西尾維新バトルロワイヤル

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1創る名無しに見る名無し
このスレは、西尾維新の作品に登場するキャラクター達でバトルロワイアルパロディを行う企画スレです。
性質上、登場人物の死亡・暴力描写が多々含まれすので、苦手な方は注意してください。

【バトルロワイアルパロディについて】
小説『バトルロワイアル』に登場した生徒同士の殺し合い『プログラム』を、他作品の登場人物で行う企画です。
詳しくは下の『2chパロロワ事典@wiki』を参照。
ttp://www11.atwiki.jp/row/

【ルール】
外界から隔離された空間で最後の一人になるまで殺し合いを行い、最後まで生き残った一人は願いが叶う。
参加者は全員首輪を填められ、主催者への反抗、禁止エリアへの侵入が認められた場合、首輪が爆発しその参加者は死亡する。
六時間毎に会場に放送が流れ、死亡者、残り人数、禁止エリアの発表が行われる。

【参加作品について】
参加作品は「戯言シリーズ」「零崎一賊シリーズ」「世界シリーズ」
「新本格魔法少女りすか」「物語シリーズ」「刀語」「真庭語」の七作品です。

【参加者について】
参加者は全部で45名です。各作品の主人公とヒロイン、オープニングに登場したキャラクターは参加確定。
現在参加が確定しているのは「戯言遣い」「玖渚友」「零崎人識」「病院坂黒猫」「水倉りすか」「供犠創貴」
「阿良々木暦」「戦場ヶ原ひたぎ」「鑢七花」「とがめ」「真庭狂犬」「真庭鳳凰」「真庭人鳥」の13名。
残りの32名は自由枠として、SSに登場した順に参加が確定していきます。

【支給品について】
参加者には、主催者から食糧や武器等の入っている、何でも入るディパックが支給されます。
ディパックの中身は、地図、名簿、食糧、水、筆記用具、懐中電灯、コンパス、時計、ランダム支給品1〜3個です。
名簿は開始直後は白紙、第一放送の際に参加者の名前が浮かび上がる仕様となっています。

【時間表記について】
このロワでの時間表記は、以下のようになっています。
0-2:深夜 2-4:黎明 4-6:早朝 6-8:朝 8-10:午前 10-12:昼
12-14:真昼 14-16:午後 16-18:夕方 18-20:夜 20-22:夜中 22-24:真夜中

【まとめwiki】
ttp://www24.atwiki.jp/nisioisinnbr/

【避難所】
ttp://jbbs.livedoor.jp/otaku/12245/
2 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 16:59:31 ID:zOOTMCOW
一応トリをつけて。
とりあえず、5時10分ごろにOPを投下してみたいと思います。
3創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:00:40 ID:itwWozfa
スレ立て乙です
10分から投下了解しました
4創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:05:07 ID:p6DI2HVR
よくわかんないけどwktk
5 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 17:14:28 ID:zOOTMCOW
時間になりましたので、OPを投下してみたいと思います。


 あまりに脈絡のない展開なので申し訳ない限りだが、どうやら拉致監禁されてしまったらしい。
 これを聞いて驚かないで欲しい事なのだが、全くを持って、攫われた時の事を覚えていない。一体誰が、何時、何処で、どうして、どの様に、何の為に、連れ去られたのか解らない。
 その為、正直言って攫われたというよりも、気がついたらここに立っていた、という感じの方が近い。
 今現在、僕の目の前にあるのは、ここにあるのは壁と床と天井だけです、と言っても良いぐらい何もない部屋である。
 おまけに真っ白、天井そのものが照明になっているのか、強力な光が降り注ぎ、部屋の角にすら陰りは落ちていない。距離感を見失いそうな、そもそも壁を見失いそうな部屋である。
 そういえば昔どっかで、純白の部屋で育った子供はキレ易くなる、とか聞いた気がする。なるほど確かに、何も無い真っ白な部屋というのは、どうにも圧迫感というか何というか、何か苛立つものがある。
 割と結構な不快感だ。生理的嫌悪、という奴だろうか。正しく徹底した白っぷりである。
 純白である。
 ピュアホワイトである。
 だがそれだけに、僕の影はくっきりと床に映っていた。まるで人型の穴か何かのように数分の乱れも無い真黒、それが純白の床にある。そして僕の影には、一本の矢が刺さっている。
 そして、そして、そして。
 まるでそれが杭だとでも言うかのに様に、僕の身体は極僅かにも動かない。
 鎖に締め上げられた、というよりも、コンクリートに埋められた、って感じ。拘束されるというか、そもそも自分の身体は動く様には出来ていないんじゃないか、と、そう考えそうになる徹底した不動である。
「…………いや、マジで」
 あ、喋る事は出来た。それに耳をすませば(この表現であっているのかは解らないが)、心臓の動く音がわかる。動けない、といってもそれは随意な部分だけであり、生理的な部分の動きは問題無いようだ。
 まあ、そうでなかったら僕は生きていないだろうか、当たり前と言えば当たり前の話だが。
 取り合えず当座は死なずに済みそうだ……いやいやいや、たとえ生理的に動けてもこのまま身体が動かなければ、遠からん内に餓死なり何なりで死ぬだろうけれども。
 ああでも、どうやらこの部屋には僕以外にも人間がいるらしかった。気配と言うか、話し声と言うか、まあそんな感じのものが聞こえてくる。それから考えるに、部屋の中にいるのは、十や二十ではきかない、それなりの大所帯である様に思えた。
「その鳴き声、阿良々木君ね」
 と、耳をすます僕を呼ぶ声をした。否、聞き覚えのある毒舌、というべきだろうか。
「戦場ヶ原、か?」
 戦場ヶ原ひたぎ。
 この善良無垢なナイスガイ、阿良々木暦を捕まえて鳴き声とか言う奴を、僕は彼女の他に知らない。いや単に僕かどうかも解らないのに人の声をいきなり鳴き声呼ばわりする奴を他に知らないというか、他にいて欲しくないだけなのであるが。
 嫌だなぁ、罵詈雑言だけで人を区別出来るのって。
「失礼な事を思われた気がするわ」
「気のせいだろ」
「失礼な事をされた気がするわ」
「返事しただけだろう!?」
 単純な受け答えすら許されないのか!
「あら、阿良々木君ごときが私に声をかけるだなんて、失礼以外の何があるのかしら?」
「お前の中で僕はどんだけ低ランクなんだ!?」
「ドブネズミ以下よ」
「即答!?」
「冗談よ」
「本当だな、本当に冗談なんだな!?」
「ええ……冗談抜き、本気よ」
「つまり冗談じゃないって事か!」
「そんな事無いわ。本当よ? 阿良々木君が虫以下だなんて、そんな事ある訳ないじゃない」
「…………………」
「阿良々木君は虫けら道以下よ」
「そんなこったろうと思った! そう言うと思ったよ!!」
 本当に期待を裏切らない奴だな、戦場ヶ原ひたぎ!
 畜生、おちおち期待も抱かせやしねぇ! 油断も隙もありゃしねぇ!
「犬の糞以下よ」
「まだ下がるのか!? 一体お前の中で僕はどんな位置づけなんだ!」
「……ぇ、そんな事を、わ、私の口から言わせる気?」
「何だその反応! 本当に僕はどんだけ下だと思ってんだよ! お願いだから教えてくれ!」
「自分の下等さを言って欲しいだなんて、あいかわらず阿良々木君はマゾね」
「という事はお前はサドだな!? その認識が通せるなら僕は敢えて汚名を被るぞ!」
「大丈夫、安心しなさい。……阿良々木君の位置づけはね」
 そこで戦場ヶ原は、慈愛に満ちた口調で、言った。
「――縁の下の力持ち、よ」
「それは単に最底辺ってだけだ!!」
6創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:14:54 ID:itwWozfa
では支援
7創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:16:33 ID:itwWozfa
支援
8オープニング ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 17:16:37 ID:zOOTMCOW
 オブラートに包めば何でも良いと思うなよ!
 その程度で誤摩化せると思うなよ!
「私の中でそうだって言う事は、つまり全世界の共通認識よ」
「僕の存在は地球上の生物全てを支えていたのか!」
 アトラスもびっくりだ! すげぇ、僕は今神を超えた!!
「いえ、単なる下等生物よ」
「言い切った! 言い切りやがった!!」
「下等静物よ」
「もはや生き物ですらない!」
「そうね、静かな阿良々木君の存在価値なんて、マイナスだもの」
「マイナス!? ゼロですらないのか!」
 ここにあるという、それすらも許されないというのか!
「本当、喋ってこその、阿良々木君よ」
「……まぁ、お前等のせいで喋らされてるって気もするんだけどな」
 羽川翼、とか。
 八九寺真宵、とか。
 神原駿河、とか。
 千石撫子、とか。
 忍野メメ、とか。
 あとは、忍野忍、とか。
 でもひょっとしたら、それこそ冗談ではなく、本当に喋り相手が欲しかったのかもしれない、と、思わないでも無い。確認出来ないほどに身体が動かせないのだが、どうやら戦場ヶ原も身体が動かせないようだ。
 僕と同じ状況だというのなら、ひょっとしたら、見ず知らずの場所で理由も解らず身体が動かせない、この状況に心細いのかもしれない。
 ……………………。
 ………………………………。
 …………………………………………。
 いや、どうかなぁ。こいつに心細いとか、そんな感情があるかなぁ。僕の、まあ、彼女ながら、そこは甚だ疑問だ。こいつの心で細い場所なんて、先っちょだけなんじゃないか? 先っちょだけ細い、要するに棘型。
 棘型の心。
 心に棘、ならぬ、棘の心を持つ女。
 戦場ヶ原ひたぎ。
 なぁんて、およそ恋人に抱かないであろう感情を思っていると、何時の間にか、一人の男が現れた。
「駄人間は騒がしいねぇ、騒がしいのが駄人間なんだねぇ」
 それは世にも珍しいジャケットを着た、中肉中背の男だった。
 いや、なんて表現すれば良いんだろうな、あのデザイン。こう表現し辛いっていうか、解り辛いっていうか、普通の人間は着る以前に思いつかないであろうデザイン。
 あ、でもアレに似てるな、あのジャケット。
 安全ピンに。
 安全ピンの様な、ジャケット。
 真っ赤な、安全ピンの様な、ジャケット。
「やっぱり駄人間は駄人間だよね、煩いしでかいし面倒くさいし、ていうか可愛くないし。やっぱり僕の魔法で『固定』すべきは少女なんだよ。
 そもそも僕は少女専門なんだからさ、全く、何が悲しくて十代より二十代に近い、それも男も含めた連中に使わなきゃいけないんだろうね、あの人の命令じゃなかったら絶対にやってないよ」
「……影谷蛇之!?」
 すると、背後から女の子の声がした。叫ばれたのは名前、それがあの安全ピンみたいなジャケットを着た男の名前なのだろうか。
「なんで生きてるのがお前なの!? 影も形も残さず葬ったのが、あの時の私の筈なのに!」
 これまた斬新すぎる喋り方だった。
 この男と知り合いなのだろうか。だとすれば納得する気がしないでもない、変な喋り方である。ひょっとして外国人か何かなのだろうか。だとすれば、さっき男が言った単語も、納得しないではない。
 魔法、とか。
 『固定』、とか。
 そして、僕の背後に立っているだろう彼女の姿を見たのだろう。影谷というらしい男は、笑った。
9創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:16:38 ID:cVtUDdMT
10創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:17:52 ID:itwWozfa

11オープニング ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 17:17:55 ID:zOOTMCOW
 …………。
 うぁ、気持ち悪い笑い方だな。
「あっははははぁっ! ひっさしぶりだねりすかちゃん、良い顔するねりすかちゃん、可愛いねりすかちゃん、愛してるよりすかちゃんっ! あっははははっはぁ、少女でもねぇ駄人間共を『固定』したかいがあるってもんだぁ!
 またりすかちゃんをこの目で見る事が出来たんだからねぇ! あーりすかちゃんりすかちゃんりすかちゃんりすかちゃんりすかちゃんりすかちゃんりすかちゃん、りーすかちゃーんっ!」
 影谷蛇之。
 であって一分になるかどうかの付き合いだが、人となりは理解出来た。
 ぶっちゃけ、変態である。
 ……絶対なんか犯罪犯してるよ、こいつ。
 だがイナバウアー的に大爆笑していた影谷は、唐突に、鍬を振り下ろす様な軌道で身体を起こし、にやついた顔で僕らを見た。そして、言った。
「はーいこれより君達にはっ、殺し合って頂きまーすっ!」
「……………………」
 は?
「ルールは簡単! 殺し合うアイテムとか食い物とは支給してやるから、それを使って自分以外を残らず皆殺しにしろ、それだけでーすっ! あっはははぁ、超簡単、猿でも解る、駄人間でも解るぅ!! そこに痺れる憧れるぅっ!」
 ……………………え、えぇ?
 ちょっと待てよ、殺し合いとか、何だよそれ。
「……いきなりなんだよ!?」
 叫んだ僕を、影谷は振り向きもせずに答えた。いや、答えるというよりも、狼狽える僕らが面白くて、もっと狼狽えさせてやろうとしている、そんな感じのする対応だ。
「お、訊いちゃう、訊いちゃう? でも答えてあげないんだなぁ! あ、でも僕達に逆らわない方が良いよぉ? 君達の首にあるそれが、逆らった途端に、ボンッ! だからねぇ」
「首、輪?」
 そう言われて、僕は初めて気がついた。自分の首を一周する、金属みたいに固い物に。
「そんな事は訊いてねぇんだよ!!」
 だがそこまで言った所で、さっきと同じ女の子の声が、しかしまるで違う口調で、響いた。
「死にくさった死罪人がっ! このわたしにしっかりきっかり殺された筈のお前がっ! 何で生きてるんだって訊いてるんだ!!」
 殺した?
 この、それこそ小学生みたいな幼い声をした、おそらく女の子によって?
「生き返らせられたのはお前なんだろう!? 蘇生されたんだろう!? ……お父さんに!!」
 生き返らせる?
 蘇生される?
 お父さんに?
 あの子の父親に?
 僕も怪異とか、この世の裏事情には足ならぬ首を突っ込んでいるが、死んだ人間が蘇るだなんて、聞いた事ないぞ? 忍野だって言わなかったし……ていうか、ありえるのか、そんな事。人を生き返らせる、なんて。
 だがその問い掛け(というか詰問)は、正解らしかった。
「だーいせーいかーいっ! その通りだよりすかちゃん、りすかちゃんがその通りだよっ、さすがだなぁりすかちゃん! りすかちゃんりすかちゃんりすかちゃーんっ! あっははははぁ!」
 言われて、影谷は再び大爆笑。
「その通り、見事キミ達に殺されちゃった僕は、この度あの人のお陰で生き返らせて頂きましたっ! 君達を殺し合わせる、このゲームを動かす為にねぇ!」
「……ゲーム」
 殺し合いが、ゲーム?
 ………………どういうつもりだ、この男。
「……てめぇっ!」
12創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:18:37 ID:itwWozfa
 
13オープニング ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 17:19:29 ID:zOOTMCOW
「でーはっ!」
 僕が言おうとした、直前。
 影谷蛇之は、唐突に会話を区切った。
「君達の殺し合いゲーム、バトルロワイヤル、その主催様である??」
 溜めて。
 溜めて。
 息を吸って。
「――水倉神檎さんからの伝言!」
 直後。
 影谷の顔から、身体から、一切の個性が抜けた。
 まるで、別人に乗っ取られた様な。
 まるで、別人になった様な。
 そんな感じになって。
 出てきた、声は。

――殺し合え

「……!?」
 違う。

――殺し合って、最後の一人になれ

 違って、いた。
 影谷蛇之の口から出た、その声は。
 影谷蛇之の声ではなかった。
 それ以前に。

――そうすれば

 これは。
 本当に。

――如何なる望みも、くれてやる

 人間の。
 声なのか。
「……以上」
 そこで。
 そこで。
 曰く、水倉神檎なる人物の声は、途切れた。
 後に残されたのは、
「でーしたぁっ!」
 気持ちの悪い笑みを取り戻した、影谷蛇之だけだった。
 理屈だけなら、幾らでも説明する事が出来る。単なる声芸とか、裏声とか、そうでなくとも部屋のどっかに機会が仕込まれていて、それで声を弄くっただけの演技だ、そう言う事も出来る。
 でも、だが、しかし、だ。
 それを言わせない、信じさせない。
 声、だった。
「……………………」
 洒落にならん。
 あの声は洒落にならん。
 あの声で、本当に、真髄に、心の底から理解してしまった。
 僕達は今、殺し合いを強要されているのだ、と。
14創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:19:52 ID:itwWozfa

15オープニング ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 17:21:15 ID:zOOTMCOW
「……戦場ヶ原」
 やばい。
 これはやばい。
 殺し合いを求められたのは、四十人前後はいるであろう、この部屋の人間全てだろう。だとしたら、戦場ヶ原だってその一人に違いない。こいつも、殺す殺されの場に、巻き込まれているんだ。
「何かしら」
 なんて、本人は答えを返したけれど。
 などと、僕は言葉そのままに受け取るつもりはない。
 声も表情も、ひょっとしたら感情でさえも、数分違わずに制御出来る、そんな人間が、戦場ヶ原ひたぎなのだ。何を思っているのか知れないが、あの声を聞いた上で、心の底から平静を持っているとは思えない。
 だって、僕も持っていられないのだから。
 このままでは、あの頃の再来だ。
 戦争ならぬ闘争。
 殴り合いならぬ嬲り合い。
 取っ組み合いならぬ憎み合い。
 あの、最悪の、春休みと同じ様に。
 あるいは、あの日々以上の、状況に。
「きゃはきゃは」
 ん?
「正直ふざてるとしか思えねぇーぜ? 殺し合え? 最後の一人まで? 上等だっつー話だろーがよ」
 ひょっとして、さっきの笑い声だったのか? だとしたら随分いやな笑い声だな。ある意味、影谷とタメをはっていると行っても過言ではない。
 笑い声に続いた男の声、だがその声は先ほどまでと同じ様に、僕の背後から聞こえてきたという訳ではなかった。方向にして僕の右手、大分距離が離れているように思える。頑張れば、姿ぐらいは見れるんじゃないか、ってぐらいに。
 どうだろうか、と思い、必死こいて眼球を動かしてみると、どうやら声の主と思しき人物を視界に入れる事が出来た。
 それは、袖を切り落とした黒ずくめの上に鎖を巻き付けた、忍ばぬ事、目立つ事この上ない男だった。その周囲には似た様な格好の人影が何人も立っている。
 ひょっとしてアレは制服なのだろうか。どうにも動物を象っているように思えるけど……随分と奇抜(友好的表現)な格好である。
「おれら真庭忍軍。暗殺専門、殺し合い上等の忍者さんよ? 俺らがいるとこで殺し合えって、そりゃーもう結果を目の前にしてる様なもんだろーがよ」
 真庭、忍軍。
 忍軍。
 忍者。
 このご時世に……しのび!
 ていうか、アンタの格好、全然忍んでないじゃん!
 などと突っ込む事は出来ずにいると、蝙蝠というらしい男に向かって、影谷が近付いていく。
「んー、ん、んー、アンタ真庭蝙蝠、って奴だねぇ? 知ってるよ、知ってるのが僕だよ。連れてくる時に割と調べたからねぇ」
「ほう、そりゃ嬉しいねぇ。どーだよ、暗殺専門のしのびが誇る、十二頭領の一人の業績はびっくりだろ」
 いや頭領が十二人もいたら統率も何も無いだろう。
「全くだねぇ、本当、数えるのが馬鹿馬鹿しくなる様な人殺しの回数だったよ。うん、その力は素晴らしいって言ってやるんだけどねぇ、駄人間相応のくそったれな性根も良いんだけどねぇ、ただ、それだとバランスがとれないんだわ」
「ばらんす?」
「均衡、配分、ってことさぁ。他の人達が君達によって一方的に殺されたんじゃ、面白くないんだよ」
 そこまで言う頃には、影谷は蝙蝠の真ん前に立っていた。
「だからね、君達の力は僕達の方で、ある程度制限させてもらったよ」
「……あぁん?」
 影谷がそう言った所で初めて、蝙蝠なる男は顔を顰めた。
「おいおい、何だそりゃ。人様の身体勝手にいじった、っつー事か? そーか? そーなんだな? ……ぶっ殺すぞテメェ」
 そこで蝙蝠が見せた凄みは、およそ一般人には出し得ない気迫だった。
 ひょっとして……。
 まさか……。
 本当に忍者なのか、この人!
 あんな目立つ格好で、本当に忍者だったのか!
 影谷の方は、しかし変わらずに笑った。まるで、自分は何をされても死なない、というかの様に。
「あはっ、すごんだってダサイだけだよ、ダサイだけなのがお前なんだよぉ、真庭蝙蝠。所詮は駄人間が、粋がるなよぉ? 『影縫い』で動けない分際で……鼻と口塞いじゃうよ?」
 ここにきて幽遊白書ネタの影谷蛇之。
 どういう理屈か知らないが、というか、影谷の言葉を信じるなら、魔法の力によって僕達は動きを封じられているらしい。もっと信じるなら、多分この影に刺さっている矢が、その直接的な原因なのだろう。
 だとすれば、真庭蝙蝠なるあの男は、一体どうやって、影谷蛇之に仕掛けるつもりなのだろう。
「は。おれ達はしのびだぜ? 手足なんざ使えなくても……人殺し位、朝飯前だってーの」
16創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:21:34 ID:itwWozfa

17オープニング ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 17:22:08 ID:zOOTMCOW
 そうして真庭蝙蝠は。
 ぺっ、と。
 おえっ、と。
 口から、沢山の、刃物を吐き出した。
「…………………………」
 ちょっと待て! 有り得ないだろ、何だその物理的腹芸! 無理だろ、有り得ないだろ、なんで口から刃物を吐き出せるんだよ!? どんだけ頑丈な胃袋なんだよ!?
 幾らしのびでも、意表をつくにも程があるだろう!
 そうして刃物の群は唾液混じり(汚い事この上ない)に飛び散って、そして、真ん前にいた影谷を、引裂いた。
 引裂いた。
 刺さった。
 千切った。
 切り取った。
 そして身体前面が針山みたいになった影谷は、仰向けに倒れ込む。
 そ、し、て。
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
 上げられた悲鳴は、疑問符を持っている、ように聞こえた。
「い、痛い! 痛いぃ!? 何で、何でだよおぉ!? アイツが痛いのじゃなくて僕が痛いっ!? なんで僕がいたい!!」
「は、はぁ?」
 何言ってんだこいつ。刺されたら痛いだろ、あんなに刺さったら、死ぬだろ?
 それが、普通だろ?
「どうして! 水倉っ、神檎!? どうして僕が死ぬ!? 生き返らせた僕が、どうしてまた死ぬのを許すのがお前なんだ!?」
「…………」
 あぁ、そうか。
 この男は。
 影谷蛇之は。
 自分が、あの途方もない力を声だけで感じさせる、水倉神檎に、守られていると思っていたんだ。
「ああああ……。ああ、あああぁ…………っ」
 そうして影谷蛇之は、しばらくの間悶えて、そして次第に、動きを止めた。
 死んだ、のだ。
 だが僕達は、動けない。
「あぁん? どうなってんだこりゃ?」
 きっと蝙蝠も、影谷を殺せば自分達は動けるようになると、そう思ったのだろう。しかしそうならなかった現実に、蝙蝠は怪訝な声をあげる。
 直後。

――しね

 今度は影谷を介さずに、直接僕達の頭の中に、水倉神檎の声が響いて。
 真庭蝙蝠の首が吹っ飛んだ。
「……な」
 首がくっついていた首から、噴水みたいに血が吹き上がった。ほんの少し、残された手足や胴が痙攣して、首無しの身体が倒れる。倒れた後も、少しだけ痙攣しているようだった。その様は、さながらさっきまでの影谷蛇之の様ですらある。
 それから後の事は、もう消化試合みたいな扱いだった。
18創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:22:27 ID:itwWozfa

19オープニング ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 17:23:04 ID:zOOTMCOW
「こ、こうもぴっ!」

「み、皆さ……ぐぼっ!」

「死にますね死にますね死にますね死にますね死にますね死にますねっ!!」

「お、鴛鴦!」

「蝶ちょ――」

「ぎ……っ!!」

「!!っ……くたに死いなくたに死いなくたい死だやいだやい」

「こ、こんな所で死にたぐっ!!」

「……畜生が!!」

 かくして、真庭蝙蝠に続く形で、やたらと目立つ装束の忍者集団は、その首を失った。
 残されたのは、鳥みたいな格好をした男と子供、そして、全身入れ墨の女の子だけのようだった。……って、あの女の子、さっきまであんな入れ墨あったっけ?
 だけど残ったその連中の、一番背の高い鳥みたいな恰好をしたその男は動じた風も無く言った。言いやがった、と表現してもいい。
「見せしめ、か」
 と。

――そうだ

 また、水倉神檎の声が、頭に響く。

――道具をくれてやる

――情報もくれてやる。6時間毎に誰が死んだかを

――その度に、お前らをこれから送る場所も狭くなっていく
20創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:23:48 ID:itwWozfa

21創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:24:42 ID:itwWozfa

22オープニング ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 17:26:14 ID:zOOTMCOW
――殺しあえ。殺し合いに乗らなければ……24時間後に皆殺し、だ

 首が、吹っ飛ぶってか。
 上の言葉に従わなければ、クビ。
 文字通り、クビがとぶ。

――送ってやる。殺し合いの場所に

「……!」
 そう言われた途端に、僕の目の前の風景が暗くなっていく。白かった壁はもはや灰色、というよりも、光が弱まっている訳でもないのに、薄暗く感じるようになっていた。
 今の声を丸々信じるのなら、きっとこれから、殺し合いをする為の場所に送られるのだろう。転送魔法とかそんな感じだろうか。何でもありだ。
 身体は、まだ動かない。
 後ろにいる、戦場ヶ原は見えない。
 でも、僕は、
「戦場ヶ原」
 声をかけて。
「何かしら」
 やっぱり何の変化もない、戦場ヶ原の声がした。
「絶対に生きろ。お前が生きてる限り、僕も生きる。絶対に、生きて帰るぞ」
 僕達のいた、生きていた、これから生きる、僕達の街に。
「……格好良過ぎ」
 あ、声色が変わった。
 そう確認したのを最後に。
 僕の視界は、完全にとんだ。


投下終了。
少しだけ手直し……というか、一部削って盛っただけですが。
この後間を空けて自分のもう一本を出すべきなのか、それとも別の方のを優先すべきなのか……。
23創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 17:31:56 ID:itwWozfa
OP投下乙です
こちらはまだ推敲が残っているので、投下されてもかまいませんよー
24オープニング ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 17:39:42 ID:zOOTMCOW
そですか。
ん〜、では間を空けて、1時間後の18時40分頃にでも。
25 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 18:42:37 ID:zOOTMCOW
申し訳ないのですが、ちょっと小事が重なってしまって今すぐ投下できなくなってしまいました。
30〜1時間ぐらい経ってから投下します。
26 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:15:31 ID:zOOTMCOW
投下を遅らせて大変失礼しました。これから投下したいと思います。

 視界を血飛沫の黒っぽい赤色で覆い尽くされればほとんど人間は戦々恐々でうろたえる事であると思うのだが、しかしこのぼくにおいてはさしたる感慨を抱くという事も無く、また随分と見慣れてしまっているな、という感想が浮かんでくるだけだったのを今でも覚えている。
 だがそれは、ぼくが常日頃から流血しているような粗忽者だったり、また無意味やたら他人にそれを強要するような犯罪者だったりするという事ではない。
 むしろそれを未然に防ぐ為に、計画的で必要最低限にしか流さないような、そんな人間であるという事の証明であるという事を主張したいところだ。
 血飛沫に、もっと言えば血液に、正確に言えば赤色に対してぼくが見慣れているのは、それは確かに流血を見慣れているという事ではなる。
 だがこれは必要最低限、つまり必要なことは決して忘れないからであって、四六時中見ているとかそんなわけではない。そもそも必要な分だけなのだから、多いも少ないもないのだ。
 だがあくまでも私意的な事を言わせていただけるのなら、あえてぼくは、見慣れているのはどうしようもなく赤色な彼女の友人であり戦友であり協力者であり奴隷としての主であるからだ、と胸を張って言いたい。
 髪やら瞳やら衣服やら、そして涙に至るまで赤い少女。赤い少女。赤過ぎる彼女。『赤き時の魔女』水倉りすか。りすか、である。
 それ以上でも以下でも無く、彼女以外にそれを許したくなくなるほどに赤い彼女。彼女を知っているからこその見慣れなのだ、とそう思っていたい。まぁ確かに、彼女に対して流血を命じているのは動かざること山の如き事実ではあるが。
 そんな彼女のおかぶを、トレードカラーを奪い腐ったあの豚野郎こと影谷蛇之が奇怪な男の奇怪な腹芸に殺され、そして殺した方の男もその同僚と思しき似たような格好の連中と共に、首を吹っ飛ばされて殺された。血飛沫でぼくの視界が埋められたのはその時の事だ。
 しかしまぁ何である、あの時殺された10人前後は、少なくとも影谷蛇之を殺したあの人物はああなる事を想像しなかったのだろうか。
 影谷蛇之の魔法が認知出来なかったのは無知蒙昧さ故と許してやってもいいが、しかしそれでも、何にせよ身動きとれない危機的状況だったとは理解してもいいようなものだ。
 首が吹っ飛ぶのを想像しろとまでは言わないが、それに準ずる、最悪殺されるかもしれないという想像とそれを危険視して行動しないでおくという自制心は持ち合わせていなかったのか、とぼくは言いたくなってしまう。
 もしもタイムマシーンがあったとしたら、ぼくはここに来る前に戻るよりもまずあの男に、低能の馬鹿野郎だな、と言ってやりたいね。
 全く、最近は無駄に年齢だけを重ねてしまった大人しか存在していないのだろうか、と小学5年生、当年とって10歳ながらにして将来に絶望してしまいそうだ。
 誰かが、大人は夢を見るのではなく見せるものだ、と言ったと思うが、それを実行できている大人は、さて、どれ程いるのだろうか。本当に困ったものである。
 子供にため息をつかせる現代社会に物言いたいものだね。まあだからこそ数少ない有能な人間が光り輝き、またぼくが救ってやる必要があるという考え方もあるのだから、心底絶望は出来ない。
 むしろ、やる気を出してせいぜい助けてやろうと思っておくのがポジティブ思考というやつだろう。
 閑話休題。
27しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:18:09 ID:zOOTMCOW
 りすかの父親、665の称号を持つ男、水倉神檎。本人がそれを知っていたかどうかは別として、そんな人物に対して、否、人物というのもはばかられるような驚異的存在らしい『それ』に何の考えも無く反抗した低能共にいつまでも思考を許している場合ではない。
 問題はりすかである。水倉神檎を探している、探してわざわざ『城門』まで越えてきた、若輩ながら乙種魔法技能免許を持つ、しかし一人の女の子に過ぎない彼女。
 それほどまでにりすかは水倉神檎を求めている。探そうとしている。手がかりを見つけるとぼくも制御できなくなるほどに。
 ここでまた影谷蛇之を思い出すのは不服かつ腹立たしい事でしかないのだが、りすかが水倉神檎が直接関わると暴走してしまうというのは、あの影谷蛇之をぼく達が一度殺したあの時でもよくよく、ほどほどに理解出来る。思い知ってしまう、のだ。
 本当に本当に、掛け値なしに、それこそどうしようもなく『手に余る駒』である。能力があり過ぎるというのも考え物だ。
 まあそれもぼくが大人になれば解決してしまうだろう問題であるし、それにこの歳であってもいつまでもそれに甘んじているつもりはない。しっかり完璧に制御できるようになって見せようではないか。
 だが現在はそれが出来ず、また、出来ない状況であるのも事実なのだ。そうとう参ってるだろうなぁ、というのは楽々に想像できてしまう。暴走しているかもしれないなぁ、と頭を抱えてしまう、のだ。
 影谷蛇之の魔法によって縫いとめられていたので直接見る事は出来なかったが、あの時聞かされた怒声と口調と声色は、間違いようも無くりすかのものだ。りすかががあの場所にいたのだ。ついでに、どなる程度には平静を崩しているのだ。
 ああ、思い返すだけでも憂鬱だ。そして業腹だ。そんなりすかのところに行けなかった事、今も行けないでいる事は非常に腹立たしい事だ。影谷蛇之、全く豚野郎の面目躍如といったところだろうか。これほど豚野郎を憎らしく思った事はない。
 姿を見れなかった。声もかけられなかった。今までかつてなかったであろう程に父親と接近したりすかに対して、ぼくは何もできなかったのであろう。これは非常にゆゆしき事態といっていい。
 このぼくが何にも出来なかったなど、ただただ立ち尽くしていただけなど、どうしようもなく腹立たしい。
 何一つとしてりすかにする事も出来ず、恐らくは水倉神檎の魔法なのであろう、頭の中に声を叩きこまれて、そしてぼくはあの場所から引き離されてしまった。感覚的には、瞬間移動のような、一瞬で別の空間に移るような感じだった。
 これもまた水倉神檎の魔法であり、りすかをはじめとしたあの場所にいた他の有象無象度も同様だったのだろう。
 飛ばされた先は考えるまでも無く、水倉神檎の言うところによる『殺し合う為の場所』という奴なのだろう。その意に沿って考えるならば、ぼく達はそこで殺し合いをさせられようとしている。
 小学生に望むようなことではないぞ、と思う一方で、やってくれたな、という感情も浮かんでくる。
 ぼくは決してこんなところで死んで良い様な人間ではない。ぼくにはあまねく全ての人間を幸せにする、どんな犠牲を払ってでもそれを実行しなければならない宿命と信念を持っているのだ。
 だからぼくは『殺し合いの場所』とやらに言ったとしても死ぬ気は無い。少なくともぼくが死んでしまうくらいなら殺そうとしている奴や他の低能共を犠牲にする程度には、そう思っている。
 それぐらいの気概を持てなければこれほどの理想など叶えられるはずがないというものだ。
 蛇が出るか鬼が出るか、悪魔が出ようが『魔法使い』が出ようが、ぼくは死なない。逆に殺して返してみせようではないか。
 ぼくこそは『魔法使い』使い、全人類を幸せにする男、供犠創貴だ。
「と、まぁ」
28創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:18:49 ID:itwWozfa

29創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:21:10 ID:/JJBG8aP
 
30しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:22:33 ID:zOOTMCOW
 ぼくがこんな鬱蒼とした森林の中にいるのはそうした理由がありきの事であり、このことからぼくが好き好んで深夜にこんなところに来るような奴ではないという事がよく良く解ってもらえた事と思う。
 決して殺してしまった誰かさんの死体を隠す為にスコップ片手にやって来たわけでもなければ、殺してやりたいほど憎らしい奴がいるにもかかわらず五寸釘と藁人形に頼るような臆病者では、ない。
 ここにいるのは水倉神檎の意図したところであり、ぼくが望んでいる事ではない。むしろ強制されたと言って良い。強要である。おかげで小説のワンシーンのようにこれまでを回想してしまった。まるで物語の歯車にされたみたいでとてもイライラする。
 辺りには細いものから太いものまで多種多様の、いずれも138センチのぼくの体格とは比べるべくもない大きさをした木々が乱立している。
 林間は枝葉に覆われてより一層暗いものとなっており、唯一の照明はそれの隙間からぼんやりと注いでくる月光や星明かりぐらいだ。もちろん、気休め程度の光だが。
 その中でも特に暗い地点である木の影に座り込んでぼくが何をしているかと言えば、当然ながら夜目に慣らしているのだ。特に暗い場所で慣らした目ならば、そこを離れた後も通用するぐらいの夜目にはなってくれるだろう。ついでに身を隠す事にも繋がるしな。
 そう、水倉神檎がこの『殺し合いの場所』に一体どれだけの人間を送り込んだのかは知ったことではないが、それを求められたからには殺し合いを行おうとする奴だっている、それどころか好んで自発的にやろうとする下衆野郎だっているはずだ。
 自分以外で信じられるものといったら、りすかのような、この殺し合いに呼び込まれる前から知り合っている奴ぐらいのものだろう。
 つまり誰も信じられない四面楚歌状態な訳だが、ぼくはこれまでの一生を、短いながらも誰一人となく信じることなく生きてきているので、取り立てた負担にはなりえない。
 闇夜に目を慣らすべく木の影に座り続けておよそ15分弱、といったところか。ようやくぼくの両目は森林の暗闇にも慣れ始めてきてた。もちろん詳細に解るなんてことはないが、障害物の在る無しを確認できる程度にはなっている。移動に支障はないはずだ。
 目が慣れたのなら、次は自分の現状を確認するとしよう。
 まずいやでも感じてしまうのが、ぼくの細い首を一周する固い輪っか状の物体、あの真っ白な場所で変な格好をした一団の首を吹っ飛ばした首輪だ。金属製のそれは、水倉神檎が施したものらしい。
 人間であるぼくには確認しようのない事だが、そうなると魔法を使った一品だと考えるのが妥当だ。
 かつて影谷蛇から回収した『矢』のように、首に装着されることで機能を発揮するたぐいの物だろう。水倉神檎に逆らうと首ごと爆発する首輪、まったくえげつないものを作ったものだ。
 そうなると、首輪をされた人間の言動や位置を監視するぐらいの事はしているかもしれないな。
 望めるなら今すぐにでも外したいのだが生憎とぼくにはこれほど固いものを引きちぎる力もなければ、逆らうと爆発した首輪を無理やり外そうとするような蛮勇も持っていない。まあいじらなければ当面は害がないものだし、これは保留でいいだろう。
 となると、次の確認事項はこのデイバックの中身だ。
 いつの間にか、少なくとも森林にいる時には持っていたこれは、水倉神檎が殺し合いをより円滑に進める為に持たせた物品の数々らしい。小学生としての体格しかないぼくにはリュックサックほどの大きさにも感じられる。
 まあ必ずしもこの暗がりで確認する必要はない。ここは木の影から離れて、あの枝葉の密度が薄くて月明かりの差し込んでいる場所に移動しようじゃないか。あの程度の光なら夜目と相乗効果を発揮して、夜目を損なうどころかより良い視界を成してくれる筈だ。
 月光はぼんやりとした淡い感じで、色合いとしては青っぽい白として目に見えていた。想定通り、若干程度しかない鮮明な視界をくれる事はないが、引き換えに相乗効果を起こして視界を増強してくれた。これなら問題なくデイバックの中身を確認できる。
「ふむ」
31創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:23:01 ID:itwWozfa
 
32しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:24:10 ID:zOOTMCOW
 デイバックから出てきたのは、食品に水、地図、懐中電灯やら時計やら。なるほど、いわゆるサバイバルキットと呼ばれるようなたぐいの物だろう。殺し合いを維持する為、最低限行動を補助する道具を詰め込んだ、という感じか。まあ妥当ではある。
 懐中電灯が出てきたのは幸いであるが、せっかく闇に慣らした目があるのだ、今すぐ使うのは得策ではないだろう。
 明確な視界は欲しいが、また目を慣らす時間が僅かなりとかかってしまうだろうし、周囲にぼくの存在を知らしめることになる。再三の事だが、今他人は信用出来ないのだ。
 まあ初対面の相手にはせいぜい猫を被っておくとしようじゃないか。『魔法使い』との戦いは基本的に正面対決だったのでこういう事はなかったが、こうしたサバイバル的な戦いなら有効だ。ぼくは日常的に猫を被っているので特別の苦労はない、日常の延長線上だ。
 残念ながらぼくの外見そのものは小学5年生以外の何物でも無く、低能な奴らはぼくの中身までは察する事が出来ない。殺し合いではカモにしか見られないだろうな。やはり弱者を装って取り入るなり紛れ込むなりして、裏から手を出すしかないだろう。
 と、まだデイバックから出していない物があるな。さすがにデイバックの中は真っ暗よりも真っ暗、手探りで引き出すしかない。しかしなんだろうな、どうにも馴染みのある形の気がするのだが、これは一体、
「ぁ」
 失敬、リテイク。
「……これは」
 うっかり驚いて間抜けな声を出してしまった。ぼくとした事が全く油断と未熟の限りだ、こんな様では殺し合いに生き残れやしない、自粛してもし足りないところだ。しかし、デイバックから出てきたソレは、それなりの驚きを得るのに相応のものだったとぼくは釈明したい。
 夜目にもどぎつく自己主張する強い色調、硬質な質感で長方形に近い輪郭、厚みはそれほどない。覚えのある形だったのも納得だ、これそのものはぼくの知る限り一点ものだが、形そのものはそれほど珍しいものじゃない。
 なんの事はない。それは、りすかのカッターナイフだったのだ。デイバックに手を突っ込んでみれば、りすかがカッターナイフを入れているホルスター付きの細いベルトが出てきた。もうこれは見紛う事無きりすかのカッターナイフだ、疑いようがない。
 あの白い部屋で『影縫い』された時になのか、はたまたこの『殺し合いの場所』に飛ばされた時になのか。妥当に考えれば前者なのだろうけれど、水倉神檎ならばどちらでも鼻歌交じりの朝飯前にやれるだろうから真実は定かではないな。ぶっちゃけどうでもいいし。
 思慮すべきは、これがここにあるという事はりすかは今現在カッターナイフを持っていないという事だ。りすかの魔法は基本的に大なり小なりの流血を必要とし、このカッターナイフがないと痛みが減らないらしいから、これが無いと面倒なんだろうな。
 まあさすがにいくら痛いのが嫌だと言っても危機的状況になってまでそれを渋るとは思わないけれど。指先の僅かな傷から流れる血液だけでも時間を『省略』してぼくのところに来るぐらいの事は出来るし。
 ぼくのいるこの場所は知らないだろうが、ぼくの体の半分以上はりすかによって補填されているから、『ぼくのいる場所』をりすかは知覚できる。ぼくのこの体は、りすかにとって『座標』みたいなものなのだ。
 どんな低能でも、りすかはそうだとは言わないが、ぼくと合流するぐらいは思いつくだろう。
「……て、待てよ」
 そうだ、ぼくはりすかにとっての『座標』で、この特性を使ってりすかがぼくのところに来るのは毎度おなじみの常套手段であるのだ。なのに、もう『殺し合いの場所』に来て30分前後の時間が経過している。
 なのにりすかがぼくの前に現れないというのは、どういう事だ?
「考えられるのは、思い至らないほど我を忘れているか、それが出来ないほど危機的状況にあるか」
 または、魔法を封じられているか、だ。そしてこの三つの中では、この三番目が一番あり得る事だ、とぼくの推察力が警鐘を鳴らしている。カッターナイフがぼくのところにあるのもそうだ、まるでりすかの魔法を発揮させないための処置のようですらある。
 そう、影谷蛇之の奴も言っていたじゃないか――バランスを取るため、能力には制限をかけた、と。りすかの魔法も、その一環として封じられたんじゃないか?
 基本的にりすか1人だけだが、それでも時間を超えるという魔法はバランスを崩すものとして制限されたんじゃないのか。
 しかし、しかし、だとしたら、
33創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:24:58 ID:itwWozfa

34しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:26:22 ID:zOOTMCOW
「水倉神檎は、りすかに生き残って欲しくないのか?」
 痛みを減らすカッターナイフを奪い、もしかしたら(ぼくの勘ではほぼ間違いなく)りすかの魔法そのものにも制限をかけている。
 娘であるりすかに、少なくとも今までそれなりに保護しようとする方針だった筈のりすかに対して、随分と冷遇だな。そもそも殺し合いの場所に引き込むだけでも、随分だというのに。
 他の連中と平等に扱った末にりすかが死んだらどうするつもりなんだ? りすかには死んでも最強バージョンである『大人りすか』となって蘇生する、裏技というか秘奥儀みたいなものがあるが、それにしたって発動条件はあるし、魔力が無くなったら使えなくなる。
 そもそもあれは、強力にして最強ではあるが、無敵ではない。その証拠にりすかは、ぼくと組んで間もないころに一度殺されかけている、否、殺されている。あの記憶はトラウマになっているらしく、極希にりすかが言う事をきかなかった時の無知に使ったりする。
 一体どういうつもりなんだ? この殺し合いでは必ずしもりすかが生き残る必要はないという事なのか? それとも、こんな状況になってもりすかが生き残るという確信があるとでも言うのだろうか?
「……調べる必要があるな」
 殺し合いが始まってまだ30分前後、答えを得られるだけの考察時間も経ていなければ、答えを見つけるだけのヒントも得ていない。何かが出来るほどの事をしていないのだ。残念にして腹立たしいにして悔む事だが、この段階では到底分り得る事ではない。
 だがしかし、故に今後ぼくが取るべき行動も定められようというものである。つまり、情報と奴隷の確保、だ。水倉神檎が何をしようとしているのかを推理する情報と、ぼくの安全を確保し行動を補助するだけの能力を持った他人が、駒が、奴隷が必要にだった。
 それにりすかとも合流しなければならないしな。どんな事情があるにせよ、りすかは今すぐぼくと合流出来ない何らかの事情があると考えるべきだ。
 ツナギや楓はいるかどうかわからないし、奴隷は新規開拓するつもりでなくてはらないな。大変というよりは面倒だが、怠慢の先にあるのは自滅だけだ、怠れない。
 現状を確認し、目的を定め、となると次にやるべき事は手段の確立だ。さっきデイバックから掴みだしたものの一つを、地図を手に取って見る。慣らしたとはいえさすがに深夜の屋外で地図を見るのは一苦労だが、それでも出来ないって訳じゃない。
 ぼくがいるのは森林、そして地図上を見る限りで森林があるのはA〜Dの5〜8まで、つまりぼくがいるのは地図で言うところの右上部分という事になる。それが解るだけでも随分と変わってくこようというものだ。
 情報にせよ奴隷にせよ、どちらにせよ森林よりかは市街地の方が見つけられる確率は大きいだろう。地図に点在している施設の大半は市街地にあるようだし、拠点にせよ人にせよ、森よりかは街の方が言いに決まっている。
 それに、見過ごせない施設が一つある事だしな。
「コーヒーショップ、ね」
 市街地というからには、地図で特記事項になっている以上の数の店舗があるだろう。ただのコーヒーショップというなら、特記事項になるわけがない。ならばこのコーヒーショップはごく一般のそれとは違うものだと考えた方がいいだろう。
 そう例えば、りすかやチェンバリンが住んでいる、あのコーヒーショップかもしれない、とか。水倉神檎の力があれば、建物一つぐらいを別の場所に配置するぐらいのことは出来そうなものだ。
 りすかと連絡が取れない以上、このコーヒーショップがぼくとりすかが打ち合わせ無しに落ちあえそうな唯一の場所だ。
35しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:28:19 ID:zOOTMCOW
 りすかと連絡が取れない以上、このコーヒーショップがぼくとりすかが打ち合わせ無しに落ちあえそうな唯一の場所だ。
 もしりすかのコーヒーショップじゃなかったとしても、そうかもしれない、という『行くあて』になっていればそれで良い。もちろん、本当にりすかのコーヒーショップなら一番良いのだが。
 ここがどのエリアかは定かでないが、どのエリアの森林であるにせよ市街地は森林から見て一方向の先にある。地図と同様にデイバックから出てきた、このコンパスがあれば向かう事は難しい事ではない。コーヒーショップ第一、それが違っても市街地に行くことに意味がある。
 これで手段も確立、現状も目的も定まった以上、後はそれを実行するだけだ。地図やら食品やらはデイバックに戻し、念のため懐中電灯はポケットの中へ。長くて収まりきらないが、それが逆に抜き出しやすさになっている。緊急時の照明や目印、目くらましに出来るだろう。
 カッターナイフもホルスターに挿してベルトを巻きつける。護身用程度には使えるだろうが……このカッターナイフの痛みを減らすのがりすか限定じゃなかった場合、あまり示威行為にはならないかもしれないな。
 まあカッターナイフで、使うのがぼくじゃもともと攻撃力は見込めないし、別に良いか。
 とりあえず準備は完了、コンパス片手に、
「よし」
 と意気込み。恐らくは市街地のあるだろう方向に身を向けて、踏み出した一歩目を、
「うな―――――――――――――――――――っ!」
 盛大にずっこけてしまった。
「……な」
 い、いったい何だ今のは……? 獣なのか? いや、それにしては恣意的というか意図的というか、どうにも人間臭い響きだったような気がするな。いやしかし、あんな間抜けな声を惜しげも無く叫べる人間がこの世にはいるというのか?
 否だ、というか、嫌だ、そんな人間がいるなんて僕は認めたくない……! そう、それこそぼくは叫びとして主張したい。だって、うなー、だぞ、うなー。うなー、って叫ぶ人間なんてぼくは存在して欲しくないぞ!?
 だがしかし、仮に獣だったとしたらそれはそれで面倒だ。ぼくには獣と真っ向から戦うなんて能力はないし、猫をかぶっても効果が無い。くそ……認めるしかないのか、あれが人間の叫んだものとして認めるしかないのか!
 ………………………。
 ……待て、ここはプラス思考に考えるのだ。あんな叫び声をあげる人間が危険人物だとは思い辛い。同等に有能な人間とは思えないのだが……まあそこは度外視しよう。聞いた感じでは女性っぽい響きだったし、それならば猫を被れば何とかなりそうだ。
 何にせよ確認の必要がある。聞こえた感じからして声の主はそう遠くにはいない筈だ、確認するのに面倒ではないし、しておいた方が情報収集として良いだろう。
 夜目でどうにか浮かび上がる木々の影を避け、足場のその根を中心にして足音を消して叫び声の聞こえてきた方向へ行ってみる。しかしよくよく見ておかないと声の主を通り過ぎてしまいそうな、もっと言ったら蹴ってしまいそうな暗闇だ。
 向こうも懐中電灯をつけていないところを見ると警戒しているのかもしれない、と思ったがそれもどうだろうな。それぐらいの事が考えられる奴なら叫び声なんてあげないだろうし。
 低能なら低能なりに光をつけるくらいの愚挙をしてほしいものだ。そうすれば姿を見るなり目当てをつけるなり出来たものを。
 幸いにしてかというべきか、木の根本あたりにやたら活発に動き回る影があったので見つける事自体はそれほど苦労はしなかった。おそらくあれが声の主だろう、叫ぶなんて愚挙をするにふさわしい、見つけてくれとでも言わんばかりに動き回っている。
 何度も上げ下げされている細長いものはおそらく腕なのだろう、シルエットを鑑みるに屈んだ姿勢で、上げたり下げたり回したり規則性もへったくれもない動きを見せてくれる。屈んでいてもぼくと同じぐらいの大きさであることから年上、中高生ぐらいであるように思える。
「う――――な――――――――……」
36創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:28:21 ID:itwWozfa

37創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:29:11 ID:itwWozfa

38しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:30:10 ID:zOOTMCOW
 さっきも聞いた間抜けさ全開の呻き声が聞こえてくる。ぼくの想像通りに中高生だったとしたら世も末だな、確かに無駄に年齢だけを重ねてきた低能の大人なんて腐るほど見てきたけど、ここまで露骨にそれを見せびらかす奴は見た事が無い。
 とりあえず人間であると確認できた事でひとまず納得しておこう。中高生ぐらいの大きさで間抜けっぽい言動、声色を聞く限りだと女性みたいだな。まあよく街角で見る事が出来るような知性のかけらもない形ばかりの年上なのだろう。
 まあ以上の事を鑑みるに、有能ではないが今すぐ襲ってくるような危険人物には見えない。姿がよく見えないのであまり効果を上げていないが、ぼくには物ごころついた時から鍛えに鍛え抜いた観察眼がある。接触しても問題はなさそうだな。
 普段ならあんな人間は奴隷に選びさえしないのだけれど殺し合いの中にいるという現状では、背に腹は代えられない事は出来ないという奴だ。
 まあ今後出会った相手の警戒心を緩めたり、戦闘時の囮や壁にする程度には使えるだろう。それがたとえ、うなー、とか叫ぶような人間でも。
 どれだけ露骨に間抜けさをひけらかしている人間だと言っても、しかし疑いを持たれるような接し方をするようなぼくではない。こういう時には小さくてなめられる事の多い小学生の外見も役に立つ。せいぜい気弱な子供が偶然遭遇した風にしてみようじゃないか。
 こちらから声をかけて、というやり方は相手を驚かせるからあまり好ましい接触ではない。当然であるが人間という生き物は自分がイニシアチブと持っている方が安心するものだ。向こうがこちらに気づいた、という演出の方が良いだろう。
 念のためカッターナイフをホルスターに入れた状態のままで刃を出しておく。
 『きちきちきちきちきち……』という聞きなれた音がして、でもまあこの音をぼくが出す事になろうとは全く予想していなかったな、とかそんなことを思う。これでもし向こうが襲いかかって来たとしても、応戦の準備は出来た。
 という訳で、草を踏みつけてわざわざ足音を立ててやる。
「おやおや、誰かいるのですかー?」
 その音にもぞもぞと動き回っていた影が動きを止め、急に縦へ長くなった。立ち上がったのだろう、そのシルエットは確かに人間の形をしている。その声は年若な女のもので、やはり中高生ぐらいのものに聞こえる。だが気になるのは、その口調だ。
 どう聞いたとしてもそれは恐る恐るといった風ではない。間延びした感じで、しかもこの状況にあって敬語を使っている。まあだからといって律儀とか礼儀正しいといった印象は全くなく、雰囲気としては楓の奴を連想させる。
「……あ、誰か、い、いるんですか?」
 ぼくの方からも問い返してやる。これで向こうは自分の方が先に気づいたと思うだろう。そう考えさえる事で思考に余裕、まあぼくに言わせれば油断なんだけど、それを持たせてやろうじゃないか。
 しかしそれにしても、我ながらずいぶん子供っぽい、しかも腰の低い口調を出してしまったな。
 ああ今なら大人にヒントをくれてやる時のコナン君の気持ちが解る。無能な大人のためにわざわざ子供を演じてやると、なんとなく無意味に幼稚な風を演じてしまうのだ。
「その声だと男の子ですか? ここ暗いんで、もうちょっと近寄ってくれませんかー?」
39創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:30:44 ID:itwWozfa

40しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:30:58 ID:zOOTMCOW
 聞く限りにおいて害意はなさそうだが、聞きようによってはぼくを招き寄せて攻撃しようとしている、という解釈もできる。だが姿を確認できないのはぼくも同じだし、カッターナイフに手をかけた状態で、近寄ってやるとしよう。
 近寄って、ようやく向こうもぼくの影を見る事が出来たらしく、肩を落としておおげさに警戒を解く。
「またずいぶんと小さいですねー?」
 余計な御世話だ。
「おいくつでちゅかー?」
 この女は、少なくとも人語を解する程度には成熟している人間に対して、まだ赤ちゃん言葉を使うのだろうか。すさまじく腹立たしい対応だ。しかしこれも低能が故の愚かさと、大目に見てやろう。ぼくの器の大きさに感謝して欲しい。
「じゅ、10歳です」
「という事は小学生ですね」
「はい、5年生です」
「いいですねぇ、可愛い盛りですねー。わたしもそれくらいの弟が欲しいと思った時がありましたよ。わたし、末っ子だったので」
 お前の家族構成なんて知ったことではないのだが、それを表に出すわけにもいかない。この女に対応するという事は忍耐力の修練と同異議であるように思えてならない。
「それで、少年くん」
「いえ、供犠創貴です」
「そうですか、釘打ったかくん」
「…………!」
 ぼくの名前をそんな風に間違えたのはアンタが初めてだ……!
「供、犠、創、貴、です」
 猫かぶりがはがれそうになってしまうが、だが、だがしかし、こればっかりは許容できない……!!
「空気吸ったか?」
「それは常に」
「クッキー食ったか?」
「食べてません!」
「失礼、噛みました」
「……わざとでしょう」
「いえ、本当に噛みました。……クッキーを」
「そっちかよ!?」
「そんなことより、創貴くん」
「ちゃんと言えるじゃないですか!」
「え、当り前じゃないですか。人の名前を間違うなんて、そんな失礼なことしませんよ」
「じゃあ今までの会話は何だったんですか!」
「細かい事を気にする子は大きくなれませんよ」
「今時そんな叱り方で改まる子供がいると思うなよ!?」
「全く、嫌な世の中になったものです」
「本当にそうですね!」
 あんたがいるこの世の中が嫌になりそうだ。危うく猫かぶりを全部脱ぎ捨ててしまうところだったじゃないか。これがもし計画的にやったんだとしたらすさまじい策士だ、驚愕に値する。師事したって良い。
「創貴くん、わたしの鞄を開けてもらえますか?」
「鞄……デイバックの事ですか?」
「何でも横文字にするなんて感心しませんよ!」
「どうしてそこでキレるんですか!?」
 この女の沸点がどこにあるのか解らない。
「いえ、ずっと中を確認しようとしていたのですが、どうも今のわたしには――手が足りなくて」
 手が足りない? たかがデイバックを開いて中身を取り出す程度の事に何を言っているんだ、この女は。まさかそれが出来ないほど低能だとでも言うつもりなのだろうか。もしそうなら、低能から無能へと呼び名を変えなければならないな。
「開けてくれたら、良い事して上げますよ?」
「たとえば?」
「もてあましたわたしの性欲解消をさせてあげます」
「小学生にそんな事を褒美にするなよ!?」
 変質者か!? 変質者だったのかこの女は!! あーもうついに猫かぶりが剥がれてしまったじゃないか!
「うふふ、ほーら、さっさと開けないと今にも解消させてあげちゃいますよぉ?」
「もはやそれは脅迫以外の何物でもありませんね!」
41しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:31:42 ID:zOOTMCOW
 何なんだこの流れは。だがしかし言う事を聞いておかないと本当にやらされてしまいそうだし、こんなことでもこの女に対する点数稼ぎにはなるのだろう。仕方ない事この上ないのだがやってやる。たかがデイバックを開けるだけの事だし。
 だが、ここでただ単にデイバックを開けるだけという事はしない。いや、夜目に慣れているからそれも出来るのだけど、だがこれにかこつけて別の事も出来るのだ。
「あ、あの、懐中電灯をつけてもいいですか?」
 一応猫かぶりを直して尋ねてやる。ここで明かりをつければ、明確な視界を得るだけではなくこの女の顔を正確に把握する事が出来る。そうすれば、ぼくの観察眼によってこの女の本質を即座に看破出来るのだ。
 接触しても攻撃してこなかったし、まあ明かりをつけても襲ってこない程度にはこの女のキャラクターがつかめているが、ここでさらに分析でおくのも悪くない。カッターナイフという非常用の応戦策はまだ残っているのだし。
「創貴くんはそんな便利アイテムをお持ちでらっしゃる?」
「はい、デイバックの中に入ってて……それがないと、よく見えないんです」
「そうですねー。あった方が楽ですし、それにずっと暗いのももう嫌ですし。あるというなら、どーぞどーぞ」
「は、はい」
 ひょっとしたら向こうも明かりが無いからデイバックを開ける程度の事に手間取っていたのかもしれないな。つまり相当の不器用で能力の低い奴だという事になるのだが。
 ポケットにいれておいた円柱形の機械、というほど複雑な作りという訳でも無いのだけど、まあとにかく携帯可能な照明器こと懐中電灯を抜き出す。高質でつっかえのない表面、だからこそつっかえた凹凸はスイッチに他ならない。
「つけます、ね?」
「どーんと来なさーい」
 IQのかけらも感じられない能天気な答えだ。だが承諾はされたのだし、まあされなくてもそうしただろうが、ぼくは懐中電灯のスイッチを入れる。途端に傘状に膨らんだ先端が発光し、真っ暗な闇夜を切り取ったように鮮明な風景をぼくの目に映す。
 そして、女の姿を見た。
「……………………」
「おやおや、創貴くんはそんな顔をしていたのですね」
 ぼくは、見た。
 ぼくの事をさんざんコケにしやがった、その女の姿を。
 その姿はやはり年若い女のもので、中高生と予想していたがこうして正確に姿を見ると、、彼女が高校生であるという事が解った。女子高生という奴だ。
 服装は派手な色のジャージにいかにも学生って感じのスカートと靴。ジャージは大きさが合っていないのかちょっとばかりだぶついていて、掌が出ていない。頭にはニット帽を被っていて、髪の毛の大半を隠していた。
 外見そのものは、いわゆるところの、ごく普通に街角で見かける女子高生のそれであった。表情もしぐさも、その域を出ていない。
 だがしかしぼくの観察眼はそれ以外のものを見定めていた。物ごころついた時から鍛えに鍛え抜いた極限の観察眼が、目に見える特徴がこの女をすべてを表していないのだとぼくの意識に訴えかけている。
 解る。そう、解ってしまうのだ。
 理解出来る。見破れる。この女が――人殺しであるという事が。
「んん? どうしましたか、創貴くん」
「……いえ」
「あ、あー、そうか、わたしの名前が解らないんですね? そうですね、君が名乗ってわたしが名乗らないというのも失礼というものですねー」
 人殺し、しかもそれを罪悪として認知する事の出来ない人間としての欠陥、それを抱えているのだとぼくの観察眼が見定める。人殺しを罪悪として感じない、それはもはや人間と呼べるものではないのかもしれない。
 では何と呼ぶのかと言えば、それにはうってつけの単語がある。
 殺人鬼、だ。
「わたしは、無桐伊織といいます」
 人ならざるから人殺し。
 人殺し故に、人ならざりき。
 殺人鬼、無桐伊織。
 ひょっとしたらぼくは、ハズレを引いたのかもしれない。

     ★     ★
42創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:32:36 ID:itwWozfa

43しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:32:52 ID:zOOTMCOW
「ええそうです。わたしは無桐伊織という名前の、見ての通りの年若な女子高生さんです。と言っても、創貴くんぐらいの歳じゃあまだムラムラくるには早いかもしれませんねー。
 あ、ちょっと待って、待って下さいそんな引かないでくださいよぅ。全く、創貴くんは余裕のない子供ですね、ドライといっても過言ではありません、ノリが悪いと言ってもいい程です。君ぐらいの子はもうちょっとぐらいわたしに構ってくれていもいいと思いますよ?
 というかその目はわたしを年上として敬っていない目ですよね? いーえ首を振っても駄目ですよー、お姉さんにはすべてお見通しなのです。……お前のやった事はすべて丸っとお見通しだ―! ああごめんなさい、つい何となく言いたくなっただけです。
 あのね創貴くん、こう見えてもわたし、通っていた学校では優等生で割かし知られていたのです。いえ、そんなこの世の果てを見たような表情をしないでください、そんな顔をしても事実は消えませんから、いえ、本当ですから!
 ですのでね、もうちょっとぐらい敬ってみてはどうでしょうかと言ってみますよ?
 え? あー、そりゃ確かに今は通ってませんけどー、だからって中退とかそんな風に言わないでくださいね?これでもそれなりの修羅場くぐってしまったのですか。もうシュラハダバーってBGMがつきそうなぐらい。
 もう父母姉兄みんな揃って殺されちゃいましてね。わたしとしても……ほら、両手が手首の辺りでがっすりと切り落とされちゃったんですよ。父母姉兄を殺した人たちにちょっとばっかり切り落とされてしまいまして、いや本当に困ったものです。不便ここに極まりって感じです。
 まあそこでわたし、ちょっと開眼しちゃいましてね? もぅ、クリリンの事かー! ぐらいの勢いで。いやほら、なんかシチュエーションが似てません? 大事な仲間が殺されちゃう感じが。え、仲間と家族じゃ違う? 大体同じですよー。
 とにかくそんな感じで前の家族がみんな死んじゃいいまして、今は別の新しい家族のところにいるって感じなのです。と言ってもわたしをその家族に引き込んだ人、双識という人はその時の騒動で死んじゃったんですけどねー。
 だからわたしの手を引いてくれたのは……手が無いのに手を引いたとはこれいかに! ああごめんなさい真面目に話しますまじめに話します! その双識さんの弟さんという人識くんというちっちゃな男の子なんですよ。
 それで人識くんに連れられて、わたしの両手の義手を作ってくれる心当たりを探してたんですけどねー。その途中で、気が付いてみたらあの真っ白い部屋にいて殺しあえって感じに言われちゃって、御蔭様で人識くんとも離ればなれといった具合なのですよ。
 しっかし本当、困ってしまいますよねー? こちとら両手が無いんですよ、そんな状況でどうやって殺しあえって言うんですかねー? そりゃ私も零崎って事になってますけど、まだまだ新入りさんだし出来る事だってそんなにないんですがねー。
 そうそう、創貴くんは零崎って何か知ってますか? 知らない? まあそうですよねー、知ってたらそれはそれで大変そうですもんねぇ。うん、知らないんだ、知ーらないんだーっ! うふふ、ほーら無知をひけらかしてわたさいに教えを乞うてごらんなさーい。
 あーうそうそ冗談だからは本当に冗談ですから心の底から反省してますからですから行かないで光を持っていかないでー! ……もう、創貴くんは怒りんぼさんですねー、これぐらいの軽口には軽口で付き合ってほしいものです。大人の必須スキルですよー。
 いや本当、相手の話に乗っかってあげるって言うのは大事ですからねー。……うふふ、大人になると相手に合わせてばかりになってしまいそうになりますけどねー。大人になるというのは、案外そういう事なのかもしれませんねぇ……。
 あ、で何の話でしたっけ? ああそうそう、零崎でしたね。まあ教えるって言ってもさっきも言ったと思いますけどもわたし自身新入りさんなので詳しい事もは何一つとして知らないんですよー。
 知ってる事は、零崎がどんな人たちか知ってる人ならみんな知ってることぐらいですけどね。曰く、血筋ではなく流血によって繋がる『一賊』。一人では生きていけない人殺しが集まってできた、殺人鬼の一家。それが零崎だそうですよー。
 おやおや、意外と平然していらっしゃるんですねー創貴くんは。一応わたし、今自分が殺人鬼だっていったみたいなものなんですけど。
 わたしが怖くないんですか? え、むしろ間抜けに見える? こうそこは可愛くて愛らしくて虫どころかミジンコも殺せないプリティーガールって言うところですよー。
 え? 死んでも言わない? まったく人識くんといい、男の子って言うのは変なところで意地っ張りですねー。
44創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:33:37 ID:itwWozfa

45しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:34:02 ID:zOOTMCOW
 んん? なんで伝聞形かって? うふふ、実はわたし自身は双識さんと人識くん以外の零崎さんと出会ったことがいのですよー。だからなんといいますか、『零崎』という分類ではあっても集団には属していないというか、それに近い感じなんですよねー。
 それでですね創貴くん、どうして私がこれを君に話したか解りますか? いえ、別に創貴くんを殺すとかそんなんじゃないんですよ? ていうかそもそも今のわたしじゃあまともに人殺しなんて出来ませんしねぇ。
 だってほら、わたし両手無いでしょ? さっき話した双識さんからもらった『自殺志願』っていうおっきな鋏も無くなってしまいましたし、踏んだり蹴ったり千切ったりとかで人を殺せるほどわたしは力がないんですよ。
 わたしが創貴くんに教えたのはですね、絶対に零崎っていう人たちを殺さないでね、って言いたいからなんですよ。もちろん、わたしも含めてね。零崎を殺すって言うのは、とっても大変なことなんだから。
 零崎っていう人たちはね、どうしようもない人殺しのくせに家族が欲しいっていう人たちだから、とっても仲間意識が強いんだそうです。
 家族愛、う〜ん違うな、家賊愛って感じ? それがとっても強くて、同胞が殺されると絶対に報復するんだそうですよ。
 殺した相手はもちろん、その親族からご近所さんまで、徹頭徹尾草の根残らず皆殺しにするんだそうです。例にも寄って伝聞形なんですけどね。まあそんなですから、零崎を一人でも殺したら大変なことになりますよー。
 ですから、わたしは殺さない方がいいですよー。わたしを殺すと大変ですよー。っていうか殺さないでくださいお願いします!
 …………………………。
 ………………。
 ……。
 あ、殺さないんですか。……あー良かった―。いえ、こんな場所でこんな状況だから、どんな人にも信頼なんて出来たもんじゃないですからねー。ひょっとしたら創貴くんもわたしを殺そうとしてたらどうしよう、とか思ってしまいましたよー。
 うふふ、そうですよねぇ、こんな可愛らしい小学五年生が、わたしみたいな可愛らしい女子高生を殺すわけないですよねー?
 でもね? ――わたしは殺人鬼なんですよ。だからね、君もそうだったらどうしようかなって思っちゃったりしてしまう訳なんです。ここはそういう場所の様なので、創貴くんも気をつけた方がいいですよー?
 うん、良いお返事。創貴くんは良い子ですねー? 頭なでなでしてあげますよー? おやおや、そんな毛虫が降ってきたかの如く撥ね退けて、本当に創貴くんは素直じゃありませんね。
 ふう……。
 あー、そういえばずいぶんと長話になってしまいましたね? 創貴くんは、わたしに何か訊きたいことはあったりするのかな?」
「では一つ……両手から血が流れていますが、大丈夫なんですか?」

