恋愛物創作総合スレ

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1創る名無しに見る名無し
エロはPINKへ
同性愛は別スレで
それ以外なら何でもあり
2創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 00:13:50 ID:1TZv+Nqu
3 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 00:16:34 ID:x59vdQh1
4創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 00:19:56 ID:GUgkQt0g
5創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 00:44:02 ID:mdEeWQOP
6創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 01:14:01 ID:gFuZ5ng2
うむ
近親とか動物とかお人形とかもおkですね?
7創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 01:16:11 ID:cDIzx7Sx
近親はダメです!
8 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 01:18:52 ID:x59vdQh1
血が繋がってなければおk?
9創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 01:19:09 ID:gFuZ5ng2
おk
動物とお人形だけにしておく(><)
10創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 01:26:54 ID:mdEeWQOP
動物は獣人スレでやろうよw
11創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 01:30:17 ID:P1FJtw4S
動物と獣人は違うにゃ!
12創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 01:37:11 ID:mdEeWQOP
あそこ原形もおkじゃなかったっけ?
まあいいや
13創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 01:42:17 ID:X4IqAUKP
恋愛は難しいよなー
現実でも・・・
14創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 04:35:06 ID:P8bXY5Wy





          新 ・ 中 2 病 伝 説 ス レ  





15創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 07:28:16 ID:1TZv+Nqu
活性化を期待して支援投下。

http://34bangai.chips.jp/novel/ss-03.html
16創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 09:44:09 ID:sEJMmCfE
世間一般では恋愛とミステリーがメジャーなジャンルだからな
このスレはあったほうがいい

>>15
文章力はあると思うけど内容は全然共感できないな……
17創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 14:20:37 ID:1TZv+Nqu
お目汚しスマソ。
そうか慣れない事はしないもんだな。
18 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 14:27:11 ID:x59vdQh1
まぁ…そういう感じの文になるんじゃないかなー
ここで恋愛やるってなると

はい、恋愛毛嫌いしてるんですすみません
なのにギャルゲ書いてるんですこれまたごめんなさい

えっと……やっぱり「精神の恋愛」の方がうけがいいのかも
19創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 16:56:22 ID:sEJMmCfE
悪口いってるわけじゃないんだけどね
出会い系のフリーターと振られたばかりのOLではなあ

シラノ・ド・ベルジュラックみたいのがいいかもな
20創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 17:18:17 ID:uVAY3K31
アンカしてみる。
>>21で出会った>>22>>23が恋愛するSS書くよ!
21創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 18:08:57 ID:FAuyAImP
サウナ
22創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 18:34:07 ID:GUgkQt0g
イカ娘
23創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 18:52:31 ID:mdEeWQOP
漁師
24創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 18:58:34 ID:Hkt4NgmF
これはひどいwwww
25創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 21:15:26 ID:gFuZ5ng2
最低だなw
26 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 22:11:09 ID:x59vdQh1
イカwww
27>>20「いかよめ」1/2 ◆16Rf2BBdUE :2008/11/19(水) 23:40:34 ID:uVAY3K31
「いかー!」
 脳天まで突き抜けそうな甲高い声に、俺は数センチほど跳ね上がった。
 赤い光に満たされたサウナにぐったりと座っていた半裸の客たちが、熱気に細めた目をけだるそうに開いて入り口を見る。
 俺は膝からずり落ちかけた大判のタオルをひっぱり上げ、うろんな顔で声の主を探した。
 サウナの入り口を無神経に開け放って、そいつはそこに立っていた。
 5、6歳くらいの子供だ。凹凸のない真っ白な裸体を男湯の湿った湯気にめいっぱい晒して、タオルも持たずに仁王立ちしている。
 子供――女の子は両手を大きく広げ、目を輝かせた。
 その視線はなぜだかやたらに真っすぐに、俺のほう目がけて投げ掛けられている。
「いかー!」
「……え?」
 ろくな反応など、できるはずもなかった。ぱたぱたと駆け寄ってくる女の子を、他にどうしようもなく、両腕を差し出して受けとめる。
 こうしてしまえば、親子以外のなにものにも見えないのだろう。客の興味はすぐに反れ、またサウナ特有のけだるい空気が流れはじめる。
 もちろん俺は気が気じゃない。膝に断りもなくよじ登ってひんやりした体を押しつけてくる女の子を制して、とりあえずサウナの外へ連れ出す。
「暑かったですイカ!」
 出るやいなや、そいつはいきなりまっとうな言葉をしゃべった。
 俺は頬をひきつらせ、とりあえずその顔を覗き込む。
 色の白い娘だ。ボリュームに乏しい、乾いた感じの黒髪を肩まで伸ばしているのが、肌の白さを一層引き立てている。どきりとするほど大きい目は黒々と輝き、唇はぷっくりと赤い。
 やっぱり、まったく見覚えのない子供だった。
「あんなところにずっといたら、スルメになってしまうイカ!」
 快活にそう言い放つ女の子に、俺はきっぱりと言う。
「嬢ちゃん、お父さんを間違えたろ?」
「お父さんはイカ刺しになっちゃったでイカ!」
「そーかそーかおっちゃんが探してやるからよ。名前を言いな」
「むー」
 唇を尖らせて、子供は不満そうな表情を見せる。
「宇佐見遼さん!」
 名前を呼ばれ、俺はぴたりと止まった。
 立ち止まる俺の顔を真っすぐに見上げ、女の子は真摯極まる表情で言う。
「わたしはあなたに、会いに来たんですイカ!」
 不精髭の突き出す顎を撫で、俺はぼんやりとイカ娘の顔を見る。
 なんだか、ややこしいことになったような気が、少しだけした。

*****
28>>20「いかよめ」2/2 ◆16Rf2BBdUE :2008/11/19(水) 23:41:16 ID:uVAY3K31
「去年の春ごろ!」
 なめこの味噌汁を、長々と音を立ててすする。
「わたし卵かえるの遅くて、まだ子供だったイカ!」
 今も子供だろう、と声に出さず突っ込む。
 アジの塩焼きが、いささか行儀悪く引っ繰り返された。
「そんなわたしを釣った遼さんは、優しくわたしをリリースしてくれました!」
 そんなこともあったかもしれない。この日本海沿岸の町に住んで三年も漁業をしていれば、一回や二回は起きうることだ。
「だからわたし、恩返ししにお邪魔したイカ!」
 白飯を勢い良く掻き込んで、ぐむぐむと咀嚼する。
「……」
 俺の夕食はすでに終わっている。だから俺は何も言わずに、卓袱台の上のものを次々に片付けていくイカ娘を眺めていた。
 一汁一菜の見本のような食卓だが、量と味だけはちょっとしたものだ。幸せそうに白飯を飲み込んで、イカ娘は大きな目をぎゅうっと細めた。
「んーっ、おいしい!」
 そういえば、ヤリイカ漁にはアジを使うのだ。ちょうどいい献立だったかもしれない。
「……で?」
「いか?」
 全裸にとりあえず前をぴっちり閉じた俺のジャケットを着た、くりくりした目の小娘は、細い首を小さくかしげた。
「具体的に、俺は何をしたらいいんだ?」
「違うイカ、恩返しさせてほしいイカ!」
 ぴょん、と跳ね上がって、両腕を広げてみせる。
「遼さんがしてほしいこと、何でもしたいイカ! 何したらいいイカ?」
「……っつっても、なあ」
 イカの恩返し。しかも相手は基本的に全裸の子供ときた。何をどう頼めばいいのか、まったく見当が付かない。
「お前せめて、あと10年くらい大人の姿できないか?」
「でもこのへんがイカなんですイカ」
 ジャケットをめくりあげて、平たい腹を見せる――理由になってない。
「何も思いつかないんですイカ?」
「子供に頼むような悩みは無えなあ」
 むー、と唇を尖らせて、イカ娘はおもむろに腕組みをした。
「わかりましたイカ」
 いやな予感は、消えない。
 たぶんこいつ、何もわかってねえ。
 そんな予感を裏付けるかのように、イカ娘は自信満々に言い放った。

「遼さんの奥さんに、なってあげちゃうイカー!」

 わかってないにしても、これは予想外すぎた。
 あんぐりと口を開ける俺にえっへん、と胸を張り、イカ娘は続けた。
「毎日お迎えとか行くイカ! あ、あんまりあの、サウナ? みたいなとこ行かないで欲しいかな、スルメになっちゃうイカから!」
「……いや。あのな」
 言葉を選ぶに選べず口をぱくぱくさせる俺に、イカ娘はずいと顔を近付ける。
「嫌イカか?」
「……」
 丸い輪郭。つぶらな目。摘んだら壊れそうな柔らかい鼻。
 今まで隠しに隠してきたはずのことだが――
 残念なことに俺は、無類の子供好きだったのだ。
「いいイカか?」
 ああ、もうどうとでもなってしまえ。
 返した小さな頷きに、イカ娘は小躍りして喜び、三十秒間ほど妙なうねうねダンスを披露した。

*****
29>>20『いかよめ』 ◆16Rf2BBdUE :2008/11/19(水) 23:43:13 ID:uVAY3K31
以上です。
特に落ちはないです。
恋愛っぽさもあんまりないかも。
30創る名無しに見る名無し:2008/11/19(水) 23:52:38 ID:gFuZ5ng2
烏賊の恩返し……なんだこれ、思ったよりしっくりくるんだがw
子供好きの意味によってはアレだ、まあ捕まるなw
いいぞよくやった
31>>20「いかよめ」 ◆16Rf2BBdUE :2008/11/20(木) 00:03:13 ID:Q1y9MdXw
忘れてました!
一応子供好きはごくごくまっとうな意味で……
結婚はそんなにしたくないけど子供は欲しいひとだという設定でした。
ここまで読んでいただいたようで、ありがとうございました。
32創る名無しに見る名無し:2008/11/20(木) 00:05:15 ID:Am0MXOdU
なんか凄くかわいいんだが烏賊娘
33創る名無しに見る名無し:2008/11/20(木) 08:21:20 ID:6Ijj8Gmi
乙 よくぞやったもんだ
34創る名無しに見る名無し:2008/11/20(木) 17:26:37 ID:X8+R3f5m
ヒマだから何か変なの投下してみる。
35 ◆NN1orQGDus :2008/11/20(木) 17:29:28 ID:X8+R3f5m
“幸せになりましょう”

 荒削りのドラムが印象な曲が流れ、ブブブ、と携帯が震えた。
 着信あり。バッグから急いで取り出した携帯のディスプレイに表示されたのは知らないメアド。
 駅前で待ちぼうけの私は、待ち合わせの人からのメールだと思ったけど、どうやらそうじゃないみたいだ。
 腹立ち紛れに即削除。バッグの中にしまった。
 ハア、と溜め息を吐くと、電車から吐き出されたサラリーマンがパラパラと視界を過っては消えていく。
 背中を丸めて帰宅するおじさん達を見ると、お疲れさまです、だなんて言ってみたくなる。
 寒いのは気温だけじゃなくて景気だってそう。ひょっとしたらその煽りをくらっておじさん達の懐まで寒くなってるのかもしれない。
 そういう人達って心が強いんじゃなかろうか、と思ってしまう。
 多分、私だったら当の昔にポッキリと折れてしまうだろう。
 その証拠に、たかが45分程度の待ちぼうけで私の心は根本から折れてしまいそうだ。いや、既に18分割くらいしてるかもしれない。
 そこまで私の心は脆い。
 だけど、そんな私が待ち続けてるのは遠距離恋愛の彼氏との久し振りのデートだからだろう。
「……遅いなぁ!」
 そろそろ赤い夕日も立ち並ぶビルの向こうに消える。誰が彼とも解らない黄昏時がやってくる。
 時間を確認すると、待ち合わせの時間から時計の長針が一周、つまり一時間が過ぎようとしている。
 一時間あればかなりの事が出来る。これは凄い損失だ。
 ダメだ。堪忍袋の緒がプツン切れた。愛想も尽きた。
 だけど、心だけは折れてないのは何故だろう。折れも曲がりもしないでズッシリ重く、殴れば彼氏の一人や二人簡単に――。いや、一人しかいないけど。
 成る程。これが良くテレビのミステリーだかサスペンスに出てくるバールの様な物の正体だったか。
 ――駄目だ。頭の中がぐるぐる混乱している。
 気持ちを落ち着かせる為に、彼氏の前では猫を被って吸わないタバコをくわえて、火をつけた。
 すうっと一息吸うと、メンソールの冷たい感じが口の中に広がり、タバコの先っぽから紫煙が立ち上ぼって風にさらわれていく。
 ぷはぁ、と吐き出す煙は白く、一瞬私の視界を遮った。
 そして、首筋に温かい何かを押し付けられた。
「ほわぁっ!」
 間抜けな悲鳴を上げた私が振り向いたら、そこには私を苛立たせた原因――彼氏がいた。
「ゴメン、ちょっと遅くなったね」
36 ◆NN1orQGDus :2008/11/20(木) 17:30:19 ID:X8+R3f5m
 私は彼の屈託の無い笑顔に物凄く弱い。
 年の割りには童顔で、黒縁眼鏡が良く似合う屈託のない笑顔は反則だ。
 しかも、口許にエクボなんか作ってる。私を悶え殺す気だろうか。
 事実、思いっきりタバコの煙を吸い込みむせてしまっので呼吸困難気味だ。
「大丈夫? ほら、これでも飲んで落ち着きなよ」
 缶コーヒーを手渡されると、私はそれを開けもしないで羽織っていた上着のポケットに乱雑に突っ込んだ。
「あれ? コーヒー嫌いだったっけ?」
「……ブラックは、ね」
「あれ? タバコ吸うの?」
「……たまには、ね」
 二三事の押し問答。その末にお互いに呆れた様に笑って顔を突きつけ合う。
「ええと、兎に角、遅れちゃってゴメン。怒ってる?」
「……かなり、ね。」
「それは大変だ。気分を直すのに――」
「なにか美味しいものだろうね。具体的には高いもの、とか」
 言葉を遮っての私の主張に、彼氏は折れた。
「じぁあ、初めてのデートで行ったレストラン?」
「うん。あそこは美味しいし、値段も手頃だし……って、高くないじゃん」
 口を尖らせて不平不満の嵐となった私に、彼氏はハハハ、と笑う。
「その後、婚約指輪を買いに行く、なんてどうかな」
 突然の一言に一瞬の空白。
 呆然っしてたら指に挟んだタバコが燃え尽きてフィルターの燃える嫌な臭いがした。
 その異臭で我に返ってコクコクと油の切れたブリキの人形みたいに頷いた。
 二回目。彼氏は屈託の無い笑顔で、新しいオモチャを買って貰った子供みたいに喜ぶ。
「そ、その代わり……」
「その代わり?」
 口ごもった私の瞳を、彼氏はくりくり大きな目で上から覗き込んできた。恐る恐る、何かを怖がる感じの不安一杯の眼だ。
「幸せになろうね」

 ――そう。それが一番大事なんだよね、お互いにさ。

 了。
37 ◆NN1orQGDus :2008/11/20(木) 17:34:09 ID:X8+R3f5m
投下終了。
38創る名無しに見る名無し:2008/11/20(木) 17:34:52 ID:Q1y9MdXw
乙です。
上手いですね。女の子の心の動きや、彼の魅力なんかがこの長さにぎゅっと凝縮されています。
読んでるひとに「この子はこういう子なんだろうなあ」っていろいろ想像させちゃうのはすごいと思います。
39創る名無しに見る名無し:2008/11/20(木) 19:21:27 ID:rH083lb0
過去の経験を糧に恋愛物書いてみようかと思って、昔を思い出してみた

待ち合わせの駅で、誰も来ない相手を丸一日待ちながら
駅長に肩を叩かれたあの日

クリスマスの翌日に別れを切り出してきたあの人

「今日は綺麗だね」って褒めたら
「じゃあ普段の私は綺麗じゃないの?」と怒鳴られた夕暮れ



だめだ、モニターが涙で霞んで書けねぇ
俺は女相手でも拳で殴れる男になりたい


40創る名無しに見る名無し:2008/11/20(木) 20:54:53 ID:Q1y9MdXw
自作SSの中の彼女ならそんなことは言わないししないぞ!
さあ!
41創る名無しに見る名無し:2008/11/20(木) 21:00:46 ID:I6qAj6zT
自作SSの彼女が包丁を意味深に眺めてるのですがどうしたら
42 ◆NN1orQGDus :2008/11/20(木) 21:03:04 ID:X8+R3f5m
“beautiful or cute”

 久し振りのデートだからと早めに来てしまった為に、タバコを何本も灰皿に捨てる時間を待つ羽目になった。
 まあ、それも仕方ないとありふれた銘柄のタバコの空き箱をクシャッと握り潰して灰皿に無理矢理に押し込む。
 しかし、寒い。出掛ける前に見たニュースでは北海道では雪が降っているとかなんとか言っていた。
 流石にそこまでは寒くないだろうけど、寒空の下の駅前では冷たい風がヒュウヒュウと吹き付ける。
 たかだか30分早く来ただけだから大丈夫だろうよ、とタカをくくった俺がバカだった。
 後一枚多く何かを来てくれば良かったかも知れない。いや、皮ジャンを着てくれば良かったかも知れない。
 あの皮ジャンは大枚はたいて買っただけあって、十年選手の大ベテランだけどくたびれてない。
 むしろ十年という時間のお陰で新品では出せないなんとも言えない味が出ている。
 大した衣装持ちではない俺が自慢できる数少ない逸品の一つだ。
 失敗したな、とぼやきつつジャンパーのポケットをまさぐると、気付いた。さっきのタバコでおしまいだった。
 タバコ飲みがタバコを切らす事ほど悲惨な事はない。
 時計を確認すると、待ち合わせまでは後十分程度ある。タスポを持ってないから最寄りのコンビニに行って帰ってくるには微妙な時間だ。
 さて、どうしたものか。
「ごめん、待たせちゃったかな」
 彼女が駅から出てきた。
 いつもは男の俺よりもラフな恰好の彼女だけど今日は違った。
 キレイ系のカットソーに丈の短すぎないフレアっぽいスカート、明るい色のコートに踵の低いショートブーツがシックに決まっている。
「どうしたの、変な顔しちゃって」
 よっぽど間抜けな顔をしてるのだろうと、ツルリと顔を撫でた。
「いや、いつもよりも綺麗だなってさ」
 率直な感想を言ったつもりだったけど、それが地雷だったみたいだ。
「いつもは綺麗じゃないってワケ?」
 目が笑ってない。心なしかコメカミがピクピクとひきつっている。
 早口で怒鳴りながら俺を睨んできた。
「そうじゃない。いつもはカワイイだけど、今日は綺麗だって事」
 歯が浮くような事だけど、これも素直な感想だ。
「なにそれ。30点のお世辞だけど許してあげる」
 一転、笑顔になった。さっきの怖い顔とはうって変わってクスクスと笑い出す。
 ――勝てないな、一生かかっても。その笑顔には完敗だ。
43 ◆NN1orQGDus :2008/11/20(木) 21:05:44 ID:X8+R3f5m
投下終了。
>>39の人の話でインスピレーションが涌いたので書いてみた。
44創る名無しに見る名無し:2008/11/21(金) 18:36:03 ID:vQ0Ibbtm
ほほう、リアルな感じの流れがいいね
45創る名無しに見る名無し:2008/11/22(土) 19:07:35 ID:Wz7hCJPH
浮上
46創る名無しに見る名無し:2008/11/22(土) 20:23:51 ID:MN+A+pCf
イカ娘w
47創る名無しに見る名無し:2008/11/24(月) 18:35:18 ID:Ml90/EDR
イカ娘に萌えてしまった…
いいじゃないか!
という訳で自分も懲りずにSS投下

幼女っぽいものと百合差分。

http://34bangai.chips.jp/novel/ss-12.html
http://34bangai.chips.jp/novel/ss-13.html
48 ◆NN1orQGDus :2008/11/25(火) 20:09:23 ID:lh9wkam3
“わがまま/in the cafe”
 カフェの薄暗い店内は良く言えば落ち着いているけど、悪く言えば辛気くさい。
 禁煙席がない上に換気があまりよろしくないみたいで、店内はかなり煙っぽい。
 それでも不満を口に出さないのは、彼がこのカフェをいたく気に入っているからだ。

 カモミールティーのクセの強い香りを楽しみながら飲んでいると、対面に座っている彼がどばどばとガムシロをコーヒーに入れるのが見えた。
「ちょっと入れすぎじゃない?」
「ああ、甘党なんだよね、俺」
「そんなに入れると体を壊すよ?」
「苦いの飲んで舌を壊すよりはマシさ」
 言葉通りに甘党な彼は、渋いのや苦いのが嫌いだ。
 しょっぱいのも好きじゃないらしく、付き合って間もない頃に夕飯を作ってあげたんだけど、玉子焼きがしょっぱいというだけで拗ねられた。
 それ以来、私は彼の好みを色々と織り込んだ。
 たとえば音楽。私はポップスが好きなんだけど、彼の好きな古い洋楽を聞くようになった。
 だけど凝り性な私は彼よりも詳しくなってしまい、その事で彼の不興を買ったり買わなかったり。
 不満がないわけじゃない。
 歩み寄るのは私だけで、彼の方からは決して歩み寄ろうとはしない。踏み込むのは私ばかりで、彼ははじめの一歩すら踏み出してくれない。
 それでいて、フェミニストを気取っているのか歩く速度は私に合わせてくれる。
 なんだかちぐはぐでアンバランスだ。
「そう言えば……吸わないよね、タバコ」
 タバコの煙臭い店が好きなわりには、彼がタバコを吸っている所を見た事がない。
 会話が滞り気味になったので、温くなったカモミールの残りを飲みきって話のタネにと切り出しだ。
「まあね。柔道やってたからな」
「柔道? 初めて聞いたよ」
「別に聞かれなかったからな。小学校から高校まで、ざっと足掛け九年くらいか」
「でもさ、なんで柔道やってるとタバコ吸わないの?」
「組んだらタバコの臭いがモロバレだろ。未成年なのにタバコを吸ってたら練習で思いっきり投げられちまう。ずっと吸わなかったから吸わないだけさ」
 彼は、ハハハと笑って首をすくめた。
 私には良く解らないけれどそうなのだろうか。へぇ、と驚きの声をあげる。
「でもさ、九年も続けるって凄いね」
「……やめたかったけど、やめるって言う勇気が無かったんだよ!」
49 ◆NN1orQGDus :2008/11/25(火) 20:10:30 ID:lh9wkam3
 恥ずかしいのか、俯いて耳まで真っ赤になっている。
 だったら言わなきゃ良いじゃん、そう思うけど、隠さずに素直に話してくれるのは嬉しい。
「……ニヤニヤと気持ち悪い顔で笑うな!」
 言われるほど気持ち悪い顔で笑ったのだろうか。でも、仕方ない。
 プイッと顔を背けるのも、拗ねた顔も何もかもが子供っぽくて可愛い。
 そんな事を言うと、『男に可愛いっていうのは馬鹿って言うのとのと同じだ!』だなんて怒るけど、そこがまた可愛い。
 具体的には、私よりもね。もしくは頬擦りをしたくなるくらい。
 だから、私は何でも許してあげるのさ。

