A
お湯が沸くまで手持ちぶたさだからか、秋篠が大きな欠伸をしていた。
「歴史の話って興味がないと判らないね。私は全然判らなかったよ」
「そりゃそうだろ。俺だってちんぷんかんぷんだし」
ふと、秋篠と目があった。お互いにぷっと吹き出してしまった。
「こんな事言っちゃうと失礼だと思うんだけど、はじめの内は小林君て凄く緊張してたじゃない? なのに、歴史の話になると途端に生き生きしちゃって、ギャップが面白かったー」
「つーか、あれはカズにも責任があるって! 話を変えれば良いのに、素直に聞いてるんだから、小林も勘違いしちゃうって。カズはそういう所が世間擦れしてないっつーか、天然なんだよな」
俺と秋篠は今この場にいない連中の話で盛り上がっていた。
そういえば、今まで秋篠とこんなに話をした事がない。俺にとって秋篠は幼なじみの友達ってだけで、秋篠にとって俺は友達の幼なじみってだけだ。
何だか不思議な感じだ。俺ん家で秋篠と話をしているだなんて。
まだお湯は沸かない。秋篠と話を続けるのも悪くない。だが、話す話題が見付からない。
と思ったら、秋篠は爆弾発言をしてきた。
「そうそう、小島君さ、一組の星野美月と付き合ってるでしょ。小林君はそれ知ってる?」
「ん、まだ言ってない。付き合い始めたのバレンタインからだしな」
平常心を心掛けてみるけど、心臓がばくばくいっている。誰にも言ってない筈なのに、どこでばれたんだ?
星野美月は背が低い割に出るとこは出ていて、その割にショートカットでサバサバした性格でボーイッシュな娘だ。
付き合い始めて一ヶ月しか経ってないし、専らメールのやり取りだけだから、表だって噂にはならない筈だ。
「小島君も動揺する事あるんだね。もっとクールな人だと思ってた。美月はね、二年の時同じクラスだったのよ。で、相談を受けたから知っていたんだ。」
「ふうん、そうだったのか。誰にもばれてないと思ってた」
「余りばれてないんじゃない?少なくともカズちゃんは知らないと思うし、小林君も知らないんでしょ? でも、それじゃ参考にならないな」
秋篠は小さく溜め息をついた。落胆とかじゃなくて、もっと軽い感じ。期待はしていなかったから仕方ないといった具合に見えた。
「参考って? 秋篠もカズに内緒で付き合っている奴がいるのかよ?」
B
「付き合っているとは違うけど、似ているかな――あっ、お湯が沸いた。きっと小林君もカズちゃんも待ってるよ」
秋篠ははぐらかすように話を変えた。俺も会えて追及はしなかった。
俺と秋篠が部屋に戻ると、小林とカズは楽しそうに話をしていた。
「ねえ、美帆。小林君は鍛治屋坂高校なんだって。私は石花海女子だから近くじゃない? 一緒に通学することになっちゃった!」
カズは嬉しそうに秋篠に報告している。
「天田さんはフィギュアスケートが好きなんだってさ。俺、真央ちゃんとかミキティしか知らなかったけど、色々教えて貰ったぞ。
荒川静香のイナバウワーってあるじゃんか、あれって足のポジションなんだってな。小島、お前知っていたか?」
小林もへんな固さが取れたみたいで、いつもの小林に戻っていた。
つまり、二人は意気投合したのだろう。
いきなり付き合うのか、それとも友達からはじめるのかは判らない。けれど、非常に喜ばしい事だった。
今は『小林君』『天田さん』と呼び合っているけれど、少しずつ呼び名も変わって行くのだろう。
「でね、卒業記念で遊園地に行く事になったんだけど、美帆や真君も一緒に来てくれないかな?」
「そうそう、あそこの遊園地にはスケートリンクあるじゃん。さっき皆で行きたいねって話してたんだ」
どこまで話を進めているんだよ、お前ら! 俺は叫びたくなったが、秋篠が先に口を開いた。
「カズちゃん、それじゃダブルデートみたいになるじゃない。それじゃ、私、行かれない」
「俺も同意。行くなら二人で行けばいいじゃん」
カズは否定されるとは予想していなかったらしく、びっくりしている。
「行くなら皆で行った方が楽しいだろ。どうして駄目なんだよ」
ダブルデートじゃ駄目なのだ。俺には星野がいるし、秋篠にも相手がいるらしいし。
秋篠の方を見ると顎に人差し指を当て、小首を傾げて黙っている。
秋篠と俺は多分同じ事を考えている筈だ。秋篠が勇気を出せないなら、俺が言えばいい。
「ダブルデートみたいなのが駄目なんだ。俺、付き合っている娘いるし、行くなら彼女と一緒がいい」
ぽかんとした表情を浮かべる小林とカズ。俺が星野美月と付き合っている次第を説明し終えると、秋篠が口を開いた。
C
「私は許婚がいるの。正式に婚約するのは中学卒業後だから卒業式の後に言うつもりで、内緒にしていた訳じゃないんだけど。
カズちゃん、青藍君知ってるよね?青藍君が家のお寺を継ぐ事になるから、青藍君と婚約するんだ」
『付き合っているとは違うけど、似ているかな』
秋篠の言葉の意味がやっと判った。
許婚っていうのは意味は判るけど、実感が沸かない。
ピンと来ないと言うか、かなり重く感じる言葉だ。
秋篠の家が寺だって知っていたし、一人っ子って言うのも知っていたけれど、そんなの想像すら出来なかった。
外から夕焼け小焼けのメロディーが流れてきた。五時を告げる有線放送だ。
「やだ、もうこんな時間。そろそろ帰らないと。カズちゃんはどうする?」
重い空気を吹き飛ばさんとばかりに秋篠は明るい声をあげた。
「あ、私も帰るよ。真君、小林君、また明日ね」
カズは隣な訳だし、時間は大丈夫だとは思うけれど、結局秋篠と一緒に帰って行った。
多分さっきの話のフォローを入れたいのだろう、窓から二人がカズの家に入って行くのが見えた。
「小林、お前はまだ帰るなよ。せっかくお茶を入れてやったんだ、飲んでけ」
「俺、三杯は飲めねえよ」
「じゃ、二杯な。」
俺がそういうと、小林はお茶をちびちびと飲み始めた。
「小林、俺が付き合ってる娘がいるって事、お前に言ってなくて勘弁な」
「今日は機嫌がいいから許す。で、誰と付き合ってるんだ?」
「一組の星野美月。って、お前知ってるか?」
小林は首を大きく横に振るとマグカップを置いた。
「うんにゃ。同じクラスになったことがあれば判るんだけど、生憎なって無いから知らん。で、いつから付き合ってるんだ?」
「バレンタインから。星野からは恥ずかしいから卒業迄は秘密にして欲しいって言われてさ、言えなかったんだ。
それに受験に集中したかったってのもある。今は専らメールのやり取りだけ」
「ふうん、そうだったのか」
小林は新しいマグカップを掴むと一気に飲み干した。
「これでノルマは終わり。俺は帰るぞ。」
「ああ、またな」
小林も帰って行った。
今日は何だか疲れた。ベッドに倒れ込もうとした時に、ふと携帯が視界に入った。
そういえば今日は星野にメールしてなかったな。携帯を手にすると、俺はベッドに寝そべりメールを打ち始めた。
☆☆☆☆☆
件名:卒業式
本文:第二ボタンは星野の為に取って置いてある。
だから、星野のブレザーの第二ボタンと交換な。
☆☆☆☆☆
※※※※※※※※※※※
投下終了です。
