【俺が】お前らの創作批判してやんよwww【ルール】

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134よつばと結婚紹介所 1/5

 日曜日の昼下がり。
 窓から差し込むうららかな秋の陽射しを浴びながら、男はあくびを噛み殺した。
 テレビをつけっぱなしにしたまま、クッションを枕にして床に寝転がっている長身痩躯の優男。年齢は二十代
後半。ボサボサの髪が肩まで伸びていて一見綺麗な浮浪者風だ。端正なマスクは女性にモテそうだが、今は覇気
の無いだらけた表情がそれを台無しにしている。秋もそろそろ終わりに近いというのに、家の中とはいえ未だに
Tシャツとパンツ一丁のだらしない格好だ。
 男の苗字は小岩井。名前はまだない。いつになったら判明するのかは、原作者のみぞ知る。
 職業は翻訳家で自宅で仕事をしている。自宅といっても借家で、この夏に引っ越して来たばかりだ。
 小岩井は昼飯を片付けた後、すぐに仕事を再開するのが億劫になって、リビングでまどろんでいた。
「とーちゃん! みろ! みろ!」
 かん高い元気一杯な声が聞こえて、小岩井は夢うつつの状態から引き戻された。目の前で小さな子供が興奮し
た様子でテレビを指差している。
 子供の名前はよつば。
 若草色の髪と四つのおさげが人目を引く、今年で五歳になる可愛い一人娘だ。娘といっても、髪の色が示すと
おり日本人ではないし、小岩井とも血は繋がっていない。数年前に小岩井が世界中を放浪していた時に拾って、
成り行きで育てる事になったのだ。法律的に大丈夫なのか? と心配される方もいるかもしれないが、面白けれ
ば何でもありなのである。――たぶん。
 小岩井が眠い目を擦りながら起き上がってテレビを見ると、画面には芸能人の結婚披露宴が映されていた。
 芸能界に疎い小岩井にはそのカップルが誰なのか分からなかったが、よつばの興味はそこではないらしい。
「でっけー! ケーキのおしろだ!」
 よつばは画面一杯に映し出された、天井まで届きそうな巨大なウエディングケーキに夢中になっている。
「とーちゃん、よつばもアレたべたい!」
「よつば、あれはウエディングケーキといって結婚式でしか食べられないんだ」
「よつばひとりでぜんぶたべきれるかなー」
 よつばは口の端からよだれを垂らしながら画面にかじりついている。
「……聞いちゃいねぇ。しかも一人で全部喰う気かよ」
 小岩井の呟きを聞き流して、よつばは高らかに宣言する。
「よつばもけっこんしきする!」
「誰とするんだ?」
 興味本位でよつばに聞いてみた。
「とーちゃんと!」
 娘を持つ父親なら一度は言われてみたいセリフを聞けて、小岩井は感無量になった。よつばが大きくなったら
しよう、と言いたいところをグッと我慢する。まだ小さな子供だがここは涙を飲んで真実を教えてやらねばなる
まい、と小岩井は非情な選択をした。
「よつば、気持ちは嬉しいけど……、とーちゃんとよつばは親子だから結婚は無理だ」
「そーかー。じゃあいーや」
「えっ! いいの?」
 随分とあっさり答えるよつばに小岩井のプライドはズタズタだ。よつばはそんな親の気持ちも知らずに新たな
質問をしてくる。
「とーちゃんのけっこんしきのよていは?」
「残念ながらありません。そもそも結婚相手がいないからできないぞ。アッハッハッ……はぁ」
 自分で言っておきながら惨めな気分になって落ち込む小岩井だった。
 現在、恋人募集中。昔は彼女もいたのだが、放浪癖のせいで愛想をつかされてしまった。そしてよつばを拾っ
てからは仕事と子育てに手一杯で、新しく彼女を作る暇も無く今に至っている。まだまだ若いつもりでいるが、
そろそろ三十路が見えてきた。焦ってはいないが、よつばのためにも母親は必要なんじゃないかと思ってみたり