     ★     ★

「……………………………………………………ぁ」
「……………」
 気づいてなかったのかこの人。……気づいてなかったのこの人! 自分の腕の事なんだからもっとちゃんとして欲しいものだ。どんな手段を使っているかは知らないが、切り落とされた断面が傷のままでいつまでも血が止まっている訳ないじゃないか。
 ぼくが出てくるまでやってたあの妙な動き、どうも掌が無い状態でデイバックを開けようとしてたらしいんだけど、それで断面丸出しの両腕を使い過ぎたんだろうな。
 せっかくほぼ完璧だった止血が緩んだのはきっとそのせいだ。ああでも、この量で済んでいるのは少し傷が塞がっているからなのかもな。
「うはー! 流れてる、流れてますよぅ!? ちょろちょろと! 中っぱっぱとか!!」
「ああ、だめです! 振り回したら余計に血が!」
「うぅ……どうしましょう。止血は人識くんに任せっきりだったから、わたしには出来ませんよ」
「まさしく打つ手がありませんね」
「創貴くん、出来たりしません?」
「そんな、しょ、小学生にそんなこと求めないでくださいよぅっ」
「そーですよねー、創貴くんには出来ませんよねぇー?」
 どうしてこうこの女は無意味にも毎回毎回ぼくの神経を逆なでする発言をしてくれるのだろうか。
46しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:35:16 ID:zOOTMCOW
 ……しかし、実際に今いきなり襲ってくるような性格はしていなかったとはいえ、この無桐伊織という人間、姿を見た時の把握通りに殺人鬼だったな。
 しかも零崎とかいう殺人鬼の集団に属しているらしい。あくまで自己申告によるところだが、ぼくの見た限り嘘ではなさそうだ。
 殺人鬼と一緒に行動する事は念頭になかったしこうして交流を持った事は当初の理念には大きく外れるのだが、しかしだからこその事として想定以上の事が出来るかもしれないな。特に今さっき話した、零崎は仲間の死に必ず報復する、とかいうルールも役立ちそうだし。
 盾にする、他の奴の警戒心を解くダシにする、という他に、殺人鬼ならば戦闘力にもなる筈だ。確かに無桐伊織の外見は戦闘に優れたものではないし両手はないしで現段階では殆ど役立つ面は無いのだが、だがそれでも、殺人鬼にはふんぎりの良さ、というものがある。
 殺すことにためらいが無い奴だからこそ、戦闘においてためらいなく相手を殺そうと動けるのだ。これが一般人なら臆病風に吹かれて止まってしまうところなのだろうが、殺人鬼にそんなものがある筈がない。
 それがあるだけ、まあ一般人みたいな低能と出会うよりはマシだったと考えるべきだ。
 幸いにしてぼくにはこの女に対し、ぼくと一緒に行動させ恩を感じさせ、そして失われた両手を埋める方法を知っているのだから。
「あの、伊織お姉さん」
「どうしましたか創貴くん?」
「ひょっとしたらぼく、伊織お姉さんの手を治す方法を知ってるかもしれません」
「おやおや」
 多少の予想はあったが、この女、ほとんど驚かないんだな。さっきまででも見れたような、ちょっと目を丸くする程度のリアクションだ。
 驚きに対する沸点みたいなものがあったら、この女は相当にそれが高いという事になるんだなろうな。まあ食いついてるみたいだし、問題はないか。
「創貴くんはわたしの腕を治せるんですか?」
「ぼくは、治せないんですけど……、あの、伊織お姉さんはさっきまでいた真っ白い部屋を覚えてますか?」
「動けなくされてた、あの部屋の事ですか」
「はい。そこにいたあの豚や……男の人を、影谷蛇之って呼んだ女の子を、覚えてますか?」
「あの真っ赤な女の子ですか? わたしの立ち位置からは見えましたけど……お友達か何かですか」
 正直にいえば全肯定は出来ないところなのだけれども、そう言っても問題はないのだしこの女にはそうだと言っておこう。
「その、水倉りすかって言うんです、けど」
「水倉」
 さすがにこの女でもあの水倉神檎の声には思うところがあったらしいな。そしてあの時に聞いたのであろう水倉神檎と今ぼくが言ったりすかの苗字が同じである事に何か思ったのかもしれない。
「ひょっとして、あそこで聞いた天の声的な人のご家族ですか」
 天の声って何だよ。
「え、ええ、子供なんです」
「ふむふむ、この殺し合いの張本人の娘さんですか。創貴くんもまたすごい人とお知り合いですね。……それで、ひょっとしてそのりすかという子が何とか出来るのですか?」
「は、はい。りすかは、『魔法使い』ですから」
「………………」
 と、そこで伊織はいきなり真面目な顔になりやがった。……何故だ、どうして今ここでそんな顔になる? まさか『魔法使い』に対して何かの覚えがあるのか?いや、だとしたら水倉神檎の名前が出た時にもっと大きな反応があってもいいはずだし……。
 かく思う間にも無桐伊織の真摯な顔が間近に近づいてきて、
「――創貴くん」
「は、はい」
「その歳から魔法少女にはまるのはどうかと」
「違ぇよ!!」
 あー声を荒げてしまった猫が剥がれてしまっただけれども後悔は全くしていないぞこの女っ!!
「大丈夫です、うちの兄……さっき話した双識さんもその辺はまってそうな人でしたが、創貴くんとは相当に歳の差があります。それまでに脱却すればただの趣味で止めておけます……」
「そういうのとぼくを一緒にするな! ぼくが言いたい事とそういう事はまるで違う!」
 やめろぼくをそんな憐れむような目で見るな! 畜生なんてこの女は扱い辛いんだ! 感じは楓と似ているではあるが……あれとは段も桁もまるで違う面倒臭ささだこんちくしょう!
「まああの蛇之という人も魔法云々とか言ってましたし、それっぽいものはあるんでしょうけどねー」
47創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:35:46 ID:itwWozfa

48しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:37:50 ID:zOOTMCOW
「まああの蛇之という人も魔法云々とか言ってましたし、それっぽいものはあるんでしょうけどねー」
 解ったうえで言ってやがったのかこの女……!
「しかしそれでも、魔法、魔法、魔法ですかー…………うふふっ」
 笑いやがった! いや、嗤いやがった! この女、ぼくやりすかが死にかけたり殺したりしてきた視線の数々を一笑にふしやがった! ああ無知な奴らから見たらそうなんだろうな……、って、うん?
 無知? どういう事だ? それは変だろう。そりゃ実際に見た事があるかどうかは別問題であるが、ぼくの知る限りでは魔法そのものは割と周知の事実だったはずだ。社会的には無いという事になっているが、いわゆるところの公然の秘密として。
 それを知らないってのか、この女は。だとすれば相当の世間知らずか……今ぼくが思った様に、無知、本当に知らないのどちらかだ。常識的に考えれば前者なのだろうけど、しかし常識にとらわれないのがぼくであり、また想像できるのが現状だ。
 零崎。聞いた限りでは裏社会のことのようなので、およそ一般人であるぼくが知る由が無いというのも納得するところであるが、だがしかし本当に、聞いたことのない名前だ。これは、無桐伊織が魔法を知らない事と何か符号な気がしてならないな……。
「それで」
 む、いけないな。無桐伊織がまたしゃべりだした。今後も考えなければならない懸念事項であるように思うが、目前の会話を疎かにするわけにもいかない。いったん保留だ。
「そのりすかちゃんが、あの水倉神檎という方の娘さんが、魔法なる力を使って……わたしの手を治してくれるんですか?」
「りすかには、その、体の欠損を埋める魔法が使えるんです」
 正確には『大人りすか』の力であるが、そのあたりは説明してやる必要が無い。そう、ぼくの体の半分以上がそうして補填されているように、りすかにはそんな魔法も使える、否、使えるようになる、というべきか。
「だから、りすかと合流出来たら」
「なるほどなるほど、わたしの両手を補充してもらえばいい、と」
「はい、ぼくからもお願いしてみますので」
 実際にそんなことをする必要もないしな。正直に言えば、ぼくがりすかと合流するまでのつなぎ程度になってくれれば良い。まあ殺人鬼として戦闘力にはなりそうだし、都合がつくようだったら本当にりすかにお願いしてやるよ。
「本当にそんな事できるんですかー?」
「そこは、その、信じてもらう、しか。りすかも、ここにはいませんし」
 ここでちょっと泣き落とし。ぐずるようにして微妙に駄々っ子さをアピールする。そうすれば泣き落としに近い種類の説得力と保護欲みたいなものを誘える。
 ひょっとしたら、この子供は誰かに一緒にいて欲しいからこんなことを言っているのだ、と思われるかもしれないが、別にそれでも良い。
 要はこの女がぼくを害さない形で同行するように差し向けてやればいいのだ。しかしこの女にそれほど悩むような頭は無かったようで、
「ま、それもそうですね」
 などと悩む頭が無く条件反射でそうしたんじゃないかと思ってしまうぐらい軽々と頷く。本当に低能な女だ。
 確かに全て事実であるとはいえ、必ずしもそれが全く正当に自分の身に降りかかるとは限らないだろう。ぼくやりすかの私意が混ざるかもしれないとは考えなかったのか?
 そうでなくとも、ここに証明する手段がないのだから、そんな短時間で答えを出すのも愚かさの証明というものだ。
 早い事は良い事だが、だからといって考える事が少ない事も良い事ではないのだ。言うまでも無く、馬鹿正直にぼくからこの女に言うなんて事はしないのだが。
「ですけれども」
 おや、こんな女でも何か思うところがあったとでもいうのだろうか。
「なんでしょう?」
「そのりすかちゃんとやらの居場所は解るのですか?」
 ああ、そういえばその辺りの説明をしていなかったな。
「それは、その、ごめんなさい解りません」
「おやおや」
「ですが……彼女と合流出来そうな場所ならあります」
 億劫ではあるが引き連れて歩く以上、説明しない訳にはいかないからな。ぼくはデイバックから地図を取り出して広げてやる。もちろん自分のものを出すのは手間だから、足下に放置された無桐伊織のものだ。
「ここなんですが」
「コーヒーショップですか?」
「りすかの家なんです」
「ほほう、ご家族が経営されているのですか。ハイソですね」
49創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:38:47 ID:itwWozfa

50しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:39:14 ID:zOOTMCOW
 経営しているのはとりあえず家族ではないし、コーヒーショップを経営しているだけで何故ハイソなのかはわからないが、こちらが言わんとしている事は伝わったのでそこは目をつぶろう。
「連絡はつきませんけど、だから逆に、ここに行けばりすかと会えると思うんです」
「ひょっとしたら罠かもしれませんよ? どうしてそのりすかちゃんのお家がここにあるんですかね」
 これだから低能は相手に困る。罠かもしれないというが、罠を仕掛ける必要性がこの状況のどこにあるんだ。
 りすかの能力が封じられている可能性がある以上、りすかも平等に殺し合いの中に突っ込もうとしているのは予想がつく。だとしたら、罠を作って殊更にふりを作る必要が無い。
 仮に罠だったとしても、他に行くあてなど無い、目印など無いのだ。連絡がつかない現状においてぼくとりすかが落ちあえる場所は、ここ以外にない。
 極論するなら、入口の前に立っているだけで良い。要は待ち合わせの目印なのだ。まあぼくは罠が無いと予想しているが。
 全くただでさえ二度手間だというのに、同じことを何度もぼくに考えさせないでほしいものだ。まあこの女と出会う前のことだったんだから、この女が知らないのも当然だが。
「で、でも、ほかに当てもないし……」
「そぅ言われてしまえばそうなんですけどねー」
 こう言ってやらなければ理解できないのだろうか。ぼくの慈悲深い助言によって、ようやく無桐伊織は頷いている。この先も一々こんなことをしていかなければならないのかと思うと、面倒くさい以外の何物でも無い。
 あぁいや、どうやらまだ納得という段階ではないようだ。しょうがない奴だ、ここはこいつの事情も鑑みてやるしかあるまい。
「それに……その、どっちにしても、伊織お姉さんの手をどうにかしなくちゃいけないし……」
「あ、そうでしたそうでした。確かに、この場所じゃあどうしようもありませんもんねぇ」
「りすかの家に行かないにしても、病院に行かなくちゃ……危ないんじゃ」
「ふむふむ」
 ここまで言ってやって、やっとこさ頷きやがった。本当に手間のかかる女としか言いようがない。
「街の方に出なくちゃ何も始まらないってことですねぇ」
 そんな当たり前のこと、ぼくが言う前に最初っから理解していてもらいたいものだ。
「とりあえずりすかの家まで行って、それから、病院に行くかどうかを決めたらどうかな、って思うんですけど……」
「そーですねー、そのぐらいが一番いいんでしょうね」
 この女は、ぼくに誘導されているとかそんな風には考えないんだろうか。その方がぼくとしては都合がいいのだが、ここまで都合がよすぎると逆に不安になるというか、利用価値を感じる事が出来なくなってしまう。
 まあ腕が治ってくれるに越したことはないのだが、元々いないよりマシ程度の思いつきで取り入った女だ。
 そこまでの利用価値は求めていないのだが……どうにもこうにも、どうしようもないにも程がある、と言ってしまいそうな風である。
「うん、では善は急げ、と行きましょうか」
 殺人鬼の癖に善とは片腹痛い。
「早速街に行くとしましょう」
「はい。コンパスの向きからして、あっちの方に街があるみたいですね」
「最近の小学生はコンパスが使えるんですねー。お姉さんはビックリですよ」
 小学生を何だと思っているのだ。コンパスで方向を確認して地図で行先を定めて行くぐらいのこと、誰でも出来るにきまってるだろう。
 この女の中でぼくぐらいの年齢は、どれだけ子供だと思われているのかが想像できようというものだ。
 ついでに、彼女がどれだけ子供な脳みそをしているのか、という事も伺えようというものだ。
 何にせよとりあえず、本当にこの上なく取り合えずであるが、これで当面の駒は確保できた事になる。お世辞にも使えそうな奴とは言えないが、それでもいないよりかは、そう、いないよりかは……、
「あ、そうだ、創貴くん」
「何でしょう」
「わたしの鞄を持って下さい」
「………………………………………………」
「ほら、わたしの両手の止血が緩んじゃったのって、これを開けようといじくり過ぎたからじゃないですか。ここで担ごうとしたら、また繰り返しになると思うんですよね」
「……それで、ぼくに、持てと」
「うん、がんばれ男の子っ!」
 ……………………。
 ………………………………。
 …………………………………………。
 ……………………………………………………いない方が良かったかもしれないなぁっ!!
51創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:40:15 ID:itwWozfa

52しかつもんだい編 ◆rOyShl5gtc :2009/01/03(土) 19:43:05 ID:zOOTMCOW
【1日目 深夜 C-7】
【供犠創貴@新本格魔法少女りすか】
[状態] 健康
[装備]りすかのカッターナイフ@新本格魔法少女りすか、懐中電灯、コンパス
[道具]支給品一式×2、ランダム支給品(1〜5、すべて確認済み)
[思考]
 基本 りすかと合流して神檎の所に辿り着く
 1 コーヒーショップなり病院なりに行かないとな
 2 この場所でも奴隷になりそうな奴がいるなら欲しいな……
 3 無桐伊織をとりあえずの奴隷として使ってやろうじゃないか
 4 ……荷物が重い
 ※参戦時期は、少なくともツナギと出会って以降です。
 ※零崎一賊の概要を知りました
 ※りすかが創貴を『座標』に出来なくなっている可能性があります。真相は後の書き手さんに任せます。
 ※このバトルロワイヤルにいる人間が持っている世界観に誤差がある事に気づきました。

【無桐伊織@零崎曲識の人間人間】
[状態] 両手首無し(出血・弱)
[装備]無し
[道具]無し
[思考]
 基本 とりあえず人識くんと合流したいな
 1 創貴くんって何かませた感じ〜
 2 病院行かないと死んじゃうかも
 3 あー手首の傷開いちゃったかなぁ
 ※両手首の止血が若干緩んでいます。今は命に別状がありませんが、今後悪化する危険性があります。


投下終了。
……投下の遅延やら遅い書き込みやらで申し訳ないです。りすかシリーズにちなんであのべらぼうに長い地の文を再現しようとしてみたのですが、それが仇になって一行に出来る文字の長さで何べんの引っかかってしまいました。
りすかについては、まあ軽い制限をまず付け加えた感じですね。魔法そのものに対する制限は後々、という感じでしょうか。
53創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:53:07 ID:2+xYl/eF
おおお!新ロワキター!
しかも西尾維新とは!
これは面白そう、読み手になるわ
54創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 19:59:14 ID:itwWozfa
投下乙です!
翻弄されてるなあ、キズタカw
はたしてうまく舞織を利用することができるのかww
55創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 20:08:33 ID:kjcTBZCr
とりあえず、早々に退場していったまにわにの皆さんに泣いたww
そりゃまあ、原作でもあれだったが…残った三人、鳳凰、人鳥、狂犬には
散っていった皆さんの分も頑張って、と思ったがこいつらじゃ…
七花あたり頑張って
56創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 20:24:41 ID:rSH1EM6L
おぉ…新ロワ来てる!
しかも早速投下されてるし…これは期待
 
とりあえずまにわにの皆さんがwwww
57創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 22:17:03 ID:xcVtnwYC
初代まにわになら出れるんじゃない。
58創る名無しに見る名無し:2009/01/04(日) 11:48:07 ID:pvMpYFJ0
遅れましたが投下乙です!
OPといい一話といいクオリティ高過ぎww
西尾節の再現がすごいなあ。
とりあえずキズタカ頑張れちょう頑張れ
59創る名無しに見る名無し:2009/01/04(日) 20:37:22 ID:imKjpBsk
気付かぬ間に新たなロワが!!!
西尾作品は好きなので期待してますー
60創る名無しに見る名無し:2009/01/04(日) 20:44:15 ID:OesV9DHC
雑スレでのラノベ談義とか思い出すと
西尾維新好きな人多いみたいだね
61創る名無しに見る名無し:2009/01/04(日) 20:57:37 ID:0VHoKBeR
まあ西尾作品はロワ系と共通した中二病(悪い意味ではない)的雰囲気がちょっとあるしね
62創る名無しに見る名無し:2009/01/04(日) 21:42:51 ID:imKjpBsk
確かに
ゆっくりじぶんのペースで盛り上がってくれればいいね!
63創る名無しに見る名無し:2009/01/04(日) 21:57:08 ID:f6Sqv/oH
りすかと刀語は読んだこと無いけど西尾作品は好きだし楽しみだぜ
64創る名無しに見る名無し:2009/01/04(日) 22:40:37 ID:LEBTyTW/
地図とかどうなってるん?
65創る名無しに見る名無し:2009/01/05(月) 09:40:35 ID:Vf3/JVW+
とりあえずこんなのだってさ
その内画像も出るらしい

 12345678
A砂下砂荒森三踊踊
B砂砂砂荒森森新竹
C砂荒荒百市要森斜
D砂荒心市清骨浪森
E浜浜デ病尾市コロ
F海海濁市市ラス西
G不鑢海市マ市澄市
H不不海赤市ピ市学

A-2=下…下酷城(「砂」)            E-7=コ…コーヒーショップ(「市」)
A-6=三…三途神社(「竹」)           E-8=ロ…ロイヤルロイヤリティーホテル(「市」)
B-7=新…新・真庭の里(「竹」)         F-3=濁…濁音港(「市」)
C-4=百…百刑場(「荒」)            F-6=ラ…ランドセルランド(「市」)
C-6=要…不要湖(「市」)            F-7=ス…スーパーマーケット(「市」)
C-8=斜…斜道郷壱郎研究施設(「森」)      F-8=西…西東診療所(「市」)
D-3=心…心王一鞘流道場(「市」)        G-2=鑢…鑢七花の住んでいた小屋(「不」)
D-5=清…清涼院護剣寺(「市」)         G-5=マ…玖渚友の住んでいるマンション(「市」)
D-6=骨…骨董アパート(「市」)         G-7=澄…澄百合学園(「市」)
D-7=浪…浪白公園(「市」)           H-4=赤…赤神イリアの屋敷(「市」)
E-3=デ…デパート(「市」)           H-6=ピ…ピアノバー・クラッシュクラシック(「市」)
E-4=病…いーちゃんがよく入院する病院(「市」) H-8=学…学習塾跡の廃墟(「市」)
E-5=尾…尾張城(「市」)
66 ◆T7dkcxUtJw :2009/01/06(火) 02:52:32 ID:ebHplmHv
こんな時間ですが、阿良々木暦、神原駿河、哀川潤投下します
67創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 02:52:55 ID:ebHplmHv
そして。
気がつけば、僕はベンチに腰掛けていた。

「………………へ?」

ちょっとした沈黙の後、思わず間抜けな声が口から漏れ出てしまうが、それも致し方ないことだろう。
僕の目の前に広がっていたのは、四十人程の人間が集められたあの空虚な空間とは似ても似つかない、ただの公園だったのだから。
戦場ヶ原ひたぎもいなければ、
大量の暗器で全身を貫かれて事切れた影谷の死体も、
殺し合いの前の余興とばかりに殺されていった、派手な装束の忍者達の骸も無い、変哲も無いただの公園だったのだから。
ついでに言えば、ロクに遊具も設置されていない。
あるのは精々ブランコぐらい……ってあれ、なんだこの既視感。
ゆっくりとベンチから立ち上がって、ぐるっと公園を見回してみる。
ブランコがあって、小さな砂場があって、周辺の地図が書かれた案内板が――

「……ああ、そうか」

そこでようやく思い出す。
完全に忘れかけていたが、とある五月十四日、僕はこの公園に来たことがあった。
浪白公園――なみしろ、と読むのか、ろうはく、と読むのかは相変わらず寡聞にして存じないが、とにかく来たことはあった。
念のために入り口まで行って確認
68創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 02:53:28 ID:ebHplmHv
そして。
気がつけば、僕はベンチに腰掛けていた。

「………………へ?」

ちょっとした沈黙の後、思わず間抜けな声が口から漏れ出てしまうが、それも致し方ないことだろう。
僕の目の前に広がっていたのは、四十人程の人間が集められたあの空虚な空間とは似ても似つかない、ただの公園だったのだから。
戦場ヶ原ひたぎもいなければ、
大量の暗器で全身を貫かれて事切れた影谷の死体も、
殺し合いの前の余興とばかりに殺されていった、派手な装束の忍者達の骸も無い、変哲も無いただの公園だったのだから。
ついでに言えば、ロクに遊具も設置されていない。
あるのは精々ブランコぐらい……ってあれ、なんだこの既視感。
ゆっくりとベンチから立ち上がって、ぐるっと公園を見回してみる。
ブランコがあって、小さな砂場があって、周辺の地図が書かれた案内板が――

「……ああ、そうか」

そこでようやく思い出す。
完全に忘れかけていたが、とある五月十四日、僕はこの公園に来たことがあった。
浪白公園――なみしろ、と読むのか、ろうはく、と読むのかは相変わらず寡聞にして存じないが、とにかく来たことはあった。
念のために入り口まで行って確認してみるが、やはり浪白公園で間違いはない。
駐輪場の二台の錆の塊まで、以前訪れた時そっくりそのままだ。
これは一体、どういうことだろう。
他の参加者と一緒に殺し合いの会場に送られたはずだった僕が、何故この公園にいるのか。
まさか全部、ベンチで眠りこけていた僕が見た真夏の夜の夢だったのだろうか。

「……そんなわけがないよな」

その可能性だけは、容易に否定できる。
先程は気がつかなかったが、ベンチには一つのディパックが置かれていた。無論、僕の私物ではない。
ディパックの中には、水やら食糧やらとともに、一本のナイフが入っていた。
やたらごつい、警官にでも見られたら護身用と言ってもまず通らないだろう一品。無論、このナイフも僕の私物ではない。
僕みたいな善良な一般市民がこんな明らかに用途がアレなナイフを持っていてたまるか。
まあそれはさておき、恐らくはあの白い部屋で説明された、僕達参加者に用意された道具なのだろうディパックとその中身が、
先程の出来事が夢や幻ではないことを何よりも雄弁に語っていたから。
そして、それ以上に。
あの声が――水倉神檎の、決して『偽物』なんかじゃない、
紛れもない『本物』だったあの声が、僕の脳裏に深く深く刻み込まれていたのだから。
あれが夢なら、本気で僕は自分の脳を尊敬する。
 
69創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 02:54:05 ID:ebHplmHv
「……でも、今の状況が夢で無いのなら、僕はどうしてこの公園にいるんだ?」

それがわからない。
普通殺し合いをするのなら、絶海の孤島とか人里離れた山奥とか、もっとふさわしい場所があるだろうに。
殺し合い自体普通ではないという指摘はさておき、こんな町中でどう殺し合えというのか。どう考えても近所迷惑だ。
あれ?ひょっとしたら近くの家に飛込んで助け求めたらそれで終わりじゃないか?

と、そんな感じで思考のスパイラルに突入していると、

「そこに居るのは、もしや阿良々木先輩か?」

背後から、聞き覚えのある声がした。

……気のせいだよな?
僕のことを阿良々木先輩と呼んでくれる後輩なんて一人しか思い浮かばないが、そいつがこんなところにいるわけがないしなあ。
うん、きっと気のせいだ。だから振り向くな、僕。

「阿良々木先輩、聞こえないのか?」

……落ち着け、これは幻聴だ。
わけがわからない状況に巻き込まれて混乱しているせいで、聞こえるはずがない声が聞こえるんだ。そうに違いない。
だから振り向いちゃ駄目だ。振り向いちゃ駄目だ。振り向いちゃ駄目だ。振り向いちゃ駄目だ。振り向いちゃ駄目だ。
振り向いちゃ駄目だ。振り向いちゃ駄目だ。振り向いちゃ駄目だ。振り向いちゃ駄目だ。振り向いちゃ駄目だ。振り向いちゃ駄目だ。

「ふむ、あの慈悲深い阿良々木先輩が私の声を無視などするはずが無い。きっと私の発声が悪いか、
もっと大きな声を出す必要があるのだろう。阿良々木先輩!阿良々木先輩!阿良々木先輩!阿良々木先輩!らぎ子ちゃん!」
「どさくさに紛れて何言ってるんだお前!?…………あ」

振り向いちゃった。

「おお、ようやく聞こえたか」

戦場ヶ原と同じ制服――同じ学校に通っているのだから当たり前だが――に、スカートの裾から覗くスパッツ。
左手に巻かれた包帯、そして――首輪。

「こんな場所で会うとは奇遇だな、阿良々木先輩」
「ああ……まったくだ」

神原駿河が、そこにいた。





70創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 02:54:52 ID:ebHplmHv
◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……なんだ、この地図……?」
「信じられないかもしれないが、実際にこの地図の通りなんだ、阿良々木先輩」

あの後。
戦場ヶ原だけでなく神原まで巻き込まれている事実に少なからず動揺しつつも、ひとまず二人で作戦会議をすることとなった。
戦場ヶ原がこの場にいると聞いて、即座に捜しに出ようとした神原をなんとか制止してベンチに座らせて、
効率よく戦場ヶ原を捜す術を話し合っていたのだが――

「無茶苦茶だ……!」

神原から見せられた地図を見て、僕は改めて水倉神檎の絶大な力を感じとった。
下酷城、尾張城、三途神社、濁音港、澄百合学園、清涼院護剣寺、踊山、因幡砂漠、不承島、エトセトラ、エトセトラ。
僕達の知らない地名が、わんさか載っているのである。
さほど郷土愛に溢れていない僕でも、有り得ないと感じてしまう程に。

「なあ神原、僕達の町に踊山なんて山はあったか?」
「いいや。生まれてこのかた、そんな山は聞いたことが無い。阿良々木先輩、私達の町に砂漠なんてあったか?」
「ああ、無いな。日本に砂漠なんてあってたまるか。砂丘で十分だ砂丘で」

一応神原に聞いてはみたが、この通り。
この場合、普通なら地図がでたらめだという可能性を疑うべきなのだろうが、

「いや、それは無い。現に私は、尾張城なる城をこの目で見ているんだ。もう一度言う、この地図は正確だ、阿良々木先輩」

その可能性は神原が否定した。
なんでも神原は尾張城の前に飛ばされたそうだが、地図の浪白公園の文字を見て、ここまで駆けてきたらしい。
エリアにして、E-5からD-7、相変わらず凄い体力だ。
そもそもお前、なんで浪白公園なんて知ってたんだと聞けば、「戦場ヶ原先輩の家の近くだったからな」と、誇らしげに言われた。
……聞くんじゃなかった。

「まあそれはいいとして、阿良々木先輩の意見を聞きたい」

よくねえよ。
そもそも意見ってなんだ。何についての意見だ。

「この現象は、怪異なのか?」

……それか。
正直に言ってしまえば、僕にもわからない。
たしかに春休みの一件からこっち、吸血鬼、猫、蟹、蝸牛、猿、蛇、また猫と、怪異には事欠かなかったが。
だがしかし、今回もそれらと同じように怪異なのかなんて、専門家では無い僕にはわからない。
 
71創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 02:55:33 ID:ebHplmHv
「そうか……聡明な阿良々木先輩のことだ、既にあの男を倒す術を看破していてもおかしくないと思っていたが……」
「いや、無茶言うなよ!」

お前はどれだけ僕を高く見積もっているんだ。
場数は多少踏んでいても、僕は基本ただの高校生だ。
忍野のようなプロフェッショナルの手を借りなければ、怪異になんてとても太刀打ちできないと言うのに。
ん?プロフェッショナル?

「どうかしたか?阿良々木先輩」

ちょっと黙っていてくれ、神原。
何か大切なことを忘れている気がするんだ。
あまりにも当たり前過ぎて、逆に忘れていることが。
なんだっけ――怪異、忍野、プロフェッショナル、蟹、猿、蝸牛、戦場ヶ原、羽川、吸血鬼――あ。

「忍!」

思わず叫んでしまっていたが、そんなことはどうでもいい。
神原が驚いているが、説明は後回しだ。
そうだ、僕にはいたじゃないか、怪異のプロフェッショナルどころか怪異そのものが。

あの春休みに出会った、ドーナツが好きな吸血鬼の成れの果て。
何故忘れていたのか。忍野忍は、常に僕の影に潜んでいるじゃないか。
怪異である彼女なら。怪異殺しの異名を持つ彼女なら。忍野メメから怪異についての知識を得ている彼女なら。
今、僕達を取り巻く状況についても何か知っているかもしれない。
だから僕は、忍の名前を呼ぶ。

「忍。わかっていると思うが緊急事態だ、出てきてくれ。お前の力が必要なんだ」

……出てこない。
何か機嫌を損ねるような事をしたか、僕?

「頼む、力を貸してくれ、忍。このままじゃ、僕も神原も戦場ヶ原も、皆死んじゃうかもしれないんだ」

……出てこない。
あれか?今の今まで思い出さなかったことに拗ねてるのか?
ええい、子供かあいつは。いや、そりゃ外見的には八歳だけれども。
よろしい、ならば最終手段だ。

「よし、わかった。僕も男だ。帰ったら、ミスドで財布が許す限りご馳走してやる。だから――」

だから、出てきてくれ。
そう言い切るより前に、僕は地面に倒れていた。





72創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 02:56:57 ID:ebHplmHv
◇ ◇ ◇ ◇ ◇





……あれ?なんで僕は倒れているんだ?
わけが、わからない。なんだか後頭部が燃えるように熱い。

――大恩ある阿良々木先輩にこんなことはしたくなかったが

神原の声が、聞こえる。
喋ってる暇があったら手を貸してくれよ。
ぐえ。おいおい、なんで俺の上に乗ってるんだよお前。

――すまないとは思ってる

なら早いとこどいてくれ。
女子にこんなこと言ってはいけないが、重いじゃないか。

――許してくれなんて、言わない

いきなり何を言ってるんだお前は。僕がお前を許さなかったことなんてないだろう?
大丈夫、許してやるよ。だから早くそこをどいて、僕を起こしてくれ。
おい、だからどうして僕の首に手をかけるんだよ。
掴むのなら、普通は手だろう。首を掴んで人を起こすなんて、聞いたことがない。

――ごめん、本当にごめん

ぽたぽたと。
僕の首筋に、水滴が落ちてくる。
ん?雨か?よくわからない世界だけど、雨も降るのか。
早いとこ戦場ヶ原を探しに行こうぜ、神原。傘無しじゃきついだろうから、そこらへんから適当に借りてさ。
うっ。神原、手に力を入れ過ぎだ。もう少し力を抜いてくれ。

――もう少しの辛抱だ、阿良々木先輩。戦場ヶ原先輩のことは、私に任せてくれ

馬鹿、お前一人に任せられるわけがないだろう。
お前のボケにつっこんでやれる人間は、世界広しといえど僕だけだって自負してるんだぜ?

――×××××××、×××××××××××××××××××××

神原の言ってることが理解できない。
何故か、八九寺の顔が思い浮かぶ。続いて千石の顔が、さらに続いて羽川の顔が。

――××、××××××
――××××××××××!?

神原の顔が、忍野の顔が、忍の顔が、キスショットの顔が、

――××××××××××!
――××、××××××××××××××!

父さんの顔が、母さんの顔が、火憐ちゃんの顔が、月火ちゃんの顔が、

――××××××××××××××××××××、×××××
――××、××××××××××××、×××××!

そして、戦場ヶ原の顔が。
73創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 02:57:59 ID:ebHplmHv


なんだか、すごく眠い。
ごめん、戦場ヶ原。少しだけ眠らせてくれ。

起きたらすぐに、助けにいくから。

本当に、ごめんな。






【阿良々木暦 死亡】









74創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 02:58:33 ID:ebHplmHv
「――――させるかよッ!」

「ぐはっ!」

な、なんだ?何が起こった?
突然胸を襲った衝撃に慌てて顔を上げれば、そこにいたのは一人の女性だった。
歳は、僕や戦場ヶ原より一回り上ってところだろうか?
その女性が、こちらをじっと睨んでいる。
まさか――敵なのか?

と、そこで気付く。
さっきまで僕の側にいた、神原の姿が無いことに。
意を決して、目の前の女性に聞いてみる。

「あの……すいません」
「あ?」
「神原を見ませんでしたか?ショートカットに制服姿で、左手に包帯を巻いている女の子なんですけど」

チッ、と女性の舌打ちが聞こえる。
まさか、神原に何かあったのだろうか?
女性は少しの間黙っていたが、やがて渋々ながら口を開いた。

「…………逃げられたよ。ったくなんだあのスピード。どこの殺し名だあの女」

その言葉に、ほっと溜め息をつく。
この女性が何者なのかはわからないが、とりあえず一安心だ。
だから、つい言ってしまった。

「よかった……神原は無事なんだ」

プチッ、という音が聞こえたと思ったら、次の瞬間僕の体は宙を舞っていた。

「危うく殺されかけといて、何がよかっただ馬鹿野郎!!!」

女性の怒鳴り声が耳に響くが、いまいち内容が理解できない。
同時に、また意識が遠のいていく。
ごめん、戦場ヶ原。やっぱり一度眠るや。起きたら絶対に、お前を見つけてみせるから。

だからほんの少しだけ、待っていてくれ。

食べに行くんだからな、蟹。






75創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 02:59:16 ID:ebHplmHv
◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「やはり、阿良々木先輩を殺そうとしたのが間違いだったのか……」

あの赤い女から完全に逃げられたのを確認して、私は足を止める。

今回は運がなかった。
ベンチの近くに置いてあったスチール製のゴミ箱で阿良々木先輩に一撃を加え、
倒れた阿良々木先輩の上に乗って後ろから首を絞めたまではよかった。そこまでは、うまくいっていたのだ。
けれど、もう少しというところで、あの女は現れた。
哀川潤と名乗ったあの女が邪魔したせいで、私は阿良々木先輩を仕留めきれなかった。
阿良々木先輩を殺せなかったことを、少なからず喜んでいる自分が嫌になる。
私は、殺さなくてはいけないのだ。

戦場ヶ原先輩のために。

あの声は言っていた。
最後まで生き残った一人の願いを叶えてくれると。
普通の人間なら信じないだろうが、私には前例があった。レイニー・デヴィルという前例が。
でも、私はあらがっていた。人を殺してまで自分の願いを叶えていいはずが無いと。

阿良々木先輩に、会うまでは。
そして、戦場ヶ原先輩がここにいると聞くまでは。

阿良々木先輩に会ったときから、私は阿良々木先輩を最後の一人にすると決めて。
戦場ヶ原先輩のことを聞いてからは、私は戦場ヶ原先輩を最後の一人にすると決めた。

阿良々木先輩は、優しい人だ。
私が戦場ヶ原先輩を含むの全ての参加者を殺して死んでも、阿良々木先輩なら私を含む皆を生き返らせてくれるよう願うだろう。

でも、それでは駄目なのだ。
大好きな先輩を殺した瞬間から、私は人で無くなるから。悪魔になってしまうから。
悪魔になってまで、生きたくは無い。

戦場ヶ原先輩も、優しい人だ。
でも、もし私が阿良々木先輩を殺せば、戦場ヶ原先輩は私を生き返らせてはくれないだろう。

だから、私は戦場ヶ原先輩を絶対に生き残らせる。

先程は失敗してしまったが、それでも阿良々木先輩のディパックは手に入れた。まだまだ、これからだ。

「とにかくまずは戦場ヶ原先輩を見つけなくては……公園以外に戦場ヶ原先輩がいそうなのは……学習塾跡、か?」

ならば、善は急げだ。
H-8エリアに向かって、私は再び走り出した。

【1日目 深夜 E-7】
【神原駿河@物語シリーズ】
[状態] 健康
[装備] 懐中電灯、コンパス
[道具]エリミネイター00@戯言シリーズ、支給品一式×2、ランダム支給品(1〜5)
[思考]
基本 戦場ヶ原ひたぎを生き残らせる
 1 戦場ヶ原ひたぎを捜す
 2 とりあえず学習塾跡へ
76創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 03:01:29 ID:ebHplmHv


◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「……やっちまった」

虚しく地面に転がる阿良々木暦の体を見ながら、哀川潤は独り溜め息をつく。

天上天下唯我独尊。そんな言葉が誰よりもよく似合う彼女が主催者に従うはずも無く、
とりあえず地図で近くにあった骨董アパートにでも行っててみるかと歩き始めた数十分後。
彼女が偶然浪白公園の前を通りかかった時、丁度神原駿河が阿良々木暦の首を絞めている真っ最中だった。
すぐさま現場に突撃、圧倒的な身体能力で駿河を気絶させたまではよかったのだが、
呼吸を止めていた暦の蘇生のために心臓マッサージをしている最中にいつの間にか目覚めた駿河には逃げられ、
そのせいで苛々していたところに暦の空気を読まない一言にキレて、ついうっかり手が出てしまったのだ。わりと本気で。
まあ、二度に渡る蘇生作業の甲斐もあり、現在暦は穏やかな寝息を立てているのだが。

「ったく、ミスばっかりだ今日は。あたしらしくも無い」

そのミスの多くは主催者が課した身体能力の制限によるものだが、彼女はそれに気がつかない。
本日何度目かの溜め息をつきながら、転がっている阿良々木暦に顔を向ける。

「こいつもほっとくわけにもいかないしな……はあ、とっととあの男をぶちのめしに行きたいのに」

そう言って、大きく欠伸を一つ。

「ふわーあ、眠い。よく考えたら昨日ろくに寝てないんだよな。早く起きねえかなこいつ」

そしたら見張り任せて眠れるのに、と続ける。

会場各地で殺し合いの火蓋が切られる中。
人類最強の睡魔との戦いも、地味に幕を開けていた。


【1日目 深夜 浪白公園 D-7】
【阿良々木暦@物語シリーズ】
[状態] 健康、睡眠中
[装備] なし
[道具] なし
[思考]
基本 戦場ヶ原と生き残る。人を殺したくない
 1 zzz……
※神原駿河が殺し合いに乗ったことを知りません
※忍野忍の不在に気が付いていません

【哀川潤@戯言シリーズ】
[状態] 健康、睡眠不足
[装備] なし
[道具] 支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 主催者をぶちのめす
 1 阿良々木暦が起きるのを待つ
 2 いーたんがいるかもしれないし、骨董アパートでも行ってみるか
 3 …………眠い
 ※身体能力の制限に気がついていません。
※徹夜明けです
77創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 03:04:40 ID:ebHplmHv
投下終了です
一話目のクオリティに驚いて色々手直ししてたら大分投下が遅れてすみません
問題等ありましたら指摘お願いします
78創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 03:29:30 ID:ebHplmHv
>>67はミスです。申し訳ない
79創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 08:05:31 ID:KUTMbwxd
投下乙ですー。
神原……お前さんって奴ぁ……っ! これもヤンデレになるのかならないのか。
まさか本ロワ最初に登場するマーダーが神原になるとは……。

あ、でも【阿良々木暦 死亡】って出てるのはちょっと紛らわしい感じかもしれませんねー。
80創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 12:38:24 ID:dHGIKmPa
投下乙です!
まさか最初のマーダーがこいつとは…
とりあえず潤さんには期待してるぜ
81創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 14:12:32 ID:bjKcolhD
投下乙です!
序盤から両書き手さんとも凄いクオリティで驚いてます。
お二方とも原作の再現度がパネェ……
82創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 15:16:12 ID:WVveiiJM
投下乙です!!!
お二方初っ端からなんとハイクオリティ…
これからも楽しみにしています!
 
>>79
あれだよ、読者を騙すギミック
83創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 17:47:07 ID:7332b/4S
いいねぇいいねぇこれぞ西尾節
84創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 18:55:24 ID:KUTMbwxd
>>82
ですな。すまん、無粋だった。
やー、アレ見た時はこっちが死ぬかと思うぐらいビビりました。
85創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 23:40:46 ID:txshSfre
《害悪細菌》
 
 町中を歩く男が一人いた。
その姿は殺し合いの場にして奇妙と言わざるをえない。
純白のスーツ、手袋、靴、腕時計。そのどれもが着用する人によっては残念なものにしかならないものである。
そのセットを着こなしている彼の歩く姿は軽く優雅である。

彼は電子工学・情報工学・機械工学の天才技術者に
「自分の持つスペックのその全てを全て《破壊する》ためだけに費やした、
その気になれば万能の最強にすら匹敵するその能力を
全部《破壊する》ためだけに費やした、ごく専門の、ごくごく専門の、専門過ぎる極まった破壊屋」
と言わしめた男、兎吊木垓輔以外の誰でもなかった。


《街》

 森を歩く男が一人いた。
その姿は田舎に住んでいる牧歌的な青年のような外見であり、
この姿も殺し合いの場にして奇妙と言わざるをえない。
スリーブレスの白シャツ、よれよれだぶだぶのズボン、
両足にぼろぼろのサンダルを履き、丸いサングラスに首にかけた白いタオル、
さらに麦藁帽子ときている完璧すぎる田舎の青年だった。

彼は究極絶無のサイバーテロリスト集団9名の天才の中にいて、
オフライン上での唯一の実働担当であり、
裏の顔として『殺し名』の中で最も忌み嫌われる殺人鬼集団『殺し名』序列3番目《零崎》に所属する、
零崎一賊三天王《零崎軋識》という顔を持つ、式岸軋騎以外の誰でもなかった。
86創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 23:41:17 ID:txshSfre
《害悪細菌》

「何で傍系の病院坂迷路である私がこんなふざけたイベントに参加しているんですか。バックアップはバックアップなんですよ。」
愚痴りながら歩いているのは―傍系の―病院坂迷路である。
『彼女』と形容したくなる『彼』は、町中を歩いていた。

こんな殺し合いには参加する意味は全くないですからね。
こんな人が集まりそうな町中からはおさらばして隠れていよう。
まあ、私みたいなことを考える人も数多くいるかもしれませんね。
そうなったら皆殺しかも、いや、あの忍者らしい人たちがいるから大丈夫かも。

あ、なんか人がいる。かなり紳士っぽい姿なんですけど、ああいう人に限って串中先生みたいな人だったりして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いやいや、串中先生みたいな人が多くいては困りますから、あの人は普通の紳士さんでしょう。
まあ最初から殺し合いに乗っている異常者には見えませんからね、話しかけてみましょう。 

「おーい、そこの白いスーツのお兄さん」
白いスーツの男が気づいて歩いてこちらにやってくる。

「おやおや狂った殺し合いの場ではじめて出会う人が、自分から話し合うような人とは、私はついていますね。」
「は?」
白いスーツの男はなぜか私の首に手をかけて言う。
どういうことだ、これでは私は殺人者である狼に食い殺される羊ではないか。
男の握力が強いのか首の骨から折れてしまいそうだ。
声にならない声を出しながら
「冗談はやめてくださいよ」
「かわいそうだけど、君程度の人間にこれをを使うわけにはいかないからね。このまま死んでくれ。」白いスーツの男はそういって、釘バットを見せた。

私が死ぬ?ありえない、そんなのありえない、ありえない、ありえない、
ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、
ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、
ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない。
「ふざaaけeるな。なんで俺が死ななくちゃいけN」
ゴギッ、と言う音がしてから‐傍系の-病院坂迷路は声を発さなくなった。

「ふぅ、これでやっと一人か、あいつは良くこんなこと軽くやってのけるな。
早く死線の蒼がいるばしょに駆け参じるなければならないのに。最初はあの見覚えのあるマンションにいってみるか。」

白いスーツの男、『裁く罪人』『害悪細菌』こと兎吊木垓輔はマンションに向かった。

【−傍系のー病院坂黒猫@世界シリーズ 死亡】

【1日目 深夜 G-4】
【兎吊木垓輔@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備] 懐中電灯、コンパス
[道具]愚神礼賛(シームレスバイアス)@戯言シリーズ、支給品一式×2、ランダム支給品(1〜5)
[思考]
基本 玖渚友の場所に行く
 1 玖渚友を捜す
 2 とりあえずマンションへ
 3 一群(クラスタ)の誰かとあったら協力して玖渚友を助ける
87創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 23:42:48 ID:txshSfre
《街》

式岸軋騎は悩んでいた。
それは名簿を見たところこの殺し合いには家賊と、玖渚友の名前があるのだった。

「どちらを優先するべきかが問題だな」
確かに家賊のやつらこの殺し合いの場でもっとも輝くだろうし、普通に考えて負けることは少ないだろう。
それにかわって玖渚友―死線の蒼―には戦闘能力は皆無である。普通に考えてここは――――しかし家賊を見捨てることは出来ない。
88創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 23:43:23 ID:txshSfre
その姿を隠れてみていた姿があった。

さすがに数多の戦場を越えてきた彼は気づいた。
「そこにいるのはだれっちゃか」
しまった。つい演じていた方の零崎軋識の口癖が出てしまった。
出てきたのは学生服を着た女であった。
「いやぁー、びっくりしましたよ、こんなところでどこぞかの雷娘みたいな口調の人を見るなんて。」
「うっ、口が滑っただけだ。そんなことより手を上げてゆっくりとこちらに来い。変な様子を見せたら殺す。」
ジェリコ941をみせて言う。

「分りましたよ。こんなか弱そうな学生が雷神様に勝てるわけないじゃないですか。」
「うるさい、しゃべるな。」
「さあ、このぐらいでいいでしょう。この後はどうしたらいいですか。痴態をみせろとでも。」
「誰もそんなことは言っていないまずバックをよこせ。」
「わかりましたよ。それっ。これでいいですか。ここまでしたんです。お願いがあるんですけど。」
「自分がいつ殺されてもおかしくない状態でよくそんなことがいえるな。」
「だって主催者のことを知っている人を、あなたは情報を聞く前から殺すのですか。」
「なにっ、でもその事が本当かは分らないだろう。」
「でも本当のことだろうと、嘘だろうと、殺してしまっては分りませんよ。」

こいつは馬鹿な学生ではないようだな、利用できるかもしれないな。これから俺がどう動こうとこいつに殺されるとは思われんしな。

「いいだろう、殺さないでやる。だが変な様子を見せたらすぐに殺す。
おれについてこい。歩きながらお前が話しを聞いて嘘吐きか、そうでないか調べる。」
「分りました。ではまず周囲を歩いてここがどこだか調べましょう。」
「ああ。バックはこちらで預かる。」
「ちなみにさっき言ったことは嘘ですから。」
「は、なにを言ってる。そんなにすぐばらすやつがいるか。なんでばらした。」
「だって嘘吐きだと思われるのは心外ですからね。
それにあなたが少しは冷静そうですから、今言っても問題ないかと。
僕みたいな使える人間を切り捨てるのはもったいないと思いますよ。僕は将棋で例えるなら【王】ですから」
「お前はとことん人を馬鹿にしてるな。まあ、いい。近くの建物にでも行くぞ。お前の名前はなんて言うんだ。俺は式岸軋騎だ」
「串中弔士です。これからよろしくお願いしますね。」
ここに奇妙なペアが生まれた。

しかしこの狂った殺し合いの中で対極的な行動を示した二人の天才はいったいどう動くのか。
89創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 23:43:42 ID:txshSfre
【1日目 深夜 B-5】
【式岸軋騎@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備] 懐中電灯、コンパス
[道具]ジェリコ941@戯言シリーズ、支給品一式×2、ランダム支給品(1〜5)
串中弔士のバック
[思考]
基本 家賊と玖渚友どちらを助けたら・・・
 1 とりあえず今いる場所を串中弔士と確認

【串中弔士@世界シリーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[思考]
基本 どんな面白いことがおこるだろうか。
 1 とりあえず今いる場所を式岸軋騎と確認

90創る名無しに見る名無し:2009/01/06(火) 23:47:42 ID:txshSfre
かなり駄文ですが、
読んでたら書きたくなってしまい書き込んでしまいました。

ごめんなさい。
登場キャラは、世界シリーズから、串中弔士、傍系の病院坂迷路
戯言・人間シリーズから、兎吊木垓輔、式岸軋騎です
式岸軋騎は名簿では【式岸軋騎】の名前で乗っています。
91創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 00:40:32 ID:ADnpyqAX
ハイクオリティで進んでたのに、少し空気読んでほしかったな
言いたいことは沢山あるが台詞の連続はクオリティを下げることに繋がる
92創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 00:56:08 ID:wPhBJptn
投下乙!
あああ、黒猫さん(傍)が…………
原作でもロワでもとことん報われないなこの人……

一点だけ問題が
>>1に表記されているように、このロワでは一回目の放送まで名簿が存在しないんです
そのため、兎吊木と軋識が名簿を見て他の一賊や友がこの場にいることを知るのは不可能なので、
その辺りを修正してもらいたいのですが……
93創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 08:23:14 ID:1tUoLFaJ
>>91
何様のつもりだよお前
死ね
氏ねじゃなく死ね
94創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 08:45:47 ID:XTRYHe3D
>>91
書き手に文句をつけることとスレのクオリティを維持することは
イコールでは無い
排他的な空気が流れてマイナスになるだけだ
二度とするな
95創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 09:01:59 ID:euiXaqFq
投下乙です!
チームメンバー出るかなあと楽しみにしてたんで地味に嬉しいw
全員玖渚の奉仕マーダーになっても不思議じゃないぜ!
96創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 13:23:46 ID:wPhBJptn
今気付いたけど黒猫さん(傍)ってなんだ。迷路(傍)の間違いです、すみません

あと>>91は他のスレにもいた荒らしなのでスルーした方がいいかと
97創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 17:35:52 ID:kV15HEUr
みなさん優しいですね。
では色々と修正下のを投下します。
98創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 17:36:14 ID:kV15HEUr
《害悪細菌》
 
 町中を歩く男が一人いた。
その姿は殺し合いの場にして奇妙と言わざるをえない。
純白のスーツ、手袋、靴、腕時計。そのどれもが着用する人によっては残念なものにしかならないものである。
そのセットを着こなしている彼の歩く姿は軽く優雅である。

彼は電子工学・情報工学・機械工学の天才技術者に
「自分の持つスペックのその全てを全て《破壊する》ためだけに費やした、
その気になれば万能の最強にすら匹敵するその能力を
全部《破壊する》ためだけに費やした、ごく専門の、ごくごく専門の、専門過ぎる極まった破壊屋」
と言わしめた男、兎吊木垓輔以外の誰でもなかった。


《街》

 森を歩く男が一人いた。
その姿は田舎に住んでいる牧歌的な青年のような外見であり、
この姿も殺し合いの場にして奇妙と言わざるをえない。
スリーブレスの白シャツ、よれよれだぶだぶのズボン、
両足にぼろぼろのサンダルを履き、丸いサングラスに首にかけた白いタオル、
さらに麦藁帽子ときている完璧すぎる田舎の青年だった。

彼は究極絶無のサイバーテロリスト集団9名の天才の中にいて、
オフライン上での唯一の実働担当であり、
裏の顔として『殺し名』の中で最も忌み嫌われる殺人鬼集団『殺し名』序列3番目《零崎》に所属する、
零崎一賊三天王《零崎軋識》という顔を持つ、式岸軋騎以外の誰でもなかった。

99創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 17:36:35 ID:kV15HEUr
《害悪細菌》

「何で傍系の病院坂迷路である私がこんなふざけたイベントに参加しているんですか。バックアップはバックアップなんですよ。」
愚痴りながら歩いているのは―傍系の―病院坂迷路である。
『彼女』と形容したくなる『彼』は、町中を歩いていた。

こんな殺し合いには参加する意味は全くないですからね。
こんな人が集まりそうな町中からはおさらばして隠れていよう。
まあ、私みたいなことを考える人も数多くいるかもしれませんね。
そうなったら皆殺しかも、いや、あの忍者らしい人たちがいるから大丈夫かも。

あ、なんか人がいる。かなり紳士っぽい姿なんですけど、ああいう人に限って串中先生みたいな人だったりして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いやいや、串中先生みたいな人が多くいては困りますから、あの人は普通の紳士さんでしょう。
まあ最初から殺し合いに乗っている異常者には見えませんからね、話しかけてみましょう。 

「おーい、そこの白いスーツのお兄さん。」
白いスーツの男が気づいて歩いてこちらにやってくる。

「おやおや狂った殺し合いの場ではじめて出会う人が、自分から話し合うような人とは、俺はついているな。」
「は?」
白いスーツの男はなぜか私の首に手をかけて言う。
どういうことだ、これでは私は殺人者である狼に食い殺される羊ではないか。
男の握力が強いのか首の骨から折れてしまいそうだ。
声にならない声を出しながら
「冗談はやめてくださいよ。」
「かわいそうだけど、君程度の人間にこれを使うわけにはいかないからね。このまま死んでくれ。」白いスーツの男はそういって、釘バットを見せた。

私が死ぬ?ありえない、そんなのありえない、ありえない、ありえない、
ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、
ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、
ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない。
「ふざaaけeるな。なんで俺が死ななくちゃいけN」
ゴギッ、と言う音がしてから‐傍系の-病院坂迷路は声を発さなくなった。

ふぅ、これでやっと一人か、あいつは良くこんなこと軽くやってのけるな。
まあ、しかしあのマンションがあるということは、この場所に死線がいるかもしれないな。
いたならば誰かに殺されてしまうなよ。ああ、愛しの死線、君はこのふざけた場所にいるのかな。

君がいる、いないにしろ、水倉と言うやつの思惑に乗るのはいただけない。
こんなプログラムは壊してしまおう。参加者もろとも壊してしまおう。
クラックは俺の専売特許だからな。そのためにまず、この忌々しい首輪だな。首輪と言えば《二重世界》ダブルフリック「日中涼」が思いだされるな。なつかしいな、友達の自慢は最高だからな、誰かに自慢したくなる。
ここで考えを深くしていく。

一見無機質な首輪をはずすとなるとサンプルの首輪が必要となるな。首を切断できるような道具があれば、さっきの奴のをもらえたのにな。
だがマンションにいけば、刃物のぐらいあるだろう。
あとは機械類だが、これはマンションに必ずあるだろうな。
あのマンションが玖渚友が住んでいたマンションならば。
しかし先ほどのことを考えると、自分の知らないことも多くありそうだな。
白いスーツの男、『裁く罪人』『害悪細菌』こと兎吊木垓輔はマンションに向かった。
100創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 17:41:46 ID:kV15HEUr
【−傍系の−病院坂黒猫@世界シリーズ 死亡】

【1日目 深夜 G-4】
【兎吊木垓輔@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備] 懐中電灯、コンパス
[道具]愚神礼賛(シームレスバイアス)@戯言シリーズ、支給品一式×2、ランダム支給品(1〜5)
[思考]
基本 害悪細菌としてうごく
 1 とりあえずマンションへ
101創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 17:44:06 ID:kV15HEUr
《街》

式岸軋騎は悩んでいた。
彼は皆がいた部屋で家族の、家賊の気配を感じていたのだ。「レン」こと自殺志願の零崎双識ほど出ないにしろ、彼にも零崎の気配を感じ取ることは出来た。
さらに、彼の視界には見たくはないがある男が見えた。
純白のスーツ、手袋、靴、腕時計のあの男を見たのだ。
そうなると、他にも《仲間》がいるかもしれないし。何よりも彼女がいるかもしれない。

「どちらを優先するべきかが問題だな」
確かに家族のやつらはこの殺し合いの場でもっとも輝くだろうし、普通に考えて負けることは少ないだろう。
それにかわって玖渚友―死線の蒼―には戦闘能力は皆無である。普通に考えてここは――――しかし、いるかもしれないという可能性だけで家賊を見捨てることは出来ない。 しかし彼女がもしいたら。しかし、、、、、、、、、、

102創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 17:47:59 ID:kV15HEUr
その姿を隠れてみていた姿があった。

さすがに数多の戦場を越えてきた彼は気づいた。
「そこにいるのはだれっちゃか。」
しまった。つい演じていた方の零崎軋識の口癖が出てしまった。
出てきたのは学生服を着た女であった。
「いやぁー、びっくりしましたよ、こんなところでどこぞかの雷娘みたいな口調の人を見るなんて。」
「うっ、口が滑っただけだ。そんなことより手を上げてゆっくりとこちらに来い。変な様子を見せたら殺す。」
ジェリコ941をみせて言う。

「分りましたよ。こんなか弱そうな学生が雷神様に勝てるわけないじゃないですか。」
何だこのガキは、殺し合いの場だというのに、へらへらしすぎている。
「うるさい、しゃべるな。」
「さあ、このぐらいでいいでしょう。この後はどうしたらいいですか。痴態をみせろとでも。」
「誰もそんなことは言っていないまずバックをよこせ。」
もしかしたら、自分のように裏の世界の人間なのかもしれない。
「わかりましたよ。それっ。これでいいですか。ここまでしたんです。お願いがあるんですけど。」
「自分がいつ殺されてもおかしくない状態でよくそんなことがいえるな。」
「だって主催者のことを知っている人を、あなたは情報を聞く前から殺すのですか。」
「なにっ、でもその事が本当かは分らないだろう。」
何を言い出すと思ったらふざけたことを。
「でも本当のことだろうと、嘘だろうと、殺してしまっては分りませんよ。」

こいつは馬鹿な学生ではないようだな、利用できるかもしれないな。これから俺がどう動こうとこいつに殺されるとは思われんしな。

「いいだろう、殺さないでやる。だが変な様子を見せたらすぐに殺す。
おれについてこい。歩きながらお前が話しを聞いて嘘吐きか、そうでないか調べる。」
「分りました。ではまず周囲を歩いてここがどこだか調べましょう。」
「ああ。バックはこちらで預かる。」
「ちなみにさっき言ったことは嘘ですから。」
・・・意味がわからない。へらへらしていたのは頭がおかしかったから、ここが殺し合いをする場所だとわからなっかたのか。
「は、なにを言ってる。そんなにすぐばらすやつがいるか。なんでばらした。」
「だって嘘吐きだと思われるのは心外ですからね。
それにあなたが少しは冷静そうですから、今言っても問題ないかと。
僕みたいな使える人間を切り捨てるのはもったいないと思いますよ。僕は将棋で例えるなら【王】ですから」
「お前はとことん人を馬鹿にしてるな。まあ、いい。近くの建物にでも行くぞ。お前の名前はなんて言うんだ。俺は式岸軋騎だ」
「串中弔士です。これからよろしくお願いしますね。」
ここに奇妙なペアが生まれた。

しかしこの狂った殺し合いの中で対極的な行動を示した二人の天才はいったいどう動くのか。
103創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 17:50:55 ID:kV15HEUr
【1日目 深夜 B-5】
【式岸軋騎@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備] 懐中電灯、コンパス
[道具]ジェリコ941@戯言シリーズ、支給品一式×2、ランダム支給品(1〜5)
串中弔士のバック
[思考]
基本 家賊といるかもしれない玖渚友どちらを・・・
 1 とりあえず今いる場所を串中弔士と確認

【串中弔士@世界シリーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] なし
[思考]
基本 どんな面白いことがおこるだろうか。
 1 とりあえず今いる場所を式岸軋騎と確認

104創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 23:04:24 ID:szHmf7sL
投下乙だが、とりあえずsageようか
荒らしかも知れないという疑惑が出てしまう
105創る名無しに見る名無し:2009/01/08(木) 18:25:56 ID:j/3Q79+u
あんまりこんな事は言いたくないけれど、自分の作品に駄作とか言うのはやめた方がいいですよ。
謙遜のつもりで言っているのかもしれませんが、
駄作だと思われている作品を投下される側としては、堪ったものじゃないですから。
作品を投下して謝るくらいなら、初めから投下なんてしないでください。
もっと、自分の作品に自信を持ってください。

投下終了の際の一文を読んで、どうしても一言言いたくなって書きました。
不快に感じたかもしれませんが、どうか一度よく考えてみてください。
106創る名無しに見る名無し:2009/01/08(木) 21:21:24 ID:uSmt/hgE
……こちら開始前議論などに関わらなかった者ですが、作品投下宜しいですか?
107創る名無しに見る名無し:2009/01/08(木) 21:39:16 ID:uSmt/hgE
……うん、いいやw
失礼ながらも、まずは投下してしまいます。
108めいろマイマイ ◆iaNM/KCMCs :2009/01/08(木) 21:40:40 ID:uSmt/hgE

【001】

2人の少女が、深夜の街中でばったりと出くわした。

「話しかけないで下さい。あなたのことが嫌いです」

髪を頭の両脇やや上で縛ってツインテイルにした、小学校高学年くらいの少女は、出し抜けに言った。

そうですか奇遇ですね、私もあなたが好きではありませんし、話しかけるつもりなど毛頭ありません。

何故か長ランを身に纏った中学生くらいの年頃の少女は、視線だけでそんな風なメッセージを返した。

互いに隠すつもりもない、強烈な拒絶のオーラを放つ2人は、そのまま背を向け、別れた。
















109めいろマイマイ ◆iaNM/KCMCs :2009/01/08(木) 21:42:03 ID:uSmt/hgE

【002】

「……って、ちょっと待って下さい! そこの応援団のお姉さん!」
はい? いえ、私は別に応援団というわけでもないのですが、まあそう見られても仕方ないでしょうね、
と言わんばかりの表情で振り返った年上の男装の少女は、しかし年下の少女の声に素直に足を止めた。
先ほどまで強烈に放っていた「人を寄せ付けない雰囲気」も、心なしか和らいでいるようにも見える。
で、なんでしょう? と目線だけで問う彼女に、ツインテイルの少女は、
「わたしは、八九寺真宵です。漢数字の8、9に寺で、真実の真に、宵闇の宵です」
とおもむろに一方的に丁寧な自己紹介をまくしたてた。これには学ラン姿の少女も少々面食らいつつ、
そうですか。私は病院坂迷路――病気や怪我の時に行く病院に、傾いた坂に、道に迷う、迷路です。
と、一言も発することなく己の名を伝えきるという恐るべき表情の繊細な操作でもって応える。
「病院坂迷路さん、ですか。私が言うのもなんですが、人間らしからぬお名前ですね」
八九寺真宵と名乗った少女の感想に、病院坂迷路と名乗った少女はよく言われます。と軽く微笑み。
「よく外人ならぬ人外と言われるわけですね」
その言い方は初めてされました、しかし人の外だと私の領域ではないのではないでしょうか、と首を傾げ。
「英語で言えばオーバーマンです」
そりゃこのイベントからは私もエクソダスしたいですけれどね、とでも言いたげな溜息をついた。
どうやらこの病院坂迷路、ボケに対して律儀に全て突っ込んであげるような優しさはないようだった。

「で、病院作家さん」
病院坂ですよ、と真宵が犯した名前の間違いを迷路は視線だけですばやく修正する。
「失礼。噛みました」
ま、あまり一般的な名前でもありませんし。1回くらいなら大目に見ましょう。
しかし病院作家とか言うと、血痰でも吐きながら必死に原稿を書いてるイメージになってしまいますね。
それはそうとして……あなたは何か言いたいことがあったのではないですか? と軽く視線で先を促す。
「ええと、普段ならわたし、ああ言って去りかけた人を呼び止めたりしないのですけれども」
そんな感じですね。迷路は軽く頷いてみせる。
「よく考えたら、こうして『病院坂さんと普通に会話できている』こと自体が不思議なことなんですよ」
思わせぶりな言葉に、どういうことでしょう、と続きを視線で促す迷路。
「まぁこれは凄いネタバレになっちゃいますし、軽々しく自分で言うのもどうかと思うんですけど……」

「わたし、幽霊――みたいなモノ、なんです」

ほう。幽霊ですか。病院坂迷路の眉が、ピクリと動く。
それにしては「普通の女の子」のように見えますが。と視線だけで問えば、
「いえ、普通に喋ったり触ったり噛み付いたりセクハラされたりできる人、っていうのはいるのですが」
そこで噛み付きとセクハラが入る意味が分かりません。と表情だけで返す羽目になった。
「ただまあ、『誰でも』ってわけじゃないんですよね。実は。喋ったり触ったりできない人の方が多いです。
 そういう人って、わたしには理屈じゃなく直感で『分かっちゃう』ものなんですが……病院坂さんは……」
普通ならば『喋ったり触ったりできないような人間』、ということですか。とばかりに何度か頷いた。
「ええ。だから、おかしいなー、と。
 ひょっとしたら、今のわたしは『誰にでも見えて触れる』存在なのかもしれません。
 それこそ、『蝸牛』の『前』の頃のように。ただの小学校5年生の子供だった時のように」
110めいろマイマイ ◆iaNM/KCMCs :2009/01/08(木) 21:44:09 ID:uSmt/hgE
そう言えば最初の説明の時にも、『死んだはずの人間が復活した』とか何とか言っていましたね。
『魔法』だとか、なんとか。普通ならば笑い飛ばしてしまうところですが。
病院坂迷路はそんなニュアンスを含んだ表情で己の顎に手を当てると、少し考え込む様子を見せる。
しかしそういうことであれば、私の方にも心当たり――というか気になることがあります。
「なんですか?」

私も私で、多分、一度は死んだはずの身――なのですよ。

いえ、私の場合は「幽霊だった」という自覚はないのですがね。
正確に言えば、死んで当然の重傷を負ったばかりのはず、なのです。
詳しい話は省きますが、過去に別の人間が死んだこともある高い場所から、同じように落下しまして――
私の最後の記憶というのが、全身を激痛に苛まれつつ己の死を覚悟する、ところで終わっているのです。
次に気が付いた時には、あの会場での説明を受けている最中でした。傷も痛みも、一切ない状態で。
……と、こういった自らの事情をスラスラと口も動かさず声も発さずに、病院坂迷路は表情で示した。
「はぁ……。しかし病院坂さんの場合は、『急死に一生を得た』可能性もあるんじゃないですか?
 それこそ、救急車が早く来てくれて手当てが間に合ったとか。
 わたしみたいに、何年経っても成長しない、ってこともないのでしょう?」
ええ。頭を打ったか何かをして、一時的な記憶の欠落が起きている可能性も否定しきれません。
ですが、あの大怪我です。
もしも治療が間に合っていたとしても、何らかの後遺症なり傷痕なりが残ってしまうはずなのです。
それが、無い。
念のため開始直後に手近なトイレに入って服を脱ぎ確認してみましたが、やはり見つかりませんでした。
死からの復活、まであったかどうかは断言できませんが、現代医学では説明しきれない『何か』があった。
それこそ『魔法』とでも呼ぶべき不可思議な力が、私の傷を治した。
どうやらここまでは確実なようです。
……ところで、先ほどの八九寺さんの『きゅうしにいっしょうをえた』という発言ですが。
イントネーションから考えるにあなたは『急死に一生』と言ったようですが、正しくは『九死に一生』ですよ。
と、そんな目線を病院坂迷路は八九寺真宵に向ける。
「え!? そ、そうなのですか!?」
ええそうなのです。ついでに指摘するならば、『一生』も人生丸ごと1つ、の意ではなく、1つの生、ですよ。
10回やったら9回は死んでいるようなピンチの中で、運よくたった1回の生を掴む、という意味です。
病院坂迷路は視線だけでさらにそんなダメ押しを加える。
「そんな! 『サドンデス・フルライフ』って英語で言ったらすごくカッコイイと思ってたのに!
 それが実は『ナインデス・ワンライフ』だったなんて! これじゃまるで野球か何かみたいですっ!」
野球でも3アウトでチェンジですよ。
病院坂迷路は表情のみでそんな重箱の隅だけを指摘し、あとは身悶えする少女を観察することにした。
111めいろマイマイ ◆iaNM/KCMCs :2009/01/08(木) 21:46:16 ID:uSmt/hgE

【003】

十数分後。
2人の少女は連れ立って夜の市街地を歩いていた。
同行を一旦は拒否した八九寺真宵を、病院坂迷路が説き伏せた格好である。
曰く――

私も本来ならばこうして初対面の人間……いえ、八九寺さんは浮遊霊でしたね、
ともかく、こうして初対面の人間であろうと浮遊霊であろうといきなり馴れ合うような趣味はないのですが、
しかしこの今の私たちが置かれている異常事態は、他人と接触しないことには話が始まらない。
そう、言ってみれば情報交換です。
私はもちろん『魔法』なんてものには縁のない暮らしをしてきました。
口から刃物を吐き出すニンジャも、幽霊を自称するあなたのような『怪異』にも縁がありません。
まあ病院坂の一族というのはこれはこれで変わった存在ではあるのですが、それはともかく。
私が何をするにも、「情報」が足りないのですよ――

と、そんな意味のことを目線で訴えた。
「で、その『情報』を集めてどうするんですか?」との八九寺真宵の問いかけには、実にシンプルに。

探偵ゴッコです。

とだけ視線で応えた。
つまりは1人だけでは、元になる情報も限られる。
手掛かりを見落とさないための目も、1人よりは2人がいい。
相談相手として、新たなる発想の提供者として、「探偵」には「助手」が必要、ということもある。
あとついでに、口下手を通り越して寡黙に過ぎる己自身の欠陥を埋める狙いもあるだろう。
それに何より、形式美として助手役の存在は欠かせないではないか――ということらしい。
探偵として何を調べるつもりなのか、ということはさておくとしても。

