1 :
創る名無しに見る名無し:
【参加者一覧】
2/2【主人公】
○博麗霊夢/○霧雨魔理沙
7/7【紅魔郷】
○ルーミア/○チルノ/○紅美鈴/○パチュリー・ノーレッジ/○十六夜咲夜
○レミリア・スカーレット/○フランドール・スカーレット
11/11【妖々夢】
○レティ・ホワイトロック/○橙/○アリス・マーガトロイド /○リリーホワイト/○ルナサ・プリズムリバー
○メルラン・プリズムリバー/ ○リリカ・プリズムリバー/○魂魄妖夢/○西行寺幽々子/○八雲藍/○八雲紫
1/1【萃夢想】
○伊吹萃香
8/8【永夜紗】
○リグル・ナイトバグ/○ミスティア・ローレライ/○上白沢慧音/○因幡てゐ
○鈴仙・優曇華院・イナバ/○八意永琳/○蓬莱山輝夜/○藤原妹紅
5/5【花映塚】
○射命丸文/○メディスン・メランコリー/○風見幽香/○小野塚小町/○四季映姫・ヤマザナドゥ
8/8【風神録】
○秋静葉/○秋穣子/○鍵山雛/○河城にとり/○犬走椛/○東風谷早苗
○八坂神奈子/○洩矢諏訪子
2/2【緋想天】
○永江衣玖/○比那名居天子
8/8【地霊殿】
○キスメ/○黒谷 ヤマメ/○水橋パルスィ/○星熊勇儀/○古明地さとり
○火焔猫燐/○霊烏路空/○古明地こいし
1/1【香霖堂】
○森近霖之助
1/1【求聞史記】
○稗田阿求
【合計54名】
【基本ルール】
参加者同士による殺し合いを行い、最後まで残った一人のみ生還する。
参加者同士のやりとりは基本的に自由。
ゲーム開始時、各参加者はMAP上にランダムに配置される。
参加者が全滅した場合、勝者無しとして処理。
【主催者】
ZUNを主催者と定める。
主催者は以下に記された行動を主に行う。
・バトルロワイアルの開催、および進行。
・首輪による現在地探査、盗聴、及び必要に応じて参加者の抹殺。
・6時間ごとの定時放送による禁止エリアの制定、及び死亡者の発表。
【スタート時の持ち物】
各参加者が装備していた持ち物はスペルカードを除き、全て没収される。
(例:ミニ八卦炉、人形各種、白楼剣等)
例外として、本人の身体と一体化している場合は没収されない 。
【スペルカード】
上記の通り所持している。
ただし、元々原作でもスペルカード自体には何の力も無いただの紙。
会場ではスペルカードルールが適用されないので、カード宣言をする必要も存在しません。
要は雰囲気を演出する飾りでしかありません。
【地図】
http://www28.atwiki.jp/touhourowa/pages/14.html 【ステータス】
作品を投下する時、登場参加者の状態を簡略にまとめたステータス表を記すこと。
テンプレは以下のように
【地名/**日目・時間】
【参加者名】
[状態]:ダメージの具合や精神状態について
[装備]:所持している武器及び防具について
[道具]:所持しているもののうち、[装備]に入らないもの全て
[思考・状況] より細かい行動方針についての記述ほか。
優先順位の高い順に番号をふり箇条書きにする。
(このほか特筆すべきことはこの下に付け加える)
【首輪】
全参加者にZUNによって取り付けられた首輪がある。
首輪の能力は以下の3つ。
・条件に応じて爆発する程度の能力。
・生死と現在位置をZUNに伝える程度の能力。
・盗聴する程度の能力。
条件に応じて爆発する程度の能力は以下の時発動する。
・放送で指定された禁止エリア内に進入した場合自動で発動。
・首輪を無理矢理はずそうとした場合自動で発動。
・24時間の間死亡者が0だった場合全員の首輪が自動で発動。
・参加者がZUNに対し不利益な行動をとった時ZUNにより手動で発動。
【能力制限】
全ての参加者はダメージを受け、また状況により死亡する。(不死の参加者はいない)
回復速度は本人の身体能力に依存するが、著しく低下する。
弾幕生成・能力使用など霊力を消費するものは、同時に体力も消費する。
霊力の回復速度は数時間まで低下。(無駄撃ちや安易な空中移動を防ぐため)
翼や道具等、補助するものが無ければ、基本的に飛べない。
【弾幕及び能力の制限】
弾幕について。
・有効射程は拳銃程度、威力は弾幕だけでは参加者を殺せない程度。
能力について。
・参加者の能力は千差万別なので、能力次第で威力、負担、射程の制限は異なる。
・あまりにチートすぎる設定にすると、議論対象になります。
・要は空気を読みましょうってことで。
【支給品】
以下の物を一人に一つずつセットで支給
・スキマ(なんでも入る。ただし盾としては使用不可。使用した場合ペナルティがつく)
・食料、飲料水(常識的な一人において三日分)
・懐中電灯、時計、地図、コンパス、名簿、筆記具(以上を基本支給品とする)
・ランダムアイテム一つ〜三つ
【ランダムアイテム】
「作中に登場するアイテム」「日用品」「現実世界の武器or防具」から支給。
玄翁など(可能ならば)生きている支給品も可。
【定時放送】
ZUNはゲーム開始後6時間毎に定時放送を行う。
定時放送では以下の情報が提供される。
・時報。
・前回放送終了後から今放送時までの死亡者の名前(首輪の情報に準拠する)。
・3時間毎に制定される禁止エリアの発表。
・先に発表した情報、及びその他諸々の情報を元にするZUNによる補足他。
【禁止エリア】
ゲーム開始後9時間(第一次放送から3時間後)から3時間ごとに一つ設定。
設定済みの禁止エリアに進入し、30秒間の間に退出しない参加者は首輪が自動で爆発する。
また、ゲーム開催区域外全域は禁止エリアとして処理する。
ZUNは定時放送のときこの禁止エリアを発表する。
【書き手の心得】
この企画は皆で一つの物語を綴るリレーSS企画です。
初めて参加する人は、過去のSSとルールにしっかりと目を通しましょう。
連投規制やホスト規制の場合は、したらば掲示板の仮投下スレに投下してください。
【予約】
SSを書きたい場合は、名前欄にトリップをつけ、書きたいキャラを明示し、
このスレか予約スレで、予約を宣言してください。(トリップがわからない人はググること)
予約をしなくても投下は出来ますが、その場合すでに予約されていないかよく注意すること。
期間は予約した時点から3日。完成が遅れる場合、延長を申請することで期限を4日延長することができます。
つまり最長で7日の期限。
一応7日が過ぎても、誰かが同じ面子を予約するまでに完成させれば投下できます。
【投下宣言】
他の書き手と被らないように、投下する時はそれを宣言する。
宣言後、被っていないのを確認してから投下を開始すること。
【参加する上での注意事項】
今回「二次設定」の使用は禁止されている。
よって、カップリングの使用や参加者の性格他の改変は認められない。
書き手は一次設定のみで勝負せよ。読み手も文句言わない。
どうしても、という時は使いどころを考えよ。
支給品とかならセーフになるかもしれない。
ここはあくまでも「バトルロワイアル」を行う場である。
当然死ぬ奴もいれば、狂う奴もでる。
だが、ここはそれを許容するもののスレッドである。
参加するなら、キャラが死んでも壊れても、泣かない、暴れない、騒がない、ホラーイしない。
あと、sage進行厳守。あくまでもここはアングラな場所なのを忘れずに。
感想や雑談は、規制等の問題が無ければ、できるだけ本スレで楽しみましょう。
【作中での時間表記】(1日目は午前0時より開始)
深夜 : 0時〜 2時
黎明 : 2時〜 4時
早朝 : 4時〜 6時
朝 : 6時〜 8時
午前 : 8時〜10時
昼 :10時〜12時
真昼 :12時〜14時
午後 :14時〜16時
夕方 :16時〜18時
夜 :18時〜20時
夜中 :20時〜22時
真夜中:22時〜24時
スレ建て終了。
死者を●にしようかと思ったけど、始めて見る人のネタバレになりそうだから、やめに。
他にもちょくちょく内容を弄りました。
何かあればどうぞ言って下さい。
>>1 _,...=.-、
,.-:::::::::::::::;::'::::ヽ、
r':::::::::::::::::_;:-‐'ヾ、::ヾ
.イ:::::::::::::;r'´ ヽ::!
i'::::::::::::::::i .r,ニ_ヾ
. i:::::::::::::::::::l_,. -、 :'ィナ' l
. ヽ::::::::::::;ノ rィテ-' .l
Tー、! ´ ,. ; 、 l_
.>(ヽ .‐ ´ ,ィ l::`:::::::::‐--
,r::::::::::ヽヽr ー_- 、-‐ニ.' ./::::::::::::::::::::::
./:::::::::::::;ri'ヲ--、 `く _, '!:::::::::::::::::::::::
i::::::::::::::::! ,r ‐、 ▽ .;l::::::::::::::::::::::::
l::::::::::::::::l 7´ト、. __〃!:::::::::::::::::::::::
.〉:::::::::::::;! /:::::i `  ̄ l::::::::::::::::::::::::
スレータ=テオッツ [Srata Teotts]
(1947〜 ブルガリア)
8 :
創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 10:48:30 ID:fa6PaXCE
1乙
一乙ですー
1乙〜
,--v--,
>, '´ ̄、`ヽ
`.i リノノノレリ〉
(\リ从 ゚ ヮ゚ノリ
>>1乙
`ゝ.〈_(つy((つ
(/,く/i!,__,i!」、
`i_ン_ン''´~
12 :
代理:2009/04/13(月) 20:23:40 ID:CjKNGoYS
迷いの竹林の内部は行く先々まで背丈の長い竹で埋め尽くされている。
歩いても歩いても変わらぬ景色を前に、一般の者が立ち入るとただではすまないだろう。
だが、そんな竹林を迷うことなく奥へ奥へと進めるならば、そこには古い和風の屋敷が見えるはずだ。
竹林という大自然の迷宮の中に、どっしりと陣を構える大きな屋敷。
幻想郷の人々は・・・その屋敷を永遠亭と呼ぶ。
ペラリ
『花の異変のときにウドンゲが持ってきた彼岸花やスズランなどの毒草を中心に、毒薬を作った。
その毒は無色無臭。水に溶かして使用するものである。
2%に薄めた毒薬をネズミに与えたところ、5秒もしないうちに死亡した。
もし人間が服用したならば、数滴の服用で数分もしないうちに死ぬだろう。
この毒はあまりにも強力すぎる。一旦この薬の製造は中止し、改良を施すことにした』
ペラリ
『即効性の麻酔を開発することに成功した。
スズランから採れる蜜とヒマワリの種油を調合し私の魔力を送り込むことで作られる。
非常に簡単に作ることが出来るが、私の魔力が必要なことから、他の人では作ることが出来ないのが残念だ。
また、ただのスズランやヒマワリでは作ることは出来なかった。どうやら、無縁塚のスズランと太陽の畑のヒマワリでなければならないらしい。
これらは通常のものと何が違うのか。研究中である。
なお、実験用のネズミに鍼で刺すと、一瞬のうちに全身が麻痺しその後意識を失った。
だが、数分で意識を取り戻し再び動いたことを確認。後遺症もないようだ。
性能上、人間が妖怪に襲われたときの護身が中心となるだろう』
ペラリ
しばらくの間、ペラリペラリとページをめくる音がし、最後のページに差し掛かったときにパタンと閉じる音が鳴った。
「なるほどね。流石は薬の専門家ということか。伝説の不老不死の薬を作っただけのことはある」
13 :
代理:2009/04/13(月) 20:26:02 ID:CjKNGoYS
ここは永遠亭の内部。
内部は、外装と同じように古い和風の雰囲気が漂っている。相当昔に建てられた建物なのだろう。
だが、その中で一つだけそれに当てはまらない部屋がある。
それは薬の実験室。あらゆる薬を作る程度の能力、八意永琳の部屋である。
その中を調べている一匹の狐がいた。
それはただの狐ではない。なんと9本の尾を持つ、妖獣では最強の部類とされる九尾の狐だ。
その名は八雲藍。最強妖怪、八雲紫の式にして最強の妖獣である。
主催者の八意永琳のまるで幻想郷を滅ぼしたいかのような言動を前に、幻想郷の守り神とも言える紫はもちろん、その式である藍がこのことを何とも思わないはずがない。
そこで、偶然迷いの竹林に飛ばされた藍は、主催者である永琳が住む永遠亭へ向かうことにした。
本来、迷いの竹林は魔法の森以上の禍々しい妖気を放ち、それの影響もあってか人々の方向感覚を狂わせ道に迷わせる。まさに幻術といえよう。
だが、幻術の類のエキスパートである狐妖怪、それの最高クラスの藍にとっては、この程度のまやかしなど通用しない。
そのため、難なく永遠亭に辿り着くことができたのだ。
14 :
代理:2009/04/13(月) 20:28:31 ID:CjKNGoYS
「やれやれ。流石に殺し合いに関わるような重要な情報を残すほど馬鹿ではないね。
紫様と合流したときの手土産として、何か有益な情報を・・・と思ったけど」
藍が永遠亭に来た理由はそれである。
この殺し合いには謎が多い。
こんなことをして何の意味があるのか?傍から見れば、幻想郷を滅ぼすためとしか思えない。
それも、こんな爆弾首輪を用意して逃げられなくするという徹底ぶり。
そこまでするからには、やはり大きな理由があるのだろう。
そして、力を制限したという事も気になる。これは嘘ではなく、紛れもない事実。現に、自分はいつもどおりの力が出ず、飛行移動も制限されている。
参加者からの反逆に対処できるようにするためだということは容易に想像できるが、問題はその方法である。
薬を作る永琳なだけに、薬によるものかと考えた。月の頭脳というあたり、それぐらいのことは出来て当然だろう。
そう考えると、その薬に関するデータは欲しいところである。
最後にこの首輪。これは誰がどう見ても機械である。
こんな小さい機械なのに人間一人を一瞬で葬ることが出来る。力を制限された今、あの爆発を食らえば妖怪だろうが神だろうが死から逃れられないだろう。
あんな貧弱そうな爆発で死ぬのは嫌なものだ。悪趣味にも程がある。
だが、首輪の構造や性能などは非常に優れているのは確か。少なくとも今の外の世界よりもよい。
月では薬だけでなく機械に関することでも詳しいのだろうか?だとしたら妖怪の山の河童どもが黙ってはいないとも思えるのだが・・・
「これ以上、ここを調べるのは無意味かもしれないね」
もう3時間くらいはこの部屋にいる。
その間、薬やレポートを調べていても有益になりそうな情報は一片も無かった。これ以上の捜査は時間の無駄だろう。
ならば、さっさとここから出て紫様と合流したほうがいい。自分の式である橙のことも気になるし。
ここまでやったのだから、何か情報を得られても罰は当たらないと思うのだが・・・
そう思い、部屋を出たときだった。
15 :
代理:2009/04/13(月) 20:30:37 ID:CjKNGoYS
ドカーン!
「何の音・・・?」
爆発するような音が低く長く鳴り響いた。距離は比較的遠くて音源が大きいと予測される。
こちらにすぐに影響は来ないだろうが、何が起こるかが分からない状況では気になるものだ。
すぐさま屋敷から出て竹林の周囲を見渡した。すると・・・
「あれは火・・・?事故でもあったのか!?」
竹林が燃えている場所があった。時間が夜だということもあり、かなり目立つ。
「まずいな。一刻も早く、ここから退かないと」
そう思い、着火地点の反対方向に行こうとするが・・・
ここでふと思った。
(あそこにいるのは・・・誰なんだ?)
全てを焼き尽くさんとする炎を出した者は誰か、巻き込まれている者は誰か、といったことが気になる。
あんな炎の所に行くのは危険だが、仮にそれを起こした者がまだいるとしたら、それを放置するのも危険だ。
あの程度の破壊行動は普段の幻想郷ならば珍しくないものの、今回は勝手が違う。
あそこにいる奴はそれを分かっているのか・・・
バチ・・・バチ・・・バキン
竹がバキバキと折れながら燃える様を見て、藍は唖然としていた。
「思っていたよりも酷い・・・」
藍が着火地点に着いたときは、炎はすでに火力を増し、壁のように立ちふさがっていた。
これはさっさと逃げたほうがいいのでは?
そう思っていると
『あらら……私も眺めてるだけなんてね……悔しいわ』
『私もこんなところで死ぬとはね……二人とも負けだったわけだ』
16 :
代理:2009/04/13(月) 20:32:23 ID:CjKNGoYS
「ん?」
炎の中から声が聞こえる。だが、その声は疲労で溢れていた。
乾いた声色だったため聞いただけで人物を特定することは出来なかったが、会話の内容から想像する限り炎の中にいる者たちは二人で戦っていたと考えられる。
「この炎は攻撃のつもりだったのか、それとも事故だったのか・・・」
何にせよ、炎の中にいるのは好戦的な・・・それも普段のように戦いを行っていたのだろう。
紫様や橙、それに幽々子様や妖夢といった自分の知人はこのようなことする人物ではない。
だから、この炎で中にいる者どもがどうなろうが藍にとってはどうでもいいことだ。
とはいえ、こんな状況でも戦いを楽しもうと思っている者たちはあんな形で死ぬのもさぞかし悔しいと感じるだろう。
どうせ戦いで死ぬなら本当の全力で。力を制限された状態での戦いで死ぬのはつまらないと思うはず。
もしそうならば、このゲームを潰すのに協力してもらうとしよう。ガチバトルは終わった後にでもやればいい。
そして嫌だというのなら、戦えればそれでいいと考える奴だと見なして死んでもらう。そんな奴を助ける義理はない。
そう思い・・・
「仕方がない。生きるか死ぬか・・・私がチャンスを与えてやる!」
藍は右手に持っているものを思いっきり振り下ろした。
すると、前方にある炎が道を空けるように流された。
「流石は天狗が起こす風といったところか。天狗でもない私がやってもせいぜいこの程度だけど」
藍が右手に持っているのは鴉天狗が愛用する団扇で、これを振るうことで風を起こすことが出来る。元の持ち主が振るえば台風クラスの風を起こせるだろう。
だが風の扱いは専門外の藍では、せいぜい突風がほんの少しの間発生するだけだ。これで全ての炎を消すのはまず無理だろう。
そのため炎はすぐに広がるだろうが、逃げるくらいの余裕はあるはずだ。
17 :
代理:2009/04/13(月) 20:34:40 ID:CjKNGoYS
「そこの二人!大丈夫か!?」
2、3回ほど風を起こすと炎に焼かれながら倒れている二人を見つけた。その中には鬼が雑じっている。
(鬼と、花の妖怪か。
花の妖怪はともかく、鬼がこのくらいの炎で死ぬとは思えないけど・・・)
だが、先ほども言ったが、自分たちは力を制限されている。
そんな状態でこれだけの炎を受けるとなると、どうなるかは分からない。
それに、着火点はあの鬼が持っているスキマ袋からか、鬼を包む炎は他のどの場所よりも激しい。
試しに風を起こしてみるが、そこだけ炎は衰えもしない。
これではもうどうしようもないだろう。
「仕方がない。花の妖怪だけでも・・・」
鬼はもう、諦めるしかない。あれで生きるか死ぬかはあの鬼しだいだ。
そこで、藍は花の妖怪を担ぎ逃げることにした。
足元に魔方陣を描き、精神を集中させ・・・
「『式輝・プリンセス天狐 -Illusion-』・・・発動!」
スペルカードを発動し、なんとその場から消えていった。
「鬼ならば、耐えろ・・・」
18 :
代理:2009/04/13(月) 20:37:00 ID:CjKNGoYS
「やれやれ、いきなりこんな目に遭うとは思わなかったよ。
あの鬼がどうなったか、炎が治まったら見に行かないとな」
スペルカードの発動から30分は経過しただろうか。藍はすでに迷いの竹林からは脱出していた。
「それにしても、こいつを助けるのにどれだけ苦労したのやら」
倒れている花の妖怪を見つめながらため息をつく。
妖力はまだ余裕があるとはいえ、今回の出来事にはいろんな意味で疲れた。
そして今もなお、燃え続ける竹林。もし、名前の通りに迷ってしまったらと思うとぞっとする。
本当はスペルカードの効果で竹林から出たかったが、制限のためか10mくらいしかワープ移動が出来なかった。
そこから先は自力で出る羽目になってしまったのである。
「後は、こいつが仲間になってくれるかどうかだけど・・・」
正直、その望みは薄い。この妖怪はプライドが高く、誰かに指図されるのを嫌うタイプだ。
助けてやったから仲間になれと言ったところで、はいそうですかと従うとは思えない。
とはいえ、鬼とサシで戦えることから戦力としても期待できるのも確か。なんとか説得できれば心強いだろう。
藍は悩みに悩み続けるが・・・
「さて、お前はどう考え・・・ん?」
ここで藍は花の妖怪の様子が変であることに気づいた。
あれだけ時間が経ってもぴくりとも動かない上、何故か妙に血色がよい。
まさかと思い、そっと手を当てて呼吸や心拍を感じ取ろうとするが・・・
19 :
代理:2009/04/13(月) 20:39:11 ID:CjKNGoYS
「・・・どうやら悩む必要は無かったか。折角、生を得られると思ったのに」
どうやら、この花の妖怪もすでに死んでいたようだ。
その死因は炎によるものではなく、一酸化炭素による中毒によるもの。
前まで激しい戦いをしていたのならば呼吸が激しくなっていたはず。そんな状態であの火災に巻き込まれれば、こうなるのは当然ともいえる。
そう考えると、あの鬼も助けたところで同じく中毒死したのだろう。
結局、竹林で得た収穫は花の妖怪が持っていたスキマ袋のみという、残念な結果に終わった。
「鬼およびそれに並ぶ妖怪がこんなので・・・。無様なものだ」
呆れたような声を出しながら、藍はせめての追悼をした。
だが、これが現状である。力を制限されたら妖怪はどうなるか・・・それをこの二人は身を挺して知らしめたといったところだ。
自分もこのような無様な死に方をしないとは言い切れない。もちろん、紫様も・・・例外ではないだろう。
「こうしちゃいられない。本格的に、ゲームを潰すために動かないと」
藍はそう言うとすくっと立ち上がり、依然燃え続ける竹林を見つめた。
「もう永遠亭で情報を得られなくなった今は・・・」
ここで藍は参加者の名簿を見る。
もちろん、ちゃんと永琳の名前がある。そして、彼女の関係者もある。
「情報ならば直接本人に聞くまでだ。なんなら、その関係者でもいい。
このくだらないゲームのことについて、いろいろと吐かせてもらうとしよう」
【F−6 迷いの竹林(出口)・一日目 早朝】
【八雲藍】
[状態]やや疲労
[装備]天狗の団扇
[道具]支給品一式×2、不明アイテム(1〜5)
[思考・状況]紫様の式として、ゲームを潰すために動く。紫様や橙と合流したいところ
[行動方針]永琳およびその関係者から情報を手に入れる
※藍が持っているもう一つのスキマ袋は幽香のものです
※勇儀が持っていたスキマ袋は完全に燃え尽きたかもしれません
※幽香の死体をF−6へ移動。死因も中毒死に変更
20 :
代理:2009/04/13(月) 20:42:46 ID:CjKNGoYS
代理投下終了
◆30RBj585Is氏の作品。題名は「紫の式は遅れて輝く」です
投下乙ー
藍しゃまは考察系か。条件さえ揃えばいい役割を果たしてくれそうだな
問題は既に橙が……南無
投下乙&地図乙。
藍さまいい仕事するなー。だが放送きいても冷静でいられるか・・・・
地図で見てみるとやっぱメインは紅魔館と博麗神社辺りか
規制解けたー。
地図乙です。
わかりやすくてありがたい。
木陰に座り込んで、何やら説明書の様なものを読んでいる少女。
『なるほどなー』とか、『そーなのかー?』だとか、書かれた言葉に一人相づちを打ちながら。
その幼い容姿も相まって、そこにはとても和やかな雰囲気が醸し出されていた。
しかしそれは勿論、彼女手元にある物騒な鉄の塊を無視すればの話である。
数分の後、説明書を読み終え内容を頭の中で租借した彼女は茂みへとその身を隠し、何やらゴソゴソと作業を始めた。
作業の内容はともかく、その姿は新しい玩具で戯れる子供の様であった。
**さて、時間は数時間ほど巻き戻る**
――ただいまより皆様には、殺し合いを行っていただきます。
彼女の何が変わっただろう。
彼女はただふらふら彷徨う。
彼女は何か変わっただろうか。
それは幸せな事か不幸な事か。
すいません、仮投下スレと間違えて投下してしまいました
上の文章は間違いです
仮投下拝見しました。
相も変わらず、先の読めないルーミアがいい味出してますね。
彼女独自の解釈からなされるルールへの意識変転も上手いです。
ただ、このロワでは二次設定は基本的に自重が好ましいのですが、ルーミアの口調が非常に二次のそれを思わせること、
それと近代武器の中でも特殊な武器の一つであるSマインの使用法を、説明もなしに理解していたことが気にかかりました。
地雷に関しては説明書に拳銃の使い方と一緒に書いてあったという設定でした
あと口調も所々二次設定を思わせるような言い回しを使ってしまいすみません
それらを修正してからまた新しく仮投稿スレの方に上げたいと思います
ルーミアの修正が終わりましたので仮投下したいと思います
修正後のルーミアをこちらに投下します
タイトルは「グレーライン」です
木陰に座り込んで、何やら説明書の様なものを読んでいる少女。
『なるほどねー』とか、『へーそーなのかー?』だとか、書かれた言葉に一人相づちを打ちながら。
その幼い容姿も相まって、そこにはとても和やかな雰囲気が醸し出されていた。
しかしそれは勿論、彼女の手元にある物騒な鉄の塊を無視すればの話である。
全くを以て酷い話である。
その2種類の鉄の塊は何れも人を殺める方向に特化した恐ろしい兵器だ。
しかし、それに付随していた説明書は本当に酷い出来であった。
内容がデタラメで書いてあることがよくわからない“訳では無い”。
そう、それは寧ろ逆のこと。
最初の数ページ、いや、実際は説明書の半分程はそれらの兵器の歴史や蘊蓄、豆知識であった。
やたらと細かく書かれているが……主催者側、この説明書を作った者はそういった蘊蓄話が好きなのだろうか?
その数ページはある意味で読んでいた彼女に深いダメージを与えた。
勿論だが彼女は読み飛ばした。
まあしかし、それも酷かったが本当に酷いのはその後だった。
“つかいかた”
ポップ調の大きな文字で書かれた見出しから始まった数ページ。
それは、まさに悪意の塊だった。
色彩あふれ、興味を引き、つい目をとめてしまいようになる構図、配色。
説明はどこまでも丁寧に図解やイラストまで入っている。
その上、子供が読めない様な難しい漢字も全く使われていない……
とにかくそう、わかりやすく、誰でも理解出来るようにとそれは書かれていた。
前半の蘊蓄のページと比べれば同じ人物が書いたとは思えない程の違いだ。
恐らくどんなに頭の悪い妖怪でも、それこそ妖精であっても解るように作られているに違いない。
何よりその恐ろしい所は、書かれている通りにすれば例えソレをちゃんと理解して使っていなくとも最終的に他者を殺める結果、他者を殺めようとする結果になるという、一種の誘導の様な作りになっていることだろう。
この殺し合いの性質を考えれば、説明書がそんな形になるのも仕方ないことなのかも知れない。
幻想郷は月や外の世界に比べればまだそんなに文明が発達してはいない。
月に住んでいた妖怪達はさて置き、他の妖怪、特に妖精には武器の使い方は勿論のこと、
それが一体何であるのかさえ分からないだろう。
能力が制限され、段幕それ自体にも若干の補正が掛かっているこの殺し合いに置いて、
配られた武器、その重要度は非常に高い。
それなのに、使い方が分からないなどと言う理由で武器が捨てられ、殺し合いが遅延し停滞するのは主催者の側としても許せないことだったのだろう。
それにしたってこの説明書はやり過ぎだと思ったが。
事実、頭が良いとまでは行かないがそれなりの知識は持っている彼女だ。
そのあんまりの様子に『私を馬鹿にしてるわ』とご立腹であった……勿論最初の内はだが。
結局、途中からは興味を引かれ、相づちを打ちながら読書に夢中である。
スキマを漁っていた当初の目的はこれでは無かったのだが、読書に夢中で“捜し物”のことは完全に失念している様子である。
そして彼女は、説明書を片手に何やらゴソゴソと作業を始めた。
まんまと誘導に引っかかり、好奇心からソレを試してみたくなったのだろう。
作業の内容はともかく、その姿は新しい玩具で戯れる子供の様であった。
**さて、時間は数時間ほど巻き戻る**
――ただいまより皆様には、殺し合いを行っていただきます。
彼女の何が変わっただろう。
彼女はただふらふら彷徨う。
彼女は何か変わっただろうか。
それは幸せな事か不幸な事か。
あのルール説明が行われてから1、2時間。
彼女の日常は依然変わらず日常のままであった。
最早そこが安寧の地ではなく、殺し合い奪い合いの地獄となったにも関わらずである。
ルールを理解出来なかった訳ではない……いや、完全に理解出来ているとも言い難いが、少なくとも人妖関係なしの殺し合いが行われている事は理解している。
それであっても彼女の心に恐怖や不安の波紋が広がる事は無かった。
何故かと問えば、恐らくに彼女は『私が妖怪だからー』などと答えにならないような答えを口にするだろう。
だが、そう、彼女は妖怪である。
人を襲い、また人を喰らう、それが彼女にとっての妖怪であり彼女自身であった。
つまり彼女は、自身が被害者の側では無く、あくまで加害者の側であると思っているのである。
別に自分の力に大きな自信がある訳ではない。
事実、彼女は妖怪の中ではどちらかと言えば弱い部類に入るだろう。
それにいつだって彼女が加害者の側でいられた訳ではない。
曲がりなりにも彼女は人喰い、人に害為す妖怪である。
妖怪退治の名目で何度も懲らしめられてはいる。
だがしかし、それもスペカルールが広まった後の形骸化した妖怪退治。
あくまでも懲らしめる事が目的であり、本当の意味での退治……即ち命を奪おうとする事はなかった。
ならばそれは彼女にとって、闇の風物詩の延長線上……
木にぶつかるよりかは当然痛いし辛いけれど、今日は運がなかったなと軽く流せるような、その程度の出来事に過ぎない。
つまるところ全てはそういう事である。
命を奪い、喰らう。
人と妖怪、その大きな力の差が生み出すのは一方的な加害被害の関係。
スペカルールにより人里に住む者達が襲われる事がほぼ無くなった為ではあるが、それに対する人間側の対応は緩く緩い。
命のやり取りをしながらも彼女はその尊さ罪深さを知らない。
そう、今現在の彼女の危機感の無さや獲物を探し何れは襲いかかる事に対する迷いの無さは恐らく、それに起因するものであろう。
人の生き死に、妖怪の生き死に、命を殺めるという事の軽視、認識の歪み……
本来ならばそういうズレは他者との交流、触れ合い等によって少しずつ修正されてゆくものである。
しかし彼女は常々闇を纏い、また定住の地を持つ訳でも無くふらふらと漂う妖怪であったが為他者との繋がりが薄く、それらがあまり修正されることなく今に至った。
それは彼女にとってプラスかマイナスか……
日々平和になっていくスペカルール制定後の幻想郷ではどうかは知らないが、
今この“殺し合いの場”において、それはプラスかマイナスか……
心が病めば体も同じく、妖怪は精神に自分の状態を大きく左右される、病は気からを体現した様な存在である。
戦場、殺し合い、慣れ親しんだモノとの対立……
普通の人間、いや妖怪であってもこんな状況下に置かれれば精神を蝕まれ病んでいくだろう。
……が、しかし、
「どうしておなかが減るのかな?」
疑問を胸に、ふよふよと彷徨う彼女にその様子は見られない。
死生観の差異からくる余裕、積極性。
あくまでも日常の延長線上、スペカルールと同じ、その程度の“新ルール”。
ならばスペカの時と同じく彼女は出来る限りそのルールに従おうと思った。
人喰いである彼女の攻撃対象が妖怪にまで広がったという“だけ”。
(妖怪が食べられるのか、おいしいのかはこの際置いておいて)
特に深い考えがある訳ではない、何とはなくの事である。
「いいのかな、やっぱりダメなのかな」
――この中に、『棄権したい』という方はいらっしゃいますでしょうか。
彼女は思い出していた。
いくつかの挙げられた腕、集められたたくさんの人妖達。
ひょっとすればいけないことなのかもしれない、巫女とか天狗とかに注意を受けるかも。
それとも逆に、もしかしたらまだまだ意欲が足りないとか言われるんじゃないか。
そーだ、今頃彼女達はどうしてるだろう。
もうルールに従って“殺し合い”をしてるんじゃないのか。
それともこのルールがダメだって別の何かをしてるのか。
彼女は漠然と考えていた。
人を襲うのが妖怪の仕事、人を食べるのが自分。 もちろんルールは守るけれど。
新しいルール。 人間だけじゃなく妖怪も襲うこと。
妖怪は人間を襲うのが仕事、だから私は人間を襲う。
でもこれからは妖怪は妖怪も襲う? じゃあ私は……?
想像しようとしたが、なんだかもやもやとしたモノが心に溜まってよく分からなかった。
元より彼女は深く考えるタイプの妖怪ではない。
なんだかんだと考えるのは面倒であったし、考える端からこんがらがっていくので結局彼女は“面倒くさーい”と考えることをやめた。
お腹がきゅるると空腹を訴えているのも理由のひとつだろう。
そう、そのちょうどのタイミング。
それは幸運か、彼女は家を見つける。
そして、その家の窓ごしに何やら人影の様なモノまで発見した。
「食べてもいい人類かな?」
対象が何かに腰掛けている為か死角に入ってしまい、その人影が誰なのか分からなかった。
期待が膨らむ。
地面に降り立ち、てとてとと窓に近づきながら、彼女はふと自分の間違いに気づく。
「そうだ、家に入るときは玄関からじゃなきゃいけないんだった」
人影潜むその窓まであと少しだというのに、そう言って彼女はわざわざ遠回りをして玄関を潜る。
そしてどの部屋だっただろうかと探しながら彼女は、そうだとあることを思いついた。
名案だと一人にやつく。
新しいルール、妖怪と妖怪、襲っていいのか悪いのか。
それは相手に聞いてみればいいのだと。
『あなたは食べられる人類?』って。
“分からないことは人に聞きましょう”それはきっと正しいことだ。
まぁ、相手が妖怪ではなく人間だったのなら応答関係なく食べてしまうつもりなのだが。
「誰かいますかー?」
彼女がついに当たりとなる部屋を引き当てた。
中に居たのはなんだか変な目玉のくっついた妖怪だった。
それを見て彼女は一瞬驚く。
残念、食べれる人類じゃなくて妖怪だったー。
そう考えすぐ思い直す、そうだ今はもう新しいルールがあるのだったと。
そしてすぐに先ほどの自分の考えを思い出し、早速目の前の妖怪に聞いてみることにした。
『あなたは食べられる人類?』
相手は妖怪なのだからこの問いかけは正しいのか、彼女は深く考えていない。
最初からそう訊こうと思っていたからそう訊こうとした。
突然で別の対応に切り替えられなかったのである。 彼女はそういう妖怪だ。
しかし結局、彼女の目論見は外れた。
そこに居た妖怪は彼女が質問する間もなく外へと居なくなってしまったのだ。
自分にケーキのプレゼントを残して。
ケーキは実においしかった。 けれど依然食欲は衰えてはいない。
空腹は和らいだものの、あんな赤色の薄い食べ物では彼女は満足できなかったのだ。
妖怪が去った数秒の後、彼女は考える。
「ご馳走様って言ってない」
そう、自身の顔に投擲されたケーキを彼女は妖怪からの好意と受け取ったのだ。
事ここに至って未だ彼女は殺し合いの本当の意味を理解していなかった。
他を殺める事への罪悪感は勿論、自身が殺される事への怖れも、まだ、無い。
それは幸せなことか不幸なことか。
**そして、時間は冒頭へと戻ってくる**
ワイヤートラップ式跳躍地雷SMi 35(通称S−マイン)
対象がワイヤーにかかりピンが抜かれる事によって起動。
本体が高さ約1メートル半程に飛び上がりその後炸裂、付近全方位に向け破片などを飛び散らし対象諸々に致命傷を負わせる対人型の恐ろしい地雷兵器である。
ルーミア、彼女のスキマに入っていた支給品の中で確認できた武器は2種類、その内の1種類がその地雷2個であり、彼女が説明書片手にしていた作業とはまさにそれの取り付け作業であった。
もうひとつはリボルバー式の拳銃であった。
ひょっとすれば他にも武器が入っているかもしれないが、彼女は途中でスキマ漁りをやめてしまっていた。 理由は後で話そう。
暫くの後、地雷を仕掛け終わった彼女は軽快な足取りでその場を離れ、それなりに離れた、それでいて地雷を仕掛けた場所が見える茂みへとその身を潜めた。
わくわく、いつ獲物が掛かるだろうかと期待に目を輝かせる彼女。
それは掛かった相手をぐちゃぐちゃの肉塊に変えるであろう兵器を見ている目とはとても思えない。
まるでご馳走を産み出す魔法の機械を見るような眼差しである。
最も彼女にとってその2つに大きな違いは無いのかもしれないが……
しかし、茂みでただじっと待っているのは退屈である。
殺し合いの場、命を賭けた戦場において退屈も何も無いとは思うが、それは彼女には当てはまらない。
うつらうつらと眠そうにしながらも彼女は獲物を待っている。 悪意など微塵もない。
あー、この眠気も全部この日差しのせいだわ。
そう思い、頬を膨らませ、彼女は木漏れ日をにらむ。
そこで彼女ははたと、自分が何のためスキマを漁っていたのかを思い出した。
けれど今更またスキマ漁りを再開して“捜し物”を再開する気にもなれない。
「日傘を持った妖怪でも人間でもいーから掛かってくれないかなー」
彼女は仕掛けた地雷を見つめたまま呟いた。
そうだ……では、また少し時間が巻き戻るが彼女がスキマの中を全部確認しなかった理由を話そう。
それは今からほんの少し前のことである。
彼女はお礼を言おうと追いかけていた妖怪を見失い、当てもなく歩いていた。
仕方のないことである。
命の危険を感じ必死に逃げている者とただ何となく追いかけている者、双方の距離が縮まる筈もない。
そして普段闇を纏って徘徊している彼女が地理に疎く、目的地を決められずにいるのもまた同じく仕方のないことである。
森を彷徨うなか、彼女は2つの事に気がついた。
ひとつはさほど重要では無いこと。
飛行しているとお腹の減りがやたら速いと言うことである。
故に彼女は今、自分の足を以て森を歩いている。
それだけでこの問題は解決した。
何より重要で深刻な問題は2つ目の方であった。
闇の妖怪、周囲の光を奪う自身の能力が何故かほとんど使用出来ないことだった。
日は既に昇りはじめ、木漏れ日も差し込みだしている。
能力が使えなければ、森以外では光を遮る手段が自分には無い。
それは非常に困った事態であった。
別にとある吸血鬼の要に光が自身の弱点と言う訳では無い。
しかし、日光を浴びていると暑いわ肌も荒れるわ、髪もカサついて何も考えられなくなるわ、挙げ句の果てに眠くなるわと、様々な弊害が出てくる。
これは闇の妖怪としても、彼女自身としても許し難い事であった。
どうしよーと悩み、彼女は渡されたスキマの事を思い出す。
ひょっとしたらこの中に日傘の様な何か光を遮る道具が入ってるかもしれない。
そう思いスキマを漁る。
出てくるのは……なんだかよく分からない鉄の塊、それの説明書らしき物等々。
途中地図や名簿も出てきたが、他の妖怪、自身の居場所等に拘りの無い彼女はそれらを無視した。
食料品が出てきたのは嬉しかった。
残念なことがあるとすれば、それらがパンや水、簡単な栄養食品で自身の欲求を満たしてくれるような物ではなかったことか。
勿論、空腹を紛らわせる為に少々は口にしたが、やはり何かが違う。
そして最悪だったのはその次に出てきた物だった。
円筒形、片方にレンズのついた何だかよく分からない物。
懐中電灯である。
初めて見た物体に興味を抱き、彼女はそれを振ったり回したりと色々試して遊んだ。
不幸は、彼女がソレの横についたボタンを見つけてしまったこと。
興味津々、押したら何が起こるのだろうかとその誘惑に彼女が勝てる筈がない。
更なる不幸はその直後、万華鏡か何かと勘違いしたのか彼女がレンズに顔を近づけたこと。
覗き込みそして……かちり、押されるボタン。
直後、「!!」悲鳴。
突然の事態、叩きつけられた様な光の直撃に彼女は懐中電灯を投げ捨てる。
ここで彼女のスキマ漁りは中断された。
以上が彼女の荷物確認が中途半端に終わった理由である。
スキマ漁りを再開しなかったのも懐中電灯によって荷物に対する若干の恐怖心が生まれたからだろう。
事実、先に出てきた2種類の鉄の塊に対しても恐怖を抱き、おそるおそるといった様子であった。
だが、そちらの恐怖は説明書が付いていたこともあり、武器への理解と共に消えていった。
恐怖が無くなれば、次に出てくるのは興味である。
早速試してみようと彼女は地雷設置の作業に取りかかった。
そして現在。
地雷に掛かる獲物を待つ彼女はどこまでも無邪気。
待てど待てど獲物が現れる様子が無く、それはとても退屈。
気まぐれな彼女である。
ならば当然の結果として設置から数分と経たずそれに飽きてしまった。
隠れるのも止め、設置された地雷はそのままに放置してその場を去った。
彼女の興味はもう拳銃の方に移ってしまったのである。
悪意は無い、その残された地雷がもたらす被害になどに考えが及んでいないのだ。
それよりも彼女は試してみたかった。
自身の次なる思いつきを、拳銃の説明の最後に書かれたある遊技を……
からから、彼女はシリンダーを回す。
妖怪は食べていいのかダメなのか、そもそも食べれるのか。
相手に問いかけようと思っても相手はすぐに逃げてしまう。
からから、彼女はシリンダーを回す。
いいのかいけないのか、やっぱり考えるのは面倒で、またよく分からない。
がちり、シリンダーが回転が止まった。
これで拳銃への弾の装填は終わり。
それは説明書の最後。
いたずらに書かれたちょっとした遊技、少し変わった拳銃の使い方。
恐らくに主催者の悪意が込められた文章。
本来ならそれは最初の方の堅苦しい蘊蓄に含むべき事柄。
なのに何故か特別扱いで最後の方で、しかも例によって丁寧に書かれたソレ。
その上親切に用意された5つのダミー弾丸もその悪意の程を物語っている。
用途、方法にどれだけの悪意が籠められていたとして、しかし彼女に悪意は無い。
彼女はただ無邪気に、それに伴った自身の考えを名案だと思った。
よく分からない、考えるのが面倒なら運に任せてしまえばいいのだと。
妖怪に出会ったらこの拳銃で撃とう。
弾が出たら食べていい妖怪、出なかったら食べてはダメ。
5発のダミー弾丸、そして1発の実弾。
そう、ロシアンルーレットである。
妖怪の生死を運任せに決める彼女を見たら、他の妖怪達は憤るだろうか。
しかし彼女に悪意は無い。
あくまで純粋、どこまでも無垢。
彼女はやはり殺し合いをちゃんと理解してはいなかった。
それは幸せな事か不幸な事か。
彼女はただふらふら彷徨う。
拳銃に籠められた実弾が1発だけなのは彼女の心理状態を表しているのか。
深い考えはなく、ただ説明書のままにしたのか。
彼女自身分かっていないのだから、他の誰にも分かる訳がない。
それこそ心を読める者でもない限り。
【F-5・森林/一日目・早朝】
【ルーミア】
[状態]:少し空腹、懐中電灯に若干のトラウマあり
[装備]:リボルバー式拳銃(装弾された弾は実弾1発ダミー5発)
[道具]:基本支給品(懐中電灯を紛失)
張力作動式跳躍地雷SMi 35残り1つ
拳銃用の実弾残り12発、
不明アイテム0〜1
[思考・状況] 1.食べられる人類(場合によっては妖怪)を探す
2.ケーキをくれた人(さとり)に会ったらお礼を言う
3.日よけになる道具を探す、日傘など
[備考]
※殺し合いについてちゃんと把握していないのかもしれません
※F-5に地雷が仕掛けられました。 近くに懐中電灯が落ちています。
以上で投下完了しました
地雷の種類に関して修正すべきか迷っています
投下乙です
ルーミアの性格からくる殺し合いの解釈の表現が素晴らしい
さりげなく孤独だと言ってしまっているのも哀愁漂うな……
【再思の道】
自殺志願者の名所、無縁塚へと繋がる街道。
秋頃になると、毒性を持つ赤い彼岸花が地を埋め尽くし、街道を真っ赤に染めあげる。
この街道で毒を浴びた自殺志願者は、不思議な事に不快さと同時に生きる気力が沸き、もう一度頑張る為に今来た道を引き返す事があるらしい。
そのような出来事を幾度も経験し、この街道は再思の道と呼ばれるようになったと伝えられている。
闇夜、無限に連なる星の下。
彼岸花が咲き誇る再思の道を遠目に眺める少女達が居た。
「なんで彼岸花が咲いてるんでしょうね?
私の記憶する限りでは秋の花のはずなんですが」
彼岸花――毒性を持つ紅い多年草、主に秋から咲き始め、春には地上部分は消失する。
春に咲く彼岸花を不可思議に感じ、頭に?を浮かべた少女は傍らのもう一人の少女へと問いを投げかける。
問いを投げかけたのは、緑のベレー帽と緑色の中華風の衣装に身を包んだ紅髪の少女、紅美鈴。
彼女の勤める紅魔館では、門番の他に庭園の運営も任されており、植物に関する知識の造詣は深い。
といっても超常現象を解決できるほど卓越しているわけではないが。
「んー、ごめんなさいね。秋の神といっても花は管轄外なの」
申し訳なさげに答えたのは、紅葉を模ったカチューシャと紅の衣服を身に纏う金髪の少女、秋静葉。
彼女は秋を司る神ではあるのだが、紅葉という秋の一部分しか管轄していない。
植物については美鈴と同程度の知識しか持ちえず、解答を持ち合わせてはいなかった。
「いえいえ。ちょっと気になっただけですし。
しっかし……秋の再思の道は綺麗って聞いたことはありましたけど、本当に壮観な景色ですねぇ」
元々深く考え込むような性格でもない美鈴は早々に同調し、疑問を思考の外へと投げ捨て。
猫のように体を弓なりにして伸びをし、爽やかという印象を与える美貌を振りまきながら彼岸花が彩る夜景を眺めていた。
「ふふん、秋は凄いでしょう。四季で最も美しい季節なのよ。
――あの林を御覧なさい。彼岸花よりいいものを見せてあげるわ」
彼岸花を賞賛する美鈴の言葉に紅葉の神としてのプライドが刺激されたのか、眉を僅かに顰める静葉。
近場の小さな林へと向き直り、重大な秘密を教えるかのようにもったいぶり。
見せてあげる、と始まりを告げ、右腕を颯爽と振り上げる。
一瞬の静寂。
――全てが静止した空間の中、葉の一枚に紅色の一欠片に生まれる。
紅の欠片の縁取りが波紋を描き、疾走り、延々と広がり――。
葉の緑は見る見るうちに削れ――自己を主張する紅と無限に交差する。
無限憂色の雄大な光景が紅色のスーツを身に纏い――幾千、幾万もの紅葉による天然の屏風と化してゆく。
荘厳な紅葉は見る者を否が応にも圧倒し、枝の隙間から差し込む月明かり程度では彩りを鮮やかにする飾りにしかならない。
周辺の環境も秋の空気へと変容し、落葉が時を刻むように振り撒かれる。
広大な箱庭世界の一角は、僅かな時間の経過を経て、秋の趣そのものの紅葉林に場を支配された。
神とは世界の法則、調和、因果をいとも容易く塗り替える埒外の存在。
紅葉という確固たる世界の唯一の支配者である秋静葉にとって、奇跡は息をするようなものだ。
どうだ、と言わんばかりに得意そうに胸を張って、背後に居る筈の美鈴の反応を待つ静葉。
……しかし美鈴からの反応は一向に聞こえない。
何とも言えない雰囲気に包まれる。
辺りには紅葉林が夜風に吹かれて揺れる音だけが響いている。
静葉の脳裏に、気に入ってもらえなかったのだろうか、私の紅葉はあの彼岸花に劣っているのだろうか、という焦りと不安がよぎる。
静葉にとって紅葉の美しさを否定されるのは自身を否定されるのも同じ事だ。
内心の微かな動揺を抑えつつも、表情にはやや不安と怯えの色が混じり始める。
無性に心細く感じ、内心にふう、という諦めの含んだ溜息が漏れる。
自身の心臓の動悸を聞きながら、覚悟を決め振り向こうとした――その時。
「――静葉さんって紅葉の神様だったんですか!
ここまで綺麗な紅葉を見たのはほんと久々ですよ。
紅魔館でも、こんな風景を実現してみたいものですねー」
甲高く、どこか心揺さぶられるような声に静寂を粉砕された。
美鈴の口から堰を切られた様に、惜しみなく賛辞が並べられる。
振り向く静葉の瞳に映ったのは、星よりもきらめいた瞳。
綺麗な風貌に長身、長髪と、静止していれば大人といった佇まいだが、染み出る雰囲気がそれを感じさせない。
一点の曇りもなく笑い、偉大なる自然への畏敬の念を隠すことなく、無邪気に敬意を評している。
何の警戒心も浮かばせぬかのような奔放さ、ひたむきさで感想を率直に零している
誰が耳にしたとしても疑いを見せないであろう、まぎれもない本心。
静葉にもこの上なく響き渡り、幸せそうな微笑が浮かばせる。
紅葉にとって美しさとは唯一にして絶対の存在意義
それを絶賛されるというのは筆舌に尽くし難い充実感と幸福感だろう。
「いつか友人でも連れて、妖怪の山へ来るといいわ。
この小さな林とは比較にならない紅葉の山々を見せてあげる」
「う……残念なことに、私の仕事は年中無休でして……。
お誘いはありがたいんですが、行けるかどうかの確約は……。
あ、そうだ。これならどうでしょう」
一転、沈んだ表情になるが、また一転、笑みを漏らし、何かを思いついたかのように美鈴は手をポンと叩く。
そして、じゃーんと口で効果音を添え、袋から緻密な刻みを入れた黒い箱のようなものを取り出した。
「説明書によるとインスタントカメラという道具らしいです。
なんでも映し出された風景を切り取り保存する能力だとか」
「へぇ、うちの天狗と同じような道具なのね。
紅葉を楽しもうとする心さえあれば、楽しみ方はなんでも構わないわ。
さぁ、遠慮なく紅葉を撮っていきなさい」
撮影の邪魔とならないよう美鈴の隣へと身を移す静葉。
「静葉さんもそこに立ってくれませんか?」
それを引き止める美鈴。
「……え、私も撮るの?」
「職業柄あんまり出歩きませんからね……。
こんな場所とはいえ出会いは大切にしたいんです」
真っ直ぐな瞳で静葉を見据え、真摯に言葉を紡ぐ美鈴。
紅美鈴は門番という決して動く事のない仕事を常日頃勤めている。
友好的な訪問者と会話したり愚痴ったりはするが、ほとんどが一期一会。
紅魔館の住人を除けば、友人と呼べるほどの仲は数えるほどしか居ない。
「――わかったわ。これでいいかしら?」
美鈴の要請を受けた静葉の紅葉の袂に座り、すっとカメラを見つめる。
「ええ。はい、チーズ」
「チーズって何?」
静葉は予想外の言葉に困惑の色を浮かばせ、姿勢を変えず、待ったを掛ける。
「私にもよくわからないんですが、説明書にはそう書いてあったので。
とにかく私がチーズと言ったら静葉さんもチーズと言えばいいらしいですよ」
「言霊のようなものなのかしら……。とりあえず言えばいいのね」
静葉は首肯し、再度心の準備を整える。
「じゃあもう一回行きますよ。はい、チーズ」
「チーズ」
口元が緩み、穏やかな笑顔を漏らす静葉。
そこに美鈴の手許からパシャリという音と共に光が放たれた。
「……これで終わり?」
静葉はなにか失敗してやいないだろうか、と息を飲んで不安げに尋ねる。
「ええ、後は説明書によれば――」
美鈴の手に納まっているカメラから、響くような音と共に天然色で彩られた絵画が吐き出されていく。
写真の静葉は、樹木の袂におしとやかにお行儀良く座り込み。
その姿は落葉の色合いと一体化し、風景の一部であるかのように穏やかに溶け込んでいる。
「こんな感じで出てくるみたいですねー。説明書が図解入りなんで分かりやすかったです」
「へぇ。私の紅葉を完全に表現してるわけじゃないけど、なかなかやるじゃない」
静葉は安堵の息を漏らし、軽口を叩く。
「大事にしますね。じゃあ行きましょうか」
「待ちなさいよ。私の分はないの?」
礼儀正しく一礼し、踵を返し足を進めようとする美鈴の腕に、静葉は指を絡ませ縫い止めた。
「……え?」
静止を余儀なくされた美鈴は驚いたように声を出し。
不思議そうに大きな瞳をまんまるに開いて、状況を心得ていない風に戸惑った様子を見せる
「当然じゃない。袖触れ合うも多少の縁。
私だって貴方のことはずっと覚えておくわ。紅葉を楽しむ人は全て私の友人よ」
少々呆れた顔で、さも可笑しそうに頬を綻ばせて答える静葉。
嬉しさがひしひしと伝わってくる。
「え、えー。神様って随分とフレンドリーなんですねぇ。
紅葉を楽しむなんて当然のことじゃないですか」
「昔はあなたみたいな人も多かったんだけどねぇ……。
この頃は年を経る毎に豊穣神に人気を取られていくのよ……」
郷愁に想いを巡らせ、静葉は少々大袈裟に溜め息をつく。
悲しいかな、紅葉はただ眺める事しかできず、精神的な効用以外を生み出す事はないのだ。
即物的な精神を持つ人にとって、紅葉は塵芥のごとき無価値な代物に成り果てる。
「はぁ、そんなものなんですかねぇ。じゃあ一枚頼んでもいいですか?
えーと、ここを覗き込んで私と紅葉を枠に入れたら、このボタンを」
美鈴は到底信じられない、といった表情で静葉に共感し、カメラを怯ず怯ずと静葉へ手渡す。
カメラを受け取り色々な方向に回し、細部を眺める静葉。
大体は呑み込めたようで うんと頷き、最後に紅葉と美鈴を確認し、もう一度小さく頷く。
「いくわよ………………はい、チーズ」
「チーズ♪」
パシャリ。
きらりと瞬き、美鈴が描かれた絵画が吐き出される。
柔らかな紅髪を風に靡かせた華麗な佇まいの美鈴。
長髪にはアクセサリーのように見えなくもない落葉が彩っている。
「私がメインで写ってるのが感慨深いなぁ
以前にも撮られたことはあったけど、ミステリーサークルのついででしたし……」
「うんうん。綺麗に写ってる。
……穣子とも一緒にやりたいわね」
何処か寂しげな笑みで写真を見つめた静葉はつい想いを吐露し、思わず溜め息を吐く。
「私個人としても妹さんには逢ってみたいですね。
ちょっとしたおまじないでもしてみますか」
美鈴は近場の彼岸花を丁寧に一本摘み取る。
「静葉さんは彼岸花の花言葉を知ってますか?」
「有名だし当然よ。
彼岸花の花言葉は多々あるけど、主に離別と再会、この二種類に分けられるわね。
……吉兆と凶兆、双方の意味を持つ彼岸花に願を掛けたところで、なにかしらの効果を期待できるとは思えないのだけれど」
眉をひそめ怪訝な眼差しを向ける静葉。
「――こんなのは意志の問題なんですよ。
私達が逢いたいと強く想っていれば、徐々にそちらへと傾いていく。
それが運命というものの仕組みなんです――――……という感じのお言葉を以前にうちのお嬢様が」
彼岸花とは離別と再会、相反する双方の意味を表す。
人を黄泉路へと誘うこともあれば、再思の道の由来のように正道へと引き戻すこともある。
薬が毒であるように、毒が薬であるように。
幻想郷の彼岸花は、固定された運命など存在しない、という意味を示しているとも言えよう。
「信じる者は救われる……ってやつね。
信じるだけでどうにかなるというのは眉唾物だけど……――貴方の事は信じてもいいかもね。
そろそろ往きましょうか、美鈴さん」
所詮はおまじないだ。
不安が晴れる見通しなどあるはずもなかった。
――それでも静葉からは多少なりとも厄は薄れたように見受けられた。
――心地よい風、たなびく真紅の彼岸花が見送る中。
紅の門番と紅い神様は、落ち葉を踏みしめ連れ沿うように歩を進める。
【G-2・一日目 黎明】
【紅美鈴】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、インスタントカメラ、秋静葉の写真、彼岸花、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]基本方針:とりあえず戦いたくはない
1.静葉と一緒に穣子を探す
2.紅魔館メンバーを探すかどうかは保留
【秋静葉】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、紅美鈴の写真、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]基本方針:妹を探す。後のことはまだ分からない
1.穣子を美鈴と一緒に探す
※F-1中央の小さい森林は全てが秋の空気に包まれた紅葉林になっています。
投下終了です。
なんて和むw
紅葉に関する文章、仕草の表現が実に上手い
これは素晴らしい、GJと言わせて頂こう
……ああ、これだ
こういう作品がずっと読みたかったんだ
世界観に惚れて東方に入ってきた自分には、今回のような作品はマジ神です
ありがとう。良いもん読ましてもらいました
>>48 このスレじゃないやつ見に行った方がいいんじゃ?w
>>49-50 他のスレ行けば同じようなのが読めるとか、そういうのは割とどうでもいい
俺にとって重要なのは、ロワの中でこういう展開をやってくれることだし
新作乙。
とりあえずDIO様風に一言だけ言わせてほしい。
作者っ! 貴様MTGをプレイしているな!?
なんだ、これは。
意味が分からない。
これはただのお遊びじゃなかったのか?
その筈だ。
だって今、そう話していたばかりじゃないか。これは殺し合いなんかじゃない、ただのゲームだって。
じゃあ何故目の前の少女は動かない。
何故目の前の少女は喋らない。
何故彼女の左目が無くなっている。
何故私の頬に彼女の血が付いている。
なぜ。
なぜ?
なぜやまめはしんでるの?
彼女の眼に穿たれた穴から奇麗な赤が流れ出す。
まるで自分の服のように、きれいな赤。
残された目と目が合う。
まるで人形のようだ、と場違いな事を考えてしまうのは現実から逃げようとしての自衛行為か。
しかし、逃げようと隠れようと事実は変わらない。
人形のような眼はすでに彼女の魂がこの場に無い事を。
驚愕の表情はこれがゲームや宴会なんかじゃないという事を。
頬を伝う赤い雫は自分の目の前で彼女の命が終わったことを。
手に握るナイフは。
嫌でも気付かされる。
「あ、ああ……」
彼女は死んだ。
死んだ?違う。
「ああ、ああああ!」
自分が、殺した。
「うわぁぁぁぁあああああああ!!!!」
気付けば彼女は走っていた。その手に握っていたすべてを放り出し。
何処を目指す訳でもない。
ただ、この場から逃れたかった。自分に問いかけるようにこちらを向いて倒れているヤマメの前から。
『どうして殺したの?』と声が聞こえた気がした。
幻聴だ。
そんなこと言われなくても分かってる。
でも、妙に生々しい声が脳裏を離れない。
未だ調べ終わっていない四室目に駆け込み、リリカはある事に気がついた。
「映姫になんて説明しよう……」
もし彼女に会ってしまったら。
別行動をしているのでその可能性は低いが、不安は拭い切れない。
彼女の性格からすれば、自分が一人で行動していれば必ず問いただすだろう。
警備はどうした、ヤマメはどうしたと。
白を切りとおすか?
不可能だ。頬の濡れは全力で走ったせいで凝固し始めている。
これを落として……それも無理。
映姫はレミリア・スカーレットが来ていると言った。自分もそれを見た。
レミリアが居れば血の跡を落とした所で無駄な抵抗だ。
ならば、逃げるか?
此処に張られている罠の位置は把握している。不可能ではないだろう。
しかし問題はどうやって下の映姫にばれずに逃げ出すかだ。
まず一番簡単なのは部屋に備え付けの窓から飛び出すルート。
ここは二階。少しの衝撃を我慢すれば逃げ出すことは可能。
窓に手を伸ばしてみる。
カギなどはかかっておらず、ギィィという蝶番特有の耳障りな音を立てながらすぐに開いた。
後はここから飛び降りられれば……
(できるの?私に……)
この高さなら、飛び降りた所で人間だろうと怪我はしない。
ただしそれはいつもの話だ。
ここは違う。
妖怪が死んだ。あっさりと死んだ。
何故ここから飛び降りて生きていると言える?
NOだ。
幽霊は死人。だから死なないなんてのは安直過ぎる。
死ぬのだ。
もう否定できない。否定のしようがない。
例えるなら、ウサギの子供が生まれながらに狐を天敵だと知っているように。
鳥が空を羽ばたくように。
すでに本能に深く刻み込まれている。
幽霊だろうと、妖怪だろうと、神だろうと、ここでは死ぬ。
死にたくないなら、生きたいなら?
殺す?皆を?
ヤマメのように?
巫女を魔女をメイドをウサギを妖怪を人間を幽霊を鬼を神を……
姉を?
リリカは静かに窓を閉めるとその場にへたり込んだ。
進むことはできない。
逃走の代価が命なんて馬鹿げている。
その上逃げれば悪い噂が広まるのは目に見えている。
しかし留まることもできない。
映姫に故意じゃなくても自分がヤマメを殺したという事が分かればややこしくなる。
もし、映姫が自分と同じ立場で下に待機している私に謝ってきたなら、自分は彼女を信じるはずが無い。
きっと口汚く罵りながら、あるいはなりふり構わず泣き叫びながらここを出ていく。
そして、出会った人間にこう伝えるのだ。
『四季映姫は乗っている』と。
あくまでこれは私が目撃者だった場合で、事実は違う。私が加害者だ。
例え映姫が冷静だと言っても真実が見抜けるわけじゃない。
この狂った舞台の上では、ちょっとしたわだかまりから、信頼関係は崩壊する。
信頼。
何気なく使っていた言葉がこんなに重いものだったなんて、彼女は知らなかった。
頬を熱いものが伝う。
ヤマメの血ではない。リリカ自身の涙だ。
それが謝罪か、後悔か、悲感か。それは誰にもわからない。
気が付いたら溢れ出していた。
抑えられなくなった言葉と一緒に。
「嫌だよ、もう、もうこんなの嫌だよ……
おかしいよ、なんでなの…………
死にたくない……もう死にたくない。
助けてよ、ルナサ姉さん……メルラン姉さん……」
ふと思い出すと、もう感情は止まらない。
いつも気だるげにだが自分たちを見守ってくれていたルナサ。
率先してお祭り騒ぎに参加して言ったメルラン。
リリカは求めていた。
この状況で、きっと唯一自分の言葉を信頼してくれる人物を。
しかし、心のどこかで気付いていた。
助けに来てくれる可能性なんて0に等しいと。
いくら縮小されていたってここは幻想郷だ。
これだけ広大な舞台の上でたった二人の人間に出会う確立とはどれほどだろう。
しかもそれが今なんて、アメリカンコミックのヒーローだってこんなに丁度よくは登場しない。
それにもしかしたらもう姉たちは……
リリカの頭に『最悪の状況』が過ぎる。
頭を振り、妄執を払おうとするが、そいつは蟲か何かのようにべったりと思考に張り付いたまま動こうとはしない。
体に空いた穴から血をだくだくと流し、地に伏す黒い服の少女。
(そんなはずない)
何かのオブジェのように胸から剣を生やし、ピクリとも動かない白い服の少女。
(そんなはずない)
そのどちらもが右の目を失い、こちろに顔を向け、ただただ恨めしそうに
『どうして殺したの?』
殺す、殺した。
死んだ?殺した?
誰が。誰が。
答えてほしい、でも聞きたくない。
自分は、自分が、自分で、自分を……
扉の開く音が耳に入り、リリカの意識は覚醒した。
どうやらこの部屋ではないようだが、意外と近いのはわかる。
そう言えば自分は悲鳴をあげてたっけ、などと考え少し笑いかける。
だが、笑えない。
口を無理に引き上げようとしても、歯が鳴るだけで形なんて変わらない。
見つかったら自分はどうなるのか。
死ぬのか、殺されるのか?
嫌だ。
手元に武器のナイフはない、ヤマメの元に置いてきた。
頭を振って邪念を飛ばそうとする。
ナイフを向けてどうする。映姫は味方なのに。
―本当に?
そうだ、映姫は自分を理解してくれる。
―本当に?
ああ、彼女は冷静だ。
―どうしてそれが分かる?
だって彼女は自分たちを導いてくれた。良識ある人物だ。
―彼女はなぜこの狂った事件が真実だとわかっていた?
でも殺さなかったじゃないか。
―殺すチャンスなんていくらでもある。
頭の中にノイズが走る。
自分の中の悪魔が、延々と『映姫は信じられるのか』と耳打ちする。
耳を貸してはいけない。耳を貸せば最後、もう戻れなくなってしまう。
―耳打ちしてるのは本当に悪魔?
(うるさい!私は映姫を……)
―耳打ちしてるのは、貴女自身の心じゃないの?
隣の部屋のドアが開く音だけが、やけに大きく響いた。
【C‐2 紅魔館二階の部屋・一日目 黎明 】
【リリカ・プリズムリバー】
[状態]疲労(小) 恐慌状態
[装備]無し
[道具]支給品一式、不明アイテム(0〜3)
[思考・状況]1.死にたくない、死にたくない
2.信頼できるの?
