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第1章-1ページ ◆iWLZ/Zxp0A :
ぼんやりと川の流れを見ている。
橋の下に俺はいた。
すり切れたサンダルに、破けたズボン、ボタンが取れたシャツを着ている。
髭は伸び放題で見た目はあまり良くないのだろう。
すでに鏡を見る習慣がなくなってどれくらい経ったか。
今となってはどうでもいい。
「どうして俺はここにいるんだっけ」
ひとりごちる。
会社で働いていた、あれはかれこれ1年前、いや3年前になるのか。
ある日、突然部長がやってきて、もう来なくていいよと言われた。
それから俺はバイトをしながら、仕事を探していたんだった。
でも、結局定職には就けず、30を過ぎ、バイトもクビになった。
家賃も払えず、しまいにはアパートから警察に力ずくで追い出されたのだ。
あれはアパートの管理人が呼んだんだろうな。
働いていた頃は漬け物をくれたりして、仲が良かったんだが。
畜生、思い出す度、視界がぼやける。
昔、カウンセラーに悩みを解消してもらう事で視力を回復させたスポーツマンの話を聞いた事があったが、心が体に影響を与えるっていうのは本当だと実感する。
このままここでじっとしていれば、いつかは飢え死にできるのだろうか。
眠るように死ねるのなら悪くはない。
もう自分にはチャンスは来ない。
この先、ずっとホームレス生活を続けるくらいなら、いっそ死んでしまった方が潔いと思えた。
「ねえ、あなた、こちらを向いて下さらないかしら」
ふと甲高い、少女らしき声が聞こえた。
できるだけ人と関わりたくない気分だ。
しかし、無視したら後でやっかいな事になるかも知れない。
しょうがなく俺は声がした方を向く。