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175パパのヒマワリ 7/8
 やっとわかった。パパにとってヒマワリがなんであったのか。一番大切な人の笑顔、そ
れがパパのヒマワリなんだ。いつもベランダでヒマワリを見つめながら、私が笑顔でいて
くれるように願っていたんだ。
「っく、ふふっ……ひっく……ふふふっ……」
 私はパパの期待に応えようと必死で笑顔を作った。涙でぐしゃぐしゃになりながら、ヒ
マワリのように明るい笑顔を見せた。
「……ありがとう、由美」
 消え入るようにそう言うと、突然異変が起きた。
 がふっと、ベッドに嘔吐して、苦しそうに息をしだす。体が震えだして、バタバタと暴
れ出す。
 叔父さんが飛び出してきて、パパを落ち着かせようとする。
「おいっ! ナースコールだ!」
「はっ、はい!」
 叔母さんは慌てて、ナースコールをする。
 ばたばたとドクターやナースたちがやってきる。でも、その時にはもうパパは落ち着い
てしまって、息をしていなかった。
 心肺蘇生を試みたけど、ダメだった。パパはその日、死んだ。
 『明日は今日とはまるきり違う』パパの言う通り、じゃなければ良かったのに……


 私は叔父さんたちの家に引き取られることになった。叔父さんたちはいい人たちだし、
子供にも恵まれないでいたらしく、私を引き取ることには喜んだ。

 叔父さんの家に移るため、家の荷物を整理していた。自分の荷物は案外すぐに整理が終
わった。ふと、パパの書斎に入ってみた。ここも線香の匂いでいっぱい。綺麗に整ってい
て、パパの真面目な性格が出ている。棚には様々な本が入っていて、私には難しくて、読
めそうもないものばかり。机の引出しに手を伸ばす。何が入っているのかと思って、中を
覘くと、表に日付がつけられたノートが何冊も入っていた。一番最近の日付から始まって、
まだ終わっていないノートを開く。
 それは日記だった。少し丸みを帯びた柔らかい字で、びっしりとページが埋められてい
た。パラパラとめくり、ふと目を止める。
『母さんが死んだ。父さんは悪い人だ。母さんが苦しんでいる時に、駆けつけてあげられ
なかった。母さんは俺を恨むかな。でも、それ以上に、由美が恨むかもしれない。今日か
ら、例年のようにヒマワリを育てる。それを見て喜んでくれる母さんはいないけど。明日
からは父さんが由美のために頑張る。由美のためになんでもしよう。今は悲しみでいっぱ
いな由美をきっと笑えるようにしてあげよう』
 そのページはぽつぽつと斑点がついていて、紙が所々ふやけていた。
 それから日記は毎日家事での奮闘が書かれている。