シェアード・ワールドを作ってみよう part3

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168犬ども(19) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/03(火) 11:49:34 ID:GGKGvDst
(1/6)

アルフと入れ替わりに、シドがレイチェルの肩を抱いて現れた。
「ハイ、来たよ」
レイチェルがおれに手を振った。二人の後ろから、ぞろぞろと空賊たちがついて来た。
二日酔いと寒さとで連中の顔色は悪かったが、表情は陽気で、今夜も潰れる腹と見えた。
レイチェルがヴィッキイと話しはじめたので、シドは彼女から離れておれの左隣、アルフの座っていた席についた。
「ジェリコは何と?」
「彼は引き受けた、今夜さっそく仕掛けるとよ。値段を言うぜ」
耳打ちされた値段に二人で顔を見合わせる。相場の倍はふっかけられた。
シドがテキーラの瓶を取り、おれも瓶を差し出して乾杯した。
「お勘定するのがブルーブラッドだと思うと愉快だな」
レイチェルがおれたちの側に来た。彼女の仲間たちは、店の少ない席を埋めてもう飲みはじめている。
「今夜はあの店じゃないんだな。ヴィッキイは絶対負けちゃくれないが、いいのか」
「余計な借り作りたくないって言ったろ? 飲み代だってたまにゃ自分の懐から出さなきゃ」
彼女はシドの左に座り、
「用事もあんだよ、飛びっきりの情報だ。
帝警の手入れを生き残った陸空賊たちが明日の夜、帝都から高飛びする。船が出るんだ」
シドが重々しく頷く。
「ダウンタウンは清潔になったが、まだしぶとく貧民窟に潜ってるやつらが居る。
何とあの『ハルム』の自動鎧が魔女窯通りに売りに出されてね、売り手を探したら
そいつが地獄穴の大地主の子分だって分かったのさ。ついさっきの事だ。
で、その貧民窟の王様に取り入った陸空賊の連中が帝都脱出を画策してるらしく、
市内に残ってる仲間に声をかけてるんだ。集合場所はイーストエンドの倉庫街」
「港じゃないのか」
「リバー・ボートならそこらの岸壁にもつけられるよ」
「だが、大した人数じゃないな」
「貨物船を使うのかも」
「ずいぶんとあやふやな話だ。自動鎧を売ったやつの尋問からか?」
シドがまた頷く。
「まあね。それと後は、レイチェルの調べだ」
「連中大急ぎで仲間をかき集めてるんだよ。あたしらにまで声がかかったくらいさ」
レイチェルがシドのテキーラを自分の側に寄せて、瓶の口を嗅いだ。
「人数が必要な仕事なのか、そんな宣伝してまで?」
「帝都で処分しきれなかった在庫を運ぶのに人手が要るんだとよ」
「自動鎧を売ったやつを見せてくれ」
シドに言った。彼は立ち上がると、レイチェルの肩に手を置いて、
「悪いなレイチェル、そっちで分かった事があったらまた伝えてくれや」
テキーラ片手のレイチェルがウィンクで応える。おれたちは店を出て、スケルトンまで走った。
雨を払いながら慌しく乗り込むと、シドの運転で人通りの少ない魔女窯通りをゆっくりと流した。
「そいつ、地獄草の中毒者じゃないだろうな」
「少なくとも今は素面だ」
169犬ども(19) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/03(火) 11:50:07 ID:GGKGvDst
(2/6)

服を乾かす間もなく尋問室へ――五課の刑事たちが奥に固まって何か相談している。
一番奥はいつもリビココを入れている部屋だ。ブルーブラッドの顔も見えたが、やつはおれたちに気づかなかった。
おれたちは廊下の途中のドアを開け、尋問室の椅子にだらっと腰かけた乞食と対面する。
乞食は顔面が髭と垢で真っ黒になった若い男で、煤けた外套を羽織っており、
前髪と眉毛に半ば埋もれた、鉛色の、光のない二つの目が狭い尋問室の中のおれたちの動きを追った。
机の上には、持ち物らしい磨り減った骨のサイコロ二個と木のカップが置かれていた。おれは呼びかけてみた。
「よう、元気か」
「ん、元気だあ」
乞食はしゃがれた声で答えた。おれが座って、シドが乞食の横に立つ。
シドは乞食の肩に手を乗せ、親しげな口調で話しかけた。
「こいつはジェイン、おれの相棒なんだ。さっきの話をもう一度、こいつにしてやってくれないか」
「大将がこれ売って金作ってこい言って、一昨日くれえに魔女窯ん店で売ったんよ」
言いながら、乞食の両手は忙しなく動いた。手を前に出し、指を立てたり引っ込めたり、
何かサインのつもりらしいがおれには全く分からない。
「『これ』ってのは、自動鎧の事だな」
「んでおれ大将これどこで拾ったのよてえ聞いたらさ、空賊さんがくれたあ言うて
その空賊さんが代わりに船買いたい言うから大将売ったんよ」
鎧を売った空賊とは、おれたちが一ヶ月前、ノミ屋を叩いた時に逃げたあの男かも知れない。
シドに目を向けると、やつも勘づいているようでおれに目配せを返した。
「で、お前の大将は船まで持ってるのか、羽振りがいいな」
「偉いさんのお客がいっぺえ居んのよ、あん人にゃあ」
「どんな船を売った? それは何処にあるんだ?」
「知らん」
「大将さんに会わせてくれないか?」
「いんや駄目だ、あん人出かけてる」

その後も幾つか質問をしたが、要領を得ない答えばかりだった。
地獄草の常用者は痛覚が鈍になる。棍棒でどやしてもたぶん無駄だと考え、おれたちは質問を諦めた。
尋問室から出てシドと話す。廊下の奥を見ると、五課は全員リビココの尋問室に篭ったようだ。
「地獄穴の大将が手引きか。連中、上手くやったな」
シドが深呼吸する。今晩は湿気が乞食の体臭を強めていて、尋問室は少しきつい匂いがした。
おれは平気だったが、シドはずっと唇の端だけで息をしていて、顔が赤かった。
彼は乞食の肩に置いていた手を廊下の壁に擦りつけながら、言った。
「貧民窟は潜入捜査ができない。まさか陸空賊が、あそこの住人とよろしくやれるとはね」
「あの男は伝書バトだ。おれたちが目をつけるように、わざと自動鎧を売りに出したんだ」
「地獄穴を直接叩くか?」
「それは危険だ。市警とトラブルになったばかりだし、今おれたちが踏み込むとやばい」
そう答えた。昨晩の銃撃戦は表向き平穏な決着を迎えたが、
帝警とイーストエンド一帯の市警分署とは確実に遺恨が生じている。
娼婦殺しの捜査で一課も出張っているから、どちらかと現場でややこしい事態になるのは目に見えている。
おれ自身が出向かず誰か他人に任せたとしても、立場上おれは空賊狩り軍団代表の一人になっているから、
昨日と今日の二つの事件はおれ個人でなく、空賊狩り軍団全体が関係していると見なされているだろう。
隠密裏に動く手もないではないが、貧民窟には手がかりがない、つまり案内役が居ない。
貧民窟内奥部の治安の悪さを考慮すればどうしても一定人数が必要で、それでは目立ってしまう。
170犬ども(19) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/03(火) 11:51:04 ID:GGKGvDst
(3/6)

「『マレブランケ』が、その船で逃げるつもりだと思うか」
半信半疑な様子でシドがおれに訊いた。
「わざわざ知らせてくるからには陽動だろう。だが陽動にしちゃあからさますぎる」
「地獄穴の大将が陸空賊を、おれたちに売ったって事かな」
おれは考えた。地獄穴の大地主というのが、一体どれだけの権威を持つ名前なのかを知らない。
「やつが言ってた、偉いさんの客ってのはどういう意味だ?」
シドがにやりと笑って、
「貴族や金持ちの火遊びだ。山の手よりもああいうところで楽しむやつが居るんだ」
「そして、そいつらとのつながりを喧伝する――脅しだ。地獄穴には手を出すな」
「だが陸空賊は明日船出するぞ、と教える。面倒くさい、逃がしちまうか? 聞かなかった事にして」
「陸空賊の宣伝はどの程度なんだ?」
「情報はレイチェルからだったが、捜査員が裏を取ってるところだ」
「もし街で派手に宣伝されていて、それでおれたちが食いつかなかったら
本当に逃げられた時に名目が立たんぞ。地獄穴からのタレこみもそうだ。
これがきっかけで、貧民窟が放置されてる現状を『シルフ』辺りが騒ぎ立ててみろよ」
「陽動かも知れないと分かっていながら、おれたちは動かざるを得ない」
話しながら外に出ると、ジェリコの使い走りのちんぴらがおれたちを待っていた。
ちんぴらは獲物――市警十四分署のブットゲライト署長の居場所を託っていた。おれはシドに言った。
「ブルーブラッドに話を挙げて、捜査と戦闘準備を頼む。おれは今から十四分署を締め上げてくる」
「義足の子供の件は気にするなよ」
「してねえよ」

準備してあった金を持ち、シドの車でまたもイーストエンドへ――ここ数日通いづめだ。
教えられた倉庫に着くと、ジェリコが出迎えた。
「えらく早いな。首尾は?」
「上々」
ジェリコは倉庫の中へ顎をしゃくった。最初は分からなかったが、
彼が灯りを向けると、暗がりに制服姿の男がふんじばられているのが見えた。
「中に居るよ。彼はおおむね健康だ、尋問に支障はない」
171犬ども(19) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/03(火) 11:52:11 ID:GGKGvDst
(4/6)

「そんなにかからないと思うんだが、見張っててもらえるか?」
「もちろん。どうぞ楽しんで」

灯りを渡された。おれが倉庫に入っていくと、後ろでジェリコが扉を閉めた。
床に転がってもがいている男に近づいて、ランタンの光で顔を確認する。
髪の薄い、げっそりと痩せて気味の悪い男だった。くつわを噛まされたまま奇妙な声で唸っていた。
男の制服を漁り、手帳とバッジを取って、見た。こいつが十四分署の署長で間違いない。
壁際まで引きずっていって、それから猿ぐつわを外した。
「お互い誰だか知ってるだろうだから、自己紹介は省く」
手足を縛られたまま壁にもたれた署長は、おれをじっと見つめて動かなかった。
「昨日は世話になったな」
署長の眉が一瞬動いた。
例え一目で気づかなかったとしても、おれが誰だか、これでもう見当はついているはずだ。
「お前の兵隊は全員死んだらしいな。連中にとって命を賭けるほど、大事なお宝だったのかい?」
答えない。
「三人組にいくら貰った?」
反応なし。皿のような目でおれの胸元を見ているだけだ。頬を張って、
「あんたの愛人、あの人形屋の女から紹介されたんだろうが、いくら貰って死体を売った?」
答えないので、裏拳で殴った。鼻血がたれたが、まだ平気なようだ。
しかし、目にうっすらと怯えの色が浮かんでいた。視線がふらつき始めていた。
もう一度殴ると、顔が引きつりだした。あまり辛抱強いほうではなさそうだ。
「言えよ」
おれは署長の背中に手を回して、後ろで組んでいたやつの両手をこじ開けた。
手探りでどちらかの人差し指を一本引っつかみ、手の甲の側へゆっくりと曲げた。やつはびくりと震えた。
「言うんだ」
指を折った。小さな音と、嫌な感触がした。署長は息と一緒に泡を吐き、広い額には青筋が立った。
次に中指を折ると、いよいよ声を上げた。おれは今度は親指を掴んだ。署長がわめく。
「言えば殺される」
「言わなきゃここで死ぬぜ。どっちか選べ、それくらいしか今のお前にできる事はない」