かくして八九寺真宵に比喩でも何でもない無言の圧力をかけて強引に「説き伏せた」病院坂迷路は、
何故か妙に気乗りしない風の彼女を伴い、街の中を歩き始めたのだった。

「で……病院サッカーさん」
私の名前で小林サッカーを思い出させるような珍妙な言い間違いをしないで下さい。
しかし病院サッカーだと何気に地味な上に死人が出そうで怖いですね……とでも言いたげな視線を向け、
「失礼。噛みました」
むしろ間違える方が難しいと思うのですが、とさらに睨みつけ、
「噛みまみた」
嘘じゃないっ!? と素直に驚かれ、
「編みました」
セーターもマフラーも手作りですか、と最後には呆れられた。
112めいろマイマイ ◆iaNM/KCMCs :2009/01/08(木) 21:49:06 ID:uSmt/hgE
「それはともかく、病院坂さん。探偵ゴッコはいいですが、どこに行くおつもりなのでしょうか?
 いえ、別にわたしはどこに行くアテもないので、どこであろうと大して変わりないのですけど」
と、ある意味もっともな、でも今更な八九寺真宵の問い掛けに対し、
とりたててアテがあるわけでもないのですがね、とばかりに病院坂迷路は地図を取り出す。
現在地はこの地図を信じるならばH−7。
そこから向かえる近場の施設はいくつかありますが、ひとまずはココを目指しましょう。
と、いった風な視線を地図の上に走らせる。
「澄百合学園……ですか。学校ですね」
ええ。わざわざ地図に描かれている以上、どの施設にも何らかの意味があるはずです。
しかし現時点では優先順位を計るための材料すら私たちの手元には存在しない。
となれば、まずは私のホームグラウンド的環境に近いと思われる場所、から当たるのも手でしょう。
見ての通り私は学生、「学校」ならどこでも造りは大体同じですし、調べるべき場所の見当もつきます。
まずはここから「探偵」の仕事を始めましょう、とうっすらと微笑んだ。

「探偵ですか。しかし一体何を調べるのですか。
 確かに『殺し合いをしろ』と言われているのですから、殺人事件もいっぱい出きそうですけど。
 テリーさんがミスしてミステリーが成立するのを待ってから、というのはちょっと探偵として呑気かなと」
真顔で首を捻る八九寺真宵を前に、病院坂迷路は半ば呆れながらも、
……大変興味深い『ミステリー』という単語の語源説を聞いた気がするのですが、それはそれとして。
私が「探偵ゴッコ」で調べる対象はそれではないですよ。と、いう感じに口元を釣り上げる。

私が探求したいのは、『主催側の思惑』、です。

「主催側……というと、あの唾まみれの刃物でグサグサに刺されてたあの男ですか?」
いえ、あんな小物ではなく。その背後にいたらしい、『水倉神檎』とかいう人物の思惑です。
確かにあの人物は、とてつもない力を持っているようです……
私の怪我を治したのも、あの人物かもしれません。
その力があれば、確かに「こんなこと」を行うことも、可能かもしれませんね。
しかし、「こんなこと」をする力がある『だけ』では、「こんなこと」を実際に行う理由にはなりません。
明らかに労力も手間もかかっている以上、「何か目的がある」。
どんな願いでも叶える、という法外な報酬を約束するからには、「主催者にもメリットがある」。
そう考えるのが自然です。
しかし材料の乏しい今、そこから先に思考が進まない。どうしても手が届かない。

私は、『それ』が気になって仕方ないのです――それこそ、私自身の安全の確保などよりも、遥かに。

……そんな風なことを、病院坂迷路は熱っぽく、しかし吐息1つ聞かせることなく表情で示した。
「なるほどー。実はわたしも、あんまり自分の身を守ろうとかいう気は起きないんですよねー。
 そりゃ、痛いのもセクハラされるのもイヤですけど。殺されたところで、今更っていう感じで」
お互い、『一度は死んだ身』ですからね。病院坂迷路はそんな共感を微笑み1つで表現する。
113めいろマイマイ ◆iaNM/KCMCs :2009/01/08(木) 21:51:29 ID:uSmt/hgE
「似たもの同士、ということですか。しかし病院坂さん、わたしとあなたとでは大きな違いがあります」
と、おもむろに八九寺真宵が口にしたのは、唐突な断言。
違い……ですか? そう言われても咄嗟に思いつかず、病院坂迷路は首を捻る。
「ええ。仮にこの殺し合いのイベントがアニメ化されたとして……
 わたしには声優がつきますが、一言も喋らない病院坂さんには声優の当てようがありません。
 てかそんな繊細な表情の変化、熟練アニメーターの手にも余りますっ! だから出番削除ですっ!」
……!
「あ、もちろん、『心の声』なんて卑怯な手も許されませんっ! イメージぶち壊しですからっ!
 なのでアニメ化されても病院坂迷路さんのエピソードだけはA級欠番です!」
くっ……。病院坂迷路の顔が歪む。珍しく反論の手を失った彼女は、せめてもの反撃を視線に込める。
ここは仕方なく、それを言うなら『A級欠番』ではなく『永久欠番』ですよ、とだけ反撃しておきますっ!
「ああっ、またしまりました!
 『クラスAロストナンバー』じゃなくて『エターナルロストナンバー』だったのですか!」
頭を抱えて己の不覚を責める八九寺真宵に、病院坂迷路は、
何でも英語で言えばいいというものではありませんよ、と言いたげな澄まし顔を向けた。


それは、あまりにも楽しい会話(?)だった。
ここが殺し合いの場であることを忘れるようなやり取りだった。
2人とも、人見知りなんてものではない本来の性格をすっかり棚上げしてしまうような、
そんな、一時だった。



【004】

で、今回のオチ。

「……まあ、イヤな予感はしてたんですよね……」

つまりこれが、あなたの『怪異』としての力、だと? 『迷い牛』、『蝸牛』の?
視線だけで問う病院坂迷路に、ツインテイルの少女――八九寺真宵は、力なく微笑んで。

「病院坂さんにも私が『見えた』ことですし、地縛霊から浮遊霊にレベルアップしたことですし……
 もう、大丈夫かと思ったんですけどねぇ……」

そう言って、見上げた視線の先には――『ピアノバー・クラッシュクラシック』の看板。
彼女らが目指した澄百合学園とは、90度逆の方向。
決して方向音痴でもない病院坂迷路が先導していたにも拘らず、完全に道に迷っていたらしい。
道に迷って、全く違う所に出てしまっていたらしい。


「わたしは――今でも、迷路の中の蝸牛の迷子のようです」


迷路の名を持つ、迷える探偵モドキ。
真宵の名を持つ、迷えるカタツムリ。
どうやら、まあ。
似たもの同士、というのは、惹かれ合うものらしかった。

114めいろマイマイ ◆iaNM/KCMCs :2009/01/08(木) 21:52:53 ID:uSmt/hgE
【1日目 深夜 『ピアノバー・クラッシュクラシック』の前 H-6】

【八九寺真宵@物語シリーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み?)
[思考]
基本 とりあえず成り行き任せでうろついてみる。生に執着する気もないが、苦しみたくもない。
 1 当面、病院坂迷路に付き合って行動する?
※どうやら現在は、身体的にはほぼ「普通の人間」のようです。
 彼女の存在は普通の人間と同様、全ての参加者が認識でき、触れることが出来ます。

※「迷い牛(蝸牛)」としての力が発揮されている可能性があります。
 もしそうならば、彼女自身・及び彼女と意識的に同行する同行者たちは、
 「明確な目的地を持って」どこかを目指すと、道に迷って目的地に到達できなくなるようです。
 その場合でも、適当に彷徨う過程で、何らかの施設や建物に「たまたま辿り着く」ことは可能です。
 流石に、目の前にある建物にただ入るくらいなら迷いません。
 でもひょっとしたら……
 全部彼女の勘違いで、迷い牛の力などなく、ただ今回は普通に「道に迷っただけ」かもしれません。
 詳細と真相は、後続の書き手さんにお任せします。

【病院坂迷路(オリジナル)@世界シリーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 支給品一式、ランダム支給品1〜3(確認済み)
[思考]
基本 「探偵役」として主催者の思惑を探り出す。生き残ることにはさほど興味がない
 1 手近な所にある学校(澄百合学園)に向かいたい、と思っていたが……?
 2 八九寺真宵と行動を続ける? それとも、行動の邪魔になるから別れる?
※自分が死亡後に「復活させられた」かもしれない、と考えています。
※雑談と移動の合間に、『怪異』についての簡単な説明を八九寺真宵から聞きました。
 八九寺真宵が理解している程度には、『怪異』の存在と概念を理解しました。
 このロワにも関わる『怪異』の具体例(阿良々木暦の吸血鬼とか、戦場ヶ原ひたぎの蟹だとか)
 まで聞いたかどうかは不明です。詳しくは後続の書き手さんにお任せします。
115 ◆iaNM/KCMCs :2009/01/08(木) 21:53:33 ID:uSmt/hgE
以上、投下終了。
八九寺真宵と、病院坂迷路(オリジナル)のお話でした。

八九寺真宵の『蝸牛』は、かなり詳細部分を次以降に投げる格好になってしまっています。
原作に対する解釈も分かれそうな部分ですし、悩むのですが……ご容赦を。
116創る名無しに見る名無し:2009/01/09(金) 01:33:42 ID:26pdPXcq
投下乙!
すごい、八九寺のノリが完全に再現されてるw
アニメ化の下りで笑ったww
117創る名無しに見る名無し:2009/01/09(金) 09:23:24 ID:gstxYUbh
投下乙です!
>アニメ化の下りで笑った←同感w
八九寺の迷わせ属性の有無やいかに……これは中々波乱の火種になるやも
118創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 00:11:21 ID:yw705Q9q
これは…誰でも創作していいのでしょうか?
知らない作品がまだ多いので、多分一度くらいしか書けないのですが、一度書いてみたいと思いました。

もしいいようなら明日にでも投下します。
予約ではないので、投下される方はどんどんやってしまってください。
119創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 01:02:47 ID:UWh/NieQ
もちろん誰でも大丈夫ですよー
投下楽しみに待ってます
120創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:40:57 ID:yw705Q9q
昨日の者です。
一応完成したので、投下します。
121創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:44:21 ID:yw705Q9q
 少年は夜の学校に立っていた。校舎らしき建物の下だった。
 少女は窓辺に立っていた。校舎らしき建物の、二階だった。
 広大な敷地を持つこの学校の名は、『澄百合学園』――表は上流階級専門の名門お嬢様学校、裏は神理楽と四神一鏡をバックにした傭兵育成学校。しかし、そこで学んでいる生徒の影は今はない。真夜中の、無人の学校。
 そこが、少年と少女にとって二度目の“気がつけば”の舞台だった。
 少年は少女を見上げ、
 少女は少年を見下ろす。
 一度目の“気がつけば”の場所、気を失わされた記憶もなく、気配の近づいた感覚もなく、連れ去られたという認識もなく、気がつけば居たあの白い部屋で、殺し合え、と姿を見せない声は言った。

――殺し合わなければ皆殺しだ最後の一人になるまで殺し合えそうすればどんな望みでも叶えてやる。

「全く――」
 少年が口を開く。
「――心の底から、傑作だぜ」
 男子としては背の低い、少年だった。染めた髪を後ろでくくっている。耳を飾るのは三連ピアスや携帯電話のストラップ。何より目を引くのは、スタイリッシュなサングラスの奥、顔面に施された禍禍しい刺青だ。
 少年――零崎人識は、その刺青を歪ませて、「かはは」と愉快げに笑った。
 無邪気な笑顔を浮かべた。
 楽しそうな笑顔を浮かべた。
 人を殺しそうな笑顔を、浮かべた。
「いーちゃんならこう言うよ」
 少女が返す。
「――なんて酷い、戯言だ」
 幼い背格好の、少女だった。誰もこの少女を見て、彼女が十九歳だとは思わないだろう。驚くほど自然な青色の髪に、同じ色の目をしている。
 少女――玖渚友は、人識の笑顔に、満面の笑みで答えた。
 無邪気な笑みだった。
 幸せそうな笑みだった。
 どこまでも青くて青い、笑みだった。
122創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:45:04 ID:6vzLMvv+
123創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:49:18 ID:yw705Q9q
***

 そもそもは、人識が敷地を適当にうろついていた時、玖渚の方から声をかけてきたのが始まりだった。
「んで、そういやお前、玖渚? 玖渚機関かよ、あいつも顔が広いな」
 頭上の青い少女に声をかけられてから、どの程度時間が経過したのか人識には分からなかったが、しかし気にする事もなく彼は玖渚との会話を続けていた。
「それは僕様ちゃんの台詞だよ。玖渚機関はまだ、普通の世界に深く関わってるからね。《殺し名》に友達がいるっていう方が、普通びっくりなんだよ。あ、友達じゃなくって、反対側?」
 開いた窓から顔を出し、玖渚が首を傾げる。
 人識は「まあな」と返した。
 彼はそれほど、あの欠陥製品との間柄を示す言葉に深いこだわりはなかったが、遠い物と近い物を並べられれば近い物を選ぶ。
「ふふふ、いーちゃんの反対側、反対側か。面白いね。欠陥製品っていうのも、うん、欠点だらけのいーちゃんをよく表してるよね。僕様ちゃんはそんないーちゃんが大好きなんだよ」
「俺は好感が持てる程度には大嫌いだけどな」
 欠点とは普通足りない所ということで、本来そこは好かれるポイントではないはずだが、人識は突っ込まなかった。
 実際あの欠陥製品は、人識が関わっていた時にも、ある一人の少女から好意を寄せられていたようだったから、まあ、そういうものなんだろう。
 最近人識は好みのタイプの女性と縁が薄い(敵除く、誰とは言わない)わけだが、それはそれとして。

「んで……お前、これからどーすんだ?」

 人識が尋ねると、玖渚は少し真面目な表情を浮かべた。
「いーちゃんを探そうと思ってるよ。ここには髪の毛でも結び付けておけば、目印になるだろうし。
 いーちゃんは、僕様ちゃんがここにいるって分かったら探してくれるだろうけど、分かんなかったら……んー、違うな。
 分かりたくなかったら、僕様ちゃんがここにいるなんて思いたくなかったら、探してくれないだろうし。そっちの方が、多分確率としては高いだろうしね」
「お前は欠陥製品がどっかにいるって知ってんのか?」
 当然の疑問を、人識は口にする。
 玖渚ははじけるような笑顔に戻った。
「だって、いーちゃんだよ? 僕様ちゃんですらこんなとこ来ちゃってるのに、いーちゃんが巻きこまれてないなんてありえないんだよ」
「なんだっけそれ、事故頻発性体質ってやつ? ま、そりゃ確かに同感だな」
 なかなか酷い言われようではあったが、事実は誰にも覆せない。あっさり玖渚の『根拠』に納得して、人識は「かはは」と笑った。
「他にも色々やりたいことはあるんだけど……ここにいる理由とかどうやったのかって方法とか、知りたいんだけど。
 でも、いーちゃんがいなくちゃ始まらない。僕様ちゃんにはいーちゃんが足りない。“足りなさ”が“足りない”から、このままじゃ駄目なんだよ。で、それに当たって、問題が一つ」
 再び玖渚が真剣になる。窓から身を乗り出すようにして、人識を見つめる。
「頼みごとをしたいんだよ、人識君」
「言うだけ言ってみろよ、玖渚友」
「降りらんない。降ろして」
124創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:53:37 ID:yw705Q9q
***

 結局人識はわざわざ玖渚を迎えに行き、戻って来て先ほどの場所に今度は二人。我ながら面倒見のいい奴だと、人識は思う。
 玖渚は人識を見上げて、にっこりと可愛い笑顔を浮かべる。
「ありがとしーちゃん」
 殺そうかと思った。
 一応欠陥製品の友人らしいし、ついうっかりやってしまわないように固めた殺さない決意が、ぐらついた。
 ちなみに冗談だ。
「……なんだよその呼び名」
「うに。人間失格のしーちゃんなんだよ」
 失格のしーちゃん。一番嫌な所から取りやがった。だからってにーちゃんとか言われても困るわけだが。
「駄目?」
「駄目だ」
「何でさ」
「お前、俺を何だと思ってんだよ」
「可愛いのに」
「可愛くてどーすんだよ」
「あう」
 一応玖渚は納得したらしい。何だか疲れた人識だった。
 それにしても、と人識は思う。この見るからに弱そうな青い少女は、その予想を裏切らず運動能力は皆無に近いらしい。
 「高い能力を制限しといて低いのの底上げはしないなんて、僕様ちゃんみたいに偏った能力の持ち主には敵視すべきプログラムなんだよ。頭が制限されなくて良かった」というのが彼女の言だが、それにしても偏り方が半端ではない。
 こいつ、生きていけるのか?
 要するに人識が抱くのは、そういう思いだった。
 勿論、この島に送りこまれた全員が殺人者として行動する、などとは思っていない。《殺人鬼》零崎一賊である人識自身も、そこは適当に気分でどうにでもするつもりだった。
 しかし、誰も殺人をしないということもないだろうと人識は思っている。
 状況があり、武器がある。
 必要なのは、殺す決意――いや、決意などもう要らず、あと一歩進んだ状況があれば、誰でも人を殺しうるだろう。
 零崎人識のデイバッグに入っていたのは、日本刀だった。どこからどう見てもマジモノの日本刀だった。明らかにデイバッグの全長よりも長いことには目を瞑っておくとして、今はベルトに引っ掛けてある。
 得意な武器では、ない。しかし得物のナイフが全て持ち去られ、ご丁寧なことに曲絃糸まで回収された現状、これが唯一の刃物だ。
 零崎である以上、刃物に頼らなければ殺人ができないというわけではないが、あった方が何かと便利だ。ないものを使うことはできないが、あるものは使うことも使わないこともできる。
 尖って光ってるし。
125創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:54:05 ID:6vzLMvv+
126創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:55:50 ID:6vzLMvv+
127創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:56:07 ID:yw705Q9q
「……てか、お前ずっとあの階にいたのか?」
 一人では上下運動ができない。それは玖渚の持つ病気らしいが、人識が玖渚に出会うまでには、そこそこの時間があったはずだ。
「ん? うん、コンピュータがあったからね。スペックが低くて大したことできなかったけど、情報収集したり、色々と。それで、あらかた終わってどうしよっかなー、って思ってたらしーちゃんを見つけたんだよ」
「しーちゃんじゃねえよ」
「そうだっけ」
 かなりの確率でわざとだと思った。
「あ、それから首輪についても考えてたんだよね」
 玖渚が、人識の首元に視線を注ぐ。
 言われて、人識も軽く首に手を触れた。首に馴染み始めてはいるが、いまだ違和感のある金属の感触。外すための繋ぎ目のようなものは、感じ取れない。
「まにわ君達のこと考えるとさ……邪魔だよね、これ」
「まにわ?」
「……人識君の記憶力はいーちゃん並なのかな?」
 なぜか冷たい視線を注がれた。
 慌てて人識は首を横に振る。
「あいつでも忘れるわけねえだろ。雑魚キャラが雑魚キャラ殺して、自分も首輪の爆発だかで殺されたっつーこと言ってんだろ?」
「そうそう、それだよ。材質はだいたい見れば分かるし……やっぱりこれ、材質とサイズにしてはちょっと重いんだよね。
 首を吹き飛ばすための火薬が入ってるのは分かるけど、そんなの最低限の量でいいだろうし、他にも何かあるんだ。
 他にも考えてたことはいっぱいあるよ。まにわって人達の事を全然聞いた事がないのはおかしいとか、そもそもマンションに居たはずの僕様ちゃんがなんであんなところにとか、さ。
 意識消失のほんとに直前まで、記憶遡ってみたり」
 それだけのことを同時に思考しても、彼女の脳はフル回転しているわけではないのだろう。おそらく。
「考える事自体は、難しくないんだけどなあ」
 立て板に水といった様子で話し続けていた玖渚は、そこで言葉を区切って困ったように笑った。
 困っていてさえ、その表情は笑顔だった。人識もよく笑う殺人鬼だが、玖渚友は、既に笑顔がデフォルトと言っても過言ではなさそうだ。
「人識君は、これからどうするの?」
128創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:57:31 ID:yw705Q9q
「んあ?」
 言われてようやく、人識はこれからのことを考える。
 一定時間耐えぬけば解放、というルールではない以上、遅かれ早かれ何らかのアクションを起こさなければならなくなる。ならば、目的はあった方がいい。
目的。
目する、的。
「んー……妹、かな」
 思い浮かんだのは、つい最近零崎に目覚めた《妹》、無桐伊織のことだった。これまでも頭に過らなかったわけではない。人識がここをうろついていたのは、もし伊織が近くにいるなら向こうから来るだろうという読みがあったからだ。
 彼女は今、両手を失っている。
 人識が全てのナイフを奪われてしまったことを考えると、彼女の《自殺志願》(マインドレンデル)もまた、回収されているだろう。
 兄から頼まれているという探す理由はあるが、目的のない状況下、探さない理由はない。
「ほっとくわけにもいかねーしさ、探さねえと」
「両方とも、目的は人探しってわけだね。だったらさ、どっか途中まででいいから、僕様ちゃんも連れてってくれないかな」
 唐突、とは言い切れない提案だった。ここに至るための微妙な伏線は貼ってあったのだろう。
 人識にはこの少女が自力で欠陥製品を探し出せるとはとても思えなかったし、だから驚かなかったというのも理由ではある。
「途中って、どこまでだよ」
「どこまででもいいよ。人識君が妹さんと会うまででも、どっか目的の場所決めて、そこに着くまででも。はぐれるまででも、それはそれでいいしね」
 明るい口調で話してはいるが、玖渚の目は真剣だった。
「僕様ちゃんとしても、できるだけ、迷惑はかけたくないんだけど。これでも苦渋の選択ってやつなんだよ」
 そこで、急に玖渚は自分のデイバッグの前にしゃがみこんだ。中に手を入れて、取り出したのは。
 それは大振りなナイフだった。
 刺々しい形状。
 禍禍しいデザイン。
 見る者に危険を意識させるような、ナイフ。
 一般には、というよりは知っている者には、グリフォン・ハードカスタムとして知られているナイフだった。
「僕様ちゃんには、どうせ使えないからさ」
 玖渚は、それを人識に差し出す。
「あげるよ。僕様ちゃんなりの誠意、もしくは前払いのお礼ってとこ」
 実用性は低そうなナイフだが、熟達したナイフ使いにとってそれは本当に小さな枷でしかない。
 扱い慣れない日本刀よりも、ずっと扱いやすいものだ。
 零崎はそれを、無造作に受け取る。
 鉛筆でも回すかのようにくるくると器用に扱って、ぱしんと止めた。手
129創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:58:51 ID:yw705Q9q
 鉛筆でも回すかのようにくるくると器用に扱って、ぱしんと止めた。手に、馴染ませるように。
「いいのか? お前。俺は、殺人鬼の零崎だぜ?」
 殺されるかもしれないぜ――と、人識は笑う。
 玖渚は軽く首を傾げて、それからその首を横に振った。
「いいんだよ、それは」
 それはいいんだよ。
 人識君に殺されるのは。
 それはそれで、構わないんだよ。
 玖渚は、そう言った。
「生きるか死ぬかっていうのなら、僕様ちゃんいつもそこにいるようなものだしね。僕様ちゃんが嫌なのは、さ」
 じわりと、玖渚が、笑う。
「いーちゃんが、僕様ちゃんが死んだっていうのを聞いて、自分のせいだと思っちゃうことなんだよね。それは困るんだよ。それは全然、違うんだからさ。死んだらそれを、違うよって言うこともできない」
「別の意味で、死人に口無しか」
「それは間違った意味なんだよ」
 突っ込まれた。
 ――だから、と玖渚は言葉を繋ぐ。
「人識君が僕様ちゃんを殺すなら、それは完全に人識君のせいだし、それは多分いーちゃんの耳に入ると思うんだ」
「なんだそりゃ。勘か?」
「うに。信じてるんだよ。いーちゃんのことと、人識君のことをさ」
「信じてる、ねえ……」
 人識は見比べる。
 手の中のグリフォン、目の前の少女。
 そして。
「――傑作だな」
 シニカルに笑って、ナイフをポケットへ放りこんだ。
 青い少女と、殺人鬼。
 どこまでもどこまでも、傑作だ。
「かはは、契約成立ってやつか?」
 人識は笑い、
「よろしくなんだよ、しーちゃん」
 玖渚も笑った。

「だから何でしーちゃんなんだよ」
「あ、ごめんごめん」

――こうして、奇妙なペアが成立した。
130創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:59:45 ID:yw705Q9q
【1日目 深夜 G-7】
【零崎人識@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備] 日本刀(もしかすると誰かの物か? 遭遇する人物によっては分かるかもしれない)、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 無桐伊織を探す。気が向いたら誰か殺すかもしれない
 1 早いとこ、妹か欠陥製品、どちらか見つけたい
 2 一応、玖渚は守ってやった方がいいな

【玖渚友@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 いーちゃんに会って、ここで起きてることを考えたい
 1 今は人識君と行動
 2 この島で起きてることの、方法と理由が知りたい
*首輪に関して、ある程度の観察ができているようです。何かに繋がるかどうかは、後の書き手さんにお任せします。
*何か情報を入手しているかもしれません。この辺りもお任せします。
131創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 20:00:45 ID:yw705Q9q
以上です。
零崎と玖渚が邂逅したら? ということで楽しく書かせていただきました。
何か指摘などありましたら教えてください。
132創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 20:06:34 ID:6vzLMvv+
面白かった!GJ!
ああもう友かわいいなー

この2人が出会ったらどうなるんだろう?という妄想が爆発するのはよくわかる
ぶっちゃけ俺もやったことあるもん
133創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 20:51:03 ID:UWh/NieQ
投下乙です!
本編では見られなかった人識と玖渚の組み合わせ、読んでいて楽しかったです
しかし本編といい今回といい、やっぱり人識には女難の相が……がんばれしーちゃんw
134創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 22:09:34 ID:gxiqMNli
投下乙です!
しーちゃんのあだ名は盲点でした! 友と人識は夢の競演ですねー
とても面白かったですし、今回だけとは言わずに今後も書いて頂けたら、と個人的に思っちゃいますな
135創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 23:18:17 ID:Q+D65ad/
投下乙!
おお!戯言ファンなら一度は見たいと思うであろう友人ペアー!
とても楽しかったですw文章力もあるしあきませんでした!
とりあえずがんばれしーちゃんw
是非またの投下をお待ちしております!!
136創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 23:55:20 ID:yw705Q9q
暖かい言葉ありがとうございます…!
西尾作品頑張って読み進めて、どこかでまた参加できるようにしたいと思います!
137創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 00:29:48 ID:eEZrsQ2W
次回の投下、楽しみにしてます



とりあえず現時点での参加者リストです

○……生存 ●……死亡

【戯言シリーズ】
○戯言遣い/〇玖渚友/○哀川潤/○零崎人識/〇兎吊木垓輔/〇式岸軋騎

【零崎一賊シリーズ】
〇無桐伊織

【世界シリーズ】
○病院坂黒猫/〇病院坂迷路/●傍系の病院坂迷路/〇串中弔士

【新本格魔法少女りすか】
○水倉りすか/〇供犠創貴

【物語シリーズ】
○阿良々木暦/〇戦場ヶ原ひたぎ/〇八九寺真宵/○神原駿河

【刀語】
○鑢七花/〇とがめ/〇真庭鳳凰/〇真庭人鳥

【真庭語】
○真庭狂犬
138創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 01:04:11 ID:Wxd8Iv5P
投下乙です!
これは一度は見てみたかったコンビだw
二人ともらしさが出てて思わずにやけてしまったではないかwww
 
是非是非続く作品を期待しています!
139創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 01:05:32 ID:Wxd8Iv5P
ミスった…orz
140創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 05:59:22 ID:zildy+I7
投下乙!
この二人実にいいなあ。
しーちゃんとかこいつは傑作だw
141創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 14:25:57 ID:XOQ334Hm
投下乙です!
玖渚と人識のコンビとは、良い意味で予想外すぎるw
しーちゃんが肉体労働担当で、友が頭脳労働担当ってとこかな
142創る名無しに見る名無し:2009/01/12(月) 18:57:32 ID:7DrURoWR
書き手さん達に触発されて書き始めてみたけど西尾維新的な文体にするのが地味に難しいぜ……
中々それっぽくならない
143創る名無しに見る名無し:2009/01/12(月) 19:26:44 ID:J5p1P6lb
良いんじゃないか、別にそれでも
必ずしも文体を似させる必要はないし、面白ければみんな受け入れてくれるさ
まずは書き上げて出してみる事が大事なのではないか、と
144創る名無しに見る名無し:2009/01/12(月) 23:11:02 ID:Fp4xn9vv
良い事言うね
145創る名無しに見る名無し:2009/01/16(金) 08:59:54 ID:zt9zxXBc
ΑГ
146創る名無しに見る名無し:2009/01/16(金) 20:51:00 ID:YzSPJVlJ
なんて読むの?それ
147創る名無しに見る名無し:2009/01/17(土) 13:12:40 ID:qzcdJIxt
なんとなく維新のイメージって、普通なら、

そこには男が立っていた。

って書くのを、

そこには男が。
立っていた。

って書くイメージなんだけど、こういう書き方って初めにやったのって誰なんだろう?
148創る名無しに見る名無し:2009/01/17(土) 21:41:45 ID:JiwYkydu
ようやくひとつ完成ー。
とういうわけで早速投下します。
149錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 21:47:20 ID:JiwYkydu
「イシナギという魚をご存知ですか?」
 大して険しくもない、ただ薄暗いだけの山道の中を、二人の人間が歩いている。
 一人は足首まで届くほどに長い、美しい黒髪を携えた少女。
 一人は伸ばしっぱなしの黒髪に、カチューシャをつけた痩身の男。
 少女の唐突な問いに対し、男は「いや」と、まるで興味がないという風に、そっけなく返す。男の前を歩く少女も、まともな返答を期待していなかったように、男のほうを振り返ることなく言う。
 「北海道に主に生息する魚です。一般的にはマイナーな魚ですけれど、体長が2メートルを超えるものもあって、大物狙いの方たちにとっては人気が
あるようです。もちろん食用にもなります。煮付けや刺身として食べることが主だそうですね。ちなみに肝臓には、多量のビタミンAが含まれているそうですよ」
 「へえ」男は、あくまでそっけなく言う。「肝臓まで食べるのかよ、その魚」
 「いえ、ビタミンAとはいってもあまりに多量すぎるので、食べてしまうと過剰症を起こして、頭痛、吐き気、皮膚剥離などの症状が出るそうです」
 「毒じゃねえかよ」
 男が呆れたように言うと、少女はくすりと笑った。「そうです、イシナギは危ないんです」
 男はまた「へえ」と返す。それは先程のそっけなさとは別の、知っていることを今初めて聞いたように振舞うような、微妙な白々しさがあった。
 それからまた、二人は会話を交わすことなく山道を歩き続ける。山道とはいっても、辺りに生い茂っているのは樹木の類ではない。
 竹である。
 広大な面積の、そのほぼ全てを青々とした竹で覆われた山。
地図に記された名は、雀の竹取山。
少女が先を歩き、男がその後に続いて歩く。頂上から麓へ向けて、下山する形で。
少女のほうは、高校の制服らしき特徴的なセーラー服。男のほうは、薄手のタンクトップにハーフパンツ、足元はなんと下駄という、どう考えても山歩き
には向いていない服装であるにもかかわらず、どちらも不自由そうなそぶりを見せることなく、軽快な足取りで進んでゆく。
少女が懐中電灯で照らしているとはいえ、足元が少し見える程度の山道を坦々と歩いてゆく二人。その自然な足取りが、逆に不自然に見えてしまうような光景だった。
150錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 21:49:18 ID:JiwYkydu
「ところで、奇野さん」少女が、今度は振り返って言う。「今のこの状況について、奇野さんはどうお考えですか?」
奇野と呼ばれた男はその質問に対し、少し嫌そうな表情を見せた。
「どうって言ってもな――まあ、非常識っつーか、信じがたい状況ではあるよな。信じる信じないの話じゃねえのかも知れないけどよ。
話は単純に見えるのに、突拍子もない部分が多すぎる。なんていうか、現実的な夢の中にいるみてーだ」
「現実的な夢、ですか。なるほど」
実際にはその逆でしょうけどね――少女は独り言のように言って、また小さく微笑んだ。
逆――現実的な夢の、逆。
夢のような、現実。
男――奇野は、数時間前に自分が見た光景を回想する。ほんの数分間の間に繰り広げられた、いっそ滑稽ともいえるくらいに不条理な光景。
血、肉、骨、首、臓器、脳漿、死体。
そのすべてが、今ではもう、幻のように消えうせて。
………。
すべて、現実なのか。
あの光景も、今の、この状況も―――
「『現実的で構わないから、いっそ夢であってほしい』」
はっとしたように、奇野は顔を上げる。
「そう思っていますか? 奇野さん」
少女は振り返ってはいなかった。しかし奇野は、少女のその言葉だけで、視線とはまた別の何かによって射すくめられたような感じがした。
「余計な心配だよ、お嬢ちゃん」
余裕を表現するためか、奇野は肩をすくめた。
「お嬢ちゃんこそ、実際ついていけてねーんじゃねーの? あんた、一般人なんだろ? それがこんな、冗談が冗談してるみたいな状況に放り込まれて」
「もちろん夢であってほしいと思っていますよ。私は」
少女はあっけらかんと言う。
「奇野さんの言うとおり、私は見てのとおりの普通の女子高生ですから。私からすれば、現実的な夢も夢のような現実もありません。夢のように夢心地ですよ。間違って醒めてしまいそうです。
夢の中というよりも、漫画の中にいるような、あるいはゲームの中にいるような、いやむしろ小説の中にいるような心地です」
「小説…」
なぜだろう、そこだけ妙に納得がいく気がするのは。
151錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 21:51:52 ID:JiwYkydu
「それにしちゃあ、随分と軽く構えてるように見えるけどな」
「重く構えるだけ動きづらくなるだけです。当然、軽く見ているつもりもありませんけれど」
少女の声色が、少しだけ真剣味を帯びる。
「今の状況に救いがあるとすれば、不条理な状況ではあれど、状況そのものが不鮮明ではないというところでしょう。ですから今のところ、
地に足がついている感じがするのは確かです。何しろ目的がはっきりしていますからね。それ以外にすることがない、というくらいに」
「目的…」
「殺し合い」
真剣さを帯びていたとはいえ、その言葉はあまりにも軽く発せられた。
自分たちの目的。自分たちがここにいる理由。
そう、この状況がいくら信じがたいものであろうとも、そこだけははっきりしている。
殺し合い。
殺し合い以外に、することがない。
「………」
奇野自身、それは常々口にしたいと思っている言葉の一つだったが、それは軽々しい心構えで口に出してしまうと、予想以上にえらい目に遭う言葉であるということを、奇野は身をもって経験していた。
だからこそ、それをあっさりと口にしてしまう少女の態度に、奇野は少なからず違和感を覚えた。
こともあろうに、『参加者』の一人である奇野が、自分のすぐ背後を歩いているという状況にもかかわらず――
「勝つつもりで、いるのか?」短い沈黙を、今度は奇野が破った。「こんな、でたらめな、無茶苦茶な闘いなんかに、強制的に放り込まれて、本当にあんた、最後まで生き残るつもりなのか?」
「生き残るつもり?」
少女の声は変わらない。
「そんなもの、生まれたときからずっとあります」
「………」
「生き残るつもりがなくて、人間がどうやって生き続けられるというのですか。偶然で死に、必然で死に、当たり前のように死に続けるこの
人間という種類が。生き残る気もないのに生き続けている人間なんて、それはただ他者によって生かされているというだけの事。生かされているのは
死んでいることと同義。生き恥という言葉すら勿体ない。そんなふうに生き続ける人間の気が、私には一向に知れませんね」
奇野はまた沈黙せざるをえなかった。
なぜこの少女は、こんな言葉を平然と吐く?
「それに」少女は仕切りなおすように言う。「可能性の上でなら、私たちが勝つ方法はいくらでもあります。最初、あの白い部屋の中で主催者側の人間が言っていた言葉、覚えていらっしゃるでしょう? この闘いではあらかじめ、バランスをとるための配慮がなされていると」
「……ああ」
「? どうかしまして?」
「いや――つまり、それがお嬢ちゃんの自信の根拠ってことか?」
「確かに私はただの普通の一般人ですけれど、目的が殺し合いだったところで、主催者側から平等に勝つチャンスを与えられているとするなら、
一般人という属性を悲観する意味はないということです。むしろ私のような一般人こそ、早い段階で動いておく必要があります。状況に呑まれるのは
三流の証拠。求められるのは俊敏な思考と、正確な試行。戦略こそが鍵です」
「クリティカルだな」
「タクティカルですね」
軽い冗談のつもりが軽く流されてしまった。立つ瀬がない。
152錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 21:54:52 ID:JiwYkydu
とはいえ、少女の言い分には奇野もそれほど異論はなかった。おそらくこの闘いには、最初に見たような相当な力を持つ『異能者』が
何人も参加していることだろう。しかし主催者側によってその実力に均衡がもたらされているとするなら、目の前の少女でさえ、確かに
戦い方しだいではいくらでも勝ち目はある。知力と戦略。この闘いでは、それこそが物をいう。
しかし奇野がそういうと、少女は「それは違いますよ」と否定した。
「違う? 何が」
「戦略が鍵になる、とは言いました。しかしそれは『参加者の戦闘能力が均衡しているから、より巧みな戦略を練ったものが勝利する』
という意味ではありません。なぜなら私は、参加者の能力に制限が加えられているというのが真実だったとしても、それによって参加者全員の
能力のバランスが均衡しているとは考えていないからです。少なくとも、私が主催者側の人間だとすれば、絶対にそうはしないでしょう」
「なんでそう思う?」
「面白くないからです」

長い黒髪が竹やぶに引っかからないように気をつけるようなそぶりを見せながら、少女は細い竹藪を掻き分けてゆく。
山頂からは、既にだいぶ下っている。今は二合目あたりだろうか。足取りが鈍らないのは奇野も同じだったが、少女のほうは
まともな道も道標もないはずのこの山道を、まるで自分の庭であるかのように、迷う気配もなく進んでゆく。
「先ほど私は、自分がゲームの中にいるようだ、といいましたが、例えとして言うならあの表現は間違いでしたね。なにしろここは
まさにゲームの中なのですから。生身の人間が参加する、実際の命をかけたサバイバルゲーム」
バーチャルの世界でないというだけ――少女はそういった。
「他の人間が一方的に殺されたんじゃ面白くない――あの主催者側の人間は、確かそんなふうに言っていましたね。一方的な殺戮では
ゲームにならない。ゲームにならなければ面白くない。だからバランスをとるために、力を制限する。それだけ聞けば、確かに自然な流れに
見えます。しかし主催者側の立場で考えた場合、どうしても納得できない部分があるんです。そうは思いませんか?」
奇野は沈黙を保った。少女は続ける。
「このゲームの参加者がどういった基準で選ばれたのか、私たちにとって走る由もありませんが、『他の人間が一方的に』という言葉から
あの妙ちくりんな衣装の人達のような異能者を筆頭とした、いわゆるプロのプレイヤーと、私のようなごく普通の一般人が、同時に参加していると
推察されます。一方的な殺戮では面白くないといっておきながら、殺し合いという事柄に関して、経験も能力も、価値観さえも、極端なまでに
異なる人種を同じ舞台に立たせてしまっている。この時点で、既に矛盾していると思いませんか?」
「………」
153錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 21:59:34 ID:JiwYkydu
「一般人を同じ舞台に立たせてしまっている以上、バランスをとろうと思えば、それは相当な制限を『異能者』の側にかけることを
意味します。当の異能者、プロのプレイヤーの方達からすれば不本意極まりないことでしょうけど、しかしそれは、主催者の側にとっても
望ましい状況とは言えるでしょうか。こんな特殊な場所、ステージを用意し、おそらくは相当な、異常なほどに現実離れした
『異能者』達をわざわざゲームのプレイヤーとして選出しておきながら、その肝心の『異能』に対し、主催者の側でわざわざ
制限をかけているんですよ? ゲームを観戦する側からすれば、その異能こそをフルに発揮してやりあってほしいと考えるのが
自然でしょう。バランスを重視するというのならそれこそ私のようなただの高校生を集めてやったほうがむしろ面白くなりそうです。
わざわざ武器まで与えているんですから。はたしてこれが自然な流れといえるでしょうか? 違和感で人が死ねるなら
私は既に15回は死んでいます」
奇野は答えない。少女はさらに続ける。
「このようなゲームに限って言えば、プレイヤーの能力の低下は、すなわちゲームのクオリティの低下に直結する。牙と爪をもがれた
獣同士の殺し合い。そんなもの見て楽しいと思いますか? かめはめ波は強すぎるから使用禁止、空を飛べると卑怯だから舞空術も禁止、
体力がありすぎるから、サイヤ人は身体能力も制限。天下一武道会にそんな制約があったら嫌でしょう。ヤムチャさんどころか、
ミスターサタンが素で優勝することだってあり得てしまいます。盛り上がりに欠けすぎです」
言いたいことはよくわかるが、最後の例えに意味はあるのか。
「まあ…確かに」
奇野は言ってから、内心でもう一度つぶやいた。まあ、確かに。
少女と話しているうちに、奇野は今の状況に対してやたら客観的な意識を持ってしまっていたことに気づく。考えてみれば、自分こそまさにその『異能者』の側として参加している人間の一人ではないか。
「つまり、お嬢ちゃんは」奇野は、右手に持った荷物を軽く持ち直しながら言う。
「こう考えてるってのか? このゲームの主催者は、ゲームのバランスをとるつもりはない、と」
「いいえ、違います」
少女はまたも否定する。
「主催者はこのゲームのバランスに対して最大限の配慮を行っているはずです。バランスという言葉を最初に持ち出したのは
主催者の側なのですから。ゲームバランスというのは、ゲームが成り立つか成り立たないか、その一端を握っているといっていいほど
重要なものなのですから。こんな大掛かりなゲームを作り上げるような人間が、そこをおろそかにするはずはありません」
それができなければクリエイターとして失格です。
少女はそんな風に言った。
154錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 22:01:40 ID:JiwYkydu
「ですから、私の予想―予想というよりは期待ですけれど―している限りでは、主催者側からのあの言葉は、こういった意味を
持っていると考えています。『用意はしておいた。それを使って、後は自分たちで好きなようにバランスをとれ』」
「『それ』?」
「裏技、ですよ」
鳥でも飛び立ったのか、二人の頭上の竹の葉がざわざわと派手な音を立てて揺れた。
「レーシングゲームで言えば、ショートカットのようなものですか。とにかくそういったものがこのゲームの中には存在していると
私は期待しています。このゲームにおける最大のポイントの一つは、プレイヤーの自主性。主催者の側ではあえてバランスを取らずに
最終的なバランスはプレイヤーに決定させる。私たちにランダムに与えられた武器とはまた別の、ゲームの内部そのものに組み込まれた
不確定要素。ゲームのクオリティの最大限に維持し、かつ全てのプレイヤーに勝利条件を与えることができる、まさに裏技です。
あくまで予想に過ぎませんが、それを探してみる価値は十分にあると思います」
「………」
奇野はまたも、沈黙せざるを得なかった。
絶句、というよりも、言いたいことはあったが、それを口に出すべきか躊躇した、といった感じである。
反応に困ったといってもいい。
確かに少女の言い分には一理あると言えなくもない。しかしそれは少女自身、期待、という言葉を用いていたとおり、
あまりに希望的な観測というか、都合の良すぎる考えではないだろうか。
この少女の自信は、そんな曖昧なものに依拠したものだったのか?
大体裏技って何なのだ。コマンド入力でフルオプションに一足飛びでもする気でいるのか。
奇野は嘆息した。やはりこの少女は『一般人』の側の人間だ。
殺人鬼を恐れない人間は二種類いる。鬼をも恐れぬほどの力を有する人間か、殺人鬼を知らない人間のどちらか。
参加者全員が殺人鬼である可能性すらあるこの状況で、殺し合いという言葉を軽々しく使い、参加者の一人である奇野に、堂々と背中を預けている。
人が死ぬ光景すら目の当たりにして、なお現状を認識できていない。
まさしくゲーム感覚である。
この少女と組んだのは、ある意味では正解だったかもしれないな――
奇野がそう思い、この雀の竹取山における少女との邂逅、この少女と組むことになった山頂での出来事を思い起こし始めた、そのほぼ同時。
奇野は、それを目視した。
155錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 22:03:55 ID:JiwYkydu
◆◆◆
 声をかけてきたのは、少女のほうからだった。
 雀の竹取山、その頂上地点で一人佇んでいた奇野頼知の前に、散歩でもするかのような優雅な足取りで、その少女はあらわれた。
 ごきげんよう、と、気さくな感じに声をかけながら。
 それに対し奇野は、当然の如く警戒した。相手が年端も行かぬ少女であるということは、奇野にとっては気を緩める理由には
まったくならない。むしろ今の状況において、丸腰のまま、しかも真正面から接近してきたことが、奇野にはこの上なく不気味に思えた。
 そんな奇野に対して、少女はあくまでも優雅に、柔らかな笑顔を浮かべながら、両手を頭の上でひらひらと振った。
 こわがらなくてもいいですよ、とでもいいたげな仕草で。
 少女は言った。
 私は、あなたと戦うつもりは毛頭ありません。
 とりあえず、私の話を聞いてはいただけないでしょうか、と。
 この時点で、奇野がこの少女に対して一切、何の攻撃も加えなかったことに関して疑問を挟む余地はあるかもしれない。
少女の言うところの『異能者』側の人間、プロのプレイヤーである奇野が、あからさまなまでに隙だらけの相手を目の前にして、
ただ相手の動向を窺っていたというのは不自然ではないだろうかと。
 しかしこの疑問に対して、奇野はこう答える。奇野は相手が少女ということで気を緩めるこそなかったが、『この少女であれば
いつでも殺せる』という感想を抱いた。このゲームの趣旨から言えば、目の前にいる相手を殺さないというのは確かに愚行であると
いわざるを得ない。
しかし「殺す」という選択肢には、それが取り返しのつかない結果を生むという条件が付随する。少女を殺すことで、ゲームにおける
対戦者を一人減らすことができるのはプラスではあるが、逆に今ここで、少女の話をまったく聞かずに殺してしまった場合、
それがマイナスの結果を生むことにならないとは言えない。
要するに、「いつでも殺せるのならば、少女の話を聞いてからでも遅くはない」という、妥当というか、ごくありきたりとも
いえるような理由において、奇野は状況を保留することを選択した。
 少なくとも奇野自身は、自分がそういった考えを持って少女を攻撃することをしなかったと、そう自分を納得させている。
156錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 22:07:42 ID:JiwYkydu
 少女が続けて奇野に対して言ってきたことは、奇野にとっては、いや一般的な観点から見ても、十分に予想の範囲内のことだった。
 要点だけを言えば、自分と組まないか、である。
 この闘いを生き残るために、二人で組んで行動しましょう、と。
 当然のこと、奇野があっさり「組む組む組みたい組みましょう」と少女の提案を受け入れることはなかった。
 生き残るためには、一人で行動するより多人数のほうが基本的に有利、という理屈は正しい。しかしこのゲームは、
最終的に一人が生き残ることを前提としたゲームである。
何人がチームを組んだところで、生き残るのはただ一人。
そんな趣旨のゲームの中において、協力という言葉がどれほどの打算を含んでいるのか、それが分からないほどに奇野は馬鹿ではなかった。
 しかし少女は、そんな奇野の心情を見越したように言葉を紡ぐ。
 私はあなたを殺そうとは思っていません。
 どころか、私はここで誰も殺そうとは思っていないんです。
 もちろん、私が死ぬつもりもありません。
 私はただ、生きてここから帰りたいだけなんです。
 その矛盾をはらんだ言葉に、奇野は訝しんだ。
 結論だけを言えば、少女はこう提案してきたのだ。このゲームの勝者に与えられる権利、どんな願いでも一つだけ
叶えることができるという、途方もない権利。
 私の望みは、ただ生きてここから帰ること。
 だから私は約束します。

 『このゲームに参加した、全ての人間を生き返らせること』―――。

 私が最後まで生き残った暁には、必ずそれを願うと。
 ………。
 奇野は黙って、その少女の言葉を聞いていた。
 全員を生き返らせることができるのかどうがは定かではないですけれど、「何でも」と言ってはいるし、願い事が一つだけというなら
ポルンガでなく神龍のほうでしょうから、大丈夫でしょう――そんな訳の分からない言葉さえ聞き流して。
 結果的に、奇野は少女と組むことを了承した。
 少女の甘言に乗せられたわけでは、勿論ない。
 殺しはするが、必ず生き返らせる。
 そんな言葉を真に受ければ、それこそ馬鹿である。
 ただ奇野は、またも保留することを選択したのだ。少女を攻撃しなかったときと、ほとんど同様の考えにおいて。
今のうちは、利用できるものは利用しておこうと。
 少女とて、まさか本当に最後まで奇野と行動するつもりではあるまい。
ころあいを見て奇野を殺すつもりだというなら、それより先に自分のほうがころあいをみて少女を殺せばいいだけの話。
それまでは、この少女を自分の『所有物』のひとつとして連れていておいても、おそらくマイナスにはならないだろう、と。
 しかし奇野のこの考えは、先ほどの思考と同じく、奇野が自身の選択に対して納得のいく理由を考えたというだけの、
いわゆるあとづけに近いものだと言っていい。
 奇野が少女に対し攻撃を加えなかったことも、奇野がこの少女と組むことを決定したのも、奇野にとっての、このゲームの
スタート地点である雀の竹取山の山頂において、彼がそこから数時間ものあいだ「様子見」と称して動こうとしなかったことも、
余裕のあるときならば、相手を小馬鹿にしたような軽薄な態度で相手に望むはずの彼が、少女との会話においてほとんど受動的な
受け答えしかできていないことも、すべては同じ理由に基づくものであるといえる。
157錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 22:11:01 ID:JiwYkydu
 裏の世界の住人である奇野頼知は、殺し合いの場という一般的には非常識な状況も、むしろそれが日常であるような世界で生きてきた。
だから今現在の状況も、あまりに現実離れしているとはいえ、奇野にとっては日常の延長線上のようなものだと考えている。
 殺し合いというなら、ここは自分のフィールドだと。
 そういうふうに、むしろ余裕を持って臨んでいた。
 しかし実際には、奇野は自分の心理状態を正確に把握できてはいない。

「呪い名」。

 「殺し名」七名の対極に位置し、戦闘集団である「殺し名」とは真逆、非戦闘集団としての性質を持ちながら、
ある意味「殺し名」以上に忌み嫌われている集団。「呪い名」六名。
 その三番目に名を連ねる「呪い名」が一名、「奇野」。
 奇野頼知の有する能力は、人殺しという目的に対して言うなら、確かに特出して有効なものであるといわざるを得ない。
しかしその能力は、いうなら鳥籠の中の鳥を殺すような、相手を完全に自分の領域の中に引き込んでこそ威力を最大に
発揮するような、そういった類のものである。
 この闘いの中において奇野は、殺し合いという名のフィールドの内部に強制的に放り込まれた形である。
裏の世界の住人とはいえ、奇野はあくまで「呪い名」なのだ。
戦場の外部にいてこそ威力を発揮する奇野が、完全に戦場の内部、殺し合いの渦中に引きずり込まれてしまった。
その現実が、自身でも気づかないうちに、彼からプロのプレイヤーとしての余裕を奪った。
恐怖、緊張、焦燥。そういったものが、今の彼の選択肢をどうしようもなく狭めている。

 要するに、彼は状況に飲まれているのだ。

 さきほど奇野は、少女が自分に安易に背中を預けている、と言った。
しかしそれは、奇野が自分の前を歩く少女の行動に完全に追従しているといってもよい形である。
行動だけではない。
協力という言葉にどれほどの打算がこめられているのか理解していたはずの奇野が、少女の言葉で安易に「組まされる側」に回ることを
良しとし、少女と出合ったときには確実に警戒心を抱いていたはずの奇野が、ゲームのバランスを問題にした先の会話において、
少女が自分たち、プロのプレイヤーと同等の力量を有しているという可能性を完全に失念してしまっている。

 彼――奇野頼知は、自分が既に目の前の少女にすら飲み込まれつつあることに、まだ気づいていない。
158錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 22:16:22 ID:JiwYkydu
◇◇◇

 「なんだ――あれ」
 麓まであと数分もかからないというところで、奇野は少し離れたところにある、細く背の低い竹が密集したようにして生えている
竹藪の中に、隠されるようにして置かれている何かを見つけた。
 「あら、この距離からもう見えますか。目がいいんですね、奇野さん」
 ビタミンAは豊富に摂ってるんでね――奇野は冗談めかしてそういった。
見えたとはいっても、この暗さの中では、さすがにそれが何なのかまでは判断できない。
少女がそれを隠している竹藪をかき分けるところに至って、ようやく奇野は、それが何なのかはっきりと見ることができた。
 それは一台のジープだった。
 アウトドア用だと一目でわかる、この竹藪に停められているのが不自然なほど豪胆なデザインのジープ。
運転席を見ると、そこには鍵がささったままの状態になっている。
少女はジープの窓をぽんぽんと叩いた。
 「裏技とまではいきませんけど、まあ、隠しアイテムといったところでしょうね」
 奇野はジープと少女を交互に見つめた。
裏技。
隠しアイテム。
まさか、こんなものが本当にあるなんて――
 「そういえば奇野さん」少女はジープの後部座席のドアを開きながら言った。
「山頂で私が言ったドラゴンボールのたとえ話、覚えていますか? 願いがひとつというなら、ポルンガでなく神龍だと言う話」
 またか。奇野はそう言いそうになるのを内心で思うに留めた。
 どれだけドラゴンボールが好きなのだ。
 「神龍は叶えてくれる願いはひとつだけですが、一度に多人数の人間を生き返らせることができる。ポルンガは三つの願いを
叶えてくれますが、ひとつの願いにつき、生き返らせることのできる人間は一人だけ。そういう設定でした。
しかし魔人ブウ編において、ポルンガも一度に多人数の人間を生き返らせることができるようにパワーアップされてしまっているんです。
ナメック星人の手によって」
 それがどうした、木野は思った。だから言った。「それがどうした」
 「おかしな話ですよね。神と同等の存在であるはずの神龍やポルンガが、パソコンのOSをバージョンアップでもするかのように
どんどん便利にされてっちゃってるなんて。確実に人間の命の重さを念頭に置いたはずの設定なのに」
 「ご都合主義もほどほどに、ってことか? お嬢ちゃん」
 「神なんてその程度、ということですよ、奇野さん」
159錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 22:18:05 ID:JiwYkydu
 少女は奇野に手を差し伸べてきた。握手を求めてきたわけではない。奇野は少女の意図を察し、右手に持っていた荷物を少女に差し出した。
 荷物、といってもディパックではない。
 奇野が今まで、山道の中で引きずるようにして運んでいた、それ。
 それは人間だった。
 少年と呼べるくらいの年齢にみえる風貌。
敏捷そうな長い足。
服装は作業服らしき、緑色のツナギ。
 端正なその顔からは、完全に血の気が失せてしまっている。
口元からわずかに漏れる呼吸音で、かろうじて少年が生きているのが判断できるほどに。
 少女は奇野からその少年を受け取ると、作業服の襟首をつかんで「よいしょ」と気合いを入れつつ、少年をジープの後部座席に放り込んだ。
 「さて、奇野さん」ジープの後部座席のドアが閉められ、代わりに助手席のドアが開かれる。
「とりあえず私たちがすべきことは情報収集ですが、それに専念するというわけにも行きません。既に私たちより積極的な行動に
移っているプレイヤーもいるはず。警戒することも必要ですけれど、そういうプレイヤーに対してこそ、先手をもって
制していかなければなりません」
 「言われるまでも」
 「幸い『情報』に関しては、私たちは一歩先行していますからね」
 少女は自分のディパックを背から下ろした。
 「ドラゴンボールの世界では、ほとんどの戦いにおいて物を言ったのは当然のごとく戦闘能力。しかしドラゴンボール収集の
クエストにおいては、重要なのはやはり情報だった。ブルマさんは本当に有能な技術者でしたね」
 またもそんなことを言い、少女はディパックの中身をひとつ取り出した。
 「………」
 ドラゴンレーダー、ではあるまい。
 しかしその形状は、限りなくそれを髣髴とさせる。
 緑色の画面の中央部に、小さな光点がふたつ灯っているのが見える。それが何を示しているのか、確認することすら余計だと奇野は思った。
 今のところ、このエリアに他の参加者はいないようですね――そう言って、少女はディパックを背負いなおした。
 「生きるためには生き残ること。ここが戦場だというのなら、生き残るために戦いましょう。
たとえ舞台が神の手の上だったところで、たとえ相手が魑魅魍魎の集まりだったところで――」
 少女は、鋭利な日本刀のような笑みを浮かべた。

 「私の名前は萩原子荻。正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討って御覧に入れましょう」

 奇野は少女のその笑みに気を取られ、少女が何を呟いたのか聞いていなかった。
160錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 22:24:08 ID:JiwYkydu
【1日目 黎明 雀の竹取山 B−8】

【奇野頼知@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 とりあえず生きることが優先。そのためには誰でも殺す。
 1 今のところは、少女の示すとおりにしておく。

【萩原子荻@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備] 簡易レーダー(『生存者』の首輪に反応。同エリアにいる参加者の位置を示す)
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 生き残るために、常に最善の策を考えておく。
 1 情報収集を優先。特に参加者に関する情報がほしい。
 2 今のところ、一番警戒すべきなのは目の前の「奇野」。
 3 『彼』が参加しているかどうか気になる。
*「裏技」「能力の制限」に関しては、実際は可能性のひとつ程度にしか考えていない。
*「クビツリハイスクール」時点の萩原子荻。

【石凪萌太@戯言シリーズ】
[状態] 意識混濁
[装備] なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3) (現在は子荻が所有)
[思考] 意識混濁のため思考停止中
161錯綜思考(策創試行):2009/01/17(土) 22:28:11 ID:JiwYkydu
投下終了です。
単に子荻と奇野のいちゃらぶを書こうかとも思ったけど、そっちは自粛。
二人とも、単に自分の好きなキャラというだけのチョイスですけれど。
162創る名無しに見る名無し:2009/01/17(土) 23:12:07 ID:M1/sqWvV
投下乙です!
子荻ちゃん好きなので、登場が嬉しいです。
台詞と思考が彼女らしくて実にいい…!
もちろんキノラッチと萌太君にも頑張って欲しいです。

ただ、改行は句読点の所でしていただけるとより読みやすいかと思います。
多分一行辺りの文字数制限で苦労したのかとは思うのですが……

ともあれ、久々の投下に心踊り楽しませて頂けました!
163創る名無しに見る名無し:2009/01/17(土) 23:34:24 ID:mPVKvEsu
投下乙です!

子荻ちゃんオンステージですね、ナイスですね!
ただそれにつけても言いたい事は……………………一体何があった萌太くん!?
164創る名無しに見る名無し:2009/01/17(土) 23:54:02 ID:SfG+mwWW
キャー子荻ちゃーん
165創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 11:34:25 ID:N3GvdC1E
投下乙っす!!
しかし、ここまで投下されてんのに刀語のキャラ最初に登場したっきり
全然出てこねえwwもう全員死んだのか…
166創る名無しに見る名無し:2009/01/18(日) 12:26:26 ID:OaGJSZGo
今七花と鳳凰書いてるからあと少し待ってくれw
記憶が曖昧な所だけ読みなおそうとしたらいつの間にか最後まで……
167創る名無しに見る名無し:2009/01/19(月) 14:34:02 ID:SucV4diP
?
168創る名無しに見る名無し:2009/01/20(火) 02:10:25 ID:HOTvPAyX
まさかのキノラッチ、すきだったから嬉しいわ。
169創る名無しに見る名無し:2009/01/24(土) 17:05:12 ID:Sc2+ZQ9V
あげ
170創る名無しに見る名無し:2009/01/30(金) 09:09:26 ID:IDoEnaX2
171創る名無しに見る名無し:2009/02/01(日) 18:35:14 ID:WiWWWq2D
げらげら
172 ◆rOyShl5gtc :2009/02/02(月) 16:40:13 ID:9B65plL9
PC戻ってきたんでMAPを作ってみたり。こんなんでどうでしょう。

http://www.uploader.jp/dl/nisioBR/nisioBR_uljp00001.jpg.html
173創る名無しに見る名無し:2009/02/02(月) 17:00:08 ID:kN+4L12d
>>172
おお!スゲー!
乙です
174創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 01:44:01 ID:o/+4asZV
完成度高いなw
175創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 21:39:25 ID:x2Brpe2n
>>172
GJ!
改めて見るとすげー混沌としてる舞台だw
176創る名無しに見る名無し:2009/02/03(火) 23:16:29 ID:4/sf7wy2
>>172
乙です!
おお凄い…
177創る名無しに見る名無し:2009/02/08(日) 08:43:26 ID:19VKAaBv
誰か続きを書いてくれ。
178 ◆rOyShl5gtc :2009/02/13(金) 22:29:50 ID:TsKJ3nGX
短い奴だけど書いてみたり。

◆     ◆

 ――音は全てを支配する。
    世界を、時間を、空白を。
     絶望を、支配を、感覚を。
      機会を、景色を、星々を。
       了解を、殺戮を、指先を。
        過去を、契機を、順番を。
         知識を、蒙昧を、恋愛を。
          人間を、人間を、人間を。
           曲がることなく、支配する――

◆     ◆

 そして。
 そして、その部屋に余韻だけが残った。
 ついさっきまで演奏されていた、音楽の残滓だ。
 文字通り鼓膜を太鼓にするような、つまり耳の中で演奏された様な、そんな錯覚さえ抱いてしまう音楽である。
 びりびり、とは違う。
 ぶるぶる、とも違う。
 強いていうならば、いんいん、と。または深々と、といった具合にその音楽は演奏されていた。
 だがそれはもう無い。
 無いのである。
 終わったのだ。
 後に残されたのは、僅かばかりにそれを匂わせる余韻だけだった。
 余韻だけが、その部屋に響いている。
 いんいん、と。
 深々、と。
 だが、あるいは、もしこの場面に、たった今に聴衆が来たと仮定するのならば、その人々はこう言うだろう。
 ――余韻? 冗談じゃない、これが演奏なんだろう?
 そんな風に言うに違いない。
 そんな風に言わせるに違いない。
 この余韻は。
 ひょっとしたら、本演奏を聴いていた人間でさえも、まだ演奏の最中なんじゃないか、と思わせてしまうに違いない。
 それだけ、それだけこの余韻は、
「悪くない」
 そう、悪くない。
 響く感じが。
 浸透する感じが。
 まるで体が水を吸うスポンジになった様な気がして。
 心や感情の波が凪いでいく。
 意思が平静になっていく。
 これが音楽の醍醐味か。
 心に作用するそれ。
 だから。
 だから。
 そう、本当に、
「――悪くない」
 これを再び行う事が出来たのならば。
 これを再び感じる事が出来たのならば。
 零崎一賊の一人であり、また三天王の一角。
 『少女趣味』、そう呼ばれた少女限定の殺人鬼。
 つまりはこの零崎曲識――生き返るのも、そう悪くない。
 女性を思わせるウェーブのかかった長髪が、背中と前後になって、腰掛ける椅子の背もたれを挟んでいる。普段着にして戦闘服でもある燕尾服は皺一つない。日常的に着ていれば自然と身に付く座り方だった。
 仰向けになる様にして、端正な顔立ちが、その一室の天井を見上げている。
 曲識は喋らない。
 余韻は響いている。
 それが終わるのを待っているのか。
179ボトルキープの再開 ◆rOyShl5gtc :2009/02/13(金) 22:30:55 ID:TsKJ3nGX
 曲識は喋らない。
 事実、彼の薄い唇が開いたのは、余韻が終わって数秒後だった。
 「殺し合い」
 零崎曲識という人間は、否、殺人鬼は音使いである。
 それも催眠効果も衝撃波も、時と場合によっては楽器を武器にする事も出来る、音を使ったプレイヤーとしては異常と言っても良い実力の持ち主である。
 だからこそ、その美声は、武器として磨き上げられたものなのだ。
 声である以上、さっきまで演奏されていた音楽ほどではない。しかしそれでも、聴いてしまえば聞き惚れる、聴き続ければうっとりしてしまう、それこそ楽器と呼ぶに値する音色なのである。
「バトルロワイアル、総当たり戦、虐殺、謀略、謀殺、裏切りと友情……それが、僕に押し付けられた現状」
 つらつらと、美声に似合わぬ殺伐とした単語を並べる曲識であった。
「だが零崎一賊である僕にとってそれは元より日常的なものであり、それを押し付けられたのだと言っても、悪くない」
 だからそれは気にならない。
 気になる事は別にあるのだ。
 曲識がらしくもなく取り乱し、今の今まで鎮静効果の音楽で感情を抑えた、それだけの事実がある。
 まず第一に、
「どうして僕はここにいるのだろう」
 敢えてここで注意させて頂きたい事であるが、まかり間違ってもこの言葉は、彼が殺し合いの場にいる事に困惑しているのではない。これまでの彼の挙動と地の文を読めば、賢明な読者諸君は言うまでもないだろう。
 だからこれは、どうして自分が生きてこの場にいるのだろうか、という意味なのだ。
「僕は確かに死んだ」
 覚えている。
 忘れる筈が無い。
 死んだ瞬間だから、なんて安っぽい理由じゃない。
 死ぬ寸前に彼女が現れてくれたからだ。
 そんな彼女が自分を殺してくれたからだ。
 赤過ぎるほどに赤い彼女が。
 《人類最強》
 哀川潤。
 彼女が、殺してくれたから。
 だというのに。
 どうして。
 どうして。
 ああそうだとも、どうして、
「どうして僕は……生きてしまっている?」
 あそこで死んだから。
 あそこで死ねたから。
 だから僕は。
 だからこそ僕が――零崎曲識だというのに!
「……………………」
 心当たりは、ある。
 どうして自分が生きているのか、その心当たりが。
 その言葉を真に受けるなら、だが。
 死んでも生き返らせる事が出来ると言った、その言葉を真に受けるなら。
 あいつの言った事を信じるのだとしたら、だが、曲識はとある理由によって信じる事にしている。
 故に、こう言える。
 それが出来る存在を一人だけ知っている、と。
「水倉神檎」
 あの光だらけの部屋で、何十人も集められた部屋で、魔法なる力で自分達の身動きを封じて、影谷蛇之なる人間の口を借りて自分達に殺し合いを押し付けた――およそ人と思えぬ、何か。
 殺す事も。
 生かす事も。
 生き返らせる事も。
 出来ると言った何か。
 曲識も暴力の世界に身を置いて長いが、水倉神檎という名前は過分にして聞いた事が無い。だがそれでも曲識は彼の言った事を信じている。
 それは、あの時聞いた水倉神檎の声にそれだけの力を感じたから。
 ではない。
180ボトルキープの再開 ◆rOyShl5gtc :2009/02/13(金) 22:32:35 ID:TsKJ3nGX
「アスと……レンがいた」
 あの部屋にいた人間は、どうやら面識のある者同士である程度まとめられていたらしい。見せしめの様に殺された奇抜な衣装の集団、彼等と同じ様に、自分の周囲には同じ集団に属する者達が立っていた。
 それがアス、『愚神崇拝』ことシームレスバイアスと呼ばれる零崎軋識である。
 それがレン、『自殺志願』ことマインドレンデルと呼ばれる零崎双識である。
 二人は、『少女趣味』ことボトルキープとしてトキと呼ばれる自分も含め、零崎三天王と呼ばれるプレイヤーである。また血ならぬ流血を分けた『家賊』であり、他の零崎と一線を引く本当の意味で家族だった。
 そんな二人が、あの部屋にいたのだ。
 軋識は、まあ良い。
 彼は曲識が死なせない為に逃がしたのだ。その代わりに曲識は死んだが、哀川潤と再会出来たのだからそれは悪くない。彼があの部屋にいたのは、逃げた後に水倉神檎に捕まったとも考えられる。
 問題は、双識が生きてあの場所にいた事だ。
「僕はお前が死んだと思っていたよ」
 橙色の暴力。
 軋識がそう称した、まるで哀川潤のようなそれに、零崎一賊の殆どが殺された。それから逃がす為に自分は戦い、軋識を逃がした。
 だがその時、双識は現れなかった。
 零崎一賊の長男、実質的なリーダー、零崎で唯一『人間としての名前』を持たない、最も零崎という家賊を愛する男。そんな男が『橙色の暴力』の時には現れなかった。
 だから曲識は、あれが現れる以前にどこかで死んだのだと思ったし、軋識もそう思っていたらしかった。
「けれども、生きていた」
 零崎双識は生きていた。
 生きてあの部屋にいた。
 もしも水倉神檎が人を生き返らせられないなら、双識は生きていたにも関わらず、零崎一賊の危機に現れなかったという事になる。家賊の危機に何も行動しなかったという事になる。
 零崎双識という、あの男が。
 それは認められない事で。
 同時に有り得ない事だった。
 だから曲識は、自分がこうして生きている事と合わせ、それらを理由にして水倉神檎の言葉を信じている。
 水倉神檎。
 奴には、人を生かすも殺すも、生き返らすも出来るのである、と。
 そして、それ故に曲識は遂行すべき目的が生じるのであった。
「レンとアスが死ぬとは思わない」
 だが、
「だからと言って彼等の危機を放置するほど……僕の性根は、悪くない」
 ランドセルランドの時の様に。
 双識が匂宮の分家に狙われた、時の様に。
 たとえ家賊の安全を確信していたとしても、その危機を放置するほど曲識の心は――鬼ではない。
 それに、まだあるのだ。
 曲識には、もう一つやりたい事がある。
 第二の、または、第一の目標が。
「……彼女が」
 いたんだ。
「彼女が」
 あの部屋に。
「哀川潤」
 見たんだ。
 双識や軋識ほど近くはない、だが確かに、彼女の姿を見たのだ。
 自分を殺してくれた、大人になった彼女の姿を。
 《人類最強》、その赤過ぎるほどに赤い赤を。
「……彼女も、この殺し合いに」
 巻き込まれているのだろう。あの場所にいたという事は。
 彼女が死ぬ、その未来は、双識や軋識以上に想像出来ないものだ。勿論、だからと言って彼女の危機を見過ごすつもりはないが。
 だからこその、もう一つの目的だ。
「会いたい」
 哀川潤と、再会する。
 双識と軋識、それに加えて彼女も探す。
 それこそが。
 生き返ってしまった。
 自分に出来る事、するべき事、だ。
181ボトルキープの再開 ◆rOyShl5gtc :2009/02/13(金) 22:34:08 ID:TsKJ3nGX
「哀川潤」
 再び曲識は呟く。
 哀川潤。
 哀川潤。
 哀川潤。
 哀川潤!
 《人類最強》、そう呼ばれる彼女だが、だが曲識が始めたあった時はまだそう呼ばれていなかった。それどころか、自分の名前すらも持っていないようですらあった。
 しかし、後に彼女が《人類最強》哀川潤という名前を手に入れた、それを知った時。
 ああ、そうだろうな。
 彼女ならそれもありだろう。
 そう思った。
 そう思えるだけの少女だった。
 それでこそが、
「哀川潤」
 だから曲識は、少女しか殺さない事を決意した。
 彼女を。
 彼女の鮮烈な赤を。
 自分の深い所に刻んだから。
 零崎一賊唯一の菜食主義者、『逃げの曲識』、《少女趣味》。
 どう呼ばれようと気にならなかった。
「そうだとも」
 僕が生きているのなら。
 君が生きているのなら。
 僕と君が、離れ離れなら。
 ああ、そうだとも。
「《少女趣味》に戻るのも――悪くない」
 僕か。
 君か。
 死が二人を分つまで。
 少女だけを殺すのも悪くない。
「レン。アス。哀川潤」
 君達を探す。
 彼等と合流する。
 彼女と、再会する。
 それこそが曲識という生き返った殺人鬼の目的――!
 ああ本当に、
「――悪くない!」
 だから曲識は出発する事にした。
 だから動き出す事にした。
 だから席を立った。
 だから。
 だから。
 だから。
 だからだからだから、だからこそ――このピアノバー・クラッシュクラシックを出ていく事にした。
「やはりこれも……水倉神檎の力と納得するべきなのだろうな」
 曲識が音楽家として手に入れた、念願の居城。
 そして今、あの光だらけの部屋から送られた先でもあった。
 視界の先にあるドア、その向こう側がクラッシュ・クラシックのあるあの街だとは思っていない。人間を蘇生したり瞬間移動させたり出来る存在だ、建物をまるごと別の場所に移す事ぐらい出来るのだろう。
 人が生き返るのも、瞬間移動されるのも、自分の居城が何故かここにあるのも、全てが異常事態だ。
「しかし僕は……返す返すも零崎だ」
 殺し合いは日常。
 殺人は本能。
 人を見たら殺そうと思え。
 押し付けであっても悪くはない。
 曲識は席を立ち、視界の先にあるクラッシュ・クラシックのドアへと歩み寄っていく。
 先ほどまで使用していたグランドピアノ、鍵盤を隠す蓋の下ろされた巨大な黒い塊を背後にして、席を立ったのだ。
 革靴の固い足音が連発する中、ふと曲識は思う。
「……そういえば、人識はいるのだろうか」
182ボトルキープの再開 ◆rOyShl5gtc :2009/02/13(金) 22:37:10 ID:TsKJ3nGX
 それは自分と同様に零崎に属する殺人鬼、しかし曲識達とは一線を画する少年だった。顔の半分に入れ墨を入れ、髪をまだら模様に染めた風貌。双識が弟としてやたら構うので、曲識は彼と付き合いがあった。
「僕がいて、レンがいて、アスがいて、哀川潤もいて……ならば人識がいても悪くはない」
 あの部屋にいた時は魔法なる力で身動きを封じられていたため、誰がいたのかまでは正確に把握しているわけではない。ただ、偶然なのか図られたのか、三人は見えたが人識の姿は確認出来なかった。
 だから、ひょっとしたら人識がいるかもな、とは思う。
「いるのなら、助けてやるのも悪くない」
 曲識にとって、家賊として適用されるのは双識と軋識だけで、人識はそれほどの重要人物ではない。
 ただだからと言って見捨てるほどの間柄ではないし、死ねば双識も何か思うだろう。ならば、いるという確証があった上で余裕があるならば、ついでに助けてやるのも悪くない。
「最後に見た……あいつの変わり様にも思う所があるしな」
 と、言った言葉が反響して顔面に返ってきた。
 元々大して長くもない道のりだ、曲識の目の前にクラッシュ・クラシックのドアがある。考えている間に到達したらしい。
「この向こうが、殺し会いの場か」
 あの部屋にいた人間、正確には把握出来ないが、およそで50人前後といったところだろうか。
 見せしめに殺された奇抜な格好の集団、忍者であるらしい彼等の生き残りもそれなりに出来るプレイヤーに見えたし、加えてここには零崎一賊三天王が勢揃いしている。
 水倉神檎は制限や支給品があると言ったが、その程度で覆るなら世界は4つに分かれない、曲識はそう思う。
「誰も死ななければ皆殺し、か。だからと言って僕は主義を曲げるつもりは無いが……まあ、もう誰かが死んでいても可笑しくはないだろうな」
 ただまあ、
「念の為……少女がいたら一人ぐらい殺しておくとしよう」
 うん。
「零崎を始めるのも、悪くない」
 そして。
 零崎曲識という名の、『少女趣味』と呼ばれるその殺人鬼は。
 ピアノバー・クラッシュクラシックのドアノブを握り、その扉を開いた。

