怪物を創りたいんですが……

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1怪物を作ろうぜ
ジャンルは問わない

サイコ、特撮、SF、ホラー、オリジナル、二次創作、フィギュア、イラスト、テキスト、動画、どんとこい
2名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 20:17:48 ID:5xm47YVl
作家志望のニートというのは、立派な怪物だ。
3名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 20:22:53 ID:CkXYkjpn
まず、鏡を用意します。
4名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 20:27:08 ID:l+J6HoIx
自分の顔と昆虫を適当に混ぜてみれば
5名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 20:55:24 ID:Te3StzfC
こんなところに怪物がいるぞー!
6名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 23:16:40 ID:vhFmBAKe
フランケンシュタインみたいな?
7名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/28(火) 23:27:00 ID:g8ILSCak
怪物くん
8名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 00:47:10 ID:r+Us2nQ9
皆はこれが好きって言うのは無いの?
例えば俺はエヴァンゲリオンの使徒とかなるたるの竜骸みたいのが大好きで
ときどきぼくのかんがえたryみたいなのを書いてるけどまともなのはひとつも無いなw
9名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 02:20:25 ID:9TCUOLKL
映画のエイリアンの造形が好きだな
10名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 07:36:16 ID:oZWpSRfM
真っ先に浮かぶのは、やはりフランケン。
11名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 18:40:24 ID:Q4UGTV5M
>>1かな
12名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/29(水) 20:27:12 ID:KJdKzGJT
というか自サイトで怪獣創作しまくってますが
絵も小説も
13名無しさん@お腹いっぱい。:2008/10/30(木) 00:01:48 ID:r+Us2nQ9
>>12
見〜し〜て〜
14創る名無しに見る名無し:2008/11/24(月) 16:35:58 ID:rnMlnZts
        _,、__ノ                 ゝ __,.、
    _,、_ノ                         ヽ _,、_
  _ノ  ┏━━━: ──‐┬──‐┬──‐┬──‐┬──‐┐i、
 ぐ'   ┃ ∧∧'┃r≦-、.|rー─,| !⌒i |ィ⊂⊃、| ,−、 |  ゝ、
 ノ    ┃(,,゚Д゚)┃Lfi三」|ゞ=イ│ `U´  |∩・∀・)| i・e・ ヽ.|    `ー
 ゙ヽ   ┗━━━: ──‐┼──‐┬──‐┼──‐┼──‐┤
 ノ    │ ノノノノ.|~⌒ヽ |. ( ・ ) | ∩∩.| ,,,,.,.,,, |∠ ̄`ヽ|
'"     │(,,゚∋゚)|´_ゝ`)|(´ー`) |( ・x・).| ミ・д・ミ.|  |/゚U゚l.|
、     ├──‐┼──‐┼──‐┼──‐┼──‐┼──‐┤
ゝ_     | (゚∀゚)ノ |/二二ヽ|6/ハ)ヽ| 人.  | /Hヽ.| /漢ヽ |  ノ"´
  ,}   |ノ( ヘヘ. |||・ω・|l |ハ`∀´ノ.|(.0w0) |( 0M0).| ( ´д`)| ノ´
 ぐ'   ├──‐┼──‐┼──‐┼──‐┼──‐┼──‐┤
  ノ   |ヘ__∧  |   (.・>|r;;;;;ノヾ. |━◎┥j|     .| ♯♯.|
  `l   |*´Д`) |ゝ<<ノ  |ヒ‐=r=;'. |    |V|.」 ̄|○|(℃゚ ) |
  くc_ └──‐┴──‐┴──‐┴──‐┴──‐┴──‐┘
 _ノ       ┌──────────────┐|
 !    [_∩  .| しりとりで しょうぶだ!       ! ,ィ‐─-、
ノ      UU   |                      f ,' ,' ;;; ',',',ヽ
───‐ zr‐y、.| おれから いくぞ!         ゞ____ツ ──
      K_♀> |                      | i'VV `!
      弋にゝ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ヽ}0{___ノ
15創る名無しに見る名無し:2008/11/24(月) 20:12:09 ID:BybjDEQf
ほほう
16創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 18:33:10 ID:0vQlbwQL
17創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 22:38:17 ID:FGBzujz0
>>16
ウルトラQか
冒頭の語りが石坂ボイスで再生された件
18創る名無しに見る名無し:2008/11/30(日) 22:48:43 ID:TymiDFVm
ウルトラQ?
19創る名無しに見る名無し:2008/12/01(月) 19:52:30 ID:dMxyFfk0
>>18
簡単に言えばウルトラマンの居ないウルトラシリーズ
20創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 20:51:39 ID:9U8Hi/kV
手ごろな怪物といえば

害虫を一通り集めて箱に閉じ込めて作るのとかだな
21創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 20:54:14 ID:y/01wEcm
蟲毒ですかい
22創る名無しに見る名無し:2008/12/22(月) 20:56:18 ID:XJvLVJ4j
袋に詰まった大量の虫がひとつの生き物のように動くというのを何かで見た気がするが思い出せない
23 [―{}@{}@{}-] 創る名無しに見る名無し:2009/01/12(月) 22:42:45 ID:C0I4CfZH
怪物と言えば精神の怪物のような部分が具現化するとか
24創る名無しに見る名無し:2009/01/12(月) 22:53:49 ID:PC5/0950
このスレまだあったのか
>>22
クリスマスビフォアナイトメア?だっけ?
あれの悪役かな
25創る名無しに見る名無し:2009/01/13(火) 01:03:10 ID:UT/usVhK
ブーギー・ウーギーな
26創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 04:07:26 ID:WxCRp0nM
27創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 11:38:06 ID:O/zBrEV1
怪物だー!!
28創る名無しに見る名無し:2009/03/09(月) 17:05:58 ID:6SBlp3t0
足伸びてるwwwwwww
29創る名無しに見る名無し:2009/04/03(金) 12:47:39 ID:O/MWZBOD
age
30創る名無しに見る名無し:2009/04/29(水) 06:51:34 ID:Uvv08//e
鬼神童子ZENKIで
冒頭の語りが石坂ボイスで再生された件
31創る名無しに見る名無し:2009/05/20(水) 18:31:16 ID:JIQdVul9
八又九尾(やまたのきゅうび)
九尾の狐の頭から蛇が8本生えている。
32創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 16:29:02 ID:nPjfFcDZ
http://imepita.jp/20090617/591520
ちょっとスレチかもしれないけど…
これ怖いって思う??
33創る名無しに見る名無し:2009/06/17(水) 22:42:24 ID:d15uf3x+
基本的に巨大で、瞳の小さい目玉がこちらを見てると生物は恐ろしく感じてしまうんだぜ。
34創る名無しに見る名無し:2009/07/24(金) 21:44:12 ID:VjugBvBc
どんとこい
35創る名無しに見る名無し:2009/07/24(金) 21:47:38 ID:AZOE1LwK
ここって凍結した設定を賑やかしのつもりで晒すとかでもいいのか?
36創る名無しに見る名無し:2009/07/25(土) 08:33:42 ID:T95tMII2
スレ主旨にあってればいいんじゃないの?
で、自分の黒歴史を投下して身悶えするわけだ
37創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 13:47:11 ID:Z2yPFbBi
首から上の無い人間達が2ちゃんねるをしてたら怖そう。
38創る名無しに見る名無し:2009/07/26(日) 19:49:16 ID:SIUfe3XD
空白の一日を利用して周囲を出し抜いたら怪物っぽくね?
39創る名無しに見る名無し:2009/07/27(月) 13:07:39 ID:Jvhece74
>>38
江川かよ
40創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 18:01:44 ID:6V6B2Z4B
40get
41創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 23:14:50 ID:M1HCRU1r
自分の子供が通ってる学校に理不尽な要求したら怪物っぽくね?
42創る名無しに見る名無し:2009/07/29(水) 23:17:46 ID:GeiUMr0v
それだ!!
43創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 11:19:09 ID:8CWJMiQJ
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44創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 15:58:02 ID:ptb7DYRs
あらすじのみ

茫然自失のていで、人ごみを歩く女子高生からお話はスタート。
そのお腹は、丸く膨れ上がっている。
妊婦腹に眉を顰める通行人たち。
中には露骨に軽蔑の眼差しを突きつける者すらいるが……。
当の彼女の目には、そんなこと何ひとつ目に入ってはいなかった。
いや、それよりも、なんで自分がそんなところを歩いているのかすら、彼女には全く判っていなかった…。
45創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 16:00:08 ID:ptb7DYRs
都内奥多摩の小村落が全滅しているのが、通いの郵便配達によって発見される。
殆どの村民が血が出るほど顔を掻き毟った果てに息絶えており、残りの村民も原因不明の完遂状態に陥っていた。
前日同じ郵便発達が訪れたときには、別段以上は無かったというのに。
村を一夜にして滅ぼした物質の正体は何か?
そして翌日昼前に村を訪れた郵便配達夫は、何故死なずにすんだのか?
毒ガスか細菌によるテロを疑った警察は、村を完全封鎖。自衛隊の生物化学兵器検疫班も交えた混成チームで調査を開始する。
問題の夜の風向きなどから、調査チームは村ハズレで一軒だけ焼け落ちていた家屋に注目。
炭となり崩れ落ちた家屋の残骸を取り除けていくと、その下から奇怪な物体が姿を現した。
それは、真っ黒焦げになった巨大な植物であった。
床下で芽を出し、床を貫き、屋根も押し破って成長したが、炎には抗すべくもなく息の根を止められたのだ。
さらに調べると根の部分からイヌの骨と首輪、そして鑑札札が発見され、そのイヌが燃え落ちた家屋に住んでいた家族の飼い犬であることが判明する。
そしておなじころ、警察病院に搬送された昏睡者に奇怪なことが起っていた。

こん睡状態の被害者が警察病院のベッドから失踪。
その数分後、廊下の壁にぶつかった状態でなお、前に向かって歩き続けている件の昏睡患者が発見された。
不審に思った医師が他の患者も含めた検査を行った結果、いずれの昏睡患者も脳はそのものは平坦なままにも関わらず、なんらかの行動を促す刺激を受けていることが判明。
この事件により医師は、昏睡患者たちがなんらかの寄生生物の支配をうけているのではないかと疑い始める。
46創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 16:00:18 ID:SripvwTK
怪物が産まれるのか
宿主死にそうだなw
47創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 16:16:33 ID:ptb7DYRs
医師からの連絡を受けた調査チームは、焼け落ちていた謎の植物こそ、医師の言う寄生生物の正体に違いないと推論する。
例の植物は、屋外の何処かで飼イヌに寄生。
謎の植物に寄生されたイヌは、飼い主の家まで戻るとその床下で息絶える。
植物はイヌの死骸を養分に成長。
床を破り、屋根を破って村中に寄生因子をばら撒いたが、幸運なことに家屋の天井を破ったときの断線から漏電火災が発生。
火が植物を滅ぼした。
……それが調査チームの描いたシナリオだった。
幸いにして寄生植物の犠牲者は全員警察の管理下にある。
だから、あとはイヌに寄生因子を植えつけた大元を発見し処分すれば、この事件は終わる……はず。
悪夢の元凶を探し出せ!
完全装備の自衛隊員による徹底した山狩りが始まってから数時間後、ついに悪夢の元凶が発見された。
人の手が入らなくなり、すっかり荒れ果ててしまった杉や桧の林の中、それは巨大な花弁を広げていた。
マンモスフラワー。
ただし以前丸の内に出現したものよりもはるかに小さく、高さは精々数メートルしかない。
これの種子がまずはイヌを、そして次には村全体を死に追いやったのだ。
同行の科学者は直ちにその場で「ヒメマンモスフラワー」と命名。
自衛隊の手により、悪魔の植物はその場で直ちに焼き払われた。
安堵の胸を撫で下ろす調査チームの面々。
だが、悪夢はまだ終わってはいなかった。

48創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 16:18:13 ID:ptb7DYRs
「あれを見てください」
医師からの緊急連絡で警察病院に急行した調査チーム一向を待っていたのは、予想だにしない光景だった。
防疫目的のガラス障壁の向こうに、例の昏睡患者たちが、何処かに行ってしまわないよう手足を拘束され横たわっていた。
その腹部が、大きく膨れ上がってるのだ。
「今朝方から様子が変だとは思っていたんですが、一時間ほど前から目に見えて膨らみ始めたんです」
病院のスタッフが聴診器を当てている患者の腹は、内側が透けて見えそうなくらいにまで皮膚が大きく広く引き伸ばされている。
「まるで…風船ですね」
調査チームの1人がそう漏らした次の瞬間、患者の腹が風船のようにバーーンと音をたてて破裂した!
「い、いったい何がおこったんだ!?」
救護のため慌てて中に入ろうとする医師たちを、調査チームの1人が静止する。
「だめだ!入っちゃいけない!!」
そして彼は、青ざめた顔で話し始める。
「やっと判りましたよ。ヒメマンモスフラワーの生態が。」

49創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 16:19:11 ID:ptb7DYRs
「最初にイヌに種子を植えつけた方法はまだ判りませんが…」
そう前置きしてから「彼」は言った。
「爆発の威力で寄生対象の皮膚に食い込みんで体内深くに侵入すると、まずは正常な神経系に干渉し相手をこん睡状態にするんです。そして次には機能停止した脳に代わって、意識を失った身体に対し『歩け』と信号を送るんですよ。」
「歩けと?植物ごときが我々動物に対してですか!?」
すると「彼」は寄生生物が宿主の行動をコントロールしているように見える事例をいくつも数え上げた。
「このように、下等な寄生生物が、より高等な宿主の行動を支配する事例は珍しくないんです」
「それは一応判ったが…、しかし何の目的で宿主を歩かせるんだ?」
「…宿主の仲間がたくさんいる所に帰らせるためですよ。」
一同は「彼」の言葉に絶句する。
仲間のたくさんいる所に戻らせておき、そこでバン!と爆破させて、より多くの相手に種子を打ち込む。それがヒメマンモスフラワーの生態なのだった。
「本当に危ないところでした。患者を全員隔離していなかったら今頃大変なことに…」
そのとき、調査チームに更なる緊急連絡が入った。
「死体の数とそちらで管理している生存者の数を住民台帳とつき合わせてみたんですが、1人足りないんです。それが、例の焼け落ちてた家に住んでた女の子でして…」

悪魔の種子を抱えた女の子はどこに消えたのか?
種子の爆発散布は防げるのか?
……という展開で、派手目なエンディングへと持っていく。
50創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 16:21:46 ID:ptb7DYRs
>>46

このスレのタイトルに相応しいベタな怪物話でしょ?
51創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 16:55:08 ID:SripvwTK
>派手目なエンディング

防げてねえw
52創る名無しに見る名無し:2009/08/06(木) 20:25:05 ID:p5nxfR1R
あらすじだけなのにドキドキしたw
おもしろかった
53創る名無しに見る名無し:2009/08/07(金) 08:09:43 ID:UPw0uXet
>>51
なんで防げないと思うんだ?バッチリ防げるぞ。

防ぐ展開の一例
「調査チームに参加している学者の大学では、医学部がコールドスリープの研究で有名」という情報をさりげなく振っておく。

「××大学?なんだその大学?オレ聞いたこと無いぞ。」
「だからオメエが知らないだけだって。自分の狭い知識の範囲内で判断すんな。古代生物学とかコールドスリープの研究とかでは日本どころか世界でも有数の大学なんだぞ。」

警察関係が少女の身長・外観、それから想像される服装などを緊急手配。
おそらく夢遊病みたいな状態のはずだから、既にどこかで保護されているかもというわけね。
しかし、某歩行者天国近くの派出所警官から「それっぽい少女がいま目の前を歩いていった。」と連絡が入る。
急ぎ現場へと急行する調査チーム。
だが少女の腹部はすでに猛烈な膨張を始めており、いままさに爆発せんという状態で、手が出せない。
種子の拡散は防げないのか?!
しかしそのとき小型ヘリが少女の目の前に着陸し、例の学者が一抱えもあるボンベのような物体を抱えて飛び出してくる。
…もう判ったと思うが、小型冷凍装置なわけだ(笑)。
「うちの大学でだけじゃなく、出先の医療機関などでも使えるようにって、医学部の連中が試作してたんですけどね。まさかこんなところで役にたつとは」
爆発寸前のところで種と少女を冷凍。
しかるべき場所に運んだ上で、外科手術と薬物・放射線で種子を除去。
少女も無事に退院しました…ってエンディングでOKね。
54創る名無しに見る名無し:2009/08/09(日) 17:55:01 ID:l5TDH0Lq
派手目じゃないじゃん
隔離された人たちが暴動、脱出→大都市で全員爆発
→都市の大多数に寄生→核爆弾投下、都市壊滅
とか
55創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 12:08:28 ID:/ntAMSdH
派手なのとスケールがデカいのは違うぞ。
怪獣災害発生時の国家や地方自治体の対応は、描きようによってはいくらでも派手にできる。
それから今回は種子の拡散を「爆発」にしたから、爆発物処理モノ映画の描写もパクれる。
例えば…

突然ペタリと座り込んだ少女の腹部が、スパークするように一瞬光を放つ。
それを見た現場の警官が「ば、爆発します。早く避難してください!」なんぞと迂闊に叫んでしまい、我勝ちに逃げ出す人々でホコ天はパニック状態になる。
急行する主人公たちの車は、この避難の波に直撃され全く前に進めない。
「畜生!走るぞ」と一声叫んで走り出す警部を、部下が追う。
「どけっ!どけったらどけ!!」「どいてください!」
避難者の波を逆走してついに少女を見つけ出すが…。
駆けつけた二人の目の前で、少女の腹部は再びスパークを放ち急激な膨張を開始する。

*スパークのテンポを次第に短くすると、時限爆弾のタイムリミットが迫っていると感じさせられるので吉。
*その場合には、事前に読者にスパークのテンポ=タイムリミットを周知させるため、保護施設での爆発シーンにも織り込む必要あり。
*交差点中央にすわれこむ少女と腰が抜けたようにガクガクしながら短銃を突きつける派出所警官。駆けつけた二人のうち上官は少女に駆け寄りながら、派出所警官に短銃を下ろさせるよう部下に指示。…以上の展開は俯瞰ショットで。
*俯瞰ショットから少女と抱きかかえる警部の顔にカメラは寄り、絶望的な状況から一転、はっと警部が上を向くと急降下してくる一機のヘリコプターが…。

後は、同じ。

もし種子が散布されてしまう展開なら、宿主は「少女」ではなく「村に迷い込んでいたプータロー」か「里帰りしていた村人」が面白い。
序盤で被害者の人数と住民の数は合っていたことにし、ラスト近くで実は村外からの来訪者がいたことが判明(例えば客用布団が出されていた)する展開がベターだろう。
「しまったぁ、村の人間以外の来訪者がいたんだ!」
…そのころ彼(または彼女)は、某所の歩行者天国を…とやって、あとはドカン。

56創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 14:53:58 ID:/ntAMSdH
それでは今度こそ正真正銘派手目のあらすじを

事件の発端は都内江戸川区の河川敷を利用した公園。
母親が子供を幼稚園に迎えにいった、その帰り道で起こる。
柵越しに小石を投げていた子供が、「お人形さんの手」を見つけるが…。
真っ青になった母が警察へと通報。
「お人形さんの手」は、切断された人間の腕にほかならなかった。
警察は腕の主を、川上にある別の公園で寝泊りしており、3日ほど前から姿を見せなくなった浮浪者のものと断定。
一方検死に当った大学の法医学教授は、「斧などの刃物や事故による切断ではありません。何か動物、鋭い牙と強力な顎を持つ動物に食い千切られたのです。」と述べ、具体的な例としては「ワニ」か「サメ」と例示した。
更に警察の捜査で、浮浪者の住んでいたダンボールハウスから付近の下水溝まで、何かが這い進んだ痕跡も発見されたため、「下水道に棲む人喰いワニ」説がにわかに信憑性を帯びてくる。
新聞ダネになる前に片付けようと考えた警察は、保健所や動物学者とも連絡をとって、5人編成の「人喰いワニ捕獲班」を下水道内に送り込むが……。
誰一人として、戻ってくる者はいなかった。

完全装備の警官と専門化が一斉に消息を絶ったという事実は、「犯人はワニ?」とする見解を大きく揺るがせることとなった。
いくら狭い下水道とはいえ、拳銃や電気ショック棒まで装備した人間5人が、たかがワニ一匹に全滅されられるはずがない。
もっと別の動物?
あるいは有毒ガスの発生か??
……もはや手におえないと判断した所轄警察は、本庁の不可能犯罪捜査部に協力を要請する。
57創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 14:54:48 ID:/ntAMSdH
「それでは先生は、ワニではないと、そう仰るんですね?」
同部から意見を求められた博物学者は、「人喰いワニ」説を一笑にふした。
「…たしかにワニの噛む力は、非常に強力です。しかし、顎の構造上の問題から、ワニは獲物の肉を食い千切ることが苦手なんです。」
「食い千切るのが苦手?では、いったいワニは……」
「獲物に噛み付いてから、こう、スクリューのように…」説明しながら彼は自分もグルグル回って見せた「…回転するんです。そしてそのあいだ、他のワニが獲物を抑えていてやるんですよ。」
刑事は、例の手首の遺体検案書に書かれていた所見を思い出した。
『……肩口の部分を、骨も筋肉も関係無しに凄まじい力で食い千切られたものと……』
「ワニではありません。」
学者は断言する。
「もっと別の何かです。強力な顎を持ち、完全装備の5人をただの1人も逃さず仕留める力をもった何かですよ。」

2人の刑事に、助っ人の博物学者も加わった三人が、死臭漂う下水道へと下ってゆくが……。



下水道の奥深くで三人がまず見つけ出したのは……三分の一だけ残った懐中電灯だった。
三分の一だけというのは、電灯部分から後ろがすっぱり無くなっていたからだ。
「切断されたんでしょうか?」と言う刑事に対し、首を横に振って学者は答える。
「溶断ですね。強烈な酸か何かで溶かされたんだと思います。」
三人は懐中電灯の残骸が流されてきたと思しきルートを逆に辿り、ついには戦前に建設され、いまは放棄されている旧軍の防空壕を発見する。
そして、その奥深くにうずくまっていたのは……原付バイクほどのワニの頭を持つ怪物。
…ビオランテであった。
ビオランテは大きく口を開き強酸性の消化液を霧状に噴射するが、「強烈な酸」を吐く怪物の存在を予期していた三人は、なんとか回避することに成功。
ビオランテの追撃を逃れて地上に生還を果たした三人の報告で、防衛隊が出動する!
58創る名無しに見る名無し:2009/08/10(月) 14:56:10 ID:/ntAMSdH
ビオランテの追撃を逃れて地上に生還を果たした三人の報告で、防衛隊が出動する!
下水の主要な出入り口複数個所から、耐酸装備に身を固めた特殊部隊が侵入。
激戦の末、メーサー殺獣光線銃の一斉攻撃がついに小型ビオランテの息の根を止めた。
だが、安心したのもつかの間、突然始まった地震により防空壕は崩落。
突入部隊も全員生き埋めとなってしまう。
同じころ、突入部隊からのSOS入電にパニック状態となった前線指揮所の目の前に巨大な怪物、若狭に現れたものより一回り以上大きなビオランテが、コンクリートとアスファルトを突き破って姿を現していた。
自らの起した地震で倒壊したビルや高速道路に、例の強酸液をぶちまけ悉く溶解させると、魔獣は再び地下へと姿を消した。
予想外の展開に呆然とする前線指揮所。
だがそこに、さらに驚愕すべき情報がもたらされた。
東京に現れたのと全く同時刻に、大坂市内と岐阜の山中にやはりビオランテが出現していたというのだ。

その翌日のビオランテ対策会議の席上、学者がとんでもない見解を発表し議場をパニック状態に陥らせた。
「東京と大阪、そして岐阜にあらわれた巨大ビオランテ、それから地下防空壕に潜んでいた小型のビオランテは、総て同一の固体です。」
彼の説によると、一見複数に見えるビオランテは、実は地下茎で繋がっているというのだ。
「つまり我々が相手にしているのは、東京・大阪間ぐらいの大きさのビオランテなのです。」
彼の集めたデータによると、東京・大阪・岐阜にビオランテが出現したのと同時刻、日本全国十数か所で原因不明の地下振動が観測されていた。
博物学者は予言する。
「いるのです。我々の見たのと同じような首が、他にいくつもね。まるで神話に登場する八岐大蛇ですよ。」
若狭に現れたクラスの「首」をいくつも持ち、少なくとも東京大阪間に達する全長のビオランテ。
それはまさに記紀神話に登場する八岐大蛇の復活に他ならなかった。


「赤い鳥とんだ/ヤマタノオロチの逆襲」
59創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 00:02:55 ID:Y7IyanzE
正に怪物、いや怪獣の本領発揮といってもいいストーリー
続きは、続きはまだか…!?
60創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 12:42:17 ID:QAmxofxm
都市壊滅までいかないと「派手目じゃない」というレスがあったから、ちゃちゃっとデッチ上げた粗筋なんだが。
規模がデカいだけの怪獣話に需要があるとは。
61創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 17:38:02 ID:QAmxofxm
当初は懐疑的だった政府も、次々明らかとなる事実を前に超巨大ビオランテ=八岐大蛇の存在を認めざるを得なくなる。
だが、それではどうやって怪物を倒すのか?
どれか一つを攻撃すれば、残りの首が暴れだす。
いわば日本列島全体を人質にとられたようなものなのだ。
対策会議の議論は暗礁に乗り上げる。
ところが、思考停止状態に陥った日本政府に対し、いやでも決断を迫る事態が海を渡ったカナダで発生する。

「ビオランテがカナダに現われた?そ、それでは例の地下茎とやらが太平洋を越えたとでもいうのか?!」
「いえ、違うでしょう。カナダで発見された固体は初期形態の段階で撃滅したそうですが、日本の個体に動きはありませんでしたから」
「それではカナダに現われた個体というのは?」

答えは簡単。
大蛇の種子かあるいは細胞が、偏西風に乗って海を越えたのだ。

「速やかに怪物を殲滅せよ!もし貴国にそれができぬとあらば、わが国にはそれを代行する用意がある」

怪物が自国に飛び火する危険を悟ったアメリカが鋭い調子で申し入れてきた。駐日大使は、言外に「最終兵器」の使用をほのめかす。
大蛇の首は、東京・大阪・岐阜に一つ、それから地震波等の観測データ解析により大坂以西に一つ、秩父山中に一つ、そして富士の周囲に3つの存在が確認されていた。
その全てに対し「最終兵器=核」で攻撃を加えるということは、すなわち日本国が世界地図から消滅することと限りなく同義に近い。
日本政府は国家存続の窮地に立たされる。
62創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 17:39:09 ID:QAmxofxm
そのころ、例の学者はデーターの解析からある仮説を導き出していた。

「芦ノ湖です。こちらの総兵力をもって芦ノ湖を叩くんです。」
「芦ノ湖?たしかにあのあたりにはBの首が三つも集まっているから攻撃効率は良いだろうが…」
「そんなことじゃあありません。いいですか?思い出してください。われわれの前に最初にビオランテが姿を現したのは何処でしたか?!」
「それは……」
「芦ノ湖ですよ」
ビオランテが最初に出現したのは芦ノ湖。
そこでビオランテはゴジラと対決。放射能熱線の餌食となり炎の柱と化したのだが…。
「ゴジラはビオランテの目に見える部分を焼き払っただけなんです。」
「…というと?」
「根ッコはそのままだったんですよ。湖底に潜んでいた根ッコはね。そして我々の知らぬ間に、そいつが日本全土にまで根を伸ばし触手を張り巡らせてしまった。それが今回の事件の正体なんです」
「…なるほど。根を断ってしまえば、枝葉も枯れるというわけか」
周到なデータ収集により、富士周辺に潜伏すると考えられる3つの「首」は、全て芦ノ湖を囲むように陣取っていることが判明。
さらに芦ノ湖湖底約100メートルの地点に、「土や岩ではない」物質の存在も確認され、科学者の推論を裏付ける結果となる。
63創る名無しに見る名無し:2009/08/19(水) 17:40:04 ID:QAmxofxm
 湖底に潜む「根」を一撃で仕留めるため、官民一体の突貫作業によりスーパーバンカーバスター「スサノオ」が組み立てられた。 
劣化ウランの弾芯をもつ全長45メートル重量10tの飛翔体は、重力落下+ロケットブーストの併用により最大速度マッハ10を叩き出す。
この重さと速さで、強力な水の抵抗を押しのけて、湖底の地下100メートルまで貫通到達させようというのだ。
…だが…
 5000メートルの高度からスサノオが芦ノ湖目がけ発射された直後、静まり返った森のしじまを破り、若狭に現われた個体をはるかに凌ぐ三つの巨大なビオランテが出現。
イナヅマのように落下するスサノオめがけ、三つの首が溶解性の雲を吐き出す。
その中へと真一文字に突っ込むスサノオ。
強酸性の雲の中へと姿を消したミサイルは、とうとうその下に姿を現さなかった。
…そう、ただの一欠けらさえも。
日本の命運をかけた渾身の一撃は、悪夢の雲の中、瞬時かつ完全に溶解されてしまったのだった。