五連発のほうの拳銃を抜いて、眼の前で弾を一発詰めてみせる。
おれは銃を見ないで回転式弾倉を何度か回し、署長に突きつけた――ゴリニシチェ発祥のルーレット遊び。
「賭けるか? 確率は五分の一だ」
本当は、銃を構えたおれのほうからは弾倉のどこに弾が詰まっているかが見えている。賭けにはならない。
それでも、立て続けに二度引き金を引いてやると署長は観念して、
「言うよ」
「よし、言え。どういう取り引きだったんだ?」
172犬ども(19) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/03(火) 11:53:20 ID:GGKGvDst
(5/6)

署長は話した。アダムス夫人に紹介された三人組は、
イーストエンド一帯の墓地の死体を安全に盗掘したいと、彼に取引を持ちかけた。
署長は商談に応じ、大金を貰う代わりに新しい埋葬の情報を三人に教え、また、
墓荒らし事件を自ら担当し形だけの捜査を行うと約束した。自警団を襲撃したのも彼の部下の警官だ。
彼は墓荒らしの人員まで斡旋しようとしたが、三人は自前の道具があるので大丈夫だと答えたそうだ。
おれはヴィッキイの店から持ち出したテキーラを彼に飲ませながら、質問を続けた。

「三人組の格好は覚えているのか? 何て名乗ってた?」
「話したのは黒ずくめの男だけだ。マントと帽子――大男だった。
顔は帽子で隠していて分からなかった。そいつはジョンと名乗った」
「ジョン・スミス?」
「そうだ」
署長は何度も頷いた。青かった顔は、今は酒で赤みを帯びていた。
「後の二人は? 覚えているか?」
「髪の黒くて長い、それと山羊髭で、色の白い男が居た」
「目の色は?」
「覚えてない――青か、緑だったような気がする」
「名前は?」
「そいつは一言も喋らなかったが、ジョンは『ダグ』と呼んでた」
「もう一人」
「たぶん女、真っ赤なチャドルを着た女」
「名前は?」
「分からない。その女も喋らなかった」
「ジョンの喋り方に特徴は? 訛りとか」
「ああ、あった! ジョンにはすごく変な訛りがあった」
「真似できるか?」
「無理だ」
「冗談だ。どこの訛りか分かるか?」
「ミカール島訛り、だと思う」
「そいつは魔法使いなのか?」
「そう名乗ってた。冗談だと思ってた」
「切り裂き事件はやつの仕業だと思うか?」
「かも知れない。得体の知れないやつだった。取り引きの事が誰かにばれたら、おれたち全員を殺すと言った」
「何故あの娼館でおれたちをローストしようと思いついたんだ?」
署長は少し固まったが、おれが瓶で脇腹を小突くとまた喋りだした。
「病院前派出所の職員を買収してたんだ。あんたらが嗅ぎ回ってるし、変な事件はあるしで
やばいと思ってた。部下に警告をさせて、それでも続けるから――」
「あの建物の事は知ってたのか?」
「おれたちの地元だ。あそこは貧民窟でも比較的ましなところで、おれたちも出入りできたんだ」
「三人組に不動産を紹介したりは?」
「してない。おれは紹介しようと言ったんだが、やつらが断った」
173犬ども(19) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/03(火) 11:54:06 ID:GGKGvDst
(6/6)

「貰った金は全部使ったのか?」
目が泳いだ。俄かに欲が湧いてきた。
何も私腹を肥やそうというだけではない、これからの捜査の費用として使うのだ、と自分に言い訳する。
「まだあるんだろう? 教えろよ。隠し場所は?」
答えないので、脇に置いてあった拳銃を取ると、署長はまたぺらぺらと喋った。でたらめではなさそうだった。
部下が全滅した今、署長にそれらを回収する手段もなく、
隠していてもいずれ五課か市警が見つけて、横取りされるだろうし
それに、署長自身にしても必要最低限の金は手元には置いてあるはずだ――逃亡資金くらいは。
取られるなら誰に取られても同じだと、イーストエンド中の隠し場所をおれに教えた。最後に訊いた。
「地獄穴の大地主ってのと仲はいいのか?」
「話には聞いてるが、会った事はない。オーラムの貧民窟の総元締みたいなやつだって」
縄を解いた。署長は立ち上がり、おれが指を折った手を擦っていた。倉庫の入り口まで連れて行く。
「よし、家に帰れ。そしてすぐに荷物をまとめて、この街から出て行くがいい。
おれは優しいからこれぐらいで勘弁してやるが、ジョンやお前さんの職場はそんなに優しくないと思うぜ」

扉を開けて、ジェリコに署長を引き渡した。
「署長殿をお送りしてやってくれ」
「いいよ」
署長はジェリコの車に放り込まれた。運転席には、おれの知らない新顔のちんぴらが座っていた。
おれは一服しながら、ジェリコがおれの持ってきた金を勘定するのを見ていた。
「しかし、早かったな」
「市警の警護はあったが、アレックスが普段から鼻薬嗅がせてるやつらだったからな。
そういったコネ代も経費に入れてるが、今回はボスの払いとシドに聞いた。いくらお前に戻せばいい?」
「取っとけ。代わりに、新しい仕事を頼んでいいか?
おれたちのボスを尾行して欲しいんだ。帝都警察本部、内務調査五課課長のブルーブラッド警視」
「それもボスの払いか?」
「自腹だ」
「少し負けといてやるよ」
174 ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/03(火) 11:54:48 ID:GGKGvDst
投下終わりました
175創る名無しに見る名無し:2009/03/04(水) 01:26:17 ID:T/AMCtha
>>174
投下乙
5/6の尋問のところだけ台詞が少々多すぎる希ガス
他のところのように間に仕草とかを挟んだほうが良かったのでは?
176創る名無しに見る名無し:2009/03/10(火) 13:16:16 ID:ftgPm/P4
まとめサイト更新しました。
不備がありましたら、報告をお願いします。
177 ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/10(火) 22:13:17 ID:/bz5E9bj
投下します
178犬ども(20) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/10(火) 22:13:57 ID:/bz5E9bj
(1/7)

署長の尋問から帰ると、明日の出入りに備えて仮眠を取った。
一晩中悪夢にうなされ、朝方目が覚めると人差し指が痺れていた。夢の中で何度も引き金を引いたせいだ。
仮眠室を出て、刑事部屋でおれの代わりに徹夜していたシドと会った。
今朝は、昨日の大雨が嘘のような快晴だった。
徹夜組の刑事たちは直射日光に耐えられず、捜査本部の窓には全て日除けが下ろされた。
「裏は取れた。今朝早くから、陸空賊の連絡員らしいのが何人も、街をうろついてるのが目撃されてる。
残党どものせこいアジトが幾つもあって大忙しみたいだ、交番の前でも平気で歩きやがる」
シドは灰皿に積もった吸殻の中から、比較的長めの一本を取って火をつけようとしたが、
おれが自分の『キュニコス』を差し出すとそっちを取った。
刑事部屋の他の机と同様、シドの机はインクと灰とコーヒーで汚れていた。
「手持ちが切れてんだ」
「何人かしょっ引いたのか?」
「それが駄目なんだ。必ず三人連れ以上で、あからさまに武器を帯びた感じでいるらしいから、
拳銃を持ってないパトロール巡査には危険で近づけないよ。
刑事でも駄目だ。撃ち合いになれば殺しちまうし、そしたら今しょっ引く意味がない。
尾行はつけてるが、連中尾行されるのを見越してやたら走りやがるから一人じゃ足りない。
おまけに貧民窟をまたぐやつもある。あの中だけで歩き回ってる陸空賊も居るようだな」
「アジトは?」
「どれも規模は小さくて、一個ずつなら潰すのは簡単だ。
ただ、数が多いし街中に散ってる。二日ありゃ綺麗に片付くだろうが、一日じゃ限界があるね」
「そんな戦力、本当に残っていたのか?」
「いや、どうも水増ししてるようで、ほとんど空き家らしいのを回ってるよ。
ただ、中には本物のアジトもあってそこは武装してる。空き家に見えても、隠れてるやつが居るかもな」
「仕掛けてみないと分からんか。烏合の衆とばかり思っていたが」

聞く限りの連中の行動は、一日時間を稼ぐには悪くない方策のように思えた。
ダウンタウン始め、街中の地回りは空賊狩りの手入れに巻き込まれないようなりを潜めているから
今なら街を歩いてもやくざ同士で潰しあう心配はない。
また、連絡員は武装しており、おれたち警官にとっても接触はリスクが大きい。
頭数を揃えてかかってみたところで、貧民窟に逃げ込まれたらそれまでだ。
市警の応援も当てにはならない――十四分署の件があってからはなおさらの事。
陸空賊が明日まで街に残っているなら、一日待って安全な作戦が立てられるが
地獄穴からのタレ込みでは今夜にも逃げ出してしまうというから、それでは間に合わない。

「貧民窟に逃げ込んだ生き残りを『マレブランケ』が教化したんだろう。
雑魚は大物を逃がす為の盾に使われるが、連中にしてみりゃ街に残るより逃げられる確率は高いだろう。
ずっと貧民窟に隠れてるなら別だが、この街で貧乏暮らしするくらいなら砂漠で強盗団やった方がましだ」
「どうやって貧民窟と組んだんだ?」
「地獄草や武器と交換だろう」
シドは答えたが、その答えに然して自信のある訳でもなさそうだった。
「だが、話が通じる人間じゃないぜ、あそこの住人は。それに、狩りが始まる以前の監視じゃ
陸空賊が貧民窟に出入りした例はない。あの自動鎧の男くらいのもんだ」
「『マレブランケ』なら分からんさ。それとも例の三人組かな? 誰かが話をつけてたのは事実だ」
「一年かけてゆっくりと?」
「どうだろうね」
179犬ども(20) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/10(火) 22:14:40 ID:/bz5E9bj
(2/7)

ブルーブラッド、おれとシド、ガーランド、その他空賊狩り軍団の主だったメンバー十人ほどで
本部え一番広い会議室を取って集まる。
レイチェルからの情報と今朝行われた裏づけ捜査の結果を吟味し、連中の逃亡を阻止、摘発する作戦を練る為だ。
おれたちが長机にオーラムの地図と捜査資料を積み上げていると、オットマンまでが病院から帰ってきて会議に加わった。
具合を尋ねると、ただ黙って頷いて返した。着席。「倉庫街全体では範囲が広すぎる」とブルーブラッドが言った。
「地獄穴の大将を探して、船の在り処を聞き出すか?」
「貧民窟を突くには人手が足りない。今は倉庫街の周辺に停泊中の船を調べ上げるより他ない」
ダナウェイが頭を抱える。他の刑事たちも、情報のあやふやさに戸惑っている。
「その船が多すぎるんだよ。港も含めたらどうなる、絶対間に合わない」
「やるだけやって、相手が怖じ気づいてくれたらな」
誰とはなしに呟くが、ブルーブラッドがにべもなく否定する。
「それはないだろう。事ここに至っては、帝都を脱出する以外にやつらが生き延びる術がない。
そのつもりで連中は喧嘩を売ってきたんだ。もう、海の上しか逃げ場はない」