 ――その向こうに誰がいるのか、それは定かではない。




【1日目 深夜 H-6 ピアノバー・クラッシュクラシックの中】

【零崎曲識@零崎一賊シリーズ】
[状態]健康
[装備]無し
[道具]支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本 他の零崎一賊と合流する、哀川潤と再会する
 1 とりあえず双識と軋識を探す
 2 出来る限り哀川潤と再会したい
 3 人識がいる場合、余裕があれば合流する
*哀川潤と再会(または自分か彼女が死亡)するまで、少女しか殺さない決意をしています。少女の定義は後の書き手さんに任せます
*自分や零崎双識は水倉神檎に蘇生されたものと考えています
*零崎人識がいる事を知りませんが、参加している可能性はある、とは思っています
183 ◆rOyShl5gtc :2009/02/13(金) 22:41:21 ID:TsKJ3nGX
投下終了。

昨今寝不足気味につき、何か失敗があったら申し訳ない限り。
めいろマイマイコンビが辿り着いたクラッシュ・クラシック、その扉一枚挟んだ先には少女限定殺人鬼がいた! とかだったら面白いかも、と思って書いたもの。
別にこれらが同時刻じゃなくてもいいですけどね。行き違いとか。

……次回は『最悪』な人の話を書きたいな、とか思います。
184創る名無しに見る名無し:2009/02/13(金) 22:45:25 ID:ol0Wx9jI
おおおお、超GJ!
スタンスと言い、思考と言い、間違うことないや!
185創る名無しに見る名無し:2009/02/14(土) 00:08:30 ID:Z1MmWnvs
GJ!
それっぽくてびっくりです。次回も楽しみにしています。
186創る名無しに見る名無し:2009/02/14(土) 04:48:40 ID:MXbvi4f4
いかにも西尾維新っぽいなー
187創る名無しに見る名無し:2009/02/15(日) 23:40:32 ID:aUcLyqnL
いいとは思うのですが一点だけ質問。
出だしのところで「支配する」の目的語の一つにも「支配」が入っているのは
それでいいのでしょうか?
支配を支配するというのは少なくとも私には違和感の拭えない表現なのですが。
訂正を求めるつもりはありませんが、気になったので。
188創る名無しに見る名無し:2009/02/16(月) 00:32:24 ID:LJg6b2+m
それよか、ボトルキープ→ボルトキープじゃないだろうか……ボトルキープだとトキになんないよー

ググったらボトルキープって名前のお酒があったから、間違うのも無理はないけど。
189創る名無しに見る名無し:2009/02/16(月) 00:59:22 ID:wAG22pt2
>ボトルキープって名前のお酒
ダウト

ボトルキープって余り知られてないのかね?
ボトルキープ (和製語bottle keep)酒場で、瓶で注文した酒を、来店時ごとに飲めるよう店に保管しておいてもらうこと。
by 広辞苑
190 ◆rOyShl5gtc :2009/02/16(月) 07:15:40 ID:URxyGn65
申し訳ない。どちらも手前の一方的な誤記です。
……というか、今までずっと『ボトルキープ』だと思ってました。自分、ずっと誤読してたんだ……。
191創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 02:44:51 ID:lzHJ8zkW
外部の人間だけど本編だけまとめておいた。
これ以上はめんどくさいからやらん。
こういうのはちゃんと自分達でやらないと厳しいぞ。

あと「しかつもんだい編」は分割しなきゃ駄目だったから収録してない。
192 ◆rOyShl5gtc :2009/02/18(水) 09:34:20 ID:YsRcz5uN
まとめwikiを整理して頂き、ありがとうございます。
整理して頂いた項目を参考にして、これより作っていきたいと思います。
193創る名無しに見る名無し:2009/02/21(土) 01:14:14 ID:t1BsTvFO
ラノベロワでいーちゃんのSSを書きたかったけど、
ネタが無くていぬかみメンバーのSSを書いちゃった俺が参上

どうしようもないとき、つなぎのSSをか・・・きたいな(あくまで希望

へっ、未熟さがイヤになるぜ。
とりあえず、西尾維新は大スキーなので読み手になるよ
194創る名無しに見る名無し:2009/02/21(土) 14:50:41 ID:qvpx7bne
>>193
いつでも書いてくれ
195創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 22:54:54 ID:gyOaBETE
私はどうしたら・・・・・・

彼女の姿は上半身を覆い隠すようなサイズの、薄手の長袖を着ていて、ズボンもかなりダボダボだ。
色はピンク。外出着にしては派手な彩色の服を着ている。

確実にこの場には阿良々君がいる。先ほどの場所で声を上げていたのを耳で確認した、目でも確認した。
こんな殺しを強要された場所で殺し合いが始まらないわけがない。
そしたら阿良々君が殺されてしまうかもしれない。あの阿良々君のことだ、自分から誰かを守るために犠牲になっても良いとするだろう。
196創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 22:55:36 ID:gyOaBETE
阿良々君がしぬ?阿良々君が―――しぬ
「いやだ!それだけは嫌だ。私はしんでもいい、だけど阿良々君が、阿良々君がしぬのだけは・・・・・・やだ」
はぁはぁ。
でもどうしたら―――阿良々君のために誰かを殺す。
そんな考えが脳裏をよぎる。
でもそんなこと許されることじゃない。それに阿良々君が許すとも思えない。いや絶対許さない。
でも阿良々君がしぬのだけは避けたい。

そして彼女の脳裏に
(ご主人俺に任せてくれてもいいんだにゃー)
こんな声が聞こえた気がした。

もしもあの子に任せてしまえばどれだけ楽だろうか―――いやだめだ。そうだめなんだ。頑張れ私、どうにか打開策を練らなくちゃ。
197創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 22:56:23 ID:gyOaBETE
「まずは支給品の確認をしなくちゃ」
彼女がまず見たものは刀それには丁寧に説明書がついていた。


斬刀『鈍』(ザントウ・ナマクラ)
『切れ味』に主眼を置いた四季崎記紀が作った完成形変体刀十二本の一つ。あらゆるものを抵抗なく一刀両断できる。

こんな刀があるなんて、でも先の場所では『魔法』なんていうものもあるようなことにもなっていたし、
怪異の存在を知っている私にとってはいまさら驚くことは少ないわね。

この刀が当たりの支給品であることを期待しつつ、その刀身をながめていた彼女は突然話しかけられた。そして彼の『目』をみた。
198創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 22:56:47 ID:gyOaBETE
「ふふふ・・・・・・世界の終わりをみるために」
しかし、操想術がかかりにくかったことを考えると、もしかしたら制限でも受けているのか。
だがこの場には面白い力を持つ者も多い、あの人類最終、橙なる朱、代替なる種を超える存在がいるかもしれない。
その力ならば、世界の終わりも見ることが叶うだろう。


その男、呪い名六名の一つ序列第一位、『恐怖』を司る操想術専門集団《時宮》からも追放された存在、時宮時刻である。

【1日目 深夜 G-8 】

【時宮時刻@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備]無し
[道具]支給品一式、ランダム支給品1〜3
[思考]
基本 世界の終わりを見る 
1 操想術をつかい殺し合いを促進させ世界を終わらせることが出来る者を探す
199創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 22:57:25 ID:gyOaBETE
「ふん、『――殺しあえ。殺し合いに乗らなければ……24時間後に皆殺し、だ』か」

そもそも支給品にこんな玩具が存在するとはな。

彼、《人類最悪》の遊び人である、西東天が横に連れるのは、
彼の支給品でもあり、玩具とも称した人形である。
その人形は、微刀『釵』(ビトウ・カンザシ)
『人間らしさ』に主眼が置かれた、四季崎記紀が作った完成形変体刀十二本の一つ。
どう言ったとしても刀とはいえない、からくり人形である。


「ぷに子には遠く及ばない作品だな。
四季崎記紀とやらは、こんな明らかに刀ではないロボを刀と表現するおかしなやつだったらしいな」

狐の面を被った男、人類最悪はこの殺し合いに巻き込まれても平然に悠々と歩いている。
200創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 22:58:24 ID:gyOaBETE
彼は地図にある自分の元研究所に向かう途中であった。
そんな彼と日和号は、道の先に人を確認した。

その彼女は彼に背を向けひどく震えており、なにやらつぶやいている。

「ふん、殺し合いを強要されて狂ったか」女に近づきながら話しかける。

その時彼女はディパックから一本の刀を取り出し切りつけてきた。
その斬撃は女性のそれにしては早く、鋭かった。
もしも彼が普通の人間だったらこの攻撃により命を絶っていたかもしれない。しかし彼は普通の人間ではなかった。

彼は、おっちょこちょいスキルを持ち合わせていたのだ。

彼女の斬撃を地面にあった小石に躓くことで避けたのだ。
そのことによって彼女もバランス失った。
その瞬間日和号が、彼女から刀を奪い、さらに拘束した。
日和号の四本の腕と脚からすればそれらを同時にこなすのは簡単なものであった。

人類最悪が立ち上がり着物についた汚れを手で取り除きにやりとわらった。

「おいおい、お前その頭はなんだ、おい。少し待て落ち着かせろ。ふぅー。
ちょっと、質問させてもらう。お前の頭・・・まあ、なんだ。・・・・・・猫耳は本物か」

女はその質問に驚きの表情を隠さずにいられない様子で、同時に顔を赤らめた。
「くそ、くそ、くそ。何で、殺さない。生きる気がないなら殺されなさい。
ふざけるなっ。ふざけるな。こんなことしている間に阿良々君が、阿良々君がしんじゃったらどうするんだ」

「ふん『何で、殺さない。生きる気がないなら殺されなさい。ふざけるなっ。ふざけるな。』か。
何も俺はふざけてなどいない。ただ俺は人類最悪の遊び人だからな、あの水倉林檎というやつの言いなりになる気はしないし。
俺は違う遊びをしていたのに、こんな興ざめな遊びにつき合わされていて迷惑しているだけだ。
それにその阿良々君とやらがしんだとすれば時間収斂、バックノズルだ。
今起きなくても、起こるべき事は絶対に起きることであり、それはどうしても避けようがないんだ。
そんなことよりもお前の頭の耳、猫耳は本物なのか」
201創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 22:58:50 ID:gyOaBETE
「だからふざけるなっ。なんだそれ」
あれ涙が流れる。なんで私は泣いているの。
というより、なんで私がこの人を殺そうとしたんだろう。さっきあった人の目を見てからの記憶が曖昧としている。
「この耳は本物よ。これが私の抱える怪異、障り猫」

「おいおい、そもそも怪異ってなんだ。
まぁそんなことより、本物だったのか、その猫耳は。
俺は始めてみたぞ猫耳。この遊びも捨てたもんじゃなかったみたいだな」


女にはこの男こそ狂っているようにしか思えなかった。
「あなたはこの殺し合いに乗っているのですか。何か目的は」
なぜかこの人といると落ち着く。いつもの自分に戻っていく。まるでこの狐面の男に惹かれていくようだ。

「ふん『何か目的は』か。実は俺何も考えてないんだ。
まあ十三階段を再結成するのもいいかもな」
さらりと狐面の男は言う。
「もしもアララギ君とやらを助けたかったら俺についてこないか。
その眼鏡は――――いい眼鏡だ。
俺と来たら――――気持ちいいぜ」


だめだ。私はどうしてもこの人に惹かれる。もしかしたらこの人についていったら狂ってしまうかもしれない。
しかし
「はい。私羽川翼はあなたについていきます。あなたの名前はなんというのですか」
私はそう言った。


「西東天
俺の名前だ――脳に刻んで記憶しろ
あとその恥ずかしいパジャマ姿を着替えなくてはな」
202創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 22:59:28 ID:gyOaBETE
【1日目 深夜 G-8 】

【西東天@戯言シリーズ】
[状態]健康
[装備] 微刀『釵』
[道具]支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本 遊ぶ
1 十三階段再結成
2 西東診療所にいく
3 羽川翼をパジャマから着替えさせる

※微刀『釵』は支給者の言うことを聞きます。

【羽川翼@化語シリーズ】
[状態]健康 精神的に不安定 
何かしらの操想術がかけられているかもしれません
[装備] 斬刀『鈍』
[道具]支給品一式、ランダム支給品1〜2
[思考]
基本 阿良々君を助ける
1 西東天についていく
2 パジャマから着替える

※羽川はまだ猫耳しか出てませんが、何かのきっかけで完全にブラック羽川になるかもしれません

203創る名無しに見る名無し:2009/02/26(木) 23:01:24 ID:gyOaBETE
投下終了です。
題名は『たかしフォックス』です。
204創る名無しに見る名無し:2009/02/27(金) 03:01:30 ID:YCcWTwIq
投下乙です!
おー、人類最悪が来たか…と思ったら支給品それかいw
原作でも扱いが散々な、いやでもある種突き抜けててカッコいいような時刻さんは、
果たして本領発揮できるんだろうか…とか心配になりましたがw
205創る名無しに見る名無し:2009/02/27(金) 17:35:54 ID:WY0iZlS6
乙!
狐さんものっそい遊んでんなw
206創る名無しに見る名無し:2009/02/28(土) 00:09:55 ID:3xwEVCo7
乙です!
207 ◆iTZECfXJ4g :2009/02/28(土) 01:12:06 ID:3xwEVCo7
ボルトキープさんのに触発されて双識兄さん書いてて、今書き上がりましたので投下します。
一応トリップもつけます。

……あ、その前に。
私は人識&友書いた者なのですが、>>1など見る限り、人識は「@人間シリーズ」に分類したほうが良さそうだと思いました。
指摘はなかったのですが、一応訂正しておきます。

では、双識+α投下します。
文体真似ようとして失敗した感じですが、許してください。
208試験開始 ◆iTZECfXJ4g :2009/02/28(土) 01:15:28 ID:3xwEVCo7
「“悪”――だね」

 深夜の、市街地。
 一つの建物の壁を背にして、零崎双識は呟いた。
 似合わない背広に針金細工のような体躯を包み、似合わない銀縁眼鏡を装着し、似合わないオールバックにした髪を風に揺らしながら、零崎双識は呟いた。
「人を集めて殺し合いをさせる――まごうことなく、悪そのものだ。あの影谷……だったかな? あの男も死んでしかるべき『不合格』だったが、水倉神檎とやらもだね。こんなことを考える云々以前に、あんなに可愛い家族を大切にしない人間は『不合格』だ。
 あの女の子……赤、赤か。ひょっとして《死色の真紅》、彼女もどこかにいたりするのかな? だとしたら是非お目にかかりたいものだね。うふふ。
 ああ、でもそれより優先すべきものはたくさんある。うふ、感じる感じる、これは家賊がいるな。参ったね、私は平和主義者だからいいものの、他の零崎一賊なんて何をするか分かったものじゃない。
 勿論皆は好きに行動すればいいんだけどね、私はどうしようかな? 私の可愛い家賊の中で、一体誰がここに連れてこられたのやら。私としたことが、あの状況とはいえ、家賊を一人も見つけられなかったなんてね。うふふ、妹がいればいいんだけど。
 ……それにしても」
 長い独り言をぷつり、と止めて、双識は首を傾げる。
 顎に手を当て、心底不思議そうな表情で、自分に向かって語りかける。
「一体どうして、私は生きているんだろう?」
 それは奇しくも、同じ時刻に別の場所で、同じ一賊の別の人物が呟いた言葉と酷似していた。
 零崎双識は夏の前、死んだはずだった。
 殺し屋に刺されて。
 内蔵を貫かれて。
 可愛い弟の傍で。
 可愛い妹の傍で。
 最悪で最善の死を迎えた。
 偶発的で必然的な死を迎えた。
 当然に完全に双識は死んだ。
 零崎双識は、確かに死んだ。
 双識は、それを覚えていた。
「うーん……生き返った? あながちそういうのも、ナシではなさそうだよね。わざわざ殺し合いを演じさせるために生き返らせるなんて、ご苦労なことだ。まあ今の所どうでもいいか」
 自身の生存に関する疑問を、双識はあっさり投げた。
 しかしそれは、けして彼が浅慮だということを示すものではない。単なる、優先順位の問題だ。
 殺し合いの場に送りこまれたらしい家族のこと。
 死んだはずの自分が生きていること。
 どちらがより大切か、双識にとっては明確過ぎるほど明確だ。もとより彼には、家族のこと以上に大切な思考などありはしないのだ。
「別に、放っておいてもいいだろうけど……」
 双識は、家賊のことをほとんど心配していない。
 零崎一賊、《殺人鬼》。
 双識が誰より信頼する家賊は、何より愛する家賊は、こんな状況に放りこまれたからといって命を奪われるような集団ではない。
 だが。
 この状況が酷く異常であること。そして長引き消耗戦となれば、一賊の誰もにとって不利であること。
 そのことも、双識は同時に理解している。
「……ここは素直に、探しに行こうかな。人識君か伊織ちゃんか……どちらかがちゃんと《自殺志願》を持っているのかな? 伊織ちゃんのほうが可能性は高そうだけど。アスやトキがいたら、面白いことになりそうだ」
209試験開始 ◆iTZECfXJ4g :2009/02/28(土) 01:18:57 ID:3xwEVCo7
 うふふ、と。
 双識が笑い、
 建物から背を離し、
 家族の居場所を教える勘に従って歩き出そうとした、
 その時。
 ――それは、殺気だった。
 殺意、あるいは戦意を明確に持つ気配だった。
 それを感じた、と意識する前に、既に双識は振り向いている。
「……おや?」
 横手の細道。
 刺すような殺気に反したふらりとした足取りで、ぼんやりとした表情で、一人の少女が、現れた。
「……ゆらぁりぃ」
 髪は、散切り。ぼろぼろに切り裂かれた、セーラー服。その制服が見覚えのあるものであることに、双識は気づいている。
「ゆらり……ゆらり」
 手はなぜか、後ろ手。
 そして彼女は右足首のやや上に、タイツの上から刃物で切ったような浅い傷を負っていた。乾き始めて間もないことが容易に分かるその傷は、生々しい傷口を晒している。
 しかし、それ以外には何の外傷もない。
「その怪我はどうしたんだい?」
 ゆらゆらと揺れていた少女が、止まる。
「……ぴたり」
 一瞬の、静寂。
 双識と少女は、向き合う。
「……一応、自己紹介、しておきます」
 先に億劫そうに口を開いたのは、少女だった。
 双識の質問は綺麗に無視された。
「あたし、西条玉藻ちゃん……です。人がいたから、来てみたんですけどぉ……今回って、ずたずたにして、いいんでしたっけ……?」
 物騒なことを、少女――玉藻はさらりと口にする。
 その物騒なことを簡単にやってしまいそうな雰囲気を、彼女は持っていた。
 それは一歩別のほうへ踏み出せば。
 零崎に為っていても、おかしくないような。
「何にも命令、ないってことは……好きにし」
 玉藻はそこで一旦、「ゆらり」と呟いて休憩を挟む。喋るのは苦手らしかった。
「てもいいのかな。じゃあ……玉藻ちゃん、行きまあ」
「いやいやいや、ちょっと待った」
 そのままストレートに不穏な結論へ至りそうだったので、双識は口を挟む。
 その辺りこそ、彼が変わり者と言われる所以だろう。双識は、自称白い鳩のような平和主義者なのである。基本的には。
「……なんですかあ?」
 玉藻の胡乱そうな声を浴びつつ、双識はやれやれと首を横に振った。
「全く……それが悪いと言うつもりはないけど、同じ女子校生とはいっても、子荻ちゃんとは全然タイプが違うな。君もその制服を着ているなら知っているんじゃないかな? 萩原子荻ちゃんのことだよ」
「……しおぎ、せんぱい」
「今何年生だったかな。私は結構仲が良かったんだよ、うふふ」
210試験開始 ◆iTZECfXJ4g :2009/02/28(土) 01:19:54 ID:3xwEVCo7
 玉藻のぼやりとした目が、宙に止まる。停止。何か思い出そうとしている、ならいいのだが、表情からは何も読みとることができない。
 一方で双識は、あの髪の綺麗な《策師》の少女を思い出していた。
 常に別の場所、一つ上の場所に立っているかのような。
 僅かばかり弟に似ている気もする、少女。
 こんな状況にも関わらず、双識は思わず笑みを浮かべた。
 やがて、玉藻の身体が再びふらりと揺れる。
「ええと……あなたは、先輩の、知り合いで」
「そうそう」
「あたしは、邪魔、先輩の……悪いことの邪魔、しちゃ駄目で」
「悪いことねえ。まあ、悪いといえばそうなんだろうね」
「子荻先輩はあ……あんまり、教えてくれないから……関係者は、駄目なんだっけ……」
 首を傾げて、「ゆらあり」と玉藻は呟く。
「あなたは子荻先輩の知り合い」
 戻った。
 だが――それでも、玉藻の中では答えが出たらしい。
 どこか残念そうに、彼女は身体を揺らす。
「……ゆらり。じゃあ、ずたずたにするのは、駄目……ぶーです。あたしもまだ、我慢できないってほどじゃ、ないですし……殺さないどいてあげます」
 それは。
 本当に、零崎であってもおかしくないような言葉だった。
 しかし双識は、彼女がけして「妹」にはならないであろうことも、なぜか察していた。
 ゆらぁりぃ、と。
 玉藻は何の躊躇もなく双識に背を向けて、
「――待った、玉藻ちゃん」
 呼びとめたのは、双識だった。
 僅かに険しい顔をして、振り向く少女を見据える。
「……ちゃん付けで呼ばないでください……初対面ですよう」
「君、“それ”をどこで手に入れた?」
 今度は、玉藻の言葉を双識が無視する。
 先程とは全く逆のパターン。
 それほどに。
 双識にとって、それは重要な問いだったのだ。
 背を向けた西条玉藻が、後ろに回した両手に持っていたものは。
 一見してナイフのようなそれは。
 双識の愛用の武器――否、元愛用の武器《自殺志願》。
 それを、二つに分解したものだった。
 しかし双識の問いは、玉藻が自分の武器を持っていたために出たものではない。それは確かに重要ではあるが、その程度のことで、双識は深刻になったりはしない。
 玉藻が、“妹に渡したはずの武器”を持っていたからこそ――双識は尋ねたのだ。
 最悪の事態をも、想定して。
211試験開始 ◆iTZECfXJ4g :2009/02/28(土) 01:21:11 ID:3xwEVCo7
「これはあたしのとこにあったんだから……あたしのです」
 しかし玉藻から帰ってきた答えは、双識の不安をあっさりと打ち破った。
 そんな嘘をつくような少女ではないだろう、と双識は判断し、それを信じることにする。
「ちゃんと……き」
 更に言葉を続け、玉藻は休息。
 既に双識の危惧していた事は回避されていたのだが、一応彼は最後まで話を聞く。
「れるかだって……自分で、試したんです」
 それだけを言って。
 玉藻は、再び双識に背を向ける。
 その言葉の示す所に思い至ると、さすがに双識も驚きを禁じえなかった。ゆらゆらと歩み去る後ろ姿を見ながら、苦笑する。
 彼女は、試したのだ。
 《自殺志願》が武器として機能するかどうか――自分の足で。
 双識は理解する。
 玉藻が、“妹”にはならないだろうと思った訳を。
 彼女は飽く迄、戦う。戦うために、存在している。
 零崎一賊は殺人をする――《殺人鬼》
 西条玉藻は戦闘をする――《狂戦士》
 その違いは微細で、その違いは絶大だった。
 双識は殺人鬼である。
 マインドレンデル、《二十人目の地獄》などの異名を持つ零崎一賊の長兄であり、一賊屈指の実力者にして切り込み隊長だ。
 双識には、玉藻を殺して《自殺志願》を取り戻すという選択肢も確かに存在した。他の零崎一賊ならば、ほとんどの者はそうするだろう。
 しかし、双識はそれを選ばなかった。
 理由の一つには、察するに玉藻もかなりの戦闘能力の持ち主であり、殺し合いをすれば双識も痛手は避けられないだろうという予測がある。双識はこんな序盤から、怪我をするわけにはいかないのだ。
 そしてもう一つには、《策師》の少女の存在がある。
 双識は、見ていた。
 家族の誰をも視界に収めることはできなかったが、あの白い部屋で、双識は確かにあの髪の綺麗な少女を見つけていた。
 彼は、興味があったのだ。
 あの少女のフィールドに、この状況がどのように展開されるのか。彼女が何をして、何を成すのか。
 そして、家族に害が及ばない限り、彼女の邪魔をしたくはなかったのだ。《策師》と出会えさえすれば、玉藻はおそらく重要な一つのピースになるだろう。
「……うふふ。まあ、《自殺志願》を持たない方が強いと言われる私だ。寂しいが、しばらくは預けておこう」
 笑みを刻み、双識は呟く。
 遠ざかる玉藻を、見つめて。
 そしてふと、眉をしかめ、深刻な表情を浮かべた。
「それにしても……スパッツではなくタイツときたか。判定の難しい所だな」
 繰り返して言うが、零崎双識は殺人鬼である。
 マインドレンデル、《二十人目の地獄》などの異名を持つ零崎一賊の長兄であり、一賊屈指の実力者にして切り込み隊長だ。
212試験開始 ◆iTZECfXJ4g :2009/02/28(土) 01:24:32 ID:3xwEVCo7
【1日目 深夜 E-6から移動中】

【西条玉藻@戯言シリーズ】
[状態] 右足首付近に裂傷(軽傷)
[装備] 自殺志願(二つに分解)@人間シリーズ
[道具]なし
[思考]
基本 ゆらぁりぃ
 1 ずたずたにしたい……段々我慢できなくなるかも

*「クビツリハイスクール」以前です。
*西条玉藻のデイバッグ(装備を除き支給品が全て入っている)は、エリア内のどこかに放置されています。
213試験開始 ◆iTZECfXJ4g :2009/02/28(土) 01:26:15 ID:3xwEVCo7
***

 時間は少し、遡る。
 双識がしばらく背を預けていたまさにその建物。
 二階の窓から双識と玉藻の姿を覗く、一人の少女がいた。
 この二人に完全に悟られないでいることから、彼女もかなりの戦闘センスの持ち主であることが窺い知れる。
 その少女は、小学生と言っても通用しそうな幼い顔に、驚愕の表情を浮かべていた。
(……どうして、ですか)
 窓枠を掴む指は色を失い、
 見開いた目を外へ固定して。
(どうして……玉藻ちゃんが生きてるですか)
 ――その少女は二月ほど前、西条玉藻を殺していた。
 そっと、ジグザグに、殺していた。
 落とした玉藻の首を、彼女は確かめていた。
 それなのに、そんなことなどまるでなかったかのように、死んでなどいないかのように、玉藻は外に立っている。
 全く、変わらない様子で。
 言葉まで聞き取ることはできないが、確かに生きて、動いている。
(……おかしいです。ずっと、おかしいことばっかりです)
 少女は、耐え続ける。
 じっと、そこで耐え続ける。
 気配を消し、意識を絞る。
 息を潜め、口を噤む。
 やがて――西条玉藻が道の一方へ消え、針金細工のような男がもう一方へと消えた時、少女は深く、ため息をついた。
「やっと行ったですか……」
 うう、と大きく背伸びをして、少女は肩や首を回す。
 そして辺りを見まわす。
 特別な物は何も見当たらない、どこにでもありそうな小さなオフィスだ。
 少女の足元には、全開になったデイバッグとその中身がぶちまけられている。少女が意図的にやったわけではなく、たまたまそうなってしまっただけだ。
「まずは……糸を探さなくちゃですね。それがなきゃどうしょうもないです。家探しはちょっと気が引けるですけど、特急事態だと思って頑張るですよ」
 自分の気持ちを紛らわせるように、少女は声に出して行動を確かめる。
 彼女の語句の用い方の間違いを指摘してくれる人物も、周囲にはいない。
 少女は、《曲弦師》
 糸を自在に操る能力の持ち主だが、不幸にしてデイバッグには曲弦糸に代わりそうな物が入っていなかった。
 少女は、天井を仰ぐ。
「……師匠。潤さん」
 呟くのは、先程の部屋で目にした、二人の知人の名だ。
 やがて振り払うように首を左右に振り、少女は動き始める。
 動き始めながら、呟く。
「一人は……寂しいですよ……」

 ――ジグザグ、紫木一姫、行動開始。



【1日目 深夜 E-6】
【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)確認済
[思考]
基本 他人は信用せず、生き残る
 1 使えそうな糸を探す
 2 人殺しは厭わない
 3 可能なら師匠、潤さんと合流する

*「ヒトクイマジカル」直前です
*時間軸の交錯に感づいたかもしれません
214試験開始 ◆iTZECfXJ4g :2009/02/28(土) 01:27:05 ID:3xwEVCo7
***

 双識は、歩く。
 家族の気配に向かって。
 その足取りに、迷いはない。
「……うふふ」
 歩きながら、笑う。
 余裕の笑みを、浮かべる。
「私達は監視でもされているのかな? ちゃんと声が届いていないと、私はまぬけ以外の何者でもないんだけどなあ」
 針金細工のような細く長い輪郭の影が、月明かりに照らされ、道に伸びる。
「それでも、まあ……お約束だろうしね。締まりも悪い。実技試験はもうちょっと先になるだろうけど」
 双識は一際、笑みを深くした。
 そして一人、天を仰ぐ。


「――零崎を始めよう」



【1日目 深夜 E-6から移動中】
【零崎双識@人間シリーズ】
[状態] 健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 家族と行動を共にする
 1 家族の気配に向かって移動
 2 自分からは仕掛けないが、無論一賊に仇なす者は皆殺し
 3 水倉神檎を「一賊に仇なした者」として認識

*軋識(軋騎)のいる北、伊織のいる北東、人識・曲識のいる南、いずれかに向かっています。
215 ◆iTZECfXJ4g :2009/02/28(土) 01:28:48 ID:3xwEVCo7
以上です。
好きな子書き散らさせていただきました。
前述のようなミスをしている可能性もありますので、もし何か指摘がありましたら宜しくお願いします。
216創る名無しに見る名無し:2009/03/01(日) 10:27:27 ID:oqHh5iqH
これどういう状況?途中で打ち止め?
217創る名無しに見る名無し:2009/03/01(日) 10:29:19 ID:oqHh5iqH
これはどういう状況?途中で打ち止め?
218創る名無しに見る名無し:2009/03/08(日) 15:01:03 ID:4guKFTuG
すごく遅れましたが投下乙ですー
双識、玉藻、姫ちゃん……見事に危険人物しかいないw
というか下手したら現時点で対主催よりマーダーの方が多いんじゃないのか、このロワww
219 ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 21:50:20 ID:Ak/Z9hqZ
以前、子荻&奇野を書いたものです。もう一作完成したので早速投下します。
ではどうぞ。
220不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 21:52:16 ID:Ak/Z9hqZ

(1)

 櫃内夜月は怯えていた。
 何に対してといえば、闇に対して。
 暗影に対して、晦冥に対して。
 闇に潜む何かに対して、闇から響く何かに対して、闇で蠢く何かに対して、闇より漂う何かに対して。
 肩を震わせ、息を詰まらせ、
 櫃内夜月は恐怖していた。
 「うう、ううううう…うう」
 恐怖は呻きとなって口から漏れる。
 それでも闇はそこにある。
 それでも闇はそこにいる。
 体を縮め、両の手で方を強くかき抱くようにする夜月。全身の震えを抑えるように、内側からの恐怖に抗うように。
 何も見えない、何も見えない、何も見えない、何も見えない。
 何も聞こえない、何も聞こえない、何も聞こえない、何も聞こえない。
 頭の中で言葉を反芻する。
 何もいない、何もいない、何もいない、何もいない。
 何も――ない。
 だからこそ闇。
 何も見えないからこそ闇で、何も聞こえないからこそ闇で、何も蠢かないからこそ闇で、何も漂わないからこそ闇で。
 何もないからこそ恐怖で。
 「………っ!」
 両の目をきつく閉ざす。両の耳を手のひらで強く塞ぐ。
 それでも闇はそこにある。
 それでも闇はそこにいる。
 夜月は何かに問いかける。恐怖の理由を、己が内の恐怖を。
 当然、返る答えなどあるはずもなく。
 それこそ答えは闇の中、何もないはずの闇の中。
 「お兄ちゃん………」
 囁くようにつぶやいて、夜月は顔を上げる。
 「―――!」
 目の前に人が立っていた。
 眼前に照らされる懐中電灯の光。その向こうに見える小柄な人影。
 「―――ひ」
 不鮮明な人影、闇の中からの光、何もないはずの闇、不明な人影、不明確な光、何もない闇、影、光、闇。
 不明確な人影は、確かにそこに立っていた。
 闇が姿を現した。闇という恐怖が形を成した。
 その闇に対し、櫃内夜月は――――

221不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 21:53:45 ID:Ak/Z9hqZ
(2)

 匂宮出夢は困惑していた。
 何に対してかといえば、目の前の少女に対して。
 顔をうずめ、肩といわず全身を震わせながら嗚咽を漏らす目の前の少女に対して。
 「ううう…ううううう…うう」
 「………」
 嗚咽が響く。沈黙がそれに交差する。
 辺りは闇。沈み溶け込むような深い闇。月の灯りも、二人のすぐそばにある建物に遮られ、二人を照らすことはない。ただ地面に転がった懐中電灯の光だけが、その二人をうっすらと浮かび上がらせている。
 少女は建物の正面に腰掛けている。木造の、古めかしい荘厳な雰囲気の建物。その中へと上がるための階段の一段目に、少女は座り込み、嗚咽を漏らしている。
 そしてその正面、少女から数歩分離れた位置に立つ、小柄な人影。
 前をはだけた革ジャケットに、細い革パン。ヘアバンド代わりに前髪を上げている眼鏡。
 異様なほどに長い両腕。子供のように小柄な矮躯。
 沈黙のまま、目の前の少女をただ見据えて、匂宮出夢は立ち尽くしていた。
 「うう、うううう、ひっく、ううううう」
 「………」
 嗚咽が響く。沈黙がそれに交差する。
 時間にして、およそ十数分、この状況が継続されている。
 その間、出夢は何もしていなかった。否、何もしていないに等しい行動をとり続けていた。
 今現在も、である。
 おもむろに、出夢は腕を伸ばしかける。目の前の少女へと向けて。が、それはすぐに引っ込められ、その腕は取り繕うかのように身体のあちこちを動き回ったあげく、結局元の位置に戻ってきてしまう。
 上へ、下へ、上へ、下へ。
 ついで右足を、歩み寄ろうとするように前へ出す。が、その足はすぐに動きを止め、まごついたように数歩足踏みし、結局元の立ち位置へと戻ってきてしまう。
 前へ、後ろへ、前へ、後ろへ。
 ラジオ体操に見えるはずはもちろんない。
 あからさまに挙動が不審だった。
 あからさまな挙動不審だった。
 擬音で表現するなら、おろおろしていた。
 殺戮奇術集団、匂宮雑技団屈指の殺し屋、匂宮出夢は今、初対面の少女に対しおろおろしていた。
 「ひっく、うううううう、ぐす、ううううう」
 「………」
 まさしく時間を無駄にしたような状態。
 時間は止まらず、状況だけが停滞する。
 この地に、この場所に。
 三途神社に、嗚咽が響き、沈黙がそれに交差する。

222不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 21:56:00 ID:Ak/Z9hqZ

(3)

 櫃内夜月にとっての「スタート地点」が三途神社の境内だったことが偶然の結果であったかどうかは現時点において断言できるような根拠は何も無いが、
匂宮出夢がその三途神社へとたどり着いたのは、彼が行き先も決めず、あまつさえ地図を広げることさえせず適当に歩き回った結果であり、つまりは偶然の結果であると言える。
 この場所において繰り広げられた一連の経過にとって重要なのは、そこに関連した人物たち個々人の持つ特性つまりはパーソナルであり、場所がそれに与えた影響、場所の持つ重要性というのはこの場合においてはあまりない。
 しかし仮に、彼らが関連したことによって引き起こされたそのあまりにも作為的な何かを感じさせる結果が単なる偶然の結果ではなく、この非現実的な舞台を作成した人物により意図的にもたらされたものであったとするならば、
この三途神社という、神の名の下に造られし場が舞台に選ばれた事に対し、限りなく悪意に近い皮肉を孕んだ選択と言えるのではないかと邪推せざるを得ないのである。
 無論、それは想像の域を出ない話であって、既にその結果を見た後の彼らにとっては、それが偶然であれ必然であれ、全く意味も救いようも無い話であるのだけれども。
223不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 22:02:47 ID:Ak/Z9hqZ

(4)

 「もしもーし、大丈夫かー?」
 「………」
 「起きてますかー、聞こえてますかー、立てますかー」
 「………」
 「…無視ですかー」
 わずかに時をさかのぼり数十分前。
 この時、少女は顔を伏せ身体を微かに震わせてはいたもののまだ泣いてはいなかったし、出夢はまだ沈黙してはいなかった。代わりに少女の方が沈黙し、出夢の方はしきりに少女の様子を伺い、声をかけ続けていた。
 「具合でも悪いのかー? てか、こんなとこにいつまでもじっとしてたら風邪ひいちゃうぜー? おーい」
 「………」
 「なー、無視すんなよー。何か言ってくれよー。放置プレイって趣味じゃねえんだよー僕。何でもいいから相手してくれよー」
 「………」
 「しかもそんな怖がるなよなー。何か僕が脅しつけてるみたいじゃねーの。うわ傷つくわー。勘弁してくれよ。僕の半分は優しさでできてるってのが売りなんだからさー」
 「………」
 「なー、これじゃ僕が馬鹿みたいじゃないかよ。何か石像にでも話しかけてる気分なんだけど。君はブレイク? あるいはアストロン?」
 「………」
 「ほら、んなとこ座って恐い顔で睨みつけてないで――って本当に石像に話しかけてました! 君は狛犬! あるいはシーサー! なんつって! ぎゃははは!」
 「………」
 「………」
 うーん。
 何やってんだろうなあ、僕。
 出夢はぐしゃぐしゃと頭をかく。訳が分からないと言いたげに。
 少女に対し、出夢はずっと今のような感じで話しかけ続けている。まるで家族とはぐれた子供をなだめるような感じで、ずっと。
 目の前の少女に対しても、自分の行動に対しても、どうにも理解が行き届かない。
 自分のことなのによくわからない。
 そのことが出夢を困惑させ、そして苛立たせていた。
 匂宮出夢は自問する。
 出夢は、自分が今ここにいる理由をあまりよく理解していない。
 理解しようとしていない。
 自分が一度、確実に死んでしまっているはずだという事実に関しても、他の、同じ境遇の参加者のように考察を重ねるどころか、「不思議だなあ」の一言で理解を放棄してしまったくらいである。
 最初に受けた説明も、歩いている間に既にほとんど忘却してしまっている。
 何だっけ。
 まあいいや。
 そんな適当極まりない感じで。
 しかしながらそれをはっきり聞いていたところで、それを憶えていたところで、それが出夢にとって意味を成したかどうかは疑わしいところではある。説明とは言っても、行動選択に際して重要と言えるのはただ一点のみ。
 『殺し合え』。
 そんな言葉が、匂宮出夢という人間にとってどの程度の意味を持つものだろうか。匂宮出夢という、空前絶後の殺し屋にとって。
 飼い犬に「待て」を教える事には意味がある。しかし、獲物を前にした猛獣に対して「食い殺せ」と命ずる事に、はたして意味があるものか。
 匂宮出夢がここにいる。その前提は、ある意味において結果より強固な事実を確定する。
 だから、どちらにせよ不自然なのだ。
 匂宮出夢が、目の前の少女を殺さないということが。
 出夢は自分が馬鹿であることを自覚している。だから、目の前の事実についてのみ思考する。
 目の前の少女は震えている。
 震えているから、殺さないのか? 怯えているから、構ってやっているのか?
 出夢は否定する。そんな慈悲が、そんな親切心が自分に?
 馬鹿馬鹿し過ぎて涙が出る。
 そして出夢は自問する。
 自分は、いったいどうするべきなのだ?
 殺し合いという檻の中に放たれた殺し屋、匂宮出夢は、自悶するように自問する。
 そして―――
224不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 22:05:28 ID:Ak/Z9hqZ
 「………ん?」
 思考を休止した出夢は、少女の異変に気付く。相変わらず顔を伏せ、肩を震わせてはいるが、さっきまでと比べて、何か様子がおかしい。
 泣いている、と最初は思った。しかしよく観察すると、それは泣いているというより―――
 「………笑ってる?」
 少女が微かに漏らしていたのは、泣き声ではなく笑い声だった。笑い声と呼べるほど、それは明確なものではなかったが、つい先程まで確実に恐怖に打ち震えていたはずの少女が、今は笑いをこらえるように肩を震わせている。
 出夢の表情がポカンと音を立てる。
 まさか、本当にまさかではあるが、先程出夢が披露した、あの小ネタが受けたとでもいうのだろうか。おいおいと出夢は思う。自分でやっておいて何だが、どれだけハードル低いんだよ。
 出夢が見続けていると、その視線に気付いたのかどうか、少女は少しだけその顔を上げた。前髪に隠れ、出夢からは表情まではよく見えない。しかし再びその顔が伏せられる間際、少女が一瞬ぱっと顔を赤く染めるのを出夢は見逃さなかった。
 笑っているのを気付かれたことに、照れている?
 「………」
 その姿をみて出夢は、この状況を脱するための策略を急に思いつく。恰かも天啓が舞い降りたかの如く。
 「あ〜あ、結局無言のままかよ。せっかく話し相手見つけたと思ったのになー」微妙に棒読み気味で聞こえよがしな独り言。「何かもう、虚しくなってきちゃったな。どうでもよくなってきちゃったな」
 失望したような表情がまたわざとらしく。
 「これ以上いても時間の無駄みたいだし、他んトコ行こうかな。歩き回ってりゃ他に誰か見つかるだろうし」
 言って、おもむろに踵を返す出夢。
 「あ……」
 背後からのか細い声に、出夢は成功を悟る。押して駄目なら引いてみろ。
 「あ、一人の時間邪魔して悪かったな。じゃ僕もう行くわ。グッバーイ」
 「あ―――あの!」
 すたすたと、いや「すたすた」と言うには不自然なくらいゆっくりめの足取りだったが、とにかく立ち去ろうとする出夢を、少女の言葉が引き止める。
 よっしゃ!
 内心でガッツポーズを取る出夢。自分の策略が功を奏したことがよほどうれしいらしい。
 うん? と、これまたわざとらしく出夢は振り返る。少女は目をそらすようにまたも顔を伏せ、「あの、えっと、あの」と小さな声でもごもごと口籠る。
 その様子を見て、出夢は何か自分の内側から抑え難き感情がざわざわと沸き上がって来るのを感じたが、せっかくの策略を台無しにするわけにはいかないと、らしくもなく理性を働かせる。
 それによって気が急いた所があったのかもしれない。さらに少女の警戒心を取り除くため、次なる策(ほとんど思い付きに近いが)を実行に移すことに、出夢は決めた。
 「よーし分かった」
 出夢は背負っていたディパックを下ろし、中を探る。はたして中から取り出したのは、鉈のような形状の、無骨な一本のナイフだった。
 闇の中でギラリと光るナイフの刃。
 「ひっ」と息を飲む少女。出夢はひけらかすように手に持ったナイフをひらひらと振る。
 「僕はあんたを殺さない。だからこんなものも使わない。だからその証拠として、こいつを今この場で捨てちまうことにする。それでどうだ?」
 「え? ……え?」
 「言っとくが、僕の持ってる得物はこれひとつだけだ。これがなけりゃ、僕は完全に丸腰ってこった。それでも不安だっつーんなら、このバックも預けといていいぜ?」
 「あ………えと」
 「それで足りなけりゃジャケットも脱ぐ。靴だっていらないし、パンツも脱いどくか。あ、ただメガネだけは勘弁してくれ。流石にこれまで外しちまったら、完全に変態になっちまう」
 「………」
 「ぎゃはは、冗談冗談。そんな本当に変態見たような顔するなって。じゃ、これ早速捨てるぜ。いいか? はい、せーの、ぽい」
 ぶん。出夢の手からナイフが離れる。
 ナイフは水平に回転しながら飛んでゆき、そして、
 出夢のすぐ横に鎮座している、狛犬の石像へと命中した。
 金属と石がものすごい音を立てる。ナイフが頑丈だったせいか、あるいは出夢の腕力が規格外だったせいか、ものの見事に狛犬の首が両断される。そしてナイフは90度その軌道を変え、こともあろうに少女のすぐ脇にがん! と派手に突き刺さった。
225不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 22:08:05 ID:Ak/Z9hqZ
 「いやああああああああああああああっ!」
 そのすべての音をかき消し、盛大な悲鳴が境内に響き渡る。
 「ううううううううう、うえぇぇぇぇぇぇぇん」
 少女はついに泣き出した。
 号泣だった。火のついたような号泣だった。
 「………」
 出夢はというと、びっくりしていた。
 あまりに逆効果だった己の行動の結果にびっくりしていた。
 自分でもびっくりするくらいにびっくりしていた。
 で、それから十数分。
 出夢はもはや声をかけるタイミングすら失ってしまい、沈黙のまま、目の前で鳴り響き続ける嗚咽を聞いているしかなかったというわけである。
 わざとやっているとしか思えない喜劇っぷりだった。
 出夢はもう、本当に立ち去ってしまおうかと思っていた。これ以上いても時間の無駄でしかないと。無駄というのなら、既に十分無駄な行動を取っていたわけだが。
 要は、早くこの場から逃げ出してしまいたいと、そう思っていたわけだ。
 「……お兄ちゃん……お兄ちゃん………」
 と、その時、
 嗚咽の合間のかすかな呟きを、出夢は聞いた。
 ………お兄ちゃん?
 その言葉、たしかさっきも―――。
 「その『お兄ちゃん』て、どんな奴なんだ?」
 極めて自然に、その質問は口から出てきた。
 策略も何も無く、ただ自然に。
 不自然なのは、少女の反応のほうだった。
 質問された瞬間、少女はいきなり顔を上げた。首がバネ仕掛けになった人形のような勢いで。そしてその顔には、今までに無いくらいはっきりと、恐怖の表情が浮かんでいた。
 その勢いに、出夢がたじろぐ。
 そして。
 「………こ」
 震えた声。しかしなぜか、今までよりもはっきりと響く声色。
 「殺さないで………」
 少女の目から涙が溢れる。今まで以上に、ぼろぼろと。
 「お願いだから…お兄ちゃんは……殺さないで………お兄ちゃん、だけは…お願い…します………」
 ―――――――。
 嗚咽が響き、沈黙がそれに交差する。
 嗚咽が響き、沈黙がそれに交差する。
 一層に強い嗚咽と、一層に深い沈黙。
 ただ、困惑の表情だけは既にない。
 理解した、とはおそらく違う。
 都合の良い解釈をした、というのが正しいのかもしれない。
 少女は確かに、出夢に対して怯えていた。泣き続けていたし、震え続けていた。言葉すらまともに交そうとはしなかった。
 ただし、助けを求めるような、許しを乞うような言葉も、出夢に対しては一切発せられなかった。
 怯えながら、震えながら、
 それでも、命乞いだけは一度もしなかった。
 自分の命に関しては。
 ―――お兄ちゃん。
 少女は初めて助けを求めた。命乞いをした。出夢にではない。自分の命に関してではない。
 「……………は」
 少女にはいる。助けを求める相手が。自分より優先して、命を乞うことができるような相手が。
 だから出夢は、都合の良い解釈をする。自分がこの少女にこだわる理由に対して、少女を手にかけない理由に対して。
 匂宮出夢にとって、妹とは―――。
 「…なーんだ、そうだったんだ」
 空気が、変わる。
226不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 22:11:37 ID:Ak/Z9hqZ
 「――てっきり僕が泣かしたんだとばっか思ってた…違うじゃん、僕じゃないじゃん」
 空気が、一変する。出夢の周りの空気が、ざわざわと。
 「てめえじゃねえかよ……ったく、どこの誰だか知らねえけど、こんな可愛い『妹』泣かしてんじゃねえよ…馬鹿野郎が」
 ざわざわと、そして徐々に、びりびりと。
 空気が―――
 「あーもーホント時間無駄にした。盛大に無駄。ドブにバケツに捨てまくり。うわーもー僕としたことが、もっと早く気付けよなーマジで。どんだけ無駄に脳ミソつかってんだよ、馬鹿だろ。いや馬鹿だけど」
 「………?」
 少女が不思議そうに顔を上げる。出夢はおもむろに、ずかずかと大股で少女との距離を詰め、顔をぐん、と少女の顔一ミリ手前まで寄せる。少女は当然のように驚愕する。
 「好きか、そいつのこと」
 「………へ?」
 「その『お兄ちゃん』のこと、あんた、好きかって」
 「……え? ……え?」
 「大事な質問なんだよ。はっきり答えてくれ」
 「あ………す、好き、です…」
 「本当だな? 嘘じゃないな? 本当に、本当に好きなんだな?」
 「は、はい、好きです………大好きです」
 「よぉっっっっし!!」ぱぁん! 「それでこそ『妹』だろぉ! オッケェ! 合格! あんた合格!」
 「ご…ごうかく…?」
 すうう、と、深呼吸のように大きく息を吸い込む出夢。
 「やーっぱよぉ…」
 その表情が、みるみる内に変化していく。凶悪な、邪悪な笑顔へと。
 「僕には、必要なんだよなあ。こういうのがさぁ………血が騒ぐ? 血が滾る? まあ、なんでもいいけどさぁ…」
 「………え?」
 「あんたみたいなのが、僕が『本気』になるには必要だって言ってんのさ。鬼に金棒、虎に翼、夜神月にデスノート。守るべきものがある奴は強い―――ってかあ! ぎゃははははははははは!!」
 出夢は滾る。出夢は漲る。内側から、外側から、全身という全身から、全心という全心から、全霊という全霊から。
 己が強さを、己が全てからほとばしらせる。
 「いいねいいね来るね来るねズキュウゥゥゥゥゥンと来るねえ! 燃え上がるほどヒート! 引きちぎるほどショート! 僕のこの手が真っ赤に燃えるうぅぅぅぅぅぅぅ! ぎゃはははははははははははははは―――ひょうっ!!」
 出夢は跳躍する。屋根まで飛ばんばかりの高さで、己が両足で跳躍する。
 空中で旋風のように回転しながら、出夢は右腕を羽根のように広げる。重力に任せ、まっすぐに落下する。風圧でジャケットが思い切りはだけ、細い上半身があらわになる。
 そしてその落下点。首がついた方の石像へ向けて、出夢は右腕を振り下ろす。
 『一喰い』―――!
 破壊音とともに、石像は爆散する。首から胴体から、台座に至るまで、問答無用に破壊される。
 そう、問答無用。
 自分には、自問も自答も必要なかった。
 これこそが、これこそが、これこそが。
 これこそが、『人喰い』―――匂宮出夢!
 「ふううぅぅぅ―――」
 呆気にとられる少女をよそに、出夢は瓦礫の散らばった地面へと着地する。
 そして。
 「ああ、なるほどな――あいつのあれは、こういうときに言うもんなのかね…ぎゃはは。確かにこりゃあ、今の僕の気分にぴったりだ」
 そして、殺し屋は、『人喰い』は。
 「本っ当、傑作だっつーの、馬鹿野郎」
 匂宮出夢は、不敵に微笑み宣言する。
227不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 22:22:33 ID:Ak/Z9hqZ

(5)

 「よーし、じゃ早速出発といくか」出夢は少女に向き直る。「ほら、行くぜ」
 「え? え?」
 「だからその『お兄ちゃん』。会いたいんだろ?」少女はもう泣いてはいなかった。恐怖の色も、その目からは既に消えていた。
 「おいおいおい、まさかまさかまさかだけどな、まさかここでずうっっと泣きながら時間潰し倒し続けてる気かよ? 冗談もほどホードオブザブレイブよ」
 「ホード……え?」
 「あんた『妹』としての自覚とかないのか? 『妹』が『兄』に会いたいっつって、それで『会いに行く』以外の選択肢が存在すんのか?」
 台詞がどんどんと意味不明になりつつある。
 「僕には思いつかねえなあ。僕が『妹』の立場だったら速攻会いに行っちゃうね。一方的に押し掛けてでも、四六時中追いかけ回してでも」
 「………」
 「会いたいんだろ?」
 ん? と、少女の顔を覗き込む出夢。少女は顔を紅潮させつつ、しかしはっきりと、首を縦に振った。
 「……はい………会いたい、です」
 「なら決まりだな」
 出夢もまた、満足げにうなずく。
 「僕も一緒に探してやんよ。此処で逢うたも何かの縁、義を見てせざるは勇無きなり、皆まで言うなと介錯を――って違うか。ぎゃははは! ま、なんか久しぶりに、縁が『合った』って感じがするからさ」
 その言葉を口にする際、出夢は懐古の念を抱くような表情をした。
 「興が乗ったってやつ? ホント久しぶりだなあ…この感じ。ぎゃはは、そんな懐かしむほど昔の話でもねーかな。まあいいや。ホラいつまで座ってんだよ。こんな心気っ臭せーとこにいつまでもいたら殺されるぜ? マジな話な。ほら」

 少女の手を取り、強引にひっ立たせる。そしてなぜかその長い腕を少女の首に回して、頬を寄せるようにする。「ひゃんっ」と変な感じの悲鳴が少女の口から漏れたが、まるで気にする様子もない。
 「さてさてとー…って、よく考えたらどこ行きゃいいんだろうな。ていうかそもそもここはどこなんだっけな。えーと地図地図。ったく、ガイドの一人くらいつけろっつの。んーと、今僕らがいるとこはー」
 「あ………あの」
 「ん?」
 「地図、逆さまです……」
 「あ、こうか。えっと、ああここだな。三途神社? へー、神社なんだここ。道理で心気臭せーはずだわ。ああもう、なんでこんな端っこなんだよ面倒くさいなー。なあ、どっかその『お兄ちゃん』がいそうな所――ってそもそも、その『お兄ちゃん』、ここに来てんのか?」
 「あ、はい。声だけですけど、聞こえました」
 「あっそ。じゃあ心当たりとかある? そいつのいる場所」
 意気込みの割に、やはり自分で考えるのは面倒であるらしい
 「えと、ここなんですけど」少女は地図上の一点を指差す。「前にお兄ちゃんから、聞いたことあるような気がします。名前だけ、ですけど」
 「ふうん?」地図に顔を寄せる出夢。同時に互いの顔がさらに寄り添う形に。「えーと、公園か? なみしろ? ろうはく? 何て読むんだこりゃ。まあいいや。じゃとりあえずここ行くか。他にあてもないし。いいな?」
 こくりと頷く少女。
 「よーし、んじゃ今度こそ、しゅっぱーつ――っと、そうだそうだ」
 少女を解放し、出夢はある一点に視線を向ける。
 地面に転がった懐中電灯。
 そしてもうひとつ、そのすぐ脇に転がっている――『それ』。
 「結局なんだったんだかなあ、コイツ。大体、お前のせいで無駄に話がややこしくなったんだよ……ま、どうでもいいけどさ」
 声をかけられたそれからは、当然のように返事はなく――
 「一応荷物だけいただいとくか。懐中電灯も念のため。あ、このバッグ何でも入るみたいだから、僕のにバックごと入れちまおう」
 悪いな、と言いつつ、それからディパックをむしりとる。硬直した関節が「べきり」と嫌な音を立てて曲がる。
 ずるり、と再び地面に崩れ落ちるそれ。
 臍の下から首元に至るまでの、削ぎ落とされたかのような欠落。仰向けの姿勢でも、身体の奥の背骨が窺える程に深い欠落。欠けた部分は赤黒い肉片となって、血液とともにそこかしこに飛び散っている。
 それは死体と呼ぶには、あまりにも荒々しく粗雑な有様で。
 半身を食い荒らされたように破壊された、それは櫃内夜月の残骸だった。
228不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 22:23:57 ID:Ak/Z9hqZ

(6)

 櫃内夜月にとって、それは単に不運が重なった末の結果だった。
 あくまで、偶然。あくまで、不運。
 まず前提として、常識を超えた状況の変化に対する耐性のようなものを、櫃内夜月は持ち合わせてはいない、ということがある。
 匂宮出夢などとは違い、殺し合いなどという言葉を持ち出され、真夜中の神社に一人で放り出されるような急転直下に、夜月のおよそ正常な神経がついていけるはずがそもそもなかったのだ。最初の『見せしめ』を文字通り見せ付けられた時点で、既に限界を超えていたといえる。
 そこに、彼女にとっての「兄」がいればまた違ったのかもしれないが。
 一人だった。
 あるいはそれが一番の要因だったのかもしれない。
 ともかく、夜月は最初から既に行動が不可能なくらい恐怖に支配されていた。
 闇の中の恐怖に、支配されていた。
 そしてそこに、一人の人物が現れる。
 匂宮出夢ではない。
 出夢が偶然三途神社へとたどり着いたように、同じくもう一人、出夢よりもほんの少し早く、夜月のいる三途神社へとたどり着いた人物がいたのである。
 誰か。
 千石撫子だ。
 夜月と比べ、撫子は比較的「耐性」の持ち合わせがあったといえる。境内で震える夜月を発見したとき、近づいて話しかけようという、(普通の状況であるなら)常識的といえる判断をすることができたのだから。
 懐中電灯を片手に、おずおずと夜月の前へと歩み寄る撫子。
 しかし夜月は違った。
 突如目の前に現れた(ように夜月には見えた)人間に対し、冷静な判断ができるような余裕は一切なかった。
 瞬間的に、夜月の中の恐怖は一気に沸点へと達した。
 パニック状態。
 櫃内夜月は、反射的に撫子へと襲いかかった。
 殺意があったわけではない。
 害意すら、おそらく無かっただろう。
 そしてその光景を、境内に到着すると同時に目撃した人物がいた。
 匂宮出夢だ。
 偶然は加速を極める。地面に倒れる二つの人影。地面に転がる懐中電灯。それは二つの人影を照らす。地面に組み伏せられる少女。少女を組み伏せる少女。少女の鬼気迫る表情。狩る側と狩られる側のような二人の少女。
 そして撫子は、反射的に悲鳴のような声を上げた。

 お兄ちゃん―――――と。

 その瞬間、重なった。
 三人の、命運が。
 あるいは、不運が。
 あるいは、悪運が。
 そのたったひとつの言葉によって、どうしようもなく重なった。
 その後の経過については、多くは語るまい。
 経過として、匂宮出夢は動き、
 経過として、櫃内夜月は破壊され、
 結果として、千石撫子は生き残った。
 櫃内夜月の行動に殺意がなかったように、出夢の行動もまた、殺意があったかどうかは定かではない。それはほとんど、反射のようなものであったのだから。
 死ぬべくして死んだ人間も、生き残るべくして生き残った人間もいない。
 必然はなく、すべてが偶然。
 もちろんそれは、この三人がこういう結果を引き起こすことを意図した上で、三人の位置関係が作為的に決められていた、という穿ちすぎな可能性を排除した上でのことではあるが。
 ともかく、ひどく捻くれたひとつの結果とともに、この三途神社における歪んだ偶然の連鎖は終了する。
 一人は脱落し、二人は出会い、そして共通の目的を得た。
 言ってしまえば、それだけのことだった。
229不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 22:28:50 ID:Ak/Z9hqZ

(7)

 「こよみお兄ちゃん、こよみお兄ちゃん、こよみお兄ちゃん、こ・よ・み・お・に・い・ちゃ・ん、と。よし覚えた覚えた。さー待ってろよーこよみお兄ちゃんー。今からお前の可愛い妹がお前見つけ出して殺しに行くからよー」
 「こ、殺しません…」
 「ああ、わり、間違えた。じゃ訂正――えーとお前の妹が×××とか×××したり×××ったりしに行くからよー、×××××な感じで待ってろよー、こよみお兄ちゃん」
 「………!」ぶんぶんぶん。
 「えーしないのかよー何だよー妹だろー。僕は妹に×××するって基本だろーがよ。まあいいけどさ――あ、そういや今更だけど、あんた、僕と一緒でいいのか?」
 「え?」
 「さっきも言ったと思うけど、僕ァ一応、『殺し屋』だ――既に引退してはいるが、そうだったことには変わりないんだぜ?」
 「………」
 「必要とあれば相手が誰であれ、さっきのあいつみたく、喰う時喰うし、殺すときは殺す――一緒に探すってのはあくまで僕のお節介なんだし、逃げるんだったら今の内かもしれないぜ、赤ずきんちゃん」
 「平気です……一緒に行きます」
 「おろ、即答?」
 「…嬉しかったです、本当は」
 「あん?」
 「撫子のこと、助けてくれたし」
 「あ? あー、あれは別に助けたって訳じゃ」
 「それに、撫子が怖がってたとき、励ましてくれたし。笑わせてくれたり、したし」
 「………」
 「あの、ごめんなさい……せっかく、元気付けてくれようとしてくれてたのに、撫子、泣いてばっかりで………声とか、かけてもらっても、無視しちゃったり、すごい困らせちゃったり、したみたいだし…」
 「いや、いい……ていうか、あん時のことはもう忘れてほしい……てか忘れたい……僕のキャラって絶対あんなんじゃないし……誰の陰謀だよ。まあ、あんたがいいんだったら、僕に言うことはないんだけどさ。なんにせよ、よろしくな」
 「よ、よろしくお願いします」
 「『なでこ』ってあんたの名前かい?」
 「あ、はい、千石撫子です」
 「ふうん、いい名前だな、妹っぽなくて。じゃあ僕はあんたのこと、撫子って呼ぶことにするぜ?」
 「うん。じゃあ撫子はあなたのことクリスタルカイザーって呼ぶね」
 「なんでそんな一昔前に企画倒れした特撮ヒーローみたいな名前なんだよ! 何の因果で初対面で年下の女からそんな役名で呼ばれなきゃなんねーんだよ!」
 なぜか無意識的に突っ込みを入れてしまう出夢。
 急にうずくまり、腹を抱えながら身体をぶるぶると震わせ始める撫子。またも受けたようだ。
 「…似てました、今の」
 「ああ?」
 「お兄ちゃんに、似てました……今の、少しだけ」
 「……あっそ。じゃ、そう呼んでいいぜ」
 「え?」
 「『お兄ちゃん』――僕のこと、そう呼びたければそう呼べばいいさ。あんたの『お兄ちゃん』が見つかるまでの間くらいだったら、別に構わないからさ」



 とりあえずといった感じで、二人の目的は決定された。殺し合いのために用意された、この禍々しく混沌とした戦場に、その目的はあまりにもそぐわないものだった。
 『お兄ちゃん』に会うことと、『お兄ちゃん』に会わせること。
 千石撫子と匂宮出夢。
 この二人の出会いも偶然の結果であり、出会うべくして出会ったというわけではない――のかどうかは、いまのところは分からない。
 三途神社を後にする出夢と撫子。
 二人が歩くその姿は、まるで仲の良い兄妹のように――まあ、見えないことも、なかったという。
230 ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 22:39:10 ID:Ak/Z9hqZ

【1日目 深夜 A−6 三途神社】
【匂宮出夢@戯言シリーズ】
[状態] 健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)確認済(ナイフは石像と衝突した際に一部破損。境内に置き去りに)
[思考]
基本 何かよく分からないけど、適当に楽しんでおこうとか。(要するに特に何も考えてない)
 1 撫子を守る。
 2 撫子を「こよみお兄ちゃん」に会わせる。
 3 邪魔が入れば殺す(ただ撫子がいる手前、積極的に戦闘したいとは思っていない)。



【1日目 深夜 A−6 三途神社】
【千石撫子@物語シリーズ】
[状態] 健康
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3) 確認済
[思考]
基本 阿良々木暦を探す。
 1 あわよくば神原駿河とも会いたい。
 2 出夢は今のところ「悪い人じゃない」とだけ判断。

*阿良々木暦と神原駿河の存在は確実に把握。その他は未定。



その他、細部に関しては後の方にお任せします。
231 ◆wUZst.K6uE :2009/03/10(火) 22:41:55 ID:Ak/Z9hqZ
以上、投下終了です。
やはりキャラの持ち味をうまく出すのが相当難しいです。かなりやっつけな部分もありますが、どうかご容赦を。
それと今更過ぎですけど、前回の作品に感想を下さった方、ありがとうございます。
今まで投下された皆様、乙です。現在執筆中の方、新作楽しみに待ってます。
それと『彼女』のファンだった方、ごめんなさい。
232創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 23:52:09 ID:Uy6fR1mg
色々言うよりもこの一言の方が適切かな?

