「記者会見の準備をしないとな!」
沸き立つ職員室を静かに後にして、佐藤は人知れず屋上に向かった。
秋の空にぽっかりと浮かぶ鰯雲をぼんやりと眺める。
自分の力をプロで試したい気持ちが無いわけでもない。
しかし、自分には大学に進学して指導者として野球に携わりたいという仄かな夢がある。
選手として自分は野球に情熱が持てない。しかし、指導者として自分みたいな高校野球で燃え尽きてしまう球児を無くしたい、その願いがある。
相反する葛藤は、高校生にとって過分すぎる物だ。
プロ入りか進学か。簡単に決められる物ではない。
不意に佐藤の脳裏に過去の事件が過った。
過去に期待されてシャイアンズに入団し、結果を残せずそれに苦悩した果てに永眠した選手の事を。
確か当時の監督はその選手に費やした大金を損した、という旨の談話を残した。
自分がそうならないという可能性はない。
ならば、結論は一つだ。
◆
校内に準備された記者会見上に立った佐藤は悩みを吹っ切った清々しい顔で頭を下げた。
集まったマスコミの放つ目が眩まんばかりのフラッシュに晒される。
「――申し訳ありませんが、自分の進路はプロではなく大学進学です」
その言葉に、集まった面々の顔がひきつる。しかし、佐藤は続けた。
「自分の実力ではプロでやっていけないと思います。一位指名していただいたシャイアンズには申し訳ありませんが、お話は無かった事にして下さい」
短く早口に告げると、背を向けてその場を後にする。
マスコミが追いすがって来るが無視をする。
学校職員が怒りを、或いは落胆しているが無視をした。
ただ、佐藤は自分の決断に間違いはないと思い胸を張って夢へと歩き出していた。
終わり