了。
50 ◆NN1orQGDus :2008/11/25(火) 20:11:43 ID:lh9wkam3
投下終了。
スレが活発化するのを期待してageてみる。
51創る名無しに見る名無し:2008/11/25(火) 20:28:19 ID:RfllqSQE
初恋が二次元の人には理解できない感情だ
これがリアルな恋愛だというなら俺には一生できないと思った
52創る名無しに見る名無し:2008/11/26(水) 11:46:48 ID:oyNOZRc+
へタレだけどかわいい彼氏だなw
53創る名無しに見る名無し:2008/11/26(水) 18:25:08 ID:aAaRtaW4
ここは百合な恋愛物もあり?
54創る名無しに見る名無し:2008/11/26(水) 22:29:36 ID:IZ4hrIVY
百合は該当スレがありますわよ〜
http://namidame.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1220103238/
55 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 22:18:47 ID:qI2fP5Hw
せっかくなので注意を引くべく
56創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 22:20:32 ID:eb+xEO56
クリスマスだし、クリスマスネタのラブラブがあってもいいよね
57 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/12/17(水) 22:21:18 ID:qI2fP5Hw
それはS−1にください><;
58『いかよめ』その後 ◆16Rf2BBdUE :2008/12/18(木) 16:46:20 ID:xfV7xH0y
ネタもないのに書いてみる。


雪のちらつく港町。
鉛色の空の下を、白いトレーナーの子供が駆け回る。
「いかー!」
じゃれつくように雪の粉を掴み、冷えたてのひらを子供用のジーパンにこすりつける。
「いかいかー!」
喜びの声、のつもりらしい。
宇佐見はいかつい頬を微笑に緩めながら、中指と人差し指に挟みっぱなしの煙草をくわえた。
不意に子供が立ち止まり、宇佐見を見る――
「雪だるまできますいかー?!」
「すぐに、な」
「やりいかー!」
雄叫びなのかなんなのかいまひとつわからない声を上げて、子供はぴょんぴょんと跳ねた。
火が点かないままの煙草を紙箱に戻し、宇佐見は立ち上がる。
「ほら、中に戻ってろ。風邪ひいちまうぞ」
駆け回る子供の襟首をひょいと掴み、小さな体を抱える。
虚を突かれたようにぴたりと静まったイカ娘が、何か思い出したかのように小さな手のひらで宇佐見の背をばしばし叩いた。
「もー、それはお嫁さんの台詞いかー!」
「……いや、オフクロの台詞」
抱えられ、運ばれながら、イカ娘はいやいやをする。
「イカ風邪ひかないいか!」
「冷凍になっちまうだろ」
こともなげに答えて靴を脱ぎ、玄関の戸を閉める。

イカ娘が押し掛け女房とやらを始めて、一ヵ月が経とうとしていた。
なんのことはない、娘がいきなりできただけの話である。
それ以上のものになられても困るので、別段かまわないのだが。
「おいものにおいいか! 楽しみいか!」
「……雑食だよな」
「いか?」
首を傾げるイカ娘に、軽くかぶりを振ってみせる。
「いや……好き嫌いせず、大きく育てよ」
微笑とともに言った言葉に、娘は大きく頬を膨らませた。
「それお母さんの台詞いか!」
「オヤジの台詞だ」
憤懣やるかたない様子で、イカ娘は思ったより激しく宇佐見の肩を殴った。
「わたし遼さんのお嫁さんいか!」
「それは娘の台詞だな」
こともなげに言って、イカ娘をようやく畳の上に下ろす。
もぞもぞとこたつにもぐりこみながら、娘は言った。
「遼さんなんて嫌いいか」
「……」
甘い芋の香りを放つ電子レンジにちらりと視線をやる。まだしばらくかかりそうだ。
宇佐見は軽く息をつき、言った。
「もうすぐクリスマスか」
こたつから、イカ娘の小さな頭がぴょこんと突き出た。
きらきら輝く黒い目を見下ろし、苦笑する。
「……タコ壺みたいだな」
「いか!」
何やら機嫌を直したらしいイカ娘の黒くやわらかい髪を、とりあえず乱暴に撫でておく。
季節は冬。
家族の暖かさが、妙に身に染みる季節だった。
59創る名無しに見る名無し:2008/12/18(木) 17:31:18 ID:Xisw1tkU
いかー!
60創る名無しに見る名無し:2008/12/18(木) 19:54:23 ID:v+MOG4ou
まさかの烏賊娘続編キター!
61創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 20:43:42 ID:BdQDD9CH
過疎ってるなぁ。
恋愛物好きな人いるん?
62創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 20:47:41 ID:y/01wEcm
だだ甘好きだよ
最近でいうと有川浩のラブコメ今昔とかただ甘すぎてもだえた
63創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 20:51:16 ID:BdQDD9CH
有川浩ならレインツリーの国とか植物図鑑が好きだね
だだ甘いいよだだ甘
64創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 20:53:45 ID:y/01wEcm
レインツリーの国ってめんどくちゃい聴覚障害者の女の子とのラブストーリーだよね
植物図鑑って読んだことないな
65創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 20:57:10 ID:BdQDD9CH
めんどくちゃいとか言うたらあかん!
植物図鑑はマイナーだから……
66創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 21:03:24 ID:y/01wEcm
実際の恋愛なんてめんどくちゃいものなんだから
そこをリアルに書いてるのはいいよね
海の底とクジラの彼の望とかもめんどくちゃい性格だけど好きだ
67創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 21:10:23 ID:BdQDD9CH
めんどくちゃいのを書くのが恋愛物を書く醍醐味な訳で
まあ、自分はストーリーじゃなくてシュチュエーションを書いてるだけですが。
ちなみに植物図鑑はケータイ小説サイトで連載してるよん

 ごめんこの話ちょっと長くなる。
 バイトとかあるんだったら、先断っといてくれると、すごいうれしいんだけど。
 あ、いいんなら、じゃあ、話すけど。うん。

 えっとね。
 あいつの話はあんましたくないんだけどさ。
 私、あいつの前世はマイマイカブリだったんだと思ってるんだよ。
 知ってるかな、カタツムリの殻に押し入って中の宿主食い散らかして去っていく虫なんだけど。

    ◆ ◆ ◆ ◆

 三年近く付き合ってる恋人に結局アプローチできないでいる童貞男を笑いたければ笑うがいい。
 高校の友達どもはとっくに経験済みで、事あるごとにしつこく自慢する。
 「俺のサークルの女は軽いから紹介してやる」とか「お前どんだけ純情ボーイだよ」なんてメールにも慣れた。
 本っ当に、ヤリたいことをヤリたいようにやってる奴らは素晴らしいですな。地球ごと潰れてしまえ。
 まあ、原因は僕のオクテっぷりにあるからだけじゃないんだが。

 里奈とは僕が高校の時から付き合ってるけど、何かと評判がよろしい。
 見かけは悪くないから気立てもそれなりにいいから、友達もそれなりに居るし、僕以外の男からもよく言い寄られるらしい。
 透き通っていながら凛としたその声は、正直鈴虫の鳴き声にも劣らないと思う。
 それに肩まで伸ばした黒髪がせせらぎのように指に絡まる感触なんて忘れられない。
 彼氏の欲目を承知で言えば、彼女の瞳を見れば誰だって恋に落ちるはずだ。
 僕も落とされた一人だ。
 ただひとつ、変態的な昆虫マニアだってのに目をつぶれば……ね。
70創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 23:57:42 ID:WO3Yvzyp
 

 昔から里奈は昆虫とか爬虫類が好きだったらしく、自分でも幼虫とかを育てている。
 今も隣の寝室には名前もわからない虫が所狭しと並んでいる。一年経っても正直ここが女子大生の部屋とは思えない。
 それこそ実家の里奈の部屋はもっとぶっとんでるらしいので(クラスの女子を呼んだら次に救急車を呼ぶ羽目になったとか)、
 万が一、仮にもし婚約とかするときはどうしようかと時々思う。

 というか最初この部屋に入った日がいまだにトラウマだ。
 ――いや、ぶっちゃけ男なら、女子の部屋に二人っきりで入るとなると、やっぱ、期待するじゃん。
 けど部屋入って、正面の水槽に居た、チワワぐらいの大きさのトカゲに一瞥された瞬間、甘い煩悩が一気に消し飛んだ。
 見渡すと僕は部屋中の虫から睨まれていた。
 話が違うだろ!
 どんなテーマパークだよここ!
 そしたらいつもは陶磁器のように冷たくて可愛らしいはずの里奈の指が、僕の手をぎゅっと握って、
 僕をまばたきせずに上目遣いで見上げて、「彼氏なんだし、これぐらいいいよね?」ってはにかんだ。
 軽く女郎蜘蛛みたいな目をして。
 とっさに「喰われる! 捕食される!」と思った。超怖い。
 その後「これさすがに人呼べないだろ!」って説き伏せて隣の寝室に徹夜で虫関係を全部移動させたのでした。
 彼女と僕の初めての夜の事です。
 あの日は忘れられない一日となりました。間違った意味で。
72創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 23:58:43 ID:9U8Hi/kV
しえん

 でまあ今日も僕はいつもの通り大学近くのミスドで食糧を買い込んで里奈の家に着いた。
 そうして今日も僕はビデオに撮った教育テレビの「ダーウィンが来た!」をドーナツ食いながら見せられるのだ。
 里奈の飼ってるカブトムシの幼虫とともに。
 ソファで二人寄り添ってタンザニアミドリカマキリが産卵後オスを食い殺すシーンを見ながらポン・デ・リングをついばむのだ。
 ビデオを何度も巻き戻して、「ほら今口から粘液出した、見てよ、すごくない?」とか指差す彼女と一緒に。
 共食いする昆虫を大画面で見ながら。
 なんだこの図。前衛芸術かこれ。
 よく食事中にあんなもの見れるよなお前。
 なんで付き合ってるのかわかんなくなるよ本当。

 でもその日、里奈は僕がDVDを再生しようとするのを止めて「話がある」と言った。
 いつになく真剣な、混乱を必死で鎮めようとしているかのような表情が、いつもとはあまりにも違っていて。
 僕は里奈が落ち着けるように、いつもどおりソファに二人座って。
 先にドーナツでも食べる? って勧めたりして。何もわかってないふりをして。
 手を握ると、手のひらがびっくりするほど熱くなっていた。ほんの少し、指が震えていた。
 僕がその指を強く握って、里奈が落ち着くのを待っていた。
 やがて里奈は話し始めた。
 それは彼女が頑なに拒んでいた、昔話だった。
74創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 23:58:53 ID:gv7Wusi+
支援
75創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 23:59:02 ID:l1U2KjxT
syen
76創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 23:59:19 ID:WO3Yvzyp
 
77創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 23:59:20 ID:9U8Hi/kV
支援

    ◆ ◆ ◆ ◆

 小さい頃、お父さん含めた三人で近所の公園掃除してた時、私はマイマイカブリをヤドカリだと勘違いして母親に見せに行ってね。
 そしたら叱られた。「そんなばっちいもん、すてちゃいなさい!」って。軽く引くぐらいの勢いで。
 でもお父さんは「ばかだなあ、ヤドカリはもっとケンキョな生き物なんだよ。そいつはオウヘイだし、マイマイカブリだな」って言ってた。
 お父さんの、顔中汗だらけのにへっとした顔が、なんか仲間でも見つけたみたいで、幼心にちょっと気持ち悪くて。
 でもまあ父親だったし、きもちわるーいとか、パパとかおがにてるーとか、私も幼くって面と向かって言えっこなかったし、
 いろんな意味で「変な虫見つけた、最低」とか思ってた気がする。
 あの時私、たぶん顔に出てただろうな。お父さんには悪かったけど。
 なんかたまに思うよ、お父さん、どう思ってたのかな、って。
 小四の時にうちの家族離婚したからいまさら聞けないけどね。

 今、離婚から九年経って私十九でしょ。
 九年も経てば母親だって老けたけど、大体それまでと変わってなくて、
 唯一変わったのは私の家で変な男が勝手に寝泊りし出したってぐらいだったの。
79創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 23:59:51 ID:9U8Hi/kV
しえん
80創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 23:59:52 ID:WO3Yvzyp
支援

 そいつはなんか知らないけど小六の頃、急にうちに居ついてた。
 夏過ぎた辺りに最近母親が家にいないなーとか思ってたら夜中急に男連れ帰ってきたのが最初かな。
 それからちょくちょくうちで過ごすようになって、気づいたらうちに住んでた感じ。
 私が中学上がる頃に、母親が「今度はヒロシさんをお父さんだと思いなさい」とか言ってた。
 そんなゲームのカセットみたく取り替えらんないよってすごいムカついたし。
 結局私が妥協するしかなかったんだけどさ。

 あいつ、最初はなんか服とかちゃんとしてて「俺、絵で食ってこうと思ってんですよー」とか言ってたけど、
 だんだん化けの皮はがれてきて、今じゃタンクトップで朝から寝てる。
 あいつ明らかヒモだし。
 うちの母親完全に金づるにされてるし。
 本当死ねば良いのに。みんなまとめて。

 ってかなんかあいつが来てから、昔の私が持ってた男に対する幻想とか夢想とかそんなのが全部消し飛んだ気がする。
 だってあいつ私が寝てる隣の部屋で母親とエッチするんだよ?
 最初は何とか寝たふりして、っていうより必死で自分寝かしつけようとしてたけど、
 だんだんそういうのどうでも良くなってきて、中三の時にはもう普通に受験勉強とかしてたよ。
 ってかあいつらもこっちに対する遠慮がなくなってきたから、変に気を使えばこっちがつらいだけだし。
 つーか「隣に娘がいる」ってことエッチのネタにしないで欲しい。聞こえてんだよ全部。やっすいマンションなんだから。
 まあそれぐらいなら許せるってか無理にでも許さなきゃ頭がおかしくなるって感じだった。
 でも、中二の夏ん時、ありえないこと起きた。
 私、あいつに襲われかけた。
82創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:00:21 ID:yBDxwV24
しえん
83創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:00:25 ID:WO3Yvzyp
支援
84創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:00:37 ID:l1U2KjxT
支援
85創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:00:53 ID:9U8Hi/kV
しえん
86創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:01:03 ID:dUfT7f/j
支援

 その日は女子テニス部の大会近くて、結構夕方近くまで練習してたんだけど、
 帰ってきたら家に誰も居なくて。あいつは缶ビールでも買ってんだろうけど、珍しく母親も居なくて。
 まあまた母親おばあちゃんにお金借りに行ってんだろうなとか思ってたんだけど。
 私疲れてたし、体育着のまま部屋のベッドで寝ちゃったのね。まだお父さんが住んでたころに買ったやつ。
 そしたらなんか近くに気配感じて、「あれえおとうさんかなあ」って夢の中で思って、
 薄目開けたら、あいつの頭が真ん前にあって。私の胸んとこすごい見てて。顔真っ赤で。

 ほぇ、とか変な声出てた。ていうか頭止まった。何これ。え、これ何?こういうの何なの?って。
 わけわかんなくなってすごい焦って息できないぐらい怖くなってどうしようもなくなってた時、あいつが言った。
 なぁ里奈ちゃん、俺が今日、里奈ちゃんを大人にしてあげよっか、とかって。
 背中の温度が一瞬、下がった。今、私やばい、って。
 反射的に丸めた粘土みたいな横っ腹蹴り上げて「出てけ!きもいんだよ!」って叫んだらびっくりして飛びのいた。
 その時、胸がどきどきして止まんなかった。頭んなかパニくってんのに、乗り物酔いっぽい感じがしてた。
 のどの中の水分がやけに少なくって、声が空回ってうまく出なくて、超あせったし。
 それで近くにあったラケットで背中殴りつけて「うちから出てけヘンタイ!」とか叫んだ時辺りに母親が帰ってきて、
 私必死でその事話したら、「何もそれぐらいのことで殴ることないでしょ!」って逆に叱られて。
 訳わかんなくなって、自分がどこにいるのかもわかんなくなってきて、
 とにかくもうこんなとこ居たくないって思って、その辺に引っ掛けてあったバッグに財布とケータイだけ入れて家から出たの。

    ◆ ◆ ◆ ◆

 平静を装って、アルバムを紐解いて笑い話でもするかのように喋っていた里奈の身体が、いつしか震えていた。
 もういいよ、話すの辛いんなら。大丈夫だから。
 そんな言葉を掛けたけど、「お願い最後まで聞いて」って。
 僕は里奈を抱き寄せる。
 神様どうか里奈を苦しめないでください、なんて思いながら。

 こういうとき、結局僕は何もできない。
 里奈を安心させられるような、そんな言葉なんて、考えられない。
 すぐそばにいる里奈の身体を支えてやることしか、できない……。

88創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:01:13 ID:nr0pL9p+
支援
89創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:01:23 ID:yBDxwV24
しえん
90創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:01:41 ID:dUfT7f/j
支援
91創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:01:52 ID:nr0pL9p+
後書き入れてピッタリかな?

    ◆ ◆ ◆ ◆

 その時どこをどうやって行ったのかとか、全然覚えてない。
 夕焼けと夜が混じって紫色になった空とか、ビーズみたいに作り物っぽく光りだした街灯とか、
 そういうのが少し頭の中に残ってるだけ、って感じだよ。今も。
 それでどっかの交差点で赤信号待ちしてる時に、急に「あ、足寒い」とかって思って、
 そしたら我に帰った。
 あ。あたし今日どうしよう、みたいな。
 その時、車がひっきりなしに目の前横切ってく感じとか、チャリ乗って塾に向かってるクラスの男子とか、
 道路の向こう側ではしゃいでる小学生の集団とか、そういうのがいきなり気になりだして、
 うわ、今私一人だ。ってすごい思って、急いでケータイで親友の裕美に電話掛けた。
 その時なに話したか覚えてないけど、その日は裕美の家に泊まれることになった。
 幸い裕美の家のおばさんが割と真剣に、っていうか私以上に心配してくれて、それから三日ぐらい裕美の家に泊まってたかな。

 やっぱさすがにその日の夜は寝付けなかった。
 一緒の布団で寝よって裕美に言われて、え、いいよとか言ってたけど、結局手をつなぎながら寝てた。
 裕美といろいろどうでもいい話して、それこそセシルマクビーの新作の話とか、今話すことじゃないのに無駄に喋って、
 裕美が疲れて寝ちゃった後、豆電球のやわらかい明かりの下で、それでも寝付けないから、いろいろ良くわかんないこと考えてた。
 その時かな、ぼんやりとわかった気がしたよ。
 なんていうか、大人になるのって、結局あの程度なんだなって。

 なんか昔は「大人」っていう別の生き物になって、そのころには私もいろいろ成長してて、
 いい感じの男の人といい感じに付き合って、子供とか生まれて、なんとなく幸せになれるのかな、とか思ってたんだけど。
 あんな家で育ったからたいした夢とか持てなくなってたけど、それでもなんとなくそれぐらいのことは考えてたんだよ。
 けど、そういう感じも、なんか、こう、やっぱないんだなあ……って。
 ――私もいずれ、気づいたらどうでもいい男と暮らしてたりして、母親と同じようなことされたりしてるのかな、って。
 大して愛してるわけでもないのに、愛し合ってるとか思い込んで、ああやって馬鹿みたいに繰り返すのかな、って。

 そんなこと考えてたら、ふっと、お父さんの顔が浮かんだ。
 自分でもびっくりするほどはっきりと、「あ、お父さんまだいたの」ってぐらいに。
 そしたら、おもちゃ箱ひっくり返したみたいに思い出が溢れてきて。
93創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:02:07 ID:9U8Hi/kV
しえん
94創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:02:27 ID:WO3Yvzyp
支援

 そういえば昔、幼稚園通ってた頃、部屋の中で青虫見つけて。
 最初なんだかよくわからなくてびっくりしたけど、そのうちああいう姿かたちに慣れてきて。
 その時一人で留守番してたからヒマで、なんとなくつっついてみたりしたんだよね。
 うぶ毛のざらっとした感じとか、私の小さい指をいやがってよける動きが、なんかかわいくて。
 それでふっと気づいたら、お父さん帰ってきてて。
 私びくってして。ほら、こういうの触ってると母親キレるしさ。
 でもお父さんはそういうの言わずに、
「ほら、駄目駄目。そうやって触るのは、虫さんにとっちゃ丸太ん棒でたたかれるのと一緒なんだからな」って。
 そんなひどいことしてる自覚なかったし、私、なんかすごい申し訳ない気持ちになって。
 そしたらお父さんが押入れから虫かご持ってきて、里奈ちょっと外から大き目の葉っぱ持ってきてくれとかって言われて。
 言われたとおり外出てって、その辺の草をちぎって持ってきた。なんかすごい晴れてたな、その日。
 それでお父さんがその青虫を丁寧に自分の太い指に移して、私の持ってきた葉っぱに乗せたの。
 私も葉っぱごと大事に虫かごに入れて。
 そしたらなんか、全部収まるべきところに収まったような気がして、ちょっと安心して。
 私、調子乗って「このまま育てたい」って言い出したんだよ。
 お父さんも「じゃあママには秘密で育てるか」って言ってくれて。

 結局その日の夜にママ……ってか、母親にバレて、やっぱ捨てなさいって言われてさ。
 でもお父さんが何とか説得してくれて、自分で面倒見るって約束で、最後まで育てたよ。
 名前とか付けてたよ。確か……あ、「むしお」だ。
 笑っちゃうでしょ。虫に「むしお」って、ストレートすぎてさ。
 ってか、虫だからって生理的に受け付けない、って感じはなかったな。何でかわかんないけど。
 なーんか親近感感じてたんだよね。あの虫に。
 ツタか何かの葉っぱちぎって、むしおの口元に端っこつっつくと、はむはむってかじるんだよ。
 なんか良くない? いじらしくて。
 ああ、私の葉っぱ、食べてくれた、って。私の持ってきた葉っぱ気に入ったんだ、って。

 お父さんでさえも私がそこまで青虫フェチになるなんて思ってもなかったみたいだよ。
 気づいたら私のが蝶とか詳しくなってたもんね。
 ……うわ、幼稚園で男子からちょっかい出されたの思い出したし。
 ま、そりゃ女子が昆虫図鑑独占してたら、変なやつって言われるのもしょうがないよね。まあそうだよ。
 ――あ、母親? あの人は最初から相手にしてなかったよ。
 最後まで「汚いものいじったら手を洗いなさい」って言ってた。酷くない? それってさあ。

    ◆ ◆ ◆ ◆

 実の父親の事を話す時だけ、里奈はいつもの調子に戻った。
 あたかも昔を懐かしんでいるだけといった、軽いノリで。
 時々僕も噴出してしまう。こいつ昔っからそんなやつだったのか、って。
 それを見逃さない里奈は「ひどい。慰謝料請求するよ」なんて笑う。僕もつられて笑ってしまう。
 けれど、話は続く。二人手を取り合って、記憶の海に深く沈みこんでいくようにして。

96創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:02:37 ID:yBDxwV24
しえん
97創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:03:08 ID:9U8Hi/kV
しえん
98創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:03:10 ID:WO3Yvzyp
支援
99創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:03:20 ID:1h/N7Wda

    ◆ ◆ ◆ ◆

 んでね、気づいたらそいつサナギになっててさ。
 その頃には私も図鑑で幼虫がサナギになって、羽化するのも知ってたから、それ自体はあんま驚かなかったんだけど。
 ――なんでかね。
 置いてかれる気がしたんだよ。
 お父さんから「ちょうちょになったら逃がしてあげなさい」って言われてたからかもだけど。
 なんか、私の葉っぱで育ったむしおが、私だけ置き去りにして勝手に飛んでっちゃうのが、すごい嫌で。
 あの時は私も小さかったし、いや、今もそんな変わんないけどさ、
 けどやっぱその時は、自分の気持ちとか、自分自身わかってなかったから。

 笑わないで聞いてよ。
 私、あの虫に嫉妬してた。
 私だってサナギになって、静かに過ごした後、自分だけの羽で飛んでみたかった。
 色とりどりの花の蜜を吸って、青空に自分の羽をはためかせてみたかった。
 っていうか、私だって、自分に葉っぱくれる人とか、居たらいいな……とかってね。
 いや、ベジタリアンって意味じゃないって! そんな気がしたってだけだよ。
 確かに私、肉そんな好きじゃないけどさ。