 騙 さ れ ま し た
233創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 13:26:34 ID:xepFlOq2
や、やられたー!?
いやあ…上手い、らしい、素晴らしいの三拍子です、GJでしたー!
234創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 14:17:35 ID:4Hg6vtS1
これはいいミスリード!
投下乙です。
235創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 02:00:17 ID:zlMMwzkM
久々に来たら神がいっぱい降臨されてるじゃないか!!
いいぞ、もっとやれ!!
236創る名無しに見る名無し:2009/03/24(火) 10:45:46 ID:LxMervw+
このスレいいね
俺はロワはほとんど読まないんだけど、レベルも高いし文体模写もうまいと思う
なにより、西尾作品自体がいつバトロワが始まってもおかしくないところがあるからwキャラや雰囲気に違和感なく読めるよ
西尾作品が好きだから読み始めたけど、ロワスレ入門としても期待してます
237創る名無しに見る名無し:2009/03/27(金) 22:03:12 ID:PgNjZLCL
test
238◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 22:18:50 ID:PgNjZLCL
俺の規制解除されたから規制で避難所に投下されてるssを代理投下するわ
書き込み見ると一部書き換えるみたいだからそこんとこ書き換えて投下する


「あ、あれ?」
鳥の様な衣装を着て、体に鎖を巻き付けた少年はそう呟いていた。

とんでもない展開。
そう言うに相応しい状況の中を彼はただ呆然としていた。


真庭人鳥


真庭忍軍の頭領の一人、
あまりにも幸運の星の下に生まれた彼。
悪運と言うには生易しく、
強運と言うには生温い、
そんな運の強さを持つ彼。

そんな彼は今――――何もなく殺風景な部屋の中に居た。

「あれ?」

死んだはずの自分がなぜ、
あの左右田右衛門左衛門によって、
あの炎刀『銃』によって口から頭を撃ち抜かれた筈の自分が、
なぜ、なぜ今生きているのか理解が出来なかった。

最初にあの謎の部屋で目を覚ましてからもそうだ。

な、なぜ死んだはずの…………こ、蝙蝠さんがあの場に居たんだ?
な、なぜ死んだはずの…………か、川獺さんがあの場に居たんだ?
な、なぜ死んだはずの…………お、鴛鴦さんがあの場に居たんだ?

なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ?

こ、ここに鳳凰さまが居たらあっさりと答えて…………くれるだろうか?
と、とりあえず、あの時の状況を、あの部屋での状況を思い返してみよう。
239◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 22:20:43 ID:PgNjZLCL
影谷蛇之と呼ばれていたあの男。
首に着いている首輪…………
ルールを破れば爆発すると言っていた。

あっさりと、あまりにもあっさりと、
自分と鳳凰さまと狂犬さん以外を、
一瞬にして殺したこの首輪。

優勝すれば、如何なる望み叶えると言っていた。
叶えるとしたら何が良いかな?…………そ、そんな事は後だ!
内容……内容は殺し合いゲーム、バトルロワイヤル。

き、君達の力はある程度制限させてもらったとも言っていた。
力?身体能力の事で良いのだろうか?
死んだ蝙蝠さんが『手裏剣砲』を使えていたから技術は使用が出来るのか?
ぼ、ぼくの『忍法運命崩し』はあくまでも運が良いだけだから制限は出来ないだろう、多分…………

ろ、6時間毎に誰が殺された情報が入ると言っていた。
24時間以内に自分以外の全員を殺さなければ皆殺しだと言った。
そして、殺し合いの場所に送ってやると言った水倉神檎。

そ、そ、そう言えば、6時間毎に誰が殺された情報が入る時に、
戦闘区域が狭くなるとも言っていたか?
情報を注意して聞いておかないと…………

そして目の前が暗くなったと思ったら殺風景な部屋に居る。

情報収集は得意分野では有る。
し、し、しかし、判らない。
判らない判らない判らない判らない判らない判らない判らない判らない。
な、なななななな、何が何だか判らない。

ほ、ほほ、早くこの殺風景な部屋から出て情報収集を開始した方が良いのだろうか?
と、とりあえず鳳凰様と合流すれば何とかなるか?
窓の外を見れば真っ暗な事からまだ夜中の様だとは判る。
その上、高さから考えて…………2階?

そ、そそ、外に出ようか?しかし、今はまだ待った方が良いのか?
と、とりあえず荷物の確認をしてから行動した方が良いのか?
ど、ど、ど、どうしようか…………

ギシィ…………

あ、足音?

ギシィ…………

だ、誰かが自分が部屋に居る事に気が付いたのか!?
い、いや、まだ、まだそう思うにはまだ早い。
偶然、偶然近くを通り掛っているだけかも知れない!
で、でも…………隠れて置こう。
240◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 22:24:03 ID:PgNjZLCL
ギシィ…………

ギシィ…………

ギシィ…………

ギシィ…………

ギシィ…………

ギシィ…………

ギ…………


と、止まった?


キィィ…………


は、入ってきた!
そ、そそ、そんな!?気が付かれてはないと思ったのに!?

「いーたん居るかーい?」

「いーたん」?誰だ「いーたん」って?
普段この部屋に住んでいる人の名前?
と言う事はその人もバトルロワイヤルに参加してるって事!?

「おっかしいなー?居ると思ったんだけどなぁ?
いーたんが大好きな奴はここに集まるだろうと思ってたんだけどなぁ?」

あ、集まる?事前に集合場所に指定されていたのか?
いや、それにしては確信が無さそうだから「居るかも知れない」
その程度の予想か?

「まあいいか…………いーたんでは無さそうだけど出て来い」

な!?

「おいおいおいおいおいおい。この人類最強の請負人が気が付かないとでも思ったのか?」

人類最強の請負人?

「いいから出て来いよ。こっちはこっちで忙しいんだからな?
さっさと、哀川潤を探し出して殺す予定なんだからな」

「え?」
人探し中?あ、し、しまった!

「あ、口滑らせちまったか?まあ、やっと声だけでも出してくれたし、まあいいや。
早く出て来いよ?まあ、出て来ても殺すし出て来なくても殺すけどなぁ。」
なっ!?

「十数えるまでに出てこないと殺すぞ?はい、じゅー」
え、あ

「きゅー」
あ、あ
241◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 22:27:41 ID:PgNjZLCL
「はーち」
ほ、ほ、

「ななっ」
鳳凰さま!

「ろーく」
た、たたた、

「ごー」
戦わなければならないのですかッ!

「よん」
でも、でもぼくは

「さーん」
ぼ、ぼぼぼぼぼぼ、

「にぃ」
ぼくはッ!

「いーちっ」
「た、戦いたくないッ!」

「はいっ、ぜ……」
「………………」
「お前今何て言ったんだ?」


「ぼ、ぼ、ぼくは…………戦いたくない」
流れ出る沈黙、まだ姿を見せないぼくをどう思っているのか?


諦めているのか?呆れているのか?飽きているのか?嘲っているのか?怒っているのか?疑っているのか?恨んでいるのか?驚いているのか?考えているのか?困っているのか?染まっているのか?楽しんでいるのか?
伝わっているのか?戸惑っているのか?狙っているのか?呪っているのか?迷っているのか?許しているのか?弱っているのか?判っているのか?


どう思っているんだろうか?
242◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 22:30:06 ID:PgNjZLCL
「くくく…………」
笑っている?


諦めている訳でもなく、呆れている訳でもなく、飽きている訳でもなく、嘲っている訳でもなく、怒っている訳でもなく、疑っている訳でもなく、恨んでいる訳でもなく、驚いている訳でもなく、考えている訳でもなく、困っている訳でもなく、
染まっている訳でもなく、楽しんでいる訳でもなく、伝わっている訳でもなく、戸惑っている訳でもなく、狙っている訳でもなく、呪っている訳でもなく、迷っている訳でもなく、許している訳でもなく、弱っている訳でもなく、判っている訳でもなく、


ただ、笑っている?

「はぁ…………あーあ、ばからしい。
とりあえず殺す気なくなったから顔だけ出せ。」
――――え?戦う気は、なくなったのか?

「さっさと天井裏から出て来い!ズルズル待たせるとぶっ殺すぞ!!」
「ひッ」
こ、こここ、殺される!は、は、早く降りないと殺される!

ガタ、ゴト、バキ ドサッ
お、落ちたけども…………とりあえず降りられた。

「やっと降りてきやがったか」

目を玄関の方に向けると、そこに居たのは、
何処までも紅く、何処までも世界を皮肉った笑みを浮かべた凄まじく綺麗な女性だった。
243◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 22:31:59 ID:PgNjZLCL
何処までも紅く、
「さーてと」
何処までも皮肉ったよな笑みを浮かべながら、
「降りて来た所で」
ポケットから何かを取り出し……
「私の願いを叶える為だ」
倒れている僕の頭を狙って構え……
「死ね」
気が抜けた様な音が一つ鳴ったと思うと…………

「――ああ?」
床に穴が一つつ開いた、だけだった。
「この距離で外した?」

「そ、そそそそ、それは、炎と」
「うるさい。死ね」
また一つ、気が抜けた様な音が鳴ったが…………

「なんでこの距離であたらねえんだ?」
床の穴が二つになった、だけだった。

「……忍法運命崩し」
喋りだす僕
「は?」
まだ何が起こったか判っていない様子の自称・人類最強さん

「運命崩しの前では飛び道具は決して当たりません」
「――――へえ?だとしたら……キング・クリムゾンみたいなもんか?」
試す様にまた気が抜けた様な音が一つ鳴って穴が三つになった、だけ。

前は、左右田右衛門左衛門に跳弾を使われて飛び道具からも怪我を負ったが、
ここの壁は薄いお陰で外に貫通している為に跳弾の心配は無い。
そのために運命崩しの効果は存分に発揮できる。

「キ、キング・クリムゾン?な、何かは知りませんが……
少なくとも今は飛び道具は当たりません」
「今は?……でも、その言い方からすると飛び道具限定か?だったら」
直接殺すまでだ!そう言って一歩彼女が踏み出す前に倒れたままぼくは、
楕円形の黒い球を二つ投げ付けた、だけだった。
244◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 22:32:59 ID:PgNjZLCL
「?」
警戒してか、自称・人類最強は避け、
「おっ?」
壁に当たり跳ね、人類最強に当たり跳ねる。壁に当たり跳ね、人類最強に当たり跳ねる。

「…………こんなんで、人類最強を止められると思ったのか?ん?」
飽きれた様な顔でこちらを見ながら近付こうとするが、
気が付いたようだ。

「速度が上がってる?何で玄関が空いてるのに外に出て行かねえんだ、これ?」
跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。
光速に限りなく近い速度で跳ね続ける!

「なッ!こ、これは!?」
「忍法柔球術」
柔球術――それは球状のゴムのように柔らかい球を室内で投げ、
その球が建物内で何度も反射しながらスピードを増していくと言う物。

そのあまりの速さゆえに避ける事は不可能、
ただ目で追おうとするだけでも目が回る様な速度の代物。
あまりの、あまりの速度に球が百や二百にも見える。
そう、それが増殖の人鳥と言われる訳。

本当なら、自分にも球が当たる為に捨て身の業の筈だが、
『忍法運命崩し』の前では飛び道具は決して当たらない

つまり、


運が良いぼくには全く当たらず自称・人類最強さんに当たり続ける。


普通なら玄関が空いている上に、天井に僕が降りてくるときに開けた穴、
それか窓ガラスを割って外に飛び出すだろう。

しかし、
『忍法運命崩し』の効果で僕には当たらない、
更に衝撃に脆い部分にに当たる回数も最小限!
なぜなら、

ぼくは運が良いから!
245◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 22:34:36 ID:PgNjZLCL
一体どれ程の時間が経っただろうか?

球の一個は割とすぐに玄関から出て行った。

流石に自称・人類最強と言うだけあったが顎に諸に喰らって脳が揺れて倒れた彼女。
それから一分も経たずに残り一個だった光速に近い速度の球はガラスを突き破って出て行ってしまった。

――――やろうと思えばここで殺す事も出来るだろう。
しかし、思い出してしまう。

鳳凰様が毒刀の力で狂った時、
その時に斬り付けられて怪我を負い、そのまま放って置かれれば死んでいたであろう僕を助けてくれた。
あの時の奇策士とがめと鑢七花の二人組…………

情けをかけて?敵である筈のぼくを助けてくれた。
あの時の二人を思い出すと殺す事が出来なかった。

でも、なぜだろうか?
今まで生き残る為に殺す事を厭わなかったぼくが殺しを躊躇うなんて?

「僕は戦いたくなんかなかった」

一度、死ぬ直前に言ったあの言葉…………
あの時に死にたくなかった為だけに言ったのか?
それとも…………あの言葉が本心だったとしたら?

――――――首輪…………
何をやるにしてもこの首輪は邪魔だ

情報収集は得意だ
何とかしてこの首輪を外す方法を探せば…………
あるいは…………

な、何をやるにしても、自称・人類最強さんが起きたら協力を頼めるだろうか?
最強を名乗るんだから強いだろうしせめて鳳凰さまと会うまでの間お願い出来るだろうか?

で、でも、仮にも一度は殺そうとした相手を目の前に見逃す上に手伝ってなんかくれるだろうか?
――――あっ、そう言えば請負人って言っていたから交渉すれば雇われてくれるだろうか?
請負人と言う事が本当なら、鳳凰さまに会えるまでの間だけでも護衛をお願い出来るだろうか?

――――――悩んでいても仕方が無い。
自称・人類最強さんが起きるまでの間は看病をして置いてあげよう。
とりあえず…………玄関を閉めてからかな?

あっ、外に出て行った球…………
まあ、あの球は武器と言うほどの物じゃないから、
取り上げられていなかったおかげでまだいくつかある。
放って置いても大丈夫かな?

と、とりあえず交渉材料の一つとしてと炎刀『銃』とかは預かっておいた方が良いかな?
246◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 22:35:38 ID:PgNjZLCL
【1日目 深夜 骨董アパートD−6】
【真庭人鳥@刀語シリーズ】
[状態] 健康
[装備]柔球術用の球
[道具]炎刀『銃』の回転式の方(残り弾数3発)@戯言シリーズ、支給品一式×2、ランダム支給品(1〜3)×2
[思考]
 基本 鳳凰様と合流したい。
 1 どうやれば首輪を外せるかな?
 2 と、とりあえず、起きるまでの間は看病しておこう。
 3 あ、この人の名前って何だろう?
 ※球を放って置いたのは取りに行く事が今はまだ危険だろうと思っての事です。
 ※球は見る人が見れば真庭人鳥の持ち物だと判ります。


【誰でもない彼女(現在の姿は、哀川潤)@戯言シリーズ】
[状態] 全身打撲、気絶
[装備] なし
[道具] なし
[思考]
 基本 哀川潤を殺して私が本物に成り代わる。それを邪魔する奴も殺す。
 1  気絶中
 ※参戦時期は哀川潤に成り代わると玖渚友の住むマンションで戯言遣いに言った頃より後です。
 ※いーちゃんの部屋に居れば本物の方から現れるだろうと思って待ち伏せする予定でした。
247◇kCGp90my/U代理投下:2009/03/27(金) 23:02:00 ID:PgNjZLCL
代理投下終了
避難所には◆kCGp90my/U氏のがもう一本あるけどこのままやっていいか分かんねーからとりあえずここでやめとく

最初に氏が言ってる所を書き換えるとか言っといてやり忘れていたゴメンナサイ
でも他人が本文に触れなかった事はそれでそれで良かった事の様な気がしないでもない

文字数の都合上>>241の「楽しんでいるのか? 伝わっているのか?」と>>242の「困っている訳でもなく、 染まっている訳でもなく、」の所を段落変えてますご了承下さい
248◇kCGp90my/U修正版代理投下:2009/03/29(日) 21:53:20 ID:T6JbQbwa
氏が修正版を投下されたので、改めましてそちらを投下します


「あ、あれ?」
鳥の様な衣装を着て、その上から鎖を巻き付けた少年はそう呟いていた。

とんでもない展開。
そう言うに相応しい状況の中を彼はただ呆然としていた。


真庭人鳥


真庭忍軍の頭領の一人、
あまりにも幸運の星の下に生まれた彼。
悪運と言うには生易しく、
強運と言うにも生温い、
そんな運の強さを持つ彼。

そんな彼は今――――何もなく殺風景な部屋の中に居た。

「あれ?」

死んだはずの自分がなぜ、
左右田右衛門左衛門に、
あの炎刀『銃』によって口から頭を撃ち抜かれた筈の自分が、
なぜ、今生きているのか理解が出来なかった。

最初にあの謎の部屋で目を覚ましてからもそうだ。

な、なぜ死んだはずの…………こ、蝙蝠さんがあの場に居たんだ?
な、なぜ死んだはずの…………か、川獺さんがあの場に居たんだ?
な、なぜ死んだはずの…………お、鴛鴦さんがあの場に居たんだ?

なぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜなぜ?

こ、ここに鳳凰さまが居たらあっさりと答えて…………くれるだろうか?
と、とりあえず、あの時の状況を、あの部屋での状況を思い返してみよう。
249◇kCGp90my/U修正版代理投下:2009/03/29(日) 21:55:06 ID:T6JbQbwa
影谷蛇之と呼ばれていたあの男。
首に着いている首輪…………
ルールを破れば爆発すると言っていた。

あっさりと、あまりにもあっさりと、
ぼくと鳳凰さまと狂犬さん以外を殺したこの首輪。

優勝すれば、如何なる望み叶えると言っていた。
叶えるとしたら何が良いかな?
た、確かに毒刀『鍍』で斬り付けられた傷は何故か治っている。
それから考えれば夢を叶えられるかも知れない…………

――――そ、そんな事は後だ!
内容……内容は殺し合いゲーム、バトルロワイヤル。
た、確か……最後の一人になるまで殺し合えと言っていたか?

き、君達の力はある程度制限させてもらったとも言っていた。
ち、力?身体能力の事で良いのだろうか?
死んだ蝙蝠さんが『手裏剣砲』を使えていたから技術は使用が出来るのか?
ぼ、ぼくの『忍法運命崩し』はあくまでも運だけだから制限は出来ないだろう。
………………多分。

ろ、6時間毎に誰が殺された情報が入ると言っていた。
24時間以内に自分以外の全員を殺さなければ皆殺しだと言った。
そして、殺し合いの場所に送ってやると言った水倉神檎。

そ、そ、そう言えば、6時間毎に誰が殺された情報が入る時に、
戦闘区域が狭くなるとも言っていたか?
情報を注意して聞いておかないと…………

そして目の前が段々暗くなったと思ったら何時の間にかこの殺風景な部屋に居る。


情報収集は得意分野では有る。
し、し、しかし、判らない。
なななななな、何が何だか判らない。

は、は、は早くこの部屋から出て情報収集を開始した方が良いのだろうか?
と、とりあえず鳳凰さまと合流すれば何とかなるか?
窓の外を見れば真っ暗な事からまだ夜中の様だとは判る。
その上、高さから考えて…………2階?

そ、そそ、外に出ようか?それとも、今はまだ待った方が良いのか?
と、とりあえず支給品を確認をしてから行動した方が良いのか?
ど、ど、ど、どうしようか…………

ギシィ…………

え?あ、足音?

ギシィ…………

だ、誰かがぼくが部屋に居る事に気が付いたのか!?
い、いや、まだ、まだそう思うにはまだ早い。
偶然、偶然近くを通り掛っているだけかも知れない!
で、でも…………隠れていよう。
250◇kCGp90my/U修正版代理投下:2009/03/29(日) 21:57:18 ID:T6JbQbwa
ギシィ…………

ギシィ…………

ギシィ…………

ギシィ…………

ギシィ…………

ギシィ…………

ギ…………


と、止まった?


キィィ…………


は、入ってきた!
そ、そそ、そんな!?気が付かれてはないと思ったのに!?

「いーたん居るかーい?」

『いーたん』?誰だ『いーたん』って?
普段この部屋に住んでいる人の名前?
と言う事はその人もバトルロワイヤルに参加してるって事!?

「おっかしいなー?
いーたんが大好きな奴はここに集まるだろうと思ってたんだけどなぁ?」

あ、集まる?事前に集合場所に指定されていたのか?
いや、それにしては確信が無さそうだから「居るかも知れない」
その程度の予想か?

「まあいいか…………いーたんでは無さそうだけど出て来い」

な!?

「おいおいおいおいおいおい。
まさかこの人類最強の請負人が気が付かないとでも思ったのか?」

人類最強の請負人?

「いいから出て来いよ。こっちはこっちで忙しいんだからな?
さっさと、哀川潤を探し出して殺す予定なんだからな」

「え?」
人探し中?あ、し、しまった!

「あ、口滑らせちまったか?まあ、やっと声だけでも出してくれたし、まあいいや。
早く出て来いよ?まあ、出て来ても殺すし出て来なくても殺すけどなぁ。」
なっ!?
251◇kCGp90my/U修正版代理投下:2009/03/29(日) 21:58:52 ID:T6JbQbwa
「十数えるまでに出てこないと殺すぞ?はい、じゅー」
え、あ

「きゅー」
あ、あ

「はーち」
ほ、ほ、

「ななー」
鳳凰さま!

「ろーく」
た、たたた、

「ごー」
戦わなければならないのですかッ!

「よーん」
でも、でもぼくは

「さーん」
ぼ、ぼぼぼぼぼぼ、

「にぃー」
ぼくはッ!

「いーちっ」
「た、戦いたくないッ!」

「はいっ、ぜ……」
「………………」
「お前、今何て言ったんだ?」


「ぼ、ぼ、ぼくは…………戦いたくない」
流れ出る沈黙、まだ姿を見せないぼくをどう思っているのか?


諦めているのか?
呆れているのか?
飽きているのか?
嘲っているのか?
怒っているのか?
疑っているのか?
恨んでいるのか?
驚いているのか?
考えているのか?
困っているのか?
狙っているのか?
呪っているのか?
迷っているのか?
許しているのか?
弱っているのか?
判っているのか?
染まっているのか?
楽しんでいるのか?
伝わっているのか?
戸惑っているのか?
252◇kCGp90my/U修正版代理投下:2009/03/29(日) 21:59:38 ID:T6JbQbwa
どう思っているんだろうか?

「くくく」
笑っている?


諦めている訳でもなく、
呆れている訳でもなく、
飽きている訳でもなく、
嘲っている訳でもなく、
怒っている訳でもなく、
疑っている訳でもなく、
恨んでいる訳でもなく、
驚いている訳でもなく、
考えている訳でもなく、
困っている訳でもなく、
狙っている訳でもなく、
呪っている訳でもなく、
迷っている訳でもなく、
許している訳でもなく、
弱っている訳でもなく、
判っている訳でもなく、
染まっている訳でもなく、
楽しんでいる訳でもなく、
伝わっている訳でもなく、
戸惑っている訳でもなく、


ただ、笑っている?


「はぁ…………あーあ、ばからしい。
とりあえず殺す気なくなったから顔だけ出せ。」
――――え?殺す気は、なくなったのか?

「さっさと天井裏から出て来い!ズルズル待たせるとぶっ殺すぞ!!」
「ひッ」
こ、こここ、殺される!は、は、早く降りないと殺される!

ガタ、ゴト、バキ ドサッ
お、落ちたけども…………とりあえず降りられた。

「はぁ……やっと降りてきやがったか」

目を玄関の方に向けると、そこに居たのは、
何処までも紅く、何処までも世界を皮肉っている様な笑みを浮かべた,

凄まじく綺麗な女性だった。
253◇kCGp90my/U修正版代理投下:2009/03/29(日) 22:01:04 ID:T6JbQbwa
何処までも紅く、
「さーてと」
何処までも皮肉ったよな笑みを浮かべながら、
「降りて来た所で」
ポケットから何かを取り出し……
「私の願いを叶える為だ」
倒れている僕の頭を狙って構え……
「死ね」
気が抜けた様な音が一つ鳴ったと思うと…………

「――ああ?」
床に穴が一つつ開いた、だけだった。
「この距離で外した?」

「そ、そそそそ、それは、炎と」
「うるさい、黙れ、死ね」
また一つ、気が抜けた様な音が鳴ったが…………

「あれぇ?おっかしいな……
なんでこの距離であたらねえんだ?」
床の穴が二つになった、だけだった。

「…………運命崩し」
喋りだす僕
「は?」
まだ何が起こったか判っていない様子の自称・人類最強さん

「ぼくの使う忍法の名前は運命崩し。
運命崩しの前では飛び道具は決して当たりません」
とりあえず無駄だと言う事を説明してみた。

「――――へえ?だとしたら……キング・クリムゾンみたいなもんか?」
試す様にまた音が一つ鳴って穴が三つになった、だけ。

前は、左右田右衛門左衛門に跳弾を使われて飛び道具からも怪我を負ったが、
ここの壁は薄いお陰で外に貫通している為に跳弾の心配は無い。
そのために運命崩しの効果は存分に発揮できる。


「はい?き、きんぐくりむぞん…………な、何かは知りませんが……少なくとも今は飛び道具は当たりません」
「――――ふ〜ん……でもその言い方からすると飛び道具限定か?だったら」
直接殺すまでだ!そう言って一歩彼女が踏み出す前に倒れたままのぼくは、
楕円形の黒い球を二つ投げた、だけだった。

「?」
警戒してか、自称・人類最強は避け、
「おっ?」
壁に当たり跳ね、人類最強に当たり跳ねる。壁に当たり跳ね、また人類最強に当たり跳ねる。

「…………はぁ、
こんな遊び道具なんかで、この人類最強を止められると思ったのか?ん?」
飽きれた様な顔でこちらを見ながら近付こうとするが、
気が付いたようだ。

「あぁ?球の速度が上がってる?
しかし何で玄関が空いてるのに外に出て行かねえんだ、これ?」
跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。跳ねる。
光速に限りなく近い速度で跳ねる!
254◇kCGp90my/U修正版代理投下:2009/03/29(日) 22:02:21 ID:T6JbQbwa
「なッ!こ、これは!?」
「忍法柔球術」
柔球術――それは球状のゴムのように柔らかい球を室内で投げ、
その球が建物内で何度も反射しながらスピードを増していくと言う物。

そのあまりの速さゆえに球を止める方法は皆無、
そのあまりの速さゆえに球を避ける方法は絶無。
あまりの、あまりの速度に球が百や二百にも見える。
そう、それが増殖の人鳥と言われる訳。

本当なら、自分にも球が当たる為に捨て身の業の筈だが、
『忍法運命崩し』の前では飛び道具は決して当たらない。

つまり、


運が良いぼくには全く当たらずに
自称・人類最強さんに当たり続ける。


普通なら玄関が空いている上に、天井に僕が下に落ちた時に開いた穴、
それか窓ガラスを割って外に飛び出すだろう。
そう、普通なら。

しかし、
『忍法運命崩し』の効果で僕には当たらない、
更に脆い部分に当たる回数も最小限!
なぜなら、

ぼくは運が良いから!

ふぅ…………一体どれ程の時間が経っただろうか?

球の一個は割とすぐに玄関から出て行ってしまった。

自称であれ、人類最強と言うだけあってしぶとかった…………
しかし、顎に当たったせいでか倒れた彼女。
それから一分も経たずに残り一個だった光速に近い速度の球はガラスを突き破って出て行ってしまった。

「――――――――」
倒れている自称・人類最強さんのすぐ横で、
真庭人鳥は考え込んでいた。

やろうと思えば、やろうと思えばだが、
ここでこの人を殺す事は簡単に出来るだろう。
しかし、思い出してしまう。

鳳凰さまが毒刀『鍍』の力で狂った時、
その時に斬り付けられて怪我を負い、
そのまま放って置かれれば死んでいたであろう僕を助けてくれた。
あの時の奇策士とがめと鑢七花の二人組…………

情けをかけてか?
理由までは判らないけど敵である筈のぼくを助けてくれた。
あの時の二人を思い出すと殺す事が出来なかった。
255◇kCGp90my/U修正版代理投下:2009/03/29(日) 22:03:21 ID:T6JbQbwa
でも、なぜだろうか?
今まで生き残る為に殺す事を厭わなかったぼくが、
この人を殺す事を躊躇うなんて?

「ぼくは戦いたくなんかなかった」

一度、死ぬ直前に言ったあの言葉…………
あの時に死にたくなかった為だけに言ったのか?
それとも…………あの言葉が本心だったとしたら?

――――――首輪か…………
何をやるにしてもこの首輪は邪魔だ。

情報収集は得意だ
何とかしてこの首輪を外す方法を探せば…………
あるいは…………

な、何をやるにしても、自称・人類最強さんが起きたら協力を頼めるだろうか?
最強を名乗るんだから強いだろうし、
せ、せめて鳳凰さまと会うまでの間お願い出来るだろうか?

で、でも、仮にも一度は殺そうとした相手を目の前に見逃す上に手伝ってなんかくれるだろうか?
――――あ、そう言えば請負人って言っていたから交渉すれば雇われてくれるだろうか?
請負人と言う事が本当なら、鳳凰さまに会えるまでの間だけでも護衛をお願い出来るだろうか?

――――――悩んでいても仕方が無い。
自称・人類最強さんが起きるまでの間は看病をして置いてあげよう、うん。
とりあえず…………玄関を閉めてからかな?

あっ、そう言えば外に出て行った球は…………
ま、まあ、あの球は武器と言うほどの物じゃないから、
武器と判断されなかったのか、取り上げられていなかったおかげでまだいくつかある。
放って置いても大丈夫…………かな?

と、とりあえず交渉材料としてと炎刀『銃』とか持ち物は預かっておこうかな?
256◇kCGp90my/U修正版代理投下:2009/03/29(日) 22:04:10 ID:T6JbQbwa
【1日目 深夜 骨董アパートD−6】

【真庭人鳥@刀語シリーズ】
[状態] 健康
[装備]柔球術用の球
[道具]炎刀『銃』の回転式の方@戯言シリーズ、支給品一式×2、ランダム支給品(1〜3)×2
[思考]
 基本 鳳凰様と合流したい。
 1 どうやれば首輪を外せるかな?
 2 と、とりあえず、起きるまでの間は看病しておこう。
 3 あ、この人の名前って何だろう?
 ※球を放って置いたのは取りに行く事が今はまだ危険だろうと思っての事です。
 ※球は見る人が見れば真庭人鳥の持ち物だと判ります。


【誰でもない彼女@戯言シリーズ】
[状態] 全身打撲、気絶 (現在の姿は、哀川潤)
[装備] なし
[道具] なし
[思考]
 基本 哀川潤を殺して私が本物に成り代わる。それを邪魔する奴も殺す。
 1  気絶中
 ※参戦時期は哀川潤に成り代わると玖渚友の住むマンションで戯言遣いに言った頃より後です。
 ※いーちゃんの部屋に居れば本物の方から現れるだろうと思って待ち伏せする予定でした。


代理投下終了です。
257創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:24:27 ID:c+fJfxTh
ここは『絶望の果て』である。
この表現は殺し合い――バトルロワイアル――が行われているからでなく、この場所が『絶望の果て』ということである。
本来ならこの赤神イリアの屋敷は鴉の濡れ羽島にあるべきものであるが、現在は地図のH-4に建っている。
鴉の濡れ羽島とはロシア語で《絶望の果て》という意味である。
そこに建つ建物というものは、いったいなんであろうか。
絶望の上に建つ建物とは。
どれだけの恐怖を、破壊を、混乱を、そして絶望を生み出したのであろうか。
そして今生まれているのは、死闘。
258創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:25:08 ID:c+fJfxTh
◆     ◆

命を懸けた戦いで最も恐怖すべきであるのは、
体に口――にしては、凶暴さを滲み出している――を生やしている一人の少女である。

闘う姿はまるで妖怪ものであった。
その力は主催者と同じ『魔法』の一種であり、彼女はその力をあの男――水倉神檎――に与えられたのであった。
『魔法』といっても様々なものがあり、魔法使いそれぞれの個性がある。
あの真っ赤な、安全ピンの様な、ジャケットの男は『属性』が『光』、『種類』が『物体操作』の魔法使いであったが、
対する少女は『属性』が『肉』、種類が『分解』の魔法使いである。
体に口を持つ少女の攻撃は、人ならざる攻撃であった。

しかし、身体性能の差であろうか、他の者との戦闘センスの差であろうか。
その絶大なる力をもってしても闘いに終わりを告げることは出来ていない。
そうして額の口が、不機嫌そうに、歯軋りをした。
『ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ』
259創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:27:05 ID:c+fJfxTh
最も破壊している者は――周りの豪華絢爛な装飾などを構いもせずに、
いやわざと壊すことにより戦いを有利にしているのかもしれないが――最も素早い動きで手に持つ拳銃を使う者である。

彼は最初に殺された忍者集団と同じような装束をしていた。
確かにその動きはただならないものではあった。
彼は殺人を厭わない忍者集団のなかの、
12人の頭領――口から刃物を出すものと同等の者たち――の中でも抜きん出た実力を持つ者であった。

さらに、その左手は彼のものとは思えない形ではあるが、
彼が彼の時代とは形が全く違う拳銃を使えているのは――忍法記録辿り――そのおかげであるのだ。
「忍法断罪円!!」

260創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:28:10 ID:c+fJfxTh
最も混乱を生んでいるのはそれらあらゆるものをかわし続ける女である。

彼女は艶やかな若草色の和装であり、それに似合う和風美人である。
そして、全ての攻撃をかわし続けるだけではなく、着物の裾すら、乱さずに攻撃を避けている。
誰もがその技術――空蝉――を見破れず、困惑しているようだ。

一方彼女は余裕の表情で、その様子は明らかに相手の疲れを待ち反撃の機会を伺っているようだ。
「若い・・・・・・」
261創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:28:56 ID:c+fJfxTh
そして最も絶望を生み出しているのはメイド服の彼女であった。

彼女はこの屋敷のお嬢様――赤神イリア――の警護担当として戦闘訓練を受けた戦闘メイドであった。
しかし、本来ならばこのような化物たちのなかでは彼女も霞んでしまう存在であったかもしれなかった。
では、なぜ彼女が絶望を生み出せているのだろうか。

それはこの屋敷をくまなく知りえているからではない。
確かにそれも原因の一つかもしれないが主なものではない。

主な原因とは彼女の胸に刺さっている一つの刀である。

それを刀とよんでいいのかは、悩むところだが――明らかに苦無の形をしている――つくった本人が
刀だというのだから間違いはないのだろう。
その刀、悪刀『鐚』は『活性力』に主眼が置かれた、
所有者の疲弊も死も許さず人体を無理矢理に生かし続ける凶悪な刀である。

そんな刀を接近戦のエキスパートが使えばどうなるだろうか。
どれだけ動きを高めるだろうか。
どれだけタフになるだろうか。

そういった理由からして彼女は絶望を生むにいたっているのである。
「埒があきません
 こんなスリリングな削り合いかわし合いなどに――全く意味はありません。そうは思いませんか?皆さん。
 あなた達は一度死んで見ませんか?」

しかし誰も決定打を打つことが出来ないままであった。
262創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:30:04 ID:c+fJfxTh
◆     ◆

その四人からなる死闘――四闘――を・・・・・・
じいっ、と。
まるっ、と。
ぎょろり、と。
ぐるり、と。
まじまじ、と。
しっとり、と
女は――眼を凝らすようにして、死闘と、それをする者たちに――眼を向ける。
時には全体に。
時には個々に。
時には口に削られた残骸に。
時には所々にある銃創に。
時にはあらゆるものをかわし続ける者が次にかわす技に、方向に。
時には服の上からでは分りにくいが、――推測ではあるが――自分が以前使っていた刀に
眼を。
その――両のまなこで。
見る――視る――観る――診る――看る。
全て――総て――凡て――観察するように――舐めるように診察する。

「・・・・・・ふうん。なるほど、理解したわ」
 やがて、屋敷のそとから覗く彼女はそう呟く。

「個々の基礎体力、技術、経験、特殊能力、道具、見取れるものすべてを。そしてこの死闘の先もね」
263創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:31:11 ID:c+fJfxTh
◆     ◆

彼女が持つ特異性それは、
天才性の発露――見稽古。
それは『天才』が持つものにしては、行き過ぎたもので、
まるで『天災』といった人にはわからざるものと同じカテゴリーに含まれるものである。

見た技をそのまま自分のものとして習得できる戦闘技術。
また、その『眼』の力は、他人の戦闘技術を習得するだけにとどまらない――ありとあらゆるものを看破する、そんな眼である。
どんな技も、どんな動きも。
どんな弱点も。
ひとつ残らず見通せる――鑢七実の見稽古
いったい彼女はなにを見取ったのであろうか。

◆     ◆

「もう、見取れるものは見取ったし、この死闘がこのまま終わるのは、
わたしにとって良いことは一つもないわね。草は、草が如くむしってやりましょう」
彼女が手にするはRPG-7。
本来ならこのような広い場所で、このような者たちに効果覿面な道具ではないが、
使うのが死闘の結果すらも見通す『眼』を持つ彼女である。
「いつまでも、綺麗に立ち回れると思わないことね」
発射と同時に、ふぅー。と、よく似合うため息をつくのだった。
264創る名無しに見る名無し:2009/03/30(月) 23:32:36 ID:c+fJfxTh
◆     ◆

一方、屋敷内は悲惨な事態になっていた。
屋 敷の装飾はもとの絢爛さのみる影もなく、屋敷内は台風でも通ったあとかのようだった。
そこにあるのは残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、
残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、草、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、
残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸であった。
その草は所々赤い、若草色であった。少しづつ、少しづつ、赤く染まっていくそれはよく見れば和装であった。
『天災』である『天才』はその様子を見ながら踏みつける。

まだ息があるのだろうか。
闇口である彼女は――売りが主人以外の誰からも攻撃を受けたことも、
触れられたことも無いということもあり――未だ息をしていた。
彼女は自分を死に至らせただろう者の足をつかむ。
実際のところ、意識はなかったかもしれないが。

鑢七実は深く、深くため息ををつき。
そして――眼を細め、非常に冷酷な死線を彼女に向け。
「何を勝手に、わたしの肌に触っているのですか――この、草が。」
つかまれたのと反対の足で――女の頭を踏みつけた。
繰り返し。繰り返し。繰り返し。
相手の反応などまるで構わず――踏みつける。
「草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。
草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。
草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。」
程なく――女の頭部は失われた。
跡形もなく――ただの血だまりに、肉だまりと化した。
それでも若者の手は女の足首をつかんだまま放さなかったが――女は無情にも、足首を軽く振るだけで、その指を払った。



【闇口 憑依@零崎一賊シリーズ 死亡】 
265創る名無しに見る名無し:2009/03/31(火) 09:27:35 ID:cQ2yEl4b
◆     ◆

「はぁ、はぁ、なんなのよ。魔法も使っている様子もないのに、化物かあいつら」
身体に口を生やした少女ツナギは走っていた。
その様子には闘いの最中の威圧感はなく、今は心なしか焦っているようにみえる。

彼女は主催者である水倉神檎によって「魔法」使いにされた少女である。
そして彼に殺されることをも同時に願っている。
彼女は体に512の口をもち、2000年以上生きている「魔法」使いではあるが、
そんな彼女からしても先ほどの死闘を繰り広げた者たちは、埒外に感じたのである。
「まずはあのコーヒーショップに向かうか」
いくら戦闘に自信がある彼女でも不安に感じたのであろう。
仲間がいるかもしれない場所に魔女は向かった。



【1日目 深夜 H-4】
【ツナギ/繋場いたち@新本格魔法少女りすか】
[状態]身体中にかすり傷、疲労(中)、口の出現により服が所々破れています
[装備]なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
 基本 「水倉りすか」「供犠創貴」 を探す
 1 コーヒーショップに向かう





館からは離れたところに忍者はいた。
流石忍者とでもいうべきか、戦線から離脱する早さは誰よりも早いものであった。
「あの爆発に直接巻き込まれてしまっては、我でも危なかったであろうな」
忍者集団の頭領の中の頭領、真庭鳳凰は偶然にも爆風から逃れることが出来たのだ。
「しかし、この忌々しい首輪のせいで、頭領のうち残っているのは我を含めて三人か。
もし生き残り、もとの世界に戻っても我一人ではどうしようもないな。狙うは優勝して願いを叶えてもらうことか」
しかしそれを本当に信じてよいのだろうか。
まずは生き残った頭領たちとあうことをめざすか。
そのために目指すのは真庭の里であろうな。
此処からは遠いみたいだが、地図の果てがどうなっているかも気になるな。



【1日目 深夜 H-5】
【真庭鳳凰@刀語シリーズ】
[状態]身体中にかすり傷、疲労(小)
[装備]ジェリコ941
[道具]支給品一式、ジェリコ941の予備銃弾(残り60パーセント)、ランダム支給品(1〜2)
[思考]
 基本 真庭頭領を探す
 1 地図の果てを確かめる。
 2 主催者が本当に願いを叶えるだろうか・・・?
266創る名無しに見る名無し:2009/03/31(火) 09:28:30 ID:cQ2yEl4b
フラフラと歩く姿は、メイド服でありながらも、メイド服は破れ、焦げボロボロである。
しかし、余計にその姿が本来このような場には相応しくないメイドであることと相反して、奇妙な威圧感を生み出している。
何も考えていないように見えるその姿。
しかし、彼女には確固たる意思、目的がある。
「あらゆることはお嬢様のために」


【1日目 深夜 H-4】
【千賀てる子@戯言シリーズ】
[状態]軽い火傷、疲労(小)、悪刀『鐚』により回復が早いです
[装備] 悪刀『鐚』
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)
[思考]
 基本 すべてはお嬢様のために
 1 お嬢様を探しだし、いない場合優勝を目指す。


※悪刀『鐚』の力により体の「活性力」が高められています。
程度はどれぐらいであるかは後の書き手さんに任せます。
267創る名無しに見る名無し:2009/03/31(火) 09:30:45 ID:cQ2yEl4b
◆     ◆

「ふふ、でも面白いわね。これ」
すでに肉塊となった者の支給品を見ながら呟く。
見ているものは、ある心臓である。
なぜかその心臓は切り離されているというのに、バクバクと脈を打っている。
その心臓は、五百年の時を生きる最強クラスの怪異、
自称「鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼」キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードのものである。と、説明書きと一緒にあったものだ。
そして他にもパーツが支給品としてあると。
この心臓は本来、吸血鬼とその知り合いにとってしか意味を成さないものであった。
しかし、手に入れたのは『眼』を持つ彼女であった。
彼女の『眼』にも『健康』までは見取れない。
しかし吸血鬼の『再生力』は?
凍空一族の筋力による怪力ではない、能力的である『怪力』を見取れた彼女にはそれは不可能だろうか。

可能であった。
しかしあくまでも『吸血鬼』の一部であるものからは、一部の『再生力』しか見取れなかった。
しかし『再生力』に特化した吸血鬼の、それも心臓である。
一部といえども、その『再生力』は並み知れないものであった。
最強の『再生力』を見取った彼女は、礫の山を歩きながら再度呟く。

「この『再生力』があればわたしでも本気をだせるかもしれない……
 出してみたい。わたしの本気を。あの子にも見せてやりたい。わたしの本気を」

ふふっ、天才は笑う。

「この後はどうしようかしら。
 いくあてもないし、地図にある不承島にでもいってみるかな。
 もしかしたら、あの子もいるかもしれないしね」

そして、血に染まった草鞋を気にする風もなく、何事もなかったかのように――歩みを再開させた。
【鑢七実@刀語シリーズ】
[状態]健康
[装備] なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)、キスショットの心臓
 闇口憑依の支給品(確認済み)
[思考]
 基本 不承島にいってみる
 1 七花とあってみたい
 2 完璧な『再生力』を見取るために吸血鬼のパーツを集める
 3 『再生力』を見取り自分の本気を出してみたい
268創る名無しに見る名無し:2009/03/31(火) 09:38:16 ID:cQ2yEl4b
以上で投下終了です。
269創る名無しに見る名無し:2009/03/31(火) 13:03:03 ID:cQ2yEl4b
忘れてました。題名は
死闘(四闘)
です。
270創る名無しに見る名無し:2009/03/31(火) 20:59:18 ID:Oba/8k/G
おつかりー
271創る名無しに見る名無し:2009/04/01(水) 00:28:42 ID:4cXVED8u
投下乙です。
ある意味、今までで一番バトロワっぽい感じ? 完全に武闘派一色でしたね。
それだけに、キャラ同士の会話や詳しい戦闘描写が少なかったのが少し残念でした。
272創る名無しに見る名無し:2009/04/01(水) 23:07:16 ID:vgUuM91P
乙。

しかし、吸血鬼の再生って、
個人的には七実をもってしても「見取ることの出来ない」能力の筆頭のような気がするが……?
凍空一族の怪力みたいに作中描写の少ない異能なら、設定でっち上げの余地あるけど。
傷物語での吸血鬼たちの能力格差見ると、努力の余地も習熟の余地も一切ない代物みたいだが。
見稽古で何とかなるのって、努力で技術磨く余地のあるスキルだけのような気が……。
(習得に要する時間や努力がほぼゼロ、というだけで)

いや、解釈分かれる所ではあるのは分かってるが、全く釈然としない。
273創る名無しに見る名無し:2009/04/01(水) 23:54:09 ID:beWNMPVU
努力で技術磨く余地のあるスキルだけってのはちょっと違うんじゃないか、
確か七実が蟷螂から写し取った爪合わせは本来蟷螂だけの特異な体だから
体の中多少いじくらないと出来なかったらしいし、
まあ、再生能力云々はそうかもしれんし、あってるだろうが。

なんにせよ、多少の矛盾とかには目をつぶろうぜww
274◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 09:56:20 ID:6upfGiJQ
「不笑」

本当につまらないとでも思っている様な声で、
戦闘でもあったかの様に荒れた病院の一階で、

「――――それだけの為ならば、本当に笑えぬぞ、闇口濡衣とやら」
『そうですか?左右田右衛門左衛門さん』

そう答えていた。


 〜それは一時間ほど前に遡る〜


「不笑」

顔を不忍 と大きく縦書きした面で隠している男は、
無意識にか、

「――――本当に笑えないぞ、水倉神檎」

左右田右衛門左衛門、彼はそう呟いていた。

思い返してみれば尾張城、
そこで虚刀流と戦い敗れた、はずなのに、

「なぜ生きている?」

虚刀流との戦い。
虚刀『鑢』の七花八裂(改)、
炎刀『銃』の断罪炎刀。

二つの変体刀の戦い、
その結果、否定姫を残したまま、
虚刀流に八つ裂きにされたはず…………だった。

「………………」

しかし、あの時はあの時。
私がやる事に変わりは無い。

「不快」

奴の、水倉神檎の思い通りになると思うと多少の苛立ちは抑えきれない、
しかし、

「やる事は一つ」

姫の役に立つのみ。
ならば、
「不生」
そう、やる事はどんな状況であろうと一つ!
275◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 09:58:19 ID:6upfGiJQ
「――――姫以外は一人残らず生かしはしない」
そして、姫の願いを、
何か知らぬが姫の願いを、叶えてみせる。

それが姫に出来る恩返しの一つならば
「不生」
絶対に絶対に姫以外の全員を殺す!
「――――一人として生かさず…………」


やる事が決まったならやるのみ。
さて、
場所の確認をして、早速動き始めるとしよう。

そう思い、なぜか居た道から立ち上がった途端、
顔のすぐ斜め上から一本の金属の矢が通り過ぎた。
「なッ!?」

驚き、立ち上がり、念の為に矢から離れ、警戒し、次の襲撃に備えるが、
「……………………?」
来ない。

一撃離脱か?
しかし、普通ならば何発も放つはず?
ここで殺しておかねば、相手に武器を教えているだけではないか?

「ふむ…………」
とりあえず、もうこれ以上は無いだろうと判断し、
金属の矢の方を見ると、

「む?紙……か?」
紙が金属の矢と一緒に付けられていた。

「…………」
怪しい、その一言に尽きるが、
今ここに居ると言う事はこの戦いに参加している人物の一人。

その人物の痕跡を無視する訳にも行かず、
金属の矢と紙を見るために近付いた。

紙には何やら書き込んであるが、
武器の分析を優先する為に紙を外し、
金属の矢を観察した。

「ふむ…………」
見た目からして炎刀『銃』の様な火薬を使った武器ではないのか?
恐らく、金属製の石弓と言った所か?
それ以上は、これから読み取れないと判断し、
後で何かの役に立つかもしれないと思い懐に収め、

「さて」
紙に書かれている内容を確認しよう。
そう思い見た所、書かれていた事、それは


『E−4の病院で今から三時間の間だけ、あなたを待っています。』
276◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 09:59:56 ID:6upfGiJQ
「ふむ…………」
罠か?罠ならば乗らない事も一つの手、
だが、乗らなければ誰かは判らぬが逃す事になりかねない。

ならば、
「不乗」

そう、自分にしか聞こえない様に呟きつつ、
「――――ここは乗らない方が賢い選択であろうが、行くとするか」
ただ、もう少し状況を確認してから。


 〜そして、三十分ほど前〜


「ここか」

罠かも知れぬが、一人でも多く殺すため……
警戒などしていてはチャンスを逃す事になる。

「…………」

しかし、死んでは殺す事もできぬ…………
少し、周りを確認してから
『ウィーン』

…………『ウィーン』?
「む?」

近付いただけで勝手に扉が開いた?
――ふむ、そうか。
相手はこちらの行動は予想済みか…………

ならば、
「乗らぬ訳には行かぬな」
周りを少しは調べたかったが、致し方ないな。

罠があろうがなかろうが、
「不生」
生かさず、殺す。
それだけだ。


「――――――――」


足音も無く病院内に入るが、

『ウィーン』

勝手に扉が閉まった…………
と言う事は、
何処からかわたしを見ている確立が高いか…………


「――――――――」
277◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 10:01:10 ID:6upfGiJQ
しかし…………
一体何処から見ている?
周りを見ても影も見えぬとは…………

「む?」
道の隅に椅子が倒れている?
「ふむ」
罠か?
しかし、一応は確認はして置かねばなら……ぬ?

そこにあったのは、
血塗れの壁、折れた刀、壊れた椅子、なぜか無傷の緑色の箱、壊れ窓、穴の開いた天井。
「ふむ、刀が一本?誰の…………ってわたしの刀ッ!?」

う、迂闊…………
最初に武器は取り上げられていたのには気が付いてはいたが、
他人の手に渡っている確立も考慮しなかった…………

「不笑」
仮面で見えないが妙に苛立った様な口調で、

「――――本当に笑えぬぞ、誰かは知らぬがな」
ふっふっふっふっふ。
そう、不忍の仮面の下で不気味な笑っている所、

『トゥルルルル』

「む?」
なッ!?音が鳴るような物がこの辺りにあったか?
無かったと思っていたが…………

「…………」
一体何処から音が…………
「ふむ」
鳴っているのはどうやら緑色の箱からか。

…………罠か?
そう思いながら遠くから見ていても鳴り止まぬ箱。
「仕方が無い」
何かは知らぬが、調べてみない事には始まらない。

鳴り続ける箱に向かい、前に立った。

『トゥルルルル』

何か止める方法があるはずだが、
見たことが無いので判らぬ…………
姫ならば判るやも知れぬが…………

箱の前に立ち続けて、
かれこれ、十分が経とうとした時、

「電話にいい加減出て下さい」

「!」
聞こえてすぐ振り向いたが誰も居る様には見えない…………
しかし、電話に出るとは何だ?
とりあえず………………
クルクルと螺旋の紐?が付いた長方形の物を取ってみるか?
278◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 10:01:57 ID:6upfGiJQ
『ふう、やっと出てくれましたか』

「なッ!?」
長方形の物から声?
――まあ、相生忍法声帯写しを使える私が驚くのもあれか…………

『……知らないようですから言って置きますが、
これは電話と言う物です。まあそれはそれで』
では、自己紹介をさせて頂きます。そう言いながら続けた。

『≪十三階段≫八段目、闇口濡衣。
私の声を聞くのは、あるじといーちゃんさんを除いて三人目です。
おめでとうございます』
もっとも、既に十三階段からは抜けては居ますがね。
そう言うのを無視し、

「不判」
『はい?』と答える声も無視して続ける。
「――――全く持って判らないぞ、闇口濡衣とやら。
なぜわたしをここに呼び寄せた?」

『………………』
「………………」

『失礼ながら、あなたから…………』
「む?」
『あなたからも、闇口と同じような匂いがしましたが、違いますか?』

「――――――?」
闇口と同じ匂い?どう言う事だ?
相生忍軍の生き残りの一族か?
それならば判らぬでもないが…………

ここは、
「どう言う意味だ?」
質問で返すのが正解だろう。

『――裏の世界の住人だろうと思っていましたが……………
闇口の事を知らないようですし、どうやら、間違いでしたか。』
失礼しました。
そう言って闇口に関しての話題は無理やり閉じられたものの話は続く。

『ただ単にしばらくの間、同盟を結ぼうと思いまして。それだけです。』
話が読めない…………

『えー…………一応お聞きしますが、お名前は?』

「不判」

「答える必要性が判らないな」
『そうですか。それなら』
しかし、彼は相手が続きを言う前に答えた。
「しかし、一応答えておこう。左右田右衛門左衛門だ」

『……左右田右衛門左衛門さん?随分と昔風の名前ですね?』
では、話を続けましょうか?
そう言う闇口濡衣の話を無言で答えた。
279◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 10:03:14 ID:6upfGiJQ
『今回のバトルロワイヤルは優勝すれば何でも手に入りますが、
死亡すればもちろん何も手に入りません。判りますよね?』
それも左右田右衛門左衛門は無言で答えた。

『なので、私は確実に優勝して今後もあるじの役に立ち続けたい。
あなたも、私の様にあるじを持ち、
その方に忠誠を誓っているだろうと予想していますが』
違いますか?と言う質問に対し
それも左右田右衛門左衛門は無言で。

『しかし、このバトルロワイヤルでは素人でも勝てるように、
私達のようなプロの身体能力が若干ではありますが制限されている上に、
身体能力が制限されてはいるものの他の殺し名の人間も居る為に、
優勝出来る可能性は限りなく低い。

ならば、誰かと組む事によって少しでも危険を減らし優勝出来る確率を上げたい。
これも判りますよね?』
それも左右田右衛門左衛門は無言。

『殺しつつ、同盟を結べそうな相手を探そうと思っていた所で、
あなたを見つけたのです。
私と同じ匂いのする、左右田右衛門左衛門さん、あなたを』
左右田右衛門左衛門は無言。

『あなたならば、私の事を理解し、同盟に誘えば乗ってくれると思い、
このような方法で連絡を取ったという訳です』
お判りですか?
左右田右衛門左衛門は…………


 〜そして時は今に至る〜


「不笑」

本当につまらないとでも思っている様な声で、
戦闘でもあったかの様に荒れた病院の一階で、

「――――それだけの為ならば、本当に笑えぬぞ、闇口濡衣とやら」
『そうですか?左右田右衛門左衛門さん』

そう答えていた。

「結局、優勝者は一人のみ。
ならば、協力しようが何をしようが、
お前が優勝を狙っている限り、
姫に危険を及ぼす者になる可能性がある限り、
絶対にその話には乗れぬ」


そして、長い沈黙が――――――――流れる。
280◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 10:04:58 ID:6upfGiJQ
『そうですか…………』
沈黙を破ったのは意外にも闇口濡衣だった。

『あなたなら、あなたならば、
私の存在理由を理解してくださると思いましたが、
致し方ありませんね』そう言って

「――――――――」
『今後も私はあるじの役に立つために死ねないので』
死んでください。
そう最後まで言う前に、両方とも動いた。

闇口濡衣は、
隠れていた天井の穴から
左右田右衛門左衛門の頭に向けて
ボウガンの矢を放ち、

左右田右衛門左衛門は、
まるでこの展開を予想していたように
頭を軽く下げボウガンの矢を避け、

『なッ!』
そう驚いている闇口濡衣の居る天井の穴の中に向けて、
懐に入れていた矢を投げた。

グチャッ
『ガッ!』

そう気持ちの悪い音と声が聞こえたのを確認し、
左右田右衛門左衛門は再び電話に向き直り聞いた。

「不判」

「――――全く持って判らぬぞ。闇口濡衣よ」
まるで何事も無かったように話し掛けた。

『……な……ぜここに居る……と判ったのです……か?』
「不答」
苦しそうな声で聞いてきた闇口の質問を、
「――――そんな事も判らないようでは、
組んでいようがいまいが結果は変わらなかったであろう」


左右田右衛門左衛門は、
ここの状況を始めて見た時から不審に思っていた。

血塗れの壁、
戦闘があったのなら判らないでもない。

折れた刀、
戦闘があったのなら判らないでもない。

壊れた椅子、
戦闘があったのなら判らないでもない。

なぜか無傷の緑色の箱、
左右田右衛門左衛門と連絡を取るためなら壊さないのは判る。
281◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 10:06:10 ID:6upfGiJQ
壊れ窓、
戦闘があったのなら判らないでもない。


しかし、
穴の開いた天井、
戦闘があったにしろ、なぜ天井に穴が開く?


壁や椅子などの地上の破壊は戦闘があって壊れたなら判らないでもない、が、
なぜ天井に穴が開いている?
特にここの天井の高さが低いと言う訳でもないのに、なぜ?

そう考えて時に思いついた。

ここの戦闘の跡は、
少しでも隠れている天井の穴の不自然さを隠す為の偽装なのではないか?と。

わざわざ電話の前で何もしなかったのはその為である。

本当に天井の裏に居るのならシビレを切らして何か行動を起こすだろう。
そう思い、何もしなかったら案の定に声がしたが姿は見えない。
その為、天井に隠れていると言う予想は確信に変わった。


「もう一度聞こう。――――全く持って判らぬぞ。闇口濡衣よ」


しかし、確信に変わった時に今度は疑問が出来た。

「なぜ、同じ様にあるじを持つ身でありながら、
わたしと協力できるなどと考えた?」

そう、左右田右衛門左衛門にしろ闇口濡衣にしろ、
不忍の左右田右衛門左衛門と、隠身の濡衣。

姿に形に行動の仕方。
全く対極と言っていいほど違う二人の共通項。
それは、あるじに対する忠誠心。

「なぜだ、闇口濡衣」

同じ様にあるじを第一に考えているのなら、
少しでもあるじの危険になる確率がある人物は、
可能ならば消す。
可能でないにしてもあるじの為に時間を稼ぐ。
すべてはあるじの為に。

そう考えるとすると、
こちらが同盟に乗ると思うなどありえない。
そう考えておかしくない。

なのにだ。
左右田右衛門左衛門が自分と同じ行動理念を持つ人間だと予想を付けていながら、
なぜ、なぜ、最初に矢を放った時に殺さなかったのか?
282◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 10:08:26 ID:6upfGiJQ
『ふ……ふふ…………私も判ら……ないで…………すよ』
闇口濡衣はそう答えていた。

『私……は、ある……じの……為な……ら……ば、
誰で……も殺す……事を……躊躇った事…………はあり……ません』
まるで命を吐き出すように言葉を紡ぐ。

『でも……ね。あな…………たは私……に似過ぎて……い……ました。
いーちゃんさん…………と……はま……た違う……意味で…………すが』
まるでもうすぐ終わりそうな命を言葉に代えて言い続ける。

「不笑」
と。
遮るように左右田右衛門左衛門は言った。

「――――これでは全く笑えないぞ、闇口濡衣」
と。
電話から離れ、
血が滴り落ちている天井の穴の近くまで行きながら、言った。
「まさか避けないとは」

まだ生きているのかビクリと天井裏から微かに動く気配を感じながら、
「心配するな。姿を見るつもりは無い」
血が滴り落ちた為に出来た血溜まりの傍に立ちながら続けた。

「もしも、だ」
返事を期待していない。
が、関係なく続ける。

「貴様が、否定姫に手を出した場合は、
わたしの全身全霊をかけて貴様を殺す」
しかし、と闇口濡衣の居る天井を見つつそう続ける。

「否定姫を陰からでも助けてくれていた場合は、
可能な限り貴様に協力してやろう。
言うならば、お前の言う同盟を結んでやる」

期待している様な声ではないがそれで満足したのか、
「それではさらばだ、闇口濡衣」
そう言って、背中を向けて立ち去ろうとした、
時。


……ガチャンッ…………


「?」
まるで血溜まりの中に何かが落ちた様な音が鳴ったので振り返ると、
ボウガンがちょうど穴の下、血溜まりの中に落ちていた。

ふむ…………前払い……と言う事か?と思いながら、
「不言」と。
283◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 10:10:20 ID:6upfGiJQ
「――――礼は…………言わぬぞ。闇口濡衣」
とだけ言って、
血溜まりの中の荷物を拾い上げ、
血の足跡をを残しながら、

「今度こそさらばだ、闇口濡衣。
もしも姫を見付けたら、しばらく頼む」
そう言い残して、
病院の中から姿を消した。




【1日目 深夜 E-4から移動中】
【左右田右衛門左衛門@刀語シリーズ】
[状態] 健康
[装備]ボウガン(矢付き)@戯言シリーズ
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 姫を探しつつ、見つけた姫以外の人間は殺す。
 1 姫を見つけたら、以後は姫の指示に従う。
 2 姫を闇口濡衣が何らかの方法でも守っていたら闇口濡衣と手を組む。
 3 姫が参加していなかった場合は、闇口濡衣と手を組む。




「ふぅ…………」
無意識には闇口濡衣がそう呟いていた。

「全く恐ろしい人ですね。
左右田右衛門左衛門さんは…………」
怪我をしたような声でなく、

「まさか私の撃ったボウガンの矢を持っていたとは…………
しかもしっかりと首に当たるルートで投げるとは」

左腕で首に当たるのは避けた為に多少の怪我はしたが、
床に血溜まりが出来るほどの出血ではない。
床の血は輸血パックの血でしかない。

まるで今にも死にそうな声は何だったのか?
ただの演技でしかない。

――――もっとも、左右田右衛門左衛門には、
演技だという事が完全にばれていた様ではあるが。

「しかし、危なかったですがほぼ予想通りの展開ですね」
闇口濡衣が何の為にそんな事をしていたのか?


闇口濡衣の計画はこうだ。
病院に参加者が来るように仕組み、
更に電話に出るように仕組む。

弱ければ後ろからの奇襲で死ぬであろうし、
強ければ奇襲を避けて逃げるであろう。
284◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 10:11:21 ID:6upfGiJQ
強い者は生き残れば、参加者を沢山殺してくれるだろう。
そうすれば闇口濡衣は残った強い人物を、
何らかの方法で殺せばいい。
つまり姿を見られる危険が限りなく低くなる。

とは言ってもまだ左右田右衛門左衛門だけしか接触してない上、
ボウガンを左右田右衛門左衛門にあげたから残りも少ないが。
ついでに言えば反撃が来るのは予想外であったが。

しかし何故、輸血用の血液の袋を持っていたか?
動かずに大抵の事を出来る状況にする為である。

万が一怪我をした人間が病院に来て動けない状況になっても、
自分用の輸血の血幾つか破けたものの持っている。
怪我をした場合もこれである程度は輸血は出来る。
あまり動かないで他の人間が死ぬ体制を整えた。


あとは勝手に殺し合いが終盤に差し掛かるのを待てばいい、
そのはずなのだが。

「…………左右田右衛門左衛門さん、か」
いろいろと闇口に似ていた彼。
まさか私と組むと言ってくれるとは思わなかった…………

同盟を結ぶ最低条件は、否定姫の安全確保、か。
しかし、彼の主人は否定姫と言うのか…………
今まで裏の世界に居てもそんな名前の人物を聞いた覚えがないが?

「全く私らしくもない………………」
動かないで勝手にこの殺し合いが終盤になるのを待つつもりだったのに、
私らしくない事は百も承知だが、

「行くとしましょうか」
否定姫とやらを探し出して左右田右衛門左衛門と会うまでの間は守ってあげましょうか、
無論見られない様にではありますが。

おっと、その前に左腕の怪我を治療しなければ、
後で支障が出るかも判りませんからね。
285◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/04(土) 10:13:30 ID:6upfGiJQ
ん?そういえば………………
どうも彼は私達とは、何かずれていましたね?
今の時代で電話を知らないとかちょっと考えられませんし、
もしかして別の時代の人間でも連れて来たのでしょうか?

――――普通に考えたらありえないですが、
水倉神檎、彼が最初にやった事を考えるとありえなくも無さそうですね。

もしも、私の考えが本当だとしたら、
水倉神檎。
奴はいったい何者なのでしょうか?



そうして、殺し名順列第二位の闇口衆の一人。
闇口濡衣は動き出した。



【1日目 深夜 E-4から移動中】
【闇口濡衣@戯言シリーズ】
[状態] 左腕に軽傷(治療済み)
[装備] ボウガンの矢(1本)
[道具] 支給品一式、ランダム支給品(1〜3)、治療用の道具(1〜?)
[思考]
基本 誰にも見られず行動する。
 1 否定姫を探し出し左右田右衛門左衛門と出会うまで守る。
 2 とりあえず適当に殺す。
 3 否定姫を見つけたらこっそり守る。
 4 出来れば左右田右衛門左衛門と同盟を結びたい。
 5 狐さんといーちゃんさんとは可能な限り関わらない。



えーっと、次回は
校倉必、匂宮理澄、絵本園樹、皿場工舎を一応予定しています。
もう○○の話を書いてるんだけど!という人が居ましたら、
言って頂ければありがたいです。


代理投下終了。
286創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 08:52:51 ID:K9iDJ2tS
保守するのも悪くない
287 ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 11:02:03 ID:c3D2U13i
悪ノリの結果の三投下目。
恐れ多くも、ヤツを書かせていただきました。
288世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 11:02:58 ID:c3D2U13i
 幼い頃は、よく夢を見ていたような気がする。
 今でももちろん夢はよく見るけれど、幼い頃の夢はもっと夢らしい夢で、不条理に不条理を重ねたような、多分この世に存在しないものばかりが横行しているような、そんな夢だったと思う。
 知らない人に会う程に、知らない場所へ行く程に、夢は夢らしさを失ってゆく。
 血が通っているのだと、ぼくはそれを見て思う。
 昔夢で見たあの人に血は通っていなかったけれど、昨日夢で見たあの人にはきっと血が通っていて。
 昔夢で見たあの場所に血は通っていなかったけれど、昨日夢で見たあの場所にはきっと血が通っていて。
 切れば流れてしまうかのように。
 絞めれば止まってしまうかのように。
 吊せば落ちてしまうかのように。
 狂えば溺れてしまうかのように。
 喰えば汚れてしまうかのように。
 どくんどくんと、脈打ちながら夢の中を駆け巡り、
 知らない筈の人に、知らない筈の物に、知らない筈の場所に、知らない筈の声に、
 血が通っていて、血が通うための血管があって。
 血管があって、血管があって、血管があって、血管があって、
 欠陥があって。

 ――駄人間は騒がしいねえ――騒がしいのが駄人間なんだねえ―――

 ぼくの知らない誰かが何かを言う。
 昔見た夢を、唐突にぼくは思い出す。
 歪んだ世界の中にぼくは一人いて、そこは上も下も右も左も不愉快さを示す波長のように歪曲して広がっていて、だけれどぼく自身も歪んでいてそれが世界の歪みと噛み合わずに不安定な気持ちにさせられる。
 身体をうまく支えることができず、ぼくは無様に顔から歪みの中へどちゃりと突っ込む。歪みに身を任せ、ぼくは底の方へずぶずぶと沈み込む。口や鼻孔から不快な何かがぼくの中へとずるずる流れ込んでゆき、脳髄や内臓をぐちゃぐちゃにかき回す。
 脳髄に流れ込んだ何かはぼくに映像を幻視させる。それは自分のよく知る人や物や場所で、それによりその何かが自分の記憶であることを悟り、同時にここが自分の頭の中であることに気付いて悲鳴を上げそうになる。しかし喉の奥まで入り込む記憶の波でそれもできない。
 いつのまにか辺りは血で真っ赤に染まっていて、歪みの波長がくっきりと見えるようになっていてそれがぼくの歪みを更に増長させる。ぼくの身体は流れ込む血と頭の中身により膨張し破裂寸前で、それはぼくに死を幻視させる。
 やむをえずぼくは自分の頭に腕を突っ込んで、中で溺れている自分を掴んで引きずり出す。腕を引き抜いた途端に頭の中身がそこからどばばばと一斉に噴出し世界を埋め尽し、再びぼくはぼくの中へと溺れ、現実は夢へと回帰する。

 ――やっぱり駄人間は駄人間だよね――煩いしでかいし面倒くさいし――ていうか可愛くないし―――

 ぼくの知らない誰かが何かを言う。
 ぼくの知らない声で何かを言う。
 ぼくは今、ここが夢の中じゃないことを理解していて、だけどここが何処なのか、どうして自分がここにいるのかは全く理解していなくて、その上でぼくは、自分が今ここにいるということを現実として受け入れている。
 示された線の上を歩くように、はっきりと。

 ――影谷蛇行―――!

 ぼくの知らない誰かが、ぼくの知らない声が、

 ――なんで生きてるのがお前なの――影も形も残さず葬ったのが、あの時の私の筈なのに―――!

 ぼくの知らない人が、ぼくの知らない声で喋る。
 あの人たちに、血は通っているのだろうか?
 今いるここに、血は通っているのだろうか?
 今のぼくに、血は通っているのだろうか?
 身体が動かない。固定されたように、針で縫われたようにぴったりと。
 歪んでいない。
 今のぼくは、世界と平行に立っている。

 ――ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――!!?