3.姉さんたちに会いたい
[備考]
※携帯電話、NRS ナイフ型消音拳銃(0/1)はヤマメの死体のそばに落ちています
代理投下終了。
乙です。
追い詰められっぷりが素敵だ。
にっちもさっちもいかなくなったリリカがいいねぇ。
スレについては、既に答えたので無しで。
「ここで少し休憩しよう」
上白沢慧音は後ろに居る者に言った。
「うん」
後ろに居る者、てゐがうなずく。
霧雨魔理沙の箒にまたがった二人はG-3、魔法の森エリアにある一際背の伸びた木の根元に着地した。
てゐはぺたんとその腰を地面に落ち着ける。
慧音は箒を持ったままあたりに人妖の気配がないかきょろきょろと警戒する。
「いない…………よな」
箒を握っている手とは別のほうの手を添えている刀から手を離す。
それからようやく慧音は腰を下ろすことができた。
「パチュリー……」
自分が背負っていたパチュリーもようやく腰を下ろす。…………暖かかった体の熱が急速に冷めている。
慧音は悔しさと悲しさが混じった複雑な表情でパチュリーを見ていた。
「すまない…………っ…………」
後悔の念が自分自身を傷つける。いっそ誰かが自分を責めてくれたらどれだけ楽なのだろうか?
慧音の悩みはまだ続く。
そんな慧音をてゐは横目で見ていた。他人事のように、いや、実際他人事だ。
自分の生死にしか興味はない。
守ってくれる盾の耐久度には少し興味はあるけど、壊れた盾などもう捨てるしかないのだ。
今のてゐのパチュリーを見る目は、使い捨てのちり紙を見るような、そう、まるで鋭利な剃刀のような目だった。
慧音はパチュリーを見ていてその目には気がつかない。
てゐは細く微笑んだ。
「土葬をしよう」
慧音はてゐに提案を持ちかけた。
「信仰している宗教は知らないが、見たところ洋風の宗教だろう。土葬でいいと思う」
てゐは露骨に表情を崩さなかったが、内心むっとした。
むっとする理由は宗教のことではない。
「やめようよ」
てゐはすぐに反論した。
「――なぜだ?」
「魔女一人埋める穴を掘ったことはあるかい? 簡単そうに見えて穴を掘る作業は大変なんだよ。これからも殺し合いが続くのに体力を消耗させるのは、いい案だとは思えないね」
そして、なにより、めんどくさい。
「しかし、そのままにするべきではないだろう」
「それにだよ、こんな人が誰も通らないような森の中に墓を立てるのはどうかと思うな。きっと埋められた人も悲しむよ」
しった、ことでは、ない。
慧音は思考をまわす。
てゐの副生音は当然聞こえないが、てゐの言っていたことはデスクトップ・ストラテジーにおいて、理にかなっている。
だが、死体をそのままにしておくことが善策とは思えないのだ。
すでに切り離した策だが、このまま死体をつれて動く。
自分の思考を呪いたくなるが、私にとっても死体は愛するべきものではないと思っている。
それこそ、体力を消費するとか、その案を否定する理由がいくらでも考え付くが、全部が全部あまり死体を見ていたいと思わないという、死体嫌悪の自分の私情にたどり着く。
自分の責で殺した人の死体を嫌うとはどんなふてぶてしい精神何だと、自分で自分を総括したくなる。
しかし、今は自分に余裕がない。自分を殺してまで無理を通して富はあるのだろうか。
断言しよう。無い。これっぽっちも無い。
だから、この案を先に切り離したのだ。
てゐの案は理にかなっている。私としてはせめてもの罪滅ぼしとして墓くらいは作ってやりたい。
決定を下すのに時間はそうかからなかった。
「墓を立てるのはやめて…………ここにパチュリーをおいていこう」
また私の罪がひとつ増える。
「星の光を見て、ああ、私助かるんだ……って思って神社に行ったんだよ。
そして、神社についたとたんあの弾幕さ」
「そうか、大変だったな……やはり、あの巫女め……」
二人は情報交換していた。
お互いゲームが始まって間もないと言うこともあり、すでに慧音は話し終えて、てゐの順序になっていた。
てゐの話す内容は、ほとんど常に虚偽が含まれている。
なぜなら真実ならばてゐは悪なのだから。
慧音は何の疑いも持たず、鵜呑みにしていった。
「私には武器が何にも無い、動揺しちゃって袋すら落としてしまったんだ。
そのときにちょうどあんた達が駆けつけてくれたんだ。
残念なことに…………パチュリーは死んでしまったけど…………」
「くそっ…………」
慧音は眉間にしわを寄せる。
反対にてゐは目元にしわを寄せた。
簡単だね。
二人の情報交換は無言で終了を告げた。
間をおいて慧音がつぶやいた「行こう」という一言で出発することも決まる。
てゐは「うん」と笑いをかみ殺した返事をして、箒の後ろにまたがった。
慧音も箒をまたごうとしたとき、きらっと眩いが入った。
何かが月の光を反射して自分の目に反射光が射しているのだとすぐに気がつく。
目を細めて光の方を見ると、それはパチュリーの帽子につけられている月の装身具であった。
その装身具がつきの青白い光を反射しているのだ。
もちろんパチュリーの帽子は取っていないので、帽子の下にはパチュリーの死体が存在している。
今更ではあるが、パチュリーの死体はあまり詳しくチェックしていなかった。
死体を直視するのが嫌だったのが原因である。
「てゐ、少しだけ時間をくれ。手を合わせることくらい、いいだろう。」
てゐは無表情から笑顔を作り出す。
「??もちろんだよ」
慧音はパチュリーの正面に座る。
パチュリーの腹には穴が開いている。
――? 無数の小さな穴がたくさん開いている。
出血が多く、傷口内部を詳しく見ることはできないが、1cm前後の穴を開ける鑽孔機を何回も打ち込んだような風になっている。
不自然だ。
ここに来てようやく慧音のギアが入った。
まるで袖にあったほぐれ出た糸のように。
一枚板だと思っていたものが実はベニヤ板だったような。
先ほど真実だと思っていたものがすべてずれた。
早苗の撃った弾幕は小さく見積もっても7cm前後、ちょっとした鞠程度の大きさだ。どんな風に撃てばこのような傷をつけることができるのだ。
そもそも、私は彼女の弾幕を一撃食らっているではないか。
威力はせいぜい金属棒で殴られたくらいだ。腹をこのように破壊するには疑問が残る。
たとえ貫通できる威力を有していたとしても、傷口の問題がさらにブロックをかける。
そしてかすかに聞こえていた「止まって」の一言。
興奮していたためか、今まで思い出せなかったが、あの時巫女は何かを叫んでいた。
「死ね」でも「くたばれ」でもない口の動きだったと思う。
「止まって」
彼女はそう言っていたのでは?
彼女が止めて得をするものは何か? あの場面を脳内に再現する。
私達が飛び出したため、早苗が出した弾幕に巻き込まれた。end
早苗からしてみれば私達まで殺せて一石三鳥なはずだ。
ここで早苗の視点を変えてみる。
仮にだ。そう、仮に早苗は殺し合いをするつもりはなく、何らかの理由で誤射した。あるいは防衛戦をした場合だ。
その場合なら理由は2つもある。
私達がとまってほしい、自分の弾幕がとまってほしい。
2つだ。
0と2…………どちらが大きい?
そろばんの一番最初の授業だ。
答えは2。たとえフェルマーだって、0が大きいことを証明するのは不可能だろう。
確証はない。だが、頭の隅においておくことに越したことは無いだろう。
「慧音!」
てゐの声だ。
おそらく私がだんまりして、動かないから催促しているのだろう・
ああ、残念だよ。パチュリー……
もうあのウサギを直視することができないんだからね。
【G‐3 大きな木・一日目 早朝 】
【上白沢慧音】
[状態]疲労(中)
[装備]白楼剣
[道具]支給品一式?2、にとりの工具箱
[思考・状況]ここから逃げ出す。
てゐを監視する。
[備考]
早苗がゲームに乗り、パチュリーを殺したと思ってます。
考察し、早苗、てゐの真偽を考えています。
てゐと情報交換しました。信頼のできる情報とは思ってないようです。
てゐに全体的な不信感を覚えています。
【因幡てゐ】
[状態]やや疲労
[装備]魔理沙の箒
[道具]なし
[思考・状況]慧音に付いていく。最終的に永琳か輝夜の庇護を得る。
[備考]
早苗の情報と、置いてきたスキマ袋の中身を知っています。
慧音は嘘に気がついていないと思っています。
代理投下終了。
乙です。
慧音、死因に気づいたか。
これはてゐ厳しいなぁ。
一度失った信用を取り返すのは難しいぞ。
誤字。
>おそらく私がだんまりして、動かないから催促しているのだろう・
これのラストぐらいかな。
なぜかコピペで文字化けした、支給品一式?2→×2
これは後で直しておきます。
此処は千年もの歴史を持つ稗田家の誇る書庫。
巨大な本棚は、規律正しく無数に立ち並び、紙であればありとあらゆるものが納まっている。
書庫の面積は異様に広く、家屋の一つや二つは容易く納まるだろう。
外の世界であれば、図書館と呼ばれてもおかしくないほどの規模だ。
そんな年季の入った知性の匂いが漂う書庫にいるのは、稗田家九代目当主、稗田阿求。
特徴的な花を模ったアクセサリーが飾り付けられているおかっぱの黒髪。
庇護欲をそそる小柄で華奢な体躯は、花の模様を鮮やかに散りばめた仕立てのいい着物に包まれている。
少女は未読の本のみを限定して、深く慣れ親しんだ手つきで読書に励んでいた。
傍らには、読み終えた本と読む予定の本が詰み重なっている。
常日頃から読書に慣れているのか、文字を読み進めるスピードは異常に速い。
穢れを知らぬ白く柔らかい指でぺらり、ぺらりと頁を捲り、文字へ視線を彷徨わせている。
少々の時間を経て、また一冊読み終わり、少女は諦めを含んだため息を吐いた。
「予想はしていましたが、やはり見つかりませんね……」
表情は渋くし、しょんぼりとしながら口を開く。
自らに言い含めるだけでなく、適当な本を読んでいるもう一人の少女に伝えるためでもある。
阿求に声をかけられた少女は、ルナサ・プリズムリバー。
黒を基調とした楽士の衣装。
帽子の頂上には三日月を模した朱色のアクセサリーが飾りつけられている。
肩の辺りで切り揃えられた金の髪に、眉目秀麗な凛々しい美貌の持ち主。
憂愁の色を醸し出す物静かな佇まいは、礼儀正しいという印象を与えるであろう。
阿求とルナサ。
二人の少女は殺し合いの情報を得る為、広大な書庫から一粒の砂を探し求めていた。
「なら紅魔館の図書館にでも行く?
あそこは此処よりずっと広いわよ」
書庫の主が諦めた以上、此処にはもう用が無いだろう、と判断したルナサは対案を提唱する。
「……そうですね。パチュリーさんもこんな時ぐらいには閲覧を許可してくれるでしょう。
ただ、此処の書庫もまだ見てない箇所が多少あるので、もう少しだけ時間を――」
阿求が立ち上がり、別の本棚へと移動しようとした時、ふらり、と立ち眩みを起こす。
インドア派であることに加え、いまだ幼く華奢な体躯。
平穏な日常から殺し合いへと連れ去られた心労も祟っているのだろう。
それでも必死に笑顔を作りながら、懸命に使命を果たそうとしている。
「人間が無理をするのはよくない。何か飲み物でも入れてこようか?」
「申し訳ありません。あまり出歩かないもので……。
うちの厨房に材料はあると思うので、できれば紅茶をお願いします。
淹れる頃にはこちらの作業も終わっていると思うので」
ルナサの気遣いを有り難く思い、阿求は心持ち喜色を混ぜた笑顔で返す。
「紅茶ね。種類は?」
「ダージリンをストレートで。
もし無ければ、なんでもいいです」
稗田阿求は紅茶が好きだ。
友人、八雲紫に紅茶を教えてもらってから、世界は変わったとまでいえるほどに。
疲労している今ならば、さぞや、五臓六腑に染み渡る程に心が満たされるであろう。
阿求は紅茶を楽しみにしながら、ルナサの背中を見守り。
やがて足音が遠ざかり静かになると、読書を再開した。
◇ ◇ ◇
屋敷の構造に多少迷いつつも厨房へと辿り着いたルナサ。
「広い厨房ね……」
ルナサは、阿求に教えられた通りにティーポット、紅茶、水を探し当てる
全て八雲紫から譲り受けたものらしい。
紅茶には The Five Golden Rules (英国式ゴールデンルール)という基本的なルールがある。
T. Use good quality tea 良質の茶葉を使う。
既にオーダーを聞いているルナサには問題ない。
U. Warm the tea pot ティーポットを温める。
ルナサは銀製のティーポットを手際よく扱い、温め始める。
V. Measure your tea 茶葉の分量をきちんと量る。
茶葉は大体、ティースプーン(一杯3g程度)を人数分の数値か、人数に一を足した数値の回数あたりが好まれる。
ルナサは人数に位置を足した数値、すなわち三回、ティースプーンを扱い、用意を整える。
W. Use freshly boiling water 新鮮な沸騰しているお湯を使う。
汲み立ての水道水を煮沸したものが好ましいと言われている。
用意されていた水がどんな水かはわからないが、300mlほど煮沸を開始し、沸騰寸前というところで火から離す。
X. Allow time to brew 茶葉を蒸らす間待つ。
ティーポットにお湯と茶葉を注ぎ、香りが散ってしまわぬように蓋を閉め、準備は完了した。
三分から四分程、待機すれば出来上がるであろう。
ルナサはその間に、摘むようなものがないかと探し、袋に入ったクッキーを探し当て 皿にクッキーを載せる。
内部を循環させるようにティースプーンで少々混ぜ、二杯のカップにゴールデンドロップ(最後の一滴)まで注ぎ終える。
紅茶とクッキーを盆へと乗せたルナサは、廊下へと移動しコツコツと音を立てながら、書庫の襖へと辿り着いた。
襖の開閉の為、一時的に盆を地面に置き、サッと襖を開く。
◇ ◇ ◇
「うーん……。やはり無駄骨になっちゃいそうですね……」
書庫には溜息が響き渡っている。
いまだに見つからないのが無念なのか、溜め息の主である阿求の顔は幾分か暗い。
幻想郷の歴史を継承しているともいえる稗田家としては、幻想郷の役に立ちたいところだが、ないものはしょうがない。
がっくりとうなだれながら、膝に本を置き、読書にいそしんでいた。
その時、阿求の耳に、襖が開く音が届く。
「すいません。この本で終わりなので、そこの机にでも置いといてください」
書物に集中しながら返事をし、頁を開き、検分していく。
ぺらり。
ぺらり。
ぺらり。
ザシュ。
「え……」
阿求の口から思わず声が漏れる。
それも当然であろう。
なにせ、己の胸元から血肉に塗れた刃金が顔を出し、膝元の本に影を落としているのだから。
意識も虚ろなまま、それを眺めていれば、今度は肉体へと埋まっていき、残された刺傷を空気が撫でた。
ようやく痛みのシグナルが奔り始め、表現し難い熱さが全身の力を抜けさせる。
胸元の死傷が思い出したかのように鮮血を噴出させ、細い肩をびくんと震わせた。
阿求は体を翻し、背後を振り向こうとする。
だが、既に思考力も振り向く余力も、碌に残ってはいない。
首を真横へと曲げた時点で、前のめりに肉体が崩れ落ちる。
背後の人物の認識は叶わず――幻想郷の記憶と呼ばれた少女は意識を手放した。
◇ ◇ ◇
襖を開けたルナサを出迎えたのは。
血の池に倒れ伏す阿求。
そして。
阿求の傍らに佇む。
――博麗霊夢。
初対面ではないルナサが間違える筈も無い。
特徴的な紅白の巫女服を着用し、紅の大きなリボンで髪を飾り。
揺るぎなき意志をその身に宿した、凛とした佇まいの人間、博麗霊夢。
額には怪我をしているのか、絆創膏が張ってある。
血に塗れた刃金を携えていなければ、挨拶の一つでも交わしていたかもしれない。
それほどまでに、霊夢の雰囲気は日常に近かった。
「霊夢――貴方は何をしているの……?」
ルナサは瞳を大きく見開き、蒼白な顔、暗い声音で霊夢へと詰問する。
まるで幽霊でも見たかのように。
「見てわからないの?」
臆すことなく、静かに紡がれる。
目撃された以上、既に隠すつもりはない、とでもいうように平然と応え。
これ以上の言葉は不要、と一歩、ルナサへと足を進める。
ルナサは事態の深刻さを完全には理解し切れていないが、かろうじて敵意には反応できた。
眼前に次女メルランの愛用するトランペットを浮かびあがらせる。
騒霊。
所謂ポルターガイストと呼ばれる存在であるルナサにとって楽器とは武器。
ポルターガイストといっても物を直接ぶつけるわけではない。
ルナサの保有する【手足を使わずに楽器を演奏する程度の能力】により演奏し、音のエネルギーを利用するのだ。
トランペットから奏でられるタイトルは、ルナサの妹、次女メルランの得意な演奏。
【冥管「ゴーストクリフォード」】
ルナサにとっては初演奏。
しかし、もう一人の妹と三人でアンサンブルを幾度も繰り返し、数千回は聴き慣れている。
演奏を再現する。
その一念を胸に。
メルランの演奏と比べても遜色が無いほどの旋律を実現していた。
音の波紋と騒音で満たされ、コンサートホールと化した書庫。
クラシカルなトランペットが軽快なリズムに合わせて踊り始め、トランペットより白いなにかが吐き出された。
その白いなにかは徐々にその輪郭を見せ始める。
騒音世界へと顕現したのは、蛇のように捻り狂う五体の霊魂。
ルナサの指揮の下、統制の取れた的確な動作はまさに戦闘機の編隊。
望み通りの軌道を描き、俊敏に霊夢へと迫る幽霊。
その一体一体が、弾丸状の音の塊を生成し、放射状に、無秩序に、辺り一面に、射出していく。
霊夢を囲むように、ルナサへの道程を閉ざすように、無限に交差する弾幕の網。
一発一発が的中すれば悶絶必至。
大半は本棚へと衝突し、本をばら撒くが、残りの数十で構成された弾幕は霊夢を囲む。
弾幕が辺り一面へと着弾し、演奏とはまた別の轟音が空間を反響する。
埃がたち、霊夢の姿が見えなくなるも、ルナサは弾幕を一向に緩めない。
音のエキスパートであるルナサにしてみれば、足音や呼吸音で霊夢の行動は即座に把握できる。
ルナサは精密機械さながらの集中力で、僅かな狂いも許されない芸術の域にまで磨き上げられた演奏を継続する。
霊夢は、光が飛び交う中、最小限の動きで絶え間なく動き、弾幕を避け続けている。
体を半身分、瞬時に逸らし。
刀で弾幕を軽く斬り払い。
本棚を盾に、影から影へと移動し。
風に小さく揺れる風鈴のように、軽々と避け、時には捌き、千差万別の回避方法で、ひたすら優雅に避け続ける。
幽霊達が一度に百を超える弾幕を継続的に吐き出しても、一向に霊夢へと到達することはなかった。
博麗霊夢は特別な人間なのだ。
強力な霊力を保有し、幾多の試練を乗り越え、才能、経験、技量に裏打ちされた実力は幻想郷でも指折り。
ルナサとしても、自分が劣っている事は織り込み済み。
だが逃亡は選べない。
――この会場にはルナサの妹がいるのだ。
明るく、皆を陽気にしてくれる次女――メルラン・プリズムリバー。
狡猾なところもあるが、寂しがりやで、どこか憎めない三女――リリカ・プリズムリバー。
喜びに満ち溢れている二人がフラッシュバックのように脳裏を掠める
言葉にすると陳腐かもしれない。
それでもルナサ・プリズムリバーは陽気な笑顔を絶やさない妹達を守りたいと考えていた。
妹へと危害を及ぼす輩を長姉、ルナサ・プリズムリバーが放って置くなどできるはずもない。
そしてもう一つ。
稗田阿求。
ちっぽけな時間しか共に過ごしていないとはいえ、この戦場で無垢に信頼をしてくれたのだ。
演奏隊の矜持として、客の信頼には必ず応えねばならない。
霊夢へと全力を注ぐ事こそ自分が為すべき事、と決意を済ませ。
拳に力が籠り、悠然と紡ぎ出される演奏は、より一層、激しさを増す。
ルナサの狙いは、まず霊夢に弾幕を使用させること。
今のところ優勢に見えるのは、霊夢が身体能力だけで戦っているからだ。
霊夢も弾幕を放てば、途端にルナサは劣勢へと陥るだろう。
だが弾幕を使用すれば、その分体力を消耗する。
現在弾幕を撃ち続けているルナサにも体力の消耗が実感できる。
最悪、礎となっても構わない。
弾幕を粘り続ければ、霊夢の未来を潰せるのだ。
そう必死に自分を奮い立たせる。
とはいえこのまま避け続けられていては、弾幕を使わせる事も叶わずに、ルナサが先に力尽きるだろう。
当然、ルナサもそれを考慮し、霊夢に弾幕を使わせる術を既に使用していた。
その術は【音】
ルナサの演奏は精神に変容をもたらすのだ。
人間には特に影響が強く、聞き続ければ欝に陥るほどに強力な精神汚染。
不可視かつ音速の範囲攻撃【音】を防げる人間はいない。
精神が如何に強固であろうとも、音色が鼓膜を震わせる度にじわりじわりと侵食していく。
そしてルナサの【音】の性質は霊夢も熟知している。
だからこそ状況を改善する為に、弾幕を使用し窮地を脱する筈、とルナサは踏んでいた。
◇ ◇ ◇
時間は経過し。
ルナサは焦りを覚え始める。
本棚も半分程度は倒れ伏していたというのに……霊夢の行動に変化が見られないのだ。
幽霊の数を増やし、追撃を仕掛けたというのに。
過酷になってゆく弾幕をものともせず。
眉一つ動かさず、体を慣らすように、ひたすら紙一重に、避け続けている。
俊敏にして変幻自在な霊夢の動きは、はたから見れば手品のような光景。
霊夢に攻撃する意思も、撤退する意思も見受けられない。
完全に膠着状態に陥ってしまっている
ルナサの体力は著しく消耗し、限界は近い。
動揺をできるだけ表情には出さないように、静かに息を飲む。
薄々と【音】が通用していない事を実感するが、その原因が分からない。
【音】が通じない原因は単純に相性の問題だ。
その相性を五行思想という。
物質も人も世界も――万物は五行と呼ばれる、五個の要素、木、火、土、金、水で構成されており。
その五個の要素が十の力を相互に作用し続ける事で、世界を形成しているという自然哲学の思想。
木は火を生み、火は土を創り、土は金を育て、金は水を浄化し、水は木を育て。
木を土を痩せさせ、土は水を吸い、水は火を消し、火は金を溶かし、金は木を折る。
五行の内、どの要素なのかを判断する基準はいくつもある。
五色、方角、五方、五時、五節句、そして――
ルナサに関わる――五声。
【歌】は五声では土行を表す。
存在そのものが【歌】に特化しているともいえる騒霊、ルナサ・プリズムリバーは土行。
対して霊夢は。
【五時】
【春】を象徴する性格であり。
【五方】
【東】の果ての博麗神社に住み。
【五獣】
龍神【青竜】が創造した幻想郷の一部である博麗の巫女は木行。
木行と土行が相対する場合、木剋土となり、相剋、つまり木が土を痩せさせる関係。
それに加え、ルナサの想定以上の精神力を保有している霊夢には、心地よい音色を響かせるだけに留まってしまうのだ。
霊夢は五行思想を齧った経験があり、当然ルナサの歌が効かないことも熟知している。
こうして【音】は打ち破られ、現状を打破する策をルナサが考えなければいけない事態へと逆転した。
自分を鼓舞するようにルナサは必死に思考を巡らせる。
弾幕を継続するか。
――否、体力の問題から敗北は必至。
弾幕を中止し、近接へと移るか。
――否、身体能力でも得物でもアドバンテージを所持していない。
第三の選択肢を導き出そうとしても、空回りばかりで策に発展はしない。
そうしている内にも、体力の消耗は進み、背中に汗が伝うのを感じる。
既にポーカーフェイスを維持する余裕も無くなり、表情に心労が見て取れた。
そして――やがて均衡が崩れる。
動揺と焦燥感が、歌のリズムが僅かに狂わせ、幽霊の統制が崩れ始めたのだ。
ルナサの演奏から外れた幽霊は、悪戯に弾幕を振りまくだけの存在に成り果てた。
――霊夢がそれを見逃す筈も無く。
カチリと空気の質が変容し、床を何かが強く叩く音が響く。
軽々と避け続けていた動作から、一転、ルナサの方向へと正確無比に強く踏み込んだのだ。
踏み込みに合わせ、床が軋みを上げた。
微笑を浮かべ、一直線にルナサへと疾駆する霊夢。
彼我の距離は20m。
ルナサは自分のミスを舌打ちし、冷静さを取り戻しながら、手早く出来る演奏に切り替える。
【騒符「ルナサ・ソロライブ」】
ルナサを包み込むドームのように、全方向へと音符型の音の弾幕を広げていく。
広がる速度は非常に遅いが、それ故に時間制限付きの障壁としては有用だ。
障壁としての意味を保っている間に、再度【冥管「ゴーストクリフォード」】を奏でる準備へと移行する。
その時。
――ルナサに驚愕が飛来した。
予想では、突撃を諦めるか、なんらかの手段を使用し弾幕に穴を開けるか。
どちらを選んだとしても、両手に刀を携えた霊夢は一時的に停止する筈だった。
しかし霊夢はどちらの選択肢も蹴った。
弾幕の隙間から僅かに見えたドームの向こう側。
――――霊夢は神速を維持し続けているのだ。
まるでルナサの弾幕など見えていないとでもいうように迷いなく、無駄な動きを極限まで廃し、迅速に駆け抜けている。
壁へと激突する狂気の沙汰にルナサは驚愕するが、二度も演奏をミスするほど間抜けではない。
心は警鐘を鳴らすが、意図を読めない以上、演奏隊として予定通りにプログラムを進行する。
そして衝突まで数瞬といった刻――ルナサに再度驚愕が奔る。
衝突する寸前、霊夢の眼前に何かが飛来し――ドームを構成する一部の弾幕に衝突したのだ。
その物質は書物。
暴走した幽霊の放つ弾幕により揺らされた本棚から三冊の書物が抜け落ち。
重力に惹かれたそれは――偶然にも霊夢の眼前の弾幕へと衝突したのだ。
結果、ドームの一部は破れ。
人間一人分が通れる程度に広がった隙間を、霊夢は躊躇無く通過する。
――まるで最初から結果を見越していたかのように。
(馬鹿なっ!)
ルナサは寸秒、凍てつく。
咄嗟には何が起こったのか理解できない
それは至極当然だろう。
だが幾ら嘆いても現実は覆らない。
トランペットは一小節目を吐き出したところであり、弾幕の発現には到底間に合わない。
弾丸のように身を躍らせた霊夢は、両脚で慣性をねじ伏せ、ルナサを正面に捉える。
間合いに踏み込んだ霊夢を止められる術はもう……無い……。
ルナサは直感的に理解した。
自分は……死ぬのだと。
ルナサの最期の行動は……首を傾け、傍らを眺める事だった。
普段ならば二人の妹が微笑み、楽しみ、アンサンブルしていた定位置。
かすかな希望を求めて無意識的に妹の幻影を思い描くという逃避的な行動。
無性に愛しくて、心細く感じていた。
「――――」
誰にも伝わらぬ言葉で彼女は一人ごちる。
――ヒュン
一閃。
空気を切るような音と共に、霊夢は楼観剣を容赦なく薙ぎ払い。
刀は驚くほど鮮やかに吸い込まれ、ルナサの右腰から左肩まで線が走る。
線から上下が乖離し――ルナサ・プリズムリバーは葬られた。
妙に穏やかな気分。
意識が薄らいで行く。
「貴方は……何の為……に…………いるの……?」
自分は殺し合いの中で、長姉としての責務を果たせなかった。
その事から生じた最期の質問が、かろうじて霊夢の耳を掠める。
「博麗の巫女の責務よ」
返答と同時に、ルナサの瞳は静かに伏せられた。
からん、と中空よりトランペットが落下する。
既にトランペットが遺品に堕ちていることを知らずに死ねたルナサは運が良かったのだろうか、それとも悪かったのだろうか。
こうして平和な書庫を賑わす騒音は消え去り。
幻想郷に反する騒霊は、博麗の巫女の手によって討ち果たされたという結果だけが残った。
妖怪に鍛えられた名刀、楼観剣は血に塗れても翳りを見せない。
幽霊十匹を一振りで切り殺す、と称された切れ味は伊達ではない。
やがて刀身に吸われるかの如く、血の雫は消失し、楼観剣は白刃へと舞い戻る。
命の水を吸った影響か、刃紋の輝きが増し、煌めいている。
楼観剣を鞘に収め ルナサと阿求の遺品を漁る霊夢。
袋から一つの道具を手に取った時、長い睫毛がぴくりと動く。
掌に乗せられたのは三つの賽。
霊夢は賽をぼうっと眺め、寂しげに微笑み、天井すれすれまで真上に放り投げる。
落下する賽が眼前を通過するタイミングを見計らい。
右手を横一線に薙ぎ払い、落ちてきた賽全てを一息で掴み取った。
右手を広げれば、数字の一を示す賽が三つ
紅白で構成されたそれは、所謂ピンゾロと呼ばれるものだ。
霊夢は、賽の目を確認もせずに袋へと戻す。
賽の数値を狙って出すには1/6×1/6×1/6=1/216
霊夢の神業は技術で行ったものではない。
原因は幸運。
いや、幸運というのも正しくはないのかもしれない。
運とは変動するからこそ運といえるのだから。
霊夢の幸運は厳密には運ではない。
霊夢の役目である博麗の巫女とは、幻想郷を構成するシステムの一部。
全てを受け入れ、全てが自由である幻想郷で唯一、規律に縛られる存在。
デメリットもあるが、幻想郷と一体化しているが故のメリットもある。
その一つが幸運という名の【物質の未来の決定】
物質の記憶に【博麗霊夢】という幸運のカードが入るだけで、未来は決定されるのだ。
とはいえ全てを自由に出来るわけではなく【確率で起こり得る物理現象】という範囲には限定されるが。
先程のピンゾロもそうだ。
賽の記憶に【ピンゾロが出る】という霊夢の予測が加われば、未来は大幅に傾き、賽自身が霊夢の望む結果を導き出す。
書物が弾幕へと衝突したのも、【あの本はこう落ちる】と霊夢が予測した結果である。
一通り盗るべき物を盗り終わり。
霊夢は、ルナサと阿求の亡骸を一顧だにもせず、書庫の入り口へ歩みを進める。
その姿には疲労は窺えず、足取りもそれを証明しているかのように毅然としている。
不用意な体力の消耗を避けた結果だ。
能力も弾幕も使わずにルナサを打倒したのは、気まぐれでも油断でもない。
何時か訪れるであろう死闘を見越しての深慮遠謀である。
全てを相手取る必要が無いとはいえ。
此度の異変は参加人数が非常に多く、普段よりも長丁場になることは必至。
出し惜しみして敗北してはならず、無理をしすぎて後に影響を及ぼしてもいけない。
そんな誰もが望む理想の調節をしなければならない。
そして力量の調節ならば霊夢には一日の長がある。
博麗霊夢は妖怪退治、結界の維持、そして――異変の解決を生業としている。
太陽光の消失、春の強奪、鬼による洗脳、月の摩り替え、宗教戦争、地殻変動、地底の怨霊。
全てが天変地異にも匹敵する困難。
如何なる困難であろうとも霊夢は長きに渡り、繰り返してきた。
無限の弾幕、無数の短剣、鋭き楔、無慈悲の檻、絢爛の星屑。
一つの異変で放たれる弾幕は、合計で万を軽く超えるだろう。
その内、一発でも被弾すれば飛行のコントロールを失い、広大な空から地面へと叩き落とされるのだ。
怪我などは日常茶飯事。 服など幾つ変えたか分かりはしない。
霊力で肉体を保護し、幾らかは耐えられるとはいえ、数発も被弾すれば限界を迎え、異変の解決は失敗する。
異変の解決までの道筋は極めて困難。
道中で遭遇する、幾百の妖精、妖獣、妖怪の放つ無数の弾幕すら、前座に過ぎない。
身を削り、到達した伏魔殿に潜むのは、吸血鬼、亡霊、大妖、鬼、月人、神、天人。
そのような一騎当千の輩を打ち破り、ようやく異変は解決される。
突破に必要なのは冷静な思考の回転、周囲の状況の把握、素早く的確な回避。
そして――力量の調節。
前座に敗北してはならないし、力を注ぎすぎて道中で集中力を切らしてもいけない。
――それでも霊夢は異変の最中でその全てを身に付け、一度も力尽きずに、全ての異変の解決を成し遂げているのだ。
数々の異変を乗り越え、極限状態で研ぎ澄まされた集中力は、狂気染みているといっても過言ではない。
とはいえ全ての異変はスペルカードルールというルールを前提としている。
相手を殺そうとしてはならず。
不意打ち、追い討ちは禁止。
体力に任せた長期戦闘も制限されている。
事故はありえるが、基本的に殺し合いにはならず、真剣勝負とはいえ、どちらかといえばスポーツに近い。
霊夢の経験は、この殺し合いにそのまま適用できるようなものではないだろう。
それでも――霊夢は殺し合いの最中に経験を応用し、使いこなそうとしている。
襖の手前へ到達した霊夢。
唐突に書庫のガラス窓に目を走らせ、強く一睨みした後、興味を失ったように襖へ視線を戻し、書庫を出る。
書庫を出た霊夢は足元の盆に注目した。
乗せられているのはカップと皿。
カップは紅茶を湛え、香りが霊夢の鼻をくすぐる。
皿にはクッキーがたんと乗せられている。
ルナサが用意したものなのだろう、と霊夢は理解するも。
躊躇無く座り込み、クッキーを頬張り、紅茶を飲み、ルナサの想いを無碍にした。
クッキーはふんわり、さくさくと砕け、甘みが霊夢の舌を心地よく刺激し。
紅茶は多少冷めてはいたが、それでも味わい深いものに仕上がっていた。
霊夢は両者をたっぷりと味わい。
「やっぱり私はお茶のほうがいいわね」
普段どおりの軽い微笑を浮かべたまま。
何故か偉そうに、図々しく、傲岸不遜に、いけしゃあしゃあと感想を吐き出した。
整った可愛らしい顔にはクッキーの欠片が見受けられる。
やがて間食も終わりかけた頃、陽射しが窓より差し込み始める。
妖怪の時間が終わりを告げ、太陽が真東から昇ろうとしているのだ。
滲みだす白光にあてられ。
太陽の恩恵を受けて、黒髪はオレンジ色に輝き、睫毛は深い影を落とし、霊夢の愛嬌溢れる風貌をより可憐に見せていた。
佇む姿は、窓から差し込む光の束にも見劣らない。
霊夢は、燦然と輝く太陽を仰ぎ、くぁ…と可愛くあくびをした。
目を擦り、ぼんやりとした眼差しを投げかけ、立ち尽くす。
かくして、幻想郷に愛された人間、博麗霊夢の日常は廻り行く。
【稗田阿求 死亡】
【ルナサ・プリズムリバー 死亡】
【残り41人】
【D-6 一日目・早朝】
【博麗霊夢】
[状態]健康
[装備]楼観剣
[道具]支給品一式×4、ランダムアイテム1〜3個(使える武器はないようです)、阿求のランダムアイテム0〜2個
メルランのトランペット、魔理沙の帽子、キスメの桶、救急箱、賽3個
[思考・状況]基本方針;殺し合いに乗り、優勝する
1.力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除する
2.休憩が必要と感じれば休憩する
※ZUNの存在に感づいています。
◇ ◇ ◇
人里の民家の屋上。
優しく黒髪を掬い取り、さらさらとした感触の心地良さを味わっている影がいた。
飄々とした雰囲気に、整った柔らかな容姿。
大人びた四肢を白の上着に黒のスカートで包んでいる。
稗田家の窓から200m程離れた屋根の上で、虎視眈々と抗争を覗いていた影は、射命丸文。
飛翔で山脈を横断し、誰かがいそうな人里に立ち寄ったところで、ルナサの演奏に惹かれた次第である。
「珍しいものを見ちゃったわね。
もし見出しにするなら【早朝の惨劇。新聞記者は見た!】とかかな?
普段なら殺人の記事はあまり書きたいものではないんだけどね」
完全な詳細までは掴めなかったが、ルナサを霊夢が殺したというのは目撃していた。
阿求の下手人も、死因と霊夢の刀に付着していた血液から、恐らくは霊夢の仕業なのだろうと推察している。
実際にそのシーンを見てもいないのにそう思わせたのは、霊夢に殺しの躊躇がまったく見受けられなかったからだ。
霊夢が殺し合いに参加しているという事実を認識し、驚きはするが、慌てはしない。
文にとって、人数を減らし、場を混乱させてくれる霊夢の存在は願ったり叶ったり。
火花の巻き添えにさえ気をつければ利益でしかない。
後は入手した情報の活用方法。
文の見る限りでは、ルナサと阿求が霊夢に殺されたという情報の入手者は、霊夢と文の二人だけ。
どういう使い方をするにせよ、活用できるチャンスは十分にあるだろう。
それでも、やるのならば慎重に、冷静に、丁寧に任務を遂行しなければならない。
嘘というのは一つがばれると、他の言動も妄言、虚言と考慮の余地無く断じられる危険性が出てくるものだ。
(まだ慌てるような時間じゃないし、土台はちゃんと固めないとね)
今のところ、今回の情報で得たものは二個。
一つは霊夢に近寄るのは危険だということ。
偶然か、はたまた狙ってのものかはわからないが、霊夢は遠く離れた文を的確に睨みつけていた。
霊夢からも目撃されていた場合、文の排除にかかる可能性は十分にありえる。
敗北するとは思っていないが、潰しあうのは愚策だ。
もう一つは、二十四時間、誰も死ななければ爆破されるというルールが破られたということ。
実際起こり得ることはありえないだろうが、文はそれでも万が一を考慮し、些細な事柄でも記憶から破棄することはしていなかった。
確実に害が降りかからないようにする為には、手間を惜しんではならない。
清らかな風がふわりと体を浮かせ。
そろそろ此処から離れようかというところで、夜が明け、太陽が顔を出した。
降り注ぐ柔らかな日差しが闇を駆逐してゆく。
しかし、闇を切り払うお天道様に照らされても、文の仮面だけは、揺れず、動じず、微笑んでいた。
【D-4 一日目 早朝】
【射命丸文】
[状態]健康
[装備]短刀・胸ポケットに小銭をいくつか
[道具]支給品一式、小銭たくさん
[思考・状況]情報収集&情報操作に徹する
殺し合いには乗るがまだ時期ではない
代理投下終了。
乙。
霊夢の強さにムリゲー感がひしひしと・・・ダーマーとしてすごく期待。
そしてルナサ。よくがんばった。
霊夢チートすぎるwww
虹川姉妹は全滅か…
そして射命丸さんの策士具合がカッコイイです
そうだったwww
リリカは殺した側だった
すみませ!
hosyu
tes
…私の神槍(グングニル)を弾くか
流石は賢者の石 紛い物では無いようだな
クク…失礼! いや失礼した!
魔女殿は賓客か! これは大変失礼した!!!
いいだろう
,ヘ/L──- 、
その瞳(め)で Lニ)r_」=== イ
その掌(て)で ,ヘ、i ノノλノハノヘ
その膚(はだ)で ,' `(ハリ ゚ ヮ゚ノi) ',
.i >〈(つi!と!) i
とくと思い知るがいい vヘγ/_/___i,ゝヘノ
`゙r_,ィ_ァ゙´
こ の 『 紅 』 を
ヒャハー!!代理投下の時間だぜー
219 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:23:49
殺し合いの場に光が差し込んだ。
会場内で起こる惨劇を象徴する暗闇も、光輝く太陽という平和の象徴がかき消した。
しかしそれがかき消すのは視覚的な闇だけであり、会場に取り巻く狂気を消し去るには不十分だった。
そしてとある民家。そこに居座る兎と猫。彼女たちもまた、例に違わず太陽が残した大きな闇に呑まれようとしていた。
鈴仙はちゃぶ台の上にある天ぷらを目前に見て、ゴクリと喉を鳴らした。
別段空腹だったわけではない。その証拠に今鈴仙の心に占めているのは緊張と焦燥、ただそれだけだった。
何故そんな感情を抱きながら天ぷらを凝視し続けるのかというと、答えは一つだ。
この天ぷらには、鈴仙が仕込んだ毒が混入してあるからだ。
「おいしそうだね〜♪ 早く食べたいなぁ」
小皿や調味料(さすがに食糧はなかったが、醤油や塩は発見できた)を取り出しにかかっている燐の眼を出し抜くのは簡単だった。彼女にちょっとした用事を頼み、台所を出た隙に毒を数滴流し込むだけでよかった。
幸い鈴仙の持つ毒は無味無臭。混入されて気付く者などいるわけがない。人を疑うことを知らない燐ならば尚更だ。
そう、燐はまったく気付かない。天ぷらに毒が入ってるなど露にも思っていない。悪くいえば、状況を理解できていないただの馬鹿。良くいえば、鈴仙をそれだけ信用しているということだ。
(何が信用よ。こんな所で人を信用する方が悪いのよ。……殺し合いなんだから)
殺し合い。言うに及ばず誰かが誰かを殺すことでそれは成り立つ。
その殺し合いの場で、人を殺すな、なんて世迷い言は通用しない。殺すか、殺されるか、ただそれだけだ。
だから鈴仙は燐を殺す。例え彼女に一時の情があろうと、それは関係ない。自分が生き延びる可能性が少しでも高くなるのなら、鈴仙はそれを実行する。
彼女の持つ強力な武器。それを手にするために鈴仙は実行する。
殺さずを貫くだけの意思もなく、優勝を目指すだけの気概もない。彼女はただ自分の死に対して、どうしようもなく臆病だった。
「さぁて、準備出来たよ〜」
食事に必要なものが揃っているかを再確認し、燐は鈴仙の向いに座った。
鈴仙の心臓の音が燐に聞こえるわけもなく、彼女は舌舐めずりしながら箸を手に取った。
鈴仙は再び喉を鳴らす。
燐は箸で天ぷらを器用に掴む。
鈴仙の額に一筋の汗が流れる。
燐は小皿に盛ったダシを天ぷらにつける。
(気付かないでよ。そのまま、そのまま…)
燐はゆっくりと天ぷらを口に運ぶ。
鈴仙はさらに再び喉を鳴らした。
「…さっきからどうしたの? 食べたいんならさっさと食べなよ」
ビクリ、と鈴仙の体が震えた。
天ぷらは未だ箸に摘まれたまま、燐の口から数十センチのところでぐるぐると円を描いていた。
>>80 ダークサイドならもうちょっと待ってほしい
まだ議論スレの話合いが終わって無いから
83 :
代理投下:2009/05/06(水) 23:41:53 ID:PiWgHgxU
「…あ、えと。別に食べたいわけじゃないの。少し調子が悪くて。先に食べちゃって」
出来るだけ平静を装ったつもりだったが、極度の緊張からか少し声が擦れてしまった。
数瞬、燐は訝しんでいたが、鈴仙の妙な態度を言う通り体調が悪いせいだと考えあまり気に留めなかった。
「無理は駄目だよ〜。これ食べたら皆を捜しに行くんだからさ」
「…う、うん」
ぐるぐると回っていた天ぷらはピタリと止まり、再び燐の口へと向かっていく。
10センチ
7センチ
3センチ
1センチ
(よし、行け。行け、行け、行けーーー!!!!)
「ごめん下さーい!!」
第三者の声が聞こえた。
燐はそれを聞いて天ぷらの進行をストップさせ、鈴仙の顔は蒼白になった。
220 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:24:25
第三者である彼女達、雛、穣子、こいし達三人は律儀に玄関から挨拶した。
殺し合いの場にはあまりにも相応しくない奇行。
それは彼女達にとって、ここまでの道中があまりにも平和で和気あいあいとしていたことに一因する。特に周囲を警戒することもなく雑談しながらでもこの場所に辿り着けた。
それは単に彼女達が幸運だったに過ぎないのだが、そのことがこの状況に対する危機感を薄れさせた。
故に三人は殺し合いに乗った人間の有無よりも、きちんと挨拶して他人の家に上がるという礼儀を優先させたのだ。
「この声……こいし様! こいし様いるの!?」
こいしはすぐさまその声に反応し、居間へと駆けつけた。
居間に着くと、そこにはちゃぶ台を囲む二人の姿があった。
その内の一人が想像通りの人物であったことに、こいしは安堵と歓喜の気持ちでいっぱいになった。
「お燐! 良かった、無事だったんだ」
こいしを皮切りに、残りの二人も居間へと現れた。
84 :
代理投下:2009/05/06(水) 23:43:48 ID:PiWgHgxU
トチったかw
了解ー。
>>84 悪いね、このままGOサインが出るか修正が出るかしたらもう一回お願い
え? 議論終わってないの?
まったく進展がないのに一体いつまで待つつもりなんだ?
話の内容も変わってるのに
87 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:16:46 ID:LBhNZu+H
>>81 の修正箇所
>彼女にちょっとした用事を頼み、台所を出た隙に毒を数滴流し込むだけでよかった。
↓
彼女にちょっとした用事を頼み、台所を出た隙に毒を流し込むだけでよかった
88 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:20:49 ID:LBhNZu+H
(何故このタイミングで現れる…!)
鈴仙の焦りなど知りもしない三人を前に、彼女は歯噛みした。
「あ、紹介するね。こっちは穣子と雛。たまたま一緒になったんだ」
「こいし、この人達は…?」
「大丈夫だよ。お燐はお姉ちゃんのペットで私の友達。そっちの人は…」
「鈴仙だよ。こっちもたまたま一緒に行動することになったんだ。それにしても、こんなに早くこいし様に会えるなんてねぇ」
満面の笑顔でこいしと再会を喜び合う。既に箸はちゃぶ台に置かれていた。
燐が当分天ぷらに手をつけることがなさそうなのを、鈴仙は内心ホッとしていた。
第三者の見ている前で死なれたら、自分が犯人だということが即座にばれてしまう。そんなこと鈴仙は御免だった。
とりあえずの難を逃れ、鈴仙はこれからこの三人をどうやって追い出すかを考えていた。
その時だった。
「…ねぇ、さっきから気になってたんだけど、これは?」
雛がちゃぶ台に置かれている天ぷらを指差して言った。
「あ〜、今食べちゃおうと思ってたんだ。タラの芽の天ぷらだよ」
「へぇ」
じっと天ぷらを見つめる雛。ふいに彼女は口を開いた。
「…私も食べちゃっていいかしら? さっきからお腹が空いてて」
鈴仙は思わずドキリとした。
「どうぞどうぞ。たっぷり食べちゃってよ」
そして、これから導き出される最悪のシナリオが脳裏を駆け巡り、戦慄した。
(今この場で誰かが死んだら、私が毒を盛ったことが燐にばれちゃうじゃない…!)
食べちゃ駄目だ
そう言おうとした時、サクッという小気味よい音が聞こえた。
221 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:25:40
「も〜、雛は食い意地が汚いなぁ。そんなにがっつくことないのに」
「しょうがないでしょ。お腹空いてたんだから」
手掴みでさっさと一つの天ぷらを平らげてしまった雛は、指についた油を丁寧に舐め取った。
「あたいと鈴仙の合作だよ〜。どう、お味は?」
「ええ、なかなか………ぅ……」
「……雛?」
雛の様子がおかしい。
青ざめた顔。どこか焦点の合わない瞳。
天ぷらが喉にでも詰まったのかな。そんな楽観的な考えが全員の頭を占めていた。ただ一人を除いては。
支援
90 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:23:47 ID:LBhNZu+H
「顔色悪いけど、大丈夫?」
こいしが雛を覗き込み、心配そうに言った。
雛は小刻みにコクコクと頷き、
血を吐き出した。
赤色のシャワーがこいしを濡らした。
生暖かい液体。どこか生臭い臭い。ヌメヌメした感触が指先まで支配していた。
「……え?」
こいしは状況を理解できなかった。いや、それは全員にもいえた。誰も、何も喋ることができなかった。あまりにも突然の出来事に、ただ茫然としていた。
「あ…がぁ! ……がぎっ…!」
雛は喉を掻き毟りながら悶え、のたうち回った。
ちゃぶ台に乗った皿をひっくり返した。そこに置いてあった燐や鈴仙の袋も地面に転がり落ちる。
何かに縋るように、雛は呆然と突っ立っていたこいしの肩を掴んだ。こいしには雛の体重を支えれるような余裕もなく尻もちをついた。ただ静かな混乱が体を巡り巡っていた。
「ごほっ! ごぼっ…たす……け…」
縋りつくようにしがみついていた雛の握力は徐々に弱くなっていき、とうとうパタリという音をたてて何もしなくなった。
十数秒の間、居間は静まり返った。
耳の中ではただシーン、という独特の音が聞こえていた。
「ひ…な……? 雛…雛! しっかりして…! 目ぇ開けて!!」
我に返った穣子が、雛に駆け寄った。
抱き寄せて、揺すぶっても反応はなかった。
息もしていなかった。ただ虚ろな瞳で虚空を眺めているだけだった。
「そ…んな。どうして…。さっきまで、あんなに元気だったじゃない……!!」
どうして。その答えは、発した本人でさえも分かっていた。
天ぷらを食べた瞬間に血を吐いて死んだ。それだけで誰でも分かる。
誰かが天ぷらに毒を仕込んだのだ。
だが穣子は、それが分かっていても、雛から離れることができなかった。親友を殺された恨みより、親友とこれから会うことも話すことも出来ない悲しみの方が勝っていた。
ポツ、ポツ、という音と共に、雛の顔を染める赤の色が薄まっていった。
鈴仙はその様を、ただ恐怖と罪悪感の中、怯えた目で見つめていた。
(わ、私は悪くない。これは殺し合いなのよ。誰かが死ぬのは当たり前じゃない。私は、私は悪くない…!!)
「鈴仙……」
ビクッと体が震えた。
恐る恐る、その声が発した先へと目を遣った。
そこには驚きの中、疑いの眼差しで鈴仙を見つめる燐の姿があった。
91 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:27:17 ID:LBhNZu+H
222 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:26:11
「れ、鈴仙がやったの…? 嘘だよね。鈴仙じゃないよね? あたいは、信じるよ。鈴仙がやってないって言うんなら。だから、教えて?」
鈴仙は答えられなかった。
自分の想像していた以上の凄惨な死に様を目の当たりにし、その場凌ぎの嘘で取り繕う余裕がなかった。
「ねぇ鈴仙! 答えてよ! やってないって言ってよ!!」
肩を揺さぶる燐。それでも鈴仙は青ざめた顔のまま、何も言葉を発しなかった。
確定的だ。
燐は思った。
いくらお人好しの燐でも、今の鈴仙を見れば確信するしかなかった。
取り返しのつかないことをしてしまった恐怖の顔。鈴仙の表情がそういう風にしか捉えることができなかった。
そしてそれは、真実でもあった。
「…どうして……どうしてこんなことを…」
燐はどうしようもなく、項垂れた。燐は鈴仙を信じていた。そして、天ぷらに毒が盛ってあったということは、鈴仙は燐を殺すつもりだったということだ。
あたいが何か鈴仙の気に障ることをしたんだろうか。鈴仙はどうしようもなくあたいのことが嫌いだったのだろうか。
そんな考えばかりが燐の頭を過ぎった。
信じたくなかった。
少なくとも、燐には鈴仙が良い兎だと映っていた。友達になれると思っていた。
しかし、それは裏切られた。
ならば、自分はこれから、一体何を信じればいいのだ?
「鈴──」
「そこまでよ。この大嘘吐き!!!」
燐の体に衝撃が走った。
223 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:27:23
それが弾幕による攻撃だと分かった時には、穣子が鈴仙を庇うように間に入り、仁王立ちで睨んでいた。
「…な、何を……」
「何を? ふざけんじゃないわよ! あんた、さっき何て言ってた。この兎に対して、『どうしてこんなことを』、そう言ったのよ。あんた…ふざけるのも大概にしなさい!!」
燐には穣子の言ってることがまったくわからなかった。友達の死で、頭がどうかしてしまったんじゃないかとすら思った。
「不思議そうね。自分の悪行がどうしてばれたのか、まだわからないの? だったら、これを見たら納得できるかしら!?」
そう言って、穣子は一枚の紙を取り出した。
それは、燐の地図だった。
「本当に、危うく騙されるところだったわ。これを見てなけりゃ、私もそこの兎を責め立ててたかもしれない。この、『死体安置』の文字さえ見てなけりゃね!!」
燐の血の気が引いた。
死体集めという一風も二風も変わった趣味を持つ燐が、この殺し合いの場に放り込まれてから見つけた死体の隠し場所を記したものだった。常人の目で見れば、確かにそれは異常なもので、穣子が燐のことを殺し合いに乗っていると勘違いしても無理はなかった。
支援
93 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:33:38 ID:LBhNZu+H
「雛のおかげよ。最後の最後でもがき苦しんでたあの時に、あんたのバックからこぼれ落ちたのよ。……雛の、もう、死んでしまった雛の、おかげ」
最後の言葉には、深い悲しみの色が見えた。
「ち、違う。違うの…」
「雛の死体もここに運ぶつもりだったの? 死体を集めて何をしようとしてたのかなんて聞かない。聞きたくもない。あなたは最低の猫よ。私の親友をこんな毒で殺して、あまつさえ友達に罪を擦り付けようだなんて。…あなたは最低よ。この外道!!」
穣子の眼には怒りの感情がギラギラと見てとれた。
この最悪の状況をどうやったら打破できるのか皆目見当がつかない。ただ、今の穣子には何を言っても聞いてくれそうにない。それだけは分かった。
その時、ようやくもう一人の存在に気づいた。
先程から何も喋らないが、この中では誰よりも信頼関係が強いこいしがいることをようやく思い出した。
彼女に自分の無実を話し、穣子を説得してもらえばいい。
燐は藁にもすがる思いで、こいしの姿を視認し、声を掛けた。
「こいし! ……様…」
こいしを見て、燐は絶望を知った。
こいしの大きく見開かれた目、震える口、その全てが物語っていた。
こいしは、燐を疑っていた。
「こ、こいし様。あたい、あたいはやってない。あたいはやってない! 信じて! ねぇ、信じてよこいし様!!」
こいしは燐の趣味を知っている。そして、こんな惨たらしい殺しを望む性格でなかったことも知ってる筈だ。なのにこいしは、燐を前に怯えていた。
これには、燐の勘違いが大きな原因としてあった。いや、勘違いというよりはむしろ“こいしを知らなかった”と言った方が適しているかもしれない。
実はこいしは、燐のことなどこれっぽっちも分かっていなかったのだ。確かに何百年と一緒に生きてきた。色んな話もしたし、周りから見ればそれなりに仲が良かったともいえるだろう。
だがしかし、その実燐とこいしの間には何もなかった。主従関係も、友情関係も、ペットと飼い主という関係すら結べていなかった。
こいしとの間で、何らかの関係を結べる者などいなかった。
彼女の無意識の能力が、そうさせていた。他者の心を受け入れず、自分の心も閉ざしたまま。
そんな彼女との間に、一体誰が信頼関係など結べるというのだ。しかも、ここが疑心暗鬼の渦巻く殺し合いの会場だというのなら尚更だ。友達という言葉はこいしにとって上辺の言葉だった。
そして今、こいしの能力には制限が掛かっている。何も感じずにいられる無意識の能力は封印されていた。だから、彼女はありのままの事実を受け入れた。
『燐が自身の趣味によって、雛を殺した』という恐怖の事実を。
彼女は究極のところ、誰も何も信じていなかったのだ。
224 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:28:10
「お燐。どうして、こんなことを」
「違うよぉ。お願い。信じて…」
泣き泣き懇願する燐の言葉も、穣子はおろかこいしにも届いていなかった。
「…本当に救えないわね。まだ言う訳? まだあの兎のせいにするってわけ!?」
穣子は燐の胸倉を掴んで無理矢理立たせた。
しえーん
95 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:35:22 ID:LBhNZu+H
「いきなり誰かが死んで、ショックで口も聞けないような娘に、どうして罪を擦り付けるなんてことが出来るの!? あんたは悪魔だわ。吸血鬼なんかよりも、よっぽど悪魔らしい!」
燐の頭に衝撃が走った。
穣子の右拳が、燐の頬に直撃したのだ。
グキリ、という音が聞こえた。燐ではない。穣子の手首が捻った音だ。
普段そんな喧嘩紛いなことをしたことがない穣子は、たった一撃の拳すらまともに放つことが出来なかった。
そんな一撃は、穣子の温和な性格を表すもので、それほどまでに彼女は怒っているのだということの証明だった。
どうしても殴ってやりたかった。殺しはせずとも、弾幕ではなく自分の拳で殴ってやりたかったのだ。
痛い、とは言わない。だって雛はもっと痛かったはずだから。もっと苦しかったはずだから。
穣子は燐をそのまま突き放した。
このまま胸倉を掴んでいては殴れないと判断したためだ。
受け身も取らず豪快に転がる燐。
そのままズンズンと近づき、今度は左手で殴ろうとした時だ。
何かが燐の懐から落ちた。
ピン
地面にそれがぶつかると共に何かが抜けるような、妙な金属音がした。
穣子にはそれが何なのかわからなかった。
だが、この騒動の渦中から離れていた鈴仙には、唯一その存在を知る鈴仙には、それが何の音なのかがすぐに判断できた。
破片手榴弾だ。
「ば、爆発する!!」
数秒の間を置いて、人里のとある一家を中心に爆発音が響いた。
225 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:29:08
わけが分からない。つい先程まで仲良くしてたのに。楽しい時間を過ごせていたのに。
こいしはただひたすらに走りながら過去を思った。ヌメッとした体が気持ち悪い。こびれ付いた臭いで吐き気がする。それでも彼女は走っていた。
彼女はあれだけの爆発の中、無傷だった。それはまさに奇跡と呼ぶに相応しいことだった。
確かに爆発という単語を聞いて咄嗟に逃げはした。
だが破片手榴弾の恐ろしいところはその名の通り破片にある。爆発に巻き込まれなくともその破片は半径15mもの範囲まで襲ってくる。
破片が飛んで来ることを知っているのならまだしも、こいしには何かが爆発するとしか分からなかった。だから一直線に音のした方から逃げてきたのだ。当然破片の餌食になっていてもおかしくない。
それなのに、彼女は無傷だった。
まるで、“障害物が自ら進んでこいしを庇ったかのように”。
そんなことは露も知らないこいしはただ走った。もう誰も信じれなかった。
一緒に行動してきた穣子も、もうこいしには信じれなかった。
96 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:38:04 ID:LBhNZu+H
走りに走って、こいしは息を荒げて立ち止った。
「何で。…どうして。信じてたのに。わたし、信じてたのに」
「嘘ね」
聞こえる筈のない第三者の声がこいしに届いた。
思わず声の方へと振り向いた。
「あなたは何も信じてない。他人も、自分自身も。そうでしょ? 古明寺こいし」
そこには、人形師アリス・マーガトロイドが立っていた。
「あ、あなたは…? どうして私を」
「ああ。こうして顔を合わせて話すのは初めてだったかしら。まぁそんなことはどうでもいいことよ」
アリスは一歩こいしに近づいた。
それに合わせるかのように、こいしは一歩退いた。
「…そんなに警戒しないで。私はあなたの味方よ」
「味方…なんていない。みんな、みんな嘘吐きだ」
アリスはうっすらと笑みを浮かべ、まじまじとこいしを見た。
まるで品定めをするかのように。屋台店で有用な物を見極めるように。
そして、アリスは冷淡に言い放った。
「…あなた。何を当然のことを言ってるの?」
「…え?」
「あなたが一番よく分かってるくせに。人間だろうと妖怪だろうと誰しもが嘘をつく。自分を取り繕う。だから、あなたは“眼”を封印したんでしょ?」
ゴクリ、と喉が鳴った。
何故それを知ってるのか。第三の眼、人の心を読むさとりの能力。面識もない者にまで知れ渡っている程自分は有名人ではない。
「……お友達が殺し合いにでも乗ってたのかしら?」
ビクッ、と体が反応した。
「ふふふ。図星ね」
アリスは再び歩み寄った。
こいしがそれに気づき、距離を置こうとした時には既に腕を掴まれていた。
「今のあなたの気分は最悪なんでしょうけど、この経験はとても良いことなのよ。この世の中に、本当に信じれる存在なんていると思う? いるわけないわ」
「う、嘘…よ」
「あら、あなたには分かるのかしら。私が嘘を言っても分かるのかしら。自分から“眼”を封印した弱虫なあなたに」
まただ。何故自分のことを知っているのか。
こいしの脳裏に、さとりの姿が浮かんだ。
…もしかして、心を読まれてる?
226 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:29:57
「あなたには嘘が分からない。だから、誰が何を思ってるのかなんて分かるわけがないのよ。例えばそのお友達がずぅっと前からあなたを憎んでいたとしてもね」
こいしの中で、漠然とした不安の渦が形になって現れ始めた。
「殺し合いに乗るっていうのはそういうことだものね。参加してる者全員を殺す。それが殺し合いに乗るってことだものね。…あなた、彼女に何かしたんじゃないの? 自分の知らないところで人の恨みを買うっていうのはよくあることよ」
しえん
98 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:43:32 ID:LBhNZu+H
こいしは軽いパニックを起こしていた。
もしかしたら、穣子も、雛も、お空も…お姉ちゃんも、自分を恨んでいるのかもしれない。そんな不安が渦巻き始めた。
いや、違う。そんな訳ない。(何を根拠にそう言えるの? 私は心を読むことも出来ないんだよ?)お姉ちゃんも、皆も、きっとそんなこと思ってない。だってずっと一緒に暮らしてきたんだもん。
(ならどうしてお燐は殺し合いに乗ってたの? ずっと一緒に暮らしてた。なのに皆を殺そうとしたんだよ?)
「うるさいっっ!!!!」
息を荒立て、突然こいしは唸った。
さすがにアリスも少し驚いたが、すぐに冷笑へと変わった。
「皆がどうしてあなたに無関心か、分かる? よく思い出してみて。あなたは燐と本音で語り合ったことがある?
