【アカギ】福本作品SSスレ【カイジ】

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1創る名無しに見る名無し
福本作品の二次制作で、エロ以外の作品投下や講評であれば自由なSSスレです

作品──「天」「アカギ」「銀と金」「熱いぜ辺ちゃん」「カイジ」
「無頼伝 涯」「最強伝説黒沢」「賭博覇王伝零」他。短編など
2参考他スレ:2008/11/21(金) 00:28:54 ID:ebblNPU0
もしも福本漫画主人公たちが大家族だったら
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220206389/
(キャラ同士が家族の設定。主にセリフで構成)

【アカギ】もしも福本キャラが同じ学校だったら【カイジ】
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1220396374
(キャラ同士が学生またはクラスメイトの設定)

福本漫画バトルロワイアル
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1216725766/
(バトルロワイアル形式スレ)

【アカギ】福本漫画のエロパロ【カイジ】
(18禁。エロパロ板)

漫画キャラバトルロワイアル
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1224671738/
安価漫画キャラロワイアル
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1225541981/
(他の漫画家作品とのクロスオーバースレ。バトルロワイアル形式)
3創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:30:41 ID:ebblNPU0
作中に名は存在しますが、独自に制作したキャラを一人書いています
「何故カイジはベンツばかり狙うのか」をテーマに
カイジは原作の中で、腕尽くの喧嘩が強い事から制作
黙示録直前の過去話で、カイジとガメラ35の越境でもあります
4夜明け前のベンツ 1/10:2008/11/21(金) 00:31:32 ID:ebblNPU0

こんな筈ではなかった。
いや「俺はこう言う人間だったのか」と気付いた……そう言った方が的を射ている。
その「俺」こと伊藤開司は、そう思ってからすぐに会社を辞めていた。

東京へ来て二度目の冬、無職の青年カイジは狭いアパートで十二月を迎えようとしていた。
秋に会社を辞めてから一日も働いていない。
勝って、勝って、勝って、負けて、勝つ。そんな感じで行くとイメージしていたギャンブルも…負けが込んで、手に取る酒を廉価に変えていた。
「カイジやばいんじゃねぇ?」
「何が」
「金あんの?」
「ひと月暮らすくらいはある」
咥えタバコのカイジは、仰向けで自室の天井を見ていた。
賭けがらみの仲間、松田に声をかけられても…覇気なく答えるだけ。
「…カイジにぴったりの仕事あるけど……短時間で金は良い。クラブのさ…」
「俺がクラブで何出来んだよ…」
「何言ってんだ。ボディーガードだよ。あんたプロだったろ」
「一ヶ月な」
「でもカイジ凄えって、本当に凄かった」
松田はカイジの熱烈なファンでもある。目の前にいるカイジとは違う、
リング上のカイジは精悍で鋭敏。付け入る隙のないキックボクサーだった。
引退して間もない頃のカイジならこの誘い…結果はどうあれまず最初に断っただろう。
だが今のカイジは
(金…)
と、タバコの紅い灰だけを見ていた。
5夜明け前のベンツ 2/10:2008/11/21(金) 00:32:21 ID:ebblNPU0
「おかしいんやないかな、それ」
カイジの麻雀仲間、西田泰宏は言う。
「熱狂的なファンやったらたぶん、そんな仕事勧めへんでカイジ」
松田がカイジを初めて見たのは、リングに視線を注ぐ客席からだったらしい。
カイジと互いに面識を持ったのは、そのずっと後の事。
「金が良いって言ってたから…何とかしてやろうなんて思ったんじゃねぇの?
 それに松田を信じ切ってるわけじゃねぇさ俺だって。…こんなもんかなってさ…」
「ちょっとでも嫌やったら、やめとき」
「それはあんたにそのまま返す。危ねぇ仕事してんじゃねぇの?」
背は低めで恰幅の良い体格、そしてパッとしない容姿の西田だが、大金を持ってカイジの部屋を良く訪ねて来た。
カイジよりも数段怪しい男なのである。
西田がヤクザだと知らないカイジ。二人麻雀で大勝した気の大きさで敗者の西田にキランと笑顔を見せる。
「カイジ」
こたつと言う怠惰に首まで浸かってヌクヌクしているカイジに、西田は話しかけようとする。
彼の真剣な様子に、カイジも真剣な顔で向き合おうとすると、いつも西田は話をやめた。
カイジを自分と同じ道……黒竜会へ誘おうとしていつも口篭っていた。
「いや…お前いつも強いなぁ」
雀力では到底カイジに及ばない西田でもある。
6夜明け前のベンツ 3/10:2008/11/21(金) 00:33:30 ID:ebblNPU0


「伊藤君もっと太ってくれたら良いね」
クラブの雇われ店長が、スーツ姿のカイジに笑顔で言った。
取り敢えず採用だが、今の見た目ではエスコートの方がそれらしい。
カイジのそこそこ長身で風采の良いスーツ姿。精悍で無愛想な顔付きだけがボディーガード向きだった。
給与は日払い。数時間の勤務で驚く程貰う。
「え!?」
恥ずかしながら…声が出た。
「良いの、良いの。それだけの仕事したんですよ」
美貌の店長が微笑みながらカイジにそう言う。カイジはこの仕事を続ける事になる。

(伊藤先輩だ。かっこ良い〜)
そう思っているクラブの後輩が、カイジに元気良く挨拶する。
「おはようございます!」
「おはよっす。来るの早くねぇか古畑」
「なんか俺、こう言う事しか出来ませんから」
後輩と言っても二人の職種はまるで違う。派遣元と派遣先は同じだが古畑は清掃係である。
若者の清掃員と言う存在が、カイジを心地良くさせる。
(若い奴が汚い仕事するって良いよな)
大層な主義主張もなく、カイジはぼんやりとそう思った。

仕事を続けていればカイジの能力を発揮する場面も出て来る。鮮やかなものだった。
癖の悪い客を追い返す時も、あまり酷い事はしない。
そして高校でもプロになってからも(どちらも勝負数は少ないものの)肉弾戦は無敗のカイジ。クラブの女性にモテ始めた。
カイジ…高校以来、人生二度目のモテ期が来そうである。
金も得た。日払いのシステムも手伝ってか、働いて得た金と言うより……
ギャンブルでちょっと勝った時に得る金に、味が似ているとカイジは思っていた。
7夜明け前のベンツ 4/10:2008/11/21(金) 00:35:52 ID:ebblNPU0
カイジが働き始めて二ヶ月が経とうとする頃、数日遅れて働き始めた後輩はこう言った。
「先輩助けて下さい、どうしても金が要るんです。迷惑かけませんから保証人に…」
古畑の渾身の願いも空しくなる程、カイジはあっさり保証人の判を押した。
「あの…」
頼んだ古畑の方が戸惑っている。
「おい、松田が来たぜ」
「あぁ、あぁ、カイジさん。この事松田さんには言わないで下さい…バレたら俺…」
「お前、保証人になって貰っといて図々しいぞ」
「カイジさぁん」
「クビになるくらいなんだってんだよ」
いつも通り無愛想な様子を古畑に見せると、カイジは松田に歩み寄る。
「カイジ! あんたやっぱり凄いって!」
カイジと古畑の派遣マネージャーである松田は、カイジの働き振りに喜んでいる。
「よぉ、なんだ用事って。それより古畑がさ」
「か、カイジさんっ…」
カイジは時に別人のように変貌する事があったが、この仕事に就いてからは頻繁にその姿を見せた。
その時の彼は粘るように攻撃的で鋭く、勘も抜群に良くなっている。

カイジも常時覚醒しているわけではない。鋭くない時もあった。
この時…クラブの広い控え室で、松田と二人切りソファーに座った時などは、勘が鈍っていたと言える。
「カイジさん…気付いてると思うけどさ…」
松田は急に改まってカイジに話しかけた。
「ウチの組来る?」
「?」
彼は松田組のヤクザであった。組と名を同じくする幹部である。
「待て、急にそんな事お前」
スーツ姿の凛々しいカイジ、慌てる。
「気付いてなかったのかよ。カイジの体力と経歴を俺のそばでさ…生かして行きたいな」
「俺に出来るわけねぇだろ。出来ねぇよ、無理」
「うん…わかった。カイジは座ってればそれで良い」
「もっと出来るか、そんな事!」
「働かなくても良いんだぞ」
「マジ……バカ。……お前本気かよ。昔ファンだったからっておかしいだろそれ」
「誰が昔って言った。今もファンですよ」
「……俺、ちょっと、帰る」
「カイジ」
「無理、無理」
「カイジぃ」
8夜明け前のベンツ 5/10:2008/11/21(金) 00:37:16 ID:ebblNPU0
夜の中を、カイジは一目散に走った。
(死ね! 松田)
彼にはもう二度と会いたくないと思っていた。
「カイジ!」
ネオンの眩しい歩道で、聞き慣れた声に呼び止められた。
「これからお前の店に行こう思ってたんや」
「西田さん」
西田はネオンに照らされた黒いスーツとコート姿のカイジを、上から下までじっくり凝視する。
「へぇ、お前ええ男やったんやなぁ。知らんかった」
「今そう言う事言うのよせよ……店辞めんだ俺」
カイジは半笑いの弱り顔でそう言う。
「今日…ごめんな。代わりに俺奢るわ」
「カイジが奢るぅ!? 地球割れるでほんまに」

奢る店に招く…それを待たないうちに、カイジは路上で西田に語った。
「松田が俺をこの仕事に誘った理由さぁ…」
「ふん」
「最もらしい、素晴らしいモンだったぜ」
「ぎゃはは」
西田はカイジの口から……松田にヤクザの道へ誘われた事、
松田がコートの裾に縋って来た事などを細かく聞き、声を上げて大笑した。
「カイジ、カイジ、わいも言いたい事あんねん」
「ん」
「わいもヤクザや。黒竜会の」
カイジの大きな瞳がさらに、少し見開かれる。
「若くて良いの探しとってな……でも、駄目やったな。
松田の事聞かんでも誘うつもりなかったわ、カイジは。
優しいやんかカイジ。なんか……わいなんかちょっと感動した時もあったんやで」
カイジと西田の側らに、一台のベンツが止まった。
(あ、ベンツだ)
そんな事を考えているカイジに、西田の最後の声が掛かる。
「もう会うこともないやろ。カイジ、その方がええ」
「んな事言うなよ。じゃあな」
「そうか? ほな」
白銀のベンツが夜に溶けて見えなくなって行く。
9夜明け前のベンツ 6/10:2008/11/21(金) 00:38:49 ID:ebblNPU0

(ヤクザだったのか……なるほど…そんなもんだよな。そんなもん……)
カイジは気付いた。自分は高く評価されると、ヤクザの道へ入ってしまう事。
行く道が極道。ヤクザからしか誘われない事を。
ここ数ヶ月は働かなくても生きていけるカイジ。松田が恐ろしいので自宅にはしばらく帰らなかった。
だが出先…ムーンと言うスナックでとうとう捕まってしまう。電話での事だった。
「居ねぇって言ってくれ」
カイジにそう言われ、店のマスターは松田からの電話を丁重に切っている。