 芦ノ湖周辺に姿を見せた三つの首は、東京や大阪に出現した首とは違い、地底に姿を消すことはなかった。
同じ手を使っても無駄なことは明らかだった。
もう一度スサノオを打ち込んだところで、また溶かされてしまうだけである。

「Bの首の注意を地上にひきつけ、そのあいだにもう一度スサノオをぶち込むのだ!」
「しかしその作戦では…」
「わかっておる!Bの注意をひきつける陽動部隊は壊滅的な打撃を受けるだろう。しかし我々にはもうその手しか残っていないのだ!」
そのとき、横でじっとかしこまっていた制服自衛官が意を決したように口を開いた。
「総理、その陽動部隊の件ですが…」

*防衛大臣と総理を相手に熱っぽく語る制服自衛官の姿を窓越しに捉えた映像。もちろん彼が何を語っているかは、このシーンからは判らない。

そして、拳を固めて総理が叫んだ。
「そうだ、我々にはまだそのカードが残っていたか!」
64創る名無しに見る名無し:2009/08/20(木) 16:49:40 ID:jf7rjb1G
ズシーーーンという地響きとともに、鈍い飴色をした「建造物」がゆったりと姿を現した。
…二体の巨大起動兵器、モゲラとメカゴジラ。
日本国の天敵ともいえる破壊神ゴジラに対抗するため、日本科学技術の粋を集め建造された、いわゆる「ロボット怪獣」である。
もともとゴジラの熱線に耐えるため、装鋼材は耐熱性の極めて高い金属組成とされているのだが、その副産物として強酸から強アルカリまで広範囲に及ぶ薬液に対しても強い耐性
を獲得するに到っていた。
その表面に、さらに耐酸コーティングを施した上で、八岐大蛇に対する陽動戦力として投入しようというのである。
本来メタリックな輝きを纏うはずのボディが飴色をしているのは、この耐酸コーティングのためだった。

「まるで怪獣映画のような光景だな」と防衛大臣。
「私たちの世代だと…ガンダムです。」若い政務次官が返した。

その2人の頭上を、赤・青・白の三色に塗り分けられた巨大な物体が飛び過ぎると、メカゴジラ、モゲラの前に悠然と着陸した。
睨みつけるような真っ赤な単眼。
背中にそそり立つ二枚の垂直尾翼には、黒字にスカル・アンド・クロスボーンのイラストとジョリー・ロジャーズのアルファベットが…。

「おお、これがガイガンか」

ジャイガンティック・アーマード・インファントリー・ウィズ・ガン(GAI+GUN)。ガイガンというのは通称だ。
日米防衛技術協定に基づきアメリカで建造された、メカゴジラのアメリカン・バージョンである。
機体の特徴は二つ。
一つ目は飛行能力である。
分離しなければ飛行できないモゲラや二次元起動の補助デバイスとしてのジェットエンジンしか持たないメカゴジラに対し、ガイガンはその姿のままで大気圏内を飛行する能力を有している。
そして二つ目の特徴は、その紅い単眼が、衛星軌道上に浮かぶ戦闘衛星の照準とリンケージされていることだ。
つまり、GAI+GUNの「GUN」とは、衛生砲の意味なのである。

こうしてメカゴジラ、モゲラ、ガイガン、そして自衛隊総戦力の95%が芦ノ湖周辺に展開を終えたのは、気象庁が秋の終わりを宣言した8月20日早朝のことであった。
65創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 17:15:38 ID:0NaYPTir
作戦開始!の号令とともに一斉に火を噴く自衛隊の重野戦榴弾砲群。
ビオランテの三つの首も、そして周辺の山河も一瞬にして業火と爆音の渦に飲み込まれた。
砲火によって大蛇の五感を混乱せしめ、一瞬たりとも反撃のいとまを与えぬ作戦だ。
重砲弾が機関銃弾のように降り注ぐ中、待機していた山陰からメーサー光線車がのっそり這い出すと、爆炎のなか見え隠れする巨大ビオランテへと光の槍を叩き込む。
そして3機のジャイガンティック・アーマード・インファントリー=装甲巨大歩兵も、地響きを立てながらゆっくり前進すると、首の一本と交戦開始した。
溶解液を吐こうと口を開けるB!
だがそれより一瞬だけ早く、メカゴジラの胸が青白い輝きを放った!
「アブソリュートゼロ!!」軍指令が思わず叫ぶ。
溶解液を吐く寸前、Bの首は白い彫像へと姿を変えた!
間髪入れずモゲラの装甲チェンバーが開き、硬芯弾の雨が凍れる怪物を砕き散らす!
そしてとどめは…
モゲラの砲撃が止んだ瞬間、天から銀の輝きが一閃した。
ガイガンのダイブ攻撃!
このアメリカ製の機体は、両腕にマニュピレイターではなく高周波振動ブレードを装備しているのだ。
…ぐらり、凍ったビオランテの身体が大きく右に揺らいだかと思うと、一泊遅れて首から上が逆の左に傾いた。
そしてそのまま、身体は右に、首は左に。バラバラになって怪物は崩れ落ちていった。
オロチの首を獲るまで、僅かに1分半の速攻だった。

「うまいぞ、このままいけば、この兵力だけでBをやっつけられるんじゃないか?」
だが、一方的な戦況に鼻息荒い軍司令官の横で、例の学者が首を捻りながら呟いた。
「妙ですね…」
「…何だ?なにが妙だというんだ??」
「なんでビオランテは地底に逃げないんでしょうか?」
「地底に逃げないのかだと?」
「だって、東京に現われたビオランテも大阪に現われたヤツも、ひと暴れしたらすぐ地底に隠れたじゃないですか。
なのに、あの三つの首はずっと地上に踏み止まって、攻撃されるがままになっていますね」
「そ、それは……」
口ごもる指令は相手にせず、爪を噛みながら独り言のように学者は言った。
「まさか……まさかそんなことなど…」
しかしそのときだった。
Bの攻撃を避けるため芦ノ湖から2`以上も離れた地点に陣取っていた重砲陣地の背後に、まるで高層ビルのような土柱が立ち上がったかと思うと、地の底から巨大なビオランテが姿を現した。
66創る名無しに見る名無し:2009/08/28(金) 17:16:30 ID:0NaYPTir
「砲兵陣地の背後にB出現!」
「な、なんだと!?」
だが、指令が対応を指示する間も無く、新たな凶報が次々と突きつけられた。
「航空隊基地にB出現!出撃準備中の航空隊、全滅!!」
「し、指令!ご指示を!」「命令を!!」
だが、指令が対応を指示をするより早く、司令部員たちの見ている前でメーサー光線車の一両が地面から高々と浮き上がった!
そしてその下から、もうひとつのBの首が!
「出、出たぁ!」
叫んだ自衛隊員の声は、猛訓練を受けたプロ兵士のそれではなく、もはや子供の悲鳴に近くなっている。
「し、指令官」学者が叫んだ。
しかし軍指令は、あまりの展開に顔面蒼白のまま声すら出せない。
その襟首を両手で掴むで学者は吠えた。
「早く!撤退の指示を!」
「し、し、しかし…」
「オトリです!地上に陣取っていた三つの首は、我々の眼を引き付けるためのオトリだったんです。」
「オトリ?」
「そうです!我々は、ヤツの張った罠にまんまとはまり込んだんですよ。こうなったら一刻も早く逃げないと…」
「あ……て、撤退だ!撤退せよ」
上ずる声で指令が叫ぶ。
だが、それはすでに遅すぎた命令だった。
3機のGフォースをハサミ撃ちするように巨大なBの首が二つ、竜巻のようにその姿を現した。
双眸を、怒りの真紅に染めながら…。
67創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 15:12:48 ID:og0HXEy9
前方に立ちふさがるBが鰐のような口をバックリ開いた瞬間、メカゴジラのアブソリュートゼロが輝き、同時にモゲラの速射砲装甲カバーが開いた。
噴射した溶解液ごとBを凍結させ、モゲラの速射砲で間髪いれず砕き散らす!Gフォースの対B用必勝パターンだ!
Bの口から霧状の溶解液が噴出すと、それに呼応して眩さを増すメカゴジラの絶対零度砲!
だが…主砲をまさに発射せんとした瞬間、突如メカゴジラの足元が崩落した。
バランスを失ったメカゴジラが後ろざまにひっくりかえると、Bを捉えるはずだった冷凍光線は前から後へと空を切り、背後で待機していたモゲラを一撃!
仰向けにひっくりかえったメカゴジラにBの溶解霧が降りかかる!

「まずい!溶解液でやられる!」
「いや大丈夫だ!メカゴジラには耐酸コートが…」
「何言ってるんですか司令官!アブゼロのダイヤモンドミラーには耐酸コートなんてしてないでしょうに!」
「あ…」

オペレイターからヘッドセットを毟り取ると、司令官は叫んだ。
「モ、モゲラ!速射砲でBを撃て!」
『だ、だめです!アブソリュートゼロにより速射砲の動力系統が凍結、作動不能です!』

背中の可変ノズルをフル稼働させて起き上がると、メカゴジラは反撃のアブゼロを放った。
しかし、輝度が低い上にムラがある冷凍光線は、Bの吐く霧を一瞬凍らせることしかできない。
ダイヤモンドミラーが既に侵され始めているのだ。
背後に出現していたBの首が一際高く伸び上がると、巨大なワニ口を開け、つるべ落としに襲い掛かってきた。
しかし素早くガイガンが反応!
Bの首を迎え撃つべく、高周波振動ブレードを唸らせ、大地を蹴って矢のように飛び上がった。
一直線に落ち下るBの首とガイガンが一瞬交錯!
バターに半田鏝を当てたように、Bの身体を高周波ブレードが通り抜けた。
……ように見えた。
しかし、地響きを立てて着地したガイガンの高周波ブレードは、2/3以上が消えてなくなっている!
ガイガンの高周波ブレードがBの首を切り裂いたのではない!
Bの体液が、ガイガンの高周波ブレードを溶かしたのだ!
ガイガンと交戦したBの首が再びゆらりと立ち上がると、その左右両側に新手の首が伸び上がった。
砲兵陣地と航空隊を壊滅させた首だ。
Gフォースの連携で倒された首の傍らに、メーサー光線車を口に咥えた一際巨大な首が現われると、生贄を捧げるようにメーサー車を噛み砕いた!

塩の柱のように立ち尽くす司令官の手からヘッドセットを奪い取って学者は叫んだ。
「Gフォース全機脱出せよ!!」
68創る名無しに見る名無し:2009/09/01(火) 16:55:30 ID:og0HXEy9
二度目の攻勢も、人間側の大敗という結果に終わった。
芦ノ湖周辺に戦力を集めていたのは人間だけではなかったのだ。
三つの首をオトリとして地上に残し、日本中に延ばされていた他の首を、密かに芦ノ湖周辺に集結させていたのである
七つの首が荒れ狂い、溶解霧の降り注ぐなか、メカゴジラとモゲラはなんとか戦場離脱に成功したが…。
地上機動力の低いモゲラは戦闘能力の80%を喪失。事実上の戦闘不能となる。
ホバー移動能力を持つメカゴジラは武装を温存できたが、ダイヤモンドミラーを溶解され、切り札であるアブソリュートゼロが使用不能に。
芦ノ湖周辺に展開した通常戦力は100%近い損害を蒙っており、この時点で日本はBに対抗する手段を完全に喪失してしまう。
アメリカから自衛のための「最終兵器」の使用が再度申し入れられれば、日本にはもう断る力も口実も無い。
だが、意外にも駐日アメリカ大使が申し出たのは、ガイガンを核にした三度目の攻勢提案だった。

「モゲラニ爆薬ヲ搭載シ、Bノ根メガケ、地底みさいるトシテ特攻サセルノデス。」
「しかし大使、Bの首は地底もテリトリーとしています。そんなところに特攻をかけても…」
「特攻ハBニデキルダケ近ヅイテカラ仕掛ケマス。ごじらトがいがんデ、ソレヲ支援スルノデス。」

こうして芦ノ湖湖底に潜むBに対する、三度目の攻撃計画がスタートされた。
溶解された高周波ブレードに代え、ガイガンの腕には大型チェーンソウが装着された。
メカゴジラは耐酸コーティングの補修を受け、使用不能のアブソリュートゼロを取り外して、モゲラから取り外されたプラズマメーサーキャノンが取り付けられた。
三度目の、そして最後になるであろう攻勢の準備がちゃくちゃくと進むなか、例の学者だけは眉を顰め、じっと空を見上げていた…。
69創る名無しに見る名無し:2009/10/08(木) 15:02:58 ID:hi53ssOg
続きを待ってます
70創る名無しに見る名無し:2009/10/26(月) 12:57:58 ID:m1DVdRb+
この板で別スレに中篇の投下を開始してもうたので、ちょっとタンマ。
71創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 08:35:13 ID:gopKXIXD
中断が長くなってしまった。
スレが死んでもなんだから、旧作の中から「怪物」の出てくるヤツを投下しとく。
72イン・ユア・アイズ:2010/04/10(土) 09:31:29 ID:gopKXIXD
「キミの組むプログラムは無駄に複雑なんだよね」
失礼な言い方だ。
必要だから、止むを得ないから、複雑になっているだけなのに。
それを「無駄に複雑」なんて!
「……ひょっとして怒っちゃった?」
彼の無神経っぷりに、思わず私は言い返した。
「あたりまえよっ!」
 彼と私はゲームソフト・メーカーで半年前から同じ開発チーム所属していて、ついでに言うなら半年前から恋人同士だ。
でも恋人だからって、最低限の礼儀はあるはずよ!
「ごめんごめん」
ふくれっつらを見せる私に向かい、彼は笑って頭をさげた。
「……でもさ、ネットの掲示板で話題になってるんだよね。ラスボス(=ラストボス)倒した後に、またボスが出てくるって。」
「それって隠しキャラの方のラスボスでしょ?それなら最初からエス……」
「ゲーマー連中だってそんなことは知ってるよ。謎のボスは、本来のラスボスを倒した直後、出ることがあるらしい」
「……『あるらしい』って言うと?」
「出たり出なかったりするってことさ」
 そう、その正体を見極めるため、彼と私は今こうして深夜パソコンに向かっている。
私たちの作り上げたゲームの主人公は、いま大魔王の玉座の前へと進み出たところだった。
「…たぶんバグだと思うんだけど…。ちゃんとしたグラフィック付きのキャラで出てくるバクなんて聞いたことあるかい?」
 口では私に応対しつつ、彼の手はマイ「勇者」に次々コマンドを送り込んでいく。
そしてついに…、派手なグラフィックとともに大魔王は崩れ落ちた。
派手なグラフィックとともに大魔王は崩れ落ちた。
だが、何も起らない。
「何も起らないわね。やっぱりウワサは……」
「いや、ちゃんと起ってるよ」
彼は冷静な口調で反論した。
「……エンディングが始まらない。大魔王に勝ったんだから、エンディングが始まるはずなのに」
彼の肩に手をかけ「バグなの?」と、私がつぶやいたそのときだった。
「それ」は画面奥、魔王の玉座のうしろから現れた。
マイ勇者の側を抜けると、一直線にこちらへと駆けより…。
そして私の肩に手をかけた。
…気がつくと私の目の前には、人のものではない眼差しがあった。
そしてその瞳の中には……、無限の星の海!
次々とこちらに向かって飛んで来る星々。
いや、違う。星々は動いていない。動いているのはこっちなのだ!
星の海を物凄い速さで飛び越え、駆け抜け…、やがて視界へと飛び込んで来たのは、輪のある土星、縞のはしる木星……そして青い星地球!
そこまで目にしたところで、「何か」はついっと私から離れて行った…。

 私が意識を取り戻したとき、彼は虚ろな表情で、まだパソコンのディスプレイを見つめていた。
彼も同じものを見たのだろうか?
「ねえ!××くん!」
私に肩を揺さぶられ意識を取り戻すと、彼はゆっくり私のほうを見た。
………?!
次の瞬間、私は悲鳴を上げ、未明の街へと跳び出していた。
……精神寄生体。
「それ」はゲームの中から、自分に適した「入れ物」を物色していたに違いない。
彼の瞳の中に私が見出したもの。
それは無限の星々が煌めく宇宙にほかならなかったのだ。
キュベレイ。
それは、大昔のアニメに登場した巨大人型兵器と同じ名前だった。
命名の理由はふたつ。
ひとつは、操作系が脳コンピューターインターフェイスだったこと。
年寄りどもは「サイコミュ!」だとか「キミはそんなものに乗ってちゃいけないんだぁ」とかキャアキャアはしゃいでいる。
そしてもうひとつの理由は、「ファンネル」とかいう兵器を装備していたこと。
母機とは独立して飛び回り相手を倒す。
それだけ見るとコンピュータによる自動制御のようだが、実は母機操縦者の意思によって遠隔操作されているのだ。

「…頼むぜ、オレの女神ちゃん」
コクピットに座って真っ先に、オレはお守り代わりの「彼女の写真」をモニターの上にテープで貼り付けた。
具体的な描写ははばかられるようなポーズで、オレのセックスシンボルはしどけなく微笑んでいる。
写真の彼女の「その部分」に投げキッスを送ると、オレは「サイコミュ」を立ち上げた。
(飛ぶぞ!)
そう考えた次の瞬間、ついさっきまでキュベレイが係留されていたスペースコロニーは、3000メートル以上もの彼方にあった。
(右!)
…と考えたときには、キュベレイは既に右旋回を終えている。
そして上!下!錐揉み旋回!フラットスピン!!
「す、すごいっ!!」
予想をはるかに凌ぐキュベレイのレスポンスに酔うあまり、オレはある存在に気がつかなかった。
オレの奥から、オレの目を通し、モニターの上の「その部分」を見つめている、ある「意思」に。
オレよりはるかに古く、はるかに原始的で、はるかに強力な「意思」の存在に。

[……ではファンネルによる攻撃実験に入れ]

「了解!」
コロニーからの指示と同時に、モニター上に貼られたの彼女の写真の「その部分」の下から、標的艦がしずしず現れた。
その光景は、まるで彼女が標的艦に跨っているように見える。
ペロッと上唇を舐めると、オレは彼女の股のあたりに狙いをつけた。
「(…こりゃいいや)狙いよし!……発射!!」
発射の瞬間、何かがオレの脊髄を上から下に駆け抜けた!
「うああっ!?」
同時に、白い無数のファンネルが、黒い闇へと散ってゆく!
オレの制御を離れ、それ自身の「意思」をもって。
あっというまにファンネルどもは発進もとのコロニーへと殺到。
総攻撃を受けたコロニーは、コントロールを失い地球へと落ちていった。

 こうしてオレは、一瞬にして十数億の人間の命を奪った未曾有の大殺戮の犯人として裁きの日を待っている。
犯人はオレではないと弁明したところで誰一人信じてはくれないだろう。
だが、信じてくれ。
本当にオレじゃないんだ。
ファンネルのコントロールを奪ってコロニーへと殺到したのは…。
オレたち男の中にいる、倍率数億の命懸けの競走を演じるよう運命付けられているヤツラ。
74創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 09:34:06 ID:gopKXIXD
ラスト一行が漏れてました。
これじゃあオチがないので再録。
75:2010/04/10(土) 09:34:57 ID:gopKXIXD
キュベレイ。
それは、大昔のアニメに登場した巨大人型兵器と同じ名前だった。
命名の理由はふたつ。
ひとつは、操作系が脳コンピューターインターフェイスだったこと。
年寄りどもは「サイコミュ!」だとか「キミはそんなものに乗ってちゃいけないんだぁ」とかキャアキャアはしゃいでいる。
そしてもうひとつの理由は、「ファンネル」とかいう兵器を装備していたこと。
母機とは独立して飛び回り相手を倒す。
それだけ見るとコンピュータによる自動制御のようだが、実は母機操縦者の意思によって遠隔操作されているのだ。

「…頼むぜ、オレの女神ちゃん」
コクピットに座って真っ先に、オレはお守り代わりの「彼女の写真」をモニターの上にテープで貼り付けた。
具体的な描写ははばかられるようなポーズで、オレのセックスシンボルはしどけなく微笑んでいる。
写真の彼女の「その部分」に投げキッスを送ると、オレは「サイコミュ」を立ち上げた。
(飛ぶぞ!)
そう考えた次の瞬間、ついさっきまでキュベレイが係留されていたスペースコロニーは、3000メートル以上もの彼方にあった。
(右!)
…と考えたときには、キュベレイは既に右旋回を終えている。
そして上!下!錐揉み旋回!フラットスピン!!
「す、すごいっ!!」
予想をはるかに凌ぐキュベレイのレスポンスに酔うあまり、オレはある存在に気がつかなかった。
オレの奥から、オレの目を通し、モニターの上の「その部分」を見つめている、ある「意思」に。
オレよりはるかに古く、はるかに原始的で、はるかに強力な「意思」の存在に。

[……ではファンネルによる攻撃実験に入れ]

「了解!」
コロニーからの指示と同時に、モニター上に貼られたの彼女の写真の「その部分」の下から、標的艦がしずしず現れた。
その光景は、まるで彼女が標的艦に跨っているように見える。
ペロッと上唇を舐めると、オレは彼女の股のあたりに狙いをつけた。
「(…こりゃいいや)狙いよし!……発射!!」
発射の瞬間、何かがオレの脊髄を上から下に駆け抜けた!
「うああっ!?」
同時に、白い無数のファンネルが、黒い闇へと散ってゆく!
オレの制御を離れ、それ自身の「意思」をもって。
あっというまにファンネルどもは発進もとのコロニーへと殺到。
総攻撃を受けたコロニーは、コントロールを失い地球へと落ちていった。

 こうしてオレは、一瞬にして十数億の人間の命を奪った未曾有の大殺戮の犯人として裁きの日を待っている。
犯人はオレではないと弁明したところで誰一人信じてはくれないだろう。
だが、信じてくれ。
本当にオレじゃないんだ。
ファンネルのコントロールを奪ってコロニーへと殺到したのは…。
オレたち男の中にいる、倍率数億の命懸けの競走を演じるよう運命付けられているヤツラ。

オレのオタマジャクシなのだ。
76おもちゃのチャチャチャ:2010/04/10(土) 17:33:29 ID:gopKXIXD
「オモチャのチャチャチャ♪オモチャのチャチャチャ♪チャチャチャ オモチャのチャッチャッチャ♪♪」
 鼻歌を口ずさみながら、夕暮れの雑踏を男が行きます。
年のころは60の半ばといったところでしょうか?
「雑踏で童謡を口ずさむ男」などというと「酔っ払い」を連想しがちですが、この男、酔っ払いなどではありません。
もちろん、「ただのサラリーマン」でもありません。
実は彼は……
彼は「死人」だったのです。

「オモチャのチャチャチャ」
77おもちゃのチャチャチャ:2010/04/10(土) 17:34:31 ID:gopKXIXD
それから数時間後の夜、「死人」氏は問屋街の倉庫だらけの一角でとある一軒の建物を塀越しに見上げていた。
その目は真剣そのもので、もちろんもう鼻歌など歌っていません。
「死人」氏は、まず塀の高さを慎重に目算しました。
……ざっと2メートルというところでしょうか?
そして素早く左右に視線を走らせてから二三歩後ろに下がって助走をつけると、一気に塀へと飛びつきました。
……塀の上端にぶら下がって数秒ほど虚しく足掻いたあと、ドウッという音とともに「死人」氏は道路へと落下しました。
落っこちたときどこか打ちどころでも悪かったのか、「うっ……」という呻き声がして、「死人」氏は本当に死んだように動かなくなりました。
……と、いうことはつまり、「死人」氏は、実は生きているのでしょう。
しばらくその場でじっとうずくまっていた「死人」氏でしたが、やがてそろそろと起きあがると、恨めしそうな目つきで再び塀を見上げました。
「畜生……昔ならこんな塀……」
2メートルどころか、3メートルの塀だって気合一つでよじ登れたでしょう。
恨めしいのは、己の行く手を遮る塀か?
それとも自身の老いでしょうか?
くっと唇を噛むと、「死人」氏はもう一度塀から後ずさりしました。
今度はさっきよりずっと長く、路地の反対側の端までです。
反対側の塀に背中を当てて、夜空を見上げて深呼吸。
そしてその塀を蹴飛ばすようにして、「死人」氏は目指す塀へと突進した!
「はあっ!!」

「はあっ!」
力の限りのジャンプ!
しかしその到達高度はさっきと殆ど変わりません。
あっけなく跳ね返された「死人」氏は、アスファルトの上へと後ろざまに落ちていきました…。
(やっぱりダメか…)
苦い諦めが心をかすめたそのとき、背中から落ちていく「死人」氏を、力強い腕がっしり受け止めました。
78おもちゃのチャチャチャ:2010/04/10(土) 17:35:40 ID:gopKXIXD
「オジサン、無茶するとケガするよ。」
肩越しに聞こえたのは若い声でした。
両脇から差し入れられた腕も同じく若い。
「死人」氏が振り返ると、見知らぬ若い男が立っていた。
「あ、ありがとう」
「……なんだ、オジサンだと思ったら、オジイサンか」
無礼な言い草が「死人」氏の血圧を一気に上昇させました。
「オジイサンとはなんだ!オジイサンとは!!」
だが、体を反らし胸を張って睨みつける「死人」氏を見て、見知らぬ男が見せたのは白い
歯でした。
「うん、よかったよかった。その様子じゃ大丈夫みたいだね」
その笑顔が、「死人」氏の怒りを跡形もなく溶かしてしまいました。
(そうだ……オレは昔、こんな笑顔のヤツを見せてくれるヤツを一人知っていた)
最高の親友。
そして二度と出会えぬであろう戦友。
その男の名は…。
だが、過去へと戻りかけた「死人」氏の思いは、相手の不意のセリフで現在へと連れ戻されました。
「で、オジサンは、いったいここで何してたワケ??」
79おもちゃのチャチャチャ:2010/04/10(土) 17:36:28 ID:gopKXIXD
本当のことは言えない。
言っても信じてくれるはずが無い。
だから「死人」氏は見知らぬ男の「問い」に対し、新たな「問い」をもって答えることにしました。
「何してたように見える?」
「ドロボウ……にしちゃあ、カッコ悪すぎるな」
「余計なお世話だ」
「鍵を忘れて自宅に忍び込む……わけもないか。ここ、住宅じゃないから」
「そのとおり。もちろんここはオレの家じゃない。」
「うーんそれじゃあ……」
そのとき「死人」氏には、見知らぬ男の瞳が悪戯っぽく光ったような気がした。
「中で作ってる何かをスパイしに来たとか??」
「…それじゃ、その中で作ってる『何か』ってのは、何だ?」
いい線いってるなと内心で関心しながらも、まだこのへんでは平静を保っていた「死人」氏でしたが……見知らぬ男の次の答えは、「死人」氏を驚愕させるに足るものでした。

