剣客バトルロワイアル〜第参幕〜

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1創る名無しに見る名無し
夢が現か現か夢か ある者は泉下から、ある者は永劫の未来から
妖しの力によって、謎の孤島に集いし 古今東西の剣鬼八十名
踊る舞台は蠱毒の坩堝 果たして最後に立つ影はいずれの者か

避難所
http://jbbs.livedoor.jp/otaku/12485/

まとめ
http://www15.atwiki.jp/kenkaku/
2創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 21:08:39 ID:CP/Fxqht
33/36【史実】
○足利義輝/○伊藤一刀斎/○伊東甲子太郎/○岡田以蔵
○沖田総司/○奥村五百子/○小野忠明/○上泉信綱
○河上彦斎/○清河八郎/○近藤勇/● 斎藤伝鬼坊
○斉藤一/○斎藤弥九郎/○坂本龍馬/○佐々木小次郎
○佐々木只三郎/○白井亨/○新免無二斎/○芹沢鴨
○千葉さな子/○塚原卜伝/○辻月丹/○東郷重位
○富田勢源/● 中村半次郎 /○新見錦/○服部武雄
○林崎甚助/○土方歳三/○仏生寺弥助/○宮本武蔵
● 師岡一羽 /○柳生十兵衛/○柳生連也斎/○山南敬助
3創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 21:09:57 ID:CP/Fxqht
1/1【明楽と孫蔵】
○明楽伊織
1/1【明日のよいち!】
○烏丸与一
1/1【暴れん坊将軍】
○徳川吉宗
1/1【異説剣豪伝奇 武蔵伝】
○佐々木小次郎(傷)
2/2【うたわれるもの】
○オボロ/○トウカ
1/1【仮面のメイドガイ】
○富士原なえか
2/2【銀魂】
○坂田銀時/○志村新八
1/1【Gift−ギフト−】
○外薗綸花
1/1【月華の剣士第二幕】
○高嶺響
1/1【剣客商売】
○秋山小兵衛
2/2【魁!男塾】
○赤石剛次/○剣桃太郎
1/1【里見☆八犬伝】
○犬塚信乃(女)
1/1【三匹が斬る!】
○久慈慎之介
3/3【シグルイ】
○伊良子清玄/○岩本虎眼/○藤木源之助
1/1【史上最強の弟子ケンイチ】
○香坂しぐれ
2/2【神州纐纈城】
○三合目陶器師(北条内記)/○高坂甚太郎
2/2【駿河城御前試合】
○屈木頑乃助/○座波間左衛門
1/1【椿三十郎】
○椿三十郎
4創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 21:12:11 ID:CP/Fxqht
1/1【東方Project】
○魂魄妖夢
2/2【八犬伝(碧也ぴんく版)】
○犬坂毛野/○犬塚信乃(男)
1/1【バトルフィーバーJ】
○倉間鉄山
2/2【刃鳴散らす】
○伊烏義阿/○武田赤音
1/1【ハヤテのごとく】
○桂ヒナギク
1/1【BAMBOOBLADE(バンブーブレード)】
○川添珠姫
1/1【必殺仕事人(必殺シリーズ)】
○中村主水
1/1【Fate/stay night】
○佐々木小次郎(偽)
1/1【用心棒日月抄】
○細谷源太夫
1/1【らんま1/2】
○九能帯刀
1/1【ルパン三世】
○石川五ェ門
5/6【るろうに剣心】
○鵜堂刃衛/○神谷薫/○志々雄真実/○四乃森蒼紫
● 瀬田宗次郎 /○緋村剣心
【残り 七十六名】
5創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 21:27:43 ID:of84ZO7B
スレ立て乙!

◆C1mr6cZSoU氏も修正版投下乙。

前スレと仮投下スレをまたいでしまったので、
こちらに代理投下した方がいいですかね?
◆C1mr6cZSoU氏
岩本虎眼、藤木源之助、剣桃太郎、坂田銀時 の修正版、代理投下します

坂田銀時と剣桃太郎。
この両名は適当な民家を見つけては中の物を物色している。
もっとも家捜しをしているのは桃で、銀時は桃から借りた名簿に目を通していると言う方が正しいのだろう。

「ふう、見つからないな」
「まあ、刀なんて簡単に見つかるもんじゃねーししょうがねーだろ。それに俺たちはご都合主義得意のジャンプ住民
なんだから平気だろ。ピンチとなったら『隠された力が解放された』とかのノリで切り抜けられるもんだ」
「ジャンプ?銀さんは本当に面白い事を言うな」
「おいおい。俺はマジだぜ。だがよ。あの爺さんの言葉信用出来たもんじゃねーぞ」
「なんでだ?」
「だってよ。名前が誤字だらけだぜ。近藤勇や土方歳三や沖田総司とか中途半端に書き間違えてやがる。それに伊東甲子太郎て
死んだ奴まで居るぜ。そりゃジャンプ的には死んだ奴が生き返るのはお約束だからいいけどさ。自分が捕まえといて名前間違えるとか
あの爺さんはあまり信用出来ないぜ」
「名前を間違えか。確かに誤字が多いのは酷いな」

桃と銀時は色々としゃべりながら歩く。
桃は銀時と違い武器は持っていないのだが、それを心許なく感じるような弱い心は一切持ってはいない。

(何とかするしかないな。それに剣が無くても戦えないわけじゃない)

既にある種の覚悟は決めている。
元より剣術以外の格闘術にも充分な心得があるので、それは不可能ではない。
それに剣を使わずに戦った経験も一度や二度ではない。
そしてその覚悟を決めたと同時、往来の闇の奥から一人の男の影が見えた。

「あっ、誰だあいつ?……つかなんか物騒な長い刀持ってるんですけど」

銀時は闇にまみれよく姿の見えない男に向かい小走りで近寄る。
だがそれと同時、眼前の男は沈黙のまま銀時を見るや否や、襲い掛かる。

「って、うおおおおぉぉぉっ!!」

まだ距離は充分にあったのが幸いし、すぐさま逆走し銀時は桃の方へ戻る。

「なんだありゃ?いきなり襲い掛かってきたぞ。フツー名乗るだろ。侍ってさ。アレなに?暗殺者ですか?ええぇっ!!」
「いや、男の勝負に言葉を交わす必要は無いという彼なりの礼儀なのだろう。男と男の勝負を前に馴れ合いなど無用。
そういった考えであれば一方的に向こうを非礼ともいえない」
「そうか。ありゃ痴呆が始まっててもおかしくないジジイだぞ」
「いや、歳で考えては駄目だ。年齢を無視したような強者は少なくは無い」

銀時の桃は異なった見解を持つ。
だが、その二人の会話など邪魔するかのように、無言で暗殺者のごとく迅速なる虎眼の襲撃が始まる。
「来たか」
「おいおい、空気よもーぜ」

桃と銀時は左右に別れる。
だが、虎眼は瞬時に標的を銀時に定める。
武士としての本能が、剣を持たぬ桃でなく木刀を持つ銀時を敵と認識したのである。

「げっ!俺かよって、ちょっ!」

虎眼は瞬く間に距離を詰め柄をずらし流れの一撃を繰り出す。
本来なら間合いのギリギリ一歩外からの攻撃。
故に達人であれば回避行動を怠り、流れの直撃を許してしまう。

「うおおっ!アブねっ」

だがそれを銀時は大きく後ろに跳んで避ける。
決して流れを読んだわけではない。もし桃であれば間合いを正確に読みきり、それ故に首を撥ねられていたかもしれない。
だが銀時は間合いなど読んだりはしない。
ただ単純に攻撃を仕掛けたから大きく後ろへ避ける。
そのあまりにシンプルな動作は皮肉にも間合いを操る虎眼流奥義の骨子となる流れを無効化したのである。

「…………」
「おいおいジジイ。いい加減に止めろよ。死ぬかと思ったじゃねーか」

無言の虎眼に銀時の怒りの言葉が降り注ぐ。
しかし虎眼は既にそれが耳に届いたりはしない。
再び銀時に向かい神速の域に迫る鋭い攻撃を繰り出す。

「マジかよっ!話ぐらい聞けって、おいっ!!」

銀時はその攻撃を避ける。
虎眼が持つ刀の長さを考えても、銀時は分の悪さを考え反撃の意思を捨て攻撃の回避に専念する。
故に銀時は虎眼との距離を一向に詰めようとせず、繰り出すたびに間合いが変化する流れは有効にならない。

一方の桃はそれをただ見ていた。
幾度も繰り返される虎眼と銀時の攻撃と回避。
桃はそれをただ見ているだけだった。
横槍を入れる気にならなかったというのが正しいのかもしれない。

「銀さんも凄いじゃないか。あの攻撃を全て避けるなんてな」

その銀時の技量には桃も思わず感心してしまうほどであった。
しかしそれも遂に終わりが来る。

(疲れてきたな。このジジイはいつになったら諦めるんだ?ああ、糖分が取りてー)

銀時がそんなよそ事をうっかり考えてしまった時だ。
その隙を見逃さず、虎眼はいつもより更に一歩深く踏み込み柄尻の更にギリギリまで伸ばし、右手指が六本ある
虎眼ならではの必殺の奥義、流れ星が炸裂する。

「んなっ!?」

刀は銀時の額を正確に捉えている。
銀時は思いっきり後ろへと跳んで虎眼の追撃可能距離の更に外まで距離を話して着地する。
その銀時は地面に顔を向けたまま上げようとしない。
虎眼と桃の視線はその銀時に注がれている。

グラッ

不意に銀時の体がよろめく。
「まさか………銀さんっ!?」

桃は銀時が斬られたのかと思い、思わず声を掛ける。
だが、銀時は次の瞬間顔を上げた。

「けっ。遅いぜ爺さん。あんな攻撃止まって見えるぜ」

完全に読みきった。もうあんな攻撃目を閉じても避けられるぜ!的な事を言おうとした銀時の額からは
紅い鮮血が滴っていた。

「銀さんっ!額から血が!?」
「あ?これは……血じゃないよ。そう…………トマトケチャップだよ。何?俺が避けられなかったとでも言いたいの」
「いや、それは明らかに斬られて………」
「うっせーな。斬られてないって斬られた本人がいってんだから斬られてないんだよ!」
「………まあそんなに元気なら大丈夫だな」

銀時に対し桃は思わず心配そうな言葉をかけたが、銀時のその反応から致命傷ではない事を確認し、思わず安堵の言葉が出た。
しかし銀時の腹の虫は収まっていない。

「なんだよ。自己完結してんじゃねーよ。あっ、なんだこのやり取り前にもやったぞ。ってお前もなんか言えやコラ!!」

銀時は怒りの矛先を虎眼へと向ける。
だが虎眼は答えない。
もし虎眼がもう少し若ければ

『我が秘剣流れ星を完全に避けるとは、お主中々にやりおるな』

と空気を読んで避けきったことになったかもしれない。
しかし今の虎眼にはそのような空気を読んだりすることはありえない話だった。

「ああ、まあいいや。もう相手にすんのもめんどくせー。さっさと逃げると………」
「先生っ!」

銀時がノンビリ逃げる算段を練っていると背後から声が聞こえる。
やたらとまじめそうな声である。

「先生っ!……ご無事でしたか」

銀時の背後から現れたのは先ほどまで銀時を襲っていた男の弟子にして義理の息子の筋にあたる藤木源之助である。
源之助は虎眼へと近づき、そしてその途中で銀時は源之助の背中に向けて話しかける。

「おいおい、お前の師匠か?なら頼むよ、さっさと引き取ってくれ。こっちはいきなり襲われて額まで切られたんだぞ。
あと慰謝料もついでに払えな。まあここはとりあえず十万ぐらいで手を打つから」
「……………」
「はあ、おいおい何それ。かっこつけてバックレるの?それでいいの?お前知ってるよ。昔ならではの侍だろ。
いいのかな?師匠の不始末弟子の不始末って言わない?言わないならいいけどさ。後でお前の流派の悪い噂を
たっぷり流してやるからさ。それが嫌なら金払えな。持ってないならとりあえず手持ちだけでも……」
「………………五月蝿い。それを実行すればそなたの命は無いと思え」」

源之助は銀時を低い声で威圧すると虎眼へと近づく。
「先生。源之助にてございます」

源之助は虎眼に深々と頭を下げる。
だがその源之助に対し、虎眼が取った行動は意外すぎた。

「なっ!?」

虎眼は源之助に対しても、一切の躊躇無く一撃を繰り出したのだ。
それは仕置きとは程遠い、殺意の篭った一撃である。
だが源之助は咄嗟に腰を降ろしてしゃがむように横薙ぎの一撃を回避し、そのまま間合いの外まで離れる。

「先生?」

源之助は驚いた。
一切の言葉も無く、自らの首を刈ろうとした虎眼に驚きと困惑が交じり合い、上手く言葉に出ない。

「おいおい。お前の師匠さん弟子にも容赦なく斬りかかってるよ。あれだよ。もう言葉通じないんだ。頭がアレなんだよ」
「いや………それはありえぬが………」

源之助は銀時の言葉に反論するが、それ以上考えられなかった。
そこでようやく桃が二人に近寄り、話に入る。

「どうやらこの危険な状況が重なり、混乱してしまっている可能性が高い。この場合一度意識を奪ってから、覚醒
させれば元に戻る可能性が高い」
「先生が混乱?しかし……先生に限って……」
「その誰に限ってとか皆言う事なんだよ。ところで先生先生ってあいつ何様だ?」
「岩本虎眼という名で虎眼流を作った偉大な方だ」
「へえ、宗家ってことか。相当儲かるんだろ。なら……」
「金銭に関しては俺の知る所ではない」
「ちっ、そうかよ」

源之助は銀時のペースに巻き込まれないように、それ以上銀時の相手をしないように目を背ける。
しかし、源之助も気付いてはいない。
そのような態度を取る事自体、既に銀時のペースにはまってしまっている事に。
そして銀時と源之助のやり取りをよそ目に見ながら桃は考えを巡らしている。

(あの男の間合いは長い。そしてこちらは銀さんの木刀が一本にこの源之助という男の武器も刀が一本に脇差が一本。
仮にどちらか一本を俺が借りたとして、三人がかりでもあの長い間合いをもぐりこんで意識を奪うのは難しいぜ。
やはり確実に意識を奪うには………あれしかないか)
「作戦がある。源之助さんはあの虎眼という男を引き付けてくれ。銀さんは俺が合図をしたら木刀で殴りかかり
気絶させてほしい。その為の隙は俺が作る」
「なっ!?先生の意識を木刀でっ!?」
「このまま放置したら仮の俺たちが逃げたとしても誰かに殺される。もしお前が一人で何とかしようにも、あの男も
お前を殺そうとしている以上、守り通すのは不可能だ。いずれにしてもここで気絶させるしかない」
「…………しかしこの男を信頼出来るか?誤って先生を殺めれば俺は……」

桃の提案を渋々受け入れながらも源之助は銀時に半信半疑の視線を向ける。

「ああっ、大丈夫だろ。隙を作ってくれんなら、その隙に木刀で力いっぱい殴れば気ぐらい失うだろ。だいじょーぶだって。
まあ手加減は苦手だけど、木刀ぐらいじゃしなねーし」
「………」

銀時の頼りない返事に源之助は強い不安を覚える。
しかし、自分が虎眼を気絶させる事など出来るはずも無く、最初から源之助には拒否権は無かった。
ただ、信じるだけだ。
「………銀時」
「見つめなくてもわーてるよ」」
「俺は少し用意が必要だから、数分だけ頼むぜ!」

源之助の強い視線での念押しに銀時は飄々と返し、桃はすぐに民家へと消えた。
源之助は桃を見届けてから虎眼へと向き直る。

「先生…………御免!」

源之助は虎眼に一言だけ謝り、相対する。虎眼は源之助にも一切の特別な反応を示さずに切りかかる。
しかし、虎眼の太刀筋は幾度も見ているために単純に避けるだけなら決して難しい事ではない。
最初から源之助には虎眼に太刀を浴びせる意思は一切無く、時間を稼ぐだけなのでなお更だ。

そして一方。
桃は民家の中で一つの包丁と木の板を見つけ、木の板を細かく削っている。

「人の命を弄ぶ技。二度と使う気など無かったが………今回だけはやむおえない」

桃は一つの礫を即席で作る。
本来は銀の礫が必要なのであるが、すぐに作るのも困難な状況では木で代用するしかなかった。

(握力を奪うだけなら………難しくは無い)

桃は包丁で細かく削り落としていく。
慎重な作業が必要であるのだが、余り時間は使えない。
しかし外では血の臭いはしてこない。
源之助は時間稼ぎをしてくれているのだろう。
それを信じ、迅速に礫を作っていく。
そして約十分。
ようやく一つの礫を作り出した。

(出来たぜ!急がないとな!!)

桃は完成した礫を手に取り素早く民家を飛び出す。
外では虎眼の神速に近い流れ星の攻撃とそれを避け続ける源之助の姿があった。

「……よくやってくれた源之助さん。後は俺に任せろ」

桃は狙いを定め、虎眼の右腕ひじに向けて狙いを定めた礫の一撃を放つ。
翔穹操弾。
相手の筋肉や腱の結成を刺激し、意のままに操る奥義である。
そしてその礫は狙いと寸分違わぬ位置に吸い込まれるように命中する。
それと同時、源之助を襲っていた虎眼の右手の野太刀はまるで握力が無くなったかのように地へと落ちる。

「今だ銀さん!!」
「ああっいくぜっ!!」

桃の掛け声と同時、銀時は全速力で走り出し、虎眼に殴りかかる。

「おりゃああああっっっ!!!!」

銀時は大きく振りかぶって虎眼の頭部を木刀で殴りつける。
本来なら虎眼でも直撃は避けられるはずの一撃だが、不意に右手の握力が喪失したことによる隙を付かれては
急所を外す事すら叶わず、直撃を許してしまう。

「がっ!」

その一言のうめき声と共に、虎眼は気を失い大の字になって地面へと倒れ伏す。
そしてそれを確認するや否や、源之助は走って虎眼の元へと駆け出す。
「先生っ!大丈夫ですかっ!?」
「大丈夫だろ。数時間で目が覚めると思うぜ」
「ああ、殴った際の音も骨が折れるような音は無かった。致命傷ではないはずだ」

銀時と桃も虎眼に近寄り様子を見る。
桃はすぐに虎眼の右腕をとり、木の礫を取り出す。

「これで問題はない」
「すまない………先生を助けてくれた事。心から礼をさせてもらう」」
「そうだぜ。俺様がいなけりゃとっくにこのジジイ殺されてたぜ。まあ俺に感謝」
「桃といったな。………感謝する」

源之助は銀時を無視し、桃に礼を述べる。
いつも無口である源之助であるが、虎眼を助けてもらった礼は彼なりに精一杯の態度で示している。
だが桃は特に気にした様子も無く、地面に落ちていた刀を手に取る。

「ところでこの刀、貰っていくが構わないな」
『コク!』

源之助は無言の頷きで返す。

「……ああもういいや。じゃあ俺は行くわ。疲れたし、せっかく城が近くにあるからそこで休むわ」
「なら俺も一緒に行くか。もうすぐ夜が明けるから城の上から町の様子を見てみたい」
「ではここでお別れだ」
「ああ、じゃあな」

源之助は虎眼を抱きかかえると、桃と銀時から背を向ける。

「お姫様抱っこみたいだな。美少女なら絵的にいいんだが、ジジイじゃな」
「……おかしな表現は止めろ………じゃあな銀時さん。あんたも一応は礼をいう」
「ああ、あと一応言っとくぞ」
「?」
「何かお前の左腕に引っかかるもんがあるんだ。まあ気のせいと思うけどな。一応気をつけとけ。
間違ってチョン斬られたら洒落になんねーからな」
「……ああ。心に留めておく。ではっ」

銀時のあくまでも気のせいな発言を聞いてから源之助は師である虎眼を抱え直すと走り出す。
源之助の背中はドンドン小さくなっていく。
それを見届けつつ、銀時と桃も城へと歩きだした。
【ほノ肆/城手前/一日目/早朝(黎明直後)】

【剣桃太郎@魁!!男塾】
【状態】健康
【装備】備前長船「物干竿」@史実
【道具】支給品一式 ハリセン
【思考】基本:主催者が気に入らないので、積極的に戦うことはしない。
1:銀時に同行する。
2:向こうからしかけてくる相手には容赦しない。
3:赤石のことはあまり気にしない。
※七牙冥界闘終了直後からの参戦です。

【坂田銀時@銀魂】
【状態】健康 額に浅い切り傷
【装備】木刀
【道具】支給品一式(紙類全て無し)
【思考】基本:さっさと帰りたい。
1:とりあえず城に行って休む
2:新八を探し出す。
※参戦時期は吉原編終了以降
※沖田や近藤など銀魂メンバーと良く似た名前の人物を宗矩の誤字と考えています。


【ほノ肆 城下往来/一日目/早朝(黎明直後)】

【藤木源之助@シグルイ】
【状態】健康 虎眼を抱えている
【装備】打刀@史実、脇差@史実
【所持品】支給品一式
【思考】:虎眼を守り抜く
一:とりあえず人の少ない場所へ向かう。
二:左腕?一応気をつけるか。
【備考】
※人別帖を見ていません

【岩本虎眼@シグルイ】
【状態】気絶 源之助に抱えられている。
【装備】無し
【所持品】支給品一式
【思考】:宗矩を斬る
一:宗矩を斬る
二:???
【備考】
※人別帖を見ていません。
※気を失いました。覚醒後の状態が魔人、正気、曖昧のどれかは不明です。
代理投下終了。

◆C1mr6cZSoU氏は修正乙でした
15 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/11(水) 11:13:32 ID:gwF3JGSz
したらばに仮投下行いました。
突っ込みや修正すべき点があれば連絡ください。
16創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 14:07:37 ID:+FupsRab
>>14
修正版&代理投下 乙!
問題ないと思いますよ
>>15
こちらも投下乙。
自分としては投下しても何の問題も無いと思います
17創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 23:52:56 ID:+FupsRab
18 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:13:59 ID:nI/j5Fos
では、本投下いたします。
19創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:15:09 ID:sMqGCi3t
支援
20ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:15:32 ID:nI/j5Fos
 「刻を八十四に割りて、その一つを分とす。
  この分をたとうれば、脈一息にあたる。
  分を八つに割りて、その一つを秒とす。
  秒を十に割りて、その一つを糸とす。
  糸を十に割りて、その一つを忽とす。
  忽を十に割りて、その一つを毫とす。
  毫を十に割りて、その一つを厘とす。
  厘きわまりて、雲耀なり。」



「ここも駄目かぁ。シケてんな……シケてるって言葉、わりと気軽に
使っちまうけど、この村はほんっとうにシケてるよな。」

武田赤音は村の民家を一軒一軒回り、そうぼやく。
もしかすれば、あの白州のおっさんが没収した「かぜ」が
見つかるかも知れぬと淡い期待を抱きつつ捜索に精を出していたが、
へろな村の半分は捜索し、見つかったのは鞘付きの竹光一振りのみ。
殺傷力は現地調達した木切れにすら劣る、問題外な代物である。
必要がなくとも斬れる刀と聞けば買わずにはいられなくなり
(そして無駄に貯め込んでしまい、後で困ってしまうのだが)
ある程度の目利きが利くようになっていた赤音にとって、
この手の碌でもない駄刀には我慢ならなかった。

「はぁ…。ほんっとうにシケてるよな…。」

万が一これを抜いて確かめずに相手に立ち向かえば、
取り返しのつかない事態になっていたに違いない。
そう考えれば、別の意味で身震いさえ起こる
武田赤音は、別段命など惜しくはない。
今からの人生など、所詮は蛇足であり道楽であるに過ぎぬ。
だが、それでも腰のものを竹光と知らず抜き破れ去るなどという、
剣者としてみっともなさ過ぎる末路は流石に堪えがたいものがあった。
もっとも、得物の確認さえせず抜刀術を行い大失敗をやらかす、
そんなうっかり侍はこのような修羅場になど呼ばれぬであろうが。

――今、どこかで女のクシャミが聞こえたような気がしたがまあ幻聴であろう。
21創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:16:17 ID:sMqGCi3t
支援
22ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:16:34 ID:nI/j5Fos
とりあえず、竹光といえど抜かぬなら威嚇用にはなるからと考え直し、
希代の迷刀『殺戮幼稚園』ともども腰に差しておく。
大小がそろったとは言え、両方ともまるで使い物にならぬとは
余りと言えば余りの組み合わせである。
手には三尺余りの半棒。これが当座の得物とは。

武田赤音は、腰に差すだけで闘気を根こそぎ
吸い取りそうな二本差しの感触を確かめながら、
民家の戸を開けて村の捜索を再開をし始めた。


――その時である。


耳に馴染みの音がする。
あの何時聞いても聞き飽きぬ、
あの何時聞いても聞き惚れてしまう、
鋼と鋼が撃ち合う、素晴らしい音色が。

闘争の音色が。
相克の音色が。
刃鳴散らす、雌雄を決する至高の音色が。

そう。これは真剣勝負の音色である。
そしてそれは何合も、何合も続いている。
それが意味することは何か?
それは実力が伯仲しているという証である。

剣の勝負とは、実力差が僅かなものでなければ、
大抵は数合と合わさぬうちに決着が付くものである。
これは経験論であり、確信をもって言える。
武田赤音自身も、そう実力が違わぬはずの兇賊達を、
何人ともなく葬り続けてきたのだから。
それが今、何度も続いてるのであれば、
考えられる事はそれ以外ありえぬ。

しかも、その音色は凄絶を極める。
その音色は遠く離れた赤音の耳に届かせる程のものであり、
そしてそのいつどちらの剣が折れようと不思議でない程の響きは、
刀達の断末魔の悲鳴にも聞こえた。

そして、それだけの音色を互いが打ち出せるということは。
つまりは両者がともに高位の実力の持ち主である事。
剣聖、あるいはそれに準ずる水準の。
23創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:17:04 ID:sMqGCi3t
支援
24ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:17:38 ID:nI/j5Fos
――ああ、本当にいい音色だなァ。

強者達が奏でる、夢の協演。いや、狂宴。
その音色には陶酔せずにはいられぬのである。
剣者として。ただ剣者として。
赤音はその音色に魅入られるままに、
ふらふらとした足取りでその刃鳴散らす戦場へと向かう。
二人の斬り合いを見届ける為に。
二人の相克の結果を見届ける為に。



赤音はその刃鳴散らす海岸へと辿り着く。
気づかれぬよう、少し離れた民家の陰からその戦いを眺めることにする。
両者が戦闘状態でなければ、あるいは気付かれたかもしれぬが、
幸いにしてそのようなことはなかった。

天性の脚力を頼みとする少年の神速の剣に、
己が剛力を頼みとする老人の剛の剣。
二人の姿は、二人の剣は、まさに対照的なものであった。
やがて、情勢に変化が起こる。

少年の顔面狙いの剣が老人の目の前を通り過ぎた時に滴が飛び、老人の目に入る。
その千載一遇の好機に一気に畳み掛けようとする少年が、急遽後退を行う。
その直後、落雷の如き轟音と光が少年の元居た場所に閃く。
少年の服の胸元が裂け、足元の地面が大きく爆ぜる。
土の散弾が、周囲にまき散らされる。
その轟音は一際響き、武田赤音の心の琴線をも響かせた。

「へぇ…?」

あの構え。そして、あの威力。
それは武田赤音が最もよく知るものに似て非なるもの。
――示現の太刀。

武田赤音は見惚れてしまった。
老人の剣に見惚れてしまった。
あの神速にして剛も極まる剣に見惚れてしまった。
25ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:18:24 ID:nI/j5Fos
あれは紛れもなく刈流の“強”と流れを同じくするもの。
いや、ともすればその源流かもしれぬ。
全体重を乗せた渾身の運足による、あらゆる防御を打ち砕く必滅の刃。
それだけは間違いない。
だが、それだけなら驚くに値しない。それなら赤音もとうに身につけている。
だがしかし、その老人から生みだされた速度はまさに次元が違っていた。

この俺を、遥かに凌駕している。
神速。そう、まさに神速である。
武田赤音とて、その師にさえ神速とまで言わしめる剣の腕を持つが、
あれを見た後では自らの剣さえ、児戯のようにすら思えてしまう。

それほどの剣。いや、あれは剣術などという生易しいものではない。
それほどの、魔剣。

――そう。あれは魔剣である。

伊烏義阿の魔剣“昼の月”や、自らの魔剣“鍔目返し”のように。
有像無像の区別なく、対峙するものを区別なく斬り捨てる暴虐の剣。
人の条理を超えた、だがしかし、人でなければ生み出せぬ至高の剣。
気も狂うような修練や死闘の果てに生まれる場合もあれば、
天才の閃きよって唐突に生まれる事もある。
そして、唐突に消える運命を持つ。
いわば鬼子の剣。

――“雲耀の太刀”?

刈流は示現流の影響を色濃く受けている部分があるため、
直観的に連想した言葉をつい口にしてしまう。

いや。まさかとは思うけどな。
あの丁髷爺さん、もしかして東郷重位とかじゃないだろうな?
あの白州のおっさんといい、一体今何世紀だと思ってやがるんだ。
この俺を、さっさとまともな時代に戻しやがれ。

武田赤音は胸中でその理不尽に抗議する。
だが、いくらその理不尽に異を唱えようと、現実は何も変わらない。
ただ目の前の老人が、己を凌駕する速度を持つ神速の振り下ろしを
先ほど行ったことだけは紛れもない事実である。
たとえあの老人が何者であろうとも。
それだけは揺るぎ無い。
26創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:18:25 ID:sMqGCi3t
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27ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:18:58 ID:nI/j5Fos
やっぱり、白州のおっさん達をぶった斬るには
先にあんな化物と戦わなきゃならねえってことか。
こりゃあいいや。退屈だけはしなさそうだ。

武田赤音は己の剣を凌駕するものを見せつけれてなお、
恐怖する事無くむしろ傍若無人の魂を更に燃え上がらせた。
刈流と動きを同じくするものである以上、
やはりあの老人の動きは非常に興味深い。
知りたい。もっと知りたい。知り尽くしたい。
あの惚れ惚れするような太刀筋を盗み切ろうと、
武田赤音は目を見開き、戦いの続きを凝視し続ける。
それは、猛禽の類が捕食する獲物を見る目に酷似していた。


戦いはなおも続いている。
少年が剣を回避された苦し紛れに蹴りを放ち、
老人はそれを受け止めきれず衝撃を受け打ち倒される。
頭を打ち、朦朧となり窮地に立たされる老人。
そしてもう一度、あの魔剣が放たれる為の構えとなる。
少年はそれに危機を覚えて剣を鞘に戻し、今度は抜刀術の構えを取る。




――――― 一閃。




少年は倒れ、老人は生き残った。
少年は明らかに何かの“取っておき”を仕掛けようとしていた。
だが、それは失敗故に不発に終わり、どのような術技であったか、
それは永久に分からずじまいとなる。
老人の二度目の魔剣“雲耀の太刀”は少年を袈裟掛けに斬り、
血飛沫を舞わせ臓腑をばら撒き、大輪の朱の花を海岸に咲かせた。
それは、まるでラフレシアのよう。
ともかく、決着は付いたのだ。
28創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:19:05 ID:sMqGCi3t
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29ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:19:36 ID:nI/j5Fos
武田赤音の目には、少年の剣が手より滑り落ちたという幸運を差し引いてもやはり、
あの老人の方が一枚上手であったかのように感じられた。
これは別段、同門贔屓というわけではない。
何かあの老人は無理に枷を嵌めているような、
そのような微妙な空気を感じたからだ。

だが、二度にわたる不完全な状態で放たれて、なおもあの魔剣である。
つまり完全な状態で放たれたあの魔剣に対して、抗し得る術は何一つないのだ。

――こりゃ、うかうかしてられないよなぁ?

血が滾る。
気が昂ぶる。
身体中の毛細血管の脈動を感じ、
己の心臓の鼓動さえ耳朶に聞こえる。

血の騒ぎが収まらぬ。
その老人の凄絶な魔剣は、抜け殻だったはずの武田赤音の
剣者としての血を呼び覚ますには十分すぎるものであった。

――ま、今度の人生も少しは楽しめそうかな?

心の中で軽口は叩くが、未だ興奮は一向に冷める気配がない。

そう。これから己と対峙するは、己を凌駕する剣者。
死ぬほど恋い焦がれた運命の女性とまではいかなくとも、
性欲を刺激する絶世の美女を見た時の男の気持ちというのは
得てしてこういったものに類似しているなのかもしれない。

武田赤音は、老人の剣に欲情さえ抱いていた。
かつて、伊烏義阿の剣に恋し、惹かれた純粋な感情と比べれば、
もっと卑俗で下賤な類のものではあるが。
それでもあの老人の魔剣に、強烈な特別の感情を抱いたのは確かである。
己と類似し、そしてなおかつ己を凌駕するその剣に対して。
あれは、この俺が凌辱し穢すべき剣、己が貪り尽くすべき剣。
そして、この俺の剣をさらなる高みに登らせる為の剣であると。

そう。欲情の感情をかき抱かせる絶世の美女(けん)に出会えば、
その心身を余さず貪り尽さずにはいられぬのが雄(けんじゃ)の定め。
30創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:19:40 ID:sMqGCi3t
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31ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:20:07 ID:nI/j5Fos
口が歪み、半月の形に裂ける。
笑みがふき零れる。その眼は情欲に満ち溢れていた。
だが、その笑みは人がましさを突きぬけ、
もはや獣ですらありえぬほどにおぞましい。
見た者の心を恐慌に誘う、言わば瘴気を帯びた狂気の笑み。
あの獲物は俺のものだ、と心の中に固く誓う。

だが、あの老人とは今戦おうとも勝機は全くない。
技量差は勿論の事、最低限の得物さえ揃ってはいないのだから。
あれを打倒するなら、今よりさらに強くならなければならない。
そして、それに見合う武器を揃えねばならない。

ならば、このような場に長居は無用。
決着の付いた勝負の後始末になど興味はない。
武田赤音は老人に発見される前に、速やかに戦場跡を離れた。



武田赤音は村の外れにて、木の棒で素振りを行っていた。
あの魔剣“雲耀の太刀”を見た興奮が冷めやらぬ内に、
あの老人の魔剣を破る方法を模索したかったのだ。

百本ほどで素振りを終える。
体慣らしを終えて、ほどよく身体を温めると構えを直す。
今度は木の棒を右肩の上へと担ぎ、左足を前にし、右足を引く。
いわゆる刈流の“指の構え”を取る。
武田赤音は、最もこの構えを好んでいた。

状況を仮想する。
敵はあの“雲耀の太刀”を用いる老人。
そう。あの魔剣を用いる畏怖すべき、打ち破るべき老人。
距離は近い。

老人は蜻蛉の構えを取る。
老人の殺意が濃縮され、そして渦を巻く。
それはあくまでも仮想に過ぎぬにも関わらず、
凄まじいまでの重圧感を否応なく感じる。
自らの想像が生み出したものにも関わらず、
そこから逃げ出したいと本能が訴える。
だが、それを武田赤音は鋼の意志で封殺する。
32創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:20:31 ID:sMqGCi3t
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33ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:20:52 ID:nI/j5Fos
そう。あの魔剣と対峙するのだ。
伊烏義阿の“昼の月”とその質を同等とする。
生半可な事では到底勝てぬ。勝てぬのだ。
それは先ほどの少年との戦いを見ての通り。

その魔剣の所作を寸毫の狂いなく捉える事が出来なければ、
この地に臓物の雄蕊雌蕊と死臭混じりのラフレシアをもう一輪咲かせる事になろう。

想定する老人と、一足一刀の距離に入る。
鋼の稲妻が落ちる。振り落ちんとする。
天の稲妻に挑む愚かなる者を粉微塵とすべく。
その矮小なる存在に相応しき天罰を与えんがごとく。
雷雲は今耀き、下界の虫けらを天の暴威にて蹂躙せんと、
今その光の牙を剥く。

だが武田赤音は、その稲妻の振り落ちる兆候すら見抜く。
勝機、先。


「――――――――――ッッッ!!!」


武田赤音は気を吐いた。

右足で、渾身の力を以て地を蹴り出す。
天雲に反逆する剣を振るわんが為に。

凄まじい勢いで、その身が正面へと射出される。
目の前の天の御使いをその剣で貪らんがために。

そしてその怒涛の勢いは余すことなく剣に乗り、
空気を切り裂いて眼前へと振り落ちる。
雲耀の株を奪わんがために。


――――刈流 強。


眼前の空間を、右上から左下まで切り抜ける。
その神速により発した剣風が、周囲の砂をも巻き上げる。
あの老人は、攻撃動作に入る硬直時間を突かれ……だが、それでも負けだ。
こちらがその速さにおいて負けていた。
いや、これですら遅い。遅すぎるのだ。
34創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:21:25 ID:sMqGCi3t
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35ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:21:50 ID:nI/j5Fos
敵が何であれ、今の機に、今の剣速で挑まれて回避を成功する者はいない。
だが、攻撃そのものは別だ。
そして剣が敵手の身体に到達するのは、己よりあの老人のほうが速い。遥かに迅い。
先の機を取ったはずの己が、為す術もなく轟音と共に斬り捨てられる場面を想像し、
赤音は激しくかぶりを振った。…気を入れ直す。

赤音の剣は決して遅くない。
むしろ、その師にさえ神速を認められるほど、尋常ではない速度を生み出せる。
無論、それは刈流の運体あってこそなのだが。
赤音はあの白州の参加者達の中にあってすら、
振り下ろしに限定するなら五本の指には入るだろうと確信している。

だが、その神速の“強”ですら、あの“雲耀の太刀”の前には霞む。
霞んで見える。

分…、秒…、糸…、忽…。
己の剣は忽の域までには到達していると見ている。
だが、あれはその更に先を行く、まさに雲耀なのだ。

あれに抗すべきは、等しく神速の域に到達する魔剣に他ない。
だが、己の魔剣“鍔目返し”は、神速の“強”にて先手を取ってこその魔剣。

仕手の先を取り攻撃を封じ、防げば押し切る。
躱せば二の太刀にて仕手の後の先の前に仕留める。

相手の如何なる攻撃も、反撃も、防御も完全に封じるが故にこそ、
あらゆる敵を貪り尽くす事が出来る魔剣。
それが我流魔剣“鍔目返し”。

その魔剣が逆に先手を取られるようでいては、話しにもならぬ。
それでは燕は舞えぬのだ。

敵からまず先の機を取るには、敵の攻撃兆候をしかと見定めなければならぬ。
それだけなら武田赤音の即応能力と眼を以てすれば可能である。
たとえ、あの魔剣であろうとも。
36創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:22:09 ID:sMqGCi3t
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37ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:22:28 ID:nI/j5Fos
だがこれは、どうしても攻撃開始が確実に相手より遅れるため、
最初からゴールまでの差を付けられたハンデ付のレースとなる。
勝つには敵を凌駕する攻撃速度が必要となる。
武田赤音は、これまでの敵相手にそれが出来た。
赤音の“強”に優る速度などこれまでになく、そうでなければ、
これまでの敵に為す術もなく斬られていたであろうから。
先ほど、まさに赤音が先ほどの想定戦で想像した通りに。

あの老人の雲耀に先んじることなくして、勝利する事は不可能。
後の先狙いなど以ての外。
あの剣を防ぐことは敵わず。
それは己の強もまたそうであるからこそ、自明。
あの剣を躱すことも敵わず。
“浮草”のような神速の振り下ろしを躱す抜き技も刈流には存在するが、
あれは突進する攻撃には意味を為さぬのだ。
ゆえに、薩摩の猿声を上げての突進には無力。
浮草はその突撃の具風にて吹き散らされるが道理。

第一、老人が動かないと仮定したところで、
こちらの“飢虎”のような間合い騙しの術技を仕込む可能性もある。
あの老人の剣と武田赤音の剣は、極めて類似しているが故に。

故にこそ、魔剣。
故にこそ、あの老人の剣には憧憬の念さえ感じた。
その老人の剣に劣情さえ抱いた。

己と流れを同じくする剣を持ちながら、
己を見事に凌駕する厭おしい、愛おしい剣。
故にこそ、あの剣は武田赤音が貪り尽くさねばならなかった。
己があの老人よりも強者であることを証明する為に。
だが、今のままでは勝利はおぼつかない。
今のままでは。そう。今のままでは。
ならば、進化するしか道はない。
今の燕を、さらなる天空の高みに登らせるより道はない。
雷雲の稲光の耀きすら届かぬ、至高の蒼天の高みに。
38創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:22:41 ID:sMqGCi3t
支援
39ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:23:08 ID:nI/j5Fos
老人の動きは二度見取っている。
だが、あれだけの情報であの剣を凌駕する事は出来るだろうか?
あの剣を盗み切り、さらにその上を行く事ができるだろうか?

いや。出来るのだろうか、ではない。
為さねばならぬのだ。為さなければ、己が死ぬ。
いや、己が死ぬのは構わない。
だがあれに敗北すれば、己の剣さえもが無意味とされてしまう。
己の伊烏義阿を破った魔剣が、無為と帰してしまう。
己の恋い焦がれた伊烏義阿の剣さえも、共に否定される。

――天の叢雲に、月と燕は覆われる。

それだけは、決して看過できる事ではなかった。

気分を切り替える。
今度は老人の動きを脳裡に描き、そこからあの動きを模倣してみる。
刈流と流れを同じくする剣故なのか、それは意外と身になじんだ。
だが、己の強よりも遥かに遅い。
それも当然であろう。
所詮は劣化コピーにすぎないのだから。

もし、あの名も知らない猿真似師なら
あの剣を完全に模すこともできるだろうが、
残念ながら己に猿真似の才はない。別段、欲しくもないが。
模倣により手に入れた剣など、所詮は紛い者でしかない。
それは己の剣では決してありえぬのだ。

それに、もし仮にこれを完全に模倣できた所で、あの老人には敵わない。
所詮偽物の付け焼刃では、本物の魔剣に対抗すべくもないからだ。
これはあくまでも、あの剣の術理を理解しているかどうかの試しに過ぎない。
数度あの剣の物真似を繰り返して、武田赤音は模倣を終える。

次に、あの老人の動きの優れた幾つかを己の中に取りこむべく、
武田赤音は素振りを再開する。
構えは、再び“指の構え”。
鍛えるべきは“強”。
そしてそれより繋がる“鍔目返し”。

刀が落ちる。鍔目が返る。
燕が落ちる。燕が返る。
全身から汗が滴り落ち、その髪を湿らせる。
呼吸が少し荒くなり、生暖かい白い息を吐く。
身体からは汗が蒸発し、湯気を上げている。
40創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:23:12 ID:sMqGCi3t
支援
41ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:23:45 ID:nI/j5Fos
試行錯誤を何度となく、何度となく繰り返す。
やがて二十、三十ほど素振りを繰り返した所で、小休止を入れる事にする。
先ほどの稽古ですでに疲弊していたというのもある。
素振りとは違い、実践を想定したものは格段に気力を消耗するのだ。
武田赤音は近くにあった切り株に腰かける。
やがて呼吸が落ち着いてくると、ため息交じりに独り言を漏らす。

「とろくせえよなァ」

――何がだ?

そう、少し以前にはこんな声が近くから返ってきた。
あれは確か、武道館の自主訓練室での出来事だった。
あそこであった若い瀧川衛視との一悶着も、
今では随分と懐かしい過去のように思える。

「決まってんだろ?あの爺さんぶった斬るにゃとろすぎるってことだよ。」

武田赤音は自分の心中からやってきた疑問に、こう独り言で返す。

――あの爺さん?

「そうだよ。あんな剣使う化け物相手じゃ今は敵わねえよなぁ、って話し。」

――あんな剣、だと?

「ああん?見りゃわかるだろ。ジゲン流だよ、ジゲン流。
 それも多分“雲耀の太刀”とか言うすっげえのだよ。
 俺も実物見るのは初めてだけどなァ。
 今の俺の燕じゃ、まず勝てねぇよな…。」

―――。
  
『待て。あの剣を見たと、そう申すか?』

おかしい。何かがおかしい。
いつの間にやら、その心中の声は、実体すら伴っていた。
これは幻覚ではなく、現実。
いや、もしかすると最初から実体を伴っていたのかもしれない。
42創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:24:15 ID:sMqGCi3t
支援
43ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:24:24 ID:nI/j5Fos
声のする方向を振り向けば、ここより少し離れた所に
長剣を二本腰に差した先ほどの老人が仁王立ちしていた。
身体からは怒気…、いや、怒気というにはあまりにも生温い。
どす黒い殺意を全身に漲らせ、目は憤怒に血走っていた。
その癖、その表情は実に穏やかである。

「そうか、知られてしまったか…。
 それも、ここまで速くにとはな。」

どこかしら薩摩訛りを思わせる丁寧な口調。
だが、その声にはまるで抑揚がなく、
それがなお一層不気味さを引き立たせた。
込み上げる何かを無理矢理捩じ伏せたような平坦な声。
だからこそ丁寧であり、よく周囲に響くのだろう。

だが、武田赤音は悟っていた。
その声に潜むものが噴火寸前の火山であり、嵐の前の静けさであるという事を。
ならば少しずつ漏れ出す赤黒い感情は、さしずめ火山を伝う灼熱の溶岩か。
その怒りの残滓でさえ、人を殺すには十分すぎる、心を冒す猛毒である。

「しかも、お主はどうやら示現流を知っている…。
 その剣、どこで身につけた?
 いや、どこから盗み出した?」

いや、すでのその口調の隙間から、その殺意のマグマが顔を覗かせつつある。
その大火山からの噴火は間近。
そこから生み出される惨劇もまた間近。

この老人の問いに、素直に答える義理はない。
このままその殺意の爆心地に留まり、
その灼熱のマグマに熔かされるのをみすみす待つ道理もない。

「――貴様、幕府の隠密か?」

今この老人と戦っても、まず勝ち目はないだろう。
そう。今はまだ、だ。
ならば、答えなどとうに決まっている。
44創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:24:50 ID:sMqGCi3t
支援
45ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:24:57 ID:nI/j5Fos
――三十六計逃げるにしかずってか?


武田赤音はかの老人の問いに一切答える事無く、
一切振り返ることなく、脱兎の如く遁走を開始した。
背後からは、猿声を上げ何かを振り上げるような禍々しい気配を感じた。
それは錯覚であると、そう思いたい。
背筋から冷汗が滝のように流れ落ち、もはや凍り付いてさえいる。
待てと呼ぶ声が背中から聞こえるが、その声には非礼を以て返答する。

「はん、待つわきゃねーだろが!この老いぼれ爺!!」

武田赤音はへらず口を叩きながら疾走する。
だが、振り返らない。振り返ってはならない。
振り返れば、おそらく死ぬ。

武田赤音が背後の老人から死に物狂いに逃げ回る光景は、
まるで黄泉醜女と雷神の追跡を振り切り、
黄泉比良坂を駆け抜ける伊邪那岐命のようですらあった。

【への漆 海岸/一日目/黎明】
【武田赤音@刃鳴散らす】
【状態】:健康、疲労(小)
【装備】:現地調達した木の棒(丈は三尺二寸余り)
     竹光
     殺戮幼稚園@刃鳴散らす
【所持品】:支給品一式
【思考】基本:気の赴くままに行動する。とりあえずは老人(東郷重位)の打倒が目標。
     一:とりあえず、背後の追跡者を振りまくべく疾走する。
     二:女が相手なら戦って勝利すれば、“戦場での戦利品”として扱う。
     三:この“御前試合”の主催者と観客達は皆殺しにする。
     四:あの老人(東郷重位)の魔剣を凌駕すべく、己の剣を更に練磨する。
     五:己に見合った剣(できれば「かぜ」)が欲しい。
     六:逃げろや逃げろ逃げろ逃げろ!!
【備考】:人別帖をまだ読んでません。その上うわの空で白州にいたので、
     伊烏義阿がこの御前試合に参戦している事を未だ知りません。

※武田赤音がどの方角に逃げたかは次の書き手様にお任せいたします。
46創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:25:23 ID:sMqGCi3t
支援
47ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:25:49 ID:nI/j5Fos
――――あの小僧、生かしてはおけぬ。

東郷重位は憤慨していた。
あの不遜なる少年に憤慨していた。
あの薩摩の剣を心技体全てにおいて穢し尽くした外道に、
腸が煮えくり返る程に憤慨していた。

己の剣を盗まれた。
薩摩の剣を盗まれた。
門外不出の示現流を盗まれた。

しかも、盗まれた責は東郷自身にあり。
それだけでも東郷は身も震えるばかりの恥辱を感じずには居られぬのである。
しかもその盗んだ男は、女と見まがうばかりの軟弱そうな少年と来ている。
それは武士の風上にも置けぬような、南蛮被れの長履に女者の小袖を羽織る、
ひどく退廃的な女装をした男娼(ツバメ)まがいの男であった。

それが平然と示現流の技を盗むばかりか、
その中にありえぬ「二の太刀」をも組み入れているのだ。
最初の一刀に全生命を賭け、その一刀で敵を両断するか、
さもなくば倒される覚悟を持つというのが示現の精神。
その精神を、あの女男は異端の術技を以て穢しに穢しているのである。

さらにはその少年は礼儀すら知らぬ。いや、礼だけではない。
仁。義。礼。智。忠。信。孝。悌。
これら全てが欠落しているとしか思えぬ愚物である。
あまつさえ、この東郷を耄碌爺とまで侮蔑し、
挙句の果てに斬らんと欲する野心さえ抱いている。

これがもし、我より格段に劣る口先だけの相手であれば、
その生命を奪わぬ程度に仕置きを行い、二度と剣を握れぬよう、
喋れぬようにして捨て置くだけですませるであろう
それで心が折れれば、薩摩を軽侮した者達への見せしめにもなる。
48ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:26:56 ID:nI/j5Fos
だが、あの朱羽相手ではそう簡単には行かぬ。あれは野獣なのだ。
決して見下せる相手ではない。手加減をすれば、此方が食い殺される。
あの男娼(ツバメ)まがいの男が、先ほどの修練で繰り返し見せた剣。
あれはまさに示現の流れを組みつつも、別の術理を持つものであった。
己と技をほぼ同じくするが故に、生半可な相手ではないと確信する。
確かに、今はまだ我には及ばぬ。
だが、この先どのような異形に化けるか知れたものではない。

それは異形の示現の庶子であった。
それはあり得ぬ、あってはならぬ所から現れた。
そしてその庶子は、人の礼節を一切弁えぬ鬼子であった。
決して存在を許されぬ、おぞましき禁断の庶子であった。
ならば、その庶子は親が責任を持ち始末しなければならぬ。
ならば、あの薩摩を冒涜せし異形の剣は滅ぼさねばならぬ。
薩摩の剣が盗まれた、その忌まわしい事実をも消すために。

――消さねばならぬ。己の名誉の為に。薩摩の未来の為に。

東郷重位はその全身に殺意を漲らせながら、朱の小袖の少年の背を追い続けた。

【東郷重位@史実】
【状態】:健康、小袖の少年(武田赤音)に激しい殺意
【装備】:打刀、村雨丸@八犬伝
【所持品】:支給品一式
【思考】:この兵法勝負で優勝し、薩摩の武威を示す
   1:相手を探す。
   2:薩摩の剣を盗んだ不遜極まる少年(武田赤音)を殺害する。
   3:殺害前に何処の流派の何者かを是非確かめておきたい。
   
【備考】
※示現流の太刀筋は今の所封印したままですが、そのままで戦う事に不安を感じています。
※示現流の太刀筋を小袖の少年(武田赤音)に盗まれた事に強い危機感を抱いています。
49創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:27:05 ID:sMqGCi3t
支援
50ジゲンを穢す者 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/12(木) 00:28:27 ID:nI/j5Fos
投下終了。支援ありがとうございました。
51創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 00:32:22 ID:sMqGCi3t
本投下乙。
赤音は果たして逃げ切れるのか!?
重さんも精神的に掻き乱されてきたし、
果たして剣法封印は破られてしまうのか、今後に期待
52 ◆r1XMkC9yjA :2009/03/13(金) 20:29:11 ID:3Bhgi1BU
白井亨投下します
53 ◆r1XMkC9yjA :2009/03/13(金) 20:29:48 ID:3Bhgi1BU
城下へ入る、堀に架かった橋を、濡れ鼠となった白井亨義謙は
切断された長竹刀を杖代わりにふらふらと渡っていた。

青黒く倍ほどの太さにに腫れ上がった左腕はだらりとだら下がり、
足取り重く、半開きの眼は焦点が定まっていない。

休息するべき場所を探し、城下に向かおうとした亨であったが、
向こうから走り寄ってくる影に気がつき、再び橋桁の下に潜り込んだ。
足音が遠退いたのを確認し、再び川から這い出し、城下へと歩み始めた。

結果としてはそれがまずかった。真冬の寒さとまではいかないものの、
現在の周囲の気温はそう高くは無い。普通ならば、すこし涼しい程度の
感じ方だろうが、長時間川の水に浸かっていた亨の体に吹き付ける夜風は、
その体力をみるみる奪い去っていった。左腕の激痛や、水面に全身を
打ち付けた痛みよりも、今の亨の一番の敵はこれであった。

いかな、日頃弛まぬ鍛錬を積んでいるとは言え、亨も人の子である。
精神で支えていても、体がそれについていかない。髪は乱れに乱れ、
唇は紫色に変色し、顔はすっかり青ざめている。
それでも、歩みを進めているのはまさに、彼の鋼の精神が為せる技であった。
54 ◆r1XMkC9yjA :2009/03/13(金) 20:31:06 ID:3Bhgi1BU

朦朧とした意識の仲、亨は慎重であった。
今すぐにでも、体を地面に投げ出したい衝動に駆られつつも
なるべく人目につかない裏手の路地を歩み、粗末な溝板長屋の一角に入り込んだ。
その内の木戸にも垂れかかるように、扉を開ける。長く夜風に当たっていたせいで、
体は既に鉛のように重い。このままでは発熱の危険性もあるだろう。

粗末な障子戸、たやすく蹴破られるだろうが一応つっかえ棒が必要だ。
それに着替えを――――そう思考している最中…暗闇というのに
一瞬、亨の視界が白濁、大きくよろめき、そのまま竃に足を突っかけ転倒した。

「ぐ…うぅッ…」

既に亨の疲労は頂点に達していた。身体が思うように動かなず、
起き上がることすらままならない。さらに、竃の釜やら、薪やらを
ひっくり返し、大きな音を立ててしまった。もし周囲に誰かが――
――それもこの死合に乗っている人物が、周囲にいるとすれば、
自分は格好の餌食である。

(まずい…この場からも離れねば――――)

這ってでも場所を移そうと、顔を上げた亨の眼前に――

―――あるはずのないものが見えた。
55 ◆r1XMkC9yjA :2009/03/13(金) 20:31:46 ID:3Bhgi1BU


「……っ!私はっ…!?」

いつの間にか意識を喪っていた亨が目を覚ました時、周囲はまだ夜の闇に包まれていた。
どれほど、眠っていたのかは解らないが、誰にも襲われなかった幸運を亨は神仏に感謝した。
そして自らの身体の違和感に気がつく。

(いくらか楽になっている…)

まだ、頭はぼうっとしているし、疲労感、左腕の痛みも変わらない。
だが、濡れ鼠のままであるにも関らず先程までの寒気は無くなっており、
身体もなんとか起せるまでになっていた。そう月明かりの射す角度から考えても
そう長い時間寝ていたわけではないにもかかわらずだ…。

「これは……っ!?」

そこで亨は右手に通うほのかな温もりに気がつく。

その右手には闇の中であるにも関らず、ほんの僅かな…淡い光を放つ水晶の珠。
どういう仕掛けか、その珠の中にはうっすらと『孝』という文字が浮かんでいる。

(そうか…光は…)

意識を手放す直前、亨が見たものの正体はこの珠の放つ光であった。
竃から飛び出たのであろうか?この不思議な珠が一体、自分の身体にどう
作用したかは見当もつかないが、亨がこの珠に対して一つの結論を下す。
もし、白井亨が浮世の習俗に多少の興味を抱いていれば、この珠について、
また別の考察を巡らせたのであろうが、兵法の秘伝書や漢籍ならばいざしらず
ひたすら剣を究める事のみを求めたこの男に、婦女子に人気の読本の内容を
知れという方が無理な話であった。

―これぞ、神仏が我に与え給うた天佑神助であると―
56 ◆r1XMkC9yjA :2009/03/13(金) 20:32:59 ID:3Bhgi1BU


部屋にあった町人の着流しに着替え、掻巻を羽織った白井亨は
隅に立てられた衝立の陰に身を潜めていた。片膝を突いて
いつでも立ち上がれる体制を取り、右腕に握った竹刀を
床に突き立て、ただひたすら息を潜めていた。

楽になったとは言え、左腕はまだ鈍痛に苛まれ、疲労も取れてはいない。
おそらく、今、他者の襲撃を受ければひとたまりもないだろう。
だが、亨の目には確かな決意が宿っていた。ただでは死なぬ、
この試練に屈する事はないという決意が。

亨としては、やはりこの死合に乗るつもりは無かった。
これが如何なる者の課した試練か、これを確かめる。己のみの力で。
自ら徒に剣を振るうつもりも無い。だが―――――――

(―――先程のような事ではいけません…)

先程の柳生連也斎を称する男に不覚を取った。
所詮自分はお座敷剣法家である事を、思い知らされた。
自らに勝負を仕掛ける者には容赦をするわけにはいかない。
我も彼も「参った」の一言は吐かない、吐かせ無い。
勝負が生死に直結する命のやりとり。
例え、己が斃れる結果に終わろうとも、
真の剣客たる刺客を得るにはこの心構えで望もうと。

(と言っても、今の私には生死のやりとりをする道具は備わっておりませんが…)

今の亨はまさに牙折れ、爪を剥がれた龍である。
だが、その心の牙は鋼をも貫くほどに鋭く研ぎ澄まされていた。
57臥竜 ◆r1XMkC9yjA :2009/03/13(金) 20:34:05 ID:3Bhgi1BU
【とノ参 ドブ板長屋/一日目/黎明】

【白井亨@史実】
【状態】左腕骨折(回復中)、体力低下(回復中)
【装備】大石進の竹刀(切断されて長さは三尺程です)、町人の着流し、掻巻
【所持品】「孝」の霊珠
【思考】
基本:甘さを捨て、真の剣客になる
一:自ら、この死合を仕掛けたものの正体を掴む。他者とは馴れ合わない。
二:自ら勝負を仕掛けるつもりは無いが、仕掛けてきた相手には必ず止めを刺す。
三:命を落とすまで勝負を諦めない。本当に戦闘不能になれば、自害する。
四:もうしばらく休息を取ったら、武器を探す

【備考】※この御前試合を神仏が自分に課した試練だと考えています。
    ※珠の正体には気付いていませんが、何か神聖な物である事は感じ取っています。
    ※八犬士の珠は、少なくとも回復、毒消しの奇跡を発現出来ます。他の奇跡が発現するか、
     邪心を持つ者が手にすればどうなるか、また亨の怪我が完治するまでどの程度かかるか
     この場に参加する二犬士以外の珠が存在するかは、後続の書き手さんにお任せします。
58 ◆r1XMkC9yjA :2009/03/13(金) 20:35:28 ID:3Bhgi1BU
短いですが投下以上です

実は3日前には完成していたんですが、亨の呪いかシンクロニシティか
リアルで風邪ひいて寝込んでしまっていたんだぜ!
59 ◆L0v/w0wWP. :2009/03/13(金) 20:36:43 ID:3Bhgi1BU
ぎゃああっ!別トリを使ってしまった
今日はもう寝ます;
60創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 22:13:06 ID:SkGAhLQI
投下乙よ喃。
心が人で有り続けるまま斬る覚悟を作るのは難しき事。
その苦難の道に幸あれ。
61創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 22:21:24 ID:oROXXD0i
投下乙
白石さんはやっぱり求道の人だな。
それ故に苦しんでる訳だが…

風邪はお大事に
62 ◆F0cKheEiqE :2009/03/14(土) 10:35:32 ID:zdFgFysj
すみません。一日だけ、予約延長お願いします
63創る名無しに見る名無し:2009/03/15(日) 23:28:14 ID:Kpzezw2f
で、締め切り過ぎたよ
64創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 04:29:31 ID:QIlBwksr
今日中になんの連絡も無ければ破棄という事で
規制なら避難所に落とせるはずだし、延長は仕方ないとしてもその期限くらいは守って欲しいです
65創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 11:49:46 ID:G2vws9Z0
 別に予約期限過ぎたって破棄しなくても良いんだよ。
 ただ、他の人が予約したら、優先権を無くすだけ。
66創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 12:11:30 ID:pnrlm/Fo
なんにせよ、期限を過ぎても連絡をよこさない書き手には違いないな。
67創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 19:14:47 ID:Zpv8xVhV
あとはしぐれと響のリミットも今日までか。
…連絡あるよね?
68創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 19:48:13 ID:LVtJR8wp
>>65
期限が切れてるとはいえ、他人が予約してるパートに上書きで予約するのはかなり勇気が要るような
期限を過ぎたらすっぱりその予約は破棄ってことにした方がいいんじゃない?
69 ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 20:43:47 ID:fFqQdVyD
申し訳ございません。
諸事象により、報告も出来ず、大幅に投下が遅れてしまいました。
深くお詫び申し上げます。

それで、遅ればせながら、
柳生十兵衛、志村新八、伊藤一刀斎、近藤勇、投下します
70昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 20:45:03 ID:fFqQdVyD

『 ある日老いたる紀昌が知人の許に招かれて行ったところ、その家で一つの器具を見た。
確かに見憶えのある道具だが、どうしてもその名前が思出せぬし、その用途も思い当らない。
老人はその家の主人に尋ねた。それは何と呼ぶ品物で、また何に用いるのかと。
主人は、客が冗談を言っているとのみ思って、ニヤリととぼけた笑い方をした。
老紀昌は真剣になって再び尋ねる。
それでも相手は曖昧な笑を浮べて、客の心をはかりかねた様子である。
三度紀昌が真面目な顔をして同じ問を繰返した時、始めて主人の顔に驚愕の色が現れた。
彼は客の眼を凝乎と見詰める。
相手が冗談を言っているのでもなく、気が狂っているのでもなく、
また自分が聞き違えをしているのでもないことを確かめると、
彼はほとんど恐怖に近い狼狽を示して、吃りながら叫んだ。

「ああ、夫子が、――古今無双の射の名人たる夫子が、弓を忘れ果てられたとや? 
ああ、弓という名も、その使い途も!」 』

中島敦『名人伝』

71昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 20:48:20 ID:fFqQdVyD


「新八…人を斬らない剣があり得ると思うか?」
そんな柳生十兵衛の問いに、志村新八は思わず渋い顔をした。
「人を決して斬らない」と言う自身の心持を述べた事に対する返答がこれだったからである。

今二人がいるのは「ろノ肆」の橋の上で、彼ら以外に人影は見えない。
ただ月だけが、天上より彼らを照らしていた。

「武士は…」
十兵衛は、腰に差した打刀の柄に右手を添えながら、一人言のように呟いた。

「つまるところ、こういうモノだ」
そう言って引き抜かれたのは、腰間の秋水である。
中空に屹立した氷面(ひも)に、月影がヒラリと煌めく。

十兵衛はなおも言った。

「武士とは凶器そのものだ…何せ人を斬るのが仕事だからな」
「ましてや剣客という生き物は…」

「・・・・・・」
十兵衛の横顔を無言で見つめていた新八だったが、
十兵衛の視線につられる様に輝く刀身に眼を移した。

十兵衛に支給された打刀は、別段優れた名刀という訳ではなかったが、
研ぎ澄まされ、磨き上げられた刀身は、使い手が十兵衛であるためか、
ある種の妖気、鬼気と言えるような空気を発しているように見える。
鎬に写る月光が、キラリと反射して目に入ったとき、思わず新八は寒気の様な物を体に覚えた。

感じるはずの無い、錆びた鉄の様な血臭を、確かにその鼻に感じたからであった。
果たしてそれは、抜き身の刀から漂って来たのか、それとも十兵衛の体から漂って来たのか…
新八には如何にも判然としなかった。

「でも…」
明らかに歴戦の戦士たる十兵衛の言葉は、新八の心にズシリと響いたが、
それでもなお、新八はそれに反論せんとする。
しかし…

「…まあ、例外と言う物もあるにはあるのだがな」
「えっ?」

「新八…」
十兵衛は新八に向き直りながら言った。

「飛衛と紀昌の話を知っているか?」
72昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 20:49:05 ID:fFqQdVyD


昔、唐土(もろこし)に飛衛という者あり。
飛衛は射術の名手で、当今弓矢をとっては及ぶ者がないと思われた。
百歩を隔てて柳葉を射るに、百發百中する達人であったという。
その飛衛の元に、趙の邯鄲の都に住む紀昌なる青年が訪ねてきた。
天下第一の弓の名人になろうと志を立て、己の師と頼むべき人物を物色する所、
この飛衛において他無しと思ったそうだ。
飛衛はこの野心溢るる青年の弟子入りを許した。

五年と半年ほど経ったころ、尋常ならざる鍛錬の結果、
紀昌は射術の奥儀秘伝を剰すところなく飛衛に授けられ、
遂に、師より学び取る事がなくなるまでに至った。

ここで、紀昌は邪心を抱いた。
自分が唯一無二の当代無双の弓の使い手になるために、
ただ一人自分と比肩しうる師、飛衛を弑せんとする邪心である。

そして遂に、ある時不意を討って紀昌は飛衛を弓で襲い、飛衛も弓でこれに応じた。
しかし両者の実力は全くの互角で、二人互いに射れば、
矢はその度に中道にして相当り、共に地に墜ちてしまい、落ちた矢は軽塵をも揚げなかった。

結局、双方矢が尽きてしまい、決着は付かなかった。
結果、紀昌はかくも偉大な師を弑さんとした己を恥じ、
飛衛は弟子の技がここまでの域に達していたこと、そしてそれを退けた己の技量に感動し、
二人は互いに駈寄ると、野原の真中に相抱いて、しばし美しい師弟愛の涙にかきくれた。

しかれども、紀昌の邪心を知った飛衛は、この危険な弟子の気を転ぜさせるために、
新たな目標を紀昌に与える事にした。

飛衛は言った。
『もはや、伝うべきほどのことはことごとく伝えた。
汝がもしこれ以上この道の蘊奥(うんのう)を極めたいと望むならば、
ゆいて西の方、大行(たいこう)の嶮(けん)に攀(よ)じ、霍山(かくざん)の頂を極めよ。
そこには甘蠅(かんよう)老師とて古今を曠(むな)しゅうする斯道の大家がおられるはず。
老師の技に比べれば、我々の射のごときはほとんど児戯に類する。
汝の師と頼むべきは、今は甘蠅師の外にあるまい』
と。
73昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 20:51:06 ID:fFqQdVyD


十兵衛と新八が、「ろノ肆」の橋の上で兵法談義をしていたのと丁度同じ頃、
「とノ漆」、「血七夜洞」のある離れ小島と、本島を結ぶ自然の橋の上で、
実に奇怪な立ち合いが展開されていた。

対峙しているのは、
袖口に山形の模様を染め抜いた独特の羽織―新撰組の制服―を纏った、
精悍な顔をした三十の頭と思しき男と、
色のくすんだ帷子一枚しか着ていない、年の頃六十ぐらいの汚い爺である。

五条大橋で対峙する弁慶と牛若丸の様に、
本島と小島を結ぶ松の並木が続く隘路で、周囲の空気を歪める程の剣気を辺りに放出しながら、
四、五間ほどの距離を取って対峙しているのである。

上で、この立ち合いを奇怪と評したが、
何故かと言えば立ち合っている二人のうち一方しか刀を手にしていないのである。

刀を構えているのは新撰組の男の方で、
構えは左の肩を引き右足を前に半身に開いた『平青眼』の構え、
得物は一目で名刀と解る大業物、古備前派の刀工、包平が作、『大包平』であった。

一方爺の方は完全な無手で、両手はおろか腰にすら寸鉄一つ帯びている様子がない。
しかも、何か構えているわけでもなく、高い背をピンと伸ばし、大股で棒立ちしているだけだ。
新撰組の男が斬り込めば、忽ち大根の様にブツ切りされてしまいそうだが、
どういう訳か、新撰組の男は爺に斬り込む様子が見えない。

否、「斬り込まない」のでは無く、「斬り込めない」のだ。

新撰組の局長、近藤勇は、その精悍な顔に冷や汗を浮かべ、老人を凝視していたが、
不意に、痛みを感じたがごとく顔を歪めた。
当然の事ながら、両者に接触は一切無く、双方ともに何もしていない様にか見えない。
が、

(このジジイ・・・ッ!)
近藤は内心で毒づいた。
(『またも』俺を殺しゃぁがった…)
74昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 20:52:33 ID:fFqQdVyD


『紀昌はすぐに西に向って旅立つ。
その人の前に出ては我々の技のごとき児戯にひとしいと言った師の言葉が、彼の自尊心にこたえた。
もしそれが本当だとすれば、天下第一を目指す彼の望も、まだまだ前途程遠い訳である。
己が業が児戯に類するかどうか、とにもかくにも早くその人に会って、
腕を比べたいとあせりつつ彼はひたすらに道を急ぐ。
足裏を破り脛を傷つけ、危巌(きがん)を攀じ桟道を渡って、
一月の後に彼はようやく目指す山顛(さんてん)に辿りつく。

気負い立つ紀昌を迎えたのは、羊のような柔和な目をした、しかし酷くよぼよぼの爺さんである。
年齢は百歳をも超えていよう。腰の曲っているせいもあって、白髯は歩く時も地に曳きずっている。

相手が聾(ろう)かも知れぬと、大声に遽だしく紀昌は来意を告げる。
己が技の程を見てもらいたいむねを述べると、あせり立った彼は相手の返辞をも待たず、
いきなり背に負うた楊幹麻筋(ようかんまきん)の弓を外して手に執った。
そうして、石碣(せきけつ)の矢をつがえると、
折から空の高くを飛び過ぎて行く渡り鳥の群に向って狙いを定める。
弦に応じて、一箭(いっせん)たちまち五羽の大鳥が鮮やかに碧空を切って落ちて来た。

一通り出来るようじゃな、と老人が穏かな微笑を含んで言う。
だが、それは所詮「 射 之 射 」というもの、好漢いまだ「 不 射 之 射 」を知らぬと見える。』

75昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 20:54:50 ID:fFqQdVyD


「“不射之射”?」
新八は十兵衛に尋ねた。
「何なんですか、それ?」
新八は、自分の傍らを歩く男に、話の先を促す視線を送るが、

「新八、剣術とは何だ」
「何ですか急に」
逆に尋ねてきた十兵衛に対し、新八は少し面食らった顔をする。
「話の筋に関わりがあるんだ・・・・で、新八ならどう答える?」
「急にそんな事言われても…」
新八は視線を宙に向けながら頭をポリポリ掻いた。

「別に難しい事を聞いてるんじゃない。剣術という言葉の意味は何だ、と聞いてるだけだ」
「言葉の意味って…そりゃ、「剣」の「術」なんじゃないんですか?」
「そうだ、新八。剣術とは詰まる所…」
言うや否や、十兵衛は鞘に戻していた刀をスラリと引き抜き、
ヒラリと一つ、舞うように型を一つ演じて見せた。
月の光の魔力故か、白刃は宙で煌めき、それは大層美しく見えた。

