幼「不良を見るなり逃げ出すとは……。相変わらず使えない奴だな」
男「いや、だってあの人おもいっきり人相悪かったし。……怖いじゃん」
幼「それでか弱い少女を置き去りにして一人で物陰で震えていたのか。情
けない奴め」
男「かよ……わい……?」
幼「文句あるか?」
男「いえ、滅相もないことでございます」
男「やあ、遊びに来……どうした? 顔色悪いぞ?」
幼「……け」
男「え?」
幼「<○><○>……酒! 酒だ! 酒を寄越せ!」
男「……目が怖いんですけど。指先とか激しく痙攣してるし」
幼「うおぉーーーー!!!!! 酒ぇーーーー!!!!!」
男「うわっ! ちょっ! 危ない! 分かった! 酒は今買ってくるから刃
物を投げるな!」
幼「<○><○>……はあ……はあ」
グビッ
幼「ふぅ。やはり酒は命の水だ」
男「死ぬかと思った……。それにしても酒を切らしてたのは初めてだな」
幼「最近は世間がうるさいからな。この容姿じゃあなかなか酒が買えない」
男「そりゃあなぁ」
幼「まったく! お前の気が利かないばかりに……」
男「えっ、俺のせい?」
幼「お前が現状を察して酒を調達してきていたなら、辛い禁断症状に苦しまなくてよかったというのに」
男「……たしかにあれは辛い。ていうか危険だ。しょうがない。これからはできるだけ酒を用意してやろう」
幼「いい心掛けだ」
男「そういえば、お前どうして日本語ペラペラなんだ? 生まれた時から少林寺で修行してた生粋の中国人だろ?」
幼「少林寺にいたのは五歳くらいまでだ。暴飲を咎められて追放された」
男「酒が原因かよ……。その後、日本に来た理由は?」
幼「その時たまたま飲んだ日本酒の味に感動してな。すぐにこっちに来た」
男「やはり酒か……。じゃあ、飲んでたのがビールだったら、今頃はドイツ語ペラペラだったわけか」
幼「ウォッカだったらロシア語だな」
男「ところで、お前が使ってるのって酔拳だよな?」
幼「そうだ」
男「なんでいつも戦闘中に酒飲むの?」
幼「それは当然、酒の力でパワーアップするためだ」
男「酔拳が『酔えば酔うほど強くなる』のは嘘だって聞いたんだけど」
幼「えっ」
男「えっ」
幼「初めて聞いた……」
男「少林寺って意外と適当なんだな」
以上投下終了
酔えば酔うほど強くなるって嘘だったのか!
これ大丈夫かってくらいジャッキーは飲んでたけどなw
「また買ったのか。瓶増えてるぞ」
「いまね、青いびんのスピリッツだけかってるんだ」
「スカイにボンベイサファイヤ、これは……テキーラか、よく金があったな」
「おかしとまんがをがまんしてるんだもん」
「なんというかいじらしいな。つぎこむところが酒じゃなければもっといいんだが」
「ぶすい」
「ブスいだと?」
「不粋でしょ、まったく」
「……あ!また作ってるし。ロック用氷とろうか」
「ロックようといってもなつはとけるからいや」
「何のこだわりだよ」
「みずっぽいさけはろりこんのつぎにきらいなの」
「はいはい。で、それは?」
「ボンベイサファイヤ八割にポッカレモン100を二割」
「そうか。ちょっと待ってろ、いいもんやる」
「くしこはそうはつにいなかったあいださけびたりだったもんなあ」
「こら、誰がアル中か。串子はしらふから酔ってる人間らしいからな。酒を飲むと真人間になるほら」
「どんびきだね! ……わ、これおいしい」
「この味がわかる幼女って不条理な存在だわ」
「あなたもそうでしょ。それでこれはなに?」
「やっすいビーフィーター10割、薩摩切子にレモンの皮の油をこすってあるんだよ」
「すごいねーくだらないことしってるんだねー」
「褒められてはいないんだろうな、多分」
「そういえばてきーらようのじんじゃーえーるがないの。もってる?」
「創発亭にはたいがいのものはあるよ。ことにスピリッツと芋焼酎はまかせたまえ」
「だれにはなしかけてるの」
「モニタの向こうの人だよ!」
「わかんない。なつだからしかたないんだねー」
「人を暑さで気が狂った夏厨みたいな呼び方するなよ。そもそも酒飲みの幼女ってどうなのよ。はい、ジンジャーエール」
「ありがとう!」
モニタの向こうに話しかけんなwww
「こういう顔は無心に可愛いんだよなあ」
「ろりこんきもい」
「のんべえに言われたくないね。もう今日はそれくらいでやめとけ、大腸菌が死滅するぞ」
「うん、がまんする」
「我慢できるのは素晴らしいことだ。我慢できなくなったら終わりさ」
「そういやくしこはズブロッカって飲んだことある?」
「あるよ。あれは桜の葉みたいな香りなんだ。あの甘さがちょっと合わなかったかな……毎回レモンを絞ってたよ」
「いまおみせにもおいてあるの?」
「ん……ホラ」
「のんでみてもいい?」
「さっき我慢すると聞いたような気がしたんだがな……」
「じゃあかおりだけ!」
「心底アル中の発言だぞそれ。まーいいだろ」
「わー!わたしこれすき」
「ウォッカ好きには愛されてるよね。ほら、そのススキみたいなのがズブロッカ。草なんだよ」
「へぇー」
「そういや青いびんあつめてどうすんだ?」
「でまどにボトルをならべたいの」
「幼女の発言じゃないぞそれ」
「さいきん、ウィスキーのミニチュアボトルもあつめたいなっておもってるの」
「ひょっとしてこれか?」
「それ!ここにぜんぶあるの?」
「あるともさ。角瓶だけならやるよ」
「ありがとう!くしこいいとこあんね!」
「……だから呑もうとするな」
「…………」
「なんだそのショボーン顔。ま、そのうちお前が酒の作り方だいたい覚えたら、ホールに出てもらうからな」
「からだでかえすの……?」
「語弊のある表現はやめなさい」
「いいよ……そうはつていでなら……」
「頬を染めるな」
「そめてないもん!のみすぎたせいだもん!」
「幾分たりともましになってねぇぞソレ」
「ばれた」
「笑ってもごまかせないものがあるようだな。あ、ついでにうちの裏に空ボトルビールケースに詰めてあるから
気に入ったのあったら持って行きな」
「どこー?」
「ほら」
「この冷酒のびんと、それからこれいい?」
「ああ、それはスカイウォッカの炭酸割りが入ってたんだよ。梅酒みたいな味だった」
「これは?」
「いいともさ、どうせ捨てるもんだ。ゴミが片付いて俺もちょっと嬉しいのかもしれんしな」
「ばか」
「こうして瓶をもらえて喜ぶ顔と、おちょくられて怒る顔、両方堪能できるわけですよ」
「だからだれにはなしかけているのか」
「気にするな、おとなのお話さ」
「2ちゃんといえばいぜんぶるごーにゅのしろでよしのやこぴぺをつくったことがある」
「だからなぜ2ちゃんに向けて話しかけてると看破できてるのか。それからワインの話題はそこまでだ」
「なんでー?」
「串子はワインの知識が超お粗末だからだよ。脳内が薩摩の黒麹でかもされてるからな」
「かもすぞー」
「かもすぞー」
「それでくろゴシックのふくそうなのわたし」
「いや、それは俺の趣味だ」
「ほら、どう、かわいい?」
「いや、酒瓶抱えてるだけでしょソレ」
「おさけうりのしょうじょ」
「マッチだからいいんだよ、あれは。売れ残った酒を飲みながら暖を取って幻覚見てるマッチ売り改酒売り幼女なんていろいろとやばすぎる」
「えへへ」
「あー!ミニチュアボトル空けやがったこいつ!」 (缶)
創発亭に幼女な酔う女がいると聞いて
酒飲みながら見るのは違う種類の幻影だなw
そんな若い頃から酒の味を覚えたりしたら俺みたいになってしまうぞ!