長机の上座についたブルーブラッドは頬がこけ、顔色も青黒く、眼光ばかりが鋭い。
おれたち以上には眠っていないのは明らかだが、どこか腹をくくったような表情をしていた。
おれと目が合うと、妙な笑い方をした。気味が悪い。シドが地図を食い入るように見つめて、言った。
「陸路は絶対に無理か?」
ガーランドが首を振る。やつは早くも、背広からあの汚れた迷彩服に着替えていた。
「無理だね。大勢で動けば目立つし、ばらけたら検問を強行突破できない。
確かに徒歩か小型の車両で道を選んで移動すれば、時間はかかるが検問は逃れられるかも知れない。
しかしどの道砂漠に出るし、出たら公共の交通機関を利用するしかないんだからね。そこで捕まるよ」
「乗り物や装備があれば単独で砂漠を越えられる」
「装備を担いで街を歩くか? それこそいっぺんに捕まっちまう。
外壁の門にも検問があるからな。壁をよじ登るんなら別かも分からんが」
「水上警をかわして川を出られるか? 海に出て、海軍の追跡を逃れて南部や外国に行けるか?」
二課のスターリングが指でスナーク川をなぞった。シドが答える。
「外海に出るつもりなら、燃料や補給の問題を考えて大型の帆船を選ぶだろう」
「汽帆船だ」
「地獄穴の大地主が、どの程度の資産を持っているかだ。それで船のレベルが決まる」
「金持ちならさっさと貧民窟を出る。だから、それほどではない」
「だが、もしやつが地獄草の貿易にまで噛んでたら、結構な船が手に入るぞ」

「水上警の検問はどうする、偽装できるか?」
とおれが言うと、
「最初から貨物船を買うだろう。水上警に見せる書類の判子が本物かどうかは分からんが」
「立ち入り調査で荷を調べられればどうする?」
ガーランドが答えた。
「時間があれば、人間は船員に化けさせる。
だが帝都で処分できなかった在庫を運ぶってんで、仲間を集めてるんだろう? それも積むはずだ」
ブルーブラッドが口を挟む。
「地獄草も武器も許認可制で、規制は決して緩くない。生半可な偽造書類じゃ水上警は騙せんぞ」
180犬ども(20) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/10(火) 22:15:30 ID:/bz5E9bj
(3/7)

シドが手を揉む。地図を睨み、倉庫街を見下ろしながら
「あるいは地獄穴の大地主のコネで、認可を受けた会社の名前を使えるのかも知れんが
そうなればその、看板の枚数ってのは限られる――そもそも会社の数が少ないって事だ。
イーストエンドの倉庫街で、公式に武器か地獄草を扱ってる会社だけ選び出すのは簡単だ。
その中から条件に合う船を絞り込み、重点的に調査と張り込みをする」
頷きながら、ブルーブラッドが椅子にもたれた。
「よし、ひとまずそれでやろう」
「追跡班が発見したアジトは放置か? 全部でなくてもいい、潰して回れないか?」
おれの意見に、ブルーブラッドはガーランドを見やりつつ、
「本当に空賊が隠れていると確認できたアジトには、ガーランドの遊撃隊を寄こす。
ただし夕方までだ。夕方になったら呼び戻して、倉庫街の警戒に当てる」
ガーランドがにやにやする。撃ち合いが楽しみで仕方ないらしい。
線が細く見られがちの詐欺・知能犯二課の刑事たちの中で、やつだけは露骨に武闘派の刑事だ。
おれと立場を変わって欲しかった。アルフのやつ、「台風の目」だと?
「見つけたアジトってのは、具体的には幾つあるんだ?」
ガーランドの問いに、シドが肩をすくめる。
「今の時点で十五箇所。どうせ次の連絡時間にまた増える」
「ほとんど嘘じゃないの」
「空賊団残党は、確認されているだけだと十七人。
捜査中に名前が挙がっただけで、存在が確認できていないのを含めると二十八人」
「減ったねえ」
「それだけ精鋭揃いって事だ」
「名前だけで確認できてない十一人――」
おれとブルーブラッド、同時に呟いた。
「『マレブランケ』」

その後も計画を煮詰め、朝の九時ごろには刑事部屋から空賊狩り軍団の刑事どもを招集する事になった。
今の空賊狩り軍団には、数日間の尋問とデスクワークに倦んで
気分転換がしたいという凶暴な男たちが少なくない。入ってくる誰もがぎらぎらと目を光らせている。
その中で一番、目に危険な光を湛えたブルーブラッドが、
外回りを除く三百人全員の着席を確認して、作戦の説明を始める。
「今夜、空賊団の残党がイーストエンドの倉庫街に集結するとの情報が入った。
彼らの目的は、イーストエンド南部の貧民窟、通称『地獄穴』の大地主と呼ばれる男から
自動鎧一体と交換で入手した船舶を利用し、スナーク川より帝都を脱出するものと考えられる。
彼らが入手したという船舶の所在、船種、搭乗員数等の詳細は不明。
最終的な目的地も分かっていないが、おそらくオーラム港を通過するつもりだろう。
乗船後の追跡をかわす為には貨物船、客船等商船を装う、
あるいは港で何者かの手引きを受けてそれらに乗り換える、乗っ取るといった手段が考えられるが、
今回の摘発では彼らが船舶に搭乗する直前、彼らが停泊地に集合する段階でこれを叩きたい。
具体的な方策としては倉庫街周辺での検問、倉庫街に係留されている船舶の調査、
これらをオーラム市警察およびオーラム水上警察と連携して陸・水同時で行う」
ブルーブラッドが喋り終えると、そこにシドが続く。
「なお、現在追跡班が監視中の空賊団員は強固に武装しており、
今夜の逃亡計画に参加する他の空賊団残党も、同様に武装しているものと思われる。
捜査員各員は、この後伝える配置や個別の任務の内容の如何に関わらず
必ず装弾した火器を携行し、二人ないしは三人一組で行動する事」
次に刑事たちの配置が告げられた。人員の大半は倉庫街へ集められ、大型商船、
特に武器と地獄草の輸送に使用されているものを優先して乗船調査、監視する。
更に工場街、オーラム港へも人を遣り、貧民窟の周辺や宿場町で警戒に当たる。
帝警の各支部と、水上警の協力も取りつけられた。万一の事態を予想して帝国陸軍にも連絡が行っている。
「現時刻をもって作戦開始とする。配置につけ」
ブルーブラッドが立ち上がる。三百人の刑事たちも一斉に立ち上がり、各々の仕事に向かう。
おれも立って、その足でアルフに教えられた蒸気工房へ行く。
181犬ども(20) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/10(火) 22:16:42 ID:/bz5E9bj
(4/7)

魔女窯通り、あの『鉄槌』の隣、『サンジェルマン』にはシャッターが下りていた。
休業中と書かれた張り紙があったが、構わず拳でどやした。
見た目はごく普通のシャッターだが、素手ではびくともしない。今度は改造拳銃の銃把で叩いた。
五分ほど音を立てて叩き続けていると、シャッターがいきなり左右に蛇腹に折れて開いた。
工房主の技術力を見せつけるかのような滑らかな動きだった。
代わりに現れたのは時計台の中身のような錆色の歯車の密林で、おれがあっけに取られていると
巨大な歯車の隙間から、エプロンドレスの女が身を屈めて出てきた。奥から男の怒鳴り声がする。
「休業中と張ってあるだろう、見えんのか」
おれはエプロンドレスを越して、工房の奥の男に聞こえるよう怒鳴り返した。
「帝都警察組織犯罪三課のジェイコブズラダー警部補だ。
殺人・強盗一課のニコルズ警部補からこの店を紹介された」
エプロンドレスがずい、と前に踏み出してきたので、コートを開いて胸のバッジを見せた。
女は表情のない、冷たい雰囲気の美人だった。互いにそのまま動かずにいると、男の声がした。
「デルタ君、お通ししなさい」

デルタと呼ばれた女に案内され、壁中が蒸気機関と時計仕掛けの工房に分け入っていくと、
奥で技術書に埋もれて白衣の男が、工作機械のような鋼鉄の椅子に座って待っていた。
その男の頭にまで、何に使うのかも分からないゴーグル状の機械が乗っかっていて
一瞬顔が分からなかったが、彼が重たげなそれを外して床に置いてしまうと
その顔は昨日の引き上げ作業とラボとで見た、保安局の若い私服の連れで間違いなかった。
「ドクター・ノース?」
「いかにも。何を聞きたい?」
おれは床に積まれた本の山に勝手に腰かけたが、ドクター・ノースは特に気にする様子もない。
「全部だ。ワーニャという男は何者だ? ジョン・スミスというのは?
保安局の目的は何だ? テロ屋は何を企んでる? 切り裂き事件と空賊とは関係あるのか?」
訊きながらおれが煙草を吸うと、どこかで小さな歯車の動く音がした。
室内に静かな風が吹いて、紫煙がおれの背後の溝を切った壁に吸い込まれていく。
ドクターがにやりと笑って、いつの間にか足元に置かれていた灰皿を指差す。
「我輩はこうして蒸気工房を開いて空賊相手の仕事なんぞしとるが、
本当は個人的な研究が第一でな。これも資金集めの為、研究の為なのだ」
「アカデミーを追い出されたんだろ? 昔は教授だったって聞いたぜ」
おれがエントゼールトに聞いた限りの事を話すと、彼はふん、と鼻を鳴らして、足を組んだ。
「我輩の方からおさらばしたのだ。頭の固い老人たちの、退屈な政治ごっこに付き合うのが嫌だった。
我輩は純粋な学問の徒だ、純粋に研究に没頭する為、野に下ったのだ」
「女のはらわたを集めるのも研究か?」
「彼にとってはそうかも知れんな」
デルタが盆にコーヒーを乗せておれたちのところに来た。煙草を灰皿に捨て、
カップをひとつ受け取って飲みながら、ドクターに先を促した。
「我輩はこれまでずっと研究第一に生きてきながら、
若い時分はそのあまりの優秀さ故に、期せずして様々な人種と関わる羽目になったものだよ。
だがお陰で、今ではちょっとした情報屋などという稼ぎもできるようになってな」
「コーヒーがうまい。豆屋の知り合いも?」
「知り合いの事業家が南部に農園を持っている。それも確かに若い頃からのコネだな」
ひとしきりコーヒーをすすると、ドクターがカップを置いた。
182犬ども(20) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/10(火) 22:17:39 ID:/bz5E9bj
(5/7)

「ワーニャは二十二年前、我輩がまだ教授をやっていた頃の教え子なのだ。
初めて会ったとき、彼は二十歳だった。彼もまた優秀な若者であったが、
諸々の理由で母国の革命運動に巻き込まれ、結局二年ほどでアカデミーを去らざるを得なかった。
風の便りで、その後彼が東南方の植民地解放運動に加わっていると聞いていたが
去年の冬に突然我輩を訪ねてきてな。彼は帝国抵抗軍の下である研究を行っており、
その研究の為に我輩の技術や機材を買いたいと言ってきた。
我輩はテロリストは嫌いだが、若い頃の彼は素晴らしく才能のある学生で
よく我輩を慕ってくれてもいたし、彼の現在の研究というのもなかなか面白かったので、
この工房の売り物を直接テロ活動に使わない、という条件つきで協力したのだ。
しかし、後で調べると彼の発明が実は危険極まりない代物で、
また帝都における彼の活動というのも同じく危険なものだと判明し、今年の春には協力を打ち切った」

またもや脳裏に探偵のメモ――「ワーニャ」「発明品の実験」「抵抗軍/赤軍」。おれは黙って続きを待った。

「その後我輩は、保安局から彼と彼の仲間に関する問い合わせを受けたので
帝国臣民の義務として彼らを密告した。我輩は、今度は保安局のテロリスト狩りに協力した訳だ。
しかし、その保安局の捜査も段々怪しく思えてきた。陰謀の匂いがした。
ある筋から特務もワーニャを追いかけているらしいと聞いて、我輩は気になった。
その内に、壁一枚挟んで隣の工房で殺人事件が起きた」
「それがワーニャの仕業か」
「そうだと思う。隣とはあまり付き合いもなかったが、やくざな商売をしていた事は
匂いで何となく分かるものだ。我輩も似たようなものだからな」