自分は携帯からなのですが、規制されてしまったので、規制解除まではレス代行スレにお願いすることにしました。
感想を付けてくれた方々、またレス代行の方、本当にありがとうございました。
196 :
レス代行:2009/03/21(土) 23:52:32 ID:g5it52Zs
代理投下終了です
◆XYyRpZ8Z0sさんでした
第五話 大人の階段昇る 私もあなたもシンデレラ @
真君の家を出ると空は薄暗くなっていた。
街灯の明かりがぽつぽつと灯りはじめ、びゅうびゅうと吹き付ける夜風は「春なんて
まだまだ先なんだぞ」と叫んでいるかのように冷たかった。
「ミホ、帰りは歩き?」
「ううん、青藍君に迎えに来てもらう」
――青藍さん。一美も何度か会った事がある。身長は美帆とは大差無いけれど、それは
美帆の身長が非常に高いだけで、つまり170センチはある筈だ。
骨太体型で無精髭を生やしている様は所謂「親父」っぽくて、けれどくしゃりと笑う顔は
人懐こくて、一美は青藍さんに対して人見知りはしなかった。
美帆と青藍さんが並ぶと美女と野獣みたいで、でも仲の良さは兄妹のようだった。
それが、許婚だったとは。
一美は美帆に何か話し掛けたかったけれど、何て言えばよいのか判らなかった。
美帆は一美の気持ちを知ってか知らずか携帯を取り出して電話を掛けはじめた。
美帆が一美に内緒にしていた事。
言ってくれなかったのはちょっぴりショックだけれど、そうそうに告白されていても
どう反応すればよいのか悩んでしまう訳で。
婚約って言うのはおめでたい事なんだけれど、まだまだミドルティーンの一美には友達の
婚約っていうのは全く実感が沸かない訳で。
と、電話を終えて振り返った美帆と目が合った。玄関の光に当たっている美帆は何だか
大人っぽくて、一美の手の届かないような気がする。一美は美帆と一緒に大人の階段を一段ずつ
昇っていたと信じていたけれど、現実は違った。美帆だけがいつの間にか何段も先に昇っていたのだ。
目の奥がじんわりと熱くなる。視界がどんどんと滲んで行き、一筋の涙が一美の頬を伝った。
ねえ、何で涙が出るの? 悲しくも嬉しくもないのに、勝手に涙が流れてしまう。
「カズちゃん、今まで黙っていてごめんね。本当にごめんね」
美帆が一美の肩に手を置いた。美帆の声も震えている。
「違うの、美帆は悪くないの。悪くないんだよ?」
一美はポケットからハンカチを取り出すと美帆の涙を拭った。そして、自分も。
第五話 大人の階段昇る 私もあなたもシンデレラA
「ね、カズちゃん。ここって小島君の部屋から丸見え?」
涙が治まったのか、今度はちゃんとした声で美帆が聞いてきた。
「ううん、あそこに木があるでしょ? 家の玄関の所は真君の部屋からは死角になるんだよ。」
一美が指差した先には一本のイチイがある。
「あの木はね、ずっと前からあるの。いつでも家を見下ろして来たんだよ。で、何でそんな事聞くの?」
「だって、カズちゃんを泣かせたら小林君に怒られそうじゃない」
「もう、美帆ったら!」
一美と美帆はクスクスと笑いはじめた。涙を流すのではなくて、美帆とはこうやって笑いあっていたいと思った。
「で、小林君とはどんな話をしたの?」
「趣味を聞かれたから答えて、後はどこの高校に行くかとか、メアド交換したりとか。
で、皆で遊びに行きたいねって話になって、そしたら真君と美帆が部屋に戻って来て」
そう、真君と美帆がいなくなってからも一美と小林君はきちんと話が出来たのだ。
歴史の難しい話をした後の小林君は緊張が解けたようで饒舌になり、一美も釣られて話をしたのだ。
「そうだ、お茶入れたんだよ、私。飲んで来るの忘れちゃった」
「じゃ、家でお茶飲んでく?」
「ううん、青藍くんがそろそろ来るし……って、ほら」
向こうから一台の軽トラが軽快な音を立ててやって来た。
「じゃ、カズちゃん、また明日。って行ってももう少し色々教えてね。で、一応青藍くんに
遊園地に一緒に行けるか聞いてみる。足替わりになるでしょ」
軽トラが家の前に着くと美帆は笑顔で乗り込んで行った。美帆が手を振り、青藍さんは軽く
会釈する。こうして見ると、一美には二人がお似合いのように思えた。
軽トラが走って行く。一美は門の横に立ちてをふり見送った。
「美帆、おめでとう。青藍さんもおめでとう」
一美の呟きは夜風に流れて消えて行った。
車が角に曲がり見えなくなり、一美は手を振るのを止めた。
東京では桜が咲き始めたとはいえ、山梨の夜はまだまだ寒い。特に今日みたいな曇り空の日は。
そろそろ家に入ろうとした時、真君の家の門から一台の自転車が出て来た。
「あれっ、天田さん、何をしているんですか?」
一美に声を掛けてきた自転車の主は小林君だった。
「美帆を見送っていたの。小林君、暗いし寒いから気をつけてね」
「はいっ、じゃ、さようなら、天田さん」
第五話 大人の階段昇る 私もあなたもシンデレラB
「バイバイ、小林君」
小林君は勢い良く自転車を漕いで行った。
少し話が出来たとはいえ、一美は小林君の事をもう少し知らなきゃいけないと思う。
好きな食べ物とか、好きな本。映画やテレビや音楽。知りたい事は一杯ある。
そういうのはメールで話せば良いとして、小林君の性格とか人となりはメールだけでは
伝わって来ない。面と向かって話をしなききゃ判らない事が沢山ある。
人と出会う事の意味は学校からの帰り道で言っていたけれど、一美はその意味がきちんと
判りはじめたような気がした。
と、今度は自転車がこちらに向かってやって来た。
「カズ姉、ただいまー」
元気に叫んだのは一美のすぐ下の弟の次郎だった。声変わり最中独特の声で、まだまだ
一美よりは背が低いけれど、最近ぐんぐんと伸びて来ている。
「お帰り、次郎。私、先に家に入っているからね」
一美は次郎が自転車を留めている間に家に入った。
「ただいまー」
続いて次郎か家に入って来る。
「あんた、今日遅かったじゃない」
「今日は由介んち行ってた。先輩達に送る色紙の準備とかさ」
由介君とは次郎の友達で、二人は柔道部に所属している。
「あんたも大変ねえ」
「そうだよ、明日は卒業式で、卒業式が終わったら部紹介の練習始めなきゃだからさ」
次郎は階段を駆け上がって行った。
一美は洗面所へ行きうがい手洗いをするとリビングへと向かった。
「お帰り、カズ姉ちゃん」
声を掛けて来たのは末っ子の三太だ。三太は携帯ゲームに夢中になっている。
「ねえ、三太。今やってるの三国志のゲーム?」
「違うし、これはポケモンだし。僕やってるのDSだし。それに家にあるのは三国志じゃなくて
無双オロチだし」
三太はちんぷんかんぷんなことを言って来る。
「あんたねえ、訳の判らない事言ってんじゃないの。三国志が何とかってゲームを次郎とやってたでしょ」
「だから、それは無双オロチだし」
「そのなんたらオロチって何よ。ヤマタノオロチは古事記でしょ」
「難しい事言われても判らないしー」
三太はすたこらさっさと二階へ上がって行った。
全く、近頃の小学生は生意気なんだから!