店を変えて居酒屋の白穂。何度か麻雀をした事のある高校生がカイジに走りよって来た。
「カイジさん、西田さんが撃たれた。松田組に」
カイジはその声に、居酒屋の畳から立ち上がる。
カイジの静かな猛りに圧倒されながら、青年は西田の事を伝えようとする。
「カイジさん…最後まで聞いてくれ。結果は、悪くない」
撃ったのは松田組だか、黒竜会が西田を裏切ったとの事。
どんなクズでも死ぬ事は出来るだろうと…黒竜会の幹部金光が、抗争のバランスの為に
わざわざ西田に死んで貰うお膳立てをしたそうだった。
黒竜会の何人かが死ぬ事で、松田組に手打ちにして貰う為。
金光は最初から…その為だけに西田を雇ったらしかった。
(地獄だ…)
そう思ってもカイジは表情を歪めず、青年の話を待った。悪い結果じゃないとはどう言う事なのか。
「二人の男が車から拳銃を向けて、俺達を何発も撃って来た。
西田さんも俺達と一緒に居て、四人で一つのテーブルを盾にして隠れたんだけど、
その時、日本刀しか持ってなかった西田さんが」
前に出ろと言ったと言う。生きる為だと言って、青年達に取っても命綱のテーブルを前に出させた。西田も一緒に押し出しながら。
「このままじゃ皆死ぬ、この刀の届くところまで行かないと活路がないって、だから。
少し前に出てからは西田さんが盾もなく一人で走って行って、斬った」
西田は銃を持つ男一人の肩を、刀で刺したそうだ。
「四人全員助かった。
当たってない、西田さん、何発も撃たれたけど、玉は顔をかすめただけなんだ」
それを聞き終えたカイジ。
(帰って来た。生きて帰って来たんだ、西田さん)

西田は消えてしまった。どこかへ行った。どこかへ行って、ちゃんと地に足を付けてしっかりと生きて行くのだろう。
ヤクザは懲り懲りなんて言って。
……カイジは西田を偲ぶ。
西田さんどこへ どこ行ったんだよ
10夜明け前のベンツ 7/10:2008/11/21(金) 00:40:08 ID:ebblNPU0
また例の店で、カイジは松田の電話に捕まった。
「切りますか?」
マスターはカイジに尋ねる。
「いや」
と、カイジは店の受話器をゆっくり取った。
「松田」
「カイジ…」
カイジが出たのに、松田は嬉しそうな声を出さない。落胆して身も世もない雰囲気である。
「頼むから店に出てくれ」
「行けるかよ」
そう松田に言うとカイジは電話口を押さえて、マスターに少し長くなる旨を伝える。
電話はもう一台あるから心配ないとの事で、カイジはトイレの洗面台の前まで子機を持って行った。
「俺、店に顔出さないから…もうカイジに会わない、何にも誘わないから、出勤してくれ」
「行かない。俺な、もう夜の…そう言う仕事する気ねぇんだ。お前のせいだぞ」
「カイジ………あんただってバカだ」
松田の声が異常に悲しく震えている。カイジはヤクザの、松田組の若い幹部を心配した。
「どうした?」
カイジに優しい声をかけられて、松田は嗚咽を漏らした。泣き出してしまった。
「どうしたんだよ松田」
カイジの声はどこまでも優しくなる。
「とにかく働いてくれ…金貯めろとしか俺も言えねぇんだよ、カイジ」
「理由も言えないのかよ」
「言えない…だから、これでもう電話もかけない。カイジごめんな。辛い思いしたらごめんな」
血の出るような声で泣く松田の方から、電話は切られた。
松田も…古畑があれほど駄目な男だったとは予想だにしなかったのである。
松田は自らも借金を負わせていた古畑の別の借金、そのとある一件を知ってしまう。
この件を松田がすぐに把握出来なかったのは、
件の保証人となったカイジが、松田に古畑の借金の事を一言も言わなかったからである。
(帝愛……!…保証人、伊藤開司、バカ!!)
白黒のFAX用紙を握り締めて、松田は呻く。カイジと帝愛が絡んでしまった。
カイジを救おうにも、松田組は帝愛に借りを作れるほどの組ではない。
松田はカイジをあきらめたのである。そして純粋に友人としても心配するほど、帝愛の恐ろしさを知っていた。
「松田?」
カイジは松田の出方に受けて立とうと決めたのだ。
しかし初めて電話を取ると、その一度で話は終わってしまった。
クラブでの物別れ以来、電話しかかけて来なかった松田。
カイジは淡く感じ取る。松田組の幹部にも手に負えない何かが…不確かだが冷たく自分の側らに控えている可能性を。
永遠に松田の声が失われた受話器は、カイジがすでに孤独である事を、
そして松田組以上の暴力組織がある事を伝えていた。
11夜明け前のベンツ 8/10:2008/11/21(金) 00:41:56 ID:ebblNPU0


カイジは一枚だけ残したスーツを着て、残りのスーツを持ち質屋へ向かった。
夜働いていた時の物は、全部と言って良い程金に換えている。
カイジと言う人間の様子さえ変わる程、彼は枯渇を深めていた。
生来、働きたくない男である。
一時、本当に一時だけ金を持っていたカイジ。あの頃は今とは違う意味で生を感じていた。
世の中がリアルに感じたと言って良いのか。あれこそ現実感のない日々だったのか。
とにかく、湯水のような金の感覚を一度は知ってしまった。
(金…金だよな…)
ぬるい溜息に身を任せて、まどろむような今の日々と金の事を思った。

質屋の駐車上で、カイジはまた見る。
(ベンツ…)
銀色の強い、白いベンツ。その中から、黒服達に金光と呼ばれている男が出て来た。
西田の上司と同じ名前、似た顔、車、まず間違いないと判断できる。
カイジと西田が別れたあの時、ベンツの後部座席に座っていた男だろう。
松田組 狙撃隊の的として西田を利用した、黒竜会の金光。
西田は金光に騙されたその後、襲って来る松田組の三下2人を怯ませて、退かせた。
そしてその足で黒竜会から消えた。
(俺は)
カイジは自問する。自分に出来る事。
(ボコボコにしてやる)
金光を殴りたいと思った。しかしただ襲って溜飲を下げたい、それ言うわけではなく、
ヤクザと自分を切り離す標として金光こそを利用したいから
「俺は松田組でもなんでもない、何の背景も持たない、伊藤開司だ」
そう言って顔を晒し、殴り倒したい。
しかし出来るのか。下手をすると取り巻きの黒服達に殺されるかも知れないのに。
(行け!)
頼もしい自分の足に命令する。
(行け、今しかない!)

黒いコートのカイジは走った。金光の顔を回し蹴りで吹き飛ばす事は容易だ。
閃光のような蹴撃。だが失敗。金光の髪しか蹴り飛ばせなかった。
その後はただ逃げるだけ。遮断機の下りた線路の中へカイジは逃げ込む。
電車のすぐ目の前まで躍り出て、車輪の目前を横切り、向かい側の遮断機も越えて行く。
「俺は、伊藤開司!」
夕暮れの住宅街を斬るように駆ける声。それを大声と認識は出来ても、
嵐のように走り去る彼の名など、誰の耳にも届いていない。
12創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:42:03 ID:vQ0Ibbtm
支援
13創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:42:39 ID:vQ0Ibbtm
支援
14創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:42:59 ID:vQ0Ibbtm
支援
15夜明け前のベンツ 9/10:2008/11/21(金) 00:44:35 ID:ebblNPU0
遮断機の場所と、電車の来るタイミングを計算し、勝算を持って走り込む事になんの意味もなかった。
金光は最初から、黒服達にカイジを追わせなかったのである。
丸腰だったカイジ。ただの脅しか、度胸を試したいだけのガキだと思って金光は膠もない。カイジを侮り、関わるのが面倒そうな金光。
ただ彼の頬はカイジの爪先によって、赤く滲んでいた。
その負傷を瞬時に悟られ、黒衣の青年にニヤリと笑われたのは腹に据えかねる思いの金光だが、
あの男を探せと騒ぎ立てるのは避けたかった。カイジを侮り過ぎているからか、
あの笑顔を脅威と認めたくなかったからか。

犯人は、犯行現場に戻ると言う。
日が落ちて夜になった頃、カイジもひょっこり駐車場に戻って来た。
金光の用事はどれほど長いのか、ベンツはまだ認められる。
西田との別れは衝撃的で、あの時見た人、風景は鮮やかに、ベンツのナンバーさえなんとなく覚えているカイジである。
この車はあの日、西田を乗せていった白銀のベンツ。彼の推察通りだった。
カイジの勝負経験が、悪い方向に騒ぐと凶行に変わる。
意を決して行動する事は結構だ。しかし夕方のあれは勝利ではない。そう思ってベンツの前に立った。
(自由になりたい、道を開きたい)
銀の美しいメルセデスベンツが、黒いスーツのカイジの前で妖しく光っている。
俺にはヤクザの道しかないなんて。
カイジの武器、攻撃は、工事現場から無断で借用したハンマーだった。
ベンツは最初の一撃で、乗り物としての命を散らす。
「アハハ」
魂が震える様な、歓喜の声が出る。
逞しい腕力に物を言わせて、カイジは無抵抗の車をどんどん痛めつけて行く。
「…くっそぉぉっ! 誰がヤクザになんか!」
軽やかに襲撃し、黒いコートをマントの様に翻して攻め終える。
踊るように帰路に就くカイジ。路の途中で蹲り、一人泣いた。

カイジをヤクザにしたい者の思いは、多くの場合見込み違いに終わる。
金光も、蹴られた時は「あいつは極道かも知れない」とカイジを思っていたが
車が大破されたのを見た時は「これは素人の犯行」と判断。
男としての評価、敵としての評価を、カイジは物言わぬベンツがきっかけで下げる。
その無残な姿は…ハンマーを振りかざした本人が情けなさで泣きたいほど。
ヤクザに成るどころか、ヤクザに関わったら食い物にされるだけだと恐れながら。
16創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:46:35 ID:vQ0Ibbtm
17夜明け前のベンツ 10/10:2008/11/21(金) 00:46:37 ID:ebblNPU0


東京へ来て三年、伊藤開司は最悪だった。
正月が明けてから一日も働いていない。
しょぼい酒としょぼい博打の日々。そんな鬱憤を晴らす為に…
しかしそれはベンツではなかった。今日はいつもと違う日になる予兆か。
あの時の快感が忘れられないカイジは、せっせと破壊を営む。
一台のBMWはカイジによって犯され、路上に痛ましい体を晒す事になった。
家に帰り、一人思う青年
(金だよな…金…)
今度は思うだけで涙が零れた。
(何にもねぇな、俺)

カイジは、上京して一年後にケガで選手生命が絶たれた時、ジタバタせず上京以来続けていた他の職に従事していた。
それから半年後…不意に気付いて何も出来なくなる。東京に来て二度目の秋の事だった。
(俺は弱いんだ)
その時までカイジは、自分は強い方の人間だと思っていた。
働く事、労働に向いていないと切実に思いはしていたものの、
選手引退が大きな引き金になったとは言え、働けなくなるとは思わなかった。
(駄目なんだ俺)
当時、20歳前の青年がそう気付いた。

(ヤクザからしか誘われない…か)
カイジは、キックボクシングも他人から誘われて始めた事を思い出していた。
流されている。流されて生きて来た。
「俺がやると決めてやる」
カイジに取って、そんなものはどこにも

カイジが涙を拭いたこの時、彼の部屋に来客がある。
西田とは全く種類の違うヤクザが、扉の前でカイジを待っていた。
金光とも松田とも違う。持っている車はベンツではなくBMW。