もする今日この頃だ。しかし自宅で仕事をしている現状では女性と知り合う機会はそうそう無かった。
「そーかー。ざんねんなー」
 小岩井と一緒になってションボリするよつばだが、何かを思いついたのかニッコリ笑顔になった。
「よつばがとーちゃんのけっこんあいてをみつけてやる!」
 そう言うと、よつばは元気良く部屋から飛び出した。小岩井は慌てて小さな背中に呼びかける。
「おい! どこに行くんだ?」
「おとなりー!」
 玄関のドアが勢い良く閉まる音が聞こえた。そしてテレビの音だけがむなしく響き渡る。
 迷惑をかけなきゃいいのだが、と心に少し不安がよぎるが今更気にしても仕方がない。
 小岩井はテレビを消すと、立ち上がって大きく伸びをした。
「……まぁ、いいか。仕事しよ」
 そう呟いて、頭をポリポリ掻きながら二階の仕事部屋に向かうのであった。
135よつばと結婚紹介所 2/5:2009/02/12(木) 20:27:02 ID:j43YZdqd
 家の外に飛び出たよつばはいつもどおり、ほぼ毎日のように通っているお隣の綾瀬家に向かった。
 この辺りは閑静な住宅街で、家の前の道路では滅多に車を見かけない。
 しかし今日は綾瀬家の門の前のスペースに見知った車が止まっているのを発見して、よつばのテンションは急
上昇した。とーちゃんのけっこんあいてがふえた、とニンマリ笑う。よつばは車内を覗き込んで持ち主の女性が
いない事を確認すると、車の脇を通り抜けてチャイムを鳴らさずに門をくぐった。
 道路側から見て小岩井家の右隣の綾瀬家はかなり立派な邸宅である。どれくらいかと言うと、小岩井の友人に
ジャンボというあだ名の、身長二メートルを越す巨漢がいるのだが、彼が頭を下げる事無く余裕で出入りできる
両開きの玄関のドアを備え付けていると言えばお分かりになるだろうか。
 よつばはその大きなドアを勝手に開けて入っていく。
 もうすでにここは我が家も同然だった。
 まず手始めに一階のリビングを覗いた。――誰もいない。
 隣のキッチン兼ダイニングから物音が聞こえたのでそちらを覗くと、よつばのお目当ての人物がいた。
 嬉しくなって駆け寄る。
「かーちゃん!」
「あら、いらっしゃい。よつばちゃん」
 流し台で食器を洗っていたベリーショートの茶髪の女性が、よつばの声に振り返って答えた。この家の主婦の
綾瀬母である。名前が不明なのでこう呼ばせてもらおう。
 年齢は四十を過ぎているが若々しく整った顔立ちは、三十代と言っても十分通用しそうだ。
 よつばはかーちゃんと呼んでいるが、もちろんよつばの母親ではない。よつばもそれは理解しているが、いつ
も温かく迎えてくれて、おやつも出してくれる(これが重要なのだ)彼女を実の母のように慕っていた。だから
一番に声をかけようと心の中で決めていたのだ。
「かーちゃん! とーちゃんとけっこんしてくれ!」
「えっ? とーちゃんってよつばちゃんのお父さんの事?」
 ウンと頷くよつばに綾瀬母は鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をしている。背後からゴホゴホという音が聞こえ
たのでよつばが振り返ると、テーブルに向かって座っていた中年男性がコーヒーをこぼして咳き込んでいた。
「おっちゃん、いたのかー」
 おっちゃんと呼ばれた男性はこの家の大黒柱の綾瀬父である。優しげな雰囲気を漂わせるナイスミドルだが、
よつばが遊びに来る時間帯には滅多に家にいないため、よつば脳内ランキング綾瀬家部門最下位の人物だった。
 実際穏やかで口数も少ないため、女性陣の発言力が強い綾瀬家では最も影が薄い存在である。
 綾瀬母は布巾でテーブルを拭きながら、からかうような口調で夫に話しかけた。
「ウフフ、プロポーズされちゃった。どうしましょ」
「どうするって、おまえ……」
 綾瀬父は困惑した表情でお茶目な妻を見つめる。
