりといっても、その指示が間違っていてはいけない。
 私が丁寧に作品へ説明をつけるのもそのためです」
「そういえば、柏木先生は注釈が多い様に見受けられますね」

ええ、と頷き柏木は続けた。

「作家は作品で語れ、との言葉がありますが私はそうは思いません。自分の作品を誤解されないよう
 作家が説明するのに何の問題がありますか? これはこういう意味なのだと異論無く多くの人々が
 共通の認識を持つ……それは素晴らしい事ではないでしょうか?」
「作家は作品で語れ……そんな主義がありましたね、ええと……たしか」
「……ハルト主義」

リポーターにむかって柏木は答えた。

「ええ、そうでしたね。一人の創作家からつけられた主義とか。この運動の元になった
 ハルトシュラーも色々な作品を遺していますよね。巷では柏木先生はハルトシュラーの
 再来とか嘯く人も出ているとか」
「再来ですか……う〜ん、再来とは言われたくないですね」
「再来と呼ばれるよりは、柏木という名で誉れを高めたいと?」
「それもありますが……第一、その方はまだ生きています」
「え? でも……S・ハルトシュラーは……」

リポーターは返答に詰まった。
S・ハルトシュラーは謎の芸術家である。出身地や生没年代はおろか、性別すら不明、
その点では柏木に共通する点はあるかもしれない。
彼、いやもしかしたら彼女かもしれないが、ハルトシュラーは数々の作品を世に遺した。
様々な分野で膨大な量を。しかし、その軌跡は1990年を境にピタリと途絶える。
以前の作品はあるが、それ以後の作品が出てこないのだ。
あれから20年、何も後沙汰がない。
ハルトシュラーの死亡説が流れるのも無理の無い事であろう。
もっとも、ハルトシュラーを騙る贋作師は何人か現われた事はあるが。

「作品の中に、ハルトが生きているって言いたいんじゃないの」

食堂で昼飯を食べていた男が、テレビにツッコミを入れる。
横で一緒に食べていた友人がそれを聞いて尋ねた。

「どういうことだよ?」
「つまりよ、ハルトシュラーはもういない。でも作品は残ってるわけだ。
 作品がある限り人々はそれに感嘆する訳よ。ながーい目で見れば、今もハルトシュラーは
 作品の中に生き続ける、生きているって事を言いたいんじゃないかな」
「へえ、そういうもんかね」
「まあ、でもいずれ死ぬかもな」
「はぁ?」
369 ◆69qW4CN98k :2010/05/26(水) 23:53:12 ID:fghohZ19
不可解な顔をする友人に男は話す。

「簡単な事さ。俺みたいなドカタでも柏木って奴がどえれえヤツてぇのはわかる。
 ハルトもなんか凄いって事だが、柏木は毎年毎年、次々と生み出してやがる。
 柏木は弾があるが、ハルトにはねえ。いずれとってかわるだろうよ。
 柏木ってえ天才にかかればハルト何ぞ過去の遺物―――」

そこから先は続ける事が出来なかった。
男の後ろに座っていた青年が、裏拳で男を殴ったのである。
食膳を撒き散らし、もんどりうって倒れる男。
食堂にけたたましい音が響き渡った。
男は顎をおさえながら意味のない声で叫んでいる。
どうやら顎の骨が折れたらしい。
歯も欠けたのか、押さえた手の間からだらだらと血もこぼれてきた。

「な、なんなんだよアンタァッ!」

突然の出来事に男の友人は狼狽し、目の前の青年にむかって叫んだ。
青年はそれには答えず、側にあった帽子を被るとゆっくりと立ち上がり、
男たちのほうに向きなおった。
そして冷ややかな目で男たちを見すえると、静かに、よく通る声で呟いた。

「過去の遺物と申したか」
「……な?」

青年の声には怒気が含まれていた。
その威圧に男の友人は二の句がつげず、ゴクリと生唾を飲み込んだ。

(……コイツ、何者だ?)