 でもその話、パパにしたんだ。あ、お父さんにね。まあどっちでもいっか。
 そしたらパパ、いつになくまじめっぽい顔して、こんなこと言ってた。
 今でも覚えてるよ。

「いいかい里奈、人間もいつかサナギにこもるんだよ。
 だから、心配しなくてもいい。
 そりゃアリやクモみたいにサナギ作らないやつもいるけどさ。
 でもアリはいつでも仲間と一緒じゃなきゃいられないし、
 クモなんか誰かが来てくれるのを待ってるだけなんだ。
 それに比べりゃ、アゲハチョウやカブトムシはすごいぞ。
 みんな自分の力で、自分の身体で、元気にやってる。

 里奈、お前もサナギに入るんだから、心配すんな。
 むしろそのうちサナギに入るのが怖くなるときもあるだろうけど。
 そりゃあサナギの中は暗くて狭くて、誰も居ないから、寂しいだろうからね。
 そしたら里奈、こう思えばいいんだ。
 『わたしは今、ちょうちょになるための羽をつくってるんだ』って。
 サナギから出られたら、いっぱい大空を飛べるんだって、そう思うんだぞ。」

 私、その言葉の意味が本気でわかんなくて、
 とりあえず「アリさんはがんばりやさんだよ」って反論したりした。
 そしたらお父さん吹き出して、「そうかそうか、じゃあ里奈はアリさんを目指すといいな」って言ってくれた。
 でもその後、お父さん私の目を見て、ちょっと怖いぐらい真剣な顔して、
 「でもそのちょうちょはちゃんと逃がせよ。じゃなきゃサナギといっしょだからな」って言ってた。

 その時の顔が、裕美の家の暗い布団の中で、急によみがえってきて。
 そしたら、結び目がほどけるようにお父さんの声が聞こえてきて。
 目の前の殻が破けてくような感じがして。
 とても愛おしくて、夜だったのに明るくなった気がして。
101創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:03:39 ID:yBDxwV24
しえん
102.:2008/12/23(火) 00:03:43 ID:dUfT7f/j
 

 気づいたら私、泣いてた。
 目を覚ました裕美に抱きしめられて、その時ずっと泣いてた。
 裕美の体温をそのまんま感じて、ああ、私大丈夫なんだ、とかって思った。
 正直話しててなんか良くわかんないけど。すごいうれしかった。

    ◆ ◆ ◆ ◆

「――それから先は、君も知ってる通りだよ。」
 里奈はそう言って昔話を終えた。
 緊張から解かれた里奈の気持ちが僕にも伝わって、するととたんに冷蔵庫の音がうるさく聞こえだした。
 家の前の道路で、はしゃぐ中学生の騒ぎ声が聞こえた。
 里奈の過去から急に現在に引き戻された気がして、めまいを感じた。
「紅茶でも、入れるよ」
 鼻声で小さくそう言って里奈は僕の腕から抜けて、台所へと立った。
 僕から顔を背けるように。
 やばい、メイク崩れちゃったかも、なんてひとりごちながら。
 僕は……やっぱり、何も言葉を掛けられなかった。
104創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:04:12 ID:yBDxwV24
しえん
105創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:04:30 ID:dUfT7f/j
支援

    ◆ ◆ ◆ ◆

 なんか私の話、思ってた以上に長くなっちゃったね。日とかもう暮れてるし。あは。
 ごめん、付き合わせちゃって。ていうか付き合ってるんだし、当たり前か。でもごめんね。
 とりあえず今度ミスドか何かおごるから許してよ。ってかむしろ払わせて。

 だって、裕美以外にこんな話聞いてくれたの、君だけだったし。
 私ってさ、変わってるじゃん。
 自分で言うのもあれだけど。
 それわかってるし、人から「お前なんか変」って言われるのも割と慣れてるんだよ。
 けど逆に、だからなんだけど、触れられたくないとこは絶対触れられたくなかった。
 だから、君が私好きだって頭では知ってても、どうしても……ダメなとことかあって。

 ごめんね変な話付き合わしちゃって。
 けど私、前、君としようってとき、断ったじゃん。
 あの時、すっごい私後悔して。っていうか君にも心配掛けちゃったし。
 なんか言い訳みたくなっちゃってるけどさ。ほんとごめん。
 君と、母親の男がぜんぜん違うって、頭ではわかってたの。
 けど、どうしても、その時になったら、あの男の顔を君に重ねそうで。
 すごい怖かった。
 自分の思考とか、自分が母親と同じになるのが、そういうのが全部。
 高校の時とかも、身体の仕組みが母親に近づいていくのがすごい嫌で。
 だから、あんなことしたんだと思う。

 死にたくは、なかったし。
 死ねないだろうな、とも思ってたけど。
 でも、死んだら楽だろうな、とか思ってたし。
 最期ぐらい、むしおと同じに空とか飛んでみようかな、とか、考えてたかも。あははは。
 あの時は君にも迷惑掛けたよね……ごめんね、本当。
107創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:04:44 ID:yBDxwV24
しえん

 でもさ、やっぱさ、私にとって、中学高校の頃って、サナギだったんだと思う。
 サナギの中で、身体を傷つけながら、別の生き物になろうとしてたんだと思う。
 あのね、高校二年の十一月十三日、放課後高校近くの公園に呼び出して、私に告ってくれたよね。
 あの日、笑っちゃうかもしんないけど、
 生まれて初めて、生まれてきて良かったな、って素直に思えたんだ。
 私も、愛されることあるんだ、って。
 映画とか、ドラマで見たのって、自分の親と重ねたりして、そんなのないって思い込んでたけど、
 ってか、少なくとも私はそういう世界に住んでない、別の世界の話だと思おうとしたけど、
 でも、違うんだな、って。
 君に言われて、ずっと好きだった君に言われて、初めて、わかった。
 ありがとう。本当に。
 それだけは、忘れないから。
109創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:05:14 ID:yBDxwV24
しえん
110創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:05:19 ID:dUfT7f/j
支援
111創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:05:45 ID:yBDxwV24
しえん

    ◆ ◆ ◆ ◆

 泣きじゃくりながら、途切れ途切れに、そう言葉を漏らしていた。
 ごめん、本当にごめん。私、君、好きになっちゃって、ごめん。
 一年前も涙を流しながら、そんな言葉を聞いた。
 その時と同じように、耳元で僕は言った。
 大丈夫だよ、僕も里奈を愛してるから、心配ないから、って。
 意味も考えず、意味なんか後回しにして、神様にお願いするように、繰り返した。
 大丈夫だよ、大丈夫だからと。

 けれど、一年前と違って、今、里奈は顔を上げた。
 涙でぐちゃぐちゃになったひどい顔を上げた。
「……慰謝料。私にこんな思いさせた、慰謝料。
 ちゃんと払って。
 罰として、」

 そこで里奈は口ごもった。言いたい事、わかるでしょ。そんな目をして。
 僕がおどけてミスド? ってたずねると、少し笑って、その後、里奈は自分の声で言った。

  ――罰として、一生私を幸せにしなさい。
  じゃなかったら、訴えてやるから。

 僕は、最後まで何も答えられないままの僕は、
 声を震わせながらその言葉を発した唇に、口づけで応えた。

(了)
113 ◆Lucy.s6YUY :2008/12/23(火) 00:07:28 ID:eCMD3fys
以上です
ありがとうございました

この話はフィクションです
114創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:09:45 ID:gSlvuhxJ
お疲れさまですー

なるほど、恋愛物ってのはこんなんなのか
115創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:13:27 ID:1h/N7Wda
投下乙かれ!GJ!
最初の彼視点の描写からどんどん彼女の告白に移って話が盛り上がっていく過程にドキドキした
116創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 00:23:06 ID:dUfT7f/j
長編投下乙です!GJ!
いいなぁこいつら若いなぁああああ大人になるにつれて俺の失っていったものがあああああああw
117 ◆NN1orQGDus :2008/12/23(火) 17:18:19 ID:ghoH8TEs
“二律背反”
1/2
 午後3時過ぎのファミレスは、人がまばらでけっこう過ごしやすい。
 騒がしいがきんちょや無駄に声が大きいオバサンがいないから、かなり静かなのだ。
 何か甘い物――たとえばフレンチトーストなんかをつまみながら、ゆっくりと時間が流れて行くのを楽しむのにはうってつけだ。
 別にこれといった話をするわけでもなく、互いに好きな事、たとえば本を読みながら、ぽつりぽつりと言葉を交わすだけ。
 退屈だけど退屈じゃない、意味不明な二律背反。
 矛盾した黄金の一時だ。
「ねぇ、それ美味しい?」
 炭酸が抜け、氷がとけて水っぽくなった生温いコーラで、渇いた喉を潤しながら彼の食べかけのパンケーキを見た。
「んー、普通」
 文庫本から目を離した彼は、タバコの灰を灰皿に落としつつ、私の方を見た。
「一口くれない?」
「全部食っても良いぞ」
 おざなりで素っ気ない彼の返事にちょっとムカついたけど、構わずに手を伸ばしてフォークでパンケーキを突き刺した。
 一口かぶりつくと、メープルシロップの甘い味が口の中に広がる。
「お前って食べる時は幸せそうな顔をするのな」
「そりゃあね、食べるの好きだし」
 そうなのかな、と内心で呟きながら顔を撫でる。別にいつもと変わらないけど、彼が言うならそうなのだろうと結論付ける。
 彼は私をジロジロと見るのをやめて、パタンと本を閉じた。
 続けて飲みかけのコーヒーに口をつけるけど、どうやら覚めていたらしく、ウッと顔をしかめる。
「新しいの持って来ようか?」
「いや、いい。俺が行くよ。――お前はなんにする?」
「じゃ、コーラを氷抜きでお願い」
「了解。氷抜きだな?ストローはどうする」
「もちろん、アリアリで」
 コーヒーカップとグラスを持って、彼はドリンクバーのコーナーにスタスタと歩いていった。
 私は彼が熱心に読んでいた本が気になったので、手に取ってペラペラと眺める。
 カバーにはでっかい文字で、『論語』と書かれていて、中身はと言えば、見事なまでにみっちりと漢字だらけ。
 更には挿し絵なんて1つもない。
 ムムムと唸っていると、彼が帰った来た。
「ねぇ、これって面白いの?」
 私の目の前にストロー付き氷抜きコーラを置いた彼に訪ねてみた。
「ん? 面白い面白くないで読んでる訳じゃないぞ」
118 ◆NN1orQGDus :2008/12/23(火) 17:19:03 ID:ghoH8TEs
2/2
「じゃあ、なんで読んでるの? まさか、為になるから読んでるって訳じゃないよね」
「三國志とか中国の歴史物を読むなら基本として押さえとかなきゃならんだろ」
 ガムシロップを三つ、ミルクを二つコーナーに入れながら無愛想に答えて来た。
「ゲ、まさか三国志の國の字に拘ってるわけ?」
「――悪いか?」
 コーヒーを飲む彼の表情は、ムスっとしていて固い。まるで警戒してる野性動物みたいだ。
「うーん、悪くないけどね。……なんかスゴいね、そのこだわり」
 ストローを吸うと、コーラの炭酸が口の中でピリピリする。彼はと言えば、むっつりした顔で件の本を私からひったくった。
「こだわりって言えば、お前のストローはどうなんだよ。家じゃストローなんてつかわないだろ、お前」
「まーね。理由、知りたい?」
 当然だ、と言わんばかりの彼は、なんだかすねた子供みたいだ。好きな物を馬鹿にされてムキになってる、みたいな。
「ね、ちょっと手を貸してくれない?」
「右と左のどっちだ」
「んー、利き手の方で」
 おそるおそる伸びて来た彼の手を、甲が上を向くようにムンズとつかんだ。
 そして――チュッ――と口付けた。
「な、なにすんだよ、こんな所でっ!」
「良いじゃん別に。別に減る物じゃないし」
 すっかり及び腰になってしまった彼は、顔を真っ赤に染めて私を睨み付けてくる。
 私はその姿がなんだか可笑しくて、自然と笑みを溢してしまう。
「見てみ。残ってるでしょ、ルージュが」「あ、ああ。……確かに残ってるな」
「それが答えね。私、アンタ以外にキスマークを残したくないのよ」
「そ、そう……なのか」
 しどろもどろと言うよりはロレツの回っていない彼は、目をパチパチと瞬かせてすっとんきょうな顔になる。
「だいたいね、本にこだわるのも良いけど――頑張ってお洒落してる私にもこだわってよ。
そんな事だと何処か行っちゃうよ、私。重石だって付けてくれないんだから」
 私の言葉の意味をわかっているのかわかってないのか、彼はブリキの人形みたいにコクコクと頷くばかり。
 期待できそうにないけれど、それで良い。恋愛なんて惚れたが負けで、私には勝目なんて全くない。
 不器用な彼だからこそ、好きになった
んだから。

 でも、時々勝ちたくなるのは私のワガママ。
 ――ごめんね、ワガママでさ。

 了。
119 ◆NN1orQGDus :2008/12/23(火) 17:20:51 ID:ghoH8TEs
投下終了。
一応フィクションだけど実話をちょこっと。
120創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 17:21:54 ID:1h/N7Wda
こ、これは……ゴクリ
121創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 17:25:13 ID:SkZvsXoG
やべぇ、男手玉に取られてる…w
122創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 19:14:38 ID:sOmrXFsU
やばい
このスレは何かがやばい
123創る名無しに見る名無し:2008/12/23(火) 21:25:02 ID:c6CVtlw2
ラブラブさんこっちに復活キター
実話…だと……
124創る名無しに見る名無し:2008/12/24(水) 02:52:18 ID:zySkfjce
>>117
クリスマスイブに何描いてんだろうね
ttp://www6.uploader.jp/user/sousaku/images/sousaku_uljp00638.jpg
125創る名無しに見る名無し:2008/12/24(水) 12:29:24 ID:+exBNjvo
>>124
おにゃのこ可愛いなぁ
126 ◆NN1orQGDus :2008/12/24(水) 23:57:46 ID:+exBNjvo
“虹を描く”

 雲のかげから漏れる陽射しは柔らかくて、足元でくるくると枯れ葉とじゃれている風も暖かい。
 公園のベンチで休んでいると、子供たちの笑い声が聞こえてきて、なんだか癒される感じだ。
 コートのポケットに入っている文庫本を取り出して、押し花のしおりを挟んだページから読み始める。
 内容は、古めかしい、何処かで聞いたことがあるようなラブストーリー。
 積極的だけど世間知らずの女の子が、ちょっとワルぶった男の子と恋に落ちるという、賃腐なお話。
 ついついヒロインに自分を重ねてしまうけど、そんなに活発じゃない私は、ヒロインが羨ましくなってしまう。
 自分の気持ちをもっとはっきり出せれば、私の世界だって変わるのに、と思う。
『世界を変えたければ自分を変えれば良い。それだけで世界は変わるんだ。簡単だろう?』
 何処かの誰かの言葉は、とても簡単だけど、とても難しい。
 本を読み続けていると、うわぁ、と一際大きな歓声が聞こえた。
 そちらに視線を移すと、公園の真ん中で噴水がしぶきをあげて虹を描いている。
 虹の橋が伸びた先には、恋人連れが腕を組んで歩いていた。
 笑って楽しそうに虹を見ている幸せそうな二人が羨ましくて、ちょっと嫉妬してしまう。
 言い出せなくて諦めた恋にならない恋は沢山、数えきれないほどだけど、ほんの少しの勇気があれば、私もあの二人みたいになれたかも。
 そう思ったら、視界が潤んだ。鮮やかな虹の橋がにじんで見える。
 ハンカチを取り出して涙を吹くと、いつの間にかげってしまっていて、虹が消えていた。
 残念だけど、仕方ない。
 私は噴水に近付いて、手のひらで水をすくう。
 ひんやりと冷たい水は手のひらから零れてしまうけれど、その冷たさが心地良い。
 濡れた手で顔を撫でると、虹を見た興奮が覚めていく。
「ねえ、キミ。これ、キミのだろ?」
 肩を叩かれたのでビクッと振り向くと、笑顔が可愛い男の人が、私の本を手にしていた。
 多分、さっき落としてしまったのだろう。
「あ、すみません。それ……私のです」
「やっぱり?」
「ええ、ありがとうございます」
 ペコリと頭を下げると、影がくっきりとしているのに気付く。
127 ◆NN1orQGDus :2008/12/24(水) 23:59:21 ID:+exBNjvo
 頭をあげると、陽射しが戻ってきて再び虹を作り出す。
「うわぁ、綺麗……」
「僕、こんなの初めてだよ」
 私と男の人、二人して虹を見て笑みが零れる。
「この本の表紙、綺麗なブルーだね」
「この本、なんの色だと思いますか?」
「えーと、水色かな?」
「――空の色ですよ」
 見上げれば、青い、青い、空色のキャンバスが広がっている。
「良かったら、名前……聞かせてくれるかな」
「ええ、もちろん」
 遠慮がちな彼の言葉に、私は微笑んで答える。

 虹の魔法が私にちょっぴり勇気をくれた。
 空のキャンバスが私の背中を押してくれた。

 ――勇気を出せました。

 了。
128 ◆NN1orQGDus :2008/12/25(木) 00:01:14 ID:+nyUy9iM
以上、投下終了。
地味っ子むずいよw
129 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2008/12/25(木) 00:13:46 ID:siK1fwmQ
おお、俺には無理ですた
地味っこって地味なところを書かなきゃならんのだよねー
その、ちょっぴり勇気が出せました、みたいな感覚がツボった

クリスマスなんて存在しないんです
人間にはそれが理解できないのです
130創る名無しに見る名無し:2008/12/25(木) 00:16:59 ID:aIRy/WDe
いいなぁ
序盤の思考だけで身もだえできる
131創る名無しに見る名無し:2008/12/25(木) 00:32:53 ID:SYn81zGP
かわいいのう
132not星 ◆tHwkIlYXTE :2009/01/02(金) 14:17:47 ID:1XvdFvkS
 
「遠景の中に見た」
 
今、久しぶりに綾を見た。
見たと言っても、ほんの一時の事なのだけれども。

社用の帰り、ナビを頼りに走っている途中を見かけた。
信号待ちの間、車の横を通り過ぎたのだから間違えない。

久しぶりに見るせいか、思い出の中の綾とは少し違った。
ふっくらしていたのかもしれない。
横を歩く少女は娘なのだろうか、手を繋ぎ笑っている。
とても幸せそうだった。


綾は、すらりと伸びた細い体や整っている容姿とは裏腹に、こうと決めたら考えを変えない強固な一面も持っていた。
どちらかと言えばキャンパスでは高嶺の花だったのだろう。本人も自覚していたはずだ。
ただ僕は、人付き合いが苦手で、夢見る無垢な部分を持っている綾に気付いていた(つもりだったのかもしれない)。


僕は、と言えば一浪していたし、変わった奴だと噂されていた。
僕には母がいない。おまけに生い立ちまで謎らしい。
だからと言う訳ではないが、変人扱いされても別に嫌ではなかった。


そんな僕に彼女のほうから惚れた。
不釣り合いな二人は一気にのぼせた。
馬鹿だった、そして若かったのだろう。
僕らは卒業したら結婚しようと決めていた。
今になると安易な考えだと手に取るように分かる。

自慢じゃないが優等生の彼女は淡々と卒業したが、僕は彼女より一年多く大学に残った。

「僕らの愛は永遠だ。」
なんて夢を見ていた時期もあったが現実は違った。
僕らの生活は思っていた以上に上手くいかず、お互いに疲れていた。

ひどい喧嘩をして連絡を絶っていた間、納得のいかない彼女は両親に結婚話を打ち明けていた。
僕が彼女の父親に呼ばれたのは、彼女が両親に説得された末だった。
それから彼女は重い悩んで、さよならを告げに来た。それなに彼女の口には躊躇いがあるように思えた。
133 ◆tHwkIlYXTE :2009/01/02(金) 14:18:16 ID:1XvdFvkS

僕は未だに独りでいるが、綾は別れてすぐに結婚したらしい。
職場結婚で、相手は仕事をてきぱきとこなす好漢だと、同窓生が言っていた。

−いや、綾が先に教えてくれた。
一度だけ僕に会い来たからだ。
以前より垢抜けた綾は、縁談を両親が喜んでいると伝えに来た。
嫉妬ではなく、良くない相手だと直感で分かった。
だからって背中を押してやる以外に何が出来るんだ。
君は何をしに来たんだ?
何をして欲しかったんだ?
夕日を背にして歩く、お母さんと娘の姿は、幸せそのものじゃないか。


ナビの指示で道を曲がれば、知らない街は景色を一変させた。
どこまでも続くガードレールに沿い、進行方向だけを見て去った。
 
134創る名無しに見る名無し:2009/01/03(土) 13:12:11 ID:gJI3wdJJ
(´;ω;`)
135not星 ◆tHwkIlYXTE :2009/01/03(土) 17:13:15 ID:PCwJnZxg
感想ありがとう。
136幽霊少女と騒霊騒動(1/2):2009/02/05(木) 18:39:18 ID:/4u/NmPq
「おおおおお……何かすげえ」
 半透明の白いコートを透過する自分の手に、ベッドに腰掛けたま
ま、小泉南雲(こいずみ なぐも)は興奮した声を上げた。
 しかしその反応に、南雲の正面に立った――正確には宙に浮いた
――少女、柳田玖美子(なやぎだ くみこ)は身をよじった。眼鏡、
三つ編みのいかにも文学少女な少女だ。
「あ、あんまり、触らないで……恥ずかしいよ」
「いや、触ってないし。というか胸揉もうとしても無理だし」
 南雲は自分の手を玖美子の慎ましい胸の部分に持っていこうとす
る。
「だ、だめっ!」
 玖美子は頬を赤らめる。
「だから、揉めないって。突き抜けるんだから」
 そう、どれだけ触ろうとしても、南雲の手は玖美子を通り抜けて
しまうのだ。
 実は現状を考えればそれどころではないのだが、南雲としてはそ
れがつくづく残念でならなかった。
「そ、それでもだめ! って何してるのー!?」
「や、スカートの中もちゃんとあるのかなーと」
「あ、あ、あるよ! だから、覗くのはだめっ! 恥ずかしいから
っ!」
 後ろにでも遠ざかればいいモノを、玖美子はコートと一緒にスカ
ートの裾を必死に抑えた。それに伴い、目覚まし時計や本がガタガ
タと揺れ動き始めた。
「おおっ!? これが話に聞く騒霊現象(ポルターガイスト)って
奴か!? ちょ、お、落ち着け!」
 だが南雲の制止も効果なく、揺れはどんどんと大きくなっていく。
 机の上のペン立てが倒れ、シャープペンシルや消しゴムが床にぶ
ちまけられる。
 壁に貼られた洋楽アーティストのポスターの画鋲が勝手に抜け、
ベロリと垂れ下がった。
 部屋全体に地震、いや、むしろ小型の竜巻でも発生したかのよう
に、家具が暴れ始めて、南雲はいよいよ本気で焦り始めた。もっと
も慌てているのは玖美子も同じだ。
「お、落ち着けって言われても困るよ。幽霊なったばかりだし、自
分では止められないんだから……あ、わ、ど、どうしよう」
 玖美子が焦れば焦るほど、被害は拡大していくようだった。
 本棚の本が室内を飛び交い、室内灯は明滅を繰り返す。
 さすがにこの状況で平然と座っていられるほど、南雲の肝は据わ
っていなかった。かろうじて今日渡す予定だった、栞とブックカバ
ーの入った包みだけは死守する事に成功する。
「だ、だから、落ち着けば多分止まる! とにかく鎮まれ! おお、
何か俺、霊能者っぽい!?」
「で、でもどうすれば……」
 泣き虫な玖美子は既に目尻に涙を浮かべている。
 とはいえ、生前(これまで)のように玖美子の両肩を押さえてリ
ラックスさせる事も、もう出来ない。
 ならば。
「よし、まずは深呼吸だ! 吐け」
「う、うん! はー!」
「吐け!」
「はー……!」
「吐け!」
「はー……」
 南雲としてはボケたつもりが、玖美子は普通に出来てしまってい
た。
「……もしかしてお前、死んでるから、ずっと吐き続ける事が出来
るんじゃないか?」
「そ、そうみたい」
 ようやく、玖美子も自分の異常に気付いたようだ。
137幽霊少女と騒霊騒動(2/2):2009/02/05(木) 18:42:06 ID:/4u/NmPq
 そちらに気を取られたのか、それまで室内で暴れ回っていたマン
ガやらCDが、次々と床に落ちていった。
「まあ、幽霊だから呼吸してなくて当たり前か。ついでに、騒霊現
象も落ち着いたみたいだな」
「よ、よかったぁ……」
 安堵の息を吐く玖美子。
 南雲も息を吐きながら、部屋の惨状を眺めやった。
「……お前、これ自分で片付けろよ」
「う、うん。ごめんなさい」
 その時、部屋にノックの音が響いた。
「な、南雲……すごい音したけど、大丈夫?」
 扉越しに、そんな声が聞こえてくる。
「うおっ……な、何でもないよ、母さん!」
 さっきの騒霊現象の暴れっぷりが、階下にまで響いていたのだろ
う。いつもより不安そうな声は、今日起こった出来事を考えると、
推して知るべしだ。
「……そ、そう? ならいいんだけど。あと、玖美ちゃんのお葬式
なんだけど、何だか警察の方の検視……とかで、少し掛かりそうな
の。ほら、轢き逃げだから」
「そっか。分かった」
 閉じたクローゼットから頭だけ出して様子を伺っている玖美子に
「引っ込んでろ」と軽く手を振りながら、南雲はおざなりに応えた。
 何故か、母の反応は鈍かった。
「……? 南雲、本当に大丈夫?」
「何が」
「う、ううん、何でもないわ。今日はもう遅いから、お風呂入って
寝ちゃいなさい。おやすみ」
「あ、ああ。分かった。おやすみ」
 扉の向こうの気配が遠ざかっていく。
 階段を下りていく足音に、玖美子がクローゼットから抜け出した。
「……心配されてるね」
「まあな」
 ベッドに腰掛け、南雲はそのまま仰向けに倒れた。
「えと、そうじゃなくて」
 喋りにくいのか、玖美子は南雲を追ってその頭上に浮いた。しっ
かりコートの裾は押さえているが。
「何?」
「今、下で話してるけど、妙に明るいとか、変な事考えてなければ
いいけどとか……あ、後追い自殺?」
「勘弁してくれ!」
 南雲はたまらずベッドから飛び起きた。
「し、しないでね?」
「するか!」
 すると、慌てて階段を登る音がした。
 そして母親の、気遣うようなノックが響く。
「な、南雲……?」
「だっから、何でもねーってば!」
 南雲としては、そう叫ぶのが精一杯であった。
138創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 18:43:17 ID:/4u/NmPq
オチもなく、ひとまず投下終了。
幽霊になってしまった幼馴染みとのラブコメっぽいので一つでした。
他に該当しそうなスレがなかったので、ここに。
139創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 20:37:08 ID:kHEAEUxS
続きはー?
140創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 23:38:34 ID:ZQSnPvPA
ちょいと複雑な小学生恋愛とか読んでみたいな
自分で書きたいけど、キャラを操れなさそうなので断念した