一美は溜め息をついた。今日は沢山溜め息をついてしまった。溜め息をつくと幸せが
逃げるって言うけれど、今日に限ってはそんな事はないと思った。
投下&代行乙です!
五話のタイトル通り、みんなちょっとずつ変わって行くのだねえ
それにしても小林くんwピュアなのはわかるがお前も頑張れ、置いて行かれるぞww
201 :
創る名無しに見る名無し:2009/03/28(土) 15:14:13 ID:gPlQc3TW
なんとなくあげ
202 :
創る名無しに見る名無し:2009/03/29(日) 12:21:06 ID:nVm2zwtu
恋、それは恋(・_・)
投下します
1レススレのお題を使って書いたんですが、
なんか長くなったのでこちらに。
コンビニエンスストアが二十四時間やってるかどうかは、その町が
田舎であるか否かの指標になると思う。……期せずしてダジャレに
なってしまったが、他意は無い。ホントに。
とりあえず私の住む町は、その指標に則って考えると田舎だという
事になる。実際、深夜零時を回ると人通りどころか、民家の明かり
すらもほとんど消えてなくなる。お陰で星は綺麗に見えるが、星に
興味の無い人にゃそんな事はどうでもいいだろうから、有体に言って
夜遅くまで起きている人間には不便な町だという事になる。
「げっ、間に合わなかった……」
息を切らして駆けつけたその先で、既にコンビニはシャッターを閉め、
営業終了の看板を掲げていた。ほーら、不便だ。
「……そんなぁ」
嘆いてみても、突然シャッターが上がって営業が再開するわけも
無く、呟きは虚しく空に消えていくだけ。白い吐息が、その比喩を目に
見える形にしてくれているが、別に嬉しくもなんとも無い。むしろ、寒さ
を実感させられるようで気が滅入る。
「さむっ」
というか、実際に寒い。コンビニの中に入れれば、その寒さからも
逃れられるのだが……というのは詮無い考えという奴だろう。もう四月
だと言うのに、この寒さには参った……。
「あー、もう!」
周辺民家に配慮した、少しだけ抑えた声で叫んでみても、コンビニの
営業時間にしろこの寒さにしろ、食べたかったプリンを食べられなかった
という悔しさにしろ、何一つとして解消することは無い。
――と思っていたら、意外なところから救いの手はやってきた。
「あ? 誰かいるのか?」
その声はコンビニの裏手側から聞こえた。男の声だ。
「……ああ、すいません、お客さん。もう今日の営業は……」
「わかってます」
「そりゃ良かった」
のっそりと姿を現した男は、声から想像したよりもずっと若くて、そして
デカかった。私が見上げる程に。これでも背は結構デカい方で、それが
コンプレックスになっていたりもするのだが、この人もそんな感じだったり
するのだろうか?
「ここの店員さん?」
「そうっすけど……何か用でも?」
「店員さんには直接用はなかったんだけどね……閉まってちゃあ
仕方が無い、と諦めてた所」
「そりゃ良かった」
「……『何か欲しいのがあるならご用意しますよ』とかならない?」
「ならないっす」
「そりゃ残念」
彼は、その手にコンビニの袋を提げている。中は、恐らく廃棄品など
を持って帰っているのだろう、かなりの量がみっしりと詰まっていた。
「今帰りですか?」
「ええ。……ホントは、店長が閉店処理しないといけないんっすけど、
何か今日用事があったとかで……いい迷惑っすよ、ほんと」
「大変そうですねぇ」
「大変っす」
「あ!」
軽い雑談を交わしながら、何となく彼の持っていた袋を見ていた私は、
その中に一つの物を発見した。半透明の袋から透けて見えるその
パッケージは、見違えようも無い、私が愛食しているプッツンプリン
のオレンジと黄色の彩りだった。
「それ、それ!」
「……な、なんすか」
「それ! プッツンプリンでしょ!?」
「……あ、これっすか? そうっすけど……」
「売って!」
「……はあ?」
……呆然とされてしまった。でも、こんな閉店間際っていうかギリギリ
アウトの時間に息せき切ってここまで来たその理由が目の前にあるのに、
それを見過ごして帰るなんて事は、私にはできなかった。
「でも、これ……廃棄の奴っすよ?」
「構わないから売って!」
「……でも」
「じゃあ、頂戴!」
「……」
……今度は呆れられたようだ。
「売れないってんなら、友達にあげるってことで、私に頂戴!」
でも、私は諦めなかった。それだけが私にできる唯一の戦いだった
からだ……なんて大げさにキバヤシる程でもないはずなのだが、
一度言い出してしまった以上、押し通さないと逆に恥ずかしくなる。
「友達って……あの、俺、貴方の事全然知らないっすけど……」
「私、長井実穂! 君は!?」
「……と、友部明臣(あきおみ)っす」
「明臣君だね! じゃあ、お互いの名前も知ってる私たちは、もう友達!」
「は……はぁ」
「というわけで、プリーズ! ギブミーチョコレート!」
「……プリンが欲しかったんじゃ?」
「そうだった! プリーズプリン! ギブミー!」
勢いだけで突っ走っている私に、彼――明臣君は軽く引いてるような
気配もあったが、私は気にしない……というか、気にしたらちょっと、いや、
かなり死にたくなる気が……。夜のハイテンションって怖いなあ……。
「……えっと、長井さんって」
「実穂でいいよ。だって友達じゃない」
「じゃあ……実穂、さんって……なんでそんなにプリンが欲しいんっすか?」
「そこにプリンがあるからさ!」
「……は、はあ」
とにかく、私はただひたすらにプリン目指して突っ走っていた。
暴走しているとも言う。これでプリン貰えなかったら、私は恐らく明日の
新聞を飾る事になるだろう。お母さんお父さん、先立つ娘をお許し下さい。
「……わかったっす。そんなに要るなら……どうぞ」
