残っていた精神力を振り絞り、豪は突進技・サイクラッシュを(ただし武桜
とは反対方向に)発生させ、逃走した。
「冗談じゃない! 本気でロリ疑惑が掛けられちまうだろが!」
翌日、放課後。
教壇では昨日と同じく、担任の白河百合香が伝達事項を説明していた。
「きのうはおたのしみでしたね」
そんな伊達有紗の声が後ろの席から聞こえ、豪は唸った。
「どこの宿屋の親父だ、お前は」
「いやいやいや、一時間目から六時間目まで眠り続けた奴なんて、初めて見た
わ。そんなにすごかったの、彼女?」
「ああ、なんて言うか本気で殺意沸く。女は基本的には殴らない主義なんだけ
ど、殴っていいか?」
すごかった、の意味が違うなら、その表現は間違ってはいないが、わざわざ
説明してやる気にはなれない豪である。
「や、アタシそっち系の趣味はないから。それでそれで、昨日のあの子は木島
の何? 彼女? 婚約者? 嫁?」
「……せめて近所の子とか親戚とかの選択肢を設けてくれ、伊達」
「愛人?」
「人の話を聞けよおい」
さすがに振り返った。
「はい、木島君と伊達さん、静かにしてくださいね。もうすぐ終わりますから」
担任・白河の言葉に、豪は前に向き直った。
「はーい。ところでせんせー、そろそろ彼氏の有無を教えてほしいんですけど
ー」
「いいからもうお前黙れ。と言うかお前の頭の中は、色恋沙汰しかないのか」
「ないわよ!」
「言い切るな!」
終業のチャイムが鳴った。
「そ、それは秘密という事で。本日の伝達事項は以上です。それではホームル
ームはここまで。皆さん、気をつけて――」
わずかに頬を赤らめる白河が言葉を言い切るより早く――唐突に、勢いよく
前の扉が開いた。
「豪、修行の時間じゃ! 約束通り、今日は我も一緒についてゆくぞ! 見て
の通り、きちんと身なりは整えてきたのじゃ。まったくお主が協力してくれな
かったから結局自分で気を練る羽目になってしまった。面倒くさかったのじゃ
ぞ?」
現れたのは、矢絣の着物に袴姿の少女だった。
仙術で、豪と同じ頃に身体を成長させた武桜だ。
そしてこれも昨日と同じ事の繰り返しになるが、後ろの女が勢いよく立ち上
がった。
「おおおおおっ! これは木島意外な二股疑惑の登場だぁっ! しかも見たと
ころ、あの彼女は昨日の幼女の血縁のよう! 禁断のワンペア、リアルハーレ
ムルート、姉妹丼に突入かぁっ!!」
たまらず、豪は教室の窓に駆け寄った。
「あ、こら豪どこにゆく!? それに二股とはどういう事じゃ! 我はそのよ
うなモノ、許可しておらぬぞ!」
知らん知らん、と豪は心の中で叫びながら、三階から飛び降りたのだった。