「ロボットとか?」
80創る名無しに見る名無し:2010/04/10(土) 17:56:05 ID:XZtnbrY2
支援
そして俺はいまこのSSが何故星新一スレに投下されなかったのか、猛烈に首を傾げつつオチを待ったいる。
81おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 08:56:09 ID:B0pQOzA+
「な、なんでそう思った!?」
「死人」氏は思わず小さく叫んでいました。
「なんでロボットだと?!」
驚きを隠しきれない「死人」氏を面白がるように、見知らぬ男はサラリと答えた。
「だってこの倉庫は……」
見知らぬ男は、塀の向こうの建物に描かれている手足を広げた赤ん坊のようなマークを指さした。
「…オモチャ屋のバンダイの倉庫でしょ?たしかバンダイはロボットのプラモデルを売ってましたよね?」
「ロ、ロボットのプラモデル?」
「そう、いわゆるガンプラ。だから、その開発中の新作をスパイしに来たのかなって」
そして見知らぬ男はまた笑顔を作った。
さっきのように、白い歯を見せて。
だが「死人」氏には、その笑顔はさっきと同じ「屈託の無い笑顔」とは見えませんでした。
(こいついったい…)
「よし!そういうことなら」
「死人」氏の戸惑いを尻目に、見知らぬ男はあちこち探し回ってその辺に転がっていた
鉄の棒を拾ってくると足元のマンホールのフタの穴に突っ込みました。
「よいっっしょと…」
見知らぬ男の腕に筋肉の筋が浮かぶと、重い鋳鉄製のフタはあっけなく降伏しました。
(……若い力か)
 羨望と懐古との入り混じった思いで見つめていると、見知らぬ男はさっさとマンホールに飛び込みました。
「もたもたしてないで、サッサと行きましょうよ」
「…なんでそんなトコに降りなきゃいかんのだ?」
「あれだけ大きな建物なら、敷地内に一個や二個は下水に通じるマンホールがあるでしょ?」
「…あ」
何も塀を乗り越える必要など無かったのです。
「オレとしたことが…」
 一言呟いて頭を掻くと、さっきまでの戸惑いも忘れて「死人」氏は見知らぬ男の後を追い、闇の中へと降りていきました。
82おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 08:57:10 ID:B0pQOzA+
「死人」氏が下水に降りると、見知らぬ男はライターを灯してさっさと奥に歩いていくところでした。
それを慌てて追いかけると「死人」氏は相手の肩に手をかけました。
「おい待て!」
「ん?なんか用ですか?」
「『なんか用ですか?』じゃない。オマエはここで帰るんだ」
「なんでボクだけ帰すんですか?せっかくこんなトコまで降りてきたのに?」
「死人」氏は、強引に自分と相手の立ち位置を入れ替えました。
「もしオレの考えが当たっているなら、この先には命の危険が待っているんだ。だから帰れ!帰ってくれ!!」
「命の危険?…だったらなおのこと帰れないよな」
「な、なんだと?」
「だってオジイサン、あそこの塀だって乗り越えられなくて落っこちてたじゃない?そんな人を一人だけで、命の危険があるようなトコに行かせるなんて…ボクにはできないなぁ」
「ぐ…」
まさにその通りです。反論しようもありません。でも…。…
「でも、だめなんだ!」
ここから先、見知らぬ男を連れて行くわけにはいかないのです。
「オレがこの奥に行くのは、行かなければならないからなんだ!それからオレはこう見えても…」
「…こう見えても??」
そのときです。
下水道のずっと奥で、何かが微かに光りました。
すぐさま「死人」氏はライターの火を吹き消すと、見知らぬ男の肩を引っ張って下水道の支線へと滑り込みました。
そして息を殺して待つ……待つ……待つ……
やがて微かな明かりとともに、それは息を殺して身を潜める二人の前に姿を現しました。
83おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 08:58:33 ID:B0pQOzA+
現れたのは……船でした。
ただし、とても小さな……。
小さなサーチライトを灯して航行してきたのは、オモチャの船だったのです。
巡視でもしているように、オモチャの船はあちこちに小さなサーチライトを向けながら、ゆっくりと二人の前を通り抜けていきました。
「オモチャの船?」
「正確には、オモチャの魚雷艇だ。」
二人が口を開いたのは、小さな巡視船が行過ぎてからたっぷり5分近くもあとになってからでした。
「あんなにちっぽけでも、威力は実物と変わらん。もちろん殺傷力もある。」
「…あれがさっき言っていた…」
「命の危険の意味だ。」
そして「死人」氏は長く長く息を吐きました。
「……もう30年以上前の話だ。」

かつてオモチャを使って地球を征服しようとした宇宙人がいた。
実は「地球上のどんな武器よりも強力」であるオモチャを催眠状態の子供たちに装備させ、子供の軍隊を作り出そうとしたその宇宙人の作戦は、当事の防衛組織と人類の味方である宇宙人の活躍によって、決行寸前に叩き潰されたのだった…。

「だがな、おかしいと思わないか?」
「何がですか?」
「あいつは、自分のオモチャをワゴンに乗せて手売りしてやがったんだぞ」
「それのどこが……?」
「考えてもみろ。自分のオモチャを大量に撒こうと思ったらワゴンセールなんかすると思うか?廉価販売のビデオじゃないんだ」
「…なるほど」
「それからもう一つ。やつは自分自身の手でオモチャを売った。超能力じみたショーまでやっていやがった」
「……なるほど、目立ち過ぎですね。まるで気がついてくださいと言わんばかりだ」
「…ヤツの自己顕示欲だとか、単にバカだからという意見もあった……だがな」
「死人」氏は隠れていた下水道の支線から這い出すと、オモチャの船が消えた方角を睨みつけた。
「……オレは考えたんだ。30年前の事件はただの実験。本当の侵略は後に控えているんじゃないかと」
84おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 08:59:29 ID:B0pQOzA+
「どうしてもついて来るって言うんなら仕方ない。オレから離れるなよ」
今度は「死人」氏が見知らぬ男の前に立って進みだしました。
「危険領域に入る前に帰したかったんだが、ここはもうとっくにヤツの勢力圏内らしい。それなら、1人で帰すのはかえって危険だ」
見知らぬ男も、今度は反論などせず素直について来ます。
下水道の中を目指す方向に数分ほど進むと水路に鉄格子が嵌っている部分がありましたが、
「死人」氏はその前をさっと素通りしてしまいました。
「オジイサン、オジイサン」
ひそひそ声で見知らぬ男が呼び止めました。
「今の鉄格子がきっとそうですよ。あれを破れば地上の倉庫に…」
「いや、あれじゃないな」
「死人」氏は、足を止めるどころか振り返りもしません。
「あんな鉄格子を守るだけに、巡視艇なんか出すと思うか?向こう側に守衛を1人置いとけば十分だろ」
「それじゃオジイサン、さっきの船は?」
「…何か他にあるんだ。うっかり下水に入りこんだ人間に見られちゃまずい何かが」
「だとすると…」
見知らぬ男はとある水路の支線を指差しました。
「さっきの船の灯りはあっちの方に行ったみたいに見えたけど…」
無言で頷くと、「死人」氏はライターの炎を消える寸前まで絞り、視界が暗くなったぶん壁に手を這わせながらじりじり進みはじめました。
「死人」氏は学生自体に読んだ本のことを思い出していました。
(あれは確か…「陥穽と振り子」。ポオの小説だ。主人公は今のオレみたいに真っ暗な部屋の中を壁伝いに移動していて…。そうだ、部屋の真ん中には落とし穴が…)
自分が落とし穴に落ちる瞬間を想像して思わず身震いした「死人」氏は、想像上の落とし穴を避けるように、下水道の壁にかけた自分の手に体重を預けたのです。
しかし次の瞬間!
「あ?あれれ??」
「死人」氏の腕は宙を掻いていました!
巌のような頑丈さを感じさせていたはずの下水道の壁が、不意に消滅したのです。

「うわああああああああああああああああああっ!」

「死人」氏の体は、真っ暗な空間を落ちていきました。
85おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 09:01:12 ID:B0pQOzA+
……意識を取り戻したとき、「死人」氏は自分がそれまでいた下水道とは違う、少しばかり開けた場所に、たった一人でいるのに気がつきました。
体を起して辺りを見回すと、そこはコンクリートで固められた一種の「船着場」のようなところで、彼はその片隅に積み上げられた夥しい紙箱の上に寝転がっていました。
どうやらこの紙箱がクッションになってくれたせいで、たいした怪我もしないで済んだようです。
コンクリートの上には無数の黒い筋が走っていました。
それを見た「死人」氏は、一目で小さなトラックによるタイヤ痕だと見破りました。
(下水道を水路代わりに使ってオモチャの船で何かを運び、ここで陸揚げしてからはオモチャのトラックで陸送したんだな。……だが、いったい何を運んだんだ?!)
小さなタイヤ痕はもつれ合いながら、急勾配の地下道の奥へと下ってます。
それほど上背があるほうではない「死人」氏でも、立って歩くのはおろか、中腰の姿勢でも無理そうな、狭く低い地下道です。
奥は果てしなく暗く、下で何が待っているかは予想もつきません。
でも、「死人」氏は一瞬たりとも迷いませんでした。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず!」
左手と両膝をコンクリートの床につくと、右手でライターを掲げ、「死人」氏は狭い地下道へと這い進んでいきました。
地下道は右に行ったり左にそれたりしながら、ひたすら下り続けていました。
夏の夜だというのに、あたりの温度はひんやり冷たく、どこかでゴウゴウと水の落ちる音がします。
(どこかに別の水路があるぞ。それも下水道なんかじゃない。かなりデカい水路だ。)
その巨大な水路とは、いったい何なのでしょう……。
「死人」氏の意識が地下道の前方からそれたその一瞬、床についていた左手がまたも空を掻きました。
「ま、またかよ!?」
「死人」氏は、突然そこから傾斜を増していた地下道を、まるでウォータースライダーのように滑り降りていきました。
(…頭から落ちるのはヤバイよな)
地下道を滑り降りつつ、冷静にそう判断した「死人」氏は、何度目かのカーブを利用して、足からすべる形になるよう巧みに体を入れ替えました。
(予想していたのとは随分違う展開になったが、こうなったらこのままヤツのアジトに殴りこんでやるぜ!)
滑りながら「死人」氏は決意の拳を固めます。
「待ってろよオモチャ……ん?なんだ??」
それまではひんやり冷たかったのだが…それがなんだか、急に熱くなってきたようなのです。
(この熱さが来るのは……オ、オレの尻かぁ??)
「死人」氏の頭を、「摩擦熱」という単語が一瞬掠めて消えました。
「あ?……あ!…あちちちちちちちちちちちちちちっ!!」
摩擦熱で尻が燃える!?
気のせいかもしれないが焦げ臭い匂いまでが!
「うぉ!?あちゃ!あちゃ!あちゃちゃちゃちゃちゃ!」
(これぞホントの「燃えよドラゴン」)
……どうしようもないほどバカなフレーズが浮かんだその瞬間、「死人」氏は滑り落ちてきたその速さのままで、光に満ちた世界へと放り出されました。
(アイツは!?)
滑りおちてきたそのままの速さで宙を舞いながら、「死人」氏は確かに見覚えのある人影を見たような気がしました。
そして……ドシンッ!!
「ぐうっ!?」
固い床のうえに滑るように落ちた死人は……そのまま意識を失ってしまいました。
86おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 09:02:58 ID:B0pQOzA+
(……オレは……オレはどうなったんだ?たしか地下道をすべり落ちて……そうだ!アイツだ!オレはアイツを……)
「死人」氏は慌てて手足を動かそうとしたが……できません。
手足がベルトのようなもので固定されているようです。
目を開きかけてましだ、まぶたの隙間から眼を射る光に、「死人」氏は思わずまた目を閉じてしまいました。
すると、視界が未だ戻らぬ彼の耳に、しわがれた擦れた声が滑り込んできたのです。
「……気がついたようだね。待っていたよ、ソガ隊員」
「その声は!?やっぱりオマエだったのか!」
「死人」氏……いや、元ウルトラ警備隊のソガ隊員は、目の痛みにもかまわず、両目をカッと見開いて声のする方を睨みつけました。
縛り付けられたベットの傍らに、ベレー帽を斜めにかぶり、口ひげをたくわえた長身痩躯の老人が立っていました。
「また地球に舞い戻ってきたな、オモチャ爺さん!」
「その名前で呼んでくれるとは嬉しいね」目を細めて老人は笑いました。
「…キミだって『ソガ隊員』じゃなく、『地球人』とか『日本人』とか呼ばれちゃイヤだろう」
「そんなことより、今度は何を企んでるんだ!?またアンドロイドゼロ指令か?!」
手足が動かせないなら、せめてこの歯で噛み付いてやる!
そんな勢いで吠えるソガを前に、老人はさも愉快そうに笑うと右手の指をパチンと鳴らしました。するとソガを縛り付けていたはずのベルトは、最初からそんなもの無かったかのように消えていました。
「さあ、来たまえソガ隊員」
それだけ言うと老人…いや、オモチャじいさんはさっさと先に立って歩き出します。
「ま、待て!オモチャじいさん!」
戸惑い気味にソガもオモチャじいさんのあとを追いました。
「敵であるオレを自由にして、いったいどういうつもりだ!?」
振り返りすらせず、オモチャじいさんは言いました。
「『何を企んでる』と聞くから、見せてやろうというんじゃないか」
「百聞は一見にしかずと言うそうだな…どうだね?自分の目で見た感想は?」
「こ、これは……」
ソガの眼下に広がっていたのは……

87おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 21:13:00 ID:B0pQOzA+
ソガの眼下に広がっていたのは……オモチャ工場でした。
「オモチャ工場」といった場合、普通は「オモチャを作っている工場」という意味です。
ソガが目の当たりにしている工場も、たしかにオモチャを作っていたのですが…。
それだけではありませんでした。
「オモチャがオモチャを作る。作られたオモチャもオモチャを作る。そしてオモチャは勝手に進化していくのだ。」
満足そうに言うオモチャじいさんの足元で、1/144のガンタンクが備品を積載したトレーラーを引いていきます。
その少し先では、別のトレーラーから1/100ギャンが備品を運び下ろしていました。
ラインの先の方ではクマの縫いぐるみとスケールの大きなロボットが出来上がったオモチャの刀を袋詰めし、ラジコン戦車が牽引するトレーラーの上に並べています。
オモチャじいさんのオモチャ工場。
それは「オモチャを作る」というだけではない。「オモチャが作る」工場でもあったのです。
「巨大な円盤で物資をこの星に下ろせば、当然監視網に引っかかる可能性が高くなるし、円盤の隠し場所などの施設も巨大なものにならざるを得ない。だが…」
……すべての侵略用物資をオモチャで投下すれば……
地球には平素より大小の隕石が降っています。
その中に実は侵略用の機材が紛れ込んでいたとしても、いったい誰が気がつくでしょう?
「投下された機材は、ワシのオモチャが回収するのさ。オモチャの船で運べば下水や小川でも立派な水路だ。基地設備も最低限の規模で済むしな」
「なんてことだ……」
以前オモチャじいさんは、子供にオモチャを使わせて戦おうとしていました。
しかし今度は、オモチャそのものに戦わせようとしているのです。
「オモチャがオモチャを設計し製造する。その過程でオモチャたちはどんどん自己進化をつづけていくのさ。そして今夜…」
オモチャじいさんは、自分のオモチャ工場の最奥を見遥かし胸をそびやかした。
「……究極のオモチャが誕生しようとしているのだ。ウルトラセブンにも負けない、究極のオモチャがな。」
「くそっ!そんなことさせるものか!」
「死人」氏=ソガはちょうど横を通りかかったトレーラーに飛びつくと上に乗せてあったオモチャの銃をひっ掴みました。
「くだばれ侵略者!」
カチッと引き金が引かれ、ダダダダッと……音がしただけでした。
「た、弾が出ない!?これは本物の銃じゃないのか!?」
「銃声と銃口の光が完璧にリンケージしているだろ?ワタシのオモチャだからといって総てがホンモノというわけではないよ。ここでは普通のオモチャだって生産してるんだ。でも……」
オモチャじいさんの顔から笑みが引っ込みました。
「…その連中は、みんなホンモノだよ」
はっとして辺りを見回すと……ソガは自分がすっかり囲まれていました。
「リニューアル版のザクにゲルググ、君の後ろにいるのはこの冬発売予定の1/60パーフェクトグレード・ゾックだ。言っておくが、そいつらの武装は……ホンモノだよ。」
ザクとゲルググの後ろを、バズーカを構えてドムが滑り、ソガの頭上をキュベレイが飛びすぎます。オモチャじいさんの言葉どおり彼らの武装がホンモノならば……ソガに勝ち目などあるはずもありません。
「アンドロイドゼロ指令の発動と同時に、日本全国にばら撒いたガンプラは、すべてワタシの優秀なる戦士に変身するのだ」
オモチャじいさんの目が怪しく光った。
「その栄えある犠牲者第一号として、ソガくん。キミにはここで、死んでもらおう」
88おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 21:14:22 ID:B0pQOzA+
周囲のロボットたちがジリジリと包囲の輪を狭めはじめ、ゲルググが手にした短い棒きれの両端から光る刃が迸り出ました!
死中に活を求めるべくあたりに視線を飛ばしたソガですが、しかしこの絶望的な状況を打破してくれそうなものは何一つ見当たりません!
(万事…窮すか?)
「グッバイ、ソガくん」
オモチャじいさんの死刑執行命令と同時に、ゲルググが処刑人の刃をビームナギナタを振り上げました!!
だがそのときです!
どがーーん!!という轟音とともに、地下工場の壁をぶち抜いて巨大な真紅の手が飛び込んできたかとおもうと、絶体絶命のソガを掴みだした!
ガラガラとものが崩れる音!なだれ込む土砂と水の湿った臭い!そして激しい爆発音!!
……でもそれは一瞬のことでした。
気がつくとソガは、最初にいた倉庫の近くを流れる川の川べりに横たえられていました。
静かな夜の川面には月が浮かび、いままでの出来ことがまるで別世界の話のように思えます。
「気がつきましたね」
不意に傍らから声をかけてきたのは、下水道で生き別れになったあの「見知らぬ男」でした。
……いや、彼はもう「見知らぬ男」ではありません。
ソガは彼の正体にはとっくに気づいていました。
89おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 21:15:05 ID:B0pQOzA+
「ありがとう、ダン」
「死人」氏=ソガは笑いながら手を差し出すと、「見知らぬ男」=ダンも微笑んでその手をとりました。
「なんだ、気がついてたんですね。くやしいなぁ」
変身を見破られていたにも関わらず、ダンの笑顔は「悔しい」どころか「嬉しくってしようがない」としか見えません。
「その笑顔でぴんときたのさ。『オレは昔、こんな笑顔を見せてくれるヤツを一人知ってるぞ』ってな」
「チブル星人の基地は、ボクが完璧に叩き潰しました」
「そうみたいだな。これでオモチャじいさんの第二次アンドロイドゼロ指令も……」
そのとき何気なく川面に視線を落としたソガはハッとしました。
いつのまにか、川面に浮かぶ白い影が、さっきまでのまん丸ではなくなっていました。
お月さま月とは似ても似つかぬその白い影は、はっきり「人の形」をしています!

「デュワッ!!」

地響きを立てて川の向こう岸にウルトラセブンが降り立つと、反対側の岸辺に立つ「白い人型」の双眼に緑色の光が灯り、胸の二つのダクトから白い煙が噴出しました!
今夜生まれるはずだったオモチャじいさんの最強戦士、オモチャ工場の最後の作品にして唯一の生き残りとは?
「こ、こいつは…」
あり得べからざる光景に、ソガは思わず一瞬息を呑みました。
「こいつは……ガンダム!?」
1/60パーフェクトグレードをも遥かに凌駕する、2.5/1(実物の2..5倍)。
しかもオモチャじいさんの他のオモチャ同様、実物よりもはるかに優秀な…。
究極のガンプラ。
身長50メートルのガンダムが、川を挟んでウルラセブンと睨みあっていました。
90おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 21:16:13 ID:B0pQOzA+
「デュワッ!」
…カキーン!
ガンダムもどきの機先を制してセブンが放ったアイスラッガーは、二重の盾に火花を散らして跳ね返されました。
「まさかアイツの装甲は!?」
ガンダリウム合金などではない!キングジョーと同種の宇宙合金の改良型です。
「もしあのガンダムもどきの装甲がキングジョーの改良型だというなら、セブンの武器は!」
アイスラッガーが効かないと見るや、セブンはウルトラビームを放ちましたが…!
「やっぱり効かない!?」
必殺のエメリウム光線も、やはりガンダムもどきの盾を射貫できません!
驚きのあまり一瞬セブンが棒立ちになったのを、見逃すガンダムもどきではありません!
角ばったボディラインからは想像も出来ない素早さで身を翻すと、次の瞬間、ガンダムもどきはセブンにビームライフルを突きつけました。
「なんて速さだ!こいつホントにロボットなのか!?」
驚くソガの目の前で銃口から迸る閃光!
一発!二発!三発!!
しかし、セブンはこの攻撃をとっさのバック転で回避。
更に回転しながら、自身の回転力も加えてアイスラッガーを放つセブン!
今度も盾を構えて弾かんとするガンダムもどき。
しかし今度の一撃には、セブン自身の回転力ものっています!
…バキィーーーン!
硬質な音を立ててガンダムもどきの二重盾を真っ二つに叩き割ったアイスラッガーは、返す刃でビームライフルも両断しました!
ライフルの爆発で上体が仰け反るガンダムもどき!
敵の体勢の崩れに乗じ、一気に間合いを詰めるセブン!
しかしガンダムもどきには、まだ奥の手が。
顎をぐっと引き、飛び込んでくるセブンの顔を真正面に見据えると、至近距離から頭部バルカンが火を噴きました!
91おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 21:17:37 ID:B0pQOzA+
「デュワッ!」
ガンダムもどきのメイカンカメラのセンターから、瞬間的にセブンの顔が消えました!
至近距離から出し抜けに放たれたバルカンに直撃を許さなかったのは「歴戦の戦士のカン」としか言いようがありません。
しかしセブンの危機はまだ終りません。
ガンダムもどきはバックパックからビームサーベルを引き抜くと逆手に握り、足元に転がるセブンに突き下ろしました!セブンはこれを転がり避ける!
転がるセブン!
追うガンダムもどき!
立て続けに突き下ろされるビームサーベルは一瞬の差で大地を抉る!

「まずいぞ!」
ソガの口から言葉が漏れた。
「セブンは防戦一方だ。このままでは……」
そのとき、ソガの肩に誰かがそっと手かけたのです。

赤い光を放ちセブンの頭に迫るビームサーベル!
膝立ちの姿勢で下からこれを支えるセブンの手にはアイスラッガーひとつ。
ガンダムもどきは全体重をかけてビームサーベルを押し込んでゆく。
首筋に迫るビームサーベルの熱を避けるように、顔を背けるセブン。
ビームサーベルはジリジリと……。
92おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 21:18:35 ID:B0pQOzA+
「た、隊長!」
ソガが振り返るとそこに立っていたのは…懐かしい顔、キリヤマ隊長でした。
退役したからか、キリヤマは隊長時代には一度も見せたことのないような、温和な顔で微笑んでいました。
「隊長!セブンが、セブンが!!」
「ソガよ…」
温和な微笑みを浮かべたまま、ソガを制してキリヤマは言いました。
「ダンを信じるんだ。我々が信じないで、いったい誰がダンの勝利を信じるというんだ!?」
「ダンを……」
キリヤマは「セブン」とは言わず、「ダン」と呼びました。
そのとたん、ソガの心にダンと過ごした日々の記憶が、昨日のことのように蘇ってきたのです。
笑っているダン、怒っているダン、そして泣いているダン。
そして……すべてのダンとの記憶の最後に、あのころ抱いていたある確信が蘇ったのです!
「そうだ!ダンは負けない!どんな恐ろしい侵略者にだって、ダンは負けないんだ!」
……自分でも気づかぬうちに、ソガは命の限りに叫んでいた。
「ダンは負けない!必ず勝つ!!」
「ダンは負けない!」
力の限りソガが叫んだそのときです。
セブンの腕に力こぶが盛り上がってガンダムもどきのビームサーベルを押し返したかと思うと、一瞬のうちに体を返して相手の両腕の下に潜りこんだのです!
そしてガンダムもどきの両腕を一まとめに抱え込み、そのまま一気に……
「やったぞダン!」
……ぶん投げたました!
半径50メートルの巨大な弧を描き、頭から大地に叩きつけられるガンダムもどき!
しかし、胸のダクトから蒸気を吐き出しながら、ガンダムもどきはなおも立ち上がると、残るもう一本のビームサーベルも引き抜きました!
アイスラッガーを手に飛び込むセブン!
再び唸るバルカンのシャワーを、体を沈めてかわし、続けて襲い来る右のライトサーベルをエルボースマッシュで空中高く跳ね上げる。
そして左のビームサーベルをアイスラッガーで受け止めて……
落下してきた右のビームサーベルをキャッチすると、そのまま敵の武器でガンダムもどきの胴体をなぎ払った!
オモチャじいさんの開発したビームサーベルは、オモチャじいさんの持ち込んだ特殊合金をも一撃で溶断!
ぐらっと傾くと、巨大ガンプラは真っ二つになって崩れ落ちていきました。
……セブンの、……いやダンの、絶対絶命からの逆転勝利でした。
93おもちゃのチャチャチャ:2010/04/11(日) 21:20:39 ID:B0pQOzA+
明けの明星を背にソガを見下ろすダン。
「やったやった!ダンが勝った!ダンが勝ちましたよ、隊長……」
子供のようにはしゃぎながら振り返ったソガに、しかしキリヤマは黙って新聞を差し出しました。
その朝配られるはずの朝刊、日付は8月15日。
そのとき同時にソガは思い出しました。
(キリヤマ隊長は、確か先年亡くなられていたはずだ……)と。

(そうか……そういうことだったのか)

その瞬間、ソガはすべてを悟りました。
この一夜の冒険も、そしてキリヤマがやって来た意味も。
「隊長、わざわざ迎えに来てくださったんですね?」
キリヤマがそっと右手を差し出した。
「さあ行こう、ソガ。」
「死人」氏はためらうことなくその手を握り返しました。
「はい、隊長。」
………

……こうして……
…こうして「死人」氏の一夜の冒険は終わりを向かえました。
いまでは彼も、辛い試練の時を終え、気心の知れた隊長とともに平和なときを過ごしている。
わたしは、そう信じたいんです。
……信じたいんです。
わたしは…


お し ま い
94創る名無しに見る名無し:2010/04/11(日) 21:32:40 ID:B0pQOzA+
「イン・ユア・アイズ」と「『キュベレイ』あるいは『世にも下品な物語』」は、かつてSF・ホラー・ファンタジー板に投下。
「おもちゃのチャチャチャ」は特撮板に投下したもの。
とくに「〜チャチャチャ」は背景説明が必要でしょう。
あの駄文はウルトラセブンの出演者・役名は「ソガ隊員」が亡くなられたとき、追悼の思いで構成したものです。
最近、過去に投下した駄文を発掘することに成功したので、その中から広義の「怪物」が出てくるものをピックアップして投下すれば、このスレを死なせずにすむかと。
95海ホタルでの降霊会:2010/04/14(水) 22:33:11 ID:YYpwlGTj
「あれが東京湾アクアラインのサービスエリア。通称『うみホタル』だ。」
「サービスエリアじゃなくてパーキングエリアでしょ?」
「どっか違うのぉ??」
「法律上サービスエリアってのはねぇ……。」
4人しか乗っていない車の中は、団体旅行みたいに騒がしい。
わいわい五月蝿いのはいつものことだが、今日は運転席の後ろからバリバリいう音もひっきりなしに聞こえてくる。
僕らは××大学の心霊現象研究会+1だ。
ハンドルを握る僕の名は寺井。そしてサービスエリアだかパーキングエリアのことで混ぜっ返した理屈っぽい男は清水。 その違いを尋ねた山本は当会唯一の女性会員。
そして今日は「+1」。僕のすぐ後ろの席で絶え間なく何かしら食べつづけている怪女=清水のやつがバイト先で知り合った霊感女もついてきていた。
僕たちの目指す先は「うみホタル」。
目的は、そこで降霊会を開くこと。
そう、あれは三日前の昼だった。
96海ホタルでの降霊会:2010/04/14(水) 22:33:54 ID:YYpwlGTj
……
「東京湾は、東京が生みだしたあらゆるものの『ふきだめ』だ。」
「それを言うなら『ふきだめ』じゃなく『吹き溜まり』でしょ??」
「それとも『掃き溜め』と言いたかったのかな?」
些細な言い間違いだったが、すかさず山本さんと清水が突っ込んで来た。
まあいつものことだ。
「だ、だから僕の言いたいことはだ!」机をバンと叩いて僕は立ち上がった。「…東京湾は霊障現象の吹き溜まりに違いないってことだ!」
いつもの無駄話ならそこまでのはずだったが…今回はそれだけでは終らなかった。
「あのさ、バイト先で知り合ったんだけどね………。」
清水の知り合いの霊感女、それが法螺貝しのぶだった。
代々霊感が強く、イタコや霊媒・神社の巫女さんなどを輩出した家系の女という触れ込みだった。
昔から「名は体を表す」と言う。
「しのぶ」という名前にちょっとだけそそられたが……。
実際会って見たら、「体」を表していたのは「法螺貝(ほらがい)」の方だった。
97海ホタルでの降霊会:2010/04/14(水) 22:34:50 ID:YYpwlGTj
海ホタルの駐車スペースのなるべく目立たない隅っこで、僕らは小さな車座になって座っていた。
「言っとくけど、この輪っかの中から出ちゃダメだかんね!」
周りには法螺貝さんがチョークを使い、奇妙な紋様の連なりから成る「輪」を描いてある。
そして輪の中心には何本かの蝋燭と護符。
彼女はその輪の中から出るなと言っているのだ。
「……そんじゃ始めるわよ。」
厳かに宣言すると、法螺貝さんは肥満気味の体をブルブルッと揺さぶった。
そして精神統一………。
髪型と体型のせいで頭部と胴体の区別が判然としない法螺貝さんが半眼を開いて地べたに腰を降ろした姿は、まるで巨大な「蟾蜍の女王」のようだ。