「やったー! きゃっほー! ありがとー!」
彼は、小さく笑いながら私にプリンを手渡した。
「……変な人っすね、実穂さん」
「惚れた?」
「え? ……あー」
「……ちょ、ちょっと?」
勢いのまま、冗談で言った言葉に、明臣君は頬を染めて俯いた。
慌てたのは私の方だ。な、なんでそんな反応を……。
「や、やーねぇ、冗談よっ、冗談」
「……友達、なんっすよね、俺達?」
「そ、そうだね。友達だよっ」
「……友達から、って事で……お願いしても、いいっすか?」
「………………え?」
言ってる言葉の意味がよくわからなかった。ようやくそれがわかった
のは、たっぷり三分程経ってからの事だった。
「え……えぇぇぇえええええぇぇええ!!??」
「……唐突にこんな事言い出す俺も、随分変な奴だと思うんで、多分、
実穂さんとは気が合うんじゃないかなぁ……とか、思ったりしたっす」
「え、でも、その、あの……私たち、今日、今、ここで会ったばっかだよね?」
「迷惑ならいいっす。でも……何かその……いいな、って思った、
この気持ちは本物だと思うっすから……そこは、伝えたくて」
「……う……うへぇぇぇええ」
私は奇妙な唸り声を上げて、頭を抱えた。プリンめがけて暴走してたら、
何故か告白されちゃってるとか、一体どんな超展開だこれは。
「やっぱり……迷惑っすかね?」
何故か寂しそうに笑う彼の顔を、私は頭を抱えたまま横目で見た。
……何か、結構カッコいい、かも。笑った所が、特に。背も高いし、
私と並んだ所を想像すると、凄く様になってる気がする……。
「あの、ね……私なんかが、いいの? こんな、変な女がいいの?」
「……迷惑じゃ、なければ」
頭を抱えていた手が、頬におりてくる。真っ赤になって熱を持った頬に、
掌の冷たい感触が心地いい。でも、それもすぐに熱くなっていく。頬の
熱と、身体の中心から湧き上がってくる熱で。
「……とりあえず、すぐに返事は、いいです。明日とか、その、いつでも」
「そ、そう? ……そうしてもらえるとありがたいかも。なんかもう、今ね、
頭の中パニックな感じでね……」
「とりあえず……こんな時間ですし、家まで送るっす」
「あ、うん……ありがと」
プリンを地面に落としてしまっている事にも気づかず、私は彼を横に
伴って家路に着いた。
来る時は走って心臓が跳ね上がっていたが、今は違う理由で心臓が
跳ね上がり、いかに深呼吸しようとも収まりそうにない。
……多分、明日のこの時間、私はまたこのコンビニにやってきて、
それで彼に答えを告げる事になるのだろう。
その答えは、もう心の中では決まりつつあった。
あと、決めなければいけないのは……その答えを彼に告げる、覚悟だ。
「……一日で足りるかなぁ」
「ん? 何っすか?」
「あ、ごめん、こっちの事」
歩くうち、日付が変わる。
今日と言う、思いもしなかった出会いの日が。
そして、やってくる。
明日という、思いもしなかった出逢いの日が。
一時間という短い時間で、人生変わる時は変わるものなのだな、と、
そんな事を思いながら……彼の、小さく笑みをたたえた横顔を見て、
私は同じように小さく笑った。
何となく、これからもこんな風に笑っていられるような、そんな気がして。
終わり
ここまで投下です
GJ!勢いのある女の子って好きだー!
初めまして。
某スレにてSSを書き、(いずれ正体は誰かに暴露されますが、あえて名無しで)
荒らしとスレの無駄遣い認定にされた者です。
ここではSSにたいして否定的ではないようですが、
自分がここでSSを書けば、スレがあれる原因になるのでしょうか?
否定されるなら黙って去ります。
誘い受け乙
某スレがどこか見当も付かないし、貴方が何をしでかしたのかも分からない
そんな状況で荒れるか?なんて質問されても答えようがないよ
個人的な意見だと、このスレの趣旨にそぐうSSで、例え貴方が荒らしに粘着されても
それに対して馬鹿な反応をしないと確約出来るのなら好きに投下したら良いと思う
他でID出さずに、ここに名無しで投下するだけで一日を終えれば問題ないのでは
「マントヒヒっているじゃん?」
ある暑い春の日の事――日本語的におかしいが、実際そうだったんだから
仕方が無い――、唐突にツレがなにやら言い出した。
暑いからと部屋の中でうだうだしていると、たいていコイツはわけの
わからない事を言い始める。
「マントつけたヒヒだったら、何気にかっこよくない?」
「……お前、この唐突な暑さで頭がゆだったか?」
「アイス食べてるからそれはないよ」
「食べてなかったらあるのかよ……」
こいつのこういう発言はいつもの事だ。まともにその意味を考えていては、
いくつ頭があっても足りない。ましてや今日の暑さの中で真剣に考え込んで
しまうと、俺の頭の方がゆだってしまう事になりかねない。
「……そうだな、マントふぁさって翻してな」
適当に話をあわせると、奴の顔はパッと輝いた。
「でしょでしょー! なんていうか、女の憧れだよね、マント背負った
カッコいいヒーローって!」
「……女の憧れ、なのか?」
「わかんないかなぁ。ほら、タキシードなんとかみたいな、ああいうの」
「それはわかるが、なんとか仮面とはまた例えが古いな」
「マントヒヒがそんなだったら、夢が膨らむなぁ……」
本当に取りとめが無い。どんな夢を膨らませているのか、一度その
脳みそを開けて見せてもらいたいものだが、脊髄しか使ってなくて
脳みそが空っぽな可能性を考えるとその勇気は無い。
流石に、それなりの間連れ合っている人間が、実は脊髄反射だけで
生きてきてました、などと確認してしまったら、次の日からどういう顔を
して挨拶をすればいいかわからなくなってしまう。なにせ、おはようと
言ったら、返ってくるおはようのあいさつは反射の賜物なのだ。そこに
心はあるのかい? 心にダムはあるのかい?
