【アカギ】福本作品SSスレ【カイジ】

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1創る名無しに見る名無し
福本作品の二次制作で、エロ以外の作品投下や講評であれば自由なSSスレです

作品──「天」「アカギ」「銀と金」「熱いぜ辺ちゃん」「カイジ」
「無頼伝 涯」「最強伝説黒沢」「賭博覇王伝零」他。短編など
2参考他スレ:2008/11/21(金) 00:28:54 ID:ebblNPU0
もしも福本漫画主人公たちが大家族だったら
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220206389/
(キャラ同士が家族の設定。主にセリフで構成)

【アカギ】もしも福本キャラが同じ学校だったら【カイジ】
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1220396374
(キャラ同士が学生またはクラスメイトの設定)

福本漫画バトルロワイアル
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1216725766/
(バトルロワイアル形式スレ)

【アカギ】福本漫画のエロパロ【カイジ】
(18禁。エロパロ板)

漫画キャラバトルロワイアル
http://sports2.2ch.net/test/read.cgi/entrance2/1224671738/
安価漫画キャラロワイアル
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1225541981/
(他の漫画家作品とのクロスオーバースレ。バトルロワイアル形式)
3創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:30:41 ID:ebblNPU0
作中に名は存在しますが、独自に制作したキャラを一人書いています
「何故カイジはベンツばかり狙うのか」をテーマに
カイジは原作の中で、腕尽くの喧嘩が強い事から制作
黙示録直前の過去話で、カイジとガメラ35の越境でもあります
4夜明け前のベンツ 1/10:2008/11/21(金) 00:31:32 ID:ebblNPU0

こんな筈ではなかった。
いや「俺はこう言う人間だったのか」と気付いた……そう言った方が的を射ている。
その「俺」こと伊藤開司は、そう思ってからすぐに会社を辞めていた。

東京へ来て二度目の冬、無職の青年カイジは狭いアパートで十二月を迎えようとしていた。
秋に会社を辞めてから一日も働いていない。
勝って、勝って、勝って、負けて、勝つ。そんな感じで行くとイメージしていたギャンブルも…負けが込んで、手に取る酒を廉価に変えていた。
「カイジやばいんじゃねぇ?」
「何が」
「金あんの?」
「ひと月暮らすくらいはある」
咥えタバコのカイジは、仰向けで自室の天井を見ていた。
賭けがらみの仲間、松田に声をかけられても…覇気なく答えるだけ。
「…カイジにぴったりの仕事あるけど……短時間で金は良い。クラブのさ…」
「俺がクラブで何出来んだよ…」
「何言ってんだ。ボディーガードだよ。あんたプロだったろ」
「一ヶ月な」
「でもカイジ凄えって、本当に凄かった」
松田はカイジの熱烈なファンでもある。目の前にいるカイジとは違う、
リング上のカイジは精悍で鋭敏。付け入る隙のないキックボクサーだった。
引退して間もない頃のカイジならこの誘い…結果はどうあれまず最初に断っただろう。
だが今のカイジは
(金…)
と、タバコの紅い灰だけを見ていた。
5夜明け前のベンツ 2/10:2008/11/21(金) 00:32:21 ID:ebblNPU0
「おかしいんやないかな、それ」
カイジの麻雀仲間、西田泰宏は言う。
「熱狂的なファンやったらたぶん、そんな仕事勧めへんでカイジ」
松田がカイジを初めて見たのは、リングに視線を注ぐ客席からだったらしい。
カイジと互いに面識を持ったのは、そのずっと後の事。
「金が良いって言ってたから…何とかしてやろうなんて思ったんじゃねぇの?
 それに松田を信じ切ってるわけじゃねぇさ俺だって。…こんなもんかなってさ…」
「ちょっとでも嫌やったら、やめとき」
「それはあんたにそのまま返す。危ねぇ仕事してんじゃねぇの?」
背は低めで恰幅の良い体格、そしてパッとしない容姿の西田だが、大金を持ってカイジの部屋を良く訪ねて来た。
カイジよりも数段怪しい男なのである。
西田がヤクザだと知らないカイジ。二人麻雀で大勝した気の大きさで敗者の西田にキランと笑顔を見せる。
「カイジ」
こたつと言う怠惰に首まで浸かってヌクヌクしているカイジに、西田は話しかけようとする。
彼の真剣な様子に、カイジも真剣な顔で向き合おうとすると、いつも西田は話をやめた。
カイジを自分と同じ道……黒竜会へ誘おうとしていつも口篭っていた。
「いや…お前いつも強いなぁ」
雀力では到底カイジに及ばない西田でもある。
6夜明け前のベンツ 3/10:2008/11/21(金) 00:33:30 ID:ebblNPU0


「伊藤君もっと太ってくれたら良いね」
クラブの雇われ店長が、スーツ姿のカイジに笑顔で言った。
取り敢えず採用だが、今の見た目ではエスコートの方がそれらしい。
カイジのそこそこ長身で風采の良いスーツ姿。精悍で無愛想な顔付きだけがボディーガード向きだった。
給与は日払い。数時間の勤務で驚く程貰う。
「え!?」
恥ずかしながら…声が出た。
「良いの、良いの。それだけの仕事したんですよ」
美貌の店長が微笑みながらカイジにそう言う。カイジはこの仕事を続ける事になる。

(伊藤先輩だ。かっこ良い〜)
そう思っているクラブの後輩が、カイジに元気良く挨拶する。
「おはようございます!」
「おはよっす。来るの早くねぇか古畑」
「なんか俺、こう言う事しか出来ませんから」
後輩と言っても二人の職種はまるで違う。派遣元と派遣先は同じだが古畑は清掃係である。
若者の清掃員と言う存在が、カイジを心地良くさせる。
(若い奴が汚い仕事するって良いよな)
大層な主義主張もなく、カイジはぼんやりとそう思った。

仕事を続けていればカイジの能力を発揮する場面も出て来る。鮮やかなものだった。
癖の悪い客を追い返す時も、あまり酷い事はしない。
そして高校でもプロになってからも(どちらも勝負数は少ないものの)肉弾戦は無敗のカイジ。クラブの女性にモテ始めた。
カイジ…高校以来、人生二度目のモテ期が来そうである。
金も得た。日払いのシステムも手伝ってか、働いて得た金と言うより……
ギャンブルでちょっと勝った時に得る金に、味が似ているとカイジは思っていた。
7夜明け前のベンツ 4/10:2008/11/21(金) 00:35:52 ID:ebblNPU0
カイジが働き始めて二ヶ月が経とうとする頃、数日遅れて働き始めた後輩はこう言った。
「先輩助けて下さい、どうしても金が要るんです。迷惑かけませんから保証人に…」
古畑の渾身の願いも空しくなる程、カイジはあっさり保証人の判を押した。
「あの…」
頼んだ古畑の方が戸惑っている。
「おい、松田が来たぜ」
「あぁ、あぁ、カイジさん。この事松田さんには言わないで下さい…バレたら俺…」
「お前、保証人になって貰っといて図々しいぞ」
「カイジさぁん」
「クビになるくらいなんだってんだよ」
いつも通り無愛想な様子を古畑に見せると、カイジは松田に歩み寄る。
「カイジ! あんたやっぱり凄いって!」
カイジと古畑の派遣マネージャーである松田は、カイジの働き振りに喜んでいる。
「よぉ、なんだ用事って。それより古畑がさ」
「か、カイジさんっ…」
カイジは時に別人のように変貌する事があったが、この仕事に就いてからは頻繁にその姿を見せた。
その時の彼は粘るように攻撃的で鋭く、勘も抜群に良くなっている。

カイジも常時覚醒しているわけではない。鋭くない時もあった。
この時…クラブの広い控え室で、松田と二人切りソファーに座った時などは、勘が鈍っていたと言える。
「カイジさん…気付いてると思うけどさ…」
松田は急に改まってカイジに話しかけた。
「ウチの組来る?」
「?」
彼は松田組のヤクザであった。組と名を同じくする幹部である。
「待て、急にそんな事お前」
スーツ姿の凛々しいカイジ、慌てる。
「気付いてなかったのかよ。カイジの体力と経歴を俺のそばでさ…生かして行きたいな」
「俺に出来るわけねぇだろ。出来ねぇよ、無理」
「うん…わかった。カイジは座ってればそれで良い」
「もっと出来るか、そんな事!」
「働かなくても良いんだぞ」
「マジ……バカ。……お前本気かよ。昔ファンだったからっておかしいだろそれ」
「誰が昔って言った。今もファンですよ」
「……俺、ちょっと、帰る」
「カイジ」
「無理、無理」
「カイジぃ」
8夜明け前のベンツ 5/10:2008/11/21(金) 00:37:16 ID:ebblNPU0
夜の中を、カイジは一目散に走った。
(死ね! 松田)
彼にはもう二度と会いたくないと思っていた。
「カイジ!」
ネオンの眩しい歩道で、聞き慣れた声に呼び止められた。
「これからお前の店に行こう思ってたんや」
「西田さん」
西田はネオンに照らされた黒いスーツとコート姿のカイジを、上から下までじっくり凝視する。
「へぇ、お前ええ男やったんやなぁ。知らんかった」
「今そう言う事言うのよせよ……店辞めんだ俺」
カイジは半笑いの弱り顔でそう言う。
「今日…ごめんな。代わりに俺奢るわ」
「カイジが奢るぅ!? 地球割れるでほんまに」

奢る店に招く…それを待たないうちに、カイジは路上で西田に語った。
「松田が俺をこの仕事に誘った理由さぁ…」
「ふん」
「最もらしい、素晴らしいモンだったぜ」
「ぎゃはは」
西田はカイジの口から……松田にヤクザの道へ誘われた事、
松田がコートの裾に縋って来た事などを細かく聞き、声を上げて大笑した。
「カイジ、カイジ、わいも言いたい事あんねん」
「ん」
「わいもヤクザや。黒竜会の」
カイジの大きな瞳がさらに、少し見開かれる。
「若くて良いの探しとってな……でも、駄目やったな。
松田の事聞かんでも誘うつもりなかったわ、カイジは。
優しいやんかカイジ。なんか……わいなんかちょっと感動した時もあったんやで」
カイジと西田の側らに、一台のベンツが止まった。
(あ、ベンツだ)
そんな事を考えているカイジに、西田の最後の声が掛かる。
「もう会うこともないやろ。カイジ、その方がええ」
「んな事言うなよ。じゃあな」
「そうか? ほな」
白銀のベンツが夜に溶けて見えなくなって行く。
9夜明け前のベンツ 6/10:2008/11/21(金) 00:38:49 ID:ebblNPU0

(ヤクザだったのか……なるほど…そんなもんだよな。そんなもん……)
カイジは気付いた。自分は高く評価されると、ヤクザの道へ入ってしまう事。
行く道が極道。ヤクザからしか誘われない事を。
ここ数ヶ月は働かなくても生きていけるカイジ。松田が恐ろしいので自宅にはしばらく帰らなかった。
だが出先…ムーンと言うスナックでとうとう捕まってしまう。電話での事だった。
「居ねぇって言ってくれ」
カイジにそう言われ、店のマスターは松田からの電話を丁重に切っている。

店を変えて居酒屋の白穂。何度か麻雀をした事のある高校生がカイジに走りよって来た。
「カイジさん、西田さんが撃たれた。松田組に」
カイジはその声に、居酒屋の畳から立ち上がる。
カイジの静かな猛りに圧倒されながら、青年は西田の事を伝えようとする。
「カイジさん…最後まで聞いてくれ。結果は、悪くない」
撃ったのは松田組だか、黒竜会が西田を裏切ったとの事。
どんなクズでも死ぬ事は出来るだろうと…黒竜会の幹部金光が、抗争のバランスの為に
わざわざ西田に死んで貰うお膳立てをしたそうだった。
黒竜会の何人かが死ぬ事で、松田組に手打ちにして貰う為。
金光は最初から…その為だけに西田を雇ったらしかった。
(地獄だ…)
そう思ってもカイジは表情を歪めず、青年の話を待った。悪い結果じゃないとはどう言う事なのか。
「二人の男が車から拳銃を向けて、俺達を何発も撃って来た。
西田さんも俺達と一緒に居て、四人で一つのテーブルを盾にして隠れたんだけど、
その時、日本刀しか持ってなかった西田さんが」
前に出ろと言ったと言う。生きる為だと言って、青年達に取っても命綱のテーブルを前に出させた。西田も一緒に押し出しながら。
「このままじゃ皆死ぬ、この刀の届くところまで行かないと活路がないって、だから。
少し前に出てからは西田さんが盾もなく一人で走って行って、斬った」
西田は銃を持つ男一人の肩を、刀で刺したそうだ。
「四人全員助かった。
当たってない、西田さん、何発も撃たれたけど、玉は顔をかすめただけなんだ」
それを聞き終えたカイジ。
(帰って来た。生きて帰って来たんだ、西田さん)

西田は消えてしまった。どこかへ行った。どこかへ行って、ちゃんと地に足を付けてしっかりと生きて行くのだろう。
ヤクザは懲り懲りなんて言って。
……カイジは西田を偲ぶ。
西田さんどこへ どこ行ったんだよ
10夜明け前のベンツ 7/10:2008/11/21(金) 00:40:08 ID:ebblNPU0
また例の店で、カイジは松田の電話に捕まった。
「切りますか?」
マスターはカイジに尋ねる。
「いや」
と、カイジは店の受話器をゆっくり取った。
「松田」
「カイジ…」
カイジが出たのに、松田は嬉しそうな声を出さない。落胆して身も世もない雰囲気である。
「頼むから店に出てくれ」
「行けるかよ」
そう松田に言うとカイジは電話口を押さえて、マスターに少し長くなる旨を伝える。
電話はもう一台あるから心配ないとの事で、カイジはトイレの洗面台の前まで子機を持って行った。
「俺、店に顔出さないから…もうカイジに会わない、何にも誘わないから、出勤してくれ」
「行かない。俺な、もう夜の…そう言う仕事する気ねぇんだ。お前のせいだぞ」
「カイジ………あんただってバカだ」
松田の声が異常に悲しく震えている。カイジはヤクザの、松田組の若い幹部を心配した。
「どうした?」
カイジに優しい声をかけられて、松田は嗚咽を漏らした。泣き出してしまった。
「どうしたんだよ松田」
カイジの声はどこまでも優しくなる。
「とにかく働いてくれ…金貯めろとしか俺も言えねぇんだよ、カイジ」
「理由も言えないのかよ」
「言えない…だから、これでもう電話もかけない。カイジごめんな。辛い思いしたらごめんな」
血の出るような声で泣く松田の方から、電話は切られた。
松田も…古畑があれほど駄目な男だったとは予想だにしなかったのである。
松田は自らも借金を負わせていた古畑の別の借金、そのとある一件を知ってしまう。
この件を松田がすぐに把握出来なかったのは、
件の保証人となったカイジが、松田に古畑の借金の事を一言も言わなかったからである。
(帝愛……!…保証人、伊藤開司、バカ!!)
白黒のFAX用紙を握り締めて、松田は呻く。カイジと帝愛が絡んでしまった。
カイジを救おうにも、松田組は帝愛に借りを作れるほどの組ではない。
松田はカイジをあきらめたのである。そして純粋に友人としても心配するほど、帝愛の恐ろしさを知っていた。
「松田?」
カイジは松田の出方に受けて立とうと決めたのだ。
しかし初めて電話を取ると、その一度で話は終わってしまった。
クラブでの物別れ以来、電話しかかけて来なかった松田。
カイジは淡く感じ取る。松田組の幹部にも手に負えない何かが…不確かだが冷たく自分の側らに控えている可能性を。
永遠に松田の声が失われた受話器は、カイジがすでに孤独である事を、
そして松田組以上の暴力組織がある事を伝えていた。
11夜明け前のベンツ 8/10:2008/11/21(金) 00:41:56 ID:ebblNPU0


カイジは一枚だけ残したスーツを着て、残りのスーツを持ち質屋へ向かった。
夜働いていた時の物は、全部と言って良い程金に換えている。
カイジと言う人間の様子さえ変わる程、彼は枯渇を深めていた。
生来、働きたくない男である。
一時、本当に一時だけ金を持っていたカイジ。あの頃は今とは違う意味で生を感じていた。
世の中がリアルに感じたと言って良いのか。あれこそ現実感のない日々だったのか。
とにかく、湯水のような金の感覚を一度は知ってしまった。
(金…金だよな…)
ぬるい溜息に身を任せて、まどろむような今の日々と金の事を思った。

質屋の駐車上で、カイジはまた見る。
(ベンツ…)
銀色の強い、白いベンツ。その中から、黒服達に金光と呼ばれている男が出て来た。
西田の上司と同じ名前、似た顔、車、まず間違いないと判断できる。
カイジと西田が別れたあの時、ベンツの後部座席に座っていた男だろう。
松田組 狙撃隊の的として西田を利用した、黒竜会の金光。
西田は金光に騙されたその後、襲って来る松田組の三下2人を怯ませて、退かせた。
そしてその足で黒竜会から消えた。
(俺は)
カイジは自問する。自分に出来る事。
(ボコボコにしてやる)
金光を殴りたいと思った。しかしただ襲って溜飲を下げたい、それ言うわけではなく、
ヤクザと自分を切り離す標として金光こそを利用したいから
「俺は松田組でもなんでもない、何の背景も持たない、伊藤開司だ」
そう言って顔を晒し、殴り倒したい。
しかし出来るのか。下手をすると取り巻きの黒服達に殺されるかも知れないのに。
(行け!)
頼もしい自分の足に命令する。
(行け、今しかない!)

黒いコートのカイジは走った。金光の顔を回し蹴りで吹き飛ばす事は容易だ。
閃光のような蹴撃。だが失敗。金光の髪しか蹴り飛ばせなかった。
その後はただ逃げるだけ。遮断機の下りた線路の中へカイジは逃げ込む。
電車のすぐ目の前まで躍り出て、車輪の目前を横切り、向かい側の遮断機も越えて行く。
「俺は、伊藤開司!」
夕暮れの住宅街を斬るように駆ける声。それを大声と認識は出来ても、
嵐のように走り去る彼の名など、誰の耳にも届いていない。
12創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:42:03 ID:vQ0Ibbtm
支援
13創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:42:39 ID:vQ0Ibbtm
支援
14創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:42:59 ID:vQ0Ibbtm
支援
15夜明け前のベンツ 9/10:2008/11/21(金) 00:44:35 ID:ebblNPU0
遮断機の場所と、電車の来るタイミングを計算し、勝算を持って走り込む事になんの意味もなかった。
金光は最初から、黒服達にカイジを追わせなかったのである。
丸腰だったカイジ。ただの脅しか、度胸を試したいだけのガキだと思って金光は膠もない。カイジを侮り、関わるのが面倒そうな金光。
ただ彼の頬はカイジの爪先によって、赤く滲んでいた。
その負傷を瞬時に悟られ、黒衣の青年にニヤリと笑われたのは腹に据えかねる思いの金光だが、
あの男を探せと騒ぎ立てるのは避けたかった。カイジを侮り過ぎているからか、
あの笑顔を脅威と認めたくなかったからか。

犯人は、犯行現場に戻ると言う。
日が落ちて夜になった頃、カイジもひょっこり駐車場に戻って来た。
金光の用事はどれほど長いのか、ベンツはまだ認められる。
西田との別れは衝撃的で、あの時見た人、風景は鮮やかに、ベンツのナンバーさえなんとなく覚えているカイジである。
この車はあの日、西田を乗せていった白銀のベンツ。彼の推察通りだった。
カイジの勝負経験が、悪い方向に騒ぐと凶行に変わる。
意を決して行動する事は結構だ。しかし夕方のあれは勝利ではない。そう思ってベンツの前に立った。
(自由になりたい、道を開きたい)
銀の美しいメルセデスベンツが、黒いスーツのカイジの前で妖しく光っている。
俺にはヤクザの道しかないなんて。
カイジの武器、攻撃は、工事現場から無断で借用したハンマーだった。
ベンツは最初の一撃で、乗り物としての命を散らす。
「アハハ」
魂が震える様な、歓喜の声が出る。
逞しい腕力に物を言わせて、カイジは無抵抗の車をどんどん痛めつけて行く。
「…くっそぉぉっ! 誰がヤクザになんか!」
軽やかに襲撃し、黒いコートをマントの様に翻して攻め終える。
踊るように帰路に就くカイジ。路の途中で蹲り、一人泣いた。

カイジをヤクザにしたい者の思いは、多くの場合見込み違いに終わる。
金光も、蹴られた時は「あいつは極道かも知れない」とカイジを思っていたが
車が大破されたのを見た時は「これは素人の犯行」と判断。
男としての評価、敵としての評価を、カイジは物言わぬベンツがきっかけで下げる。
その無残な姿は…ハンマーを振りかざした本人が情けなさで泣きたいほど。
ヤクザに成るどころか、ヤクザに関わったら食い物にされるだけだと恐れながら。
16創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:46:35 ID:vQ0Ibbtm
17夜明け前のベンツ 10/10:2008/11/21(金) 00:46:37 ID:ebblNPU0


東京へ来て三年、伊藤開司は最悪だった。
正月が明けてから一日も働いていない。
しょぼい酒としょぼい博打の日々。そんな鬱憤を晴らす為に…
しかしそれはベンツではなかった。今日はいつもと違う日になる予兆か。
あの時の快感が忘れられないカイジは、せっせと破壊を営む。
一台のBMWはカイジによって犯され、路上に痛ましい体を晒す事になった。
家に帰り、一人思う青年
(金だよな…金…)
今度は思うだけで涙が零れた。
(何にもねぇな、俺)

カイジは、上京して一年後にケガで選手生命が絶たれた時、ジタバタせず上京以来続けていた他の職に従事していた。
それから半年後…不意に気付いて何も出来なくなる。東京に来て二度目の秋の事だった。
(俺は弱いんだ)
その時までカイジは、自分は強い方の人間だと思っていた。
働く事、労働に向いていないと切実に思いはしていたものの、
選手引退が大きな引き金になったとは言え、働けなくなるとは思わなかった。
(駄目なんだ俺)
当時、20歳前の青年がそう気付いた。

(ヤクザからしか誘われない…か)
カイジは、キックボクシングも他人から誘われて始めた事を思い出していた。
流されている。流されて生きて来た。
「俺がやると決めてやる」
カイジに取って、そんなものはどこにも

カイジが涙を拭いたこの時、彼の部屋に来客がある。
西田とは全く種類の違うヤクザが、扉の前でカイジを待っていた。
金光とも松田とも違う。持っている車はベンツではなくBMW。

ヤクザは運命ごとカイジの前に差し出す。彼の行くべき本当の世界、希望の船への入り口を。

18創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 00:49:13 ID:vQ0Ibbtm
19創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 02:54:16 ID:yYZCvNfh
GJ!
スレたて&作品投下乙!
遮断機越えて逃げるシーンが格好良かった!
あえて自分の評価下げるってとこがカイジクオリティw
20創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 08:28:41 ID:+iNnGCyu
>>1 スレ建て乙であります。
カイジの戦闘力の高さの秘密。
ヤクザだって表明して近づいてくる西田さん&松田さんより、
人懐こい後輩の顔で近づいてきた古畑のほうが質悪い…

9/10のカイジが狂気をはらんでて怖いです。
21創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 16:35:46 ID:ik5RJX0D
一応確認しとくがカップリングとかそういうのは無しだよな当然
やおいであれノーマルであれ勘弁したいから聞いとく
22創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 18:27:31 ID:vQ0Ibbtm
福本キャラでやおい…想像できんな
23創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 01:55:11 ID:nOI4886s
支援そして感想、ありがとうございます。>>2 にあるスレには投下出来ないようなSSの発表などもどうぞ

>19
遮断機のカイジ、カイジは身体能力が高いですよね。その能力の理由に触れない原作が凄く好きです。
テッシュ箱くじ前のカイジとか「よせば良いのに」感がいっぱいで見てて脱力します。原作の魅せる力は凄い
>20
カイジの狂気は、Eカード編がえらく好きなもので。古畑の事は安藤よりも嫌いと言う読者さんも多いそうですね
24創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 01:57:50 ID:nOI4886s
カップリングは有りと言えば有り、ただ「成人向けの描写のある作品」や「男×男」は
該当スレ(エロパロ、801)がありますのでそちらで是非。

そしてカップリングと言っても、原作で描かれていない、SS作者の制作による設定が
顕著に書かれる二次には、投下の前に注意書きが望ましいかも知れませんね。
(イチャつきこそが本意のSS、オリキャラが出る、など)
ただし、事前に注意書きすると作品のネタバレになる場合もあると思うので
そこは書き手さんの判断で。危険だけど爆笑できるSSもありますし
25創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 03:47:41 ID:nOI4886s
チキンラン直前の、アカギの過去話です
26夢を越えて 1/3:2008/11/23(日) 03:48:28 ID:nOI4886s