 綾瀬母は夫の困った顔を十分に楽しんでから、よつばに返答した。
「残念だけどもうこの人と結婚しちゃってるのよねー。あと十年早かったらなー」
「計算が合わないだろう」
 苦笑いしながら綾瀬父がツッコミを入れた。
「かーちゃんはけっこんしてたのかー。しらなかった」
 一般常識に欠けていると思われるかもしれないが、よつばはまだ五歳なのである。突飛な発想の持ち主だが、
同年代の子と比べるとかなり聡明なお子様だろう。
 残念そうな顔をするよつばを綾瀬母がフォローする。
「安心して、よつばちゃん。我が家には私に似た美人の娘が三人もいるから好きなのを持っていきなさい。今日
はみんな家にいるわよ」
「ウチの娘達はモノじゃないんだから……」
 綾瀬父が妻の乱暴な提案に難色を示していると、ロングヘアの子供が顔を覗かせた。噂の娘の一人だ。
「よつばちゃん、来てたんだ」
「えな!」
 よつばがそう呼んだあどけない顔の可憐な美少女は、綾瀬家三女の恵那である。
 小学生の彼女は三姉妹の中で一番歳が近い事もあって、よつばとはよく一緒に遊んでいる仲だ。
「私の部屋でおままごとしようか?」
 恵那が笑いかけながら遊びに誘う。
「いまはそれどころじゃないの!」
 よつばの剣幕に恵那のクリッとした可愛らしい大きな目が更に大きく見開かれた。よつばはそんな少女を頭
の天辺からつま先まで嘗め回すように見た後、頭の中で父親と恵那の並んでいる姿を思い浮かべた。 
「えなはまだちっちゃいからだめだな。つぎいってみよう!」
 よつばはそう言ってキッチンを後にして階段を駆け上がっていく。
「よつばちゃんの方が小さいのに……」
 訳が分からない恵那は不満顔で両親に愚痴をこぼした。
 綾瀬夫妻は苦笑して顔を見合わせるのであった。
136よつばと結婚紹介所 3/5:2009/02/12(木) 20:28:09 ID:j43YZdqd
 二階に上がったよつばは、次なる標的のいる部屋のドアを勢いよく開けた。
「たのもー!」
 部屋の中には美女二人。
 一人掛けソファーに腰掛けている髪の長い方が、綾瀬家長女のあさぎである。モデルのような容姿と、金色に
染めた腰まであるストレートの髪が自慢の美人女子大生だ。
 そして床に座ってベッドに寄りかかっている髪の短い方が、大学の友人の虎子である。ショートの黒髪でスレ
ンダーな彼女は中性的な魅力を醸し出している。名前は虎子だが、どちらかと言うと豹を連想させる雰囲気の持
ち主だ。ちなみに表の車の持ち主でもある。
 この二人はよつば脳内ランキング綺麗なお姉さん、格好良いお姉さん部門の各一位で、よつばのお気に入りの
お姉さん達だった。
「よつばちゃん、今日も元気だねー」
 あさぎは友人との話を中断して、近寄ってきたよつばに笑顔を向けた。虎子はポーカーフェイスのままだ。
「あさぎ! とーちゃんとけっこんしないか?」
「へっ?」
 よつばの唐突な申し出にあさぎは素っ頓狂な声をあげるが、すぐにいつもの冷静さを取り戻した。
「いきなりだなぁ。小岩井さんに頼まれたの?」
「よつばがおもいついたの! とーちゃんがかわいそうだから!」
 よつばの当初の目的はウエディングケーキを食べる事だったが、今は父の結婚相手を探す事に置き換わってい
た。それにしても五歳の娘に同情される父親というのもどうだろう、とあさぎは虎子に向かって苦笑した。
「だそうよ、虎子。アンタどう?」
「なぜ私に振ってくる?」
「んー、虎子と小岩井さんってなんとなく見た目が似てるからねー」
「なんだ、その理由……」
 そう呟いて虎子は親友を睨み返した。男性に似ていると言われて気分を害したようだ。
 よつばはあさぎの意見に賛同してウンウンと頷いた。
「にてるにてる! とらもとーちゃんもかっこいいからなー。どうだ? とら!」
 褒められた気がしない虎子は憮然とした表情でお断りする。
「遠慮しておこう」