……いかん、俺の頭も相当やられているらしい。奴の取りとめの無い
考えに思いっきり釣られて、取り止めの無い事を考えてしまっていた。
「……でも、マント背負ってても、所詮ヒヒだろ、マントヒヒって」
「ヒヒってどういう意味? 何かかわいいよねえ」
「……可愛いか、ヒヒが?」
「可愛いじゃん。何か、小悪魔な笑いって感じで」
「どういう可愛さだ、それは」
「で、ヒヒってどういう意味?」
俺は自分の頭を切り替える為と、奴の取りとめの無い話をとどめる為に、
頭の中にヒヒに関する知識を探した。
「……大雑把に言うと、サルだ」
「サル?」
「そう。だからマントヒヒは、マントサル」
「マントサル? ……なんか、次郎っぽくなった」
「今なら笠もサービスでお付けします」
「いやー! だめー! かっこよくないー!」
「笠被ってても?」
「余計だめー! ないわー!」
どうやら、一気にイメージの中にあった理想のマントヒヒ像が壊れて
しまったらしい。……理想のマントヒヒ像というものがどういうものか、
俺には想像する事もできないが。
「……とにかく、そろそろ昼飯にしてくれない?」
時刻はもうとっくに昼を過ぎている。暑い暑いとうだうだして、とりとめの
無くどうしようもない話をしていた結果だ。
「マントヒヒショック」
「……?」
「私はマントヒヒショックで痺れて動けません」
「はぁ?」
……何を言い出すかこいつは。
「だから作ってダーリンダーリンプリーズ」
「……谷間見せろやコラ」
仕方がなく、俺は立ち上がって台所に向かった。
「ワタシ、チャーハンがいいアルよー」
「アイヨー」
似非中国人の奴に、似非中国人で応えて、俺は久しぶりの台所を
見渡した。
こいつの取り止めの無い話に付き合うのはいつもの事だが、こうして
台所に立つのはいつもの事じゃない。とはいえ、一人暮らしの期間も
長かったから、チャーハンくらいは作れるだろう。
「……たまには、こういうのもいいか」
器具を用意しながら、何となく口元が笑みの形に歪む。
こういう、どうしようもない日常が楽しいから、俺は奴と一緒に毎日を
過ごしてるんだろう、などと、軽く頬が赤くなってしまいそうな事を考えながら。
そうして出来上がったチャーハンは――甘かった。
「……すまん、砂糖と塩間違えた」
「うへー」
終わり
おまけ
「ねえねえ、マンドリルっているじゃん?」
「その話は何か下ネタの方向にしか行きそうにないから却下だ」
「えー」
本当に終わり
ここまで投下です。
嫁なんて都市伝説ですよ。
マントヒヒショック!
心にダムはあるのかいってw次郎っぽくなったってww
細かい小ネタがきいてていいな
見て和むと同時にニヤニヤしたよ
GJ!
嫁がこんなかわいいだなんて幻想ですよ、ええ
砂糖チャーハンはきっとわざとです><
『初恋』
パレットに宇宙が広がっている。
彼は慎重にチューブから絵の具を絞り出し、それを水で濡らした筆で溶かす。
くちゅくちゅと音がする。
こびりついた血の塊のような絵の具はだんだんと柔らかくなって行き、
しまいには彼の思うままに滑らかな色合いを見せ、他の色と混じり合う。
彼は完全な調和によって保たれている一つの宇宙を壊し、またあらたな宇宙を構築する。
青色と黒の混じった、パレットに広がるその一つの色は間違いなく宇宙だった。
水の混じり過ぎで溶けた絵の具に生まれた泡は大空に瞬く、
控えめな星を連想させたし、その大いなる空間の中央に生まれた一つの小さな空洞は月を、
黒は闇を、少し薄めの青は夜の帳が少し開けつつある空を表している。
彼が懸命になって描いている懸命な風景画よりも、その芸術作品は魅力的だった。
理由などとうに知れている。私は野性的な、本能そのままの彼を愛しているのだ。
宇宙を創り出す彼の動作もまた神秘的だった。
机の下に置いた水を張ったバケツに面相筆を浸し、軽快な音を立てる。
それから筆でバケツの壁を、毛先が乱れないように撫で、
毛先から滴り落ちる水を落とす。念を入れて机の上の雑巾で筆を拭き、
水分をとりすぎたのならまた作業をやり直す。
最後に背筋を伸ばし、絵の具に筆をつける。
どんなに慎重に、丁寧に扱ったとしても美しく整えられた毛先は乱れてしまう。
毛がまた一本、パレットのうえにおちた。
それでも彼は作業をやめない。
私は彼を観察するのが好きだ。
彼が宇宙を創り出す格好は、どうしようもなく浮世離れしているからだ。
私は彼に欲情する。
彼の宇宙のなかに飛び込む代わりに自分の絵を乱して身もだえる。
チャイムが鳴った。
気怠気な教師の号令の声がかかり、私達は水道へと群がる。
楽しい美術の時間が、また終わってしまった。
わたしはちっとも進んでない自分の作品を見つめながら溜め息をつく。
別に、想いを伝えようとは思わない。
中学生の恋なんて所詮勘違いと性欲だ。
ながつづきしないのなら、もとから告白しない方が良いに決まっている。
「おうい」
絵の具入れを棚に入れて帰ろうとした所、後ろから声がした。宇宙の創造主だ。
「これ、忘れたみたいだよ」
声が出ない。顔が熱い。
ゴミ箱に捨てられた宇宙が、少し煌めいた。
完。
投下しました。初めてなのでお見苦しかったら全力で忘れてください。
よかったら感想お願いします。
おお、これは良いものだと思いますです
感情の流れの飛躍がリアルだと感じられたし、個人的な話ですが自分の書きたいものにも近いwかなり好きですこれ
若さゆえの純粋で過剰な自意識ってやつは、なかなか主の味方になってくれないんだよなぁ
おっと書き忘れた、投下GJです!!
『初恋』の者です。220番さん、暖かい反応ありがとうございました。
てっきり叩かれるばかりだと思っていたので感動ものです。
もう一つ投下しようと思って諦めたやつがあるのですが、捨て身で投下します。
小説というよりは詩に近い中途半端な物体ですがどうか生暖かい目で見てやってください。
サイトに載せているものなのですが、URLをさらす程勇者ではないので
こちらにそのまま貼ります。下に貼っておきます。
『赤い糸』
なんで、殺したのかって?
_....刑事さん、さっきから何度も言っているでしょう。僕は殺意をもっていないんです。
彼女の全存在に誓って、申し上げます。ああ、経過ね。そんなモノも訊くんですか。
__...そうですね。これから何度もお話しするんでしょうし、矛盾が無いように話しますよ。
彼女は、高校時代の同級生でした。
とても明るくてクラスの人気者だった彼女はそう、いつもスポットライトを浴びていましたよ。
対する僕はそんな彼女をただぼんやりと見ていただけで、
特に行動を起こそうとは思いませんでした。
ええ。好意を持っていたんですよ、彼女に。それはもう明白な。
だけど当時の僕と同じように彼女のことを見つめる男子生徒は少なくなかった。
それで、黙っていたんです。
別に僕は彼女が全国大会まで押し進めた書道部の所属でも無かったし、
ただの地味な、どこにでもいる平凡な学生でしたから。
ですが、卒業式に思い切って告白してみたんです。
といっても、とても控えめなものでしたけど。
当時学校に言い継がれていたジンクスを使っただけです。
白いハンカチに自分の名前を書いて、相手に渡す。
五年経ってまだ相手がそれをもっていたら、その二人は永遠に結ばれる。
まぁ、すこしまどろっこしい、どこにでもあるモノですけどね。
彼女は恥ずかしそうにはにかみながら、それをそっと自分のブレザーのポケットの中に、丁寧に畳んでいれてくれました。
それは、とても美しい動作でした。初めて彼女と僕が通じあった瞬間でもありました。
___...そう急かさないでくださいよ。
刑事さんだって、よくドラマとかご覧になるでしょう?
