580 :
HANA子 ◆c6PZzYalbM :
月も隠れている闇夜。こういう日には必ずどこかで俺たちのような戦争の犬が血を流すことになる。
それにしたってと俺は憂鬱な気分に浸った。この週末は非番だったっていうのによ。
「非番だからって“イイコト”出来るような相手なんざいねぇんだろ?」
俺はもう一回ミッキーのヤツをぶん殴ってやった。なに、かまうことはない。アイツには10ドルの貸しがあるんだからな。
「くそっ、本気で殴るこたぁねぇだろ!」
無駄口を叩くんじゃないと俺は言ってやった。
覚えておけ。ここは戦場、そしてオレたちゃ愚連隊。泣く子も黙る海兵隊なんだからな、と。
LZから“会場”までの間に障害はなかった。ちょっとした接触発動型の捕縛トラップがあったくらいだ。
「いいな、歩哨を排除した後で突入する。コナーは“切り札”を持って俺についてくる。初陣なんだから付いて来てりゃいい」
「了解」
「目標は人質の確保。第二目標は……適当に暴れてライトのチームを楽にしてやる。いいな? 戦闘開始は15分後だ」
肩にかけた銃を構え、俺たちは茂みに伏せて待つ。
そして──時間になった。
サイトに歩哨をとらえ、俺はトリガーを引く。
ほとんど間を置かずゲリラの歩哨が倒れた。ドサッというそれ以外に音はしない。
当然だ。このM8A1には着込んでいるボディアーマーと同じ《完全消音》の魔法を施してあるのだから。
「アルファ6、クリア」
続いてミッキーの声がイヤホンから届く。
「アルファ7、クリアだ。ライトのチームもクリアだってよ。オールクリア、前進よし」
「楽なもんだ。ミラーチーム突入──アルファ18、ちゃんとついて来いよ」
茂みを飛び出し、俺たちはゲリラの基地へと向かって駆け出した。そうだ、兵隊は基本走るのがお仕事だ。
ドンっと反対側に爆発音がたつ。
西側からまわったヒルトンたちのチームがおっぱじめやがったんだろう。クソ、派手にぶっ放しやがって。
「ヒルトンのたれ目野郎も始めたな。畳み掛けるぞ!!」
ミッキーとコナーの返事を聞いて、俺は作戦開始前に頭に叩き込んだ地図を思い出す。
南から突入した俺たちは人質が捕らえられている小屋まで走った。それはすぐにわかった。竹と蔓で作ったらしい粗末な牢獄だ。
「助けに来たぞ! 頭を下げて伏せていろ! 救援だ!! アルファ6、目標を確保!」
牢屋の中の同胞へ、仲間へ、俺は矢継ぎ早に声をかけながら周囲も確認する。素敵なことにこちらに向かってくる敵はいない。
どうやらヒルトンのチームが上手くやっているようだ。
俺は背後を守らせるためにコナーを呼んだ。ミッキーにライトのチームを誘導するよう命じ、構えた銃を右に左に揺らす。
いくら陽動に引っかかったとはいえ、ゲリラもそろそろ人質の存在を思い出すころだろう。
俺は不意に振り返った。
コナーが牢獄の扉に手をかけようとしていた。
「バカッ! よせっ!!」
ミドルスクールの先公が言っていた。
後悔とは事が起きた後に悔やむから後悔と言うのだと。
そしてそれは正しかった。
バチンと火花が散って、けたたましい音が辺りに響き渡ったのだ。
「シット! 《警告音》のトラップか!」
愚痴る暇なんてものはない。《警告音》の魔法トラップと連動した《召喚魔方陣》が魔物の召喚をはじめていたのだ。
この手の魔方陣は発動してしまったらもう召喚が完了するまで止めることはできない。俺は神とコナーの二人を呪った。
「なんてこった!」
ミッキーが呻く。俺は思わず天を仰いだ。《召喚魔方陣》から現れたのは樹人系上級モンスターの『アルラウネ』だったのだ!
こいつの《狂気の叫び》の前には、生半可の《対抗魔法》の障壁などあってないようなものだ!
くそっ、俺も年貢の納め時か・・・・・・『アルラウネ』が《狂気の叫び》の予備動作に入る様子を見て、俺は覚悟を決めた。
その時、俺の背後から閃光が走った。
「?!」
「おー、さすがに樹人系はよく燃えますね」
コナーの緊張感のない声が後ろから聞こえてくる。『アルラウネ』は《火球爆発》の直撃をくらって炎上していた。
直撃し、炸裂し、炎上しているこの様子では、即死のようなものだろう。俺は体中の毛穴からいっせいに汗が噴出すのを感じている。
ひょっとして、俺たちは助かったのか?
「さすがは“切り札”ですね、《火球爆発》の魔法は一味違う。いやぁ、助かりましたね」
ミッキーが俺に目配せをしてきた。俺は無言で頷く。俺たちは静かにコナーに駆け寄り、その両側に立った。
ガシッ、ボカッ!
「お前が、」
「言うな!」
覚えておいてもらおう。オレたちゃ愚連隊。泣く子も黙る海兵隊。そして、天然気味の新人にはちょっと厳しいミラーチームなのだ。