空にだってそう。あなたのお姉ちゃんにだって、あなたは自分の心を閉ざしたままだった。誰だって愛想尽きるわよそんなの」
「止めてぇ!!! 止めて止めて!! 聞きたくない!!! 聞きたくないよぉ!!!!」
頭を抱え、こいしは蹲った。
無関心でいたい。いつものように無意識でいたい。だが、それは出来なかった。それが主催者の言っていた制限だということすらこいしには分からなかった。
今のこいしに出来る事は、無意識でいられるように流れ来る情報を遮断することだけだった。
「聞きなさい」
「聞きたくない!! 聞きたくない!!!」
ブンブンと頭を振り、耳に手を当てて泣きじゃくった。
「聞きなさい!!」
こいしの腕を掴み、面と向かってアリスは怒鳴った。
こいしの頬を伝う涙を見て、アリスはとても悲しそうに言った。
「あなたの気持ち、分かるわ。私、あなたの気持ちが凄く分かる」
こいしは、ただ茫然とアリスの次の言葉を聞くために黙り込んだ。
初めてだった。自分の気持ちが分かると言われたのは。本当に、お姉ちゃんにだって言われたことのない、初めての言葉だった。
「他人の目はとても怖いわ。誰かが自分のことを恨んでいるなんて、考えたくもない」
昔のことだ。本当に大昔のこと。
こいしが姉であるさとりにも内緒で勝手に目を閉ざしてしまった時のこと。
さとりはこいしを叱った。叱りに叱って、叱り飛ばした。こいしはあの時、何も感じていなかった。
だが、今は分かる。あの時私は、悲しかったのだ。自分の気持ちを、お姉ちゃんに理解してもらえないことが、とても悲しかったのだ。
「私はあなたに嘘をついた。誰も信じれるわけないって言ったけど、あれは違うわ。信じる事は出来る。私はあなたの気持ちが良く分かる。だから、私はあなたを信じれる。あなたは、どう?」
こいしはアリスの問いには答えなかった。だが代わりに、こいしにとってとても大事なことを喋っていた。
「……私、わ、た、…し。誰かと、友達に……なりたかった。ずっと…ずっと、皆に…好かれて、み…んなと……友達に…」
涙ながらのこいしの言葉は、初めて発した唯一の本音だった。心を閉ざす前も後も、ずっと願っていたものだった。ずっと、他人にも自分にもひた隠してきたものだった。それをこいしは初めて他人に打ち明けた。
こいしはただ、友達が欲しかっただけだった。
アリスはこいしをそっと抱き寄せた。
「かわいそうなこいし。ずっとずっと友達が欲しかったのね。…私が友達になってあげる。例え世界中の皆があなたを恨もうと、私だけはあなたの味方になる。
…だから、心を閉ざしちゃってもいいの。何も感じなくていいの。私があなたの苦しみを背負ってあげるから。私に全てを捧げなさい。そうすれば、きっとあなたは楽になる」
暖かい温もりをこいしは感じていた。まるでずっと人と触れ合っていなかったかのように、アリスの体温はとても暖かく感じた。まるで母親の羊水に浸かっているかのような安心感がこいしの全体を支配していた。
こいしはしばらく沈黙し、やがて口を開いた。
「私は…あなたを信じます」
99 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:44:37 ID:LBhNZu+H
227 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:30:42
まったくもって運が良い。
アリス達は少し離れた民家へと移動していた。
その家の居間でアリスは、精神的疲労の為か筵の上で寝息を立てている大きな操り人形を見て微笑んだ。
懐柔はうまくいったようだ。少し音をたてすぎたが、誰にも見つかっていないしすぐに離れた。許容範囲内だろう。
アリスは思い出したかのように、袋から一冊の資料を取り出した。アリスが殺した永江衣玖の支給品の最後の一つ。
表紙にでかでかと書かれてある『キャラ設定表』という代物だ。
ペラペラ捲っていき、『古明寺こいし』という項目で止まった。
『心を読む力は、自らの心の強さでもある。それを嫌われるからと言って閉ざしてしまう事は、ただの逃げであり、結局は自らの心を閉ざしたのと変わらない。他人の心を受け入れないで完全にシャットダウンする事なのだ。』
その一節を黙読し、まさにその通りだとアリスは思った。
結局のところ、こいしは自分の弱さに負けた。自分の弱すぎるその身を補う為に、アリスという先導者を欲したのだ。
休息できるような民家を探しに人里へ入り、妙な爆発音があった時は正直迷った。行くか、行かざるか。普段のアリスなら危険は最小限に抑えようと考えただろう。
しかし、今は違った。『他者を利用して優勝する』という行動指針からして消極的ではいられない。必ず誰かと接触しなければならないのだ。
ならば隠れる場所の比較的多いこの場所で、銃という武器が手元にあるこの時に、そしてできるだけ早い時期に、駒を増やす必要があると判断したのだ。
そして、結果は最良。
よりにもよって、一番手駒にしやすい妖怪が、一番最高のコンディションでうろうろしていたのだ。
これ以上の幸運があるのだろうか。
だがアリスは幸運を感じつつも、さらなる欲望があった。
こいしへの洗脳をもっと確実なものにしたいという欲望が。
こいしはまだ完全に我を捨てたわけではない。ただアリスという存在に依存しているだけに過ぎない。やり方次第で操ることは可能だろうが、それでは駄目なのだ。
アリスが欲しいのは、誰であろうと即座に命令通り殺せるような殺人人形。そんな存在へとこいしを昇華させたいのだ。
「ま、そこはゆっくりといきますか」
アリスには欲があるが、期待はない。何故なら期待とは、ただ幸運を待つだけのものだからだ。今回の行動も、ただ幸運であっただけだとはアリスは考えていない。自分の危険も顧みない攻めの行動が導き出したものだ。そう考えていた。
アリスは強かった。精神的に、とても強かった。生への執着は誰よりもあるものの、臆することなしに冷静に物事を見つめることができた。その点、鈴仙とは比べ物にならない程に強かった。
精神の強さは肉体の強さを凌駕する。彼女の強靭な精神力がどれほどの力を生み出すのか。それは誰にもわからない。
アリスはちらりとこいしを、その第三の眼を一瞥した。
こいしの第三の眼は、堅く堅く閉ざされていた。
100 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:46:39 ID:LBhNZu+H
228 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:31:17
燐は歩いた。目的もなく、ただ歩いた。よろよろと、まるで亡者のように、民家が建ち並ぶ道々を歩いていた。
ふと、井戸近くに置いてあるバケツにつまずいた。
音を立ててバケツは転がり、燐は受け身もとらずに倒れた。
ゴツン、という音がする。倒れた拍子に頭を打ったのだ。
血が滴る。
しかし、燐は意にも返さない。
ゆっくりと起き上り、再び歩いた。
燐の右目がなかった。
正確に言うと、壁に反射した破片が燐の右目に突き刺さり、眼球を抉っていたのだ。
脳にまで至る深い傷じゃない。
せいぜい水晶体を突き破り、硝子体がぐちゃぐちゃになって燐の顔に飛び散っているだけだ。
死ぬような傷じゃない。
だから、燐はそのことを意にも返さずただ歩いた。
脳裏には、先程の出来事が刻みこまれていた。
信じていた者からの裏切り。鈴仙と、こいしの裏切り。
何故裏切られたのだろうか。何故信じてもらえなかったのだろうか。
その問いに、燐はすぐに答えを出せた。まるで天からの啓示のように答えが頭の中へと飛び込んだ。
ああ、そういうことか。これが殺し合いなんだ。信じれる人なんていないんだ。
さとり様だってきっと乗ってるに違いない。あんなに怖い御方なんだから、乗ってない筈がない。お空だってきっと乗ってる。裏では何を考えてるかなんてわからないもんね。鈴仙みたいにあたいを殺す算段をたてているんだ。
……あ〜、そっかそっか。今やっとわかった。
こいし様も殺し合いに乗ってたんだ。どうして気付かなかったんだろう。皆で寄ってたかってあたいを嬲り殺すつもりだったんだ。
なんてったってさとり様の妹だもんね。恐ろしくないわけがないよ。きっと彼女も乗ってるんだ。だからあたいを信じてくれなかったんだ。そうだそうだ。そうに違いない。
燐は笑った。大声で、快活に、狂気すら滲ませて笑った。
それが、答えが出たことに対する喜びなのか、世の全てを嘲ったものなのか、自分でも判断がつかなかった。
「あ〜、何しようとしてたんだっけ。そうだ、死体集めだったっけ。死体集めしようかなぁ。死体集めしたいあつめしたいあつめ」
ぶつぶつ呟きながら彼女は歩いた。ただ一つの目的を持って、ただ歩いた。
101 :
創る名無しに見る名無し:2009/05/07(木) 00:46:55 ID:0FnkA5VS
しえん
支援
支援
しえん
105 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:55:58 ID:LBhNZu+H
229 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:31:51
「う……ぁ…」
爆発のあった家のすぐ近く。
そこで穣子のうめき声を、鈴仙は呆然として聞いていた。
鈴仙は手榴弾が爆発する刹那、その性質を知っていることが幸いして、すぐに安全地帯へと隠れることができた。爆発するまでの5秒という時間も正確に知っていたから当初の目的である燐の袋も入手することができた。
まさに脱兎の如く、自分の生命の危機には敏感に反応できた。
しかしその時、破片の死角になるように台所の釜戸の影に隠れ、手榴弾が爆発した時、彼女は見た。
爆撃から逃げのびたこいしへと発射された数々の破片。それらから、穣子が自らを挺してこいしを守ったところを。
「……こ…いし……は、……ぶ…じ……?」
血の絨毯に横たわる穣子の体は大小の破片で装飾されていた。太陽に反射して全身がキラキラと光っていた。
徐々に燃え盛る家までもが穣子の体を光らせていた。
鈴仙は今の穣子を放置しておくことができなかった。だから、家が炎に包まれる前に外へと連れ出した。少しでも延命できるように。
「こ……いし……は……?」
「あなた、何人の心配してるのよ。自分の傷を見なさいよ!! あなた、…死んじゃうかもしれないのよ!?」
鈴仙は堪らず声を荒げた。
「だい……じょ…ぶ。痛……み…は…消えて……きたから」
鈴仙も伊達に医者である永琳の手伝いをしてきたわけじゃない。
穣子がもう余命幾許もないことはすぐに理解できた。
106 :
代理投下:2009/05/07(木) 00:58:33 ID:LBhNZu+H
230 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:32:29
「…ぶ…じ……なの…?」
「…ええ。無事よ。家から出て行くのが見えたわ。…あなたが守ったの」
その言葉に、穣子はホッとしたように息を吐いた。
「よ……かった」
穣子は鈴仙の声を聞き、自分の命よりもこいしの命を優先して動いたのだ。
どれほどの爆発が起きるのかは穣子には分からなった。だから少しでも衝撃を抑える為に、わざとこいしと爆弾の延長線上へと割り込んだのだ。
それは最早無意識下での行動だった。
「……爆…弾、…実は……見つけて…た…の。…地…図と……一…緒に……四つ…も……あった………から、…もう……持って……ないと…思ってた。……わた…し……甘……かった。…ご…めん」
「謝らないで!」
謝罪の言葉は、今の鈴仙にとって何よりも重く鋭い剣だった。
「支給…品。…差……あり…すぎる……よ。私……カメラ…しか……入って…なかった」
自嘲するかのように笑う穣子。笑顔が引き攣っていた。
「ね。……こい…し…は…?」
鈴仙は一瞬どう答えたものか悩んだが、すぐに本当のことを話した。
「……あ。…えと、逃げてったよ」
「……お…願い。あの娘……守って…あげ……て」
「え?」
「私…の……分まで、…守って……あげて。静…葉って……お姉…ちゃん……も」
鈴仙は動揺した。
彼女は自分の命が危険だというのに、未だに誰かの心配をしている。
「どうして? あなたは、どうしてそんなに…そんなに人の心配ができるの!? お姉ちゃんの心配するのは分かる。でも、さっき会ったばかりの娘を、どうしてそんなになってまで心配できるの!?」
「……友……達…だから」
穣子とこいしが一緒に過ごした時間はわずか数時間しかない。
それでもその数時間は、穣子にとって友人関係を築く上で短い時間ではなかった。
一緒に笑い、同じ姉を想う気持ちを持つこいし。穣子にとって、もう既にこいしは友達だった。たとえこいしがそう思っていなくとも、それは元来変わることのない確かな想いだった。
鈴仙はその暖かい心に触れた。自分と正反対の強い想いを持った彼女と接し、鈴仙の中で何かが溶けていくのがわかった。
友達だから守る。そんな馬鹿らしくも尊いことが、鈴仙の眼を覚まさせた。
鈴仙は瞑想した。自分の犯した過ちの大きさを思った。こんな罪深い私でも、できることがある。穣子の意思を継ぎ、二人を守ることができる。
鈴仙は意を決して目を開けた。
「……わかったよ。私、二人共助け──」
音楽が流れた。
大音量というわけではない。耳にすんなりと入ってくるような定量の音。だがその音は周り全域に広がっていた。確信する。この音は会場全体に流れている。
鈴仙の背筋が凍った。
この音の発生源。それは分からないが、誰が流しているのかは即座に分かった。
思い出される、あの冷たい瞳。何の感情も含まないあの声。
この音楽は鈴仙にとって音楽じゃなかった。
唯一無二、絶対に逆らえない主催者、八意永琳の無言のメッセージだった。
あなたは殺し合いに乗っていなさい。そう言われている気分だった。
鈴仙の言葉は止まったまま、定時放送が始まった。
107 :
代理投下:2009/05/07(木) 01:02:11 ID:LBhNZu+H
231 :運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM:2009/05/04(月) 16:36:00
【D-4 民家 早朝・一日目】
【アリス・マーガトロイド】
[状態]健康
[装備]銀のナイフ×9 強そうな銃(S&Wとは比べ物にならない?)
[道具]支給品一式×2 キャラ設定表
[思考・状況]基本方針;どんな手段を使ってでも優勝する
1. 始まったわね…
2. 少し休憩
3. こいしを完全に洗脳したい
※キャラ設定表のほとんどを暗記しています
【古明寺こいし】
[状態]健康 血塗れ 疲労(中) 精神疲労(大)
[装備]なし
[道具]支給品一式 ランダムアイテム1~3
[思考・状況]基本方針;アリスに従う
1. …………(睡眠中)
※アリスに心を読める能力があるかもしれないと思っています
108 :
代理投下:2009/05/07(木) 01:03:23 ID:LBhNZu+H
【D-3 里の中央 早朝・一日目】
【火焔猫燐】
[状態]疲労(小) 右目消失 アドレナリン大量分泌による痛覚の麻痺? 頭部に小さな切り傷(血液流出) 頬にあざ
[装備]破片手榴弾
[道具]なし
[思考・状況]基本方針;死体集め
1. したいあつめはたのしいな〜
2. もう誰も信用しない
【D-3 里(辺境にあたる) 早朝・一日目】
【鈴仙・優曇華院・イナバ】
[状態]疲労(小)
[装備]なし
[道具]支給品一式 燐の袋(支給品一式 破片手榴弾×4)
[思考・状況]基本方針;??????
【秋穣子】
[状態]全身に破片による裂傷 大量出血
[装備]なし
[道具]支給品一式 文のカメラ
[思考・状況]基本方針;…………
1. 鈴仙にこいしと静葉を守ってもらう
※放っておくと十分程度で死に至ります
※キャラ設定表
参加者のプロフィールが載っています。
ゲーム付属のキャラ設定表と同じ内容です。
そのため、キャラによって内容の濃さが違います
【鍵山雛 死亡】
代理投下乙
感想はすでに答えたのでなしで
代理投下終了
以上、運命のダークサイド ◆MajJuRU0cM氏の代理投下でした。
投下乙です!
途中レスの制限で改行したことをお詫びします。
すみません。今日はここまでで。
G−2に位置する森の中で、小町と幽々子はまだ話し合っていた。
「・・・どうしても、私と一緒じゃあ駄目なのかしら?」
「駄目とは言いませんけど、効率は悪いですよ?」
「でも・・・」
小町はもううんざりしていた。こうも一向に自分から離れようとしないとは・・・
何か理由があるのか?自分から離れることが出来ない理由が・・・
そう考え、ふと幽々子を見る。
「ごめんなさいね。妖夢のことは心配よ。
だけど、あなたからまだ離れるわけにはいかないの。分かってくれないかしら?」
(分かるわけないよ!何、この雰囲気。いろんな意味で妖しいよ!)
小町はそう思った。ここまで自分に執着するなんておかしすぎる。
その理由を聞いてやりたい。だが、それで変に思われるのは勘弁だ。
そのとき、
「あなたは頼りになるから一緒にいたいと言うのもあるんだけど・・・
同時に思っていたの。あなたがゲームに乗っているんじゃないかって。だから離れたくなかったのよ」
(あたいが疑われている?そんな馬鹿な・・・。あの夜雀を殺したときに、見られていたとか?
いいや、罠だ!これは罠だ!冥界の姫様があたいを陥れるために仕組んだ罠だ!
あたいに話しかける時に無警戒だったのはおかしいじゃないか!それが罠だという証拠!)
第一、幽々子はどんな理由で自分に疑いをかけたのか?
小町はそう思うと、幽々子はその心を読んだかのように答える。
「あなたの方向に銃声が鳴った。山彦を除けば5回だったわね。
そして、最後の銃声と共に微々たる冷気を感じた・・・といったところかしら。
まぁ、冷気に関しては私の気のせいかもしれないけど」
ああ、なるほど。
生物が死するとき、魂は肉体から離れ幽霊と化す。
幽霊は温度が低い。つまり、死体になった瞬間に周囲の温度がわずかに下がる。
銃声の後に幽霊特有の冷気を感じたとなれば、銃撃で死んだ者がいると考えられるのだろう。
普通の者はそんなことは感じないだろうが、自分のような幽霊と接する事が日課な者ならば自然とそれは感じとれる。
特に幽々子のような幽霊の管理者レベルになると、少し離れた死者を感じることも出来なくはないだろう。
死の瞬間を感じ取ったと同時に最後の銃声を聞いたというのなら、誰だって銃撃で死んだ者がいることを考える。
そして銃声の方角から自分を見つけた・・・。確かに普通は疑われるだろう。
本当に、あのときは馬鹿な行動をとったものだ。
とはいえ、自分がやったという証拠など無いはず。使った銃はまだ見せていないため、自分が銃を持っていることはバレていないはずだ。
だから、ここは平然でいないといけない。動揺したら本気で疑われてしまう。
冷や汗が出そうになるが、落ち着けと心に言い聞かせる。
心がまともな者が罪を犯したならば、その悪行を誰かに見られているのではと無意識に思うものだ。と四季様は言った。
今の幽々子の発言は自分のそれを引きずり出すためのものかも知れない。
「なんですか、それは。言いがかりじゃないんですかぁ?
まぁ、この状況じゃ、無理もないかもしれないけどね」
ここは笑ってやり過ごそう。ゲームに乗っていない者ならば、これは一種の冗談に聞こえるからだ。
「あら、ごめんなさい。失言かもしれないわね。
それに、疑っているといっても一割くらいよ。気にしないでね」
「あはは。それじゃあ、無いに等しいんじゃないですか?」
「ええ、まったく」
冗談じゃない。心臓に悪すぎる。今すぐにでも心臓麻痺で死にそうだ。
ゲームに乗っていない者にとってはどうでもいい話だが、自分のようなゲームに乗っている事を隠す者にとっては凄まじい重圧が掛かる。
幽々子は無警戒で自分に話しかけたとあのときは言ったが、思えばそれは自分の憶測に過ぎない。
本当はそれを感じさせないほどに警戒心を出した可能性もある。彼女ならそれをやりかねない。
思えばこの状況でこのような言い方は有効だ。
その相手がゲームに乗っているならば動揺するだろうし、そうでなければこれといった反応を見せずに笑い飛ばせるだろう。
あくまでも、そいつが特別でも無い限りは。
それを狙っているだろう、幽々子は絶対に自分の反応を観察している。そう思ったほうがいいと感じた。
幽々子が自分から離れない理由はこれで分かった。
用は、頼りになる仲間の力を得たいと同時にその相手がゲームに乗っているかどうかを監視しているのだ。
そんなことをするよりもすぐにでも自分を殺すべきだろうとも思ったが、幽々子は自分を頼りにしているということもあるため下手に殺せないのだろう。
それに確証が無い思い込みで殺してしまったら、それで間違っていたら謝って済む問題でもないこともある。
だから、幽々子にとっては今の状態が一番いいのだろう。
だが、小町にとってはこのままにしておくのは都合が悪い。
監視されたままでは、目的を果たせない。それに、いつバレるか分からないという重圧にも耐えなければならないため、精神的にも辛い。
なんとかして幽々子と別れたいところだ。
そのためには、幽々子が言う『ゲームに乗っている可能性は一割』な点を無くしてしまえばいい。
ただ、今のままでは駄目だ。何せ、使用した凶器である銃がスキマ袋に入っているのだ。これの存在がばれてしまえば、疑いが深くなる。
そこを何とかしたいところだが・・・
美鈴と静葉は道を歩いていた。
これといった目的地は無い。しかし、彼女たちには捜したい人がいる。
「あのですね、静葉さん」
「ん、何?」
「もし妹さんに会うことができたら、そこからどうします?」
「そうね・・・」
妹と会う。そこまでは真っ先に思っていたことだが、そこから先は正直、考えていない。
何せ、何をすればいいか分からないこの状況だ。無理も無い。
だが、今は違う。
「私達姉妹だけじゃ、何も出来ないと思うわ。
でも・・・こんな催し物に反対する人がもっと集まれば、何か方法があるかもしれないわ。
私はそれを信じてみる」
この考えは、美鈴に会ったのがきっかけだ。
彼女が言った、運命のしくみ。信じる者は、自然にその方向に傾いていくということ。
神という種族は、信者が望む施しを与えるものだ。そう、これと運命の仕組みとは似ている。
だから、静葉は信じる。運命というものを。
「そう・・・ですね!なんだか、とっても元気が出てきましたよ!」
「あなたの言葉がきっかけでもあるけどね」
「そんなことは関係ないですよ。感動したのは変わり無いです」
「どうもいたしまして」
「妹さん、見つかるといいですね」
二人の間から笑顔が表われる。お互いに、この時間がずっと続きたいと思った。
その時
『うふふ、いい事を聞かせてもらったわ。さすが、神様といったところかしら』
「「わあっ!?」」
突然、背後から声が聞こえてきた。
そのことに、静葉は思わず腰を抜かしてしまい、派手に転んでしまう。
「だ、誰ですか!?」
それに対し、美鈴は体勢を崩すことなく声があったほうを振り向く。紅魔館の門番というのは伊達じゃない。
「あら、驚かれちゃったわ。声をかけただけなのに」
「こんな状況で後ろからじゃ驚きますよ!
ところで・・・あなたは?」
美鈴は一瞬警戒したものの、見たところ敵意は無い感じはしたので、落ち着いて相手のことを尋ねる。
「誰だと言われたからには答えておこうかしら。
私は西行寺幽々子。冥界の管理を担当しているわ」
「はぁ・・・」
美鈴と静葉に声をかけたのは幽々子と名乗る女性。
彼女のことは話でよく聞いている。だが、実際に目に掛かった者はほとんどいないだろう。
そういう者は大抵の場合、死者だからだ。
「ところで、何処に向かっているのかしら?」
「うーん、これといった目的地は無いんですけど・・・」
「私、妹を捜しているの。穣子という子で・・・」
「・・・豊穣の神様だったかしら?私は見ていないわ」
「そう・・・」
早速、静葉は幽々子に妹の居場所を尋ねるが、そう簡単に見つかるものではないようだ。
はぁ〜とため息をつく静葉だったが
「私も捜したい人がいるのよねぇ。そのことで聞きたいことがあるのだけど」
今度は幽々子が二人に質問する。が、
「残念ですけど・・・私達は誰も見かけませんでしたよ。あなたが初めてですね」
同じく、見かけなかったと答えが返ってきた。
「・・・そう、わかったわ。それじゃ」
幽々子は残念そうな顔をしながら、いそいそと二人と別れようとした。
「ちょっと待って!」
ここで静葉が心配そうに幽々子を引き止める。自分も捜したい人がいるし、以前の自分がそうだったからだ。
「あの・・・。“一人”で捜すのは危険じゃあ?」
「そうねぇ。でも、私個人の都合のためにあなたたちまで付き合う必要も無いでしょう?
あなたたちだって捜したい人がいるんだから。
たしかに、“一人”じゃ、大変かもしれないけど・・・」
尋ねる静葉に対し、そう言い返す幽々子。
その手には64式小銃が握られていた。
「はぁ、はぁ・・・」
小町は息苦しそうな表情で地面に座っていた。
彼女の周囲には誰もいない。ついさっきまで一緒にいた幽々子さえも。
結果だけを言うと、幽々子と別れることは出来た。ただ、その代償に・・・
「武器を盗られた・・・。あたいはどうすりゃいいんだい?」
そう、武器となる銃を失ったのである。
―――約30分前
(あれ?こいつは・・・)
幽々子と一緒に歩いていると、何かが転がっていた。
これには何となく見覚えがある。それは・・・
「夜雀の死体・・・ですかい?」
「そうねぇ・・・」
幽々子に会う前に自分が銃で撃ち殺した夜雀だ。こんな時に目の当たりにするとは。
すると、スッと幽々子がその死体へと向かう。
「・・・食べるんですか?」
「あなた、私を馬鹿にしているのかしら?」
「いやいや、そんなわけ無いですよ。ただ、何をするかが気になったんで」
口ではそういう小町だが、なんとなく想像はついた。
「この子と会話するのよ。何が起きたのかを教えてもらうわ」
死体との会話。常人ではそれどころか幽霊にすら話は出来ないだろう。ただ、便利ではある。
幽霊は好き勝手に動くため会話するには捜すのが面倒だが、死体は自分から動くことは無いためそれを介して幽霊との会話が出来るのだ。
会話はまずい。少なくとも、銃で殺されたことがバレる。
そう思った小町は
「傍から見れば絶対怪しまれるねぇ・・・」
と言う。
だが、死体から情報を聞くことは、これまで起こったことに加え死の瞬間といった生者からは聞けないような情報を得ることに繋がる。
ここまでお得なことをやらない手は無い。そのことは充分分かっている。
だから
「てことで、周囲を見張っているよ」
やめるように言うことは諦め、幽々子の手助けをするしかない。
「そうね。お願いするわ」
そのことは彼女も認めてくれたようだ。
さて、これがチャンスだ。
幽々子は死体と会話中。自分に意識を向ける余裕は無いはず。
それを分かってて自分への監視を外した以上、疑いもほとんど無いとみた。
(よし、今だ!)
そう思い、小町は幽々子の背側の草むらに入り銃を取り出す。後はこれを隠せば一件落着だ。
どうせ、幽々子と一緒のうちではこれは使えない。別れた後でまた回収すればいいのだ。
そう考え、銃を取り出したときだった。
「あなた、何をしているのかしら?」
(ギクッ!)
上から聞こえる幽々子の声に、小町は明らかに驚く姿勢を見せた。
(しまった!)
小町はここでミスを犯した。
実は、銃を取り出す際、スキマ袋の中に視線を集中していたために幽々子を見ていなかった。
スキマ袋の中は広大な空間ゆえに、手探りで目的のモノを探すのは難しい。そのため、目で見なければ在り処が分からない。
幽々子が死体との会話が終わるまでという時間制限があることに焦った小町は、いち早く銃を見つけるためにスキマ袋の中身を覗かざるをえなかったのである。
その隙を突かれた形で幽々子に気付かれたのである。
(こんな早くに会話が終わるなんて・・・。まずいよ!確実にまずい!)
死体から情報を得た以上、銃で殺されたのはバレている。
この状況でなんとか言い逃れは出来ないか?
頭をフルに回転させる小町だったが・・・
「見たところ、何かを隠そうとしていたようだけど・・・」
この言葉を聞いた瞬間、血の気が引いた。
もう駄目だ。言い訳を考える頭が追いつかない。
こうなったら・・・
「くう・・・っ!」
小町は銃を抱え、幽々子から逃げ出した。
「あっ。待っ・・・」
待てと言われても聞く耳は持てない。
この行動で殺し合いに乗っていることは決定的なものだが、精神的に追い詰められた小町にはそんなことを考える暇は無い。
とにかく幽々子と別れ、この銃で生き残るべきでない者を排除することが重要だということを考えた上での行動である。
ふと幽々子のほうを見ると・・・
フォン!
(うおっ!?)
彼女は何かを投げてきた。
それはとても小さいもので、真っ直ぐこっちに向かっている。
気付いたときには遅く、避けたり打ち落としたりする暇がない。そのためか、反射的にそれを片手でキャッチする。
(ナイスキャッチ・・・って、ん?)
石かと思ったが、なんだか氷のように冷たい。
その正体は・・・
「うわわわわ!か、カエルっ!?」
氷漬けのカエルだった。
それ自体は何の害も無いのだが、思いがけないものを掴まされた小町はびっくりする。
そして、その拍子にカエルと一緒に銃まで手放して落としてしまった。
「って、しまっ・・・」
だが、もう手遅れだ。走りながらのことだったため、もう銃とはだいぶ距離が離れてしまっていた。
「あーうー・・・」
銃を取りに戻ろうと思ったが、それよりも幽々子の方が先に手にするだろう。そうなったらその銃で殺されかねない。
結局、このまま銃を置いて逃げる羽目になってしまった。
―――時間は今に戻る
「はぁ〜」
カエルごときでこんな状況になるとは、今更ながら恥ずかしい。
後悔しても無駄だということは分かるが、いまいち納得がいかないものだ。
これに対しては
「やっぱりあたいって、ツいてないなぁ・・・」
と言うしかなかった。
せめて賢人の一人、幽々子が危険なことにならないでほしい。
そう思い、小町は休憩を終え、歩き出した。
【G−2 一日目 早朝】
【小野塚小町】
[状態]疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2
[思考・状況]武器が無いため、どうしようか考え中
[行動方針]生き残るべきでない者を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
その頃、幽々子は・・・
(小町は大丈夫かしら・・・)
小町が持っていた銃を握りながら思う。
あの時、夜雀の死体に詳しい状況を聞こうと思ったが、制限のためか全く会話が通じなかった。
そのため、1分も経たないうちに死体との会話を諦めることになったが、その早さのおかげか、小町の動向に偶然気付いた。
彼女が自分から離れたときに見せた反応からして、彼女はゲームに乗っている。
だが、追い詰められていても自分に銃を向けないところを見ると、彼女が言っていた「賢人を残す」という考えは本心なのだろう。
だとしたら、まだ彼女を説得するチャンスはある。頼りになる人材であることは分かっているので、味方にしたいところだ。
それにこのまま放っておくと、小町は誰かに殺されるか誰かを殺すかのどっちかの運命を辿るだろう。まるで、彼女が言っていた妖夢の状態だ。
(もう。妖夢といい小町といい・・・世話が焼けるわ。早く捜さないと)
幽々子はため息をつく。
「・・・幽々子さん?どうしたんですか?」
その様子を見た美鈴と静葉は心配そうに見つめた。
「・・・なんでもないわ。ところで、何の話だったかしら?」
「えーっと、そうですねぇ・・・」
捜す人がいる者たちの苦労は・・・これからかもしれない。
【F−3 一日目 早朝】
【西行寺幽々子】
[状態]健康
[装備]64式小銃狙撃仕様(15/20)
[道具]支給品一式、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]妖夢と小町が心配
[行動方針]1、小町の言った最悪の状況(妖夢が殺し合いに乗る)を阻止するために妖夢を捜す
2、小町を見つけ、仲間にする
3、紫に会いたい
4、皆で生きて帰る
[備考]小町の嘘情報(首輪の盗聴機能)を信じきっています
【紅美鈴】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、インスタントカメラ、秋静葉の写真、彼岸花、不明支給品(0〜2)
[思考・状況]とりあえず、戦いたくない
[行動方針]静葉と一緒に穣子を捜す。紅魔館メンバーを捜すかどうかは保留
【秋静葉】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、紅美鈴の写真、不明支給品(1〜3)
[思考・状況]妹と合流したい
[行動方針]穣子を美鈴と一緒に捜す
※幽々子の支給品の一つは氷漬けのカエルでした
※霊と接する事が多い者は、近くにいる者の死の瞬間を感じ取れる可能性があります
代理投下終了。
乙です。
>※霊と接する事が多い者は、近くにいる者の死の瞬間を感じ取れる可能性があります
の部分はゆゆ様個人の能力と言うことに◆30RBj585Is氏からしたらばで修正がありました。
二人とも乙です
>> ◆MajJuRU0cM氏
うどんげの毒からこんな惨劇が・・・ロワ独特の欝がでててよかったです
>> ◆30RBj585Is氏
ゆゆ様は和みな二人組と合流どこへいくのか
そして小町っちゃんww
鬱蒼とした木々はどこまでも深く、進んでも進んでも果てのないような印象を受ける。
本当に自分は霧雨邸へと向かえているのだろうか。
そもそも、ここは本当に魔法の森とやらなのだろうかとさえ錯覚する。
きっとそれは自分が地上に慣れていないのと、
この尋常ならざる状況がそう思わせているのだろうと、古明地さとりは思った。
胸中には不安が靄を為して渦巻いている。
地霊殿のみんなは無事なのだろうか。
大抵の妖怪よりも実力は上の連中とはいえ、こうして自分の力が制限されているという事実がある。
だとするならば同様に力を抑えられている可能性は高く、
力を過信する傾向のある火焔猫燐や霊烏路空はそれも知らずに行動しているかもしれない。
特に空は……いや、そこまで馬鹿ではないだろうとさとりは結論付ける。
仲間を集めるのも重要だが、それ以上に早く地霊殿の連中と再会せねばならないと思った。
こいしのこともある。こんなことになるとは夢にも思わなかっただけに、さとりは心配でならなかった。
名目上地霊殿の主であるさとりはほぼ年中そこにいなければならず、
またペットの管理もしているために妹の相手をしてやることが殆ど出来なかった。
それに以前、こいしが自ら『第三の目』を閉じてしまったときに一方的に叱り付けてしまったことがある。
思えばあの頃から疎遠になってしまっていたのだ。
何故こいしが目を閉じたかなんて考えもせず、こちらの主張ばかりを押し付けていた。
その根底には今まで分かっていたはずのものが分からなくなっていた恐れがあったのかもしれない。
心が読めないことが、こんなにも不安をかきたてるものだとは思いもしなかったのだ。
だから自分はそれを言い訳にして、こいしの面倒をペットに任せた。
けれどもこいしを嫌っていたわけではない。今でもこいしは大切な妹だ。
ただ、少しだけ自分に勇気がなかった。そんなつまらない話だった。
妖怪「サトリ」としては余りにも情けないことだなと己に失笑する。
それもそうか。この状況におかれ、多少なりとも心が読めなくなったくらいでこんなにも動揺している。
今にして思えば「食べてもいい人類」とは単に食欲のことを指していたのではなかったかと思う。
自分が妖怪であるのは一目瞭然であるし、本当に自分を喰うつもりなら追いかけてきていてもおかしくはない。
それだけ混乱していたというわけだ。
同時に、それはさとりがどれだけ心を読む能力に頼りきりだったかということを証明していた。
慣れすぎていた。心を読んで会話するということが日常化し、読めることが当たり前と思うようになってしまった。
だからこそこいしが目を閉じたときにあんなに狼狽していたのだろう。
今さら再認識させられ、さとりの頭に深い後悔が浮かぶ。
こんなことになるなら……
だが悔やんでばかりもいられない。こうしている間にも殺し合いは進んでいる。
妖怪は元々が好戦的。日常の延長と解釈して戦おうとする妖怪だっているはず。
さとりは比較的大人しめであるために戦う道を選ばなかっただけのことで、少数派なのだということも知っている。
とにかく霧雨邸へ向かい、霧雨魔理沙がいるかどうか確認しよう。
魔理沙がいて、味方に引き込めればそれでよし。誰もいなければ他を当たる。
その道中で、もしこいしと再会出来たなら……そのときは、ごめんなさいと言おう。
分かってあげようとしなかった過去の罪を謝罪しようと、さとりは思った。
「……はぁ、それにしても」
行けども行けども同じ風景ばかり。どこで曲がればいいのかも分からない。
地霊殿には標識はそれなりにあるのに。まったく不親切な森だ。
魔法の森じゃなくて迷いの森ではないのかという疑問を抱き始めたころ、ふっ、と空から明かりが消えた。
正確には薄暗かった森が更に暗くなったのだ。
はて、月が雲にでも隠れてしまったのだろうか。それにしては木々の間から見える夜空はやけに澄んでいる。
ここからでは何も分からなかった。空でも飛べば話は別だろうが……
少し考えて、飛行してみることにした。あくまでも様子を探るために、ちょっとだけ。
と、さとりは自分の手が震えていることに気付く。
何故ここまで慎重になっているのだろう。たかが飛行するくらいでどうしてこんなに心配になるのか自分でも理解できない。
臆病の一語が腹の底から沸き上がり、情けない気分に駆られる。
心が読めなければ勇気のひとつだって出せない。そういうことなのか?
断じて違うと言い聞かせ、半ば自分の思考から逃げ出すように体を浮かせた……つもりだった。
けれども、しかし。
「……浮かない?」
高度的には木の枝の部分まではあるものの、それでも普段の何分の一にも抑えられている。
いつもと同じ感覚で飛んだはずなのに。まさか、これも制限のひとつ……?
背中に嫌な汗が流れ落ちるのを感じながら、さとりは高度を落として地面へと降りる。
考えてみれば飛べないのは至極理に叶っている。
殺し合いにおいて飛べる奴と飛べない奴、どっちが有利かは言うまでもない。
恐らくは少しでも弱者に有利になるように高度はギリギリまで引き下げられているのだろう。
そうなると空中戦はほぼありえない。必然的に地上戦が主だったものになる。
つまり、それはいつだって遮蔽物に隠れて狙う奴がいるかもしれないということを意味している。
今、この瞬間だって……
考えが浮かんだときわけもない悪寒に襲われ、さとりは思わず周りを見回した。
答えるものは何もなく、ざわざわと木々が不気味に揺らめくのみだった。
強烈に走り出したい衝動に駆られたが、必死に大丈夫だと自分を落ち着かせる。
怖くなんかない。ただ、常に不安が付き纏っていた。
油断していて、攻撃されたら? ここは敵のテリトリーで、自分は罠の渦中にいるのだとしたら?
気をつけているつもりでも、他者から見れば隙だらけの平和ボケした妖怪でしかないのではないか?
語るべき相手が誰もいないという状況、見ず知らずの土地を彷徨う不安が焦燥感を生み出し、
さとりの孤独をより鮮明なものにさせる。
いつもひとりで、誰からも忌み嫌われていたさとりの孤独を。
不意に、さとりの中で一抹の疑問が生まれる。
自分は、ここで誰かから必要とされるのだろうか。
嫌われ者の自分を受け入れてくれる仲間が、果たして存在するのだろうか。
殺し合いという状況を打開するためとはいえ、サトリである自分を迎え入れる者などいないのではないか?
よく考えてみれば霧雨魔理沙だって心を読める自分がいていい気分なわけがない。
下手をすると、諍いの原因になる可能性すらあるはずなのだから。
自分は、会いに行ってはいけないのではないのか。
仮定から生まれた疑念は仮定を吸い、大きく膨れ上がってさとりの中を占めていく。
こんなことではいけない、心を強く保たなければならないとは思いながらも、
一度生まれた疑心暗鬼の種は確かに根付いてしまっていた。
そんなことを考えていたからだろうか。
「あ、あのぅ……」
いきなりかけられた声に心臓を跳ね上がらせ、さとりは短く悲鳴を上げる羽目になってしまった。
どうしてこんなに近づかれていたのに気付けなかったのかと動揺を覚えつつ振り向く。
「……っ!?」
そこにいたのは、血まみれの巫女だった。
服の正面にべっとりと張り付いた赤い染みが先程の不安を想起させ、危険だという警笛を鳴らす。
血まみれ。殺害。殺し合い。
最初に出会った少女の妖怪などとは比べ物にならない恐怖が押し寄せ、さとりは反射的に弾幕を放っていた。
元々戦いは得意ではないさとりの弾幕はてんでバラバラで、狙いもつけていなかったがためにことごとく外れる。
それでも攻撃されたと思ったらしい相手は必死に手を振って戦意がないことをアピールした。
「ま、ま、待ってください〜! 違うんです、これには深いわけがあるんです、信じてください!」
なおも遮二無二押し寄せてくる弾幕を必死に避けながら言葉をかけてくる。
それと同時にさとりの『第三の目』が心を捉え、声を伝えてきた。
ひたすらに話を聞いてほしいという声がさとりの脳髄を打ち、徐々に興奮していた頭が落ち着きを取り戻してゆく。
これは本当に勘違いなのではないか、という考えが浮かび、更に自分のしでかしていることにも気付く。
あっ、と叫んださとりは慌てて放っていた弾幕を撃ち止めにして相手の顔を見た。
攻撃をやめたさとりにホッと息をついて安心した表情になり、心の声も「よかった」と言っている。
心の声は断片的でしかなく、恐らくは表層心理しか読み取れていないのではと思ったが、
それでも信じるに足ると判断してさとりは頭を下げた。
「……申し訳ありません。その、とんでもないことを」
「あっ、いえ、こちらこそ急に話しかけたりなんかして。こんな格好ですからなおさらですよね……すみません」
やはり「すみません」「ごめんなさい」という単語は出てくるものの考えていることの全貌までは読み取れない。
だが完全に読めないよりはマシだと思うことにして、さとりは話を続ける。
「道に迷ってしまったようで、不安で……だから驚いてしまったんです。……あなたはどうしてそんな格好に?」
普段なら尋ねた時点で答えは分かるはずなのだが、今回はそうもいかないようだった。
心の声が「どうしよう」とおろおろしたように変わるのを聞きながら、口が開かれるのを待つ。
「それが、話せば長くなるのですが……」
少女説明中……
「……なるほど。それは災難でしたね」
「そうなんです。私、このままじゃ誤解されそうで……とにかく早く追いつかないと」
空が暗くなったように感じたのはこの子のお陰だったのか、と思いながらさとりは話を聞き終えた。
しかも話によれば嘘つきの妖怪兎まで誤解した人物についていったらしいというから始末が悪い。
作り話という風ではなかったから、本当にとばっちりを食っただけなのだろう。
報われないものだ、と思いながらさとりは口を開いた。
「事情は分かりました。ですが、その格好のままではもっと誤解されると思うのですが……」
自分のように。
血まみれの服を眺め、確かに、と溜息が吐き出される。
軽い後悔の声が聞こえ、さとりは合わせるように「ですから」と続けた。
「まずは服を着替えられたほうがよろしいかと思います」
「そうですね……そうしましょうか」
「あの、それで、差し障りがなければ私も同行させてもらってよろしいでしょうか」
「え?」
「……一人では、心寂しいので」
そう感じていたのは事実だった。仲間を集めるという目的があるというのもあるが。
「いいですよ。私もその方がありがたいです。あ、だったら自己紹介しなければいけませんね。私は東風谷早苗って言います」
東風谷早苗という名には聞き覚えがある。確か守矢神社の風祝だったか。
空が守矢神社の神と会っていたという事は聞いているが、実際さとりは守矢神社の面々と面識があるわけではない。
何しろ地霊殿から出ることもなかった毎日なのだから。
共に行動することに安堵を覚えた心の声を聞きながら、さとりも自己紹介をしようとした。
「私は……」
しかしふと、このまま正直に言ってしまっていいのか、という疑問が生まれる。
自分は嫌われ者だ。それは心を読めるという能力があるからに他ならない。
ここで正直に言ってしまえば、自分が心を読めるということがバレてしまうのではないか。
地霊殿の古明地さとりといえば名前だけはそれなりに有名だ。心を読む、厄介者として。
制限がかけられているとはいえどの程度制限されているかなんて早苗には知りようもないし、
言ったとしても信じてもらえるかなんて分からない。
早苗はサトリという妖怪ではないのだから。
だから、さとりは――嘘をついた。
「……火焔猫燐です」
それが自分の心を弱めていくと知りながらも、そうせずにはいられなかった。
心を読めることがバレれば、きっと一緒にはいられない。そうなると仲間なんて作れるはずもない。
故にこれはそのための措置に過ぎない。言い訳などでは、決してない。
けれども、もし燐や空、こいしと出会ってしまったときにはどうすればいいのだろうか。
嘘をついてしまったという事実が、どう受け止められるのだろうか。
謝ろうと決めたはずのこいしの存在が遠いもののように感じられた。
そして、また……心の声でさえも。
【G-4 一日目・早朝】
【古明地さとり】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 咲夜のケーキ×2 上海人形
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.早苗と一緒に行動
2.魔理沙の家(F-4)を目指すべきなのか迷う
3.空、燐、こいしと出合ったらどうしよう? また、こいしには過去のことを謝罪したい
4.魔理沙を探すかどうか迷う。上海人形を渡して共闘できたらとは思っている
[備考]
※ルールをあまりよく聞いていません
※主催者(八意永琳)の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます
※主催者(八意永琳)に違和感を覚えています
※主催者(八意永琳)と声の男に恐怖を覚えています
※森近霖之助を主催者側の人間ではないかと疑っています
【G-4 一日目・早朝】
【東風谷早苗】
[状態]疲労・精神的疲労
[装備]なし
[道具]支給品一式、制限解除装置(現在使用不可)、不明アイテム1〜3
[思考・状況]このままじゃ、人殺しに・・・。
1.さとりと一緒に行動。さとりの名前は火焔猫燐だと思っている
2.血のついた服を着替えたい
3.慧音とてゐを追う
[行動方針]誤解を解く。
[備考]早苗の服に血(自分のではない)が付着しています。
代理投下終了。
乙です。
不安に揺れるさとりカワユス。
心を読めるが故の弱さってのがらしくていい。
最後の最後で火種まで残すしw
早苗さんは会ったのが読心能力持ちで助かったけど、まだまだ危ういなw
キャラの心情とかがキチンとしてないと妙に気になる俺だが
その点ok氏の作品は安心して読めるなぁ。GJです
さとりも早苗も不安要素が多いな。
はてさて、これからどうなるやら
130 :
創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 11:41:13 ID:7xDSBLfM
投下乙
闇夜、無限に連なる星と紅き満月の下。
漆黒の宵闇と調和している少女がいた。
女性らしい美しい佇まいをしているが、眼光だけは鋭く。
その視線の先は、うっすらと闇夜に浮かび上がる二桁にも及ぶ標的。
双手には標的と同数の銀色のリングを器用に携え、引く気配を見せず、じっと標的を見据えている。
そして少女は口元を歪めて笑い――先手を取った。
自身の両手首に必中の意思を、細くしなやかな指先に全神経を集中させ――。
早撃ちのように初動を読ませず、両腕を交差するように高速で振り抜き、解き放たれたリングが標的へと飛翔する!
空気を切り裂きながら、意志を持ったかの如く飛来するリング。
速度よりも恐ろしいのは、物理法則を無視したかのような不可思議な軌道だ。
支配者の指示通り、銀の閃光が全方位から取り囲んだ空間。回避の術はない。
絶体絶命に陥った標的は微動だにできず、リングは容赦なく大地へと降り注ぎ、悉くを仕留める。
三桁のナイフを曲芸師のように操れる彼女ならば、このような業は容易いことだ。
そうして全ての標的は牢獄の鉄格子に囚われ――遊戯はあっけなく終了した。
観客がいれば、功績に敬意を評して、さぞや盛大な拍手を上げたことだろう。
しかし残念ながら、観客は周囲の景色だけであった。
無縁塚を西に抜けた先にある、この街道は中有の道という。
迷いを捨てた死者が三途の川へと赴くために使用される街道だ。
地獄の財政難の為、死者を対象とした出店が立ち並んでおり、普段ならば明るくお祭りのように騒がしいところである。
「なかなか楽しめるゲームなのね」
身体を確かめるように手足を軽くぶらつかせ、愉快という感情を籠めた言葉をあっけらかんと言い切る。
そして口元を綻ばせ、女性らしい柔らかな仕草で、銀髪を掬い取り、風に踊らせた。
少女の名は十六夜咲夜。
異変解決を兼業としている幻想郷一のメイドである。
職業を証明する純白と濃紺で構成されたメイド服に、銀糸を彩る白のカチューチャ。
燦然と輝く蒼の瞳を擁した、均整のとれた顔立ちには、何もかもを見抜くような微笑を絶やさず。
人形のように白い肌は、神秘的な雰囲気を纏っていた。
標的を殲滅した咲夜は『輪廻の輪投げ』と看板が付けられた店内へと入り込み。
お金を所持していないというのに、悩む素振りすら見せずに、手早く全ての小道具と賞品を袋に収めていく。
そうして『輪廻の輪投げ』の商品を総取りした咲夜は、次の出店を目指す。
人魂ボンボン。死霊金魚すくい。遺書掴み取り。卒塔婆籤。
閻魔、鬼、死神、その他のお面屋。すくい雛人形。しゃれこうべ釣り。仏壇を的にした射的。花火売り。
出店は数多く、咲夜の視界に映ってるものに限定してもこれほどの量を誇る。
死者を対象にしているだけあって、特異な出店がほとんどだ。
固い大地をハイヒールでコツコツと鳴らしながら、好奇心に光る双眸で、出店群を次々と品定めしていく咲夜。
幾度も蒐集を繰り返し、刻々と時を経て、ほとんどを盗り終え、次に『死後占い』という出店が見えてくる。
しかし道具を使わない占いをするらしく、盗るものはない。
咲夜は看板を見て、出店の内容にも興味がないのか、振り返る気色も見せなかった。
十六夜咲夜はただ遊んでいるわけではない。
咲夜の主である、紅魔館のお嬢様、レミリア・スカーレットは、我侭で尊大で気まぐれ。
『外の世界の魔法【プロジェクトアポロ】を行使して月へ行くために、ロケットの部品を調達してきなさい』
文明が明治時代で停止している幻想郷で、このような無茶な命令は日常茶飯事。
彼女はそんな経験に基づき、合流した際の命令に応えるために、弾幕の蒐集をしているのである。
お嬢様ならば、思いもよらぬ運命に巻き込まれたところで、そう簡単に鮮血に染め上げられることはないでしょう、と楽観的な信頼をしていたのも一因だ。
あとはコレクターとしての蒐集心、手品師としての遊び心、乙女としての好奇心なども幾分かは混じっている。
そうして蒐集も終わり、中有の道を抜けようかとしている頃、咲夜は。
「ちょっとやりすぎたかな」
と可愛く首を傾げた。
内容に反し、淡々と抑揚もなく語るその声音には、後悔の欠片も含まれていない。
『幻想郷の少女』とは、図太く傍若無人という意味を示している。
とはいえ遊戯はこなしているのだし、もしお金があればを払う意思もでるのだから、これでも幻想郷の少女の中では有数の懇切丁寧な態度といえるだろう。
◇ ◇ ◇
中有の道を西に抜ければ、石がごろごろと転がっている荒れた自然の道。
景品の手鏡と櫛で身嗜みを整えながら、雑草と柔らかな土を踏み固めていく咲夜を、広大な川が出迎える。
「さっきのところがあんなのだったし、ここも同じようなところと想像していたのだけれど、そうでもないのか」
停滞した冷たい空気に包まれ、手を組み気だるそうに佇む咲夜。
ここは『三途の川』と呼ばれる、正真正銘、地獄へと繋がっている生と死の境界である。
濁っているわけでもなく澄んでいるわけでもない不思議な水面から、ところどころに突き出ているのは苔むした尖形の巨大な岩。
辺り一面は深い霧に覆われ、幽かな月光すら遮られており。
ふらりと足を踏み入れてしまいそうな不吉な暗さは、まるで異世界のようだ。
流れは非常に緩やかで、風は欠片も吹かず、いくら時を刻んでも風景が固定されている静寂の川。
日々へ別れを告げた死者の悲哀の涙が溜まっている、と夢想させる物悲しさ。
咲夜は、そんな死の具現を見下ろし。
「紅茶でも飲もうかしら?」
雰囲気にそぐわない柔らかな口調で、しれっと言葉を紡いだ。
水を見て喉の渇きを自覚した。ただそれだけだ。
その表情には、一切の戸惑いも憂いもない。
死後を連想させる地獄への道筋をまるで意に介さず、感慨も抱かない。
咲夜は喉を潤すため、袋に手を翳し、二客のティーカップを取り出す。
どちらも、ちょっと小さめで軽く、基調は白。
支給品であり、紅魔館の備品でもある、ティーセットの一部品だ。
それらは、既に紅い液体で満たされており、液体の紅がカップの白をよく引き立てていた。
会場に送られる前に、咲夜がティータイムに用意していたものが、そのまま支給品になったのだろう。
嗅覚をくすぐるほんのりとした香りが、咲夜の腕前をわからせている。
――そしてその香りは、同じ紅でも液体の質が違うということもわからせていた。
片方のカップは紅茶。
もう一つのカップは――人間の血液である。
彼女が住み込みで働いてる紅魔館。
そこには人間である十六夜咲夜のほかに、吸血鬼、魔法使い、妖怪、妖精と多種多様な種族が揃っている。
人間は穀物、肉、野菜といった通常の食事。
魔法使いと妖精は食事の必要すらないが、人間と同じ食事を趣味の範疇で食する。
そして。
吸血鬼は人間の血液を飲み。
妖怪は人間の肉を喰らう。
人間と同じ食事もとれるし、そう頻繁に食する必要性もないが、人間が最善であるということには変わりはない。
紅魔館の厨房も任されている咲夜は、主の意向に沿い、配給された外の世界の人間を、食欲を刺激する食事へと還元しているのだ。
平常時と同じく、気負いも怯えもまるで感じていない、上品な立ち振る舞いで。
食材の心臓の動悸を聞きながら、至極自然な事象のように調理台に乗せる。
そして一点の曇りもなく明確な意志を宿した表情で。
解体業者のように、ナイフで肉を裂き。骨と臓物を抜き出し、細切れの肉片と血の池を生み出し、色々な素材を加え加工する。
この紅茶風の血液もそうして生み出されたものだ。
咲夜は紅茶のカップを、手慣れた手つきで、上品に口へと運ぶ。
傾けられたカップからは、流水の如く、口へ、舌へ、喉へと広がっていった。
そうして喉を潤した咲夜は、空のカップを袋に納め。
お嬢様のために用意した血液のカップに、優しく手を沿える。
そのときの咲夜の唇は、小さく穏やかな弧を描き、母性と儚さを併せ持つ淑やかな微笑が産まれ――その表情はあまりにも優しかった。
冷静でありながら、感情を覗かせ。
慈愛を有しながら、冷酷であり。
完璧かと思えば、抜けているところもあるし、茶目っ気も見せる。
絶対の忠誠を誓っていながらも、己のペースは決して崩さない。
そんな彼女はまるで月のようだ。
新月、既朔、三日月、上弦、十三夜、小望月、満月、十六夜、立待月、居待月、臥待月、更待月、下弦、晦。
全ての本質は月という一定のものでありながら、不定でもあり。
夜空にいつも輝いているというのに、地上からはどうしても掴めない。
そのような浮世離れしている雰囲気が、瀟洒であると称される所以なのだろう。
――静寂の世界。
漆黒の宵闇や涙の川など、気にも留めず。
紅月の従者は、一定の時を刻む靴音と共に、悠然と館を目指す。
【A-3・一日目 早朝】
【十六夜咲夜】
[状態]健康
[装備]死神の鎌
[道具]支給品一式、ティーセット、出店で蒐集した物、フラッシュバン(残り2個)
[思考・状況]さて、お嬢様を探さないと。
※ティーセットの内訳は、ティースプーン、ティーポット、アンティークケース、柄が異なる白のティーカップ二客(片方は空、片方は血液)、紅茶の茶葉たくさん。
※出店で蒐集した物の中に、刃物や特殊な効果がある道具などはない。
投下終了です。
投下乙
さすがは咲夜さん。マイペースは崩さずか
しかし出店巡りとはww
地図見る度に咲夜さん一人だけぽつねんとしてるなぁと思ってたが
これでようやく日が当たりそうだな
月報見てきた
三位取ったどーーーーー!!!
これほど上位に食い込むとは正直思わなかったぜ
うおおおおお!! テンションあがってきたああああ!!!
相変わらず表現が上手いな……月を咲夜に当て嵌めたのは流石の一言
れみりゃとも合流の可能性が出てきたが、どんな形になるか……爆弾だらけだものなあw
まさか、ここまでいけるとは予想外。
次回もこれぐらいの話数と死亡のペースを維持したいものだ!
今から投下します。
よそはよそうちはうち。
タイトルは『十年物の光マグロ』で
小さな体を精一杯伸ばして北のほうを見る。
「うーん……」
右手に持った地図と左手に持ったコンパスに何回か視線をおろす。そして、また北のほうを見る。
一軒だけぽつんと立てられた家、その家はT字路の角に立てられている。
魔理沙は「なるほど」とつぶやいて地図に視線を戻した。
現在位置はE−5。
魔理沙は八意永琳と分かれた後、自宅へと進路を決めた。
自宅に戻るためには、霊夢が居たところに戻るルートを進むことになるが、このまま西に進んでも、得られるものは少ない。
そもそも、魔女という人種は攻める戦法より返り討ちにする戦い方ほうが有利なのである。
なぜなら魔術は威力は十分な分、発動までに時間がかかるからだ。
魔術の発動条件もある。一つに『詠唱』。言霊で魔術を発動させる方法。例外なく呪文を唱えなければならない。そしてもう一つ、『陣』これは紙や地面に描くだけで発動可能になることすらある。
他にもあるが、有名どころはこの2つだ。
詠唱による発動は唱えきるまでは発動しない。だが、陣による魔術の発動ならいつでもすぐに発動できる。
しかし、陣は描かなければならない。小さなものはだめだ。力は大きさに比例するからだ。
だからといって、馬鹿でかい魔方陣を描いた紙を持って戦地に赴く馬鹿は居ない。
故に地面などにあらかじめ描いておいた強力な魔方陣の地雷原に敵を誘い込み、殲滅する戦い方を魔法使いは得意とする。
パチュリーはその筆頭だろう。
図書館なんてまさに魔術書を媒体として魔法を使う魔女の砦の中だ。
私、霧雨魔理沙も魔女だ。
だけど、そんなカビみたいに引きこもって戦うなんて好きじゃない。
それに、異変を解決するために引きこもるってどんな解決策だい? 異変の根源を見つけ出してそいつを吹き飛ばすのが異変の解決方法だろ?
無論、いままでそうして来たんだが……
今回の異変は今までの異変とは桁もベクトルも違う。
何もかも、この世界のすべてが変だ。おかしい。
なら私も少しはおかしくなってもいいだろう?
だからといって、そんなコケみたいに引きこもって戦うなんて冗談じゃない。
私、霧雨魔理沙も魔女だ。
魔法の研究で危険だと判断して封印した劇薬や魔法くらい何個かある。
危険のレベルはもちろん普段解決している異変で考えたレベルだ。
弾幕ごっこは殺し合いではない。相手を屈服させるだけの力があればいい。それ以上の力は危険レベル。
この異変ならその危険レベルは通常使用可能レベルまで下がるだろう。
それでも、危険なほど高威力なのは間違いない。
間違えなくても殺してしまうかもしれない。
使う覚悟はあるのか?
………。
今はいい。とりあえず手に入れてからだ。
霊夢が居るかもしれないルートを通って手に入れる価値はあるだろう。
手に入れないと霊夢に勝つ可能性は限りなく0に近い。
今はE−5。自宅まではそう遠くない。
「おいおい、いつから太陽は北から昇るようになったんだ?」
森の中に入りとうとう自宅があるエリアに入ろうとしていたときだ。
なんとなく見上げた空に自分の後ろから朝焼けが見えた。
自分は北上していたはずだ。後ろには南しかありえない。
すぐにコンパスを取り出す。振れる指針はゆらゆらと揺れながら一方に向かって固定化していく。
その指針はまっすぐと今自分が向いている方向をさした。
自分が向いている方向は北のはず、赤く塗られた針は正面。つまりN。
コンパスが壊れたわけじゃなさそうだ。だったら……
強力な光源。
魔法か? だとしたら効力継続時間が長い。パチュリーの日符「ロイヤルフレア」よりもずっと長い。「ロイヤルフレア」も長いけど。
それにオレンジ色の光だ。魔法のように精錬された光じゃない。もっと荒々しい自然の……
「自然の? そうか、火事か!」
火事? 火事だって?
火事くらい人里で住んでいたころに何回か見かけた事くらいある。
でも、これほど空を焦がす火事はそれらの比で無い大火災だ。
居る、確実にあそこにゲームに乗った奴が居る。
そいつが火を放ったんだ。
距離はそう遠くない。
無意識にのどを鳴らしていた。
本来ならば一度家に帰ってから準備をして見に行くべきなのだろう。
でも、少しだけなら大丈夫なのでは? ……大丈夫だよな?
時間はまだある。それに急いでいけば其処に誰が死んでいて誰が生きているか分かるかもしれない。
存在する確立は時間に比例して低くなる。
警戒に警戒を重ねれば……大丈夫。
魔理沙は踵を返して空を焦がす大火災現場へと向かった。
〆
たとえ気がついていたとしても喋ることはままならないだろうが。
ヒューヒューっと魔理沙の細く弱弱しい息が嫌にでも耳に流れ込んでくる。
答えは『死に掛けている魔理沙』だった。
時間は少し遡る。
「お?」と、久々に明るい声を出した魔理沙。彼女の視線の先には一本の灯りがついたままの懐中電灯が落ちていた。
もともと物が捨てられない、物を集めるのが大好きの蒐集家である魔理沙だ。
すぐに近づいてその懐中電灯を拾い上げた。
カチカチとスイッチをつけたり消したりする。
幻想郷にはない文明の利器だ。霖之助が似たようなものを何個か持っていて、魔理沙も見たことがあった。
しかし、当然あの森近霖之助が使い方の分かる便利な道具をホイホイと手放すわけが無い。非売品の域までには達していなかったが、高級品として販売されていたのだった。
「異変が終わったら香霖に売りつけてやるぜ」
売るほうの高級品ということは買うほうの高級品でもある。逆もまた然りで、売りつけるほうも高級品なのだ。
魔理沙は魔法使いだ。
それも光と熱を得意とする魔法使いだ。
懐中電灯よりも優れた光源を発生させるマジックアイテムなら家にごまんとある。
自分の趣味に時間をとることが出来て少し気分が良くなった気がする。
気分がいいことはいいことだ。精神的にヘルシーな状態を意味する。効果としては、解けなかった問題が解けるようになったり……
悪く言えば、調子に乗った。うかれた。
訓練された兵士でさえ気がつかないことがある足元に低く張られたワイヤーに魔理沙がどうやって気がつくことが出来ようか?
今の現代人ならば「地雷」という兵器の怖さや危険性。『どこにあるのか』を多少は知っていただろう。
しかし、魔理沙は現代人でもなければ、戦の中で育ったわけでもない。普通の魔法使い霧雨魔理沙だ。
死神の鎌に足を引っ掛けたのは数秒とかからなかった。
軽い爆発音とともに地雷が跳躍した。
魔理沙がそれを地雷だと認識する暇は無かっただろう。
2度目の爆発。はじめのそれよりも数段大きい爆発であった。
魔理沙はとっさに木の陰に入ろうとした。長年弾幕の嵐の中で舵を取ってきただけはあり、危険察知能力は他者のそれを凌駕していた。
尤も、地雷が爆発するまでにそんな行動を終わらせることなど出来るはずがない。
爆発エネルギーで急加速したボールベアリングが面となって魔理沙を飲み込んだ。
魔理沙の体は数メートル中を舞い、硬い大地に叩きつけられた。
それから数分、5分もかからなかっただろう。八雲藍がやってきたのだった。
「これほどの炎は久しいな」
燃え盛る竹林を横目に八雲藍は竹林から遠ざかっていた。
これほどの大火災だ。近くの気温はぐんぐんと上がり、まるでサウナ……いや、蒸篭の中のようになってしまう。
寒さにも暑さにも強い九尾の狐だが、適温の環境に居るほうが居心地がいいのは言うまでも無かろう。
彼女の行動方針はゲームの阻止、中止。つまり潰す。
しかし、現状況のゲーム阻止のステップとしてはフェーズ10も行っていないだろう。
第一に行く先が決まっていない。
ぶらぶらと歩き回って、ゲーム阻止のための仲間や敵、敵関係者を探すなど、あまりにも効率は悪い。
でも、それしか方法が無いのだ。
故に……
ドカッ!……
初めにオレンジ色の閃光が、次に破裂した爆音が、次に焼けるような熱風が来た。
「! 爆音!?」
故に、簡単に目的地を見つける。
藍は爆発が聞こえたほうに向かって走った。
音がした地点に向かう藍。
その道中はおかしなことが起きている。
木の幹になぜか小さな穴がいくつも開いているのだ。
近づく毎にその穴の数は増えていく。
藍にいやな既視感が襲った。どんな既視感かといえば、ついさっきの出来事の既視感だ。
爆発、そして死体。
藍が永遠亭に居るときに起こった爆発。そして救えなかった命。
ほんの数時間前の事を繰り返しているといっても過言ではないだろう。
藍がこの先にあるものを予想する。いやな予想だ。あたらなくていい、むしろあたらなかったらどんなにいいことか。
藍が予想したものとは、死体だ。
答えが出たのは数分後だった。結果は『はずれ』だった。
地雷の爆心地、そこにあったのは『普通の魔法使い』だった。
八雲藍は声が出なかった。理由は魔理沙だ。
吸血鬼や宇宙人、はたまた天人や地霊殿の姫だったら何か言うことが出来ただろうけど、よりにもよってあの魔理沙だ。
「…………」
出会ったほうの魔理沙も、何もしゃべらなかった。
まだこっちに気がついていないのかもしれない。
八雲藍は思った。
魔理沙は運がいい。そして、運が悪い。と……
魔理沙の頭部には傷一つ無かった。そして、体のほうもほぼ無傷であった。
理由はずたずたになった隙間の袋である。
偶然にも隙間が盾の役割を果たし、魔理沙の体をある程度守ったのだ。
頭部の方はとっさに身を隠そうとした木のおかげである。頭部しか隠す時間は無かった……
これは運がいいことだ。
運が悪いとはこのことだ。
両脚部がひどい。
ベアリングが当たったのだろう。まるで麻疹のように赤い点がぽつぽつと開いている。もう歩けるかどうか怪しいレベルだ。
それに、木と隙間の袋の両方に守られなかった首に被弾していた。
内臓はほぼ健全であり、脳も異常は無い。
ただ、空気を送るためのの気管を破損してしまったのだ。
のどの切れ目から血があぶくとなって出ている。空気を思うように吸うことが出来ずヒューヒューと空気が漏れる音が聞こえる。
藍は思った。
治療しなければ長くは持たない。
藍は隙間の袋を放り投げると自分の袖を破りとった。
それを首と両足に巻く。
足はいい、問題は首だった。
包帯を巻いたところで空気の流出を止められはしない。本当なら緊急手術が必須だ。
だが生憎、十分な設備も道具も部屋もピンとキリの一つも無い。こんな雑菌だらけの森の中だ。すでに破傷風になっていたっておかしくも無い。
否、道具ならある……かもしれない。
藍は先ほど投げ捨てた隙間袋を睨んだ。
紫様の能力を模した袋だ。どうか紫様の御加護が須臾でもあるのなら、この者を救う道具を……!
先ほどの妖怪の持っていた隙間も合わせて2つ。天狗の団扇を除いて最大で5つもの道具がここにあるはずだ。
隙間の中に手を突っ込み手に触れるものを片っ端から出していった。
途中説明であった放送らしきことがあったが、禁止エリアの発表を耳に挟んだ以外、聞いている暇など無かった。
水、違う…… 食料……違う。
全部の道具が地面に散乱していた。
日用品、武器、服……
どれもこれも人を殺すためのものか、まったく使えないものばっかりだ。
この中には一つとして人を助けるための道具が含まれていなかった。
藍は膝を折って地面に項垂れた。
拾おうとする。されど、まるで手のひらがザルになったが如く、指の間からボトボトと落ちていく命の風景が脳内を駆ける。
藍の中に絶望が広がり始めた。極太のペンで塗るように恐るべき早さである。
そのときだった、一点の希望の光がちらついた。
藍にとってそれは、崖から落ちているときに偶然発見した絶壁に生える木の枝のようなものだった。自由落下を続ける体で木の枝に掴むことなど神技に近い、でも絶望に完全に染まることを阻止するには十分過ぎる力を持っている。
藍はずたずたになった魔理沙の隙間袋を視線に捕らえていた……
ボールベアリングによって穴だらけにされた隙間袋。
もはや普通に使うには難がある形状である。当然、中身が健全であるとは思えない。
薬のビンや袋にボールベアリングが命中していたら魔理沙に服薬させることが出来ない。
外科手術用の道具にボールベアリングが命中していたら魔理沙を手術することは叶わない。
早くも希望の光に影が射す。
ああ、誰でもいい。
奇跡でも幸運でも運命でもいい。それを操れるのならこの袋の中に魔理沙を助けるものを用意してくれ……
本来なら一回深呼吸してから開くのがいいのかもしれない。ご利益がありそうだし。
しかし、魔理沙は呼吸困難の生き地獄。すでに地獄の釜の底に足を浸しているという例えも間違いではない。道具が無ければ死んでしまう。一刻の猶予もないんだ。
隙間の中はひどいものだった。
まず水の入った容器が全て破損していた。外から見ても分かっていたが袋は水浸し状態だ。
その他の懐中電灯などの道具にもボールベアリングがめり込んでいる。
そんな中、とある箱を見つける。
透明の素材で作られた箱だ。
手にとって調べてみる。
……これは少し前に紫様が持って帰ってきた『mp3プレイヤー』という奴だろう。同じ箱の中にはBluetoothといわれる装置を使ったイヤホンが添えてある。
この透明な素材は水をはじくらしく中はぬれていなかった。
しかし、ボールベアリングの被害は残念ながら受けている。
本体は見たところ大丈夫そうだが、保障証やら説明書やらが収められている場所を通過して穴が開いている。読めそうに無い。
魔理沙の治癒にはまったく関係の無いハズレだ。
他には無いのか?