まじまじと青年を見る。
10代後半か20代だろうか、若さを感じさせる風貌だが、体つきはがっしりとしている。
運動か何かをやっている引き締まった身体だ。
短く整えられた髪に切れ長の眼、意思の強さを表すかのような一文字に結ばれた唇。
このご時勢に着流しを着込んでいる伊達男だ。
太刀と脇差を差していれば、士といっても通用する。
場違いな感想だが、男の友人はそう思った。
沈黙を抵抗と受け取ったのか、冷ややかな態度を崩さずにまた青年はこたえた。

「過去の、遺物と申したか」
「い、いや俺は何も言って―――」

男の友人もその先を続ける事が出来なかった。
青年によって殴られ、言葉が出なかったからである。
虎拳と呼ばれる独特の拳撃。その暴威をまともに顔にうけ、男と同じく吹き飛ばされる。
テーブルと椅子がなぎ倒され、また喧騒が響いた。

「口は災いの元」

二人が立ち上がらず、呻いて地に這うのを見届けると、青年は厨房の方を一瞥した。
そこには怯えた顔をして成り行きを見守る店主と女将の姿があった。

「……騒がしい真似をしてすまなかった。これは飲食代と詫び料……それと
 転がっている連中の治療費だ」

そういって財布を取り出し、中から札を数枚取り出すとテーブルの上に置いた。
店主達と男達に見向きもせず、青年は扉を開けて外へと出ていった。
370 ◆69qW4CN98k :2010/05/26(水) 23:54:44 ID:fghohZ19
外に出るとまだまだ日は高い。
青年―――倉刀 作は食堂を離れたあとでため息をついた。

「少しやりすぎたかな?」

師から使いを出され下界へと来た倉刀は、腹ごなしに食堂へと立ち寄った。
倉刀は生まれついての武士である。恥を知る男子である。
ましてや自らの師の、嘲笑ともとれる言葉を見逃せるはずがない。
立ち寄った先での師の嘲笑など、見過ごせるはずがない。
店で騒ぎを起こした事は反省しても、殴った事自体は悪いとは思ってはなかった。

「ともあれ、人が来る前に退散した方が良さそうだ」

倉刀は長居は無用と早々にその場を去った。
胸中で迷い家の師匠、ハルトシュラーの声が思いおこされる。

「……マックスコーヒーが飲みたいな」

自分の倍はあろうかという豪奢な椅子に深々と腰掛け、迷い家の主S・ハルトシュラーは
物憂げに呟いた。
側に控えていたその弟子、倉刀は答えた。

「コーヒー、ですか?」
「……そう、コーヒー。MAX COFFEE だ」

ハルトシュラーは洋菓子に手を伸ばし、一口齧るとすぐに器に戻した。

「美味しい菓子がある、それを至高の飲み物で流せばさらに美味しくなるとはおもわんか?」

ハルトシュラーはそう言って弟子を一瞥する。
S・ハルトシュラー。
少女の外見をしているが、その名を聞けば人は驚愕を抱くだろう。
その名で世に出された恐るべき作品群と、はたして本人なのかという事に。
だが倉刀はまぎれもなく本人だという事を知っている。
畏怖すべき存在だという事を知っている。
だからこそ自分は、その足跡を辿る為に弟子となったのだ。
しかし時たまこの御仁は難題を申し付ける事がある。
長い間生きているとどうやら暇を持て余すらしい。
問答する気もなく、倉刀は二つ返事で了承した。

「かしこまりました、ではすぐに」
「うむ、頼んだぞ」

ハルトシュラーは用件を頼むと、気だるそうに窓の方を眺めた。
倉刀はそんな師匠に一礼すると、静かに部屋を出た。
371 ◆69qW4CN98k :2010/05/26(水) 23:55:29 ID:fghohZ19
久々に下山すれば街の景観がすっかり変わっている。
目印となる物があったりなかったりで難儀したが、道筋は変わっていない。
なんとか最寄のスーパーへとたどり着く事が出来た。
倉刀は師の所望、マックスコーヒー30本入りケースを手に入れる事に成功したのである。
しかも2ケース、和服の青年がそれを脇に抱えている姿は滑稽である。
着物が珍しいのか、甘露を大量に求める事が可笑しいのか、
往来の人々はしげしげと倉刀を眺めていた。
二箱も抱えているとさすがに重い。
倉刀は休息をとろうと公園へとよる事にした。

「やれやれ、買ってから食をとった方が良かったかな」

ベンチへと腰掛けて一息つくと、倉刀は辺りを見回した。
日差しはまだまだ午後の気配を失ってはおらず、時折ふく風が心地良かった。
都会の喧騒もここにはない。人がまばらに通りかかるのみだ。
いい天気だ。非常にいい日だ。
倉刀はベンチに深く腰掛け、休もうとした。
だが。

