シェアード・ワールドを作ってみよう part3

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12 ◆zsXM3RzXC6
――――純正ラナ暦四百三十五年 前風の月 第二十五日
      今日、わたしは彼に出会った。
      それはきっと、運命だったのだろう。
      ただ生きているだけだった昨日までと違って、なんだかとても楽しくなった。
      明日も、明後日も、ずっとこのままだといいのにな。


 朝食が終わって、ジョン・スミスは寝室でのんびりしていた。
 シルキーの淹れてくれたお茶を啜りながら、『日記』をぺらぺらと読んでいく。
 ほとんど流し読みだが、元々大体の内容を暗記してしまうくらいに読んでいるジョン・ス
ミスにとってはこれで充分なのだ。
 懐かしそうに、そして大切そうに『日記』を読む彼の傍らで、シルキーは何か指示でもな
いかと待機している。が、指示を待っているというのは建前で、シルキーはただ単にジョン
・スミスが読んでいるものが気になっているだけである。
 ついでにジョン・スミスの手元にはムリアンの少女まで乗っている。幾らジョン・スミス
でもこれでは集中して読むことも出来ない。
「あのなぁ、何の用なんだよ」
「この日記、面白いねー」
「……いや、お前さんはもう良い。シルキーは何の用だ? ポットを置いておいてくれれば
家事に戻ってくれて構わないのだが」
「実は、その日記が気になりまして……」
 困ったように言うシルキーに、思いっきり深く溜め息をつくジョン・スミス。
 そして、ムリアンの少女をつまみ上げて『日記』に乗せ、両方とも一緒にしてシルキーに
渡してやる。
「読みたければ、そう言えば良い。どうせそんなもん誰も壊せないんだし」
 大きな外套を羽織りながら、ジョン・スミスはもう一度溜め息をつく。外套は音も無くジ
ョン・スミスの体へと絡みつき、手を触れずともボタンがはめられ、あっという間にいつも
の格好へと戻ってしまう。
 やはり長年着続けてきた外套は良く馴染む。むしろ、これを着ていないほうが違和感があ
るぐらいだ。
 うんうんと頷きながらジョン・スミスが外套の感触を確かめていると、シルキーが眉根を
寄せて手を上げる。
「あのぉ」
「なんだ」
「読めないんですが……」
「そこのムリアンは読めたんだがなぁ。まぁいい。んじゃ適当に昔のことを話してやるか」
 『日記』を返してもらい、ジョン・スミスは椅子に座ってぱらぱらと適当にめくる。
 そして、あくびを一つしながらゆっくりと口を開く。
「何が聞きたいんだ?」
「えっと、それを書いた方とのなりそめとかを聞かせていただけますか?」
「なりそめねぇ」
 苦笑しながら、ジョン・スミスはページをめくる。
 そして、あるページで止め、一つ頷いた。
「ああ、いや。なりそめねぇ。昔々ある島に一人の長命種の女が住んでてな。俺はそこに流
れ着いたんだよ。文字通り、海を漂流して海岸に打ち上げられてたそうだ」
「え?」
「いやな、なんでそんなところに流れ着いたのかは覚えてない……というか、それ以前の記
憶がないんだ」
 苦笑交じりに、ついでに懐かしみながらジョン・スミスは言う。
 そんな彼を、不思議そうに見るシルキー。
 記憶がない、というのならそれはそれで忌むべき過去だろう。それなのに、このジョン・
スミスはむしろ喜んでさえいるようだ。
 本当に不思議な人物である。
「まぁ、そんな俺を助けてくれたのが、この日記を書いたイヴだ。海岸に倒れてたところを
介抱してくれて、ついでに面倒も見てくれた。彼女がいなけりゃ死んでたかもな」
「そう、なんですか」
「ああ、そうとも。で、次は何が聞きたい?」