「……のな……ごが…ごが……のな……ごがごが、ふ…ふしゅうううぅ………。」

言葉というより呻き声のようなものが法螺貝さんの口から漏れ出し、潮風に乗って夜の海を渡っていく……。
精神統一のためギュッと閉じていた瞼をこっそり開けてみたら、やはりこっそり目を開けていた山本さんの視線とぶつかってしまった。
ズルしたのを母親に見咎められたときのような気がして、慌てて目を閉じる。
だが、肝心なことは判った。
僕だけではないのだ。
空気の中に異様な気配を感じ取っているのは……。
98海ホタルでの降霊会:2010/04/14(水) 22:35:39 ID:YYpwlGTj
「まずい!人が来た!」
儀式が始まって数分ほどたったころ、小さな声で寺井が叫んだ。 さっきの僕と同じく、アイツも薄目を開けていたに違いない。 目を開けるとたしかに人影がやって来る。
(見つかったらヤバイな!)
だが、慌てて立ち上がろうとした僕たちを、法螺貝さんは鋭く叱責した。
「動かないでっ!よく見なさい!」
「え?…よく見ろって……。」
よく見ろと、言われて初めて気がついた。
髪型が…、いやそれだけじゃない。服装から何からみんな変だ。
やって来たのはボロを纏い髪も髯も茫々に伸びた、垢だらけの男だった。しかも、その足元には?!
山本さんが小さく叫んだ。「影がないっ!」
「……判ったでしょ?霊よ。いいから皆、座りなさい。」
99海ホタルでの降霊会:2010/04/14(水) 22:36:28 ID:YYpwlGTj
東京湾は確かに「霊の吹き溜まり」であった。
ボロを纏った霊の出現が皮切りで、それからは一気だったのだ。
様々な時代、様々な姿の霊が、何十、いや何百と物影からまろび出た。
それが痩せこけた手を差し伸べ、僕らが車座になっている方へとヨタヨタとやって来る。
清水が小さな声で「ひいっ!」と悲鳴を上げた。 僕と手を繋いだ山本さんの手も震えている。
「恐がらなくてもいいわよ。ヤツラはアタシが描いたこの輪の中には入って来れないんだから。」
僕らの動揺を鎮めるように、落ち着き払った声で法螺貝さんは続けた。
「……降霊儀式の型も崩れてないから、どうしても危ないようなら霊界に追い帰せばいいの。」
法螺貝さんのその言葉で、僕らが少し落ち着きを取り戻しかけたたときだ。
「きゃああああああああああああああっ!!!」
駐車場の向こうで、鋭い悲鳴があがった。
「しまった!」
悲鳴を耳にして真っ先に叫んだのは、今度は法螺貝さんだった。
「きっと悪霊が他の人に襲い掛かったのよ!」
「そうか!」つづいて僕も叫んだ。「……ボクたちは法螺貝さんの輪で守られてるけど、他の人たちは!」
別の方でもう一声、さらにもう一声と悲鳴が続いた。
「……早く霊たちを追い返してください!」と清水も叫ぶ。
言われるまでもなく、法螺貝さんは両手で印を結ぶとくぐもった声で呪文の詠唱を始めていた。
再び呪文が潮風を渡り始めると、悪霊たちは潮が退くように退散していった。
もう駐車場には悪霊の姿は無い……。
だが……。
「お、おわったの?」
「いや、まだだよ山本さん。」
僕は中天を見上げながら顎で指した。
星空を背に、大きな、とてつもなく大きな黒い影があった。そしてその中に朧な光点がふたあつ、じっと僕らのいる海ホタルを見下ろしている。
清水が呻ように呟いた。
「コイツも……霊?」
「…そのはずよ。」と法螺貝さん。
だが、影の巨大さと描き出すシルエットは明らかに人間のものではない。
「こんなバケモノが、いるはずは……。」
そこまで口にしたところで、僕は思い出した。
こんなバケモノがいたことを!
100海ホタルでの降霊会:2010/04/14(水) 22:37:33 ID:YYpwlGTj
あれは1957年。
僕がまだ生まれていないどころか、僕の父さんと母さんすら出会っていなかったころのことだ。
水爆実験の影響で目を覚ました一匹の怪物が東京に上陸。辺り一面を紅蓮の焦熱地獄へと変えた挙句、いまも原理がよく判っていない化学兵器で倒された。
その場所が東京湾だ!
「アイツだ!アイツが呼び出されてしまったんだ!!」
「アイツ!?アイツって何よぉ??」と山本さんが叫んだ。
清水は……清水もボクと同じ存在に思い当たったに違いない。
引き攣った表情で「ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴジ……」と繰り返し続けている。
「なんでよ!儀式どおり追い帰してるのに、なんであの霊は帰らないの!?」法螺貝さんが目の玉をひん剥いて叫んだ。
「なんで!帰らない……。」
「む…無駄です。」僕は答えて言った。「……アレは、元々ボクたち人間の手におえるもんじゃなかった。だからたとえ悪霊になったとしても……。」
そのとき!巨大な影が、一声吠えた。
同時に、僕らの車座の中央に立てられた蝋燭の火が一斉に消え、逆に護符は青白く燃え上がり、周りに描かれた「輪」は見る見る彩りを失っていく!
儀式は破られた。
力づくで。
全てが破られたいま、僕らは、そして電飾煌めく東京も、ヤツの前に裸同然だった。

怪獣王の悪霊は、再び夜空に咆哮を解き放った。
……朗々と。
49年間の呪いを込めて……。


お し ま い
101創る名無しに見る名無し:2010/04/14(水) 22:42:15 ID:YYpwlGTj
「海ホタルでの降霊会」はSF・ホラー・ファンタジー板に投下したもので、長編「G!×G!×G!」の前奏曲的駄文。
「G!×G!×G!」も発掘できたので、チャンスがあれば投下するが、あれは長いから。
「オモチャのチャチャチャ」の何倍もあるから、再投下は難しいか。
102創る名無しに見る名無し:2010/04/15(木) 14:05:35 ID:dOUM57DM
ゴジラの幽霊!えらいやっかいそうなもの呼んだな。恐すぎる
ところで、>>98も僕=寺井ですよね?なんか別のタイプのホラーかと思った
103創る名無しに見る名無し:2010/04/15(木) 19:31:09 ID:Z/VYXlff
>>102
名前、間違ってますね。
元は仕事の休み時間中に駆け足で作ったからこういうこともあるわけで(笑)。
「G!×G!×G!」だと、これで召喚されたゴジラ霊がらみで東京湾を舞台に怪物同士の激突になる話です。
104ふるへへんどす:2010/04/16(金) 19:55:29 ID:UgdwYALW
「お次はと……『星』ですか。これ『星』って読むんですよね?」
「まさか『せい』とは読まんだろ??」
オレと相棒はさっきから頭を抱えていた。
自動翻訳装置への言語登録がいまのオレたちの仕事だ。
「まさか『日』と『生』が縦書きになってるなんてこたァねえだろうな?」
ついこのあいだ縦書きの「ノ」+「皿」を「血」と入力を間違え、とんでもない誤訳を発生させたばかりだった。
 宇宙探検の過程での未知の文明との接触は宇宙探検者冥利に尽きる大きな喜びだ。
しかし相手は文化どころか、生命組成のレベルで異なる可能性をもっている。
当然行き違いも発生し易く、最悪の場合には戦争にすら発展しかねない。
そこで母星からの指令により、宇宙探検の過程で未知の文明と遭遇した場合、発見者の責任において現地言語対応の自動翻訳装置作成が義務付けられていた。
だが……。
「……たぶん縦書きって可能性は無いでしょ。他が明らかに横書きですから」
つぎの単語で、相棒の目がまた吊り上がった。
「……そ……ば……」
「『…そば』?『近い』って意味のそばですか?それともニョロニョロ長いあのそばですか??」
「そんなの判るかよ!?ヒラガナなんだから」
……もうおわかりとは思うが、翻訳装置への入力は、探検者にとって少なからぬ負担となっていたのだ。とくにこの星ときたら。
「あーーーーーーーーーーーーーーーこのクソッ垂れ文明め!!」
相棒はとうとうキレたらしい。端末を平手で叩くと仰向けにひっくりかえってしまった。
「なんでこんなに言語が多いんだよ!ここの星の連中は不便だと思わねえのか!!??」
「……だな。特にこの島は…カンジにヒラガナにカタカナに……よその言語のアルファベットまで使ってるし」
「……なあ!」
突然ガバッと起き上がるなり相棒は言った。
「……発見しなかったことにしねえか?こんな星」

このようにして、異星人との貴重なファーストコンタクトの機会が失われたのは……。
…もう五回目のことだった。
105ぽこにゃーん:2010/04/16(金) 19:56:49 ID:UgdwYALW
「昔は、『ガス』『電気』『水道』などは全て別々のルートで各家庭に供給されていました。
全ての施設が三つ別々に必要だったのですから大変な無駄ですよね」
(聞くなよ、聞くなよ……聞いてくるなよ)そう思いながらオレは説明を続けた。
「……でも今は、三つ全てが単一の『ポコニャーン』によって供給されています。」
「先生!」真中あたりの席に座っていた生徒が手を上げた。
「『ポコニャーン』って、何ですか??」
……やっぱり聞いてきた。
「……ぽ、『ポコニャーン』は、『ポコニャーン』だろ?他に何て言えばいいんだい?」
軽く受け流したつもりだったが……まずい受け方だったようだ。
子供たちの目がキラッと光ったのだ。
「先生っ!」
…別の生徒がすぐさま手を上げた。
「『ガス』と『電気』はいっしょくたでも良いと思うけど、『水道』はいっしょにできないと思います!」
そうだ、そうだと続く子多数。やばい展開だ。
オレは自分自身に必死で言い聞かせた。
(落ち着けオレ。相手は小学生だ、落ち着いてごまかせ。やればできる)
造り笑いを浮かべてオレは答えた。
「いっしょにできないっポイものまで、いっしょに扱えるのが『ポコニャーン』の凄いとこなんじゃないか」
……演技力が不足なのか、子供たちはさっぱり納得してくれない。
「先生!」こんどは何人も一斉に手を上げた。これから続くであろう悪夢のひとときに頭がくらくらする。
「川向こうの町で、『ポコニャーンは人肉だったんだぁっ!!』って叫んで、オマワリさんに連れてかれたらしいんだけど、ホント?」
明らかにガセだ。だが、このガセネタは生徒たちの心をゲットしてしまったらしい。
「まじかよ!?」「じんにくじんにくぅぅ!!」「ねえねえ、それ何時の話?誰から聞いたの??」「じんにくにくにく♪じんにくにくにく♪ににんがさんぞう♪」
クラスは騒然となってきた。
「みんなしずかにーーーっ!」
オレは声を張り上げた。
「『ポコニャーン』は人肉なんかじゃありませんっ!!」
一瞬水を打ったように静まりかえる教室。 その沈黙を破って、誰かが言った。
「じゃ、『ポコニャーン』って何なのさ?」

…昔の人はいいこと言った。
「高度に進歩した科学は、魔法と区別がつかない」
ポコニャーンだけじゃない。ステレンキョウにチンチンカモカモ、シュビダバダ……。
オレが学校で生徒たちに教えているのは、科学なんだろうか?それとも魔法なんだろうか?

オレに説明できないという点では、どっちであっても大して変わらないのではあるが。
106創る名無しに見る名無し:2010/04/16(金) 20:01:18 ID:UgdwYALW
「ふるへへんどす」と「ぽこにゃーん」はどちらもSF・ホラー・ファンタジー板に投下したもの。
「ふるへへんどす」は主人公が宇宙人なんでスレに合っているが、「ぽこにゃーん」のどこに怪物が出てるの?
…と思ったアナタ。
クラスの生徒たちが、小さな「怪物」たちなんです。
107創る名無しに見る名無し:2010/04/22(木) 23:17:05 ID:RFslE5Z4
旧作でお茶を濁し続けるのもなんだから、以前あらすじだけ投下した駄文を、それなりの形に構成して、再投下してみることにしようかな。
それでは…
108「桜の木の下には」:2010/04/22(木) 23:18:10 ID:RFslE5Z4
「おはようございまー………あれ?ここも留守かぁ…」

この郵便配達夫のあいさつが空振りに終わったのは、今日既に四件目です。
時刻は昼飯時を回ってもう1時半。
いつもなら、家々の庭には家人の姿があり、庭に人気の無い場合でも家の中からはテレビやラジオの放送が聞えてくる時刻なのですが。
「変だな…」
郵便配達はワザと声に出してそう言いました。
声に出せば、「何が変なんだい?」と言いながら、顔なじみのオバアチャンやオジサンがひょっこり顔を出してくれるのでは?
しかし、彼のそんな期待が叶うことはなく、昼下がりの村はひっそりかんと静まり返ったままでした。
(仕方ない。とにかく仕事だけは先に済ましとこう)
少し薄気味悪くなってきた彼は、今日唯一の配達先、村の最奥に鬱蒼と茂る村有林を背に立つ旧家へと向かうことにしました。
緩い傾斜に沿い、段々になって山裾へと続く畑の間の道を10分ばかり上り、大きな桜の木の下を右に曲がると、目指す家の屋根の頂が目に入ってくるはずです。
…けれども。
「あ?……あれは!!?」
ようやく目に入ったその屋根は、黒い炭の色に変り、形もすっかり崩れてしまっています!
火事があったに違いありません。
目指す家は、炎に舐めつくされ、すっかり焼け落ちてしまっていました。
「た、大変だぁ!」
配達夫は、血相変えて元来た道を駆け下ると、最初に行きあたった家の玄関へと飛び込みました!
「すみません!電話を、電話をお借りします!あの電話を……うわあっ!」
彼の言葉が最後のところで悲鳴に変わりました。
彼がいままさに手を伸ばした受話器は、既に別人の手に握られていたからです。
それも、血塗れの手に…。

「桜の木の下には、死体が埋まっている」と言います。
今回は、花の季節に過疎の村を襲った、恐ろしい「花」のお話です。

「桜の木の下には…」
109「桜の木の下には」:2010/04/22(木) 23:18:55 ID:RFslE5Z4
「はい、住民は全村11世帯で42名。全員が……」
そして地元警察の警官は、「それ」から眼を反らしたまま顎でさした。
隣室には、受話器を握ったままこと切れた例の死体が、目や鼻を自分の手で掻きむしり、顔中血まみれの状態で転がっていた。
「最初は何か動物の仕業かと思いましたが…なんせその通りの…」
「……自分でやったようだな。顔を両手で掻きむしったようだが、両頬の傷は親指によるものだろう。他人がやったんなら、親指は内側にくるはずだ」
死体の上に屈みこんでいた男が、ゆっくり立ち上がった。
この男、警視庁不可能犯罪捜査部所属の警部で、名を岸田という。
郵便配達からの通報で地元警察が出動。
状況の異常さから、所轄はただちに本庁へと連絡。
不可能犯罪捜査部が出張って来たのである。
「あの…自分で自分の顔をこんなに酷く傷つけられんもんなんでしょうか?」
「…被害者のツメの間の組織を調べりゃ一発で判るさ。」
地元の警官は、まだ納得いかない様子だった。
「それも一人だけじゃなく……」
「警部!」
そのとき、ダークスーツを来た岸田よりも10歳は若く見える男が入って来た。
「所轄からの連絡どおり、隣もここと同じです。酷い有様です」
「酷いじゃ判らんぞ凍条。もっと具体的に報告しろ」
凍条と呼ばれた部下は、はい、と応えるとポケットから手帳を取り出した。
「隣家の死体は全部で3体。寝室に2体。風呂場の前に1体です。いずれも顔面の損仕様が酷く、中でも戸主と思しき男性は鼻が掻き取られて…」
凍条がそこまで読み上げたところで、所轄の警官が悲鳴とも呻き声ともつかぬ声を上げ、よろよろと家を出て行った。
酸鼻極まりない惨殺死体が幾つも転がる、全村虐殺事件。
だが、不可能犯罪捜査部が呼び出されたのは、事件の規模や凄惨さによってではなかった。
警部の足元に横たわる死体とは、全く対照的な状態の死体によってだったのだ。
110創る名無しに見る名無し:2010/04/23(金) 19:26:58 ID:8pYv0DsI
これは続きが気になる。wktk
111「桜の木の下には」:2010/04/23(金) 23:50:40 ID:2VoUpYXK
村で発見された死体は全部で42体。
つまり全村民分である。
そのうち、自らの手で鼻が千切れるほどに、瞼がズタズタに裂けるほどに顔を掻きむしった悶死体が36体。
あと、例の火事後から発見された焼死体が3体。性別すら判然としない黒焦げの死体は、おそらくその家に住む夫婦と夫の母の3人であろうと推察された。
そして残りの3つが問題の死体であった。

「…それからですが、簡易検査の段階では大気中からも、土壌からも毒物等の反応は検出されていません。」
岸田警部と凍条の2人は、例の謎の死体の一つが発見された家へと向かっていた。
「…まあ予想の範囲だな。もし何かの毒物が残ってたら、例の郵便配達だってただじゃ済まなかっただろうよ」
「でも、何らかの毒物が散布されたに違いないと思うんです。でなけりゃ一晩で全村民を…」
「大方、今朝がた降った雨が、火事を消すのと一緒に毒物を洗い流しちまったんだろうよ」
そうこう言ううちに、2人は雨戸の閉め切られた木造平屋の家の前に辿り着いていた。
例の郵便配達が「こんにちは」と声をかけたうちの一件だ。
この家の雨戸が閉まっていたことで、昨夜7時前後までは住民が生きていたということが判るのである。
そして問題の死体は、いまは自衛隊の特化部隊員が忙しく立ち働いている「老夫婦の寝室」で発見されていた。
「しかし警部、ここの死体とあと2体だけ、どうして全くの無傷だったんでしょうか?」
村中散らばった惨死体の中で、3体だけは全くの無傷で、まるで眠っているような状態で発見されていたのだ。
「ひょっとして…」
凍条は雨戸を指さした。
「…あれがあったから助かったんでしょうか?」
「違うな」
凍条の思いつきを警部は即座に否定した。
「雨戸ってのは、ようするに雨風避けだ。気密性なら、さっきの家の方が高いだろう。
窓がアルミサッシになってたからな」
「警部の言うとおりです」
近くで作業していた自衛隊員が、口を挟んで来た。
「古い日本家屋なんてのは、我々の毒ガス対策からすれば穴だらけです。雨戸なんて屁の突っ張りにもなりゃしません」
その隊員と二言三言言葉を交わしたあと、苦虫を噛み潰した顔で警部は言った。
「傷だらけの死体と無傷の死体。どっちにしても死んでるんだから、問題は、死に方の違いだ。」
そして警部は「南の方で何か判ったかもしれん」と言いながら、携帯電話を取り出した。
112「桜の木の下には」:2010/04/23(金) 23:53:02 ID:2VoUpYXK
「なんと、アナフィラキシーショックか…」
顕微鏡を覗きこみながら、白衣の男が呟いた。
「え?万石さん、いま何と??」
無傷の死体は3体とも、そして惨死体も1体、不可能犯罪捜査部所属の南刑事の手によってとある大学の研究室へと運ばれていた。
以前から不可能犯罪捜査部とは因縁浅からぬ研究者で、マッドサイエンティストとの陰口もささやかれる科学者、万石に調査してもらうためである。
顕微鏡を覗きこんだまま、一音一音区切りをつけて万石は言いなおした。
「ア ナ フィ ラ キ シー ショッ ク」
「あなあなあな…」
山のあなあなあな…という言い回しを知っていたら、相当な年であろう。
いずれにしても「アナフィラキシーショック」というのは、南刑事の語彙には含まれていなかった。
ようやく顕微鏡から顔を上げると、万石は笑っていた。
南の困った様子を楽しんでいるのだ。
「あの…万石先生。もう少し判り易い言葉で言っていただけませんか?」
やあ、すみません、すみませんと口では言いながら、やっぱり笑ったままで万石は言った。
「…簡単に言うとですね。アレルギー症状のドキツイいヤツってことです」
「アレルギー…っていうと…」
「誤解を恐れずにもっとずっと平ったく言うとですね、被害者は花粉症で死んだんです」
113「桜の木の下には」:2010/04/24(土) 09:10:23 ID:/ClqbDhN
「アナフィラキシーショック。嘔吐や蕁麻疹など症状は色々ですが、危険なのは気管支収縮による呼吸困難と窒息、逆に動脈拡張による体液の体内流出、最悪死に至るそうで今回のケースもそれです」
「花粉症って…でも花粉症で人は死なないでしょう?!」
「スギ花粉で人が死んだって話は、私も聞きませんよ。でも……」
万石は研究室の窓を開けると、南刑事を差し招いた。
「この窓から何が見えますか?南さん?」
「え……この窓から……ですか??」
研究棟の4階にある万石の研究室からは、大学キャンパスの全景、そしてその向こうの生産緑地までが見渡せた。
「…ここから見える範囲でも、致死的なアレルギー反応、アナフィラキシーショックを引き起こす植物がいくつもあると言ったら…南さんは信じられますか?」
「なんですって!?」
「たとえば…あれです」
万石は生産緑地の一角を指さした。そこでは、緑地とはいいながら黄色く染まり、春の風に吹かれながら何かの植物が波のように揺れていた。
「学名Taraxacum、英名ダンデライオン、日本では……タンポポといいます」
「タン…ポポ!?」

激甚なアレルギー反応を引き起こす物質としては食材の蕎麦が有名だが、実はキク科植物の花粉にもアナフィラキシーショックを引き起こさせる作用があるのである。

「しかしそんなに危険なのならなんで…」
「…野放しになっているのかと言いたいんでしょう?それはですね…」
何かを予感したらしく、またもニヤリと笑ってから万石はつづけた。
「…別に危険じゃないからなんです」
114「桜の木の下には」:2010/04/24(土) 13:30:17 ID:/ClqbDhN
「でも…さっきまでの話だとアナ…アナアナアナ…」
「…そのなんたらショックで死ぬ可能性があるんでしょう?」
「嘔吐や蕁麻疹など症状は色々ですが、危険なのは気管支収縮による呼吸困難と窒息、逆に動脈拡張による体液の体内流出などで最悪の場合死に至ります」
「それなのに別に危険じゃないって言うんですか?!」
「ええ、そうです。問題はですね。『重さ』なんです。花にはですねぇ……」

 植物が花粉を別の花に受け渡すには、いくつかの方法がある。そのうち、花粉を風で飛ばす方法をとるものを風媒花。ミツバチなどの虫に花粉を運んでもらうものを虫媒花と呼ぶ。スギ花粉症で有名な杉は風媒。これに対し、タンポポをはじめとする菊の仲間の大半は虫媒なのだ。
 
 「つまり万石先生。杉の花粉は遠くに飛ばなきゃならないから、軽く飛び易い構造になっていると」
「そうです。空気袋なんてものまでついていて、おまけに受粉の確実性も低いからムチャクチャ大量に飛ばすんです。しかし菊の仲間は…」
「…虫に運んでもらえるから重いし量も少ない。従って危険性は低い」
よくできましたとでもいうように、万石は拍手のポーズをみせた。
「菊科で風媒なのはカモガヤぐらいですかね。さ、お茶でもどうぞ」
と、言って万石が出したお茶は、明らかに出涸らしだった。
「被害者の気管支は、強度の炎症で完全に閉塞していました。つまり窒息死です」
「では顔の傷は?」
「このアレル源物質は、気管閉塞と同時に、眼と鼻に凄まじい痒みをもたらすようですね」
「それであれほどまでに顔面を損壊したと言われるんですか。…ちょっと信じられませんね」
「おそらく気が狂わんばかりの痒みだったんだと思います。そして被害者が顔面を掻きむしっているあいだにも、気管粘膜の炎症はどんどん進行して…」
不謹慎にも万石は、自分で自分の首を絞めるマネをして、舌をウエッと出して見せた。
「ちなみに僕がさっき顕微鏡で見ていたのが、そのアレル源物質です」
「えっ!もう発見されていたのですか?」
「その死体の方の、喉と鼻の粘膜から検出できました。明らかに植物の花粉か何かですよ」
「ちょっと私にも見せてください」
さっきまで万石が覗きこんでいた顕微鏡を南も覗いてみたが、素人である南にはそれが何だか見当もつかない。
「…これが凶器だったんですか…」
「そうです。まったくもって恐ろしいシロモノです。それからですね……」
「まだ何かあるんですか?」
「ええ、そっちの生きてる方の3人なんですが…」
「生きてる方の三人??…………………」
万石の言った意味を理解するにの、南は10秒たっぷりも必要だった。
「えええっ!それじゃそっちの無傷の3人は、生きてるって言われるんですか!」
115創る名無しに見る名無し:2010/04/24(土) 14:54:40 ID:4p+1lZUo
これはwktkせざるを得ない。
116創る名無しに見る名無し:2010/04/24(土) 23:18:15 ID:/ClqbDhN
114のレスに一行抜けがあるのに今更気がついた。
1行目と2行目のあいだに万石のセリフ「…アナフィラキシー・ショック」というのが入る。
なんで抜けたんだろう??
117「桜の木の下には」:2010/04/25(日) 00:02:31 ID:t3xVXqEN
「……そうか…判った。」
眉間に縦ジワを寄せ岸田警部が携帯を切ると、たちまち凍条が口を開いた。
「何か進展があったようですね。南さんは一体なんと??」
「…死因はあっさり判明したそうだ。毒ガスか何かだと思ってたが、まさか花粉症とはな…」
「か…かふんしょう??花粉症ってあの、杉花粉とかの、あの花粉症ですか??」
「その花粉症だ」とだけ言うと、まだ何か問いたげな南を無視して、岸田は今度は本庁へと電話を入れた。
「部長、一つ調べていただきたいことがあるんですが……ええ、今回の事件のことでです。
昨夜の午後6時ごろから今朝までのあいだのこの村での風向きと、それから早朝に降ったらしい雨の、正確な時間を知りたいんです。……はい、お願いします」

本庁から気象庁への照会により、岸田警部の依頼した事項はただちに回答が得られた。
昨夜の日没である5時半前後を境に、それまで東南から吹いていた風が逆向きに変わっていた。
つまり事件当時、風は背後の村有林の方から吹いていたことになる。
また昨夜の雨はかなり局地的なもので、気象庁の設置した観測器によれば、降った時刻は早朝6時前後であった。

「……つまり海風と陸風の関係だ。昼のあいだ、東南から風が吹くのは、東南の方角に奥多摩湖があるからだ。それが夜になると逆に吹く。それがこの村での風の特徴的な吹き方なんだそうだ」
「となると警部。問題の花粉は、村営林の方から飛んできたと考えていいんですね。それから雨戸が閉まっていた言えがあるので、実際に花粉が飛び始めたのは6時前後だったことに……あれ?警部、どうしたんですか??」
岸田警部は蒼白な顔色に眉間の皺を一段と深くして、腕時計を睨みつけている。
「どうしたんですか警部?……ひょっとして……見たい番組の録画設定でも忘れちゃったとか??」
若い凍条の無謀なウケ狙いは、豪快な空振りに終わった。
今度は、西の山の端を睨みつけたかと思うと、いきなり部下の両肩を掴んで警部が吠えた。
「まずいぞ凍条!あの夕陽が沈んだら、また昨夜と同じ風が吹く!」
「え!?そ、それじゃあ!??」
「また悪魔の花粉が飛散するかもしれねえってこった!急いで警察と消防、それから自衛隊員どもを全員避難させろ!」
118「桜の木の下には」:2010/04/25(日) 14:30:59 ID:t3xVXqEN
 岸田警部の指示により、村の周囲半径2キロの範囲には警戒線が張られ、完全防護装備の自衛隊員による厳重な警護体制が敷かれた。
同時に、警戒線の外の地域にも、悪ればせながら窓や戸口を閉ざし、夜間の外出は極力控えるよう広報もなされたが、急なことでもあり徹底は難しい状況だった。
広報が出された午後6時半には、既に多くの住民が勤め先を離れた後だったからだ。
交通機関で事態を知った帰宅者で交通機関は混乱をきたし、タクシー乗り場には長蛇の列ができた。
何も知らない駅員に食ってかかるもの。
非常事態と知っての上でやってきた野次馬。
そしてそういう者たちの中には、警戒戦突破を試みる者すらいた。
昨夜の悪夢が再演されてしまうのか?自衛隊の特殊防護車の中で、岸田警部はまんじりともせず夜を見つめ続けていた。
119「桜の木の下には」:2010/04/25(日) 14:34:02 ID:t3xVXqEN
「隔離なら、その村だけで十分でしょ」

