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36創る名無しに見る名無し
彼女の顔はますます赤くなり、振り上げた斧を勢いにまかせて振り下ろした。
俺はバックステップでそれをかわそうとしたが、そんな必要はまるでなかった。
彼女は斧の重さに引きずられ、前のめりになり、斧ははるか前方でアスファルトの
地面を叩いた。
その衝撃をもろに手首にくらった小娘は、手にした武器を再度落とし、
うめき声を漏らして、その場にうずくまった。
俺は思わず肩をすくめた。
この街で通り魔殺人がはじまったのは今から1年前のことだ。
最初の被害者は小谷栄太郎という26歳の警察官でかつてオリンピックで
強化選手にも選ばれたことのある猛者だった。そんな彼が巡回中に何者かに
襲われ、あっさりと殺されたのだ。正面から頭を叩き割られ、ほぼ即死だった
ということだ。
警察は身内に対する狼藉に色めきたち、総動員の態勢で捜査に当たったが
何一つ手がかりを得ることが出来なかった。
そのままずるずると1ヶ月がすぎ、迷宮入りの色が強まった頃、第2の事件は
起きた。
今度の被害者は30代の暴力団員で190センチを超える巨漢だった。腕っ節
ひとつで組織の幹部までのし上がった根っからの喧嘩屋だったが、彼も
反撃の跡すら残さないままに正面から一撃によって倒されていた。
その後も事件は続き、1年足らずで小さな街から20人以上の被害者を出すと
いう前代未聞の連続殺人に発展した。
通常、通り魔と言えば女子供といった弱者を狙うものだが、この犯人は
まるでストリートファイトでも仕掛けるように格闘技経験者や暴力に携わる
者たちを狙っていった。しかも、これだけの死者を積み重ねながら犯人は
一度の目撃も許さず、わずかな遺留品も残していないのだ。とても常人の
業とは思えない。
少なくとも目の前でひとり喜劇を演じている小娘がそれをなし得たとは
想像することすら出来なかった。
俺は自分の思惑から外れたこの展開に正直うんざりしていた。
俺が期待していたのはもっとスリリング何かだ。
より明確に言えば人間離れした犯人との対決だ。
そのために俺は依頼を引き受けたというのに。
俺の肩書きは一応探偵ということになっているが、浮気をしている旦那を
尾行して盗み撮りをしたり、行方不明の娘を探して聞き込み調査をしたりはしない。
もっぱら腕力とありとあらゆる危ない橋を渡ってきた経験を生かして物事を
解決するという、要するに荒事解決のスペシャリストだ。
依頼してきたのは5番目の被害者の母親で、資産家の娘として育ったマダムだった。
ナルシストのボディビルダーだった息子を溺愛していて俺の所にやってきた頃には
犯人に対する憎悪でほとんど発狂寸前だった。