「いか様に勿体付けても、百の言葉を重ねようようとも…」
「この世に数多ある剣術流派の殆どは結局…」
一通り舞って見せた後、再びスラリと刀を腰に戻し、
「『剣』の『術』…つまり太刀をどう振るか、体をどう運ぶか、と言う実に単純な小手先の技に過ぎん」
新八に向き直った。
「つまり…「射之射」、俺達が使うのは剣だから『剣之剣』かな?まあ、そういうものだ」
「“剣之剣”・・・・」
「でもな…それを、『剣之剣』を極めた先には、凡百の剣を超えた極致がある。それが…」
「それが…」
「『不射之射』、剣で言えば『離剣之剣』。これを柳生新陰流では「活人剣」、あるいは「無刀取り」と言う」

76昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 20:58:01 ID:fFqQdVyD


近藤勇が、この老人と出会ったのは完全な偶然である。
この離れ小島から本島へと向かう唯一の道でたまたま擦れ違ったのだ。

初めは、脇差すら帯びぬ、薄汚い格好の爺さんと、無視してすれ違う積りであった。
だがしかし…

(このジジイ…ただモンじゃねぇな…)
優れた剣客という者は、如何にそれを隠そうとしても、
その技の冴えが、何気ない立ち居振る舞いに現われてしまう物である。

自身も天然理心流の達人たる近藤勇は、眼前のこの老人が内に秘めた物をたちどころに見抜いていた。

「おい」
前を歩く老人を、近藤は乱暴に呼びとめた。
老人が振り向いた時には、近藤は既に大包平を構えていた。

(さあ、得物はねぇみてぇだが…どうするよ?)
視線でそう、老人に問いかけながら、近藤は獰猛な笑みを浮かべた。
そうして、八相の構えのままズリズリと間合を詰める。

「・・・・・・・」
老人は動かない。構えすらとらず、ただジッと此方を見つめているだけである。

六間、五間、四間、三間…

もはやあと一歩踏み出せば斬り込める間合にまで近藤は踏み込んだが、
依然、老人に一切の反応は無かった。

(見込み違いか…)
老人をかなりの達人と見た近藤だったが、ここまで反応が無いと、
ひょっとする勘違いだったかも知れないと、少し失望する。

(どれ、ちょいと試して…)
近藤が、一足飛びに老人に仕掛けようとした正にその時であった。

『近藤の頭部は真っ向唐竹割にされていた』

「!」
近藤は確かに自分の『死』を感じ、一瞬正体を失うも、
すぐにはっと気付いて後方へバッと飛び退った。

もし仮に、この立ち合いを、剣術に何の心得の無い者が見ていれば、
何が起こったか理解できず、ただぽかんと口を開けて見てるだけだろう。
逆に、剣術に長じた者が見れば近藤と同じ光景…つまり斬られた近藤の幻を見ただろう。

「ジジイっ!」
近藤が歯ぎしりをしながら老人を見た。
老人の様子は依然不変である。

(このジジイ…)
近藤は我が身に何が起こったかを理解した。
(殺気で俺を殺しやがった!)
ギリリと近藤の口の中で異音が響いた。
77昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 21:00:35 ID:fFqQdVyD



『ムッとした紀昌を導いて、老隠者は、そこから二百歩ばかり離れた絶壁の上まで連れて来る。
脚下は文字通りの屏風のごとき壁立千仭、遥か真下に糸のような細さに見える渓流を、
ちょっと覗いただけでたちまち眩暈を感ずるほどの高さである。
その断崖から半ば宙に乗出した危石の上につかつかと老人は駈上り、振返って紀昌に言う。
どうじゃ。この石の上で先刻の業を今一度見せてくれぬか。
今更引込もならぬ。老人と入代りに紀昌がその石を履んだ時、石は微かにグラリと揺らいだ。
強いて気を励まして矢をつがえようとすると、ちょうど崖の端から小石が一つ転がり落ちた。
その行方を目で追うた時、覚えず紀昌は石上に伏した。
脚はワナワナと顫え、汗は流れて踵にまで至った。
老人が笑いながら手を差し伸べて彼を石から下し、
自ら代ってこれに乗ると、では射というものをお目にかけようかな、と言った。
まだ動悸がおさまらず蒼ざめた顔をしてはいたが、紀昌はすぐに気が付いて言った。
しかし、弓はどうなさる? 弓は? 老人は素手だったのである。
弓? と老人は笑う。
弓矢の要る中はまだ射之射じゃ。不射之射には、烏漆の弓も粛慎の矢もいらぬ。

ちょうど彼等の真上、空の極めて高い所を一羽の鳶が悠々と輪を画いていた。
その胡麻粒ほどに小さく見える姿をしばらく見上げていた甘蠅が、
やがて、見えざる矢を無形の弓につがえ、満月のごとくに引絞ってひょうと放てば、
見よ、鳶は羽ばたきもせず中空から石のごとくに落ちて来るではないか。

紀昌は慄然とした。
今にして始めて芸道の深淵を覗き得た心地であった。』

78昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 21:04:48 ID:fFqQdVyD



近藤は再び、開いた間合を詰めなおす。
今度は平青眼の構えで、大股に間合を縮めて行く。

六間、五間、四間…

しかし今度はここで近藤の動きが止まった。
近藤の顔に、ツゥーと一筋の冷や汗が垂れた。

近藤は再び見た。否、見せられたと言うべきか。
斬り込んだ自分の太刀が「切落とし」で逸らされ、次の瞬間には袈裟掛けに斬り殺される光景を。
老人は依然動かない。ただ眼だけが炯々と輝いている。

(あの眼に殺されたか…)
近藤の口元から血筋が一つ落ちた。
思わず口元を噛み切っていたのだ。



無刀にて、剣気にて、殺気にて人を殺しうるか。
意外にも、それを可とする実例は多い。

『「不射之射」という故事が中国には存在するが、類似する技巧は我が国の剣術にも見える。
「武芸叢談」の「無刀トイフ事」の項を見れば、

無刀ニテ人ヲタオシウルカト言ワバ、ソレハ可ナリ
卜伝ハ、己ガ兵法ヲ「無手勝」ト号ス
卜伝と伊勢守ハ伊勢ニテ無刀ニテ試合、終世、勝負ハ付カヌト聞コエニケリ
又、慶長、元和、寛永ニオオイニ栄エシ虎眼流ニハ、「晦シ」ナル技アリ
刀ヲ両手デ持チ、上段ニ構ヘ、片手ノミ放シテ、其ノ方ノ腕、先ニ振リ下ロシニケリ
サスレバ相手、キラレタト感ジ、格下ナレバ気死ニスラ追イ込ムト聞コエケリ
又、二階堂平法ニハ、「心之一方」なる技アリ
曰ク、見ルダケデ相手ヲ竦マセシメル技ダトイフ
松山主水、鵜堂刃衛ナドガ使ヒ手トシテ著名ナリ
マコト、神妙ナル技ナリヤ…

と、ここ挙げた個所のように、現在では失伝した虎眼流の技など、
幾つかの剣術に跨って詳しく説明されている。
一説によると、柳生新陰流の「活人剣」も、これに類する技法だった言われる。
また、柳生十兵衛は、金春竹阿弥の能舞よりヒントを得、「離剣之剣」なる技を編み出し、
宝蔵院流、丸橋忠弥を無手にて退けたと言うが、必ずしも史実であるとは言えない。』

民明書房刊『剣風録』衛府零史計・著

と、上の引用文にあるように、「武芸叢談」などの史料にも言及されている。

そして、この資料の記述を裏付ける戦いが、
近藤勇と老人の間で行われているのであった。
79昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 21:08:01 ID:fFqQdVyD


近藤勇は、大の字になって仰向けに寝転んでいた。
傍らに、地面に突き立てられた大包平がある。

結局、近藤は一太刀も老人に斬り込むこと無く、
十度も『殺される』羽目になった。

相手も真剣を持っていれば、地面では無く、血の海に臥していた事だろう。
完全な敗北と言って良かったが、不思議と近藤は爽やかな心持であった。

「トシぃ・・・」
近藤は、この兵法勝負の会場の何処かにいるはずの、相棒の名前を呼んだ。

「たまんねぇな…あんな化け物…京都でも逢わなかったぜ…」
近藤は、野獣の様な獰猛な笑みを空へと浮かべた。

「楽しぃなぁ…」
「楽しぃなぁ…」
「楽しぃなぁ…」
「楽しぃなぁ…」
「楽しぃなぁ…」

「本当に楽しぃぜぇ」

ムクリと、近藤は立ち上がった。
地面に刺さった業物を引き抜き、鞘に戻す。

「待ってろ爺さん」
近藤は老人が立ち去った方向を見た。

「次会った時は『真剣勝負』だ」

【とノ漆 隘路/一日目/黎明】

【近藤勇@史実】
【状態】健康 左頬、右肩、左足にかすり傷
【装備】大包平
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:この戦いを楽しむ
一:強い奴との戦いを楽しむ (殺すかどうかはその場で決める)
二:老人と再戦する。
三:土方を探す。
【備考】
死後からの参戦ですがはっきりとした自覚はありません。
80昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 21:21:55 ID:fFqQdVyD
すみません。
一旦投下を中断します。

一〇時ごろより再開します
81創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 22:12:48 ID:QIlBwksr
まだー
82昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 22:13:30 ID:fFqQdVyD
※再開します



老人、伊藤一刀斎は、立ち合った変わった羽織の男、
近藤勇の姿が見えなくなる所まで離れた事を確認すると、
ヘナヘナと力なく地面に腰を下ろした。
背中は冷や汗でグッショリと濡れている。

(助かった…)
一刀斎は安堵の溜息をついた。

相手が真面目な奴で良かったと一刀斎は心底思った。
あの「無刀勝負」…
あれは相手が剣にある程度通じていて、
尚かつ、剣の勝負と言う物にある程度拘りを持った相手にしか通用しない。

剣が解らぬ素人は、一刀斎の放つ、術としての殺気の意味を理解できず、
ただ単に薄気味悪い程度の印象しかこちらに持たない。

また、例え殺気の意味を理解できたとしても、
其れを意に介さない人間にもまた、やはり意味がない。
剣を人殺しの術としか見ない輩なら、最初は兎も角、二回目以降は構わず突っ込んでくる。
羽織の男がそう言う類の男だったら、自分は斬られていたかもしれない。

あの羽織の男は、剣と言う物にかなり拘りを持った奴だった。
だから、一刀斎の「無刀勝負」に律義に付き合ってくれたのだろう。

「若い時の俺にそっくりな奴だったな…」
羽織の男の顔を思い出しながら、一刀斎はそんな事を思う。
多分、剣が好きで好きで仕様がないのだろう。
抜き身の刀の様な、ギラギラした殺気…
まるで昔の自分を見ているようだった。
だからかも知れない。逃げればいいのに、「無刀勝負」などしてしまったのは…

「俺もまだまだだなぁ…」
一刀斎はポリポリ頭を掻いた。
剣を捨てると言うのに、自分はまだ剣にどこか執着している。
悟りに至るまではまだ遠いのかもしれない。

「行くか」
一刀斎は立ちあがると、再び寺を目指して歩き出した。

【とノ漆 本島と離れ小島の境界/一日目/黎明】

【伊藤一刀斎@史実】
【状態】:健康
【装備】:なし
【所持品】:支給品一式
【思考】 :もう剣は振るわない。悟りを開くべく修行する
一:俺もまだまだだなぁ…
二:伊庭寺に向かう
三:挑まれれば逃げる
【備考】
※一刀流の太刀筋は封印しました
83昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 22:17:11 ID:fFqQdVyD



「俺はな…」
十兵衛は、立ち止まって何処か遠くを見つめるような顔で述懐する。
「少しばかり人を多く斬りすぎた…」
新八は無言でその横顔を見た。

「無論、故あっての事だ。だから後悔はしない」
「俺はあくまで武士さ。だからこの先も故あれば人を斬るだろう」
「だが、出来る限り斬らずに済ませたい」
「だから…」
十兵衛は月を見上げた。

「だから…人を斬らない剣、「活人剣」や「無刀取り」を色々と研鑽してきたんだが…」
十兵衛の脳裏に一人の老剣士、父宗矩の姿が浮かんだ。
「今度ばかりはそれを試している暇もなさそうだ…」

空より視線を前方に戻して、十兵衛は再び歩き始めた。
新八は、どこか悲しみを感じさせるその背中を見た。

何故か、その背中は、彼が何だかんだで敬愛する銀髪天然パーマの男と重なって見えた。

【はノ肆 街道/一日目/黎明】

【柳生十兵衛@史実】
【状態】健康、潰れた右目に掠り傷
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:柳生宗矩を斬る
一:城下町に行く
二:信頼できる人物に新八の護衛を依頼する

【志村新八@銀魂】
【状態】健康、決意
【装備】木刀(少なくとも銀時のものではない)
【所持品】支給品一式
【思考】基本:銀時や土方、沖田達と合流し、ここから脱出する
一:銀時を見つけて主催者を殺さなくていい解決法を考えてもらう
二:十兵衛と自分の知っている柳生家の関係が気になる
三:「不射之射」か…
【備考】※土方、沖田を共に銀魂世界の二人と勘違いしています
※人別帖はすべては目を通していません
※主催の黒幕に天人が絡んでいるのではないか、と推測しています
84昔飛衛と言う者あり ◆F0cKheEiqE :2009/03/16(月) 22:18:18 ID:fFqQdVyD
以上投下終了。

遅れてしまって申し訳ありませんでした
85創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 23:36:36 ID:Zpv8xVhV
投下お疲れ様です。
しかし、そこで民明書房刊が出て来ますか…。

この書き手、天稟が有りおる。
86創る名無しに見る名無し:2009/03/17(火) 15:08:46 ID:nlsAAyGu
 あまりに自然すぎて、最初、民明書房に気がつかなかった!
87創る名無しに見る名無し:2009/03/18(水) 17:46:52 ID:/Jh7peN5
今残っている予約はいくつある?
88創る名無しに見る名無し:2009/03/18(水) 20:17:15 ID:lyNnZF+P
>>87
前スレ落ちたから確実ではないけど、
高嶺響、香坂しぐれの予約が1つあって、既に期限切れだったはず
89創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 11:46:28 ID:d7it6enw
ところで衛府零史計って何て読んだらいいんだ?
えふれいしけい?
90創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 14:04:49 ID:UU8sDqxd
ヒント:トリップ、当て字
91創る名無しに見る名無し:2009/03/22(日) 13:18:41 ID:HPUO6lm9
気が早いかもしれないけど、ここでは放送とか死亡エリアとかどうするの?
92創る名無しに見る名無し:2009/03/23(月) 05:45:20 ID:WFQuPe/v
放送しても参加者たちはちゃんと聞くのかな、と心配になっちまうな。
未だに人別帖を読まずにいる人もいるくらいだし。
93創る名無しに見る名無し:2009/03/23(月) 20:33:53 ID:ycxWREnk
人物帖読んでないの何人いたっけ?
沖田もきちんと読む前に投げつけたし、意外と多いよな?
94創る名無しに見る名無し:2009/03/24(火) 22:28:11 ID:BbarU19X
ざっと見たところ、読んでない明確な描写があるのは十数人ってとこか。
他にそもそも読みようがない人が二人(Wセイゲン)。
明確に描写されてないから読んだとも読んでないともわからない人もいるし、
読んだけど全く信用してなかったり特定の人物にしか興味を持ってない人も多い。

人別帖を持ってないのは多分五人(沖田、以蔵、伊勢守、白井、弥九郎)。
伊勢守や沖田は同行者が持ってるから見せてもらえるけど、他の三人はどうしようもないな。
95 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/25(水) 00:08:27 ID:JQxfqXh2
屈木頑乃助、佐々木小次郎(史実)で予約いたします。
96創る名無しに見る名無し:2009/03/25(水) 00:25:49 ID:QBrsg/JW
予約キタ!これでかつる!
97 ◆KEN/7mL.JI :2009/03/26(木) 18:39:44 ID:JVJjYyeb
 富士原なえか、清河八郎、佐々木只三郎、で、予約させていただき候…。

98 ◆KEN/7mL.JI :2009/03/26(木) 23:09:03 ID:JVJjYyeb
 ただ今より、 富士原なえか、清河八郎、佐々木只三郎を投下させていただきたく候。
 結果、海岸沿いに進むことになった理由は、主に次の二つだ。
 一つは、月明かりしか無い深夜故、山間を進んでは危険であると言うこと。
 もう一つは、海岸側からの襲撃を警戒せずに済むと言うこと。
 富士原なえかの事を、清河はおそらくは剣術の心得もあるであろうとは見たが、いかんせん女性、しかも若い。
 清河の記憶の中では、例えば千葉道場分家、千葉定吉が二女のさな子などは、たしかになかなかの手練れ。
 特に彼女の薙刀の腕前などには目を見張るものがある。
 しかし、彼女に比類する女剣客などが、そうそう居るものではないとも思っている。
 だから清河にとって、同行しているなえかなどは保護すべき弱者。いや、有り体に言えば足手纏い以外の何者でもない。
 まして、路なき山野を進むとなれば、どれほどの時間が掛かるものか分かったものではない。
 気力、体力の消耗や、道に迷う可能性を考えれば、ここは目立つ危険を差し引いても、周りの開けた、見通しの良い海岸沿いが当然と言える。

 理路整然とした (勿論、その中になえかを 「足手纏いだ」 等という表現は一切無い)清河の行動指針に、成る程たしかに、と納得しつつも、なえかの脳裏には別の考えがあった。
 これは、ここに来た当初からぼんやりとは考えてはいたことなのだが、つまるところこの変事は、彼女の祖父による「度が過ぎた悪ふざけ」なのではないか、という疑問だ。
 祖父・全重郎は日本でも有数の、いや、世界でも有数の資産家であり、そして有り体に言えば奇人変人の類であった、
 有り余るほどの資金と、そして有り余るほどの家族愛とで、世間一般の常識からも、そしてなえか自身の常識からも外れた、とんでもないことをしでかすのだ。
 特殊なトリックで人の首が切られたかに見せる演出など確かにやり過ぎだが、そこまでのやり過ぎをしないと断言出来ない自分もいる。
 なえかにとって、「所謂金持ち」とは祖父・全重郎の様な存在を指し、そしてそんな常識はずれな世界とはなるべく関わらずに、ごく普通の一般的女子高生としての青春を謳歌したいというのが、彼女の切なる願いである。
 したいのだが、とはいえ蛙の子は蛙であり、その孫も又蛙。
 なえかの望んでいる「ごく普通の、世間一般の常識的世界」の観点からすれば、彼女もまた、ちょっとした奇人変人そのもの。
 だから、こんな異常時においても、さほど普段のペースが崩れていないのだ。
 
「それで、そのときに近藤さんや芹沢さんとかとは別れたんだよね?」
「うむ。あ奴らは結局の所、大儀を解さず小利に動く小物。天下国家の事も勤王精神も無い俗物だったからな」
 道すがら、なえかの問いに傲然と、或いは堂々とした態度で清河はよどみなく応える。
 なえかはごく普通の一般的女子高生としては過剰な程度に、戦国、幕末の剣士剣客マニアである。
 教科書通り一遍以上の、それでいてかなり偏った歴史知識が豊富なのだ。
 北辰一刀流の使い手であり、論客。
 勤王攘夷の志士でありながら、幕府を騙して将軍守護のための浪士隊を組織させ、近藤、芹沢等の反発に合いはしたが、それら浪士を攘夷の為の尖兵に使おうとした大胆な策謀。
 そして、暗殺に散った運命。
 それらを、なえかは知っている。
 その、なえかにとっては歴史上の、或いは物語の中の人物である清河八郎本人と名乗る男が、目の前を歩いているのだ。
 なんとも奇妙な興奮がある。
 もしこれが本当に清河八郎なら、なえかは過去の剣客と対面している事になる。映画スターに会うことなどよりも、遙かに興奮する体験だ。
 もしこれが、祖父・全重郎の雇った役者か何かなら、それはそれで徹底している。
 これだけ清河役に入り込んで演じられると言うのなら、珍しくも祖父・全重郎のお遊びとしては、ちょっとばかり嬉しいプレゼントだろう。
(いや〜、すごいね。すごいよ、本当。何聞いてもすらすら答えてくれるし。
 清河八郎って、もうチョット粗暴っていうか、ゴーマンでイヤミーなイメージもあったけど、でもこれはこれでピッタリくるしなぁ〜…)
 このときのなえかは、あたかも夢の如き異変の連続に、先の白州で起きた惨事や、殺し合いという宣言の意味を、全く現実的には考えられてはいなかった。
 
 
 清河八郎はというと、なえかのその天真爛漫さと、同時に異常なまでの情報通ぶりに驚きと不審を感じている。
 なえかの聞いてくる事柄は、そのほとんどが清河の行いを熟知してのものであり、庶民はもとより、清河を警戒し探っていたはずの幕閣上層部ですら知っていたとは思えない。
 さらには、別れた浪士隊の残りの面々が新選組と名を変えて会津藩預かりで京都守護職に着いたことなど、清河自身も知らぬ事すら詳しい。
 それなりの年頃であろう娘ながら、髪も結わず童子のような短く刈った禿風なのもなにやら奇妙だし、この奇怪な状況にも臆したそぶりがない事も益々持って怪しい。
 かといって、密偵隠密の類かとも思えない。
 そういう人間がする、演技としてのあけすけさや人なつっこさとは何かが違う。そう思えるのだ。
 考えれば考えるほどに、一体この娘は何者なのかとの疑問が沸いてくる。
 とはいえ。
 自分とてまた、既に死したる身。
 年端もいかぬ娘が、世の諸事情はもとより、政変政争の詳細に精通していることも怪しければ、死した、或いは死に瀕するほど深く切り込まれたはずの自分自身がこうして生きていることも怪しい。
(まったく、全てが万事、怪しいこと尽くめではないか)
 心中そうも考える。

 二度目の生。
 改めてそう明確な言葉にすると、実に怪しく、胡乱で、また頼りない。
 俺は本当に死んだのか?
 佐々木に斬られたという記憶はある。
 あるが、むしろこう大地を踏みしめ、潮風に当たり、月明かりに目を向けていると、あたかもその記憶こそが幻で、端から自分は死んでなど居なかったのではないかと思えてくる。
 清河は、さて御前試合だ、殺し合え、等と言われて、成る程そうかと納得するような男ではない。
 むしろ清河は、己の意、己の信念で、縦の物でも横にして見せようという男だ。
 自分にはそれだけの能力があり、自分の命にはそれだけの価値がある。
 純粋に、ただ純粋にそう信じている。
 たとえ一度死んだのだとしても、或いは死んだという記憶がまやかしだとしても、その清河の本性それ自体が変わることはとうていないだろう。
 だが果たしてこの、怪しきことだらけの状況で。
 何を捨て何を負うべきか ―――。
 振り返り、昂揚したかの様に話し続けている富士原なえかを見やりつつ。
 一人思案しながら、清河は海沿いの路無き路を進んでゆく。

 結果、呂仁村址へと向かう進路を通り過ぎてしまったのは、そういう理由からだ。

◆◆◆

 先程、富士原なえかと祖父・全重郎を、共にちょっとした奇人変人の類と記したが、その点に関して言うならば、清河八郎とて例に漏れないと言える。
 東北は出羽国庄内藩出身の彼は、大老井伊直弼の暗殺で知られる桜田門外の変に触発され、本格的な尊皇攘夷運動に邁進することになる。
 幕末期に尊皇攘夷運動に奔走した志士は多くいる。
 しかしその多くは、土佐勤王党の武市半平太、薩摩精忠組の大久保一蔵に西郷吉之助、長州、松下村塾門下の高杉晋作等に、肥前佐賀奥村五百子や、肥後熊本の河上彦斎など、所謂西国の、もとより反徳川気質の強い外様の藩から現れている。
 唯一、水戸藩などは江戸徳川家に対する近親憎悪的な敵対心から、黄門様として知られる水戸光圀が確立した異常なまでの尊皇思想である水戸学によって、まさに徳川家獅子身中の大敵としての尊皇攘夷派であったのだが、これは希なケースとも言える。
 庄内藩は、代々譜代大名の酒井家が藩主を務める、歴とした佐幕派大名の治める藩だ。
 戊辰戦争においても、会津藩が降伏するまで薩長官軍を相手に連戦連勝をし、負け知らずのまま降伏したという筋金入りだ。
 その中で、藩風に染まらず、かなり早い時期から尊皇攘夷運動を始めていたのだから、時節に対して早すぎるとも言える。
 それだけを取ってみても、清河八郎が相当な変わり者、一種の傑物であったことは間違いないだろう。

 同時に清河は、大変傲岸不遜な性格であったとも言われている。
 本格的な尊皇攘夷運動を始めるより以前、清河八郎は母を連れて、庄内藩清川村を出発し、江戸から京、大阪、奈良、日光、と、およそ東北から関東、関西をぐるりと巡る大旅行をしている。
 その記録を綴った日記、『西遊草』には、事細かく各地の名士と会った旨が残されているのだが、その内容がなかなかに辛辣な人物評でもあるのだという。
 そしてそれだけ他者に批判的でありながら、尊皇攘夷運動を始めてからもかなり精力的に多くの志士たちと交流をし、あたかも古代中国の縦横家の如く、弁舌巧みに、着実に人脈を広げていったのだ。

 同時期の人物で、傲岸不遜な人柄で知られていた者と言えば、河上彦斎が斬った佐久間象山などもそうだ。
 しかし彼には清河のような人脈作りの才など無く、あくまで唯我独尊。
 勝海舟や吉田松陰等一部の門下以外とは交流も少なく、まさに孤高の天才として生きていた。
 なんと言っても、幕末期の人物の中でも相当「人なつっこい」変わり者であった坂本龍馬からすら、いったんは門下になりつつも通い詰めた形跡がないことから、些か煙たがられていたのではと思われるほどなのだ。
 そう。象山の傲慢さは、天才故のものである。
 彼は紛れもなく天才であり、だからそうでは無い周囲に合わせられなかった。
 それが彼の傲慢さの所以であり、そして自身の頭脳を、日本国において比類なきものと称するのも無理からぬ事なのだ。
 清河は違う。
 彼も又確かに、一種の傑物であることは間違いない。
 しかし象山と較べるまでもなく、彼は天才という質ではなかった。
 だからこそ、弁舌を持って他者に取り入ることも出来たし、己の活動のために奔走するのも苦ではなかった。
 彼は学者肌の天才ではなく、多才な活動家だったのだ。

 清河の傲慢の根拠は、才にあるのではない。
 ただひたすら、清河の志そのものにあったといえる。
 象山は、自分は天才だから価値があると断言している。逆に言えば、天才でなければ己に価値はないと認めている。象山から才を取れば、ただの捻くれた厭世家だ。
 清河は天才ではない。多才だが、そこに価値があるのではない。
 価値のある志を持ち、価値のある行いをしているからこそ、清河は己の命の価値を誇れるのだ。
 言い替えれば、価値ある行いを辞め、価値ある志を捨てたとき、清河には価値がない。
 だから彼は、妻お蓮を連座させ、獄死させることとなっても、尊皇攘夷運動を辞めはしなかった。
 どれほどのものを失っても、どれほどの犠牲を払っても、価値ある志と価値ある行いを続けることが、清河の生き方であり、清河の命の価値そのものなのだ。

 或いはこうとも言える。
 彼は天下万民の未来のため尊皇攘夷運動に命を捧げていたのではなく、そもそも自らの命それ自体に、大儀を行う価値があると信じていたのだ、とも。
 自らの命の価値を心底信じていたからこその奔走であり、そして傲慢なのだ。
 象山は、己は天才だからこそ価値があると考えていた。
 清河は、ただ己がそこに在り、己の意に染むよう運動する事で、ただひたすら己の命の価値を耀かせる事が出来ると考えていた。そしてその輝きは、そのまま天下万民の輝きに繋がる、とも。
 まずは、己の行い、志には価値があるという傲慢な信念があってこその、尊皇攘夷運動であったのだ、と。
 一言で言うならば、理想家というよりは夢想家である。

 だから、彼は最後の詰めを誤った。
 将軍守護の名目で資金を集め浪士を束ね、それら目的もなく彷徨う者達に、自らの弁舌で尊皇攘夷思想を教え込めば、彼らを意のままに出来ると思い上がった。
 嘘をついて、騙して彼らを従えさせようとした、との意識は毛頭無い。
 それだけの価値ある志であり、それだけの価値ある行いなのだ。
 その大儀の輝きの前には、騙した、謀ったなどと言う事は、些末に過ぎない。
 彼の死が、佐々木只三郎による不意打ちで果てたのも、その点で言えば当然とも言えた。
 情勢を鑑みれば、幕府側との軋轢は必至。危険極まりない事は明白であったが、それは清河にとってさほどの意味はなかった。
 清河は最期まで、自分の命の価値、すなわち志と行いの持つ価値を疑わず、佐々木によって討たれるなどとは思っていなかったのだ。
 そしてこのときも、また。

 ◆◆◆

 なえかがその白刃の閃きを見たときには、既に身体は後ろに飛んでいた。
 反応したのではない。
 衝撃によって押され、つんのめり、地面に倒れていた。
 何が起きたか理解するよりも、鋼の打ち合う音が耳に入る。
 地に倒れ伏していた上体をなんとか起こし、暗闇を見据えると、そこには二つの黒い影がもつれ合う様にしていた。
 音がする。
 鍔迫り合い。地を蹴る脚。息。
 呼吸が荒くなり、心音が高まり、腹の奥からじわりと冷たい塊がわき上がる。
 なえかは刀を抜こうと柄に手を伸ばすが、身体を起こせぬまま真剣を鞘から抜き放つ等出来ない。
 身体が、意志を裏切る。
 指先。踵。膝。腰。立てない。力が抜ける。
 竦んでいるのか。
 竦んでいるのだ。
 歯噛みするほどに震えても、しかしなえかの身体は思うようにはならない。

 血が。
 血飛沫がなえかの頬に掛かる。
 生暖かく、鉄錆びた匂い。
 誰の血であろうか。
 清河のものか。
 或いは襲撃者のものか。

「走れッ!」
 鋭く、清河の声がした。
 す、と、顔の血の気が引き、震えが僅かに治まる。
 膝に力が入る。意志が、下半身へと伝達される。
「坂本君か、河上君を捜せ!」
 清河の声が、なえかの心に鋭く、強く響く。

 血が、なえかの頬に掛かる。
 白い羽織を、鮮烈な赤が彩る。
 違う。これは違う。これは、なえかがこれまでの人生で経験してきたあらゆるものと違う。
 祖父の仕込みでもない。手品奇術の類でもない。祖父の財産に纏わるもめ事でもない。
 殺し合いだ。ただの、ただの殺し合い。
 そのことを、頭ではなく、心でもなく、身体が識ってしまった。
 識ってしまったなえかの身体は、もはやいつも通りのなえかではいられなかった。
 
「走れッ………!!」
 ゾッとするほどに、それまでとは違う清河のか細い叫びが、遂になえかの身体に電流を走らせ、彼女の脚を動かした。
 なえかは走る。
 ただひたすらに走る。
 そのまま、少女は闇に消える。
 ただひたすらに走り、闇の中へと消え去る。
108創る名無しに見る名無し:2009/03/26(木) 23:57:04 ID:LRBeuzCO
支援
109創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 00:01:24 ID:NSKu9BJj
支援


 清河は既にかなりの血に塗れ、荒く肩で息をしていた。
 最初の襲撃。林の中から不意に飛び出してきた白刃の閃きを感じたのが、あと数秒遅れていたら、既に命はなかった。
 かわすと同時に、後ろにいたなえかを体当たりで飛ばし、そのまま刀を抜きはなって闇からの襲撃者に向き直る。
 佐々木只三郎。
 清河は衝撃とともにその顔を見る。
 つい先刻、自分を斬ったはず男の顔が、そこにあった。
 一度は自分を殺したはずの男の青白い貌が、月明かりに浮かび上がっていた。
 あたかも、亡霊を見るかのような憔悴した貌に、清河は奇妙なおかしみを感じる。
 俺も今、佐々木から見ればそんな貌をしているのだろう。

 佐々木は何も言わず何も語らず、ただひたすらに斬撃を加えてくる。
 それは講武所随一の剣士と謳われた佐々木にしては、かなり荒く雑なものであった。
 それでも清河は、その斬劇をかわし、或いは受けるのにかなりの神経を使う。
 荒く雑な攻めではあるが、息継ぐ暇もなく、畳み掛けるように打ち掛かってくるのだ。
 鍔迫り合いになり、それから一旦押し返して後ろに退く。
 迫りくる佐々木の切っ先をかわして小手を打ちに掛かるが、僅かに遅れた。
 肩口に受けた刃は、しかし鎖骨で弾かれ皮膚を滑る。
 
「走れッ!」
 おそらくは後ろに倒れているだろう少女に向けて、そう叫ぶ。
 叫ぶと同時に、再び佐々木の小手に狙いを定め、防戦一転、攻めに掛かる。
111創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 00:04:32 ID:NSKu9BJj
支援
「坂本君か、河上君を捜せ!」
 坂本龍馬。
 通っていた道場は違うが、同じ北辰一刀流門下で、最も信頼の置ける男。
 河上彦斎。
 西国の若者で、熊本藩に尊皇攘夷を説きに回った際知り合った、小兵にして鮮烈、純粋にして真摯な剣士。
 人別帳に見た、清河にとって重要な朋友達の名を告げる。
 この期に及んで彼らの名を叫んだとき、清河はかつて無いほどに力がみなぎるのを感じ、昂揚した。
 
 その清河の腹に、佐々木の剣先がずぶりと刺さる。
 低く構えた佐々木の剣は、清河の切っ先をかいくぐり、左脇腹に滑り込む。
 腸をやられた。
 灼熱した火箸を指し込まれたように熱い。
 ああ、そう言えば前に斬られたときも、こうだったなとぼんやり思った。
 佐々木は刃を回し、抉る。
 腹の中で、腸がねじ切られた。
 絶叫が喉元まで這い上がるが、奥歯を噛んで飲み込んだ。
 ここで悲鳴を上げれば、なえかは走れなくなる。
「走れッ………!!」
 我ながら、笑ってしまうほどにか弱い声で、叫びとも言えぬ叫びを絞り出す。
 又同じ男に殺されるとは、俺は何という間抜けだろうか。

 気配が去るのを感じる。
 少女は、なえかは逃げることが出来たようだ。
113創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 00:05:37 ID:NSKu9BJj
支援
 無垢。
 不意に、清河の脳裏にそう浮かんだ。
 そうだ、無垢だ。
 あの少女の中にあるそれは、ほんのりと明るく、闇に消えゆく清河の意識を照らす。
「蓮の花は、泥水に染まらずに香り高く咲いて、清らかだ」
 かつて、妻お蓮に言ったその言葉が、清河の周りに浮かんでいた。
 己の愚かさから連座させられ、獄死した妻、お蓮。
 その妻のことと、先程の少女のことが、交互に浮かんでは消えてゆく。
「俺は……」
 聞こえるだろうか。
 俺のこの声は、佐々木に聞こえているだろうか。お蓮に聞こえているだろうか。
 か細く絞り出されたこの声は、届いているだろうか。
「俺は、無垢なる花を、二度も散らせはせん……」
 聞こえてなどいないだろう。
 誰にも届いてはいないだろう。
 だが、それでもいい。

 小利を捨て、大義に生きて散った清河八郎は、再びの生において、大儀を捨てて小義に散った。
 清河を知るものも、また清河自身も、彼がただ一人の少女を生かすために死ぬなどとは、とうてい考えても居なかっただろう。
 
 ◆◆◆

 潮風が男の周りを渦巻き、何も残すことなく去ってゆく。
 血と臓物の匂いに咽せ、佐々木は咳き込んだ。
115創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 00:06:43 ID:NSKu9BJj
支援
 亡霊。
 亡霊が、佐々木の前で骸となり転がっている。
 俺はこの男を斬った。
 佐々木はそう己に言い聞かせる。
 俺はこの男を斬った。
 上意において討ち果たした。
 生々しくも、そう思い起こす。
 そして俺は ――― 今再びこの男を斬った。

「俺は清河を斬った」
 誰に言うでもなく、佐々木はそう吐き出す。
「俺は清河を斬った。
 二度、清河を斬った」
 次は ―――― 三度、清河を斬るのか?
 
 佐々木の意識の中に、清河と同行していた少女、富士原なえかの事などほとんど入っていない。
 居たような気もするし、居たとしてもどうでも良かった。
 佐々木はただ、湖の畔で呆然とすること暫く、特にあてもなく潮風に向かって歩き、雑木林から開けた海岸へと目を向けたときに、亡霊と出会ってしまったのだ。
 海沿いに、北より来たる影。
 月明かりに見える清河を見て、佐々木はただひたすら、遮二無二にそれを切り伏せ、討ち果たさねばならなくなっただけだ。
 その意味で言えば、清河がなえかを逃そうとしたことには、何の意味もなかった。
 なえかの存在など、佐々木にとっては端から無いも同じだったのだ。
117創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 00:07:51 ID:LRBeuzCO
支援

「俺は清河を斬った」
 再び、佐々木はそう叫ぶ。
「俺は清河を斬った。
 二度、清河を斬った」
 次は ――― 何度、誰を斬れば良いのだろうか?
 無明の暗闇の中、佐々木のその問いに答えるものはどこにもなかった。


【清河八郎@史実 死亡】
【残り七十五名】



【佐々木只三郎@史実】
【状態】健康、精神的肉体的疲労
【装備】ソハヤノツルギ、徳川慶喜のエペ(柄のみ)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の命に従い、優勝する
一:何故清河が…?
【備考】※この御前試合の主催者を徳川幕府だと考えています。
※斉藤一の名前を知りません。
※参戦時期は清河八郎暗殺直後です。


※ろの壱とはの壱の境界近くに、清河八郎の死体と支給品一式、一文字兼正@魁!!男塾 が放置。

【ろの壱 海岸近辺/一日目/黎明】

【富士原なえか@仮面のメイドガイ】
【状態】健康
【装備】壺切御剣@史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いはしない。
一:逃げて、坂本龍馬、河上彦斎を捜す…?

※逃げている方向は不明。
121創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 00:12:00 ID:NSKu9BJj
支援
122創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 00:13:51 ID:NSKu9BJj
支援
123 ◆KEN/7mL.JI :2009/03/27(金) 00:13:57 ID:zYhcfq/s
 以上、投下終了にて候。

 >>119 と >>120 は、順番入れ替えてください。
 まあ、現在位置と時間に関して、両者共通、という事です。


 したっけ、別な話。
 奥村五百子に関しての、ちょっと面白い記述が見つかったので、後でまとめwikiの参加者人別帳からの人物紹介を、
ちょろっと作っておこうかな、と思います。
124創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 00:14:17 ID:jDAcUVvr
乙でした
奇しくも史実の再現になってしまった訳ですが
残った二人にかなり影響を及ぼすのは間違い無いですね
125創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 00:36:11 ID:NSKu9BJj
投下乙

清河…
長生き出来る男ではないとは思っていたが、こんなにも早く…
なえかは生き延びたけど先行き不安だ…

龍馬はともかく彦斎は信頼できるとは言い難いしねぇ
佐々木も精神的に参ってきたみたいだし、先が読めない
126 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/27(金) 02:09:47 ID:0XmeZO/Q
規制に巻き込まれているのでしたらばに仮投下済ませました。
問題点あれば教えてください。大丈夫ならそのままに投下で。
そう言えば佐々木小次郎の隻眼の記述がほとんどない。もうちょい推考したほうが良かったかも…。
文章力誰か下さい…。
127創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 05:53:07 ID:jDAcUVvr
投下乙
自分は特に問題無いかと
いやーしかしやはり駄目だったか小次郎
運も無かったし、もう少しあとの時代から来てれば多少結果も変わったんだろうけど
そしてガマも原作の狡猾さと奇才ぶりが出てて良かった
これからどう動くか…気になる一作でした
128 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/27(金) 08:39:58 ID:0XmeZO/Q
では仮投下スレの代理投下お願いします。
一部文法に誤りがありましたが、かなり細かいのでそれはwiki掲載時に修正します。
129創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 16:14:23 ID:jDAcUVvr
残念だがわたしも規制されているのデス!
他の方宜しくお願いしたい
携帯から支援はします
130鳥獣戯剣 ◇YFw4OxIuOI 代理投下:2009/03/27(金) 16:21:29 ID:zYhcfq/s
蝦蟇は藪より這いずるように、その醜悪な姿を月光の元に晒す。
蝦蟇は道路を疾走しながら、あの名も知らぬ
(燕を落とすが如き返し刃から想像は付いたが)
美青年の醜態をその脳内で何度も反芻し、
その醜態に酔いしれていた。

美しき燕の剣がもう一つの、より大きな燕の剣に撃ち落とされる様は。
美しき燕が苦痛に呻き、地を転り回り苦痛にに泣き叫ぶ様は。
美しき燕がその端正な美貌を憤怒に染め、我を見失い悪鬼の形相と化す様は。

それは、とても快きものであった。
それは、とてもとても心を打った。
その光景だけが、天上の美酒にも等しかった。
己では到底届かぬ空の高見にある燕の美貌が、
二度と戻ることなき醜き顔に堕すその有様は。

本当に、素晴らしい夜だ。
もし手元に酒さえあれば、あの美青年の不幸と
醜態を肴に月見酒に興じたいところではあるが。
残念ながら手元には酒はなく、あったとしてもそれに酔うわけにはいかぬ。
己は今、一世一代の戦いの場の中に身を投じているが故に。
がま剣法は合戦の心得であるが故に。
屈木頑乃助のどこまでも冷徹な剣者としての部分が、
その陶酔に歯止めをかけ、冷酷な現実へと繋ぎ止める。

酒に酔い、油断を見せてはならぬのだ。

ああ、いい夜だ。
あの美しき燕が己より醜き存在へと堕す有様を眺めるには。
天上に輝く満月は、その醜態を余すところなく教えてくれる。
本当にいい夜だ。
本当にいい夜だ。なのに…。
実に惜しい…。
己の手で、その喜劇の幕を引かねばならないとは。

屈木頑乃助の、剣者としての部分が、そう告げる。
その眼は、すでにあの佐々木小次郎の勝負をどこまでも
冷静に鑑賞していた油断なき剣者のものに立ち戻っていた。

屈木頑乃助は地を這うように路上を駆け抜ける。
そうしてついに、眼前の悪鬼・佐々木小次郎に追いすがる事が出来た。



131鳥獣戯剣 ◇YFw4OxIuOI 代理投下:2009/03/27(金) 16:22:53 ID:zYhcfq/s
「待たれよ、そこの燕。」

蝦蟇は燕に声をかける。
その距離、実に七間。

「…なんだ貴様は?その不快な姿でこの私の目を汚し、
 この私と口を利く資格があると思うておるのか?
 目障りだ下郎。早々に消え失せよ。
 鳥獣の類は斬らぬが故、見逃してやる。
 蛙を剣の錆びにするなど我が恥だからな。」

もはや悪鬼そのものの形相で、佐々木小次郎は目の前の蝦蟇を睨みつける。
その表情だけで人は逃げまどい、あるいは腰を抜かしてしまうに違いない
おぞましい顔を向けられ、蝦蟇はなお平然としていた。

佐々木小次郎は、ここに来て若干の理性を取り戻していた。
それはとりもなおさず、今の己以上に醜き存在を見つけたからであるが。
その侮蔑にすら値しない、生ける汚猥とも言うべき穢き存在を見つけた事により、
佐々木小次郎は立て続けに穢された自尊心を、僅かながらに取り戻していた。
ただそれだけが、目の前の蝦蟇と亀の合いの子がごとき怪物と
会話をするだけの理性と余裕を生んだのである。

「あなた様、その前に一つお聞きしたい。
 その美しき御顔、その燕を落とすが如き太刀筋、
 人物帖にある佐々木小次郎殿と見受けられたが、
 如何かな?」

蝦蟇は相手の思惑など知る術もなく、目の前の美青年に問う。

「いかにも私は佐々木小次郎。そして用いる剣は“燕返し”。
 本来貴様ごとき蝦蟇顔の醜男は、我が顔を拝謁する事すらも許されぬ。
 さあ我が高名を聞き満足したか?ならば、気が変わらぬうちにそうそうに立ち去れ。
 蝦蟇男は蝦蟇らしく、蠅か蜻蛉でも追いかけるのがお似合いだ。」

佐々木小次郎はまるで蠅でも追い払うかのように
しっしと手を振り、この場からの退出を促した。
己が斬るべきはこちらを虚仮にした人間どもであって、
斬るにも値しない、卑小な人間ですらない顔立ちの生き物ではない。
その何処までも傲慢な自尊心が、却ってこの生き物への殺意を
侮蔑の念へと転化させて、人としては問題のある理性を取り戻させていた。
132鳥獣戯剣 ◇YFw4OxIuOI 代理投下:2009/03/27(金) 16:25:25 ID:zYhcfq/s
「ふふ、小次郎さま、あなたの脚は、細くすんなりと美しい、私の足はひき蛙のように曲がって醜い。
 あなたの鼻は、今でなおすっきりと筋が通っている。私の鼻は、ガマのように潰れている。」

蝦蟇は阿諛追従とも取れる言葉を、喉をゴロゴロと鳴らせながら低いダミ声で述べる。

「今更世辞などいらぬ。早々に消え失せよというに。」

佐々木小次郎の顔に、明らかな苛立ちが混ざる。
耳元でしつこく吠える犬ころを棒で追い払うように、
この男に仕置きぐらいはしてもよいかと考えだした。
だが蝦蟇は、さらにその苛立ちに止めを刺すかのように、
以前の言葉からは想像も出来ぬほどの二の句を吐き、
佐々木小次郎に残された僅かながらの仏心と慈悲を粉微塵に粉砕した。

「だが、小次郎さま。剣の道は失礼ながら、私とは桁違いだ。」

「……なん、だと?」

声が裏返る。
軽侮の視線が、憤怒の視線へと変化する。
踏み越えてはならない一線を、蝦蟇は大幅に踏み越えた。
その蛙が持つ、長く忌まわしい舌でもって。

「佐々木小次郎さま。あなたの剣は二度拝見いたしました。
 あれこそは高名な“燕返し”そのもの。ですが、それは名折れに過ぎぬものでした。
 最初の剣士さまには喉を突かれ、そして次のあなたに似た剣士さまには同じ剣にて破れている。
 燕返しも、所詮はその程度の剣。そしてその自慢の顔を傷つけられ、悲鳴を上げ転げまわる有様。
 さような不様な燕では、片翼のもげた燕では、地を這う蛙一つ捉える事など出来ませぬ。
 宮本武蔵に敗れた理由も、あれならば理解できようもの。」

蝦蟇はさらに追い討ちをかける。ことさらに挑発を続ける。
佐々木小次郎は、もはや目の前の醜き害獣を見逃す気など消え失せていた。

「ほう。そこまで言うたか。ならばその燕返し。身を以て味わうがいい!」

佐々木小次郎は大上段に構える。
辺りに所構わず撒き散らしていた殺気が一つに収束し、
それはただ一匹の矮小なる蝦蟇へと向けられる。
繰り出すべきは、必殺の“燕返し”。
空高く舞う美しき燕は地を這う醜き蝦蟇を、
瞬く間にその鋼の嘴にて引き裂くであろう。

だが、その哀れなる運命を知らぬ蝦蟇は、一笑に付すばかり。
133鳥獣戯剣 ◇YFw4OxIuOI 代理投下:2009/03/27(金) 16:27:17 ID:zYhcfq/s
「――佐々木小次郎破れたり。」

それは、奇しくも宮本武蔵が佐々木小次郎に当てた言葉であり、
そしてまた、沖田総司が佐々木小次郎に当てた言葉でもあった。
だが、佐々木小次郎の殺意の引き金を引くには、十分すぎるものであった。

「殺す!」

さあ、愚かな蝦蟇を切り裂いてくれようぞ!!

七間、六間、五間――。

佐々木小次郎がその俊足にて間合いを詰め、
蝦蟇は己の重心を異常に低く持つ、ガマの構えを取る。

フン、そう来たか。だが、貴様にはあのような突きは見舞えまい!

佐々木小次郎は、狂気に理性を囚われながらも、剣者としての勘がその危機を伝えていた。
この男は先ほどの若き剣客(沖田総司の事だが、小次郎本人はその名を知らない。)のように、
低く構えるのではないのかと。

だが、それはあのようなその全てが偽攻ではない、
すべてが必殺の一撃となる尋常ではない三段刺突を見舞えるからこそ生きる戦法。
しかも、あのような奇芸は二度通用する類ではない。
通常、あのような極端に低い構えからの一撃は、重心が狂い大幅に威力が減殺する。
現実に、あの男の突きが受け流せる程度には威力が減じていたがように。

そして、この醜い蝦蟇はあの男ではない。
あのような、己に比肩しうる魔剣など、二人と持ち得るはずがないが故に。
己の魔剣さえ持たぬこの身の程知らずな愚物に、燕返しが破れるわけがない。

四間、三間――。

ならば、あの男はその木刀にて我が剣を防ぎ、後の先を狙おうとするだろう。
間合いが十分に迫ったその先まで。
威力の減じた剣なら、その哀れな木刀でさえも防ぎきれると思ったか?
ならば、その浅はかさを身を以て思い知らせてくれる。
この剛の剣、地を這うものなら大蛇でも二つに裂いてくれようぞ。
万一その身を後ろに引きかわした場合は、
それこそ蝦蟇が望む“燕返し”の出番となる。
その異常な低姿勢で、しかも回避に身が崩れた姿勢で、
斬り上げからなる燕返しがかわせようはずがない。
134鳥獣戯剣 ◇YFw4OxIuOI 代理投下:2009/03/27(金) 16:30:03 ID:zYhcfq/s
蝦蟇は燕返しにて、不様に裏返される。
燕は蝦蟇の不様な最後に心踊――









――蛙が、前方へと跳ねた。








地を這うままに、重心を低く保ったまま。

ぬ。

意表を突かれた。まさかあの姿勢から
一切の勢いを減じる事無く、突進が出来るとは!

だが、まだ甘い。その程度の踏み込みでは、こちらの剣を掻い潜るには至らぬ。
そして、あの醜き蝦蟇の手足が短い分、間合いはこちらが広い。
佐々木小次郎は不意を打たれたにも関わらず、片目であるにも関わらず、
屈木頑乃助の跳躍が如き踏み込みに即応し、正確な間合いから大上段の剣を振り下ろす。
流石は、敗れたとはいえ歴史に名を残す天才剣士。地力そのものが違う。
攻撃はこちらが先。防げば押し切る、躱さば燕が舞う。言わば必勝の方程式。
低姿勢からの突進など、なんの意味もない。
135鳥獣戯剣 ◇YFw4OxIuOI 代理投下:2009/03/27(金) 16:32:29 ID:zYhcfq/s
――だが。


出し抜けに視界が右へと傾く。
左膝が割れんばかりの激痛。刀が虚しく空を薙ぐ。
こんな事は予定にない。
こんな事は想定にない!
こんな不様は知らぬし決してあり得ぬ!!
どうした一体何が起こったのだこの左膝はどうしたことか蝦蟇はどうした今何が起こっている
何故私は傾いていや違う蝦蟇はいったいどこにああこんな所に―――。




佐々木小次郎が生涯最後に目にした光景は、
今まさに自らの喉笛を潰さんと迫り来るする木の具風であった。




蝦蟇があの立ち合いで行ったのは、斬撃ではなく突きであった。
蝦蟇は最初から、あの地を這う姿勢からの刺突を狙っていたのだ。
そして、向う脛をしたたかに打ち、返す刃で喉を全力で突き砕いた。
これでは、たとえ木刀といえど助かろう筈はない。
佐々木小次郎は喉骨を折り、断末魔さえも無く血を吐き不様に斃れた。

低姿勢の相手を斬るに辺り、デメリットは二つある。
一つはかつて屈木頑乃助が身を以て知った苦い経験からあるとおり、
自らの重心より下の斬撃は威力が大幅に減殺されてしまうという点。
もう一つは、大上段からの構えからでは単純に相手への到達距離、
ようは剣の敵手への到達時間が大幅に延びてしまうという点。

標的がどれほど小さかろうと、ある程度の高さまで振りかぶらなければ、
人間を斬るに充分な程の力を乗せて斬り下げることはできない。
必然として、己より背の低い相手を斬る際は刀を到達距離が長くなり、
命中までに要する時間が延びてしまう結果となる。
体格が小さければ小さいほど、姿勢が低ければ低いほど、敵の剣撃は遅れに遅れるのだ。
実際、その合理性から背の低い女子供を斬る際は大上段から威圧するよりも
下段からの斬り上げこそが有効と教える流派も存在するほどである。
136鳥獣戯剣 ◇YFw4OxIuOI 代理投下:2009/03/27(金) 16:34:10 ID:zYhcfq/s
“燕返し”とは大上段からの振り落としからの斬り上げ。
その両方がともに必殺の一撃であり、初撃は躱せようともその次に来る刃は避けようがない必滅の刃である。
後の先狙いで攻撃に集中した身で、あるいは回避で体勢が大きく崩れた身で、
燕を落すが如き斬り上げなど、人の身で続けて避けようがないのだから。
だがそれは、比類なき初撃の振り落としがあってこそのもの。

そして、最初の振り下ろしは当然弧の軌跡を描く。
対して、屈木頑乃助の刺突は直線の軌跡を描く。
既にお互いの到達距離からして大きく開きがあり、
なおかつ屈木頑乃助は低姿勢からの剣術にこれ以上なく慣れ親しんだ身。
いかなる威力の減殺も、到達に遅延すらも発生はしえない。
むしろその異形を最適に動かしうるのがその低姿勢からの剣法である。
それが屈木頑乃助がはじき出した第一の必勝の方程式。

屈木頑乃助が斬撃を選んだのであれば、あるいはそれでも佐々木小次郎の剣が先に到達したのかも知れない。
だが、屈木頑乃助は決して相手の不利を侮ることなく、全力でもって佐々木小次郎を仕留めにかかったのである。
それが先ほどの神速の刺突。第二の必勝の方程式である。

本来、この刺突は膝下を警戒し防御が集中した場合に備えて、
その裏をかき顔面ないしは喉を突くことを想定した技である。
だが、姿勢をさらに低くすれば膝下をも狙えるのではないか?
己より格上の、地さえ割るような剛の振り下ろしを用いる猛者にも
通用するのではないか?それを実践にて試してみたかったというのがある。
そう、先ほどの佐々木小次郎を破った、顔に傷のある男に対して。
そう、人物帖にあった第二の佐々木小次郎かもしれぬ男に対して。

そして、その相手として、理性を失い、我を忘れた佐々木小次郎は
顔に傷のある男の仮想敵としてまさにうってつけの練習代であった。
太刀筋も体格も使う剣も、その全てが酷似しており、
なおかつ全てが先程の男に劣るが故に。

そう。あの顔に傷の男はその膂力から繰り出すあの異形の剣から、
これから先も数多くの屍を築きあげるであろう。
そして、最後にはこの蝦蟇が対峙せねばならなくなる。
だからこそ、それを想定した敵と仕合っておき、敵の欠点を、己の欠点を、
これ以上なく厳しく正確に把握しなければならない。
137鳥獣戯剣 ◇YFw4OxIuOI 代理投下:2009/03/27(金) 16:39:17 ID:zYhcfq/s
屈木頑乃助はまごう事無く卑劣漢である。
だが己の醜さや弱さを正面から見据え、
己れの研鑚は決して欠かすことない男でもあった。
その鍛練の証拠は、期せずして己がさらに磨きを掛けた異形が物語っている。
そして勝つべくして勝利を拾う、極めて計算高い男でもあった。

それに対して、安い挑発に乗り己の剣の腕に溺れた
愚かな燕ごときが相手となるはずがなかった。
地を這う醜き蝦蟇は、空を舞い降りる美しき鋼の嘴を持つ
飛燕をその木の舌でもって捉え、そして丸呑みとした。

ばくばくとむしゃむしゃと
それはそれはうまそうに。

ある種大自然よりも厳しき剣の世界は、
燕と蛙の食物連鎖をも逆転させ、勝者を蛙と定めた。
佐々木小次郎は、ある意味創作された物語が伝えるそのままに、
挑発により失敗するその不様な末路を再現してしまったのである。



屈木頑乃助は、佐々木小次郎の遺体から打刀を取り上げ、
行李の中のものを自分のものに移し替える。
死体はこれ以上ない苦悶の表情を浮かべていたが、
生憎と死体を笑う趣味までは持ち合わせてはいなかった。
念のため佐々木小次郎の喉を手にしていた打刀で突いておく。


――さくり、と。


屈木頑乃助は、その手応えに驚いた。
茹で上げた芋でも串で貫くような、そのような手応えに。
それは、驚くほど滑らかに喉を刺し貫いた。
この刀、紛れようもなく業物である。

この刀、よくよく見ればその独特の乱れ刀紋が見せる美しさは、
芸術品としての価値だけでなく刀剣としての高い価値をも示している。
貧しきが故に刀の目利きなど経験のない屈木頑乃助にとっても、
なにか貴重そうな銘刀の類であることだけは理解できた。

茎(なかご)を見ればその銘が何であるかわかろうものだが、
生憎と刀を分解するような道具は行李の中には入っていなかった。
これはまた後でじっくりと調べればいいだろう。
138鳥獣戯剣 ◇YFw4OxIuOI 代理投下:2009/03/27(金) 16:42:28 ID:zYhcfq/s
屈木頑乃助は木刀を背負い、周囲を見渡す。
どうやら、顔に傷の男は完全に見失ってしまったらしい。
だが、あの男が生きていれば、いずれは対峙することになるだろう。
それまで力を蓄え、あるいは腕を磨き、ゆっくりと事を構えたほうがよいだろう。
焦る必要はないし、無理をして仕合を続ける必要もない。
最後の一人のみを倒せばいいのだ。
それまでにあの顔に傷ある男が倒されたなら、それこそ儲けものというもの。

さて、どちらの方角へと向かうべきか?
蝦蟇はその離れた蛙のような目を左右へとぎょろりと動かし、
次に向かうべき方角を定めた。

【佐々木小次郎@史実 死亡】
【残り七十四名】

【はノ参/路上/一日目 早朝(始まり頃)】
【屈木頑乃助@駿河御前試合】
【状態】健康
【装備】木刀 、打刀(名匠によるものだが、詳細不明)
【所持品】支給品一式×2
【思考】
基本:死合に勝ち残り、勝者の褒美として千加を娶る。手段は選ばない。
一:将来的に顔に傷のある男(佐々木小次郎(傷))に対峙できるよう、がま剣法をさらに進化させておく。
二:この不思議な木刀と銘ある打刀の正体を知っておきたい。

※屈木頑乃助がどちらの方角に向かうかは、次の書き手様にお任せいたします。
※原作試合開始直前からの参戦です。
※総司の太刀筋をある程度把握しました。
※総司の名前は知りません。
※人物帖は全て把握済みです。
139創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 16:46:29 ID:zYhcfq/s
 代理投下終了に御座候。
 
 コジ南無。まあコジはハナからアタリが悪かったしねぇー。
 ガマの、なんというかこう、のっそり構えて、一気に突く不気味さと頭の良さが、実によい。
 また、哀愁があるんだよなぁ、ガマは。
140創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 16:51:38 ID:jDAcUVvr
だー!!支援できなかったぁ!
乙でした
感想は既に述べさせていただきました
141創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 17:45:32 ID:NSKu9BJj
投下&代理投下乙!

小次郎敗れたり
やはりこの蝦蟇、天凛が有りおる…

異形の剣、がま剣法が何処まで勝ち上れるか、先が気になるのう…
142 ◆YFw4OxIuOI :2009/03/27(金) 23:53:01 ID:0XmeZO/Q
代理投下&感想有り難う御座います。
本筋とは関係無いところで初期プロットの消し忘れが少しだけあったので、
wiki掲載時にそっちを削除してます。あとは読みやすいよいに若干の加筆修正行いました。
流石に内容は変わってませんが、良かったらそちらも見てください。
143 ◆F0cKheEiqE :2009/03/28(土) 00:30:51 ID:KeR+fot0
岡田以蔵、四乃森蒼紫 予約
144創る名無しに見る名無し:2009/03/29(日) 00:53:50 ID:Ejntt9TM
wiki編集してる人、乙

いよいよ我がロワにも死者スレが出来たかwwww
145創る名無しに見る名無し:2009/03/31(火) 18:42:35 ID:HNsQ6eMi
今予約が入ってないキャラクターで一回しか書かれていないのって誰がいる?
146 ◆F0cKheEiqE :2009/04/03(金) 22:15:11 ID:OYkDQSSD
すみません、予約を一日延長お願いします
147創る名無しに見る名無し:2009/04/04(土) 04:14:09 ID:M256bFqS
延長多すぎ
148創る名無しに見る名無し:2009/04/04(土) 23:26:22 ID:PSYf/Tph
保守age
149 ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 00:04:12 ID:uXLo1T00
>>147
うう、耳が痛いです。

岡田以蔵、四乃森蒼紫 投下します
150血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 00:05:20 ID:uXLo1T00

獲物を求め、休む事も知らず、ただ夜道をひた走る一匹の狂犬がいる。

その狂犬は、左右に長い太刀を引っ提げ、月代はおろか髷すら結わぬ蓬髪を風に靡かせ、
血や土や埃で汚れきった着流し一枚に、粗末な腰帯を一つ締め、
ぼろぼろで今にも潰れてしまいそうな草鞋を素足に直接履いている。

顔も着物と同様、血や埃でドロドロに汚れきっており、
元々どちらかと言えば細い頬は、斬って削いだ様に扱けて、
その異様な精気に輝く恐るべき双眸がなければ、乞食浮浪者にしか見えないだろう。

口からは、グォォ、と人の発するとは思われぬ異様な獣の如き呻きあげ、
一心不乱に唯走り続ける姿は、正に鬼気迫ると言う形容が相応しい…

この男、岡田以蔵が以上の様に走り始めていったいどれ程の時が経ったか。
小半刻ほどだったかも知れないし、それ以上、あるいはそれ以下だったかも知れない。

一つだけ確かな事は、最初に遭遇した老人、“剣聖”上泉伊勢守を除いて、
この島の南西部に広がる城下町や、
聳え立つ帆山城の天守閣がすぐそこに見える程度に城下に近づくまでの過程では、
人っ子一人出会わなかった事だけであろう。

だが、そんな寂しい孤独な道行きも、これで終いだ。

城下には恐らく人が集まっているだろう。
老いも若きも、男も女も。

多くの人が集まっている事だろう。

そして、その全ての人間が余すことなく、以蔵の『復讐』の対象なのだ。
151血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 00:09:00 ID:uXLo1T00

このまま走れば、すぐに到達できるほどの距離に、橋の様な物が見えてくる。
外堀で隔てられた城下町と外とを結ぶ『渡し』の一つだ。

求めるものが見えて、以蔵は初めてニコリと血笑し、さらに足を速める。

ただでさえ異様に速かった足をさらに速めた為か、
草鞋の緒が切れて、ボロボロだった草鞋の片方が、バッとほつれながら宙に飛ぶ。

砂利などで、たちまち以蔵の足はズタズタになるが、気にとめない。
そもそも、ここに来るまでの間に、伊勢守との戦いや、野の草や枝の為に、
彼の体には少なからず傷が付き、血を滲ませているのだが、
彼は見向きもしないのだ。

正に、葉隠れに言う『死狂ヒ』の境地に、彼はあった。


『渡し』は既に目前であったが、その時であった。
ユラリと、陽炎の如く、『渡し』の上に、細い人影が一つ、出現したのである。
黒装束を着たその男は、まるで闇から抜け出て来たの如くであった。

常人なら少なからずぎょっとする様な不気味な出現であったが、
今の岡田以蔵は尋常の精神状態に無い。

グ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ッ !

獣の如き咆哮を挙げ、頬まで裂けるような邪悪な笑みを浮かべると、
二本の凶刃を天に振り上げ、黒い青年に襲い掛かったのであった。

『渡し』の上で刃鳴が散った。

152血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 00:11:32 ID:uXLo1T00



岡田以蔵は土佐の『郷士』の生まれである。

『郷士』と言う階級は、江戸時代においては実に複雑な存在であり、
その定義付けにはかなりの解釈の違いがあり、一概に語る事は出来ない。

ただ、土佐において『郷士』と言えば、土佐藩主の一族である山内一族が入って来る前、
土佐を支配していた土着の長宗我部氏に仕えていた在地の武士達の事である。

関ヶ原の結果、西軍についた長宗我部氏は改易になり、土佐は山内一豊の知行地になったが、
彼ら長宗我部氏遺臣団は山内氏に支配に抵抗し、たびたび一揆を行った。

山内一豊は断固としてこれを粉砕し、
結果、長宗我部氏遺臣団は、外来の山内の家臣達『上士』より下に位置する『郷士』として、
山内氏の土佐支配の機構に組み込まれてしまったのである。

『郷士』は一応名目上は武士階級であるが、
『上士』との身分差は絶対的で、『郷士』は徹底して差別され、
直接刃を交えるような戦いは、慶長八年の「滝山一揆」以来途絶えたものの、
水面下での陰湿な対立は幕末まで続いた。

岡田以蔵はこの『郷士』の生まれなのだ。

一応彼は父の由来で上士である「足軽」の身分を持っていたが、
それでも、武家社会の最底辺に属することには変わりはない。
153血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 00:17:30 ID:uXLo1T00

彼は人間としてかなり歪んだ精神の持ち主であった事は周知の事実だが、
彼の人格形成にこの生まれの卑しさが深く関係しているのは、恐らく間違いあるまい。

長い江戸を通じて、武士階級の大半は困窮し、下級武士など、
なまじ身分的制約故にその生活は悲惨なものだったと言うが、
岡田家も決しては豊かではなかった。

武市半平太に誘われ、小野派一刀流に入門した以蔵だったが、
道場稽古では度々常軌を逸した凶暴性を見せたという。

恐らく、生まれの卑しさに故に、
常に見下げられて生きてきた事に対するねじくれた怨念が、
時に噴出し、数々の乱暴に結実したものだと思われる。

土佐勤王党に入った後も、
『腕は立っても、それだけしか能の無い、無教養で卑しい生まれの男』と言う、
周りの偏見の目は変わらなかった。
否、なまじ腕が立ったが為に、数々の暗殺の血名と共に、一層恐れられ、煙たがられた。
そして、回りが彼をのけ者にすればするほど、以蔵はより一層世を拗ね、精神はねじくれ、
それ故に世間のとの溝はさらに深まると言う負の螺旋は、
下方へと向けて怒涛の如く下がるにまかせていた。

この負の螺旋が極まれば極まるほど、反動の様に武市への精神的依存も強くなっていった。

以蔵にとって、武市はこの世にあって唯一信頼できる人物であった。
神のように信頼してもいい人だと信じていたのだ。

その武市が、彼を裏切った!

武市に対する絶対的な敬愛は、
最早収まること知らないこの世への憎しみ、そして怒りとして爆発した。

果たして彼は、彼を見下げ続けたこの世に対する復讐を開始したのである。
154血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 00:22:23 ID:uXLo1T00



月下の『渡し』の上で、血煙りが宙を舞っていた。
しかし、それを生み出しているのは、以蔵の二本の凶刃では無い。

意外な事に、その発生源は鱠切りにされた以蔵の肉体であった。

「ガァァァァァァァッ!」
獣の如き咆哮と共に、二本の豪刀がぶぅんと唸りをあげて振るわれる。
一刀流はおろか、介者剣術ですら無い盲目滅法な出鱈目な太刀筋だが、
箍の外れた恐るべき怪力によって風車の如く振るわれる白い刃の旋風は、
まるで台風の様であり、迂闊にその射程圏内に入れば、
力任せにブツ切りにされるか、怪力に弾き飛ばされるか、といった具合の凄まじさであった。

にもかかわらず…

ゆ ら り 

以蔵と対峙している黒装束の美貌の若者の影が揺らぐ。
つい先ほどまで青年があった空間を、空振りの豪刀が通り過ぎた。
そして、

ゆ ら り 

再び青年の影が揺らぐ。
気が付けば、青年は以蔵の懐に飛び込んでいた。

「グォッ!」
以蔵は急いで青年に向けて太刀を振るうが、
青年は逆手の脇差を振るうと、
例の奇妙な動きで以蔵の太刀をかわしながら間合の外に逃げ出してしまう。
再び以蔵の太刀は空を斬ったのみで、
以蔵には新たな傷が一筋増えていた。

致命傷には程遠いが、傷よりの出血は確実に以蔵の体力を奪っていく。
既に全身の彼方此方に同様の傷を無数に作った以蔵は、
流れ出る自身の血液により血だるまになっていた。
155血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 00:32:55 ID:uXLo1T00

さきほどから、これの繰り返しであった。
今の以蔵の豪刀は、一撃でも相手の体に触れれば、
ただ斬れるでは済まない恐るべき重傷を相手に与えるだろう。

だが、触れられないのだ。

『渡し』の上に突如出現した黒衣の青年は、
逆手に構えた脇差以外には如何なる武器も持ってはいなかったが、
にも関わらず以蔵はかつてない苦戦をこの青年相手に強いられていた。

苦戦の原因は、青年の奇妙な動きにあった。

それはおよそ一切の流派に、聞いた事も見た事もない奇怪な動きであった。

まるで地面を滑るような奇妙なその歩法は、
緩急自在に流れるように動き、
まるで陽炎でも相手にしているかのごとく以蔵を幻惑し、
以蔵の豪刀は悉くこの動きにすり抜けられてしまう。

そして、気が付けば相手はこちらの懐に入り、逆手の脇差で斬りつけて来るのだ。

否、脇差ばかりでは無い。
空いた片方の拳、両の足すらも青年は自在に操り以蔵を撃つ。
“柔”と動きを異にする、以蔵にとって未知のその格闘術に、以蔵は為す術も無い。
恐らく、理性がある時の以蔵でもこれには抗しがたかったであろう。
青年の操る“拳法”は、土佐の田舎者である以蔵など知る筈もない、
日本の格闘技とまるで体系が異なる大陸伝来の武術なのだから。
156血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 00:50:41 ID:uXLo1T00

常の剣術の使い手で、この若き美貌の“忍法”剣士、
四乃森蒼紫に対抗できる剣士がどれほどいるだろう。
弱冠一五にして、御庭番衆御頭の地位を先代より継いだこの恐るべき若者は、
『流水の動き』という、独自の技を操る。

『流水の動き』

その名如く、まるで己を流水であるかのごとく、
緩急自在に移動し、相手の攻撃を避け、幻惑する技である。
静動のハッキリとした常道の剣術を修めた者には、
その動きを見切るのは著しく困難だ。
ましてや、技も忘れた今の以蔵には不可能と言っても過言では無い。

皮肉な話だが、先ほど以蔵が圧倒した上泉伊勢守ならば、
蒼紫の『流水の動き』の動きとて容易く破ったであろう。

いかにそれが異形の剣であろうと、
天下を巡ってあらゆる奇剣・妖剣、果ては忍術や妖術とすら対戦し、
その悉くを打ち破ってきた伊勢守に見切れぬはずなどあるまい。

技無きが故に伊勢守を退けた以蔵は、
今度は逆に技無きが故に、
この技術主義の極致ともいえる『流水の動き』に手も足も出ないのである。
157創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 01:24:29 ID:aY/dpYss
sien
158 ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 01:47:13 ID:VTeu/4pv
携帯からの書き込みですみません。
今ネットの調子がおかしく、投下を中断せざるを得ません。
一旦様子を見て、大丈夫そうなら本日正午ごろ
続きを投下します
159創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 03:11:15 ID:S5URP18G
ぬふう
いいところで止まった喃
160 ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 21:40:30 ID:uXLo1T00
ようやくネット復旧!
お騒がせしました!