山道で幼女を発見した僕は、幼女の腹を殴り気絶させ、幼女を肩に担いで森の奥へ運んだ。
森の奥には廃墟があった。
ドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュドピュ
ある朝、グレゴール・ザムザがカオスな夢からふと覚めてみると、
ベッドの中で自分の姿が一人の、とてつもなく愛くるしい幼女に変わってしまっているのに気がついた。
薄い肉の背中を下にして、仰向けになっていて、ちょっとばかり頭をもたげると、
しみひとつない、透き通るような、白い肌で覆われた胸部が見えた。
886 :
創る名無しに見る名無し:2009/11/08(日) 02:01:41 ID:6aeUv1wb
同じ変身でも毒虫と幼女じゃ大違いだな
ていうか幼女ならむしろなりたい
幼女なんかになってしまったら、むしろ人生勝ち組じゃないか
家族の反応も全然違っただろうな
ようじょ可愛いよようじょ
ザムザ本人は仕事に行けないことで困るだろう所も萌える。
諸君、クリスマスである。
ここ数年においてクリスマスというのがだんだんと私に牙をむいてきた気がする。
否。向いている、のである。
同僚の「今年も彼女と過ごすんですよ」に始まり、家族の「今年も一人かい?」、あげくの果てには
匿名掲示板でも「クリスマスの夜にカキコしてる男の人って……」と言われる始末。
やけくそになった俺はLO(の表紙)を一通り眺めたあと
「サンタクロースよ! 我に幼女を!」
と叫んで寝た。
ある朝、俺がカオスな夢からふと覚めてみると、
ベッドの中に一人の、とてつもなく愛くるしい幼女がいるのに気がついた。
薄い肉の背中を下にして、仰向けになっていて、しみひとつない、透き通るような、白い肌で覆われた胸部が見えた。
……これは大変な事態である
なぜ幼女を頼んだ!?
貴様まさか……
サンタさんのキャパすげぇw
12月26日
さて、クリスマスのプレゼントとは普通は何時届くものなのだろうか。
やはり、イブの夜に頼んで翌日届くというのが普通なのだろう。
なにせクリスマスプレゼントなのだから。
しかし私は25日にプレゼント要求をしたので届いたのが26日になってしまった。
つまりこのプレゼントをクリスマスプレゼントと呼んでいいものなのだろうか。
平日に届いたのだからやはりここは単なるプレゼントと考えるべきであり、そうであることが道理では……。
「ん〜……」
布団の中のソレがごそごそ動く。ちなみにベッドとか言ってるが普通に床に布団を敷いているだけである。
いや、違う。現実逃避をしている場合じゃない。まずは状況を整理しよう。
1、プレゼントなのかわからないが幼女(裸)が届く。
2、俺は男である。
3、部屋にはLOとか。
4、所謂アパートである。
5、パンツ一丁の俺。
もう役が出来てもおかしくない状況。多分すごいポイントが入る。どうしようもないくらいのポイントが。
まずは部屋に散らばったLO等青少年とかそういうのによろしくないものをタンスに押し込める。
次にジーパンを履く。あとは彼女に着せる服を考えねばならない。幸いにも服はそこそこある。大きめの服を被せて、後で買いに行けば。
ビーという耳障りなチャイムが鳴る。おいやだなにこの状況。まだこの子裸なんだけどどうすんだよバカ。居留守使うか居留守。
しかし実に残念なことにチャイムが御気に召さなかったのだろう。幼女がむくりと起きてしまった。
じっと見つめあう俺と幼女。人の年齢というのはよくわからないが多分5歳くらい。整った顔立ちに光を飲み込む黒い髪。
にへりと笑った彼女は苦笑いをしている俺に向かって「おはよう! お兄ちゃん!」と大声で挨拶をしてくれた。
慌てて口をふさぐ。が、時既にお寿司。ではなく遅し。外にいた客人に聞かれたのだろう。借金取りのごとくドアを叩き始めた。
「ちょっと! いるんでしょ! 何よ今の!」
どうやら外にいるのは友人の女性のようだ。ああ、そういえば来るとか言ってましたね。地球滅びろ。
「いや、ビデオだよ。アニメの」
「くそー、この前大量にあった妹モノのAVは捨てたはずなんだけどなー」
アニメつってるだろ。というかお前か。俺の妹コレクションを捨てたのはお前か。お前なのか。
かちゃり、と鍵の音。合鍵持ってたんすか。準備いいっすネ。なんで家主の知らぬうちのそんなもの作ってるんですか。
「はいはい、ボッシューとさせていただきま……す……」
裸の幼女の口を後ろから回り込んで押さえる男性。裸と言っても布団から出ているのは上半身部分だけだ。いや、そういう問題ではない。
彼女は何も言わず携帯を取り出し、3つのボタンを押す。
「もしもし、警察ですか?」
「へい、そこのお嬢さん。落ち着こうぜ!」
慌てて携帯を奪おうとするが、その前に顔面に向かって携帯が飛んで来た。避けることも出来ず、直撃する。
「こっち来ないでぇ……」
すごく怯えた表情でこちらを見ている。俺ってなんだろうね。もう犯罪者確定してるよね。この状況。
しかしこの混沌とした世界に一人の救世主が現れた。
「お兄ちゃん、怖くないよ!」
幼女が立ち上がってこっちに来る。
「大丈夫、お兄ちゃん怖くない」
彼女を落ち着かせているようだ。が、なにせ裸なのである。しかも俺の布団から出てきたわけである。
「あ、あ、あ、あ、あんた! こんな、こんな小さい子に何したの!」
「無実を主張します。それともう少しお静かにお願いします」
「あ、うん。ごめんね。……いや、違うでしょ。この子、何の子、あんたの子?」
「違うよ。私は空からお兄ちゃんに会いに来た子なの」
年齢らしからぬしっかりとした口調で自らの説明をする。
「そ、そう。空から来たの。名前はなんていうのかな」
「空から来たからソラ!」
「そう、いい子ね。それじゃあお姉さんと一緒に安全なとこに行こうかー」
「ここ危険?」
「そこの野獣がとても危険なの。国に捕まえてもらわないとねー」
「お兄ちゃん、やじゅう」
「それよりもこの子の服を買ってきてくれないか。この時期に裸は寒いだろうし」
「え、うん。そうね。わかった。とりあえず外出るようの服貸して」
「ん? 別に置いとけばいいじゃないか」
「こんなところに置いていけるはずないでしょ!」
その後、彼女はソラを連れて服を買いにいった。俺はインスタントのコーヒーを作り、一息つく。そしてしみじみ彼女がバカでよかったと思う。
ふとこのまま警察に行くんじゃないかと危ぶんだがそんなこともなく、笑顔で帰って来た彼女は俺に金を要求したあとソラに服を着せていた。
「さてと、ソラも服を着たしこれで一段落だな」
「そうねぇ」
「そうだねぇ」
コタツで温まる三人。2人はコーヒー、1人はホットミルク。布団は脇に積んである。
「のんびりするのもいいけどね。そろそろ詳しい話を聞かせてもらおうかな」
「もらおうかな!」
「いや、俺は何も。起きたら布団にこの子がいたんだよ」
俺は嘘偽りなく真実を述べる。
「さっきはなんだかんだ言ったけどあんたが子ども誘拐する度胸なんてあるはずないし本当のことなんでしょうね」
「度胸なしー」
本当のことを言っただけでひどい言われようだ。なんで俺がここまで言われないといけないのだろうか。
「ソラは何か覚えてないのか」
「うーんとね。ずっと空の向こう側。ずーっと。青空の向こう側の海に浮かぶ島から来たの」
「ソラちゃんとってもメルヘンチックね。で、近所の子なの?」
「空の向こう側って近所?」
「あまり近所じゃないわね。行くのにすごくお金かかりそうだし」
「じゃあ近所じゃないかな。えっと、とおじょ?」