昔の日本人は現実と夢をわけていなかった。いや、夢の方を現実として扱う場合もあったのです。

誰かがそう言っていた。
13歳のアカギがふと、そんな言葉を思い出しながら長屋の狭い路地を歩いていた時である。
ポンプの近くに座り、子供と手遊びをしている男がいた。
アカギがその男に近付くと、子供達は何か感じたのか、ササッと皆居なくなってしまう。
「よお」
「…ああ」
男に低い声を掛けられ、アカギは返事をした。
「遊んでいかないか」
「クク…俺とかい。どんな遊び?」
「トランプ」
「それなら出来る」
そう言ってアカギは男からの誘いに乗った。
「あんたは…さっきの子供達のようには行かねぇよな。何か賭けよう」
「何を賭ける」
「腕」
男は短く、アカギにそう答える。
「……いいのかい。あんたも俺も同じ条件で」
「あぁ。お前が勝ったら持って行きな」
そう言うと男は立ち上がって、アカギを賭場に連れて行った。
27夢を越えて 2/3:2008/11/23(日) 03:49:53 ID:nOI4886s

勝負はポーカー。男がカードを切っている。
「子供に逃げられるような大人はつまんねぇぜ」
「……俺に言ってるのか」
「そうだ」
「クク…俺が大人に見えるのかい…」
「十分だろ…それで」
確かにアカギは5つ程年上に見られるのが常だ。しかしこんなに年の離れた男に大人と言われるとは思わなかった。
「勝負事は好きかい」
と、男がアカギを誘うように問う。
「あぁ」
「じゃあ俺も本気をだそう」
そう男に言われ、本気を出されたアカギ、引き分けてしまった。
(あ……)
生まれて始めて引き分けた。
「良い勝負だったな」
そう言う男の顔はずっと真っ暗闇だった。だからアカギは見ようとする。
28夢を越えて 3/3:2008/11/23(日) 03:51:02 ID:nOI4886s
「おじさん…顔見せてくれ」
初老の男が近づける暗い顔を、アカギはしっかり見定めようとする
俺──
顔に皺は刻まれているが、自分である事はすぐにわかった。

昔の日本人は現実と夢をわけていなかった。いや、夢の方を現実として扱う場合もあったのです。

誰かがそう言っていた。

自分に足る者は、成長した自分しかいない。
これが現実だった場合を、アカギは想像する。
現実であった場合の…絶望にも似た孤独を前にしても、アカギは少し目を見開いただけだった。
「おじさん…これ教えてくれ」
と、アカギは自分の足元にあった麻雀牌を、初老の自分に見せた。
「そいつを知らないのか」
「ああ」
「でも、それは教えられねぇんだ…なぜなら、俺は……」
アカギはここで目を覚ました。10代始めの瑞々しい瞼を上げる。
覚醒したばかりの顔でキョロキョロとあたりを見渡すアカギ。
(教えられないのはなぜさ…その先は良い話かい…?)
良くも悪くも受け止めるから、言ってみなと…アカギは夢の男を少しだけ待ってみた。

夜になるとアカギは車のギアを握っていた。最高速度で車体を軋ませる。
窓を開けて走る神域の男。激しい雨が彼の白い髪を、頬を、シャツを濡らす。
13歳の男が車を走らせるその先は
(その先は…)
その先をただ黙って見据えて、ブレーキは踏まない。アクセルを踏む事でしか見えない世界がある。
その世界の入り口でアカギの体が瞬間、車ごと浮き上がる。そして見た事もない夜の海へ潜って行った。
29創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 03:56:05 ID:a5n7oBnl
え?え?13歳のアカギが会ったのは大人になった自分?
そして最後は海に車ごと突っ込んで自殺?
30創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 04:20:54 ID:nOI4886s
そう、53歳のアカギ。
で、車の13歳アカギは原作のチキンランとして。
アクセルを踏んだ理由と、レースの結果、レース後アカギがどこへ行ったかも「アカギ」の原作通り
31創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 04:45:57 ID:nOI4886s
めっちゃ早く読んでくれて、ありがとうございます
32創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 04:48:51 ID:a5n7oBnl
いやごめんアカギ読んでない俺がなんだかんだ言うべきじゃなかったな
33創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 04:52:49 ID:a5n7oBnl
しかしこのスレってリンク貼ってる他の関連スレとか原作スレに宣伝してないの?
人気がある作品の二次創作で、実際に作品も投下されているにしては人がいない
34創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 05:15:11 ID:nOI4886s
あ、そうだったんですか。「アカギ」はそらもう面白れーですよー
そう言えば53歳のアカギは「天」と言う別の漫画に出るので、厳密に言うと越境でした

【アカギ】福本作品雑談スレ【カイジ】
http://changi.2ch.net/test/read.cgi/csaloon/1220311550/
お世話になったので↑こちらには報告を。他のスレには宣伝してないですが
福本関連のスレをおそらく全紹介してる「福本吹いたスレ9」にリンク貼って頂けた様子
35創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 12:00:55 ID:D6JUjplv
面白かった。53歳の赤木さんと逢う13歳アカギ。
53歳の赤木さんは覚えているのかな?

宣伝は難しい。新スレが建つ毎にテンプレに貼って誘導するのが
好いのでは?興味のある人は覗いてくれると思う。
創作発表には3つのアカギ関連スレ(進行も同じくらい)があるから、
まとめておくと何度でも張ってもらえるかも。
作って雑談に貼っておくよ。
36創る名無しに見る名無し:2008/11/23(日) 13:44:46 ID:jyJAdD6K
カイジとアカギ、どっちの話も良かったです!
371/3:2008/11/25(火) 18:01:05 ID:QXdFDvOz
二次総合スレから転載、アカギ三世代話。作者の許可は貰ってます。






「くそじじい」


「くそがき」



自分のそれより少し高い声と自分のそれより少し低い声がそう言ってげたげた笑い合っている。果たして、自分はこんな風に笑う人間だっただろうか。
あまり理解は出来ないがなんだか仲が良さそうなので放っておくことにする。
窓の縁に腰掛けて煙草に火を付けながらそういえばどうしてこんな所に居るんだったか、と考えていると背後から甲高い声が降って来た。

「兄さん」
「…どうした」
「今あんたの話をしてたんだ。随分派手にやってるそうだね…丁半やってヤクザに斬られたって?」
「そうそう、アレは痛かったよなあ。やせ我慢も良いとこだ」
子供の問いに重なるようにからかう様な低い声。

「…あんた達だってそうするだろう」

「俺は嫌だよ。そんな事で死にたくないね」
「ああそうだなあ、死ななくて良かったが馬鹿な事をしたよ」

学生服の少年と派手なスーツの男が顔を見合わせてくすくす笑っている。二人して俺をからかっているらしい。
昔の自分と過去の自分。少し面白くなってきた。

「あんただって、どうせ録な死に方しないぜ」

口角を歪めて笑いながら、自分と同じ髪をした派手なスーツの男に言ってやる。
当然だ。俺はきっと博打で死ぬ。あんな歳まで生きているらしいのは意外だったがたった数十年でこの価値観が変わる事はないだろう。
それを受けて男がまた笑う。

「ところが、そうでもないんだよな」

畳の上に胡坐をかいて座っていた子供が猫の様にぴくりと動いて男の方を見る。

「教えてよ、じいさん」
「駄目だ駄目だ、こればっかりは教えらんねえ」
相変わらず楽しそうに笑いながらそれよりその呼び方はなんとかなんねえか、と子供の額を指でつついている。食えない男だ。

「自分の死に方なんざ知っちまったらつまんねえだろう。なあ?」これは俺に言っているらしい。
ああ、確かにそうだと答えて笑ってみせる。見慣れない銘柄の赤い箱から煙草を取り出し男も笑う。

「まあ…そうかもね」
小さくごちて子供が畳の上に寝転がる。
そういえば、六年前は良くあの人の家に上がりこんで畳に寝ていた気がする。
この子供の帰る家は相変わらずあの狭いアパートなのだろうか。
382/3:2008/11/25(火) 18:03:08 ID:QXdFDvOz


「なんだ、がき」

畳に手足を投げ出したまま男をじっと見上げて居たら顔を覗き込まれた。三十年後の自分はこんなニヤついた顔なのか、と改めて思う。

「さっきそうでもないって言ったよね。って事は、あんたは死人なのか」
「さーて、どうかな。でまかせ言うのはお前も得意だろう」

食えない男だ。ふ、と小さく笑うと男も同じ笑い方をした。

「あんまり先の事を気にするもんじゃねえ」
「まあね。でも、こんな狂った事二度と起こらないだろう。多少は気になるさ」

全く、狂っている。気付いたら目の前にこの男ともう一人、背の高い青いシャツの青年が居て、よくよく聞けば六年後の自分と三十年後の自分だと言うのだ。
最初は信じなかったのだがどうやら本当らしい。この大人達は自分と同じ生き物だった。

小さく掠れた笑い声が聞こえたので視線を変えると、六年後の自分も笑っていた。

「兄さんも思うだろ?」

すっかり丸くなってしまったらしい初老の男に比べるとまだ自分に似ている気がする青年に声を掛ける。

「ああ…どうかしてやがる」

くつくつと笑いながら青年が煙草に火を付けた。
どうやら将来の自分はヘビースモーカーらしい。何本目だか知らないが臭くてかなわないのでやめて欲しい。

「…タバコって、美味いの?」
「まあ、なんとなくさ…。お前もその内吸い始めるだろう」

はぐらかすようにひらひらと手を振られた。
自分も真面目に質問に答える性質ではないが他人にされると案外腹の立つものだ。これからは少し考えよう。


「ああそうだ、墓には行ってるのか?」

思い出したように問い掛けながら青年が顔を上げた。昔の自分─即ち俺にそんな事を聞く筈も無いのでこれは男への問いだろう。

「ああ、変わらず行ってるよ。サボったら祟られそうじゃねえか」
「…そうだな…違いない」

くつくつと、同じ笑い方をしながら二人が顔を見合わせている。
良く分からないが、こいつらの世界では墓参りをするほど親しかった誰かが死んでいるらしい。自分にそんな人間が出来ている事は少し意外だ。
果たして自分の知っている人間だろうか。俺の知らない未来の事だろうかか。流石にそれを問う気にはならない。
「ま…元気にやってるだろうさ」
スーツの男が変わらず上機嫌な様子で小さく呟いて、深く吸った煙を天井に吐き出す。全く、未来の自分は不思議な男だ。

393/3:2008/11/25(火) 18:03:43 ID:QXdFDvOz



「ところで…ここが何処だかあんたは知ってるのか」

灰皿の淵にとん、と灰を落として窓の方に顔を向ける。
刃物のような鋭い目をした青年。いくらか昔、まだ若い頃の自分だ。
昔の俺はこんなに悪い顔をしていたのかい、と思いながら小さく笑う。誰の仕業か知らないが全く面白い企画だ。

「ああ、知ってるよ」

この古い、狭いアパートは見知った場所だった。9年前迄はちょくちょく出入りしていたので間違いない。
「まあ…俺の家みたいなもんだ」
強ち嘘でもない。当時は若い家主にそう言って引っ張り込まれたものだ。

「家、ねえ…」
腑に落ちない様子で呟いてそっぽを向く青年が愉快でたまらないので、また小さく笑う。

隣に視線を落とすと学生服の少年が寝息を立てていた。
こいつらは過去の自分に違いないのだが、なんだか子供や孫が出来た気分だ。悪くない。
短くなった煙草を消して新しく火を付ける。煙を吸って吐き出す。




「もう…日が暮れちまうなあ」


暗い青と深い赤、僅かに鮮やかな橙。
詩的な表現なんかは出来ないが、青年の肩越しに見える東京の空をとてもうつくしいと思った。五十三年間、終ぞ変わらなかった空だ。



もしかしたら、これは俺の見ている夢なのか。
走馬灯って奴とはちょっと違う気もするが、間際に変な物を観ることは珍しくないと聞く。

夢だとしたらそう長く続く物ではないのだろう。

急に思い付いた答えに満足しながら小さく伸びをして少年の横に寝転がる。
古い畳の匂いを、懐かしく思う。窓からの、夏の終わりの風が心地良い。




──最後に、こいつらと話せて良かった。

そんな事を考えながら目を閉じて、眠気に誘われるまま意識を手放した。



40創る名無しに見る名無し:2008/11/25(火) 23:32:17 ID:fz1wnKqA
作者さんの許可が貰えるものなら、このスレでも紹介したい…
と思っていた作品でした。まさに僥倖
41創る名無しに見る名無し:2008/11/25(火) 23:34:36 ID:fz1wnKqA
それでさっき二次総合スレの最近の書き込み見たら
>【アカギ】福本作品SSスレ【カイジ】
>みんなで焼き土下座をするスレです
あったかい紹介がありました。しかも今帝愛のSS書いてます

優しい >35 さん…!

みなさま感想ありがとう…! また書きます
4240:2008/11/26(水) 00:27:59 ID:WuEhGirG
良いですねぇ。アカギの三者三様
43創る名無しに見る名無し:2008/11/26(水) 17:35:12 ID:+/LAIONc
>>41 待ってるよ〜
44創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 03:51:36 ID:fiZLVEDG
兵藤会長が、帝愛の社長だった時代として設定した過去話です。二度に分けて投下します
45  1/8:2008/11/30(日) 03:55:02 ID:fiZLVEDG


「驚いたぞ、本当に若いな」

豪奢な椅子に座る帝愛社長、兵藤和尊の前に若い男が一人立っている。

この若い…末端の帝愛社員は、

独力で「兵藤はギャンブル好き」との性質を調べ上げ、直接兵藤社長に会える機会…つまり今の状況を自ら作り上げた。

自力でこの場を掴み取ったのだ。

「うちの部の若い者に凄い奴が居まして」

そう部下から連絡を受けたのが、兵藤に取っての始まりだった。

その部下…つまり青年に取っては上司となるが、その上司が兵藤社長に紹介したくなる存在となる事…

存在なのだと自らを知らせる事から、青年の動きは始まっていた。

全ては、一人で社長に会う為。

会いたいと言ったところで会えるものではない。帝愛に入ったばかり20歳そこそこの青年。

会える材料がなければ。

高校卒業と同時に暴力団組員と大学生の二足のわらじ。

黒い蛇の刺青を腕から取らぬままに帝愛入社。

だが、それはこうして社長に会えている理由ではない。

「さて、本題だ。聞かせて貰おうかな君の武勇伝を」

社長の知る博徒達にEカードで全勝したと言う、この青年の戦い振りを。

すでに無敗の帝王の迫力を持つこの若者の能力を。

「お時間と、お言葉も頂き幸甚でございます。勝利には理由があります」

「ほう」

「その理由をお伝えしたく。この度、願い上げたい儀はその上での事です」

「なるほど。一人で会いに来たのは儂にだけ聞かせたいからか」

「恐れ入ります。失礼は承知で参りました」

「して」

「私は人の心を読みます」

青年は鼻に詰まったような低い音、そして仄かに舌足らずだが男の色気を感じさせる、老成して落ち着いた声で言う。

「私の力を、社長の賭場で使わせて下さい」


46  2/8:2008/11/30(日) 04:01:58 ID:fiZLVEDG
「儂にじかに会おうとする気概、それを叶える為の根回し、どれも素晴らしいぞ。
 しかしその能力を確かめんとな。論より証拠だ。君の力を見せてもらう」
「はい」
「儂の心を読んでみたまえ」
青年は少し垂れた双眸をゆっくりと閉じ、瞼が塞がれると弾かれたように瞳を開いて言った。
「“眠い”」
「……ハハハッ!…さすがだなっ、飛んだぞ眠気が!」
兵藤は椅子を捨て、立ち上がった。眠気など一切見せなかった瞳を開いて青年を見据える。
「良いだろう。君をただの社員にして置く程、儂も寝惚けてはいないぞ」
「光栄に存じます」
「しかし君、今は良いのだ」
「は」
「将来の保証があるか? こうした超能力の類は、不意に失われる事も多いと聞く。
 失われてしまった時、君はどうするね」
青年が社長に深々と頭を下げ、ここまでやりきった事への達成感と深謝の言葉が部屋に広がっていた時、兵藤はそう言った。
「社長のお呼びが掛かる限り、私は賭場に立ちます。能力がなくとも戦えます」
「本気か」
「はいっ」
「能力を失くしたなら、今までの経験を生かした洞察力や、イカサマを使ってでも勝負をして貰う事もあろう。
もし、そうなった時でも儂は君への評価を下げるつもりはない。
つまり、負けた時は超能力者としての責任を取って貰う。
絶対に勝利出来る者としての責任を負って貰うぞ、いいかね?」
青年は社長のこの言葉に息を呑んだ。一度見込んだ男の評価は下げない。
下げない事で理不尽が生まれ、多くの苛烈な運命が待っていようとも…誇り高いこの青年に取っては体に染み入る言葉だった。
喜び、意気込み、閉塞感を身の内に抱いて青年は社長と目を合わせた。
「勝てばよろしいのですね」
「ハハハ、そうとも。なんの事はない。君と儂が扱うのが勝利の一事であれば良い事。
 逞しい、骨のある男だ。言葉も強い」
青年に取って、他人の興奮した心は読もうとしなくても勝手に見えてしまう事がある。
社長の言葉はどれも本音だった。
「希望通り、君を今居る部署から儂の近くへ移そう。その為に一つ、試験を受けて貰うぞ。
 その当日まで試験の説明も出来ん、質問にも答えられない。日時は追って連絡しよう」
47創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 21:16:06 ID:yW2reUoh
青年って誰だろう?気になる…
待ち遠しい…
48創る名無しに見る名無し:2008/12/02(火) 06:23:53 ID:Cl7n1DME
>43 >47
ありがとうございます。出来上がりました
49創る名無しに見る名無し:2008/12/02(火) 06:26:26 ID:Cl7n1DME


それから幾日か経ち、青年は深夜に社長から呼び出された。今日が試験の日だそうだ。
帝愛と言う大会社で得られる出世と権力が、今彼の目の前に無防備に転がっている。
青年が招かれたのは地上15階、ツインビルの屋上だった。
ビルとビルの間に二つの長い鉄骨が渡っている。
西の屋上から東の屋上を目指して、空を渡る黒い鉄骨の真下…つまり60m下の地面にはツインビル専用の道路が走っている。
しかし今は暗闇のため、屋上からは道路の様子がわからない。
見渡す限り…ビル周辺の光はこの屋上と、長い鉄骨の途中に数箇所、小さな電灯が設置されているだけ。
青年は一人で帝愛の人間達と西の屋上に居るわけではない。他に五人の男達がいた。
年齢は老若様々で、五人の様子は尋常ではい。見ているだけで異常な緊張が伝わって来る。
「では説明します。この全長25mの鉄骨を渡り切る事。それだけで皆様の借金を帳消しとします。
 全員2時までに橋の上に乗り、各々乗ってから1時間以内に渡り切る事が条件です。
 時間はあります。よって、共に渡る相手の邪魔をする必要はありません。
 自分のペースで挑み、この機会を生かして頂きたいと思います。
 ただし、橋に乗れば渡り切るまで、途中棄権は認められません」
青年もその黒服の説明を聞いていた。そして屋上に居た兵藤に、特別に一人呼ばれ言葉を貰う。
「君も渡りなさい。それが試験だ」
その言葉に青年は少し目を見開いた。……しかし、…しばらくして頷く。
「…わかりました」
そして鉄骨のそばまで行き、地面を見下ろした。
「ふぅん」
と、がっしりした腕を組みつつ鉄骨とその下を見ていたが、すぐにも兵藤の下へ戻り青年は言う。
「一人で渡らせて頂けますか」
50黒い架け橋 4/8:2008/12/02(火) 06:33:37 ID:Cl7n1DME
「申し訳ないが、君にはそれを許す事は出来ない。君はあの者達と立場も違えば度量も違う。
 君には鉄骨を渡る三人の中間…つまり二番手で渡って貰うぞ。前と後に債務者の居る状態でな。
 それが私の用意した条件だ」
青年は黙って…しばらく長考した。
彼が読めるのは元々、他人の最も深く根付く感情や、荒ぶる心中の声。
相手の「静かな思考」は、今までも推察して勝負をして来た。
見抜く時は推量で見抜く。だから、見えなくとも今の兵藤の考えはわかる。
(社長は私が死んでも良いと思っている。私の能力が惜しくないのか、いや)
「……鋭い君に隠し立てしても仕方がないな。もちろん君の命だが、
 惜しいさ。君を心理戦の賭場に出せば勝てるのだからな。
 しかし、これは儂の賭けでもあるのだよ。君を失うか否かのな。
 儂は君の生還に張ったのだ。自信はあるぞ」
(ギャンブル、か)
ギャンブラー…その人種によって、青年の未来はどう言う成り行きを迎えるのか。
「私が渡り切り、勝ったなら、それは社長の勝利でもあるのですね」
「そうそう、そうとも」
「お見せします。最初の勝利を」
「クククク」
兵藤は両手を叩いて喜んでいる。
「楽しい男だ。楽しみにしている。向こうの屋上で待っているぞ」

「参加予定者は六名。一つの橋に三名ずつ乗り、進んで下さい。
 皆様の渡る順番はこちらで決めさせて頂きます。
 高圧電流が常時流れている為、靴の底以外が橋に触れた場合、その触れている参加者は感電する仕掛けが施されています。
 もちろん感電している者に、靴の底以外が触れた他の参加者もその範疇とお思い下さい。
 そして橋に触れる前であれば、どなたも辞退は可能です」
黒服の説明はそうして終わった。
青年は鉄骨の前で一人立っている。
その青年を見て、あれはヤクザだな…と気付く債務者達。この高さに臆していないのが尋常ではない。
「あなたも参加?」
青年の後に続く予定の若い男が、青年に言った。
「ああ。なかなか高いな」
(え…なんでそんな事言えるんだろう…)
他人事以上の冷たさを感じた。これから渡る当人の口から。
落ちたら絶対に死ぬ高さである。それを、これから命綱もなく渡る六人なのだ。
「俺は債務者と言うわけではない。前向きに挑戦すると言う点では、ここの五人とそう変わらないが、
 俺を気にしたり、俺に関わると損をするぞ」
51黒い架け橋 5/8:2008/12/02(火) 06:53:06 ID:Cl7n1DME
「どう言う事…」
「気にするなと忠告はして置く。ここは真剣勝負の場になるだろう、自分で考えて対処してくれ。
 本当なら俺は、もう鉄骨に乗って一番に渡り切るのが俺自身の為にも、他の五人の為にも良いとは思う。
 しかし三人で渡る橋の中間と順番を決められたからな。借金を帳消しにしてくれる社長が決めた事だ」
どうやら青年は危険な存在らしいが…その言葉の謎が五人の男に完全にわかる間もなく、時間は過ぎる。
「行かないのか」
青年は自分の前を行く予定の男に声をかけた。
「行かないなら棄権を願い出てくれ」
「あんた、あんたこんな橋…簡単だと思ってるのか!?」
男が青年を振り返って震える声で言う。
「思ってる。皆、借金帳消しと言う形で大金を得るんだろ。安い話だ。
 俺も大事な用があってこの橋を渡るんだ」
「あんた…あんたは」
「簡単さ。少なくとも、俺に取っては」
言葉をかけられる男の中に、勇気が湧いて来た。青年から際限なく溢れる自信によって。
そう、彼と自分は同じ人間なのだと。
「俺が行かずに、後ろの人間の足が鉄骨に付いたら、俺は失格なんだな」
「そうです」
黒服に返答を貰った男が橋の上に乗り、歩き出した。青年は声もなくその男の後ろに続く。
嫌な予感を抱きながら、青年の後ろの若者も、そして全員が、鉄骨の上に乗って歩き始めた。

(高い…)
もちろん青年も含めて、皆一様にそう思いながら鉄骨を渡って行く。
青年は、何人かの男の心が崩れ出して来たのを知る。
(ちっ……来たか…)
青年、心中で舌打ち。
一人荒ぶる心がある。青年がその心の方向、つまり前方を見ると、前の男が体勢を崩して橋の上から落下して行った。
「嘘だろ、おい…」
と嘆く様な声が出る。妙な奇声も聞こえる。ショックで声の出せない者も居る。
落ちた男のすぐ後ろを歩いていた青年だけが、その冷たい表情を変えず、平常心だった。
青年の後ろを歩いていた若い男は、人が転落死した事にも大きな衝撃を受けたが、
前方の青年の背から感じる静けさ、この事態に動じていない冷たさにも震えた。
仮にもさっきまで言葉を交わしていた男が、自分の目の前で落ちたのに。
(こんな、こんな恐ろしい男の自信に乗せられて、俺は、俺達は…)
ショックは隠せない。
「やめたい…もうやめたい…」
後ろの若い男の声が、青年に届いた。
「騒ぐな」
ヤクザの青年は、誰にとは言わず、短くそう吐き捨てた。
52黒い架け橋 6/8:2008/12/02(火) 07:02:39 ID:Cl7n1DME
後ろの若者が青年のその言葉を聞き取り、言葉を返す。
「怖ぇ…怖ぇよ…それに、なんなんだよお前…」
「泣き言は終わってからにしろ!」
青年の声は初めて怒号となる。