一方南刑事は、岸田警部の指示でその後も万石の研究室に連絡係として留まっていた。
例の無傷の三人の身柄は医学部棟に移され、昏睡の原因を明らかにするため、翌朝から精密検査が行われることになっていた。一方、万石はというと、相変わらずあの毒花粉と取っ組みあっていた。
「それを伺って安心しました。万石先生は、問題の毒花粉の飛散距離をどのていどと予想されていますか?」
「そうですね。正確な算出は無理ですが……それほどの飛散距離は無いと思います」
少し思案しながら万石は答えた。
「杉花粉などと比べて意外に大きいんですよ。風をはらんで飛ぶための、一種のフィンは持ってるんですがね。それにしても大きすぎるんです」
「…ということは…」
南は何時間か前の万石とのやりとりを思い出した。
「風媒花というより虫媒花に近い。あまり飛ばないってことなんですね。すこし安心しました」
しかし「それほどの飛散距離は無い」との言葉と裏腹に、万石の顔色は冴えなかった。
「判らないのは…ただ受粉の為だけに、何故これほど大きな花粉である必要があるのか?
そのことなんです」
「それでは先生、この花粉にはまだ何か秘密があると?」
「…と、思います」
万石の眼が、どこか遠くを見ているような目線になった。
彼が見ていたもの。
それは、あの昏睡状態の三人だった。

翌朝からの活動に備え、封鎖ラインの手前では不可能犯罪捜査部と自衛隊の特化部隊が準備活動を続けていた。
花粉の飛散距離は大して長くないとの情報はここにも既にもたらされていた。
だからいざ捜索が始まれば、毒花粉の主はすぐにも発見できるだろう…。
そんな楽観的考えが現場を支配していた。しかし、それは、あまりに甘い考えだったのだ。

120「桜の木の下には」:2010/04/25(日) 23:12:10 ID:t3xVXqEN
 昨夜の惨劇再演の報がないままその夜は平和に明け、風が変わると同時に自衛隊と不可能犯罪捜査部が合同活動を開始した。今日は、昨日の岸田警部と凍条に加え、南も現場組に加わっている。岸田らがまず向かったのは、例の火災で全焼したあの家だった。
121「桜の木の下には」:2010/04/25(日) 23:14:34 ID:t3xVXqEN
 改めて見るその家は、いわゆる大黒柱に至るまで真っ黒な炭となって焼け落ち、村有林を背景に無惨な姿をさらしていた。
「すっかり(ハア…)…炭になっちゃって…ますね」
ガスマスクごしのせいで、凍条の声は苦しげにくぐもって聞える。
今朝は昨日のような雨が降らなかったので、夜間に飛散した残留花粉を警戒しての措置である。
「法務局の記録だと築後30年以上たっているとのことだから、建築材も乾燥しきっていたんだろう」
凍条とは違い、南の声は比較的聞きとり易かった。凍条は生粋の警官だが、南には軍歴があり、ガスマスクの着用にも慣れている。
「延焼しなかったのは(ハア…)…南さん(ハア…)…奇跡…ですね」
「村営林は風上だし、田舎家らしく他の家とは距離が開いてたからだな」
「おい凍条!」
南と凍条のやりとりを耳にしていたのか、振り返りもせず岸田警部が言った。
「…苦しいんだったら、無理して喋るな」
そして警部は南に手真似で(ついてこい)と合図し、さっさと家の前庭へと足を踏みこんでいった。

 奇麗な焼け方…というのが、警部の第一印象だった。
バタバタと終った昨日の調査で、消防署は「燃え方から見て、火元は2階。出火原因は漏電ではないか?」としていた。
何らかの原因で送電線がショートし、飛び散った火花が周囲のホコリかゴミ、あるいは布団などに着火。乾燥しきった木造家屋は一気に燃え広がったという推論である。
真っ黒な炭に覆われたその区画にはつい2日前まで人が暮らしていたはずなのだが、住民の生活を垣間見せるものと言えば、前庭で焼け残った「エリカ」と書かれた犬小屋だけだった。
(エリカ……女の名前だ。メス犬だったんだな。まてよ……いや…)
122「桜の木の下には」:2010/04/25(日) 23:18:15 ID:t3xVXqEN
(エリカ……女の名前だ。メス犬だったんだな。まてよ……いや…)
「…どうしたんですか(ハア…)……警部?」
凍条の声が聞えた瞬間、警部の頭を捕えかけていた「ある引っかかり」は、たちまちどこかにすっ飛んでしまった。
「……その犬小屋に何か?」
「馬鹿野郎、折角なんだか引っかかってたのが、オマエの声でどっかいっちまったじゃねえか!」
「ス、スミマセ…」
「あの、ラブラドル・レトリバーだったそうです」
考えを邪魔され怒る上司とドジを踏んだ後輩のあいだに、南が素早く割り込んだ。
「なに?ラブラドル??」
「ラブラドル・レトリバー。おとなしい性格の洋犬で、ここ最近人気の犬種だそうです」
「…なんでオマエがそんなこと知ってるんだ?」
「実は万石先生が…」

『南さん。私の読みだと、怪しいのはその焼け落ちた家ですね。それから…その家で猫が飼われてないか。注意してください』
『猫??』
『厳密には、放し飼いされる可能性の動物ということなんです。当然最右翼は猫ですね。それから田舎ということで犬も可能性あるかな……』

「なるほど、万石のダンナからそう言われたんで、夜のうちに調べておいたってわけか」
憮然とした表情で警部は焼け跡へと踏みこむ警部の背中を見ながら、南は背筋に寒いものが走るのを感じていた。
彼との別れ際に、万石が言ったことを思い出したからだった。

『南さん。もしその家にネコか放し飼いの犬がいるようなら……事件はのっぴきならない状態にあるかもしれません。注意してください』
123創る名無しに見る名無し:2010/04/25(日) 23:23:28 ID:t3xVXqEN
122レスの下から5行め。

「憮然とした表情で警部は焼け跡へと踏みこむ警部の」…は「憮然とした表情で焼け跡へと踏みこむ警部の」の校正ミス。

もうしわけない。
124創る名無しに見る名無し:2010/04/26(月) 16:22:09 ID:BHOTh2E2
超wktk
125「桜の木の下には」:2010/04/26(月) 23:58:25 ID:sgJqSLzb
 焼け跡を十数分ほど調べ回ったところで、不可能犯罪捜査部の三人と行動をともにしていた連絡係の自衛官が大声を出した。
「岸田警部!ちょっと来てください!!」
「ん!?何かあったか!?」
「いま危うく床板を踏み抜きそうになりまして……ところがです。これを見てください。」
自衛官は半分かた炭になった床板の一部を、よっこいしょの掛け声とともに引っぱがした。
「見てください警部。これはいったい何なのでしょうか?」
「こりゃ……いったい何なんだ?」
床板の下に隠されていたのは……植物の根だった。
ただ、植物と言っても途方もなく大きくて、茎というかか幹の周囲が大人の腕でひと抱えほどもあり、床下に蛸の足のように根を這わせている。
焼ける前にどれくらいの高さがあったのか見当もつかないが、茎の太さから推察して、1〜2メートルとは思われなかった。
地面から30センチほどのところから上の部分は火事の炎で焼き尽くされていて、焼け口は緑色の瘡蓋状になっていた。
「ん!あれは……」
そのとき、何かに気付いた南が謎の植物の傍らに飛び降りた。
「どうした南!」
「見てください警部!」
南は植物の根本から、なにかの毛くずと鑑札札を拾い上げた。
「オレンジというか…明るい茶色だな」
「おそらくラブラドル・レトリバーの毛です。地面には灰や煤に交じって動物の骨らしきものは散らばっているようです」
「そうか、あのエリカって飼い犬の死骸だな」
「ええ、植物の根は犬の死骸の真ん中に陣取ってるようです」
126「桜の木の下には」:2010/04/26(月) 23:59:49 ID:sgJqSLzb
自衛隊員の手も借りて、焼け残った床板がただちに全撤去され、始めて謎の植物の根の全貌が明らかとなった。大蛇のような根は、なんと床下一面に広がっていたのである。表現としては「床下に根を張っていた」というより「根の上に家が建っていた」に近い。
 また地元警察を通して二件の事項が調査された。
一件目は、例の郵便配達夫に対するもので、この家の犬の姿を最後に見たのは何時なのかという点で、、三日前の昼過ぎの配達時には、犬を見なかったという回答が得られた。
二件目は保健所に対するもので、根のそばで南が発見した鑑札札は、たしかにエリカというラブラドル・レトリバー犬のものであると確認された。
 状況は…もはや明白だった。
この家の飼い犬ラブラドル・レトリバーのエリカは、ある日裏山のどこかで悪魔の植物
と出会い、その種を体に付着させたまま家まで戻って来たのだ。
そして飼い主にも気付かれぬままエリカは床下で死に、植物は彼女の死骸を養分にして密かに成長していたのだ。

 「こいつぁあ、わずか一日二日でこれほどまでに巨大化しやがったんだ。そして二日前の夜ついに床板を破って花粉を村中にまき散らし始めたんだが、幸いなことに、漏電火災が発生してソイツの息の根を止めてくれた」
「なんと恐ろしい植物なんでしょうか…」
青ざめた顔で警部が空を見上げると、太陽はすでに中天を回り、西に傾き始めていた。
「思った以上に調査に時間がかかったな。ひょっとすると自衛隊の山狩り部隊がもう何か発見しているかもしれねえ…」
「…連絡して状況を聞いてみますか?」
そのとき、それまで黙ったままキョロキョロと警部の顔を伺っていた凍条が、意を決したように再び口を開いた。
「あのぉ……ちょっと言っていいですか?」
「ああ?何だ凍条??言いたいことがあるんなら手短に済ませろよ」
警部にペコリと頭を下げると、おずおずと凍条はきりだした。
「この植物は…2日かそこらで…こんなに…デカく…なったんですよね」
「ああそうだ。郵便配達夫の証言からしてそう言うことになるな。それがどうかしたのか?」
「…二日でこんなに……デカくなるって……いうんなら……大元のヤツは……どんなバケモンに育ってるとお思いですか警部?」
警部と南がハッと顔を見合わせた。
「バ、バカ野郎!なんでそういうことを早く言わねえんだ!」
「だって警部が喋るなって……」
「万石先生が言われていた『のっぴきならない状況』というのは、まさかこのことだったのか!?」
「畜生!自衛隊の連中に教えてやらなきゃなんねえ……おい!連絡係!」
警部が、連絡係の自衛隊員に何か早口で言いつけているときだった。
南の携帯が突然鳴りだした!
「この着信音は万石先生だ!………あ、万石先生ですね。南です。実は自分の方でも先生にお尋ねしたいことがありまして。実はですね…………………」
だが、電話の向こうでは南の言葉に耳を傾けている様子は無い。
数秒間の聞き役の直後、裏返ったような声で南が叫んだ!

「な、なんですって!?!?」
127「桜の木の下には」:2010/04/27(火) 21:57:45 ID:Pt/avZsS
「や、やっぱりダメです警部。全く応答がありません。」
連絡係の自衛隊員は既に色を失っていた。
「連絡がとれとないのはB班か…」
「警部!B班は、村有林の北西部分の谷を担当した班です。」
自衛隊は、ABCDEの5班体制で分担区域を決め、山狩りを行っていた。そのうち2番目のB班と、何故か全く連絡がとれなくなっていた。
「警部。B班は、村有林の北西部分の谷を担当した班ですね」
言葉は事務的だが、南の顔にも「何かあったのでしょうか?」と書いてある。
警部が腕の時計に目を落とした。
「…夜明けと同時の作戦開始から、ざっと8時間か」
「作戦速度から考えると…」
南が地図上の一点を指さした。
「…おそらくこのあたり、この『がれ沢』と書かれた辺りではないかと…」
今度は、警部は西に傾く太陽を見上げた。
「日没まではざっと3時間……行けるか?南!?」
「自分ならギリギリなんとか」
「おい、オレじゃ無理だってのか!?」
「2人とも待ってください。」
自衛隊員が2人のやりとりに割り込んだ。
「いま他の4つの班が、B班の分担地区に向かっているところです。それに、連絡がとれないんだって無線機の故障か何かかもしれないじゃないですし…あなた方2人が行かなくても…」
「じゃあオメエは…」
警部が自衛隊員の方へと向き直った。
「…この状況で、B班は無事だと断言できるか?」
「…………いいえ。」
「だったらやっぱり行くっきゃねえだろ。オレたち警官の使命は、国民の生命・財産を守ることだからな」
「しかし警部!我々は自衛官で…」
「自衛官だって日本国民だろ!それとも違うのか??」
そして、「この話、これにて終了!」と宣言すると、己の部下に警部は命じた。
「南!『がれ沢』まで急ぐぞ!」

128「桜の木の下には」:2010/04/27(火) 23:15:22 ID:Pt/avZsS
 岸田警部と南が、村営林の西に広がる『がれ沢』へと向かっていたころ…。
万石の研究室を凍条刑事が尋ねていた。

「おや?南さんじゃないんですね。選手交代ですか?」
「…まあそんなところです」
まさか「ガスマスクが苦手なんでお払い箱にされました」とは言えない。
それ以上突っ込まれないよう、凍条はただちに要件をきりだした。
「…ところで万石さん、例の昏睡状態の被害者が姿を消したって本当ですか?」
「もちろん本当です。医学部の連中が血相変えて飛んできましてね。」
「でも万石さん。いったい何者が、何の目的であの三人を誘拐したと?」
「いや、それは違います、誘拐ということはあり得ません」
「誘拐じゃない??でも,あの3人は完全な昏睡状態で…」
「しかしそれは不可能なんですよ。昏睡状態の人間を移動させようと思ったら、担架なりストレッチャーなりが必要になります。当然目立つ。しかし医局の人間でそんなものを見たものは…」
「一人もいないと言うんですか?」
万石が無言で頷くと、奇妙な沈黙がその場を支配した。
「そ、それじゃあの3人が……」
ようやく口を開くと、眉を顰めて凍条は呟いた。
「……自分で歩いて行ったとでも」
自分で歩いたのでなければ、霞と消えたか?それとも溶けて流れたか?
いずれにせよ、昏睡状態の3人はいずこにか姿を消してしまったのだ。
「南さんから聞きましたよ。『床下の犬の死骸』『謎の植物』そして『消えた3人』。この3つには、必ずなにか関係があるはずなんです」
「まるでホラー映画みたいな……」
そのとき、研究室のドアが勢いよく開いて、薬品の臭いのする若い男が飛び込んできた。
「おい、万石!例の患者が一人、見つかったぞ!」
129創る名無しに見る名無し:2010/04/27(火) 23:21:02 ID:Pt/avZsS
ここまでで16レス消費か。
このペースなら、たぶん25レス前後でオチだな。
130創る名無しに見る名無し:2010/04/28(水) 00:19:02 ID:vSuPpc5I
乙。wktkwktk
131創る名無しに見る名無し:2010/04/28(水) 01:04:53 ID:+dXRDuEc
スコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココバシッスコバドドトスコココ
スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココバシッスコバドト ☆_∧_∧_∧_∧_∧_∧_
スコココバシッスコバドドト从☆`ヾ/゛/'  "\' /". ☆  |                    |
スコココバシッスコハ≡≪≡ゞシ彡 ∧_∧ 〃ミ≡从≡=<    ハッ!             >
スットコドッコイスコココ'=巛≡从ミ.(・∀・# )彡/ノ≡》〉≡ .|_  _  _ _ _ _ ___|
ドッコイショドスドスドス=!|l|》リnl⌒!I⌒I⌒I⌒Iツ从=≡|l≫,゙   ∨  ∨ ∨ ∨ ∨ ∨ ∨
スコココバシッスコバドト《l|!|!l!'~'⌒^⌒(⌒)⌒^~~~ヾ!|l!|l;"スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ
スコココバシッスコバドドl|l|(( (〇) ))(( (〇) ))|l|》;スコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ
スコココバシッスコバドド`へヾ―-―    ―-― .へヾスコココバシッスコバドドドンスコバンスコスコココ
              /|\人 _.ノ _||_. /|\
132「桜の木の下には」:2010/04/29(木) 00:15:14 ID:SbqFilR9
「運よく警察の張った封鎖ラインに引っかかったそうだ。村に戻ろうとしたのかもしれないが…」
医局の男が説明する背後にあるガラスの向こうでは、発見された患者が全身を寝台に拘束され横たわっていた。
ただ、今では村で発見されてときのような死体同然の状態ではなく、手足をしきりに動かしている。
「意識は?意識は戻ってるのか??」
「いいや万石、…目は開いてるし手足も動かしてるが、意識は無い。ああして拘束しておかなきゃ今も歩いて行ってしまうだろうが、意識は無いんだ」
「どういうわけだ?昨日は全くの仮死状態といってよかったのに…」
「精密検査すれば何か判るかもしれんが…」
「実は…」と万石が医局の男に例の植物の件を説明しているあいだ、凍条は隣室のベッドでうごめく患者をガラス越しにじっと見つめていた。
(床下で死んでいた犬。でもなんで犬小屋で死ななかったんだ?主人に別れを告げたかったから?)
凍条は小学生のころ、飼っていた雑種犬の死を経験している。
家族同然だったビンゴというその犬は、凍条少年が散歩させようと玄関を開けると、彼を待つ姿勢で人知れず息を引き取っていたのだ。
(ビンゴは僕が出てくるのを待っていた。だから玄関で死んでいたんだ。だったらあのエリカという犬だって、縁の下なんかで死ぬはずは……)
そして……凍条の頭の中で、目の前の患者とエリカという犬が一つに重なった!
「万石さん!あの、あまりに突飛な考えかもしれませんが…」
133「桜の木の下には」:2010/04/29(木) 00:16:07 ID:SbqFilR9
 同じころ不可能犯罪捜査部の残り二人、岸田警部と南は、連絡の途絶えた山狩り部隊B班のあとを追って「がれ沢」の入り口まで辿り着いていた。
「がれ沢」の「がれ」とは「がれ場」の「がれ」と同じで、大小の岩が転がっている場所というような意味である。
左右を挟む10数メートルのがけは、いまにも崩れ落ちそうで、事実最近崩れ落ちたばかりと思しき岩もいくつか転がっている。
しかし「沢」と言いながらも、冬の雪が少なかったせいか水は殆ど流れていなかった。
「…よし」
「あ!警部何をなさるんですか!」
南が止める間もなく、危険を冒してガスマスクを外すと、岸田警部は力いっぱい叫んだ。
「おーい!山狩りB班!!」
…………………沢の奥は静まり返ったままだ。
人の声どころか、鳥の囀りさえ聞えない。
いちもくさんにやって来た警部と南とは違い、山狩り部隊は索敵しながらの移動であるため、速度にはかなりの開きがある。
だから南の言うには「そろそろ追いつけてもおかしくない」ころなのだが…。
「…でも警部。ヤツラ、ここを通ってます。それもつい最近」
岸田にはただの岩場としか見えないが、南にはちゃんと人の足跡が見て取れるらしい。
「嫌な予感がするな」
警部は素早くガスマスクを再装着した。
そのとき…、それまで無風だった沢の間を、かすかな風が吹き抜けた。
(………遅かったか)
そよ風とすら呼べない、有るか無きかの微かな風が運んできたのは、ガスマスク越しにすら感じられる、むせかえるほどの、濃厚な血の臭いだった。
134「桜の木の下には」:2010/04/30(金) 00:25:02 ID:fvjSbDDz
 風は沢の奥から吹いてくる。
しかし20メートルほど向こうには、ダンプカーほどもある落石が転がっていて、沢の奥への視界を遮っている。
おまけに、風に乗って黄褐色の靄まで漂い出してきた。
岸田警部と南は、ガスマスク越しに見かわした。
(…行くしかないな)
(はい)
声を出さないのは、いわゆる第六感というヤツだ。
周囲の様子、特に沢に転がる大小の岩に注意を払い名ながら、2人は一歩一歩と大岩の向こうへと踏み込んだ。

(……畜生め!)

 大岩の向こうは、辺りの色からして違っていた。
靄の中、視界の効く範囲すべてが緑と赤の斑に覆われている。
緑は引き裂かれた自衛隊員の制服や装備の色。
赤は……血だ。
人の形をしている者は、殆ど見当たらない。
沢全体が、悪魔の屠殺場と化していた。
岩肌の何箇所かを南が指さした。
「弾痕が散りすぎてます。連中は組織だった反撃すらできていません」
「むう…」
思わず絶句する警部。
一方、靄は一層濃さを増してきた。
いいや……靄などではない。
岸田らにはもう判っている。
自分たちが、一ケ村を一晩で壊滅させた悪魔の花粉の真っただ中にいることに。
135「桜の木の下には」:2010/04/30(金) 00:26:14 ID:fvjSbDDz
(……自衛隊員はオレたちと同じくガスマスクをしていた。だから、毒花粉に殺られるはずはない。にもかかわらず、完全装備の山狩り部隊がSOSを発信する間もなく壊滅したとすれば……)

そのとき、南が岸田警部の肩をポンポンと素早く叩くと、数メートルほど先の流木の下を指さした。
白く乾いた流木の影に身を添わせるようにいた緑の影が、弱々しく手を動かしている!
(生存者だ!)
警部らは素早く駆け寄ると、流木の影から隊員を助け起こした。
「不可能犯罪捜査部の者だ!」「助けにきましたよ!」
ガスマスクのゴーグル越しに、隊員の瞼がわずかに開いた。
「間違いない!生きてます」
「よしっ!」
警部は、自衛隊員を飛行機投げのような姿勢に担ぎ上げた。
「すぐに助け出してやるからな!」
だが……
悪魔はそれを待っていた!
ガラガラっと音がして、黄褐色の靄の中から大蛸の触腕のような物体が、警部めがけて襲ってきた!
負傷者を担いでいては、素早い回避は無理だ!
(くそっ!こんなときに!?)
…が、しかし!
襲いかかる触腕よりさらに素早く、南が警部の前に飛び出すと、彼の手元から真っ赤な炎の舌が噴き出した!
一瞬で炎に包まれる巨大な触腕!
山狩りB班は、悪魔の植物を発見次第焼き払うため、火炎放射器を持ち込んでいた。
南はそれを使っているのだ。
「コイツらの相手は自分に任せて、警部はその人を…」
「頼むぞ!」
自衛隊員を担いで岸田警部が走るすぐ後ろを、本来は背中に背負うタンクユニットを左腕に抱え、右手にノズルを構えた南が続く!
しかしその行く手で、岩が幾つも跳ね飛ばされたかと思うと、新たな触手が二本、地面の下からのたくり現れた!
136創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 18:01:04 ID:7UcVpE+8
エリカたん… (´・ω・`)
南がんばれwktk
137創る名無しに見る名無し:2010/04/30(金) 23:23:30 ID:fvjSbDDz
連日投下していたが、今日はちょっとタンマ。
構成上一番難しいところなので。
トップギアに入れてから一休みすると見せて今度はオーバートップにいれなきゃならん。
一応、GW中には確実に終わる。

さて、もうひと踏ん張りだ。

138「桜の木の下には」:2010/05/01(土) 20:34:46 ID:xT8nD3FY
 「やっぱり地下に隠れていやがったのか!」
岸田警部も左わきの下からものものしい銃身冷却孔の開いたゴツイ回転式拳銃を引き抜くと、襲いかかる触腕、いや悪魔の根に向け立て続けにまず2発!わずかに間をあけて更にもう1発叩きこんだ!
完全装備の山狩りB班を、SOS発信の間すら与えず壊滅させたとからなら、それは奇襲。
おそらく地下からの奇襲に違いない!
そこまでは警部も予想していた。
ただ問題は…
警部の銃撃で触手の一本が仕止められ、もう一本は南の火炎放射で炎に包まれた。
しかし、岩の崩れる音が前後左右からしたのに続いて、刺棘の生えた柱のような根が次々と霧の中から立ち現れた!
完全に囲まれている!
流暢な外国語で南が放送禁止用語を吐き捨てた。
「Fuck!どうやら自分らは、バケモノ植物の根のど真ん中にいるみたいですね」
「教えてくれなくたって、そんなこと見りゃあ判るぞ」
岸田警部の残弾は銃のシリンダーに3発、腰のスピードローダー2個に6発づつの計15発。
南のコンバットコマンダーには7発+1発とやはり2マガジンの22発。
「(ひい、ふう、みい……全部片付けるにゃあ全然到底足りねえな)おい南!火炎放射器はあと何回ぐらい火ぃ吹けるんだ!?」
「携帯用のタンクですから、精々2、3回ってとこだと思います」
2人のやりとりの間にも、岩の崩れる音はひっきりなしに続いている。
警部らの見えない範囲にどれだけの根が現れているのか?
(……そんなこたぁ、想像したくもねえや)
やがて、林立していた柱の群れは、ゆっくりと警部らの方へと這い寄りはじめた!
岩を跳ね飛ばし、流木をへし折りながら…。

そして岸田警部と南刑事が「がれ沢」で絶体絶命の状況に追い詰められていたころ……

「ああキミ!凍条くんと言ったね?キミのカンが当たった。あの患者の体内では恐ろしいことが起こっている!」
「……そ、それはもしかして」
万石の大学にとどまった凍条刑事にもまた、恐るべき事態が迫りつつあった。
139「桜の木の下には」:2010/05/01(土) 20:38:07 ID:xT8nD3FY
 胸に「黒須」と名札をつけた医局の男は、青ざめた顔で凍条にCTの映像を示した。
「キミの想像どおりだ。あの患者の体内には、そのエリカとかいう犬と同じく、植物の種子がいくつも詰まっているんだ」
「とんでもないライフサイクルの植物なんですよ。凍条さん」
顔色の青さは万石も同じだった。
「私が花粉と考えていた物体は、花粉という麻痺剤みたいなものだったんです。
毒花粉で相手を麻痺させ、なんらかの方法で種子を付着させる。
種子を付着された相手は自分の巣に帰って死ぬ。
それを繰り返すことによって、この悪魔のような植物はテリトリーを拡大するんです!」
「じゃあ、あのアナフィラキシー・ショックとかいうのを起こした村の人たちは?」
「この悪魔は、…これは私の想像ですがね凍条さん…太古の昔の植物だったんじゃないかと思うんです。だから現代の生物である人間とは、花粉との適合性が完全ではないんでしょう」
「あるいは万石、現代人が生物として虚弱化しているせいかもしれん。薬剤アレルギーみたいなものだ」
「それとも…」
「…いずれにしてもですっ!」
ああでもない、こうでもないとまだ続きそうな2人の学者の話を、凍条は大声で強制終了させた。
「いずれにしてもです!悪魔の種子を抱えた人間がまだ2人、その辺をうろついてるってことなんですね!?」
ふたりの学者が顔をそろえてコクリと頷くのと同時に、凍条は電話機に飛びついた!
140「桜の木の下には」:2010/05/01(土) 20:39:18 ID:xT8nD3FY
黄褐色の靄の中、ユラユラ揺れる柱のような影が次々立ち上がり、岩を撥ね退けながら大蛇のように岸田警部と南に迫って来た!
すでに岸田警部は半分以上、南は大半の弾丸を撃ち尽くしている。
「これを全部始末するのは不可能です!自分がオトリになりますから警部はその人を…」
「バカ野郎!」
貴重な残弾三発を発射しながら警部が怒鳴り返した!
「このクソバカ!諦めるんじゃねえ!」
「しかし警部…」
「あの焼け跡の植物を思い出せ。奴は炎でやっつけられたんだぞ」
「そ、そう言えば!」
「火事の炎は根なんか焼いてねえぞ!焼いたのは根よりも上の部分だ。それで奴は死んだんだ!!」
(そうだった!)
南は火炎放射器を構えなおした!
(根は無視しろ。根から上の本体を狙うんだ。奴の本体は……どこにいる?!)
目の前の靄が一層濃くなった。
靄の中、次々と立ち上がるおぞましい柱の黒い影!
もう本体を見つけだすどころか、影の濃淡としてしか視界そのものが効かない!
「こっち来るんじゃねえ!」
蠢き迫る影に対し、予備弾を再装填した岸田警部が素早く2連射!
そして更に2連射!
発射音に対抗するように、靄はどんどん濃さを増していくが…。
(そ、そうだ!靄だ!)
南は「答え」をついに捕まえた!
(この靄はコイツがまき散らす花粉だ!つまり靄の一番濃い所にコイツの本体が…どこだ!靄の一番濃いところは!?どこなんだ!?)
357マグナムの発射音が4発、間断なく「がれ沢」にこだました。
もう岸田警部に予備弾は無い!
迫りくる根の跳ね飛ばした小石が、南の顔にも降りかかる!
刺棘の蠢く悪魔の根はもうすぐそこに!
…だが!
標的を求めて彷徨っていた南の目が、靄のなか林立する黒い影の一つの上にピタリと動かなくなった!
他の影が獲物を求めて揺れ動いているのに、その柱だけは揺れても動いてもいない!
南の目の前で、「動かぬ柱」の周囲の靄が一気に濃さを増した!!