ドクターは自嘲めいた口振りで話した。
テロ屋のワーニャ、テロ屋の友達だった『鉄槌』のオハラ。
繋がりはありそうだが、具体的な関係までは推理できない。
アルフもドクターも信用しきれない、裏づけが必要だ。
183犬ども(20) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/10(火) 22:18:17 ID:/bz5E9bj
(6/7)

「留守にしてたのは、あんたも殺されると思ったからか」
「偶然余所で用事があっただけなのだが、まあ、半分はそうだ。うちの鍵は頑丈だったろう?」
おれとシドに、砲兵を呼べ、と言った警官の報告を思い出して笑った。
「どうもこのところの娼婦殺しは、ワーニャじゃないかと考えていてね。
確証はないが、あの死体を解剖する手口は彼の研究に関係があるんじゃないかと思うんだ。
保安局やニコルズ警部補の捜査からも、このところオーラムの裏社会に何か騒動が起こっているのが分かる。
殺人者に協力した道義的責任と、我輩個人の好奇心から
保安局に任せるばかりでなく自分でも調べてみようという気になって、ニコルズに依頼したのさ」
「ワーニャがテロリストなら、仲間のテロリストは誰なんだ?」
「ジョン・スミスと名乗る男だ。黒ずくめの大男。そいつには一度会ったよ」
「女は? チャドルを着た女」
「ああ、居たね。そっちは知らない。それと、ワーニャはダグという偽名を使っている」

ブットゲライト署長の証言――ジョンは緑の目の、山羊髭の男を「ダグ」と読んだ。
「ダグ」――ダグラス。ダグラス・オウヤンだ。
リビココの武器庫から狩猟機を移し変えた倉庫、おれたちが襲撃された娼館、ドロシーのアパートの持ち主。
だが、建物が登記されたのは一一六年だから
当時まだ生まれていないはずのワーニャは、最初の持ち主のダグラスその人でない。
抵抗軍のコネクションで入手した物件なのだろうが、偽名にまで同じ名前を使ったのは何故か?
この街で、ワーニャがダグラス・オウヤンという人間になりすます必要があったのか?
だとすれば、切り裂き魔のワーニャと陸空賊、そしてドロシーは何の関係が?
見えてくるのは繋がりらしきものばかりで、未だにろくな証拠がない。

「その三人は陸空賊と関係してるか?」
「陸空賊? そういう呼び方があるんだね。そう、三人は彼ら陸空賊に協力していた。
テロリストの隠れ蓑だよ。事業の顧問みたいな事もやってたようだ」
「『マレブランケ』とマラコーダには会ってないのか? 陸空賊の頭目だ」
「名前は知ってるが、会ってない。我輩が付き合ったのはワーニャたち三人だけだ」
「三人はイーストエンドで墓荒らしをやっていなかったか?」
ドクターがおれを見つめたままで口を閉ざした。別に困った様子でもないが、とりあえず水をかけてみた。
「昨日の朝、あんたが保安局の若いのと一緒に狩猟機の引き上げを見物してるのを見たんだ」
「そうだ、やってた。あの狩猟機は我輩がワーニャと一緒に作ったものだ。
ワーニャが管理を止めた為に暴走したのだろう、無責任な工作だった」
「おれはあの工作に助けられたから、そいつは許してやるよ。狩猟機を操れるのか?」
「実験段階ではあるがね。ついでに言えば、あの機械はワーニャにしか自由にできない。
我輩も、ものを作るのを手伝っただけで、あれを扱える訳ではないのだ。悔しい事だが」
「それがワーニャの発明か? テロ屋どもの研究ってのは一体どんなものなんだ? 死体と女の子宮を使う?」
「我輩からは説明できないし、言葉で説明しても分かるまい」
184犬ども(20) ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/10(火) 22:19:05 ID:/bz5E9bj
(7/7)

少し待ったが、ドクターには喋る気がなさそうだと見ると、おれは立ち上がって彼に詰め寄った。
彼はさすがに動じない。白衣の襟を掴んだところで、おれの後ろに誰かが立った。
「君、止めておきたまえ。我輩は殺人は野蛮な行為だと思っているが、我が身を守る為ならば躊躇はせんよ」
どうやらドクターも、おれの背後の人間――まさか、あの女中だろうか――も本気らしい。
おれはドクターの白衣からゆっくり手を離した。背後の気配は靴を鳴らして去っていき、おれは座り直した。
「それに残念だが、我輩にとっても彼の発明は未知の部分が多いのだ。
一つ言える事は、力のある組織が彼の発明を転用すれば、じきに大きな戦争が起こるだろうという事だ。
大げさに聞こえるかも知れんが、今はそのようなものだとだけ考えていてくれ。それは事実だからな。
しかし、代わりに君に教えられるネタがある」
ドクターがデルタを呼び、彼女に耳打ちして何かを持ってこさせた。封筒だった。
「我輩は特務に友人が居てね、その友人が数年間ずっと追いかけ続けているテロリストたちが居るんだ。
そのテロリストたちの名前を教えてあげよう。ワーニャもその中の一人だ」
ドクターは封筒を差し出し、おれは受け取った。
中身は書類束で、上の方はテロ屋の手配書だった。全部で五枚、書式は軍関係の資料に似ている。
内容――テロリストとしての経歴は華々しいが、それ以外の事項は空欄が目立った。
人相書きはない。大まかな年齢と、性別が分かっているくらいで、外見等についてはほとんど情報がないようだ。
二人だけ知った名前があった。ワーニャ、そしてジョージ・オブライエン。
ジョージとは、軍隊でオハラの友人だったあのジョージだろうか。
「全員ゴリニシチェ赤軍の出身で、世界中飛び回って活動してる大物ばかりだ。
そして、その友人の第一の任務は『ジョン・スミス』と名の謎のテロリストの追跡だそうだ。役に立つかね?」
「さあね。あんた、ドロレス・ジョーン、あるいはサントゥーナという名前を知らないか? 両脚が義足の女の子」
「いや、知らんな。我輩の情報だけでは、ワーニャ以外の登場人物がまだ定まらんのだ。
ワーニャの人脈については、彼が活動家としての頭角を現しはじめた
パルヴァティア滞在当時が鍵だと思うんだがね、その情報を持ってクリストファーという探偵が船出した。
資料はさっき渡した紙の中に入っているから読みなさい。後は探偵を待つしかないが」
書類をめくってしばらく考えていたが、これ以上彼にものを訊くより
情報の裏づけや、もう一度アルフと会う事、そして陸空賊の一件の解決を何よりも急いだ方がいいと思った。

最後に尋ねる。
「保安局の人間で、あんたと情報をやり取りしてるのは誰だ?」
「担当者なら何人も居るが、我輩が名前を知っているのは一人だけだな。
君が調べればどうせすぐに分かる事だから、教えよう。ロビン・ライサンダー」
「あの若造か?」
ドクターは笑うだけで、否定はしなかった。
「ところで、アルフはあんたを逮捕したいとは言わなかったか?」
「ワーニャが捕まるまで彼とは休戦だよ」
185 ◆/gCQkyz7b6 :2009/03/10(火) 22:23:26 ID:/bz5E9bj
投下終わりました

>175
どうしても会話で説明して楽をしようとする癖があるので、
その辺りは自覚していて、もっと地の文で情景、心象、動作等を上手く描写して
必要な情報を有機的に表現していけるよう、どうにかせねばと思うのですが……目下修業中です

>176
まとめサイト更新乙です
樫の木亭の方も続きをお待ちしてます
186創る名無しに見る名無し:2009/03/13(金) 01:29:48 ID:TjRWFpxQ
>>185
投下乙
ゴリニシチェの元ネタはロシアかな?
それはさておき、段々と事件に対する包囲網が狭まってきているみたいだ
187創る名無しに見る名無し:2009/03/15(日) 23:23:15 ID:Kcyxgg9R
まとめサイトを更新しました。
不備がありましたら、報告をお願いします。
188 ◆zsXM3RzXC6 :2009/03/17(火) 02:14:23 ID:EM9rULeu
短いですが、投下します。
189 ◆zsXM3RzXC6 :2009/03/17(火) 02:15:10 ID:EM9rULeu
 深夜。額にたくさんの汗をかきながらフェリシアは飛び起きた。
 最悪の夢見だった。まさか、あのときのことを思い出してしまうなんて。
 目を閉じるだけで夢の内容がフラッシュバックしてくる。これではしばらく眠れそうにない。
 溜め息を一つつき、フェリシアは水でも飲んで心を落ち着けることにした。
 どんな悪夢でも所詮は夢。落ち着けば、きっとすぐに忘れることが出来るだろう。
 そう思い、部屋履きを履いてフェリシアは台所へと向かう。
 扉の開け閉めの音や足音が良く響いて少し不気味な感じがするのは何故だろうか。
 いつもは何も感じない夜の闇が、今は少し怖かった。
 台所に着いたフェリシアはガス灯の火をつけて、水道の蛇口を捻って水を出し、途中で棚から出したグ
ラスに入れて一息に飲み乾す。悪夢ごと全部を飲み乾してしまえるようにと。
「ふぅー……」
 水を飲んで少し落ち着いたフェリシアは、グラスを洗ってシンクの脇においておく。どうせ明日の朝も
使うので、一々拭いてしまうのが面倒だったのだ。
 ガス灯の火を落とし、フェリシアは寝室へと向かう。
 その途中、行きは気付かなかったが、フェリシアはミャオの部屋から少しだけ光が漏れているのに気付
いた。
 もう結構遅い時間である。もしも、ガス灯などの切り忘れだといけないのでコンコンとフェリシアは扉
をノックしてみる。
「フェリスさん? どうぞー」
 どうやらミャオはまだ起きていたようだ。なので目的はもう達したのだが、フェリシアはなんとなくミ
ャオがこんな時間に何をしているのかが気になったので部屋に入れてもらうことにした。
「失礼します」
 ガチャリと扉を開けてはいると、ミャオはベッド脇の壁にもたれかけながら本を読んでいるところだっ
た。
 月明かりだけではなく、白く淡い光を放つ玉がふわりふわりと本の上に浮かんでいる。
 フェリシアは見たことがないが、魔法具というものだろうか。
「どうしたの? もう夜も遅いよ」
「夢見が少々悪くて、ですね。水を飲んできたところです。そしたら、この部屋から光が漏れてたもので
すから」
「ああ、ごめんね。私もちょっと眠れなくて」
 そう言って浮かんでいる玉を手に取り、ミャオは何事かを呟いて光を消す。
 光が消えた玉を袋に入れて、ミャオはそれをベッドサイドのテーブルに置いた。
「あ、そうだ。フェリスさん、一緒に寝る?」
190喫茶店『樫の木亭』3 ◆zsXM3RzXC6 :2009/03/17(火) 02:16:09 ID:EM9rULeu
 それが当然であるかのように、ミャオは言う。
 特に何も考えずに言っているのか、それともなにか深い意味があるのか。いまいちフェリシアには読み
きれない。
「一緒に、ですか?」
「うん。だって怖い夢を見たんでしょう? 一人で寝たら、また見るかもしれないじゃない」
 あっけらかんと、ミャオは笑う。とても良い考えだと思っているらしい。
 しかし、そう言われてみるとフェリシアにもそう思えてくるから不思議だ。
 とはいえフェリシアも流石にそんな理由で誰かと一緒に寝るなんて恥ずかしいとか思えてしまう年頃で
ある。
 なので遠慮しようとするが、あっという間にミャオにベッドに引きずり込まれ、一緒に寝る羽目になっ
てしまった。
「あ、フェリスさんって温かい」
「わ、わわっ」
 むぎゅー、と抱き締められ、動揺するフェリシア。
 ミャオはぬいぐるみか抱き枕同然にフェリシアを抱きすくめて、満足そうにしている。
 が、抱かれているフェリシアの心中はあまり穏やかではない。
 こうして誰かと寝ることなどほとんどなかったのでこういうときにどうしたら良いのか分からないし、
ついでに顔に当たるミャオの胸が少々嫉妬を沸き立たせる。
 大きいとは思っていたが、こうして押し付けられる形で触ってみると差がはっきりと分かってしまって
負けたとすら思えないらしい。
 そして、なんとも泰然としているミャオを見ていると、何故か動揺している自分が馬鹿らしく思えてく
る。
 溜め息をつき、フェリシアは顔を上げる。と、ミャオと目が合ってしまった。
「え、っと、あの」
「どうかした?」
「あの、その……ミャオさんって、好きな人います?」
 なんとなく焦ってしまったフェリシアは、これまたなんとなく頭に浮かんだことを口にしてしまう。
 別に気になっていたわけでも無いし、聞く必要も無いことなのだが、口から出てしまったのだ。
 そんなフェリシアの問いに、ミャオは少し悩むように首を傾げた。
「うーん、いないかなぁ。今はまだフェリスさんと仕事してるだけで精一杯だよ」
「えと、じゃあ、あのジョンさんとかいう人は?」
「ふぇ、ジョンさん?」
 意表を突かれた、という感じでミャオは目をパチクリさせ、少し考え込むように唸る。
 フェリシアはそんなに考えずに言ったのだが、ミャオにとっては結構な難題だったようだ。
「ジョンさん、ジョンさんねぇ。とりあえず言えるのは、あの人とそういう関係になるのは絶対にありえ
ないってことかな」
「はぁ」
 困ったように笑うミャオ。その表情に嘘をついている様子は無い。
 が、そこまで言い切る理由もフェリシアには分からない。
「でも、なんで絶対、なんて言い切れるんですか?」
「あはは。だって、あの人には好きな人がいるんだもん。ずっと昔に死んじゃったらしいんだけどね。で
も、まだ好きなんだって」
「そうなんですか」
「そ、一途だよねぇ。それで、こんなことを私に聞くってことは、フェリスさんも聞いて欲しいってこと
かな?」
「え?」
 ぽかんと口を開けてしまうフェリシアに笑いかけながら、ミャオは自分の髪を掻き上げる。
「好きな人、いるの?」
「え、あの、そのぅ……いません」
「そうなんだ。一緒だね」
 真っ赤になって布団に潜り込んでしまうフェリシア。
 それを見送ったミャオは、一度窓の外を見てから自分も目を閉じる。
 ポツリポツリと降り出した雨。もしかしたら、誰かの涙雨だろうか。
 そんな益体の無いことを考えながら、ミャオはも静かに眠りにつく。
「おやすみなさい、フェリスさん」
「……おやすみなさい」