黙れ…

「本当は怖い、怖い」
「死にたくねぇよぉ」
「俺には出来る!出来る!」
「やめれば良かった、嫌だ!嫌だ!」

「うるさい!!」

先程の青年の叫号以来、鉄骨の上では誰も言葉を発していない。だが青年は叫んだ。
「騒ぎ立てて、俺の邪魔をするな!」
声が聞こえ過ぎる青年はダンっと鉄骨を足で叩いた。
素晴らしい発音でFuck you ! と啖呵を切り、
「落ちろ! クズめら!」
鉄骨をガンガン蹴る。青年自体は微動だにしない。
やめろやめろと狼狽する者、青年と関係なく落ちそうな者、自分との戦いで精一杯の者。
青年は狂ってなどいない。正常、冷静だ。ただうるさいからその音を消そうとしている。
橋を蹴る青年とは別の橋から人が落ちた。
誰かの一生がその場で終わっている。
阿鼻叫喚の修羅場を、青年は進む事にした。騒いだところで落ちない者は落ちないし、落ちる者は落ちる。
とにかくこの場を離れる事だと。
だが…橋の上に生き残っている四人のうち、二人の男が燃え上がる。
青年は自分に向けられる熱意と殺意を感じて、鉄骨の上を走った。
また一人、人間が落ちる。
怒れる二人が青年の背を追う。二人は、こんなか細い橋の上で人を落とそうする青年を呪う。
自分も同じ立場なのに、一緒に渡る者を落とそうする青年に恐ろしさを感じるからこそ、二人の男は早く青年を排除しようと思う。殺そうと。
青年に引き付けられるように、この二人も駆け足。走る。
53黒い架け橋 7/8:2008/12/02(火) 07:07:25 ID:Cl7n1DME
青年を押し、落とそうとする後ろの若い男。
「お前は落ちた方がこの場の為だ」
「何を正義漢振るかガキが。お前も身の安全欲しさに一人消したいだけだろうが」
男二人が鉄骨の上で揉み合いとなった。
「お前ら落ちるぞ!」
別の橋に居るもう一人の男が言った。喧嘩する二人の男を心配すると言うより、とにかくこの細い橋の上で何事もない事を願うような悲痛な声だった。
「俺に勝てると思うなよ」
どんどん冷静に立ち返る青年がそう言って、若い男と完全に向き合った。
青年に睨まれた男はすくみ上がる。そして今、自分の立つ地面のか弱さを思い出して戦慄。
「落ちろ」
青年がゆっくりと発する低い声は、若い男を地獄へ誘うには充分過ぎた。
気圧された男の膝がガクンと落ちる。
恐ろしい男から殺意を向けられた絶望。しかし、死んでも良いと見なされた口惜しさが、その絶望に勝った。
体勢を崩した若い男は、そのまま全体重で青年の体を押す。
青年は(おっ)と驚き、体勢を変える。そして今度はもっと驚いた。
(そうか、なんと言う事だっ)
青年は両足を鉄骨から離した。
全身が鉄骨の渡っていない空中へ傾く。
完走したのである。鉄骨を渡り切って向かい側のビルの屋上に倒れた。
後ろの若い男もそのまま、屋上へなだれ込む。
違う橋の男も一人、二人を追うようにして到着。
男三人が屋上に倒れ込んで、各々息を乱す。
一人の男が青年を殴った。もう一人の男は蹴った。
青年は殴って来た男を殴り、蹴って来た男を蹴る。
「ハハハハッ」
高らかに笑う兵藤社長が三人の前に現れた。
「元気で結構だ。おめでとう。そして儂を勝たせてくれたな、感謝するぞ」
と、兵藤は青年の手を取って、起き上がらせた。
「さぁ、君らには誠意を見せて貰った。借金は帳消し。もう引き止めはせんよ」
二人の男は「よしやがれ! なにを!」と突っ撥ねる事はもちろん出来ず…。
修羅場と狂乱を見せてくれた報酬として借金を消して貰い、ビルから、青年の前から姿を消した。
54黒い架け橋 8/8:2008/12/02(火) 07:10:34 ID:Cl7n1DME
「金の力は凄い物よな。何者も、これ(金)とは戦えまい」
「あの二人…よろしかったのでしょうか」
「良いさ。上手く行けば、帝愛の黒服にでも出来そうな人間達ではないか」
兵藤はさすがに抜かりない。深夜の屋上で彼は青年に言う。
「競争ではない鉄骨渡りは自分との勝負の場だ。それを君は…他人との勝負にしおった。
 この高さの足場で落とし合いなど、考えてもみなかった。
 言葉だ。君の言葉。人を掴む言葉と喋りを持っている。
 この世は勝負よ。そして勝つ事。賭け事だけが全てだ。
 その修羅場からは思いもよらぬ結果、皮肉な結果が生まれる事もあろう。
 結局、君の残忍さが二人の命を掬い上げる事になったのだ。
 面白かったぞ。面白いぞ君は、利根川幸雄」
「……はい!」
名を呼ばれた青年は返事をする。
「明日から君の仕事は変わる。用意をしておけ利根川」
言われた青年は姿勢を正し、社長の後へ続いて歩いて行った。


お前を誇り高い男のままにしておくぞ。最後まで。
お前の血肉が焼かれ、最後の一滴が燃え尽きるまで。


兵藤はそんな事を思っていた。
その気高い矜持を、生涯をかけて…帝愛と言う会社でこそ満足させる青年は前途洋々、
自分の若い足を兵藤の後に従わせた。


55創る名無しに見る名無し:2008/12/02(火) 10:07:54 ID:5WV5jgEL
鳥肌立ったよ!!!!
青年は……読んで確かめてくれっ
沢山の人に読んで欲しいからアゲっ!!!!
56創る名無しに見る名無し:2008/12/06(土) 05:21:57 ID:leHyc5gw
ありがとうございます…! また書き始めました
黒沢の13巻から後の話。原作のネタバレが、話の主筋です
57騒がしい患者 1:2008/12/06(土) 05:24:01 ID:leHyc5gw
44歳の大男。穴平建設社員の黒沢。
病院のベッドに横たわる彼の逞しい顎は少し震えていた。
(生きてるのか俺…)
命のある感動に震える。それなのに、

「兄さん!」
生きてて良かったよと、黒沢は中学生の仲根に始めて抱き締められた。
(つえーのなんのって)
仲根の所為で黒沢はまた新しいケガを負いそうな。
(それに、俺の朝のポエムの時間を邪魔しやがって)
「今度は性格の良い娘集めますよ。全快祝いに楽しく遊びましょう」
(む…まぁ良いか…)
一番最初の見舞い客。火星人、爬虫類の魔王のような顔をしている仲根だが、今日は中学生らしく、若々しく輝いて黒沢には見えた。
「やっぱり良いもんだよな」
「?」
「生きてるってよ」
そう、それなのに

「黒ちゃん!」
(俺のポエム…)
今度は部下の浅井に初めて抱き締められた。初めて鼻水もつけられた。
「良かったね!」
「う、うん…」
明るく無垢な浅井に喜ばれると、本当に助かって良かったと思う。
だがそれは、あるはずの落とし穴を、今消されただけではないのか。

同穴平社員、赤松28歳は
(うん、あれは…)
これ以上ないと思える程の、完璧な、完全なる見舞いを黒沢の病室で見せた。
(ふぇ〜…)
思い出す度、生暖かい溜息が出る。
彼は、黒沢は気が付いた。
58創る名無しに見る名無し:2008/12/07(日) 11:30:54 ID:L43Ht9lN
黒沢さん生きてた編だ。朝のポエム…
詩人だからな黒沢さんは。朝の贈り物 だし。
赤松さんはなんだろう?
59創る名無しに見る名無し:2008/12/10(水) 05:05:01 ID:TNV2v44m
ありがとうございます。あと2ページくらい続きます
60騒がしい患者 2:2008/12/10(水) 05:07:55 ID:TNV2v44m
まるで絵から抜け出たような赤松の姿を見ながら、思い出した。
自分がまた戻った事。
いつ来るか解からない「死」を迎える立場、生者の身に戻った事を。
いつ終わるとも解からない平凡な日々を送りながら……!
(やっちまった!…俺はやっちまった!)
本日最後の見舞い客が完璧な赤松だった事も、黒沢の思いを暗くさせた。
だが朝が来れば。いくら病院と言えども日の光を浴びれば。
そう、明日になれば俺は明るく……!

明日(みょうにち)は良い天気だった。
だが見舞い客…良く共に仕事をする型枠工の小野の前で黒沢は萎え切り、呆然としていた。
「本当に良かったです。どうなる事かと思いました親分」
「良かったのだろうか」
黒沢はうどんのような涙を流しながら言った。
「あれ以上の死に方ってあるんだろうか…」

ない………!

貴重なものを取り逃したと思う黒沢。
「もしあれが、人生の最期だったなら…有終の美とはあの事じゃないのか」
あの死に際しての温かさは…俺がやっと得た光らしい光。
感動だったんじゃないのか…!
「……死にたかったんですか?」
「そう言う事じゃないだろうよ!」
「いやわかります…どうせ死ぬならって事でしょ」
「わかってるじゃねぇか小野。良い死に方逃して惜しいって言ってんだ」
「大丈夫ですよ、親分の最期はいつだってきっと良いと思います」
「お前何を根拠に…」
「俺が好きな博徒の言葉にね「あったかい人間はあったかく死んで行ける」って
 言うのがあるんですよ」
「……良い事言うなぁ、その人……え? 博徒?」
「だから、親分は大丈夫です」
小野はつまり…黒沢をあったかい人間と思っているのだ。
黒沢が顔を赤らめる。目元をくしゃくしゃにして黙り込む。
「バカ、何を」
昔から人望は欲しいと思っていた。しかし小野から受ける尊敬は熱すぎて黒沢は参っていた時もある。
だが今日の小野は…この後の黒沢を明るくさせた。

「おぉ坂口!」
見舞いに来た後輩の坂口を、黒沢は小野と共に明るく迎える。
61創る名無しに見る名無し:2008/12/10(水) 09:29:50 ID:AHnrdeNC
おおっ、死にたかったのか?黒沢さん。
理想の自分はあの乱闘で良いのか?
小野さん、あったけぇ…
62創る名無しに見る名無し:2008/12/10(水) 21:04:21 ID:AHnrdeNC
12月10日は、福本先生と黒沢さんのお誕生日だそうだ。
この善き日に黒沢さん物語を投下してくれた>>60に祝福があることを。
ありがとう>>60
6360:2008/12/12(金) 23:52:05 ID:DyzeKKYn
誕生日が一緒で10日だったんですね
そんな日に、赤木52歳と黒沢44歳の二人で、越境の話も書き始めていました。
今回の物を書き終えたらそれも投下したいです。読んで頂いてありがとうございます。
その他にカイジと涯の二人で越境とかも書いてます。
他の書き手さん来るだろうか? と期待しつつ
このスレが落ちない限り、細々書いて行こうと思います
64創る名無しに見る名無し:2008/12/13(土) 17:44:31 ID:LTifgxtY
楽しみにしています。
65騒がしい患者 3:2008/12/17(水) 00:13:05 ID:l7CIJTnk
「それで暗くなってたんだよ、親分は」
「はぁ。なるほど」
と、小野の言葉を坂口は聞いている。
「うるさいな、死に臨む上では大事だろ、そう言うの」
そんな黒沢に坂口は言う。
「黒沢さんは…良い事が起こった後に悪い事ありましたよね。今までたくさん」
「お前…嫌な事を思い出させるな…」
「その逆もたくさんあったじゃないですか」
「まぁ……そうだったかな」
「悪い事があった後に、良い事がありましたよ」
「そうだったような」
そしてまた良い事の後、すぐ悪い事が起きたりするんだけど。
(何度もそれを繰り返して。
この人可哀想だなって思ったし、付き合う俺達も戸惑ったり疲れる事も多かったけど
良い悪いの繰り返しでも良いじゃないですか。
黒沢さんが死んだと思った時、もうそれが見られないと思って
黒沢さんが生き返ったような今はもう、楽しみですよ。
黒沢さんの側に居るとまた、どんな事が見られるのか。どうなるのか)
66騒がしい患者 4:2008/12/17(水) 00:14:38 ID:l7CIJTnk
坂口がそう思っている時、また新しい見舞い客が黒沢の前に現れた。
「黒沢くん」
「社長」
わざわざ社長にまで来て頂いて…なんて話をしているが、社長は「いやいや」と、すぐにも何か黒沢に伝えたい様子。
「ちょっと急いで来たよ。例の公園が大変な騒ぎになっててね」
社長に取ってはサイクリングのコースとなっている例の公園…
黒沢がホームレス達と共に、御木涼一率いる暴走族と戦った公園だ。
戦いの後、すぐに意識不明となった黒沢だったが、この一戦はかなり騒がれ、今にも
新聞沙汰になろうとしているらしい。
(俺のところにも記者とか来るのか!?)
少し緊張する黒沢、そんな彼の前で社長の言葉が続く。
「ホームレスに女の人…おばあさんも居たのかい? その人を向かえに来た人達が現れたらしいよ」
「茜ばぁちゃんに身内が!?」
「いや、身内かどうかはわからないけど…その茜さんって人は、そこが嫌で逃げ出したらしいんだ。
迎えを嫌がってまた逃げ出したみたいだけど、もう捕まりそうだって」
(え!?)
そう、茜はその暮らしよりホームレスの方が良くてああして公園に居たのだ。
(そんな嫌なところから…誰も助けてやれないのかよ)
黒沢はそう思ったが…これは繊細な問題である。
他のホームレス達も、この事態をどうして良いものかと判断に困っているらしい。
(どうあれ、詳しい事情を聞きに行かなきゃな)
「社長すみません。ありがとうございます」
「行ってみるのかい黒沢くん」
「はい」
と、黒沢はベッドから起き上がろうとしている。坂口と小野が彼を支えた。
「黒沢さん」
「親分」
「大丈夫だよ。明後日退院なんだから」
どうあれ退院は今、今日ではない。
67騒がしい患者 5/5:2008/12/17(水) 00:16:11 ID:l7CIJTnk
「やぁ、兄さん」
とその時、仲根が信じられない美女を連れてまた見舞いに来た。
黒沢、中腰のまま姿勢が止まる。
「俺が知ってる中じゃ一番性格良い」
そう仲根に言われた美女は恥ずかしそうに小さくなっている。
爽やか過ぎる女性である。
(居るんだこんな娘)
黒沢、中腰からベッドに座ってしまった。
「このまま三人で行きますか」
「あ、いや、仲根…」
鈴のような声の美女は黒沢に挨拶して、見舞いの品を差し出す。
(むむむむむ……!)
黒沢は彼女の魅力に驚きつつ、こんな娘が仲根に惚れてる現実にも悶える。
(あああ…!)
黒沢が変な顔をしても、彼女は穏やかに微笑んでいる。
(行こう!…この後遊びに!…この後!………この後、あ!)
「仲根! 来い!」
「なんだい兄さん」
「社長失礼します。ごめん、俺行くわ」
と、黒沢は仲根以外の見舞い客全員に言った。
女性に対しても、黒沢と仲根は簡単な別れを言い、二人は病室から出て行った。
廊下で、見舞いに来た浅井と擦れ違う黒沢。
「黒ちゃん歩けるの?」
「おお! 走れるぞ」
本当は、まだ走ってはいけない身である。
「黒ちゃん」
「ごめん浅井、俺用事出来た」
(黒ちゃん幸せそう…)

病院を出ると駆け出す黒沢。彼より背の高い190cm、仲根が隣で一緒に走り出した。
「暴力沙汰だったら仲根……また手伝ってくれるか?」
「勿論だよ兄さん。どこだって行くよ」
末は大臣と思える大器、中学生仲根を連れて黒沢は茜の元へ向かった。
黒沢がさっきまで寝ていた病室から、その二人の駆け出す姿が見える。
また人を救おう、自分自身を救おうと動き出した黒沢。これから先も、彼にどんな強敵、難題が待っているのか。
そしてどのように穴平社員がまた、巻き込まれてしまうのか。
(それでも俺は楽しみですよ)
坂口がそう思って見送る黒沢と仲根の背が、眩しい日の光に向かって真っ直ぐ驀進して行った。

68創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 21:22:56 ID:H2mjlbYR
善い話過ぎる。泣ける。黒沢さん、良かった。
家族の希望?も持てたかも。
仲根が嬉しそうなのも良いです。

自分、クリスマスプレゼントもらったスクルージのようだ。
ありがとう、ありがとうございます。
69創る名無しに見る名無し:2008/12/21(日) 04:19:37 ID:C4wCmqs4
嬉しいです。書き続けようと思います

「黒沢」の続き…もし書かれるとしたらどんな展開になるのか楽しみすぎる
「銀と金」の続き…平井銀二 対 森田鉄雄とか、
「涯」は脱走漫画を書きたかったとか、
福本作品は「書く予定だったが書かれていない部分」もメチャクチャ面白そうです
70通りすがり:2008/12/21(日) 12:56:46 ID:LztVYfbf
落下する体――
加速する躰――
闇に吸い込まれてゆく――

その躯が地に叩きつけられる寸前。
最後の最期に彼が見たのは己がつま先に描かれた一本の線。

カイジさん…。


  金色の髪を持つ青年の 身体  は …―――
71創る名無しに見る名無し:2008/12/21(日) 19:29:49 ID:1RP1xhj/
佐原君だ。南無ー。
一瞬を切り取ったみたいなのも良い。
72創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 03:38:42 ID:kVqp/0Gw
余韻がいい! 作品投下が欲しいところ、楽しませて頂きました。

続かせて貰います
「アカギ」と「カイジ」の越境話。人物の能力設定は前述の「黒い架け橋」から
73幸雄たち 1/3:2008/12/23(火) 03:40:54 ID:kVqp/0Gw
ぐったりと疲れ切った男が、事務所の扉を開けた。
今の仕事をクビになったらしい。
男はソファーに座るのを許される。テーブルを挟んだ対面のソファーには事務所の人間が座り、彼にこう言った。
「そこでクビを切られたから、ここで雇って欲しいのか」
「ここ他は良いところがない…」
「相変わらず態度が悪いな」
一応は男を迎え入れた利根川幸雄。
彼はこの暴力団事務所、若手の有力株であり、訪ねて来た男に毒づく。
利根川と男は高校の同級生であったが、友人と呼べる程に親しくはない。
ただ、高校卒業後の行く道が似た物になるだろうと言う雰囲気はお互いに感じていて、そうした話はした事がある。
利根川は卒業後に大学に通いながら、暴力団の組員となっている。
そしてこの男は
「どうして大学に行かなかった」
利根川は頭の良い男にそう言う。
頭が良い……そう、男の頭脳はまるで機械のようによく働いた。
人間として「賢い」とは趣きを異にする。まるで一種の超能力のような頭脳の持ち主。
「大学? やってられるか、そんな事」
「お前のやっている事はまるで消去法だ。ましな方、ましな方と…主体性がまるでない」
「それがどうした」
「この組に入りたいなら、自分で勝手にしてくれ。俺はここから出る事になった」
利根川は、事務所と深い関わりがある会社に就職する事になっている。
だからこの組から円満に離れる事になっており、組員として席も残されたままだった。
実際に戻っても良いのは勿論だが、組の名誉として利根川の席を残している感も強い。
利根川の組での働きと貢献、鋭さは、短い間だったが組の華だった。
「お前の名誉欲とか、権威への欲はご苦労なこった。そこが話合わなかったよな俺達。
 ただ…自分の能力を生かし「最大限に」「簡単に」金にするには…
俺もそうだが、お前もギャンブルだと判断したんだろ。
 お前、俺の事を目と記憶の能力者だと言ったが、お前は超能力者だろうが。
 他人の心の中が少し読めてるよな。お前もその会社でギャンブルする気だろ。
主体性だの何だのと…結局は俺もお前も金を狙ってるぜ」
74訂正:2008/12/23(火) 03:43:32 ID:kVqp/0Gw
×「ここ他は良いところがない…」
○「ここの他は良いところがない…」
75幸雄たち 2/3:2008/12/23(火) 03:45:29 ID:kVqp/0Gw
「そうだ。だが俺はお前から意志を感じた事が一度もない。
誰かの偽者の役も簡単に受け入れたんだろ。プライドがないのか。
ヤクザの下、博徒として働きながら生きて帰って来れたのは、お前がどうでも良い小者だからだ。
大負けの席にも大勝ち席にも、身を置かれなかっただろ。
この組で麻雀をした所で、それは変わらないと知れ」
「今なんて言った」
男は座る利根川の前でゆっくり立ち上がった。
「お前には覚悟が足りない」
「なんだと」
「お前には極道の世界も、博徒の道も無理だ。
かと言って大学に入って品行方正な人生を歩み、成功するのも無理。
覚悟のない奴は何をやっても芽が出ない。
お前は凡夫だ」
「てめぇ」
と、男は利根川の襟首を掴んでその眼前に迫った。
「だがな、こうして読心術を持つ俺の前に立って、平気で居る。
最初はただ間抜けかと思ったが、お前度胸はある」
「度胸…」
「覚悟と度胸の違いがわかるか。
度胸があれば戦いの場に立つ事は出来る。
だが覚悟がなければ勝つ事は出来ない。勿論、負ける事も。
 勝負の後は、勝ちも負けもなく、ただ破滅する」
言われた男は利根川のシャツから手を離し、どっかりとソファーに座り直して言った。
「…お前にそんな事言われるなんてな…道徳の先生かよ」
「お前はもう破滅しているからな。目の前の男の事を読み上げただけだ」
76幸雄たち 3/3:2008/12/23(火) 03:48:01 ID:kVqp/0Gw
「幸雄…お前の方は少し度胸が足りないように思うぜ」
「なに」
「お前は他人に流される所がある。他人の意見を聞き過ぎるところも。
 お前の場合、それは誇りが高すぎるからだ」
「な…」
読心術の使い手、利根川。高校の同級生に心を少し覗かれる。
「誇り高く居たいから…他人の目、動向が気になって仕方がない。
俺の事を凡夫と言う、お前の方は二流だ」
「殺されたいのか」
顔を青白くさせて睨む利根川に、男は気圧されながらも軽やかにソファーから立ち上がって言った。
「今怪物から誘われてる」
「怪物?」
「異常な大金掻き集めて悦に入ってるジジイだよ。そいつに勝って、俺の覚悟を見せてやる」
「そんな奴に関わったら、魚の餌にされるぞ」
「それはお前だ。幸雄お前も危ない。ロクな死に方しないだろ」
利根川は、これから大いなる度胸を見せて、新しい会社での特等席を手に入れる。
ロクでもない、けれど覚悟に満ちた死に方を迎えるまで、長年に渡り会社の重役を勤める幸雄と言う男。
「お前の態度はやっぱり最悪だ。それから俺を幸雄と呼ぶな。気持ち悪くないのか」
「お前の名前は幸雄だろうが」
「お前の名前でもあるだろ平山」
利根川の前に立つ白髪の青年は、アカギと呼ばれニセアカギと呼ばれて…名前に無頓着である。
彼自身、それを何とも思っていないのだろうか。
ただ、そんな彼も…これから生まれて初めて自分の覚悟を覗き見に行く。
利根川の居る事務所を飛び出し もう一人の幸雄、平山は、
雨の中を傘も差さずに走って行った。

77創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 22:11:20 ID:NVehsNza
ダブル幸雄。
互いに相手のことは解るのに、自分のことは解らないのか…
78創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 02:48:57 ID:+AERUjEC
作者の人に了承を得たわけではないけど
(了承の得方がわからず・・・・)
このスレに下記の続きをコピペして行きたいと思ってしまった
いいのかな? なんか問題あったらよろしく


1 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/06(土) 22:40:23.53
ID:dkgMuiu10

カイジは圧倒的激怒っ…!

必ず、かの邪智暴虐の会長を除かなければならぬと決意した。

カイジには金の重みがわからぬ。カイジは、巷でいうニートである。
サイコロを投げ、カードで勝負して来た。
けれどもギャンブルに対しては、人一倍に聡明であった。


走れ!カイジ!
ttp://jfk.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1228570823/
79創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 09:25:00 ID:7bDPomEy
2ch内で散らばってる福本系SSがまとめて見られたら嬉しいかも。自分が見た事ないのもあるだろうし

学校スレ落ちたし。小学生トリオの話好きだったし、プロットも完成しているとは言ってたけどスレそのものがなくなっちゃったから…
80創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 19:41:38 ID:+R3rZTUQ
雑談スレに案内貼って、学校スレの最後の書き込み持ってきたら?
ざわやか3組サンは完成させてくれたよね。
81創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 19:46:09 ID:+R3rZTUQ
グニャりんこ☆さん最終書き込み
396 グニャりんこ☆ sage New! 2008/12/06(土) 17:55:01 ID:???
あとがき的な何か
更新の遅延、申し訳ありません。先行きが少々不安です。
皆さん、将棋のルールはご存知ですかな?
「知らん!」という方が多いのでは?、と不安ざんすよ。
ギャンブルのネタで将棋は見たことねーなー、と思ったのがきっかけ。
安易…!愚直…!という声が聞こえてくるぅぅぅっ!!
もう耐えられない!いやん、いやん〜

次回予告
「貧乏くじを引いたようだな…」
「鼠だ……っ!」
「う、嘘だっ!ありえねぇっ…!!俺が…俺が…俺が…負け、た………負けました……」

ID:wuPL6adx 大先生最終書き込み
374 ID:wuPL6adx New! 2008/12/02(火) 22:40:56 ID:fRpZCaU1
第3ターン……一条は5を3枚提出。
同じ数字の3枚出しというのは、このゲームにおいて相当強力……! 5の様に低い数字であっても、これだけで流れる事も多い。しかし…………。
【カイジ手札】 S13 C11 H11 D11 H10 D9 H8 D7 H7 S6 H4 C3 D3
カイジは持っていた…………!! 11のトリプル……!
これこそ、カイジがこの手札を開いた瞬間に目をつけていた役であり、恐らくこの手札で最も威力を発揮する…………!(“8切り”を除く)
だが…………。

カイジ「パス…………!」

カイジ パス……! 絶好のチャンスをみすみす逃す…………!!
村岡(…………。ああ〜〜……? どうしたざんすか? 何故ここで使わない? 11のトリプルを…………! そんなもの……とって残しておいても、どの道今以上に活躍

する場面など訪れないざんすよ…………!!)
カイジ「………………」

カイジ(使わないって…………! そりゃあ…………!)

