第1話 誕生! 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ!
「ふははははは! 儂の名は、悪山悪男(わるやま わるお)! 野望のマッドサイエンチストである! か
つて学会を追放されたが、今こそ真の実力を世に問うのだ!」
突如として大音声が街にこだまする。老人の嗄れた声。
鼓膜を庇いながら視線を上向ける一般市民は、ビルの陰から現れる巨大な金属塊を目にした。
ビルの屋上よりも空に近く、白衣がはためく。メガホンを持った皺だらけの腕の持ち主こそが、老いたる天才・悪山悪男だ。
「見よ! 儂の提唱した悪山理論によって超パワーを得た、地上最強のスーパーロボ! その名はワルレックス!」
呼応するように咆哮を轟かせる機械の暴君竜。頭頂高二十メートル余り。一昔前の想像図に描かれた、尻尾を下ろしてカンガ
ルー立ちする大型肉食恐竜を思わせる。
ワルレックス。さながらそれは、街角に凝った恐怖そのもの。
「な、なんだあれは……?」
「怪獣だ!?」
「変な爺が食われてるぞ!」
「食われとりゃせん! ここが操縦席よ!」
大混乱に陥るさまを眼下に、悪山は高らかに哄笑する。テンションのいうなりに、思わずタップダンスまで披露していた。危
なっかしいリズムが響く。
「ふぅっふうん! 気分がいい! 唸れ悪山エンジン! ワルレックスよ、このしけた町をねり歩け!」
だが、悪山悪男の人生最高潮も長くは続かなかった。
「そこまでだ! 悪のマッドサイエンティスト、悪山悪男!」
張りのある若者の声が、街中に響き渡ったからだった。
「何者だ!?」
「俺は、田所カッコマン」
名乗りに遅れること数瞬、空の高みより降臨する巨大な物体。スラスターの逆噴射のために着地はやわらかい。だが、載るだ
けで車道のアスファルトを陥没させる質量を持っている。
「この最強無敵ロボ・ネクソンクロガネのパイロットだ」
それは、二足歩行のスーパーロボットだった。
黒光りする重装甲は、どこか武者の甲冑に似ている。黄金の模様は闇雲を引き裂く稲妻さながら。
カメラの眼には、悪の心胆を寒からしめる凄み。
「くろがねの巨人、だと馬鹿な……。この悪の天才以外に、そんなものを製造しうるがおるというかっ」
認めがたきに、悪山悪男が血を吐くような声で唸る。
「この世に悪が栄えたためしはない! 正義の科学が貴様を倒すのだ!」
「くそう、くそう。かくなる上は、そんやつがハリボテに過ぎんということを証明してくれる! ゆけい! ワルレックス!」
操縦桿を怒りの握力で軋ませ、悪山悪男は謎のヒーローに猛然と襲い掛かった。機械の尻尾が波打ち、ビルの間で跳ねた。
「いくぞ!」
謎のロボット・ネクソンクロガネもまた、迎撃のために剛拳を握り固める。
どこからか、英雄の歌が聞こえてくる。
『戦え! 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ!』
作詞・作曲/海老原カッコウーマン
歌/海老原カッコウーマン&ネクソン交響楽団
※ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
ドゥビドゥビ! ドゥビビ!
ドゥビドゥビッドゥ! ドゥビドゥビッドゥ!
ドゥビドゥビドゥビドゥビッドゥドゥビドゥビ!
聞こえるか 巨人の聲(こえ)
その名は[SO] ネクソンクロガネ!
最強無敵ロボ
[AH〜]強すぎる力が また戦いを呼ぶ(マキシマムパワー…)
ひきちぎれ NAMIDAの連鎖(ノーエネミー)
発動! 鍛冶場の馬鹿ヂカラ!(スーパーロボット!)
※くりかえし
ドゥビドゥビッドゥ! ドゥビドゥビッドゥ!
ドゥビドゥビドゥビドゥビッドゥドゥビドゥビ!
聞こえたわ 巨人の聲(こえ)
その名は[WAO!] ネクソンクロガネ!
最強無敵ロボ ネクソンクロガネ![YES!]
「わ、儂の夢が! 儂のワルレックスがぁっ!?」
悪の機械怪獣の胸板には、大穴が穿たれていた。
ネクソンクロガネの眼から野に放たれた金属粒子の帯、すなわち最強無敵ビーム・ネクソンクロガネビームが貫通したのだ。
戦いは終わった。
「……ところでネクソンって何じゃ?」
ぼかーん。悪山の他愛もない問い掛けが、ワルレックスの大爆発に掻き消される。
「覚えておれー!」
脱出マシン・ワルヘッドが、爆炎を引き裂いてどこかへ飛んでいく。UFO的とでもいうべき複雑な軌道を描く空飛ぶバイク
など、さしもの最強無敵ロボ・ネクソンクロガネも追尾不能。
「逃がしたか……」
計器に埋もれたコックピットで、田所カッコマンはひとり呟く。果たして彼は何者なのか。漆黒のヘルメットの下を知る者は、
極めて少ない。
「しかし今日のところは、人々に笑顔を取り戻したことでよしとするべきだな」
最強無敵ロボ・ネクソンクロガネが、夕陽に勝利のガッツポーズを決める。
だが謎のヒーローよ、ゆめゆめ油断めされるな! まだ悪山悪男の野望が潰えたわけではないのだから!
戦え! 田所カッコマン!
戦え! 最強無敵ロボ・ネクソンクロガネ!
つづく