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193創る名無しに見る名無し
>>192
キュッ、キュッとホワイトボードに、一般人には理解できそうもない式が羅列されていく。
「――というわけだ。古典力学と相対論の一番の違いだね。さて、それでは今の説明を元に、
次のページの問題がわかるかな……君、どうかな」
「あっ、えっと、その……すみません、わかりません」
「わからない、か。ふむ、仕方ない。では君」
大学一年の必修ゼミで相対性理論を学習する時間だ。わからないと返事した学生は
授業にはこれっぽちも集中せず、若い講師を熱っぽく見つめていた。
「おお、素晴らしい! その通りだよ、君! なかなか物理的センスがいいね」
少年のように目を輝かせて語る彼に彼女はさらにうっとりとする。

授業が終わると、そそくさと学生たちは部屋を出て行く。彼女はぼんやりとしたまま残っていた。
「うん? どうしたのかな?」
「えっと、いえ、なんでもないです」
「そうか……では私は失礼させてもらうよ」
いかにも威厳のありそうな分厚い本を脇に抱えて彼は部屋を後にしようとする。
「待ってください!」
「! びっくりするじゃないか。どうしたのかね?」
「あっ、あの……」
彼が訝しげに目を落とす。彼女は彼の空いていた方の手を握りしめていた。
彼女はその視線に気づき慌てて手を離す。
「ひゃあっ! す、すみません! あ、あの、慌てちゃって……これは不可抗力ってやつです」
「不可抗力、か……ふむ。それで、いったいどうしたというのかな?」
「あっ、あの、私、先生のことが好きです!」
言った途端に彼女は耳まで真っ赤に染める。
「すっ、すみません!」
恥ずかしさに耐えられなくなって彼の横を過ぎて逃げ出そうとする。
「待ちたまえ」
今度は彼が彼女の腕を握り、引き留める。
「いたっ」
彼があまりに強く握りしめたため、彼女は思わず悲鳴をもらした。
「ああ、いや、すまないね。これも不可抗力、というやつかな」
彼女は不思議そうに彼の顔を見る。すると彼は彼女に顔を近づけて
そのまま唇を重ねた。
長い長い接吻を終えると、彼女は我を取り戻して嬉しいやら恥ずかしいやら
訳がわからないやらで混乱していた。
「あ、あの……今のも不可抗力、ですか?」
「ああ、その……こういう言い方はあまり私は好きではないのだけれどね。
今のは私と君の万有引力のせいだよ」
「えっ、それって」
「ああ、そうだね。……そもそも不可抗力と言えば、初めて君を見たときに
好きになってしまったことかな」
「先生……」
彼女は目を潤ませて彼を見つめる。
ひしっと二人は抱き合うと、今度は彼女から熱い口づけを交わした。
「さっきのお返しです。そうですねぇ……作用反作用の法則、かな」
「ふむ、少し使い方が間違っているような気もするが――」
「もうっ! そんな細かいことは気にしちゃだめです!」
黄金色に染まる教室に二人の幸せな笑い声が響いた。