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302盲導ロボット
いつもの公園で、僕はロボットとフリスビーを投げ合っていた。
僕がキャッチし損なってしまって、フリスビーがベンチ近くまで転がった。
ベンチには高校生くらいのお姉さんが座っていた。
「すみませーん! それ、投げ返してもらえますかー?」
僕はベンチのお姉さんに向かって叫んだ。
お姉さんは、一瞬間があってから周りを見渡し、どこか遠くを見ながら手探りで
ベンチの周りを探した。
――そこじゃないよ、足元だってば……
僕は内心イラっとしたが、あきらめてベンチへ歩いて行った。
僕とロボットが近付くとお姉さんは、
「ご、ごめんなさい……」
僕らのほうを見ないまま、そう言った。
「いえ、いいんです。足元のフリスビーを取らせてください」
そう言うと、お姉さんはさっとベンチの端に身を寄せた。
そのとき、はじめて僕らはお互いの顔を見た。

お姉さんは色白で整った貌立ちをしていたが、その目は白く濁っていた。
僕は驚いて声を上げそうになったが、すぐに分かった。
――この人は、目が見えないんだ。
フリスビーを拾って体を起こすと、車いすを押したおばさんが近くに寄ってきた。
「ゆかり、車いす直ったよ。それから、やっぱり駄目だって。盲導犬は高いわ……」
「お母さん」
お姉さんが答えた。
「あら、お友達?」
僕は、自分たちのことを言われていると気づくまでちょっと間があった。

「あ、いえ、すみません。気をつけます!」
ぺこりとお辞儀をすると、ロボットと一緒に駆け出した。
何故だか、早くその場から立ち去りたかった。

「ねぇ父さん、『盲導犬』ってなに?」
夕食の時、何気ないふりを装って聞いてみた。
「盲導犬? そりゃ、目が不自由な人の助けをする犬のことか」
「たぶん。助けって、何をするの?」
「例えば横断歩道渡るとき、信号見えないだろ? 青になったら『渡りましょう』って
引っ張ってくれるとか。反対に赤だったら、渡ろうとするご主人を止めたりもする」
「へぇ。他には?」
「レストランで、テーブルや他の人にぶつからないよう席まで案内したり、とかかなぁ。
父さんもあんまり知らんけど。それがどうした?」
「や、ちょっと学校で聞いたから」
「そういうことは学校の先生に聞きなさいよ。何のために学校行ってるの」
母さんが、明日のお弁当レシピを検索しながら口をはさむ。
だめだ、これ以上父さんに質問したらどんなお小言が始まるか分からない。
盲導犬は高い、とあのお姉さんのおばさんは言っていた。
やっぱりペットショップで買うんだろうか。その値段が、とっても高いのかもしれない。