カイジ(そりゃあ……手拍子、相手の出した手に反応して11トリプル……っていうのも分からないじゃないけど………… ここはこれっ…………!!)
【C3 D3】
カイジ(つまり……11のトリプルを11ダブルとして使う……! こうする事で11は1枚残るがそれでもここは、3のダブル…………!!)
――つまりカイジの策とは、11のダブルを自分で使い、3のダブルで待ち構えるというもの…………。
確かにイレブンバック(そのターンのみ一時革命中となる)中であれば、3のダブルは最強の手っ……! 比類なく……!
すなわち……11を2枚使い、3を2枚使い、更に次のターンを自分の番から始められるという、ハマれば最強の手…………流れ…………!!

これがカイジの目論見…………! 最後の希望………………!!!

カイジ(……………………)
82創る名無しに見る名無し:2008/12/29(月) 19:50:06 ID:+R3rZTUQ
拾ってきました。雑談で相談して、サロンに立て直すのか
創作発表板にスレ立てるのか決めるのが良いのではないでしょうか。

>>76 場所借りました。お邪魔しました。
83創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 00:22:02 ID:PLajBdO6
創作発表がいいんじゃないかな
ここなら絶対dat落ちしないし
84創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 10:33:13 ID:G4S+po8x
>>79 スレッドを建てたら、保守をお願いできますか?
御返事いただけましたら、スレたていたしますし、
ご希望のSSのレスを集めてまいります。
8579:2008/12/30(火) 11:44:28 ID:MGchvVO1
保守は任せろ!
で、どこにどんなスレを建てるんですか?(アホでスマン)
86創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 11:52:16 ID:G4S+po8x
この創作発表板に同じ学校スレ (最近建てて堕ちたテンプレを流用)を
建てますが、それでよろしいですか?
8779:2008/12/30(火) 12:26:25 ID:MGchvVO1
了解です!自分的には無問題です。よっしゃ!超「保守」って書くぞ!ここなら3日おき位かな?
マロン的にはどうなんでしょう?
88創る名無しに見る名無し:2008/12/30(火) 12:52:45 ID:G4S+po8x
雑談スレで堕ちたときに、話題を挙げて見ましたが、積極的な意・異見は出ませんでした。
こちらに建てて、雑談に誘導アドレスを貼り、書き手さんが現れて下さるのを待つのが良いと
思うのですが。
建てました
【アカギ】モシモ福本キャラが同じ学校ダッタラ3【カイジ】
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1230609046/
サブジェクトが長いと出ましたので、勝手に半角カタカナにしてしまいました。

>>87どうか保守をお願い致します。
89走れ!カイジ!  1:2009/01/04(日) 06:17:54 ID:eLsw6y3c
カイジは圧倒的激怒っ…!

必ず、かの邪智暴虐の会長を除かなければならぬと決意した。

カイジには金の重みがわからぬ。カイジは、巷でいうニートである。
サイコロを投げ、カードで勝負して来た。
けれどもギャンブルに対しては、人一倍に聡明であった。

きょう未明カイジは地下を出発し、船に乗りビルを渡り、十里(現代で言う百里)はなれたこの東京のカジノにやって来た。

カイジには父も、母も無い。女房も無い。
四五組の、借金漬けの男達との集団生活だ。
カイジは、地下の或る律気な仲間を、近々、地上へ連れ出す事になっていた。

タイムリミットも間近かなのである。
まず、パチンコ店や競馬場、それからカジノ通りをぶらぶら歩いた。

カイジにはかつて共闘した仲間があった。
セリヌンサカザキである。今は此の東京の市で、夜間警備員をしている。

その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

歩いているうちにカイジは、通りの様子を怪しく思った。
ひっそりしている。
もう既に日も落ちて、まちの暗いのは当りまえだが、けれども、なんだか、夜のせいばかりでは無く、市全体が、やけに寂しい。
のんきなカイジも、だんだん不安になって来た。
90走れ!カイジ! 2:2009/01/04(日) 06:19:09 ID:eLsw6y3c
路で逢った若い衆をつかまえて、何かあったのか、6ヶ月まえに地上にいたときは、夜でも皆が高級車のエンブレムを剥ぎ取って、まちは賑やかであった筈だが、と質問した。
若い衆は、首を振ってこう言った。
「大人は質問に答えない」

しばらく歩いて老爺に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
「じじいも質問には答えない」
老爺は答えなかった。
カイジは老爺を押さえつけて猛毒を打ち、血清剤の場所を教える代わりにと、質問を重ねた。
老爺は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「会長は、人を殺します」
「なぜ殺すのだ」
「金は命より重い、というのですが、誰もそんなことは思っておりませぬ。」
「たくさんの人を殺したのかっ……」

「はい、はじめはチョキのカードをトイレに捨てた者を。
それから、星を3つ集められなかった者を。
それから、綱渡りで落ちたものを。」

「おどろいた。会長は狂気の沙汰なのかっ……」

「いいえ、狂気の沙汰ではございませぬ。命は、命はもっと粗末に扱うべきだとおっしゃるのです。
このごろは、臣下の心をも、お疑いになり、少しく派手な暮しをしている者には、人質ひとりずつ差し出すことを命じて居ります。
御命令を拒めば焼いた鉄板の上に座らされ、土下座させられます。
きょうは、六人焼かれました。」

聞いて、カイジは激怒した。
「呆れた会長だっ……。生かしてはおけねぇ……」

カイジは、単純な男であった。
老爺には打ったのは毒ではないと伝え、のそのそスターサイドホテルにはいって行った。
91創る名無しに見る名無し:2009/01/04(日) 12:40:28 ID:n3VpIKIY
帝愛との勝負編 開幕?
なんか、ドキドキする。
92走れ!カイジ! 3:2009/01/07(水) 04:51:34 ID:H1Q3/vDJ
たちまち彼は、巡回の黒服に捕縛された。
調べられて、カイジの懐中からはピンゾロサイが出て来たので、ざわざわ…ざわざわ…が大きくなってしまった。
カイジは、会長の前に引き出された。

「このピンゾロサイで何をするつもりであったか。言え!」

暴君ヒョドニスは静かに、けれども威厳を以て問いつめた。
その会長の顔は蒼白で、眉間の皺は、刻み込まれたように深かった。

「仲間を地下から救うのだっ……」
とカイジは悪びれずに答えた。

「おまえがか?」
会長は、憫笑した。
「仕方の無いやつじゃ。クズには、王の考えがわからぬ」

「さえずるなっ……!」
とカイジは、いきり立って反駁した。
「人の心を疑うのは、最も恥ずべき悪徳だっ…!疑ってるうちはまだしも、それを口にしたら………戦争だろうがっ!」

「疑うのが、正当の心構えなのだと、わしに教えてくれたのは、おまえたちだ。人の心は、あてにならない。
人間は、もともと私慾のかたまりさ。殺さなきゃ誰かの養分じゃ」
暴君は落着いて呟き、ほっと溜息をついた。
「わしだって、平和を望んでいるのだが」
93走れ!カイジ! 4:2009/01/07(水) 04:52:55 ID:H1Q3/vDJ

「きさまっ………きさまっ………きさまっ………それでも人間かっ……!」
こんどはカイジが嘲笑した。
「罪の無い人を殺して、何が平和だっ………!」

「だまれ、狼をフリをした羊!」
会長は、さっと顔を挙げて報いた。
「口では、どんな清らかな事でも言える。それに煮え湯を飲まされてきた、何度も。
わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。
おまえだって、いまに、指を落とす段階になってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」

「ああ、会長は悧巧だ。自惚れているがいいぜ。
俺は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るっ……
退路なんてねぇんだよっ……。ただ…………………」

と言いかけて、カイジは足もとに視線を落し瞬時ためらい、

「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間(現代で言う三十日)の日限を与えてくれ。
たった一人の仲間に、妻子を戻してやりたいんだ。
三日(現代で言う三十日)のうちに、俺はカジノで勝利し、必ず、ここへ帰って来るっ……。」


 ざわ……

     ざわざわ……

 ざわ……

     ざわざわ……

94走れ!カイジ! 5:2009/01/07(水) 04:54:22 ID:H1Q3/vDJ
「Fuck You!ぶち殺すぞゴミめ!」
と暴君は、嗄れた声で低く笑った。
「”もう少し待って……”おまえらは生まれてから何度そのセリフを吐いた……?
世間はおまえらの母親ではないっ……!おまえらクズの決心をいつまでも待ったりはせん……!
逃がした小鳥が帰ってくるとでも言うのか……!」

「そうだ!俺は帰って来るっ…」
カイジは必死で言い張った。
「俺は約束を守るっ……。私を、三日間(現代で言う30日)だけ許してくれっ……。
仲間がっ……私の帰りを待っているのだっ……。
そんなに俺を信じられないならば、いいだろう、この市にセリヌンサカザキという夜間警備員がいる。
俺の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。
俺が逃げてしまって、三日目(現代で言う30日)の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人の体をルーレットを回して切り刻んで下さい。
たのむ、そうしてくれっ……。」

それを聞いて会長は、残虐な気持で、そっとほくそ笑んだ。
とどのつまりは、どうせ帰ってこないに決まっている。
この嘘つきに騙された振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りの男を、三日目に殺してやるのも気味がいい。
人はこれだから信じられませーーーんっ……!そんなことは…ゼロゼロゼロっ……!
信じられません…いっさい人など……と、わしは悲しい顔して、その身代りの男を手術台に処してやるのだ。
世の中の、守銭奴とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。
三日目には日没までに帰って来い。遅れたら、その身代りを、きっと殺すぞ。
ちょっとおくれて来るがいい。お前の罪は、永遠にゆるしてやろうぞ。
そう、お前は100%遅れてくるタイプ……」

「なに、何をいってやがる!」

「カカカカカ……キキキキキ……ククククク……。いのちが大事だったら、おくれて来い。
おまえの心は、わかっているぞ。今は一種の興奮状態だから、ヒロイックな気分で戻ってくるとか言っているが、
普通に家へ戻れば、瞬く間に普通の感覚に戻り……
普通に裏切るっ……それが人間」

その刹那、カイジは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなくなった。
95創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 09:14:40 ID:WUjtYfYF
ヤバイ面白い
天才?
96創る名無しに見る名無し:2009/01/07(水) 09:35:38 ID:bkUMFuMv
走れメロス っぽい♥ 面白い!!
福本+太宰か? 京極伸行氏みたいだ。
期待∞
97走れ!カイジ! 6:2009/01/08(木) 03:37:08 ID:3vQ8AyOi


竹馬の友、セリヌンサカザキは、深夜、スターサイドホテルに召された。
暴君ヒョドニスの面前で、佳き友と佳き友は、6ヶ月ぶりで相逢うた。
カイジは両手の人差し指をツンツンしながら、友に一切の事情を語った。

「…っていうかあ〜、おっちゃんが人質にならないと俺は帰れない訳だしぃ……
そしたらギャンブルに挑戦できなくて……元も子もないっていうの?」

セリヌンサカザキはぐぐっ…と首肯き、カイジを勢いよく追い出した。
友と友の間は、色々あったけど分け前を折半でよかった。

セリヌンサカザキは、縄打たれた。
(必ず戻ってくるぜ…おっちゃん)
カイジは、すぐに出発した。
初夏、57億の満天の孤独(ほし)である。

カイジはその夜、一睡(現代で言う十睡)もせず十里の路を急ぎに急いで、カジノ通りへ到着したのは、翌る日の午前、陽は既に高く昇って、店員たちは現場にて仕事をはじめていた。

カイジの仲間の遠藤も、きょうは作戦の準備をしていた。
よろめいて歩いて来るカイジの、疲労困憊の姿を見つけて驚いた。
そうして、うるさくカイジに質問を浴びせた。

「なんでも無いっ……」
カイジは無理に笑おうと努めた。
「ホテルに用事を残して来た。またすぐホテルに行かなければいけねえ。
明日、勝負をかける。早いほうがいいだろ。」

遠藤は、よしきた、と奮い立った。
「うれしいか。大きな水槽も買って来たぜ。
よし、これから行って、上の階に水を張って来よう。勝負は明日だっ……。」

カイジは、また、よろよろと歩き出し、家へ帰って神々の祭壇を飾り、資金を調え、間もなく床に倒れ伏し、呼吸もせぬくらいの深い眠りに落ちてしまった。

98走れ!カイジ! 7:2009/01/08(木) 03:39:08 ID:3vQ8AyOi
眼が覚めたのは夜だった。
カイジは起きてすぐ、裏通りのカジノを訪れた。
そうして、少し事情があるから、沼を打たせてくれ、と頼んだ。
オーナーの一条は驚いたものの、当店は誰でもウェルカム、どうぞ存分に夢を追い続けてください、われわれはその姿勢を心から応援するものです、とカイジを招きいれた。

カイジは、遠藤との策略により、沼から大金を吐き出させた。
周囲から、歓喜の声が湧き上がる。


気がつけば……… 豪遊っ……!


カイジは、一生このままここにいたい、と思った。
この地上で生涯暮して行きたいと願ったが、いまは、自分のからだで、自分のものでは無い。
ままならぬ事である。カイジは、わが身に鞭打ち、ついに出発を決意した。
あすの日没までには、まだ十分の時が在る。ちょっと一眠りして、それからすぐに出発しよう、と考えた。
カイジほどの男にも、やはり油断と隙というものは在る。

今宵呆然、遠藤は酒に酔っているらしいカイジに近寄り、
「俺は疲れてしまったから、いますぐ帰って眠るのだよ、帝王だからな。
ところでカイジ君、さっきの取り分の話だが、君の計算は間違っている。
あの契約書にあるとおり、利息は十分で一割だ。つまり・・(以下略」

カイジは睡眠薬入りのワインを飲んだ後だったので、薄れ行く意識の中遠藤の言葉を聴いていた。そして、そもまま死んだように深く眠った。

眼が覚めたのは翌る日の薄明の頃である。
カイジは跳ね起き、お金が減っていることを確認し、しばらく、うねうね…と地面を這った。

しかし、45組を地上から連れ出し、セリヌンサカザキのもとへ妻子が戻ってくるに十分な金額は残っている。
今日は是非とも、あの会長に、人の信実の存するところを見せてやろう。
そうして笑って「地道に行こう(キラッ」と言ってやる。

カイジは、悠々と身仕度をはじめた。雨が、小降りになっている様子である。身仕度は出来た。

カイジは、ぶるんと両腕を大きく振って、雨中、矢の如く走り出た。
99走れ!カイジ! 8:2009/01/08(木) 03:41:55 ID:3vQ8AyOi

俺は、今宵、殺される。殺される為に走るのだ。
身代りの友を救う為に走るのだ。
武士は自分をわかってくれる人の為に死にに行く。走らなければならぬ。
そうして、俺は殺される。若い時から名誉を守れ。さらば、ふるさと。

若いカイジは、つらかった。幾度か、立ちどまりそうになった。
えい、えいと大声挙げて自身を叱りながら走った。
村を出て、細い足場を渡り、透明の足場を発見し、隣村に着いた頃には、雨も止み、日は高く昇って、そろそろ暑くなって来た。

カイジは額の汗をこぶしで払い、ここまで来れば大丈夫、もはや故郷への未練は無い。
俺には、いま、なんの気がかりも無い筈だ。まっすぐにホテルに行き着けば、それでよいのだ。
そんなに急ぐ必要も無い。
ゆっくり歩こう、と持ちまえの呑気さを取り返し、好きな小歌をいい声で歌い出した。

ぶらぶら歩いて二里行き三里行き、そろそろ全里程の半ばに到達した頃、降って湧いた災難、カイジの足は、はたと、とまった。
見よ、前方の川を。きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた

彼はぐにゃ〜っと、立ちすくんだ。

あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に浚われて影なく、渡守りの姿も見えない。
流れはいよいよ、ふくれ上り、海のようになっている。
「ふざけろっ…」
カイジは川岸にうずくまり、男泣きに泣きながら神に手を挙げて哀願した。
「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを! 時は刻々に過ぎて行きます。
太陽も既に真昼時です。あれが沈んでしまわぬうちに、ホテルに行き着くことが出来なかったら、あの良い友達が、俺のために死ぬのです。

神よ…………オレを祝福しろっ…! 」

100走れ!カイジ! 9:2009/01/08(木) 03:45:20 ID:3vQ8AyOi
……が、駄目っ!

濁流は、カイジの叫びをせせら笑う如く、ますます激しく躍り狂う。
浪は浪を呑み、捲き、煽り立て、そうして時は、刻一刻と消えて行く。
今はカイジも覚悟した。泳ぎ切るより他に無い。

濁流にも負けぬ愛と誠の偉大な力を、いまこそ発揮して見せる。


突っ走って、その先にある亀裂を飛び越えるしかねぇ!

いいかげん気がつけっ!退路なんか、もうねえんだよっ!

漕ぎ出せっ…………!勝負の大海へっ……!


カイジは、ざんぶと流れに飛び込み、百匹の大蛇のようにのた打ち荒れ狂う浪を相手に、必死の闘争を開始した。

満身の力を腕にこめて、押し寄せ渦巻き引きずる流れを、なんのこれしきと掻きわけ掻きわけ、めくらめっぽう獅子奮迅の人の子の姿には、
神も哀れと思ったか、ついに憐愍を垂れてくれた。
押し流されつつも、見事、対岸の樹木の幹に、すがりつく事が出来たのである。

僥倖っ!まさに僥倖っ!

カイジは馬のように大きな胴震いを一つして、すぐにまた先きを急いだ。
101創る名無しに見る名無し:2009/01/08(木) 22:36:22 ID:b9LxDQ1J
走れメロスなら王様は改心するけど、兵藤だからなぁ、この物語の王様は。
どうなるの?
102創る名無しに見る名無し:2009/01/08(木) 23:04:32 ID:4I2TsbQv
治とカイジ合いますねえ・・・素晴らしい

京極堂か・・・
関口は通夜ひろ、木場は安岡あたりか・・・?
榎さんは・・・長身でケンカの強い仲根・・・はいやだ
京極は・・・アカギじゃないなあ・・・外見だけなら板倉が近いか?ロン毛で痩せ型で目付き悪い
口先で人を操るから銀二・・・かなあ?銀王の憑き物落とし・・・あるかもあるかも

え?敦子?美心以外に誰が?
103創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 10:23:55 ID:GWR4mjxK
>101
そこはちょっと兵藤っぽく書かれてる。
104走れ!カイジ! 10:2009/01/10(土) 10:25:16 ID:GWR4mjxK
一刻といえども、むだには出来ない。陽は既に西に傾きかけている。
ぜいぜい荒い呼吸をしながら峠をのぼり、のぼり切って、ほっとした時、
突然、目の前に一隊の若者達が躍り出た。周りを囲まれ、すでに四面楚歌。

「ば・・・ ばっかも〜ん!! 待て!」

「何をしやがる!俺は陽の沈まぬうちにホテルへ行かなければらねーんだ。放しやがれ。」

「ところがどっこい放さぬ。お前は持ちもの全部を置いて行く……これが現実」

「俺にはいのちの他には何も無い。その、たった一つの命も、これから会長にくれてやるんだ。」

「通しませ〜〜〜ん。その、いのちが欲しいのだ。」

「さては、会長の命令で、ここで私を待ち伏せしていやがったな。」

若者たちは、ものも言わず一斉にバッドや角材を振り挙げた。
死ぬとは思わなかった!そう言うんだろうな……はずみで死ねばそういうんだ!
人をバッドや、角材、鉄棒、ブロックなんやかやで殴りつけておいて
……死ねば………思わなかった……!

カイジはひょいと、からだを折り曲げ、飛鳥の如く身近かの一人に襲いかかり、
その背中に貼り付けた宝石を奪い取って、「気の毒だが正義のためだ!」と猛然一撃、
たちまち、三人を殴り倒し、残る者のひるむ隙に、さっさと走って峠を下った。

この間僅か五秒……!!明らかな奇襲!!カイジの作戦勝ち!!
105走れ!カイジ! 10:2009/01/10(土) 10:26:52 ID:GWR4mjxK

一気に峠を駈け降りたが、流石に疲労し、折から午後の灼熱の太陽がまともに、かっと照った。
カイジは幾度となく眩暈を感じ、これではならぬ、と気を取り直しては、よろよろ二、三歩あるいて、ついに、がくりと膝を折った。

立ち上る事が出来ぬのだ。天を仰いで、くやし泣きに泣き出した。
ボロ…ボロボロ…。
ああ、あ、濁流を泳ぎ切り、若者たちを三人も撃ち倒し堕天、ここまで突破して来たカイジよ。
真の勇者、カイジよ。今、ここで、疲れ切って動けなくなるとは情無い。
愛する友は、おまえを信じたばかりに、やがて殺されなければならぬ。
おまえは、稀代の不信の人間、まさしく会長の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、
全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。

路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。
もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐れた根性が、心の隅に巣喰った。

私は、これほど努力したのだ。約束を破る心は、尻の毛一本も無かった。
神も照覧、私は精一ぱいに努めて来たのだ。動けなくなるまで走って来たのだ。

ともかく、強敵すぎた!世間この世ってやつは!
オレから見たら。私は不信の徒では無い。
ああ、できる事なら俺の胸を截ち割って、手持ちのカードをお目に掛けたい。
まぁ…ブタだわな…なのに…そのくせ…夢だけはあった。

けれども私は、この大事な時に、精も根も尽きたのだ。私は、よくよく不幸な男だ。
私は、きっと笑われる。私の一家も笑われる。女にはふられ、仕事では水をあけられ……打つ手は裏目!
まるで…押しつぶしっ!私は友を欺いた。中途で倒れるのは、はじめから何もしないのと同じ事だ。
ああ、もう、どうでもいい。これが、俺の定った運命なのかも知れない。
106走れ!カイジ! 11:2009/01/10(土) 10:28:14 ID:GWR4mjxK

ボロ…ボロボロ……。
セリヌンサカザキよ、ゆるしてくれ。
君は、いつでも私を信じた。私も俺を、欺かなかった。
俺たちは、本当に佳い友と友であったのだ。いちどだって、暗い疑惑の雲を、お互い胸に宿したことは無かった。
いまだって、君は俺を無心に待っているだろう。ああ、待っているだろう。
ありがとう、セリヌンサカザキ。
よくも俺を信じてくれた。それを思えば、たまらない。友と友の間の信実は、この世で一ばん誇るべき宝なのだからな。
セリヌンサカザキ、俺は走ったのだ。君を欺くつもりは、みじんも無かった。

信じてくれ!……抗った…!オレは抗った…!屈服せず……抗った!
俺は急ぎに急いでここまで来たのだ。濁流を突破した。若者の囲みからも、するりと抜けて一気に峠を駈け降りて来たのだ。
俺だから、出来たんだ。ああ、この上、俺に望み給うな。放って置いてくれ。どうでも、いいのだ。俺は負けたのだ。
だらしが無い。笑ってくれ。会長は私に、ちょっとおくれて来い、と耳打ちした。
おくれたら、身代りを殺して、俺を助けてくれると約束した。俺は会長の卑劣を憎んだ。

けれども、今になってみると、俺は会長の言うままになっている。
俺は、遅れて行くだろう。どんなに真面目に走っても間に合わなければ罪人!
会長は、ひとり合点して私を笑い、そうして事も無く俺を放免するだろう。

そうなったら、俺は、死ぬよりつらい。私は、永遠に裏切者だ。地上で最も、不名誉の人種だ。
死ねば助かるのに、か……セリヌンサカザキよ、俺も死ぬぞ。君と一緒に死なせてくれ。
君だけは俺を信じてくれるにちがい無い。

いや、それも私の、ひとりよがりか?
ああ、もういっそ、悪徳者として生き伸びてやろうか。
地下には俺の家が在る。三好たちも居る。三好たちが、まさか俺を裏切るような事はしないだろう。

正義だの、信実だの、愛だの、考えてみれば、くだらない。
魑魅魍魎。人を殺して自分が生きる。それが人間世界の定法ではなかったか。

ああ、何もかも、ばかばかしい。
私は、醜い裏切り者だ。いいじゃないか裏切り者で。熱い裏切り者なら上等よ。

カイジのアウツ――四肢を投げ出して、うとうと、まどろんでしまった。
107走れ!カイジ! 12:2009/01/10(土) 10:30:11 ID:GWR4mjxK

ふと耳に、潺々、水の流れる音が聞えた。そっと頭をもたげ、息を呑んで耳をすました。
すぐ足もとで、水が流れているらしい。
よろよろ起き上って、見ると、岩の裂目から滾々と、何か小さく囁きながら清水が湧き出ているのである。
その泉に吸い込まれるようにカイジは身をかがめた。
キンキンに冷えていやがるっ…!
水を両手で掬って、一くち飲んだ。

うまいっ……犯罪的だっ……うますぎるっ……。

ほうと長い溜息が出て、夢から覚めたような気がした。

歩ける。行こう。
肉体の疲労恢復と共に、わずかながら希望が生れた。

斜陽は赤い光を、樹々の葉に投じ、葉も枝も燃えるばかりに輝いている。
日没までには、まだ間がある。
108走れ!カイジ! 13:2009/01/10(土) 10:31:17 ID:GWR4mjxK

損得だけで生きてなんになる?ましてや安楽…あるいは安全…そんなものだけを追って……生きて…何になる?
そんなことはミジンコ、ゴキブリだってやっている!
違うっ……!違うっ違うっ!そうじゃないっ!オレ達人間は………人間ってのは…それ以上の…何かだろう!
それ以上の何か、つまり…人間を、人間たらしめている……心……感情がある……!
俺を待っている人があるのだ。少しも疑わず、静かに期待してくれている人があるのだ。
俺は…信じられている…。俺の命なぞは……問題ではない。死んでお詫び…………などと気のいい事は言って居られぬ。
それこそが……本当の意味での敗者だろう…。
私は、信頼に報いなければならぬ。今はただその一事だ!


