プレデター日記

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389ある掃除屋の戦い ◆AvP.enmOzE

 ふと気がつくと、彼は暗闇の中にいた。確か俺は…?
起き上がろうとするも、体を何らかの樹脂でがっちりと固められていてまったく動けない。

 振り向くとその先には石灰化した生き物の死骸。
4対の足を持った生命体は、その華奢な指を天へ向け、獲物の首に巻きつける尾と産卵管をだらしなく垂らしていた。
彼は、自身の身に起こった恐るべき事態を悟った。
最早誰にも彼を救う事は出来ない。残された命も長くは無いだろう。
絶望や失望を感じる余裕は与えられなかった。胸の奥に激痛が走る。

 ついに命の灯し火の尽きる時がやって来たのだ。
薄れる意識の中で彼は、自身の胸が内側から食い破られる音を耳にした。

 肉の檻から解き放たれた“エイリアン”は、誕生の歓喜に咽び泣いた。
虚ろな眼窩を天へと向けて。
390ある掃除屋の戦い ◆AvP.enmOzE :2009/02/14(土) 23:09:32 ID:WZMSGpS7
 やはり気のせいか。艇内の“青年戦士”は武器を収めた。
 あの過酷な儀式を終え、大事な同胞を失った後だ、やはり疲れているのだろう。
そもそも“蟲”が逃げるはずなど無いではないか。
 己に言い聞かせながら、青年戦士は眼前の生体培養槽を覗き込む。

 巨大な水槽の中は保存液で満たされ、中央に小さな氷の塊が浮かんでいる。
地球で言うところの恐竜によく似た形態をした氷の塊は、長い尾と6本の肢を丸め、更に縮まって眠っていた。

 彼らが乗る小型艇は、従来は幼虫の状態でしか保存できなかった“女王”を培養槽の中で安全に保存できる最新型だ。
今回の儀式の結果として女王の胎児が得られた為、このように冷凍状態で水槽の中に封印し母星へと輸送する事となった。
培養管の護りは鉄壁である。非力な蟲どもの幼虫や女王の胎児ごときに破れるはずがない。
万一逃げ出したところで、こちらは儀式を終えたばかりの強者揃い。
敗北などあり得ないのだ。

 青年戦士には、女王が水槽の中で安らかに微笑んでいるように見えた。
今、女王はどのような夢を見ているのだろう。
391341 ◆AvP.enmOzE :2009/02/14(土) 23:12:40 ID:WZMSGpS7
60キロ前後まで削って完成したので貼りに来ました。
終了するまで、しばしのお付き合いをお願いいたします。