遅ればせながら投下再開します
161血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 21:41:43 ID:uXLo1T00


青年と以蔵が遭遇してから早十分…

以蔵の足元には血の池が広がっていた。
全身余すことなく刀傷と打撲に覆われ、凄絶無比の様相を呈している。

一方、蒼紫の体には傷一つ無く、怜悧な美貌には笑み一つ浮かんでいなかった。

(そろそろか)

蒼紫は、地面に染み込んだ以蔵の血の量と、
息の上がりきった現在の以蔵の様子を見て、
この勝負の終りの時も近いと判断した。

以蔵の二本の豪刀…
あれは危うい。
“天才”のあだ名に恥じぬ蒼紫の慧眼は、
以蔵の二本太刀の秘める恐るべき威力を即座に喝破したが、
それ故に以蔵の剣に真っ向から立ち向かうという道を真っ先に捨てた。
技も糸瓜も無い滅茶苦茶な太刀筋だが、
力のままに振るわれるその剣速たるや相当なモノであり、
蒼紫と言えども迂闊に踏み込む事は出来ない。

突っ込んでくる猪に真っ向から構える猟師などいない。
蒼紫は、イスパニアの闘牛士のように、
徐々に徐々に以蔵の体を傷つけ、体力を奪う戦法を執った。

そしてその戦法は確実に効を現しつつあった。
依然、獣の様な呻き声をあげつつ太刀を振り回す以蔵だったが、
その剣速は確実に速さを失い、足はふらつき、息は上がりきっている。

自制する事無い無軌道な体の行使と、大量の出血が、確実に以蔵の体力を奪っていたのだ。

「最後に…御庭番衆剣法の真髄で屠ってやろう」

最早何太刀目かすらわからぬ空振りを避け終えた蒼紫は、怜悧な無表情のまま、
血走った眼でこちらを睨みつける以蔵にそう抑揚の無い声で告げた。

ゆらり、と蒼紫の姿が揺らぐ。
しかし、それからの動きが、これまでの彼の動きとは一変していた。

まるで踊るような、正に剣舞の如き誘幻的な太刀の運びをしながら、
ゆっくりと以蔵の周囲を回り始めたのである。

それは、長い歴史を持つ隠密御庭番衆により編み出された実戦剣舞…

「終りだ…」
162血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 21:44:21 ID:uXLo1T00

蒼紫のかつてない動きに、本能的に危機感を覚え、
一層出鱈目に振るわれた以蔵の太刀筋をするりと避けた蒼紫は、
いつの間にか以蔵の背後で跳躍し…

ザンッ!

「流水の動き」の真髄、『柔』からの翻る様な『激』への反転、
疾風の如き三筋の剣撃は、とっさに盾の如く翳された以蔵の研無刀もろとも、
以蔵の胸部を三筋に断った。

回転剣舞

四乃森蒼紫が、これまで江戸城に侵入した敵隠密を、悉く血の海に沈めてきた必殺の秘太刀であった。



蒼紫は地に臥した以蔵を背にして、城下へ再び戻ろうとしていた。
恐るべき怪物ではあったが、所詮彼の敵では無い。

最後の御庭番衆御頭として、
戦うべき時に戦えず、死ぬべき時に死ねなかった男が、
望んでも得られなかった、彼が求めてやまなかった戦場がここにある。

故に求める物は戦い。
新たなる戦いを求めて再び血戦の城下へと蒼紫は足を進める…つもりであった。

「ありがとな…」
驚愕に眼を見開いた蒼紫が背後を振り返る。

「血ぃ抜けたお陰で…少し眼ぇ覚めたぜよ…」
胸部から血を流しながら、右手の野太刀を杖に立ちあがる岡田以蔵の姿がそこにはあった。
さらに言えば、目は相変わらず血走ってはいるものの、そこには理性の光が戻っている。

「貴様・・・何故生きている?」
「さあな・・・ワシもてっきり自分が死んだもんだと思うたが、どっこい生きとるなぁ」

以蔵が今生きているのは、鍛え抜かれた胸の筋肉と、盾として翳された研無刀の異様な頑丈さ、
そして、回転剣舞が入りきる直前に蘇った剣士の本能故であった。

「来いや・・・まだ終わっとらんぜよ」
「死に損ないが・・・いいだろう。今度こそ仕留めてやろう」

傍から見ればどう見ても死に体にも関わらず、以蔵の眼にはさらに強くなった殺意と闘志が宿っている。
以蔵の言葉に、蒼紫は戦士として相手を斃すべく、再び死の剣の舞を舞う。

「無駄だ…今の貴様には、俺の『流水の動き』を捉えることなど不可能だ」
「へへへ・・・・」

事実である。理性が戻ったところで、以蔵の腕で敗れる術理では無い。
しかし、以蔵の顔に浮かんでいるのは不敵な血笑であった。

「今度こそ・・・本当に終わりだ!」
逆手の脇差が、死の白光を閃かせ、以蔵の背後より遅いかかる。
以蔵は振り向くが、太刀での防御は間に合わない。
白刃は以蔵の体に迫り…
163血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 21:45:27 ID:uXLo1T00

「馬鹿な」

以蔵の空いた左手に捕獲されていた。
回転剣舞唯一の弱点、『流水の動き』から逆手小太刀の一撃に切り替わる『動』の一瞬、
それを、剣の腕では蒼紫に遥かに劣る以蔵が捉えられたのも、
これまで文字通り血を流して『流水の動き』を喰らい続けたが故であった。

その代償は左手一本。
鉄拵えの鞘を輪切りにし、研無刀をも斬った回転舞の太刀筋は、
受けた以蔵の掌を中指と薬指の合間より割り切って、腕の半ばまで到達し、
骨に引っ掛かってようやく止まっていた。
もう左手は使い物になるまい。

が、

「捕まえたぞ…」
「!」
「ようやくてめぇを捕まえた!」
「クッ!」
以蔵の叫びに、蒼紫は咄嗟に体を逃がそうとするが、
「遅ぇっ!」
以蔵の野太刀の方が速い!

誰が予想し得た?
若き天才剣士の首は、血の糸を引きながら宙を舞った。



城下、南西部の一角。
『渡し』の傍の白い塀の一角に、一つの生首が晒されていた。
若く美しい、驚愕の表情を今尚残した四乃森蒼紫の首であった。

その首のすぐ上の塀には、蒼紫自身の血で書かれた一つの宣言があった。


おのれらに告ぐ

おれはおのれらを

みなごろしにしてやるのだ

いぞう


それは、虐げられ続けた一人の哀れな剣鬼のこの世への宣戦布告であった。

【四乃森蒼紫@るろうに剣心 死亡】
【残り七十三名】
164血だるま剣法/おのれらに告ぐ ◆F0cKheEiqE :2009/04/05(日) 21:48:14 ID:uXLo1T00

【へノ弐 城下町の何処か/一日目/黎明】

【岡田以蔵@史実】
【状態】左腕に重傷(回復する見込み薄し)、全身に裂傷打撲多数、この世への深い憎悪と怒り
【装備】野太刀
【所持品】なし
【思考】
基本:目に付く者は皆殺し。
【備考】
※理性は取り戻しましたが、尋常の精神状態にありません


投下終了
いやー、最近自宅PCの調子も、ネットの調子も不安定でドキッとさせられた。
無事再開出来てよかった…

所で、平田弘史と荒山徹の面白さを知った今日この頃。
次は五味康祐に挑戦
165創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 22:55:41 ID:uQ0cn/8G
な、なんと…。
166創る名無しに見る名無し:2009/04/05(日) 22:59:35 ID:uQ0cn/8G
失礼。な、なんと物凄いいい所で終わって、
最後に続きを読みに来たらまさかそんな結末だったとは…。
てっきり御頭の圧勝とばかりと思ってたが。
いや、だからこそロワはいい。
167創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 00:23:29 ID:WDVLvc/Y
蒼紫の防御力はるろ剣トップクラスの低さだもんな
それでも弥彦より少し劣るくらいだけど
168創る名無しに見る名無し:2009/04/06(月) 07:22:48 ID:glsIuVv+
 ゲェー! おのれらに告ぐ!? なんという血だるま剣法っ……!
169創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 10:07:26 ID:w4QD/c+g
>>145
亀だが。魂魄妖夢がまだの筈。
170創る名無しに見る名無し:2009/04/07(火) 20:19:16 ID:BeCrLRxZ
ほう。東郷らのいるエリアの一つ北側か。
巻き込まれると偉くカオス化するな。
171創る名無しに見る名無し:2009/04/08(水) 00:58:34 ID:1E9onDYE
>>145>>169
 てか、二回目入ってないキャラは、かなり居るよ。
 ざっと見だけで、30人近く。
172創る名無しに見る名無し:2009/04/08(水) 16:50:31 ID:K8ccP5ji
でも、意外と女子高生が優先して書かれている上に頑張っているなあ。
一時期は「むーざんむーざん」が危惧されたが、なかなかどうして素晴らしい。
173創る名無しに見る名無し:2009/04/09(木) 19:35:37 ID:n3LTzR17
>>171
一話登場のみで予約なし状態のキャラ一覧(4月9日現在)

鵜堂刃衛、芹沢鴨、辻月丹、椿三十郎、徳川吉宗、
秋山小兵衛、土方歳三、志々雄真実、石川五ェ門、細谷源太夫、
佐々木小次郎(偽)、山南敬助、林崎甚助、富田勢源、伊良子清玄、
高嶺響、香坂しぐれ、柳生連也斎、仏生寺弥助、河上彦斎、
新免無二斎、斎藤一、九能帯刀、服部武雄、魂魄妖夢、
倉間鉄山、烏丸与一、伊烏義阿、中村主水、明楽伊織、
高坂甚太郎

以上、31名
174 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/10(金) 14:37:52 ID:lXegcwN4
徳川吉宗、秋山小兵衛、魂魄妖夢、予約します
175創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 23:35:45 ID:8ZHtgmHy
予約来た!これでかつる!!
176 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 01:36:15 ID:cCI3CZEo
徳川吉宗、秋山小兵衛、魂魄妖夢、投下します
177暗雲 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 01:55:45 ID:L8ZRRX0E

薄く雲の掛かりだした月の下を少女、魂魄妖夢は歩いていた。
へろな村と仁七村どちらに向かうかは一先ず街道に出てから決めようと考えた彼女は、
現在ほノ陸の街道を歩いている。
どちらの村に向かっているかと言うと、街道に出た彼女は結局、異変解決には勘がつき物と,
自らの直感に従い仁七村に向かう事に決めたのであった。
理由はどうであれ、行き先を定めた妖夢は足早に仁七村へと向かっていたのだが、
視線の先に大小二つの人影が歩いているのを見かけると、
二人に追いつくために飛んで行くことにして…
 
「飛べない…」

今まで彼女は目立たぬようにと歩いて移動していたので、
自らに掛けられた制限には気付かなかったのだが、いざ飛び立という段になって
自分の体に異常が起きていることに気が付いたのだ。
 
「もしかして弾幕も撃てなくなっているのかしら…?」

突如、自分の体に起こった異常に不安を覚えながらも妖夢は何時もの様に、
剣から鱗弾を出そうとしたが失敗に終わった。
それではと、自身が出せる弾幕の中で最も消費する霊力が少ない点弾を放ってみると、
これには成功した。その後も自分の撃てる弾幕を全て試したが、
結局は点弾しか撃てなかった。
さらに、唯一放てる点弾にしても1度に放てる数は平常時と比べるまでも無い程に減っており、
普段は弾幕ごっこの時に相手の行動を制限する為に使っているこの点弾も、
今では牽制をするぐらいにしか使えそうに無かった。
また、威力はどうかと近くにあった木に対して点弾を当ててみると、
何時もより威力は下がっており、通常は小さいとはいえ当たれば人を気絶させることも有る
点弾も、制限された今では、小石を投げて当てたほうがまだ痛いといった程であった。
178暗雲 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 02:00:45 ID:4Qe5i4Cb
「何でか分からないけど、飛べない上に点弾しか撃てないわ」
「それに、今は飛べる気がしないと言うか、飛んでいた時の感覚が思い出せない…」
「弾幕は、楼観剣と白楼剣があったら他のも出せるようになるかもしれないけど…」

前を歩いていた二人のことを忘れ、自身の体に起こった異常について検証していた妖夢も
一通り今の自分の状態を把握した頃に、何故か半霊がそわそわしだしたと思い
周囲を見渡すと、前を歩いていたはずの二人がこちらへと歩いて来て、
すでにかなり近くにいる事に気付いたのだった。



仁七村へと向かい街道沿いに進んでいた吉宗と小兵衛だが、
自分の達の後方に気配と僅かな物音を感じると、歩みを止めた。

「はて?今何か物音がなさりませんでしたかな」
「……そういわれると何か物がぶつかり合うような音がしたかもしれん」
「行ってみますかのう?」
「いや、今は船を押さえるのが先だ」
「しかし、船は仁七村の他にもあるやもしれませぬし、人が居るかもしれぬならば
其方へ行ってからでも遅くないのでは?」
「確かに船が一隻しか無いという道理はないが… 
まあよい其処まで言うのなら船は音の正体を確かめに行ってからにしよう」

こうして妖夢の居る方向へと歩き出した吉宗と小兵衛は、奇妙な光景を目にする。
少し歩いたところで見えてきた人影は、何故か木に向かって小石のようなものを
ぶつけているのだ。そして、さらに近づいて行くにつれて二人の疑念は深まっていく。
見えている人影はどうやら少女のようで、剣を振るっているのだが、
その剣先からは先ほどから見えている小石のようなものが出ている様に見える。
その上、極めつけとしてその少女の近くを人間の頭の大きさほどの白い何かが漂っているのだ。

「あれは何なんだ!」
「うむ。妖魔の類ですかな?それにしては童女の姿をしておりますが…」

あまりの奇妙な光景に混乱した二人は、不用意に近付きすぎて妖夢の半霊に
気付かれたのであった。
179創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 02:03:17 ID:GT8jqGBc
 
180暗雲 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 02:05:31 ID:iWo+vgKZ


「あなた達は殺し合いをしているの?」

周囲のことを忘れ自分の能力の確認をしていた妖夢もまた、
突然現れた二人に対して戸惑いを隠せずに、突然にこんな質問を投げかけた。
普段の彼女なら異変の際は、斬って回れば首謀者に辿り着けるなどと物騒なことを考え、
実際に終わらない宴会の異変の時などは、斬れば判ると言いながら
怪しい人物を襲っているのだが、今回は突然の事態に対応できずに
言葉が先に出てしまった様だった。

「余はこの様な御前試合は認めぬし、勿論人を殺して回る気は無い」

未だ困惑している吉宗は、妖魔の類かも知れぬ者に対して律儀に返答し、
ようやく其の事に思い至ったのか
 
「余のことはよい。それよりそちは妖魔か何かなのか?」
 
漸く怪しい少女の正体を問いただしたのだった。

「私は半人半霊。生きているけど死んでいる存在ね。妖魔が何かは知らないけど、
私は半分は人よ」
「それと、私は人間からしたら理解できない存在かもしれないけど、
私もこの異変の解決が目的で、試合なんてする気が無いのは確かよ」

「半人半霊とな。ならばお前が人の部分で、其処に浮いておる白い物が
霊の部分とでもいうのかの」
「そうよ」
「ふむ。確かにその白い物からはこの世の物とは思えない気配がするがの…」

今まで黙って妖夢と半霊を観察していた小兵衛は、妖夢に白い物体の事を問いただすと、
彼女が臆面も無く質問の内容を肯定するので、浮世離れした半霊の存在からも、
彼女が本当に半人半霊であると信じても良い気になるのであった。

「上様。この童女は見たところ試合をする気も無いようですし、
ここは一つこの童女と情報の交換をしませぬか?」
「そうだな。何か変わった存在である事は確かなようだし、興味もあるしの」
「私もそれで良いわ。異変の首謀者は分かっているんだから斬って回る必要もないしね」

話が纏まると小兵衛から順に吉宗、妖夢と名乗っていった。
181創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 02:09:42 ID:GT8jqGBc
 
182暗雲 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 02:09:46 ID:d5J2dhoW
「して、妖夢は半人半霊と言っておたが、わしは長く生きておるがその様な存在は
聞いた事が無いのじゃが…」

「それは仕方ないわ。私は幻想郷からここに連れてこられたんですから…」

緊張が解けたのか、小兵衛が失踪した祖父とどこか似た雰囲気をしているからかは
分からないが、幾分柔らかくなった口調でそう答えると、小兵衛と吉宗は
揃って首を傾げるのであった。

「幻想郷というのは…」

妖夢は幻想郷について、人間と妖怪が共存している事や、妖夢が冥界にある
白玉楼の西行寺幽々子というお嬢様に仕えている事、幻想郷では弾幕ごっこという遊びが
少女達の間で流行っていて、決められたルールの中で人間と妖怪が決闘している事、
力の有る妖怪が偶に異変を起こしては弾幕ごっこで退治されている事、
妖夢も異変の片棒を担いで退治された経験がある事、
妖夢自身も異変を解決したことがある事などを語った。
さらに、まとめて先ほどの行動の理由についても説明を施した。

「なんと俄かには信じられないことを…」
「……嘘にしては話が出来すぎておるが、真のこととも思えぬの」
「だがそれで先ほどの奇行にも納得がゆくな。小石のようなもの、弾幕だったか、
が何時ものように出せない故に調子を確認しておったとは…」
「うむ。それにその様な国があるのならば、黒幕が死者を甦らせられたとしても
不思議ではなくなるの」
「妖怪と人間が共存しているというのも驚くべきことじゃな」
「ああ。それに妖怪がそちの様に童女や女の姿をしているというのも…」

余りにも自分たちの常識からかけ離れた妖夢の話に、二人は取り留めない感想を言いながら、考えを巡らせるのだった。
183暗雲 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 02:14:35 ID:d5J2dhoW
(尾張藩が異界から妖を呼び寄せたり、死者を甦らせる事等出来るとは思わぬが、
尾張藩が妖術を使うものと繋がっているのかもしれぬ。そうなれば益々陰謀を暴かねば
後々に大きな災いを呼ぶことになるだろう)
(この吉宗も黒幕が甦らせた本物かも知れぬが、何か隠しておるようだしの、
妖夢のように人外の者という事も考えられる。もう少し様子をみておくかの)

「それと、一つ聞いておくが、妖夢は主催者に心当たりはないのだな?」
「はい。この様な事を起こせそうな人とういうか妖怪は知っていますが、
その方は私もよく知っていいるので、最初に少年が殺された場には居なかったと断言できます」

妖夢が主催者に心当たりがない事まで聞くと、異界の、それも人外の者が
試合に混じっている事を半信半疑とはいえ理解した二人は、
自分達が今の時点で主催者について考えても無駄と判断し、これからの方針を考え始めた。

「さて、もう今この場で考えられることは少ないだろう。どうじゃろう、
妖夢よ弾幕とやらをもう一度みせてくれぬか」
「いいですけど、弾の数と威力がずいぶん落ちているから…」

そう言うと妖夢は刀を抜き、今度は音を立てないように虚空に向かって点弾を放った。
 
「…確かにこの様なものを見せられてはいよいよ、お前の言葉を信じねばならぬな」

間近で妖夢の放つ弾幕を見た小兵衛はそう呟くと、吉宗も頷くのであった。

「普段は、楼観剣と白楼剣と言う二振りの刀を使って弾幕を出しているから、
その二本が見つかればもっと強い弾幕が撃てるかも知れないのですが…」
「ならば、余らと共にこの陰謀の主の正体を探らぬか?
道中でその楼観剣と白楼剣と言う刀も一緒に探してやろう」
「小兵衛もそれでよいな」
184暗雲 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 02:17:36 ID:d5J2dhoW
愛用の刀があればと、力なく呟く妖夢に対し吉宗は、同行を申し出たのだった。

「はい。それがしも妖夢との同行を考えおりました」
「それに元来の力が出せぬとはいえ、お前ぐらいの身の丈でその様な長物を
見事に扱っている所をみると、流石に首謀者を斬ると言うだけの事はある。実力も十分じゃろう」

どことなく祖父に似ている、目の前の小粋な翁に褒められた事もあってか、

「そうね。異変の解決は何も一人でしなければならない訳でもないし、
私の方こそ宜しくお願いします」

主である幽々子と満月の異変を解決した時の事を思い出しながら、妖夢はそう答えたのだった。
 
「さて、これから如何しますかな?」
「一先ず最初の目的を果たすために、仁七村へ行こう」
「人外の者を異界から連れ来れるような者が、船で外へ逃げられるようにしておるとは思えぬが、
船を確保しておいて損はないだろう」
「私もそれで良いわ。元から仁七村へ行くつもりだったし。」
「それと、お二人の話を聞かせてくれませんか?」
 
三人は行き先を定めると、残りの情報交換をしながら仁七村を目指すのであった。
様々な思いを胸に…
(徳川の為、ひいては日本の為にもこの御前試合を止めねば…)
(人外の者まで紛れておったか。この試合の黒幕は底が知れん。もっと情報を集めねばな…)
(幽々子様…)



次第に月に掛かる雲が濃くなっていくなか、三人はその事に気付かない。月に叢雲花に風
という諺が表す通り、好事には何かと邪魔が入るものだ。三人の主催者打倒という「好事」に
血の雨が降るような事がなければいいのだが…
185暗雲 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 02:20:30 ID:d5J2dhoW
【ほノ陸 街道/一日目/黎明】

【徳川吉宗@暴れん坊将軍(テレビドラマ)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の陰謀を暴く。
一:仁七村に行って舟を押さえる。
二:小兵衛と妖夢を守る。
【備考】
※この御前試合が尾張藩と尾張柳生の陰謀だと疑っています。
※御前試合の首謀者と尾張藩、尾張柳生が結託していると疑っています

【秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:情報を集める。
一:仁七村へ行く
二:吉宗を観察して本物か騙りか見極める。
三:妖夢以外にも異界から連れて来られた者や、人外の者が居るか調べる
【備考】
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者かもしれないと思っています。
※一方で、過去の剣客を名乗る者たちが主催者の手下である可能性も考えています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者だという考えが強くなりました。

【魂魄妖夢@東方Project】
【状態】健康
【装備】無名・九字兼定
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する
一:仁七村へ行く
二:愛用の刀を取り戻す
三:自分の体に起こった異常について調べたい
【備考】
※東方妖々夢以降からの参戦です。
※自身に掛けられた制限に気付きました。
186 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 02:22:47 ID:d5J2dhoW
以上で投下終了します。
人生初SSなのでおかしな所があれば指摘して欲しいです。
感想も貰えれば嬉しいです。
187創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 02:32:16 ID:GT8jqGBc
投下乙です

さすがに夜遅くて頭が働かないので、指摘感想はまた後ほど
188創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 16:13:18 ID:uWnrARcY
 トウカ乙に候。
 
 気になる所なんだけど、基本前提として 「剣技ではない、霊力魔力揚力などに因る間封建的なものは無し」
の前提で始めている企画なのだけど、魂魄妖夢のはアリで良いのですかしらん?
 このキャラ自体をよくわからないので、基準があまりイメージ出来ないのだけど。

 あと些細な話、上様、こんなときなんだししゃっちょこばらんで、普段の徳田新之助口調でええやんけ! と
突っ込みたくなりました。こそばゆいなぁ、しんちゃん。
189創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 16:41:04 ID:kMzBsXKI
投下乙

新人さんキター!
自分も弾幕の点が少し気になったかな
それ以外は乙でした
190 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/12(日) 23:44:11 ID:GqyuDAox
妖夢の弾幕について指摘があったので、したらばの仮投下スレに修正版を投下しまた。
これでも問題が有る場合は破棄します。
191創る名無しに見る名無し:2009/04/13(月) 07:26:47 ID:Ktten7kj
投下&修正お疲れ様です。
まあ将来的に弾幕ぶっ放されると剣術じゃなくなってしまうんで、
作品的にはこれでOKだと思います。初でこれなら大したものだと。
あとは描写が若干淡々となっているのが気になったくらいですが、
これは初投稿でいきなり身に付くものでもないし、人によって全然やり方違うから、
自分で執筆回数重ねて工夫してモノにするしかないです。

あと本編とは直接関係ないですが紹介された動画にコンボ決める
妖夢はあっても、幽体化する妖夢はなかったですが…。
しかしこの妖夢。脇構えを取るとはえらくまた命知らずなスタイルだな。
192創る名無しに見る名無し:2009/04/14(火) 12:53:43 ID:okBdvw6V
つまらない質問で悪いかもしれないけど、今後使うかもしれないので一言。
居合刀って、普通は白鞘って事はありえないんですよね?
無理矢理大根抜きにして抜きまくっていると、
そのうち鯉口が馬鹿になりかねないから。
193 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/14(火) 18:21:11 ID:8WA0wDZT
修正したもので問題無さそうなので、修正版を投下します。
194暗雲(修正) ◆OBLG3wT6B. :2009/04/14(火) 18:24:20 ID:8WA0wDZT
薄く雲の掛かりだした月の下を少女、魂魄妖夢は歩いていた。
へろな村と仁七村どちらに向かうかは一先ず街道に出てから決めようと考えた彼女は、
現在ほノ陸の街道を歩いている。
どちらの村に向かっているかと言うと、街道に出た彼女は結局、異変解決には勘がつき物と,
自らの直感に従い仁七村に向かう事に決めたのであった。
理由はどうであれ、行き先を定めた妖夢は足早に仁七村へと向かっていたのだが、
視線の先に大小二つの人影が歩いているのを見かけると、
二人に追いつくために飛んで行くことにして…
 
「飛べない…」

今まで彼女は目立たぬようにと歩いて移動していたので、
自らに掛けられた制限には気付かなかったのだが、いざ飛び立とうという段になって
自分の体に異常が起きていることに気が付いたのだ。
 
「もしかして弾幕も撃てなくなっているのかしら…?」

突如、自分の体に起こった異常に不安を覚えながらも妖夢は何時もの様に、
剣から自身が最も得意とする鱗形の弾幕を撃とうとしたが失敗に終わった。
それでは他のものはどうかと、自分が出せる弾幕を一通り試したが、
結局弾幕を撃つことは出来なかった。
今までに無かった事態に焦りながらも、これも異変の内なのかもしれないと考え、
自分の体に起こった異常の検証を続ける。

「こんな状態じゃ、あれも無理だろうけど一応確認しておくか…」

”あれ”とは半霊を自分の姿に変形させる技なのだが、この技は精神を落ち着かせ
集中しなければならず、まだ半人前の妖夢では普段でも持って十秒が限界なので
今の状態では到底出来ないだろうと思っていたが、とりあえず確認とばかりに
精神を落ち着かせ…

「一瞬だけ変わった!」

どうにか半霊の姿を変える事は出来そうなので、さらに集中し何度か試すと
3秒程は半霊の姿を変えたままでも維持すること出来ると分かった。
しかし、半霊の姿を変えるのに掛かる時間はいつもと変わらず2秒程度なのだが、
変形の直後の疲労感は普段より強く、戦闘中に多用は出来そうに無かった。
195暗雲(修正) ◆OBLG3wT6B. :2009/04/14(火) 18:26:44 ID:8WA0wDZT
「何でか分からないけど、飛べない上に弾幕も撃てないわ」
「それに一応、半霊の姿は変えられたけど、やたらと疲れるし」

飛行能力と弾幕が使えなくなり多少の不安と困惑を抱える妖夢だが、これも異変の内と
諦めてからは、半霊の状態を確認していたが、それもひと段落した頃に半霊が
そわそわしだしたと思い周囲を見渡すと、先程まで前を歩いていた二人がすぐ近くまで
来ている事に気付いたのだった。



仁七村へと向かい街道沿いに進んでいた吉宗と小兵衛だが、
自分の達の後方に気配と僅かな物音を感じると、歩みを止めた。

「はて?今何か物音がなさりませんでしたかな」
「……そういわれると僅かだが何か物音がしたかもしれん」
「行ってみますかのう?」
「いや、今は船を押さえるのが先だ」
「しかし、船は仁七村の他にもあるやもしれませぬし、人が居るかもしれぬならば
其方へ行ってからでも遅くないのでは?」
「確かに船が一隻しか無いという道理はないが… 
まあ其処まで言うのなら船は音の正体を確かめに行ってからにしよう」

こうして妖夢の居る方向へと歩き出した吉宗と小兵衛は、奇妙な光景を目にする。
少し歩いたところで見えてきた二つの人影が、何故か何も無いところで、走ったり
跳んだりしているのだ。そして、さらに近づいて行くと人影の正体が少女である事は
分かったのだが、さっきまで二人居たたはずが今は一人になっていた。
その代わりに、少女の周りを人の頭ほどの白い物体が付き纏うように漂っているのだが、
次の瞬間に、その白い物体が少女と同じ姿に変わったのであった。

「あれは何なんだ!」
「うむ。妖魔の類ですかな?それにしては童女の姿をしておりますが…」

あまりに奇妙な光景に混乱した二人は、不用意に近付きすぎて妖夢の半霊に
気付かれたのであった。
196暗雲(修正) ◆OBLG3wT6B. :2009/04/14(火) 18:31:16 ID:q9g06nPE


「あなた達は殺し合いをしているの?」

周囲のことを忘れ半霊の状態を確認していた妖夢もまた、
突然現れた二人に対して戸惑いを隠せずに、こんな質問を投げかけた。
普段の彼女なら異変の際は、斬って回れば首謀者に辿り着けるなどと物騒なことを考え、
実際に終わらない宴会の異変の時などは、斬れば判ると言いながら
怪しい人物を襲っているのだが、今回は突然の事態に対応できずに
言葉が先に出てしまった様だった。

「余はこの様な御前試合は認めぬし、勿論人を殺して回る気は無い」

未だ困惑している吉宗は、妖魔の類かも知れぬ者に対して律儀に返答し、
ようやく其の事に思い至ったのか
 
「余のことはいい。それよりそちは妖魔か何かなのか?」
 
漸く怪しい少女の正体を問いただしたのだった。

「私は半人半霊。生きているけど死んでいる存在ね。妖魔が何かは知らないけど、
私は半分は人よ」
「それと、私は人間からしたら理解できない存在かもしれないけど、
私もこの異変の解決が目的で、試合なんてする気が無いのは確かよ」

「半人半霊とな。ならばお前が人の部分で、其処に浮いておる白い物が
霊の部分とでもいうのかの」
「そうよ」
「ふむ。確かにその白い物からはこの世の物とは思えない気配がするがの…」

今まで黙って妖夢と半霊を観察していた小兵衛は、妖夢に白い物体の事を問いただすと、
彼女が臆面も無く質問の内容を肯定するので、浮世離れした半霊の存在からも、
彼女が本当に半人半霊であると信じても良い気になるのであった。

「上様。この童女は見たところ試合をする気も無いようですし、
ここは一つこの童女と情報の交換をしませぬか?」
「そうだな。何か変わった存在である事は確かなようだし、興味もあるしの」
「私もそれで良いわ。異変の首謀者は分かっているんだから斬って回る必要もないしね」

話が纏まると小兵衛から順に吉宗、妖夢と名乗っていった。
197暗雲(修正) ◆OBLG3wT6B. :2009/04/14(火) 18:32:50 ID:q9g06nPE
「して、妖夢は半人半霊と言っておたが、わしは長く生きておるがその様な存在は
聞いた事が無いのじゃが…」

「それは仕方ないわ。私は幻想郷からここに連れてこられたんですから…」

緊張が解けたのか、小兵衛が失踪した祖父とどこか似た雰囲気をしているからかは
分からないが、幾分柔らかくなった口調でそう答えると、小兵衛と吉宗は
揃って首を傾げるのであった。

「幻想郷というのは…」

妖夢は幻想郷について、人間と妖怪が共存している事や、妖夢が幻想郷の中に在る
冥界の白玉楼の西行寺幽々子というお嬢様に仕えている事、
幻想郷では弾幕ごっこという遊びが少女達の間で流行っていて、
決められたルールの中で人間と妖怪が決闘している事、
力の有る妖怪が偶に異変を起こしては弾幕ごっこで退治されている事、
妖夢も異変の片棒を担いで退治された経験がある事、
妖夢自身も異変を解決したことがある事などを語った。
さらに、まとめて先ほどの行動の理由についても説明を施した。

「なんと俄かには信じられないことを…」
「……嘘にしては話が出来すぎておるが、真のこととも思えぬの」
「だがそれで先ほどの光景にも納得がゆくな。そちの半霊を人の部分と同じ姿に
変えていたとはな…」
「うむ。それにその様な国があるのならば、黒幕が死者を甦らせられたとしても
不思議ではなくなるの」
「妖怪と人間が共存しているというのも驚くべきことじゃな」
「ああ。それに妖怪がそちの様に童女や女の姿をしているというのも…」

余りにも自分たちの常識からかけ離れた妖夢の話に、二人は取り留めない感想を言いながら、考えを巡らせるのだった。
198暗雲(修正) ◆OBLG3wT6B. :2009/04/14(火) 18:35:16 ID:q9g06nPE
(尾張藩が異界から妖を呼び寄せたり、死者を甦らせる事等出来るとは思わぬが、
尾張藩が妖術を使うものと繋がっているのかもしれぬ。そうなれば益々陰謀を暴かねば
後々に大きな災いを呼ぶことになるだろう)
(この吉宗も黒幕が甦らせた本物かも知れぬが、何か隠しておるようだしの、
妖夢のように人外の者という事も考えられる。もう少し様子をみておくかの)

「それと、一つ聞いておくが、妖夢は主催者に心当たりはないのだな?」
「はい。この様な事を起こせそうな人とういうか妖怪は知っていますが、
その方は私もよく知っていいるので、最初に少年が殺された場には居なかったと断言できます」

妖夢が主催者に心当たりがない事まで聞くと、異界の、それも人外の者が
試合に混じっている事を半信半疑とはいえ理解した二人は、
自分達が今の時点で主催者について考えても無駄と判断し、これからの方針を考え始めた。

「さて、もう今この場で考えられることは少ないだろう。どうじゃろう、
妖夢よもう一度そこの半霊の姿を変えてはくれぬか?」
「いいですけど、疲れるので一度だけですよ…」

そう言うと妖夢は精神を集中し半霊を自分の姿に変えるのであった。
 
「…確かにこの様なものを見せられてはいよいよ、お前の言葉を信じねばならぬな」

間近で妖夢の半霊が彼女の姿に変わるのを見た小兵衛はそう呟くと、吉宗も頷くのであった。

「普段は楼観剣と白楼剣と言う二振りの刀を使って弾幕を出しているから、
その二本が見つかれば弾幕も使えるようになるかもしれないのですが…」
「ならば、余らと共にこの陰謀の主の正体を探らぬか?
弾幕と言うのがどういったものかは分からんが、
道中でその楼観剣と白楼剣と言う刀も一緒に探してやろう」
「小兵衛もそれでいいな」
199暗雲(修正) ◆OBLG3wT6B. :2009/04/14(火) 18:36:04 ID:q9g06nPE
愛用の刀があればと、力なく呟く妖夢に対し吉宗は、同行を申し出たのだった。

「はい。それがしも妖夢との同行を考えおりました」
「それに元来の力が出せぬとはいえ、お前ぐらいの身の丈でその様な長物を
見事に扱っている所をみると、流石に首謀者を斬ると言うだけの事はある。実力も十分じゃろう」

どことなく祖父に似ている、目の前の小粋な翁に褒められた事もあってか、

「そうね。異変の解決は何も一人でしなければならない訳でもないし、
私の方こそ宜しくお願いします」

主である幽々子と満月の異変を解決した時の事を思い出しながら、妖夢はそう答えたのだった。
 
「さて、これから如何しますかな?」
「一先ず最初の目的を果たすために、仁七村へ行こう」
「人外の者を異界から連れ来れるような者が、船で外へ逃げられるようにしておるとは思えぬが、
船を確保しておいて損はないだろう」
「私もそれで良いわ。元から仁七村へ行くつもりだったし。」
「それと、お二人の話を聞かせてくれませんか?」
 
三人は行き先を定めると、残りの情報交換をしながら仁七村を目指すのであった。
様々な思いを胸に…
(徳川の為、ひいては日本の為にもこの御前試合を止めねば…)
(人外の者まで紛れておったか。この試合の黒幕は底が知れん。もっと情報を集めねばな…)
(幽々子様…)



次第に月に掛かる雲が濃くなっていくなか、三人はその事に気付かない。月に叢雲花に風
という諺が表す通り、好事には何かと邪魔が入るものだ。三人の主催者打倒という「好事」に
血の雨が降るような事がなければいいのだが…
200暗雲(修正) ◆OBLG3wT6B. :2009/04/14(火) 18:37:42 ID:q9g06nPE
【ほノ陸 街道/一日目/黎明】

【徳川吉宗@暴れん坊将軍(テレビドラマ)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の陰謀を暴く。
一:仁七村に行って舟を押さえる。
二:小兵衛と妖夢を守る。
【備考】
※この御前試合が尾張藩と尾張柳生の陰謀だと疑っています。
※御前試合の首謀者と尾張藩、尾張柳生が結託していると疑っています

【秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:情報を集める。
一:仁七村へ行く
二:吉宗を観察して本物か騙りか見極める。
三:妖夢以外にも異界から連れて来られた者や、人外の者が居るか調べる
【備考】
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者かもしれないと思っています。
※一方で、過去の剣客を名乗る者たちが主催者の手下である可能性も考えています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者だという考えが強くなりました。

【魂魄妖夢@東方Project】
【状態】健康
【装備】無名・九字兼定
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する
一:仁七村へ行く
二:愛用の刀を取り戻す
三:自分の体に起こった異常について調べたい
【備考】
※東方妖々夢以降からの参戦です。
※自身に掛けられた制限に気付きました。
 制限については、飛行能力と弾幕については完全に使用できませんが、半霊の変形能力
 は妖夢の使用する技として、3秒の制限付きで使用出来ます。
 また変形能力は制限として使う負荷が大きくなっているので、
 戦闘では2時間に1度程しか使えません。
※妖夢は楼観剣と白楼剣があれば弾幕が使えるようになるかもしれないと思っています。

【半霊の変形能力について】
東方萃夢想、東方緋想天の魂符 「幽明の苦輪」、魂魄 「幽明求聞持聡明の法」
をスペルカードなしで使えるようにしたものです。
自分の行動をなぞって動きます。また、半霊の方は色が少し薄くなるので見分けられます。
参考動画
ttp://www.youtube.com/watch?v=5E-nTkrCBm0
201 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/14(火) 18:49:58 ID:2KyQKqpN
修正版の投下を終了します。
参考動画についての説明です。動画中に魂魄 「幽明求聞持聡明の法」という文字が出た後、
妖夢が跳ねている時などに後ろを残像のように白っぽい妖夢が付いてきますが、
それが変形した妖夢の半霊です。見ずらいかもしれないですが動きの参考にして下さい。
202創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 18:56:38 ID:xjA/bIrT
ああ、なるほど。
二人がかりでフルボッコにしてるわけね。

……いいのか?
第一幽体に攻撃って効くのか?
普通に本体と同じく効くものなら俺は構わんが。
203創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 23:07:31 ID:jwby8+3+
>>202
戦う局面になったらそういう制限にしちゃえばおkじゃね?
204創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 23:19:27 ID:5+csUtSX
ともあれ修正お疲れ様です。
じゃあまあ問題無しってことでいいかな?
無しならそのままwikiに載せますが。
205創る名無しに見る名無し:2009/04/16(木) 19:35:07 ID:17zHTtZ9
wiki掲載完了。
魂魄妖夢もそうだけど、キャラスペックや性格を詳しく知っている人がいたら
wikiに追加してほしい。そういうのがあるほうが、続きを書きやすくもあるので。
正直キャラクター紹介クリックして詳細書いてあるのは数えるほどしかいねえ…。
206 ◆L0v/w0wWP. :2009/04/16(木) 22:24:51 ID:AE99iM8o
石川五ェ衛門、芹沢鴨、細谷源太夫、伊良子清玄予約します
207創る名無しに見る名無し:2009/04/16(木) 23:00:27 ID:h4q7FPpu
>>205
wiki編集乙
確かにキャラクター紹介欄寂しいねぇ…
時間があればわかる範囲で書いてみようかな

>>206
予約キター!
208創る名無しに見る名無し:2009/04/17(金) 00:01:25 ID:5/1l/AJ5
>>205
とりあえず魂魄妖夢のは作ってみたんだぜ
技表も書いてみようと思ったが心が挫けた
209 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/18(土) 00:05:52 ID:tjIt+qFN
高嶺響、香坂しぐれ予約します
210創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 01:04:49 ID:0F2gJyKH
お、やっぱりその二人が来るか。
211創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 02:09:18 ID:cMRfCPhs
おお、もう次の予約来たか!
両氏とも頑張れ
212 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/23(木) 02:34:43 ID:AlldsSja
仮投下スレに香坂しぐれ、高嶺響を投下しました。
指摘等よろしくお願いします。
213創る名無しに見る名無し:2009/04/23(木) 07:49:47 ID:4rfQbjoF
内容的な問題はないと思う。
響が随分融通が効かず、むしろ響のほうが理由を探して人斬りを楽しむ人間に見えますが、
やはり6人以上斬り、人斬り慣れした後からの参戦だからでしょうか?
だからこそ、自分自身の体験談を語っているようにすら感じましたが。
ともあれ乙です。

最後に。これは余談ですが、よそのwikiで技一覧は見れるが、やはり動画とかないかな…。
214創る名無しに見る名無し:2009/04/23(木) 15:22:05 ID:rSCylfui
自分も問題無いと思います。
しかし響・・・お前それじゃ殆ど当たり屋だぞwww
215 ◆L0v/w0wWP. :2009/04/23(木) 22:56:42 ID:9UdMw/7s
規制に巻き込まれたため避難所に投下します
感想指摘などお願いします
216創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 10:53:02 ID:whMub2kF
両氏共に投下乙。
どちらも問題無いと思います。

しぐれと響は共闘かと思いきやまさかの破局。
これは何かフラグが立った予感

酒蔵組は伊良子とすれ違いか。
しかし酒蔵組は一番冷静なのが五右衛門というのがまたwwww


217創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 12:56:31 ID:9/QZXoex
丸腰かつ重体の状態で、同一村中に優勝狙いマーダーと自称対主催の人斬り、あとレイパーの三人に包囲されているのか。
しぐれオワタw
218創る名無しに見る名無し:2009/04/24(金) 19:51:45 ID:8A4hm+Je
◆L0v/w0wWP.氏は規制で本投下出来ないだろうから、
自分が転載しようと思うが、 ◆OBLG3wT6B. 氏?
貴方のもやっておきます?
219 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/24(金) 23:05:09 ID:A4m6tBrC
>>218
>>218
お言葉に甘えて、転載宜しくお願いします。
―私は人斬りを斬りたいのだろう




とノ漆のとある民家の前に水に濡れた少女、香坂しぐれは立っていた。
彼女は近藤勇との戦いに敗れ、海に転落してから少し休み、その後
濡れたままでは無駄に体力を消耗すると考え、服を探すために民家を探索していたのだが、
その中の一軒から人の気配を感じたのだ。
そこで彼女は探索を一時中断し、中の人と接触することにした。
トン、トン

「誰だ!」
「やっぱり…居た。ボクは香坂しぐれ。気配がしたから確認して…みた。
…殺し合いには…乗ってない」
「……入っていいわ」

ゴトッ
中に入ると、小柄な少女が剣を構えて立っていた。

「お邪魔…します。…できればその剣を下ろして欲し…い」
「ごめんなさい。彼方が本当に試合に参加していないか分からなかったから。私は高嶺響」
「それもそう…か。それなら仕方…ない」
「早速だけど、座って話を聞かせて欲しい。囲炉裏で暖をとりながら」
「ああ…このままでは風邪を引いてしまいそう…だ。」



「そう。それで彼方はその近藤勇と戦い、敗れたのね」
「まあ…そうだ。次は負け…ない」
「一つ確認するけど、近藤勇と名乗りあった後に彼方から斬りかかったのね?」
「そう…だ。なにやら…興奮していたから…頭を冷やしてやろうと思っ…た」
「なぜ斬ったの?」
「だから…頭を冷やしてやろうと思ったから…だ」
「斬らない方法は無かったの?話し合いだって出来たはずよ」
「それは…あの手の奴は…少し動いたほうがすぐ落ち着く…から」
「でも、彼方は刀で斬りかかった後、その刀を投げて牽制し、鎖鎌で
近藤勇の首を絞めようとしたと言ったわ。途中から殺す気で戦ってる」
「それはそうかもしれないが…でも…」
「彼方、本当は最初から近藤勇と死合いする積もりで斬ったのではないの?」
「そんな事は断じて…ない。つい本気で戦ってしまったが…最初は無力化して
後で話し合う積もり…だった」
「嘘よ。彼方ほど戦い慣れていたら、最初に近藤勇が剣を振るっていたのを見た時に
近藤の剣の腕を見抜いたはずよ」
「確かに強いとは…思った。でも…勝てると思ったから…戦った」
「戦ってみたら予想より強かったと言うのね。でも彼方はついさっき、”次は負けない”
と言ったわ。まだ愉しみのためにに戦うの?」
「ボクは愉しみの為になど戦って…いない。殺し合いに乗った者を無力化するために…戦った」
「近藤勇は試合に乗ったとは言ってなかったのではないの?」
「…危なそうだった」
「だからこそ、彼方は話し合うべきだった。話をすれば近藤勇は人を斬るような事は
しなかったかもしれない。でも今は戦いに興奮し、何処かへ行ってしまった。一度、
斬ることの愉しさに溺れたらもう止まらないわ」
「そうだ…だからボクは近藤を止める…ためにまた戦わなければなら…ない」
「そうやって、今度は殺すのね」
「…殺さない」
「それなら、彼方はもう戦わないほうがいい。」
「ボクはまた…戦う。今回は失敗した…けどもう油断しな…い」
「油断せずに殺すの?」
「ああ…なんでボクを人殺しにしたがるんだ?」
「したがるんじゃない。事実そうだからよ。彼方は人斬りなのよ」
「なんで…お前にそんな事が分かる?」
「私は多くの人斬りを見てきたからよ。自分の強さを証明するために人を殺す、
人を殺して悦に浸る人斬りという人種を」
「違う!ボクは…」
「やはりね。どれ程の人を斬ったかは知らないわ。罪悪感もあるようね。
でも、もう彼方は人を斬らずにはいられない。
人を斬ることが許されるこの場所では衝動を抑える必要がないのだから」
「殺さない!」
「無理よ。彼方はもう戦う悦びに気付いてしまった。例え今は殺す気が無くても、
戦い始めたら必ず相手を殺すわ」
「…分かった。出来ることを証明する。お前は今からボクを襲え。ボクはそれを無力化する」
「分かったわ。今は刀を持っていないけど、彼方は人斬り。今の内に私が彼方を斬る」


「遠間より斬る也」

刀を持たない相手を斬ることに僅かに抵抗があったものの、相手が人斬りならば容赦はしないと、傍に置いていた刀を持つと同時に、首筋を狙い素早く抜刀し斬りかかった。

「予想以上…」

そこで響はあり得ない事を目にする。あろうことか、しぐれは十能で彼女の一撃を防いだのだ。
流石に、響の一撃で十能は壊れたものの、日常用品で日本刀を凌ぐとは誰も考えられない。
これは、剣と兵器の申し子と言われるしぐれが、予め相手を警戒し、灰をならす振りをして自分の
近くに十能を置いており、また自分を殺す気で来る彼女が狙うのは首であると
確信していたから出来た事である。

全く予期せぬ事態は、響に居合の基本である二の太刀を遅らせる。
対して、初めからこの隙を狙う心算でいたしぐれは、素早く動く。

「ボクの勝ち…だ」

二撃目が少し遅れて来ると予想していたしぐれは、十能で一の太刀を防ぐと同時に、予め
場所を確認していた火箸を拾いに行った。

「がっ!」

しかし、しぐれの予想に反し二撃目は無く、合気道の様な物で投げられたのだった。

一の太刀を外し、一瞬止まった響は二の太刀を出すことを敢えてせず、
自分から離れていくしぐれを追撃したのである。
響は目の前の事態から立ち直ると、隙を作った自分から態々離れていくしぐれの意図が
武器の調達であると、先ほど十能を武器とした彼女の戦い方から確信し、
武器を確保される前に追撃することを選んだのだ。

「止め忘れぬ事肝要也」

響は背を向けて倒れるしぐれに対し、首に向け刀を突き出す。
今回も首を狙ったのは、殺傷目的という事もあり、服の下に鎖帷子を着ているしぐれを
確実に殺すには首を狙うしか無かったからだ。

「甘い」
「きゃっ」

しかし、しぐれは再び環境を利用する。刀が突き出されたその瞬間を狙い、
囲炉裏の周りに敷かれていた御座を思いきり引っ張り、響の体勢を崩したのだ。
体勢を崩しながらも突き出された刀はしぐれの背中に中るが、またしても鎖帷子に助けられる。

刀が中った衝撃でしぐれは少したじろぐが、なんとか目の前にあった火箸を拾う事に成功する。
しかし、響もしぐれが火箸を拾うと同時に、体勢を立て直す。

二人の攻撃は同時だった。

しぐれは振り向きざまに、響の姿を確認し、彼女の喉に向かい火箸を投げる。
響もあくまでも、しぐれを斬り殺すことを目的に首を狙う。

「ぎゃっ!」
「うっ!」

結果、二人の攻撃は互いの手首に命中した。

しぐれが寝ころびながら、振り向きざまに投げた火箸は、響が袈裟がけに首を斬ろうとして
振り下ろした左手首を貫き、響の刀は、振り向く前のしぐれの首の位置にあった右手首を
切断したのだ。

「ボクの手が…」
「さっきの火箸、首を狙っていた。やはり殺す気になったみたいね」
「違う!」
「違わないわ。人斬りは私が斬る」

痛みに耐え、手首に刺さる火箸を抜いた響は幾分、錯乱するしぐれの周りに、
武器になる物が無いことを確認すると、止めを刺すために右手で刀お振り下ろした。

「人斬りはお前だ」
「そんな!」

しかし、武器になる物はまだあった。
しぐれは、斬り落とされた自分の右手を盾に刀を防いだのだ。
そして、驚く響を突き飛ばすと

「人斬りはお前だ。次は殺す」

そう言いながら、走って家を出て行った。



―ボクは嬉しかったのだろうか。この場で彼らと会えた事が…


【とノ漆 民家の中/一日目/黎明】

【高嶺響@月華の剣士第二幕】
【状態】左手首貫通創 疲労小 強い覚悟と意志
【装備】居合い刀(銘は不明)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:享楽的な争いに強い反抗心
一:黒幕を見つけ対抗する
二:人斬りを斬る
【備考】
エンディング後の参戦

【とノ漆 民家の外/一日目/黎明】

【香坂しぐれ@史上最強の弟子ケンイチ】
【状態】疲労大 右手首切断 両腕にかすり傷 腹部に打撲
【装備】無し
【所持品】無し
【思考】
基本:殺し合いに乗ったものを殺す
一: 右手の治療をする
二:武器を探す
三:近藤勇に勝つ方法を探す
四:高嶺響を殺す
【備考】
登場時期は未定です。
所持品は全て民家に置いてきました。
224少女二人で夜越えて―/人斬り二人 ◇OBLG3wT6B./代理投下:2009/04/25(土) 00:38:25 ID:a+Jil/sg
代理投下終了


◆L0v/w0wWP.氏のやつは本日昼ごろに代理投下します
続き行きます


「ふはは。なんだこれだけ酒があれば浴びるほど飲んでも飲み足りないくらいじゃないか!」

断りも無しに酒蔵あがりこみ、樽を叩き割って枡で酒をまさに浴びている
この褌一丁の小山のような男に、先客である石川五ェ門、細谷源太夫は辟易していた。
特に源太夫は、なまじ見事斬り死にする覚悟を固めた後だけあって、口を開けて呆けてしまっている。
もっとも、五ェ門は重症を負い、源大夫はかつての剛健ぶりは露ほどにも伺えぬほど衰えている。
問答無用で切りかかられなかっただけましと言うべきか。

「どうした?君たちも飲まんのかね?安物のドブロクだがなかなか美味いぜぇ、これは」
「―!!!」

蔵の隅で息を潜めていた二人はおずおずと暗がりから姿を現す。

「なぜ分かった…」
「フン、これほど酒と血の臭いをプンプンさせてれば嫌でも分かるわな」

巨漢はその面相に似合わぬ人懐っこい、それでいてからかいを多分に含んだ笑みを浮かべる。
もっとも五ェ門たちもこのまま、隠れ通せるとは最初から思っていなかったが…。

「まぁ、なんだ…こんなところで話し込むのもアレだからな。蔵の裏手に屋敷があった筈だ。そこへ来たまえ
 この格好では寒くてかなわんしな…グァハハハハハハハ!!!」

勝手に一人で決めると男はその場にあった大徳利二つを酒樽に静めた後、
笑いながら乱暴に引き戸を開け放って、男は蔵から出て行った。
傍若無人ぶりに顔を見合わせた二人は仕方なくそれに従った。

◇ ◇

酒蔵の裏手に備え付けられた小屋の板間で、車座になっていた。
芹沢は、やや丈の足りない町人の着流しを身にまとい、ふてぶてしくも
上座にどっかと腰を下ろしている。その向かって左に源太夫、右に五ェ門。
細谷がまずは各々を素性を知りたいと細谷が述べた事から、
言いだしっぺの細谷から簡単に己らの素性を話そうという事になっていた。

しかし、細谷の話の長いこと長いこと。
主家が取り潰された敬意から、青江たちとの騒々しくも懐かしい日々、
妻や子供たちとの思い出、再び禄を失い、無様に老いさらばえている事等等。
細谷の見栄っ張りな性分から多少の潤色はまじっているのだが、それらを熱っぽく語る
細谷はついに感極まって泣き出してしまった。これには芹沢が細谷に勧めた酒のせいもある。
はじめは最早醜態は晒せぬと頑なに拒んだ細谷だったが、もはや全身に酒毒が回ってしまった身。
誘惑に勝てず杯に口をつけてから、もう十回はそれを干している。当然、先ほどの決意が曇ったわけではないのだが
五ェ門はその姿にやや呆れてしまった。しかしそれは別に五ェ門は口には出さねど
大いに首を傾げていたのだが…。

「…たのだ!それを馬鹿にしくさったのだぞ、あの生臭坊主は!許せん!断じて許せん!」
「あ〜もうわかったわかった。そのくらいで良かろう御老体。」
「なにをっ!まだ話は終わっていないぞ!」
「俺が聞きたく無いと言ってるんだよ!」
「――ッ!!!」

突如語気を荒げた芹沢が始めて見せた鋭い目つきに源太夫はすごすごと引き下がってしまう。
伝鬼坊相手に見せた漢気はどこへやら…五ェ門はさらに頭を抱えた。

「次、君話が給え」

これまたここで調達した粕漬けを齧りながら芹沢が顎で五ェ門に促した。
この態度にはさすがに五ェ門も腹を立てる。自分と腐れ縁のあの男も
傍若無人な性分だが、ここまでではなかった。

「断る!」
「なにぃっ!?」
「お主が何者かは存ぜぬが、人に名を訪ねるのならば自らなのるのが礼儀というもの」
芹沢と五ェ門が睨み合い、源太夫が心配そうな顔で両者の間で目線を泳がせる。
だがその睨み合いは芹沢が突如破顔した事により終わった。

「ヘヘッ…死に損ないにしてはいい度胸じゃないか!」
「なにっ!?」
「いちいちいきり立つんじゃねえよ。傷に触るぜ」

どこまでも人を馬鹿にした態度に五ェ門は怒りを露にした。

「いいだろう。その度胸を買って名乗ってやろうじゃないか!俺…いや
 我輩は新撰組筆頭局長!尽忠報国の壮士!芹沢鴨だ!」

「かも?新撰組…?」
「なんだとっ…!?」

源太夫は首をかしげ、五ェ門は目を見開く。

「なにかね?どこかで会ったかな?」
「いや…思い違いだ」
「そうかい」

芹沢は怪訝な表情を浮かべ、それ以上追求をしなかった。

「で、言うとおり俺は名乗ったぜ?お前さんも名乗るのが礼儀だろう」
「うむ、拙者は石川五ェ門と申すもの…」
「石川…ご・え・も・ん〜ッ!?プハハハハハハッ!!!なんだ、おめぇ盗賊か?」
「せ、拙者はそのようなものではない!」

五ェ門は頬を紅潮させ否定するが、悲しいかな鴨の指摘は殆ど当たっていたりする。

「まぁ、冗談だ。許してくれたまえ、石川君」
「む、むぅ」
「それにしても君も随分大胆だな。まぁ、俺…いや我輩の鴨という名乗りも奇妙だ奇妙だと言われるがね」

そう言って鴨は再び大笑した。
「で、なんなのだ。その新撰組とは?」

その間に源太夫が疑問を差し挟んだ。

「なんだ、御老体はしらねぇのかね?まぁ、それも当然か。名前を変えたばかりだからな。
 まぁ、俺としては誠忠組の方がよかったと思うのだが…会津公からの拝命というならば致し方あるまい」
「ほぉ、貴殿は会津の出か」
「いや、俺は水戸脱藩よォ。今は都で真の尊皇攘夷をおこなうべくだな…」
「そんのーじょーい…?」

首を傾げる源太夫に、鴨は飽きれた顔をして語った。

「なんだ御老体。いくら隠居とはいえそのようなこともわからぬか。
 酒ばかり飲んで引きこもっていてはいかんよ」
「わ、わしとて無位に日々を送っているわけではないぞ!確かに以前ほどの腕はもう無いが用心棒としてだな…」
「あー、わかったわかった!どの道御老体は存ぜぬようだから、教えて進ぜよう。」

大徳利の底が抜けんばかりに床に叩きつけ、芹沢が熱っぽく語りだした。

「掻い摘んで言うとだな…かの唐土の忠臣・岳鄂王、文天祥、袁崇煥、鄭成功のようにだな、
 今危急存亡の日ノ本を犯さんとする南蛮紅毛の夷狄どもを打ち払い帝を守り立てんとするのが我らの指名よ!」
「…な、南蛮人が日ノ本を!?なんと、そんな大それたことになっておるのか?!」
「ほれみろ、やはり何も知らないじゃないか」

酒が入っているせいか、二人はそのままギャーギャーとお互いの主張をぶつけ始めるが、
とても収拾の尽きそうな事態ではない。五ェ門にはその理由もわかるのだが、それはあえて告げない。

「まぁ、お二人とも一旦矛を納められい。まずは、今この状況を把握するのが先ではないか」
◇ ◇ ◇

「まず某は、この下らん殺し合いを打ち砕く。どこの誰が仕組んだ事は知らぬがこのような無益な殺生許される筈もない!」
「わしのような半病人では足手まといにしかなれんだろうが…できれば、わしも石川殿に協力したい…。
 せめて最期だけは武士として戦い散りたいのだ!」

ただならぬ決意で告げる二人に対して芹沢は相変わらず酒を喰らっていた。

「芹沢殿、お主はどうなさるおつもりか」
「さぁな…」

五ェ門に一瞥もくれずに芹沢は答える。その言葉の意味する事に関して
考えを巡らせた源太夫

「まさか、『これ』に乗り気なのではあるまいなっ!?」
「ふむ…それも悪かぁねぇ…」

物騒な言葉に思わず構えを取る五ェ門。

「やめておきたまえ、石川君。死に底無いの君がそんなボロ刀で我輩とやりあったところで
 御老体ともどもぶったぎられるのがオチだぜ。グフフフッ…」

芹沢が浮かべた笑みは下卑ているとも、不敵とも取れる複雑なものだった。

「それに安心したまえ。酒も持たせず、人を素っ裸でほっぽりだすような野郎においそれ
 従うつもりはないからなッ!ウハッ、グァハハハハハハッ!」
「ではどうするというのだ?」

ふむ、と芹沢は顎を撫でながら人別帳を取り出した。

「まぁ、さっきも言ったとおり俺の部下がここには五人呼ばれているらしい。
 動くのも面倒だしな。ここでそいつらが来るのを待つさ。近藤君伝家の宝刀(笑)も
 借りっぱなしじゃ悪いからな。あいつらも馬鹿じぇねえんだから俺の寄りそうな場所ぐらい検討がつくだろうよ。」

そういうと脇に置いていた近藤に目をやった。

「それからが問題だな―――まぁ、そいつらが何か面白いことを言ってきたらその通りにしてやるさ。
 その時は、まぁ…悪いがお前ら…いや、君たちををぶった切る破目になるかもしれんが、杯を酌み交わした誼だ。
 よほど俺の気にでも触らんかぎり、次くらいは見逃してやるさ、安心したまえ。ハッハハハハハ!」
「貴様ッ!!」
「なんだ、今死ぬか?」

芹沢の声のトーンが落ち、先ほどからふざけっぱなしの男とは思えないくらいの眼光を帯びた。
これに対して五ェ門も、これに源太夫も気おされながら睨み返す。

「まぁ、焦るんじゃねえよ。今、どうこうしようなんて気は俺にはねぇ。
 御老体も石川君も仲良くやろうじゃねぇか?なぁ」
「…無用の争いはこちらの望むところでもない…」
「わかりゃーいいんだ、わかりゃあ。まぁ、今のところここでまともに他の連中とやりあえるのは
 俺しかいないみたいだからな。俺の知り合いが来る前に乗り込んで来るような輩がいたら、俺…
 いや、我輩が守って進ぜよう!大船に乗ったつもりでいたまえ!」

一人、呵呵大笑して芹沢は姿勢を崩した。源太夫が芹沢に聞こえない声で呟いた。

(図体だけ大きい泥船ではないか…)
◇ ◇ ◇ ◇

さて言葉とは裏腹に、芹沢は大して部下の進言には期待していなかった。ここにいる全員の顔を思い出しても
なにか面白い事を考え付くとは思えなかったからだ。

(近藤君は腕は立つが忠義だの士魂だの、存外、俗な男だ。まぁ、百姓ゆえの負い目ってところだな。
 山南君も理屈っぽいからそう面白いことが思いつくとは思えん。斉藤…君だったか。口を利いた事すら殆ど無いな。
 土方君は論外、あの野郎のことだ。もう、近藤君を生かすために他の連中を殺しにかかってるかもしれん。
 沖田君は他の連中よりは親しいが、頭はガキとかわらんからな。過度の期待はできねぇ。なんだ結局俺が考えるのか。
 まあ、面倒だが、何か思いつくまでこいつらをからかうのも悪くないかも知れんな。しかし…)

行李から乱暴に放り出されている人別帳に目をやる。

「しかし、これを考えた野郎ってのはどんな連中だぁ?この人別帳にしたって随分人を食っていやがるじゃねえか」
「拙者もその事については考えていたところだ」

宮本武蔵だの佐々木小次郎だのは趣味の悪い冗談で済むが、よりにもよって八代将軍の名まで記されている。
仮にいかな身分のある大名がこれの黒幕としても、将軍家を愚弄するような行為、切腹改易は免れない。
さらに腹を切らされて死んだはずの新見錦の名前。新見が死んだのは数日まえであるから、それを知らないのは当然として、
清河八郎の方がわからない。あの男が死んでからけっこう時間がたっているはずだが…。
(ちなみに芹沢と清河は思想的には似通っているところがあったものの、なにかと理屈をこねくりまわし
 さらには芹沢とは違うベクトルで傲岸不遜な彼が大嫌いであった。)

疑問を述べる芹沢と五ェ門に対し源太夫は何を悩むことがあるという風に答える。

「誰だもなにも、このような事をなさるのは御当代しかいらっしゃるまい!
 このような奇矯な振る舞いの上、自らそこに踊り込まれるとは!なんたる暗君!」
「おいおいおいおい…御当代っつったってまだガキじゃねえか。あんなお飾りがそんな大それたこと
 できるとは思えねぇがな」
「ガキ?何をおっしゃる。御当代はとうに三十を過ぎておられるぞ?」
「おいおい、御老体。ついに耄碌なすったか、それとも酒毒が頭にまでまわったか?今の公方はまだ十八だぜ?」
「はぁっ!?」
「あんっ!?」

再び話が噛み合わなくなった二人を静観していた五ェ門。
やはり…この二人は、いや、自分を含めた三人の常識には大いに隔たりがあった。
源太夫、そしてあの大入道と遭遇した時から違和感は感じていたが、この芹沢鴨を名乗る男を見て
核心にいたる。やはり、自分たちはここに人智を超えた力で集められているのだと。

忘れたくとも忘れられないいつもの連中とそういった存在とは何度と無く刃を交えている。
彼らが記憶まで植えつけられた精巧な複製人間(クローン)なのか、未来人に時空航行装置で
拉致された過去の人間なのか。そこまではわからない。もちろん自分が過去に飛ばされた可能性もある。
それらに結論を出すことはまだ出来ないが、この3人のなかで真実に一番近いのは自分であろう。

だが、この事をこの二人にどう伝えるべきか。自分が未来人であるなどと打ち明けたところで
彼らが信じる可能性は限りなく低い。そして、もうひとつ、信じさせたところで彼らは自らの
行く末を大いに気にするはずだ。特に芹沢に関してはその行く末を知っているだけあってどう対処すべきか。
もし芹沢が逆上すれば今の状態で勝ち目は無い。この殺し合いを仕組んだ相手を倒すためにそれだけは
避けたいところなだ。これがルパンであればごまかす事などお手の物なのだが、生憎自分は
そういった事に関しては不向き。この芹沢という男、ふざけているようで存外鋭い勘の持ち主のようだ。
ごまかし通せる自信は無い。果たしていかにすべきか。不毛な口論を続ける二人を前に五ェ門は
知っているゆえの苦悩に陥っていた。
【とノ肆 酒蔵裏の母屋/一日目/黎明】



【石川五ェ門@ルパン三世】
【状態】腹部に重傷
【装備】打刀(刃こぼれして殆ど切れません)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者を倒し、その企てを打ち砕く。
一:いかように伝えるべきか、伝えぬべきか…。
二:斬鉄剣を取り戻す。
三:芹沢を若干警戒
【備考】
※主催者は人智を越えた力を持つ、何者かと予想しました。


【細谷源太夫@用心棒日月抄】
【状態】アルコール中毒
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:勇敢に戦って死ぬ。
一:ええいっ!このわからずやめ!
二:五ェ門に借りを返す。
【備考】
※参戦時期は凶刃開始直前です。
※この御前試合の主催者を江戸幕府(徳川吉宗)だと思っています。



【芹沢鴨】
【状態】:若干酔っている
【装備】:近藤の贋虎徹、丈の足りない着流し
【所持品】:支給品一式 、ドブロク入りの徳利二つ(一つは半ばまで消費)
【思考】
基本:やりたいようにやる。 主催者は気に食わない。
一:耄碌ジジイは糞して寝ろ!
二:新撰組の連中が誰かしら来るのを待つ。それからどうするか決める
三:目ぼしい得物が手に入った後、虎徹は近藤に返す。土方は警戒。
四:今のところ五ェ門と細谷に手を出すつもりはない。
【備考】
※暗殺される直前の晩から参戦です。
※人別帳を信用していません。
※新見錦、清河八郎が参加していないと思っています


三人が去った酒蔵に今一人…血と酒の臭いに誘われて、一つの影が佇んでいた。
その幽鬼のの如き影は、この場で争いが起こったことを即座に把握すると、そこを跡にする。
ここまで漂ってくる潮風が、血の主がどこへ向かったかの手がかりを消し去っていた。

流れている血はそれほど多くはないだろう。探し出して討つという手はあろうが、
手負い、しかもおそらく酔った相手を討ったところでどれほど得るものがあるか。
既にこの血を流させた相手に追いすがられて討たれている可能性も高い。

「外れ………か」

その場を去ろうと踵を返そうとした男・伊良子清玄だったが、
僅か―――ほんの僅かだがやや離れた位置からの物音を察知して――

【とノ肆 酒蔵前/一日目/深夜】



【伊良子清玄@シグルイ】
【状態】健康、強い復讐心
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】:『無明逆流れ』を進化させ、あの老人(勢源)を斬る
一:さてどうするか。
二:とにかく修練する。
代理投下終了。

それにしても最近何か人が少ないのぉ・・・
おじさん少し悲しいぜよ
235創る名無しに見る名無し:2009/04/25(土) 19:15:08 ID:Zhsy3oQq
そんなこたぁーない。
しかし、芹沢がいい味だしてるなあ。
236 ◆L0v/w0wWP. :2009/04/25(土) 21:48:36 ID:Qo5QAfe9
代理投下感謝であります!
芹沢の口調に関しては他人には威厳ある振る舞いをしようとするが、すぐに地が出る男というコンセプトで
あと水戸学にどっぷりなので以外と学はあるというか漢籍マニアってイメージかな

響w
なんという自称対主催w
237 ◆OBLG3wT6B. :2009/04/25(土) 23:41:16 ID:SocK/Qjf
代理投下ありがとうございます。

芹沢鴨の唯我独尊な態度が見ていて気持ちいいですね。
238創る名無しに見る名無し:2009/04/25(土) 23:42:11 ID:May8lf7Y
 執筆&借り投下乙に候。

 いや、いい具合にこんがらがってきましたなー。
 鴨は、策士でもないけど学はある、なんというかふてぶてしい政治家肌な感じが、独特で面白い。
 あとそういや五右衛門、魔毛狂介絡みでタイムマシンは知っているんだよねぇ。
239 ◆F0cKheEiqE :2009/04/26(日) 11:44:28 ID:2e5v9o+a
坂本龍馬、上泉信綱、林崎甚助、予約します
240 ◆F0cKheEiqE :2009/04/26(日) 12:41:42 ID:2e5v9o+a
それと投下、代理投下乙!