彼女が助けを求めるようにこちらを見る。しかしこちとら朝起きたら布団にいた時点で大抵のメルヘンは信じられる状態だ。
こんな子がこんな意味のわからない嘘をつくはずないだろうし本当のことなのだろう。
「なんで来たのかな?」
「赤い服のおっちゃんが私を必要としている人がいるから来てって」
「ソッカー」
彼女は考えるのをやめたようだ。現実主義者の彼女にソラの話はつらかったのだろう。なにせ現実のかけらもない話だからな。
仕方ないので俺が現実的な話に戻す。
「そういうわけだからとりあえず飯でも食いに行くか」
「行くかー!」
「そ、そうね」
彼女の意識が戻ってきたらしく、つまりながらも相槌を売った。
飯を食べに行くと言っても金があるわけではないので近くのMがつくファストフードの店に入る。
来たのが始めてらしいソラはメニューを見せてもよくわからんないらしく俺が適当に決めることにした。
注文した品を持って、開いているテーブル席に座る。ソラのために幼児用の椅子を用意しようと思ったが何の滞りもなく椅子に座った。
しばしの間、ジャンクフードを黙って食べる。時折ソラを見るが年不相応なくらい綺麗に、なおかつ静かに食べている。
最も見た目が幼女のそれであって、実は中身はもっと年を取っているのかもしれない。
遠くの地で出来たというホムンクルスも年不相応な振る舞いだったとかなんとか風の噂と匿名掲示板で見た。
ソラが食べ終わったのを見計らって俺が質問する。
「そういえばさ、ソラって今何歳なの?」
ジュースを飲んでいたソラはストローから口を離し、答える。
「わかんない」
「え、わかんないの?」
彼女が驚きの声を上げる。いや、でもこのくらいの子どもは案外自分の年齢なんてわからないのかもしれない。
「もう数えるのやめちゃったからわかんない」
前言撤回しよう。ジュースを飲んでいた彼女が鼻から出す。咳き込む彼女を横目に俺が質問を続ける。
「やめちゃったのか」
「うん。そんな細かいことどうでもいいかなって」
細かいことか。細かいことなのか。たまに大人びていたのはそういうことだったのか。
ということはお兄ちゃんとか呼ばれているが実は俺よりか遙かに年齢上なんじゃ……。
「ごちそーさま! ……お姉ちゃん大丈夫」
「大丈夫……もういろいろと大丈夫」
「そんじゃ帰るか」
「それでさ、本当にこの子どうするの?」
「どうするの?」
「いや、君のことだろう……。まぁ別に俺はいいんだけど」
「いいの? こんな野獣と一緒でいいの?」
どれだけ俺は信用されていないのだろうか。ソラはしばらく俺と彼女の顔を交互に見る。
「お姉ちゃん、嫉妬しない?」
「しっ……!?」
「お兄ちゃん取ってもいいの?」
彼女は真っ赤になりながら否定している。俺はそれを眺めながら笑う。
どうやらサンタは俺の家にすごい幼女を置いていったようだ。
まさかのロリババア疑惑
12月27日
休日だというのに妙に早く眼が覚めてしまった。
というのもその同じ布団にですね、その幼女がいますとね。ええ、いろいろ寝難いんですよ。これが。
しかも抱きついてきたりするとですね。もうなんかいろいろ体中から出そうになるんですよね。
というわけでソラを起こさないように布団から這いずり出て、コーヒーを作ることにする。
ちなみに昨日はあいつが帰った後、風呂にいれなければならないのではないかという重大な問題に気づくものの
「お風呂くらい1人で入れるもん」という実に心強いソラの言葉で問題は回避された。
少しだけ一緒に入りたいという気がしたものの、今入るとまぁいろいろとねぇあれなこれでどれですからねぇ。
コップにお湯を注いで、少しかき混ぜる。ちなみに会社の同僚とか言ってましたけどワタクシ大学生でございます。
あまり美味しくないコーヒーを少し啜り、今日の予定を考える。とりあえず服などは買ったから、必要品は大丈夫かな。
食器は多めに持ってたから足りるだろう。それとも専用の食器を買うべきか。そもそもお金あったかな。
そんなことを考えているとソラがもぞもぞ動き始めた。時間は十時。気づけばコップの底が見えてきている。
すこしの間、布団でもぞもぞした後、頭をこちらに向ける。
「おはよー」
「おはよう。よく眠れた?」
「うん」
よきかなよきかな。少しの間、布団でもぞもぞしていたがやがて意を決したかのようにバッと立ち上がると急いで布団をたたみ始めた。
「ん? 別にそんな急ぐことはないぞ」
「たたまないとコタツが出せないでしょ!」
そういうことか。俺もコタツ設置の手伝いをする。もうすこし広ければコタツ出しっぱなしでも布団が敷けるのだが。
コタツの用意が終わり、スイッチを入れる。足を突っ込み、一段落。ソラはテーブルに頭を乗っけて、リラックスしている。
「ねね、今日の予定は?」
「予定ねぇ」
俺もソラを真似て、頭をテーブルに乗っける。
「他に必要なものある? あるなら買い物にでも行くけど」
「特にないかなー」
だんだんとコタツが暖まってくる。それに伴い、コタツから出る気が失せていく。
「そうだ、布団でも買いに行くか」
「なんでー?」
「2人一緒はその……あれだ、狭いだろ」
「そんなことないよ、2人一緒のほうが暖かいでしょ?」
にへりと笑う。ただ純粋に俺に笑いかけている。心まで温かくなってくるようだ。
「それにお兄ちゃんが寝ている間にいたずら出来るし」
にやりと笑う。悪魔のように俺に笑いかけている。心まで冷たくなってくるようだ。
「やはり分けるか」
「大丈夫だよ。別に寝てるお兄ちゃんの○○○を○○○○○り、○○○○○りしないから」
「ちょっだめ! 女の子がそんなこと言っちゃダメ! はしたない!」
「にへへへ」
見た目幼女にからかわれる俺。きっと見た目幼女で中身老女なのだろう。知らないが絶対そうだ。
しばらくそんな談笑をしているとぐぅという腹の音が聞こえてきた。思わず話が途切れる。
顔を赤らめたソラが上目遣いに「お腹。減ったかな」と言ってきた。これで落ちない人間は鬼畜ぐらいだろう。
冷蔵庫にあった卵とソーセージをフライパンで焼く。じゅうじゅうと焼ける音。漂う匂い。俺の腹もなりそうだ。
2人分の目玉焼きとソーセージを皿に乗っけて、テーブルに持っていく。みそ汁はないがまぁいいか。
ごはんを茶碗に持って、ソラに持たせる。箸を準備しようとして、そういえばソラ専用のがないことに気づく。
茶碗もコップもそういえばない。どうやら今日のやることが決まったようだ。
「「いただきます」」
そういえば、この部屋でこんな風に朝ごはんを食べるのは何年ぶりのことだろうか。
そんなことをふと思う。
896 :
創る名無しに見る名無し:2009/12/28(月) 16:56:26 ID:ERUPCYxt
何この天国のような生活
12月28日
確かに大掃除をしようとしていた。
最初に貯まりに貯まった学校関係の書類を片付けようと紙の山に手をつけたところ
12月25日締め切りという素敵な課題を発見してしまった。
埃が眼に入ったのかもしれない。顔を洗ってからもう一度見る。12月25日。カレンダーは28日。
一度アパートから出て、車道で伸びをする。戻って確認すると12月25日と書かれている。カレンダーは28日。
どうやら俺の頭がおかしいらしい。布団を懸命に叩いていたソラに確認してもらう。
「? 25日って書いてあるよ? 締め切り守らないと」
「そうだね。大掃除終わりだね」
「え、なんで?」
「教授に会いに行かないといけないんだよ……」
というわけで大学。アパートの人に預けようにも迷惑を考えると出来ない相談だ。
しかし、こんな子どもを連れて大学に来るとどうなるか。そうなるのである。