ヤクザは運命ごとカイジの前に差し出す。彼の行くべき本当の世界、希望の船への入り口を。

18創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:49:13 ID:vQ0Ibbtm
19創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 02:54:16 ID:yYZCvNfh
GJ!
スレたて&作品投下乙!
遮断機越えて逃げるシーンが格好良かった!
あえて自分の評価下げるってとこがカイジクオリティw
20創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 08:28:41 ID:+iNnGCyu
>>1 スレ建て乙であります。
カイジの戦闘力の高さの秘密。
ヤクザだって表明して近づいてくる西田さん&松田さんより、
人懐こい後輩の顔で近づいてきた古畑のほうが質悪い…

9/10のカイジが狂気をはらんでて怖いです。
21創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 16:35:46 ID:ik5RJX0D
一応確認しとくがカップリングとかそういうのは無しだよな当然
やおいであれノーマルであれ勘弁したいから聞いとく
22創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 18:27:31 ID:vQ0Ibbtm
福本キャラでやおい…想像できんな
23創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 01:55:11 ID:nOI4886s
支援そして感想、ありがとうございます。>>2 にあるスレには投下出来ないようなSSの発表などもどうぞ

>19
遮断機のカイジ、カイジは身体能力が高いですよね。その能力の理由に触れない原作が凄く好きです。
テッシュ箱くじ前のカイジとか「よせば良いのに」感がいっぱいで見てて脱力します。原作の魅せる力は凄い
>20
カイジの狂気は、Eカード編がえらく好きなもので。古畑の事は安藤よりも嫌いと言う読者さんも多いそうですね
24創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 01:57:50 ID:nOI4886s
カップリングは有りと言えば有り、ただ「成人向けの描写のある作品」や「男×男」は
該当スレ(エロパロ、801)がありますのでそちらで是非。

そしてカップリングと言っても、原作で描かれていない、SS作者の制作による設定が
顕著に書かれる二次には、投下の前に注意書きが望ましいかも知れませんね。
(イチャつきこそが本意のSS、オリキャラが出る、など)
ただし、事前に注意書きすると作品のネタバレになる場合もあると思うので
そこは書き手さんの判断で。危険だけど爆笑できるSSもありますし
25創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 03:47:41 ID:nOI4886s
チキンラン直前の、アカギの過去話です
26夢を越えて 1/3:2008/11/23(日) 03:48:28 ID:nOI4886s

昔の日本人は現実と夢をわけていなかった。いや、夢の方を現実として扱う場合もあったのです。

誰かがそう言っていた。
13歳のアカギがふと、そんな言葉を思い出しながら長屋の狭い路地を歩いていた時である。
ポンプの近くに座り、子供と手遊びをしている男がいた。
アカギがその男に近付くと、子供達は何か感じたのか、ササッと皆居なくなってしまう。
「よお」
「…ああ」
男に低い声を掛けられ、アカギは返事をした。
「遊んでいかないか」
「クク…俺とかい。どんな遊び?」
「トランプ」
「それなら出来る」
そう言ってアカギは男からの誘いに乗った。
「あんたは…さっきの子供達のようには行かねぇよな。何か賭けよう」
「何を賭ける」
「腕」
男は短く、アカギにそう答える。
「……いいのかい。あんたも俺も同じ条件で」
「あぁ。お前が勝ったら持って行きな」
そう言うと男は立ち上がって、アカギを賭場に連れて行った。
27夢を越えて 2/3:2008/11/23(日) 03:49:53 ID:nOI4886s

勝負はポーカー。男がカードを切っている。
「子供に逃げられるような大人はつまんねぇぜ」
「……俺に言ってるのか」
「そうだ」
「クク…俺が大人に見えるのかい…」
「十分だろ…それで」
確かにアカギは5つ程年上に見られるのが常だ。しかしこんなに年の離れた男に大人と言われるとは思わなかった。
「勝負事は好きかい」
と、男がアカギを誘うように問う。
「あぁ」
「じゃあ俺も本気をだそう」
そう男に言われ、本気を出されたアカギ、引き分けてしまった。
(あ……)
生まれて始めて引き分けた。
「良い勝負だったな」
そう言う男の顔はずっと真っ暗闇だった。だからアカギは見ようとする。
28夢を越えて 3/3:2008/11/23(日) 03:51:02 ID:nOI4886s
「おじさん…顔見せてくれ」
初老の男が近づける暗い顔を、アカギはしっかり見定めようとする
俺──
顔に皺は刻まれているが、自分である事はすぐにわかった。

昔の日本人は現実と夢をわけていなかった。いや、夢の方を現実として扱う場合もあったのです。

誰かがそう言っていた。

自分に足る者は、成長した自分しかいない。
これが現実だった場合を、アカギは想像する。
現実であった場合の…絶望にも似た孤独を前にしても、アカギは少し目を見開いただけだった。
「おじさん…これ教えてくれ」
と、アカギは自分の足元にあった麻雀牌を、初老の自分に見せた。
「そいつを知らないのか」
「ああ」
「でも、それは教えられねぇんだ…なぜなら、俺は……」
アカギはここで目を覚ました。10代始めの瑞々しい瞼を上げる。
覚醒したばかりの顔でキョロキョロとあたりを見渡すアカギ。
(教えられないのはなぜさ…その先は良い話かい…?)
良くも悪くも受け止めるから、言ってみなと…アカギは夢の男を少しだけ待ってみた。

夜になるとアカギは車のギアを握っていた。最高速度で車体を軋ませる。
窓を開けて走る神域の男。激しい雨が彼の白い髪を、頬を、シャツを濡らす。
13歳の男が車を走らせるその先は
(その先は…)
その先をただ黙って見据えて、ブレーキは踏まない。アクセルを踏む事でしか見えない世界がある。
その世界の入り口でアカギの体が瞬間、車ごと浮き上がる。そして見た事もない夜の海へ潜って行った。
29創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 03:56:05 ID:a5n7oBnl
え?え?13歳のアカギが会ったのは大人になった自分?
そして最後は海に車ごと突っ込んで自殺?
30創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 04:20:54 ID:nOI4886s
そう、53歳のアカギ。
で、車の13歳アカギは原作のチキンランとして。
アクセルを踏んだ理由と、レースの結果、レース後アカギがどこへ行ったかも「アカギ」の原作通り
31創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 04:45:57 ID:nOI4886s
めっちゃ早く読んでくれて、ありがとうございます
32創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 04:48:51 ID:a5n7oBnl
いやごめんアカギ読んでない俺がなんだかんだ言うべきじゃなかったな
33創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 04:52:49 ID:a5n7oBnl
しかしこのスレってリンク貼ってる他の関連スレとか原作スレに宣伝してないの?
人気がある作品の二次創作で、実際に作品も投下されているにしては人がいない
34創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 05:15:11 ID:nOI4886s
あ、そうだったんですか。「アカギ」はそらもう面白れーですよー
そう言えば53歳のアカギは「天」と言う別の漫画に出るので、厳密に言うと越境でした

【アカギ】福本作品雑談スレ【カイジ】
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1220311550/
お世話になったので↑こちらには報告を。他のスレには宣伝してないですが
福本関連のスレをおそらく全紹介してる「福本吹いたスレ9」にリンク貼って頂けた様子
35創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 12:00:55 ID:D6JUjplv
面白かった。53歳の赤木さんと逢う13歳アカギ。
53歳の赤木さんは覚えているのかな?

宣伝は難しい。新スレが建つ毎にテンプレに貼って誘導するのが
好いのでは?興味のある人は覗いてくれると思う。
創作発表には3つのアカギ関連スレ(進行も同じくらい)があるから、
まとめておくと何度でも張ってもらえるかも。
作って雑談に貼っておくよ。
36創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 13:44:46 ID:jyJAdD6K
カイジとアカギ、どっちの話も良かったです!
371/3:2008/11/25(火) 18:01:05 ID:QXdFDvOz
二次総合スレから転載、アカギ三世代話。作者の許可は貰ってます。






「くそじじい」


「くそがき」



自分のそれより少し高い声と自分のそれより少し低い声がそう言ってげたげた笑い合っている。果たして、自分はこんな風に笑う人間だっただろうか。
あまり理解は出来ないがなんだか仲が良さそうなので放っておくことにする。
窓の縁に腰掛けて煙草に火を付けながらそういえばどうしてこんな所に居るんだったか、と考えていると背後から甲高い声が降って来た。

「兄さん」
「…どうした」
「今あんたの話をしてたんだ。随分派手にやってるそうだね…丁半やってヤクザに斬られたって?」
「そうそう、アレは痛かったよなあ。やせ我慢も良いとこだ」
子供の問いに重なるようにからかう様な低い声。

「…あんた達だってそうするだろう」

「俺は嫌だよ。そんな事で死にたくないね」
「ああそうだなあ、死ななくて良かったが馬鹿な事をしたよ」

学生服の少年と派手なスーツの男が顔を見合わせてくすくす笑っている。二人して俺をからかっているらしい。
昔の自分と過去の自分。少し面白くなってきた。

「あんただって、どうせ録な死に方しないぜ」

口角を歪めて笑いながら、自分と同じ髪をした派手なスーツの男に言ってやる。
当然だ。俺はきっと博打で死ぬ。あんな歳まで生きているらしいのは意外だったがたった数十年でこの価値観が変わる事はないだろう。
それを受けて男がまた笑う。

「ところが、そうでもないんだよな」

畳の上に胡坐をかいて座っていた子供が猫の様にぴくりと動いて男の方を見る。

「教えてよ、じいさん」
「駄目だ駄目だ、こればっかりは教えらんねえ」
相変わらず楽しそうに笑いながらそれよりその呼び方はなんとかなんねえか、と子供の額を指でつついている。食えない男だ。

「自分の死に方なんざ知っちまったらつまんねえだろう。なあ?」これは俺に言っているらしい。
ああ、確かにそうだと答えて笑ってみせる。見慣れない銘柄の赤い箱から煙草を取り出し男も笑う。

「まあ…そうかもね」
小さくごちて子供が畳の上に寝転がる。
そういえば、六年前は良くあの人の家に上がりこんで畳に寝ていた気がする。
この子供の帰る家は相変わらずあの狭いアパートなのだろうか。
382/3:2008/11/25(火) 18:03:08 ID:QXdFDvOz


「なんだ、がき」

畳に手足を投げ出したまま男をじっと見上げて居たら顔を覗き込まれた。三十年後の自分はこんなニヤついた顔なのか、と改めて思う。

「さっきそうでもないって言ったよね。って事は、あんたは死人なのか」
「さーて、どうかな。でまかせ言うのはお前も得意だろう」

食えない男だ。ふ、と小さく笑うと男も同じ笑い方をした。

「あんまり先の事を気にするもんじゃねえ」
「まあね。でも、こんな狂った事二度と起こらないだろう。多少は気になるさ」

全く、狂っている。気付いたら目の前にこの男ともう一人、背の高い青いシャツの青年が居て、よくよく聞けば六年後の自分と三十年後の自分だと言うのだ。
最初は信じなかったのだがどうやら本当らしい。この大人達は自分と同じ生き物だった。