「…見つけたぞ!」

南の手元から、オレンジの炎が唸りを上げて迸しった!!
141創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 21:01:19 ID:YSrzcvGN
はぁはぁ……
142創る名無しに見る名無し:2010/05/01(土) 21:10:09 ID:a9d4Kmvj
dkdk
143「桜の木の下には」:2010/05/02(日) 00:18:03 ID:xR9CXuog
 まだ煙の立ち込める「がれ沢」を、岸田警部と南は尾根筋から見下ろしていた。
黄褐色の靄は既に晴れ、眼下で緑の服の男たちがせわしなく動き回り、ときおりオレンジ色の火炎の走るのが見える。
少しまえ、残りの山狩り部隊、ACDE班が次々到着。
残敵処理と、生存者の検索を始めているのだ。
根の中にはまだ動くものもあるようだが、人で動くものはいないだろうと警部は思った。

勝負は既に決した。
南の放った火炎が、狙い過たず悪魔の植物の急所=花茎を焼き払ったのだ。
「…写真を撮っておけばよかっですね。そうすれば万石先生が喜んだのに…」
「あんなグロテスクなもん見て喜ぶ奴なんていねえよ」
警部が顔をしかめる。
電信柱より高い茎の上に載った差し渡し数メートルは巨大な花。
肉色をした分厚い花弁に、白いカビのような大小の斑がシミのように散らばっていた。
それが、植物であるにも関わらず、動物のように身悶えたばかりか…。
確かに警部は耳にしたと思った。
「それ」が、人のような声で啜り泣くのを…。
思わず身震いすると、岸田警部は袖をまくって時計に目をやった。
「日没まであと……一時間少々か。なんとか人里に戻って晩飯にありつけそうだな」
「今晩は肉料理中心でいきますよ。野菜は…しばらく遠慮したいです…」
警部の「晩飯の話題」に南も苦笑いで応える。
村の方角から、ヘリの音が近づいてきた。
例の負傷者と、それから不可能犯罪捜査部の2人を回収するためだ。
やがてオリーブドラブの機体が現れると、側面のハッチが開いて……一本のロープが下がるとそれを伝って見覚えのある自衛官が滑り下りてきた。
本部や他の山狩り部隊との連絡要員として村に残してきた、あの自衛官だ。
「なんたオマエ、今ごろ何しに来たんだ?仕様部はもうとっくに…」
「いいえ警部!まだです!まだ勝負は終ってないんです!」
ハーネスを警部に手渡しながら、自衛官は続けた。
「早くこのヘリで大学に向かってください!状況はみちみち凍条さんが説明してくれると思います!」
144「桜の木の下には」:2010/05/02(日) 00:36:15 ID:xR9CXuog
「おい凍条!ヘリの中で聞かせてもらった話は本当か!?」
扉を吹き飛ばすような勢いで室内に入ると、挨拶すら抜きで岸田警部はまくしたてた。
「…冗談でしたなんて言ったらテメエ…」
そこで、警部の言葉がピタッと止まった。
分厚そうなガラスの前に、万石と凍条そして医局の黒須が張り付いている。
他にも自衛隊の特化部隊と思しき男が数名。
やはりガラスの前に張り付いていた。
自衛隊員たちは、警部の大声にも振り返りすらしないで、ガラスの向こうを凝視している。
「あ!警部!…」
引き攣った顔で凍条が振り返った。
「…よくぞご無事で!」
「そんなことより、もう一度状況を報告しなおせ!」
「はいそれではヘリでお話したことの繰り返しになってしまいますが……」
話しはじめた凍条の声は、ひどく掠れて聞えた。
「いまから30分ほど前、奥多摩湖付近の橋で、爆発があったと地元警察署に連絡が入りました。そして更にその数分後、今度は湖畔のサービスエリアに不審者がいるとの連絡がが入ったため地元警察が出動。しかしその出動した警官たちの目の前で……目の前で……」
そして凍条は、声が出難くなったのか一息ついて唾を飲み込むと、残りのセリフを一息にぶちまけた。
「………相手の男が、爆発したんです!」
「爆発しただと!?それじゃまさか最初の爆発事件も?」
「おそらく…ここから姿を消したもう一人の意識不明者かと…」
「なんてこった……」
「通報者の話だと…爆発した男の腹は風船のように膨れ上がっていたそうです。そして……警部、あれを見てください」
凍条がガラスの前から退いたので、岸田にも初めて向こうの部屋の様子が見て取れるようになった。
ガラスの向こうが何の研究施設なのかは知らないが、今はすべてが撤去されてがらんとした部屋の真ん中にスチールパイプ製の寝台が一つ置かれているだけだった。
そこに寝かされているのはあの意識不明者三人のうちの最後の一人。
縛られた手足をいまも動かし続けているが……その腹は、まるでスイカでも飲み込んだように膨れ上がっていた!
「まさか凍条……こいつも!?」
警部が言ったそのときだ!
皆の見ている前で、膨れ上がった患者の腹が一瞬ホオヅキのような色に輝いた!
「何だ!?いまの光は!?」
もして再び、こんどは続けて二回!
短いサイクルで患者の腹が光を放ち……
「……おい、患者の手足の動きが止まったぞ」と、誰かが呟いた次の瞬間…。

バーーーーン!

轟音とともに、患者の体が弾け飛んだ!
145創る名無しに見る名無し:2010/05/02(日) 00:39:06 ID:xR9CXuog
レス番143の下から4行目。
迎えに来た自衛官に対する警部のセリフ。
「…仕様部はもうとっくに…」とあるのは「…勝負はもうとっくに…」の誤変換。
全くもって申し訳ない。

146「桜の木の下には」:2010/05/02(日) 23:54:39 ID:xR9CXuog
「だいじょうぶです!だいじょうぶです!皆さん落ち着いて!!」
一同の動揺を抑えるように、両手を上げて万石が叫んだ。
「ガラスは真空層を挟んだ対衝撃性ガラスの二層構造。部屋もP4規格に準じたものになっていますから、心配は全くありません。」
「おい万石のダンナ!説明してくれ!今の爆発は、いったい何なんだ!?」
負けずと大声をあげた岸田警部にむかって、万石は青い顔で頷いた。
「岸田さん、あれが…この悪魔のような植物の種子の散布方法なんです。まずはこれを見てください」
万石は二枚のCT画像を取り出した。
「一枚目は被害者の腹部の映像です。白く映っているのは…」
映っていたのは、ザクロと見まごう状態だった。
「……植物の種子です。花粉が吸引などで生物の体内に吸収されると、まずそこで自身が増殖すると同時に、新たな種子を作りだすんです。そしてそれと同時に…」
二枚目の映像は被害者の脊髄のスキャン映像だった。
白く映った頸椎に絡みつくように、黒い雲のような塊が映っている。
「この黒い部分は…腹腔内の種子から伸びているんです」
「なんだと!」
警部の右眉がピン!と跳ねあがった。
「植物がいったいなんでそんなことを…」
「何らかの刺激、…おそらく電気刺激だと思いますが…、脊髄に加えて歩かせるためだと思います。仲間のいるところまで」
「…………『仲間のいるところまで歩かせる』だと?」
…万石の言葉の真意を悟った瞬間、岸田の顔色は紙のように白くなった!
「それは、まさか!」
「そうですよ岸田さん。そのまさかです。…種を腹いっぱい抱えた状態で、獲物を巣に帰らせてからドカン!…それで新たな種の苗床を大量獲得するんです」
147「桜の木の下には」:2010/05/02(日) 23:55:59 ID:xR9CXuog
万石の説明によるとこういうことだった。
「バケモノ植物は、まずラブラドル犬のエリカを花粉の餌食にしました。
そのままそこでエリカが死ねば、バケモノ植物の繁殖テリトリーは広がっていかないのですが……。」
エリカの体内で相手の脳を休眠状態した上で、脳に代わって「歩け!巣に戻れ!」との電気信号を脊髄に送り込むのだ。
「エリカが家に帰ったのも、それから三人の被害者がここの医局から姿を消したのも、すべては体を乗っ取った種子の仕業なんです」
「そんじゃ万石のダンナ。爆発寸前に腹が光ったように見えたのは?」
「あれは実際光ったんだと思います。体内に発生させたガスか何かを、電気発火させるとき光って見えるんじゃないでしょうか?」
「……なんてヤツだ」
岸田警部が絶句した。
つい一時間ほど前「がれ沢」で対決したときも、警部は相手を「バケモノ」だと思っていた。
だがその実態は、警部が想像していた以上のバケモノ。まさに悪魔そのものだったのだ。
「しかし…かわいそうなのはエリカという犬ですね。」
万石と視線が合うと、凍条が頷いた。
「僕もそう思います。悪魔の手先にされて、きっと大好きだっただろう主人の家族を皆殺しにする役目を負わされるなんて…。三人の被害者を助けられなかったも残念ですが、でもこれで全部終わりです…」
「ええ、そうですね。悪魔の本体は岸田さん南さんが滅ぼしてくれたし。エリカの飼い主の女の子だって浮かばれるでしょ……」
「ちょ!ちょっと待った!!」
不意に、岸田警部がくわっと目を見開いて叫んだ。
「万石のダンナ!いまアンタ、なんて言った!?」
「え?私がですか??、ええと……『エリカの飼い主の女の子だって浮かばれる』……」
そのとき岸田警部の脳裏に、今朝見た光景がまざまざと蘇った。

すっかり焼け落ちた家屋と庭先にポツンと焼け残った犬小屋。
そこに書かれた名前「エリカ」……
(エリカ……女の名前だ。メス犬だったんだな。まてよ……いや…)

(そ、そうだった!思い出したぞ!!)
手近の事務机に拳を叩きつけると、焦るてつきで警部は携帯をとりだした。
「頼むから…外れててくれ…」
しかし、警部が登録番号を呼び出すよりも早く、警部の携帯が着信音を奏でた!
148「桜の木の下には」:2010/05/03(月) 08:57:22 ID:4KMsWnVj
着信音は不可能犯罪捜査部からの、つまり本多部長からの着信。
いままさに連絡しようとしていた相手からの着信に、言い知れぬ予感を覚えながら岸田は携帯を耳に当てた。
「…はい、岸田です」
『千葉県警から気になる照会があってな。24歳のOLが一人、行方不明になってるそうなんだ』
「24歳のOL!?」
『ああ、実家に帰るからと言って有給とったきり、休みが終っても出社しない。それで…』
「ちょっと待ってください部長!そのOLの実家ってのは、あの村なんじゃないですか?もっと言えば、火事で全焼した家なんじゃ…」
『…さすがは岸田警部。それで正解だよ』
149「桜の木の下には」:2010/05/03(月) 09:00:24 ID:4KMsWnVj
「…迂闊だった!」
へし折るような勢いで警部は携帯を折り畳んだ。
「もっと早く気付くべきだった!あの全焼した家に限らず、村は過疎化による高齢化が進んで年寄りしか住んでいなかったのに!」
「警部!いったいどうされましたか!?」「岸田警部!」
上司の激変に、駈け寄る部下2人。
万石も医局の友人黒須になにか早口でまくしたてている。
「南!凍条!まだ判らないのか!?ラブラドル・レトリバーってのは最近人気の犬種なんだろ!?オマケに名前はエリカ!つまり飼い主は若い女だってことだ」
左の手の平に右拳を叩きこんで南が叫ぶ。
「そんな!あの家に、住民票に載っていない家族がいたなんて!」
「たぶん大学卒業後、娘は千葉で就職したんだろう。それで住民票も千葉に移したが、千葉の家にはエリカを飼えるような庭が無かった。仕方なく、愛犬エリカを実家に残していった」
「それであの夜も実家に帰ってたってわけですか!なんてこった!」
事態が飲み込めた凍条の口調にも緊張が走る。
「そうだとすると彼女はいまどこに!?」南は万石の方に振り返った。「万石先生、どこか心当たりはないんでしょうか?!」
「爆発した三人は全員、この大学から村に戻るルートの上で発見されています。しかし、その女性は、村ではなく千葉に戻ろうとする可能性がありますね」
「都内の人口密集地域を通るってことですか」
「それから…同じ夜に種子を植えつけられた三人は既に爆発してますからね。彼女のタイムリミットもほとんど残ってないはずです」
150「桜の木の下には」:2010/05/03(月) 19:07:27 ID:4KMsWnVj
「も、もうだめです!」
呻くように言うと、凍条は近くの椅子に崩れるように座りこんだ。
「だってそうでしょう!?三人のときと違って、今度のOLは顔も服装も判らない。それに村から出て行ったのは僕らが動き出す半日以上も前なんでしょう?もう今ごろは新宿とかその辺に…」
「いや凍条さん、それはないです。いいですか!?」
万石は目の前の作業机の上にあった物を残らず腕で払い落とすと、付近の地図を広げた。
「いいですか?集落の場所は…ここです。歩いているといっても彼女の意識が戻っているわけじゃありません。ですから彼女はバスや電車は使えないでしょう。それから一応の目的地ですが…」
「そうか!」
にわかに南が歓声を上げた。
「彼女は記憶に残っているルートを徒歩移動してるに違いないですね。だから目標は二つに一つだ」
「そうです南さん。そのOLが向かっているのは青梅線の奥多摩駅か、五日市線の武蔵五日市駅のどちらかです」
凍条も座りこんでいた椅子から立ち上がった。
「成人男性の徒歩移動の速度は…たしか平均時速6キロですよ、万石さん!」
「凍条さん、とっとと息を吹き返しましたね。でも、今回の場合だとそんなに早くはないでしょう。精々3キロ前後じゃないでしょうか?」
「ようし!じゃあ纏めに入るぞ!いいな!」
ひととおりの意見が出揃ったとみた岸田警部は、地図の上に身を乗り出すと奥多摩と五日市の駅をペンで丸く囲んだ。
「OLの移動ルートは基本的にバス路線上。目標は奥多摩か五日市。移動速度は判らないが、おそらく目標近くに到達しているものと考えられる。これでいいな?」
万石が頷くと、すぐさま岸田警部は凍条に命を下した!
「凍条は奥多摩と五日市所轄の警察署に連絡!駅周囲に非常線を張らせろ。対象は20代前半の若い女性。妊婦のような腹部。ほぼ二日歩き通しであることを考えると服装にも注意せよ!以上だ!」
凍条が部屋を飛び出すと同時に、警部は南の方に向き直った。
「南!オマエは奥多摩駅へのバスルートを行け!オレは五日市へのバスルートを行く!」
151「桜の木の下には」:2010/05/03(月) 23:42:56 ID:4KMsWnVj
「じゃあ南。無理するなよ」
「警部こそ…」
短い別れを交わすと、岸田警部は地元警察さし回しのバイクで、南は自衛隊員の連絡用バイクを借り、それぞれのルートを目的に向かって走り出した。
例のOLを発見したところで何ができるのか?
確かな考えがあるわけではない。
下手すれば、自分が爆発に巻き込まれるかもしれない。
けれども2人は、バイクのスピードを上げた。
それは2人が警察官であったからで……

バイクの排気ガスが立ち込める中、一人置いてけぼりにされた凍条のところに、息せききって万石が走って来た。。
「あれれ、凍条さん。警部と南さんは?」
「2人ならもう行っちゃいましたよ。バイクが無いから僕は置いてけぼりです」
「いや…それは良かった。アナタだけでも残っててくれて…」
「……え?」
「ま、まあこっちに来てください。操作方法を説明しなけりゃなりませんから」
152「桜の木の下には」:2010/05/03(月) 23:49:03 ID:4KMsWnVj
「…オマワリさん」
「ん?………なにかなお譲ちゃん。もうじき暗くなるから危ないよ」

岸田警部と南が、それぞれの行程の半分ほどを消化したころ……。
派出所勤務の小林巡査は、幼稚園ぐらいの可愛らしい少女の訪問を受けたていた。

「あのね、ワカバね。落し物、届に来たの」
「ワカバちゃんって言うんだ。関心だね。いったい何を拾ったのかな?」
「あのね、お靴ひろったの」
女の子は女物のサンダルを片方だけ差し出した。
「あれれ、片っぽだけか。これじゃ落とした女の人、きっと困ってるね」
「ううん、困ってないの」
「困ってない?それっていったいどういうことなのかな?」
「その女の人、お靴、片っぽしか、履いてなかったの。それから、お靴脱げたのに、そのまんまで、行っちゃったの」
「………お譲ちゃん、その女の人、ひょっとしてお腹がこんなふうに大きくなってなかった?」
女の子が頷くのと同時に、小林巡査は電話機に飛びついた!
153「桜の木の下には」:2010/05/04(火) 09:12:47 ID:bV/Pjxda
小林巡査からの連絡は、五日市署通しで凍条へ。そして凍条から岸田警部と南にメール連絡された。

 「くそっ!やっぱり五日市の方だったか!」
一足先に奥多摩駅に到着して何事も起こっていないことを確認した南は、自己判断で五日市へとバイクを走らせていた。
(ここから五日市へは、和田町交差点で右折して秋川街道か…。頼む!間に合ってくれ!!)

一方岸田警部は凍条からのメールを一読するなり歯咬みすると、バイク再発進させた。
 五日市駅に続く檜原街道は、五日市署や高校・小学校・郵便局などの公的施設から個人商店までが建ち並ぶ、この地域のいわば目抜き通りだ。
(もしそんなところで種子を爆発散布されちまったら)
山奥の集落で起こった惨劇が、五日市で再演されるのか?
当然五日市署が動き出しているはずだが、種子の爆発そのものを防ぐ手段はない。
(なんとか爆発前に彼女を隔離しねえと…)
「彼女」の居場所は凍条のメールにも無かったが、駅に近くなれば、サイレンの唸りが警部を導いてくれるはずだ…
警部はバイクのスピードを危険なほど上げた。
154「桜の木の下には」:2010/05/05(水) 09:26:17 ID:VcOOAUdq
「凍条さん!みつかったようですね?」
「五日市だそうです万石先生。僕はてっきり近い方の奥多摩だと…」
「岸田警部と南さんはどのあたりに?」
「南さんは少しまえ、和田町の交差点を右折して秋川街道に入りました。岸田警部はまもなく現場です」
「ふうむ…」
万石は地図の檜原街道を指で辿っていった。
「高校に小学校、郵便局…ほら五日市警察署だって沿道ですね。明らかにこの地域の目抜き通りです」
「そんなところで種子を爆発散布されたら悪夢としか言いようが…」
「そうはさせないために我々がいるんじゃないですか。ほら凍条さん、お迎えが来たみたいですからそろそろ出かけましょうよ」
万石が窓を開くと、猛烈なエンジンの唸りが飛び込んできた。
迷彩色もものものしい陸自のヘリが、大学キャンパスのど真ん中に着陸しようとしていた。
155「桜の木の下には」:2010/05/05(水) 09:27:32 ID:VcOOAUdq
「あの…お嬢さん?ちょっと待ってもらえますか?」
派出所巡査の小林は「お靴を片っぽ落とした」女性に追いついたところだった。
(爆発物をなんとかしなきゃ…)
彼は、奥多摩湖周辺で起こった二件の爆発騒ぎは知っていたので、こんどの緊急手配も「手配女性が爆発物を持っている」と認識していたのだ。
女は、小林の戸惑いなど一切無視して歩き続けている。
「お譲さん待って!」
小林の声が思わず大きくなると、何人かの通行人が足を止めた。
妊婦のようなスタイルにラフなスゥットの上下で足は裸足といういでたちは、ただでさえ通行人の奇異の視線を集めるに十分だ。
その上、警察官から声をかけられたとあっては…。
女性と小林の周囲に人だかりができはじめた。
「あの、お譲さん!お譲さんってば!」
とうとう小林は、女性の肩に手をかけ、自分の方に振り返らせた。
相手の顔を覗きこんで時点で、小林も何か変だと気がついた。
目線が小林を見ていない。…というより何も見ていない。
「お嬢……さん?」
小林が見つめていると、女性の口からかすかな音が漏れ出した…
「タ……タスケ……テ」
(えっ!?)
そして、小林の見ている前で、女性の腹部が怪しい閃光を放った!
「…爆発するって…まさか!」
小林の「爆発する!」という叫びが、野次馬たちの中を駆け抜けた。
156「桜の木の下には」:2010/05/05(水) 09:28:57 ID:VcOOAUdq
法定速度はもちろん赤信号までいくつか無視して、岸田警部のバイクは五日市駅へと疾駆していた。
住民は何事も無く普通に辺りを歩いている。
避難命令などは全く出されていないようだ。
あまりの急展開に、行政機構が全く対応できていないのだ。
(戸外に人が多すぎる!こんな状況で爆発されたら完全にアウトだぞ!)
五日市署の前を行くとき、署内から大勢の警官がワラワラ飛び出してくるのが目に入ったが、ガスマスクなどの防護装備をしている警官は一人もいない。
(あれじゃ犠牲者を増やしに出動するようなもんだぞ!)
五日市署の様子を見て警部は腹を決めた。
(俺一人でやるしかねえ!)
五日市高校前通過!
あきるの市五日市出張所入り口通過!
五日市小学校前通過!
(まだなのか!?このままだともうすぐ駅前だぞ!)
ここまで檜原街道は事実上の一本道だが、次の「東町」で道は大きくT字に分岐する。
(くそ!いったいどっちだ!?……ええいこっちだ!)
警部のバイクは一旦分岐を無視してT字路を直進しかけた。
しかし交差点を通過する一瞬、パスした分岐から大勢の人々が駆けだしてきたのが目に入った。
「こっちがハズレか!」
スキール音を響かせ、警部のバイクが強引にターンを決めた。
157「桜の木の下には」:2010/05/06(木) 00:07:48 ID:4IS6zFfv
「爆弾だー!」「うわーっ!」「助けてー」
口々に叫びながら逃げてくる男女。
立て看板が突き倒され、店頭販売のワゴンがひっくり返される。
子供の泣き声。
子供が泣くのも構わず、引き攣った顔で引き摺って走る母親。
「東町」交差点の分岐でバイクを乗り捨てると、岸田警部は逃げ惑う人々の流れに逆らって飛び込んだ。
「退いてくれ!退くんだ!!」
人々の奔流は、現れたときのように、消えるときも突然だった。
台風の過ぎ去ったあとのような荒れ果てた空間に、立ち尽くしている女と警官。
「……う、あああああっ!」
警官は突然へたりこむと女に短銃をつきつけようとした!
「なにすんだ、このバカ野郎!」
警官の手から短銃を奪い取ると、岸田警部は女の方に振り返った。
腹が臨月の妊婦ほどに大きく膨れ上がっている。
その腹が、警部の見ている前で再びフラッシュバルブのように閃光を放った!
(カウントダウンのスタートか!)
研究室で見たかぎりでは、あと一分ともたないはずだ。
爆発されても危険の無い場所に隔離している時間はもうない!
爆風を遮るものも無い!
最後の瞬間を待つように、女がその場に座り込んだ。
「何もしねえよりゃマシか!」
警部は座りこんだ女に、覆い被さるように抱きついた!
「な、何をするんですか!」叫ぶ警官。
「テメエは少しでも遠くにさっさと避難しろ!」警部が吠える。
その警部の体の下で、女の腹部が三度目の閃光を放った。
(こうなりゃあ、全部オレの体で受け止めてやるぞ!)
視線の彼方に、南のバイクが現れた。
何か叫びながら走って来るが、何をするにももう時間がない。
「来るな南!離れてろ!!」
そのとき、南がなにか叫びながら上を指さした。
同時に覚悟を決めた岸田警部の頭上から、凄まじい轟音と突風が降って来た!
158「桜の木の下には」:2010/05/06(木) 00:09:08 ID:4IS6zFfv
(なにぃ!?)
見上げると、迷彩色の機体が「降りてくる」というより「落ちてきた」!
着地の衝撃でバウンドする機体。たわむメインローター。
そして着地前から既に開いていた側面ハッチから、万石と凍条が飛び降りてきた!2人はほぼ等身大の白い円筒の両端を支え、その上に更に凍条はびっしり霜に覆われたボンベのようなものも背中に背負っている。
「警部、早くその人をこの中に!凍条さんはボンベの接続を!!」
円筒を下ろして万石がどこかを操作すると、円筒側面の透明部分がスライドして棺桶のような内部が露わになった。
「わかった!」「了解です!」
警部が女性を円筒に横たわらせ、万石が素早く円筒を再閉鎖したのと同時に、凍条の液体酸素ボンベ接続も完了。
「スイッチ…オン!」
万石がボタンを押した直後、透明カバーの中で女性の腹部がひときわ強い閃光を放った!
思わず皆が目をつむった。
………だが、爆発しない。
円筒の内部はたちまち白一色に覆い尽くされていった。
159「桜の木の下には」:2010/05/06(木) 00:12:50 ID:4IS6zFfv
「研究室で爆発に立ち会ったとき考えたんです」
ギリギリのタイミングでの作業が成功し、万石はすっかり上機嫌だった。
「もし電気的に爆発させているんなら、着火点より温度を下げてしまえば爆発しないんだろうってね。そこで黒須のヤツに頼んで…」
「それじゃ万石先生、この棺桶みたいなのは…」
「棺桶は酷いですよ、南さん」
ニヤニヤ笑いながら抗議する万石に代わり、答えたのは凍条だった。
「…コールドスリープの実験装置だそうです。万石さんが医学部から借り出してくれたんですよ」
「凍条さんには、運搬を手伝ってもらいました。なんてったって、失敗すれば確実にあの世行きの仕事ですからね」
「ところでよ、万石のダンナ…」
強行軍の連続に疲れ切ったというありさまだったが、岸田警部の頭にあったのは被害女性のことだった。
「……この女の人は、これからどうなるんだ?」
「それなら心配いりませんよ岸田さん。大学で黒須のヤツが手ぐすねひいて待ってますから」
160「桜の木の下には」:2010/05/06(木) 00:14:04 ID:4IS6zFfv
 こうして…
こうして、花の季節に過疎の集落を襲った恐ろしい「花」の話は終りました。
万石が「心配いりませんよ」と言ったとおり、あの女性は、薬物と放射線療法、それから外科手術の併用で種子をすべて取り除かれ、元気に退院していきました。
その意味では、万石の言ったとおり心配いらなかったわけなんですが……。

摘出された悪魔の種子は、ある国家機関で徹底的に調査されています。
厚生労働省?…いえいえ。
東京大学?……違います。
種子を調査している国家機関とは、防衛省なんです。
いったい何に使うんでしょうね?
あの植物と再開する機会も、案外早く訪れるかもしれません。
では…、また。

「桜の木の下には」
お し ま い
161創る名無しに見る名無し:2010/05/06(木) 23:08:27 ID:4IS6zFfv
 この手の駄文を構成するのは久しぶりなんで、まずいところはご容赦を…。
2日弱の期間中に、すべてのイベントを連続的に発生させなければいけないため、タイムスケジュールが大変で(笑)。
ほぼ必然的にタイムリミットネタになるため、最後もタイムリミット展開になっています。
最初の家が火事で全焼しているのは、植物の正体を隠すためであると同時に、エリカの名付け親である女性がその家にいた痕跡を隠すためでもあります。
「被害者の爆発」から「エリカの名前の意味するところ」が明らかになるところまでが、組み難かったですね。
もともとこの駄文のあらすじは、特撮板のいまは無き「おまいらウルトラQのシナリオ書いてください」スレに投下するため作ったものでした。ところが、直前に投下した「木神」という中編に、状況設定が似ていたためボツに…。
万石先生と岸田警部は上記スレで私が書く場合のメインキャラです。
「木神」が発掘できれば、比較対象の意味で再投下するもの面白いのですが、いかんせん発掘出来ていません。
162「緑一色」:2010/05/06(木) 23:10:21 ID:4IS6zFfv
そのアパートの名は「緑一色」と書いて「りゅういーそう」と読む。
名前だけ聞いたらまるで雀荘だ。
……照明の灯っていない薄暗い玄関。
張り紙には「土足厳禁!!」とあった。
あまり気が進まないが、靴を脱いで奇妙に艶やかな廊下に足を降ろしてみる。
…案の定湿っぽい。
床がツヤツヤして見えるのは磨かれているからでなく、湿っているからなのだ。
一ヶ月近くほとんどぶっ続けの雨とあっては、まあムリも無い。
友達のためでなければ、僕だって雨を避けて家に引っ込んでいたいところだ。
ヤツはここ一週間、大学に姿を見せていなかった。
いや大学どころか、バイト先にすらバイト代金の支払日になっても姿を現さなかったというのだ。
天候不順で体調でも崩したのだろうか?あるいは風でもひいて……?
妙な胸騒ぎをおぼえ、僕は雨の降り続くなか彼の住むアパートへとやって来たのだった。
163「緑一色」:2010/05/06(木) 23:11:17 ID:4IS6zFfv
 いまどき珍しい貧乏学生の彼は、信じられないほどおんぼろなアパートに、不法入国の外国人に混じって暮らしていた。
玄関に置いておくと盗まれそうな気がしたので、さしてきた雨傘を肘にぶら下げると、僕は軋む階段を上がっていった。
明りが無いのは2階廊下も同じだったが、暗さは1階の比ではなかった。
半年ほど前に来た時、途中の部屋から囁くような外国語の声が漏れていたが今日は何も聞こえない。
(雨のせいで仕事に炙れてフテ寝でもしてるのかな?)
そんなことを考えながら、どんづまりにある部屋を目指して、まるでトンネルのような廊下を僕は進んでいった。
人の気配がしないのは、友達の部屋も他の部屋と同じだった。
重苦しく感じられ始めた沈黙を破り、トントン……とドアをノックしてみる。
そして「おい!××!!僕だ!いるんなら開けてくれよ!」と声もかけてみた。
そして数秒間の沈黙……
…返事は、無い。
雨模様で外は相当暗くなっているにも関わらず、扉の隙間からは光が全く漏れていなかった。
(……留守なのか?)
……と、思ったときだ。
僕は扉の脇に無造作に置かれた、あるものに気がついた。
扉の横に長靴が置いてあった。
水が入ってしまったので乾かしているのだろう。中にボロギレが突っ込んである。
この雨のなか、長靴がここにあるということは……。
(……やっぱりここにいるんだ。それなのに返事が無いということは……)
まず「病気」という言葉が頭に浮かんだ。つづいて「意識不明」という言葉も。
「お、おい!いるんだろ!?」
慌ててドアノブに手をかけ手荒く揺すった拍子に、肘にぶら下げていた雨傘の先端が偶然ぶつかって、玄関わきの長靴がパタッと倒れた。
するとその衝撃で、それまで「ボロギレ」と見えたものがバラリと崩れ落ちてしまったではないか!?
「…なんだこれ?」
不思議に思い傘の先端でつついてみたところ、ボロギレとばかり思っていたものは……なんとカビ!
長靴の中でカビが繁殖して、ボロギレみたいに見えるほど盛り上がっていたのだ。
舞い上がった黄緑色のホコリを避けようと思わず後ずさったとき……、背中を預けるかっこうになった扉がいきなりメリメリッと音を立てた。
次の瞬間、僕が倒れていたのは自分自身の目を疑う世界だった。
ここはどこだ?
熱帯雨林?
いやそんなはずはない!ここは僕の友人の、××の部屋のはずだ!