ツンデレ系幼なじみ→主人公の少年→←普段は明るいけど、内気部分がある女の子←ややクール気味で、強引な部分あり
141創る名無しに見る名無し:2009/02/05(木) 23:50:44 ID:0qkG+fYV
>>140
……リクエストスレから、微妙にキャラクターが進化してるし。
向こうが廃墟話でリレー小説化しかけてるからって、諦めるには早すぎると思いますぞ。
142創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 00:09:35 ID:Ss8Nv8Ew
最初は自分で書こうと思ってたけどね。いや、なんかすっかり書けなくなった
大学生になってプライベートに力を置いた時から、あらゆるSSが書けなくなってしまった
143創る名無しに見る名無し:2009/02/06(金) 00:33:26 ID:yogSqgwa
>>136
なんかこれから続きがありそうな感じ
折角なんでwktkしときますね
144 ◆NN1orQGDus :2009/02/09(月) 21:17:51 ID:Rpdhqiis
“drink all night long”

「ひーふーみーよー……」
 芋焼酎を生一本で煽っていた薫ちゃんが指を折って数え始めた。
「さなこと毛利君がつきあって一年かぁ」
 空いていた私のグラスにウーロン茶を注ぎながら、
「続いてるじゃん、オメデト」
 と祝福してくれたので、
「えへへ、アリガトね」
 笑いながら答える。
 返杯ということで、まだ半分ぐらい中身が残っている薫ちゃんのグラスに芋焼酎を注ごうとしたら、
「去年の今頃はどうなる事やらと思ったけど」
 意味深な言葉と一緒に手で蓋をされた。
 薫ちゃんはお酒の飲み方に拘るタチだ。
 お酌はするのもされるのも大嫌い。自分のペースで好きなだけ飲む。
 それが薫ちゃんのスタイル。
 余程機嫌がよくないと、さっきみたいに人に何かを注ぐって事はない。
「去年の今頃はどういう風に思ってたの?」
 グラスにびっしりと付いていた水滴に辟易しながら温くなっていたウーロン茶で喉を潤した。
「んー、心配だったよ。さなこ、手作りチョコを作りたいだなんて言い出したから」
「そんなに心配だった?」
「さなこじゃなくて毛利君がね」
「薫ちゃん、それちょっと酷い……私そんなに料理下手じゃないもん」
「そういう訳じゃないって。毛利君っていかにもオクテって感じだから……」
 そこで言い切って、残っていた芋焼酎を一息に飲み干して、テーブルの上にグラスを逆さまに伏せた。
「さなこに告白されたら舞い上がってふわふわと何処かに行っちゃうんじゃないかって思った」
「……確かに、毛利君オクテだけど、そんなことないもん」
 ちょっとムカッてきたから薫ちゃんを睨もうとしたけど、目が据わり気味だったから諦めた。
「そんなことよりも、薫ちゃんの方はどうなの?」
「アタシ? これさ」
 指を三本、手の甲をこっちに向けてひらひらと振る。
「三ヶ月?」
「違うよ」
「三週間?」
「全然」
「まさか三日?」
「……この一年間で三人とお別れいたしました」
「――さんにっ? えーっ!?」
 薫ちゃんはクールで自分の気持ちをあんまり表に出さないけれど、これはかなりびっくりだ。
「ええと、それってホントの話?」
「いや、本やモニターの中の彼氏ってのは流石にノーカン」
 うわあ。全然気付かなかった。
 薫ちゃんが教えてくれなかった事や、友達なのに気付かなかった私がちょっとムカつく。
145 ◆NN1orQGDus :2009/02/09(月) 21:18:56 ID:Rpdhqiis
「何で言ってくれなかったの?」
「だってさー、ここ一年『毛利君がどうたらこうたら』って話するばっかだったじゃん、さなこ」
 あう。確かに私はノロケるだけで薫ちゃんの話を聞かなかったような気が。
 気をとりなおそうとウーロン茶を一気に飲んで、空になったグラスに手酌で注いで。
 グイっと煽って飲み干したらウーロン茶じゃなくて芋焼酎だった。
 口の中が甘苦くて、喉の奥が熱い。
 癖の強い匂いが鼻を通り抜けて脳天を直撃する。
 頭クラクラ、心フラフラ――。

■■■

「……やるじゃん。いくらアタシでもイッキは無理だ。さすが、愛の力」
 焦ってから何かをやらかしてくれると思ってた。
 まさか、アタシとっときの芋焼酎を生一本でイッキ飲みとは恐れ入った。
 面白いけど、酒飲みとしてひっくり返るような飲み方は頂けない。
 美味い酒は味わって飲まないと作ってくれた人に失礼。不味い酒はその限りではない。
 それが私のポリシーだ。
 さなこみたいに美味い酒を味わいもしないで飲んで潰れるっていうのは最低だ。
「あおるちゃん〜。トモダチなのに気付かなくてごえんれ〜」
 トラになりやがった。即ち、最悪だ。

 ロレツは回ってないし、眼はトロンとしてるし、私に抱きついてくるし。
「教えてよ〜、トモダチなんだからぁ〜」「分かったから離れて、さなこ。怒るよ?」
「え〜、怒っちゃらめぇ〜」
 逆さまにしておいたアタシのグラスとさなこのグラスに、ドバドバとウーロン茶を注いだ。
「まあ、話せば長くなる訳でも……ないけどさ」
「でもスゴいよねぇ。私毛利君としか付き合ったことないのにぃ」
「いや、感心することじゃないし。つーか、大学生になるまで男と付き合った事がない方がスゴいから」

■■■

 ――まあ、スゴいって感心するようなこどじゃないのよ。
 一人目は合コンで知り合ったんだけどさ。アリかな? って思ったけどナシだったワケよ。

 ナシって?

 ――ヤツとは一ヶ月くらいフツーに付き合ったんだけどね。遊び行ったりご飯食べに行ったり。

 チューとかしたの?

 ――アタシは中学生かい! そりゃ、フツーにしたよ。

 ねえ、どんな感じ? やっぱり気持ち良い?

 ――エロ親父か、アンタは。さなこが毛利君とするのと同じだよ。

 違うよ! 絶対違うよ!

 ――つーか、そもそもアンタらそこまで進んでないか。

146 ◆NN1orQGDus :2009/02/09(月) 21:19:50 ID:Rpdhqiis
 そ、そんな事……あるかも。

 ――ホント? アンタら二人天然記念物指定して良い?

 私のことより、薫ちゃんのこと教えてよ。

 ――まあ、お互いに合鍵を交換したりしたワケよ。そうしたらアイツ、私の部屋に別の女連れ込みやがった。

 うわぁ。それって酷いね……。で、それから?

 ――素っ裸のまま部屋から追い出した。
 そのあとは知らない。ケータイ換えたし、カギも変えたし。三週間くらい付きまとわれたけど。

 ストーカーされたの?

 ――そこまで気合い入ってたらアタシはここにいないよ。

 でも、怖くなかった?

 ――別に? 高校の時、同じクラスにいた秀さんって覚えてる?

 秀郎くん? 柔道部の?

 ――そ。秀さんに頼んでどうにかして貰ったワケ。

 どうにかって?

 ――そんな事知らない。私に関係ある話じゃないし。

 でもさ、薫ちゃんって秀郎くんと仲良かったの?

 ――全然。まあ、ギブアンドテイクってヤツかな。色々やって貰ったからヤツの為に合コンをセッティングしたけど。

 ふーん。ひょっとして二人目は秀郎くん?

 ――冗談。秀さんは宮ちゃんと付き合ってるよ、合コンの縁で。

147 ◆NN1orQGDus :2009/02/09(月) 21:20:13 ID:Rpdhqiis
 宮ちゃんって、同じゼミの宮下さん?

 ――そう。結構お似合いな感じだね、あの子ら。さなこと毛利君には劣るけど。

 あう。じゃあ、二人目は?

 ――二人目は確か……。なんとなく告白されてなんとなく付き合っただけ。

 なんで別れたの?

 ――焼き肉食べに行って、私の分までビール頼むし、私の分まで肉を焼いたから別れた。

 薫ちゃんビール嫌いだもんね。

 ――違うよ。私はピルスが嫌いなだけ。スタウト……ギネスとかは好きだし。

 でもお肉を焼いてくれるのっていいじゃない?

 ――やーよ。自分の肉はは自分で焼くの。好きな焼き加減ははアタシが一番よく知ってるし。

 薫ちゃんってへんなトコに拘るね。

 ――自分の好みに拘れなかったら駄目でしょ、普通。

 ……瞼が重いよう……zzzz……。

148 ◆NN1orQGDus :2009/02/09(月) 21:20:36 ID:Rpdhqiis
■■■

 話が長くなり過ぎたのか、さなこはすやすやと寝息を立て始めた。
 風邪をひかれたら大変だ。押し入れから毛布を引っ張り出して掛ける。
 毛布にくるまって子供みたいな純粋な笑顔で寝てると思って見ていたら、いきなりニヤニヤし始めた。
 夢の中で毛利君とキスなんかをしているのだろう、きっと。
 ごちそうさま、お幸せに。
 人に話をさせておいて最後まで聞かないなんて、なんてヤツなんだろう、さなこは。
 このちびっこ悪魔め。

 酔いが覚めて来たから、もう一杯だけ飲もう。さなこの使っていたグラスで。
 ウーロン茶が入ってるけど、別に良い。 焼酎は生一本、というのがアタシのポリシーだけど、それも別に良い。
 ぶっちゃけると、今はどうでもいい。ぐでんぐでんに酔っ払いたい。
 二人で飲むのも少なくなるだろ。いいや、今日が最後かも知れない。
 焼酎を継ぎ足し為に色が薄くなったウーロン茶を一気に飲んで、グラスを空にした。

 全く。最後の一人――じゃなくて最初の一人は毛利君だったんだよ、さなこ。
 アンタは気付かなかっただろうけどさ。
 まあ、アンタの事も好きし、さなこの泣き顔見たくないから身を引いたけどさ。
 まあ、それもこれも未練未練。湿っぽいのはアタシのキャラじゃないし。
 どれもこれも、今日の事は焼酎のウーロン茶割りなんて美味くもなんともない酒が見せた夢なんだろう、多分。
 酔いが覚めたら片思いをゴミ箱に捨てて、次の恋愛を探そう。

 ――アタシの為にも、さなこの為にも。

――了。
149 ◆NN1orQGDus :2009/02/09(月) 21:22:06 ID:Rpdhqiis
久々の復帰。以上、投下終了。
多分これも恋愛物だと思うよん。
150創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 21:29:33 ID:sppxbbeO
GJといわせてもらおう
151創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 22:48:14 ID:kght9hQw
足りなかった栄養分が補給できました
152 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 23:03:40 ID:+M10txBJ
芋は常温でストレートといつか洩らしたのを覚えてくれたというのかっ!?

それにしてもこれ、恋愛ものだよなあ……ちょいとへヴィだねぃw
153創る名無しに見る名無し:2009/02/09(月) 23:29:40 ID:mKj6qcsL
友人の彼氏、か
なんか少女漫画読んでる気分になったー
雰囲気いいねいいねー
154かぎかっこ:2009/02/18(水) 00:15:45 ID:NH/OB3lw
「小さな小さな、おかわり」


■2009/2/16(月)16:42:47 ID:TsAcDoP
 白い雑巾をコンクリートで拭き汚したような、空はそんな灰色の雲に覆われている。

 テレビではこれから夜にかけて木枯らしが予報され、気温が急激下がりはじめているのを感じる、真冬の夕方。
昨日、一昨日の暖かさを、終わってしまった「お祭り」のように、楽しい事を「覚え」でしか思えなくなってしまった時の感覚のように、肌は冷たく乾きはじめていた。

世の中は大不況に見舞われて、町の人々は「おかわり」を頂きづらく感じ、「贅沢」を自らの顔のしわの中に閉じ込めていた。

 駅のホームで、仕事場に向かう電車を待ち合わせ、一人閉じこもるように立っていた。
i podを右手に、自分で自分に好きな音楽をリクエストしながら、この空よりも明るい「白」の画面に目を通す。
イヤホンという小さいゴムの塊から音楽が流れはじめた。

>>Erectro music
「Techno」から派生し、progressiveな固い音、永遠とも思われるスピード感。
それは、最近の「電気グルーヴ」に近い音楽で、鉄と電気に飾られ、「科学」を神として生き、宇宙に程近い、世界の最果てを表現したような音楽である。

 真夜中の運送会社で、貨物を積みおろす作業員として仕事をしている。これからそこへ向かうのだ。
乾ききった疲労と絶望を知らずに背負い込んでしまうようである。
仕事内容を「表と裏」で表現すると間違いなく「裏」の仕事である。
この肉体労働を「女」で例えるなら、「売春婦」であろう。

>>売春婦
彼女らは道徳で体を売っているわけではない。自営業の一つである。合法な店で働けば、サラリーマンと同じだ。
ある者は生活のため、ある者は稚拙な欲望を満たすため、もしくは(ryである。

そんな売春婦と、殺人を犯し、自らの罪と闘う男との、本当の悲劇のロミオとジュリエットのような、左手に持つ「罪と罰」を読みながら、そんなシーンを頭に思い描いていた。
155かぎかっこ:2009/02/18(水) 00:16:14 ID:NH/OB3lw
■2009/2/16(月)16:44:12 ID:TsAcDoP
 向かいのホームで、女性が自分の目の前を通り過ぎた。
目をそらしているのをわざとらしく体で表現するように、少しの間、下を向いた。かすかに見える前面の世界に集中していた。
黒髪でセミロングのストレート、深緑のジャケット、短いパンツは腿のあたりから全身タイツの一部のような水色のスットッキングが下がり、白の模様で飾られた茶色のブーツを履いていた。
綺麗で可愛い目鼻と、一文字に閉めた口でも笑顔に見える唇の女性だ。

女性はベンチに腰掛けた。

■2009/2/16(月)16:44:20 ID:TsAcDoP
 この数秒間、お互いの目があっていた。
地味で静かな「性交渉」のように二人はキョロキョロしながら、目を合わせたり離したりしていた。

■2009/2/16(月)16:45:39 ID:TsAcDoP
「まもなく2番線に電車がまいります。」
16:46発の、これから乗りこむ電車のアナウンスが流れた。別れの旅立ちを自分のなかに無理やり感じながら、走って来る電車を見る。
電車に乗りこんだ。
「ドアが閉まります。」
車両後部の優先席と優先席の間に、つり革を持って立った。
向かいのホームを見た。車両の壁に隠れて、ちょうど女性が見えない。
偶然の立ち位置からうまれた小さな悲しみの衝撃で、女性との恋を終わらせようとした。
「2番線、電車が発車します。」
電車が軽く動き始め、向かいホームのベンチの方に、窓から見た。

■2009/2/16(月)16:46:03 ID:TsAcDoP

二人は目があった。

■あぼーん6(月)16:47:01 ID:あぼーん

あぼーん
156かぎかっこ:2009/02/18(水) 00:44:16 ID:NH/OB3lw
Erectroじゃなくて、「Electro」でした。すいません
157創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 04:03:58 ID:pneIUTqM
あぼ〜ん部分はどうやったら読めるのかね
158創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 04:33:52 ID:tsy7jvSd

 貴方は「噴出」という言葉を聞いて、何を思い出すでしょうか。
 クジラが潮を噴き上げる雄大な自然の姿?
 それとも、噴水がキラキラと水でアーチを描く光景?
 それとも別の何かかもしれませんね。
 けれど、それはきっと、とても素敵なものなのでしょう。

 ちなみに、私が「噴出」と聞いて思い出すのは……真っ赤な血です。

 聞いていて不快に思う人が居るかも知れませんが、私の人生を決定付ける事件だったのです。
 ただの戯言と思って聞き流してくださっても構いません。
 私に、あの事件を語る事をお許しください……。


 これは、私が小学生の頃のお話です。
 私がまだ何も知らず、人生はただ素晴らしいだけのものだと思っていた少女時代の事です。

 当時の私には好きな男の子がいました。
 その男の子は金髪で、少し恥ずかしがり屋の、ピアノが得意な男の子でした。
 ある日、私はその男の子に好きだという想いを伝えようと、学校の校舎裏に呼び出しました。
 待っている間は、その想いを男の子が受け取ってくれると良いな、もしかしたら、彼も私が好きかもしれななどと、想像をしたりしていました。
 だから、男の子が来るまでの時間は全く苦になりませんでした。

 そして、男の子が姿を現しました。
 男の子の顔を見るだけで、私の顔が紅潮していくのがわかりました。
 こちらをのぞきこんで来る男の子の顔は、これから私が何を言おうとしているのかわかっていないようでした。
 ちょっと残念な気もしましたが、想いを伝えれば……なんて、本当に甘い事を考えていました。

 私は、男の子が好きだということを正直に伝えました。

 何度も、何度も練習したので失敗することはありませんでした。
 想いを伝え終えた次の瞬間――

 ――男の子の鼻から、大量の血が噴出しました。

 その勢いはすさまじく、一瞬で私の衣服を真っ赤に染め上げました。
 私は悲鳴をあげましたが、その噴出は止まることはありませんでした。
 幸い、私の悲鳴を聞きつけた先生や他の生徒達が来てくれたので、男の子の命に別状はありませんでした。
 ……けれど、その事件以来――私は笑い方を忘れてしまいました。

 その日を境に、男の子は「ハニーフラッシュ噴出するわよん」などと他の男の子にからかわれる日々を過ごしていたようですが、
もう、私はその男の子の事はどうでも良くなっていました。

 私はあの日以来、毎日窓の外を眺める日々を過ごしています。
 中庭の噴水が見えない部屋――真っ白い、病室のベッドの上で。



おわり
159創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 04:37:36 ID:F0VgE9Eb
サナトリウム恋愛かぁ。センチメンタルだね
160創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 04:38:10 ID:pneIUTqM
全身を染め上げるまでの大量の鼻血の噴出って…マジトラウマだろ
でもそれから成長した今までずっとベッドの上なのはなんで?
161創る名無しに見る名無し:2009/02/18(水) 04:46:49 ID:tsy7jvSd
とりあえず、元ネタは『ハーメルンのバイオリン轢き』ですだよ
ギャグとして描かれてたんだけど、ぶっちゃけ怖いよなーって事で書いてみた
その少女が病院のベッドの上で過ごす所で終わってたから、なんとなく退院させたくないなー、とw
162 ◆NN1orQGDus :2009/03/11(水) 16:58:56 ID:oaFaFWf7
“想い出のカケラ”

 朝、夕とポストを確認するのが日課になった。
 多い時で一週間に一回、少ない時でも月に一回、簡単な近況を綴った手紙が彼から届いた。
 それを待ちわびて、私は一喜一憂した。 友達の事、家族の事、勉強の事。
 何気ない事が綴られた便箋から感じる彼の温もりは、あの時、別れの時の温かい手と同じだ。
 遠く離れても近くに彼がいる。そんな風に錯覚してしまう、そんな温かさがあった。

 一年くらい経ったある日、私は両親にねだって携帯電話を買って貰った。
 勿論、彼と示し合わせての事だ。
 番号とアドレスを交換して、毎日の様にメールをした。
 自分の写メ、四季折々の風景の写メ。
 成長して変わっていく彼と私。
 身近に感じる事が出来た。
 だけど、電話の彼の声は声変わりをしていて、まるで別人みたいだった。
 やっぱりあの頃には戻れない。距離と時間が隔てた想いは、写真みたいに色褪せてしまうのだ。
 いつまでも子供のままではいられない。
 寂しさと悲しさが、解けない雪みたいに降り積もって、私を埋めた。
 ――深く、深く。

 桜が散り始めたある日、自分の部屋で窓越しに遠くの空を見たら、何故だか涙が溢れてきた。
 山の稜線際は淡く、天頂に向かうほどに色濃くなる空、多分彼も見ているだろう空。
 綺麗すぎる空の色が、目に染みたのかもしれない。
 突然、電子音がした。
 彼からの電話だ。

「もしもし、僕だけど、わかる」
「――うん、わかる」

 声がテノールからバリトンに変わった今も、彼の一人称は変わらずに僕。
 そんな所にも、昔の面影を探してしまう。

「どうしたの、泣いてたの?」
「うん、ちょっだけ」
「大丈夫、平気?」
「ごめん、私――だめみたい」

 しゃくりあげた嗚咽の声では、何一つ彼に伝えられない。
 だけど、ごめんね、ごめんねと繰り返すだけの私を彼は昔みたいに慰めてくれた。
 それが嬉しくて、私は更に泣いてしまった。