小さく掠れた笑い声が聞こえたので視線を変えると、六年後の自分も笑っていた。

「兄さんも思うだろ?」

すっかり丸くなってしまったらしい初老の男に比べるとまだ自分に似ている気がする青年に声を掛ける。

「ああ…どうかしてやがる」

くつくつと笑いながら青年が煙草に火を付けた。
どうやら将来の自分はヘビースモーカーらしい。何本目だか知らないが臭くてかなわないのでやめて欲しい。

「…タバコって、美味いの?」
「まあ、なんとなくさ…。お前もその内吸い始めるだろう」

はぐらかすようにひらひらと手を振られた。
自分も真面目に質問に答える性質ではないが他人にされると案外腹の立つものだ。これからは少し考えよう。


「ああそうだ、墓には行ってるのか?」

思い出したように問い掛けながら青年が顔を上げた。昔の自分─即ち俺にそんな事を聞く筈も無いのでこれは男への問いだろう。

「ああ、変わらず行ってるよ。サボったら祟られそうじゃねえか」
「…そうだな…違いない」

くつくつと、同じ笑い方をしながら二人が顔を見合わせている。
良く分からないが、こいつらの世界では墓参りをするほど親しかった誰かが死んでいるらしい。自分にそんな人間が出来ている事は少し意外だ。
果たして自分の知っている人間だろうか。俺の知らない未来の事だろうかか。流石にそれを問う気にはならない。
「ま…元気にやってるだろうさ」
スーツの男が変わらず上機嫌な様子で小さく呟いて、深く吸った煙を天井に吐き出す。全く、未来の自分は不思議な男だ。

393/3:2008/11/25(火) 18:03:43 ID:QXdFDvOz



「ところで…ここが何処だかあんたは知ってるのか」

灰皿の淵にとん、と灰を落として窓の方に顔を向ける。
刃物のような鋭い目をした青年。いくらか昔、まだ若い頃の自分だ。
昔の俺はこんなに悪い顔をしていたのかい、と思いながら小さく笑う。誰の仕業か知らないが全く面白い企画だ。

「ああ、知ってるよ」

この古い、狭いアパートは見知った場所だった。9年前迄はちょくちょく出入りしていたので間違いない。
「まあ…俺の家みたいなもんだ」
強ち嘘でもない。当時は若い家主にそう言って引っ張り込まれたものだ。

「家、ねえ…」
腑に落ちない様子で呟いてそっぽを向く青年が愉快でたまらないので、また小さく笑う。

隣に視線を落とすと学生服の少年が寝息を立てていた。
こいつらは過去の自分に違いないのだが、なんだか子供や孫が出来た気分だ。悪くない。
短くなった煙草を消して新しく火を付ける。煙を吸って吐き出す。




「もう…日が暮れちまうなあ」


暗い青と深い赤、僅かに鮮やかな橙。
詩的な表現なんかは出来ないが、青年の肩越しに見える東京の空をとてもうつくしいと思った。五十三年間、終ぞ変わらなかった空だ。



もしかしたら、これは俺の見ている夢なのか。
走馬灯って奴とはちょっと違う気もするが、間際に変な物を観ることは珍しくないと聞く。

夢だとしたらそう長く続く物ではないのだろう。

急に思い付いた答えに満足しながら小さく伸びをして少年の横に寝転がる。
古い畳の匂いを、懐かしく思う。窓からの、夏の終わりの風が心地良い。




──最後に、こいつらと話せて良かった。

そんな事を考えながら目を閉じて、眠気に誘われるまま意識を手放した。



40創る名無しに見る名無し:2008/11/25(火) 23:32:17 ID:fz1wnKqA
作者さんの許可が貰えるものなら、このスレでも紹介したい…
と思っていた作品でした。まさに僥倖
41創る名無しに見る名無し:2008/11/25(火) 23:34:36 ID:fz1wnKqA
それでさっき二次総合スレの最近の書き込み見たら
>【アカギ】福本作品SSスレ【カイジ】
>みんなで焼き土下座をするスレです
あったかい紹介がありました。しかも今帝愛のSS書いてます

優しい >35 さん…!

みなさま感想ありがとう…! また書きます
4240:2008/11/26(水) 00:27:59 ID:WuEhGirG
良いですねぇ。アカギの三者三様
43創る名無しに見る名無し:2008/11/26(水) 17:35:12 ID:+/LAIONc
>>41 待ってるよ〜
44創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 03:51:36 ID:fiZLVEDG
兵藤会長が、帝愛の社長だった時代として設定した過去話です。二度に分けて投下します
45  1/8:2008/11/30(日) 03:55:02 ID:fiZLVEDG


「驚いたぞ、本当に若いな」

豪奢な椅子に座る帝愛社長、兵藤和尊の前に若い男が一人立っている。

この若い…末端の帝愛社員は、

独力で「兵藤はギャンブル好き」との性質を調べ上げ、直接兵藤社長に会える機会…つまり今の状況を自ら作り上げた。

自力でこの場を掴み取ったのだ。

「うちの部の若い者に凄い奴が居まして」

そう部下から連絡を受けたのが、兵藤に取っての始まりだった。

その部下…つまり青年に取っては上司となるが、その上司が兵藤社長に紹介したくなる存在となる事…

存在なのだと自らを知らせる事から、青年の動きは始まっていた。

全ては、一人で社長に会う為。

会いたいと言ったところで会えるものではない。帝愛に入ったばかり20歳そこそこの青年。

会える材料がなければ。

高校卒業と同時に暴力団組員と大学生の二足のわらじ。

黒い蛇の刺青を腕から取らぬままに帝愛入社。

だが、それはこうして社長に会えている理由ではない。

「さて、本題だ。聞かせて貰おうかな君の武勇伝を」

社長の知る博徒達にEカードで全勝したと言う、この青年の戦い振りを。

すでに無敗の帝王の迫力を持つこの若者の能力を。

「お時間と、お言葉も頂き幸甚でございます。勝利には理由があります」

「ほう」

「その理由をお伝えしたく。この度、願い上げたい儀はその上での事です」

「なるほど。一人で会いに来たのは儂にだけ聞かせたいからか」

「恐れ入ります。失礼は承知で参りました」

「して」

「私は人の心を読みます」

青年は鼻に詰まったような低い音、そして仄かに舌足らずだが男の色気を感じさせる、老成して落ち着いた声で言う。

「私の力を、社長の賭場で使わせて下さい」


46  2/8:2008/11/30(日) 04:01:58 ID:fiZLVEDG
「儂にじかに会おうとする気概、それを叶える為の根回し、どれも素晴らしいぞ。
 しかしその能力を確かめんとな。論より証拠だ。君の力を見せてもらう」
「はい」
「儂の心を読んでみたまえ」
青年は少し垂れた双眸をゆっくりと閉じ、瞼が塞がれると弾かれたように瞳を開いて言った。
「“眠い”」
「……ハハハッ!…さすがだなっ、飛んだぞ眠気が!」
兵藤は椅子を捨て、立ち上がった。眠気など一切見せなかった瞳を開いて青年を見据える。
「良いだろう。君をただの社員にして置く程、儂も寝惚けてはいないぞ」
「光栄に存じます」
「しかし君、今は良いのだ」
「は」
「将来の保証があるか? こうした超能力の類は、不意に失われる事も多いと聞く。
 失われてしまった時、君はどうするね」
青年が社長に深々と頭を下げ、ここまでやりきった事への達成感と深謝の言葉が部屋に広がっていた時、兵藤はそう言った。
「社長のお呼びが掛かる限り、私は賭場に立ちます。能力がなくとも戦えます」
「本気か」
「はいっ」
「能力を失くしたなら、今までの経験を生かした洞察力や、イカサマを使ってでも勝負をして貰う事もあろう。
もし、そうなった時でも儂は君への評価を下げるつもりはない。
つまり、負けた時は超能力者としての責任を取って貰う。
絶対に勝利出来る者としての責任を負って貰うぞ、いいかね?」
青年は社長のこの言葉に息を呑んだ。一度見込んだ男の評価は下げない。
下げない事で理不尽が生まれ、多くの苛烈な運命が待っていようとも…誇り高いこの青年に取っては体に染み入る言葉だった。
喜び、意気込み、閉塞感を身の内に抱いて青年は社長と目を合わせた。
「勝てばよろしいのですね」
「ハハハ、そうとも。なんの事はない。君と儂が扱うのが勝利の一事であれば良い事。
 逞しい、骨のある男だ。言葉も強い」
青年に取って、他人の興奮した心は読もうとしなくても勝手に見えてしまう事がある。
社長の言葉はどれも本音だった。
「希望通り、君を今居る部署から儂の近くへ移そう。その為に一つ、試験を受けて貰うぞ。
 その当日まで試験の説明も出来ん、質問にも答えられない。日時は追って連絡しよう」
47創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 21:16:06 ID:yW2reUoh
青年って誰だろう?気になる…
待ち遠しい…
48創る名無しに見る名無し:2008/12/02(火) 06:23:53 ID:Cl7n1DME
>43 >47
ありがとうございます。出来上がりました
49創る名無しに見る名無し:2008/12/02(火) 06:26:26 ID:Cl7n1DME


それから幾日か経ち、青年は深夜に社長から呼び出された。今日が試験の日だそうだ。
帝愛と言う大会社で得られる出世と権力が、今彼の目の前に無防備に転がっている。
青年が招かれたのは地上15階、ツインビルの屋上だった。
ビルとビルの間に二つの長い鉄骨が渡っている。
西の屋上から東の屋上を目指して、空を渡る黒い鉄骨の真下…つまり60m下の地面にはツインビル専用の道路が走っている。
しかし今は暗闇のため、屋上からは道路の様子がわからない。
見渡す限り…ビル周辺の光はこの屋上と、長い鉄骨の途中に数箇所、小さな電灯が設置されているだけ。
青年は一人で帝愛の人間達と西の屋上に居るわけではない。他に五人の男達がいた。
年齢は老若様々で、五人の様子は尋常ではい。見ているだけで異常な緊張が伝わって来る。
「では説明します。この全長25mの鉄骨を渡り切る事。それだけで皆様の借金を帳消しとします。
 全員2時までに橋の上に乗り、各々乗ってから1時間以内に渡り切る事が条件です。
 時間はあります。よって、共に渡る相手の邪魔をする必要はありません。
 自分のペースで挑み、この機会を生かして頂きたいと思います。
 ただし、橋に乗れば渡り切るまで、途中棄権は認められません」
青年もその黒服の説明を聞いていた。そして屋上に居た兵藤に、特別に一人呼ばれ言葉を貰う。
「君も渡りなさい。それが試験だ」
その言葉に青年は少し目を見開いた。……しかし、…しばらくして頷く。
「…わかりました」
そして鉄骨のそばまで行き、地面を見下ろした。
「ふぅん」
と、がっしりした腕を組みつつ鉄骨とその下を見ていたが、すぐにも兵藤の下へ戻り青年は言う。
「一人で渡らせて頂けますか」
50黒い架け橋 4/8:2008/12/02(火) 06:33:37 ID:Cl7n1DME
「申し訳ないが、君にはそれを許す事は出来ない。君はあの者達と立場も違えば度量も違う。
 君には鉄骨を渡る三人の中間…つまり二番手で渡って貰うぞ。前と後に債務者の居る状態でな。
 それが私の用意した条件だ」
青年は黙って…しばらく長考した。
彼が読めるのは元々、他人の最も深く根付く感情や、荒ぶる心中の声。
相手の「静かな思考」は、今までも推察して勝負をして来た。
見抜く時は推量で見抜く。だから、見えなくとも今の兵藤の考えはわかる。
(社長は私が死んでも良いと思っている。私の能力が惜しくないのか、いや)
「……鋭い君に隠し立てしても仕方がないな。もちろん君の命だが、
 惜しいさ。君を心理戦の賭場に出せば勝てるのだからな。
 しかし、これは儂の賭けでもあるのだよ。君を失うか否かのな。
 儂は君の生還に張ったのだ。自信はあるぞ」
(ギャンブル、か)
ギャンブラー…その人種によって、青年の未来はどう言う成り行きを迎えるのか。
「私が渡り切り、勝ったなら、それは社長の勝利でもあるのですね」
「そうそう、そうとも」
「お見せします。最初の勝利を」
「クククク」
兵藤は両手を叩いて喜んでいる。
「楽しい男だ。楽しみにしている。向こうの屋上で待っているぞ」