袋に再び手を入れようとしたときだった。
一つの小さな壺が袋の中から転がり出てきた。
自分でも私の目の色が変わることが分かった。
ばねで弾かれたかのように壺に飛びつく。何だこれは? 薬か!?
多少たじろぎながらも、藍は冷静だった。
もしかしたら毒薬かもしれない。何か確証がないと使うわけにはいかない。
物品があるなら説明書があるはずだ。袋の中を探す。
ここで私の運は尽きていた。
ひどく破損した白紙、水を吸って滲む文字。
この壺の中身の使い方を記したものだろう。それを読むことは叶わなかった。
手元にあるのは毒とも薬とも酒とも分からぬ何かが入った壺一つ。
眼下には今なお虫の息の魔理沙。
壺の封をとくとべた付く位甘い香りがした。蜜のようなとろみのある液体がつぼの中に満たされている。
酒じゃないとしても毒か薬か分からない。
そもそも塗り薬なのか飲み薬なのかも分からない。
永遠亭で読んだレポートがフラッシュバックする。あれのに記されていた薬は強力な毒薬ばかりだった。
ヒューヒューという魔理沙の息も私が駆けつけたときよりだいぶ大人しくなってきている。
例え毒薬であったとしてもこの薬を使用しないという選択肢はすでに脳内から排除した。
やらずに死ぬならやって死ぬべきだ。私じゃないけど。
私は壺を逆さまにひっくり返すと魔理沙の口の中に流し込んだ。
普通の魔法使いは死んだ。
時間はそう掛からなかったと思う。
心が痛んだ。
あの元気な魔理沙とこんなに早く分かれることになるとは思っても居なかったからだ。
妖怪と人間は寿命も何もかも違う。先に逝くのは決まって人間だ。
だけど、妖獣が知り合いの人間が死ぬのを見て悲しくない? そんなわけ無い……悲しいさ……とっても悲しいさ……
反対に激しい焦燥感にも襲われた。
一刻も早くこのゲームを中止させなければ、さらに犠牲者が増えてしまう。
藍はすぐにその場から立ち去った。
【F-5 爆心地付近・一日目 朝】
【八雲藍】
[状態]やや疲労
[装備]天狗の団扇
[道具]支給品一式×2、不明アイテム(1〜5)中身は確認済み
[思考・状況]紫様の式として、ゲームを潰すために動く。紫様や橙と合流したいところ
[行動方針]永琳およびその関係者から情報を手に入れる
「うわっ!」
普通の魔法使いは死んだ。
はぁはぁと息を荒くする魔理沙。額にはびっしりと玉の汗が浮かんでいる。
「――ろくでもない夢を見たぜ……」
ふぅと不快でしかない汗を袖で拭う……
おいおい、こんなことがあっていいのか?
なんで袖が無いんだよ。
おかしいぜ!? だって私は長袖の服を着ていたはずだ。半袖の服だって着るけど、今日は間違いなく長袖のはずさ。
その袖がズタボロだ。こんな袖じゃ汗を拭うことすら出来はしないぜ。
そもそも『今日』ってなんだよ! 何で寝るのに外出着を『今日』着ないといけないんだ。そもそも、私が起きる場所っていったら布団かベッドの上に決まっている。
こんなパサパサカチカチの砂地の地面の上じゃないぜ。
――夢だよな。
私があの爆弾に吹き飛ばされて、その後にあいつの式が来て私に何か飲ませたってのは夢じゃないのか?
――夢じゃ……無いんだよな……
ぞくっと悪寒が走る。
死に飲み込まれる感覚がまだ体に残っている。
走馬灯とか三途の川とかそんなチャチなものじゃなかった。完璧なる無の空間、光も音も重力も無い。不思議な感じ。
もうあんなところ一生行こうとは思わない。思いたくも無い。
「……っ!」
そのとき、足に鈍痛が走った。
ぐるぐるに巻かれた包帯代わりの服。藍の服だ。夢じゃない動かぬ証拠だ。
でも、待ってくれ。何で私は生きているんだ。喉に手を当てて確認してみるも、血は付いているけど、出血はしていない。傷が塞がっている。
答えは近くに落ちていた壺に記されている。
そう、魔理沙が飲んだ薬壺だ。
やけに捻りの入った古風の漢字であった。そのため急いでいた藍は模様と見間違え、スルーしてしまった。
『蓬莱の薬』
不老不死の薬は世界各国で研究されている。
よって形状もさまざまだ。某国では木の実の形をしていると呼ばれ。またある国では水銀と他の物質を混ぜた液体金属の形状を取っていると信じられている。
蓬莱の薬がゲル状であっても問題ではない。問題は効果のほうだ。
この薬を服用した場合。蓬莱人、つまり不老不死になる。
しかし、今は殺人ゲームの中だ。不老不死の蓬莱人にも制限が掛かる。しかしだ……
20秒
服用してから20秒の間だけ蓬莱人としての本来の力を発揮できる。
20秒経過後は『ゲームの制限を受ける蓬莱人になる』
大した怪我ではなかった魔理沙は20秒の間に致命傷となる首の傷を完治することに成功した。足のほうは完治するに時間が足りなかったが……
もし心臓や脳を破壊されていたならたった20秒では完治することは出来ずにそのまま死んでしまう。
彼女は運が良かったのだ。
普通の魔法使いは死んだ。理由は普通じゃないから。
今の彼女は蓬莱の魔法使いだ。
そして彼女はまだ蓬莱人の苦悩をぜんぜん理解していない。
それでも、今だけは生の喜びを味わうくらいはいいだろう。
【F-5 爆心地・一日目 朝】
【霧雨 魔理沙】
[状態]蓬莱人、足に怪我(蓬莱効果である程度回復)、服が破れていたり血塗られていたりします
[装備]ミニ八卦炉、ダーツ(5本)
[道具]ダーツボード、mp3プレイヤー
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1. まずは仲間探し…
2. 霊夢、輝夜を止める
3. 真昼(12時〜14時)に約束の場所へと向かう。
4. リグルに対する罪悪感
※主催者が永琳でない可能性が限りなく高いと思っています(完全ではありません)
※霊夢から逃げる際に帽子を落しました。
※永琳から輝夜宛の手紙(内容は御自由に) はまだ隙間の中です
※隙間はほぼ全壊、まだかろうじて使えるレベルです。
※蓬莱人化しました。人間のときより傷の回復がだいぶ早くなっています。
※自分が蓬莱人だとはまだ気が付いていません。しかし、うすうす何か違和感を感じています。
代理投下終了。
乙です。
早速地雷が炸裂するとは予想外だ。
普通でなくなったことは、普通の魔法使い霧雨魔理沙にどう影響を与えるのか。
普通の魔法使いは死んだ。
時間はそう掛からなかったと思う。
心が痛んだ。
ああ、私はなんと言い訳をすればいいのだろう?
「うわっ!」
普通の魔法使いは死んだ。
はぁはぁと息を荒くする魔理沙。額にはびっしりと玉の汗が浮かんでいる。
「――ろくでもない夢を見たぜ……」
ふぅと不快でしかない汗を袖で拭う……
おいおい、こんなことがあっていいのか?
なんで袖が無いんだよ。
おかしいぜ!? だって私は長袖の服を着ていたはずだ。半袖の服だって着るけど、今日は間違いなく長袖のはずさ。
その袖がズタボロだ。こんな袖じゃ汗を拭うことすら出来はしないぜ。
そもそも『今日』ってなんだよ! 何で寝るのに外出着を『今日』着ないといけないんだ。そもそも、私が起きる場所っていったら布団かベッドの上に決まっている。
こんなパサパサカチカチの砂地の地面の上じゃないぜ。
――夢だよな。
私があの爆弾に吹き飛ばされて、その後にあいつの式が来て私に何か飲ませたってのは夢じゃないのか?
――夢じゃ……無いんだよな……
ぞくっと悪寒が走る。
死に飲み込まれる感覚がまだ体に残っている。
走馬灯とか三途の川とかそんなチャチなものじゃなかった。完璧なる無の空間、光も音も重力も無い。不思議な感じ。
もうあんなところ一生行こうとは思わない。思いたくも無い。
「……っ!」
そのとき、足に鈍痛が走った。
ぐるぐるに巻かれた包帯代わりの服。藍の服だ。夢じゃない動かぬ証拠だ。
でも、待ってくれ。何で私は生きているんだ。喉に手を当てて確認してみるも、血は付いているけど、出血はしていない。傷が塞がっている。
答えは近くに落ちていた壺に記されている。
そう、魔理沙が飲んだ薬壺だ。
やけに捻りの入った古風の漢字であった。そのため急いでいた藍は模様と見間違え、スルーしてしまった。
『蓬莱の薬』
不老不死の薬は世界各国で研究されている。
よって形状もさまざまだ。某国では木の実の形をしていると呼ばれ。またある国では水銀と他の物質を混ぜた液体金属の形状を取っていると信じられている。
蓬莱の薬がゲル状であっても問題ではない。問題は効果のほうだ。
この薬を服用した場合。蓬莱人、つまり不老不死になる。
しかし、今は殺人ゲームの中だ。不老不死の蓬莱人にも制限が掛かる。しかしだ……
20秒
服用してから20秒の間だけ蓬莱人としての本来の力を発揮できる。
20秒経過後は『ゲームの制限を受ける蓬莱人になる』
大した怪我ではなかった魔理沙は20秒の間に致命傷となる首の傷を完治することに成功した。足のほうは完治するに時間が足りなかったが……
もし心臓や脳を破壊されていたならたった20秒では完治することは出来ずにそのまま死んでしまう。
彼女は運が良かったのだ。
普通の魔法使いは死んだ。理由は普通じゃないから。
今の彼女は蓬莱の魔法使いだ。
「魔理沙……」
「うわっ! ――ってお前は……」
突然、魔理沙の後ろから声が聞こえ、魔理沙はあわただしく振り返った。
立っていたのは八雲藍だ。魔理沙の頬に一粒の汗が流れた。
「覚えているよな。八雲紫の式、八雲藍だ」
魔理沙は藍の言葉に2通りの意味を見出した。
片方は普通の意味としての覚えているか。
もう片方は自分がこいつになにをされたか……をだ。
「ああ、しっかり覚えているさ。2つともな……」
「……すまない」
「何で謝るんだ? 私を助けてくれたのに謝られれば私は誰に感謝すればいいんだ?」
「だが……っ、しかし」
「しかしもだっても無しだ。私はお前に助けられた。ただそれだけだ……」
「……分かった」
藍はまだ煮え切らないといった表情だった。また、魔理沙も口では元気そうなことを言っているが、ベッタベタな恋愛ドラマを第三者目線で見るような冷えた表情を浮かべている。
「なぁ……私って人間だよな?」
藍は答えを見つけることが出来なかった。
【F-5 爆心地・一日目 朝】
【霧雨 魔理沙】
[状態]蓬莱人、足に怪我(蓬莱効果である程度回復)、服が破れていたり血塗られていたりします
[装備]ミニ八卦炉、ダーツ(5本)
[道具]ダーツボード、mp3プレイヤー
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1. まずは仲間探し…
2. 霊夢、輝夜を止める
3. 真昼(12時〜14時)に約束の場所へと向かう。
4. リグルに対する罪悪感
※主催者が永琳でない可能性が限りなく高いと思っています(完全ではありません)
※霊夢から逃げる際に帽子を落しました。
※永琳から輝夜宛の手紙(内容は御自由に) はまだ隙間の中です
※隙間はほぼ全壊、まだかろうじて使えるレベルです。
※蓬莱人化しました。人間のときより傷の回復がだいぶ早くなっています。
※隙間の中に入ってたものは地雷の被害を受けている可能性があります
【F-5 爆心地付近・一日目 朝】
【八雲藍】
[状態]やや疲労
[装備]天狗の団扇
[道具]支給品一式×2、不明アイテム(1〜5)中身は確認済み
[思考・状況]紫様の式として、ゲームを潰すために動く。紫様や橙と合流したいところ
[行動方針]永琳およびその関係者から情報を手に入れる
修正版を投下しました。
ミスが多くてすみませんでした。
すみませんでした。
確かに私は複数の人物を装いました。IDが表示されていないというシステムを悪用したものです。
確かに私は ◆MajJuRU0cM氏の作品に良く思ってないふしがありました。永琳がなぜあんな行動をとったか理解できなかったからです。
そのレスでひどいこともレスしました。◆MajJuRU0cM氏が自分の作品を批判されて怒るのも分かります。
でも、それは◆MajJuRU0cM氏が嫌いなわけではなく、◆MajJuRU0cM氏の作品の永琳の行動が理解できなかったという一点のみです。
◆MajJuRU0cM氏のレミリアとキスメの話は好きだったし、霊夢の鬼巫女化も面白いとおもいました。
私はこのロワを成功させようと初期のほうから努力したつもりです。
地図を用意したり、ルールを決める話し合いに参加したり、wikiを修正したりもしました。
それで一つお願いがあります
私が過去に何をしたのでしょうか?
私は ◆27ZYfcW1SM として何をしたのでしょうか?
◆27ZYfcW1SMとしての私は常に東方ロワを完成させるための書き手の1人としてSSを書き、そして指摘がきたなら出来るだけ修正にすばやく答えようと時間を割いて直してきました。
ミスティアが死ぬ話も書きましたし、反感も多かった星熊勇儀と風見幽香の決着も強いながら通したこともありました。
それが悪かったのでしょうか? 違うと思いますが、一つの要因になっているかもしれません。すみませんでした。
ですが、私がSSを書いた以外に何か不快感を与えるようなことはしましたか?
読み手の時の私は少々荒々しかったと思います。
毒吐きスレに書き込んだことだってあります。
もしかして問題起こしているといっているのが読み手としての私だったのですか?
なら書き手は毒を吐いたらいけないのですか?
だとしたら読み手としての自分は封印して書き手だけで参加するのはだめなのでしょうか?
読み手の私も書き手の私もどちらも東方ロワを完結させようと思っているのは確かです。
私に過失があったところは素直に謝罪します。本当にすみませんでした。
問題を切り分けて私見を述べさせてもらいます。
まず◆27ZYfcW1SM氏。
あなたの主張は書き手としての自分と読み手としての自分を別として見てくれというものですが、
厳しいことを言えば、それは子供じみた我侭でしかありません。
システムを悪用したとご自身で仰っているように、恣意的な言動の使い分けは一般的に
好ましからざる行為であると認識されることはご理解いただけており、またその上で
他者に識別可能な掲示板でそういった行為を続けられた以上、今回のような事態も
当然想定されていてしかるべきであったかと思います。
個々の発言は書き手として、読み手としてではなく、あなた個人としての責任を伴ったものであると
ご理解いただき、今回の顛末をもう一度よくお考えいただければ幸いです。
次に◆MajJuRU0cM氏。
あなたの行為には眉を顰めざるを得ません。
投下数において本企画屈指の書き手である◆27ZYfcW1SM氏に対する規制については
住人に対する詳細な説明及び明確な理由を提示するのが掲示板管理者としての義務であると
指摘させていただきます。
翻るに「過去に色々と問題を起こしている」とありますが具体的な提示がありませんし、
議論スレ・感想スレを拝見する限りにおいて「客観的に見てあまりに悪質」であると
判断し得るとは考え難い状態であると見受けられます。
また管理人の作品に関する議論中というタイミングで指摘側の書き込みを一方的に規制するという処置も
極めて首肯し難く、率直なところ「自作品を否定された腹いせのやりすぎた行為」以外の何物でもない、
有り体に申し上げて管理権限の濫用であるという非常に強い悪印象を覚えました。
議論に対する態度として極めて不誠実であり、また本企画において重要な位置を占める掲示板の管理者として
信任を問われかねない問題行為であると率直に受け止めていただけることを切に希望いたします。
どーでもいいやと思っていたが作者二人の問題ともなると放っておけないよね
一作者として今回の件について意見させてもらう
まず27氏
読者として行った事は最低、規制されても仕方ないレベル
作者が他の作者の作品を故意に没作にしようとするのは最もやってはいけない事
完結を真に願うのならばそんな他の作者の心軸を折るような事をしちゃいけない
ただ、あなたは昔から何か問題があったというわけじゃない
貴方の作品は面白い作品だし、wikiも地図も他の人の励みになっているのは事実
その点については誇ってもいい点だと思うし自分は尊敬してる
魔がさしたって事はよくわかるから個人的にはこれからも作者として読者として尽力してもらいたい
次にMaj氏
今回レスさせていただこうと思ったのは『非難を受けた作者がしたらばの管理人だった』という異例から
このBRは個人的なものではなくリレー形式の物なんだからいろんな見解が生まれるのは否めない
今回の件もそんな見解の違いによって起こったわけだし
ただ、規制するのは明らかに行き過ぎた行為だと思う
自作自演だと判明したのなら『○○は××の自作自演でした』と書けばそれで解決する程度の話
その後はスレ住民でもう一度その事について議論するなりなんなりのアクションが起こった筈だ
自分としてもMaj氏の槍玉に挙げられていた作品には違和感を覚えていたし、議論スレのレスにも同感していた
一度スレ住人に報告してから反応を見る、というのを管理者として心掛けてほしい
こんなことでしか盛り上がらないんだよなぁ、ここは
話は変わるが、霊夢の現在地ってD-6って書いてあるけどD-3じゃね?
その辺gcさん教えてちょうだい
>>159 すいません、ミスです。
今、修正しました。
閻魔は紅の悪魔と契約を交わした。
悪魔との契約には代償が付き物。それを閻魔は一人で全て担う形となった。
最初に支払うべき代償は
「なるほどね。あなたには今二人の仲間がいて、そいつらは館の見回りを担当していた。
名前はリリカ・プリズムリバーと黒谷ヤマメ。今はあなたに代わって正門の監視をしている、と。
間違いは無いかしら?」
映姫はまず、レミリアに仲間の存在と現在の状況を説明した。
そしてレミリアはその情報を受け、質問を返した。
「ええ。ですが、彼女たちは私に命じられて行っただけのこと。あなたに代償を支払う義務はありません」
「分かっているよ。私達は条件をそろえてくれればいいのだから。ただし、早急に頼むけどね」
映姫はあくまでも一人で条件をこなすつもりらしい。
仲間に手伝ってもらえと言ってもよかったのだが、相手にもそれなりの事情があるものだ。
そう思い、レミリアはこれ以上の指図はしない。
その横で
「あの・・・ね、閻魔さま!ヤマメちゃんがいるって、ほんとう?」
と、キスメが首を突っ込んできた。
普段の彼女は内気な性格ゆえに、どんな相手に対しても人見知りをするのだが、友人のことが話題になっているというならば、聞かずにはいられないだろう。
「ええ。失礼ですが、あなたは彼女とは面識があったのですか?」
そのキスメの様子を疑問に思った映姫もすかさず質問をした。
「ああ、この子ね、そのヤマメという土蜘蛛とは友人なのよ。ねぇキスメ、そうでしょう?」
「うん!早く会いたいな・・・」
見た目の印象とは真逆な明るい笑顔のキスメ。それはとても、地下に住む忌み嫌われし妖怪には見えない。
情報交換(ほとんど一方的だが)を終えた3人は一旦、二階のテラスに移動した。ここからは正門の様子が手に取るように見えるとのこと。
「私はこれから罠の撤去および要求された物資を調達しなければなりません。
ですから、私の代わりにあなたたちには正門を見張っていただきます」
しばらくの間、映姫は監視につくことができない。よって、自分の代わりを立てる必要がある。
テラスに移動したのはそのためだ。
「あら、あなたの仲間がやってくれるんじゃあなかったの?私達は館の中を調べたかったのだけど」
ただ、レミリアはやや不満に思っている。
自分の住処にも関わらず、自由に行き来できないのだから無理も無いだろう。
「申し訳ありませんが、我慢をお願いします。
あなた達は私達が仕掛けた罠の場所や構造を知らないでしょう。
中には生命に関わるものも存在するのです。罠にかかってもそれでも進もうとする者が掛かる仕組みになっています。ですから・・・」
「ならさっさとそいつを片付けなさい。薄汚い蜘蛛の巣が張った館なんて考えたくも無いわ」
小さな体に似つかぬ威圧感を持つ吸血鬼。ただ、そんな彼女も根は外見相応のわがままなようだ。
そんな彼女を見ながら映姫はため息をつき、作業へと戻っていった。
レミリアたちをテラスに残した後、映姫は携帯電話で連絡をすることにした。
契約という形に近いものの、レミリアと同盟関係を結んだということを伝えるためだ。
レミリアはリリカを威嚇したと言った。少なくとも彼女はこれで混乱しているだろう。そんな状態でレミリアと接触させるわけにはいかない。
そう思い、電話をつないだのだが・・・
「・・・おかしい。出ませんね」
繋がってはいる。ただし、それから出ようとはしない。
これは一体どういうことだろうか?
あまりの恐怖で電話に出ることすら考えられないのだろうか。そう考えていると
『ただいま、電話に出ることが出来ません。ピーッと鳴ったら、お名前とご用件をお話ください』
と言う声が聞こえた。
声は二人のものではない。とうことは、これは説明書で書かれてある留守番電話という機能だろう。
なるほど。これならば相手が出なくてもメッセージを伝えることが出来る。
向こうの用件を聞けないのは残念だが、このまま何もしないよりはましだろう。
そう思い
「リリカさん、ヤマメさん。私、映姫です。
紅魔館の主、レミリア・スカーレットが館に入りました。
ですが、交渉の結果、同盟関係を結ぶことが出来ました。彼女は現在、二階のテラスで正門の監視をしていますが、見つけても慌てないように。
また、彼女はキスメという名の妖怪と同行しているとの事。彼女はヤマメさんの友人と言っていますが、ヤマメさんは彼女を知っていますか?
なお、私は現在、レミリアさんの要求により一階に仕掛けた罠を撤去しています。これが彼女と同盟関係を結ぶ条件の一つですが、不満があるようでしたら遠慮せずに私に申し出てください。
あなた達は館の見回りに戻ってください。ただし、テラスに近づくのは控えるように。
彼女を信用していないわけではありませんが、私抜きで対面して混乱を招く可能性があることを考えてのことです。
以上で私が伝えたいことは言いました。罠を撤去後、また電話を掛け直しますが、その前にこのメッセージの存在を知ったならば、連絡をお願いします」
分かりやすく、はっきりと伝えた。
ただし、向こうの状況が分からないため、これだけで充分とは思わない。やはり確実なのは直接自分から二人に会って伝えることだろう。
それにしても、連絡を絶つなんて、二人は何をしているのか。
突然現れたレミリアに恐怖を抱いて何も出来ないのだろうか?
もしそうだとしたら、そのレミリアと接触している自分に無事かどうかの心配する電話を入れてもいいと思うのだが・・・
―――時は若干進む
その頃には、映姫は二階に仕掛けた罠を全て撤去した。少なくとも、これで二階ならば自由に動き回ることが出来るだろう。
もっとも、この階は元々大した量の罠は仕掛けていない。侵入者は二階へ来る前に一階で身動きが取れなくなることを前提としているためだ。だから、メインは一階にある。
映姫はこのことをレミリアに伝えるために、彼女のいるテラスに戻った。
突然の来客とはいえこの館の持ち主でもあるため、何の連絡も無しに待たせるのも失礼だろうと思ったからだ。
「二階はこれで終わりでしょう。少なくとも、この階だけなら動いても心配はないと思います」
「へぇ、以外に早かったわね。咲夜並み、もしくはそれ以上に手際がいいのね」
映姫が作業に戻ってからまだ大した時間は過ぎていない。その速さにレミリアは感心しているようだ。
「元々、この階には大した罠はありません。多くは一階に仕掛けていますから。
紅魔館は悪魔の住処。進入したら最後、進むことも退くことも許されず死の運命を待つのみ。
少なくとも、そのように再現したつもりです。偽の建物だったとはいえ、この世界に不可欠な本物の存在は尊重したいと思っていましたから」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
悪魔は人妖にとって、恐怖の象徴だ。それの住処があるとなると、いかなる者でも立ち入ろうとは思わない。
このように、万物に恐怖を与えること。それが悪魔の正当な生き方だ。
いかなる生物にもそれに合った生き方をする。それが世界のバランスを保つことにつながり、これが閻魔の言う善行にあたる。
映姫が紅魔館に罠を仕掛けたのは、侵入者を防ぐ他にも悪魔にとっての善行そのものを表していたのだ。
それなのに
「妖怪にすら恐れられる死の館は、全世界を恐怖に陥れる。それなのに、あなたはこの館に客を招きすぎている。そして、その客は何事も無く帰っている。
悪魔の住処に入っておきながら無事に帰れることなどあってはならぬこと。これはどういうことですか。こんなことで人妖が紅魔館を恐れると思っているのですか。
悪魔にはあってはならぬ出来事ですよ。それなのに、あなたは・・・」
閻魔である自分はともかく、リリカやヤマメといった低級の妖怪や霊までも躊躇無く簡単に出入りしている。これでは、もはや悪魔の住処とは言えない。
映姫は仲間二人と出会った時から思っていたことをくどくどとレミリアに言いつける。その光景はまるでいつもの閻魔の説教だ。
「はぁ〜あ。やっぱり始まったわね、噂に聞く説教が。今はそんな無駄話はいいでしょう?
それに、私は招き入れているのはあくまでも私が客とみなした相手だけであって、部外者のネズミどもには侵入すら許しちゃいないから。勝手に変なことを言ってほしくないわ」
そんな説教を、レミリアは聴く耳持たないと言いたげな呆れた顔で中断させ、くるっと背を見せる。
「それよりも、まだ罠は全て撤去していないんでしょ?だったらそいつも全て片付けなさい。
口うるさい説教なんてその後にでも言えばいいわ。もっとも、無駄話は聞く耳はないけどね」
そしてそのままテラスへと戻り、正門の監視を再開した。ここまで閻魔の話を堂々と無視できる者はそうはいないだろう。
「全く、あなたという人は・・・。いずれ罰を受けても知りませんよ」
そんなレミリアの様子を見た映姫は、これ以上は時間の無駄だと思い諦めた。
彼女の言うとおり、殺し合いの場においてはそれとは関係の無い長話は今はするべきではないこともあるが、ああいう輩にはこのまま何を言っても無駄だと思ったからだ。話をすぐに忘れる夜雀や氷の妖精とは次元が違うのだ。
支援
結局、映姫はレミリアに対してはこれ以上の話をせずにまた作業場へと戻った。
そのため、テラスにはまたしても少女が二人だけ残されている。
「やれやれ、口うるさい閻魔が仕事に戻ったとはいえ、暇よねぇ」
「うー、むつかしくて分かんなかった・・・」
「あんな長話なんて聞かなくてもいいのよ」
説教をする相手がいなくなったとはいえ、その次に訪れるのは暇という名の雰囲気。
レミリアとキスメは特にこれといった会話もせず、ただずーっと正門を見つめていた。
「ところでキスメ。あなたはずーっと外を見ていたようだけど、誰か見つけたかしら?」
レミリアは無理矢理にでも話を続けようと思い、キスメに質問をした。
特にこれに目的は無い。どうせ、この館に入ろうとする愚か者なぞいやしないのだから。
「ううん、誰も・・・」
「そうよねぇ。なんたって、私が今まで守ってきた砦なんだから」
予想通りだ。レミリアはニッと微笑む。
「へぇー、レミお姉ちゃんってすごいんだね!こんなにおっきいお城をずーっと守ってきてるんだもの」
ただキスメにとっては想像もつかなかった妖怪のいげんっぷりだったので、歓喜しているようだ。
そんな彼女の様子を見て、あることを思いついた。
「フフ、凄いのは当然のことよ。なんたって、悪魔の住処なんだから。
本来なら、いかなる者共もお断りすべきなんだけど・・・特別に館の中を見せてあげてもいいわよ?」
「ほんと!?・・・あ。でも、見張りは・・・」
「そんなのやる必要は無いわ。紅魔館に近づく輩などいやしない。そのことは私が一番知っている。だから、監視なんてやる必要は無いのよ」
自慢げにいうレミリア。その表情には一点の曇りすら感じられない。
これにキスメは何だか勇気付けられている気がして、
「うん・・・そうだね!レミお姉ちゃんの言うとおり!」
無邪気な笑顔を浮かべながら、誘いに乗った。
そんなキスメの返事を受け、レミリアはニッと笑い
「さ、そうと分かれば探検よ。ちょうど暇つぶしにもなるでしょうし、あの閻魔の仲間の顔も見てみたいところね」
「うん!」
キスメを連れて、テラスから姿を消した。
【C−2 紅魔館(二階のどこか)・一日目 早朝】
【レミリア・スカーレット】
[状態]健康
[装備]霧雨の剣
[道具]支給品一式
[思考・状況]慢心気分。キスメを案内する
[行動方針]基本方針:永琳を痛めつける
1. 映姫に雑用を任せる。
2. 永琳の言いなりになる気はない。
3. 霊夢と咲夜を見つけて保護する
4. フランを探して隔離する
5.上記の行動の妨げにならない程度に桶を探す
※名簿を確認していません
※霧雨の剣による天下統一は封印されています。
【キスメ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式 不明アイテム(0〜2)
[思考・状況]レミお姉ちゃんについていく。レミお姉ちゃんみたいにいげんする
[行動方針]桶を探す
※殺し合いが起きていることを理解してません。
レミリアたちがテラスから去ってしばらくした頃、映姫は・・・
「やれやれ、流石に私一人だと全ての撤去は骨が折れますね」
そう言うものの、それでも一階に仕掛けた罠はだいぶ片付き、映姫は一息つく。
思えば、レミリアと交渉をしてからはずっと働きっぱなしだ。流石にそろそろ体に疲労がきているし、休むことも考えるべきだろう。
そう思い、玄関付近にある、扉の壁代わりとなっていた家具の一つであるイスに座り込む。
その時
(・・・ん?)
映姫はふとホールの方を見る。
「・・・気のせいでしょうか。何らかの気配を感じたような気がしましたが」
周囲には自分以外に誰もいない。ホールの方も、特にこれといった不審な部分は見られない。
そう思った映姫は
「・・・疲れの所為でしょうか。少し、神経質になりすぎたようですね」
特に気にすることなく、そのまま休憩に入った。
何せ、今は罠という蜘蛛の糸がほぼ取り除かれているのだ。その分、神経質になるのも無理はない。
ただ、今の正門はレミリアが見張っている。その彼女がここに来ない以上、侵入者がいることは無いはず。
窓をぶち破って入ったところで、音で分かる。自分に聞こえなくてもこちらには音の専門家である騒霊のリリカもいるのだから。
蜘蛛の巣を払ったところで侵入者が居るかどうかの判決の行方に影響はない。
少なくとも、映姫はそう思っている。
「・・・それにしても、ヤマメさんもリリカさんも未だ連絡をよこさず。何をやっているんでしょうか」
唯一の気がかりは、二人が連絡を入れないこと。
そのため、映姫は再度こちらから用件を伝えるために携帯電話を手に取った。
【C‐2 紅魔館一階ホール・一日目 早朝】
【四季映姫・ヤマザナドゥ】
[状態]疲労
[装備]携帯電話
[道具]支給品一式
[思考・状況]紅魔館に篭城し、解決策を練る。
1.レミリアに従っていい範囲までは従う
「やれやれ、何なんだいここは。広すぎて迷っちまうじゃないか」
神奈子は守屋神社でメルランを殺害した後、次なる獲物を求めてさまよっていた。
そのためには人が集まりそうな場所に行くのがいいだろう。そう思った彼女が第一の目的地とした場所が
「地図が正しければ、これが紅魔館ね。イメージどおりの広さといったところか」
そう、悪魔の住処である紅魔館だ。
そして現在、神奈子は館の二階にいる。道に迷いそうになったものの、特にこれといったトラブルも無くここまで辿りつく事が出来た。
ここに来るまで、神奈子は誰も見つけられなかった。だが、誰かが館内に居るのは分かる。
何故なら、玄関には大量の家具が散らばっていた。普通では考えられない光景なので、何者かが手を加えたものとしか思えない。
しかも、あれだけの量の家具を短時間で積むことは一人で出来るとは考えられない。複数の人物が居る可能性があるのだ。
状況だけでいえばこっちは一人に対し、向こうは複数で何人いるのか分からないという不利な状況だ。
だが、今のところは逃げる気はない。殺し合いに乗る以上は多少の危険は許容範囲だし、無茶をしなければいい。
それにここは隠れる場所が多い。不意打ちなり暗殺なり出来ることはあるだろう。
このことを頭にいれ、神奈子はひっそりと館内を歩んだ。
神奈子が持つ緋想の剣が不気味に光る。
それは、まるで血の雨が降るのを予報しているかのような輝きだった。
【C−2 紅魔館(二階のどこか)・一日目 早朝】
【八坂神奈子】
[状態]健康
[装備]緋想の剣
[道具]支給品一式×2 不明支給品(1〜5)
[思考・状況]基本方針:東風谷早苗のために全てを駆逐する
1.殺しには手段を問わない
2.諏訪子と戦うことになっても構わない
※メルランが持っていたスキマ袋は回収しています。
戦に望まんとすれば、まず己を知れ。よって、中身も見ているでしょう。
ところで、紅魔館は厳重な警備と罠が張っていたのではないのか?
答えは否。
なぜなら、神奈子が紅魔館に来たのはレミリアがテラスから離れてしばらくした後だ。
しかも、その頃には一階にいた映姫は仕掛けた罠を取り除いている最中だった。
これらの要素が同時に成り立っている状況では館に忍び込むことは容易いはずである。
いや、それも少し違う。
紅魔館は悪魔の住処。すなわち、恐怖の象徴だ。
幻想郷にいる大抵の者は近づこうとは思わないだろう。
だが、神奈子を含む守屋神社に住む3人は紅魔館のことを知らない。
何故なら、彼女たちは幻想郷に来て1年少ししか経っていない。たった1年くらいでは幻想郷の常識を全て知ることは出来ないのだ。
いや、1年もあれば紅魔館の事を理解しようと思えば出来るはず。
そうならなかったのは・・・何故だろうか。
しえん
代理投下終了。
乙です。
神奈子様まで入り混じって、事態が収拾するときにはどーなるんだこれw
今回はほのぼのした雰囲気だが、次はやばい雰囲気しかしねぇw
鉄壁のはずがえーき様涙目過ぎるwww
このまま行くと誤解に乱戦とよりどりみどりですな
まさに「悪魔の館」状態だ……
>>170 この近辺の奴らがここを目指したらなんて考えただけで恐ろしいな
近場に霊夢やら天子やらアリスやらHコンビやら
それこそまさに大爆発が起きる
投下GJです。
うん、素晴らしい。
紫の絶望感と一生懸命さ、理想が崩れ現実を認識する霖之助。
キャラと、バトロワの暗さを、よく表現してると思う。
考察も、薀蓄を絡めて真面目に筋道たてて、なおかつ飛躍するのが、らしくていいね。まぁ、当たってないだろうけどw
?
黒と白の境界 ◆ZnsDLFmGsk
今から代理投下します
僕の選択は本当に正しかったんだろうか。
空を見上げる。
こんな異変の最中だというのに、とても澄み渡った憎々しい程の青空だった。
朝の日差しに隠れ、もう既に星の瞬きは失われていた。
まるで夜の中心であるかの様に誇り輝いていた月もまた同じ。
それ以上に強烈な光を放つ太陽の前では薄く姿を隠してしまう。
でも僕は知っている。
例え見えなくなっていても、太陽の光に紛れてしまっていても、それでも未だ星は瞬き月は輝いているんだと。
僕の選択は正しいのか。
僕は手帳に書いた一文を思い出していた。
正否なんてわからない。
けれどただ目指すべき答えがあるだけだ。
そう心の中で想い、僕は前を歩く彼女に追いつくべく足を速めた。
こうして、幻想郷に平和が戻りました。
【めでたしめでたし】
ふと、心地よい風が花の香りを運んできた。
きっと近くの太陽の畑からのものだろう。
そして、耳障りなノイズの音が響き第一放送が始まった。
【B−7 謎の家前・一日目 早朝】
【森近霖之助】
[状態]ちょっとした疲れ
[装備]SPAS12 装弾数(7/7)バードショット・バックショットの順に交互に入れてある
文々。新聞
[道具]支給品一式(筆記具抜き)、バードショット(8発)、バックショット(9発)
色々な煙草(12箱)、ライター、箱に詰められた色々な酒(29本)、手帳
[思考・状況]契約とコンピューターのため、紫についていく。
[備考]この異変自体について何か思うことがあるようです。
【八雲紫】
[状態]かなり疲労気味
[装備]なし
[道具]支給品一式、不明アイテム(0〜2)武器は無かったと思われる、酒1本
[思考・状況]主催者をスキマ送りにして契約を果たす。
[備考]主催者に何かを感じているようです。
※※今から1〜2時間程前※※
一体どれだけの人が気付いているだろうか。
僕でさえ気付いたのはついさっきのことだった。
気付いて、そして驚愕した。
今現在僕らが巻き込まれている異変がこんなにも大規模なものだなんて。
こんなにも重大な事実に一体どれだけの人が気づいているだろうか。
前に11年蝉の謎を教えた事があったけれど、魔理沙も僕と同じようにこの恐ろしい事実に気付いているだろうか。
いや、きっと魔理沙は気付いていないだろう。
事実、蝉と中陰の関連性すら気付いていたか怪しいものだった。
恐らく今のこの段階で、既に主催者の意図に気付いているのは僕ぐらいのものだろう。
最初から僕は少し疑問に思っていたんだ。
今回の異変は明らかに皆を殺し合わせる事を主にしている。
だけど普通いきなり殺し合えと言われたのでは、例え妖怪でも戸惑い、きっと躊躇うだろう。
だからこその細工、パフォーマンス。
この首輪も力の制限も、そして最初に目の前で一人を殺して見せたのも、
恐らく全部が全部この異変に巻き込まれた皆の恐怖心や焦燥感、無力感を煽って最終的に殺し合わせる為のものだと思う。
これだけでも十分に卑劣で非人道的な行為だ。
けれど、人妖の心理を最大限利用するというのなら、僕はまだもう一手あるのではないかと踏んでいた。
そう、物事は飴と鞭。
言ってしまえば今述べたそれらの仕掛けは“鞭”なんだ。
だからもう一手、もう一つの仕掛けとして“飴”に該当する仕掛けがあるんじゃないかと常々考えていたんだ。
殺し合いに乗り、他者を殺し生き残ることで得られるメリット。
皆の理性を鈍らせ疑心暗鬼をばらまく為の仕掛け。
その飴に該当する仕掛けこそがこれだ。
語られず秘密にされたのはきっと、頭の悪い者よりも頭の良い者にこそ生き残って欲しいという主催者の意志の現れ。
手がかりは幾らもあったし、恐らく分かるものにだけ分かるように仕掛けられた巧妙な仕掛けなんだろう。
だとすれば色々な疑問が解消される。
戦う力のないあの九代目御阿礼の子……稗田阿求がこの異変に巻き込まれた理由も、力ではなく知識や知恵を買われたからではないか。
僕だってそうだ。 確かに戦うことに関しては素人だけど、知識と考察力に関しては妖怪の賢者達と比べても遜色ないものを持っていると自負している。
そして現に僕はその推察力、考察力でこの異変の意図……恐ろしい仕掛けに気付いてしまった。
そう、初めに違和感を感じたのは夜空を見上げた時だった。
まず星座が見あたらなかった。 星の配列が無茶苦茶だったんだ。
それどころか位置を知るのに重要な役割を果たす北極星すらも空にはなかった。
だからその時点で僕は、地図とコンパスの重要性に気付くと共にここが幻想郷でなく別の世界なのではないかと思った。
つまり、この異変を起こした主催者が創り上げた偽物の世界なんだと僕は考えていたんだ。
だけど、そうするとまた幾つか腑に落ちないことが生まれる。
ここが創られた世界だとするなら何故わざわざ幻想郷そっくりにしたんだろう。
世界を創り出せる程の実力者だ。 殺し合いをさせるならもっとそれに適した世界が創れるのではないか。
慣れ親しんだ場所で殺し合わせることで皆の心を揺さぶろうと言う策なのかとも思ったけれど、そこで僕は気付いてしまった。
これは一種の儀式で、ここは幻想郷の“見立て”なんだと。
“厭魅”という呪術を知っているだろうか。
蠱毒と並び“蠱毒厭魅”と恐れられた呪術である。
それは人型などの人形を憎い相手の見立てとして用い、それを槌で叩いたり針で刺したりしてその相手を呪うという、よく“丑の刻参り”とか“呪いの藁人形”などと呼ばれている呪術だ。
僕は今回の異変も厭魅の様な呪術の一環なのではないか、つまり偽物の幻想郷で事を起こすことによって本物の幻想郷に影響を与えるという、主催者の目論見ではないかと推測したんだ。
また厭魅では、ただ相手に怨を送るだけでは効果が薄いとして、“人を呪わば穴ふたつ”という言葉もあるように、術者が自らの身体を痛めつけ苦しめることで怨を増し、術を強めるという。
つまりこの場合は主催者である八意永琳、本人がこの殺し合いに参加し殺し合うことで、それを自身への苦痛とし術を強化しているんだろう。
そう考えれば、何故主催者自ら殺し合いに参加しているのかという疑問も解消される。
そして更に、この異変が呪術的なものであるという根拠は他にもある。
先程、厭魅と共に述べた蠱毒という呪術だが、この呪術の方式も今現在起こっている異変と奇妙に一致する。
蠱毒とは、ひとつの器の中に無数の虫や動物などを閉じこめ共食いをさせる呪術で、
その最後に生き残り、他の動物の生や怨念を引き継いだ最も強いものを“蠱”と呼び、
それを使役することによって相手を呪い殺したり、相手の財の才を盗んだり出来るという。
“器に閉じこめ共食いをさせる”
どうだろう、これこそ今まさに僕らが置かれている状況じゃないか。
しかもそれだけじゃない。
ここが呪術的な場だということを証明する事柄は他にもあった。
それがこの地図だ。
7×7マスの正方形、その中それぞれの場所に送られ配置された僕たち。
人妖の姓名や属性というものは数字に変換することが出来る。
その事を踏まえてこの地図を見ると、
この場、この世界は数秘術における魔方陣ではないかと考えられる。
つまりここは幻想郷の見立てであると同時に巨大な術式の中にある訳だ。
だけど魔方陣というものは八卦などもあるように3×3の9マスが基本だ。
しかしこの地図では7×7の49マスに分けられている。
それは何故か。
異変に巻き込まれた人数が多いためにマス目を増やしたかとも思ったが、
ここまでの全てに意味が込められていた事を考えると、この数字にもまた何か意味が隠されていると考える方が自然だろう。
7という数は数秘術では最も神秘的なものとされていて、唯一無二や盛衰など様々な意味を持つ。
即ちこの7×7という囲いは、この世界の結界が如何に強力で破りがたいかを現しているんだろう。
そうやって数字やそれが持つ意味に注目してみると、そこから更に奇妙な符号に気付く。
7×7の49マス。
これは、中陰の49日に当たり最も重要とされている大練忌こと“七七日”を意味しているのではないか。
中陰とは死者が新しい世界に蘇るまでの49日間のことであり、七七日とはまさに死者が新たな生を受ける日のことである。
もう、これだけ様々な事柄が一致する以上、この異変に呪術的な意味が込められているのは間違いないだろう。
ではここまで大がかりな仕掛けを作ってまで行いたい呪術とはなんなのか。
主催者の意図は何かと考えてみる。
幻想郷の見立て。
見立てに怨をかけることで本物へ影響を与える呪術である厭魅。
陰陽道に通じ風水などでも大きな意味を持つ魔方陣。
またその陰陽道において五行説へ通じる十二天将、朱雀や六合などの中心であり、また宇宙の中心ともされる北極星の不在。
更に、数秘術で唯一無二や盛衰を意味し、中陰においても大切な区切りの数とされる7によって区切らた。
死とそこからの再生の日である大練忌を意味付けられたこの場、この世界。
そして何より、最も強いものを選ぶという蠱毒を摸して行われた多種多様な人妖による殺し合い。
ここからは根拠も確証もない、完全に僕の想像だ。
しかし僕が思うに恐らく、この異変を起こした主催者の目的は……
幻想郷における最高神である創造と破壊を司る龍神の座、その争奪戦なのではないか。
そう、つまりこの殺し合いに生き残った一人は新たな幻想郷の頂点、神となれるのだ。
それこそがこの異変の真意。
賢しいものにのみ分かる生き残りのメリット、“飴”の仕掛け。
これはもう、天(あめ)が下るどころの話では無い。
この異変でただ一人生き残れば、例えば僕だって天すら支配する神になれるということだ。
そう考えると僕はぞっとして、自らの考えを振り払う様に首を振った。
僕はなんてことを考えて居るんだろう、ついさっき彼女と幻想郷を平和にするという契約を立てたばっかりではないか。
そうだ、そういえば妖怪の賢者である紫もこの恐ろしい事実に気付いているんだろうか。
そう思い、目の前の彼女に尋ねようとした。
けれど、口を開き訪ねようとしたところで口元に人差し指を突き付けられた。
『さっきお静かにと言ったばかりでしょう?』
などと、彼女の顔からはそんな怒りに近い感情が読み取れる。
確かにこれは二度目の注意だ、怒気がこもるのも仕方ないかもしれない。
だけど僕は彼女にとてつもなく重要なことを訪ねようとしていたのだ。
何だかこれは出鼻を挫かれたようで何とも面白くない。
だから……いや、うん、だからという訳じゃあないけれど僕はこの事を彼女に尋ねるのは止めておこうと思った。
彼女に何か問題がある訳じゃない。
“天(あめ)が下る”のくだりで昔の嫌な勘違いを思い出した所為と言うのが一番の理由だろう。
僕は以前に香霖堂の周辺にだけ降った雨の異変を草薙の剣による天下統一の力だと勘違いしたことがあった。
あの時は口に出していなかったから良かったものの、自分の中で結構恥ずかしい思いをしたものだ。
あんな間違いを繰り返すのは嫌だ。
今回もまだ状況証拠だけで、推測が当たっているか怪しいものだし、
【コンピュータ】を使って僕の所に情報が集まるまで話さないことにしよう、とそう心に決めた。
「……と言うことなんですけれど、聞いていらっしゃいましたでしょうか」
気付けば、紫が何やら不機嫌そうな顔でぼそぼそとこっちに話しかけていた。
どうやら考えに夢中で彼女の話を聞き逃していたようだ。
もう一度聞き返すのも癪なので色々な話で誤魔化そうかとも思ったが、やはりこの場合はどう考えても僕が悪いので、敢えて誤魔化したりせずちゃんと謝った上でもう一度話して欲しいと彼女に伝えた。
すると僕の誠意が通じたのかそれ以上僕を咎めることはなく、半分呆れたような顔をしながらも話してくれた。
なんでも、前方の家の中に誰が居るのか確かめたいらしい。
そして、とりあえず自分が屋内に入って調べて来るから、
僕は念のために近くの茂みに隠れて、辺りを見張りながら待っていて欲しいと言う。
僕はその提案に頷いた。
中に敵かも知れない何者かが潜んでいるとしたらそれは確認しておくべきだし、
また万が一に備え、様子見として一人は残っておくべきだろう。
それで僕と紫、どちらが調べに行くべきかと言えばそこは男性と女性。
男である僕が行くべきだ……と言いたいけれど、やはり紫が適任だと思う。
紫ならば力のない僕と違って幻想郷屈指の大妖怪だし、戦おうと思う者は少ない筈だ。
それに、彼女ならば例え襲われたとしても大丈夫だろう。
僕はそう考えていた。
彼女を信頼し、そう思って安心していたんだ。
そうしてその事件は起きてしまった。
どちらが加害者で、どちらが被害者かも分からないその事件が……
僕は草陰に隠れ彼女が家の中に入っていくのを見ていた。
手にSPAS12を持ち、見張りとしての自分の役割を果たす為に。
本当は“彼女が襲われた時に助けに入る”という役割も僕にはあったのだろうけれど、
その時の僕には相手が誰であれ彼女ほどの大妖怪が苦戦する姿なんて想像出来なかった。
そして想像出来なかったが故に少しも考えていなかった。
※※※※
びくびくぱたぱた、小さなカラダをふるわせて。
ユメから覚めてもユメのなか。
きっとこわーいあくむのさなか。
いつだって一緒だったスーさんは目覚めたときからお留守のよう。
少女のきぼうは一枚の地図とひとつのコンパス。
それは少女とスーさんをつなぐみちしるべ。
わかってしまえば大あんしん。
わかってそれでもとっても不安。
だって、あくむは少女をこまらせ続けるのです。
がたがた、がたり。 そうそれは、家のどこからか聞こえてきた物音。
スーさんがいなくてふるふる不安なメディスンちゃん。
せっかくのあんしんもすぐにコワイコワーイしてしまいます。
びくびくぱたぱた、どうやら物音はげんかんの方から聞こえるみたいです。
げんかんは家をでるときにつかう場所ですから、これはもうにげるワケにはいきません。
けれど、にげちゃいけないと、そう思えば思うほどココロのなかのコワーイがゆうきやあんしんをおい出そうとあばれるのです。
けど、それじゃだめだがんばれと少女は、もういちど懐中電灯をつけてまわりを見わたしました。
きらきらと、ちいさな少女あんしんがあたりをつつむ。
みえなくてもずっとソバにいるのです。
だいじょうぶ、スーさんとわたしの絆がまもってくれる。
そうつよくつよくココロのなかでつぶやくと、コワーイはひゅるりとどこかへきえてゆきました。
やっぱりスーさんの愛が少女をまもってくれているのです。
さあ、それならメディスンちゃん。
こわいけど、それでもこわくなんてありません。
ずんずんと音の聞こえるげんかんへ近づいていきます。
愛しのスーさんと出会うためなら、こわいも不安もへっちゃらちっくです。
そうしてギロリ。
げんかん先で少女はコワイコワーイようかいと出会いました。
ようかいは地面にからだを横たわらせ、少女をおそろしい顔でにらみつけています。
これはいくらなんでもあくむです。 こわすぎます。
けれどやっぱりにげるワケにはいきません。
ゆうきをふりしぼったメディスンちゃん。
さあ、メディスンちゃんのたたかいのはじまりです。
※※※※
僕には最初、何が起こったのかわからなかった。
紫が家の中に入ってそれほど時間は経過していなかった。
相手が隠れ潜んでいるとすれば、いくら彼女でもまだ見つけられるような時間じゃないと僕は考えた。
だから僕はその時、家の方ではなく周囲を警戒することにだけ思考を割いていた。
そんな中、しかし突然に家の中からがたがたと大きな物音が響いた。
見てみれば玄関の前で苦しそうに紫が這い蹲っていた。
あの物音から察するに、恐らく椅子も何もかもを蹴り飛ばして必死に外へ出てきたのだろう。
息が苦しいのかヒィヒィと肩で呼吸をしているのがここからでも分かった。
妖怪の賢者、八雲紫。
幻想郷を裏で牛耳っているとさえ言われる妖怪の中の妖怪、八雲紫。
いつだって余裕たっぷりで大物としての貫禄を感じさせる彼女。
そのあんまりな姿に僕は自分の眼を、そこに映った世界を疑った。
家から出て、少しだけど正しい呼吸を取り戻した彼女は、覚束無い視線を僕に向け、
未だ掠れた声を張り上げて、必死の形相で“毒”のことを伝えてきた。
それは本当に、酷いくらい必死な顔だった。
そういえばあの大妖怪、八雲紫はいったいどこに居るのだろう。
はは……馬鹿だな僕は、彼女はついさっき家の中に入ったばかりじゃないか。
ああ、それにしても何でこんなに世界が遠いのだろう。
あんなにも近くで、けれどこんなにも叫び声が遠くに聞こえる。
ここは本当にどこなんだろう。
毒だって? そんなに何度も叫ばなくても分かっているよ。
大丈夫さ、彼女ほどの大妖怪がそんなものに負けるなんて思えない。
そうさ、彼女はいつだって自信に満ち溢れていた。
真の力や実力はいつもその余裕の笑みの裏側に潜んでいて僕には窺い知ることすら出来ないんだ。
だから彼女の本気がどれ程かなんて僕には想像も出来ない。
だって僕が憧れ続けた外の世界だって、彼女にとってはただの“隣り”に過ぎないんだ。
そう、八雲紫は本当にすごい妖怪なんだ。
叫び、そして目の前の彼女は咳き込む。
あんまりな落差、酷いギャップだ。
思わず大丈夫なのかと心配してしまう。
きっと過ぎた心配だろう。
僕は未だ動けない。
そしてその時、僕から見てちょうど紫の後ろ、玄関口の所に一人の少女が現れた。
恐らくこの毒をばらまいた張本人だろう。
紫もそれに気付くと大きく振り返り、目の前の少女を睨み付ける。
今にも相手を射殺しかねない程に鋭い眼光。
僕が今まで彼女に抱いていたイメージとは全く違った、憎しみに満ち悔しさを孕んだ表情。
振り返る途中の彼女の表情は凄いものだった。
自分を殺しかけた相手がのこのこと目の前に現れたのだ、感情を抑えろというのは無理な話だ。
少女の首もと目掛けて紫の両腕が伸びる。
“自分を殺しかけた相手”
ああそうか……彼女は死にかけたんだ。
――私だってちゃんと皆のように死ぬのよ。
そうだ、彼女だって死んでしまうんだ。
そうして僕の中の理想と現実の境界が埋まった。 埋まってしまった。
――皆様には、殺し合いを行っていただきます。
そうだ、僕らは殺し合いをしているんだ。
急にぞわりと震えが走る。
脊髄を捕まれて冷や水の中に連れ戻されたような。
そして、連れ戻された以上こっちが僕にとって本当の現実なんだ。
その時ようやく知識だけでなく感情が現実に追いついた。
天(あめ)が下るなんて言うそんな馬鹿げた話じゃない。
僕らは今、紛れもなく殺し合いの中にいるんだと。
“わかっていた”なんて言うには僕も彼女も格好悪い姿を見せすぎただろうか。
目の前で紫が少女の首に両腕をかけ、そしてそのまま力任せに強く絞めてゆく。
居ても立ってもいられず僕は草陰から飛び出す。
少女は怯えた表情をしていた。
ひょっとすれば少女にこちらを襲う意図はなかったのかも知れない。
そう、それは不慮の事故だったのかもしれない。
僕は二人の元へ走った。
遅すぎた走り出しだと自分でも思う。
慌てすぎた所為か足がもつれ、しっかり走れもしない。
けれど僕は止めなくてはいけないんだ。
どちらにも悪意なんて無かったのだから。
だけどやっぱり走り出すのが遅すぎたんだと思う。
僕はそれを止めることは出来なかった。
ぐちゃぐちゃな頭のなかで沢山の原因が浮かぶ。
咄嗟の出来事に“どっちを止めるべきなのか”と僕は迷ってしまった。
それは致命的な時間のロス。
間に入ったら危ないのではないかと“紫のことを”恐れ、自分の身を案じてしまった。
それもまた致命的な空白。
だから結局“僕は”二人を止めることは出来なかった。
――私が愛する幻想郷で
そう、止めたのは僕じゃない。
八雲紫、彼女自身がすんでの所で我に返り手を離したのだ。
二人ともぜぃぜぃと荒い呼吸を零していた。
そして二人とも生きていた。
そんな当たり前のことで僕は涙が出そうだった。
八雲紫の突然の行為。
弁解することは出来る。
それが誰に対する弁解なのかは分からないけれど……
彼女がそんな行動を取った理由が僕には十分に理解できる。
そしてそれはきっと彼女とこの少女の間だけの話じゃない。
僕らの力は酷く制限されていた。
僕は大妖怪である八雲紫ならば大丈夫だとそう考え、強く頼りにしていた。
プレッシャーだったと思う。
大妖怪だから大丈夫……なのではない、それは逆だったのだ。
いつだって息をするように簡単に出せたスキマがどんなにがんばっても出来ない。
いつもなら一瞬で行き来できた距離を空を飛ぶことすらも出来ずに歩く。
力を削がれ能力を押さえ込まれた身体で一歩一歩、今まで感じることのなかった疲労を貯め込みながら。
それでも愛する幻想郷の危機だからと彼女は精一杯頑張っていたんじゃないだろうか。
あくまでも大妖怪“八雲紫”として。
余裕の笑みに隠された彼女の感情は僕にはわからなかった。
――でも、まだいけないのです。
私が居なくても幻想郷を維持できるようになるまで、私は生きなくてはならないのだから
けれど思い返せば彼女の言葉には畏れや焦りの色が浮かんでいたように思う。
焦燥感、無力感、そして恐怖。
大妖怪だった所から突然にただの人間と同然にまで力を落とされたのだ。
元が強大な妖怪であった分、その落差も凄かっただろう。
使命感と板挟みの状態でどれだけ彼女は悩んだかわからない。
それでも彼女は僕の前では大妖怪の八雲紫を崩すことなく“やるべきこと”の為に動いていた。
どうして気付いてあげられなかったんだろう。
いつか無理が来るに決まっているのだ。
死への恐怖、愛する者が今にも殺し合っているかも知れないという焦り悲しみ。
易々と抑えられるような感情ではない。
きっとこの場を作った主催者へ憎しみをぶつけることでそれを清算していたんだろう。
だけど、この家でとうとう崩れてしまった。
死にかけるという経験。
そう、大妖怪である自身の命すら、この場では容易く奪われ得る物なのだという実感。
彼女ほどの妖怪だ、きっと初めての感情だったに違いない。
あんまりな理不尽。
どうして自分がこんなことに、と考えたのではないか。
いや、それよりもきっと彼女のことだ、自身の命よりも他の者のことを考えていたに違いない。
強力な妖怪である自身の命がこんなにも容易く奪われかているのだ。
霊夢は? 魔理沙は? 式神たちは?
彼女よりも弱い妖怪なんてこの幻想郷には幾らでも居る。
皆が今も殺し合い、死にかけているかも知れないのだ。
自身の命が危ぶまれているだけあってその想像はリアルだったに違いない。
そんな彼女の前に、神経を逆撫でするようにのうのうと、自身を殺そうとした張本人が現れたのだ。
その時の彼女の怒りがどれ程だったかはあの時の彼女の表情が物語っている。
強いその愛情の分だけ思いは裏返り、憎しみへと変わっただろう。
そうそれは見た通り、相手を殺そうとする程の憎しみだ。
毒で朦朧とした意識の中でのことだ咄嗟のことだったに違いない。
ひょっとすれば自分が誰を殺そうとしているのかも分かっていなかったかも知れない。
とにかく愛すべき幻想郷を脅かすものを、殺し合いなんていう馬鹿げた現実を、自身の身に襲い掛かる死を、不安を恐怖を……
きっと彼女の前から平和な幻想郷を奪い去った全ての理不尽を彼女は殺そうとしたんだろう。
そこに悪意なんて微塵も無かったに違いない。
だって、すんでの所とはいえ彼女は少女を逃がしたんだ。
幻想郷を、皆を愛していなければ自らを殺そうとした相手を逃がす訳がないだろう。
だからきっと彼女は、ただ必死に幻想郷を守ろうとしただけなんだ。
例え、実際に彼女が取っていた行為がそれとは正反対のものだったとしても、
僕から見て、ただ怯えた少女を絞め殺そうとしている様に見えていたとしても。
その時彼女は……八雲紫は間違いなく幻想郷を守っていたのだ。
怯えた少女が泣きそうな顔で僕の隣を駆け抜けて行った。
本当に怯えた顔で、恐がりながら必死に……
そして少女が通り過ぎる時。
僕は少々の息苦しさと共に少女の身体から何かが漏れていることに気付いた。
それは毒の粒子だった。
少女は毒の粒子を振りまきながら走っている、走っていた。
呼び止めようと何度も叫んだけれど聞く耳を持たない。
ああ、当然だろう、今の少女にとって僕たちは紛れもない恐怖の対象だ。
このまま少女はあちらこちらに毒を振りまいて行くのだろうか。
そうしてこれからも、この紫のように苦しむ妖怪を増やしていくのだろうか。
追いかけるべきか迷った。
けれど紫はまだ万全じゃない、彼女をここに残しては行けない。
ではどうすれば。
可笑しな話だけど、僕はそこではじめて自分が持っているソレが銃であることを思い出したんだ。
“SPAS12”僕の手からそれの用途が伝わってくる。
それは身を守る為のモノ、命を殺すためのモノ。
震える手で銃先を走り去る少女に向ける。
そうだ、ひょっとしたらあの少女は僕らに襲われたと皆に伝えるかも知れない。
そしたら皆に僕らが殺し合いに乗っていると誤解されてしまう。
事実として少女を襲っている以上、きっと弁解も難しいだろう。
もしかしたら危険な二人だとして皆から襲われるかも知れない。
霊夢や魔理沙と……
ああ、そんなのは嫌だ。 幻想郷の皆と殺し合いなんかしたくない。
そうだこれは彼女が毒を広めるのを防ぐ為だ、皆の安全を守るためなんだ。
だから、だから僕は……
銃を強く握りしめ、僕は引き金に指をかけた。
そして、そこで僕は動けなくなった。
僕らは殺し合いをしているんじゃない。
走り去り、少女の背中は見えなくなってしまった。
さっきまでずっと頭の中にこの銃の用途が浮かんでいたのに、
今では何故かちっとも伝わってこなくなっていた。
能力が無くなってしまったかと思ったけれど、考えてみれば僕の能力だって制限がかかっていたんだった。
かなり集中しなければ物の用途はわからなかったし、きっと先程の用途は僕の妄想か何かだったんだろう。
こいつは、この手の中の銃は多分ただの棒っ切れだ。
あくまで身を守る為の物だ。
ひとつ大きく息を吐いて、僕は紫の方を見た。
様態はだいぶ安定していたけど、動揺の所為かまだ息が荒かった。
大丈夫かと声をかけようとしたけれど、先程の紫の恐ろしい形相がフラッシュバックして咄嗟に声が出なかった。
これじゃあいけない、僕は紫と協力して平和な幻想郷を取り戻すんだ。
恐れを振り払い声をかける。
すると、何とか呼吸を落ち着けた彼女がこちらを見てただ一言、
『大丈夫よ』と答えた。
いつも通り、余裕たっぷりの微笑を携えて。
よく見ると、彼女の手は毒で少々爛れていた。
そこで僕はふと、彼女が少女から手を離したのは本当に善意からだろうか、
もしかしたら手が爛れて力が抜けただけなのでは、と恐ろしいことを考えてしまった。
すぐにその考えを吹き飛ばす。
今さっき協力して幻想郷を守ると決めたばかりじゃないか。
少女を逃がしたのは彼女の優しさ、善意からの物に決まっている。
もしも彼女の心が読めたなら、きっと簡単にその答えを知ることが出来たのだろう。
けれど僕は彼女ではない、僕に彼女の心は分からない、それは無理な話だ。
なにより僕は今彼女の心を、答えを知りたくないと思った。
そして、それが僕の答えだった。
本当の答えを知るのが怖かった……訳じゃない。
そういう訳じゃ無かったと思う。
不安がないなんて言うのは嘘だけど、本当に彼女を信用していない訳じゃあないんだ。
ただきっと、僕は自分なりの答えを信じているだけなんだ。
僕はいつだって物事の答えは自分で考えてきた。
だから今回も答えなんて教えてもらいたくない。
手帳に一文を記したとき、僕はいつものように自分で考えて、そして彼女を信頼すると決めた。
彼女と力を合わせてこの異変を解決すると決めたんだ。
――こうして、幻想郷に平和が戻りました。
だからもう、彼女に対して本当だとか答えなんてものは要らないんだ。
そしてこれからも、きっと僕はどこまでも幻想郷の皆を信じるんだと思う。
※※※※
コワーイようかいたちから、なんとかにげのびて、
少女はとってもよろこびました。
愛しのスーさんのところまであとちょっとです。
少女は思いました。
空はきれいだし、草木はおひさまを受けてきらきらイキイキしている。
これでこのコワイコワーイだったあくむもおわりなんだと。
ヒトリぽっちじゃなくなって、
そして、とにかくうーんとあんしんなんだと。
そう少女はよろこび、はねる様に歩をすすめ……
にこやかにわらったのです。
そして、第一放送がはじまったのです。
【C−7 無名の丘付近・一日目 早朝】
【メディスン・メランコリー】
[状態]若干の疲労
[装備]懐中電灯
[道具]支給品一式(懐中電灯抜き) ランダムアイテム1〜3個
[思考・状況]無名の丘を目指しスーさんに会いにいく
※主催者の説明を完全に聞き逃しています。
代理投下終了
素晴らしい
こーりんの展開する主催者に関する考察もさることながら
紫という大妖怪の必死さを見事に書きあげられていたことには脱帽
紫が慌てふためいてる姿なんて全く想像できねぇとか思ってた俺でも違和感なく楽しめた
GJです
ゆかりんが動揺しているのは新鮮だなぁ
しかも霊夢がマーダー化していると知ったらさらに驚愕しそうだw
霖之助も霖之助でなんか不安があるし……実はかなり脆弱なコンビな予感w
脆弱といえば、Hコンビを思い出すな
何気に一番好きなコンビかもしれん
今後どうなるのかまったく予想がつかないしww
北に向かうキャラは今のところ見当たらないし、しばらくは寝てたり、二人で遊んでそうだなw
噂のオーエンを読んだ
…うん。普通に名作だった
フランがはまったのも納得だわ
『人生は常にニ択の繰り返しである』
『一つを選択して、もう一つを選択していた場合について知る事が出来る事などそうそう存在しない』
森を歩きながら少女は感じていた。かすかな、しかしはっきりとした無数の温度の変化を。
進行方向から発せられる嫌な温度変化に彼女の自転車のハンドルを握る力も思わず強くなる。
彼女の顕族が蛙であるからか、彼女は他人よりも少し温度の変化に敏感であった。
肌が弾きだす温度の変化は、確かに人間よりも高温で無数に存在するそれの存在を示している。
続いて漂ってくる異臭。
知識のある人や嗅いだ事のある人ならすぐにそれと分かるその臭い。
「火薬……何かが爆ぜた臭いかな?」
少女、は帽子を持ち上げ、進行方向を見つめる。
「この嫌な感じ、仲良く話し合い!って感じじゃなさそうね」
それははっきりとわかる。
感じられた熱源の移動は一方からのみ。蛇のようにうねりながら何かに近づいていくのは判断できた。
次に風に吹かれ漂ってきた火薬の、硝煙の臭い。
どちらかが危険物を使ったであろうことはわかる、が。
「さて、と……どうしたもんかな?」
彼女は決めあぐねていた。
選択肢は二つ。
このまま博麗神社で待っているだろう早苗を迎えに行くか。
殺し合いに乗っている参加者を止めに行くか。
彼女としては早苗を迎えに行き、早めに合流しておきたい。
しかし、乗った人物を野放しにしておくのは危険だ。
もし放置しておいて被害者が出れば後味の悪い事この上ない。
「と、なると、やっぱり選べる道は一つ、か」
見た所、早苗は自分のように能力を制限されているわけではないようだ。
という事は、他人から襲われて殺される心配はほとんど無いと言えるはずだ。
優しすぎる性格から寝首を掻かれる可能性はあるかもしれないが、こんな状況なら彼女も他人を疑う位はするだろう。
対してもう一つはそうはいかない。
放置しておいて良い事なんて起こらないし、大丈夫だなんて言えるはずがない。
自分が放置した乗った人間が(あり得ない事だが)神奈子が殺される可能性もある。
それに(もっとあり得ない事だが)乗った人間が神奈子の可能性だって無いわけではない。
「早苗には悪いけど、向こうの方が心配だし」
諏訪子は自転車の向きを変え、温度変化の元へと急ぐ。
幸か不幸か、彼女はこのゲーム中2人にしか出会わなかった。
だから諏訪子は知らなかった。彼女の懸念していた人物、東風谷早苗が今ピンチに陥っている事を。
だから諏訪子は知らなかった。彼女とともに二柱として崇められていた八坂神奈子が今、殺し合いに乗っている事を。
諏訪子は歩き続ける。
自分のために、皆のために。
水橋パルスィが蓬莱山輝夜に殺されんとする瞬間。
洩矢諏訪子は二人から少し離れた森の中に居た。
森の中といっても諏訪子から輝夜たちの位置はきちんと見えているし輝夜の恐慌もきちんと見えている。
しかし彼女は動かない。
見ず知らずの少女たちが殺し合うのを、彼女は見ているしかできなかった。
今から助けに行ってもこの距離では到底助けられない。
援護射撃をしようとも考えたが、もう遅い。
金髪の子は右腕を撃ち抜かれ、銃も失い。その上黒髪の少女はもう銃が構えている。
つまり二人の勝負はもう、将棋やチェスで言う「詰み(チェック・メイト)」の形にはまってしまっているのだ。
それどころか射撃しようものなら、こちらの場所を知られてしまう。
それだけは何としても避けておきたい。
黒髪の少女はは先ほど、文字通り『音も無く』金髪の少女に近づいた。
それが少女の能力なのかは知らないが、とりあえず彼女は音を消せると考えて間違いないはず。
では、無駄な射撃でこちらの場所が割れてしまえば?
