――"La-La moo moo"?
"La-La moo moo"は何者かって?
そりゃあ俺にもわからんよ。
見た目は……そうだな、駱駝だよ。トーガを纏った駱駝に見えた。
でも駱駝じゃあない。アレを駱駝だと思って、「じゃあエジプト人だ!」って言ってた
奴がいたが、俺は違うと思うね。だって駱駝はブレスなんか吐かないよ。そうだろう?
だからアレは駱駝の面をした駱駝以外の何かなんだ。もっと強い……別の生き物さ。
いや、ひょっとしたら、生き物ですらないかも知れねえ。それくらい、強かった。
なんで"La-La moo moo"なんていうけったいな名前かって?
さあてね。
名前の由来がわからない化物なんて、地下にはごまんといるだろ?
ただ……そうだな。ムームーっていうのは、アレの鳴き声のことだと思うぜ。いや、
ホント、ムームーって鳴くんだよ。笑っちまうだろう? そんな可愛らしい鳴き声を上げる
生き物に、おれたちは手も足も出なかったんだ。
ララの方は……ううん、さっぱり、見当もつかないな。意味のない歌声のようでもあるし、
何かとても古い、神秘的な言葉のようにも聞こえる。
ん? ……ああ、そういえば、ブラザーフッドの坊さん方も「"La-La"に賞賛あれ」とか
言ってたな。
仮にも神様の名前を駱駝に使うなんて不謹慎じゃないかって?
だから駱駝じゃないって……いや、まあ、そうなんだけどね。
でも知り合いのブラザーフッドの坊さんにアレのことを話したら、ちょっと驚いたみたい
だったけど、「なるほど……確かにそれは"La-La moo moo"に違いない」って言ってたよ。
だから、別に構わないんじゃないかなあ。
奴さん方が崇め奉ってる"La-La"とやらと、アレに、どういう関係があるかは、おれには
わからんがね。さあ? そいつは本人たちに聞いてくれよ。
(ララ・ムームーに会ったことがあるという、とある冒険者)
――"La-La"?
ララに賞賛あれ!
汝、ブラザーフッドの門を叩く者よ。"La-La"について知りたいと願うならば、同時に
"三軸の調和"についても知らねばならぬ。心して聞くのだ。ララに賞賛あれ!
あらゆる物事の背後には、四大元素の力が働いている。すなわち、大地、水、炎、空気。
これらの力は、ひとつの門より、我らの存在する次元へと流れ込んでいるのだ。
流れが調和していれば、力はすべての生命の源となる。しかし、ひとたび流れが滞れば、
門には裂け目が生じ、メイルシュトロームが生まれることとなる。メイルシュトロームとは、
災いを撒き散らす渦である! おお、ララよ憐れみたまえ!
ゆえに、門では"三軸の調和"が達成されねばならぬ。なぜならば、"三軸の調和"こそが、
荒れ狂う力を鎮めるものだからである。
そして、これは力自身の望みであり、意志でもあるのだ。
四大元素の力は、自らが調和してあることを欲する。この、力そのものの意志こそ、我らが
"La-La"と呼ぶものなのである! ララは偉大なり!
"La-La"の声に耳を傾け、門にて"三軸の調和"を達成すること。すなわち、三軸の門を守る
こと。これぞ、ゲイトキーパーの知恵と教えなり! おお、ララを賛美せよ!
汝が追い求めるその生き物は、"La-La"そのものではない。しかし、まったく関係がない
わけでもない。"三軸の調和"の本質に迫ることができたなら、その正体は自ずと明らかになる
であろう。
ララに賞賛あれ!
(ブラザーフッド教団の高僧、グブリ・ゲドック)
――"三軸の調和"?
まずは自己紹介をさせてもらおうかの!
わしはThelonius P.Loon。時間の支配者であり、しかも 優れた予言者である。
おぬしはある生き物の正体を追い、"三軸の調和"の本質を知るために、ここにやってきた。
そうじゃろう?
