「ちょっと待ってくれよ! なんで減額なんだよ!!」
男がカウンターを叩くとミシっとどこかが軋む音がした。
あたしは幾度となくこのカウンターにて繰り返された問答を走馬灯の様に思い起こす。
ちょっとマテ。走馬灯の様にって、あたし死んじゃうのかよ!
「プッ」
「何がおかしい!」
おっといけないいけない。思わず自分でウケちゃった。
「失礼」
そこそこの修羅場は潜り抜けたらしい目の前の男。その威嚇する視線を正面から受け止めつつ、あたしはコホンと一つ咳をした。
「えぇと、貴方のお仕事は・・・・・・ベルンフォレストの害獣退治でしたわね」
「害獣退治だと? 害獣どころか相手はオークの群れだったんだぞ? 元から話が違ってんじゃねーか!」
「フォーリスの妖精学においてはオークは“害獣”として分類されてますのよ? ミーティアやドマなどの主要国家でも採用されてるフォーリスの妖魔魔獣大典で、ですの」
「だからなんだよ」
「ギルドの依頼内容に間違いはなかったってことですわ」
うぐぐ・・・・・・と男が呻く。あーいい気分。やっぱ屈強な男達をやり込めるのは、ほんっとにキモチイー♪
「だ、だけどな」
ちょっと勢いが弱まったけど、彼はまだまだやる気のようだ。ウフフフフ。へこたれない男の人って、ス・キ☆
「けどな、俺達はオークどもを間違いなく駆除したんだぜ? 巣穴まで行って残らずだ! それなのに銀貨3000枚に減額されるってのはどういうことだよ!」
「それは当然、任務がキッチリ完了されなかったからですわ」
「だからどうしてそんなことになっちまうんだよ!」
ドンっとまたカウンターを叩く彼。
「5000枚が3000枚だぞ? 3割の減額ってどういうことだよ!」
「5000枚が3000枚になったんなら4割の減額だろうが」
後ろに立っていた魔術師風の人がすかさずつっこむ。彼、後ろを振り向いた。
「マジ?」
「マジ」
クルリとあたしの方に向きなおる。
「もっとひでェじゃねーかっ!!」
やん、唾飛んでるー! 減点10。そういうのはダメ。ワイルドなのはいいけど、汚いのはダメ、絶対。
「一体全体どういうことだよ、こりゃあよ!?」
あたしは彼の面前に一枚の紙を突き出した。
「これはベルンフォレスト駐在のギルド職員からの報告書ですわ」
彼の顔が“?”で埋まる。けっこう可愛い。15点加算。
「オーク退治の際に依頼主の農場の柵を破壊する。家畜小屋の壁を壊す──減点。オークの襲撃の際に羊を3頭殺される──減点。えーと、待機中に酒を呑んでクダをまく──減点」
「あ・・・・・・、その、それは・・・・・・」
「特に羊を守りきれなかったのは痛かったですわね。これは貴方たちが着任した後での出来事ですので、ギルド憲章3項に抵触するんですの」
「・・・・・・どういうことだよ?」
「ギルドの契約条項の30条にある、依頼主への保証責任が発生するということですわ。この場合はギルド側に不備はありませんので、依頼を受けた冒険者に保証義務が発生するんですの」
「・・・・・・つまり?」
「羊3頭と農場の柵に家畜小屋の壁、散々飲み食いしたお酒や食べ物の始末が銀貨2000枚で済むというのはとっても良心的な金額ではございません?」
うぐぐ、と彼は強く呻いた。
「羊1頭辺りの相場は確か・・・・・・」
「今なら銀貨1500枚ってところかしら?」
後ろの魔術師にあたしは答える。
「よろしくて?」
言外にこれで済ませてやるんだから納得しろと潜ませる。さすがに彼も気がついたようだ。
「それで・・・・・・いいです」
「いいです?」
「それでお願いします・・・・・・」
うん! 打ちひしがれて従順になった男の人ってイイワァ! じゅるりと思わずよだれが出ちゃう。
「当冒険者ギルドでは、登録冒険者の皆様が様々なトラブルに煩わされることなくお仕事や冒険に集中できるよう尽力いたしておりますわ。またのご利用お待ちしていまァす!!」
銀貨3000枚の手形を受け取って帰っていく彼ら。
あぁ、ゾクゾクしちゃう!
やっぱこっちの仕事に転職してよかったなァ。ジメジメしたダンジョンで宝探しも悪くないけど、合法的に屈強な男の子たちをとっちめるこの楽しみには適わないかも。
「はい次の方どうぞ〜。受付番号37番の方〜」
お、次はちょっと頼りなさ気な若い男の子。見た感じ剣士か何かかしら?
じゅるり。おっとよだれが。
さぁて、君はどぉんな冒険の結果をあたしに教えてくれるのかな〜?
いっぱいいっぱい、あたしを楽しませてちょうだいね☆