黒髪は間違いなく音を消してこちらに矛先を向けてくるだろう。
「さて、どうしましょうか」
襲撃か、撤退か。
この問いかけも答えはすぐに出る。
音の無い襲撃者。このゲームにおいてそれはどれくらいの脅威になるだろうか。
それを考えればここで彼女を野放しにしておいてはいけない。
「追跡、あわよくば始末ってところか」
この殺し合いには反対だ。
だからと言って乗っている人間を見逃すわけにはいかない。
これ以上の殺人を止めるため、その芽を摘んでおくのも重要だ。
危険因子は排除しておかなければならない、これ以上の力を得る前に。
そこまで考えて、少女はその皮肉に軽く嘲笑を零した。
自分は今、人殺しをやめさせるために自らの手を血で汚そうとしている。
そんな自分に早苗はいつものように微笑みかけてくれるだろうか。
でも、やるしかないのだ。
それが金髪の少女を助ける事の出来なかった自分ができる唯一の償い。
それが殺し合いを終わらせる唯一の方法。
「お、どうやら動き出したみたいだね」
見晴らしの良い場所から金髪の少女の物だった武器を手に、黒髪の少女は歩き出す。
さて、彼女を殺すとして。
どうする?尾行か、不意打ちか。
不意打ちか。敵は気付いていないが、距離が気になる。
平地だから支給品である自転車に乗れば速く移動できるが、残念なことに今、自転車は折りたたんでスキマ袋の中だ。
組み立てて乗るか?時間がかかりすぎて見失ってしまう。
成功するか失敗するかは五分五分、いや、消音を計算に入れれば六分四分くらいだろう。
その上失敗した時のリスクは大きい。
殺し合いの場であそこまで消音の能力を利用しているのだ。相当頭のいい者なのだろう。
それこそ、一度失敗すれば二度と同じ手は食わないほどに。
「じゃあ、やっぱり追跡か」
ばれずに追っていればいつか隙を見せるだろう。
今はできるだけ距離を詰め、襲撃するならその時。
諏訪子は極力音を立てないようにその場を後にした。
しえん
なんだろう。
蓬莱山輝夜は心の中で首を傾げた。
誰かが自分を追って来ている気がするのだ。
完璧に消音ができているのでそんなはずはないのに。
どうも視線を感じる気がする。何度か振り返ってもみたが誰もいない。
最初は鈴仙辺りが居るのかとも思ったが、彼女なら私に話しかけてくるだろう。
ならば『生き物が近くに居る事を理解できる能力を持った参加者』か。
何かの拍子で私の事を見つけたなら『姿を消す』だけでも良い。
そういえば。
「ねぇ、ルナ……でよかったかしら?」
輝夜は手元のルナチャイルドに話しかける。
返事は無い。
当たり前だ。猿轡を噛まされているのだから。
「ああ、大丈夫よ。すごく簡単な質問をするだけだから。貴女は首を振ってくれるだけでいいわ」
こくりと頷くルナチャイルドを見て、輝夜は嬉しそうに頭を撫で、言葉を続ける。
「貴女、生き物を探す能力とか姿を消せる能力とかを使える人、知らない?」
ルナチャイルドは絶句した。
彼女を縛りつけているこの人物のいった条件に自分の知り合いが当てはまるからだ。
サニーミルクにスターサファイア。何を隠そう、ルナチャイルドの親友なのだ、その能力の使い手たちは。
もう一人、兎のお姉さんも同じ能力を使えていたが、彼女については何も知らない。
どうする、喋るか、喋らないか。
でも……
ルナチャイルドは理解していた。
これは殺し合いであり、自分と一緒に居るこのスターそっくりなお姉さんは殺し合いに乗っている人なのだ。
そんな状況で、何故お姉さんはサニーの事を聞きたがる?
彼女たちを一緒に保護してくれるため……じゃあないだろう流石に。
たぶん、二人の能力がこのゲームで有利に事を運べるようになるから。
または有利な参加者を出さないようにその手で始末しておきたいから。
ルナチャイルドは当然首を横に振り、否定の意を表した。
仲間たちまでこんな狂った女の片棒を担ぐ必要はない。
自分だけでいいのだ、こんな事になるのは。
幸い目の前のお姉さんに、嘘を見破る能力は無い。
見破る能力があれば、自分の表情を探ったりはしないはずだ。
輝夜の手の中で、ルナチャイルドは必死に首を振る。
さて、信じるか、信じないか。
結論を言えば輝夜はその答えをほとんど信用していなかった。
この妖精について鈴仙から昔聞いた事がある。確か三匹で悪戯やウサギ狩りをしているとかなんとか。
悪戯をするのに音を消すだけでできるか?出来るわけがない。
たぶん他にも能力を持っている妖精が居るはず。
輝夜はゆっくりとルナチャイルドの髪に手を通す。
「本当かしら?」
ルナチャイルドは黙ってこくこくと頷く。
ルナの目に涙が浮かぶ。当然だ。ちょっとやそっとでは抜けるはずの無い毛髪を引っこ抜いたのだから。
「本当に?」
ルナは依然こくこくと頷いている。
嘘をついていないのか、それとも嘘を貫こうとしているのか。
輝夜にそれは分からない。
そう、自分は嘘をついていない。
サニーミルクの能力はあくまで『光の波長を操る能力』だ。
姿を隠す能力じゃない、だから嘘はついていない。
スターサファイアの能力は生き物の場所は分かるが探す事は出来ない。
屁理屈であるがこれは真実。嘘なんて付いていない。
ルナチャイルドはそう思い続けた。聞かれなおそうが、髪を抜かれようが。ずっと。
「そう、ならいいわ」
輝夜は諦めたのか、ルナの髪を弄るのをやめてふたたび歩き始めた。
(大丈夫、大丈夫)
ルナも涙をこらえ前を向く。
自分が気を強く持たなければ、サニーやスターまで危険が及ぶかもしれない。
人生は常にニ択、選んだあとにifは存在しない。
もし諏訪子が早苗の元に向かっていたら。
もし諏訪子が輝夜を襲撃していたら。
もし輝夜がルナの事を信じていたら。
もし輝夜が拷問をもっと長く続けていたら。
もしルナが正直に話していたら。
もしルナが拷問に屈していたら。
そんな考察はするだけ無駄だ。
月の名を持つ妖精と月から来た姫の夜は明けた。
後ろに隠れたカエルとともに。
【F‐4 一日目 早朝】
【洩矢諏訪子】
[状態]健康
[装備]折りたたみ自転車
[道具]支給品一式、不明アイテム0〜2(武器になりそうな物はない)
[思考・状況]対主催 早苗を守る
[行動方針]1,輝夜を殺す
2,星型弾幕の発生源へと向かう(早苗と合流)
3,2終了後人里へ向かい、ルナサ・阿求と合流
4,神奈子が気になる
【F‐4 一日目 早朝】
【蓬莱山輝夜】
[状態]やや疲労
[装備]ウェルロッド(2/5)、アサルトライフルFN SCAR(19/20)
[道具]支給品一式×2、ルナチャイルド、予備の弾あり
[思考・状況]優勝して永琳を助ける。鈴仙たちには出来れば会いたくない。
[行動方針]1,人の集まりそうなところへ行き、参加者を殺す
2,なんだか後ろが気になる
3,ルナは本当の事を言ってるのかしら?別にどうでもいいけど
【ルナチャイルド】
[立場]装備品
[状態]身動きが出来ない 喋れない 中度の疲労
[思考・状況]1,輝夜への恐怖 しかし屈しない
2,仲間を守るために輝夜に真実を伝えない
3,状況次第で仲間(三月精)と再会したい
※ルナチャイルドはサニーミルクと違い、月の光で充電できます。他は三月精と同じ機能です。
※今のルナチャイルドは動きと口を封じられ、能力を強制発動させられています。
代理投下終了。
乙です。
そういう選択肢が、リレー小説では、面白いですよねぇ。
考えても意味はないけど、つい、考えてしまう。
投下乙
輝夜こえ〜…
そしてルナが健気すぎる
これは次回が気になるな
比那名居天子は橙の元へと戻っていた。
橙の死体から去ろうとしたとき、衣服の一部に汚れが目立っていることに気付いたからだ。
天人の五衰には、身体臭穢というものがあり、不潔を維持すれば、心情の他にも不都合が生じてしまう。
穢れを清める水分のついでに、支給品をゴソゴソと移し変えていた天子。その瞳に、興味の色が映った。
そして指を顎に添えて、考え込み、ピコン!と電球が頭上に浮かび、なにかを閃いた。
「――こうしたほうが効果的よね」
◇ ◇ ◇
時折、風が通りすぎる微かな音が響く中、茂った葉を次々に寸断しながら歩く人影。
足元まで銀の長髪を流し、白の上着と紅いモンペを着こなす、その人影は、青黒く鬱蒼と茂る森林に、異彩を放っている。
その少女、藤原妹紅は、不老不死の梯子を下ろされた影響か、今にも重圧に押し潰されそうな沈痛な表情をしていた。
ドクン、ドクン、ドクン。
生を主張するかのように、心臓が激しく高鳴っている。
価値観を揺るがされた妹紅は、この鼓動を聞くたびに、これが楽器ではなく重要な一部品なのだということを自覚させられる。
――これが止まれば……死ねるのだろうか。
――今、こうしているときにも、あの頃に戻らないという保証はない……なら。
内心の動揺は必死に抑えている。
だが、それでも、ごくり、と細い喉から唾を飲み下す音は、とても大きく聞こえていた。
在り方の変革を迫られ、心を苛まれていた妹紅だが、それでも実行に移そうとはしない。
一時の感情に流されて、重大なことをしでかすのは、後悔しか生み出さない。
妹紅は、衝動に駆られ、蓬莱の薬を飲んでしまったときに、嫌というほど味わっている。
その経験と、友人や宿敵といった絆の楔の助成により、死神からの勧誘を抑え込んでいた。
妹紅は、どうにか自分を取り戻そうと胸に手をあて、鼓動を沈める。
そして気を紛らわそうと、ポケットから煙草を取ろうとするが、探る手は、一向に目標を入手できない。
眉を顰め、舌打ちし、悩ましげに想いを呟こうとするが、下手に想いを吐露するのを恐れ、思い留まる。
そして。
「私は……生きているわね」
噛んで含めるように、丁寧に、事実だけを紡ぐ。
煙草の代わりに、外界の情報でも取り入れ、気を紛らそうとするが、静寂の森に、佇むのは妹紅一人。
それ以外には、枝の隙間を通り抜けた月光の粒が、銀髪に反射し、眩しく輝かせているのみ。
空を仰いでも、いつしか訪れ、いつしか流れ、消えていく雲だけという、中々に寂しい風景。
妹紅は、そんな変化の見えない光景に、困ったような軽いため息をつき、額の汗を裾で拭った。
そうして静寂の空間で心を静めていた妹紅の聴覚に、突如、微かな足音が届く。
警鐘を鳴らし、感覚を尖らせ、視線を巡らせると。
妹紅の真紅の瞳が人影を捉え、人影の緋想の瞳が妹紅を捉えた。
鮮やかな薄い桃色のワンピースを身に纏い。
青空を織ったように真っ青な長髪を背中まで流し。
桃の実と、桃の葉を飾りつけた黒の帽子を、頭に載せていた。
そして両手には――月光に煌めく矢尻を携えた、黒塗りの和弓を構えている。
妹紅は一瞬、足を縫いとめられるが、すぐに戦士の心構えを取り戻し、近場の木陰に半身を隠す。
そうして相手の出方を窺おうとし。
「先程、怯えた子供に泣きつかれたのですが――貴方の仕業でしょうか?」
突如、掛けられた声と、強く問うような視線によって、思考を打ち切られる。
――あの子供に会ったのか。
妹紅は、己のミスを反省すると共に、苦渋の表情を浮かばせる。
誤解ならば、非は妹紅にあり、争いに益などない。
しかし素直に事情を話したところで、信用されるかといえば怪しいだろう。
優先されるべきは怯える幼子の証言ではあるし、怯えにより内容が誇張されている可能性も否定できない。
妹紅は、どう対応するかを、迷いあぐね。
「あの少女に害意を以って接したわけじゃない、と言っておくわ。真偽は貴方に任せるほかないけどね」
結局は、簡潔に意思を示すことにした。
下手に嘘をつくにしても、思慮に時間をかければ効果は薄い。
森林で弓の有効活用は難しく、離脱する隙を十分にあるはずと見越しての判断だ。
「――ですよね。瞳を見る限り、怯えをもたらすような人ではないようですし」
既に決裂の覚悟を決めていた妹紅に返って来たのは、落ち着き払い、諭すように柔らかい態度だった。
言葉に従うかのように、和弓の構えも解かれる。
素直に事情を察してくれたのか、油断させるためなのか。
妹紅は警戒は解かずに、少し悩んだ素振りを見せる。
「もしよければ、謝っていたとあの子供に伝えてくれないかしら?」
「ええ、構いませんよ。でも私にもやることがありますので、偶然出会えたらということでよろしいでしょうか?」
妹紅の要請に、少女は、雅な佇まいと丁寧な言葉使いで、快くそれを了承する。
返事の際、クスリと唇を歪めていたが、辺りは薄暗く、距離も離れており、妹紅には気づけない。
「構わないよ。感謝するわ」
妹紅は、都合のいい話の進み具合を訝しんではいたが。
とりあえず交戦だけは避けれそうね、と一回だけ息を吐き、取り澄まして応じる。
「それでは――またいつか」
少女は、最後に化け猫の少女と出会った場所を教えると。
目をすぅ、と細めて小さく笑い、スカートを翻し、何処かへと去っていった。
そして少女が闇へと溶け込むまで無言で見送った妹紅も、また去っていく。
◇ ◇ ◇
少女と別れた後、教えられた場所を目指し歩んでいた妹紅は、森を抜けた。
背を這う不愉快な冷たい汗に、苛立ちを募らせながら、教えられた場所へと辿り着く。
そのとき。
妹紅は、周囲に血の匂いが幾重にも漂う、尋常ならざる空気に気付き、目尻を吊り上げる。
そして視線を振り撒けば、その原因であろう小さな影が、瞳に、するりと入ってきた。
寝そべっている小さな影は、深い闇に悉くを隠されている。
だが、小柄で華奢な身体のライン、服装の色合い、そしてスカートから覗く尻尾を確認できた。
薄暗い中、妹紅の視界の端に映ったのは、十中八九、化け猫の少女。
妹紅は、決して死を意識しようとはせず、土と葉を散らしながら駆け寄り。
仰向けの少女の背中に右腕をあて、首を左腕で支え、抱きかかえようとする。
そうしたとき、妹紅の片腕に、思い描いていたものとは違う感覚が奔った。
何か変だ。
何か妙だ。
ざらついた感覚が舐めるように背中を伝う。
死からは、逃げられない、そして逃がしてもくれない。
そのことを、見て記憶し、触れて理解した。
そんな、どうやっても助からないとわかる光景。
橙の死体には――首から上がなかった。
艶やかな毛並みの髪の毛も。
その上に乗せられていた帽子や、ふさふさとしていた猫耳も。
端に涙を浮かべていた、ぱっちりとした猫の瞳も、
捨てられた子猫のように慌てふためいていた、その表情も。
恐怖で震えながらも、精一杯の強がりで、迫力の欠片もなく抗議していた、その顔も。
なにもかもが消失していた。
頭部とは視覚、味覚、嗅覚、聴覚、感覚、そして思考を司る。
それを失った生命は、二度と返らない。何かを伝えることも叶わない。
四肢は人形となり、もし意思があろうとも、身体が付いてこない。
こんなに近くにいるのに、どんな声も、意思も、感情も、響くどころか届きさえしない。
そんなこれは、もう物でしかない。
妹紅は、生の可能性を、為す術もなく一蹴する、完全で絶対の死の宣告を、視覚で感覚で嗅覚で確認した。
その胸中に飛来しているのは、判断ミスで死なせたことによる後悔だろうか。
否。
含まれてはいるが、縛られるほどの後悔ではない。
天子への怒りだろうか。
否。
胸に突き刺さった矢を、まだ確認していない。
渦巻いているのは、もっと鋭く、重い、尋常ならざる感情。
藤原妹紅は、現世に留まりながらも、死からは最も外れた存在として、永遠の苦輪に悩み、諦めていた。
色鮮やかな冥界を知らない、そんな不老不死の存在が、希望を得てしまったが故に、魂を包む堅牢な意思の鎧が薄れていたのだろう。
――藤原妹紅は憧れてしまったのだ。
忌まわしいことに、己のミスで死なせた幼子を、とても甘美で魅力的なものとして、受け取った。
首を切られ、完全に死を迎えた亡骸を見て――こうなりたいものね、と咄嗟に、正の感情を抱いてしまった。
魂の灯火に誘われるように受信した死のカタルシスは、想像を絶するものだった。
心が軋む音を僅かに立て、心臓の鼓動が早鐘のように激しくなる。
見えない何かが圧し掛かったかの様に胸が軋む。
高鳴る心臓に眩暈さえ感じ、崩れそうになる体を必死に支える。
湧き上がってしまった妄念に耐える様に、唇を噛み、僅かに震える腕に力を入れて、震えを押さえ込む。
息を切らせながらも、感情の発露を必死に押さえるが、それでも抑え切れない。
ならば、別の方向に発散させようと、心の底から高ぶってくる感情を、猛々しい激情の焔に変換し、右手に顕現させる。
そして。
糾弾を振り払うかのように。
正気でありたい、と魂に刻み込むように。
限界にまで高まっていた不安から逃げるように。
焔を纏いし拳を、ぎゅっと握りこみ、頑なに信じ込んだ意思を籠め、強く――大地に叩き付け、抉り、土くれを撒き散らかす。
激情を叩き付け、感情を制御した妹紅は。
「幼子を死なせ、あまつさえ憧れる……か。
慧音にあわせる顔がないわね」
寺子屋で教鞭を振るう友人に想いを馳せ、自嘲めいた響きを伴った笑みを、溜息混じりに漏らした。
ただ、情けなかった。
自分自身が。
血溜まりにいるような淀んだ空気が蔓延する心地悪い静寂の中。
橙の傍らに佇む妹紅は、改めて自覚する。
たとえ、肉体が解き放たれようとも。
魂は、いまだに、蓬莱の薬に憑かれているのだと
【B-4 山の崖下付近 一日目・早朝】
【藤原 妹紅】
[状態]健康
[装備]水鉄砲
[道具]基本支給品、ランダム支給品1〜3個(未確認)
[思考・状況]基本方針:ゲームの破壊及び主催者を懲らしめる。
1.慧音を探す。
2.首輪を外せる者を探す。
※黒幕の存在を少しだけ疑っています。
※再生能力は弱体化しています。
◇ ◇ ◇
「好死は悪活にしかず。
どんなに悪い生き方でも、死ぬよりは良い。
ま、結局は私が殺すんだけどね」
清々しさを伴った、どこまでも楽しそうな声。
比那名居天子は天を仰ぎ、何処までも白々しくひとりごちた。
先程の妹紅との邂逅を思い返す。
天子は趣味の異変観察を通じ、藤原妹紅が、蓬莱の薬を飲んだ不老不死の人間だということを知り得ていた。
そんな超越者が、幼子を追い詰めるほどの意気込みを見せているというのだ。期待しても仕方のないことだろう。
しかしそれも、和弓の構えを確認した妹紅が一瞬、硬直したときまでだった。
その硬直が、悦びからきたものだと、天子の慧眼は見抜いたのだ。
それは無意識の行動とはいえ、つまらないと落胆させるには十分なもの。
とはいえ、ただ肩透かしを食っただけならば、残念に思いながらも、天子は妹紅を殺害しようとしただろう。
なぜ殺さなかったのか。
それは、天子の好奇心に鎌首をもたげさせるものでもあったからだ。
比那名居天子の種族である天人も、条件付きではあるが、妹紅と同じく不老不死の存在。
しかし天子は、妹紅とは似ても似つかない。
天界という刺激の少ない環境には不満を抱いていたが、不老不死自体には、不満を抱いていなかった。
天子の身近にいる天人も、不老不死に溺れ、歌、歌、酒、踊り、歌、と日々を自堕落に過ごすものばかり。
だからなのだろう。
不老不死なのに死を悦ぶという妹紅を理解できず――とても憐れに想えた。
そんな天子の想いと欲望が重なった結果。
妹紅に生への覇気を授けようと、お人よしに格別な効能を発揮する餌を振舞い、放し飼いにしたのだ。
死体に刺さった矢を確認すれば、さぞや天子に想いを募らせることだろう。
天子は、妹紅が育ち、自分を殺しにくるのを期待しながら、ただ優勝を目指すのみ。
もし育たなくとも、再開できなくとも、それはそれで構わない。ゼロがゼロになるだけなのだから。
回想が幕を閉じると同時に。
天子の、大地を操る能力が、遠く離れた妹紅の激情を、大地の振動を通して、僅かに捉えた。
成果に満足した天子の緋想の瞳が、輝きを増していく。
勝気で、清楚な、その容姿は、本当に生き生きしているように思えた。
「うふふ。
そうそう! そんな意気込みが欲しかったのよ!」
被った帽子に手を沿え、優雅な仕草でくるりと回し、底知れない自尊に溢れた言葉を紡ぐ。
その天真爛漫で、気まぐれで、傲慢な振る舞いは、突然発生し何者をも巻き込む天変地異を髣髴とさせる。
こうして比那名居天子は、とても綺麗で不純物が一切ない笑顔を振り撒きながら。
天人の五衰の一つ、不楽本座(いまをたのしめないこと)の解消を満喫していた。
「さぁて、次は、誰と遊べるかな」
己の意思で掴み取った不老不死に後悔し、俗世から離れることを選んだ少女、藤原妹紅。
神霊から授けられた不老不死に満足し、俗世に塗れることを選んだ少女、比那名居天子。
互いに真逆で、決して理解しあえないであろう、不老不死同士の生存競争は開幕を迎えた。
【B-4・一日目 早朝】
【比那名居天子】
[状態]正常
[装備]永琳の弓、矢18本
[道具]支給品一式×2、悪趣味な傘、仕込み刀、橙の首(首輪付き)、橙のランダムアイテム(0〜1)
[思考・状況]ゲームを楽しみ、優勝する。八雲紫とその式は自分の手で倒したい。
投下終了です。
投下乙です
にしても、このロワのマーダーはホント躊躇わないな。自分に正直というか何というか…
うどんげくらいじゃね? ヘタレ街道まっしぐらなのは
投下乙ー
天子鬼畜だ……なんだかんだ言ってもやっぱ緋想天のラスボスだわなw
妹紅も妹紅で死に憧れるって危なっかしいし
ところでひとつ疑問。妹紅って煙草吸ってたっけ?
や、細かいところなんだが妙に気になって
霊夢だってタバコ吸うかもしれないしクスリだってやるかもしれない
公式設定がすべてではないんだよ
>>209 でもテンプレには一次設定のみと(ry
……まあ、揚げ足取りをするつもりじゃないけどさ
>>210 一次設定で明記されてないから分からない、って事を説明したかっただけじゃないのか?
煙草は吸わない、なんて明記されてないから吸うかもしれないし吸わないかもしれないって感じだろ
例えはあれだが
>>211 ああ、そういうことか
とはいえ二次設定だからちょっとでも理由付けした方が良かったような気はするな
ルーミアのあれでもちょっと問題になったし
問題はないようなので今から投下します
「スターサファイア、だっけ? あなたの名前」
フランは袋の中からひょっこりと顔を覗かせている星の光の妖精、スターサファイアに言った。
「スターでいいわ。みんなそう呼ぶし」
フランは結局、妖夢を追わなかった。
理由は、ただ単に面倒臭かったから。
いきなり襲われたのはむかつくし、妖夢が壊れるまで遊ぶのも面白そうだとも思ったが、何故かこの会場に来てから体が重い。極力体力を使いたくなかった。(その為、持っていた盾も袋の中にしまった。不思議なことに袋の中に入れると重さを感じなくなるのだ。)
それに、遊び相手はまだまだいっぱいいそうだ。わざわざ妖夢に固執することはない。
フランは余裕を持って、ゆっくりとこの殺し合いを遊ぶことに決めたのだ。
フランとスターは妖夢を撃退してから、既に自己紹介も済ませ知人に関する情報も交換し終えていた。
そういうところは、どこぞにいる吸血鬼の姉よりもしっかりしているといえる。
「そう? じゃあ、スター。この説明書によるとあなた、変わった能力を持ってるそうじゃない」
「ええ、まぁ」
スターサファイアの『動く物の気配を探る能力』。
スターサファイアは降り注ぐ星々の如く、広範囲な監視の目を持っているのだ。
物の気配に聡く、その為に単独で彼女を目撃することはほとんど出来ないらしい。
「範囲はどれくらいなの?」
「うーん。あまり遠くは分からないわね。何だかここに来てから調子が悪くて。だいたい、111間(約200m)くらいかな」
「ふーん」
少し面白そうだな、とフランは思った。
「じゃあさ。さっき襲ってきた奴、あいつは今どこにいるか分かる?」
フランの申し出に、ちょっと待ってね、と前置きしてからスターは目を瞑った。
半径200m、その範囲内にある動く物全てがスターの監視下にあった。風が流れ、草木が揺れる。その一本一本を正確に掴み取り、その中で妖夢が逃げた方向へと除々に監視の目を広めていく。
しばらく瞑想が続き、パチリと瞳を開けた時にはフルフルと顔を振った。
「ううん。多分200m以上離れちゃったんだと思う」
「なーんだ」
つまらなさそうにフランは言った。
もしも見つけられたなら、うまく回り込んで奇襲し返してやろうと思ったのに。対して面白い能力でもなかったな。
そんなことをフランが考えていると、それを中断させるかのように、でも──とスターは少し怯えたように言った。
「こっちに近づいてくる人がいるわ」
彼女は歩いていた。その顔は恐らく、この会場にいる全ての参加者が知っているであろう。そして恐らくは、そのほとんどが彼女に畏怖と敵意の感情を持っているだろう。
それを理解しながらも、八意永琳は堂々と歩いていた。
とりあえずの目的地を星の弾幕が上がった場所に定めた彼女は最短距離で、できるだけ早くできるだけ体力を温存することに努めていた。
先程の魔理沙との会話を思い出しながら。
『霊夢が言うには幻想郷≠ェ殺し合いを求めてるから、私達を皆殺しにするんだそうだ。しかも、あいつは既に、黒幕が誰か≠知っているらしいぜ』
魔理沙から聞いた霊夢の言葉。永琳の目的である『輝夜を保護し殺し合いから脱却する』ためには黒幕の正体を知ることが必要不可欠だ。これを無視して今回の異変は解決できないことを永琳は理解していた。だからこそ考える。霊夢が知る殺し合いの内部を。
幻想郷が殺し合いを求める。言葉尻だけを捉えればまったく意味不明だ。つまりこれは何かの隠喩、ということになる。が、魔理沙にも話した通り永琳は幻想郷に詳しくない。
この意味を理解するには幻想郷における知識が必要不可欠だ。
しかし、本当にそうなのだろうか? 本当に幻想郷の知識が必要なのだろうか?
霊夢は魔理沙に言ったのだ。彼女だって大して知識はない筈なのに。そこが妙に気になる。
始めから理解させるつもりはなかったとか?
いや、それはない。
霊夢は一旦殺すと決めたなら、冷静に容赦なく殺しにかかる。そういう性格だ。なのにわざわざ殺す相手の前で長話している。彼女にとって魔理沙は、殺しの前に会話を挟む程度には親密だったのだ。
それは霊夢にとってはとても大きな事の筈だ。だったら、彼女の言葉には意味がある。
幻想郷という隠喩。結界に囲まれ孤立した、世界の一部。
……その時、ハッとした。
バラバラだったピースが驚くほど噛み合った。
幻想郷という言葉に囚われ過ぎていたのだ。そうだ、最初から疑問に感じていたではないか。これがあったからこそ、私は状況をおぼろげながらも理解できたのではないか。
そう、それは最初に思った疑問。
ここは一体どこなのかという疑問だ。
一つだけ分かるのは、ここが幻想郷ではないということだ。そう、幻想郷ではない。それこそが、霊夢の言葉を解明するヒントだったのだ。
博霊大結界。幻想郷を維持するために必要不可欠な結界。ここが幻想郷ではないのなら、その結界はどうなった?
崩壊したのか、はたまた未だ健在なのか、それは分からない。分からないが、それは霊夢の預かり知らぬことの筈だ。
どんな手段かは皆目見当がつかないが、この会場は何らかの手段によって外界と遮断されている。外からの干渉は不可能な筈だし、内からも今の現状ではそれは同じだろう。
魔理沙から聞いた殺し合いのルール。おかしな話だが、今の現状で唯一信じれるもの。このルールに反したことは絶対に出来ない仕組みになっているのだ。
そして、その最たることが外からの干渉。殺し合いを進める為には一番気をつけなければならない舞台作り。そこが疎かになってるわけがない。
完全に孤立されたこの会場。当然外界における影響をここにいながら感知できるわけがない。つまり、今の霊夢には博霊大結界を感知できない。
いくら能天気な霊夢でも、これに気づかない訳がない。そして、霊夢にとって幻想郷は唯一の世界。その世界の維持に必要不可欠な霊夢。彼女にとって、幻想郷から遮断されるということは死を意味する。
幻想郷が今現在どうなっているのかは分からない。だが一つだけ分かるのは、霊夢が優勝すること以外に幻想郷を維持できる可能性はないということだ。
ならば主催者の言うことは聞かなければならない。でなければ幻想郷は滅びる。幻想郷は……殺し合いを求めている?
…もしかしたら、この会場を孤立させる手段、外界からの干渉を遮断する手段は、博霊大結界にとても近しいものなのかもしれない。主催者が必要とする性質とも似ているものだ。その可能性はとても高い。
もしそうならば、幻想郷は未だ顕在ということになるのだろう。そして、それは今の霊夢にとっての唯一の希望。殺し合いに乗って、幻想郷を守ろうと思える程には彼女の支えになる。
生き残るには、殺し合いで優勝するしかない。
思えば、こう考えるのは至極当たり前のことだった。自然の摂理を捻じ曲げる力。亡霊、不老不死、妖精といった面々に死という概念を与える力。参加者の面子を考えて、今回の異変の犯人は力が強すぎる。それが何者なのか。さすがにそこまでは分からないが。
だが一つ分かるのは、今回の異変の犯人が幻想郷の、はたまた世界の創造主といっても過言ではないということだ。
私達は、殺し合うしかない。それしかないのだ。
永琳もまた、考えが甘かった。悪くいえば現実をきちんと見ていなかった。
ここでは、殺し合いに乗ることの方が自然なのだ。殺し合いに乗らないと考える方が異端なのだ。自分にとっても、世界にとっても。
霊夢はそれを受け入れることができた。何者も平等に見ることのできる彼女は、幻想郷の危機を誰よりも早く感知できた彼女は、それを受け入れることができた。
(霊夢はこの絶望を、一体どのように受け止めたのかしら。ルール説明を受けている時、彼女はどんな気持ちで、偽者の私を見ていたのかしら)
恐らくは常人では計り知れない葛藤があったのだろう。苦悩し、悶え、そしてようやく結論に至ったのだろう。
魔理沙には分からない。いや、永琳にだって分かることではない。
霊夢はずっと、一人で生きてきた。たとえどれほどの人が彼女の周りにいようと、彼女は一人だった筈だ。何者の干渉も受けず、どんな縛りも彼女を束縛するものはない。
そうして自分を保ってきた彼女が、ここにきて無視できない大きな縛りを受けた。
それが霊夢の中でどのように歪に食い込んだのか。
決断を下した今の霊夢の中に善悪という区別があるのなら、今の霊夢の行動はおそらく善なのだろう。だから戸惑うこともないし止まることもない。
博霊大結界は霊夢さえ生きていれば維持できる。ここに集められていない幻想郷の住民は、霊夢が優勝すれば助かる。妖怪退治と同じだ。人の安眠を守るのが霊夢の使命なのだ。
(…ごめんなさい、魔理沙。あなたとの約束は守れないわ。…霊夢は、間違ってないのよ。だから、絶対に止めることはできないの)
間違っていない。輝夜とは違い、霊夢は何一つ間違っていない。それはつまり、説得など不可能だということだ。それに加えて、霊夢が自分で優勝を目指すことを決めた。それを覆すことなど誰にも出来はしない。
そして、輝夜が殺し合いに乗ってるということもまた、ただ悪い事だと言えるものでもないのだ。
「…なんてね。私も随分ナイーブになってるわね」
そうだ。悪い悪くないなんて関係ない。破滅を導く者は破滅に導かれることは大昔から決まっていることだ。だから輝夜を止める。
考えすぎるのは駄目だ。
(しっかりしろ、八意永琳! 姫を助けるんでしょ。ここから逃げ出すんでしょ。だったら、それを信じて突き走るしかない)
そう考えた時だった。
考え事に夢中だった永琳はようやく異変を感じ取った。よく見知ったお馴染みの感覚。
これは……弾幕?
禁忌 カゴメカゴメ
気づいた時には弾幕が四方を取り囲んでいた。罪人を捕える檻のように何重もの緑の弾幕が永琳の周りに浮遊していた。
まずい、そう思った瞬間には崩れゆき、罪人を呑み込もうと迫った。
「ちっ」
軽い舌打ち。
それほどにこの弾幕は厄介なものだと判断した。
すぐさま檻の隙間を見つけて突破するものの、次に襲いかかるのは金に光る大弾。
未だ四方を取り囲み迫る緑のパターンを推測し、自機狙いの大弾を避けにかかる。
粘着質で、ジワジワと相手を追い詰めるタイプの弾幕。この相手は相当いやらしい性格をしてるんだろうな。そんなことをグレイズの最中に思った。
厄介な弾幕。そのように永琳が判断したこの奇襲はしかし、一度避けたら再び発生することはなくすぐに止んでしまった。
「さっきのは、こんな場所にいきなり呼び込んだ不躾の分。ただの挨拶代わりよ。主催者さん」
最悪だ。
弾幕の主を見遣り、永琳は心の底からそう思った。
「確か、紅魔館の地下に住む妹さんだったわね。レミリア・スカーレットの妹。吸血鬼にして魔法使い」
「よく知ってるわね」
「最低限の重要人物は把握してるわよ。仮にも幻想郷のパワーバランスを担う種族なんだから」
フランドール・スカーレット。噂には聞いていた。
よりによってこんな場所で出会うことになるとは。しかも、自分の印象は最悪だ。
「ふふふ。それにしてもラッキーだったわ。あなたに出会えて。これで私も異変解決ができる。一回やってみたかったの」
「気の触れたあなたにできるかしら?」
「あなた程じゃないわ。こんな下品な催しを企てるあなた程じゃ、ね」
永琳は最初から弁明を諦めていた。魔理沙のような幾分素直な気質がある者ならまだしも、こんな危険人物では話すらまともに聞かないだろう。特に、決定的な証拠も持たない今となっては。
「さて次は、この異変を起こしたお仕置きの分──」
弾幕を放つ体制になったところで、永琳は拾っておいた手頃な石をフラン目がけて投げ放った。
それはフランの弾幕生成よりも素早いものだった。
迫る石。
だが、彼女に当たる瞬間、何故か砂のように塵へと化した。
「……どんな魔法を使ったのかしら」
弾幕生成を解除されたというのに、フランの顔には不敵な笑みが張り付いていた。
「魔法じゃないわ。能力よ。あらゆるものを破壊する能力」
「あらゆるものの…破壊?」
「そう。物には目っていうのがあってね。そこを潰せば簡単に壊れちゃうの。で、私はその目を右手に持ってこれるってわけ」
「…随分と反則くさい能力ね」
その言葉にふふふ、と笑って右手を握り大袈裟に開いた。
「ぎゅっとしてドカーンよ。すごいでしょ? でも不老不死のあなたに反則なんて言われたくない」
「安心して。ここに限って不死ではないから。それにあなたの能力も、“反則”ではないのでしょう?」
永琳は弾幕を生成する。しかしその数は少ない。たったの二つだけ。
弾幕を張れば張るだけ体力が消耗することは事前に検証済みだ。永琳はこれからのことを考えて無駄な体力を消耗することを嫌ったのだ。
永琳はフランの様に遊ぶことが目的ではないし、フランと違ってこれからもまだまだ殺し合いは続くことを知っている。
故に永琳は戦う。力ではなく、その知略によって。
「今度はあなたの番? いいわよ別に。全部避けきってあげる」
フランの余裕の表情。それを見て永琳は徐に、地面に転がっている先程と同じような石を拾い上げた。
スッ、と永琳はその石を持った右手を見せつけるように掲げた。
「…何の真似かしら?」
「最近占いに凝っててね。丁度いいからあなたも占ってあげようかと思って」
「へぇ。面白そうね。やってみてよ」
風が吹いた。
髪が靡き、辺りを静寂が包んだ。
永琳は数刻をもって、笑みをこぼした。その笑みは、驕りも何もない、ただただ勝利を確信した余裕を感じさせた。
「あなたは、この投擲で私にひれ伏すことになる」
永琳は断言した。
「ぷ、あはははは!! そんな石ころで私を倒すって? あなた面白いわね。さっきの能力見たでしょ? それでもそんな馬鹿なことを言うつもり?」
「もう一度言う。あなたは、この投擲で私にひれ伏す」
いつの間にか、フランの顔から笑みが消えていた。
ハッタリ。そう考えるのが普通だ。
フランの能力があれば物理的な攻撃は完全に無効化できる。参加者の直接的な破壊は制限され、破壊する距離も大幅に削がれているようだが、あんな石ころにやられるほどじゃない。
ルール説明の時に見た拳銃ならまだしも、投擲程度のスピードなら有効範囲に入ってからでも十分に破壊できる。
しかし、ただのはったりとは思えない。それだけの迫力が永琳からは感じられる。
いつの間にか、冷や汗が流れていた。
この物静かな態度。無言の威圧感。満ち満ちた気迫。姉とは違う、見せかけじゃない圧倒的カリスマ。
フランは再び、笑みを取り戻していた。まるで子供のような、最高の遊び道具を見つけたような、そんな笑み。
面白い。本当に、面白い。さすがにこれだけの大異変を起こしただけのことはある。
永琳の予言。それを、スペル宣言としてフランは受け取った。
永琳の策を受け切り、その全てを破り尽くす。そう決意した。
「じゃあいくわよ。私が予言したあなたの未来、現実にしてあげる」
永琳の合図と共に、弾幕が放たれた。
しかしそれはフランにではなく、地面に。
二つの弾が地面を穿ち、辺りを砂埃が舞った。
フランが訝しがった瞬間。その砂埃の中から四つの色鮮やかな弾幕が彼女へと向かって走った。
四つの弾は渦を巻いてフランへ近づいていく。しかしその時フランは、迫る弾幕のことを頭の片隅に置き、代わりに先程の宣言について思考を巡らせていた。
(あいつのあの言葉。どう考えても、あの石に意識を集中させるためのものだ。それは分かる。けど、一体どういう意図で?)
永琳には最後の詰めがある筈だ。そして、その詰めを確実にするためにあんなハッタリを噛ましたのだ。
フランはいつもとは毛色の違った遊びに狂喜乱舞した。弾幕ごっことはまた違った緊張感。そんな感覚に酔いしれていた。
フランは確かに気が触れている。だがその実、彼女は意外にも博識でそれなりに聡明でもあった。
495年も地下に閉じ込められ世間一般の常識というものはまったく身についていないが、その長い時間を小説や魔道書を読んだりして時間を潰していた。そこで得た知識は彼女に知恵をもたらしていた。
未だ砂埃に見えない永琳の姿。
それを見て、ピンときた。そして、薄く笑った。
(読めたわ。あいつのチェックの一手が)
フランがそう思った時、砂埃を突き破り何かが永琳の真上へと伸び上がった。石だ。
先程預言したあの石。それを自身の真上に放り投げたのだ。
普通なら、先程の宣言も助けて何事かとその石を見上げるところだ。
が、フランは弾幕と永琳に注意を向けていた。何故なら、この事態はフランにとって予想し得たものだからだ。
刹那、弾幕の光に紛れて別の石がフランに飛び込んできた。
永琳から目を離さなかったフランにはそれを破壊することは簡単だった。
(思い通り!!)
フランは心の中で、永琳の策を読み切ったことに歓喜した。
永琳の策。フランはそれを、必要以上に一つの石に意識を集中させることで、注意を散漫にするものだと判断したのだ。
あの宣言があっては誰でも右手の石に注意が向く。それを利用した巧妙な心理誘導。
砂埃を利用して、チェックの一手を用意したのだ。
だがそれもフランには効かなかった。砂埃の意図を察することで、あの宣言自体がブラフだということに気づいた。
私の勝ちだ。フランはそんな余裕の元に、迫り来るぬる過ぎる弾幕を軽くかわしてみせた。
「こんな薄い弾幕で私に勝てると思ったの?」
あたかも、永琳の策などなかったかのようなセリフ。なまじ頭が良く、自身の策に自信を持つ者ならばこれほどの屈辱はないだろう。
埃が晴れ、永琳の姿が目視できる。
永琳の瞳は変わらず、勝利を疑っていなかった。
「…勝つ、か。魔理沙と違って、あなたは何も理解してないようね」
意味ありげな言葉。ただの負け惜しみかな? そんな風に思っていたフランは、すぐにその考えを改めた。
そうだ。さっきの石。あれは、ただの捨て球というだけだったのか?
本当に頭の良い奴なら、きっと無駄なことはしない。一つの事を為すことで、二つも三つも利を取ろうとするはずだ。つまり、ただのブラフも、“攻撃の手に変える”こともあるんじゃないか?
フランは思わず上を見上げた。
石があった。先程ハッタリだと判断していた石は、実は山なりになってフランを狙っていたのだ。
フランの頭上十数メートル。危なかった。発見がもう数秒でも遅かったら、あの石はフランにぶつかっていただろう。遅かったのならば。
「あなたはやっぱりすごいわ。でも、今回は私の勝ちね」
読み勝った。
完全勝利だ。
フランは能力の有効圏内に入った石を、余裕で破壊した。
「……え?」
塵となる石。だが未だ落ちてくる物体があった。
石の欠片? いや、たとえ能力制限があろうとこんな小さなものを破壊仕損じるわけがない。
(まさか。あの砂埃は“この仕掛けの為”に)
その物体はフランの頬を掠り、地面に突き刺さった。それは、永琳が魔理沙から受け取ったダーツだった。
「褒めてくれてありがとう。でも、勝ったのは私よ」
フランはハッとなった。
気づいた時には、永琳は目の前に立っていた。
攻めるか? 退くか?
反射的にフランが取った行動は攻めだった。
こんな間近から弾幕攻撃はできない。打撃戦だ。
レミリア程ではないにせよ、吸血鬼であるフランも肉弾戦は相当強い。
フランの爪が永琳に襲いかかる。
「…あれ?」
一瞬だった。
いつの間にかフランはうつ伏せに地面に伏していた。
力技で押し倒されたわけではない。まるでそうなるのが当たり前であったかのようにフランの攻撃はいなされ、フランは倒れ、永琳はそれを見下ろしていた。
「…何したの?」
「ただの合気道よ。相手の力を利用するの。非力な私にもってこいでしょ? 余裕を失い単調になった攻撃なんて、どれだけ速かろうが簡単に捌けるわ」
背中を腕一本で抑えられてるだけ。それなのにまったく動けない。力はこちらが圧倒的に勝ってる筈なのに、何もできない。
右手も用心の為ちゃんと抑えられている。
「あなたもやっぱり吸血鬼ね。高慢で浅はか。わざわざ自分から手の内を明かしてくれたおかげでこんなに楽にあなたを無力化できたわ」
フランは自分で言った。自分の能力は物の目を壊すものだと。そして、その目は自身の右手だけに持ってこれるものだと。つまり、一度に一つの物体しか破壊できないということだ。
実は永琳は、フランの能力については聞いたことがあった。ただ、知っていたのはあらゆるものを破壊する能力だということだけで、原理自体は先程フランから聞いたばかりだ。
誘導するまでもなく、ただ無知を曝すだけで不遜な吸血鬼の妹は手の内を明かしてくれたのだ。
「最初の投擲であなたの能力の有効範囲は1間程度だとわかった。そして力の誇示の為、あなたは物理攻撃に関しては必ず能力を使ってくる」
宣言、砂埃による目くらまし、その目くらましの意図を誤認させる為の“本当のブラフ”だった石。これらは全て、最初に投擲した石の細工と、それとフランの距離を稼ぐためだけのもの。
そして石に突き刺したダーツの攻撃は、フランの余裕をできるだけ崩し壊す為のもの。
「でもあなたの最大の敗因は、遊びに拘り過ぎてたことよ」
もしも最初の奇襲の時に本気で永琳を殺しにかかっていたら、ここまで圧倒的な敗北の苦渋を舐めることはなかった筈だ。
そして戦闘の最中も、“スペル宣言”などに拘らずこちらから反撃を繰り出していたら、こんなに簡単に永琳を近づかせることもなかった。
「これは遊びなんかじゃない。“殺し合い”なの」
腕に力が入る。
「う…!」
「あなたはそれを理解してない。でもね、理解しなくちゃいけないの。教えてあげましょうか? “殺し合い”がどういうものか」
ま、まずいわ。
スターはできるだけ音を出さないように努めながら袋の中をもぞもぞと動いていた。
このままではフランが殺される。それは分かる。そして、何とかして助けないと次に殺されるのは自分かもしれないということも分かる。
でも、力のない妖精の自分なんかじゃ逆立ちしたってあの医者には敵わない。
あの医者を倒すにはフランに任せるしかない。だがフランは捕まっている。
スターサファイアはこっそりと、袋から顔を出す。永琳の背中が見えた。
永琳とフランが戦っている最中に袋が落ちたのだ。
(頭ぶつけてたんこぶになってるけど、これはチャンスだわ)
スターサファイアは袋の中を動き回り、何か使える物がないかを必死になって探した。
(何これ? 盾? こんなの今の状況で使えるわけないじゃない)
地図、名簿、食糧、コンパス。使えるような武器は存在しなかった。
(ど、どうしようどうしよう。なんとかしないと。私がなんとかしないと!)
スターサファイアは必死に考える。そして思うのは自身の非力さと、力があればという願望。
私にも吸血鬼みたいに凄い力があればいいのに。あの医者みたいに頭がよかったらいいのに。
そんな想いばかりが湧きでてくる。
(私には何もない。何も出来ない…!!)
そんな自虐的なことを考えている時だった。スターサファイアはあることに気づいた。
痛みが走る。
永琳はちょっと腕を動かしただけ。それなのにギシギシと体が軋む音が聞こえてきそうだった。
(何でこんなに痛いの…!)
永琳はフランの様子を確認する。
まるで生きてきて初めて痛みというものを実感したかのような、そんな驚きの混じった顔がそこにはあった。
無理もない。一生を地下で暮らし、さらになまじ力の強い吸血鬼という種族として生まれたのだ。人が死ぬということを理解するのは難しいだろう。
だがこれはフランにとって避けては通れない道だ。いくら吸血鬼であろうとこの場所では誰もが平等に死を迎える。それを無理やりにでも理解させないことには、きっと彼女は生き延びることは出来ない。
だが永琳にとって、そんなことは些事にすぎない筈だった。彼女には輝夜を止めるという目的がある。
フランがどうなろうとその目的の前ではどうでもいいことだ。悪評が知れ渡っているという状況にあって、
元々仲間を集めることに執着する気はない永琳だ。この状況で少しでも目的を果たす確率を高めようと考えるのなら、フランをここで殺してしまうことも善手であるといえる。
だが永琳はそうする気はなかった。
殺した方がいい。そう思っているにも関わらず、フランを放っておかないのは下手にこの状況を動かすと返り討ちに遭いかねないという危惧と、なにより危なっかしいフランに輝夜の面影を重ねていたからだ。
だから永琳にとって長期戦は覚悟の上。その上で、彼女をうまく誘導するつもりだった。遊びで人を殺すような気の触れた性質を、殺し合いを止めようと願える性格へと矯正する。とても難しいことで、とても危険なことでもあった。
一度構築された“遊ぶ”という概念を、“殺し合い”という凄惨な出来事として認識させる。
常識を壊すにはそれ相応のインパクトが必要なのだ。ただ痛みを与えるだけでは常識は壊れない。
「まずは腕を折ってほしい? それとも目を抉ってほしいかしら? どっちも凄く痛いわよ。今の数十倍はするわね」
だから永琳は脅しにかかる。
痛みを想像させる。それはつまるところ、自身の命の危機を想像することに繋がる。殺し合いを理解させるには持ってこいの手段だ。
フランの額から冷や汗が流れ出る。明らかな恐怖の感情がそこにはあった。
それは、フランにとって大きな成長だった。
しかし彼女が魔理沙のように協力関係結ぶにはまだ足りない。もっと教育する必要がある。それだけフランに蓄積された歪んだ常識は壊しにくいと永琳は考えていた。
これからどのように彼女と接し、どのように矯正していくか。
そんなことに思考を巡らせていた時だった。
「このク、クサレ外道! さっさとフランを放せ!」
叫び声が辺りに響き渡った。
見ると、スターサファイアが袋から飛び出し、距離を置きながらも永琳を睨みつけていた。
永琳もポカンとしてスターサファイアを見ていた。
今がチャンスだ。
フランはそう思い、永琳の腕を振り払おうとしたが、すぐにまた痛みで抑えつけられた。
「うぐぅ…!」
「…まさか袋の中に仲間がいるなんてね。発想は良かったんだけど、少し考えがあざと過ぎるわ」
「こっちに来なさいよ! “こんな異変を起こしたくせに”そんな度胸もないの! ばーか! ばーか!」
永琳はハッとした。
スターの考えが読めた。
まずい。
ダーツを取り出し、何とか黙らそうと考えた。
その時だ。
「なんであいつがわざわざ危険を侵したか、教えてやろうか?」
背後からの声。一瞬で反応し、声の主に向かって永琳はダーツを投げる。
が、苦もなく避けられる。
二本の角が揺れた。
(鬼…!!)
フランを拘束していた腕を離し、新たな敵に応戦する。
だが少し遅かった。
小柄な体は既に永琳の懐に入っていた。
「私を呼ぶためだ!!」
鬼の鉄拳が、永琳の腹を捉えた。
「よくやった。あんたのおかげですぐに駆け付けることができたよ」
「う、うん」
にとりがスターサファイアに労いの言葉を掛けるのを聞く永琳の心の内は焦りで満ち満ちていた。
考え得る最悪の状況だった。
目の前の襲撃者を永琳は見遣る。
鬼、伊吹萃香の打撃は瞬時に後ろへと逃げることで衝撃を和らげることができた。痛みはひどいが、一時間もすればそれもなくなる。
それよりも今考えるべきはこの状況をどうやって乗り越えるかだ。
永琳は知らず知らずの内に叫んでいた。理性ではなく、感性での訴えだ。
「待って! 私は別に────」
「問答無用!!」
が、最後まで言葉を繋げさせてはくれない。
萃香の猛攻が永琳を襲った。
先程はフランを気遣って積極的に攻めることはしなかったが今度は違う。萃香は何の心配もせずに永琳に拳を浴びせることができた。
萃香から放たれる拳。その圧倒的なまでの圧力は鬼の気迫の為せる技なのだろうが、永琳はそれ以上のものを感じ取っていた。
怒り。萃香の拳からはその怒りの感情がひしひしと伝わってきた。
だが今の永琳にとってそんなことは重要ではない。永琳はその拳をどうにか直撃を受けないように捌くのが精一杯だった。
フランに行ったような間接技を繰り出すこともできない。防戦一方とはこのことだ。一瞬でも気を抜くことはできない。
背後から何者かが跳躍する。フランだ。
「レーヴァテイン!!!」
永琳の瞳に桃色の閃光が映った。
閃光が地面を穿ち、人工の直線を作り出す。
まるで打ち合わせでもしていたかのように、レーヴァテインが放たれる直前に戦線から離脱していた萃香は無傷。
一方、萃香の攻撃だけで一杯一杯だった永琳は直撃こそしなかったもののその反動を直に受けてしまった。
膝をついた永琳の頭部からは血が滴り落ち、体中には痛々しい擦りキズが見てとれた。
絶体絶命とはこのことだ。単純な戦闘力でいえば、一対一でも雲泥の差がある。
それほどの実力者が二人。さらに相手はこちらを完全に敵視しており、フランの一件で不意打ちはおいそれと期待できない。
ここまでか。そう思う中で、永琳はこれからやってくる未来を想像した。
このまま捕まればどうなるだろうか。
命までは取らないだろう。私は主催者で、彼女達にとっては殺し合いから脱出する為のまたとない手段だ。そういう意味では私の生存は確約されている。
でも、それだけだ。それ以上の保障は何もない。何故なら彼女達にとって重要な要素、『首輪の解除』と『殺し合いからの脱出』に私は何の手助けもできないのだから。
首輪を外せないことを外さないのだと勘違いしてあらぬ暴挙に走ってもおかしくはない。
中途半端に終わった矯正のおかげでフランには恨みを買っている上に、あの鬼の怒りも尋常ではない。
この状況で良心的な対応をしてくれると思う程私は楽観的ではない。
そして相手側が良心的でないのなら、説得も聞いてくれる可能性は限りなく零。信用を得るどころかむしろ余計に反感を買うだろう。
それ程に私の心証は悪い。だからこそ接触する相手は選んできたのだ。
拷問はまず間違いなく受けることになるだろう。その過程で死ぬ可能性もかなり高いな。
まるで他人事のように永琳は思っていた。
不死であった期間が長い為か、死への忌避感が他者に比べて薄いことも原因としてあるのだろう。
だがそれ以上に、彼女には自分の命よりも大事なものがあるということの方がこの淡泊な感情を作る要因となっていた。優先順位は何も変わらない。
八意永琳が何よりも重要視するのは、蓬莱山輝夜のことだった。
彼女を救いたい。殺し合いなんて馬鹿な真似を止めさせ、ここから逃がしたい。
それが、何を置いても叶えたい永琳の最終目的だった。
彼女は今、自分でも驚く程に冷静だった。
先程までの焦りも消え去っていた。
その心に秘めた想いは、自分の身ではなく、輝夜の身を案じる慈しみ。
それを改めて実感する。
ならば今、自分の出来ることは何だ?
ここで捕まるのが姫にとって最善か?
答えは否だ。
姫を救えるのは私だけ。こんなところで戦闘不能になってたまるものか。
永琳の瞳に炎が戻ってきた。その炎は、自分の目的を見据え、がむしゃらにでもそれを掴み取ろうとする情熱の炎だ。
その炎が点ったのとほぼ同時に相手は動いた。フランと鬼は永琳の距離を急速に縮めていく。
永琳は焦りを押さえつけ、必死に考えを巡らせる。
捕まることが悪手だと判断した以上、現段階で最善手なのが逃げること。
だがそれが難しい。相手は吸血鬼と鬼。単純に逃げるだけなら数分もしないうちに捕まるだけ。
逃げるには策が必要だ。身体的に劣るのならばそれをカバーするための舞台を整える必要がある。
何か、何かないか! この場から逃げる為の舞台を作る要素は!!
相手はほんの数メートル。
瞳に移る萃香とフランは嫌になるほど鮮明に映る。背けたくなる現実ほどそれは如実に浮き上がる。
その事実に辟易していた永琳に電撃が走った。
────鮮明?
萃香とフランだけでなく遠くで見守っているスターとにとりを見遣る。明らかに違う。さっきとは違う。
そうだ、確かに周りが“明るくなっている”。
その時、永琳は1秒にも満たない時間に高速で頭を回転させた。
そして、たった一つの逃げる策を思い付いた。
生命遊戯 ライフゲーム
一瞬にして青の弾幕がフランと萃香を包み、侵攻を拒ませた。
だがそれ以上弾幕を生成することはない。
フランの真似だ。これはただの挨拶代わり。
咄嗟に距離を取る萃香とフラン。彼女達は慎重だ。慎重に、しかし確実にこちらを逃がすまいとしている。
そんな彼女達に対抗する手段は、その慎重さを“逆手に取る”ことだ。
私も霊夢を見習わないとね。
そんなことを思いながら、永琳は立ち上がる。
自分の慈悲の心が引き起こした最悪の事態を前に、永琳はようやく気付くことが出来た。
ここは殺し合いの場。騙し騙され、命のやり取りをする場。そんな場所で、他人を信じるということがどれほど難しいことか。
知人が容赦なく他者の命を奪うような場所で、誰が赤の他人を信じられるというのだ。
それが殺し合いに乗っている参加者以上に黒だと断定された人物なら尚更だ。
そうなれば論理的な説明も、最早無意味だ。わだかまりは確実に残り、疑心暗鬼の種になる。
…とどのつまり、永琳にとって誰かと共有する居場所などというものはなかったのだ。
ここに放り込まれた時点で、永琳は孤独の道を進むしかなかったのだ。
孤独の道を歩むのみ。ならば、そんな私でも出来る事をしよう。私にしか出来ないことをしよう。
例えどんな目に遭ったとしても、きっと姫を救えるように。きっと、生き延びてもらえるように。
これからの行動に不安はない。孤独を運命づけられた今の自分にとって、これから起こそうと考える行動に不安がある筈がない。
これは自身を守る最高の手段で、それが姫を救うことに繋がると信じている。
過程などに意味はない。本当に勝ち取るべき結果を残す為、行動するのみだ。
永琳の眼光が鋭く光り、相手を睨みつけた。年の業、とでも言うのだろうか。有無を言わさぬその決意の瞳に、萃香は一瞬たじろいだ。
最悪の印象しかないのなら、その印象を利用してやればいい。
永琳は大きく息を吸い込み、笑った。
本当におかしそうに、笑った。
徐々に変わっていく空気。形勢逆転だった“正義”のチームは、どす黒く汚れた“悪”の笑みに唾を飲んだ。
「何がおかしい!?」
「…ごめんなさい。あなた達が思った以上にやるものだから、つい嬉しくなってしまって」
(できるだけ厳かに。尊大に)
「改めて自己紹介するわ。私の名は八意永琳」
裾を持ち上げ、英国式の挨拶を済ます。
そして睨みつける四人に対し、敢えて聞かせるかのように、言った。
「今回の異変を引き起こした張本人です」
風が靡き、草木が揺れる。冷え冷えとした空気が、その風と共に辺りを包みこんだ。
四人が四人とも、不快感を露わにする。
(それでいい。今の私は、狂いに狂った異常な主催者)
「あなた達には本当に感謝してるわ。こんなに楽しい御遊戯も、あなた達なくしては成立しないんだものね」
萃香がその言葉に噛み付いた。
「ふざけるな。何が御遊戯だ。何が殺し合いだ。こんなことして何が楽しい!」
永琳に襲いかからんとする萃香をにとりが慌てて止めた。
「待って待って! あの余裕には何かある。今手を出すのは危険だよ」
これは永琳にとってただの時間稼ぎ。ただ一瞬、唯一逃げられる瞬間を作り出す為の。
「よく分かってるじゃない。その通りよ。敵の余裕は策がある証拠。ねぇフラン?」
フランは黙って永琳を睨みつけている。
「…聞きたかったことがあるんだけど、何であなたはここにいるの? あなたがこんなところにいても狙われるだけじゃないかしら」
スターサファイアがフランの影に隠れたまま言った。
「だって暇じゃない。せっかく異変起こしてもずっと部屋に引きこもってるだけじゃつまらない。そうでしょ?」
「…狂ってるよ、あんた」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
これで私は完全に悪者ね。まぁ、そうなるように誘導してるんだけど。誰にも気付かれないように周りの景色に目を配る。
まだだ。まだ彼女を焚き付ける“時間”じゃない。
「…話はそれでおしまい? なら早速殺してあげる」
フランが言った。
今度はにとりの止めは入らない。もちろんフランが怖いからだ。
「随分と剣呑ね。それとも、何か焦る理由でもあるのかしら?」
黙り込むフラン。それは理由があるという証拠。それは永琳にとって、とても重要なことだ。ここから逃げ出す一手を導き出す為の重要な要素。
「これだけの異変を引き起こした私が何の下準備もなしにこんなところに居ると思う? 何でわざわざあなたたちと同じ、不格好な首輪をしてるのか少し考えなさいよ」
永琳はトン、と自身の首輪を突いた。
「この首輪には生体反応を感知する装置が組み込まれてる。もしも私が死んだらどうなるか。何の保障もできないわよ」
一同の顔が青ざめる。
「さらに! あなた達の命は私の手の内にある。今この瞬間にも、全参加者の首輪を正確に爆破させることができるわ。ちょっとした動作一つでね」
ゴクリ、という音がどこかから聞こえた。
パン
「…っっ!!」
「例えば手を叩くとか?」
永琳は薄笑いを浮かべながら四人を見つめた。
怯えの表情がフラン以外の四人からは見てとれた。
(よし。完全に流れが変わった)
永琳の目的はあくまでも時間稼ぎ。
あとは適当に会話して、相手をあしらっておけばいい。
策があると思わせないよう、相手をからかい遊んでいるかのように見せかけながら。
「鬱陶しいわね。それで脅したつもり?」
「ええ。そのつもりよ。何なら試してみようかしら? そうねぇ、あなたの大切なお姉さんでも実験体にしてみましょうか」
フランの眼の色が変わった。
『アイツ』呼ばわりしていても、やはりフランにとって姉は大切な存在だった。
それなりに慕ってもいた。
だからこそ、この永琳の言葉は不愉快極まりなかった。
「こいつ……!」
「そう睨まないの。ただの冗談よ。私としてはこの殺し合い、できるだけ長引かせて遊びたいんだから、そんなことするメリットはないでしょ?」
大袈裟に肩をすくめてみせる。
周りに映る色合いを悟られないように確認する。
(さて、時間も頃合いね)
徐々に明るみを帯びてくる景色からそう判断し、この事態を打破する唯一の策を講じにかかった。
「マジカルアワー」
「何?」
「夜が明けるまでの数十分の時間のことよ。太陽の光が漏れ出て、空を薄白い紫に染めた時間。とても綺麗な光景だと思わない?」
ちょうど今のことだった。
永琳に唯一勝機を与える時間。太陽という存在を嫌でも思い出させ、フランという吸血鬼を心理的に追い詰めることができる唯一の時間帯だ。
「…もういいわ。時間の無駄よ。こいつを殺す」
「ちょ、ちょっと待って! あいつの言ってることは理屈に適ってるし多分本当だ。それはまずいよ。首輪の機能に生体感知が付いてるのは間違いないんだ」
止めに入るにとり。もう怖いなどと言ってられない。永琳の生死は自分達の生死と同じなのだ。
永琳はにとりのその言葉に、一つの確信を持った。
「どうでもいい。どっちにせよこいつを殺さなきゃ殺し合いは止まらない。一人が生きるか全員が死ぬか、大して変わらないじゃない」
「そうじゃない! まだ何か打開策があるかもしれないだろ!」
萃香は吠えた。
先程とは打って変わって穏健な主張。萃香にとって皆の命は、一時の感情で失ってしまっていいものではない。
皆で再び宴会をする。再び笑い合う。それが萃香の望む未来だった。
「生け捕りにしようなんて思ってるなら、それこそ愚の骨頂よ。手加減して私を捕まえられると本気で考えてるなら別だけど」
横槍を入れて、場を煽る。
戦術としては常套の手段だ。
これでフランはさらに焦りを強くする。太陽に焼かれる心配をしなければならない吸血鬼とは随分と不便な生き物だと永琳は内心同情した。
「…とにかく、私はこいつを殺すから」
「このっ、待てって言ってるだろ!!」
思わず萃香はフランの腕を掴んだ。
「離して! 今あなたと口論してる暇なんて────」
一瞬だった。本当に一瞬、永琳から二人の注意が外れた。
この瞬間を、永琳は手をこまねいて待っていたのだ。
一呼吸で距離を詰める。
狙うは萃香。彼女の小さな肺に掌底が打ち込まれる。
「がはっ!」
呼吸を乱し、膝をつく萃香を尻目に、応戦体制に入ろうとするフランに対し肘を使って顎を正確に打ち上げる。
「ぐっ!」
脳を揺さぶる衝撃にたたらを踏む。それだけで永琳が逃げ出す時間には十分過ぎるものがある。
目の前にはにとり。彼女の怯えた表情を覆い隠すかのように永琳は袋から“とある布”を取り出してにとりに被せた。
「ぶわっ! な、何だ!?」
もがくにとりの横を通り過ぎる。
何もできず呆然としているスターサファイアは放っておき、永琳はそのまま走って四人から逃げおおせた。
「くそっ! 逃げられた!!」
萃香は地面に拳をぶつけながら嘆いた。
彼女を倒せば終わりだったのに。この殺し合いから解放されたのに。
…恐怖してしまったのだ。彼女、八意永琳に。それが堪らなく悔しかった。
「……あいつ、どうして首輪なんていう防護策を作ったんだろ」
ふいにフランが呟いた。
「あいつ自身が言ってただろ。保険なんだよ。殺されない為の」
未だ悔しそうに地面を見つめながらも、萃香は言った。
「不老不死なのに?」
「え?」
「あいつは不老不死なの。死なないの。だから自分が死ぬことに対する保険なんて意味ない」
「…案外、自分で枷をはめたのかも。遊びたいだけだって言ってたし」
フランの脳裏に永琳の言葉が浮かび上がってきた。
『これは遊びなんかじゃない。“殺し合い”なの』
「そうだよ。あいつは狂ってる。だから私達があいつを倒さなきゃいけないんだ」
『あなたはそれを理解してない。でもね、理解しなくちゃいけないの』
あれは、私に対する忠告だったのではないか? この殺し合いに対する姿勢を変えさせる為に、あんなことを言ったのではないか?