人類の歴史上、いたるところにおいて、賢者達はこの宇宙の全てのものを動かす力の関係、
すなわち宇宙の力の永遠の調和について語ってきた。
死すべき運命を持つ人間達のほとんどには、これらの力のふたつの側面しか見えない。
それゆえ、それらの側面を例えば、「善と悪」、「正義と悪事」、「本当と嘘」などという
名前で呼ぶのじゃ。
明らかに、これらの相反する力は全ての人間の魂の中で、長い間戦ってきた。
しかし、わしはここでおぬしに、この戦いには価値が無く、ただの錯覚である、と言わねば
ならぬ。
"三軸の調和"の正しい本質を理解するためには、この錯覚の覆いを見抜き、ふたつではなく
みっつの力が働いていること、そして、それらはおぬしが今信じているのとは 異なる本質を
持つことを、認めなければならぬ。
二軸からなる均衡は脆弱なものじゃ。反発し合うふたつのものは、容易に一方に傾き得る。
そして、本質を見失わせる。
ゆえに、平衡はみっつのもののなかにこそある。何も難しいことではない。一方のものが
一つの鍵を手にし、他方のものがもう一つの鍵を手にしたとしても、仲立ち受け渡すものが
いなければ扉は開かぬ。ただ、それだけのことなのじゃ。
みっつの力が存在することさえ理解できれば、自ずとみっつを統一するもう一つの力を
知ることになろう。そしてその四つの力それぞれの、さらに三つの側面を知ることができれば、
三軸の調和の本質を理解したと言える。
もっとも、おぬしの目的にとっては、そこまで知る必要はあるまい。
《成長》と《本質》と《変化》。これらはかつて偽りの名前で呼ばれていたし、今でもなお、
その名で呼ばれている。しかし、呼び名はどうあれ、人々が、このうちのふたつの力のみを
頼みにしていた時代には、おそるべき"天変地異"が起こったことを忘れてはならぬ。
それこそ、力自身がみっつの力による調和、"三軸の調和"を望んだことの、確かな証なのじゃ。
ハッハッ! わしには、おぬしの未来がはっきり見える!
かつてリルガミンを襲った"天変地異"について、調べるがよい。そして、"三軸の調和"の
本質を思い出すのじゃ。そこで、おぬしはおぬしが追い求める生き物の正体を知り、その誕生の
ときに立ち会うことになるじゃろう。
(ジグソー信託銀行の予言者、セロニウス・P・ルーン)
――"天変地異"?
"天変地異"、ね。
ええ、確かに、あれはそうとしか言いようのないものでしたよ。
ようく知っておりますとも。なにしろ、手前どもは、もとはアルビシアの植民島で商いを
しておりましたから。
とてつもない大津波がね、こう、押し寄せてきて。街を、逃げ遅れた人たちともども、
呑み込んでいったんですよ。ええ、ええ、そうですとも。アルビシアの人間は、あれで全てを
失ったんですよ。
それでこのリルガミンに逃れてきて……もっとも、当時はこちらも大変な混乱でしたね。
なんでも地震で、ニルダ様の寺院まで崩れてしまったとかで。ええ、ええ、それだけでも
大事ですけれども、倒壊に巻き込まれて、かのニルダの杖まで失われたそうで。
ただ、実を申しますと、それは手前どもにとっては、幸運だった部分もありました。
ご存知でしょう? それまでリルガミンは、杖の加護で守られていた。市に害をなす者、
つまりは、《悪》の戒律の者の大半は、立ち入ることもできなかった。杖が失われたことで
初めて、この街はすべての人間に開かれることになったわけです。
いえいえ、手前は《悪》ではありませんよ。このリルガミンに対して、悪意を抱いたことも
ございません。ですからもちろん、それまでも街に入ることはできました。
でもね、《悪》の方々がいらっしゃらないところでは、手前どもの商売も上手くは回りません。
《中立》の商人の売りは、なんといっても《善》の方々とも《悪》の方々とも、平等に取り引き
させていただける、という点ですから。
ご覧下さい。生糸、香料、象牙。ここにある品々はね、全部、ガリアンたちから仕入れた
ものなんですよ。ええ、ええ、確かに彼らは《悪》の海賊たちですとも。ですが、彼らだって
どうにかして、略奪品を金貨に換える必要があるわけです。……これもアルビシアの頃からの
ツテでしてね。
杖の加護が失われて、リルガミンにもこうした取り引きが増えました。《中立》の商人も、
随分増えましたね。ベイキ女王様の御時世には、考えられなかったことですよ。おかげ様で、
手前どももこれだけの大店を構えることができました。
あの"天変地異"の原因は、なんでも"L'kbreth"とかいうドラゴンが現れたためだったとか。
ええ、ええ、駱駝ではなく、ドラゴンだったと聞いていますよ。結局、そのドラゴンから……
確か、宝珠かなにか……を持ち帰ったおかげで、"天変地異"が治まった、と、そういう話です。
振り返ってみれば、複雑な思いがございますな。
そもそも"L'kbreth"が現れなければ、故郷を失うことはなかった。けれども、こうして成功を
収めることもなかったわけです。
いったい、なんだったんでしょうね。あの"L'kbreth"というのは。
(リルガミン市中立商人ギルドに属する、とある豪商)
――"L'kbreth"?