 ぼくの知らない誰かが、ぼくの知らない声で叫ぶ。

 ――い、痛い――痛いぃ――何で、何でだよおぉ――アイツが痛いのじゃなくて僕が痛いっ――なんで僕がいたい―――!!
289世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 11:03:49 ID:c3D2U13i
 ぼくの夢が、いつかこの真っ赤な血で満たされたならば、それはきっと全てを洗い流してしまうだろう。
 ぼくの知らない彼も、ぼくの知らない彼女も、
 いつかどこかへ立ち去ってしまった彼も、
 いつかどこかへ逝き去ってしまった彼女も、
 いつかどこかへ過ぎ去ってしまった時間も、
 いつかどこかで欠けてしまった自分も、なにもかも全て。
 現実と変わらぬ夢に、意味などあるのだろうか?
 あの人たちに、血は流れているのだろうか?
 あの人たちは、血を流しているのだろうか?

 ――しね―――

 ぼくの知らない人たちの首が吹っ飛ぶ。上部を失ったそこから大量の血が鮮やかに噴き出す。それを見て、ぼくは少し安心する。
 あの人たちには血が通っている。赤い血がいっぱい、流れて噴き出て飛び散る程に。
 ぼくはぼくの知らない人たちに感謝する。彼らが流した血は、決して無駄なものではなかった――それを彼らに伝えてあげたいとぼくは思うが、彼らの頭部はもう既にこの世のものでなくなっていて、ぼくの声はもはや彼らには届かない。
 彼らの首を飛ばすくらいなら、ぼくの首を飛ばせばよかったのに――

 ――道具をくれてやる―――

 ああ。

 ――情報もくれてやる。6時間毎に誰が死んだかを―――

 声が、

 ――その度に、お前らをこれから送る場所も狭くなっていく―――

 ぼくの知らない声が、

 ――殺しあえ。殺し合いに乗らなければ……24時間後に皆殺し、だ―――

 ぼくの知らない誰かの声が、
 声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が、声が。

 ――送ってやる。殺し合いの場所に―――

 視界が歪む。夢の中のように。夢の中から現実へ堕ちるように。

 ゆりかごだ。

 これからぼくたちが向かうのは、きっとゆりかごの中なんだ。

 ゆりかごの大きさは一人分。
 中に留まれるのは一人だけ。
 だからぼくらは落とし合う。
 互いに互いを、外へと蹴落とす。
 自分の場所を守るため。
 安息の場所を守るため。
 ぼくたちは醜悪に、貪欲に、残虐に、滑稽に、脆弱に、盲目に、放縦に、
 汚れて歪んだ血に溺れ、現実を真っ赤に染めあげる。
 現実がゆっくりと暗転を始める。ぼくの知らない誰かが消えてゆく。
 溶暗する世界の中で、ぼくは静かに目を閉じる。
 ゆりかごの中で、ぼくはどんな夢を見るのだろうか――?
290世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 11:07:07 ID:c3D2U13i

  ◆   ◆   ◆

 ベッドの上で、ぼくは閉じていた両目を開く。
 「………」
 蛍光灯から注がれる光をわずかの間、両目で受けとめてから、ぼくは半身だけを起こし、自分の周囲を見回す。
 全体的に白さが目立つ部屋だった。先程までいた場所のように徹底した、偏執的なまでの純白ではなく、単に清潔な印象を抱かせる程度の白さ。
 ベッドの脇にはキャビネットが置かれ、その上には花瓶と、空っぽのバスケットが乗せられている。花瓶を少し傾けてみる。こちらも空っぽのようで、一滴の水すら入っていない。
 四方の壁のうち、ぼくから見て左手に窓が、右手にドアがそれぞれ備え付けられている。ドア側の壁際に置かれているのはステンレスのロッカー。さらにそこに立て掛けられるようにして置かれている、何脚かのパイプ椅子。
 ベッドから立ち上がり、窓の方へと寄る。カーテンを開けると、外の闇夜を透かして黒く染まった窓ガラスの表面が、ぼくと部屋の様子をうすぼんやりと映しているだけだった。
 「………」
 首にそっと手をやる。指先が、金属に触れたときのような、冷質な感覚を脳に伝える。
 窓に映る自分の首筋は、無機質なデザインの首輪によってぐるりと覆われていた。
 首輪は装飾品として用いられるものと、犬や猫を管理する目的で使用されるものとに分けることができる。
 ぼくの首を覆っているこれは、その見た目だけで後者の意味を持つものだということが理解できる。それが人間の首に装着されているという光景は、見ているだけで窮屈な印象を抱かされる。
 カーテンを閉じる。窓に映った自分がいなくなり、夜の闇も見えなくなる。部屋の中にまた白さだけが戻る。
 「………実況中継、終了」
 窓の方を向いたまま、ぼくは再びベッドの上へと、仰向けに倒れるようにして身体を預ける。
 ぐ、と軽く伸びをして、自分の脳細胞が覚醒していることを確認。さらに自分の右頬をつねって、そこに痛みがあることを確認し、ついでに自分が生きていることを確認。よし、とぼくは一人うなずく。
 「オーケイ――大丈夫」
 何が大丈夫なのか自分でもよくわからなかったが、ついさっきまで、何か相当な勢いで大丈夫ではなかったというか、自分がかなりまともな状態ではなかったような、そんな気がしている。
 何か難解で、抽象的で、意味不明なことを、だけど明らかにどうでもいいことを延々と頭の中で巡らせ続けていたような記憶が僅かにあるのだけれど、その内容が一向に思い出せない。
 あの、妙な場所で見聞きしたことははっきりと憶えているのだけれど、その時に自分がどんな精神状態でそこにいたのかは、抜け落ちたように記憶の外だった。
 夢から覚めた時の感覚に、それは似ていた。
 「夢じゃあ、ないんだよなあ………」
 夢だと思った方が、むしろ正常だと判断されるような状況ではあったけれども。
 正直夢だと思ってしまいたいけれど。ちょうどベッドの上だし。
 「そういえば、怪我――」
 ぼくは自分の身体を探る。着ているのは普段着のTシャツとジーンズ、そしてジャケット。ベッドに寝ているのに、きちんと履かれたスニーカー。
 身体は普通通りに動き、どこにも異常は見当たらなかった。
 普段着、普段通りの身体。
 「………ええと」
 ぼくは覚醒状態の時でさえ頼りのない自分の脳細胞を可能な限り動員させ、ここ最近の自分の記憶を探る。
 数日前、とある場所でとある人物ととある理由でちょっとした殺し合いを演じたぼくは、その結果というか代償として、全身のいたるところに打撲、
骨折、挫傷、腱断裂など数々の重軽傷を負い、もうぼくにとっては既に別荘のようにもなってしまった、この病院へと搬送されたのだった。
 医者から全治二ヶ月を言い渡され、それから何日かの間をこのベッドの上で、暇を持て余しつつも安静に過ごしていた。
 それで確か――つい先日、面会謝絶が解除されて――それで、崩子ちゃんがお見舞いに来てくれたりして――春日井さんとか、みいこさんとかの近況を教えてもらったりして――奈々見からのお見舞いの品を貰ったりして――らぶみさんと遊んだりして―――
 「――で、今に至ると」
 ………。
 うーん。
291世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 11:08:01 ID:c3D2U13i
 ここまでの記憶が確かならば、このベッドの上のぼくは当然普段着などではなく、入院患者用の患者衣だったはずだ。そのうえ身体の半分以上をギプスやら包帯やらコルセットやらでがっちり覆われていたはずだった。
 それが今は服装どころか、折れていたはずの両腕も、外れていたはずの肋骨も、切れていたはずのアキレス腱も、裂けていたはずの右頬までも、全てが全て、きれいさっぱり元通りに治ってしまっている。
 完治だった。
 全快だった。
 全身隈無く異常なしだった。
 「ラッキー………で済ませていい問題じゃねえよな、これは」
 入院開始から二ヶ月どころか、まだ一週間もたっていない。いくらぼくが怪我の治りやすい体質だからといって、現実的にどう考えてもおかしい。
 サイヤ人とかじゃないんだから。
 「でも――治ってるものは治ってるんだから、仕方ないよなあ……」
 仕方ないで済ませてよい問題でもないのだろうが。
 かといって、今のぼくの状況を「仕方ない」以外のどんな言葉で処理しろというのだろうか。
 入院してたら誘拐されて重傷だったけど全快していて呆然としてたら殺人しろと強要されて往生してたらまた病院まで送還されました。
 どこの不条理小説のあらすじだ。
 ふと思い立って、ぼくは衣服のポケットの中を探ってみる。腕時計も携帯電話も、哀川さんから譲り受けたあの刀子もなく(どれも普段から持ち歩いているわけではないけれど)、すべて空っぽだった。
 私物の中で手配してくれたのは、衣服だけだということか。
 かといって、着のみ着のまま放り出された、というわけでもないようだけれど――。
 ぼくの寝ているすぐ横、枕元に置かれているデイパック。
 これがおそらく、「あっち側」から与えられた―――
 「………しかし――」
 これは、どこの用意した展開だ?
 この場合、誰の、と言うよりも、どこの、と言った方が、恐らく適切であると思う。
 どこが、どんな理由で、こんな展開を用意しているのか。
 正直、想像すらつかないと言っていい。
 現実味がない、脈絡がない、突拍子もない、必然性が見えない。
 ないない尽くしで意味がわからない。
 いつだったか、気を失って目が覚めたらなぜか女装させられていた、というシチュエーションを経験したことがあるが、あれ以上に意味不明な状況だ。
 ………いや。
 あれはあれで、十分過ぎるくらい意味不明ではあったけれど。
 ………水倉神檎、と言ったか。
 知った名前ではないが、いったい何者なんだろうか。
 いったい、何の目的でこんなふざけたことを実践しようとしている?
 戦闘に秀でた者を選抜するための、実戦による試験? あるいは何らかの研究目的――例えば、あの斜道興壱郎研究所で行われていたような実験の類をここで行おうとしている?
 ………違う。
 それだと、わざわざぼくがここに召集された理由が説明できない。
 そうだ、それだ――。
 そもそも、何でぼくが?
 入院中の、全治三ヶ月の重傷患者を、わざわざその怪我を非常識に回復させてまで、こんなところへ強制的に連れてくる、その理由は一体なんだ?
 ぼくをこのゲームに参加させる必要があった?
 ぼくのことを知った人間が? ぼくと因縁のある人間が采配を?
292世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 11:09:21 ID:c3D2U13i
 「………」
 心当たりが、あるとするなら―――
 「………まさか…」
 ………まさか、あの男か?
 八月の半ば、何の前触れもなく出会った、一人の男。
 彼はぼくに、運命の話を語った。
 偶然のない運命、必然しかない運命。
 逃れようのない運命の肯定、代わりの効かない存在の否定。
 絶対の運命論者。
 世界の終わりを見たいという、最悪の思想の持ち主。
 世界という物語において、読者の側でありたいと望む、究極の意味での傍観者。
 人類最悪の遊び人と名乗り、そして、哀川潤を自分の娘と呼び、
 ぼくを、己の敵と呼んだ、あの男。
 ぶるり、と身体が震える。
 恐怖が、全身を巡るのを感じる。
 あの男が、この状況の裏側に…?
 世界の終わり、物語の終わり。
 既に、始まっているというのか……? だとしたら、この状況こそが―――
 「……まさかな」
 何にせよ、今は情報が少なすぎる。結論どころか、まともな推論すら立てられる段階ではない。
 大体、主催者側の説明が大雑把すぎるのが問題なんだ。
 あの妙な形のジャケットの男、説明役とか言って、ろくな説明も寄越さないまま終わってしまったような気がするのだが。奇声あげて喜んでただけじゃないか。
 知らない人間をあまり悪く言うのも何だが、もう少しまともな人間を起用できなかったものかと問いたい。
 その後に聞こえてきた声だって、雰囲気ばっかおどろおどろしくて、実際大した説明したわけじゃないしな……情報が足りないというより、言葉が足りないというか、はっきり言って不親切すぎる。
 この状況で不親切も何もないだろうが、なんというか、主催者としての責任というか、そういう最低限のものは守ってしかるべしなんじゃないかと思うのだけれど。
 真面目にやる気あんのかと言いたい。
 説明役が率先して殺されるとか、どれだけいい加減なのかと。
 「狂ってるよなあ……どいつもこいつも」
 何だってこんな、悪趣味なことばっかり考えるんだ。
 バトルだとか、ゲームだとか、正気で言ってるつもりなのか。
 ぶっ壊れている。
 人間としてぶっ壊れている。
 狂うなら、よそで勝手に狂っていてくれよ。
 勝手に狂って、勝手に壊れてりゃいいんだ。
 ぼくを巻き込むな。支配者気取りの倒錯者が。
293世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 11:11:14 ID:c3D2U13i
 「戯言だよ……本当」
 枕元のデイパックを見やる。ぼくは一瞬、それを引き裂きたい衝動に駆られる。それは怒りよりも、恐怖に近い感情だったと思う。
 もしかしたら無関係なのかもしれない。ぼくとは無関係の誰かが、ぼくとは無関係の目的でやっていることで、ぼくはいつもの通り、脇役にすらなれないエキストラとして、予定調和の一部分として、漠然とただここにいるのかもしれない。
 だとしたらまた、ぼくはいつも通りの道化だ。
 踊って踊って、踊り狂って果てるだけの。
 身体は動く。頭も働く。行動するなら、必要なのは心構えだけだ。
 動くことに、意味はあるのか?
 ぼくの行動に、意義はあるのか?

 ――そんなことは――

 あの男の声が脳裏に響く。耳元で、囁くように。

 ――どちらでも、同じことだ――

 「………逃げるわけには、いかねえよな」
 ぼくは立ち上がり、そして心を構える。
 踊れというなら、存分に踊り狂ってやる。
 踊らされるのには、とうの昔に慣れている。
 ただし、そう簡単には死んでやらない。鬼が出ようが蛇が出ようが、潔く殺されてやるつもりなんてない。

 生き残ってやる。

 無様に踊って、無様に生き残ってやる。
 そう心に誓って、ぼくはデイパックに手を伸ばした。

294世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 12:27:05 ID:c3D2U13i

  ◆   ◆   ◆

 「動かないで」
 ぼくを最初に迎えたのは、冷徹に響く声と、鋭くも乾いた破裂音だった。
 デイパックの中身を一通り確認し、病室を出たぼくは、まず軽く病院内を探索してみることにした。廊下は誘導灯の明かりが薄く照らしており、懐中電灯なしでも歩けないことはなかったが、一応デイパックから取り出しておく。
 深夜の建物の中、部屋の中をひとつひとつ検分していくその様が何となく空き巣でもしているように思えて、後ろめたい気持ちが少々ないでもなかったが、そんな余計なことを考えていたのは最初の内だけだった。
 病院内の様子にこれといって違和感らしきものはなく、廊下の様子も他の病室も、ぼくの見知っているそれとほぼ変わりはなかった。
 ただし、ある一点を除いては。
 ほんの今先刻までぼくが入院していたはずのこの病院、極めて普通に、医療施設として機能していたはずの、この病院。
 人が、どこを調べても見当たらない。
 病室はどれも初めから使われていないかのように整然としており、人の気配など、欠片程も感じさせないくらいに静然としている。
 さながら廃墟のような、沈黙とは別の呼吸なき静寂。
 空き巣の真似というなら、確かに空き巣のいる場所にふさわしい。
 空っぽの建物。空っぽの静寂。
 「勘弁してくれよ………」
 情けない話だが、早くもここから逃げ出したい気分だった。
 正直に言えば、何となくどこかで予想していた可能性では、あったのだけれど。
 本当、どこなんだよここは………。
 どうやったらこんな事が可能になるんだ。陳腐な魔法じゃあるまいし。ミラーワールドか。
 「………魔法、か」
 主催者側の人間が、そういえばそんな言葉を使っていた気がするけれど。
 まさか、ぼくの怪我やら病院の人間やら、すべて魔法の力でどうにかしたとでも言うのだろうか。どこぞのパラレルワールドに召喚したとでも吐かすつもりなのか。
 馬鹿かと。
 おそらくはこの不可解な状況について不要に探られないように『魔法』という言葉を用いて濁したつもりなのだろうけど、やはりそのあたりの考えも杜撰だ。そんなもので誤魔化される人間がそういるとでも思っているのか。
 いくらぼくでも、さすがにそのラインまでは許容できないぞ………。
 ワンフロア分の室内をあらかた検分し終えたところで、ぼくは早々に探索を打ち切った。これ以上ここにいると吐き気がしそうだ。早く外へ出てしまいたい。両手はなるべく空けておきたかったので、懐中電灯はデイパックに再び仕舞う。
 とにかく、色々と不可思議なことに関してはすべて保留にしておく。さっきも思ったが、情報が足りな過ぎる。結論を出せる状態では、今はない。深く考えるだけ泥沼だ。
 階段を降りて、正面入口の方へと足を進める。深夜の病院を歩き回るのは、こういう状況でなくとも落ち着かないものがある。
 ロビーの前まで来たとき、ぼくはふと思う。もし実際、他の人間に出会った場合、ぼくはどう動くべきなのだろうか。今のぼくと同じく、この無機質な首輪に捕われている人間に出会ってしまった場合に。
 ベタだが、まずはこちらに害意が無いことを伝えてみるべきか? もしぼくと同じく、本人同意確認無しの強制連行によってここにいる人間ならば、それは十分有効な手段のはずだ。
 相手が、まともに話の通じる人間であったなら――だが。
 結局のところ、行きあったりばったりで臨むしかないのか……。まあ、いつも通りではあるのだけれど。
295世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 12:31:24 ID:c3D2U13i
 「………玖渚の奴、今頃どうしてるかな―――」
 玖渚の無邪気な笑顔を、ぼくは思い浮かべる。
 ぼくが今、どんな状況に置かれているのかをあいつに話したら、一体どんな顔で、どんな感想を聞かせてくれるだろうか。
 きっとあいつは、いつも通りに笑顔でいるのだろう。
 楽しげに笑って、愉しげにはしゃいで、ぼくの話を喜んで聞いてくれるのだろう。
 愉快な御伽話を聞く、幼い子供のような顔で。
 「……戯言か」
 ぼくは軽く溜息をつく。これもまた、余計な思考だろう。

 ――この状況で、一瞬でも思考の箍を弛めてしまったのは、よくない選択だったかもしれない。
 結果的に、それは油断と同義だったのだから。

 正面入口から外へと出ようとしたその時、ぼくの感覚器官が何かを捉えた。
 背後から感じる、暗い視線のような何か。
 密室の中で感じる微風のように、その気配はぼくの首筋をぞわりと粟立たせる。

 「動かないで」

 反射的に振り返りそうになったぼくを、立て続けに発せられた二つの音が固定した。
 冷徹に響く『Freeze』の声と、『ぱぁん』という、鋭くも乾いた破裂音。
 破裂音の方だけが、静寂の中に木霊する。世界で唯一の音であるかのように、くっきりと響く残響音。
 緊張が、全身を一気に支配する。
 「『動いてもいいけど、とても危険よ』、というのが正しかったかしら」
 か細い、しかし明瞭に聞こえる声だった。若い女のものらしき声だが、異様なほどに温度を感じさせない。
 「念のため言っておいてあげるけど――もし勝手に動いた場合、あなたの頭蓋骨がほんのちょっと風通しの良い感じになっちゃう予定だけれど、それでもいいなら、どうぞご自由に。それが嫌だというのだったら、まず両手をゆっくり、頭の高さまで上げなさい」
 「………」
 銃声、という単語が、遅ればせながら頭によぎる。
 ぼくは黙って、言われた通りにする。
 「賢明よ」
 ひた、ひた、ひた、ひた、と。
 一歩一歩、こちらへ向けて近づいてくる足音。
 「病院って無くてはならない場所だけれど、現実としてやっぱり、人が助かるだけの場所じゃないのよね………生きて病院を出ていく人とそうでない人、どっちの方が多いのかしらね。結構真面目に気になるわ」
 気配が、ぼくのすぐ背後まで近づく。
 「無事に病院を出るために、患者として最低限すべきことって何かしら?」
 ごり、と、後頭部に何かが押し当てられる感触。ひんやりとした、金属を思わせる感覚。
 「『いうことをきいて、おとなしくしておく』――子供でも、それくらいわかるわよね?」

 ………やれやれ。
 敵の策略にあっさりと嵌ってしまった正義の味方のような心持ちで、ぼくは小さく溜め息をつく。
 どうにもぼくは、先手を取られるのが得意な質であるらしい。
296世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 12:36:21 ID:c3D2U13i

  ◆   ◆   ◆

 ドラクエを始めとするロープレの主人公は、仲間を後ろにぞろぞろと引き連れて歩く陣型をとっていることがよくあるけれど、あれを見て、数多のモンスターともタメを張れる武闘家や魔法使いとかを自分の背後にぴったり付かせておいて、主人公は不安にならないものかと思う。
 背中を預ける、と言えば格好良く聞こえるのかもしれないが、あの世界、そう簡単に信頼関係が築けるほど一筋縄でいく物ばかりではないだろう。モシャスやメダパニなどその筆頭だ。
 最たる所はパルプンテといったところか。
 勇気ある者と書いて勇者。なるほどその通りだと、ぼくは勝手に納得する。主人公に必要とされるのは能力でも血筋でも伝説の剣でもなく、信じる心なのだろう。多分、きっと。
 「私の指示する以外の行動はとらないこと、私の許可なく口を開かないこと。この二つさえ守ってくれれば、無駄に脳漿が流出するようなことはないから、肝に命じておきなさい」
 「………」
 やばいのは脳なのに、肝に命じるとはこれ如何に。
 とりあえず、ぼくに主人公の資質はないということで。
 今後ろにいるのは、味方どころか全力で敵なのだけれど。
 「両足だけ動かすことを許可するわ。私の指示する通りに歩きなさい」
 実に寛大な処置により、ぼくはとりあえず不快な病院から外へと出ることができた。これも退院の内に入ると言うのならば、ぼくの退院歴の中で最も殺伐とした退院と言える。今すぐにでも病院へUターンさせられそうな状態なのだから。
 言われた通り歩き出そうとすると「ちょっと待って」とおもむろにデイパックを引かれた。何かと思っていると、背中のあたりでごそごそと探るような気配を感じる。ぼくのデイパックの中身を漁っているらしい。
 ややあって、右手に何かが握らされる。さっき仕舞った懐中電灯だ。「何か見つけたら即座に報告なさい」とのこと。探検隊の先頭を切って歩く勇気ある少年かぼくは。最初の落とし穴に落ちて忘れた頃に復活してくればいいのか。
 内心だけで愚痴っていても仕方ないので、懐中電灯を点灯させて再び歩き出す。街中だというのに、明かりと呼べるものは何一つなく、本当に懐中電灯の光だけが頼りといった感じだった。
 はっきり明かりの着いた建物はひとつも見当たらず、街灯さえも眠ったように機能していない。
 それだけではない。街の全体に、あの病院内で感じたのと同じ雰囲気が漂っている。無人を示す、無呼吸の静寂。
 異常なのは、やはりあの病院だけではなかったか………。
 本当、悪趣味な真似をする。
 「最初に会ったのが、あなたみたいな大人しそうな人で良かったわ。おかげでこうして、安心して話ができるものね」
 ああ、極めて安心だろうね。あなたの方だけは。
 彼女はぼくの姿を見つけてからずっと、一階の廊下の端でぼくが降りてくるのを待ち伏せていたらしい。どこでぼくの姿を見たのかというと、ぼくが病室でカーテンを開けた時、病院の外から偶然それを見たのだとか。
 あの時ぼくの方からは暗闇しか見えていなかったけれど、当然外から見れば電気の着いた部屋の様子など丸見えだったわけで、つまりあの時、ぼくは相手に向けて一方的に姿を晒していたという訳だ。
 間抜けすぎる。
 と、彼女は楽しそうに言った。
 「魚の死骸が窓に張り付いてるのかと思ってびっくりしたわ。そんな感じの顔してるんだもの」
 どんな感じの顔だ。魚の死骸みたいな顔って。
 いや、似たようなことを言われたのは、何回かあるけれど。
 「殺し合えなんて、いきなり言われた時はタチの悪い冗談かとも思ったんだけど――まさかいきなり、こんな物騒な物持たされるなんて思わなかったわ。本気みたいね、このゲーム。素敵なくらい趣味が悪いわ」
 ぼくも確かに思っていなかった。初っ端からこんな物騒な目に遭うなんて。
 聞くところによると、彼女もぼくと同じ『参加者』の一人で、自分の知り合いもまた、同じくここへ連れてこられているらしい。その知り合いと合流することが当面の目的だということだ。
 で、なぜかぼくはこの扱い。
 挨拶なしでハチの巣にされなかっただけ良かったのかもしれないけれど。
297世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 12:40:47 ID:c3D2U13i
 「一応言っておくけれど」声をわずかに厳しい調子にして彼女(彼女、でいいはずだ)は言う。
 「私が慈悲や温情なんかであなたを生かしておいていると思っているなら、それは大きな間違いよ。あなたの一言一句、一挙手一投足があなたの死亡理由になり得ることを、よく自覚しておきなさい」
 容赦のない台詞だった。
 自分の処遇を『まだ良かった』なんて思っていた矢先だっただけに、釘を刺されたような気分だった。
 「あなたがするべき行動は、私の身を第一に守ることのみ。軽虚な思考も行動もいらない。それは同時に、あなたの身を守ることにもなる。簡単でいいでしょう?」
 要するに今のぼくは、防御壁または囮として使用されているという立場なわけだ。
 相手がもし飛び道具を使ってきた場合――いや、射程範囲の短い武器だったとしても、『遮蔽物』が自分の前にあった場合、当然のこと安全性は増す。遠目にも夜目にも目立つ懐中電灯を構えている状態の人間ならば、それはさらに恰好の標的。
 防御壁&囮。もう響きだけで嫌だ。
 『無敵状態発動、ただし谷底へ向けて落下中』みたいな?
 ……………駄目だ。調子出ない。
 しかし彼女は、こんな状態で本当に自分の身を守れると思っているのだろうか…?
 ぼくが周囲を警戒するのはいいが、代わりに彼女はぼくに対して武器を向け続けなくてはならないのだから、えらい非効率だ。お互いに自分の武器まで自由に使えない状態をわざわざ作っているようなものじゃないのか。
 もしかしたら彼女は、ぼくに対して警戒心を偏らせすぎているんじゃないんだろうか。敵はぼくだけではないと頭ではわかっていても、今現在の『目の前の敵』であるぼくの動きを封じることに集中してしまい、他のことに目が行かなくなっているんじゃないか?
 うーん。
 ぼくは聞こえないように小さく唸る。ぼくは別に、闘うつもりなんてないんだけどなあ……。
 その意思を彼女に伝えらればいいんだろうけど、もしぼくの思う通りの警戒心を抱かれているのだとしたら、そんな言葉、耳も貸してはくれないだろう。最悪、それが裏目に出て取り返しのつかないことになる可能性だってある。
 エンカウント時についての懸念が、見事的中したということか………。
 ままならないなあ、相変わらず、色々と。
 とりあえず、今は様子を見るのがベストなのか…? 優位に立っているせいか、向こうからはよく喋ってくれているし、このまま話を聞くことで突破口を見つけるのがいいのかもしれない。
 様子を見つつ、相手の警戒心が薄まってきたところを上手く狙って、そして―――
 「……痛ぁっ!!」
 視界が一瞬暗転しかけ、思わず声を上げる。一瞬遅れて後頭部に感じる鈍痛。さらに一瞬遅れて殴られたのだと理解。何故に?
 「とぼけても無駄よ」背後から掛けられる、氷点下のように冷えきった声。「あなた今、私を妄想の中で手籠めにしようとしていたわね」
 「………………」
 ………えええ?
 「声しか知らない相手を手籠めにしようとするなんて、随分と器用な真似をしてくれるじゃない。童貞野郎の一念岩をも通すとはよく言ったものだわ。李広も形無しね」
 聞いたことねえぞそんな格言。
 「声だけで満足できる人間なんて声だけ与えられて生きていればいいのよ。生身の肉体に触れる権利なんて統べからく排除すべきだわ。ドラマCD
でも聴いて一人で悦に浸ってればいいのよ。特に五月発売予定のやつとかを買って聴いていればいいのよ。10枚くらいまとめ買いして配っていればいいのよ。布教すればいいのよ」
 待て待て待て待て。
 なんなんだこれ。変な方向に話が行ってないか。
 「どうせドラマCDなんて放映開始までの繋ぎ役でしかないのよ………絵が出来るまで音で繋ごうって魂胆なのよ………下巻が発売延期になった
しわ寄せよ………どうせ買わないのよ………別に期待してないからって買わないで、ニコでうpされたら結局聴くのよ………どうせそんなんばっかりよ………初回特典とかで集客するしか手はないのよ………」
 ほんとに何を言ってんのこの人。
 声がどんどんやばい感じになっている。
 返事がやばい。生ける屍のようだ。
 「冗談は置いておくとして」
 冗談だったらしい。
 冗談で済まされる話だと思っているらしい。
298世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 12:45:28 ID:c3D2U13i
 「これ以上不埒な妄想を働かせるのは許さないわよ。次に変なことを考えたら、その腐った妄想ごと、あなたの脳細胞を根こそぎ死滅させてあげるから、そのつもりでいなさい」
 後頭部に加えられる圧力で、頭蓋がみしみしと鳴る。痛い痛い痛い。
 ……この人、ぼくの思考の中まで難癖をつけてくるつもりでいるのか?
 ていうか、完全にいいがかりだし。それは被害妄想という名の不埒な妄想と呼ぶべきじゃないのか。
 「あなたの脳内がわかりやすいだけの話よ」
 さらに失礼な台詞を連ねる彼女。
 「底の浅い人間の脳内なんて、その気になれば記憶の底まで把握できるわ。あなた子供の頃、ピンセットの先端コンセントの穴に挿入してショートさせたり、乾電池を火にくべて爆発させてたりして遊んでたでしょう。根暗のする遊びは皆ワンパターンね」
 しねえよそんなデンジャーな真似。遊びで済むか。
 まあ、ウォッカを壜イッキたことならあるけど。
 「何それ、馬鹿じゃない。向こう見ずな人間のすることはこれだから。脳も焼け爛れてて当然ね」
 余計なお世話だ………ってあれ!? 会話成立してる!?
 喋ってないのに!
 本当に脳内把握されてる!?
 「馬鹿ね、ただの冗談よ」
 いや、だから冗談で済ませていい話じゃないって!
 「冗談が通じない人ね。ジョークも教養の内なのよ? 紳士の嗜みとして扱われているのよ?」
 今のはジョークでなく悪ノリというやつだと思ったが。
 「仕方ないわね、教養に乏しいあなたのために特別、私が世界一面白いジョークを聞かせてあげるわ」
 …世界一とか銘打ってる時点で、既に聞く気が失せるんだけど。
 「林の中にいた二人のハンターのうち、一人が突然倒れました。倒れた友人を見ると呼吸が止まっているようで、すでに死んでしまったのではないかと片方のハンターは考えました。
 そこで彼は携帯電話を取り出し、救急センターに電話しました。
 ハンター『友人が死んでしまった。どうすればいいんだ?』
 オペレーター『OK、落ち着いてください。私が何とかしましょう。まず彼は本当に死んでいるんでいるか確認できますか?』
 しばし沈黙が流れた後、銃声が聞こえた。
 バン!
 ハンター『OK、次はなにをすればいい?』」
 「………………」
 ………あれ、終わり?
 期待していたわけではないけれど、笑えないどころか、笑い所がどこなのかすら、まったく理解できなかったぞ………? ステイタスの高いジョークは、理解することすら難しいのだろうか……。
 ぼくが無反応なのを受けてか、後ろから大げさなくらいのため息が聞こえてくる。
 「これを聞いても笑えないなんて……あなた、本当に駄目ね。ドブネズミ以下の価値の無さね。むしろもうドブね。汚水にまみれてミズゴケの世話にでも勤しんでなさい」
 結局罵倒で締めくくられた。
 もういいや……何かもう、どうでもいいや………。
 こっちは何一つ喋っていないのに、遠泳でもした後のようにしんどい。精神が見事に擦り減らされている。何だこの能力。
 今までのパターンからして、銃弾の一発くらいは覚悟していたつもりだったけれど、見ず知らずの相手(まさに文字通りの表現)から、こんな罵利雑言の雨嵐に晒される羽目になるとは思わなかった。
 何か、やたらと罵倒し慣れてる感じだし。
 朽葉ちゃんにちょっと似ている。
 そんなことをしている内に、病院からだいぶ離れた所まで来ていた。話に気を取られていたせいか、先程から辺りに広がっている不自然さに、ぼくは気付いていなかった。
 人の気配がまったく感じられないのはさっきまでと変わらなかったが、今ぼくが見ている景色は、ぼくのよく知る京都市内のそれではなかった。
299世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 12:53:33 ID:c3D2U13i
 道を違えたとか、そういうレベルの話ではない。
 見たままを言うなら、時代が違う。
 建物をはじめ、さっきまでアスファルトの上を歩いていた時とはまるで違う雰囲気の、時代劇の中のような町並み。
 …一般的なイメージでいうなら、こっちの方が京都っぽいと言えるのかもしれないけれど。
 京都にも、こんな景色の場所は恐らくない。
 ……そういえば、病室の中でデイパックの中身を確認した際、京都市内ならば地図を見る必要はないかと判断して、そのままデイパックの中に入れたままにしておいたのだっけ………。
 どうやら、とことんぼくの予想以上の異常事態であるようだ。
 それとも、ぼくの予想力が貧困なだけなのか……?
 まあ、異世界に召喚されたとか、自分で言ってたんだれど……。
 とりあえず、京都じゃないんだな………ここ。
 道がわかれる度、後ろから進む方向を指示される。その明確な指示から察するに、彼女のほうはどうやら向かうべき場所がはっきり決まっていて、そこに至るまでの道筋も把握しているようだ。
 ……知り合いを探している、とか言っていたっけ。
 それはいいのだけれど、その目的を達した後、ぼくはどういう風に扱われる予定なのだろうか。このまま遮蔽物として扱われ続けるのか、それとも―――
 初めの時点で既に生殺余奪の権を握られていただけに、その可能性は妥当といっていいものだとは思う。だけどぼくは今、彼女に対してそれほど恐怖と呼べるようなものを感じているわけではなかった。
 脳で理解し、肝に命じて、それでもなお。
 別に、こういう状況には慣れている、だとか、こうして窮地に立たされるのは初めてじゃない、みたいな、あからさまに格好つけたようなことを言うつもりは毛頭ない。
 そんなのは、自分の経験が特別な物だと過信して、他人より多くトラウマを抱えていると勘違いしている人間の台詞だ。
 大怪我の元の、生兵法。
 ぼくが恐怖を感じていない――感じきれていない理由。
 それは、殺意を感じない、ということ。
 仮に、あの殺人鬼のような圧倒的な殺意を、五臓六腑に浸透するほど純粋で暴力的な殺意を、こうしてすぐ背後から放たれ続けていたとしたら、ぼくは既に正気を保ってはいなかっただろう。
 彼女が放っているのは殺意ではない。
 これは多分、敵意の方だ。
 びりびりと、びしびしと、叩き付けるように放たれる敵意。
 一切の遠慮なく、包み隠そうとする気配すらなく。
 初対面の人間に対して、ここまで無遠慮に敵意を放てるというのは、もはや才能と呼べる領域ではあるのだけれど――。
 それでもやはり、足りない。
 敵意だけでは、恐怖を感じるには物足りない。
 この敵意が、ぼくに対する攻撃意識でなく、単なる防衛本能によって生じているものだとしたら、なおさらだ。
 慣れているつもりは、別にないけれど―――
 初めてじゃないのは、否定できることじゃない。
 「あなた、こういうのって初めてじゃないのかしら」
 結構びっくりした。思わず相槌を打ちそうになった。
 「こういう時の反応って、人によって微妙に違うものなのよね――大袈裟に脅えて見せたり、努めて冷静でいようとしたりする場合もあるけれど」
 他でもやってるのか、こういうこと。
 「あなたの場合、何ていうのかしら。慣れている――というより、鈍磨してるって感じがするわ。あの阿良々木君でさえ、こんな希薄な反応じゃなかったのに――」
 淡々と紡がれる言葉。
 そっちが鈍磨してるんじゃねえのかよ。
 「ところで」唐突に、声の調子が真剣なものに変わる。
 「あなた、どうしてここにいるのかしら」
 「………?」
 どうして………?
 それは、ぼくが今一番したい質問なのだけれど。
 「私と同じく、強制的に連れてこられてここにいるのかしら。それともまさか、自分から望んでここへ来たとか? 何をさせられるのか知った上で、この悪趣味な首輪の中に、自分の首を突っ込んだとか?」
 「………」
 あり得ない、とぼくは思う。少なくとも、ぼく自身は。
 「別に、あり得ないことじゃないわよねえ」
 しかし彼女は、そんな風に言う。
300世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 12:56:40 ID:c3D2U13i
 「大層な“ごほうび”も出るみたいだし、向こう見ずな人間が何匹釣り針に掛ったって、別に不思議ともなんとも思わないわ。欲にまみれた俗物たちの醜い蹴落とし合い。『見世物』としては最高の部類なんじゃないかしら。いつか読んだギャンブル漫画を思い出すわ」
 「………」
 欲するものがあるから、得られる機会があるから、そこへ手を伸ばす。
 その手で奪うことになろうとも。逆に、何かを失うことになろうとも。
 欲望は人を鈍磨させる。
 ぐい、と、後頭部への圧力が増す。殴られた部分に、鈍痛がぶり返す。
 「本当、吐き気がするわ」
 まさしくそれは、吐き棄てるような口調だった。
 「どうしてこう、次から次へと変な物ばっかり寄ってくるのかしら。普通にしていたいだけなのに、まともな人間でいたいだけなのに、それがいけない事? 殺し合え? 馬鹿じゃないの? 最後の一人になれ? まずあなたが死になさいよ。如何なる望みもくれてやる?」
 そんなこと、いったい誰が望んだっていうのよ―――。
 絞り出すような声音で、彼女は言った。
 「私を、私たちを巻き込まないでよ。もう沢山なのよ、こんなこと」
 「………………」
 それを、ぼくに言うのはお門違いだ。
 ただの八つ当たりにしか、それはならない。
 実際それは、八つ当たりのつもりで放った言葉だったのだろう。
 他に言うことは無いとでもいうように、後ろからの声はぱたりと止んだ。無言の中に、二人分の足音だけが静かに続く。
 無人の静寂とは、また別の種類の静寂。

 ――――。

 しかし彼女は、わかっているのだろうか?
 今この状況で、そんな言葉を言ったということが、一体どんな意味を持つのかということを。
 もしも彼女が、生き残るつもりでいるというのなら、この悪夢から、生きて逃れたいというのなら―――
 たとえ相手が、通りすがりの脇役だったところで。
 取るに足らない、場繋ぎ役の道化だったところで。

 そんな言葉は、ここで吐くべきじゃあなかった。

 「全くの同意見だね。笑えるくらいに吐き気がするし、滑稽なくらい馬鹿みたいだ。ただ君が思い浮かべたっていう漫画、多分ぼくも読んだことがあるやつだと思うけど、あれは名作だとぼくは思うね。あの緊迫した雰囲気は凡人に出せるようなものじゃない」
 微かな動揺を背後から感じる――ことが可能なほど、ぼくは器用じゃない。
 「『一杯の茶のためなら、世界なぞ滅んでもよい』――ドフトエフスキーだっけ? 人間の欲望ってまさにそんな感じだよね。身体は張るもので、命は懸けるもので、肉は斬らせるものだってね。一秒の幸福の得るために、永劫の世界でも紙クズ同然の扱い。大した等価交換だよ」
 「ちょっと」
 後頭部に、再び軽い衝撃。
 「誰が喋っていいと許可したの? 勝手な行動はするなと、再三に渡って警告したはずよ」
 「散々疑問符付きで話しかけておいて、返答すら許可しないって方がおかしいとぼくは思うけど。ぼくの話はそんなに警戒すべき要素なのかな。たとえ奴隷が相手だとしても、必要以上に自由を剥奪するのは、君自身のためとしても良くない」
 確認はできないけれど、相手が苛立った表情をしているのが容易に想像できる。
 「……口を開くだけならまだしも、減らず口まで許可するつもりはないわよ」
 「軽口も教養の内だと思うけどね」
 「……口で言ってもわからないみたいね」
 敵意を一層、強烈に感じる。確認せずとも、声の調子だけで、はっきりとわかるくらいに。
 「言葉が理解できないのだったら、鉛弾はどうかしら。そんなにご所望なら、引き金くらいいくらでも引いてあげるわよ。二発でも三発でも、あなたの口が大人しくなるまで」
 後頭部への圧力は、中へめり込まんばかりに強くなっていた。本気で痛い。
 「黙るつもりがないなら、本当に殺すわよ」
 「無駄だよ」
 容赦のない敵意(と痛み)にあてられながらも、平静を保った口調でぼくは言う。
 「そんな脅し文句、ぼくには通じない。ぼくは既に、今のきみがぼくを殺すことができないことを絶対的に確信している。なぜならきみがその手に持って、ぼくの頭に突きつけ続けているそれは、拳銃の類なんかじゃないからだ」

301世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:03:53 ID:c3D2U13i

  ◆   ◆   ◆

 時代がかった町並みを通り過ぎ、ぼくたちは雑木林の中を歩いていた。林をふたつに分けるようにして一本の道がまっすぐ通っており、真上を見れば、木々に遮られることなく真っ暗な夜空を見ることができる。
 こうして歩いていると妙な閉塞感を感じる。木々の間隔はまばらで、昼間であれば明るいと思えるくらいの林ではあったが、今は夜の闇のせいで、明かりのないトンネルの中を進んでいるような気分だった。
 「『最初からすべてお見通し』――みたいな言い方になりそうでちょっと嫌だけど、おかしいと思っていたのは、きみが病院でぼくの背後から声をかけてきた、あの時からだった」
 ぼくは前を向いたまま、独り言のように自分の後ろを歩く相手へと語りかける。顔の見えない、名前すら知らない相手と話すというのは、どうもやり辛い。
 「きみはあの時、二つの音を発したね。きみの『動かないで』の声と、銃声一発。この場合、字面的に音と言うより声と言うべきかな? まあ、どっちでもいいんだけど」
 冷徹な「Freeze」の声と、鋭くも乾いた破裂音。
 「とにかくその二つの声を聞いたことによって、ぼくはきみが銃器の類を所持していると判断したわけだ」
 あるいは、判断させられた――なのか。
 ぼくは続ける。
 「今更のようだけど、ぼくはあの時、きみが拳銃の類を構えているのをこの目で確認していない。ぼくが後ろを振り返らなかったから――否、きみが振り返らせなかったからだ。あの時から今に至るまで、ずっとね」
 もっともあの薄暗い廊下だったら、離れた場所に立つ相手の持っている物なんて、ぱっと見ただけじゃわからなかっただろうけど。
 「シュレディンガーじゃないけど、ぼくが目で見ていない以上、ぼくにとってきみが持っているのが拳銃の類でない可能性は存在する。ここまでは当然、可能性の話に過ぎない。ただそう考えた場合、あの時の一連の流れの中に、ある一つの事実を見出すことができる」
 「回りくどい言い方はよしなさい。聞いててうざいわ」
 苛立った声が、後ろから飛ぶ。
 「推理小説の解答編みたいな形式、私は嫌いなの。無駄に演出的な順序立てして話したり、無駄に引き延ばしたような台詞をダラダラ何行も連ねたり。たいていの解答編は一ページもあればまとめ可能なんだから、あなたもそうなさい」
 身も蓋も有りはしない。
 回りくどいのは認めるけれど。
 「まあ、努力はするよ………ともかく、もしきみがあの時に銃弾を発射したのだとしたら、銃声が聞こえたのはなんら不自然なことじゃない。ここで問題にされるべきは、聞こえなかった音のほうだ」
 「聞こえなかった――ですって?」
 “世界で唯一の音であるかのように、くっきりと響く残響音”。
 足りない音が、あの場所にはひとつあった。
 「銃火器の類は、派手な音を鳴らすのが特徴だ。ただし、音を出すのは何も銃本体だけじゃない。あの時足りなかった音ってのは、弾丸が鳴らす音の方さ」
 銃を発砲すれば、当然のこと銃弾が飛ぶ。
 発射音の後には、着弾音、または跳弾音が聞こえなければおかしい。
 あの閉めきった建物の中で発砲すれば、弾丸は必ず、ぼくからそう遠くない所に着弾する。コンクリの壁やリノリウムの床に当たれば、それなりの音が響くはず。ガラスや調度品に命中すればいわずもがなだ。
 「空砲が発射されたって可能性もあるけれど、このゲームの主旨から言って、あっち側がわざわざ空砲入りの銃を支給するってのはどうしても腑に落ちない。きみに銃弾を改造するスキルがあったとしても、空砲を撃たなきゃならない理由なんてない」
 淡々と、あくまで淡々と。
 ぼくは、言葉を紡いでゆく。
 「あの時、弾丸は発射されていなかった。推理ってわけじゃないから、あくまで妥当性の問題ではあるけれど、きみが初めから銃器を所持していないと考えるのは妥当じゃないとは言えない」
 「だから回りくどいのよ、この演説家気取り」
 相変わらず、声は冷たいながらも苛々としていた。今まで黙って聞いてくれただけ良かったのかもしれない。
302世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:08:03 ID:c3D2U13i
 相変わらず、声は冷たいながらも苛々としていた。今まで黙って聞いてくれただけ良かったのかもしれない。
 「あなた、大事なとこを無視してるじゃない。銃声じゃあないっていうなら、最初の音は何だっていうつもり?」
 最初の音というのは、あの破裂音のことだろう。
 「さあね、君の持ち物を把握してる訳じゃないから、そこは何とも言えない所だけど。銃声に代わる音を出せるような道具――例えば火薬玉みたいな物を使ったのかもしれないし、きみが自分の声で作った音だったのかもしれない」
 そういう声帯模写って聞いたことあるし。
 「無茶苦茶ね。暴論と言い換えてもいいわ」
 「そのへんは、きみの暴言とおあいこってことで」
 「自惚れないで。私の暴言は、暴徒や暴動や暴風雨よりもずっと暴力値が高いのよ」
 ………暴力値?
 「じゃあ今のぼくが持つ情報だけを用いて、あの破裂音の正体を推測してみようか」
 ぼくは続ける。
 「きみの持ち物は把握してないと言ったけど、ぼく自身の持ち物は既に確認してる。あれを見て思ったのは、このデイパックが全員に与えられているとしたら、中身はみんな一緒なのか、それともみんなバラバラなのかってことだ」
 その辺の説明が全然されていなかったから、杜撰だと思ったのだけれど。
 「今、きみの荷物と比較できればいいんだけれど、仮にきみが教えてくれたところで、それを鵜呑みにするのはあまりにナンセンスだ。だからやっぱり明確なことは言えないけれど、ある程度、推測することくらいはできる。
ぼくの持っている荷物のなかで、注目すべきは――注目しないべきは、といった方がいいのかな。生き残り――サバイバルという言葉を、今ぼくたちがいる状況を表す言葉として用いるなら、地図、食糧、コンパス、時計、懐中電灯。
この5つは、言うなれば『あって当たり前』の物として類別することができるんじゃないかな。普通のキャンプですら必要必需品のアイテムだしね。むしろこれじゃ足りないくらいだ。
病院から出てすぐ、きみはぼくのデイパックからこの懐中電灯を取ってぼくに渡したね。最初からそれが入ってるのを知ってるみたいに。多分きみも、自分の荷物に懐中電灯があったからぼくのデイパックにもそれが入っていると予想していたんじゃないのかい?
で、この中で銃火器の代わりになりそうな道具はあるかな――まあ、ないね。武器になりそうな物すらないね――じゃあ、銃声の代わりになりそうな物は? 建物の中で反響するくらいの破裂音を奏でることができそうな物は?
ここで、今度こそ注目すべきものがひとつある。
懐中電灯だ。
なんの変哲もない、コンビニでも売ってるような普通の懐中電灯だね。つまり普通に考えるなら、この懐中電灯の中には電池が組み込まれているはずだ。
これ以上勿体ぶるのは忍びないから、この際はっきり言ってしまおう。
きみは乾電池を破裂させることで、その破裂音を銃声の代わりにしたんだ。
乾電池を火にくべると――つまり加熱することで、乾電池は爆発する。他ならぬきみ自身が言っていたことだ。熱源をどうやって確保したのかはわからないけど、あそこは病院だし、可燃物とかは容易に確保できそうな気がするね。
そういえば、乾電池とスチールウールを組み合わせることで火を起こすことができるとか聞いたことあったかな。まあ、その辺は完全に想像の域かな。熱を加えてから破裂するまでのタイムラグが問題だけれど、熱の強さ次第では、破裂するまでの時間を限りなく短縮できる。
ぼくにあの音を聞かせれば取りあえずは良かったんだろうし、あの時はたまたまきみが『動くな』と言った直後に爆発したのかもしれない―――とまあ、今のぼくに推測できるのはこのくらいかな。
ついでに言うなら、きみがわざわざぼくのデイパックから懐中電灯を取って渡したのは、自分の懐中電灯が使えなかった状態だったからじゃないかな。電池が入っていなければ、ただの筒だからね、
そしてぼくの後頭部に押し当てられているこれが、正にその『ただの筒』となった、懐中電灯だったとしたら―――」

 「………………」
 「………………」
303世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:10:31 ID:c3D2U13i

 「………………」
 「………………」

 しばらくの間、沈黙が場を支配する。土を踏む音だけが二人分、一定間隔を保って続く。
 「………勘違いしないでよね」
 数十秒に渡る沈黙の後、ようやくといった感じで彼女は声を発する。
 「別に、あなたのために今まで黙って聴いてたわけじゃないんだからね………あまりに馬鹿馬鹿し過ぎて、口を挟む気にもならなかっただけなんだからね………」
 脱力感全開の口調だった。
 新ジャンル、脱力系ツンデレ。
 「…さっき、推理小説の解答編みたく、って言ってた自分が馬鹿だったことを認めるわ……こんな糞っ滓みたいな推理、実際に小説に使ったら社会的に死刑よ」
 「だから推理じゃないって」ぼくはなるべく相手を刺激しないように言う。「ただの戯言さ」
 「そう、じゃあおあいにくさま。戯れるための言葉なんて、私はこれっぽっちも聞きたくはないの」
 放たれる敵意に、殺意が混じったように感じた。それは単に、ぼく自身の危機感から生じた感覚だったのかもしれないけれど。
 「本当に言葉じゃわからないみたいね――もういいわ。これ以上そんな妄言を撒き散らすつもりなら、とっとと」
 「報告ならいいんだろう?」
 「は?」
 ここで主導権を渡すわけにはいかない。
 ここからが、本当のぼくのターンなのだから―――。
 「何かあったら即座に報告するよう、ぼくに言ったのはきみだろ? 実はさっきから、報告すべき事態が生じているんだけれど」
 「………何よ、さっさと言いなさい」
 「実はね――」
 ざり、と。
 靴の裏で、地面の感触を確かめるように擦る。
 「ぼくの後ろ――つまりきみの後ろでもあるわけだけど、誰かいる。さっきからずっと、ぼくらを付けてきている」

304世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:24:13 ID:c3D2U13i

  ◆   ◆   ◆

 彼女がぼくから注意をそらしたかどうかも、思わず後ろを振り返ったかどうかも、前を向いたままのぼくからは確認することはできない。
 だから、これはほとんど賭けのようなものだった。
 両膝を曲げ、両手を前に出し、身体を思いきり低く屈める。地面に這いつくばるような低姿勢のまま、後ろ回し蹴りのようにして、背後の相手に足払いを繰り出す。
 小さな悲鳴とともに、ようやく視界に捉えることができた人影が、地面に仰向けに転がる。素早く立ち上がって追撃を仕掛けようとするが、焦りのせいかバランスを崩してしまい、立ち上がるのが一瞬遅れる。
 その一瞬の間に、相手は体勢を整えようと、両手両足の力を使って後方へと飛び退る。林の中へ逃げ込む算段か。
 中途半端な姿勢のまま、ぼくは懐中電灯を相手へと向ける。突然の光を受け、相手が眩しそうに目を細めるのが、闇の中に浮かび上がるようにして見えた。
 その隙にぼくは立ち上がり、一気に相手との距離を詰める。右手に持った黒い塊のような何かを、相手がこちらへと向けてくる。ぼくは懐中電灯を武器に、その右手を思いきり薙ぎ払った。
 「………っ!」
 相手の右手が、あさっての方向へと弾き飛ばされる。抑圧したような悲鳴が漏れたのが聞こえたが、それでも手に持った何かを離さなかったのは、流石と言うべき所なのだろうか。
 懐中電灯を離し、硬直した相手の右手首を捕える。そのまま押し倒すように地面へ組み伏せようと、左手に力を込める。
 「………!? う………っわ!!」
 刹那、自分の身体が空中へと浮かぶのを感じた。視界がぐるりと反転し、逆さまの木々が暗闇のなかに見える。戸惑う暇もなく、ぼくは頭を地面に向けたまま落下する。
 「―――ぐあっ!!」
 頭から着地することは何とか避けたが、肩と背中をしこたま地面へ打ち付ける。衝撃が脳を効果的に揺さぶる。
 巴投げ―――!
 ぐらぐらと揺れる頭で、どうにか理解する。ぼくが相手の右手を掴んだ時、空いた状態の左手は、既にぼくの襟元を捕えにかかっていたのだろう。
 畜生。
 ぼくは小さく毒づく。素人じゃない。闘い慣れてる。
 地面の上を転がりながら林の中へと逃げ込み、なんとか体勢を整えて相手に向き直る。相手の方も既に起き上がって、少し離れた所から、こちらをじっと見つめている。
 両目は既に、暗闇に順応している。ぼくはようやく、相手の姿をはっきりと目に捉えることができた。
 声でわかった通り、女の子。
 服装は、ブラウスにプリーツスカート。明かりがないためよくは見えないが、その簡素な雰囲気から、学校の制服のようにも見える。
 思っていたより、ずっとたおやかで華奢に見える体躯。背もそれほど高くはない。ぼくと同じくらいか。
 そして、右手に持った何か。
 否――もう「何か」ではない。ぼくにはそれが何なのか、明確に理解できている。
 突如、その黒い塊から閃光が放たれる。鼓膜を掻き乱す不快な音とともに、稲妻のようにほとばしる蒼白い閃光。
 冗談のように全身が粟立つ。いや、もう冗談では済まない。
 ぼくにとっては、ある意味拳銃よりも驚異に値する代物。
 「スタンガン――か」
 ぼくは思わず声に出して言う。それが、まったく意味のない行為だと知りながら。
 あれが今までずっと、ぼくの後頭部へと押し当てられていたわけだ。余裕ぶって講釈かましてた自分を馬鹿らしく感じる。
305世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:26:35 ID:c3D2U13i
 相手の右手が、再びこちらへと向けられる。
 そして、全身から放たれる敵意。
 先程まで背中で受けていた敵意を、ぼくは真正面から受け止める。
 敵意。
 敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意。
 敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意
敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意
意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意!
 今までのそれとは、まるで比べ物にならない。
 敵意だけでは恐怖に足りないなんて、とんだ戯言だった。ここまで研ぎ澄まされた敵意、中途半端な殺意よりよっぽど恐怖に値する。
 じり、と、少女がこちらへ一歩踏み出す。
 こちらから仕掛けた時点で、既に話し合いの機会は失われたも同然だった。奇襲をかけて主導権を握り、なんとか説き伏せるつもりでいたのだが―――失敗した。
 少女の双眸は、さながら獲物を狩る虎だった。
 虎視眈々。言葉として填りすぎだ。
 「ったく……結局こうなるのかよ………!」
 デイパックを肩から外し、地面へと投げ落とす。相手の背中は既に空いているようだった。先手を取られた気分で、ぼくは臨戦体勢をとる。
 こちらは徒手、あちらには凶器。それだけで既に、決定的とも言える開きだ。
 でも、こちらに勝算がないわけではない。
 膠着を解き、相手が先に攻撃体勢へと移る。
 右手を向けたまま、こちらへ飛びかかってくる少女。ぼくは咄嗟にバックステップで後方へと下がる――かのように見せかけ、さりげなく足に引っ掛けておいたデイパックを、蹴り込むようにして相手へと飛ばす。
 足による投擲。当然それは命中精度に欠けるもので、デイパックは少女の右脇を抜けるような軌道で飛んでいったが、相手はそれに少なからず動揺したらしく、両手で身体をかばうような姿勢になる。
 右手が引っ込んだその隙に、跳躍するように地面を蹴って相手へと接近。突き出されるスタンガンを仰向けに倒れるように避けながら、スライディング気味に蹴りを繰り出す。
 回避と攻撃の複合。
 しかし一度足払いをくらっているせいか、ぎりぎりの所で回避される。ぼくの頭上を飛び越えるようにしての強引な回避。結局地面へ転がったようだが、うまいこと受け身をとったようで、即座にこちらへ向き直る。
 やはり一筋縄ではいかない。ぼくも即座に起き上がり、続けて攻撃を仕掛けようとする。
 「………がっ!?」
 顔面に激痛が走る。右目の下辺りに、何かがぶつかったような感覚。何か投げつけられたか、と、意外に冷静な頭で思う。
 地面にぼとりと落ちたそれを見ると、さっきぼくが投げ捨てた懐中電灯だった。起き上がり様に拾っていたらしい。人のことは言えないが、油断のならない真似をする。
 まずい――脳が焦りを訴える。投擲により隙を作ってからの攻撃。その点で、奇しくもぼくと相手の戦略は共通していた。
 違うのは、投擲により生じた隙の大きさ。顔面に衝撃を受け、反射的に目を閉じてしまっている状態。この状況下で、それは永遠にも匹敵する隙。
 そしてもうひとつ。
 相手にとって、ぼくに一撃でも叩き込むことができれば、この勝負は決まる。素手のぼくとは、一撃の殺傷力が違う。
 ここへきて、護身用というオチもあるまい。
 一撃必殺。
 スタンガン。
 「く………ああぁ!!」
 目を開くより先に、ぼくは右側へ向けて力の限り跳躍した。飛んだ先に木が立っていたら、もろに頭から激突していた形だったが、幸いぼくの身体が味わったのは、地面との衝突による衝撃だけだった。
 顔を向けると、さっきまでぼくが立っていた場所にスタンガンを突き出している少女が見えた。本気で際どい所だったらしい。
 有無を言わさず、少女が追撃をかけてくる。倒れている状態のぼくへ容赦なく振るわれるスタンガン。それを回避しつつ、何とか起き上がろうとする。
 しかし相手はそれを許さなかった。スタンガンに気を取られている隙に、強烈なローキックを足首に見舞われる。ぼくは三度倒されて、地面との再会を果たす。どうやらぼくは、このパターンがよほどお気に入りのようだ。
306世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:30:43 ID:c3D2U13i
 仰向けに倒れたぼくを、毒牙を携えたような瞳で見下ろしてくる少女。スタンガンが構えられる。いつかの情景が脳裏にフラッシュバック。
 どうする、考えろ。状況を打開しろ。見下ろされるのはこれで何度目だ? その時は何を相手にしていたのだっけ。鉈? ナイフ? 拳銃?
 いや拳銃は違う。あの時上から拳銃を構えてたのはぼくの方だ。確か無様にかわされてしまったのだっけ。あれはどうやって―――
 ぶん、と。
 スタンガンを持った右手が、顔面へ真っ直ぐに降り下ろされる。
 眼前に迫る、蒼白い閃光。
 「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 ぼくは左腕を、大きく弧を描くようにして振りかざした。上半身の力だけをフルに使い、振り下ろされる右腕に対し、横薙ぎの掌底を叩き込む。
 「く―――うっ!」
 軌道をずらされた右腕の一撃は、ぼくの頭部の右脇へと突き刺さる。紙一重。そのまま相手の右腕を掴み、渾身の力で引き倒す。
 しかし相手も只では転ばない。倒れ様に、ぼくの顔面に蹴りを打ち込んでくる。防御が間に合わず、もろに喰らってしまう。
 「か………は………!」
 身体を引くことで衝撃を軽減することはできたが、そのぶん大きく吹っ飛ばされてしまう。本当、今日は色々と飛ぶ日だ。
 痺れる頭をどうにか制御し、立ち上がる。よし、とりあえず危機は回避した。まだいける、まだいけるぞ、ぼく。
 蹴撃が思いのほか効いた風を装って、ぼくはよろよろと近くの木にもたれかかる。それを見て、勝機を得たとばかりに突っ込んでくる少女。
 フェンシングの剣のように突き出されるスタンガン。
 その一撃は、今度は空を切らなかった。
 スタンガンの先端が、ぼくのジャケットへぐさりと突き刺さる。
 飛び散る火花。ほとばしる閃光。煙を上げて焼け焦げるジャケット。
 そして―――
 結果焼け焦げたのは、ぼくのジャケットだけだった。
 「………くっ!!」
 少女の焦ったような声。彼女がスタンガンを突き出してくると同時に、ぼくは自分のジャケットを、スタンガンめがけて投擲していた。
 それは防御の意味もあったが、もうひとつ、広げられたジャケットを暗幕として使う、という目的もあった。
 今の一撃によって、彼女は放電時の閃光を、暗闇に慣れた状態の両目で至近距離からもろに受けた形になったはずだ。対してぼくの方は、大きく広げられたジャケットに遮られ、閃光が届くことはない。
 狂わされた視覚、ジャケットに覆われたスタンガン。
 その隙はもはや、永遠にも等しい。
 ぼくは背後の木を反動に使い、一足飛びに距離を詰める。しかし少女は退かない。絡んだジャケットごと、右手を前に突き出してくる。
 しかしその攻撃は、まるで方向の定まらない一撃。
 捨て身の一撃というには、あまりにも温い。
 突き出される右手へ、叩き下ろすように手刀を放つ。がくん、と右手が崩れ落ち、ジャケットが地面にはらりと落ちる。現れた少女の右手は、空だった。
 ぼくの両手が、少女の手首をふたつ同時に捉える。
 投げ技を仕掛ける隙は与えない。飛びかかった勢いそのままに、全身を使って体当たりをかます。相手のバランスが後ろへ崩れたところを狙い、一気に両手に力を込め、叩き付けるようにして地面へと押し倒す。
 打ち付けた両腕から、鈍い衝撃が全身ヘと伝わる。だが掴んだ両手は離さない。
 かふ、と、苦しげに息を吐く音が少女の口から聞こえる。
 それが終了の音だった。
 林の中に、再び静寂が戻ってくる。
307世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:32:55 ID:c3D2U13i
 呼吸が乱れているのを今更のように自覚。酸素が足りないせいか、先程の衝撃が効いているせいか、頭がいい具合に揺れている。睡魔とも錯覚できそうな疲労感。
 少女のほうも、同じように息を荒くしている。しかしその表情に浮かんでいるのは、不気味なくらいの冷静さだった。
 そして、敵意。
 その表情からは、想像もつかないくらいの敵意。スタンガンの閃光も真っ青の敵意。
 この状態で、まだ敵意を収めるつもりがないのか………。
 呆れるより先に感心できる。
 「………屈辱だわ」
 互いに呼吸が落ち着いてきた頃、少女は溜め息とともに呟いた。
 「こんな背景の端っこに立ってそうな、通行人Zみたいな男にやられるなんて――この一幕だけで、自分の重要度が極端に下がった思いよ」
 通行人Zて。
 強そうだなおい。
 「殺すがいいわ、殺すがいいのよ。そして人気投票の結果を見て己の行為を悔いなさい。人気上位キャラを殺すことがどういう意味を持つのか、その身で存分に味わうがいいわ」
 「………何のことかよくわからないけど」
 ぼくは彼女に応じる。
 「一応、さっきのきみの質問には答えておくよ。ぼくもきみと同じく、強制的に参加させられたクチさ。自分から参加なんて冗談じゃない。しばらくは、病院のベッドの上で暮らす予定だったのに」
 「だから何? 同じ境遇にいるから心中を察しろとでも言うの? 辛いのはよくわかる、仕方なく殺すのはわかってるから、恨むつもりはない――とでも言ってほしいの?」
 冷笑を浮かべながら言う少女。
 「それとも、殺す以外の選択肢を画策でもしてるのかしら。今度は妄想じゃなく、本当に手籠めにしてみる?」
 「ふん」
 ぼくは軽く鼻を鳴らす。余裕ぶって見せたつもりだったが、様になっていたかどうかはわからない。
 「選択肢がないのも、困りものだとは思うけれど」
 ぼくは、少女から手を離した。
 「何かを選ぶのって、あんまり好きじゃないんだよ」
 少女は動かない。そのままの姿勢で、こちらを見上げている。
 ぼくはゆっくりと立ち上がる。
 「きみに明確な目的があるっていうんなら、あのまま黙って従ってても別に良かったんだ。奴隷の真似事でも、遮蔽物の真似事でも、何だってね」
 真似事は道化の役割だからね。
 そう言ってぼくは数歩後ろへと下がり、木の幹に背中を預けつつ、地面に腰を下ろした。
 「今だって、きみの分まで選択権を握るつもりなんて、ぼくにはないよ」
 「………よく言うわ」
 少女は言う。
 「派手に抵抗しておいて、よくそんなことを堂々と言えるわね。あんなによく喋る道化なんて見たことないわよ」
 「きみがあんなことを言うからいけないんだよ。ぼくが黙っていたように、きみだって、あんな余計なことを言うべきじゃあなかった」
 ――そんなこと、一体だれが望んだっていうのよ。
 「生き残りたければ、きみは口先だけでも殺人者に徹するべきだったんだ。殺人鬼になるべきだった。殺し屋になるべきだった。最悪に、なろうとすべきだった」
308世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:34:02 ID:c3D2U13i
 ――私を、私達を巻き込まないでよ。
 ――もう沢山なのよ、こんなこと。
 「そんな、『どこにでもいるような普通の女の子』みたいな、『日常から非日常へ放り出された不憫な少女』みたいな台詞を軽々しく吐いていたら、この闘いを生き抜いていくことなんて、間違いなくできないんだよ」
 ましてや、吐いた相手がぼくだったなら――。
 沢山だというのなら、巻き込まれたくないと言うのなら―――
 出会った時点で、ぼくを殺しておけばよかったのだ。
 「逃げるのもいい。ぼくを殺すのもいい。何もしないのも選択肢の内だ。ただしどれを選んだにせよ、今のきみじゃあ、遅かれ早かれ確実に死ぬ。それをただ伝えたかっただけさ」
 言いたいことはすべて言った、とばかりに、ぼくは嘆息し、沈黙する。
 「………………」
 相手も沈黙を続けていたが、しばらくして「………本当によく回る舌ね」と、今度は少女のほうが嘆息した。
 「あなた、むかつくわ」
 ぼくはそれに対し、嘆息しながら肩をすくめる。「よく言われるよ」
 少女は嘆息しながら言う。「次に私があなたの後ろに立った時は、首筋を喰いちぎられる時だと思いなさい。精々背後に怯えているがいいわ」
 ぼくは嘆息しながら言う。「そのへんは、信じる心で何とかするさ」
 まるで、素直じゃない子供同士の喧嘩の後の仲直りのようだなと、嘆息まじりにぼくは思った。