走れ! カイジ!


俺は信頼されている。先刻の、あの悪魔の囁きは、あれはダメ思考だ。
典型的ダメ人間のダメ回路だ。忘れてしまえ。
五臓が疲れているときは、ふいとあんな悪い夢を見るものだ。
カイジ、おまえの恥ではない。

私は、正義の士として死ぬ事が出来るぞ。
生きてりゃ良い、生きているだけで勝者なんていうのは、動物の話だっ!
人間は違うっ! みんなそれぞれ、理想とする男像…、
人間像ってものがあって、そういうのを目指すから人間だっ!


ああ、陽が沈む。ずんずん沈む。待ってくれ、神よ。

109創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 15:39:37 ID:PHAVbw0d
凄い、緊迫してる場面だ。
110創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 18:56:32 ID:6vzLMvv+
ぐいぐいくるなぁ
111創る名無しに見る名無し:2009/01/10(土) 19:08:33 ID:74BE25Tl
そろそろクライマックスか期待!!
112創る名無しに見る名無し:2009/01/11(日) 14:27:33 ID:qqCmavxS
2ch福本SSスレまとめサイト
http://wiki.livedoor.jp/fkmtss/d/

すこしWikiの書き方わかったから作ってみた。
ある程度まとめてから出そうと思ったけど疲れたから皆に任せる。
細かい設定とかルールとかデザインとかも自由にしてほしいのでパスワード教えます。
ID・fkmtss  パスワード・2247856 よろしくね。
113創る名無しに見る名無し:2009/01/12(月) 23:28:33 ID:s4HSkwV7
走れ!カイジ の続きが気になる
114走れ!カイジ! 14:2009/01/13(火) 02:10:04 ID:nWdhCoiZ
路行く人を押しのけ、跳ねとばし、カイジは黒い風のように走った。
邪魔者は押せっ!そうすることによって、初めて道は開かれる!
野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を駈け抜け、酒宴のホープレスたちを仰天させ、
カイジ犬を蹴とばし、邪魔する裏切り者たちを殴り倒し、
少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍(現代で言う百倍)も早く走った。

一団の旅人と颯っとすれちがった瞬間、不吉な会話を小耳にはさんだ。

「いまごろは、あの男も、手術台にかかっているよ。」

ああ、その男、その男のために俺は、いまこんなに走っているのだ。
その男を死なせてはならない。急げ、カイジ。遅れてはならぬ。
カイジは、今は、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口からコホンと咳が噴き出た。

見える。はるか向うに小さく、スターサイドのホテルの屋上が見える。
屋上は、夕陽を受けてきらきら光っている。

「ああ、カイジ君。」
うめくような声が、風と共に聞えた。

「誰だっ…」
カイジは走りながら尋ねた。

「フィロストイシダでございます。貴方のお友達セリヌンサカザキの父親でございます。」
その中年の石工も、カイジの後について走りながら叫んだ。

「もう、駄目でございます。無駄でございます。走るのは、やめて下さい。
もう、我が息子をお助けになることは不可能。登りません、水は決して。」

「いや、まだ陽は沈まぬ。」

「ちょうど今、息子が切り刻まれるところです。ああ、あなたは遅かった。
おうらみもうしあげます。もうちょっとでも、早かったなら!」

「いや、まだ陽は沈まぬ。」
カイジは胸の張り裂ける思いで、赤く大きい夕陽ばかりを見つめていた。

「やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。
息子は、あなたを信じて居りました。爪を血のマニキュアで染められても、平気でいました。
会長が、さんざんあの方をからかっても、
カイジは来ます、我が娘を迎えに、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でした。」
115走れ!カイジ! 15:2009/01/13(火) 02:11:52 ID:nWdhCoiZ

「それだから、走るのだ。信じられているから走るのだ。間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。
人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ。
ついて来い! フィロストイシダ。」

「ああ、あなたは狂気の沙汰だ。それでは、うんと走るがいい。ひょっとしたら、間に合わぬものでもない。
走るがいい。……このチケットを……カイジ君に託します。
虫のいい話ですが、私の代わりにこのチケットを金に換え、息子に渡してやってください」

1000万チケットをカイジに手渡すフィロストイシダ。

「受取ったら行ってください。私にかまわず行ってください。決して振り返らず。
私がいなくなるのを見たらカイジ君は動揺します。カイジ君はただ前を見て行けばいいのです」

 「フィロストイシダさん」と叫んで振り向くカイジ。
しかしフィロストイシダの姿はそこにはなかった。

(帰った…帰ってしまった……しかも無言で)歯を食いしばるカイジ。


まだ陽は沈まぬ。最後の死力を尽して、カイジは走った。
カイジはわけのわからぬ大きな力にひきずられて走った。
陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、カイジは疾風の如く刑場に突入した。
間に合った。
116走れ!カイジ! 16:2009/01/13(火) 02:13:57 ID:nWdhCoiZ

「待て。その人を殺してはならぬ。カイジが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」
と大声で刑場の群衆にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄れた声が幽かに出たばかり、
群衆は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。

すでに手術台が用意され、縄を打たれたセリヌンサカザキは、台に乗せられた。

せっ…
 せっ…
  押せっ…

カイジは濁流を泳いだように群衆を掻きわけた。

「私だ、刑吏! 殺されるのは、俺だ。カイジだ。彼を人質にした俺は、ここにいる!」
と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついに台に乗せられた友の両足に、齧りついた。

群衆は、どよめいた。
せっ…
 せっ…
  ゆるせっ…、

と口々にわめいた。セリヌンサカザキの縄は、ほどかれたのである。
117走れ!カイジ! 17:2009/01/13(火) 02:15:26 ID:nWdhCoiZ

「おっさん!」
カイジは眼に涙を浮べて言った。

「俺を殴れ。ちから一ぱいに頬を殴れ。俺は、途中で一度、悪い夢を見た。
おっさんが俺を殴ってくれなかったら、俺はおっさんと抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」

セリヌンサカザキは、すべてを察した様子で首肯き、刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くカイジの右頬を殴った。
殴ってから優しく微笑み、

「カイジ、わしを殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらとおぬしを疑った。
生れて、はじめておぬしを疑った。おぬしがわしを殴ってくれなければ、わしはおぬしと抱擁できない。」

カイジは腕に唸りをつけてセリヌンサカザキの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」
二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
118走れ!カイジ! 18:2009/01/13(火) 02:17:42 ID:nWdhCoiZ

群衆の中からも、歔欷の声が聞えた。

暴君ヒョドニスは、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、
顔を赤くして、こう言った。

「なんじゃ。この決着は。胸くそ悪い。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。
わしは帰って寝るのだよ、王だからな」

どっと群衆の間に、歓声が起った。

「1050年!会長1050年!地下行き!」


ひとりの少女がやって来て、サンドイッチをカイジに捧げた。
カイジは、まごついた。佳き友は、気をきかせて教えてやった。

「カイジ、お前は、おなかが減っているだろう。早くそのサンドイッチを食べるがよい。
このとっても可愛い娘さんは、カイジのために一生懸命作ったのだ」

カイジは群衆の注目の中、逃げることもできず、仕方なくサンドイッチにかぶりついた。

「てへへ・・・たまご付いてるぞっ♪」



 勇者は、ひどく寒気がした。

119走れ!カイジ! :2009/01/13(火) 02:19:12 ID:nWdhCoiZ
89 :愛のVIP戦士@ローカルルール7日・9日投票:2008/12/07(日) 02:04:11.76 ID:jb6MLF670
--Fin--



読んでくれた人、ありがとう
120創る名無しに見る名無し:2009/01/13(火) 02:22:47 ID:/q4qYWHH
こちらこそ名作をありがとう
121創る名無しに見る名無し:2009/01/13(火) 02:29:08 ID:nWdhCoiZ
作品と、>119の作者のコメントはVIPスレ
走れ!カイジ!
ttp://jfk.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1228570823/ より引用
122創る名無しに見る名無し:2009/01/13(火) 09:08:42 ID:8MBlbASP
名作をありがとうございます。
ちゃんとカイジらしいオチがあるなんて…
名作…紛れも無く 名作…
123創る名無しに見る名無し:2009/01/13(火) 10:44:06 ID:/Fgyklf3
おほ〜凄い!正に名作!お疲れ様でした!
原作のオチでは確かほぼマッパのメロスに服かなんか渡すんだっけ?ちょいうろ覚え。
124創る名無しに見る名無し:2009/01/19(月) 22:17:52 ID:AlJz00es
けっこうまとめウィキに載せたんだが
http://wiki.livedoor.jp/fkmtss/d/
気に入らないとこがあったら作者自ら編集してくれるとありがたい。
125創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 02:02:23 ID:8iQC7pWF
走れ!カイジ面白えっ…!
最後のオチでとうとう腹筋壊れた
126創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 15:23:49 ID:986yNNb3
どなたか時代劇なSSを書いてはくださらんか?
127創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 20:54:25 ID:aCgS2obQ
「殿中でござるっ…!
「カンケーねえな、そんなこと…」
「なにとち狂ってやがるっ…!」



「籠の中の鳥をっ…涯君が逃してしまったっ…!」
「孤立せよっ…!」
(当時の「〜君」は現在の貨幣価値に換算すると「〜ちゃん」に相当する)



しかし武蔵意外にも…巌流島をスルー…異端の戦略…
「そしてほっとかれたっ…!」



「一枚…二枚目…死にたくなーいっ…四枚…五枚…死にたくなーいっ…七枚…八枚…死にたくなーいっ…!」
3の倍数の時だけ平山(アニメ版)になる於菊


色々うろ覚えだ
とりあえずチキンランは馬で
128創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 22:53:55 ID:uvdF63Cz
三の倍数だけダメギとかwwwwwwクソワロタwwwwwwww
129創る名無しに見る名無し:2009/01/22(木) 23:12:41 ID:986yNNb3
馬でチキンランw馬カワイソスw
こーいうのもっと読みたい。
13076:2009/02/02(月) 04:32:22 ID:YQjYsosS
>82 これからもどうぞ〜

>112 >124 サイトが出来てるとは、お疲れ様です!

「走れカイジ」には何作の福本作品(の言葉)が踏襲されているのか…
この作品やっと読めました。名作

>127 確かに…もっと読みたい
131創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 17:57:05 ID:rbiJYpt8
  |           __,,,,.........,,,,__ |
  |        r‐:::;;!!!l::::||||:::::::||||:::!! |
  |        .|ミ、/  ゚''‐:!!:;;;;:::!!''" .!
  |        i::::/ ゙'''‐- ..,,,,,,.. -‐'''''゙!
  |        |ミ ゙゙'''‐-、    ,, -‐''|
  |       ,,..|〈 ==- ...,i,  i',. ‐=='!      おっと、そこまでだ
  |       i riミ! ゚''‐‐-・-'| |ヽ-・-''゙|
  |       i ト!/_゙''‐-‐".! ! ゙'‐-‐'゙,!     私は福本作品SSを待っている
  |       ヽ.,,,|!. | /( .| | ,) ヽ、,.!
  |         |  /,___'-'___, i .!     すべて既存の作品は読んでしまったぞ。どうだ、まいったか
  |        ./|  !   __   ! !
  |      ,,/ : |\     ̄     .!
  | ,,. -‐'''": : |: : : |\\____/.!
  | : : : : : :,;,: -| : : : i \:::::::::::::::::::::/ |
  | ;,-‐'' : : : : |: : : : :i  \   /  !
  | : : : : : : : : |: : : : : i   \/.   .|
  | : : : : : : : : |: : : : : :|   /\    .|
  | : : : : : : : : | : : : : : |  /!,',',','i\  .|
132創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 20:26:17 ID:M9mFGqNh
突然の利根雄 不覚にもフイタw
133創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 02:37:45 ID:ToY0SMLK
今福本風味な夢を見たんだが、それをSSにして投下して良いだろか。
途中で目が覚めたせいで、実もオチもなくジタジタしてるくらいのもんだが
134創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 02:41:54 ID:uMsP5LUF
ぜひやるんだ!
135創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 02:48:36 ID:b2O2xSyH
・・・けっ!・・・けっ!・・・書けっ!・・・書けっ!
136133:2009/02/07(土) 10:42:30 ID:ToY0SMLK
大半を忘れてしまったが思い出しつつ纏めてみた。
…やっぱりオチとかなかった。夢だし。
137夢想 1:2009/02/07(土) 10:52:28 ID:ToY0SMLK
痩せた身体に派手な色合いのワイシャツ、黒いコートは反則な程に似合っていた。
多少刺は抜けたが、眼差しに鋭さは相変わらず携えていて、間違いないのだと改めて嬉しくなる。
軽く身を起こす位にしか表現出来ないけれど。
ゆっくりと閉まった扉を一瞥すると、どこか悪戯っぽく笑った。

「綺麗なひとだ」
「あ、あぁ…3つ、下なんだ」
「そう…もっと若いかと思った。好い人を捕まえたよ…」

微笑。目元には僅かに皺が寄る。
粗末な椅子が、大して掛かってもないだろう負荷にキシリと鳴いた。

「あぁ…本当に、お前…!」
「…何年ぶりだろうね?」
「十五…いや、もっと…アカギ、お前は工場で働いていて…」
「なら…18か19、だった…かな…?」
「…そう…懐かしい……懐かしいな…」

久々に一度に沢山話して鼓動が高まる。いや、また会えた喜びだろうか?
もう二度と会うことはあるまいと思っていたから、余計に。

「子供、なんか居るのかい」
「いや…だが二人気ままなもんさ…かみさんからすれば、気を遣う姑もいない…あぁ見えて気は強いん奴なんだけどな…」

話すたびに鼻・口を覆うプラスチックが曇る。籠った声は届いてるだろうか?
ふ、とアカギは口元を緩めた。昔は多分、していなかった表情。

「しあわせそうだね…」

初めて見る筈のそれに子供の頃を思い出す。
もう三十も半ばだろうに、瞳は変わっていない。
あの時のままだ。
きっと麻雀は…ギャンブルは続けてるんだな。けれどちっとも濁っちゃいない。
綺麗な目だ。

「変わらないな…アカギ、は…」
「…そうかい…?」
「変わらない…」
「南郷さんは…、……南郷さんも、変わらないさ…」

嘘を言う。寝返りもろくに打てない男が昔のままの訳がない。
声色こそ自然だが、僅かに曇った表情はアカギにしては迂濶だな。
138夢想 2:2009/02/07(土) 11:06:08 ID:ToY0SMLK
まぁ、仕方ないさ。
勝負を離れたら普通の子供だった。工場で会った時もそう。なら今は…赤木しげる、そのままの。
なぁ、そうだろう?

…お前が来るなんて思いもしなかった。あれきりだと思っていた。
なぁどうやって知ったんだ?それに俺の事など忘れたものだと…
俺は忘れたことなど無かったよ。仕事も仲間も妻も、あの日が有ってこそ得たものだから。
だけど…ずっと言い忘れていた事があるんだ…もしかしてそれを受け取りに来てくれたのか?

「――…南郷さん」

笑いかけた筈なのに、アカギは眉を潜めた。ちら、と扉の向こうを伺うようにしながら囁く。

「…痛むのかい…?…呼ぼうか、医者…」
「いや、いや…平気だよ、そんなこと、より…」

大丈夫なんだ、不思議なくらいに。痛くなんてない。安らぐんだ。
変だなぁ、お前に会うときはいつもハラハラしてたのに…今はとても穏やかな気分だよ。

だから、この涙は決して辛いからじゃない…

黒いコートが大きく翻る。奥さん、と焦ったように誰かが言った。
待てまて、大丈夫だから…!
…長いコートなのに、手を伸ばせば届くのに…どうにも掴み損ねてしまった。姿が消えてしまう。
…全く、存外に心配性で気が短い奴なんだな…
ん――天井が…なんだ?白なのか黒なのか…妙だな、真っ白の筈なのに。
手が、温かい。いつの間に入って来たのか、妻の細い手が俺の手を包んでいる。
あぁ先生も。平気ですよ、丈夫なだけが取り柄だったんですから。
それに今はとても調子が良くて、朝とは大違いなんです。そんな慌てなくても、何も…

壁、白衣、ワイシャツに妻の服……あれ?
白は沢山あるのに、おかしいな。

探せども探せども…、…なぁ―――…


なぁ 一言―――― 受け取って ―――くれ…


 ―――…ありがとう
139創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 14:47:09 ID:ToY0SMLK
お、やっと書き込めた。
視界がぐにゃった辺りで目が覚めたので、無理に着地点作っちゃいました。
アカギは裏の麻雀界のトップにいた頃なんだろうなと思います
140創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 15:24:26 ID:uMsP5LUF
こんな夢俺も見たい
アニメみたいな感じだったのか?
141創る名無しに見る名無し:2009/02/07(土) 18:04:41 ID:9t2253Go
逢えないけど、ずーっとアカギさんのこと気に掛けてたんだな、南郷さん。
142133:2009/02/08(日) 12:21:57 ID:z98YsdPZ
絵柄はアニメ準拠な感じだったし滑らかに動いてたと思う。
天の赤木ほど老けてなかったけど、南郷さんはアニメ絵柄からすると大分痩せてたような…
まぁ夢なんで曖昧です。ただ、アカギ声はハギーだった。これは覚えてる…!
143創る名無しに見る名無し:2009/02/11(水) 05:34:25 ID:CmKggoYA
 
144節穴:2009/02/12(木) 00:23:30 ID:gTuN2Wgd
1人で出歩く事はそう無い。
広くは無いが一軒家、日のあるうちには女が1人、自分の世話をしているからだ。
噂好きの未亡人。勿論、姿など見たことはないものの、声と服の布擦れの音からふくよかな年増女というところだろう。
「今日のお散歩ですか、旦那さん」
旦那、などと呼ばれる歳でも風体でもないが、そう呼ぶのだから別に構わない。
外套と肩にかけ杖を手元に寄越す。
「…今日は少し、遅いかね」
「なに、構いやしませんよぉ。帰ったってあたし、することもないんですから」
そう言いながら、自立した息子が顔を出すのを楽しみにしている事は知っている。
仲良くなどするつもりはない。気を遣うつもりもない。家主は自分だ。雇い主は自分。
だが、もう仕事も少ないのだから、ただ畳に座っているのも何かと詰まらない。
とりあえずは自分が死ぬまで、この噂好きの女の相手をするのも悪くはないだろう。
仕事はあって無いようなもの。切り捨てられなかったのが不思議なくらいのもの。
『ウチにゃ、先生しか居ませんからね…』
嘘っ八だ。
あれが若い頃からの付き合いだ、何か、と口を利いたのだろう。
余計な事を。此方は生い先短い身だ、そこらの川に浮かぼうがそう変わらない。
身寄りもない。誰が何を言うってもんなんだ?なぁおい。
ババァ相手しか日課のない老人作って、なんのつもりなんだ黒崎よぉ。
でも嫌ではない。それしか選べないんだから嫌も何もないが…
とにかく、生きているのに、結局はホッとしちまっているのだ。
「それじゃあな…」
しなくてもいい微笑を浮かべ、戸を開く。爺の日課へと出掛けるのだ。
若い頃の自分が見たら卒倒しそうな程に…暢気なもんだ。
145節穴 2:2009/02/12(木) 00:47:06 ID:gTuN2Wgd
空気が澄んでいる。肌と匂いで感じる。視覚以外の全てが自分に道を教えていた。
何度も通る道。散歩道だ。特に理由もない。爺は暇なのだ。
トッ…トッ……コツン…コツン…杖が地面を叩く音が変わる。
…一体、此処等の風景はどんなものなのか。
随分と昔の話になるが、此処等に住んでいたことがある。
しかし今住んでいる屋敷なんざ覚えがねぇし、季節になれば臭う銀杏も少々狭くうねるこの道も“見覚え”がない。
どれだけ様変わりしたか…まぁ、今となっては意味のない話だ。見えねぇんだから。
日の光も月明かりも縁のない物だ。必要もなければ欲しもしない。
見えるもので価値があるものなんて、そうそうありゃしないんだ。
目下気になることと言えば、先を探る杖で嫌なモンを触らないように、という程度のもの。
………が。
…ぐに、と柔らかい感触が手に伝わった。
げ……口の端が引きつる。いや…最初に思い当たったナニとは違うようだ。
じゃあ犬か猫か、あぁいや違うな……意外に高さがある。輪郭をなぞるように杖を滑らせた。
一度上がって、下がる…そしてまた上がる。
例えば……足首から膝へ、脚の付け根、腹から肩、なんてな…
………ははは。
…………。
……行き…倒れ…?

…ふざけるなよ。爺の日課を奪うんじゃねぇ、気味が悪くてならねぇぞ。死ぬなら一本向こうで死にやがれ。
膝の辺りだろう所を突く。意識があるなら起きろ、這ってでもどこか行ってしまえ。
死んでるならとりあえず踏み越えていくしかあるまい。いや気色悪い。
しかし効果はあったらしく、それはごそごそと身動きをし、口を開いた。
「――いてぇ…よ…じじい……」
146創る名無しに見る名無し:2009/02/12(木) 11:10:43 ID:Sw/z09h7
市川さんの後日譚だ… 艶っぽくはならないんだ…残念w
続き読みたいです。
147節穴 3:2009/02/13(金) 01:08:50 ID:aLKO+upx
「―――…お前っ……?」

掠れた声。
男、ガキ…そして思い当たる、忘れはしない憎たらしい声。
ぞ、と足首から嫌な空気が体を包む。間違いない間違いない。

「…くそ、餓鬼」
「……会っていきなりそれかい糞じじい」

――…アカギ。

アカギだ。
あの日、自分の全てを否定して消えたガキ。
軽い足音。強い打牌。恐ろしい運。憎たらしい声。
視覚以外の全てが一息に甦った。
――何故…何故、ここに居る……?
動揺。最近離れていたそんな感覚が全身を走る。
そして次に浮かぶ疑問。
自分を叩き伏せた男が何故――…行き倒れ……?

