スポーツをテーマにした小説を書くスレ

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◆6
 藤木の入団に対してギャングスターズの選手達の反応はまちまちであった。歓迎する者、しない
者……特に不快感を表したのはエースの松村豊彦だ。松村は7年連続で開幕投手を務めており、
本来なら今年も開幕のマウンド、さらにローテーションの中心は自分だと確信していた。松村は
今シーズンでFA権を取得する予定であり、もしかすると今年限りでチームを去るかも知れない
と噂されている。ちなみに昨年の成績はチーム唯一の二桁勝利で13勝(14敗)。負け越しながら
防御率はリーグ1位の1.98であった。平均2点以内に抑えていて勝てない……そんなチームに
未練など、無いのかもしれない。新しい監督も過去の実績は凄いのかもしれないが、それもあの
東京エンペラーズだったからそれだけの数字が残せただけだ、と松村は内心思っている。さらに
前の球団で一緒にやってたとの理由で"終わった投手"を連れてくるのが気に入らない。かと言って
球団に楯突くほど愚かでは無い。自分は自分の仕事をやって数字(登板数および防御率)を残す。
それがプロだと思って今日までやってきた。「監督が変わっても自分は与えられた仕事をやるだけ
です」記者に対し松村はいつもこう答えてきた。

 年が明けて1月5日。藤木が自主トレを開始した。沖縄は年中暖かいのでトレーニングには最適
だ。例年この場所で始動する藤木も、一度は引退も覚悟した今年は感慨深げだ。エンペラーズの
若手を数名引き連れて行う自主トレは若手の間では"藤木塾"と呼ばれていた。藤木にとっても生き
の良い若手の動きはやはり刺激になるものだ。ユニフォームが変わる今年もまたエンペラーズの
若手を連れて自主トレを開始した。

 石田一道は高校時代"藤木2世"と呼ばれた左腕投手。ドラフト1位で桐竜学院高校(群馬)から
入団し将来を嘱望されたものの、いまいち伸び悩んでいる。同じく参加した川島翔太は昨シーズン
二軍で本塁打・打点の二冠王に輝いた若手のスラッガー。しかし一軍の壁は厚く、なかなか頭角を
現せずにいる。それというのもエンペラーズには一塁にはペドリックという強打者がいて川島は
ポジションが被る為にスタメンの機会が無い。昨年は結局監督の方針いより二軍で不動の4番として
出続けていた。今季は一軍ベンチ入りし数少ない代打で結果を出していかなければいけない。もち
ろんレギュラー獲得を諦めるつもりはない。出番が増えるように外野手用のグラブを新調した。

 藤木が若手を連れて自主トレをするのには理由が二つある。球界の将来を担う人材に自分の知識や
経験を教える為というのが一つ。そしてもう一つは若い選手と一緒に汗を流す事で自分の若い頃を
思い出す為である。