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「それでこの縄を切ってくれるのか!?」
「どうしてそんな事をしなきゃいけないの?」
 彼女は、俺の輝く表情とは対照的に、きょとんとした顔を見せる。
 ……違、う? じゃあ、なんでカッターナイフなんか……。
「これは、“お話”するのに使うだけじゃない。当たり前の事、聞かないでよ」
 笑顔に戦慄するという事が、実際にあるのだと、俺はその時初めて知った。
「さあ、“お話”しましょう。せっかく我が家に招いて、お茶まで振舞ったんだから、
 少しくらい“お喋り”しても、バチは当たらないと思うわよ」
「……お、お喋、り?」
 お喋りをするのに、何故彼女は俺の喉元にカッターナイフを当てるのだろう。
 何故、口は半月の形に歪んでいるのに、目はちっとも笑ってないんだろう。
「ま、別に“お話”なんかしたくないって言うなら、仕方が無いわよね……
 あたしは別に、アンタなんかと話したいわけじゃないし……でも、お茶まで
 振舞ったお客さんにそんな態度とられちゃうと、悲しくて手元が滑っちゃう
 可能性については否定できないわ……」
 ……姐さん、それ、脅迫です。
「“お話”、して、くれるわよね?」
 や、ヤンデレ分が本領を発揮し始めたっ!
 俺は目で何度も頷いて見せた。下手に頷いて首を動かせば、その瞬間
スパッと逝ってしまいかねない。誤字ではなく。
「よかった……ま、別にあたしは嬉しくないんだけどね」
 その表情は、つい数分前まで少しいいかもと思って、状況さえまともなら
惚れてしまいそうだと思ったその表情は、今は俺に恐怖しかもたらさなかった。
「じゃあ、“お話”しましょう……仁藤(にとう)さんと、楽しく喋ってたの、あれ、何?」
 ……姐さん、これ、尋問です。
「べ、別に何でも……に、仁藤は、同じ、委員会、だし」
 喋る度に小さく揺れる喉を、突きつけられたカッターナイフが圧迫する。
「嘘ね。あんな楽しそうな顔……あたしの前じゃ見せなかったじゃない」
「そ、そりゃ……お前とは、今日までそんな、親しく……」
「そうね、確かにそう。でも、今日からはもっと親しくなれるわよね?」
「……」
「ね?」
「は、はい!」
 ヤバイ。もう、どうにかなってしまいそうだ。身体がではなく、心が。
「もちろん、あたしは別にアンタの事なんかどうでもいいの。でも、仁藤さんは
 がアンタみたいなロクデナシに引っかかって不幸になるのは、友人として
 見過ごすわけにはいかないから、仕方が無くあたしが仁藤さんの代わりを
 してあげようって言うのよ。光栄に思いなさい」
 もう、ツンデレとかどうでもいい。何とかして、この状況から脱出しないと、
俺は駄目になってしまう。
 三枝に近づこうとしない男連中の、冷凍イカのような濁った瞳を思い出した。
このままでは、俺もあいつらと同じ……
「逃げようと、思ってる?」
「……! そ、そんなわけ……!」
「良かった……逃げようなんて思ってたとしたら……あたし、アンタを殺して、
 自分も死ななきゃいけなかったんだから……うふふ」
「な、なんでっ!?」
「でないと、仁藤さんに迷惑がかかっちゃうでしょう? それに、アンタを殺したら
 アタシも殺人犯。もう生きてる価値なんて無いわ。理屈でしょ?」
 ……狂った、理屈を、彼女は朗々と詠じるように口にする。
 本当に、彼女は――
「や……病んでる……っ!」
「今日は……ゆっくり……“お話”、しましょ?」