「―――!?」

強烈な威圧感を感じ、倉刀は跳ね起きた。辺りを警戒し、注意深く見回す。
しかし公園に人の気配はしない。居るのは倉刀だけだ。
気のせいかと、腰を下ろした倉刀の視界に、一人の人物が入った。
先ほどまで、人の気配は確かに無かった。
視線を戻したほんの一瞬の間に、煙のように現われていたのだ。
取り立てて特筆すべき事の無い、凡庸とした男。
よれよれのコートにオールバックのだらしの無い顔。
眠いのか間が抜けているのか、表情は人を食ったようにのほんんとしている。
街ですれ違っても、寝る時には忘れている。
そんな、特徴の無い、つかみどころの無い男。
その男はポケットから煙草を取り出し咥えると、倉刀に微笑んだ。

「やあ倉刀くん、ひさびさだね」

気心の知れた仲間にかけるような、軽い挨拶。
倉刀は嫌悪感を隠そうとせず、露骨に表情をしかめた。
先ほども、コイツの不遜な声を聞いたばかりだ。どうやら今日は厄日らしい。
倉刀は声を搾り出すようにして返答をかえした。

「……ああ、久々に貴様の顔を見て気分が悪い。せっかくの天気なのにな」
「これはこれは、ご挨拶だねえ。ずいぶんと嫌われたものだね」

大袈裟に両手をあげて、困ったとジェスチャーを取る。
その人を小馬鹿にしたような態度が倉刀は嫌いだった。
もちろん、思想信条も賛同できる物ではないが。
はっきり言って、この人物は倉刀にとって不倶戴天の仇敵なのである。

「ああ、嫌いさ。だからとっとと僕の視界から消えてくれないかな―――柏木」

そう言って倉刀は柏木を睨みつける。

「消えてくれと言われましても、君に私の散歩する自由を阻害する権利はないはずだが?」
「だったら、個人の思想も自由だな」
「ああ、そうだね」

うんうんと頷き、柏木はコートの中から煙草を取り出した。
一口くわえて、ぷかりとふかす。
372 ◆69qW4CN98k :2010/05/26(水) 23:56:26 ID:fghohZ19
「だが、誤まった考えは改めなければ、改めさせなければならない」

誤まった考え、という言葉を聞いて倉刀の眉がぴくりと動いた。

「……誤まった考えというのは、師匠の教えの事か?」
「貴族の義務、という言葉をご存知ですか、倉刀君?」

フゥと紫煙を吐き出し、柏木は教え子に説明する教師のような態度で倉刀に言った。

「すべて多く与えられた者は、多く求められ、多く任された者は、更に多く要求される。
持つ者は持たない者へ奉仕する義務がある。君の師は偉大な方ですが……責務を果たしていない。
残念な事です、あれだけの才能を持ちながら山奥へと引き篭もるとは」
「……お前に、師匠の何が解る」

やはりこの男は嫌いだ。唾棄すべき人物だ。人の上に立つ者など思い上がりも甚だしい。
師匠は、あらゆる作品に敬意をはらっている。
だからこそ、己を語らず秘めて山奥にと篭もっているのだ。
もし、師匠が岩戸より出でて世界を照らすならば、きっと他の作品達は、
その才能の明るさによって消えてしまうだろう。人々は他の作品に目もくれず、
ハルトシュラーの作品のみを追い求めるだろう。
師匠はそれを理解しているからこそ、迷い家でひっそりと暮らしているのだ。
倉刀は、そう理解していた。

「今はわかりません。が、彼女の心を理解したいとは思ってはいますよ?
紳士は淑女を丁重に扱うべき、過ちを改めたいと思っています」
「―――!」

倉刀のなかで、決定的な何かが切れた。
ゆっくりと、無言で立ち上がり、柏木を見据える。

「……無礼な」

静かな、それでいて怒りに満ちた声。
放たれる殺気に怯えたのか、近くの林からギャアギャアと鳥の群れが飛び立っていく。

「人の上に咲く華などはこの世には無し……あまつさえ男女の性などという物差しで
師匠を測るとは……無礼! 無粋! 余りにも不遜! この倉刀が師に代わって……
貴様を成敗してくれる!」

