ロボット物SS総合スレ 2号機

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809最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ2


 第2話  衝撃! 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ敗北!


 ※

「帰ったようだな田所カッコマン。いや、天才高校生パイロット・田所正男(たどころ まさお)!」
 基地に舞い戻った最強無敵ロボ・ネクソンクロガネを出迎えたのは、男っぽい口調で話す女性だった。年の頃は二十半ば。切
れ長の眼をした、目の覚めるような美人である。
「ただ今凱旋しました。いやはや、博士の造ったこのネクソンクロガネはすごいロボットですよ」
 固定具を外してヘルメットを脱ぐと、きりりと凛々しい爽やかフェイスが露わになった。高校生・田所正男。それが、つい先
刻に巨大ロボットを操縦して悪の機械怪獣を粉砕した、時のヒーロー・田所カッコマンの素顔だった。
「当然さ。隕石から発見された謎の物質ネクソニウムと鉄の合金、超ネクソン黒鋼をぜいたくに使用したからね」
 豊かな胸を張る彼女は、若きはぐれ研究員・龍聖寺院光(りゅうせいじいん ひかる)だ。ちなみにこの欲張りネームは偽名
である。
「フッ、この最強無敵ロボと、抜群の操縦センスを持つキミが揃えば、悪のロボットなど物の数ではないさ……」
 近年、さる悪の組織から技術的なノウハウが流出したことで、世界では巨大ロボットによる犯罪が散発していた。
 ネクソンクロガネは、そのような事件に迅速に対応するために市民団体“E自警団”が製造した、最強で無敵のスーパーロボ
ットなのだ。
「ええ。必ず、悪のロボットから世界の平和を守り抜いてみせますよ……」 
 ドックに巨躯を休める最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの雄姿を仰ぎ、決意を新たにする田所正男だった。


 ※

 一方その頃。
「くやしい、くやしい、くやしいのじゃお!」
 悪のマッドサイエンティスト・悪山悪男は喚き、地団太を踏んでいた。皺だらけの目元には、涙も滲んでいたかもしれない。
白衣の裾が上下し、煤が撒き散らされる。
「何ですか? 騒々しい」
 研究所には似合わない可憐な少女の声が、老博士の耳に滑り込んだ。
 彼の背後、木製の引き戸がガタピシと悲鳴を上げる。
 悲鳴を上げるだけで、一向に開く気配はない。木は生き物である。悪山研究所内の部屋を行き来できるかは、その日の温度と
湿度に掛かっているのだ。
 よく知る声の主に、老人はみるみる相好を崩した。
「おお我が娘エリスよ」
「孫娘です」
 静かに訂正してから、悪山エリスは探るように言葉を紡いだ。
「……思ったよりもお元気そうで」
 態度こそいかにも素っ気ないが、そこには確かな親愛の情が感じられた。隣町に住んでいる彼女は、週に二度ほどのスパンで
気まぐれに研究所を訪れる。祖父の生活を心配してのことだった。
810最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ2:2009/05/05(火) 19:36:43 ID:IM7bSi2t
 孫娘エリスのことを、悪山は目に入れても痛くないほど可愛がっている。世間からは言うに及ばず、親類からも白眼視されて
いる悪山にとって、彼女だけは唯一の味方だった。
「なに、思わぬ邪魔が入ったが、リベンジの準備はあらかた終わっている! あとは実験中の新装備・ワルリフレクチブシール
ドだけじゃ!」
 悪山は偉そうにふんぞり返り、ラジカセのスイッチを押し込んだ。懐かしさを感じさせるメロディが、街外れの研究所に郷愁
を誘う。