好奇と疑心の目に晒されつつ、ソラの質問を回答しながら教授のいる研究室へ向かう。
だがあの教授にこの子を会わせるわけにはいかない気がする。何か危険な匂いがする。
というかあの教授なのだ。大学校内で「そういえば例の教授が」と言えば「仕方ないもの。あの教授だもの」で
話が通じてしまう教授なのだ。噂は大学校内の女生徒に手を出しているから正体は魔術師まで様々。
そういう教授にソラを会わせていいのか。悪影響を考えるとやはりやめたほうが。
「すまないが、人の研究室の前を陣取られると困るのだが」
「げ」
声の主と本能的の距離を取る。ソラを体の後ろに隠す。まぁもう襲うそうだ。色々と。
「人を見て、『げ』と言うのか君は。まぁいい。入りなさい」
「お兄ちゃん。この女性が……」
「佐久間教授だ……」
「入らないと単位上げないよ」
どちらにしろ入る予定だ。諦めて俺はソラを連れて研究室に入った。
室内は相変わらずごちゃごちゃしている。研究資料に始まり、何に使うのかわからない薬品、何に使ったかわからない薬品
意味のわからない形をした標本、スナック菓子の袋、人骨頭部などなど。あらゆる学問をひとつにまとめたような部屋だ。
完全に個人で使っているが本来は生徒も使えるはずの部屋なのだがこの教授だから何も言われないのだろう。
教授はモノの波をかき分けて、自らの席を目指している。特に俺たちに配慮する気はないようだ。
「あー、えっとですね、教授。とりあえずこの子をどこかに預けときたいのですけど」
「それについては問題ない」
閉めたばかりの後ろのドアがノックされる。ドアの前で突っ立てた俺とソラがどうにか端に移動する。
「失礼しまーす……ってあれ」
「あ、お姉ちゃん」
「百瀬。その子を少し預かっててくれ。私はこの『お兄ちゃん』と大事な話をせねばならん」
来たのは一昨日あった百瀬だった。そういえばこいつは教授の生徒だったっけか。
まさかこの教授。既にソラと百瀬が面識があったことを知っていたのか……。そんなことないか。さすがに。
「ええ、わかりました。資料はこの『お兄ちゃん』に渡しておきますね」
「ああ、ありがとう」
百瀬が持っていた黒くて厚くて古そうな本を受け取る。表紙には『魔術体系』と書かれている。やはりか。
「それじゃあ頑張ってね。『お兄ちゃん』」
「頑張ってね」
ああ、生きてたらまた会おう。とはさすがに言えなかった。口の中で言っても教授に聞かれそうだ。
重い足を引きずるようにして、モノの隙間を歩く。教授は機嫌がいいのか、回転椅子に乗ってくるくる回っている。
「教授、どうぞ」
「ありがとう。さてと、課題について話そうか」
比較的モノが乗ってない椅子を教授が指差す。仕方ないのでモノを適当に退けて、椅子に座る。
「先に言っておくけど謝らなくていいからね。私にとっては仕事が減るから嬉しいし」
「もう一度チャンスをくれませんか」
「そうだな。少し聞きたいことがある。答えてくれたらチャラにしてやろう」
課題分をチャラにしてくれるくらいの質問。思わず唾を飲む。
「君は百瀬と仲がいいようだがどうだ。やることはやったのか」
「やることってなんですか! そもそも百瀬とはただの友人なだけです!」
「あらそうかい。つまらないな。まぁ神と私のみぞ知るなんたらかんたらだな」
「それだけですか。終わりなら帰りますけど」
「ああ、待ちたまえ。短気は損気というものだ。まだ質問したいことがある」
先ほど渡した本を開き、ぺらぺらと捲ったあととあるページで開いたままにする。
「君が連れてきたあの女の子。あれは『ナニ』かな?」
12月28日(2)
「私は仕事柄、フィールドワークのほうが多くてね。日本中を歩いてきたよ。
それこそ北は北海道。南は沖縄。眠らない町から眠る町まであらゆるところを歩いた。
その中でいろいろなものを見たよ。異能の力を持つ人、奇妙な地域、不可思議なるオーパーツ。
そして空想上とされてきた魑魅魍魎たち。本当にいろんなものを見てきた。
そのおかげかもしれないけどね。なんとなくだけどわかるようになったんだよ。
人とそれ以外の見分け方がなんとなくね。こういった力は時折とても便利に思えるよ。
それが人かそれ以外かで言葉の意味合い、行動の目的。そういったものがずいぶんと変わるからね。
さてと、話を戻そうか。君の連れてきたあれは人以外のなにかだ。どこであれを拾ったのかな?」
教授はこちらを見ている。ふざけた様子は微塵もない。それは経験から来る態度なのだろう。
目の奥から来る真っ直ぐな視線。嘘は無意味というものだろう。
俺は今までのことを洗いざらい教授に話した。教授は相槌も打たず、ただただ黙って俺の話を聞いていた。
「君の性癖どうこうに文句をつける気はないがそういう願いをサンタにまかせるのはやめなさい」
教授は俺の話を聞いた後、最初にそう言った。
「青空の果ての海に浮かぶ島ね。年齢も不詳で妙に大人っぽい子ども。
よくもまぁそんな正体不明の生きものと住む気になったね。まぁ頼んだのは君なんだけどさ」
「別にソラは害があるわけじゃないです」
「見た目がか弱い女の子の姿をしているからそう思えるだけだよ」
「そんなこと……」
「見た目を好きに変えることが出来るやつなんて腐るほどいる。君好みの女の子になることだって出来るだろう。
人の心の隙間に入る簡単な方法は見た目を相手好みにすることだからね。君はそれにまんまとはまった」
「まるでソラが俺を騙すためにあんな姿をしているみたいじゃないですか!」
「だってあの姿。君好みだろ?」
「すいません。どストライクです」
「そら見たことか」
けたけたと笑う教授の横でorzな気分の俺。実際には出来ないので気分だけ。
「害がないとは言え、そういうものだろう。もしもアレなら血液検査でもしてやろうか?」
「えっ」
突拍子もない申し出に驚く。が、それをすれば確かに人間外かどうかわかる。
だがこれはソラを裏切ることになるんじゃないか? 一緒に住む相手が自分を異物のものと見ているなんて考えたくもない。
「悩んでいるようだが新型インフルの検査にもなるから丁度いいぞ。それに血液型とかいろいろと大事なことがわかるだろう」
「でも教授の専門外では?」
「安心しろ」
教授はにやりと笑う。
「私は天才だ」
携帯を取り出して、どこかに電話をかける。
しばらくした後に控えめなノックがされる。教授がそれに答えると百瀬とソラが入ってきた。
「言われたとおり注射器持ってきましたよ」
「ありがとう」
モノをかき分けて辿り着いた百瀬が教授に袋を手渡す。透明な袋の中には一本の注射器とガーゼが入っている。
「さぁてと、ソラくん。ちょっと腕を出してくれるかな? ああ、アルコール取ってくれ」
「注射するの?」
「血を少し採るだけだけさ。怖がることもない」
教授にアルコールの入った容器を渡す。こんな部屋に放置されていたのだから少しちゃんと殺菌してくれるか心配になる。
「はい、右手出して」
「嫌」
「じゃあ左手で」
「いやだー!」
「しかたない、首から取るか」
「もっといやだー! なんで血採るのさー!」
眼を疑った。あれだけ大人びた雰囲気だったソラが本当に子どものように駄々を捏ねている。
でも、もしもこれすら演技だったら。頭を振る。だめだ、こんなこと考えたらいけない。
「ほら、新型インフルとかさ。TVでやってるでしょ? 検査してあげるよ」
「元気だもん。インフル怖くないもん」
「わがままな娘だな。お兄ちゃんに迷惑かけたいのか」
「えっなんで」
「血液検査をすれば過去にどんな病気遍歴があるかもわかるし何かの際、輸血するとこにも役に立つ。