拳を握り締め、構えを取る倉刀。
対する柏木はくわえ煙草の、のほほんとした態度のままだ。
片手で煙草を挟むと、プカリと紫煙を吐き出す。

「別にいいですけど……君では無理ですよ?」
「なめるな!」

稲光のような速さで、倉刀は駆け出した。
柏木の顔面へ一撃。腹部への一撃。のけ反った処へ更に一撃を与える。
幾千幾万と修練を重ねた連撃、その練磨の通りに倉刀の身体はスムーズに動いていく。
口から嘔吐し、柏木はうずくまる。それに容赦なく倉刀は止めの蹴りを放つ。
脚に心地良い手応えを感じながら振りぬく。
柏木はゆっくりと崩れ落ち、地べたに這いつくばった。

「……良し。悪党かく有るべし」

立ち上がってくる気配もなく、倉刀は構えを解いた。
パチパチ、と拍手が飛んでくる。
373 ◆69qW4CN98k :2010/05/26(水) 23:57:09 ID:fghohZ19
「なん、だと……?」

拍手の方をむいて倉刀は驚愕した。拍手していたのは柏木だった。
泥も出血もしていない、まったくの無傷だ。

「いやいや、素敵な演舞を見せてもらいましたよ」

拍手をしながら柏木は倉刀に賞賛の言葉を送る。
その声に嘲りは含まれておらず、どうやら本当に感心しているようだった。

「幻術をほどこしてなかったら、少々やばかったですかね」
「幻術、だと……」
「ええそうです、幻術。幻覚の法とでも言いますかな。いつ貴方にかけたか教えて欲しいですか?」

ニコニコと柏木は笑う、倉刀は反対に顔色を失っていく。
倉刀にはいつ策に落ちたのか解らなかった。
己の不甲斐無さと実力の差に愕然とし、膝をつく。

「おやおや、戦意喪失ですかな? もう少し他の技もお見せしたかったのですが……。
仕方ありませんね、今日はこの辺でお開きといきましょうか」

柏木は煙草を消すとポンポンと倉刀の肩を叩く。

「色々とご教授したかったのですがなにぶん私は多忙な身でして。これにて失礼させてもらいます。
倉刀くん、またいずれ何処かで遭いましょうか。君には色々と期待していますよ?」

はっはっは、と柏木は笑いながら公園を去っていく。
倉刀は追いかける気も起こらず、その場に立ち尽くすしかなかった。
倉刀の耳に、柏木の哄笑がいつまでも、鳴り響いていた。
374 ◆69qW4CN98k :2010/05/26(水) 23:57:56 ID:fghohZ19
「ご苦労だったな、倉刀」
「……いえ」

迷い家と帰った倉刀は、使いの物を師匠へと渡した。
柏木の一件は伝えてはいない。
あの出来事を思い起こす度に鬱屈とした気分になる。
ましてや、仇敵に負けた事などを報告する気にはならなかった

「……浮かぬ顔をしているな。下界で何か会ったのか?」

弟子の内心を見透かしたのか、ハルトは倉刀に尋ねた。
やはり自分は隠し事は出来ぬ性分らしい。
だが、そのまま話す事にも抵抗がある。
倉刀は別の話ではぐらかす事にした。

「考え事をしておりました」
「ほう」
「多くの芸術家がいます。その人たちは様々な道を歩んでいます。その人たちを教え導く人物は
いるべきなのでしょうか?」
「YES、だな」
「……」

それでは柏木を肯定することになる。師匠はどうお考えなのか?
ハルトは続けた。

「最初は誰でも勝手がわからん。筆を逆さに持ってキャンバスに絵が描ける訳はなかろう。
やり方を教えれば後は各々が好きに色をつければ良い。全員が同じ色彩だったらつまらんだろう?」
「……はい」
「キャンバスに色を塗って塗って、塗りたくって、そこで壁に当たる。
果たしてこれで合ってるのだろうか? 己が表現したいのはこれなのか?
人は苦悩し、そこで技量を磨くわけだ」
「そこで、教え導くと?」
「……違うな、側に立って見守るだけだ」
「……先ほど導くと?」
「分別もつかない子供に教え導くのは親の義務だ。だが自立したのならばもはや何も言う事は
なかろう。一々指図はしない、その者が何かを掴もうと、光を手に入れようと相談したときに、
その時に相談にのってやればいい、教え導くとはそういう事だ」