『ワルレックス〜今こそ甦れ〜』
 作詞・作曲・歌/悪山悪男


 子ども時代の愛読書 恐竜図鑑を開いてみたよ
 チラノサウルスはこの頃はまだ しっぽを引きずり仁王立ち

 目まぐるしく変わるジョーシキ
 ついていけないときもあるけど
 今も昔も変わらない
 一番強くて怖いやつ みんなの憧れ ワルレックス

 お誕生日 ねだる孫に 恐竜図鑑を買ってあげたよ
 チラノサウルスはイマドキはもう 体を寝かせて疾く駆ける

 息もつかせずシンセツ発表
 ついていこうと猛勉強 でも
 今も昔も変わらない
 一番ギラギラカッコイイ ピカレスクヒーロー ワルレックス



「ワルレックス改、完成! さっそく出撃じゃ!」
「ご自愛を」
 半ば呆れた孫娘のエールに魂を燃やし、悪のマッドサイエンティストは新たな機械怪獣をブイブイと発進させる。
 あと半世紀は生きていそうだった。


 ※

「え? またですか?」
「またなんだよ……」
 施設の食堂で注文した担担麺を啜っていた田所正男は、予期せぬ出撃要請に瞠目した。もちろん、いついかなるときであって
も戦いに赴く心構えは出来ている。
 しかし、コストも馬鹿にならない巨大ロボット犯罪は、まだそれほど頻繁には発生していない。ましてやまだ数時間しか経過
していないのに、同一個人からのリベンジがあるなど普通は信じない。
「しかし、悪山悪男とはさっき戦いましたよね?」
「つい三時間前にな。もう一体造っていたんだろうか」
 麗しのはぐれ研究者は、こめかみを押さえていた。顔には疲労の色が濃い。
「とにかくあの元気すぎるジジイは、私の最強無敵ロボ・ネクソンクロガネとの一対一をご所望だ。ちょちょいと行って木っ端
微塵にしてきてくれ」
「……了解! 田所カッコマン、最強無敵ロボ・ネクソンクロガネで出撃します!」
 勇んで席を立つ田所正男の顔は、既に戦士のそれになっていた。
811最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ2:2009/05/05(火) 19:40:57 ID:IM7bSi2t


 ※

 遠吠え! 咆哮! 雄叫び! それは、地獄から響く怨嗟の声にも聞こえた。
 機械仕掛けの暴君竜。中生代において猛威を振るったという爬虫類の王だ。
 皮膚の鱗を赤銅色の重装甲に置換して現代に甦った、旧き地上の覇者の威光。
 ワルレックス改。
 悪のマッドサイエンティスト・悪山悪男こだわりのメカ恐竜だ。
「リベンジじゃあ! あの黒いロボットを呼べ! 早くしなければ、この高層ビルヂングでドミノ倒しじゃ!」
 ワルレックス改の頭に合体したワルヘッドで恫喝する悪山悪男。一般市民が慌てふためくさまを眼下にしても、彼の鬱憤は少
しも晴れない。
(やはりネクソンクロガネ! あいつを八つ裂きにしない限りは!)
 屈辱を反芻し、悪山悪男の頭の血管がぶち切れそうになったときだった。
「貴様も懲りない男だな! 悪のマッドサイエンティスト、悪山悪男!」
 澄んだ若者の声に遅れること数瞬、空の高みより降臨する巨大な物体。膝駆動の絶妙なタイミングのために着地はやわらかい。
だが、動くだけで一帯の大気を揺さ振るだけの嵩を持っている。
「最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ、推参!」
 それは、ヒトと近しい四肢を持つスーパーロボットだった。
 光沢のある黒の重装甲は、どこか雑木林の甲虫に似ている。黄金の装飾は地平線を浮き彫りにする夜明けの陽射し。
 カメラの眼には、悪の心胆を寒からしめる凄み。
 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネの勇姿だった。
 宿敵の登場に、悪山悪男の顔面に刻まれた皺が一斉に深みを増す。笑ったのだった。
「ククク……! 現れたな最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ! 飛んで火に入る夏の虫じゃ!」
「お前呼んだんだろ!!」
 思わず叫ぶカッコマンを完全スルーして、悪山悪男は高らかに戦いのゴングを鳴らした。
「ミュージックスタート!」
812最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ2:2009/05/05(火) 19:42:17 ID:IM7bSi2t


『悪(ワル)の天才 悪山悪男』
 作詞・作曲・歌/悪山悪男


※ラララ サイエンス
 ララララ サイエンス
 ラララ サイエンス
 ララララ サイエンス

 電波 音波 光波 重力波 寄る年波
 年季の入ったボディだけれど まだまだカクシャク またメカ造るよ

 積もり積もった恨みを晴らし 富と名声掴むためにも 挫けやしないさ
 孫にも小遣いあげたいの(おじいちゃんだいすき!)