「――会いに行くよ、今度の連休に」

 彼の一言が、涙で歪む視界を元通りにした。

「ホント、嘘じゃないよね?」
「うん。寂しいから、僕だって」

 それから、私と彼は離れていた時間を取り戻すように、色々な話をした。
 色褪せた想い出に色がよみがえる。
 電話を切ると、一番星の上に逆さまの流れ星を見つけた。

 ――彼も、見つけれたかな。
163 ◆NN1orQGDus :2009/03/11(水) 17:00:20 ID:oaFaFWf7
S−1の>>900の続きだけど、あえて此処に投下。
164創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 17:38:59 ID:wxMb+YEX
あの話に続きがあったのだねぇ。ピュアだねぇ(;ω;)
165創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 18:51:51 ID:lbwX5nkq
いいねぇいいねぇ甘酸っぱいねぇ
ところでNNさんのここ最近のテーマは「手紙」なのだろうかと気になる
166創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 19:16:56 ID:oaFaFWf7
おっしゃる通り。
ある作品に影響を受けてしまいました。
167創る名無しに見る名無し:2009/03/11(水) 19:45:51 ID:coRq4sX4
GJです
切ないねえ
168Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/16(月) 20:26:20 ID:iYUOgxgH
第一話 はじめの一歩 踏み出す勇気@

桜の花が咲く気配がまだ感じられない初春。風が教室の窓をびりびりと揺らし続けている。
明日は卒業式。一美はぼんやりと窓の外を眺めていた。この景色も明日で見納め。瞼の裏に刻み込んでおきたいとは思うけれど、多分すぐに忘れてしまうという気がして、一美は目を伏せて溜め息をついた。
四月になれば重苦しい紺のブレザーを脱ぎ、真新しい白のセーラー服の袖を通す事になるのだ。新しい生活が始まれば昔の事など忘却の彼方へと追いやられてしまうに決まっている。
楽しかった修学旅行も、ハプニング続出だった文化祭も、担任の灘先生の怒鳴り声も、突然の雨に降られてしまい隣に住んでいる真君と相合い傘で一緒に帰った事も。
帰りのホームルーム中だと言うのに、また溜め息がひとつ、ふたつ。みっつめが出そうになった時、後ろから手紙が回ってきた。
誰宛てなんだろうと宛名を見ると、筆圧の強い角ばった字で『天田 一美様』と書かれていた。
「――私宛?」
誰にも聞こえないような小さな声で呟くと、折り紙で言うところの蝉で折られた手紙を開いて灘先生に見付からないように読みはじめた。

☆☆☆☆☆

カズ、ちょっと話したい事があるから、ホームルームが終わったら図書室に来てくれないか?
待ってます。

☆☆☆☆☆

差出人の名前が書いて無いけれど、誰が書いたのか一美はすぐに判った。一美の事を「カズ」と呼び、癖のある角ばった字を書く人物――それは。
「真君たら、改まって話がしたいってなんだろう?」
返事を書く為に鞄からルーズリーフを取り出そうとした時、ホームルームが終わった。
帰りの挨拶が出来るのは後二回。一美は号令に合わせて深々とお辞儀した。
「カズちゃん、一緒に帰ろ。」
声を掛けて来たのは親友の美帆だった。
「じゃ、ちょっと待っててくれる?」
学校指定のコートを羽織りながら答える一美に、美帆はリップバームを差し出してきた。
「さっき回ってた手紙?宛名の字が男の子ぽかったから、愛の告白かもね。ロマンチックな時に唇が乾いてたら台なしよ。これ付けて頑張って」
「やだ、美帆ったら、そんな事無いわよ。だって明日は卒業式だし」
軽口を叩きながらも、一美は美帆からリップバームを借りた。蓋を開け薬指で掬い取り、唇に乗せて馴染ませる。ほんのりとした柚子の香りが鼻腔をくすぐった。
169Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/16(月) 20:37:20 ID:iYUOgxgH
第一話 はじめの一歩 踏み出す勇気A

「ねえ、美帆、このリップの香り良いね。柑橘系だと匂いがくどいのが多いけど、これはほんのりって感じ。」
「でしょでしょ。松山油脂の奴なんだけど、柚子の香りはここのが一番だよ。って、カズちゃん用事があるんじゃないの? 正面玄関で待ってるから早く行って来なよ」
美帆は笑顔で一美の背中を押してくれた。
「うん、じゃ待っててね」
一美は教室を出ると早足で図書室へと向かった。
図書室は第三校舎の四階にある。三年生の教室からは一番離れている場所だ。
美帆とおしゃべりしてしまったし、なにより男子と女子とでは歩く速さが違う。身長だって、二年生に上がるまでは真君と余り大差は無かったけれど、今では十センチ以上差が付いてしまった。真君はおそらく一美を待ちほうけている筈だ。
「何はともあれ急がなきゃ!」
歩くスピードが上がる度に鼓動の速さも高鳴って行く。幼なじみなのに改まっての話ってなんなのだろう。頭の中で何故?の嵐が巻き起こるけれど、そんなのは無視して一美は階段を駆け上がっていった。
一美が図書室に着いた時には真君はストーブ近くに置かれているソファーに腰掛けていた。
隣には男の子。確か、真君と同じ陸上部の人。同じクラスになったことがなくて名前は知らないけれど、真君と一緒にグラウンドを走っているのを見たことがある。
こざっぱりとした短い髪に黒縁眼鏡。地黒なのだろうか、冬なのに肌が赤銅色だ。
「おまたせ、真君」
弾む息を整えてから真君に向かって声を掛けると、真君と赤銅色君(仮名)が立ち上がった。
「ごめんな、カズ、急に呼び出しちゃって。ああ、そうそう、こいつは小林」
赤銅色君(仮名)の名前は小林と言うらしい。小林君がいきなり大きな声で挨拶してきてびっくりしたけれど、一美も釣られて挨拶をしたか。。
「つー訳で俺の役目はここまで。小林、後は自分でどうにかしろよな」
真君は鞄を掴んで図書室の入口へと向かって行った、
「ちょっと、小島、待てよ。最後まで着いててくれるって言っただろ!肉まんとコーヒー奢ったじゃないか」
「俺は角煮まんって言った筈だぜ。肉まんだとここまでが限界。俺は帰る」
小林君は引き止めようとしたけれど、真君はさっさと帰ってしまった。図書室に一美と小林君が取り残されてしまった。
170Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/16(月) 20:49:23 ID:iYUOgxgH
第一話 はじめの一歩 踏み出す勇気B

とりあえず、さっさと話を済ませて帰ろう。美帆を待たせているんだし。一美は小林君に向き直った。
「ええと、小林君、私、友達を待たせているから、出来たら早めに話を済ませてくれないかな」
小林君は何やら緊張しているみたいだった。ほら、喉仏が大きく動いた。ごくりと生唾を飲み込んでいるように見えた。
立派な喉仏をしているからか、小林君の声は低くてしゃがれている。ひょっとしたら灘先生よりも声が低いのかも知れない。そんな事をぼんやりと考えていたら、いきなり小林君が咳ばらいをして喋り出した。
「ええと、あの、その、天田一美さん。玉砕覚悟で言います。俺と付き合って下さい!」
「どこへですか?今日は友達と一緒に帰る約束をしているから無理です」
小林君は一体何を言っているのだろう。一美の頭の中で再び何故?の嵐が吹き始めた。
「いえ、物理的にどこかへ行くのではなくて、これは告白なんです」
――告白? 何故?の嵐は台風へと変化していった。落ち着いて考えようと深呼吸してみても台風はごうごうと激しい音を立てている。何度深呼吸しても全く収まりやしない。
どうしようもないので、一美は冷静になれるようにゆっくりと喋る事にした。
「つまり、小林君は私に告白をしたんですね?」
「はいっ」
小林君は大きく頷いた。
「私は小林君の事を良く知らないんですけど」
「友達からお願いします。そして俺の事を少しずつ知って下さい」
小林君は早口でまくし立てた。
「小林君は私の事を知っているんですか?」
「真から話を聞いたり、廊下ですれ違ったり、休み時間に真のとこに遊びに行った時に見掛けたりし、ちょっとは知っているつもりです」
小林君は自信ありげに胸を張った。
「返事は今じゃなきゃ駄目ですか?」
「い、今じゃなくても大丈夫です!」
小林君は大きな声で叫んだ。
「ここは図書室だって知ってますか?」
「はいっ!ここは紛れも無く図書室です」
「じゃ、とりあえずここから出ましょう。図書室は大きな声を出して良い場所ではありませんから」
一美は図書室から退出した。振り返ると、小林君はぎこちない歩き方でしょんぼりしたように背中を丸めて一美の後を着いてきた。
「ええとですね、小林君。後ろを歩かれても話が出来ないから、隣に来てくれませんか?」
「はい、喜んで!」
小林君が隣に並んできた。自分で言った事だけれど、一美はちょっと威圧感を感じてしまった。
171Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/16(月) 21:01:55 ID:iYUOgxgH
第一話 はじめの一歩 踏み出す勇気C

小林君の背丈は真君より遥かに高い。一美は166センチと平均よりは高い方だけれど、小林君の顔を見るのには見上げなければならない。真君とも十センチ位差がありそうだ。体格もがっちりしているし、男の子と言うよりも男の人って感じだ。
「さっきの返事ですけれど、すぐには答えが出せないです。それに、返事をしたくても明日は卒業式だし、卒業しちゃったら会えなくなるので返事が出来ないです」
「じゃあ、真に返事を伝えて下さい。俺はいつまでも待ってます!」
そう言い残すと、小林君はいきなり走って行ってしまった。一美は一人残されてしまった。
不意に窓の向こうに目をやると、グラウンドが広がっている。誰もいないのは明日が卒業式で部活動は停止期間だからだ。無人のグラウンドは静かで、もの哀しい感じがした。
正面玄関に着くと美帆がドアに寄り掛かって欠伸をしていた。
「おまたせ、美帆」
「遅かったじゃないの。待たせ賃として何があったかじっくり話して貰うわよ」
一美が歩きながら事の顛末を話すと、美帆はクスクスと笑い始めた。
「私は小林君がどんな人かは知らないけど、今の話を聞く限りでは悪い人じゃなさそうね。友達から始めちゃえば?」
「その『友達から』が良く判らないの?友達になったとしても何をすればいいの?」
――友達。素敵な言葉だと一美は思うのだけれど、いきなり知らない人から友達になろうだなんて言われても実感が湧かない。
「はじめはメル友からじゃない?後はたまにデートしてみたりとか、学校へ一緒に行ってみたりとか」
美帆は簡単に言うけれど、一美はやっぱり判らない。
「メル友っていったって、私、小林君のアドレスなんて知らないよ。それに学校に一緒に行くって言っったって、小林君の家もどこの高校に行くのかも知らないし」
一美は溜め息をついた。学校でついたものとは種類が違う。あっちはノスタルジィに駆られてのもので、今は判らない事だらけで答えが出せないっていう溜め息だ。
吐く息は白く、ゆらゆらと空気に溶けて行く。悩み事なんてこんな感じで消えていってしまえば良いのに。いくら一美がそう思っても、無くなりはしない。
空を見ればいつの間にか雲で白く覆われている。まるで一美の心の中と同じだ。
突然の告白。折角の卒業前日の帰り道なんだし、美帆とはもっと違う話がしたかった。一美は小林君がちょっぴり恨めしいと思った。
172Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/16(月) 21:12:12 ID:iYUOgxgH
第一話 はじめの一歩 踏み出す勇気D

「そんな事は本人に聞けばいいでしょうが。気楽に考えればいいんだよ。で、違うなって思ったらごめんなさいすれば良いんだからさ。って、カズちゃん人の話聞いてる?」
美帆の言葉に一美は我に返った。
「うん、聞いてるよ。小林君に聞くって明日?明日は卒業式だし、そんな暇は無いよ」
明日は仲の良い友達や部活の後輩との別れを惜しむ為に時間を使いたい。
悪いなとは思うのだけれど、小林君はそこには入っていない。
「時間は作れば良いのよ。例えば今日とか」
「今日ってどうやって?」
美帆の爆弾発言に一美は困惑してしまった。
「小林君と同じ方法よ。小島君に呼び出して貰うの」
小島とは真君の苗字だ。
「呼び出すってどこに?知らない人と外で会うのは恥ずかしいし、会話が弾まないよ」
「だったら小島君ちで良いじゃない。それなら小島君も一緒だし大丈夫でしょう」
美帆はスラスラと答えてくる。やっぱり頼りになる存在だ。
けれど。
「そんなの無理!小林君と真君、それで私じゃ二対一になっちゃう」
「じゃ、そこに私がいればどう?二対二になるわ。少なくとも私がいればカズちゃんは不安にはならないでしょ」
美帆の言葉に一美は素直に頷けないでいる。話がどんどん進み過ぎてしまって不安なのだ。
「ねえ、カズちゃん。私はね、人と人が出会うって言うのは凄い事だと思うよ。はじめは警戒したり、怖いって思うかも知れない。
それは当たり前だよ。でもね、そんな感情で出会いを切り捨てていたら何も始まらないよ。私達は高校生になるんだし、はじめの一歩を踏み出してみなきゃ。ね、そう思わない?」
「はじめの一歩、か……」
美帆の言葉が一美の胸にすうっと染みた。その言葉は陽光みたいに温かく感じられた。
「うん、判った。家に着いたら真君にお願いしてみる。時間が決まったら美帆にメールするね」
怖いけれど、美帆がいてくれる。それに臆病でいるだけじゃ何も始まらない。どんな結果になるか判らないけれど、それはその時考えればいい。
はじめの一歩を踏み出した一美は今の悩んでいる一美より成長している筈だ。
「あっ、カズちゃん、たんぽぽだよ、寒い寒いって言ってても、もう春なんだよねえ」
美帆が指差した先にはたんぽぽが一輪咲いていた。力強く根を張るたんぽぽは一美を応援してくれるかのように健気に風に揺れていた。
173Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/16(月) 21:15:16 ID:iYUOgxgH
投下終了です。
長編って訳じゃないですが、もう少し続きます。
ではではスレ汚し失礼しました。
174創る名無しに見る名無し:2009/03/17(火) 13:57:54 ID:sj3lIwAj
>>173
豊島ミホ好き?
175創る名無しに見る名無し:2009/03/17(火) 21:20:11 ID:ZU5jATes
投下乙です!
某所で先に読んじゃったけど、やっぱり続き物なのねw四人の今後にも期待です
176Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/17(火) 21:44:07 ID:erxzodhy
第二話 難攻不落彼女 俺陥落寸前@

「絶対に変な奴って思われたって! 一人で勝手に喋くって、んでもっていきなり走り出したりなんかしてさ、俺って本当に駄目な奴だあ」
 今思い返しても恥ずかしい。
 付き合って下さいと言ったら「どこへ?」と返されて出鼻をくじかれたのが災いしたのか、天田さんとまともに話すら出来なかった。
 何度もシミュレートした筈なのに、成果はゼロ。原因は全て途中で帰った小島真のせいだと言う訳で、俺は小島の家に愚痴をこぼしに来ていた。
「カズは多分びっくりしたんじゃねえ?むさい男がいきなり告白してきてさ」
「むさい言うなっ! お前みたいな薄情者には俺の気持ちが判らんっ」
 小島は俺が天田さんに玉砕したって言うのに楽しそうに笑ってやがる。悔しいので手元にあったクッションを奴に投げ付けてやった。
 結果は顔面命中。奴はむっとした顔を浮かべつつもクッションを俺に投げ返して来た。
「一応は告白出来たんだろ? 返事だって貰ってないんだし、まだ希望があるって」
「いや、そんな事ない。俺は天田さんに嫌われたに違いない!」
 小島は俺に希望を持たせるような事をいってくるが、そんな事は断じてない。俺が一番判ってる。
 俺は再び小島にクッションを投げ付けた。今度は奴の胸元へ。キャッチボールのようにクッションが俺と小島の間を往復する。
「カズはなあ。『難攻不落の一美城』だからなあ」
 何だそりゃ?俺はコントロールを誤ってあさっての方向へ投げてしまった。クッションは窓際の壁にぶつかって床に落ちた。
「三組の松永っているだろ? 二年の時にカズに告白して振られてさ、その時付いたあだ名」
 三組の松永はイケメンで有名だ。飽きっぽい性格なのか女子と付き合っても三ヶ月も持たずに別れてしまい、陰では『期間限定の男』と呼ばれている。
 ちゃらちゃらしていて軟弱で尚且つ調子に乗っていて、気に食わない奴だ。
 天田さんは松永を振ったのかあ。さすが俺が好きになった人だ。人を見る目があるなあ。
「松永はさ、カズに向かって『俺の物にならねぇ?』って言ったんだって。そしたらカズは『私は私の物であって、貴方の物にはなりません。
その前に人を物扱いするのは良くないですよ』って言われたんだと。まあ、他にも武勇伝は色々あって、『難攻不落の一美城』って訳」
177Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/17(火) 21:45:22 ID:erxzodhy
第二話 難攻不落彼女 俺陥落寸前A

「お前、俺にそんな事言わなかったじゃないか!」
 憤慨する俺を尻目に小島はクッションを拾おうと椅子から立ち上がった。
「聞かれなかったから教えなかったんだ。それに、人の恋路を邪魔したら馬に蹴られちまうからな。
うーん、お前なら良い線行くと思ったんだけど」
「どういう事だ?」
 訳判らん。イケメン連中が討ち死にしたって言うのに、俺なんかに可能性あるはずないだろ。
 小島は窓の外をぼんやりと見ながら俺に言った。
「今までカズに告白した奴は遊んでそうな奴ばかりだったからさ、タイプの違うお前ならどうなんだろうなーって。」
 確かにそうなのかも知れない。
 だがしかし。
 奴は窓の外に手を振ったり、ペコペコと頭を下げはじめた。しまいにはいきなり窓を開けやがった。お前、傷心の親友を慰める気はないのか?
「小島よお、人が折角遊びに来てやってんのに窓相手に遊んでんじゃねーよ!」
 俺が怒鳴ったその時。
「あっ、ごめんなさい。私、邪魔しちゃったかな? 真君、さっきの事でお願いしたい事があったけど、また今度でいいわ。本当にごめんなさい!」
 そっ、その声はっ!
「ああ、気にすんな。別にこっちは問題ない」
178Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/17(火) 21:46:50 ID:erxzodhy
第二話 難攻不落彼女 俺陥落寸前B
「でも、お友達が怒ってない?さっき怒鳴り声が聞こえたけど」
 窓の外から聞こえた声は天田さんだった。
 俺は天田さんに怒鳴ったんじゃないんです。気を悪くなさらないで下さい!
「そんなのは無視していいからさ、用件は?」
「だから、さっきの事だよ。私、小林君に話があるの。だから、小林君を真君ちに呼んで貰える?」
 えっ? いますいます。小林隼人はただいま小島んちにいるんです!
「なんで俺んちなんだよ?」
「だって、よく知らない人と外で会うのは恥ずかしいじゃない。で、私も美帆を呼ぶけど大丈夫?」
 よく……知らない……人……
「なんでそこに秋篠が出て来るんだよ?」
「だって、真君と小林君と私じゃ二対一でしょ? 美帆がいれば二対二になるから」
 美帆って誰ですか、天田さん! 貴女に会えるなら俺は何でも構わないですよ!
「なんだそりゃ? まあ、俺は構わないけどな」
「でも、今日はお友達がいるんでしょ。また今度でいいよ。だから、小林君の都合のいい日を聞いておいて貰える?」
 俺はいつでも大丈夫です!
179Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/17(火) 21:47:50 ID:erxzodhy
第二話 難攻不落彼女 俺陥落寸前C

第二話 難攻不落彼女 

 と、小島がいきなり俺の方にやって来て窓の方へと引っ張り出した。
 と言う事は。
 俺は天田さんと目が合ってしまった。すなわち天田さんは俺の事に気付いた訳で。
「小林ならここにいるからいつでも大丈夫だ。じゃ、後で」
 天田さんは顔を赤らめて曖昧に返事し俺に会釈をすると、くるりと振り返り窓とカーテンを閉めた。長い髪をさらさらとなびかせて。
 小島も窓とカーテンを閉めた。俺の顔を見ると馬鹿でかい声で笑い出した。
「面白れえっ。カズの前だと借りてきた猫みたいだっ」
「うるせえなっ、好きな人の前なんだから仕方ないだろ」
 そう、仕方ないのだ。天田さんの前じゃ上手く喋れなくなる。緊張して手の平や背中に汗をかいてしまうのだ。
「まあ、今日返事が貰えるらしいし良かったじゃないか」
 笑い声は収まったものの、小島の目は笑っている。いや、元々小島の目は普段からにやついている。
「そうそう、秋篠って誰だ?」
「カズの友達。知らなかったか? よくカズと一緒にいるだろ、斜め前髪でショートの娘。背はカズより高いかな」
 判るようで判らない。それは天田さんしか視界に入ってないからだろう。
 馬鹿馬鹿俺の馬鹿。天田さんの友達の顔を覚えて無いなんて。
 必死に思い出す。背は高くて、前髪が斜めで髪短い。
 真の教室で天田さんを盗み見た時に、確かに天田さんと一緒にいた。しかし、斜め前髪とかショートというよりも……
「鬼太郎だあっ!」
 難しい言い方では駄目なのだ。もっと判りやすくないと。
「秋篠の前じゃ鬼太郎は禁句な。つーか、女に向かって鬼太郎はないだろ」
「だって、前髪が斜めで目にかかってるじゃんか」
「とにかく禁句。秋篠は怒ると怖いからな。それに、友達を鬼太郎呼ばわりされたらカズはショックだろうな。」
 天田さんに嫌われるのはマズすぎる。俺は秋篠さん=鬼太郎のイメージを頭の中から消した。
 と、小島はいそいそと部屋を片付け始めた。
「何やってんだ?」
「カズと秋篠が来るからな。ちょっとは片付けないとな」
「見られたらヤバイものとかな!」
 俺は小島のベッドの下を漁った。ザクザクとは出て来なかったけれど、幾つかお宝があった。
「てめえっ、馬鹿な事してんじゃねえっ!そんな事してるとお前のマル秘情報をカズにばらすぞ!」
180創る名無しに見る名無し:2009/03/17(火) 21:47:50 ID:dNsN4LNt
181Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/17(火) 21:48:54 ID:erxzodhy
第二話 難攻不落彼女 俺陥落寸前D

 小島は俺からお宝を奪うと元あった場所にしまった。
「例えば中一の時の大会の帰りにバスに乗り間違えて山奥まで行っちまった事でもいいし、
例えば中二の二学期の期末で保険体育で百点取った事でもいいな。あの時は性教育だったよなあ。
女の子の前じゃ下ネタは言い憎いけど、そっちをばらしてもいいんだぜ?」
 困る。それは非常に困る! 俺は素直に謝った。
 元々それなりに整理整頓されている事もあって、すぐに片付けは終わった。

