スポーツをテーマにした小説を書くスレ

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99LastPitch ◆smnN9MIlWU
◆9
 白組一番の相原に対し耳打ちをする高倉監督。何か策でも授けたのだろうか。ともかく打席には3年目の
相原。足の速さを買われプロ入りし、昨年途中に一軍に上がって主に代走で起用されていた選手だ。打席に
立つ機会はあまりなく、マウンドの楠木もリードする柳沢も塁に出せば厄介だとは思ったが、そのバット
には警戒の必要なしと高をくくっていた。相原は楠木の直球に必死に食らいつくが打球は前に飛ばない。
完全に力負けだ。それでもバットを短く持ち、とにかくカットし続けた。元々荒れ球に定評のある楠木だが
8球目が外れたところでカウントは2‐3に。キャッチャーの柳沢は「歩かせるくらいなら打たせろ」と
ばかりにストレートを要求する。相原はそれでもバットを短く持って楠木の投じた直球をカットする。結局、
11球目が大きく外れてフォアボールになった。一塁に向かう相原を見てベンチの高倉監督はニヤリと笑み
を浮かべた。「ボール球の多い楠木に対しストライクゾーンに来た球はカットして四球を狙え」という指示
だったのだ。

 俊足の相原を歩かせてしまった楠木は、次打者の榊一幸よりもランナーが気になってしょうがない様子だ。
こういう場面でさらに揺さぶるのが高倉監督のやり方だ。打席に向かう榊を呼びつけて、またも耳打ちを
した。その様子を見た柳沢は警戒を強める。
「この場面、相原の足を生かすなら盗塁かあるいはヒットエンドランか……」柳沢は考えた。榊が左の打席
に入る。セカンドを守る榊は大谷の後継者一番手として期待されている。大谷より若い分守備範囲や肩の
強さは上であるが、バントなどの細かいプレーを苦手とする為にレギュラーに定着できないでいる。
 ランナーを背負った場面で楠木と柳沢のバッテリーが選択するのは九割以上がストレート。これは昨年
までスコアラーをしていた牧尾コーチの持つデータによるものだ。さらに一塁には俊足の相原がいる。と
なればここでの打者への支持は当然「初球のストレートを狙え」だ。思い切り振りぬいた打球は右中間へ
クリーンヒット。ライトの上川がカバーに入る間に相原は一気に三塁まで到達し、チャンスを拡げる。
 三番の城野哲哉が右打席に入る。城野は今年6年目となる若手外野手だが、昨シーズンは86試合の出場
にとどまった。無死一、三塁。犠牲フライでも先制点が入る局面だ。しかし、気負ったのか城野は3球目を
打ち上げてファーストへのファールフライに終わった。

 そしていよいよ注目の打者が登場。球団史上最高の期待を持って迎えられた超大物助っ人エドモンズだ。
「見せてもらおうかな。大リーガーの打球を」と、ベンチの高倉は様子見の構えだ。楠木の初球は外角への
カーブだった。エドモンズはこれを全力でフルスイング。スタンドから大きなどよめきが起こった。打たれ
ることを恐れ初球から変化球を投じた事に少し不満気味な表情を見せるエドモンズ。だが、すぐにタイミング
を調節し、三球目の外に逃げるスライダーを踏み込んでとらえる。打球はレフト方向へ。レフトの河田は
打球の方向に一瞬だけ目を移したが、すぐに見送った。エドモンズにとってここ石垣島の野球場はあまりに
も小さすぎたようだ。