あれみたいなものだと思ってください。
それから卒業して、僕は就職に失敗しました。
よくあるパターンです。とても面白みの無い転落でした。
そこからフリーターになって、まぁ食べて行けるだけマシなんですけど
全てにやる気がなくなって、家賃も滞納するようになったし、
危ない所からお金を借りるようにもなりました。
それで、思ったんです。『こんな世界やめてやる』って。
__..おっしゃりたいことはわかります。自分で振り返ってみてもくだらない動機でした。
それでも、一度決意したら揺らぎません。
僕はすぐにネットの掲示板に書き込みました。
『一緒に死ぬ人いませんか』
って。
画(え)に描いたような動機で、方法で、自分自身に今更嫌気がさしたりもしましたが、すぐに返信が来ました。
丁寧な物腰の女性でした。
僕は彼女と待ち合わせをして、崖から飛び降りることにしました。
死に方くらい、少しだけ派手なものでもいいんじゃないかと思ったのです。
ささやかな抵抗、とでも言っておきましょうか。
_...何で泣いているんですか?そんなに悲しそうに。
安心してください。僕はいま、とても幸せなんです。
彼女は病院の看護士さんでした。過酷な勤務に体がついて行かず、気づけば倒れていて職に戻ることもできなくなっていたと書き込んでいました。
僕はその彼女と日曜日の午後、崖の上で会いました。
風が轟々と吹いていて、波は意志をもっているかのように荒れ狂っていました。
崖に波が激しく打たれ、白い泡が次々と濁った海に溶けて行きました。
曇り空でした。小雨もぱらついていました。そんななか、彼女は弱々しく微笑んでいました。
_...刑事さんの想像の通り、五年前のあの、僕が初恋相手に渡したハンカチをもって。
僕は、うろたえました。
驚きすぎて、声が出ませんでした。
やっぱりあなただったのかと彼女は言いました。
五年前と違って彼女の体は枝のように細くて頼りなく、
顔にはしみがこびりついていて、頬はこけていて、
目の下には血管にすぐ触れることができるんじゃないかと思うくらい
薄い皮膚が張り付いていました。
僕は、泣くことしかできませんでした。
その時の天候とおなじように、哀しく、優しく、でもなかにとてつもない絶望を秘めて泣くことしかできませんでした。
彼女は死ぬのならあなたと一緒が良かったと言い、それでも自殺に戸惑っているふうでした。
光を宿していない、伏し目がちの瞳がさらに陰りました。
その背中を、僕は押しました。
初めて触れた彼女の肉体は、紙のような感触でした。
ちゃんと服を着ていて、骨も筋肉もあって、カーディガンのうえからも下着の感触を確かめることができました。それでも、まるで紙のようだとまず最初に思いました。
彼女はあっけなく海におちていきました。
手にしたハンカチが、そこだけ別世界のように世界を白く彩り、ひらひらと彼女とともにおちていきました。
僕は心の中で彼女に口づけをして、片手で十字を切って自分も海に飛びおりようとしました。
その時の世界は、止まっていました。
_..あとは話すまでもありません。
刑事さんが手帳に記してある通り、海の様子を見に来た近隣の方が僕を取り押さえました。
彼はどうやら僕が彼女を突き落としたところをみていなかったようなので、僕は単なる自殺願望者として扱われました。
いまでもすぐに死のうとする僕を見かねて、住人さん方は警察の方を呼びました。それで、今に至ります。
そんなに面白みも新鮮さもない、つまらない自白でしたが、どうですか?刑事さん。
これでも、僕が彼女を殺したと言えますか?
彼女も僕も、もとからつながっていた。
つながっていたから、あの日僕は彼女に会えた。
そして、彼女は死にたがっていたのです。僕はその背中を文字通り押しただけです。
何故、そんなに落ち着いているのかだって?_..さぁ、よくわかりません。
取り乱す程の楽しみすらも、見失っているからじゃないでしょうか。
それに、僕はもう死んでいるようなものですし。僕と彼女はとても尊いもので結ばれていました。
決して切れない、ほどけない、頑固で神秘的なもので。ですから、彼女が死んだら僕も死ぬのです。
現に、もう毒がまわってきました。
刑事さん。そんなに頭を揺さぶらないでください。
怒鳴らないでください。
泣かないでください。
胸が苦しい。
痛い。
しゃべれないので心の中でしゃべります。
刑事さん。僕は彼女の意志に従っただけなのです。
ですから、僕もこうなるしか無いのです。
彼女の引っ張る糸につられるようにして、僕もたどたどしく同じ処に行かなければいけないのです。
思っていたよりも毒はきつくありませんでした。ですが、視界が妙に歪んでいます。
ああ、最期に、これだけは言っておきます。
______...刑事さん、
「 」
赤い糸
なんとか投下完了です。連打もどきをしてしまい、びくびくしながらの書き込みでしたがなんとか投下できました。初心者って怖い。
改行多くてすみません。普通にコピペったら行が長過ぎて書き込みできなかったので。
見苦しかったら全力で忘れてください。よかったら感想お願いします。
5年とは気が長くて、そして純情だな
そんな繊細な二人だったからこその結末か
悲しいね
三人称的な情景描写を廃した、淡々とした一人称での語り口が
いい具合に主人公の絶望の深さを表してるね
切ない話、GJ!