「お前のマル秘情報で思い出したけど、この三年間色々あったよなあ」
 唐突に小島が喋りはじめた。
「そうだな、中学に入った時は三年は長いって思ったけど、今思い返すと短かったよな」
 中学に入ったばかりの頃は三年の先輩が非常に大人に見えた。今の自分が大人なのかは判らない。
 はっきりいって背は伸びた。この三年間で40センチは伸びた筈だ。
 けれど、心が成長したかは判らない。実感が湧かない。
部活に明け暮れて、そこそこ勉強して、小島や仲の良い仲間達とバカやってただけのような気がする。
「なあ、小林。俺さ、お前が友達で良かったよ」
 小島がぽつりと呟いた。
「ああ、俺もだよ。俺のマル秘情報はお前と被ってるもんなあ、もちろん下ネタ関連もな! そんな訳でさっきの奴貸せ」
「あれは駄目だ。俺のお気に入りなんだ! お前にはこっちを貸してやる。」
 小島は本棚の奥に隠してあるお宝を俺に渡した。
「サンキュー、今度俺のを貸してやるよ。兄貴から貰った奴だけどジャンルはより取り見取りだぜ」
 こういう馬鹿っ話をおおっぴらに出来るのは今は小島だけだ。
 これからもっと友達が増えて行くだろうけれど、小島の事は忘れないと思う。
 多分、俺と小島の仲はくされ縁って奴なんだろう。
 きっと天田さんと秋篠さんも。
 一大事に助けてくれる友達は一生のものだと思うのだ。
「そうそう、小島は高校でも陸上つづけるのか?」
「ああ、目標は箱根だからな。お前は?」「俺は出来るとこまで続けるよ。投擲は長距離と違って箱根とか無いけどその分競技人口少ないからな」
 天田さん達はいつ来るのだろう? 早く来て欲しい気もするけれど、小島と他愛のない話を続けるのも悪くないように感じた。
182創る名無しに見る名無し:2009/03/17(火) 21:49:15 ID:dNsN4LNt
183Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/17(火) 21:56:18 ID:erxzodhy
投下終了です。
他の職人さんと比べると自分の筆力の無さに落ち込んだりしますが
もうちょっと話は続きます。

スレ汚し失礼しました。
184Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/18(水) 22:43:29 ID:fe++Evht
第三話 安定≒停滞 優しさ≒いくじなし @
 いくら仲良しの友達だからって、言えない事はある。誰だってそうだろう。
 美帆は別れ道で一美を見送った後、ちょっとだけやりきれない気持ちに襲われた。
 告白をされてテンパっちゃたりした一美が羨ましい? ――ちょっとだけ。
 断じて嫉妬ではない。一美程ではないが、美帆だってそれなりに何度か告白された経験はある。
 一美と美帆ではその先が違うのだ。
「ごめんなさい。私、付き合っている人がいるんです」
 正確に言えは間違っているけれど、あながち間違いではない。
 そこから先が美帆が隠している秘密。
 空はどんどんと暗くなって行く。明日雨が降らなければ良いけれど、もし雨が降ったとしたらそれはお釈迦様の涙なのかも知れない。
 そんな事を考えながら歩いていたら、家の門が見えてきた。
 門の前で男の人が竹箒を手に掃除をしている。
作務衣にベンチコートといった出で立ちで、足元はスニーカー。頭にはタオルを巻いている。
「ただいま、青藍くん」
 青藍と呼ばれた青年は美帆の姿をみると腕を大きく振りはじめた。
「お帰り、美帆ちゃん。今日は遅かったね。卒業式が近いし、友達と話し混んでいたのかな」

 青藍が微笑みかけてきた。
 美帆はこの笑顔が好きなのだ。彫刻刀ですうっと彫ったかのような目、そして目尻にうっすらと刻まれている笑い皺。
 剃髪された頭は職業柄仕方ないけれど、それを差し引いても心の中のやじろべえは好きって方に傾いている。
「まあ、そんなとこ。青藍くんも掃除に精が出るわね」
「そろそろお彼岸だからな。綺麗にしておかないと」
 美帆にはそれが嘘だって判っている。だって地面にはゴミ一つも落ちてやしない。
 門から家までの距離。僅かな距離を一緒に歩く為だけに、青藍は美帆の帰宅時間に合わせて掃除をしているのだ。
「お父さんは?」
「和尚様は本堂で子供達に写経を教えているよ」
「そうなんだ。写経をやれば習字は上手くなるけど、癖がついちゃうんだよね。字を崩して書くから、楷書を書くとき大変なんだよ」
 他愛のない会話。それだけでも良いけれど、美帆はたまにはもっと違う事がしたくなる。
 そんな事言えやしないけど。何せ青藍は煩悩が溜まり過ぎると延々と写経をし始めるのだ。
 健全なのか不健全なのかは判らないけれど、美帆はそんな青藍を可愛く思ったりする。
 青藍は美帆よりずうっと年上なのだけれど。
185Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/18(水) 22:44:43 ID:fe++Evht
第三話 安定≒停滞 優しさ≒いくじなし A
 不意に携帯から着信音が流れた。お気に入りのPaint it Blackは一美からだ。

********************

件名:びっくりだよ
本文:家に着いて真君にさっきのことお願いしたら、小林君は真君ちにいたの!
   無茶苦茶びっくりしちゃったよ
   それが判ってたら美帆に家に寄って貰えば良かったね
   そんな訳でいつでも来てもらって大丈夫だよ

********************

「メール?友達かな?」
「うん、カズちゃんから。今すぐカズちゃんちに行かなきゃならなくなっちゃった」
 考えられる話だ。友達なんだから小林君が小島君にすぐに相談しに言ってもおかしくない。
「俺、送って行こうか?」
「じゃ、お願いしようかな。私、鞄を置いて来ちゃうから待ってて」
 美帆は急いで家へと向かった。
「俺は和尚様に許可取ってくるか」
 後ろから青藍の声が聞こえた。

 それにしてもだ。
 二人で話しているときは家までの距離はあっという間だけど、こういう自体の時はやけに遠い。
 息を弾ませて走り家の前に着くと、お母さんが洗濯物を取り込んでいた。
「お母さん、ただいま。今からカズちゃんちに行かなきゃなんないから、青藍さんと車、借りるね」
 美帆は濡れ縁で靴を脱ぎ、掃き出し窓を開けて家に入ろうとした。
「あんたはまた青藍さんを足代わりにして」
 お母さんは溜め息をつきながら美帆にお小言を行ってきた。
「良いじゃない、青藍さんは私の許婚なんだし。それに青藍さんが送ってくれるって言ったんだよ」
「全く減らず口を叩くんだから。一美ちゃんのとこなら車は軽トラを使いなさい」
 お母さんはぶつぶつ言って来たけれど、軽トラの鍵を美帆に渡してくれた。
 軽トラはちょっと不満だけれど、残りの車はベンツになる。ベンツで一美の家に行くのはなんだかおかしい。
 駐車場に向かうと青藍が軽トラに寄り掛かって美帆を待っていた。
「青藍くん、鍵!」
 美帆は鍵を青藍に向かって投げた。なだらかな放物線を描き、鍵は青藍の手元に渡った。
 美帆の家――永峯寺から一美の家迄は車で10分足らず。
 軽トラに乗り込みシートベルトを締めると、青藍は軽トラを走らせた。
 美帆は携帯で一美に青藍に送って貰う旨をメールした。
186創る名無しに見る名無し:2009/03/18(水) 22:45:43 ID:PQBCa5S6
187Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/18(水) 22:45:46 ID:fe++Evht
第三話 安定≒停滞 優しさ≒いくじなし B

 一美は青藍と面識があるものの、青藍が美帆の許婚である事は知らない。
 まだ正式な取り決めはしていないものの、中学を卒業したらきちんと取り決めする事になっている。
 結婚はまだまだ先の話だ。美帆の進学や青藍の総本山での修業もあるし、大体十年位先になる。
 その十年が長いのか短いのかはまだまだ判らない。ただ、美帆の未来は確実に決められている。
 青藍は美帆に優しい。どんなに我が儘を言っても聞いてくれる。
 だから、美帆は時折辛くなるのだ。
 ――私に優しいのは好きだから?それとも許婚だから?
 聞きたくても聞けない。だって煩悩が溜まったら写経をする人だ。美帆がそれを聞いたら断食修業しかねない。
 ふと、美帆は青藍を見つめた。青藍はいつもの笑顔を浮かべている。
 流れて行く景色、青藍の笑顔。
 僅かな時間だけじゃなくて、もっと長く青藍と一緒にいたかった。
「そうそう、一美の用事はどの位かかるのかな?」
「長くても一時間とかその位じゃないかな」
「じゃ、その後ドライブしようか」
 突然の青藍の言葉に美帆は言葉が詰まってしまった。
「ほら、美帆ちゃんが中学卒業したら、俺達婚約するだろ。いきなり婚約じゃアレだし、婚約前の思い出なんてどうかな。
……なんて、和尚様と奥さんに言われたんだよ。恋も知らない内に婚約なんて不憫だから、婚約前に思い出をって」
 美帆は青藍の言葉に、切れた。
「青藍くん。そう言ってくれるのは嬉しいけど、嫌。そこに青藍くんの気持ちはあるの?青藍くんが優しいのは許婚だから?」
 涙が込み上げて来るけれど、絶対に泣きたくない。美帆はぎゅっと下唇を噛みしめた。
 唐突に車が急停止する。前を見ると赤信号だった。
 そして、青藍の唇が美帆のそれに重ねられた。
「嫌いだったらこうやって一緒にいないよ。好きだから、大切にしたいんだ」
 かさついていて、冷たくて。レモンの味もカルピスの味もしなかった。
 信号が変わり、車が走り出した。
 胸が震えているのは車の信号? それとも――
 美帆は恐る恐るシフトレバーを握る青藍の手に自分の手を重ねた。青藍の顔を盗み見ると茹蛸みたいに真っ赤になっている。
「私、青藍くんの事、好きだよ」
 美帆は青藍に気付かれないように呟いた。
188Little by little ◆XYyRpZ8Z0s :2009/03/18(水) 22:46:47 ID:fe++Evht
投下終了です
ではでは
189創る名無しに見る名無し:2009/03/20(金) 15:11:09 ID:a120sEBI
若い男女四人の、いっちゃ悪いがよくあるラブコメ話だと思ってたら!!!!
切ない、これは切ないよ。申し訳ないが甘く見てた>< ていうか甘い恋愛物だと思ってたよ。
描写の丁寧な一人称だから、登場人物が気づいてないであろう感情の伏線にも読んでて気づいちゃったりとか。ていうか一美さん鈍感すぎるよ><
なんか巧くいえないが、すごく続きが楽しみです。

------
レス代行はここでおk
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/internet/3274/1236880541/77より代行です
190レス代行:2009/03/21(土) 23:46:00 ID:g5it52Zs
上記避難所より代行投下します
191Little by little :2009/03/21(土) 23:47:21 ID:g5it52Zs
第四話 空回りVS天然@

「小島君も大変だね。友達のキューピッド役だなんて」
「ん、小林は友達だし、カズは幼なじみだし、大変だって思わない」
 ここは俺ん家の台所。んでもって、話相手は秋篠。
 小林が「喉が渇いた」って言うもんだから、お茶を出す事になったのだ。
 秋篠は俺を手伝うって名目で二人で部屋から抜けて来たって訳だ。
「でも、小林君て面白い人だね。喋りだすと止まらない人だなんて思わなかった。カズちゃんの話だと、無口そうなイメージあったけど」
 秋篠はやかんを見つけるとテキパキと動いてやかんに火をかけた。
「ああ、小林は自分の好きな事になると周りが見えなくなるから」
 小林は最初はボロを出さなかった。名前やら体重やら誕生日やら血液型の話をしている時は何も問題なかった――趣味の話題になるまでは。
 カズに趣味の話題を振られた時点はまだ堪えていた。無難に歴史が好きと言うだけに留めていた。
 だがしかし。
「へえ、歴史が好きなんて素敵ですね」
「三国志に戦国時代ですか? 私は詳しく無いけれど、弟がゲームをやっていて、ちょっとは知っているんですよ」
 他愛のないカズの返答が小林を調子に乗せてしまった。
 小林は延々と三国志と戦国時代の講釈を垂れ流しやがったのだ。
 カズが知っているって言ったって限度と言うものがある。次郎と三太(カズの弟の名だ)がやっているゲームでせいぜい有名な武将の名前を知っている程度だ。
 それなのに、小林は誰其の生き様がどうたらだとか、赤壁がなんたらだとか、かんたらがどうたらと熱弁を奮った。
 三国志や戦国時代だなんて女受けの良くない非モテ系のネタを延々と喋り続けるだなんてどうかしている。
 カズは小林に圧倒されたのか、曖昧に「そうなんですか?」「小林君て物知りなんですね」なんて合いの手を入れていたが、引き気味なのが伝わって来る。
 下手に合いの手を入れたカズも悪い。小林をヒートアップさせてしまった。
 揚句の果てに、話し終えるや否や「喉が渇いたからお茶くれ」だのと言いやがった。
 部屋を出ようとした時に秋篠が手伝うと申し出て、今に至るって訳だ。
 以上状況説明終わり。
192Little by little :2009/03/21(土) 23:47:59 ID:g5it52Zs
A

 お湯が沸くまで手持ちぶたさだからか、秋篠が大きな欠伸をしていた。
「歴史の話って興味がないと判らないね。私は全然判らなかったよ」
「そりゃそうだろ。俺だってちんぷんかんぷんだし」
 ふと、秋篠と目があった。お互いにぷっと吹き出してしまった。
「こんな事言っちゃうと失礼だと思うんだけど、はじめの内は小林君て凄く緊張してたじゃない? なのに、歴史の話になると途端に生き生きしちゃって、ギャップが面白かったー」
「つーか、あれはカズにも責任があるって! 話を変えれば良いのに、素直に聞いてるんだから、小林も勘違いしちゃうって。カズはそういう所が世間擦れしてないっつーか、天然なんだよな」
 俺と秋篠は今この場にいない連中の話で盛り上がっていた。
 そういえば、今まで秋篠とこんなに話をした事がない。俺にとって秋篠は幼なじみの友達ってだけで、秋篠にとって俺は友達の幼なじみってだけだ。
 何だか不思議な感じだ。俺ん家で秋篠と話をしているだなんて。
 まだお湯は沸かない。秋篠と話を続けるのも悪くない。だが、話す話題が見付からない。
 と思ったら、秋篠は爆弾発言をしてきた。
「そうそう、小島君さ、一組の星野美月と付き合ってるでしょ。小林君はそれ知ってる?」
「ん、まだ言ってない。付き合い始めたのバレンタインからだしな」
 平常心を心掛けてみるけど、心臓がばくばくいっている。誰にも言ってない筈なのに、どこでばれたんだ?
 星野美月は背が低い割に出るとこは出ていて、その割にショートカットでサバサバした性格でボーイッシュな娘だ。
 付き合い始めて一ヶ月しか経ってないし、専らメールのやり取りだけだから、表だって噂にはならない筈だ。
「小島君も動揺する事あるんだね。もっとクールな人だと思ってた。美月はね、二年の時同じクラスだったのよ。で、相談を受けたから知っていたんだ。」
「ふうん、そうだったのか。誰にもばれてないと思ってた」
「余りばれてないんじゃない?少なくともカズちゃんは知らないと思うし、小林君も知らないんでしょ? でも、それじゃ参考にならないな」
 秋篠は小さく溜め息をついた。落胆とかじゃなくて、もっと軽い感じ。期待はしていなかったから仕方ないといった具合に見えた。
「参考って? 秋篠もカズに内緒で付き合っている奴がいるのかよ?」
193Little by little :2009/03/21(土) 23:48:47 ID:g5it52Zs
B

「付き合っているとは違うけど、似ているかな――あっ、お湯が沸いた。きっと小林君もカズちゃんも待ってるよ」
 秋篠ははぐらかすように話を変えた。俺も会えて追及はしなかった。
 俺と秋篠が部屋に戻ると、小林とカズは楽しそうに話をしていた。
「ねえ、美帆。小林君は鍛治屋坂高校なんだって。私は石花海女子だから近くじゃない? 一緒に通学することになっちゃった!」
 カズは嬉しそうに秋篠に報告している。
「天田さんはフィギュアスケートが好きなんだってさ。俺、真央ちゃんとかミキティしか知らなかったけど、色々教えて貰ったぞ。
荒川静香のイナバウワーってあるじゃんか、あれって足のポジションなんだってな。小島、お前知っていたか?」
 小林もへんな固さが取れたみたいで、いつもの小林に戻っていた。
 つまり、二人は意気投合したのだろう。
 いきなり付き合うのか、それとも友達からはじめるのかは判らない。けれど、非常に喜ばしい事だった。
 今は『小林君』『天田さん』と呼び合っているけれど、少しずつ呼び名も変わって行くのだろう。

「でね、卒業記念で遊園地に行く事になったんだけど、美帆や真君も一緒に来てくれないかな?」
「そうそう、あそこの遊園地にはスケートリンクあるじゃん。さっき皆で行きたいねって話してたんだ」
 どこまで話を進めているんだよ、お前ら! 俺は叫びたくなったが、秋篠が先に口を開いた。
「カズちゃん、それじゃダブルデートみたいになるじゃない。それじゃ、私、行かれない」
「俺も同意。行くなら二人で行けばいいじゃん」
 カズは否定されるとは予想していなかったらしく、びっくりしている。
「行くなら皆で行った方が楽しいだろ。どうして駄目なんだよ」
 ダブルデートじゃ駄目なのだ。俺には星野がいるし、秋篠にも相手がいるらしいし。
 秋篠の方を見ると顎に人差し指を当て、小首を傾げて黙っている。
 秋篠と俺は多分同じ事を考えている筈だ。秋篠が勇気を出せないなら、俺が言えばいい。
「ダブルデートみたいなのが駄目なんだ。俺、付き合っている娘いるし、行くなら彼女と一緒がいい」
 ぽかんとした表情を浮かべる小林とカズ。俺が星野美月と付き合っている次第を説明し終えると、秋篠が口を開いた。
194Little by little :2009/03/21(土) 23:49:25 ID:g5it52Zs
C

「私は許婚がいるの。正式に婚約するのは中学卒業後だから卒業式の後に言うつもりで、内緒にしていた訳じゃないんだけど。
カズちゃん、青藍君知ってるよね?青藍君が家のお寺を継ぐ事になるから、青藍君と婚約するんだ」
『付き合っているとは違うけど、似ているかな』
 秋篠の言葉の意味がやっと判った。
 許婚っていうのは意味は判るけど、実感が沸かない。
 ピンと来ないと言うか、かなり重く感じる言葉だ。
 秋篠の家が寺だって知っていたし、一人っ子って言うのも知っていたけれど、そんなの想像すら出来なかった。
 外から夕焼け小焼けのメロディーが流れてきた。五時を告げる有線放送だ。
「やだ、もうこんな時間。そろそろ帰らないと。カズちゃんはどうする?」
 重い空気を吹き飛ばさんとばかりに秋篠は明るい声をあげた。
「あ、私も帰るよ。真君、小林君、また明日ね」
 カズは隣な訳だし、時間は大丈夫だとは思うけれど、結局秋篠と一緒に帰って行った。
 多分さっきの話のフォローを入れたいのだろう、窓から二人がカズの家に入って行くのが見えた。
「小林、お前はまだ帰るなよ。せっかくお茶を入れてやったんだ、飲んでけ」
「俺、三杯は飲めねえよ」
「じゃ、二杯な。」
 俺がそういうと、小林はお茶をちびちびと飲み始めた。
「小林、俺が付き合ってる娘がいるって事、お前に言ってなくて勘弁な」
「今日は機嫌がいいから許す。で、誰と付き合ってるんだ?」
「一組の星野美月。って、お前知ってるか?」
 小林は首を大きく横に振るとマグカップを置いた。
「うんにゃ。同じクラスになったことがあれば判るんだけど、生憎なって無いから知らん。で、いつから付き合ってるんだ?」
「バレンタインから。星野からは恥ずかしいから卒業迄は秘密にして欲しいって言われてさ、言えなかったんだ。
それに受験に集中したかったってのもある。今は専らメールのやり取りだけ」
「ふうん、そうだったのか」
 小林は新しいマグカップを掴むと一気に飲み干した。
「これでノルマは終わり。俺は帰るぞ。」
「ああ、またな」
 小林も帰って行った。
 今日は何だか疲れた。ベッドに倒れ込もうとした時に、ふと携帯が視界に入った。
 そういえば今日は星野にメールしてなかったな。携帯を手にすると、俺はベッドに寝そべりメールを打ち始めた。
195Little by little :2009/03/21(土) 23:51:31 ID:g5it52Zs
☆☆☆☆☆

件名:卒業式
本文:第二ボタンは星野の為に取って置いてある。
   だから、星野のブレザーの第二ボタンと交換な。

☆☆☆☆☆




※※※※※※※※※※※
投下終了です。
自分は携帯からなのですが、規制されてしまったので、規制解除まではレス代行スレにお願いすることにしました。
感想を付けてくれた方々、またレス代行の方、本当にありがとうございました。
196レス代行:2009/03/21(土) 23:52:32 ID:g5it52Zs
代理投下終了です

◆XYyRpZ8Z0sさんでした
197Little by little:2009/03/23(月) 22:25:36 ID:YrECqOPj
第五話 大人の階段昇る 私もあなたもシンデレラ @

 真君の家を出ると空は薄暗くなっていた。
 街灯の明かりがぽつぽつと灯りはじめ、びゅうびゅうと吹き付ける夜風は「春なんて
まだまだ先なんだぞ」と叫んでいるかのように冷たかった。
「ミホ、帰りは歩き?」
「ううん、青藍君に迎えに来てもらう」
 ――青藍さん。一美も何度か会った事がある。身長は美帆とは大差無いけれど、それは
美帆の身長が非常に高いだけで、つまり170センチはある筈だ。
 骨太体型で無精髭を生やしている様は所謂「親父」っぽくて、けれどくしゃりと笑う顔は
人懐こくて、一美は青藍さんに対して人見知りはしなかった。
 美帆と青藍さんが並ぶと美女と野獣みたいで、でも仲の良さは兄妹のようだった。
 それが、許婚だったとは。
 一美は美帆に何か話し掛けたかったけれど、何て言えばよいのか判らなかった。
 美帆は一美の気持ちを知ってか知らずか携帯を取り出して電話を掛けはじめた。
 美帆が一美に内緒にしていた事。
 言ってくれなかったのはちょっぴりショックだけれど、そうそうに告白されていても
どう反応すればよいのか悩んでしまう訳で。
 婚約って言うのはおめでたい事なんだけれど、まだまだミドルティーンの一美には友達の
婚約っていうのは全く実感が沸かない訳で。
 と、電話を終えて振り返った美帆と目が合った。玄関の光に当たっている美帆は何だか
大人っぽくて、一美の手の届かないような気がする。一美は美帆と一緒に大人の階段を一段ずつ
昇っていたと信じていたけれど、現実は違った。美帆だけがいつの間にか何段も先に昇っていたのだ。
 目の奥がじんわりと熱くなる。視界がどんどんと滲んで行き、一筋の涙が一美の頬を伝った。
 ねえ、何で涙が出るの? 悲しくも嬉しくもないのに、勝手に涙が流れてしまう。
「カズちゃん、今まで黙っていてごめんね。本当にごめんね」
 美帆が一美の肩に手を置いた。美帆の声も震えている。
「違うの、美帆は悪くないの。悪くないんだよ?」
 一美はポケットからハンカチを取り出すと美帆の涙を拭った。そして、自分も。
198Little by little:2009/03/23(月) 22:26:40 ID:YrECqOPj
第五話 大人の階段昇る 私もあなたもシンデレラA