「えんりょかー。とらはニッポンじんだなー」
 よつばの感想がツボに入ったらしく、あさぎは笑い出した。
「アハハ、そうだねー。そう言うよつばちゃんはナニ人なのかな?」
「よつばはチキュウじんだ!」
 よつばは腰に手を当てて胸を張る。あさぎは笑いながら緑色の髪を突っついた。
「本当にー? 髪の色が宇宙人っぽいぞー?」
「それはいっちゃダメー!」
 あさぎの言葉によつばは癇癪を起こした。よつばの髪の色は触れてはいけない話題らしい。申し訳なさそうに
両手を合わせて謝るあさぎ。そんな二人のやりとりを見ていた虎子が素朴な疑問を口に出した。
「よつばのお母さんはいないのか?」
「よつばのかーちゃん? いないぞ!」
 よつばは屈託の無い笑顔でそう答えた。あさぎがソファーから立ち上がって小声で虎子に耳打ちする。
「聞いた話によるとよつばちゃん、拾われっ子なんだって」
 真実を知らされて、虎子は自分の迂闊な質問を後悔した。異国の地で母親も知らずに明るく振舞っている健気
な幼い少女だと考えると胸が苦しくなった。
 虎子はよつばを手招きして優しく頭を撫でる。あさぎも便乗して一緒に撫でた。そんな二人をよつばは不思議
そうに見ていたが、あさぎの返事をまだ聞いていない事に気付いた。
「あさぎ、けっこんは?」
「うーん、今日はそういう気分じゃないのよねー。残念だけどまた今度にして」
 あさぎは訳の分からない理由をつけて、よつばの求婚を煙に巻く。
「そーかー。それじゃあしょうがないかー」
 それでもよつばは納得したようだ。話を聞いていた虎子がそんな理由でいいのか、と目を見張った。
「とーちゃん、にんきないなー……」
 悲しそうに呟くよつばを見て、あさぎが助け舟を出す。
「私達よりもっとお似合いの子がいるじゃない。あの子ならきっと大丈夫よ。まだ聞いてないんでしょ?」
 あさぎの提案によつばは目を輝かせて頷く。
「いまからいってくる!」
 よつばは元気を取り戻して、勢い良く部屋から飛び出していった。虎子は呆れた顔であさぎを見ている。
「実の妹に面倒を押し付けるなんて鬼だな」
「あら? 私はあの二人、お似合いだと思うんだけどね。面白くなりそうだから様子を見に行きましょうか?」
 あさぎは悪びれた様子も無く、心から楽しんでいる顔をしている。虎子はヤレヤレといった表情で親友を見つ
めるのであった。
137よつばと結婚紹介所 4/5:2009/02/12(木) 21:07:15 ID:j43YZdqd
 あさぎご推薦の少女は、日曜日だというのに自分の部屋でゴロゴロしていた。
 正確に言うと、床に仰向けに寝転がって雑誌を読みながら、両足を浮かせていた。見た目は標準体型だが、本
人は少し太り気味なのを気にしてダイエット運動をしているところなのだ。
 綾瀬家次女で現在高校二年の彼女は、ショートボブの黒髪で、今時珍しく眉毛が太い健康的な美少女である。
 姉の部屋が騒がしいな、と考えていた少女は、バタバタと部屋に近づいてくる足音に気付いてドアの方に目を
向けた。――奴が来る。案の定勢い良くドアが開いて、お隣の可愛い小さな大怪獣よつばが姿を現した。
「ふーか! とーちゃんとけっこんしてやって! もうふーかしかいないんだ!」
 風香はよつばの発言に驚いて、慌てて飛び起きた。
「けっ、結婚? 小岩井さんと? 駄目駄目! 私まだ高校生だし!」
 そう言って手に持っていた雑誌をブンブンと振って拒否する。
「こうこうせいはけっこんできないのか?」
「十六歳だから、出来ない事もないけど……。そんな事よりもよつばちゃん。いきなり結婚じゃなくて、最初は
恋人からでしょ。もっとこう、手順を踏んでからじゃないと」
「じゃあ、とーちゃんとこいびとになれ!」
 あきらめてなるものか、とよつばは必死に食い下がる。風香はよつばの無茶な要求に赤面した。