他にもアレルギーだとかいろいろあるんだよ。と言っても君には難しいかな? 子 ど も だもんねぇ」
「検査するもん! 子どもじゃないもん!」
多分、教授のほうが遙かに邪悪な何かなのだろう。俺はそう確信した。
>「すいません。どストライクです」
ワロタw
1月2日
花の大学生で人気者の俺は年末年始はあらゆるところに引っ張りだこで
そんな充実した生活を書いたところで何の面白みもないのでここではあえて書かないでおこう。
なんてことはなく、忘年会自体はクリスマス前に終っており帰るべき実家もない俺は
その日、本来出来なかった大掃除をやるくらいしかイベントと言えるようなものもなく
ソラと共に寝正月を過ごす覚悟でいた。ちなみにお節などというものはない。
紅白を見たり、年を越す瞬間地球上にいなかったり、モチを頬張ったりした翌日の1月2日。
「新年会やるからソラくんを連れて来なさい」
という教授からの連絡があり、仕方なくソラを連れて大学へと向かった。
研究所のドアを抜けるとそこはカオスの国だった。
大掃除をしたのか整理をしたのかわからないが部屋を埋め尽くしていたモノがなくなっていて
その代わりに人と食い物と飲み物が散らかっていた。
あまり大きな部屋ではないので何十人とは入れないがどうやら教授と親しい生徒が入る程度のスペースはあるらしい。
俺が入ってきたことに気づいた教授が手招きをしている。他の生徒の「幼女連れだー!」などという言葉を受け流しながら
教授の下へと向かう。ちなみにソラは途中で酔っ払った百瀬に絡まれて「よーしよしよしよし」されている。
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとうございます」
とりあえず新年の挨拶を交わす。近くの椅子に座ると眼の前にビールが1缶置かれた。
「ソラくんとは元気にやってるかな」
「ええ、問題なく過ごしています」
既に出来上がった人間たちと突然現れた幼女のおかげでこちらの会話に耳を傾けている人はいなさそうだ。
それをわかっているのか教授は話を続ける。
「君はもしも彼女が人間外の生命体だったとしたらどうするんだ」
「仮にあいつが人間外であったとしても私はあいつを信用します」
ソラと過ごした日はまだ浅い。心からの信用を寄せるにはまだ早いかもしれない。それでも俺はソラを信じる。
この短い期間の間に見てきた彼女は、どこか大人びていて、でもやっぱり子どもで。そんな人だった。
もしかしたら演技かもしれない。だけど俺はそれらの表情が彼女自身のものだと信じている。
たとえ彼女が人間外のものだとしてもソラは今までと同じソラなんだと。
「案外、思いは強いみたいだね。安心したよ」
「安心、ですか?」
「うむ。疑心暗鬼にまみれて、正体不明の何かだったら逃げてしまうんじゃないかと思ってた」
「そんなことしませんよ」
「特異たるものを異常なほど恐れ、排除し、全てを均すことで安心する人間もいるのだよ」
「自分は違います」
「そうか。君はそういう人間ではないか」
教授が缶ビールに手を掛けて、飲む。
「彼女は人間だ」
「へっ?」
思わずマヌケな声が出る。あれだけ人間外人間外言っていたのに結局人間だったのか。
「いや、人間ではあるんだがどうも地球の人間ではないみたいなんだ」
「地球のですか」
「うむ。結論から言うと彼女は地球の人間によく似た地球外の人間というわけだ。
まあ彼女の発言から考えるとこの結果もあながち間違いというわけではないだろう」
「でも一体どこから……」
「さぁてね。人間かどうかはわかってもどこの人間かはわからんからね」
「なんで地球の人間じゃないってわかったんですか」
「そりゃあれだよ」
少し大きい胸を張っていう。
「科学の力ってすげーってやつだよ」
「さいですか」
俺も眼の前に置かれた缶ビールを開けて、飲む。
「で、君はどうするのかな。今後」
「どうもなにも一緒に過ごしますよ」
「彼女に正体を知っていることを言わずに?」
「まぁ元から彼女の言葉を信じていれば宇宙人だってわかりますし」
「まぁそれもそうだね。もしかしたら彼女は自分が宇宙人だということを隠す気もないのかもしれないしな」
「そういうことです」
ソラのほうを見る。
真っ赤な顔の群れに混じる白い顔には何の邪気もない笑顔があった。
さりげにリア充……ねたましい
902 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/02(土) 21:30:12 ID:stKZ92e0
こんなことなら俺もサンタクロースに幼女をおねだりしておけばよかった
1月4日
「そのですね……。管理人ごときが私生活まで口出すのはおかしいと思いますよ。
でもですね。えっと、その、さすがにこんな女の子をですね。家に連れ込むのはどうかと思うんですよ」
正月に来た時は事前に来るだろうと予想していたのでソラを隠すことは出来たがまさか今日来るとは思わず
普通にこたつでぬくぬくしているソラを見られて現在説教を食らっている。
ちなみにアパートの人々はみなソラがいることを知っているのだがこの人だけは知らなかったらしい。
まぁ知られるとこうなるだろうと思って知らせなかったのだが。
「えっとですね、別に一緒に住むことには問題ないんですよ? でもですね、その、若い男と血縁のない女の子が一緒に住むのはですね
も、もちろん、あなたがそういう人ではないと知ってますよ! 勘違いしないでください! ただ世間一般がですね、そのですね」
それにしてもこの人は説教が下手だ。つまるところ幼女連れ込みヘンタイ乙ということか。
「あのー、管理人さん」
「は、はひ! すみません、所詮管理人ごときがこんなことを不快に思われますよねすみませんすみませんすみません」
「いや、待ってください。落ち着いてください。この子はですね、遠縁の子なんですよ」
「遠縁……ですか」
「そうです。私の父の父の弟の息子の兄の母の妹の夫の父の孫娘なんですよ」
「はぁ……」
「それでちょっとわけあって私が預かっているだけなんで」
「あ、え、そうなんですか。そうとも知らずへんなことばかりすみません」
よかった。管理人さんがこういう人でよかった。
「まぁそういうわけなんで」
「ええ、わかりました。失礼しました」
ドアを閉める。そういえば管理人さんは何用で来たのだろうか。
「今の人、管理人さん?」
「うん、このアパートのね」
「女の人なんだね」
「ああ、そうだな。昔はおじいさんだったんだが今はその孫娘だとか」
「若いんだね」
「そうだな。大学出たぐらいじゃないか?」
「美人だね」
「……そうだな。何か言いたいことがあるなら言ってもいいぞ」
「お姉ちゃんという人がありながら……」
「違う! 断じて違う! 百瀬とは普通の友人だし管理人さんはうちの管理人さんなだけだ!」
「ソッカー。だってさ、管理人さん」
ドアのほうをそーっと見る。当然閉まっている。こたつから出て、ドアを開ける。
「あっ」
管理人さんが立っていた。
「え、いや、立ち聞きなんてしてないですよ? 本当ですよ? あ、これ田舎から来た蜜柑です。どうぞ」
スーパーの袋を俺に押し付ける。さきほど来たのはこれを渡すためだったのか。
「そ、それでは失礼します」
くるりと方向転換して逃げるように去っていく。と、思ったら階段の手すりに足をぶつけた。
「――――!!」
「だ、大丈夫ですか!」
声にならない叫びをしている時点でだめそうだが一応声をかける。
「立てますか?」
「ははは、べ、別にたいしたことないですよ! 足の小指なんてぶつけてませんから!