ハルトはコーヒーを一口つける。

「今みたいなときのようにな?」

そうってハルトは微笑んだ。まるで、我が子を慈しむ母の様に。

「倉刀、例えば私がお前に全ての技量を教えたとして、だ。お前は満足か?
私という存在になって嬉しいか?」
「……」

ハルトの問いに、倉刀はしばし思案にくれる。
己の答えを出すと、静かに口を開いた。

「……いえ」
「ほう」
「それは師匠のコピーであって、僕では有りません。望むならば僕は、技量を昇華し、
更にその上を行く僕でありたい」

その言葉に、ハルトは笑った。

「よくぞ言った、それでこそ妾の自慢の弟子よ」
「……え」
375 ◆69qW4CN98k :2010/05/26(水) 23:59:48 ID:fghohZ19
倉刀の身体に電流が走る。
今まで師匠に声をかけられた事はあっても、賞賛の声を贈られた事はなかった。

「師匠……今、なんと?」
「自慢の弟子と言ったのだ。いずれ私を乗り越えて、傑作を生み出す事を期待している。
多くの芸術家が、自らの足で歩き、妾を乗り越えていく。倉刀、その最初がお前である事を
願っているぞ。お前には期待しているのでな」

期待している。
それは、柏木にも投げかけられた言葉。倉刀はその時の屈辱を思い起こした。
だが、胸に卑屈さはもう無い。
期待している。
誰が? 師匠が?
おお! 何と素晴らしき、嬉しき事か!
今の自分では、柏木に勝つ事は出来ない。だが、それが一体どうしたというのだ?
更に己を磨いて、柏木を越えれば良い。
それが師匠の教えを護る事であり、期待にそえる事でもある。
ハルトは語らない。だがその姿影は倉刀を静かに見守っている。
なんと頼もしき事か。これ以上何を望む事があろうか。
倉刀の胸中の暗雲が、何か晴れたような気がした。

「少々、喋りすぎたな……下がっていいぞ」
「は……それでは失礼します」

一礼して、倉刀はハルトの書斎を後にした。

まだ眠れない。眠る気がしない。
目標が出来た。
それは高く険しい道のりだ。
たどり着くのにどれほどの道のりを要するのだろうか。

「……だが、きっとたどり着いてみせる」

待ってるがいい柏木。
お前は高座に居て、人の顔が見えまい。
持たざるがゆえに、人々は持とうと努力するのだ。
そのまま工房へと足を運ぶ。
倉刀は、ゆっくり歩き始めた。
376 ◆69qW4CN98k :2010/05/27(木) 00:06:41 ID:sY85jtF1
投下終了
掛が…創作発表板で閣下を嗤う事は、死を覚悟する者也
377創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 00:07:23 ID:1z3TtMrf
久しぶりの柏木だ
しかし、この倉刀は短気だなw
378創る名無しに見る名無し:2010/05/27(木) 01:01:42 ID:/ivpDTgQ

キャラの濃い柏木と倉刀だのう
379創る名無しに見る名無し:2010/05/30(日) 13:23:33 ID:0/NrKHIM
うわ、カッコいい……!!
閣下も、倉刀くんも。そして語られている内容も。
渋くてカッコ良すぎ!

さすがです。GJです!
このスレは巡回から外れてた、なんたる不覚!!
380創る名無しに見る名無し:2010/06/03(木) 23:15:27 ID:EmTSP7gq
俺も久しぶりに覗いてびっくりしているw

良い作品だね。GJだ。
381創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 01:46:44 ID:+TBgu6hl
382創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 08:05:03 ID:F4ocSmTH
影絵的なのか
格好いいな
383創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 12:47:41 ID:ohfGeya+
今度俺が入ってる文芸サークルの機関誌に、こっそりハルト様メインの話出してみようと思うんだけど駄目かな?
384創る名無しに見る名無し:2010/07/04(日) 14:13:36 ID:HtIRRlNl
完全オリジナルとか言わない限り大丈夫じゃない?
このキャラの元ネタは〜踏まれたい云々と注釈あれば問題ないかと
385383:2010/07/06(火) 12:42:31 ID:FM5lTpzv
他の人の意見も聞きたいな。
問題無さそうだったら編集に話通してくる。
386創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 20:21:07 ID:2q3UUsW/
元ネタが2ちゃんねる創作発表板のキャラだ、と、はっきり創発発であると言えるなら、確実に大丈夫だと思う。
ただまあ、こっそり出して、元ネタがありますよ、と明記する程度でも・・・うーん、どうなんだろ。
387創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 20:22:03 ID:2q3UUsW/
>>381
何か影でもハルトさんだってわかるな。
388383:2010/07/06(火) 21:42:26 ID:FM5lTpzv
現状で考えてること。

