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84 ◆/e.DI9dwo.
幸い、玄関の鍵はかかっていなかった。
「奈美〜?俺だけど、来ちゃまずかったかな?」
ここで平静を保てたのは、見知らぬ靴が玄関に置いていなかったからだろう。
最近、奈美がお気に入りだと言っていた茶色の洒落たブーツと、少しくすんだ色のスニーカーが並んでいた。
「奈美……?」
返事がない。さっきは物音がしたのに、今は誰もいないかのように静かだ。
「入らせてもらうよ」
リビングへと続く細い廊下の先に向かって、声を投げ掛けたとき
「何で来たの?!だめ!帰って!」と、奈美の悲痛な叫びが返ってきた。
「なんだ、やっぱりいたのか……。まぁ……そんなに迷惑なら帰るけどさ……」そう言って、ケーキだけを置き、立ち去ろうとしたとき、廊下に付着した血痕が目に入った。
まだ時間があまり経っていないような、鮮明な、赤い色。
廊下に血が?誰の?なぜ?俺はカバンとケーキを置き去りにして、細く短い廊下を駆け抜けた。
そして、信じられない光景を目の当たりにした。
女の子らしい可愛らしい小物が、シンプルな調度類に溶けこんでいる奈美の部屋。
そんな部屋の片隅に、血だらけの男が腹の辺りを押さえて、うずくまっていたのだ。
「何で……何で来たの……?」
そう言って目に涙を浮かべる奈美。淡い青色のパジャマが返り血で紅色に染めあげられていた。
手には、赤い滴を垂らしているナイフが、しっかりと握り締められている。
俺は言葉を失った。