「参加予定者は六名。一つの橋に三名ずつ乗り、進んで下さい。
 皆様の渡る順番はこちらで決めさせて頂きます。
 高圧電流が常時流れている為、靴の底以外が橋に触れた場合、その触れている参加者は感電する仕掛けが施されています。
 もちろん感電している者に、靴の底以外が触れた他の参加者もその範疇とお思い下さい。
 そして橋に触れる前であれば、どなたも辞退は可能です」
黒服の説明はそうして終わった。
青年は鉄骨の前で一人立っている。
その青年を見て、あれはヤクザだな…と気付く債務者達。この高さに臆していないのが尋常ではない。
「あなたも参加?」
青年の後に続く予定の若い男が、青年に言った。
「ああ。なかなか高いな」
(え…なんでそんな事言えるんだろう…)
他人事以上の冷たさを感じた。これから渡る当人の口から。
落ちたら絶対に死ぬ高さである。それを、これから命綱もなく渡る六人なのだ。
「俺は債務者と言うわけではない。前向きに挑戦すると言う点では、ここの五人とそう変わらないが、
 俺を気にしたり、俺に関わると損をするぞ」
51黒い架け橋 5/8:2008/12/02(火) 06:53:06 ID:Cl7n1DME
「どう言う事…」
「気にするなと忠告はして置く。ここは真剣勝負の場になるだろう、自分で考えて対処してくれ。
 本当なら俺は、もう鉄骨に乗って一番に渡り切るのが俺自身の為にも、他の五人の為にも良いとは思う。
 しかし三人で渡る橋の中間と順番を決められたからな。借金を帳消しにしてくれる社長が決めた事だ」
どうやら青年は危険な存在らしいが…その言葉の謎が五人の男に完全にわかる間もなく、時間は過ぎる。
「行かないのか」
青年は自分の前を行く予定の男に声をかけた。
「行かないなら棄権を願い出てくれ」
「あんた、あんたこんな橋…簡単だと思ってるのか!?」
男が青年を振り返って震える声で言う。
「思ってる。皆、借金帳消しと言う形で大金を得るんだろ。安い話だ。
 俺も大事な用があってこの橋を渡るんだ」
「あんた…あんたは」
「簡単さ。少なくとも、俺に取っては」
言葉をかけられる男の中に、勇気が湧いて来た。青年から際限なく溢れる自信によって。
そう、彼と自分は同じ人間なのだと。
「俺が行かずに、後ろの人間の足が鉄骨に付いたら、俺は失格なんだな」
「そうです」
黒服に返答を貰った男が橋の上に乗り、歩き出した。青年は声もなくその男の後ろに続く。
嫌な予感を抱きながら、青年の後ろの若者も、そして全員が、鉄骨の上に乗って歩き始めた。

(高い…)
もちろん青年も含めて、皆一様にそう思いながら鉄骨を渡って行く。
青年は、何人かの男の心が崩れ出して来たのを知る。
(ちっ……来たか…)
青年、心中で舌打ち。
一人荒ぶる心がある。青年がその心の方向、つまり前方を見ると、前の男が体勢を崩して橋の上から落下して行った。
「嘘だろ、おい…」
と嘆く様な声が出る。妙な奇声も聞こえる。ショックで声の出せない者も居る。
落ちた男のすぐ後ろを歩いていた青年だけが、その冷たい表情を変えず、平常心だった。
青年の後ろを歩いていた若い男は、人が転落死した事にも大きな衝撃を受けたが、
前方の青年の背から感じる静けさ、この事態に動じていない冷たさにも震えた。
仮にもさっきまで言葉を交わしていた男が、自分の目の前で落ちたのに。
(こんな、こんな恐ろしい男の自信に乗せられて、俺は、俺達は…)
ショックは隠せない。
「やめたい…もうやめたい…」
後ろの若い男の声が、青年に届いた。
「騒ぐな」
ヤクザの青年は、誰にとは言わず、短くそう吐き捨てた。
52黒い架け橋 6/8:2008/12/02(火) 07:02:39 ID:Cl7n1DME
後ろの若者が青年のその言葉を聞き取り、言葉を返す。
「怖ぇ…怖ぇよ…それに、なんなんだよお前…」
「泣き言は終わってからにしろ!」
青年の声は初めて怒号となる。

黙れ…

「本当は怖い、怖い」
「死にたくねぇよぉ」
「俺には出来る!出来る!」
「やめれば良かった、嫌だ!嫌だ!」

「うるさい!!」

先程の青年の叫号以来、鉄骨の上では誰も言葉を発していない。だが青年は叫んだ。
「騒ぎ立てて、俺の邪魔をするな!」
声が聞こえ過ぎる青年はダンっと鉄骨を足で叩いた。
素晴らしい発音でFuck you ! と啖呵を切り、
「落ちろ! クズめら!」
鉄骨をガンガン蹴る。青年自体は微動だにしない。
やめろやめろと狼狽する者、青年と関係なく落ちそうな者、自分との戦いで精一杯の者。
青年は狂ってなどいない。正常、冷静だ。ただうるさいからその音を消そうとしている。
橋を蹴る青年とは別の橋から人が落ちた。
誰かの一生がその場で終わっている。
阿鼻叫喚の修羅場を、青年は進む事にした。騒いだところで落ちない者は落ちないし、落ちる者は落ちる。
とにかくこの場を離れる事だと。
だが…橋の上に生き残っている四人のうち、二人の男が燃え上がる。
青年は自分に向けられる熱意と殺意を感じて、鉄骨の上を走った。
また一人、人間が落ちる。
怒れる二人が青年の背を追う。二人は、こんなか細い橋の上で人を落とそうする青年を呪う。
自分も同じ立場なのに、一緒に渡る者を落とそうする青年に恐ろしさを感じるからこそ、二人の男は早く青年を排除しようと思う。殺そうと。
青年に引き付けられるように、この二人も駆け足。走る。
53黒い架け橋 7/8:2008/12/02(火) 07:07:25 ID:Cl7n1DME
青年を押し、落とそうとする後ろの若い男。
「お前は落ちた方がこの場の為だ」
「何を正義漢振るかガキが。お前も身の安全欲しさに一人消したいだけだろうが」
男二人が鉄骨の上で揉み合いとなった。
「お前ら落ちるぞ!」
別の橋に居るもう一人の男が言った。喧嘩する二人の男を心配すると言うより、とにかくこの細い橋の上で何事もない事を願うような悲痛な声だった。
「俺に勝てると思うなよ」
どんどん冷静に立ち返る青年がそう言って、若い男と完全に向き合った。
青年に睨まれた男はすくみ上がる。そして今、自分の立つ地面のか弱さを思い出して戦慄。
「落ちろ」
青年がゆっくりと発する低い声は、若い男を地獄へ誘うには充分過ぎた。
気圧された男の膝がガクンと落ちる。
恐ろしい男から殺意を向けられた絶望。しかし、死んでも良いと見なされた口惜しさが、その絶望に勝った。
体勢を崩した若い男は、そのまま全体重で青年の体を押す。
青年は(おっ)と驚き、体勢を変える。そして今度はもっと驚いた。
(そうか、なんと言う事だっ)
青年は両足を鉄骨から離した。
全身が鉄骨の渡っていない空中へ傾く。
完走したのである。鉄骨を渡り切って向かい側のビルの屋上に倒れた。
後ろの若い男もそのまま、屋上へなだれ込む。
違う橋の男も一人、二人を追うようにして到着。
男三人が屋上に倒れ込んで、各々息を乱す。
一人の男が青年を殴った。もう一人の男は蹴った。
青年は殴って来た男を殴り、蹴って来た男を蹴る。
「ハハハハッ」
高らかに笑う兵藤社長が三人の前に現れた。
「元気で結構だ。おめでとう。そして儂を勝たせてくれたな、感謝するぞ」
と、兵藤は青年の手を取って、起き上がらせた。
「さぁ、君らには誠意を見せて貰った。借金は帳消し。もう引き止めはせんよ」
二人の男は「よしやがれ! なにを!」と突っ撥ねる事はもちろん出来ず…。
修羅場と狂乱を見せてくれた報酬として借金を消して貰い、ビルから、青年の前から姿を消した。
54黒い架け橋 8/8:2008/12/02(火) 07:10:34 ID:Cl7n1DME
「金の力は凄い物よな。何者も、これ(金)とは戦えまい」
「あの二人…よろしかったのでしょうか」
「良いさ。上手く行けば、帝愛の黒服にでも出来そうな人間達ではないか」
兵藤はさすがに抜かりない。深夜の屋上で彼は青年に言う。
「競争ではない鉄骨渡りは自分との勝負の場だ。それを君は…他人との勝負にしおった。
 この高さの足場で落とし合いなど、考えてもみなかった。
 言葉だ。君の言葉。人を掴む言葉と喋りを持っている。
 この世は勝負よ。そして勝つ事。賭け事だけが全てだ。
 その修羅場からは思いもよらぬ結果、皮肉な結果が生まれる事もあろう。
 結局、君の残忍さが二人の命を掬い上げる事になったのだ。
 面白かったぞ。面白いぞ君は、利根川幸雄」
「……はい!」
名を呼ばれた青年は返事をする。
「明日から君の仕事は変わる。用意をしておけ利根川」
言われた青年は姿勢を正し、社長の後へ続いて歩いて行った。


お前を誇り高い男のままにしておくぞ。最後まで。
お前の血肉が焼かれ、最後の一滴が燃え尽きるまで。


兵藤はそんな事を思っていた。
その気高い矜持を、生涯をかけて…帝愛と言う会社でこそ満足させる青年は前途洋々、
自分の若い足を兵藤の後に従わせた。


55創る名無しに見る名無し:2008/12/02(火) 10:07:54 ID:5WV5jgEL
鳥肌立ったよ!!!!
青年は……読んで確かめてくれっ
沢山の人に読んで欲しいからアゲっ!!!!
56創る名無しに見る名無し:2008/12/06(土) 05:21:57 ID:leHyc5gw
ありがとうございます…! また書き始めました
黒沢の13巻から後の話。原作のネタバレが、話の主筋です
57騒がしい患者 1:2008/12/06(土) 05:24:01 ID:leHyc5gw
44歳の大男。穴平建設社員の黒沢。
病院のベッドに横たわる彼の逞しい顎は少し震えていた。
(生きてるのか俺…)
命のある感動に震える。それなのに、

「兄さん!」
生きてて良かったよと、黒沢は中学生の仲根に始めて抱き締められた。
(つえーのなんのって)
仲根の所為で黒沢はまた新しいケガを負いそうな。
(それに、俺の朝のポエムの時間を邪魔しやがって)
「今度は性格の良い娘集めますよ。全快祝いに楽しく遊びましょう」
(む…まぁ良いか…)
一番最初の見舞い客。火星人、爬虫類の魔王のような顔をしている仲根だが、今日は中学生らしく、若々しく輝いて黒沢には見えた。
「やっぱり良いもんだよな」
「?」
「生きてるってよ」
そう、それなのに