「ね、カズちゃん。ここって小島君の部屋から丸見え?」
 涙が治まったのか、今度はちゃんとした声で美帆が聞いてきた。
「ううん、あそこに木があるでしょ? 家の玄関の所は真君の部屋からは死角になるんだよ。」
 一美が指差した先には一本のイチイがある。
「あの木はね、ずっと前からあるの。いつでも家を見下ろして来たんだよ。で、何でそんな事聞くの?」
「だって、カズちゃんを泣かせたら小林君に怒られそうじゃない」
「もう、美帆ったら!」
 一美と美帆はクスクスと笑いはじめた。涙を流すのではなくて、美帆とはこうやって笑いあっていたいと思った。
「で、小林君とはどんな話をしたの?」
「趣味を聞かれたから答えて、後はどこの高校に行くかとか、メアド交換したりとか。
で、皆で遊びに行きたいねって話になって、そしたら真君と美帆が部屋に戻って来て」
 そう、真君と美帆がいなくなってからも一美と小林君はきちんと話が出来たのだ。
 歴史の難しい話をした後の小林君は緊張が解けたようで饒舌になり、一美も釣られて話をしたのだ。
「そうだ、お茶入れたんだよ、私。飲んで来るの忘れちゃった」
「じゃ、家でお茶飲んでく?」
「ううん、青藍くんがそろそろ来るし……って、ほら」
 向こうから一台の軽トラが軽快な音を立ててやって来た。
「じゃ、カズちゃん、また明日。って行ってももう少し色々教えてね。で、一応青藍くんに
遊園地に一緒に行けるか聞いてみる。足替わりになるでしょ」
 軽トラが家の前に着くと美帆は笑顔で乗り込んで行った。美帆が手を振り、青藍さんは軽く
会釈する。こうして見ると、一美には二人がお似合いのように思えた。
 軽トラが走って行く。一美は門の横に立ちてをふり見送った。
「美帆、おめでとう。青藍さんもおめでとう」
 一美の呟きは夜風に流れて消えて行った。
 車が角に曲がり見えなくなり、一美は手を振るのを止めた。
 東京では桜が咲き始めたとはいえ、山梨の夜はまだまだ寒い。特に今日みたいな曇り空の日は。
 そろそろ家に入ろうとした時、真君の家の門から一台の自転車が出て来た。
「あれっ、天田さん、何をしているんですか?」
 一美に声を掛けてきた自転車の主は小林君だった。
「美帆を見送っていたの。小林君、暗いし寒いから気をつけてね」
「はいっ、じゃ、さようなら、天田さん」
199Little by little:2009/03/23(月) 22:27:13 ID:YrECqOPj
第五話 大人の階段昇る 私もあなたもシンデレラB

「バイバイ、小林君」
 小林君は勢い良く自転車を漕いで行った。
 少し話が出来たとはいえ、一美は小林君の事をもう少し知らなきゃいけないと思う。
 好きな食べ物とか、好きな本。映画やテレビや音楽。知りたい事は一杯ある。
 そういうのはメールで話せば良いとして、小林君の性格とか人となりはメールだけでは
伝わって来ない。面と向かって話をしなききゃ判らない事が沢山ある。
 人と出会う事の意味は学校からの帰り道で言っていたけれど、一美はその意味がきちんと
判りはじめたような気がした。
 と、今度は自転車がこちらに向かってやって来た。
「カズ姉、ただいまー」
 元気に叫んだのは一美のすぐ下の弟の次郎だった。声変わり最中独特の声で、まだまだ
一美よりは背が低いけれど、最近ぐんぐんと伸びて来ている。
「お帰り、次郎。私、先に家に入っているからね」
 一美は次郎が自転車を留めている間に家に入った。
「ただいまー」
 続いて次郎か家に入って来る。
「あんた、今日遅かったじゃない」
「今日は由介んち行ってた。先輩達に送る色紙の準備とかさ」
 由介君とは次郎の友達で、二人は柔道部に所属している。
「あんたも大変ねえ」
「そうだよ、明日は卒業式で、卒業式が終わったら部紹介の練習始めなきゃだからさ」
 次郎は階段を駆け上がって行った。
 一美は洗面所へ行きうがい手洗いをするとリビングへと向かった。
「お帰り、カズ姉ちゃん」
 声を掛けて来たのは末っ子の三太だ。三太は携帯ゲームに夢中になっている。
「ねえ、三太。今やってるの三国志のゲーム?」
「違うし、これはポケモンだし。僕やってるのDSだし。それに家にあるのは三国志じゃなくて
無双オロチだし」
 三太はちんぷんかんぷんなことを言って来る。
「あんたねえ、訳の判らない事言ってんじゃないの。三国志が何とかってゲームを次郎とやってたでしょ」
「だから、それは無双オロチだし」
「そのなんたらオロチって何よ。ヤマタノオロチは古事記でしょ」
「難しい事言われても判らないしー」
 三太はすたこらさっさと二階へ上がって行った。
 全く、近頃の小学生は生意気なんだから!
 一美は溜め息をついた。今日は沢山溜め息をついてしまった。溜め息をつくと幸せが
逃げるって言うけれど、今日に限ってはそんな事はないと思った。
200創る名無しに見る名無し:2009/03/25(水) 01:41:10 ID:JuEnBjfV
投下&代行乙です!
五話のタイトル通り、みんなちょっとずつ変わって行くのだねえ
それにしても小林くんwピュアなのはわかるがお前も頑張れ、置いて行かれるぞww
201創る名無しに見る名無し:2009/03/28(土) 15:14:13 ID:gPlQc3TW
なんとなくあげ
202創る名無しに見る名無し:2009/03/29(日) 12:21:06 ID:nVm2zwtu
恋、それは恋(・_・)
203 ◆91wbDksrrE :2009/04/03(金) 01:51:16 ID:Tk3ap2Ep
投下します
1レススレのお題を使って書いたんですが、
なんか長くなったのでこちらに。
204 ◆91wbDksrrE :2009/04/03(金) 01:51:44 ID:Tk3ap2Ep
 コンビニエンスストアが二十四時間やってるかどうかは、その町が
田舎であるか否かの指標になると思う。……期せずしてダジャレに
なってしまったが、他意は無い。ホントに。
 とりあえず私の住む町は、その指標に則って考えると田舎だという
事になる。実際、深夜零時を回ると人通りどころか、民家の明かり
すらもほとんど消えてなくなる。お陰で星は綺麗に見えるが、星に
興味の無い人にゃそんな事はどうでもいいだろうから、有体に言って
夜遅くまで起きている人間には不便な町だという事になる。
「げっ、間に合わなかった……」
 息を切らして駆けつけたその先で、既にコンビニはシャッターを閉め、
営業終了の看板を掲げていた。ほーら、不便だ。
「……そんなぁ」
 嘆いてみても、突然シャッターが上がって営業が再開するわけも
無く、呟きは虚しく空に消えていくだけ。白い吐息が、その比喩を目に
見える形にしてくれているが、別に嬉しくもなんとも無い。むしろ、寒さ
を実感させられるようで気が滅入る。
「さむっ」
 というか、実際に寒い。コンビニの中に入れれば、その寒さからも
逃れられるのだが……というのは詮無い考えという奴だろう。もう四月
だと言うのに、この寒さには参った……。
「あー、もう!」
 周辺民家に配慮した、少しだけ抑えた声で叫んでみても、コンビニの
営業時間にしろこの寒さにしろ、食べたかったプリンを食べられなかった
という悔しさにしろ、何一つとして解消することは無い。
 ――と思っていたら、意外なところから救いの手はやってきた。
「あ? 誰かいるのか?」
 その声はコンビニの裏手側から聞こえた。男の声だ。
「……ああ、すいません、お客さん。もう今日の営業は……」
「わかってます」
「そりゃ良かった」
 のっそりと姿を現した男は、声から想像したよりもずっと若くて、そして
デカかった。私が見上げる程に。これでも背は結構デカい方で、それが
コンプレックスになっていたりもするのだが、この人もそんな感じだったり
するのだろうか?
「ここの店員さん?」
「そうっすけど……何か用でも?」
「店員さんには直接用はなかったんだけどね……閉まってちゃあ
 仕方が無い、と諦めてた所」
「そりゃ良かった」
「……『何か欲しいのがあるならご用意しますよ』とかならない?」
「ならないっす」
「そりゃ残念」
 彼は、その手にコンビニの袋を提げている。中は、恐らく廃棄品など
を持って帰っているのだろう、かなりの量がみっしりと詰まっていた。
「今帰りですか?」
「ええ。……ホントは、店長が閉店処理しないといけないんっすけど、
 何か今日用事があったとかで……いい迷惑っすよ、ほんと」
「大変そうですねぇ」
「大変っす」
「あ!」
 軽い雑談を交わしながら、何となく彼の持っていた袋を見ていた私は、
その中に一つの物を発見した。半透明の袋から透けて見えるその
パッケージは、見違えようも無い、私が愛食しているプッツンプリン
のオレンジと黄色の彩りだった。
「それ、それ!」
「……な、なんすか」
「それ! プッツンプリンでしょ!?」
「……あ、これっすか? そうっすけど……」
「売って!」
「……はあ?」
205 ◆91wbDksrrE :2009/04/03(金) 01:52:18 ID:Tk3ap2Ep
 ……呆然とされてしまった。でも、こんな閉店間際っていうかギリギリ
アウトの時間に息せき切ってここまで来たその理由が目の前にあるのに、
それを見過ごして帰るなんて事は、私にはできなかった。
「でも、これ……廃棄の奴っすよ?」
「構わないから売って!」
「……でも」
「じゃあ、頂戴!」
「……」
 ……今度は呆れられたようだ。
「売れないってんなら、友達にあげるってことで、私に頂戴!」
 でも、私は諦めなかった。それだけが私にできる唯一の戦いだった
からだ……なんて大げさにキバヤシる程でもないはずなのだが、
一度言い出してしまった以上、押し通さないと逆に恥ずかしくなる。
「友達って……あの、俺、貴方の事全然知らないっすけど……」
「私、長井実穂! 君は!?」
「……と、友部明臣(あきおみ)っす」
「明臣君だね! じゃあ、お互いの名前も知ってる私たちは、もう友達!」
「は……はぁ」
「というわけで、プリーズ! ギブミーチョコレート!」
「……プリンが欲しかったんじゃ?」
「そうだった! プリーズプリン! ギブミー!」
 勢いだけで突っ走っている私に、彼――明臣君は軽く引いてるような
気配もあったが、私は気にしない……というか、気にしたらちょっと、いや、
かなり死にたくなる気が……。夜のハイテンションって怖いなあ……。
「……えっと、長井さんって」
「実穂でいいよ。だって友達じゃない」
「じゃあ……実穂、さんって……なんでそんなにプリンが欲しいんっすか?」
「そこにプリンがあるからさ!」
「……は、はあ」
 とにかく、私はただひたすらにプリン目指して突っ走っていた。
暴走しているとも言う。これでプリン貰えなかったら、私は恐らく明日の
新聞を飾る事になるだろう。お母さんお父さん、先立つ娘をお許し下さい。
「……わかったっす。そんなに要るなら……どうぞ」
「やったー! きゃっほー! ありがとー!」
 彼は、小さく笑いながら私にプリンを手渡した。
「……変な人っすね、実穂さん」
「惚れた?」
「え? ……あー」
「……ちょ、ちょっと?」
 勢いのまま、冗談で言った言葉に、明臣君は頬を染めて俯いた。
慌てたのは私の方だ。な、なんでそんな反応を……。
「や、やーねぇ、冗談よっ、冗談」
「……友達、なんっすよね、俺達?」
「そ、そうだね。友達だよっ」
「……友達から、って事で……お願いしても、いいっすか?」
206 ◆91wbDksrrE :2009/04/03(金) 01:53:28 ID:Tk3ap2Ep
「………………え?」
 言ってる言葉の意味がよくわからなかった。ようやくそれがわかった
のは、たっぷり三分程経ってからの事だった。
「え……えぇぇぇえええええぇぇええ!!??」
「……唐突にこんな事言い出す俺も、随分変な奴だと思うんで、多分、
 実穂さんとは気が合うんじゃないかなぁ……とか、思ったりしたっす」
「え、でも、その、あの……私たち、今日、今、ここで会ったばっかだよね?」
「迷惑ならいいっす。でも……何かその……いいな、って思った、
 この気持ちは本物だと思うっすから……そこは、伝えたくて」
「……う……うへぇぇぇええ」
 私は奇妙な唸り声を上げて、頭を抱えた。プリンめがけて暴走してたら、
何故か告白されちゃってるとか、一体どんな超展開だこれは。
「やっぱり……迷惑っすかね?」
 何故か寂しそうに笑う彼の顔を、私は頭を抱えたまま横目で見た。
 ……何か、結構カッコいい、かも。笑った所が、特に。背も高いし、
私と並んだ所を想像すると、凄く様になってる気がする……。
「あの、ね……私なんかが、いいの? こんな、変な女がいいの?」
「……迷惑じゃ、なければ」
 頭を抱えていた手が、頬におりてくる。真っ赤になって熱を持った頬に、
掌の冷たい感触が心地いい。でも、それもすぐに熱くなっていく。頬の
熱と、身体の中心から湧き上がってくる熱で。
「……とりあえず、すぐに返事は、いいです。明日とか、その、いつでも」
「そ、そう? ……そうしてもらえるとありがたいかも。なんかもう、今ね、
 頭の中パニックな感じでね……」
「とりあえず……こんな時間ですし、家まで送るっす」
「あ、うん……ありがと」
 プリンを地面に落としてしまっている事にも気づかず、私は彼を横に
伴って家路に着いた。
 来る時は走って心臓が跳ね上がっていたが、今は違う理由で心臓が
跳ね上がり、いかに深呼吸しようとも収まりそうにない。
 ……多分、明日のこの時間、私はまたこのコンビニにやってきて、
それで彼に答えを告げる事になるのだろう。
 その答えは、もう心の中では決まりつつあった。
 あと、決めなければいけないのは……その答えを彼に告げる、覚悟だ。
「……一日で足りるかなぁ」
「ん? 何っすか?」
「あ、ごめん、こっちの事」
 歩くうち、日付が変わる。
 今日と言う、思いもしなかった出会いの日が。
 そして、やってくる。
 明日という、思いもしなかった出逢いの日が。
 一時間という短い時間で、人生変わる時は変わるものなのだな、と、
そんな事を思いながら……彼の、小さく笑みをたたえた横顔を見て、
私は同じように小さく笑った。
 何となく、これからもこんな風に笑っていられるような、そんな気がして。

                                     終わり
207 ◆91wbDksrrE :2009/04/03(金) 01:53:39 ID:Tk3ap2Ep
ここまで投下です
208創る名無しに見る名無し:2009/04/03(金) 08:32:22 ID:4m+r+oLf
GJ!勢いのある女の子って好きだー!
209創る名無しに見る名無し:2009/04/08(水) 05:39:19 ID:TszWkC7V
初めまして。
某スレにてSSを書き、(いずれ正体は誰かに暴露されますが、あえて名無しで)
荒らしとスレの無駄遣い認定にされた者です。
ここではSSにたいして否定的ではないようですが、
自分がここでSSを書けば、スレがあれる原因になるのでしょうか?
否定されるなら黙って去ります。
210創る名無しに見る名無し:2009/04/08(水) 06:13:08 ID:VbJBOBtk
誘い受け乙
某スレがどこか見当も付かないし、貴方が何をしでかしたのかも分からない
そんな状況で荒れるか?なんて質問されても答えようがないよ

個人的な意見だと、このスレの趣旨にそぐうSSで、例え貴方が荒らしに粘着されても
それに対して馬鹿な反応をしないと確約出来るのなら好きに投下したら良いと思う
211創る名無しに見る名無し:2009/04/09(木) 00:30:30 ID:YP21eTLq
他でID出さずに、ここに名無しで投下するだけで一日を終えれば問題ないのでは
212 ◆91wbDksrrE :2009/04/29(水) 23:17:01 ID:YEBTsN8e
「マントヒヒっているじゃん?」
 ある暑い春の日の事――日本語的におかしいが、実際そうだったんだから
仕方が無い――、唐突にツレがなにやら言い出した。
 暑いからと部屋の中でうだうだしていると、たいていコイツはわけの
わからない事を言い始める。
「マントつけたヒヒだったら、何気にかっこよくない?」
「……お前、この唐突な暑さで頭がゆだったか?」
「アイス食べてるからそれはないよ」
「食べてなかったらあるのかよ……」
 こいつのこういう発言はいつもの事だ。まともにその意味を考えていては、
いくつ頭があっても足りない。ましてや今日の暑さの中で真剣に考え込んで
しまうと、俺の頭の方がゆだってしまう事になりかねない。
「……そうだな、マントふぁさって翻してな」
 適当に話をあわせると、奴の顔はパッと輝いた。
「でしょでしょー! なんていうか、女の憧れだよね、マント背負った
 カッコいいヒーローって!」
「……女の憧れ、なのか?」
「わかんないかなぁ。ほら、タキシードなんとかみたいな、ああいうの」
「それはわかるが、なんとか仮面とはまた例えが古いな」
「マントヒヒがそんなだったら、夢が膨らむなぁ……」
 本当に取りとめが無い。どんな夢を膨らませているのか、一度その
脳みそを開けて見せてもらいたいものだが、脊髄しか使ってなくて
脳みそが空っぽな可能性を考えるとその勇気は無い。
 流石に、それなりの間連れ合っている人間が、実は脊髄反射だけで
生きてきてました、などと確認してしまったら、次の日からどういう顔を
して挨拶をすればいいかわからなくなってしまう。なにせ、おはようと
言ったら、返ってくるおはようのあいさつは反射の賜物なのだ。そこに
心はあるのかい? 心にダムはあるのかい?
 ……いかん、俺の頭も相当やられているらしい。奴の取りとめの無い
考えに思いっきり釣られて、取り止めの無い事を考えてしまっていた。
213 ◆91wbDksrrE :2009/04/29(水) 23:17:42 ID:YEBTsN8e
「……でも、マント背負ってても、所詮ヒヒだろ、マントヒヒって」
「ヒヒってどういう意味? 何かかわいいよねえ」
「……可愛いか、ヒヒが?」
「可愛いじゃん。何か、小悪魔な笑いって感じで」
「どういう可愛さだ、それは」
「で、ヒヒってどういう意味?」
 俺は自分の頭を切り替える為と、奴の取りとめの無い話をとどめる為に、
頭の中にヒヒに関する知識を探した。
「……大雑把に言うと、サルだ」
「サル?」
「そう。だからマントヒヒは、マントサル」
「マントサル? ……なんか、次郎っぽくなった」
「今なら笠もサービスでお付けします」
「いやー! だめー! かっこよくないー!」
「笠被ってても?」
「余計だめー! ないわー!」
 どうやら、一気にイメージの中にあった理想のマントヒヒ像が壊れて
しまったらしい。……理想のマントヒヒ像というものがどういうものか、
俺には想像する事もできないが。
「……とにかく、そろそろ昼飯にしてくれない?」
 時刻はもうとっくに昼を過ぎている。暑い暑いとうだうだして、とりとめの
無くどうしようもない話をしていた結果だ。
「マントヒヒショック」
「……?」
「私はマントヒヒショックで痺れて動けません」
「はぁ?」
 ……何を言い出すかこいつは。
「だから作ってダーリンダーリンプリーズ」
「……谷間見せろやコラ」
 仕方がなく、俺は立ち上がって台所に向かった。
「ワタシ、チャーハンがいいアルよー」
「アイヨー」
 似非中国人の奴に、似非中国人で応えて、俺は久しぶりの台所を
見渡した。
 こいつの取り止めの無い話に付き合うのはいつもの事だが、こうして
台所に立つのはいつもの事じゃない。とはいえ、一人暮らしの期間も
長かったから、チャーハンくらいは作れるだろう。
「……たまには、こういうのもいいか」
 器具を用意しながら、何となく口元が笑みの形に歪む。
 こういう、どうしようもない日常が楽しいから、俺は奴と一緒に毎日を
過ごしてるんだろう、などと、軽く頬が赤くなってしまいそうな事を考えながら。
 そうして出来上がったチャーハンは――甘かった。
「……すまん、砂糖と塩間違えた」
「うへー」

 終わり



 おまけ

「ねえねえ、マンドリルっているじゃん?」
「その話は何か下ネタの方向にしか行きそうにないから却下だ」
「えー」

 本当に終わり
214 ◆91wbDksrrE :2009/04/29(水) 23:18:09 ID:YEBTsN8e
ここまで投下です。

嫁なんて都市伝説ですよ。
215創る名無しに見る名無し:2009/05/04(月) 02:50:39 ID:Xnnfpv84
マントヒヒショック!
心にダムはあるのかいってw次郎っぽくなったってww
細かい小ネタがきいてていいな
見て和むと同時にニヤニヤしたよ
GJ!
216創る名無しに見る名無し:2009/05/04(月) 03:04:29 ID:6PTRZeN7
嫁がこんなかわいいだなんて幻想ですよ、ええ
217創る名無しに見る名無し:2009/05/05(火) 18:05:18 ID:OqOHNTBv
砂糖チャーハンはきっとわざとです><
218創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 01:09:33 ID:ym3NxvQn
『初恋』
パレットに宇宙が広がっている。
 彼は慎重にチューブから絵の具を絞り出し、それを水で濡らした筆で溶かす。
くちゅくちゅと音がする。
こびりついた血の塊のような絵の具はだんだんと柔らかくなって行き、
しまいには彼の思うままに滑らかな色合いを見せ、他の色と混じり合う。
彼は完全な調和によって保たれている一つの宇宙を壊し、またあらたな宇宙を構築する。
 青色と黒の混じった、パレットに広がるその一つの色は間違いなく宇宙だった。
水の混じり過ぎで溶けた絵の具に生まれた泡は大空に瞬く、
控えめな星を連想させたし、その大いなる空間の中央に生まれた一つの小さな空洞は月を、
黒は闇を、少し薄めの青は夜の帳が少し開けつつある空を表している。
彼が懸命になって描いている懸命な風景画よりも、その芸術作品は魅力的だった。
理由などとうに知れている。私は野性的な、本能そのままの彼を愛しているのだ。

 宇宙を創り出す彼の動作もまた神秘的だった。
机の下に置いた水を張ったバケツに面相筆を浸し、軽快な音を立てる。
それから筆でバケツの壁を、毛先が乱れないように撫で、
毛先から滴り落ちる水を落とす。念を入れて机の上の雑巾で筆を拭き、
水分をとりすぎたのならまた作業をやり直す。
最後に背筋を伸ばし、絵の具に筆をつける。
どんなに慎重に、丁寧に扱ったとしても美しく整えられた毛先は乱れてしまう。
毛がまた一本、パレットのうえにおちた。
それでも彼は作業をやめない。
私は彼を観察するのが好きだ。
彼が宇宙を創り出す格好は、どうしようもなく浮世離れしているからだ。
私は彼に欲情する。
彼の宇宙のなかに飛び込む代わりに自分の絵を乱して身もだえる。

 チャイムが鳴った。
気怠気な教師の号令の声がかかり、私達は水道へと群がる。
楽しい美術の時間が、また終わってしまった。
わたしはちっとも進んでない自分の作品を見つめながら溜め息をつく。
別に、想いを伝えようとは思わない。
中学生の恋なんて所詮勘違いと性欲だ。
ながつづきしないのなら、もとから告白しない方が良いに決まっている。
「おうい」
絵の具入れを棚に入れて帰ろうとした所、後ろから声がした。宇宙の創造主だ。
「これ、忘れたみたいだよ」
声が出ない。顔が熱い。

ゴミ箱に捨てられた宇宙が、少し煌めいた。

完。


219創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 01:11:14 ID:ym3NxvQn
投下しました。初めてなのでお見苦しかったら全力で忘れてください。
よかったら感想お願いします。
220創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 01:22:14 ID:nqh/mhCU
おお、これは良いものだと思いますです
感情の流れの飛躍がリアルだと感じられたし、個人的な話ですが自分の書きたいものにも近いwかなり好きですこれ
若さゆえの純粋で過剰な自意識ってやつは、なかなか主の味方になってくれないんだよなぁ
221創る名無しに見る名無し:2009/05/28(木) 01:22:59 ID:nqh/mhCU
おっと書き忘れた、投下GJです!!
222創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 23:14:47 ID:qUa8/6Yy
『初恋』の者です。220番さん、暖かい反応ありがとうございました。
てっきり叩かれるばかりだと思っていたので感動ものです。
もう一つ投下しようと思って諦めたやつがあるのですが、捨て身で投下します。
小説というよりは詩に近い中途半端な物体ですがどうか生暖かい目で見てやってください。
サイトに載せているものなのですが、URLをさらす程勇者ではないので
こちらにそのまま貼ります。下に貼っておきます。
223創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 23:28:59 ID:WmRyHP/y
『赤い糸』