「…なんだテメェは……なんの嫌がらせで道に落ちてやがる」
「…好きであんたの為に落ちてるもんかね。面白い事言うんじゃねぇよじじい…」
減らず口。あぁ、益々間違いありゃしやがらねぇ。アカギだ。くそ。
「…この道はわしの散歩道だ、邪魔するんじゃねぇやくそガキ」
「……ふーん…」
鼻をすするような音、きたねぇガキだなおい。
「ふーん、じゃねぇ…めくらの道を邪魔するなって言ってるんだ…」
「…なら右側を歩きなよ…杖でドスドス刺しやがって河童じじい…」
誰が河童だこの餓鬼。
「…嫌なら左側に移って死にやがれ死に損ない」
「どっちが…」
声のする辺りを睨み付ける。相手方も睨んでるんだろう、それ以上の言葉はない。
…何の運命が知らねぇが、そんなもんに付き合ってやるほどお人好しじゃねぇ。
少し左側に進行方向を変える。
あぁあぁ懐かしいな、二年ぶりくらいかあぁ懐かしいかったあばよもう会うこともあるめぇ死ね。
148節穴 4:2009/02/13(金) 06:58:51 ID:aLKO+upx
「……待ちなよ」
「――……!…」
ぎゅ、と右足首を何かが締め付けた。このガキっ…
「っ…! 止めろ、汚ねぇ手で触るんじゃあねぇっ…」
無駄に力が強い。触れる感触は細い指だが、更にぎゅうと掴んでくる。
「…行き倒れを見棄てるのかい……人でなし」
「猿が…人間みたいな事を囀ずるじゃねぇよ、煩くてかなわねえ…!」
「あぁ…煩いついでに屋根を貸してくれよ…」
何がついでだ。関連性が全くない。
「その辺の軒先でも借りなっ…」
「クク……猫じゃないんだぜ、じいさん…」
「だから猿だろう。離さねえか、馬鹿力が…!」
話を聞かない馬鹿猿の手首の辺りを杖の先で押した。
「っ……、…」
「…?」
そう強くはやっていない、だが小さい呻き声が聞こえ掴む力が弱まる。
アカギが短く息を吐くと、ふ、と嫌な臭いが鼻をついた。嗅いだことはあるが、最近じゃ身近ではないその臭にピンとこない。
「……なんの臭いだ…?」
「臭い…?難しい事言うなよ…此方は鼻血が止まんなくて苦しいんだからさ……」
ぐす、とまた鼻を鳴らした。あぁ…血か………血の臭いだ…
「…鼻血だぁ…?…裸の女でも街角に立ってたか…」
「だから面白い事言うなよ…」
腹が捩れて死にそうさ、と呟いて手が離れた。
なら死んで失せろ、と言う言葉は……出なかった。一転して、本当に死にそうな声だったから、だ。
臭う量からは、鼻血だけじゃない、どこか負傷しているのが。
麻雀同様無茶苦茶に生きてきたんだろう、ざまぁみやがれ馬鹿が。
見えない事を不便だと思った事はあるが、今はどちらかと言えば『残念』だ。
どんな情けない面で此方を見上げてるのかと想像するが、生憎…最初から面を知らなかった。
「…………」
自由になった脚で踵を返す。足元で小僧が静かに問うた。
「そっち、行かないの…」

「……立てるなら…勝手についてこい」



……本当に…暢気な爺になったもんじゃねぇか。

149創る名無しに見る名無し:2009/02/13(金) 14:27:21 ID:rpI4uHBJ
続き楽しみにしてます
150創る名無しに見る名無し:2009/02/13(金) 15:36:10 ID:9O+5AuQ8
市川さんを“河童”となw
>>149同じく続きが楽しみです。
151創る名無しに見る名無し:2009/02/16(月) 11:54:54 ID:xKzScGf6
152創る名無しに見る名無し:2009/02/16(月) 17:54:11 ID:UOtem5Vl
153創る名無しに見る名無し:2009/02/16(月) 22:02:48 ID:G1Lc636/
154節穴 5:2009/02/19(木) 11:28:34 ID:pyq1mqxK
「素直で可愛い子ですねぇ」
「……あ゛…?」
変な声が出た。
掛け時計が日が落ちた事を知らせていたので、ふて寝を切り上げて部屋を出る。
気の抜けた足音に、まだ居たか、とそちらを向くと、世話好きは楽しげに訳の分からない事を言ってのけた。

-------

「あらっ…あらあら……あらぁ…」
戸を開けると心底驚いたような声をあげた。確かに足音は妙な具合だったが、そんなに傷は酷いのか。
「旦那さん、この人…?」
「手当てでもしてやってくれ。そしたらついでに追い出しておけ」
「クク…つれねぇ、なぁ……」
「…あら。貴方まだ子供なのね、てっきり…」
何やら会話しているが興味が湧かない。今日は散歩という気にもならない。全くもって最悪だ。
「旦那さぁん、この子…」
「…………」
知り合いと言えば、どんな、と言う返事が返って来そうで何も答えなかった。
大体にして答えようもない、あの小僧が何かと言われたところで。
だからなんとでも本人が答えれば良い。
とにかく何かしらと質問されるのを避け、奥の部屋に引っ込むことにした。

-------

そうして冷え始めた廊下に出たら、あれを可愛い、ときたもんだ。
確かに見た目なんざ知らん。だが一瞬ガキに見えなかったようだから、そんな形容詞が合うとは思えない。
そして何より人間の皮を着ているだけで、あれは確かに人以外の何かなのだから。
一言聞き返しただけだが、女はあれこれとアカギについて
…間に同情だの誉めるだのと余計な台詞を挟みながら…
次々と聞いたこともない人間関係を語り出した。どうやら戦争で見失った兄弟の孫らしい。
否定しないよう曖昧に相槌を打ちながら内心は鼻で笑ってしまった。
あとはババァの好きそうな不憫な身の上。相手から勝手に絡んできた喧嘩。そして素晴らしい偶然の再会。
どう聞いても胡散臭いの一言しか出てこないが…とりあえず目の前の女は上手く、と言うよりは見事に信じている。
…ペテン師め。
155創る名無しに見る名無し:2009/02/19(木) 14:23:32 ID:i9ZQ6HTf
アカギw流石すぎるww
156創る名無しに見る名無し:2009/02/21(土) 18:35:44 ID:cTfYmEtx
 
157創る名無しに見る名無し:2009/02/22(日) 11:54:40 ID:43yVB/tv
市川さん…早速丸めこまれたオバサン・・・w
158創る名無しに見る名無し:2009/02/23(月) 01:59:03 ID:8HbfThlE
市川w
159節穴 6:2009/02/26(木) 23:44:30 ID:lCRt+c6b
「慣れてるから平気です、なんて私思わず涙が出そうになりましたよ。えぇウチの息子達もね素直ですけど」
あぁ、はいはい。
「あの子は喧嘩なんてしそうもないくらい素直で…でも見た目があぁですもの、仕方ないわよねぇ…分かります」
「見た目?」
女は勝手に納得したように畳み掛ける。なんだ、因縁つけられる容姿か何か…
「えぇえぇ、辛いこともあったでしょうねぇ。病気かしら…?いや私だって勿論聞いたりはしませんよ、分かってますよぉ」
「……なに?」
なんなんだ…要領を得ないババァだ。しかし“身内”という事になっているので曖昧に聞き返す。
あのガキ、面かなんかに大傷でもあるのか?
「いやぁだから…髪の毛ですよぉ。真っ白でしょう?」
―――真っ白の…髪?
「あたしは綺麗な髪だと思いますよ、ねぇ、そりゃ真っ黒な方が普通でしょうけど。苦労したんでしょうねぇ、ええ本当に」
「………あぁ…まぁ…病気、みたいなもんでな…」
大変だった、と言ってもみたが色々と矛盾している気もする。
あれがいつ生まれたんだかも分からないのだ。実際何も知らない。身内でもない。
そもそも全てがホラ話なのだから当然…話せばボロが出そうだと早々に女を帰すことにした。
どうせ明日もこの声を聞くのだから程々にしてくれ。
女は、坊っちゃんに宜しく、と妄言を吐きながら騒々しく消えた。

廊下がしんと静まる。
この家で生まれる音の9割はあのババァが立てているようなものだ。

……あのガキ、何処へ行った。
ババァの話じゃ出て行った風でもない。本当に屋根を借りていく気なのか。
耳を澄ますが、何の音も届いて来ない。不気味なくらいだ。
無音をため息を吐いて紛らわしながら、玄関から一番近い居間の襖を開ける。中は空気が止まっていて少々不快だ。
夏なんかは庭に面した戸を開け放して虫の合唱を聞くが、最近は夜の底冷えを防ぐため雨戸をしっかりと閉めているせいだ。
後ろ手に襖を閉じ、ちゃぶ台が有るだろう場所を避けて部屋を突っ切る。部屋の隅には小さな硝子窓がある。
飾り障子が手前に付いているらしいが、そんな細工がどうでも全盲には関係がない。
とにかく…新しい空気が欲しい。少々の冷えはまぁ仕方がない。
障子を、窓を開けようと手を伸ばし近付いた。
ぐに。
160創る名無しに見る名無し:2009/02/27(金) 13:03:13 ID:Kb1z8yLd
踏んだ?
161創る名無しに見る名無し:2009/02/28(土) 12:06:44 ID:NE7XWVg7
まさか…それはアカギの○ンコ…!?
162創る名無しに見る名無し:2009/03/02(月) 02:27:59 ID:mmbMTLrN
もしアカギがカイジの世界にいたのなら…。


ある街にに異様な風貌の青年が現れた。

その青年はまさに100戦100勝…圧倒的な才…
そう赤木しげるである。

この噂は瞬く間に広がり、その界隈の雀荘から客足は遠退いていた。

アカギ自身も移動を考えていた時、ある男が訪ねてくる。

男「あ…あなたがアカギさんですか…?」
アカギ「…?」

男「お願いがあるんです…! あるギャンブルの参加権を得たんですが…どうも病みたいで参加出来そうにないっ…あなたに俺の代わりに受けてもらいたいんだっ…もちろん報酬は弾むっ…!」

アカギ「(…ククク)… で?」

男「えっ?」

アカギ「…内容さ…その…ギャンブルのっ…!」

男「出てくれるんですか…!? 俺の代わりに!? ありがとうございますっ…! でも内容は判らないんです…場所は建設途中のホテルなんですけど…」

アカギ「ふーん…まぁ…ちょうど退屈していた所さ…」

アカギは男から日時と場所、成功したときの落ち合う場所を聞かされ、闇へと消えていく。

そして現れるっ…!
絶望の城にっ…!
163創る名無しに見る名無し:2009/03/04(水) 15:54:50 ID:bMLQDLBN
良スレあげ
164創る名無しに見る名無し:2009/03/04(水) 19:14:42 ID:mYWHjZQG
>>162 続きを…気になる…
報酬は弾むってw 払えるあてはあるのかな?
165創る名無しに見る名無し:2009/03/05(木) 01:38:00 ID:Y8U9891H
アカギは黒服に参加者の集まっている場所に案内される…

角の柱に持たれながら、ハイライトに火を点ける…。
そして箱の中に入れられ、運ばれる。

人間競馬の会場へっ…!

阿鼻叫喚の歓声…目の前には鉄骨。
落ちれば骨折は必至…
そして掲示板にはオッズが描かれ、他のの面々はただ怯え、たじろぐ…

そんな中、アカギは煙草に火を点け笑みを浮かべる。

下の方では観客が騒ぎ、はやし立てている。
ようやく金に目がくらんだか、鉄骨を渡りだす人間が出てくる…それに釣られ、次々と人が渡りだす。 気づくと渡っていないのはアカギ一人…。

アカギには観客から嵐のような避難を浴びる…。
アカギ「フフ…(やれやれ…)」

アカギ…遂に鉄骨に足を踏み入れるっ!

そんな時第一の犠牲者が…!

鈍い音が響く…

そして同時に飛び交う「押せ」コールっ…!
アカギは速くもなく、遅くもないペースで渡っていく…

そして到達っ! 前を行く者の背中にっ!

男「…や…やめてくれっ! お…押さないでくれっ…!」

アカギ「ククク…なぜだ…?」
男「な…なぜって…!? 」

アカギ「あんただってノーリスクで大金得られるなんて思っちゃいないだろ…ククク…それに…落ちたって死なないみたいだしな…」
男「うぅ…ほ…本気…で…言ってんのか…やめろよっ! 止めてくれっ!落ちたくないっ…!」

アカギ「ククク…本気さ…しかし…選択を誤ったな…」

男「えっ…?」

アカギ「…後ろを選んだが…これじゃ駄目だ…つまらねぇ…ククク…前だな…先頭を選ぶべきだった…そのほうが…ククク…面白いっ…」

男「な…なに言ってるんだ…アンタ…(く…狂ってるっ…!普通じゃないっ…! なんなんだこいつ…)

その時二人の前を行く男が足を滑らせ転落っ…
男「あっ…あぁ…!! (お…落ちやがった…! グっ…ビビるな…後少しだ…速く行かなきゃお…押されるっ…)

アカギ「フフ…良かったじゃないか…邪魔が消えて…」

数分もたたない内にこの男は渡りきる。続けるようにしてアカギも…

男「やったっ…! やったっ! 一着だっ!」しばらくしないうちに次々と鉄骨を渡り切る人物が出てくる。

生存者は生き残った喜びと、そして同時に生存した喜び…そして悔しさっ!

アカギは…失望っ…このギャンブルに…
166創る名無しに見る名無し:2009/03/05(木) 17:44:40 ID:3MefSFK8
>>165 鉄骨渡りはアカギさんのお気に召さなかったか…
先頭に立って押される恐怖?を味わいたかったのかな、アカギさん。
高層鉄骨渡りは?次のギャンブルをお勧めするの?
167創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 14:08:14 ID:Ly9B+p2g
支援!!
168創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 14:22:06 ID:Zwql+sEb

出ていけ・キチガイ・ネズミ講の創価学会のクソ野郎

出ていけ・キチガイ・ネズミ講の創価学会のクソ野郎

創価学会・公明党の選挙出馬はキチガイ・詐欺師の候補者

創価学会・公明党の選挙出馬はキチガイ・詐欺師の候補者

キチガイが選挙活動・創価学会・公明党

キチガイ候補の・創価学会・公明党

キチガイ・狂信宗教・ネズミ講の集まり



池田大作を狂信するキチガイの集まり
169 ◆RFGz8y4N2E :2009/03/09(月) 16:54:29 ID:ENRdMD5W
「……。」
………ぐに…だと…?
足裏には布地の感触。はぁ…と静かにどこかで聞いたような溜め息が吐き出された。
「…突いたり踏んだり忙しいね…」
馬鹿に落ち着いた声が下から届く。何かを踏んだ足をそろりと上げた。
「…………居るなら居ると、一言か言わねぇか」
「尋ねられてもないぜ」
「…家主はめくらだぞ、配慮しろ」
手を振るうと、ぺし、と丁度よくガキの頭を叩くいい音がした。
いてぇ、と一言が聞こえたがそれきり。卓を挟んだ向こうからひしひしと感じた威圧感はまるでない。ただのガキだ。
壁に背をついて寄りかかり、はたいた頭があるだろう辺りに声をかけた。
「……ここで何してる」
「なにも…ただ見てただけさ…月をね……」
ああ、障子は開いてるのか。
「少し開けな。空気が淀んでやがる」
「窓を…?…ちょいと冷えるよ市川さん」
イチカワサン、だと。
現金な奴だ。屋根を借りられるとなったら呼び方がきちんとしてやがる。
「家主が開けろと言ってんだ…変なもん踏まなきゃ開けていた」
「そうかい、邪魔したね…」
相変わらず人をくった声色で呟いて、すぐに窓が開く小さな音がした。
確かに少々尖った冷気が流込んできたが、寒いと震えるようなものでもない。
埃っぽい空気を掻き分けて部屋を漂う。明日はババァに此処の掃除もよくして貰おう。
…ババァと言えばだ。
「…お前は、口から生まれてきたんだろうなぁ」
「…さぁ…逆子だとは聞かないからね」
そんなことを言ってるもんか。大体女の股から生まれたかどうかも怪しいものだ。
「随分と上手くババァを丸め込んだと誉めてるんだよ」
「いい人じゃない…清々しいほど単純で…それに、味噌汁が旨いと思ったのは久々だ…」
くつくつと笑うのが壁を伝って分かる。ガキが何言いやがる…というより飯まで食ったのかこいつは。
「焦げたメザシでも旨かったし…人柄かな。心がこもってるってやつかい」
「…住み着く気じゃねぇだろうな」
「クク…心配しなくても…すぐ出てくよ…」
170創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 16:57:43 ID:ENRdMD5W
ぎゃ。やっちまった。『節穴』の続きです
171創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 17:35:28 ID:Kpv88VYw
節穴 の続きだっ!
イチカワサン も丸め込まれているような。
>>「焦げたメザシでも旨かったし…人柄かな。心がこもってるってやつかい」
13でこの台詞、おばちゃん、コロッと逝っただろうな。
172創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 17:59:17 ID:Urd0lcJK
アカギは人間競馬を2着でクリア…

しかし満たされない…この鉄骨渡りでは…

続く高層鉄骨渡りもクリア…

帝愛のトラップなどものともせず、ガラスの階段を見抜く…

しかし報酬は得られずっ…!

途中でアカギ以外の参加者全員が棄権を宣言したためのとばっちり…

そんなアカギへの救済措置として招かれる…
Eカードのギャンブルへと。

アカギは利根川からルールを知らされる。
そして負けたときのリスクを…目か耳か選択を迫られる…。

アカギ「ククク…なるほど…」

利根川「フフ…失うのが怖ければ1〜2ミリでも掛ければいい…それなら万が一全敗でも大丈夫さ…まぁアカギ君ほどの腕なら全敗もありえないさ」

アカギ「ククク…そうだな…なら…レートを倍にしてもらいたいっ…!」

利根川「…!? ハッハッハ…! 流石にそれは無理だな…これは確かにアカギ君への救済措置としてのギャンブルだが…」

アカギ「ククク…両方だ…」

利根川「…は?」

アカギ「耳と目…二つを賭けるっ…」

利根川「なっ…!?(正気かこいつ…) しかしそうは言っても君には有利にできているんだ…二つを懸けようが1〜5じゃまず失いなどしない…リスクが増えたことにはならない」

アカギ「フフ…そうだな…なら10だ…こっちは最低でも10賭けるっ…皇帝でも奴隷でも…それなら問題ないでしょう…俺はこのEカードとやらで負ければ失う…音と光をっ…!」

利根川「…!?(馬鹿が…皇帝側ならまだしも…奴隷側ではまず勝てやしない…俺みたいな仕掛けがあるのか…?いや、こいつは今ルールを知らされたばかりだぞ…そんなギャンブルに目と耳を賭けるなんて…」

兵藤「面白いっ…認めようっ! その申し出…レートを倍っ! ただし負ければ…ククク…」

そして始まる…利根川vsアカギ…!
173創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 19:05:58 ID:CRX1ARLC
眼と耳を賭けるなんて無茶…
協力者も今のところいないのに、どうするの?
174創る名無しに見る名無し:2009/03/12(木) 08:37:45 ID:Xhtj7NnK
支援しちゃうズラ
175創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 00:43:44 ID:Bvr/VZjw
通常は1ミリにつき10万。

しかしレート倍プッシュにより1ミリにつき20万…!

その上、最低でも10ミリ賭ける取り決め。そのため一回の勝負で最低でも200万の金が動くことになる。

つまり奴隷の場合は最低でも1000万が動くっ…!

利根川「さぁ…始めようか…アカギ君! 君が先に皇帝側だ…つまり1回目と3回目の時は先出しになる。」

黒服「どういたしますか?」
アカギ「フフ…10だ…」

黒服はホワイトボードに10ミリと書き込み、勝負開始っ!
そしてアカギ手札を一瞥するとほぼノータイムでカードをだす。

利根川「…?(なんだコイツは…? 1回に最低10賭けるんだから3回負けたら終わりなんだぞ…。慎重に行こうとか思わないのか?)」

利根川は市民を選択…!
しかしアカギは皇帝っ!

一回目はアカギが勝利…200万を得る!
利根川「…」
この時利根川はある違和感を感じていた…。アカギ「…2戦目も10だ」

そして2戦目…。

アカギは1戦目と同じ様にカードに数秒目を通して選択っ!
利根川「…(まさかな…)」
利根川も選択!

利根川は市民!
アカギは…皇帝っ!

アカギの2連勝っ! 再び200万を得る!
176創る名無しに見る名無し:2009/03/16(月) 19:50:30 ID:mXQ2Wm4I
どうしてノータイムでカード選択して勝てるんだろう。
あの心拍数読み取る機械に仕事させないため?
利根川の>>違和感って…

期待。
177創る名無しに見る名無し:2009/03/17(火) 11:58:38 ID:yAxhIumH
アカギは不条理不合理を抱いた上に理を構築する男だからね(アルツ除く)
種明かしのロジックが凄い楽しみ
178創る名無しに見る名無し:2009/03/18(水) 16:41:16 ID:Qbv4g51H
そんなにハードル上げてやるなよw
まあハードル走は上手く跳べなくても走りきればゴールだけどさ
179創る名無しに見る名無し:2009/03/18(水) 22:25:24 ID:NKQ/Bh+j
利根川「…うっ…」

アカギ「(ククク…)」
奴隷側で2連敗など恥じることなどない。むしろ当然。 しかしこの時利根川は動揺っ…動揺しざるをえないっ!

利根川(ほとんどない…変化…心拍数にも血脈にも…!?2回連続で皇帝を1回目にだしておきながら見た目にも…身体的にも動じない…)

アカギ「10」

アカギはカードを伏せる…

そして利根川気づくっ!

利根川「…!?(いや…なるほど……仮定として奴はこっちのサマを見抜いている…まだ始まったばかりだ…気づけるはずもない…だが…コイツは気づいているっ!)」

利根川「(そうだ奴は…カードを…見ていないっ…!そうだ…コイツは左目を塞がられている…あの機械をつければ左目は完全に塞がるだけでなく、右目の視界も機械の膨らみで削られる…。
そして左手で手札をもち、相手に手札を見ていると思わせるような位置に持っていき、尚且つ手札が視界に入りずらい場所に持って行く、右端のカードは手札を選ぶ時の手で隠している…それにまばたきを巧く使えばカードを見ずに出せる…)」

アカギ「…」

利根川「フフ…(馬鹿め…注意深く見れば不自然だらけじゃないか…手札の位置…カードを選ぶ時の視線…カードを
180創る名無しに見る名無し:2009/03/18(水) 22:30:09 ID:NKQ/Bh+j
カードを選ぶ時の視線…カードを選ぶ時の手)」

利根川「(だがそうなると…今はこっちのサマも使えない…。
奴のサマは次から指摘できるが…奴もこっちのサマに対して指摘してくるだろう…フフ…だがまぁ…奴に勝算はないっ…!
そう…奴は3回の敗北で破滅っ…! サマを使わずとも普通に勝負すれば良い…おのずと奴は敗北に近づいていく…)

利根川は市民を選択…!
無作為にカードを選んで皇帝を3連続で選ぶ…という確率の低さから市民を選んだ…

しかしっ!!

アカギのカードは皇帝っ!
181創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 10:07:25 ID:6JAZW3gk
>>179-180 キターッ!!!!!
アカギが、神がかり過ぎて
利根川 がんばれっていう気になる。
182創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 21:49:29 ID:juM08E1Y
利根川「…ちっ…(運の良いガキだ…だがマグレが何度も続くなんて思うなよ…)」

アカギは最初の皇帝側で3連勝…!
手に入れた金額はこの3連勝で600万円!

そして次はアカギ圧倒的不利な奴隷側…!

利根川「さすがはアカギ君だ…さぁ今度は君が奴隷側だ…レートを指定したまえ(まぁ良い…普通に考えれば奴隷の時の3連敗など大したことないんだ…。ある意味皇帝側は勝って当然なんだから…)」

アカギ「ククク…10…」

先攻は利根川。

利根川「(とりあえずは様子を見るか…アイツはカードを無作為に出してくるだろうからな…読むのは不可能だ…))」

利根川は市民選択。
アカギも市民…!

そしてアカギはカードを伏せる…

利根川「(…次も市民だ…皇帝は最後まで出さない…奴がカードを見ていないのなら…待っていればいずれ出てくるはず…その奴隷を討つ…!)」

利根川も市民…!
アカギも市民…

利根川「(フフ…さぁ…いつまでもつかな…)

利根川は再び市民…
アカギも再び市民…!

利根川「うっ…(ちっ…さっきはキーカードの皇帝を一番に選んでしまっていたくせに…運はいいようだな…最後まで縺れ込むとは…)」
183創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 22:00:45 ID:juM08E1Y
利根川「(…皇帝を出すか? いや…市民だ…!考えを曲げてどうする…!下手に読みを働かしても無意味だ…)」

が…利根川の考えを見通したように…アカギのカードも市民…!
引き分け…!つまり…アカギの勝ち…!
奴隷側での勝利…!

金額は1000万!!

利根川「なんだと…!?(クソっ! どこまで運の良いやつなんだ…! カードをテキトウに選んで4連勝だと…!? クソ…)」

アカギ「ククク…さぁ…皇帝側のアンタの番だぜ…?」

黒服はホワイトボードに10と書き込もうとした時…アカギ…動き出す…!

アカギ「待て…20だ…!」

黒服「は…? に…20?」

利根川「…!?」

利根川気づく!…そして悔恨…!

利根川「(クソ…!このガキ…! なめやがって…! アイツは…見ていたんだ…選んでいた…自分の意思で…カードを! さっきの一戦に限り…カードを見て選んでいた…!)」
184創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 22:22:59 ID:juM08E1Y
黒服「し…しかし…」

アカギ「20だ…」

黒服はホワイトボードに書かれた10を消し20と書き直す…!

それにより利根川は気づく!

利根川「(このタイミングでのレート上げ…奴は見抜いたんだ…俺が勝負を仕掛けてこないことを…!…そして奴はさっきカードを見て選んでいたんだ…そうだ…俺はさっきやめてしまっていた…時計を見ることを…! クソ…!見ていれば勝てた…!)」

利根川はカードを伏せる。

アカギも伏せる…

両者ともに市民…

そしてアカギの番…
ここで異変!

アカギが長考…!

利根川「(俺が気付いたことがバレたか…?俺はさっきの戦法はもう取らない…時計を見て確実に息の根を止めてやる…)」

そして利根川…動揺…!

利根川「(へ…変化している…? 心拍数が…! 馬鹿め…やはりカードを見ていたんだ…! そして俺が気付いたことにも気づいていない…! キーカードだ…! これほどまで冷静だった男の心拍数に変化…間違いない…)」

アカギは時間をギリギリまで使い…カードを伏せる!

そして利根川も伏せる…!
185創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 22:52:41 ID:6JAZW3gk
利根川、引っ掛かっちゃダメー!!
何か、アカギに翻弄されてかわいそうになってきた…
卑怯な手段(時計)使ってるのは利根川なのに。
186創る名無しに見る名無し:2009/03/19(木) 23:42:20 ID:PiYIaJuX
さすがアカギ…!悪魔じみているっ…!!
続き待ってます!
187創る名無しに見る名無し:2009/03/20(金) 00:55:04 ID:mkHE3YkK
細工された時計により利根川はアカギの変化…心拍数と血圧の変化を見逃さなかった…!
利根川「(…クク…奴は間違いなく奴隷を出している…調子にのってレートを上げなければ俺はさっきと同じように皇帝は最後まで出さなかっただろう…)」

利根川「(欲がでたかっ…!勝ったつもりでいたか…!? 俺がお前の策に気づき皇帝を出さないという思い込み…レートをあげても大丈夫だろう…と…ナメるなっ!)」

しかし…利根川はまだ理解しきれていない…目の前にいる男が…筋金入りの異常者だということを…!