 こうして、その夜は更けていく。
 それは蒸気乱雲の濃い夜の一幕。
191 ◆zsXM3RzXC6 :2009/03/17(火) 02:16:55 ID:EM9rULeu
投下、終わりました。
192創る名無しに見る名無し:2009/03/20(金) 12:46:49 ID:hNyj9gtc
まとめサイトを更新しました。
不備がありましたら、報告をお願いします。
193 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:46:45 ID:XRaGUXGU
さて、投下します。
喫茶店『樫の木亭』はしばらくお休みで、こちらを主にします。
194 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:47:36 ID:XRaGUXGU
(1/15)
 荒れた大地に点々と散らばった黒い場所。
 それは動物達が住まう、この不毛の地では限られた緑のある場所だ。
 そんなところに、二人の男がいた。
 片方は大きな外套に身を包んだ男。
 もう片方は旅慣れた軽装の少年だ。
 彼らは周囲にいる猛獣たちを一切気に留めることなく、焚き火を囲んでいる。
 この焚き火は別に動物たちを近づけないための物ではない。たんに暖を取るためのもの。
 根本的に、この二人は動物などに恐怖を覚えたりするようには出来ていないのだ。

「……で、こんなところにまで出向いた意味はなんなんだ?」
「ああ、多分もうすぐだ。感じられないか、次元の歪みが」
「次元の歪み、ねぇ。確かにマナが不安定な感じだ。それ以上はわからん」
「充分だ。恐らく、今日中には良いものが見られるぞ」

 鷹揚に頷き、少年は焚き火で弾ける火の粉に目を向けた。
 そんな少年に溜め息をつき、外套に身を包んだ男は自分の持ち物から酒を取り出す。
 この偉そうな少年とはそこそこ長い付き合いなのだが、未だに彼の考えていることは分からない。
 だが、この少年は依頼人だ。流石に仕事中に依頼人の非難をするわけにもいかない。
 外套に身を包んだ男は取り出した酒瓶の栓を開け、一気にあおる。
 所詮はアルコール度数だけ高い安物の酒。味もへったくれもないが、こんな場所で飲むのだ。
贅沢なことは言っていられない。

「来た、な。ふふふ、ジョン。お前も見るのは初めてだろう。これが『旅人』と呼ばれる者だ」
「は?」

 酒瓶を一本空にしながら、外套に身を包んだ男が訝しげに少年の顔を覗きこむ。
 そして、何かを言おうとし、何かに気付いたようにスッと目を細めた。

「マナが、空間が揺らいでいるな。チッ、我が力、我が魔力。壁となりて我らを護れ」

 外套の男が呪文を唱えると同時に少年と外套の男を包むように半透明のガラスにも似た半球状の障壁が展開される。
 その直後のことだった。
 何も無い空間にいきなり亀裂が走ったかと思うと、そのまま弾け飛び、凄まじい衝撃を周囲に撒き散らす。
 当然、近くにいる少年達にもその衝撃は襲い掛かる。もしも、外套の男が障壁を展開するのが遅れていたら、
二人ともどこかへ飛ばされてミンチになっていたかもしれない。
 どうやら衝撃は大地をも幾らか吹き飛ばしたようで、土煙をもくもくと巻き上げていた。
195迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:48:32 ID:XRaGUXGU
2/15)
「生きてるか?」
「どうにか。まさか、俺の障壁を粉砕してくれるとは思わなかったがな」
「ははは、生きてればそんなこともあるさ」
「違いない」

 笑いながら、外套の男は立ち上がる。
 障壁で幾分衝撃が弱まったおかげで生きてはいるが、結構ズタボロである。
 外套の下は全くの無傷なのだが、外に出ている部分……顔や手足に酷い擦り傷が出来てしまった。
 ドラゴンの革……というかドラゴンまるごと一頭で作られている外套を身につけているこの男でさえこの有様なのだ。
軽装の少年の方は目もあてられない惨状になっていた。
 骨折などの重傷は負っていないが、その代わり全身に打撲と擦過傷が酷い。
 そんな少年の血を何故か勿体無そうな目で見ながら、男は呪文を唱えた。

「癒しを。そして、安らぎを」

 少年の体を青白い光が包み、そのままあっという間に傷が消える。
 力の具合を誤れば逆に体を壊してしまう危険な魔法なのだが、どうもこの男は自分の腕に相当な自信があるようだ。

「見事。さ、出てきた奴を見ようじゃないか。なにせ数十年ぶりの来訪だからな」
「知り合いなのか?」
「知らんよ。さて、此度の来訪者はどんなものか。楽しみだ」

 今にも踊りだしそうな様子で、少年が空間破砕の衝撃で出来たクレーターの中心へと歩いていく。
 外套の男は渋々とその少年に続く。
 果たして、そこには一人の青年が倒れていた。
 年の頃は十代後半から二十代前半までの間か。見慣れない材質の服を着ている。
 あの衝撃のど真ん中にいて良くもまぁ無事だったものだと感心しながら、外套の男は口を開く。

「で、この人物が探しものか?」
「そうとも。ここは少し危険だ。昨日キャンプを張った場所まで戻ろう」
「誰がコイツを運ぶんだ?」
「君だ。荷物持ち君」
「……なるほど、そのために俺を荷物持ち兼護衛として雇ったのか。この借りはいつか返すぞ」
「はっはっは。いいではないか。その分の代金は先払いしてある」

 楽しそうに笑い、少年は逃げるように走り去る。
 外套の男は溜め息混じりにそれを見送り、まだ目を覚ます気配の無い青年を担ぎ上げた。

「……何がしたいんだか」



196迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:49:18 ID:XRaGUXGU
(3/15)
 前日に張って、まだ片付けていなかったテントに青年を放り込み、少年と男は遅めの昼食を摂る。
 二人とも慣れたもので、持っていた干し肉や魚の干物を焼いたり、野菜の水煮の缶詰と一緒に煮たりしている。
 この辺りには人間が食べられる植物が自生していないので、植物性の栄養を摂るには缶詰に頼るしかないのだ。

「出来てきたな」
「うむ。しかし、お前は本当にそれだけで良いのか?」
「俺にとって食事は娯楽に過ぎんよ。一人増えてるんだから、食わなくても良い奴が控えるのは当然だ」
「そうか。しかし、すきっ腹に酒はどうなんだろうな」

 缶詰と干し肉を煮ている小さな鍋を掻き混ぜながら、少年は訝しげに外套の男を見る。
 安酒を水代わりとばかりに飲みまくっているのを見ると、実際には腹が減っているのではないかと疑いたくなるのも当然か。
 だが、外套の男はそんな少年の気遣いなど一切気にすることはない。

「で、『旅人』ってのはなんなんだ? 俺も結構長いこと生きてるが、そんな奴ら聞いた事も無いぞ」
「ああ。この私も詳しくは知らん。どうも、他の世界だかなんだかから紛れ込んでくるらしい。
分からん事だらけだが、これが我が家系の務めなのだ。『旅人』を出迎え、そしてここに馴染ませるのがな」
「そうなのか。まぁ、頑張ってくれ」
「当然だとも。君にまた何か依頼することもあるかもしれん。そのときはよろしく頼むぞ」

 なんとも偉そうに少年は外套の男へと笑う。
 見た目の年齢から言えば少年の言動に外套の男は何か言うべきなのだが、両者共に特に気にした様子も無い。
 別に少年が貴族かなにかという訳でもないので、不思議と言えば不思議な光景である。
 と、そんな風に世間話ともいえないような会話をしていると、
食事の匂いに釣られたのかテントに放り込まれていた青年が起き出してきた。
 どうも自分が置かれている状態を理解していないようで、キョロキョロと辺りを見回している。

「……ここは、どこだ?」
「君の知っている場所ではないよ。とりあえず君の置かれている状態を説明する。長い話になるからこっちに座ってくれ」
「はぁ」

 少年はそんな青年を手招きで呼び寄せ、煮炊きしている焚き火の近くに座らせる。
 外套の男は完全に傍観を決め込むつもりらしく、酒をぐびぐびあおっていたり。

「まずは自己紹介をしよう。私はイーノク。そこの彼はジョン・スミスという。君は?」
「あー、ぼくは……あれ、わからない。名前、あれ?」
「おやおや。これは大変だ。仕方が無い。では、名前を付けてあげよう。ジョン、良い案は無いか?」

 完全に傍観の態勢に入っていた外套の男……ジョン・スミスは、
いきなり話を振られほんの一瞬だけ思案するような顔をする。
 しかし、すぐに諦めたようでヒラヒラと手を振った。

「良い名前なんてそうそう思いつかんよ。それに、一時の名前くらいなんでも良いじゃないか。
ジャック、イワン、ヨセフ、ピエール、マルコ、アドルフ、こんなところか」
「確かにそこらへんの名前なら覚えやすいか。マルコなんてどうだい?」
「……まぁ、なんでも良いけど」