何故かフランはそんなことを考えていた。
腕をぐるぐると回してみる。まったく痛みはなかった。あれほど痛いと感じた永琳の絞め技は、実はフランに一つも傷をつけるものではなかった。
「…それだけじゃない。あいつ、私達を殺さなかった。やろうと思えば四人とも殺されてた。…少なくとも、私を殺すチャンスはいっぱいあった。それをしなかったのは何故かしら?」
次から次へと言葉が、永琳の矛盾が飛び出てくる。冷静になって考えれば考える程、永琳はどこか不自然に思えた。
「あいつも言ってただろ。この殺し合いを少しでも長く楽しむ為だ」
「……そうね」
フランはそれだけ呟いた。それは萃香の意見を認めたということだった。
「とにかく、今はそんなことを言ってる時じゃない。すぐに永琳を追おう」
「ごめんなさい。タイムアップだわ」
フランはそう言って、自身の袋を弄ると、とある物を取り出した。
傘だった。別段変わった風でもないただの傘。それをフランはおもむろに広げた。
数秒後、さっと辺りが光に包まれた。
夜明けだ。
「私は昼に行動することができないの。彼女を追えないわ」
「…ああ、道理で見たことあるような顔だと思ったら、レミリアの妹か。それなら仕方ないね」
アイツと似てる。スターに言われた時はあれほど腹が立ったというのに、今は別にそんなこともない。
「そういえば、紅白が乗ってるみたいなこと言ってたけど、本当?」
「…ああ。本当だ」
「ふーん」
意外だ。一番乗りそうにない人間なのに。
アイツはそれを知ってどうするだろうか。いや、それよりも。アイツ、ちゃんと分かってるのかな。この殺し合いのこと。
霊夢相手に油断して殺される所が容易に想像できる。
「あー! これ私の光学迷彩服じゃないか! あのバカ女、こんな上物落していくなんて信じられないよ」
にとりが被せられた布。それを嬉しそうに掴みながらにとりは一人叫んでいた。
「…私は一応、にとりと一緒にあいつを追うよ。あんたはどうするんだ?」
フランは傘を、レミリアがいつも使っている日傘をくるくると回しながら言った。
「そうね。一応紅魔館に行ってみるわ。“お姉様”がいるかもしれないし」
「そっか。わかった。私達もあいつを追いかけて、まったく見当がつかなくなったらそっちに向かうよ」
萃香はそれだけ言って、にとりを連れて永琳の向った方向へと走り去った。
フランはしばらくそれをボーっと眺めていると、やがてくるりと反転した。
「じゃ、スター。行こっか」
「う、うん」
フランの足は紅魔館に向いて歩いた。そして、スターもそれに付いて行った。
フランの心に、少しモヤモヤとした気持ちを残したまま。
【E-6 一日目・早朝】
【伊吹萃香】
[状態]かすり傷 精神疲労(小)
[装備]なし
[道具]支給品一式 盃
[思考・状況]基本方針;意味のない殺し合いはしない
1. 永琳を追う
2. 永琳が見つからない場合は紅魔館へ向う
3. 仲間を探して霊夢の目を覚まさせる
4. お酒を探したい
※永琳が死ねば全員が死ぬと思っています
【河城にとり】
[状態]精神疲労(小)
[装備]光学迷彩
[道具]支給品一式 ランダムアイテム1〜2
[思考・状況]基本方針;萃香と一緒に仲間や武器を探す
1. 永琳を追っかけるのはちょっと怖いな…
2. 首輪を調べる
3. 霊夢には会いたくない
4. 敵と出会ったら萃香に任せる
※首輪に生体感知機能が付いてることに気づいています
※永琳が死ねば全員死ぬと思っています
【E-5 一日目・早朝】
【フランドール・スカーレット】
[状態]頬に切り傷
[装備]レミリアの日傘
[道具]支給品一式 機動隊の盾(多少のへこみ)
[思考・状況]基本方針;とりあえず紅魔館へ向う
1. 殺し合いを少し意識。そのためレミリアが少し心配。遊びは控える?
2. 永琳に多少の違和感。本当に主催者?
※2に準拠する範囲で、永琳が死ねば他の参加者も死ぬということは信じてます
(これは……想像していた以上に、なかなかきつい)
じくじくと鈍く痛む腹を抑えながら永琳は思った。
これからも参加者に会う度こんな窮地を乗り越えなければならないのかと考えると辟易する。
何故こうも貧乏くじばかり引かねばならないのか。そんなことを愚痴りたくなってくる。
「あーあ。本当にもったいないことしたわ」
光学迷彩。恐らくは支給されたアイテムの中で一番を誇る防御アイテムだろう。主催者に認定されている永琳にとってはこの上なく重宝するものだった。
だが永琳はそれをわざと手放した。いや、手放す前から使うつもりはなかった。
何故なら永琳の目的は輝夜を捜すこと。一分一秒でも早く、自身の身の危険も顧みずに、だ。
輝夜がこちらを見つけてくれる僅かな可能性を潰してまで自分の身を守ろうとは思わない。戦闘になっても先程のように相手を無力化してから輝夜の情報も聞き出せる。
いらない物を誰にあげようと大した痛手はない。だが、これで一つ策を立てる上で優位になる要素がなくなったのは確かだ。
そして新たに考えるのはにとりの言葉。首輪に関して何か掴んでいるようだった。こんな機械を少しでも把握できる存在は幻想郷には少ない。
恐らく彼女は、機械類に強い唯一の種族である河童なのだろう。
首輪の足がかりを掴める河童。その存在はこの殺し合いの中で希望になる。彼女は守らねばならない存在だ。
だからこそ、貴重なアイテムを彼女に与えたのだ。
にとりの同行者である萃香も、戦力人格ともに申し分ないものに思えた。少し頼りない気もするが、彼女ならにとりをうまく守り抜いてくれるだろう。
だが、あんな行動に出てしまった以上、にとりと信頼関係を結ぶのは絶望的だった。
拉致するという手もあるにはあったし、それだけの余裕もあったが、それをしなかったのは自分と共にいることがどれほど危険か理解していたから。
現についさっきだってほとんど問答無用の形で襲われた。
現段階で、唯一の希望となるにとり。彼女を拒否した永琳。それがどういうことを意味するのか。永琳自身が一番よくわかっていた。
何千年ぶりに感じる死への絶望的な恐怖が彼女の中にはあった。
震える手を見て、自嘲気味に笑う。しかし、その手で無理やり握り拳を作った。その恐怖を無理やり押し付けるかのように。
(それでも、私はやらなければ。姫を助ける為にも、今は生きなきゃいけない)
自身に喝を入れ、永琳は再び歩いた。
さらなる窮地が自分を待っていたとしても、永琳はきっと歩を止めることはない。
自分の為すべき事を知っている彼女は、歩を止めることはない。
輝夜を止める。そして、彼女をここから脱出させる。
その為にも永琳は進み続ける。たとえ自分がどうなろうとも。
【F-5 一日目・早朝】
【八意永琳】
[状態]腹部の痛み(一時間程で治癒)
[装備]ダーツ(24本)
[道具]支給品一式
[思考・状況]基本方針;輝夜とここから脱出する
1. 星の弾幕が放たれた箇所へ向う
2. 真昼(12時〜14時)に約束の場所へ向う
※この場所が幻想郷でないと考えています
※自分の置かれた状況を理解しました
※この会場の周りに博霊大結界に似たものが展開されているかもしれないと考えています
代理投下終了。
乙です。
一行が長すぎって理由で、幾つか投稿止められたので、その部分は適当に改行を混ぜました。
主催者扱いされてたら、こうなるよなぁ。
これで姫が死んだりしたら、どうなることやらw
>>MajJuRU0cM氏
各々の正義、各々の守るものを収録しようとしたら、容量オーバーだったので、分割点の指定をお願いします。
いつもwiki編集ありがとうございます。
こちらで編集しておきました。
草はらに寝ころんで足をぱたぱたさせている妖怪が一匹。
ぽけりとしたあどけない顔で、まだ夜の抜けきれていない空を眺めていました。
妖怪の名前は霊烏路 空。
お隣にはちいさな氷の妖精、チルノも一緒に寝ころんでいます。
疲れて疲れて仕方のなかった黎明の頃。
これは空が提案したすこしの休憩タイム。
最初はころころバタバタと、退屈のあまり不満の声をあげていたチルノでしたけれど、
ゆったりとした時間の中で、気がつけばすやすや小さな寝息を立てておやすみしています。
やっぱり色々言っても疲れてはいたのでしょう。
そんなチルノを横目に、騒がしかった少し前を思い出しながら苦笑する霊烏路 空。
そよそよと流れる時間、ゆるやかな景色の変貌。
……と、そこでその変化は緩から急へ、
時間と言う魔法は彼女に少しの奇跡をプレゼントしてくれました。
わぁっと感嘆の声をこころに響かせる彼女。
彼女の目に映ったその景色の中で、
夜空がさららと幕を引くように朝にぬり替えられていきます。
ずっと地底で暮らしていた彼女はその不思議な光景に目を奪われ、
そして思うのでした。
『ああ、これが地上で、これが空なんだ』と……
そしてまた、私は思った。
やっぱり地上はとってもステキなものなんだって。
そしてそして、こんなにステキなお空と同じ名前の私はさらに絶対ステキなんだって。
一番にステキなんだって。
巫女とか魔法使いとかの時に地上に出たことはあった。
その時の空もたしか、すごく果てがなくて明るかったような気がする。
だから、あの暗くてのっぺりしてて、でもお星さまがきらきらだった夜空だって、
いつかどこかで明るい朝に変わるんだってことは解かってた。
でも、こんな風になんかすごくてスゴイなんて、ホントにびっくりしちゃった。
だからいまさらにまた、私はお燐の好意に感謝した。
だって私はこんな地上を灼熱地獄に変えようとしていたのよ、もったいない。
計画が失敗してよかった。
さとり様が怒ったのも今ならよく分かる。
なら、この気持ちを忘れない限り、
もう私は地上を灼熱地獄にしようなんて考えないと思う。
それにしても、いったいダレがこれだけの火を焚いているのかしら。
地獄跡ではソレは私の仕事だった。
けれど地上はこんなにも広い、隅っこまで灯りをのばすのはきっと大変なハズ。
そう思って、私はきょろきょろとその“苦労人”を探した。
そして……
探して探して、私は見つけた。
――この辺の地獄鴉で一番強い者を
――なら、貴方に力を与えます
思えばあの……えっと、その、あー、とにかくすごそうな神様に出会った時、
私の世界はカラリと変わったんだと思う。
八咫烏、究極の力。
そう、“太陽”の力を得て。
世界を塗り替えるその“苦労人”は東の空にギラギラと浮かんでいた。
感動だった。
すごい、すごい、これはほんとに凄すぎるわ。
なんて素晴らしい地上、そしてその地上を染め上げてゆく太陽!!
だって、あれが私の力なんだ。
究極で最高でほんとにほんとに一番なんだ。
感動が口から溢れ出すのを私はとめられない。
「ねえ、ほら見てよ! 太陽よ、究極よ、あれが私の力なのよ!」
私はこころのそのままに、溢れる言葉を隣にいる妖精にぶつけた。
けれどうっかり、勢いのあまり私は忘れていた。
その妖精、チルノは今睡眠中だったのだ。
まったく、その無邪気な寝顔も今はちょっとイラっとする。
ほら、だってこんなにすごいのだ。
太陽なのよ!
なんで今眠ってるのかしら、もったいなさ過ぎる。
さいきょー、さいきょー言っていたクセにホント呆れちゃうわ。
チルノのことはあきらめて、
私はしばらく、その太陽が世界を変えていく様を眺めていた。
けれど、あんまりに光が強すぎる。
手をかざし何とか太陽を見ようとしているけれど、ちっとも上手くいかない。
見ようとすればするほど、どんどん目がくらんでゆく、まるで全てが溶けていくみたい。
世界がぜんぶぼやけていった。
そして、その光に霞むぼやけた世界の中で、
私は不思議なきもちを思い出した。
『 』
いつだったっけ、それはわからない。
たぶん私が力を得るずっと前のこと。
私は尋ねた。
どうして私たちはずっと地底にいるのか……
よく覚えてないけど、たださとり様は色々とおしえてくれた。
嫌われた妖怪が何とか、えっと、地上との約束がうんちゃらとか……
実際、よく分かんなかった。
ううん、ただ私が覚えてないだけかも知れないけど。
どうしてあんなことを私は聞いたんだろう。
地上に出たいって強く思ってたわけじゃない。
多分、ただ何となく不思議に思っただけだったと思う。
だって私はさとり様がだいすきだった。
それは確かにさとり様から与えられたお仕事はちょっと面倒だったけど、
それでも、さとり様とお燐と私……みんなとの毎日は楽しかった。
ずっとずっと楽しかった。
それからえっと、どれくらい経ってからだっけ。
私に起きた大きな変化……
それは“太陽の力”
すごい力だった。
みるみる地獄跡が熱くなっていって、私も力を使うのは楽しくって。
別に地底の暮らしに飽きが来てたわけじゃない。
不満があったわけでも絶対ない。
さとり様もお燐も怒ったら怖いけど、それでもやさしい。
でも、ううん、なんだろう、なんて言ったらいいのかな。
んーと、私はやっぱりわからなかったんだ。
“地上との約束、ルール”
んー、だから、えっと……
“心を読む程度の能力”
うにゅ……
私が鳥頭なのがちょっとくやしい。
語彙が少なくて思いがうまく言葉にならない。
きっとこんな時さとり様なら私の心をそのまま読んでくれて、
やさしく私をなでてくれるのに……
“最も恐れられ、嫌われた妖怪”
とにかく、そう……私はさとり様がだいすきなんだ。
なんでみんなは嫌うんだろう。
私は太陽の力を手に入れた。
それは究極で一番の力なんだって神様も言ってた。
地上はすごくて、太陽もすごくて、だから私は嬉しくて……
確かに計画は失敗しちゃったけど、それでも私たちは地上に出られるようになった。
この力があれば、きっと何だって出来るんだ。
地上を溶かし尽くしたりなんて、それはもう考えない。
けれど、もしもこの力がホントに一番で、地上を支配出来るほどのものだとしたら、
それはきっと、もっととっても良いことだって出来るはずなんだ。
だから……
――皆様には、殺し合いを行っていただきます
私は数時間前のあの偉そうな女のことを思い出していた。
あの女はいったいなんて言っていたっけ。
よくわからないことばかり言っていたような気がする。
――こちらで定めました『禁止エリア』への侵入によって
遠く見れば、禁止エリアの中央、
あの堅牢な建物が、今もずっと偉そうに建っている。
そこは入っちゃいけない場所、そういうルール。
ぜんぜん関係ないわ。
だって太陽は……私はとっても強いのよ。
それをみんなに見せつけてやる。
私はやっぱり、必ずあの建物を壊してやろうと思った。
なんとなくそうすれば全部うまく行く気がしていた。
さとり様もよろこんでくれて。
いっぱいいっぱい私をほめてくれる。
……そんな気がしていたんだ。
そして、私の隣で最強の妖精はむにゃむにゃと寝言を呟いた。
「あたいが全員やっつけてやるんだから」
【E-1 一日目・早朝】
【霊烏路 空】
[状態]休憩中、疲労(小〜中)
[装備]なし
[道具]支給品&ランダムアイテム1〜3個(確認してません)
[思考・状況]基本方針:自分の力を試し、力を見せ付ける
1.偉そうな奴(永琳)を叩きのめす。その前に朝まで休憩
2.後であの建物をぶっ壊す!
※現状をよく理解してません
【チルノ】
[状態]睡眠中
[装備]なし
[道具]支給品一式、ヴァイオリン、博麗神社の箒
[思考・状況]
1.霧の湖に帰って遊びたい
2.とりあえず休んで、おくうについていく
※現状をよく理解してません
※ロケットはE-2禁止エリア内にて放置されています。どうなっているかは不明
代理投下終了。
乙です。
馬鹿なりに精一杯考えてるのが可愛いw
太陽を眺めるシーンが気に入りました。
投下乙
お空かわええええええ!!!
さとりを想うシーンで俺の心はピチュッた
このSS見てお空が大好きになったよ
バカな子ほどカワイイってやつだなw
まじでカワイイ
チルノよりもつながりがある分可愛いな
常識も多少あるし
Hかと思ったら…かわいいじゃないかw
いいのう、純真で素直な子は
【第一回放送投票】
これより、したらばの投票スレで、東方バトルロワイアルの第一回放送に、どの放送を採用するかの投票を行います。
期間は【6月07日0時00分〜23時00分】
詳細は投票スレと議論スレをご覧下さい。
放送案の内容については、仮投下スレの
>>313-315、
>>317-320を参照してください。
【予約解禁について】
上記の投票が終了した一時間後、つまり【6月08日0時00分】に第一回放送以降の予約を解禁します。
まとめ乙
ようやく放送か。長かったなぁ
というわけで、これまででおもしろかったSSを一位から順に挙げてみようかな
盗まれた夢/Theft of Dreams
烏輪の国の眠れない夢
黒と白の境界
Luna Shooter
ブレインエイジア
他にも挙げたいのはいくつかあるが、ひとまずはこれくらいか
なら自分も
19年前の歌声の日
小さな鬼の不安
盗まれた夢/Theft of Dreams
歯車であること
リリカソロライブ
灰汁の垂れ滓も空目遣い
Luna Shooter
運命のダークサイド
などなど順不同
19年前の歌声の日
泰然自若の花と鬼
生命遊戯 Easy
奇跡のダークサイド
揺れる第三の瞳
おてんば恋娘とフュージョンしましょ?
運命のダークサイド
嘘
黒と白の境界
烏輪の国の眠れない夢
キリよく十作品選んでみた。
順番は、特に意味を持たせてない。
たなびく真紅/Crimson Wisps
零れ落ちるモノ
泰然自若の花と鬼
南方バックドラフト
西行寺幽々子の神隠し
ぱっと思いついたのはこれくらい
ほんの僅かな姉の思い
八雲立つ夜
嘘と真実の境界
盗まれた夢/Theft of Dreams
半人半霊の半人前
紫の式は遅れて輝く
黒と白の境界
かしら
消えないこだま/Haunting Echoes
たなびく真紅/Crimson Wisps
運命のダークサイド
烏輪の国の眠れない夢
素晴らしいと思ったのはこのあたりかな
悲しくなってきた
>>252 上げられない作品=駄作ってわけじゃないさ
俺なんて上げ始めたらきりがないから書かないだけで、作者さんは皆凄い人だと尊敬してる
予想以上に予約入ったなぁ。
新人さんも二人いるし、いいことだ。
あれ、新人って2名じゃなくて3名じゃない?
>>255 書き込んだときには、まだ二名だったんだw
放送を抜けるということは偉大であることを、今日知った。
◆Sftv3gSRvM氏の代理投下を行います
「……以上、14人になります。残りは40名。まだまだ遊戯はこれから。是非楽しんでくださいませ。
禁止エリアですが、9時にD−1、12時にC−6が対象となります。
改めて説明させてもらいますとこの時刻を過ぎた後にエリア……つまり、今言った場所に入ると貴方は死ぬのです。
嘘だと思いますか? でしたら、存分に禁止エリアに侵入してください。すぐにお分かりになると思いますので。
――それでは、御機嫌よう」
底冷えするほどの冷淡な口調だったはずなのに、それを聞いていた鈴仙・優曇華院・イナバには、まるで歌を奏でているかのように感じられた。軽快なリズムで、まるで幼子が今夜の食事の献立を訊ねるかの如く、無邪気に、楽しそうに。
自分にとって誰よりも日常を象徴する声色であるはずなのに、何よりも日常から掛け離れた内容である放送。そのギャップに耐え切れない鈴仙は、ガクガクと小刻みに震える身体を抱きしめながら、今も血溜まりの上で倒れる秋穣子の目の前で蹲った。
破片手榴弾の爆発に巻き込まれた穣子は、痛覚と共にすでにその五感も失われようとしている。茫漠とした意識では、今の鈴仙の状態に気付けるはずもなく、穣子は先の放送で気になったことを彼女に訊ねた。
「……ね、ぇ」
「……」
「さっき……主催者から……放送があ、ったで……しょ? 死んでしまった人の……なまえ」
「え……」
「もう、……よく聞こえ……なくて。……さっきの放送に……おねえ……ちゃ…の」
蒼白を通り越した土気色の顔で、息も絶え絶えに姉の、家族の身を案じる穣子。
四肢、背中、脇腹など身体中の至るところに突き刺さった金属片は、彼女の命を外へと吐き出し、血の池を一層広げていく。
焦点の定まらない赤茶色の瞳にはすでに何も映らず、力なく掲げられた両腕は、まるで守れなかった大切な人たちを掻き抱くかのように、ブラブラと虚空を彷徨っていた。
もう助からない。薬学医学を学んだ鈴仙でなくても、それは誰の目にも明らかだった。
見ていられなかった。あまりに凄惨すぎるその光景を。あまりに悲惨すぎる彼女の末期を。
なのに、だというのに彼女は―――
「し、静葉、だっけ。その名前ならなかったと思うけど」
「そう……よかった……」
―――笑ったのだ。
助からない事は自分が一番よくわかっているはずなのに。こんな不条理な異変に巻き込まれ、ワケのわからないまま命尽きようとしているのに、恨み言一つ言わず、今際の際まで他人の無事を心から喜んでいる。
穣子の笑顔を見た瞬間、鈴仙の理性は弾けた。もう我慢できそうになかった。相手が瀕死の状態であることも忘れて、自身を押し潰さんとする不安、恐怖を堰切ったようにぶち撒けた。
それが死に逝く者にすべき行為でないことはわかっている。だがそれでも止められなかった。誰かに聞いてもらいたい。他ならぬ誰よりも温かい、人よりも人らしい心を持つ豊穣の女神に。
「こんなことになったのも、みんな……みんな師匠のせいなのよっ! こ、この殺し合いの主催者は……私の身内なの!」
「……ぇ」
「それなのに師匠は私を捨てた。私だけじゃなくて、てゐや姫様までっ! 家族なのに……ホントだったら貴方たちみたいにお互いを想い合える関係のはずなのに……っ」
「……」
「ねぇ、私はこれからどうしたらいいの? 私じゃ師匠に逆らえないし勝てない。こんなコトになって……もし無事に帰れたとしても、もう誰を信じたらいいのかわかんないよ。
月から逃げて、戦場から逃げて、逃げて逃げてやっと見つけた居場所なのに。私はどこにいけばいいの? 何をしたらいいの? 誰を信じればいいの? ―――ねぇ教えて! お願いっ!!」
最愛の者に裏切られた月兎は縋りつく。今にも消えかかろうとする細く小さな灯に。
血に汚れるのも厭わず、子供のように泣きじゃくりながら、つもりに積もった鬱積を身勝手に吐き散らす。
それを黙って聞いていた穣子の口が小さく開いた。コポリ、と音を立てて、口内に溜まった血が穣子の細い顎に赤い線を引いた。
「……止めて、あげて」
「え?」
「貴方が……この殺…し合いを止める…の。他の……誰でもない……あなたが」
「わ、たし……が?」
「身内の……不始末…なんでしょ? なら…貴方が止めなきゃ……。これ以上…犠牲者が出る……前に」
「そっ、そんなの無理だよ! 師匠はもう私の知ってる師匠じゃないし、それに……」
「それに……?」
「……きっと師匠に会う前に殺されちゃう。私っ……死ぬのが怖い! 死にたくないよぉ……」
……もう、あまり時間がない。穣子は薄れ行く意識の中でそう思った。
でも、その前にこれだけは言わないと。目の前で泣き伏す誰よりも臆病で、きっと誰よりも可哀想な兎に伝えなくちゃいけない。自分の遺志を。私のバトンを継いでくれるよう、ほんのひとかけらの勇気を与える為に。
「……思い出して……おねえ……ちゃんと…こいしを…助ける……って……さっき言って…くれた…じゃない」
「―――ぁ、あれは……」
「貴方の家族も……助けて……あげてよ。助け…られる…のは、きっと……貴方だ…ゴフッ!」
「も、もう喋らないで! ごめんね、私……ごめんなさい! ごめんなさいっ!!」
「いい……からっ! 聞いて。……これで…最後……だから……ね?」
「やだよぉ……もうヤだっ! 何で……どうしてっ!!」
少女の死期を間近に悟り、鈴仙はイヤイヤするように頭を振る。それは自身の罪悪の具現。嘗ての同胞を見殺しにし、自分だけおめおめと生き永らえた彼女のトラウマを嫌でも想起させるものだった。
「私の……死を…少しでも……悼んでくれる……のなら……お願い。……逃げないで。自分を……信じて……あげて」
「しん、じる?」
「信仰に……よって……力を得るのは……神だけじゃ…ない。きっと……それは…貴方の…力に」
「―――ッ! わ、私の何を信じればいいっていうのっ!? 私ほど卑怯で浅ましい女なんて、幻想郷を見回してもそうはいないわ! あ、貴方の……貴方の友達を殺したのだって本当は」
狂いたくなるような激情に任せ、鈴仙が己の最大の罪まで懺悔しようとするその時だった。
早朝の肌寒さとは明らかに異なる悪寒が、鈴仙の背筋を震わせた。それと同時に、発達した聴覚が第三者の足音を明確に察知する。顔を上げると、鈴仙たちからおよそ一町先の公道を淀みない歩調で歩く紅白の巫女の姿があった。
「霊夢……?」
幻想郷の博麗の巫女。この世界の『是』を体現した存在であり、およそ何者にも縛られない天衣無縫な異変の解決役。彼女が味方についてくれさえすれば、さしもの永琳も話し合いに応じてくれるかもしれない。
だが、鈴仙には出来なかった。彼女に助けを乞うことも、ここから逃げ出すことも。
兎という生き物は食物連鎖の中でも弱い部類に当たる。歴史から鑑みても兎は常々、食料または娯楽の為に狩猟され続けてきた。
弱者であるが故に、危険に反応する為の鋭敏な本能はすでに遺伝子レベルにまで刷り込まれている。それは戦争を経験した月の兎である彼女にとっても同じこと。
その本能が全力で警鐘を鳴らしているのだ。脱兎の如く、と。そして、それに裏付けするかのように、一歩一歩近づいてくる霊夢から漂う匂いが強くなってくる。
もはや振り払っても落としきれないほど染み付いている、咽せ返るように濃厚な血の匂いが。
「あ、アンタ……まさか!?」
その姿を直視しただけで足の震えが、冷や汗が止まらない。背中を向けたその瞬間、殺されてしまうかのような錯覚に捉われる。博麗霊夢はすでに変貌を遂げていた。絶対的恐怖と死の予感を撒き散らす楽園の死神という名の矛盾に。
「……」
両者の距離がおよそ二十歩分まで差し迫ろうとした時、―――霊夢の歩みが突然速まった。
その右手には、いつの間に手にしたのか、身の丈に迫る長刀。昇り始めた日の光に照らされ白銀に輝くそれは、見るものに不吉な予感を抱かせる程の妖力が秘められていた。
標的は虫の息の穣子ではなく、恐怖に顔を引き攣らせ、その足を止めている鈴仙!
「ぁ……ぁ……」
しかし彼女は動けない。動けるはずもない。狂った我が師と相対したかのような恐怖に身が竦んでいるのだ。楼観剣の刃先はもう手を伸ばせば届く距離にある。尋常ならざる速度のはずなのに、鈴仙の目には何故かスローモーションのように緩慢に見えた。
ああ、私死ぬんだ……。
結局、私なんかには何も出来なかった。
師匠を止めることも、誰かを守ることも、逃げ延びることさえ。
何の罪もない人を殺してまで、助かろうとしたのに……。
私はやっぱりもう、生きる資格なんかないのでしょうか……師匠。
「……行きなさいっ!!」
だが、誰かの声が聞こえた。「生きろ」という声が。
声に気圧される形で、鈴仙は反射的に一歩後ずさる。刹那、その鼻先を高速で横凪ぐ刃が掠めた。正気を取り戻した鈴仙は、形振り構わず転身。落としていたスキマ袋をひったくり、その場から全速力で駆け出した。
勿論、その跡を追おうと即座に身を乗り出す霊夢。しかし、袴の裾を誰かに掴まれる形で歩みを止めることになった。
「……そんなにトドメが欲しいのなら、今すぐに楽にしてあげるわ」
「どうせ…ほっといても……死ぬからさ……。冥土の……土産に……あんたのこと…聞かせて……よ」
駆ける駆ける無我夢中に駆け抜ける。
どうして霊夢が? どうやったらあんなに人が変われるの? そもそもあれは本当に霊夢なの?
走る走る動悸の治まらない胸に手をやり、息を切らせながらひた走る。
やっぱりこの場所は、簡単に人が狂える世界なんだ。師匠みたいに、霊夢みたいに、私みたいに―――
狂気の月兎は怯える。狂気の世界に、狂気の沙汰に、正気の狂気の境界に。
そして煩悶する。また見捨ててしまったことに。命惜しさに逃げ出したことに。何よりも自分の無力さに。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 助けてくれたのに、あんな身体で身を呈して私を助けてくれたのにっ!
何も返せなかった。命だけでなく、心まで救ってくれたあの少女に対して、自分は何一つの救いも差し伸べることが出来なかった。
だからせめて忘れない。彼女の残した言葉を。そして、彼女の最後の願いを。
―――探さなきゃ。こいしって娘と、彼女のお姉さんを。
疲労と恐怖に苛まれた顔。けれど、その紅い瞳には決然とした意思を宿し、月の兎は走り続ける。
そうして、彼女にとっての長い長い夜は―――明けた。
【D-3 里(辺境にあたる) 朝・一日目】
【鈴仙・優曇華院・イナバ】
[状態]疲労(中) 持ち直したとはいえ精神疲労もあり
[装備]毒薬(少量)
[道具]支給品一式×2 破片手榴弾×3
[思考・状況]基本方針;自分の保身が最優先の上で人探し(殺意は今の所なし)
1.静葉とこいしを見つけて保護
2.永琳や霊夢には会いたくない だけど穣子の言葉が頭から離れない
3.穣子と雛に対する大きな罪悪感
「……どうして……あんたは……殺す…の?」
持ち得る水分をほとんど流しきり、掠れきった声色はか細く弱々しく頼りないものだった。
「……」
しかし、胡乱気も揺れていた瞳には、強い意思とそれに追随する力が宿り、虚偽は決して許さない、と言外に語っている。
鋭利な刃物と、尽きかけのロウソクの視殺戦は、しかしロウソクの方が勝った。
霊夢はふぅ……、と誰にも聞こえない程の小さな溜め息をこぼし、いつもの―――まるで異変前の霊夢に戻ったかのような―――やる気の感じられない口ぶりで問いに答えた。
「答えは簡単。私が博麗の巫女だからよ」
「そ、……そんなのっ……答えに…なってな」
霊夢の答えに噛み付こうとした穣子の眼前に、刃先が突きつけられる。巫女の顔はもうすでに殺人者のそれに戻っていた。
「土産は渡したわ。あとは六文銭……際の覚悟、といった所だけど、何か言い残すことでもある?」
「……そ、それ……じゃ、最後の……最後に……一言だ…け」
その時だった。霊夢の特異能力とも言うべき直感が、彼女の一言に反応した。油断していたわけではない。自分が手を下すまでもなくこれから死する少女に対して、ほんの僅かの情けが芽生えただけ。
何故、あんなやつを、血だるまになって一歩も動けない半死人を私は危険だと断ずる?
本能ではわかっても霊夢の理性ではその根拠までがわからない。それも当然だ。穣子の懐には幻想郷に存在しない近代兵器。すでにピンを抜いてあるM67破片手榴弾がその鎌首をもたげていたのだから。
霊夢と邂逅した際、その場の空気に気付いた穣子は、最後の力を振り絞って地面に落ちていた彼女のスキマから手榴弾をくすねた。
どういう仕組みになっているのかは、その身で味わったのだから当然覚えている。霊夢の方も逃げ足のない穣子より、鈴仙に目がいっていた為、どうやら気付かれなかったようだ。
「―――!」
「……八百万神の……名において断言するよ。……あんたは……勝てない!」
ドカン! という爆音と共に、無数の金属片が周囲に飛び散った。
それと共に、少量の血しぶきが辺りの建物や草木に降りかかる。
その血が霊夢のものか、穣子のものなのかは、まだわからない。
ただ、爆心地にはほとんど原型も留めていない、ただ顔だけは不思議なくらい傷が少なく、満足そうに微笑む少女の亡骸が残っていた。
【D-3 一日目・朝】
【博麗霊夢】
[状態]不明
[装備]楼観剣
[道具]支給品一式×4、ランダムアイテム1〜3個(使える武器はないようです)、阿求のランダムアイテム0〜2個
メルランのトランペット、魔理沙の帽子、キスメの桶、救急箱、賽3個
[思考・状況]基本方針;殺し合いに乗り、優勝する
1.力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除する
2.休憩が必要と感じれば休憩する
※ZUNの存在に感づいています。
【秋穣子 死亡】
【残り39人?】
タイトルの表記を忘れていた。
『巧詐不如拙誠』がタイトルみたいですね。
ということで投下乙。
ヘタ鈴仙はヘタレ街道を突き進んで欲しいのう。
鈴仙が心情を吐露するシーンが迫力あったぜー。
投下乙です。
へたれなのに輝いてる!
でも燐のこと、まったく考慮に入れてないあたり、やっぱりへたれだな。
そして霊夢うううう、油断するんじゃねええぇぇぇ。
代理の方、投下して頂きありがとうございました。
燐のことはすみません。鈴仙よりも抜けてた自分の方がへたれでした。
wikiのほうで加筆修正したいと思います。
修正加筆は重要になるから報告または修正点は投下するのを忘れないように
>>266 了解しました。
ところで自分で気付いた細かい誤字・脱字の修正は報告するべきでしょうか?
スレ違いだったら申し訳ありません。
>>267 大きな変更点(今回で言う行動表へのお燐の追加)だけ修正・加筆スレに投下でいいはず
後はその後に『その他細かい誤字脱字を訂正しました』って書き込んどけば問題ないと思う
wikiの編集はお目当てのページの左上『編集』→『このページを編集』でできるよ
「ハッ・・・ハッ・・・!」
徐々に空が明るくなっていく。つまり、朝が来て太陽が昇り始める時間といえるだろう。
その空の下を、白狼天狗の犬走椛は走っていた。
彼女は深夜に起こった惨劇と長時間にわたって走ったことから、肉体的にも精神的にも疲労している。
しかし、そんなことはお構い無しに時は過ぎていき・・・
『皆様、ご機嫌いかがでしょうか?殺し合いの遊戯は楽しんで・・・』
1回目の放送が流れ始めた。
『―――それでは、御機嫌よう』
1回目の放送が流れた。それはとても短く単純なものだったが、それでも椛にとっては重く感じ取れた。
この6時間だけで14人も死者がいることに。そして、あの惨劇で犠牲になったであろう、ミスティアの名前も挙げられていたことに。
「・・・行こう。こんなところで立ち止まってはいけない」
とりあえず、放送で呼ばれた者と禁止エリアについてはメモで記録しておいた。
だが、それ以上は考えたくなかった。
まるで、フラッシュバックのようにあのときの惨劇を思い出してしまうから・・・
椛は再び走り出した。
「もう少し、もう少しで、あそこまで・・・」
なお、椛はただ他者との接触を避けるためだけにひたすら走っているわけではない。とある場所へと向かっていたのだ。
その場所とは・・・
「見える・・・妖怪の山がはっきりと見える。もうすぐで着くんだ・・・!」
椛の目にははっきりと妖怪の山が見える。
すなわち、自分と妖怪の山までの距離が縮まってきたということと、そして何より明るくなったことによって視界の範囲が広まってきたということだ。
…そう、彼女の向かう先は妖怪の山だった。
妖怪の山は長年過ごしてきた、巨大な庭園のようなものである。
だから何処に何があるのか、隠れるのに最適な場所はどこか、侵入者を見つける絶好の場所はどこかといったことがよく分かる。
そのため、他者との接触を断ち引き篭もるには絶好の場所と言えるだろう。
更に超広範囲の視界を誇る千里眼もある。視界にさえ入れば遠くからでも参加者を断定できる。
最後に、今、自分が持っている首輪探知機。これにより自分の近くに来る者の動きは全て感知できる。
何もかも、完璧だ。これなら誰であろうと自分を見つけることは出来ない。
少なくとも、椛はそう思っていた。
―――そのときだった。
ガッ!
「うわっ!?」
…ポチャン
湖の付近を走っている途中、椛の足は突然バランスを崩してしまい派手に転んでしまった。
「痛・・・っ!」
椛は痛みをこらえ、よろよろと立ち上がる。こんな時に何をやっているんだと思った。
「・・・?」
だが、何かおかしい。
転ぶ前に足で感じた、何かにつまづいたような衝撃。
少なくとも岩や小石ではない。不自然に軟らかかったような気がしたからだ。
まるで、人を蹴っ飛ばしたような感覚。
「まさか・・・!」
おそるおそる、転んだ場所を見ると・・・
「・・・っ!」
そこには妖怪の死体があった。
死体があるということは、以前にここで殺人があったということである。
いつ起こったのかは分からないが、少なくともここにいるのは精神的によくない。
そのため、すぐにこの場から離れようと思った。
だが・・・
「あ、あれ・・・?無い・・・?首輪探知機が・・・無い!?」
ここで、椛は手元の首輪探知機が無くなっていることに気付いた。
転ぶ前は確かに手で握っていた。ということは、転んだ弾みで落としてしまったということか?
まずい、すぐに捜さないと。
そう思い、きょろきょろと周囲を見渡してみるが、どこにも見当たらなかった。
ふと、湖の水面を見る。
すると、何故か波紋が広がっている部分があるのが分かる。
そういえば・・・転んだ時にポチャンという音も聞いた。何かが湖に落ちた音だと考えると・・・
まさか・・・!
「落としてしまった・・・?」
全てを悟った椛の顔が、真っ青になっていった。
最悪の事態だ。
命綱の一部である首輪探知機を、よりによって湖に落としてしまうなんて。
「ま、まずい・・・。すぐに見つけないと・・・!」
時は一刻を争う。こうしている間に誰かが来るかもしれないのだ。
そう思った椛は、躊躇無く湖に飛び込んだ。
「あ・・・ぐ!」
バシャーンという音と同時に、全身が水に濡れていく感覚がする。なんだか嫌な感じだ。
そして何より、めちゃくちゃ寒い。体温が一気に奪われていくのが分かる。
それもそうだろう。今は冬が終わったばかりの時期で、雪もまだ残っているのだ。だから、湖の水温は冷たいに決まっている。
ただ、それでも諦めるわけにはいかない。今の苦痛よりも、探知機が無い方が辛いと思うからだ。
幸いなことに、この湖はそれほど深くなく、肩辺りまで水に浸かる程度だ。立っている限り溺れることは無い。
それでも潜って手探りで捜すわけにはいかないので、足で水底をかき回し踏んづけていきながら捜していく。
すると、何やら硬いものを踏む感覚がした。
「やった・・・!」
寒さに耐えながら見つけたそれは、とても嬉しいものだった。
体がガチガチに震えながらもそれはもう終わるんだ、と思いながら椛は湖に潜り、踏んづけたモノを掴む。
…が
「・・・ナイフ?何でこんなものがここに・・・」
ハズレだった。
ふざけるな!私が捜しているのはこんなんじゃない!
そう言わんばかりにポイっと力任せに投げつけた。まるでブーメランのように遠くに飛んでいったが、どうでもいい。
それよりも潜ったことでよりいっそう寒くなった。もう、我慢の限界だ。
しかし、幸運の女神は追い詰められたときに輝くものなのか。今度こそ、硬い手ごたえを感じ取った。
最後の力を振り絞り、足元の物を拾い上げる。
「やった・・・。やっと、見つけた・・・」
今度はアタリだった。
チラッと探知機を見る。どうやら、いつもどおりに動いているようだ。
水に浸かっていたはずなのに、壊れていないということである。
(さすが、河童の技術・・・。防水機能は完璧だ)
椛は外の世界のことを知らないためか、機械はすべて河童が作っていると思っているようだ。
この探知機の製作元はどこのものなのか・・・今は分からない。
それはさておき、目的のものは見つかった。もうこんな極寒地獄に用は無い。
目的を果たしたからか、探知機を見つけてから地上に這い上がるまでの間、寒さは吹き飛んだかのように感じなかった。
湖から這い上がり、一息つく椛。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
探し物が見つかって安心したからか、再び寒気が襲ってくる。それに、とても疲れた。
しばらく休んだほうがいいかもしれない。参加者に会わなければそれでいいのだから。
そう思い、改めて探知機を見る。
この探知機には依然、中心に点が一つだけの画面が映るであろう。
…そのはずが
「・・・あっ!て、点が二つ・・・。しかも、近い!?」
自分が探知機を捜している間にこんなことになっているとは・・・
画面に点が二つあるということはどんな状況か。
一つは中心に表示される自分自身だ。そして、もう一つは・・・何者かが一人、近くにいること。
(まさか・・・)
嫌な予感を感じつつ、おそるおそる後ろを振り向くと・・・
「何をしているのかな〜、天狗のお姉さん?」
「うわああああああああああ!!?」
背後にいた者と目が合ったと同時に声をかけられた椛は、驚きのあまりに足を崩してしりもちを着いてしまう。
「く、来るな・・・来るなぁ!!」
ずしんとのしかかるような恐怖に見舞われた椛は立つことも出来ず、ずりずりと後ずさりするだけだった。
しかも、目の前にいる猫妖怪は頭部や右目の損傷が酷いにも関わらず、まるで何事も無いかのような顔をしている。誰がどう見ても普通じゃない。
まるでゾンビのようなたたずまいを前に、更に恐怖心が積み重なっていくのが嫌と言うほどに分かる。
「いいなぁ、その恐怖に怯える表情。あたい、こういうのも悪くないと思うんだ」
猫妖怪、火焔猫燐の表情がニヤッとなる。傷ついた今の顔では不気味なものだ。
「い、嫌だ・・・嫌だ・・・!」
椛は泣き顔になりながら必死で命乞いをしようとする。
だが、燐はお構い無しに椛をじーっと見つめる。
椛と燐との距離は10mを軽く越えている。椛は逃げようと思えば逃げられる距離にある。
それでもまだ足が動いてくれない。重すぎる恐怖が足枷のようになっているのだ。
もう、椛の頭には絶体絶命の文字しか思い浮かばない。
そして、燐は口を開いた。手榴弾を手にしながら・・・彼女は言う。
「ねぇ、お姉さんも死体になってみる?」
カランカランと音を鳴らしながら平地を歩く燐。
彼女はリヤカーを押しながら歩いていた。そのリヤカーは夜明けの時に人里で見つけたものである。
リヤカーは荷物を運ぶのに便利なもの。そのため、椛が持っていたスキマ袋2つはそれに乗せていた。
更に、リヤカーには死体も乗せられている。
1人目は、喉の損傷が酷く半開きの目をしている状態で絶命した永江衣玖の死体。
そして2人目は・・・破片が全身に刺さり体の所々が爆風で吹き飛んだ犬走椛の死体。
燐はふと2人の死体を見る。
うん、いつ見ても素晴らしいものだ。
こんなものがこれからも増え続けていく。そう思うと、楽しみで仕方がなかった。
「あ〜。死体集めって、楽しいなぁ〜」
【C−3 霧の湖周辺 朝・一日目】
【火焔猫燐】
[状態]右目消失、アドレナリン大量分泌による痛覚の麻痺?頭部に小さな切り傷(血液流出) 頬にあざ
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、首輪探知機、リヤカー(死体が3〜4人ほど収まる大きさ)、不明支給品(0〜5)
[思考・状況]基本方針;死体集め
1.したいあつめはたのしいな〜
2.もう誰も信用しない
※椛はM67破片手榴弾の爆発で死亡しました
※リヤカーにはスキマ袋×2と、衣玖と椛の死体が乗せられています
※銀のナイフ1本が霧の湖周辺に落ちています
※首輪探知機は防水機能があります
【犬走椛 死亡】
【残り38人】
代理投下終了。
乙です。
燐の迫力勝ちだなぁ。
リアカーに乗せて運んでる燐を想像するとマジホラー。
>>268 右も左もわからない新人で、本当にすみません。
wikiはその編集の項目がいくら探しても見つからないので、制限かかっているのかな、と。
もうちょっと粘って駄目だった場合、とりあえず執筆に専念しようと思います。
教えて下さってありがとうございました。
投下乙です。
燐が覚醒しちゃった、って感じですね。
手持ちの武器が尽きた以上、次はどのような方法を用いるのか楽しみです。
それにしても、正気の地霊組はさとり、空、キスメだけと寂しいことに…。
投下乙ですー
椛無茶しやがって……草葉の陰でみすちーが泣いてるぜ
さてこちらも投下しますー
フランドール・スカーレットは夜明けを知らない。
そもそも夜が明ける前に眠ってしまうことが多かったし、紅魔館から出してもらえる機会すら滅多にないのだ。
空が黄金色に輝き、払暁の光が波の様に波紋を広げていく。
自分の髪と同じ色をした太陽の光は天敵ではあったが、忌むべき存在だとは思えなかった。
少なくとも、フラン自身にはそう思えた。寧ろ感動してさえいる。あまりにも草原に広がる風景が、綺麗だったから。
今傘を手放し、光の中に自分を置いたらどうなるだろうかと想像する。
知識として、日の光に当たれば煙となって消えてしまうのだとは知っている。
その一方で傘を取り払い、身をさらけ出してみたいと考えている自分もいる。
手を大きく広げ、漂う清浄な空気を胸いっぱいに吸い込めたらどんなに気持ちがいいだろう。
人間だったら良かったのに、と思う。人間だったらこの願いは成就されただろうに。
お姉様が怒りそうだ。クスリと笑うフランの顔には半ば諦めを含んだものがあった。
姉と違って自分は吸血鬼であることに自尊心も誇りも持っていない。それよりも色々なことが知りたかった。
知ることの面白さを知ったのは例の事件が解決して以来だ。
正確な理由は教えてくれなかったが、姉のレミリア・スカーレットは館内部においてのみ自由に出歩くことを許してくれた。
それまで地下室の世界しか知らなかったのが一変して、物が満ち溢れる場所を歩くことが出来るようになったのだ。
とはいっても当初は色々と問題を起こした。
物をよく壊しもしたし、妖精メイドに一方的に弾幕ごっこを仕掛けて滅多打ちにしたこともある。
今から考えれば、自分は壊すことしか知らなかったのだと思う。
破壊の力を宿した手のひらを眺めながらフランは苦笑する。昔はこれが自分の全てだった。
閉じ込められた場所で、唯一自由にできたもの。それは壊す以外の用法を持たぬ力だ。
だから壊した。壊せるものは全部壊した。それがどんな結果を生み出すのかなんて考えたこともなかった。
しかし咎めてくれた人たちがいる。紅魔館の住人たちだった。
本を壊せばもう読めなくなると教えてくれたのはパチュリー・ノーレッジだ。
困る人がいる。本は皆で使うものなのだとパチュリーは言った。
物は一人だけのものではないのだということを知った。
花壇を壊したら花が見られなくなると言ったのは紅美鈴だ。
バラバラになった花は種を作ることも二度と花を咲かせることもないのだと言った。
直すことのできない物があると知った。
無闇に誰かを傷つけてはいけないと叱ったのは十六夜咲夜だ。
理由もなく暴力を振るうと嫌われると言った。ただし悪いことをしているなら話は別だとも言って笑った。
フランは初めて善悪というものの存在を知った。
そして、家族というものを再認識させてくれたのは姉のレミリアだ。
ある夜。珍しくレミリアが外に出してくれた。外は満月で、雲ひとつない夜だったのを覚えている。
紅魔館の屋根に二人して腰掛けて、短いながらも色々なことを話していた。
食べたいものはあるか。行ってみたいところはあるか。質問攻めだった。
一方的に聞いてきたレミリアは一通りの答えを聞くと「そう」と言って戻っていってしまった。
その時はあんまり面白くないと思っていたが、次の日から自分の食事に『食べたいもの』が混ざっていた。
レミリアはそ知らぬ顔だった。何を考えていたのかは推し量れなかったが、フランは喜ばしかった。
あの日初めて自分はレミリアと血が繋がっていることを認識したのだと思う。
そして他の妖怪達とも繋がりがあることを。
壊すだけの毎日は終わりを告げた。それ以外にもこの世界にはもっともっとたくさんのことがあるのだと知った。
知っていく度に、隔絶されていた自分を縛る鎖がひとつひとつ壊れていくように感じた。
自分のあらゆるものを壊す程度の能力でさえ壊せなかった因果な鎖を。
きっと今でも自分は気が触れているのには違いない。他者から見ればきっとそうなのだろう。
あまりにも自分は、何も知らなさ過ぎる。道理という言葉すら知らなかった自分は、
感情の在り処さえ知らない自分は、恐らくは狂っていると定義されるに十分なのだろう。
『これは遊びなんかじゃない。“殺し合い”なの』
『あなたはそれを理解してない。でもね、理解しなくちゃいけないの』
これは遊びなのだと思っていた。
殺し合いという言葉の意味が分からなかった。
ただ全員を倒せばいいらしいということだけは理解できた。
つまりそれは、ゲームでしかなく、ちょっと怪我をする可能性が増えた遊びなのだと。
その程度にしか考えていなかったし、その先を考えようともしなかった。
ゲームという言葉の意味と照らし合わせ、ただその通りにしか行動しようとしなかった自分は、きっと気が触れている。
だからまともになってやろうと思う。一応は吸血鬼なのだから、それらしく振る舞える程度にはなってやろうとは思う。
誇り高き吸血鬼、レミリア・スカーレットの妹として。
先程人間になれたらいいのにと考えていた自分もいることにはいるが。これくらいの自由はあってもいいだろう。
ああ、だから、結局自分はまともにはなりきれないのかもしれない。
そう結論して、フランはスターサファイアの首根っこを持ち上げた。
「な、な、なに?」
「太陽の光を浴びて、思いっきり両手を広げて、深呼吸しなさい。いいわね?」
「え、う、うん……」
どういう意図なのか量りかねる調子でスターサファイアは日傘から出て行き、指示された通りに深呼吸する。
すぅ、はぁ、という呼吸の音が風に乗ってフランの耳に届く。
生きている。そんなことを思う。
「どんな気分?」
「すっごく気持ちがいいわよ。フランもやってみ……」
そこでスターサファイアは口をつぐんだ。
流石の妖精も失言に気付いたらしく、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
フランはただ苦笑した。
「そう。やっぱり気持ちがいいのね」
それだけ分かれば十分だった。夜明けを気持ちがいいものだと確認出来ただけで、またひとつ鎖は外れた。
だがまだ悪いと思っているのかスターサファイアは何かを言おうとしたが、言葉は唐突な声に遮られる。
『皆様、ご機嫌いかがでしょうか? 殺し合いの遊戯は楽しんでいらっしゃるでしょうか』
先程聞いた、『主催者』の声だった。
* * *
自分の体をぺたぺたと触ってみる。
どこもおかしくはない。ちょっとばかし胸の感触が薄いのにはほんのちょっぴり絶望を覚えるが、
内奥を駆け巡る違和感はそんなものの比ではない。
傷が完璧に塞がっている。どこの冗談だろう、これは。
あまりにおかしすぎて一晩中笑いたくなってしまうくらいに現実感を欠いていた。
「そっか。化け物の仲間入りをしたのか、私は」
突いて出た言葉はあっけらかんとしていた。そうだろう。この体は、霧雨魔理沙のものではない。
霧雨魔理沙のかたちをしたなにかだ。
魔法使いとは悲しいものだと思う。事象を知識と照らし合わせ、合致するものがあればいとも容易く受け入れる。
この化け物の体を、自分は知っている。永遠亭のお姫様と竹林の自称健康マニアという実例がいるからだ。
思うのは、今考えているこの頭は、果たして化け物なのかどうかということだ。
人間だよな、と尋ねた言葉の意味はそういうことだった。
心も体も化け物になってしまったのか、それとも頭だけはまともなのか。
こうして冷静でいられること自体が怪物の証明とも言えるし、或いは事実を他人事のように思っているだけなのかもしれない。
隣に立っている八雲藍は僅かに目を伏せ、虚空を見つめている。
命を救った恩人なんだからもっと堂々としていればいいだろうに。やはり他人事のように、そう思う。
生きているという実感もなければ死に掛けたという実感もない。
それでも思うことがあった。
まだ自分は、博麗霊夢を止められる。たとえ人間ではなくなったとしても霊夢を止め、
皆でこの悪夢から脱出するという目標を捨てずにいられる。
化け物になる代わりにもう一度神様はチャンスをくれたのだ。
「しっかりしろよ、八雲の式。これでも私は嬉しいんだぜ?」
生きている事実ではなく、まだ霊夢を止められるという事実についてではあったが、嘘じゃない。
だから魔理沙はニッと笑うことが出来た。それでようやく藍も微かな笑みを浮かべた。
人の理を乗り越えさせてしまったことにまだ負い目を感じているようだったが、それでよしと思うことにする。
終わりよければ全てよしが霧雨魔理沙の信条なのだ。
「さてと! 湿っぽい話はここまでにして、どうして私を助けたのか聞かせてもらおうか。今さらだけどな」
ぽんと藍の肩に手を置き、森を出ようと伝えて歩き出す。
森を出ようと思ったのは単純明快。さっき酷い目にあったからだ。
頷いた藍に、魔理沙は真剣な表情を差し向ける。
それなりの理由と打算があって自分を助けたのは間違いない。
まさか妖怪の式が好き好んで人助けなんてするわけがないだろう。
だとするなら、妥当な線は自分を仲間に引き入れるためというところだろうか。
これでも魔理沙は数々の異変を解決してきたやり手であるし、人間にしては(今となっては元人間だが)強い。
知識を買ったのか実力を買ったのか。大した自信だなと己に苦笑しつつ、魔理沙は藍の言葉を待つ。
「……簡単に言えば、お前の力を借りたかったからだ」
そらきた。頭の冴えはそれほど変わってはいないということらしい。
へえ、それで、と先を促す。力を借りるとは言うが、どういう方面なのかにもよる。
殺しをしろなんて言われるのは真っ平御免だった。とはいっても境界の妖怪の式に勝てるかどうかは正直不安ではあるが。
化け物の体とはいえ一筋縄ではいかないだろう。
ましてや、これまで自分の身を守ってくれていたスペルカードルールが通用しないこの状況では。
「霧雨魔理沙、お前にはこの殺し合いを潰すために動いてもらいたい」
「おいおい、そんなこと言って大丈夫なのか」
とんとん、と首輪を指す。爆破されるのを恐れているわけではない。
逆らおうとしていることを知られてもいい覚悟があるのかと聞きたかった。
当初から殺し合いに逆らっていた自分が死んでいない事実を鑑みるに、
とりあえずは主義主張は言うだけなら言わせてくれるらしい。随分とまあ寛容な主催者さんであることで。
自らの皮肉めいた思考も冴えを取り戻してきているようで、何故か魔理沙は安心感を覚えた。
「だったら、私も既に殺されている。危機が及ばない限りはこちらに手出しをしてくるということはない。
八意永琳はそう思っている」
そりゃ違う、と言いかけて魔理沙は口を閉じた。
そういえば永琳が主催者じゃないのを知っているのは(たぶん、今のところ)自分だけなのだ。
言うべきかどうか迷う。本当の主催は別にいる、と。
だが説得できる材料がない。具体的な証拠はなにひとつとしてないのだ。
大体自分が永琳を主催ではないと思っているのだって、
あの尋常ではない霊夢の姿を見たから、なんて曖昧な理由であるわけで。
こうしてみると随分と主観に偏ったものの見かたをしてきたのだなと魔理沙は内心嘆息した。魔法使い失格だ。
かといってずっと永琳のことを話さないわけにもいかない。一応は情報交換の約束はしている。
主催に目を付けられた永琳ならでは得られる情報もあるのかもしれず、この機会は逃したくないのも事実だった。
一番いいのは永琳と再会する時間に限り自分が単独で行動できることなのだが……そう都合よくはいきそうもない。
はてさてどうしたものか。とはいえ、時間はまだあるのだからじっくりと考えればいいと断じて、
魔理沙は当面、永琳と、ついでに霊夢のことは黙っておくことにしたのだった。
「まあ、そうなんだろうな。ルールに厳しすぎるのも考え物だからな」
「話を戻そう。お前に頼みたいのは八意永琳を探し出すか、
または紫様や博麗霊夢などの頭のいい方々を集めてもらいたいということだ」
二人とは既に会ってるんだけどな。案外自分は重要な情報源と化しているのかもしれない。
そんなことを思いつつ、さもありなんという風に魔理沙は頷く。
「なるほど。私をメッセンジャーに使おうってか。まあ確かに私のモットーはスピードとパワーだからな」
「……できれば、橙も探してもらいたいけど」
「あいよ、一名追加。で、藍はどうするんだ」
「私は人ではなく、この場所そのものについて探ろうと思う」
場所、と鸚鵡返しに聞き返す。藍は頷いた。
「思うに、ここは幻想郷ではない可能性もある」
「おいおい、どう考えてもここは幻想郷だろ」
「だったら幻想郷にいる大量の人間や妖怪はどうした。ここに来るまでにも思ったが、あまりにも誰もいなさ過ぎるんだ。
妖精や動物ですら見かけない。いるのは私たちだけなんだよ」
む、と魔理沙は唸る。そういえば今まで霊夢のことばかり頭にかけていてここの風景を全然観察していなかった。
今歩いている魔法の森も昆虫や動物の気配が皆目掴めない。
確かにこれは異常だ。いくらなんでも参加者以外の生き物全てを神隠ししてしまうとは紫でさえ難しいだろう。
「永遠亭にも行ってみたが、妖怪兎は一匹もいなかった。不思議だろう? あれだけの数はどこに行ったんだ?」
「全部兎鍋にされた……ってことはないな、うん」
軽口を叩きながらも魔理沙は頭を働かせる。となるとここは全く別の土地なのだろうか。
だが幻想郷以外に妖怪が住んでいる土地など聞いたこともない。知らないだけで……ということも考えられなくはないが、
引っかかるのは幻想郷と瓜二つということ。偶然なんてことは有り得ない。
咄嗟に『作られた土地』というのが頭に浮かんだ。ここは殺し合いのためだけに作られた場所なのではないか。
だとすると少なくとも真の主催者は八坂神奈子と同様、『乾を創造する程度の能力』を持っていることになる。
ああ、いや、もうひとつ追加だ。『霊夢をおかしくさせる程度の能力』、これだな。
どうやら想像以上にこの異変は解決するのが難しそうだと思い、魔理沙は道が果てしなく遠くなっていくのを感じた。
「ともかく、ここがどこで、どんな仕掛けがあるのか調べないことにはどうしようもない。
下手をすると幻想郷に帰れないかもしれないからな」
「そりゃ怖いな」
おどけてみるが、冗談ではない話だ。こんな場所に閉じ込められるなんて寂しくてたまらない。
いつものように犯人を叩きのめすだけではダメなのだ。
そう考えると、あれほど大騒ぎしてきた事件も所詮は幻想郷の中での出来事に過ぎないのだという認識が頭の中で渦を巻き、
狭い世界で生きていることを実感させる。そしてそんな世界でさえ、維持するのが精一杯でしかない。
のほほんとしているが、幻想郷は危ういバランスの元に成り立っているのかもしれないと魔理沙は思った。
「……だったら、本当の幻想郷は今どうなってるんだろうな」
「さあね。……ただ、大騒ぎには違いないだろう。何せ博麗の巫女と紫様、冥界のお嬢様や地獄の閻魔様ですら忽然と消えたのだからな」
「上へ下への大騒ぎ、か。でも危機感は抱いちゃいないんだろうな」
往々にして幻想郷の住民は楽観主義的なところがある。現に魔理沙だってそうだ。
自分が異変を解決できなくてもきっと誰かが(主に霊夢が)なんとかしてくれる。その程度の気分しか持っていなかった。
ましてや事件に携わらない連中はもっとその意識が強いはずだ。おかしいけれど、まあ何とかなるだろうという危機感のなさ。
だがそんなことに失望しても仕方がないし、だからこそ自分達が動かなければならない。
もっとも、今度ばかりは解決に失敗すれば洒落にならない結末が待っているのだが。
「とにかく、藍の意向は分かったよ。で、私はどうすればいい?」
「やけに私を信じてくれるじゃないか」
「助けてもらったからな。こう見えても私は人情に厚いんだ」
式相手だから性格には『人情』ではないが、この際気にしない。
細かいことには拘らないのが霧雨魔理沙の流儀だ。
「なら遠慮なく。私はこれから人間の里と思しきところに向かう。
ここが偽物の幻想郷なのか見極めたい。そこまでは、私の護衛をしてくれないか」
「了解だ。……そういや、向こうの方で火事かなんかがなかったっけ?」
「ああ……残念だが、竹林の方で火事があってな。派手にやりあったらしい。二人ほど死んでいた」
なるほど、と一言応じて軽く黙祷を捧げる。ひょっとしたら、霊夢が手にかけたかもしれないからだ。
霊夢の殺しを半ば許容しているくせに、そんな思いもあったが、
だからといって簡単に割り切れるほど魔理沙は冷淡にはなれない。
人間の辛いところだった。化け物になれればいいのに。そんなことさえ考えるくらいに苦悩している。
「だったらどうにしても私はフリーなわけか。あっちに行ってみようと思ってたからな……お、誰かいるぞ」
森の出口は広い平原だった。というよりは、自然に元来た場所に戻ってきたというべきか。
タイミングがいいのか悪いのか、そこには目立つ日傘を差した人影があった。
影は二つ。うちひとつは妖精らしかった。もうひとつには見覚えがある。
「フランじゃないか。あんなところにいて大丈夫なのか……? 日光浴びるとヤバいぞ? ひょっとして知らなかったりして」
「誰だ?」
「悪魔の妹さんだよ。とびっきりやんちゃだけど。日傘差してるとレミリアにそっくりだな」
「……大丈夫なのか」
藍が難しい顔をする。吸血鬼は幻想郷のパワーバランスを担っている一方、
尊大な態度で(主にレミリアが)他者を見下していることで有名だ。
協調性ははっきり言って見込めない。
「けど味方につけりゃこっちだって安心だろ? フランならまだ説得のしようが……やっぱないかも」
「おいおい」
フランことフランドール・スカーレットは姉のレミリア以上に気まぐれだ。
会った回数は少ないとはいえ遊びと称して弾幕ごっこを仕掛けられたり、かと思えば普通に遊んでくれとねだられたこともある。
正直なところ、魔理沙にもよく分からないのが実情だった。
ここでフランに『遊ばれ』たら命が危ない。割と本気で。だが能力的には文句なし。味方につければこれほど頼もしい存在もない。
交渉に出るべきなのか、どうするか。
迷った末、一度話しかけてみることを決意する。ここで機会を逃せばいつ再会できるか分かったものではないし、
気まぐれではあるが融通の利かない相手じゃない……はず。
「……行ってくる。もしものときは骨を拾ってくれ」
「あいつの場合、塵一つ残さないんじゃなかったか」
よく知っていらっしゃる。
フランのことは話くらいは聞いたことがあるのかもしれない。外見は知らなかったようだが。
妖怪の式を置いて出て行こうとしたが、声が遮った。それも聞き覚えのある胡散臭い声で。
『皆様、ご機嫌いかがでしょうか? 殺し合いの遊戯は楽しんでいらっしゃるでしょうか』
* * *
まったく、どうしたらいいのだろうね、私は。
ざっと説明するとここは魔法の森の入り口。日光の当たらない場所だ。
面子は元人間が一人、式が一体、妖精が一匹に悪魔が一体。
てんでバラバラの種族が集まったものだと感心する。
ただ、会話は全然ない。それぞれが俯いて何事かを考えている。私はそんな連中の観察をしている。
きっと知り合いの死を確認したのだろう。このゲームからの脱落者で、二度と戻ってはこない命ある者の姿を。
私か? 私は冷静よ。だって私は式だもの。考えることのスパンが早すぎて、とうに決着をつけてしまっている。
そう、私は冷静に、橙を再構築する計算式を考えているのだ。
浅ましいものだ。そんなことをしたって元の橙は戻ってくるはずはないのに。思いながらも、頭の隅で考えている。
なまじ頭がいいばかりに諦め切れていないのかもしれない。
なんとなく、紫様が私達を生み出した理由が分かるような気がするよ。
寂しい。いなくなって、一人で取り残されるのは寂しいんだ。楽をしたかったんじゃない。
きっと紫様も悲しんでいると思いたい。だって私が悲しんでいるのだから。
紫様に生み出された私が悲しいから、きっと紫様も……
ああ、全然冷静じゃないよ。私の思考はきっと、ぐちゃぐちゃだ。
色々な思いが混ざりすぎて泣くことも出来ない。他の皆が泣いていないのも或いはそういうことなのかもね。
だがそのおかげで皆を集められたともいえる。放送の後、悪魔の妹は大人しくなった。
魔理沙が一言二言告げるとあっさりと追従してくれた。
「楽勝だったぜ」
そう魔理沙は言っていたけれど、その口ぶりに覇気がないのはよくわかった。
無理に元気を保とうとしているように見えて、だから私はかける言葉を持てなかった。
いや正確にはあの時既に橙のことを考えていたから、かけようともしなかったのかもしれない。
冷たい式だと思う。妖怪とはこんなものなのだろうか。紫様はここにいないから、何も教えてはくれない。
まったく、どうしたらいいのだろうね、私は。
* * *
パチュリーが死んだ。
いなくなったって事実を確かめても、私の心にさほどの変化は見受けられなかった。
ただ、あの魔女を図書館で見ることが出来なくなると思うと、どうしようもない空白感が私を覆った。
でもこれは悲しみじゃない。私に教えられた『悲しみ』は感じたとき泣くのだと聞いている。
私は泣いていない。だから私は悲しんでいないのだ。それはきっと、気が触れているからだと思う。
アイツだったら泣いているかしら。それとも威厳がうんたらかんたらで、誰もいないところで泣くのかしら。
アイツって無駄に紳士なところがあるから情にもろいのよね。まあ私だって泣くところを見たことはないんだけど。
そういえば、私に『知ること』を最初に教えてくれたのもパチュリーだった。
本を壊したときに思い切り怖い目で睨まれたのだ。
それからくどくどと子一時間、本の重要性についてお説教された。
パチュリーは様々な属性の魔法を扱えるから、私の弱点だって知り抜いている。
流水の魔法だって使えるから、説教は聞くことにした。
大半はどうでもいい内容だったけど、とりあえず本は大切にした方がいいと学んだのだ。
でもなんだかんだで本には詳しかったし、聞けば教えてくれた。たまに面白い本を紹介してもらえた。
もう聞けないのだと思うと、本を探すのがつらくなりそうだった。
これだけ思い返しても全然泣けない。やっぱり悲しみなんてないのだ。
けれど、なんだろう。この気持ちは。パチュリーのことを思い出さずにはいられない、この感情は。
定義付ける言葉が見つからなかった。誰に聞けば、この感情を表す言葉を教えてくれるだろうか。
少なくとも、知っていそうだった魔女は、もういない。
私は今、ずっとその言葉が何か考えている。永琳のこと、白髪の女のこと、鬼と河童のことを思わないではなかったが、
気がつけばそればかり考えている。スターサファイアはずっと私を心配そうに眺めていた。
大丈夫よ。考え事をしてるだけだから。あなたが思うような感情は持ち合わせていない。
ああ、でも、私の知っている感情で、これだけは当て嵌まることがあったわ。
『怒り』だ。
理性で抑えきれず暴れだしたくなるような衝動のことだ。
私は今、少なくとも、パチュリーを殺した奴を……殺したくてたまらなかった。
* * *
あーもう、なんだこのザマは。
あれだけ高らかとゲームを止めるだの霊夢を止めるだの言ってたけど、こりゃ散々な結果だな。
だってこんなに死んでるんだぞ?