大丈夫ですよ、大丈夫。うん、私は大丈夫なんですよ!」
勢いよく立ち上がるとそのまま大股歩きで自分の部屋へと向かっていった。
多分、相当痛かったのだろう。おもいっきりぶつけてたしな。
寒い廊下で立っても仕方ないので自分の部屋のこたつに戻る。
「しかしよくわかったな。外に管理人さんがいたの」
「……さっき来た時袋持ってたからね」
「そっかー。なるほどな」
「……」
なぜか俺をじっと見つめるソラ。手に持っていた蜜柑を差し出す。
「いや、違うから」
「なんだ? 俺の顔に何かついているのか?」
「お兄ちゃん、誰かと付き合ってたことある? 百瀬姉ちゃんとか」
「何の冗談かわからんが百瀬と付き合ったことはないぞ。ちなみに彼女はいたことがある」
「えっ」
「……なんだその心底驚いた顔は。失礼なやつだな」
>管理人さん
またこの手の人が真ヒロインなんですよねわかります
1月7日
教授に呼ばれ(ソラも)大学へと訪れるとなにやらいつも以上に閑散としている。
特に休み中なのになぜ来ているのかわからない女学生が今日はいない。ウォーリーを探せくらいいない。
不思議に思いつつもいつも通り教授の研究室を訪ねる。
「ん? ああ、近くの百貨店が閉店セールで安売りをしているらしいからそちらへと行ったんじゃないかな」
紅茶を入れた後、訊ねると教授はそう答えた。
「最も私はブランド物等からはほど遠い人間だからね。魔法関連の安売りなら職務放棄してでも行くのだが」
「職務放棄しないでください。そもそも魔法関連のものを売っている店がいくつあると思っているんですか」
「まぁそう多くはないね」
そう言って紅茶を啜る。アルコールランプで沸かしたお湯を使用したが味に問題はない。
「先生はどんな先生なの?」
ソラが猫舌なのか紅茶を舌先でちびりちびり飲みながら聞く。
教授はソラを見て、紅茶をまた一口飲んでから答えた。
「魔法学、と答えたいけどそういう学問はまだこの国にはないからね。民俗学と答えるのが正しいかもしれない」
「民話とか土地の成り立ちとか調べる学問?」
「まぁそうだね。同じ国にあれど土地により異なる伝承。そういったものを調べて民族文化を解き明かすと言ったのが普通の民俗学だ」
「先生は普通じゃないの?」
「似て非なるものさ」
教授は近くにあった厚い本をぺらぺらと開き始める。
「この世界はかつて神の世界だった。人はあらゆるモノに神が宿ると考え、あらゆる現象に祈りを捧げてきた。そう言った考えが
後に信仰や宗教の足がかりとなったわけだ。しかし人は科学の力を手に入れ、あらゆるモノは法則に従い、あらゆる現象を解明し
いつしか神を忘れてしまった」
ぺらぺらと捲っていたページを止める。
「しかし近年あるものが発見された」
「魔法ですか」
「まぁそういったものだ」
今からどのくらい前だろうか。ここではないどこか遠い地に『魔法使い』を名乗る男が現れた。
しかしそこは科学主義の世界。みなが鼻で笑い、決して相手にはしなかった。
だが男は本物だった。水の流れを操り、火を指の先に灯し、空すらも飛んだという。
「あの魔法使いが全てのきっかけになったさ。なにせ空想上の存在がいたのだからね。
でも何も珍しいことではない。昔からこの国にもそういう人間はたまに現れていた。
ただこの時代大衆の前でそんなことをしたやつがいなかっただけだろう。
結局あの男もとんずらしてしまったようだがね」
「それからでしたよね。いろいろと物騒になったのは」
「まぁそうだな。やれ山狩りだ、やれ魔女狩りだ、やれ森焼きだ。科学世界に置けるあの男は異物でしかなかったというわけだ。
おかげでいろいろな自然が失われたよ。この国はそういったものに寛容だったけどね」
「良くも悪くも閉鎖社会ということですね」
「そういうことだ。おかげで私は仕事がやりやすいよ。他のとこで魔法なんて言おうものなら警察が飛んで来るかもしれないからね」
「でもそれって」
今まで黙っていたソラが不思議そうな顔をして口を挟む。
「そんなに珍しいことなの?」
「この国じゃ『まれびと』と呼ばれる程度には珍しいね。私もまだ数人しか会ったことない」
「ふーん……」
「というか会ったことあるんですか。そんな人たちに」
「あるさ。千里眼だとやら心読みだとやら。あとホムンクルスもいたな」
「ホムンクルスって錬金術の?」
「うむ。可愛かったぞーなんか小さくてころころしてて。あと普通の人間の娘も可愛かった。食べちゃいたいぐらい」
「さいですか」
冷めてきた紅茶を口に含む。この教授のことだ。真に受けてはいけない。
そもそもそんなものが作れたら世界中大騒ぎだろう。
「人間も普通作れないのかー」
ソラはぽつりとそんなことを呟く。俺がそれを問いただそうとすると
「ただいま戻りましたー!」
両手一杯に袋を持った百瀬が部屋に突撃してくる。あまりにも突然だったので思わず体がビックリして浮き上がる。
「あー……百瀬くん、もうすこし扉は静かn「教授の服も買ってきましたよ!」
ずんずん進んできてどさっと机に荷物を置く。服だとか鞄だとかなんだかいろいろ入っている。
「いや、別に私は頼んd「さぁさぁ着替えますよ! ほら! あんた外! ソラちゃんの分もあるからね」
教授がじっとこっちを見つめている。どうしますか
「おい! 教授嫌がってるんだからやめてやれよ!」
ニア俺は目線をそらして外に出た。現実は非情である。
これがフラグクラッシュの瞬間!
