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82 ◆/e.DI9dwo.
「だめ、今日は来ないで」
「なんでだよ、だってそんな調子じゃ飯だって満足に作れないだろ」
「いいの……」
弱々しい声で奈美が答える。電話越しに伝わる苦しそうな息遣い。どう考えても平気そうではない。
「……いいから、来ないで。私なら大丈夫だから」
そう言い終えると同時に、奈美は咳き込んだ。ゴホッ、ゴホッ、と辛そうな咳だ。
「何が大丈夫なんだよ。いいよ、行く。粥くらいなら俺でも作れるし、看病だって……」
「だめ!」
声を震わせ、奈美は遮った。
「今日は来ないで、お願い。本当にお願い……。心配してくれてありがとう。でも私は大丈夫だから。じゃあね」
「ちょっと待てよ、奈……」
電話が切れた。一方的に切られた。どう考えても、普通の様子ではなかった。
咳と体のだるさは、単なる風邪の症状だろう。でもそれ以外に、何かに脅えているような気がした。
以前にも俺は奈美の部屋に行ったことがある。だから俺が部屋を訪れること自体は、問題がないはずだ。
なら、今日、俺が奈美のために看病しに行くことに何の問題があるのか。
部屋の時計を見る。昼前だ。俺は鞄に携帯と財布といった、いつも持ち歩いているものを鞄にしまった。
じっとしてはいられない。今日行くことで、何か迷惑をかけることになるのだとしても。
車のキーを手に持ち、俺は玄関へと向かった。