響の難癖付けっぷりにフイタwwww

それと芹沢いい味だしてるねぇ
241新参者:2009/04/27(月) 19:44:52 ID:41wkXx6E
>>239
wktk
242創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 10:10:35 ID:u+RZlEHu
誰か浮羽神風流とか虎眼流の剣術ってwikiにまとめてくれんかね?
243 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 17:17:27 ID:bQt8qszF
志々雄真実、久慈慎之介、トウカ、千葉さな子、緋村剣心、神谷薫、座波間左衛門、三合目陶器師で予約します。
244 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 20:32:27 ID:bQt8qszF
上記八人で投下します。
245妖怪たちの饗宴 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 20:33:52 ID:bQt8qszF
旅籠に集まった六人の剣士達は、互いの言っている事の食い違いはひとまず棚上げし、行動を開始する事にした。
色々と気になる事はあるが、それより今も何処かで殺されようとしているかもしれない者を救うのが先決だと結論したのだ。
無謀とも言える結論ではあるが、彼等の中に人の悪意より善意を信じようとするお人好しが多く、
また、そのせいで窮地に陥ったとしても、自力で切り抜けられる腕の持ち主ばかりだったからこそ出た答えである。
そうしてまずはトウカとさな子の知り合いを探そうと旅籠を出た彼等だが、大して動かない内に、異様な音を聞いた。
まるで焼け石に水をかけた時のような、水が蒸発する音。その音の正体を確かめに、一行は北へと進路を変える。
しばらく進んで川に行き当たると、そこには音から想像されるよりも更に異様な光景が広がっていた。
周囲は蒸気に覆われ、川の水は沸騰し、沸き立っている。そして、その中から出て来たのは……
「よう。こんな所で会うとは奇遇だな、先輩」
「志々雄……真実」
水中から現れた包帯の怪人を見た剣心は……そして彼が呟く名を聞いた薫も驚愕する。
志々雄は京都での戦いで燃え尽き、確かに死んだ筈。しかし、目の前にいるこの男は、姿も闘気も間違いなく志々雄本人だ。
「何故、お主がこんな所に……」
「ああ、こっちに来て早々に面白い奴に会ってな。興奮して体温が上がっちまったんで冷ましてたのさ。
 どうもあの戦い以来、前にも増して体温の調節が効かなくなっちまったみたいでな」
剣心が聞きたいのはそういう事ではないのだが、志々雄はそれ以上問答を続けようとはせず、脇差を抜いて身構える。
不敵に笑う志々雄だが、六対一……腕が落ちる上にまともな武器を持っていない薫を員数外としても、五対一だ。
もし全員に一斉に掛かられれば如何に志々雄でも勝ち目はない筈なのだが……

「この者の相手は拙者がする。皆、すまぬが下がっていてくれ」
ここで剣心が折角の数の優位を打ち消すような事を言い出し、他の者もそれに従って数歩下がる。
志々雄の不敵な笑みは、剣心の性格からして一騎打ちを挑んでくるであろう事を読んでいたからだったのか。
もっとも、戦うのが剣心だけだからと言って、剣心側の数の利が完全に消え去ったとまでは言えない。
助太刀はなくとも、仲間に見守られているというだけで、剣心のような剣士にとっては十分に心強いものだ。
一方、志々雄から見れば、剣心以外の者達が本当に手を出さない確証はないのだから、剣心一人には意識を集中できない。
その為、戦いは剣心が攻勢に出て志々雄がそれを凌ぐ形で進んでいく。
「土龍閃!」
剣心が斬鉄剣を地面に叩きつけると、砕かれた土石が礫となって志々雄に襲い掛かる。
飛天御剣流土龍閃。斬鉄剣でも存分に使うことが出来、且つ未だ志々雄に見られていない希少な技の一つだ。
「くっ!?」
志々雄は身をかわすが、川から出たばかりで衣服も包帯も水を含んだ状態ではどうしても動きが制限される。
「龍巣閃!」
体勢を崩した志々雄に対し、剣心は一気に痛手を与えて勝負を付けようと、乱撃を叩き込む……が、
「いい刀じゃねえか。これだけの物を引き当てながら、まだ不殺にこだわってるのか、あんたは」
不死身に近い耐久力を持つ志々雄といえども、斬鉄剣の刃で切り裂けばた易く殺してしまうだろう。
それ故に剣心は斬鉄剣の刃を返して峰で叩き付けたのだが、そんな使い方をすればどうしても重心に僅かな狂いが生じる。
そして、達人同士の戦いではその僅かな乱れが命取り。斬鉄剣は志々雄の手に掴まれ、止められていた。
「何と言われようと、拙者は人斬りには戻らぬ」
「そうか。だったらもういいぜ、死にな。ここじゃ俺を楽しませてくれる強者には事欠かねえんだ。
 いつまでも現実を見ようとしない甘ちゃんにこだわる必要はないからな!」
そう言うと、志々雄は剣心に対して必殺の一撃を叩き込む。
246妖怪たちの饗宴 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 20:34:35 ID:bQt8qszF
剣心に対して必殺の一撃を叩き込む志々雄。しかし、その一撃は横合いから伸びてきた剣にあっさりと受けられ、いなされる。
そして、体勢を崩した志々雄に木刀の一撃が叩き込まれ、志々雄はたまらず斬鉄剣を離して後ろに跳ぶ。
「緋村殿、無事か?」
「悪いな。手出ししないつもりだったんだが、仲間が殺られるのを黙って見てるのはやっぱ俺には無理だ。」
そう、剣心の苦戦を見兼ねた座波と千石が割って入ったのだ。
「お仲間の登場か。いいぜ、何人でも束になって掛かって来な」
無謀な挑発をする志々雄だが、剣心がそれに素直に乗る筈もない。
「すまぬ、二人とも離れていてくれ」
そう言いつつ斬鉄剣を鞘に納め、抜刀術の構えを取る。
「ほう、漸く俺を殺す気になったか?」
「いや。だが、腕の一本は落とさせてもらう」
まあ、不殺の信念を貫いたまま無力化するとすれば、特にこの場ではその辺りが限度であろう。
両腕を落としでもしてしまうと、他の参加者を殺す心配はなくなる代わり、逆に殺される公算が高くなる。
この島にいるのが一流の剣士ばかりならば、如何に志々雄でも片腕の上に脇差ではまず誰も殺せぬ筈。
そう考えての発言だったが、座波や千石から見ればそれは甘すぎる考えとしか映らない。
「おいおい、こいつはそんな覚悟で戦って勝てる相手じゃねえぞ。お前だってわかってるだろ?」
「左様。あの類いの剣客はたとえ腕を失おうが、それを糧に更に恐るべき剣技を編み出す公算が高い。
 後顧の憂いをなくす為にも、ここでケリをつけておくべきでござろう」
敵の前で言い争いを始める三人。これでは数の優位を活かすどころか、数の多さが逆に枷になりかねない。
見兼ねたトウカとさな子も前に出ようとするが、ここで志々雄が動いた。
「シャアア!」
一歩退いて間合いを取ると、脇差を投げる。狙いは、他の五人が前掛かりになった為に一人後ろで孤立する形になっていた薫。
「しまった!」
五人に迫られた状況で、戦力にならない薫を倒す為に唯一の武器を投げるという奇手に、皆の動きが一瞬遅れる。
「飛龍閃!」
だが、それでも、剣心だけはどこかで志々雄がこんな手に出る事を予感していたのか、ギリギリで刀を飛ばして脇差に当てる。
飛龍閃は本来、腰のひねりと共に鍔を指で弾いて飛ばす技。鍔のない斬鉄剣では大した速度は出せない。
それでも剣心が、辛うじて飛龍閃で脇差を止められたのは、志々雄が脇差を投げる際に少し手控えたからこそ。
なぜなら、志々雄の真の狙いは……

「何!?」
投げられた脇差を追って白い蛇が走り、それは横合いから飛んで来て脇差を弾いた斬鉄剣に噛み付く。
いや、蛇と見えたのは包帯。志々雄が自らに巻かれた包帯を投げ縄代わりに使ったのだ。
未だ川の水が乾ききっていない包帯は斬鉄剣の柄に巻き付き、そのまま志々雄の手元に引き戻される。
そう、志々雄の狙いははじめから斬鉄剣のみ。全てはそれを手に入れる為の策だったのだ。
斬鉄剣に狙いを定めたのは、志々雄の姿を見た剣心が剣に手をかける、その動きに躊躇があるのを見抜いた瞬間。
それだけで志々雄は剣心の刀を相当な名刀と踏み、その推測は剣心との戦いでそれを間近で見る事で確信に変わった。
剣心が五人も仲間を連れている事に危惧を感じなかった訳ではないが、その中で剣心の前からの知り合いは神谷薫一人。
他の四人は名簿にあった剣心の関係者や、幕末を生き剣心と面識があった可能性のある志士達のどれとも一致しない。
無論、剣心の交友関係を完全に把握している訳ではないが、一流の達人を四人も見逃していた可能性は極小だろう。
つまり、彼らはこの島で初めて出会い、手を組んだ者達と考えてほぼ間違いない。
となれば完璧な連携など望むべくもなく、戦う内に必ず隙が出来、薫を狙う機会が訪れる筈。
その場合、剣心は新井赤空の孫を刀狩りの張から守った時のように、剣を捨ててでも薫を守ろうとする。
全ては志々雄の思惑通りに進み、かくして無双の剣はこの恐るべき人斬りの手に渡った。
247妖怪たちの饗宴 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 20:35:33 ID:bQt8qszF
「貴様!!」
薫を危険に曝された事で激怒した座波が志々雄の脳天に必殺の一撃を打ち込む。今川流ではなく、天道流の必殺剣だ。
斬鉄剣を取る事に意識を集中していた志々雄はかわせずにまともに喰らい、吹き飛ぶが……
「鉢金か……」
頭に仕込んでいた鉢金に守られて志々雄は無傷。しかし、鉢金自体は真っ二つに割られて地に落ちる。
この鉢金は、負傷して不完全だったとはいえ、斉藤一の牙突すら防ぎきった逸品。これを一撃で割るとは尋常でない。
名刀と達人の技、そして薫を傷付けられかけた事による怒りの力が組み合わさって初めて可能となる芸当だ。
「ふん、やるな。あんたは抜刀斎よりも俺を楽しませてくれそうだ。簡単に死なないでくれよ」
「その男、逃げようとしています!」
志々雄の威勢のいい言葉に応じて防戦の構えを取る座波等に対し、さな子が前に出ながら叫ぶ。
微妙な位置取りや足の向きの変化から、志々雄が攻勢に出ると見せかけて後方に脱する機を窺っているのを見抜いたのだ。
志々雄にしてみれば、当面の目的であったまともな武器の入手を果たしたのだから、これ以上戦い続ける必要はない。
如何に名刀を手に入れたとはいえ五対一では厳しいし、戦うにしてもまずは斬鉄剣を手に馴染ませてからにしたい所だ。
逆に、剣心達からしてみれば、このまま斬鉄剣だけ持ち逃げされたらよそでどれだけの被害が出るか知れたものではない。
志々雄を逃がさぬ為、今までは傍観の姿勢を完全には崩していなかったトウカやさな子も一気に前に出る。
彼らのその判断が間違っていたとは言えない。
五人で囲めば志々雄も逃げようがないし、仮に志々雄が再び薫を攻撃しようとしてもそれを防ぐ心構えは十分あった。
まさかここで伏兵が現れて薫を襲うとは、薫本人や剣心達はもちろん、志々雄ですら予想していない事だったのだから。

川の中から人影が飛び出し、中間性の笑い声を響かせながら薫に襲い掛かる。
その顔は造作としては整っているのだが、傷と、何よりその凄まじい形相のせいで妖怪としか見えぬものになっていた。
その妖怪……三合目陶器師は、驚きに身をすくめる薫を一瞬で当て落とすと、その身体を担いで走り去る。
「待て!」
その突然の出来事に真っ先に反応したのは剣心。想い人の危機に、宿敵の事すら忘れて全速で追いかける。
「緋村殿、これを!」
自分が丸腰なのも忘れて走り出した剣心に、トウカが自らの刀を投げ渡す。
剣心は振り向きもせずにそれを受け取ると、礼も言わずに更に加速する。どうやら完全に頭に血が上っているようだ。
剣心から少し遅れて座波も走り出し、さな子も走りかけるがそれではここが手薄になりすぎると思ったのか踏み止まる。
だが……
「行け!ここは俺達だけで大丈夫だ!」
千石がそう叫ぶ。彼の見立てによれば座波は腹に一物抱えた危険人物の可能性が高い。
そして、剣心は本来なら勘の鋭い人物のようだが、今はとても冷静な判断が出来る状態ではあるまい。
その二人だけにあの妖怪を追わせれば、最悪の事態になりかねない。
千石の切実な思いが伝わったのか、さな子は頷くと剣心と座波の後を追って行った。

「残ったのは二人か。試し斬りには丁度良い数だな」
志々雄の言葉が今度は虚勢でも何でもないと千石にはわかっていた。
数においては二対一で千石達が有利だが、得物の質では志々雄の側が圧倒的に優位。そして何より、志々雄の凄まじい剣気。
(狼……)
志々雄と対峙する内に千石は己が遂に勝ち得なかった一人の剣士を思い出す。
生みの親に捨てられて狼に育てられ、育ての親を殺した法師に剣を仕込まれた恐るべき剣士を。
その剣士……五条小一郎と志々雄は表面的には似ているとは言えない。
剣の筋も違うし、何より獣の如き剣士だった小一郎と違い、志々雄の狡猾さは明らかに人間特有の物。
しかし、より本質的な部分で志々雄と小一郎には共通点があるように、千石には思えた。
殿様の推測によれば、小一郎の人間離れした強さは彼が人らしい情を持たなかったことから来ていたという。
そして、この志々雄という男からも、人間らしい感情の動きは全く感じられない。
但し、小一郎が単純に人の愛に触れる事なく育った為に情を知らなかったのに対し、
志々雄は自らの意志でそういったものを切り捨てる生き方を選んだように思える。
小一郎は母の愛を知る事で人間らしい感情を持つに至り、結局はその為に命を落とした。
それに対し、今目の前にいるこの男が人間らしい心に目覚めるなど金輪際ありそうにない。
つまり、この男は千石が今まで対峙して来た剣士の中でも最悪の敵、と言っても大袈裟ではないという事になる。
そんな敵に脇差一本で果たして対抗できるのか……
248妖怪たちの饗宴 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 20:36:55 ID:bQt8qszF
「センゴク殿、カオル殿が心配です。早くここを片付けて手助けに行きませんと」
志々雄が投げた脇差を拾ったトウカが言って来る。
(簡単に言ってくれるな、おい)
トウカには志々雄の恐ろしさがわからないのかとも思ったが、振り向いてトウカの目を見、そうではないと悟った。
確かにトウカは非現実的な程のうっかり癖の持ち主だが、その実は無数の修羅場をくぐりぬけた歴戦の戦士。
志々雄の強さは彼女にもよくわかっているようだ。
そんな相手と脇差で、しかも鞘がないせいで居合いも使えない状態で戦う不利はトウカとて百も承知の筈。
それでも彼女は怯まないのは、仲間への想いや正義の心といった志々雄が捨てた人の心を支えにしているからだろう。
(くそ、何をやってるんだ、俺は)
千石にはトウカ程に強い正義への確信もなければ、会ったばかりの者を仲間として完全に信用しきる事も出来ない。
それでも千石には侍の意地があり、卑怯な手を使う志々雄に対する怒りもある。
「やるぞ、トウカ!」
「はい」
戦う前に勝ち目があるかを気にしても仕方がない。今はただこの外道を叩き斬る事だけを考えよう。
そう決意を固め、千石は渾身の一撃を志々雄に叩き込んだ。

【はノ伍 河原/一日目/黎明】

【久慈慎之介@三匹が斬る!】
【状態】:健康
【装備】:木刀
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:試合には積極的に乗らない
一:志々雄真実を斬る
二:神谷薫を救出する
三:座波間左衛門を警戒
四:柳生宗矩を見つけたらぶっ殺す
【備考】
※トウカを蝦夷と勘違いしています
※人別帖の内容をまるで信用していません

【トウカ@うたわれるもの】
【状態】:健康、決意
【装備】:脇差(鞘なし)
【所持品】:支給品一式
【思考】
基本:主催者と試合に乗った者を斬る
一:志々雄真実を斬る
二:神谷薫を救出する

【志々雄真実@るろうに剣心】
【状態】健康
【装備】斬鉄剣(鞘なし)、脇差の鞘
【道具】支給品一式
【思考】基本:この殺し合いを楽しむ。
1:久慈慎之介とトウカを斬る。
2:土方と再会できたら、改めて戦う。
3:無限刃を見付けたら手に入れる。
※死亡後からの参戦です。
※人別帖を確認しました。

※座波間左衛門、千葉さな子、緋村剣心、神谷薫の行李がはノ伍の河原に放置されています。
249妖怪たちの饗宴 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 20:37:38 ID:bQt8qszF
座波間左衛門と千葉さな子は剣心と共に薫をさらった怪人を追っていたがいつしか引き離されてしまう。
「くっ、速い」
さな子は必死に速度を上げてもう芥子粒ほどの大きさにしか見えなくなった剣心に追い付こうとするが、
その横を併走する座波の心中では別の考えが頭をもたげ始めていた。即ち……
(今ならこの娘と存分に斬り合える)
そう、六人いた仲間が分散し、期せずしてさな子と二人きりになれた現状は、座波にとって千載一遇の好機なのだ。
今ならさな子に存分に斬られ、斬ろうとしても邪魔に入る者はおるまい。思う存分に欲望を満たせる。
(だがいかん、今は……)
確かにさな子は魅力的だが、座波にとって第一の得物はやはり神谷薫だ。
その薫が危機にある今は、どうにか欲望を抑えて彼女の救出を優先させなければ……
そういう訳でどうにか自分の中の欲望を押さえつけながら走る座波だが、ここで急にさな子が立ち止まり、飛び退く。
「どうなされた、さな子殿?」
「座波さん、あなた……」
座波を睨み付け、抜刀するさな子。
(殺気が漏れ出ていたか。存外に鋭い)
さな子には今まで座波を疑う素振りが見えなかった為に、少し油断し過ぎていたかもしれない。
若く人生経験の浅いさな子には、善人を装いながら腹に一物抱えた人間を見抜くような芸当は不可能だが、
北辰一刀流の剣士として、相手の微妙な表情や仕草から殺気を読み取る術は叩き込まれている。
特に、彼女のように体格や筋力に恵まれない剣士にとって、敵の行動を読んで先手を取る技術は正に生命線。
欲望に負けそうになった座波が一瞬、さな子の隙を窺った目配りを敏感に察知して戦闘態勢を取ったのだ。
「……やむを得ぬか」
座波も敢えて言い繕おうとはせずに剣を抜き、受太刀の構えを取る。
口では不本意そうなことを言っているが、内心では欲望を解放できる事を喜んでいるのだ。
と言っても、薫達の事も諦めた訳ではない。
さな子相手には斬られる快楽は諦めて手早く斬り倒し、急いで剣心の後を追うつもりでいる。
(簡単に斬ってしまうには惜しい逸材ではあるが……)
薫に通じるものがある美貌や凛とした眼差し、そして薙刀を応用した長刀の構えはきぬを思い出させた。
出来ればじっくりとその剣を味わいたいところだが、今の状況ではそうも言っていられない。
せめて斬る快感だけは存分に楽しもうと、座波は受太刀の構えのまま殺気を放ってさな子の攻撃を誘い込む。
「たあ!」「ぬっ」
互いの剣が一閃し、剣を握る腕から一筋の血が流れる。負傷したのは座波の方だ。
座波が欲望に負けてさな子の剣の下に身を投げ出した……という訳ではない。
単純に、互いに全力で剣を交わした結果、さな子の北辰一刀流が座波の今川流受太刀を一枚上回っていたというだけの事。
(これは……)
傷を受けたにもかかわらず、座波の心身をいつもの愉悦が満たす事はなかった。
代わりに湧き上がって来たのは、強い闘志と充実感……強敵と出会った剣士の感情だ。
思えば、座波は今まで幾人もの美少年や美女と立ち会ってきたが、それらはどれも本気になれば一撃で倒せる弱者ばかり。
初めて己以上の剣技を持つ美剣士と出会った事で、剣士の本能が悦楽を求める男の性を圧倒したのである。
そう、さな子のような剣士は座波にとって、如何なる神仏にも治せなかった性向の特効薬とも言うべき存在なのだ。
或いは、座波が技量と美貌を併せ持つ剣士が多数存在するこの御前試合の場に招かれた事そのものが、
熱心な祈りを受けながら彼の生きている内に救ってやれなかった神仏のせめてもの計らいなのかもしれない。
座波は今まで感じた事のない不思議な気分で剣を構え、さな子の怒涛の攻めに立ち向かった。
250妖怪たちの饗宴 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 20:38:24 ID:bQt8qszF
戦いが長引くにつれ、さな子の心で焦りが生まれ育っていく。
幼少より北辰一刀流の奥義を叩き込まれて来た彼女は、技では兄や従兄は無論、父や伯父以上と言っても過言ではない。
しかし、膂力や体力という面では、一流の剣客達の基準からすればはっきりと劣っている。
だからこそ、早めに座波を無力化すべく仕掛けて行ったのだが、巧みな受けによって軽傷を与えるに留まっている。
このまま戦いが長引けば先に疲れるのは自分の方。
そして、疲れた所に先程の包帯男の鉢金を割った剛剣が来れば防ぐ術はあるまい。
(殺したくはないんだけど……)
かと言って座波を殺さない事を優先して戦い続ければこちらが死ぬ事になる危険がある。
さな子は覚悟を決めて剣を構え直した。

【にノ伍 草原/一日目/黎明】

【座波間左衛門@駿河御前試合】
【状態】健康、腕に軽傷
【装備】童子切安綱
【道具】なし
【思考】基本:殺し合いの場で快楽を味わい尽くす。優勝してきぬと再戦するも一興。
一:千葉さな子を全力で倒す
二:緋村剣心の後を追い、三合目陶器師から神谷薫を救出する。
三:剣心と活人剣についての興味と、薫を斬る事への僅かな躊躇と不安。
※原作死亡後からの参戦です。
※過去の剣豪は自分と同じく本物だと確信しています。
※犬坂毛野、川添珠姫、沖田総司の姿を白州の場で目にしています。

【千葉さな子@史実】
【状態】健康
【装備】物干し竿@Fate/stay night
【所持品】なし
【思考】
基本:殺し合いはしないけど、腕試しはしたいかも。
一:座波間左衛門を無力化する。
二:緋村剣心と共に神谷薫を救出する。
三:久慈慎之介やトウカと合流して志々雄真実を倒す。
四:龍馬さんや敬助さんや甲子太郎さんを見つける。
【備考】
二十歳手前頃からの参加です。
251妖怪たちの饗宴 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 20:39:16 ID:bQt8qszF
薫の身体を抱えて三合目陶器師は走る。座波やさな子を遠く引き離し、神速を誇る剣心すらついていくのがやっとの速度で。
顔を傷付けられ絶望した直後に己の仮面に相応しい顔を手に入れられた興奮が、陶器師の身体能力を上げているのだ。
それでもさすがに疲れたのか、漸く立ち止まって薫を下ろす。
後はその顔を剥ぎ取ってしまえば、嵩張る身体まで運ばなくて良くなるのだが、それをする暇は与えられなかった。
「薫殿を返せ!」
追いついて来た剣心に殺気に近いような剣気を浴びせられながらも陶器師は意に介さない。
「何だ?お前のような顔におぞましい傷のある男に用はないぞ?」
「薫殿を……その女人を返せと言っている!」
「この娘に用か。顔を剥ぎ取ったら俺の用はなくなる故、返しても良いが」
剣心の剣気が極限まで高まるが、それでも陶器師は反応しない。今は傷付いた顔を隠す仮面の事で頭が一杯なのだ。
だが、陶器師には無視されても、剣心の高まった剣気は気絶していた薫の意識を呼び覚ますには十分だった。
「ん……剣心」「薫殿!」
愛し合い、求め合う美男と美女。
この図が陶器師の忌まわしい記憶を掘り起こし、それまで無関心だった剣心に対する強い憎悪を引き出す。
「姦夫!」
いきなり興奮して襲い掛かる陶器師を、既に闘志が十分に高まっていた剣心は万全の状態で迎え撃つ。

【へノ伍 水田/一日目/黎明】

【三合目陶器師(北条内記)@神州纐纈城】
【状態】右目損壊、顔に軽傷、疲労
【装備】打刀@史実
【所持品】なし
【思考】:人を斬る
一:緋村剣心と神谷薫を殺す
二:神谷薫の顔を剥いで自分の物にする
三:柳生十兵衛を殺す
四:新免無二斎はいずれ斃す
【備考】※柳生十兵衛の名前を知りません
※人別帖を見ていません

【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】健康 全身に軽度の打撲、極度の興奮状態
【装備】打刀
【所持品】なし
【思考】
基本:この殺し合いを止め、東京へ帰る。
一:三合目陶器師を倒して神谷薫を救出する
【備考】
※京都編終了後からの参加です。
※京都編での傷は全て完治されています。
※座波の異常性に少し感づいているようです

【神谷薫@るろうに剣心】
【状態】健康、朦朧
【装備】「正義」の扇子@暴れん坊将軍
【道具】なし
【思考】基本:死合を止める。主催者に対する怒り。
一:現状を把握する。
二:人は殺さない。
三:間左衛門の素性、傷は気になるが、詮索する事はしない。
※京都編終了後、人誅編以前からの参戦です。
※人別帖は確認しました。
252 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/01(金) 20:40:01 ID:bQt8qszF
投下終了です。
253創る名無しに見る名無し:2009/05/01(金) 20:41:29 ID:7vLiyLIs
読む前になんなのですが
読みづらいのでもう少し文章を校訂してほしいです
254創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 08:03:37 ID:g3hKCKhB
もしかして携帯からの投下かな?
携帯だとさほど違和感ないし。

しかし、どM侍シリアス化かあ。
おまけに綺麗にバラけたうえに全部がピンチと来ている。いい感じだ。
255創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 22:21:41 ID:Nui7OQRf
◆F0cKheEiqEさん
投下はまだですか?
締め切り破りが常習化していますね
間に合わないにしても避難所なり本スレなりに
連絡くれるぐらいしてください
256創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 22:30:02 ID:49js2Mke
(正直そこまで予約が切羽詰っているわけじゃないから、そこまで言う必要は無いと思うが)

でも連絡をくれるといろんな意味で助かる。
257創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 22:43:03 ID:o7/jzsGD
期限破りが常態化するのはいただけない
258創る名無しに見る名無し:2009/05/04(月) 12:53:06 ID:++f2M+/7
まあ遅れるなら遅れるで確定した時点で連絡くらいは礼儀として欲しい。
そんな物凄い勢いのロワでもないんだから、携帯で一言断りぐらいは数分あればすぐ出来る訳だし。
あと、何様のつもりか知らんが「締め切り破りが云々」と決まりを楯に偉そうな口効いてるのは、
自分がおなじだけ作品投下してからモノを言えと
まあ今の内に釘を刺しておく。反論はいらない。
259創る名無しに見る名無し:2009/05/04(月) 16:39:51 ID:VOg4Nu4i
 遅れ馳せながら投下乙に候!
 そーだ、そーいやどMは原作でも、結局のところ余裕で勝てる相手としか戦ってないんだわ。
 だからこそのどM剣法。


 あと前にも出たけど、予約はあくまで予約なので、期限が切れたらそのまま破棄されるだけ。
 毎度毎度予約だけして何も書かないとかいうならまだしも、予約被りするほど逼迫しても居ないのに、
鬼の首取ったように言うこっちゃなかろう。
260創る名無しに見る名無し:2009/05/06(水) 13:09:53 ID:GuLoZc4a
Wikiに掲載はもう少し待ったほうがいい?
掲載してからでもWikiは作者の方で行間は取る事もできるから。
261創る名無しに見る名無し:2009/05/08(金) 18:15:17 ID:kLDJfFs6
とりあえず、内容的には全く問題はないと思いますのでそのままWikiにアップします。
もし後日、行間等の修正があれば書き手さんに全てお任せしますのでよろしくお願いします。
こればかりは当人以外は一切触れないですから。

あと近い内に虎眼流の術義・奥義をしばらくしたらWikiにアップします。
こっちには掲載しないのでたまにWiki見てください。
自分の出した創作系キャラクター活躍させたいなら、せめてこのくらいはやって下さい。
時間さえあれば予約関係無しにできますし、全作品の自力把握は正直無理だから。
262創る名無しに見る名無し:2009/05/13(水) 10:31:30 ID:M7iEf6St
>>258
お前、確実に読み手様(笑)だなwww
263創る名無しに見る名無し:2009/05/17(日) 18:10:59 ID:9IWO29uC
誰か続きを書いてくれる人はいないんですか。
続きが気になります。書いてくれる人が居ればとても嬉しいです。
264創る名無しに見る名無し:2009/05/17(日) 22:11:47 ID:aDZ97YzQ
また読み手様か
265創る名無しに見る名無し:2009/05/17(日) 22:49:27 ID:OS0wIj5v
だがしかし感想つけてくれる読み手様は貴重
266創る名無しに見る名無し:2009/05/18(月) 00:30:18 ID:asB9d1jX
自分の読みたい話しを書いてしまえばいい。
それが一番手っ取り早い。
267 ◆YFw4OxIuOI :2009/05/21(木) 12:51:43 ID:ycdMT7ie
伊烏義阿、鵜堂刃衛で予約します。
268創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 16:11:24 ID:i2Yc6MjZ
予約キター
269 ◆KCOomuAvfU :2009/05/23(土) 18:21:08 ID:FWXbffef
270 ◆F0cKheEiqE :2009/05/23(土) 18:23:26 ID:FWXbffef
河上彦斎、仏生寺弥助
予約
271 ◆F0cKheEiqE :2009/05/23(土) 18:30:45 ID:FWXbffef
規制中につきしたらばに投下しました。
代理投下お願いします

それと前回はすみませんでした
272創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 14:41:02 ID:feJH9MCY
よろしいならば代理投下だ
273創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 14:42:04 ID:feJH9MCY
62 :不知火/夜明け前 ◆F0cKheEiqE:2009/05/23(土) 18:24:49

潮の臭いが鼻を擽り、音が鼓膜を揺らす夜の仁七村。
いかなる理由、手段故かは不明だが、つい近頃まで確かに人が暮らしていた痕跡があるものの、
今や人っ子一人いないこの漁村を、一人迷う男がいる。

仏生寺弥助という男である。
ひょろ長い体躯の、どこか無頼な雰囲気を纏ったこの男は今、
誰もいない民家の一つを戸口から覗き込んでいる。

明かり一つ無い屋内は暗いが、月明かりが強く、それ故に見えないという事は無い。
この村は海の傍である事と、屋内に散らばった種々の生活品の内容から鑑みるに、
恐らくは漁師の家だったろう事が覗われる。
何の変哲もない、よくある漁村の一民家であった。

では、何故に弥助は、この無人の漁師の家を覗き込んでいるのか。
得物を探しているのだろうか?
しかし、弥助は先ほど自身が仕留めた中村半次郎の死骸より軍刀を入手したばかりであるし、
より良い得物を探すにしても、わざわざこんな漁師の家を探る事もないだろう。

では、何故かと言えば、つい先ほど、弥助が地面に黒い大きな染みを見つけ、
其れが点々と民家へと続いていたからに他ならない。

民家の中を見れば、何かを引き摺り回したような黒い染みの線が、幾本も出来ている。
それに合わせて、本来はある程度整然と並んでいたであろう生活品が、
めちゃめちゃに地面に散らばっていた。

この黒い染みの正体を、弥助は良く知っている。

「少し、前か…?」
弥助が呟く。弥助の見立てでは、この染みはごく最近に付いた物だが、
最低でも一日以上は前の代物である。
最初、自分殺した男以外にも、このあたりで殺された奴がいるのかと思ったが、どうやら違うらしい。
では、この血痕は、ここの主だった漁師達の物なのであろうか。

「・・・・・」
それを知るすべは弥助には無い。
ただ、この「御前試合」とやらから一層強いきな臭さが漂ってくるのを、弥助は感じる。
無論、この御前試合の実態がどうあれ、彼のやらんとする事には変化はないが。
すなわち…

「・・・・・・・!」
気配。人の気配。
弥助は、民家の奥の闇に、身を潜め、もうすぐここに来るであろう誰かを待つ。
274創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 14:42:49 ID:feJH9MCY
63 :不知火/夜明け前 ◆F0cKheEiqE:2009/05/23(土) 18:25:38



色白で、大体五尺ほどの背丈を持つ小柄な男が、仁七村の往来を闊歩する。
肥後浪人、“攘夷志士”河上彦斎。

彼の腰間には、暫く前に中村半次郎の死体を叩き潰した鉄鞭は無く、
代わりに、立派なな拵えの刀が横たえられている。

どうしてそんな所にあったものか、半次郎の死体を潰した彦斎は、
雑木林を抜け、浜辺を通り抜け、仁七村へと入った。
そこで最初に覗き込んだ民家の土間に、無造作に転がっていたのが、
今、彦斎の腰間にある代物である。

彦斎は刀の目利きに通じている訳ではないが、
いま自分の腰間にある秋水が、並々ならぬ業物である事を即座に見抜いた。
どうしてこんな業物が、漁村の一民家に転がっていたのかは解らない。
しかし、刀を探していた彦斎には恐ろしく好都合な展開であったのは間違い無い。

ちなみに、彦斎が差している業物は、「関孫六」の綽名を持つ「孫六兼元」の一振りである。
名を聞けば、流石の彦斎も飛び上がる様な大業物だが、
こんな代物を無造作に転がしておくとは、但馬守も大した大判ぶるまいである。

しかし、得物を求めて、これほど早く見つかるとは、ましてやそれが業物と来れば、
やはり天が、自分にあの不忠不敬の輩どもを鏖殺することを望んでいるとしか思われぬ。
象山暗殺直後の奇妙な熱を一層強め、
彦斎は常ならばあり得ぬこの状況に、やはり常ならばあり得ぬ理論を強化していく。

そうして彼が、村の中央部あたりまで来た時であった。

ぶぅん、と突如暗闇より何かが彦斎へと向けて飛来する!
即座に、得意の片手抜き打ちで、其れをはたき落す彦斎。
飛来した棒切れが、二つになりながら地面に落下するのを見つつ、
ばっと、体を後方へ飛ばし、それに合わせて、空の弾倉に弾丸を再装てんするように納刀する。

彦斎が得意とするのは、しゃがんだ様な低姿勢からの右片手による逆袈裟の抜き打ちである。
彦斎は、この一撃必殺の我流剣法に絶対の自信を置いていた。
其れ故の納刀である。

見れば、闇よりひょろ長い体躯の男がぬたりと出現している。
やや珍しい拵えの刀を右手にだらりと下げている。
体からは、彦斎の嗅ぎ慣れた臭いが漂ってくる。血臭であった。

「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

双方言葉は無い。
両者ともに、初見で認識していたからだ。
“こいつは人斬りだ”と。
275創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 14:44:00 ID:feJH9MCY
両者が静かに睨み合っていたのは、僅かな時間であった。

襲いかかってきた男、仏生寺弥助が動く。
軍刀を大上段に構え、彦斎に飛びかからんとする。

其れを見て、彦斎は一瞬薄く笑った。
大した動き、されど俺の抜き打ちの方が遥かに速いっ!
右足を前に出してこれを折り、左足を後方に伸ばして膝を地面にすれすれにまで下げる。
剣術の死角、下方からの攻撃を神速を持って行う彦斎我流剣法「不知火流」。
佐久間象山をも斬った、恐るべき死の光が、鞘の内より発射される…筈であった。

「!」
予期せぬ衝撃を受け、彦斎の体が揺れる。
予期せぬ衝撃は、必殺剣の柄頭よりやってきた。
蹴りであった。弥助のザトウムシのようにひょろ長い足より繰り出された蹴りが、
正に鞘より出でんとする関孫六の柄頭を蹴り戻したのだ。



古来より、抜刀術、あるいは居合に打ち勝つには、二つの方法があると言われる。

一つは、「抜かせて勝つ」という物である。

『撃剣叢談』に宝山流の達人、浅田九郎兵衛が、
居合の達人、三間与一左衛門と立ち合った際の逸話が残っている。

『 淺田九郎兵衛は寶山流の名師で、作州森家に仕へて二百石を受けてゐた。
  或時、東國浪人の三間與市左衛門といふ者が作州に來つて居合を指南したが弟子も多くついた、
この與市左衛門は十六才から十二社權現の~木を相手にして二十年居合を拔いたが
遂にその~木が枯れたといふことである、
流名を水乗ス流と名づけて世に廣めてゐたが作州で劍術を好むほどのものが大抵勝負をしたけれども
皆三間の居合に負けて一人も勝つ者がなかつた。
  この上は九郎兵衛でなければ相手になるものはなからうといふので、
人々がすゝめて三間と勝負をさせることに決つたが、九郎兵衛の弟子共が心のうちに危ぶんで、
師匠に向ひ、
 「三間が居合は東國のみならず、諸國の劍術者で勝てる者が無いといふことでございますが、
先生にはどうして勝たうと思召されるや承りたし。」
 といふと、九郎兵衛が答へて、
 「居合に勝つことは何もむづかしいことではない、拔かせて勝つまでぢや。」
 と、いつた、三間がこの由を傳へ聞いて、
 「淺田は聞きしに勝る上手である、その一言で勝負は知れた、我が及ぶ處ではござらぬ。」
 といつて立合はなかつたとの事である。 』
276創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 14:45:19 ID:feJH9MCY

「居合は、鞘の中に勝利を含み、抜いての後は不利」と言われる。
居合とは、先手を打って、あるいはカウンターとして、
神速の抜き打ちで一刀のもとに相手を斬り倒す技術であり、
居合より通常の立ち合いにそのまま移行できる流派も無いわけではないが、
基本的には抜き打ちの一撃に全生命を傾注する物であり、
特に、一撃を仕損じれば決定的な隙が生じてしまう。
故に、立ち合いを得意とする剣士が、居合を得意とする剣士に立ち向かうには、
如何に相手に先に抜かせ、其れを受け流すかという事が重要になるのである。

しかし、ここで発想を逆転してみる。
「居合は、鞘の中に勝利を含み、抜いての後は不利」とは言え、
抜かなければ相手を斃すことは敵わない。
ただ剣術使いと違う点は、剣術使いが『抜いてから斬るの』に対し、
居合使いは『抜く事が斬る事』である点である。
居合使いに取って、「抜く」事はそのまま「斬る」事なのだ。

だとすればこういう考えも成り立つのではないか。
つまり、「抜かせずして勝つ」という物が。
これこそが、居合に打ち勝つ二つ目の方法である。
277創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 14:46:48 ID:feJH9MCY


予期せぬ衝撃に揺れる彦斎の体であったが、
その地に伏せる様な体勢故に、倒れるような事は避けられた。
しかし、居合使いに取って最も重要な初撃の拍子が外されたのである。
これは、余りにも致命的な隙を生んでしまった。

体勢を直し、再び抜き打たんとする彦斎の顎先へと向けて、
弥助の蹴りが放たれたのだ。
拍子を外され、柄頭などで防御する事も叶わなかった彦斎の脳髄に、
顎先より凄まじい衝撃が走った。

体勢を地に伏せるように低くし、
常の剣術の死角である下方からの斬撃を神速で放つ彦斎の剣法。
されど、我流で極めた蹴り技を持つ弥助にとっては、下方とは必ずしも死角では無い。
さらに皮肉なのは、彦斎に取って必殺の姿勢であった、前屈みに地に伏せるような体勢は、
人体最大の急所である頭部を、弥助の蹴りの間合いに自ら飛び込むという形となってしまっていたという事だ。

顎を打たれ、一瞬、意識が宙に飛ぶ彦斎。
意識が戻った時、彼が見た物は、「力の剣法」神道無念流御家芸、
大上段からの渾身の一撃が、真っ向から竹割りに自分の顔面を割る光景であった。

そしてそれは、彼の見た最後の光景でもあった。
不知火は、誅敵を一人も討ち果たす事無く、宵闇に消えた。



にノ陸、道祖神前。
彦斎を斃した弥助は、彼の差していた業物を奪い取ると、
しばしの探索の後、村を後にした。

道祖神の傍に腰かけながら、
だいぶ降りてきた月を眺める。

夜明けは来るのもそう遠い先の事でもないだろう。
しかし、弥助の行く手に光明は差さず。

「・・・・・・」
さあ、何処へ向かおうか。

五里霧中の暗夜行路に、今宵、剣鬼が一人繰り出す。
彼の夜明けはまだ遠い。

【河上彦斎@史実 死亡】
【残り七十二名】
278創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 14:48:28 ID:feJH9MCY
【にノ陸/道祖神前/一日目/黎明(早朝近く)】

【仏生寺弥助@史実】
【状態】:健康
【装備】:軍刀、孫六兼元
【所持品】:支給品一式(食料三人分)、鉄扇
【思考】 周りは全て敵であると思っている。
1:あてもなく彷徨う。
2:恩師、斎藤弥九郎にどう向き合うべきか分からない。
【備考】
※1862年、だまし討ちに遭って後より参戦。
 当時の斎藤弥九郎は64才。この御前試合参戦時の弥九郎の九年後の時期である。
 参戦している弥九郎は、既に弥助を門下としていると思われる
279創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 16:03:22 ID:feJH9MCY
代理投下以上です

最後の最後で猿ってしまった;
幕末四大人斬りがいいとこ無しのまま瞬殺とは
まさに達人同士の決闘ですな、スピード感が心地よかったです
280創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 19:34:04 ID:OIZxFab2
居合いはその起こりを封じるもの、か。そういや「修羅の刻」にも柄頭を蹴って居合いを封じていたな…。
ともあれ乙です。
281創る名無しに見る名無し:2009/05/25(月) 18:27:15 ID:RcIgndM2
投下乙。

いきなり足技使いとあった彦斎は運が悪かったな。
弥助は維新志士を連続して二人殺害とは、弥九郎が知ったら何て言うだろうか。
282 ◆YFw4OxIuOI :2009/05/27(水) 10:03:13 ID:pPAGcw+t
すいません。
予約間に合いそうにないので、6月1日まで延長させてください。
283創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 15:47:34 ID:3Cd3wtvr
遅ればせながら感想を 
やっぱり一撃必殺こそ斬り合いの醍醐味ですね。全てを敵と定めた者の孤独の太刀筋を見ました。
延長に関してはそれでいいと思います。作品楽しみにしてます。
284 ◆cNVX6DYRQU :2009/05/30(土) 16:56:10 ID:247wyjn9
小野忠明、佐々木小次郎(傷)、新免無二斎で予約します。
285創る名無しに見る名無し:2009/05/30(土) 19:11:46 ID:OWNXTRne
小次郎(傷)と小野忠明の再会ですか。
どうなるのか楽しみです。頑張ってください。
286 ◆YFw4OxIuOI :2009/05/31(日) 10:35:53 ID:BRlVpVwG
したらばに仮投下完了。
規制中なのでこちらには投下できないです。
鵜堂刃衛が少しばかりはっちゃけていますので、大丈夫かどうか感想下さい。
287創る名無しに見る名無し:2009/05/31(日) 11:57:59 ID:uirgay5B
問題ないと思います
戦いも良いものになってるし
288 ◆YFw4OxIuOI :2009/05/31(日) 21:18:01 ID:BRlVpVwG
では代理投下お願いします。
289287:2009/06/01(月) 00:44:52 ID:A3Lc52KC
自分、代理投下出来ないので代わり、誰かお願いします
290創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 01:31:50 ID:0/E7V/mt
書き込めるかな?
いけるようでしたら代理投下いかせていただきます
291Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 01:32:54 ID:0/E7V/mt
伊烏義阿は宵闇の城下町を駆ける。
ただ怒涛の如く、奔馬の如く、駆ける。駈ける。翔ける。
疾走により抉られた地面が砂埃を巻き上げる。
周囲に散乱していた紙屑が、疾走により生まれた風で宙を舞う。

ただ己が倒すべき、愛おしき、厭おしき仇敵を求めて。
あの朱羽の男を求めて。己と相争う生ける雌雄剣を求めて。
天空を駆ける蒼月は、ただ同じく天を舞う燕を、鍔目を探し求める。

伊烏義阿は疾走を続ける。
武田赤音の行方について、別段何か当てがあるわけではない。
ただ、仇敵がすぐ傍にいるかもしれぬのに
ぶらぶらと悠長に歩き回るのが堪らなくもどかしかく、
その身体を温めておきたかったというのがその理由である。

そして、そしてこうして目立つ場所にて疾走を続ければ、
いつしか同じこの“御前試合”の参加者達と遭遇する可能性が高い。
それが武田赤音ならよし。
そうでなければ、出会った他の参加者達から奴の事を引き出せば良い。

武田赤音なら、あの凶人ならおそらくこの“御前試合”など歯牙にもかけず、
ただ本能と欲望の赴くままに破壊と殺戮を繰り返しているに違いないだろうから。
そしてあの退廃的な少女の如き容姿と、
外見に反する狂犬の如き立ち振る舞い。
あれほどのどぎつい個性なら、すぐにでも噂になるだろう。
ならばこの御前試合の参加者に残らず当たっていけば、いずれは辿り着ける。

だが、出会った者がこの御前試合とやらの優勝を目指しているのなら?
あるいは己と武田赤音との相剋の障害になるのであれば?
ならば、この剣にて全て斬り捨てればよいだけの事。
もはや殺人に禁忌の感情は抱かない。
この身は既に殺しに慣れており、もはや悪鬼以外の何者でもないのだから。
武田赤音とのもう一度の相剋の為、前に道がなければ屍の橋で築き上げる。
自らが生み出すであろう、無数の怨霊を糧として。
そう決意したはずなのだから。
292Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 01:33:41 ID:0/E7V/mt


そして、城下町にて初の遭遇はなされた。
だが、それは伊烏義阿の望む武田赤音を知る者ではなく、
ただこの御前試合に乗った人斬りの類ではあったが。

「んーむ。“井上真改”か…。いいね。」

伊烏義阿の行く道を遮るように城下町の通りの中央に立ち、
そこでは腰に二本の鞘を差した黒傘の男が微笑んでいた。
抜き身の日本刀を、そこに映る自身の顔を眺めながら。
舐めるように、愛おしむ様に。
おぞましく。そしてさも愉しそうに。
うふふ、うふふ、と哄笑する。

「その切れ味と美しき作風から朝廷より十六葉の菊紋を許され、
“大阪正宗”とまで称されたこの刀が見つかるとはね。
 今腰にあるなまくらとは、全てが比べものにならん。」

――これなら、あの“伊東甲子太郎”などとほざく、
今は死した元同僚の名を騙る士族様も斬れようものだ。

鵜堂刃衛は腕を振るう。
風が斬り、夜空を舞う葉を何かが撫でる。
ひらり、と木の葉が二つに割れる。

伊烏義阿は足を止める。
常軌を逸した狂喜の表情。
そのまるで隠そうともしない、溢れ出すばかりの殺戮への情欲と闘気。
彼の意図するところは言わずとも明らかである。

「だがな。刀が最も美しく映える瞬間は、
 人の生命を吸い、その身が紅く濡れそぼる時だ。
 …貴様も、そうは思わないか?」

黒傘の男は、ここに来て初めて伊烏に顔を向ける。
伊烏はこの不気味な男を見て即座に障害と見なし、
不意打ちの機会を窺ってはいたのだが、
この独り言の最中にもまるで隙が無かった。
293Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 01:35:32 ID:0/E7V/mt
「いや、俺はそうは思わない。」
「うほおう。そういうと?」

伊烏義阿の思いもよらぬ反論に、鵜堂刃衛は好奇の視線を送る。
それは人のものとは到底思えぬ視線だが、彼が一向に臆する事はなかった。

「刀剣は道具。それを繰る術技も、やはり道具に過ぎぬ。
 道具は力あるからこそ、存在するだけで抑止の意義がある。
 そして、時にはその威を示さねばならぬ事もある。」

「…だがな。人は刀剣や術技に使われる為にあるのではない。
 出来得るなら、それは“抜かずの宝刀”であり続けられるならそれで良い。」

――剣を突き詰めた先に、無想の境地というものがある。

戦いとは常軌を逸した騙し合いの場であり、そこには無数の駆け引きが存在する。
己の心をひた隠しにし、敵の腹の底を探り、相手を騙し勝利を簒奪するのが定石である。
正直さや誠実さは絶無の、畜生の闘争よりなお性質の悪い、悪意咲き乱れる世界である。
だが、そういったひたすらに泥臭い、小賢しい卑劣なやり取りとは
一次元上の所にこの『無想の境地』は存在する。

 何も考えず、己を無とする。
 己を無とし、世界に自己を含有する。
 敵は我の心を測れず、我は敵の心を掴める。
 この境地があれば、もはや敵に敗北する事はない。
 いや、突き詰めれば、敵と戦う必要さえなくなる。
 全てを知れば、敵を避ける事も、敵を作らない事も容易だ。
 世界と己との調和。
 刈流ではその領域に到って、修行の完成とする。

そうして、剣者はまさに生きながらにして“抜かずの宝刀”となる。
無想の境地とは、別段刈流のみの独創的な発想という訳ではない。
駆け引きと騙し打ちの名手である宮本武蔵の『五輪書』にも、類似した発想は窺える。
いや、別段強くは意識されていないだけで、それはどの流派にも等しく存在する。

剣の術とは殺人の術。
294Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 01:38:32 ID:0/E7V/mt
だが、それのみでは決してない。決してないのだ。
心身を鍛え、己を向上される側面をも併せ持つが故に。

斬り合いの果てに、騙し合いの果てに、
初めて得られる悟りの境地というものも確かに存在するのだ。

伊烏義阿は、この修羅道に堕ちた人斬りを見ることで、
結局は己が到達し得なかった刈流の教えの境地を、
死して悪鬼と化した今更になって思い出していた。

「綺麗事は止せ。若造。そうほざく貴様の目…。俺と同じ人斬りの目をしているぞ。
 それとも、そうしてまだ自分を騙し続けねば人は斬れんということか?」

鵜堂刃衛はただ哂う。
鵜堂刀衛は、目の前の蒼き青年の奥底に眠る悪鬼を確かに見たが故に。
そして、蒼き青年もそれに釣られて“哂った”。


 それはまさに陰々滅々たる、自嘲の笑み。
 己の途轍もない愚かさと、心弱さを蔑む笑み。
 己の犯した償い切れぬ罪を悔悟した果てにある、
 決して取り返せぬ、その美しき過去を偲ぶ、
 擦り切れた心の持ち主のみが出せる枯れた微笑み。


「…貴様の言う通りだ。綺麗事は所詮絵空事に過ぎず、
 もはや今の俺に尊き剣の道を語る資格はない。」

 今は亡き師や門弟に顔向けできる立場でもなければ、
 その剣の教えを完成させる事も永久に出来ぬ。
 俺が今振るえるのは、卑しく浅ましき犬畜生の剣のみだろう。

――――武田赤音と同じようにな。

伊烏義阿は、心中でこう付け加える。
295Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 01:43:13 ID:0/E7V/mt
「貴様の言うとおりだ。今の俺は、すでに殺しに慣れている。只の人斬りだ。」
「…では、同じ人斬り様同士、丑三つ時の往来で出会えばする事は一つだな?」

鵜堂刃衛は満面の笑顔で猛る。
伊烏義阿は仏頂面の無言で頷く。
もはや互いに言葉は不用。続きは剣にて語るべき。
後にはどちらかの骸が転がるのみである。

「さあ、来い俺と同じ人斬り様よ!」

鵜堂刃衛は大きく猛り、狂喜する。
心の底から愉快に、呵々大笑する。

伊烏義阿は昂ぶらず、荒ぶれず。
ただ、心中でこれから己が生み出す骸の数を数えた。

――――14。

伊烏義阿は地を蹴る。
鵜堂刃衛は迎え撃つ。


剣鬼は、今ここに死闘を開始した。



伊烏義阿は抜刀はせず、左手で鞘を握り親指だけをかけた、居合腰の体勢で駆ける。

――うふふ。抜かぬ、なぁ?

二人の間の距離はそう遠くない。5間あるかないかの距離である。
殺意を漲らせながら前方に駆けて、まさか握手を求めに来るという事もないだろう。
それでいて、一向に抜く気配がないとあらば敵手の意図することはただ一つ。
296Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 01:47:27 ID:0/E7V/mt
抜刀術のみである。

それは抜刀が即ち斬撃を意味する。準備や予備動作など一切が存在しない。
しかも、それが神速のものである事は想像に難くない。
そうでなければ、最初から引き抜かれた剣に間に合うはずもないのだから。
つまりはこの男が余程の誇大妄想狂でもない限りは、
己の居合抜刀に絶対の自負を持つ腕前という事になる。

――この男。つまりは抜刀斎と同じく神速の抜き手という事か。

――これはいい!素晴らしい!あの抜刀斎との来るべき再戦の、これはよい準備運動にもなる!!

「うふふ。居合あいアイ…。」

伊烏義阿は駆ける。ただし、その速度と歩幅は一定にせず、だが一貫して疾走。

5.0……4.7……4.0……3.5……2.9……2.5……。

地を蹴る足がまるで統一性のない、出鱈目な拍子を刻みだす。
四足獣の疾走する足音のほうがまだ捕捉し易いとしか思えぬ、
無秩序も極まる全力疾走。だが、これが既に技なのであろう。
間合いを見誤らせ、こちらの後の先を繰り出す時期を奪う為の。

――この「懸り打ち」にも似た混沌の歩法。
さては薬丸自顕流か、あるいはその流れを組むものか…。

確かに、これは非常に読み辛い。
静止していなければ、俺とて見誤る。そう確信する。
だが、同じ歩法を用いた薩摩の狗どもは飽きるほど斬って捨てた。
その有像無像の雑兵どもより、なお洗練された
素晴らしき歩法の使い手である事は認めよう。

「うふふ…」

だが、俺の目は欺けようとも、俺の耳ならそれも捉えうる。
さあ、手を出せ人斬り様よ。
俺の間合いに入ったその時が、貴様の最期となる。
297Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 01:50:45 ID:0/E7V/mt
あの男の剣がもし想像通りに示現の流れを組み、
それを居合用に手を加えられたものであれば、
如何なる防御も打ち砕く剛にして神速の
必滅の刃であると考えるべきであろう。

ならば、その居合抜刀を剣にて防ぐか躱す事を企図して、
抜き放たれた後の無防備を狙うは愚の骨頂。

ならばこちらの為すべき事は一つ。
勝機此先之先二有。

二本足の蒼狼は疾走し、一足一刀の間合いに入る。
その右手が剣の柄に添えられる。

「うふ!」

黒傘の凶眼が光る。蒼白く光る月夜よりも妖しく、魔力に満ちる。
そして、その瞳は伊烏義阿なる剣客を真正面から捉える。

「……ッ!」

全身に形容し難い痺れを感じる。
その腕が途端に鉛の重量を得る。
その足が唐突に駆動を拒否する。

――金縛り、だと?

伊烏義阿は唐突の事態に動揺する。
金縛りの原因を、その源泉を唯一自由な意識で以て模索する。
そう。あの視線に捉えられ、その眼光が輝いてからだ。
一度死した身なれど、この身体に一切の持病はなく、
また不調も感じられはしない。

ならばこう考えるしかない。
298Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 01:54:14 ID:0/E7V/mt
あの人斬りの視線にて、俺は金縛りにされた。
因果関係を考えれば、そうとしか考えられない。
これまでの勢いが付いていたが故に、
唐突の停止に姿勢が崩れ前のめりになる。
蒼き剣鬼は無防備となり、まさに斬首を待つ罪人が如く
黒傘の処刑人に首を差し出す格好となる。

それはまさに剣の条理を覆す、一切の常識を覆す魔剣。


――――二階堂平法、魔剣『心ノ一方』。


自らが手繰り寄せた隙を見逃さず、黒傘は突撃する。
怒涛のように。津波のように。
その殺意の圧力のみで押し潰さんが如く。
鵜堂刃衛はその剣を水平に、左から右へと薙ぎ首を落とさんとする。


――――二階堂平法、一文字ノ型。


このままでは、ただ平伏するがままに首を刎ねられるのみ。
いわば、絶体絶命の窮地。

――舐めるな!妖術師!!

――武田赤音がいるというのに、こんな処で不様に死ねるか!!

伊烏義阿は全身に気合を入れ直し、その不動の金縛りを解いた。
そしてさらにその姿勢から跳ね上がり抜刀する。
だが、それは通常の間合いから考えれば、少々速きに過ぎる抜刀。
素人なら間違えようとも、玄人なら間違えようのな致命的失態。
299Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 01:58:06 ID:0/E7V/mt
この目測では、その居合は鵜堂刃衛に届きはしない。
確かに今の機なら黒傘の振るう横薙ぎの刃よりは速いが、
それが当たらなければ扇風機程の意味さえないのだ。
鞘から引き抜かれたのが、速過ぎたのだ。

伊烏義阿の独自の歩法で間合いを奪うやり方を、
鵜堂刃衛は『心ノ一方』で思考を奪うやり方で、
見事やり返した形となった。

――フン、つまらぬな。
いや、先程の戦での効き目の薄さから、
念には念を入れて心肺すら止める積もりで用いた
極大の『心ノ一方』すら一瞬で脱した剣気のみは、
称賛に値すべきか。

一秒が限りなく細分化されそれが百秒に感じられる中で、
鵜堂刃衛は軽い失望に鼻を鳴らした。
目の前の蒼い青年の速過ぎる刃は目の前を通り過ぎ、
そしてこちらの一文字の型は外れる事無く、
蒼い青年の首筋を捉えるであろう。

――さらばだ。若造。未熟なる人斬り様よ。うふふ。

鵜堂刃衛は自らの焦りから来た失敗に失望を浮かべ、
あるいは迫り来る死に恐怖しているであろう
敵手の表情を眺めんとその視線を顔に向ける。
この興醒めも極まる一合を、せめてその苦悶にて
この俺を興じさせよと言わんばかりに。

だが。
だが、しかし。

目の前の青年が浮かべる貌は、こちらへの憐みのみであった。
そしてその視線は鋭くこちらの喉を捉えている。
敗北への諦観も、悲壮感も、そこにはない。
殺意に満ち、だがしかし己の殺意に怯え、
己のこれから為す所業への悔恨のみである。
300Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:01:12 ID:0/E7V/mt
――解せん、どういう事だ?

不意に思いなおす。
居合に絶対の自負を持ち、間合いを狂わせる絶妙な歩法を用いる敵手が、
極大の「心ノ一方」の呪縛をもほぼ一瞬で解く程の剣気を持つ敵手が、
己の失態を、迫り来る敗北と死の刃を理解できぬ筈があろうか?

それはない。
それはありえない。
それは絶対にありえない。
ならば、考えられることはただ一つ。

すなわち己の術技が完璧であり、
己の勝利を確信しているという事である。

危険。
致命的危険。
背筋が凍り付く。氷塊を背中に詰められたような怖気。
第六感が、こちら側の死の警報を大音量でかき鳴らす。

鵜堂刃衛はその理性より剣者としての本能と勘に従い、
その剣を止め後方へと大きく跳躍した。
理由はわからない。だが、危険だ。

同時に首筋を風が撫で、少し遅れて赤い線を引く。
だが、それは首の皮一枚を掠めただけに留まり、
そこから血飛沫を上げる事はなかった。

見れば先程の蒼き青年は、異形の握りで鍔元ではなく柄頭を握り、
奇形の抜刀術にて大きく間合いを取り喉を正確に狙い抜いていた。
それはまさに長蛇の如き延びを見せる、執念深き獲物への襲撃。
間合い騙しの抜刀術。


――――刈流 長蛇。


つまり、己が抱いた勘は正しかったという事か。
唐突な後退故体勢が大きく崩れ、動揺を隠せぬ鵜堂刃衛。
異形の握りが故に、二の太刀が至難の伊烏義阿。
301Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:05:34 ID:0/E7V/mt
果たして、追撃を行うは伊烏義阿が一足先であった。
伊烏義阿は抜き放たれた刀剣を鞘に収めることなく、
そのままに剣を右肩の上へと担ぎ、左足を前にし、右足を引く。
いわゆる刈流の“指の構え”を取る。

左足はそのままに、右足を蹴り出す。
体が前で飛び出し、体重移動の力が発生する。
それに剣を連動させる。一方で、腕の力は徹底して抜く。
逃さない。逃しはしない。
打ち下ろしによる全ての体重を乗せた力も。
未だ反撃に移れぬ状態にある標的も。

轟、と唸りを上げて眼前の空気を切り裂く。
全体重の加重が乗った渾身の一撃が、袈裟に駆け抜ける。


――――刈流 強。


鵜堂刃衛は反撃を捨てていた。
速度は今は向こうが上。
崩れた姿勢から無理に反撃に移ったところで、敵の巻き返しが圧倒的に速い。
ならば相手の攻撃を躱すことに専心し、まずはその体勢を立て直すが上策。

ゆえに、その砂塵を巻き上げる神速にして剛の振り下ろしは、
回避に徹した鵜堂刃衛を捉える事はなかった。
その袈裟掛けは黒傘だけを捉え、それを見事二つに割る。

だが、さらに執拗なる追い討ちの刃が鵜堂の腕に迫る。
それはさながらに、寄せては返し、寄せては返す、
小浜に打ち寄せる小波がごとき剣の襲来。


――――刈流 小波。


「…くっ。」

ここに来てようやく体勢を立て直した鵜堂は、剣にてその小手を受け流す。
302Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:10:29 ID:0/E7V/mt
だが重い。途轍もなく重い。
こちらの腕に痺れが走る。
腕に力が入っている様子はなかった。
全身の力を乗せているが故なのだろう。
素晴らしいまでの脱力と弛緩。
恐ろしいまでの剛力と神速。

鵜堂刃衛でなければ、大阪正宗でなければ、
その剣ごと真横に断ち割られていたであろう。
素晴らしいまでの、執拗なまでの剣の舞。
あの“人斬り抜刀斎”と比肩しうる程の。

そのどれもが必殺の一撃であり、生半可な反撃など許さぬものである。
これまでは回避に専念していたからこそ躱しえたものだ。
だが、これまでもそう上手くいくとは限らない。
冷汗が頬を伝い、極限の緊張感で肌がひり付く。
膝が震えるのは、武者振るいか?それとも恐怖か?
殺るか、殺られるか。
そのギリギリの一線の中での、壮絶なる殺し合い。

――うふふ。人斬りとは、やはりこうでなくてはならん。

双方は再び間合いを大きく取る。
その距離は先程よりさらに離れおよそ六間。
伊烏の最大の得手は抜刀術の中に有り、
鵜堂が奥の手を用いるにも時が必要であるが故に。
双方が睨み合う中、鵜堂は口を開く。

「貴様を殺す前に一つ聞きたい。貴様のその剣、流派は何だ?」
「…刈流。」

黒傘を失った人斬りはさも愉しげに、嬉しげに蒼鬼に問う。
端正な顔立ちの蒼鬼は、呟くようにそれに応じる。

「聞かぬ名だ。だが、その剣は古流の、飛天御剣流と比肩しうるものと見た。」
「…その腕で刈流を知らぬとは意外だ。だが今の貴様の剣、二階堂平法と見た。」

今では無くなった、己が打ち捨てたも同然の刈流だが、
その名は一時は全国に轟いていたはずの古流兵法を、
これほどの剣者が知らぬという事があるのだろうか?
303Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:15:26 ID:0/E7V/mt
伊烏義阿は疑念を抱く。
何か偶然、あるいは失念であろう。伊烏は疑問をそう納得することにした。
そして自らの疑念…ほぼ確信めいたものであるが。それを口にする。

「うふふ。いかにも。しかし、先程の失敗から念には念を入れ、
 極限まで強くかけた『心ノ一方』が解かれるとは思わなかったぞ。」
「…松山主水大吉のみに許された魔剣、今ここに蘇るという訳か。」

今全身全霊で以て殺し合っている者達とは思えぬ、
互いの術技を称賛するのどかなやり取りが繰り広げられる。
張りつめた空気が、殺気が、目に見えて弛緩する。

これが丑三つ時の城下町の往来でなければ。
これが抜き身の刀をぶら下げているのでなければ。
それは剣を志す者達の評論会にも見えたでろう。
だが、これは次なる局面への息継ぎに過ぎぬもの。
両雄はそれを充分に心得ていた。

剣者として。ただ剣者として。
そこには住まう世界や時代の違いも何もかもが無く。
伊烏義阿と鵜堂刃衛は、互いの持つ術技に感嘆の念を抱いていた。

「だが、『先程の失敗』とは何だ?つまりは、貴様の剣から逃れたものが、すぐ近くにいるということか?」
「うふふ。気になるか?人斬りに何かを尋ねたいなら、それは力づくで聞き出す事だ。」

蒼い着流しの青年は、次の疑問を口にする。
目の前の人斬りは確かに優れた剣者であるが、やはり人斬りは人斬りである。
この血に飢えた狼が一度捉えた獲物をそう簡単に見逃すはずがなく、

そして逃していなければその剣は血を吸っている事が必定。
そして最初の会合の際に、鵜堂刃衛の剣は血に濡れそぼってはいなかった。
だからこそ、「目の前の人斬りから逃れたものがいる」と、伊烏義阿は判断した。

「…わかった。ではそうしよう。」
「だが、それは不可能だ。」
304Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:20:40 ID:0/E7V/mt
伊烏の間髪入れずの即断に、即答で以て返す鵜堂。
己の眼の前に磨き上げられた剣をかざし、
そこに映し出される己自身を喰い入るように眺めながら。
鵜堂刃衛はただ声もなく、哂った。

「『心ノ一方』、貴様に効かぬなら己自身に掛けよう。
 だが、誇れ。この俺にこれを引き出させたのは、
 あの人斬り抜刀斎に続いて、貴様が二人目だ。」

人斬りの口元がニィィと釣り上がる。
再び張りつめ出した空気が、致命的何かの到来を告げる。
今から鵜堂が起こすであろう、“それ”を防げ。
“それ”を決して起こしてはならぬ、と。
剣者としての本能が、そう伊烏に訴えかける。

だが、伊烏義阿はそれをあえて見送った。
今から疾走し奇襲を仕掛けた所で到底間に合わず、
おそらくはそれに対する備えもあるだろうと
判断したのも理由の一つとしてある。

だが。
だが、それ以上に。

剣者として。ただ剣者として。
敵手の最大の術技をこの目で確かめた上で、
それを凌駕したいという純粋なまでの欲望が
本能が訴える危機を抑え込んだ。

「人間なんて生き物は存外“思い込む”に脆い。」
「病になったと思い込めば本当に体調が悪くなり、
 呼吸が出来ないと思い込めば本当に息が苦しくなる。」
 
「『心ノ一方』とはその脆さをついて、己の気合で相手を居竦ませ不動にする。
 一種の瞬間・集団催眠術というのが貴様のその術理か。」
305Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:25:17 ID:0/E7V/mt
伊烏はそう得心する。別段、神智による魔術というわけでは決してない。
だからこそ、その己の気合いが相手を凌駕すれば術自体は打ち破れるのだ。
そしてそれが人知による産物であるからこそ、
その開祖も暗殺死という非業の死を迎えたのであろう。

「その通りだ。察しがいいな。そして、思い込むことは実際に身体に作用する。」
「術者(オレ)とてその例外ではない!!」

鵜堂刃衛は喝声を上げる。
鵜堂刃衛の目が怪しく光る。
その眼光が捉えるは、鵜堂刃衛自身。
己を限界にまで高める為に、
鵜堂は己に暗示をかける。

「我!不敗!也!」

全身の筋肉が、みちみちと音を立てて隆起する。
その黒い全身衣装がはち切れんばかりに延びる。

「我!無敵!也!」

髪がざわざわと、ゆらめく。
己自身に纏わりつかせたさらなる剣気により、
その存在がさらなる重圧感を得る。

その極限にまで高められた剣気が夜霧を払い、天空の月をより一層、皓々と輝かせる。
己がより高次の存在へと変貌したと、全身の筋肉がそれを誇らしげに訴える。

「我…最強なり!」

暗示は、変身は今ここに完了した。
その姿はまさに鬼が憑いたとしか思えぬ異形。
その身はもはや人にして人ならず。
それに名をあえて付けるなら、悪鬼とでも呼ぼうか。
306Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:30:59 ID:0/E7V/mt
「心ノ一方“影技”“憑鬼の術”」
「成程。自分自身に強力な暗示をかけ、潜在する全ての力を発揮させたということか。」

そこにはあの人を愚弄したような狂笑はなく、
ただ己に絶対の自負を持つ誇り高き剣鬼がいた。

鵜堂刃衛は無造作に真横に歩き、傍にあった石灯籠に対して、
これまた無造作に片手で剣を振るう。

伊烏義阿の眼を以てしても視認できた太刀筋は、半数までか。
その伊烏でさえ見切れぬ、人の条理を超越した高速剣が駆け抜けた後には、
見事なまでに細分化された、鋭利な切断面を持った石の塊が残った。
もはや目を凝らさなければ、それが過去どのような物体であったか、
判別することは難しいであろう。

対象が人間なら、より無残な事になるのは必定である。
人も剣も、等しく粉微塵に粉砕される。
鬼が取り憑いた人間に、只人が勝てる道理無し。

伊烏義阿に告げていた剣者としての本能は、確かに正鵠を得たものであった。
だがあちらが鬼を憑かせた人斬りであるならば、こちらは死して剣鬼と化した人斬り。
断じて只人ではない。

彼が人の存在を超越する、その身に鬼を憑かせた狂戦士(バーサーカー)であろうとも、
我こそはその戦場の常軌を逸して羽ばたく魔剣士(ソードソーサラー)に他ならぬが故に。

「いざ勝負!!」
「……来い。」

鵜堂刃衛と伊烏義阿は、構え、共に駆ける。
双方は確信する。切り札を用意する以上、
これがお互いにとって最後の一合になると。
その接触は、どちらかの生命が潰えるのは、刹那の未来。
双方の疾走は地を抉り、風を切り裂いた。

307Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:37:33 ID:0/E7V/mt
鵜堂刃衛はこの局面に刺突を選んだ。
居合の斬撃よりも間合いが伸びるが故に。
敵の抜刀より先に標的を捉えうるが故に。
それも己の扱う片手平刺突ではなく、
あの斎藤一の牙突の模倣を用いた。

鵜堂刃衛という男。かつては新撰組にその席を置き、
実は数々の優れた魔剣をその傍で盗み見てもいたのである。
己の剣を、さらなる高みに届かせるがために。

だがやはり魔剣は魔剣。生み出した本人の為にある異形の剣を、
何度見た所でそう易々とは盗み取れるものではない。

だが、それでもある程度の完成度は得る事は出来た。
それが今の“牙突もどき”である。
これでも、己の片手平刺突より遥かに速く繰り出す事は出来る。
だがしかし、その後に隙だらけになる時間も長かった為、
到底そのままでは使い物になるものではなかったのだが。
そう。そのままでは。

だが、憑鬼の術にて極限にまで高められた身体能力でなら?
二つの魔剣を掛け合わせれば?

それは贋作の術技でありながら、本物を遥か凌駕しうるものとなりうる。
あの抜刀斎よりも迅速に、敵の臓腑を抉る事も可能となる。

人斬り抜刀斎との戦闘において、それを為さなかった理由は一つ。
神速の抜刀術相手には、それを放ったあとの無防備になる
「後の先」こそが最も有効なる戦術であると睨んだが故に。

故に、疾走と異形の構えにて抜刀斎の思考をも奪わんとした。
そして先手を釣り出して神速の抜刀を躱し、
そこに反撃を加える事こそが最高の手段であると判断したが故に。
鵜堂刃衛は知る由もないが、その発想は刈流の“奔馬”にも通じるものがあった。
308Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:42:23 ID:0/E7V/mt
だが、前回はそれで抜刀斎に敗れた。
そして前回の失敗も踏まえ、今度はそれ以外の必勝を期す策を練る。
眼の前の抜刀術使いは、あの人斬り抜刀斎と質を同等とする。
ならば、その居合抜刀を躱された後の備えもあると考えるべきである。

ならば、その最大の隙は抜いた後の無防備を狙うのでなく、
抜かせる前に何としても仕留めることこそが肝要である。
それこそが、以前の敗北により得られた教訓であった。

それは可能か?抜刀斎に互する神速の居合抜刀を凌駕する事は可能か?
それは可能である。現在の“憑鬼の術”にて高めた己の身体と、
斎藤一より盗み出した“牙突もどき”の、二つからなる備えがあるならば。
それで仕留める。二の太刀は不用。
今度は己が抜刀術と同じ欠点を背負うが、
何者も逃れ得ない神速は回避を至難とする。

――勝てる。

――確実に勝てる!