フウム。それは難問だな。
世界蛇の五匹の子のうちの一匹であるとも言われているが、これは伝承の域を出ない。
いつから存在し、また、なんのために姿を現したのか。かのものについては、余りにも
多くの謎が残されている。そのほとんどについては想像でしか語り得ないが、判明している
点もなくはない。
まず、名前。
"L'kbreth"は「ル'ケブレス」ではない。「エル'ケブレス」と読む。おそらく、Lで
始まる何らかの単語が省略されているのだ。それが何であるかについては、賢者たちの
間でも論が分かれているが。
続く「kbreth」についても、諸説紛々だ。まったく無意味な綴りにも思えるが、ある
有力な見解では、「龍」を意味する古い言葉だとされている。
そう。"L'kbreth"は「龍」なのだ。
「龍」はドラゴンともドレイクとも異なる。それらよりももっと古く強力な生き物だ。
いや、生き物と呼んで良いかさえ、定かではない。天変地異の先触れとしてこの世に姿を
現すのだとも、天変地異を引き起こす存在なのだとも、言われている。
その姿もドラゴンとは似て非なる。……遥か東方の伝承によれば、「角は鹿、頭は駱駝、
眼は鬼あるいは兎、体は大蛇、腹は蜃、背中の鱗は鯉、爪は鷹、掌は虎、耳は牛に似る」
とされている。
もっとも、預言によれば"L'kbreth"とは「この星の力そのもの」だという。それが真実なら、
龍としての姿さえ、仮初のものだということになるだろうか。
いずれにせよ、"L'kbreth"は天変地異と同時にこのリルガミンに現れた。そして、
「善き者のみにても、悪しき者のみにても勝利を得ることはない」と告げると、言葉通りの
試練をリルガミンの民に課した。
宝珠を持ち帰るためには、《善》と《悪》と、そして《中立》の者が必要だったのだ。
いや、これは宝珠の探索だけの話ではない。
リルガミンは長くニルダの恩寵の下にあった。《悪》の僭主が台頭したほんの一時期を
除き、《善》によって統治されていたのだ。しかし、今や恩寵は失われ、《善》と《悪》と
《中立》の、三つのものが必要とされている。望むと、望まざると。
まさに、「New age of Llylgamyn」。リルガミンは新しい時代を迎えているのだ。
まるでそうなること自体が、かの"L'kbreth"の目的であり、望みであったかのように。
さて、そうして望みを達した"L'kbreth"がどうなったかは、誰も知らない。少なくとも、
棲家であった火山からは姿を消した。本来いるべき世界へと帰って行ったのかもしれないし、
あるいは、また別の姿をとって、どこかに存在しているのかもしれない。
(最も高位なる賢者、イェルダーブ)
――"La-La moo moo"?
ついに巡り会えたな、か弱き者よ。もし、力を求めるならば、それは現れよう。
(???)
「我こそはエル'ケブレス。平衡の守護者なり。汝ら、誉むべし。その行く手よ穏やかなれ」
まるで地響きのような声だった。
同時に、巨体が退き洞窟への道が開かれる。
目の前の存在の強大さに圧倒されていた《中立》の侍は、そこでようやく我を取り戻した。
左右を振り返り、仲間たちの表情を確認する。《善》の君主は微笑を浮かべ頷き返してきた。
《悪》の忍者の双眸は既に洞窟の先へと注がれている。残りの仲間たちも、覚悟を決めている
ようだった。
侍は右手を上げ、前進の合図を送る。そして、五人の仲間たちとともに、洞窟の入り口へと
ゆっくりと歩き出した。
彼らが去ってからもしばらくの間、龍は洞窟の闇を見つめていた。
「……この姿は役割を終えた」
やがて、龍はそう呟くと、眠りにつくかのように、その巨躯を迷宮の石床に横たえる。
彼は深く長く息を吐いた。その吐息は燐光を纏って迷宮の闇に散らばる。すると、あたかも
その一息で精気をも吐き出したかのように、巨躯はみるみる縮み、そこには力を失った一頭の
動物だけが残された。
今わの際に龍より吐き出された燐光は、しばらく所在なげに明滅していたが、やがて寄り
集まり四体の人影に形を変えた。
それは四人の君主であった。
豪奢な衣装を纏い、瞳には聡明な輝きを宿し、四人ともが全く同じ顔立ちをしている。
「荒れ狂う暴龍の時代は去り、」
「教え導く君主の時代が訪れる」
「彼らは『二つ』でなく『三つ』であることに気付いたに過ぎぬ」
「聖なる側面、時間と王国と本質の発見は後世にゆだねられよう」
四つの人影が囁き交わす。
――Moo,Moo
そのとき、かつて龍であった動物が鳴き声を上げた。
龍の魂魄が四人の君主に変じたのだとすれば、それはまさしく抜け殻、龍の肉体の残滓と
呼ぶべきものだった。知性なき瞳は魯鈍に曇り、ただただ惨めな鳴き声を上げ続ける。神威を
失い知恵なき獣に堕した抜け殻は、砂漠に住むというあの愚鈍な生き物によく似ていた。
"La-La Kbreth"(龍に化体したララ)の肉体は、今や"La-La moo moo"(ムームーと鳴くララ)
という別の生物に変じていたのである。
「龍の肉体の処分は如何にする」
「知恵はないが力は残っている」
「地上に残すには危険すぎるな」
「地獄の最下層に封じればよい」
君主たちはその惨めな動物を取り囲むと、地下777階への門を開いた……。
(END)
以上です。