「黒ちゃん!」
(俺のポエム…)
今度は部下の浅井に初めて抱き締められた。初めて鼻水もつけられた。
「良かったね!」
「う、うん…」
明るく無垢な浅井に喜ばれると、本当に助かって良かったと思う。
だがそれは、あるはずの落とし穴を、今消されただけではないのか。

同穴平社員、赤松28歳は
(うん、あれは…)
これ以上ないと思える程の、完璧な、完全なる見舞いを黒沢の病室で見せた。
(ふぇ〜…)
思い出す度、生暖かい溜息が出る。
彼は、黒沢は気が付いた。
58創る名無しに見る名無し:2008/12/07(日) 11:30:54 ID:L43Ht9lN
黒沢さん生きてた編だ。朝のポエム…
詩人だからな黒沢さんは。朝の贈り物 だし。
赤松さんはなんだろう?
59創る名無しに見る名無し:2008/12/10(水) 05:05:01 ID:TNV2v44m
ありがとうございます。あと2ページくらい続きます
60騒がしい患者 2:2008/12/10(水) 05:07:55 ID:TNV2v44m
まるで絵から抜け出たような赤松の姿を見ながら、思い出した。
自分がまた戻った事。
いつ来るか解からない「死」を迎える立場、生者の身に戻った事を。
いつ終わるとも解からない平凡な日々を送りながら……!
(やっちまった!…俺はやっちまった!)
本日最後の見舞い客が完璧な赤松だった事も、黒沢の思いを暗くさせた。
だが朝が来れば。いくら病院と言えども日の光を浴びれば。
そう、明日になれば俺は明るく……!

明日(みょうにち)は良い天気だった。
だが見舞い客…良く共に仕事をする型枠工の小野の前で黒沢は萎え切り、呆然としていた。
「本当に良かったです。どうなる事かと思いました親分」
「良かったのだろうか」
黒沢はうどんのような涙を流しながら言った。
「あれ以上の死に方ってあるんだろうか…」

ない………!

貴重なものを取り逃したと思う黒沢。
「もしあれが、人生の最期だったなら…有終の美とはあの事じゃないのか」
あの死に際しての温かさは…俺がやっと得た光らしい光。
感動だったんじゃないのか…!
「……死にたかったんですか?」
「そう言う事じゃないだろうよ!」
「いやわかります…どうせ死ぬならって事でしょ」
「わかってるじゃねぇか小野。良い死に方逃して惜しいって言ってんだ」
「大丈夫ですよ、親分の最期はいつだってきっと良いと思います」
「お前何を根拠に…」
「俺が好きな博徒の言葉にね「あったかい人間はあったかく死んで行ける」って
 言うのがあるんですよ」
「……良い事言うなぁ、その人……え? 博徒?」
「だから、親分は大丈夫です」
小野はつまり…黒沢をあったかい人間と思っているのだ。
黒沢が顔を赤らめる。目元をくしゃくしゃにして黙り込む。
「バカ、何を」
昔から人望は欲しいと思っていた。しかし小野から受ける尊敬は熱すぎて黒沢は参っていた時もある。
だが今日の小野は…この後の黒沢を明るくさせた。

「おぉ坂口!」
見舞いに来た後輩の坂口を、黒沢は小野と共に明るく迎える。
61創る名無しに見る名無し:2008/12/10(水) 09:29:50 ID:AHnrdeNC
おおっ、死にたかったのか?黒沢さん。
理想の自分はあの乱闘で良いのか?
小野さん、あったけぇ…
62創る名無しに見る名無し:2008/12/10(水) 21:04:21 ID:AHnrdeNC
12月10日は、福本先生と黒沢さんのお誕生日だそうだ。
この善き日に黒沢さん物語を投下してくれた>>60に祝福があることを。
ありがとう>>60
6360:2008/12/12(金) 23:52:05 ID:DyzeKKYn
誕生日が一緒で10日だったんですね
そんな日に、赤木52歳と黒沢44歳の二人で、越境の話も書き始めていました。
今回の物を書き終えたらそれも投下したいです。読んで頂いてありがとうございます。
その他にカイジと涯の二人で越境とかも書いてます。
他の書き手さん来るだろうか? と期待しつつ
このスレが落ちない限り、細々書いて行こうと思います
64創る名無しに見る名無し:2008/12/13(土) 17:44:31 ID:LTifgxtY
楽しみにしています。
65騒がしい患者 3:2008/12/17(水) 00:13:05 ID:l7CIJTnk
「それで暗くなってたんだよ、親分は」
「はぁ。なるほど」
と、小野の言葉を坂口は聞いている。
「うるさいな、死に臨む上では大事だろ、そう言うの」
そんな黒沢に坂口は言う。
「黒沢さんは…良い事が起こった後に悪い事ありましたよね。今までたくさん」
「お前…嫌な事を思い出させるな…」
「その逆もたくさんあったじゃないですか」
「まぁ……そうだったかな」
「悪い事があった後に、良い事がありましたよ」
「そうだったような」
そしてまた良い事の後、すぐ悪い事が起きたりするんだけど。
(何度もそれを繰り返して。
この人可哀想だなって思ったし、付き合う俺達も戸惑ったり疲れる事も多かったけど
良い悪いの繰り返しでも良いじゃないですか。
黒沢さんが死んだと思った時、もうそれが見られないと思って
黒沢さんが生き返ったような今はもう、楽しみですよ。
黒沢さんの側に居るとまた、どんな事が見られるのか。どうなるのか)
66騒がしい患者 4:2008/12/17(水) 00:14:38 ID:l7CIJTnk
坂口がそう思っている時、また新しい見舞い客が黒沢の前に現れた。
「黒沢くん」
「社長」
わざわざ社長にまで来て頂いて…なんて話をしているが、社長は「いやいや」と、すぐにも何か黒沢に伝えたい様子。
「ちょっと急いで来たよ。例の公園が大変な騒ぎになっててね」
社長に取ってはサイクリングのコースとなっている例の公園…
黒沢がホームレス達と共に、御木涼一率いる暴走族と戦った公園だ。
戦いの後、すぐに意識不明となった黒沢だったが、この一戦はかなり騒がれ、今にも
新聞沙汰になろうとしているらしい。
(俺のところにも記者とか来るのか!?)
少し緊張する黒沢、そんな彼の前で社長の言葉が続く。
「ホームレスに女の人…おばあさんも居たのかい? その人を向かえに来た人達が現れたらしいよ」
「茜ばぁちゃんに身内が!?」
「いや、身内かどうかはわからないけど…その茜さんって人は、そこが嫌で逃げ出したらしいんだ。
迎えを嫌がってまた逃げ出したみたいだけど、もう捕まりそうだって」
(え!?)
そう、茜はその暮らしよりホームレスの方が良くてああして公園に居たのだ。
(そんな嫌なところから…誰も助けてやれないのかよ)
黒沢はそう思ったが…これは繊細な問題である。
他のホームレス達も、この事態をどうして良いものかと判断に困っているらしい。
(どうあれ、詳しい事情を聞きに行かなきゃな)
「社長すみません。ありがとうございます」
「行ってみるのかい黒沢くん」
「はい」
と、黒沢はベッドから起き上がろうとしている。坂口と小野が彼を支えた。
「黒沢さん」
「親分」
「大丈夫だよ。明後日退院なんだから」
どうあれ退院は今、今日ではない。
67騒がしい患者 5/5:2008/12/17(水) 00:16:11 ID:l7CIJTnk
「やぁ、兄さん」
とその時、仲根が信じられない美女を連れてまた見舞いに来た。
黒沢、中腰のまま姿勢が止まる。
「俺が知ってる中じゃ一番性格良い」
そう仲根に言われた美女は恥ずかしそうに小さくなっている。
爽やか過ぎる女性である。
(居るんだこんな娘)
黒沢、中腰からベッドに座ってしまった。
「このまま三人で行きますか」
「あ、いや、仲根…」
鈴のような声の美女は黒沢に挨拶して、見舞いの品を差し出す。
(むむむむむ……!)
黒沢は彼女の魅力に驚きつつ、こんな娘が仲根に惚れてる現実にも悶える。
(あああ…!)
黒沢が変な顔をしても、彼女は穏やかに微笑んでいる。
(行こう!…この後遊びに!…この後!………この後、あ!)
「仲根! 来い!」
「なんだい兄さん」
「社長失礼します。ごめん、俺行くわ」
と、黒沢は仲根以外の見舞い客全員に言った。
女性に対しても、黒沢と仲根は簡単な別れを言い、二人は病室から出て行った。
廊下で、見舞いに来た浅井と擦れ違う黒沢。
「黒ちゃん歩けるの?」
「おお! 走れるぞ」
本当は、まだ走ってはいけない身である。
「黒ちゃん」
「ごめん浅井、俺用事出来た」
(黒ちゃん幸せそう…)

病院を出ると駆け出す黒沢。彼より背の高い190cm、仲根が隣で一緒に走り出した。
「暴力沙汰だったら仲根……また手伝ってくれるか?」
「勿論だよ兄さん。どこだって行くよ」
末は大臣と思える大器、中学生仲根を連れて黒沢は茜の元へ向かった。
黒沢がさっきまで寝ていた病室から、その二人の駆け出す姿が見える。
また人を救おう、自分自身を救おうと動き出した黒沢。これから先も、彼にどんな強敵、難題が待っているのか。
そしてどのように穴平社員がまた、巻き込まれてしまうのか。
(それでも俺は楽しみですよ)
坂口がそう思って見送る黒沢と仲根の背が、眩しい日の光に向かって真っ直ぐ驀進して行った。

68創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 21:22:56 ID:H2mjlbYR
善い話過ぎる。泣ける。黒沢さん、良かった。
家族の希望?も持てたかも。
仲根が嬉しそうなのも良いです。

自分、クリスマスプレゼントもらったスクルージのようだ。
ありがとう、ありがとうございます。
69創る名無しに見る名無し:2008/12/21(日) 04:19:37 ID:C4wCmqs4
嬉しいです。書き続けようと思います

「黒沢」の続き…もし書かれるとしたらどんな展開になるのか楽しみすぎる
「銀と金」の続き…平井銀二 対 森田鉄雄とか、
「涯」は脱走漫画を書きたかったとか、
福本作品は「書く予定だったが書かれていない部分」もメチャクチャ面白そうです
70通りすがり:2008/12/21(日) 12:56:46 ID:LztVYfbf
落下する体――
加速する躰――
闇に吸い込まれてゆく――

その躯が地に叩きつけられる寸前。
最後の最期に彼が見たのは己がつま先に描かれた一本の線。

カイジさん…。


  金色の髪を持つ青年の 身体  は …―――
71創る名無しに見る名無し:2008/12/21(日) 19:29:49 ID:1RP1xhj/
佐原君だ。南無ー。
一瞬を切り取ったみたいなのも良い。
72創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 03:38:42 ID:kVqp/0Gw
余韻がいい! 作品投下が欲しいところ、楽しませて頂きました。