 本人を置いてけぼりにして命名されてしまった『旅人』の青年……マルコはなんとも微妙な表情で溜め息をつく。
197迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:50:04 ID:XRaGUXGU
(4/15)
「で、ここはどこなんだ?」
「サマン帝国のゴールドバーグという都市のそのまた西だな。一応、名前のある場所だが、忘れた」
「はぁ、そうなのか」
「その顔は聞き覚えが無いという顔だな。当然か。君はどこか他の場所から迷い込んできたのだろうから」

 迷い込んできた、その言葉にマルコは訝しげに眉を寄せた。
 もしかして、この二人が自分をさらって来たのではないかとでも思っているのだろう。
 そんなマルコの心理を読みきっているように、少年……イーノクは笑った。

「はは、私たちは何もしていないよ。
私たち……いや、私がただ君のような『旅人』のが出現する場所と時間を知ることが出来るだけだ」
「本当かよ」
「嘘をつく理由も無い。それに、この仕事は結構危険なのだ。ついでに、金も掛かる。
私に儲けも無いのにわざわざさらってきたりはせんよ。大体、さらわれるのは若い娘さんと相場が決まっているものだ」
「……うっ」

 冗談交じりのイーノクの言葉に何も言い返せず、マルコは黙り込む。
 それを傍から見ていたジョン・スミスは感心したように息をつく。
 上手い交渉術だ。
 嘘は言っていないし、こんな少年に諭されるように話されたのでは外見的には年上のマルコは納得せざるを得ない。
 なるほど、長くこの役目を果たしているだけあるということか。

「じゃ、じゃあ、そっちのコート着た人はなんなんだよ」

 答えに窮したマルコはジョン・スミスを指差す。
 今度はまだイーノクの説明になかったジョン・スミスを疑い始めたらしい。
 そんな彼に対し、ジョン・スミスは軽く苦笑を漏らすだけ。どうも自分で説明する気は無いらしい。
 というか、説明好きなイーノクに話す機会を譲っただけか。

「彼は護衛だよ。言ったろう、この仕事は危険なんだ。ほれ、向こうを見てご覧」

 イーノクは先ほどいた雑木林の方を指差す。いや、雑木林のあった方、と言うのが正しいか。
 指差されたほうにあるのは結構広い範囲が吹き飛ばされた跡。
 木々はほとんどが根元からひっくり返り、まだ地面に根を張れているのは外周にあった一部の木だけ。
それも大体が折れてしまっていて、しばらくは元に戻ることは無いだろう。
 そして、その辺りの地面にはべっとりと赤い何かが付着している場所がある。
衝撃で吹き飛ばされた獣たちの残骸だ。いくつかはまだ獣の形を留めているため、非常にグロい。

「あれは君がこの地に出現したときの衝撃で起きた惨劇だ。私もジョンがいなければ、あの仲間入りをしていただろう」
「……そんな、バカな」
「信じる信じないは君の勝手だがね。まぁ、どちらにせよ、私たちがここにいなければ君もアレに食われていただろう」

 どうもまだ実感の湧いていないらしいマルコだったが、イーノクが次に指差したものを見て顔色を変える。
198迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:50:53 ID:XRaGUXGU
(5/15)
「な、なんだ、あれ」

 指差された場所にいたのは、数十匹で群をなす中型の猫科の肉食獣。毛皮の色は黒い斑点のある灰色だ。
 なかなか食欲旺盛なようで獣たちの死体に群がっている。見る限りどうも骨までかじって食べているようだ。

「ハイエナの一種だ。頑丈なあごで獲物を骨まで食い尽くす。ついでに執念深いから、狙われたら最後だな」

 無表情に淡々と、イーノクは言う。なんというか、辞典の内容でも読んでいるかのような言い方だ。
 が、それがまた恐怖をあおる。面白がっているなら冗談の可能性もあるが、
こうも真面目くさって言われては信じるほか無い。
 ハイエナ達を見て、そしてイーノクの説明を聞いてやっと恐怖がやってきたのか、
マルコは一度身震いをしてから頭を下げた。

「あー、えーと、ありがとう」
「どういたしまして。まぁ、なんにせよ目的は果たしたから、飯を食ったらさっさと撤収しよう。
実は、一番近い町まで歩いて半日の距離なんだ。急がないと野宿することになる」

 とても爽やかに笑い、イーノクは焼きあがった魚の干物に手を伸ばす。
 その笑みに、なんとなくマルコは嫌なものを感じていたのだった。





199迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:51:41 ID:XRaGUXGU
(6/15)
「いや、疲れた。しかし、君は根性が無いな」

 夜も深まってきた、町の酒場兼宿屋の一室。
 長椅子にどっかりと座ったイーノクは苦笑しながら、ベッドに大の字になっているマルコを見る。
 実はマルコは半分の道のりも越えない内にばててしまい、残りを全てジョン・スミスに担がれてきたのだ。
 成人男性一人を軽々と担ぎ、ついでに結構重い旅の道具も担いでいたのに一切息を切らしていないジョン・スミスも化け物だが、
逆に十代前半の少年の体力しかないイーノクでさえ楽々踏破できるような距離を歩けないマルコも少々情けない。

「うぅ、あんなに歩くなんて初めてだったんだよ……」
「では体力をつけることだ。ここでは歩くのが基本でな。体力が無いと生きていけんぞ」
「頑張る、しかないのか……」

 マルコはベッドでがっくりとうなだれる。
 そんなマルコを笑いながら見て、イーノクは水差しからグラスに水を注いで飲む。
 そして、溜め息と共に眉を顰めた。

「やっぱり雨水か。あー、マルコ。ここの水は飲まないほうが良い。腹を下すぞ」
「じゃあ、どうするんだよ。喉が渇いて死にそうなんだが」
「ジョン。頼む」

 軽くイーノクに言われ、ジョン・スミスは溜め息をついて頭を抱える。
 が、本当に死にそうな顔をしているマルコを見て、不承不承に空のグラスを手に取った。

「はぁ、俺は水道じゃないんだがな。水よ、我が元へと集え」

 深い溜め息と共に紡がれた呪文により、ジョン・スミスの持っていたグラスの中に水が満ちる。
 それをマルコに渡し、ジョン・スミスは酒を取り出してあおる。

「これ、大丈夫なのか?」
「不純物のほとんどない、純水に近い水だ。そりゃ大丈夫だろう」
「そうなのか。ありがとう」

 礼を言われたジョン・スミスは満足そうに口端を歪め、また酒をあおり始めた。
 そんなジョン・スミスを横目に、イーノクが口を開く。

「あー、マルコ。今のも魔法だ。その水を飲みながらで良い。聞いておけ」
「あ、ああ。分かった」

 起き上がり、素直に水を飲みながらマルコはイーノクの方を向く。

「ここでは魔法と蒸気機関が両方発達している。まぁ魔法の道具は高いし、そんなに普及していないがね」
「ふんふん」
「だから概ね、金持ちは魔法を刻んだ機械や魔法の道具……魔法具を使い、一般人は自分の所得に見合った機械やら道具を使う。
一般人が魔法具を使うことはまずないな」
「えーっと、なんで魔法を機械に刻むんだ?」
「機械には駆動音があるだろう? あれを小さくしたり、機械だけでは無理なぐらいの精度で動かしたりするためだな。
この魔法を刻む処理を、呪紋処理という。頭の片隅にでも入れておくと良い」
「なるほど。便利なもんだな、魔法ってのは」
200迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:52:38 ID:XRaGUXGU
(7/15)
 感心したように何度も頷くマルコ。
 それを見てイーノクは気を良くしたらしく、話を続ける。

「確かに魔法は便利だが、習得するにはアホらしい位に学ぶことが多くてな。
あまり魔法の技術を持ってるものはいない。それに、物に呪紋処理を行える者はそこそこいるが、
魔法を自分だけで行使できるものは極めて少ないんだよ」
「それは学ぶ事が多いからか?」
「それもあるが、こちらは素養の有無が大きい。いわゆる魔力の量がある程度ないと使えんのだ」

 ふん、と鼻息をつき、イーノクはジョン・スミスの方を向く。

「で、このジョンはそんな数少ない純正の魔法使いの一人だ。
それも現代の魔法とは違う、まさに御伽噺に出てくるような何でもできる魔法使い」
「……もしかして、ぼくが今飲んでる水って実はとんでもないものなんじゃあ」
「正解だ。その水はゼロから生み出された、今さっきまでこの世には存在していなかったものだからな」

 サッと顔を蒼褪めてさせてしまうマルコを見て、ジョン・スミスは一つ溜め息をつく。
 そして、外套の袖から小石を取り出し、イーノクに向けてピンと弾き飛ばす。
 見事小石を額の中央にぶつけられたイーノクは、呻きながらあたった場所を押さえる。結構痛かったらしい。

「脅かすな。この程度、大した事でも無いだろうに」
「いやいや、物理的にありえない現象ではあるんだぞ。まぁ、似たようなことは簡単に出来るが」
「な、何だ、良かった」

 露骨に胸を撫で下ろすマルコと、悪戯がばれて悔しそうにしているイーノク。
 普段から見た目に合わない物言いをするイーノクだが、
こういうときばかりは外見相応の振る舞いとなるので微笑ましいといえば微笑ましい。
 が、イーノクの実年齢を知っているジョン・スミスとしては若作りにしか見えないのだが。

「まぁ、そんなわけで魔法は身近にあるけど一般人ではなかなかお目にかかれない代物だ。
それに対して、機械の方は日常的に使うな」
「そりゃそうだよね。どんなのがあるんだ?」
「生活に密着してるからどんなの、と限定して教えるのは難しいな。まぁ、代表的なのは蒸気機関車か」
「機関車かぁ。で、なんでぼく達はそれを使って無いんだ?」
「そりゃこっちには線路が無いからな。ここらは線路を敷くには少し条件が悪いんだ」
「条件? この辺りってそんなに起伏が無いから線路なんて敷きやすそうじゃないか」
「地形はな」

 苦笑し、イーノクは天井を見上げる。年代ものの宿に相応しく、染みがたくさんある。
もしかしたら、雨漏りとかするかもしれない。
201迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:53:38 ID:XRaGUXGU
(8/15)
「問題はあの場所に住むハイエナだ。あれらは魔法を使う。一頭だけならまだ対処のしようもあるが、
なにぶん数が多い。あの平原を中心に、かなり広範囲に生息しているしな。まぁ、警戒心が極めて強いから、
人里近くには寄ってこないが」
「警戒心強いって言っても、魔法とやらが使えるなら人間より強いだろ。なんで寄ってこないんだ?」
「はは、人里に来ると痛い目に遭うからな。ここらの集落は遠距離攻撃専用の魔法具を持った専門家が必ず守ってる。
頭が良いとはいえ、所詮はハイエナだから脅かせば逃げていくしな」
「あれ、魔法具って高いんだろ? なのにこんなド田舎がそんな良い物買えるのか?」
「ここらの魔法具は国から貸与されてるものだよ。ここでしか育たない珍しい薬草の類があるから、
国は安定してその薬草を得るためにこの辺りを守ってくれてるのさ。
魔法具を持った専門家も、国軍で徹底的に訓練された精鋭だしな」
「ふーん。薬草ねぇ。そんなもんに価値があるのか?」
「薬草自体は安いものだよ。繁殖力も強いし、驚異的なまでに連作に耐えるし。
ただし、安定して供給されないとまずいものなのさ。何せ、主要な都市で流行ってる蒸気病の特効薬の材料だからね」
「蒸気病?」

 聞き慣れない言葉なのか、マルコは首を傾げる。
 そんなマルコに力強く頷いて見せ、イーノクは話を続ける。

「そう、蒸気病。蒸気機関が発達していると言ったろう。
その機械を動かすと煙が出るんだが、その煙に肺をやられてしまう人が結構いてね。
そんなときにここらで採れる薬草……アッサマールというんだが、これで作った魔法薬を専用の器具で吸入するんだ。効果は絶大だぞ」
「吸入するだけか。お手軽なんだな」
「まぁ、魔法の薬だしな。今後お世話になるかもしれんから覚えておくと良い」
「お世話にならないように頑張るよ」