悪いなリグル、なんて言えるようなレベルじゃない。
本当ならうかうかしてられないんだけど、体が動こうとしない。
化け物の体はもう疲れ切ったのか? 情けないな。
そういや、パチュリーが死んじまってたな。どうしよう、もう本を借りに行けそうもないじゃないか。
それと返しに行くことも出来ないわけで。死んだら返すって言ったけどさ、
あれは私なんかよりお前の方が長生きだからって思ってたからなんだよ。
なのにどうして私より先に死ぬんだ? 順序がおかしいぜ。
……そうさ、どうしてあいつが私より先に死ななきゃならないんだ。
間違ってる。こんなの絶対おかしいじゃないか。
霊夢はいつもの調子で異変を解決するって言ってた。でも死ぬべき順番で人が死んでないんだ。
あいつはそれを何もおかしいって思っていないのか? 本当に?
何人殺したんだろう。私よりずっと長く生き続けるはずだった連中を、何人殺したんだろうか。
『おかしい』ことを何回続けているんだ?
まったく、嘘だって思いたいよ。パチュリーは実は死んでなくて、
「あなたって本当に馬鹿ね」と言ってくれるのを待ってたっていいはずなんだ。
でも私は見たんだ。見てしまったんだ。霊夢がリグルを殺すところをな。
だから死が嘘だなんて信じられない。死は、ここ全てを包囲している。
さっきは生きている実感も嬉しさもなかったのに、どうやら他人の死には敏感ときた。
……いや、私は私にも怒ってるのかもしれない。
死ぬはずだった人間が生きてて、死ぬべきではない奴が死んだ。
別に藍を責めてるわけじゃないさ。でもな、やっぱり悩むんだよ。頭はまだ人間なんだからさ。
悩みすぎて泣きたいぜ。人生の中でこんなに考えるのは後にも先にもこれだけだろうよ。
はぁ。考える、か。私って考えるより足動かせって奴じゃなかったっけ?
情けない。情けないなぁ、本当……
弱気の虫が私を覆っていく。どうすればいいだろうなんて他人事のように考え始めたとき、妖精が騒ぎ出した。
「も、もう! 皆暗いよ! 生きてるんだからそれでいいじゃない。なんでどよんってしてるの!」
そういや、こんな奴もいたんだな。名簿にいたっけ? スターなんちゃらって名前だったな。
まあ妖精からしたらどうでもいいことなのかもな。妖精は自分勝手だもんな。
……でも、と私は思う。こいつの言っていることもまた正しい。
とりあえず私は生きてるんだ。文句を言ったって私は死んでない。それは喜ぶべきことなんだ。
パチュリーやリグルはもうなにも出来なくなってしまったけど、私にはまだなにかができる。
あいつらの代わりに、まだ行動できるんだ。
妖精の言うことに動かされるのも癪だが、このまま沈んでるのももっと癪だ。
本当に絶望するのはもうどうしようもなくなったときでいい。私だけでもそうする。
異変解決屋の霧雨魔理沙が、こんなところで落ち込んでてどうする。一人だけでも、私はやるんだ。
「うるさいな。これからまた行動しようと思ってたところなんだ。妖精にとやかく言われる筋合いはないぜ」
「な、なによ! 図星のくせに!」
「そういうことで、だ。私は行くぜ。藍がやらないってんなら私が調べる。ついでに紫も探してきてやる」
「……待て。いつ私がやらないと言った」
私が勝手に保管した。なんてな。
でもお前だって上の空だったじゃないか。
もっと煽ってやろうかと思ったが、そうするまでもなく藍は立ち上がる。
「お前が立つのを待っていたんだよ。紫様は私も探す。私は紫様の式だからだ」
おーおー、橙のことを考えてますよーって顔してんのに無理しちゃって。
でも悪いが、藍にはついてきてもらわないと困る。貴重な頭脳労働組だからな。
私? 私は頭脳肉体労働派だ。
さて、後は一人。
「……私も行く。お姉様に会いたいもの。それと、パチュリーに会いたい」
「あれ? パチュリーって名前は……モゴ!」
「空気読め」
スターなんちゃらの口を塞ぐ。フランもフランなりに情ってもんがあるらしい。
私もあいつの弔いくらいはしてやりたいな。できれば、一緒に本も返してやりたかったが……
ここは幻想郷じゃない可能性もあるから、私の家にも本があるとは限らないんだよな。やれやれ、ムカつく話だ。
「フランのことを考えると森伝いに里に行くのが懸命っぽいな。深入りしなきゃもう罠にも引っかからないだろ」
「その方が好都合だろう。遠回りにはなるが、仕方がない」
「里に行くの? だったら、紅魔館にも行きたいんだけど。お姉様がいそうだし」
「んな馬鹿正直に紅魔館に……戻りそうだな、あいつは」
でしょう、とフランが頷いた。さすがは妹、よく分かってらっしゃる。
「紅魔館も目標のひとつだ。私に異論はない」
藍も納得したようだった。とりあえず、この三人(と一匹)の利害は一致したというわけだ。
むーむーと呻いていたスターなんちゃらの口を放す。途端、ぎゃーぎゃーとがなりたてたが、無視を決め込んだ。
スルーは私の得意技なのだ。
「よし、行くか。道案内は私に任せろ」
二人(+一匹)に先んじて私は歩き出した。
そうしたのは、きっと無理矢理にでも立ち直らなければならないという意思があったからなのかもしれない。
あいつらまだ色々考えてそうだからな。
やれやれ、私にも考える時間が欲しいぜ。
【E-5 一日目 朝】
【フランドール・スカーレット】
[状態]頬に切り傷
[装備]レミリアの日傘
[道具]支給品一式 機動隊の盾(多少のへこみ)
[思考・状況]基本方針:まともになってみる。だが、自分は気が触れていると思っている。
1.魔理沙に同伴して紅魔館まで向かう。日なたは避けて移動する。
2.殺し合いを少し意識。そのためレミリアが少し心配。遊びは控える?
3.永琳に多少の違和感。本当に主催者?
4.パチュリーを殺した奴を殺したい。
※3に準拠する範囲で、永琳が死ねば他の参加者も死ぬということは信じてます
【F-5 爆心地・一日目 朝】
【霧雨 魔理沙】
[状態]蓬莱人、足の怪我はほぼ全快、服が破れていたり血塗られていたりします。帽子はない。
[装備]ミニ八卦炉、ダーツ(5本)
[道具]ダーツボード、mp3プレイヤー
[思考・状況]基本方針:日常を取り返す
1.まずは仲間探し……そのために人間の里へ向かう
2.霊夢、輝夜を止める
3.真昼(12時〜14時)に約束の場所へと向かう。
4.リグル・パチュリーに対する罪悪感。このまま霊夢の殺人を半分許容していていいのか?
※主催者が永琳でない可能性が限りなく高いと思っています(完全ではありません)
※永琳から輝夜宛の手紙(内容は御自由に) はまだ隙間の中です
※隙間はほぼ全壊、まだかろうじて使えるレベルです。
※隙間の中に入ってたものは地雷の被害を受けている可能性があります
【F-5 爆心地付近・一日目 朝】
【八雲藍】
[状態]やや疲労
[装備]天狗の団扇
[道具]支給品一式×2、不明アイテム(1〜5)中身は確認済み
[思考・状況]紫様の式として、ゲームを潰すために動く。紫様と合流したいところ
1.永琳およびその関係者から情報を手に入れる。
2.会場のことを調べるために人間の里へ向かう。ここが幻想郷でない可能性も疑っている。
3.無駄だと分かっているが、橙のことが諦めきれない。
投下は以上です。途中、さるに陥りました……支援してくれた人dクス。
タイトルは『覚めない魔女の夢』です。
投下乙です。
みんならしくていいなー。
フランちゃん更正物語始まったな!
ただ、気になるところが。
前話で、藍は治療で慌ててるとき、魔理沙は死にかけという理由で、放送を聞き逃してる。
一行で説明されてるだけだから、気づかないのも無理ないけど。
なので、フランから放送の内容を聞いたほうがいいかも。
すごい、なんかじわりと感動した
いつもながら◆Ok1sMSayUQさんの話は揺さぶられるものがある
指摘がありましたので
>>283をこのように変更します
ただ、会話は全然ない。それぞれが俯いて何事かを考えている。私はそんな連中の観察をしている。
きっと知り合いの死を確認したのだろう。このゲームからの脱落者で、二度と戻ってはこない命ある者の姿を。
私か? 私は冷静よ。だって私は式だもの。考えることのスパンが早すぎて、とうに決着をつけてしまっている。
そう、私は冷静に、橙を再構築する計算式を考えているのだ。
浅ましいものだ。そんなことをしたって元の橙は戻ってくるはずはないのに。思いながらも、頭の隅で考えている。
なまじ頭がいいばかりに諦め切れていないのかもしれない。
なんとなく、紫様が私達を生み出した理由が分かるような気がするよ。
寂しい。いなくなって、一人で取り残されるのは寂しいんだ。楽をしたかったんじゃない。
きっと紫様も悲しんでいると思いたい。だって私が悲しんでいるのだから。
紫様に生み出された私が悲しいから、きっと紫様も……
ああ、全然冷静じゃないよ。私の思考はきっと、ぐちゃぐちゃだ。
色々な思いが混ざりすぎて泣くことも出来ない。他の皆が泣いていないのも或いはそういうことなのかもね。
悪魔の妹は大人しかった。話に聞いていたのとは違う。だけどそれには理由があったんだ。
聞き逃していた放送では、橙が死んでいた。フランドールが語ってくれたのだ。
再構築する式を考えていたのも、そのためだった。
フランドールに声をかけたときはあれほど元気だった魔理沙も今は覇気がない。
口にこそ出さないが、きっと私と同じく、大切な誰かを喪ったのだろう。
「全く、死にすぎだよな」
そう魔理沙は言っていたけれど、どう見ても空元気だった。
無理に保とうとしているように見えて、だから私はかける言葉を持てなかった。
いや正確にはあの時既に橙のことを考えていたから、かけようともしなかったのかもしれない。
冷たい式だと思う。妖怪とはこんなものなのだろうか。紫様はここにいないから、何も教えてはくれない。
まったく、どうしたらいいのだろうね、私は。
* * *
パチュリーが死んだ。
いなくなったって事実を確かめても、私の心にさほどの変化は見受けられなかった。
ただ、あの魔女を図書館で見ることが出来なくなると思うと、どうしようもない空白感が私を覆った。
でもこれは悲しみじゃない。私に教えられた『悲しみ』は感じたとき泣くのだと聞いている。
私は泣いていない。だから私は悲しんでいないのだ。それはきっと、気が触れているからだと思う。
アイツだったら泣いているかしら。それとも威厳がうんたらかんたらで、誰もいないところで泣くのかしら。
アイツって無駄に紳士なところがあるから情にもろいのよね。まあ私だって泣くところを見たことはないんだけど。
そういえば、私に『知ること』を最初に教えてくれたのもパチュリーだった。
本を壊したときに思い切り怖い目で睨まれたのだ。
それからくどくどと子一時間、本の重要性についてお説教された。
パチュリーは様々な属性の魔法を扱えるから、私の弱点だって知り抜いている。
流水の魔法だって使えるから、説教は聞くことにした。
大半はどうでもいい内容だったけど、とりあえず本は大切にした方がいいと学んだのだ。
でもなんだかんだで本には詳しかったし、聞けば教えてくれた。たまに面白い本を紹介してもらえた。
もう聞けないのだと思うと、本を探すのがつらくなりそうだった。
これだけ思い返しても全然泣けない。やっぱり悲しみなんてないのだ。
けれど、なんだろう。この気持ちは。パチュリーのことを思い出さずにはいられない、この感情は。
定義付ける言葉が見つからなかった。誰に聞けば、この感情を表す言葉を教えてくれるだろうか。
少なくとも、知っていそうだった魔女は、もういない。
>>◆Ok1sMSayUQ氏
覚めない魔女の夢を収録しようとして、気づいたのですが。
位置が、全員ばらばらなので、多分、修正し忘れではないでしょうか?
>>303 うおう、申し訳ない……
位置は全員F-5ということで……
―――どうする?
夜闇が完全に消え去った朝焼けの森の中。
木漏れ日と共に鬱蒼と生い茂る枝葉を、音を立てないよう慎重に掻き分けながら、洩矢諏訪子は募り募った苛立ちに内心歯噛みした。
諏訪子の前方、およそ三十間ほどの距離を置いて、黒髪の少女が覚束ない足取りで歩を進めていた。
その後姿はまるで幽鬼のよう。足を動かすたびに少女の頭は振り子のようにゆらゆら、と揺れ動き、力ない歩調には生気といったものが感じられない。
彼女は人形だ。見えない糸に操られた、繰り手の命令を忠実に遂行するだけの抜け殻。しかしどうしてだろう。諏訪子には名前も知らないその人形の小さな背中が、何故か泣いているように見えた。
……いや、彼女の内情など関係ない。どんな理由があったにせよあの女は殺したのだ。同じ境遇であるはずの哀れな参加者を躊躇なく血祭りにあげてみせた。それだけが諏訪子にとっての絶対の真実。
それに方角的に見て、恐らく彼女は人里に向かっている。また誰かの命を奪うために。
冗談ではない。あそこにはルナサと阿求がいる。こんな馬鹿げた殺し合いに乗った危険人物を、むざむざ野放しになどしておけるものか―――!
ふと、黒髪の少女―――蓬莱山輝夜―――が、訝しげな表情で背後を振り向いた。
諏訪子は咄嗟に手近な茂みに身を隠す。輝夜はキョロキョロ、と何度か視線を彷徨わせた後、僅かに首をかしげつつ歩みを再開した。
諏訪子の苛立ちの原因はこれだった。この女は生存術において素人だ。自分の存在を隠す素振りも見せなければ、これ見よがしに晒すその背中は隙だらけ。
その上、歩くペースは一向に落ちず、元々なさそうな体力を惜しげもなく浪費していた。
何かに駆られるかのようにただただ愚直に前へ。身なりからして箱入りのお嬢様、といったところだからそれも当然か。
なのに勘だけは異常に鋭い。これは死に対して無頓着であると同時に、宿敵との殺し合いで死線を無限に潜り抜けてきた不死者だからこそなせる業だった。
だが、そんなことを諏訪子にわかるはずもない。つかず離れず、尚且つ見失わないギリギリの距離が約三十間。50メートルだ。
これ以上近づけばまず間違いなく気付かれる。先ほども、殺気を少し漏らしただけで敏感に反応されるという有様だ。
「クッ! 悠長にしてる時間もないってのに。何なのよあの子は……」
もどかしさが諏訪子に不満をぼやかせる。天真爛漫であるはずの土着神は、眉間に皺を寄せて悔しそうに爪を噛んだ。
輝夜を打倒する手段。それは、銃器もナイフもない今の諏訪子には弾幕による長距離射撃しかない。
少し休憩、と腰を落としてくれればまだ少しはやりやすくなるものだが、彼女に立ち止まる気配はなかった。
背後から不意をつくとはいえ、剥き身の殺気を放てばそれだけで少女は確実に警戒する。
そんな彼女を一発で正確に射抜けるか。スナイパーの技能もない諏訪子にはその自信はなかった。
初撃を外せばそれで終わりだ。何故なら彼女には消音の能力がある。逃げるにせよ迎撃されるにせよ、こちらの存在に気付かれた時点で、武器のない自分が圧倒的に不利になる。
まさに手詰まりであった。
(神奈子ならこんな時どうする? 考えろ。考えなくちゃ! 何か、何か手はあるはず―――)
―――と、その時だった。
妙に小気味よいメロディが、魔法の森……いや、幻想郷中に流れた。
そして忘れもしないあの声。自分たちを死地へと突き落とし、そして高みの上から傲岸に見下ろす、耳障りな主催者の放送が。
「……それでは死んでしまった残念な方々のお名前を発表させてもらいますわ」
その言葉にゴクリ、と諏訪子の喉が鳴る。
まさか、まさかとは思うけど、その中に早苗の名前があったらどうする? 神奈子がいたら……。
「リリーホワイト、ミスティア・ローレライ」
気が付けば諏訪子の足は止まり、その内容に完全に聞き入ってしまっていた。
果たして放送は終わった。しかし、諏訪子が切望していた安堵など得られるはずもなく。
小さな神はその場にペタン、と腰を下ろし放心していた。幸運にも、死者の中に家族の名前は入っていなかった。
……だが。
「あの子たちが……死んだ?」
明らかに聞き覚えのある名前が二人、混ざっていた。
稗田阿求、そしてルナサ・プリズムリバー。つい数時間ほど前に出会い、僅かながらの会話と共に再会を約束した少女たち。
こんな絶望的な状況下でも抗う事を止めず、前に進もうとしていた少女たち。
彼女たちともう二度と会えない。一晩で14人もの人間が死んだ。その事実が、諏訪子の胸に重く、重く圧し掛かる。
「……どう、して。私があの時、二人と別れたから? 殺し合いに乗った参加者が予想以上に多かった……から?」
後悔が焦燥を生み、焦燥が最悪の末路を容易に想像させる。
諏訪子はまだ、このゲームに対しての認識が少し甘かったのかもしれない。
だが、二人の死はよりリアルな危機感を諏訪子に抱かせた。次は早苗かもしれない。
輝夜に殺されたあの亜麻色髪の少女のように、血塗れの身体で地面に横たわる風祝の巫女。
その光景を想像しただけで、諏訪子の全身が総毛立った。
「―――早苗ぇ!!」
諏訪子はすぐさま、折りたたみ式の自転車を広げ、必死の形相で元来た道を引き返した。
自分は馬鹿だ。青臭い正義感などこの殺し合いでは何の足しにもならない。
そう、この瞬間にも大切な人が命の危機に瀕しているかもしれないというのに。何かあってからでは遅いのに。
早苗のそばにいる。それが、私にとって何よりも大切なことだったのにっ!!
「お願い、お願い間に合って! すぐに行くから! だから、……それまで無事でいて!!」
もう輝夜の存在など、諏訪子の頭の中にない。だが、大声を出して輝夜に気付かれなかったのだろうか。
新たな獲物を見つけた、と狙われたりはしなかったのだろうか。
答えは否。何故なら、輝夜は放送の内容になど気にも留めず歩き去ってしまったから。
諏訪子が呆けている間に、両者の距離はさらに離れてしまっていた。
そして、輝夜が放送に足を止めないのもまた必然。
彼女にとって、放送の主以外の生死など瑣末な事柄に過ぎないのだから―――
【E-4 一日目 朝】
【蓬莱山輝夜】
[状態]疲労(中)
[装備]ウェルロッド(2/5)、アサルトライフルFN SCAR(19/20)
[道具]支給品一式×2、ルナチャイルド、予備の弾あり
[思考・状況]優勝して永琳を助ける。鈴仙たちには出来れば会いたくない。
[行動方針]人の集まりそうなところへ行き、参加者を殺す。
※魔法の森を抜けました。
人生は常に二択の繰り返しだというのなら。
諏訪子はその選択を誤ってしまったのだろうか。
息をつく間もなく走り続けたせいか。諏訪子はそう時間もかかることなく博麗神社へと辿り着いた。
自転車を境内の隅に放り捨て、神社の外周をくまなく探し回る。だが、人の気配はなかった。遅かったか、と項垂れる諏訪子の目に、彼女が一番見たくなかったものが映った。
それは目も眩むような赤。大量の血痕だった。
サーッ、と音を立てて血の気が引いていく。自分でもわかるくらいに諏訪子の顔は真っ青になっていた。
「戦闘の跡……? ここで誰かが殺しあったの? 早苗も……そこにいた、の?」
嫌な想像が諏訪子の脳内をぐるぐると駆け巡る。この血痕が早苗のものであるという保証はどこにもない。しかし、それが早苗のものではないという保証もどこにもないのだ。
「いっ、嫌だよ早苗。お願い返事をしてっ! 早苗! 早苗っ! さなえーーーっ!!」
半ばパニックに陥った諏訪子は、自分が殺し合いの場にいることも忘れ、周囲に向かって叫び続ける。まだ早苗はどこかに隠れているかもしれない、とそう信じて。
だから気付かなかったのだ。彼女の背後にある不穏な気配を。
「動かないで」
「ッ!!」
振り向いた時にはもう遅かった。咄嗟に突き出そうとした左腕を掴まれ、肩を起点に諏訪子の小さな身体が宙を舞った。
そのままテコの原理で半回転。うつぶせに叩きつけられた諏訪子の左腕を、乱入者はすかさずロックし、そしてそのまま躊躇せず、―――力を込めた。
ごきん
「ぐっ……あっ!!」
「肩を外しただけよ。貴方ほどの実力者と落ち着いて会話をするには、まずは無力化するしか術がないでしょう? 同じ轍は二度と踏まない。……もう私にも余裕がないのよ」
「お、お前は!」
「……ええ。貴方もよくご存知でしょう。初めまして、八意永琳よ」
陰惨な闘争の場にそぐわない穏やかな声で、八意永琳は洩矢諏訪子を拘束した。
それはまさに最悪とも言えるタイミングだった。諏訪子に遅れて、永琳も第一の目的地である博麗神社に到着したのだ。
永琳が辿り着いた時、そこには守矢の二柱の一人である洩矢諏訪子が泣きそうな顔で誰かの名前を叫んでいた。面識はないが、データとしてなら諏訪子の事は知っている。
少し前に交戦した吸血鬼や鬼に匹敵する力を持っている事も。そして、自分は彼女の敵であるということも。
永琳もここに来る道中、苦虫を噛み潰したような顔で第一回の放送を聞いていた。どこまで自分を利用すれば気が済むのか。
わかっていたことだが、憤りを隠さずにはいられない。だが、輝夜の名前がなかった事には素直に安堵した。ウドンゲやてゐの名前もなかった。……彼女たちは今、どんな心境でこの放送を聴いているのだろうか。
先ほど挙げられた死者の名前と、禁止区域の位置を手早くチェックしながら、永琳は思索に耽った。
―――輝夜。今となっては貴方の存在だけが唯一の標。私の生きる目的。
貴方は今どこにいるの? 何をしているの? 会いたい。声が聞きたい。もう一度だけでも貴方の笑顔が見たい。
とてもとても長い間、離れてしまったように感じられる。私たちが共に生きてきた永遠に近い時に比べれば、ほんの微々たる時間のはずなのに、ね。
……孤独が私を弱くしてしまったのかしら? 貴方が今この瞬間にも命を落としてしまったかと思うと身が震える。貴方が私の名を呼んで、助けを求めているかと思うと涙が出そうになる。
涙、なんてそんな言葉を意識することさえ、気の遠くなるくらい昔の話なのに。
私は弱くなってしまった。きっとこの仮初の世界は億の歳月を生きてきた私の……終着点となる。
墓標などいらない。哀悼も死後の安寧も不要。私が欲しいものはたった一つだけ。
輝夜。貴方を救えるのは私しかいないならば、私を救えるのもまた貴方しかいない。共に行きましょう。誰にも邪魔されない二人だけの永遠に。
……その先が例えどんなにか細く、困難な道のりであったとしても。
詰まるところ、諏訪子も永琳も似たような考えを抱きながら、この場に鉢合わせることになった。
神社にいたのは一人だけ。ならば、他に行く宛もない永琳がやるべきことは、現場にいる当事者への尋問。
当然の帰結である。危険はすでに覚悟の上。多少の難題に戸惑ってしまえば手掛かりが、輝夜がどんどん遠くに行ってしまう。
今の彼女は、聡明な薬師でも月の頭脳と呼ばれた賢人でもない。
孤独であるが故にただ一人の少女に焦がれ、無力であるが故に、持ち得るものを全て投げ打ってでも未来と希望を繋ぎ止めようとする、悲しき修羅である。
「……これから二三、尋ねたいことがあるの。拒否権はないわ。貴方も先の様子から見て、まだ生界に未練はあるのでしょう?」
「それで脅してるつもり? 私はお前には、お前にだけは屈しない! もし早苗や神奈子に傷一つでもつけてみろ。私の全身全霊を以って根源から滅してやる!」
「……腰元まで伸ばした黒髪の女の子よ。薄桃色の袖の長い上着に濃い赤色のスカートを身につけているわ。……どこかで見た覚えはないかしら?」
「誰がお前なんかに……―――!!」
人生は常に二択の繰り返しだというのなら。
諏訪子はその選択を誤ってしまったのだろうか。
答えは誰にも分からない。
だが、その選択によって少なくとも反撃の糸口が見出せた。
この殺し合いの主催者に対する思わぬカードを、諏訪子は手にする事が出来たのだ。
「……」
「今度は黙秘に徹するつもり? そっちがそのつもりなら私は指を折るわ。文字通りにね」
「その前に一つ、聞かせて」
「何?」
「あの娘は、あんたの何?」
「……見たの? 輝夜を」
「……」
「……言っても信じてもらえないでしょうけどね。何よりも貴い人よ。私にとってはね」
「彼女があんたの目論見どおり、人を殺していたとしても?」
「……命に貴賤などないわ。いかに貴かろうとあの子の命とあの子に殺された人たちの命はあくまで等価。罪過は甘んじて受け入れましょう」
「白々しい! ついさっきまで、まるで逆のことを言ってたクセに!」
「貴方が私のことを理解する必要はないの。知っていることだけを教えなさい。命まではとらないから」
「―――なめるなァ!!」
諏訪子が吼えると同時に、肩を外されすでに用のなさなくなかった左手から、強烈な閃光が迸った。
面食らった永琳は即座に戒めを解き、彼女を貫かんとする赤と青に連なる弾幕をバックステップで回避する。
無理が祟ったのか、弾幕を放った諏訪子の左腕が、反動によってまるで別の生き物のように跳ね上がった。
「……くぅ!」
「何て無茶を。制限された今の身体は自然治癒も遅い。いかに神とはいえ、それ以上の無茶をすれば、当分動かせなくなるわよ?」
「あんたなんかに、言いようにされるよりは……痛ぅ。ずっとマシだわよ」
外れた肩を自力ではめ直しながら、諏訪子は不敵に笑った。
そして、じりじりと後退と方向転換を繰り返し、神社の出口にある自転車をチラリ、と一瞥した諏訪子は、諸悪の元凶である目の前の少女を射殺せとばかりに睨み付けた。
「……これだけは教えといてあげる。私のターゲットは二人。一人は勿論あんた。もう一人はあんたの大事な輝夜って娘よ」
輝夜を殺す。その言葉を耳に入れた瞬間、永琳を纏う空気が変質した。先ほどまで被っていた氷の仮面を脱ぎ捨て、肌が粟立つほどの、獣以上の獰猛な殺気を抜き放つ。
「見逃がすと思っているの?」
「聞きたいことがあるなら、あんな手ぬるいやり方じゃなく、殺すつもりでやりなさい。私の名前は洩矢諏訪子。古来より信濃の民の崇敬を受けしミシャグジ共の頂点に立つ者。半端な覚悟は自身の死を招くと心得よっ!」
「……悪かったわ。私も、本当にヤキが回ったものね。
認めましょう。貴方が今の私の最大の障害であることを。この八意永琳の総力を以って―――優しくこの大地から追い出してあげる」
これでいい。諏訪子は胸中で密かにそう思った。
あの女が何故、参加者として私たちと同じ土俵に上がっているのか。自らが死地へと追いやったはずの少女にどうしてここまで固執するのか。
あれだけ切羽詰っておきながら首輪の爆発は使用しないのか。疑問は尽きなかったが、今となっては考えても詮無きことだ。
これで少なくとも、自分をつけ狙う間は他の参加者に危害は加えられないだろう。後はこの場から逃げて逃げて、確実にヤツを仕留められる手段を得てから、決着をつける。
あの女だけは絶対に許せなかった。平穏だった日常を取り返しのつかないくらい壊したのも、今なお自分の家族の命が危険に晒されているのも、全て目の前にいる永琳のせいなのだから。
(ごめんね、早苗。今は貴方を迎えに行けない。でもこんな馬鹿な殺し合いを仕組んだ主催者だけは、刺し違えてでも私が止めるから。ルナサたちの仇も必ず討ってみせるから)
永琳は殺す。永琳が執着している輝夜という名の危険人物も必ず殺す。
その誓いを胸に、諏訪子は永琳の怒涛の弾幕を掻い潜り、自転車に跨って颯爽と退路を駆け抜けた。永琳も間を詰めようと走る。
だが、ここに来て萃香に殴られた腹がズキリ、と痛んだ。痛みに顔を歪めながらも、それでも標的を見失わないよう勢いよく地を蹴った。
諏訪子は思う。本当はその足で真っ先に早苗を探しに行きたい。さっきまでそれをしなかった自分を悔いていたはずなのに、どうして私は同じ事を繰り返そうとするのだろう。
受け取った信仰と感謝は、乾いた大地に恵みの雨を与える為に、痩せ細った作物に稔りを与える為に、そして何より生きとし生ける全ての命を守ることで返す。
結局、個より全を取ってしまうのが神という存在なのである。
(……やれやれ、因果な生き物だねぇ。神様ってのも)
それでもこの『役割』は、神の矜持にかけて他の誰にも譲れない。
早苗、神奈子、どうか無事で。
祈りにも似た願いと一緒に、諏訪子はペダルをこぐ足に更に力を込めた。
このゲームは、参加者の全てがそれぞれの『役割』を演じて動いている。
博麗の巫女が『ジョーカー』の役割を選んだのなら、永琳は『生贄』の役を強いられた。
そしてまた、諏訪子も自らの意思で選び出した役割が、罪人に神の裁きを下さんとする『鏑矢』。
ロールプレイングゲームはまだ―――終わらない。
【G-4 一日目 朝】
【洩矢諏訪子】
[状態]左肩に脱臼跡(半日ほど痛みが残るものと思われます)
[装備]折りたたみ自転車
[道具]支給品一式、不明アイテム0〜2(武器になりそうな物はない)
[思考・状況]行動方針;永琳を打倒する策を巡らせつつ目下逃走中
1.永琳と輝夜を殺す
2.殺傷力の高い武器を探す
3.早苗と神奈子の無事を心から願っている
※永琳を憎むと同時、彼女の主催者としての在り方に僅かな疑問を抱いています
【G-4 一日目 朝】
【八意永琳】
[状態]疲労(小)
[装備]ダーツ(24本)
[道具]支給品一式
[思考・状況]行動方針;諏訪子を追いかける
1. 諏訪子に輝夜の情報を割らせ、後の憂いの種にならないよう殺す
2. 輝夜の安否が心配
3. 真昼(12時〜14時)に約束の場所へ向う
※この場所が幻想郷でないと考えています
※自分の置かれた状況を理解しました
※この会場の周りに博霊大結界に似たものが展開されているかもしれないと考えています
※腹の痛みはほぼおさまっています
代理投下終了。
乙です。
諏訪子の神としての行動がいいねぇ。
しっかし、折りたたみ自転車に乗ってる子供を想像すると迫力が出ねーw
あ、行数が長いって理由で投稿とめられたのが、多々あったので、ところどころで改行してます、ご了承ください。
ケロちゃん暴走してるのー
愛故に、というところか……
こちらも短いながら投下しますー
「ふう、まあ、上手くいかないものね」
夜明けの空は黄色に輝いている。撫でるようなそよ風が少女の長い黒髪を揺らし、肌をくすぐる。
少女、博麗霊夢はあぐらをかいて座り込んでいる。
およそ女の子らしさとは無縁のものだったが、本人は意に介してもいない。
否、彼女は気にする必要がなかった。そうするように定められているからで、意味を考えるようにはなっていない。
「あーあ、服が破れちゃった」
霊夢の着る特徴的な服は秋穣子の最後に放った破片手榴弾により散々な様相を呈していた。
爆風と共に破片を撒き散らし、敵の肌を切り裂くことを目的としたそれは、少なからぬ損傷を霊夢に与えた。
いや、正確には霊夢の服に、だ。
見るも無残に破けてしまったスカート部分は裂け目まではっきりとして、ドロワーズの白を部分的に見せている。
裾もほぼ用を為さぬ程度に損壊しており、傍から見れば霊夢は乞食か世捨て人のように思えなくもない。
ただ彼女の身体は殆どと言っていいくらいに傷ついてはいない。
腕や足の表皮に僅かな切り口があるくらいで穣子が望んだであろう、動けなくなるような大怪我はひとつとしてなかった。
そう、霊夢は爆発の直前咄嗟に身を引き、迫る破片も『掠り避け(グレイズ)』したのだ。
破片であることが霊夢には幸運だったと言える。半ば弾幕に近いそれは、近代兵器と言えど霊夢に攻略できないものではない。
もしもこれが爆風で敵を薙ぎ倒す手榴弾であれば話はまた変わっていたことだろう。
霊夢はここでも偶然を味方につけたのだ。
とはいえ、掠り傷を負ったことには間違いない。ひりひりと痺れるような痛みは霊夢の全身に蔓延している。
それゆえ霊夢は一旦座り込み、身体が落ち着くのを待ったのだ。
風はまだ冷たい。暦の上では初春であり、寒がりには防寒具が必須な時期でもある。
なのに、それなのに。博麗霊夢は顔色を変えない。寒いとは思いながらも、その実身体は寒いと感じていないからだった。
霧雨魔理沙は呆れるのだろう。そんなことを考える。
年中その腋出しファッションでよく風邪を引かないな、と。
霊夢からすれば不思議なことだった。どうして風邪を引かなければならないのか、と。
体調を崩すことはなくもない。
けれどもそれは自身が体調を崩すだろうと思ったときだけで、少なくとも無自覚に体調を崩したことはない。
だからそんな質問をされても霊夢は首を傾げるしかなかった。
「そういえば、これで後39人か。意外と減ったものね」
まるで自分以外は誰も殺しあっていないかのような口ぶりで言う。
経験から言っても霊夢に進んで戦いを挑んできた妖怪はいない。
そもそも、本気で戦いあうような妖怪なんてごく一部だけだと思っていたのだ。
霊夢がそう思うのは、決して妖怪達が平和主義者からだなどと考えているわけではない。
戦いを仕掛けるのは霊夢で、それを待ち受けるのが妖怪だという意識があったからだった。
しかし頭数が減り、目的の達成が楽になったのには相違ない。
異変解決は迅速に、華麗に、完璧にが霊夢の信条だ。
「……魔理沙はどうしてあんなことを言ったのかしら。訳が分からないわね。いつものことだけど」
もう一人の異変解決人と言える魔理沙のことを思い出し、霊夢は小首を傾ける。
永琳の言いなりになる気か、と言われても殺しあうことが異変解決の、唯一無二の手段なのだから何を疑問に思うのか。
そう、これは仕組みなのだ。この幻想郷という『舞台』で、『博麗霊夢』が、殺し合いをする。
言い換えれば、これはゲームだ。異変解決という目的を持って、いつものように戦う。それだけではないのか。
霊夢は疑問を持たない。彼女にとっては殺し合いも妖怪が引き起こす異変も大差ないように思えてならなかった。
敵は倒す。それがシステムだ。定められた目的へ、定められた手段で動く。それがルールだ。
博麗霊夢は、それを為すだけの駒に過ぎない。そういうことだった。
だが、と霊夢は思う。それを是として行動している自分の中に引っかかるものがあった。
参加者の中には森近霖之助がいる。
誰にでも同じような態度で接する霊夢が唯一「霖之助さん」と敬称をつけて呼ぶ、唯一の存在。
どうしてなのかは分からない。しかし霖之助と接するときだけは本当の意味で何にも縛られない、
霊夢という女の子として喋ることができた。そうしている自分が別人のように思え、けれども悪くないと思っていた。
果たして霖之助を目の前にしたとき、これまでのようにルールに従って行動することができるのだろうか?
魔理沙を目の前にしたときでさえ感じなかったものが、霖之助相手ならばという不安があった。
それでもやらなければならないのだと霊夢は感じた。
幻想郷が、世界がそう求めているからだ。世界は破滅を望んでいる。
たとえそれが霊夢自身を滅ぼすことになったとしても、やらないわけにはいかなかった。
それが、霊夢に課せられた『役割』だった。
「ふむ、さて」
立ち上がり、軽く体を動かす。さほどの痛みはなかったが、時折ピリッと来るような痛みがある。
服もボロボロだ。これ幸い、建物は近くにある。服を探してもいいかもしれない。
「ああ、でもどうせ街に出るんだから……お茶が欲しいわ」
霊夢はお茶中毒だ。一日最悪三回飲んで落ち着いていなければ気がすまない。
必要もないのに求めてしまう。ルールにもないのに、なぜか。
案外自分は駒になりきれていないのかもしれないと霊夢は思って、笑った。
その笑みは果たして自分のものか、決められたものなのか。
答えを知っているものは誰も、いない。
【D-3一日目・朝】
【博麗霊夢】
[状態]全身に掠り傷
[装備]楼観剣
[道具]支給品一式×4、ランダムアイテム1〜3個(使える武器はないようです)、阿求のランダムアイテム0〜2個
メルランのトランペット、魔理沙の帽子、キスメの桶、救急箱、賽3個
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗り、優勝する
1.力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除する
2.休憩が必要と感じれば休憩する
3.服が欲しい
※ZUNの存在に感づいています。
投下終了です。タイトルは『血の色は/地の色は/赤色/黄色』です
投下GJです。
システムを利用し、システムに縛られ、システムに沿って、それでも自然体。
違和感なしに読めました。
素晴らしいです。
あ、あとこれは、前話のほうの問題でもあるけど、穣子の持ってた文のカメラは、爆発で壊れたってことでいいんだろうか?
データが飛んだ可能性が高いって聞いてたからドキドキもんだったけど、無事復旧してよかった
投下乙です。ここに来て香霖にフラグがwカメラはやっぱり心中かな?
◆CxB4Q1Bk8I氏の代理投下を行います
夜明けはいつもの日常と変わらぬ調子で東から訪れ、空の闇を追い払っていく。
朝のフィールドに、徐々に明るさが満ちていく。
緑に茂る森の中に、身体を横たえて眠る少女の姿があった。
森の木々の間から、細々とした朝の光が彼女の身体に降り注いでいる。
傍から見ればそれは、森に湧いた小さな泉のように。
青く、白く光を纏いて。
うっすらと目を開けて今が朝であるということを悟り、レティ・ホワイトロックはゆっくりと身体を起こした。
どうやら、眠ってしまったらしい。
冬の終わりに呼び出され、さらに足を庇って移動した身体の疲労もさることながら、精神的にもかなり疲れていたようだ。
野草をベッドにするなんていつ以来だろう。服に染み付いた草の匂いが懐かしくもある。
茂みに隠れているとは言え、無防備な状態で睡眠をとるなんて自殺行為だと苦笑する。
しかし誰に見つかることも無く朝を迎えたのだ。その意味ではまだツキを失ったわけではないのだろう。
ひとまず立ち上がろうとするが、動かした腕が柔らかい何かに当たる。
そちらを見ると、サニーミルクがレティに寄り添うように眠っていた。
あどけない寝顔に、思わず顔が綻ぶ。
彼女は支給品という扱いだし、そもそも妖精と妖怪では格が違う。
それでも自分にとって大事なパートナーだと思っているし、信頼できる唯一の相手だ。
特に今は、霧雨魔理沙という希望が靄の中に霞んでしまっているのだ。この場に一人きりでなくて本当によかったと思う。
あの時、魔理沙たちが去ってから、レティはその場に座り深く考え込んでしまった。
灯台の光を目指していたはずなのに、辿り着いたのは光も届かぬ思考の迷路。
考えれば考えるほど、奥へ奥へと入ってしまう。
一体誰を信用すればいいのか。
果たして自分は何をすべきなのか。
出口の無い迷路を、延々と彷徨っていたのだ。
そうしているうちに、疲労に負けてしまったのだろう。
恐らく眠ってしまってから目が覚めるまで数刻といったところ、睡眠としては足りないが休息としては十分な時間だった。
思考も、一晩を経てだいぶ落ち着いた。といっても、不安なものを抱えたまま朝を迎えてしまったのだ。あまり芳しくは無い。
スキマからパンを取り出し、少しちぎって頬張った。
乾燥していて味の無いパンだ。代わりに練乳アイスやシャーベットでもあればいいのにと少し残念に思う。
もっとも、そんな贅沢も言っていられないだろう。
“腹が減っては弾幕できぬ”とは誰の諺だったかと、小さく首を傾けた。
『皆様、ご機嫌いかがでしょうか――』
そんな時、放送が始まった。
響いた声にレティは思わず身構え、隣でサニーが驚いたように起き上がる。
声の主は八意永琳だ。
このフィールドのどこで、どのような方法でこれを流しているのだろうかと、レティの頭に漠然とした一つの疑問が浮かぶ。
声は死合いの場にそぐわぬほど優雅に、死者の名前や禁止エリアを告げた。
放送開始から終了まで、まるで時が止まっているかのごとく。
僅かな風も吹かず、森の木々は静けさを保っていた。
放送内容を逐一記録していたレティの表情は、放送が終わる頃には非常に険しいものになっていた。
「嘘、でしょ…」
隣でサニーミルクが、怯えたように空を見上げている。
犠牲者14名。すでに参加者の四半分が命を奪われているという事実。
レティにとっても予想を超えた早さだ。
これだけの死者が居るという事は、やはり積極的に殺して回っている者がいると見ていいだろう。
「…どうしてこんなことに」
思わず口から漏れた。
レティは冬の寒気を操る妖怪だ。
ともすれば大寒波を巻き起こし人間の村を一つを滅ぼすことも出来るような能力を持つ。
しかし、それはレティにとっては何のメリットも無いことだ。
幻想郷という閉ざされた世界の中で、各々がバランスを崩さず生きるという事は不文律として存在する。
ゆえに、レティ自身も、気紛れ程度に能力を行使しても他の命を無駄に奪うことにはならぬよう配慮してきた。
それなのに。
既に14名。人間だけでは無い。妖怪や、騒霊や、かの鬼さえも。
死から遠い存在だった筈の者たちまで、この「殺し合い」で命を手放している。
レティは自分が殺めてしまった妖精を思い出す。抱き上げたその重み、冷えてゆく身体、それは間違いなく死であった。
幻想郷という楽園で、僅かな規律の中で自由に過ごしていたであろう者達の命が、この数刻の間に失われてしまっているというのか。
どうして、こんなことに。
そうしてレティは再確認する。
このような死を、認めたくはない。
冬ならば凍りついてしまう程度の感情でも、今は渦巻いた想いに溶けて溢れてくる。
やはり自分は、殺し合いには反対なのだと。
夜明けはいつもの日常と変わらぬ調子で東から訪れ、空の闇を追い払っていく。
朝のフィールドに、徐々に明るさが満ちていく。
緑に茂る森の中に、身体を横たえて眠る少女の姿があった。
森の木々の間から、細々とした朝の光が彼女の身体に降り注いでいる。
傍から見ればそれは、森に湧いた小さな泉のように。
青く、白く光を纏いて。
うっすらと目を開けて今が朝であるということを悟り、レティ・ホワイトロックはゆっくりと身体を起こした。
どうやら、眠ってしまったらしい。
冬の終わりに呼び出され、さらに足を庇って移動した身体の疲労もさることながら、精神的にもかなり疲れていたようだ。
野草をベッドにするなんていつ以来だろう。服に染み付いた草の匂いが懐かしくもある。
茂みに隠れているとは言え、無防備な状態で睡眠をとるなんて自殺行為だと苦笑する。
しかし誰に見つかることも無く朝を迎えたのだ。その意味ではまだツキを失ったわけではないのだろう。
ひとまず立ち上がろうとするが、動かした腕が柔らかい何かに当たる。
そちらを見ると、サニーミルクがレティに寄り添うように眠っていた。
あどけない寝顔に、思わず顔が綻ぶ。
彼女は支給品という扱いだし、そもそも妖精と妖怪では格が違う。
それでも自分にとって大事なパートナーだと思っているし、信頼できる唯一の相手だ。
特に今は、霧雨魔理沙という希望が靄の中に霞んでしまっているのだ。この場に一人きりでなくて本当によかったと思う。
あの時、魔理沙たちが去ってから、レティはその場に座り深く考え込んでしまった。
灯台の光を目指していたはずなのに、辿り着いたのは光も届かぬ思考の迷路。
考えれば考えるほど、奥へ奥へと入ってしまう。
一体誰を信用すればいいのか。
果たして自分は何をすべきなのか。
出口の無い迷路を、延々と彷徨っていたのだ。
そうしているうちに、疲労に負けてしまったのだろう。
恐らく眠ってしまってから目が覚めるまで数刻といったところ、睡眠としては足りないが休息としては十分な時間だった。
思考も、一晩を経てだいぶ落ち着いた。といっても、不安なものを抱えたまま朝を迎えてしまったのだ。あまり芳しくは無い。
スキマからパンを取り出し、少しちぎって頬張った。
乾燥していて味の無いパンだ。代わりに練乳アイスやシャーベットでもあればいいのにと少し残念に思う。
もっとも、そんな贅沢も言っていられないだろう。
“腹が減っては弾幕できぬ”とは誰の諺だったかと、小さく首を傾けた。
あああ、まさか、かぶるとは。
スルーしてください。
ちょwwwwかぶったwwww
>>321 どんまいっす。んでは気にせず続けますー
八意永琳が何の意図を持ってこのようなことを行っているのか。
呪術や儀式の類かもしれないが、生憎レティにその知識は無い。それは魔術師の範疇だろう。
幻想郷中の妖怪や人間、鬼などに至るまで集めているのだ。その手段も、全く予想が付かない。
首に嵌められたこの輪も、簡単に首を吹き飛ばせるという事くらいしかわからない。思い出したくも無いが、開始前に実証済みだ。
そしてこの世界。冬の終わりらしい体裁を整えてはいるものの、冬の権化たるレティに違和感を与えるには十分だ。
俗な言い方をすれば、冬の香りが全くしないのである。
レティの記憶が正しければ今は冬の終わりだ。如何に能力を制限されているとは言え、正しく冬ならばそれを感じずにはいない筈だ。
とにかく、わからないことばかり。
もし殺し合いの一参加者としてこの場に臨むのであれば、それは些細なことだろう。
しかし、この場から逃れ、主催者の意図に逆らうためには、知識が無い事には何もできない。
レティの知る限り、一番の賢者は八雲紫だ。
しかし彼女自身がこの殺し合いに参加させられていることを鑑みれば、主催者の八意永琳はそれ以上の力の持ち主なのかも知れない。
自分を過小評価するつもりは無いけれど、そのような相手の仕組んだこの殺し合いに今の自分程度の知識が通用するかというと自信が無い。
この殺し合いから脱却するために、今は知識、情報が必要だ。
そして、その情報を有効に活用できる仲間も必要だろう。
一人では出来ることが限られてくるのだから、考えれば当然である。
今すべき事が、レティの頭の中で、漠然とした形で纏まっていく。
しかし、レティに嵌められた枷は彼女が思う以上に重い。
誰を信用すればいいのかという思考の迷路から、まだ脱出できていない。
それゆえに、必要以上に慎重にならざるを得ないのだ。
灯台の光が盗まれて、照らされていた全てのものを闇へと還してしまった。
出口への狭い道を見つけるために、光の無い海原で手探りを続けなければならないのだ。
「レティ、ねぇレティ!」
サニーミルクの声にハッと顔を上げる。またも深く考え込んでしまったようだ。
彼女の表情から察するに、よほど険しい顔をしていたのだろう。
「大丈夫、大丈夫よ」
そう答えながら、一体何が大丈夫なのだろうかと、思わず苦笑した。
サニーはまだ不安げな顔でレティを見ている。
――妖精に心配されるなんて。
しかし自嘲できる程度には心が落ち着いた。
昨晩に悩んでいた時はサニーの励ましも殆ど聞こえなかったのだから、今は幾分もマシだろう。
余り考え込んでいては、お互いに参ってしまう。
思考を振り払うように、ふるふると頭を振った。
「さ、そろそろ移動しようかしら」
「えっ、あ、うん!」
レティが立ち上がると、サニーも慌てたようにそれに続く。
――サッと隠した食べかけのパンは、見なかったことにしてあげよう。
足の痛みはまだ消えていないのだが、行動への支障は無い。
悩んでいても仕方ない。
少なくともサニーの能力を補給するのに森の中では不都合だ。
レティは割と永く生きる妖怪だ。幻想郷でも古株と言っていい。
しかし、今までレティはただ生きるだけだった。冬を楽しみ、他の季節には隠れて冬を待つ。
巡る季節に乗じて存在するだけの、気ままな妖怪だった。
自分から何かを起こそうということも無く、ただ平穏に時を過ごす。それでレティは満足だったのだ。
今は、そうではない。
殺し合いに乗らないと決めたのだ。
決めたのは自分だ。だから行動するのも、自分だ。
今までのように季節が巡るのを待つだけというわけにはいかない。
このままでは、次の冬はもう来ないかもしれないのだから。
「頑張らないと、ね」
誰に言うでもなく、呟いた。
【C-5 森・一日目 朝】
【レティ・ホワイトロック】
[状態]健康(足に軽いケガ:支障なし)
[装備]なし
[道具]支給品一式×2、不明アイテム×1(リリーの分)、サニーミルク
[思考・状況]基本方針:殺し合いに乗る気は無い。可能なら止めたい。
1.森から出る。
2.この殺し合いに関する情報を集め、それを活用できる仲間を探す。
3.仲間は信頼できることを重視して慎重に選びたい。
代理投下終了。乙です
丁寧にレティのキャラを掘り下げててよかったです
何か放送後の作品って殺伐なのが多いし…癒されました
代理投下乙です。
やっぱ、更新はするべきでした……すいません。
いい補完話ですね。
一人だったらどうなっていたことか。
タイトルは、Gefrorne Tranenですよね、多分。
え?マジっすか
こっちの表記はGefrorne Tr醇Bnenになってたけど…
こればっかりは作者さんじゃないとわからないですね
Gefrorne Tranen だろ
文字化けしてるんじゃ?
……ですよねー
PCが規制されてるので携帯から失礼します。
仮投下の際にドイツ語の依存文字を使ってしまったため、文字化けしてしまったようです。
Gefrorne Tranenで問題ないです。お騒がせしました
そして私はそのあまりの眩しさに目を細めた。
太陽はただ変わることなく空に在った。
不意に、何故太陽が昇り、夜が明けてしまうのかと不思議に思う。
だって、つい数時間前まで全ては夜の闇の中に在ったのです。
何が何かも分からず、輪郭すらも満足に捉えられない様な、そんな不安の中に……
けれど今はもう違いました。
不安も何もかもが闇と共に過去の物として払拭されて、
朧気だった全てが、明確に、白日の下に晒されていました。
その時私は、それがとても素晴らしいことの様に思えたのです。
※※時は戻り、舞台は紅魔館2階のとある部屋※※
リリカは今、疑心暗鬼と恐怖の中にいた。
頼りになる四季映姫の協力。
更に、その映姫の提案による籠城戦、張り巡らされた幾重もの罠。
本来なら、それらはリリカにこの上ない安心をもたらす筈であった。
しかしヤマメとの一件を境に、それらに対するリリカの価値観は一転した。
堅牢な守り、即ち立場変われば、それはここから逃げられないという事だ。
ならどうしたらいい。
誤解を解くことが出来ればそれが何よりも一番である。
しかしでは今のこの自分の話を信じてくれる人物が奇跡の様に現れるのを待つのか。
いやそれは駄目だ、あり得そうにも無い。
それなら、死にたくないと言うのなら、そう、やるしかないのだ。
――どうして殺したの?
嫌な言葉が頭を巡る。
でも、だって仕方がないじゃないの。
リリカは部屋の中にあった椅子を武器の代わりとして持ち、
部屋の入り口、扉の横、死角となる場所に身を潜めた。
逃げの為の一手、殺しの為の準備。
耳を澄ませば、廊下の方からこちらに近づいてくる足音が聞こえる。
そいつはさっき隣の部屋の扉を開けた。
ならきっとこの部屋だって確認するはずだ。
リリカは恐怖に震える。
何への恐怖か、それは加害への、はたまた被害への?
わからない。
でもとにかくやらなくちゃいけないんだ、と恐怖がリリカを急き立てる。
そして……
ギィと軋んだ音を立てて扉が開く。
部屋に入ってくる人影、リリカが椅子を振り下ろす。
そして一瞬、リリカは訳の分からない感覚に襲われた。
柔術、合気道?
さっぱり分からない、けれど数秒の後にはリリカは床に押さえつけられていた。
そして、リリカを組み伏せた形で、眼前、八坂神奈子はにやと笑う。
「馬鹿だねぇ、これでも私は神様だよ」
※※紅魔館1階※※
強さとは何か、そう彼女達に問うたならば……
果たしてどんな言葉が返ってくるだろうか。
紅魔館の1階、玄関前ホール。
そこにキスメ、レミリア、映姫と3人が揃っていた。
四季映姫・ヤマザナドゥ。
映姫は溜め息を付きながら、見事なまでに切り裂かれた玄関扉、
その修繕及びバリケードの組み直しを図っていた。
直す方の身にもなって欲しい、レミリアは少し我が過ぎる、と胸中で思いながら。
ホール中央辺りではレミリア・スカーレットとキスメ。
紅魔館案内ツアーも終わり、
玄関修繕の進行状況を確認しようとここを訪れた……はずだった。
しかし、どういった奇跡か、どういう方向に会話が花開いたのか、
今そこには、レミリアによるキスメの為の“いげん”ゼミナールが開かれていた。
「……ぎゃ、ぎゃぉー」
キスメが顔を真っ赤に染めてか細い声を上げる。
溜め息を付くレミリア。
『そんなんじゃモケーレ1匹脅かせない』と駄目だしをしてキスメを叱る。
二人のやり取りを背中に聞きながら、一体何をやっているのかと呆れる映姫。
「全世界ナイトメア!!」
レミリアが高々と宣言する。
映姫は少し頭を抱えたくなってきた。
スペルカードは必殺技などではない、そんな風に叫ぶ必要なんて本来ない筈なのだ。
しかし、まあ、妖怪の強さは精神に基づく。
己の力を必要以上に誇張することは強ち間違いとも言えない。
故に映姫は……白黒、正否にうるさい閻魔は敢えて何も言わない。
「ぜ……ぜんせかぃナイトめぁー」
尻すぼみな弱々しい声、勿論キスメのものである。
なんでしょうかこの宗教は、と映姫は更に頭を痛める。
駄目駄目だと、やはりまたレミリアが言う。
しかもあろう事かそこで……
「ねぇ、そこの閻魔、貴方もそう思うでしょ」
などと話を四季映姫の方へと振ってきた。
そんなの言われても困ります。
とは思えどこれでも閻魔……
“判断”を“判決”を任されたとあっては真面目にならざる得ません。
はい、とても生真面目です。
「キスメ、貴方は少々思い切りがなさ過ぎる。
自信が無いのは分かりますが、その消極的な態度は些か頂けない」
などなどと、容赦なくキスメに言葉を投げ掛けます。
そこから更に長々とお説教モードに入りそうだったので、慌ててレミリアが止める。
そちらから話を振ってきたのに……やはり我が儘が過ぎる、そう映姫は不満顔。
しかし、それもほんの数秒の事。
映姫の不満など軽く吹き飛んでしまう様なとんでもない事件がすぐに起こった。
そう、それはレミリアの発言。
「ほら、じゃあ閻魔の貴方が手本を見せてあげなさいよ」
一体レミリアは何を言っているのでしょう、と一瞬思考がフリーズした四季映姫。
私に叫べと? 心から高らかに?