続かせて貰います
「アカギ」と「カイジ」の越境話。人物の能力設定は前述の「黒い架け橋」から
73幸雄たち 1/3:2008/12/23(火) 03:40:54 ID:kVqp/0Gw
ぐったりと疲れ切った男が、事務所の扉を開けた。
今の仕事をクビになったらしい。
男はソファーに座るのを許される。テーブルを挟んだ対面のソファーには事務所の人間が座り、彼にこう言った。
「そこでクビを切られたから、ここで雇って欲しいのか」
「ここ他は良いところがない…」
「相変わらず態度が悪いな」
一応は男を迎え入れた利根川幸雄。
彼はこの暴力団事務所、若手の有力株であり、訪ねて来た男に毒づく。
利根川と男は高校の同級生であったが、友人と呼べる程に親しくはない。
ただ、高校卒業後の行く道が似た物になるだろうと言う雰囲気はお互いに感じていて、そうした話はした事がある。
利根川は卒業後に大学に通いながら、暴力団の組員となっている。
そしてこの男は
「どうして大学に行かなかった」
利根川は頭の良い男にそう言う。
頭が良い……そう、男の頭脳はまるで機械のようによく働いた。
人間として「賢い」とは趣きを異にする。まるで一種の超能力のような頭脳の持ち主。
「大学? やってられるか、そんな事」
「お前のやっている事はまるで消去法だ。ましな方、ましな方と…主体性がまるでない」
「それがどうした」
「この組に入りたいなら、自分で勝手にしてくれ。俺はここから出る事になった」
利根川は、事務所と深い関わりがある会社に就職する事になっている。
だからこの組から円満に離れる事になっており、組員として席も残されたままだった。
実際に戻っても良いのは勿論だが、組の名誉として利根川の席を残している感も強い。
利根川の組での働きと貢献、鋭さは、短い間だったが組の華だった。
「お前の名誉欲とか、権威への欲はご苦労なこった。そこが話合わなかったよな俺達。
 ただ…自分の能力を生かし「最大限に」「簡単に」金にするには…
俺もそうだが、お前もギャンブルだと判断したんだろ。
 お前、俺の事を目と記憶の能力者だと言ったが、お前は超能力者だろうが。
 他人の心の中が少し読めてるよな。お前もその会社でギャンブルする気だろ。
主体性だの何だのと…結局は俺もお前も金を狙ってるぜ」
74訂正:2008/12/23(火) 03:43:32 ID:kVqp/0Gw
×「ここ他は良いところがない…」
○「ここの他は良いところがない…」
75幸雄たち 2/3:2008/12/23(火) 03:45:29 ID:kVqp/0Gw
「そうだ。だが俺はお前から意志を感じた事が一度もない。
誰かの偽者の役も簡単に受け入れたんだろ。プライドがないのか。
ヤクザの下、博徒として働きながら生きて帰って来れたのは、お前がどうでも良い小者だからだ。
大負けの席にも大勝ち席にも、身を置かれなかっただろ。
この組で麻雀をした所で、それは変わらないと知れ」
「今なんて言った」
男は座る利根川の前でゆっくり立ち上がった。
「お前には覚悟が足りない」
「なんだと」
「お前には極道の世界も、博徒の道も無理だ。
かと言って大学に入って品行方正な人生を歩み、成功するのも無理。
覚悟のない奴は何をやっても芽が出ない。
お前は凡夫だ」
「てめぇ」
と、男は利根川の襟首を掴んでその眼前に迫った。
「だがな、こうして読心術を持つ俺の前に立って、平気で居る。
最初はただ間抜けかと思ったが、お前度胸はある」
「度胸…」
「覚悟と度胸の違いがわかるか。
度胸があれば戦いの場に立つ事は出来る。
だが覚悟がなければ勝つ事は出来ない。勿論、負ける事も。
 勝負の後は、勝ちも負けもなく、ただ破滅する」
言われた男は利根川のシャツから手を離し、どっかりとソファーに座り直して言った。
「…お前にそんな事言われるなんてな…道徳の先生かよ」
「お前はもう破滅しているからな。目の前の男の事を読み上げただけだ」
76幸雄たち 3/3:2008/12/23(火) 03:48:01 ID:kVqp/0Gw
「幸雄…お前の方は少し度胸が足りないように思うぜ」
「なに」
「お前は他人に流される所がある。他人の意見を聞き過ぎるところも。
 お前の場合、それは誇りが高すぎるからだ」
「な…」
読心術の使い手、利根川。高校の同級生に心を少し覗かれる。
「誇り高く居たいから…他人の目、動向が気になって仕方がない。
俺の事を凡夫と言う、お前の方は二流だ」
「殺されたいのか」
顔を青白くさせて睨む利根川に、男は気圧されながらも軽やかにソファーから立ち上がって言った。
「今怪物から誘われてる」
「怪物?」
「異常な大金掻き集めて悦に入ってるジジイだよ。そいつに勝って、俺の覚悟を見せてやる」
「そんな奴に関わったら、魚の餌にされるぞ」
「それはお前だ。幸雄お前も危ない。ロクな死に方しないだろ」
利根川は、これから大いなる度胸を見せて、新しい会社での特等席を手に入れる。
ロクでもない、けれど覚悟に満ちた死に方を迎えるまで、長年に渡り会社の重役を勤める幸雄と言う男。
「お前の態度はやっぱり最悪だ。それから俺を幸雄と呼ぶな。気持ち悪くないのか」
「お前の名前は幸雄だろうが」
「お前の名前でもあるだろ平山」
利根川の前に立つ白髪の青年は、アカギと呼ばれニセアカギと呼ばれて…名前に無頓着である。
彼自身、それを何とも思っていないのだろうか。
ただ、そんな彼も…これから生まれて初めて自分の覚悟を覗き見に行く。
利根川の居る事務所を飛び出し もう一人の幸雄、平山は、
雨の中を傘も差さずに走って行った。

77創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 22:11:20 ID:NVehsNza
ダブル幸雄。
互いに相手のことは解るのに、自分のことは解らないのか…
78創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 02:48:57 ID:+AERUjEC
作者の人に了承を得たわけではないけど
(了承の得方がわからず・・・・)
このスレに下記の続きをコピペして行きたいと思ってしまった
いいのかな? なんか問題あったらよろしく


1 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:40:23.53
ID:dkgMuiu10

カイジは圧倒的激怒っ…!

必ず、かの邪智暴虐の会長を除かなければならぬと決意した。

カイジには金の重みがわからぬ。カイジは、巷でいうニートである。
サイコロを投げ、カードで勝負して来た。
けれどもギャンブルに対しては、人一倍に聡明であった。


走れ!カイジ!
ttp://jfk.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1228570823/
79創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 09:25:00 ID:7bDPomEy
2ch内で散らばってる福本系SSがまとめて見られたら嬉しいかも。自分が見た事ないのもあるだろうし

学校スレ落ちたし。小学生トリオの話好きだったし、プロットも完成しているとは言ってたけどスレそのものがなくなっちゃったから…
80創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 19:41:38 ID:+R3rZTUQ
雑談スレに案内貼って、学校スレの最後の書き込み持ってきたら?
ざわやか3組サンは完成させてくれたよね。
81創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 19:46:09 ID:+R3rZTUQ
グニャりんこ☆さん最終書き込み
396 グニャりんこ☆ sage New! 2008/12/06(土) 17:55:01 ID:???
あとがき的な何か
更新の遅延、申し訳ありません。先行きが少々不安です。
皆さん、将棋のルールはご存知ですかな?
「知らん!」という方が多いのでは?、と不安ざんすよ。
ギャンブルのネタで将棋は見たことねーなー、と思ったのがきっかけ。
安易…!愚直…!という声が聞こえてくるぅぅぅっ!!
もう耐えられない!いやん、いやん〜

次回予告
「貧乏くじを引いたようだな…」
「鼠だ……っ!」
「う、嘘だっ!ありえねぇっ…!!俺が…俺が…俺が…負け、た………負けました……」

ID:wuPL6adx 大先生最終書き込み
374 ID:wuPL6adx New! 2008/12/02(火) 22:40:56 ID:fRpZCaU1
第3ターン……一条は5を3枚提出。
同じ数字の3枚出しというのは、このゲームにおいて相当強力……! 5の様に低い数字であっても、これだけで流れる事も多い。しかし…………。
【カイジ手札】 S13 C11 H11 D11 H10 D9 H8 D7 H7 S6 H4 C3 D3
カイジは持っていた…………!! 11のトリプル……!
これこそ、カイジがこの手札を開いた瞬間に目をつけていた役であり、恐らくこの手札で最も威力を発揮する…………!(“8切り”を除く)
だが…………。

カイジ「パス…………!」

カイジ パス……! 絶好のチャンスをみすみす逃す…………!!
村岡(…………。ああ〜〜……? どうしたざんすか? 何故ここで使わない? 11のトリプルを…………! そんなもの……とって残しておいても、どの道今以上に活躍

する場面など訪れないざんすよ…………!!)
カイジ「………………」

カイジ(使わないって…………! そりゃあ…………!)

カイジ(そりゃあ……手拍子、相手の出した手に反応して11トリプル……っていうのも分からないじゃないけど………… ここはこれっ…………!!)
【C3 D3】
カイジ(つまり……11のトリプルを11ダブルとして使う……! こうする事で11は1枚残るがそれでもここは、3のダブル…………!!)
――つまりカイジの策とは、11のダブルを自分で使い、3のダブルで待ち構えるというもの…………。
確かにイレブンバック(そのターンのみ一時革命中となる)中であれば、3のダブルは最強の手っ……! 比類なく……!
すなわち……11を2枚使い、3を2枚使い、更に次のターンを自分の番から始められるという、ハマれば最強の手…………流れ…………!!

これがカイジの目論見…………! 最後の希望………………!!!

カイジ(……………………)
82創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 19:50:06 ID:+R3rZTUQ
拾ってきました。雑談で相談して、サロンに立て直すのか
創作発表板にスレ立てるのか決めるのが良いのではないでしょうか。

>>76 場所借りました。お邪魔しました。
83創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 00:22:02 ID:PLajBdO6
創作発表がいいんじゃないかな
ここなら絶対dat落ちしないし
84創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 10:33:13 ID:G4S+po8x
>>79 スレッドを建てたら、保守をお願いできますか?
御返事いただけましたら、スレたていたしますし、
ご希望のSSのレスを集めてまいります。
8579:2008/12/30(火) 11:44:28 ID:MGchvVO1
保守は任せろ!
で、どこにどんなスレを建てるんですか?(アホでスマン)
86創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 11:52:16 ID:G4S+po8x
この創作発表板に同じ学校スレ (最近建てて堕ちたテンプレを流用)を
建てますが、それでよろしいですか?
8779:2008/12/30(火) 12:26:25 ID:MGchvVO1
了解です!自分的には無問題です。よっしゃ!超「保守」って書くぞ!ここなら3日おき位かな?
マロン的にはどうなんでしょう?
88創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 12:52:45 ID:G4S+po8x
雑談スレで堕ちたときに、話題を挙げて見ましたが、積極的な意・異見は出ませんでした。
こちらに建てて、雑談に誘導アドレスを貼り、書き手さんが現れて下さるのを待つのが良いと
思うのですが。
建てました
【アカギ】モシモ福本キャラが同じ学校ダッタラ3【カイジ】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230609046/
サブジェクトが長いと出ましたので、勝手に半角カタカナにしてしまいました。

>>87どうか保守をお願い致します。
89走れ!カイジ!  1:2009/01/04(日) 06:17:54 ID:eLsw6y3c
カイジは圧倒的激怒っ…!