 小岩井とは一緒に海や山やプールに遊びに行ったり、高校の文化祭に来てもらったりしたが、あくまでよつば
の父親としてであり、今まで男性として意識した事はなかった。急にそんな事を言われても困ってしまう。
「簡単に言うけど好きな人同士じゃないと恋人にはなれないのよ」
 風香はお姉さんぶって人差し指を立ててよつばに説明した。
「ふーかはとーちゃんきらいなのか?」
 よつばは悲しそうな目をして聞いてくる。そんな小動物のような瞳で見つめられたらひとたまりも無い。
「そっ、それはまぁ好きか嫌いかで言うなら、好きだけどさ」
 風香は顔を真っ赤にして五歳児の質問に真面目に答えた。
「だったら、もんだいないな」
 一片の曇りもない満面の笑顔のよつばの答えに、風香は胸がトクンと鳴るのを感じた。
 ――小岩井さんも私が好きと解釈してもいいのだろうか。でも仲の良いお隣さんとしての好きであって、異性
として好きという意味ではないよね。そこのところどうなのよ、よつばちゃん、と風香は頭の中で一人漫才を繰
り広げる。これは恥ずかしくて聞くに聞けない。悶々としているところによつばが父親を猛プッシュしてきた。
「とーちゃんはオススメだぞー。かっこいいからなー」
「そ、そうだね……」
 小岩井の容姿を思い浮かべて一応同意しておく。実際に文化祭でよつばを連れた小岩井を見て、クラスメイト
がかっこいいと言っていたのを知っている。普段はボーっとしているが、キリッとした表情をすればかっこいい
に違いない。――そんな顔は見たこと無いのだが。それに普段はだらしない格好をしているが、ちゃんとした服
例えばスーツを着れば背が高い小岩井は格好良く見えるに違いない。――そんな姿は見たこと無いのだが。
 風香がそんな失礼な事を考えているとよつばが更に追い討ちをかけてきた。
「とーちゃんはりょうりもうまいぞー。イチオシはぎゅうにゅうだ!」
「牛乳は料理じゃないでしょ。でも料理が出来る男性ってポイント高いよねー」
 本当は小岩井の料理の腕前はたいした事はないのだが、気持ちが傾きかけた風香は真剣に交際を考えてみた。
「小岩井さんって二十代後半だよね。……うーん、歳が離れすぎだなー」
「アイにとしのさなんてカンケーない」
「そ、そうだね……」
 何処で覚えたのだろうか? おませな五歳児の言葉に風香は説得された。
 もし友人に知られたらどうなるだろうか、と頭の中でシミュレートしてみる。
「風香、大人の男性と付き合ってるの?」と驚く友人A。
「すっごーい! 風香ちゃん、おっとなー!」と感心する友人B。
「そんな事ないよー。エヘヘ」と謙遜する風香。
 ――妄想完了。何だかすごくいい感じだ。
 その気になってきた風香だが、そうなると気になるのが小岩井の仕事だ。以前よつばからこんにゃく屋と聞か
されていたのだ。果たして本当なのだろうか、と半信半疑で問いただす。
「小岩井さんって、本当にこんにゃくを作ってるの? あの家で作ってるようには見えないんだけど」
 風香の疑いの眼差しによつばは両手を上げて憤慨する。
「とーちゃんが『こんにゃくや』っていったの! いつもパソコンでカチャカチャやってるの!」
「えっ?」
138よつばと結婚紹介所 5/5:2009/02/12(木) 21:12:41 ID:j43YZdqd
 パソコンでこんにゃく作りとはいったいどういう事だろうか? 成分分析をしてデータを取っているのだろう
か? それとも遠隔操作で工場に指示を出しているのだろうか? もしかして小岩井さんって社長さん? あの
歳で青年実業家? ――風香の妄想が暴走する。
 よつばの辞書に翻訳家という文字がなかったために、風香はとんでもない勘違いをしている。
「小岩井さんってすごいんだね」
「ふーかもよーやくわかってきたかー」
 大好きな父親を褒められてよつばの機嫌はすっかり直ったようだ。

 ――それから数分後。