しかし僕がいるのは、怪しく隆起する緑一色の世界だった。
164「緑一色」:2010/05/06(木) 23:12:20 ID:4IS6zFfv
僕がいるのは、怪しく隆起する緑一色の世界だった。
緑色の正体はすぐに判った。
カビだ!
長靴の中に隆起していたのと同じような緑のカビが、部屋中に群落を築いているのだ!
万年床は緑色の羽毛布団と化し、その横に転がる「二本の棒が突き出た円筒状の物体」は「ワリバシの突っ込まれたカップ麺の容器」に違いない!
カーテンはカビの房となって窓を覆い、ノートも教科書も全て緑のカビに飲み込まれている。
だが万年床の上にいるはずの友、あるいは友の姿を連想させるものは何一つ見当らない!
あいつは!?××はいったい!?
跳ね起きると、こみ上げる吐き気を抑えて声を限りに僕は叫んだ!
「××!!どうした!?何処にいるんだ!?助けてやるから返事をしてくれぇっ!!」
……やはり返事はないのか……そう思いかけたとき!?
ドクン!
……足元でなにかが震動した。
……ドクン!……ドクン!……ドクン!!
何が起っているのか、僕が把握できずにいる間にも、震動はますます強く明確になっていく!
同時におんぼろアパート全体がぐらぐら揺れだした!
(く、崩れる!?)
もう友の身を案じている余裕は無い!
カビの毛布に足をとられながらも、なんとか廊下に転げ出た僕の目の前で、ずらり並んだ部屋の扉が次々弾けとんだ!
そして中から噴出したのは、カビ!カビ!カビ!カビ!このアパートには人など1人もいなかったのだ!
行く手を塞ぐように這い伸びる緑の舌を辛くもかわして僕は階段に飛び出したが、階下に広がるのは這いうねる一面緑の絨毯だった!
背後から迫るカビの舌!階下からはカビの絨毯が這い登って来る!
緑の恐怖に進退きわまった一瞬、階段の横の壁へと咄嗟に僕は体当たりしていった!

バキバキッ!!
「うわああああああああっ!!」

建物のボロさが幸いだった。
朽ちかけた建材とともにボクは隣家の貧相な植え込みへと落下。
カビのバケモノが板塀を押し倒すより僅かに早く、僕は狭い路地へと駆け出していた。
走って走って、息が切れてもうそれ以上走れないところまで走りつづけて、初めて後ろを振り返ったとき……、僕の目に入ったのは脈打ち隆起する「緑色の丘」だった。
巨大な緑の舌が、何かを捜し求めるように建物を押しつぶし大地をうねっている。
そして……カビのバケモノは、突然ある種の「音声」を放った。
それは、動物の発音器官からは決して出し得ぬ種類の「音」でありながら、同時にハッキリと人間的な意味を持つ「声」だった。
……慄然とする一瞬、僕は友の運命を、じめついた万年床に恋した男の運命を知った。

カビのバケモノは、呼んだのだ。
はっきりと、
僕の名を。
165創る名無しに見る名無し:2010/05/06(木) 23:21:12 ID:4IS6zFfv
「緑一色」は紆余曲折があって、ファーストバージョンは「つゆどき怪獣カビゴンあらわる」のタイトルで「SF・ホラー・ファンタジー板」に、セカンドバージョンを「緑の想い」のタイトルで「特撮板」に投下されました。
「SF板」タイトルの「つゆどき怪獣カビゴンあらわる」は、往年の特撮番組キヤプテンウルトラの「まぼろし怪獣ゴースラあらわる」とか「金属人間メタリノームあらわる」のパロディーです。
「特撮板」でのタイトル「緑の想い」は植物怪談の超名作、ジョン・コリアーの「緑の想い」をそのままいただきました。つまりSF板では特撮風の、逆に特撮板ではホラー・ファンタジー風の名前にしたわけです。
また特撮板への再投下に際しては、「僕」だけでなく「ガールフレンド」を追加して会話を発生させました。
今回投下したのはオリジナル伴ですが、もともとのタイトルである「緑一色」に戻しました。
166まつけんサンバ:2010/05/07(金) 23:37:40 ID:kdy6HjUb
おーれー♪まつけんサンバ!
おーれー♪おーれー♪……まつけんサンバ!!
薄暗い部屋のなか大勢の人が歌い踊り、中央のお立ち台では白塗りの男がおどけた仕草で扇子を振り回している。
……憧れの先輩に手を引かれ、僕はとあるアングラバーに陣取っていた。
清純そうに見えた先輩が、こんな禁所に出入りしていたなんて。
でもそんなことを考えていられたのは最初のうちだけだった。
白い粉末の入った試験管に何かの薬液を注ぎ込んだかと思うと、先輩は一気に喉へと流し込んだ。
「オーレイッ!」景気づけのように誰かが叫ぶと、「まっけんサンバッ!」とこれまた誰かが続く。
そして喧騒の中、くいっと伸ばした先輩の白く細い首の内側を怪しい薬が流れ下り……顔を下ろしたとき、先輩は、僕のまったく知らない女性になっていた。
メガネを外して髪を縛ったゴムを解き、白い学生服の胸元を緩めて嫣然と微笑むと、柔らかに曲線を描く桜色の胸元がのぞいた。
視線を吸い寄せられ、思わず生唾を飲む。
そして「先輩」は、呆けた思いに囚われる僕の唇に、自分の唇をそっと合わせた。
粘膜どうしの触れ合い。
唇から微かにアルコールの匂いのする息が漏れ出す。
甘い………なんて甘い香りなんだ。
そして甘い粘膜がすうっと退くと、代わりに、冷たく硬い何かがそっと触れてきた。
…「先輩」の指には、あの試験管が握られていた。
中にはあの白い粉薬。
「先輩」をオレの知らない「女性」に変えた、あの粉薬が入っていた。
167まつけんサンバ:2010/05/07(金) 23:43:45 ID:kdy6HjUb
あいにく子供のころから僕は、粉薬というものが苦手だった。
(飲みたくない。)
僕は口をへの字に曲げた。
だが、女性は「だめよ」というように微笑みながら首を横に振ると、僕の方にさらに体を寄せ掛けてきた。
試験管から口を遠ざけようとして状態をのけぞらせたときだった。
……僕は見てしまった。
女性のはだけた学生服の襟元の、さらに奥でかすかに揺れた小さなサクランボウのようなそれ。
赤く、堅く隆起したそれを。
(あっ!)っと思わず息を呑んだ次の瞬間、何か熱いものが僕の喉を駆け下っていた。
同時にオーレー!という掛け声。
気がつくと、試験管はもう空になっていた。
それから急に熱さがやって来た。
体が、ではない。僕の中にあるけれども肉体ではない何かが、熱く熱く燃え上った、そんな感じなのだ。
熱い…熱い…僕が思わず力づくで学生服の前をはだけたとき、何かがカチッと音を立ててテーブルに落ちた。
学生服のボタンが、糸が千切れて落ちたのだ。
見慣れたそれを目にしたとたん、僕は急に怖くなってきた。
ボタンの千切れた学生服が、もう後戻りできない昨日までの僕とダブって見えたのだ。
激しい不安に襲われ、僕は慌てて辺りを見回したとき。
(……ん?何だ?いまのは??)
踊り狂う客たちの中に紛れ、それまでは確かに見えていなかったものに気付いたのだ。
BGMには違うリズムで、客に交じって飛び跳ねているもの。
小学生のような体つきでありながら、100歳を超えた老人以上に老いさらばえた顔。
その皺の中で、小さな目が濁った黄色い光を放っている!
淫猥にして邪悪なるもの。
あれは……あれは小人?!
それでは試験管の中で青白い炎を発したように見えたあの白い粉薬は!?
マッケン!マッケン!と連呼する声が、ぐるぐる輪を描きながら上りだす!
僕の中で分別臭い声が叫んだ!
(逃げろ!)
幸い出入り口はすぐそこだし、先輩は僕のことなど見ていない。
しゃにむに立ち上がろうとした僕だったが……次の瞬間、僕の膝関節が溶けた。
僕が溶けながら輩の上に覆いかぶさるように倒れかかると、僕の体の下で嬌声を上げながら「先輩」も溶けた。
僕と「先輩」は、夢にまで見た「一つになる瞬間」を、夢にも思わなかった方法で実現したのだった。

そして禁断の法悦は、僕と先輩のものになった。
……アーサー・マッケンの法悦が……
マッケン・サンバの法悦が

お し ま い
168創る名無しに見る名無し:2010/05/07(金) 23:56:59 ID:kdy6HjUb
元はSF板に投下した、駄洒落一発ネタ。
…おそまつでした。
169創る名無しに見る名無し:2010/05/08(土) 00:01:25 ID:OT52YwBX
段々おかしくなる段々おかしくなる段々おかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなる
だんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおしかくなるだんだんおくしかるなくだんんだおしかくんだだしん
かおだんくしおかんだんかしくんしおかだんくんおかしだんしかくおんだしんかくおんだしんかだかしん

始まりの刑罰は五種、生命刑、身体刑、自由刑、名誉刑、財産刑、様々な罪と泥と闇と悪意が回り周り続ける刑罰を与えよ

『断首、追放、去勢による人権排除』『肉体を呵責し嗜虐する事の溜飲降下』『名誉栄誉を没収する群体総意による抹殺』 『資産財産を凍結する我欲と裁決による嘲笑』

死刑懲役禁固拘留罰金科料、私怨による罪、私欲による罪、無意識を被る罪、自意識を謳う罪、 内乱、勧誘、詐称、窃盗、強盗、誘拐、自傷、強姦、放火、爆破、侵害、
過失致死、集団暴力、業務致死、 過信による事故、護身による事故、隠蔽。

益を得る為に犯す。己を得る為に犯す。愛を得る為に犯す。得を得るために犯す。自分の為に■す。 窃盗罪横領罪詐欺罪隠蔽罪殺人罪器物犯罪犯罪犯罪私怨による攻撃
攻撃攻撃攻撃攻撃汚い汚い 汚い汚いおまえは汚い償え償え償え償え償え償えあらゆる暴力あらゆる罪状あらゆる被害者から償え償え 『この世は、人でない人に支配されている』

罪を正すための良心を知れ罪を正すための刑罰を知れ。人の良性は此処にあり、余りにも多く有り触れるが故にその総量に気付かない。 罪を隠す為の暴力を知れ。
罪を隠す為の権力を知れ。人の悪性は此処にあり、余りにも少なく有り辛いが故に、その存在が浮き彫りになる。 百の良性と一の悪性。バランスをとる為に悪性は
強く輝き有象無象の良性と拮抗する為兄弟で凶悪な『悪』として君臨する。

始まりの刑罰は五種類。 自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に ■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す
自分の為に■す自分の為に■す自分の 為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す自 分の為に■す自分の為に■す自分の為に■す
勧誘、詐称、窃盗、強盗、誘拐、自傷、強姦、放火、侵害、 汚い汚い汚いおまえは汚い償え償え償え償え償えあらゆる暴力あらゆる罪状あらゆる被害者から償え償え『死んで』償え!!!!!!!

何も考えてはいけない。何もいらない。何も見るな。何も言うな。何も触るな。ただ、感じろ。
170創る名無しに見る名無し:2010/05/09(日) 23:06:33 ID:lsExWiiq
特撮板以来の流儀で、あらし、誤爆など何か書き込まれた場合には、それをネタにして駄文を一本ひねり出すことにしてきた。
当然、上のレスもネタにすることに決定。
タイトルはいまのところ「だんだん…」とする予定。
実はこの分野、大学で専攻してたもんで、どういう経緯で出てきた文章なのかも含めて意味は判る。
構成はもうできかけているが、理屈っぽくならないでどうまとめるか?
うまくいったらお慰み。
171創る名無しに見る名無し:2010/05/10(月) 23:50:40 ID:daKxEzPa
乙。
ナレーションから入る導入といい、登場人物たちの陣容といい
「桜の木の下には」はまさにウルトラQ的な話ですな。
現代社会を舞台にした怪奇モノは好物なんで、楽しませてもらいました。

あと、違っていたらアレですが、作者氏はもしかしてTRPG者じゃないですか?
プロットの立て方や話の展開のさせ方にそれっぽい空気を感じたんですが……
いや、まあ、だからどうってわけではないんですけどねw
172創る名無しに見る名無し:2010/05/12(水) 00:23:13 ID:Z191ARWc
TRPG…テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲームのことですか?
たしかにゲームマスター的な進め方かもしれないですね。
でも、残念ながらやったことはないです。
というか、私の周りにはあれをやれるようなタイプの人間自体がいません(笑)。
 私の手順は古い昔の探偵小説です。「怪異馬霊教」とか「人間豹」みたいな。
それからジョン・サイレンスやマルチン・ヘッセリウスにカーナッキのような幽霊探偵たち。
万石先生のキャラはエラリー・クイーンを参考にして作っていました。
ネタをどのタイミングで、どうやってバラすかが、個人的にはキモですねぇ。
173創る名無しに見る名無し:2010/05/16(日) 10:22:15 ID:GZiIFFlZ
もしかしてA級戦犯氏?

特板のウルQ脚本スレが消えて久しいですね。
174創る名無しに見る名無し:2010/05/17(月) 22:49:30 ID:w59crFtc
こりゃ驚いた。
旧悪をご存じの方がいらっしゃるとは…。
特撮板の「ウルQシナリオ・スレ」は、本来の主の方が新都社で同タイトルで連載されていることが判ったので、投下を停止しました。
特撮板のスレが類似スレになって、本来の主の方の活動の妨げとなってもいけませんから。
ただ、投下準備していた駄文もかなり残っていました。
その一本が「桜の木の下には」です。他にも他人原作の「古の守人」とか「猫」「開けてくれ」とか…けっこうネタが溜まってまして。
「怪物」という縛りをクリアできるものであれば、ここに投下するのもいいかなと…。

175創る名無しに見る名無し:2010/05/19(水) 19:11:28 ID:4UGC1eP6
なるほど……TRPG者じゃありませんでしたか。
でも、影響を受けた元ネタを見て納得。
私がよくやるクトゥルフ神話TRPGも幽霊探偵的な文法で話が進むことが多いので、
それで勘違いしてしまったようです。
氏ならきっといいキーパーになれますよw

新都社……というと第X話さんの話かな。
176創る名無しに見る名無し:2010/06/11(金) 13:03:33 ID:7ER27leF
当初「だんだん」とする予定だった駄文だが、「人を呪わば」と改題。
当初案の構成とは全面変更となった。
テクニカルな構成なので難航したが基本ラインはできたので、週末から投下開始。
系統的には特撮板に投下した「人形の家」と同系統か。
この手のネタだと、メインキャストはやはり岸田警部しかいない。
うまくオチたら…おなぐさみ。
177創る名無しに見る名無し:2010/06/12(土) 22:26:51 ID:Y24gqdZX
ぼくがかんがえたかいじゅう
http://loda.jp/mitemite/?id=1149.png
178「人を呪わば…」:2010/06/12(土) 22:34:34 ID:fwVoakTk
降り続く雨が、木々の幹を伝い、草の葉を濡らしていた。
その日でもう3日目。
しかし雨は、降り止む気配を全く見せない。
先の戦争末期、旧軍によって掘り削られた斜面にも、雨は容赦なく降りかかっていた。
果てしない雨が斜面に染み込み、幾筋もの赤茶けた筋となって傾斜から流れ出し……そして……
そのとき近隣の住民は、ブチブチブチッという何かが引きちぎられるような音を耳にしたという。
崩落のその瞬間、そこに根付いた草木が放った断末魔だったのかもしれない。
ギリギリ持ち堪えてきた剥き出しの断崖そのものが、ズルリと大きくズレ出したかと思うと、膨大な土砂とそこに生えていた樹木とがともに崩れ落ちた。
崖を背にして建っていた古い屋敷など、ひとたまりもなかった。

事件が発覚したのは、その2日後のことだった。


「A級戦犯/人を呪わば…」
179「人を呪わば…」:2010/06/12(土) 22:35:21 ID:fwVoakTk
「場所は……町田市郊外の住宅地だ。降り続いた雨に、住宅地裏の崖が崩落。家一軒を飲み込んだ。ここまでは知ってるな?岸田警部」
「はい部長」
小さく頷き、オレは言葉を続けた。
「…心理学者で評論家でもある保科氏宅の事件ですね。今朝のニュースで見た限りだと、後ろの崖が二次崩落する危険もあるので、救助活動も思うに任せないという話でしたが…、それが何か?」
「まあこれを見てみろ」
本多部長は自身の横にオレを呼び寄せると、自分の前に置かれたパソコンディスプレイを指さした。
「これは…現地の警官が携帯で撮影して所轄に送りつけたものだ」
「……なんですか、これは……」
写っていたのは、肌色をした生物だった。
ひしゃげたように平たい頭。
左右に広がった目らしき切れ込み。
肋骨が無いのか、胴体全体が水を入れたビニール袋のように一方に偏っている。
オレが知っている限りの生物から答えを探すとするなら、それはカエルの一種ということになるだろう。
ただ不思議なのは、全体では明らかに蛙などの両生類を連想させる姿なのに、胸のあたりに乳首のような小さな突起が二つ並んでいる。
「カエルの突然変異か何かでしょうか?」
そのくらいしかオレには答えようがなかった。
「崩落した崖の中に旧軍の防空壕でもあって、そこに貯蔵されていた有害物質が突然変異を引き起こしたとか?」
「さすがだな警部。旧軍云々の部分は正解だよ。問題の崖には確かに旧軍のかなり大規模な防空壕が掘られていたようだ」
「では部長、旧軍の防空壕の部分が正解なら、カエルの突然変異という部分はハズレというわけですね」
「まあ、次の写真を見てもらおうか」
部長がマウスをクリックし次の写真に画面が切り替わると同時に、オレは思わず驚きの声を上げていた。
「な、なんだとぉ!?」
次の画面に写っていたのは救助活動のため持ち込まれた巨大な重機の一台だった。
その長いアームの先端、ゴツい爪の並んだショベル部分に、さっきの「カエル」がダラリと力なくぶら下がっている。
「そ、それではさっきの『カエル』の大きさは…」
「平均的な成人男性ほどもあるそうだ」

それがオレの、悪意と憎悪の迷宮に記した第一歩だった。
180「人を呪わば…」:2010/06/12(土) 22:36:25 ID:fwVoakTk
現場へと向かう車内、オレは同行する部下の凍条にも今回の件についてあらましを話して聞かせた。

「ああ、あの裏山が崩れたって事件ですね。もちろん知ってますよ。マスコミだって結構騒いでますからね」
「この保科って奴は、そんなに有名なのか?」
「マスコミうけっていうタイプじゃないですけど、死刑廃止とか冤罪事件とかいう話になるとよく聞く名前ですよ。最近だと、ほら、時効廃止のときテレビのインタビュー受けてましたね」

あとでオレも調べてみたが、凍条の言ったとおりだった。
保科四朗。
地元の資産家にして地主である保科忠秀氏の四男として生まれる。
母親についての記録は無い。
三人の兄たちは、長男忠直、次男秀雄、三男秀雅という具合に、父の名前から一文字を貰っているが、彼だけ「四男だから四朗」という至って投げやりな命名を受けているのは婚外子だからだろう。
本人が雑誌のインタビューで答えた通り、保科家における四朗氏の地位は、「無いも同然」だったのだ。
 四朗氏が大学生のとき父忠秀氏は亡くなった。
父の死に先立つこと四年前に長男忠直が事故で、一年前に三男秀雄は病名の判らない奇病で早世していたため、次男の秀雄が後を継いだ。

「兄は…父に輪をかけた暴君でした」

同誌のインタビューで、四朗氏はそう語っている。
長男忠直氏の抑圧下にあったのが突然解放された反動か、旧家の当主となってからの秀雄氏の暴君ぶりは、四朗氏にとって耐えがたいものだったという。
そうした現れのひとつが、大学の学費支出の打ちきりだったに違いない。
しかし四朗氏は、奨学金とアルバイトのみでなんとか大学を卒業。
まじめで優秀な彼を高く買ってくれる教授がいたこともあって四朗氏は、カナダへの留学のチャンスを掴む。
そしてこの留学が、四朗氏は学者の世界へと進む糸口となったのだ。

「まったく何が幸いになるのか判りませんよ。だって、暴君だった兄貴が死んで、財産を相続なんてしなかったら、日本にだって帰ってこなかっただろうし、今度の事件に巻き込まれることだってなかったはずですからね。……あ、着いたみたいですよ警部」
凍条が右に大きくハンドルを着ると、巨大なパワーショベルがいきなり視界に飛び込んできた。
かつて聳えていた断崖は、今は45度ほどの斜面となって仮初の安定を保っている。
傾斜の下部に溜まった大量の土砂には大きな穴が掘りこまれ、穴の周囲には作業を中止した建設機械。
さらに穴の中にも装軌式のクレーン車がもう一台。
操縦室のドアも開け放したままなのが、「カエル」発見のときの恐慌を無言のうちに語っていた。
181創る名無しに見る名無し:2010/06/13(日) 05:55:29 ID:w5EYNu7M
>>177
すげえ楽しそうな顔した怪獣だなw
182創る名無しに見る名無し:2010/06/13(日) 16:18:36 ID:tWJJNIU3
177の怪獣は、もしかしたらゴスラのリアルタイプかなにかか?
183描いちゃったりするの人 ◆bEv7xU6A7Q :2010/06/13(日) 16:36:13 ID:ybZz7X/6
今ゴスラを調べた。確かにパーツは似てるなあ…鼻(?)はないけど。
中学高校ごろによく落書きしてた怪獣を久々に描いてみたんですん。
184創る名無しに見る名無し:2010/06/13(日) 22:16:58 ID:tWJJNIU3
>>183
むかし「ゴスラ対ウンコタイガー」ってのを書いたことがあって…。
ネット上のAA怪獣ゴスラが2チャンネラーを大量殺戮した挙句、同じく特撮板にスレのあった「超獣ウンコタイガー」と対決するって話。
当時想定してたゴスラの最終形態はギララっぽいもんだったが、177みたいなクトゥルー的形態でも悪くないな…と。
185「人を呪わば…」:2010/06/17(木) 22:36:59 ID:6NYce7l+
現場でオレと凍条を迎えたのは、地元八王子警察署の年取った警部補だった。
「被害家屋はこの一軒だけです。もう何年も前から、この辺りは市が崩落危険個所に指定してまして…」
「…その辺の話なら、ここまで来るあいだに頭に入れてあります。肝心なトコから始めてもらえませんか?」
「それじゃあまず……例のアレから……どうぞこちらへ」
老警部補は首をすくめるとオレたちの先に立って歩き出した。
積み上げた泥まみれの瓦礫の脇を抜け、幾重もの目隠し用シートをくぐった末に、オレと凍条は一張りの大きなテントの前へと案内された。
こうした現場にはつきものの施設。掘りだされた遺体の仮収容場だ。
ただしこの現場では、人間の遺体は全く発見されていない。
紐で閉ざされた入口の前に立つと、金臭い悪臭が鼻を突いた。
警部補は臭いにむせながら入口を閉ざした紐を解くと、傍らに退いてオレたちに道を開けた。
「どうぞ…」