鵜堂刃衛は暴牛の猛突撃で以て、神速の居合使いに対峙する。
突撃であるが故に、刺突であるが故に、抜き技などというふざけた技は通用しない。
刺し貫くべきは、心臓。回避される可能性を、限りなくゼロに近づける為に。
その神速の突きはまさに居合をも超越し、その心臓を見事抉り抜く事であろう。

勝機此後之先二無、勝機此先二有!

その脚力、そして剣速、全てが目の前の青年を凌駕する。
奴の腰の刀は、刺突より間合いの劣る斬撃であるにも関わらず、
いまだ一向に抜かれる気配がない。
それどころか、柄にさえ延びてはいなかった。

鵜堂刃衛はその事に訝る。

先程の策のような、異形の握りで間合いを伸ばた所で、
その速度はこちらが凌駕している。
そして互いの脚から生み出された速度から、
走行しながらの回避は一切不可能と断する。
敵の「後の先」も、この局面では有り得ない。
309Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 02:48:43 ID:0/E7V/mt
鵜堂の腕は唸りを上げ、切り裂かれた空気が異形の悲鳴を上げる。
そしてただ一つでも只人の手に負えぬその二つの魔剣からなる相乗効果は、
揺ぎ無い、より確実なる鵜堂刃衛の勝利を、刹那の未来に約束するであろう。

「俺の勝ちだ若造!!」

相手がさらなる必勝の策を秘めていようと。
負ける道理など、何一つ考えられない。
――だから、そんなことはあり得ないのだ。

そう、唐突に。
そう、唐突に。何の前触れもなく。
目の前の蒼い青年は、己の約束された勝利は、
眼前より見事消失したのだった。

鵜堂刃衛は刺突の姿勢のまま、
茫然と、ただ呆然とその視線だけで虚空を仰いだ。
特に何を思っての動作でもない。
唐突なる不条理と己への過信、そして想像だにしなかった
狐につままれたような未来にただ困り果てた結果、
自然とした動作がたまたまそうであっただけである。

だが。しかし。
だが。しかし。

蒼い着流しの青年は。
その袖をはためかせ、そこにいた。
…そこにいたのだ。

紺色の衣を、翼のように。
迅る右手は、今度こそ刀に。

頭上(そこ)は虚ろなる空などでは、断じて無かったのだ。
310Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 03:01:07 ID:0/E7V/mt
(飛翔)
呆けた心が、一つの単語を紡ぎ出す。
それは確かに飛翔だった。地を這う只人に行えるものではない。
あの人斬り抜刀斎にも、“飛天”御剣流を以てしても、
ここまでの跳躍は…。否、飛翔は不可能ではないのか?

(そうか)
一方で得心する。
間合いが接したその刹那、この敵は踏み込んでくる代わりに、
抜刀の代わりに、疾走の勢いを利用して跳躍を為し
我の二つの魔剣からなる神速を躱したのであった。

そしてそれはただの跳躍に留まらず。
伊烏義阿は天空にてその身を宙転する。
その期するところは。

宙転抜刀。
居合使いにとって、抜刀とは即ち斬撃を意味し。

全ては一動。
回避、飛翔、宙転、抜刀、そして斬撃。
そしてその必殺を期した斬撃は――。


完全死角――――背後から、敵を穿つ。


何者にも逃れ得ぬ、担い手に確たる勝利を約束する斬撃。
敵手には悪夢としか思えぬ、攻防一体にして不条理の嵐。
311Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 03:05:21 ID:0/E7V/mt
それは万全を期して用意した、鵜堂刃衛の二つの魔剣を以てしても止められず。
それはまさに剣の条理を覆す、一切の常識を覆す魔剣。
伊烏義阿は剣の常軌を逸して、今羽ばたいた。




――――我流魔剣 昼ノ月。



そう。伊烏義阿もまた、鵜堂刃衛と同じく魔剣を有していた。
だがこの魔剣に、勝機などは一切選別しない。
先の先、先、後の先…。一切が無意味。
ただ発動し、ただ殺害する。故にこそ、魔剣。
過去より蘇った鵜堂刃衛の魔剣でなく、現代に生まれた魔剣。
伊烏義阿なる剣鬼が生み出した、いわば鬼子の剣。




――――魔剣。



鵜堂刃衛は、その背から噴火の如き鮮血を噴き上がらせ、
膝から崩れ落ちるようにうつ伏せに地に堕ちた。
312Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 03:11:14 ID:0/E7V/mt


「んーむ。この感触…、いいね。」

その厚い岩盤と化した筋肉を引き裂かれ、
脊髄に達した筈の致命傷を受けてなお、
己の剣を凌駕され、敗北と絶望を与えられてなお、
鵜堂刃衛は狂笑をその貌に浮かべていた。

いや、その笑顔は敗北を与えられたが故のもの。
そは一点の曇りもない、純然たる完全敗北。
努力も創意工夫も、何もかもを嘲弄するがごとき魔剣を相手では。

こうなればもはや、ただ笑うしかない。
憤怒も悲嘆も、一切を感じはしない。
むしろ、ある種の清々しささえこの敗北には感じさせる。

「素晴らしい。素晴らしいぞ…。あの人斬り抜刀斎を、飛天御剣流をも超える勝ちっぷりとはね…。」
「……。」

伊烏義阿に答えはない。己が知らぬ流派を連呼し、
遠い何者かを恋い焦がれる剣鬼を相手に、
かけるべき言葉など何も見当たらぬが故に。
その姿は、何故か武田赤音に執着する自分を連想させた。

「…そう言えば、約束…だったな。何か聞きたくば力づくで聞けと。」
「ああ。では話してもらおう。貴様が知っている事を、全て。」

陰々滅々たる口調で、伊烏義阿は尋ねる。

「では、貴様は武田赤音という名の、女のような外見の男を知っているか?そいつを探している。」
「……知らぬな。俺が逃がしたのは川添珠姫と名乗る少女と、伊藤甲子太郎を名乗る士族様のみだ。
 名簿に新撰組時代の知り合いは多々いたのだが、全て俺とは敵なのでね。」
313Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 03:17:00 ID:0/E7V/mt
そう言い捨てると、鵜堂刃衛は満面の狂笑を伊烏に向ける。
それは歓喜に満ちていた。それは悦びに満ちていた。
どこにでも敵を作りながら、孤独の中を生きながら、
それでいてなんら後悔することなどなく、死に瀕してなお満面の至福の笑顔。
剣狂者の果ての姿が、そこにはあった。

だが、伊烏義阿は構わず疑問を口にする。

「…名乗るだと?」
「ああ。騙りか同姓同名の別人か。あるいは本人か…。まるでわからんのだ。
 だが、この鵜堂刃衛も一度人斬り抜刀斎に敗れ、死して蘇った存在だ。
 だから、あいつも案外蘇った存在かもしれん。騙りかとも疑ったが、
 考えても見れば、あいつの顔などほとんど覚えておらんからな。」

内容は理解できぬ部分も含んではいるが、一つ気になる部分が含まれていた。
そう。この男もまた「蘇った」といったのだ。

「…死して、蘇ったか。この俺もそうだ。」
「うほおう…。貴様も、そうだったのか…。死因は何だ?」

鵜堂刃衛は疑問を口にする。
まさかとは思うが。
まさかとは思うが。
この鵜堂刃衛を凌駕する剣客を、さらに凌駕する剣客がいるのか?
鵜堂刃衛は、期待に胸を躍らせる。

「俺も剣に敗れて死した。武田赤音という男によってな。」
「うふ。うふふ。うふわははははははは!!!!そうか、そうなのか!!!」

鵜堂刃衛は呵々大笑する。
おぞましく。そしてさも愉しそうに。
うふふ、うふふ、と哄笑する。

「貴様すら破る男がいると言うのか?私を完殺した、貴様ですら?!」
314Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 03:22:53 ID:0/E7V/mt
「うふふ。これから向かう地獄が楽しみでならんわ!
 これだからこそ人斬りは、何度死んでも辞められぬ!!
 …冥土の土産だ。貴様の名を、先程の剣の名を聞いておきたい。」

「…伊烏義阿。そして、使うは魔剣“昼の月”。」
「そうかそうか。その名前、決して忘れぬぞ。」

鵜堂刃衛はそれを聞き満足げに目を瞑るが、
すぐ思い出したように眼をカッと見開く。

「最後にご褒美だ。一つ有益な情報をやろう。」
「…なんだ。」

「人斬り抜刀斎…。名簿にある“緋村剣心”という男を尋ねるがいい。」
「…何故だ?」

「なぁに。そいつも貴様と同じ抜刀術を使う、甘っちょろい人斬り様だからだよ。
 その男なら同じ腑抜けのよしみで、貴様を助けてくれることがあるかもしれん。」

伊烏義阿は、この死に瀕した男の真意を掴みかねていた。
己を殺した敵に塩を送るつもりでいるのは理解できる。
だが、己を斬った者同士を出会わせて、一体何を望んでいるのだろう?

「人斬りは所詮何度死んでも人斬り。他のものには決してなれはしない。
 俺も、貴様もな。そしてあいつもだ。そう…、あいつに伝えておけ…。」
「ああ、確かに伝えよう。」

深く頷く。
己の好敵手に対してのみ抱く、憎悪すら超えた特別な感情。
この男にとっての“人斬り抜刀斎”に抱く感情も、
自分が武田赤音に対して抱く感情も、
えてして同じようなものなのかもしれない。
それだけは、理解できた。
315Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 03:28:09 ID:0/E7V/mt
まるで恋い焦がれるような、それ以外は目に付かぬような、
死しても忘れられぬ、救いようがない、妄執。

己も、この男も、そういった狂気に囚われている点においては
なんら変わりがないということか。そう思うと、自然と笑みが零れた。

可笑しく。ただ可笑しくて。
伊烏は声もなく哂った。

「先に冥土で待っているぞ。その時は、武田赤音とやらも連れて来い。
 その時は、心行くまで…、地獄で死合おう。」

「来るがいい。何度でも。そしてその度に貴様を斃す。」
「…いいね。同じ人斬り様として、極上の手向けだ。」

鵜堂の死してなお続く挑戦に、決意で答える伊烏。
この男の戦いの螺旋は、そして己の戦いの螺旋は、
もはや永久に終わることはないだろう。


うふふ。と一言笑い声を残して、鵜堂刃衛は今度こそ逝った。



殺人狂であった。
人斬りであった。
御世辞にも褒められぬ、人格破綻者であった。
出来ればあまり思い出したくない類の人物であった。

だが、剣者としてはどうだろうか?
それは実に素晴らしき剣の冴えであった。
そして二度死してなお折れぬ、玉鋼の意志は称賛さえに値した。
ならば、これほどの剣客を斬った誇りだけは、
この胸に抱き続けても良いだろう。
316Beholder Vs SwordSorcerer ◇YFw4OxIuOI:代理:2009/06/01(月) 03:33:40 ID:0/E7V/mt
伊烏義阿は鵜堂の死体を仰向けにし、腕を組ませ目を閉じさせた。
そしてやがて思い直し、腰に差した鞘と足元に落ちた剣を奪う。

「“井上真改”か。こちらは頂いて置くぞ。」

刀は今の所、村正の一本で事足りている。だがしかし、刀も所詮は消耗品。
斬り続けていれば徐々に消耗はするし、
いかな名刀と言えども限界はある。
そして何より、ここには砥ぎ師などいないのだ。

ならば、斬れる刀は手元に残すに越したことはない。
伊烏義阿はそう思い、二本目の剣を手に入れた鞘にしまった。

想像した通り、大阪正宗は石灯籠を破壊した後にあってなお、刃零れ一つ付いてはいなかった。
それは勿論持ち主の技量もあってのことだろうが、希代の名刀の素晴らしさをも物語っている。
これからの助けになるやもしれぬ。伊烏はそう考える。

至高の剣客を倒した誇りと希代の名刀。
それらを新たに手にして、伊烏義阿は再び城下町を駆け出した。
来るべき宿敵(アカネ)との、再びの相剋の為に。

蒼い剣鬼は、宵闇を疾走する。

【鵜堂刃衛@るろうに剣心 死亡】
【残り七十一名】

【とノ参 城下町/一日目/黎明】
【伊烏義阿@刃鳴散らす】
【状態】健康、胸に強敵を倒した誇り
【装備】妙法村正@史実、井上真改@史実
【所持品】支給品一式
【思考】基本:武田赤音を見つけ出し、今度こそ復讐を遂げる。
     一:もし存在するなら、藤原一輪光秋二尺四寸一分「はな」を手にしたい。
     二:己(と武田赤音との相剋)にとって障害になるようなら、それは老若男女問わず斬る。
     三:とりあえずの間は、自ら積極的にこの“御前試合”に乗ることは決してしない。
     四:人斬り抜刀斎(緋村剣心)と伊藤甲子太郎に出会ったら、鵜堂刃衛の事を伝える。
【備考】:本編トゥルーエンド後の蘇生した状態からの参戦です。
     ただし、後日譚「戒厳聖都」のように人間性を喪失した剣鬼ではなく、
     人間らしい感情はそのまま有したままとなっています。
     自分以外にも、過去の死から蘇った者が多数参加している事を確信しました。
     井上真改のサイズは大刀のものです。
     とノ参の城下町に、鵜堂刃衛の背中と首の皮一枚が裂けた死体が仰向けで寝かされています。
     腰にはなまくらの打刀が一本佩いたままになっています。
     傍らに、バラバラにされた石灯籠が放置されています。
317創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 03:40:06 ID:0/E7V/mt
以上で代理投下終了です

さるさんを2回も喰らい、そのうえ終了まで2時間もかかるとは思いませんでしたが^^;
318創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 08:41:32 ID:1RPEd1vE
執筆&代理投下乙。
伊烏と剣心とはまた面白いフラグが立った。今後の展開に期待。
刃衛の心ノ一方で疾走を止めるという試みはナイス。
それにしても赤音に比べて伊烏の装備はやたら充実してるな。

鍔眼返し以外で昼の月が敗れることがもしあれば、
刀がヘボだったとか予期せぬアクシデントとかではなく
正攻法での撃破がぜひ見てみたい。って可能なのか?
319創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 09:35:39 ID:A3Lc52KC
同じ魔剣以外で破れるかって考察はハナチラスレで散々行われてたが無理って結論だったなw
伊烏自身が一流の剣客、一流の居合使いだから難しいんだよなぁ
せいぜい有効な手は『走れない状況で戦う』ってのしか出てない
伊烏に勝つなら同質の魔剣か、伊烏を走らせないしかない

とまれ、代理投下乙
やっぱ伊烏の昼の月は凶悪だよなぁ
これから何人餌食になってしまうかw
320創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 19:02:01 ID:ZuqTSQZS
投下&代理投下乙です

やっぱり紙一重の戦いはいいなぁ
何やらフラグも立ったようだし、これからが楽しみだ
321 ◆YFw4OxIuOI :2009/06/01(月) 21:59:40 ID:B2PUsAHD
wiki更新と、それに伴い自作SS描写のみ若干加筆して投下。
書き手紹介に書き手別作品一覧を追加したので、特定の書き手ファンの方
は見易くなったと思います。
タイ捨流等の剣術の資料集が欲しいな。
322創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 23:55:10 ID:dihbJQBh
予約含め一回しか登場していない面子

辻月丹、椿三十郎、土方歳三、佐々木小次郎(偽)、山南敬助、
林崎甚助、富田勢源、柳生連也斎、斎藤一、
九能帯刀、服部武雄、 倉間鉄山、烏丸与一、
中村主水、明楽伊織、 高坂甚太郎
323創る名無しに見る名無し:2009/06/01(月) 23:57:57 ID:dihbJQBh
あ、あと☆信乃と赤石先輩もか
324創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 00:15:16 ID:RlxCVa88
昼の月封じは、伊烏に赤音をぶつけて相殺すれば
どっちが勝ったとしても勝者も満足して死にそうだから、
バトロワ的には勝手に二人とも脱落しそうなんだよな。
出会うまでの過程で死屍累々だろうけど。ってこりゃただの原作か。

>>321
乙です。
細かい点ですが、刃鳴散らす登場人物の一人称は
原作では 伊烏=俺 赤音=おれ と微妙に違います。
325創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 14:56:20 ID:Pu4aqbKk
>>321
更新&投下 乙!

解し難き 人斬り二人 合まみゆ 刃鳴散りたるは 昼の月なり

柳生新陰流は結構資料がある。タイ捨流も陰之流なわけだし、参考にしてみては?

>>322
ずいぶん減ったね。もうすぐ全員2週目突入かな?
326創る名無しに見る名無し:2009/06/03(水) 14:20:07 ID:m/ARlosy
wiki更新。
以前から言われてた支給品一覧を最新話まで作成。
抜けている所があれば、適宜修正して下さい。
あと出来てないのは追跡表のキャラ別のSS一覧か…。
80人分は流石に辛いな。どうしたもんかな?
327創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 21:41:12 ID:QxjcGdd9
>>326
超乙
328創る名無しに見る名無し:2009/06/04(木) 22:43:48 ID:ZvNXE4TV
>>326
乙乙! 今見たらすげー見やすくなってて吃驚した。

ログ読み直してて思ったが、
燕返し&3mの刀持ちの小次郎(傷)とやり合ったら伊烏終了じゃね?w
まあ燕返しで昼の月を破るのはいかにも普通だからそうはなって欲しくないが。
329創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 14:36:38 ID:DkVfFFGm
wiki編集乙!
スゲー大変だったろうに…本当に頭が下がります。

>>328
昼の月は常の剣術なら破るのは至難だけど、
長柄の武器、特に薙刀ならあっさりと破れそうな気がしないでもない。
戦国剣客は「外の物」として長柄武器にも長じてる事が多いから、
それで立ち向かわれると伊烏はきつそうだと思う
330 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/06(土) 06:21:34 ID:cQTjyEzQ
小野忠明、佐々木小次郎(傷)、新免無二斎で投下します。
331名刀妖刀紙一重 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/06(土) 06:22:52 ID:cQTjyEzQ
小野忠明は、湧き上がる震えを必死に抑えながら山裾を彷徨い歩いていた。
どうにかして恐れを封じ込もうとするが、そうして意識すればするほど、忠明の中で恐怖が膨れ上がっていく。
そして、かつての類似した経験からこの危機の対処法を見出そうという無意識の働きか、忠明の脳裏に一人の男が浮かぶ。
(善鬼……)
忠明が神子上典膳と名乗って伊藤一刀斎の弟子であった頃の兄弟子で、忠明の心に死の恐怖を刻み込んだ男だ。
もしも一刀流を継ぎこの場に呼ばれたのが自分ではなくあの男だったなら、こんな無様な姿を晒す事はなかっただろう。
あるいは逃避行動の一種なのか、今思い出しても仕方のない兄弟子との思い出ばかりが忠明の心に浮かんで来る。

善鬼は妖怪を恐れるどころか、あの男自身が名前の通り鬼のような剣士であった。
師一刀斎の剣を余すところなく受け継ぎ、奴が一刀流の宗家を継ぐのだろうと、典膳も認めざるを得ない程の。
それだけに、一刀斎が善鬼と典膳の果し合いによって後継者を決めると宣言した時には心の底から恐怖した。
善鬼も典膳も一刀流の剣技は充分に修得しているから、後は実戦で優劣を見極める。
一刀斎のその言葉は、善鬼だけでなく典膳にとっても本心では納得しかねるものであった。
確かに典膳も一刀流の技のほとんどを修めてはいたものの、善鬼と比べればどうしても一歩劣るのは自覚していたのだから。
それに何より、典膳は一刀流の奥義とも言うべき夢想剣だけはついに身に付ける事ができなかったのだ。
奥義を使えない自分に一刀流を継ぐ資格がある筈がなく、善鬼と真剣で戦えば間違いなく死ぬ事になるだろう。
そうわかっていながら、典膳が果し合いから逃げる事なく善鬼との立ち合いに望んだのは、ある考えがあったからだ。
即ち、師匠の本心は善鬼ではなく自分を後継者にすることにあるのではないかという期待である。
善鬼は確かに剣士としては最高級の人材ではあるが、性格に難がありすぎて流派を天下に広めるといった事は望むべくもない。
対して、自分ならば、弟子を育てる事は上手くやれる自信があるし、世渡りも善鬼よりはずっと上手い筈。
この点を見込んで自分を後継者にしようというのが一刀斎の真意なのではないかと、典膳は考えたのだ。
だとすれば善鬼との死合いも尋常には行われず、一刀斎が何らかの手助けをして自分を勝たせてくれるのではなかろうか。
そんな願望混じりの予測をして臨んだ善鬼との立ち合い……そこで何が起きたのか、実は忠明は覚えていない。
果し合いが始まった途端に全力の剣気をぶつけられて頭が真っ白になり、ふと気が付くと善鬼が斃れていた。
ただでさえ腕で劣る上に平常心を完全に失っていた自分がまともに戦って勝てたとはとても考えられない。
やはり一刀斎が密かに加勢してくれたのか……だが、忠明はその件については敢えて考えないようにして来た。
代わりに、自分が師の後を継いだのは正しかったと証明する為、一刀流を天下に広める事に心血を注いだ。
その甲斐あって一刀流の名声は大いに広まり、忠明も近頃では善鬼の事を思い出すのも稀になっていたのだが……
こんな状況になって、忠明の心中では、克服した筈の想いが復活しようとしていた。
自分が一刀流を継いだのは間違いだったのではないか、善鬼を後継者にしなかった師は誤ったのではないかという疑いである。

そうした気持ちを抱え、打ちのめされていた忠明だが、こんな状態でも一流の剣客としての本能が消えた訳ではない。
何かが飛んで来る気配を察知すると、即座に不毛な思考を打ち切って身をかわし、飛来した物を素早く観察する。
「木刀……?」
飛んで来たのは木刀だった。銘のつもりなのか、刀身に風林火山と彫ってある。
潜んでいる誰かが忠明を狙って投げ付けて来たのか、或いは近くで闘いが起きていて何かの拍子に木刀が飛ばされたのか。
どちらにしろ、まともな武器を持たない忠明にとっては、ここで木刀が手に入るのは大きい。
素早く木刀を拾って周囲を警戒する忠明。と、山の上方から何かが転がり落ちてくる音を捉えた。
何が来てもすぐに対応できるよう身構える忠明。そして数瞬後、忠明の頭上に現れたのは……
332名刀妖刀紙一重 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/06(土) 06:24:29 ID:cQTjyEzQ
仇敵たる宮本武蔵を求めて彷徨い続ける佐々木小次郎。
この島に来てから既に二人の剣客と死闘を繰り広げているのだが、小次郎自身はそんな事は忘れてしまっている。
彼の頭にあるのは仇敵宮本武蔵の事のみ。武蔵を見つけ出して斬る、それが今の小次郎の全てだ。
とはいえ、武蔵の居所を知る手がかりは何もないのだから、行き当たりばったりに歩き回る事になったのも仕方あるまい。
遠くで剣客の発する剣気を感じてはそちらに向かい、しばし後に別の方向から血の匂いが漂って来れば方向転換する。
そうして彷徨い歩いて二刻余り、遂に小次郎は捜し求めていた相手に出会う。
「武蔵ッ!」
その姿を認めるや否や、小次郎は絶叫すると支給品の入った行李をほうり捨てて標的に向かい疾走する。
間違いない、あれが武蔵だ。小次郎は確信していた。少し面代わりしているが、十数年という歳月を考えれば当然の事。
何より、その身に纏う剣気や身のこなしの癖が自分の知っている武蔵と瓜二つだ。
そして、自分が向かって行くのを見るや即座に身を翻して逃げに走るその思い切りの良さも。
「武蔵!」
小次郎は全力で武蔵を追う。長らく待ち焦がれていた再戦の機会、決して逃してなるものか。

無二斎は状況が掴めないまま駆けていた。邪魔な行李はとうに捨てている。
突然「ムサシ」とか訳のわからない事を叫びながら襲って来た男が何者なのか、何故自分を追うのか、さっぱり分からない。
唯一つ分かっているのは、あの男とまともに戦えば自分の負けは確実だという事だ。
何しろあの男の手にあるのは長さ一丈はあろうかというとんでもない長剣。
普通に考えればあんな物まともに振れる筈はないと言いたいところだが、あの剣の刀身にべっとりと付いた血糊、
加えて剣を構えたまま凄まじい速度で駆ける姿を見れば、奴があの剣を扱うに足る膂力の持ち主だと考えざるを得ない
そんな怪力であの常識外れの重量の剣を振るわれれば、無二斎の持つ二本の十手ではとても受け止められぬ。
そして、相手の得物を受けられない十手はただの短い棒に過ぎず、そんな物で長剣と渡り合うなど無謀の極み。
とにかく今は逃げる以外にない。

上手くすれば荷重の差から逃げ切れるかとも思ったが、追う者と追われる者の差は一向に広がらない。
その上、体力でも向こうが上回っているらしく、無二斎は疲労を覚え始めていた。
とはいえ、無二斎も、自分の体力を計算に入れずに逃げていた訳ではない。
元来た道を引き返し、目論見通り、疲れて足が鈍る前に山の中に逃げ込む事に成功する。
足場が悪く、木が生い茂る山の中では長剣は不利。ここなら短い棒でしかない十手でも十分に対抗できる筈だ。
そう思ってここまで必死に走って来たのだが、追って来た男はこの必敗と思える地勢にも全く怯まない。
「ムサシィッ!」
意味不明な掛け声と共に男は長剣を振るい、木々があっさりと切り倒される。その上……
「くっ」
無二斎は必死で倒れて来た木を避ける。たまたま自分の方に倒れて来たのではなく、明らかに意図的な攻撃。
木を切断する際の剣の軌道や力の入れ具合を絶妙に制御する事で、木が倒れる方向と勢いを操って見せたのだ。
この男、振る舞いから連想される怪力だけの狂戦士ではなく、磨き抜かれた技をも併せ持つ一流の剣客か。
そう悟った無二斎は絶望するどころかむしろそこに勝機を見出し、力を振り絞って山を駆け登り始める。
333名刀妖刀紙一重 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/06(土) 06:25:13 ID:cQTjyEzQ
無二斎は小次郎の倒木による攻撃を必死に避けつつ山を登って行く。
どうやら、読みの鋭さという点では無二斎に一日の長があるようで、小次郎の攻撃は掠りもしない。
しかし、体力では小次郎の方が一日どころではなく勝っており、駆けながら回避を繰り返した無二斎は汗だくになっていた。
小次郎と無二斎の出会う位置がもう少しずれていれば危うかったが、幸運にも無二斎は体力が尽きる前に目的地に辿り着く。
そして、それを目にした小次郎も、無二斎が目的もなしにただ逃げていたのではない事に気付いた。
見えて来たのは、山腹に突き立つ一本の木刀。無二斎はこれを目指して来たのだ。
木刀と言えば武蔵が得意とする得物。実際、巌流島でも小次郎は武蔵の木刀によって敗北を喫している。
しかも、あの木刀はただの木刀ではなく、曰く付きの業物である事を、小次郎は本能的に察した。
木刀が近づくや無二斎が最後の力を振り絞って真っ直ぐそこに向かい始めた事も木刀の危険さの傍証と言えるかもしれない。
武蔵に木刀を取らせるのは危険だ……そう感じた小次郎は手近の木を切り倒し、無二斎が向かう木刀の上に倒し込む。

「はっ!」
無二斎が跳躍する。その先には、倒木によって空中に跳ね上げられた木刀。
あの衝撃で砕けるどころか傷一つ見えない所からしても、やはり尋常の木刀でないのは間違いない。
しかし、それを取る事に執着して敵への注意が疎かになってしまえば無意味というもの。
小次郎もまた跳躍すると、空中にいて身をかわす事ができない筈の無二斎に向けて必殺の剣を振るう。
「甘い!」
小次郎の剣が届く直前、あろうことか、無二斎の体が空中でいきなり停止する。
あらかじめ十手の一本を倒木の枝に引っ掛けておき、それに繋がる房紐を引く事で空中での方向転換を可能にしたのだ。
その為に木刀には届かなくなったが、それは構わない。
何故なら始めから無二斎の狙いは木刀を取る事ではなく、小次郎にそう思わせて何とか隙を作る事だったのだから。
停止すると同時に、無二斎は残ったもう一本の十手を小次郎目掛けて投げ付ける。狙いは小次郎の利き手。
避けようにも、無二斎を仕留める為に渾身の力で剣を振っていた勢いを急には止められない。
回転しつつ飛来した十手が剣を握る小次郎の拳に命中し、小次郎の指がまとめて叩き折られて長剣があらぬ方向に飛び去る。

無二斎は着地すると、素早くもう一本の十手を枝から外す。
出来れば投げた十手を探したかったのだが、どうやらその暇はなさそうだ。
小次郎は指を折られた痛みなど意に介さず、空中で木刀を掴み、着地と同時に身構えていた。
それでも、長剣対十手二本が木刀対十手になったのだから無二斎にとってはかなり不利が改善されたと言っていいだろう。
如何に小次郎が人外の怪力の持ち主でも、片手で振るう木刀ならば、十手で受け止める事も不可能でない筈。
もちろん、上段からの気勢の乗った一撃などではなく、無理な体勢からの力を完全に乗せきれない一撃に限定された話だが。
にもかかわらず……
「来い!」「ムサシ!」
上段に構え、渾身の一撃を振り下ろす小次郎に対し、無二斎は避けようとも、受けようとすらせず真っ向から打ちかかる。
小次郎が持つ木刀は、布都御魂剣とは比べようもないにしても、巌流島で武蔵が使った物に匹敵する程の長刀。
得物の長さが勝敗を一意的に決める訳ではないが、まともに打ち合えば無二斎の不利は否めない。
それくらいは百も承知の筈なのに、どうして無二斎は勝負を急いだのか……
334名刀妖刀紙一重 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/06(土) 06:26:33 ID:cQTjyEzQ
「ガアアアッ!」
頭を割られた小次郎の手から木刀が飛び、それを追うように小次郎自身も転げ落ちて行く。
勝ったのは無二斎。しかし、これは剣技において無二斎が小次郎を上回った結果ではない。
勝負を分けた要因を探すなら、技よりも心……小次郎に冷静さが欠けていた点を挙げるべきか。
まあ、長年追い求めて来た仇敵に漸く出会ったと思い込んでいる状況で冷静になれと言うのも酷な話だが、
それでも、この武蔵に劣らぬ狡猾さを持つ剣客に勝とうとするならば、冷静さを保っておくべきだった。
そして、無闇に決戦を挑む前にこの場に木刀があった事が何を意味するのかを考えるべきだったのだ。
無二斎が何も考えずに逃げ回っていたらその行く先にたまたま木刀があった、などという偶然はまず考えられない。
すると無二斎は前からあの木刀の存在を知っていた事になるが、では何故無二斎は木刀を放置して山から離れたのか。
元々業物を持っているならともかく、十手しか持たない無二斎にとって、木刀を取っておいても損はない筈。
にもかかわらず、無二斎が木刀を素通りしたのには相応の理由がある筈だと考えるべきだった。

無二斎も小次郎も知る由もない事だが、あの木刀は木刀・正宗と名付けられた名刀である。
木刀ながら銘を持つだけあって、尋常でない能力を持つ。具体的には使用者と潜在能力開放と感情の昂揚だ。
感情の昂揚が、相手の動きを冷静に見極める事が重要となる真剣勝負の場で忌避すべきものである事は言うまでもない。
潜在能力の開放による身体能力の上昇については、持ち手が力任せに剣を振るだけの荒武者なら益になる事もあるだろう。
しかし、無二斎のように精緻な技を武器にしている剣客にとっては、身体能力の急な上昇はむしろ害になる。
無二斎の技は現在の無二斎の身体能力に合わせて最適化されている為に、身体能力の変化により歯車が狂うのだ。
そして、小次郎も自分以上に精密な技の持ち主だと判断した無二斎は、小次郎に正宗をとらせるよう誘導した。
結果として、その判断は大正解……正宗は小次郎にとっては正に持ち手を呪う妖刀であったと言えよう。
何しろ、正宗の機能は単純な身体能力の上昇ではなく、あくまでも潜在能力の開放。
だが、小次郎は長年の厳しい修練によって、己の剣技に有用な身体機能は潜在能力の限界を超えて鍛えに鍛え抜いている。
それ故に、正宗を持つ事で上昇するのは、小次郎が己の剣には不要もしくは邪魔と考えて敢えて鍛えなかった能力のみ。
そんな状態で渾身の剣を振るえば、折角の優れた技が完全に崩れてしまうのも当然と言えよう。
更に、元々興奮していた上に正宗の力で感情が暴走した小次郎は、己の身体の異常に気付く前に勝負を挑み、敗れたのだ。

「ここには妙な連中が多いようだな。次はもっとまともな剣士と会いたいものだが」
そんな感想を漏らしつつ投げた十手を拾う無二斎だが、小次郎の拳とぶつかった衝撃で曲がってしまって使い物にはならない。
つまり、これからは十手一本で戦わなければならないという事だ。
正直それは避けたいのだが、かと言って小次郎が落として行った長剣は、無二斎には構える事すら難しい。
木刀は上に述べた理由で無二斎には無用の長物だし、何より木刀が飛んだ先は小次郎が落ちて行った方向と一致している。
十手で頭を割った傷は通常なら致命傷だが、あの怪物にそんな常識が通用するかは疑わしいところだ。
それに、無二斎と小次郎の戦いの気配を察知して、戦いを望む剣士が寄ってくる可能性も否定できない。
今はひとまずこの場を離れ、武器の調達は後でどうにかするしかあるまい。
あの男が何者で、何故あれほどの執念で自分を狙って来たかはわからずじまいだったが、無二斎にはどうでも良い事だ。
この兵法勝負における勝利、それのみが今の無二斎の望みであり、その為にはつまらぬ感傷など邪魔になるだけなのだから。

【ろノ肆 山腹/一日目/黎明】

【新免無二斎@史実】
【状態】疲労
【装備】十手@史実
【所持品】支給品一式
【思考】:兵法勝負に勝つ
一:城下に向かう
二:刀が欲しい
三:陶器師はいずれ斃す

はノ参に無二斎の行李が投げ出されています。
335名刀妖刀紙一重 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/06(土) 06:28:35 ID:cQTjyEzQ
小野忠明は、木刀を握ったまま呆然と転げ落ちてきた物を見詰めている。
転げて来る物が何であろうと対応できる心構えをしていたつもりだったが、それは落ちて来た物を見た瞬間に霧消した。
何しろ、この島に来て真っ先に忠明の心に恐怖を刻み込んだ化け物が凄まじい形相で落ちて来たのだ。
驚きと恐怖で忠明の頭の中は真っ白になり……気が付くと、血塗れた木刀を手にして首を切断された妖怪を見詰めていた。
「夢想剣……」
そう、己自身すら気付かぬ内に剣を振るい、化け物の首を刎ねたその技こそ、正に一刀流奥義夢想剣に他ならない。
かつてどうしても会得できなかった夢想剣を今になって修得したのか……いや、違う、この感覚には覚えがある。
一刀流後継の座を巡って善鬼と戦い、やはり頭が真っ白になったあの時にも、今と同じ感覚を覚えた記憶があるのだ。
「そうか、師匠……」
忠明は、今になって漸く、一刀斎が正しかった事を知った。彼はとうに夢想剣を会得していたのだ。
なのに、強すぎる我のせいで既に身につけた技を使いこなせず、会得しているのに気付く事すら出来なかった。
善鬼との戦いでも、自身が夢想剣を使って善鬼を斃した事に気付けず、師の贔屓を疑って勝手に煩悶していたのだ。
忠明は師を信じるべきだった。一刀斎が相応しくない者を後継者候補に選ぶ筈がないという事を。
そう、俺は天下一の剣豪伊藤一刀斎の正当なる跡継ぎ、物の怪如きを恐れる必要などなかったのだ。
現に、さっきは俺を愚弄して行った化け物をも、真の実力を発揮すればただの一撃で……

「武蔵……」「ぬおっ」
幻聴か、あるいは小次郎の執念が有り得ざる現象を引き起こしたのか、小次郎の声が聞こえた気がして忠明は驚愕する。
拭い去った筈の恐怖が再び忠明を捕らえかけるが、それも咄嗟に振り下ろした木刀が小次郎の頭蓋を切り裂く事で消え去った。
木刀で人の頭蓋骨をこうも易々と切り裂くなど、以前の忠明の腕では考えられない事だ。
「これだ、これこそが俺の本来の力。一刀流継承者の剣腕だ!」
夢想剣に開眼した事で、己の中に眠っていた本来の力量が目覚めた、忠明はそう解釈する事にした。
これならば柳生など恐れるに足らぬ。後は一刀流こそが無敵の剣だという事を満天下に示すのみ。

【佐々木小次郎@異説剣豪伝奇 武蔵伝 死亡】
【残り七十名】

【ろノ参/山裾/一日目/黎明】
【小野忠明@史実】
【状態】:高揚
【装備】:木刀・正宗、半首、手甲、鉈、木の竿
【所持品】:支給品一式、同田貫(切先の部分半分)
【思考】 :十兵衛を斬り、他の剣士も斬り、宗矩を斬る。
1:斎藤弥九郎(名前は知らない)は必ず自らの手で殺す。
【備考】
※木刀・正宗の力で身体能力が上昇し、感情が高ぶっています。ただし、本人はその事を自覚していません。
※木刀・正宗の自律行動能力は封印されています。
336 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/06(土) 06:29:44 ID:cQTjyEzQ
投下終了です。
337創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 07:59:35 ID:RyXRQSUA
投下乙
ウハウハ、忠明さん覚醒したw化け物小次郎退場早いな
やはり魔は人には勝てずか
無二斎の兵法者としての熟達した実力もよく描けてました
乙!
338創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 11:47:46 ID:aO8NcsRA
投下乙!
知略を尽くした駆け引きは剣客ものの醍醐味やね。
しかしこれで、無二斎じゃなく漁夫の利を得た形の忠明に
撃墜マーク一つ付くのかと思うと何か釈然としないなw
339創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 13:24:39 ID:GDmDBE90
これは乙ですな
340創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 13:40:12 ID:jJyVWPzr
あの怪物を誰が止めるのかと思ってたが、まさかヘタレた小野ナレフ自身だったとは!
これで面目躍如するか?
それともヒナギクの剣に弄ばれるか?
小次郎(傷)はしばらくその無敵ぶりから死なないと思い込んでいただけにこれは意外。
だからこそのロワか!
ともあれ乙です。
341創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 15:20:33 ID:RyXRQSUA
忠明以外、善鬼との決闘の詳細を知る人間がだれもいないから
実際は一刀斎が後継者に定めたのは善鬼の方で、忠明が二人を殺して
一刀流後継の逸話をでっちあげたという説があるくらいなんだよなな
342創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 15:26:12 ID:NMnuRicP
実際伊東師弟の性格的にそれぐらいあってもおかしくないのがまたwwww
343 ◆F0cKheEiqE :2009/06/07(日) 17:56:25 ID:gcFMBkMC
投下乙

岩本虎眼、藤木源之助 予約
344創る名無しに見る名無し:2009/06/13(土) 21:38:04 ID:O9J9/joh
やっと鯖復活した? 予約wktk
345創る名無しに見る名無し:2009/06/14(日) 13:52:24 ID:Mob2oOr5
テスト
346 ◆F0cKheEiqE :2009/06/14(日) 13:56:42 ID:Mob2oOr5
済みません。
諸事情により投下が間に合いそうもないので
明後日まで延長させてください
347創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 19:46:58 ID:mF/gk2LR
一回だけはあと何人だっけ?
348創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 22:19:11 ID:srGCCwjN
またバックレか
この書き手は
349創る名無しに見る名無し:2009/06/18(木) 22:29:33 ID:mF/gk2LR
>>348
はいはいいつもの読み手様乙読み手様乙。
せめて15話以上書いてからもの言いましょうねー。
350 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/20(土) 10:50:48 ID:WSlEMq0p
上泉信綱、林崎甚助、服部武雄で予約します。
351創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 06:06:44 ID:RBEBSDrA
>>346ってぶっちゃけ書く気無くない?
いくらなんでも予約延期して、その後全く音沙汰無いのが二回もって、マナーが悪いだろ
遅れるなら『一ヶ月ぐらいかかる』と正直に言うか「やっぱ無理だわ」ぐらい言ったほうがスッキリするぞ

こういうのが続くと本当にグダグダになって企画が死ぬ
352創る名無しに見る名無し:2009/06/25(木) 13:10:54 ID:4xEY0aPq
企画が死ぬと言うのは大袈裟だが、悪影響があるのは間違いないな。
いくら最多作品投下者でも、いや、最多作品投下者だからこそ気を付けて貰いたい。
良くも悪くも皆が手本にするから。

出来ない約束はしない方がいいし、8割方完成して確証が出来てから予約した方がいいよ。
出来ないなら出来ないと分かった時点で、催促される前に連絡の一つ位入れるのが礼儀だと思う。
353 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/27(土) 10:29:45 ID:QedvbpZj
上泉信綱、林崎甚助、服部武雄で投下します。
354戦慄の活人剣 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/27(土) 10:30:34 ID:QedvbpZj
服部武雄はかつての同志の姿を求めて駆けていた。彼らを救う為、或いは斬り捨てるために。
だが、先程の九能という妙な若者に続いて出会ったのは、若者と老人の見知らぬ二人組。
「あんた達、坂本竜馬か伊東甲子太郎って人に会ってないか?或いは近藤勇か土方歳三でもいいんだが」
そう言って彼等の容姿を説明してみるが、心当たりはないようだ。
「役に立てずにすまぬな。ところでお主、その四人を見付けてどうするつもりだ?」
「伊東さんと坂本さんは守る。近藤と土方は殺す。それだけさ。あんた達も近藤や土方に会ったら用心した方がいいぜ」
そう言って伊東や坂本と合流すべく駆け出そうとする服部だが、その足が急に止まる……いや、止められた。
(何なんだ、こいつは?)
服部の足を止めたのは目の前の老人。と言っても、彼が具体的に何かをした訳ではない。
服部が近藤や土方を殺すと言った直後、老人から凄まじい存在感が湧き出て、無視して駆け去る事が出来なくなったのだ。
だが、そのような特殊な存在感の持ち主に会った事のない服部にはその事が理解できない。
もう一人の若者の方は服部にも理解できる。凄腕の剣士だろう。
服部の知る人斬りや志士達とは、九能とはまた別の意味で異質な感じがするが、それでも服部の理解の範疇の内ではある。
だが、この老人はわからない。やはり凄腕の剣士なのだろうが、そんな言葉では表しきれない何かを感じさせた。
「名乗るのが遅れたが、俺は服部武雄。あんた達は何者だ?」
すると、老人の方が前に出て名乗る。
「わしは上泉信綱。お主もこの御前試合とやらの参加者と見受けるが、よろしければお手合わせ願えぬか?」
「上泉?」
剣術界の本流とは離れた所に身を置いていた服部も、伝説の剣聖上泉伊勢守の名は聞き知っている。
無論、この老人が何百年も前に死んだ筈の伊勢守本人とは考えにくいが、ただの騙りとも言い切れない何かが感じられた。
とはいえ、仮にこの老人が本物の上泉伊勢守だったとしても、それで怯むほど服部は柔ではない。それに第一……
「素手でやろうっていうのか?」
そう、老人は身に寸鉄も帯びていないように見える。
「いかにも。お主は遠慮なく剣を使うが良い」
そう言うと老人は己の剣を差し出そうとした若者を制して下がらせ、「手出し無用」と言うと素手のまま身構えた。
「無刀取りって奴か?面白い」
無刀取りと言えば新陰流の代名詞とも言える高名な技だが、信綱がついに完成させられず柳生宗厳に託した技でもある。
もちろん、信綱に無刀の技の心得が全くない訳ではない。実際、宗厳と最初に立ち合った時は素手でその木刀を奪ってみせた。
だがそれは、当時の宗厳が未熟であり、且つ信綱の弟子の疋田文五郎に連敗して動揺していたからこそ可能であった事。
気力充実したこの達人に、不完全な無刀取りが何処まで通じるのか……
355 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/27(土) 10:31:21 ID:QedvbpZj
服部の二刀が信綱を追い詰めて行く。
信綱も隙を見付けて懐に飛び込もうとするが、慎重に攻め立てる服部の剣に可動範囲を狭められて行った。
いつもなら一気に勝負を付けに行く所だが、信綱の格を本能的に感じ取っている服部はあくまでも慎重に攻める。
そして、信綱を更に剣の下に誘導しようと牽制の一撃を送り……
ガンッ!!
「何だと!?」
服部の剣がいきなり凄まじい力で弾かれる。弾いたのは……
(爪か!)
そう、爪を鋼の如く鍛えておけば、刀が手元になくとも完全な無手にはならない。信綱が考案した無手の技の一つである。
相手が並の剣士であれば、弾かれた刀の柄がその手の中で回転し、自らの刀に貫かれていたであろう。
流石の服部も、片腕を刀ごと大きく弾かれたせいで体勢を崩し、隙が生まれる。
そして、その千載一遇の好機をものにせんと、弾かれなかった方の刀を持つ服部の手に殺到する信綱。
「させるかよ!」
咄嗟に手首の力だけで刀を投げ上げ、自由になった手で掴みに来た信綱の手を掴み返す。
手さえ自由になれば、服部には膂力も柔術の心得も充分にあり、そう簡単に後れを取る事はない。
両者の力が拮抗した瞬間に、服部は信綱の腹を渾身の力で蹴飛ばし、間合いを取って体勢を整えつつ投げ上げた剣を捕る。
「なるほど、名前負けはしてねえようだな」
そう言うと服部は刀の内一本を素早く納刀し、もう一本の刀を両手で構えた。
先程の一撃、信綱に弾かれたのはあれが片手で放った牽制の一撃で、且つ信綱を殺す気がない服部が手加減していたからこそ。
その証拠に、剣を弾いた信綱の爪は割れ、指は血に塗れている。
となれば、服部が両手で本気の一撃を叩き込めば、信綱が残った九つの爪を総動員しても止めることは出来ない筈。
それに、二刀ならば一方の剣に両手で掴みかかられると二対一で不利だが、一刀を両手で保持していれば二対二。
いや、信綱の指一本が使い物にならなくなっている事を考えれば十対九でこちらが有利だ。
その判断を基に、服部は余計な気遣いを捨て、両腕で必殺の一撃を叩き込む。

戦いは、二刀から一刀になって服部の手数が減ったにも拘わらず、先程とほぼ同じ展開を辿っていた。
先程の蹴りが思ったよりも痛手になったのか、どうも信綱の動きが鈍っている。
そして、服部がとどめの一撃を繰り出そうと信綱に向けて大きく踏み込んだ時……
ぶつっ
その踏み出した足の草履の鼻緒が切れ、服部はまたも体制を崩す。
運が信綱に味方した、という訳ではない。先に服部に蹴られた瞬間、信綱が爪で素早く蹴足の鼻緒に切れ目を入れていたのだ。
そして、信綱は服部の上段に構えた刀には見向きもせず、その腰目掛けて飛び込んで来る。
納刀した方の剣を奪うつもりか。そう判断した服部は素早く左手でそちらの刀を抑えるが……
「ちっ、鞘か」
そう、信綱の狙いは抜刀した刀の鞘。それを無理やり引き抜くと、素早く飛び退って構えを取る。
「く……」
未だこちらには二刀があり、信綱が手にしているのは鞘一本のみ。
冷静に考えれば有利なのだが、ついに信綱に得物を持つ事を許してしまった事が心理的圧力となって服部を襲う。
356 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/27(土) 10:32:28 ID:QedvbpZj
信綱に鞘を取られた事により、服部の中に迷いが生じていた。
このまま一刀で鞘ごと叩き切るのが良いか、あるいはもう一本の刀も抜いて二刀の手数と間合いの差で押すか。
信綱が刀の鞘という中途半端な武器を持ったせいで、どちらが有利かすぐには見切れない。
そして、服部が決断する前に信綱は動き出し、滑るような一撃を送り込む。
「これは……!?」
一瞬の後、信綱の鞘が服部の喉元に擬せられていた。
傍で見ていた甚助には、信綱の特に速くもない一撃を、何故か服部が防御しようともせず、無為に受けたようにしか見えない。
だが、実はこの一撃は、速くなかったからこそ服部の防御が間に合わなかったのだ。
仮に信綱が放ったのが神速の一撃であれば、服部は余計な事を考えずに防御を行い、おそらくは防ぎきっていただろう。
しかし、攻撃の速度が緩やかであった為に、そこにどう防御すればより有利かを考える余地が生まれる。
そして、信綱は剣の軌道や速度を、どう対応するのが最適かのちょうど中間点に来るよう完璧に調節したのだ。
その動きによって服部の心中に生じた迷いが増幅され、それを振り切る前に剣は如何なる防御も無効な距離にまで来ていた。

「……俺の負けだ。こいつは戦利品としてあんたが使いな」
服部が負けを認めて手に持った刀を差し出す。
「いや、お主こそ若いのに見事な腕だ。それでお主は今後どうするかね?」
「うん?さっきも言ったように、伊東さんと坂本さんを守って近藤と土方を殺す。そこに変わりはねえさ」
「その近藤と土方という者達がどれほどの腕かは知らぬが、今のお主に斬れるかな?」
あからさまに侮られて、服部の顔が紅潮する。
「何だと?確かにあんたには負けたが、俺だって……」
「わしが言っているのはそういう事ではないのだがな。ではわしともう一度立ち合ってみるか?」
「面白え、今度は殺す気で行くぜ!」
信綱の挑発に、服部はあっさりと乗って再び両刀を構える。
しかし、今度の勝負はあっさりとついた。僅か数瞬で信綱の鞘は何の造作もなく服部の喉元に擬せられていた。
「てめえ、俺に何をしやがった……」
あっさりと勝負が付いたのは、信綱の技が優れていたと言うより、服部の剣技が破綻していたからこそ。
先程の闘いで生まれた迷いが今でも心に残り、それまでは無造作に使っていた剣を使えなくなってしまったのだ。
ついさっきまでは何の疑問も感じずに使っていた技が、今では頼りなく、不完全な物に思える。
どうして自分は今まで迷いなく剣を振るえていたのか、その感覚すら思い出せない。
確かに、こんな状態では近藤や土方を斬って坂本や伊東を守るなど、到底不可能だろう。
「その迷いは元々お主の内にあり、お主が無意識に封じていたもの。だが、迷い惑う事は決して悪い事ではない。
 今は弱くなっても、その迷いと向き合い、乗り越えればお主の剣は更なる境地に進むであろう」
「そんな悠長な事をしてる暇があるか!こうしている間にも、伊東さんや坂本さんが命を狙われてるかもしれないってのに!」
「ならば、敵を殺す以外に友を救う方法を考える事だ。その工夫もまた兵法。それとも、わし等と共に来るか?」
「これ以上あんたと付き合うのは御免だぜ。それに、同志を救うのに部外者の力なんて借りれるかよ!」
そう言って、服部は不安を押し殺して駆け出す。仲間を救う為に。
「友と合流したらまたわしの元へ来るが良い。お主が己の中の迷いと向き合うのに、多少の手助けはしてやれるだろう」
信綱が言って来るが、それに対しては返事もしない。はっきり言ってこの老人とは二度と関わりたくなかった。
自分の心に迷いを打ち込んでおきながら、今度はそれを克服する手助けを申し出るとは、一体何を考えているのか。
彼は認めたくなかった。自分がこの底の見えない老人に僅かながら恐怖を感じている事を。
そして、同時に自分の知らない境地にあるらしい信綱の剣に魅かれ始めている事も。

【ほノ壱 森の中/一日目/黎明】

【服部武雄@史実】
【状態】健康、迷い
【装備】オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:この殺し合いの脱出
1:伊東甲子太郎、坂本龍馬との早期合流
2:迷いを振り払うまではなるべく殺し合いを避ける
3:土方歳三と近藤勇を殺す
4:上泉信綱に対しては複雑な感情
357 ◆cNVX6DYRQU :2009/06/27(土) 10:33:19 ID:QedvbpZj
「ふう……」
服部が見えなくなってから上泉は大きく息を吐く。さすがに、達人との連戦は老体には堪える。
「お見事でした、伊勢守どの」
「あの程度、見事と言う程の事ではない」
甚助に返したその言葉は謙遜ではない。あれで本当に良かったのか、信綱自身にも判じかねているのだ。
近藤・土方の名を呼ぶ服部の声から、信綱は深い怒りと憎悪を感じ取った。
あの感情のままに近藤や土方と戦い、討ち果たせばあの青年は間違いなく修羅道へ落ちる。
それを危惧したからこそ彼の心の中の迷いを呼び覚まし、彼が斬り合いを避けるように仕向けたのだが、本当に良かったのか。
あの迷いの為に、彼は友を救えずに命を落とす事になるかもしれない。
或いは、真剣勝負の場で彼の剣士としての生存本能が迷いを打ち消してしまう可能性も考えられる。
そうした形で、きちんと向き合わずに迷いを押し潰すのは剣士にとって決して良い事ではない。
最悪、信綱の余計な干渉が逆に彼が修羅道に落ちるのを早めてしまった、という事になってしまう危険もあるのだ。
しかし、それを思い悩んでも仕方がない。神ならぬ人の身に完全など有り得ないのだから。
だから信綱は信じるだけだ。服部の友を思う心が彼を良い方向に導く事、彼が遠からず友を連れて再び自分を訪れる事を。

「お見事でした、伊勢守どの」
口では感嘆の言葉を発しながら、甚助の心中は戦慄で満たされていた。
(これが伊勢守どのの活人剣なのか?)
信綱と服部の立ち合いの全てが甚助に理解できた訳ではないが、活人剣の、その語感とは裏腹の厳しさは感じ取れた。
対手の心に迷いを生み出し、その身を傷つける事なく剣を殺すとは、剣士にとっては殺人剣よりも酷かもしれない。
そして、戦慄と共に甚助の心に生まれたもう一つの感情、それは……
(自分ならばどうか)
という事だ。相手がどんな動きをするかなど関わりなく、いや、どんな動きもする前に最速の一撃を叩き込む居合いならば……
(いかん、何を考えておるのだ。伊勢守どのに刃を向けようなど。しかし……)
甚助は心中の葛藤を必死に隠しつつ、信綱の後を追った。

【ほノ壱 森の奥/一日目/黎明】

【上泉信綱@史実】
【状態】疲労、足に軽傷(治療済み)、腹部に打撲、爪一つ破損、指一本負傷
【装備】オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】なし
【思考】
基本:他の参加者を殺すことなく優勝する。
一:あの男(岡田以蔵)をなるべく早く見付けて救う。
二:甚助を導く
【備考】
※岡田以蔵の名前を知りません。
※服部武雄から坂本竜馬、伊東甲子太郎、近藤勇、土方歳三の人物像を聞きました。

【林崎甚助@史実】
【状態】健康、葛藤
【装備】長柄刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:とりあえず試合には乗らない。信綱に同行
一:信綱を守る
二:信綱に剣を見てもらいたい
三:信綱と戦いたい
※服部武雄から坂本竜馬、伊東甲子太郎、近藤勇、土方歳三の人物像を聞きました。
358創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 13:24:31 ID:UzrBtHm3
投下乙。
流石は伊勢守。格が違うな。
しかし、迷いを打ち込んでから、迷いを消せって一体…。
359創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 20:37:13 ID:pBkyO0oO
投下乙! 今回は心理戦か。
バトロワ的にはやっちまえ甚助って感じだなw
360創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 22:24:56 ID:iBP3kfBl
乙!
上泉はなんか試合巧者的感じになってきたな
そして服部は何だか雲行きが怪しくなってきたな

そういやもし沖田や斉藤一と出会えば殺害の対象になるのかな?
361創る名無しに見る名無し:2009/06/29(月) 20:54:36 ID:Tk/cqw4k
投下乙!

さすが剣聖は格が違った
しかし新撰組メンバーは迷走してるやつが多いのぉ〜
内ゲバばっかだしwwww
362創る名無しに見る名無し:2009/07/02(木) 12:33:39 ID:k1DWrWv4
>>360
沖田は油小路は病気で不参加だったはず
だから直接の仇ではないけど近藤土方の仲間だから警戒対象ではあるだろう

斉藤は御陵衛士だったけど脱退して新撰組に戻ってるので服部から見れば裏切り者ともいえる
元々斉藤は新撰組のスパイで斉藤が持ち帰った情報を元に伊東暗殺が計画された説もあるし
その辺の事情を服部が把握してれば殺害対象になってもおかしくない
それ以前に今の老斉藤が新撰組斉藤一と同一人物だと信じられるかって問題があるけど
363創る名無しに見る名無し:2009/07/08(水) 19:30:54 ID:cBfKp+6n
久々にこちらに来れたから状況がわからん
自分でも調べるが現在、どうなってるのか教えて?
364創る名無しに見る名無し:2009/07/08(水) 21:27:58 ID:0rKRRrfl
お前がどこまで把握してるかわからんのに1からか?
1から教えなきゃダメか?
365創る名無しに見る名無し:2009/07/08(水) 21:50:15 ID:mfdAOpE7
>>363
>>2-4のメンバーで進行中
現在1日目の黎明で大半の参加者は2回以上登場
>>322-323から林崎甚助と服部武雄を除いた面子が1回のみ登場
366創る名無しに見る名無し:2009/07/25(土) 16:20:27 ID:9ZnL60Uf
>>343
>>346
マダー?
367創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 01:56:46 ID:4HTIY91C
保守age
368創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 20:19:31 ID:Bly2XMyH
遅れましたがwiki更新お疲れ様です。
369創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 09:32:19 ID:5sQtRjGX
緋村剣心、神谷薫、三合目陶物師、武田赤音で予約します。
370創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 16:06:59 ID:m7wo4nCV
予約キター! 濃い面子だw 期待。
纐纈城組は甚太郎がまだ1回だけの登場だなそういや。
371創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 16:35:12 ID:m7wo4nCV
>>369
ん、待てよトリップは?
372 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/05(水) 20:46:38 ID:5sQtRjGX
>>371
失礼
369ですが、緋村剣心、神谷薫、三合目陶物師、武田赤音
で改めて予約します。
373創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 22:15:48 ID:+Xpe80HM
しかし、薫を除いてなんという業の深そうな面子だ事…。
374 ◆F0cKheEiqE :2009/08/05(水) 23:08:24 ID:YJ4Z24cO
高坂甚太郎、柳生連也斎 で予約。

久々の予約です。
今回はちゃんと期限以内に…
375創る名無しに見る名無し:2009/08/05(水) 23:41:28 ID:+Xpe80HM
>>374
以前の予約は既に無効になってますけど、
正式に予約取り消しの申請はして下さいね?

きつい事も言ってますが、頑張ってください。
376創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 00:12:53 ID:nilC4n60
おお、甚太郎と連也斎来たか。待ってました

陶物師に会ったら赤音の顔の皮が狙われる悪寒w
377創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 00:34:51 ID:IT8qU3qR
あー、そういやそうだ。
性格はゲロ以下の臭いがプンプンする下種だけど、
顔だけなら並の少女より美形だしな赤音は。
378 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 19:29:12 ID:p/V/n10I
仮投下スレに
緋村剣心、神谷薫、三合目陶物師、武田赤音を投下しました。

内容に問題がなければ本投下いたしますので
感想、指摘をお願いします。
379創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 19:59:37 ID:IT8qU3qR
投下乙です。
句読点が少ないので若干テンポが気になりはしましたが、
内容的なものでいえば、全く問題ないかと。

不殺では、確かに無力化はなかなか難しいですからね。
赤音も基本は外道ですが、気まぐれで人に優しくする事はあるし。
だが、薫。そいつは女性の敵なんだ。逃ーげーてー。

伊烏とフラグが立っている剣心と、赤音に拾われてしまった薫か。
後々に予想される修羅場的展開にもわくわくしてきました。
ともあれ、お疲れ様です。
380創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 20:18:45 ID:XeDQvvwb
仮投下乙です。

やや改行が変なのが気になりましたが、
他は問題ないと思います。
381創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 20:21:00 ID:nilC4n60
投下乙!
同じく句読点の少なさや主語述語の不一致、
誤字脱字や熟語の間違い(聖人君子→聖人君主など)が気になったけど、
内容的には面白いと思う。陶物師しぶてえw
赤音が人別帖を読むのはいつになることやら。

そういや陶物師は人別帖には本名で載ってるのか?
それから人別帖や支給品の説明書が墨書だとすると
水に濡れたら読めなくなるんだろうか。
382 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 22:52:02 ID:p/V/n10I
感想とご指摘ありがとうございます。
内容に関して特に問題無さそうなので
わかる範囲で誤字、脱字を修正したものを
今から投下させていただきます。
383真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 22:54:42 ID:p/V/n10I
緋村剣心は志士雄真実との戦いの中に突如乱入してきた妖怪の如き醜き顔を
持つ男、三合目陶物師に神谷薫を攫われ疾走し、いま対峙していた!!

「姦夫!」

突如叫び声を上げる三合目陶物師は、緋村剣心へとその白刃を閃かせながら
襲いかかり、樹海にて相対してきた幾多の命を奪ってきた片手剣から
放たれる神速の横薙ぎが剣心の首筋を斬り落とす如く迫ってゆく。
その刃を剣心は裂帛の気合と共に、右手を静かに刀の鍔に添えると
抜刀術の構えを取り陶物師を迎え撃つ!

飛天御剣流・二段抜刀術

「双龍閃・雷!!」

剣心は左足を軸に身体を右へ捻り、陶物師が振るう刃を鞘で弾き返し全身を回転させながら
さらに一歩右足を踏み、遠心力を加えた渾身の抜刀が陶物師の胴に叩き込まれる!!

「・・ぐぼっ!!」

その一撃に堪らず陶物師は後ろに飛び退りながらも剣心を正面から捉え距離を取る。
その隙の無い動きに、無理な追撃を避けた剣心は、再び殺気に近い眼差しを込めて陶物師を睨む。

「薫殿を、返してもらうぞ」
「・・ぐっ」

対する陶物師は、必殺の初撃を防がれた上に、眼前の男が使う奇妙な
剣術の前に一太刀を受けた事によって蹈鞴を踏む。
思えば、この白州に集められた後に初めて相対した”新免無二斎”
の操る妙な獲物(十手)と技に調子を狂わされた。
次に出逢った名も知らぬ隻眼の男には、鏡写しの如き剣技の前に
醜き顔に薄い傷を付けられた挙句、その顔の傷を隠す為に
攫ってきた、女の美しい顔を剥ぐべく意気揚々としている所を
眼前の剣心と呼ばれた男に邪魔をされたのだ。
何一つ、陶物師の思い通りに事が運ばない。
その事に感情を苛立たせる最中、陶物師の腕の中に
捕らわれながらも、再び神谷薫が必死に緋村剣心の名を叫ぶ!
384真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 22:57:27 ID:p/V/n10I
「・・剣心!」

剣心と呼ばれた眼前に立つ男が、その叫びに応え。

「・・薫殿!」

陶物師の間でその視線が絡み合う。

その光景に。

三合目陶物師は、忌まわしい記憶と共に、内より迫り上がる、
陰鬱な憎悪に身を震わせた。

何故、と?

何故。

妻と同じ美しい顔を持つ此の女は、左頬に『醜い十字傷』を持つ
俺と同じ醜さを持つ男を愛おしそうに呼ぶのだ!!

それは、顔の醜さ故に、妻を寝取られ。
それは、顔の醜さ故に、逃げた妻に誰もが同情し。
それは、顔の醜さ故に、どれ程に主君に仕えた剣の達人だったとしても。
・・誰にも顧られる事の無かった陶物師にとって、決して許せる事ではなかった・・。

だからこそ、俺は本当の名さえ捨てて、復讐者となり、殺人者と成ったのだ!!

美しい女と眼前の十字傷の男が、かつての妻とその妻を寝取った男に重なる。

「姦婦!」

陶物師は、その怒りに肩を震わせ手で、神谷薫に再び当身を喰らわせる。
否、力任せに殴り飛ばされた神谷薫の身体が吹き飛び
呻き声を漏らしながら、陶物師の足元に転がり落ちる。

「貴様ぁ!!」

その光景に、剣心は激昂し、疾走と共に陶物師へと斬り掛かる。
だが、剣心の怒りの一撃は突如膨れ上がった陶物師の膨大な剣気と刃に弾き返され
陶物師は狂った悪鬼の如き表情で、更なる連撃を繰り出す。
そのあまりの苛烈さに剣心は防戦を余儀なくされる中で、
執拗に獲物の喉笛を食い千切らんとする蛇の如く凶刃が、
徐々に剣心の身体に無数の傷跡を付けていく。
385真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 22:58:35 ID:p/V/n10I
「くっ!」
「お前は・・、お前は、殺す!!」

何故、初見では剣心に対して然したる興味も無く、虚ろな視線を向けていた
男が、こうまでも豹変し、まるで旧知の仇を見るが如き恨みがましい眼で
その剣を振るうのか。それを知る由もなかったが、幾度目かの剣を防ぐ最中、
その背後に、剣心は巨大な負の妖気を見た!!

「おおっ!!」
「がぁあ!!」

疲れを知らぬように凶刃を振るう陶物師。その凶刃を、剣筋を読みながら反撃の糸口を探す剣心。
繰り広げられる二人の激しい刃鳴散らす音色に、蹲りながら、神谷薫が微かに擦れた声を漏らす。

「うっ、・・剣・・心・・」
「薫殿!!」
「なにっ?」

地に蹲った神谷薫の僅かな声に反応した陶物師の凶刃に、僅かな隙が生まれ、
剣心は暴風の如き剣戟を受け流すと同時に反撃する。

「おおっ!!」

返し刃・飛天御剣流!!

「龍・巻・閃!!」

剣心の渾身の一撃が再び陶物師を強打し吹き飛ばす。その隙を見逃さずに
龍巻閃・旋! 龍巻閃・凩! 龍巻閃・嵐!と渾身の連撃を叩き込んでいく!!

「くっ、がはっ・・」

陶物師は呻きながらも連撃に耐え、痛みを無視するが如く
更なる妖気をその身体から放出させる。

剣心と陶物師の戦いは激しさを増してゆき、両者の力は今、拮抗していた。

否、剣術だけを見れば幕末最強の剣客『人斬り抜刀斎』と呼ばれた、飛天御剣流を駆る
緋村剣心が、僅かながらも樹海の殺人者である三合目陶物師を、凌駕しているものが
あるように見える。もし先程の会心の連撃が峰打ちでなければ、そこで勝負は決まって
いたのかもしれないが。過去の悔恨から、不殺を貫く剣心の技は一切の防御を
かなぐり捨てたように妖気を揺らめかせながら凶刃を振るう陶物師を相手に、
決め手を欠いていた。
386真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 23:02:53 ID:p/V/n10I
(このままでは・・)

この膠着状態の中、剣心に僅かな焦りが生まれる。

それは、攫われた神谷薫を追う為。元維新志士にして
剣心が過去において最も苦戦を強いられた仇敵”志士雄真実”と、
その元に残してきた
久慈慎之介、トウカ
千葉さな子、座波間左衛門
白州に呼ばれ、僅かな時ではあるが、信頼の置けるであろう仲間の身が頭を過ぎる。
一刻も早く神谷薫を助け出し、仲間の元に戻らなければ。”志士雄真実”は危険な
相手なのだ。

しかし、刃を交えている眼前の妖怪変化の如き男から、剣心は志士雄真実とはまた違う
危険を感じていた。一進一退ならぬこの状況は、剣心により一層の焦りを生む。
(くっ、このままでは状況は悪くなるばかりだ。)
だが、生半可な技ではこの凶刃を振るう男を倒すには至らず。
思考を巡らす剣心に、陶物師の雷光の如き刃が迫る。

だが、剣心は。
仲間を、薫殿を、愛する者を守る為に!!
此処で、名も知らぬ妖怪の如き男に、敗れる訳にはいかぬのだ!!

二人の剣戟が一際激しい火花を散らす。
陶物師の苛烈な一撃を全身で受け止めると、剣心は足裏を踏み抜き
全身を後方へと退避させる。

直後、僅かに互いの距離が開き。

「はぁっ!!」

その一瞬に、剣心は己の全闘気を集中する。
再び刃を正眼に構え。飛天御剣流の奥義に全てを賭ける!!
387真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 23:05:31 ID:p/V/n10I
勝機!!

――飛天御剣流――

「・・九頭龍閃!!」

・・瞬間。剣心の体が残像を残し掻き消える。

ゴウッ!!

――瞬撃九斬――

剣心より同時に放たれる九つの神速の刃が、空気を切り裂き、陶物師の全身を穿つ!!

「がはぁう!!」

激しい声と、僅かな血飛沫を上げながら。
陶物師が、妖気を散らしながら後方へと吹き飛ぶ。

「・・ぐぅうぅ」

呻き声をあげる陶物師は、膝をつきながらも刃を地面に突き立て、剣心を睨む。

が、次の瞬間。前のめりに崩れ落ち、鈍い音を立てながら地に伏せる!!

