【ロリ】ロリババァ創作スレ2【幼女】

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 感嘆めいた声が木錫の口から飛び出した。見れば先ほど上げた両腕に微細な傷がついて
いる。
「ぬぅ。何かに斬られたようじゃのう」
 濡れた手ぬぐいを叩くような異様な音が木錫から走ったと見るや、彼女と男の間で血しぶきと
肉片が飛び散った。掴んでいた腕が投げられそれがサイコロステーキのように寸断されたの
である。
「こりゃあまたひどいのう。何も講じず出ようとすればばらばらじゃ」
「そこに転がっている信奉者どものようにな」
 ふむ、と木錫は両腕の血をねぶりながらしばし思案にくれ、やがて言葉を発した。
「風閂(かぜかんぬき)という忍法を知っておるかの? 主に風摩に伝わる忍法なんじゃが、
髪の毛を周囲に張り巡らすとちょうどこんな感じになるのじゃ。うむ。髪ではないが髪によらざ
るしてかような物を作ろうとはいやはやまさに眼福眼福。見えこそせんが眼福じゃ」
「御託を」
「いやいや。褒めておる。ここまでできるヌシは間違いなく相当の使い手じゃ」
「……」
 男は悠然と踏み出した。しかし木錫が「出ようとすればばらばら」と看破した部屋なのだ。そ
れは男自身も首肯したではないか。なれば左様な斬撃の結界に踏み込めば彼もまた足元の
骸と同じ運命を辿るのではないか? いやいや先ほど結界を張った時を思い出してほしい。彼
は部屋を縦横無尽に駆け巡っておきながらかすり傷さえ負っていないのだ。蜘蛛が自らの糸
に絡め取られないように彼もまた自身の巡らす結界の攻撃対象から外れているとみえる。
 そうして彼は一歩、また一歩と歩みを進めていく。
 迂闊に動けば木錫は足元の偽両親と同じ命運を辿るであろう。
 かといって動かねば、結界をすり抜けてきた男の餌食。見よ。彼の手に光る一対の鉤手甲
を。先ほど尖十郎を切り裂いたそれは異様な殺気と憎悪に鈍く輝いている!
 しかし果たせるかな、木錫もまた男に向かってじりっと一歩踏み出した!
「斬撃軌道の保持……というところかの? ヌシの能力。その鉤手甲の軌道に沿って斬撃が
残りあたかも透明な刃を置いたかのごとく敵を斬り裂く……とみたがどうじゃ?」
 男の顔にありありと驚愕が浮かんだのもむべなるかな。
「大した能力じゃが相手が悪かったの。わしとの相性は残念ながら最悪じゃ」
 彼は木錫が踏み出した瞬間、斬れる! と確信していた。
 現に部下二人は寸断し酸鼻極まる地獄絵図を醸し出していたではないか。
 だが実情はどうか? やんぬるかな、斬れると見えた木錫はまるで斬れぬ!!
 いや正確には張り巡らした斬撃軌道の細い線自体には引っかかっている!
 それが証拠に皮膚がわずかにへこみ、少女らしい外観に見合った柔らかな肉さえも斬撃の
線にそってすうっと斬られているのだ。木錫は男の能力を「あたかも透明な刃を置いたかのご
とく敵を斬り裂く」と形容したが、まさにその透明な刃は木錫自身の体を通り過ぎてもいるので
ある。現に男は目撃した! 木錫の腹が水平なる透明刃を浴び、脇腹から背中に向かって斬
られていく様を!
 なのに斬れぬ!!
 物理的には無数の刃が当たっているにも関わらず、傷口が一つたりとも開かない!
 刃を浴びた体は次の瞬間にはもう癒合し、何事もなかったかのごとく平然と歩んでいるので
ある。──いかなる名刀とて一ツ所に溜まった水を切断する事は不可能なのだ。斬ったと思っ
た次の瞬間にはもう再生している。
 まさに木錫はそれ。立ちながらにして桶の中の水のごとく斬られないのだ。
 変化といえばせいぜいが白い肌が蝋のように軽く透けて見える程度──…
 何という怪異! 端倪すべからざる魔人のわざ!!
「忍法蝋涙鬼(ろうるいき)。ヌシにはチト余る代物じゃて」
 やがて茫然たる男の前にたどり着いた木錫は、意地悪い笑みの籠った上目遣いをしながら
しっしと手を振った。
「ほぅれほれほれ。逃ーげーたーらーどうじゃあ〜? どうせヌシはわしにゃ勝てん」
 身長差は大人と子供ほどあるにも関わらずこの所業というのは何とも間が抜けた感じだが、
言葉自体は至極理性的で的を射てもいた。
「戦略的撤退もまた良しじゃ。弱いものいじめをする趣味はないし、ヌシほどの使い手をかよう
なつまらぬ争いで殺めるのもつまらん。何十年かの修練、呆気なく水泡に帰したくはなかろ?
第一な。これが一番重要なんじゃが……喰ってもまずそうじゃからのう」
 ケラケラとした嘲笑を浴びる男の風采は確かに悪い。だが彼は蒼然たる面持ちから絞り出す
ような声を漏らした。