309世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:36:45 ID:c3D2U13i

  ◆   ◆   ◆

 呼吸の乱れは収まったものの、今度は身体の節々が今更のように痛みだしてきた。少女もまた同じような感じだったので、しばらくの間、林の中で身体を休めることにした。
 ぼくは木にもたれるように座り、少女はデイパックを枕にして横たわった姿勢。
 ちなみに地面に散らばった荷物は、すべて回収済み。ジャケットだけはもう着れた状態ではなかったので、デイパックの中に収納してある。スタンガンも、今は少女が持っている。
 「言っておくけど」こちらを睨みながら言う少女。「後ろに誰かいるなんてハッタリかまして不意打ちなんて卑怯な真似、私は認めないわよ。私があなたより弱かったわけじゃないわ」
 子供かこの娘。
 最初に後ろから不意打ちかけてきたのは誰だとか、素手を相手にスタンガン振るってたのは誰だとか、突っ込みようはいくらでもあったが、確かに彼女の言うことも一理あった。
 ぼくが最初に懐中電灯で殴った右手は、あの一発で既に相当傷んでいたらしく、払った足首に関しても同じようなものだったらしい。
 つまり彼女はそんな状態であれほどの立ち回りを演じていたというわけで、頭こそよく打ったものの、両手両足が無傷のままのぼくより彼女のほうが疲弊しているのは、むしろ当然のことだった。
 手加減する余裕がなかったとはいえ、女の子を相手に本気で殴りつけてしまったことについては、素直に申し訳なく思う。それも右手だけで三発。
 「………ごめん」
 殴り殴られはお互い様ではあったが、とりあえず謝っておいた。
 「この世で最も誠意のない行為って、あなた、何だかわかる?」
 「………何?」
 「口先だけの謝罪よ」
 容赦ねえ………。
 正当防衛はむしろぼくのほうなのに………。
 ところで、と仰向けのままこちらを向く少女。「あれってどこまで本気で言っていたの?」
 「あれ?」
 「あなたが撒き散らしてた数々の妄言よ」
 「ああ――いや、もうほとんど当てずっぽうだったよ。何も考えずに、思いついた先から口に出していった感じかな。本気もへったくれもない。きみの言うとおり、妄言であってるよ」
 結局あの銃声の正体はというと、スタンガンによる放電の音だったらしい。スタンガンの電流を乾電池にぶち込むことでスパークさせ、あの破裂音をかき鳴らしたのだとか。
 無論、自分に火花などが飛ばないように、またぼくのほうに閃光が見えないように工夫しながら。
 火の中に乾電池、コンセントの中にピンセット。
 「……まさか本当に乾電池使ってたとは思わなかったよ」
 人には散々妄言だとか言っておきながら………。
 ほとんど正解しちゃってるじゃん。ぼくが一番びっくりだよ。
 「火花とかすっごい飛ぶんだもの。びっくりしたわ」
 当たり前だ。
 「一度やってみたかったのよ。根暗のやる遊び」
 だから遊びじゃ済まねえんだよ。
 言うまでもなく、絶対に真似してはいけない。
 ただ彼女の側としては、本気で銃声だと思わせるつもりは全くなかったらしい。銃でなくとも、武器としてスタンガンを所有していたわけだから、脅迫も戦闘もとりあえずは可能だったはず。
 ただ「相手まで安全に近付けたら面白いな」みたいな発想の末、何となく思いついたあれを実行してみたら予想外にうまくいってしまったため、そのまま拳銃をもっている設定で押し通すことにしたらしい。
 「言っておくけど」少女は言った。「私は『拳銃を持っている』と一度でも自分からはっきり言った覚えはないわよ」
 そうなのだ。
 結局、ぼくが一人で勘違いしていたといっても過言ではない。
 ぼくがあれを拳銃だと誤認していようがいまいが、彼女にとっては関係のないことだったのだから。
310世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 13:38:22 ID:c3D2U13i
 そもそも、彼女がこんな面倒くさい真似をする気になった理由は、窓越しに見たぼくの第一印象が『どうとでもできそうな相手』だったからに他ならない。
 要するに、ぼくはずっと彼女に弄ばれていたわけだ。
 単なる思いつきの面白実験に、ずっと付き合わされていただけのことだったのだ。
 彼女にとって一番意外だったのは、スタンガンの音を銃声と勘違いするなどという人間が存在したことより、ぼくが脅迫に屈せず反撃に出た事だったかもしれない。
 確かに、まともな小説でこんなことをやっていたら、社会的には死刑に値するかもな……。
 閑話休題。
 疑問が解けた所で、まずは今更ながら自己紹介を始めることにした。
 戦場ヶ原ひたぎ。
 それが彼女の名前らしい。
 「で、あなたの名前は?」
 少女――ひたぎちゃんは当然のことを訊いてくる。
 「別に聞きたくはないけど、礼儀として一応聞いておいてあげるわ。ただし記憶する気はあまりないから、どうしても憶えて欲しかったら、私が気に入るような名前を考えて名乗りなさい」
 後半の台詞は、すべて当然のものではなかったが。
 「……悪いけど、ぼくは人前では名前は名乗らないことにしてるんだ。個人的な理由なんだけれどね」 「何それ、馬鹿みたい」
 予想通りの台詞を吐かれた。なんか、同じ台詞を似たような人に言われた記憶があるが……。
 「そんなことを言ってるから、あなたは一生腐った魚と呼ばれるのよ」
 一生の呼び名を宿命付けられてしまった。。
 ていうか、今まででそんな呼び方をしたのはあなただけなんですけど。
 「仕方ないわね、じゃあ今後あなたのことは『魚の腐ったような男』、略して『さっちゃん』と呼ぶことにするわ」
 「………その愛称だけは、本気で勘弁して欲しいかな」
 ある意味略さない方より嫌だ。
 「じゃあ『細胞の死滅した脳を持つ男』、略して『さっちゃん』で」
 「いや『さっちゃん』変わってないじゃん! 『さっちゃん』から離れろよまず!」
 「じゃあ『有害で悪質な細胞を持つ納豆菌のように粘っこい男』、略して『害悪細菌』、さらに略して『さっちゃん』で」
 「もう完全にわかってて言ってるだろそれ! 略しても略さなくても最悪の呼称だよ! てかどんだけ『さっちゃん』で押し通したいんだよ!」
 「わがままね。あだ名すらつけて貰えない人間だって、この世にはいるっていうのに」
 リアルに嫌な話だった。
 「そんなに文句があるなら自分で決めなさいよ」
 もっともだ。もっとも過ぎる。
 「じゃあ、えーと――いっくん、で頼む」
 自分の呼び名の中で、一番まともそうなのを選ぶ。
 さっちゃんと大して違わないじゃない、などといいながらも、とりあえずその呼び名で納得してもらえた。
 名前には、それほどこだわらない方なんだけどな……。
 だからどんな能力だよ。
 「ところで、ひたぎちゃん」
 ばちぃ!
 彼女の左手が閃光を放った。正しくは、右手から左手に持ち替えられているスタンガンの先端が。
 「………何? びっくりするんだけど」
 「気にしなくていいわ」事なげにいうひたぎちゃん。
 「私の身体はある特定の条件を満たすと、自動的にスタンガンのスイッチを押すようにプログラムされているの」
 特定の条件って………
 心臓に悪いんですけど。
 「さっき、ここには強制的に連れてこられた、って言ってたけど」
 ぼくはようやく本題に入る。
 「きみは、このゲームに関しては何も知らないの?」
 「知らないわよ。気がついたら変な所にいて、あれよあれよとここまで来ちゃった感じよ。詳しい説明も何もないし。死ねばいいのよ。死になさい」
 だから何でぼくの方を見て言うかな。
311世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 14:45:52 ID:c3D2U13i
 ひたぎちゃんの話は、ぼくが経験した内容とほぼ一致していた。
 連れてこられたといっても、その間の記憶はまったくないし、連れてこられる心当たりもなし。直前まで、極めて普通通りの生活を送っていたらしい。
 ぼくもいたあの何もない空間で、知り合いと一緒にあの(訳のわからない)説明を受け、次の瞬間にはあの病院の前に立っていたという。
 不可思議な現象。
 不可思議な現状。
 心当たりが全くないという点を除けば、確かにぼくと同じ境遇のようだった。
 「本当に、殺し合いに乗る人なんているのかな……」
 ぼくは何となく言ってみる。
 「きみが言うように、自ら参加した奴ならまだしも、ぼくらには殺し合う理由なんてない。仮にあったとしても、こんなとこで見世物みたいな感じでやらされるなんて、不愉快以外の何物でもない」
 「殺し合いに乗らなければ24時間後に皆殺し――みたいなことを言っていたわね。主催者の意向に逆らうような姿勢を取り続けた場合、あの時の人たちみたく首がどぐちゃぶしゅうな感じになっちゃうんじゃないかしら」
 首が何だって?
 「見せしめ、と言っていたしね」
 勝者への褒賞、反逆者への刑罰。
 極端なまでのアメとムチ。
 闘いに乗る人間も、少なくはないと見るべきか。
 「だとしたら、いつまでもここに居るのは危険だな………」
 デイパックから時計を取り出す。零時五十五分。病室を出たのが、零時ちょい過ぎだったか。
 夜が明ければ、この小さな雑木林では隠れる場所にはならない。林の外からでも見つかる可能性がある。
 加えて、今のぼくたちは負傷している。ぼくは頭と肩と背中が痛む程度だが、ひたぎちゃんの方は足と利き腕を負傷してしまっている。殺意のある相手に当たってしまった場合、格好の標的にされるだろう。
 「あなたがさせた怪我だけどね」
 「………まあ、それはそうだけど」
 「『あなたがさせた怪我だけどね』」
 「………二重括弧でくくらなくても……」
 「「「あなたがさせた怪我だけどね」」」
 「さ、三重括弧でくくらなくても……!」
 「。.:*:・'゚☆。.:*:::・'゚★『あなたがさせた怪我だけどね』★。.:*:・'゚☆。.:*:・:・'゚」
 「デコしなくても!」
 どんな技術だ。
 「随分と余裕なのね」
 「は?」
 寝返りを打ち、向こうへと身体を向けるひたぎちゃん。
 「ついさっきまで、命がけの状態だったっていうのに、スタンガンまで突きつけられたっていうのに、当の突きつけた相手の心配をするなんて、余裕もいいところじゃない? そんなに生き残る自信があるのかしら」
 「いや………別にそういう訳じゃ――」
 「そういう訳じゃないなら、他人の心配なんてよしなさい」
 ぴしゃりと、叩き込むような声。
 「余裕のない人間なら、心配すべきことは他にあるでしょう」
 「………わかってるよ」
 そう、最初から、言われるまでもなくわかっている。
 いまのぼくには、ぼく自身を守るくらいの余裕しか、本当はないはずなんだ。
 「そうよ、あなたはこのスレが過疎化して消滅しないかどうかだけを心配していればいいのよ」
 「何言ってんの!?」
 「今消えちゃったら、私の見せ場がないまま終わっちゃうじゃない」
 「意味がわからない!」
 「スレが安泰になってから、私の心配をなさい」
 「結局自分も心配させるんだ!」
 すげえぞ……この娘。
 朽葉ちゃんどころじゃない。この攻撃力、もはや春日井さんに勝るとも劣らない。
 この場に巫女子ちゃんがいたらと思うとぞっとする。殺し合いなんて目じゃないくらいの、核戦争並の大舌戦が繰り広げられていたに違いない。
312世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 14:52:07 ID:c3D2U13i
 「スレが消えるのが先か、私たちが全員消えるのが先か―――これぞまさしく、究極の意味でのサバイバルだわ………」
 声が真剣だった。不謹慎に真剣だった。
 いかん、軌道を修正せねば。
 そういえば、と、ぼくは新たな話題を打ち出す。「探してるきみの知り合いって、どこにいるかわかるのか?」
 今までずっと、迷いのない足取りで――というより迷いのない命令口調で、ぼくに行き先を指示していたようだけれど、あれは知り合いの居場所を把握していたからでよかったのか?
 「わからないわ」
 わからないのか。
 「知ってる名前の場所はあったけれど、そこにいるかどうかはわからないし――それに周りがどう見てもおかしいんだもの。不気味で逆に近寄りがたいわ」
 確かに。あの病院の中で感じた不快感を、ぼくは思い出す。
 「かといって、それ以外には手掛かりひとつ無いし、仕方がないから適当に歩き回ってただけ」
 適当だったのかよ。
 どうせ適当なら、適当な目的地くらい定めておけばいいのに。
 ぼくは地図を取り出し、懐中電灯で手元を照らす。ぱっと見た感じは、普通の地図と大して変わらない。広げるとそれなりの大きさで、数字とアルファベットで64のエリアに区分けされている。
 数少ない情報のひとつなのだから当然かもしれないが、かなり細部まで作り込まれている。
 「作った人乙と言わざるを得ないわね」
 「現在地はこのあたりだね」無視。「このまま行くと、心王一鞘流道場って所に辿り着きそうだけど」
 小さな町をひとつ抜けて、いま雑木林にいるのだから――大体、E-3とE-4の境目くらいの所か。
 ………しかし、本当にすごい地図だ。
 所どころ、チェックポイントのように名前が振られているのだけれど、城から研究所からピアノバーまで百花瞭乱、もう統一性もへったくれもない。
 ファンタスティック・ワールド。
 ていうかもう、明らかにあり得ない名前の場所ががあり得ない所に存在していたりしてるんだけど。えらく見覚えのある固有名詞がそこかしこに点在してしまってるんだけど。
 もう見ているだけで頭がおかしくなりそうだった。もしかしたら、既におかしくなっていたのかもしれないが。
 つくづく思う。知らない場所より、知ってる場所が存在するほうが、この場合は精神的にきつい。
 何度でも言おう。本当にふざけてる。
 「こんなことして、一体何になるってんだ………」
 そう、理由、理由だ。ここまでする理由はあるのか? どんな理由で、なんの目的で?
 この地図を見ていまだに自分が無関係だと思えるほど、ぼくは楽観的ではない。ここまで来ると、あてつけとしても酷すぎる。
 いや――でも、他の人たちはどうなのだろう。
 目の前で横たわる少女、戦場ヶ原ひたぎ。
 例えば彼女も、地図の中に知っている場所があると言う。そっちに関しては、ぼくは名前すら聞いたことがない場所のようだったが、彼女の側にしても、ぼくに縁のある場所については全く知らないという。
 ぼくと彼女とでは、ここに連れてこられた理由が違うのだろうか? ぼくと彼女に、共通の項目は存在するのか……?
 しかしひたぎちゃんは「主催者側の理由なんてどうでもいいわ」と素っ気ない。
 「こんな倒錯した遊びの理由なんて、なぜ今の私は髪型をポニーテールにしているのかと同じくらいにどうでもいいことよ」
 「まあ、確かにそれはどうでもいいけど―――って危な!」
 「あなたの頭蓋骨の耐久性に比べれば、少しは考える価値はあるとは思うけど」
 「何で石が飛ぶの!?」
 「それよりも、ここから生きて帰るための方法とかを考えるべきじゃないかしら。この下種な遊びを、さっさと終わらせる方法とかを」
 一応、その方法を探るための思考ではあるんだけどな……まあ、その意見には完全に同意できるけど。
 帰れるものなら、今すぐにでも帰りたい。
 病院で感じた、あの不快感。
 あの感覚はまだ、身体の中にこびりついている。
 「もう三ヶ月以上、深夜の話ばっかり続いてるんだもの。飽きたわ」
 「………」
 あれ?
 また何か、控えてほしい気配が漂いつつあるような……。
 無視するべきなんだろうか……。
313世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 14:56:26 ID:c3D2U13i
 「いっそ夢オチにしてやろうかしら」
 「それは駄目だろ!!」
 無視できなかった。
 やっちゃ駄目だし言っちゃ駄目だろ。
 「どうせこういう催し事って、長くやってるともう夢オチでしか収拾つけられなくなるくらいグダグダになっちゃうのが常なのよ。今のうちに終わらせちゃったほうが、きっと私たちも少しは報われるわ」
 「いや、色々と報われないことのほうが多そうな気がするなぼくは!」
 ていうか、まだ終わりにしたくないんじゃなかったのか。
 「あなた冒頭で散々夢の話してたじゃない。あれが夢オチの伏線だったってことにしちゃえばいいのよ」
 「いくねえよ! いい訳あるか!」
 大体冒頭の話ってなによ。
 「別にいいじゃない、どうせもう五人くらいしか読んでいやしないわよ」
 「ひたぎさん!?」
 「『投下乙です』くらい、私がいくらでも言ってあげるのに………」
 「お願いだからそういう発言やめて!!」
 もうなにがなにやら。
 「何よ、さっきからギャンギャン犬みたいに噛みついて。見苦しいわよ」
 「…きみは目の前に毒物を撒き散らしている人間がいたら、それを黙って見ていろというのか?」
 「甘く見ないで。私の毒は百八式まであるのよ」
 意味がわからん。
 「うるさいわね、こういう設定をほのめかしておけば、重要キャラとして長いこと生きていられるのよ」
 「だから何の話!?」
 「あなたも精々アピールしておきなさい。あなた個性弱そうだし、次の人があっさり殺しちゃうかもしれないわよ」
 「次の人って誰!? 何!?」
 でも何か本当に大事なことのような気がする!
 アピールって、誰に対するアピール!?
 「あのさ……ひたぎちゃん」
 ぼくは正気を取り戻す。駄目だ、相手のペースに引き込まれ過ぎている。
 ばちい!
 なぜかまたスタンガンが電撃を放出。そっちのほうはもう無視。
 「さっきから全然話進まないんだけど……いい加減、真面目に話してもらえないかな……」
 そろそろ怒られそうな気がしてきたし。
 「私が不真面目だっていうの?」
 「とても真面目にやろうって風には見えないな」
 剣呑な目付きで、こちらを睨んでくるひたぎちゃん。
 「そうね………確かに間違ってたわ」
 また罵倒が飛んでくるかと思ったが、意外にも素直に自分の非を認めたようだった。
 少し安心する。何だ、ちゃんと言えば伝わるんだ。
 「最近では、むしろ重要度の高そうなキャラのほうが、意外性を演出するために途中でリタイアしちゃうことのほうが多いものね……あまり凝った設定を抱えてると、今では逆に死亡フラグとして扱われてしまうことを失念していたわ………」
 「………………」
 人との会話って、こんなにもままならないものだったっけ………?
 デイパックから水を取り出す。喋りすぎて喉が渇いた。さっきの立ち回りの後よりも疲れているような気がする。主に精神のほうが。
 「………そういえば」
 デイパックの中から、さらに一枚の紙を取り出す。ルーズリーフより簡素な見た目の、まっさらな一枚の紙。
 これは何に使用すべきなんだろうか。与えられた荷物のうち、この紙だけよくわからないというか、「一応入れておいた」みたいな、どうでもよさげな空気を感じる。
 筆記用具も入っているし、メモ用紙として使えとでもいうのだろうか。
 つくづく意図が読めない。
 「あなた、武器は持ってなかったの?」
 水筒と紙を収納するのを見て、ひたぎちゃんがまた唐突に話かけてくる。
314世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 15:03:40 ID:c3D2U13i
 「ずっと素手のまま構えてたみたいだけど、武器になりそうな物、入ってなかったの? それともデイパックから出す暇がなかっただけ?」
 「あれ、ぼくの懐中電灯取り出すとき、武器がないかどうか確認しなかったの?」
 「忘れてたわ」
 忘れてたのか。
 ぼくは一体、どこまで軽く見られていたというのだろう。
 「持ってるよ。ここにある」
 ズボンのポケットから、ぼくは一本のナイフを取り出す。
 手のひらにすっぽり収まるサイズの、いわゆるバタフライナイフ。見慣れているといえば見慣れているし、使い慣れてるといえば使い慣れてる武器。少なくとも、スタンガンよりはしっくりくる。
 哀川さんから授かったあの刀子には遠く及ばないけれど、自分にあった武器という点では、それなりに当たりを引いたほうだとは思う。
 「随分あっさり見せるのね。大事な手の内のひとつなのに」
 「きみのも見てるし、五分五分だろ。大した武器ってわけでもないし」
 「さっき、なんでそれ使わなかったの?」
 「………別に。実はぼく、尖端恐怖症なんだよ」
 あっそう、とだけ言い、再び黙るひたぎちゃん。何となく拗ねているように見えるのは、ぼくの気のせいだろうか。
 バタフライナイフを再び、ポケットの中へと仕舞う。
 もしさっきの闘いで、これを使用していたとしたら、ぼくは彼女を殺していただろうか。
 あの時これを取り出していたら、ぼくは恐らく、自分の殺意を抑えることができなかっただろうと思う。身を守るためでなく、ただ殺すためだけに、それを振るうことを躊躇しなかったと思う。
 一方で、もしそうしていたとしたら、殺されていたのはぼくの方だったかもしれない、とも思う。
 殺意は新たな殺意を生む。そしてそれらが一度重なれば、どちらかが生き残るまで、どちらかが死ぬまで、その殺意は続く。
 彼女がぼくに対し、殺意でなく敵意ばかりを向けていたことに、何か理由はあるのだろうか?
 あそこまで容赦なく他人に敵意を向けることができる人間が、殺意を向けることができない道理なんて、本来ならばないはずなのに。
 ―――一切の罪悪感なしに人を殺めることができる人間など、たとえ産まれたての赤ん坊でさえも決して有り得ることはない―――。
 戯言だ。
 そんなもの、戯言でしかない。
 「少しだけ、話を聞いてくれる?」
 またしても、唐突に投げかけられる声。
 いつの間にかひたぎちゃんは地面から身を起こしており、ぼくと同じように木に背中を預けて座っていた。
 「少し前に読んだ小説の話なんだけどね」
 こちらの返答を待たずに、彼女は話し始める。
 「―――とある学園を舞台にしたエンタメ小説なんだけど、その学園っていうのが色々と特殊な場所で、女子高生が策師を名乗ってたり、刃物に
病み付きな少女が徘徊してたり、もう首を吊ったようにパンキッシュな学校。その学校に捕われてる一人の女の子を救出するために、万能屋の女性と、無理矢理連れ出された冴えない男が学園へと乗り込む、っていう話」
 「ふうん………?」
 どこかで聞いたような気がするけれど。
 ぼくも読んだことのある小説だろうか。
 「そのうち、学校の中で人が殺されているのが発覚するの。バラバラ殺人。加えて密室殺人。結局、主人公が犯人を明らかにするんだけど、その犯人
っていうのが常人離れした技術の持ち主で、そのバラバラ殺人の他にも、学校内、学校外問わず、もう人間としてありえないくらい人を殺してしまっているの」
 「………」
 「その犯人が、主人公から殺した動機について問われた時に言った台詞なんだけれど――自分が何か酷い目にでもあっていたら、友達を殺されてた
ら、強姦でもされてたら、大事な何かを奪われてたら、それで全部納得いくのか―――人を殺すっていうのは、そういうことじゃない、って」
 「………」
 「小説にでてくる殺人犯って、大抵なにかの事情を抱えてたりして、探偵役の人にそれを吐露して終わったりするのがよくあるじゃない。それを
あそこまではっきり切って捨てるような台詞を見たのって、その本が初めてだったから、とても印象に残ってるわ。人殺しはどうしたって人殺し、動機なんて同情を誘うための免罪符に過ぎない、みたいな潔さがあって、犯人に同情どころか、いっそ感心すらしちゃった」
315世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 15:07:24 ID:c3D2U13i
 彼女は語る。独り言のように。
 「私の知り合い、阿良々木くんっていうんだけど」
 アララギ君。 蘭? 蘭木?
 「あの場所から、ここへ連れてこられる直前に、阿良々木くんが言ったの。『絶対に生きろ。お前が生きてる限り、ぼくも生きる』――って」
 おお、なんて格好良い。男らしさ全開の台詞じゃないか。
 「言われた時は、ただ嬉しいって思ったけど、あれってどういう意味で受けとるべき言葉なのかしら。どんな状況でも、どんな手段を用いてでも、
生き残ればそれでいいっていうこと? 他人を押し退けてでも、誰かを突き落としてでも、とにかく生きろっていうこと? 阿良々木くんもそうするし、私にもそうしてほしい、っていう意味として受けとるべきなの?」
 ………。
 「私は、阿良々木くんに生きてほしいと思ってる。それこそ、どんな手段を使っても、誰を殺してでも、生き残ってほしいと思ってる。阿良々木くんが生きてる限り、私も生きる。そう思ってるのは、私も同じ」
 ………。
 生きるということ。
 それは同時に、誰かを生かすということで―――
 同時に、誰かを生かさないということ。
 「優しいのよ、阿良々木くんって」
 彼女は言う。
 「私にも、他の誰にでも。他人のために平気で傷付くし、傷付けた相手でも平気で助けようとする。傍から見てて、不安になるくらい、優しすぎるくらい優しい。だからきっと、自分が生きるために誰かを殺すなんて、阿良々木くんはしようとしないんだわ」
 ………。
 「私にはああ言っておいて、自分はそんな、自分より誰かの命の方を優先するような、中途半端な姿勢でいようとする人なのよ。そんなのって、卑怯だと思わない?」
 「………」
 ………成程。
 彼女がなぜ、地図上に自分のよく知る場所を見つけながら、そこへ向かわなかったのか、ぼくは理解できたような気がした。
 その場所に、その人がいるかどうかの確信がなかったから、ではおそらくない。
 むしろそこにいる可能性が限りなく高いと思っているからこそ、そこへ向かうのを躊躇ったのだと思う。
 何故なら、見てしまうかもしれないから。
 もしその人が、そこへ向かっていたら、そこで自分を待っていたとしたら、見てしまうかもしれないから。

 自分にとって大切な人の、その変わり果てた姿を。

 最も望まぬ形での再会をしたくないからこそ、
 見てしまう可能性が最も高い場所だからこそ、彼女はそこへ向かわなかったのだ。
 「いっくん」
 一瞬、自分が呼ばれたのだと気付くことができなかった。
 「あなたの言う通りよ、いっくん。私じゃ――私たちじゃ、ここではきっと生き残ることはできない。遅かれ早かれ、同じような結果になるわ。それならいっそ、口先だけでも普通のままで終わりたいのよ」
 すとん。
 彼女の手から、スタンガンが滑り落ちた。
 「生きるためでも、強要されたからでも、人殺しは所詮人殺しにしかなれないのよね。選択肢を押し付けられるのなんて、私だって真っ平ごめんよ」
 ………………。
316世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 15:08:28 ID:c3D2U13i
 「ちょっと早いけど、私はここで終わりにしておくことにするわ。色々と悪かったわね、いっくん。スタンガン、欲しいなら持っていっていいわよ。………あ、もし阿良々木くんに会っても、私のことは伝えなくていいからね」
 足枷にはなりたくないから。
 そんなことを言って、彼女は独白のような語りを終えた。
 再び、闇夜の中に訪れる沈黙。
 「………」
 ぼくは、彼女のことを何も知らない。
 その知り合い――アララギ君とやらについても何も知らないし、そもそも自分の置かれている現状すら、よく理解できていない。
 何も知らない。何もかも知らない。
 足枷とは、誰に対する足枷のことだろうか?
 アララギ君の? それともぼくの?
 自分のために誰かを殺す。誰かのために誰かを殺す。
 自分のために自分を殺す。誰かのために自分を殺す。
 それは、ある意味どちらでも正しく、ある意味どちらでも間違った選択。
 正しくあるのは、正しいことなのか? 間違うことが、正しいことなのか?
 ―――なにを考えてる?
 ぼくに、他人を心配する余裕なんてなかったんじゃないか?
 「………小説の話じゃないけど」
 沈黙を破り、ぼくは言った。
 「少し前に、ぼくが知り合いから言われたことなんだけど………人生っていうのは、死んでも終わらない――んだってさ。そいつが死んでも、そいつの影響は残るから、本当は終わりなんてどこにもない。勝手に終わらせるな、って」
 ぼくはそれに、そんなことわかりたくもない――と返したのだけれど。
 「あんなこと言った以上、きみにこんなことを言うのは理不尽なのかもしれないけど――ひたぎちゃん。きみは、ぼくに会う前から、最初から終わりにしたいと思っていたんじゃないのかな?」
 「………」
 普通のままで終わりにしたいと彼女は言う。ならば、普通とは何だ? 人を殺さないということ? 人と殺し合わないということ?
 人に、殺意を向けないということ?
 「普通のままでいたいなら、普通のままで生き残ればいい。生き残る自信のない場所なんて出てしまえばいい。わざわざ乗っかってやる必要なんてない。踊ってやる必要なんてない。相手の都合なんて、相手に叩き返してやればいいんだ」
 ――こいつは、一体どこまで勝手な言葉を吐き散らすつもりでいるのだろうか。
 言えた立場か? 欠陥製品。
 所詮すべて、戯言でしかない癖に。
 「生きる方法なんて、魚だったら腐るほどにある。自分で選ぶのは当然のはずだ。きみもそう思うだろう?」
 「………無理よ、そんなの」
 彼女はうつ向きながら言う。
 「そんなことがどれだけ不可能に近いか、あなただってわかってるでしょう? 殺さず、しかも生き残るなんて。仮に逃げ回って生き延び続けたとしても、最後の一人になるまで終わらないって、最初に言ってたじゃない」
 ――やはり、彼女の本音はそこにあったか。
 彼女は、誰も殺したくないのではない。誰かを殺したくないからこそ、初めから終わりにしたかったのだ。
 「それに、さっきも言ったでしょう? 闘いに乗らなければ、結局殺されるのよ。24時間経てば、どっちにしろ――」
 「24時間?」ぼくは言った。「それは永遠という意味かな?」
 皮肉げに言ってはみたものの、ぼくが言うと、やはりいまいち様にならない。
 「24時間も、ぼくらには猶予が与えられているんだ。状況を打開するには、十分すぎる時間だと思うけど?」
 「………………」
 何を言っているのかわからない、とでも言いたげな感じで、ひたぎちゃんはこちらを見ている。
317世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 15:09:29 ID:c3D2U13i
 ぼくだって、単なる楽観だけでこんなことを言ってるわけじゃない。
 どんな手段を行使したのかは知らないが、ぼくが誘拐されたとすれば、ぼくがあの病院から消えたとなれば、その情報は十以上の確実性をもって玖渚の知るところとなる。玖渚がその気になれば今のぼくの居場所など、辞書で単語を引くような気楽さで調べあげてしまうだろう。
 時間さえあれば、玖渚が必ずどうにかしてくれる。あいつをこの状況に巻き込むのは正直避けたい所ではあるが、今回はいくらなんでも、取れる手段が限られすぎている。
 タイムリミットがある上に、尋常でないレベルで命が懸かっているのだ。形振り構ってはいられない。
 ただし、玖渚だけに頼るわけにはいかない。
 ぼくはぼくで、状況を打開するために動かなければならない。
 「きみが本当にここで終わりにするつもりなら、ぼくにそれを止める権利はないのかもしれない。ただ、もしぼくの言葉がきみの選択肢を奪って
しまったのだとしたら、可能な限りの選択肢を提示するくらいの責任は、ぼくにはある。押し付けるんじゃない。ただ提示するだけだ。きみには終
わりにする以外の選択肢があって、それを選ぶ余地がある。その上でまだ終わりにするって言うなら、ぼくにはそれ以上、言うことはないけれど―――」
 「………………」
 ひたぎちゃんはぼくを見、ぼくはひたぎちゃんを見ていた。
 言いようのない雰囲気を伴った沈黙。
 ぼくにできることなんてたかが知れている。通りすがりの脇役に、取るに足らない道化役に、手のひらの上の踊り子に、欠陥製品の戯言遣いに、大したことなんて、何ひとつとして出来やしない。
 だからこそ。
 ぼくにできることは、すべてやり尽くさなければならない。
 終わりにする前に、終わりになる前に。
 たとえ、ぼくの行動に意味がなくても、ぼくの選択に意味がなくても、
 ――そんなことは―――
 そんなことは、

 どちらでも、同じことなんかじゃねえんだよ―――。

 本当に勝手だけれど、戯言だけれど、どうしようもなく欺瞞だけれど、自信も根拠も、滑稽なほどに皆無だけれど―――、
 後悔したまま、終わりにしたくなんてないから。
 ………………。
 ………………………。
 長い沈黙。終わりを無くしたような、長い長い沈黙。
 互いに見つめ合ったまま、互いを見据え合ったまま、時間だけがただ過ぎ去ってゆく。
 言葉を失ったように、選択肢を見失ったように。
 ここに来てから感じた幾つかの静寂。ぼくはその中で唯一、今のそれを息苦しくないと感じた。
 「………………卑怯だわ」
 永遠にも似た静寂は、彼女のか細い声によって打ち切られた。
 「………そんなの、選択肢を奪うのと、大して変わらないじゃない」
 相変わらずの、冷ややかな声色。今までと変わらぬ、剣呑な目付き。
 ただ、放たれる敵意は既にない。
 違いといえば、それくらいのものだった。
 「あなた、やっぱりむかつくわ」
 ぼくは苦笑した。「よく言われるよ」
 「いっそ殺してやりたいわ」
 「………よく言われるよ」
 「いっそ納棺してやりたいわ」
 「………………」
 表現が迂遠すぎて逆に恐い。
 何か急に生き生きしてないか、この娘。
318世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 15:12:23 ID:c3D2U13i
 「あなた、詐欺師になれるわよ」いっそ軽蔑するような声色。「本当、よく回る舌ね。回るだけ回してねじり切ってしまいたいくらい」
 「………そりゃどうも」
 「言っておくけど」彼女は言う。「生き残る道を選ぶからには、ただの希望や目標のままで終わらせるのは絶対に嫌よ。『やれるだけのことはやったからもう悔いはない』とか言って綺麗にまとめるような落とし方、地獄に落としてでも認めさせないからね」
 ………認めないんじゃなくて認めさせないんだ。
 言葉尻を揃える余裕があるのが微妙に恐ろしい。
 「それと、ここまで選択の余地を削いでおいて『自分が選ばせた訳じゃない。自分は選択肢を提示しただけだ』なんて逃げ口上、通用すると思わないでよ。私に選ばせた責任、きちんと最後までとりなさい」
 「………」
 ………まあ、予想してはいたことだけど………結局そういうことになっちゃう訳か。
 あーあ、なんだかなあ。
 せめて、もっとスマートにできればいいんだけどなあ。
 言うこと為すこと誤魔化しばかりで、結果はいつも空回り。
 優しくなくて愚かしいだけ、男らしくなく女々しいだけで、格好良くなく不格好。
 いつもいつも、そんなふうにしかできない自分に、正直腹は立つけれど。
 「言われるまでもないさ、そんなこと」
 ぼくは精一杯の毅然さを持って立ち上がる。
 「必ず生き残る。希望でも目標でもない。それ以外は、絶対に認めない。きみと一緒に、生きたままここを出ることを約束する。きみが生きていてほしいと思う人がいるなら、その人たちも必ず一緒に」
 ぼくは彼女へと歩み寄り、ゆっくりと手を差しのべる。
 「きみが生きてる限り、ぼくも生きるさ。一緒に行こう。生き残るために」
 差し出された手を、彼女はしばらくの間じっと見つめ、
 「……格好良いなんて思わないわよ」
 彼女の左手が、差し出された右手を掴む。そして彼女もまた、毅然と立ち上がる。
 「私がそう思うのは、この世で阿良々木くんだけなんだからね」
 そう言って、彼女はぼくに小さく笑いかけた。
 初めて見る彼女のその表情は、見蕩れてしまうくらいに、魅力的な笑顔だった。




 花火は見るより打ち上げろ。
 砦は住むより打ち崩せ。
 夢を見るにはまだ早い。 現実の夜はまだ明けぬ。
 見てもつまらぬ祭りなら、踊らないのもまた一興。


 さあ、戯言の始まりだ。
319世界の終わり、正しくは始まり ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 15:15:13 ID:c3D2U13i

【1日目 深夜 E-4】
【戯言遣い@戯言シリーズ】
[状態] 頭部に軽傷、身体の数ヶ所に打撲(行動にそれほどの影響なし)
[装備] バタフライナイフ@人間シリーズ(零崎人識が所有していたナイフの一つ)
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 ここから脱出する方法を探す。そのための協力者、情報を収集する。
 1 協力者の第一候補として、まずアララギ君を探す。
 2 戦闘に関しては、基本的に逃げの一手に徹したい。あるいはうまく丸めこんで、あわよくば仲間に引き入れる方向で。
 3 ひたぎちゃんは、怪我が治るまでできる限りフォローする。



【戦場ヶ原ひたぎ@物語シリーズ】
[状態] 右手甲負傷(物がうまく掴めない程度)、右足首捻挫(自力で歩くことは可能)
[装備]スタンガン@戯言シリーズ(哀川潤が使用していた物)
[道具]支給品一式(懐中電灯の乾電池を除く)、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 阿良々木くんと一緒に生きてここから出たい。
 1 阿良々木くんに早く会いたい。
 2 殺し合いには参加したくない。ただし阿良々木くんに害なす人間がいたら話は別。ていうか容赦しない。
 3 生きて出るため、いっくんに協力する。


 ※病院のくだりは、闇口濡衣たちが来る前の時系列ということで。
  玖渚友が来ていることは、いーちゃんは可能性すら考えていません。
320 ◆wUZst.K6uE :2009/04/10(金) 15:16:36 ID:c3D2U13i
 以上、猿に阻まれながらも投下完了。
 感想、批評、突っ込み、罵倒、「ひたぎ蕩れ」なぞ幅広いご意見お待ちしております。


 作者の創作意欲の半分は皆様からの乙で作られています。
 残りは勿論、西尾先生への敬意と愛情で。
321創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 20:36:06 ID:RB2Y8M2m
大作投下乙でした!
言いたいことは色々あるけれどとりあえず、
ひ た ぎ さ ん 自 重 し ろ
ドラマCDネタはまだしも、言っちゃいけないこと言い過ぎだろwww
でもそんなところが実にひたぎさんクオリティ。
いーちゃんにしてもひたぎさんにしても、氏の作品への愛情がひしひしと伝わってきました。



よし、ようやく手も空いたし、これ以上過疎らせないために自分もそろそろ何か書こう。とりあえず七花あたりでも。
322創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 21:43:53 ID:deAfMNCd
GJ!
こう何つーの?キャラが見せる魅力というか……心意気?魂の熱量、みたいな?そういうモノを感じました!真面目な話、久々に感動した!!
いーくんカッケー!つーかひたぎさん蕩れー!!>>314-315なんてもうひたぎさん真骨頂ですね!?
でもそれと同じぐらい、色々と言っちゃいけない事言ってるよひたぎさーん!!!
あーもーテンション上がりっぱなしだよ再度GJ!!

そして>>321の方
正 座 し て 待 っ て ま す
323創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 22:20:24 ID:4PbkHtST
GJ
ひたぎさんほんとに自重…w
無茶苦茶ありえそうで、面白かったです!
324創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 23:26:08 ID:RB2Y8M2m
せっかくだから参加者リスト更新


○……生存 ●……死亡

【戯言シリーズ】16/16
○戯言遣い/〇玖渚友/○哀川潤/〇兎吊木垓輔/〇式岸軋騎/〇奇野頼知/〇萩原子荻/〇石凪萌太
〇西東天/〇時宮時刻/〇西条玉藻/〇紫木一姫/〇匂宮出夢/〇誰でもない彼女/〇千賀てる子/○闇口濡衣

【零崎一賊シリーズ】4/5
○零崎人識/〇無桐伊織/〇零崎曲識/〇零崎双識/●闇口憑衣

【世界シリーズ】3/5
○病院坂黒猫/〇病院坂迷路/●傍系の病院坂迷路/〇串中弔士/●櫃内夜月

【新本格魔法少女りすか】3/3
○水倉りすか/〇供犠創貴/〇ツナギ

【物語シリーズ】6/6
○阿良々木暦/〇戦場ヶ原ひたぎ/〇八九寺真宵/○神原駿河/〇千石撫子/〇羽川翼

【刀語】6/6
○鑢七花/〇とがめ/〇真庭鳳凰/〇真庭人鳥/○鑢七実/○左右田右衛門左衛門

【真庭語】1/1
○真庭狂犬


現在42名決定、自由枠残り3名


あ……あれ? いつの間にか残り三人?
まだ忍も匂宮の妹も春日井さんも巫女子ちゃんも絵本さんもみいこさんも崩子ちゃんも櫃内兄もららら木さんの妹たちも否定姫も橙色も出てないのに?
右衛門左衛門が否定姫の存在について言及してるから、実質残り二名だよ?
325創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 23:45:46 ID:deAfMNCd
元々の登場人物数が少ないって事もあるんだろうけど、物語シリーズのキャラは殆ど出てるなw
……早いとこSSこさえないと、自分の好きなキャラが出せなくなっちまうゼ……
326創る名無しに見る名無し:2009/04/12(日) 19:32:19 ID:8jGa2riL
ふと思ったんだが式岸軋騎って戯言シリーズに出てなくね?
軋騎にしろ軋識にしろ直接登場してんのは「零崎軋識の人間ノック」だけじゃなかったっけ?

式岸軋騎を入れんのは零崎一賊シリーズに変えた方がいいんじゃないかなーとか言ってみる
327創る名無しに見る名無し:2009/04/13(月) 22:13:42 ID:9Tt5h2xR
まとめwikiの編集に関して報告ー
◆wUZst.K6uE氏の「世界の終わり、正しくは始まり」が案の定と言うか何と言うか容量オーバーで一括に出来ません
どうも前・中・後の3編に分ける必要があるっぽいです。氏が分割部分を指定して下さればこちらで実行するの事ですよと報告
328 ◆wUZst.K6uE :2009/04/14(火) 13:25:05 ID:NK/vz49N
ご報告ありがとうございます。
分割の範囲ですが、とりあえず

>>288〜295 が前、
>>296〜308 が中、
>>309〜319 が後という具合でお願いします。

私の無駄な長文のせいでご迷惑をおかけします。
今後はなるべく、自分で編集するように努めますので。
329創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 07:07:30 ID:UNrxG3Qm
>>328
指定ありがとうございまーす
……なのですが中編に指定された部分が容量オーバーで一括出来ませんでした。申し訳ないのですが改めた配分を指定願えないでしょうか。
もし氏さえよろしければ、こちらの方でも調整出来るのですが。
極力  ◆   ◆   ◆  の部分で分けるように致しますので。

あと避難所の方に新作が来ておりますので、代理投下をします。


「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげら……き?……げらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」

暗闇の中、
地図で言うE-5にある尾張城の近く…………
そこに、笑い声が響いていた。

哄笑、
そう言うに相応しい笑い声、
辺り一帯を呑み込もうとしているかの様に、
凶暴で、獰猛で、それでいて虚ろな笑い声が…………

しかし、
まるで雑音が混じっているような、
まるで錆び付いているような、
まるでどこまでも空虚、
そんな、何とも言えない様な声で、

橙色なる種、想影真心。
人類の最終と言われる存在が、
笑っていた。

ただ、
オレンジ色の髪を振り乱しながら、
笑っていた。

片手に、
一本の抜き身の黒い刀を持ちながら、
笑っていた。

狂気に染まっているかの様に、
笑っていた。
330◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/15(水) 07:09:05 ID:UNrxG3Qm
尾張城、
終わりの城の城門の上、
オレンジ色の最終、
想影真心が笑っていた。

原因は一本の刀、
四季崎記紀が作った千本の中の一本、
完成形変体刀十二本の内で、
『毒気の強さ』に主眼が置かれて作られた刀。

名前は、
毒刀『鍍』

普段は禍々しい色の鞘に収められた、
大きく反った鍔のない黒刀だが、

今は鞘がない状態で、
橙色なる種、
想影真心の右手にしっかりと握られていた。


毒刀『鍍』を持った者は、
刀の毒、四季崎記紀の魂に蝕まれる。

最終だろうと最初だろうと最強だろうと最弱だろうと最悪だろうと最善だろうと、
一切関係なく乗っ取られる。

毒刀『鍍』、
それを持っている想影真心もまた、
刀の毒に毒されていた。

完全に毒されたとは言えないが、
おそらく、既に正気の欠片も残っていないだろう。

「げらげらげら……しき?げらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげ……しきざ……げらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」

笑い続ける想影真心。
そのオレンジ色の目に見えているのは何か?

狂気に満たされている様な
空虚で虚ろな眼で、
一体どこを見ているのか?

それとも、
実際は未だに正気を残しているのか?
だとしたら何か刀の毒を打ち破る策はあるのか?

もっとも、
ただ虚しく笑い声が辺りに響くだけで、
誰も現れそうに無い…………
331◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/15(水) 07:10:08 ID:UNrxG3Qm
不意に城門を降り、
走り出した人類最終、
終わりの城を後に残して、
哄笑を後に引き連れながら、
風を切り裂きながら、
走る。

目的は殺戮か?
目的は救済か?

唯一無二の最終は、
どこに向かって走るのか?

欠陥製品、
人類最弱、いーちゃんの居る所か?

それとも、
紅い請負人、
人類最強、哀川潤の居る所か?

それとも、
狐面の男、
人類最悪、西東天の居る所か?

それとも……
それとも…………
それとも………………


そして、
城を走り去った人類最終。

後に残った尾張城は、
静かに建っているだけだった…………

何事も無かったかのように、
ただそこに静かに建っているだけだった…………

既に誰か居た跡はない。

城門の前に、
一個の禍々しい色の鞘が残されているだけで、
そこで何があったかを語る物は、
何一つとしてなかった…………
332◇kCGp90my/U代理投下:2009/04/15(水) 07:12:25 ID:UNrxG3Qm
「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げら…………き崎?……げらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげら……きき……げらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げら、しき…………げらげらげらげらげらげらげらげらげら」

どこかに向けて走り続ける人類最終、
そのオレンジ色の目には何が映っているのか?


彼女を救える者も殺せる者も………………
まだ、彼女の前に現れそうに無い。


【1日目 深夜 E-5から移動中】
【想影真心@戯言シリーズ】
[状態] 猛毒刀与により狂気
[装備] 毒刀『鍍』(猛毒刀与発動中)@刀語シリーズ
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)
[思考]
基本 不明
 1 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげら……しき……げらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげら……きき……げらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
げらげら、しき…………げらげらげらげらげらげらげらげら
げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら

 ※何処に向かっているかは、後の作者さんにお任せします。
 ※ネコソギラジカルで哀川潤に負けたしばらく後です。
 ※刀の毒が回りきった場合、四季崎記紀に乗っ取られるかは後の作者さんにお任せします。


どうも、皆様に協力してもらっているいつもの者です。
ちょっと雰囲気を変えた作品を作ろうとしたらこんなのに…………



投下終了でーす
333創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 21:58:54 ID:WsESCzVq
投下、代理投下乙ー
ついに人類最終ktkr!
七実といい真心といい、規格外の化け物が多すぎるw

そしていよいよ自由枠はあと一人か。果たして誰が来るやら
334創る名無しに見る名無し:2009/04/15(水) 22:32:51 ID:LQCcSOzU
乙です
戻って来い真心ー……!

今りすか書いてみてるんだけど、地図のあの川はやっぱ渡れない感じかな?
335創る名無しに見る名無し:2009/04/17(金) 20:00:40 ID:QLlnXEN3
川くらいならいけるんじゃない?
「川が無理な魔術師もいる」とはあった気がするけど。
336創る名無しに見る名無し:2009/04/17(金) 21:32:41 ID:+IqPgCu+
さすがにこのロワでも「川が渡れない」って事にすると不便だしねぇ
渡れてもいいんじゃね?
337創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 13:17:49 ID:kXUIikfF
『不幸中の幸い』は川のすぐそばで戦ってたけど
破記とかりすかは川越えたっけ?
338創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 22:01:21 ID:7dyNZoLs
334です。
うーん、作中では破記もりすかも川は越えられてない……
ただ今書いてるのに川使うかは分からないので、とりあえずは参考にしておきます。
ありがとう!
339創る名無しに見る名無し:2009/04/23(木) 00:14:51 ID:oIbcyDdd
殺して解して並べて揃えて保守してやんよ
340創る名無しに見る名無し:2009/04/23(木) 00:20:01 ID:Lo5lnVn1
あれ?ぶっちぎりで人気NO.1のレンデルお兄さんはまだ?
341創る名無しに見る名無し:2009/04/23(木) 07:59:21 ID:oIbcyDdd
>>324
342創る名無しに見る名無し:2009/04/25(土) 00:50:01 ID:HM64Yx/m
枠は埋まっちまったのか?
書いてる途中の人とかもったいないな
343創る名無しに見る名無し:2009/04/30(木) 09:16:08 ID:THJeB39Y
枠は後一つあるんじゃないっけ?
344創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 09:07:55 ID:5K1mQXRL
参加確定でとがめと狂犬がまだ出てないね
狂犬はオープニングにちらっと出たけど、書いてる人いないのかな?
345創る名無しに見る名無し:2009/05/02(土) 17:13:06 ID:5K1mQXRL
>>343
あと一つは開いてる。否定姫の参加がまだ未確定だから、否定姫が参加しなければあと二つだと思う。
346番外編的な位置づけで:2009/05/06(水) 20:53:28 ID:hWaW0fSe
戯言遣い×戦場ヶ原ひたぎ

「ちょっと私の話を聞きなさい」
「ん?別にかまわないけど」
ひたぎちゃんも心を開こうとしてくれているのかな。
さっきと物腰が少し変わった気がする。
「友好を深めようなどとは思っていないわ」
「だからなんで心が読めるんだよ…」
「いいから黙って聞きなさい、口を挟むとその舌を縦に引き裂くわよ」
「縦に!?」
なんて痛い想像をさせるんだ、それじゃあ痛いのが続きっぱなしじゃないか!!
「それが目的よ」
「外道!?」
「外道じゃないわ、非道よ」
むしろ極道って感じがする。
「私の彼氏の阿良々木くんはね、とても優しい人でしっかりしていて、」
のろける気か?
「事実確認よ」
…まあ、どうぞ、先を。
「とりあえず格好良いのだけれど、何故か、いえ、だから、かしら」
「ん?」
「彼の周りには女の子が集まるのよ」
へえ、アララギ君ってもてるんだな。
「そう、というか友達が全員女子なの」
いや、それはむしろ偏っているだろ。常識的に考えて。
「クラスの委員長でしょ、ああ、あと私の奴隷も彼に惚れてるわね」
「奴隷ぃっ!?!?」
一体いつの時代に生きてるんだ?ひたぎちゃんは?
「それに…八九寺さんもでしょ、ああ、この子は小学生なのだけれど」
「小学生ぃっ!?!?」
すごい男もいたもんだ、そんな子供までとは。
「まだいそうなのよね、私の勘では」
「どれくらい?」
「あと…4人くらいかしら」
「それは…話を聞く限りハーレムだな」
「そうなのよ、私という彼女がありながら、ああ、考えたら阿良々木くんが憎らしく思えてきたわ、裂こうかしら」
いや、もうそのネタはやめよう。ほんと痛々しいし。
「いや、うらやましい限りだけどね、男からしたら」
347番外編的な位置づけで:2009/05/06(水) 20:54:23 ID:hWaW0fSe
同時刻・阿良々木暦×哀川潤

「よし、あたしの知り合いの話をしてやろう」
「はあ、どうぞ」

共に目的地に向かって歩いていると、さっきのとても綺麗な、けれど怖そうな女の人(哀川さんというらしい)が
そう切り出した。

「そう、知り合い。いーたんって奴なんだけどね」
「いーたんですか」
おそらく…というか間違いなくニックネームだろうな。
「名前はなんていうんですか?」

そう訪ねると、哀川さんはおかしそうに笑った。

「どうかしましたか?」
「いや、気にすんな、あのな、いーたんの本名は誰も知らないのさ」
「それは…訳ありということですか?」
本名を知らないなんて、考えられない。
「はは、ただあいつが教えてないだけさ。ポリシーってやつか?まああたしにはどーでもいいことだけどな」
「はぁ、それで?」
「いやさ、そいつには彼女…というか、まあ好きな奴がいるわけだ」
「はい」
「だがな、そいつの周りには何故か女が集まるのよ」
それは…もてる、ということか?
「なんかもてるんだよなあ、あいつ。崩子とか絶対あいつのこと好きだし、イリアの奴も気に入ってたし、てる子とか、あとは一姫とか…」
「ハーレムみたいですね、そこだけ聞いてると」
「ああ、そうかもなあ。あたしもいーたんにたぶらかされたクチだし」
こんな綺麗な人まで、どうやらいーたんという人はすごいようだ。
いや、自分で言っておいて頭の悪い台詞だとは思うけれど。

「うらやましいですね、男の目線から見ると」

「とりあえず、あたしはそいつを探してるって訳だ」

哀川さんは、そう締めくくった。

「はあ、なんだか、」

戯言遣い&阿良々木暦
「僕とは全く違う種類の人みたいだ」



すいません、書きたい衝動に駆られただけです、物語には影響ありません。てか無視してください。
でも、もしこんな話になったらこーなるかなあ、と。
348創る名無しに見る名無し:2009/05/08(金) 01:29:31 ID:Z5DXPlRi
投下乙です!
ここしばらく過疎気味だったので嬉しいです。堪能させていただきました!
いーちゃんとひたぎさんの組み合わせって良いですね。なんか、ひたぎさんいきいきしてるww
しかし、この二組が無事合流できたら、阿良々木君はひたぎさんにあだ名で呼ばれてる戯言遣いに嫉妬しそうだなあw
349番外編的な:2009/05/08(金) 22:07:04 ID:mi3lN1Ev
そう言っていただけると書いた甲斐があります!!
なにぶん慣れていないのでまだわかりませんが、また思いついたら書きたいと思います
350 ◆T7dkcxUtJw :2009/05/10(日) 03:13:52 ID:KUH5XsJW
番外編投下乙です
自分も櫃内兄、投下します
351創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 03:15:58 ID:KUH5XsJW
1.


なぜ、どうして、僕はここにいるのだろう。
ひょんなことから病院坂とのロンドン旅行が中止になって。
仕方なしに家に帰って、上記の旨を両親と夜月に伝えたあと、
(色々な意味で)疲れた体を癒すために、早々にベッドに入った、そのはずだった。

しかし、目覚めた僕の目の前に広がっていたのは見慣れた天井などではなく。
あまりにも唐突な、冗談みたいな殺し合いの開幕宣言で。

そして。
誰かが死んで、また誰かが死んで。
一瞬のホワイトアウトの後、今度はホワイトな雪山に立っていて。
学生服では寒さに耐えきれないのは明白だったので適当に下山した結果、僕は神社を訪れていて。

その神社の境内では――夜月が死んでいた。


352創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 03:17:01 ID:KUH5XsJW
2.


目の前にあるのは、血溜りと、死体。
どんな手段を用いたのか、その体は何かに喰われたかのように大部分が消失していて、
その大きな傷口から流れ出た血液は、地面に広がり石畳を赤く染めあげていて、
もうどうやっても夜月が助からないことを、僕がここに来るのがあまりにも遅すぎたことを、如実に物語っていた。

「夜月……ごめんな、怖かったよな。こんな状況で一人にするなんて、僕は悪いお兄ちゃんだよ」

しゃがみこんで、すっかり血色を失ってしまった、夜月の小さな顔に触れる。
途端、子供の頃からの、夜月と過ごしてきた時間の記憶が脳内にフラッシュバックし、
そして――思う。

「……これじゃ、あのときと同じじゃないか」

あのとき。
僕がまだ小学校三年生で、夜月がまだ小学校二年生だったとき、夜月を襲った級友からの苛め。
僕が気付くのが遅かったばっかりに――夜月の心は、歪み、捩れ、半ば閉ざされることとなってしまった。
あのときも、今回も――僕は間に合わなかった。
夜月が苦しんでいたのに、助けられなかった。

「……ごめんな」

見開かれたままの目を閉じて、頬についた夜月自身の血を拭ってやる。
ほんの少しだけ、夜月が微笑んでくれたような気がした。
そんなことは、有り得ないのに。

「どれだけ女々しいんだよ、僕……」

夜月が死んだ。
その事実を、脳のどこかが認識することを拒否しているのかもしれない。

「…………よっと」

なんにせよ、夜月をこの場に放置だけはしたくない。
これ以上傷付けないように、そっと夜月の体を抱き抱える。
当然制服に血がべっとりと付くけれども、この際そんなことはどうでもいい。

「……重いな」

夜月が聞いたら本気で怒りそうな台詞を言っても、腕の中の小さな体は怒ってくれない。

「…………」

すぐ側の、社に向かって足を進める。
両手が塞がっているので、罰当たりだとは思いつつも足を使って戸を開ける。

「まあ、こんな場所にある神社の神様なんて、はなから信じちゃいないけどさ」

言いながら、床に夜月を寝かせる。
とりあえず、当面は夜月はここに寝かせておこう。
こんな場所に置いていくのは非常に心苦しいけれど、今後の行動に支障が出てはいけない。

そう、今後の行動。

353創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 03:17:52 ID:KUH5XsJW
「夜月は死んだ。なら僕に――夜月の兄にできることは、夜月の死を無駄にしないことだ」

悲しむのも、悔やむのも、全て終わってからでいい。
僕は生き残らなくてはならない――夜月の死を、意味あるものにするために。

「夜月は明らかに誰かに殺されていた……つまり、殺し合いに乗っている奴は実際に存在している」

なら……僕はどうする?

「……敵討ちは、さすがに無理だしな」

夜月の死体の損壊具合を見る限り、あんな風に人体を破壊できる人間を相手に戦えると思うほど、僕は自惚れてはいない。
出来の悪いライトノベルみたいに、そのとき、櫃内様刻の秘められた力が目覚めた! なんて展開が、都合良く起こるはずもない。
夜月の敵を討ちたくないと言えば嘘になるけれど、それで死んでしまえば全ておしまいだ。

「……じゃあ、どうする?」

最後の一人になるということは、それ以外の人間を殺すということ。
しかし、さっきも言ったように最初に殺された……忍者? みたいな化け物じみた人間が参加している以上、
そいつらに対して僕みたいな一般人が勝つ確率はあって無いようなものだ。

「なら……戦っちゃいけない。他の参加者が疲弊して、倒れるまで逃げ続ける。
 そして最後の最後で……全てをかっさらって、最後の一人になる、か」

現状、それしか方法は無いのかもしれない。
優勝して願いを叶えてもらう――夜月と、一緒に家に帰る、そのためには。

僕をここに連れてきた存在は、魔法と言っていた。
どんな願いでも、なんて眉唾もいいところだけど、
万に一つ、億に一つでも夜月を生き返らせる可能性があるのなら、その可能性に賭けてやる。
どんなに零に近い確率だろうと――零より上には、違いないんだ。

「こんな僕を見たら……君はどう思うんだろうな」

ふと、保健室のベッドの上でシニカルに笑う、彼女の姿が脳裏に浮かぶ。
愚かだとでも言うだろうか。軽蔑して、見放すだろうか。それとも、無言で後押ししてくれるだろうか。
けれど、何と言われようと、僕のすることは変わらない。

「そういえば、死んだらもう会えないんだな……。じゃあ尚更、こんな所で死ぬわけにはいかないな」

立ち上がり、夜月に暫しの別れを告げて、僕は行動を開始する。
何よりも優先すべきは、他の参加者から身を隠せる、籠城場所。
夜月と殺人者、最低でも二人が訪れたことを考えれば、この神社は避けておくのが無難だろう。

「最悪、いざと言うときの逃げ道さえ確保できればどこでもいいけれど。
 近くにあるのは因幡城、百刑場、不要湖に新・真庭の里か……さて、まずは何処に向かうかな」

ここから一番近いのは新・真庭の里だけれど、市街地と近い。
不要湖は、市街地にある上に、拠点にできるそうな建物があるとは考え辛い。
百刑場は名称からいまいちビジュアルが掴みにくい。
因幡城へ行くには、砂漠を越える必要があるようだ。

「どれを選んでも、不安要素はある……か」

まあ、石段を下りる間に考えもまとまるだろう。
ひとまずそう考えて、地図を片手に、僕は長い長い石段を下り始めた。


354創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 03:18:42 ID:KUH5XsJW
【1日目 深夜 A-6 三途神社】
【櫃内様刻@世界シリーズ】
[状態]健康、制服が血まみれ
[装備]
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
基本 優勝して、夜月を生き返らせる。ある程度参加者が減るまでは逃げ続ける。
 1 当面の隠れ家を探す。
 2 できれば夜月の仇を討ちたいが、無理はしない。

※櫃内夜月の死体が、三途神社内に放置されています。


355 ◆T7dkcxUtJw :2009/05/10(日) 03:20:06 ID:KUH5XsJW
投下終了ー
久々に時間が出来たので投下しましたが、
これからはもう少しコンスタントに投下したいと思います……
356創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 16:09:29 ID:ai/Nig0j
投下乙です!
彼が参加ですか・・・ちょっとしんみり。
ところで今回の作品を読んでふと思ったんですが、このロワで出た死体ってどうなるのかな?
嫌な言い方だけど、主催者(水倉神檎)が魔法もしくは何らかの手段で片づけるのでしょうか?
ともあれ、次回も楽しみにしています。支援あげ!
357創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 23:04:09 ID:fKEqJw/V
投下乙です。
兄……頑張ってくれ。

死体…埋めたりしない限りそのままなんじゃないかな?
多分。
358創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 21:25:24 ID:++mRqt3x
投下乙
359 ◆kCGp90my/U :2009/05/11(月) 21:30:00 ID:++mRqt3x
おおおおお!
投下乙と書いてみてようやっと投下できる事に気が付きました。
今まで代わりに投下していた方、ここで言わして頂きます、ありがとう!
と言う事で、これより投下を開始します。

今までのアク禁は何が原因だったんだ?
360 ◆kCGp90my/U :2009/05/11(月) 21:31:26 ID:++mRqt3x
海岸近くの崖、
隣のエリアに掘っ立て小屋があるものの、
それ以外は人工物がないように見える島。

「今更だが、ここで会うとは思わなかったぞ。気に入らない女」
「奇遇ね、わたしもそうよ。気に入らない女」

幕府に二人の鬼女あり。
偶然にも、その二人が顔を会わせていた。

「しかし、わたしが死んだ後、七花がよりにもよってきさまとくっ付いているとは…………」
おかっぱの白い髪のやや小さい女性が苦々しくそう言うのを、
「否定する―― 一応、同意の上での傷心旅行って事になってるわ」
顔の横に『不忍』と書かれた仮面を着けている外国人の様な女性が否定した。

十二単を二重に重ねた様な衣装を着たおかっぱの白髪のやや小さい女性は、奇策士とがめ。
自分を奇策しか使わないから奇策士だと言っている。
『不忍』と書かれた仮面を着けている金髪碧眼の女性は、否定姫。
如何なる物であろうと何でもかんでも否定するため、否定姫。

幕府の二人の鬼女。
ちなみに両方とも戦闘力は皆無に等しい二人は、
よりにもよって無人島、呼ぶ人は不承島と呼ぶ所に居た。

「…………で、どうする、気に入らない女」
「…………どうしようかしらね、気に入らない女」

状況は無人島で、どうやら二人しか居らず、
島から出るにも舟一つないため出る事も出来ない。

「ちっ、ここから出る手段は一つとしてなしか…………」
「否定…………しないわ」
「あら、そうですか?」

本当に困った事態である。
出る手段はないが、外の方は入る手段があるだろうから、
最悪、殺し合いに乗り気で説得が効かない相手では正しく話にもならない。

「「そうですか?」って、舟もないのだぞ?どうやって出る?筏でも作るのか?」
「筏なんか私達で作れる訳がないわ。ハッキリ言ってこの状況、打つ手無しよ」
「そうでもないですよ?」

二人で案を出しては否定して、あるいは容赦せずに没にしたり、
ハッキリ言って出る気があるのかと疑うような状況だが、
二人とも至って真面目であるのが更にややこしい。

「「そうでもないですよ?」だと?じゃあどうやって出るんだ?」
「誰かどこぞの忍者みたいに海の上でも歩ければ良いんだけど…………」
「いえ、わたしは海の上を歩いて来ましたし」

「冗談も大概に――――ん?」
「冗談も大概に――――え?」
二人が同時にそう言うのを二人が同時に不審に思い、
どうやらようやく二人して気が付いた様である。

何時の間にかもう一人会話に加わっていた事に、
他に誰も居ないはずのこの島に、
何時の間にかもう一人この島に居た事に。
しかもわざわざ二人の後ろから話しかけていたらしい。
361 ◆kCGp90my/U :2009/05/11(月) 21:32:13 ID:++mRqt3x

遅い事この上ないが、
二人が後ろに振り向けば居たのは…………
「お久し振りですね、とがめさん。あと、はじめまして誰かさん」
邪悪そうに笑うとがめにとっては見覚えのある女性だった。



ここで簡単な説明を入れよう。
誰も居ないはずのこの島に、呼ぶ人は不承島と呼ぶこの島に、
どうやって奇策士とがめと否定姫以外の人間が一人来ていたのか?

言葉で表すにはこの上なく簡単な事である。
本人が言ったとおり、海の上を歩いた。

そう、言葉で表すにはこの上なく簡単な事を実行した。
実際にやる事は不可能に近いこの事を、
まるで簡単な事のように、アッサリとしたのである。

種を明かせば簡単な事ではないが、
彼女の持つ眼で、かつてこの島で戦った真庭蝶々から見取った、
ありとあらゆる物の重さを消す事ができる歩法の一種、
忍法足軽を使って自分と荷物の重さを消して歩いて来た。

既にあらゆる技術を自分の物にしている彼女だが、
地味に死ぬ前からよく使っている技術である。



「で、わざわざこの島まで歩いてきた事はわかったが」
「残念だけど七花くんはこの島には居ないみたいよ?」
顔見知りのとがめの方はおいておいて否定姫が自分の紹介を終えて、
とりあえず三人で話を始めた。
362 ◆kCGp90my/U :2009/05/11(月) 21:36:54 ID:++mRqt3x

「早速だが一つ質問がある」
とがめは特に天才かつ天災的な彼女に物怖気する様子もなく質問する。

「向こうの、まあ、本土として置いて。
本土であった地図で言う赤神イリアの屋敷とやらであった爆音についての情報を持っていないか?」
不承島の砂浜のほぼ対岸に位置する屋敷で何度も会った爆音、
それを見る為に見晴らしの良い海岸に来た所で否定姫と出会ったと言う裏話は置いて、
素直に戦闘があったらしい場所の状況についての情報を求めた。

ちなみに気になってはいたらしい否定姫も静かに二人の話に耳を傾けている。

「え?あれですか?」
「うん、多分そのあれだな」
一応話してくれる気はあるようだ。

「三人ほど逃げらてしまいました」
どうやら戦闘を起こした本人の様である。
しかし微妙に会話がずれている。

「ほ、ほお?と言う事は何人か殺したのか?」
微妙に冷静で居られていないとがめである。
それもそうだろう。
一応、目の前の人物が殺し合いに乗り気である可能性が判明したのだから。
今後、自分達が七実に殺されない保障は何一つとしてない事をない事に。

実際に一度は殺され掛けた事があるとがめも、
一度も殺され掛けた事がないものの危険性は左右田衛門から聞いていた否定姫も、
二人の身体に若干の緊張が走っている様子である。

無論、大抵の物を見通せる七実に対して緊張を隠そうとも意味もなく、
あっさりと見破ったらしくクスクスと笑っている。
「大丈夫です。あなた達を殺すつもりは少なくとも今はありませんから」

笑いながらそう言う笑顔は、その笑顔は、
本当に悪そうで、どこまでも邪悪そうな笑顔だった。



「それでは、その館で一人殺して三人は逃げられたという事だな?」
一瞬、あまりに邪悪そうな笑顔に一瞬怯んだ物の、
その後、屋敷での戦いの様子の説明を求めた所あっさりと答えてくれた。
あまりにもあっさりと、何でもないかの様に。
363 ◆kCGp90my/U :2009/05/11(月) 21:38:48 ID:++mRqt3x

しかし、その屋敷の四人の戦闘を見て来たと言う。
それぞれがそれぞれで異能を身に潜めた様な四人の戦闘を、
しっかりと、まじまじと、その四人の技術を、

七実は己の眼で、見た。
じっと。
ぎょろりと。
まじまじと――

見る。

見切り。

見抜き。

見定め。

見通し。

見極め。

見取る。

見る――視る――観る――診る――看る。

観察するように――診察するように。

その四人の技を、技術を、経験を、見て来たと言う。
364 ◆kCGp90my/U :2009/05/11(月) 21:40:14 ID:++mRqt3x

一人は全身、体のありとあらゆる部分に口を持った少女だったと言う。
幸か不幸か流石にそれは真似出来ないと言う事らしいが、
そんな化け物がこの戦いに参加している時点で笑えない。

一人は変わった服装の女性だったと言う。
幸か不幸かこれと言った珍しい技術は持って居なかったらしいが、
その胸に悪刀『鐚』が刺さってたと言う。
と言う事は四季崎記紀が作った変態刀が他の参加者の手に渡っている可能性が高い。
もしも前の持ち主の腕を超える者の手に渡っているとすると…………

一人はまにわにの忍者らしき人物だったと言う。
服装などを詳しく聞いた所どうやら真庭鳳凰で間違いが無さそうだった。
真庭鳳凰が殺し合いに参加しているのはわかってはいたが、
問題は真庭鳳凰の忍術を見て来たと言う事である。

ただでさえ恐ろしい七実が、あの真庭鳳凰の忍術を手に入れた。
ハッキリ言って恐ろしい事この上ない。

最後に唯一殺せたと言う若草色の和装の女。
この女の空蝉なる技術を見て来たと言う。
どのような技術かは身を持って場所を入れ替えさせられて教えられたが、
そのような技術を持つ者が他にも居るかも知れないと言う事。

七実よりもたらされた情報を纏めると、
どうやら主催者は殺し合いを本気でやらせたがっていると言う事、
この殺し合いの中には真庭忍軍並みかそれ以上の使い手が居るかも知れない事、

そして、このありえないはずの地図の地形はほぼ確実である事。

H-4にある赤神イリアの屋敷から海の上を歩いて、
今とがめが否定姫と共に居るH-2までまっすぐ海の上を歩いて来たと言う。

誰の屋敷かは知りはしないが、
この不承島の向かい側の陸地、深奏海岸に、
赤神イリアの屋敷と呼ばれる場所はない。

更に言えば、
不承島の近くに鎧海賊団の本拠地とも言える濁音港が、
こんなに近くにあるはずが無い。
365 ◆kCGp90my/U :2009/05/11(月) 21:41:32 ID:++mRqt3x
不承島は場所で言えば丹後、濁音港は薩摩。
本来在り得る筈が無いこの地形がありえるのか?

濁音港はとがめと会う前に否定姫が港らしい場所があると言う事を視認したらしい。
ここで否定姫が嘘を言う意味は無い。それから考えればこの地図は本物である。
七実が嘘を付いていない事が前提ではあるが、
今の所、七実が妙に積極的である事を考えれば嘘を付いてはいなさそうである。

以上の事をふまえて考えた結果、
「ふん、それから考えれば願いを叶える云々はおいておいても」
「水倉神檎はとんでもない力を持っている、と言う事かしら?」
これが幕府の二人の鬼女が一緒に出した結論であった。

「ふふふ…………」
「あはは…………」
しかし、その結果が出た上でも二人は笑い出した。

「くはははははははは」
「あはははははははは」
まるで楽しそうに笑う、

「それでこそ」
無自覚に声を合わせながら、

「奇策の練りようがあるわ!」
「否定しようがあるわね!」
やはり幕府にありと言われるだけはある鬼女の二人。
二人とも水倉神檎に対する闘志が溢れていた。

目の前に居る七実を超える化け物かも知れないとわかっている上で、
天災と呼ばれた天才以上の怪物かも知れないとわかっている上でである。

その様子を七実は二人を笑いながら見ていた。
悪そうに、邪悪そうな微笑と共に、見ていた。



「さて、元日本最強の七実どのにわたしから頼みがある」
真剣な表情でとがめと七実は向かい合っていた。
とりあえず言うと七花が住んでいた小屋……ではなく、
場所は変わらず崖の近くの地面の上でである。
366創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 21:54:34 ID:px4DutJB
 
367創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 21:10:39 ID:uV1aTuGr
投下乙…?
368創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 21:16:05 ID:p00K61xF
規制っぽいね
続きが仮投下スレにあるけど、携帯だから代理できないんだよな……
369 ◆kCGp90my/U :2009/05/12(火) 21:16:05 ID:jGAik0Hv
いくら天才七実と言えども海を歩いて渡って来て、
流石に疲れてあまり動きたくないとの事なのでである。
この殺し合いの中でも体力が無いのは相変わらずのようだ。

一応、真剣な話し合いではあるが、
場所が場所なので微妙に間が抜けた感じがしないでもない。
ちなみに否定姫は所在無さげに少し離れた位置からこちらを見ている。
とがめの交渉の行方を見守っている。

「わたし達と協力して貰いたい」
簡潔に、混じり気無く、一直線に交渉する。
目の前の天才に対しては小細工は通用しない。
文字通りそんな事をしても、見抜かれてしまうから!

