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「あの、毛は生えてるですか?」
「はい?」
「いえ、なんでも無いです」
「え?」
いったい何のことだろうと思った高島だったがすぐに気持ちを切り替えて、ピッチャー
の投球に集中した。
丸山は低めにミットを構えた。カーブのサインを送ると、末永はこくりと頷いた。
末永の投じた球は、空中に弧をえがいてキャッチャー丸山のミットに吸い込まれた。
高島はそのカーブを微動だにせず見送った。審判の右手が上がる。まずはストライク。
(見極めたですか。それならば……)
末永さんの球種は基本的にストレートとカーブだけです。この二つを高低、内外と投げ
分けさせないといけないです。とは言え、投げたら後はボールに聞いてくれという大雑把
なコントロールですので、これは結構キャッチャー泣かせです。
さくらさんや英子さんはその点、投球術に幅がありますからリードしがいのある投手
なのですけどね。
ですが、末永さんはストレートに力のある投手ですのでそれを軸に組み立てることが
できるのは強みです。ま、たまに棒球(ぼうだま)になることがあるのですけど……。
(……つぎ、高めのボールになるストレートです)
(オッケー。揺さぶろうってことか……慎重すぎる気もするけど)
末永は、2球目を投じた。高めに外れる威力のあるストレートだ。
打席の高島は、思わずバットを出したが、あわてて止めた。
「おっと」
「スイングです!」
丸山は三塁塁審にアピールした。三塁塁審の右手が上がる。カウントはツーストライク
になった。
「うーん、まいったなぁ〜」
一旦打席を外し、軽く素振りをする高島はな。言葉ほど追い込まれてる様子は無い。
そして高島は再び打席に戻った。
(ツーナッシングですから、ボール球で様子見です)
末永はストレートをアウトローに外した。高島が見送って2ストライク1ボール。
(よしっ、勝負だ)
(はいです!)
勝負球は高めのストレートを選択した。末永にとって最も威力のあるコースである。
末永が4球目を投じ、高島も負けずにフルスイングで迎え撃つ。
キーン。鋭いスイングで何とかバットに当てるもののボールは打者の後ろに飛んだ。