1月12日
夜更けの空に厚い雲が垂れ込めている。いつからか降り始めたのか、町はうっすらと雪化粧をしていた。
しゅうしゅうと湯気を立てる薬缶の取っ手を掴み、紅茶のパックが入ったカップに湯を注ぐ。
時計はまだ六時を指している。さして早起きする理由など本来はなかった。大学などというものは気が向いたときに行けばいい。
ちらりと寝床を見る。ひとつしか用意されていない布団にソラと金髪の女性が穏やかに寝ている。
時は前日まで遡る。
成人式をやっているらしいが特に行く理由もないので俺とソラは自宅でのんびりしていた。
昼頃に百瀬から「成人式来いよー、大学来いよー」という電話があったが「めんでぇ」と言うと怒鳴り声で返されて、電話は切れてしまった。
怒鳴り声はどうやら隣でぬくぬくしていたソラにも聞こえたらしく「あーあー、百瀬お姉ちゃん怒らせちゃったー」と言われた。
とは言うものの式にに出る服がないので元から出ることは出来ない。大学は……めんどくさい。
窓から空を見上げる。青い空はすっかり薄暗い雲に覆われて、今にも雨が降りそうな状況だ。しかも寒そうだ。こたつのほうがいいだろう。
かといってコタツでぬくぬくしてるだけというのも結構ヒマなものである。残念ながらうちにはゲームやマンガと言った類の物はない。
唯一あるパソコンもソラが来て以来、動いたことはない。なぜ動かしてないかと言うとソラがいるからだ。つまりそういうことである。
あまりのヒマさに脳みそが溶け出しそうなので仕方な百瀬が買ってきた、ソラの服を整理する。まだ値札がついているものもある。
「この色のワンピース好き」
ソラが薄い青色のワンピースを引っ張り出す。
「空色のワンピースか。似合ってるよ」
「ふふふ、そうでしょー?」
にまにまと笑う。どこか子供っぽいのだが計算しつくされた笑顔にも見える。まぁそれも含めてソラなのだろう。
おもむろにソラが立ち上がる。何をするのかと思えば突然服を脱ぎ始めた。慌てて目線を外に向ける。
「おい! いきなり何してんだ!」
「1人ふぁっしょんしょー」
布がこすれる音がする。というか半裸でいても寒くないのだろうか。いや、子どもとは結構半袖半ズボンでいたりするから意外にそういう
感覚が薄いのかもしれない。そんなことを考えていると後ろから声がかかったので振り向く。
「どう?」
「そうだな、サイズもあってるみたいだし良く似合ってるぞ」
「そういうときは先に似合ってるぞって言うものなのー」
「しらなんだ」
「これで覚えたね」
そういって脱ぎ始める。再び慌てて目線をそらす。
「いやいや、お兄ちゃん別に気にしなくていいでしょ」
「いやいや、一応そのあれなんでね」
「でも私、設定上見た目は五歳だよ?」
「設定上ってなんだよ。というか中身は違うのかよ」
「五歳児の裸見ても普通なにも感じないよねー。先生に聞いてみようかなー」
「はいはい、何かな。服を脱がすの手伝ってほしいのかな」
「そっちの服とってー」
言われて、赤いスカートを引っ張り出す。ずいぶんと目立つ色だな。
これが可愛いだのこれは派手だのこれってなんていう服なのかだの言っているとドアをノックする音が聞こえた。
「はーい! 今あけますよー!」
とりあえずは半裸のソラに何か服を着せないといけない。手近な服を着せようとソラに被せていると。
「あれ、開いてるじゃない」
客人はあろうことか開けやがってきた。鍵がかかっているかどうかはおいといて普通は返事があったらドア開けないだろう。
そんなことを思っても既に後の祭り。
「ひさしb」
そこまで言うと客人はフリーズしてしまった。なにせパンツ一丁の幼女に服を着せているとこである。回りには明らかに女の子向けの服
「この人誰?」
停止した時間をソラが動かす。そういえばまだ会った事なかったな。というか俺も会うのは久しぶりである。
「こいつは地底の底からやってきた女なんだ」
「地底人は金髪なのかー」
「ひとつ賢くなったねぇ。よかったねぇ」
「ちょっと、待ってよ。地底人になった覚えなんてないんだけど」
金髪地底人(仮)のフリーズが解けたらしく反論される。そのままフリーズしてればよかったものを。
「その子はあんたの妹?」
「ああ、そうだよ。お前は出て行け」
「元カノにそんなひどいことを言うなんて……」
「えっ、ありえない」
「ソラ、地味に傷ついたぞ。今のは。それで。その 元 カ ノ がなぜ教えてもいないこんなところにまでやってきたんだ?」
「長くなるけどいいかな」
「いいよー」
ソラが許可してしまったので仕方なく俺も頷く。とりあえず玄関は寒いので部屋に金髪地底人(仮)を招きいれ、こたつに入れる。
自分も玄関側のこたつに入る。
「えっと……」
彼女の話をまとめると親のやっていた百貨店が不況の煽りをもろに受けて潰れた。両親は揃ってとんずらしてしまった。
「というわけで1人路頭に迷っている時にきみのことを思い出したわけだよ」
「なるほど。話はわかった。つまり俺にどうしろと?」
「そりゃあもちろん匿ってくれないかと」
「俺以外の当ては?」
「最初はあるつもりでいた」
「いたが?」
彼女は肩をすくめて、ため息をつく。
「金の力は強かったってことね。それに比べてきみは」
ずぃっと迫ってくる。鼻先がぶつかりそうなぐらい顔が近い。
「きみは私がどんなに邪険に扱っても優しくしてくれたでしょ? だから信用するよ」
馴れ初めはここでは省くが確かにこいつの高校時代はひどいものだった。
「仲いいよぅ。どのくらいかと言うと……」
彼女が顔を引っ込めてこたつにもぐりこむ。というかなんかこれすごいデジャビュなんだけど。
「このくらいだよっ!」
こたつからがばっと出てきれ俺に抱きつく。何をするかは予測できたのになぜか何もしなかった俺は
されるがままに抱きつかれ、後ろへと倒れた。
「私に抱きついてきてもいいんだけどあっちは窓に頭ぶつけそうだからねぇ」
「抱きつかねぇし抱きつくな! ソラが見てるだろ!」
「あ、私全然見てないからどんどん続けちゃってください」
「話のわかる子だね。それじゃあさっそく……」
「あんたが来ないから来てあげたわよ!」
最近の客人は部屋主の意向を無視するから困る。勢いよく入ってきた百瀬は金髪の女性に押し倒される俺を目撃した。
その後の展開は俺にとって面白みのない、いや恥ずかしいものだったので割愛する。
結果として魔の手から逃れた俺はしかたなく彼女を匿うことを了承して、その日を終えた。
と言いたいところだが布団が一組しかなくあいつは一向に構わんと言うものの俺が構うので掛け布団に包まって就寝。
寒さに目を覚まし現在に至る。というわけだ。
クリスマスから始まったがどうやら女難の相が出ているらしい。今年は平穏無事に暮らしたいのだが。
俺は再びお湯をカップにいれ、味が薄くなった紅茶を飲んだ。
書いてて気づいたがコレYSS向けではないな
909 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/12(火) 20:49:20 ID:7QQ4OxO9
こいつどんだけリア充なんだよwww
ふざけんなwww
俺と代われwww
俺と代われさんお久しぶりですww
むしろ幼女が空気化するのがYSSの伝統ではあるまいか
912 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/13(水) 22:02:26 ID:v2NRXoFl
だがソラは俺の嫁
1月13日
あいつが来てから数日経った。
ソラとも仲良くしているので特に問題はない。余計な出費が出たぐらいだ。
しかし俺はふとあることに気づいた。
「金髪お姉ちゃん」
「なに? ソラ」
いや、あいつがソラのことを呼び捨てにするのは大いに結構。勝手にすればいい。しかしだ。
問題はソラの呼び方にある。お姉ちゃんと呼ぶことはいいだろう。年上(?)を敬う心がけはいい。
金髪とはなんだ。金髪とは。百瀬はちゃんと名前で呼ぶだろう。今までちょっと茶髪姉ちゃんと呼んだところを
見たことがない。聞いたこともない。これは一体どういうことだろうかと悩み、ある結論に達した。
「なぁ、もしかしてソラは金髪の名前を知らなかったりするのか?」
「うん、知らない」
なんという盲点。思い返せばあいつが来てから代名詞でしか呼んでない気がする。
「まぁいいんじゃない? 別に」
と当の本人はのたまうもののいざという時必要となるだろう。
「こいつの名前はアリスだ。アリス……なんたらかんたらだ」