ちなみに「わたし達」と自分も勝手にとがめの仲間に入れられている事に、
無論、否定姫は気が付いているがあえて口を挟まない。
とがめはともかくして七実と共に行動が出来る事に損は無いと考えているためである。

「構いませんよ」
そんな周りの空気を知っていながら七実はアッサリと承諾した。
「いくつか条件がありますが」
と後に付け加えて。

流石にとがめの表情が曇る。
あの天才の七実が共に行動するに当たって付ける条件だ。

簡単な物ではないだろうと予想しながら、
それも計算通り、と密かにほくそ笑みながら、
「…………条件はなんだ?」
と、表面だけは苦々しげに聞いた。

それを恐らく見抜いているだろうが、条件を提示する。
「一つ目はお二人に関する事です」
一つ、まずは一つ目。

「お二人にはわたしにしっかりと協力して頂きます」
一つ目、いくつかある条件の内の一つ目は普通だった。
いや、あまりにも普通過ぎた。

簡単に言えば、
とがめからは思わず見惚れるような奇策を出してもらい、
否定姫はとがめの政敵だったと言うからとがめ並の頭はあるだろう。
だったら、使えるだろうから使う。
それ以上でも以下でもない。
役に立つだろうから使う、それだけである。
370 ◆kCGp90my/U :2009/05/12(火) 21:17:24 ID:jGAik0Hv
が、二人にとっては普通過ぎる条件に、
思わずとがめと否定姫が不審そうな表情を浮かべるのを見て、
「二つ目は支給品に関する事です」
あっさりと流した。ごくあっさりと何事も無かったように流した。

「お二人の支給品を見せて頂き、使えそうな物を頂きます」
二つ目も普通、普通にしっかりと自分の目的を出す。
あくまでも冷静に、自分の目的を表に出す事無く果たすために、
二人の支給品を見て、使えそうな物を貰う。

一見すれば当然の行為。
相手から自分にとって使える物、武器を手に入れる。
しかし、七実にとって武器など本当の意味で、

どうだっていい。

己を一本の刀に仕上げた虚刀流にとって、
銃などの遠距離武器以外は邪魔でしかない。

もっとも、今の七実は忍法撒菱指弾も見取っているから銃などもほとんど必要がない。
と言っても残念ながら今は撒菱は持っていないので使えないが、
石を撒菱の代わりくらいには出来るだろう。

今の目的は優勝する事でもなく皆殺しにする事でもなく、
あくまでも完璧な『再生力』を見取る事。
いくつもある吸血鬼の一部を集めて合わせて、
完璧な『再生力』を見取る、それだけである。

一応、七花に会って見たいと言う事もあるが、
ここに来てしまった事でこれ以上思い当たりはない。
ならば、思い当たりがありそうなこの二人と行動する事が一番良い。

「以上です」

二つ。この二つだけではあるが、この二つの条件に必要な事を全て詰め込んである。
しかも二人からしたら楽な条件であろうとちゃんと考えて。
自分にこれ以上ないぐらい良い条件を出しながら、
二人にとっても良い条件になるように考えて。

二人に断る理由が見付からないように、
「そうして頂ければお二人と共に行動しましょう。
ついでに可能な限りお守りもしましょう」

そうちゃんと付け加えて利益に目が眩むように、
自分と行動するの利益がしっかりと眼に見えるように、
頭脳労働専用と言っていた彼女達には破格の条件だろう。

言うならば、決して見逃したくないほどの条件を!
371 ◆kCGp90my/U :2009/05/12(火) 21:18:22 ID:jGAik0Hv
とがめは苦々しげに、
「――――――わかった。その条件、のもう」
しかし、心の中では踊り出しそうなほどの喜び様であった。

踊らないのは否定姫の前だからであり、
否定姫が居なかったら踊っていたかも知れない。

否定姫も否定姫で、
しばらくの間、左右田右衛門左衛門の変わりになる護衛が見つかった。
と、とがめと同じく踊り出しそうなほど内心で喜んでいた。

こちらもとがめの前だから踊らないのであり、
とがめが居なければ踊っていたかも知れない。

七実は二人とも踊り出しそうなまでに喜んでいる内心をしっかりと見破り、
一人、笑っていた。
悪そうに、邪悪そうに、笑っていた。
「それでは、交渉成立で」



ちなみに、
二人の支給品を見ても七実の目当ての物、
吸血鬼の一部は見付からなかったが、
「あら?これは…………」
一つ、変わった物に目が付いた。

「ん?これがどうしたの?」
すでに三人でとがめの支給品を見終えて、
今は三人で集まりながら否定姫の支給品を検分中である。

七実の眼に止まった『それ』、
「これによく似た服を悪刀『鐚』を刺していた人が着ていましたね」

『それ』の正体は…………
エプロンドレス。
おまけなのか黒縁メガネ付きのエプロンドレス。

対ロングレンジ用の特別なエプロンドレス。
前の持ち主、千賀てる子。
七実と会っていながら逃走に成功した千賀てる子の服。

「これを着ていた方が良いですねよ」
無論、対ロングレンジ用の加工がされている事を見抜き、
否定姫に着るように勧めた。なぜかメガネも。

なぜ否定姫に着るように勧めたかと言うと、
とがめには大き過ぎて、七実には必要がないからである。

更に、ただでさえ目立つ髪と眼の色にこのエプロンドレス。
自分が狙われない可能性が上がる、とちゃんと考えての事である。
あくまでも自分が生き残るために。
372 ◆kCGp90my/U :2009/05/12(火) 21:19:46 ID:jGAik0Hv
最初は嫌がっていた。
いくら外国に対する理解があったもの、
防御力も全く無さそうにしか見えないこれは……と。

しかし、
対ロングレンジ用の加工がされている。と七実が言った所、
ならなぜ七実が着ないのか?と言う疑問を胸に入れたまましぶしぶ承諾した。



そして今、メイドの格好をした否定姫が誕生した。
頭に『不忍』と書かれた仮面を着けたままではあるが、
金髪に碧眼、更に黒縁メガネにメイド服。
ちなみに先ほどまで着ていた服は支給品が入っていた物に畳んで入っている。

今現在ここには居ないが某最悪と某最弱が見たら悶絶死する事請け合いであろう。
それほど妙に似合っていた。
外国の血が混じっているからだろうか?
否定姫本人に言ったらきっと瞬間的に否定する事であろう。

微妙に恥かしいのか若干であるが否定姫の頬が赤い。
「あら、お似合いですね」
「………………」
その姿を見て七実は褒めるが、とがめは後ろを向いて堪えていた。

笑いたいのを懸命に堪えていた、が、
「…………ぷ」
あえなくとがめの笑いを堪えるために出来ていた防波堤は決壊した。
それも見てからたったの十秒持たずに。

その時のとがめの笑い声は、
島の向こう岸に届いたとか届かなかったとか。



その後、

「そう言えば七実」
存分に笑い終えたとがめがふと思い出したように言った。
「なんでしょうか?」

「七実の眼でこの首輪はどう見える?」

わりと重要事項。全員に付いているこの謎の首輪の情報を聞いてみた。
ちなみに否定姫は少し離れた所で座り込んでいる。
否定しようがないほど笑われたのがショックだった様子であるが、
二人は何事もない様子で話を続けている。まさに鬼。

「………………」
「………………」
「………………」
沈黙、ただの沈黙が流れる。
373 ◆kCGp90my/U :2009/05/12(火) 21:20:46 ID:jGAik0Hv
七実の顔に何の色も見えないが、
それの意味を理解したとがめは黙るしかなかった。

まさか、天才七実の眼でもわからない事があるのか!?

ただ単に驚く。
四季崎記紀の完成形変態刀の特性すら見抜いたその眼でも見通せない、
水倉神檎が作ったと思われる首輪に驚いた。

しかしあくまで驚いただけである。
「どう言った性質の物かはわからんか?」
諦め知らずの奇策士とがめである。

それに対して、
「わたしの眼だけでは情報が足りません」
とキッパリと言い切った。
「せめて首輪の中身が見れれば良いのですが…………」

「………………」
「………………」
「………………」
またも沈黙が流れる。

七実の眼を持ってしても首輪に対する打開策はなし、
「やはり、この殺し合いに乗るしかない。優勝するしか…………」
助かる方法はない、か。と、とがめが言い掛けた時、
「否定する」

少し離れた所に居たメイドの格好の否定姫が言った。
「否定するわ。気に入らない女」
ハッキリときっぱりと、気持ちが良いほどしっかりと否定した。

「あなたはさっき七実さんが話した話の内容を覚えていないのかしら?」
ゆっくりと近付きながらとがめを見下ろす様に歩いて来る。
ちなみに伊達メガネとメイド服を着たままである。

「さっき七実さんは言っていたわ。
本土の方の屋敷で若草色の和装の女を殺して来た、と。」
そう、しっかりと一人殺して来たと言った。

それも頭がなくなるぐらいにまで踏み潰して来たと言っていた。
「はい、ちゃんと摘んで来ましたよ?この通り支給品も全て持って来ましたし?」
それがどうしたと言わんばかりの言い方、
人を殺した事への後悔の様子はないが今は関係ない。

「その和装の女の首輪はどうしたの?」

「………………あ」
「………………あら」
二人とも忘れていたようである。
374 ◆kCGp90my/U :2009/05/12(火) 21:22:09 ID:jGAik0Hv
しかし否定姫からしたら、
「そんな事も忘れてたの?そんなんでよく奇策士なんて務まるわね?」
と言いたい放題言える上、先ほど笑われた恨みを晴らす機会である。
普段なら絶対に逃す訳がないのだが…………

「…………まあいいわ。
七実さんの眼があれば、その女の首輪を見れば何かわかるかも知れないから、
とりあえず、まずは本土の屋敷に向かう。それで構いませんか?」
ここまで正論を言われてはいくら奇策士と言えど反論出来なかった。

「わかりました。それでは――行きましょうか」
七実が立ち一声掛け全員が、と言っても七実の他は二人だけだが、
更に言えば座っているのはとがめだけだが立ち上がり、
幕府にありと言われた二人の鬼女と、天災級の天才は動き出した。

目的地は、H-4にある赤神イリアの屋敷。
目的物は、七実が殺した名前も知らない女の首輪。
目的は、自分達の首輪を外す。
今の所はそれだけである。



これから七実の肩に乗せて貰って海を移動しようとした時、
「そう言えば、知らない誰かに会った時はどうする?」
唐突にとがめが言ったのを、
「わたしが見て、役に立ちそうになかったらむしりましょうか?」
あっさりと答え、

「否定する――最初は殺さないで置きましょう。
役にたたなそうな人でも、情報を引き出してから殺す方がよっぽど合理的よ?」
否定した。
「それもいいですね。…………いえ、悪いのかしら?」

今の所、役に立たない人間は殺す方針に決定したようだ。
あらゆる事柄を見通す天才に、奇策と否定の二人の鬼女。

今回は刀集めではない上、手加減の欠片もないだろう三人組。
彼女達が通った後に残れる者は居るのか?

容赦なく奇策に貶められるか、
ありとあらゆる事を否定され死ぬか、
草のように摘まれて終わるか、
はたまた生き残れるか、

ある意味でもっとも凶悪な三人組が行く。


375 ◆kCGp90my/U :2009/05/12(火) 21:27:59 ID:jGAik0Hv
【1日目 黎明 不承島 H−2】

【鑢七実@刀語シリーズ】
[状態]健康
[装備] なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)、キスショットの心臓
 闇口憑依の支給品(確認済み)
[思考]
 基本 二人を守りつつ吸血鬼のパーツを探す。
 1 七花とあってみたい 。
 2 完璧な『再生力』を見取るために吸血鬼のパーツを集める。
 3 『再生力』を見取り自分の本気を出してみたい。
 4 とりあえずこの二人と行動を共にする。

【奇策士とがめ@刀語シリーズ】
[状態]健康
[装備] なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3)
[思考]
 基本 今の所はこの二人と行動を共にする。
 1 鑢七花を探し、見付けたら護衛させる。
 2 基本的に鑢七実に頼る。
 3 とりあえず首輪を手に入れる。
 4 奇策を練る。

【否定姫@刀語シリーズ】
[状態]健康
[装備] なし
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)
 防弾エプロンドレスと黒縁メガネ(装備中)@戯言シリーズ
[思考]
 基本 今の所はこの二人と行動を共にする。
 1 鑢七花と左右田右衛門左衛門を探し、見付けたら護衛させる。
 2 基本的に鑢七実に頼る。
 3 とりあえず首輪を手に入れる。
 4 優勝したら願いが叶えるって、水倉神檎は何を考えているのかしら?


 *これから赤神イリアの屋敷に向かいます
 *不承島G-2にある鑢七花の住んでいた小屋には誰も入っていません
376 ◆kCGp90my/U :2009/05/12(火) 21:29:13 ID:jGAik0Hv
どうも。
結構本気で書いてもまだ届かない…………!?
どんだけレベル高いんだここに居る他の方々は!!
いつか追いついてみたい、と願いつつ今回のはこんな感じです。
またも題名なし。題名って思い付きません、本当。

更に、待っていた方々すみませんでした。
急に規制が来たもので対処できず…………
初心者には規制はきつい!
377 ◆kCGp90my/U :2009/05/12(火) 21:57:14 ID:jGAik0Hv
少し遅れててですが質問が一つあるのですがお願い出来ますか?

質問は、現在の七実の獲得している能力について。
現在七実が獲得している能力を思いつく限り挙げます。


 中途獲得済み

・七花八裂(改)from鑢七花
・忍法撒菱指弾from真庭蜜蜂
・忍法爪合わせfrom真庭蟷螂
・吸血鬼の『再生力』fromキスショットの心臓

 完全取得済み

・虚刀流全部(七花八裂(改)を除く)
・忍法足軽from真庭蝶々
・怪力from凍空一族
・交霊術from死霊山神衛隊
・清涼院剣法from清涼院護剣寺の僧兵
・忍法断罪円from真庭鳳凰
・銃の扱い方from真庭鳳凰
・空蝉from闇口憑依
・刀の扱い方from真庭蜜蜂
・経験from全員

 所得可能か不明

・忍法命結びfrom真庭鳳凰
・忍法記録辿りfrom真庭鳳凰
・魔法の仕組みfrom繋場いたち


これで全部でしょうか?
これは取ってるはず!とか、これは取ってないんじゃないか?
と言うのがありましたらを言って下さい。
378創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 22:11:40 ID:uV1aTuGr
>>377
今度こそ投下乙です
あと少し我慢しなかったばかりにぶった切ってしまって申し訳ない
379創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 22:26:20 ID:p00K61xF
投下乙ー
何だこの最凶www
毒刀真心といい化け物の多いロワだw
380創る名無しに見る名無し:2009/05/12(火) 22:48:17 ID:lRBFqKl1
投下乙です!
女3人……なんか怖いw
ただ、やっぱりある程度の制限は加わってた方がいいと思いますよー。
そこは後の書き手さん達に委ねられるわけですけども。
381創る名無しに見る名無し:2009/05/13(水) 01:47:18 ID:IJxUy3Wb
投 下 乙 で す!
ついに鬼女二人がktkr!その上あの天才まで組むとは・・・し、七花ガンバレ!
個人的には否定姫の装備?もgj!です。絵が見たい・・・!

あ、これで参加枠全部埋まったかな?
382創る名無しに見る名無し:2009/05/13(水) 01:58:02 ID:nCXJWBR6
埋まったね


○……生存 ●……死亡

【戯言シリーズ】16/16
○戯言遣い/〇玖渚友/○哀川潤/〇兎吊木垓輔/〇想影真心/〇奇野頼知/〇萩原子荻/〇石凪萌太
〇西東天/〇時宮時刻/〇西条玉藻/〇紫木一姫/〇匂宮出夢/〇誰でもない彼女/〇千賀てる子/○闇口濡衣

【零崎一賊シリーズ】5/6
○零崎人識/〇無桐伊織/〇零崎曲識/〇零崎双識/○式岸軋騎/●闇口憑衣

【世界シリーズ】4/6
○病院坂黒猫/〇病院坂迷路/●傍系の病院坂迷路/〇串中弔士/●櫃内夜月/○櫃内様刻

【新本格魔法少女りすか】3/3
○水倉りすか/〇供犠創貴/〇ツナギ

【物語シリーズ】6/6
○阿良々木暦/〇戦場ヶ原ひたぎ/〇八九寺真宵/○神原駿河/〇千石撫子/〇羽川翼

【刀語】6/6
○鑢七花/〇とがめ/〇真庭鳳凰/〇真庭人鳥/○鑢七実/○左右田右衛門左衛門

【真庭語】1/1
○真庭狂犬


45名全員決定、残り42名!
383創る名無しに見る名無し:2009/05/13(水) 08:32:15 ID:76p7ZoR9
読んだ時にも気になったけど>>382見て確認した
>>382の刀語に否定姫が入ってないってことは46人になってない?
384創る名無しに見る名無し:2009/05/13(水) 15:20:52 ID:mjk3xLMy
参加しようとスレを開いた途端埋まるとは…
385 ◆iTZECfXJ4g :2009/05/13(水) 23:28:35 ID:5nrH1s0p
テステス。
りすかとくろね子さん投下します。
最初に余計なのが出てきますが、参加者ではないので気にしないでください。
386血の枷(智の加勢) ◆iTZECfXJ4g :2009/05/13(水) 23:29:46 ID:5nrH1s0p
 その三十二階建てのマンションは通常ならば、京都一の高級住宅街である城咲に要塞の如く聳え立ち、その中に幾人もの高所得者やその縁者を守っている。
 しかし、今、その屋上から見渡せる街並みは、京都のものではない。
 ――どちらにしろ、その点での異常は、少女には分からなかっただろう。
 その赤い少女には、分からなかっただろう。
 理由は二つ。
 一つは、彼女は京都に来たことがないということ。
 そしてもう一つの理由は――京都の風景を知っていたとしても、彼女は今、酷く動揺しているということ。
 ぺたりと座りこんだ少女の名は、水倉りすか。
 六六五の称号を持つ魔法使いにしてこのバトルロワイヤルの主催者、水倉神檎の娘。その属性は『水』、種類は『時間』、顕現は『操作』。『赤き時の魔女』の称号を持つ、運命干渉系の魔法使い。
 『魔法狩り』を行う、魔法使い。
 けれど彼女は呆然として、暗い中に目を落としていた。

 どうして父親は自分をここに連れてきた? これも方舟計画の一部なのか?
 どうして父親は殺し合いなどさせる? これでは父親は悪しき魔法使いじゃないか?
 どうして父親は自分など目にも入っていないかのように、歯牙にもかけていないかのようにする?
 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうしてどうしてどうしてどうしてどうして――――
 何が起きているのか?
 何故こんなことになっているのか?
 何時まで続けるつもりなのか?
 誰が巻きこまれているのか?
 何? 何故? 何処? 何時? 何? 何が何が何が何が何が何が何が何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何――――

「――こういうときに」

 りすかは、ようやく前を見る。

「落ち付けというのが――キズタカなの」

 息を吸って、吐く。
 精神が落ち付いていなければ、できることもできなくなる。魔法使いであるりすかは、それを身に染みて知っていた。
 思考を整える。
 熱くなった頭が、緩やかに冷えていく。
「……オーケー、少しは落ち付いたのがわたしなの」
 りすかは立ち上がる。視界が上昇する。
 するとそこに――子供の姿が映った。
387血の枷(智の加勢) ◆iTZECfXJ4g :2009/05/13(水) 23:32:49 ID:5nrH1s0p

「初めまして――じゃ、ないですね」

 手すりの上に、この高い建物の手すりの上に、内向きに足を下ろし腰掛けている。
 少年にも少女にも見える、おかっぱ頭の子供。
 風に煽られて、セーラーのカラーが踊る。
 彼はりすかに向けて少し首を傾げ、はにかんだように笑った。

「こんにちは、りすかさん。僕が水倉鍵です」

 落ち付いたはずのりすかの精神が、再び波立つ。
 水倉鍵。
 『六人の魔法使い』の、六番目。
 一度だけすれ違い、その一瞬でりすかの魔法式を壊しかけた『魔法封じ』
 息を飲んだりすかの前で、水倉鍵は軽く両足を揺らす。
「遅いですよ、りすかさん。もしも僕が殺人者だったら、今ごろりすかさんは死んじゃってますよ」
「……水倉、鍵?」
「そうですよ、水倉鍵です。何かご質問がありますか?」
「どう、して、こんなところに」
「どうしてでしょうねえ、どうでもいいじゃないですか、そんなこと」
「……お父さんは、何をしようとしてるの」
 押し殺した声で尋ねたりすかに、水倉鍵は笑ってみせる。まるで普通の子供のように、無邪気な笑みを浮かべてみせる。
「やだなあ、目指す所はもう知っているでしょう? 知ってるんでしょう? ああ、このゲームのことですか、これの目的を聞いているんですね。分かりました、それではお答えできませんとお答えしておきましょう」
「……っ」
「怒らないでくださいよ、りすかさん。ただ、それじゃあ、りすかさんにとって重要だと思われることだけ、ちょっとだけお話しましょうか――といっても、そんなに長い話じゃないんですけどね。
 要するに、ですね。

 この殺し合いに勝てば、神檎さんに会える。

 ……そういうわけですよ、単純でしょう? 明快でしょう? りすかさんに与えられた、ちょっとしたチャンスです。ずっとずっとずっと捜し求めていたお父さんに会う、チャンスです。りすかさんにとっては、これはそういうものだと思っていただいていいんですよ。
 参加者を全員殺せば、りすかさんは」
「……お前!」
「怒らないでくださいって、言ってるじゃないですか。一応、僕は主催者側の人間――文字通りの意味で人間ですから、首輪をはめたりすかさんにとっては、不都合なことも起こりうるんですよ。僕がここにいる以上、例の魔方陣も発動しないでしょうし。
 ……ひょっとしたら、僕にはそれを爆発させる力なんてないかもしれませんけど。ねえ、どう思いますか? どっちだと思います?」
 りすかは――動けなかった。
 両手を握り締めて、年下に見える少年を睨みつけて、それでも。動くことが、できなかった。
 それを見て何を思ったのか、水倉鍵は「えへへ」と笑う。
 小さな身体が、手すりから飛び降りる。りすかの前に、着地する。
「供犠さんから聞いてますか? 僕はゲームが好きなんですけど……ゲーム盤の駒を動かすのは好きでも、ゲーム盤の上に乗るのは嫌いなんですよね。そういうわけですから、これで失礼します」
 水倉鍵が、歩き出す。
 りすかの横を、通りすぎる。
 悠々と――すれ違って行く。
「頑張ってくださいね、りすかさん」
 奇妙なくらいに明るい声が、残る。
 りすかの背後で、ドアの閉まる音が響いた。
388血の枷(智の加勢) ◆iTZECfXJ4g :2009/05/13(水) 23:35:39 ID:5nrH1s0p

「……気にしちゃいけないのが、言葉なの」
 唇を噛み締めながら、俯きそうになった顔を上げて、りすかは自分の身体を確かめる。
 いつも通りの赤い髪。
 いつも通りの赤い服。
 いつも通りの赤いニーハイソックス。
 いつも通りの銀の手錠。
 いつも通りの赤い帽子。
 ただ一つ欠けているのは――カッターナイフ。
 ホルスターごと、カッターナイフが消えている。
「困ったの……あれがなくちゃ軽減されないのが痛みなんだけど、そもそも分からないのが魔法を使えるかどうかなのね」
 ぺたぺたと、りすかは自分の体に触れる。
 原則として、水倉りすかは生きている限り魔法を使うことができるはずだ。その体を流れる血に、父親の手で刻まれた魔法式のために。
 存在自体が魔法。
 魔法があってこその存在。
 だが、そもそもりすかを創作した水倉神檎ならば、『ニャルラトテップ』水倉神檎ならば、りすかの魔法式に手を加えるくらい、あるいは容易いのかもしれない。

 ――君達の力は僕達の方で、ある程度制限させてもらったよ。

 りすかにとって忌々しいことこの上ない影谷蛇之の台詞が、蘇る。
 僕達の方で、とは言っているが、影谷にできるのは『固定』のみのはず。
 ならば、やはり水倉神檎がそこに関わっているのだろう。
「嫌なのは試してみて魔力を消費しちゃうことだし……かといって、大事な場面で初めて使えないって分かるのも……はあ。折角お父さんに近いところまで来たのに、こんなのってないの」
 ジレンマだった。
 そして、気がつく。
 当然ながら、思い出す。
 りすかの『座標』、半分以上が彼女の身体である供犠創貴の存在。
 どこにいるかは分からないが、そこにいるのは分かる。
 そこにいるのは分かるから――飛べるか?
 『省略』できるか?
 りすかは目の前に転がっていたデイパックを開く。
「できるかどうかじゃないの」
 ざっと中を見て、使えそうな物を探す。
 ――やがてりすかの手は、サバイバルナイフを掴んだ。
「やるかどうか、なの」 
 サバイバルナイフの先が、指を僅かに切り裂く。
 流れ出した赤い血を見つめて、りすかは思い描く。
 創貴と話し合う。創貴と考える。創貴の指示を聞く。創貴と一緒に戦う。それが、いつも通り。
 一人で効率の悪い「魔法狩り」をしていた頃からは、もう随分と時間が経っていた。離れて別々の戦いをするということは、既に今のりすかには考えられなかった。

「えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるひ えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるく」

 万全を期して、呪文をも唱える。
 魔法を使おうとしてみて、分かる。
 明らかに、りすかの魔力は弱まっている。

「えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるひ えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるく
 えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるひ えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるく――」


 ぐらりと、世界が揺れる。
389血の枷(智の加勢) ◆iTZECfXJ4g :2009/05/13(水) 23:37:42 ID:5nrH1s0p
「……あ」
 瞬間、りすかは失望する。
 時間を飛んだ。それは確かだ。
 にも関わらず、『そこにいる』という感覚には、まだ全くと言っていいほど近づいていなかった。
 りすかが立っているのは何かの建物の中、階段の踊り場のようだ。状況からして、おそらくは先ほどの屋上から、ここまで降りてきたのだろう。
 その程度の力しかないのか、精神を練りきれていなかったのか。
 少なくとも、これが今のりすかの限界だ。
 七日はおろか、創貴のいる場所へ辿り付くまでの時間を『省略』することすらできない。
 悄然と頭を垂れたりすかの視界に――

 水玉模様のデスサイズを携えた少女の姿が映った。

「……え?」
 思わず呆けた声を漏らし、次いで最初に他者の存在を確認しなかったことを悔やむりすかに対して、そのやや背の低い黒髪の少女は、少し笑って見せた。
 少し笑って、口を開いた。

「やれやれ。全く、驚いたよ。僕はそろそろ、常識で物事を判断するのを止めたほうがいいのではないかと思い始めたところでね。
 僕はほんの少し目を向こうに向けて、それから何となく階段の上を見上げた。そしたら女の子がそこにいた、と。これは誰だって驚くだろうさ。何かトリックがあるというのは当然誰しも考えるだろうが、ここで僕を驚かせたって何にもならない。
 だいたい、当人がびっくりしたような顔をしているんだから、もしトリックだとしたら笑い事だ。それじゃあ、どうしてだ? ここで僕は、分からなくなりそうで、常識を捨てたくなる。その気持ちも分かって欲しいね。
 でも、常識で物事を判断するのを止めたら、それじゃあ僕は一体何で物事を計ればいいのだい? 大体、誰かに何かを説くときだとか、常識って言うのは意外と使い道の多いやつでね。なくなった穴を埋める代わりのものっていうのは、なかなか見つけるのが難しそうだ。
 もっともこんなこと、きみに聞いたって分かるはずもない、失礼したね。あっと、別にきみを馬鹿にしているわけじゃないぜ。これは勿論だ、初対面の人間を馬鹿にするなんてこと、いくら僕でもやったりはしない。
 うん? 初対面とは言ったが……ひょっとするときみ、あの変態じみた男に食ってかかっていた子じゃないかな? 違っていたら失礼、でも僕はこれでも、記憶力だとか、そういう所には自信があってね。
 ……おーい、聞いているかい? 聞いているなら返事くらいはしてくれたまえよ、いくらびっくりしたと言ったって、よりびっくりしたはずの僕の方は、もうすっかり回復したんだから」
「……聞いてるの」
 ようやく、りすかは言葉を口にする。
「聞いてるんだけど……処理が追いつかないのが、あなたの言葉なの」
「おや、ごめんよ」
 悪びれた様子もなく、少女は肩をすくめた。
 指につけた傷から血が流れなくなりつつあるのを確かめながら、りすかは静かに息をつく。
「とりあえず……ええと。確かに、影谷に怒ったのはわたしなの」
「ああ、やっぱりそうだね。その声にも聞き覚えがある。そうか、つまりきみが『りすかちゃん』で間違いないわけだ。そうすると僕の方も名乗るくらいはしておくべきかな? 僕の方だけ一方的に名前を知っているというのは、ちょっと礼を欠くかもしれないしね。
 それじゃあ名乗っておこう、僕は病院坂黒猫。病院はそのまま病院、坂道の坂、黒い猫で黒猫だ。変わった名前だとはよく言われるよ」
「病院坂、さん。水倉りすかっていうのが、わたしの名前なの」
「りすかちゃんと呼んでも構わないのかな? ちなみに僕のことは、気軽にくろね子さんと呼んでくれても大丈夫だ」
「……なんでもいいの」
 至極微妙な表情で、りすかは頷く。
 病院坂黒猫、りすかにとっては割とついて行き辛い性格だった。
390血の枷(智の加勢) ◆iTZECfXJ4g :2009/05/13(水) 23:40:24 ID:5nrH1s0p
「時に」
 何でもなさそうな口調で、病院坂は会話を継続する。
「できれば、りすかちゃん、こっちに降りてきてもらっても構わないかい? 僕はこの通り、結構チビでね、見上げ続けるのは結構疲れるんだ。
 僕がそっちに行くっていうのは、できれば止めておきたくってね……というのも、自慢じゃないが僕は、階段を上るのに大量のエネルギーと勇気が必要なんだよ。ひどく不経済なことにね」
 本当に自慢にならなかった。
 堂々と言うようなことではなかった。
 どういう表情を浮かべていいか分からないりすかに、病院坂はさらに言葉を重ねる。
「ひょっとしてこれを、この水玉模様の鎌を警戒しているのかい? だとしたら安心してくれたまえ、僕にはこれを振るってきみを傷つけるような力はないよ」
 その言葉に、否が応でも水倉鍵の台詞を思い出す。

 ――参加者を全員殺せば――

 眼下の少女、病院坂は、本人の申告通りならばひどく体力がないらしい。
 りすかの動揺を知ってか知らずか、病院坂は肩をすくめる。 
「そうだね、どっちかっていうときみが僕を殺すかもって方がまだ有り得る」
「――そんなことはしないの」
 不意に、りすかは声を上げた。
 凛と、きっぱりと、病院坂の言葉を否定する。

「わたしはそんな――軽蔑すべき駄人間じゃない。殺し合いなんて冗談じゃないの。
 差し出された機会なんて受け取るものか。
 気に入らない機会なら、わたしが全部壊してみせる。
 目的なら、わたしはわたしのやりたい方法で掴み取るの」

 創貴がどう言うかは、まだ分からない。
 けれどこれが、今のりすかの本心。
 彼女の、導き出した答え。
 どの程度りすかの心情を理解したのか、病院坂はシニカルに笑い、頷いた。
「それなら、懸案事項は何もない。良かったら色々と話を聞かせてくれたまえ。分からなくて気持ち悪いことが、沢山あるのでね」
391血の枷(智の加勢) ◆iTZECfXJ4g :2009/05/13(水) 23:43:11 ID:5nrH1s0p
 マンションの正面玄関を窺える辺りに場所を移し、りすかと病院坂は向かい合って座っていた。
 りすかはサバイバルナイフを持ったままだが、病院坂は大いに持て余していたデスサイズを仕舞っていた。
 どうやって収納したかは、神のみぞ知る。あれが水倉神檎の策だとしたら、それこそ皮肉なことこの上ないが。
「魔法……なんて聞くと、まるで夢の世界だね。そのくせ、結構共通しているような部分もあるようだから、そう、言ってみればパラレルワールドかな。僕から見ればの話だがね」
「……まさか思わなかったのが、魔法を知らない人がいることなの。本当にごちゃごちゃでぐちゃぐちゃなの。この地図も、そう」
 一つの島の中に、砂漠から山まで。自然環境だけでなく建物も、無秩序にあちこちに配置されている。それらをざっと眺めて、りすかは溜め息をついた。
「僕達がいるのは……ここのようだね。あえてマンションと書いてあるからには、ひょっとすると特別な場所なのかな。まあ、こんな状態で特別も何もないね。どうだい、りすかちゃんの知っている場所というのはあるかい?」
「う……ん」
 りすかは躊躇いがちに、その一点を指し示した。
 E−7。
 市街地に位置する、コーヒーショップ。
「多分だけど……確証はないんだけど、わたしの家なの。それで、多分、わたしと合流しようとする人が行くのが、ここだと思うの」
「なるほど。で、どうするんだい?」
「行くの」
 今度は、すぐさま答える。
「キズタカと会わなくちゃいけないの。それに、ひょっとしたらツナギさん……わたし以外の魔法使いも、ここにいるかもしれないの。可能性があるなら、行ってみなくちゃ」
「そうかい、それじゃあここでさようならということになるのかな」
 あっさりと言った病院坂を見て、りすかはきょとんと瞬く。
 一緒に行動しようと、積極的に思っていたわけではない。
 しかし、その言葉があまりにもさらりと放たれたために、虚を衝かれたような顔をした。病院坂がそれを見て、仕方なさそうに笑う。
「僕もここにいたくてしょうがないわけじゃないが、特に行く当てもないし、きみと違って明確な探し人もいないことだしね」
「で、でも」
 口篭もって、りすかは言葉を探す。
 何故、そこに迷いが生まれるのか。あっさりと発てないのか。
 答えはやがて、見つかる。
「なんだかそれじゃあ……悪いのがわたしの気分なの。なんだか、見捨てていくみたい」
「僕を連れていくのかい? 別に構わないが、先に言っておくと僕は相当の足手まといだぜ。少なくとも、殺し合いとやらに関してはね。よほどの奇跡か、全てのバランスを破壊するアイテムでもない限り、僕はどこかで死ぬだろうさ」
「だったら、余計なの。一番気分が悪いのが、ここで別れて後で死の報せを聞くことなの」
「どうかな? 例えばきみが、その『魔法』とやらで僕を守ろうとしたとして、守りきれなかったらきみにとってはかなりショックだろう」
「殺させないの」
 りすかは真っ直ぐに、病院坂を見る。
 真剣な赤い目と、シニカルな笑みを含んだ黒い目が、正面からぶつかる。
 サバイバルナイフを握るりすかの手に、力が篭った。
「わたしは、できれば、誰にも死んで欲しくないの。単なる理想に過ぎなくても、理想を追わなくなったら、諦めたら、ただのできそこないなのがわたしなの」
 水倉りすかは、諦めない。
 たとえ相手が父親で、神にして悪魔『ニャルラトテップ』だったとしても。
 たとえ怪物のごとき人間が、大量に参加しているのだとしても。
 たとえ自分の魔力が、何らかの方法で弱められているとしても。
 りすかは、自分に諦めることを許さない。
 二人の間に沈黙が挟まれる。
 どこか余裕のありそうな病院坂の目が、やがて細まった。
「……分かったよ、りすかちゃん。そうも熱烈に口説かれちゃしょうがない……勿論これは冗談だけど、それじゃあしばらくは一緒に歩かせて貰うことにしよう。僕が誇れるのはこの頭くらいだが、多少は何かの役には立つだろうさ。探偵編の、始まりというわけだ」
「……?」
「こっちの話だよ」
「……よろしくお願いするの、黒猫さん」

 差し伸べた手は、確かに握られた。
392血の枷(智の加勢) ◆iTZECfXJ4g :2009/05/13(水) 23:45:42 ID:5nrH1s0p
【1日目 深夜 G−5 玖渚友が住むマンション】

【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】
[状態]健康、魔力若干消費
[装備] サバイバルナイフ
[道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)
[思考]
 基本 創貴と合流し、できればお父さんを止める
 1 創貴と会うためにコーヒーショップに向かう
 2 創貴に会えたら、基本的にその指示に従う
 3 黒猫さんと行動、できるだけ魔力は温存したい
 4 殺し合いは嫌

*多少魔法を制限されているようです。詳細は後の書き手さんにお任せします。

【病院坂黒猫@世界シリーズ】
[状態]健康
[装備] なし
[道具]支給品一式、水玉模様のデスサイズ@零崎一賊シリーズ、ランダム支給品(1〜2)
[思考]
 基本 分からないことは分かりたい
 1 りすかちゃんと一緒に行動、色々調べてみる
 2 考えて分からなければ……どうしようか
 3 そういえば、様刻君はどうしてるかな?
 4 死ぬならそれはそれで仕方ないね

*魔法等についてりすかから聞きました。
393 ◆iTZECfXJ4g :2009/05/13(水) 23:48:10 ID:5nrH1s0p
以上で投下終了です。
黒猫さんはやはり難関でした、色々間違っていたら申し訳ないです。
二重タイトルなのは、最初黒猫さんではなく崩子ちゃんを予定していた名残です(登場前に没)
訂正すべき場所などありましたら、お願いします。
394創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 00:39:17 ID:xae8IXf8
投下乙です!
りすか・くろね子さんコンビ、先が楽しみですね。
接点のないキャラの組み合わせが見られるのがこのスレのいいところだな。
>>383については確かに一人オーバーしてるけど、もう出てきてるキャラをいなかったことにも出来ないし・・・
書き手さんに負担をかけるけど、誰かが実は主催者サイドのサクラとか、やっぱり水倉神檎がりすかは特別扱いとかの伏線ということにするか、参加者数45人という設定を変更するかでは?
作中ではまだ誰も名簿は見てないし、オープニングでは参加者数には触れてないから46人にしても参加者達には支障は出ないかな、と。
>>1さんに45人でないといけない理由があったらごめんなさい。
395創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 01:22:48 ID:Fdbm5lJ+
投下乙!
くろね子さんもりすかも、実にらしい
二人とも好きなキャラだから、がんばってほしいぜー
しかしここ数日投下多いね
396創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 01:26:03 ID:Fdbm5lJ+
否定姫を加えて、丁度45人じゃないか?


○……生存 ●……死亡

【戯言シリーズ】16/16
○戯言遣い/〇玖渚友/○哀川潤/〇兎吊木垓輔/〇想影真心/〇奇野頼知/〇萩原子荻/〇石凪萌太
〇西東天/〇時宮時刻/〇西条玉藻/〇紫木一姫/〇匂宮出夢/〇誰でもない彼女/〇千賀てる子/○闇口濡衣

【零崎一賊シリーズ】5/6
○零崎人識/〇無桐伊織/〇零崎曲識/〇零崎双識/○式岸軋騎/●闇口憑衣

【世界シリーズ】4/6
○病院坂黒猫/〇病院坂迷路/●傍系の病院坂迷路/〇串中弔士/●櫃内夜月/○櫃内様刻

【新本格魔法少女りすか】3/3
○水倉りすか/〇供犠創貴/〇ツナギ

【物語シリーズ】6/6
○阿良々木暦/〇戦場ヶ原ひたぎ/〇八九寺真宵/○神原駿河/〇千石撫子/〇羽川翼

【刀語】7/7
○鑢七花/〇とがめ/〇真庭鳳凰/〇真庭人鳥/○鑢七実/○左右田右衛門左衛門/○否定姫

【真庭語】1/1
○真庭狂犬
397394:2009/05/14(木) 02:21:50 ID:xae8IXf8
ほんとだ、45人だ!
足し算間違えた・・・orz
>>394で参加者数について書いたことは無視して下さい・・・
書き手さん達を混乱させるようなこと書いて申し訳ないです
>>396の方、ありがとう
398創る名無しに見る名無し:2009/05/14(木) 13:24:02 ID:6Xm0oDAB
崩子ちゃんがいないぃぃぃー(´・ω・`)

残念無念うらめしや
399創る名無しに見る名無し:2009/05/16(土) 12:00:25 ID:32AW1XUX
乙です!!
400創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 14:09:46 ID:+YB3AQKh
保守
401創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 20:25:35 ID:jqyKmqDV
やべ、書きたくなってきた
キャラ追加は無理だし…他の書き手さんの続きを勝手に書く訳にはいかないし
読み手に回るかなぁ…
402創る名無しに見る名無し:2009/05/21(木) 21:58:21 ID:kpb6YkaB
書いちゃいなよ
403◇rOyShl5gtc 代理投下:2009/05/22(金) 13:49:19 ID:cY6Q/PMk
業務連絡ー。
018話時点での各キャラの配置図を作ってみました。作品作りの手助けになれば嬉しいな、と思うの事ですよ?
七花や狂犬が登場したら、コンプリートVer.も作りますねー。

ttp://u1.getuploader.com/nisioBR/download/3/nisiorowa_MAP018.jpg

表記についてなのですが、出夢&撫子ペアは様刻が三途神社に着いた時にはいなかった、という事でSSの表記と異なり、三途神社の外にいる事にしています。
また、正確な位置設定が明記されていないキャラにつきましては、指定されているエリア内で割と独断と偏見に配置しています。そうしたキャラ(基本的に施設内・施設の側に居ないキャラ)の位置はエリア以外は確定した設定ではないので、余り気にしないで下さい。
404創る名無しに見る名無し:2009/05/22(金) 21:50:53 ID:vEW1nyes
>>403
GJ!
405創る名無しに見る名無し:2009/05/23(土) 02:07:36 ID:eFeDf0Kh
>>405
なんという詳細な地図
GJすぎるぜ
406 ◆kCGp90my/U :2009/05/26(火) 17:02:12 ID:k8l0qER8
西条玉藻・零崎双識・想影真心を書こうと思います。
書いている人が居ましたら言って下さい。
407創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 18:47:30 ID:NPig4X1r
一応今七花の話書いててその中に想影真心も絡ませよう
と思ってる者ですが、
まだ、時間もかかりそうなんで、そっちが書けたら先に投下しちゃって
ください
408創る名無しに見る名無し:2009/05/26(火) 20:51:06 ID:Y9mlWGR8
一行読むのもだるいな
409創る名無しに見る名無し:2009/05/27(水) 00:12:41 ID:GPvILFFd
おっと、そろそろ次スレのことを考えたほうが良さげ?
410 ◆kCGp90my/U :2009/05/27(水) 13:34:44 ID:82/uC8EQ
>>407

はい、分かりました。
一応言いますと、真心は走ってる感じですので場所は移動します。
411創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 01:07:18 ID:/1Ghejtj
>>410
>>407です。
どうも今日の昼頃に投下できそうなんですが、
もし先に投下してあなたが考えてるものと喰い違ったらごめんなさい。
412 ◆kCGp90my/U :2009/05/29(金) 13:01:27 ID:rQFqIqVE
大丈夫ですんでお願いします。
こちらもそれを見て若干変える感じに行きますんでどうぞ。
413創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 16:10:34 ID:/1Ghejtj
ありがとうございます。
遅くなりましたが、完成したんで投下します。 
414虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 16:16:57 ID:/1Ghejtj
清涼院護剣寺、刀大仏が祭られる剣士達の聖地、そして無刀の姉弟達による決闘が果たされた地。
「はあ、なんでこんなとこに来ちまうのかね」
巨大な大仏を見上げながら、これまた大きな男、鑢七花は似合わぬため息を吐いた。
「まあ、元からどこに向かってるのかなんか全然わかってなかったけどさあ」
誰もいないながらも呟き続ける姿は不気味であるが、これは仕方の無いことだろう。
なんせ、さっきのさっきまで否定姫と話しながら歩いていたと思ったら、わけのわからない
場所へと放り込まれ、何かの説明がされたと思ったらここに一人放り出されてしまったのだから。
「誰もいないのかよ」
要するに七花は寂しいのである。いつでも道中には連れがいたのが今では一人。
どれだけ言葉を発しても返事してくれる相手が全くいない状況にまだ慣れてないのだ。
決して七花が悲しい性格だからではない。
「それじゃ、別の場所探してみるか」
別に誰も聞いてないのに、やっぱり寂しい七花は声に出して言う。
だが、別に七花は話し相手を探しているわけではない。確固たる目的があった。
(あの場所に確かにとがめが…いた)
自分が惚れ、そして守りきることが出来なかった女。自分の腕の中で死んでいった彼女が
確かにいた。

そんなはずがない。

とここに来る途中に何度も思った。
とがめはあの時に死んだ。
あの冷たくなった肌、消えていくぬくもり、死体から脱がせそして今自分が羽織っている形見の豪奢な着物。
全てが記憶に残っている。

けれど、確かにとがめはあそこにいた。

あの時のままの姿で
あの時のままの格好で

(あれは、間違いなくとがめだった)
死んだはずのとがめがなぜいたのか、考えれば考えるほどわからなくなっていった。
そもそも考えることは自分に向いていない。
それでも考えて、考えて、考えて、一つの結論に至った。
「会って、確かめるしかないよな」
単純ではあるが、一番確実な方法である。
考えぬかなきゃいけないようなことか?とかは思ってはいけない。
これでも七花もがんばったのである。
「けど、今俺どのへんにいるんだ?」
とがめを探すと言う目的に行き着いたが、重大な欠点が出てしまった。
自分の現在地がわからないのである。
「さっき捨てたあの紙切れってやっぱ地図だったのか?」
と七花は気づいた時に持っていた紙と何かが入った袋のようなもののことを思い出した。

袋に関しては、開け方がわからないので全部置いてきたし、紙にしても読めない字がいくつも
あるので捨ててしまった。

「全く、そうならそうと配る前にさっさと言えよ」
ちゃんと水倉林檎から説明があったのだが、あの時七花はとがめに気を取られ聞き逃しただけなのだが、
それには気づかない。ついでにまにわにの首が吹っ飛ぶのも気づいてなかった。

まにわに哀れなり。
415虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 16:19:25 ID:/1Ghejtj
「ま、いっか、あの部屋にいた他の連中でも見つけてみるかな」
さらに信じがたいことだが、七花はこのゲームの説明にしてもあんまりよくわかってなかった。
とりあえず、うっとうしい首輪がつけられ色んな所に飛ばされた程度にしかわかってない。
とがめや否定姫がいないと駄目駄目な七花であった。

「それにしてもここにいると色んなこと思い出すよな」

この場所でのことも鮮明に覚えている。
血を分けた姉との戦い。
異端なる才能、そして最悪たる刀を携えた。紛れも無い最強の敵、勝てたことが今でも信じられない。
いや、正確には勝ったとはいえない。
とがめの奇策、そして虚刀流であるがゆえの宿命、刀の呪縛があればこそ、手に出来た勝利。
そこまでしなければ勝つことが叶わなかった許されざる天才。
「姉ちゃん…か」
七花が見つけたのは何もとがめだけではなかった。

あの天才もまたあの場所にいた。

あの時と同じ全てを見透かすような眼をして、

ちなみにまにわにに関しては誰一人として発見していない。
やはり哀れなり。
「やっぱり、俺のこと恨んでんだろうな」
とがめは七実は殺されたかったのだと言ってくれた。
けれど七花は納得できなかった。
なにせ姉が自分の腕の中で恨み言を言いながら死んでいくのを目の前で見てしまったのだから。

もしも、もしも姉とも出遭ってしまい、今度は憎悪を込めて襲ってきたら勝てるだろうか。
「勝てないだろうな…」
実力にしても当然ながら、姉が自分を殺したいと思っていたら殺されてもいいと考えてしまう。
こんな気持ちで勝てるわけがない。だが、負けてしまえばとがめを捜せなくなる。
「ええい、考えても仕方無いか!」
と七花は頭を振って考えを払いのける。
もしもの考えをめぐらせても答えなど出せるはずがない。そういうことには自分は向いていない。
「そろそろ行くか」
ここから早く出ないとまた考えてしまう。
そう判断した七花は最後にもう一度刀大仏をよく見ておこうと顔を上げ、眼に入ったのは


刀大仏の腹から突き出る漆黒の刀身だった。

「な…」
何が起きているのか理解出来ないうちに刀身を中心に亀裂が走り、大仏の腹がはじけ飛ぶ。

そして、
あたかも神の腹を喰い破る悪魔のように、


“それ”が姿を現した。
416虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 16:30:26 ID:/1Ghejtj
赤い、いや赤というには明るすぎる橙色の髪と同じ色の眼をした小柄な少女だった。
小柄な体に似合わぬ大振りの黒い刀を持ち、狂気に染まった眼で七花を睥睨する。
視るのでも診るのでも観るのでも看るのでもなく、ただじっと見つめる。

七花にはわからない。
この少女の名が想影真心ということも、
この少女が人類最終と呼ばれる存在であることも、

ただ解るのは

少女の持つ刀が『毒刀・鍍』であること、

そして

圧倒的な殺気。

「なんだよ…」
体が震える。
「なんなんだよ…」
足が、竦む。
「こんなの、こんなの」
この感触、過去に味わったことが、ある。この感覚は、
「あの時の姉ちゃんと同じじゃねえか…」
あの時に見せられた、姉自身ですら抑えられなかった姉の本気、その時と同じ殺意を
その少女は放っている。

「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」
七花の心境をよそに真心は笑う、笑う、笑う。
心底おかしいように、心底嬉しいように、心底狂ったように。

そして目の前の獲物を見つめ、

次の瞬間に七花の目の前で刀を振り上げていた。
「な!?…くそ」
震える体を無理やり動かし、紙一重で刀の切っ先をかわし。後ろとびで距離を取り
(なんて…速さだ!!)
そして、さっきまで真心がいた場所を見上げ、

信じられないような光景を目にした。

大仏の腹に空いた穴から後ろの壁ではなく外が見えていた。
そのことから示される事実は一つ。

「外からここまでぶち抜いてきたってのか…」
あまりの常識破りの行動に言葉を失う七花に構わず、再び真心が切っ先をこちらに向け
飛び掛ってくる。
「っこの!舐めんな!!」
突き出される切っ先を最小限の動きでかわし、構え、
「虚刀流『薔薇』!!」
迎え撃つように、蹴りを放つ。
突っ込んだ勢いを抑えきれず蹴りをまともに喰らった真心の小さな体は後方に吹っ飛び
そのまま床に叩きつけられ、
何事も無かったのように立ち上がった。
417虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 16:34:12 ID:/1Ghejtj
「嘘だろ!?」
今の一撃は完全に決まっていた。相手の速度を上乗せして叩き込んだ蹴りは相当の威力だったはずなのに、
「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」
真心は笑いを止めることなく再び突っ込んでくる。
「く…『杜若』!!」
七花もまた前に飛び出す。
だが、速さの差は歴然、真心が先に間合いを詰め刀を大上段から振り下ろす、
より先に七花が一気に加速して横に回り込む。
相手から見れば七花が突然消えたかのように見えるだろう。
この極端な加速の切り替えこそ、虚刀流の歩法『杜若』!
目測を誤って空振りし、隙が出来ている真心の横にそのままの速度で一気に突っ込み、身構え
「虚刀流奥義」
放とうとした瞬間、
真心の眼がぎょろりとこちらを向いた。
「なっ!」
本能的に七花は減速し後方に跳ぶ、
と同時に胸部を凄まじい衝撃が襲い、
胸を蹴られたと気づいたのは床に叩きつけられてからだった。
「なんてこった…」
今度こそ七花は驚愕する。
変幻自在の『杜若』がこんな早くに見切られた。

からでは無く

「今の攻撃、さっきの俺の『薔薇』じゃねえか…」
そう、真心の放った蹴りは紛れも無く自分自身が放った『薔薇』だった。
しかも
「なんつう威力だ…」
喰らう直前に後ろに跳んで威力を殺したはずなのにあばらが軋んでいる。
その痛みに気を取られる間も無く、
追撃してきた真心が再び刀を振りかぶる。
咄嗟に身構えた七花の前で、
真心が突然消えた。
(やばいっ!!)
考えるより先に体が動き、真横から振られた斬撃をかろうじてかわす。
が、
真心は刀を振り払った勢いをそのままに一気に加速し、再び『薔薇』で七花を蹴り飛ばす。
「ぐお!!」
今度は後ろに跳ぶ暇も無かった。
418虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 16:36:30 ID:/1Ghejtj
猛烈な衝撃が七花を襲い、まるで紙くずのようにその大きな体が大きく弾き飛ばされ、
壁に叩き付けられる。
(今の動きは『杜若』、間違いない…こいつ、俺の技を…)
痛みが全身に走りわたるのと同時に絶望感もまた広がる。
(冗談じゃねえ…これじゃ、まるっきり姉ちゃんと一緒じゃねえか)
勝てるはずがない。
あの時の姉には刀の呪縛と、そしてとがめの奇策が、守る物があったからこそ勝てた。
だが今度の相手は刀の呪縛があるように見えない、
なによりとがめが、守るものがいない、
(逃げるか…)
少し前の自分ならこんなこと考えもしなかった。
逃げるくらいなら最期まで戦うことを選んだろう。
だが、この敵はそんな信念すら覆す。
そんなことを考えている七花に、真心は歪んだ笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。
(遊んでやがんのかよ、ちくしょう!)
その事実に憤りを感じても、どうすることもできない。
奥義を出そうにもその暇すら与えられない。
最速の『鏡花水月』 なら繰り出せるかもしれない。
だが、威力に劣る『鏡花水月』では致命傷は与えられない。
逆に吸収され、そっくりそのまま返されるのが関の山だ。
まさしく八方塞がり。打つ手が無い。
(ここで殺されたらとがめに会えない)
今回の戦いは逃げることが許されている。
だったら逃げればいい。
勝てもしない相手に喰らいつきゴミのように殺されることが自分の目的ではない。
そうだ、姉に会っても逃げればいい、逃げて逃げて逃げて、生き残れればそれでいい。
今の自分には目的がある。
信念より矜持より大事な目的が、
(一か八かで入り口まで走るか!)
ここから出てしまえば、逃げることは難しくない。
七花は『杜若』の体勢のため体を縮め、
自分の着ている着物がざっくり斬られているを目にした。
さっきの斬撃をかわしきれていなかったのだろう。
そこにうっすら血がにじみ着物に染み込んでいる。
その光景は、あの日と似ていた。

とがめが炎刀に貫かれたあの日と、

その斬り口を七花はじっと見つめ、そして、跳んだ。

生き残るための出口へ

ではなく、真心へ、眼前の敵へと!

そしてその勢いで手刀を叩き込む!!
419虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 16:38:21 ID:/1Ghejtj
(は、何が目的だ)
その一撃に揺るぎもせず、真心は反撃の拳を叩き込んでくる、が、避けない!
(何が生き残る、だ)
拳が腹にめり込み、鈍痛が走る。
それでも、
七花もまた揺るがず『薔薇』で真心を蹴り飛ばす。
(逃げて、逃げて、逃げて)
後ろに吹っ飛ぶ真心に合わせ、七花もまた前に出る。
休ませないために、反撃する暇も与えないために、そしてなによりも

勝つために!!

(それで一体どんな顔してとがめに会えるってんだ!!)
きっと、そうやってとがめに会っても、もうマトモに顔を合わせることも出来ないだろう。
折れた刀など、なんの役にも立たない。とがめに折れた刀など使わせられる訳が無い。
例え、どんな化け物でも、それが姉でも、刀は斬る相手は選ばない!!
刀が斬ることを放棄したとき、刀の役目は終わってしまう。
一度守りきれなかった女を今度こそ守るために、それだけは許されない!!


「うおおおおおおおおおおお!!」
雄たけびとともに、体勢を立て直せていない真心にあらゆる打撃を叩き込む。
「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら
 げらげらげらげらげらげらげらげらげら」
真心も受けた打撃とそっくり同じ打撃で反撃に転じる。
充分な体勢でなくても、繰り出される攻撃は速く、確実に七花を捕らえる。
一撃一撃が、重い、とてつもなく重い。
それらは七花の体に叩き込まれ、骨を軋ませる。
それでも、それでも七花は退かない。休むことなく攻撃を続ける。

これこそが虚刀流の本質!

虚刀流の技を余すことなく攻撃へと転化する!!
虚刀流の防御を捨てた戦い!
420虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 16:42:16 ID:/1Ghejtj
「はあっ!!」
その気迫に真心ですら圧され、わずかに、ほんのわずかに隙が出来る。
それはほんの一瞬、けれど、七花にとっては充分だった。
瞬時に加速し、真心の右にまわり、構える。
「『雛罌粟』から『沈丁花』まで打撃技混成接続!!」
それは姉から教わった奥義、この天才に繰り出すにはふさわしい技だった。
一つ一つに人を殺せる重みを持った二百七十二種類の打撃が放たれ、あらゆる方向から
外れることなく真心を打つ!!
「が…!」
それらの攻撃を受けても、まだ、真心は倒れない。さすがにかなりの打撲を負ったようだが、
それでも、倒れない。
どころか、攻撃が終わった瞬間を狙い、直突きを叩き込む。
攻撃の直後の隙をつかれ、かわす間もなく直撃を受け再び七花の体が後方にすっ飛ばされる。
「やっぱ、あれじゃなきゃ、駄目か…」
荒い息の下で起き上がりながら七花は呟く。
直突きが当たる瞬間に筋肉を凝縮させ威力を抑えていなければ、腹をつぶされていた。
それほどの威力は、抑えてなお体に激痛を走らせる。そのうえ手の爪がはがれ、甲の皮が向け
血が流れ落ちている。
二百七十二発の打撃を喰らわせた手が耐え切れなかったのだ。

もう長くは戦えない。


(次で決める!)
七花は満身創痍の体を無理に立たせ、『杜若』を構える。
幸い、今の相手ならばなんとか最後の奥義を繰り出すことができるかもしれない。
「げらげらげらげらげらげらげら」
対する真心は全身に打撲を負いはしてるものの、全く衰えを見せていない。
狂ったように笑い続ける。

その姿を見て、七花は何かが腹の奥底から湧き上がってくる物を感じた。

限界の見えない敵への恐怖

ではなく、腹の底から煮えくりかえるようなこの感情は
「…ふざけんな」
そう、怒り。
「ふざけてんじゃねえぞ!!」
怒りがどんどんこみ上げてくる。
「そんだけの力があって、そんだけの才能があって、なんでそんなくだらねえ毒なんかに
 振り回されてんだ!!」
始めは呪縛などないと思っていた。
だが違う、この少女は誰よりもこの刀に縛られている。
もし、最初から理性を保っていれば、ここまで食い下がることすら出来ていなかっただろう。
刀に縛られた才能。それは七花にとっての幸運。
けれど許せなかった。
同じような才能を、生き残るために毒を使ってまで抑え込んでいた人間を知っているから。
許せなかった。
姉が手にすることの出来なかった力を容易に振るいながらも毒に縛られるこの少女が。
「お前は、あんな、あんな刀鍛冶に負けるような奴じゃないだろ!!眼ぇ覚ませ!!」
421虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 16:50:38 ID:/1Ghejtj
その言葉が届いたのか、
それともさっきの二百七十二発の打撃を受け、毒刀に亀裂が走ったのが原因か、
「げ…げらげ…しきざき?げらげら…俺…様はっ…」
笑いが尻すぼみになり、少女は頭を抱え、うめく。
まるで、自分自身を取り戻そうかとするように。
それは絶好の好機、だが七花は動かない。
言葉をつむぎ続ける。
「お前は誰なんだよ、四季崎記紀か?」
「ちが…う………違う……違う違う違う違う違う!俺様は俺様は俺様はぁああああ!!」
叫びながら少女は手に持つ毒刀を柄を持っていないほうの手で刀身を掴み、
「俺様は……四季崎記紀なんかじゃ……無い!!」
万力の力を込め、刀をへし折った。
「俺様は………想影…真心だ!」
『毒刀・鍍』が破壊されたところで、一度まわった毒は消えはしない。
だが、少女の真心の眼からは狂気の光が消え始めている。
毒に打ち勝とうとしている。
「真心……か、いい名前だな」
皮肉でもなんでもなく、心の底よりそう言い七花は今度こそ身構える。
「来いよ真心、決着を付けようぜ、まあその頃にはおまえは八つ裂きになってるだろうけどな」
その言葉に真心もまた折れた毒刀を投げ捨て構える。
今までのめちゃくちゃな体勢ではなく、戦うための体勢を。


片や、人類の最終の存在『橙色なる種』。
片や、完了変体刀の最終の刀、虚刀『鑢』
意味合いの違う二つの最終は、微動だにせず、にらみ合い。
「がぁああああああ!!」
「虚刀流七代目党首、鑢七花!参る!!」
ほぼ同時に動いた。
422虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 16:55:33 ID:/1Ghejtj
二人の距離は一気に詰まり、一瞬にして近接する。
至近距離で七花は『鈴蘭』の構えを取る。そこから繰り出されるのは『鏡花水月』虚刀流最速の奥義!
真心の攻撃より先に七花の嘗底が突きこまれ、さらにそこを起点に
『花鳥風月』 『百花繚乱』 『柳緑花紅』 『飛花落葉』 『錦上添花』 『落花狼藉』
それら六つの奥義を連続して繰り出す、これこそ、七花の最終奥義!!
「『七花八裂』!!」
七つの奥義は余すことなく真心に叩き込まれる!

(おかしい…)
最後に『柳緑花紅』 を放つ途中で七花は違和感に気づく。
『七花八裂』の最大の弱点、それは『柳緑花紅』の溜めの長さ、
そして、当然その合間に反撃されることを覚悟していた。
それを少しでも補うためにこれを最後に持ってきたのに。
反撃が来ない。
そしてその理由はすぐに判明する。
真心は両腕を大きく振りかぶっていた。
その構えが何なのか七花にはわからない。
だが確実なのは、あれを受ければ、自分が死ぬということだ。
(はめられた!)
恐らく、今出そうとしている技には『柳緑花紅』以上の溜めが必要なのだろう。
それを確実に当てるために、攻撃終了後に出来る隙をつく為に、わざと反撃を控えていたのだ。
気づいた時にはすでに遅く、攻撃は止められない。
そして、それが耐え切られることも七花には直感でわかった。
だが、それでも、それでも、七花は勝ちをあきらめない!
全身全霊最後の力を振り絞る!!
「『七花八裂』より『七花八裂(改)』へ奥義強制接続!!」
『柳緑花紅』を起点に『鏡花水月』、『飛花落葉』、『落花狼藉』、『百花繚乱』、『錦上添花』、『花鳥風月』の
順番でつながれる『七花八裂(改)』。
七つの奥義を最速のそして最大の威力を発揮する順序で放つ正真正銘の最後の奥義。
真心の前に構える暇が無かった『柳緑花紅』を『七花八裂』の最後に放つことで補った、
最終を始点にする、究極の強制接続!
どの戦いでも、あの姉との戦いですら使わなかった、いや使えなかった自分の限界点。
それを七花の勝ちへの執念が打ち破る!!
「ちぇりおーーーーーっ!!」
大切な人から教わった掛け声とともに放たれた『七花八裂(改)』は、真心の攻撃の発動を許さずに

最大の威力を持って、真心の体を吹き飛ばした。



人類最終『橙色なる種』と完了変体刀完成形『鑢』との戦いはここに幕を下ろした。


423虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 17:00:52 ID:/1Ghejtj
「はあ、ひでえ目にあった」
ボロボロの体をひきずりながら、七花は護剣寺の門の前でため息をついた。
その仕草はやはり似合っていない。
「ってか、あれからあんまり時間経ってなかったのかよ」
体感的には一晩中戦ってた気もするが、実際は月の位置がほとんど変わっていない。
「さて次はどこに行くかな」
体のあちこちに激痛が走るが、それでも休む気は無かった。
そんな時間も勿体無い。
「本当にめんどうだ」
口癖である言葉を言い、さらに自分の担いでいる物を見てさらに深くため息をつく。
「余計な荷物も増えちまったし」
そこには、橙の髪をした少女。
想影真心が背負われていた。
「全く、なんでとどめを刺さなかったんだ?俺」
『七花八裂(改)』を喰らい吹き飛んだ真心は、それでもまだ生きていた。
全身ボロボロで気を失って、それでも息をしていた。
本来ならば、その場でとどめを刺しておくべきだった。
だが出来なかった。
やろうと思えば、すぐにできることがなぜか出来なかった。
424虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 17:03:30 ID:/1Ghejtj
なぜだろう?

気絶した相手を殺すのは誇りが許さないからか?
相手が子供だからか?

それとも

「とがめに、似てっからかな」
気絶して眠っているような顔は昔、自分の隣で眠っていたとがめを思い出させる。
本人が聞いたら。
「だれが童子属性じゃーー!!」
と突っ込まれてたかもしれないが、残念ながらとがめは不在だった。

「まあ、いいや」
どこかで村でも見つけて、そこで後の面倒でも見てもらえばいいか、と、
相変わらずゲームのことなど全くわかっていない七花であった。
「それにしても変わった格好だよな」
七花は出遭った時から感じていた感想を口にする。
見たこともないような材質の服に、下はもっとわからない構造の何かを履いている。
現代人ならこれがスパッツと言う物だとわかり、さらにちょっとアレな趣味の持ち主なら、
色々と感じることもあったのだろうが、七花にそんな趣味は無いので、変という感想しか浮かばない。
「なんで、こんなめちゃくちゃな力を持ってて、こんな変わった格好した奴のこと
 知らなかったんだ?」
とがめと刀を捜して日本全国を旅している間もこんな奴の噂は全く耳に入ってこなかった。
「これなら日本最強も余裕で獲れそうなもんだけどな」
現日本最強であり、数々の戦いでほとんどかすり傷すら負ったことのなかった七花をここまでに
できる実力ならば、日本でダントツの最強になっていてもおかしくない。
実際は真心は人類最終という日本どころか世界最強といっても全く過言ではない存在なのだが、
七花はそんな別世界の事情など知る由もない。

425虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』:2009/05/29(金) 17:14:29 ID:/1Ghejtj
「まあ、いっか」
単純に欲がなかったとかそんな理由なんだろうな。
と、深く考えるのをやめる。何度もしつこいようだが、七花は考えるのが苦手なのである。
「おかげで心構えも出来たし」
真心と戦うことで、七花は吹っ切れた。
もし、姉と会い、憎悪の眼差しで見つめられても、逃げることはきっと無い、立ち向かえる。
「会わないに越したことはないけどさ」
立ち向かえるといっても、やはり実の姉とは戦いたくはない。
「否定姫のほうも捜さないとなあ」
今まで薄情にも忘れていた否定姫のことも今更のように思い出す。
一応、とがめ亡き後に旅を共にした間柄である。そちらも無視はできない。
「まあ、先に会ったほうと一緒に捜せばいいか」
結局適当にまとめて、七花は歩き出した。
とがめと否定姫を捜すために、

だが、この時点で七花は知らない。
捜すべき相手と会いたくない相手が共に行動していることを。
七花は知らない。
今背負っている少女がどれほどの存在なのか。
そして自分の現在地すら、七花はわかっていなかった。
「ま、歩いてりゃどっかに着くさ」
恐ろしく単調な思考で七花は行く。どこかに着くために。

426虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』
七花が去り少し経って、護剣寺の門の上で立ち上がった者がいた。
「すごい…!すごいすごいすごいすごいじゃないさ!!」
その人物、体中に刺青のような紋様を付けた少女はさきほどの戦いを思い出し
興奮したように叫ぶ。

真心といい、この少女といい、よく少女に目を付けられる男である。

だが、正確には彼女は少女ではない。
彼女の名は真庭狂犬、ゲームが始まるより前、首をすっ飛ばされたまにわにの皆さんの
生き残りである。
「あの虚刀流をあそこまで一方的に…なんて娘なの、あいつ!!」
彼女は自分の意識を別の女性の体に移し変えることで永い時を生きてきた。
その彼女でさえ、あれほどの強さは見たことが無かった。
始めは七花の気をそらす程度の相手としてしか見ていなかった。気さえ反らしてくれれば、
後は背後から襲うつもりでいた。そのための囮と
卑怯な戦法である。
だが、卑怯卑劣こそが忍者の売り、ましてや相手が虚刀流ともなればなおさらである。
だが、
すぐにそれは間違いであったと気づかされた。
実際には卑怯卑劣など入り込む隙間も無かった。
それほどの存在。
「く、全く、この体なのが悔やまれるわね」
もし、あの時の凍空一族に乗り移る前の体なら、あの瞬間に飛び出し体を乗っ取れていただろう。
だが、今の体は戦乱の時代の頃の体になっていた。
この体は隠密行動には向くが、速さが足りない。
いくら手負いとは言え、虚刀流に迎え撃たれてしまうだろう。
「けど、あきらめないわよ…」
あの体さえあれば、鳳凰と人鳥の二人以外の敵を殲滅することも夢ではない。
そして、最後に自分が死に。
優勝者となる者を二人で決めてもらえばいい。
仲間を目の前で殺した水倉林檎とやらに頼るのは癪だが、この際仕方ない。
どちらが勝ち残ったところで、真庭の里には永遠の繁栄が約束されたも同然だ。
里の未来のために、この命を投げ打てるなら悪くない。
そのためにも、
「あの体を頂く!」
その決意と共に狂犬は七花の後を静かに追う。
狂犬らしく食い散らかすために。