>>89 『ブラックホール移住計画』
タイトルだけ見てあなたは、ブラックホールへ移住などという途方もない難題を
いかにして実現するかという点に興味を持つかもしれない。
しかし、少なくとも本書ではあなたのその好奇心を満たすことはできない。
なぜなら移住計画は成功しないからである。
それどころか成功の糸口すら見つからずに物語りは終わる。
22年以内にブラックホールに移住しなければ、人類は滅ぶという
無茶な前提がまずあって、その問題をクリアするために人々は奔走するの
だけど、どだい無理な話だから何の進展もないまま時間は過ぎていく。
それで人々はどうしたのかというと、絶望に耐え切れなくなった彼らは
解決の方法が見つかったふりをして、嘘の理論で塗り固めた移住ロケットで
ブラックホールを目指すのである。
半ば狂った頭でその嘘を信じたふりをして・・・。
安易な奇跡など起こさず、徐々に狂気に犯されていく人類を描く筆致は異様な迫力に満ちている。
爽快感など皆無だけどずっしりと胸にせまる一編だ。
本当に希望の欠片もない話だから、精神状態が万全な時に手に取ることをおすすめする。