ドサッ。

・・・。

そして、口から微かな息を漏らしたまま、陶物師は動かなくなる。

「はぁ、はぁ・・」

「なんという・・。何か、恐ろしい執念を持った男だったでござる」

妖怪変化の如き男を倒した剣心は、肩で息をしながらも踵を返し。
神谷薫の元に駆け、肩を抱き寄せる呼びかける。

「薫殿!しっかりするでござる!」
「うっ、剣心、・・よかった!!」
「薫殿っ、怪我はないでござるか?」
「大丈夫っ、大した怪我はしてないわ」

神谷薫は苦痛に身を歪ませながらも剣心へと笑みを返し、支えられながら立ちあがり。

「薫殿、すまぬが志士雄の元に残して来た久慈殿達の事が心配ゆえ、急ぎ戻ろう」
「ええ、私の為にごめんなさい、トウカ達の所に戻りましょう剣心」

「薫殿、肩を貸すでござるよ」
「あ、ありがとう剣心」

陶物師との激闘に満身創痍になりながらも、神谷薫を抱き。
もと来た川の上流へと、急ぎ戻ろうと踵をかえす。
388真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 23:07:18 ID:p/V/n10I
まさに、その時。それは、神谷薫の無事を確認し安堵した
剣心の、一瞬の油断だったのかもしれない。
地に伏せた、陶物師の僅かな視界に。仲睦まじく肩を抱き寄せ合う、二人の姿が映り。
九頭龍閃をその身に受け、倒れたはずの陶物師が”ゆらり”と音も無く立ち上がると、
剣心と薫の背後から刃を振りかぶり、二人の間に割って入る。

「なっ!!」
「きゃあ。」
「ぐぉお!!」

咄嗟の事に驚愕の表情を浮かべながら、剣心は
辛うじて陶物師の奇襲を避け反撃を試みるが。
体勢を崩したまま繰り出した斬撃は空を斬る。
そして、勢い余った陶物師の身体が神谷薫を弾き飛ばし
剣心の眼前で、スローモーションのようにその体が川上へと投げ出される。

「・・薫殿っ!!」
「・・剣心!!」

その光景に、剣心と同様に陶物師が、しまったという表情を見せる。
必死に手を伸ばした剣心の手は空しくも宙を掴み、
二人の眼前から、神谷薫は川の流れに一瞬にして消え去ってゆく。
慌てて神谷薫を追おうとする剣心を陶物師の刃が阻む。

・・そして。

陶物師は薫の流された川の先を見やると、次に眼前の剣心を眺める。
獲物を無くした事により、凶行状態より醒めた陶物師の全身を
打撃の痛みが後から襲う。この場は一旦引くと陶物師は即座に決め、
剣心から距離を取り踵を返す。

「その左頬の十字傷、覚えたぞ。お前は誰よりも必ず、俺が殺す。」

陶物師は剣心を睨みながら現れた時と同様に後方の林に一瞬にしてその姿を隠す。
その後姿に思わず待てと声をかけるが神谷薫と志士雄真実が頭を過り動きを止める。
闇の中、殺気を孕み血走った瞳が最後まで剣心を睨み消えてゆく。

神谷薫が河川に流され陶物師が消えた今。

一人取り残され、呆然自失とその場に立ち尽くす剣心。

その頭に、剣心を嘲笑う如く。志士雄真実の言葉が甦る。
”まだ、不殺にこだわっているのか”
だから、幾多の剣者が集うこの白州で。
神谷薫ひとり、守れなかったのか?と。

「薫殿ーーー!!」

慟哭が辺りに木霊する。
389真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 23:11:28 ID:p/V/n10I
【へノ伍 水田/一日目/黎明】

【三合目陶器師(北条内記)@神州纐纈城】
【状態】右目損壊、顔に軽傷、全身に打撲裂傷 疲労大
【装備】打刀@史実
【所持品】なし
【思考】:人を斬る
一:顔を剥いで自分の物にすべく新たな獲物を探す
二:緋村剣心は必ず殺す
三:柳生十兵衛を殺す
四:新免無二斎はいずれ斃す
【備考】
※柳生十兵衛の名前を知りません
※人別帖を見ていません
※神谷薫と緋村剣心はお互い名前を呼び合うのを聞いており
 薫は無事であれば再度狙う可能性があります。


【緋村剣心@るろうに剣心】
【状態】全身に打撲裂傷、極度の興奮状態 疲労大
【装備】打刀
【所持品】なし
【思考】基本:この殺し合いを止め、東京へ帰る。
一:川に落ちた神谷薫を探す。
二:志士雄真実と対峙している仲間と合流する。
三:三合目陶物師はいずれ倒す。
【備考】
※京都編終了後からの参加です。
※京都編での傷は全て完治されています。
※座波の異常性に少し感づいているようです
※三合目陶物師の存在に危険を感じましたが名前を知りません。
※剣心は極度の興奮状態により冷静さを失っており
 その後の行動については次の書き手様にお任せします。
390真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 23:13:17 ID:p/V/n10I


刻は黎明。城下の入口で武田赤音は、ぼやいていた。

昨夜、東郷重位と瀬田宗次郎の刃鳴散らす剣戟の音色に誘われ。
二人の対決と結末を見た赤音は、東郷重位の示現流・雲耀の太刀を垣間見た。
赤音は、自らが納めた兵法刈流が薩摩の示現流の影響を
色濃く受けている事もあり、その太刀筋を見極め、
いずれ相対した時に、その魔剣を破るべくの術利を理解するべく。
示現の技の模倣し自らの技との類似を比較をしながら修練を行っていたのだが。
その試行錯誤の修練の様子を、当の東郷重位に見られたのが不味かった。
門外不出の剣を盗まれた。そう考えられた重位に、一晩中追い駆けまわされたのだ。
赤音は遁走の最中、重位をまいた後にへろな村の海岸沖から城下の入口に辿りついた所だった。

「あんの糞爺。夜通し、人の事を追い駆け回しやがって」

そりゃぼやきの一つや二つは出るわな・・。

「ったく、年甲斐もなくハッスルし過ぎだろうが」

思わぬマラソンの果てに疲れを感じるが、必死の形相で追い駆ける老人の
様子を思い返し、老人が東郷重位本人だろうと確信すると
胸中で不敵な笑みを浮かべる。
この借りは、俺のツバメを鍛え直して必ず返してやる。
再び武田赤音は不敵な笑みを浮かべ、その口元が妖しく半月にひらく。
その対決の為にも、マトモな刀を手に入れなくては。
未だ彼の腰に刺さっている獲物は、アルミ製の殺戮幼稚園と竹光のみであり。
それを考えると泣けてきた赤音であった。
だが、城下町ともなればへろな村と違い、刀も見つかるだろう。

そう思い、川を越え、橋を渡ろうとした赤音の視界に妙なものがうつる。

「なんだ?」

然したる興味があった訳ではなかったが、赤音はその物体に歩み寄る。
391真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 23:23:14 ID:p/V/n10I
然したる興味があった訳ではなかったが、赤音はその物体に歩み寄る。

それは、緋村剣心と三合目陶物師との戦いの最中に、
河川へと流された神谷薫であった。
剣心は知る由もないが、浅瀬に辿り着いた神谷薫は、
そう遠くまでは流されていなかった。しかし三合目陶物師に受けた打撲と、
川の流れにのまれた事で、運良く身を上げた所で体力の限界を向かえ、
気を失ってしまったのだ。

赤音は更に近づき、顔を覗き込むと、幼さを残した可憐な少女がそこにいた。
全身が濡れている所を見ると、川に流されてきた様子だが。
赤音は腕を取り、脈と呼吸を確認する。
多少の衰弱は見てとれるが、しっかりと息はあるようだ。

果たして、神谷薫の人生の悲劇は。
その無防備な表情を武田赤音という、一見好青年に見えるが
その実、関わる者を例外なく不幸へと叩き落としてきた剣狂者の前に、
その無防備な肢体と表情を晒している事であろうか。

赤音は白州で女子供を見かけた事を思い返すと、
刀の一振りでもないかと身のまわりを漁る。
だが、目に付いた物は「正義」と書かれた扇子があるだけだった。

「・・なんだこりゃ?・・もっとマシなもんはねえのかよ。」

シケてんな、と呟いた後に無造作に扇子を川へ放り投げる。
なんとはなしに、幼さの残る女の頬をペチペチと叩く、
ふと、少女の顔を眺めているうちに昔の記憶が頭を過る。


 ◇ ◇

己のたった一つの想いの為に。
全ての他者を例外なく地獄に叩き落してきた。
剣狂者”武田赤音”という存在が産み落とされる以前。

それは、おだやかで幸せであった日常。

決して戻らない過去。
否、戻る必要のない遠い日々。

武田赤音が、彼の宿敵である伊烏義阿と刈流道場において兄弟子して、
刈流の跡取り娘である鹿野三十鈴らと、共に修練に励んでいた時代。

アノ日までは、何もかもがうまくいっていた。

刈流の、新たな宗主を決する兄弟子との仕合。
それは、三十鈴の想いよって、空しく穢され。
怒りに震えるまま、三十鈴を刃に掛け、殺しきれず。
死の淵で、大部分の記憶と視力を失くしながらも一命を取り留めた彼女。
そんな彼女に、貴方はおれの姉だと偽り、生かし。
復讐の果てに散っていった。

偽り姉の事を・・。

 ◇ ◇
392真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 23:25:33 ID:p/V/n10I
遠くの空が明るくなりだした事に気付く。

いつのまにか、虚空を見上げていた赤音は視線を戻す。

眼前の少女の道着袴姿が、鹿野三十鈴のそれを連想させたのか?


幾度目かの赤音の呼び声に、一瞬女の瞳が半開く。
赤音の顔を正面からその視線を捉えたことに赤音は一瞬たじろぐが
内心とは裏腹に、人の良さそうな笑みを浮かべると声をかける。

「・・やあ、可憐なお嬢さん。お怪我はありませんか?」

その瞳は、未だ意識が朦朧としているらしく。

「けん・・しん・・」

と、一言だけ呟き。赤音の腕の中で再び昏倒してしまう。

「・・・おい」

どうやら赤音の顔を見て誰かと勘違いしたらしいが。
当然、心当たりは全くなかった。

まあ、このまま放置して置いても余程の聖人君子か、はたまた先程の
「けんしん」という名の、白州にいるかもわからぬ者が通りかかるような
奇跡でもない限りは、見つけた相手に手籠にされるのがオチだろう、等と。
赤音は数瞬の思考を巡らせた後、おもむろに神谷薫を担ぐ。

もちろん、武田赤音が聖人君子でない事だけは確かだった。

小柄な少女とはいえ、大量に水を含んだ道着の重さに顔をしかめながら城下の門をくぐる。
いくばか歩みを進めると、今度はその往来に頭と胴が切り離された巨漢の遺体が目に入る。

「・・へぇ、さっそく殺ってるみたいだな」

一撃で両断されたであろう遺体の切口と、その光景に自然と笑みが漏れた。
その遺体の脇に抜身の刀と鞘が無造作に転がっているを見つけ、刀を拾い上げるが。
赤音はその刀身を見て表情を曇らせる。

「なんだこりゃ?刃と峰が逆になってる刀なんざ、どこの酔狂が打ち上げたんだ?」

赤音の古くからの知人に、殺戮幼稚園という銘のリサイクルのアルミ缶から
刀を打った変わり者の女鍛冶師がいるが。
あいつとイイ勝負なんじゃないか?これを打った奴は?
腰の二振りの獲物と手にした逆刃刀を暫く見比べると
”犬も歩けば棒に当たる”とは言ったものの、無いよりマシという結論を出し、
鞘を拾い上げる。納刀する時に刀の目釘が一つ緩んでいる事に気付く。
こいつは後で直しておくか。

それは、本来”緋村剣心”が「不殺」の念を貫く為に使用している逆刃刀・真打である。
優男風の剣心と一見似通った容姿を持つ赤音であったが。我が道を塞ぐ者を、
一切の慈悲なく斬り伏せてきた赤音がこの刀を手にするは、誰の手による悪戯か。
393真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 23:28:04 ID:p/V/n10I
三本目の奇刀を腰に差す、その有様はかなり間の抜けた格好であったが。
その場を離れる事暫く。赤音は無人の民家へと足を踏み入れ
背負ってきた神谷薫を降ろすと囲炉裏を見つけ火を灯す。
ずぶ濡れだった薫を抱えてきた赤音は、今や薫と同じ水も滴る有様だったが。
剣豪集うこの白州で、つまらぬ風邪等ひいて目も当てられぬ。
濡れた朱色の小袖を無造作に脱ぎ捨て民家を漁り、
二人分の羽織衣服一式を見つけ衣服を着替る。

何やってんだおれは。
苦笑交じりに未だ意識が戻らぬ濡れた神谷薫の道着を
新しい羽織と着替えさせると道着の裏地に神谷活心流・神谷薫の名が
掘り込まれているのに赤音は気付く。
聞いた事のない流派だと思うが、そもそもが古今東西集められた
剣者の時代さえ違うこの白州。一時期において全国に普及した刈流さえ
知られているのか怪しいものだ。そう思いながら暫く民家を漁るが
多少の食料と生活用品があるだけで他には然したるめぼしい物は見つからなかった。

武田赤音はここでようやく一息をつくと、囲炉裏の火の照らされた神谷薫の顔をおもむろに見る。
身体が暖まってきたのだろうか。青ざめていた顔に多少の赤みが差したよう思う。
その横顔を眺めているうちに深夜の遁走と神谷薫を背負ってきた疲れを思い出し、
眠気に襲われ、貪るように眠りについた。

【へノ肆 城下町の空家/一日目/早朝】

【武田赤音@刃鳴散らす】
【状態】:健康、疲労(中)
【装備】:逆刃刀・真打@るろうに剣心
     現地調達した木の棒(丈は三尺二寸余り)
     竹光
     殺戮幼稚園@刃鳴散らす
【所持品】:支給品一式
【思考】基本:気の赴くままに行動する。とりあえずは老人(東郷重位)の打倒が目標。
     一:強そうな剣者がいれば仕合ってみたい。
     二:女が相手なら戦って勝利すれば、“戦場での戦利品”として扱う。
     三:この“御前試合”の主催者と観客達は皆殺しにする。
     四:あの老人(東郷重位)の魔剣を凌駕すべく、己の剣を更に練磨する。
     五:己に見合った剣(できれば「かぜ」)が欲しい。
     六:神谷薫、拾ってきたものの、どうするか?
【備考】
   ※人別帖をまだ読んでません。その上うわの空で白州にいたので、
   ※伊烏義阿がこの御前試合に参戦している事を未だ知りません。
   ※逆刃刀・真打の目釘の緩みは武田赤音が直しました。
   ※道着より、神谷活心流と神谷薫の名を把握しました。
   ※目覚めた後の武田赤音の行動と神谷薫への接し方は
    次の書き手様にお任せします。


【神谷薫@るろうに剣心】
【状態】打撲(軽症) 睡眠
【装備】なし
【道具】なし
【思考】基本:死合を止める。主催者に対する怒り。
     一:現状を把握する。
     二:人は殺さない。
     三:間左衛門の素性、傷は気になるが、詮索する事はしない。
【備考】
   ※京都編終了後、人誅編以前からの参戦です。
   ※人別帖は確認しました。
   ※正義の扇子は武田赤音が川に捨て、そのまま流されました。
394真宵 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/06(木) 23:33:09 ID:p/V/n10I
緋村剣心、神谷薫、三合目陶物師、武田赤音

題 真宵

の投下を以上で終了します。
395創る名無しに見る名無し:2009/08/07(金) 01:03:21 ID:J95ezAqE
本投下乙。
城下は広いだけあって人が集まってきたな。
いつ死合がおっぱじまってもおかしくない。
396創る名無しに見る名無し:2009/08/08(土) 05:06:42 ID:UZgTCLYJ
ちょろっと人別帖書いてみたが…難しいなこれ。
手元に原作or伝記みたいな資料がないと、うろ覚えじゃ無理だ。
マイナー作品&人物ほど必要なんだがなあ。
書き手によってフォーマットがバラバラなのはご愛嬌か。
397創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 06:03:02 ID:wZvnm0ls
質問だけど、同姓同名の人物は人別帖ではどう記載されてる?
(女)とか(傷)とか、>>3-4そのままと思っていいの?
放送でもそう呼ばれるのかな。
最初の方のログが読めないんで、どういう取り決めだったのかわからん。
398創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 09:25:00 ID:BGaTjZJS
>>397
>>3-4
の表記の通り、人別帖には名前の後に
佐々木小次郎(偽)、佐々木小次郎(傷)
といった記載がされているはずですよ。
399創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 09:46:42 ID:Q/RQv/dG
>>397
藤原なえか登場回では小次郎に(偽)、(傷)と書かれてるみたいだけど
犬塚信乃登場回では信乃には特に男、女とはかかれていないような風に書いてある
先に投稿された方を基準にするべきじゃないのか?
400創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 10:25:24 ID:quqQkQCm
信乃(男&女)登場回では自分の名はよく確認してないみたいだし
(確認してたら重複に疑問を持つはず)、なえか回基準でよくね?
401創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 18:17:39 ID:eBXeKdxO
誤解フラグとかは名前のみのが立てやすそうだが
402創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 20:25:04 ID:wZvnm0ls
よく見ないとわからないぐらい小さく書いてあるとか、
そんな形で矛盾を解消したら駄目かな?
人別帖はともかく、さすがにアナウンスで区別がつかないのはちょっと…。

あと人別帖は和綴じ本ってことでいいのかな? 巻物とかじゃなくて。
共通支給品はwikiに載ってなかったけど、
人別帖と行李、食料(種類はランダム)で全部?
ぶっちゃけそのへんの詳しい設定がわからなくて新規参入しづらい。
403創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 21:03:55 ID:OoNMEfnr
>>402

それでイイと思う。
>和綴じ本

後、OPでは、
数日分の食物、水、地図、人別帖、ランダム支給品(主に刀・木刀)
と書いてあった>行李の中身
そして人別帖が入った行李
404403:2009/08/10(月) 21:11:17 ID:OoNMEfnr
スマン文章が変だな。
最後の文だけ無視してくれ
405創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 21:22:10 ID:wZvnm0ls
>>403
ああそうだ、地図を忘れてた。thx

OPの参加者人数が「××名」のままだったので
勝手ながら八十名に直しておきました。
406創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 21:24:29 ID:Q/RQv/dG
>>402
お茶とか筆とかも入ってた
ライダーロワNEXTとかでは同姓同名の区別は無かったがなぁ<放送
まぁ、放送の形態がどうなるかはまだ未決定だけど
407 ◆F0cKheEiqE :2009/08/12(水) 21:06:35 ID:K8CdD7iT
高坂甚太郎、柳生連也斎
ミス、投下します

◆◆以下本編◆◆


はてさて今年の夏は例年に比べまして大層寒うございますが、
ここにおられる紳士淑女がたは、こうしてアタシの話をわざわざ聞きにいらしておられる所を見れば、
皆様は無事達者に暮らしてらっしゃるのは一目瞭然。イヤアこれほどうれしい事もなし。
神様仏様天神様…マア、とかく感謝の心は忘れられない次第でございます。

しかしそんな達者な皆様が、寒い夏の無聊の慰めに、
こうしてアタシのクダラナイ話を聞きにいらしてくれるは勿怪の幸い、
マアここは一つ、アタクシ、衛府零史計の昔語りに、些か付き合って頂きましょう。

さて、本日のお話でございますが、
所で旦那方、「寛永の三甚内」を御存じで?
エッ、御存じない!
これは勿怪の幸い、ココに来られるような紳士サマならコレを知らなきゃ恥をかく、
一つ教えてさしあげましょう。

そもそも「寛永の三甚内」と申しまするは、
寛永といえば三代将軍家光公の御代であらせられましたが、
この頃江戸の町を跳梁跋扈した三人の大泥棒、
すなわち、庄司甚内(しょうじじんない)、飛沢甚内(とびさわじんない)、
そして『向坂甚内(こうさかじんない)』の事でございまして、
果たしてこの三人、真に人か物ノ怪か、
姓は違えど何れも甚内、人とも思えぬ大暴れ、
江戸は町人から武士までそれはもう震え上がっておったものでございました。

さて、庄司甚内というは盗賊ながら日本を回国し、
孝子孝女を探し、廃れたる堂宮を起こしたぁ立派なヤツ、
剣術槍術に一流を極わめ、果てには忍術に妙を得て、
力量、人の三十倍、日に四十里を歩し、
昼夜眠らずといえどもケロリとしていたとの事でございます。

続けて、飛沢甚内。
こいつぁ同じ甚内と申しましても、
剣術槍術弓術柔術、どれをとってもテンで駄目、
ところがどっこい、早業は一流、
幅十間の荒沢を飛び越え、その身はもはや鳥獣よりも身軽と来ては、
自分で名付けて飛沢甚内、と云う訳でございます。

最後に、『向坂甚内』。
コイツぁ少し変わり種、生まれは何と甲州武田の長臣高坂弾正の妾腹の子でありまして、
幼名を『高坂甚太郎』と申したとの事でございます。
さてこの甚太郎、齢若き頃から大層無頼でございまして、
かような話が残っておりまする。

それは江戸は神田、弘治三年、
端午の節句の夜でございましたが、
当時江戸におわしました武田の信玄公、
武田家例に依って武田の家宝鎧、“楯無”を飾り、
酒宴を催したとの事でございます。 

その時信玄公は“楯無し”の由来を語り、
その霊験あらたなるを讃え、家臣一同追従し敬い申しましたが、
しかるに誰やら笑う者がございます。
声のする方をきっと見ると、果たして高坂甚太郎。その時実に齢十三でございましたが、
信玄はたいそうあやしみまして、尋ねて言うに、

「これ甚太郎、何がおかしい?」

甚太郎なおも笑って、
「私触りましてござります。…幾度も幾度も手を触れました。
併し神罰下りませぬと見え、この通り無事にござります」

信玄公、例の饅頭頭をプクリと膨らまして、
「子供の癖に大胆千万、今に神罰が下ろうぞ」 

すると甚太郎はクスクスと笑い、
「もしお許さへ出ましたなら、楯無を盗んでお目にかけます」
「楯無を盗む?これは面白い。よし許す、盗んで見ろ」 
「かしこまってござります」    
で、甚太郎は御前よりその侭姿を消してしまったそうでございます。 

「甚太郎めに何が出来る」
信玄公、侍臣を顧てニヤニヤ苦笑を洩らしましたが、
間も無く彼の心からはそんな約束をしたことも甚太郎のことも忘れられてしまったのでありました。

ところで、武田家の家例として楯無の鎧はその夜の中に、
しかも深夜丑の刻に信玄公自ら親しく附き添って宝蔵へ納めねばならぬという決まりがございました。 

で、時刻が来るとやおら信玄公は立ち上がり、
楯無の鎧を箱に入れ大切に輿に乗せ、四人の武士が担って宝蔵へと運び、
信玄公白身、鍵を取ってギイと宝蔵を開けたのでございます。

かくして楯無の鎧は宝蔵に無事運ばれまして、
信玄公は殿として最後に宝蔵から出て来たのでございますが、
再び鍵を手に取って宝蔵の戸を閉じようとしたおり、ふと不安が心を掠めたのでございます。

「どうもおかしい、誰か蔵の中にいるような気がする」

で、じっと隙かして見たが燈火の無い宝蔵の内は、
所謂鳥羽玉の闇でございまして、物の文色も解らない。
「心の迷だ」と口の中で云うと、結局宝蔵の屋をギイと閉じ、ピーンと錠を下しました所、
その時、幽に蔵の中から只一声ではあったけれど、
笑声が聞えて来た・・・・否、聞えて来たように思われたのでございました。 

信玄公、心には掛かったけれど「空耳」であろうと思い返えし、
スタスタと廻廊を引っ返えしてしまったのでございます。 

その翌朝のことでございました。
近習の真田源五郎が信玄公の前へ畏まりまして、何を言うたかと申せば、
「高坂甚太郎の伝言をお聞きに入れとう存じます」

「何んだ?」
とは、信玄公、
審そうに真田源五郎に訊いたのでございます。

「昨夜甚太郎私に向かいこのようなことを申しました。
『明朝宝蔵を開きますよう。楯無の鎧は甚太郎めが盗み取りましてござります』、と…」

「あっ」
これには信玄公も驚いた。
この時初めて昨夜の約束を稲妻のように思い出したのでございます。

信玄公は足に火でも付いたかの如く褥を蹴って飛び上り、
日頃の沈着も忘れたかのように宝蔵の方へ走って行ったのでございます。 

扉を開けるのももどかしく、宝蔵の中へ踏ん込んで見れば、
外光を受けて灰に明るい蔵の奥所の一所に、楯無を納めた楯に体を椅せかけながら、
手に火の点いた種ケ島を握り、大胆にも筒口を信玄公へ向け、
小気味の悪い三白眼をさも得意そうに光らせた高坂甚太郎が坐っていたのでございます。

「殿!種ケ島の強薬、鎧槽にぶっ放しましたら楯無は微尽に砕けましょう。
殿に向かって打ち出しましたら殿のお生命もございますまい。
私に力さえ有りましたら楯無は持ち出したでございましょうよ」
「さりとはさりとは呆れた奴!どこから這入った?どうして這入った?」
「私から見ますればお館などは、それこそ隙だらけでございますよ。ケ、ケ、ケ、ケ」 

何とまあ大胆不敵!
遺伝的に“生来的犯罪人”がいるとする妄説をこの世で最初に述べたのだ、
海を挟んで遥か彼方、イタリアのロンブロオゾなる学者であったと聞きますが、
もし仮に“生来的犯罪人”などと言うモノが本当にいるならば、
高坂甚太郎を於いて外にはいないでございましょう。
その笑みに漏れる残忍には、さすが豪勇の信玄公も棘然としたということでございます。

さて、この怪男児高坂甚太郎。
齢十四にして甲斐武田を出奔し、諸国を充ても無く放浪しておりましたが、
年定かにあらねど、後にお玉ヶ池附近に道場を構え剣術の指南をしていた宮本武蔵に弟子入りし、
二天一流の奥儀悉く伝授を得て、遂に武蔵の高弟となったとのことでございます。

しかし術は学べど心は学ばず、生来の殺生癖故に、活胴(いきどう)を試みんと思い立ち、
密かに柳原の土手へ出で往来の者を相手に辻斬りを働くようになったとの事でございますが、
ある夜飛脚を殺し、切っ先に何やら妙な手ごたえを覚えたのを怪しみ、
骸の懐中を探れば何と金五十両が出てきたではないか!
これより悪行たいそう面白く、やはり生来の殺生癖・盗癖も手伝って、
辻斬りして金子を奪うなどの乱暴狼藉数限りなし!

これには師匠の武蔵もすっかり匙を投げて、遂には甚太郎、破門されてしまったとの事。
しかしそれで懲りる甚太郎でも無し、むしろタガが外れて暴れるわ暴れるわ、
慶長十八年、遂に捕らえられ磔にされてくたばるまでに、
盗賊の大親分として、好き放題の無頼渡世を繰り広げたとの事で御座います。

さて、長々と「寛永の三甚内」に付いて語らせていただいた訳ですが、
旦那方の内、勘の良い方はもう気が付かれている様に、
今日の物語の主役の一人は、そう『向坂甚内』でございます。

本日のお話は、『向坂甚内』が、まだ『高坂甚太郎』と言ったころの物語…

一つ、聞いておくんなせぇ



いざ鳥刺が参って候
鳥はいぬかや大鳥は  
ハァほいのホイ

相も変わらぬ鳥刺歌を歌いながら気楽にフラフラと夜道を歩くのは、
鳥刺姿の高坂甚太郎である。
呑気な鳥刺歌は朗々たる響きで口より紡がれるが、
甚太郎以外に聞く者はおらず、ただ夜空に吸い込まれるのみであった。

「ハァほいのホイ…と。しかし歩けど歩けどサッキの仏頂面以外にゃ誰にも逢わねぇ…
人別帖にゃ随分と名前が書いてあったが…ひょっとするとこの島は相当広ぇのかも知れねぇなぁ」

甚太郎は竹竿の先に刺さった兎を見遣って、ふと考えるような仕草をしたが、
指をパチンと鳴らして悪戯小僧の様な笑みを浮かべた。

「となりゃあまずは腹ごしらえが必要ってぇもんだ。
鍋とか火打石とか…まあ、コイツを食うのに必要なモンをそろえねぇとナ」

道から出て、ちょいと地面に腰を下ろすと、背に負う行李より地図を取り出す。
隠密行脚を信玄公より仰せ仕るだけの事はあって、夜目は利くし、
星と月からおおよその方角だって解る。

「今の所、俺等(オイラ)は只管北へ北へと進んでた訳だが、
コイツ(兎)を食おうと思ったら、やっぱ南の城下へ行かなきゃなんねぇか?
イヤイヤ、良く考えたら行李に握り飯が入ってたんだったな。まずはコッチから頂くとするかね」

行李より笹の葉に包まれていた握り飯を取りだすと、
大口開けてモグモグと甚太郎は握り飯を頬張った。

飯を食べて気が乗って来たのか調子良く大声で歌まで歌い始めたが、
歌い飽きた物か、件の鳥刺歌とは違う歌であった。

木曽のナー 中乗りさん
木曽の御岳 ナンジャラホーイ
夏でも寒い ヨイヨイヨイ
ヨイヨイヨイノ ヨイヨイヨイ
袷よナー 中乗りさん
あわしょやりたや ナンジャラホーイ
足袋よそえて ヨイヨイヨイ
ヨイヨイヨイノ ヨイヨイヨイ

木曾に伝わる盆踊歌で、俗に「木曽節」と呼ばれる代物だ。
しかしこうして握り飯を頬張りながら歌を呑気に吟じるその姿は、
年相応の無邪気な子供にしか見えないのが恐ろしい。
一皮剥けば、将来の姿である殺人狂の大泥棒の片鱗をこれでもかと見せつける、
並みの兵法者が裸足で逃げ出す業前を持った『恐るべき子供』であるのに。

さらに調子に乗って来たのか、これまた別の歌も歌い始めた。

甲斐の虎たぁ信玄坊主〜
過ぎたる〜者は三弾正〜
保科弾正ぉ、槍弾正〜
真田弾正ぉ、攻め弾正〜
高坂弾正ぉ、逃げ弾正〜
俺等(オイラ)の親父、逃げ弾正〜
あぁ、逃げ弾正ったぁ、逃げ弾正〜
ハァほいのホイ

歌詞から察するに自分で作った歌らしい。
ちなみに、戦国の三弾正と言えば
“槍弾正”が保科正俊、“攻め弾正”が真田幸隆、“逃げ弾正”が高坂昌信であった。

さて、さても歌い続ける甚太郎であったが、不意に歌を止めると、
切れ長の三白眼をスウッと細めると、握り飯を残さず呑みこみ、
音も無くするりと立ち上がり、傍らに置いていた竹竿を手に取った。
そして背後の藪にこう、声をかけた。

「誰だか知らねぇが…出て来なせぇ」

果たして、一人の男が姿を現した。
それは…



柳生連也斎厳包は、川に落ちた白井亨を追って、川沿いに南に進んでいたが、
ここで大きな問題に直面した。

川が二股に分かれているのだ。
流石の尾張柳生の麒麟児、柳生連也とて、
こればかりは剣理を以てしても見抜く事が出来ぬ事である。

「ええい、南無三!」
流石にどちらの川を白井亨が流れて行ったかなど、
お釈迦様ぐらいしか御存じあるまい。
故に神頼み、否、“南無三宝”故に仏頼み。
柳生連也の時代ならば神仏習合故に、
神頼みでも間違いではないが、そんな理屈は脇に置く。

兎に角、柳生連也は彼の側から見て、右側を流れている川に沿って走り出した。
つまり地図の上では城下町の西側を流れる川に沿っていった訳である。

仏様も案外当てにならぬ。
読者の方々は、白井亨が東側の川の流れに流されていった事を知っていると思うが、
そんな事は柳生連也のつゆ知らぬ事、かくして見当違いの方向へ連也は走る破目になり、そして…



(俺に気が付くとは…こんな状況で大声で歌など歌っているから、
どんなタワケかと思って見てみれば中々どうして…)

静かな夜に良く通る若い少年と思しき歌声を耳にした連也は、
流石に興味を引かれて声のする方へと行ってみれば、居るは鳥刺と思しき年若き少年、
しかし身に纏う剣の気は結構な代物である。

裏柳生衆を全国各地にばらまき隠密陰謀に精を出す江戸柳生と異なり、
尾張柳生の柳生連也は然程、隠密の技に長けている訳ではないが、
それでも気配は充分に消えてつもりであった。
少年は思いの外“使う”様だ。

(大小は無い、背に負う竹竿はヘナヘナだが…油断は禁物)

柄頭に右手をやりながら、
連也はゆっくりと藪から隠れた姿を出した。
414創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 22:22:13 ID:9kRG9N/t
支援


さて、何と柳生連也と出会った甚太郎!
天下の柳生剣士と甚太郎との出会いは如何なる運命の変転を呼び込むのか!

其れはまた別の物語

【にノ参 道の外れの草叢/ 一日目 / 黎明】

【高坂甚太郎@神州纐纈城】
【状態】健康
【装備】竹竿@神州纐纈城
【所持品】支給品一式(握り飯を幾つか消費)
【思考】:適当にぶらぶらする。
一:若い侍(柳生連也斎)に対応する。
二:まずは島をぐるっと回ってみる。
三:襲われれば容赦しない。
【備考】※歌はかなりの範囲に鳴り響いています。
何処まで聞こえていたかは、他の書き手氏に任せます。

【柳生連也斎@史実】
【状態】健康
【装備】宮本武蔵の木刀(宮本武蔵が巌流島で使用した木刀)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者を確かめ、その非道を糾弾する。
一:少年(高坂甚太郎)に対応する
二:白井亨を見つけ出し、口を封じる。
三:戦意のない者は襲わないが、戦意のある者は倒す。
四:江戸柳生は積極的に倒しに行く。
【備考】※この御前試合を乱心した将軍(徳川家光)の仕業だと考えています。



投下終了

相変わらず、さるさんウゼー
416創る名無しに見る名無し:2009/08/12(水) 23:36:44 ID:FUWku4nf
投下乙!
甚太郎なんという天然拡声器w 
しかも歌で自己紹介まで……フリーダム過ぎる。
この辺は参加者密度高いから面白いことになりそうだ。
417創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 19:38:59 ID:wPfZxcc1
仮に歌が同心円状に周囲8マスに聞こえたと仮定した場合、
時間経過が同じキャラだけでもマーダーな未来の師匠含めて13人いるなw

しかしこの子供に拡声器フラグが効く気がしねえ……
周囲を混乱の坩堝に陥れるだけ陥れてとんずらしそうなイメージだ。
むしろ十兵衛に近い連也がどうなるか見物かも。
418創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 19:48:07 ID:QspO0kNF
しかし、高坂甚太郎か。
単なる馬鹿かと思いきや超危険人物じゃねえかこいつはw
ともあれ、乙です。こうしてみると、中々に奥が深い人物が多いな…。
419 ◆cNVX6DYRQU :2009/08/16(日) 06:09:58 ID:EiUIRqYK
土方歳三、山南敬助、烏丸与一で予約します
420 ◆cNVX6DYRQU :2009/08/16(日) 06:51:21 ID:EiUIRqYK
上記三人で投下します。
421束の間の邂逅 ◆cNVX6DYRQU :2009/08/16(日) 06:52:11 ID:EiUIRqYK
小兵の男が身を沈めて放とうとする居合いを、ひょろ長い体躯の男が蹴り戻し、更に顎に蹴りを入れる。
倒れた居合い使いが起き上がろうとする所に、大上段からの唐竹割りが振り下ろされ、一人の剣士が命を散らす。
仁七村における仏生寺弥助と河上彦斎の立ち合いは、短いが非常に激しい死闘であった。
達人同士の奥義のぶつかり合いによって周辺に激しい闘気が放射され、それは仁七村付近にいた幾人かの剣士を強く刺激する。

その少年も、仁七村で闘気を感じ取った剣士の一人であった。名を烏丸与一という。
主催者打倒を決意し、まずは愛用の木刀を探そうと村の中を探索した与一だが見付かったのは一本の刀だけであった。
人を斬るつもりがなく、既に木刀を手にしている与一にとっては真剣など無用の長物といって良いのだが、
誰かの愛刀を自分の木刀と同様に奪った物だと推察される、よく使い込まれ手入れされたその刀を捨てる気にはなれなかった。
仕方なく木刀と共にその刀を差して探索を続ける与一……彼が凄まじい闘気を感じたのはその瞬間である。
警戒しつつその場所へと近づいて行った与一が見たのは、頭を割られた死体と、傍らでそれを冷静に見つめる洋装の男。
優れた剣士ではあるが、人の死体を見慣れてはいない与一は、動揺しつつ問い質す。
「こ、これは一体誰が……」
一方、洋装の男はそんな与一の様子を冷徹に見極めつつ言葉を紡いで行く。
「俺が殺った」
「な、何故そのような事を!?」
「剣士が剣士を斬るのに理由など必要あるまい。一人斬った後にすぐ次の獲物が来るとは、俺も運が良いな」
「馬鹿な事を言うな!」
激昂して刀を抜く与一。ただし、真剣でなく木刀の方を。
それを見た洋装の男……土方歳三は舌打ちすると自身も木刀を構えて与一に襲い掛かった。

二本の木刀が激しくぶつかり合い、絡み合う。
「くっ」
最初の衝突の後、呻いて飛び退いたのは与一の方であった。
木刀によるものとは思えぬ激しい打ち込みを受け止めた為に腕が痺れている。
凄まじい剣腕。これほどの腕を持つ剣士が何故……
「どうだ、真剣を使う気になったか?」
「使わぬ!拙者の浮羽神風流は人を殺す為の剣ではない」
固い信念を示す与一に、土方は再び舌打ちすると前に勝る勢いで襲い掛かる。
422 ◆cNVX6DYRQU :2009/08/16(日) 06:53:22 ID:EiUIRqYK
「浮羽神風流剣術一の太刀……疾!」
接近戦は不利と見た与一は大きく剣を振り、突風を起こして土方を吹き飛ばす。
風を操るという予期せぬ技を受け、土方は宙に飛ばされるが、素早く体勢を整えて着地し、一気に間をつめようとする。
「四の太刀、嵐!」
すると、与一の木刀によって、今度は数本の真空の刃が生み出され、土方に向かう。
「ちっ」
不可視の刃を勘だけでかわしきる土方だが、さすがに体勢を崩してよろめく。そこへ……
「八の太刀、旋!」
与一の連撃が土方の身体に叩き込まれ……しかし、次の瞬間、木刀を手放して吹き飛んだのは与一の方であった。
「旋」とは、相手の関節を、痛みを覚えないよう正確に打つ事で、傷つける事なく動きを封じる技である。
弱い打撃を正確に打ち込む技という事は、つまり、打たれる瞬間に僅かに打点をずらせば無効にできるということだ。
土方はそうして最小限の動きで「旋」を無力化しつつ、強烈な返しの一撃を放ったのだ。

常人なら即死しかねない程の打撃を受けた与一だが、彼の鍛え上げられた心と身体はすぐにそれを克服して立ち直る。
木刀を飛ばされた与一が真剣に手を掛けるのを見て薄く笑う土方だが、刀が鞘ごと抜かれるのを見て笑みは苛立ちに変わった。
少年の腕に不満はない。浮羽神風流と言ったか、見た事のない技を使う、実に興味深い、全力で殺し合うに足る一流の剣士だ。
なのに、少年の無用の甘さが全てを台無しにしてしまっている。
先程の真空の刃も、少年がわざと急所から外れた所を狙っていなければ、無傷でかわしきるのは困難だっただろう。
その上、こちらが体勢を崩した絶好機に敵を殺すのではなく、傷付けずに捕える為の技を使うなど、論外としか言えない。
この少年が、己が殺されてでも敵を殺す事を拒むならば、惜しい腕だが殺すしかないか……
そう決意した土方は、与一に突進して行った。

「くっ」
浮羽神風流の技を使う暇も与えずに間を詰め、振り下ろされる剣を与一は辛うじて受け止める。
「はあああああぁ!」
更に、休む間もなく豪雨のように振り下ろされ続ける剣撃。
土方は、剣友である近藤勇程の気組みも、沖田総司のような精緻な技も持たない代わりに、観察力では抜きん出ている。
今も、力任せに連撃を加えているように見えてその実、一撃一撃が与一の防御の裏を掻くよう絶妙に制御されていた。
その怒涛の攻撃を辛うじて防御していた与一だが、永遠に凌ぎ続ける事などできる筈がない。
「しまった!?」
続けざまに強烈な打撃を受け止めたせいで刀の鞘が破損し、目に飛んで来た破片に気を取られた隙に、肩に一撃を食らう。
与一はたまらず倒れ伏し、追撃を覚悟して身を固くするが、土方は敢えて剣を止めた。
「このまま死ぬか、それとも少しは真面目に戦う気になったか?」
その問いかけに与一は返答しない……いや、できない。
土方の攻撃によって既に与一の体力はほぼ限界まで削られており、言葉を発する余力さえ残っていなかったのだ。
当然、そんな状態では立ち上がる事や剣を持つ事さえ相当の努力を要するのだが、何とか成し遂げる。
そして、与一は正眼に構えた刀……鞘が壊れて刀身が一部露出した剣を半回転させ、刃の側を上に向けた。
こんな状況でもまだ、間違っても土方を斬ってしまわない事を最優先に考えているらしい。

土方は密かに溜息をつく。ここまで追い込んでも、こちらを殺す気にはならないのか。
「お前の意地はよくわかった。だったら、その意地を貫いたまま……死ね」
繰り出される必殺の突き……しかし、それを受ける与一もまだ諦めてはいなかった。
浮羽神風流剣術五の太刀「凪」、相手の得物の芯を打って破壊し、戦意を喪失させるこの技を、与一は先程から使っている。
無論、狡猾にこちらの防御の裏を狙って来る攻撃に対し、ただ防御するのではなく木刀の芯を正確に打つのは困難極まりない。
だからこそ、未だに土方の木刀が無事な訳だが、それでもかなりのダメージは与えている手応えがあった。
ここであと一撃、芯に的確な一撃を加える事が出来れば、土方の木刀は砕け散るはず。
その代わり、失敗してこの突きをまともに受ければ、土方の言葉の通り、死ぬ可能性が高いが。
極度の消耗によって目は霞み、手は震えている。果たしてこの状況で正確な一撃を放てるか……いや、放つしかない。
全神経を土方の木刀に集中し、残った力を総動員して突き出される木刀に向けて会心の一撃を放つ。
423 ◆cNVX6DYRQU :2009/08/16(日) 06:54:32 ID:EiUIRqYK
「何!?」
与一の「凪」によって砕ける木刀。しかし、驚愕の声を発したのは土方ではなく与一の方であった。
木刀を打った時のあまりに軽い手答え……そして、木刀は砕けつつ遥か彼方に飛んで行く。
それが意味する事を与一が悟った直後、その両手は自由を奪われていた。
とどめの一撃を放つ瞬間にも敵の観察を怠らなかった土方は、与一がこちらの木刀をじっと見据えているのに気付く。
何か狙いがあると察した土方は、突きの途中で敢えて木刀から手を離し、素早く脱いだ上着で与一の手首を縛り上げたのだ。
そして、自由を奪われた与一の剣の刀身を掴むと、鞘を抜き放ちつつ持ち上げ、上を向いた刃を与一の首筋に……

カッ!
与一の首筋に向かっていた刀が、突如横合いから差し込まれた剣によって止められる。
勝負に熱中していたとはいえ、達人二人に気取られる事すらなく近付いて戦いに割り込んだその剣士は……
「人の勝負に横槍とは無粋なことをしてくれるな、山南さん」
いきなり現れたかつての盟友、己より先に死んだ筈のその男に、土方は軽口を叩いてみせる。
「土方君こそ、こんな年若い、自分を殺そうとしている訳でもない者を手に掛けようとは、大人気ないのでは?」
「相変わらず甘っちょろい事を言ってるな。そんな調子じゃ、あんたもすぐにそこの間抜けみたいになっちまうぜ?」
河上の死体を目で示して言う土方。と、山南に止められていた刀が急に強く押し返され始めた。
自分の言葉に山南が怒ったのかと思うが、よく見ると刀は既に山南の剣から離れている。
死者を冒涜するかのような土方の発言に、与一が再び力を奮い起こして剣を押し返したのだ。
「その者はお主が殺したのであろう!?それを……!」
「なるほど、そういう事ですか」
それだけで山南は概ね理解した。どうして彼らが戦っているのか、そしてこの戦いが無意味だという事も。
「土方君がここに倒れている方を殺したのは自分だとでも言ったのでしょうが、おそらくそれは嘘ですよ」
いきなり今自分が戦っている意義を全否定するような事を言われて与一の手が止まる。
「この切り口は土方君の太刀筋とはまるで違いますし、何よりこの傷は明らかに真剣によるもの。
 私が君達を見つけた時には、土方君は木刀しか持っていなかったようですが」
「た、確かに……」
与一とて、河上の傷が鋭い刃物による切り傷らしいのに気付いていなかった訳ではない。
しかし、木刀でも、与一が得意とするような風を操る技ならば「斬る」事ができるし、暗器を使った可能性もある。
だから、その手の技が身近にありふれた環境で過ごしていた与一は、己が河上を殺したという土方の言葉を疑わなかった。
だが、ここまでの戦いで、土方がそういった技を使おうとする気配は全くない。
むしろ、彼の剣術はそうした「凄い技を使う」という類の流派とは一線を画する物のように思える。

考え事をして土方から注意を逸らしていた与一はいきなり衝撃を受けて吹き飛ぶ。
与一の手から力が抜けるのを感じた土方が、その腹を蹴飛ばし、素早く刀を奪ったのだ。
「興が冷めた。俺は行かせてもらうぜ。後は甘ったるい奴同士でよろしくやりな」
背を向けて去って行く土方。
「待て、土方君。君はあの男達に従って殺し合いをするつもりなのですか?近藤さんや沖田君もその手で斬ると?
 それよりも、仲間を集めて、共にこの島から脱出する方法を探すべきです」
「そうでござる。お主もそれほどの技を身に付けるまでには武道と真摯に向き合い、厳しい修行を積んで来たはず。
 そうして身に付けた技を、あのような外道共を楽しませる為の見世物にされて、それで平気なのでござるか!?」
二人が声をかけるが、土方はそれを一顧だにせず歩み去る。
与一にはそれを追う余力はなかったし、山南は何かを決意した時の土方を説得するのが如何に困難かをよく知っている。
かくして、新撰組の鬼は、かつての仲間と、己とは真逆の道を歩もうとしている少年の前から姿を消した。
424 ◆cNVX6DYRQU :2009/08/16(日) 06:55:30 ID:EiUIRqYK
しばらく歩いて山南と与一から十分離れたと判断すると、さすがに疲れていたらしく、土方は近くの民家の陰で座り込む。
「仏生寺とは逆方向に来ちまったな。もっとも、この状態で奴と遣り合うのは御免だが」
今もし仏生寺弥助と戦えば勝ち目はかなり薄い……まあ、勝てないこと自体は本来土方にとって問題ではない。
そもそも土方は稀代の剣士が集うこの御前試合で優勝する気などなく、ただ武士らしい死だけを望んでいるのだから。
しかし、色々と因縁のある練兵館の剣士にあっさり負けて「天然理心流など所詮は田舎剣法」と嘲られるのは業腹だ。
だからこそ土方は、河上の刀を奪って立ち去る弥助の姿を見ながら、得物の不利を考えてすぐに勝負を挑まなかった。

そして後からやって来た少年を挑発して勝負してみたのだが、その後の展開は土方にとっては不満足極まりない。
確かに武器を手に入れるという目的は果たしたし、少年との戦いはそれなりに楽しめたと思っている。
しかし、その少年は腕とは裏腹な甘っちょろい信念の持ち主で、更にはやはり甘っちょろい剣士である山南まで現れた。
あの様子だと、二人は主催者を倒す為に手を組むのだろう。どちらも心は甘くとも腕は一流以上。
体力が回復してから奴らの甘さを最大限利用する戦術で戦ったとしても、二対一では勝てるかどうか。
負ける事自体は構わないが、あの二人の事だ、自分と戦っても殺さず、生け捕りにして説得しようとするだろう。
そんなのは御免だ。敗れて死ぬのは本望だが、敵に情けを掛けられるなど、絶対に我慢ならない。
となると、あの二人、あるいは同様の甘さを持つ可能性が高い集団は避け、ちゃんと殺し合ってくれる相手を探さなければ。
土方は呼吸を整えると、疲れた身体に鞭打って立ち上がり、歩き始めた。
折角の殺し合いを山南のような連中が掻き乱す前に、己に侍らしい死を与えてくれる剣士を求めて……

【はノ漆/村の外れ/一日目/黎明】

【土方歳三@史実】
【状態】疲労
【装備】 香坂しぐれの刀@史上最強の弟子ケンイチ
【道具】支給品一式
【思考】基本:全力で戦い続ける。
1:強者を捜す。
2:集団で行動している者は避ける。
3:志々雄と再会できたら、改めて戦う。
※死亡後からの参戦です。
※この世界を、死者の世界かも知れないと思っています。
425 ◆cNVX6DYRQU :2009/08/16(日) 06:57:30 ID:EiUIRqYK
土方が立ち去ってからしばし、そこには一つの墓が出来ていた。
墓と言っても、河上の死体を埋めて、その辺りから見繕ってきた石と花を置いただけのごく簡素な物だが。
「今はこれで我慢してもらうしかないですね。この件が片付いたら後できちんとした物を建てましょう」
「申し訳ない、山南殿。拙者が手伝えれば……。この程度で動けなくなるとは情けないでござる」
山南が墓を作っている間に休んでいた与一だが、未だ疲労が色濃く残っているようだ。
「いえ、土方君とあれだけ戦えば疲れるのは当然です。今はゆっくりと休んで下さい」
「それにしても、その土方殿はどうしてあのような嘘を……」
「さて、それは……」
土方が与一に嘘をついた目的は見当がつく。彼を挑発して戦いに持ち込む為だろう。
だが、そうして無駄な戦いを呼び込むのは土方らしくない。これが沖田なら強い相手と戦う為には嘘くらいつきそうだが。
土方も好戦的な人間ではあるが、少なくとも新撰組の副長になってからは、益のない戦いを自ら求める事はしなくなった筈。
それが、自身以外の隊士も多く巻き込まれているこの状況で、わざわざ無意味な戦いを求めるとは……

(まるで人が変わったような……いや、あるいは本当にそうなのかもしれない)
山南の記憶では土方とは昨日分かれたばかりなのだが、さっき見た土方は髪形も格好も様変わりしていた。
自分にとっては半日でも、土方にとってはかなり長い時間が経っており、その間に彼の人を変える何かがあったのだろう。
(とすると、私も芹沢さんや新見と同様、ずっと前に……)
死んで、主催者の手で蘇らされたという事か。その間に長い時間が経っていたなら、仮にこの殺し合いを脱出しても……
「どうしたでござるか?」
与一に聞かれて山南は我に帰る。そうだ、ここで思い悩んでも始まらない。
まずはこの戦いを脱出し、世の中がどうなっていて自分がどうすべきかはその後で考えればいい。
「いえ、何でもありません。とりあえず、もう少し休んで行きましょうか」
自分の推測……ここに集めれた剣士の一部、もしくは全てが蘇った死者かもしれないという事は話さないでおく。
腕が立つと言ってもまだ子供。ただでさえ斬り合いで疲弊している少年に余計な心労を与えたくはない。
(主催者の素性と、あの日から今までの世の流れについて情報を集めないといけませんね)
密かな思惑を胸に、山南は与一と共に暫しの休息を取るのだった。

【にノ漆/村の中心/一日目/黎明】

【山南敬助】
【状態】健康 右手に僅かな痛み
【装備】エクスカリバー@Fate/stay night
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:この死合からの脱出
一:与一の体力回復を待って行動を共にする
二:日本刀を見つける。
三:芹沢や新見が本人か確認したい
四:現在の日本がどうなっているか情報を集める
【備考】
新撰組脱走〜沖田に捕まる直前からの参加です。
エクスカリバーの鞘はアヴァロンではなく、普通の鞘です。またエクスカリバーの開放は不可能です。
柳生宗矩を妖術使いと思っています。

【烏丸与一@明日のよいち!】
【状態】肩に打撲 疲労
【装備】木刀@史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:人は殺さない。
一:山南と行動する。
二:愛用の木刀を探す。
三:あの男(柳生宗矩)を倒す。
【備考】
登場時期は高校に入学して以降のいつか(具体的な時期は未定)

※にノ漆に、河上彦斎の簡素な墓があります。
426 ◆cNVX6DYRQU :2009/08/16(日) 06:59:49 ID:EiUIRqYK
投下終了です。
427創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 08:05:46 ID:VlaA3UA4
乙。もはやかつての仲間の声も近藤の名前も土方の耳には届かないのか。
さすらいのロンリーウルフって感じだな。
428創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 09:13:12 ID:Ih1jQgy/
投下乙

心は「いくさ人」らしい「死狂ヒ」の境地に至りながらも、
ちゃんと打算的な思考ができるあたりが実に土方!
土方には是非戦国武士勢と死斗を繰り広げて貰いたいもの…

しかし今の土方が真っ向勝負を避けるとは、仏生寺弥助恐るべし…

山南・烏丸の良心コンビの今後にも期待
429創る名無しに見る名無し:2009/08/16(日) 11:16:42 ID:q2fluuiZ
鬼の副長と、人情家のサムライの対決ではそうなるわな。
ともあれ乙です。
430 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/16(日) 23:52:38 ID:CbJ2AruK
投下お疲れ様です。
土方さんの孤高っぷりがいいですね、文章力を見習いたいです。
ちなみに先日投稿させていただいた
★真宵★ですが、人生初SSでした。
皆様のご指摘の通り、誤字脱字、改行等があまりに酷かったので
wikiの本文を多少加筆修正いたしました。
内容に変更はありませんが見ていただければ幸いです。
それと遅ればせながらwikiに掲載していただいた方に
どうもありがとうございました。
431 ◆EETQBALo.g :2009/08/17(月) 01:43:26 ID:sZ+GTNbj
辻月丹、椿三十郎で予約します。
432 ◆EETQBALo.g :2009/08/18(火) 02:03:02 ID:vi+SSJCy
上記二名投下します。
433椿花下眠翁/刀の銘は ◆EETQBALo.g :2009/08/18(火) 02:05:18 ID:vi+SSJCy
 深夜の荒れ果てた廃寺に、場違いなまでに絢爛と咲き誇る大輪の赤。
 見事な椿の木の前に、むさ苦しい風体の胡散な浪人崩れが二人並び立っている。
 かたや無造作に白刃をぶら下げた男。
 かたや無造作に両腕を懐中に組んだ男。

 刀の男は蓬髪と髭、溜まりに溜まった垢が目立ち、一見年齢不詳。よく見れば
おそらく老人と言って差し支えない年齢である。だが逞しい体格と姿勢の良さ、
澄んだ瞳は未だ衰えを感じさせない。
 懐手の男も小汚いことに大差はないが、こちらはもう少しわかりやすい。壮年の
頃と見て間違いなかろう。
 互いに名乗りは終えたものの、一方のそれは到底信用に値しないものといえた。

 不意に境内の鐘が重々しく丑三つの刻を告げ、二人はそちらに注目する。
 その目配りは共に素早く隙がない。
 朽ち果てた無人の鐘楼で、撞木がひとりでに鐘を打ち鳴らしていた――これも妖術か。
 周囲一帯を震わせる残響が消えると、剽悍な壮年男は肩をすくめた。

「けっ、怪談話はもう間に合ってら。……しかしまあ」
 鐘から隣の男へと視線を戻し、伸び放題の無精髭を撫でさする。
「その凄腕で号なんぞ名乗ってるところを見ると、あんたどっかの偉い大先生か。
にしちゃ俺よりひでえなりだなおい。変な爺だぜ」

 初対面の相手に失礼千万な台詞を吐き、不敵に笑う素浪人。
 月丹は特に怒るでもなく、椿の花を両断した刀を納めて応じる。
「お前さんこそ……大層な変わり者じゃないかね」
 人別帖が支給されているにも関わらず、いかにも今思いついた出鱈目の名前を
名乗るとは、なかなかに人を食った男である。
 そう指摘してやると、顎をさする自称・椿三十郎の手がぴたりと止まった。

「……」
「……」

 椿が一輪、ぼとりと落ちた。

「……忘れとったのか?」
「……俺は椿の花が好きなのよ」
「そりゃあ……真っ二つにして悪かったな」
 くつくつと肩を揺らして月丹は笑った。

「まあ、名乗りが嫌なら無理には問うまいよ」
 意外に抜けた男だ。
 だが剣者としての月丹の目は、眼前の男に宿る修羅の剣を確かに捉えてもいた。
 こちらの出方を窺っている立ち姿からは相当の実戦経験を窺わせる。
 ひとたび敵と見定めればその手は瞬時に動き、一切の慈悲なく相手を血の海に
沈めてきたのであろう。しかし――
「まだまだ……青いのう」
「もうすぐ四十だぜ俺ぁ」
「儂から見れば青二才よ」
 説教臭いのは御免だ、と男の顔に書いてあったが構わず続ける。

「お前さんは……まるでギラついた抜き身だ。まことの名刀とはこれ、このように」
柄頭をぽんと叩く。「鞘に納まっておるものよ」

「……ち。どっかで聞いたような台詞を吐きやがる」
 身に覚えはあったのか、大した反駁もなく男は胸元をぼりぼりと掻いた。
「同じ寺に飛ばされたのも何かの縁。どうだ……ひとつ儂と修行せんか」
「坊主の真似なんぞ願い下げだ」
「そうか」
 それもまあ良し、と月丹は椿の木の根元に身を落ち着け、白州に召還される前に
そうしていたように端座して瞑目する。
434椿花下眠翁/刀の銘は ◆EETQBALo.g :2009/08/18(火) 02:07:04 ID:vi+SSJCy
「おい、本気で禅坊主の真似事か? こんな時に」
「お前さん……狐狸妖怪の類か?」
「あぁん?」
「違うか? ならお前さんも寝とけ。夜には眠るのが……人間様の……仕事よ……」

 そのまま月丹は仮眠に入った。
 眠りの世界へ落ちるわずかな時間、浅いまどろみの中でこの試合に考えを巡らせる。

 ◆

(下らぬ。綱吉公は何を考えておられるのか)

 一介の浪人たる自分の興した無外流が上覧の誉れに与ることは、確かに長年の
希望ではあった。だがそれは、決してこんな馬鹿げた形でなどではない。
 首を飛ばされたくなくば殺し合えなどとは、ただの残虐趣味な見世物ではないか。
近年の政策は愚策が目立つとは思っていたが、いよいよ物狂いにまで至ったか。

 しかし、腑に落ちぬことが多過ぎる。
 文を愛し武を厭い、自身の剣の稽古さえ何年も怠る当代将軍が、遠ざけていた
剣術指南役を使ってかくも血生臭い御前試合を企てるものであろうか。
 乱心の一言で片付けることは容易い。が、本当にそうか。
 それにあの二階笠の武士。柳生備前守俊方とはまるで齢が合わぬ。
 柳生藩は先代が死去して代替わりしたはずだから、あの武士を父上と呼んだ
隻眼の男が俊方だという可能性も否定される。

 人別帖には古今東西の剣豪に混じって何の酔狂か、若き紀伊藩主の名まであった。
 いたく武芸に熱心だという彼が若気の至りで開いた催しだとすればどうか。
 確証はないが、会ってみる価値はあるやもしれぬ。

 彼が本物かつ主催者であったなら、この愚かな試合を中止するよう進言を試みる。
 将軍への拝謁とは違い、同じ参加者同士ならどこかで出会う機会もある。
 己自身は浪人ではあるが、官吏や大名の弟子も増え、今では無外流の知名度も
そこそこ高い。噂通りの武を重んじる人物ならば、僅かでも耳を貸す望みはあろう。

 とはいえ、夜のうちから当てもなく闇雲に探し回って見つかるとも思えぬ。
 何日に及ぶとも知れぬこの御前試合、主催者側もまさか不眠不休で戦えなどと
無体なことは言うまい。ならば寝られる時に寝ておくべきだ。
 幸いこの廃寺は島の最辺境。参加者らが目指すような場所ではないため多対一の
状況に陥る危険性は低く、傍らの男に害意はない。
 吉宗公が本物であれば密かに護衛も付けているだろうから、彼が他の参加者に
殺されることはまずないと見ていい。焦りは禁物だ。

(早朝発つとするか。……それにしても)
 半ば夢の世界で、月丹は埒もない考えを遊ばせる。
 人別帖に記された兵法者の中で、吉宗の他に目を惹いた名前があった。
 宮本武蔵。
 五輪書を著し、剣禅一如を体現した求道者。
 月丹の先駆ともいうべき偉大な探究者。

 過去の人物は全員――もしかすると柳生一族も――主催者が用意した騙り者で
ある。それは承知している。
 しかし自分を召還した方法や先ほどの鐘のような摩訶不思議な力で、もしも
時を超え場所を超え、本物の宮本武蔵と自分が相まみえるなどという夢物語が
実現したならば。

(既に悟りを開いたこの身なれど、是非とも論を交わしてみたいものよ――)

 ◆
435椿花下眠翁/刀の銘は ◆EETQBALo.g :2009/08/18(火) 02:08:36 ID:vi+SSJCy
(……寝やがった、この爺)

 椿三十郎(仮名)――便宜上、以降は三十郎とのみ記す――は、樹下で寝息を立てる
月丹を呆気に取られて見つめていた。
 いきなり放り込まれた死合の場で帯刀した自分を前にこの奇行。見た目に違わぬ
変人ぶり? 否、恐るべき傑物である。
 太平の世にありながら彼が苛烈な実戦剣術の練達者であろうことは、先ほど
目撃した技から窺えた。三十郎とて神速かつ変則の居合の使い手であり、無数の
修羅場を重ねてきたにも関わらず、この老人に抜き打ちで勝てるかどうか疑わしい。
 今も熟睡していると見せて、その実は四方に心を研ぎ澄ませ――

「ふごー、ぷしゅるるる、ふごー」
「……」

 どう見ても熟睡している。誠にありがたき幸せ。
(舐められたもんだぜ、俺も)
 三十郎に斬るつもりがなくとも、死合に乗った者がいつ来ないとも限らない。
 起こしてやろうかとも思ったが、やめた。そこまでしてやる義理はない。
 それになんとなく、この老人は斬っても斬れない気がするのだ。
 牡丹花下眠猫児ならぬ、椿花下眠翁といったところか。
(真の名刀は鞘の内、か)
 小柄さえ持ったことのなさそうな婦人にいつか諭されたのと全く同じ台詞を、
彼のような無類の達人にまたしても言われるとは。皮肉なものだ。
 胸中で自嘲し、踵を返す。
 結局ろくに情報交換もできなかったが、それでも彼は重大な示唆を与えてくれた。

 腐りかけた本堂の階段を風の速さで駆け上り、行李から人別帖を引っ張り出す。
 格子戸ごしの月明かりを頼りに、三十郎は音もなく頁を繰り素早く目を走らせる。
 最優先で探すべきは――自分の名前。

 ◆

 今にして思えば、異常事態に己としたことが冷静さを欠いていたのだろう。

 三十郎は廃寺で寝ていたところを白州に召還された。
 二階笠の男に殺し合いを強要されたかと思えば謎の白煙に巻かれ、煙が晴れたら
再び廃寺の中。
 夢か、狐狸の仕業かとも疑ったが、鼻孔をくすぐる潮の匂いと波濤の砕ける音は
これが紛れもない現実であることを示していた。三十郎が一夜の宿を借りたのは
山寺であったからだ。
 ともかく丸腰はまずいと、行李から得物を見つけたところで表に人の気配を感じた。
 息を潜めて観察したのち、挙動不審だが殺人狂特有の凶気は纏っていないと判断し、
会話をするべく出て行った。――そこまでは良かった。

 周到で抜け目ない常の三十郎からは考えられぬしくじりであった。
 白州で聞いた人別帖の存在を失念し、いつもの癖で出任せの名を名乗るとは。

 確認の暇もなかった、などという言い訳は命のやり取りにおいて通用しない。
 最初に出会ったあの老人が帳面との矛盾を理由にこちらを敵と断じ、問答無用で
斬りつけてくるような人物であったなら、己もあの花と同じ運命を辿っていた。

 柄にもなく反省する三十郎であったが、彼の素の言動自体が喧嘩を売っていると
受け取られかねないものではある。もっともこちらは矯正不可能だが。
436椿花下眠翁/刀の銘は ◆EETQBALo.g :2009/08/18(火) 02:11:18 ID:vi+SSJCy
 頁を繰る。ない。
 頁を繰る。ない。
 頁を繰る。ない。……

 最後の頁まで目を通した三十郎は、あり得ないものを見る目で人別帖を凝視した。
(……これもけったいな術だってのか?)

 自分の本名は――なかった。
 主催はこちらの素性を知り、本来の姓名を載せているのかとも疑ったのだが、
それはこの際どうでもいい。真の名を名乗らなくなって久しいのだから。
 だが代わりに記されているのが、

“椿 三十郎”

 なぜ、ついさっき適当にでっち上げた偽名なのか。

 ◆

 思いつきで名乗った名が既に人別帖に書かれていたという怪奇。
 主催者はサトリの化物か、はたまた未来を視る力、思考を操る力までも有して
いるというのか? だとすればさしもの己も手詰まりだ。
 一瞬背筋を戦慄が走ったが、すぐに、そうではない、と思い直す。

(ち、とんだ面倒事を増やしてくれたぜあの餓鬼共)
 思い出した。そういえば少し前に同じ偽名を使ったことがあった。
 あの危なっかしい若侍達の誰かから噂が広がり、主催者の耳にでも入ったのだろう。

 そもそも読心能力の類があれば三十郎の本名も容易に判明するのだから、あえて
偽名を載せる必要はない。先見の力など持った日には、あらかじめ結果の見えた
御前試合など退屈この上ないだろう。思考操作についても同様だ。
 つまりこの一致は、単なる偶然。
 返す返すも最初の邂逅は、場所、人、共に僥倖であったということだ。

 今後自己紹介が必要な場面では無用の不審を招かぬよう、一貫して“椿三十郎”
を名乗るのが無難だろう。うっかりその場任せで桑畑某だの松林某だの名乗り、
そのたびに斬り合いになっては命がいくつあっても足りぬ。
 同姓同名の参加者が別に存在する可能性も皆無ではないが、その時はその時だ。
人別帖のよく知らぬ他の名前を拝借するのはかえって危ない。

 厄介な超常の力を使うといえど、主催側は決して全知でも全能でもない。
 参加者一人の本名すら把握できぬという、実にお粗末な限界を露呈したのだ。
 つけ入る弱味も、出し抜く隙もどこかに必ずある。
 未知の妖術が蔓延る状況で動きあぐねていたが、これで腹は決まった。

 この御前試合を大元から潰す。

 椿三十郎という男は――偽名だが――、束縛を嫌う。
 そして――天邪鬼ゆえ決して認めないだろうが――、みすみす悪の餌食になる弱者を
見過ごせぬ心優しさの持ち主でもある。

(気に食わねえ。他人を無理矢理呼びつけて餓鬼を殺生して『今から殺し合え』だと?)

 大人しく鞘に押し込められようはずもなかった。

 ◆
437椿花下眠翁/刀の銘は ◆EETQBALo.g :2009/08/18(火) 02:13:11 ID:vi+SSJCy
 そうと決まれば今後の行動方針だ。三十郎は改めて人別帖と地図を見る。
 奇態な人別帖である。先ほどの老人――辻月丹――はともかく、はるか昔の
豪傑までも名を連ねているとはふざけた話だ。
 常識的に考えれば騙りと見るべきだが、相手は非常識な力を操る存在だ。
 大体名前を見ただけで騙りと知れる道化が、かくも多く御前試合に呼ばれるだろうか?
 瞬きの間に他人を召還し、手も触れず首を飛ばし、無人の鐘を鳴らす奇怪な輩が、
三途の川を逆に渡す力を持っていないとは言い切れない。
 いずれにせよ判断の決め手に欠ける今は、この問題はとりあえず脇に置く。

 とにかく今はもっと情報が必要だ。
 敵の全貌が掴めぬ以上、あの二階笠の男一人を斬って全てが終わるとも限らぬ。
 妖術への対抗策がわからぬ限り、奴の居場所を突き止めて攻め入ったとしても
首を飛ばされて犬死にだ。

 人別帖から三十郎は一つの名を拾い上げる。
 柳生十兵衛。二階笠の老武士を父と呼び口論していた隻眼の男だ。
(片眼の十兵衛とはな。まるで講談だぜ)
 白州でのやり取り、あれがもし演技なら稀代の名役者だ。
 本物だとすれば過去の人間だが、なぜ、という疑問もひとまず黙殺する。
 何も知らされてはいなかったようだが、老武士――柳生宗矩か?――とその
周囲の者を参加者の中で唯一知る人物と見て相違あるまい。
 彼と接触を図り、敵の情報を探る。これを当面の目的とする。

 地図に目を移す。老武士の居場所は城か、城下の屋敷のどこかだろう。十兵衛と
いう男もそこに向かう見込みは高い。
 では島の北東端であるここ伊庭寺から、どの道を辿り城下を目指すか。
 内陸と海沿い。どちらを経由しても距離に大差はない。

(舟着場か)
 仁七村。地図を見る限り、島からの唯一の脱出手段であろう舟が存在する。
 殺し合いに否定的な者が脱出を図るならここに集うだろうが――
(まず問屋が卸さねえだろうな)
 舟が破壊されているなどの妨害工作ならまだ可愛げがある。あえて記すことで
参加者を殺到させて仲間割れや反目を煽り、殺し合いの加速を目論む悪意さえ
この地図からは感じられる。
 また首尾良く海に漕ぎ出したとして、妖術使いが素直に逃がすとも思えぬ。
(馬鹿やってる奴がいねえか見に寄ってみるか)
 他の参加者をいちいち救う義理など三十郎にはないが、白州には女子供もいた。
 それに、脱出志願者の中に十兵衛と遭遇した者がいるかもしれない。
 十兵衛が必ずしも城下にいるとは限らないのだから、道中出会う者からも情報を
集めてゆくのがよかろう。
 向かう場所は決まった。善は急げ。

 ◆

 本堂内部からは金目の物はほとんど持ち去られており、天井裏や床下からも
旅の助けになりそうなものは発見できなかった。
 鑿跡も荒々しい木仏が打ち捨てられ床に横倒しになっている。信仰の対象たる
こちらは価値を認められなかったのか。罰当たりなものである。
 仏像の中に秘宝が納められているという話はよく聞くが、鉈も鋸もなければ
確認のしようがないし、どのみち経典や秘仏など死合の役には立たぬ。
 よく見れば木仏の陰に蝋燭が数本落ちていた。火付け道具がなければ灯火の用は
成さないが、一応荷物に加えておく。
 さっきから空腹で腹が鳴って仕方がない。
 行李の食料にすぐ手をつけると今後が不安だが、道々食べるとしよう。

 月丹はまだ椿の下で寝ていた。
 ぼさぼさ頭の上にいくつか花が落ちている。童女ならともかく、彼の姿では
なんとも滑稽な光景だ。
 心の中だけで老人に別れの挨拶を告げ、足音を忍ばせて三十郎は歩き出す。
438椿花下眠翁/刀の銘は ◆EETQBALo.g :2009/08/18(火) 02:14:31 ID:vi+SSJCy
 と、背後から何か塊状の物が飛んできた。
 反射的に振り向きざま受け止めると、笹包みである。中には戦国時代さながらの
兵糧丸や干し柿が入っていた。これも支給品の糧食であろう。
 先ほどと変わらぬ姿で樹下に座る男は、瞑目したまま寝言のように告げた。

「その様子では……長いこと水っ腹なのだろう」
「ずいぶん太っ腹じゃねえか。あんたはどうするんだ」
「なあに……かなり多目に入っておったのよ。食いきれぬわ、持ってけ」
「そうかい、じゃ貰っとくぜ」

 老人の言葉を鵜呑みにする三十郎ではなかったが、くれるというなら是非もない。
遠慮なく自分の行李に包みを仕舞い込む。
 月丹という男がなぜこうもみすぼらしい風采なのか、三十郎はその一端を垣間見た
気がした。変人だが、ただの酔狂でできることではない。

「じゃ、くたばるんじゃねえぞ爺さん。あばよ」
「…………ふごー」
 再び眠りに就いたらしい。
 今は鞘の内にある名刀が、真の斬れ味を見せつける時は来るのだろうか。
 ただならぬ実力を宿した老人の鼾を背に、三十郎は伊庭寺を後にした。


【いノ捌 伊庭寺境内/一日目/黎明】

【辻月丹@史実】
【状態】:健康、睡眠
【装備】:ややぼろい打刀
【所持品】:支給品一式(食料なし)
【思考】基本:殺し合いには興味なし
一:朝まで寝る
ニ:徳川吉宗に会い、主催であれば試合中止を進言する
三:困窮する者がいれば力を貸す
四:宮本武蔵、か……
【備考】
※人別帖の内容は過去の人物に関してはあまり信じていません。
 それ以外の人物(吉宗を含む)については概ね信用しています(虚偽の可能性も捨てていません)。
※椿三十郎が偽名だと見抜いていますが、全く気にしていません。
 人別帖に彼が載っていたかは覚えておらず、特に再確認する気もありません。
※1708年(60歳)からの参戦です。

 ◆

 夜明け前の道を歩きながら、自分に支給された握り飯を頬張り食う。
 数食分あったそれの最後の一つを胃に収め、三十郎はようやく満足の息を吐いた。
 まともな飯にありついたのは久々だ。無論、辻月丹に感謝こそすれ、主催には
別の意味で礼をしてやるつもりだが。
 これでひとまず飢えで剣が鈍ることはあるまい。
(何しろこれから、おめでてえ奴らを斬らなきゃならねえだろうからな)

 白州で提示された優勝者への褒美。所詮は口約束だ。
 いかなる願いも聞き届けるなどという絵空事を信じる者がいるとは思えないが、
名声を求めて死合に乗った者も中にはいよう。
 三十郎には誰の思惑も知ったことではない。降りかかる火の粉は払うのみ。
 月丹ほどの手練れが数十人もいるのだ、せいぜい褌を締めてかかるとしよう。

 強者ひしめく島を、潮風にぶらぶら袖をそよがせて風来坊が行く。

439椿花下眠翁/刀の銘は ◆EETQBALo.g :2009/08/18(火) 02:16:52 ID:vi+SSJCy
【いノ漆 路上/一日目/黎明】

【椿三十郎@椿三十郎】
【状態】:健康
【装備】:やや長めの打刀
【所持品】:支給品一式、蝋燭(5本)
【思考】基本:御前試合を大元から潰す。襲われたら叩っ斬る
一:柳生十兵衛から情報を得るため城下へ向かう
ニ:仁七村の船着場で周囲の状況を確認する
三:名乗る時は「椿三十郎」で統一(戦術上、欺瞞が必要な場合はこの限りではない)
四:辻月丹に再会することがあれば貰った食料分の借りを返す
【備考】
※食料一人分は完全消費しました。
※人別帖の人名の真偽は判断を保留しています。
※本堂は床下や天井裏を含めざっと探索しました。周囲の墓石等は見ていません。
 本堂内部に丈およそ六尺の木仏が横倒しになっています。

※名前関連は映画版準拠です。鳥羽亮の小説版(椿三十郎が本名)は考慮していません。
※「用心棒」(幕末)と「椿三十郎」(江戸中期)は時代設定が異なりますが
 前の書き手氏に従い、いずれの事件も経験済になります。
 ただし参戦時期は江戸中期のいずれかです。
 同時代の史実人物は知りませんが、明らかな過去(江戸初期以前)の歴史知識はあります。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

投下終了です。
二人の参戦時期は、指定がなかったのでこちらで決めさせて頂きました。

人別帖と三十郎の偽名は切り離せないネタだと個人的には思ってますが、
進行上そのへんつっこんだら負けというご意見もあるかと思います。
歴史認識の是非も含め、問題あらばご指摘頂きたく候。
440創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 08:28:35 ID:uXJqanxR
投下乙!
三十郎も月丹も雰囲気出ててイイですね〜
「椿三十郎」の名台詞も出てて、黒澤ファンの自分はニヤリでした。

しかし月丹先生、ここにいる武蔵は
曲がりなりにも人生と折り合いをつけて悟りの境地に至った晩年武蔵じゃなくて、
まだ見果てぬ夢を追い続ける野望ギラギラの「汚ない武蔵」なんですよねー
月丹先生会ったらかなり失望しそうだ
441創る名無しに見る名無し:2009/08/18(火) 22:32:19 ID:zgFEgeyg
投下乙です!
月丹の度量の深さがでてますね!
三十郎の向かう先には幾人もの剣客がうろついているので、
誰と出会うのか、次の展開が楽しみだ。
442 ◆EETQBALo.g :2009/08/19(水) 14:04:13 ID:yqXCtObm
あちこちに放ったらかしの中身入り行李が増えてきたので
(中身は支給品一式のみがほとんどですが)
Wikiの支給品ページに専用項目を作りました。執筆のご参考までに。

わかる範囲で拾ったつもりですが、故人のものについては
四乃森蒼紫と佐々木小次郎(傷)の行李が行方不明です。(注釈・本編共に描写なし)

>>433-439についてはWiki収録を一時保留しています。
人別帖における偽名キャラの扱いについて、
迂闊に言及して物語設定を壊していないか判断に迷ったので。
もしも問題なければ微修正の上で収録します。
443創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 14:14:32 ID:QF2AIQSM
>>442
wiki編集乙です!