ハルトシュラーの名前は作品中に出す。
2chネタかよってなって読むのを停止しちゃう人が出ないか心配なので、
元ネタ表記は作品内ではなく終わった後に「この作品に登場するキャラクターは〜」の記述を入れる。
元ネタがあるよってぼかすのはあまり意味がないと思うので、具体的にこのスレの名前(もしくは創発板のシェアードキャラである旨)を表記。

という方向性で行こうと思ってる。

>>381
湖畔に佇む魔王様……素敵です。
389創る名無しに見る名無し:2010/07/06(火) 23:43:59 ID:SxwuT/Db
そこまでするなら全然気にする必要ないんじゃね?
モナーとかやる夫とか勝手に使ってる人はたくさんいるだろうし、それと同じだろ
390創る名無しに見る名無し:2010/07/07(水) 00:11:27 ID:SAsFCkDc
>>388
それで問題なしと思うお。
391383:2010/07/09(金) 20:01:30 ID:ykVGJSWA
ごめん、状況が変わったので再度聞きたい。

失念してたけど件の機関誌無料配布じゃなかった。編集と話してる時に気付いた。
営利目的じゃなく採算度外視で作者に原稿料も入らないけど、一応売り物だって指摘された。
有料になっちゃうんだけど、それでもハルト様出していい?
392創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 20:13:37 ID:aGCJSJI5
そんぐらい、いいんでないの

他の人もいってるけど、出典さえ書いてあれば後は気にしないよ
393383:2010/07/09(金) 20:16:48 ID:ykVGJSWA
>>392
ありがとう
あと最初に言ってなくてごめんね(´・ω・`)
394創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 20:31:18 ID:LsaiZCX+
ようするに二次創作だろ
そんなので躊躇してたらコミケにサークル参加してる奴等はどうなるんだw
表記あるなら大丈夫だ、うん
395創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 20:36:27 ID:39aoyObp
コミケといえば

115 名前:創る名無しに見る名無し[sage] 投稿日:2008/11/28(金) 22:56:11 ID:fzs+EjdN
そして再来年の夏コミあたりにハルトシュラー本が大量に・・・
396創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 20:47:19 ID:aGCJSJI5
しかし残念、俺は今年の夏コミ落選したのだ
397創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 20:52:16 ID:LsaiZCX+
まあ、参加数から見れば落選する人の方が多いからな
名も無き修羅が多すぎる
398創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 20:54:10 ID:DUP2X182
コピー&ペースト・・・貼ると修羅ならぬ、
プリント&販売・・・刷ると修羅、そして売ると修羅か。
399創る名無しに見る名無し:2010/07/09(金) 21:47:53 ID:rzBLgyzc
格ゲの色違いみたいなハルトさんがたくさんいる風景を想像してしまったw
400創る名無しに見る名無し:2010/07/10(土) 00:09:47 ID:+b9wmvQZ
>>399
倉刀が可哀相な目に遭うのが容易に想像できる
401創る名無しに見る名無し:2010/07/10(土) 00:46:51 ID:leBKckNf
延々とコピー誌の綴じ作業をさせるんですねわかります
402名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 14:20:32 ID:OfEIzSmd
>>399
キャラクターなんとか機はボタン一発でカラーチェンジができるので、コンパチ量産にはもってこいである

ttp://blogimg.goo.ne.jp/user_image/7b/73/09f4e744716efe51f2f7c6be7954516c.jpg
403名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 16:06:46 ID:nHWCNwAK
なんかツインテールがいるw
404名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 23:00:01 ID:GQ5sfRht
どんな集団だよwww
405名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 23:51:28 ID:jctGRAbw
MAXコーヒーはデフォなんだwwww
406383:2010/07/22(木) 03:07:05 ID:zH72O0ww
入稿してきた。

さあみんなスレに来た人の心を掴むような作品を創る作業にかかるんだ!
貼って貼って貼りまくれ。
貼ると修羅だ。
407創る名無しに見る名無し
じゃあage