「アリス・ナンタカンタラ。ソラおぼえた」
「なんで元カレのアンタまで私の名前を忘れているのよ」
「複雑怪奇な名前など覚える気はない」
「だからね。私の名前はアリス……」
「それにアリスと言えばお前だと通じるからな」
アリスが顔を真っ赤にして黙る。しばしの間俯いて目線をあちらこちらに動かしていたけどやがて俺の足元を見ながら
「うん……」
と弱々しく頷いた。
「そういえばなんでアリスお姉ちゃんはこんな人彼氏にしてたの?」
「ソラ、お前はお兄ちゃんを労わる気持ちをもっと持ったほうがいいぞ」
「だって事実でしょ? いつもインスタントで片付けもしないで押入れにはたくさんの……」
「やめて! 公開処刑とかやめて!」
「確かにソラのお兄ちゃんは適当でどうしようもない人間だったよ」
アリスが俺を見る。だけどその目はまるで過去の俺を見ているかのように遠い目をしていた。
「録に日本語も喋れないわ、人を毛嫌いするわ、そんなどうしようもない子を唯一相手したのがきみだったからね」
「あの時の俺はどうかしてたな。もしも過去に戻れたら全力で止めたいとこだ」
「最初はいつも通り私の後ろにあるものが目的だと思ってたの。だkらずっと邪険に扱ってたんだけど
段々と違うことに気づいたの。後ろではなく私自身を見ていることに」
「高校生のころの俺はM気質だったのだろう」
「気づいたときには目で追っていたわ。学校が楽しいと思い始めたのもその時くらいからかな。
あれだけ優しくされたら誰だって好きになっちゃうよ」
「ザ・不幸」
「で、なんでおにいちゃんはそんな嘆いているの? 美人に好かれれば誰でも喜ぶんじゃないの?」
「最初はな。こいつが俺に告白して付き合い初めてから段々と仮面が剥がれていったんだよ」
本当につらい日々だった。他人が見れば羨むものなのだろうけど体験する俺からすれば地獄でしかない日々。
毎日毎日公衆の面前であんなことやこんなことや……。
顔を隠して叫びながら転がりたいがさすがにここでは出来ない。
「それなのに突然いなくなっちゃうんだもん。すごく探したよ」
「お兄ちゃんってひどいね」
「ひどいお兄ちゃんだよねぇ。でも私は」
にっこりと笑う。初めてこいつおの笑顔を見たときとなんとなく重なった。
「そんなあなたが大好きなの」
顔が赤くなるのがわかる。隠すために立ち上がって玄関に向かう。
「お兄ちゃん逃げるの?」
「コンビニ行ってくる」
玄関を開ける。「やぁ」百瀬が立っている。玄関を閉める。
「俺、今年まだ神社言ってないんだよな」
「日本人なら正月に行くものでしょ!」
「黙れよ外国人」
「お兄ちゃんはこれだからだめだめだなぁ。日本人のたしなみも出来てない」
「黙れ宇宙人」
「で、外国人だけどそれがどうしたの?」
「誓える。今年のおみくじは大凶。女難の相ありだ」
家主の抵抗空しくドアは開き放たれてしまった。
914 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/14(木) 17:26:03 ID:ShdSEu7d
俺も一度でいいから、こんな贅沢な悩みを持ってみたいもんだ
1月17日
「聞いたぞ。最近金髪少女と同棲しているらしいな」
「はい……」
遮光カーテンを買ったらしく研究室は薄暗い。隙間から入る光の筋は漂うほこりの存在感を引き立てている。
教授に呼び出され、いつものごとく雑用だろうと思い行ってみれば。
「学生ごときがあまり”調子”コいてんじゃねェぞ……!?」
どこぞの不良マンガのような台詞を言う教授に説教されていた。
「まぁ不良マンガはさておきだね。そういえば管理人も若い女性だそうじゃないか」
「えっ、なんでそんなことを」
「ソラくんに聞いた」
いつの間に連絡を! というかそんなに仲良かったんすかあんたたち。
「百瀬に金髪に管理人にソラくんねぇ」
教授は名前を上げながら指折り数える。
「まぁ大学生だしね。いろいろやりたい盛りなのはわかるよ?」
「いや、別に私はそういうつもりで」
「口答えするなァー!」
「はい、すみません」
「と、言ってみるけどもう話すことないんだよね。まぁあくまでも学生の本分は……って私が言うのもあれだけどさ。
いやー、学生のころは楽しかったなー。何人も女の子はべらせてさ。私の絶頂期だったね」
「え、女の子?」
「何か問題でも?」
「いえ、何も」
くるくると椅子を回転させて遊ぶ教授。いい思い出に浸っているらしく、すごく笑顔で楽しそうだ。しかし目を回さないのだろうか。
しばらく回転したあと、ぴたりと止まり机の上にあった本をめくりはじめる。
「ソラくんは元気かい?」
「ええ、おかげさまで」
「ソラくんは多分魔法が使える」
「そう……ですか」
あまり驚くこともない。空の彼方から来ただのこの前の態度だの思わせぶりなところが多々あった。
「彼女の血のサンプルをね、ちょっと知り合いに回したんだよ。面白そうだったから」
「知り合いですか」
「そう、茄子と一文字違いのアメリカにあるでかい組織の友人」
「ああ、茄子の一文字違いで宇宙とか研究するあそこですね」
「そうしたらね、面白いものを送ってきてくれたんだよ」
さっきまで捲っていた本を適当に投げて、紙の束を引っ張り出した。こういう風に使ってるからあんな腐海が出来るのか。
読めと言わんばかりに俺に突き出してくる。受け取って読んで見る。紙には参考に図がいくつかと文字がぎっしり書いてあった。
どうやらレポートのようだ。ページをめくる。まさか、これはそんなことが!
「すみません、英語読めないんですけど」
「それでも大学生か。この程度の英文を読めないなんて」
「すみません」
俺は今日何度目かのすみませんを言い、レポートを返す。彼女はページをぺらぺらめくりながら話し始めた。
「あそこの施設は他星人のサンプルとか我々以外のいろんな怪しいサンプルを持っててね。ソラくんのと比較したんだよ」
「それがその図ですか」
「うむ。で、だね。これがとあるところで製作されたホムンクルスのデータ……とは言っても不完成品だけどね」
「不完成品ですか」
「うむ。完成品を作った人間など歴史上見てもほぼいないだろう。でだね、こっちがソラくんのデータなんだが」
ふたつの図を並べる。よく似ているが少しだけ違うようだ。それが何の違いなのかはわからないが。英語だもの。
「でだね、このデータが完成品のホムンクルスの予想図だ」
もう一枚の紙を並べる。よく似ている。いや、見比べれば見比べるほどこのふたつは。
「不気味なほど一致するんだよ。他にも他星人だとかUMA関連のデータと比較してみたけどこれほど一致するものはなかった」
「ということはまさか」
「間違いなくソラくんはホムンクルスだ。それも恐ろしく珍しい完成品のね」
ホムンクルス。話だけは何度も聞いている。かつて錬金術師が作り出したといわれている人造人間。
確かホムンクルスの製造法を書いた著者のみが製造に成功したという話だったけど。
「私の別の検査方法では他星人とでたからね。他星人のホムンクルスとも考えられるけど」
「それと最初に言ってた魔法が使えると何か関係するんですか?」
「別の検査だと魔術師との特殊パターンが一致。理論上は魔法が行使できる肉体ってわけ。最も理論上で使えるかどうかは置いとくけど」
「他星人でホムンクルスで魔法使い、ですか。血ひとつですごいことまでわかるんですね」
「血でわからんのはその人の運命くらいさ。今の世の中ではね」
教授はそういって持っていた紙の束を机に放り投げた。
教授ますます何者……
917 :
創る名無しに見る名無し:2010/01/18(月) 17:47:33 ID:4BnHNaax
血液ってすごいんだな
おいしいしね
俺は小学生の従妹と神社の縁日に来ていた。
従妹は自分の顔ほどもあるわたあめを幸せそうに食べている。
ふと、輪投げの屋台が目に留まった。
懐かしいな。昔は母にねだって一回だけ遊べたっけ。
その時はもちろん景品など獲得できなかった。
俺は小銭入れの中身を確かめて、そのゲームに挑戦した。
気がつくと従妹とはぐれていた。
輪投げに夢中になりすぎて、従妹が何か言ったのをうわの空で返事していたのだ。
まあ、そんなに遠くへは行ってないだろう。
探せばすぐに見つかるはずだ。
従妹は意外な場所にいた。
本殿の縁日の喧騒から離れた、小さな社だ。
「こんな所で何をしていたんだ?」
「神様、寂しそうだなぁと思って」
俺はしばらく、“神様”と従妹とを見比べていた。