>もしも問題なければ微修正の上で収録します
自分は問題ないと思いますよ
444創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 17:49:45 ID:gyOlf3QU
投下、wiki編集乙です
人別帖の件は問題ないと思いますよ。

にしても、江戸中期の人たちはそれぞれ筋が通った考察をしてるのに事実認識がいい感じですれ違ってるなw
彼らが出会ったらどんな会話が生まれるのか楽しみだ。
445創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 21:14:49 ID:xGc+k1hX
主催者が偽名キャラの真名を知らないってのは、
うまく使えば逆に面白い展開になるかもな。
名前を必要とする妖術が効きにくいとか何とか。

もっとも却ってそれが仇になるかもだが。
(例えば定時放送が聞けない等)
446創る名無しに見る名無し:2009/08/20(木) 00:11:56 ID:BLM1fK1U
現在一回のみ登場の面子

佐々木小次郎(偽)、富田勢源、斎藤一、九能帯刀、
倉間鉄山、中村主水、明楽伊織、犬塚信乃(女) 、赤石剛次


小次郎も残るは(偽)だけか。こいつも偽名だな考えてみたら
447創る名無しに見る名無し:2009/08/23(日) 21:43:28 ID:CsGiERDl
アサ次郎にはぜひとも頑張ってもらいたいところだ
アニロワ参加時みたいに大した活躍もしないで空気のまま死んだりしないといいんだが・・・
それとwikiの佐々木小次郎(偽)の項がまんまアニロワのコピペなんだがこれでいいのか?
448 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/24(月) 22:16:14 ID:bX9E/Lo2
徳川吉宗、秋山小兵衛、魂魄妖夢、佐々木小次郎(偽)で予約します。
449創る名無しに見る名無し:2009/08/24(月) 22:17:57 ID:c6YENvFE
うわさをすれば何とやら?

>>447
問題があるようなら、折を見て新しく書いておくけど
450創る名無しに見る名無し:2009/08/25(火) 22:56:55 ID:iLQlYrTu
>>447>>449
いや、パロロワ界隈では良くあること
気になるならばアニロワwiki出展と明記するべし
451 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/27(木) 18:22:51 ID:MUp9M4uG
仮投下スレに
徳川吉宗、秋山小兵衛、魂魄妖夢、佐々木小次郎(偽)を投下しました。

佐々木小次郎(偽)の設定や話の構成に問題が無ければ
本投下したいと思いますので指摘、感想をお願いします。
452創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 20:00:52 ID:xLbTqXxo
仮投下乙です

自分は問題無いと思います
453創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 22:41:45 ID:33lh50Ht
仮投下乙

正直小次郎、小兵衛両者ともキャラが違う……
このロワは現実人物も混ざってるから厳密に二次キャラを再現する気風じゃないと思うけど
せめて前話と合わせたほうがよくね?

あとバトルシーンの改行が少ないので読みにくかったです。
助詞の使い方にもところどころ違和感を覚えました。
454 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/27(木) 23:13:04 ID:MUp9M4uG
感想、ご指摘ありがとうございます。

改行部分はについては了解です。

キャラのご指摘ですが、自分なりに再現したつもりでしたので
口調、行動、考え等が違う。この部分がおかしい等、
もう少し具体的に指摘していただければ助かります。
その部分を修正して再投下してみたいと思うのですが。
ただ、全ておかしいと言われてしまえば修正不可能なので
今回の作品は破棄したいと思います。
455創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 23:37:50 ID:33lh50Ht
小次郎の一人称は俺ではなく私
口調はもっと雅

小兵衛の剣術が老齢の割にがむしゃらな感じ
原作では先の先か後の先を取って瞬殺する。決して泥臭い感じではない。
相手の力量を図る目的ならもっと悠然と構えているのが小兵衛のイメージなんだけど…

まぁこれは原作では無敵天狗だから互角以上の敵が出てきた時どう対応するかわからんのですが
こういうつっかかる感じの剣術ではないように思える。
原作や藤田まこと版ではなく、73年版剣客商売のドラマがモデルなら泥臭いイメージでもおかしくないかも
しれませんが…

あとこれはIVe4KztJwQさんのせいじゃないんだけど、吉宗がいつまでも将軍口調なのも違和感が…
そろそろ新之助になって欲しい
456創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 23:44:52 ID:xBRC1Z4l
>>454


勝手な意見だけど、文の締めじゃないところで頻繁に「。」を使うのは
文体に癖を生んで読みにくくなってる一因だと思う。
一文を今よりも短めにして、きっちり末尾を締めるだけでかなり違う。

あと個人的お勧めは音読。
読んでみて息継ぎの欲しい部分に「、」を付ける。
変な組み立ての文章も発見しやすいよ。
457 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/27(木) 23:57:11 ID:MUp9M4uG
お二方ともお早いご指摘ありがとうございます。

小次郎の一人称に関しては完全に勘違いしていました、すいません。
「私」に修正しますね。

小兵衛の剣術は予想を上回る小次郎の剣に対抗するために
がむしゃらにならざる得なかった感を出したかったのですが
表現力をもっと鍛えたいと思います。

吉宗の口調に関しては私も考えたのですが、前回の話でも
徳田新之助口調ではなく名簿も徳川吉宗だったので
そのままで書かせてもらいましたが、ちょっと考えてみますね。

句読点、改行の使い方関してはこれは私が未熟なばかりです。
音読、修正しながら試してみます。
458創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 00:02:14 ID:d5mA74AN
>>457
頑張れ
もし今回のを修正するつもりなら、「鍔に手をかける」は
「柄に手をかける」か「鍔に指をかける」に直してはどうだろう。
459 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/28(金) 01:19:40 ID:BsbIg6k6
>>458
ありがとうございます。表現の参考にさせていただきます

それと先程ご指摘のあった小兵衛ですが、
小次郎との戦いの冒頭部分を先に修正して仮投下スレに投下してみました。

先程よりは小兵衛らしさを少しは出せたと思うのですが。

引き続き全体を修正して再度投下いたします。
460 ◆EETQBALo.g :2009/08/29(土) 02:02:58 ID:EAMdnXy7
赤石剛次、犬塚信乃(女) 、九能帯刀、伊烏義阿で予約します。
461創る名無しに見る名無し:2009/08/29(土) 17:20:05 ID:huJFfiXP
おおう。これで一回しか動いていなかった面子もようやく動き出したか。
しかし、この面子…。凄いカオスだ。
462 ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 18:14:37 ID:wU1HJ4/w
先日仮投下した徳川吉宗、秋山小兵衛、魂魄妖夢、佐々木小次郎(偽)を
修正しましたので本投下いたします。
463存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 18:18:40 ID:wU1HJ4/w
英霊(サーヴァント)佐々木小次郎。

山南敬助と別れた彼は、あらゆる願いを叶える願望機(聖杯)を巡る英霊達の戦い、
現代日本の冬木市において行われた第五次聖杯戦争の事を振り返っていた。

キャスター(魔術師)のクラスを持つ英霊(サーヴァント)の魔女により
ルール違反の召喚を受けた為に本来ならばあり得ないアサシン(暗殺者)英霊(サーヴァント)
として召喚され、さらには魔女の居城を守る為にその魔力による支配を受けていた事。

その為に自らの意思で他の英霊達と満足に戦う事ができずにおり、、
円卓の騎士団やエクスカリバーの使い手として有名なブリテンの騎士王
であるセイバー(騎士)の英霊と戦いその果てに敗れ、
意識は暗闇に落ちていったはずだった事を。

暗闇に落ちていった彼の意識は白州において”佐々木小次郎”の名と共に再び呼び覚まされた。

しかし、それは本当の彼の名ではないのだが。
己の名さえ忘却の彼方に忘れた無名の剣客が、途方も無い修練の果てに
本来の小次郎と似たような事ができる、それ故にその名を冠した英霊としてのみ
この世に顕現が許される。その為であった。

彼は山南敬助と別れた後、実は先程の戦いの中でその身に多少の違和感を覚え、
その正体を確かめる為に手にした木刀を振るっていた。

小次郎は自身の独特の構えを取ると、眼前の空間に山南敬助の姿を
思い浮かべその名の冠する由来になった秘剣を振るう。


―― 秘剣 燕返し ――

瞬間。“ほぼ同時”に超高速の斬撃が空を斬る。

その太刀筋は三つ。

一の太刀は、上段から頭上から股下までを断つ縦の軸。

二の太刀は、袈裟懸けにて対象の逃げ道を塞ぐ円の軌跡を描き。

三の太刀は、横薙ぎにて対象の左右への離脱を阻む払い。

三つの斬撃が山南敬助の幻を薙ぐ。

恐るべき技を放ちながら小次郎は構えを解くと一人呻く。

「やはりそういうことか」

その呻きの理由は一つ。小次郎が放った秘剣、燕返しにあった。
それは、本来ならば多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)と呼ばれる
魔法の粋にまで高められた“完全に同時”に三つの斬撃を繰り出す技である筈なのだ。

だが、さきほどの小次郎が放った燕返しの超高速の斬撃は“ほぼ同時”に眼前の
空間を薙いだのみ。その事から今回の召喚において本来の英霊(サーヴァント)としての
力がある程度抑えられている事に気付く。
続けて完全な気配遮断や物質の透過、霊体化等も試してみるが全て失敗に終わる。
どうやってもできなかったのだ。

(成程、どうやら魔法や魔術の域に分類される力が制限されているようだな)
464存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 18:20:55 ID:wU1HJ4/w
白州で大勢の剣客の前に現れた壇上の男の言葉を思い出す。
この場に集められたるは類稀なる兵法者、一人になるまで殺し合うべし。
ともあれば小次郎の体の異変の正体、恐らくは魔力を持ったサーヴァントの本来の力が
余りに人の身を超え過ぎてしまっている為に他者との力の均衡を
取るべき処置か何かなのだろう。

また、あれ程の人数を白州に同時召喚出来る事を考えるとこの場所にも聖杯があるのかもしれぬ。

様々な憶測を思い浮かべ、英霊からはかけ離れている己の能力値を考えていた。
これではまるで人間の能力。本物の佐々木小次郎のようではないか。そう苦笑する。
しかしその技量は並みの剣客からすれば恐るべきものである事にかわりなく、
小次郎にとっても自身の能力の制限等たいした問題ではなかった。

それは、自由に死合う事ができなかった前回とは違い、
今回の戦いは何者からの束縛も無く、自らの意思で強き剣者と死合う事が出来る。
その事実が小次郎の身を振るい喜ばせていた。

ならば。

此度の戦いにおいてその剣を存分に振るい、再び佐々木小次郎として戦い抜こう。

偽者故に本物を凌駕する技を腕に秘めて、強き剣者と死合おう。

そう決意する。
465存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 18:27:54 ID:wU1HJ4/w
 ◆ ◆

月が翳る黎明。

徳川吉宗と秋山小兵衛、魂魄妖夢の三人は御前試合について話し合う。、
しかし、その主催の正体や目的が掴めない以上、先にこの島からの脱出手段を
確保するべく舟を求めて仁七村の海岸へとその足を進めていた。

そうして歩く三人の行く先に人影が在る事に妖夢が気付く。

「この先に誰かいるようね」

妖夢の声に顔を引き締める三者。はたしてその者が御前試合に乗っているか否か。
後者であればそれにこした事はないと願い、慎重に歩みを進る。先程の人影と
吉宗達がお互い顔の見える距離に近づいた所で、その男へと小兵衛が声をかける。

「そこの御仁、少しよろしいかな?」
「私に、何か?」

それは長身痩躯に紺色の陣羽織。といった一見派手に見えよう事もないが、
どこかその立ち振る舞いに優雅さを感じさせる男であった。

「失礼する、余らは徳川吉宗。秋山小兵衛に、魂魄妖夢と申す。
お主も、あの白州に呼ばれた剣客と見受けるが。名を、聞いてもよいかな?」

月が翳る中、吉宗の問いに対して陣羽織の男が歩み出る。

「私は、アサシンのサーヴァント。佐々木小次郎」

その名を聞いた吉宗と小兵衛は互いの顔を見合わせ驚嘆する。

「なんと!?」
「あの、佐々木小次郎殿か?」


二人の様子に妖夢だけは名を知らぬ様子で首を傾げるが、佐々木小次郎と言えば
宮本武蔵との巌流島での決闘が余りに有名な至高の剣客の一人。
しかし、その名は吉宗と小兵衛の時代から百年以上もの昔に没した筈の者であった。
またしても過去の人物を名乗る者の登場に、小兵衛は一人内心で呻く。

(先程の妖夢の件といい、やはり主催者は人外の力を操る魔物か?)

驚きの声を上げる二人に小次郎が声をかける。

「ただ、佐々木小次郎とは名乗っているが、私は似た様な紛い物。そう言ってもおぬし達にはわからぬか」

そう口にした小次郎は妖夢の姿を捕らえると僅かに目を細める。

「しかし、そこの娘からは俺と似た気配を感じるな?」

小次郎に声を掛けられた妖夢がその目を見返しながら口を開く。

「ええ、私は幻想郷から来た半人半霊。貴方は、私とはまた違うようだけれど」
466存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 18:32:14 ID:wU1HJ4/w
「ところで、小次郎殿。お主はこの御前試合、乗るつもりなのか?
もしそうでなければ、余と共に事の真相を探り、主催者を倒さぬか?」

ここで吉宗は小次郎に最も確認すべき問いを投げかける。
しかし小次郎の答えは吉宗が期待したものではなかった。

「断る。私が望むのは。剣客として、命を賭した死合い故に。」
「つまり、御前試合に乗ると?」
「あの主催共の言いなりになるのは気に喰わぬ。だが、剣者としての本能は止められん」

そう答えながらも小次郎は逡巡すると。

「そうだな。おぬし達の誰かが私を打ち負かすほどの腕を持っているならば、
その話を考えてもみようか?」
「つまり、小次郎殿と立ち合えと?」
「うむ」

それは、あくまで死合を望むが故の小次郎の言葉であった。
その問いに顔を見合わせる思考する三者は。

「どうやら無差別に殺し合いをするという訳でもないようですな。」

とはいえ御前試合に乗る。そう明言したも同然の先程の言葉がありながら
こちらが立ち会いに勝てば考えるとは、どうしたものだろうか。
無差別に斬りかかってこない所を見ると、こちらの人数を見て多勢に無勢という事か?
小次郎に対し、思案しながら目を光らせる小兵衛の前で吉宗が一歩前に出る。

「不本意であるが。ならば、まず余がお相手しよう」

吉宗が刀の鍔に手をかけたところで妖夢が前に出る。

「待って下さい。この人からは何か私と似た気配を感じます。私が相手をしましょう」
「しかし、余は女子を先に戦わせ、それを見ている。というわけにはゆかぬ」
「こう見えても私は半霊、そう易々と遅れは取らないわ」
「いや、しかしだな」

どちらが小次郎の相手をするかとお互い引かぬ吉宗と妖夢であったが、
その場を遮るように小兵衛が前に出る。

「ならば、上様。二人の間を取って、ここは私がお相手しましょう」

その心中は、相手の力量とその心、この者が真に佐々木小次郎であるのか?
それを小兵衛自身が量る為だった。
一定の技量を持つ剣客同士であれば、その剣が全て語るはず。
そう考えると小兵衛自身が剣を交えるべく前に出る。
また、一見すると齢六十を越える小兵衛であったが、
その腕前は彼の高名な“辻月丹”が起こした無外流の剣術道場を江戸で営む程の達人である。
二人の間を取った形になる小兵衛の行動に対し吉宗が応える。

「小兵衛。ここは、お主に任せるぞ」
「小兵衛さん、お願いします」
467存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 18:41:05 ID:wU1HJ4/w
小兵衛が小次郎に向き直る。

「小次郎殿も、私がお相手でもよろしいかな?」
「私は誰が相手でも一向に構わぬ」
「しかし小次郎殿、そちらは得物が木刀の用だが」
「案ずるな、見た目は木刀だがこれは特別製であるゆえ」

そう言い放つと自然体のまま木刀を手にする小次郎。
対する小兵衛も刀を鞘から抜き放つと小次郎へ向かい構える。

「さあ、はじめようか」
「では、いきますぞ」

互いににらみ合う二人の周囲に緊張感が走る。
その張り詰めた空気に生唾を呑みながら、二人の対峙を見守る吉宗と妖夢。

暫くにらみ合っていた二人だったがその均衡を小兵衛が破り、
まずは先手必勝と小次郎に向かって一気に間合いを詰める。

小兵衛の放つ鋭い闘気を纏うその太刀筋を小次郎は冷静に見極めると
木刀をほんの少し動かしただけであっさりと受け流す。
だが、わずかな隙をも与えんとばかりに小兵衛は立て続け剣を振るうが
二の太刀も先程と同様に小次郎の巧みな木刀捌きにより流されてしまった。
まるで手応えがない。それ所かまるで柳の枝を相手にしている錯覚に陥る小兵衛。

(こやつの剣の腕、こちらの予想を遥かに超えておる)

だが、幾度目かの小兵衛の剣撃を弾き返した小次郎の体勢が僅かに崩れる。

その隙を見逃さずに小兵衛は手の中で素早く刃の峰を返すと
木刀を持った手に狙いを付け、刀を一気に振り下ろす。

しかしその隙は小次郎の仕掛けた罠だった。

小兵衛が峰を返すと同時に、小次郎は全くの無挙動から自然な動きで
木刀を前に突き出す。おそらく急所である腎臓を狙ったその一撃は
すでに小兵衛がかわせるタイミングではなく、木刀とはいえ
硬い切っ先が正確に人体急所を射抜くだろう。

小兵衛は回避と防御を即座に諦め、体を無理やり傾けながらも小次郎に対し
一歩踏み込むと、木刀が鳩尾をかすめその腹に突き刺さる。
呻き声を上げながらも距離を詰める事で威力と打点をずらす事に成功する。
小兵衛は未だ腹に突き刺さる木刀を払おうと刀を振るうが
打ち込みの甘さとその意図に気付いた小次郎が木刀を素早く後退させかわす。

小次郎の隙の無さと見事な剣捌きに対して打ち合いで勝負の先が見えず、
小兵衛は多少強引な戦い方を試みるべく、小次郎へ己の体をぶつける。

その一撃は流石に小次郎の予想の範疇を超えていたらしく小次郎の体勢が崩れる。
小兵衛は密着した陣羽織を右手で素早く掴み、柔道よろしく、勢いにまかせ投げつける。
すかさず、地面に叩きつけられ倒れた小次郎の動きを封じようと
小兵衛は刀を振るうが間一髪で受身を取った小次郎は体を転がしながら
小兵衛の剣を紙一重でかわし素早く体勢を整える。

小次郎は小兵衛との距離をはかりながら体のダメージを確認してみるが、
投げられた際に打った背中に多少の痛みを感じる程度で
剣を振るうのには問題はない様子だった。
468存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 18:45:34 ID:wU1HJ4/w
両者の激しい攻防を見守っていた吉宗と妖夢だったが、小次郎の剣捌きと
普段の小兵衛からは想像できなかった戦い方に感嘆の表情を浮かべる。
それほど小次郎が一筋縄ではいかない相手という事なのだろう。

対する小兵衛は手数では小次郎に勝っていたはずなのだが、
一連の動きと木刀で突かれた脇腹の痛みに肩で息をする。

小次郎は小兵衛の戦いに山南敬助との戦いで、
その顔面に拳が飛んできたのを思い出す。なんとも、泥臭い戦いだが。
本来の戦いとはそういった側面の方が多いのも確かだなと考えながら。

(だが、私の剣はまだまだこんなものではないぞ)

小次郎は、ふたたび自然体をもって木刀を手にすると。

「先程は受け手にまわったが、次は私から行かせてもらおう」

瞬間、小次郎の繰り出す無数の高速の斬撃が、小兵衛を襲う。

その高速の乱舞は、とてもではないが、打ち返せる程のものではなく、
小兵衛は僅かに捕らえられる残像を頼りに防御するのが精一杯であった。
相対する中、小兵衛は内心で大量の冷や汗をかいていた。

(この者の剣、只者ではない。というより強すぎる。白州でも多くの者に感じた事だが、
この若者が佐々木小次郎というのも存外嘘ではないのかもしれぬ)

だが、小次郎の剣を受けながら小兵衛はその剣筋に一切の邪念が感じられない事に気付く。
最初は、主催者側の手下かと疑っていたが、純粋に剣者としての強さを競う為に、
死合いを求めるという小次郎の言葉も真実だろうか。

「おぬし、年甲斐の割になかなかの剣の腕よ」
「いや、小次郎殿こそ噂に違わぬ剣才ぶり」

自分よりもだいぶ老齢の剣士とはいえ、こうまで俺の剣を受け流すとは。
流石、白州に呼ばれるだけの事はある、一筋縄ではいかぬか。

ならば。

「佐々木小次郎が秘剣、はたして受けきれるかな?」

そう言い放つ小次郎は。手にした木刀を顔と重なる位置に持っていき、
八艘の構えを横に水平とした、独特の構えを取る。

佐々木小次郎が秘剣。となれば、かの有名な燕返し!
聞く所によると、あまりに名の知れたその剣技は、燕を落とす事により編み出され。
一の太刀をかわしたところで、返す二の太刀によって切り伏せられると聞いている。
小兵衛は小次郎が自分よりも過去の剣客であり、その名が剣と共に有名であるからこそ、
その技の正体をある程度予想できると考える。
ならばその太刀筋を見極め、本命であろう二の太刀を凌いだその時こそ勝機。
469存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 18:52:01 ID:wU1HJ4/w
「ゆくぞ!!」

―― 秘剣 燕返し ――

超高速の刃が小兵衛を襲う。

小兵衛は、全神経を集中させ僅かな動きも見逃さぬようにその剣筋に意識を集中させる。

・・・、見えた。

体を両断する一太刀目を、わずかに右へ半身をずらす事で辛うじてかわし。
その身を囲うように迫る二太刀目を、一歩踏み出し距離を詰る事で刃を受け止める。

勝機!!

小次郎の斬撃の衝撃を受けながら、二太刀を防いだ事で勝利を確信した中でその刃を返そうとする。
しかし、小兵衛の瞳が眼前で不敵な笑みを浮かべる小次郎の瞳を捕らえた。
その小次郎の笑みに疑問を抱く。

燕返しの二の太刀を防がれたというのに、何故こうも不敵な笑みを浮かべていられるのだ?
小兵衛の疑問を嘲笑うように、小次郎の瞳が”私こそ勝者だ”と言わんばかりにその双眸を光らせる。
勝機を確信していた小兵衛は背筋に鋭い悪寒が走るのを感じとる。
それは剣者として研ぎ澄まされた勘が、何か致命的な勘違いをしていると警報を鳴らす音であり、
小兵衛の視界が本来そこにありえぬモノを捉える。

(なんと!?)

それは、本来の佐々木小次郎にはありえない燕返しの三太刀目であり、
二太刀目の囲いを破り動こうとする者を捕らえるべく迫る。

得物が木刀でありながらも必殺の威力を秘めた破滅的な一撃が
小兵衛の首筋を正確に狙い抗う事はもはや不可避。

(ここまでか)

先程の勝利とは打って変わり、己の敗北を確信する。
悲鳴を上げる吉宗と妖夢。

「小兵衛!!」
「小兵衛さん!!」

……。
470存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 18:58:54 ID:wU1HJ4/w
しかし、その斬撃が小兵衛の体を打ち砕く事はなかった。
否、小次郎の木刀は小兵衛の首筋で寸止めされていた。
小兵衛の無事を確認した吉宗と妖夢が二人に駆け寄り安堵の表情を見せる。
自分が生きている事を確認するした小兵衛は、額からどっと冷汗を
垂らしながら当然の疑問を口にしてみる。

「小次郎殿、何故?」

小兵衛の問いに小次郎は、ふっ、と笑い。

「いやなに、おぬしの剣には一度として殺気がなかったのでな」

戦い中で峰打ちを狙った所を見ると恐らくは私の剣を量っていたのだろう?
そのような者を斬った所で私は死合をしたとは言えぬ。
あっさりとそう言い放ち木刀を下げる小次郎。
また小兵衛が小次郎を斬るつもりで剣を振るっていたならば、
勝負の行方はまた違ったのかもしれぬ、
そう語る小次郎に小兵衛はすまぬと謝ると心の内を正直に話す。

「見抜かれていましたか。小次郎殿、無粋な真似をしてすまなかった」
「ふっ、気にせぬゆえ。だが先程のおぬし等の話は断っておこうか」

小兵衛は噂に違わぬ腕前を持つ小次郎の剣と燕返しの三太刀目に驚愕した事を話す。

「なに、私の剣は多少邪道でな。本来の小次郎の剣とも多少異なるのよ」
「はて。本来の、と言いますと?」
「さて、どう話したものかな」

その言葉に首を傾げる小兵衛とどう語ったものかと迷う素振りを見せる小次郎。
そこで吉宗が現状を把握する為に少しでもお互いの情報を交換するべきではないかと持ち掛ける。
吉宗の言葉に以前の聖杯戦争の事や、自身が本来はアサシンの英霊として
”佐々木小次郎”の名を借りた無名の剣客である事を簡単に話す。

「私は“佐々木小次郎”の名を借りて呼び出される事によってのみ、この世に存在できる」

ならば、その技を振るい強者と命を賭した死合の瞬間こそ私が生きていると
その存在を、証明できる証なのだ、と話す。だから吉宗の提案には乗れぬと。

「そうであったか。だがお主程の剣客が決して邪な気持ちで御前試合にのっていない
という事だけは余もうれしく思う」

できれば、やはり余らと同行して欲しいと思うがそれは口にするまい。
頷く吉宗らを背に、木刀を腰に差すと小次郎は背を向け歩きだす。

「少し話し過ぎたようだ、私はもう行くとしよう。
ここでおぬし等と無理に戦った所でいい死合もできぬであろうしな」

口にするや否、すぐさま吉宗達と反対の道へ歩もうとする小次郎の背中に小兵衛が声をかける。

「小次郎殿」
「なにか?」
「剣を打ち合った拙者にはわかる、さーヴぁんと、というものが何か、拙者にはわからぬ。
だが、お主のその高潔な精神、技は。噂に違わぬ佐々木小次郎殿、そのものであったよ」
「そうか」

ふっ、一言息を吐くと今度こそは振り返らずに小次郎は三人の前から姿を消す。

強者との死合を求め。
471存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 19:01:40 ID:wU1HJ4/w
【ほノ陸 歩道/一日目/黎明】

【佐々木小次郎(偽)@Fate/stay night】
【状態】左頬と背中に軽度の打撲 疲労(小)
【装備】妖刀・星砕き@銀魂
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:強者と死合
一:愛刀の物干し竿を見つける。
二:その後、山南と再戦に望みたい。
【備考】
※自身に掛けられた魔力関係スキルの制限に気付きました。
※多くの剣客の召喚行為に対し、冬木とは別の聖杯の力が関係しているのか?
と考えました、が聖杯の有無等は特に気にしていません。
登場時期はセイバーと戦った以降です。
どのルートかは不明です。



 ◆ ◆

佐々木小次郎と別れた三人は、再び仁七村へとその歩みを進めていた

「しかし、小兵衛に妖夢よ。お主達は、先程の話どう思う?」
「どんな願いをも叶える聖杯。聖杯戦争に、さーヴぁんと達の殺し合いですな。」
「私はあながち嘘ではないと思うわよ、私の世界でもそんな話は聞いた事がない
けれど、この世には私たちの知らない事なんていくらでもあるのだから」
「たしかに、半人半霊のそなたに言われると、説得力が増すな」

多少の違いはあるものの、多数の剣客の召喚、勝者の願いを叶えるという部分を
考えると、確かにこの御前試合は小次郎から聞いた聖杯戦争と内容が酷似していた。
徳川吉宗に魂魄妖夢、それに佐々木小次郎殿か、信じてみてもいいのかもしれぬ。
小兵衛は二度も立て続けに人外の者に出会った事、またその二人の常識の範疇を超えた
話に対し熟考していたが、やがてその口をひらく。

「その事ですが。実は上様に話さなければいけない事がありましてな」
「改まってどうした?小兵衛」
「ええ、お恥ずかしながらこの小兵衛、実は上様の事を騙り。と最初は疑っておりました」

そもそも小兵衛にとっては徳川吉宗も佐々木小次郎と同様に過去の者なのであり、
小兵衛の住む江戸においての将軍は十代目、徳川家治であるのだ。
という事を吉宗に告げる。

「何と、それでは余も本来は既に過去の者。死んでいるという事か?」

吉宗の疑問に妖夢が自らの考えを口にする。

「そう結論付けるのは少し早いのじゃないかしら?
今までの話を総合すると皆それぞれの時代から直接呼ばれた。
という表現が最も可能性が高いと思うわ。
そう、さっき聞かせてもらった聖杯戦争の英霊のようにね」
472存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 19:05:46 ID:wU1HJ4/w
「成程。そうなるとこの御前試合の黒幕は、いよいよ人外の力を操る妖の類
であろう事が確実ですぞ、そのような相手と一体どのように対峙したものか」

呻く小兵衛の様子に、そう悲観するものでもないぞ。と吉宗が声をかける。

「なに、人外の者ならばこちらにも妖夢がおるではないか。それも余らと同じ正しき心を持った者がな」

刀を振るう事ならば、余と小兵衛でもできるであろうが。
こと、妖術の類となれば論外である。
だがこちらにもそれらに精通している者がいる事。その事がどれほど心強いか。
そう口にすると吉宗は妖夢に微笑みかける。

「私はただ、無益な争いを好まないだけよ」

正面きって褒められる事になれていない妖夢は、吉宗の真摯な瞳に思わず
目線を逸らしてしまう。

「はっはっは。上様、どうやら妖夢は照れておる様子ですぞ」

小粋な笑い声を響かせる小兵衛とその言葉にむっとした様子の妖夢。

「もう、子ども扱いしないで頂戴」

そうはいっても、半人半霊という事さえ除けば妖夢のその愛らしい童女姿は
吉宗や小兵衛から見れば、娘や孫ように写らないこともなかったのだろうか。

「いやすまぬな。だが、そちを頼りにしている事は本当だぞ」
「そうね。本来の力を取り戻す為に、私も早く楼観剣と白楼剣を見つけないといけないわね」

吉宗の言葉に頷く妖夢に相変わらず笑みを浮かべる小兵衛。

そうこう話しているうち、三人の前に一先ずの目的地であった仁七村の海岸が見えてくる。
はたして当座の目的であった舟は見つかるのか?その先に待ち受けるものは何か。

この、御前試合なる殺し合いの主催者の正体を暴き。
その企みを阻止せんとする、共通の目的を新たに再確認し、
それぞれの胸に決意を新たにする、吉宗達一行であった。
473存在証明/新たな決意をその胸に ◆IVe4KztJwQ :2009/08/29(土) 19:11:02 ID:wU1HJ4/w
【にノ漆 海岸/一日目/黎明】

【徳川吉宗@暴れん坊将軍(テレビドラマ)】
【状態】健康
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者の陰謀を暴く。
一:仁七村の海岸に舟がないか調べる。舟があれば押さえる。
二:小兵衛と妖夢を守る。
三:妖夢の刀を共に探す。
【備考】
※この御前試合が尾張藩と尾張柳生の陰謀だと疑っています。
※御前試合の首謀者と尾張藩、尾張柳生が結託していると疑っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識。
及び、秋山小兵衛よりお互いの時代の齟齬による知識を得ました。

【秋山小兵衛@剣客商売(小説)】
【状態】腹部に打撲 疲労(中)
【装備】打刀
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:情報を集める。
一:仁七村の海岸に舟がないか調べる。舟があれば押さえる。
二:妖夢以外にも異界から連れて来られた者や、人外の者が居るか調べる
【備考】
※御前試合の参加者が主催者によって甦らされた死者かもしれないと思っています。
 又は、別々の時代から連れてこられた?とも考えています。
※一方で、過去の剣客を名乗る者たちが主催者の手下である可能性も考えています。
 ただ、吉宗と佐々木小次郎(偽)関しては信用していいだろう、と考えました。
※御前試合の首謀者が妖術の類を使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。

【魂魄妖夢@東方Project】
【状態】健康
【装備】無名・九字兼定
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:首謀者を斬ってこの異変を解決する。
一:この異変を解決する為に徳川吉宗、秋山小兵衛と行動を共にする。
二:愛用の刀を取り戻す。
三:自分の体に起こった異常について調べたい。
【備考】
※東方妖々夢以降からの参戦です。
※自身に掛けられた制限に気付きました。
 制限については、飛行能力と弾幕については完全に使用できませんが、
 半霊の変形能力は妖夢の使用する技として、3秒の制限付きで使用出来ます。
 また変形能力は制限として使う負荷が大きくなっているので、
 戦闘では2時間に1度程しか使えません。
※妖夢は楼観剣と白楼剣があれば弾幕が使えるようになるかもしれないと思っています。
※御前試合の首謀者が妖術の類が使用できると確信しました。
※佐々木小次郎(偽)より聖杯戦争の簡単な知識を得ました。

以上で本投下を終わります。

また、仮投下の際にアドバイスをいただきありがとうございました。
474名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 14:14:13 ID:LVrRkImr
投下乙!
上様一行はこんな状況だって言うのになんだかいい雰囲気だw
というか小次郎(偽)が渋いな。
475名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 17:40:02 ID:gbjA3IXb
そろそろ全キャラクターの二回目登場も終わりそうだから確認したい
んだけど剣客ロワだと時間表記はどうなってるんだっけ?
他のロワみたく二時間ごとに
深夜(0:00〜2:00)黎明(2:00〜4:00)早朝(4:00〜6:00)朝(6:00〜8:00)
と移行していく感じでいいのかな?
476名無しさん@そうだ選挙に行こう:2009/08/30(日) 18:47:58 ID:URSMoJmW
投下乙!
そりゃアサシンさん能力制限されて当然だわw
あと最後の三行が水戸黄門のナレーションに思えたのは俺だけで良い
477創る名無しに見る名無し:2009/08/30(日) 19:57:26 ID:soGU2Q72
再投下乙です

>>475
それでいいと思います
478創る名無しに見る名無し:2009/08/30(日) 23:48:11 ID:2Ms4ZKVz
セイバーに敗れて消えたってことは、
小次郎(偽)は遠坂ルート後で確定か?影響なさそうだけど
479 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/01(火) 22:03:20 ID:5KoEFjhF
坂本龍馬、屈木頑乃助、斉藤一、富士原なえかで予約します
480創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 07:50:50 ID:ntydIH97
予約キタ!!
両氏とも頑張ってください。
481 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/02(水) 20:44:52 ID:+N5s2eyO
坂本龍馬、屈木頑乃助、斉藤一、富士原なえかで投下します
482一人脱落、一人参戦 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/02(水) 20:46:25 ID:+N5s2eyO
「おーい、甲子太郎、綸花、どこじゃー?」
森の中を仲間を探して駆け回る坂本龍馬。
無論、城下からまっすぐ北に向かった彼等がこんな所にいる筈もないのだが、竜馬はまだそれに気付いていない。
「のう、わしには負けるがハンサムな男とキュートなガール二人の三人連れを見んかったか?」
いきなり立ち止まって木陰に向かって話し掛ける龍馬……と、返事の代わりに返って来たのは投石。
「うわっと」
龍馬が石を避けると、そのすぐ後から人影が飛び出して龍馬の頭上を飛び越える。
慌てて振り向く龍馬の前にいたのは、地に伏せるような妙な格好で剣を構える蝦蟇のような男……屈木頑乃助。
「何じゃ?」
龍馬の疑問に答える事なく、無言で足を薙いで来る剣を、龍馬は素早く抜いた剣を地面に叩き付けて受ける。
しかし、龍馬の剣は師岡一羽との激戦で既に限界が来ていたのだろう、地面の石に当たった衝撃で切っ先が欠けてしまった。

「いきなりフットをカットして来るとは、バイオレンスな奴じゃな」
龍馬は文句を付けるが、江戸初期から来た頑乃助には通じる筈もなく、蝦蟇は無言で剣を振るい続けて龍馬を追い詰める。
最初に龍馬が声を掛けて来た瞬間、既に頑乃助は何としても龍馬を仕留める決意を固めてしまっていた。
奇矯な男だが、気配を消していた頑乃助をあっさりと見つけたその能力は本物。
しかも、その言葉の頑乃助にもわかる単語を繋いで推測するに、どうやらこの男には仲間がいてそれを捜しているようだ。
頑乃助のがま剣法は一度に複数の敵を相手にするには不向きであり、集団を相手にするなら奇襲しかない。
しかし、この鋭敏な男が仲間と合流すればそれも困難……故に、この男はここで斃してしまわねばならない。

(こりゃあ険呑じゃな)
剣で足を狙う戦法は、戦国期には普通に行われていたらしいが、江戸期の道場剣術では廃れて行った。
同時に足狙いへの対処法も忘れられ、江戸後期には柳剛流なる脛斬りを得意とする流派に剣術界が席巻された事もある。
江戸で剣名を謳われた剣客達が無名の剣士に足を打たれ、或いは足を守る為にがら空きになった上半身を打たれ敗れたのだ。
当然、江戸の剣士達とて負けっ放しだった訳ではなく、研鑽の末に脛斬りへの対抗策を開発して柳剛流を衰退させた。
例えば剣を地に叩きつけるようにして脛斬りを受け、或いは踵を跳ね上げ避けて、隙だらけの面を打つのである。
だが、それらはあくまでも板貼りの道場で竹刀を持って試合する事を前提とした対応法、実戦で通用するとは限らない。
実際に、先程の受けで龍馬は剣を折ってしまったし、足場の悪い森の中で足を跳ね上げ続ければどうなるか……
何とか反撃したくても、低い姿勢を保っている頑乃助は、攻撃を避けられてもすぐに剣を戻すのでその暇がない。
そしてついに、足を跳ね上げて頑乃助の剣をかわし続けていた龍馬が木の根に足を取られ、大きく体勢を崩す。
その龍馬に、頑乃助は必殺の突きを見舞った。

体勢を崩した龍馬の膝に、頑乃助の必殺の突きが迫る。
頑乃助は龍馬が足を攻撃され続けても上半身の防御を忘れないのを見、佐々木小次郎を葬った膝への突きを使う事にしたのだ。
どうもこの男は足を狙う流派と戦った経験でもあるようだが、膝への突きは他のどの流派にもない筈。
今までのように踵を跳ね上げても膝を狙われては無意味だし、体勢が崩れていては剣で受け止めるのも不可能。
正に頑乃助にとっては必殺の状況だが、龍馬はこの状況に勝機を見出していた。

脛斬りは確かに江戸後期の剣士にとっては奇手であるが、それはあくまで剣術を専修していた剣士にとってはのこと。
剣以外のいくつかの武術……例えば薙刀術においては脛斬りは定石の一つに過ぎない。
そして、龍馬は小千葉道場において、剣だけでなく薙刀も……いや、むしろ剣以上の熱心さで薙刀を学んでいた。
まあ、その熱心さの過半は長刀師範である千葉さな子と触れ合いたいという、非常に不純な動機から出た物だったのだが、
それでも持ち前の要領の良さとさな子の熱心な指導のお蔭で、龍馬は薙刀でも相当の腕前になっている。
実戦で使う機会などないだろうと思っていたその薙刀術の下段攻撃への返し技を、この場面で龍馬は使おうとしていた。
483 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/02(水) 20:47:45 ID:+N5s2eyO
頑乃助が身を乗り出しつつ突きを放ち、龍馬の身体が倒れる。
しかし、突きは決まっていない。龍馬が突かれる前に自ら仰向けに倒れる事で、頑乃助の剣をかわしたのだ。
下段を狙って来る攻撃に対し、その更に下に潜る事によって回避する。
この無謀な技が実戦で成功するか不安はあったが、今回は龍馬が賭けに勝ったようだ。
一方の頑乃助は、突きをかわされたせいで龍馬に無防備な身体をさらけ出す事になった。
慌てて上に跳躍する頑乃助だが、一瞬遅く、龍馬の剣がその足を薙ぐ。

「ちいっ」
龍馬の剣の切っ先が欠けていた事もあって、頑乃助の足の傷はそう深い物ではない。
それよりも問題は今の体勢……前掛かりの状態から跳んだ為、頑乃助は龍馬の身体を飛び越してしまっている。
我流の奇剣の宿命言うべきか、がま剣法は後方からの攻撃に対する受け手がないという大きな弱点を持っていた。
龍馬の追撃を防ぐ為、頑乃助は着地すると間を置かずに地面を二転三転してから振り返るが、そこに龍馬の姿はない。
「ほいじゃ、シーユーアゲインじゃ〜」
龍馬はここで決着をつけるよりも、逃走を選んだ。無論、折角の好機を捨てて逃げたのには彼なりの計算がある。
戦ってみて、あの蝦蟇男の奇剣は一対一で戦えば難剣だが、多数を相手にするには向かない技だと感じた。
ならば、(龍馬の主観では)すぐ近くに居る筈の仲間達と合流すれば、殺さずに捕える事も出来よう。
それが龍馬が決戦を避けた理由だが、その裏には殺人への忌避感がある事を本人は気付いているのかどうか。
ともかく、龍馬は血戦の地に背を向け、志を共にする仲間達を目指して(いるつもりで)走り続ける。
484 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/02(水) 20:48:53 ID:+N5s2eyO
頑乃助に背を向けて走る龍馬だが、蝦蟇の気配は遠ざかるどころか徐々に近付いて来る。
どうやら頑乃助に龍馬を逃がすつもりがない上、足を負傷して尚、その疾走は龍馬を上回っているようだ。
(こりゃあ、エスケープするのはインポッシブルじゃな)
思い切り良く逃走策に見切りを付けた龍馬は、神経を背後に集中させて頑乃助の気配を探る。
先程は見事にがま剣法を破って見せた龍馬だが、そう何度もうまく行くとは思えない。
それよりも、頑乃助が追いついて来た所に振り向きざまの一撃で勝負を賭けた方が勝算が高いと踏んだのだ。
龍馬が気配を探る方に気を取られたせいで走る速度は落ち、頑乃助がぐんぐんと近付いてくる。そして、
(このタイミング!)
頑乃助が間合いに入った瞬間、正にベストタイミングで龍馬は振り向き、剣を振るおうとするが……

「ぬおおおっ」
足をもつれさせて龍馬が転ぶ。
犯人は木刀……龍馬が振り向きざまの一撃を狙っているのを読んだ頑乃助が、その足の間に木刀を放って引っ掛けたのだ。
倒れた龍馬の前には既にがま剣法の構えを取った頑乃助の姿が。
地に伏せていると言う点では二人の格好は似ているようにも見えるが、この状況で戦えば優劣は明らか。
龍馬の喉があっさり貫かれようとした瞬間、頑乃助がいきなり立ち上がって大きく後方に跳躍する。
何故、もう少しでとどめを刺せた龍馬を放って頑乃助が飛び退いたのか、問わずとも龍馬にはわかっていた。
戦う二人に向けて、横合いから凄まじい殺気が叩きつけられたのだ。
龍馬が身を起こしつつそちらを見やると、そこには眼光の鋭い老人……斉藤一が立っていた。
485 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/02(水) 20:50:08 ID:+N5s2eyO
屈木頑乃助は、坂本龍馬へのとどめを刺し損ねた事を後悔していた。
凄まじい殺気に思わず退いてしまったが、よく見ると相手は相当の高齢、しかも武器すら持っていないように見える。
これなら、無視して龍馬を片付けてからゆっくりと相手をすれば良かった、と思ってももう遅い。
ただでさえがま剣法は複数を相手にするのが苦手な上に、ここまでの全力疾走で足の怪我が悪化している。
頑乃助が退却も選択肢に入れつつ出方を伺っていると、斉藤は先に龍馬の足を引っ掛けた木刀を拾って頑乃助の方を向く。
「お主は……」
何か言いかける龍馬を一顧だにせず、斉藤は剣を構えると高く跳躍し、頑乃助の頭上から突きを放つ。

(甘い!)
上空からの地面ごと串刺しにせんとする突き……一見、がま剣法に対抗する戦術としては悪くないように思える。
これならば相手が地に伏せていても問題なく攻撃が届く上に、落下時間の増加に伴って突きが加速され、威力が増す。
その上、地に伏せた姿勢からでは後ろや左右に動いて回避するのは難しいし、前によければ背後を取られてしまう。
しかし、頑乃助には前後左右以外にももう一つ選択肢があるのだ。
頭上から迫る斉藤に対し、自身も負傷を省みぬ渾身の跳躍で迎撃する頑乃助。
両雄の必殺の突きが、空中で交錯する。

「ぐっ」
両者の突きが空中で激突した瞬間、呻き声を上げたのは斉藤の方であった。
「愚かな、人が蝦蟇に跳躍で勝てるか!」
正にその通り、頑乃助の人間離れした跳躍力が、突きに斉藤を上回る突進力を付加したのである。
頑乃助の足が完全でなかった事もあり、斉藤が受けた衝撃はそう大きなものではない。
しかし、斉藤が僅かに上へ跳ね飛ばされた事で、二人の着地時刻に刹那の、しかし致命的と言えるずれが生じた。
先に着地した頑乃助は、その時間差の間に素早くがま剣法の構えを取り、斉藤が着地した瞬間にその足を薙ぐ。

「何!?」
斉藤の足を切り捨てる筈の頑乃助の一撃はしかし、思いがけぬ剣の重さのせいで鋭さを欠き、あっさりとかわされる。
驚いた頑乃助が己の得物を見ると、頑乃助の刀は斉藤が持っていた木刀を切っ先から柄付近まで刺し貫いて一体化していた。
先程の空中での衝突で、斉藤が突きの方向と位置を寸分違わず頑乃助の突きに合わせ、己の木刀を貫かせたのだ。
もしも僅かでも狂いがあれば、木刀は刀と合体する前に割れるか砕け、斉藤だけが武器を失う破目になっていただろう。
剣の時代が過ぎて数十年、それでも弛まずに稽古を続けて来た斉藤の剣の精華である。
斉藤は重くなった上に重心が狂った頑乃助の剣を簡単にすり抜け、下段回し蹴りをその顔面に叩き込んだ。

頑乃助は顔面に強烈な一撃を受けて吹き飛び、使い物にならない剣を手放して着地と同時に鞘を抜きかけつつ向き直る。
しかし、前方には既に斉藤の姿はない。
老人とは思えぬ俊敏さで頑乃助の後方に回り込んでいた斉藤は、蝦蟇の首に腕を回すと、渾身の力で締め上げる。
剣術に関しては一流の頑乃助も、素手による締め技への対処は知らず、蝦蟇の首は今にもへし折られようとするが……
「斉藤君、ストップじゃ!」
龍馬に声を掛けられて斉藤の力が一瞬だけ緩み、その隙に頑乃助は抜きかけた鞘を思い切り戻して背後の斉藤を突く。
「ちっ」
突きが上手く鳩尾に決まり、頑乃助はどうにかその魔手から脱出して鞘を抜き放つ。
しかし、龍馬が慌てて駆け寄って来るのを見ると、さすがにこれ以上の交戦は無理と判断し、駆け去った。
486 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/02(水) 20:50:58 ID:+N5s2eyO
斉藤は龍馬を軽く睨む。
もう少しであの蝦蟇を仕留められる所を邪魔した事に対する抗議を視線に込めたつもりだが、通じていないようだ。
ついさっき殺されかけたとは思えないような気楽な調子で、龍馬は斉藤に話し掛けて来る。
「そのファイトスタイル、やはり斉藤君か。それにしてもその姿はどうしたんじゃ、玉手ボックスでもオープンしたんか?」
(俺から見ればあんたの方こそ浦島太郎みたいなものなんだがな)
そう思うが口には出さず、斉藤は頑乃助が捨てて行った刀を拾い、宙を思い切り突いて木刀を割り、刀のみを取り出す。
やはりかなりの名刀……少なくとも、今まで使っていたエペや木刀とは比べ物にならない。
表情には出さないが満足した斉藤は、それを手に、まだ喋り続けている竜馬を置いて歩み去ろうとする。

「ん?どこに行くんじゃ?斉藤君」
「奴等を斬りに」
龍馬の問いに恐ろしく簡単な答えを返しただけで立ち去ろうとする斉藤だが、龍馬がそんなに簡単に行かせる筈もない。
「奴らっちゅうのは、ワシらに殺し合えとかぬかした爺さんの事か?じゃが、あの爺さんの居所を知っとるのか?」
「いや。とりあえずは城にでも……」
「ああ、あのキャッスルには誰もおらんかった。ワシと綸花っちゅう女子で隈なくサーチしたんで間違いないはずじゃ」
「……」
あっさりと龍馬に先を越されていた事を知って押し黙る斉藤。
まあ、先見性とかその手のものでこの人と競っても勝ち目がないのはわかっていた事ではあるが。
「そうそう、それより甲子太郎を見んかったか?ここらで合流する約束をしとったんだが見付からんくてな」
「伊東さんが?」
伊東甲子太郎……斉藤のかつての同志であり、自らの手で死地に追いやった人。
己の信念を貫いて生きて来た斉藤が、思い出す時にある種の苦さを感じる数少ない……もしかしたら唯一の人物だ。
正直に言うと会いたくない気もするが、それは斉藤にとっては逃げだ。
この程度の事から逃げているようでは、信念を貫いて未知の力を持つ主催者を討つなど到底かなうまい。
「わかった。伊東さんが見付かるまで、俺もあんたに同行しよう」
「おお!そりゃあ助かるぜよ。何せ甲子太郎はキュートなガールを二人も連れとるから心配でのお」
気楽な調子を崩さずに話し掛けて来る龍馬。
龍馬は伊東甲子太郎暗殺の件については知る由もないとは言え、斉藤の老化についてもまるでこだわる様子はゼロだ。
一方の斉藤も、龍馬が自身の死を覚えているのか、或いは死ぬ前の時間から連れて来られたのか、確かめようともしない。
まるで接点がないようでいて、見方によればよく似たこの二人の合同はこの殺し合いに如何なる変化をもたらすのか……

【にノ弐 森の中 一日目 黎明】

【坂本龍馬@史実】
【状態】健康 方角を勘違い中
【装備】日本刀(銘柄不明、切先が欠けている) @史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いで得る天下一に興味は無い
一:斉藤一と同行する
二:急いで綸花達に追いつく
【備考】
登場時期は暗殺される数日前。
名簿を見ていません

【斉藤一@史実】
【状態】健康、腹部に打撲
【装備】徳川慶喜のエペ(鞘のみ)、打刀(名匠によるものだが詳細不明、鞘なし)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者を斬る
一:坂本龍馬を護衛する
二:伊東甲子太郎を探す
【備考】※この御前試合の主催者がタイムマシンのような超科学の持ち主かもしれないと思っています。
※晩年からの参戦です。

※にノ弐の茂みの中に、屈木頑乃助の行李(支給品二人分入り)が放置されています。
487 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/02(水) 20:52:02 ID:+N5s2eyO
森の中を、少女が駆け回っていた。
と言っても、彼女の場合は先程までの龍馬とは違い、誰かを探して、或いは何か他の目的があって走っているのではない。
ただ、己の身体の中に芽生えた恐怖に命じられるままに、当てもなく、己の向かう方向すら意識せずに駆けているのだ。
どれくらい走ったか、ろくに足元も見ずに走っていた少女は、何か丸い物に乗り上げて見事にすっ転ぶ。
「痛た……何よ、これ」
少女……富士原なえかは自分を転ばせた物体を拾い上げて観察してみる。
それは、水晶らしきもので出来た玉で、よく見ると表面に「信」の文字が浮かび上がっていた。
「まるで八犬伝ね」
無論、八犬伝は一部史実を基にしているとはいえフィクションなのだから、この珠も模造品に決まっているのだが。
それでも、どんな仕掛けか淡く光るこの珠を握っていると、己の心を支配する恐怖が引いていく気がする。
「清河さん……」
心が落ち着いて漸く、なえかは清河八郎……命を賭けて自分を助けてくれた侍の事を思い出す。
「戻らなきゃ」
自分が戻って助けなければ清河は死んでしまう……戻った所で既に死んでいるかも、という事は敢えて考えない。
恩人を見捨てて一人だけ逃げるなんて、自分はなんて情けない事をしてしまったのだろうか。
とにかく、今からでもするべき事をしようと、なえかは霊珠と決意を胸に立ち上がる。
「待っててね、清河さん」
その時だった。彼女の前に、傷付いた蝦蟇が現れたのは。

坂本龍馬と斉藤一から必死に逃走して来た屈木頑乃助。
この疾走で足の傷は更に悪化し、最早がま剣法を以前のように振るう事は不可能だろう。
斉藤に折られかけた喉の傷も酷く、これでは息を殺して隠れ潜む事すらままなるまい。
そんな状態でも頑乃助の心は折れない……それを支えるのは千加への妄執か、それとも剣士の意地か。
「待っててね、清河さん」
前方から聞こえて来た声に立ち止まると、同時にそこにいた少女も頑乃助に気付き、咄嗟に剣を抜く。
もしも出会ったのが他の剣士であれば、頑乃助も己の疲労と負傷を考えて逃げに走ったかもしれない。
しかし、なえかの顔に浮かんだ恐怖と嫌悪の表情を見た時、頑乃助は彼女をこの場で討ち果たす事を決意した。
それに、あまりに真っ当な剣の構え、僅かに慄える手……彼女が殺し合いの経験を持たない剣士である事は明らか。
これならば龍馬や斉藤と戦った時とは違い、奇手をもってがま剣法を破られる心配はまずない。
そのくせ、持っている得物は相当の名剣……つまり、彼女は頑乃助にとって絶好のカモでもあるのだ。

「あなたは美しい。お顔も、剣も。しかし、その美しい剣では私の醜い剣にとても敵わぬ」
余裕か、嗜虐心か、或いは単に息を整えるまでの時間稼ぎか、頑乃助は言葉でなえかを嬲り始める。
「一人であの世に行くのは寂しかろう。先程あなたが名を呼んでいた……清河と言ったな。その者はあなたの想い人か?
 清河、その名は確かに人別帖にあった。あなたのように美しい女子に思われるとは、さぞかし美男なのだろうな。
 その者もすぐにあなたの後を追わせよう。鼻を削ぎ、脚を切って、この屈木頑乃助が必ず息の根を止めてくれよう。」
清河を殺す……その言葉でなえかの手の震えが止まり、キッと頑乃助を睨み付ける。
その様子がまた頑乃助の憎悪を掻き立て、高まる互いの戦意が、自然と闘争を開始させる。

「やあ!……きゃっ」
地に伏す頑乃助に対し、思い切り剣を振り上げて叩き付けようとするなえかだが、その前に頑乃助の鞘が足を打つ。
怯んで隙が出来たなえかの顔面に狙いを定める頑乃助……しかし、ここでよろめくなえかの懐から霊珠が零れ落ちる。
「えっ?」「何!?」
「信」の霊珠が強烈な光を発し、頑乃助もなえかも共に目を灼かれて一時的に視力を失う。
その光の中で二人の心に芽生えたのは、己の剣に対する強い信頼……故に、二人は目の見えぬまま全力で剣を振るった。
488 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/02(水) 20:52:53 ID:+N5s2eyO
「え……?」
視力を取り戻したなえかの目に入って来たのは、串刺しにされ息絶えた頑乃助、そして返り血に塗れた己の姿。
互いに全力の突きを繰り出した結果、負傷した脚が限界を超えた頑乃助の突きが逸れ、壺切御剣が頑乃助を貫いたのだ。
無我夢中で戦っていたなえかだが、我に返った今は、自分が人を殺してしまったという事実にただただ呆然とする。
ここは修羅の集う島、そして、彼女を助けてくれるメイドガイはどこにもいない。
そんな中で何かを為そうとするのならば、己の身を血で汚す以外に方法はないのだ。
望まずして修羅の地に招かれ、充分な覚悟のないまま修羅の道を歩み始めた彼女は、これから……

【屈木頑乃助@駿河城御前試合 死亡】
【残り六十九名】

【はノ弐 森の中/一日目/黎明】

【富士原なえか@仮面のメイドガイ】
【状態】健康、足に打撲、精神的ショック
【装備】壺切御剣@史実
【所持品】支給品一式、「信」の霊珠
【思考】
基本:殺し合いはしない。
一:清河八郎を助けに戻る
489 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/02(水) 20:53:36 ID:+N5s2eyO
投下終了です。
490創る名無しに見る名無し:2009/09/02(水) 20:57:02 ID:XuI3lSYQ
普通にクオリティ高い…
491創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 17:17:57 ID:fiIq26HK
投下乙!
運が無かったとはいえ、まさか結果的になえかが頑乃助に勝つとは大金星

そういえば調べてみたらなえかの刀って天皇家の物だよな
なえかがこの刀持ってるのみたら天皇家の人間と誤認する人も出てくる?
492創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 19:07:22 ID:RfSLAHrs
投下乙です!
しかしお互いの姿を見てもまったく動じないとはさすが斉藤と竜馬か。

そういえば時刻が気になったんだけど頑乃助と小次郎(史実)が戦った話数が
早朝だったので今回の四人も時刻は早朝でいいのかな?
493 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/03(木) 21:56:29 ID:jdGiBn2b
>>492
すみません、時刻は早朝に修正します。
494創る名無しに見る名無し:2009/09/03(木) 22:04:24 ID:JsC/iEcD
なんか地理的におかしくないか?
495 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 06:20:49 ID:wpfZa6Fs
したらばに仮投下完了。
超展開過ぎないか、このロワでこういう毛色の話は有りかどうか
ご意見ご指摘頂きたく候。
496創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 09:10:42 ID:fksOaQCM
仮投下乙。
確かに初見は超展開かと思いましたが伊烏の思考としても無理は無いかと。
仮に他の者が同じ状況になったとしてあの二人と同じ結果になるとは到底思えないし
剣客ロワだからこそ逆に有りかと思いますが他の方はどうでしょう?

497創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 10:20:59 ID:o9uXKfMI
うん。凄く残酷だよなー。
だが、それがいい。
ほのぼのからの急転直下具合が特に。

普段穏健であっても、赤音の事となると途端に病み狂い出すから、
確かに半ば無意識でああいう行動をとってもおかしくはない。
それで知らずとはいえ、大事な人を自分の手で斬ってしまっている訳だし。

前半部のそれぞれのやり取りについては、まさに絶妙としか言いようがない。
三人の気質を実に上手く把握している。
特にお互いのトラウマ直撃と、土下座流免許皆伝には笑わせてもらった。
そのあまりの見事さに、猛虎落地勢を連想したのは気のせいか?

ともあれお素晴らしい作品、GJです。
498創る名無しに見る名無し:2009/09/04(金) 10:38:41 ID:o9uXKfMI
>>494
ごめん、どの辺が?
少し気付きにくいので、出来れば教えて。
早朝でも、二つの遭遇が時間的に考えても
間に合わないって事でいいのかな?
499 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:11:48 ID:wpfZa6Fs
ご意見感謝です。では
赤石剛次、犬塚信乃(女) 、九能帯刀、伊烏義阿の4名で本投下します。
500悪鬼迷走 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:13:00 ID:wpfZa6Fs
 鬱蒼とした林を抜け帆山城下へと入った赤石剛次は、渡し橋の先の白塀にふと目を留めた。
「……む?」
 日常これ死闘の男塾においては、生首も血文字もそう驚くべきものではない。
「イカレた野郎がいやがるな」
 下級生を男塾名物・義呂珍に載せたこともある二号生筆頭は、文面に対してのみ無感動に
感想を呟き、それからふと周囲に耳をそばだてた。
 誰か駆けて来る。気配を隠す気はないらしい。
 向こうもこちらに気付いたのか歩調を緩め、やがて薄闇の先から濃紺の着流しが姿を現した。
 塀の上の晒し首にどこか面差しの似た、陰鬱な印象の若い男である。

 男は自分に似た生首と血書とを数瞬凝視し、ほとんど表情を変えず赤石に視線を移した。
「卒爾ながら一つ尋ねたい」
 こいつの仕業ではない。男の理性的な態度と陳列物に対する反応から赤石はそう断定する。
 薄闇の中でも赤石の観察眼と動体視力は常人を遥かに凌ぐ。
 文章を読み取る目の動きと速度を見れば、初見かそうでないかは瞭然だ。演技でそこまで
再現できる者はそういない。

 武田赤音という者を探している、と男は言った。
「長髪で背は低く声の高い、一見女のような男だ」
「ああ、そんな奴ならさっき会った」
「!! どこだ!?」
 血相を変える男に、特に隠す理由もないので教えてやる。
「そこを渡った林の中だ。躾の悪い犬みてえにキャンキャン吠えかかってきたんでな、
少し遊んでやった」
 やはりか、と男はひとり得心する。
「案内痛み入る。――御免」
「待ちな」
 城下外へと方角を転じて駆け出す男を赤石は呼び止めた。

「背中に返り血が付いてるな、あんた。今誰か殺ってきただろう」

「…………それが?」
 男がゆっくりと振り返る。無表情で、両腕をだらりと垂らしたまま。
 冷え冷えと吹きつける殺気に赤石は眉一つ動かさず、鋭い眼光で男の両眼を射抜く。
 腰に二刀の男、背に木刀の赤石。いずれも武器には手を掛けず、両者は無言で睨み合う。
 男がまさに地を蹴ろうとした時、

「……ふん。いい死合だったようじゃねえか」
 男は静止し、両眼がわずかに細められる。
 その暗黒の奥に、赤石は確かな剣者の誇りを見出していた。

「俺からも一つ聞かせてくれや。武田って野郎は、あんたの何だ?」
 赤石が問うた刹那、男の双眸に無数の感情が炸裂した。
 荒れ狂う濁流の如きそれを見て赤石に理解できたのは、負、それだけである。
 劇的な反応は一瞬、すぐ元の昏い瞳に激情を沈めた男は、低く、はっきりと答えた。
「仇敵だ」

 しばし重苦しい沈黙の睨み合いが続き、やがて、
「行きな」
 先に視線を外したのは赤石だった。
「あんたは修羅だが外道じゃねえようだ。あっちの“いぞう”って野郎ほど見境なしに
イカレてもいねえ。……あんなガキを血眼で追う理由が少し気になった、それだけだ」

 銃の弾道をも見切る赤石の超人的眼力をもってしても、男がただ一度手に染めた、
畜生にも劣る卑劣な所業を見抜くことはできなかった。
 既に男は復讐に狂い抜き、外道に堕ち果てた鬼なのだ。

「…………俺の目的は赤音だけだ」
 赤石と生首の方を見ずにそう言い捨て、男は再び地を蹴る。
 城下の外へ消える男を見届けることなく、赤石もまた町中へと前進を再開した。
501悪鬼迷走 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:14:01 ID:wpfZa6Fs
 ◆

(なるほど。強い奴を集めたって話はまんざら嘘でもなさそうだ)
 民家を適当に物色しながら赤石は考える。
 最初の雑魚と違い、あの居合使いはこの御前試合に呼ばれるだけのことはある。
 腕力はおよそ赤石の敵ではないが、隙のない所作と疾駆の敏捷性、研ぎ澄まされた殺気は
いずれも一定以上の実力を窺わせる。それなりの者から早くも一勝を挙げているあたり、
充分死合うに足る強者だと思われた。
 ほぼ背面にのみ返り血を浴びている点も興味深い。ただの抜き胴でああはなるまい。
 単に特殊な戦闘状況や偶然の悪戯かもしれないが、何か変わった技の使い手かもしれない。
 曲芸じみた敵味方を見慣れている赤石は、どんな面白剣法でも別段驚きはしないが。

 戦って腰の刀を奪う選択肢もあったが、赤石はあえて見送った。
 ただ一人の敵を斃すためだけに心のドスを研ぎ上げ、己の戦場に向かわんとする男の
道を阻むのは野暮というものだ。気ままに放浪する今の赤石ならなおさらである。
 狼が子犬を狩るような、奇妙な実力差の仇討だが、男なりの事情があるのだろう。
 あの男は弱者を嬲って楽しむ外道ではないと赤石は見る。
 男が負の想念に雁字搦めに呪縛されていようと、それが彼の剣に瑕疵を生もうと、
因縁深き一人の未熟な剣士が命を落とそうと、それらは彼らの問題であって赤石の
関知するところではない。
 いずれ男の戦いはあっけなく終わるだろう。再会の機会があれば勝負したいものだ。

(さて。まずは刀だが……正直、期待薄かもな)
 並の打刀では赤石の剛剣に耐えられない。せめて丈夫そうな段平があればいいが。
 土壇場で裏切られてポッキリ折れる鈍刀よりは、最初から木刀の方がまだマシかもしれない。

 生首の状態を見た限り、まだ血文字の狂鬼はそう遠くへは行っていないようだ。
(桃には全部預けてきちまったからな。あいつの代わりに鬼ヶ島で鬼退治でもしてやるか)

 刀を得るのが先か、鬼と遭遇するのが先か。それは今後の運次第だ。
 だが得物の不利など、赤石の闘志をいささかも殺ぐものではない。
 狂気を極める男塾、二号生筆頭・赤石剛次。相手が狂鬼ならば不足はない。
 鬼に遭うては鬼を斬り、仏に遭うては仏を斬る。一文字流斬岩剣に斬れぬ物なし。
 一号生筆頭に託した愛刀・一文字兼正は、心の中で今も赤石と共にある。



「…………ん?」
 ふと先ほどから感じ続けていた些細な違和感の元に思い当たり、赤石は太い首を傾げた。
「男みてえな女だったか? ……まあいいか、多分あいつで間違いねえだろう」


【へノ弐/民家/一日目/黎明】

【赤石剛次@魁!男塾】
【状態】健康
【装備】木刀
【道具】支給品一式
【思考】基本:積極的に殺し合いをやるかどうかは保留。だが、強い相手とは戦ってみたい。
一:刀を捜す
二:“いぞう”に会ったら斬る
三:濃紺の着流しの男(伊烏義阿)が仇討を完遂したら戦ってみたい

※七牙冥界闘・第三の牙で死亡する直前からの参戦です。ただしダメージは完全に回復しています。
※武田赤音と伊烏義阿(名は知りません)との因縁を把握しました。
※犬飼信乃(女)を武田赤音だと思っています。
※人別帖を読んでいません。
502悪鬼迷走 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:14:58 ID:wpfZa6Fs
 ◆

 さて、赤石剛次に惨敗し、再起困難なまでに自信を失ったかに見えた少女・犬塚信乃は、
意外にも早い復活を果たしつつあった。
 一言で言うと馬鹿に絡まれたからである。

「やあ、そこな美しいお嬢さん。悪漢共のうろつく中、こんな場所に夜一人ではさぞや
心細かろう。だがこの九能帯刀が来たからには心配無用。さあ、顔を上げたまえ」

 木立の間から道着の若者が気障なポーズで堂々と現れた時、悄然と佇む信乃の心の暗雲に
一条の光明が射した。見るからに怪しさ全開の男に一目惚れしたからではない。
 赤子の時から身に帯びた、神通力という名の呪いが消えかけているのではないかと
期待したのである。“美しいお嬢さん”確かにこいつはそう言った。
 思えばさっきのごつい男も、よく見ればお前は女だと太鼓判を押したではないか。

 母・伏姫の行き過ぎた特殊な嗜好――可愛い男の子好き――の影響で、健やかな
発育を遂げているにも関わらず、周囲からは常に男扱いされること十六年。
 ある意味犬士の使命よりも重い宿命を背負う己が、あるべき姿に戻る日が来た。
 もう年頃の娘らしく着飾っても女装呼ばわりされない。女湯だって楽勝だ。
 密かに噛み締める信乃のささやかな幸福は、しかし直後に無情にも粉砕された。

「……ん? なんだ貴様。凛々しき美少女かと思えば、ただの女顔の男ではないか」
 二度と聞きたくなかった台詞が、多感な少女をしたたかに打ちのめす。
 少女は目を伏せ俯き、小さな両肩を微かに震わせた。

「……」
「ん?」
「……たしは……」
「聞こえんぞこの軟弱者め」

「――私は、れっきとした、女だ!」

 どれほど落胆し消沈していようとも、それだけは信乃の断固譲れぬ一点であった。
 きっ、と顔を上げ、正当なる抗議と訂正と自己主張を行う。

「ふん、見え透いた嘘を。貴様が女であるわけがない」
「さっきの奴と正反対の結論じゃないか! 根拠を言え根拠を」
「ならば愚かな貴様に教えてやる。貴様が女ならばこの状況でボクの姿を見た瞬間、
あまりの気高さ格好良さに見惚れ、感涙に咽ばぬはずがないからだ!」
 ああ、すごく既視感を感じるこの馬鹿。
 思わず遠い目で過去を見る信乃の鼻先に、すらりと白刃が突きつけられた。

「うわっ!?」仰け反り後ずさる信乃。「……何をする!」
「男ならば話は別だ。いざ尋常に立ち合え」
 いつの間に抜いたのか、九能と名乗る男は棟を向けた刀を青眼に構えていた。

「お前、殺し合いに乗っているのか!?」
「誰がそんな野蛮な真似をするものか。一人も殺めず華麗に勝利する、それがボクのやり方だ。
貴様もこの風林館高校の蒼い雷・九能帯刀の、刀の錆となるがいい」
「殺す気ないのかあるのかどっちだよ!? っていうか何その恥ずかしい二つ名、自称?」
「見れば貴様も刀持つ身、よもや嫌だとは言わせん。行くぞ!」
「え、ちょ、待――」
「問答無用! えーい突き突き突き突き突きーーっ!!」
「うひゃあああっ!?」

 辛くも避けられたのは、嫡男として幼少から父に叩き込まれた剣の鍛錬の賜物、というよりも
半ば生存本能であったろう。構えも何もなく横っ飛びに飛び退き、そのまま地面に転がる。
 髪一筋を道連れに、超高速の連続突きが一瞬前まで信乃の真後ろにあった大木を深々と抉っていった。
「……な、……」
 幹にぽっかりと大穴を開けたその破壊力の凄まじさに信乃は絶句する。
503悪鬼迷走 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:15:42 ID:wpfZa6Fs
「よくぞ我が渾身の突きを躱した。ならばこれはどうだ!」
「……ちょちょ、ちょっと待った! タンマ!! ストーーーーップ!!!!」
 ぶんぶんと両手を振り、信乃は全速力で九能の間合いの外まで後退した。
 これほどの技を行使して、薄手の刀身がまるで損なわれていないとはどんな絶技なのか。

「殺す気満々じゃないかこの嘘吐き!」
「ふっ、安心しろ。棟打ちだ」
「突きに棟打ちもへったくれもあるかボケーー!!」
「む? ……言われてみれば確かに。困った、これではボクの必殺の連続突きが使えんではないか」
「言われなきゃ気付かんのか! うっかり必殺される方の身にもなれ!」
「だが忌々しき早乙女乱馬にはいつも全く効かんぞ?」
「普段どんな化物と戦ってたんだよお前? ていうかよくそれで必殺とか名乗ろうと思ったな。
とにかく、まともな人間が今の食らったら普通に必ず死ぬから」

 信乃は与り知らぬことだが、この九能帯刀という男、木刀でブロック塀を易々と切り裂き、
突きの剣圧だけで銅像を破壊する業前の持ち主である。周囲がデタラメ過ぎて霞んでいるが。

「むう、止むを得ん。人への突きは封印するしかあるまい」
「……そもそも、私の刀はこの通り折れてる。立ち合い自体が無理な話だ」
「なんと、それでは剣を交えるまでもなくボクの勝ちではないか。戦う前から勝利を約束
されているとは、ふっ、つくづく女神の寵愛を独占した自分の魅力が恐ろしい」
「……否定はしないけどなんかすっげえムカつくなおい」

 落ち込みから浮上する早道とは、運動、そして波長の合う人間との会話である。
 空気を読まず人の話を聞かぬボケの権化・九能帯刀との出会いは、不本意ながら
ツッコミが呼吸とほぼ同義の日常を送る犬塚信乃にとって、この時有益だったといえる。
 信の犬士・犬飼現八にも似た自己陶酔っぷりを垂れ流す男に条件反射を返すうち、
信乃はすっかり普段の調子を取り戻していた。人生何が幸いするかわからない。

(そうだ、いつまでもうじうじ悩むのは私の柄じゃない。村雨に相応しくないのなら、
頑張って相応しくなればいいんだ。よーし、今に見ていろよ筋肉男!)