なんで、殺したのかって?
_....刑事さん、さっきから何度も言っているでしょう。僕は殺意をもっていないんです。
彼女の全存在に誓って、申し上げます。ああ、経過ね。そんなモノも訊くんですか。
__...そうですね。これから何度もお話しするんでしょうし、矛盾が無いように話しますよ。
彼女は、高校時代の同級生でした。

とても明るくてクラスの人気者だった彼女はそう、いつもスポットライトを浴びていましたよ。
対する僕はそんな彼女をただぼんやりと見ていただけで、
特に行動を起こそうとは思いませんでした。
ええ。好意を持っていたんですよ、彼女に。それはもう明白な。
だけど当時の僕と同じように彼女のことを見つめる男子生徒は少なくなかった。
それで、黙っていたんです。
別に僕は彼女が全国大会まで押し進めた書道部の所属でも無かったし、
ただの地味な、どこにでもいる平凡な学生でしたから。
ですが、卒業式に思い切って告白してみたんです。
といっても、とても控えめなものでしたけど。
当時学校に言い継がれていたジンクスを使っただけです。
白いハンカチに自分の名前を書いて、相手に渡す。
五年経ってまだ相手がそれをもっていたら、その二人は永遠に結ばれる。
まぁ、すこしまどろっこしい、どこにでもあるモノですけどね。
彼女は恥ずかしそうにはにかみながら、それをそっと自分のブレザーのポケットの中に、丁寧に畳んでいれてくれました。
それは、とても美しい動作でした。初めて彼女と僕が通じあった瞬間でもありました。
___...そう急かさないでくださいよ。
刑事さんだって、よくドラマとかご覧になるでしょう?
あれみたいなものだと思ってください。
それから卒業して、僕は就職に失敗しました。
よくあるパターンです。とても面白みの無い転落でした。
そこからフリーターになって、まぁ食べて行けるだけマシなんですけど
全てにやる気がなくなって、家賃も滞納するようになったし、
危ない所からお金を借りるようにもなりました。
それで、思ったんです。『こんな世界やめてやる』って。
__..おっしゃりたいことはわかります。自分で振り返ってみてもくだらない動機でした。
それでも、一度決意したら揺らぎません。
僕はすぐにネットの掲示板に書き込みました。

『一緒に死ぬ人いませんか』

って。
224創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 23:32:02 ID:WmRyHP/y
画(え)に描いたような動機で、方法で、自分自身に今更嫌気がさしたりもしましたが、すぐに返信が来ました。
丁寧な物腰の女性でした。
僕は彼女と待ち合わせをして、崖から飛び降りることにしました。
死に方くらい、少しだけ派手なものでもいいんじゃないかと思ったのです。
ささやかな抵抗、とでも言っておきましょうか。
_...何で泣いているんですか?そんなに悲しそうに。
安心してください。僕はいま、とても幸せなんです。
彼女は病院の看護士さんでした。過酷な勤務に体がついて行かず、気づけば倒れていて職に戻ることもできなくなっていたと書き込んでいました。
僕はその彼女と日曜日の午後、崖の上で会いました。

風が轟々と吹いていて、波は意志をもっているかのように荒れ狂っていました。
崖に波が激しく打たれ、白い泡が次々と濁った海に溶けて行きました。
曇り空でした。小雨もぱらついていました。そんななか、彼女は弱々しく微笑んでいました。
_...刑事さんの想像の通り、五年前のあの、僕が初恋相手に渡したハンカチをもって。
僕は、うろたえました。
驚きすぎて、声が出ませんでした。
やっぱりあなただったのかと彼女は言いました。
五年前と違って彼女の体は枝のように細くて頼りなく、
顔にはしみがこびりついていて、頬はこけていて、
目の下には血管にすぐ触れることができるんじゃないかと思うくらい
薄い皮膚が張り付いていました。
僕は、泣くことしかできませんでした。
その時の天候とおなじように、哀しく、優しく、でもなかにとてつもない絶望を秘めて泣くことしかできませんでした。
彼女は死ぬのならあなたと一緒が良かったと言い、それでも自殺に戸惑っているふうでした。
光を宿していない、伏し目がちの瞳がさらに陰りました。
その背中を、僕は押しました。
225創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 23:35:15 ID:WmRyHP/y
初めて触れた彼女の肉体は、紙のような感触でした。
ちゃんと服を着ていて、骨も筋肉もあって、カーディガンのうえからも下着の感触を確かめることができました。それでも、まるで紙のようだとまず最初に思いました。
彼女はあっけなく海におちていきました。
手にしたハンカチが、そこだけ別世界のように世界を白く彩り、ひらひらと彼女とともにおちていきました。
僕は心の中で彼女に口づけをして、片手で十字を切って自分も海に飛びおりようとしました。


その時の世界は、止まっていました。


_..あとは話すまでもありません。
刑事さんが手帳に記してある通り、海の様子を見に来た近隣の方が僕を取り押さえました。
彼はどうやら僕が彼女を突き落としたところをみていなかったようなので、僕は単なる自殺願望者として扱われました。
いまでもすぐに死のうとする僕を見かねて、住人さん方は警察の方を呼びました。それで、今に至ります。
そんなに面白みも新鮮さもない、つまらない自白でしたが、どうですか?刑事さん。
これでも、僕が彼女を殺したと言えますか?
彼女も僕も、もとからつながっていた。
つながっていたから、あの日僕は彼女に会えた。
そして、彼女は死にたがっていたのです。僕はその背中を文字通り押しただけです。
何故、そんなに落ち着いているのかだって?_..さぁ、よくわかりません。
取り乱す程の楽しみすらも、見失っているからじゃないでしょうか。
それに、僕はもう死んでいるようなものですし。僕と彼女はとても尊いもので結ばれていました。
決して切れない、ほどけない、頑固で神秘的なもので。ですから、彼女が死んだら僕も死ぬのです。
現に、もう毒がまわってきました。
刑事さん。そんなに頭を揺さぶらないでください。
怒鳴らないでください。
泣かないでください。
胸が苦しい。
痛い。
しゃべれないので心の中でしゃべります。
刑事さん。僕は彼女の意志に従っただけなのです。
ですから、僕もこうなるしか無いのです。
彼女の引っ張る糸につられるようにして、僕もたどたどしく同じ処に行かなければいけないのです。
思っていたよりも毒はきつくありませんでした。ですが、視界が妙に歪んでいます。
ああ、最期に、これだけは言っておきます。
______...刑事さん、

「      」

赤い糸
226創る名無しに見る名無し:2009/05/29(金) 23:38:28 ID:WmRyHP/y
なんとか投下完了です。連打もどきをしてしまい、びくびくしながらの書き込みでしたがなんとか投下できました。初心者って怖い。
改行多くてすみません。普通にコピペったら行が長過ぎて書き込みできなかったので。
見苦しかったら全力で忘れてください。よかったら感想お願いします。
227創る名無しに見る名無し:2009/06/02(火) 20:58:47 ID:P+pdYmng
5年とは気が長くて、そして純情だな
そんな繊細な二人だったからこその結末か
悲しいね

三人称的な情景描写を廃した、淡々とした一人称での語り口が
いい具合に主人公の絶望の深さを表してるね
切ない話、GJ!
228創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 16:11:29 ID:9bhppmki
「これ、恋人のカオリ」
 初めて彼女をこの家に連れて来られた時、私はガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。
 私とアキラが同棲し始めたのは6年前の事だ。
 高校から一人暮らしを始めるアキラが、寂しいからという理由だけで昔から仲の良かった私を、このマンションに半ば強制的に連れてきたのが始まりだった。
「はじめまして、カオリです。」
 そう行儀よくお辞儀したカオリは、アキラにはちょっと勿体無い位可愛かった。
 顔にも口にも出さなかったが、内心私は複雑だった。
 私のほうがアキラを知ってる。
 笑っているときも落ち込むところも、この女より、よく知ってるのに。

 アキラとカオリが付き合いだした馴れ初めは、たったひとつのキスかららしい。
 元々大学で仲が良かった二人だが、ある日とうとうアキラの理性がぷっつり切れてキスをした。
 これでカオリに万一ほかに好きな人でも居たら一大事というかシャレにもならないが、強運にもカオリもアキラのことが好きだったらしい。めでたく両想いになったそうだ。
 ……たった、キスひとつで変わる関係なら、どんなに良かっただろう……。
「な? 言ってたとおり可愛いかったろカオリちゃん」
 カオリが帰ったあと玄関を振り返って、自慢気にアキラはふふんと笑った。
 ああ、可愛いかったよ、長い間連れ添った私なんかより、あの子を選んだくらいなんだから……。可愛いくないと、納得いかない。
「拗ねんなよ、バカ」
 よほど態度に出ていたのか、アキラは笑って、いつものように私に軽くキスをした。……キスたったひとつで変わる関係だったら……。
 キスなんて何千回もしているけれど、関係が変わることなんてない。ぜったいに。

 ……なんだかふいに悔しくなって、私はみゃあ、と鳴いてやった。
229創る名無しに見る名無し:2009/06/05(金) 18:42:50 ID:Q9SMoNFw
こういうの大好きw
かわええなぁ、可愛い嫉妬がw
230創る名無しに見る名無し:2009/06/06(土) 23:14:04 ID:th9UczOD
ぬこかwww
ちくせう、これは良いwww
231 ◆91wbDksrrE :2009/07/21(火) 00:39:11 ID:C/ppc0RK
 葬儀というものは、こういうものなのだと、その時私は初めて実感した。
 何度か、親類縁者のそれに参列した事はあったが、まだ幼い時の話でもあり、皆が
しんみりしながらも、飲んだり食べたりして騒ぐ、そういう催しだと、そう思っていた。
 だが、実際に自らが参列される側に立ってみると、飲んだり食べたりしている暇はなかった。
 それは、喪主であるからなのか、それとも、あの人のことを偲びに来てくれた人の数が、
通常のそれよりも膨大だったからなのか、それは私にはわからない。
 しかし――
 私達の家に、これほどの人が訪れたのはいつ以来の事だろう。
 ……いや、もはやこの家は“私達の家”ではなく、“私の家”なのだけれど、でもやはり、
私はどうしても“私達の家”と、そう考えてしまいそうになる。
 訪れた人の数は、そのままあの人の顔の広さを物語っているようで、家では
あまりそういった様子を見せなかった事もあり、私は嬉しくもあり、そして同時に寂しくもあった。
 ――あの人の事を、私は全然知らなかったのだな。
「この度はご愁傷様です」
 そう言って頭を下げるあの人の知人――私にとっては見知らぬ人――に、私は淡い笑みを
浮かべて、頭を下げ返す。二言三言、生前のあの人の話を交わし、そこでも私は嬉しさと
寂しさを半分ずつ味わう事になった。私の見知らぬ人達は、私の見知らぬあの人の
顔を知っていて、それを私に教えてくれたから。私の知らないあの人を知る事は、
私にとっては嬉しさでもあり、寂しさでもあった。
 ――私は、あなたの全てを知っていたかったのに。
 そんな考えを内心に抱えながら、私は淡い微笑みを絶やさずに、人々の応対に追われる。
「そういえば……」
「はい?」
 そんな中、とある人が私に向かって口を開いた。あの人が仕事で付き合いのあった人で、
とある会社の社長だと、そう名乗っていた人だ。その会社の名は、そういった事に疎い私でも
耳にした事があり、そんな人とも付き合いがあったのかと、私は半ば驚き、そしてやはり、
半ば寂しくなった。
「彼は、よく言っていましたよ。『俺は不出来だから、家を守ってくれる奴がいて、非常に
 助かっている』と」
「……はぁ」
 私は曖昧に頷いた。
 その言葉を、あの人が本当に言ったのか。その疑問が、私の頷きを曖昧なものにしていた。
「確かに、貴方のような人が家にいたならば、安心して仕事に打ち込めたでしょうな」
 そう。あの人は仕事に生きた人間だった。家に帰っても、ご飯を食べて寝るくらいしかせず、
休日というものは無きに等しく、何か、命を削るように働き続けていた人だった。
 私は、少しでもその削れらる命が少なくなるようにと、栄養を考えたご飯を作り、ゆっくりと
眠れるように寝所を整え――だが、その程度しかできなかった。
 あの人はそんな私をねぎらうでもなく、当たり前のように食べ、眠り、そしてまた家を出て、
帰ってきて、食べ、眠り……その繰り返しだった。
 きっと、今回の事故がなくとも、あの人は遠からず逝ってしまったのではないかと、
そんな事を考えたりする事もあった。そうなっていたら、自分のこの悔しさは、どれだけ
増していただろうか、とも。
 だから、あの人がそんな言葉を本当に言ったのかどうか、それを私は疑問に感じた。
232 ◆91wbDksrrE :2009/07/21(火) 00:39:19 ID:C/ppc0RK
「そういえば……」
 そんな私の思いを知ってかしらずか、あの人の知人は、思い出したように言葉を続けた。
「彼はたまにですが、貴方の事を話す時に仏間の話をしていました。『そこに、あいつに
 見せたいものを置いてあるんだが、いつ見せればいいかわからない』と。何のことかわかりますか?」
 仏間? ……仏壇が置いてあるくらいで、特に何か大事なものがあるとは聞かされていない。
「……いえ、心当たりは、特に」
「そうですか……いえね、その話をする時の彼は、やけに嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな、
 彼らしくない表情をしていたもので、よく覚えていたのですよ」
「……はぁ」
 私はまたしても曖昧に頷いた。置かれた物がある、と、そう彼は言っている。一体、あの人は
何を仏間に置いたというのだろうか。
「では、私はこれで」
 そう言って、あの人の知人は帰っていった。
 仏間。一体そこにあの人は何を……。
 私は、居てもたってもいられなくなり、休憩を親戚に申し出ると、仏間へと向かった。
「……一体、どこに……何が……?」
 考えられるのは、仏壇の引き出しの中、くらいか。
 私はそれらに手をかけ、中身を確認した。
「あ……」
 程なくして、私は“それ”を見つけた。
 小さな箱。まるで、指輪を入れておくような。
「……あの人が、これを?」
 恐る恐る、私はその箱に手をかけ、開く。
 そこには、その見た目通り――指輪が、収められていた。
 ぱさりと、一緒に収められていたらしい紙が一枚、畳の上に落ちた。
「これが……私に見せたい、もの?」
 指輪。小さな、だがしかし、しっかりと輝きを放つダイヤが飾られた、決して安くは手に入らない
だろうそれの意味が、私が拾い上げた紙には記されていた。
 ――お前の想いには気づいていた。だが、それに答える事は、今のしがらみの中ではできない。
だから、俺が死んだら、お前にこれを見つけて欲しい。死によってくびきから解き放たれたならば、
あらゆるしがらみから解き放たれたならば、その時はお前の想いに答える事ができるから――
「……父さん」
 想いは、報われていたのかと。
 最早、報われたという証はこの指輪しかないのかと。
 相反する、嬉しさと寂しさが、私の頬に微笑みを形作らせ、私の瞳に涙をたたえる。
「……父さん……ありがとう」
 こうして、私の初恋は――禁じられた初恋は、報いと終わりを同時に迎えた。
 指にはめたダイヤのきらめきは、涙にゆらめいて、まるで星のまたたきのようだった――

                                                    終わり
233 ◆91wbDksrrE :2009/07/21(火) 00:39:31 ID:C/ppc0RK
ここまで投下です。
234創る名無しに見る名無し:2009/07/21(火) 01:20:04 ID:bDdKwxs4
男「好きだ」
女「えっ」
男「私も貴方のことが好き…」
女「えっ…」
男「結婚しよう!!!!」
男「嬉しい」
女「ちっ……」
男「えっ」
男「見つかってしまった」
235創る名無しに見る名無し:2009/08/03(月) 21:14:02 ID:R4u7IB6i
アッー!!
236創る名無しに見る名無し:2009/08/31(月) 11:31:03 ID:ogtZ+K0d
【韓国】ろうそくデモの直接被害1兆ウォン超える 国のイメージ毀損など間接的被害額は2兆6939億ウォン[08/31]
1 :東京ロマンチカφ ★:2009/08/31(月) 09:40:24 ID:???
ソウル中央地検は、昨年に起きたろうそくデモの経過と違法暴力行為の捜査の結果を盛り込んだ
「米国産牛肉輸入反対違法暴力デモ事件捜査白書」をまとめたと30日に明らかにした。平和的集会
とデモの習慣を定着させる契機を設けるため発刊したと検察は説明した。

白書はろうそくデモ発生原因として、米国産牛肉の輸入再開決定後に一部メディアの歪曲報道と
狂牛病に対する虚偽の情報拡散を挙げた。「国民対策会議」など一部の勢力が介入し違法暴力
デモに拡大していったとも分析した。こうした内容は検察が押収した内部文献に示されていたという。

白書は106日間のろうそくデモを4つの期間にわけた。昨年5月2日から23日の第1期は国民の
不安感によりろうそくデモが比較的平和的に開かれたが、5月24日から6月19日までの第2期から
デモを主導する団体が介入して過激デモに変質しはじめた。6月20日から29日までの第3期では追
加交渉結果が発表され一般市民が離脱したが、外部勢力主導の暴力デモは最高潮に達した。6月
30日から8月15日までの第4期では違法デモ主導者されるとろうそくデモは求心点を失い消滅したと
白書は説明している。

検察は1476人を立件し、43人を拘束、165人を在宅で、1050人を略式で起訴した。これまで
に1審で9人が実刑を受けている。検察は違法暴力デモを寛容しないという無寛容政策に基づき、
起訴猶予を最大限抑制したと明らかにした。

白書は韓国経済研究院の研究結果を引用し、デモ現場近くの商業施設の営業損失、交通渋滞
費用、公共支出損失など直接的な被害は1兆574億ウォン(約790億円)、社会不安定、公共
改革の遅延、国のイメージ毀損など間接的被害額は2兆6939億ウォンと推定した。

http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=119858&servcode=300§code=300
237創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 01:51:59 ID:6aeUv1wb
>>232
仕事人間だったのは、つまりそういうことだったのか
238 ◆91wbDksrrE :2010/01/10(日) 18:15:34 ID:gwcEc1VO
「なあ、吉野」
 彼に話しかけられたのは、いつの事だったか。
 はっきりとは覚えていないが、確か教室が夕焼けで真っ赤に染まっていたのは
良く覚えている。私が彼の事を、一人の人間として意識したのは、その時が初め
てだった。
「もう放課後だぞ。いつまで寝てるんだ」
 夕焼けが教室に差し込む、そんな時刻。彼の言う通り、もう授業はとっくの昔に
終わっていて、教室が閑散としている所からわかるように、ホームルームも終わり、
皆帰路についている。
 ……そんな事は、彼に言われるまでもなくわかっていた。
「別に、寝てたわけじゃないし」
 応えながら、私は机に伏せていた頭を上げ、彼を見た。
「………………誰?」
 見覚えはなかった。……いや、正確に言えば違う。見覚えはあったが、名前と
顔が一致する存在ではなかった、と言うのが妥当だと思う。
 そもそも、高校になれば女子と男子は互いに異なるコミュニティーを作り、それ
ぞれに干渉せずに生活を送るものだ。男子の顔と名前が一致しないのは別に
不思議でもなんでもない。
 もっとも、私に関して言えば、そういった当たり前の女子高生とはまた違う理由
で、彼の顔と名前が一致しなかったのだけれど。
「うわ、ひでー」
 彼は、私の文字通りひどい言葉にも、動じる事なく笑っていた。
 ……きっと、物好きなんだろう。こんな私に、わざわざ声をかけてくるなんて。
「えっと……同じクラスだって事はわかるんだけど……誰だったっけ?」
「うわー……本気なんだなー。凹むなー」
 言葉とは裏腹に、彼の顔からは笑みが消える事はなかった。全くもって物好きな
奴だ。実際に名前が出てこなかったのは事実だけど、それ以上に自分に構って
欲しくないからこういう物言いをしている面もあるというのに、それに全然動じる気配
が無い。……物好きというか、単に鈍感なだけなのかもしれない。
「藤井だよ。藤井克彦」
「……藤井、くん?」
「そ。藤井。覚えといてくれ」
「……忘れない間は覚えとく」
 それだけ言って、私は立ち上がった。多分、一週間くらいしたら忘れていそうだった
けど、その事は彼には告げない。
「睡眠不足か? いつもホームルーム終わってもしばらく寝てるけど……」
「……聞いてなかった? 寝てたわけじゃないから」
「そうなのか?」
「机に伏せってたら、すぐに寝てると思うのはやめてもらいたい所ね」
 ……まあ、普通は寝ていると思うだろうけど。
「了解了解。お前は寝てるわけじゃないって事は、忘れない間は覚えておくよ」
 彼はにへらと笑って、そんな風に私の物言いを真似した。
 この瞬間の彼への印象は「鬱陶しい奴」だった。
 夕焼けの紅さと同様に、その事も、はっきりと覚えている。
239 ◆91wbDksrrE :2010/01/10(日) 18:15:47 ID:gwcEc1VO



「なあ、吉野」
 それから、何故か彼は私に度々話しかけてくるようになった。
 それも、決まって放課後になって、私が机に伏せっている時に。
「もう放課後だぞ。いつまで寝てるんだ」
 彼が私に、いつものようにそう言う時は、いつも夕焼けが差し込んでいたから、だから
覚えているのかもしれない。最初の日が、そうだったという事を。
「……藤井君」
「あれ、起きてたのか?」
 いつも、こうだった。
「寝てるわけじゃない……そう、最初の日に言ったわよね?」
「ああ、ごめんごめん。そうだったよな。すっかり忘れてた」
 そう言って、彼はにへらと笑う。
 いつも、彼は私を"起こして"くれる。まったく、記憶力という物が無いのかしら。
「それにしても――」
 いつもは、私を起こすと、私が帰るのに合わせるかのように――と言っても帰り道
は違うので、教室の前で別れるのだけれど――教室を後にするのに、その日は少々
違った。彼は、相変わらず何が楽しいのか、にへらとした笑い顔のまま、思いもしない
事を言い出した。
「俺は忘れてばっかりいるけど、吉野は記憶力いいよなー」
「何が?」
「俺の名前、覚えてくれてるじゃん」
「……」
 ……それは……。
 言われるまで、意識すらしていなかった。
 彼の事を記憶にとどめてから、もう一ヶ月になる。その間ほとんど毎日、こうやって
彼は私を"起こして"くれていたのだから、覚えていて当然と言えば当然なのだけれど
……それでも、その事を特に意識していなかったというのは事実だ。
 普通、私は人に名前を教えられても、それを長い間覚えておくという事は無い。最初
彼の名前を一週間くらいで忘れるだろうと思ったのは、別に彼の事が嫌いだからとか
そういう事ではなく、単に私が人の名前というものを、その程度の期間しか覚えて
いないというだけの事だった。
 なのに……気づけばもう、一ヶ月だ。
「……そんなの、普通でしょう? クラスメイトだもの」
「最初覚えてなかったよな?」
「そ、それは……」
 自分でも珍しいと思うほど久方振りに、私は動揺していた。なぜ動揺する必要が
あるのかと、冷静な部分の自分が自問するが、答えは出ない。出せるなら、そもそも
動揺などしていないだろうし。
「ま、いっか! こうして覚えてくれてるんだもんな!」
 私の動揺を他所に、彼は勝手にそう結論づけると、手をひらひらとさせながら
「んじゃなー」
 と去って行った。
「……」
 なんだろう、この、なんとも言えない気分は。
「もうっ!」
 八つ当たりに、私は机の足を蹴飛ばしたのだけれど
「……」
 ……痛かった。
240 ◆91wbDksrrE :2010/01/10(日) 18:16:11 ID:gwcEc1VO
ここまで投下です。

芽生え?
241創る名無しに見る名無し
イイヨイイヨー