「これ、恋人のカオリ」
初めて彼女をこの家に連れて来られた時、私はガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。
私とアキラが同棲し始めたのは6年前の事だ。
高校から一人暮らしを始めるアキラが、寂しいからという理由だけで昔から仲の良かった私を、このマンションに半ば強制的に連れてきたのが始まりだった。
「はじめまして、カオリです。」
そう行儀よくお辞儀したカオリは、アキラにはちょっと勿体無い位可愛かった。
顔にも口にも出さなかったが、内心私は複雑だった。
私のほうがアキラを知ってる。
笑っているときも落ち込むところも、この女より、よく知ってるのに。
アキラとカオリが付き合いだした馴れ初めは、たったひとつのキスかららしい。
元々大学で仲が良かった二人だが、ある日とうとうアキラの理性がぷっつり切れてキスをした。
これでカオリに万一ほかに好きな人でも居たら一大事というかシャレにもならないが、強運にもカオリもアキラのことが好きだったらしい。めでたく両想いになったそうだ。
……たった、キスひとつで変わる関係なら、どんなに良かっただろう……。
「な? 言ってたとおり可愛いかったろカオリちゃん」
カオリが帰ったあと玄関を振り返って、自慢気にアキラはふふんと笑った。
ああ、可愛いかったよ、長い間連れ添った私なんかより、あの子を選んだくらいなんだから……。可愛いくないと、納得いかない。
「拗ねんなよ、バカ」
よほど態度に出ていたのか、アキラは笑って、いつものように私に軽くキスをした。……キスたったひとつで変わる関係だったら……。
キスなんて何千回もしているけれど、関係が変わることなんてない。ぜったいに。
……なんだかふいに悔しくなって、私はみゃあ、と鳴いてやった。
こういうの大好きw
かわええなぁ、可愛い嫉妬がw
ぬこかwww
ちくせう、これは良いwww
231 :
◆91wbDksrrE :2009/07/21(火) 00:39:11 ID:C/ppc0RK
葬儀というものは、こういうものなのだと、その時私は初めて実感した。
何度か、親類縁者のそれに参列した事はあったが、まだ幼い時の話でもあり、皆が
しんみりしながらも、飲んだり食べたりして騒ぐ、そういう催しだと、そう思っていた。
だが、実際に自らが参列される側に立ってみると、飲んだり食べたりしている暇はなかった。
それは、喪主であるからなのか、それとも、あの人のことを偲びに来てくれた人の数が、
通常のそれよりも膨大だったからなのか、それは私にはわからない。
しかし――
私達の家に、これほどの人が訪れたのはいつ以来の事だろう。
……いや、もはやこの家は“私達の家”ではなく、“私の家”なのだけれど、でもやはり、
私はどうしても“私達の家”と、そう考えてしまいそうになる。
訪れた人の数は、そのままあの人の顔の広さを物語っているようで、家では
あまりそういった様子を見せなかった事もあり、私は嬉しくもあり、そして同時に寂しくもあった。
――あの人の事を、私は全然知らなかったのだな。
「この度はご愁傷様です」
そう言って頭を下げるあの人の知人――私にとっては見知らぬ人――に、私は淡い笑みを
浮かべて、頭を下げ返す。二言三言、生前のあの人の話を交わし、そこでも私は嬉しさと
寂しさを半分ずつ味わう事になった。私の見知らぬ人達は、私の見知らぬあの人の
顔を知っていて、それを私に教えてくれたから。私の知らないあの人を知る事は、
私にとっては嬉しさでもあり、寂しさでもあった。
――私は、あなたの全てを知っていたかったのに。
そんな考えを内心に抱えながら、私は淡い微笑みを絶やさずに、人々の応対に追われる。
「そういえば……」
「はい?」
そんな中、とある人が私に向かって口を開いた。あの人が仕事で付き合いのあった人で、
とある会社の社長だと、そう名乗っていた人だ。その会社の名は、そういった事に疎い私でも
耳にした事があり、そんな人とも付き合いがあったのかと、私は半ば驚き、そしてやはり、
半ば寂しくなった。
「彼は、よく言っていましたよ。『俺は不出来だから、家を守ってくれる奴がいて、非常に
助かっている』と」
「……はぁ」
私は曖昧に頷いた。
その言葉を、あの人が本当に言ったのか。その疑問が、私の頷きを曖昧なものにしていた。
「確かに、貴方のような人が家にいたならば、安心して仕事に打ち込めたでしょうな」
そう。あの人は仕事に生きた人間だった。家に帰っても、ご飯を食べて寝るくらいしかせず、
休日というものは無きに等しく、何か、命を削るように働き続けていた人だった。
私は、少しでもその削れらる命が少なくなるようにと、栄養を考えたご飯を作り、ゆっくりと
眠れるように寝所を整え――だが、その程度しかできなかった。
あの人はそんな私をねぎらうでもなく、当たり前のように食べ、眠り、そしてまた家を出て、
帰ってきて、食べ、眠り……その繰り返しだった。
きっと、今回の事故がなくとも、あの人は遠からず逝ってしまったのではないかと、
そんな事を考えたりする事もあった。そうなっていたら、自分のこの悔しさは、どれだけ
増していただろうか、とも。
だから、あの人がそんな言葉を本当に言ったのかどうか、それを私は疑問に感じた。
232 :
◆91wbDksrrE :2009/07/21(火) 00:39:19 ID:C/ppc0RK
「そういえば……」
そんな私の思いを知ってかしらずか、あの人の知人は、思い出したように言葉を続けた。
「彼はたまにですが、貴方の事を話す時に仏間の話をしていました。『そこに、あいつに
見せたいものを置いてあるんだが、いつ見せればいいかわからない』と。何のことかわかりますか?」
仏間? ……仏壇が置いてあるくらいで、特に何か大事なものがあるとは聞かされていない。
「……いえ、心当たりは、特に」
「そうですか……いえね、その話をする時の彼は、やけに嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな、
彼らしくない表情をしていたもので、よく覚えていたのですよ」
「……はぁ」
私はまたしても曖昧に頷いた。置かれた物がある、と、そう彼は言っている。一体、あの人は
何を仏間に置いたというのだろうか。
「では、私はこれで」
そう言って、あの人の知人は帰っていった。
仏間。一体そこにあの人は何を……。
私は、居てもたってもいられなくなり、休憩を親戚に申し出ると、仏間へと向かった。
「……一体、どこに……何が……?」
考えられるのは、仏壇の引き出しの中、くらいか。
私はそれらに手をかけ、中身を確認した。
「あ……」
程なくして、私は“それ”を見つけた。
小さな箱。まるで、指輪を入れておくような。
「……あの人が、これを?」
恐る恐る、私はその箱に手をかけ、開く。
そこには、その見た目通り――指輪が、収められていた。
ぱさりと、一緒に収められていたらしい紙が一枚、畳の上に落ちた。
「これが……私に見せたい、もの?」
指輪。小さな、だがしかし、しっかりと輝きを放つダイヤが飾られた、決して安くは手に入らない
だろうそれの意味が、私が拾い上げた紙には記されていた。
――お前の想いには気づいていた。だが、それに答える事は、今のしがらみの中ではできない。
だから、俺が死んだら、お前にこれを見つけて欲しい。死によってくびきから解き放たれたならば、
あらゆるしがらみから解き放たれたならば、その時はお前の想いに答える事ができるから――
「……父さん」
想いは、報われていたのかと。
最早、報われたという証はこの指輪しかないのかと。
相反する、嬉しさと寂しさが、私の頬に微笑みを形作らせ、私の瞳に涙をたたえる。
「……父さん……ありがとう」
こうして、私の初恋は――禁じられた初恋は、報いと終わりを同時に迎えた。
指にはめたダイヤのきらめきは、涙にゆらめいて、まるで星のまたたきのようだった――
終わり
ここまで投下です。
234 :
創る名無しに見る名無し:2009/07/21(火) 01:20:04 ID:bDdKwxs4
男「好きだ」
女「えっ」
男「私も貴方のことが好き…」
女「えっ…」
男「結婚しよう!!!!」
男「嬉しい」
女「ちっ……」
男「えっ」
男「見つかってしまった」
アッー!!
【韓国】ろうそくデモの直接被害1兆ウォン超える 国のイメージ毀損など間接的被害額は2兆6939億ウォン[08/31]
1 :東京ロマンチカφ ★:2009/08/31(月) 09:40:24 ID:???