必ず、かの邪智暴虐の会長を除かなければならぬと決意した。

カイジには金の重みがわからぬ。カイジは、巷でいうニートである。
サイコロを投げ、カードで勝負して来た。
けれどもギャンブルに対しては、人一倍に聡明であった。

きょう未明カイジは地下を出発し、船に乗りビルを渡り、十里(現代で言う百里)はなれたこの東京のカジノにやって来た。

カイジには父も、母も無い。女房も無い。
四五組の、借金漬けの男達との集団生活だ。
カイジは、地下の或る律気な仲間を、近々、地上へ連れ出す事になっていた。

タイムリミットも間近かなのである。
まず、パチンコ店や競馬場、それからカジノ通りをぶらぶら歩いた。

カイジにはかつて共闘した仲間があった。
セリヌンサカザキである。今は此の東京の市で、夜間警備員をしている。

その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

歩いているうちにカイジは、通りの様子を怪しく思った。
ひっそりしている。
もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
のんきなカイジも、だんだん不安になって来た。
90走れ!カイジ! 2:2009/01/04(日) 06:19:09 ID:eLsw6y3c
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、6ヶ月まえに地上にいたときは、夜でも皆が高級車のエンブレムを剥ぎ取って、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。
若い衆は、首を振ってこう言った。
「大人は質問に答えない」

しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
「じじいも質問には答えない」
老爺は答えなかった。
カイジは老爺を押さえつけて猛毒を打ち、血清剤の場所を教える代わりにと、質問を重ねた。
老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「会長は、人を殺します」
「なぜ殺すのだ」
「金は命より重い、というのですが、誰もそんなことは思っておりませぬ。」
「たくさんの人を殺したのかっ……」

「はい、はじめはチョキのカードをトイレに捨てた者を。
それから、星を3つ集められなかった者を。
それから、綱渡りで落ちたものを。」

「おどろいた。会長は狂気の沙汰なのかっ……」

「いいえ、狂気の沙汰ではございませぬ。命は、命はもっと粗末に扱うべきだとおっしゃるのです。
このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。
御命令を拒めば焼いた鉄板の上に座らされ、土下座させられます。
きょうは、六人焼かれました。」

聞いて、カイジは激怒した。
「呆れた会長だっ……。生かしてはおけねぇ……」

カイジは、単純な男であった。
老爺には打ったのは毒ではないと伝え、のそのそスターサイドホテルにはいって行った。
91創る名無しに見る名無し:2009/01/04(日) 12:40:28 ID:n3VpIKIY
帝愛との勝負編 開幕?
なんか、ドキドキする。
92走れ!カイジ! 3:2009/01/07(水) 04:51:34 ID:H1Q3/vDJ
たちまち彼は、巡回の黒服に捕縛された。
調べられて、カイジの懐中からはピンゾロサイが出て来たので、ざわざわ…ざわざわ…が大きくなってしまった。
カイジは、会長の前に引き出された。

「このピンゾロサイで何をするつもりであったか。言え!」

暴君ヒョドニスは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。
その会長の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。

「仲間を地下から救うのだっ……」
とカイジは悪びれずに答えた。

「おまえがか?」
会長は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。クズには、王の考えがわからぬ」

「さえずるなっ……!」
とカイジは、いきり立って反駁した。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だっ…!疑ってるうちはまだしも、それを口にしたら………戦争だろうがっ!」

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。
人間は、もともと私慾のかたまりさ。殺さなきゃ誰かの養分じゃ」
暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。
「わしだって、平和を望んでいるのだが」
93走れ!カイジ! 4:2009/01/07(水) 04:52:55 ID:H1Q3/vDJ

「きさまっ………きさまっ………きさまっ………それでも人間かっ……!」
こんどはカイジが嘲笑した。
「罪の無い人を殺して、何が平和だっ………!」

「だまれ、狼をフリをした羊!」
会長は、さっと顔を挙げて報いた。
「口では、どんな清らかな事でも言える。それに煮え湯を飲まされてきた、何度も。
わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。
おまえだって、いまに、指を落とす段階になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」

「ああ、会長は悧巧だ。自惚れているがいいぜ。
俺は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るっ……
退路なんてねぇんだよっ……。ただ…………………」

と言いかけて、カイジは足もとに視線を落し瞬時ためらい、

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間(現代で言う三十日)の日限を与えてくれ。
たった一人の仲間に、妻子を戻してやりたいんだ。
三日(現代で言う三十日)のうちに、俺はカジノで勝利し、必ず、ここへ帰って来るっ……。」


 ざわ……

     ざわざわ……

 ざわ……

     ざわざわ……

94走れ!カイジ! 5:2009/01/07(水) 04:54:22 ID:H1Q3/vDJ
「Fuck You!ぶち殺すぞゴミめ!」
と暴君は、嗄れた声で低く笑った。
「”もう少し待って……”おまえらは生まれてから何度そのセリフを吐いた……?
世間はおまえらの母親ではないっ……!おまえらクズの決心をいつまでも待ったりはせん……!
逃がした小鳥が帰ってくるとでも言うのか……!」

「そうだ!俺は帰って来るっ…」
カイジは必死で言い張った。
「俺は約束を守るっ……。私を、三日間(現代で言う30日)だけ許してくれっ……。
仲間がっ……私の帰りを待っているのだっ……。
そんなに俺を信じられないならば、いいだろう、この市にセリヌンサカザキという夜間警備員がいる。
俺の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。
俺が逃げてしまって、三日目(現代で言う30日)の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人の体をルーレットを回して切り刻んで下さい。
たのむ、そうしてくれっ……。」

それを聞いて会長は、残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。
とどのつまりは、どうせ帰ってこないに決まっている。
この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。
人はこれだから信じられませーーーんっ……!そんなことは…ゼロゼロゼロっ……!
信じられません…いっさい人など……と、わしは悲しい顔して、その身代りの男を手術台に処してやるのだ。
世の中の、守銭奴とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。
三日目には日没までに帰って来い。遅れたら、その身代りを、きっと殺すぞ。
ちょっとおくれて来るがいい。お前の罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。
そう、お前は100%遅れてくるタイプ……」

「なに、何をいってやがる!」

「カカカカカ……キキキキキ……ククククク……。いのちが大事だったら、おくれて来い。
おまえの心は、わかっているぞ。今は一種の興奮状態だから、ヒロイックな気分で戻ってくるとか言っているが、
普通に家へ戻れば、瞬く間に普通の感覚に戻り……
普通に裏切るっ……それが人間」

その刹那、カイジは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
95創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 09:14:40 ID:WUjtYfYF
ヤバイ面白い
天才?
96創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 09:35:38 ID:bkUMFuMv
走れメロス っぽい♥ 面白い!!
福本+太宰か? 京極伸行氏みたいだ。
期待∞
97走れ!カイジ! 6:2009/01/08(木) 03:37:08 ID:3vQ8AyOi


竹馬の友、セリヌンサカザキは、深夜、スターサイドホテルに召された。
暴君ヒョドニスの面前で、佳き友と佳き友は、6ヶ月ぶりで相逢うた。
カイジは両手の人差し指をツンツンしながら、友に一切の事情を語った。

「…っていうかあ〜、おっちゃんが人質にならないと俺は帰れない訳だしぃ……
そしたらギャンブルに挑戦できなくて……元も子もないっていうの?」

セリヌンサカザキはぐぐっ…と首肯き、カイジを勢いよく追い出した。
友と友の間は、色々あったけど分け前を折半でよかった。

セリヌンサカザキは、縄打たれた。
(必ず戻ってくるぜ…おっちゃん)
カイジは、すぐに出発した。
初夏、57億の満天の孤独(ほし)である。

カイジはその夜、一睡(現代で言う十睡)もせず十里の路を急ぎに急いで、カジノ通りへ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、店員たちは現場にて仕事をはじめていた。

カイジの仲間の遠藤も、きょうは作戦の準備をしていた。
よろめいて歩いて来るカイジの、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさくカイジに質問を浴びせた。

「なんでも無いっ……」
カイジは無理に笑おうと努めた。
「ホテルに用事を残して来た。またすぐホテルに行かなければいけねえ。
明日、勝負をかける。早いほうがいいだろ。」

遠藤は、よしきた、と奮い立った。
「うれしいか。大きな水槽も買って来たぜ。
よし、これから行って、上の階に水を張って来よう。勝負は明日だっ……。」

カイジは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、資金を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

98走れ!カイジ! 7:2009/01/08(木) 03:39:08 ID:3vQ8AyOi
眼が覚めたのは夜だった。
カイジは起きてすぐ、裏通りのカジノを訪れた。
そうして、少し事情があるから、沼を打たせてくれ、と頼んだ。
オーナーの一条は驚いたものの、当店は誰でもウェルカム、どうぞ存分に夢を追い続けてください、われわれはその姿勢を心から応援するものです、とカイジを招きいれた。

カイジは、遠藤との策略により、沼から大金を吐き出させた。
周囲から、歓喜の声が湧き上がる。


気がつけば……… 豪遊っ……!


カイジは、一生このままここにいたい、と思った。
この地上で生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。
ままならぬ事である。カイジは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
カイジほどの男にも、やはり油断と隙というものは在る。

今宵呆然、遠藤は酒に酔っているらしいカイジに近寄り、
「俺は疲れてしまったから、いますぐ帰って眠るのだよ、帝王だからな。
ところでカイジ君、さっきの取り分の話だが、君の計算は間違っている。
あの契約書にあるとおり、利息は十分で一割だ。つまり・・(以下略」

カイジは睡眠薬入りのワインを飲んだ後だったので、薄れ行く意識の中遠藤の言葉を聴いていた。そして、そもまま死んだように深く眠った。

眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。
カイジは跳ね起き、お金が減っていることを確認し、しばらく、うねうね…と地面を這った。

しかし、45組を地上から連れ出し、セリヌンサカザキのもとへ妻子が戻ってくるに十分な金額は残っている。
今日は是非とも、あの会長に、人の信実の存するところを見せてやろう。
そうして笑って「地道に行こう(キラッ」と言ってやる。

カイジは、悠々と身仕度をはじめた。雨が、小降りになっている様子である。身仕度は出来た。

カイジは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。
99走れ!カイジ! 8:2009/01/08(木) 03:41:55 ID:3vQ8AyOi

俺は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。
身代りの友を救う為に走るのだ。
武士は自分をわかってくれる人の為に死にに行く。走らなければならぬ。
そうして、俺は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。

若いカイジは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。
えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
村を出て、細い足場を渡り、透明の足場を発見し、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。

カイジは額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。
俺には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐにホテルに行き着けば、それでよいのだ。
そんなに急ぐ必要も無い。
ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。

ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、カイジの足は、はたと、とまった。
見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた

彼はぐにゃ〜っと、立ちすくんだ。

あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。
流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。
「ふざけろっ…」
カイジは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながら神に手を挙げて哀願した。
「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。
太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、ホテルに行き着くことが出来なかったら、あの良い友達が、俺のために死ぬのです。

神よ…………オレを祝福しろっ…! 」

100走れ!カイジ! 9:2009/01/08(木) 03:45:20 ID:3vQ8AyOi
……が、駄目っ!

濁流は、カイジの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。
浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。
今はカイジも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。

濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。


突っ走って、その先にある亀裂を飛び越えるしかねぇ!

いいかげん気がつけっ!退路なんか、もうねえんだよっ!

漕ぎ出せっ…………!勝負の大海へっ……!


カイジは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。

満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、
神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。
押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。

僥倖っ!まさに僥倖っ!

カイジは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。