 一度は折れた矜持を立て直した信乃は、刀を納めた九能にほっと安堵する。
 なんだかんだ言っても彼の不戦勝宣言は事実であり、今のままでは黒幕の元まで
辿り着き、村雨を取り戻すなど夢のまた夢だ。
 まずは当座の得物の調達だ。いつまでもここに燻ってはいられない。

「……とにかく、お前の勝ちってことでいいから。私はもう行くぞ、じゃあな」
 九能におざなりな別れを告げ、信乃は胸を張って新たな旅の第一歩を踏み出した。

 ◆

 ――そして半刻の後。
 街道へ出る林の外れまで来たところで、信乃は歩みを止めた。

「……おい。なんでついてくる」
「ついてくる? はっ、馬鹿なことを。貴様がずっとボクの進路を塞ぎ続けているのだ」
「馬鹿はお前だ! 勝ったんならこっち来ないでさっさとどっか行けよ」
「本当に馬鹿だな貴様は。あんな辺鄙な場所にいては天下一など取れるはずがあるまい」
「くっ……馬鹿に馬鹿って言われた……二回も……」
 確かに信乃自身、林を抜けようと歩いていただけに反論できない。屈辱的だ。
「……それに」
「?」
「あの男も、経験を積めと言っていたのでな。たまには敵に塩を貢がせてやるのも一興だ」
「……誰だよあの男って」
504悪鬼迷走 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:16:37 ID:wpfZa6Fs
 九能の宿敵・早乙女乱馬は拳法家であり、白州の武芸者達とは異質の存在である。
 男――服部武雄――の言った通り、高校剣道界期待の星とはいえど、純粋な日本剣術の
達人との戦闘経験が九能はまだまだ不足している。
 九能もまた緒戦で手痛い敗北を喫したことを知らぬ信乃は、いきなり神妙な空気を
漂わせた唯我独尊男に訝り、何か悪いものでも食べたのだろうと結論づけた。

「しかし地味でむさ苦しい男ばかりだなこの島は。もっとエレガントに華を添えれば良いものを」
「いろいろツッコミたいが、まずお前殺し合いだって忘れてるだろ……って、……! 待て」
 信乃は耳を澄ませ、全身に緊張を漲らせた。
 林と街道とを隔てる背の高い藪を掻き分けて、何か近づいて来る。
 獣? いや、この島に徘徊するのは――
「ん、新手か?」
「しッ、……」

 まずい、相手がこちらに勘付いた。速度を上げ一直線に向かってくる。
 どうしよう、まさかこんなに早く次の参加者と遭遇するなんて。信乃の心臓が早鐘を打つ。
 今の自分は無手に等しく、この男は基本能力と持ち技はすごいが馬鹿だ。
 そして信乃と同様、人殺しの経験もその意志もない。
 戦でためらいなく兵を屠る百戦錬磨の猛者に会ったら、果たして抗しきれるのか。

 結城の城が落ち、妖怪共を蹴散らして一人逃げた時でさえ、自分には愛刀と村雨があった。
 その後は稀に例外はあったとはいえ、村雨と荘助達がほぼずっと一緒だった。
 自分は村雨と仲間の存在に、いつの間にか頼り過ぎていたのかもしれない。
 私は犬士だ、武士だ、侍だ――そう己に言い聞かせるも、信乃の足が恐怖で震え出す。
 お前はただの小娘だ、ともう一人の自分が囁く。
 しっかりしろ。怖い。しゃんと立て。怖い。怖い――

 目の前の藪が、がさり、と大きな音を立てて薙ぎ倒された。


「赤音ぇっっっ!!!!」
「ひょえええええっ!!??」


 その場の時間が静止した。

 頓狂な声を上げてその場に腰を抜かした信乃。
 鬼のような形相から一転、根暗そうな仏頂面の眉間に困惑の皺を寄せた長身の青年。
 そして、頼りたくないが今信乃が頼りにするしかない唯一の男といえば――

「なにっ、天道あかね? どこだ? おさげの女もいるのか?」

 信乃には理解不能の台詞を吐きつつ、なんかやたらとキョロキョロしていた。

 ◆

 陰気な男は言葉少なに、己の不注意と人違いである旨を詫びた。

「まったく、紛らわしいにも程がある」
「お前は黙ってろ。――いいんだ、こちらこそ大袈裟に驚いてすまなかった」
 別に信乃が謝ることではないのだが、円満解決のための社交術である。
 目を合わせたこちらまで再びどん底に沈みそうな暗闇魔人であることを除けば、
知性と生真面目さが感じられる端正な青年の印象は決して悪くない。この島、いや
今までの人生で信乃が出会った中ではかなり真人間の部類に入る。
 危惧していたような人斬りの類でなかったのは幸いだったと信乃は思う。
505悪鬼迷走 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:17:43 ID:wpfZa6Fs
「で。さっき呼んでた、えーと、赤音? って人を探してたのか」
 男は頷いた。
「小柄で長髪、声が高く色は白い。派手な女物の朱い小袖を羽織っていることが多い」
「うーん、悪いけど役に立てないな。私もこいつもそんな目立つ人は見てない」
 と信乃は九能を指して答える。何かが心の隅に引っかかったが多分気のせいだ。
「そうか。邪魔をした」
「それらしい人を見かけたら、探してたって伝えようか?」
 男はしばし黙考し、かぶりを振った。
「……いや、それには及ばない。万に一つの人違いということもある」
 確かに、自分も暗がりの出会い頭だったとはいえ誤認されたのだし、まして信乃は
探し人の顔も知らないのだ。悪意ある参加者が赤音という人物を詐称する可能性も
ないとは言い切れない。
 人々から集めた噂を元に、青年はあくまで彼自身の足で探し出すつもりなのだろう。
「我欲のままに凶刃を振るう狂犬のような男だ、気を付けろ。……ではな」
「ちょっと待て」
 紳士的な忠告と挨拶を決めて去ろうとする青年を信乃は呼び止めた。

「…………なんだ」
 心なしか振り向いた男の暗闇が濃くなった気もしたが、そんなことはどうでもいい。
「いざボクと――」
 馬鹿を鉄拳で黙らせ、微笑と共に信乃は優しく問いかける。
「確認するぞ? ……その、赤音って女装癖のある腐れ外道を探してたんだな?」
「……? ああ」
 信乃は肺の限界容量まで空気を吸い込んだ。



「だから私は!! お!! ん!! な!! だと言うにーーーーーー!!!!!!」



 魂の叫びが周囲に谺した。

「まったくお前もさっきの男もこの馬鹿野郎も荘助達も父上も伏姫もどいつもこいつも
年頃の娘を捕まえて男だ女装だと揃いも揃って目が玉子なのかお前らちゃんと胸だって
こんなにあるだろうがしかもそんな変態極悪人とどうやったら間違えるんだよ!!!」

 正当な抗議ではあるのだが、約半分は蓄積された鬱憤の爆発、つまり八つ当たりである。

「胸? はっ、ただのたるんだ贅肉ではないか」
「黙れお前もそれを言うか! って、……消えた!?」
 正面にいたはずの男の姿がない。
 背後の馬鹿に一瞬気を取られた隙に消失していた。

 さては奴も人型妖怪か? 信乃は慌てて周囲を見回す。
 闇に紛れて潜んでいるのか、それとも妖術で視覚を欺いているのか――

 ――――いた。
 あまりにも“下方”に存在していたため、長身の男を見上げる格好であった信乃には
すぐに発見することができなかったのだ。
506悪鬼迷走 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:18:54 ID:wpfZa6Fs
 見下ろしたすぐ先に、濃色の斑模様の背中がある。
 窮屈そうに長い手足を折り曲げているにも関わらず、妙に綺麗な姿勢である。
 男は正座の状態から、両手を地面に付いて前屈している。
 手だけではなく額も付かんばかりに、そのまま高速の腕立て伏せを行っている。
 足裏から伝わってくる振動から察するに、本当に額を打ち付けているのかもしれない。

「すいません」

 最大級の謝罪および全面降伏の姿勢。
 いわゆる土下座であった。

「ごめんなさい」

 文句なしの完璧な土下座であった。
 土下座流という武道流派が存在するならば間違いなく皆伝であろう、非の打ち所なき
理想的な土下座であった。やや語彙が幼児的ではあるが。
 早乙女玄馬がこの場に居合わせたならば、見事な猛虎落地勢であると絶賛したに違いない。

「……いや……まあ、……わかってくれればいいから。とにかく顔を上げてくれ」

 陰のある二枚目がコメツキバッタよろしく年下の少女に平伏するの図。
 図らずも互いのトラウマを直撃し合う形になってしまったとは露知らず、少女は
“言い過ぎたこっちも謝り返すべきか、でもさすがに土下座返しはちょっとなあ、
それともツッコミ待ち?”などと思い悩み、青年は沸騰やかんの如き少女の怒りに怯え、

「ん? 貴様もボクに降参するというのか下郎? はっはっは、よし、苦しゅうない」

 三人の中で最も状況の見えていない少年は、どこまでも独自の思考回路を持っていた。

 ◆





 ――――人生、何が災いするかわからない。





 ◆
507悪鬼迷走 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:20:06 ID:wpfZa6Fs
 恐る恐る顔を上げる青年の前にノコノコ出て行った九能に、えーい馬鹿殿は下がってろ、と
いつも通りツッコミを入れようとした信乃は、目の前の道着姿の背中が真横にずれるのを見た。
「え?」
 奇怪な現象に、疲れ目か、何かの錯覚だろうかと目を瞬かせる信乃。
 顔面に生温かい液体が降り注ぐ。


「…………何?」


 短い間だが道程を共にした少年が、積木さながら、上半身と下半身に別れて崩れ落ちる。
 血飛沫の向こうに信乃が見たものは、自分と同じく呆然とした表情の青年が、正座から
片膝を立て、刀を水平に薙ぎ払った状態で佇立する姿だった。



 ――――刈流 座の一



 着座からの抜刀斬撃を行った青年が未だ呆然の表情で立ち上がり、少年の屍を越えて
肉薄するのを見ても、信乃は奇妙に現実感覚を喪失したままだった。
 男が血刀を担ぎ上げ、自分に向かって袈裟に振り下ろす様を、信乃はただ見ていた。
 それが少女の見た人生最後の光景となった。

(…………荘助)
 暗転した視界の中で、長い間共に旅した槍使いの少年の姿が一瞬だけ浮かび、消えた。


 ◆

 刀身を改めると刃毀れや血曇りはなく、棟で打ち合った形跡はあったが歪みや損傷に至る
ものではなかった。よく知る刀工の腕はもちろん、使い手の技量もまた相当のものであったろう。
 前途有望な少年であった。
 親切に人探しを手伝おうとしてくれた少女であった。
 話し合いで手を打つか、せめて棟打ちで済ませることもできたはずだ。
 なのに少年の腰の物を目にした瞬間何もかもが消し飛び、気付いた時には斬っていた。
 己に振るうことが許されるのは、もはや本当に、卑しく浅ましき犬畜生の剣のみなのだ。
 とうに捨て去ったと思っていた罪悪感に苛まれつつ、伊烏は慨嘆し自嘲する。

 遺体から奪い取った藤原一輪光秋を鞘に戻し、腰に差すことなく行李を開ける。
 己のための一刀でないことは一目見た時にわかっていた。
 けれども宿敵との正しい決着のためには、どうしても必要な一刀であった。
 刀一振のために伊烏は二人を殺した。
 少年少女の持ち物と、かつて天駆ける月を撃ち落とした燕の愛刀を行李に納める。
 少女の傷と鏡映しの、逆袈裟の形に幻の傷が痛んだ。

 今後も聞き込みを続けるなら、どこかで着替えを調達する必要がある。
 じき夜も明ける。返り血まみれの人斬りに声を掛けられて話をしようと思う者はいまい。
 肝の座った猛者でも、先刻の白髪の男のように不審を覚えるだろう。
 誰もがあの鵜堂刃衛のように、力ずくで訊けば答えてくれるわけではないのだ。
 それに己の前に立ち塞がる者は斬るしかないとはいえ、無用の殺生は極力避けたい。

 復讐とは全くの無関係、かつ攻撃の意志もなかった無辜の者を、結果的に騙し討ちの形で
斬り捨てた。その事実が、伊烏に己の予想以上の精神的疲弊をもたらしていた。
 赤音の愛人を殺し、拉致した姉を彼の目の前で斬ったことに対する罪の意識はもはやない。
 だが今回の彼らは完全なるとばっちりである。斬らずに済む選択肢はいくらでもあった。
 少女に至っては全くの無手。呼び止めたのにも深い意味はなく、障害ですらなかったのだ。
 二人の骸を整えて瞼を閉じさせた伊烏は、心の中で詫び、冥福を祈った。
 これで――17。
508悪鬼迷走 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:20:59 ID:wpfZa6Fs
 とにかく、まずはここを離れよう。藪と林に遮られたこの場所では魔剣は使えない。
 深い疲労感を覚えつつ、伊烏は足取り重くその場を後にした。


【犬塚信乃@里見☆八犬伝 死亡】
【九能帯刀@らんま1/2 死亡】
【残り六十七名】

【へノ弐/林の入口/一日目/黎明】

【伊烏義阿@刃鳴散らす】
【状態】健康、罪悪感、精神的疲労(大)
【装備】妙法村正@史実、井上真改@史実
【所持品】支給品一式×4、藤原一輪光秋「かぜ」@刃鳴散らす
【思考】基本:武田赤音を見つけ出し、今度こそ復讐を遂げる。
一:どこかで着替えを調達する。
二:もし存在するなら、藤原一輪光秋二尺四寸一分「はな」を手にしたい。
三:己(と武田赤音との相剋)にとって障害になるようなら、それは老若男女問わず斬る。
四:とりあえずの間は、自ら積極的にこの“御前試合”に乗ることは決してしない。
五:人斬り抜刀斎(緋村剣心)か伊藤甲子太郎に出会ったら、鵜堂刃衛の事を伝える。
※本編トゥルーエンド後の蘇生した状態からの参戦です。
※自分以外にも、過去の死から蘇った者が多数参加している事を確信しました。
※着物の全身に返り血が付着しています。

※へノ弐、林の入口に、二人の遺体と空の行李、折れた打刀が放置されています。
※信乃の叫び声が周囲に聞こえた可能性があります。
509 ◆EETQBALo.g :2009/09/04(金) 23:27:54 ID:OV16hJJ2
投下終了です。
なお伊烏の死者カウントは未遂1名(八坂)込です。
510 ◆RCie0Lfx1jtE :2009/09/05(土) 00:51:42 ID:NA/lkYMp
投下お疲れ様です。
しかし、あの土下座場面から「座の一」が出るとは思わなかったです。
たかが刀一振りの為に、障害ですらない人間を斬る。
最早完全に外道に堕ちた悪鬼・伊烏に明日はあるのか?

確かに、あの時実は八坂が生きていたって情報は、
伊烏は最後まで知りようがなかったですからな。
ならば自分のカウントが一名おかしいので、
そこだけ修正いたします。
511 ◆RCie0Lfx1jtE :2009/09/05(土) 00:54:41 ID:NA/lkYMp
トリップがおかしい…。
どうなったんだろ?
512 ◆EETQBALo.g :2009/09/05(土) 06:51:40 ID:90i8sXsG
ついインパクト優先で書いてしまいましたが、着座からの片手抜刀で
胴を両断までできるのかちょっと疑問に思えてきました。
若干テンポ悪くなるかもしれませんが、Wiki収録時に該当箇所を修正させてください。
513創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 14:02:51 ID:mzsH9Vri
>>498
早朝という事になるとやや二つの遭遇に無理があるんじゃないかと…
514創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 14:11:42 ID:QZosRENK
まあその前にガマがなえかにやられる流れが超展開気味なのがな
515創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 21:38:55 ID:h2X65/Rm
>>514
ガマがなえかに負けたのは別に有りじゃね
あんだけ負傷した上に油断までしてたんだから、普通に負けてもおかしくない
516創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 22:09:53 ID:NA/lkYMp
油断したというより、運が無かったというのもある。
連戦で疲労が蓄積していたのと予測外の事態も有ったので、
ああなると流石に慎重な蝦蟇でも失敗して可笑しくはない。
517創る名無しに見る名無し:2009/09/05(土) 22:27:30 ID:GNKZkgS2
>>513
そう言われると確かに深夜から早朝になってる割には斉藤の移動距離が短いかも
ただ慎重に探索しながら進んだとすれば無理があると言うほどでもないのでは?

夜の森を歩き回るのは危険だからしばらく休んで、夜が明け始めてから動き出したとしてもいいし
518創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 00:06:36 ID:OrSnaXbK
なえかの移動に無理があるのかとも思ったけど気が動転してるうちに
早朝になってたと解釈すれば無理がないと思うし
ガマはほんと運がなかったとしか

てか、まとめの武田赤音の詳細が奈良鉄日記版に更新されててワロタ。

519創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 00:38:41 ID:eq5dzTi6
ホントだ。さっき確認した。
実は赤音については裏設定まだまだあるんだけど、
下手に読んだら却って混乱しそうだからと思って、
本編で明記された設定以外は書いてなかったんだけどなw
520創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 08:21:56 ID:hqAVuyaY
>>519
学歴は高卒、普通科。進路志望は進学→警視庁。四年前の事件は浪人中。
とか?
相当に救い難い目立ちたがり屋
とかwww
521創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 13:45:54 ID:1rYP1qlD
>>520
そう、それだw
正直Mixiやってないと確認取りようがないからね。
本編で裏が取れるものだけでいいかと。裏設定は参考程度という事で。

まあ目立ちたがりなのは本編の傍若無人さや進んで揉め事を作る辺りからも、時折伺えはするのだが。
522創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 15:36:34 ID:4JsvLVTK
武田朱音と神谷薫で書きたいんですが、板ルールを確認するとエロ・18禁はダメなんですよね……
どこまでが抵触するのかという問題もあるので、とりあえず避難所に投下して皆さんの判断を仰ぐのが吉でしょうか?
523創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 15:43:08 ID:DwW3AyXd
通る通らないはともかく
ものすごく読みたいぞ。
524創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 15:56:16 ID:kMdO5QKd
くっ、密かにネタを考えていたが先を越されたw
しかしやはりそういう展開になるのか。まあ赤音だからな。
避難所に仮投下でいいんじゃないかと。
525創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 20:22:31 ID:1rYP1qlD
よお俺。
なんだ皆同じ事を考えていたか。赤音嫌な方向で大人気だな?
まあ自分は生本番はシーンスキップして行為があった事だけ伝えるという感じで考えていたがw
526創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 20:26:16 ID:kMdO5QKd
>>525
俺は土壇場で神谷活心流禁じ手(嘘)・末代祟りが発動する方向で考えてたw
527創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 20:28:12 ID:OrSnaXbK
前の話じゃ対人モード(猫かぶり)でお嬢さんとか声かけてたけど
赤音がいい人を装って接するか鬼畜全開になるのかが薫の運命の分かれ道だな。
528創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 20:53:41 ID:5phgtwzP
ガチ本番は原作のロワですらないからな
剥くくらいまでだな
529創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 21:13:03 ID:alZwIEwx
直接表現禁止の板で投下されるSSだと、525のキンクリ方式が主流かなあw
530創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 21:31:10 ID:4JsvLVTK
>>528-529
え゛え゛! もう容赦なくぶち込んでますけど……w
531創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 21:36:48 ID:1rYP1qlD
でかした>>530
薫をファックしていいぞ!
とりあえず、通らなくとも俺は仮投下が是非とも見たい。
したらばでお願いする。
532創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 21:47:46 ID:GPWl04s3
セクロスはエロパロでやれ
533創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 11:59:41 ID:8GOP3EW3
そういう展開になったとしてもそれをメインで書くとなると
>>532同様板違いと言うかスレ違いといわざる終えない気がするが
今更だがロワに無限の住人キャラが一人も参加してないのが意外だったなあ
534創る名無しに見る名無し:2009/09/07(月) 13:06:11 ID:yW4HeHXN
確かに、具体的描写までは要らないからなあ。あくまでメインは「残酷無残剣劇もの」だから、
「駿河城御前試合」のあのスケケマシ剣士が女犯した時ぐらいの淡々とした描写でも十分だと思うし。
添え物程度ならいいだが、無難にいくならキンクリでシーンスキップか。


暗黒騎士赤音「よーし。この女はくれてやるッ。好きにしろッ!」
神谷薫「いや…。止めて……、触らないで……。」

キャー

こんな感じか?
535R-0109 ◆eVB8arcato :2009/09/08(火) 00:58:16 ID:1TZXmwtX
どうも、こんばんは。
「バトルロワイアルパロディ企画スレ交流雑談所(以下交流所)」の方でラジオをしているR-0109と申します。
現在、交流所のほうで「第二回パロロワ企画巡回ラジオツアー」というのをやっていまして。
そこで来る9/12(土)の21:00から、ここを題材にラジオをさせて頂きたいのですが宜しいでしょうか?

ラジオのアドレスと実況スレッドのアドレスは当日にこのスレに貼らせて頂きます。

交流所を知らない人のために交流所のアドレスも張っておきます。
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/8882/1243687397/ (したらば)
ttp://www11.atwiki.jp/row/pages/49.html (日程表等)
536創る名無しに見る名無し:2009/09/08(火) 07:07:34 ID:QoumlDLp

 らじお…? はて、箱から音が聞こえるとな? それは面妖な……!
 さてはあの白州のものども同じ妖術の使い手か!?
 コンバンワ エンクミデス ギャー!
537創る名無しに見る名無し:2009/09/08(火) 07:51:57 ID:lkVFv6ih
ヨロシイデスヨ!
538創る名無しに見る名無し:2009/09/09(水) 20:47:21 ID:YmSp9xtw
しかし、「刃鳴散らす」と「るろうに剣心」の作品間の相性は
すこぶる悪いな。いや、いい意味で絡みまくってるのか?

宗次郎と御頭はそれぞれ死体で発見され、
鵜堂は伊烏に斬られ、薫は赤音に拾われる、か。
最後の剣心に到っては、伊烏と赤音の両方にフラグが立っているし。
あとは志々雄が絡めば完璧か。
539創る名無しに見る名無し:2009/09/10(木) 00:53:40 ID:ZdgJjyxL
言われてみれば絡んでるねえ、直接面識ないのが剣心と志士雄だけか
志士雄と絡んだら周囲が地獄絵図にしかならない気がしないでもないが
まずは志士雄と対峙中の二人の身が心配だな
540R-0109 ◆eVB8arcato :2009/09/12(土) 21:00:22 ID:WQ/nV9NQ
541創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 01:00:11 ID:am8F+W9+
ラジオ楽しかったぜ―
542522 ◆.Z0IkoA3tI :2009/09/13(日) 04:34:56 ID:UAiuYdD/
したらばの方に仮投下しました
出来る限り、性描写は省いたつもりですが、それでもアウトかも……
話の展開が問題なければ、指摘された部分のキングクリムゾン修正版を仮投下後、本投下したいと思います
543創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 07:36:27 ID:8edvAjt2
アウトォォォオオオッ!!
544創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 07:41:37 ID:/Jv65sfz
悪いけど>>542がこのロワを書きたくて参加してるようには思えない。
単にクロスオーバーのエロ書きたいだけなら他所でやってくれないか。
545創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 08:38:26 ID:w+R+gkzR
ごめん。読んでてかなり引いた。
だから、ヤッてもいいがあんまり具体的な描写はよせと言ったのに。
それにこの内容、後の物語にも正直繋げにくいし。

後は赤音の人格にも若干の違和感。
彼は生粋のナルシストかって言われるとそうではない。
自己中心的だが「自分すらないので」人にどれだけ
侮辱され挑発されようと知ったことではないのだから。
軽口で悪態をつく事は多々あっても、まずキレない。
自分の目的の障害にでもならない限りは。
自他ともに洞察力が桁外れているから、
自分が他人から見えてどう見えるかなど百も承知のはず。

あと赤音が女性に対して容赦なく手を出す理由も、
過去の真剣勝負を邪魔された憎悪が起因しているだろうから
性的欲望を満たしたいというよりは、
女性への報復的な意味合いが強いし。
…まあ、これ以上はいいか。
546創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 09:03:24 ID:BbRTTPS6
うーん……これはアウトだと言いたい

俺的には強姦自体も敬遠したいんだよなぁ
バトロワだし無惨に殺される描写とかは全然いいんだけど、強姦とかあまりにショックだよ
547創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 09:49:24 ID:a2Owi1AL
なんつーかなー
いくら美形でも薫が勝手に着替えさせられて下手に出るとか有り得ないだろ
たとえ剣心でもぶん殴ってるくらいだぞ、まぁ内容がそれ以前ですな
完全にスレ違いで板違いというか、情事書きたいだけだろという感想しかない
エロパロでやれ
548創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 10:01:22 ID:RHRhVLUB
スレ違い、巣に帰れ。以上
549創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 11:11:24 ID:wILldoHM
るろ剣、あんまし知らないけど、赤音は明らかに違う。
"女は戦利品"だけど、薫に関しては、戦利品じゃないし。
それに赤音は、戦利品以外を強姦するキャラじゃないと思うんだ。
(最中の、赤音が剣に対する思いの自覚は良かったと思うが)

エロ描写は、アウトだから。
550創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 11:43:16 ID:/Jv65sfz
さて、昨日のラジオで龍馬が一人勝ちだった話でもするか。
551創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 16:04:44 ID:hb306q/z
 とりあえず赤音の事は僕は知らんのだけど、投下された文章の範囲だけで読んでも、陵辱に至る流れが強引に思える。
 この場合凝るべきは、陵辱描写そのものより、そこに至るまでの過程なんじゃないかしらん。
 
 それと、今回のこととは別な話。
 キャラクター描写、特に参加作品中でも、特に原作把握が困難な方にあたるこの作品に関して、あんまり拘りすぎない方が良いと思う。
552創る名無しに見る名無し:2009/09/13(日) 18:49:01 ID:8IM5L0g9
否定的な意見はあんま出したかねえけど限度がある
553 ◆.Z0IkoA3tI :2009/09/13(日) 19:50:51 ID:CQXpcd/C
了解しました。ROMに戻ります
554創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 00:10:26 ID:IysgJwc1
桃尻描写が忘れられないのでピンク板でお会いしたい
555創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 00:24:02 ID:45joozix
どうでもいいが、
仏生寺弥助の数少ない史料で、長らく絶版してた津本陽先生の『修羅の剣』が
今年8月にPHP文庫で予期せぬ復刊してたな。

今更気づいて入手。
ネットだと殆ど情報が無きに等しいし、
いろんな文献史料の断片的情報をパッチワークみたいに継ぎ接ぎするしか無かったが、
ようやく有力参考資料が手に入ったぜ
556創る名無しに見る名無し:2009/09/14(月) 01:19:33 ID:WDr4dEiV
おお、無理にとは言わないが資料を参考にまとめwikiの弥助の項目を
わかる範囲で書いてもらえると助かるのだが
557創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 05:13:48 ID:TUeOsxo9
「必殺技を強化する」系の目標持ってるキャラは扱いが難しいな。
他のロワなら不思議パワーでお手軽強化ができるけど、
リアル系のこのロワだとひたすら修練を重ねるしかないか?
558創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 21:00:15 ID:ZDNVVhQh
運体や他の人の技法を盗むってのが一番手っとり早いかな。
不思議パワーではないから、いろいろと考え甲斐はある。

もしもだけど、蝦蟇が「昼の月」の跳躍見てたら一体どうなってただろうな?
蝦蟇もジャンプ力は人間離れしてたから。
559創る名無しに見る名無し:2009/09/17(木) 21:38:06 ID:TUeOsxo9
>>558
鍔目返しみたいな超理詰めで考えられたやつは蛇足になりそうでなあ。
あと伊良子は他人の技を盗み見ることすら不可能だし。

ガマが高く跳んだら逆に攻略し易くなる気がしないでもない。
ただ攻撃のバリエーションは増えるだろうな。
560 ◆UoMwSrb28k :2009/09/18(金) 22:29:11 ID:Eu6DMlzI
うわ予約しようと思ったら見透かされたようなコメントが…

座波間左衛門、千葉さな子 予約させていただきたく存じます。

>>557さんの答えになりそうな、逆に問題提起になりそうな展開を検討中…
561創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 23:04:17 ID:4bPHOI7A
うお、待ってましたドM! 期待してます
562創る名無しに見る名無し:2009/09/18(金) 23:48:33 ID:2qdhhVm/
予約キタ!!どういう展開になるのか楽しみです!
563創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 00:22:58 ID:8kFB1ekr
ドM!ドM!
564創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 00:31:14 ID:vcBkRcPt
剣客ロワのマスコットキター。
565創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 00:47:25 ID:yxqXnVqC
>>564
そういうこと言うと殺しづらくなるから自重w
まあとりあえず、さな子との戦いがどうなるのか期待。
566 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/20(日) 08:16:25 ID:xgcGhxiA
中村主水、明楽伊織、倉間鉄山で予約します。
567 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 14:05:14 ID:kTHGIMif
座波間左衛門、千葉さな子 投下いたします。
568暁に激情を ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 14:06:31 ID:kTHGIMif
 への伍地点。やや川沿いでは、男女が刃を交わしていた。
 その光景は、各所で平然と殺し合いが行われているこの会場の中にあっても、ひときわ異様なものだったかもしれない。
 片や体躯逞しいが傷だらけの男、片や美女というにはまだあどけなさが残る乙女である。しかも、その容姿に反し、一方的
に攻めているのは、乙女―千葉さな子の方であった。 西洋風に言うとポニーテールと呼ばれる髪型が、斬撃の度に舞うように
動く。さな子の動きは演舞を連想させるほどの華麗なものであったが、実際の状況はそんな生易しいものではなかった。
 傷だらけの男―座波間左衛門は、次々と襲い掛かる刃をすんでのところでかわし、また受け流しているが、かといって退却
するわけでもなく、常に斬り合える間合いを保っている。防御に徹しながら、実は前に出ているのは間左衛門の方であった。

―勝てる!

 幾度目かの斬撃を受け流し、反撃の一太刀を繰り出した間左衛門は、心の中にそうつぶやいた。

―まずい!

 相対するさな子は、間左衛門の反撃を防いだものの、剣圧に押され、大きく後退さる。
 横合いに一本だけ木があったのでその後ろに廻り込むが、ここは森林ではない。間左衛門もすぐさま廻り込み、やや間合いを
とりつつも、真正面から向き合う。

―逃がしてはくれないか…。

 間左衛門を殺すことなく屈服させることを諦め、殺気をもって斬撃を繰り返したが、一撃ごとに間左衛門の受太刀も冴え渡り、
今やかすり傷ひとつ負わすことができない。そうこうしているうちに疲労のため、効果的な斬撃を与えることかなわなくなり、
ついに今の一合で、均衡が崩れてしまったのだ。
 非力を速さと洞察力で補ってきたさな子は直感した。このままでは負ける。そしてこの会場にあっては、負けは即ち死を意味する。
 それでも動揺をみせず、むしろ一歩前に出た勝気さは「千葉の鬼小町」の異名を得るだけのことはあった。だが、そこで止まる。
これまではさらに踏み込み、すぐさま斬撃に繰り出していたのが、それができない。手詰まりとなったのは確かであった。

 一方の間左衛門は、これまで美男美女と相対した際の愉悦とは異なる高揚感に包まれていた。
 今までの自分であれば、均衡が崩れた今、再び斬られたいという衝動が頭をもたげても不思議ではない。
 あるいは、斬る悦びが心を支配し、それが隙となって顕れたかもしれない。
 しかし、今の気分はそのどちらでもない。かといってかつて戦場で不細工な敵兵たちを一刀のもとに斬ってきた虚しさもない。
ただ死合に臨み、目の前の相手を斬り伏せる、そのことだけに集中できることに充実感を感じていた。

―幼少より消えることのなかった奇癖が…不思議なものだ。

 だが、と考え直す。
 この昂り、この充実感。多くの剣豪、人斬りたちは、この境地に達し、修羅となっていくのではないか。
 清廉さなどない。多少趣向が変わっただけ。やはり自分は度し難い奇癖者よ。
 そう思いいたったとき、間左衛門の口の端から笑みがこぼれた。
 ならばこの死合生き残り続け、より多くの剣豪たちと刃をあわせ続けようぞ。先刻までは神谷薫に斬られ、斬りたいと思って
いたが、あの中では緋村剣心が一番の手練れに思える。いや、先程現れた志々雄という者とも捨て難い。これまでの自分であれば、
何とも興を削がれる容姿であったが、今やそのようなことは関係ない。
 修羅に目覚め、新たな欲望の算段を頭の中にめぐらせた間左衛門は、まずはこの場の決着をつけるべく、間合いを詰め…

 戸惑いとともに一瞬動きを止めた。

 その時さな子は、持っていた刀を鞘に納めていたのだ。


569 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 14:07:15 ID:kTHGIMif



―抜刀術だと?

 構えを見た間左衛門は眉をひそめた。
 抜刀術は「居合」とも称されるとおり、座した状況からいかに身を護り、また反撃するかということに端を発している。
「立合」である剣術とは一線を画すものであり、戦国時代から江戸初期にかけては、まだまだ馴染みの薄いものであった。
 大坂夏の陣で抜き身の刀での斬り合いを経験してきた間左衛門にとっては、相対するのは初めてであったし、この場に
そぐわない、ひどく異質なものに感じたのも無理からぬことであった。

 それにしても…。
 初めて見てもわかる。さな子の体格では到底抜けるとも思えぬ。
 鞘は腰に差さずに左手で持ち、抜いたらうち捨てられるようにはしているが、不自然極まりない。抜き身で脇に構えた方が
まだましであろうに。もしや抜刀術は構えだけか。意表をついて鞘ごと斬りかかるかもしれぬ。振り抜いた際に鞘を飛ばす奇策
もあろう。されどしょせん女の片手。いや両手に持ちかえようと同じ事。威力はたかがしれている。

―如何様であろうとも受け流すだけよ。

 間左衛門が天道流ではなく、今川流受太刀の構えをとっているのは、もはや快楽を求めるためではない。現実として、さな子
の猛攻をしのぐことは、今川流受太刀なくしてはかなわなかった。目的は変わったが、戦術は変わらない。
 如何なる攻撃も受け流し、隙あらば斬る。
 気を取り直し、間左衛門は再びじりじりと間合いを詰め始めた。


570 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 14:08:07 ID:kTHGIMif

―わたくしだって、こんな慣れないことはやりたくないのよ。

 間左衛門の思考が聞こえた訳ではないが、さな子は心でそう呟いていた。
 時代は違うがさな子の価値観も、間左衛門とそうそう変わるものではない。
 北辰一刀流は、さな子の伯父である千葉周作が中西一刀流を基礎として創設したもので、徹底的に神秘性を廃し、合理的な
指導法を確立したものである。腕に覚えがあれば短期間で免許皆伝に至ることができ、幕末の多くの剣士がこれを学んだ。
「剣は理である」とは、千葉周作の一貫した教えである。型の稽古よりも竹刀と防具を使った打込稽古に中心とし、実際の打ち
込みを疑似体験させる。それによって、型の教えでは学びきれない、実戦的かつ素早い動きが可能とした。実際、実戦はほぼ
初陣といってもよいさな子が、場慣れした間左衛門と互角に渡り合えているのは、北辰一刀流の稽古によるところが大きい。
 だがそれゆえに、抜刀術は決して本道ではない。明治以降に抜刀術も型として取り入れていったが、安政年間当時はまだその
過渡期にあった。さな子も技術の一環として心得てはいるが、決して極めているわけでない。

 それでも抜刀術の構えをとったのは、相手の鉄壁の防御を崩すことかなわず、手詰まりとなったこと。
 そして死を直感したとき、ふと先刻、緋村剣心と交わした会話を思い出したのだ。

『飛天御剣流?きいたことないですわね。』
『さ、左様でござるか?剣士の間では結構名は知れていると思うのでござるが…』
『どのような剣術ですの?』
『抜刀術を要に、実戦を重んじた剣でござる。』
『抜刀術を実戦で?わたくしも手ほどきを受けたことはありますけど、ちょっと想像できないですわ。』
『おろ…されどさな子殿、剣の速さ、身のこなしの速さ、相手の動きを読む速さがあれば、抜刀術は何物にも勝る力を持つでござるよ。』
『いくら力があっても、実戦だと動き回るものよ。私は最初から抜いて構えた方が無駄がなくていいと思いますけど。』
『お、おろ〜。』

 この後すぐに神谷薫と座波間左衛門が現れ、話はそこできれてしまった。

 あの時は抜刀術を酷評したが、改めて思い直す。
 北辰一刀流…というよりは様々な剣術修行の中で、抜刀術の稽古は、どちらかというと精神鍛錬に近いものだった。
 竹刀での稽古とは対照的に、真剣を構え、抜き、振りぬく。普段とは異なる緊張感の中、真剣と向き合う貴重な機会であったのだ。
真剣と向き合うということは、死とも向き合うということ。剣心との会話がきっかけではあるが、今まさに死と向かい合い、己が心
を最も端的に顕す形として、抜刀術の構えをとったのは、さな子にとっては必然だったのかもしれない。

571 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 14:09:33 ID:kTHGIMif
 とはいうものの、物干し竿…由来となった備前長船長光は三尺三寸だが、さな子が持っているのは異世界の別物で五尺余り。
 このような長大な太刀を抜刀するなど、経験したことがない。

『剣の速さ、身のこなしの速さ、相手の動きを読む速さがあれば、抜刀術は何物にも勝る力を持つでござるよ。』

 相手の動きを読む速さは…さな子の持ち味である。
 身のこなしの速さは…疲れてきてはいるが、まだ十分。
 残るは剣の速さ…五尺もの刀を、速さを活かしたまま鞘走らせる策は…
 …
 ある。

 あとは覚悟だけ。千葉さな子は腹をくくった。

 いざ。

「ハアアァァッッ!!」

 さな子が地を蹴った。間合いを詰め、鞘走らんとしてほぼ同時に。

  カツッ

 音がした。さな子が左にあった木の根元に、鞘ごと突き刺したのだ。
 否、突き刺したとは言い難い。地面と木の根元の間に引っ掛けただけ。
 しかしその一瞬だけ、鞘が固定される。支点が移動する。左手を離し、身体は前に出ることができる。
 発想としては伊良子清玄の無明逆流れに通ずるものがあるが、力を溜めるわけではない。ほんの一瞬鞘を留めるだけだが、
それで十分だった。
 あとは踏み込みの速度と、鞘走る速度を殺すことなく、全力で振り抜くのみ。

  ヴゥン

 さな子の体格では抜けるかどうかすらもあやぶまれた五尺の太刀が、刃鳴りすらあげ、間左衛門に襲いかかった。
 想定していた中でも最上級の攻撃に間左衛門は戦慄したが、油断はない。この必殺の斬撃を受け流せば勝てる。

 さな子の速さが上回るか。
 間左衛門の受け流しが上回るか。
572 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 14:10:15 ID:kTHGIMif


  キィィィィン!

 澄んだ音とともに、両者の刀が大きく天を指した。


 片方は異世界の品でありながら、その使い手と共に恐るべき強さを誇った大太刀
 片方は鬼を斬ったといわれる剛刀

 どちらも弾かれることなく、折れることもなく、それぞれの手に納まっている。
 そして間左衛門に新たな負傷は…
 ……
 …ない。

刹那の思考。

―勝った!

 間左衛門は確かに勝ちを確信した。
 抜刀術を見切って半身下がり、斬られることなく、また刀を折られることもなく、上手く力を上に逃がしたのは、今川流受太刀
を極めた間左衛門の真骨頂であった。
 女の細腕で自分の豪腕をここまで弾き挙げたのは流石だが、ここまでだ。
 あとは、弾かれた腕の反動をも利用し、思い切り振り下ろすだけ。

刹那の思考が終わる。

――――!!


 果たして、左肩から右脇腹にかけて、大きく袈裟斬りに斬られ鮮血を噴き出したのは、間左衛門の方であった。
573 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 14:13:35 ID:kTHGIMif


 抜刀術は、鞘に納めた状態から刀を抜くまま斬る一の太刀が注視されがちだが、抜いた後両手で刀を持ち、反動と両腕の力を
利用して振り下ろす、あるいは薙ぐ、二の太刀までが一連の動作である場合が多い。演武で藁や鉄板を斬る場合でも、抜刀後の
二の太刀で斬る様子がよく見られる。
 一の太刀で浮き上がった双方の剣は、反動で振り下ろす速度もまた、仕掛けた方が上回っていた。

 さな子にとっても、これは薄氷の勝利であった。鞘を引っ掛けるということを思いついたものの、実際は相手と木の位置、
踏み込む速度、鞘を引っ掛ける位置、その後の身のこなし、全てが正確でなければなしえなかった。それを実現できたのは、
さな子の抜きん出た体術と洞察力もあるし、運がよかったこともあるだろうが、長刀術を極めていたことも大きい。
 さな子にとっても想定外ではあったが、支点と重心が切先に移動することで、その長さもあいまって、長刀の左切り上げの
ような感覚で、振り抜くことができたのだ。但し踏み込んで鞘走った刀の速さはいつもの比ではない。刀の速さと長さと重さに
なんとかついていき、すっぽぬけそうになる柄を必死に両手で握りしめ、左切り上げから袈裟懸けという動きにもっていけたのは、
身体に染み込んだ動き…日頃の長刀術の鍛錬の賜物であろう。

 間左衛門が己の勝利にはやり、攻撃に転じたのも幸いだった。一の太刀を見切った間左衛門である。もし少し詳しく抜刀術を
知っていれば、あるいは勝負を焦らなければ、二の太刀も苦もなく受け流せていたことだろう。そして、隙だらけになったさな子
は、一刀のもとに斬られていたに違いない。

 刹那の判断と動きの差が、勝負を分けた。
 それは、死合いには慣れているが弱者としか立ち合ったことがなく、常に欲望と共にあった者と、
 非力ながらも日頃より強者と切磋琢磨を繰り返し、初めての死合で死と正面から向き合った者の、
心構えの差であったのかもしれない。
574 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 14:14:59 ID:kTHGIMif


 間左衛門はしばし鮮血を噴きながらも立っていたが、やがてひざを突き、ごろりとあおむけに倒れこんだ。
 致命傷ではあるが、まだ息はある。五尺の刀でも即死でなかったのは、さな子の間合いが甘かったのか、間左衛門の体術が
優れていたからか、おそらくその両方だろう。

「お見事。」

 間左衛門が短く言葉を吐き出した。血の塊と共に。

「座波さん…何故…?」

 さな子の質問には、様々な意味がこもっていた。
 あの瞬間、間左衛門からただならぬ殺気を感じた。思わず抜刀し、構えてしまった。
 躊躇わずに構えてしまうほどの殺気を発していたのだ。
 それだけならまだ間左衛門は言い逃れることもできたし、少なくともさな子を言葉で惑わすことはできたはずだ。
 しかし間左衛門は何も言い訳することなく応じた。立ち合う中でその剣気の質は変わっていったが、殺気は強まるばかりであった。

何故、殺気を発したのか。
何故、容易く応じたのか。
何故、かくも凄惨な結末となったのか。

 少しだけ、間左衛門は答えた。

「拙者は…欲望の赴くままに…多くの者を血の海に沈めてきた…が…今日のような立ち合いは初めてでござった…満足でござる。」

「…」

「拙者の…邪なる心を祓っていただいた…かたじけなく存ずる。」

「でも…」
 死んだら何もならない、そう言おうとしてさな子は口をつぐんだ。致命傷を与えたのは、他ならぬ自分である。
575 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 14:15:45 ID:kTHGIMif

「…そなたの剣…まさに邪を打破し…正しきを顕す…破邪顕正…いや…ここは…剣を以って征する…といったところか。」

 間左衛門は自らの奇癖を治すためにさまざまな寺社を訪れ、祈祷や願掛けを行っている。武衛神社で神託を得られなかったのを
最後に、奇癖の治癒を諦めてしまったが、やたらと神仏や説法には詳しくなってしまった。破邪顕正…さな子の太刀筋を形容する
のにふと思い浮かんだ言葉だが、はてどこできいた言葉であったか。

 と、どす黒く染まった間左衛門の肩口に、ひらり、と一枚の花びらが落ちた。周囲が明るくなってきてようやく気づいたが、
先程から二人が距離を測り、また勝負を決める遠因となったこの木は、大きな桜の木であった。

「美しい…」

 視線を移した先にある桜は満開であった。間左衛門のかすみゆく目には、舞い散る桜花が、まるで神仏が放たれ、舞っているか
のように見えた。そこへさな子の太刀筋が重なる。あの太刀筋、実に美しかった。

「名付けるとすれば…破邪…剣征…桜花…放…神…」

 そこまで言って、再び間左衛門は吐血した。もはや口も動かなくなる。視界が光に包まれるのは、昇ってきた朝日のせいだけ
ではなかろう。痛みも感じない。なんと心地よいことか。あの時も天にも昇る心地であったが、それとはまた違った…

 そこまで考えて間左衛門はおかしくなった。

 なんだ、結局は凄腕の美女に斬られ、今極限の愉悦に浸っているではないか。行き着く先は同じよのう…。
 …
 …

 間左衛門は静かに目を閉じた。本人は自嘲しながらであったが、その死に顔は明らかに、一度目の死とは異なるものであった。

【座波間左衛門@駿河御前試合 死亡】
 残り六十六名
576創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 14:36:41 ID:2X4yKulD
 ◆
577創る名無しに見る名無し:2009/09/20(日) 14:43:18 ID:wnbx/nFc
いけると思ったのですが規制が(涙)
しばしお待ちを
578 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 15:14:50 ID:uKa8673e
再開します。
579 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 15:16:14 ID:uKa8673e


「…」

 さな子はしばらく無言で間左衛門の遺体を見つめていた。
 しかとはわからないが、人斬りの性癖があったことだけは確かなようだ。
 その人を自分は救ったのだろうか。こんなにも満足な顔をして、感謝までされて…。

「人を斬って救うなんて!!」

 暁が乙女の激情を照らし出す。

 先刻まで殺し合いはしたくないが、腕試しはしたいと、なんとなく思っていた。
 そのせいだろうか。確かに死合の間は高揚感があった。間左衛門の剣気にあてられたこともあるだろう。始めはどこか奇怪な、
歪んだ剣気だったが、やがて一流の剣士のものとなっていた。強敵との勝負に自分の気持ちも同調し、初めての死合とも思えない
斬り合いと駆け引きを演じた。
 しかし、その後に残ったのは、わずかな高揚感の残滓と、そして虚しさと罪悪感であった。
 それでも絶望も錯乱しなかったのは、一重に桶町道場で培ってきた精神力の強さであろう。
 父や伯父、兄弟や一門との厳しい修行。
 別の流派との諍いもあった。命のやりとりまでは至らぬものの、いつ襲われるかわからない毎日を過ごしたこともある。
 それに育った時代も不安定だった。黒船来航に伴い、時代が動こうとする中で通い来る門下生たち…それぞれの志と覚悟を持ち、
剣術の鍛錬だけではなく日々議論し、己が信念のために命を懸けんとしていた藩士たちとの交流。
 そして坂本龍馬…どこかつかみどころがない性格だが、芯の強さは何者よりも強かった。

 さな子には龍馬や他の藩士ほど学や志があるわけではない。今の状況で、何が正しいかなんて判断できない。
 だけどできることがある。「千葉の鬼小町」は、彼女らしい決断をした。

強くならなくては。

 自分の腕がもう少しあれば、この人を生かしたまま打ち負かし、改心させることができたかもしれない。
 それが自惚れであることはわかっている。しかしこの戦場では、剣でしか語らない人もいる。自分が強くなければ語ることも
できないし、語らせることもできないようだ。
 座波さんとはこうなってしまったが、緋村さんたちとは協力して…。

「…!緋村さん!!」

 そこで思い至り、さな子は周囲を見回した。
 剣心と薫が無事戻ってきているわけもなく、また千石とトウカが追ってきているわけもない。どちらに行くべきだろうか。
 とにかく急がねば。埋葬している時間はない。
 悪いと思ったが、まずは間左衛門の衣服の血塗れていない部分で物干し竿の刃をぬぐい、鞘に納める。次に間左衛門の手から
童子切安綱をとり、腰の鞘を引き抜いて納める。トウカと千石は脇差と木刀しか持っていなかった。薫にいたっては、武器を
持っていない。どちらへ行くにしても、武器は必要だろう。

 もう一度、間左衛門の死に顔を見た後、手を合わせる。
 間左衛門との真剣勝負と、その後の安らかな死に顔が、罪悪感と虚しさに苛まれるさな子に救いと、新たな決意をさせていた。
580 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 15:17:19 ID:uKa8673e

 先を急ぐが一振りだけ。

 長すぎる物干し竿ではなく、二尺六寸余りの童子切安綱で構えてみる。
 さっきは長刀を使うような感覚で、思いのほかうまく動けた。
 その感覚だけは忘れずに。しかし刀身と動きを短く、小さく、想像して。

 すみやかに。かろやかに。

 大きく深呼吸をし、息を整える。

  ヴン

 空気を裂く音が響き、一瞬だけ舞い散る桜が横一線に流れた。
 緋村剣心が見たら驚愕したことであろう。自分でもここまで扱えるのに幾日かかったことか、と。
 時に死合における一瞬は、千日の稽古に勝る。
 速さは申し分なかったが、まだ達人の域ではない。動作の後は身体がよろめき、隙だらけになってしまう。抜刀術の長所短所双方
が大きく浮き出た動きだ。しかし、相手や状況によっては、切り札のひとつとなるだろう。
 北辰一刀流千葉さな子は、実戦における抜刀術をも体得し、その場を後にした。

「破邪剣征…桜花放神…詩か何かの一節かしら?」

 途切れ途切れだったはずなのに、何故かはっきりときこえた、その言葉を心に残して。


【にノ伍 川沿い/一日目/黎明】

【千葉さな子@史実】
【状態】健康 疲労中程度 罪悪感と同時に強い決意
【装備】物干し竿@Fate/stay night 、童子切安綱
【所持品】なし
【思考】
基本:殺し合いはしない。話の通じない相手を説き伏せるためには自分も強くなるしかない。
一:緋村剣心を追う。
二:久慈慎之介とトウカは無事だろうか?
三:龍馬さんや敬助さんや甲子太郎さんを見つける。
四:間左衛門の最期の言葉が何故か心に残っている。
【備考】
※二十歳手前頃からの参加です。
※実戦における抜刀術を身につけましたが、林崎甚助、河上彦斎、緋村剣心といった達人にはまだまだ及びません。
※ひとまず歩き出しましたが、剣心を追うか、千石たちのところに戻るか迷っています。

※にノ伍は草原ですが、川沿いに桜が一本あり、木の根元あたりに座波間左衛門の遺体があります。
※ここの桜の花は満開ですが、季節が春とは限りません。造花かもしれませんし、妖術の類かも。
世界観の設定にも関わることなので、以降の書き手様にお任せします。
581 ◆UoMwSrb28k :2009/09/20(日) 15:18:46 ID:uKa8673e
投下終了です。

死合中の刹那の開眼というベタなパワーアップですが、得た技能については…(汗)
史実創作入り混じえつつ、バランスをとったつもりですが、ご意見ご指摘よろしくお願いします。
582 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/21(月) 05:05:07 ID:bDJ3os7V
投下乙です。
座波はいい死に方ができたな……

こちらも中村主水、明楽伊織、倉間鉄山で投下します。
583か細い絆 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/21(月) 05:06:24 ID:bDJ3os7V
「おっ、やっぱりありましたよ、明楽さん」
「伊織で良いって言ってるじゃねえですか、中村の旦那。あっしはただの町衆なんですから」
中村主水と明楽伊織がいるのは、城下町の西側の渡しの一つである。
町の中を探索していた二人は、つい先程、ここにいる全ての剣士への宣戦の言葉と共に晒された生首を発見した。
そして、血痕を辿る事により、その首の持ち主であったと思しき死体に到達したのだ。
まだ正義感に燃えていた若き日に立ち戻ったかのような熱心さで仔細に現場を検証する主水。
「こりゃあ、殺られてから半時ってとこですな。それに、斬られながらも相手に相当の深手を負わせたようだ」
「なら、首があった所からこっちとは逆方向に続いてた血痕は、あれをやった野郎自身の血って訳か。
 自分も傷付いてるってのに、あんな事を書くたあ、まともな状態じゃなさそうだな。早く見付けねえと」
明楽の言葉を聞いた主水は眉をひそめる。「いぞう」とかいう奴がまともじゃないというのは自分も賛成だ。
なのに、どうしてそこから「早く見付けねえと」になるのか。そんな危ない奴は放っておけばいいのに。
もし、殺された少年が無抵抗で殺されてでもいれば、中村も少しは明楽に同調したかもしれない。
しかし、現場を見れば、互いに激しく戦った末の殺害である事は明らかだ。
好戦的な者同士が勝手に殺し合って数を減らしてくれるのなら、勝手にさせておけば良いではないか。
まあ、明楽は「いぞう」が戦う力のない者を襲ってしまう事を憂慮しているのかもしれないが、
可能性でしかない事の為に自分の命を危険に晒すなど、主水としては御免こうむりたい。

「この仏、俺とご同業のようだな」
死体を探っていた明楽が呟いたのを、主水の耳は逃さずに拾い上げる。
つまり、この首を斬られた少年も忍者の類だということだろう。
(お庭番、忍者、人斬り……そして仕事人か)
この島に連れて来られてから主水が出会ったのはまずお庭番の明楽、続いて忍者らしい少年の生首。
それをやった「いぞう」は、人別帖にあった岡田以蔵……噂に聞く人斬り以蔵の事だと主水は踏んでいた。
他にも、宮本武蔵やら塚原卜伝やら、とうに死んだ剣豪の名を名乗っている連中も、まともな奴等ではないだろう。
つまり、この島に連れて来られたのは、何か後ろ暗い所を持つ裏の世界の住人ばかりのようなのだ。
まあ、考えてみれば当たり前とも言える。
まっとうな剣客が何十人もいきなり消えれば世間は大騒ぎになり、厳しい追求が行われる事になるだろう。
対して、忍びなら消えたこと自体が表沙汰にされない公算が高いし、人斬りが消えても世間は胸を撫で下ろすだけ。
そして、昼行灯の同心が消えた事をそれらの事件と結び付けて考える者など居る筈もない。
仮に仲間が探してくれたとしても、狙われる心当たりが多すぎて、真相にたどり着ける可能性はほとんど皆無だ。
こう考えると、やはり自分が呼ばれたのは八丁堀同心としてではなく、仕事人の中村主水を求めての事だと思えて来る。
ならば……消さねばならない。自分が仕事人だと知っている者の全てを。

(問題は、この人をどうするかだな)
死体を探る明楽の背中を見つめながら、主水は心中で呟く。
これほど大掛かりな事をやる以上、相当に大きな組織が絡んでいるのは間違いない。
その連中が何者で、どうやって自分の正体を知り、組織の中の誰と誰がその事を知っているのか。
それを探るのに自分一人だけでは荷が重く、腕利きの忍者である明楽の協力は不可欠だ。
かと言って、その過程でお庭番に自分の裏稼業の事を知られてしまっては元も子もない。
明楽を利用して主催者の事を探らせ、十分な情報が手に入った段階で始末する。
そんな器用な真似が忍者相手にそうそう出来るとは思えないし、一体どうしたら……
「何をしている!」
そこで怒号と共に殺気が叩き付けられ、主水の思考は中断された。
584か細い絆 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/21(月) 05:07:23 ID:bDJ3os7V
怒りの表情を浮かべて走って来る男の姿を見た主水と明楽は素早く戦闘態勢を取った。
走って来た男……倉間鉄山は剣に手を掛けた中村主水との間合いに入る直前、本能的に危険を感じて足を止める。
(この男、できる)
このまま踏み込めば、おそらく良くて相討ち……しかも、もう一人の素手の男も相当の腕前に見える。
圧倒的に不利な状況だが、それでも鉄山は退く事なくじりじりと間合いを詰めて行く。
肉を切らせて骨を断つ、身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ……その武士道の極意を、鉄山は実践しようとしていた。

「お武家様、何を怒ってるのか知れねえが、これをやったのはあっしらじゃねえですぜ」
そう言って死体を指し示す明楽。
言われて死体の様子を見てみると、確かにこの死体は殺されてからかなり……約一時間は経っているようだ。
この男が死体を漁っているのを見て思わず怒気をぶつけてしまったが、少し早計だったか。
ここで、鉄山の怒気が引きかけたのを察知した明楽が更に畳み掛ける。
「中村の旦那。おいら達が誰も殺してねえ証拠に刀を検めてもらってはいかがです?」
「はあ……」
言われて剣の柄から手を離す主水。それに応じて鉄山の方も警戒を解き、和解の言葉を発しようとする。
その瞬間!主水が刀の鞘を持つ手を思い切り突き出し、鉄山の鳩尾に強烈な柄突を叩き込む。
鉄山は不意をつかれながらも、何とか急所だけは外そうと、素早く刀を抜いて主水の剣を弾く。
だが……
「うわああ」
あまりにも軽い手応えと共に主水の剣は跳ね返され、主水自身は勢い余った態で渡しから川の中へと転げ落ちる。
予想外の事態に鉄山は川を覗き込むが、主水の姿は何処にも見えない。
そんなにすぐに流されるほど深くも流れが速くも見えないのだが。
「なるほど、上手く逃げやがったな」
困惑する鉄山を他所に、明楽は一人、納得したように頷いていた。
585か細い絆 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/21(月) 05:08:09 ID:bDJ3os7V
主水の失踪によって、その刀を検める事は出来なくなったが、倉間鉄山は本来、非常に聡明で冷静な人物だ。
殺害現場の様子、晒された生首、その場所から続く血痕を見て、明楽や主水が下手人ではない事をすぐに悟った。
「疑ってすまなかった。あの中村君にも悪い事をしてしまったな」
「何、中村の旦那のこたあ、気にする事ありませんぜ。何か考えがあるんでしょう」
あの時の主水の動きは明らかにおかしい。川に落ちたのが故意であろう事は鉄山にも明楽にもわかっている。
主水の狙いが何処にあるのか、そもそも中村主水が一体何者なのか、気になるのは確かだ。
先程の鉄山との対峙で主水が垣間見せた剣は、同心という立場にはそぐわぬ一撃必殺の殺人剣であったし。
また、そもそも明楽と鉄山はお互いの事すら完全に信頼してはいない。
明楽の得体の知れなさを見抜いた鉄山は、自分が国防省の高官である事は明かさずにただ倉間鉄山という名のみ名乗り、
人品卑しからぬ上に髷を結っていない鉄山を討幕派の重鎮ではないかと疑った明楽も自身がお庭番とは明かしていない。
そんな訳で仲間とは到底言えない間柄の二人だったが、当面の目標は一致している。
「あっしとしては、このいぞうとかいう野郎をとっとと捕まえるべきだと思うんですがねえ」
「同感だ。この血の量からしてそう遠くまでは行っておるまい。急いで後を追おう」
明楽にしてみれば、鉄山や主水は、裏があるとしても、少なくとも無差別に人を襲うような人物ではないとわかっている。
それならば、まずは「みなごろし」などと物騒な事を言っている以蔵をどうにかする事を優先すべきだ。
一方の鉄山は、「いぞう」というのが、人別帖にあった岡田以蔵だと推測している。
百年以上に死んだ筈のこの男を確保してその真贋を見極められれば、この御前試合の真相を探る大きな手掛かりになろう。
弱き者を守る……その志では一致しているにもかかわらず、この異様な状況の為に互いを信用できずにいる二人。
「人斬り以蔵を捕える」という難事を共に為す事で、彼らの間に真の信頼が生まれるのか、それとも……

【へノ弐 城下町/一日目/黎明】

【明楽伊織@明楽と孫蔵】
【状態】健康、町衆の格好に変装中
【装備】古銭編みの肌襦袢@史実
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:殺し合いを許さない
一:倉間鉄山と協力して岡田以蔵を捕える
二:信頼できそうな人物を探す
三:殺し合いに積極的な者には容赦しない
四:刀を探す
[備考]
 参戦時期としては、京都で新選組が活動していた時期。
 他、史実幕末志士と直接の面識は無し。斎藤弥九郎など、江戸の著名人に関しては顔を見たことなどはあるかも。

【倉間鉄山@バトルフィーバーJ】
【状態】健康
【装備】 刀(銘等は不明)
【所持品】支給品一式
【思考】
基本:主催者を打倒、或いは捕縛する。そのために同志を募る。弱者は保護。
一、伊織と共に岡田以蔵を捕え、その真贋を確かめる
二、宗次郎と正午にへの禄の民家で再会。彼が、死合に乗るようならば全力で倒す。
二、主催者の正体と意図を突き止めるべく、情報を集める。
三、十兵衛、緋村を優先的に探し、ついで四乃森、斎藤(どの斎藤かは知らない)を探す。志々雄は警戒。
四、どうしても止むを得ない場合を除き、人命は取らない。ただ、改造人間等は別。

※へノ弐の渡しの四乃森蒼紫の死体の傍に、中村主水の行李が放置されています。
586か細い絆 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/21(月) 05:08:59 ID:bDJ3os7V
城下町の中を連れ立って歩き、岡田以蔵が残した血の跡を辿り始めた明楽伊織と倉間鉄山。
そんな二人を離れたところから見つめる一人の人物が……中村主水である。
「やっぱりこういう事になったか。さっさと離れて正解だったな」
明楽と鉄山が看破していたように、主水が川に転落したのは彼等から離れる為の芝居であった。
元々、明楽の正義感が強く危険を顧みない方針に辟易していた所に、あの鉄山の登場である。
無惨な死体を主水達の仕業だと思って怒りをぶつけて来た事から考えて、あの男も明楽と似たような性格なのだろう。
そんな連中に引きずられて、人斬りとの戦いに巻き込まれるなぞ冗談じゃない。
だから彼等から逃げたのだが、かと言って明楽伊織の隠密としての能力を捨てる気はない。
ひそかに明楽を見張り、その調査の進み具合を把握し、主催者の正体が割れたら先んじてその口を塞ぐ。
仮に、その前に明楽が人斬りに敗れたら自分はとっとと逃げて別の手を考える……それが、主水の建てた計画である。
もちろん、如何に主水が腕利きの仕事人として気配を消す術に優れていても、忍びに気付かれずに見張るのは至難の業。
だが、鉄山が現れて明楽と合流した事で、不可能かに見えた難事が可能になった。
あの男が何者かは知らないが、主水や明楽よりはずっと表の世界の近くで生きて来た人物のように思える。
そのせいか、あの男からは隠しようもない存在感が噴き出しており、かなり距離を置いてもその動向を察知できるのだ。
これによって、主水は安全な距離を保ったまま、鉄山と同道する明楽を尾ける事が出来るだろう。
「頼りにしてるぜ、明楽の旦那」
そう呟くと、主水は明楽たちの後を追うべく歩き出した。

【へノ弐 城下町/一日目/黎明】

【中村主水@必殺シリーズ】
【状態】健康
【装備】流星剣(清河八郎の佩刀)
【所持品】なし
【思考】
基本:自分の正体を知る者を始末する
一:明楽の後を尾けて、調査の進み具合を監視する
二:できるだけ危険は避ける
三:主催者の正体がわかったら他の者に先んじて口を封じる
587 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/21(月) 05:09:45 ID:bDJ3os7V
投下終了です。
588創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 06:25:30 ID:Au0LxJ+t
投下乙ですが鉄山の移動距離考えると時間帯は早朝がいいのでは?
589創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 07:30:30 ID:w7X1uFEm
両者とも乙です!
座波まさかの初戦敗退。しかし良い戦いと死に様ですな。
いまわの際のサクラ大戦オチは少しやり過ぎのような気もしましたが、
まあ座波だからいいか。原作でもアレな死に様だし。
新技の会得は>>557の必殺技強化とはまた違う話ですが、個人的にはありかと思います。

そしてお役人組のコンビ解消&結成も、絡み合うそれぞれの思惑がいい。
ストーカー化した八丁堀の旦那の老獪さが際立ってますが、
海千山千の三人がこれからどうなるやら。
しかし以蔵の血文字、このロワの参加者はさすがに誰も怖がらないなw
590創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 09:05:06 ID:XPD1tqkB
もしかして、次スレ立てないと容量ヤバい?
591創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 11:56:19 ID:w7X1uFEm
立てました

剣客バトルロワイアル〜第四幕〜
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1253501460/
592創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 12:17:13 ID:Ann0jGLY
両氏共に投下&スレ立て乙です。
どちらの話も今後のキャラの展開が楽しみですね!

それと新スレに一応一日の時間表記の進行表と予約の際の注意書きも
テンプレに追加したほうがよくないかな?
593 ◆cNVX6DYRQU :2009/09/21(月) 20:38:18 ID:bDJ3os7V
>>588
以前に地図の一コマは1キロという話があったので、
それなら鉄山の移動距離はわずか4,5キロで時間的には余裕だと思ったのですが。

地図の一コマあたりの距離が数キロ以上あるという場合は修正したいと思います。
594創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 21:30:57 ID:6B78dEgP
パロロワ界には時間が一つ進む単位での平均的移動距離ってもんがあってな……
だいたい3マス以上進むと異常とみなされるのだよ
まあいいと思うけどね
595創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 22:16:18 ID:jLIRX0Or
移動距離は苦しいけどいいとして、
絶対すれ違ってるのに無視されて涙目の富田勢源が気になるなw
武田赤音と東郷重位はともかく、鉄山は助けが要る盲人に
手を貸さないとは思えない。
596創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 22:49:31 ID:XPD1tqkB
鉄山が街道を通って城下に行ったとは限らないからいいんじゃね
宗次郎と話してる間に勢源が通り過ぎた可能性もあるし
597創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 23:18:29 ID:jYlM+Ia9
>武田赤音と東郷重位はともかく、鉄山は助けが要る盲人に
>手を貸さないとは思えない。

ひでえww

東郷って物凄い人格者なのに。
剣だけに終わらず、風流をたしなみ、慎み深く、
まさに偉人と呼ぶにふさわしい人物だったのにw
よりにもよって、赤音なんかと同レベル扱いだなんて。
598創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 23:23:11 ID:jLIRX0Or
>>597
いやいや、あの二人は命懸けの鬼ごっこに夢中だったからw
まさか東郷と赤音の人格が同レベルだとは思ってないよ。
599創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 23:42:41 ID:ux4WVZs/
>>593
直線距離ならそうかもしれないけど
城下は入り組んでるし夜だしねぇ
600創る名無しに見る名無し
四面怪人戦をみると鉄山将軍に夜はあんま障害にならなそう
てか、このロワは達人ぞろいなんだから一般人が多い他ロワの基準とは違ってしかるべきでしょ