※くりかえし

 電子 原子 量子 重力子 愛しの絵梨子(エリス)
 年季の違うブレーンだからさ 一生ゲンエキ 街をお騒がせ

 冷たく当たった世間を見返し 自信とプライド取り戻すためなら 怯みやしないさ
 孫にもいいとこ見せたいの(おじいちゃんかっこいー!)

※くりかえし

 ある時は 戦闘的マッドサイエンチスト
 またある時は 新感覚アーチスト
 そしてまたある時は 夕暮れロマンチスト

 しかしてその実体は 悪(ワル)の天才 悪山悪男

813最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ2:2009/05/05(火) 19:44:00 ID:IM7bSi2t
「サイエンス!!」
 決着はついた。
 装甲から煙を噴きながら倒れ伏す最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ。ワルレックス改の全身を覆うワルリフレクティブシール
ドが、金属粒子ビームのベクトルを捩じ曲げ、再帰性反射。そっくり撥ね返った最強無敵の破壊力が、ネクソンクロガネを襲っ
たのだ!
「くっ! この前の怪獣とはまるで別物だ……! なぜっ!?」
 歯ぎしりの音は、ヘルメット越しにも聞こえるほどだった。
「それはな若造」
 年寄りの脳裏に花咲く、孫娘の微笑み。
「愛じゃよ」
 もちろん悪山の活動は学会への私怨に端を発している。だがしかし、孫娘エリスの気を惹きたいという想いがあることもまた
確かなのだ。
「なるほど愛か……っ! だが! それならば俺だって!」
 汗ばんだ掌で操縦桿を握り直し、ヒーローが戦意を奮い立たせる。ネクソンクロガネの内蔵兵器の中でも最大の威力を誇る、
ネクソンクロガネビームが通用しないというのに!
『だめだカッコマン、今は撤退するんだ』
「博士!?」
 彼の無謀を静止したのは、はぐれ研究員・龍聖寺院光(偽名)からの通信だった。
「俺に、逃げろというのですか!」
『ヒーローは、……ヒーローは最後に勝てばいい!』
 若き天才の唇は、悲壮に引き締められていた。口にした言葉を、自らに言い聞かせているようにも聞こえた。
(そうか、悔しいのは俺だけではない)
 絶対の自信を持っていた最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが、わずか二度目の交戦で最大の苦境に立たされたのだ。
「了解しました……っ」
 黒い機体が、躊躇いを振り切るように転進する。それが、カッコマン田所正男が初めて経験する敗走だった。
「ぶわはははははははははは! この世に悪人の種が尽きた試しはないのだ!」
 遠ざかっていく巨人の背中を痛快げに見逃しながら、悪山悪男が高笑いを響かせる。台詞は前回の意趣返しなのだろう。
「そんな……」
 街に立つ善良なる人々の表情は、いずれも暗く沈んでいた。
 希望を見失ったように、一人の男性が膝から崩れ落ちる。
「なんてことだ……ネクソンクロガネが、負けた……?」
 呆然とした彼の言葉が、皆の気持ちを正しく代弁していた。誰かの溜め息が漏れる。
 正義の味方の敗北。衝撃の事実は、たちまち街中を駆け巡った。
 ……いいや! まだだ! 諦めるな! ボクらがネクソンクロガネの最強無敵伝説を信じる限り!
 立ち上がれ! 田所カッコマン!
 そして甦れ! 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ!


 つづく