ソウル中央地検は、昨年に起きたろうそくデモの経過と違法暴力行為の捜査の結果を盛り込んだ
「米国産牛肉輸入反対違法暴力デモ事件捜査白書」をまとめたと30日に明らかにした。平和的集会
とデモの習慣を定着させる契機を設けるため発刊したと検察は説明した。
白書はろうそくデモ発生原因として、米国産牛肉の輸入再開決定後に一部メディアの歪曲報道と
狂牛病に対する虚偽の情報拡散を挙げた。「国民対策会議」など一部の勢力が介入し違法暴力
デモに拡大していったとも分析した。こうした内容は検察が押収した内部文献に示されていたという。
白書は106日間のろうそくデモを4つの期間にわけた。昨年5月2日から23日の第1期は国民の
不安感によりろうそくデモが比較的平和的に開かれたが、5月24日から6月19日までの第2期から
デモを主導する団体が介入して過激デモに変質しはじめた。6月20日から29日までの第3期では追
加交渉結果が発表され一般市民が離脱したが、外部勢力主導の暴力デモは最高潮に達した。6月
30日から8月15日までの第4期では違法デモ主導者されるとろうそくデモは求心点を失い消滅したと
白書は説明している。
検察は1476人を立件し、43人を拘束、165人を在宅で、1050人を略式で起訴した。これまで
に1審で9人が実刑を受けている。検察は違法暴力デモを寛容しないという無寛容政策に基づき、
起訴猶予を最大限抑制したと明らかにした。
白書は韓国経済研究院の研究結果を引用し、デモ現場近くの商業施設の営業損失、交通渋滞
費用、公共支出損失など直接的な被害は1兆574億ウォン(約790億円)、社会不安定、公共
改革の遅延、国のイメージ毀損など間接的被害額は2兆6939億ウォンと推定した。
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=119858&servcode=300§code=300
237 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 01:51:59 ID:6aeUv1wb
>>232 仕事人間だったのは、つまりそういうことだったのか
「なあ、吉野」
彼に話しかけられたのは、いつの事だったか。
はっきりとは覚えていないが、確か教室が夕焼けで真っ赤に染まっていたのは
良く覚えている。私が彼の事を、一人の人間として意識したのは、その時が初め
てだった。
「もう放課後だぞ。いつまで寝てるんだ」
夕焼けが教室に差し込む、そんな時刻。彼の言う通り、もう授業はとっくの昔に
終わっていて、教室が閑散としている所からわかるように、ホームルームも終わり、
皆帰路についている。
……そんな事は、彼に言われるまでもなくわかっていた。
「別に、寝てたわけじゃないし」
応えながら、私は机に伏せていた頭を上げ、彼を見た。
「………………誰?」
見覚えはなかった。……いや、正確に言えば違う。見覚えはあったが、名前と
顔が一致する存在ではなかった、と言うのが妥当だと思う。
そもそも、高校になれば女子と男子は互いに異なるコミュニティーを作り、それ
ぞれに干渉せずに生活を送るものだ。男子の顔と名前が一致しないのは別に
不思議でもなんでもない。
もっとも、私に関して言えば、そういった当たり前の女子高生とはまた違う理由
で、彼の顔と名前が一致しなかったのだけれど。
「うわ、ひでー」
彼は、私の文字通りひどい言葉にも、動じる事なく笑っていた。
……きっと、物好きなんだろう。こんな私に、わざわざ声をかけてくるなんて。
「えっと……同じクラスだって事はわかるんだけど……誰だったっけ?」
「うわー……本気なんだなー。凹むなー」
言葉とは裏腹に、彼の顔からは笑みが消える事はなかった。全くもって物好きな
奴だ。実際に名前が出てこなかったのは事実だけど、それ以上に自分に構って
欲しくないからこういう物言いをしている面もあるというのに、それに全然動じる気配
が無い。……物好きというか、単に鈍感なだけなのかもしれない。
「藤井だよ。藤井克彦」
「……藤井、くん?」
「そ。藤井。覚えといてくれ」
「……忘れない間は覚えとく」
それだけ言って、私は立ち上がった。多分、一週間くらいしたら忘れていそうだった
けど、その事は彼には告げない。
「睡眠不足か? いつもホームルーム終わってもしばらく寝てるけど……」
「……聞いてなかった? 寝てたわけじゃないから」
「そうなのか?」
「机に伏せってたら、すぐに寝てると思うのはやめてもらいたい所ね」
……まあ、普通は寝ていると思うだろうけど。
「了解了解。お前は寝てるわけじゃないって事は、忘れない間は覚えておくよ」
彼はにへらと笑って、そんな風に私の物言いを真似した。
この瞬間の彼への印象は「鬱陶しい奴」だった。
夕焼けの紅さと同様に、その事も、はっきりと覚えている。
「なあ、吉野」
それから、何故か彼は私に度々話しかけてくるようになった。
それも、決まって放課後になって、私が机に伏せっている時に。
「もう放課後だぞ。いつまで寝てるんだ」
彼が私に、いつものようにそう言う時は、いつも夕焼けが差し込んでいたから、だから
覚えているのかもしれない。最初の日が、そうだったという事を。
「……藤井君」
「あれ、起きてたのか?」
いつも、こうだった。
「寝てるわけじゃない……そう、最初の日に言ったわよね?」
「ああ、ごめんごめん。そうだったよな。すっかり忘れてた」
そう言って、彼はにへらと笑う。
いつも、彼は私を"起こして"くれる。まったく、記憶力という物が無いのかしら。
「それにしても――」
いつもは、私を起こすと、私が帰るのに合わせるかのように――と言っても帰り道
は違うので、教室の前で別れるのだけれど――教室を後にするのに、その日は少々
違った。彼は、相変わらず何が楽しいのか、にへらとした笑い顔のまま、思いもしない
事を言い出した。
「俺は忘れてばっかりいるけど、吉野は記憶力いいよなー」
「何が?」
「俺の名前、覚えてくれてるじゃん」
「……」
……それは……。
言われるまで、意識すらしていなかった。
彼の事を記憶にとどめてから、もう一ヶ月になる。その間ほとんど毎日、こうやって
彼は私を"起こして"くれていたのだから、覚えていて当然と言えば当然なのだけれど
……それでも、その事を特に意識していなかったというのは事実だ。
普通、私は人に名前を教えられても、それを長い間覚えておくという事は無い。最初
彼の名前を一週間くらいで忘れるだろうと思ったのは、別に彼の事が嫌いだからとか
そういう事ではなく、単に私が人の名前というものを、その程度の期間しか覚えて
いないというだけの事だった。
なのに……気づけばもう、一ヶ月だ。
「……そんなの、普通でしょう? クラスメイトだもの」
「最初覚えてなかったよな?」
「そ、それは……」
自分でも珍しいと思うほど久方振りに、私は動揺していた。なぜ動揺する必要が
あるのかと、冷静な部分の自分が自問するが、答えは出ない。出せるなら、そもそも
動揺などしていないだろうし。
「ま、いっか! こうして覚えてくれてるんだもんな!」
私の動揺を他所に、彼は勝手にそう結論づけると、手をひらひらとさせながら
「んじゃなー」
と去って行った。
「……」
なんだろう、この、なんとも言えない気分は。
「もうっ!」
八つ当たりに、私は机の足を蹴飛ばしたのだけれど
「……」
……痛かった。
240 :
◆91wbDksrrE :2010/01/10(日) 18:16:11 ID:gwcEc1VO
ここまで投下です。
芽生え?
イイヨイイヨー