 風香はクッションを抱きしめながら遠くを見つめて妄想している。かなりヤバい状況だ。
「結婚すると綾瀬風香が小岩井風香に変わるのかー。語呂は悪くないよねー。イニシャルがFA……ファイナル
アンサーからFKになっちゃうんだ……。うーん、何だろう? JFK? ジャパン・フウカ・コイワイ……」
「ふーか、ダイジョーブか?」
 心配そうに顔を覗きこむよつばに気付いて、風香は正気を取り戻した。
「わっ! あれっ? 私、口に出してた?」
 先走りし過ぎた自分が恥ずかしくなった風香は、頭をブンブン振って邪念を振り払った。深呼吸をして、もう
少し冷静になって考えてみた。
「もし私が小岩井さんと結婚したら、私がよつばちゃんのお母さんになるんだよ。分かってる?」
 風香は正座をすると真剣な眼差しでよつばを見た。
「ふーかがよつばのかーちゃん? それはどーだろー?」
 よつばは困った顔をして悩んでいる。どうやら理解していなかったようだ。
 喜んでくれると期待していた風香はよつばの反応にショックを受けた。
「よつばちゃん、お母さんが欲しいんじゃないの? どうしてお父さんと結婚させたいの?」
「けっこんしきにケーキがでるから」
「はぁ?」
 予想外の言葉に風香はポカンと口を開けた。
「ふーか、しらないのか? でっかいケーキがでるんだぞ! よつばはソレをぜんぶたべるんだ!」
 よつばは嬉しそうに笑顔で語る。
 開いた口がふさがらない。
「ケーキが食べたいだけなの?」
 呆れて怒る気力も出てこない。
 先ほどまでの妄想が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。
 穴があったら入りたい。
 風香は恥ずかしさのあまり、勢い良くベッドにダイブして枕に顔をうずめた。
 そんな風香を尻目によつばはベッドの側の窓を勝手に開けた。斜め向かいの窓は小岩井の仕事部屋だ。
「とーちゃーん! おーい! そこにいるかー?」
 よつばは大声で呼びかける。ものの十秒もたたないうちに仕事部屋の窓が開いて小岩井が顔を出した。
「よつば! 大声を出さない! 近所迷惑だぞ!」
 父親のお叱りもどこ吹く風でよつばは嬉しそうに報告する。
「とーちゃん! ふーかがとーちゃんとけっこんしたいって! よかったなー!」
 それを聞いた風香は急いで飛び起きてよつばを取り押さえた。
「ちょっ、ちょっと! 違いますぅー! そんな事言ってませんからー!」
 顔を真っ赤にしながら否定する風香を見て小岩井は苦笑している。
「風香ちゃん! 幸せにするから!」
 からかう小岩井の言葉に風香は耳まで真っ赤になる。
「こらーっ! 人の話を聞きなさーい! 親子揃って私をからかってー!」
 風香が喚いていると、突然ドアが開いて綾瀬家の住人が部屋に雪崩れ込んできた。
「風香、結婚おめでとう。まさかアンタに先を越されるなんてねー」と笑いながらからかうあさぎ。
「嬉しいわー。初孫が見られるのはいつかしら?」とこちらも笑いながらからかう綾瀬母。
「風香お姉ちゃん、おめでとー。よつばちゃんは私の姪っ子になるんだよね」と心底嬉しそうな恵那。
「お父さんは結婚なんて許さないぞ!」と本気で怒る綾瀬父。
 虎子は呆れた表情で廊下から見守っている。
 突然の家族の乱入に風香はパニック状態だ。
「なんで集まってるのよー! みんな大嫌いだー!」
 泣き喚く風香を取り囲んで、綾瀬家の面々は笑顔でなだめている。
 向かいの窓からその様子を見ていた小岩井はバツが悪そうに頭を掻いている。
 よつばは嬉しそうに綾瀬家の人々の周りを駆け回っている。
 そして滅多に笑わないクールな虎子も、小岩井家と綾瀬家の人々の愉快なやり取りを見て、口元から笑みを
こぼすのであった。                                                   おしまい