スポーツをテーマにした小説を書くスレ

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◆7
 2月1日。プロ野球全球団が一斉にキャンプインした。選手にとってはこの日が正月のような
ものである。今年からユニフォームの変わる藤木もまた決意を新たに始動した。
 名将高倉監督を迎え入れ、最下位からの浮上を狙う東京ギャングスターズは沖縄・石垣島で
キャンプインした。

 カツーン。カツーン。と快音が響くグラウンド。バッティングケージに入っているのは背番号44、
新外国人チャーリー・エドモンズ。年俸5億3千万円と大金を積んで獲得した右の大砲だ。大リーグ
で通算315本塁打、1436安打と実績は歴代の外国人選手の中でも指折りだ。早くも他球団の
スコアラーが眼を光らせた。しかし、初日はわずか10分ほどでフリーバッティングを切り上げた。
 続いてケージに入ったのは河田一樹。チームの生え抜きで貴重な左の長距離砲である。寡黙な性格
で誤解されやすいが、チームへの愛着は人一倍だと自負している。初日ということもあり、大きな
打球こそ上がらなかったが、鋭い打球を右方向へと打ち込んだ。ところが、河田もまた10分くらい
で練習を終えて室内練習場へと向かっていった。
 今年は新任の高倉監督が戦力を見極める為に例年より一軍キャンプの参加人数が多い。そのために
一人当たりの練習時間が限られている。しかし、これが高倉監督の狙いだった。ただただ長いだけの
練習よりも短い時間に集中する事で効率が上がるという発想である。

 一方ブルペンでは投手陣が初日から力強い投球をキャッチャーミットに投げ込む。昨シーズンは、
二桁勝利を挙げた投手がエースの松村(13勝)のみで、その松村も来シーズンにはいなくなる可能性
が高いと言われている。松村に次ぐ若手の台頭が望まれるところだ。
 だが、投手陣の中で一番活気があったのは39歳の"ルーキー"藤木だ。リハビリを終えようやく実戦
登板というところでの解雇。一度は現役を諦めかけたが、かつての恩師に拾われる形で今この場所に
居る。新人としてエンペラーズのキャンプに参加した18歳の頃を思い出す。あの頃は注目のルーキー
として常にフラッシュの中にあった。その頃と比べればこのキャンプは周囲が静かすぎるが、「むしろ
集中できていい」と藤木はポジティブに捉える。
 もちろん生え抜きの若手達もこの39歳のベテランの姿を黙って見ているわけではない。同じ左の
西村光洋は4年目の21歳。サウスポーということで期待され昨シーズンもチャンスを多く与えられ
た。だが、ピンチのたびにリリーフとして出て行ってはランナーを帰してベンチに戻ってくる繰り返し
で年間通して一軍には定着できなかった。「ブルペンでは織田(ギャングスターズの抑え投手)以上、
マウンドではリトルリーグ」とは岩口投手コーチの評。何かを変えないと生き残れない。そんな危機感
を持ってのキャンプインである。