 灯されたままの裸電球の下、手足を広げて無様に横たわっていたのは、写真で見たあの「カエル」だった。
仮安置されているのが人間の遺体であれば、死者への礼儀として顔に布が被せられ、線香が焚かれる。
しかし、この「カエル」に対しては、もちろんそんなことは一切為されていない。
腹の底から沸き上がって来る不快の念を抑えながら、オレは後ろに控えた警部補にきいた。
「……コイツが出たのは、現場のどの辺りだったんですか?」
「保科家の住民は、当主の四朗氏の他に住み込みの使用人が3人の計4人。裏山が崩れた午前零時半ごろには、全員母屋の寝所にいるものと思われました。
それで今朝からの捜索活動でもその辺りを重点に行っていたのですが…」
「つまり母屋のあたりからコイツが出たと?」
「正確には、母屋の残骸の下からですが」
「母屋の下から……それで保科氏や家人の遺体は?」
「それが今のところただの一人も見つかってないんですが…」
「あの警部、それってまさか…」
口元を歪め、凍条が言わずもがなのことを口にした。
「……家の人たちはみんなコイツに…」
「そんなこと現段階では判らん」
もちろんオレもそれを考えないではなかったが…。
少なくとも、あの段階ではそれは想像の域を出るものではなかった。
「あの…警部」
オレが視線を「カエル」の上にじっと落としていると、背後で老警部補がおずおずという感じで口を開いた。
「遺体は見つかってないんですが、その代わりに……」
「…ん?『その代わり』ってことは、このバケモノ以外に何か見つかったんですね」
「はい。たぶん本棚か何かの残骸なんだと思うんですが、メチャクチャに壊れた家具の一つに、こんなものが鋲で張り付けられてあったんです」
警部補は上着の内ポケットから、証拠保存用のビニール袋を取り出した。
中に納められていたのは泥染みだらけの一枚の写真だった。
フラッシュのなか、灰色に浮かび上がっていたのは「カエル」。
ただし、いまオレの目の前に転がっている死骸とは、明らかに別個体の「カエル」だったのだ。
186「人を呪わば…」:2010/06/20(日) 16:45:54 ID:Yr9lp8Nu
写真により、「カエル」は少なくとも二体いることが判った。
しかしここはアマゾンの奥地とか絶海の孤島ではない。
多少長閑とはいえ、れっきとした都内八王子。
崩落危険地域の指定境界ギリギリまで住宅地が迫る環境で、このようなバケモノが一目につかずに存在し得る環境は地下しかない。
問題は、「カエル」は二体で終わりなのかということだった。
「あの…警部」
青ざめた表情で凍条が言った。
「…防衛隊に連絡すべきなのではないでしょうか?もしこの怪物がもっと存在するのなら…」
凍条に言われるまでもない。
オレもそのことを考えていた。
我々不可能犯罪捜査部は警視庁所属の地方公務員に過ぎないのだ。
侵入してきた他国の軍隊と戦うのが警察の管轄ではないのと同じく、巨大生物や宇宙からの侵略などは警察の管轄ではなく防衛隊の管轄になる。
そのような事件に遭遇した場合は、速やかに上長を通して防衛隊に連絡し、事件全般を引き渡さねばならないと法律でも定められている、
そして防衛隊に引き渡すべき事例か否かの一つの基準となるのが、敵の頭数なのだ。
右手に泥染みのついた写真を持って、オレは足元の「カエル」の上に屈みこんだ。
(……違う。間違いなく別個体だ。写真の個体の方は腰の幅が肩幅より広いし、骨格も細そうだ。それに…………ん?なんだ??)
個体識別のため「カエル」の死骸に更に近づいたとき、オレはそのことに気がついた。
(オレは違う。凍条も……それじゃあの警部補か?)
だがオレが振り返ると、老警部補はテントの入口ギリギリの位置まで退いて立っていた。
(ちがう。あの男じゃない。だとすれば…)
オレは「カエル」の傍らから困惑とともに立ち上がった。
目の前に横たわる非人間的な姿と、逆にあまりに人間的な事柄のミスマッチが頭の中で渦を巻いていたのだ。
「もしですよ。もしこの事件が、多数の怪物による人間の捕食あるいは拉致であるならば当然…」
「いや、防衛隊への連絡はしばし待て」
「連絡しないんですか?」
「そうだ。それから凍条。オマエはこれからひとっ走りして、万石のダンナをここまで引っ張って来い!」
187「人を呪わば…」:2010/06/20(日) 16:47:48 ID:Yr9lp8Nu
「このあたりが…母屋の残骸です」
「随分裏山から離れているな」
あわただしく凍条がたったあと、オレは警部補に案内されて、「カエル」が発見された瓦礫の山を調査していた。
「母屋の建っていたのはもっとむこうの…あの辺りです」
警部補は、数十メートルほど山寄りのあたりを指さした。
「ここは場所的には土蔵の建っていた辺りです。母屋は、土砂に押しつぶされながら
ここまで運ばれたわけでして」
「それじゃここには母屋と土蔵の瓦礫がゴッチャになってるのか」
たしかにオレの足元には板壁と思しき板材と竹材の混じった土壁とが土砂の中に見え隠れしていた。
「土蔵は、当主の四朗氏が子供時代を過ごした場所でして…」
「土蔵で?母屋じゃなく?」
「私の警官人生はこのすぐ近くの派出所が振り出しでした。母屋で暮らしていたのは正妻の子だけ。四朗氏には土蔵が『はなれ』と称してあてがわれていたんです。正妻の真子さんの飼い犬でさえ、母屋で住むことを許されていたというのに…
「……なんて一族だ」
オレは正直気分が悪くなった。
この家での四朗氏は、犬以下の存在だったのだ。
「それでもたいしたもんですよ、四朗さんは。そんな逆境にもめげず、あんな偉い学者先生になられたんですから」
「……同感ですね」
「カエル」と結びつくものが何かないかと、オレは泥の中から掘り出された瓦礫や家財道具の残骸に可能な限り一点づつ目を通していった。
重く・大きく、高そうなものが、母屋の家具の残骸。
安普請に見えるのは土蔵のものなのだろう。
今は等しく泥にまみれている。
三四十分ほどもそんなことを続けていた時だった。
瓦礫の中にオレは、母屋の家具とも土蔵のものとも毛色の違うものが転がっているのに気がついた。
「これは…なんだ?」
重厚長大でなく、かと言って安物にも見えないそれは、泥を手でとり除けてみると組み木細工の小箱であった。
蓋を開けると、中には一冊の大学ノートが納められていた。
(なんで大学ノートなんかをこんな小箱に保管しておいたんだ?)
ページを開いてみるとそれはどうやら四朗氏の備忘録のようだった。
小箱の中に入り込んだ泥水のため文字が滲んでしまい殆どが判読不能だが、ところどころ
「××教授と話し合う」とか「記録を再検討」といった文句が読み取れる。
研究テーマに関する事柄などを、思いつくまま書き留めていたのだろう。
(ひょっとして、何か「カエル」に関することが書かれていないだろうか?)
オレはこの四朗氏の備忘録に目を通しながら、凍条の帰りを待つことにした。
188「人を呪わば…」:2010/06/20(日) 23:41:26 ID:Yr9lp8Nu
「…やっ!これはまた…」
さすがの万石も、「カエル」を一目見るなり絶句した。
「どうだ、万石のダンナ?アンタの直球ど真ん中のシロモノだろ?」
「私のど真ん中はゲテモノってわけですか?」
万石は、初見の驚きから早くも立ち直ると、ゴム手袋をして「カエル」の上に屈みこんだ。
「まるでトマス・ド・プランシーの悪魔みたいですね」
「…フレッド・ブラッシー?」
「……そりゃ噛みつきで有名なプロレスラーです。私の言ってるのはトマス・ド・プランシー」
「プロレスラーじゃあねえんだな?」
「世界で最も著名なグリモワール『地獄の辞典』の著者です。…あ、グリモワールっていうのは、魔術書のことですよ」
「魔術書だと?」
万石はオレを相手にくっちゃべりながら、手と目は「カエル」の調査にフル稼働させていた。
「現在引用される悪魔のイラストの殆どは、『地獄の辞典』に掲載されていたものを直接・間接に元ネタにしているんですよ。もし著作権が生きてたら、きっと天文学的な金が稼げますね。……おや?」
「カエル」の体を裏返しにしようとしたところで、万石の手が不意に止まった。
「この臭いは………………」
手に続いて、口も動くのを止めた。
万石も気がついたのだ。
オレが気付いたのと同じことに。
「そうか、なるほど、そういうことか…」
「何が判ったんだい?万石のダンナ」
「ここに来る途中、凍条さんがしきりに愚痴ってたんですよ。防衛隊に連絡すべき事案なのに、岸田さんがそうしないってね。その理由がわかったんです」
189「人を呪わば…」:2010/06/23(水) 23:58:20 ID:dUoehozH
「手がかりは……汗ですね」
そう言いながら万石はゆっくり立ち上がると、オレにではなく、凍条に向かって話しはじめた。
「多くの生物はその体に様々な分泌腺をもっています。たとえば性分泌腺とか毒腺ですね。
われわれ人間にとって最も縁の深いのは汗腺です。
人間は体温が上昇すると、汗を分泌しその気化熱によって体温を下げます。
ここまではいいですか?凍条さん?」
「あ、あの万石先生。その汗腺のお話と、防衛隊の件はどう繋がっていくんでしょうか?ボクにはさっぱり…」
「汗腺はすべての動物が持っているわけではないんですよ、凍条さん。
昆虫のような節足動物は汗腺をもっていません。
人間と同じ脊椎動物であるヘビやトカゲ、カエルも汗腺を持ちません。
さらには哺乳動物でも犬科のように汗腺を殆ど有さなかったり、猫科のように局部的にしか有していないものもいます」
「つまりはだ、凍条!汗をだらだら流すのは人間を含む一部の哺乳動物の専売特許みたいなもんってワケだ」
ようやく凍条も「あっ!」と口を開けた。
「ちょ、ちょっと待ってください、万石先生!それじゃこのバケモノの正体は……」
「待った!そこから後は、オレが尋ねる番だ。万石のダンナ、この『カエル』みたいなバケモノの正体は……人間なのか?」
190「人を呪わば…」:2010/06/26(土) 09:31:11 ID:2T5iVPJs
「写真の怪物と目の前の怪物が同一個体か否かを調べていたとき、オレは怪物から人間のような腋汗の臭いがするのに気がついたんだ。
万石のダンナほど詳しくは無いが、それでも、爬虫類や両生類に汗腺が無いってことぐらいはオレでも知ってる。…ということは、このカエルみたいな怪物は……」
「……人間をベースに何者かが作り変えたものなのではないかと、そう仰りたいわけですね?」
怪物の集団による人間の拉致・捕食であれば、戦争事案であり事件の管轄は防衛軍になる。
だが、人間の改造であれば、改造したのが何者なのかによって事件の管轄は違ってくる。
「凍条がアンタを呼びに行ってるあいだに、使用人も含む保科家住人が最後に目撃されたのは何時なのかを、所轄の連中に調べさせた。それによると、最後に姿を目撃された使用人は夕(ゆう)という名の女性で、それも殆どひと月も前のことだとわかった。つまり……」
「つまり岸田さんの考えによると、保科四朗氏が約一カ月をかけて使用人の一人を怪物に作り変えたと、そういうわけなんですね?しかし、残念ですが、それはあり得ませんよ」
「………………」
このとき万石は、オレの沈黙の意味を「自分の考えを否定されたことによる不満」と誤解したようだった。
「理由は簡単です、岸田さん。このバケモノには手術の痕跡が一切認められません。外科手術によらずして、人間をここまで非人間的な姿に作り変えるのは不可能でしょう」
正直言うと、オレはこのとき万石が言ったことをよく覚えていない。
彼がその少し前に口にしたことで頭は手いっぱいだったからだ。
「そうか、残念だがオレの考え違いだったってわけだな……ときにダンナは……」
質問の意図を悟られぬタイミングを読むのは、オレたち警官にとって必須のスキルだ。
「…保科四朗って人とは知り合いか?」
「いいえ、テレビや雑誌ではお見かけしたことがありますが、個人的には…」
「学会で会ったこととかは?」
「私は生物学、保科さんは心理学ですからねぇ…」
「なるほど畑が違うか…」
このやりとりでオレは確信した。
万石は何かを知っている。
知っていて、それを隠しているのだ。

 万石を八王子駅まで送るパトカーが現場を去ると、直ちにオレは凍条に命じた。
「保科四朗氏のカナダでの情報を可能な限り掻き集めろ!どんな研究をしていたのか?誰に師事していたのか?それから、その四朗氏の指導教授は何を研究していたのかもだ!」
191「人を呪わば…」:2010/06/26(土) 09:32:41 ID:2T5iVPJs
保科氏を含む住人の捜索は、バケモノの死骸を運び出したあと直ちに再開された。
だが、被災者の遺体も、また新たなバケモノの死骸も、それ以上掘りだされることはなかった。

 事件はすぐさま社会にセンセーションを巻き起こした。
もともと被災者に保科四朗氏という多少なりとも名の知られた人物が含まれていた上に、報道関係者の集まり易い捜索活動初日だったため、「怪物の死骸」の映像が報道されてしまったからだ。
まともな報道の世界では、姿を消した保科氏と3人の使用人の安否がしかつめらしくに気遣われた。
その一方、ネット上では良識に縛られるマスコミをあざ笑うかのように、グロテスクで悪趣味な「真相」が噴出した。
「保科氏らは怪物に拉致された」あるいは「もう食われてしまった」
「付近ではもう何年も前から行方不明者が続出していた」
「怪物の正体は、旧日本軍が作った生物兵器のなれの果てである」
「旧軍の地下壕が、いつのまにか地下深く潜み住む怪物の住処と繋がってしまった」
この手の事件にはつきものの「宇宙人犯人説」ももちろんあった。
事件に進捗が無ければ、社会の矛先は警察に向けられただろう。
そしてオレは、奇怪な「真相」へと、一歩一歩近づいていた。

192「人を呪わば…」:2010/06/26(土) 23:42:24 ID:2T5iVPJs
「警部、モントリオール市警から返事がありました。照会された件ですが、もう担当者が退職していて、資料も残っていないそうです。それでネット上で調べてみたんですが…」
「…ありがとうよ南。オマエがフランス語が堪能で助かったぜ」
保科氏の留学先はカナダのフランス語圏、モントリオールだった。
「いいえ、自分のフランス語はスラングが多くてまともなものじゃ…。それに向こうもケベック訛りが酷くて困りました」
そう言いながら南は、プリントアウトした書類の束と電話しながら速記したメモをオレの前に置いた。
「しかし妙ですね。ラグラン医師の事件について知ってる者が誰もいなくて、おまけに資料も破棄されて無いなんて…」
保科氏が籍を置いた大学から辿りついたのが、ラグランという医師だった。
かつてソラマリー医療センターで先鋭的な研究を行い、保科氏もそこに出入りしていたのだ。
しかし、ソラマリー医療センターで行われていたのが如何なる実験だったのか?
それを知る手立ては見いだせなかった。
まずラグラン医師本人だが、彼は奇怪な状況下で他殺体となって発見されていた。
南がネット上で集めてくれた情報およびモントリオール市警からの聞き取り情報によると、当時は同様の殺人事件が5件連続し、とうとう犯人も検挙されずじまいだったという。
「いかに未解決に終わったとはいえ、関係書類が破棄されてるっていうのは……」
「……意図的な隠蔽だろうな」
「それでは何か政治的な側面でも…」
「おい南。政治的な側面なんかで、あの万石のダンナまで隠蔽に下端すると思うか?」
「まだ警部は、万石先生が何か警部に対してウソをついたなどと思ってられるのですか?」
気色ばむ南に対し、オレは書類から眼を上げ睨み返した。
「あのとき万石のダンナは、こう言ったんだ」

『つまり岸田さんの考えによると、保科四朗氏が約一カ月をかけて使用人の一人を怪物に作り変えたと、そういうわけなんですね?』

「しかしオレはあのとき、保科氏が犯人だなんてこたぁ一っ言も言ってねえ。考えてもみろ!保科氏は心理学者だ!心理学者に人体改造なんてできるわきゃねえ!」
「しかし警部。それは万石先生が保科氏のことをよく知らなかったからなのでは…」
「もちろんその可能性はあった。だからオレはその場でダンナに聞いたんだ!ダンナは保科氏を知ってるかってな。その答えは…」

『私は生物学、保科さんは心理学ですからねぇ…』

「……つまり万石のダンナは、保科氏が心理学者であって外科医じゃないことも、ちゃんと知ってたんだ」
「それなのに万石先生は……」
「そうだ!あのバケモノを作ったのは『保科氏ではない』とわざわざ言ったのさ!」
193「人を呪わば…」:2010/06/26(土) 23:44:44 ID:2T5iVPJs
モントリオール市警が、そして万石が隠そうとする何か。
姿を消した保科氏を含む4人の運命。
そしてバケモノの正体。
全てを解くカギは……カナダのラグラン医師。そして保科氏が残した備忘録のこの言葉にあるはずだった。
オレは、現場で発見した小箱に納められていたノートを取り出した。
記述の殆どは、残念ながらが染み込んだ泥水によって読めなくなっていた。
ただ、開き癖がついてしまいページどうしが密着していなかった箇所だけはかろうじて文字を読むことができた。
特に強く開き癖がついていた箇所に描かれていたのは、次のような言葉だった。

段々おかしくなる段々おかしくなる段々おかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなる
だんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおかしくなるだんだんおしかくなるだんだんおくしかるなくだんんだおしかくんだだしん
かおだんくしおかんだんかしくんしおかだんくんおかしだんしかくおんだしんかくおんだしんかだかしん

194「人を呪わば…」:2010/07/17(土) 00:05:30 ID:SIeqg+oL
 事件現場は、たちまち日本中の注目の的となった。
テレビ・新聞・写真週間誌などの報道機関、それからどこの馬の骨ともつかぬ輩までが、腐肉たかるハエのように押し寄せ、八王子の駅の乗降客数が普段の日の3倍に達した。
テレビ各局は、それぞれ何処からか「専門家」を見つけてきた。
「専門家」たちはめいめい勝手なことを言ったが、彼らの発言から無意味な修飾を剥ぎとってみれば、あとに残るものは何も無かった。
ただ、「裏山に掘られているという旧軍の地下壕を早急に調査すべきである」という点でだけは、「専門家」たちの意見は一致していた。
八王子署が地下壕の発掘調査に着手しなければならなくなるのは、時間の問題と言えた。

 だがオレは、全く別の突破口を見出していた。

「やっと終わりましたよ警部」
翻訳作業によるしょぼくれた目つきで現れた凍条の手には、ブリントアウトした紙束が握られていた。
「ラグランが学会誌に発表した論文の翻訳です。もっとも専門用語の訳は怪しいもんですが…」
「概略が判ればいいのさ。」
オレは凍条の手から紙束をひったくった。
バケモノの死骸発見から三日後の未明、ついにオレの目の前にラグランの研究テーマが朧な姿を現したのだ。
195「人を呪わば…」:2010/07/17(土) 00:08:08 ID:SIeqg+oL
ラグランの論文を徹夜で読も込んだ翌日の朝……というより当日の朝だが、仮眠室から部室に顔を出すなり、オレは本多部長に呼びつけられた。

 「岸田警部、八王子署が明日の朝7時から崩落した山の周辺で山狩りを行うそうだ。ついては我々不可能犯罪捜査部にもオブザーバーとして参加してくれないかと言ってきた」
「…なるほど。何の成果も上げられなかったときのためのスケープゴート要員というわけですね」
「まあそういうな。八王子署は近隣住民からの抗議の電話が鳴り止まないそうだ」
その朝までの時点で、保科氏とその使用人は、生きていると死んでいるとに関わらず、誰一人被災現場から発見されていなかった。
遺体すら発見されないのは、裏山が崩落した時点において既に住人が屋敷にいなかった。
つまり、例のバケモノの巣=旧軍の地下壕に連れ去られていたからではないか?
それは誰しも考える不吉な可能性だったろう。
次は自分たちがバケモノの餌食になるのではないか?
付近住民の恐怖は急激に高まっていった。
そしてそれと呼応するかのように、マスコミも半ば公然と警察を無能呼ばわりし始めていた。
「住民を慰撫するための気休めなんぞに参加させられるのは御免こうむりたいところですが…」
「ほう…」
本多部長の目が針のように細くなった。
「……警部、どうやらキミは、今回の事件について何か掴んだようだな?」
風当たりが強かったのは八王子署ばかりではない。
本多部長にも、事件の早期解決を強く求める圧力が警視庁上層部からかかっていた。
「まだ部長にもお話しできる段階てせはありませんが……今回の事件、一応の姿は見えたと、自分ではそう思っています」
十秒以上もオレの顔を眺めた挙句、諦めたように部長は言った。
「わかった警部。キミの考えをここで聞かせろとは言わん。ただ、例の件がもし外部に漏れれば、事件は政治問題化しかねん。ともかく急いでくれ」
「……わかりました」
「例の件」とは、マスコミはもちろんのこと、八王子署にすら知らされていない、警視庁でも不可能犯罪捜査部以外では警視総監を含むごく一部の者にしか知らされていない極秘扱いの事項だった。
科研は、怪物を調査した結果「DNA的にはまさしく人間である」と報告していたのだ。
196「人を呪わば…」:2010/07/17(土) 00:12:48 ID:SIeqg+oL
翌朝、まだ辺りがやっと明るくなり始めたころ…。
オレは凍条とともに車でやって来ると、指定された集合場所からは少し離れた保科邸跡で車を止めた。
「おい凍条、オマエはこれから所轄の連中と一緒に裏山で例の防空壕の入り口探しにつきおえ」
「あれ?それじゃ警部は防空壕探しには参加されないんですか?」
八王子署による地下壕探索は、他の警察署の応援も得て、裏山を含む丘陵地帯の全体に及んでいたが、被災地である保科邸跡は捜索対象には含まれていなかった。
「オレは別に調べたいことがある。オマエは……」
「なるほど了解です。警部を自由に行動させるための、ボクはオトリってわけですね」
「…たのんだぞ」
197「人を呪わば…」:2010/07/17(土) 00:19:30 ID:SIeqg+oL
目立つようワザと聞えよがしエンジンをふかしながら凍条が走り去ると、オレは独りでかつて土蔵が建っていた場所へと向かった。
備忘録を納めた小箱は土蔵にあったものと思われた。
しかし保科四朗氏や住み込みの使用人たちが寝起きしていたのはもちろん母屋だ。
では何故、備忘録は母屋でなく土蔵にあったのか?
更に備忘録に書きなぐられた意味不明の言葉…。
そして土蔵は、保科氏が幼少期を過ごした場所だった。
裏山などではない。
…すべてのカギは土蔵にあると、オレは考えていた。

 被災者救助活動のため、土蔵の上に覆いかぶさった土砂と瓦礫は一応取り除けられ、一部の壁が残る以外は、土台部分がむき出しの状態になっていた。
「保科四朗氏は、ここで子供時代を過ごしたのか」
一面だけ残った壁は分厚く、子供では到底手が届かないであろう高みに、小さな窓が開いていた。

昼でも薄暗く、明かりを点けねばいられなかったにちがいない。
そんな場所で過ごさねばならなかった四朗氏の少年時代。
そして……月日が流れ保科家の当主となってからは、思い出したくもない場所だったのではないか?
そんな場所に何故、四朗氏はあの備忘録をわざわざ置いたのだろうか?
「保科氏にとってここは……」
…オレは思わず考えを口に出していたらしい。
「……牢獄だったはずだ」
すると、間髪いれずオレの背後で返事があった。
「いや、まんざらそうでもなかったみたいですよ」
198「人を呪わば…」:2010/07/19(月) 00:00:20 ID:zIqccjVw
「……ダンナも呼ばれたてたのか?」
振り向くまでもない。声は万石のものだった。
「このあいだ、岸田さんに呼ばれたじゃないですか。それで今度は八王子署からお座敷がかかったわけで…」
「なるほど。スケープゴート要員パート2か。ところで万石のダンナ、さっきアンタはここが少年時代の保科氏にとって牢獄じゃなかったと、そう言ったように聞えたが?」
「ええ、たしかにそう言いました」
泥だらけの壁に指を這わせながら、万石は言った。
「母屋には、四朗氏のことを犬猫程度にしか思っていない、冷たい親族が陣取っていました。母屋での生活は、保科氏にとって人間以下の生活です。でもこの土蔵でなら…」
なるほどと…オレは思った。
子供のころからオレは、可愛げの無い現実的なガキだった。
だが、空想的な、想像力に富んだ子供なら、親族どものやってこない土蔵での生活は、むしろ……。「ここは…夢の世界だったと…」
「そう保科氏が言ったわけだな。万石のダンナ」
万石の口の端が、小さくついっと吊り上がった。
「…やはり調べ上げていましたか、岸田さん」
三日前、万石は保科氏のことを知らないと言ったが、それをウソだと確信したオレは、2人の接点を洗い出すことにした。
それは、いとも簡単に見つけ出せた。
「去年の9月、サンノゼで開かれた学会の出席者名簿に、保科氏とダンナの名前があったよ」
ここで初めてオレは、背後の万石へと向き直った。
「ダンナがここに来たってことは、もういいんだろう?そろそろ話してくれねえか?それともオレの方から話した方がいいか?」
199「人を呪わば…」:2010/07/19(月) 00:02:15 ID:vUpFc1I8
「……ダンナも呼ばれたてたのか?」
振り向くまでもない。声は万石のものだった。
「このあいだ、岸田さんに呼ばれたじゃないですか。それで今度は八王子署からお座敷がかかったわけで…」
「なるほど。スケープゴート要員パート2か。ところで万石のダンナ、さっきアンタはここが少年時代の保科氏にとって牢獄じゃなかったと、そう言ったように聞えたが?」
「ええ、たしかにそう言いました」
泥だらけの壁に指を這わせながら、万石は言った。
「母屋には、四朗氏のことを犬猫程度にしか思っていない、冷たい親族が陣取っていました。母屋での生活は、保科氏にとって人間以下の生活です。でもこの土蔵でなら…」
なるほどと…オレは思った。
子供のころからオレは、可愛げの無い現実的なガキだった。
だが、空想的な、想像力に富んだ子供なら、親族どものやってこない土蔵での生活は、むしろ……。
「ここは…夢の世界だったと…」
「そう保科氏が言ったわけだな。万石のダンナ」
万石の口の端が、小さくついっと吊り上がった。
「…やはり調べ上げていましたか、岸田さん」
三日前、万石は保科氏のことを知らないと言ったが、それをウソだと確信したオレは、2人の接点を洗い出すことにした。
それは、いとも簡単に見つけ出せた。
「去年の9月、サンノゼで開かれた学会の出席者名簿に、保科氏とダンナの名前があったよ」
ここで初めてオレは、背後の万石へと向き直った。
「ダンナがここに来たってことは、もういいんだろう?そろそろ話してくれねえか?それともオレの方から話した方がいいか?」
200「人を呪わば…」:2010/07/19(月) 23:33:03 ID:zIqccjVw
黙ったままで万石は、どうぞお先に、というように手で促した。
「それじゃあ、オレからいくか…」
丹念に床の泥を靴で掻き避けながら、オレは話しはじめた。
「まずこれを見てくれねえか?」
例の保科氏の備忘録を、オレは万石に手渡した。
「これは?」
「ちょうどこの辺りの瓦礫の山からオレが見つけだしたもんだ。周囲の状況からみて、このノートは母屋でなく、この土蔵にあったものだとオレは考えている。これが第一のポイントだ」
「……『だんだんおかしくなる』か……」
万石の視線は、開き癖のついた例のページに落ちていた。
「第二のポイントは例のバケモノだ。母屋の住人が消えたってこととの関係で、バケモノも裏山が崩れた時点で母屋にいたと思われてる」
話を続けながら、オレは靴のつま先で土蔵の床を寸刻みに探っていった。
「…バケモノの住処と疑われた旧軍の地下壕は荒山に掘られているという。そして母屋は裏山を背負うように建っていた。裏山のどこかにある出入り口から人に見られず母屋に行くのは造作もなかったろう…だが…」
そのときだ。
オレのつま先は、とうとう探していたものを見つけだした。
「……だが、バケモノの死骸が掘りだされたのは、母屋のあった場所じゃねえ。ここだ。この土蔵だということだ」
話はそのままに、背広の汚れるのも構わずオレは片膝つくと、床に残った泥を両手で掻き避けた。
「この二つのポイントから考えられることは……」
間違いない!ここだ!
保科氏は土蔵での暮らしの中で、偶然発見したに違いない。
……そしてオレの手はとうとう隠れた仕掛けを探り当てた!
「……二つのポイントから考えられること。それは、例の地下壕の入り口が、この土蔵の中にあるってことだ!!」
オレが断言すると同時に、床の石組みの一部が、ガクンと大きく口を開いた!
「…やっぱりな」

覗きこむと……真っ暗な地の底から、湿った臭いが吹きあがって来た。
201「人を呪わば…」
「さてと……」
オレは持ってきた荷物の中から懐中電灯を取り出し、床に開いた四角い穴の中に向けスイッチをいれた。
「……意外と広いな」
懐中電灯の明かりが届く限り、地の底へと階段が続いていた。
土蔵床の扉の建てつけが、よほどしっかりしているのだろう、中には殆ど泥水が侵入しいない。
「オレの想像が当たってりゃ、ここから旧軍の地下壕に行けるはずだ。オレはこのまま中に入ってくつもりだが、ダンナは……」
「ダンナはどうする」と聞こうと思い振り返ると、万石も自前の懐中電灯を着けたところだった。
「もちろんついてきますよ。岸田さんの話の続きも聞きたいですからね」
黒いカバンをとりあげながら万石が言った。
これから行こうとする場所にはとても不似合いなカバンだが、同時にどこかで見たような気のするカバンだった。
「そんじゃあ、はぐれんなよ」
オレは懐中電灯を左手に持ち替えると、湿っぽい臭いの漂う地下への階に足を踏み入れていった。