アカギは市民…!
利根川も市民…引き分けっ…読み外れる…!
利根川「…(し…市民…だと…!? 馬鹿な…じゃ…さっきの心拍数や血圧はいったい…? そうか…! 奴のさっきの長考はブラフではなく…本当に迷っていた…! だから直前でカードを変えたんだ…! そうにちがいない…)」

利根川「(…どうする…出来ることなら奴が先に出す…2回と4回目の時に勝負に行きたい…とりあえず見極めてやる…奴の変化を…)
利根川は市民…
アカギも市民をだす…がこの時変化なし…
188創る名無しに見る名無し:2009/03/20(金) 01:14:31 ID:mkHE3YkK
利根川「(…さぁ…コイツの先だし…!)」
アカギ「(ククク…)」

そして再びの長考…!

利根川「(来たっ…! 明らかに変化している…! 血圧の上昇っ…! ん…? なんだ心拍数は低下している…? そうだ…さっきもそうだった…変化していた事に動揺していて気が回らなかったが…おかしい…今までこんなことは…)」

アカギはカードを伏せる…!

利根川「(そうか…! 奴め…小細工ばかり…! …止めたな…息をっ…!? 人間は息を止めると心拍数が下がり、血圧があがる…なるほど…時計の細工に気付いた人間のやりそうな事だ…だが…見抜いたっ…今度こそっ!)」

利根川はアカギが心拍数と血圧をブラフにした市民を出してくると読み…皇帝をだす!

利根川「フフ…私は皇帝だ…さぁ…アカギ君…カードをめくりたまえっ!」

アカギ「えっ…?皇帝…?」

利根川「…!(やった…! やっぱりコイツは市民を選んだ…!)」

アカギ「ククク…じゃぁ…2000万か…!」

利根川…驚愕っ! 喪失っ!

アカギがめくったカードは…奴隷!
189創る名無しに見る名無し:2009/03/20(金) 11:33:41 ID:pKKndpQW
利根川、連敗…
あの重厚な利根川が道化にしか見えない。
190創る名無しに見る名無し:2009/03/23(月) 08:28:01 ID:bTttrSN4
ほ……!
191創る名無しに見る名無し:2009/03/26(木) 05:22:30 ID:r3yxENVh
しゅ…!
192創る名無しに見る名無し:2009/04/02(木) 01:09:13 ID:9w3SqKbQ
イチカワサーン続きも見たいぜ保守
193創る名無しに見る名無し:2009/04/08(水) 00:56:20 ID:bL+IYtJ7
『節穴』続き待ってるよー
194創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 19:10:01 ID:nl9DaMqH
あげちゃうんだよ!だよ!
195創る名無しに見る名無し:2009/04/10(金) 19:41:23 ID:pkxXOnl+
俺もまってるー
196創る名無しに見る名無し:2009/04/11(土) 01:25:08 ID:mk3XLA3e
イチカワサン…
耐えて待つよ…
197創る名無しに見る名無し:2009/04/14(火) 13:46:44 ID:S9L2LjZr
ウッ…(´;ω;`)
198創る名無しに見る名無し:2009/04/14(火) 16:58:55 ID:JwNt6mCP
>197
アカギ「あらら……どうしたの?…」
199創る名無しに見る名無し:2009/04/18(土) 01:25:19 ID:joAnmq4Y
はぅ〜!アカギくんお持ち帰りぃ〜!
200創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 00:41:58 ID:xLxi6tm4
「走れカイジ」を書いた者だけど
(と言っても証拠無いけどね。一旦mixiで友人まで公開してから、転載したという事実があるくらい?)

いつの間にか好評になってて嬉しい!
自由に転載してください。
201創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 02:09:34 ID:rhIdDAuz
>200
ここに貼り付けた者です。すんげー面白かったです、ありがとうございます
202創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 02:10:25 ID:rhIdDAuz
>>199
アカギ「クク…それじゃあ…」
203創る名無しに見る名無し:2009/04/19(日) 09:10:34 ID:BkFdibRy
>>200-201 作者様、貼り付けてくださったかた、たいそう面白かったです。
御礼申し上げます。ありがとうございました。
204創る名無しに見る名無し:2009/04/23(木) 01:38:58 ID:d7McFNia
ほすほす
205創る名無しに見る名無し:2009/04/29(水) 00:03:35 ID:NocHwQlb
保守っ…!
206創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 13:46:16 ID:8QG6mVMl
おかしい。一人称で書いてきたのに此処にきて三人称になるとか。
もうざくざく修正してこっそり投下するしかない…
207創る名無しに見る名無し:2009/05/03(日) 14:34:41 ID:8QG6mVMl
ごばk
208創る名無しに見る名無し:2009/05/06(水) 13:41:50 ID:TD1IFLka
俺はずっと待ってるんだぜあげ
209創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 18:53:15 ID:qC6z5bEJ
「アカギが鬼退治に行くようです---前編」



「走れカイジ」を書いた者です。
何故かスレを建てれなかったので、ここに載せます。
まだ前編を書き終えたところですが。
210創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 18:54:58 ID:qC6z5bEJ
むかしむかし、あるところに おじいさんとおばあさんがいました
おじいさんは、雀荘へ 素人狩りに
おばあさんは 川へ 練習用の牌を洗いにへ行きました

ある日おばあさんが牌を洗っていると、川上から
どんぶらこ どんぶらこと 大きな 車が流れてきます
211創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 18:56:16 ID:qC6z5bEJ
「おやおや、これは見事な車だこと
どれ、乗って帰っておじいさんの借金の充てにしてあげましょう」

おばあさんは いそいで その車を拾います
ところが、車の中を見てみて びっくり
なんと なかには 中学生くらいの こどもがいたのです
あばあさんは、あわてて声をかけます

「おまえさん、大丈夫かい!?」
「・・・ぜぃぜぃ
・・・死ななくて良かった・・助かって良かった・・・
本当に良か・・・はっ!?
・・・死ねば助かるのに」

「怪我は無いのかい?おまえさん、名前は?」
「・・・アカギしげる」

アカギしげる
闇に舞い降りそのまま川に落ちた天才である
212創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 19:00:46 ID:qC6z5bEJ
おばあさんはとても驚いたものの、車を手放すのは惜しいので少年アカギを家に連れて帰りました
そして、しばらくして帰ってきたおじいさんに事情を説明し、アカギを家で育てることに決めました
「しばらく世話になるぜ」
「構わんよ。ただし馬車馬のように働いてもらうのう」
おばあさんは、若い働き手を拾ったと喜んでます
「くっ・・・足下を見やがって
悪魔め・・・俺も何度かそう呼ばれたりしたが、とんでもない、俺などまっとう
このババァこそ悪魔だっ・・・」

「なんか言ったかの?」おじいさんが続けます
「いやなら出て行ってもいいんじゃよ?ガハハ!」
「じいさんや、元はといえばあんたが作った借金でしょう
株でも賭け事でも負け、やること全部が失敗
これ以上麻雀で負け続ければ、保険金でお金を返さなければならなくなるところでしたよ」
「う・・・とにかく、車を売った金で返せたんだからいいじゃろうに
もう二度と博打はせんよ」

「きちんと足を洗ってくださいよ
そうそうアカギよ、おまえさんの勤め先が”ブラックおもちゃ工場”に決まってのう
早速明日から働いてもらおうよ」



それからアカギは毎日毎日、昼は外で働き、朝と夜は家で家事に勤しみました。
休む暇なんてありません。
213創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 19:02:44 ID:qC6z5bEJ
そんな生活が6年も続いた、ある朝のこと

「ククク・・・まるで白髪だな・・・」
6年間、命がけの労働を続けていたアカギは、髪の毛が真っ白になっていました

「アカギや、ちょっとこっちに来てくれんか?」
おばあさんがアカギを呼びつけます

「何の用だ?」
「実はのう、またじいさんが麻雀で借金をこしらえてしまったんじゃ
それで今、保険金を賭けた麻雀をしているのじゃが、様子を見に行ってもらえんかの?」

(・・・そのまま死ねば助かるのに・・・オレが)
アカギはそう考えました。
「なんでオレが行かなければならない?じじぃ一人で十分じゃねえか」

「それが、今回の麻雀で負けたら、借金を保険金で返さなきゃいけなくなるのじゃ
・・・おまえさんの」
「えっ!?」

「だから行ってやってくれんかのう?」
アカギは、思考停止に陥りました。
それもそのはず、おじいさんが麻雀で勝ったことなど、一度もありません。
214創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 19:04:05 ID:qC6z5bEJ
しばらくしてアカギは、我に返って叫びます。

「・・・いやだー!
死にたくないーっ!死にたくないーっ!」

「そこを何とかお願いしたいんじゃが」
「死にたくないー!死にたくないー!」

「どうしても駄目かのう?」
「死にたくないー!死にたくないー!」

「・・・」
「死にたくないー!死にたくないー!」

パァン!パァン!
「!!」
「これでも、行ってくれないかの?」
なんと、おばあさんは、黒いブツをアカギの足下に向かって打ち鳴らしました。

「ななな・・・」
「行ってくれるのう?」
「・・・ババァ!どこでそんなものを手に入れやがった?!」

パァン!パァン!
「うおっと!危ねえ!」
「・・・聞こえなかったかの、アカギしげる?
行ってくれるのう?」

「汚ねぇ・・脅迫じゃねーか!うぐっ・・・」
おばあさんは、アカギの口に銃を突っ込みました。
「ぐっ・・んぐっ・・」
「聞き分けのない子は、こうじゃ、いくぞい!」

おばあさんは、引き金を引きました
「んーーー!!
い゙ぎま゙ず!!い゙ぎま゙ず!!」
アカギは必死に叫びました、

・・・が、駄目!
おばあさんは引き金を引いてしまいました
215創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 19:06:25 ID:qC6z5bEJ
・・・

・・・

カチッ!

・・・

・・・

「ククク・・・なかなか便利じゃな、これは。
特に反抗期の奴の仮面を剥がすのに有効じゃ。
こいつの前では、みんなが素直に言うことを聞いてくれるわい」
おばあさんは、アカギの口から拳銃を抜いてから言いました。

「それで、雀荘の場所じゃが・・・」
「ぜぇぜぇ・・・
ババァ!元から弾は4発しか入って無かったのかよ!もう空じゃねえか!
誰が行くか!雀荘になど!約束なんて反故だ!」



パァン!

「!!!」

弾丸がアカギの頬をかすりました。

「ククク・・・空だったのは5発目だけじゃ
ちなみに、この銃は7発まで装弾可能でのう」

「・・・」
完全に裏をかかれたアカギ。
もはや、おばあさんには勝てないと悟りました。

「おやおや、大人しくなったのう
話の続きをするが、場所は”雀荘鬼ヶ島”じゃ」

「雀荘鬼ヶ島だと・・・ここから30キロはあるじゃねえか・・・」

「30000メートルなんて距離は麻雀じゃワンチャンス
”鬼ヶ島”は目前じゃ・・・」

(意味が分からねー)

「それじゃあアカギよ、行ってくるが良い」
216創る名無しに見る名無し:2009/05/10(日) 19:45:15 ID:BFb57FSd
途中からばあさんが市川さんにwww
応援してますっ
217創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 07:20:19 ID:EU5jrJbT
チキンランの車wwwうまいなwwww

…このアカギは偽もののにおいがぷんぷんするぜ
218創る名無しに見る名無し:2009/05/11(月) 17:04:15 ID:N83vBZQM
こんなに笑ってしまって良いんだろうか。
続き楽しみです。
219創る名無しに見る名無し:2009/05/24(日) 23:38:57 ID:5CC2GCIC
つ・・・続きは・・・続きはまだか・・・
220創る名無しに見る名無し:2009/06/28(日) 12:32:42 ID:KykpJxsc
保守
221創る名無しに見る名無し:2009/07/22(水) 03:35:22 ID:1BOT3rnj
色々な作品、続きに期待
222創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 11:59:59 ID:VP5fit8b
ざわ……ざわ……
223創る名無しに見る名無し:2009/08/13(木) 21:55:02 ID:QMdOAPt7
続き期待…!
224創る名無しに見る名無し:2009/08/27(木) 23:31:04 ID:LL0cf4eX
ざわわ……ざわわ……
もっとちゃんとしろよ。
ほら、腕はみ出ちゃってんじゃねえか。にょきっとさ。
しかしもう少し位死者を敬っもバチは当たんねえだろ。
なあ白服さん。って、聞こえねえか。

それにしても、こうして自分が埋められる様を見下ろすというのは妙な気分だ。
しかし実際死んでみると何をあんなに恐れ脅え喚き散らしたのか、と思う。まあ、死を厭忌するのは生物として持って当然の本能だから、仕方ないっちゃあ仕方ない。マヂ死ぬ瞬間とかメチャクチャ怖かったし。

……。あー…死んだんだ、オレ。死んだかー。
しかもすげぇ馬鹿な死に方してるし。
ギャンブルに命を賭け、ギャンブルに死す――。やべえ、ちょっとカッコイイ。とか言ってる場合ないし。

つうか…死んだは良いけど(いや良くはないが)、この後どーすんだ?成仏の仕方とか分かんねえし。もしかして自縛霊とかになんのか?うわ、それすげぇイヤだわ。
「うらめしや〜」言っちゃうか?そんなことも。
言わねえよ。つうか、仮に自縛霊とかになっても「うらめしや〜」とか無いわ。別にうらめしくないし、凡庸すぎだし。

226創る名無しに見る名無し:2009/09/06(日) 08:37:51 ID:8A0aBJS/
おっ新作きたか?!
あー…凡庸といえばヒトのこと凡夫とか言いやがったアイツ。
アカギ――赤木しげる――
なんか…アイツの顔思い出したらムカついてきた。
自分で言うのもなんだが、記憶力は半端ないからメチャクチャ鮮明なビジョンが再生されて、性質の悪い事この上無い。

まあいいやどうせ、いつかはアイツもオレと同じようにギャンブルに負けて死ぬんだろう。
永遠に勝ち続けるギャンブラーなど在りはしないのだし。

――ん?何だありゃ?丸い光?…懐中電灯か。近づいてくるぞ。
おーい白服ーなんか人来ちゃってるぞー。
って聞こえやしねえか。そりゃそうだわな。
所詮は死人。生きている人間に影響を及ぼすことはできない。ものっそい怨念とかありゃ別なんだろうが。
怨念、ねえ…。

とか考えてる間に懐中電灯男、白服に超キレてるし。
うわ、男、俺の腕見て腰抜かした。なんかちょっと申し訳ねえ。つうか、こうなるからちゃんとしろっつったのに。
あ!白服逃げた!

あー…どうなんだコレ?ぶっちゃけ、もうどうでもいいんですけど。

228創る名無しに見る名無し:2009/09/19(土) 04:27:49 ID:BjGoT+qP
幸雄w ktkr
まってます^^
229創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 12:14:56 ID:2TUUNIBC
――例えば女風呂覗き放題とか?

警察連中はさっさと掘り返したオレの死体を何処かに運んでしまった。
やることのなくなった(元々やることなんかないけど)オレは霊ライフを満喫する方法を考えてみる事にしたのだが。
女風呂…。気分じゃないんでパス。
誰かを呪い殺すとか?誰を?鷲巣もアカギも呪いとかガンッガン跳ね返してきそうだし。
つか、やっぱ別にうらめしくはないからなあ。

でもこうして現世に残ってるって事は、何らかの心残りがあるって事なのかもしれない。
別に心当たりはない。全然心残らないし、心当たらない。
って、もしかしてオレが悪人で、だから成仏できねえとかか!?
確かに善人じゃないけど…代打ちなんてまっとうな仕事ではないけど…。
けどけど代打ちっつっても、始めてから僅かにも満たない内にバキバキにヘコまされてリタイヤしてんだから、そこは大目に見ようぜ。
見て下さい。
ダメ…?

う…うう…。
「神様ーーっ!!」
思わず叫んでしまった。誰に届く筈もないのに。

230創る名無しに見る名無し:2009/09/21(月) 12:17:22 ID:2TUUNIBC
タイトル忘れ
平山幸雄の死とそれにまつわるいくつかの何か・3
231創る名無しに見る名無し:2009/09/23(水) 08:10:46 ID:tgcCoWLg
乙……!
232赤木と金光・1:2009/09/24(木) 16:19:23 ID:YuvhU8uP

空気読まず投下

「…」

赤木は歯噛みする。衰えた、と痛感した。麻雀だけではない全てのギャンブル、皆は神域だの何だのと持て囃すが、実際はそうじゃない。
自身の全盛期はあそこだった。十九の年、あれがこれまでの栄華を極めた。金こそなかったが、それと引き換えに得ていたものがあった。
けれど、あの頃のオレはそれさえも足らぬ、と日々呟いていた。四十過ぎて裏から手を引いたのも衰えを自覚したからこそ。落ちることなどないと思っていた。それでもやはり、自身は人間であった。
道を極めれば極める程、堕落は顕著となる。

「オレも、落ちたな」

クク、と赤木は喉を鳴らし、席を立った。
一九九九年、九月某日、東京のある雀荘での出来事だった。
赤木はその足で岩手の金光に電話を掛ける。話があるから、朝一の便で東京に発て、と。

233金光と赤木・2:2009/09/24(木) 16:20:56 ID:YuvhU8uP
赤木と金光は年こそ少し離れていたが、根っこのところが似ているようで、東西戦の後もこうして連絡を取り合う仲であった。
呆気に取られた金光であったが、あの赤木がどこか鬼気迫った声でそう言うので、言われた通りに東京へと向かった。
「それで、話とは?」
金光は呼び出された喫茶店で赤木に尋ねた。どうせまた海外旅行でもしねえか、などと言ったそんな類のことだろうと思っていたが、金光の予想は見事に外れた。
「オレぁ、死のうと思う」
「は、っ…?」
煙草をふかす赤木の顔に動揺の色は浮かんではいない、こんな冗談を言う人間でもなかった筈だ。わざわざ東京まで人を呼び出しておいて、死ぬ。だって?
234金光と赤木・3:2009/09/24(木) 16:23:04 ID:YuvhU8uP
「は、はははっ…冗談はいけないよ赤木、何だいそれは」
「冗談で死にてえなんか言うか…オレはな、もうダメなんだ」
何が、と尋ねようとする金光より赤木は先に話を続けた。
ギャンブルの腕が落ちてしまった、と。
「ば、馬鹿かい?何でそれくらいで死ぬなんて…」
「金光、オレにはそれしか無かった。分かるか、この意味が。こんな老いぼれになるまでオレはギャンブルしかやってこなかった。だからそれが出来なくなったら死ぬしかない」
「何故だい」
だから、と続けようとする赤木を金光が制す。
まだあんたは若いじゃないか。これからゴルフだって野球だって、何だって出来るだろう、やれるだろう。そんなのをやりもしないで、ギャンブルが出来なくなったから、死ぬ、それに直結するのはおかしいんじゃないか?
「じゃあ、金光」
赤木は煙草を灰皿に押し付け、じっと金光を見詰めた。
235金光と赤木・4:2009/09/24(木) 16:24:06 ID:YuvhU8uP
「アンタからその袈裟と僧って言う職奪ったらどうなるよ」
「どうって…この年でかい?今更新しく職なんて…」
言いかけ、金光はハッと口を押さえた。赤木が言いたいことはこれだったのだと。
赤木はギャンブルしかやって来なかった、言い方は悪いが自身が行う麻雀は趣味程度で、そんな負けた、勝ったと言っても命を失うとか、そんな次元じゃなかった。赤木がいたのはそんな遊びの世界ではない。
236金光と赤木・5:2009/09/24(木) 16:25:05 ID:YuvhU8uP
麻雀と言うギャンブルで身を焼き、命を削って来たのだ。
「違う、赤木…わしは」
「たかが麻雀って思うかも知れんな、でもよ…オレはな、本当にこれしか無かった。十三の年に、あの晩、あの雀荘から全てが始まったんだ」
赤木が過去を語ることは今までにもほとんど無かった。
どんな学校を出たとか、若い頃はどんな職に就いていたとか。出会ってからの数年しか、金光や他の東西戦を戦った彼らも把握してはいないのだ。
語らぬことをわざわざ詮索する理由もないし、知ったところで誰も他人を救える訳じゃない。
237赤木と金光・6:2009/09/24(木) 18:19:47 ID:YuvhU8uP
その赤木が今、十三の年、と言った。
金光はぞうっと背筋が凍る思いがした。金光自身麻雀を始めてそう日は経っていない。ただ麻雀と言うギャンブルが性に合っていただけで、暇があれば打っていただけで、とある雀荘で赤木と出会った、それだけだ。
「十三…お前さんそんな年から…」
「ああ、そうだよ。何て言うんだろうな、それまで自分が行って来たどんな遊戯より面白かったんだ」
赤木を昔から知る友人は殆どいないと聞く。元々取っ付きにくい人間ではあるが、付き合ってみればどうと言うこともない。
「尻の青いガキだったオレは他人から干渉されるのも、近寄られるのも嫌だった。全部跳ね退けて来ていた。今思うとな、本当馬鹿だったと思うよ。もっと他人を知るべきだったんじゃねえか、なんてな」
238赤木と金光・7:2009/09/24(木) 18:21:09 ID:YuvhU8uP
赤木は両腕を顔の前で組み、それに額を押し当てていた。
「赤木…お前さん…」
「悪い。余談だ、今更後悔したって一緒だな」
赤木はあの目で今まで何を見てきたのだろう。赤木は一体どんな生き方をしてきたのだろう。いきなり死ぬ、なんて言い出したかと思ったらこんな、赤木らしくない…。
「い、今からでも」
「ん?」
金光は呟く。今からでも遅くはない。今から知っていけばいい。もちろんわしだけのことだけじゃなくて、天や、ひろゆきや、原田や僧我、健、銀次、鷲尾皆のことを。
「金光、なあ」
アルツハイマーって、知ってるか。
239赤木と金光・8:2009/09/24(木) 18:22:03 ID:YuvhU8uP
ぽつり、と赤木は呟いた。蚊の鳴くような声で小さく。
「アルツハイマー…?聞いたことはあるが、それがどうしたって言うんだい…」
「オレはそれに冒されてんだ」
赤木は顔を上げ、指で自身の頭を突ついた。
「え?」
益々金光の頭は混乱する。アルツハイマーと過去と他人に関与しておけば、とかそういう今してきた話が今何の関係があるんだ、とそこまで金光が思ったところで、ふとアルツハイマーと言う病のことが頭をよぎった。
アルツハイマー…痴呆だ。
つまり、ボケちまう。名前も何もかもが分からなくなってしまうその病に、赤木が、あの神域の男とまで言われた赤木しげるが。
「赤木!」
「おいおい、落ち着けよ。人様の迷惑になっちまう」
思わず立ち上がってしまった金光を宥め、赤木は つまり、そういうことだ。と語った。
もう進行が進んでいて、自分の年もいる場所も薄ぼんやりとしか分からぬと。
だから、今更他人と馴れ合いたいとそう思っても自身にそれは出来ない。麻雀で生きて行くことも最早出来ないのだと。
「そんな…何故お前さんが…」
「何言ってやがんだ。オレだって人間だぜ?病気にだってなるさ」
「だからって…そんな…」
「金光、これは罰のように思う。今まで人から受けて来た優しさとかそんなんを蔑ろにしてしまったオレへの」
240赤木と金光・9:2009/09/24(木) 18:23:29 ID:YuvhU8uP
「馬鹿を言うんじゃない!何言ってんだ。分かってるじゃないか、蔑ろにしちまったって。今からでも、遅くないだろう」
「そうだな…もっと早く気付いていたらな、なんて」
ククク、と赤木は笑い、でもなあ、もう遅いんだわ。と顔を伏せた。その内お前の名前どころか自分で飯を食うことも、便所に行くことも出来なくなっちまう。でもな。
赤木は言い、顔を上げた。
「そうなることが、悪いとか嫌だとか言うんじゃねえ。そうなっても懸命に生きてる人だっている。それが嫌だから死にてえとか言ってんじゃねえんだわ」
「じゃあ…何で」
金光はハンカチで額の汗を拭いつつ尋ねた。
「自分が自分でなくなる」
「え?」
「分かるか?自分が自分でなくなるってこと」
自分が自分でなくなる、金光は首を傾げた。
確かに酒を飲み過ぎたとかで意識なんかを無くしてしまうことがある、そのことを赤木は言っているのだろうか。自分が自分でなくなる。唐突過ぎて訳が分からない。
「名前もな、生い立ちも何もかんも分からなくなんのよ。それがひどく怖いんだ」
241赤木と金光・10:2009/09/24(木) 18:25:04 ID:YuvhU8uP
赤木は言う。死ぬのは怖くはないと。ただ、それだけが怖いと。跳ね退けて来てしまった人々が与えてくれた優しさを忘れてしまうのが怖いと。
「赤木…」
「ははっ、悪いな。最近どうもこうなんだよな…」
「謝ることじゃない。赤木…」
金光は安堵する。赤木は死にたいとは先程のようには言わなくなったと。しかし、赤木はそんな金光の抱いた希望さえ打ち破るのだ。
「だから、金光。黙って死なせて欲しい」
赤木ほどの男がそうまで言う。その状況にならねば何事も人の心情までは汲み取ってやれぬと言うが、もし自身が赤木の言うアルツハイマーになったとしたら。
自身は死にたいと考えるだろうか、いや、考えはするやもしれない。しかして、他人に話すだろうか。
「何故話した」
「うん?」
金光は汗の染みたハンカチを握り締め、訊いた。死にたいのなら、死ねばいいのではないか。他人に話す理由が分からない。引き留めて欲しいのか。それは結局生きたいと暗喩しているようなものではないか。
生きたいから、引き留めてくれと。
「…最後にな、皆の顔が見てえんだよ」
「天達のか?」
赤木は頷き、本当馬鹿だな、オレはと嘲笑さえ浮かべた。
「引き留めて欲しいのかも分からん。死にたい死にたいなんて失恋したガキみてえなこと言っておきながらも、な。分からん。そんな判断も出来んようになってるみてえだな」
242金光と赤木・11:2009/09/24(木) 18:28:55 ID:YuvhU8uP
しまったと金光は閉口するが、赤木はクククと笑うばかりである。
この漏らした一言の所為で金光は後々、後悔してしまうことになるのだ。
「悪い…今のは…」
「なあに、オレも思っていたことよ。お前さんに言われなくてもな…」
多分オレはあの日のまんまで止まっちまってるんだ。十三のあの夜の一件から大人になれてねえんだ。
全部押し退けて、排除して手前が理だと思ってるんだ。異端だと分かっていながら、反面。
「何でオレこんなこと言ってんだろ…嫌だね、病ってえのは」
「赤木…生きろよ」
きょとんと赤木は呆け、ぷっと吹き出すと腹を抱えた。ははは、突然そんな神妙な面して何言うかと思やあ生きろだって?
「生きろって言われると反発したくなる」
目を細め、赤木は言った。じゃあ、と切り出す金光だったが、「死ねって言われたらお言葉に甘えたくなる」と言う赤木の言葉に、為す術なくうなだれた。
それではやはり、赤木の意志は変わらないのだろうと。赤木は死ぬのだろう、自らで。
243金光と赤木・12:2009/09/24(木) 18:29:41 ID:YuvhU8uP
だからな、一生の頼みだ金光、オレの言うことを聞いてくれ。はっきりとした口調で言う赤木がアルツハイマーを患っているとはどうしても金光には思えなかった。
赤木の冗談とも感じられた。しかし、岩手からわざわざ人を呼び付けておいてこんなことを言うだろうか。
死にたいだなんて。金光は次第に自身の瞳がうるうると涙で潤むのが分かり、赤木から視線を外した。赤木は本気だ。
こんなことをこんな真剣な顔をして言う男ではない。アルツハイマーとはあんなに高みにいた、手の届かない孤高の男からこんならしくない台詞を吐かせるのか。
何故病院に行かなかった、と訊くと、特効薬も治療法もこの病にはないと赤木は言った。進行を遅らせることは出来ても、いずれ何もかも分からなくなってしまうのだと。
「…赤木よ、多分な天達もお前さんを引き留めようとするだろう。そうしたらお前さんは…どうする?」
「どうもこうもあるか。オレは決めたことはやり通すさ」
何と言われようと、オレは死ぬさ。赤木はニッと笑い、煙草を手繰る。それさえも涙で曇る金光の目には霞んで見えた。