 そう苦笑しながらグラスの水を飲み干し、マルコは一息つく。
 喉を潤せたことで思い出したように疲れが噴き出てきたらしくマルコが眠そうに目を擦り始めたため、
イーノクは話を打ち切り、優しく笑いかける。

「さ、もう寝よう。この町からは馬車が使えるから、続きは明日、馬車の中で話すよ」
「ん、ああ……分かった。おや、ひゅみ……」
「お休み」

 挨拶を終えるや否や、ばたりとベッドに倒れこみ寝息を上げ始めるマルコ。
 そんな彼に布団を掛けてやり、イーノクもその隣のベッドに寝転がる。
そして、立ったままのジョン・スミスの方に目を向けた

「で、お前はどこで寝るんだ?」
「この椅子に座って休むぐらいだな。まだベッドで休まなきゃいけないほど疲れてない」
「そうか。体を壊さんようにな」
「ちゃんと限界は見定めてるさ。んじゃ、お休み」
「ああ、お休み」

 窓際の椅子に腰掛けたまま目を閉じたジョン・スミスを見て、イーノクも眠りにつく。
 静かに、静かに夜は更けていった。




202迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 02:55:02 ID:XRaGUXGU
(9/15)
 朝、もう日が高くなって来た頃。
 ようやくマルコは目を覚まし、身を起こした。
 起きたところでまだ自分が今どうなっているのかを忘れているらしく、キョロキョロと部屋を見回している。

「あれ、ここは……」
「おはよう、マルコ。体調はどうかな?」

 どうも目が覚め切っていないらしいマルコに、イーノクが話しかける。
 マルコは数度目を瞬かせるとようやく自分の今の状況を思い出したようで、少々恥ずかしそうに頭をかく。

「あ、ああ。おはよう、イーノクさん。体はなんとも無い。ちょっと寝ぼけてたみたいだ」
「気にすることはない。疲れてたんだしな」

 特に気にしていない、という表情で言うイーノク。手にはなにやら小冊子を持っている。
恐らくは今まで読んでいたのだろう。
 まだ少し寝ぼけた頭を目覚めさせるために、マルコは軽く頭を振る。
と、部屋にジョン・スミスがいないことに気付いた。

「あれ、あのジョンって人は?」
「ジョンか。アイツには今、馬車とかの手配をしてもらってる。ジョンが戻ってきたら、飯を食って出発しよう」
「えっと、ここからは馬車なんだっけ?」
「ああ、街道を通っていくからな。途中の駅町まではトイレはないから、乗る前に行っておくんだぞ」

 イーノクの言葉に頷き、マルコは思いっきり伸びをしてベッドから起き上がる。
 起き抜けでのどの渇いているマルコはベッドサイドに置いてある水差しに手を伸ばすが、
昨日目の前のイーノクに言われた言葉を思い出して手を止める。
 しげしげと水差しの中身を見てみるが、無色透明の水であるということ以外は分からない。
 なので水差しを手に取り、マルコはイーノクに尋ねてみた。
203迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 03:00:12 ID:XRaGUXGU
(10/15)
「これ、飲んでも大丈夫か?」
「ああ。朝にジョンが魔法で出してた水だからな。
まぁ、でかい町以外ではあまり生水は飲まないように注意していれば良い。
その代わり茶や、酒の類ならがぶ飲みしても大丈夫だ」
「注意しよう。もし飲んだらどうなるんだ?」
「腹痛を起こして、そのあと下痢だな。どうしても飲まなきゃ駄目、って場合は覚悟しとけ」
「うはぁ」

 サーッと顔を青くするマルコ。
 そんなマルコの顔を楽しそうに見て、イーノクは満足気に頷く。
思ったとおりの反応をしてくれるため、嬉しいらしい。
 と、そんな風に談笑していると、コンコンとドアがノックされた。

「誰だ?」

 ドアの向こうの相手に向けて、イーノクは冷めた声を掛ける。
 それまでマルコに向けていたような人間味のある声ではない。

「俺だ」
「ジョンか。ノックなんかするから、誰かと思ってしまった」

 ジョン・スミスの声が扉の向こうから聞こえてくると、
イーノクは先ほどの冷たさが嘘のようになくなり、マルコと話していたときと同じ熱を取り戻す。

「それじゃあ、食事にしよう。下の食堂で待ってるから、着替えたらすぐに来いよ」
「分かった」

 イーノクの言葉にマルコが頷くのを見てから、イーノクとジョン・スミスは去っていく。
 一人残されたマルコは、ベッドサイドに置かれていた寝ている間に用意してくれたのであろう服に手を伸ばした。




204迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 03:01:07 ID:XRaGUXGU
(11/15)
「さて、聞きたいことはなにかあるかね?」

 幌付きの馬車の中、イーノクがマルコに話しかける。
 ぼーっと外の景色を見ていたマルコは、ハッとした表情をして何故か慌てながらイーノクの方を向いた。

「あ、ああ。んーと、そうだ。昨日、ここらに線路を引けないのはあのハイエナがいるからだって言ってたけど、
魔法具の一発で追い払えるぐらいなら、軍隊かなんかでどっかに追いやれないのか?」
「なかなか鋭いな。実は、そういう計画が立てられたことはあるんだが、失敗したんだよ」
「そりゃまたなんで?」
「あいつらは大地の魔法を使う。迷って町に近付いて来た時のように一匹二匹なら別に怖くは無いが、
あいつらが本気で戦いに来たら極めてまずい。
例えば、大地に潜って奇襲してきたり、魔法で連携行動まで取るからな。
ついでに、一つの群に手を出すと、あっという間に近くにいた群がやってくる。
そうなればお仕舞いだ。昼夜の別無く奇襲と魔法攻撃を受けては、どんな屈強の兵達だってやられてしまう」
「なるほど」
「オマケに、人間が必死に陣地を築いても、その土台を泥に変えられたりしてあっという間に崩されてしまうんだ。
一度そんな目に遭ってから、あの場所に手を出そうという奴はいない。それにトンネルを掘る技術が確立されたし、
大都市同士を繋ぐのに遠回りになるから線路を通そうという計画もおじゃんになったわけだ」
「へぇ」

 何気なく訊ねたことからちょっとした歴史の一幕を話され、感心して聞き入っているマルコ。
 と、そこで少し気になることが出来て、マルコは首を捻る。

「えーっと、なんでイーノクさんはそんなことを知ってるんだ? 学校とかで習うもんだったりするの?」
「学校……ジョン、今のってボードスクールで習うか?」
「一番早くてもアカデミーの科学科の本科の第一課程だな。
魔法学や錬金系統の学科だと第二課程か第三課程だったと思う。ボードスクールでは習わないだろう。無意味だし」
「アカデミー?」

 イーノクとジョン・スミスの会話に出てきた聞き慣れない単語に、マルコは更に首を捻る。
 ボードスクールはマルコにも分かる。公立学校だ。だが、アカデミーとはなんだろうか。
 そんな風に悩むマルコに気付き、イーノクは苦笑しながら説明してくれた。

「アカデミーは寄宿学校の一種で、錬金術だの科学だの理系科目が多いな。文系は昔の本を解読するぐらいか。
ちなみに才能さえあれば魔法も教えてもらえるぞ」
「なるほど。それで、あの」
「なんだ?」
「イーノクさんって、いくつなんだ? 見た目は十代前半ぐらいなんだけど、もしかしてもっと年上とか?」
205迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 03:01:54 ID:XRaGUXGU
(12/15)
 ある意味至極真っ当な質問である。
 確かに普通は気になるものだろう。
 だが、そんなマルコの何て事の無い質問に、イーノクの表情が凍りついた。
 不審に思ったジョン・スミスは、アゴを撫でながら口を開く。

「まさか、まだ言ってなかったのか?」
「うむ。どこまで誤魔化せるか試していたのだが……結構、聞かれるのが早かったな」
「?」

 呆れたように話すジョン・スミスと、少々残念そうなイーノク。ついでにそんな二人を不思議そうに眺めるマルコ。
 仕方が無いので、一旦目を伏せ、イーノクは溜め息をついた。

「私は長命種という種族だ。
人間と違い、寿命はほぼ無限に近いが、その代わり十代前半ほどで肉体の成長が止まってしまう。まぁ、そういうもんだ」
「はぁ、長命種、ねぇ」
「そうだ。とりあえず、私が長命種だということは口外無用にしておいてほしい。知れると少々厄介なのでな」
「分かった。で、幾つなんだ?」
「三百五十だ。ちなみに、そこのジョン・スミスは二千歳超。長命種でもないくせに桁外れに長生きしてる化け物だ」

 は、とマルコは口を大きく開けたままイーノクとその隣にいるジョン・スミスを交互に見る。
 片や少年、片や何故か顔がぼやけて見える大きなコートを着た男。
 ……イーノクの方は置いておいて、確かにジョン・スミスの方は年齢不詳な感じではある。

「えっと、イーノクさんは長命種とかいう種族だから良いとして、ジョンさんは普通の人間じゃないのか?」
「いや、分類的に言えばジョンは間違いなく人間だ。ただし、この男は鉱物と同じ寿命を持っているのだ」
「鉱物って、石とかそういうのだよな。えっと、なんでそんなことに」
「ああ、千五百年ほど石化していたからな。どうも、肉体が鉱物の時間を生きるようになってしまったらしい。
おかげで探し物は長く出来るから、それはそれでありがたいことだ」

 さりげなくとんでもないことを言うジョン・スミスに、マルコは呆れて物も言えない。
 ぽかんと口を開いているマルコに肩を竦め、ジョン・スミスは続ける。

「理論的には間違ってないんだがな。まぁ、普通は奇異に見えるか」
「理論?」
「難しいことじゃない。魔力、というものはそれだけで結構不思議な性質を持つ。
例えば、長期間に渡り高濃度の魔力に曝され続けた物質は命を持つようになったりな。
で、俺は相当に強い魔力を持っているんだが……後は分かるか?」
「石になった後も魔力を持ってたから、石としての命と、人としての命の両方を持ってしまったとか?」
「良い考察だ。まぁ、正確には混ざってしまったんだがな。鉱物の持つ不変性と、人間の生物的性質が。
つまり、寿命の存在しない人間の完成というわけだ。
ちなみに、混ざったって言っても何かの検査に出るわけでも無いから、あくまでも分類上は人間以外の何者でも無い」

 なんともこずるいことを言いながらジョン・スミスは自嘲するように笑う。
 と、マルコは何かに気付いたように軽く首を傾げた。
206迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 03:02:48 ID:XRaGUXGU
(13/15)
「そういえば、宝石とかはどうなんだ? 魔力とやらを相当長い時間浴びてると思うんだけど」
「ああ。だからたまーにあるんだよ。例えば、呪いのダイヤとか、何故か持ち主を転々とするエメラルドとかな。
ちなみに溶かされて他のと混ぜられる金属類にそういう類のものの話を聞かないな。
喋ったりする奴がいないから、分からないだけかもしれん。案外、魔剣とかがそういう類のものなのかも知れん」
「ふーん。じゃあ、動いて喋る金属を見つければウハウハってことか?」
「そういうことだな。俺も見た事は無いが、もしかしたらいるかもしれん」

 はっはっは、と二人して笑い、ジョン・スミスはひょいと隣を覗く。
 隣でイーノクが何故か少々つまらなそうな顔をしていたので、そろそろ話し手を変わるために話を切る。

「ま、そういうことだ。んじゃ、そろそろ話したがりに変わるぞ」
「……いや、話したがっては」
「へぇ、そうなのか。じゃあ、俺が続きを――」
「ごめんなさい、話したいです」
「最初からそういえばいいものを」