――全世界ナイトメア
四季映姫は顔から火が出そうだった。
しかし“手本”。
そう、お手本……つまり模範である。
ヤマザナドゥ、閻魔である私がソレを示さずして誰が示すのか。
半分以上に迷走しているとは思うが、とにかく訳の分からない使命感が映姫を襲う。
恥ずかしさに負けてはならない。
模範なのだ、頑張らなくてはと……映姫はかつて無い危機に晒されていた。
数秒間、映姫は息を整え意を決し、きつとレミリアの眼を見る。
「では、“模範”を見せて差し上げましょう」
そして自分を励ます様に一言、最早引き返すことなど出来ない。
レミリア、キスメの見つめる中、そして映姫は……
……とその時、紅魔館に第一放送が流れた。
緊張が皆を襲う、そんな中安堵の声を漏らしたのは誰だったか。
『それでは死んでしまった残念な方々のお名前を……』
三者三様、そこに居た3人が皆それぞれ驚きや戸惑いの声を漏らす。
“黒谷ヤマメ”
その名前は確か、今この紅魔館で見張りをしている者の名では無かったか。
耳を疑い立ち尽くすキスメ、疑惑の目を映姫に向け眉を顰めるレミリア。
訳が分からず、ただ現状把握を……思考を整理しようと努める映姫。
そこに……
「黒谷ヤマメを殺したのは私だよ」と、そう言って。
軍神、八坂神奈子が姿を現した。
放送直後、紅魔館1階、その玄関前ホール。
事態は緊迫し、また誰一人動ずにいた。
放送直後の混乱を狙われた、それは分かっている。
何故に内部から、疑問はいくつもある。
しかし、映姫やレミリアが動けない一番の理由はそれではない。
八坂神奈子、敵対する彼女が手に持っている武器。
“MINIMI軽機関銃”
強力無比なその銃を前に迂闊な行動が取れなかったのだ。
いやそれ以上に、更なる問題がある。
吸血鬼に閻魔、幻想郷のパワーバランスを担う二人が揃い、
それで高々“力”に屈するというのもおかしな話。
そう、一番の問題点はその機関銃の向けられた先……
即ちそれは神奈子の斜め隣。
そこに“人質という形”でリリカ・プリズムリバーが立っていた。
――手段は選んでいられない
『なんでもやる』それは八坂神奈子の言葉。
卑怯者だとレミリアが神奈子を罵った、神奈子は意にも介さない。
リリカを人質に神奈子が出した要求は大きく2つ。
武装解除と全面降伏である。
勿論『従えば皆の命は保証する』というお約束をつけて。
最初にそれを聞き入れたのは四季映姫。 自身の持つスキマ袋を遠くに放る。
だが当たり前に映姫は神奈子の言葉は信用していない。
袋は神奈子とは反対方向に投げ、とにかく打開策を探る。
それに追従する形でキスメが不安そうにスキマ袋を放る。
しかし、けれどレミリアは動かない。
蔑む様に神奈子を睨み付けたまま、手には依然“霧雨の剣”を握っている。
一体レミリアは何を考えているのか、映姫は内心の焦りを隠せない。
ここで下手に相手を挑発してしまっては、油断も隙もチャンスも何もあったものではない。
望むらくはもっとちゃんとした交渉に持って行って平穏に事を解決すべきだ。
閻魔と吸血鬼……両名の思惑はここで完全に行き違う。
映姫が平和に事を進めようとする中、
レミリアは目の前の卑怯者をどう懲らしめてやろうかとひたすらに意気込んでいる。
互いに幻想郷のパワーバランスを担うほどの強者。
ならば実力による上下関係も無く、指揮命令系統など定まっている訳もない。
元より妖怪は自分勝手なもの、閻魔とソリが合う筈がないのだ。
レミリア、映姫の現状を見て、神奈子は内心ほくそ笑む。
多数が常に強いのか……断じて否である。
全ては基盤となる繋がり、指揮系統、ルールがあってこその強さ。
混乱を、摩擦を更に煽る様に、神奈子は再び武装解除の要求を出す。
『最後通告よ』などと脅しも加えて。
焦る映姫、けれどレミリアは聞き入れない。
吸血鬼、大妖怪としてのプライドが人質を取る様な相手に屈する事を許さなかった。
正に足の引っ張り合い。
「このレミリア・スカーレットはそんな脅しには絶対に屈しないわ」
映姫にせっつかれたことの苛立ちも含み、吐き捨てる様にレミリアは宣言した。
それを聞き、笑み、ぼそぼそと神奈子は小さく呟く。
距離からしてその言葉はレミリアまで届かない。
とにかくこれによって映姫の行動は無駄に、計画は完全に潰える事となった。
そして神奈子は“最後に”レミリアに尋ねる。
「貴方はうちの東風谷早苗を見かけなかったかしら」と……
レミリアがソレに否の答えを出し、それから少しの後……
敵対するそれを撃ち殺さんと、神奈子は銃先、狙いをリリカからレミリアへと変えた。
しかし、それは間に合わない。
圧倒的なスピード、一瞬の間に懐へと飛び込んできたレミリア。
その既知外の速度と腕力を以て、神奈子の持つ銃は弾き飛ばされてしまう。
だが、神奈子もそのままそう易々とはやられたりはしない。
レミリアが人質であったリリカに目を向け注意を逸らしたその一瞬、
ほんの僅かな時間で神奈子は体勢を立て直すべく一足、二足と飛んでレミリアから距離を取る。
弾かれた銃の行方は最早追わない、状況から見て銃を再び自分の手に戻すのは難しいと、そう判断したからだ。
そしてレミリアもまた同じく銃を追わず、銃の行方に興味は無い。
元より銃器などという“アイツ”が使っていた卑怯な道具に頼るつもりはなく、
リリカの安全を確保した彼女の目に映るのは八坂神奈子ただそれだけであった。
ならば今、弾かれたその銃の行方を追う者はただの一人、
四季映姫・ヤマザナドゥ、彼女だけであった。
ならば当然の結果として、弾かれた銃を手にしたのもまた彼女である。
映姫の行動は実に的確で、また確かに速かったとは思う。
しかし映姫がその“MINIMI軽機関銃”を手にしたその時には既に、
神奈子は武器を緋想の剣に持ち替え、レミリアから数メートルの間をあけて対峙していた。
時間にして1秒足らず、映姫の行動も早かったが神奈子の行動はそれに倍して早かった。
それも当然、と心の中で神奈子は笑う。
レミリアの行動は分かりきっていた。
銃を相手に遠距離戦は挑むまい、性格からして間違いなく接近戦を挑んでくるだろうと、
既に最初で予想は立てていた。
即ちリリカから銃先を逸らしたのは攻撃の為だけでは無く同時に誘いでもあったのだ。
武装解除や降伏要求だって端からレミリアが聞き入れるなどとは思っていなかった。
つまりあれは映姫の行動を鈍らせる為のものであり、あとは少々レミリアの気を逸らすことが出来れば十分だったのだ。
勿論、銃を弾かれてしまったのは誤算である。
最良はそのまま隙を突いてレミリアを撃ち殺すことだった……
しかし予想を上回るレミリアの物理速度、また行動の早さにそれが叶わなかったのだ。
恐らく初めから此方の話など聞いておらず虎視眈々とタイミングを狙っていたのだろう。
ともすれば人質解放の為、被弾の1発や2発は覚悟していたのやも知れない。
しかし、神奈子だってそこまで楽観主義では無い。
これでも軍神、その経験からしてそんな御都合的展開が罷り通るなどとは思っていない。
精々に通れば幸運程度の考えであった。
確かにレミリアのその身体能力など諸々は予想外であった。
だがしかし、今のこの状況、この展開は十二分に想定の範囲内……
故にこそ神奈子の対応は映姫以上に早く速かったのだ。
見ればレミリアは既に神奈子を攻撃しようと行動を始めていた。
速度からいってこの距離ならば直ぐに詰められてしまうだろう。
思えばこの時こそが神奈子にとって一番の引き際だったのかも知れない。
何故ならこの時点で、既に神奈子の計画の半分は成功したようなものだった。
そう、レミリアも映姫も、既に神奈子の術中にあったと言っても過言ではない。
ならばこれ以上に攻めて危険な可能性を増やすよりも、
ひとまず撤退し機を伺う方がより確実で安全な方法ではないだろうか。
時の隙間を縫う様な刹那、その短い時間の中で神奈子は考える。
……そう、確かに撤退こそ最良の方法だったのかも知れない。
だがこの時、神奈子は慢心していた。
レミリアへの降伏要求、武装解除の失敗。
更に銃による攻撃も防がれ、あまつさえその銃すら敵の手に渡るという始末。
状況は明かに悪化している。
しかし、悪化しそれでもなお全てが想定の範囲内。
未だ誤差の中に収まっているという事実が神奈子から危機感を削ぎ、強気にさせた。
決断、行動に移るまでの時間は果てしなく短く。
ならば神奈子がその慢心に気づける筈もまた無い。
故に神奈子は撤退を選ばず、向かい来るレミリアを返り討ちにせんとして緋想の剣を構えた。
だがしかし、そこに更に待ったの声が掛かる。
「止まりなさい、止まらなければ発砲します」
ちらりと見てみれば、何やら映姫が銃を手に訳の分からない事を叫んでいる。
勿論に神奈子は止まらない。
撃とうと思っているなら、さっさと撃ってしまえばいい。
何故にわざわざ宣言するのか、そう神奈子は苛立ちながら、心中で毒突く。
まさか、それが正義のつもりなのだろうか、事ここに至って未だ自分だけ綺麗でいたいのか。
神奈子は映姫の行いを酷く馬鹿馬鹿しく思った、行き過ぎていて失笑ものだ。
“私たちは善人です、だから貴方の善意を信じます”
そんな風に言われている気がしたのだ。
酷く都合が良くて、自身の行いを馬鹿にされている様な気がしたのだ。
映姫のその、自分だけグレーのラインに留まっているような態度が許せなかった。
それは神奈子自身、穢れているという自覚があったからだろう。
怒りをぶちまける様に強く、神奈子は緋想の剣を振るう。
止まらぬ神奈子を見て、映姫はやむなく発砲する。
神奈子は最早そちらを見てすらいない。
レミリアもまた映姫を無視し、ただ神奈子目掛けて駆ける。
ならば当然、レミリアを巻き込みかねないこの状況で映姫が神奈子を狙える筈もなく。
放たれた銃弾はただの威嚇として、全く見当違いの空を切った。
両者に無視され、映姫はただひたすらに空回りを続けていた。
神奈子は驕る心を抑えられない、誘導は完璧、まるで全てが掌の上……
自分を止められるのは、もう誰もいないだろうとさえ思った。
勝敗は思った以上に早く、一瞬の内に決した。
緋想の剣と霧雨の剣、軍神と吸血鬼、互いに能力を制限された身。
ならば実力は五分と五分。
差が出るとすれば、それは意識の差であった。
レミリアが目の前のこいつをどうやって倒し、懲らしめてやろうかと考えている時。
神奈子はただ、そこに居る全員を殺し尽くす手段を考えていた。
結果としてレミリアの剣には手心が加わり、逆に神奈子の剣には殺意が籠もった。
それはレミリアのやたら高いプライドが招いた事態。
剣を振りかぶったレミリア、その隙だらけな脇腹に一瞬速く放たれる一刀……
避けようのないその完璧な一撃を以て、神奈子は既に勝利を確信していた。
だがその刃をレミリアは剣を持たぬ片手を犠牲に無理矢理止めた。
それはプライド、いや、自身の肉体への絶対的な自信があってこその芸当。
緋想の剣は肉こそ絶てど骨までは絶てず、三割程切り込んだ形で止まる。
これ以後も殺し続けねばならない神奈子と違い、レミリアは傷を気にする必要は無い。
緋想の剣を止められてしまえば、隙だらけとなるのは逆に神奈子の方。
勝敗は一瞬で決まった。
二人に差があるとすれば、そう、それは意識の差であった。
地に伏し、眼前に霧雨の剣を突き付けられた神奈子。
殺されてはいない、喰らったのは刃を寝かせた峰打ち。
やはりそれはレミリアの手心の込められた一撃。
手加減され、それでも負けた悔しさに神奈子は歯を噛み締める。
緋想の剣こそ未だ持っているが、それだけでは到底状況を打開出来ない。
八坂神奈子の明かな敗北であった。
レミリアは悪魔の様な笑みを浮かべ神奈子を嗤う。
そして自身を誇り、完全なる勝利宣言をしようとした所で……
ぱしゅん。
銃弾を撃ち込まれ、レミリアは蹲る様にして倒れた。
何故気付けなかったのか、どうして避けられなかったのか、その理由はいくつかある。
まず1つ、勝利の愉悦に飲まれ気が弛んでいたこと。
次に、ソレがレミリアの目に銃として映らなかったこと。
そして、これが最も大きな要因なのだが、
まさか彼女がそんな行動を起こすとは思わなかった事が大きい。
リリカ・プリズムリバー。
震える彼女の手にはNRS ナイフ型消音拳銃が握られていた。
そう、人質とは形だけの偽装、リリカは既に神奈子によって籠絡されていた。
神奈子が笑みを浮かべ、倒れたレミリアを横目にゆっくりと立ち上がる。
勝敗を分けたのはやはり意識の差。
勝利に括ったレミリアに対し、どこまでも殺す為の策を練った神奈子の作戦勝ち。
またそれは、止めを刺さず、勝利の優越感を優先したレミリアの自業自得でもある。
勝負に負けて試合に勝つ。
戦術と戦略……元より両者は戦いの舞台が違ったのだ。
信じられない、目を疑う様な光景にキスメは震え、映姫もまたその現実に追いつけない。
全く馬鹿馬鹿しい、ほらね、最初の時に味方を気にせずに撃ってれば良かったんだよ。
映姫の様子を見て神奈子は心中で笑う。
理想だとか善悪だとか……
早苗ただ一人を生かそうと決めた時、神奈子はそれらのちっぽけさに気付いていた。
出来るなら、残る映姫もキスメも今の内で殺しておきたい。
けれどもうそろそろ撤退の頃合いかね。
そう、状況を踏まえて神奈子は静かに考える。
レミリアが倒れ、リリカがこちら側だと判明した以上、邪魔な“遮蔽物”はもう無い。
誤射の心配も無く、映姫が撃たない理由など神奈子には見つけられない。
だから神奈子は既に撤退の段取りやその後の事を考えていた。
近くリリカは、自身の行動を顧みて罪悪感に震え、青ざめていた。
まあ、これも仕方ないと神奈子は思う。
疑心暗鬼に苛まれ恐慌状態に陥っていた彼女を、無理矢理この作戦に組み込んだのは自分だ。
本来リリカは人を殺せる様な神経の持ち主ではないのだろう。
例え相手がこの上ない悪人だったとしてもだ。
リリカの“姉”だったか……自らの手で葬ったメルランの死を神奈子は利用した。
なだめながら、自分は味方なのだと何度もリリカに言い聞かせ、情報の改ざんを図った。
“レミリア・スカーレットがメルラン姉さんを殺した”
そんな嘘の情報をすり込んだのだ。
不安定な精神状態、第一放送との相乗効果でリリカは簡単に神奈子を信用した。
あまりに心が弱すぎた……いや、純粋過ぎたのだ。
かたかたと震え、リリカは持っていたそのナイフを落とす。
やれやれと肩を竦める神奈子。
まあ、最初からリリカの役割は紅魔館を攻略する為だけのもの。
本当に味方に出来たらそれが一番良かったが、それは無理そうだ。
そして神奈子は撤退前、最後の一仕事として大きく悲壮の剣を振り上げた。
――レミお姉ちゃんみたいに“いげん”するんだ
一瞬の隙、まさに虚を突かれたという形。
リリカも神奈子も、距離からすれば圧倒的に有利な筈だった。
しかしリリカは罪の意識に飲まれ自失しており、神奈子にしても思考を撤退する方向に切り替えたばかり。
あまりにタイミングが悪すぎた。
窮鼠猫を噛む、弱い妖怪であっても追い詰めれば何をするか分からない。
予想は出来ていた、しかし対応が出来なかった。
キスメは神奈子の横腹へと体当たりを喰らわせ突き飛ばすと、
そのまま間を挟むことなく、リリカが落としたそのナイフを拾い上げる。
そして更に流れる様な動作でそのナイフを近く、思考が追いつかず立ち尽くすリリカへと突き立てた。
まさに最悪のタイミング、ちょっとした気の弛み。
思慮外の攻撃に神奈子はよろめき、リリカは呻き声を上げてその場に倒れる。
だがやはり軍神、神奈子はよろめいて、しかし倒れない。
体勢は不安定、それでも最後の最後で作戦を滅茶苦茶にしたその忌々しい妖怪……
キスメに一撃を喰らわせるべく無理矢理に身体を捻り、神奈子は渾身の一刀を振り下ろす。
全て一瞬の出来事。
避ける術なくキスメは頭を割られ、神奈子が笑み……
そしてそこで残る一人、四季映姫が叫び声を上げ、二人の目が合う。
“撃たない理由など神奈子には見つけられない”
そう、それはとっくに予想されていた、けれどやはり最悪のタイミング。
体勢を崩してなお、逃げる事より殺す事を選択した神奈子はそれを避けられない。
MINIMI軽機関銃の圧倒的火力。
それを前に為す術なく神奈子は全身を銃弾に貫かれた。
そうして全部が終わってそこに立っているのは最早一人。
四季映姫・ヤマザナドゥ……彼女だけであった。
生き残った彼女は、まるで魂が抜けてしまったかの様にふらふらとその場を離れ、
落ちていた自分のスキマ袋を掴むと……
銃を引きずりふらつきながら、何かを求める様に2階へ向かった。
※※リリカ・プリズムリバー※※
紅魔館1階玄関ホールで戦いが起こる、そのかなり前の事。
敵も味方も分からず襲いかかった私を神奈子は、
“私は神様だから、そんなに怖がらなくていいよ”とそんな風になだめてくれた。
メルラン姉さんを殺した犯人を追いかけて、ここまで来たという神奈子。
『これからも殺し続けるかも知れないレミリアをどうにかして止めたい』
それは神奈子の言葉。
最初は全く信用できなかった、レミリアなんて関係なく周りの全部が敵だと思っていた。
けれどそれは間違いだ、罪悪感から疑心暗鬼に囚われているだけなんだって……
錯乱し、怯える私に何度も優しい言葉をかけて、貴方は悪くないよって慰めてくれた。
他にも他愛ない色んな話をした。 早苗さんのことも聞いた。
その内に本当に神奈子はいい人、いい神様なんだって分かってきた。
だから私は神奈子に協力することにしたんだ。
――黒谷ヤマメを殺したのは私だよ
ほんとに神奈子は優しかった。
勇気がなくて本当の事を言えない私を庇って、自身の危険を顧みず嘘をついた。
人質のフリ、実際に銃を向けられるのはすごく恐かったけど……
それもレミリアの化けの皮を剥がす為だって、神奈子の言葉を信じて私は耐えた。
だってそれに私を庇い、犯人を演じてくれた神奈子はもっと大変な筈なんだ。
そして……
『ほらね、レミリアは他人の命なんてどうでもいいのよ』
それは神奈子が小さく呟いた言葉。
レミリアは、平和を求める神奈子の武装解除の要求に全く応じなかった。
やっぱりレミリアは悪魔だ、私のことなんて何とも思っていなかったんだ。
裏切られた感じがした、許せない、メルラン姉さんを殺したあいつを許したくない。
自分の意志で人を撃つのは恐かったけど、それでも必死に勇気を振り絞って撃ったんだ。
レミリアは倒せたけど、それでも駄目だった。
弁解の間もなく、私はレミリアの仲間にやられてしまった。
そして現在、紅魔館1階玄関前ホール、四季映姫が去って暫くの後。
血の臭い溢れるその中で、私は痛む傷口を押さえ、壁に手を付きふらつきながらも何とか立ち上がった。
そして荒い呼吸を整えながら、自身の置かれた状況を確かめようと辺りを見渡す。
自身を攻撃したあの小さな妖怪……キスメは既に死んでいた。
それも頭を割られ脳漿を散らした惨たらしい姿で……
“酷い死に様だ”と思わず私は口を押さえ目を背ける。
見れば、真摯に私の話を聞いてくれた神奈子までもが、体中を撃ち抜かれ血肉を撒き散らす形で死んでいた。
なによこれは。 死ってこんなに醜いものなの。
生きていた時はあんなに輝いていたのに、死ぬとどうしてこんなに惨たらしいのか。
ヤマメの死から逃げ続けていた私は、ここで再びまた死と向き合う。
脳裏にヤマメの姿が浮かび、耳にはまた呪詛の様に言葉が蘇ってくる。
――どうして殺したの?
ああ、あ……ごめんなさい、ごめんなさい。
ヤマメ、神奈子、メルラン姉さん、ルナサ姉さん。
だって知らなかった、こんな、怖いものなんて酷いなんて……
生きているという事実が、酷く奇妙で気持ちの悪いことの様に感じる。
どうして、なんで、だってこんな筈じゃなかった。
本当は、本当なら命って、生きるってことはもっとこう違うはずなのよ。
そう、それは太陽の様にからりとしてて、きらきら輝いた清々しいものの筈なんだ。
だからこんな、こんな血肉を詰めた風船みたいな、どろついた血腥いものとは全く無縁の筈なのに……
どうしてよ、なんでこんなことが許されてしまうのよ。
ああ、みんな死んでしまった。
私が殺した。 私の所為で、私の為に……
自分がこの事態を引き起こしたという酷い罪悪感が心を包む。
死んでしまった姉や、あの優しい神奈子の事を思う。
そしてある事に気付くと、その絶望感は沸々とした怒りに変わっていった。
姉さん達は既に亡く、神奈子もかわいそうな姿で死んでいる。
ああ、なのに……それなのに!
なんでこいつがまだ生きているのよっ!!
レミリア・スカーレット!!
おかしい、本当に許せない。
あんなに優しい神様が死んで、それで何故どうしてレミリアが……
この全ての元凶がまだ息をしていられるんだ。
酷い、非道い、矛盾してる。
現実って確かに厳しいと思う。 でも、それでも正しい者が救われる筈じゃないの?
なのになんで、なんでメルラン姉さんを殺したこいつなの……なんでこいつが!
納得のいかない許し難い現実にただ憤る。
この時、リリカ・プリズムリバーは正義の味方だった。
目の前、レミリアは弱っていて満足に動けない。
正義の鉄槌を下すならば今しかないと、そう思った。
そして震える手でナイフを拾い、拙い動作で弾を込め換える。
かちかちと歯を鳴らしながら、それでも両の手でしっかりとナイフを握り、
必死に、必死に恐怖を押し込めて……
グリップの先、銃口をゆっくりとその横たわるレミリアに……その頭部に向けた。
そう、まさしくリリカ・プリズムリバーは正義の味方であった。
横たわり動けないこの悪の化身レミリアをここに下さんと、正義の心を滾らせていた。
しかしトリガーに指を掛け今正に殺さんとした時、不意にレミリアが目を開き私と目が合う。
瞬間、意志が揺らぎそうになった。
“いけない、早く殺さなくちゃ”と慌てて私はトリガーを弄る。
けどセーフティを外し忘れた為、がちがちと音を立てるばかりでトリガーは動かない。
胸中を更なる焦りと恐怖が巡る。
どうして何もかもが思い通りに行かないのか、私は泣きそうにさえなっていた。
私のそんな姿を見て、未だぼろぼろなレミリアが嗤う。
「無様なものね」と私を見下し、憐れむ様に……
あり得ない挑発、嘲笑の言葉に苛立ち、私はレミリアを思い切り睨みつける。
短い様で長い数秒間。
レミリアは決して視線を逸らしたりはしない。
満足に動けず、数秒の後には殺されるかも知れないこの状況の中で、
それでもまだレミリアは強く、厳たる態度を崩したりしなかった。
その毅然とした態度は私を更に苛つかせた。
黒と白に境界があるとすれば間違いなく黒、悪鬼の側であるレミリアが何故こうも堂々と出来るんだ。
私自身誤殺やその他たくさんの罪悪感で潰れてしまいそうなのに。
それ以上に明確な意志を持って殺しを行ったレミリアが何故こうも平然としているのか。
それが私には理解できず、また納得がいかなかった。
だから、エゴも正義も何もかもを綯い交ぜにして私は叫ぶ。
この不貞不貞しく訳の分からない悪魔に向かって、自身の叫びを投げつけた。
「この……なんでっ! こいつ、メルラン姉さんを殺したくせにっ!!」
鼓膜を突き破らんばかりの大声。
それに応えるかの様にかちゃりと音を立て、ナイフのセーフティが外れる。
レミリアは動けず、けれど笑みを崩さない。
余裕などでは勿論なく、だが今更に死への恐怖もない。
故に笑み、故にレミリアは……
※※キスメ※※
『どうかレミお姉ちゃんが助かりますように』
それがキスメの最後の願い。
『なんでこいつがまだ生きているんだ』
それはリリカの心の叫び。
レミリア、そしてリリカが助かった理由……要因は幾つもあった。
しかし強いて1つを上げるとするならば、それはキスメのお陰である。
リリカがナイフを落とし、神奈子が剣を振り上げたあの時。
まだレミリアが死んでいない事に気付いていた者は二人。
キスメと神奈子だけだった。
そうつまり、神奈子の振り上げた剣は本来レミリアに止めを刺す為のものだったのだ。
いっしょに桶を探してくれるって言ったレミお姉ちゃん。
自分をおんぶしてくれた、優しいレミお姉ちゃん。
だいすきなレミお姉ちゃんがこのままじゃ殺されちゃう。
――レミお姉ちゃんみたいに“いげん”するんだ
神奈子はすごくこわい、イタいのも死ぬのもとっても恐い。
でもいつの間にか、自分でもわかんない内に勝手にからだが動いてた。
弱っちい自分にいったいどれだけのことが出来るのかな。
それはわかんない。
でもでも、とにかくぜんぶを出し切ってレミお姉ちゃんを助けるためにがんばる。
神奈子を突き飛ばし、みんなよりも早くナイフを拾って。
そして、そのナイフでリリカをやっつけようって時、ちょっと迷った。
だってイタいのは死ぬのはいやなんだ、ならみんなもそうに決まってる。
※※四季映姫※※
みんな死んでしまいました。
何が間違っていたのでしょうか、きっと全部が間違っていたんでしょうね。
ただ生きていくだけで、生かすだけで罪が生まれる極悪なルール。
難題“皆が殺し合うことは正しいのか”
私の能力が導き出した答えは“白”。
殺し合いは正しく、この世界もまた正しいという事です。
勿論に間違いですが、ある意味で予想通りの答えでした。
私の力は制限されています。
けれどもし制限されていなかったとしても、私の能力は役に立たなかったでしょう。
ルールとはつまり基盤なのです。
普遍的な正義なんてどこにあるでしょうか、法の殆どは民や環境に依るものばかりです。
だとすれば現状、それら法の全てはこの殺し合いの主催者のもの。
なら、私の能力がちゃんと機能する訳がありません。
精々に殺し合いに無関係な小さな疑問を払拭するのが関の山。
力の無い身ですけれど、この“黒の法”を許してはいけないことも分かっていました。
だからこそ私は自分の正義を信じて、この極悪なルールを壊す為に動いたのです。
皆だってそうですよね? 私だけが正義を掲げていた訳では無いのでしょう?
殺し合いなんて誰も認めていない、そうですよね?
私はずっと、ずっとそう思っていたのです。
このような状況です、恐怖に駆られ思ってもない行動を取ってしまうこともあるでしょう。
しかし逆に、だからこそ恐怖が正しい働きをしてくれることを私は祈ったのです。
“MINIMI軽機関銃”
強すぎる力が私に与えられた事を嘆きました。
何故なら武器は使う為の物では無く、また恐怖とは抑止力なのですから。
弱いものが強い力を得ることで均衡を保ち、争いが起こりにくくなる。
それこそが本来在るべき武器の姿でしょう。
正義の力にしてもそう、それは行使した瞬間からただの傲りに変わるものです。
皆だって、それを分かっていたと思います。
私は間違っていたのでしょうか、ああ、どうして……
私の信じた正義や言葉では誰一人止まってくれませんでした。
リリカ、キスメ、レミリア、神奈子。
目の前、血溜まりの中にその全員が倒れている。 皆が殺し合った結果でした。
私はそれをただ見ていただけでした。
ヤマザナドゥというただ偉そうな肩書きを持っていて、それでも結局何も出来ず。
返り血ひとつ浴びることなくただキレイなままで……
赤と白に別けられて、まるで全てが彼岸の出来事だったみたいです。
どうして私はこんな所で生きているのでしょうか。
何故あの血溜まりの中で皆と同じく死んでいないのでしょうか。
私が皆を見捨てた様な、私が皆を殺した様な……
そんな嫌悪感が、罪悪感がぶくぶくと水泡の様に沸き上がって来ます。
汚れていないことが、いえ、汚れていない様に見える事が、まるで酷い裏切りの様に感じました。
だって、結局私は神奈子を殺してしまった。
戦ってはいけないと叫び続けた私が、最後にこの身かわいさに相手を殺してしまったのです。
ああ、あの時私が死んでいれば良かったのでしょうか。
それとも、もう彼女達が殺しを行わないということを喜べばいいのでしょうか。
ああ、あ……酷く穢れてしまった気がします。
酷く寒い、そして皆が居なくなって、こんなに静かで孤独です。
ふらふらと館内を彷徨う。
何処にも行ける気がしなくて、何処にも辿り着きたく無くて……
閻魔が救いを求めて彷徨っているのは、きっと酷く滑稽な図なのでしょうね。
けれどダメです。 どうしても救いが欲しかったんです。
何もせずむざむざ生き延びて、それで寂しいなんて虫が良すぎるとは分かっています。
でも、だけれども……
一個前ミスです
無視してください
そしてキスメは刺す直前にそのナイフの軌道を変え、力を弱めた。
急所を避け深く刺さらず、それは致命傷にならない。
結果、だから今リリカは死んでいない。
けれどリリカを気遣うその“余計な”所作によってキスメはその次……
神奈子からの攻撃を避けるタイミングを逸した。
間違いなく命を刈り取るであろう一刀。
振り下ろされる絶対的な死を前に、けれどキスメはどこか安堵していた。
『その剣がレミお姉ちゃんに振り下ろされなくて良かった』
それは、ほんのわずかな時間稼ぎ。
けれどレミお姉ちゃんの復活を信じ、キスメは自らの死を受け入れた。
そして尊敬するレミお姉ちゃんの言葉を、姿を想い出し。
『こんなのぜんぜん恐くない、レミお姉ちゃんみたいに“いげん”するんだ』
死を前にして……
そう、最後にキスメは頑張って、笑顔を作ろうと思った。
※※四季映姫※※
みんな死んでしまいました。
何が間違っていたのでしょうか、きっと全部が間違っていたんでしょうね。
ただ生きていくだけで、生かすだけで罪が生まれる極悪なルール。
難題“皆が殺し合うことは正しいのか”
私の能力が導き出した答えは“白”。
殺し合いは正しく、この世界もまた正しいという事です。
勿論に間違いですが、ある意味で予想通りの答えでした。
私の力は制限されています。
けれどもし制限されていなかったとしても、私の能力は役に立たなかったでしょう。
ルールとはつまり基盤なのです。
普遍的な正義なんてどこにあるでしょうか、法の殆どは民や環境に依るものばかりです。
だとすれば現状、それら法の全てはこの殺し合いの主催者のもの。
なら、私の能力がちゃんと機能する訳がありません。
精々に殺し合いに無関係な小さな疑問を払拭するのが関の山。
力の無い身ですけれど、この“黒の法”を許してはいけないことも分かっていました。
だからこそ私は自分の正義を信じて、この極悪なルールを壊す為に動いたのです。
皆だってそうですよね? 私だけが正義を掲げていた訳では無いのでしょう?
殺し合いなんて誰も認めていない、そうですよね?
私はずっと、ずっとそう思っていたのです。
このような状況です、恐怖に駆られ思ってもない行動を取ってしまうこともあるでしょう。
しかし逆に、だからこそ恐怖が正しい働きをしてくれることを私は祈ったのです。
“MINIMI軽機関銃”
強すぎる力が私に与えられた事を嘆きました。
何故なら武器は使う為の物では無く、また恐怖とは抑止力なのですから。
弱いものが強い力を得ることで均衡を保ち、争いが起こりにくくなる。
それこそが本来在るべき武器の姿でしょう。
正義の力にしてもそう、それは行使した瞬間からただの傲りに変わるものです。
皆だって、それを分かっていたと思います。
私は間違っていたのでしょうか、ああ、どうして……
私の信じた正義や言葉では誰一人止まってくれませんでした。
リリカ、キスメ、レミリア、神奈子。
目の前、血溜まりの中にその全員が倒れている。 皆が殺し合った結果でした。
私はそれをただ見ていただけでした。
ヤマザナドゥというただ偉そうな肩書きを持っていて、それでも結局何も出来ず。
返り血ひとつ浴びることなくただキレイなままで……
赤と白に別けられて、まるで全てが彼岸の出来事だったみたいです。
どうして私はこんな所で生きているのでしょうか。
何故あの血溜まりの中で皆と同じく死んでいないのでしょうか。
私が皆を見捨てた様な、私が皆を殺した様な……
そんな嫌悪感が、罪悪感がぶくぶくと水泡の様に沸き上がって来ます。
汚れていないことが、いえ、汚れていない様に見える事が、まるで酷い裏切りの様に感じました。
だって、結局私は神奈子を殺してしまった。
戦ってはいけないと叫び続けた私が、最後にこの身かわいさに相手を殺してしまったのです。
ああ、あの時私が死んでいれば良かったのでしょうか。
それとも、もう彼女達が殺しを行わないということを喜べばいいのでしょうか。
ああ、あ……酷く穢れてしまった気がします。
酷く寒い、そして皆が居なくなって、こんなに静かで孤独です。
ふらふらと館内を彷徨う。
何処にも行ける気がしなくて、何処にも辿り着きたく無くて……
閻魔が救いを求めて彷徨っているのは、きっと酷く滑稽な図なのでしょうね。
けれどダメです。 どうしても救いが欲しかったんです。
何もせずむざむざ生き延びて、それで寂しいなんて虫が良すぎるとは分かっています。
でも、だけれども……
ああ、そこで私は今回の騒動に巻き込まれていない妖怪を思い出しました。
なんて嬉しい発見、雲の切れ目から日が差して来た様な感覚です。
“黒谷ヤマメ”
彼女は見張りでしたから巻き込まれていないのも当然。
――それでは死んでしまった残念な方々の
何か引っかかるものがありますけれど、そんなこと今は関係ありません。
やっと見つけた救いなんです。
この紅魔の館で私がしてきたことの正しさを示せる、たった1つの希望なんです。
紅魔館2階、ヤマメが居ると思われるその部屋。
その扉を私は大きく開けはなった。
そして私はそのあまりの眩しさに目を細めた。
太陽はただ変わることなく空に在った。
不意に、何故太陽が昇り、夜が明けてしまうのかと不思議に思う。
だって、つい数時間前まで全ては夜の闇の中に在ったのです。
何が何かも分からず、輪郭すらも満足に捉えられない様な、そんな不安の中に……
けれど今はもう違いました。
不安も何もかもが闇と共に過去の物として払拭されて、
朧気だった全てが、明確に、白日の下に晒されていました。
その時私は、それがとても素晴らしいことの様に思えたのです。
そう、紅魔館の数少ない窓、そこから差し込む光が……
はっきりとヤマメの死体を照らしていました。
何もかもが真っ白でした。
どうして忘れていたのでしょう。
結局やっぱり私が生き残っただけなのでした。
酷く汚れて、もう生きている意味さえ分からない私だけ。
けれど、ふふ、もういいです……もういいんです。
なんででしょう、すごく自由になってしまいました。
どうせ何も出来ないのに、それでも私はこんなに自由なのです。
この気持ちは何なのでしょうか、一体どこから来るものなのしょうか。
悩んで悩んで、けれど神奈子と二人だけになってしまったあの時……
撃つしか選択肢が無くなってしまったあの瞬間に、なんだかよく似た感覚です。
あの時は酷く残酷に感じたものですけど、今思うとあれは何なだったのでしょうか。
ああ、なんて眩しい、まるで光に抱かれている様な感覚。
私はこんなものと戦おうとしていたのでしょうか。
私は本当にずっと、ずっと皆のことを信じていたのですよ?
悪事に走る者は人妖関係なく必ずいます。
けれど心の中にはきっと“悔い”の気持ちがあるのだろうと……
どんな妖怪にも必ずどこかに善の心があると、そう思っていたのです。
だからこそ私は幻想郷を自らの足で回り、善行の何たるかを説き続けて来ました。
説教話なんて、聞いても誰もいい顔はしませんでしたよ。
無視されることもありました、会っただけで露骨に避ける妖怪までいましたよ。
私だって、皆が嫌いだからそんなことをしていた訳ではありません。
皆が公正するようにって、皆の為にって、そう思って頑張っていたんです。
今は分かってくれなくても、いつか分かってくれる。
そう信じていたからこそ続けていたのです。
それが何なのですかこれは、何もないじゃないですかっ。
『メルラン姉さんを殺したくせにっ』
突然に下から叫び声が聞こえてきた。
ああ、生き残ったのは私だけでは無かったのですね。
あの時の状況やこの言葉からして、恐らくリリカとレミリアが生き残ったのでしょう。
けれどなんだレミリアさんも殺す側だったんですね。
それとも単にリリカさんが勘違いしているだけなのでしょうか。
ふふ、同じことですね。
どっちにしても、どうせロクなことにならないのでしょう。
光が強い、ここはこんなにも眩しい。
どうしてこんなに世界が白く輝いているのだろうかと奇妙に思う。
そしてよくよく考えてみれば、ここに来てから、外の光に触れたこと自体が久しぶりだったことに気がついた。
だとすると、このきれいな世界も所詮、明順応が遅れた為の偽物に過ぎないのですね。
瞳孔、虹彩の働きが生み出した、私にしか見えないつまらない幻影。
まぁ虚しいですけれどそれでいいでしょう、どうせほんとは全部真っ黒なのです。
だったらこれくらい偽物が混じっている方がより“らしい”というものです。
ふふ、何も面白くないのにただ笑いだけが零れてしまう。
私は壊れてしまったのでしょうか、それとも最初から壊れていただけなのでしょうか。
がくがくと寒さに震えながら、私はその光り輝く窓へと近づく。
ああそうだ、いっそのこと幻想郷の全員が腹を切って死んでしまえばいいのです。
ほら、よくあるでしょう切腹。
自身の潔白を、腹黒く無いことを証明する一番手っ取り早い方法です。
また簡単な罪の清算方法でもありますからね、これは実に理想的な方法です。
こんな素晴らしいことが思いつくなら私はまだ壊れていないという事でしょうか?
どう考えても私は壊れている筈なのですが……
やはりそれとも、壊れているからそんな風に思えるのでしょうか。
結局この景色と同じで、きっときれいに見える全ては私の間違いなのでしょうね。
見下ろしてみればひとつの人影、リリカが走り去っていくのが見えた。
よろつきながら必死に、逃げる様に去っていく。
私はそれを慈しむ様な気持ちで眺めていた。
ふふ、せっかく生き延びたのですから、これからも生き延びて欲しいですね。
どうせ真っ黒なのでしょう? 誰かを殺していくのでしょう?
――殺し合いの遊戯は楽しんでいらっしゃるでしょうか
殺し合いってスリリングですからね、ふふ、それはさぞかし楽しいんでしょうね。
ああ……寒い、疲れた、太陽が眩しすぎる。
どうして皆は気づかないのだろう、こんなに素晴らしい光の中にいるのに。
この真っ白な世界の中で……
きっと本当に真っ白なものは、小町だけなのだろうと私は思った。
※※八坂神奈子※※
目を開くと、八坂神奈子は真っ黒な世界に居た。
手には大きな杯、そして濁った液体が並々と注がれている。
何だかとても奇妙な感覚だった。
一体全体ここはどこなのかしらね、と神奈子は辺りを見渡す。
そこは黒い、実に黒暗々とした世界だった。
地面は見渡す限りに死体で埋まっている。
何だいこりゃあ、まさか幻想郷全員の死体があるんじゃないだろうね。
そんな恐ろしい想像が頭を過ぎり、そして思う。
“ああ、そうだった、私は殺し合いに勝ってしまったんだね”と……
本当に真っ黒な世界だった、暗くて先も見通せやしない。
望み通りに事が進んだと言うのに、気分だってちっとも晴れない。
勝利による達成感も満足感も、何もありゃしない。
ただ、ただ疲れるばかりだった。
ようやく……やっとこれで終われるんだね。
早苗のことを想う。
これで後は私が死ねば早苗の優勝、私は皆を殺し尽くした筈だ。
少しの安堵、気休め程度の喜び。
静かで、とても気味の悪い、とにかく居心地の悪い世界だった。
まぁ、けれどこれで良かったのだ。
私はただ早苗の為にこれだけを殺し尽くしたのだ。
早苗はとても優しい子だから、きっとこんな事は出来なかっただろう。
でもそれでいい……それが早苗の良い所なんだからね。
罪を犯し、穢れ、皆に恨まれるのは私一人で十分さね。
それで早苗が生きて幻想郷に帰れると言うのなら私はもういい、十分幸せだよ。
くつくつと乾いた笑いを零す。
そして一頻り笑って、さてどうやって死のうかと考えた所で、私はふと気付く。
いつの間にか手に持っていた杯、そこに注がれている液体。
これはきっと酷い酷い“猛毒”なんだろうね、と……
理由がある訳では無いが、何故か私はそう確信していた。
これを飲めばさぞかし辛く、苦しんで苦しみ抜いて死ねるのだろう。
そんな風に思えたのだ。
こりゃ天の神様の仕業かしらね、まったく粋な計らいをしてくれるわ、
そう、自らを省みて一人笑う。
最早、死ぬことに何の躊躇いも無い。
しかし我が儘だとは分かっているが、その前に一目早苗の姿を見たかった。
だから探した。
見渡す限りの死体の中、動く影は無いものかとひたすらに探す。
諏訪子の死体があった。
それでもただ探す。
霊夢や魔理沙、見知った連中の死体が転がっている。
早苗がどこにも居ない、まだ探す、探し続ける。
探して探して、けれど全く見つからず、見つかる気配すらもなく探し疲れて……
そして私は怖々と思う。
まさかほんとに“私だけが”殺し合いに生き残ってしまったんじゃないか、と……
笑いが込み上げてくる。
なんだいこれは、おかしいじゃないかい。
早苗が居ない。
なら、私はあんな思いをしてまで、一体全体何の為に皆を殺したって言うんだい。
全部が無駄になったってことかい。
ほんと可笑しいね、でも、これは果たして何故なのかしら。
皆が死んで私だけが残ったってのに、はは、ちっとも悲しくなんて無い。
ん、いや、やっぱり悲しいのかしら……よくわかんないね。
ああ、信じてもらえないかも知れないけれど私だって幻想郷は好きだったのよ。
そりゃ辛かったわ、心苦しかったよ、私が皆の事が嫌いな訳ないじゃないさ。
それでも早苗の為にって私は頑張ったんだよ。
これって偽善かい、いけない事なのかねぇ……ああ、きっとそうなんだろうね。
はは、ああもう、今更どっちでも良いことね!
全部よ、全部終わってしまった。
私の苦労は、努力は、いったいどこに行ってしまったんだか。
もう何も考えず、私は毒杯を飲み干した。
何も考えないことが一番楽で、何より簡単だった。
そしてやっぱりそれは泥の様な味がした、そして苦しくて苦しくて、でもそれだけだった。
まだおかしな感覚が続いている。
これは何なのかしら。
苦しみの中、私は目の前に誰かが立っている事に気付く。
緑の髪、見覚えのある巫女装束……
目の前には、そう、まるでずっとそうであったかの様に早苗が立っていた。
なんだいこりゃあ、流石に気が利きすぎてるよ、これがお迎えなのかね。
見れば立っているのは早苗だけではない。
諏訪子も霊夢も、そう、“みんな”が居た。
あんた達はさっきそこに死体として転がってたでしょうが……
などと、あまりに可笑しくて思わず突っ込みたくなる。
けれどそこで、今までの奇妙な感覚の糸がほどけた。
いや、寧ろ思い出したと言うべきだろうか。
レミリアにリリカ、それにキスメ、映姫との出来事を……
あ、ああ……なんだ、思い出したくなかったね、と思わず愚痴る。
そう、八坂神奈子はもう既に死んでいた。
正しくは今正に死にかけていると言うべきだろうか。
急所も何も関係なく全身を銃弾に貫かれ。
肺は破れ、気管には血が溜まり、脳への酸素の供給も絶たれた。
それはただ、ただ脳が無惨に生き延びているだけという、
ショック死しなかった事が奇跡の、後ほんの少々生きるという“だけ”の状況。
死を直前に控え、脳が混乱し脳内物質が過剰に分泌されたが為の幻聴、幻覚。
走馬燈という名の死に損ないの妄想。
それが今現在の八坂神奈子の全てであった。
味気ないもんだね、そう神奈子は呟く。
気付いてしまった所為か、既に世界は破綻し始めていた。
ぼろぼろと全てが、みんなが消えてゆく中、突然に神奈子は恐くなった。
夢だろうが何だろうが、これで早苗とお別れなんだ、と……
待って、まだ消えないで欲しい、などと急な焦燥感が神奈子を襲う。
早苗が消えてしまう、終わりになってしまう。
何かを……
そうだ、何か伝えなければ。
言葉にも出来ない沢山の感情が渦巻く中、ひたすら神奈子は焦る。
『ごめんね』違う。
『頑張れ』これも違う。
そんなのじゃなくて、もっとこう、何か言うべきことがあった筈。
どうせこれは現実じゃない。
どんなに叫んでも本当の早苗には届かない、そんな事は解っている。
それでもいい、それでもどうしても言いたい事があった筈なんだ。
ああそうだ、そうだった。
どうか早苗あんたは……
「 」
頬笑み、そして最後の……八坂神奈子の幸せな夢が終わった。
※※レミリア・スカーレット※※
『メルラン姉さんを殺したくせにっ』
私は死ぬ事なんて恐れてなかった。
けれどこんな間違いで、冤罪で殺されるなんてプライドが許さない。
そう、それは吸血鬼としての誇りを汚された気分だった。
だから私ははっきりと真実を告げた。
「私はメルランなんて殺してなんかいない」と真実を叩き付けた。
リリカは信じない。 生意気に自分の正当性を並べ立てて私を否定してくる。
その自分が優位で正しいみたいな態度が実に腹が立つ。
特に私の言葉が“命乞い”だと思われている事が一番許せない。
『死などこのレミリアが恐れるものか!
殺したければ殺すがいい、何の覚悟も無いくせに!』
そう、頭にきて私は叫んだ。
挑発と受け取ったのか、または単に怯えただけか。
ぱしゅんとナイフから弾が飛び出す。
けれど当たらない、弾は逸れ、ただ私の髪を数本散らしただけだった。
ふん、そんな震えた手でちゃんと当てられる訳がないのよ。
そんなやつにこのレミリア・スカーレットが殺される訳も絶対にない。
「私はメルランなんて殺していないわ」
弾を外して慌てふためいていたリリカに、もう一度私は事実を告げた。
リリカはまだ信じられないと言った顔をしている。
けれど、私の言葉が命乞いなどでは無いことも分かり始めているみたいだ。
ぶつぶつと自問自答するみたいに独り言を漏らし、中空を見つめるリリカ。
そして、ある時を境にフッとその表情が和らいだ。
その後……私は、リリカのその呟きを確かに聞いた。
「えっ、ほんとにメルラン姉さんを殺してないの……?
じゃあ何、あの放送は間違いなんだ……メルラン姉さんは生きている? ルナサ姉さんも?」
こいつは何をおかしなことを言っているんだろうと思った。
けれど私は何も言えなかった。
最後、彼女と目が合ったその瞬間で私は分かってしまった。
リリカはもう、その答えなんてとっくに解っているんだって……
解っていながらもただ“逃げて”いるんだって。
その奇妙な独り言の後、危なっかしい足取りでリリカは紅魔館から去って行った。
私にはその彼女を止める言葉なんて持っていなかった。
クッ……馬鹿にしてるわ。
何がでもなく、何をでもなく、私はそう思った。
痛みを堪え、壁を頼りに私は何とか立ち上がる。
流石に無茶をしているとは思うけど、これ以上吸血鬼である自分が地に倒れているのは耐えられなかった。
そして、壁から離れ自力で……二本の足でしゃんとそこに立つ。
神奈子は死んだ。 リリカは無様に逃げ帰った。
それは間違いなく私の勝利……そう、勝利のはずだった。
けれど喜ぶべきその勝利に対し、心になんの感情も沸いてこなかった。
「こんなの、ただ周りが死んで私が生き残っただけよ」
一人呟く。
キスメが死んでいた。
死に方から見て彼女が私を助けてくれたのだろう。
ふふ、こんな形で吸血鬼が借りをつくるなんてね……
複雑な思いで、けれど私は笑顔をつくった。
最早返しようのないものだとは思う。
しかし、いやだからこそこれは“借り”なんだ。
そして改めて私は、今回の出来事が“私たちの勝利”だと思った。
キスメがこれだけ頑張ったのだ、勝利以外に何があるだろう。
倒れたキスメを……
そのグロテスクな“顔であった場所”を、けれど目を逸らさずにちゃんと見て。
そして私は誓った。
私が必ず桶を見つけて、一緒に立派なお墓に入れてあげる、と。
やり場のない感情が濁りの様に沈殿していた。
落ち込むものか、負けるものかと私は外へ向かう。
紅魔館には桶はない、閻魔には任せていられない。
そうよ“私が”見つけるんだ。
そして外を目指し歩き出した私の前に……その“境界線”は在った。
太陽の光が生み出した一線、光と影の境界。
吸血鬼である私が超えることの出来ない隔たりが、そこには在った。
なんなのよ、これは……
“吸血鬼は朝日に弱い”
そんな当たり前の事が、何故か凄く悔しかった。
――レミお姉ちゃん、いげんすごかったね
負けるものか、と私はその境界線を踏み越える。
自殺行為……自分でも馬鹿げた事をしていると解ってる。
外を歩きたいなら、紅魔館に戻って日傘を探してくればいいのだ。
けれど、今の私にはその“簡単なこと”が出来なかった、許せなかった。
何が許せないのか、私は何に対してこんなに怒っているのか……それは分からない。
ただとにかく、言葉にならない感情に任せて陽射しの中を一歩一歩進んでいた。
露出した肌をぶすぶすと太陽が焼く。
突き刺す様な熱さ、全身を襲う耐え難い程の痛み。
ほんとに私は何をやっているんだろうかと呆れてしまう。
傷だらけの身体で、よたよたと倒れそうになりながら、けどこんなに必死に歩いている。
屈辱も苦痛の声も噛み殺して、意味もわからない何かに立ち向かう様に。
痛みは別に良い、寧ろ苦しい方が私を“抗っている”という気にさせてくれた。
遅々として進まない、そして遂に私は耐えきれず地面に倒れる。
それでも太陽は情け容赦なく私を焼いた。
笑われているみたいだ。 私が無力だと“そいつ”はそう思っているのか。
腕で掻いて、身を引き摺る様にして何とか近くの木陰に逃げ込む。
乱れた呼吸もそのままに振り返って見れば……
今居るこの木陰は入口から十数メートルと離れてはいなかった。
あれだけ苦しくて、あれだけ必死に足を動かしたというのに、私は全然進めていなかった。
ああ、酷くみじめな気分だ。
空では太陽が輝いていた。
si
e
【C‐2 紅魔館二階の部屋・一日目 朝 】
【四季映姫・ヤマザナドゥ】
[状態]疲労(小)
[装備]MINIMI軽機関銃(?/200)、携帯電話
[道具]支給品一式
[思考・状況]やや情緒不安定
[行動方針]???
【C‐2 紅魔館周辺・一日目 朝 】
【リリカ・プリズムリバー】
[状態]お腹に刺傷あり、疲労(中)、
[装備]NRS ナイフ型消音拳銃(0/1)
[道具]支給品一式、NRS ナイフ型消音拳銃予備弾薬19、不明アイテム(0〜3)
[思考・状況]情緒不安定
[行動方針]1.死にたくない、死にたくない
2.姉さんたちに会いたい
【C‐2 紅魔館周辺・一日目 朝】
【レミリア・スカーレット】
[状態]腕に深い切り傷、背中に銃創あり、疲労(中〜大)
[装備]霧雨の剣
[道具]支給品一式
[思考・状況]???
[行動方針]基本方針:永琳を痛めつける
1. 永琳の言いなりになる気はない。
2. 霊夢と咲夜を見つけて保護する。
3. フランを探して隔離する。
4. キスメの桶を探す。
※名簿を確認していません
※霧雨の剣による天下統一は封印されています。
【キスメ 死亡】
【八坂神奈子 死亡】
【残り36人】
※携帯電話、緋想の剣、スキマ袋×3(支給品一式×4、MINIMI用マガジン30発(空) 5.56mm NATO弾(100発)、不明アイテム2〜10)が紅魔館一階玄関前ホールに落ちています。
※スキマ袋(中身空)が紅魔館二階の部屋、黒谷ヤマメの死体近くに落ちています。
以上で投下完了です。
代理投下し手くださった方どうもありがとうございます。
神奈子様死んだー(゚Д゚)!
大局が動いてきましたな
映姫の今後も楽しみです
すげえ鬱展開ですね…だがそれもロワらしくていい!
みんなの精神状態がヤバ気ですが、これからどうなるか楽しみだ
投下乙です。
よく、このメンバーを纏めれたなぁ。
一旦は終了したとはいえ、全員まだまだやばい。
悪魔の巣は、伊達じゃないな。
夜は明け、妖怪の時分は幕を閉じたというのに、いたるところに闇が蠢き、瘴気が跋扈する不気味な森林。
この森は、侵入者を好まず、立ち入った者に化け物茸の放つ瘴気で追い返す。
だが、物好きというのは、どの世界にも存在しており、この幻想郷でも例外ではなかった。
特に化け物茸による幻覚を、魔法へと転用できる魔法使いが、その例外の中でも最も多い。
此処は、そんな物好きの一人の棲家。
苔や蔦が壁を取り囲む古ぼけた洋風の家屋――霧雨魔法店。
そこに、いま、殺戮劇を強要された二人の迷い子が、辿り着く。
「……ここが、魔理沙さんの家なのですか?」
一人は紫色のショートヘアの少女、古明地さとり。
黄色のハートのアクセサリーがところどころを彩る、不思議な印象を与える水色の衣服に身を包み。
胸元には瞳を模ったアクセサリー……ではなく、さとり妖怪の一部であり、象徴でもある第三の目が飾られている。
細められている穏やかな両目とは異なり、唯一、その目だけは、はっきりと開き、異彩と神秘を放っていた。
「ええ。神社の石段からほんの少しだけ見えてましたし、一度訪れたこともありますから。あ、燐さん、この銃どうぞ」
もう一人は、用心のためにと、さとりに銃を手渡している少女、東風谷早苗。
エメラルドの髪を一房、サイドに縛った髪型に、蛙と蛇を模した髪飾りで彩っている。
声色の明るさに反し、整った柔らかな容姿は、憂いの影を堪えていた。
自身が着用している、鮮血の真紅に染め上げられた巫女服が、その原因だろう。
古明地さとりと東風谷早苗、二人が此処へ訪れたのは、早苗の衣服の調達と、さとりの目的からである。
早苗の目的である誤解の解消は後回し、というよりも探し人の向かった方角すら分からなくては、どうしようもない。
銃を受け取ったさとりは、一階の窓の外から、内部を慎重に調べた後、物音にも注意を払うが、人妖の姿や気配は、一見したところ察知できない。
さとりは、残念と安心が入り混じった複雑な心持ちで、ほっ、と息を抜き、ノブを回し、ドアが開くというところで――。
――殺戮劇のSTAGE1の閉幕と、STAGE2の開幕を意味する神の囁きが、会場へと浸透する。
幸いにして、双方の親類縁者は含まれてはいなかったが、僅か六時間で参加者の四分の一以上が露と消えたという衝撃の内容。
拝聴していた二人の表情が、不安めいた影に覆われる。
「じゅ、十四人ですって!」
早苗はあまりのショックに、首を横に振り、ふらりと頼りなくよろめいた。
「だ、大丈夫ですよ……。神奈子様や諏訪子様ならなんとかしてくれます」
そう言って、自分の胸をポンと叩き、ふぅ、と唇から息を吐き出し、不安を払拭するようにしきりに頷く。
言葉だけならば、同行者を安心させようという意思だが、さとりの第三の目を通さなくとも、自らに言い含めたいという想いが、ひしひしと見て取れる。
さとりは、内面のざらついた心を隠し、瞳を冷たく細め、惰性で頷き。
「その二人は、貴方にとってどんな役割なのでしょうか?」
さとりは、早苗の顔を覗き込むように問いかける。
早苗を落ち着かせるための会話ついでに、ペットに勝手に力を与えた神の人柄を聞き出す、という目論見によるものだ。
「う〜ん。親……というところでしょうか」
早苗の沈鬱な顔立ちに笑みが灯される。
思い返すだけで、身を抑圧する恐怖から抜け出せるあたり、絶対の敬愛と信頼を携えているのでしょう、と、さとりは理解する。
その後もしばらく、二柱の神について会話を交わし、早苗が完全に落ち着いたことを確認したさとりは、今度こそドアを開き。
万が一、誰かがいたとき、早苗の服を目撃されないように、さとりが、まず覗く。
……ごちゃごちゃ。
霧雨魔法店の内情は、一言で表せばそんな言葉がぴったり来るほどの悲惨な状況。
バリケードのようなものが崩れた跡や、本、茸、実験器具などが、塵のように散らかっている。
音を立てずに行動することは不可能だろう。
「あっ、ちょっと待っててくれませんか?」
と、そのとき、早苗がさとりを呼び止めた。
何事でしょうか、とさとりが不思議にしていると。
早苗は、きょろきょろと辺りを見回し、振り撒かれている木の葉を踏みしめながら、霧雨魔法店のすぐ隣の井戸へとゆっくり近づいていく。
そして、井戸から桶に冷水を汲み……頭から思いっきり冷水を被る!
「――――!!!」
無論、無傷であるはずもない。
春先とはいえ、戸外で非常に冷えた井戸水を被れば、凍えるような寒さになるというのは誰でもわかる。
キンと底冷えのする濁流に身を揉まれた早苗は、声にならない間の抜けた声を上げると同時に、体が浮いた。
それでも二度、三度、苦行を繰り返し、冷水が体を伝い、衣服と体から大半の血を洗い流し、剥き出しの大地に滴って、粗い土に染み込んでいく。
「…………」
目を大きくまんまるに見開き、ぽかーんと佇んでいたさとりが、平静を取り戻し、冷めた視線で早苗を見やる。
「うう……お風呂だとお待たせさせてしまいそうなので……つい、勢いに任せたのですが。
……無謀でした。そこで着替えてきますね……」
早苗は自らが晒している姿に羞恥を感じ、微かに頬を赤く染めた。
そして歯をガチガチと鳴らしながら、さとりの横を通り、霧雨魔法店へと入り、その一室へと踏み入る。
さとりは、それを、両の目だけでなく第三の目までもを用いた呆れた眼差しで見やりながら、後に続き、魔理沙の部屋の前へと到達した。
◇ ◇ ◇
早苗は部屋の中で着替えており、他に人の気配はない。
人心地ついて気を抜いたのか、さとりは、早苗の入った部屋の扉を背もたれに、しなだれる様に身を委ね、座り込んでいた。
気分転換のためか、常為らぬ素直な微笑みを浮かべながら、気怠そうな瞳を、虚ろなる窓の外の景色に向ける。
生い茂るのは、日光を遮り、雰囲気を暗く染めている、大小の濃い緑の大木群。
年月の風化に晒された魔法の森の景色は、恐怖と不安を齎す、自然の恐怖を創りだしている。
……ただ暗く深い森林……。
その寂しさは、さとりの棲家である地底を想起させ、無性に過去の思い出に浸りたくさせた。
重い目蓋を閉じる。
想起するのは古明地こいし、火焔猫燐、霊烏路空。
地霊殿にて同居している、妹と二人のペット。
どんな顔で笑っていたのか、どんな声で笑ったのか。
それらを思い浮かべながら、自らの紫髪を指先でくるくるし、耳にかけたりしながら、まどろんでいた。
しかし、そのまどろみは、ほんの数秒の後、風が揺らした枝の音により破られた。
現実へと引き戻されたさとりは、不安や迷いや混乱がいくらでもあることに徒労感を感じる。
それでも、未来を按じ、色々な感情の混ざった溜息を零しながら、現状を改善しようと必死に思考を巡らせ始める。
…………。
少々の時間を経て。
「……早苗さん」
静かな空間で気だるそうに口を開くさとり。
「はい?」
扉の向こう側で、濡れた髪をタオルでがしがししていた早苗が反応を返す。
「貴方は、これから神社へと戻るつもりですか?」
いつも通りの、淡々とした声。
「……えーと……そうしたいですね……誰かが呼びかけに答えてくれているかもしれませんし。
三人寄らば文殊の知恵ともいいますし……夏休みの宿題だって人を集めれば一日で……」
自信なさげに、ゴニョゴニョと言いよどみながらも意思を表明する早苗。
「……既に一度、兎に騙されたのでしょう? ……撃たれそうになったのでしょう?
此処は執念、妄念、諦念、無念、敵意、悪意、害意、様々な妄執が渦巻く地獄。
そんなところで何故――他人を信じれるのですか?」
唐突に、さとりの声のトーンが変わる。
早苗の思考を、都合のいいように誘導させ、なおかつ、心を読む能力に頼らずにやってみようという試みだ。
進むべき道を見据えれば、これぐらいできなくて話にならない。
さとりが早苗に求めているものは、さとりへの信頼、さとり以外への警戒、そしてそれによる――人選の主導権。
魂を削り、精神を磨り減らす、この地獄で、自らの心の内は唯一といえる避難場所。
そんな安住の地を荒らされ精神を犯されるに等しい悪行の結果が、如何ほどの苦痛になることか。
更に、騙していたということも加味すれば、それまで笑っていた目も警戒や恐怖に染まり……。
……さとりの末路は良くて追放、最悪は――であることは想像に難くない。
さとりを知らない人妖ならば、早苗と同じように、騙し騙し、付き合う。
さとりの性質を把握し、心を読まれても動じない友好的な人妖ならば、うまく口裏を合わせるよう依頼する。
集団に属する人妖を、この二種類に選別しなければ、到底、さとりを含める集団の和は保てない。
もしも、さとりの性質を把握し、敵視する人妖と出会えば……。
機先を制し、本性を暴かれる前に、同行者と逃亡するか……。
相手の言動を虚偽と断定し、口八丁で同行者に信じ込ませるか……。
もしくは……同行者に目撃されないよう、――――か。
「人を集めるという行為自体は否定しません
けれども……人も妖怪も神も決して綺麗なものではないのです」
さとりは、数百年を心を読む妖怪として過ごした実感を籠めた言葉で、自身にも言い含めるかのように、語る。
「この地獄に棲まう限り……どんな存在であっても、犠牲がなくては生を謳歌できぬ獣に過ぎません。
――例えば、このように」
ガチャリ。
さとりは、自嘲の笑みを浮かべながら、両手に収まっている銃を弄り、不吉な音を響かせる。
扉の向こう側にいる早苗に、神社での一件を想起させるには十分な行動。
それを証明するかのように、扉の向こう側からは、本かなにかと衝突したような物音が響いた。
「理解しましたか?
……地獄で、儚き生命を維持したいのならば、相手の素性は必ず疑わなければならない。
神社に戻り、気性が知れない輩でも気にせず、不用意に人を集めるという行動は推奨できません」
感情を称えぬ瞳と抑揚の少ない声で、粛然に辛辣な意見で畳みかけるさとり。
経験済みの窮地を想起させられた早苗の心を、じわりじわりと侵食していく。
重苦しい沈黙が二人の間に立ち込め始める。
さとりとしては、『なぜ、私と同行するのですか?』といった感じの返答を予想していた。
しかし、いくら待ち構えていても、終始無言。
さとりは、……少しやりすぎたのでしょうか、と負い目と罪悪感を感じ、我ながら情けない限りですね、と自嘲した。
数百年生きている妖怪が、儚い尺度を輪廻する人間、それも十代の子供の精神を丸裸にし……心的外傷を抉る。
さとり妖怪としての性質を、本気で行使しているわけではないとはいえ、決して誇りにはできない罪業。
だが、それでも。
さとりは、自分のエゴを突き通さなくてはならない。
何も動かずとも、順風満帆に歩める永遠などという都合のいい未来など、幻想にしかないのだから。
……ぁ……ぅぅ。
突如、扉から漏れる幽かな声。
静寂だけが蔓延する中、漏れた声は――嗚咽。
さとりには、それが、痛みに耐え兼ねている子供のように感じられた。
だから、一拍の間を置き、告げる。
「……心が欲するままに従うことをお勧めします。
……涙は、悲哀を洗い流してくれますから」
――こいしは、涙すら流し尽くしたから、目を閉じてしまったのでしょうか。
懐かしいことを思い出してしまった、と言いたげなさとりの目は、どこかここではないところを見ていた。
早苗の涙に感化された影響か、不思議と涙が零れそうになってしまい、顔を伏せる。
◇ ◇ ◇
「――っぅ。
っあ、ふあぁ、うっ……」
感情の堤防に穴を穿たれた早苗は、とうとう堪え切れず、嗚咽を漏らし。
涙ぐんだ表情で、ぺたん、と情けなくその場に尻餅をつく。
早苗の心中に氾濫するのは平和な日々に、突如、来訪した理不尽を嘆きたい≠ニいう想い。
きっと、この会場に存在する参加者のほとんどが、大なり小なり内包している、偽らざる本音だろう。
死にたいわけがない。苦しくないわけがない。悲しくないわけがない。無力でありたいわけがない。
だけど、下を見て地獄の底にいることを自覚すると、自分を見失ってしまうかもしれない。
だからこそ、弱き者は。
家族、友、恋人、自分、世界、力、
そういった様々な理由で、己を奮い立たせ。
勇者≠烽オくは悪魔≠フ仮面を被り上≠向く。
そうすることで弱さ≠ニ死≠ゥら目を背け、無意識に自分を誤魔化してしまう。
しかし、それは、何時切れるやも判らぬ脆い糸。
仮面を被れば、本当の意味で現実を見据えることは叶わない。
上だけを見ていれば、足元はおろそかになり、注意力や警戒心が薄れ、大事なことを見落としてしまう。
そして、古明地さとりも東風谷早苗も、弱き者だった。
古明地さとりの思惑は不完全≠ネものでしかない。
成就しても、放送による火焔猫燐の発表という懸念が残ってしまう。
そんな不完全なものになってしまったのは、最悪の答えに直面するのを恐れ……火焔猫燐の死を無意識に除外していたからだ。
火焔猫燐だけでなく、古明地こいし、霊烏路空も同様。
現実を見据えれば問題の先送りでしかないことは、本来のさとりならば自覚できたはずだ。
東風谷早苗は、戦乱からは程遠い外の世界の人間社会の一部として、人生の大半を過ごしていた。
特殊な能力を保持しているといっても、そんな一般人が、生命の危機に素面で対応できるはずもない。
外見をいくら取り繕っていても……殺し合いへの参加、てゐの裏切り、血液の感触と不快感を催す巫女服。
そして、なによりも……、人が死ぬ≠ニいう実感が、心の奥深くに刺さった楔と化して、絶えず早苗の精神を圧迫していたのだ。
修羅場を潜り抜けた人妖ならば、いずれは仮面を素顔と同化させることもできる者もいるだろう。
強靭な精神を保有する人妖ならば、そもそも仮面を被る必要性すら見出せないだろう。
だが、今の二人はそうではなかった。
「なんでっ、こんなことにっ……。
っあ、神奈子様や諏訪子様と、楽しく過ごしてただけっ、なのにっ。
みんなで、異変を、解決しようとし、ただけっなのに……。
なのにっ、なんでっっ! こんなとこ、ろで、殺しあっ、えって言わっれて。
てゐさんに銃を、向け、られてっ、初対面の、人に、人殺しだっって目で、見られて、
私の、せいでっ、人が死ぬな、んてっ……。っあぁ……あっ、あぁぁああぁぁっ、ああああぁぁ……」
胸の奥から溢れ出る何かはどうする事も出来ず、堰を切ったように咽び泣き、背負った運命をぽつりぽつりと嗚咽交じりに吐露する。
瞳が時折瞬きを繰り返し、澄んだ水音を響かせる。
「……人を信じ、るというのは…………間違ってい、るのでしょう、か?」
俯き、懸命に顔を隠しながら、それでも涙は止まらない
幾粒もの涙の粒がぽろぽろと零れては、服を濡らしていった。
涙と共に、心のもやもやも流れてほしいと、ただ願っていた。
「……いいえ。
それは、人間が失ってはいけない、とても大切で、正しいものでしょう。
だけど……ここでは意味を成さない。
一時的でいいのです。生きたいという意志からくる行動は、決して否定されるようなものではないのだから」
善意を飲み込み、安寧を侵食する存在――悪意。
それに対し、理想や想いでは、無力でしかない。
◇ ◇ ◇
早苗の嗚咽もいつしか止まり、またもや静寂が場を支配した。
…………。
数分の逡巡を経て、扉が内側からノックの音を通す。
部屋から出た早苗は、いまだ凍えているのか、早苗は魔理沙の部屋から失敬した薄い布団で身を包んでいる。
その下には、霧雨魔理沙のエプロンドレスを清楚に着こなし、右手には博麗霊夢のお払い棒を持っている。
そして――裾でぐしぐしと、泣き腫らした曇りなき瞳を擦っていた。
「……ごめんなさい。辛かったでしょう」
暖かな微笑みを早苗への返事としたさとりは、細くしなやかな震える指先で、早苗の頭を撫でる。
「泣いても、やっぱり……辛いです。
でも、ましには、なった……かな。……ありがとうございます」
迷いを抱えながらも、必死に表情を作っているといった様子だ。
握った拳は、いまだにかたかたと震えており、ぐっと己を抱き締める腕にも力が篭もっている。
やがて冷静さを取り戻し、気恥ずかしくなった早苗は、撫でているさとりの手に、自分の手を重ねる。
さとりも、それを受け入れ手を引っ込める。
そして、いま気づいたとでもいうように、早苗の右手のお払い棒に視線を向けた。
「これは私の支給品だったんですが……あんまり使いたくなかったもので……。
あ、あとはもう、ここにくる前に話した、灯りの点いてない行灯と制限解除装置だけしかないですよ」
早苗は、あっ、というような表情を見せ、どこか困っている様な、そんな半笑いで必死に弁明する。
今まで隠していたのは、武器を行使した結果の一つである死≠、無意識に忌避していたのだろう。
易々とさとりに銃を渡したり、唐突に水浴びを行ったりしたのも、そんな理由が混じっていたのかもしれない。
「えーと、これからのことなんですが――」
早苗が話題を流すかのように、なにかをいいたげに言葉をつむいだ時。
くぅ〜。
と、小さく早苗のお腹が鳴った。
「……とりあえずなにか食べましょうか?」
「はい……」
話題どころか閑静な雰囲気を吹き飛ばしてしまった早苗は、恥ずかしそうに俯きながら表情を染める。