この数日後、新聞の欄に載った赤木の告別式の日時。
赤木はすまんな、と金光に優しく笑んだ。すまんと言うくらいなら、と金光は思うが、これを言ったところでどうなる訳でもないことは金光自身がよく分かっている。最期くらい、と金光は言いかけ、首を振る。
最期じゃない、最期なんかでは。きっと彼らが赤木を引き留めてくれるとそう期待した。
244金光と赤木・13:2009/09/24(木) 18:30:29 ID:YuvhU8uP
赤木はふと、しばらく一人にしてくれと金光に頼んだ。金光の用意した屋敷の一室で、だ。
ゆっくり廊下に出て行きながらもこちらを心配そうに振り返る金光を、「大丈夫だ!まだあいつらの顔も見てねえのに死にやしねえよ」と一笑に伏した。
ぱたん、と障子が閉まるのを見届け、赤木は反芻を始める。
南郷さん、竜崎さん、矢木さん…延々とあの夜から自身に関わって来た人々の名をそらんじていく。
時折、誰だったかなとひとりごちながらも、一人ずつ、顔と名前を一致させながら、ゆっくりと。
「まだ…覚えてるな」
指折り数えながら、赤木は溜息を吐いた。
いつ分からなくなるだろう。あの東京タワーの明かりも、新幹線の形も。
死ぬ、とかそんなのは初めから怖くなどない。あの日から死んだようなものだ。小さな車に乗り込み、チキンランをしたあの日。
「アルツハイマーか…」
厄介なもんにまあ、罹っちまったよ。
245金光と赤木・14:2009/09/24(木) 18:31:33 ID:YuvhU8uP
赤木は煙草を咥え、そういえば若い頃はハイライトなんて煙草も吸ってたな、あの頃いくらだったっけ…と目を閉じた。
脳裏にありありと浮かぶ町並み、空の色、麻雀牌。何もかもが分からなくなって、忘れてしまって、初めから知らないものになる。
そんな恐怖に普通の人間が耐えられる筈もなく、知らなかったというところに行き着くのだから、別段恐怖することでもないのかも分からない、がそこに行き着くまでの過程がある。
それを思うと夜も眠れない、可笑しいな、と赤木は立ち上る煙を見上げながら思った。
若い頃はヤクザ相手に啖呵を切ったこともあるって言うのにな。肩をバッサリやられたっけな…なんて思い出すと右肩が引き攣った気がした。
病ってもんは、怖いな。
赤木は苦笑し、皆集まったようだよ、と言う金光の囁きに、おう。と返事をした。
トンと一度煙草を指先で叩いてから、咥え直すと、赤木は大きく息を吸った。煙草、一箱吸い切れるだろうか。余らせちゃあ勿体ないな。
246金光と赤木・15:2009/09/24(木) 18:32:56 ID:YuvhU8uP
「なんて」
赤木は煙草を灰皿に押し付け、「死んだ後の心配してどうすんだか」と笑った。金光の急かす声に赤木は生返事をしながら、立ち上がった。棺桶の中から、あいつらの間抜けな顔を見上げてやろう、なんてそんなことを思いながら。
一九九九年九月二十六日、黄昏れ時のことであった。


―――――――――
ここまで読んで下さった方いらしたら、ありがとうございました。
247創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 17:09:01 ID:kL5KlZxH
やばい命日前なのに泣いた
葬儀までの過程を読んでみたかった
お疲れ様でした
248創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 18:00:16 ID:l27OTP7b
泣いた

お疲れ様でした
249創る名無しに見る名無し:2009/09/25(金) 22:16:37 ID:CUPyW2+b
これは…!
じわりと目頭があつくなる
同じく葬儀までを読んでみたかったな

お疲れ様でした
250創る名無しに見る名無し:2009/09/26(土) 23:39:13 ID:FpfUkfdt
ものすごく面白かった
補完ありがとう

あと少しで命日も終わる
そんなときにこの話を読めてよかった…
251赤木と金光:2009/09/27(日) 01:35:14 ID:oHxNhOam
名前欄失礼します
たくさんのレスありがとうございました。
拙いものではありましたが、そう言って頂けてとても嬉しいです。

お付き合い下さり、本当にありがとうございました!
252創る名無しに見る名無し:2009/10/22(木) 01:29:22 ID:/wswmcbs
ほしゅ
253創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 00:01:15 ID:oz2ijdy2
最近福本のSS系スレが元気ないな
254創る名無しに見る名無し:2009/12/05(土) 01:28:08 ID:jZNCFaWq
映画は盛り上がってるけど、原作が元気ないからだろうか…
255創る名無しに見る名無し:2010/01/04(月) 15:35:00 ID:fE0bczad
保守!
256創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 11:43:03 ID:A0A9Ufqr
>>169

「ふん…」
屋根を貸すだけの約束だ、人様の家で米まで食ったら釣りがくるだろう。
「……それとも、まともな飯の礼に庭に犬小屋でも造るか?」
「その庭に此処から投げ捨てられたいのか?」
馬鹿ぬかすのも大概にしろ。窓枠を叩きながら言えばまた笑い声がした。
……それにしても。メザシと味噌汁が“まともな飯”とは。
「……お前、どうやって生きてる」
恵まれた生活をしているとは言い難い。
あの時に得た金…一緒にいた素人達がこのガキに金を渡さない筈もないのだが。
アカギは心底不思議そうな声で答える。
「どう……って?……どうとでも…死ななきゃ、生きてるよ」
頓知のような事を言いやがって。
「金は」
「ねぇよ、もうとっくの昔に」
「餓鬼には大金だったろうが」
「さぁて…使い道なんか限られてると思うけど、ね」
…大金の使い道と言えば、かつての自分なら花街か賭け事の二択だったが。アカギが博打で負けるとは思えない。
こんな餓鬼が色事に手を出すなど生意気な、という台詞が一瞬過ったが、自分を思い起こせば茶飯事だったような気もする。
最近の若い奴は…という耳タコの言葉をまさか自分が言う側になるとは。そう思うと余り面白くはなく、口をつぐんだ。
「市川さんは…」
「…あぁ?」
代わりとでも言うように、何か可笑しそうな響きを含んで餓鬼が声を発した。
「どう、生きてたのさ…俺くらいの頃……遊びが過ぎてそうなったんだろ…?」
そう、とは目の事だろう。余計な世話だ。
「こう、なる前は働いては居た。賭事で稼ぐ方が多かったがな。後だって今と変わらん、やくざ者だ」
「ふーん……市川さん、働いた事あるの…まともに?」
人を小馬鹿にした声色。まとも、まとも、か。
まぁ『働いていた』と言っても、所謂『まとも』にはついぞ縁の無い人生だったが。
だから最近が暢気すぎて、ある意味で危機感を感じそうになるが…まぁそれは伏せておく。
「……まともかどうか、そんなものは知らねぇよ。ただお前に笑われる程短い人生じゃねぇな」
そう言うとまた、ふーん、と興味なさげに呟いたが、今度は嘲笑ってはいなかった。
「…まぁそのザマだ、労働なんざ小僧の性にゃあ合わないだろうが」
「……きっと出来ない事もない……市川さんにも出来たんだから」
「お前はいちいち腹立つ餓鬼だな」
「反省するよ」
間違えた。腹立つ糞餓鬼だ。
257創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 20:15:46 ID:A0A9Ufqr
「そうカリカリする事も無いでしょう。月が奇麗だよ。市川さん、ほら」
「……何が、ほら、だ」
此方を見ているのか窓の外を眺めているのか、もしかすると月を指しているのかもしれない。
なんにしろ見えねぇんだ馬鹿野郎。
「クク……残念。今夜は何だか、とびきりの様だぜ」
「ぬかせ、糞餓鬼」

月。
部屋を照らすのだろう月光。
とびきりの、例のない、
…赤木しげるという男。

この世に見るに足るものなどそうありはしない。
だがもう一度、もしも光が戻ると言うのなら……
―――ちか、と頭の中で何かが煌いて、鋭い痛みが走った。
「…!…、……」
眩暈がして、う…となる。
真暗の世界に異物が映った。色……色だと?まさか。
………色、だ…目蓋の裏に甦る、失って久しいもの。目蓋をも通して訴えかける輝き。
ゆっくりと目を開くと……そうだ、青い。
青白い、光が目を射る。頭痛を誘うほどに強烈に残酷に。
ああ……月明かり…だ…。
何十年ぶりの暴力的なまでの視界の美しさに脳がくらくら揺れた。まさか、そんな、こんな事があるか。
その月光に輪郭を照らされて現れる人影。
「……市川さん…?」
“それ”はアカギの声で自分を呼んだ。
…おいおい…幻か…?いくら小僧の面を知らねぇからって、こりゃねぇだろうよ…


―――自分。

258創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 22:03:03 ID:zd7n27FM
市川さんとアカギの続きが!
259創る名無しに見る名無し:2010/02/03(水) 22:43:32 ID:A0A9Ufqr
自分が自分を呼んでいる―――…
声はアカギ、そして髪こそ真っ白で短いが…それは紛れもなく…
まだ鏡を見られた頃の、無鉄砲な自分。
「なんだ……何か見えるのかい…?」
悪戯に笑うそいつはなんの淀みも無く問いかけてくる。小僧の声で。
……気色悪ぃ光景だ…
「……あぁ。見える、な……」
そう答えれば俺が――アカギが意外そうに片眉を上げる。
そしてすぐ可笑しそうに口元を緩めた。冗談と受け取ったらしい。
目がずきずきと痛む。有る筈の黒い硝子板も何も意味を成さない、鮮やか過ぎる色の暴力が眼球を刺す。
幻覚だろうが何だろうが、久々の光に参っているらしい。
「そんな渋い顔して…俺が見えるって?市川さん」
ああ、俺が見える。
肩を僅かに揺らして見上げてくる、こんな笑い方をするのだろうか。俺は、アカギは。
かつての自分は、こんな風に慇懃無礼に、こうやってふらふらと危うく。
……は……誰のなんの悪戯かは知らないが、これは偽りだ。この目は節穴なのだから。
だから…見えることは。
アカギ、お前も見えないもの求める無鉄砲な馬鹿だって事……か?
先を、その先をと手を伸ばしている。傍から見れば愚かな若さ。
「あぁ……見えるが…」
無謀の先に何が見えるか。
何かを失ってみりゃあ分かるだろうが…お前は器用だ、きっとそんな機会にあたらねぇ。
可哀想にな。
手も足も、目も失わずに上手くやっていくさ。
そうして得られるものを全て手にし、わしの様に『躓いた者』が得るくだらん時間に縁無く生きていく。
もし何か失うとしたら、その時は命諸共だろう。器用も考えもんだなアカギよぉ。
まぁ、程々が分からねぇ奴は、器用でも馬鹿なのさ。
260節穴 終:2010/02/03(水) 23:44:52 ID:A0A9Ufqr
「見えるが、気に入らねぇな……お前の目は…」
だから…どうだ?老後の為に抉っておいてやろうか……なぁ。
唯一無二だと盲目の如く信じてた、その

“俺の”目を。

「……クク…そう…俺の目は、どんなだい…?」
鼓動と共にずきずきと襲いくる鈍痛にそっと目蓋を閉じた。見慣れた景色。
色が去っていく。今見た景色だけが焼き付いて、そしてそれさえ黒く。
「…昔見た、救いのねぇ大馬鹿野郎にそっくりだ……」
アカギは喉の奥で笑った。当てずっぽうの上にひでえや、と呟いて。
「その、馬鹿は今どうしてる…?」
……再び目を開いてもそこは変わらぬ漆黒だったが、惜しくはない。
「今はもう……消えちまったさ」
あんな月光は奇麗すぎて…可笑しくなっちまう。あんな恐ろしいもの、延々眺めてるお前はいかれてるんだ。
わしとは違う。先の有る馬鹿につける薬はない。何かを失わない限り…

死ぬまで狂い続けるのさ。




…蛇足。

アカギは宣言通りに消えていた。
朝にやってきた女が書き置きを見付けて知った事だが、挨拶なぞする筈ないと思っていたので何も感じなかった。
書き置きには……女が言うに、あの歳にしては綺麗な字で

『御世話になりました。お爺様にお身体に気をつけて宜しくと御伝え下さい。』

とだけ、あったという。
夜中にわしの反応を思って腹を抱えて笑いを噛み殺す餓鬼の姿が浮かんだ。腹が立つ。
ババァはまた何故か涙ぐみながら何か言っていたが。はいはい。

兎にも角にも、これでもう関係はない。これ以上馬鹿と関わるのは御免だ。
杖を手にとる。ババァが「今日の散歩ですか」と言う。しなくてもいい笑みを見せて。
奴が……恐らくは一生することのないだろう……暢気な散歩に出掛けるのだ。
代わりに退屈を満喫しておく。だから安心して馬鹿げた人生を送れば良い。

未熟で愚かなロクでもない、俺よ。
261節穴野郎:2010/02/04(木) 00:53:08 ID:xgT0RYZ8
市川さんと「働くアカギ」へのフラグとを書くだけが、一年も放って正直すまんかった
はやさがたりない
262創る名無しに見る名無し:2010/02/07(日) 10:19:07 ID:j8wlTdAF
いやあ面白かった
一気に読ませてもらったよ
263創る名無しに見る名無し:2010/02/09(火) 22:47:48 ID:iMV07Rfo
264創る名無しに見る名無し:2010/02/10(水) 11:31:42 ID:1aI0hPFJ
一年間待った甲斐があった
激しく乙
265のこぎり黙示録:2010/04/08(木) 03:57:27 ID:1rKClPH6
 ―…決断せよ
 
生きる力とは…

死を目前にして…試されるのだ…


頭に響くのは一つの単語。
決断せよ…。

何だ…?頭が…ズキズキする…。
此処はどこだ…。前後の記憶がすっぽり抜けている…。

首…首に何か…。

 「……っ!?」

ブツン…

 『やぁ…おはようカイジ君…。気分はどうかね…?』

ブラウン管の向こう側、不気味なマリオネットがそう、問い掛けた…。

 「何だよ…コレ…」

見渡す限り、窓は無い。
コンクリートに覆われ、理解できる事と言えば首に輪を付けられていると言うこと。
 『どうかね…?目的も無く…ただ時間を浪費するだけの人生と言うものは。
 若者にのみ許された、夢を追う亊も忘れ…働ける体を持ちつつも、働かぬその傲慢さ…。
 ギャンブルに狂い…省みる亊もなければ学習する亊もない。結果どうだ…?
 カイジ君…ゲームをしよう。
 弱気を助け、強気を挫く。今宵、その本質が見極められる…。全ての者を助けたければ前へ進むしかない。
 善か…偽善か…。どちらかを助けるためにどちらかを切るか…決断しろ』

ブツン…

 「何だよ…オレが…何をしたってんだ…!」

訳が分からない…。
ゲーム?
駄目だ…落ち着け…。無闇やたらに動くな…考えろ…考えろ…!!

正面に扉…その上にタイマーらしき黒い小型の電工掲示板。

首…背に当たる柱にワイヤーが繋がっている。勢い良く引っ張れば恐らく抜ける。

上…特に無し。いや…コードが張り巡らされている…。その先にはビン…中には…なんだ?釘みたいな…用途が分からないな…。

腕も足も拘束されていない…。と言うことは…首のワイヤーが抜ければタイマーが作動する…?

 「うぅ…ここは…」

 「誰だ…!?」

柱を挟んで向こう側…恐らく、背中合わせにもう一人の人間がいた。
266創る名無しに見る名無し:2010/04/08(木) 22:12:48 ID:neoRTgCv
新作きたっ!
のこぎりってSAWみたくスプラッターな展開になる?
ドキドキ…
267創る名無しに見る名無し:2010/04/08(木) 22:56:39 ID:93q77XVZ
新作待ってました!
wktkが止まらない……っ
268創る名無しに見る名無し:2010/04/09(金) 01:14:15 ID:KA/PVzXY
銀魂ぽいな
269のこぎり黙示録1/2:2010/04/10(土) 12:40:15 ID:pONn/LLJ
不謹慎ながら、他の人間がいたことに安堵…心強さを感じていた。

振り向いてしまえば、首輪から伸びたワイヤーが抜けそうな為、顔は確認できない。
 「おい…っ!大丈夫か…?」

兎に角、状況を判断しなければ…。
カイジは声を張り上げる。

 「あ…うぅ…っ…」

しかし、すぐに返答は無かった。

 「おい…!どうした…?怪我してんのか…!?」

少しの迷い…。しかし、相手を信用させるには名乗った方が良いだろう。
 「落ち着け…!オレは…伊藤開司だ…!アンタはっ…!」

 「わぁぁあっっ…!嫌だ…死にたくない…っ!!助けっ…助けて…!!」

柱の向こう側…。
背中合わせの両者にとって…。

声は、生命線。
名は、地雷だ…。

 「え…?この声…」

何処か…懐かしいような…
思い出したくない、過去の様な……
誰だ…?
オレは知っている…この声の主を。

 「…誰だ…アンタ…会ったことあるだろ…俺に…!」

佐原…?
いや…違う…
もっと…最近…

相変わらず柱の向こう側から名乗られる事は無い。
沈とした静寂が往復するだけ…。


270のこぎり黙示録2/2:2010/04/10(土) 12:53:40 ID:pONn/LLJ
“彼”は名乗らないのではない
名乗れないのだ…。

名乗れば…
きっと疑う
信じて貰えない…

しかし
名乗らなくても…
信じて貰えない……


人間とは実に愚かなモノだ…こうまでされなければ…自信の犯した罪に気が付けないのだから。

裏切りと言う名の大罪に…

今、彼の生殺与奪を握っているのは…
裏切ってきた…
踏みしめてきた…
かつての命の恩人…

柱を挟み、裏切られし者と、裏切りし者は対峙する。

271創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 00:03:55 ID:hJZE+jTZ
まさかエスポワールのあいつか…?
272のこぎり黙示録1/2:2010/04/12(月) 00:56:49 ID:kpsWguIA
カイジは考える。
背後にいる人物は誰なのか。

「…安藤…?お前…安藤か…?」

確かめるために、カイジはあえてその名を口にする。

背後の男は安藤を知らない。
カイジとその安藤がどういった関係なのか…。
だから…

 「そう…!そうです…っ助けて…カイジさん…!!」

そう、答えてしまった…。

 「そうか…。なら…違うな…」
奥歯を軋ませ、カイジは唸る。

 「お前が本当に安藤なら…正直に言うわけ無ぇんだよっ…!!何故なら…お前と同じ様に…俺を裏切った人間…っ!!
 そうだろ三好…っ!!そこまではっきり声が聞けりゃあ十分だっ…!」

安藤ならば、認めたりはしない。

訂正しなかったと言うことは、その名に何らかの支障がある証し。

名乗らないのは、保身の為だ。


 『やぁおはよう三好君。命の恩人との再会はどうかね…?』

カイジの見たモニターとは別、恐らくは背後からあのマリオネットの声がした。
273のこぎり黙示録:2010/04/12(月) 01:26:22 ID:kpsWguIA
 『生き残る為には、お前の言葉を彼に信じさせる他に無い。
 今、お前を救えるのは彼だけだ。以前地下から救って貰ったように…。
 その部屋にはちょっとした仕掛けが施されている。3分以内にどちらかが首のワイヤーを切らなければ、タイマーが0になった瞬間その仕掛けが炸裂するだろう。
 だが、ワイヤーを切れるのはどちらか片方だ。間違えを冒せばどちらかが犠牲となるしかない。決断しろ』
 

 「…どう言う事だよ…何なんだ…!!」 

突然の事に頭が回らない。
しかし、時間は待つと言うことを知らない…。

 「あぁ…」

三好は絶望感に苛まれていた。

彼は慎重だ
更にはお人好しだ
そして物事を素直に捉えようとしない…

 「カイジさん…!」

 「黙れっ…!!」

畜生…っ!畜生…畜生っっ!!

三好は憎い…確かに、許しがたい…!!

だか…だからと言って死んでしまっても良いとは思わない…!!

―間違えを冒せばどちらかが犠牲となる…

この一文が、カイジに重い枷となってのし掛かる。
274創る名無しに見る名無し:2010/04/12(月) 14:54:59 ID:nQODkaty
まさかの三好
支援…………っ
275のこぎり黙示録:2010/04/25(日) 03:44:34 ID:e6ZekiCE
しかし、時間は待つと言う事を知らない。
……?

おかしい…どう言う事だ…?
俺の目の前にあるタイマーは動いていない……

なら…どこの………

 「…っ!三好っ…!?」

 「あっ…うぁぁあ…っ」

谺するのは震える声と
鉄同士が擦れる耳に障る寄音……

 「おいっ…!!おいっ…三好…っ!!落ち着けっ!!」

どうする…?
そう…そうだ…まずは…

状況把握…!!時間に惑わされるなっ!!
 「聞けっ…三好!!そこに何がある…!?何が見える…っ!?」
276のこぎり黙示録:2010/04/25(日) 03:57:40 ID:e6ZekiCE
 「タイマーが…っ…う、動いて…!!手足が…鎖で繋がれっ…うぅっ…!!」

 「え…?」

手足が鎖に…?
なんで…三好だけ…

 「助けて…カイジさん助けてっ…!!」

…………?

なんだ…この違和感…

 「カイジさんしか…ううっ…僕…僕が悪かったんです…あの時…っ」

 ―生き残りたければ
  ―彼に言葉を信じさせる他に無い…

 「ごめんなさい…っ」

  つ い 魔 が 差 し て

    裏 切 る 気 な ん て


    『毛ほども無かった―…』
277のこぎり黙示録
伝うのは…涙…

激情は…以外にも単純なのだ…

消すことなど…忘れることなど…不可能

憑き纏う…背後からひっそりと
だが必ず…確実に存在する…影のように

どす黒く…深い…闇

 「……同じだな…臓腑まで腐りきった連中が…宣う台詞ってのは…」

もう…ここまで来たら…

開き直りだ…
俺は自信と共に…憎き裏切者と心中する…

ククク…

良いじゃないか…それで上等…それが打倒…

 「…カイジさん…」

 「ごめんなさ―……」

ド……―ン
……………―

鼓膜が…

耳鳴りがっ…

 「つっ…うぁ…」

振動が…頭にっ…

背後だけが…爆発した…?