 ジョン・スミスは苦笑しながらヒラヒラと手を振り、馬車の壁にもたれて目を閉じた。
 しばらくは何も言う気が無いらしい。
 そんなジョン・スミスを憮然とした表情で睨んだ後、イーノクは溜め息をつく。

「さて、続きだ。まぁ、そんなわけでこの辺りには線路はない。舗装された道路も、同じ理由で無い。
大都市に行けば自動車が走ってるが……まだ技術が低くて悪路を走破するだけの能力が無いのが現状だな」
「ふーん、じゃあ飛行機とか船はどうなんだ?」
「いい質問だ。飛行機はかなりのレベルだと思う。少なくとも、空賊なんて稼業が成立するくらいにはな。
蒸気機関車よりも速いし、こっちを好む奴らも少なくは無いが……まだまだ金持ちのものだな」
「空賊ねぇ。自由そうな感じだ」
「まぁ、確かに自由な連中だよ。大空を自由に駆け、貨物艇を襲ったり、空にある古代の遺跡を荒らしまわる。
んで、たまに町に来て酒を浴びるように飲むんだ。奴らほど自由という言葉が相応しい奴らも少ない」

 幌についている窓を覗き込み、イーノクは眩しそうに空を見上げる。

「飛びたくても飛べない私からすれば本当に羨ましい話だよ」
「飛べないのか? 飛行機はあるんだろう?」
「あー、うちの一族に科せられた罰みたいなものでね。
上から離反した際、絶対に空を飛ばないことを約束させられたのさ。お陰で面倒でたまらない」

 なんともいえない表情を浮かべ、イーノクはマルコに向き直る。
207迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 03:03:43 ID:XRaGUXGU
(14/15)
「まぁ、生活でそれほど役に立たない知識はこんなもんか。ここからは生活に関係したものを話そうかな」
「たとえば?」
「そうだな、単位だ。重さはギャラム、長さはメルーとチサンを使う。百チサンが一メルーだ。
それで、大体ジョンの身長が百八十チサンぐらい。私は大体百五十チサンほどか」
「ふんふん」
「で、長さも重さも一つの単位じゃ使いにくい。大きい数や小さい数を表しにくいしな。
で、千倍でキロイ、千分の一でミールを頭に付ける。たとえばキロイメルーやミールギャラムか。
例を挙げると、ジョンの体重は約九十五キロイギャラムだ。
あと、ここから目的地であるゴールドバーグまで大体三百キロイメルーほど。
ああ、ちなみに面倒だから長さか重さか分かってるときはメルーやギャラムは省いてもいい」

 例を示しながら、できる限り分かりやすく説明するイーノク。
 それを相槌を返しながら聞き、マルコはイーノクとジョン・スミスを見比べたりしてみる。
 と、ジョン・スミスがどこからか物差しを出してマルコへと放った。

「それの大きい一目盛りが一チサンだ。小さい目盛りは一ミール。
それはやるから、いろいろと測ってみるといい。口で言われるより、自分でやってみた方が理解は早いだろう」

 そっけなくそう言い、ジョン・スミスはまた窓の外へと目を向ける。
しかし、この男、何故物差しなんかを持ち歩いているのだろうか。
 色々と疑問はあるが竹で出来たその物差しを手に取り、マルコは一つ頷く。
確かに自分で測ったり出来るとわかりやすい。
 なので、素直に頭を下げる。

「ありがとう」
「ああ、どういたしまして」

 マルコの言葉に視線すら動かすことなく返答し、ジョン・スミスは窓の外を見続ける。
 面白いものがあるわけでもないのだが、どうも景色を見るのが好きらしい。
 少しの間、ジョン・スミスの言葉を待っていたマルコとイーノクだが、
ジョン・スミスが何も言わないのでイーノクは話を続けることにする。

「まぁ、慣れるまではそれでいろいろ測ってみることだ。
さて、今からは少々ややこしい単位のことを話すぞ。容積の単位だ」
「容積? 水とかの量のことか?」
「ああ。これがまたややこしい。ジョン、酒瓶いくつか持ってるか?」
「ほれ」
「流石だ。さて、これを見てくれ」

 ジョン・スミスから懐どころか袖口からごろごろ出てきた酒瓶を受け取り、イーノクはマルコにそれを渡す。
 と、マルコは何かに気づいたように声を上げた。
208迷子1 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 03:05:06 ID:XRaGUXGU
(15/15)
「あ」
「おお、早いな」
「これ、全部大きさが違うな。何でだ?」
「分かりやすいようにジョンが選んでくれたんだろう。それ、全部一何とかの量の瓶みたいだしな」
「へぇ」

 マルコはまじまじと渡された瓶を見る。全部空っぽだが、形も大きさも違うので見ていて飽きない。
 しかし、これ全部が違う単位だといわれても少々信じがたい。

「これでかいな。一番でかい」
「それは基本の大きさだ。一ガロンって言って、それを元に量が決まってる」
「ふぅん。じゃあ、この二番目にでかいのは?」
「クォートだ。一クォートは二分の一ガロン。
店で売ってる飲み物はこの大きさの瓶が多い。覚えておくと便利だ」
「それじゃ、この三番目のは? 持ちやすい大きさだけど」
「パイントだな。酒場での飲み物が大体この量のグラスで出てくる」
「んじゃ、この一番ちっこいのは? あんまり量が入りそうに無いんだが」
「それはジル。ぶっちゃけた話、あまり使われてない。つか、ジョンはこんな瓶よく持ってたな。初めて見たぞ」

 マルコから一ジル瓶をひったくり、イーノクは苦笑しながらその瓶のラベルを見る。
 そこにはゴリニシチェに程近い小国の特産品である『最強の酒』の名前が刷られていた。
 名を『スピリトゥス・レクティフィコヴァニ』。無駄に高いアルコール度数を誇る、蒸留酒の一種だ。
 よほど酒に強くないと、ショットグラス一杯でさえ泥酔できる代物。さりげなく火気厳禁とか書いてあるのが恐ろしい。
というか、現地の人々はストレートでは飲まない。必ず水で割るか、果実酒にして飲むのだ。
 引きつった顔でそのラベルを見た後、何かに気づいたイーノクはジョン・スミスを横目で見る。
 普通はストレートでは飲まない酒でも、このジョン・スミスという男は必ずそのまま飲む。
ついでに、瓶を開けたら、絶対にその日のうちに飲み干すのだ。
 正気の沙汰ではない。
 なんというか、恐れるような目でジョン・スミスを見ていたイーノクだが、溜息をついて諦める。
どうせ常識など通用しない。

「ま、まぁ、こんなところだ。今教えたのは生活に密着してるから、すぐに覚えるだろう。
他にも生活の中で必要なことはあるが、そこら辺はおいおい教えていく」
「分かった」
「あとは、でかい街に入る前に注意しておくことをいくつか話そう。たとえば――」

 イーノクの話す声が途切れることなく続いていく。
 スリに注意しろだの、あんまりきょろきょろするなだの、まるで旅行のガイドのようだ。
 そんなイーノクに対し、いちいちクソ真面目に相槌を打つマルコ。
 なんとも相性のいい二人を尻目に、ジョン・スミスは気づかれないように笑う。




 四日後、一行は旧都ゴールドバーグに着くのだった。
209 ◆zsXM3RzXC6 :2009/04/23(木) 03:08:50 ID:XRaGUXGU
投下終わりました。
210創る名無しに見る名無し:2009/07/27(月) 12:50:27 ID:Jvhece74
続き書きませんか?
211創る名無しに見る名無し:2009/07/30(木) 17:36:22 ID:OsZKWAZz
生物災害で全人類の七割がゾンビになった世界を舞台にした
「終末世界シェアードワールド」というのをやってみたいのだがどうだろう?
212創る名無しに見る名無し:2009/07/31(金) 13:49:28 ID:BLv+RraT
>>211
ここよりも雑スレ辺りで聞いてみたら?
213創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 04:11:40 ID:h5lSNwYh
帝都情報マップvol.125 特集「噂の獣人酒屋モッフ」

帝都にお住まいの皆様に階級の別無く帝都の便利なスポットや刺激的な話題をお送りする帝都情報マップ!
今回はモサモサハフハフ獣人や黒翼族に大人気の酒屋、モッフについての情報をお送りいたします!

モッフ突撃レポート

筆:突撃一番槍ことトレヴィー・ハボット

帝都の北門より五分ほど歩いた場所にある居酒屋「モッフ」。
獣人や黒翼族の方たちの中には既に知ってるという方も居るかもしれない。
何を隠そう帝都で唯一、トリミングがサービスに含まれているという珍しい酒屋なのである。
今回筆者も実際にモッフに潜入し、その至れり尽くせりなサービスを体験する事となった。
(写真1、あぁ、撫で回したい…顔とかぼふってしたい〜)
獣人や黒翼族は衛生上、どうしても毛(羽)づくろいが必要である。
特に黒翼族の羽はデリケートなので水で直接洗ったりは出来ないのだという。
手の届かないところの大体は同胞や家族、信用のおける他人種にしてもらってるが苦労が多いそうだ。
そこを狙ったのがモッフの主人、ジェイミーさん(45)である。彼は店で獣人の悩みを聞いて以来、
店員と共に毛繕いの練習に明け暮れ、遂にサービスとして完成させてしまった。
(写真2、ジェイミーさんとチークダンス。酔っ払ってこの辺は覚えてません(笑))
この毛繕いキャンペーンを始めたところ、店の売り上げは三倍に。
トリミング自体をサービスとして行っている店も皆無な所から
潜在的な需要を見出したジェイミーさんは今度専門店を出す事を計画しているようだ。
(写真3、髪の毛のトリミング中。ちょっと気持ち良いです)
さて、説明はこのあたりにしておいて店に入った感想であるが、トリミングサービス以外に
酒類のチョイスにも店主独特の光るものがある。
獣人好みの匂いの弱い酒の種類は非常に多く、案外女性の好みに合うかもしれない。
それに黒翼族は意外にも酒豪が多く、それにあわせて非常に強くて旨い酒も
多数揃えているので酒豪自慢の方にもオススメだ。
店内の調度品も古いが高級感があり、照明と合間って落ち着いた調子。
店員も接客態度に問題なく、美男美女揃いである。
ただし、店内で気を付けるべき事が一つある。それは相手に対する偏見を取り除く事だ。
獣人などによる犯罪が取り沙汰されているが彼らの大多数がこの帝都で我々と肩を並べ、
共に生きようとしている事を忘れてはならない。
(写真4、最後に店の皆さんと集合写真! 翌日目を覚ますと魔女釜通りのど真ん中で寝てました(笑))

久しぶりに見たらスレが止まってるとは思わなんだ…
214創る名無しに見る名無し:2009/11/09(月) 19:00:47 ID:cu/wZYe3
投下乙
なんという癒し系の居酒屋だ
こんな場所があったら絶対に毎日通っちまうぜ
215創る名無しに見る名無し:2010/01/14(木) 09:26:40 ID:DXnNoCTc
ちょっと疑問。
ここの設定使って書いたのを、例えば自サイトとかに載せるのはアリなんかね?
または、ここに載せたのを自分で書き直して掲載するとか。
216創る名無しに見る名無し:2010/01/15(金) 21:18:31 ID:rOdteQvX
設定はここから借りましたという注釈をつければありなんじゃない
自分で掲載したのを再考して載せるのは、本人の証明が出来ないと
ちょっとツッコミとかが来るかもしれない
217創る名無しに見る名無し
>>216
レスサンクス
やっぱり書き直すほうはやめといたほうがいいのか
んじゃ、設定を借りるにとどめておこう