やあ。
ようこそ、喫茶753へ。
この千歳飴はサービスだから、まず食べて落ち着いて欲しい。
うん、「なごみ」なんだ。済まない。
七五三とは関係ないんだ。謝って許してもらおうとは思っていない。
でも、この店名を見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
「不思議」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい
そう思って、この店名をつけたんだ。
じゃあ、注文を聞こうか。
「……それ、来る客全部にやってるの?」
まさか。親しい人にだけやる、ジョークのようなものさ。
「親しい……。……そう」
えっと、注文は坂本龍馬だったかな?
「なんで喫茶店に来て注文が坂本龍馬なのよ! ブレンドちょうだいって
言ったでしょ。……というか、坂本龍馬を注文したら何が出てくるの?」
そりゃあ無論、坂本龍馬が出てくるさ。
「どこに?」
……この世界のどこか、果てない遠くに、さ……。
「ホント、適当言ってわけわかんなくさせるの、昔から得意よね」
いやいや、適当を言っているわけじゃない。俺が出ると言ったら、この
世界のどこかに坂本龍馬は出るんだよ。
「何? 最近は電波も入ってきてるの? ……そりゃ十年会って
なかったんだから、人間変わりもするわよね……」
僕には何故君が遠い目をしているのかわからないな。皆目見当が
つかない。だから笑っておこうと思う。はっはっは。
「……前言撤回。やっぱり変わんないわ、あんた」
さて、注文を繰り返そうか。ブレンドが一つ。以上でよろしいかな?
「うん。そっちの腕は上がってるんでしょうね?」
お陰様でね。まあ、まさか趣味が高じてこういう店を出す事になるとは、
当時の僕は思っていなかったし、今でも半分信じられないけどね。
「高校当時飲みまくっては駄目だししてあげた恩、少しは返して
もらいたいもんね。……なんかサービスとかないの?」
そうだな……サービスか……千歳飴とか?
「それはさっき貰った。私だけへのサービスとか、そういうのは無いの?」
君だけへの、サービスか……。
「……なんてね。別に私はあんたにとってなんでもない、ただ十年来に
会うってだけの友人なだけなんだから、別に何も無いのも当然よね。
ごめん、無理を言って困らせちゃったわね。でも、これからは度々
来れるし、常連になったら何か……」
……君が欲しい物、何かあるかい?
「欲しい物? 今?」
そう。さっきも言っただろう? 僕は注文された物を何でも出す事ができる。
「電波来たわね……」
ま、駄目元でも構わない。何か言ってみたらどうだい?
「駄目元……か……そうね、駄目元なのよね。だったら、一つだけ」
なんだい?
「指輪」
……指輪?
「そう、指輪。欲しいな。駄目?」
駄目なわけないさ。僕は何でも出せるんだから。
「んじゃお願いするわね。あ、ちゃんと今すぐここに出してよ?」
了解。じゃあ、しばらく待ってくれ。今ブレンド入れるから。
「ん。そっちも楽しみにしてるからね」